(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-08
(54)【発明の名称】高残留磁気ネオジム鉄ボロン磁石及びその製造方法並びに応用
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20241001BHJP
C22C 38/16 20060101ALI20241001BHJP
B22F 3/00 20210101ALI20241001BHJP
B22F 3/04 20060101ALI20241001BHJP
B22F 3/24 20060101ALI20241001BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20241001BHJP
B22F 1/05 20220101ALI20241001BHJP
B22F 9/04 20060101ALI20241001BHJP
H01F 1/055 20060101ALI20241001BHJP
H01F 41/02 20060101ALI20241001BHJP
【FI】
C22C38/00 303D
C22C38/16
B22F3/00 F
B22F3/04 B
B22F3/24 K
B22F1/00 Y
B22F1/05
B22F9/04 C
B22F9/04 E
H01F1/055
H01F1/055 170
H01F1/055 130
H01F41/02 G
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024518537
(86)(22)【出願日】2022-09-22
(85)【翻訳文提出日】2024-03-22
(86)【国際出願番号】 CN2022120487
(87)【国際公開番号】W WO2023046005
(87)【国際公開日】2023-03-30
(31)【優先権主張番号】202111107088.3
(32)【優先日】2021-09-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522310502
【氏名又は名称】烟台正海磁性材料股▲フン▼有限公司
(71)【出願人】
【識別番号】523247027
【氏名又は名称】江華正海五礦新材料有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】于永江
(72)【発明者】
【氏名】劉磊
(72)【発明者】
【氏名】王有花
(72)【発明者】
【氏名】馬丹
(72)【発明者】
【氏名】姜雲瑛
【テーマコード(参考)】
4K017
4K018
5E040
5E062
【Fターム(参考)】
4K017AA04
4K017BA06
4K017BB01
4K017BB05
4K017BB09
4K017BB12
4K017BB13
4K017CA07
4K017DA04
4K017EA03
4K018AA27
4K018BA18
4K018BB04
4K018BD01
4K018CA04
4K018CA11
4K018CA23
4K018FA08
4K018FA11
4K018KA45
4K018KA63
5E040AA04
5E040AA19
5E040CA01
5E040HB03
5E040HB05
5E040HB06
5E040HB11
5E040HB17
5E040NN01
5E040NN06
5E040NN12
5E040NN13
5E040NN17
5E040NN18
5E062CD04
5E062CE04
5E062CF01
5E062CG02
5E062CG03
5E062CG05
5E062CG07
(57)【要約】
本発明は、高残留磁気ネオジム鉄ボロン磁石及びその製造方法並びに応用を提供する。本発明のネオジム鉄ボロン磁石は、R-T-B型化合物を主要構造とする結晶粒と、粒界相と、を有する。本発明のネオジム鉄ボロン磁石は、B、Cu、Ga、RE、Tiなどの元素の比率関係を調整することにより、比較的高い主相結晶粒の体積比を得て、粒界相におけるBリッチ相の比率を効果的に抑制することができ、磁石に比較的高いBrを備えさせ、優れたHcj及び直角度性能を同時に備えさせる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネオジム鉄ボロン磁石であって、
R-T-B型化合物を主要構造とする結晶粒と、粒界相と、を有し、前記ネオジム鉄ボロン磁石は、
28wt%以上、30wt%以下のRと、
63wt%以上、70wt%以下のTと、
0.98wt%以上、1.05wt%以下のBと、
0wt%より大きく、0.3wt%以下のM1と、
0.04wt%以上、0.15wt%以下のM2と、を含み、
Rは希土類元素を表し、Nd、又はNdと希土類元素Pr、La、Ce、Dy、Tb、Hoから選ばれる少なくとも1種であり、
Tは、Fe及び/又はCoから選ばれ、そのうち、Feは、T総量の99wt%以上を占め、
M1は、Cu及びGaから選ばれ、且つGaは、M1総量の75wt%以上を占め、
M2は、Zr、Ti、Nbから選ばれる少なくとも1種であり、
前記ネオジム鉄ボロン磁石の製造原料において、元素の原子数は更に、以下の条件を満たし、
2.15≦[R]/([B]-2[M2])≦2.35、
そのうち、[R]はRの原子百分率であり、[B]はBの原子百分率であり、[M2]はM2の原子百分率であり、
RがNdと希土類元素Pr、La、Ce、Dy、Tb、Hoから選ばれる少なくとも1種である場合、Dy、Tb、Hoなどの重希土類元素の総質量は磁石の質量の1wt%以下を占め、
前記磁石は、
(4)直角度≧0.95、
(5)Br≧1.44T、
(6)Hcj≧1100kA/mという磁気特性を有する、
ことを特徴とするネオジム鉄ボロン磁石。
【請求項2】
Dy、Tb、Hoなどの重希土類元素の総質量は、磁石の質量の0.5wt%以下を占め、
好ましくは、M2はTiから選ばれる、
ことを特徴とする請求項1に記載のネオジム鉄ボロン磁石。
【請求項3】
(a)前記ネオジム鉄ボロン磁石の製造原料を高温で溶融し、鋳造し、二次冷却した後に合金シートを形成する製錬工程と、
(b)合金シートを粉砕して合金粉末を形成する製粉工程と、(c)合金粉末を磁界作用下でプレス成形し、ビレットを得るプレス成形工程と、
(d)ビレットを高温で焼結処理する焼結工程と、を含む、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のネオジム鉄ボロン磁石の製造方法。
【請求項4】
前記(a)製錬工程は、具体的には、前記ネオジム鉄ボロン磁石の製造原料を真空又は不活性ガス雰囲気で合金溶鋼に十分に溶融し、次に急速冷却して合金シートを形成し、更に二次冷却することを含み、且つ前記二次冷却と急速冷却の間隔は10sを超えず、且つ前記二次冷却の冷却速度は5~20℃/sである、
ことを特徴とする請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記急速冷却は急冷ロールを用いて行われ、
好ましくは、前記二次冷却は、低温不活性ガスのスプレー、水冷円盤又は他の形式の冷却装置から選ばれる何れか1つの冷却装置を用いて行われ、
好ましくは、前記二次冷却の冷却速度は、好ましくは5~20℃/sであり、
好ましくは、前記合金シートの厚さは、0.15~0.45mmである、
ことを特徴とする請求項3又は4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記(b)製粉工程は粗粉砕及び微粉砕を含み、
好ましくは、前記粗粉砕は水素破砕及び/又は中粉砕から選ばれ、
好ましくは、前記微粉砕はジェットミルから選ばれ、好ましくは、前記ジェットミルは不活性ガス雰囲気で行われ、好ましくは、前記不活性ガスは窒素ガス、ヘリウムガスなどから選ばれ、
好ましくは、前記微粉砕後、またグレーディングホイールスクリーニングなどのスクリーニングによって得られ、
好ましくは、前記合金粉末の粒度SMDは2.0~3.4μmの間、且つX90/X10≦4.5であり、
好ましくは、微粉砕時に、更に潤滑剤を加える必要があり、好ましくはジェットミルの前後で何れも潤滑剤を加え、好ましくは、前記潤滑剤は、揮発しやすい脂質類又はアルコール類などの有機溶媒から選ばれ、例示的には、前記潤滑剤の添加量は、製造原料の総質量の0.1~1wt%であり、
好ましくは、潤滑剤を加えた後、更に混合する必要があり、好ましくは、混合時間は3~6hであり、
好ましくは、前記(c)プレス成形工程は、具体的には、磁界作用下で合金粉末をプレス成形し、ビレットを得ることを含み、
好ましくは、プレス成形前、2Tの磁界強度下で配向着磁し、成形する必要があり、
好ましくは、プレス成形後、逆磁界を加えて消磁し、
好ましくは、成形ビレットを冷間静水圧プレスで更に処理し、ビレット密度を更に向上させることもできる、
ことを特徴とする請求項3~5の何れか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記(d)焼結工程は、1回目の焼結、1回目の冷却、2回目の焼結及び2回目の冷却を含み、
好ましくは、前記焼結工程は真空雰囲気で行われ、好ましくは、加熱する時に、真空度は10-1Pa以下であり、
好ましくは、前記1回目の焼結の焼結温度は1000~1050℃であり、上記1回目の焼結の保温時間は240~360minであり、
好ましくは、2回目の焼結温度は、1回目の焼結温度よりも30~70℃高く、好ましくは1030~1100℃であり、
好ましくは、2回目の焼結の保温時間は270~360minであり、
好ましくは、1回目の冷却及び2回目の冷却は何れも200℃未満であり、
好ましくは、前記焼結工程は、2回目の冷却後に行われる時効処理を更に含み、
好ましくは、前記時効処理は、一次時効処理又は二次時効処理から選ばれ、
好ましくは、前記一次時効処理の条件は、時効処理温度が500~700℃の間であり、保温時間が240~420minであることであり、
好ましくは、前記二次時効処理は、昇温して温度を800~950℃とし、保温時間を180~300minとするように1回目の時効処理を行うことと、150℃以下に冷却した後、昇温して温度を450~600℃の間とし、保温時間を240~360minとするように2回目の時効処理を行うことと、を含み、
好ましくは、焼結工程後、拡散処理を行うこともでき、
好ましくは、前記拡散処理は、拡散材料を磁石表面に施し、真空高温拡散処理、拡散冷却及び拡散時効処理を行うことを含み、
好ましくは、拡散材料は、Dy及び/又はTbの純金属、或いはDy及び/又はTbの水素化物、酸化物、水酸化物、フッ化物などの合金から選ばれ、
好ましくは、拡散処理は、真空蒸着、マグネトロンスパッタリング、コーティング又は埋め込みなどの方法を選用して行うことができ、
好ましくは、高温拡散の温度は850~950℃であり、高温拡散の時間は10~30hであり、
好ましくは、拡散冷却温度は100℃未満であり、
好ましくは、前記拡散時効処理の温度は450~600℃であり、前記拡散時効処理の時間は4~8hである、
ことを特徴とする請求項3~6の何れか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
モータ分野における請求項1~2に記載の磁石の応用。
【請求項9】
請求項1~2に記載の磁石を含むモータ。
【請求項10】
好ましくは、前記モータは、新エネルギー自動車、省エネルギー家電に適用できる、
請求項9に記載のモータの応用。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔優先権及び関連出願〕
本願は、2021年9月22日に中国国家知識産権局に提出された、特許出願番号が202111107088.3であり、発明名称が「高残留磁気ネオジム鉄ボロン磁石及びその製造方法並びに応用」である先行出願の優先権を主張する。上記先行出願は全体として援用により本願に組み込まれている。
【0002】
〔技術分野〕
本発明は、ネオジム鉄ボロン磁石分野に属し、具体的にはネオジム鉄ボロン系焼結磁石及びその製造方法並びに応用に関する。
【0003】
〔背景技術〕
ネオジム鉄ボロン系焼結磁石は、第4世代の永久磁石材料として、その優れた磁気特性のため「磁気キング」と呼ばれ、自動車、風力発電、圧縮機、エレベーター及び産業自動化などの多くの分野で広く適用されている。
【0004】
21世紀に入って以来、磁性鋼は、保磁力性能の向上に一層関心を集め、特に、貯蔵量が比較的稀少な重希土類資源の供給に不均衡が生じ、原材料価格が急速に高騰することによるコストの問題で、重希土類の使用量を低減するという前提で、磁性鋼の動作温度下での減磁耐性を保証するために、結晶粒微細化技術や粒界拡散技術のような保磁力性能を維持し、更に向上させる研究を多くの学者及び企業が行ってきている。
【0005】
新エネルギー自動車市場の高まり及び高効率省エネルギー家電の新たな政策により、モータの小型化、高効率の指標が新たな関心点となっており、モータのできる限りの小型化、モータの出力パワーの維持又は更なる向上を保証するために、動力中心である磁性鋼は高いエネルギー密度、即ち高残留磁気を有することが必要である。
【0006】
理論上、純ネオジム鉄ボロン磁石の限界残留磁気は1.61Tであり、現在、実験室条件で得られる残留磁気は最大1.56Tであるが、プロセスの難しさや設備精度などの理由から量産化には程遠い。同時に、新エネルギー自動車及び省エネルギー家電などの分野で使用される磁性鋼は、その主流残留磁気の範囲は1.10~1.40Tの間であり、残留磁気を更に高めることができれば、モータの小型化及び高効率レベルの要求を効果的に促進することができる。
【0007】
特許CN11724985Aは、低B組成(0.80~0.93wt%)で合金を製錬し、所定量の遷移金属相(R6T13M)を有するようにして焼結磁石(又は拡散後磁石)を製造し、そして焼結磁石(又は拡散後磁石)を400℃以上600℃以下の温度で10秒以上30分以下保温処理し、高残留磁気及び高Hcjを同時に備えさせ、残留磁気は1.41Tに達することができる。低B組成を使用することで、粒界に幅の比較的広いR6T13M相を生じるが、ネオジム鉄ボロン磁石残留磁気の理論式の要求により、主相体積比率が減少し、そのBrが不可避的に低下し、且つ粒界中のR6T13M相はHcjの向上に役立つが、当該粒界相の安定性が比較的低く、設備プロセスの難易度に対する制御が高く要求され、磁石の直角度は変動しやすく、安定的に0.95より大きくすることができず、モータの高温減磁耐性に直接に影響を与える。
【0008】
特許CN10744699Aは、低B組成(0.94wt%)で合金を製錬し、柱状晶比率が95%以上である合金シートを製造し、回転水素破砕炉で処理し、高圧窒素ガスで大きさ3.75~3.9μmのジェットミル粉末を製造し、Brが1.44~1.48T、Hcjが14~16kOeに達する超高性能のネオジム鉄ボロン磁石を製造することができる。合金フレークの柱状晶比率を制御し、HD製造プロセスを最適化し、ジェットミル粉末の粒度範囲を制御し、更に焼結プロセスとマッチングし、高Br及び高Hcjの磁石が得られる。しかし、そのREの含有量が極めて低く、焼結時に主相結晶粒を均一に包み込み、焼結を促進する十分なNdリッチ相がなく、同時にZr又はTiのホウ化物などの粒界相が存在せず、結晶粒の異常成長が生じやすく、磁石結晶粒の大きさが不均一であるため直角度が悪化し、高いBr及びHcjを有するが、結晶粒の異常成長区域が逆磁化を極めて起こしやすく、磁石の減磁耐性を劣化させる。
【0009】
〔発明の概要〕
上記技術問題を解決するために、本発明は、高残留磁気ネオジム鉄ボロン磁石及びその製造方法並びに応用を提案する。
【0010】
本発明はネオジム鉄ボロン磁石を提供し、上記磁石は、R-T-B型化合物を主要構造とする結晶粒と、粒界相と、を有し、上記ネオジム鉄ボロン磁石は、
28wt%以上、30wt%以下のRと、
63wt%以上、70wt%以下のTと、
0.98wt%以上、1.05wt%以下のBと、
0wt%より大きく、0.3wt%以下のM1と、
0.04wt%以上、0.15wt%以下のM2と、を含み、
Rは希土類元素を表し、Nd、又はNdと希土類元素Pr、La、Ce、Dy、Tb、Hoから選ばれる少なくとも1種であり、
Tは、Fe及び/又はCoから選ばれ、そのうち、Feは、T総量の99wt%以上を占め、
M1は、Cu及びGaから選ばれ、且つGaは、M1総量の75wt%以上を占め、
M2は、Zr、Ti、Nbから選ばれる少なくとも1種である。
【0011】
好ましくは、M2はTiから選ばれる。
【0012】
本発明の実施形態によれば、上記ネオジム鉄ボロン磁石の製造原料において、元素の原子数は更に、以下の条件を満たす。
【0013】
2.15≦[R]/([B]-2[M2])≦2.35
【0014】
そのうち、[R]はRの原子百分率であり、[B]はBの原子百分率であり、[M2]はM2の原子百分率である。本発明において、原子百分率とは、[ある原子の数]/[原料における各原子の総数]を意味する。
【0015】
例示的には、[R]/([B]-2[M2])は、2.15、2.2、2.24、2.29、2.3である。
【0016】
本発明の実施形態によれば、RがNdと希土類元素Pr、La、Ce、Dy、Tb、Hoから選ばれる少なくとも1種である場合、Dy、Tb、Hoなどの重希土類元素の総質量は磁石の質量の1wt%以下を占め、好ましくは0.5wt%以下である。
【0017】
本発明の実施形態によれば、上記磁石は、以下の磁気特性を有する。
(1)直角度≧0.95、例えば0.95、0.96、0.97、0.98、0.99であり、
(2)Br≧1.44T、例えば1.45T、1.46T、1.47T、1.48T、1.49T、1.5Tであり、
(3)Hcj≧1100kA/m、例えば1100kA/m、1110kA/m、1120kA/m、1130kA/m、1140kA/m、1150kA/m、1160kA/m、1170kA/m、1180kA/m、1190kA/m、1200kA/mである。
【0018】
本発明は、製造原料における各元素の含有量を厳格に限定し、具体的には、
Pr、Dy、Tb、Hoなどの希土類元素からなるR-T-B系主相結晶粒の磁気分極強度がNdより低いため、磁石のBrを顕著に低下させ、磁石の高Brを保証すると同時に、Dy、Tb、Hoなどの重希土類元素を少量に使用することで磁石のHcjを高めることができる。磁石中のRが高すぎる場合、磁石のネオジムリッチ相が増加し、Brが低下し、Rが低すぎる場合、磁石中に、主相結晶粒の磁気絶縁のための均一で連続的なNdリッチ相を形成することができず、磁石のHcj及び直角度が急激に悪化する。
【0019】
Coが主相結晶粒中のFeの位置を占め、Coの原子磁気モーメントがFeよりも小さく、Coを添加することにより磁石のBrを低下させるため、FeがT総量の99%以上を占めるように制御すると同時に、他の成分を制御し、及びプロセスを最適化することで、磁石に対するCoの耐食性及び温度耐性を補い、改善する。
【0020】
従来技術は、低B(≦0.95wt%)で高性能ネオジム鉄ボロン磁石を製造し、R-T-Ga型粒界相を形成することで粒界相の厚さを増加させ、磁石のHcjを改善するが、粒界相が厚くなると、主相結晶粒の体積比を不可避的に減少させ、更に磁石のBr性能を顕著に低下させる。本発明は、Bの含有量を制御することで主相結晶粒の体積比を増加させ、磁石のBrを向上させ、Bの含有量が低すぎる場合、形成されたBリッチ相又はNdリッチ相の比率が比較的高く、主相結晶粒の体積比が小さいため、磁石のBrが比較的低く、Bの含有量が高すぎる場合、Bリッチ相の体積比率が顕著に高くなり、磁気特性を大幅に低下させる。
【0021】
M1は、主に粒界相に濃化し、粒界相の構造を改善し、Hcjを大幅に向上させることができる。磁石にCu、Gaが含まれていない場合、磁石の主相結晶粒及びBリッチ相は相対的に粗大となり、磁石の磁気特性を大幅に低下させ、磁石中のCu、Gaの含有量が高すぎる場合、結晶粒の成長を抑制し、同時に粒界相が厚くなり、主相結晶粒の体積比が減少し、磁石のBrを低下させる。本発明のGaの含有量に達する場合、磁石のHcjを顕著に向上させることができ、且つ磁石温度係数に対して顕著な最適化作用を有し、低いCoの含有量による磁石の温度耐性への影響を回避する。
【0022】
M2とBはA2B型化合物を形成し、粒界相に存在し、磁石結晶粒の異常成長を抑制する役割を果たす。M2の含有量が低すぎる場合、A2B型化合物の存在を効果的に形成できないため、磁石の主相結晶粒の異常成長を抑制することができず、M2の含有量が高すぎる場合、A2B型化合物は粒界相として存在し、主相結晶粒の体積比を減少させ、磁石は高Brを得ることができない。
【0023】
本発明は、上記ネオジム鉄ボロン磁石の製造方法であって、(a)上記ネオジム鉄ボロン磁石の製造原料を高温で溶融し、鋳造し、二次冷却した後に合金シートを形成する製錬工程と、(b)合金シートを粉砕して合金粉末を形成する製粉工程と、(c)合金粉末を磁界作用下でプレス成形し、ビレットを得るプレス成形工程と、(d)ビレットを高温で焼結処理する焼結工程と、を含む、製造方法を更に提供する。
【0024】
本発明の実施形態によれば、上記(a)製錬工程は、具体的には、上記ネオジム鉄ボロン磁石の製造原料を真空又は不活性ガス雰囲気で合金溶鋼に十分に溶融し、次に急速冷却して合金シートを形成し、更に二次冷却することを含み、且つ上記二次冷却と急速冷却の間隔は10sを超えず、且つ上記二次冷却の冷却速度は5~20℃/sである。好ましくは、上記溶融は、真空誘導製錬炉内で中周波誘導加熱によって行われる。本発明において、急速冷却は、所望の合金シートが得られる限り、当該技術分野で一般的に使用されている急速冷却方法を選用することができる。例示的には、上記急速冷却は、急冷ロールを用いて行われる。
【0025】
本発明において、上記二次冷却は、当該技術分野で一般的に使用されている冷却方法及び冷却装置を選用して行うことができる。例示的には、上記二次冷却は、低温不活性ガスのスプレー、水冷円盤又は他の形式の冷却装置から選ばれる何れか1つの冷却装置を用いて行われる。
【0026】
好ましくは、上記二次冷却の冷却速度は、好ましくは5~20℃/sである。
【0027】
好ましくは、上記合金シートの厚さは、0.15~0.45mmである。
【0028】
本発明の実施形態によれば、上記(b)製粉工程は粗粉砕及び微粉砕を含む。
【0029】
好ましくは、上記粗粉砕は水素破砕及び/又は中粉砕から選ばれる。
【0030】
好ましくは、上記微粉砕はジェットミルから選ばれる。好ましくは、上記ジェットミルは不活性ガス雰囲気で行われる。好ましくは、上記不活性ガスは窒素ガス、ヘリウムガスなどから選ばれる。
【0031】
本発明において、上記水素破砕、中粉砕又はジェットミルは、当該分野で既知の操作を使用することができる。
【0032】
好ましくは、上記微粉砕後、またグレーディングホイールスクリーニングなどのスクリーニングによって得られる。
【0033】
好ましくは、上記合金粉末の粒度SMDは2.0~3.4μmの間、且つX90/X10≦4.5である。そのうち、SMDは面積平均粒径であり、SMDが小さいほど、粉末粒子の粒度が小さいことを意味し、SMDが大きいほど、粉末粒子の粒度が大きいことを意味し、X90は累積分布百分率が90%に達した時に対応する粒径値を表し、即ち、全ての粒子の粒径がこの粒径以下であり、この粒径値より大きい粒子の数は0であり、X10は累積分布百分率が90%に達した時に対応する粒径値を表し、即ち、全ての粒子の粒径が何れもこの粒径以下であり、この粒径値より大きい粒子の数は0であり、ここで、X90/X10は粉末の粒度分布を表し、X90/X10が小さいほど、粉末の粒度分布が更に集中することを意味する。
【0034】
好ましくは、微粉砕時に、更に潤滑剤を加える必要があり、好ましくはジェットミルの前後で何れも潤滑剤を加える。ジェットミルの前に潤滑剤を添加することで、粉末の流動性を向上させ、ジェットミル時に粉末の流動性及び均一性を改善することができ、ジェットミルの後に潤滑剤を添加することで、粉末の均一性及び流動性を改善することもでき、均一な粉末充填及びプレスを容易にする。
【0035】
好ましくは、上記潤滑剤は、粉末を十分、均一に混合し、容易に成形できるように、当該分野で既知の試薬、及び当該分野で既知の用量から選ばれる。例示的には、上記潤滑剤は、揮発しやすい脂質類又はアルコール類などの有機溶媒から選ばれ、例えばステアリン酸亜鉛である。例示的には、上記潤滑剤の添加量は、製造原料の総質量の0.1~1wt%である。
【0036】
好ましくは、潤滑剤を加えた後、更に混合する必要がある。好ましくは、混合時間は3~6hである。
【0037】
本発明に記載の混合は、例えば、ミキサーに入れて混合するなど、当該技術分野で既知の方法を使用して行うことができる。
【0038】
本発明の実施形態によれば、上記(c)プレス成形工程は、具体的には、磁界作用下で合金粉末をプレス成形し、ビレットを得ることを含む。
【0039】
好ましくは、プレス成形は、プレス金型キャビティ内で行われる。
【0040】
好ましくは、プレス成形前、2Tの磁界強度下で配向着磁し、成形する必要がある。
【0041】
好ましくは、プレス成形後、逆磁界を加えて消磁する。
【0042】
好ましくは、成形ビレットを冷間静水圧プレスで更に処理し、ビレット密度を更に向上させることもできる。
【0043】
本発明の実施形態によれば、上記(d)焼結工程は、1回目の焼結、1回目の冷却、2回目の焼結及び2回目の冷却を含む。本発明における焼結工程は、当該技術分野で既知の方法を用いて行うことができる。例示的には、上記ビレットは焼結炉内で焼結する。
【0044】
好ましくは、上記焼結工程は真空雰囲気で行われる。好ましくは、加熱する時に、真空度は10-1Pa以下である。
【0045】
好ましくは、上記1回目の焼結の焼結温度は1000~1050℃であり、上記1回目の焼結の保温時間は240~360minである。
【0046】
好ましくは、2回目の焼結温度は、1回目の焼結温度よりも30~70℃高く、好ましくは1030~1100℃である。
【0047】
好ましくは、2回目の焼結の保温時間は270~360minである。
【0048】
好ましくは、1回目の冷却及び2回目の冷却は何れも200℃未満である。
【0049】
本発明の実施形態によれば、上記焼結工程は、2回目の冷却後に行われる時効処理を更に含む。
【0050】
好ましくは、上記時効処理は、一次時効処理又は二次時効処理から選ばれる。
【0051】
好ましくは、上記一次時効処理の条件は、時効処理温度が500~700℃の間であり、保温時間が240~420minであることである。
【0052】
好ましくは、上記二次時効処理は、昇温して温度を800~950℃とし、保温時間を180~300minとするように1回目の時効処理を行うことと、150℃以下に冷却した後、昇温して温度を450~600℃の間とし、保温時間を240~360minとするように2回目の時効処理を行うことと、を含む。
【0053】
本発明の実施形態によれば、焼結工程後、拡散処理を行うこともできる。
【0054】
好ましくは、上記拡散処理は、拡散材料を磁石表面に施し、真空高温拡散処理、拡散冷却及び拡散時効処理を行うことを含む。
【0055】
好ましくは、拡散材料は、Dy及び/又はTbの純金属、或いはDy及び/又はTbの水素化物、酸化物、水酸化物、フッ化物などの合金から選ばれる。
【0056】
好ましくは、拡散処理は、真空蒸着、マグネトロンスパッタリング、コーティング又は埋め込みなどの方法を選用して行うことができる。
【0057】
好ましくは、高温拡散の温度は850~950℃であり、高温拡散の時間は10~30hである。
【0058】
好ましくは、拡散冷却温度は100℃未満である。
【0059】
好ましくは、上記拡散時効処理の温度は450~600℃であり、上記拡散時効処理の時間は4~8hである。
【0060】
本発明の実施形態によれば、焼結工程後、拡散処理前、ビレットを目標サイズに加工することもできる。
【0061】
本発明は、磁石製造方法における各工程の条件を厳格に限定する必要があり、具体的には、合金溶鋼が急速冷却する時に、急冷ロールでの急速冷却を例にとると、急冷ロールのロール表面の合金シートは核形成点を形成し、核形成点を起点として結晶粒を形成し、そして成長する。合金シートは急冷ロールから脱落し、その温度は溶融温度から800℃程度に低下し、この場合、結晶粒が徐々に成長するため、二次冷却を適時に行い、合金シートの温度を低下させる必要があり、二次冷却の時間間隔が長すぎる場合、合金シート上の主相結晶粒が成長し続け、更に合金シートの温度が不均一に発散するため、二次結晶が生じ、これらの二次結晶が存在するため、主相結晶粒の粒径の均一性が悪くなり、それにより磁石の直角度が悪化する。冷却速度が遅すぎる場合、Bリッチ相が主相結晶粒の周囲の粒界相に大量生成し、この時に生成したBリッチ相は製粉、焼結などの工程において効果的に除去又は減少することができず、磁気特性が必ず急激に悪化し、冷却速度が速すぎる場合、合金シートは急速に冷却し、主相結晶粒の生長が停止し、周囲の粒界相及びBリッチ相を溶融吸収して更に成長することができず、体積比が比較的小さいため、磁石のBrが低下する。
【0062】
以上から分かるように、磁石の製造原料におけるRの含有量が比較的少ないため、合金シート上の主相結晶粒と主相結晶粒との間に2元粒界相と3元粒界相が存在することに加えて、主相結晶粒の一部が直接に接触し、このような直接に接触する主相結晶粒の間は極めて高い結合強度を有する。合金粉末の粒度が小さすぎる場合、合金粉末粒子は粒界相を主な破断区域として破断すると同時に、目標粉末の粒度を達成するために、主相結晶粒の内部破断も生じ、このような破断粉末はサイズ、表面状態が不規則となり、焼結後に隣接する結晶粒及び粒界相との接触区域に逆磁化点が形成されやすく、磁石の直角度が低く、高温又は他の外部磁界の作用下で磁石が消磁しやすいことを示す。粉末の粒度が大きすぎる場合、粒界相は主相結晶粒から十分に脱離することができないため、焼結時に主相結晶粒が溶融付着したNdリッチ相が成長し、主相結晶粒を包み込む十分なNdリッチ相がなく、磁石のHcjが大幅に低下する。粉末の粒度分布X90/X10が本発明の範囲内にある場合、粒径が均一で一致する磁石を得ることができ、この場合、比較的高いBr及びHcjを備え、粒度分布X90/X10が大きすぎる場合、磁石の結晶粒のサイズが大きく異なり、微細粉末が凝集し溶融して三角粒界相を形成しやすく、隣接する粗粉末が溶融して大きな結晶粒を形成し、これらは何れも磁石の直角度に重大な影響を与える。
【0063】
同時に、本発明は、二次焼結プロセスを用いることにより、磁石性能を大幅に向上させ、且つ磁石結晶粒の異常成長を効果的に抑制することができる。本発明に係るネオジム鉄ボロン磁石製造方法は、2回目の焼結温度が1回目の焼結温度よりも高く、比較的低い温度で1回目の焼結を行うことで、磁石の緻密性を向上させることができるが、依然として一部の隙間が存在し、主相結晶粒の異常成長を回避し、2回目の焼結温度が1回目の焼結温度より比較的大幅に向上することで、主相結晶粒の十分な成長を促進することができるが、主相結晶粒の異常成長を引き起して磁気特性が急激に悪化することはない。2回の焼結温度の温度差が低すぎる場合、焼結した磁石の緻密性を保証するために、一次焼結温度が比較的高く、結晶粒の配列が比較的緻密であり、比較的低い二次焼結温度は磁石の結晶粒の構造を十分に再構成して最適化することができないため、比較的高い磁気特性を得ることができない。2回の焼結の温度差が大すぎる場合、一次焼結温度が比較的低く、隙間が比較的大きく、二次焼結温度が高すぎて、一部の区域に結晶粒の異常成長が生じるため、磁石性能が悪化する。
【0064】
本発明は、モータ分野における上記磁石の応用を更に提供する。
【0065】
本発明は、上記磁石を含むモータを更に提供する。
【0066】
本発明は、上記モータの応用であって、好ましくは、上記モータが新エネルギー自動車、省エネルギー家電に適用できる、応用を更に提供する。
【0067】
〔有益な効果〕
本発明のネオジム鉄ボロン磁石は、B、Cu、Ga、RE、Tiなどの元素の比率関係を調整することにより、比較的高い主相結晶粒の体積比を得て、粒界相におけるBリッチ相の比率を効果的に抑制することができ、遷移金属元素M1(例えばGa)、M2(例えばTi)を添加することによって粒界相の構造を最適化して調整し、磁石に比較的高いBrを備えさせ、優れたHcj及び直角度性能を同時に備えさせる。
【0068】
本発明において、Bの含有量は一般的なネオジム鉄ボロン系焼結磁石よりも高い。一般的なネオジム鉄ボロン磁石は、磁石のBr及びHcj性能を同時に備える場合、[R]/([B]-2[M2])は2.35より僅かに大きく、2.5より大きく、Bリッチ相が比較的少ないか又はBリッチ相が存在しない。本発明は、当該比率を2.15~2.35の間にすることで、理論上で一般的なネオジム鉄ボロン磁石と比べて更に多くのBリッチ相が形成されるが、この関係式の比率範囲内で、本発明の製造方法における二次冷却に合わせて、磁石の主相結晶粒の体積比を増加させ、Bリッチ相の過度の形成を抑制することができ、磁石Brを保証すると同時に、優れたHcj及び直角度指標を有する。
【0069】
本発明の磁石は、極めて少量のDy/Tbなどの重希土類元素を用い、更に使用せずに、高残留磁気及び保磁力が得られ、且つ磁石の直角度≧0.95であり、製造プロセスが簡単であり、量産の安定性が高い。
【0070】
本発明の製造方法を用いて磁石を製造する場合、残留磁気が高く、Br≧1.44Tであり、非常に高いエネルギー密度を有し、モータに応用すると、単位体積のパワー出力を効果的に向上させることができ、モータの体積を効果的に減少させることができ、モータの他の部品の材料損失を節約し、モータの小型化、低コスト化に重要な役割を果たす。
【0071】
〔発明を実施するための形態〕
以下、具体的な実施例に合わせて、本発明の技術案を更に詳しく説明する。下記の実施例は、単に本発明を例示的に説明し解釈するものであり、本発明の請求範囲を限定するものとして解釈されるべきではないと理解すべきである。本発明の上記内容に基づいて実現される技術は、何れも本発明による請求範囲内に含まれる。
【0072】
特に説明のない限り、下記の実施例に使用される原料及び試薬は何れも市販品であり、又は既知の方法によって製造することができる。
【0073】
以下の実施例において、原子百分率とは、[ある原子の数]/[原料における各原子の総数]を意味する。そのうち、M1は、Cu及びGaから選ばれ、M2は、Zr、Ti、Nbから選ばれる少なくとも1種であり、Rは、Nd及び希土類元素Pr、La、Ce、Dy、Tb、Hoから選ばれる少なくとも1種である。
【0074】
〔実施例1~4〕
(1)表1の磁石の目標組成に従って原料を配合し、そしてメルトスピニング鋳造プロセスによりネオジム鉄ボロン合金シートを製造し、合金シートは急冷ロールで冷却して脱落した後、低温アルゴンガスを噴射して二次冷却を行い、低温アルゴンガスの流量及び温度を調整することにより、合金シートは10℃/sの冷却速度で二次冷却を行って合金シートを得て、合金シートは水冷円盤に落下させて回収することにより、厚さ0.15~0.45mmの合金シートを製造した。
【0075】
【0076】
(2)水素破砕プロセスにより上記合金シートを粗粉砕処理して粉末を得て、質量が原材料の0.1wt%であるステアリン酸亜鉛を潤滑剤として粉末に添加し、60min混合した。混合後の材料を流動床式ジェットミルで微粉砕処理し、窒素ガスを研磨ガスとして、グレーディングホイールの回転速度、研磨圧力などの設備パラメータを調整することにより、目標粒度SMD=2.5μmのジェットミル粉末を得た。
【0077】
(3)質量が原材料の0.2wt%であるステアリン酸亜鉛を潤滑剤として、製造された目標粒度のジェットミル粉末に更に添加し、十分に混合した後、2Tの磁化磁場強度でプレスしてビレットを形成し、更に油冷間静水圧プレス処理によりビレットの緻密性を向上させる。
【0078】
(4)ビレットを焼結炉内に入れ、真空雰囲気で二次焼結処理し、2回の焼結保温時間は何れも270minであり、焼結冷却が80℃より低い時点で、加熱して890℃に昇温して保温し、保温時間は240minであり、冷却後に二次時効を行い、各組成に応じて最適な時効温度に調整し、時効保温時間は280minであり、具体的な焼結時効制度は表2に示された。
【0079】
【0080】
焼結時効処理後の磁石を直径10mm、高さ10mmの標準サンプルカラムに加工し、BHアナライザで磁石性能を測定し、具体的な磁気特性測定の結果は表3に示された。
【0081】
【0082】
表3の結果から分かるように、各元素の組成が制御範囲内にある場合、磁石は比較的高い残留磁気及び保磁力を備え、同時に直角度を≧0.95に確保することができる。これにより、磁石がモータ動作時に安定したパワー出力を提供できることを保証した。
【0083】
〔比較例1~2〕
表4の磁石の目標組成に従って原料を配合し、そしてメルトスピニング鋳造プロセスによりネオジム鉄ボロン合金シートを製造し、合金シートは急冷ロールで冷却して脱落した後、低温アルゴンガスを噴射して二次冷却を行い、低温アルゴンガスの流量及び温度を調整することにより、合金シートは10℃/sの冷却速度で二次冷却を行って合金シートを得て、合金シートは水冷円盤に落下させて回収することにより、合金シートを得た。
【0084】
〔比較例3〕
表4の磁石の目標組成に従って原料を配合し、そしてメルトスピニング鋳造プロセスによりネオジム鉄ボロン合金シートを製造し、合金シートは急冷ロールで急冷した後、水冷円盤に直接に落下させて冷却して回収した。
【0085】
〔比較例4〕
表4の磁石の目標組成に従って原料を配合し、そしてメルトスピニング鋳造プロセスによりネオジム鉄ボロン合金シートを製造し、合金シートは急冷ロールで急冷した後、水冷円盤に直接に落下させて冷却して回収した。
【0086】
【0087】
比較例1~4で得られた合金シートは、実施例と同様のプロセスによりSMD=2.5μmを目標とするジェットミル粉末を製造し、そしてプレスし、焼結時効処理した。具体的なプロセスパラメータは表5に示された。
【0088】
【0089】
比較例1~4で製造した磁石を直径10mm、高さ10mmの標準サンプルカラムに加工し、BHアナライザで磁石性能を測定し、具体的な磁気特性測定の結果は表6に示された。
【0090】
【0091】
比較例1から分かるように、[R]、[B]、[M2]の比率関係が2.35を超える場合、Hcjが僅かに向上したが、Brが明らかに低下し、且つ直角度が0.95未満であるため、その減磁耐性が変動し、モータの高速動作時に安定的に磁界を出力することができない。
【0092】
比較例2の[Cu]、[Ga]の比率関係が0.75よりも遥かに小さいため、磁石のBr及びHcjは何れも実施例よりも明らかに低下し、高残留磁気及び高保磁力を同時に備えることができない。
【0093】
比較例3の目標磁石の組成は実施例1と同じであるが、製錬工程において本特許請求の範囲の方法で合金シートを二次冷却せず、表3から分かるように、合金シートの二次冷却を取り除く場合、合金シートは結晶粒が顕著に成長するため、厚さが増加し、ジェットミル研磨を行う場合、目標SMDのジェットミル粉末が得られるが、粒度分布(X90/X10)が顕著に悪化し、粗粉末及び微細粉末の比率が増加し、粉末の均一性が低く、且つ焼結工程において一次焼結のみを行い、二次焼結プロセスを行っておらず、磁石の残留磁気及び保磁力は何れも明らかに低下した。
【0094】
比較例4から分かるように、[Cu]、[Ga]の比率関係が0.75未満であり、且つ本発明に記載の二次冷却及び二次焼結プロセスを使用しない場合、そのHcjは明らかに低下し、且つ直角度が0.95よりも遥かに低いため、その減磁耐性が変動し、モータの高速動作時に安定的に磁界を出力することができない。
【0095】
〔実施例5〕
実施例1の焼結時効後の磁石を取り、長さ20mm、幅20mm、厚さ5mmのシート製品に加工し、浸漬塗布プロセスにより、磁石表面に金属Dyの薄膜を加え、次に900℃で15時間保温して拡散処理を行い、拡散温度を100℃未満に冷却した後、更に500℃に昇温して5時間時効処理を行った。最終的な磁石について磁気特性測定及び成分測定を行った。その最終的な成分及び磁気特性の結果は表9及び表10に示された。
【0096】
【0097】
【0098】
上記結果から分かるように、拡散後の磁石の保磁力は顕著に向上し、且つBrが明らかに低下せず、本発明の磁石は拡散基材としても使用可能である。
【0099】
以上、本発明の例示的な実施形態について説明した。しかし、本発明は上記の実施形態に限定されない。当業者が本発明の精神及び原則を逸脱しない範囲で行われたあらゆる修正、同等置換、改良などは、何れも本発明の請求範囲内に含まれるべきである。
【手続補正書】
【提出日】2024-03-22
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネオジム鉄ボロン磁石であって、
R-T-B型化合物を主要構造とする結晶粒と、粒界相と、を有し、前記ネオジム鉄ボロン磁石は、
28wt%以上、30wt%以下のRと、
63wt%以上、70wt%以下のTと、
0.98wt%以上、1.05wt%以下のBと、
0wt%より大きく、0.3wt%以下のM1と、
0.04wt%以上、0.15wt%以下のM2と、を含み、
Rは希土類元素を表し、Nd、又はNdと希土類元素Pr、La、Ce、Dy、Tb、Hoから選ばれる少なくとも1種であり、
Tは、Fe及び/又はCoから選ばれ、そのうち、Feは、T総量の99wt%以上を占め、
M1は、Cu及びGaから選ばれ、且つGaは、M1総量の75wt%以上を占め、
M2は、Zr、Ti、Nbから選ばれる少なくとも1種であり、
前記ネオジム鉄ボロン磁石の製造原料において、元素の原子数は更に、以下の条件を満たし、
2.15≦[R]/([B]-2[M2])≦2.35、
そのうち、[R]はRの原子百分率であり、[B]はBの原子百分率であり、[M2]はM2の原子百分率であり、
RがNdと希土類元素Pr、La、Ce、Dy、Tb、Hoから選ばれる少なくとも1種である場合、Dy、Tb、Hoなどの重希土類元素の総質量は磁石の質量の1wt%以下を占め、
前記磁石は、
(4)直角度≧0.95、
(5)Br≧1.44T、
(6)Hcj≧1100kA/mという磁気特性を有する、
ことを特徴とするネオジム鉄ボロン磁石。
【請求項2】
Dy、Tb、Hoなどの重希土類元素の総質量は、磁石の質量の0.5wt%以下を占め、
好ましくは、M2はTiから選ばれる、
ことを特徴とする請求項1に記載のネオジム鉄ボロン磁石。
【請求項3】
(a)前記ネオジム鉄ボロン磁石の製造原料を高温で溶融し、鋳造し、二次冷却した後に合金シートを形成する製錬工程と、
(b)合金シートを粉砕して合金粉末を形成する製粉工程と、(c)合金粉末を磁界作用下でプレス成形し、ビレットを得るプレス成形工程と、
(d)ビレットを高温で焼結処理する焼結工程と、を含む、
ことを特徴とする請求項
1に記載のネオジム鉄ボロン磁石の製造方法。
【請求項4】
前記(a)製錬工程は、具体的には、前記ネオジム鉄ボロン磁石の製造原料を真空又は不活性ガス雰囲気で合金溶鋼に十分に溶融し、次に急速冷却して合金シートを形成し、更に二次冷却することを含み、且つ前記二次冷却と急速冷却の間隔は10sを超えず、且つ前記二次冷却の冷却速度は5~20℃/sである、
ことを特徴とする請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記急速冷却は急冷ロールを用いて行われ、
好ましくは、前記二次冷却は、低温不活性ガスのスプレー、水冷円盤又は他の形式の冷却装置から選ばれる何れか1つの冷却装置を用いて行われ、
好ましくは、前記二次冷却の冷却速度は、好ましくは5~20℃/sであり、
好ましくは、前記合金シートの厚さは、0.15~0.45mmである、
ことを特徴とする請求項
3に記載の製造方法。
【請求項6】
前記(b)製粉工程は粗粉砕及び微粉砕を含み、
好ましくは、前記粗粉砕は水素破砕及び/又は中粉砕から選ばれ、
好ましくは、前記微粉砕はジェットミルから選ばれ、好ましくは、前記ジェットミルは不活性ガス雰囲気で行われ、好ましくは、前記不活性ガスは窒素ガス、ヘリウムガスなどから選ばれ、
好ましくは、前記微粉砕後、またグレーディングホイールスクリーニングなどのスクリーニングによって得られ、
好ましくは、前記合金粉末の粒度SMDは2.0~3.4μmの間、且つX90/X10≦4.5であり、
好ましくは、微粉砕時に、更に潤滑剤を加える必要があり、好ましくはジェットミルの前後で何れも潤滑剤を加え、好ましくは、前記潤滑剤は、揮発しやすい脂質類又はアルコール類などの有機溶媒から選ばれ、例示的には、前記潤滑剤の添加量は、製造原料の総質量の0.1~1wt%であり、
好ましくは、潤滑剤を加えた後、更に混合する必要があり、好ましくは、混合時間は3~6hであり、
好ましくは、前記(c)プレス成形工程は、具体的には、磁界作用下で合金粉末をプレス成形し、ビレットを得ることを含み、
好ましくは、プレス成形前、2Tの磁界強度下で配向着磁し、成形する必要があり、
好ましくは、プレス成形後、逆磁界を加えて消磁し、
好ましくは、成形ビレットを冷間静水圧プレスで更に処理し、ビレット密度を更に向上させることもできる、
ことを特徴とする請求項
3に記載の製造方法。
【請求項7】
前記(d)焼結工程は、1回目の焼結、1回目の冷却、2回目の焼結及び2回目の冷却を含み、
好ましくは、前記焼結工程は真空雰囲気で行われ、好ましくは、加熱する時に、真空度は10-1Pa以下であり、
好ましくは、前記1回目の焼結の焼結温度は1000~1050℃であり、上記1回目の焼結の保温時間は240~360minであり、
好ましくは、2回目の焼結温度は、1回目の焼結温度よりも30~70℃高く、好ましくは1030~1100℃であり、
好ましくは、2回目の焼結の保温時間は270~360minであり、
好ましくは、1回目の冷却及び2回目の冷却は何れも200℃未満であり、
好ましくは、前記焼結工程は、2回目の冷却後に行われる時効処理を更に含み、
好ましくは、前記時効処理は、一次時効処理又は二次時効処理から選ばれ、
好ましくは、前記一次時効処理の条件は、時効処理温度が500~700℃の間であり、保温時間が240~420minであることであり、
好ましくは、前記二次時効処理は、昇温して温度を800~950℃とし、保温時間を180~300minとするように1回目の時効処理を行うことと、150℃以下に冷却した後、昇温して温度を450~600℃の間とし、保温時間を240~360minとするように2回目の時効処理を行うことと、を含み、
好ましくは、焼結工程後、拡散処理を行うこともでき、
好ましくは、前記拡散処理は、拡散材料を磁石表面に施し、真空高温拡散処理、拡散冷却及び拡散時効処理を行うことを含み、
好ましくは、拡散材料は、Dy及び/又はTbの純金属、或いはDy及び/又はTbの水素化物、酸化物、水酸化物、フッ化物などの合金から選ばれ、
好ましくは、拡散処理は、真空蒸着、マグネトロンスパッタリング、コーティング又は埋め込みなどの方法を選用して行うことができ、
好ましくは、高温拡散の温度は850~950℃であり、高温拡散の時間は10~30hであり、
好ましくは、拡散冷却温度は100℃未満であり、
好ましくは、前記拡散時効処理の温度は450~600℃であり、前記拡散時効処理の時間は4~8hである、
ことを特徴とする請求項
3に記載の製造方法。
【請求項8】
モータ分野における請求項
1に記載の磁石の応用。
【請求項9】
請求項
1に記載の磁石を含むモータ。
【請求項10】
好ましくは、前記モータは、新エネルギー自動車、省エネルギー家電に適用できる、
請求項9に記載のモータの応用。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔優先権及び関連出願〕
本願は、2021年9月22日に中国国家知識産権局に提出された、特許出願番号が202111107088.3であり、発明名称が「高残留磁気ネオジム鉄ボロン磁石及びその製造方法並びに応用」である先行出願の優先権を主張する。上記先行出願は全体として援用により本願に組み込まれている。
【0002】
〔技術分野〕
本発明は、ネオジム鉄ボロン磁石分野に属し、具体的にはネオジム鉄ボロン系焼結磁石及びその製造方法並びに応用に関する。
【0003】
〔背景技術〕
ネオジム鉄ボロン系焼結磁石は、第4世代の永久磁石材料として、その優れた磁気特性のため「磁気キング」と呼ばれ、自動車、風力発電、圧縮機、エレベーター及び産業自動化などの多くの分野で広く適用されている。
【0004】
21世紀に入って以来、磁性鋼は、保磁力性能の向上に一層関心を集め、特に、貯蔵量が比較的稀少な重希土類資源の供給に不均衡が生じ、原材料価格が急速に高騰することによるコストの問題で、重希土類の使用量を低減するという前提で、磁性鋼の動作温度下での減磁耐性を保証するために、結晶粒微細化技術や粒界拡散技術のような保磁力性能を維持し、更に向上させる研究を多くの学者及び企業が行ってきている。
【0005】
新エネルギー自動車市場の高まり及び高効率省エネルギー家電の新たな政策により、モータの小型化、高効率の指標が新たな関心点となっており、モータのできる限りの小型化、モータの出力パワーの維持又は更なる向上を保証するために、動力中心である磁性鋼は高いエネルギー密度、即ち高残留磁気を有することが必要である。
【0006】
理論上、純ネオジム鉄ボロン磁石の限界残留磁気は1.61Tであり、現在、実験室条件で得られる残留磁気は最大1.56Tであるが、プロセスの難しさや設備精度などの理由から量産化には程遠い。同時に、新エネルギー自動車及び省エネルギー家電などの分野で使用される磁性鋼は、その主流残留磁気の範囲は1.10~1.40Tの間であり、残留磁気を更に高めることができれば、モータの小型化及び高効率レベルの要求を効果的に促進することができる。
【0007】
特許CN111724985Aは、低B組成(0.80~0.93wt%)で合金を製錬し、所定量の遷移金属相(R6T13M)を有するようにして焼結磁石(又は拡散後磁石)を製造し、そして焼結磁石(又は拡散後磁石)を400℃以上600℃以下の温度で10秒以上30分以下保温処理し、高残留磁気及び高Hcjを同時に備えさせ、残留磁気は1.41Tに達することができる。低B組成を使用することで、粒界に幅の比較的広いR6T13M相を生じるが、ネオジム鉄ボロン磁石残留磁気の理論式の要求により、主相体積比率が減少し、そのBrが不可避的に低下し、且つ粒界中のR6T13M相はHcjの向上に役立つが、当該粒界相の安定性が比較的低く、設備プロセスの難易度に対する制御が高く要求され、磁石の直角度は変動しやすく、安定的に0.95より大きくすることができず、モータの高温減磁耐性に直接に影響を与える。
【0008】
特許CN107424699Aは、低B組成(0.94wt%)で合金を製錬し、柱状晶比率が95%以上である合金シートを製造し、回転水素破砕炉で処理し、高圧窒素ガスで大きさ3.75~3.9μmのジェットミル粉末を製造し、Brが1.44~1.48T、Hcjが14~16kOeに達する超高性能のネオジム鉄ボロン磁石を製造することができる。合金フレークの柱状晶比率を制御し、HD製造プロセスを最適化し、ジェットミル粉末の粒度範囲を制御し、更に焼結プロセスとマッチングし、高Br及び高Hcjの磁石が得られる。しかし、そのREの含有量が極めて低く、焼結時に主相結晶粒を均一に包み込み、焼結を促進する十分なNdリッチ相がなく、同時にZr又はTiのホウ化物などの粒界相が存在せず、結晶粒の異常成長が生じやすく、磁石結晶粒の大きさが不均一であるため直角度が悪化し、高いBr及びHcjを有するが、結晶粒の異常成長区域が逆磁化を極めて起こしやすく、磁石の減磁耐性を劣化させる。
【0009】
〔発明の概要〕
上記技術問題を解決するために、本発明は、高残留磁気ネオジム鉄ボロン磁石及びその製造方法並びに応用を提案する。
【0010】
本発明はネオジム鉄ボロン磁石を提供し、上記磁石は、R-T-B型化合物を主要構造とする結晶粒と、粒界相と、を有し、上記ネオジム鉄ボロン磁石は、
28wt%以上、30wt%以下のRと、
63wt%以上、70wt%以下のTと、
0.98wt%以上、1.05wt%以下のBと、
0wt%より大きく、0.3wt%以下のM1と、
0.04wt%以上、0.15wt%以下のM2と、を含み、
Rは希土類元素を表し、Nd、又はNdと希土類元素Pr、La、Ce、Dy、Tb、Hoから選ばれる少なくとも1種であり、
Tは、Fe及び/又はCoから選ばれ、そのうち、Feは、T総量の99wt%以上を占め、
M1は、Cu及びGaから選ばれ、且つGaは、M1総量の75wt%以上を占め、
M2は、Zr、Ti、Nbから選ばれる少なくとも1種である。
【0011】
好ましくは、M2はTiから選ばれる。
【0012】
本発明の実施形態によれば、上記ネオジム鉄ボロン磁石の製造原料において、元素の原子数は更に、以下の条件を満たす。
【0013】
2.15≦[R]/([B]-2[M2])≦2.35
【0014】
そのうち、[R]はRの原子百分率であり、[B]はBの原子百分率であり、[M2]はM2の原子百分率である。本発明において、原子百分率とは、[ある原子の数]/[原料における各原子の総数]を意味する。
【0015】
例示的には、[R]/([B]-2[M2])は、2.15、2.2、2.24、2.29、2.3である。
【0016】
本発明の実施形態によれば、RがNdと希土類元素Pr、La、Ce、Dy、Tb、Hoから選ばれる少なくとも1種である場合、Dy、Tb、Hoなどの重希土類元素の総質量は磁石の質量の1wt%以下を占め、好ましくは0.5wt%以下である。
【0017】
本発明の実施形態によれば、上記磁石は、以下の磁気特性を有する。
(1)直角度≧0.95、例えば0.95、0.96、0.97、0.98、0.99であり、
(2)Br≧1.44T、例えば1.45T、1.46T、1.47T、1.48T、1.49T、1.5Tであり、
(3)Hcj≧1100kA/m、例えば1100kA/m、1110kA/m、1120kA/m、1130kA/m、1140kA/m、1150kA/m、1160kA/m、1170kA/m、1180kA/m、1190kA/m、1200kA/mである。
【0018】
本発明は、製造原料における各元素の含有量を厳格に限定し、具体的には、
Pr、Dy、Tb、Hoなどの希土類元素からなるR-T-B系主相結晶粒の磁気分極強度がNdより低いため、磁石のBrを顕著に低下させ、磁石の高Brを保証すると同時に、Dy、Tb、Hoなどの重希土類元素を少量に使用することで磁石のHcjを高めることができる。磁石中のRが高すぎる場合、磁石のネオジムリッチ相が増加し、Brが低下し、Rが低すぎる場合、磁石中に、主相結晶粒の磁気絶縁のための均一で連続的なNdリッチ相を形成することができず、磁石のHcj及び直角度が急激に悪化する。
【0019】
Coが主相結晶粒中のFeの位置を占め、Coの原子磁気モーメントがFeよりも小さく、Coを添加することにより磁石のBrを低下させるため、FeがT総量の99%以上を占めるように制御すると同時に、他の成分を制御し、及びプロセスを最適化することで、磁石に対するCoの耐食性及び温度耐性を補い、改善する。
【0020】
従来技術は、低B(≦0.95wt%)で高性能ネオジム鉄ボロン磁石を製造し、R-T-Ga型粒界相を形成することで粒界相の厚さを増加させ、磁石のHcjを改善するが、粒界相が厚くなると、主相結晶粒の体積比を不可避的に減少させ、更に磁石のBr性能を顕著に低下させる。本発明は、Bの含有量を制御することで主相結晶粒の体積比を増加させ、磁石のBrを向上させ、Bの含有量が低すぎる場合、形成されたBリッチ相又はNdリッチ相の比率が比較的高く、主相結晶粒の体積比が小さいため、磁石のBrが比較的低く、Bの含有量が高すぎる場合、Bリッチ相の体積比率が顕著に高くなり、磁気特性を大幅に低下させる。
【0021】
M1は、主に粒界相に濃化し、粒界相の構造を改善し、Hcjを大幅に向上させることができる。磁石にCu、Gaが含まれていない場合、磁石の主相結晶粒及びBリッチ相は相対的に粗大となり、磁石の磁気特性を大幅に低下させ、磁石中のCu、Gaの含有量が高すぎる場合、結晶粒の成長を抑制し、同時に粒界相が厚くなり、主相結晶粒の体積比が減少し、磁石のBrを低下させる。本発明のGaの含有量に達する場合、磁石のHcjを顕著に向上させることができ、且つ磁石温度係数に対して顕著な最適化作用を有し、低いCoの含有量による磁石の温度耐性への影響を回避する。
【0022】
M2とBはA2B型化合物を形成し、粒界相に存在し、磁石結晶粒の異常成長を抑制する役割を果たす。M2の含有量が低すぎる場合、A2B型化合物の存在を効果的に形成できないため、磁石の主相結晶粒の異常成長を抑制することができず、M2の含有量が高すぎる場合、A2B型化合物は粒界相として存在し、主相結晶粒の体積比を減少させ、磁石は高Brを得ることができない。
【0023】
本発明は、上記ネオジム鉄ボロン磁石の製造方法であって、(a)上記ネオジム鉄ボロン磁石の製造原料を高温で溶融し、鋳造し、二次冷却した後に合金シートを形成する製錬工程と、(b)合金シートを粉砕して合金粉末を形成する製粉工程と、(c)合金粉末を磁界作用下でプレス成形し、ビレットを得るプレス成形工程と、(d)ビレットを高温で焼結処理する焼結工程と、を含む、製造方法を更に提供する。
【0024】
本発明の実施形態によれば、上記(a)製錬工程は、具体的には、上記ネオジム鉄ボロン磁石の製造原料を真空又は不活性ガス雰囲気で合金溶鋼に十分に溶融し、次に急速冷却して合金シートを形成し、更に二次冷却することを含み、且つ上記二次冷却と急速冷却の間隔は10sを超えず、且つ上記二次冷却の冷却速度は5~20℃/sである。好ましくは、上記溶融は、真空誘導製錬炉内で中周波誘導加熱によって行われる。本発明において、急速冷却は、所望の合金シートが得られる限り、当該技術分野で一般的に使用されている急速冷却方法を選用することができる。例示的には、上記急速冷却は、急冷ロールを用いて行われる。
【0025】
本発明において、上記二次冷却は、当該技術分野で一般的に使用されている冷却方法及び冷却装置を選用して行うことができる。例示的には、上記二次冷却は、低温不活性ガスのスプレー、水冷円盤又は他の形式の冷却装置から選ばれる何れか1つの冷却装置を用いて行われる。
【0026】
好ましくは、上記二次冷却の冷却速度は、好ましくは5~20℃/sである。
【0027】
好ましくは、上記合金シートの厚さは、0.15~0.45mmである。
【0028】
本発明の実施形態によれば、上記(b)製粉工程は粗粉砕及び微粉砕を含む。
【0029】
好ましくは、上記粗粉砕は水素破砕及び/又は中粉砕から選ばれる。
【0030】
好ましくは、上記微粉砕はジェットミルから選ばれる。好ましくは、上記ジェットミルは不活性ガス雰囲気で行われる。好ましくは、上記不活性ガスは窒素ガス、ヘリウムガスなどから選ばれる。
【0031】
本発明において、上記水素破砕、中粉砕又はジェットミルは、当該分野で既知の操作を使用することができる。
【0032】
好ましくは、上記微粉砕後、またグレーディングホイールスクリーニングなどのスクリーニングによって得られる。
【0033】
好ましくは、上記合金粉末の粒度SMDは2.0~3.4μmの間、且つX90/X10≦4.5である。そのうち、SMDは面積平均粒径であり、SMDが小さいほど、粉末粒子の粒度が小さいことを意味し、SMDが大きいほど、粉末粒子の粒度が大きいことを意味し、X90は累積分布百分率が90%に達した時に対応する粒径値を表し、即ち、全ての粒子の粒径がこの粒径以下であり、この粒径値より大きい粒子の数は0であり、X10は累積分布百分率が10%に達した時に対応する粒径値を表し、即ち、全ての粒子の粒径が何れもこの粒径以下であり、この粒径値より大きい粒子の数は0であり、ここで、X90/X10は粉末の粒度分布を表し、X90/X10が小さいほど、粉末の粒度分布が更に集中することを意味する。
【0034】
好ましくは、微粉砕時に、更に潤滑剤を加える必要があり、好ましくはジェットミルの前後で何れも潤滑剤を加える。ジェットミルの前に潤滑剤を添加することで、粉末の流動性を向上させ、ジェットミル時に粉末の流動性及び均一性を改善することができ、ジェットミルの後に潤滑剤を添加することで、粉末の均一性及び流動性を改善することもでき、均一な粉末充填及びプレスを容易にする。
【0035】
好ましくは、上記潤滑剤は、粉末を十分、均一に混合し、容易に成形できるように、当該分野で既知の試薬、及び当該分野で既知の用量から選ばれる。例示的には、上記潤滑剤は、揮発しやすい脂質類又はアルコール類などの有機溶媒から選ばれ、例えばステアリン酸亜鉛である。例示的には、上記潤滑剤の添加量は、製造原料の総質量の0.1~1wt%である。
【0036】
好ましくは、潤滑剤を加えた後、更に混合する必要がある。好ましくは、混合時間は3~6hである。
【0037】
本発明に記載の混合は、例えば、ミキサーに入れて混合するなど、当該技術分野で既知の方法を使用して行うことができる。
【0038】
本発明の実施形態によれば、上記(c)プレス成形工程は、具体的には、磁界作用下で合金粉末をプレス成形し、ビレットを得ることを含む。
【0039】
好ましくは、プレス成形は、プレス金型キャビティ内で行われる。
【0040】
好ましくは、プレス成形前、2Tの磁界強度下で配向着磁し、成形する必要がある。
【0041】
好ましくは、プレス成形後、逆磁界を加えて消磁する。
【0042】
好ましくは、成形ビレットを冷間静水圧プレスで更に処理し、ビレット密度を更に向上させることもできる。
【0043】
本発明の実施形態によれば、上記(d)焼結工程は、1回目の焼結、1回目の冷却、2回目の焼結及び2回目の冷却を含む。本発明における焼結工程は、当該技術分野で既知の方法を用いて行うことができる。例示的には、上記ビレットは焼結炉内で焼結する。
【0044】
好ましくは、上記焼結工程は真空雰囲気で行われる。好ましくは、加熱する時に、真空度は10-1Pa以下である。
【0045】
好ましくは、上記1回目の焼結の焼結温度は1000~1050℃であり、上記1回目の焼結の保温時間は240~360minである。
【0046】
好ましくは、2回目の焼結温度は、1回目の焼結温度よりも30~70℃高く、好ましくは1030~1100℃である。
【0047】
好ましくは、2回目の焼結の保温時間は270~360minである。
【0048】
好ましくは、1回目の冷却及び2回目の冷却は何れも200℃未満である。
【0049】
本発明の実施形態によれば、上記焼結工程は、2回目の冷却後に行われる時効処理を更に含む。
【0050】
好ましくは、上記時効処理は、一次時効処理又は二次時効処理から選ばれる。
【0051】
好ましくは、上記一次時効処理の条件は、時効処理温度が500~700℃の間であり、保温時間が240~420minであることである。
【0052】
好ましくは、上記二次時効処理は、昇温して温度を800~950℃とし、保温時間を180~300minとするように1回目の時効処理を行うことと、150℃以下に冷却した後、昇温して温度を450~600℃の間とし、保温時間を240~360minとするように2回目の時効処理を行うことと、を含む。
【0053】
本発明の実施形態によれば、焼結工程後、拡散処理を行うこともできる。
【0054】
好ましくは、上記拡散処理は、拡散材料を磁石表面に施し、真空高温拡散処理、拡散冷却及び拡散時効処理を行うことを含む。
【0055】
好ましくは、拡散材料は、Dy及び/又はTbの純金属、或いはDy及び/又はTbの水素化物、酸化物、水酸化物、フッ化物などの合金から選ばれる。
【0056】
好ましくは、拡散処理は、真空蒸着、マグネトロンスパッタリング、コーティング又は埋め込みなどの方法を選用して行うことができる。
【0057】
好ましくは、高温拡散の温度は850~950℃であり、高温拡散の時間は10~30hである。
【0058】
好ましくは、拡散冷却温度は100℃未満である。
【0059】
好ましくは、上記拡散時効処理の温度は450~600℃であり、上記拡散時効処理の時間は4~8hである。
【0060】
本発明の実施形態によれば、焼結工程後、拡散処理前、ビレットを目標サイズに加工することもできる。
【0061】
本発明は、磁石製造方法における各工程の条件を厳格に限定する必要があり、具体的には、合金溶鋼が急速冷却する時に、急冷ロールでの急速冷却を例にとると、急冷ロールのロール表面の合金シートは核形成点を形成し、核形成点を起点として結晶粒を形成し、そして成長する。合金シートは急冷ロールから脱落し、その温度は溶融温度から800℃程度に低下し、この場合、結晶粒が徐々に成長するため、二次冷却を適時に行い、合金シートの温度を低下させる必要があり、二次冷却の時間間隔が長すぎる場合、合金シート上の主相結晶粒が成長し続け、更に合金シートの温度が不均一に発散するため、二次結晶が生じ、これらの二次結晶が存在するため、主相結晶粒の粒径の均一性が悪くなり、それにより磁石の直角度が悪化する。冷却速度が遅すぎる場合、Bリッチ相が主相結晶粒の周囲の粒界相に大量生成し、この時に生成したBリッチ相は製粉、焼結などの工程において効果的に除去又は減少することができず、磁気特性が必ず急激に悪化し、冷却速度が速すぎる場合、合金シートは急速に冷却し、主相結晶粒の生長が停止し、周囲の粒界相及びBリッチ相を溶融吸収して更に成長することができず、体積比が比較的小さいため、磁石のBrが低下する。
【0062】
以上から分かるように、磁石の製造原料におけるRの含有量が比較的少ないため、合金シート上の主相結晶粒と主相結晶粒との間に2元粒界相と3元粒界相が存在することに加えて、主相結晶粒の一部が直接に接触し、このような直接に接触する主相結晶粒の間は極めて高い結合強度を有する。合金粉末の粒度が小さすぎる場合、合金粉末粒子は粒界相を主な破断区域として破断すると同時に、目標粉末の粒度を達成するために、主相結晶粒の内部破断も生じ、このような破断粉末はサイズ、表面状態が不規則となり、焼結後に隣接する結晶粒及び粒界相との接触区域に逆磁化点が形成されやすく、磁石の直角度が低く、高温又は他の外部磁界の作用下で磁石が消磁しやすいことを示す。粉末の粒度が大きすぎる場合、粒界相は主相結晶粒から十分に脱離することができないため、焼結時に主相結晶粒が溶融付着したNdリッチ相が成長し、主相結晶粒を包み込む十分なNdリッチ相がなく、磁石のHcjが大幅に低下する。粉末の粒度分布X90/X10が本発明の範囲内にある場合、粒径が均一で一致する磁石を得ることができ、この場合、比較的高いBr及びHcjを備え、粒度分布X90/X10が大きすぎる場合、磁石の結晶粒のサイズが大きく異なり、微細粉末が凝集し溶融して三角粒界相を形成しやすく、隣接する粗粉末が溶融して大きな結晶粒を形成し、これらは何れも磁石の直角度に重大な影響を与える。
【0063】
同時に、本発明は、二次焼結プロセスを用いることにより、磁石性能を大幅に向上させ、且つ磁石結晶粒の異常成長を効果的に抑制することができる。本発明に係るネオジム鉄ボロン磁石製造方法は、2回目の焼結温度が1回目の焼結温度よりも高く、比較的低い温度で1回目の焼結を行うことで、磁石の緻密性を向上させることができるが、依然として一部の隙間が存在し、主相結晶粒の異常成長を回避し、2回目の焼結温度が1回目の焼結温度より比較的大幅に向上することで、主相結晶粒の十分な成長を促進することができるが、主相結晶粒の異常成長を引き起して磁気特性が急激に悪化することはない。2回の焼結温度の温度差が低すぎる場合、焼結した磁石の緻密性を保証するために、一次焼結温度が比較的高く、結晶粒の配列が比較的緻密であり、比較的低い二次焼結温度は磁石の結晶粒の構造を十分に再構成して最適化することができないため、比較的高い磁気特性を得ることができない。2回の焼結の温度差が大すぎる場合、一次焼結温度が比較的低く、隙間が比較的大きく、二次焼結温度が高すぎて、一部の区域に結晶粒の異常成長が生じるため、磁石性能が悪化する。
【0064】
本発明は、モータ分野における上記磁石の応用を更に提供する。
【0065】
本発明は、上記磁石を含むモータを更に提供する。
【0066】
本発明は、上記モータの応用であって、好ましくは、上記モータが新エネルギー自動車、省エネルギー家電に適用できる、応用を更に提供する。
【0067】
〔有益な効果〕
本発明のネオジム鉄ボロン磁石は、B、Cu、Ga、RE、Tiなどの元素の比率関係を調整することにより、比較的高い主相結晶粒の体積比を得て、粒界相におけるBリッチ相の比率を効果的に抑制することができ、遷移金属元素M1(例えばGa)、M2(例えばTi)を添加することによって粒界相の構造を最適化して調整し、磁石に比較的高いBrを備えさせ、優れたHcj及び直角度性能を同時に備えさせる。
【0068】
本発明において、Bの含有量は一般的なネオジム鉄ボロン系焼結磁石よりも高い。一般的なネオジム鉄ボロン磁石は、磁石のBr及びHcj性能を同時に備える場合、[R]/([B]-2[M2])は2.35より僅かに大きく、2.5より大きく、Bリッチ相が比較的少ないか又はBリッチ相が存在しない。本発明は、当該比率を2.15~2.35の間にすることで、理論上で一般的なネオジム鉄ボロン磁石と比べて更に多くのBリッチ相が形成されるが、この関係式の比率範囲内で、本発明の製造方法における二次冷却に合わせて、磁石の主相結晶粒の体積比を増加させ、Bリッチ相の過度の形成を抑制することができ、磁石Brを保証すると同時に、優れたHcj及び直角度指標を有する。
【0069】
本発明の磁石は、極めて少量のDy/Tbなどの重希土類元素を用い、更に使用せずに、高残留磁気及び保磁力が得られ、且つ磁石の直角度≧0.95であり、製造プロセスが簡単であり、量産の安定性が高い。
【0070】
本発明の製造方法を用いて磁石を製造する場合、残留磁気が高く、Br≧1.44Tであり、非常に高いエネルギー密度を有し、モータに応用すると、単位体積のパワー出力を効果的に向上させることができ、モータの体積を効果的に減少させることができ、モータの他の部品の材料損失を節約し、モータの小型化、低コスト化に重要な役割を果たす。
【0071】
〔発明を実施するための形態〕
以下、具体的な実施例に合わせて、本発明の技術案を更に詳しく説明する。下記の実施例は、単に本発明を例示的に説明し解釈するものであり、本発明の請求範囲を限定するものとして解釈されるべきではないと理解すべきである。本発明の上記内容に基づいて実現される技術は、何れも本発明による請求範囲内に含まれる。
【0072】
特に説明のない限り、下記の実施例に使用される原料及び試薬は何れも市販品であり、又は既知の方法によって製造することができる。
【0073】
以下の実施例において、原子百分率とは、[ある原子の数]/[原料における各原子の総数]を意味する。そのうち、M1は、Cu及びGaから選ばれ、M2は、Zr、Ti、Nbから選ばれる少なくとも1種であり、Rは、Nd及び希土類元素Pr、La、Ce、Dy、Tb、Hoから選ばれる少なくとも1種である。
【0074】
〔実施例1~4〕
(1)表1の磁石の目標組成に従って原料を配合し、そしてメルトスピニング鋳造プロセスによりネオジム鉄ボロン合金シートを製造し、合金シートは急冷ロールで冷却して脱落した後、低温アルゴンガスを噴射して二次冷却を行い、低温アルゴンガスの流量及び温度を調整することにより、合金シートは10℃/sの冷却速度で二次冷却を行って合金シートを得て、合金シートは水冷円盤に落下させて回収することにより、厚さ0.15~0.45mmの合金シートを製造した。
【0075】
【0076】
(2)水素破砕プロセスにより上記合金シートを粗粉砕処理して粉末を得て、質量が原材料の0.1wt%であるステアリン酸亜鉛を潤滑剤として粉末に添加し、60min混合した。混合後の材料を流動床式ジェットミルで微粉砕処理し、窒素ガスを研磨ガスとして、グレーディングホイールの回転速度、研磨圧力などの設備パラメータを調整することにより、目標粒度SMD=2.5μmのジェットミル粉末を得た。
【0077】
(3)質量が原材料の0.2wt%であるステアリン酸亜鉛を潤滑剤として、製造された目標粒度のジェットミル粉末に更に添加し、十分に混合した後、2Tの磁化磁場強度でプレスしてビレットを形成し、更に油冷間静水圧プレス処理によりビレットの緻密性を向上させる。
【0078】
(4)ビレットを焼結炉内に入れ、真空雰囲気で二次焼結処理し、2回の焼結保温時間は何れも270minであり、焼結冷却が80℃より低い時点で、加熱して890℃に昇温して保温し、保温時間は240minであり、冷却後に二次時効を行い、各組成に応じて最適な時効温度に調整し、時効保温時間は280minであり、具体的な焼結時効制度は表2に示された。
【0079】
【0080】
焼結時効処理後の磁石を直径10mm、高さ10mmの標準サンプルカラムに加工し、BHアナライザで磁石性能を測定し、具体的な磁気特性測定の結果は表3に示された。
【0081】
【0082】
表3の結果から分かるように、各元素の組成が制御範囲内にある場合、磁石は比較的高い残留磁気及び保磁力を備え、同時に直角度を≧0.95に確保することができる。これにより、磁石がモータ動作時に安定したパワー出力を提供できることを保証した。
【0083】
〔比較例1~2〕
表4の磁石の目標組成に従って原料を配合し、そしてメルトスピニング鋳造プロセスによりネオジム鉄ボロン合金シートを製造し、合金シートは急冷ロールで冷却して脱落した後、低温アルゴンガスを噴射して二次冷却を行い、低温アルゴンガスの流量及び温度を調整することにより、合金シートは10℃/sの冷却速度で二次冷却を行って合金シートを得て、合金シートは水冷円盤に落下させて回収することにより、合金シートを得た。
【0084】
〔比較例3〕
表4の磁石の目標組成に従って原料を配合し、そしてメルトスピニング鋳造プロセスによりネオジム鉄ボロン合金シートを製造し、合金シートは急冷ロールで急冷した後、水冷円盤に直接に落下させて冷却して回収した。
【0085】
〔比較例4〕
表4の磁石の目標組成に従って原料を配合し、そしてメルトスピニング鋳造プロセスによりネオジム鉄ボロン合金シートを製造し、合金シートは急冷ロールで急冷した後、水冷円盤に直接に落下させて冷却して回収した。
【0086】
【0087】
比較例1~4で得られた合金シートは、実施例と同様のプロセスによりSMD=2.5μmを目標とするジェットミル粉末を製造し、そしてプレスし、焼結時効処理した。具体的なプロセスパラメータは表5に示された。
【0088】
【0089】
比較例1~4で製造した磁石を直径10mm、高さ10mmの標準サンプルカラムに加工し、BHアナライザで磁石性能を測定し、具体的な磁気特性測定の結果は表6に示された。
【0090】
【0091】
比較例1から分かるように、[R]、[B]、[M2]の比率関係が2.35を超える場合、Hcjが僅かに向上したが、Brが明らかに低下し、且つ直角度が0.95未満であるため、その減磁耐性が変動し、モータの高速動作時に安定的に磁界を出力することができない。
【0092】
比較例2の[Cu]、[Ga]の比率関係が0.75よりも遥かに小さいため、磁石のBr及びHcjは何れも実施例よりも明らかに低下し、高残留磁気及び高保磁力を同時に備えることができない。
【0093】
比較例3の目標磁石の組成は実施例1と同じであるが、製錬工程において本特許請求の範囲の方法で合金シートを二次冷却せず、表3から分かるように、合金シートの二次冷却を取り除く場合、合金シートは結晶粒が顕著に成長するため、厚さが増加し、ジェットミル研磨を行う場合、目標SMDのジェットミル粉末が得られるが、粒度分布(X90/X10)が顕著に悪化し、粗粉末及び微細粉末の比率が増加し、粉末の均一性が低く、且つ焼結工程において一次焼結のみを行い、二次焼結プロセスを行っておらず、磁石の残留磁気及び保磁力は何れも明らかに低下した。
【0094】
比較例4から分かるように、[Cu]、[Ga]の比率関係が0.75未満であり、且つ本発明に記載の二次冷却及び二次焼結プロセスを使用しない場合、そのHcjは明らかに低下し、且つ直角度が0.95よりも遥かに低いため、その減磁耐性が変動し、モータの高速動作時に安定的に磁界を出力することができない。
【0095】
〔実施例5〕
実施例1の焼結時効後の磁石を取り、長さ20mm、幅20mm、厚さ5mmのシート製品に加工し、浸漬塗布プロセスにより、磁石表面に金属Dyの薄膜を加え、次に900℃で15時間保温して拡散処理を行い、拡散温度を100℃未満に冷却した後、更に500℃に昇温して5時間時効処理を行った。最終的な磁石について磁気特性測定及び成分測定を行った。その最終的な成分及び磁気特性の結果は表9及び表10に示された。
【0096】
【0097】
【0098】
上記結果から分かるように、拡散後の磁石の保磁力は顕著に向上し、且つBrが明らかに低下せず、本発明の磁石は拡散基材としても使用可能である。
【0099】
以上、本発明の例示的な実施形態について説明した。しかし、本発明は上記の実施形態に限定されない。当業者が本発明の精神及び原則を逸脱しない範囲で行われたあらゆる修正、同等置換、改良などは、何れも本発明の請求範囲内に含まれるべきである。
【国際調査報告】