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特表2024-536827陰イオン交換膜水電解用ナノフレーク形状スピネル酸化触媒およびその製造方法
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  • 特表-陰イオン交換膜水電解用ナノフレーク形状スピネル酸化触媒およびその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-08
(54)【発明の名称】陰イオン交換膜水電解用ナノフレーク形状スピネル酸化触媒およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/755 20060101AFI20241001BHJP
   C25B 11/077 20210101ALI20241001BHJP
   C25B 11/052 20210101ALI20241001BHJP
【FI】
B01J23/755 M
C25B11/077
C25B11/052
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024518479
(86)(22)【出願日】2022-09-23
(85)【翻訳文提出日】2024-03-22
(86)【国際出願番号】 KR2022014263
(87)【国際公開番号】W WO2023048503
(87)【国際公開日】2023-03-30
(31)【優先権主張番号】10-2021-0126220
(32)【優先日】2021-09-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TEFLON
(71)【出願人】
【識別番号】501014658
【氏名又は名称】ハンワ ソリューションズ コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】HANWHA SOLUTIONS CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ギル・ホ・キム
(72)【発明者】
【氏名】ジュン・フン・パク
(72)【発明者】
【氏名】ワン・ジョン・ウ
(72)【発明者】
【氏名】キュ・ホ・ソン
(72)【発明者】
【氏名】チウ・ロー
【テーマコード(参考)】
4G169
4K011
【Fターム(参考)】
4G169AA02
4G169AA04
4G169BB04A
4G169BB04B
4G169BC66B
4G169BC67B
4G169BC68B
4G169CC31
4G169DA05
4G169EA01X
4G169EC03X
4G169EC30
4G169FB05
4G169FB09
4G169FB30
4K011AA48
4K011BA08
4K011DA01
(57)【要約】
本発明は、優れた触媒活性および電気伝導度、および広い表面積を示す陰イオン交換膜水電解用酸化触媒およびその製造方法と、これを含む陰イオン交換膜水電解用酸化電極および陰イオン交換膜水電解システムに関するものである。本発明の陰イオン交換膜水電解用酸化触媒はスピネル系酸化物を含み、共沈法を使用しながら錯化剤使用有無およびpHを精密に制御して製造することによって触媒粒子大きさを小さくして高粘度の均一な分散が容易になり、ナノサイズのフレーク(Flake)構造を有するので、フレークの間にイオノマーの均一なコーティングが可能であり、多孔性構造を形成して表面積が広くなり優れた触媒活性を有することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式1のスピネル系酸化物を含み、
前記スピネル系酸化物はナノフレーク(Flake)構造を含む、陰イオン交換膜水電解用酸化触媒:
[化学式1]
NiCo(2-x)
上記化学式1中、0≦x≦0.5である。
【請求項2】
前記化学式1で、MはFe、Sc、Ti、V、Cr、Y、Zr、Nb、およびMoからなる群より選択される1以上の元素である、請求項1に記載の陰イオン交換膜水電解用酸化触媒。
【請求項3】
前記ナノフレーク(Flake)構造は板状型構造であって、
長辺の長さが300nm以下であり、表面積が150m/g以上である、請求項1に記載の陰イオン交換膜水電解用酸化触媒。
【請求項4】
前記スピネル系酸化物は、
1次粒子が凝集された2次粒子の形態を有し、
前記1次粒子は単一または複数のナノフレーク構造粒子を含み、粒径(D50)が500nm以下である、請求項1に記載の陰イオン交換膜水電解用酸化触媒。
【請求項5】
前記2次粒子はD50が3μm以下の粒径を有し、単分散型粒径分布を有する、請求項4に記載の陰イオン交換膜水電解用酸化触媒。
【請求項6】
11以上のpHを有する水溶媒内で、錯化剤の存在下で、ニッケル塩、コバルト塩および金属(M)塩を共沈反応させて、触媒前駆体を形成する段階;および
前記触媒前駆体を100℃以上の温度で焼成して化学式1のスピネル系酸化物を形成する段階を含む、陰イオン交換膜水電解用酸化触媒の製造方法:
[化学式1]
NiCo(2-x)
上記化学式1中、0≦x≦0.5である。
【請求項7】
11以上のpHを有する水溶媒は、
水酸化アンモニウムまたは硫酸アンモニウムを含む第1pH調節剤と、
アンモニウムオキサレート、水酸化カリウム(KOH)または水酸化ナトリウム(NaOH)を含む第2pH調節剤を、水溶媒に順次添加して形成される、請求項6に記載の陰イオン交換膜水電解用酸化触媒の製造方法。
【請求項8】
前記錯化剤は、水酸化アンモニウム(NHOH)、硫酸アンモニウム((NHSO)、硝酸アンモニウム(NHNO)および第1リン酸アンモニウム((NHHPO)からなる群より選択された1種以上を含む、請求項6に記載の陰イオン交換膜水電解用酸化触媒の製造方法。
【請求項9】
前記ニッケル塩、コバルト塩および金属(M)塩は1:(2-x):x(0≦x≦0.5)のモル当量比で共沈反応する、請求項6に記載の陰イオン交換膜水電解用酸化触媒の製造方法。
【請求項10】
前記化学式1中、金属(M)塩の金属(M)はFe、Sc、Ti、V、Cr、Y、Zr、Nb、およびMoからなる群より選択される1以上の元素である、請求項6に記載の陰イオン交換膜水電解用酸化触媒の製造方法。
【請求項11】
前記ニッケル塩、コバルト塩および金属(M)塩はそれぞれ金属の酸付加塩またはその水和物の形態を有する、請求項6に記載の陰イオン交換膜水電解用酸化触媒の製造方法。
【請求項12】
ガス拡散層上に形成された請求項1の酸化触媒を含む触媒層を含む、陰イオン交換膜水電解用酸化電極。
【請求項13】
前記酸化触媒は、ガス拡散層の単位面積当り0.1~5mg/cmの含量で含まれる、請求項12に記載の陰イオン交換膜水電解用酸化電極。
【請求項14】
高分子電解質層;
前記高分子電解質層の一側に位置する還元電極;および
前記高分子電解質層に触媒層が接触するように、高分子電解質層の他側に位置する請求項12の酸化電極を含む、陰イオン交換膜水電解システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願との相互引用
本出願は2021年9月24日付韓国特許出願第10-2021-0126220号に基づいた優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示された全ての内容は本明細書の一部として含まれる。
【0002】
本発明は、優れた触媒活性および電気伝導度、および広い表面積を示す陰イオン交換膜水電解用酸化触媒およびその製造方法と、これを含む陰イオン交換膜水電解用酸化電極および陰イオン交換膜水電解システムに関するものである。
【背景技術】
【0003】
水電解技術は水を電気的に分解して水素を生産する技術であって、1800年代に最初に胎動し、1920年代から商業的な水素生産に活用されてきた。最近は再生可能エネルギーの必要性および占有率が大きく増加するにつれて、低炭素、グリーン水素生産のための解決策として注目されている。
【0004】
現在商業的に主に適用されている水電解技術としては、アルカリ水電解(AWE;Alkaline Water Electrolysis)システムと、陽イオン交換膜水電解(PEMWE;Proton Exchange Membrane Water Electrolysis)システムがある。
【0005】
このうち、アルカリ水電解方法は低廉なニッケル基盤電極と多孔性膜を使用するので、価格競争力を確保することができるが、多孔性ダイヤフラム(Diaphragm)と電極間の間隔が広くて内部抵抗が高く、低い電流密度でのみ稼働可能であるという短所がある。また、アルカリ水電解システムはスタックの体積が大きく、運転費用が高く、多孔性ダイヤフラムの適用によって電流密度の急激な変化が難しくて、風力または太陽熱などの再生可能エネルギー源に連携して適用しにくいという短所がある。
【0006】
一方、陽イオン交換膜水電解システムはMW規模で開発中である。このような陽イオン交換膜水電解システムは高い電流密度で駆動可能であり、システムのコンパクトな設計が可能なだけでなく、製造される水素純度が高く、初期出力圧力および最小負荷を低く維持することができる。また、応答速度が速くて再生可能エネルギーと連携して水素を製造するのに適している。
【0007】
しかし、前記陽イオン交換膜水電解システムでは、高価の貴金属触媒と、腐食を防止するためにBipolar plateとして貴金属を使用しなければならないので、全体的な製造費用が大きく増加するという短所がある。
【0008】
よって、現在商業的に適用中のアルカリ水電解システムおよび陽イオン交換膜水電解システムを代替するための技術として、陰イオン交換膜水電解システムが提案され、これに対する関心および研究が大きく増加している。
【0009】
このような陰イオン交換膜水電解システムはコンパクトな設計が可能であり、アルカリ水電解システムと同一の雰囲気で稼動されるので非貴金属材質の使用が可能である。したがって、このような陰イオン交換膜水電解システムは前記アルカリ水電解システムおよび陽イオン交換膜水電解システムの長所を共に生かすことができるシステムとして考慮できる。
【0010】
しかし、このような陰イオン交換膜水電解システムの性能向上のためには、より大きな過電圧を伴う酸素発生反応、例えば、下記反応式の反応が起こる酸化電極(ANODE)で、優れた電気伝導度および触媒活性を示し、これと共に高い耐久性を有する酸化触媒の使用が要求される。
【0011】
[反応式1]
4OH→O+2HO+4e
前記陰イオン交換膜水電解システムが約100℃以上の低い温度で駆動されることを考慮して、前記要件を充足する酸化触媒として、IrOまたはRuOなどの貴金属触媒が考慮されたことがある。しかし、これら貴金属触媒は単価が高くて商用化が難しく、陰イオン交換膜水電解システムの長所を生かしにくい。
【0012】
よって、最近は前記酸化触媒として、層状構造化合物(LDH;Layered double hydroxides)、ペロブスカイト(Perovskites)系化合物またはスピネル(Spinel)系化合物を適用するための研究が続けられている。しかし、前記層状構造化合物およびスピネル系化合物は比較的に高い触媒活性を有するが、電気伝導度が低くて酸化触媒としての使用に不適合な面がある。
【0013】
これとは異なり、スピネル構造化合物はAB(AまたはBはそれぞれアルカリ土類金属、または遷移金属)の一般式で表される酸化物であって、優れた触媒活性を示すことができ、多様な金属原子のドーピングなどを通じて優れた電気伝導度を共に示すことができる。
【0014】
しかし、既存の共沈法で合成されたスピネル構造化合物はナノサイズ粒子に形成されるが、表面エネルギーが高くて固まりやすく、粒子の粒径が増加して表面積が減少し触媒活性が低下する場合が多く、比重が高くてスラリー製造過程で沈殿して高分散が難しく均一なコーティング層を製造しにくい問題がある。また、既存の共沈法で製造されたスピネル構造化合物は表面エネルギーが高くて固まりやすくイオノマーが均一にコーティングされなくて接着力が低下し電流密度が増加するほど気泡(Bubble)生成が増加して触媒層の脱離が加速化し耐久性が低下する問題がある。
【0015】
よって、高分散の均一な触媒層を製造するために分散工程改善研究が行われているが、これは追加的な設備とエネルギーが要求されて製造費用が増加するので根本的な解決策にならないところ、まだ陰イオン交換膜水電解システムに適用されて優れた特性を示す酸化触媒は十分に開発されていないのが実情である。
【0016】
また、気孔度が高い触媒層はイオノマー(Ionomer)と反応物(OH-)の接触面が広くなり三相界面が増加して優れたCell性能を発現することができるので、セル(Cell)で優れた性能を発現するためには触媒層の気孔度が高い必要がある。
【0017】
よって、触媒粒子大きさと比重を制御して分散性が改善され高い気孔度を有するように製造可能なスピネル系酸化触媒開発が継続的に要求されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
よって、本発明は、表面積が広く、イオノマーの均一なコーティングが可能で優れた触媒活性を有し、凝集力が低くて高粘度の均一な分散が可能でMEA(Membrane Electrode Assembly、膜電極接合体)用コーティングが容易なスピネル系酸化物を含む陰イオン交換膜水電解用酸化触媒およびその製造方法を提供しようとする。
【0019】
本発明はまた、前記酸化触媒を含む陰イオン交換膜水電解用酸化電極および陰イオン交換膜水電解システムを提供するためのものである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
よって、本発明は、下記化学式1のスピネル系酸化物を含み、前記スピネル系酸化物はナノフレーク(Flake)構造を含む、陰イオン交換膜水電解用酸化触媒を提供する:
[化学式1]
NiCo(2-x)
上記化学式1中、0≦x≦0.5である。
【0021】
本発明はまた、11以上のpHを有する水溶媒内で、錯化剤の存在下で、ニッケル塩、コバルト塩および金属(M)塩を共沈反応させて、触媒前駆体を形成する段階;および前記触媒前駆体を100℃以上の温度で焼成して前記化学式1のスピネル系酸化物を形成する段階を含む、陰イオン交換膜水電解用酸化触媒の製造方法を提供する。
【0022】
前記化学式1のスピネル(Spinel)構造触媒でコバルト(Co)物質が触媒の活性点として作用するので、コバルト(Co)含量が高いほど活性は増加する。しかし、xが0.5を超過してコバルト含量が過度になる場合には触媒活性がむしろ急減する問題がある。
【0023】
また、本発明は、ガス拡散層上に形成された前記酸化触媒を含む触媒層を含む、陰イオン交換膜水電解用酸化電極を提供する。
【0024】
また、本発明は、陰イオン交換膜;前記陰イオン交換膜の一側に位置する還元電極;および前記陰イオン交換膜に触媒層が接触するように、陰イオン交換膜の他側に位置する前記酸化電極を含む、陰イオン交換膜水電解システムを提供する。
【発明の効果】
【0025】
本発明の陰イオン交換膜水電解用酸化触媒は、スピネル系金属酸化物を含み、共沈法を使用しながら錯化剤の使用の有無およびpHを精密に制御して製造することによって触媒粒子の大きさを小さくして高粘度の均一な分散が容易になり、これによりMEAコーティングが容易である。
【0026】
本発明の陰イオン交換膜水電解用酸化触媒はナノフレーク(Flake)構造を有する1次粒子が凝集してマイクロサイズの2次粒子を形成するので、ナノフレーク構造の間にイオノマーの均一なコーティングが可能であり、触媒層が多孔性構造を形成して表面積が広くなり、優れた触媒活性を有することができる。
【0027】
このような酸化触媒の優れた諸般物性により、本発明による陰イオン交換膜酸化触媒は陰イオン交換膜水電解システムに非常に好ましく適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1図1は、本発明による共沈法によるスピネル系酸化物を含む陰イオン交換膜水電解用酸化触媒製造工程フローチャートである。
図2a図2aは、本発明の比較例1~3および実施例1~5による酸化触媒表面の電子顕微鏡(SEM)写真である。
図2b図2bは、本発明の比較例5~7および実施例5~7による酸化触媒表面の電子顕微鏡(SEM)写真である。
図2c図2cは、実施例4による酸化触媒表面の電子顕微鏡および透過電子顕微鏡(SEM、TEM)イメージをより拡大したものである。
図3a図3aは、本発明の比較例1による酸化触媒をXRDで分析した結果を示したものである。
図3b図3bは、本発明の比較例3および実施例2、4による酸化触媒をXRDで分析した結果を示したものである。
図3c図3cは、本発明の比較例5、6および実施例5、6、7による酸化触媒をXRDで分析した結果を示したものである。
図4図4は、本発明の比較例1、3~7および実施例2、4~7による酸化触媒の充填密度(タブ密度、Tab Density)を比較した結果を示したものである。
図5図5は、本発明の比較例1、3および実施例2、4による酸化触媒をコーティングしたMEA電極触媒層の表面と断面を電子顕微鏡(SEM)で観察した写真を示したものである。
図6図6は、本発明の比較例1、3および実施例2、4による酸化触媒の比表面積を測定して示したものである。
図7図7は、本発明の比較例1、3および実施例2、4による酸化触媒を含むシングルセル(single cell)の電圧範囲1.4~2.2Vの間の電流密度(mA/cm)グラフを示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明において、第1、第2などの用語は多様な構成要素を説明するのに使用され、前記用語は一つの構成要素を他の構成要素から区別する目的としてのみ使用される。
【0030】
また、本明細書で使用される用語は単に例示的な実施形態を説明するために使用されたもので、本発明を限定しようとする意図ではない。単数の表現は文脈上明白に異なって意味しない限り、複数の表現を含む。本明細書で、“含む”、“備える”または“有する”などの用語は実施された特徴、数字、段階、構成要素またはこれらを組み合わせたものが存在することを指定しようとするものであり、一つまたはそれ以上の他の特徴や数字、段階、構成要素、またはこれらを組み合わせたものの存在または付加可能性を予め排除しないと理解されなければならない。
【0031】
また、本発明において、各層または要素が各層または要素の“上に”または“の上に”形成されると言及される場合には各層または要素が直接各層または要素の上に形成されることを意味するか、または他の層または要素が各層の間、対象体、基材上に追加的に形成できるのを意味する。
【0032】
本発明は多様な変更を加えることができ様々の形態を有することができるので、特定実施形態を例示し下記で詳細に説明する。しかし、これは本発明を特定の開示形態に対して限定しようとするのではなく、本発明の思想および技術範囲に含まれる全ての変更、均等物乃至代替物を含むと理解されなければならない。
【0033】
以下、発明の実現例による陰イオン交換膜水電解用酸化触媒およびその製造方法と、これを含む酸化電極および陰イオン交換膜水電解システムについて詳しく説明する。
【0034】
まず、本発明の説明において、“粒径Dn”は、粒径による粒子個数累積分布のn%地点での粒径を意味する。即ち、D50は粒径による粒子個数累積分布の50%地点での粒径であり、D90は粒径による粒子個数累積分布の90%地点での粒径を、D10は粒径による粒子個数累積分布の10%地点での粒径である。
【0035】
前記Dnは、レーザー回折法(laser diffraction method)を用いて測定することができる。具体的には、測定対象粉末を分散媒中に分散させた後、市販されるレーザー回折粒度測定装置(例えば、Microtrac S3500)に導入して粒子がレーザービームを通過する時、粒子の大きさによる回折パターン差を測定して粒度分布を算出する。測定装置における粒径による粒子個数累積分布の10%、50%および90%になる地点での粒子直径を算出することによって、本発明のD10、D50およびD90を測定することができる。
【0036】
発明の一実施形態によれば、下記化学式1のスピネル系酸化物を含み、前記スピネル系酸化物はナノフレーク(Flake)構造を含む、陰イオン交換膜水電解用酸化触媒が提供される:
[化学式1]
NiCo(2-x)
上記化学式1中、0≦x≦0.5である。
【0037】
本発明者らは陰イオン交換膜水電解システムに適用されるのに適した優れた諸般物性の酸化触媒を開発するために研究を継続した。このような研究の結果、前記化学式1のスピネル系酸化物でありナノフレーク構造を含む酸化触媒を錯化剤およびpH範囲を制御して製造することによって提供することができるのを確認した。
【0038】
したがって、本発明の製造方法によって製造された酸化触媒は、単一または複数のナノフレーク構造粒子を含む1次粒子が凝集して形成される2次粒子が過度に成長しないので、スラリー製造過程で高粘度の均一な分散が可能である。また、ナノフレーク構造の間にイオノマーの均一なコーティングが可能であり、触媒層が多孔性構造を形成して表面積が広くなるので、優れた触媒活性を有することができる。
【0039】
結局、一実施形態の酸化触媒は前記化学式1のスピネル系酸化物を含んで、電気伝導度、触媒活性およびMEAコーティング性が優れて発現でき、広い表面積を有するように提供できるので、陰イオン交換膜水電解システムおよびその酸化電極(anode)に非常に好ましく適用できる。
【0040】
一方、前記化学式1中、(2-x)はコバルト含有モル比を示し、xは金属(M)の含有モル比を示すことができる。この時、化学式1のxの範囲は具体的には0≦x≦0.5、または0≦x≦0.2であってもよい。好ましくは、xは0.2であってもよい。陰イオン交換膜水電解用酸化触媒での金属モル比はICPなどの方法で元素を分析するかまたはXRDを分析して確認することができる。
【0041】
また、化学式1中、金属(M)はFe、Sc、Ti、V、Cr、Y、Zr、Nb、およびMoからなる群より選択される1以上の元素であってもよい。好ましくは、金属(M)はFeであってもよい。
【0042】
スピネル(Spinel)構造のMn触媒は1M KOH(pH14)電解質にMn相(phase)として存在するので安定的であるが、酸素発生反応(OER)雰囲気ではMnO 2-イオンに変形されて溶解(dissolution)されるのでアルカリ雰囲気で使用し難い。これはpHと電圧の関係を示すPourbaix diagramで確認することができる。
【0043】
また、純粋なMn基盤スピネル触媒(Mn)は10mA/cm電流密度で370~570mVの過電圧を有する。よって、触媒活性を高めるために多様な物質、例えばNi、Co、PtなどをドーピングすることにもかかわらずIrOより低い触媒活性を示す。
【0044】
したがって、Mn基盤スピネル構造触媒は低い触媒活性だけでなくアルカリ雰囲気で不安定な構造で使用しにくいのでAEM水電解用酸素発生触媒として使用するのに不適合である。
【0045】
前記陰イオン交換膜水電解用酸化触媒に含まれるスピネル系酸化物は単一または複数のナノフレーク(Flake)構造粒子を含む1次粒子が凝集された2次粒子の形態を有することができる。
【0046】
ナノフレーク構造粒子を含む1次粒子と2次粒子大きさを、透過電子顕微鏡(TEM)を用いて大きさを確認することができる。
【0047】
具体的には、前記1次粒子は単一または複数のナノフレーク構造粒子を含み、粒径(D50)が500nm以下であってもよい。具体的には、1次粒子粒径(D50)は1~500nm、または100~500nm、または100~400nmまたは250~350nmであってもよい。本発明では製造方法中で錯化剤を使用しpH範囲を制御することによって、2次粒子の凝集度を制御して2次粒子が過度に粗大化されないようにして分散性を改善する。
【0048】
この時、ナノフレーク(Flake)構造は板状型構造であって、長辺および短辺の長さが同じ形状であるか、または長辺および短辺の長さが異なる形状であってもよい。長辺および短辺の長さが同じ場合には、その一辺の長さが300nm以下であってもよい。具体的には、長辺の長さは50~300nm、または100~300nmまたは100~200nmであってもよい。長辺および短辺の長さが異なる場合には、長辺の長さが300nm以下であってもよく、具体的には、長辺の長さは50~300nm、または100~300nmまたは100~200nmであってもよく、短辺の長さが200nm以下であってもよく、具体的には、短辺の長さは10~200nm、または10~100nm、または10~50nmであってもよい。前記ナノフレークの厚さは50nm以下であってもよく、具体的には、1~50nm、または1~40nm、または1~25nm、または10~15nmであってもよい(図2a~c参照)。
【0049】
本発明による陰イオン交換膜水電解用酸化触媒はナノサイズのナノフレーク構造を含むことによって、触媒層形成時、多孔性触媒層として形成でき、ナノフレークの間にイオノマーのコーティングが可能で、触媒活性を示すのに有利である。ただし、ナノフレーク構造が前記範囲を超過する場合には、2次粒子大きさも共に成長してスラリー製造過程で高粘度の均一な分散が難しくてMEAコーティングに適用しにくいという問題が発生することがある。
【0050】
また、2次粒子は単分散型粒径分布を有し、D50が3μm以下の粒径を有することができる。具体的には、2次粒子のD50は0.1~1μm、または0.4~0.7μmであってもよい。また、2次粒子のD90は10μm以下、具体的には1~5μm、または2~3μmであってもよい。本発明の2次粒子は既存の共沈法で製造された2次粒子に比べて、非常に小さな大きさで形成されることが分かる。これは、本発明は錯化剤を使用して酸化触媒を製造することにより、ナノフレーク構造を形成しスラリー製造過程で固まるが、ナノフレーク構造によって凝集が最小化されるためである。よって、本発明による酸化触媒はスラリー状態で粒子凝集が最小化され、粒子の大きさが小さく維持されるので、高粘度スラリー製造が可能であり均一な触媒層を製造することができる。
【0051】
一方、前述の本発明によるスピネル系酸化物はそれ自体で陰イオン交換膜水電解用酸化触媒として適用することもできるが、異種元素が少量ドーピングされた状態で適用することもできる。このような追加的なドーパントの添加によって、触媒活性点が増加して前記酸化物の酸化触媒としての活性および電気伝導度がより向上できる。このような添加可能なドーパントの種類は特に制限されず、例えば、Ni、Fe、CuおよびLiからなる群より選択された1種以上の異種元素がドーピングできる。
【0052】
前述のような優れた触媒活性および電気伝導度と、広い表面積を有するスピネル系酸化物は共沈法を用いた製造方法を通じて製造できる。よって、発明の他の実施形態により、前記一実施形態の酸化触媒の製造方法が適用される。
【0053】
他の実施形態の製造方法は共沈法を用いて触媒前駆体およびスピネル系酸化物の構成原子を原子水準まで精密に制御することができ、スピネル系酸化物粒子の粒径を所望の範囲の粒径として均一な分布を有するように製造することができる。
【0054】
他の実施形態の製造方法は、11以上のpHを有する水溶媒内で、錯化剤の存在下で、ニッケル塩、コバルト塩および金属(M)塩を共沈反応させて、触媒前駆体を形成する段階;および前記触媒前駆体を100℃以上の温度で焼成して下記化学式1のスピネル系酸化物を形成する段階を含む。
【0055】
[化学式1]
NiCo(2-x)
上記化学式1中、0≦x≦0.5である。
【0056】
また、前記金属(M)塩の金属(M)は、Fe、Sc、Ti、V、Cr、Y、Zr、Nb、およびMoからなる群より選択される1以上の元素であってもよい。
【0057】
また、前記触媒前駆体を焼成する温度は具体的には100~500℃、または300~400℃であってもよく、好ましくは350℃であってもよい。即ち、本発明の他の実施形態による製造方法によれば、低い温度で焼成を行ってスピネル系酸化物および酸化触媒を製造することができる。
【0058】
これによって、既存の高温固相反応および熱処理過程で、酸化触媒粒子の表面積が増加するか、または表面欠点または酸素欠陥部位が埋められて触媒の活性が低下することを抑制することができる。ただし、前記熱処理温度が過度に高まれば、酸化触媒の粒径が大きくなって表面積が小さくなり、触媒活性点が減少して触媒活性の面で悪影響を及ぼす恐れがある。
【0059】
一方、前記11以上のpHを有する水溶媒は、水酸化アンモニウムまたは硫酸アンモニウムを含む第1pH調節剤と、アンモニウムオキサレート、水酸化カリウム(KOH)または水酸化ナトリウム(NaOH)を含む第2pH調節剤を水溶媒に順次添加して形成できる。即ち、前記11以上のpHを有する水溶媒は中性の水溶媒、例えば蒸留水に複数のpH調節剤を多段階で処理して形成できる。
【0060】
具体的な一例によれば、前記中性の水溶媒を水酸化アンモニウムまたは硫酸アンモニウムを含む第1pH調節剤で処理してpH9~10.5を維持し、これに対して、アンモニウムオキサレート、水酸化カリウムまたは水酸化ナトリウムを含む第2pH調節剤を追加処理して、11以上、あるいは13.5以上、あるいは13.5~14のpHを有する水溶媒を得ることができる。このような多段階の工程によって、共沈法に必要なpHのより精密な制御が可能になる。
【0061】
また、前記共沈反応段階で、前記錯化剤は共沈反応の反応速度を制御して、所望の構造の触媒前駆体をより効果的に得るために使用される。錯化剤は遷移金属イオンの周囲に配位結合して錯イオンを生成させる分子またはイオンをいう。錯化剤がなければ一部中間体反応が過度に速く起こることがあるので粒子成長を抑制し難い。このような観点で、3成分系以上で化学量論(Stoichiometry)を合わせるためには錯化剤使用が必要である。
【0062】
より具体的には、前記錯化剤は前記コバルト塩と先に配位結合してコバルト錯化合物を形成することができる。これにより、このようなコバルト錯化合物がニッケル塩および金属(M)塩と徐々に反応して化学量論比によって所望の原子組成、均一な粒径分布および格子構造を有する触媒前駆体およびこれを用いた酸化触媒を製造することができるようになる。
【0063】
前記錯化剤の種類は特に制限しないが、前記コバルト塩との適切な反応性などを考慮して、アンモニウム塩化合物を使用することができ、その具体的な例としては、水酸化アンモニウム(NHOH)、硫酸アンモニウム((NHSO)、硝酸アンモニウム(NHNO)および第1リン酸アンモニウム((NHHPO)からなる群より選択された1種以上であってもよい。
【0064】
このような錯化剤として水酸化アンモニウムが使用される場合の例を挙げれば、前記錯化剤と、コバルト塩の反応は下記反応式2に整理されたような2段階で行うことができる:
【化1】
上記反応式2中、MはCoを含む。
【0065】
このうち、第1段階では、ナノスケールの粒径を有する1次粒子が形成でき、2段階では、オストヴァルト熟成(Ostwald ripening)現象でこれら1次粒子が固まって大略マイクロスケールの粒径を有する2次粒子が形成できる。このようなコバルト錯化合物が形成されながら、このような錯化合物がニッケル塩および金属(M)塩、特に鉄塩と徐々に反応しながら、所望の粒径範囲、均一な粒径分布、制御された原子組成および格子構造を有する触媒前駆体が製造できる。
【0066】
このような共沈反応段階で、Co2+イオンは空気中にCo3+またはCo4+として酸化されることがあり、このような酸化および相転移が起これば、触媒前駆体の化学量論比による原子組成、粒径および粒径分布を制御し難いことがある。したがって、前記共沈反応段階は酸素または空気が遮断された雰囲気または不活性雰囲気下で行うことが好ましい。
【0067】
一方、前記共沈反応段階で、前記ニッケル塩、コバルト塩および金属(M)塩の種類は特に制限されず、共沈反応で使用可能であると知らされた一般的な塩の形態を有することができる。ただし、より具体的な例で、前記ニッケル塩、コバルト塩および金属(M)塩はそれぞれこれら金属に硝酸イオンが結合された硝酸塩など酸付加塩や、またはその水和物の形態を有することができる。
【0068】
このように他の実施形態の製造方法では、比較的に単価が低い酸付加塩を反応物として使用して、触媒前駆体および酸化触媒を製造することができるので、全体的な酸化触媒製造工程の経済性および量産性を向上させることができる。
【0069】
また、前記共沈反応段階で、前述のように共沈反応の速度を制御しながら化学量論比によって原子組成を調節して触媒前駆体および酸化触媒を製造することができる。したがって、前記他の実施形態の製造方法で、前記ニッケル塩、コバルト塩および金属(M)塩は1:(2-x):x(0≦x≦0.5)のモル当量比で共沈反応できる。
【0070】
また、前述の錯化剤を使用して、適切な比率でコバルト錯化合物を形成し反応速度を好ましく制御するために前記金属塩の金属イオン:前記錯化剤のモル比率が1:0.1~1:1、または1:0.2~1:0.6または1:0.2~1:0.4を充足するように使用されることが好ましい。
【0071】
前述の共沈反応段階を経ると、所望の原子組成で各金属元素を含む触媒前駆体が製造できる。このような触媒前駆体は以後の段階で形成される酸化触媒と同一のモル比でニッケル、コバルトおよび金属(M)、具体的には鉄の各金属元素を含む水酸化化合物の形態になり得る。より具体的には、前記触媒前駆体はNiCo(2-x)OH(0≦x≦0.5)の化合物を含む粒子形態に製造できる。
【0072】
一方、前記共沈反応段階後には、必要によって、50℃以上、あるいは50~100℃、あるいは60~90℃の温度で前記触媒前駆体を乾燥する段階をさらに行うことができ、このような乾燥段階前に蒸留水などの水またはエタノールなどのアルコールを使用して、前記触媒前駆体を1回以上、あるいは1~3回にわたって洗浄する段階をさらに行うことができる。
【0073】
前述の過程を通じて触媒前駆体を製造した後には、これを、例えば、空気雰囲気下で、100~500℃、または300~400℃であってもよく、好ましくは350℃で焼成して一実施形態の酸化触媒を製造することができる。
【0074】
ただし、すでに前述のように、前記焼成温度が過度に高まれば、酸化触媒の粒径が大きくなってその表面積が小さくなることがあり、また、触媒活性点が埋められて酸化触媒の活性などに悪影響を及ぼす恐れがあって好ましくない。
【0075】
前述の過程を通じて、大きい表面積、優れた触媒活性および電気伝導度を示す一実施形態の陰イオン交換膜水電解用酸化触媒が経済的効率的に製造できる。このような酸化触媒は前述の優れた諸般物性により、陰イオン交換膜水電解システムの酸化電極に好ましく使用できる。
【0076】
具体的には、ガス拡散層上に形成された前述の酸化触媒を含む触媒層を含む、陰イオン交換膜水電解用酸化電極を提供することができる。
【0077】
特に、前記陰イオン交換膜水電解用酸化電極は前記一実施形態の酸化触媒を含むことを除いては、一般的な陰イオン交換膜水電解システム用酸化電極の構成によるものであってもよい。
【0078】
具体的には、本発明による酸化電極はガス拡散層の単位面積当り0.1~5mg/cmの含量で含まれてもよく、好ましくは2mg/cmの含量で含まれてもよい。前記範囲内で、前記酸化触媒の含有量が増加するほど陰イオン交換膜水電解システムの性能が改善できる。ただし、前記酸化触媒の含有量が過度に増加すれば、水電解システムの性能がむしろ減少することがある。
【0079】
また、本発明の一実施形態による酸化触媒はガス拡散層上に酸化触媒層として形成され、多孔質構造を有し、粒子充填密度が1g/mL以下、具体的には0.5~0.9g/mLであってもよい。
【0080】
前記酸化触媒を含む触媒層の形成厚さは、前記酸化触媒の含有量に比例して増加でき、特に制限されない。例えば、ガス拡散層の単位面積当り2mg/cmの含量で形成される場合には、酸化触媒層の厚さが4μm以上、具体的には10μm以上、より具体的には10~20μmであってもよい。
【0081】
前述の酸化電極は一実施形態の酸化触媒の使用を除いては、一般的な陰イオン交換膜水電解システムの酸化電極製造方法によって製造できるので、これに関する追加的な説明は省略する。
【0082】
発明のまた他の実施形態によれば、前記酸化電極を含む陰イオン交換膜水電解システムが提供される。このような水電解システムは、陰イオン交換膜;前記陰イオン交換膜の一側に位置する還元電極;および前記陰イオン交換膜に触媒層が接触するように、陰イオン交換膜層の他側に位置する前記他の実施形態の酸化電極を含んで構成できる。具体的には、本発明一実施形態による陰イオン交換膜水電解システムは、MEA(Membrane Electrode Assembly、膜電極接合体)であってもよい。
【0083】
これは、前述の実施形態の酸化触媒および酸化電極を含むことによって、水電解性能が向上したものであり得る。
【0084】
この他の事項は、当業界に広く知られた陰イオン交換膜水電解システムを参照して実現することができる。
【0085】
以下、発明の理解を助けるために好ましい実施例が提示される。しかし、下記の実施例は発明を例示するためのものに過ぎず、発明をこれらのみで限定するのではない。
【実施例
【0086】
比較例1:貴金属酸化触媒
既存の商用化されているIrOを比較例1の酸化触媒にした。
【0087】
実施例1~7および比較例2~7:NiCo(2-x)MxO4水電解用酸化触媒の製造
以下、本発明によるスピネル系酸化物を含む酸化触媒の製造方法について説明する。
【0088】
まず、図1は、本発明の実施形態によるスピネル系酸化物(NiCo(2-x))を含む酸化触媒の合成の流れを図式化したものである。
【0089】
図1に示されているように、まず、反応器に1~4Lの蒸留水(DIW)を満たし、第1pH調節剤として水酸化アンモニウム(アンモニア水溶液)を添加した後、600rpm以上に攪拌して、反応機内部pHを10.5で維持した。第2pH調節剤としてNaOH溶液を投入して反応機内部pHを表1に開示された数値で維持した。pHが11以上である場合、コバルト遷移金属の溶出が発生して異なる組成の触媒が作られることがあり、この場合、スピネル構造を実現しにくくて触媒活性が減少する。
【0090】
その後に、錯化剤としてアンモニア(NHOH)水溶液を下記表1に従って混合した。
【0091】
次いで、ニッケル塩:コバルト塩:鉄塩のモル比(Molar ratio)を制御して、1:2-x:xのモル比で製造された金属水溶液を原料として使用した。この時、各金属塩としてはNi(NO、Co(NO、およびFe(NOを使用して蒸留水に溶解させた。また、実施例1~5および比較例2~3では、前記xのモル比を下記表1の組成に記載された通り別にした。
【0092】
このように製造した金属水溶液とNaOHおよびNHOHの混合物を、定量ポンプを用いて反応器内に投入した。NaOHは沈殿剤として下記表1の濃度で使用した。その次に、反応器で攪拌速度を600~1000rpmにして、攪拌下で共沈反応を行った。この時、モル比(Molar ratio)は金属イオン:錯化剤としての水酸化アンモニウム=1:0.2~1:0.4に調節した。共沈反応を24時間以上行った。反応が終わると、沈殿物を分離して蒸留水(DIW)で洗浄した。その後、80℃オーブンで12時間乾燥させた。
【0093】
その後、下記表1に記載された条件で、空気雰囲気下で焼成して、実施例1~7、および比較例2~7のスピネル系酸化物を含む酸化触媒を製造した。
【0094】
【表1】
【0095】
<実験例1>SEMおよびTEMイメージ測定
まず、比較例1~7および実施例1~7の酸化触媒を走査電子顕微鏡(SEM)および透過電子顕微鏡(TEM)で分析して、その写真を図2a~図2cにそれぞれ示した。
【0096】
図2aの比較例1の商業用IrO酸化触媒の粒子イメージを見てみれば、数ナノサイズの1次(Primary)粒子が凝集して、数μm大きさの2次(Secondary)粒子を形成していた。
【0097】
図2aの比較例2、3の酸化触媒粒子イメージを見てみれば、比較例2および3は錯化剤である水酸化アンモニウムを使用せず共沈法で合成したもので、比較例2は熱処理しなかった酸化物前駆体を、比較例3は熱処理した酸化触媒である。比較例3、4のSEMイメージを見てみれば、1次(Primary)粒子が凝集して、数十μm大きさの2次粒子(Secondary)を形成したのを確認することができた。大きい粒子は表面積が低いだけでなく比重が高くてスラリー工程で沈殿するので、高粘度の均一な分散が難しくてMEAコーティングが容易でない。
【0098】
図2aおよび図2bの比較例4を除いた実施例1~実施例7の酸化触媒粒子イメージを見てみれば、実施例2および実施例4は錯化剤と沈殿剤の濃度のみを異にしてスピネル系酸化物を含む酸化触媒を製造したものであり、実施例1、実施例3はそれぞれ熱処理されていない実施例2、4の前駆体である。また、図2bは実施例4による酸化触媒イメージをより拡大したものである。
【0099】
実施例2、7のイメージを見てみれば、複数のナノフレーク(Flake)を含む数百nm大きさの1次(Primary)粒子を形成し、このような1次粒子が凝集して数μm大きさの2次(Secondary)粒子を形成したのを確認することができた。実施例2、7のような触媒はナノフレーク構造を有していて表面積は広いが、複数のナノフレークを含む1次粒子が凝集して数マイクロサイズの2次粒子を形成するのでスラリー製造段階に凝集が発生しない。したがって、実施例2、7の酸化触媒は多孔性(Porous)触媒層形成が可能で実際のCellで優れた性能を発現することができ、高粘度の均一な分散が可能なので、追加的な分散工程が不必要でMEA製造費用を節減することができる。
【0100】
図2aの比較例4の酸化触媒粒子イメージを見てみれば、比較例4は沈殿剤NaOHを使用せず共沈法で製造したもので、1次(Primary)粒子が凝集して、数μm大きさの板状型の2次(Secondary)粒子が形成されたのを確認することができた。比較例4は2次粒子の大きさが数μmメートルで粒子が小さく表面積が大きくて、比較例2、3に比べて反応性が優れており、スラリー製造段階で凝集が発生しなくて比較例2、3に比べて高粘度の均一な分散が可能であろうと判断された。しかし、ナノフレーク構造が観察されないので、実施例2、7とは異なり多孔性構造を形成しなく、フレークの間へのイオノマーの均一なコーティング性が実施例2、7に比べて劣位であろうと判断された。また、沈殿剤NaOHを使用しない場合、一部コバルト(Co)イオンの溶出で組成を合わせにくい側面もあった。
【0101】
また、pHを低くして製造した比較例6、比較例7の場合、pHが低いほど触媒粒子が小さくなりナノプレート形状が実現されにくくてまた多孔性構造を形成しにくく、フレークの間へのイオノマーの均一なコーティング性が劣位であろうと思われた。
【0102】
図2cは実施例4を透過電子顕微鏡(TEM)で観察したものを示したもので、ナノフレーク構造をより明確に観察することができた。
【0103】
<実験例2>XRD測定
図3a~図3cは酸化触媒のXRDイメージを示したものである。本発明の共沈法で製造した実施例2、4の酸化触媒のXRDピークの強さ(Intensity)が、比較例3に比べて低いのを確認することができた。これは実施例2、4の酸化触媒はナノフレーク(Flake)構造粒子が形成されるためで、XRD測定から実施例2、4にナノフレークがよく形成されたのを確認することができた。同様に、実施例5、6、7の場合も酸化触媒のXRDピークの強さ(Intensity)が低く示され、ナノフレーク構造粒子がよく形成されたのを確認することができた。
【0104】
<実験例3>粒子分布図(Particle Size Distribution、PDS)測定
下記表2に比較例1、3、4および実施例2、4から得られた酸化触媒と溶媒を混合してスラリーを製造した後、触媒粒子大きさを測定した結果を示した。
【0105】
【表2】
【0106】
比較例1のIrO酸化触媒は数nm大きさの1次粒子がスラリー製造過程で凝集されてD90基準18.3μm大きさの粒子を形成することが確認された。
【0107】
比較例3の錯化剤を使用せずに共沈法で合成したNiCo1.8Fe0.2触媒もスラリー製造過程で凝集されてD90基準12.3μm大きさの粒子を形成することが確認され、比較例1よりは小さい粒子を形成すると判断されるが、実施例2、4に比べてはD90基準で約6倍程度大きい粒子を形成すると判断された。
【0108】
実施例2、4の錯化剤を使用して共沈法で製造したNiCo1.8Fe0.2触媒はナノフレーク構造を形成しスラリー製造過程で凝集されるが、ナノフレーク構造によって凝集が最小化されてD90基準2.04μm、2.24μm大きさの粒子を形成することが確認された。
【0109】
反面、比較例4の場合、製造工程で沈殿剤を使用しないで、錯化剤を使用しない場合と同様に凝集が発生して大きい粒子を形成することを確認することができる。
【0110】
実施例5および実施例6、そして比較例5~7の場合、粒子大きさ分布が実施例2、4と大きい差がなかった。これによって、粒子大きさは錯化剤と沈殿剤の濃度に影響を受け、pHによる影響は大きくないことが分かった。
【0111】
これらから本発明の改善された共沈法で製造された酸化触媒はナノフレーク構造を有してスラリー状態で粒子凝集が最小化され粒子大きさが小さく維持されるので、高粘度スラリー製造が可能であり均一な触媒層を製造することができるのが分かる。
【0112】
<実験例4>粒子充填密度(Tab Density)測定
図4は比較例1、3および実施例2、11の酸化触媒の充填密度を示したものである。粒子充填密度(Tab Density)は粒子が積層された密度を示すので、触媒層が多孔性として形成されるかどうかを予測することができるようにする数値である。粒子充填密度が低いほど触媒層が多孔性(Porous)である。
【0113】
比較例1のIrO酸化触媒粒子の充填密度は1.16g/mLであり、比較例3の既存共沈法で製造したNiCo1.8Fe0.2触媒の充填密度は1.27g/mLであった。
【0114】
比較例1と比較例3の酸化触媒は充填密度が大差ないので、単位面積当たり同一な重量の酸化触媒スラリーを電極に塗布する場合には同等な厚さの触媒層を形成すると予測された。
【0115】
しかし、実施例2の酸化触媒の充填密度は0.89g/mLであり、比較例4は0.78g/mLを示した。実施例4の酸化触媒の充填密度はそれぞれ0.55g/mLであり、既存の共沈法で製造された比較例3の酸化触媒充填密度の約70%または56%に過ぎなかった。即ち、実施例2、7の酸化触媒は同一重量の酸化触媒スラリーを電極に塗布する場合には比較例3に比べてさらに厚い触媒層を形成すると予測された。
【0116】
<実験例5>触媒コーティング層表面と断面観察
比較例1、3および実施例2、4の酸化触媒スラリーを0.2mg/cmで電極にコーティングした触媒層の表面と断面を図5に示した。実施例6~11の触媒コーティング層表面と断面は粒子大きさ分布が実施例2および4のコーティング層表面および断面と類似していた。
【0117】
比較例1の酸化触媒を含む触媒層は厚さが約4.5μmであった。比較例3の酸化触媒を含む触媒層は厚さが約5.6μmで比較例1と類似していた。また、断面と表面を見てみれば、比較例3の触媒層は非常に密度の高いDenseな触媒層を示した。比較例3のように触媒層の密度が高い場合にはイオノマー(Ionomer)コーティングが容易でないだけでなく、酸化反応大部分が触媒層の表面のみで発生して性能が低下することがある。
【0118】
実施例2、4の酸化触媒を含む触媒層は厚さがそれぞれ約10μm、約18μmであった。単位面積当り同一な量の酸化触媒スラリーを塗布したが、比較例1、2に比べて2倍以上厚い触媒層を形成したことが分かる。また、実施例2、4の酸化触媒を含む触媒層の表面および断面を観察すれば、多孔性触媒層として形成されたことが分かった。多孔性触媒層はイオノマー(Ionomer)コーティングが容易であり、反応物の吸着および生成物の脱着が容易で反応効率が良い。また、コーティング層内部まで全て酸化反応に参加できて性能に優れている。
【0119】
<実験例6>触媒比表面積評価
図6に触媒の比表面積を測定した結果を示した。商用IrO触媒は25.5m/gと測定され、錯化剤を使用していない比較例3の場合、107.8m/gと測定された。反面、本発明の共沈法で合成した実施例4の触媒は225.8m/gであった。また、これは既存の商用触媒より8.8倍、比較例3に比べて約2倍増加した数値であって、表面積が広いほど触媒活性点が増加するので、実施例の触媒を使用する場合、高い水電解効率を期待することができる。
【0120】
<実験例7>Single cell評価
比較例1、3および実施例2、4の酸化触媒を含むSingle cellを製作してその電気化学的性能を評価して図7に示した。
【0121】
Single cellの構造は製作されたMEAを基準にしてそれぞれの還元電極(Cathode)、酸化電極(Anode)部分がガス拡散層(Gas diffusion layer、GDL)、双極板(Bipolar plate)、集電体(Current collector)、エンドプレート(End plate)が対称に形成された構造である。還元電極のガス拡散層はMPL層がコーティングされた厚さ300μmのカーボン紙(Carbon paper)を使用し、酸化電極のガス拡散層は厚さ370μmのTi feltを使用した。双極板(Bipolar plate)の材質はNi板であり、流路チャンネル(Flow channel)は深さ1mmの蛇行(serpentine)形状に形成し、双極板厚さは3mmであった。エンドプレート(End plate)は厚さ3mmで材質はNiであった。ガスケット(Gasket)は250μm厚さのTeflon sheetを使用した。
【0122】
触媒コーティングインクはIPA 90wt%:DIW 10wt%の混合溶媒組成で評価用触媒は約1wt%の含量でSonication方法を用いて製造し、イオノマー(Ionomer)はfumatech製品を触媒に対して30%の含量で添加した。
【0123】
MEA製造はSono spray coaterを用いて基板温度50℃で比較例1、3または実施例2、4の酸化触媒Loading量を2mg/cmに調節し、この時、還元電極触媒はTKK Pt/C(Pt 40wt%)を同様の方法で製造してLoading量を0.4mg/cmに調節した。
【0124】
使用されたmembraneはfumatech FAA-3-50製品であり、有効活性面積は5cmであった。
【0125】
製作されたMEAは70℃で約2分間乾燥後、single cell組み立てに使用された。single cell組立時、締結圧は70 IN.LBにした。
【0126】
組み立てられたsingle cellは電解stationに装着されて予熱30分後、1.45Vから2.1Vまで0.01V/10secの間隔でlinear sweep scenarioで電解評価を行った。この時、使用された電解液はKOH 1Mで流量は90ml/minでありcell温度は60℃、圧力は常圧で評価を行ってその結果を図9に示した。
【0127】
比較例1の酸化触媒は1.7Vで0.52A/cm、1.9Vで1.34A/cm、2.1Vで2.25A/cmを示した。比較例3の酸化触媒は1.7Vで0.71A/cm、1.9Vで1.89A/cm、2.1Vで3.31A/cmを示した。
【0128】
前述のように、比較例1は比較例3と類似の程度の触媒層のDenseさと厚さを示したにもかかわらず、さらに劣位の触媒性能を示した。
【0129】
実施例2および4は、比較例1、3より優れた電気化学性能を示した。
【0130】
具体的には、実施例4は1.7Vで0.96A/cm、1.9Vで2.4A/cm、2.1Vで4.0A/cmを示した。比較例1と比較して実施例4は1.7Vで84%、1.9Vで79%、2.1Vで78%向上した結果で全般的に78~84%向上した結果を示した。
【0131】
前記結果から、NiCo1.8Fe0.2酸化触媒自体の活性が商業IrO酸化触媒より優れているだけでなく、本発明の改善された製造方法によって製造される場合、ナノフレーク構造を有する2次粒子を形成して多孔性触媒層を形成するので、さらに優れた触媒性能を有するということが分かる。また、本発明の改善された製造方法によって製造された酸化触媒はスラリー状態で粒子凝集が抑制されるので、高粘度の均一な触媒分散が可能で分散のための後続工程が不要で製造費用を低めることができる。
図1
図2a
図2b
図2c
図3a
図3b
図3c
図4
図5
図6
図7
【手続補正書】
【提出日】2024-03-22
【手続補正1】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】図4
【補正方法】変更
【補正の内容】
図4
【国際調査報告】