(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-08
(54)【発明の名称】タクロリムスを含む薬学的製剤、その調製のための方法、および使用
(51)【国際特許分類】
A61K 31/706 20060101AFI20241001BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20241001BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20241001BHJP
A61K 47/34 20170101ALI20241001BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20241001BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20241001BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20241001BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20241001BHJP
【FI】
A61K31/706
A61P37/04
A61K9/14
A61K47/34
A61K47/38
A61K47/26
A61K47/02
A61K47/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024519103
(86)(22)【出願日】2022-09-27
(85)【翻訳文提出日】2024-05-17
(86)【国際出願番号】 EP2022025445
(87)【国際公開番号】W WO2023046321
(87)【国際公開日】2023-03-30
(32)【優先日】2021-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GR
(32)【優先日】2021-11-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】510022369
【氏名又は名称】ファーマシェン エス.エー.
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】カラバス, エバンゲロス
(72)【発明者】
【氏名】クトリス, エフシミオス
(72)【発明者】
【氏名】カランツィ, リダ
(72)【発明者】
【氏名】チャイティドゥ, ソティリア
(72)【発明者】
【氏名】レモナキス, ニコス
(72)【発明者】
【氏名】パパダキ, アンナ
(72)【発明者】
【氏名】ブリューデス, ヴィンセント
(72)【発明者】
【氏名】カレジ, アルテミス
(72)【発明者】
【氏名】カツェニス, アタナシオス
(72)【発明者】
【氏名】コッティ, カテリーナ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA31
4C076AA94
4C076BB15
4C076BB16
4C076CC07
4C076DD09
4C076DD23
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4C076FF31
4C076GG12
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA04
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA66
4C086NA12
4C086ZB08
(57)【要約】
本発明は、異なるPLGAポリマーおよびタクロリムスを含む生分解性ポリ(D,L-ラクチド-co-グリコリド)微小粒子の組合せに基づいた長時間作用性注射用製剤に関する。微小粒子の調製のための方法およびその使用にも関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
微小粒子を含む薬学的製剤であって、微小粒子が2つの異なるポリマーおよびタクロリムスを含み、ポリマーの各々が、ポリ(D,L-ラクチド-co-グリコリド)ポリマーであり、同じラクチド対グリコリドの比を有し、異なる分子量を有する、薬学的製剤。
【請求項2】
ポリ(D,L-ラクチド-co-グリコリド)ポリマーの各々が、ラクチド対グリコリドの比50:50を有する、請求項1に記載の薬学的製剤。
【請求項3】
ポリ(D,L-ラクチド-co-グリコリド)ポリマーが各々、15,000~80,000Daの範囲の異なる重量平均分子量を有する、請求項1または2に記載の薬学的製剤。
【請求項4】
ポリ(D,L-ラクチド-co-グリコリド)ポリマーが各々、15,000~58,000Daの範囲の異なる重量平均分子量を有する、請求項3に記載の薬学的製剤。
【請求項5】
ポリ(D,L-ラクチド-co-グリコリド)ポリマーが各々、17,000~50,000Daの範囲の異なる重量平均分子量を有する、請求項3に記載の薬学的製剤。
【請求項6】
第1のポリ(D,L-ラクチド-co-グリコリド)ポリマーの分子量が、15,000~30,000Daであり、第2のポリ(D,L-ラクチド-co-グリコリド)ポリマーの分子量が、30,000~80,000Daである、請求項1または2に記載の薬学的製剤。
【請求項7】
2つのポリ(D,L-ラクチド-co-グリコリド)ポリマーの分子量が、それぞれ17,000Daおよび50,000Daである、請求項6に記載の薬学的製剤。
【請求項8】
第1のポリ(D,L-ラクチド-co-グリコリド)ポリマーが、およそ17000Daの分子量を有し、第2が、およそ50000Daの分子量を有する、請求項1から7のいずれか一項に記載の薬学的製剤。
【請求項9】
70:30~30:70の比で2つの異なる微小粒子型を含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の薬学的製剤。
【請求項10】
2つの異なる微小粒子が、10~200ミクロンのレーザー光回折により測定される粒径を有する、請求項1から9のいずれか一項に記載の薬学的製剤。
【請求項11】
微小粒子のポリマーの濃度が、5~13%w/wである、請求項1から10のいずれか一項に記載の薬学的製剤。
【請求項12】
筋肉内または皮下投与の前に希釈剤で再構成される、請求項1から11のいずれか一項に記載の薬学的製剤。
【請求項13】
希釈剤が、カルボキシメチルセルロースナトリウム、マンニトール、塩化ナトリウム、水酸化ナトリウム、ポリソルベート、酢酸、リン酸二水素ナトリウム一水和物、リン酸二ナトリウム七水和物の1つまたは複数を含む、請求項8に記載の薬学的製剤。
【請求項14】
筋肉内または皮下注射により投与される、請求項1から13のいずれか一項に記載の薬学的製剤。
【請求項15】
2か月に1回投与される、請求項1から14のいずれか一項に記載の薬学的製剤。
【請求項16】
微小粒子のタクロリムス薬物充填率が、20%w/w~30%w/wである、請求項1に記載の薬学的製剤。
【請求項17】
以下の工程:
- 2つの異なる分子量のPLGAポリマーを、溶媒中で撹拌しながら溶解する工程;
- タクロリムスを、撹拌しながらポリマー溶液に添加して、分散油相(DP)を形成する工程;
- 注射用水(WFI)、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)および緩衝剤を含む連続相(CP)を調製し、制御された温度下で維持する工程;
- 分散および連続相を、高剪断ローターステーター連続流分散機(すなわち、インラインホモジナイザー)またはオーバーヘッド撹拌機を使用して混合および乳化して、懸濁液を形成する工程;
- 懸濁液を、制御された温度および気流の下で撹拌することによる溶媒抽出およびエバポレーションに供して、有機溶媒および微小粒子凝固を満足に除去することを確実にする工程;
- 形成した微小粒子を、篩上へし、水で洗浄する工程;
- 微小粒子を減圧下で乾燥させる工程
を含む、請求項1に記載の微小粒子の調製のための方法。
【請求項18】
以下の工程:
i)第1のPLGAポリマーを、溶媒中で撹拌しながら溶解する工程;
- タクロリムスを、撹拌しながらポリマー溶液に添加して、分散油相(DP)を形成する工程;
- 注射用水(WFI)、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)および緩衝剤を含む連続相(CP)を調製し、制御された温度下で維持する工程;
分散および連続相を、高剪断ローターステーター連続流分散機(すなわち、インラインホモジナイザー)またはオーバーヘッド撹拌機を使用して混合および乳化して、懸濁液を形成する工程;
ii)第1のポリマーと異なる分子量を含む第2のPLGAポリマーを、ジクロロメタン(DCM)に撹拌しながら溶解する工程;
- タクロリムスを、撹拌しながらポリマー溶液に添加して、分散油相(DP)を形成する工程;
- 注射用水(WFI)、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)および緩衝剤を含む連続相(CP)を調製し、制御された温度下で維持する工程;
- 分散および連続相を、高剪断ローターステーター連続流分散機(すなわち、インラインホモジナイザー)またはオーバーヘッド撹拌機を使用して混合および乳化して、懸濁液を形成する工程;
iii)第1のPLGAポリマーおよび第2のPLGAポリマーを含有する懸濁液を、共に混合し、制御された温度および気流の下で撹拌することによる溶媒抽出およびエバポレーションにかけて、有機溶媒および微小粒子凝固を満足に除去することを確実にする工程;
- 形成した微小粒子を、篩上へし、水で洗浄する工程;
- 微小粒子を減圧下で乾燥させる工程
を含む、請求項1に記載の微小粒子の調製のための方法。
【請求項19】
以下の工程:
i)第1のPLGAポリマーを、溶媒中で撹拌しながら溶解する工程;
- タクロリムスを、撹拌しながらポリマー溶液に添加して、分散油相(DP)を形成する工程;
- 注射用水(WFI)、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)および緩衝剤を含む連続相(CP)を調製し、制御された温度下で維持する工程;
- 分散および連続相を、高剪断ローターステーター連続流分散機(すなわち、インラインホモジナイザー)またはオーバーヘッド撹拌機を使用して混合および乳化して、懸濁液を形成する工程;
- 懸濁液を、制御された温度および気流の下で撹拌することによる溶媒抽出およびエバポレーションに供して、有機溶媒および微小粒子凝固を満足に除去することを確実にする工程;
- 形成した微小粒子を、篩上へ収集し、水で洗浄する工程;
- 微小粒子を減圧下で乾燥させる工程
ii)第1のポリマーと異なる分子量を含む第2のPLGAポリマーを、溶媒中で撹拌しながら溶解する工程;
- タクロリムスを、撹拌しながらポリマー溶液に添加して、分散油相(DP)を形成する工程;
- 注射用水(WFI)、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)および緩衝剤を含む連続相(CP)を調製し、制御された温度下で維持する工程;
- 分散および連続相を、高剪断ローターステーター連続流分散機(すなわち、インラインホモジナイザー)またはオーバーヘッド撹拌機を使用して混合および乳化して、懸濁液を形成する工程;
- 懸濁液を、制御された温度および気流の下で撹拌することによる溶媒抽出およびエバポレーションにかけて、有機溶媒および微小粒子凝固を満足に除去することを確実にする工程;
- 形成した微小粒子を、篩上へし、水で洗浄する工程;
- 微小粒子を減圧下で乾燥させる工程
iii)乾燥させた後、第1のPLGAポリマーから作製される微小粒子および第2のPLGAポリマーから作製される微小粒子を、物理的に混合する工程
を含む、請求項1に記載の微小粒子の調製のための方法。
【請求項20】
第1のPLGAポリマーの第2のPLGAポリマーに対する比が、70:30~30:70である、請求項17、18および19に記載の方法。
【請求項21】
PLGAポリマーのための溶媒が有機溶媒である、請求項17、18および19に記載の方法。
【請求項22】
溶媒が、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、ジクロロメタン(DCM)、クロロホルムおよびアセトンから選択される、請求項17、18および19に記載の方法。
【請求項23】
溶媒が、ジクロロメタン(DCM)である、請求項17、18および19に記載の方法。
【請求項24】
連続相の制御された温度が、20℃未満である、請求項17、18および19に記載の方法。
【請求項25】
連続相の制御された温度が、5~10℃である、請求項17、18および19に記載の方法。
【請求項26】
移植後の臓器拒絶反応、骨髄移植による移植片対宿主病、自己免疫疾患、感染症などの治療および予防のための、成人の腎臓、肝臓または心臓の同種移植片レシピエントの移植片拒絶反応の予防における、請求項1に記載の製剤の使用。
【請求項27】
デュアルチャンバーシリンジ、または別個のバイアルに存在する希釈剤および微小粒子で予め充填したシリンジを有するキットで筋肉内投与または皮下投与される、請求項1に記載の薬学的製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、治療的有効量のタクロリムスを含有する安定した持続放出性注射用薬学的製剤、その調製のための方法、ならびに移植後の臓器拒絶反応、骨髄移植による移植片対宿主病、自己免疫疾患、感染症などの治療および予防のための製剤の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
移植片拒絶反応は、移植片レシピエントの免疫系が移植された臓器または組織を攻撃する過程である。抗原がドナーとレシピエントとの間で類似するほど、臓器は拒絶する可能性が低くなる。組織適合試験では、臓器または組織がレシピエントの組織と可能な限り類似することを確実にする。通常、完璧に一致しない。2人の人間が、一卵性双生児を除いて同一の組織抗原を有することはない。
【0003】
以下の移植薬は、レシピエントの免疫系を抑制するのに使用される。その目的は、免疫系が新たに移植された臓器を攻撃することを防ぐことである。これらの薬を使用しない場合、身体は、免疫応答をほぼ常に開始し、外部組織を拒絶する。
【0004】
免疫抑制剤または抗拒絶性薬物は、移植された臓器を拒絶する身体の能力を低下させる。2種類の免疫抑制剤が存在し:誘導薬物は、移植時に使用される強力な抗拒絶性薬物であり、維持薬物は、移植の直後および長期的に、典型的に使用する抗拒絶性薬である。通常使用される維持薬は、カルシニューリン阻害剤(CNI)である。タクロリムスは、移植レシピエントの系統的記録(SRTR)からの報告に基づいて移植患者の大多数により使用されるCNI免疫抑制剤である。
【0005】
タクロリムスの免疫抑制活性は、T細胞の細胞質で見られるタンパク質ホスファターゼであるカルシニューリンの阻害、およびインターロイキン-2産生のその後の遮断を通して媒介され、T細胞増殖の減少をもたらす。
【0006】
タクロリムス一水和物の分子式は、C44H69NO12.H2Oであり、822の分子量に相当する。これは白色またはほぼ白色の結晶粉末である。エタノールに自在に可溶性であり、ヘプタンおよび水に実質的に不溶性である。
【0007】
水溶液中のタクロリムスは、タクロリムス化合物IIに変換される中間体タクロリムス化合物Iにエピ化して、3つの形態を含有する平衡に達する。これは、分子の固有特性である。
【0008】
タクロリムスは、経口錠剤、カプセルおよび懸濁液で、ならびに入院患者のみに対する点滴用の溶液のための濃縮物として、商品名PROGRAF(商標)で現在利用可能である。点滴用の溶液は、その存在が患者のアナフィラキシーショック(すなわち重度のアレルギー反応)および死亡をもたらし得る可溶化剤としてポリオキシル60水素添加ヒマシ油またはポリソルベート80を含む。静脈内注入を使用するための指示書では、個体の環境がアナフィラキシー反応を避けることが可能になるとすぐに患者は静脈内から経口薬に変換しなければならず、静脈内療法は7日より長く継続すべきではないことが奨励されている。経口薬は、少なくとも1日1回投与される。
【0009】
WO2006/002365A2は、微小粒子を含む製剤であって、微小粒子が、ポリマーおよびタクロリムスのような薬物を含み、薬物が、50%超および好ましくは75%超の濃度(薬物の重量/微小粒子の重量)で微小粒子に存在し、高い充填率の製剤がより低い頻度の投薬を促進し得ることを示唆する、製剤を開示する。残念なことに、開示される製剤は、少なくとも15%の薬物がほぼすぐに放出され、薬物の放出が最大でも約3週間しか継続しないという欠点を有する。
【0010】
EP1868576A2は、アナフィラキシー問題を避ける目的で、(a)約2000nm未満の効果的な平均粒径を有するタクロリムスの粒子;および(b)少なくとも1つの表面安定剤を含む、水素添加ヒマシ油を含まない注射用ナノ粒子製剤を開示する。残念なことに、開示される粒径の使用は、このような粒子が免疫細胞により食作用されるという欠点を有する(Dawes G.J.S.ら、Mater Sci:Mater Med(2009)20:1089~1094頁)。
【0011】
上記の患者の各々が、存在する治療レジメンに関連する問題を克服する試みを示すが、好適な制御放出の製品を提供せず、血漿の変動の避け、薬物の高い初期放出を避け、放出の満足するレベルを提供し、アナフィラキシーのような関連する副作用のリスクを軽減し、1日用量の経口製品を服用することを覚えなければならないことを避けることにより患者の遵守を改善する制御放出の注射用製剤の必要性が依然としてある。
【発明の概要】
【0012】
本発明は、微小粒子を含む薬学的製剤であって、微小粒子が、2つの異なるポリマーおよびタクロリムスを含み、ポリマーの各々が、ポリ(D,L-ラクチド-co-グリコリド)ポリマーであり、同じラクチド対グリコリドの比を有し、異なる分子量を有する、薬学的製剤を提供する。
【0013】
本発明によるタクロリムスは、任意の結晶もしくは非晶質の形態でのタクロリムスの塩基もしくは任意の塩、またはその誘導体を含み得る。タクロリムスの2種類の立体配座不均一性が報告されている:
1)ピペコリン酸部分でのアミド結合の拘束回転を含む、シス-トランス立体配座異性化。
2)シス異性体およびタクロリムスは、固体状態においてシス型立体配座に存在する。
【0014】
本発明は、任意で他の免疫抑制剤と組み合わせた、タクロリムスの制御放出用、移植後の臓器拒絶反応を予防または治療するのに使用される非経口投与用、より具体的には同種異系肝臓、腎臓または心臓移植片を受けた成人および小児の患者における臓器拒絶反応の予防のための注射用薬学的製剤を対象とする。
【0015】
本発明の目的は、薬物の放出を制御し、投与頻度を低下させるためにポリマー性微小粒子にカプセル化したタクロリムスを提供することである。このような製剤は、より良好な服薬アドヒアランスを確実にし、治療薬のモニタリングに対する必要性を低減し、現在注射されるタクロリムス製剤に伴うアナフィラキシー問題の可能性を低減し、経口製品の1日投薬に対する必要性を避ける。
【0016】
本発明のさらなる利点は、任意の放出の遅滞期を呈していないか、またはバーストせず、最大で2か月の期間、直線的な放出プロファイルを実質的に有するタクロリムス注射用製剤を提供することである。これは、異なるPLGAポリマーからなる2つの微小粒子型を組み合わせることにより達成される。
【0017】
本発明のさらなる目的は、皮下投与または筋肉内投与して、薬物の長期的な制御放出をもたらすデポーを形成することができる注射用製剤を提供することである。
【0018】
本発明のさらなる目的は、有効成分としてタクロリムスを含む注射用制御放出製剤であって、良好な通針性(syringability)、注射可能性、シリンジ針の目詰まりまたは遮断はなし、良好なドレナージ、無菌状態、および懸濁液の場合の再懸濁性を示す、注射用制御放出製剤を提供することである。
【0019】
本発明のさらなる目的は、タクロリムスを含む粉末形態で注射用ポリマー性微小粒子を調製する方法を提供することである。方法は、乳化(o/w)(シングルまたはダブル)と、続く溶媒抽出/エバポレーションを含む。水性ビヒクルはまた、投与前に粉末の再構成のために提供される。
【0020】
希釈剤を含む微小粒子は、デュアルチャンバーシリンジ、または別個のバイアルに存在する希釈剤および微小粒子で予め充填したシリンジを有するキットとして存在し得る。
【0021】
本発明の他の目的および利点は、以下の詳細な説明の観点から当業者に明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】フィルムの分解でのMwおよびラクチドのグリコリド(L:G)比の効果を提示する。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の目的のために、有効成分を含む薬学的製剤は、有効成分がそれ自体および/または公知の薬学的製剤で行われるより多少ゆっくりと分解する場合に安定であるとみなされる。制御放出、持続放出、徐放性および長期作用性放出のような単語は、別途指定のない限り、互換的に使用される。
【0024】
既に記述されている通り、本発明の主要な目的は、タクロリムスの薬物動態最適化および服薬アドヒアランスの改善に寄与する薬物を充填した微小粒子の形態でタクロリムスの制御放出注射用製剤を提供することである。
【0025】
移植片生着を確実にするその成功にもかかわらず、その狭い治療指数(5~15ng/ml)のために、タクロリムスの治療上での使用は困難である。タクロリムスは、薬物動態プロファイルにおける患者間/患者内の変動が大きく、その低い溶解度のために経口生物学的利用能が低い。下位治療レベルのタクロリムスは、異種移植片の急性の拒絶をもたらし得る。さらに、全身的に送達されるタクロリムスは、薬物の非選択的分布による腎毒性および全身の免疫抑制を含む重度の副作用を引き起こし得る。実際に、薬物誘導生腎毒性は、44%の高さの報告された全発生率を伴うTACの主な用量制限の副作用である。残念なことに、腎毒性は、患者の移植片生着および余命への悪影響のような重度の合併症をもたらし得る。実際に、腎毒性作用は、これらの薬物を伴う治療レジメンの間に課題を提示する(Randhawa、P.S.、Starzl、T.E.&Demetris、A.J.Tacrolimus(FK506)-Associated Renal Pathology.Adv Anat Pathol 4、265~276頁(1997))。
【0026】
タクロリムスは、即時放出性カプセル、持続放出性カプセルおよび持続放出性錠剤を含む経口剤形で現在利用可能である。低い水溶解度、部位依存性浸透性、消化管および肝臓での広範囲な初回通過代謝、P-gp媒介性薬物排出ならびに食物の影響は、タクロリムスの種々の低い経口生物学的利用能に対して最も重要な理由である。タクロリムスもまた、点滴用の溶液に対する濃縮物として利用可能であるが、静脈内投与は、経口投与が実施できない臓器移植の早期段階にのみ限定され、対象が病院ケアを受けている場合、患者が経口投与に耐えることができるとすぐに、静脈内注入を中断しなければならないと奨励されている(Prograf(登録商標)注射のUSA処方情報)。
【0027】
本発明は、薬物放出を制御し、タクロリムスの免疫抑制活性を維持しながら関連する毒性を低減し、上述した乏しい経口生物学的利用能の問題を避けるポリマーでの滞留時間の後に有効成分の徐放性を可能にする微小粒子として生分解性ポリマー中のタクロリムスの非経口投与用の制御放出性薬物送達システムを提供する。
【0028】
治療に対するアドヒアランスは、広範囲な臨床的な設定において患者に対する臨床的転帰の重要な決定要素である。アドヒアランスは、患者が数か月または数年間の治療を必要とすることが多く、治療の早期中断が患者の健康および生活の質に対して深刻な結果を有し得る重症な疾病において特に重要である。
【0029】
治療の不履行の具体的な理由にかかわらず、処方される薬の服用の継続を患者が失敗することは、高い再発率、入院、一部の患者では、死亡のリスクの上昇に寄与する。
【0030】
薬物送達技術での最近の進歩は、治療的転帰を改善するように設計された革新的な送達システムの開発をもたらしている。薬物療法に対する乏しいアドヒアランスの問題に対する1つの可能な解決策は、単回適用で数日または数週間の期間にわたって徐々に薬を放出する、新しい長期作用性薬物送達システムの開発である。長期作用性注射用の技術は、長い作用期間を通して安全性および有効性を改善し、アドヒアランス問題ならびに副作用を低減することにより従来の製品に対する優位性を提供することができる。患者が低い頻度で薬を服用することを可能にすることにより、これらの技術では、服薬遵守が転帰の改善に密接に相関する重症の疾患を治療するのにとりわけ有益であり得る薬物が創出される。
【0031】
本発明の製剤は、溶解度特性を向上させており、順に、患者への投与時に生物学的利用能を向上させ、吸収の変動を小さくする。これらの必要性を満たすことにより、本発明は、可溶化剤としてポリオキシル60水素添加ヒマシ油(HCO-60)および/またはポリソルベート80を使用する必要性を排除する。これは、従来の注射用タクロリムス製剤が可溶化剤としてポリオキシル60水素添加ヒマシ油またはポリソルベート80を含むので、有益である。このような可溶化剤の存在は、患者のアナフィラキシーショック(すなわち重度のアレルギー反応)および死亡をもたらし得る。
【0032】
本発明は、成人の腎臓、肝臓または心臓の同種移植片レシピエントの移植片拒絶反応の予防に使用される。治療的有効量の本発明の注射用製剤は、患者の皮下または筋肉内にデポーを形成するように対象に投与される。デポーは、経時的にタクロリムスをゆっくり放出して、同種異系臓器レシピエントに長期的な治療を提供する。
【0033】
生分解性材料は、天然または合成由来であり、酵素によりまたは酵素によらずまたはその両方のいずれかで、in vivoで分解されて、正常な代謝経路によりさらに排除される生体適合性で毒性学的に安全な副生成物を生成する。制御された薬物送達に使用されるこのような材料の数は、過去10年間で劇的に増加している。薬物送達で使用される生体材料の基本的なカテゴリーは、(1)合成生分解性ポリマー、α-ヒドロキシ酸(ポリ乳酸-co-グリコール酸、PLGAを含むファミリー)、ポリ酸無水物などのような比較的疎水性である材料を含む、ならびに(2)天然に存在するポリマー、例えば複合糖類(ヒアルロナン、キトサン)および無機物類(ヒドロキシアパタイト)として広範に分類することができる。
【0034】
ポリエステルPLGAは、ポリ乳酸(PLA)およびポリグリコール酸(PGA)の共重合体である。これは、設計および実施に関して最も定義されている薬物送達に利用可能な生体材料である。ポリ乳酸は、それぞれ、古典的な立体化学用語でのD型またはL型として、時にはR型およびS型として典型的に記載される不斉α-炭素を含有する。ポリマーPLAのエナンチオマー形態は、ポリD-乳酸(PDLA)およびポリL-乳酸(PLLA)である。PLGAは、一般にポリD,L-乳酸-co-グリコール酸の頭文字であり、D-およびL-乳酸の形態は同じ比で存在する。
【0035】
注射用生分解性および生体適合性PLGA粒子(微小粒子、マイクロカプセル、ナノカプセル、ナノスフェア)は、制御放出剤形で利用することができる。このようなポリマーデバイスに製剤化された薬物は、ポリマーバリアを通した拡散、またはポリマー材料の侵食、または拡散および侵食の両方の機構の組合せのいずれかにより放出される。その生体適合性、薬物適合性、好適な生分解動態、および機械的性質に加えて、PLGAは、様々な形態およびサイズで容易に処理し、製造することができる。ポリマー製剤は、分解の速度に影響を及ぼす送達マトリクスの親水性および分解速度を決定する最も重要な因子である。オリゴマーにおけるグリコール酸百分率の上昇は、一般にポリマーの重量損失を加速させる。PLGA50:50は、より高い親水性により割り当てられた好ましい分解のグリコール酸の割合によるPLGA65:35より迅速な分解を呈する。続いて、PLGA65:35はPLGA75:25より迅速で、PLGA75:25はPLGA85:15より迅速な分解を示す。ゆえに、分解速度の絶対値は、グリコール酸の割合と共に増加する。グリコール酸の量は、マトリクスの親水性と、それゆえの分解および薬物放出率の調節における重大なパラメーターである。より高い分子量のポリマーは、一般により小さい分解速度を呈する。分子量は、ポリマー鎖のサイズに直接関係する。より大きな分子量を有するポリマーは、より長いポリマー鎖を有し、小さいポリマー鎖より長い時間を分解に要する。
【0036】
薬物放出率および放出時間は、ポリマーの種類、ポリマー分子量ならびにミクロスフェアサイズおよび形態を調節することにより制御することができるので、治療的な必要性により薬物を充填した微小粒子を製造することを可能にする。タクロリムスに対するPLGAミクロスフェア技術の適用の2つの予想される効果が存在する。1つは、薬物動態プロファイルの変化に関連する有害作用の低下である。もう1つは、服薬アドヒアランスの改善である。
【0037】
本発明によるPLGA微小粒子の調製に使用するのに好適な市販のポリマーは、Evonik Industries AG製のRESOMER(登録商標)およびLAKESHORE BIOMATERIALS、PCAS.製のExpansorb(登録商標)、PURAC Biochem BV製のPURASORB(登録商標)を含むが、限定されない。
【0038】
本発明の目的は、50:50のラクチド対グリコリドの比を有するPLGAポリマーの使用により特に支援される。このようなポリマー、好ましくは15,000~80,000Da、より好ましくは15,000~58,000Daの分子量を有するもの、とりわけおよそ17,000Da~50,000Daの分子量のものは、少なくとも2か月の期間、直線的な放出プロファイルを達成することに特に関連する。
【0039】
本発明の好ましい実施形態では、第1のポリマーの分子量は、15,000~30,000Daであり、第2のポリマーの分子量は、30,000~80,000Daである。本発明のさらに好ましい実施形態では、2つのポリマーの分子量は、それぞれ17,000Daおよび50,000Daである。
【0040】
単一のPLGAポリマーの使用は、所望の放出プロファイルを得られないが、ここで驚くべきことに、我々は、タクロリムスの低い初期バースト放出をもたらすように制御され、少なくとも2か月の期間、制御されるタクロリムス放出の直線的なプロファイルが、2つの異なるPLGA微小粒子型を組み合わせる場合に達成されることを見出した。両方の型のPLGAポリマーは、50:50のラクチド対グリコリドの比を有するが、各微小粒子型は、異なる分子量のポリマーで調製される。2つの微小粒子型が70:30~30:70の比で組み合わせる場合、必要とする放出率を達成する。
【0041】
それにもかかわらず、ポリマーの適切な選択および組合せは、類似の様式で機能することができるかは依然として分かっていない。同じまたは異なる性質の、異なる分子量および/またはラクチド対グリコリドの比の3つ以上の異なるポリマーで製造される微小粒子の組合せが、本発明のものと同等である挙動を提示することができることを証明することができる。さらに、本発明は、タクロリムスのような溶解度が低く、膜透過性が高い他の薬学的に活性な成分への適用を見出すことができる。このような薬学的に活性な成分は、フルルビプロフェン、ナプロキセン、シクロスポリン、ケトプロフェン、リファンピシン、カルバマゼピングリベンクラミド、ビカルタミド、エゼチミブ、アセクロフェナクなどであり得る。
【0042】
薬物送達マトリクスにおける薬物充填率の量ならびにポリマー濃度は、薬物放出の速度および期間に著しい役割を担う。薬物含有量がより高いマトリクスは、ポリマー対薬物の比がより小さいためにより小さい含有量を有するものより大きな初期バースト放出を有する。しかし、この薬物含有量の効果は、薬物含有量が薬物の種類に依存してある特定のレベルに達する場合に弱体化する。本発明では、微小粒子での薬物充填率は、タクロリムスの30%w/w未満が好ましく、とりわけ20%w/w~30%w/wである。5%w/w~13%w/wのポリマー濃度はまた、本発明で好ましい。
【0043】
PLGA微小粒子を作製するためのいくつかの方法が知られている。好ましくは、本発明の微小粒子は、単一のエマルジョン溶媒エバポレーション法により生成される。これは、最も容易で、最速で、最も費用効率がよい方法である。好適な方法は、以下により詳細に記載する:
a)以下の工程:
- 2つの異なる分子量のPLGAポリマーを、好適な溶媒中で撹拌しながら溶解する工程
- タクロリムスを、撹拌しながらポリマー溶液に添加して、分散油相(DP)を形成する工程;
- 注射用水(WFI)、1つまたは複数の界面活性剤、および1つまたは複数の緩衝剤を含む連続相(CP)を調製し、制御された温度下で維持する。連続相は、20℃未満、より好ましくは5~10℃の温度で自動温度調節する工程;
- 分散および連続相を、高剪断ローターステーター連続流分散機(すなわち、インラインホモジナイザー)またはオーバーヘッド撹拌機を使用して混合および乳化して、懸濁液を形成する工程;
- 懸濁液を、制御された温度および気流の下で撹拌することによる溶媒抽出およびエバポレーションにかけて、有機溶媒および微小粒子凝固を満足に除去することを確実にする工程;
- 形成した微小粒子を、篩上へし、水で洗浄する工程;
- 微小粒子を減圧下で乾燥させる工程
を含む、微小粒子の調製のための方法。
b)以下の工程:
i)第1のPLGAポリマーを、好適な溶媒中で撹拌しながら溶解する工程;
- タクロリムスを、撹拌しながらポリマー溶液に添加して、分散油相(DP)を形成する工程;
- 注射用水(WFI)、1つまたは複数の界面活性剤、および1つまたは複数の緩衝剤を含む連続相(CP)を調製し、制御された温度下で維持する。連続相は、20℃未満、より好ましくは5~10℃の温度で自動温度調節する工程;
分散および連続相を、高剪断ローターステーター連続流分散機(すなわち、インラインホモジナイザー)またはオーバーヘッド撹拌機を使用して混合および乳化して、懸濁液を形成する工程;
ii)第1のポリマーと異なる分子量を含む第2のPLGAポリマーを、好適な溶媒中で撹拌しながら溶解する工程
- タクロリムスを、撹拌しながらポリマー溶液に添加して、分散油相(DP)を形成する工程;
- 注射用水(WFI)、1つまたは複数の界面活性剤、および1つまたは複数の緩衝剤を含む連続相(CP)を調製し、制御された温度下で維持する。連続相は、20℃未満、より好ましくは5~10℃の温度で自動温度調節する工程;
- 分散および連続相を、高剪断ローターステーター連続流分散機(すなわち、インラインホモジナイザー)またはオーバーヘッド撹拌機を使用して混合および乳化して、懸濁液を形成する工程;
iii)第1のPLGAポリマーおよび第2のPLGAポリマーを含有する懸濁液を、共に混合し、制御された温度および気流の下で撹拌することによる溶媒抽出およびエバポレーションにかけて、有機溶媒および微小粒子凝固を満足に除去することを確実にする工程;
- 形成した微小粒子を、篩上へし、水で洗浄する工程;
- 微小粒子を減圧下で乾燥させる工程
を含む、微小粒子の調製のための方法。
c)以下の工程:
i)第1のPLGAポリマーを、好適な溶媒中で撹拌しながら溶解する工程;
- タクロリムスを、撹拌しながらポリマー溶液に添加して、分散油相(DP)を形成する工程;
- 注射用水(WFI)、1つまたは複数の界面活性剤、および1つまたは複数の緩衝剤を含む連続相(CP)を調製し、制御された温度下で維持する。連続相は、20℃未満、より好ましくは5~10℃の温度で自動温度調節する工程;
分散および連続相を、高剪断ローターステーター連続流分散機(すなわち、インラインホモジナイザー)またはオーバーヘッド撹拌機を使用して混合および乳化して、懸濁液を形成する工程;
- 懸濁液を、制御された温度および気流の下で撹拌することによる溶媒抽出およびエバポレーションにかけて、有機溶媒および微小粒子凝固を満足に除去することを確実にする工程;
- 形成した微小粒子を、篩上へし、水で洗浄する工程;
- 微小粒子を減圧下で乾燥させる工程
ii)第1のポリマーと異なる分子量を含む第2のPLGAポリマーを、好適な溶媒中で撹拌しながら溶解する工程;
- タクロリムスを、撹拌しながらポリマー溶液に添加して、分散油相(DP)を形成する工程;
- 注射用水(WFI)、1つまたは複数の界面活性剤、および1つまたは複数の緩衝剤を含む連続相(CP)を調製し、制御された温度下で維持する。連続相は、20℃未満、より好ましくは5~10℃の温度で自動温度調節する工程;
- 分散および連続相を、高剪断ローターステーター連続流分散機(すなわち、インラインホモジナイザー)またはオーバーヘッド撹拌機を使用して混合および乳化して、懸濁液を形成する工程;
- 懸濁液を、制御された温度および気流の下で撹拌することによる溶媒抽出およびエバポレーションにかけて、有機溶媒および微小粒子凝固を満足に除去することを確実にする工程;
- 形成した微小粒子を、篩上へし、水で洗浄する工程;
- 微小粒子を減圧下で乾燥させる工程
iii)乾燥させた後、第1のPLGAポリマーから作製される微小粒子および第2のPLGAポリマーから作製される微小粒子を、物理的に混合する工程
を含む、請求項1に記載の微小粒子の調製のための方法。
【0044】
PLGAポリマーのモル比は70:30~30:70であり、好ましくは50:50のモル比であり得る。
【0045】
上記の方法で使用することができるPLGAに好適な溶媒は、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、ジクロロメタン(DCM)およびクロロホルムのような有機溶媒を含むが、限定されず、好ましい溶媒はジクロロメタンである。
【0046】
連続相は、独立してまたは組み合わせて使用される、アニオン性界面活性剤(例えばステアリン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム)、非イオン性界面活性剤(例えばtween類)、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロースナトリウムおよびゼラチンから選択される1つまたは複数の界面活性剤を含む水溶液からなる。1つの界面活性剤を使用することが好ましい。好ましい界面活性剤はポリビニルアルコール(PVA)である。
【0047】
好適な緩衝剤は、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、重炭酸カリウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、第一リン酸カリウム、および第二リン酸カリウムならびにその組合せを含み、好ましい緩衝剤は、炭酸ナトリウムおよび重炭酸ナトリウムならびにその組合せである。
【0048】
本発明で記載される方法により、レーザー光回折で測定される10~200ミクロンの粒径分布を伴う微小粒子の形成がもたらされる。
【0049】
製剤は、好ましくは、好適な希釈剤で再構成した後、皮下または筋肉内注射で投与される。より詳細には、希釈剤は、予め充填したシリンジに詰め、粉末はバイアルに微小粒子を含有することができる。使用直後、予め充填したシリンジ(溶媒)およびバイアル(粉末)の内容物を混合して、患者に注射される懸濁液を調製する。あるいは、デュアルチャンバーペンを使用することができ;1つのチャンバー中の粉末は、溶媒と使用する前に予め充填したペンの他のチャンバーに混合し、得られた懸濁液を患者に注射する。製剤は、好ましくは、2か月に1回投与する。
【0050】
好適な希釈剤は、懸濁化剤/粘度エンハンサー、緩衝剤および/またはpH調節剤、界面活性剤、ならびに張性調節剤からなる群から選択される薬学的に許容される添加物を含む。好適な粘度増強剤は、マンニトール、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリビニルピロリドン(PVP)、例えばPLASDONEおよびヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、例えばメトセル、好ましくはカルボキシメチルセルロースナトリウムおよびマンニトールを含む。通常使用されるバッファー添加物は、クエン酸一水和物、グリシン、マレイン酸、メチオニン、酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム二水和物、リン酸二水素ナトリウム一水和物およびリン酸二ナトリウム七水和物、好ましくはリン酸二水素ナトリウム一水和物およびリン酸二ナトリウム七水和物ならびに/またはクエン酸一水和物を含む。張性調節剤、例えばデキストロース、マンニトール、塩化カリウム、塩化ナトリウム、好ましくは塩化ナトリウムを使用することができる。界面活性剤、例えばポリソルベート20および80、D-a-トコフェリルポリエチレングリコール1000スクシネート、ポリオキシエチル化ヒマシ油、好ましくはポリソルベート20および80もまた使用することができる。PH調節剤は、酢酸、水酸化ナトリウム、塩化ナトリウム、好ましくは水酸化ナトリウムおよび/または塩化ナトリウムから選択される。水性希釈剤は、6~7.5のpH範囲および3~90cPの範囲の粘度を有するものが特に好ましい。
【実施例】
【0051】
実施例1
材料の適合性は、ポリマーを様々な溶媒(すなわち、DCM、THF)に溶解し、API材料を生成した溶液にゆっくり添加することにより試験した。異なるポリマーは、表1に提示するように使用した。最大で30%w/wのタクロリムス濃度で、透明な溶液を全ての場合で得た。
【0052】
分解試験に対して、30%w/wのタクロリムスを含有する各ポリマーのフィルムを合成し、プラセボフィルム(タクロリムスの存在なし)と比較した。溶媒をエバポレートした後、DCM溶媒に適切な量のポリマーおよびタクロリムスを含有する溶液からフィルムを調製した。分離したフィルムを、リン酸バッファー食塩水(PBS、pH=7.4)溶液に浸し、ほぼ1か月間37℃で維持した。一定の時間間隔で、フィルムの試料を取り出し、MwをGPCで測定して、質量損失を試験した。
【0053】
フィルムは均一であり、相分離は観察されなかった。時間の点でのポリマーMW損失が測定され、その結果は以下の
図1に提示する。
【0054】
50:50の同じラクチド:グリコリド比のポリマーが、本発明の目的に最も好適である。さらに、全てのフィルムは、タクロリムスと共にこれらの適合性に対して試験し、API誘導生分解が存在しないことを示す非常に類似した分解プロファイルを提示した。
【0055】
実施例2
同じラクチド対グリコリドの比の2つのポリマーの微小粒子を、以下のような単一のエマルジョン溶媒エバポレーション法を使用して調製した。
【0056】
50:50のモル比を伴うポリ(D,L-ラクチド-co-グリコリド)(Mw=17,000またはMw=50,000)を、撹拌しながらジクロロメタンに溶解した。続いて、タクロリムスをポリマー溶液に溶解して、分散相(DP)を形成した。ポリ(ビニルアルコール)を、80℃で注射用水に溶解し、続いて炭酸水素ナトリウムおよび炭酸ナトリウムを添加した。溶液を25℃まで冷却して、連続相(CP)を形成した。所望の粒径分布の微小粒子を、CPおよびDPをインライン分散機に送達することにより調製した。懸濁液を、20℃に制御された温度および気流の下で撹拌することによる溶媒抽出およびエバポレーションにかけて、有機溶媒および粒子凝固を除去することを確実にした。3~4時間後、微小粒子をガラスフィルタードライヤーに移し、室温で過剰な水で洗浄し、24時間減圧下で静置して乾燥させた。
【0057】
使用したポリマーのMwの効果は、製造した微小粒子の品質属性(すなわち、粒径および放出プロファイル)について表2に示す。
【0058】
結果では、より高い分子量のポリマーが、同じセットのプロセスパラメーターに対してより大きな微小粒子をもたらすことを示す。これは、乳化の間に分散相のより高い粘度に起因し得る。より小さい微小粒子により得られたより早期の放出プロファイルは、表面積対単位体積のより高い比に起因し得る。
【0059】
実施例3
微小粒子の製剤化の間の分散(油)相でのポリマー濃度の効果もまた、低MWのPLGAポリマーで試験した。製剤は、微小粒子の品質属性でのPLGA濃度の効果を評価するのに試験している。
【0060】
分散(油相)でのポリマー濃度の効果は、製造した微小粒子の品質属性(すなわち、粒径および放出プロファイル)について表3に示す。
【0061】
分散相のポリマー濃度の増大により上記の表3に提示する通り、粒径もまた、乳化の間により高い粘度により増加する。2つの製剤の溶解プロファイルは、より小さいPLGA濃度で得られた微小粒子に対してわずかに高い線形性とほぼ類似した。したがって、5%w/wと13%w/wの間のPLGA濃度が、許容されるサイズの微小粒子を創出し、本発明の目的に適切であることが明らかになる。
【0062】
実施例4
先の製剤で示す通り、粒径は、溶解プロファイルで重要な役割を担う。粒径以外に、単位体積当たりの表面積もまた、微小粒子の多孔性を創出することにより増大し得る。溶媒抽出/エバポレーション法を使用して多孔性微小粒子を創出するための最も一般的な手段は、ダブルエマルジョン法を適用することである。放出率において多孔性の効果を評価するために、ダブルエマルジョン溶媒抽出およびエバポレーション法を適用し、生成した製剤を、シングルエマルジョン法を使用して実施したものと比較した。
【0063】
エマルジョン型の効果は、製造した微小粒子の品質属性(すなわち、粒径および放出プロファイル)について表に示す。
【0064】
ダブルエマルジョン法は、同じセットのプロセスパラメーターを伴うシングルエマルジョンと比較してより大きな微小粒子をもたらしている。サイズに基づいて得られた結果から、我々は、より小さい粒子に対してより大きな放出率を見出すと予想した。結果では、ダブルエマルジョン法で得られたより大きな微小粒子に対してより早期の放出プロファイルを示す。これは、多孔性の存在が、サイズ効果にわたって優勢であり、より大きな多孔性微小粒子が、より大きな比表面積によるより大きな放出率を呈することを示す。
【0065】
放出率に対する多孔性の効果をより決定的に評価するために、ほぼ同一のサイズを呈する微小粒子を試験しなければならない。同じサイズの微小粒子を分離するために、インラインホモジナイザーを利用した。
【0066】
エマルジョン型の効果は、製造した微小粒子の品質属性(すなわち、粒径および放出プロファイル)について表5に示す。
【0067】
提示された結果から、同じサイズの微小粒子に対して、溶解プロファイルは、ダブルエマルジョン法で得られた微小粒子の方がはるかにより迅速であることが明らかである。これは、微小粒子の多孔性および多孔性によるより高い比表面積の明らかな効果に起因する。
【0068】
実施例5
本発明による2か月の期間、直線的なプロファイルを達成するために、異なるMWの2つのPLGAを有するが、同じ(50:50)ラクチド対グリコリドの比を使用して微小粒子を調製した。実施例2に記載される単一の乳化法を使用した。PLGAの濃度は、5%w/w~13%w/wの最適比であり、タクロリムスの濃度は、30%w/w未満であり、創出される微小粒子は、10~200ミクロンの粒径を有する。
【0069】
別々に創出した微小粒子を、70:30~30:70の範囲での異なる質量比で物理的に混合し、これらの溶解プロファイルを測定し、以下の表6に提示する。
【0070】
放出プロファイルは、本発明による少なくとも2か月間、ほぼ直線的な放出を提示する。
【0071】
ポリマーをin situで混合したPLGA混合物の効果もまた評価した。これは、乳化(1つの分散相)の前に2つのポリマーをDCMに溶解すること、またはポリマーの1つを含有する1つの分散相の乳化と、続く同じ連続相(2つの異なる分散相)に第2のポリマーを含有する第2の分散相の乳化のいずれかにより行うことができる。
【0072】
これらの製剤の溶解プロファイルは、ここでも、表6に提示されたプロファイルに類似する。
【国際調査報告】