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特表2024-536830単一分子局在化顕微鏡法を使用してサンプルに含まれる単一蛍光分子を局在化するための装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-08
(54)【発明の名称】単一分子局在化顕微鏡法を使用してサンプルに含まれる単一蛍光分子を局在化するための装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 21/36 20060101AFI20241001BHJP
   G02B 21/00 20060101ALI20241001BHJP
   G01N 21/64 20060101ALI20241001BHJP
   G02B 21/06 20060101ALI20241001BHJP
【FI】
G02B21/36
G02B21/00
G01N21/64 E
G02B21/06
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024518506
(86)(22)【出願日】2022-09-28
(85)【翻訳文提出日】2024-04-11
(86)【国際出願番号】 EP2022076901
(87)【国際公開番号】W WO2023052384
(87)【国際公開日】2023-04-06
(31)【優先権主張番号】21306377.9
(32)【優先日】2021-10-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524108721
【氏名又は名称】アビーライト
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ブール,ニコラ
(72)【発明者】
【氏名】カオルシ,バレンティーナ
【テーマコード(参考)】
2G043
2H052
【Fターム(参考)】
2G043AA03
2G043EA01
2G043FA02
2G043HA01
2G043HA02
2G043JA03
2G043KA02
2G043KA09
2H052AA09
2H052AB01
2H052AC04
2H052AC09
2H052AC15
2H052AC18
2H052AC21
2H052AC34
2H052AD03
2H052AD34
2H052AF14
2H052AF25
(57)【要約】
本発明は、単一分子局在化顕微鏡法を使用して、サンプルに含まれる単一蛍光分子を局在化するための装置に関する。装置は、既定の放射照度を有する第1の波長の光ビームを使用してサンプルを走査するように構成された走査ユニットと、第2の波長で第1の画像及び第2の画像を取得するように構成された画像取得ユニットと、第2の画像において単一蛍光分子を局在化するように構成された局在化ユニットとを含む。それに加えて、装置は、第1の画像に基づいて、単一蛍光分子の1つ又は複数の局所密度を決定するように構成された決定ユニットと、単一蛍光分子の1つ又は複数の局所密度の各々の既定の関数として、光ビームの1つ又は複数の局所放射照度を計算するように構成された計算ユニットとを含む。走査ユニットは、光ビームの1つ又は複数の局所放射照度を使用してサンプルを走査するようにさらに構成される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単一分子局在化顕微鏡法を使用して、サンプル(102)に含まれる単一蛍光分子を局在化するための装置(100)であって、
既定の放射照度を有する第1の波長の光ビーム(126)を使用して前記サンプルを走査するように構成された走査ユニット(104)と、
第2の波長で第1の画像(110a)及び第2の画像(110b)を取得するように構成された画像取得ユニット(108)と、
前記第2の画像において前記単一蛍光分子を局在化するように構成された局在化ユニット(116)と
を含み、
前記第1の画像に基づいて、前記単一蛍光分子の1つ又は複数の局所密度を決定するように構成された決定ユニット(112)と、
前記単一蛍光分子の前記1つ又は複数の局所密度の各々の既定の関数として、前記光ビームの1つ又は複数の局所放射照度を計算するように構成された計算ユニット(114)と
を含み、
前記走査ユニットが、前記光ビームの前記1つ又は複数の局所放射照度を使用して前記サンプルを走査するようにさらに構成されることを特徴とする、装置(100)。
【請求項2】
前記光ビームの前記1つ又は複数の局所放射照度を、所定のタイムフレームにおいて所定の焦点体積内で、平均して、前記単一蛍光分子のうちの1つしか発光しないように適応させる、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記単一蛍光分子を局在化するための一連の逐次プロセスを実行するように構成された、請求項1又は2に記載の装置であって、逐次プロセスの各々に対して、前記第2の画像が、前記逐次プロセスの前記第1の画像になり、前記走査ユニットが、前記第2の画像から決定された前記1つ又は複数の局所密度のうちの前記1つに基づいて計算された前記1つ又は複数の局所放射照度を使用して前記サンプルを走査するようにさらに構成される、装置。
【請求項4】
前記計算ユニットが、局所放射照度値が蛍光分子の局所密度値と関連付けられるルックアップテーブルに基づいて、前記1つ又は複数の局所放射照度を計算するように構成される、請求項1~3のいずれか一項に記載の装置。
【請求項5】
前記走査ユニットが、前記光ビームの直径を変化させることによって、その前記局所放射照度を変化させるためのズーム(124)を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の装置。
【請求項6】
前記決定ユニットが、前記光ビームの軌道を決定するように構成され、前記走査ユニットが、前記軌道に基づいて前記サンプルを走査するように構成され、前記軌道が、前記単一蛍光分子を含む前記サンプルの領域(212a、214a、216a)を含み、前記単一蛍光分子を含まない前記サンプルの領域(218a)を避ける、請求項1~5のいずれか一項に記載の装置。
【請求項7】
単一分子局在化顕微鏡法を使用して、サンプル(102)に含まれる単一蛍光分子を局在化するための方法(300)であって、
a) 既定の放射照度を有する第1の波長の光ビーム(126)を使用して前記サンプルを走査することであって、前記第1の波長が、前記蛍光分子の励起波長である、走査することと、
b) 第2の波長で第1の画像(110a)を取得することであって、前記第2の波長が、前記蛍光分子の発光波長である、取得することと、
c) 前記第1の画像に基づいて、前記単一蛍光分子の1つ又は複数の局所密度を決定することと、
d) 前記単一蛍光分子の前記1つ又は複数の局所密度の各々の既定の関数として、前記光ビームの1つ又は複数の局所放射照度を計算することと、
d) 前記光ビームの前記1つ又は複数の局所放射照度を使用して前記サンプルを走査することと、
f) 前記第2の波長で第2の画像(110b)を取得することと、
g) 前記第2の画像において前記単一蛍光分子を局在化することと
を含む、方法(300)。
【請求項8】
前記光ビームの前記1つ又は複数の局所放射照度を、所定のタイムフレームにおいて所定の焦点体積内で、平均して、前記単一蛍光分子のうちの1つしか発光しないように適応させる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記ステップc)~g)が、逐次的に複数回実行され、前記第2の画像が、ステップc)の前記第1の画像になり、逐次的な第2の画像が、前記ステップが実行される逐次時間ごとに得られ、前記プロセスが、前記第2の画像から決定された前記1つ又は複数の局所密度のうちの前記1つに基づいて計算された前記1つ又は複数の局所放射照度を使用して前記サンプルを走査することをさらに含む、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
前記1つ又は複数の局所放射照度が、局所放射照度値が蛍光分子の局所密度値と関連付けられるルックアップテーブルに基づいて計算される、請求項7~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記光ビームの前記1つ又は複数の局所放射照度を使用して前記サンプルを走査することが、前記光ビームの直径を変化させることによって、その前記局所放射照度を変化させることを含む、請求項7~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記光ビームの軌道を決定することと、前記軌道に基づいて前記サンプルを走査することとを含む、請求項7~11のいずれか一項に記載の方法であって、前記軌道が、前記単一蛍光分子を含む前記サンプルの領域(212a、214a、216a)を含み、前記単一蛍光分子を含まない前記サンプルの領域(218a)を避ける、方法。
【請求項13】
前記第2の画像及び前記逐次的な第2の画像の各々における前記単一蛍光分子の前記局在化に基づいて、前記単一蛍光分子の最終的な画像(150)を再構築することをさらに含む、請求項9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単一分子局在化顕微鏡法を使用して、単一蛍光分子を局在化するための方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
単一分子局在化顕微鏡法(SMLM)は、単一蛍光分子の発光を達成するための分子の確率的発光の遅延に基づく。蛍光分子を含むサンプルは、観察顕微鏡の焦点体積内に、平均して、1回あたり1つの活性分子(発光分子)しか存在しないように調節された放射照度を使用して照射される。SMLMによって取得された画像には、点拡がり関数(PSF)と呼ばれる画像スポットが存在し、各スポットは、分子の画像を表す。このPSFからは、アルゴリズムを使用してスポットの中心を決定することによって分子の位置を測定することが可能である。この位置は、顕微鏡の回折限界分解能をはるかに上回る精度で決定することができる。この確率的プロセスは、高空間分解能(最高で10nm)の最終的な超解像画像を得るために、何万もの画像に対して繰り返される。例えば、Lelek等は、異なるタイプの分子標識、PSFの位置の決定及びPSFの局在化から超解像画像を再構築するためのプロセスなど、SMLMの基本原理について説明している。
【0003】
それに加えて、Mailfert等は、PSFを決定するために使用されるアルゴリズムについて開示している。具体的には、Mailfert等は、高密度の蛍光分子を有するサンプルに対して、より高い空間分解能を得るように最適化されたアルゴリズムに関するものである。具体的には、アルゴリズムは、超解像画像を再構築する際に不正確な局在化をフィルタリングできるように、各蛍光分子に対する検出の確率及びその局在化の不確かさを評価する。
【0004】
しかし、高空間分解能は分子検出に依存し、その分子検出は単一蛍光分子の密度に依存する。具体的には、密度が高いほど、分子の検出及び局在化が難しくなり、画質も低下する(サンプルドリフト及びオーバーラップPSFなどのアーチファクトに起因する)。それに対して、単一蛍光分子の密度が低いほど、空間分解能が高くなる。
【0005】
さらに、大部分のSMLM技法は、サンプルに照射するために、ガウス形状照明を使用する。しかし、ガウス形状照明は、不均一な励起を提供し、利用可能な視野を制限する。Mau等は、均一な照明を達成するための方法について開示している。そのシステムは、ASTER(調節可能な励起領域の適応走査)と呼ばれており、ガウスビームを有するレーザ源を含むものである。ガウスビームは、サンプル面における照明を制御するために、2つのガルバノ走査ミラーにおいて集光される。励起ビームは、後方焦点面においてその位置を維持するが、ガルバノメータの角度回転により、後方焦点面に同様の角度が生じ、それに相当して、サンプル面における位置が異なるようになる。ラスター走査などの特定のパターンを適用することにより、ASTERシステムは、調節可能な視野における均一な励起を提供することができる。Mau等のシステムは、不均一な励起を提供する従来のガウス形状照明を使用するシステムと比較して、より高い精度のPSF中心の決定、より広い視野及びより優れた効率を可能にする。
【0006】
しかし、大部分の生体サンプルは、不均一な密度の分子を含む。従って、Mau等において使用されるシステムなどの均一な照明を使用することにより、サンプルの特定の領域では高空間分解能が得られる一方で、同じサンプルの他の領域では低空間分解能が得られる可能性がある。例えば、高密度の蛍光分子を有するサンプル領域は、低密度の蛍光分子を有する領域よりアーチファクトが多くなり得る。
【0007】
Mailfert等において開示されるように、密度に従って局在化を適応させ、高い分子密度を有するサンプルのPSF中心を決定するためのアルゴリズムが開発されている。しかし、密度に従って局在化を適応させるアルゴリズムから得られる空間分解能は、低密度の場合と比べて、高密度の場合の方がまだ低い。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Lelek et.al,Single-molecule localization microscopy,Nature Reviews Method Primers,vol.1,39,2021
【非特許文献2】Mailfert et.al,A Theoretical High-Density Nanoscopy Study Leads to the Design of UNLOC,vol.113,3,2018
【非特許文献3】Mau et.al,Fast widefield scan provides tunable and uniform illumination optimizing super-resolution microscopy on large fields,Nature Communications,vol.12,3077,2021
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
これらの問題は、特許請求される装置及び方法によって解決又は軽減される。
【0010】
均一な照明の使用及び単一蛍光分子の局在化のための最適化アルゴリズムの使用の代わりに、本発明によれば、照射光ビームの放射照度をサンプルの蛍光分子の密度に適応させる。従って、低分子密度及び高分子密度領域を含むサンプルの場合、低密度領域の分子を局在化するために使用される放射照度は、高密度領域の分子を局在化するために使用される放射照度より低くなる。有利な実施形態によれば、照射光ビームの直径を変更することによって、放射照度を分子密度に適応させ、それにより、走査効率の最適化が可能になる。
【0011】
本発明の第1の態様は、単一分子局在化顕微鏡法を使用して、サンプルに含まれる単一蛍光分子を局在化するための装置であって、既定の放射照度を有する第1の波長の光ビームを使用してサンプルを走査するように構成された走査ユニットと、第2の波長で第1の画像及び第2の画像を取得するように構成された画像取得ユニットと、第2の画像において単一蛍光分子を局在化するように構成された局在化ユニットとを含み、第1の画像に基づいて、単一蛍光分子の1つ又は複数の局所密度を決定するように構成された決定ユニットと、単一蛍光分子の1つ又は複数の局所密度の各々の既定の関数として、光ビームの1つ又は複数の局所放射照度を計算するように構成された計算ユニットとを含み、走査ユニットが、光ビームの1つ又は複数の局所放射照度を使用してサンプルを走査するようにさらに構成されることを特徴とする、装置を提供する。
【0012】
任意選択により、光ビームの1つ又は複数の局所放射照度を、所定のタイムフレームにおいて所定の焦点体積内で、平均して、単一蛍光分子のうちの1つしか発光しないように適応させる。
【0013】
任意選択により、装置は、単一蛍光分子を局在化するための一連の逐次プロセスを実行するように構成され、逐次プロセスの各々に対して、第2の画像は、逐次プロセスの第1の画像になる。
【0014】
任意選択により、計算ユニットは、局所放射照度値が蛍光分子の局所密度値と関連付けられるルックアップテーブルに基づいて、1つ又は複数の局所放射照度を計算するように構成される。
【0015】
任意選択により、走査ユニットは、光ビームの直径を変化させることによって、その局所放射照度を変化させるためのズームを含む。
【0016】
任意選択により、決定ユニットは、光ビームの軌道を決定するように構成され、走査ユニットは、その軌道に基づいてサンプルを走査するように構成され、その軌道は、単一蛍光分子を含むサンプルの領域を含み、単一蛍光分子を含まないサンプルの領域を避ける。
【0017】
本発明の第2の態様は、単一分子局在化顕微鏡法を使用して、サンプルに含まれる単一蛍光分子を局在化するための方法であって、a)既定の放射照度を有する第1の波長の光ビームを使用してサンプルを走査することであって、上記第1の波長が、上記蛍光分子の励起波長である、走査することと、b)第2の波長で第1の画像を取得することであって、上記第2の波長が、上記蛍光分子の発光波長である、取得することと、第1の画像に基づいて、単一蛍光分子の1つ又は複数の局所密度を決定することと、d)単一蛍光分子の1つ又は複数の局所密度の各々の既定の関数として、光ビームの1つ又は複数の局所放射照度を計算することと、d)光ビームの1つ又は複数の局所放射照度を使用してサンプルを走査することと、f)第2の波長で第2の画像を取得することと、g)第2の画像において単一蛍光分子を局在化することとを含む、方法を提供する。
【0018】
任意選択により、光ビームの1つ又は複数の局所放射照度を、所定のタイムフレームにおいて所定の焦点体積内で、平均して、単一蛍光分子のうちの1つしか発光しないように適応させる。
【0019】
任意選択により、ステップc)~g)は、逐次的に複数回実行され、第2の画像は、ステップc)の第1の画像になり、逐次的な第2の画像は、ステップが実行される逐次時間ごとに得られる。
【0020】
任意選択により、1つ又は複数の局所放射照度は、局所放射照度値が蛍光分子の局所密度値と関連付けられるルックアップテーブルに基づいて計算される。
【0021】
任意選択により、光ビームの1つ又は複数の局所放射照度を使用してサンプルを走査することは、光ビームの直径を変化させることによって、その局所放射照度を変化させることを含む。
【0022】
任意選択により、方法は、光ビームの軌道を決定することと、その軌道に基づいてサンプルを走査することとを含み、その軌道は、単一蛍光分子を含むサンプルの領域を含み、単一蛍光分子を含まないサンプルの領域を避ける。
【0023】
任意選択により、方法は、第2の画像及び逐次的な第2の画像の各々における単一蛍光分子の局在化に基づいて、単一蛍光分子の最終的な画像を再構築することをさらに含む。
【0024】
ここでは、添付の図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】一例による、蛍光分子の状態図である。
図2】一例による、単一蛍光分子を局在化するための装置の概略図である。
図3a】一例による、蛍光分子の画像である。
図3b】一例による、放射照度マッピングの画像である。
図4】一例による、単一蛍光分子を局在化するための方法のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1に示されるように、蛍光分子は、最初に基底状態S(通常、一重項)にある。それらの蛍光分子は、励起波長で光子を吸収し、励起状態S(一重項多重度)に達し得る。次いで、励起分子は、蛍光光子を放出することによって、又ははるかに低い確率で、比較的長い時間(数ミリ秒~数秒程度)とどまる「暗」三重項状態Tへの非放射遷移を経ることによって、その基底状態に戻ることができる。暗状態から基底状態への復帰は、光によって加速することができる。
【0027】
蛍光分子で標識されたサンプルに励起波長で照射すると、そのサンプルは、最初に、強蛍光放射を放出する。しかし、しばらくすると、すべての分子は、暗状態に事実上「閉じ込められる」延いては「オフになる」。その時点では、蛍光発光は断続的にしか起こらず(「明滅する」)、一部の分子は基底状態に戻り、再び発光した(「オン」になった)後に、再びオフになる。
【0028】
SMLMでは、画像取得は、初期の激しい発光を伴う一次的な段階の後、この明滅レジームで実行される。
【0029】
本発明及びASTER技法によれば、照射ビームは走査されるため、サンプルの所定の領域が照射されるのは、ほんの短い時間(50μs~500μs)である。明滅レジームを達成するには、十分な数の光子が照明時間内にサンプルの領域に到達しなければならず、従って、放射照度は十分に高くなければならない。この光子の数(又は同等に、放射照度値)は、サンプルの領域内の蛍光分子の数に依存する。放射照度が低過ぎる場合は、すべての分子をオフにするほどの十分な光子は存在せず、単一分子状態は達成されない。しかし、より少ない蛍光分子を含むサンプルの領域では、この同じ放射照度で十分であり得る。本発明の方法では、蛍光分子の不均質な密度にもかかわらず、サンプル全体にわたる最適分解能を達成するため、放射照度を局所分子密度に適応させる。
【0030】
図2は、一例による、単一分子局在化顕微鏡法(SMLM)を使用して、サンプル102に含まれる単一蛍光分子を局在化するための装置100の概略図である。
【0031】
サンプル102は、例えば、蛍光標識された分子を含む細胞(ニューロンなど)又は組織サンプルで作られたものであり得る。例えば、蛍光分子は、SMLM蛍光色素分子(光応答性、光活性化、光変換、自発的に明滅する又は一時的に明滅する蛍光色素分子など)を使用して標識されたものであり得る。そうすれば、一度標識された蛍光分子は、照明下において、その発光状態がオンとオフとの間で可逆的に遷移する(すなわち、明滅する)。一般に、蛍光分子を含むサンプルは、不均質な密度の蛍光分子を有する。従って、サンプル102の特定の領域が高密度の蛍光分子を有する一方で、他の領域は低密度の蛍光分子を有し得る。それに加えて又はその代替として、他の領域は、蛍光分子がない場合がある。
【0032】
図2に示されるように、装置100は、走査ユニット104、画像取得ユニット108、決定ユニット112、計算ユニット114及び局在化ユニット116を含む。決定ユニット112、計算ユニット114及び局在化ユニット116の各々は、ハードウェア、ソフトウェア及び/又はそれらの組合せを使用して実装することができる。例えば、ハードウェアデバイスは、これらに限定されないが、プロセッサ、中央処理ユニット(CPU)、コントローラ、算数論理ユニット(ALU)、デジタル信号プロセッサ、マイクロコンピュータ、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、システムオンチップ(SoC)、プログラマブル論理ユニット、マイクロプロセッサ、又は定義された方法で命令に対する応答及び実行が可能な他の任意のデバイスなど、処理回路を使用して実装することができる。ソフトウェアは、要望通りに動作するようにハードウェアデバイスに独立して又は集合的に指示するか又は構成するための、コンピュータプログラム、プログラムコード、命令又はそれらのいくつかの組合せを含み得る。コンピュータプログラム及び/又はプログラムコードは、上記で言及されるハードウェアデバイスの1つ又は複数などの1つ又は複数のハードウェアデバイスによって実施することができる、プログラム若しくはコンピュータ可読命令、ソフトウェアコンポーネント、ソフトウェアモジュール、データファイル、データ構造及び/又は同様のものを含み得る。ハードウェアデバイスがコンピュータ処理デバイス(例えば、CPU、コントローラ、ALU、デジタル信号プロセッサ、マイクロコンピュータ、マイクロプロセッサなど)である場合は、コンピュータ処理デバイスは、プログラムコードに従って算術演算、論理演算及び入力/出力演算を実行することによってプログラムコードを実行するように構成することができる。また、各ユニットは、1つ又は複数の記憶装置も含み得る。1つ又は複数の記憶装置は、データの格納及び記録が可能な、ランダムアクセスメモリ(RAM)、読み取り専用メモリ(ROM)、永久大容量記憶装置(ディスクドライブなど)、ソリッドステート(例えば、NANDフラッシュ)デバイス、及び/又は他の任意の同様のデータ記憶メカニズムなど、有形の又は非一時的なコンピュータ可読記憶媒体であり得る。1つ又は複数の記憶装置は、1つ若しくは複数のオペレーティングシステムのため及び/又は本明細書で説明される例示的な実施形態を実施するための、コンピュータプログラム、プログラムコード、命令又はそれらのいくつかの組合せを格納するように構成することができる。コンピュータプログラム、プログラムコード、命令又はそれらのいくつかの組合せは、駆動メカニズムを使用して、別個のコンピュータ可読記憶媒体から1つ若しくは複数の記憶装置及び/又は1つ若しくは複数のコンピュータ処理デバイスにロードすることもできる。そのような別個のコンピュータ可読記憶媒体は、ユニバーサルシリアルバス(USB)フラッシュドライブ、メモリスティック、ブルーレイ/DVD/CD-ROMドライブ、メモリカード及び/又は他の同様のコンピュータ可読記憶媒体を含み得る。
【0033】
或いは、決定ユニット112、計算ユニット114及び局在化ユニット116の2つ以上のユニットは、同じハードウェア及び/又はソフトウェアによって実装することができる。例えば、以下で説明される機能を実行するために各ユニットに命令を提供することができる単一のコンピュータ記憶媒体によって、決定ユニット112、計算ユニット114及び局在化ユニット116のすべてを実装することができる。
【0034】
走査ユニット104は、既定の放射照度を有する第1の波長の光ビーム126を使用してサンプル102を走査するように構成される。一例では、走査ユニットは、Mau等において開示される調節可能な励起領域の適応走査(ASTER)システムであり得る。ASTERシステム104は、ガウスビームを使用しながら、均一な励起が得られるようにする。
【0035】
図2に示されるように、ASTERシステム104は、ガウス形状照明プロファイルを有する光ビーム126を放出するレーザ120を含む。レーザは、サンプル102に含まれる分子を標識するために使用された蛍光色素分子の励起波長に相当する第1の波長で放出する。例えば、レーザ120は、638nmで放出するダイオード励起固体レーザであり得る。レーザ120の励起波長を選択するために、励起フィルタ132が使用される。この例では、ASTERシステム104は、システムの実用性とコンパクト性のために、複数のミラーを含む。さらに、ASTERシステム104は、光ビーム126の直径を変更するための光学ズームとして使用することができる可変アフォーカルシステム160を含む。可変アフォーカルシステム160の詳細については、図2の挿入図160aに示されている。可変アフォーカルシステム160は、-28mm~28mmで変化し得る焦点距離を有する2つの可変焦点液体レンズ170a、170bと、100mmの焦点距離f’を有する1つの固定正レンズ171とを含む。レンズ170a、170bの焦点距離f’、f’を変更することにより、光ビーム126の直径を変化させ、光ビーム126の初期の直径の0.1~10倍の直径を得ることができる。
【0036】
それに加えて、ASTERシステム104は、対物レンズ144を含む顕微鏡140を含む。また、顕微鏡104は、光ビーム126が顕微鏡144の対物レンズ144の後方焦点面142において集光されるように、200mmの焦点距離を有するチューブレンズ177も含む。顕微鏡140は、例えば、倒立顕微鏡であり得る。顕微鏡は、ASTERシステム104(すなわち、走査ユニット104)と以下で説明される画像取得ユニット108の両方の一部であり得る。サンプル102は、顕微鏡142のカバースリップ上に置かれる。
【0037】
さらに、ASTERシステム104は、ガルバノ走査ミラー122を含む。ガルバノ走査ミラー122は、波形発生器(図示せず)によって制御される。図2には、表現を簡単にするために、ガルバノ走査ミラー122が1つだけ示されているが、実際には、2つのガルバノ走査ミラー122が使用される。顕微鏡140の対物レンズ144の後方焦点面142と共役な面に配置された2つのガルバノ走査ミラー122の間では、ガウス光ビーム126(図2に示されるように、不均一な励起を提供する)を集光するため、100mmの焦点距離を有するレンズ172が使用される。具体的には、ガルバノ走査ミラー122に適用される角度シフトは、対物レンズ144の後方焦点面142にも同様の角度シフトを引き起こし、サンプル102面における光ビーム126の位置シフトを引き起こす。100mmの焦点距離を有するレンズ173は、2つのガルバノ走査ミラー122の後に配置される。この構成により、大きなX-Yエリアを走査するためのコリメートビームを得ることができる。対物レンズ144の後方焦点面142において光ビーム126を集光した後、サンプル102における時間的に平均されたフラットトップ励起プロファイルが得られる(図2に示されるように)。従って、ラスター走査又はアルキメデスの螺旋など、定義されたパターンでのガウス光ビーム126によるサンプル102の高速走査は、全体的に均質な照明を生み出す。
【0038】
さらに、ASTERシステム104は、並進ステージ130を含み、並進ステージ130は、電動並進ステージなどであり、誘電体ミラー180を含む。光ビーム126を拡大するため、各々が誘電体ミラー180のそれぞれの側に配置される、-50mm及び200mmのそれぞれの焦点距離を有する2つの固定レンズ174、175が使用される。並進ステージ130は、顕微鏡140の対物レンズ144の後方焦点面142における光ビーム126の極角の変更を可能にする。従って、並進ステージ130は、落射蛍光励起から斜光及び全内部反射蛍光励起に変更するために使用することができ、それらは、SMLMでサンプルを研究するために使用される異なるスキームであり、それぞれ異なる極角を使用している。
【0039】
上記で示されるように、ASTERシステム104は、既定の放射照度を有する第1の波長の光ビーム126を使用してサンプル102を走査するように構成される。蛍光分子のフォトブリーチングを最小限に抑えるため、既定の放射照度は、低放射照度であり得る。例えば、既定の放射照度は、ユーザによって、蛍光分子の推定平均密度に基づいて決定することができる。或いは、既定の放射照度は、蛍光分子の推定平均密度並びに/或いは分子及び/又は蛍光色素分子のタイプと関連付けられた放射照度値を含むルックアップテーブルから抽出することができる。
【0040】
装置100の画像取得ユニット108は、第2の波長で第1の画像110aを取得するように構成される。上記で説明されるように、照明下において、蛍光分子は、励起状態に達し、次いで、蛍光光子を放出することによってその基底状態に戻り、その後、再び励起状態になる。或いは、蛍光分子を走査している際、蛍光分子は、放射を放出することなく暗状態に達し得る。高密度領域で単一分子状態であるには、大部分の分子が「オフ」になる(すなわち、暗状態に閉じ込められる)必要がある。従って、画像取得ユニット108は、大部分の蛍光分子が「オフ」である際に画像を取得するように構成される。三重項状態に達する確率は基底状態に達する確率より低いため、走査開始と画像取得との間には遅延がある。遅延は、数百ミリ秒~数秒の範囲である。それに加えて、照明下である程度の時間が経過した後、蛍光分子は、再び励起状態に達する。従って、画像取得ユニット108は、大部分の蛍光分子が「オン」に戻る前に画像を取得する。それに加えて、走査ユニット104は、蛍光分子が「オン」に戻る前にサンプルの別のエリアを走査する。従って、走査ユニット104は、約50μs~500μsの時間範囲でサンプルの領域を走査する。
【0041】
画像取得ユニット108は、ダイクロイックミラー106を含み、ダイクロイックミラー106は、画像取得ユニット108によってサンプル102からの発光を収集できるように、励起波長(走査ユニット104から受信される)と発光波長(サンプル102から受信される)を分離するために使用される。画像取得ユニット108は、カメラ128(sCMOSカメラなど)を含み、カメラ128は、サンプル102が既定の放射照度で走査されている際に第1の画像110を取得する。また、画像取得ユニット108は、カメラ128において光ビーム126を集光するための、180mm又は200mmの焦点距離を有する固定レンズ176も含む。第2の波長は、サンプル102の分子を標識するために使用された蛍光色素分子の発光波長である。図3aは、第1の画像110aの例を示す。第1の画像110aは、スポット又は点拡がり関数(PSF)を提示しており、各PSFは、単一蛍光分子を表す。上記で示されるように、サンプル102は、不均質な密度の蛍光分子を提示し得る。図3aは、サンプル102が、高密度領域212a、低密度領域214a、中間密度領域216a及び蛍光分子がない領域218aを提示していることを示している。従って、サンプル102を走査するために単一の放射照度(事前に定義された放射照度)が使用されるため、サンプル102の各領域に対して放射照度が最適化されることはない。従って、第1の画像110aは、オーバーラップPSFを提示し、オーバーラップPSFは、高密度の蛍光分子を有するサンプル102の領域において所定の焦点体積(すなわち、視野)内で所定のタイムフレームにおいて同時に発光している蛍光分子のクラスタである。
【0042】
装置100の決定ユニット112は、第1の画像110aに基づいて、単一蛍光分子の1つ又は複数の局所密度を決定するように構成される。具体的には、決定ユニット112は、第1の画像110aに示されるように、サンプル102の各領域の密度を決定する。例えば、決定ユニット112は、第1の画像110aにおける点の分布(PFSを表す)を決定する。一例では、決定ユニット112は、蛍光分子を含む領域である対象の領域(他の領域には蛍光分子がない)を決定することができる。例えば、図3aに示されるように、PSFを含む(すなわち、ドットを示す)領域は、対象の領域であり、他の領域(すなわち、暗い領域)は、蛍光分子を含まない。決定ユニット112は、対象の領域のサブ領域の密度をさらに決定することができる。例えば、図3aに示されるように、サブ領域212a、214a及び216aは、第1の画像110aの対象の領域のサブ領域であり、その各々は、高密度、低密度及び中間密度の蛍光分子をそれぞれ有する。サンプル102の各サブ領域の局所密度の決定に基づいて、決定ユニット102は、走査ユニット104の光ビーム126の軌道を決定することができる。例えば、軌道は、対象の領域のみを含み、且つ蛍光分子を含まない領域を避けるように決定することができる。例えば、軌道は、図3aに示される領域218aを避けるであろう。
【0043】
装置100の計算ユニット114は、決定ユニット112によって決定された単一蛍光分子の1つ又は複数の局所密度の各々の既定の関数として、光ビーム126の1つ又は複数の局所放射照度を計算するように構成される。具体的には、計算ユニット114は、対象の領域の各サブ領域に対して決定ユニット112から決定された密度を受信し、サンプル112の各サブ領域(第1の画像110aのサブ領域に相当する)を走査するために使用することができる関連放射照度値を計算することができる。例えば、計算ユニット112は、局所放射照度値が蛍光分子の局所密度値と関連付けられるルックアップテーブルに基づいて、各サブ領域の放射照度を計算することができる。或いは、計算ユニットは、各サブ領域の放射照度を計算するために、分析関数を使用することができる。そうすれば、低密度の蛍光分子を有するサブ領域に対して、低放射照度が計算される。同様に、高密度の蛍光分子を有するサブ領域に対して、高放射照度が計算され、中間密度の蛍光分子を有するサブ領域に対して、中間放射照度が計算される。例えば、計算ユニット112は、図3aに示されるサブ領域212aに対して高放射照度を計算し、サブ領域216aに対して中間放射照度を計算し、サブ領域214aに対して低放射照度を計算する。
【0044】
次いで、走査ユニット104は、最適化された走査設定を使用することによって、すなわち、計算ユニット114によって計算された局所放射照度に基づいて、好ましくは、決定ユニット112によって決定された軌道に基づいて、サンプル102を走査することができる。具体的には、走査時間を最適化するため、走査ユニット104は、サンプル102の各サブ領域と関連付けられた放射照度を使用しながら、対象の領域のみを走査する(そして、蛍光分子がない領域を避ける)。具体的には、光ビーム126の直径は放射照度が低いほど大きいため、小さな光ビーム126を使用する際は、より大きなエリアを走査することが可能である。従って、低密度の蛍光分子を有するサブ領域に対して、走査ユニット104は、走査ユニット104によって計算された低放射照度でサンプル102を走査する。同様に、高密度の蛍光分子を有するサブ領域に対して、走査ユニット104は、高放射照度でサンプル102を走査し、中間密度の蛍光分子を有するサブ領域に対して、走査ユニット104は、中間放射照度でサンプル102を走査する。
【0045】
サンプル102を走査するための放射照度を変化させるため、走査ユニット104は、光ビーム126の直径を変化させる。上記で示されるように、ASTERシステム104は、光ビーム126の直径を変更するように構成された可変アフォーカルシステム160を含む。放射照度を上げるため、可変アフォーカルシステム160を使用して、光ビーム126の直径を小さくし、放射照度を下げるため、可変アフォーカルシステム160を使用して、光ビーム126の直径を大きくする。例えば、図3bは、サンプル102を走査するために使用された放射照度マッピング220を示し、放射照度は、図3aの第1の画像110aに基づいて決定されている。高密度の蛍光分子を有するサブ領域212aを走査するために、小さな直径の光ビーム126が使用され、低密度の蛍光分子を有する領域214aを走査するために、小さな直径の光ビーム126が使用され、中間密度の蛍光分子を有するサブ領域216aを走査するために、中間サイズの直径の光ビーム126が使用される。
【0046】
最適化された走査設定(すなわち、最適化された放射照度及び軌道)を使用してサンプルを走査している間、画像取得ユニット108は、次に、第2の画像110bを取得することができる。第2の画像は、第2の波長で取得される。第1の画像110aと同様に、第2の画像もPSFを提示する。しかし、放射照度をサンプル102の各サブ領域の密度に適応させたため、第2の画像は、第1の画像110aより少ないオーバーラップPSFを提示する。言い換えれば、単一蛍光分子状態が達成されている。具体的には、走査ユニット104の放射照度を各サブ領域の蛍光分子の密度に適応させることにより、同時に発光している蛍光分子のクラスタを避けることができ、所定の時間に焦点体積内で発光する単一蛍光分子を得ることが可能である。それに加えて、低密度の蛍光分子を有する領域を走査するために大きな光ビーム126を使用することのみならず、対象の領域のみを走査し、蛍光分子がない領域を避けることにより、走査効率を高めることが可能である。
【0047】
装置100の局在化ユニット116は、第2の画像において単一蛍光分子を局在化するように構成される。局在化ユニット116は、単一蛍光分子を局在化するために第2の画像の各PSFに対する強度プロファイルを抽出するコンピュータプログラムであり得る。局在化ユニット116は、各PSFの強度プロファイルから単一蛍光分子の局在化を決定するために、von Diezmannにおいて説明される単一分子局在化方法を使用することができる。具体的には、局在化ユニット116は、第2の画像のPSFを分析することができ、第2の画像は、各強度プロファイルにガウスモデルを当てはめ、各蛍光分子の中心の推定値を計算するためのものである。第2の画像は単一分子状態で取得されるため、第2の画像は、高密度の蛍光分子を有する領域でさえ、オーバーラップPSFを提示しない。従って、PSFを正確に局在化することが可能である。
【0048】
超解像の最終的な画像を得るため、上記で説明される装置100によって実行されるプロセスは、複数回繰り返すことができる。例えば、プロセスは、数千又は数万回実行することができる。しかし、フォトブリーチングにより、蛍光分子の密度の変動が生じる(蛍光分子を標識するために使用される蛍光色素分子が変化し、それにより、蛍光の退色や蛍光の永久的な消失が生じることに起因する)。従って、プロセスを繰り返す際、上記で説明される装置100のプロセスが繰り返される度に放射照度を適応させることが必要であり得る。放射照度を適応させるため、第2の画像110bを第1の画像110aとして使用することによって、逐次プロセスの各々が実行される。具体的には、決定ユニット112は、第2の画像110bに基づいて、単一蛍光分子の局所密度を決定する。次いで、計算ユニット114は、第2の画像110bに基づいて決定された蛍光分子の各局所密度の既定の関数として、走査ユニット104の光ビーム126の局所放射照度を計算する。さらに、走査ユニット104は、第2の画像110bに基づいて決定された蛍光分子の局所密度に対応する放射照度を使用して、サンプル102を走査する。最後に、取得ユニット108によって、第3の画像が取得され、局在化ユニット116によって、第3の画像において単一蛍光分子が局在化される。逐次プロセスは、第3の画像を使用して第4の画像において蛍光分子を局在化することによってなど、以下同様に、繰り返すことができる。従って、単一蛍光分子を局在化するために、サンプル102の数千又は数万の画像が取得され得る。次いで、単一蛍光分子の超解像画像150として、局在化をレンダリングすることができる。例えば、局在化ユニットは、第2の画像110b、第3の画像、第4の画像...第1000の画像においてなど、単一蛍光分子を局在化するソフトウェアによって実装することができる。ソフトウェアは、局在化の精度と同様のビンサイズで定義されたグリッドを有し得る。各ビンでは、局在化がカウントされてピクセル強度に変換され、そこから超解像画像150が再構築される。
【0049】
有利には、上記で説明される反復プロセスにより、第1の画像の取得後のみならず、各走査の後に、放射照度の調整が可能になる。具体的には、放射照度は、新しい画像が取得される度に適応させることができる。そうすれば、新しい画像が取得される度に密度が推定されるため、PSFの局在化の精度を向上することができる。分子が同時に発光することはないため、密度を数回測定し、放射照度を適応させることで、PSFの局在化の最適化が保証される。言い換えれば、逐次プロセスを使用することにより、密度の決定がより正確になり、従って、局在化を最適化することができる。
【0050】
別の例では、走査時間は、計算ユニット114は、単一蛍光分子の1つ又は複数の局所密度の各々の既定の関数として走査時間を計算するようにさらに構成される。従って、局所密度と関連付けられた計算された放射照度の各々に対して、走査時間を関連付けることができる。結果的に、走査ユニットは、計算された走査時間を使用してサンプルを走査するようにさらに構成することができ、各走査時間は、各局所密度に対する放射照度と関連付けられる。具体的には、密度が高いほど、走査時間が短くなり得る。逆に、密度が小さいほど、走査時間が長くなる。例えば、低密度の分子を有する局所エリアの場合、これらのエリアを走査するために低放射照度が使用される。分子が「オン」になるまでに時間がかかるため、走査時間は長くなり得る。それに対して、密度が大きいほど、サンプル中の分子の数が多くなるため、分子が「オン」になるまでにかかる時間は短くなり得る。言い換えれば、同じ走査時間に対して、高密度の場合は、発光する分子を有する確率は、低密度の場合よりも高くなる。
【0051】
上記では、装置100は、走査ユニット104としてASTERシステムを用いるものと示され、説明されているが、本発明は、開示される走査ユニット104に限定されない。特許請求される発明の保護の範囲を逸脱しない範囲で、他の走査ユニットを使用することができる。
【0052】
図4は、単一分子局在化顕微鏡法を使用して、サンプル102に含まれる単一蛍光分子を局在化するための方法300を描写するフロー図である。例えば、方法300は、図2を参照して上記で説明される装置100によって実施することができる。
【0053】
ブロック302では、既定の放射照度を有する第1の波長の光ビーム126を使用してサンプル102が走査され、第1の波長は、蛍光分子の励起波長である。一例では、サンプル102は、図2を参照して説明されるASTERシステム104によって走査される。
【0054】
ブロック304では、第1の画像110aが第2の波長で取得され、第2の波長は、蛍光分子の発光波長である。第1の画像110aは、サンプル102が第1の波長で走査されている間に取得される。
【0055】
ブロック306では、第1の画像110aに基づいて、単一蛍光分子の1つ又は複数の局所密度が決定される。例えば、サンプル102は、不均質な密度の蛍光分子を有し得、従って、第1の画像110aは、高密度及び低密度の蛍光分子を有する領域並びに/或いは蛍光分子がない領域を提示し得る。一例では、光ビーム126の軌道を決定することができる。軌道は、単一蛍光分子を含むサンプル102の領域を含み、単一蛍光分子を含まないサンプル102の領域を避ける。
【0056】
ブロック308では、単一蛍光分子の1つ又は複数の局所密度の各々の既定の関数として、光ビーム126の1つ又は複数の局所放射照度が計算される。例えば、1つ又は複数の局所放射照度は、局所放射照度値が蛍光分子の局所密度値と関連付けられるルックアップテーブルに基づいて計算することができる。光ビーム126の1つ又は複数の局所放射照度は、所定のタイムフレームにおいて、平均して、蛍光分子のうちの1つしか発光しないように計算される(単一分子状態)。単一分子状態により、PSFのオーバーラップを防ぐことができる。
【0057】
ブロック310では、光ビーム126の計算された1つ又は複数の局所放射照度を使用してサンプル102が走査される。例えば、高密度の蛍光分子を有するサンプル102の領域は、計算された高放射照度を使用することによって走査され、低密度の蛍光分子を有するサンプル102の領域は、計算された低放射照度を使用することによって走査される。サンプル102は、決定された軌道に基づいて走査することができる。従って、蛍光分子を含むサンプル102の領域のみが走査される。それに加えて又はその代替として、1つ又は複数の局所放射照度は、光ビーム126の直径を変化させることによって得ることができる。
【0058】
ブロック312では、第2の画像110bが第2の波長で取得される。第2の画像110bは、光ビーム126の計算された1つ又は複数の局所放射照度を使用してサンプルを走査している間に取得される。放射照度は最適化されているため、第2の画像110bではオーバーラップPSFは最小限に抑えられ、アーチファクトはほとんど見られない。
【0059】
ブロック314では、第2の画像において単一蛍光分子が局在化される。第2の画像110bは単一分子状態で取得されているため、高い精度で単一蛍光分子を局在化することが可能である。
【0060】
方法300は、超解像画像を得るために、複数回実行することができる。しかし、フォトブリーチングにより、単一蛍光分子の密度の変動が生じる。従って、ブロック306~314のステップは、逐次的に複数回実行することができ、方法が繰り返される度に、第2の画像110bは、第1の画像110aになり、単一蛍光分子が局在化する逐次的な第2の画像が得られる。それに加えて、第2の画像及び逐次的な第2の画像の各々における単一蛍光分子の局在化に基づいて、単一蛍光分子の最終的な画像を再構築することができる。
【0061】
図4に関する方法300によれば、サンプル102を走査するために均一な照明を使用する代わりに、蛍光分子の密度に適応させた照明が使用される。結果的に、高密度領域でさえ、単一蛍光状態を達成することが可能である。従って、単一蛍光分子状態を達成することにより、走査効率を高めながら、アーチファクトの少ない画像を取得し、高い精度でPSFを局在化することが可能である。
【0062】
本発明については、好ましい実施形態の助けを借りて詳細に示し、説明してきたが、本発明は、開示される例に限定されない。当業者であれば、特許請求される発明の保護の範囲を逸脱しない範囲で、他の変形形態を推論することができる。例えば、異なるレンズを異なる焦点距離で使用することができる。それに加えて、可変焦点レンズ(具体的には、可変焦点液体レンズ)は重要ではないが、高速ズームを得ることが可能になる。本発明の他の例では、可変減衰器を使用することによって又は光供給源を制御することによって、放射照度を変化させることができる。しかし、放射照度を変化させるためのこれらのさらなる方法は、走査時間を最適化することはできない。別の例では、蛍光分子を含むサンプルの領域のみを走査する代わりに、サンプル全体を走査することができる(例えば、ラスター走査を使用することによって)。さらに、蛍光分子は、図1に提示されるものより複雑なダイナミックスを示し得、例えば、光変換分子であり得る。
図1
図2
図3a
図3b
図4
【国際調査報告】