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特表2024-536880食酢発酵用人工菌叢の構築方法及び使用
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  • 特表-食酢発酵用人工菌叢の構築方法及び使用 図1
  • 特表-食酢発酵用人工菌叢の構築方法及び使用 図2
  • 特表-食酢発酵用人工菌叢の構築方法及び使用 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-08
(54)【発明の名称】食酢発酵用人工菌叢の構築方法及び使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/20 20060101AFI20241001BHJP
   C12N 1/00 20060101ALI20241001BHJP
   C12Q 1/68 20180101ALI20241001BHJP
   C12Q 1/04 20060101ALI20241001BHJP
   C12P 1/04 20060101ALI20241001BHJP
   C12J 1/04 20060101ALI20241001BHJP
【FI】
C12N1/20 A
C12N1/00 T
C12Q1/68
C12Q1/04
C12P1/04 Z
C12J1/04 103B
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024519119
(86)(22)【出願日】2022-09-27
(85)【翻訳文提出日】2024-05-20
(86)【国際出願番号】 CN2022121559
(87)【国際公開番号】W WO2023051492
(87)【国際公開日】2023-04-06
(31)【優先権主張番号】202111157939.5
(32)【優先日】2021-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513148853
【氏名又は名称】天津科技大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002262
【氏名又は名称】TRY国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】鄭 宇
(72)【発明者】
【氏名】夏 梦雷
(72)【発明者】
【氏名】王 敏
(72)【発明者】
【氏名】趙 翠梅
(72)【発明者】
【氏名】肖 云
(72)【発明者】
【氏名】夏 ▲てぃん▼
(72)【発明者】
【氏名】李 暄
(72)【発明者】
【氏名】李 丹▲とん▼
【テーマコード(参考)】
4B063
4B064
4B065
4B128
【Fターム(参考)】
4B063QA20
4B063QQ06
4B063QQ16
4B064AD01
4B064AD04
4B064CA02
4B064CC30
4B064DA10
4B065AA01X
4B065BA21
4B065BA30
4B065BC15
4B065CA42
4B128BC03
4B128BL02
4B128BL06
(57)【要約】
本発明は、食品発酵の技術分野に属し、食酢発酵用人工菌叢の合理的な構築方法及び使用に関する。本発明で提供される人工菌叢構築方法は、メタトランスクリプトーム配列決定技術に基づいて、初めてグループ化クラスター分析により人工菌叢を構築し、食酢インサイチュ酢酸発酵過程における活性微生物群集と類似性が90%以上であり、菌叢の代謝特徴は80%以上であり、人工菌叢の合理的な構築を実現することができる。また、本発明は、食酢発酵の安定性を十分に改善することができ、他の従来の発酵食品菌叢の構築、分析及び再現可能な風味合成技術の参考としても使用でき、高い科学的価値及び応用価値を有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記のステップ(1)から(5)を含む食酢発酵用人工菌叢の構築方法であって、
(1)微生物群集の機能アノテーションと種アノテーション:異なる発酵段階の酢モロミサンプルを採取し、不純物を除去し、それぞれ微生物の総RNAを抽出し、メタトランスクリプトーム配列決定を行い、配列決定の結果に対して機能アノテーションと種アノテーションを行い、
(2)汚染微生物と病原微生物の除去:対応する機能がアノテーション付けされた微生物について、汚染微生物及び病原微生物を除去し、
(3)初期コア微生物の決定:メタトランスクリプトームの結果における各発酵段階の全ての微生物(N種)の存在量に基づいて、発酵過程全体において各種の平均存在量が徐々に減少する順に並べ替え、最初の2種を組み合わせて第1群とし、順に1つの種を追加して組み合わせ、最終的にN-1個の微生物群を得て、
微生物群及び各段階の元の微生物群がいずれもクラスター化に成功しかつ類似性がいずれも≧90%である場合に必要な最小の種を初期コア微生物群として決定し、
(4)コア微生物群の代謝活性の検証
a.発酵終了時のサンプル中の主要な風味物質及び対応する代謝遺伝子を決定し、
b.各発酵段階の元の微生物の前記代謝遺伝子の転写発現量に対する初期コア微生物群の前記代謝遺伝子の転写発現量の割合を計算し、各段階の主要な風味代謝遺伝子の転写割合がいずれも≧80%である場合、次のステップに入り、ある段階の主要な風味物質代謝遺伝子の転写割合が<80%である場合、各段階の主要な風味物質代謝遺伝子の転写割合がいずれも≧80%に達するまで、ステップ(3)の種の存在量に従って順に1つの種を追加してステップ(4)を繰り返し、それによってコア微生物群を決定し、
(5)人工菌叢菌株のスクリーニング:コア微生物群の組成に基づいて、麹、酒モロミ、酢モロミなどのサンプルからスクリーニングして優れた性能を有する菌種を取得し、各段階の元の発酵サンプル中のコア微生物群における対応する微生物の平均生物量の割合で配合し、最終的に人工菌叢組成を得る
ことを特徴とする、食酢発酵用人工菌叢の構築方法。
【請求項2】
ステップ(3)において、各微生物群種の存在量データをソフトウェアMinitabにインポートし、最長距離法及びEuclidean距離により各微生物群と各段階の元の微生物菌叢の類似性を計算してクラスター分析を行うことを特徴とする、請求項1に記載の食酢発酵用人工菌叢の構築方法。
【請求項3】
ステップ(4)に記載の主要な風味物質とは、発酵終了時のサンプル中の主要な風味物質組成を検出して分析し、TAV>1の有機酸、アミノ酸が主要な旨味物質として定義され、ROAV>0.1の揮発性香気化合物が主要な香気化合物として定義され、両者が共同で食酢の主要な風味物質を構成することを指すことを特徴とする、請求項1に記載の食酢発酵用人工菌叢の構築方法。
【請求項4】
ステップ(4)に記載の主要な風味物質に対応する代謝遺伝子の決定とは、KEGGデータベースと照合し、メタトランスクリプトーム配列決定の結果からスクリーニングすることにより決定することを指すことを特徴とする、請求項1に記載の食酢発酵用人工菌叢の構築方法。
【請求項5】
ステップ(5)に記載の菌株のスクリーニングとは、異なる選択培地を用いて酢モロミサンプル中の微生物を1次スクリーニングし、耐酸性、耐温度、耐アルコール性などの条件で菌株の2次スクリーニングを行い、最後に異なる実験菌株に応じて発酵機能検証を行い、それによって最適菌株を決定し、最終的に人工菌叢の組成を決定することを指すことを特徴とする、請求項1に記載の食酢発酵用人工菌叢の構築方法。
【請求項6】
微生物群と各段階の元の微生物群は、いずれもクラスター化に成功し、かつ類似性が≧90%であることを特徴とする、請求項1に記載の食酢発酵用人工菌叢の構築方法。
【請求項7】
コア微生物群における主要な風味物質代謝遺伝子の転写発現量は、各発酵段階の元の微生物の主要な風味物質代謝遺伝子の転写発現量の85%以上を占めることを特徴とする、請求項1に記載の食酢発酵用人工菌叢の構築方法。
【請求項8】
請求項1から5のいずれか1項に記載の方法により構築された人工菌叢。
【請求項9】
食酢の酢酸発酵における請求項8に記載の人工菌叢の使用。
【請求項10】
液体又は固体の穀物酢又は果実酢の発酵過程に使用される、請求項9に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品発酵の技術分野に属し、具体的には、食酢発酵用人工菌叢の合理的な構築方法及び使用に関する。
【背景技術】
【0002】
中国の食酢の製造は主に穀物酢と果実酢を原料とし、従来の多菌株固体発酵又は純粋菌(酢酸菌)液体発酵を採用している。前者は風味がまろやかであるが発酵が遅く、後者は発酵が早いが風味が単一である。従来の食酢は、主に開放発酵プロセスにより生産されており、酢酸発酵段階が風味物質の形成と蓄積の主要な段階である。天然発酵剤である「種モロミ」は、食酢の酢酸発酵段階に豊富な微生物を提供する。しかし、実際の製造工程においては、「種モロミ」に豊富に含まれる微生物群集が様々な影響を受け変動しやすくなり、その結果、食酢の発酵プロセスや製品の品質が不安定となり、早急に解決する必要がある業界共通の技術課題となっている。科学技術の発展と微生物群集の研究の継続的な増加に伴い、発酵食品の品質を確保するには、自然発酵から発酵を取り扱い可能な人工菌叢への転換が不可欠となっている。
【0003】
食品の発酵プロセスは、限られた微生物属の働きに依存している。微生物は風味化合物を生成するだけでなく、微生物と相互作用して発酵を安定した方向に進行させ、食品発酵の正常な進行を保証する。例えば、酢酸菌が生成する酢酸は食酢の主要な風味物質であり、乳酸菌が生成する乳酸は酢の酸味を大幅に低下させ、様々な有益な因子やバクテリオシンも生成することもできる。さらに、バチルスは乳酸菌と協力してより多くの風味物質を生成することができる。機能の異なる微生物を単純に組み合わせて酢を製造する方法について研究されているが、この方法には科学的根拠がなく、酢の品質を効果的に保証することはできない。
【0004】
ハイスループット配列決定技術の発展のおかげで、菌叢構造の解析に基づいた人工菌叢の構築と使用に関する予備的な研究が行われてきた。しかし、この方法で得られる菌叢構造は必ずしも代謝活性が高いとは限らず、発酵段階におけるコロニーの真の代謝状況や機能を反映することはできない。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、食酢発酵用人工菌叢の合理的な構築方法及び使用を提供する。本発明で提供される人工菌叢の構築方法は、メタトランスクリプトーム配列決定技術に基づいて、グループ化クラスター分析によりコア微生物群を取得して人工菌叢を構築する。この技術を食酢発酵過程に使用することにより、安定生産を実現しながら、食酢の風味と品質を向上させることができる。この技術により、人工的に構築した菌叢構造が必ずしも比較的高い代謝活性を有するわけではなく、発酵段階におけるコロニーの真の代謝状況及び機能を反映できないなどの問題が解決される。この技術は、メタトランスクリプトーム配列決定技術に基づいて、グループ化クラスター分析によりコア微生物群を取得して人工菌叢を構築する。さらに、微生物の機能活性解析に基づいて、活性微生物の代謝ネットワークを再構築し、食酢発酵用人工菌叢を構築する。それによって、発酵過程及び製品品質の安定性が効果的に保証される。
【0006】
食酢発酵用人工菌叢の合理的な構築方法は、下記のステップを含む。
【0007】
(1)微生物群集の機能アノテーションと種アノテーション:異なる発酵段階のシミュレーションすべき酢モロミサンプルを採取し、不純物を除去し、それぞれ微生物の総RNAを抽出し、メタトランスクリプトーム配列決定を行う。配列決定の結果に対して機能アノテーションと種アノテーションを行う。
【0008】
(2)汚染微生物と病原微生物の除去:対応する機能がアノテーション付けされた微生物について、汚染微生物及び病原微生物を除去する。
【0009】
(3)初期コア微生物の決定:メタトランスクリプトームの結果における各発酵段階の全ての微生物(N種)の存在量に基づいて、発酵過程全体において各種の平均存在量が徐々に減少する順に並べ替え、最初の2種を組み合わせて第1群とし、順に1つの種を追加して組み合わせ、最終的に(N-1)個の微生物群を得る。
微生物群及び各段階の元の微生物群がいずれもクラスター化に成功しかつ類似性がいずれも≧90%である場合に必要な最小の種を初期コア微生物群として決定する。
さらに、各微生物群の種の存在量のデータをソフトウェアMinitabにインポートし、最長距離法及びEuclidean距離により各微生物群と各段階の元の微生物菌叢の類似性を計算してクラスター分析を行う。
前記種の存在量は、微生物の種類及び対応する濃度を含む。
好ましくは、類似性はいずれも>95%である。
【0010】
(4)コア微生物群の代謝活性の検証
a.発酵終了時のサンプル中の主要な風味物質及び対応する代謝遺伝子を決定する。
b.各発酵段階の元の微生物の前記代謝遺伝子の転写発現量に対する初期コア微生物群の前記代謝遺伝子の転写発現量の割合を計算し、各段階の主要な風味代謝遺伝子の転写割合がいずれも≧80%である場合、次のステップに入る。ある段階の主要な風味物質代謝遺伝子の転写割合が<80%である場合、各段階の主要な風味物質代謝遺伝子の転写割合がいずれも≧80%に達するまで、ステップ(3)の種の存在量に従って順に1つの種を追加してステップ(4)を繰り返し、それによってコア微生物群を決定する。
好ましくは、コア微生物群の代謝遺伝子の転写割合は85%以上である。
さらに、前記主要な風味物質については、高速液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフ質量分析計などの装置を用いて発酵終了時のサンプル中の主要な風味物質の組成を検出し、風味物質の閾値及び含有量と合わせてこの物質の風味強度を分析し、TAV>1(旨味強度値)の有機酸、アミノ酸を主要な旨味物質として定義する。それらは食酢の酸味、甘味、苦味などの旨味に対して重要な貢献を有する。ROAV>0.1(相対香気活性値)の揮発性香気化合物を主要な香気化合物として定義する。両者は共同で食酢の主要な風味物質を構成する。
なお、各発酵段階の主要な風味物質の代謝遺伝子の決定とは、KEGGデータベースと照合し、メタトランスクリプトーム配列決定の結果からスクリーニングすることにより決定することを指す。
【0011】
(5)人工菌叢菌株のスクリーニング:コア微生物群の組成に基づいて、麹、酒モロミ、酢モロミなどのサンプルからスクリーニングして優れた性能を有する菌種を取得する。
さらに、必要に応じて異なる選択培地を用いて酢モロミサンプルにおける微生物を1次スクリーニングし、耐酸性、耐温度、耐アルコール性などの条件で菌株の2次スクリーニングを行い、最後に異なる実験菌株に応じて発酵機能検証を行い、それによって最適菌株を決定し、最終的にコア微生物群の具体的な微生物組成を決定する。
さらに、選択培地として、デンプン、セルロース、グルコース、エタノール、酢酸などの異なる基質を含む培地を用いて、酢モロミなどのサンプルにおける、デンプン又はセルロースの加水分解、グルコース又はエタノールの変換により有機酸、アルコール、エステル、アルデヒドが生成するなどの特性を有する微生物をスクリーニングすることができる。
さらに、人工菌叢菌株同士の割合は、各段階の元の発酵サンプル中のコア微生物群における対応する微生物の平均生物量の割合で配合する。
さらに、前記人工菌叢菌株同士を混合培養しても、明らかな抑制作用はなく、20%~40%の水分条件下でも本来の生理活性特性を維持することができる。
【0012】
本発明は、前記人工菌叢の使用、特に、従来の「種モロミ」の代わりに前記人工菌叢を用いる食酢発酵の使用をさらに提供する。
【0013】
さらに、前記人工菌叢の菌株をそれぞれ純粋培養した後、純粋菌剤又はぬか麹を作製した後、メタトランスクリプトーム配列決定の結果における各発酵段階の微生物組成の平均割合に基づいて各菌株の添加割合を決定し、対応する割合で配合し、さらに食酢の酢酸発酵段階で使用する。
【0014】
さらに、混合菌剤を液体又は固体の穀物酢又は果実酢の発酵過程に使用する。
【0015】
さらに、混合ぬか麹を液体又は固体の穀物酢又は果実酢の発酵過程に使用する。
【0016】
さらに、人工菌叢の接種量は原料1kg当たり生菌数10~1012cfuを添加する。
【0017】
本発明の利点及びプラスの効果
(1)本発明では、メタトランスクリプトーム配列決定技術に基づいて、初めてグループ化クラスター分析により人工菌叢を構築し、食酢インサイチュ酢酸発酵過程における活性微生物群集と類似性が>90%であり、菌叢の代謝特徴は>80%であり、人工菌叢の合理的な構築を実現することができる。また、本発明は、食酢発酵の安定性を十分に改善することができ、他の従来の発酵食品菌叢の構築、分析及び再現可能な風味合成技術の参考としても使用でき、高い科学的価値及び応用価値を有する。
(2)本発明は、メタトランスクリプトーム配列決定に基づいて菌叢の構築を行う。この技術は、主要な機能微生物に対する分析が正確であり、より優れた理論的意義を有する。
(3)本発明では、従来の種モロミの代わりに人工菌叢を用いて穀物酢発酵又は果実酢発酵を行い、発酵終了時に、人工菌叢は発酵剤としての発酵速度がより速く、発酵周期が2~8d短縮され、原料利用率が6%~13%向上し、不揮発性酸、還元糖、アミノ酸窒素、総エステルがそれぞれ30%~150%、10%~40%、10%~25%、10%~50%増加し、不揮発性酸/揮発性酸は50%~180%向上する。食酢の柔らかさが向上するとともに、食酢の品質が高くなる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】メタトランスクリプトーム配列決定の結果に基づく種の分類、組成及びその相対存在量の動的変化を示す。
図2】メタトランスクリプトーム配列決定に基づいて発酵段階の平均存在量が上位10種(左から右へ降順に並べてある)を示す。
図3】微生物のグループ化クラスター分析、即ち、初期コア微生物属の決定を示す。 図面において、dは元の発酵サンプルを示し、d-1は存在量が上位5つの微生物を用いてクラスター化を行うことを示し、d-2は存在量が上位6つの微生物を用いてクラスター化を行うことを示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、具体的な実施形態により本発明を説明する。特に明記しない限り、本発明で使用される技術的手段は全て当業者に知られている方法である。また、実施形態は、本発明を説明するためのものに過ぎず、本発明の範囲を制限するものではない。本発明の本質及び範囲は、特許請求の範囲にのみ限定される。当業者にとって、本発明の本質及び範囲から逸脱することなく、これらの実施形態における材料成分及び用量に加える様々な変更又は修正も本発明の保護範囲に含まれる。
【0020】
実施例に記載のパーセント記号「%」は、特に指定のない限り、固体の質量パーセントを指し、溶液のパーセントは100mL中に含まれる溶質のグラム数を指し、液体のパーセントは25℃における溶液の体積比を指す。
【0021】
本発明に記載のTAV(旨味強度)とは、味覚強度値法により不揮発性風味物質の官能貢献率を評価したものである。TAV値は、各呈味物質の含有量とその閾値に対する割合である。
【0022】
TAV=C/T
式中:
は、各呈味物質の含有量を示す。
は、この呈味物質の対応する感覚閾値を示す。
【0023】
TAV値が1より大きい場合、この物質は呈味に寄与していると判断される一方、TAV値が1未満である場合、この物質は呈味に寄与していないと判断される。
【0024】
本発明のROAV(相対香気活性値):特徴的な揮発性風味化合物の決定は、相対香気活性値法によりサンプル全体の香気に対する各揮発性成分の貢献を評価する。即ち、
式中:
、Tは、各揮発性物質の相対パーセント含有量及び対応する感覚閾値を示す。
max、Tmaxは、サンプル全体の風味に対する貢献が最も大きな成分の相対パーセント含有量及び対応する感覚閾値を示す。
ROAV≧1の成分は、分析されるサンプルの重要な風味化合物であり、0.1<ROAV<1の成分は、サンプルの全体風味に対して重要な修飾効果を有する。
TAV及びROVAの計算過程に係る感覚閾値は、従来技術で開示されている閾値に基づいて決定してもよく、《山西老陳酢風味分析及び品質改良》[D].程程.天津科技大学,2018を参照してもよい。
【0025】
以下、具体的な実施例により本発明をさらに説明する。
【0026】
実施例1:従来の発酵過程の活性群集の組成分析
(1)メタトランスクリプトーム配列決定:山西老陳酢を例として、酢酸発酵段階における第1,3,5,7,9日目の酢モロミサンプルを等量採取し、不純物を除去し、各段階のサンプル微生物群集の総RNAを抽出し、各段階の総RNAに対してメタトランスクリプトーム配列決定を行った。
(2)菌叢の組成分析:各段階のサンプルのUnigene配列を、BLASTNを通じて、NCBI-NTデータベースにおける細菌、古細菌、真菌及びウイルスの配列と比較し、各サンプルの科、属、種の各分類レベルでの活性菌叢の組成分布を得た。DNAを標的とするメタゲノム配列決定の結果の菌叢組成を対照とした。発酵段階全体において平均相対存在量が上位10の菌叢の分布結果を表1に示す。表1から分かるように、メタゲノム配列決定の結果に基づくLactobacillus及びAcetobacterの存在量は比較的大きく、それぞれ52.32%及び10.83%であり、Unclassifiedの存在量が29.52%を占めた。メタトランスクリプトーム配列決定の結果に基づくLactobacillus及びAcetobacterはそれぞれ66.21%及び11.05%であり、Unclassifiedの存在量は5.75%であった。これは、異なる条件下での配列決定の結果に比較的大きい相違があることを示している。RNAを標的とするメタトランスクリプトーム配列決定は、微生物群集の機能遺伝子の転写状況に対するものであり、発酵過程における微生物の代謝活性を示し、発酵過程における微生物の実際の寄与を反映することができる。したがって、本発明では、RNAを標的とするメタトランスクリプトーム配列決定により後の菌叢分析を行った。
【0027】
表1:メタゲノム及びメタトランスクリプトーム配列決定の結果における主要な微生物組成
【0028】
実施例2:従来の山西老陳酢の発酵を例とした人工菌叢の合理的な構築
(1)メタトランスクリプトーム配列決定:食酢の酢酸発酵段階における第1,3,5,7,9日目(AAF1d、AAF3d、AAF5d、AAF7d、AAF9d)の酢モロミサンプルを等量採取し、不純物を除去し、微生物群集の総RNAを抽出し、総RNAに対してメタトランスクリプトーム配列決定を行った。
(2)活性菌叢の組成と機能アノテーション:各サンプルのUnigene配列と、BLASTNを通じて、NCBI-NTデータベースにおける細菌、古細菌、真菌及びウイルスの配列と比較し、各サンプルの種レベルでの活性菌叢の組成分布を得た。図1及び表2は、食酢の各発酵過程における活性微生物の存在量ランキング(上位)を示す。KEGGデータベースにより配列決定結果におけるUnigene配列に対して機能アノテーションを行った。
【0029】
表2:種の分類組成及び動的変化
【0030】
(3)汚染及び病原微生物の除去:アノテーション結果における微生物からAlternaria alternata、Pantoea ananatisなどの汚染微生物及び病原微生物を除去した。
【0031】
(4)コア微生物の決定:発酵段階全体のメタトランスクリプトーム結果における活性微生物(N種)の存在量に基づいて、各種の存在量が徐々に減少する順に並べ替え(図2は上位10種を示し、左から右に種の存在量が徐々に減少する順に並べ替えてある)、上位2種を組み合わせて第1群を構成し、順に1つの種を追加して組み合わせ、最終的にN-1個の微生物群を得た。ソフトウェアMinitabにより最長距離法及びEuclidean距離により各微生物群と各段階の元の微生物群の類似性を計算してクラスター分析した。各微生物群及び各段階の元の微生物組成がいずれもクラスター化に成功しかつ類似性が≧90%である場合に必要な最小の種の組み合わせを初期コア微生物群として決定した。結果を図3に示す。ここで、存在量が上位5つの微生物の組み合わせと元の微生物の組み合わせのクラスター化の結果には交差現象が現れ(図3-A)、クラスター化に成功しなかったことを示している。上位6つの微生物組み合わせ及び元の微生物組み合わせのクラスター化の結果は比較的良好であり(図3-B)、発酵の第1、3、5、7、9日目の元の発酵サンプル微生物との類似性はそれぞれ91.04%、98.87%、92.39%、94.37%及び93.84%であり、各グループのサンプルの類似性はいずれも>90%であった。したがって、Lactobacillus acetotolerans、Acetobacter pasteurianus、Lactobacillus helveticus、Lactobacillus kunkeei、Lactobacillus fermentum、Streptococcus lactisの6つの微生物を、初期コア微生物群として決定した。
【0032】
(5)コア微生物群の代謝活性検証
a.主要な風味物質の決定:高速液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフ質量分析計などの装置を用いて食酢発酵終了時のサンプル中の風味物質の組成及び含有量を検出し、風味物質の閾値及び含有量に基づいて各風味物質の風味強度を計算し、TAV>1の呈味物質及びROVA>0.1の香気物質を食酢中の主要な風味物質とした。
【0033】
表3に示すように、サンプル中の主要な呈味物質は、シュウ酸、コハク酸、クエン酸、乳酸、酒石酸、酢酸、グルタミン酸、ヒスチジン、アラニン及びバリンである。表4に示すように、サンプル中の主要な香気物質は、酢酸(香気物質と同時に呈味物質としても作用する)、3-メチル酪酸、ベンズアルデヒド、フルフラール、酢酸エチル、2,3-ブタンジオン、3-ヒドロキシ-2-ブタノン、酢酸フェネチル、酢酸イソペンチル、2,3,5-トリメチルピラジン、フルフリルアルコールである。
【0034】
表3:呈味物質の閾値及び味覚活性値(TAV)
【0035】
表4:香気物質の閾値及び相対香気活性値(ROVA)
【0036】
b.主要な代謝遺伝子の決定:KEGGデータベースを利用して比較することにより、主要な風味物質の形成に最も重要な1つ又は複数の代謝遺伝子を取得し、メタトランスクリプトーム配列決定の結果からスクリーニングして対応する種を取得し、同じ(又は異なる)遺伝子に対応する異なる種に対して別々に計算した。
【0037】
クエン酸の合成を例とする。
1)クエン酸の形成に重要な遺伝の検索:KEGGでcitric acidを検索し、番号C00158(即ち、クエン酸)をクリックし、さらにpathwayをクリックし、クエン酸が関与する一連の代謝経路を得た。map00020(TCA循環)をクリックし、クエン酸の形成に重要な遺伝子gltA(EC:2.3.3.1)、ACLY(EC:2.3.3.8)、EC:2.3.3.3、acnA(EC:4.2.1.3)を得た。さらに第2の経路map00250をクリックし、この場合、クエン酸の形成がない(クエン酸を形成する遺伝子がない)ため、スキップし、次の経路map00630(グリオキシル酸代謝)をクリックし、クエン酸の形成に重要な遺伝子gltA及びacnAを得た。このように、全ての代謝経路におけるクエン酸の形成に重要な遺伝子(重要な遺伝子とは、特にクエン酸合成の最終ステップの遺伝子を指す)を見出した。結果をまとめると、クエン酸の形成に重要な遺伝子は、gltA、ACLY、EC:2.3.3.3、acnAであった。
【0038】
2)トランスクリプトーム配列決定の結果から遺伝子gltA、ACLY、EC:2.3.3.3、acnAを検索し、これらの遺伝子の転写発現量及び対応する微生物を得た。結果を表5に示すが、遺伝子EC:2.3.3.3に関する転写結果は見つからなかった。(トランスクリプトームデータは、ある遺伝子とある種とを1対1で対応させることができる。前のステップでは配列決定結果におけるそれぞれの遺伝子IDに対する種アノテーション及び機能アノテーションにより対応する遺伝子名と種名がマッピングされている。メタトランスクリプトームにより、微生物群集の組成データ、ある遺伝子に1対1で対応するソース微生物、ある遺伝子の相対転写濃度などを得ることができる)。
【0039】
表5:クエン酸の形成を例とする重要な酵素の転写結果の統計
【0040】
c.重要な遺伝子の転写結果の統計:初期コア微生物群中の微生物各発酵段階における主要な風味物質の形成に重要な遺伝子の転写の総和が各段階における主要な風味物質の形成に重要な遺伝子の転写に占める割合を計算した。
【0041】
クエン酸を例とする場合:ステップbから分かるように、食酢酢酸の発酵過程において、クエン酸の形成に重要な遺伝子はgltA、ACLY、acnAであり、表5における各段階のコア微生物に対応する3つの遺伝子の転写発現量に対してそれぞれ総和を求め、各発酵段階における3つの遺伝子の転写発現量に対してそれぞれ総和を求め、割合を計算した結果、初期コア微生物群(Lactobacillus acetotolerans、Acetobacter pasteurianus、Lactobacillus helveticus、Lactobacillus kunkeei、Lactobacillus fermentum、Streptococcus lactis)中の微生物の発酵の第1、3、5、7、9日目におけるクエン酸の形成に重要な遺伝子の転写はそれぞれ各段階微生物の46.15%、48.28%、84.06%、98.20%、100%であった。
【0042】
同様の方法により、初期コア微生物群の各発酵段階における他の風味物質に形成に重要な遺伝子の転写発現量の総和を計算し、各発酵段階に係る風味物質に重要な遺伝子の発現量を加算し、各段階の風味物質の重要な遺伝子の転写に対する初期コア微生物群の発現量の割合を計算した。
【0043】
結果として、発酵の第1、3、5、7、9日目に、初期コア微生物群の主要な風味物質の形成に関与する遺伝子の転写は、それぞれ各段階(1、3、5、7、9 日目)の元の微生物群遺伝子の転写の72.03%、87.54%、73.15%、77.78%、82.17%であった。
【0044】
(6)コア微生物群の代謝活性検証及び人工菌叢の改善
初期コア微生物群は、発酵の第1、5、7日目の代謝遺伝子の転写割合が<80%であるため、(2)~(4)における微生物種の存在量に応じて初期コア微生物群に第7位のLactobacillus plantarumを添加し、ステップ(5)の方法に従って新しい微生物群の主要な風味物質形成に重要な遺伝子の転写割合を計算した結果、この微生物群は発酵の第1、3、5、7、9日目の割合はそれぞれ73.39%、89.68%、73.96%、78.17%、82.74%であり、要求を満たしていなかった。同様の方法により、引き続き第8位のBacillus amyloliquefaciensを加え、得られた微生物群は、発酵の第1、3、5、7、9日目に主要な風味物質の形成に重要な遺伝子の転写割合がそれぞれ78.77%、94.38%、79.08%、82.23%、87.24%であり、要求を満たしていなかった。同様の方法により、引き続き第9位のPediococcus pentosaceusを添加し、得られた微生物群は、主要な風味物質の形成に重要な遺伝子の転写割合が発酵の第1、3、5、7、9日目にそれぞれ83.51%、96.07%、83.87%、85.17%、91.47%であり、各群はいずれも>80%であり、要求を満たしていた。したがって、Lactobacillus acetotolerans、Acetobacter pasteurianus、Lactobacillus helveticus、Lactobacillus kunkeei、Lactobacillus fermentum、Streptococcus lactis、Lactobacillus plantarum、Bacillus amyloliquefaciens、Pediococcus pentosaceusの9種のコア微生物を人工菌叢の出発種とした。
【0045】
実施例3:手作り穀物酢の酢酸発酵過程への人工菌叢を用いた混合ぬか麹の使用
(1)人工菌叢の構築:実施例2の方法により人工菌叢を決定した。
(2)人工菌叢菌株のスクリーニング
a.微生物の1次スクリーニング:食酢発酵過程に係る麹、酒モロミ、酢モロミなどをスクリーニングサンプルとし、異なる培地を用いてサンプル中のLactobacillus acetotolerans、Acetobacter pasteurianus、Lactobacillus helveticus、Lactobacillus kunkeei、Lactobacillus fermentum、Streptococcus lactis、Lactobacillus plantarum、Bacillus amyloliquefaciens、Pediococcus pentosaceusをスクリーニングし、成長が比較的速く、コロニーが比較的大きく、分布密度が比較的広いが形態が異なるコロニーを選択し、精製してから保存した。
b.微生物の2次スクリーニング:前記スクリーニングして得られた純粋培養微生物を配列決定し、同一種の微生物に対して発酵性能及び耐性を比較し、発酵性能及び耐性(耐酸性、耐温度、耐アルコール性)がより優れた微生物を同種微生物の優勢菌とした。本ステップで優勢微生物が得られなかった場合、微生物のスクリーニング方法に従ってスクリーニング及び同定を繰り返した。
【0046】
酢酸菌及び乳酸菌の場合、発酵性能とは、菌株が酢酸及び乳酸をそれぞれ産生する能力を指す。バチルスの場合、発酵性能とは、菌株がアミラーゼ、プロテアーゼ、セルラーゼ(原料分解)を産生する能力を指す。1次スクリーニングでは、同様に前記発酵性能に対してデンプン、セルロース、グルコース、エタノール又は酢酸などの異なる基質を含むスクリーニング培地を選択又は設定する。酢モロミサンプルにおける、デンプン又はセルロースの加水分解、グルコース又はエタノールの変換により有機酸、アルコール、エステル、アルデヒドを生成するなどの特性を有する微生物をスクリーニングする。
【0047】
ここで、耐性は、主に酢酸、エタノール及び温度に対する微生物の耐性を含む。食酢の固体発酵培地には異なる酢酸勾配(0%、1%、2%、3%、4%)、異なるエタノール勾配(0%、2%、4%、6%、8%)及び異なる温度勾配(30℃、35℃、40℃、45℃、50℃)を設定し、菌株を接種して培養した後、プレートカウント法により24~36h培養した微生物の成長を測定した。
【0048】
食酢の固体発酵培地組成のシミュレーション:ぬか30%、もみ殻10%、グルコース1.2%、ペプトン0.6%、ビーフペースト0.6%、酵母エキス0.3%、無水酢酸ナトリウム0.3%、トゥイーン80 0.06%、クエン酸三アンモニウム0.12%、リン酸水素二カリウム0.12%、硫酸マグネシウム0.035%、硫酸マンガン0.015%、残部は水。
【0049】
(3)混合ぬか麹の作製
a.純粋菌ぬか麹の作製:ぬか450gを秤量し、水360mLを加えて均一に撹拌し、100g/フラスコで500mLの三角フラスコに分注した。滅菌後、1%~10%ステップ(2)でスクリーニング、活性化、増殖した後の微生物菌液を接種し、30℃~37℃で60~65h培養し、粉砕してぬか麹を得た。拡大培養して浅い円盤状の麹を作製して生菌を計数した。
b.混合ぬか麹の作製:実施例2のメタトランスクリプトーム配列決定の結果に基づいて、発酵段階全体における菌種の平均割合(各段階のサンプルを等量で混合した後に菌種の割合を測定した)を基礎とした。aの純粋菌ぬか麹の計算結果に基づいて、Lactobacillus acetotolerans:Lactobacillus helveticus:Lactobacillus kunkeei:Lactobacillus fermentum:Acetobacter pasteurianus:Streptococcus lactis:Lactobacillus plantarum:Bacillus amyloliquefaciens:Pediococcus pentosaceus=60:10:5:2:15:2:1:1:1の割合で純粋菌ぬか麹を均一に混合して混合ぬか麹を得た。
【0050】
(4)穀物酢の酢酸発酵過程への混合ぬか麹の使用
a.アルコール発酵:モロコシを粉砕した後、温水で4~8h湿潤させた。モロコシ質量の0.1%の耐高温αアミラーゼを用いて90℃以上で30min液化した。温度が60℃に低下した後、モロコシ質量の2%で固体糖化酵素を用いて58~60℃1h糖化した。その後、モロコシ質量で62.5%粉砕後の大麹を加え、水を補充した後、活性化した活性ドライイーストを加えた。酒瓶に入れてアルコール発酵を行い、最初の3日間は開放発酵、次の4日間は密閉発酵させた(合計7日間)。発酵温度を28℃~30℃に維持した。
b.酢酸発酵への混合ぬか麹の使用:アルコール発酵が終了した後、酒モロミ:ぬか:もみ殻=5:1.1:0.6の割合でぬか及びもみ殻を添加し、均一に混合した後、酢瓶に分注した。10~1010cfu/kg(元のサンプル中のコア微生物の濃度)原料で混合ぬか麹を添加してモロミと繰り返し均一に混合し、瓶口を筵で覆い、毎日モロミをひっくり返した(瓶をひっくり返した)。モニタリングしてサンプリングし、アルコール度が0.5%に低下し、酸度及び還元糖が変化しなくなったときに発酵を停止した。3つの並行実験群を設けた。
c.同じ条件下で従来の「種モロミ」を用いて食酢の固体発酵を行って対照群とし、発酵終了時の酢モロミの各物理的及び化学的指標を測定した。結果を表6に示す。
【0051】
表6:穀物酢の酢酸発酵に使用される人工菌叢の物理的及び化学的指標(単位:g/100g酢モロミ)
【0052】
表6から分かるように、従来の種モロミと比較して、人工菌叢を用いて食酢を生産することによって、発酵周期が22.22%短縮され、発酵終了時に、不揮発性酸、還元糖、アミノ酸窒素、総エステル、原料利用率がそれぞれ33.33%~41.95%、35.77%~39.43%、15.79%~21.05%、20.87%~25.51%、10.46%~12.54%向上し、不揮発性酸/揮発性酸は49.89%~61.13%増加し、食酢の柔らかさが向上した。
【0053】
実施例4:果実酢の液体発酵過程における人工菌叢を用いた混合菌剤の使用
(1)人工菌叢の構築:自然発酵ブドウ酢を研究対象とし、実施例2の方法により人工菌叢を構築し、コア微生物菌叢は、Lactococcus lactis、Lactobacillus plantarum、Lactobacillus casei、Lactobacillus paracase、Lactobacillus fermentum、Acetobacter pasteurianusであることを決定した。メタトランスクリプトーム配列決定の結果により、各菌種の割合は、Lactococcus lactis:Lactobacillus plantarum:Lactobacillus casei:Lactobacillus paracase:Lactobacillus fermentum:Acetobacter pasteurianus=10:25:25:25:25:1であることが分かった
【0054】
(2)人工菌叢菌株のスクリーニング:実施例3の方法により菌株をスクリーニングした。
【0055】
(3)混合菌剤の調製
a.純粋菌剤の調製:活性化した菌株を1%~10%の接種量で増殖培地に接種して増殖定常期まで培養し、その後、噴霧凍結乾燥によりそれぞれLactococcus lactis、Lactobacillus plantarum、Lactobacillus casei、Lactobacillus paracase、Lactobacillus fermentum、Acetobacter pasteurianus純粋菌剤を調製した。
b.混合菌剤の調製:純粋菌剤の生菌数Lactococcus lactis:Lactobacillus plantarum:Lactobacillus casei:Lactobacillus paracase:Lactobacillus fermentum:Acetobacter pasteurianus=10:2.5×10:2.5×10:2.5×10:2.5×10:10の割合で配合して混合菌剤を得た。
【0056】
(4)ブドウ酢の液体発酵過程における混合菌剤の使用
a.原料の前処理及びアルコール発酵:新鮮なブドウを除梗、破砕した後、0.2%のSO(メタ重亜硫酸カリウム)を加えて1h殺菌し、さらに0.1%ペクチナーゼ(10000U/g酵素活性)を加え、50℃で4h酵素分解し、室温まで冷却後、糖度を18度に調整し、最後に活性化した活性ドライイーストを発酵タンクに加え30℃で発酵させた。比重及び糖度が変化しなくなると(約3~5d)、アルコール発酵は終了する。
b.酢酸発酵:ブドウ果汁を使用して元のアルコール度数を約8度に下げ、発酵タンクへの料入量を75%~80%、通気量を0.15vvm、回転速度を2000r/minに調整した。温度が30℃になった後、溶存酸素電極を較正し、飽和無水亜硫酸ナトリウムを使用してゼロに較正し、溶存酸素電極を発酵液に挿入して100%に較正した。0.4%(v/w,100mL原料に0.4g混合菌剤を添加)の水に溶解した混合菌剤を接種し、モニタリングしてサンプリングし、アルコール度が0.5%未満になり、酸度が上昇しなくなると発酵は停止する。1g菌剤に含まれる微生物菌体の数は、Lactococcus lactis:Lactobacillus plantarum:Lactobacillus casei:Lactobacillus paracase:Lactobacillus fermentum:Acetobacter pasteurianus=10:2.5×10:2.5×10:2.5×10:2.5×10:10であった。3つの実験群を並行対照として設けた。
c.前記条件下で自然発酵のブドウ酢を対照とし、発酵終了時のサンプルにおける各物理的及び化学的指標を測定した。結果を表7に示す。
【0057】
表7:ブドウ酢の液体発酵に使用される人工菌叢の物理的及び化学的指標(単位:g/100mL)
【0058】
人工菌叢を用いて発酵させて得られたブドウ酢:外観は紫赤色であり、澄明で光沢があり、甘酸っぱく、グレープフルーツの香りが豊かで、異臭がなかった。表7から分かるように、ブドウ酢の自然発酵と比較して、総酸含有量は14.44%~16.14%増加し、不揮発性酸は159.57%~176.60%増加し、不揮発性酸/揮発性酸は155.87%~180.01%向上した。酢酸、乳酸、リンゴ酸、総エステルの含有量はそれぞれ7.88%~10%、282.61%~313.04%、33.33%~46.67%増加し、発酵時間は53.33%短縮され、酢酸の形成速度は70.21%~74.47%向上した。不揮発性酸、特に乳酸の含有量が大幅に増加し、ブドウ酢の酸味がより柔らかになり、刺激的な酸味が減少するとともに、乳酸菌の添加により総エステルの含有量が増加し、果実酢のコクが増し、新鮮なブドウ果実酢の品質が向上した。
【0059】
以上の実施例は、本発明のいくつかの実施形態を表現したものに過ぎず、その説明は比較的具体的で詳細であるが、本発明の範囲を制限するものではない。なお、当業者は、本発明の思想から逸脱することなく、前記各実施形態に種々の変形、組み合わせ及び改良を加えることができ、それらはいずれも本発明の保護範囲に含まれる。したがって、本発明の保護範囲は、特許請求の範囲によって定められる。
図1
図2
図3
【国際調査報告】