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特表2024-536798抗体薬物コンジュゲート並びにその製造方法及び医薬用途
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  • 特表-抗体薬物コンジュゲート並びにその製造方法及び医薬用途 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-08
(54)【発明の名称】抗体薬物コンジュゲート並びにその製造方法及び医薬用途
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/68 20170101AFI20241001BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20241001BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20241001BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20241001BHJP
   A61P 35/04 20060101ALI20241001BHJP
   C07K 16/28 20060101ALN20241001BHJP
【FI】
A61K47/68 ZNA
A61K39/395 L
A61P35/00
A61P35/02
A61P35/04
C07K16/28
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024517477
(86)(22)【出願日】2022-09-22
(85)【翻訳文提出日】2024-03-22
(86)【国際出願番号】 CN2022120481
(87)【国際公開番号】W WO2023046003
(87)【国際公開日】2023-03-30
(31)【優先権主張番号】202111116842.X
(32)【優先日】2021-09-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】522416099
【氏名又は名称】シャンハイ ハンソー バイオメディカル カンパニー リミテッド
(71)【出願人】
【識別番号】522416088
【氏名又は名称】ジエンス ハンソー ファーマスーティカル グループ カンパニー リミテッド
(71)【出願人】
【識別番号】522416103
【氏名又は名称】チャンジョウ ハンソー ファーマスーティカル カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100174001
【弁理士】
【氏名又は名称】結城 仁美
(72)【発明者】
【氏名】マオ ドンジエ
(72)【発明者】
【氏名】シエ ユエジン
(72)【発明者】
【氏名】チェン リーリー
【テーマコード(参考)】
4C076
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA95
4C076CC27
4C076CC41
4C076EE41
4C076EE59
4C076FF68
4C085AA26
4C085BB11
4C085BB31
4C085DD62
4C085EE01
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA51
4H045BA72
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA72
4H045FA74
4H045GA22
(57)【要約】
抗体薬物コンジュゲート並びにその製造方法及び医薬用途が提供され、具体的には、抗TROP-2抗体薬物コンジュゲート及びその医薬用途に関し、前記抗体薬物コンジュゲートは、抗TROP-2抗体又はその抗原結合断片とエキサテカン誘導体がリンカーを介して連結してなり、前記抗体薬物コンジュゲート又はその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物は、顕著な抗腫瘍効果及び良好な安全性を有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)に示す抗体薬物コンジュゲート又はその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物であって、
【化1】
ここで、
Lは、-(CR-[X-(CRn--(CR-であり、
又はRは、それぞれ独立して、水素、重水素、ヒドロキシ基、アミノ基、アルキル基、ハロゲン、ハロゲン化アルキル基、重水素化アルキル基又はヒドロキシアルキル基から選択され、好ましくは、R又はRは水素であり、
又はXは、それぞれ独立して、結合、N、O又はSから選択され、好ましくは、X又はXは、結合又はOであり、
m、n、r又はtは、それぞれ独立して、1、2、3又は4から選択され、好ましくは、m、n、r又はtは、それぞれ独立して、1又は2から選択され、
又はRは、それぞれ独立して、水素、ハロゲン、ハロゲン化アルキル基、重水素化アルキル基、シクロアルキル基、ヘテロシクロ基、アリール基又はヘテロアリール基から選択され、
又は、R及びRは、それらに連結する炭素原子とともにシクロアルキル基又はヘテロシクロ基を形成し、
yは、1~20であり、好ましくは、1~10であり、より好ましくは、2~8であり、さらに好ましくは、4、6又は8であり、
mAbは、抗TROP-2抗体又はその抗原結合断片であり、
SEQ ID NO:3に示すHCDR1、RIDPXDSETHYNQKFKDに示すHCDR2及びSEQ ID NO:5に示すHCDR3と、SEQ ID NO:6に示すLCDR1、SEQ ID NO:7に示すLCDR2及びSEQ ID NO:8に示すLCDR3とを含み、
Xは、R、Y、Q、L、T、I、F、E又はAのアミノ酸残基から選択される、抗体薬物コンジュゲート又はその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物。
【請求項2】
TROP-2抗体又はその抗原結合断片は、
SEQ ID NO:3に示すHCDR1、SEQ ID NO:9に示すHCDR2及びSEQ ID NO:5に示すHCDR3、並びにSEQ ID NO:6に示すLCDR1、SEQ ID NO:7に示すLCDR2及びSEQ ID NO:8に示すLCDR3、又は、
SEQ ID NO:3に示すHCDR1、SEQ ID NO:10に示すHCDR2及びSEQ ID NO:5に示すHCDR3、並びにSEQ ID NO:6に示すLCDR1、SEQ ID NO:7に示すLCDR2及びSEQ ID NO:8に示すLCDR3、又は、
SEQ ID NO:3に示すHCDR1、SEQ ID NO:11に示すHCDR2及びSEQ ID NO:5に示すHCDR3、並びにSEQ ID NO:6に示すLCDR1、SEQ ID NO:7に示すLCDR2及びSEQ ID NO:8に示すLCDR3、又は、
SEQ ID NO:3に示すHCDR1、SEQ ID NO:12に示すHCDR2及びSEQ ID NO:5に示すHCDR3、並びにSEQ ID NO:6に示すLCDR1、SEQ ID NO:7に示すLCDR2及びSEQ ID NO:8に示すLCDR3、又は、
SEQ ID NO:3に示すHCDR1、SEQ ID NO:13に示すHCDR2及びSEQ ID NO:5に示すHCDR3、並びにSEQ ID NO:6に示すLCDR1、SEQ ID NO:7に示すLCDR2及びSEQ ID NO:8に示すLCDR3、又は、
SEQ ID NO:3に示すHCDR1、SEQ ID NO:14に示すHCDR2及びSEQ ID NO:5に示すHCDR3、並びにSEQ ID NO:6に示すLCDR1、SEQ ID NO:7に示すLCDR2及びSEQ ID NO:8に示すLCDR3、又は、
SEQ ID NO:3に示すHCDR1、SEQ ID NO:15に示すHCDR2及びSEQ ID NO:5に示すHCDR3、並びにSEQ ID NO:6に示すLCDR1、SEQ ID NO:7に示すLCDR2及びSEQ ID NO:8に示すLCDR3、又は、
SEQ ID NO:3に示すHCDR1、SEQ ID NO:16に示すHCDR2及びSEQ ID NO:5に示すHCDR3、並びにSEQ ID NO:6に示すLCDR1、SEQ ID NO:7に示すLCDR2及びSEQ ID NO:8に示すLCDR3、又は、
SEQ ID NO:3に示すHCDR1、SEQ ID NO:17に示すHCDR2及びSEQ ID NO:5に示すHCDR3、並びにSEQ ID NO:6に示すLCDR1、SEQ ID NO:7に示すLCDR2及びSEQ ID NO:8に示すLCDR3を含む、ことを特徴とする請求項1に記載の抗体薬物コンジュゲート又はその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物。
【請求項3】
前記抗TROP-2抗体又はその抗原結合断片は、マウス由来抗体もしくはその抗原結合断片、キメラ抗体もしくはその抗原結合断片、ヒト抗体もしくはその抗原結合断片、又はヒト化抗体もしくはその抗原結合断片から選択される、ことを特徴とする請求項1に記載の抗体薬物コンジュゲート又はその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物。
【請求項4】
前記抗TROP-2抗体又はその抗原結合断片は、ヒトIgG1、IgG2、IgG3又はIgG4又はその変異体の重鎖定常領域をさらに含み、
好ましくは、前記抗TROP-2抗体又はその抗原結合断片は、ヒトIgG1、IgG2又はIgG4の重鎖定常領域をさらに含み、
より好ましくは、前記抗TROP-2抗体又はその抗原結合断片は、SEQ ID NO:48、又はSEQ ID NO:1に示す重鎖定常領域をさらに含む、請求項1に記載の抗体薬物コンジュゲート又はその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物。
【請求項5】
前記抗TROP-2抗体又はその抗原結合断片は、ヒト抗体κ鎖、λ鎖又はその変異体の軽鎖定常領域をさらに含み、
好ましくは、前記抗TROP-2抗体又はその抗原結合断片は、ヒト抗体κ鎖の軽鎖定常領域をさらに含み、
より好ましくは、前記抗TROP-2抗体又はその抗原結合断片は、SEQ ID NO:2に示す軽鎖定常領域をさらに含む、請求項1に記載の抗体薬物コンジュゲート又はその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物。
【請求項6】
前記抗TROP-2抗体又はその抗原結合断片は、SEQ ID NO:18、SEQ ID NO:20、SEQ ID NO:21、SEQ ID NO:22、SEQ ID NO:23、SEQ ID NO:24、SEQ ID NO:25、SEQ ID NO:26又はSEQ ID NO:27という配列に示すものから選択される重鎖可変領域、又はそれらと少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%又は99%の同一性を有する重鎖可変領域、
及び/又は、SEQ ID NO:19の軽鎖可変領域、又はそれに比べて少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%又は99%の同一性を有する軽鎖可変領域を含む、ことを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の抗体薬物コンジュゲート又はその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物。
【請求項7】
前記抗TROP-2抗体又はその抗原結合断片は、
SEQ ID NO:18に示す重鎖可変領域及びSEQ ID NO:19に示す軽鎖可変領域、又は、
SEQ ID NO:20に示す重鎖可変領域及びSEQ ID NO:19に示す軽鎖可変領域、又は、
SEQ ID NO:21に示す重鎖可変領域及びSEQ ID NO:19に示す軽鎖可変領域、又は、
SEQ ID NO:22に示す重鎖可変領域及びSEQ ID NO:19に示す軽鎖可変領域、又は、
SEQ ID NO:23に示す重鎖可変領域及びSEQ ID NO:19に示す軽鎖可変領域、又は、
SEQ ID NO:24に示す重鎖可変領域及びSEQ ID NO:19に示す軽鎖可変領域、又は、
SEQ ID NO:25に示す重鎖可変領域及びSEQ ID NO:19に示す軽鎖可変領域、又は、
SEQ ID NO:26に示す重鎖可変領域及びSEQ ID NO:19に示す軽鎖可変領域、又は、
SEQ ID NO:27に示す重鎖可変領域及びSEQ ID NO:19に示す軽鎖可変領域を含む、請求項6に記載の抗体薬物コンジュゲート又はその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物。
【請求項8】
前記抗TROP-2抗体又はその抗原結合断片は、SEQ ID NO:28、SEQ ID NO:30、SEQ ID NO:31、SEQ ID NO:32、SEQ ID NO:33、SEQ ID NO:34、SEQ ID NO:35、SEQ ID NO:36又はSEQ ID NO:37という配列に示すものから選択される重鎖、又はそれらと少なくとも80%、85%、90%、95%又は99%の同一性を有する重鎖、
及び/又は、SEQ ID NO:29に示す軽鎖、又はそれに比べて少なくとも80%、85%、90%、95%又は99%の同一性を有する軽鎖を含有する、請求項6に記載の抗体薬物コンジュゲート又はその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物。
【請求項9】
前記抗TROP-2抗体は、
SEQ ID NO:28に示す重鎖及びSEQ ID NO:29に示す軽鎖、又は、
SEQ ID NO:30に示す重鎖及びSEQ ID NO:29に示す軽鎖、又は、
SEQ ID NO:31に示す重鎖及びSEQ ID NO:29に示す軽鎖、又は、
SEQ ID NO:32に示す重鎖及びSEQ ID NO:29に示す軽鎖、又は、
SEQ ID NO:33に示す重鎖及びSEQ ID NO:29に示す軽鎖、又は、
SEQ ID NO:34に示す重鎖及びSEQ ID NO:29に示す軽鎖、又は、
SEQ ID NO:35に示す重鎖及びSEQ ID NO:29に示す軽鎖、又は、
SEQ ID NO:36に示す重鎖及びSEQ ID NO:29に示す軽鎖、又は、
SEQ ID NO:37に示す重鎖及びSEQ ID NO:29に示す軽鎖を含む、請求項8に記載の抗体薬物コンジュゲート又はその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物。
【請求項10】
それは、一般式(II)に示す抗体薬物コンジュゲート又はその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物、又はその互変異性体、メソマー、ラセミ体、エナンチオマー、ジアステレオマー、又はそれらの混合物形態から選択され、
【化2】
又はXは、結合又はOであり、
mは0又は1であり、且つ
tは、1又は2である、請求項1~9のいずれか一項に記載の抗体薬物コンジュゲート又はその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物。
【請求項11】
それは、一般式(III)に示す抗体薬物コンジュゲート又はその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物から選択され、
【化3】
ここで、yは1~10であり、好ましくは、4、6、8又は10である、請求項10に記載の抗体薬物コンジュゲート又はその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物。
【請求項12】
前記抗体薬物コンジュゲート又はその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物は、以下の構造から選択され、
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
【化9】
ここで、yは請求項1に定義されたとおりである、請求項11に記載の抗体薬物コンジュゲート又はその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物。
【請求項13】
一般式(I)に示す抗体-薬物コンジュゲート又はその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物を製造する方法であって、それは、
【化10】
mAbを還元した後、一般式(F)とコンジュゲーション反応させ、一般式(I)に示す化合物を得るステップを含み、
ここで、L、R、R、mAb、yは請求項1に定義されたとおりである、方法。
【請求項14】
請求項1~12のいずれか一項に記載の抗体薬物コンジュゲート又は前記抗体薬物コンジュゲートの薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物、及び一つ又は複数の薬学的に許容可能な賦形剤、希釈剤又は担体を含む、医薬組成物。
【請求項15】
請求項1~12のいずれか一項に記載の抗体薬物コンジュゲート又はその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物、又は請求項14に記載の医薬組成物の、TROP-2に関連する疾患又は症状の治療における用途。
【請求項16】
前記ヒトTROP-2に関連する疾患は、TROP-2が高発現する癌であり、前記癌は、トリプルネガティブ乳癌、小細胞肺癌、尿路上皮癌、ヒト脳星状膠芽腫、ヒト咽頭癌、副腎腫瘍、AIDS-関連癌、胞巣状軟部肉腫、星細胞腫、膀胱癌、骨癌、脳及び脊髄癌、転移性脳腫瘍、乳癌、頸動脈小体腫瘍、子宮頸癌、軟骨肉腫、脊索腫、嫌色素性腎細胞癌、明細胞癌、結腸癌、結腸直腸癌、線維形成性小円形細胞性腫瘍、上衣細胞腫、ユーイング腫瘍、骨外性粘液型軟骨肉腫、線維形成不全骨、線維性骨形成異常、胆嚢又は胆管癌、胃癌、妊娠性絨毛性疾患、生殖細胞腫瘍、頭頚部癌、肝細胞癌、膵島細胞腫瘍、カポジ肉腫、腎臓癌、白血病、脂肪肉腫、悪性脂肪性腫瘍、肝臓癌、リンパ腫、肺癌、髄芽細胞腫、黒色腫、髄膜腫、多発性内分泌腺腫症、多発性骨髄腫、骨髄異形成症候群、神経芽腫、神経内分泌腫瘍、卵巣癌、膵臓癌、甲状腺乳頭癌、副甲状腺腫瘍、小児癌、末梢神経鞘腫瘍、褐色細胞腫、下垂体腫瘍、前立腺癌、後部ブドウ膜黒色腫、転移性腎臓癌、ラブドイド腫瘍、横紋筋肉腫、肉腫、皮膚癌、軟部組織肉腫、扁平上皮細胞癌、滑膜肉腫、精巣癌、胸腺癌、胸腺腫、転移性甲状腺癌及び子宮癌から選択される、ことを特徴とする請求項15に記載の用途。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオ医薬分野に属し、具体的には、本発明は、抗TROP-2抗体コンジュゲート及びその医薬用途に関する。
【背景技術】
【0002】
ゲノム腫瘍学、プロテオミクス及びシグナル伝達経路の研究がより詳細に行われるにつれて、腫瘍細胞の癌遺伝子と癌阻害遺伝子との相互作用及び腫瘍微小環境へのそれらの影響がより一層明らかになり、これにより腫瘍の特異的分子標的に対する新規な抗腫瘍治療レジメンの設計が可能になる。
【0003】
腫瘍の分子標的治療は、従来の手術、放射線療法、化学療法とは異なる新しい治療方法であり、薬物が、通常、対応する標的部位のみに結合し、その標的部位分子の機能に直接影響を与えるか、又は担持する物理的もしくは化学的エフェクター分子に影響を与えることによってターゲット細胞を殺傷又は阻害する作用を達成するという利点を有する。標的部位が明確であるため、該種類の薬物は、通常、非常に高い選択性を有し、標的細胞を効果的に殺傷又は阻害することができるとともに、正常組織細胞に対して毒性の副作用が全くないか又はわずかである。そのため、分子標的薬物の開発は、腫瘍臨床研究の焦点となっている。
【0004】
ヒト栄養膜細胞表面抗原2(human trophoblast cell surface antigen 2、TROP-2)は、TACSTD2 遺伝子によりコードされる細胞表面糖タンパク質である。TROP-2 は、323 個のアミノ酸からなり、ここで、シグナルペプチドに26 個のアミノ酸、細胞外領域に248 個のアミノ酸、膜貫通領域に23 個のアミノ酸、細胞質領域に26 個のアミノ酸である。TROP-2細胞外ドメインには、4個の不均質N結合グリコシル化部位が存在し、糖鎖を付加した後、見かけの分子量が11~13KD増加する。TACSTD遺伝子ファミリーでは、細胞外ドメインは、特徴的な甲状腺グロブリン(TY)配列を有し、それが、通常、癌細胞の増殖、浸潤、転移に関与していると考えられる。
【0005】
大量の臨床研究及び文献報告により、TROP-2は、胃癌、肺癌、大腸、卵巣癌、乳癌、前立腺癌、膵癌、肝癌、食道癌などの複数の上皮由来癌に過剰発現することが明らかになった。これに対して、TROP-2は、成人の正常組織にわずかに発現するか又は発現せず、上皮領域の細胞のみに少量に発現し、発現レベルも癌腫より低く、TROP-2が腫瘍形成に関与することが示唆された。腫瘍組織におけるTROP-2の過剰発現は、患者の予後不良及び癌細胞の転移に密に関連するとともに、患者の全生存率に影響を与える。そのため、TROP-2は、腫瘍分子標的治療において注目を集めている標的となっている。
【0006】
抗hTROP-2抗体の抗腫瘍効果に関する研究はいくつか報告されている:
米国特許第5840854号は、細胞毒素に結合する抗hTROP-2モノクローナル抗体(BR110)の、ヒト癌細胞株H3619、H2987、MCF-7、H3396及びH2981に対する細胞傷害性を報告した。
【0007】
米国特許第6653104号に抗体(RS7)が開示され、放射性物質で標識された抗体を用いてインビボモデルで試験し、ヌードマウス異種移植モデルにおいて抗腫瘍活性を示したが、裸の抗体のみの場合の抗腫瘍効果が報告されていない。
【0008】
米国特許第7420040号は、ヒト卵巣癌組織で免疫されたマウスから得られたハイブリドーマ細胞株 AR47A6.4.2又はAR52A301.5が産生した単離モノクローナル抗体がhTROP-2に結合し、且つヌードマウス異種移植モデルにおいて抗腫瘍活性を示すことをさらに報告した。
【0009】
CN102827282Aは、ヒト由来の抗TROP-2遺伝子工学抗体IgG及びその応用を開示し、インビトロ試験の結果により、該抗TROP-2抗体IgGが、膵臓癌細胞の増殖に対して顕著な阻害作用を有することが示された。
【0010】
CN104114580Aは、hTROP-2に特異的反応し、インビボで抗腫瘍活性を有する抗体(特にヒト化抗体)、及び該抗体を産生するハイブリドーマ、該抗体と薬剤との複合体、腫瘍の診断用又は治療用医薬組成物、腫瘍の検出方法、腫瘍の検出用又は診断用キットを開示した。
【0011】
しかし、高い親和性、高い特異性及び強力な細胞傷害性又は腫瘍殺傷/阻害/退行活性を有するモノクローナル抗体を見つけるのはかなり困難である。そのため、優れた治療効果を有し、安全性が高く、ヒト患者に適したTrop-2抗体及び他の免疫治療剤の開発は、依然として切望されている。
【発明の概要】
【0012】
本発明の目的は、一般式(I)に示す抗体薬物コンジュゲート又はその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物を提供することであり、
【化1】
ここで、
Lは、-(CR-[X-(CRn--(CR-であり、
又はRは、それぞれ独立して、水素、重水素、ヒドロキシ基、アミノ基、アルキル基、ハロゲン、ハロゲン化アルキル基、重水素化アルキル基又はヒドロキシアルキル基から選択され、好ましくは、R又はRは水素であり、
又はXは、それぞれ独立して、結合、N、O又はSから選択され、好ましくは、X又はXは、結合又はOであり、
m、n、r又はtは、それぞれ独立して、1、2、3又は4から選択され、好ましくは、m、n、r又はtは、それぞれ独立して、1又は2から選択され、
又はRは、それぞれ独立して、水素、ハロゲン、ハロゲン化アルキル基、重水素化アルキル基、シクロアルキル基、ヘテロシクロ基、アリール基又はヘテロアリール基から選択され、
又は、R及びRは、それらに連結する炭素原子とともにシクロアルキル基又はヘテロシクロ基を形成し、
yは、1~20であり、好ましくは、1~10であり、より好ましくは、2~8であり、さらに好ましくは、4、6又は8であり、
mAbは、抗TROP-2抗体又はその抗原結合断片である。
【0013】
本発明の好ましい実施形態において、R又はRは、それぞれ独立して、水素、重水素、ヒドロキシ基、アミノ基、C1-3アルキル基、ハロゲン、C1-3ハロゲン化アルキル基、C1-3重水素化アルキル基又はC1-3ヒドロキシアルキル基から選択され、好ましくは、R又はRは水素であり、
又はXは、それぞれ独立して、結合、N、O又はSから選択され、好ましくは、X又はXは、結合又はOであり、
m、n又はrは、それぞれ独立して、1、2、3又は4であり、好ましくは、m、n又はrは、それぞれ独立して、1又は2から選択され、
又はRは、それぞれ独立して、水素、ハロゲン、C1-3ハロゲン化アルキル基、C1-3重水素化アルキル基、C3-6シクロアルキル基、4~8員ヘテロシクロ基、C5-10アリール基又は4~8員ヘテロアリール基から選択され、好ましくは、R又はRは、それぞれ独立して、水素又はC3-6シクロアルキル基から選択され、
又は、R及びRは、それらに連結する炭素原子とともにC3-6シクロアルキル基又は4~8員ヘテロシクロ基を形成する。
【0014】
本発明の好ましい実施形態において、前記抗TROP-2抗体又はその抗原結合断片は、SEQ ID NO:3に示すHCDR1、RIDPXDSETHYNQKFKDに示すHCDR2及びSEQ ID NO:5に示すHCDR3と、SEQ ID NO:6に示すLCDR1、SEQ ID NO:7に示すLCDR2及びSEQ ID NO:8に示すLCDR3とを含み、
Xは、R、Y、Q、L、T、I、F、E又はAから選択される。
【0015】
本発明の好ましい実施形態において、前記TROP-2抗体又はその抗原結合断片は、
SEQ ID NO:3に示すHCDR1、SEQ ID NO:9に示すHCDR2及びSEQ ID NO:5に示すHCDR3、並びにSEQ ID NO:6に示すLCDR1、SEQ ID NO:7に示すLCDR2及びSEQ ID NO:8に示すLCDR3、又は、
SEQ ID NO:3に示すHCDR1、SEQ ID NO:10に示すHCDR2及びSEQ ID NO:5に示すHCDR3、並びにSEQ ID NO:6に示すLCDR1、SEQ ID NO:7に示すLCDR2及びSEQ ID NO:8に示すLCDR3、又は、
SEQ ID NO:3に示すHCDR1、SEQ ID NO:11に示すHCDR2及びSEQ ID NO:5に示すHCDR3、並びにSEQ ID NO:6に示すLCDR1、SEQ ID NO:7に示すLCDR2及びSEQ ID NO:8に示すLCDR3、又は、
SEQ ID NO:3に示すHCDR1、SEQ ID NO:12に示すHCDR2及びSEQ ID NO:5に示すHCDR3、並びにSEQ ID NO:6に示すLCDR1、SEQ ID NO:7に示すLCDR2及びSEQ ID NO:8に示すLCDR3、又は、
SEQ ID NO:3に示すHCDR1、SEQ ID NO:13に示すHCDR2及びSEQ ID NO:5に示すHCDR3、並びにSEQ ID NO:6に示すLCDR1、SEQ ID NO:7に示すLCDR2及びSEQ ID NO:8に示すLCDR3、又は、
SEQ ID NO:3に示すHCDR1、SEQ ID NO:14に示すHCDR2及びSEQ ID NO:5に示すHCDR3、並びにSEQ ID NO:6に示すLCDR1、SEQ ID NO:7に示すLCDR2及びSEQ ID NO:8に示すLCDR3、又は、
SEQ ID NO:3に示すHCDR1、SEQ ID NO:15に示すHCDR2及びSEQ ID NO:5に示すHCDR3、並びにSEQ ID NO:6に示すLCDR1、SEQ ID NO:7に示すLCDR2及びSEQ ID NO:8に示すLCDR3、又は、
SEQ ID NO:3に示すHCDR1、SEQ ID NO:16に示すHCDR2及びSEQ ID NO:5に示すHCDR3、並びにSEQ ID NO:6に示すLCDR1、SEQ ID NO:7に示すLCDR2及びSEQ ID NO:8に示すLCDR3、又は、
SEQ ID NO:3に示すHCDR1、SEQ ID NO:17に示すHCDR2及びSEQ ID NO:5に示すHCDR3、並びにSEQ ID NO:6に示すLCDR1、SEQ ID NO:7に示すLCDR2及びSEQ ID NO:8に示すLCDR3を含む。
【0016】
本発明の好ましい実施形態において、本発明による抗体-薬物コンジュゲート又はその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物であって、前記抗TROP-2抗体又はその抗原結合断片は、マウス由来抗体又はその抗原結合断片、キメラ抗体又はその抗原結合断片、ヒト抗体又はその抗原結合断片、ヒト化抗体又はその抗原結合断片から選択される。
【0017】
本発明の好ましい実施形態において、本発明による抗体-薬物コンジュゲート又はその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物であって、前記抗TROP-2抗体又はその抗原結合断片は、ヒトIgG1、IgG2、IgG3又はIgG4に由来する重鎖定常領域又はその変異体をさらに含む。
【0018】
本発明のさらに好ましい実施形態において、前記抗TROP-2抗体又はその抗原結合断片は、ヒトIgG1、IgG2又はIgG4に由来する重鎖定常領域又はその変異体をさらに含む。
【0019】
本発明のさらに好ましい実施形態において、前記抗TROP-2抗体又はその抗原結合断片は、SEQ ID NO:1に示す重鎖定常領域をさらに含む。
【0020】
本発明の好ましい実施形態において、本発明による抗体-薬物コンジュゲート又はその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物であって、前記抗TROP-2抗体又はその抗原結合断片は、ヒト抗体κ鎖、λ鎖に由来する軽鎖定常領域又はその変異体をさらに含む。
【0021】
本発明のさらに好ましい実施形態において、前記抗TROP-2抗体又はその抗原結合断片は、ヒト抗体κ鎖に由来する軽鎖定常領域をさらに含み、
本発明のさらに好ましい実施形態において、前記抗TROP-2抗体又はその抗原結合断片は、SEQ ID NO:2に示す軽鎖定常領域をさらに含む。
【0022】
本発明の好ましい実施形態において、前記抗TROP-2抗体又はその抗原結合断片は、SEQ ID NO:18、SEQ ID NO:20、SEQ ID NO:21、SEQ ID NO:22、SEQ ID NO:23、SEQ ID NO:24、SEQ ID NO:25、SEQ ID NO:26又はSEQ ID NO:27という配列に示すものから選択される重鎖可変領域、又はそれらと少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%又は99%の同一性を有する重鎖可変領域を含む。
【0023】
本発明の好ましい実施形態において、本発明に記載の抗体-薬物コンジュゲート又はその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物であって、前記抗TROP-2抗体又はその抗原結合断片は、SEQ ID NO:19の軽鎖可変領域、又はそれに比べて少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%又は99%の同一性を有する軽鎖可変領域を含む。
【0024】
本発明のさらに好ましい実施形態において、前記抗TROP-2抗体又はその抗原結合断片は、
SEQ ID NO:18に示す重鎖可変領域及びSEQ ID NO:19に示す軽鎖可変領域、又は、
SEQ ID NO:20に示す重鎖可変領域及びSEQ ID NO:19に示す軽鎖可変領域、又は、
SEQ ID NO:21に示す重鎖可変領域及びSEQ ID NO:19に示す軽鎖可変領域、又は、
SEQ ID NO:22に示す重鎖可変領域及びSEQ ID NO:19に示す軽鎖可変領域、又は、
SEQ ID NO:23に示す重鎖可変領域及びSEQ ID NO:19に示す軽鎖可変領域、又は、
SEQ ID NO:24に示す重鎖可変領域及びSEQ ID NO:19に示す軽鎖可変領域、又は、
SEQ ID NO:25に示す重鎖可変領域及びSEQ ID NO:19に示す軽鎖可変領域、又は、
SEQ ID NO:26に示す重鎖可変領域及びSEQ ID NO:19に示す軽鎖可変領域、又は、
SEQ ID NO:27に示す重鎖可変領域及びSEQ ID NO:19に示す軽鎖可変領域を含む。
【0025】
本発明の好ましい実施形態において、前記抗TROP-2抗体又はその抗原結合断片は、SEQ ID NO:28、SEQ ID NO:30、SEQ ID NO:31、SEQ ID NO:32、SEQ ID NO:33、SEQ ID NO:34、SEQ ID NO:35、SEQ ID NO:36又はSEQ ID NO:37という配列に示すものから選択される重鎖、又はそれらと少なくとも80%、85%、90%、95%又は99%の同一性を有する重鎖を含有する。
【0026】
本発明の好ましい実施形態において、前記抗TROP-2抗体又はその抗原結合断片は、以下の配列に示すものから選択される軽鎖、SEQ ID NO:29に示す軽鎖、又はそれに比べて80%、85%、90%、95%又は99%の同一性を有するものを含有する。
【0027】
本発明の好ましい実施形態において、前記抗TROP-2抗体又はその抗原結合断片は、
SEQ ID NO:28に示す重鎖及びSEQ ID NO:29に示す軽鎖、又は、
SEQ ID NO:30に示す重鎖及びSEQ ID NO:29に示す軽鎖、又は、
SEQ ID NO:31に示す重鎖及びSEQ ID NO:29に示す軽鎖、又は、
SEQ ID NO:32に示す重鎖及びSEQ ID NO:29に示す軽鎖、又は、
SEQ ID NO:33に示す重鎖及びSEQ ID NO:29に示す軽鎖、又は、
SEQ ID NO:34に示す重鎖及びSEQ ID NO:29に示す軽鎖、又は、
SEQ ID NO:35に示す重鎖及びSEQ ID NO:29に示す軽鎖、又は、
SEQ ID NO:36に示す重鎖及びSEQ ID NO:29に示す軽鎖、又は、
SEQ ID NO:37に示す重鎖及びSEQ ID NO:29に示す軽鎖を含む。
【0028】
本発明の好ましい実施形態において、前記の抗体薬物コンジュゲート又はその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物であって、それは、一般式(II)に示す抗体薬物コンジュゲート又はその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物、又はその互変異性体、メソマー、ラセミ体、エナンチオマー、ジアステレオマー、又はそれらの混合物形態から選択され、
【化2】
又はXは、結合又はOであり、
mは0又は1であり、且つ
tは、1又は2である。
【0029】
本発明の好ましい実施形態において、前記の抗体薬物コンジュゲート又はその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物であって、それは、一般式(III)に示す抗体薬物コンジュゲート又はその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物から選択され、
【化3】
mAbは、上記の抗TROP-2抗体又はその抗原結合断片から選択され、
yは、2~10から選択され、好ましくは、4~10であり、より好ましくは、4、6、8又は10である。
【0030】
本発明の好ましい実施形態において、前記抗体薬物コンジュゲート又はその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物は、以下の構造から選択され、
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
ここで、yは請求項1に定義されたとおりである。
【0031】
本発明は、一般式(I)に示す抗体-薬物コンジュゲート又はその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物を製造する方法をさらに提供し、それは、
【化9】
mAbを還元した後、一般式(F)とコンジュゲーション反応させ、一般式(I)に示す化合物を得るステップを含み、
ここで、Lは前述の内容に定義されたとおりである。
【0032】
mAbは、上記の抗TROP-2抗体又はその抗原結合断片から選択され、
yは1~20であり、好ましくは、4~10であり、より好ましくは、4、6、8又は10である。
【0033】
別の態様では、本発明は、医薬組成物を提供し、それは、本発明に記載の抗体-薬物コンジュゲート又は前記抗体-薬物コンジュゲートの薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物、及び一つ又は複数の薬学的に許容可能な賦形剤、希釈剤又は担体を含む。
【0034】
別の態様では、本発明は、医薬用途を提供し、本発明は、抗TROP-2抗体薬物コンジュゲート又は前記抗体薬物コンジュゲートの薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物、又はその医薬組成物の、TROP-2媒介性疾患又は症状を治療又は予防するための用途に関する。
【0035】
別の態様では、本発明は、一般式(I)に記載の抗体-薬物コンジュゲート又は前記抗体-薬物コンジュゲートの薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物、又はその医薬組成物の、ヒトTROP-2に関連する疾患を治療するための薬物の製造における応用をさらに提供する。
【0036】
本発明のより好ましい実施形態において、前記ヒトTROP-2に関連する疾患は、TROP-2が高発現する癌であり、前記癌は、トリプルネガティブ乳癌、小細胞肺癌、尿路上皮癌、ヒト脳星状膠芽腫、ヒト咽頭癌、副腎腫瘍、AIDS-関連癌、胞巣状軟部肉腫、星細胞腫、膀胱癌、骨癌、脳及び脊髄癌、転移性脳腫瘍、乳癌、頸動脈小体腫瘍、子宮頸癌、軟骨肉腫、脊索腫、嫌色素性腎細胞癌、明細胞癌、結腸癌、結腸直腸癌、線維形成性小円形細胞性腫瘍、上衣細胞腫、ユーイング腫瘍、骨外性粘液型軟骨肉腫、線維形成不全骨、線維性骨形成異常、胆嚢又は胆管癌、胃癌、妊娠性絨毛性疾患、生殖細胞腫瘍、頭頚部癌、肝細胞癌、膵島細胞腫瘍、カポジ肉腫、腎臓癌、白血病、脂肪肉腫、悪性脂肪性腫瘍、肝臓癌、リンパ腫、肺癌、髄芽細胞腫、黒色腫、髄膜腫、多発性内分泌腺腫症、多発性骨髄腫、骨髄異形成症候群、神経芽腫、神経内分泌腫瘍、卵巣癌、膵臓癌、甲状腺乳頭癌、副甲状腺腫瘍、小児癌、末梢神経鞘腫瘍、褐色細胞腫、下垂体腫瘍、前立腺癌、後部ブドウ膜黒色腫、転移性腎臓癌、ラブドイド腫瘍、横紋筋肉腫、肉腫、皮膚癌、軟部組織肉腫、扁平上皮細胞癌、滑膜肉腫、精巣癌、胸腺癌、胸腺腫、転移性甲状腺癌及び子宮癌から選択される。
【0037】
本発明の抗体-薬物コンジュゲート又はその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物は、標的抗原に特異的に結合することができ、エンドサイトーシス効率が高く、インビボ半減期が長く、安全性を確保するとともに、腫瘍を顕著に殺傷する。
【0038】
本発明の抗体薬物コンジュゲート及びその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物は、顕著な抗腫瘍効果及び良好な安全性を有するとともに、良好な体内代謝活性を有し、体内での薬効期間が長く、臨床応用の将来性が広い。
【発明の詳細な説明】
【0039】
一、用語
本発明をより容易に理解するために、以下では、いくつかの技術及び科学用語を具体的に定義した。本明細書に使用される全ての他の技術及び科学用語は、本明細書の他の部分で明らかで明確に定義されていない限り、いずれも本発明の当業者に一般に理解される意味を有する。
【0040】
本発明に使用されるアミノ酸の三文字コード及び一文字コードは、J. Biol. Chem,243,p3558(1968)に記載したとおりである。
【0041】
「抗体」という用語は、免疫グロブリンを指し、二本の同じ重鎖及び二本の同じ軽鎖で鎖間ジスルフィド結合を介して連結してなるテトラペプチド鎖構造である。免疫グロブリン重鎖定常領域は、アミノ酸組成及び配列順序が異なるため、その抗原性も異なる。これにより、免疫グロブリンを五つのクラスに分けることができ、又は免疫グロブリンのアイソタイプ、即ちIgM、IgD、IgG、IgA及びIgEと呼ばれてもよく、その該当する重鎖は、それぞれμ鎖、δ鎖、γ鎖、α鎖及びε鎖である。同じクラスのIgは、そのヒンジ領域のアミノ酸組成並びに重鎖ジスルフィド結合の数及び位置の違いにより、様々なサブクラスに分けられてもよく、例えば、IgGは、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4に分けられてもよい。軽鎖は、定常領域により、κ鎖又はλ鎖に分けられる。五つのクラスのIgのうちの各クラスのIgは、いずれもκ鎖又はλ鎖を有し得る。
【0042】
本発明では、前記の抗体軽鎖可変領域は軽鎖定常領域をさらに含んでもよく、前記の軽鎖定常領域は、ヒト又はマウスに由来するκ、λ鎖又はその変異体を含む。
【0043】
本発明では、前記の抗体重鎖可変領域は重鎖定常領域をさらに含んでもよく、前記の重鎖定常領域は、ヒト又はマウスに由来するIgG1、IgG2、IgG 3、IgG 4又はその変異体を含む。
【0044】
抗体重鎖及び軽鎖のN末端に近い約110個のアミノ酸は、配列変化が大きく、可変領域(V領域)であり、C末端に近い他のアミノ酸は、配列が比較的安定的であり、定常領域(C領域)である。可変領域は、3つの超可変領域(HVR)と4の配列が比較的保存的な骨格領域(FR)とを含む。3つの超可変領域は、抗体の特異性を確定し、相補性決定領域(CDR)とも呼ばれる。各本の軽鎖可変領域(VL)及び重鎖可変領域(VH)は、3つのCDR領域及び4つのFR領域からなり、アミノ基末端からカルボキシル基末端まで、FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4の順序で順に配列される。軽鎖の3つのCDR領域は、LCDR1、LCDR2、及びLCDR3を指し、重鎖の3つのCDR領域は、HCDR1、HCDR2及びHCDR3を指す。本発明に記載の抗体又は抗原結合断片のVL領域及びVH領域のCDRアミノ酸残基は、数及び位置が、既知のKabat番号付け規則及びKabat又はABM定義規則に適合する(http://bioinf.org.uk/abs/)。
【0045】
「TROP-2」という用語は、細胞により天然に発現されるTROP-2の任意の変異体又はアイソタイプを含む。本発明の抗体は、非ヒト種から得られたTROP-2と交差反応することができる。別の選択肢として、該抗体は、ヒトTROP-2に特異的であってもよく、他の種との交差反応性を示さなくてもよい。TROP-2又はその任意の変異体もしくはアイソタイプは、それらを天然に発現する細胞又は組織から単離して得られるか、又は当分野で一般的な技術及び本明細書に記載のそれらの技術を用いて組換え技術により産生され得る。好ましくは、抗TROP-2抗体は、正常なグリコシル化モードを有するヒト由来TROP-2を標的とする。
【0046】
「組換えヒト抗体」という用語は、組換え方法により製造され、発現され、作製され又は単離されたヒト抗体を含み、係る技術及び方法は、当分野でよく知られており、例えば、
1. ヒト免疫グロブリン遺伝子の遺伝子導入、染色体導入動物(例えば、マウス)又はそれらから製造されたハイブリドーマから単離された抗体、
2. 抗体を発現するように形質転換された宿主細胞、例えば、トランスフェクトーマから単離された抗体、
3. 組換え組み合わせヒト抗体ライブラリーから単離された抗体、及び
4. ヒト免疫グロブリン遺伝子配列を他のDNA配列にスプライシングするなどの方法により製造され、発現され、作製され又は単離された抗体。
【0047】
このような組換えヒト抗体は、生殖細胞系列遺伝子によってコードされた特定のヒト生殖細胞系列免疫グロブリン配列を利用する可変領域と定常領域とを含むが、抗体成熟中に発生するような後に発生する再構成及び突然変異も含む。
【0048】
「マウス由来抗体」という用語は、本発明では、当分野の知識及び技能に基づいて製造されるヒトTROP-2に対するモノクローナル抗体である。製造時、TROP-2抗原を試験対象に注射し、そして所望の配列又は機能的特性を有する抗体を発現するハイブリドーマを単離する。本発明一好ましい実施形態において、前記のマウスTROP-2抗体又はその抗原結合断片は、マウス由来のκ、λ鎖又はそれらの変異体の軽鎖定常領域をさらに含むか、又はマウス由来のIgG1、IgG2、IgG3又はIgG4又はそれらの変異体の重鎖定常領域をさらに含んでもよい。
【0049】
「ヒト抗体」という用語は、ヒト生殖細胞系列免疫グロブリン配列を有する可変及び定常領域を有する抗体を含む。本発明のヒト抗体は、ヒト生殖細胞系列免疫グロブリン配列によりコードされないアミノ酸残基(例えば、インビトロのランダムもしくは部位特異的誘発又はインビボの体細胞突然変異により導入された突然変異)を含んでもよい。しかしながら、「ヒト抗体」という用語は、別の哺乳動物種(例えば、マウス)の生殖細胞系列に由来するCDR配列を既にヒトフレームワーク配列に移植した抗体(即ち「ヒト化抗体」)を含まない。
【0050】
「ヒト化抗体(humanized antibody)」という用語は、CDR移植抗体(CDR-grafted antibody)とも呼ばれ、マウスのCDR配列をヒトの抗体可変領域フレームワークに移植して産生した抗体を指す。ヒト化抗体は、大量のマウスタンパク質成分を担持することによって強烈な免疫応答反応を誘導するというキメラ抗体の欠点を克服することができる。免疫原性が低下するとともに活性の低下を引き起こすことを回避するために、前記のヒト抗体可変領域に対して最小限の復帰突然変異を行って活性を維持してもよい。
【0051】
「キメラ抗体(chimeric antibody)」という用語は、マウス由来抗体の可変領域及びヒト抗体の定常領域を融合してなる抗体であり、マウス由来抗体により誘発される免疫応答反応を軽減することができる。キメラ抗体を樹立するには、まずマウス由来の特異性モノクローナル抗体を分泌するハイブリドーマを樹立し、そしてマウスハイブリドーマ細胞から可変領域遺伝子をクローニングし、さらに必要に応じてヒト抗体の定常領域遺伝子をクローニングし、マウス可変領域遺伝子及びヒト定常領域遺伝子を連結してキメラ遺伝子を形成した後にヒトベクターに挿入し、最後に真核生物または原核生物の産業系にキメラ抗体分子を発現させる。ヒト抗体の定常領域は、ヒト由来のIgG1、IgG2、IgG3又はIgG4又はそれらの変異体の重鎖定常領域から選択されてもよく、好ましくは、ヒト由来のIgG1、IgG2又はIgG4の重鎖定常領域、又はアミノ酸突然変異を使用してADCC(antibody-dependent cell-mediated cytotoxicity、抗体依存性細胞媒介性細胞障碍作用)傷害性を増強したIgG1重鎖定常領域を含む。
【0052】
「抗原結合断片」という用語は、抗体の抗原結合断片及び抗体類似体を指し、それは、通常、少なくとも一部の親抗体(parental antibody)の抗原結合領域又は可変領域(例えば、一つ又は複数のCDR)を含む。抗体断片は、親抗体の少なくともいくつかの結合特異性を保持する。通常、モル基準で活性を表す場合、抗体断片は、少なくとも10%の親結合活性を保持する。好ましくは、抗体断片は、標的に対する親抗体の結合親和性の少なくとも20%、50%、70%、80%、90%、95%又は100%又はそれ以上を保持する。抗原結合断片の例は、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv断片、線状抗体(linear antibody)、単鎖抗体、ナノ抗体、ドメイン抗体及び多重特異性抗体を含むが、それらに限らない。操作された抗体変異体は、Holliger及びHudson,2005,Nat.Biotechnol.23:1126-1136に概説されている。
【0053】
「Fab断片」という用語は、一本の軽鎖及び一本の重鎖のCH1及び可変領域からなる。Fab分子の重鎖は、別の重鎖分子とジスルフィド結合を形成することができない。
【0054】
「Fc」領域という用語は、抗体のCH2及びCH3ドメインを含む二つの重鎖断片を含有する。二つの重鎖断片は、二つ又は複数のジスルフィド結合からなり、CH3ドメインの疎水性作用により一緒に保持されている。
【0055】
「Fab’断片」という用語は、一本の軽鎖、及びVHドメインと、CH1ドメインと、CH1とCH2ドメインの間の領域とを含む一本の重鎖の一部を含有し、これにより二つのFab’断片の二本の重鎖の間に鎖間ジスルフィド結合を形成してF(ab’)2分子を形成することができる。
【0056】
「F(ab’)2断片」という用語は、二本の軽鎖、及びCH1とCH2ドメインの間の定常領域の一部を含む二本の重鎖を含有し、これにより二本の重鎖の間に鎖間ジスルフィド結合を形成する。そのため、F(ab’)2断片は、二本の重鎖間のジスルフィド結合を介して一緒に保持される二つのFab’断片からなる。
【0057】
「Fv領域」は、重鎖及び軽鎖の両方からの可変領域を含むが、定常領域を欠いている。
【0058】
「多重特異性抗体」という用語は、最も広い意味で使用され、多エピトープに対する特異性を有する抗体をカバーする。これらの多重特異性抗体は、重鎖可変領域VHと軽鎖可変領域VLとを含む抗体であって、該VH-VLユニットは、多エピトープに対する特異性を有する抗体と、二つ又は複数のVL及びVH領域を有する抗体であって、各VH-VLユニットは、異なる標的又は同一の標的の異なるエピトープに結合する抗体と、二つ又はそれ以上の単一可変領域を有する抗体であって、各単一可変領域は、異なる標的又は同一の標的の異なるエピトープに結合する抗体と、全長抗体、抗体断片、ダイアボディ(diabodies)、二重特異性ダイアボディ及びトリアボディ(triabodies)、共有結合的又は非共有結合的に一緒に連結された抗体断片などを含むが、それらに限らない。
【0059】
「単鎖抗体」という用語は、抗体の重鎖可変領域VH及び軽鎖可変領域VLが連結ペプチドセグメントを介して連結してなる単鎖組換えタンパク質であり、完全抗原結合部位を有する最小抗体断片である。
【0060】
「ドメイン抗体断片」という用語は、重鎖可変領域又は軽鎖可変領域鎖のみを含有する、免疫学的機能を有する免疫グロブリン断片である。いくつかの場合に、二つ又は複数のVH領域は、ペプチドリンカーと共有結合して、二価ドメイン抗体断片を形成する。二価ドメイン抗体断片の二つのVH領域は、同じ又は異なる抗原を標的とすることができる。
【0061】
本「TROP-2に結合する」という用語は、ヒトTROP-2と相互作用できることを指す。
【0062】
「抗原結合部位」という用語は、本発明の抗体又は抗原結合断片により認識される三次元空間部位を指す。
【0063】
「エピトープ」という用語は、抗原上の、免疫グロブリン又は抗体に特異的に結合する部位を指す。エピトープは、隣接するアミノ酸、又はタンパク質の三次折り畳みによって並置された隣接しないアミノ酸から形成されてもよい。隣接するアミノ酸で形成されたエピトープは、通常、変性溶媒に曝露した後に保持されるが、三次折り畳みにより形成されたエピトープは、通常、変性溶媒処理後に失われる。エピトープは、通常、少なくとも3~15個のアミノ酸を独特な立体配座で含む。所定の抗体がどのエピトープに結合するかを確定する方法は、当分野でよく知られており、免疫ブロット及び免疫沈降検出分析などを含む。エピトープの立体配座を確定する方法は、当分野における技術及び本明細書に記載の技術、例えば、X線結晶構造分析法及び二次元核磁気共鳴などを含む。
【0064】
「特異的結合」、「選択的結合」という用語は、抗体と所定の抗原上のエピトープとの結合を指す。通常、ヒトTROP-2を分析物として、抗体をリガンドとして使用し、機器で表面プラズモン共鳴(SPR)技術によって測定する場合、抗体は、約10-7M未満又はそれ以下の平衡解離定数(K)で所定の抗原に結合し、且つそれが所定の抗原と結合する親和性は、それが所定の抗原又は密に関連する抗原以外の非特異的抗原(例えば、BSAなど)と結合する親和性の少なくとも二倍である。「抗原を認識する抗体」という用語は、本明細書では「特異的に結合する抗体」という用語と互換使用可能である。
【0065】
「交差反応」は、本発明の抗体が異なる種からのTROP-2に結合する能力を指す。例えば、ヒトTROP-2に結合する本発明の抗体は、別の種のTROP-2に結合することもできる。交差反応性は、結合アッセイ(例えば、SPR及びELISA)において、精製された抗原との特異的反応性、又はTROP-2を生理学的に発現する細胞との結合又は機能的相互作用によって測定される。交差反応性を確定する方法は、本明細書に記載の標準的な結合アッセイ、例えば、表面プラズモン共鳴(SPR)分析、又はフローサイトメトリーを含む。
【0066】
「阻害」又は「遮断」という用語は、互換使用可能であり、部分的及び完全な阻害/遮断の両方をカバーする。リガンドの阻害/遮断は、好ましくは、阻害又は遮断しない場合にリガンド結合が発生する時に生じる活性の正常なレベル又はタイプを低下又は改変する。阻害及び遮断は、また、抗TROP-2抗体に接触する時、抗TROP-2抗体に接触しないリガンドに比べて、任意の測定可能なリガンド結合親和性の低下を含むことが意図される。
【0067】
「増殖阻害」(例えば、細胞に関する)は、細胞増殖の任意の測定可能な低下を含むことが意図される。
【0068】
「免疫応答誘導」及び「免疫応答増強」は、互換使用可能であり、特定の抗原に対する免疫応答の刺激(即ち、受動的又は適応的)を指す。CDC又はADCC誘導に対する「誘導」という用語は、特定の直接細胞殺傷機構を刺激することを指す。
【0069】
「ADCC」、即ちantibody-dependent cell-mediated cytotoxicity、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害作用は、Fc受容体を発現する細胞が、抗体を認識するFcセグメントによって、抗体によりコーティングされる標的細胞を直接殺傷することを指す。IgG上のFcセグメントに対する修飾、増強又は低下によって、抗体のADCCエフェクター機能を低下又は除去する。前記修飾は、抗体の重鎖定常領域で突然変異を行うことを指す。
【0070】
抗体及び抗原結合断片の産生及び精製方法は、コールドスプリングの抗体実験技術ガイドライン、5~8章及び15章のような従来技術でよく知られており、見出され得る。例えば、マウスをヒトTROP-2又はその断片で免疫化することができ、得られた抗体は、再生され、精製されてもよく、且つ従来の方法でアミノ酸配列決定を行うことができる。抗原結合断片は、同様に、従来の方法で製造され得る。発明に記載の抗体又は抗原結合断片は、遺伝子工学方法を用いて、非ヒト由来のCDR領域に一つ又は複数のヒトFR領域を加える。ヒトFR生殖細胞系列配列は、ImMunoGeneTics(IMGT)のウェブサイトhttp://imgt.cines.fr、又は免疫グロブリン雑誌、2001ISBN012441351から入手することができる。
【0071】
本発明のエンジニアリングされた抗体又は抗原結合断片は、従来の方法で製造され精製され得る。対応する抗体のcDNA配列は、GS発現ベクターにクローニングされ組み換えられ得る。組換え免疫グロブリン発現ベクターは、CHO細胞を安定的にトランスフェクトすることができる。より推奨される従来技術として、哺乳類発現系は、特にFC領域の高度に保存的なN末端において、抗体のグリコシル化を引き起こす。ヒト由来抗原に特異的に結合する抗体を発現させることによって安定的なクローンを得る。陽性のクローンをバイオリアクターの無血清培地中で拡大培養して抗体を産生する。抗体を分泌した培養液は、従来技術で精製され、収集され得る。抗体は、従来の方法で濾過され濃縮され得る。可溶性混合物及び多量体も、従来の方法、例えば、モレキュラシーブ、イオン交換で除去され得る。得られた生成物は、直ちに、例えば、-70℃で凍結するか、又は凍結乾燥する必要がある。
【0072】
本発明の抗体はモノクローナル抗体を指す。本発明に記載のモノクローナル抗体(mAb)は、単一のクローン細胞株から得られた抗体を指し、前記の細胞株は、真核、原核又はファージのクローン細胞株に限られない。モノクローナル抗体又は抗原結合断片は、ハイブリドーマ技術、組換え技術、ファージディスプレイ技術、合成技術(例えば、CDR-grafting)、又は他の従来技術を用いて組換えにより得ることができる。
【0073】
「投与」、「与え」及び「処理」という用語は、動物、ヒト、実験被験体、細胞、組織、器官又は生体液に適用される場合、外因性薬物、治療剤、診断剤又は組成物と動物、ヒト、被験体、細胞、組織、器官又は生体液との接触を指す。「投与」、「与え」及び「処理」は、例えば、治療、薬物動態学、診断、研究及び実験方法を指してもよい。細胞の処理は、試薬と細胞の接触と、試薬と体液の接触とを含み、ここで、前記体液は細胞と接触する。「投与」、「与え」及び「処理」は、さらに、試薬、診断、結合組成物又は別の細胞により、例えば、細胞をインビトロ及びエクスビボで処理することを指すことが意図される。「処理」は、ヒト、獣医学又は研究被験体に適用される場合、治療的処理、予防又は予防的手段、研究及び診断上の適用を指す。
【0074】
「治療」という用語は、本発明のいずれか一つの抗体を含むような治療剤を患者に内用又は外用投与することを指し、前記患者は、一つ又は複数の疾患症状を有し、前記治療剤はこれらの症状に対して治療作用を有することが知られている。通常、一つ又は複数の疾患症状に対して、このような症状の退化を誘導することにより、又はこのような症状が臨床的に測定可能な程度まで進行することを阻害することにより、治療対象患者又は集団に症状を効果的に緩和する量で治療剤を与える。任意の具体的な疾患症状を効果的に緩和する治療剤の量(「治療有効量」とも呼ばれる)は、複数の要因、例えば、患者の疾患状態、年齢及び体重、並びに薬物が患者において必要な治療効果を引き出す能力に応じて異なり得る医師又はその他の専門医療従事者が、通常、該症状の重症度又は進行状況を評価するために使用する任意の臨床検出方法により、疾患症状が軽減されたか否かを評価することができる。本発明の実施形態(例えば、治療方法又は製品)が、いずれの患者も患う目的疾患症状の緩和に無効である可能性があるが、当分野に既知の任意の統計学的検定方法、例えば、Student t検定、カイ二乗検定、Mann及びWhitneyによるU検定、Kruskal-Wallis検定(H検定)、Jonckheere-Terpstra検定及びWilcoxon検定に基づいて確定され得、それは、統計学的に有意な数の患者において目的疾患症状を緩和すべきである。
【0075】
明細書及び特許請求の範囲全体に使用される「実質的に……からなる」という用語は又はその変形は、全ての前記要素又は要素群を含み、且つ任意選択的に、前記要素と類似するか又は性質が異なる他の要素を含むことを表し、前記他の要素は、所定の投与計画、方法又は組成物の基本的又は新規な特性を有意に変化させない。
【0076】
ある対象に適用される本発明に記載の「天然に存在する」という用語は、該対象が自然界から発見され得るという事実を指す。例えば、天然源から単離可能な生物(ウイルスを含む)に存在し、人により実験室で意図的に修飾されていないポリペプチド配列又はポリヌクレオチド配列は、天然に存在する。
【0077】
「有効量」という用語は、医学的状態の症状又は徴候を改善又は防止するのに十分である量を包含する。有効量は、診断を可能にするか又は容易にするのに十分である量も意味する。特定の患者または獣医学的被験体に対する有効量は、治療対象状態、患者の全体的な健康状態、投与の方法経路及び用量並びに副作用の重篤度などの要因に応じて異なり得る有効量は、著しい副作用又は毒性作用を回避する最大用量又は投与プロトコールであり得る。
【0078】
「外因性」という用語は、状況に応じて、生物、細胞又は人体の外部で産生される物質を指す。
【0079】
「内因性」という用語は、状況に応じて、細胞、生物又は人体の内部で産生される物質を指す。
【0080】
「相同性」という用語は、二つのポリヌクレオチド配列間又は二つのポリペプチド間の配列類似性を指す。二つの比較配列中の位置が、いずれも同じ塩基又はアミノ酸モノマーサブユニットによって占有される場合、例えば、二つのDNA分子のそれぞれの位置がアデニンによって占有される場合、分子は、該位置で相同である。二つの配列間の相同性パーセントは、二つの配列が共有するマッチするか又は相同な位置の数を比較される位置の数で割ったもの×100%の関数である。例えば、配列の最適なアラインメントにおいて、二つの配列における10個の位置のうちの6個がマッチするか又は相同であれば、二つの配列は、60%相同である。一般的には、比較は、二つの配列をアラインメントして最大の相同性パーセントを得た場合に行われる。
【0081】
「細胞」、「細胞系」及び「細胞培養物」という用語は、交換使用可能であり、且つ全てのこのような名称はいずれもその子孫を含む。そのため、「形質転換体」及び「形質転換細胞」という語は、転移の数を考慮せず、初代対象細胞及びそれに由来する培養物を含む。意図的又は非意図的な変異が原因で、全ての子孫が、DNA含有量に関して正確に同一になるとは限らない可能性があることも理解されるべきである。最初に形質転換された細胞からスクリーニングされたものと同じ機能又は生物学的活性を有する突然変異子孫を含む。「任意選択」又は「任意選択的に」は、後に記述されるイベント又は環境が発生してもよいが、発生する必要はないことを意味し、該説明は、イベント又は環境が発生したか又は発生していない場合を含む。例えば、「任意選択的に、1~3個の抗体重鎖可変領域を含む」は、特定の配列の抗体重鎖可変領域は、存在してもよいが、必ずしも存在するとは限らないことを意味する。
【0082】
「医薬組成物」という用語は、一つ又は複数の本明細書に記載の抗体又はその抗原結合断片、並びに他の成分、例えば、生理学的/薬学的に許容可能な担体及び賦形剤を含有することを意味する。医薬組成物の目的は、生物への投与を促進し、活性成分の吸収を促進し、それによって生物学的活性を発揮することである。
【0083】
「薬学的に許容可能な塩」という用語は、本発明の抗体-薬物コンジュゲートの塩を指し、このような塩は、哺乳動物の体内に使用される場合に安全性及び有効性を有し、所望の生物活性を有する。本発明の抗体-薬物コンジュゲートは、少なくとも一つのアミノ基を含有するため、酸とともに塩を形成することができ、薬学的に許容可能な塩の非限定的例は、塩酸塩、臭化水素酸塩、フッ化水素酸、硫酸塩、硫酸水素塩、クエン酸塩、酢酸塩、コハク酸塩、アスコルビン酸、シュウ酸塩、硝酸塩、リン酸塩、リン酸水素塩、リン酸二水素塩、サリチル酸塩、クエン酸水素塩、酒石酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、ギ酸塩、安息香酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩を含む。
【0084】
「溶媒和物」という用語は、本発明の抗体-薬物コンジュゲート化合物が、一つ又は複数の溶媒分子と薬学的に許容可能な溶媒和物を形成することを指し、溶媒分子の非限定的例は、水、エタノール、アセトニトリル、イソプロパノール、酢酸エチルを含む。
【0085】
「細胞傷害性薬物」という用語は、本発明に用いられる場合、細胞の機能を阻害し、及び/又は細胞死又は細胞破壊を引き起こす物質を指す。
【0086】
「マイクロチューブリン阻害剤」という用語は、マイクロチューブリンの重合を阻害するか又はマイクロチューブリンの集合を促進することにより細胞有糸分裂過程を妨害することによって、抗腫瘍効果を発揮する化合物の一種を指す。非限定的例は、マイタンシン類、カリケアミシン、タキサン類、ビンクリスチン、コルヒチン、ドラスタチン/アウリスタチン/モノメチルアウリスタチンE(MMAE)/モノメチルアウリスタチンF(MMAF)を含む。
【0087】
「リンカー」という用語は、抗体が薬物に共有結合している共有結合又は原子鎖を含む化学モジュールを指す。リンカーの非限定的例は、アリーレン基、ヘテロアリーレン基、PEG、ポリメチレンオキシ基、コハク酸エステル、スクシンアミド、ジグリコール酸エステル、マロネート及びヘキサナミドを含む。
【0088】
「薬物抗体比」(DAR)という用語は、yにより表され、即ち一般式(A)中の各抗体の平均細胞傷害性薬物の数である。本発明における薬物抗体比範囲は、1抗体あたり1~20個の細胞傷害性薬物(D)であってもよい。一般式(A)の抗体-薬物コンジュゲートは、一定範囲(1~20個)の細胞傷害性薬物がコンジュゲートされている抗体の集合である。コンジュゲーション反応からの抗体-薬物コンジュゲートにおける薬物抗体比(DAR)は、一般的な手段、例えば、質量分析、HPLC及びELISAなどによって特徴づけられ得る。これらの手段により、抗体-薬物コンジュゲートのy値における定量的分布を測定することができる。
【0089】
本発明は、様々な重水素化形態の式( I )化合物をさらに含む。炭素原子に連結される各利用可能な水素原子は、独立して重水素原子に置換され得る。当業者は、関連文献を参照して重水素化形態の式( I )化合物を合成することができる。重水素化形態の式( I )化合物を製造する場合、市販の重水素化出発物質を使用してもよく、又はそれらを、重水素化試薬を用いて従来の技術を使用して合成することができ、重水素化試薬は、重水素化ボラン、三重水素化ボランテトラヒドロフラン溶液、重水素化リチウムアルミニウム、重水素化ヨードエタン及び重水素化ヨードメタンなどを含むが、それらに限らない。
【0090】
本発明のいくつかの実施形態において、細胞傷害性薬物は、連結ユニットを介してリガンドのN末端アミノ基及び/又はリジン残基のε-アミノ基とコンジュゲートし、本発明の別のいくつかの実施形態において、細胞傷害性薬物は、連結ユニットを介してリガンドのメルカプト基とコンジュゲートする。一般的には、コンジュゲーション反応において、抗体とコンジュゲートできる薬物分子数は、理論上の最大値より少なくなる。
【0091】
以下の非限定的方法を用いてリガンド細胞傷害性薬物コンジュゲートの負荷を制御することができ、
(1) 連結試薬とモノクローナル抗体とのモル比を制御することと、
(2) 反応時間及び温度を制御することと、
(3) 異なる反応試薬を選択することとを含む。
【0092】
本発明の抗体薬物コンジュゲート又はその薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物は、顕著な抗腫瘍効果及び良好な安全性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0093】
図1】化合物DのH-NMRチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0094】
以下では、実施例と併せて本発明をさらに説明するが、これらの実施例は本発明の範囲を限定するものではない。本発明の実施例に具体的な条件が明記されていない実験方法は、通常、従来の条件、例えば、コールドスプリングの抗体技術実験ガイドライン、分子クローニングガイドラインに従い、又は原料もしくは商品のメーカーが提案する条件に従う。具体的な出所が明記されていない試薬は、市場で購入された一般的な試薬である。
実施例1:HU6DL変異体デザイン実験
【0095】
特許WO 2020228604に開示されたヒト化抗体HU6DLの重鎖及び軽鎖のCDR配列は、以下の表1に示すとおりであり、HCDR2にはN545556モチーフがあるため、グリコシル化作用が発生しやすい。
【0096】
【表1】
【0097】
コンピュータ支援技術によりN54の部位特異的突然変異を引き起こし、その抗原との結合及び自身の熱安定性に影響を与えずに潜在的なグリコシル化リスクを低下させ、抗体HU6DLの突然変異体HU6DL.R54、HU6DL.Y54、HU6DL.Q54、HU6DL.L54HU6DL.T54、HU6DL.I54、HU6DL.F54、HU6DL.E54及びHU6DL.A54を得て、その対応する重鎖のHCDR2配列は以下のとおりであり、
【0098】
【表2】
【0099】
その対応する重鎖及び軽鎖可変領域は以下のとおりであり、
【化10】
【化11】
【化12】
【0100】
デザインした重鎖及び軽鎖可変領域配列をそれぞれIgG1重鎖定常領域及び軽鎖定常領域配列に連結し、連結されたヒトIgG1重鎖定常領域配列は以下のとおりであり、
【化13】
【0101】
連結されたヒトkappa鎖定常領域配列は以下のとおりであり、
【化14】
【0102】
連結後、得られた例示的重鎖及び軽鎖配列は以下のとおりであり、
【化15】
【化16】
【化17】
【化18】
【化19】
【0103】
以上の各ヒト化抗体軽鎖及び重鎖のアミノ酸配列を基にcDNA断片を合成し、HU6DLタンパク質を発現する突然変異体をHEK293細胞により一過的にトランスフェクトし、分子排除クロマトグラフィー技術により抗体の純度を検出し、その濃度及び純度は以下の表3に示すとおりである。
【0104】
【表3】
実施例2:HU6DL突然変異体のTrop-2抗原に対する親和性の実験
【0105】
実験目的:
ELISAサンドイッチ、即ち「抗原-抗体-HRP標識二次抗体」により、異なる抗Trop-2突然変異体のTrop-2抗原に対する親和性レベルの差を評価する。
【0106】
実験ステップ:
pH7.4のDPBSを用いて、Trop-2、hisタグタンパク質(SinoBiologics, Cat:10428-H08H)を1ug/mLに希釈し、100 μL/ウェルで高親和性96ウェルプレート内(Corning, Cat:3590)に加え、4℃で一晩インキュベートし、翌日、Trop-2抗原溶液を振り切り、200 μL/ウェルで0.05% Tween 20含有PBS pH7.4(PBST)溶液に加え、3回洗浄し、200 μL/ウェルの2%BSA(PBSTに溶解し)、37℃で1 hブロックし、PBSTで3回洗浄し、10倍、8個の濃度勾配(開始濃度が10 nM-1x10-6 nMである) で希釈された候補抗体を100 μL/ウェルで加え、0.5% BSAを陰性対照とし、37℃で1hブロックし、PBSTで3回洗浄し、1:10000で希釈したヒツジ抗ヒトIgG、Fc-HRP(abcam, cat:ab97225)二次抗体溶液を100 μL/ウェルで加え、37℃で1hブロックし、PBSTで3回洗浄し、
100 μL/ウェルでTMB(CST, Cat:7004P6)基質を加え、室温で抗体濃度が最も高いウェルの溶液の色が濃い青色になるまで3 min反応させ、50 μL/ウェルで加入停止液(CST、Cat: 7002P6)を加え、反応を停止させ、450 nm波長で吸光度値(OD)を読み取った。
【0107】
データ処理:
候補抗体の濃度対数値をX軸座標とし、OD450吸光度値を縦座標とし、GraphPad PRISM 8.0 log(agonist)vs. response-viable slope(four parameters)式を用いて、各HU6DL突然変異体の抗原に対する親和性のEC50を計算した。HU6DL突然変異体のヒトTROP-2抗原に対する親和性(EC50)は、以下の表4に示すとおりであり、
【0108】
【表4】
【0109】
実験結論:
以上のデータにより、本発明のHU6DL突然変異体は、ヒトTROP-2抗原に対する良好な親和性を有することが示された。
実施例3:HU6DL突然変異体の腫瘍細胞に対する親和性の実験
【0110】
実験目的:
Trop-2抗原を発現する腫瘍細胞系に対するHU6DL突然変異体の親和性レベルの差をフローサイトメトリーにより評価する。
【0111】
実験試薬:
胃癌細胞NCI-N87(中国科学院細胞バンクから購入、TCHu130)、
非小細胞肺癌細胞HCC827(中国科学院細胞バンクから購入、TCHu153)、
膀胱癌細胞SW780(中国科学院細胞バンクから購入、TCHu219)、
膀胱癌細胞RT4(中国科学院細胞バンクから購入、TCHu226)、
【0112】
実験ステップ:
Accutase(Sigma, cat:A6964)消化液を用いて、成長状態が良好な腫瘍細胞を処理し、2%FBS(DBPS, pH7.4希釈)溶液で単細胞懸濁液を製造し、細胞密度を1x10細胞/mLに調整した。100 μL/ウェルで96ウェルのV字型底板に平均に分け、300g ×5min、4℃で遠心分離し、上清を捨て、10倍、10個の濃度勾配(1000nM-1x10-6 nM)で希釈された候補抗体溶液を100 μL/ウェルで加え、4℃で1 hインキュベートし、
300g× 5min、4℃で遠心分離し、2回洗浄し、5 μL/10細胞の割合で希釈されたマウス抗ヒトIgG Fc、PE標識二次抗体(Biolegend, cat:409304)溶液を100 μL/ウェルで加え、4℃で1hインキュベートし、300g×5min、4℃で遠心分離し、2回洗浄し、70 μL 2%FBS溶液を加えて細胞を再懸濁させ、ZE5フローサイトメー(Bio-Rad、ZE5)でPEチャネルの平均蛍光強度(MFI)を検出した。
【0113】
データ処理:
突然変異体抗体の濃度対数値作をX軸座標とし、MFIを縦座標とし、GraphPad PRISM 8.0 log(agonist)vs. response-viable slope(four parameters)式を用いて、各候補抗体の腫瘍細胞に対する親和性のEC50を計算し、以下の表5に示すとおりであり、
【0114】
【表5】
【0115】
実験結論:
以上のデータにより、本発明のHU6DL突然変異体は、NCI-N87、HCC827、SW780及びRT4腫瘍細胞のいずれに対しても良好な親和性を有することが示された。
実施例4:HU6DL突然変異体媒介性TROP2エンドサイトーシスの実験
【0116】
実験目的:
Trop-2抗原が発現する腫瘍細胞系におけるHU6DL突然変異体の抗体エンドサイトーシス活性をフローサイトメトリーにより評価する。
【0117】
実験ステップ:
Accutase(Sigma, cat:A6964)消化液を用いて、成長状態が良好な胃癌細胞NCI-N87(中国科学院細胞バンクから購入、TCHu130)を処理し、2%FBS(DBPS, pH7.4希釈)溶液で単細胞懸濁液を製造し、細胞密度を1x10個の細胞/mLに調整した。100 μL/ウェルで96ウェルのV字型底板に平均に分け、最終濃度が20 μg/mLである候補抗体溶液を加え、均一に混合し、4℃で1 hインキュベートし、
300g×5 min、4℃で遠心分離し、5 μL/10細胞の割合で希釈されたマウス抗ヒトIgG Fc、PE標識二次抗体(Biolegend, cat:409304)溶液を100 μL/ウェルで加え、4℃で1 hインキュベートし、
300g×5min、4℃で遠心分離し、2回洗浄し、1 mLの予熱された完全培地で細胞ペレットを再懸濁させ、4等分し、それぞれ0 min群、ブランク群、30 min群、120 min群とし、0 min及びblankを取り出し、氷に置き、他の群を37℃のインキュベーターに置き、エンドサイトーシスをそれぞれ30 min、120 min行い、該当する時点で対応する群を取り出し、氷に置いて5 min予冷し、全ての処理群を遠心分離し、上清を捨て(4℃、1500rpm×5min)、FACS bufferで一回洗浄し、上清を捨て、0 min群以外の全ての処理群に250 μLのstrip bufferを加え、室温で8 minインキュベートし、遠心分離し上清を捨て(4℃、1500rpm×5min)、FACS bufferで二回洗浄し、上清を除去し、各群の試料に80 μLの2%FBSを加えて細胞を再懸濁させ、ZE5フローサイトメー(Bio-Rad、ZE5)で検出対象試料の蛍光シグナルを検出した。
【0118】
データ処理:
この式に従って各候補抗体のエンドサイトーシス効率を計算し、
【数1】
上記方法を用いて、HU6DL突然変異体のエンドサイトーシス率を検出し、以下の表6に示すとおりであり、
【0119】
【表6】
【0120】
実験結論:
以上のデータにより、本発明のHU6DL突然変異体媒介性TROP-2タンパク質は、胃癌細胞NCI-N87において良好なエンドサイトーシス作用を有することが示された。
実施例5:HU6DL突然変異体不純物成分の検出
【0121】
実験目的:キャピラリー電気泳動装置を用いてMaurice-nrCE-SDS法に基づいて、突然変異後の抗体中の不純物ピークの含有量及び変化レベルを検出し比較する。
【0122】
実験ステップ
1.試料の製造:
(1)試料の液交換及び濃縮:試料のタンパク質濃度が5 mg/mlより低いか、又は試料緩衝液の塩濃度が高い場合、試料の液交換及び濃縮処理を行う必要があり、タンパク質濃度が5 mg/ml程度であることを確保し、試料中の塩濃度を50 mM未満にすべきである。
(2)非還元CE試料の処理:EP管に試料を入れ、各試料のタンパク質採取量が50 μgであり、1 μlの10 kD内部標準(Protein Simple 、046-144)、2.5 μlの250 mM IAM(Sigma, I1149-5G)、1 × sample buffer(Protein Simple 、046-567)を最終体積が50 μlになるまで加えた。(3)振とうして均一に混合した後、70℃で加熱して10 minインキュベートし、その後に取り出し、氷に置いて5 minインキュベートし、冷却した後に12000 rpmで5 min遠心分離した。遠心分離後、35 μlの上清を取り、機器がマッチする96ウェルに移し、その後に1000 rpmで5 min遠心分離し、96ウェルの試料プレートをMaurice(Protein Simple)に入れ、試料をロードして分析する準備をした。
2.オンマシン検出
【0123】
機器及びソフトウェアをオンにし、機器の操作手順に従って、機器の自己点検を行い、毛細管カートリッジを取り付け、対応する試薬を準備して機器の対応する位置に入れた。機器の操作手順に従って、対応するパラメータを設定し、非還元CE分析を行った。試料配列を設定し、試料名称に応じて対応する配列を編集し、各配列の試料数は48個以下である。配列編集が完了した後、startをクリックして配列検出を開始した。
【0124】
以下の式を用いて、試料のメインピーク及び不純物ピークの含有量を計算した。
【0125】
【数2】
注:式における非還元純度は、メインピークの修正ピーク面積の百分率であり、CAメインピークは、メインピークの修正ピーク面積であり、CAは、メインピーク及び不純物の修正ピーク面積の和である。
【0126】
【表7】
【0127】
実験結果により、試料HU6DL T54は、メインピーク含有量が93.62%に達し、不純物が検出されず、良好な純度を有することが示された。
実施例6 化合物1の製造
【化20】
【0128】
ステップ1、2a (2 g、17.2 mmolを75 mLアセトニトリルに溶解させ、炭酸カリウム(9.27 g、67.2 mmol)、臭化ベンジル(20 mL、167.2mmol)及びヨウ化テトラブチルアンモニウム(620 mg、1.68 mmol)を順次加えた。反応液を室温で48時間撹拌し、珪藻土により濾過し、濾過ケーキを酢酸エチル(20 ml)でリンスし、濾液を合わせ減圧濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーを用いて、得られた残留物を展開溶媒体系Cで精製して、生成物5a (3.2 g、収率:90.1%)を得た。
【0129】
ステップ2、5a(181.3 mg, 0.879 mmol)及び4b(270 mg、0.733mmol)を反応フラスコに入れ、6 mLのテトラヒドロフランを加え、アルゴンガスを三回置換し、氷水浴で0-5℃に降温させ、tert-ブトキシド(164 mg、1.46 mmol)を加え、氷浴を撤去し、室温に昇温させ40分間撹拌し、15mLの氷水を加え、酢酸エチル(40 mL×2)及びクロロホルム(20 mL×5)で抽出し、有機相を合わせ濃縮した。得られた残留物を6 mLのジオキサンに溶解させ、3 mLの水を加え、炭酸水素ナトリウム(73.8 mg、0.879 mmol)及びクロロギ酸-9-フルオレニルメチル(190 mg、0.734 mmol)を加え、室温で2時間撹拌した。30 mLの水を加え、酢酸エチル(20 mL×3)で抽出し、有機相を飽和塩化ナトリウム溶液(30 mL)で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、濾過し、濾液を減圧濃縮した。シリカゲルカラムクロマトグラフィーを用いて、得られた残留物を展開溶媒体系Cで精製して、生成物5b 10-シクロプロピル-1-(9H-フルオレン-9-イル)-3,6-ジオキソ-2,9-ジオキサ-4,7-ジアザウンデカ-11-酸ベンジルエステル(73mg、収率:19.4%)を得た。
【0130】
MS m/z (ESI): 515.0 [M+1]。
【0131】
ステップ3、5b (30 mg、0.058 mmol)を6.75 mLのテトラヒドロフランと酢酸エチル(V:V=2:1)との混合溶媒に溶解させ、パラジウムカーボン(18 mg、含有量10%、乾燥型)を加え、水素ガスを三回置換し、室温で撹拌しながら1時間反応させた。反応液を珪藻土で濾過し、濾過ケーキを酢酸エチルでリンスし、濾液を濃縮して、粗製物の生成物5c 10-シクロプロピル-1-(9H-フルオレン-9-イル)-3,6-ジオキソ-2,9-ジオキサ-4,7-ジアザウンデカ-11-酸(20 mg)を得て、製品を精製せずに直接次のステップの反応を行った。
【0132】
MS m/z (ESI): 424.9 [M+1]。
【0133】
ステップ4、1b(15 mg、28.2 μmol)を反応フラスコに加え、1.5 mLのN, N-ジメチルホルムアミドを加え、アルゴンガスを三回置換し、氷水浴で0-5℃に降温させ、トリエチルアミンを1滴滴加し、粗製物5c (20 mg、47.1 μmol)を加え、4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウム クロリド(25.4mg、86.2 μmol)を加え、氷浴で撹拌しながら40分間反応させた。15 mLの水を加え、酢酸エチル(20 mL×3)で抽出し、有機相を合わせた。有機相を飽和塩化ナトリウム溶液(20 mL×2)で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、濾過し、濾液を減圧濃縮した。薄層クロマトグラフィーを用いて、得られた残留物を展開溶媒系Bで精製して、表題生成物5d (9H-フルオレン-9-イル)メチル (2-(((1-シクロプロピル-2-(((1S,9S)-9-エチル-5-フルオロ-9-ヒドロキシ-4-メチル-10,13-ジオキソ-2,3,9,10,13,15-ヘキサヒドロ-1H,12H-ベンゾ[de]ピラノ[3’,4’:6,7]インドリジノ[1,2-b]キノリン-1-イル)アミノ)-2-オキソエトキシ)メチル)アミノ)-2-オキソエチル)カルバメート(23.7 mg、収率:78.9%)を得た。
【0134】
MS m/z (ESI): 842.1[M+1]。
【0135】
ステップ5、5d (30 mg、35.7μmol) を3mLのジクロロメタンに溶解させ、1.5 mLのジエチルアミンを加え、室温で2時間撹拌した。反応液を減圧濃縮し、1.5mLのトルエンを加え、減圧濃縮し、二回繰り返した。残留物に4.5mLのn-ヘキサンを加えて叩解し、静置した後に上澄み液をデカントして固体を保持した。固体残留物を減圧濃縮し、オイルポンプで乾燥させて、粗製物の生成物5e 2-((2-アミノアセトアミド)メトキシ)-2-シクロプロピル-N-((1S,9S)-9-エチル-5-フルオロ-9-ヒドロキシ-4-メチル-10,13-ジオキソ-2,3,9,10,13,15-ヘキサヒドロ-1H,12H-ベンゾ[de]ピラノ[3’,4’:6,7]インドリジノ[1,2-b]キノリン-1-イル)アセトアミド (23 mg)を得て、製品を精製せずに直接次のステップの反応に使用した。
【0136】
MS m/z (ESI): 638.0[M+18]。
【0137】
ステップ6、粗製物5e (20 mg、32.3 μmol)を1mLのN, N-ジメチルホルムアミドに溶解させ、アルゴンガスを三回置換し、氷水浴で0-5℃に降温させ、4g (31.8 mg、67.3 μmol)の0.5mL N, N-ジメチルホルムアミド溶液を加え、4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウム クロリド(27.8 mg、94.3μmol)を加え、氷浴で撹拌しながら10分間反応させ、氷浴を撤去し、室温に昇温させ1時間撹拌し、反応させて化合物5を生成した。高速液体クロマトグラフィーを行って反応液を精製し(分離条件:クロマトグラフカラム:XBridge Prep C18 OBD 5um 19*250mm、移動相:A-水(10mmol NHOAc):B-アセトニトリル、勾配溶出、流速:18 mL/min)、その対応する成分を収集し、減圧濃縮して、生成物5-A及び5-B (3.6mg、2.6 mg)を得た。
【0138】
MS m/z (ESI): 1074.4 [M+1]。
【0139】
単一立体配置の化合物5-A(短い保持時間):
UPLC分析:保持時間1.14分間、純度:85% (クロマトグラフカラム:ACQUITY UPLC BEHC18 1.7 um 2.1*50 mm、移動相:A-水(5 mmol NHOAc)、B-アセトニトリル)。
【0140】
H NMR (400 MHz, DMSO-d): δ 8.60 (t, 1H), 8.51-8.49 (d, 1H), 8.32-8.24 (m, 1H), 8.13-8.02 (m, 2H), 8.02-7.96 (m, 1H), 7.82-7.75 (m, 1H), 7.31 (s, 1H), 7.26-7.15 (m, 4H), 6.99 (s, 1H), 6.55-6.48 (m, 1H), 5.65-5.54 (m, 1H), 5.41 (s, 2H), 5.35-5.15 (m, 3H), 4.74-4.62 (m, 2H), 4.54-4.40 (m, 2H), 3.76-3.64 (m、4H), 3.62-3.48 (m, 2H), 3.20-3.07 (m, 2H), 3.04-2.94 (m, 2H), 2.80-2.62 (m, 2H), 2.45-2.30 (m, 3H), 2.25-2.15 (m, 2H), 2.15-2.04 (m, 2H), 1.93-1.78 (m, 2H), 1.52-1.39 (m, 3H), 1.34-1.12 (m, 5H), 0.87 (t, 3H), 0.64-0.38 (m, 4H)。
【0141】
単一立体配置の化合物5-B(長い保持時間):
UPLC分析:保持時間1.16分間、純度:89% (クロマトグラフカラム:ACQUITY UPLC BEHC18 1.7 um 2.1*50 mm、移動相:A-水(5 mmol NHOAc)、B-アセトニトリル)。
【0142】
H NMR (400 MHz, DMSO-d): δ 8.68-8.60 (m, 1H), 8.58-8.50 (m, 1H), 8.32-8.24 (m, 1H), 8.13-8.02 (m, 2H), 8.02-7.94 (m, 1H), 7.82-7.75 (m, 1H), 7.31 (s, 1H), 7.26-7.13 (m, 4H), 6.99 (s, 1H), 6.55-6.48 (m, 1H), 5.60-5.50 (m, 1H), 5.41 (s, 2H), 5.35-5.15 (m, 3H), 4.78-4.68 (m, 1H), 4.60-4.40 (m, 2H), 3.76-3.58 (m, 4H), 3.58-3.48 (m, 1H), 3.20-3.10 (m, 2H), 3.08-2.97 (m, 2H), 2.80-2.72 (m, 2H), 2.45-2.30 (m, 3H), 2.25-2.13 (m, 2H), 2.13-2.04 (m, 2H), 2.03-1.94 (m, 2H), 1.91-1.78 (m, 2H), 1.52-1.39 (m, 3H), 1.34-1.12 (m, 5H), 0.91-0.79 (m, 3H), 0.53-0.34 (m, 4H)。
【0143】
他の中間体の製造方法は、中間体5を参照されたい。
【0144】
37 ℃の条件で、抗体HU6DL.R54のPBS緩衝水溶液 (pH=6.5である0.05 MのPBS緩衝水溶液、7.3 ml、13.8 mg/ml、0.681 μmol)に、調製されたトリス(2-カルボキシエチル)ホスフィンの水溶液(10 mM、0.347 mL、3.47 μmol)に加え、水浴オシレーターに置き、37℃で振とうして3時間反応させ、反応を停止させ、水浴で反応液を25 ℃に降温させ、14.0mlに希釈し、3.3 mlの溶液を取り出し、次の反応に進んだ。
【0145】
化合物5-A (5.0mg、2.75 μmol)を0.15 mL DMSOに溶解させ、上記3.3 mlの溶液に加え、水浴オシレーターに置き、25 ℃で振とうして3時間反応させ、反応を停止させた。反応液をSephadex G25ゲルカラムで脱塩精製して(溶出相:pHが6.5である0.05 MのPBS緩衝水溶液、0.001 M含有EDTA)、化合物1のPBS緩衝液(1.45mg/mL、17 mL)を得て、4 ℃で凍結保存した。
【0146】
紫外法を用いて平均値yを測定した。コハク酸ナトリウム緩衝液を入れたキュベットを参照吸収セル及び試料測定用吸収セルにそれぞれ入れ、溶媒ブランクを除去した後、供試品溶液を入れたキュベットを試料測定用吸収セルに入れ、280 nm及び370 nm位置の吸光度を測定した。
【0147】
データ処理:
標準曲線を作成することによって、280 nm波長下での吸収を測定し、抗体含有量Cmabを確定し、370 nm波長下での吸収を確定し、小分子含有量CDrugを確定した。
【0148】
【数3】
【0149】
以上の方法によって生成物の薬物負荷を測定し、UV-HPLC精製により化合物1(y=4)の試料を得た。
【0150】
化合物2-化合物9の製造方法は化合物1を参照されたい。
実施例7 化合物10の合成
【0151】
化合物aの合成
【化21】
【0152】
原料a-1 (4.1 g、9.71mmol)、原料a-2(4.3 g、8.09 mmol、4%アミノ基異性体不純物を含有)を取り、250 mLの反応フラスコに入れ、窒素ガス保護下でDCM(54 mL)、MeOH(18 mL)を加え、撹拌し0℃に冷却させ、DMTMM(3.6 g、12.1 mmol)、トリエチルアミン(2.5g、24.2mmol)を加え、0℃に維持し、撹拌しながら1h反応させ、HPLCの中央制御装置が、原料a-2が完全に反応したと表示し、減圧し (<25℃)反応液を蒸発乾固させ、MTBE (120 mL)を加えて撹拌し叩解し(泥状物)、溶液を注ぎ出し濾過し、泥状物に120 mLのMTBE叩解(固体)をさらに加え、濾過し、濾過ケーキを水 (60 mL×2)で洗浄し、干して粗製物を得て、粗製物をジクロロメタン及びメタノールに溶解させ、ウェットサンプリングして、カラムクロマトグラフィーを二回行い(溶出剤DCM:MeOH=40:1-20:1)、分離して、化合物a純品(6.2 g, 7.37 mmol)を得て、純度が99.3%であり、収率が91%である。
【0153】
化合物bの合成
【化22】
【0154】
化合物a (5.7 g, 6.77 mmol)を取り500 mLの三口フラスコに入れ、窒素ガス保護下で、乾燥したTHF (114 mL)を加え、撹拌し溶解させ、内部温度を-10℃程度に冷却させ、DBU (3.09 g、20.31 mmol)を加え、滴加中に内部温度を-10~-5℃に維持し、5 minで滴加を完了し、滴加が完了した後、内部温度を-10~-5℃に維持し、2.5 h反応させ、固体が析出した。
【0155】
内部温度を-20℃に冷却させ、MTBE (114 mL)を加え、その間の内部温度を-20~-10℃に維持し、生成物が完全に析出し、濾過し、濾過ケーキをMTBE (57 mL×2)で洗浄し、乾燥させた後に化合物b粗製物6 gを得て、-78℃で保存して待機した。
【0156】
化合物eの合成
【化23】
【0157】
化合物c(651mg、1mmol)を10mLのDCMに溶解させ、氷浴で冷却させながら撹拌を開始し、DBU(456mg, 3 mmol)を滴加した。氷浴下で一時間反応させた後に反応が完了し、化合物d(257mg, 1 mmol)及びHATU(420mg、 1.1mmol)を順次加え、氷浴下で30分間撹拌した後、LCMSが反応の完了を表示し、反応液を25℃の条件下で濃縮し、残留物をカラム装置の逆相カラムで精製して(ACN in HO、50%の生成物)、化合物eを、赤褐色の固体、130mg、収率19%で得た。
【0158】
MS:691.3 [M+23]。
【0159】
化合物fの合成
【化24】
【0160】
化合物e(130mg, 0.19mmol)をDCMに溶解させ、アニソール(62mg、0.57mmol)及びジクロロ酢酸(245mg、1.9mmol)を加え、反応を室温で一晩合計16時間撹拌し、サンプリングLC-MS中央制御装置が、原料が完全に消耗したと表示し、反応を停止させ、反応液を25℃の条件下で濃縮し、残留物をカラム装置の逆相カラムで精製して(ACN/HO、30%の生成物)、化合物fを、ピンクの固体、53mg、収率54%で得た。
【0161】
(MS:519.2 [M+1]。
【0162】
化合物Dの合成
【化25】
【0163】
化合物f(23mg, 0.044mmol)及び化合物b(27mg,0.044mmol)をDCM(3 mL)及びMeOH(1mL)に溶解させ、窒素ガス保護下で-30℃に冷却させた。DMTMM(20mg、0.067mmol)を加え、反応は-20℃~-10℃で温度を制御して1時間反応させ、サンプリングLC-MS中央制御装置は原料が完全に消耗したと表示した。温度を-10℃に制御し、10mLの水を加えて反応をクエンチし、30mLのDCMを加えて層状化した。水相をDCM/MeOH=10/1(50mL)で抽出した。有機相を合わせ、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、25℃の条件下で減圧濃縮し、残留物を分取し精製して(ACN/HO/0.05%FA)、化合物Dを、白色の固体、5.8 mg、収率12%、HPLC純度98.87%で得た。
【0164】
MS:1120.3 [M+1]。
【0165】
水素スペクトルチャートは、図1に示すとおりである。
【0166】
37℃の条件下で、抗体HU6DL.R54のPBS緩衝水溶液 (pH=6.5である0.05 MのPBS緩衝水溶液、7.3 ml、13.8 mg/ml、0.681 μmol)に、調製されたトリス(2-カルボキシエチル)ホスフィンの水溶液(10 mM、0.239 mL、1.70 μmol)を加え、水浴オシレーターに入れ、37℃で振とうして3時間反応させ、反応を停止させ、水浴で反応液を25 ℃に降温させ、14.0mlに希釈し、3.3 mlの溶液を取り出し、次の反応に進んだ。
【0167】
化合物D (3.0mg、3.72 μmol)を0.15 mLのDMSOに溶解させ、上記3.3 ml溶液に加え、水浴オシレーターに入れ、25 ℃で振とうして3時間反応させ、反応を停止させた。反応液をSephadex G25ゲルカラムで脱塩精製して(溶出相:pHが6.5である0.05 MのPBS緩衝水溶液、0.001 M含有EDTA)、mAb2抗体コンジュゲートの化合物10のPBS緩衝液(1.35mg/mL、13 mL)を得て、4 ℃で凍結して保存した。
【0168】
紫外法を用いて平均値yを測定した。コハク酸ナトリウム緩衝液を入れたキュベットを参照吸収セル及び試料測定用吸収セルにそれぞれ入れ、溶媒ブランクを除去した後、供試品溶液を入れたキュベットを試料測定用吸収セルに入れ、280 nm及び370 nm位置の吸光度を測定した。
【0169】
データ処理:
標準曲線を作成することによって、280 nm波長下での吸収を測定し、抗体含有量Cmabを確定し、370 nm波長下での吸収を確定し、小分子含有量CDrugを確定した。
【0170】
【数4】
【0171】
以上の方法によって生成物の薬物負荷を測定し、UV-HPLC精製により化合物10(y=4)の試料を得た。
【0172】
化合物11-化合物18の製造方法は化合物10を参照されたい。
実施例8 抗体薬物コンジュゲートの細胞殺傷活性
【0173】
本開示の抗体-薬物コンジュゲートの腫瘍細胞に対する殺傷作用を評価し、Trop-2陽性細胞株MDA-MB-468を用いて評価した。培養されたMDA-MB-468単層細胞をパンクレアチンで消化し、培地を加えて再懸濁させ、遠心分離した後に計数し、完全培地で細胞密度を4×10個/mLに調整し、底部が透明なホワイト96ウェルプレート(Corning、cat: 3610)の中央の60個のウェルに1ウェルあたり50μlで播種し、細胞数が2000細胞/ウェルであり、エッジウェルに100μl /ウェルの培地を加え、細胞プレートを37℃、5% COのインキュベーターに入れて一晩培養した。翌日、96ウェルのV字型底板(Corning、cat:3894)中で抗体-薬物コンジュゲート作動溶液を完全培地で希釈し、濃度が10000 nMから開始し、10倍希釈し、9個の濃度であり、調製が完了した後にホワイト96ウェルプレートに加え、1ウェルあたり50μl加え2組のウェルを設置し、細胞プレートを37℃、5% CO2のインキュベーターに入れて6日間培養し続けた。実験の6日目に、検出して読み取り、細胞培養プレートを取り出し、室温に平衡化し後、各ウェルに50μlのCellTiter-Glo(登録商標)細胞生存率検出試薬(Promega、Cat#: G7573)を加え、振とうして均一に混合した後に暗所で20分間静置し、マイクロプレートリーダーを用いて、490nm、500ミリ秒/ウェルでluminescence化学発光シグナル値を検出した。発光シグナル値により阻害率(%)を計算し、
計算式は以下のとおりであり、
【数5】
【0174】
試料ウェルは、被験薬物で処理した細胞ウェルであり、対照ウェルは、完全培地で処理した細胞ウェルである。
【0175】
曲線フィッティング:各濃度に対応する阻害率(%)に基づいて、GraphPad Prism 6.0中のlog(inhibitor) vs. response -- Variable slope (four parameters)方程式を用い、濃度対数値をX軸とし、阻害率をY軸とし、曲線フィッティングを行ってIC50値を得て、計算方程式は、
【数6】
である。実験結果は以下の表に示すとおりであり、
【0176】
【表8】
【0177】
細胞殺傷IC50を比較することにより、実験結果は、陰性対照に比べて、本発明の抗体薬物複合体がいずれも強力な細胞殺傷作用を有することを示した。
実施例9 抗体薬物複合体の薬物動態
【0178】
BALB/cマウスモデルを用いて、抗Trop-2抗体薬物コンジュゲートTro-2 ADCのマウス体内での薬物代謝を評価した。平均体重が18~22 gであり、6~8週齢であるBALB/cマウスをランダムに3群に分け、各群に3匹の動物であり、被験Trop-2 ADC体薬物コンジュゲートをいずれも4mpk、IV、単回の方式で投与し、それぞれ0.5、2、4、8、24、48、72、96、144、240時間に採血し、血漿を分離し、-20℃の冷蔵庫に凍結保存し、その後に抗ADCポリクローナル抗体で96ウェルの高親和性完全透明プレート(Corning、cat:3590)をコーティングし、希釈された測定対象血漿試料を加え、次にヒツジ抗ヒトIgG1 F(ab’)断片F(ab’) HRP標識の二次抗体を用いて、マウス血漿におけるTrop-2 ADC濃度を検出し、PKSolverソフトウェアにおける非房室モデル、血管内投与モデルを用いて、そのPKパラメータを分析した。実験結果の詳細は、以下の表に示すとおりである。
【0179】
【表9】
【0180】
半減期t1/2、血中濃度ピーク到達時間Tmax、血中濃度Cmax、及びクリアランスCl_obsなどのパラメータの値を総合すると、本発明の抗体薬物複合体は、良好な代謝特性を示す。
実施例10 抗体薬物複合体のインビボ抗腫瘍作用
【0181】
インビボで形成した腫瘍に対する抗体-薬物コンジュゲートの阻害作用をさらに研究するために、Trop-2陽性腫瘍細胞のヒト胃癌NCI-N87腫瘍細胞移植片のマウスモデルを用いて、候補分子のインビボ腫瘍増殖阻害効果を評価した。5x10個のNCI-N87細胞を8週齢であり、体重が18~20mg程度であるヌードマウス(Balb/c Nude)に皮下注射し、10日間後に腫瘍体積が平均して160mmに達した場合にグループ分けし、静脈内注射による抗体-薬物コンジュゲートの注射を開始し、2週間ごとに一回注射し、用量が4mg/kgである。対照は、ヒトIgG1アイソタイプ対照抗体を用い、用量が4mg/kgである。対照群又は投与群は、各群5匹のマウスとした。腫瘍体積を測定することによって抗腫瘍率を計算した。
【0182】
【数7】
【0183】
【表10】
【0184】
実験結果により、2週間ごとに一回注射し、用量が4mg/kgである場合、本発明の抗体薬物複合体が、いずれも良好な抗腫瘍効果を示し、なお、本発明の抗体薬物複合体が、低用量下でも良好な抗腫瘍率を示すことが示された。
実施例11 用量依存性抗体薬物複合体のインビボ抗腫瘍作用
【0185】
インビボで形成した腫瘍に対する抗体-薬物コンジュゲートの阻害作用をさらに研究するために、Trop-2陽性腫瘍細胞のヒト胃癌NCI-N87腫瘍細胞移植片のマウスモデルを用いて、候補分子のインビボ腫瘍増殖阻害効果を評価した。5x10個のNCI-N87細胞を6週齢であり、体重が18~22mg程度であるヌードマウス(Balb/c Nude)に皮下注射し、8日間後に腫瘍体積が平均して175mmに達した場合にグループ分けし、静脈内注射による抗体-薬物コンジュゲートの注射を開始し、2週間ごとに一回注射し、用量が2mg/kg、1mg/kgである。対照は、ヒトIgG1アイソタイプ対照抗体を用い、用量が2mg/kgである。対照群又は投与群は、各群5匹のマウスとした。腫瘍体積を測定することによって抗腫瘍率を計算した。
【0186】
【数8】
【0187】
【表11】
【0188】
実験結果により、2週間ごとに一回注射し、2mg/kg、1mg/kgの用量で28日間投与した後、本発明の抗体薬物複合体は、ヒト頭頸部癌胃癌細胞NCI-N87 CDX腫瘍担持マウスモデルのいずれに対しても良好な抗腫瘍効果を示し、用量依存性効果を示すことが示された。
実施例12 抗体薬物複合体の頭頸部癌扁平上皮癌FaDuに対するインビボ薬力学モデルの研究
【0189】
インビボで形成した腫瘍に対する抗体-薬物コンジュゲートの阻害作用をさらに研究するために、Trop-2陽性腫瘍細胞のヒト頭頸部癌扁平上皮癌FaDu腫瘍細胞移植片のマウスモデルを用いて、候補分子のインビボ腫瘍増殖阻害効果を評価した。同じ割合でmatrigelマトリゲルと混合した細胞懸濁液を加え、1匹の動物あたり5x10 FaDu細胞で、6週齢であり、体重が18~22mg程度であるヌードマウス(Balb/c Nude)に皮下注射し、8日間後に腫瘍体積が平均して133mmに達した場合にグループ分けし、静脈内注射による抗体-薬物コンジュゲートの注射を開始し、単回投与し、用量が3mg/kg、1mg/kgである。対照は、ヒトIgG1アイソタイプ対照抗体を用い、用量が3mg/kgである。対照群又は投与群は、各群5匹のマウスとした。腫瘍体積を測定することによって抗腫瘍率を計算した。
【0190】
【数9】
【0191】
【表12】
【0192】
実験結果により、ランダムにグループ分けして単回投与した後、3mg/kg、1mg/kgの用量で17日間投与した後、3mg/kg、1mg/kgという二つの用量は、ヒト頭頸部癌扁平上皮癌FaDu CDX腫瘍担持マウスモデルのいずれに対しても顕著な抗腫瘍効果を示し、その抗腫瘍率がいずれも200%に達することが示された。
実施例13 抗体薬物複合体の肺癌Calu-3に対するインビボ薬力学モデルの研究
【0193】
インビボで形成した腫瘍に対する抗体-薬物コンジュゲートの阻害作用をさらに研究するために、Trop-2陽性腫瘍細胞のヒト肺癌Calu-3腫瘍細胞移植片のマウスモデルを用いて、候補分子のインビボ腫瘍増殖阻害効果を評価した。同じ割合でmatrigelマトリゲルと混合した細胞懸濁液を加え、1匹の動物あたり2x10Calu-3細胞で、6週齢であり、体重が18~22mg程度であるヌードマウス(Balb/c Nude)に皮下注射し、8日間後に腫瘍体積が平均して148mmに達した場合にグループ分けし、静脈内注射による抗体-薬物コンジュゲートの注射を開始し、10mg/kgの用量で単回投与し、対照は、ヒトIgG1アイソタイプ対照抗体を用い、用量が10mg/kgである。対照群又は投与群は、各群5匹のマウスとした。腫瘍体積を測定することによって抗腫瘍率を計算した。
【0194】
【数10】
【0195】
【表13】
【0196】
実験結果により、ランダムにグループ分けして単回投与した後、10mg/kgの用量で21日間投与した後、本発明の抗体薬物複合体は、ヒト肺癌Calu-3 CDX腫瘍担持マウスモデルに対して顕著な抗腫瘍効果を示し、抗腫瘍率が100%に達することが示された。
図1
【配列表】
2024536798000001.xml
【国際調査報告】