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特表2024-536855金属基材の洗浄および処理のためのホウ酸塩を含まない水性組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-08
(54)【発明の名称】金属基材の洗浄および処理のためのホウ酸塩を含まない水性組成物
(51)【国際特許分類】
   C23C 22/66 20060101AFI20241001BHJP
   C23G 1/22 20060101ALI20241001BHJP
   C23G 1/04 20060101ALI20241001BHJP
   C23C 22/82 20060101ALI20241001BHJP
【FI】
C23C22/66
C23G1/22
C23G1/04
C23C22/82
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024518742
(86)(22)【出願日】2022-09-26
(85)【翻訳文提出日】2024-05-20
(86)【国際出願番号】 EP2022076659
(87)【国際公開番号】W WO2023046952
(87)【国際公開日】2023-03-30
(31)【優先権主張番号】21199169.0
(32)【優先日】2021-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517284496
【氏名又は名称】ケメタル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(74)【代理人】
【識別番号】100167106
【弁理士】
【氏名又は名称】倉脇 明子
(74)【代理人】
【識別番号】100194135
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 修
(74)【代理人】
【識別番号】100206069
【弁理士】
【氏名又は名称】稲垣 謙司
(74)【代理人】
【識別番号】100185915
【弁理士】
【氏名又は名称】長山 弘典
(72)【発明者】
【氏名】レスナー,ベリト
(72)【発明者】
【氏名】コムプ,カロラ
【テーマコード(参考)】
4K026
4K053
【Fターム(参考)】
4K026AA01
4K026AA02
4K026AA07
4K026AA09
4K026AA22
4K026BA02
4K026BA03
4K026BB06
4K026CA15
4K026CA18
4K026CA23
4K026CA27
4K026CA37
4K026DA02
4K026DA06
4K026EB01
4K053PA02
4K053PA08
4K053PA10
4K053PA13
4K053QA01
4K053QA04
4K053RA07
4K053RA18
4K053RA21
4K053RA27
4K053RA28
4K053RA65
4K053RA66
4K053SA06
4K053YA02
4K053YA03
(57)【要約】
本発明は、少なくとも1つのメタシリケート(A)、少なくとも1つのオルトホスフェート(B)、ジホスフェートおよびトリホスフェートからなる群より選択される少なくとも1つのホスフェート(C)、アニオン性界面活性剤および非イオン性界面活性剤からなる群より選択される少なくとも1つの界面活性剤(D)を含む、ホウ酸塩を含まない水性の洗浄および処理組成物に関し、そして該水性の洗浄および処理組成物は、pH値を20℃で11.0~12.8の範囲に有し、そしてSi原子対P原子のモル比を、Si含有メタシリケート(A)の合計およびP含有オルトホスフェート(B)とジホスフェート(C)とトリホスフェート(C)との合計に対して0.75:1~1:0.75で有する。本発明はさらに、固体混合物に関する。本発明はまた、上記組成物を利用した金属基材を洗浄および処理する方法と、金属基材を洗浄し、そして金属基材の表面にSi含有層を形成することによって金属基材を処理する方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのメタシリケート(A)、
少なくとも1つのオルトホスフェート(B)、
ジホスフェートおよびトリホスフェートからなる群より選択される少なくとも1つのホスフェート(C)、
アニオン性界面活性剤および非イオン性界面活性剤からなる群より選択される少なくとも1つの界面活性剤(D)
を含む、ホウ酸塩を含まない水性の洗浄および処理組成物であって、
該水性の洗浄および処理組成物が、
i. pH値を20℃で11.0~12.8の範囲に有し、そして
ii. Si原子対P原子のモル比を、Si含有メタシリケート(A)の合計およびP含有オルトホスフェート(B)とジホスフェート(C)とトリホスフェート(C)との合計に対して0.75:1~1:0.75で有する、
ホウ酸塩を含まない水性の洗浄および処理組成物。
【請求項2】
該水性の洗浄および処理組成物中に少なくとも1つの炭酸塩をさらに含有する、請求項1に記載のホウ酸塩を含まない水性の洗浄および処理組成物。
【請求項3】
少なくとも1つのジホスフェート(C)および少なくとも1つのトリホスフェート(C)を含有する、請求項1または2に記載のホウ酸塩を含まない水性の洗浄および処理組成物。
【請求項4】
オルトホスフェート(B)中のP原子の合計対ホスフェート(C)中のP原子の合計のモル比が1:1.2~1:3.5である、請求項1または2に記載のホウ酸塩を含まない水性の洗浄および処理組成物。
【請求項5】
メタシリケート(A)、オルトホスフェート(B)およびホスフェート(C)がアルカリ金属の塩である、請求項1または2に記載のホウ酸塩を含まない水性の洗浄および処理組成物。
【請求項6】
i. メタシリケート(A)からのSi原子の合計のモル濃度が50~200mmol/Lの範囲であり、
ii. オルトホスフェート(B)からのP原子の合計のモル濃度が25~75mmol/Lの範囲であり、
iii. ホスフェート(C)からのP原子のモル濃度が30~130mmol/Lの範囲であり、
iv. 界面活性剤(D)の濃度が0.5~10g/Lの範囲であり、
そして
濃度が、前記ホウ酸塩を含まない水性の洗浄および処理組成物1リットルに対するものである、請求項1または2に記載のホウ酸塩を含まない水性の洗浄および処理組成物。
【請求項7】
請求項1または2に記載のホウ酸塩を含まない水性の洗浄および処理組成物を調製する方法であって、
第一の工程(I)において、
少なくとも1つのメタシリケート(A)、
第二の工程(II)でリン酸を使用しない場合、少なくとも1つのオルトホスフェート(B)、
少なくとも1つのジホスフェート(C)および/またはトリホスフェート(C)、
アニオン性界面活性剤および非イオン性界面活性剤からなる群より選択される少なくとも1つの界面活性剤(D)
を含む固体混合物(M)
を、水に溶解して水溶液を得、そして、必要な場合、
第二の工程(II)において、
第一の工程(II)で得た水溶液のpH値を請求項1に示す範囲に調整する、
方法。
【請求項8】
固体混合物(M)が少なくとも1つの炭酸塩(E)をさらに含有する、請求項7に記載のホウ酸塩を含まない水性の洗浄および処理組成物を調製する方法。
【請求項9】
請求項7に記載のホウ酸塩を含まない水性の洗浄および処理組成物を調製する方法において使用される固体混合物(M)であって、
少なくとも1つのメタシリケート(A)、
好ましくは、少なくとも1つのオルトホスフェート(B)、
ジホスフェートおよびトリホスフェートからなる群より選択される少なくとも1つのホスフェート(C)、および
アニオン性界面活性剤および非イオン性界面活性剤からなる群より選択される少なくとも1つの界面活性剤(D)
を含み、それぞれの種(A)、(B)および(C)が固体である、固体混合物(M)。
【請求項10】
少なくとも1つの固体炭酸塩(E)を更に含有する、請求項9に記載の固体混合物(M)。
【請求項11】
金属基材を洗浄および処理する方法であって、
a. 金属基材を、請求項1に定義した、または請求項7に定義した方法によって調製された、ホウ酸塩を含まない水性の洗浄および処理組成物と接触させて、洗浄された金属基材を得る工程、および
b. このように洗浄された金属基材を水性すすぎ組成物と接触させて、如何なる過剰な洗浄および処理組成物も除去する工程
を含む、方法。
【請求項12】
工程(a)において、前記金属基材を、前記ホウ酸塩を含まない水性の洗浄および処理組成物を含有する浴に1~45分間浸漬することによって、前記金属基材と前記ホウ酸塩を含まない水性の洗浄および処理組成物とを接触させ、前記浴が40~90℃の範囲の温度を有する、請求項11に記載の金属基材を洗浄および処理する方法。
【請求項13】
前記金属基材が、アルミニウムまたはアルミニウム含有合金、鋼、例えば冷間圧延鋼および亜鉛めっき鋼、さらに亜鉛-マグネシウム塗装鋼およびマグネシウム合金から選択される、請求項11に記載の金属基材を洗浄および処理する方法。
【請求項14】
請求項1に記載の、または請求項7に定義した方法により調製された組成物の、金属基材を洗浄し、そして金属基材を前記金属基材の表面にSi含有層を形成することによって処理するための、使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属基材、好ましくはアルミニウムベースの金属基材、例えばアルミニウムおよびその合金を洗浄および処理するための、ホウ酸塩を含まない水性組成物に関する。本発明はさらに、その組成物の調製およびその組成物を調製するための固体混合物、およびホウ酸塩を含まない水性組成物を利用して金属基材を洗浄および処理する方法に関する。本発明のさらなる目的は、金属基材を洗浄および処理するための本発明の組成物の使用である。
【背景技術】
【0002】
金属から様々な構造物を作る上で、金属基材への結合能力を有することは重要である。これには、金属基材を他の金属材料へ結合すること、および非金属材料を金属基材へ結合することも含まれる。
【0003】
多くの用途では、単純な機械的結合機構、例えばボルト、ネジ、またはリベットを使用することが可能である。他の用途では、機械的ファスナーの追加質量に対する懸念から、より実行性があるのは接着剤の使用である。金属同士を結合する、または非金属材料を金属へ結合する技術分野では、様々な接着剤が知られており、そして一般的に使用されている。例えば、様々なエポキシベースの接着剤が、これらの用途に広く使用されている。
【0004】
接着剤を使用して金属を結合する場合、可能な限り強力な結合を実現することが一般的には重要である。一般に、接着剤を使用する場合、強力な結合を保証することは困難である。例えば、結合製造中のプロセス条件によって結合強度が劇的に低下することがよくある。これは、アルミニウムまたはその合金などの金属に結合する場合に特に当てはまる。アルミニウムおよびアルミニウム合金への結合は、特別な課題となっている。
【0005】
アルミニウムおよびアルミニウム合金は、アルミニウム表面が酸化アルミニウムの弱い水和表面層を形成する傾向があるので、結合が困難な金属と考えられている。表面の形態、ひいては接着剤結合の耐久性は、結合前に行われる表面洗浄および処理の種類に依存する。
【0006】
アルミニウムに一般的に見られる酸化物は、酸化アルミニウム(Al)である。この酸化物は、結合に安定している。しかしながら、時間および湿度により、この酸化物は水和して、安定性が低く機械的に弱い、AlOOH(ベーマイト)および三水酸化アルミニウム(バイヤライト)の層を形成する。この層の厚さは、環境にもよるが、典型的には約10nm~約150nmの範囲である。この膜の上に接着剤を塗布すると、弱い境界層が結合系に組み込まれる。この弱い境界層が存在によって、結合強度が低下し、破壊靭性が低くなり、そして経時的な結合耐久性が悪くなる。同様に、十分な初期強度の結合を提供することもしばしば問題となる。
【0007】
アルミニウム表面に広く用いられている処理は、蒸気脱脂およびグリットブラストを伴う。しかし、これらの方法は、アルミニウム表面のベーマイトおよびバイヤライト層のさらなる成長を防げない。
【0008】
このプロセスで使用される利用可能な洗浄溶媒および溶液は、化学廃棄物処理に関する環境規制のため、より制限が厳しくなっている。このように、プロセスの繊細さ、限界的な結合耐久性、および環境上の制約が組み合わさることで、従来の表面処理プロセスを継続的に使用することに懸念が生じている。
【0009】
アルミニウム表面の洗浄処理および準備の代替法は限られている。アルミニウム表面を準備するこのような他の方法の中には、安定した耐湿性酸化物層の形成を伴うものがある。この方法には、硫酸、クロム酸、およびリン酸陽極酸化が含まれる。これらの電解プロセスは、水酸化物層のさらなる成長を抑制し、そして初期の結合強度および結合耐久性を向上させる。さらに、リン酸プロセスによってハニカム状の表面が形成され、これは機械的なかみ合わせによって結合強度を向上させると考えられている。
【0010】
しかしながら、これらのプロセスは一般に、脱脂、アルカリ洗浄、酸エッチング、酸陽極酸化、およびいくつかの例では、後処理プロセスが含まれる処理の複雑な一連からなる。
【0011】
よって当技術分野で必要とされているのは、金属基材への安定した接着剤結合を提供するための、アルミニウムおよび他の金属の表面を洗浄および処理する効果的且つ効率的な方法である。その点で、比較的簡単であり、入手しやすい材料を使用する表面処理および洗浄の方法を提供することは、当技術分野における重要な進歩であろう。
【0012】
接着剤層への結合強度を向上させる表面洗浄および処理方法を提供することは、当技術分野のさらなる進歩であろう。
【0013】
本発明のさらなる目的は、洗浄および処理剤からなる固体混合物を提供することであり、この固体混合物は、金属基材用の洗浄および処理組成物を形成するために、適用場所で水に溶解させるだけでよい。pH値を調整するため、固体混合物には酸または塩基を補足するだけでよく、洗浄および処理、特にアルミニウムベースの基材の洗浄および処理に最適な値が得られる。液体濃縮物の代わりに固体混合物を提供することは、混合物を出荷する際に大きな利点がある。なぜなら、水で希釈されないため体積が最適化され、ひいては水分を含まずに出荷できるからである。洗浄およびまたは処理浴の製造に必要な水は、如何なる適用場所でも補足することができる。よってこのような固体混合物または乾燥濃縮物の提供は、本発明の環境に優しい側面を付加する。無論、このような組成物は凝集物を形成する傾向が低減されているべきである。
【0014】
さらに、本発明のなお別の目的は、ホウ酸塩を含まない水性の洗浄および処理組成物を提供することである。それは、欧州連合のREACH規則の最近の計画によると、ホウ酸塩が避けるべきものであるためである。REACHは、化学物質の製造と使用、およびそれらが人の健康と環境の両方に及ぼす潜在的な影響に対処するものである。
【0015】
さらに、金属基材、特に、限定するものではないが、アルミニウムベースの基材を洗浄する可能性の他、その組成物は、ケイ素含有表面層、例えばシリケート層を形成するのに適しており、後続の接着剤層またはコーティング層のより良好な接着を可能とするべきである。そのようなケイ素含有層は、金属基材の表面において、Siとして表され、そしてXRF分光法によって決定されるケイ素含量が均一なものとなり、且つ好ましくは、特に一般的に使用されるアルミニウム合金AA6014上で約2~7mg/mのベースライン補正範囲にあるように形成されるべきである。このSiベースの層は、こうして処理された金属基材表面の接着剤に対する接着性を大きく向上させる。
【0016】
さらに、洗浄および処理組成物は、過剰な酸洗(pickling)を示すべきではない。
【0017】
DE19642723A1は、塗料または接着剤と、アルミニウムまたはアルミニウム合金、特にアルミニウム-マグネシウム合金から作られたワークピースの表面の一部とを接着するための方法に関し、この方法において、金属表面の前記一部は、少なくとも1の重合度を有する重合ケイ酸で予めシリカ化され、接着改善層を生成する。シリカは、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシランおよびジメチルエトキシシランの混合物を、濃度比1:2:1、分圧5mbar、および熱分解時間0.2秒で爆鳴気炎(H:O=2:1)中で熱分解することにより製造された。重合シリカで処理する前に、基材はイソプロパノールで脱脂された。
【0018】
WO2019/042951A1は、金属表面を、実質的にニッケルを含まないリン酸塩処理するための方法を開示しており、この方法において、金属表面は、以下の組成物:i)少なくとも水溶性シリケートを含有する、アルカリ性の水性洗浄剤組成物、およびii)亜鉛イオン、マンガンイオンおよびホスフェートイオンを含む、酸性の、水性の、実質的にニッケルを含まないリン酸塩処理組成物、で、次々に処理される。他の基材としてアルミニウム合金も処理された。WO2019/042951A1による方法で使用されたアルカリ性の水性洗浄組成物は、ピロホスフェートまたはポリホスフェートおよび/またはホウ酸と混合された水ガラスベースの組成物をベースとしている。
【0019】
US5,520,768は、特にアルミニウムおよびアルミニウム合金基材用の二工程の表面準備プロセスを開示しており、このプロセスでは、まず金属表面をアルカリ金属メタシリケート溶液で処理し、続いて有機官能性シランで処理することにより、接着剤結合の結合強度、破壊靭性、耐久性および破壊モードを向上させる。第一工程の主な目的は、非常に薄いシリケート層を金属基材の表面に設けることであった。このプロセスで使用される組成物は、洗浄添加剤、例えば洗浄剤、乳化剤、およびD-リモネンのようなテルペンを含有してもよい。
【0020】
特に、前述のUS5,520,768に鑑みて、本発明は、US5,520,768に記載されている以外に、シラン処理工程を不要とする、金属表面を洗浄および処理するための方法を提供することであった。洗浄と、接着剤および/またはコーティング材料のさらなる層への優れた接着性の提供は、例えばシランによる第二の処理工程を行うかどうかに依存すべきではない。アニオン性界面活性剤または非イオン性界面活性剤などの界面活性剤の使用以外に、本発明の洗浄および処理組成物において有機化合物は必要ないはずである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】DE19642723A1
【特許文献2】WO2019/042951A1
【特許文献3】US5,520,768
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記の特定の目的および従来技術の欠点を克服する目的は、少なくとも1つのメタシリケート(A)、少なくとも1つのオルトホスフェート(B)、ジホスフェートおよびトリホスフェートからなる群より選択される少なくとも1つのホスフェート(C)、およびアニオン性界面活性剤および非イオン性界面活性剤からなる群より選択される少なくとも1つの界面活性剤(D)を含む、ホウ酸塩を含まない水性の洗浄および処理組成物を提供することによって達成され、その水性の洗浄および処理組成物はpH値を20℃で11.0~12.8の範囲に有し、そしてSi原子対P原子のモル比を、Si含有メタシリケート(A)の合計およびP含有オルトホスフェート(B)とジホスフェート(C)とトリホスフェート(C)との合計に対して0.75:1~1:0.75で有する。
【0023】
以下に、この組成物を本発明による組成物とも呼ぶ。
【0024】
本発明のさらなる目的は、本発明による上記組成物を調製する方法であって、第一の工程(I)において、少なくとも1つのメタシリケート(A)、少なくとも1つのオルトホスフェート(B)、およびジホスフェートおよびトリホスフェートからなる群より選択される少なくとも1つのホスフェート(C)、およびアニオン性界面活性剤および非イオン性界面活性剤からなる群より選択される少なくとも1つの界面活性剤(D)を含む固体混合物(M)を水に溶解して水溶液を得、そして、第二の工程(II)において、必要であれば、第一の工程(I)で得た水溶液のpH値を、好ましくはリン酸またはその水溶液の添加によって、またはアルカリ金属水酸化物の水溶液の添加によって、本発明による組成物に対して示される範囲に調整する。
【0025】
以下に、この方法を本発明による組成物の調製方法とも呼ぶ。
【0026】
本発明のなお別の目的は、本発明による組成物を調製する方法で使用するための固体混合物(M)であり、その固体混合物(M)は、少なくとも1つのメタシリケート(A)、好ましくは少なくとも1つのオルトホスフェート(B)、ジホスフェートおよびトリホスフェートからなる群より選択される少なくとも1つのホスフェート(C)、およびアニオン性界面活性剤および非イオン性界面活性剤からなる群より選択される少なくとも1つの界面活性剤(D)を含み、少なくともそれぞれの種(A)、(B)および(C)は、20℃で固体である。
【0027】
以下に、この混合物を本発明による混合物とも呼ぶ。「固体」という用語は、室温(23℃)におけるそれぞれの成分の状態を指す。界面活性剤(D)は室温で液体であってもよいが、固体混合物(M)の他の成分、すなわち少なくとも1つのメタシリケート(A)、好ましくは少なくとも1つのオルトホスフェート(B)およびジホスフェートおよびトリホスフェートからなる群より選択される少なくとも1つのホスフェート(C)は、上記の意味で典型的には固体であり、よって界面活性剤(D)と共に固体混合物(M)を形成する。液体界面活性剤(D)は、使用される場合、好ましくは1つ以上の固体成分の表面に適用される。
【0028】
本発明のさらなる目的は、金属基材を洗浄および処理する方法であって、金属基材を、本発明による、または上記で定義した組成物を調製する方法によって調製された、ホウ酸塩を含まない水性の洗浄および処理組成物と接触させて、洗浄され表面処理された金属基材を得る工程、およびこのように洗浄され表面処理された金属基材を水性すすぎ組成物と接触させて、過剰な洗浄および処理組成物を除去する工程を含む方法である。
【0029】
本発明のなお別の目的は、本発明による組成物を、金属基材の洗浄および処理に使用する方法であり、これを本発明による使用と呼ぶ。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に、本発明の目的をさらに詳細に記載する。特に、本発明による組成物および混合物に含有される好ましい成分、および好ましい方法工程およびプロセス条件について記載する。
【0031】
ホウ酸塩を含まない水性の洗浄および処理組成物
本発明による、ホウ酸塩を含まない水性の洗浄および処理組成物は、少なくとも1つのメタシリケート(A)、少なくとも1つのオルトホスフェート(B)、およびジホスフェートおよびトリホスフェートからなる群より選択される少なくとも1つのホスフェート(C)を含有する。本発明による洗浄および処理組成物に用いられる(A)、(B)および(C)は、好ましくは、水溶解度が20℃で少なくとも50g/Lであり、よって本発明による組成物に20℃で完全に溶解可能である。
【0032】
界面活性剤(D)もまた、例えばミセルの形態で、本発明によるホウ酸塩を含まない水性の洗浄および処理組成物中に溶解する。
【0033】
本発明者らは、組成物のpH値が20℃で11.0~12.8、好ましくは11.3~12.5、および最も好ましくは11.6~12.2の範囲にある場合に、組成物の洗浄および処理効果に関する最適な性能が達成されることを見出した。pH値が20℃で11.0より低い場合、その組成物の80℃でのpH値は、メタシリケート(A)の不可逆的な沈殿を防ぐには低すぎる可能性がある。pH値が20℃で12.8より高い場合、80℃での酸洗が強すぎる可能性がある。pH値が好ましい範囲および最も好ましい範囲に保持されている場合、洗浄効果、Si含有層の析出、およびある程度発生し得る酸洗のバランスが良好である。
【0034】
さらに、本発明による洗浄および処理組成物は、Si原子対P原子のモル比を、Si含有メタシリケート(A)の合計およびP含有オルトホスフェート(B)とジホスフェート(C)とトリホスフェート(C)との合計に対して0.75:1.0~1.0:0.75、好ましくは0.8:1.0~1.0:0.8、より好ましくは0.85:1.0~1.0:0.85、例えば0.9:1.0~1.0:0.9で有する。
【0035】
メタシリケート(A)
本発明によるホウ酸塩を含まない水性の洗浄および処理組成物の必須成分は、少なくとも1つのメタシリケート(A)である。最も好ましいのは、アルカリ金属メタシリケート、例えばナトリウムメタシリケート、カリウムメタシリケートまたはリチウムメタシリケートである。前述のメタシリケートのうち、ナトリウムメタシリケートおよびカリウムメタシリケートが好ましく、ナトリウムメタシリケートが最も好ましいメタシリケートである。利用可能である限り、結晶化水、例えばナトリウムメタシリケート-5水和物を含有するメタシリケートを、本発明による組成物の調製に使用してよい。
【0036】
好ましくは、本発明による組成物中に含まれる少なくとも1つのメタシリケート(A)は、Si含有化合物の総質量に基づいて、主たるSi含有化合物である。「主たるSi含有化合物」という用語は、本発明による組成物中のSi含有化合物の総質量の少なくとも50質量%、より好ましくは少なくとも75質量%、および最も好ましくは少なくとも95質量%が、少なくとも1つのメタシリケート(A)であることを意味する。メタシリケート(A)以外の他のSi含有化合物が本発明による組成物中に存在する場合、そのようなSi含有化合物は、好ましくは、20℃で組成物中に完全に溶解する他の水溶性シリケートである。
【0037】
最も好ましくは、本発明による洗浄および処理組成物中の唯一のSi含有化合物は、メタシリケート(A)である。典型的には、メタシリケートのテクニカルグレードを使用することができるので、メタシリケート(A)は、メタシリケート(A)の製造プロセスに起因して存在するいくらかのSi含有不純物を含有する場合、依然として唯一のSi含有化合物とみなされる。
【0038】
オルトホスフェート(B)
本発明によるホウ酸塩を含まない水性の洗浄および処理組成物のさらなる必須成分は、少なくとも1つのオルトホスフェート(B)である。
【0039】
オルトホスフェート(B)は、例えば、リン酸またはリン酸水溶液を使用してpH値を必要な範囲に調整する場合など、その場で形成することもできる。
【0040】
しかしながら、好ましくは、リン酸のアルカリ金属塩、例えば、モノ-アルカリ金属オルトホスフェート、ジ-アルカリ金属オルトホスフェートおよびトリ-アルカリ金属オルトホスフェートが用いられる。好ましいのは、ナトリウムオルトホスフェート、カリウムオルトホスフェートおよびリチウムオルトホスフェートであり、最も好ましいのはナトリウムオルトホスフェートおよびカリウムオルトホスフェートであり、中でもナトリウムオルトホスフェートが最も好ましい。
【0041】
ホスフェート(C)
必須ホスフェート(C)は、トリホスフェートおよびジホスフェートからなる群より選択される。
【0042】
好ましくは、アルカリ金属ジホスフェートおよび/またはアルカリ金属トリホスフェート、例えば、ナトリウムトリホスフェート、カリウムトリホスフェート、ナトリウムジホスフェートおよびカリウムジホスフェートが用いられる。しかしながら、あまり好ましくないが、対応するリチウムホスフェートを使用してもよい。
【0043】
最も好ましくは、本発明の組成物は、ジホスフェートおよびトリホスフェートを組み合わせて含有する。
【0044】
好適なホスフェート(C)の例は、ペンタ-ナトリウムトリホスフェート、ペンタ-カリウムトリホスフェート、テトラ-ナトリウムジホスフェートおよびテトラ-カリウムジホスフェートである。
【0045】
界面活性剤(D)
さらに、少なくとも1つの界面活性剤(D)が、本発明による洗浄および処理組成物中に含有される。好適な界面活性剤は、アニオン性界面活性剤および非イオン性界面活性剤からなる群より選択される。
【0046】
アニオン性界面活性剤(D)
このような界面活性剤は、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸のアルカリ金属塩、第二級アルキルスルホネート、脂肪アルコールスルフェートおよびアルキルエーテルスルフェートから好適に選択される。アニオン性界面活性剤は、典型的には、且つ好ましくは固体である。
【0047】
非イオン性界面活性剤(D)
このような界面活性剤は、ポリアルコキシル化アルコール、例えばポリ(エトキシル化/プロポキシル化)アルコール、好ましくはポリエトキシル化アルコールから好適に選択され、前述のアルコールは、好ましくは6~20個の炭素原子を含有し、直鎖または分岐状であり、そして好ましくは第一級または第二級アルコールであり、およびエトキシル化脂肪アミンである。非イオン性界面活性剤は、典型的には液体である。これは、本発明の固体混合物の全体的な固体状態に影響しない。好ましくは、液体界面活性剤、特に非イオン性液体界面活性剤は、例えば噴霧塗布によって固体成分の表面に塗布される。
【0048】
炭酸塩(E)
本発明者らは、水溶性炭酸塩を本発明の洗浄および処理組成物に有利に含有させることができることも見出した。
【0049】
好適な炭酸塩は、例えばアルカリ金属の炭酸塩および炭酸水素塩、例えばナトリウムカーボネート、ナトリウムヒドロゲンカーボネート、カリウムカーボネートおよびカリウムヒドロゲンカーボネートである。
【0050】
pH調整剤
本発明の洗浄及び処理組成物のpH値を、上記の必要且つ好ましい範囲に調整するために、無機酸及び塩基が好適に使用できる。
【0051】
最も好ましい酸はリン酸であり、そして最も好ましい塩基は水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムである。最も好ましい酸および塩基は、水で希釈した形態で用いられる。リン酸を使用する場合、オルトホスフェートは好適なpH範囲でその場で生成される。従って、pH調整剤としてのリン酸は、本発明による組成物にホスフェートを添加し、これは、P原子に基づくモル比を計算する際に考慮される。なぜなら、リン酸(すなわち、オルトリン酸)の添加により導入されるオルトホスフェートが、オルトリン酸の塩の添加によって導入されるオルトホスフェートと区別できないので、このような塩の添加と同様に扱われるためである。
【0052】
洗浄および処理プロセス中のpH調整のために、好ましくは、メタシリケートおよびホスフェート、および水酸化ナトリウムなどの水酸化物を含む固体の補足混合物を添加する。
【0053】
洗浄および処理組成物の一般的側面
好ましくは、本発明の洗浄および処理組成物に含有される固体の総量は、10~60g/L、より好ましくは15~50g/L、および最も好ましくは20~45g/L、例えば25~40g/Lの範囲である。
【0054】
固体の総量は、本発明による組成物を製造するために界面活性剤が液体の形態であっても、塩または他の成分、例えば界面活性剤(D)として添加される成分、および非蒸発性成分、例えばpH値を調整するために使用されるリン酸のホスフェート含量またはpH値を調整するためのそれぞれの水酸化物のアルカリ金属イオン含量の計算量である。
【0055】
一般に、本発明による組成物中に含有されるメタシリケート(A)からのSi原子のモル濃度は、50~200mmol/L、より好ましくは70~190mmol/L、および最も好ましくは80~180mmol/L、例えば90~170mmol/Lの範囲であることが好ましい。メタシリケート(A)の化学式は1個のSi原子を含有し、よってメタシリケート(A)からのSi原子のモル量は、メタシリケート(A)のモル量に等しいことを理解されたい。
【0056】
一般に、本発明による組成物中に含有され、固体塩またはオルトリン酸のいずれかに由来するオルトホスフェート(B)からのP原子のモル濃度は、25~75mmol/L、より好ましくは30~70mmol/L、および最も好ましくは35~65mmol/L、例えば40~60mmol/Lの範囲であることが好ましい。オルトホスフェート(B)の化学式は1個のP原子を含有し、よって、オルトホスフェート(B)からのP原子のモル量は、オルトホスフェート(B)のモル量に等しいことを理解されたい。
【0057】
一般に、本発明による組成物中に含有されるホスフェート(C)からのP原子のモル濃度は、30~130mmol/L、より好ましくは40~125mmol/L、および最も好ましくは45~120mmol/L、例えば50~115mmol/Lの範囲であることが好ましい。ジホスフェート(C)の化学式は2個のP原子を含有し、よってジホスフェート(C)からのP原子のモル量は、ジホスフェート(C)のモル量の2倍であることを理解されたい。トリホスフェート(C)の化学式は3個のP原子を含有し、よってトリホスフェート(C)からのP原子のモル量は、トリホスフェート(C)のモル量の3倍であることを理解されたい。
【0058】
ジホスフェート(C)およびトリホスフェート(C)の両方が使用される場合、トリホスフェート(C)からのP原子のモル量は、好ましくはジホスフェート(C)からのP原子のモル量を、好ましくは少なくとも20モル%、さらにより好ましくは少なくとも25モル%、および最も好ましくは少なくとも30モル%超える。
【0059】
好ましくは、オルトホスフェート(B)からのP原子のモル量対ホスフェート(C)からのP原子のモル量は、1:1.2~1:3.5、より好ましくは1:1.3~1:3.0、さらにより好ましくは1:1.4~1:2.8である。
【0060】
界面活性剤(D)の総量は、典型的には、本発明の組成物の0.5~10g/L、より好ましくは本発明の組成物の1~8g/L、さらにより好ましくは2~6g/L、例えば3~5g/Lの範囲である。
【0061】
炭酸塩(E)が本発明の組成物中に存在する場合、そのモル濃度は、好ましくは本発明による組成物の15~100mmol/L、より好ましくは20~90mmol/L、さらにより好ましくは25~80mmol/Lおよび最も好ましくは30~70mmol/Lの範囲である。
【0062】
固体混合物(M)
本発明の固体混合物(M)は、典型的には、上述のメタシリケート(A)、好ましくはオルトホスフェート(B)、ホスフェート(C)、界面活性剤(D)および好ましくは炭酸塩(E)を、既に上述したアルカリ金属塩の形態で含有する。
【0063】
例外的な成分はオルトホスフェート(B)であり、これは必ずしも固体混合物(M)中に含有される必要はない。なぜなら、オルトホスフェートを本発明の洗浄および処理組成物に導入することは、リン酸、すなわちオルトリン酸を固体混合物(M)の水中溶液に添加してpH値を上述の範囲に調整し、このようにしてリン酸を用いてオルトホスフェート(B)の一部または全部を導入することが可能だからである。
【0064】
成分(A)、(B)、(C)および使用される場合(E)は、20℃で固体であり、そして好ましくは、20℃の水中で少なくとも50g/Lの水溶解度を有する。本発明の固体混合物(M)を溶解し、そして必要な場合、pH値を調整することによって形成される本発明による組成物は、典型的には、固体混合物(M)からの未溶解物を含有するべきではない。
【0065】
本発明による固体混合物(M)に含有される界面活性剤(D)は、液体または固体であってよく、典型的には液体である。これはさらに、本発明の固体混合物(M)を溶解することによって本発明の組成物を形成する際に、水に容易に溶解可能である。この文脈における「溶解可能」という用語には、固体粒子とはみなされないが、界面活性剤分子がその両親媒性特性により水中で形成される典型的な構造である、ミセルの形成が含まれる。
【0066】
固体混合物は、固体炭酸塩(E)、好ましくはアルカリ金属炭酸塩(アルカリ金属炭酸水素塩を含む)をさらに含んでよい。
【0067】
洗浄および処理組成物の調製方法
本発明による、ホウ酸塩を含まない水性の洗浄および処理組成物を調製する方法は、第一の工程(I)として、本発明による固体混合物(M)を水または水性媒体に溶解する工程と、必要な場合、第二の工程(II)として、酸または塩基、好ましくは無機酸または無機塩基を添加することによってpH値を所望のおよび上記開示の範囲に調整する工程とを含み、酸または塩基は、好ましくは、その水中希釈物の形態で添加され、そして最も好ましくはリン酸およびアルカリ金属水酸化物から選択される。
【0068】
金属基材を洗浄および処理する方法
本発明はさらに、以下の工程、
(a) 金属基材を、本発明の、または上記で定義した方法によって調製された、ホウ酸塩を含まない水性の洗浄および処理組成物と接触させて、洗浄された金属基材を得る工程、および
(b) このように洗浄された金属基材を水性すすぎ組成物と接触させて、如何なる過剰な洗浄および処理組成物も除去する工程
を含む、金属基材を洗浄および処理する方法に関する。
【0069】
任意に、工程(a)の前に如何なる好適な洗浄工程も行ってよい。様々な種類の基材用の多種多様な洗浄配合物が市販されている。
【0070】
好ましくは、金属基材と本発明による組成物との「接触」の工程(a)(工程(a))は、本発明による組成物を含有する浴に基材を浸漬することによって行う。しかしながら、他の種類の接触、例えば、本発明による組成物を金属基材の表面に噴霧することも可能である。
【0071】
「基材を浴に浸漬する」という用語には、工程(a)において1つ以上の別個の浴が続いて使用される可能性が含まれる。これに限定するものではないが、接触工程(a)を行う前に、基材がその表面に油脂などの不純物を含有する場合に特に好ましい。このような不純物は、特に最初の浴(単数又は複数)で除去されるので、後続の浴がより清浄に保たれる。
【0072】
接触工程(a)は、好ましくは1~45分間、より好ましくは5~40分間、さらにより好ましくは10~30分間、および最も好ましくは15~25分間行う。より短い接触時間には、典型的には、表面に不純物がない、または少量しかない基材が必要である。接触時間が短い場合、工程(a)を行う前に、上述の任意の洗浄工程を行うことが好ましい。
【0073】
好ましくは、接触工程(a)における本発明による組成物の温度は、40~90℃、より好ましくは50~85℃、および最も好ましくは60~80℃の範囲である。一般に、接触温度が高いほど、接触時間を短くすることができると結論付けることができる。
【0074】
好ましくは、工程(a)における接触時間は10~30分の範囲であり、そして接触温度は50~85℃の範囲であり、より好ましくは、接触時間は15~25分の範囲であり、そして接触温度は60~80℃の範囲である。
【0075】
既に上述したように、本発明の洗浄および処理組成物に含有される固体の量は、10~60g/L、より好ましくは15~50g/L、および最も好ましくは20~45g/L、例えば25~40g/Lの範囲である。
【0076】
接触工程(a)を行った後、第二の工程(b)において、洗浄および処理された基材とすすぎ組成物、好ましくは水とを接触させることにより、基材の表面から過剰の洗浄および処理組成物を除去する。典型的には、すすぎ工程(b)は、洗浄および処理された基材を、水中に1回以上、好ましくは1つの水浴の後に、好ましくは水純度を高めたもう1つの水浴に、浸漬することにより行う。最初の水浴は、過剰な本発明による洗浄組成物で汚染されている可能性があるが、2番目およびそれに続く如何なる浴も、特に、プロセスがすすぎ浴を1回以上利用する連続プロセスとして行われる場合、本発明による組成物の成分がより一層少なく含有されることとなる。しかしながら、この工程(b)は、すすぎ組成物を噴霧塗布することによって行うこともでき、すすぎ組成物は好ましくは水である。
【0077】
工程(b)に、好ましくは乾燥工程(c)が続き、洗浄、処理、およびすすぎされた金属基材の表面に存在する過剰な水が除去される。乾燥条件は、例えば、室温から100℃以上の温度までの乾燥とすることができる。乾燥時間は乾燥温度に依存し、好ましくは1分~5時間、または10分~2時間などの範囲でよい。典型的な乾燥条件は、100℃で15分の乾燥である。乾燥は、例えば、湿った基材の表面上に空気流を吹き付けることによって促進することもできる。
【0078】
乾燥工程(c)の後、洗浄および処理された金属基材は、接着剤による結合またはコーティング材料によるコーティングに対しての準備が整っており、さらなる洗浄および/または処理工程は必要ない。
【0079】
金属基材
好ましくは、金属基材を洗浄および処理する方法において処理される金属基材は、アルミニウムまたはアルミニウム含有合金、鋼、例えば冷間圧延鋼および亜鉛めっき鋼、亜鉛-マグネシウム塗装鋼およびマグネシウム合金からなる群より選択される。
【0080】
本発明による使用
本発明はさらに、金属基材を洗浄し、そして金属基材の表面にSi含有層を形成することによって金属基材を処理するための、本発明によるまたは本発明のそれぞれの方法により得られた組成物の、使用に関する。
【0081】
以下に、実施例および比較例によって、本発明をさらに記載する。
【実施例
【0082】
固体混合物(M)
表1に、本発明による組成物の調製に使用した固体の発明例混合物(IM)を示す。
【0083】
【表1】
【0084】
あらゆる発明例混合物(IM)は、メタシリケート(A)、ジホスフェート(C)および/またはトリホスフェート(C)、アニオン性界面活性剤、および非イオン性界面活性剤(D)を含有したが、発明例混合物IM-3、IM-4およびIM-5はオルトホスフェートも含有し、一方で発明例混合物IM-1およびIM-2はオルトホスフェートを含有しなかった。混合物IM-1およびIM-2を溶解して本発明によるホウ酸塩を含まない水性の洗浄および処理組成物を製造した場合、pH値をリン酸(IM-1:5.30gのリン酸(75%)、IM-2:5.60gのリン酸(75%))で調整し、このようにしてそれぞれの洗浄および処理組成物にオルトホスフェートを導入した。
【0085】
表2に、比較例混合物CM-1の成分を示す。
【0086】
【表2】
【0087】
比較例混合物CM-1は、本発明において避けるべきホウ酸塩を含有した。比較例混合物CM-1、CM-2およびCM-3は、完全にPを含まなかった。CM-4およびCM-5は如何なるホスフェート(C)も含まなかった。CM-5、CM-6およびCM-7はメタシリケートを含有しなかったが、代わりにジシリケートを含有した。
【0088】
ホウ酸塩を含まない水性の洗浄および処理組成物
以下の表3は、本発明による組成物(IC)1リットルおよび比較例組成物(CC)1リットルそれぞれの調製に使用した発明例混合物(IM)および比較例混合物(CM)の量、およびpH調整剤50質量%の水酸化カリウム水溶液または75質量%のリン酸水溶液の量、および20℃(室温)での最終pH値を示す。
【0089】
【表3】
【0090】
表4は、Si原子およびP原子のmmol/L単位のモル量と、それら原子それぞれの由来(固形成分(A)、(B)、(C)、および該当する場合はリン酸(「酸から」)から)を示す。
【0091】
【表4】
【0092】
金属基材を洗浄および処理する方法
金属基材パネルとして、AW-5005(AlMg1)(アルミニウム/マグネシウム合金;DIN EN573-3:2009-08も参照)およびAA6014(アルミニウム/マグネシウム/ケイ素合金)を、Chemetall GmbH社、フランクフルト、ドイツから市販されている油形態で使用し、その寸法は10.5×19cmであった。
【0093】
パネル表面の真性ケイ素含量は、Siとして表され、蛍光X線分析によって測定して、アルミニウムベースの合金AW5005(AlMg1)では1mg/m、そしてアルミニウムベースの合金AA6014では10mg/mであった。
【0094】
本発明の組成物IC-1~IC-5および比較例組成物CC-1~CC-7を別々の浴中で80℃に加熱した。パネルを浴中に浸漬することにより、パネルを別々の組成物中に24分間浸漬した。その後パネルを取り出し、水浴中で6分間浸漬すすぎし、そして別の水浴中で再び3分間浸漬すすぎして、如何なる過剰な洗浄及び処理組成物も除去した。その後、パネルを100℃で15分間乾燥した。
【0095】
乾燥後、パネルをゲート剪断で3.5×3.5cmの試料に切断し、そしてRFA分析により表面のSi含量を分析した。
【0096】
RFA装置として、Panalytical Axios max装置を使用した(Rh管3kW、チャンネルSi Kアルファ、真空下測定、開口部27mm、コリメータ300μm、フローメーター、励起24kV-110mA、クリスタルPE002、2シータ角最大109,1°、バックグラウンド1 107,1°、およびバックグラウンド2 110,4°、測定時間最大30秒、バックグラウンド各10秒)。
【0097】
表5に示すSi含量の値はベースライン補正値であり、つまり、AW-5005(AlMg1)を使用した場合は1mg/mの量、AA6014を使用した場合は10mg/mの量を、上記RFA分析で求めた値から差し引いた。2つの測定の平均値を整数値に切り上げて表示する。
【0098】
さらに、光学的外観を評価した。対照として、ホウ酸塩を含有する比較例組成物CC-1を選択し、「良好」と評価した。
【0099】
表5の最後の欄には、組成物の安定性およびそれぞれの組成物の調製に使用した混合物の加工性を含む、総合評価に関する備考を示す。
【0100】
【表5】
【0101】
上記の実験に加えて、本発明の組成物IC-5を、処理時間、処理温度および組成物中の成分濃度が基材表面のSi含量に及ぼす関連性についてさらに調査した。この研究のため、本発明による方法を実施する前に、基材パネルの予備洗浄、すなわちリグロイン脱脂を行った。
【0102】
処理時間が約6分(温度80℃、濃度40gのIM-5/L)と短くても、基材AA6014の表面に満足のいくSi含量が得られることが見出された。24分間の処理と比較して6分間の処理後に検出されたSi含量は、85%と比較して依然として約75%であった。
【0103】
成分濃度を10gのIM-5/L(成分の4倍減)に下げ、処理温度を50℃に下げ、処理時間を1分に短縮した後でも、両基材の表面に検出されたSi含量は、依然として許容可能なベースライン補正範囲内であり、2mg/mであった。
【0104】
この研究から、以下のことが推測された。
・ 所定の温度および濃度での処理時間が長いほど、基材表面上のSi含量は高くなる、
・ 所定の処理時間および濃度での処理温度が高いほど、基材表面上のSi含量は高くなる、
・ 所定の処理時間および処理温度における成分の濃度が高いほど、基材表面上のSi含量は高くなり得る。
【0105】
このように、IM-5を10g/L~40g/Lの濃度範囲で使用して調製し、50℃~85℃の温度で最大で24分間使用したあらゆる組成物は、両方の基材の処理された金属表面のSi含量に関して満足のいく結果を示した。処理時間、温度および濃度が高いほど、Si含量は2~7mg/mの所望の範囲の上方値に近くなり、そして処理時間、温度および濃度が低いほど、Si含量は前述の範囲の下方の値に近くなる。
【国際調査報告】