(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-08
(54)【発明の名称】ペロブスカイト材料および光起電力装置へのそれらの使用
(51)【国際特許分類】
H10K 30/50 20230101AFI20241001BHJP
H10K 30/40 20230101ALI20241001BHJP
C07F 19/00 20060101ALI20241001BHJP
H10K 30/57 20230101ALI20241001BHJP
C07F 7/22 20060101ALN20241001BHJP
C07F 7/24 20060101ALN20241001BHJP
【FI】
H10K30/50
H10K30/40
C07F19/00
H10K30/57
C07F7/22 V
C07F7/24
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024519699
(86)(22)【出願日】2022-09-30
(85)【翻訳文提出日】2024-03-29
(86)【国際出願番号】 GB2022052485
(87)【国際公開番号】W WO2023052785
(87)【国際公開日】2023-04-06
(32)【優先日】2021-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517427978
【氏名又は名称】オックスフォード フォトボルテイクス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100229448
【氏名又は名称】中槇 利明
(72)【発明者】
【氏名】カマラキ,クリスティーナ
(72)【発明者】
【氏名】ペレス,ローラ,ミランダ
(72)【発明者】
【氏名】クリュッグ,マシュー
(72)【発明者】
【氏名】ケース,クリストファー
(72)【発明者】
【氏名】テイラー,アリス
【テーマコード(参考)】
4H049
4H050
5F251
【Fターム(参考)】
4H049VN03
4H049VN04
4H049VP10
4H049VQ35
4H050AA01
4H050AA03
4H050AB91
5F251AA11
5F251CB13
5F251CB14
5F251CB24
5F251FA04
5F251FA06
5F251GA03
5F251XA01
5F251XA43
(57)【要約】
以下の一般式(I)を有するペロブスカイト材料が提供される:
AaA’bA’’cSn(y)Pb(1-y)X3 (I)
ここで、Aは、1価のカチオンで構成され、A’は、2.53オングストロームを超えるイオン半径を有する1価の有機カチオンで構成され、A’’は、1価の無機カチオンで構成され、Xは、1つ以上のハロゲン化物アニオンを含み、
0<a<1、
0<b<1、
0≦c<1、
a+b+c=1、および
0<y<1である。また、本願に記載のペロブスカイト材料を含む光活性領域を有する半導体装置が提供される。半導体装置は、光起電力装置であり、2つ以上のサブセルを含む多重接合光起電力装置であり、第1のサブセルは、本願に記載の光起電力装置を有し、別のサブセルは、1.5から1.9 eVの間のバンドギャップを有する光活性層を有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の一般式(I)を有するペロブスカイト材料であって、
A
aA’
bA’’
cSn
(y)Pb
(1-y)X
3 (I)
ここで、
Aは一価のカチオンで構成され、
A’は、2.53オングストロームを超えるイオン半径を有する1価の有機カチオンで構成され、
A’’は、1価の無機カチオンで構成され、
Xは、1つ以上のハロゲン化物アニオンを含み、
0<a<1、
0<b<1、
0≦c<1、
a+b+c=1、および
0<y<1である、ペロブスカイト材料。
【請求項2】
Aは、1価の有機カチオンで構成され、好ましくはメチルアンモニウム(MA、CH
3NH
3
+)、ホルムアミジニウム(HC(NH)
2)
2
+)、およびエチルアンモニウム(CH
3CH
2NH
3
+)から選択され、より好ましくはMAおよびFAから選択され、最も好ましくはMAである、請求項1に記載のペロブスカイト材料。
【請求項3】
0.03<b<1であり、好ましくは0.05<b<1であり、より好ましくは0.1<b<1であり、さらに好ましくは0.15<b<0.5であり、さらに好ましくは0.15<b≦0.4である、請求項1または2に記載のペロブスカイト材料。
【請求項4】
A’は、エチルアンモニウム(EA)、イミダゾリウム、グアニジニウム、ジメチルアンモニウム、およびアセトアミジニウムから選択される1価の有機カチオンであり、好ましくはEAである、請求項1乃至3のいずれか一つに記載のペロブスカイト材料。
【請求項5】
Xは、I、BrおよびFから選択される1つ以上のハロゲン化物アニオンを含み、好ましくはヨウ化物アニオンである、請求項1乃至4のいずれか一つに記載のペロブスカイト材料。
【請求項6】
0.2<y<0.7であり、好ましくは0.25<y<0.65である、請求項1乃至5のいずれか一つに記載のペロブスカイト材料。
【請求項7】
0<c<1であり、好ましくは0<c<0.3である、請求項1乃至6のいずれか一つに記載のペロブスカイト材料。
【請求項8】
A’’は、Cs
+またはRb
+である、請求項7に記載のペロブスカイト材料。
【請求項9】
cはゼロであり、当該ペロブスカイトの一般式は、
A
xA’
1-xSn
yPb
(1-y)X
3であり、
ここで、0<x<1である、請求項1乃至6のいずれか一つに記載のペロブスカイト材料。
【請求項10】
0.03<x<1であり、好ましくは0.05<x<1であり、より好ましくは0.1<x<0.6であり、さらに好ましくは0.1<x<0.3であり、さらに好ましくは0.15<x<0.4である、請求項9に記載のペロブスカイト材料。
【請求項11】
一般式が
(EA)
(x)(MA’)
(1-x)Sn
(y)Pb
(1-y)X
3
である、請求項9または10に記載のペロブスカイト材料。
【請求項12】
一般式が
EA
(x)MA’
(1-x)Sn
(y)Pb
(1-y)I
3
である、請求項11に記載のペロブスカイト材料。
【請求項13】
cは0より大きく、
当該ペロブスカイトの一般式は、
A
aA’
bA’’
cSn
yPb
(1-y)X
3
であり、
ここで、Aは、1価の有機カチオンであり、
a+b+c=1、
0<a<1、
0<b<1、
0<c<1、および
0<y<1である、請求項1乃至8のいずれか一つに記載のペロブスカイト材料。
【請求項14】
請求項1乃至13のいずれか一つに記載のペロブスカイト材料を含む光活性領域を有する半導体装置。
【請求項15】
当該半導体装置は、光活性領域を有する光起電力装置である、請求項14に記載の半導体装置。
【請求項16】
前記光活性領域は、前記ペロブスカイト材料の薄膜を有し、
前記ペロブスカイト材料の薄膜の厚さは、100 nmから1500 nmの範囲である、請求項15に記載の光起電力装置。
【請求項17】
前記光活性領域は、少なくとも1つのn型層を含むn型領域と、前記n型領域に接触する前記ペロブスカイト材料の層と、を有する、請求項15または16に記載の光起電力装置。
【請求項18】
前記光活性領域は、
少なくとも1つのn型層を含むn型領域と、
少なくとも1つのp型層を含むp型領域と、
前記n型領域と前記p型領域との間に配置されたペロブスカイト材料の層と、
を有する、請求項15乃至17のいずれか一つに記載の光起電力装置。
【請求項19】
前記光活性層は、開放ポロシティのない緻密層である、請求項16乃至18のいずれか一つに記載の光起電力装置。
【請求項20】
2つ以上のサブセルを有する多重接合光起電力装置であって、
第1のサブセルは、請求項16乃至19のいずれか一つに記載の光起電力装置を有し、
別のサブセルは、1.5と1.9 eVの間のバンドギャップを持つ光活性層を有する、多重接合光起電力装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、選択された他のカチオンと共にPbおよびSnカチオンを含むペロブスカイト材料、ならびに光吸収層にそのような材料を用いた単接合および多重接合の光起電力装置に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽エネルギー変換は、再生可能エネルギーを提供するための最も有望な技術の一つである。
【0003】
最近大きな関心を集めている光起電力材料の一つのクラスは、有機-無機ハロゲン化物ペロブスカイトである。この種類の材料は、一般式ABX3を有するペロブスカイト結晶構造を有する。これらの材料は、好ましいバンドギャップ、高い吸収係数、および長い拡散長を示すことが認められており、そのような化合物は、光起電力装置における吸収剤として理想的なものである。
【0004】
単接合の太陽電池の最大効率は、バンドギャップが1.4から1.1eVの範囲内にある場合、AM1.5太陽スペクトル照射下において、33.7%から31%の間である。鉛(Pb)系の有機-無機ハロゲン化物ペロブスカイトは、25.2%という高い効率を示すことが示されているが、バンドギャップは、この理想値よりも大きく、通常1.5から1.8 eVの範囲である。
【0005】
メチルアンモニウムスズヨウ化物のような、スズ(Sn)系の有機-無機ハロゲン化物ペロブスカイトは、理想値の1.23から1.41eVに近いエネルギーギャップを有し、これらの鉛系材料よりも良好な光回収が可能になる(Leijtensら、「効率的な全てのペロブスカイト型タンデム太陽電池に対して改善された熱的および空気的安定性を有するスズ鉛ハロゲン化物ペロブスカイト」、Sustain.Energy Fuels,2018,00,1-10)。しかしながら、スズは酸化が容易であるため、スズ系のペロブスカイトは、鉛系に比べて空気中での酸化に弱く、不活性雰囲気下で処理がなされても、酸化により劣化する場合がある。また、Pb系ペロブスカイトと同様の光電子特性を有するにもかかわらず、通常、Sn系の太陽電池では、10%を超える効率を達成することは難しい。(Xiら「高結晶質鉛-スズハロゲン化物ペロブスカイト膜のスケール化可能なテンプレート駆動形成」、Advanced Functional Materials,Early View,2105734,2021)。
【0006】
前述のように、スズ系のペロブスカイトは、それらのPb系の等価物よりも酸化されやすい。膜中のSnの存在は、その多価性のため、さらなる不安定性を追加する。Sn2+は、酸素に曝露された後にSn4+に酸化される傾向があり、その結果、光起電力用途に望ましくない材料のp型ドーピングが生じる。また、O2の拡散は、表面および粒界を介して開始されると考えられており、従って、酸化を防ぐため各種戦略が採用されている。安定性を改善するための最も一般的な戦略は、ルイス塩基のような化合物を使用することであり、これは、SnF2との間で付加体を形成することができる。この付加体は、通常、Sn4+を補償するためのSn2+の「リザーバ」として用いられ、その結晶粒界での均一な分布が確保される。ヒドロキノンスルホン酸または2-アミノフェノール-4-スルホン酸のような、これらの付加体の大部分は、抗酸化剤としての第2の機能を有する。これらは、Taiら(「空気安定なスズ系のペロブスカイト太陽電池の酸化防止粒子不動態化」、Angew.Chem.Int.Ed.2019,58,806-810)により見出されたように、O2スカベンジャーとして作用するヒドロキシル基(-OH)を有するためである。Wangら(「没食子酸による粒子表面保護による空気安定性の高いスズ系ペロブスカイト太陽電池」、ACS Energy Lett.2020,5,6,1741-749)においても、没食子酸がSnX2とともに錯体を形成し、ペロブスカイト粒子を保護し、それを横断する電子を効率的に伝導することが見出されている。また、ポスト処理として、または表面および粒界の膜内不動態化のため、2Dペロブスカイト構造を形成する各種大きな分子が使用され、これはPbの対応物から採用されているアプローチである。しばしば、SnF2は、例えば、スピンコーティング法により、ペロブスカイト前駆体溶液と混合される。これらのアプローチは、プロセスに大きく依存し、材料固有の安定性を改善せず、むしろ、外部因子を使用して、酸化/劣化が制限される。
【0007】
バンドギャップ、効率および材料の安定性を最適化するため、混合Pb/Sn組成が研究されている。異なるSn/Pb吸収体を特徴とする太陽電池の電気特性が比較されている(Konstantanakouら、「スズハロゲン化物ペロブスカイトに関する批判的レビュー」、J.Mater.Chem.A.,2017,5,11518-11549)。Sn含有量の増加は、セル内での非放射再結合を高め、その動作が調節され、Vocが低減されることが観測されている。また、効率についても同等の効果が認められている。
【0008】
興味深いことに、混合Sn-Pbペロブスカイトは、純粋なSn-ペロブスカイトとは異なる酸化経路をたどり、主な酸化生成物は、I2、SnO2およびPbI2であることが認められている。この代替劣化経路は、純粋なSn-ペロブスカイトよりもゆっくりと進行する。
【0009】
Sn-Pbペロブスカイト太陽電池は、Kapilらによって報告されているように、最大21.74%の効率を示し(「エチレンジアミン中間層ガイドを介して製造されたスズ-鉛ペロブスカイトで21.74%の太陽電池効率を達成」、Advanced Energy Materials,Vol.11,25,2021)、より高い耐久性により、単接合太陽電池だけでなく、全てのペロブスカイトタンデム構成に対して、狭小バンドギャップ吸収体材料としての有望な候補となっている。MASn0.5Pb0.5I3、FASn0.5Pb0.5I3、FA0.75Cs0.25Sn0.5Pb0.5I3およびFA0.6MA0.4Sn0.6Pb0.4I3(FA:ホルムアミジニウム、MA:メチルアンモニウム)は、装置に関して広く研究されている(Leijtensら、Sustain.Energy Fuels,2018、およびZhaoらの「全ペロブスカイトタンデム太陽電池向けの長いキャリア寿命を有する、低バンドギャップ混合スズ-鉛ヨウ化物ペロブスカイト吸収体」、Nat.Energy,2017,17018:1-7)。
【0010】
しかしながら、そのような材料には問題が残る。例えば、FA:C化合物は、相分離しやすく、FA:MA化合物は、低い熱安定性を有する。また、還元剤がしばしば必要となるため、スズ含有化合物の合成は、より複雑である。
【0011】
Snの相対的な割合も重要であり、例えば、Snの低い割合(約6%)では、Klugら(金属組成は、混合金属鉛-スズ三ヨウ化物ペロブスカイト太陽光吸収体の光電子特性に影響を与える」、Energy Environ.Sci.2020,13,1776-1787)に示されるように、より乏しい光電子特性が得られることが示されている。また、そのような化合物から構成された膜は、結晶性が低く、非放射性再結合が助長され得る。これらの理由から、バンドギャップエネルギーが1.4から1.6 eVの間の範囲にある、装置用の高品質膜を合成することは難しいことが示されている。
【0012】
ペロブスカイト材料の形態をより良く制御し、安定性を高め、劣化を抑制する代替組成物を見出すことが、依然として望まれている。また、溶液中で還元剤を使用しない別の合成経路を見出すことも望まれている。3つの異なるA-サイトカチオンを含むペロブスカイト材料は、第3のA-サイトカチオンによって付与される追加的な調整性にとって魅力的である。合成中に注意深い構造制御を用いることにより、ペロブスカイト材料のより良い混合物を最適化な特性で製造することができる。3つの異なるAサイトカチオンを有するペロブスカイトは、鉛のみペロブスカイトとして知られている。しかしながら、SnとPbの両方を含む唯一の既知のトリプルカチオンペロブスカイトは、単一のハロゲン化物(ヨウ化物)とともに、または二重ハロゲン化物(ヨウ化物と臭化物)とともに、カチオンCs、FAおよびMAを含む。例えば、Cs0.05FA0.79MA0.16Pb0.664Sn0.336I2.48Br0.52は、Bowmanらの(「マイクロ秒のキャリア寿命、制御されたpドーピング、および低バンドギャップ金属ハロゲン化物ペロブスカイトの空気安定性の向上」、ACS Energy Lett.4,2301-2307,2019)により、知られている。
【0013】
国際公開WO2018015831A1号には、混合カチオンペロブスカイト材料が開示されており、ペロブスカイト材料を安定化し、その純度を改善する手段として、4つ以上のAカチオンが存在する。この出願では、スズ/鉛組成物が酸化に対して不安定であることが示され、これは、複数のカチオンおよび金属を使用することによって改善されるという理論が提示されている。しかしながら、スズ/鉛系のペロブスカイトを具体的に定化させる正式なプロセスまたはガイダンスは開示されていない。他方、本発明では、Sn/Pbペロブスカイトを安定化する特殊な組成物を提供する一方、余分なAカチオン源の必要性を排除することにより、システムの複雑性が低減される。
【0014】
国際公開第WO2019232643A1号には、鉛、カドミウム、亜鉛、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅およびスズのような金属で、金属ハロゲン化物ペロブスカイトをドーピングして、太陽電池用ペロブスカイトの周囲安定性を改善することが開示されている。本出願では、特に、CsFAMA系のペロブスカイト(Cs0.05MFPbI2.55Br0.45)をカドミウム金属でドーピングし、格子歪を解放することに焦点が当てられている。しかしながら、本発明では、ペロブスカイトのAサイトにおける特定の組成物が、BサイトにおけるPbおよびSnの占有の混合物と組み合わせて採用され、改良された材料特性が達成される。
【0015】
Weijunらは、三次元中空Pb/Snペロブスカイト構造を安定化するためのエチレンジアンモニウムジカチオンの使用を開示している。ジアンモニウムカチオンは、Aケージに収まるには大きすぎるため、ペロブスカイト内のB金属空孔の形成を介して導入され、Aケージの近傍に空間を形成し、これにより、安定な中空骨格が形成される。しかしながら、Aカチオンサイトを介した非中空ペロブスカイトの利点は、示されていない。
【0016】
Songらは、光起電力装置における各種Pb/Snペロブスカイト材料の異なるバンドギャップのレビューを提供している。しかしながら、大きなカチオンでのAサイトの占有を介したペロブスカイト材料の強化は、示されていない。
【0017】
Zhouら(「高効率かつ安定なGABr-改質、理想-バンドギャップ(1.35eV)Sn/Pbペロブスカイト太陽電池は、0.33Vの記録的に小さいVoc欠損で20.63%の効率を達成」Advanced Materials,Vol.32,14,2020)は、FA0.7MA0.3Pb0.7Sn0.3I3膜を開示しており、これは、大きなカチオンである臭化グアニジニウム(GABr)を少量用いた付加エンジニアリングにより最適化される。GAは、格子に組み込まれ、バンドギャップが1.34eVから1.35eVに変化し、Sn2+の酸化によって生じる欠陥密度が低減され、好ましい環境安定性が得られることが認められている。
【0018】
しかしながら、Zhouらは、GAが実際に格子内にどの程度取り込まれているのかを示しておらず、GAイオンがどのようにして侵入するのかを明確に説明していない。さらに、この研究からは、FAおよびMAのサイトのどちらがGAにより占有されているのか、またどのような割合で占有されているのかが不明である。XRD(
図1b、c)では、格子の変化を示すシフトが観察されているが、この変化のどの程度が、特に欠陥濃度の変化によるペロブスカイト歪み等の要因として、構造に追加されたとされる少量のGAに起因するのかは以前不明である。あるいは結晶構造内の空孔の形成も、XRDの変化に対して考慮する必要がある。従って、Zhouらの最終的なペロブスカイト構造の化学量論は、不明である。この研究の主な目的は、GAを微量の量で取り込み、ペロブスカイトのAサブ格子におけるMAまたはFAのいずれかの意図された置換ではなく、有効な不動態化剤として機能させることであった。
【0019】
逆に、本発明では、定められた正確な量でそのようなイオンを取り込み、特定の化学量論的な三重カチオンペロブスカイト構造を意図的に形成することを目的とする。ペロブスカイトの許容因子計算を行うことにより、各Aカチオンの最適化量を確立して、望ましくは安定な混合Sn/Pb三重カチオンペロブスカイトが生成できる。混合Pb/Sn構造に十分な量の大きなカチオンを含むそのようなペロブスカイトは、特に無機Aカチオンを含む三重カチオンに関しては、現在知られていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明の目的は、1.2から1.6 eVの範囲のバンドギャップエネルギーを有し、光起電力装置、単接合太陽電池、全ペロブスカイト型タンデム太陽電池の底部セル、または全ペロブスカイトもしくはペロブスカイト-ペロブスカイト-シリコンおよびペロブスカイト-ペロブスカイト-CIGS多重接合太陽電池の中間セルのような、半導体装置での使用に適した、新しいクラスの混合Sn-Pb有機-無機ペロブスカイト材料を提供することである。
【0021】
本発明の材料は、当該技術分野で知られる材料に関する問題のいくつかを軽減することができ、改善された結晶性、熱安定性を示し、多結晶薄膜における優先的な結晶方位を提供する。本発明の材料は、太陽電池に使用される際、良好な効率を提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明の第1の態様では、請求項1乃至20に記載のペロブスカイト材料が提供される。
【0023】
第2の態様では、本発明により、本発明の第1の態様に係る有機-無機金属ハロゲン化物ペロブスカイト材料を含む光活性層を有する半導体装置が提供される。
【0024】
本発明の第3の態様では、2つ以上のサブセルであって、第1のサブセルは、本発明の第2の態様の請求項に記載された半導体装置を有する、第1のサブセルと、1.5から1.9eVの間のバンドギャップを有する光活性層を含む別のサブセルと、を有する、多重接合光起電力装置が提供される。
【0025】
Pb系のペロブスカイトから、メチルアンモニウム(MA)とホルムアミジニウム(FA)の混合では、不安定な黒色FAPbI3三方晶相を安定化する必要があることが既に知られている(Binekら「ホルムアミジニウム鉛ヨウ化物の三方晶高温相の安定化」、Phys.Chem.Lett.,2015,6,7,1249-1253)。しかしながら、FAよりも大きな半径を有するA‐カチオンの導入は、無機骨格により形成されるキャビティを歪めるため、3Dペロブスカイト構造を支持できず、従って、2Dまたは六方ペロブスカイト構造が形成される。Pb-Sn組成におけるFA/MAの混合もまた、成功裏に採用された。しかしながら、より大きなカチオンの導入は、まだ検討されていない。これは、Snのサイズが小さいため、Pb-Sn格子は、純粋なPb対応物よりも小さいと予想されるためである。
【0026】
本発明は、Sn/Pb組成物内のAカチオンが部分的により大きなカチオンと置換され、これにより改善されたペロブスカイト材料が得られるという発見に基づくものである。発見されたペロブスカイトは、しばしば、高い結晶性を有し、テクスチャ化することができる。また、材料は、適切なカチオンおよびハロゲン化物選択に従って、所望のバンドギャップが得られるように微調整することができる。
【0027】
以下、添付の概略的な図面を参照して、単なる例示として説明される本発明の実施形態について説明する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】Snの各種量に基づく、異なるPb/Snペロブスカイト組成物の走査型電子顕微鏡(SEM)像を示した図である。
【
図2】EA
0.2MA
0.8Sn
xPb
1-xI
3(x=0~1)の吸収スペクトル(
図2A)と、Snの百分率の関数としての光学バンドギャップの値(
図2B)を示した図である。
【
図3】異なるSnパーセントにおけるEA
0.2MA
0.8Sn
xPb
1-xI
3のXRDパターン(
図3A)と、14°の2θにおける主回折ピークの拡大図(
図3B)と、をまとめて示した図である。
【
図4】A
2とSnのパーセンテージの関数としての許容因子値の影付きマップを示した図である。
【
図5A】異なるカチオンに対するPb系(黒)およびPb/Sn系(灰色)の組成物のXRDパターンを示した図である。
【
図5B】異なるカチオンに対するPb系(黒)およびPb/Sn系(灰色)の組成物のXRDパターンを示した図である。
【
図6A】異なるカチオンに対するPb(実線)およびPb/Sn(破線)系の組成物の吸収スペクトルを示した図である。
【
図6B】異なるカチオンに対するPb(実線)およびPb/Sn(破線)系の組成物の吸収スペクトルを示した図である。
【
図7】異なるカチオンのPb-およびPb/Sn-系の組成物のエネルギーバンドギャップ値を示す図である(表3から)。
【
図8】(表3のカチオンによる)異なるカチオンの組み合わせに対するPbおよびPb/Sn組成物のSEM画像を示す図である。
【
図9】表4によるペロブスカイトを吸収体として用いた最適装置の電流-電圧プロットを示す図である。
【
図10】表3による異なるカチオンのPbおよびPb/Snの組成物の層状XRDパターンを示す図である。
【
図11】SnF
2の存在の有無による、表3による異なるカチオンの組み合わせに対するPb/Sn組成物のSEM像を示す図である。
【
図12A】SnF
2の存在の有無による、表4による異なるカチオンの組み合わせを有するPbSn組成物についての、PCEの装置特性を示した図である。
【
図12B】SnF
2の存在の有無による、表4による異なるカチオンの組み合わせを有するPbSn組成物についての、V
ocの装置特性を示した図である。
【
図12C】SnF
2の存在の有無による、表4による異なるカチオンの組み合わせを有するPbSn組成物についての、J
SCの装置特性を示した図である。
【
図12D】SnF
2の存在の有無による、表4による異なるカチオンの組み合わせを有するPbSn組成物についての、FFの装置特性を示した図である。
【
図13A】0時間、24時間および48時間の湿度曝露下での、SnF
2の存在の有無による、表3による、異なるAカチオンのPb/Sn組成物に対するメイン(100)XRDピークの変化のサマリープロットを示す図である。
【
図13B】0時間、24時間および48時間の湿度曝露下での、SnF
2の存在の有無による、表3による、異なるAカチオンのPb/Sn組成物に対するメイン(100)XRDピークの変化のサマリープロットを示す図である。
【
図14】MAおよびCsに対する表1によるカチオンの異なる%組成を有する、60%のSn系の三重カチオンペロブスカイトの変化する許容因子Tを示す図である。
【
図15A】表5による、カチオンの異なる%組成を有する60%Sn系の三重カチオンペロブスカイト組成物のXRDを示す図である。
【
図15B】表5による、カチオンの異なる%組成を有する60%Sn系の三重カチオンペロブスカイト組成物のXRDを示す図である。
図15Bには、2θが10°から15°までの拡大されたXRDを示す。
【
図16】表5にリストされた組成物に対する有効A-カチオン半径R
Aおよび主要ペロブスカイトピーク位置のプロットを示す図である。
【
図17】100℃(実線)および120℃(破線)の異なるアニール温度における表5に示した組成物の6から15℃の範囲の拡大されたXRDを示す図である。
【
図18A】表6による微量のCsを添加した60%Sn系の三重カチオンペロブスカイト組成物のXRDを示す図である。
【
図18B】表6による微量のCsを添加した60%Sn系の三重カチオンペロブスカイト組成物のXRDを示す図である。
図18Bには、2θが12°から15°までの拡大XRDを示す。
【
図19】表6による異なるトレース量のCsを添加した場合の~14°でのペロブスカイトピークの強度の%変化を示す図である(
図18Bで観測)。
【発明を実施するための形態】
【0029】
(定義)
本願で使用される「光活性」と言う用語は、光に対して光電気的に応答することができる領域、層または材料を表す。従って、光活性領域、層または材料は、光において光子によって運ばれるエネルギーを吸収することができ、その後、(例えば、電子-正孔対または励起子のいずれかが生成されることにより)電気の発生が生じる。
【0030】
本願で使用される「ペロブスカイト」という用語は、CaTiO3の結晶構造に関連する三次元結晶構造を有する材料、またはCaTiO3の層に関連する構造を有する材料の層を含む材料を表す。CaTiO3の構造は、式ABX3で表すことができ、ここで、AとBは異なるサイズのカチオンであり、Xはアニオンである。単位セルでは、Aカチオンは(0,0,0)、Bカチオンは(1/2,1/2,1/2)にあり、Xアニオンは(1/2,1/2,0)にある。通常、Aカチオンは、Bカチオンよりも大きい。A、BおよびXを変化させると、異なるイオンサイズにより、ペロブスカイト材料の構造が、CaTiO3によって採用される構造から、より対称性の低い歪み構造に歪むことは、当業者には明らかである。また、対称性は、材料がCaTiO3の構造に関連する構造を有する層を含む場合にも低くなる。ペロブスカイト材料の層を含む材料は、良く知られている。例えば、K2NiF4型構造を採用した材料の構造は、ペロブスカイト材料の層を含む。ペロブスカイト材料は、式[A][B][X]3によって表すことができ、ここで、[A]は、少なくとも1つのカチオンであり、[B]は、少なくとも1つのカチオンであり、[X]は、少なくとも1つのアニオンであることは、当業者には明らかである。ペロブスカイトが2つ以上のAカチオンを含む場合、異なるAカチオンは、規則的に、または非規則的な態様で、Aサイトにわたって分布されてもよい。ペロブスカイトが2つ以上のBカチオンを含む場合、異なるBカチオンは、規則的に、または非規則的な態様で、Bサイトに分布してもよい。ペロブスカイトが2つ以上のXアニオンを含む場合、異なるXアニオンは、規則的に、または非規則的な態様で、Xサイトにわたって分布してもよい。2つ以上のAカチオン、2つ以上のBカチオン、または2つ以上のXカチオンを含むペロブスカイトの対称性は、しばしば、CaTiO3の対称性よりも低くなる。
【0031】
上記段落に記載されているように、本願で使用される「ペロブスカイト」と言う用語は、
(a)CaTiO3の結晶構造に関連する三次元結晶構造を有する材料、
(b)材料の層を含む材料であって、前記層は、CaTiO3の結晶構造に関連する構造を有する、材料、または
(c)ABX3の化学量論を維持する何らかの六方晶ペロブスカイト対称性を有する材料であって、B-カチオン八面体の一部は、対向する面を共有し、c-軸に沿って鎖を形成する一方、B-カチオン八面体の一部は、コーナーを共有し得る、材料
を表す。これらのカテゴリーのペロブスカイトは、本発明による装置で使用されてもよいが、一部の状況では、第1のカテゴリーのペロブスカイト、すなわち、(a)三次元(3D)結晶構造を有するペロブスカイトを使用することが好ましい。そのようなペロブスカイトは、通常、層間でいかなる分離も生じずに、ペロブスカイトユニットセルの3Dネットワークを有する。一方、第2のカテゴリー(b)のペロブスカイトには、二次元(2D)層状構造を有するペロブスカイトが含まれる。2D層状構造を有するペロブスカイトは、ペロブスカイトユニットセルの層を有してもよく、これは、(インターカレーションされた)分子によって分離される。そのような2D層状ペロブスカイトの例は、[2-(1-シクロヘキセニル)エチルアンモニウム]2PbBr4である。2D層状ペロブスカイトは、高い励起子結合エネルギーを持つ傾向があり、これは、光励起下において、自由電荷キャリアよりも束縛された電子‐正孔対(励起子)の生成を好む。結合電子-正孔対は、p型またはn型コンタクトに到達するほど十分には移動されず、その後、そこで移動され(イオン化)され、自由電荷を発生させることができる。その結果、自由電荷を生成するためには、励起子結合エネルギーを克服する必要があり、これは、電荷生成プロセスに対するエネルギーコストを表し、結果として、光起電力セルにおけるより低い電圧およびより低い効率が生じる。第3のカテゴリ(c)のペロブスカイトには、c軸を横断する一次元(1D)面共有のスタックと、一部の3Dペロブスカイト特性とを有するペロブスカイトが含まれる。一方、完全な3D結晶構造を有するペロブスカイトは、より低い励起子結合エネルギー(熱エネルギーのオーダ)を有する傾向があり、従って、光励起に直接つながる自由キャリアを生成することができる。従って、本発明の装置および方法に使用されるペロブスカイト半導体は、好ましくは、第1のカテゴリー(a)のペロブスカイトであり、すなわち、三次元結晶構造を有するペロブスカイトである。これは、光電子装置が光起電力装置である場合、特に好ましい。
【0032】
本発明に用いられるペロブスカイト材料は、光を吸収し、それにより自由電荷キャリアを生成することができるものである。従って、使用されるペロブスカイトは、光吸収ペロブスカイト材料である。しかしながら、ペロブスカイト材料が、その後再結合して光を放出する電子と正孔の両方の電荷を受け取ることにより、光を放出できるペロブスカイト材料であってもよいことは、当業者には明らかである。従って、使用されるペロブスカイトは、発光ペロブスカイトであってもよい。
【0033】
本発明で使用されるペロブスカイト材料が、光ドープの際にn型の電子輸送半導体として作用するペロブスカイトであってもよいことは、当業者には明らかである。あるいは、これは、光ドープされた際にp型の正孔輸送半導体として作用するペロブスカイトであってもよい。従って、ペロブスカイトは、n型またはp型であってもよく、あるいは真性半導体であってもよい。好適実施形態では、使用されるペロブスカイトは、光ドープされた際にn型の電子輸送半導体として作用するものである。ペロブスカイト材料は、両極性の電荷輸送性を示し、従って、n型およびp型の両方の半導体として作用してもよい。特に、ペロブスカイトは、該ペロブスカイトと隣接する材料との間に形成される接合の種類に応じて、n型およびp型の両方の半導体として作用してもよい。
【0034】
典型的には、本発明で使用されるペロブスカイト半導体は、光増感材料であり、すなわち、光生成および電荷輸送の両方を行うことができる材料である。
【0035】
本願で使用される「混合アニオン」という用語は、少なくとも2つの異なるアニオンを含む化合物を表す。「ハロゲン化物」と言う用語は、元素の周期律表の第17族から選択された元素のアニオン、すなわちハロゲンを表す。典型的には、ハロゲン化物アニオンは、フッ化物アニオン、塩化物アニオン、臭化物アニオンまたはヨウ化物アニオンを意味する。
【0036】
本願で使用される「金属ハロゲン化物ペロブスカイト」と言う用語は、一般式が少なくとも1つの金属カチオンおよび少なくとも1つのハロゲン化物アニオンを含有するペロブスカイトを表す。本願で使用される「有機金属ハロゲン化物ペロブスカイト」という用語は、金属ハロゲン化物ペロブスカイトを表し、その一般式は、少なくとも1つの有機カチオンを有する。
【0037】
「有機材料」という用語は、当該技術分野におけるその通常の意味を表す。典型的には、有機材料は、炭素原子を含む1つ以上の化合物を有する材料を表す。有機化合物が、別の炭素原子、水素原子、ハロゲン原子、またはカルコゲン原子(例えば、酸素原子、硫黄原子、セレン原子、またはテルル原子)と共有結合的に結合された炭素原子を有し得ることは、当業者には理解される。「有機化合物」という用語は、通常、例えば、炭化物のような主にイオン性である化合物を含まないことは、当業者は理解される。
【0038】
「有機カチオン」と言う用語は、炭素を含むカチオンを意味する。カチオンは、別の元素を含んでもよく、例えば、カチオンは、水素、窒素または酸素を含んでもよい。「無機カチオン」と言う用語は、有機カチオンではないカチオンを意味する。デフォルトでは、「無機カチオン」という用語は、炭素を含まないカチオンを意味する。
【0039】
本願で使用される「半導体」という用語は、導体と誘電体の間の大きさの電気伝導体を有する材料を表す。半導体は、n型半導体、p型半導体、または真性半導体であってもよい。
【0040】
本願で使用される「誘電体」という用語は、電気絶縁体または電流の流れがあまり良好ではない導体を表す。従って、「誘電体」という用語からは、チタニアのような半導体材料が除外される。本願中で使用される「誘電体」という用語は、典型的には、4.0eV以上のバンドギャップ(チタニアのバンドギャップは約3.2eV)を有する材料を表す。
【0041】
本願中で使用される「n型」という用語は、正孔よりも電子の濃度が大きい外因性半導体を含む領域、層、または材料を表す。従って、n形半導体では、電子は多数キャリアであり、正孔は少数キャリアであり、従って、それらは電子輸送材料である。従って、本願で使用される「n型領域」という用語は、1つ以上の電子輸送(すなわち、n型)材料の領域を表す。同様に、「n型層」という用語は、電子輸送(すなわち、n型)材料の層を表す。電子輸送(すなわち、n型)材料は、単一の電子輸送化合物であり、または元素材料、または2つ以上の電子輸送化合物もしくは元素材料の混合物であってもよい。電子輸送性化合物または元素材料は、ドープされていなくても、1つ以上のドーパント元素でドープされていてもよい。
【0042】
本願で使用される「p型」という用語は、電子よりも大きな正孔の濃度を有する外因性半導体を含む領域、層、または材料を表す。p型半導体では、正孔は多数キャリアであり、電子は少数キャリアであるため、これらは、正孔輸送材料である。従って、本願で使用される「p型領域」という用語は、1つ以上の正孔輸送(すなわち、p型)材料の領域を表す。同様に、「p型層」という用語は、正孔輸送(すなわち、p型)材料の層を表す。正孔輸送材料(すなわち、p型)は、単一の正孔輸送化合物もしくは元素材料であり、または2つ以上の正孔輸送化合物もしくは元素材料の混合物であってもよい。正孔輸送化合物または元素材料は、ドープされていなくても、または1つ以上のドーパント元素でドープされていてもよい。
【0043】
本願中で使用される「バンドギャップ」という用語は、材料の価電子帯の頂部と材料の伝導体の底部の間のエネルギー差を表す。当業者には、過度の実験を行うことなく、材料のバンドギャップを容易に測定することができる。
【0044】
本願で使用される「層」という用語は、実質的に層状の形態である(例えば、実質的に2つの垂直方向に延在するが、第3の垂直方向への延在は制限される)任意の構造を表す。層は、層の範囲にわたって変化する厚さを有してもよい。典型的には、層は、ほぼ一定の厚さを有する。本願で使用される層の「厚さ」は、層の平均厚さを表す。層の厚さは、例えば、膜の断面の電子顕微鏡像のような、顕微鏡法を使用することにより、または、例えば、スタイラスプロフィロメータを用いた表面プロフィロメトリーにより、容易に測定されてもよい。
【0045】
本願中で使用される「多孔質」と言う用語は、ポアが配列されている材料を表す。従って、例えば多孔質材料の場合、ポアは、材料が存在しない材料の本体内の体積である。個々のポアは、同じ大きさまたは異なる大きさであってもよい。ポアの大きさは、「ポアサイズ」と定義される。多孔質固体が関与するほとんどの現象において、ポアの限界サイズは、その最小寸法であり、任意の別の精度がない場合、ポアの幅(すなわち、スリット形の孔の幅、円筒形または球形の孔の直径など)と称される。円筒形のポアとスリット状のポアを比較する際に、スケールの誤った変化を避けるため、そのポア幅として、円筒形のポアの直径(その長さではなく)が使用される(Rouquerol,J.et al.,(1994)多孔質固体の特性評価の勧め(Technical Report)純粋および応用化学、66(8))。以前のIUPAC文書(J.Haber.(1991)触媒特性に関するマニュアル(Recommendations 1991))では、以下の区別と定義が採用されている。純粋および応用化学:ミクロポアは、幅(すなわちポアサイズ)が2nm未満であり、メソポアは、幅(すなわちポアサイズ)が2nmから50nmであり、マクロポアは、幅(すなわちポアサイズ)が50nm超である。またナノポアは、1nm未満の幅(すなわちポアサイズ)を有してもよい。材料中のポアは、「閉じた」ポアおよび開放ポアを有してもよい。閉じたポアは、非接続キャビティである材料のポアであり、すなわち、ポアは、材料内で隔離され、任意の他のポアとも接続されておらず、従って、材料が暴露される流体によってアクセスすることができないポアである。一方、「開放ポア」は、そのような流体によってアクセス可能である。開放ポロシティと閉鎖ポロシティの概念については、J.Rouquerolらが詳しく論じている。
【0046】
従って、開放ポロシティとは、流体が有効に流れることができる多孔質材料の全容積の割合を表す。従って、閉じたポアは除外される。「開放ポロシティ」という用語は、「接続ポロシティ」および「有効ポロシティ」という用語と互換可能であり、当技術分野では、一般に単に「ポロシティ」と称される。従って、本願で使用される「開放ポロシティなし」と言う用語は、有効ポロシティを有しない材料を表す。従って、開放ポロシティのない材料は、通常、マクロポアおよびメソポアを有しない。しかしながら、開放ポロシティのない材料は、ミクロポアおよびナノポアを含んでもよい。そのようなミクロポアおよびナノポアは、通常、極めて小さく、低いポロシティが望まれる材料に対して、悪影響を及ぼさない。
【0047】
また、多結晶材料は、固体であり、これは、多数の別個の結晶子または結晶粒から構成され、材料中の任意の2つの結晶子または結晶粒の間の界面に粒界を有する。従って、多結晶材料は、粒子間/格子間のポロシティと、粒子内/内部のポロシティの両方を有することができる。本願で使用される「粒子間ポロシティ」および「粒子内ポロシティ」という用語は、多結晶材料の結晶子または粒子の間(すなわち粒界)のポアを表す。一方、本願で使用される「粒子内ポロシティ」および「内部ポロシティ」という用語は、多結晶材料の個々の結晶子または粒子内のポアを表す。一方、単結晶または単結晶材料は、結晶格子が材料の体積全体にわたって連続し、破断しない固体であり、粒界および粒子間/格子間のポロシティは、存在しない。
【0048】
本願で使用される「緻密層」という用語は、メソポロシティまたはマクロポロシティのない層を表す。緻密層は、時々、ミクロポロシティまたはナノポロシティを有してもよい。
【0049】
従って、本願で使用される「足場材料」と言う用語は、別の材料の支持体として作用することができる材料を表す。従って、本願で使用される「多孔性足場材料」と言う用語は、それ自体が多孔性の材料であって、別の材料の支持体として作用することができる材料を表す。
【0050】
本願で使用される「透明」という用語は、後ろにある物体が明瞭に見えるようにほとんど乱されずに、光が通過することを可能にする材料または物体を表す。従って、本願で使用される「半透明」という用語は、透明な材料または物体と不透明な材料または物体の間の中間の光の透過性(代替的かつ等価的に透過率と称される)を有する材料または物体を表す。典型的には、透明材料は、約100%、または90から100%の光の平均透過率を有する。典型的には、不透明材料は、約0%、または0から5%の光の平均透過率を有する。半透明材料または物体は、通常、10から90%、典型的には40から60%の光の平均透過率を有する。多くの半透明の物体とは異なり、半透明物体は、通常、画像を歪めたり、ぼやかしたりはしない。光の透過率は、通常の方法を用いて、例えば、入射光の強度を透過光の強度と比較することによって、測定され得る。
【0051】
本願で使用される「電極」と言う用語は、物体、物質、もしくは領域に電流が流入し流出する、導電性材料または物体を表す。本願で使用される「負極」という用語は、それを通して電子が材料または物体から離れる電極(すなわち、電子収集電極)を表す。負極は、通常、「アノード」と呼ばれる。本願で使用される「正極」と言う用語は、それを通して正孔が材料または物体から離れる電極(すなわち、正孔収集電極)を表す。正極は、典型的には、「カソード」と呼ばれる。光起電力装置では、電子は、正極/カソードから陰極/アノードに流れ、一方、正孔は、負極/アノードから正極/カソードに流れる。
【0052】
本願で使用される「前面電極」という用語は、太陽光に晒されることが意図される光起電力装置の側または表面に提供される電極を表す。従って、前面電極は、通常、光が電極を通って前面電極の下側に設けられた光活性層に到達することが可能となるように、透明または半透明であることが必要とされる。従って、本願で使用される「背面電極」という用語は、太陽光に晒されることが意図される側または表面とは反対側の光起電力装置の側または表面に設けられた電極を表す。
【0053】
「電荷輸送体」と言う用語は、電荷キャリア(すなわち、電荷を運ぶ粒子)が自由に移動できる領域、層、または材料を表す。半導体において、電子は、移動する負電荷キャリアとして働き、正孔は、移動する正電荷として働く。従って、「電子輸送体」という用語は、電子が容易に流れることができ、通常、正孔(正孔は、半導体中の正電荷の可動キャリアとみなされる電子の不在である)を反射する領域、層または材料を表す。逆に、「正孔輸送体」と言う用語は、正孔が容易に流れることができ、通常、電子を反射する領域、層または材料を表す。
【0054】
「実質的に構成される」という用語は、それを本質的に構成する成分と、他の成分とを含む組成を意味するが、他の成分は、組成の本質的な特性に実質的な影響を及ぼさない。通常、実質的にある成分からなる組成物は、それらの成分の95重量%以上、またはそれらの成分の99重量%以上を含む。
【0055】
本願で使用される「粗さ」という用語は、表面または端部のテクスチャを表し、およびそれが不均一または不規則である程度を表す(従って、平滑性または規則性の欠如)。表面の粗さは、平均表面に対して通常垂直な方向における表面の偏差の任意の尺度によって、定量化することができる。粗さの尺度として、粗さ平均または平均粗さ(Ra)は、表面プロファイルの規定された基準またはサンプリング長の範囲内の直線からの全ての偏差の絶対値の算術平均である。粗さの別の尺度として、二乗平均平方根粗さ(RrmsまたはRq)は、表面プロファイルの規定された基準またはサンプリング長の範囲内の直線からの全ての偏差の値の二乗平均平方根である。
【0056】
本願で使用される「一致する」という用語は、別の物体と形態または形状が実質的に同じである物体を表す。従って、本願で使用される「共形な層」は、層が形成される表面の輪郭に一致する材料の層を表す。換言すれば、層の厚さが、層と該層が形成される表面との間の界面の大部分にわたってほぼ一定である、層の形態である。
【0057】
ペロブスカイト結晶構造を有する材料を形成するため、有機-無機ハイブリッドペロブスカイトの有機カチオンは、代替構造がよりエネルギー的に有利になる程度まで格子を変形させないように、好適な寸法を有する必要がある。
【0058】
Goldschmidt許容因子(t)は、ペロブスカイト材料の安定な結晶構造を予測するための経験的指標である。立方晶ペロブスカイト構造の場合、0.91から1.0の間のt値が有利であり、0.71から0.9の間のt値は、斜方晶または菱面体晶のような傾斜八面体を持つペロブスカイト構造を生成する。さらに、より大きな許容因子(t>1)は、通常、六方晶ペロブスカイト構造の形成をもたらし、一方、より小さな値の許容因子(t<0.71)は、通常、ペロブスカイトの歪みをもたらし、通常、ペロブスカイト結晶形態ではない異なる構造をもたらす。CH(NH2)2PbI3(FAPbI3)は、ペロブスカイトα相(黒い相)内に存在し、良好な光起電力特性を示す。しかしながら、それは大きな許容因子を有し、2H六方晶ペロブスカイトまたはデルタ-2H相(その色から黄色相としても知られる)において、より安定であり、δ-α相転移温度は、室温より高い。一方、CsPbI3は、その小さな許容因子のため、室温で斜方晶構造(δO相)に安定化される。
【0059】
これまで、ホルムアミジニウム(FA)またはメチルアンモニウム(MA)の有機カチオンを有するペロブスカイトのみが、装置内で成功裏に製造され、しばしば、小さなCsまたはRbのカチオンを添加して、格子歪を低減し、ペロブスカイト結晶構造を達成することが可能にされる。エチルアンモニウム(EA)、イミダゾリウム、グアニジニウム、ジメチルアンモニウムなどの他のより大きな有機カチオンは、FAおよびMAの代替カチオンのリストに提供されているが、好ましくない許容因子のため、安定なペロブスカイト結晶構造を有する材料が形成されることは示されていない。例えば、Yongping Fu、Matthew P.Hautzingerら(ACS Cent.Sci.2019、5、8、1377-1386)は、最近、「ジメチルアンモニウム(DMA)、エチルアンモニウム(EA)、グアニジニウム(GA)、およびアセトアミジニウム(acetamidinium)(Ac)のような大きな有機カチオンは、3Dペロブスカイト構造を支持しない」と述べている。
【0060】
本発明者らは、PbとSnを同じ結晶格子内で混合することにより、これらのより大きな有機カチオンを取り込むことができ、比較的安定な3Dペロブスカイト結晶構造を有する材料を製造できることを見出した。
【0061】
(ペロブスカイト材料)
本発明の一態様では、式(I)を有するペロブスカイト材料が開示される:
AaA’bA’’cSn(y)Pb(1-y)X3 (I)
ここで、Aは1価のカチオンで構成され、
A’は、2.53オングストロームを超えるイオン半径を有する1価の有機カチオンで構成され、
A’’は、1価の無機カチオンで構成され、
Xは、1つ以上のハロゲン化物アニオンを有し、
0<a<1、
0≦b≦1、
0≦c<1、
a+b+c=1、および
0<y<1である。
【0062】
一実施形態では、A’は、2.53オングストロームよりも大きいイオン半径を有する1価の有機カチオンである。A’カチオンは、ホルムアミジニウムイオンの半径よりも大きい半径を有する必要があり、すなわち、2.53オングストロームよりも大きい。好ましくは、A’は、アンモニウム系の1価の有機カチオンである。アンモニウム系のカチオンのそれぞれのイオン半径サイズは、Kieslichら(「有機-無機ペロブスカイトに適用される固体状態の原理:オールドドッグのための新しいトリック」、Chem. Sci. 2014、5、4712-4715)によって採用された標準的な方法から抽出することができ、ここで、Aカチオンの半径rAは、以下の式に従って算出される:
rA=rmass+rion
ここで、rmassは、分子の質量中心と、該質量中心までの最大距離を有する原子(H原子を除く)との間の距離であり、rionは、この原子の対応するイオン半径である。さらに、Aカチオンの半径を矛盾なく計算するため、rmassおよびrionが結晶学的データから導出され、イオンは、質量中心の周りに自由な回転自由度を持つ剛体球であると仮定される。
【0063】
以下の表1には、本発明で使用される一部の好適なA’カチオンが提供される。
【0064】
【表1】
また、好適な有機カチオンおよびそれらのそれぞれの半径は、Cheethamら、Chem.Sci.,2015,6,3430およびTravisら、Chem.Sci.,2016,7,4548-4556に見出すことができる。
【0065】
許容因子τは、ペロブスカイト構造(例えば、一般式ABX3によって表される)が特定の元素の組み合わせに対して形成されるかどうかを予測するツールとして使用される。これは、次の式で定義される:
【0066】
【数1】
ここで、r
Aeffは、次式による複数のAカチオンの有効半径である:
【0067】
【数2】
ここで、r
Bおよびr
Xは、それぞれ、BおよびX-サイトの有効イオン半径であり、上記の式を修正することによって計算することができる。
【0068】
経験的に、0.71と1の間のτ値は、ペロブスカイトが形成されることを示し、τ=1の場合、理想的な立方構造が得られる。0.71より小さい値または1より大きい値は、それぞれ、A-カチオンが小さすぎ、または大きすぎて、キャビティに適合しないことを意味する。許容因子計算を用いて、全ての組合せについて、記述したファミリーとペロブスカイト構造との幾何学的適合性が評価される。
【0069】
Kieslichら(「有機-無機ペロブスカイトの拡張許容係数アプローチ」、Chem.Sci.2015,6,3430-3433)は、補足情報の表1に、アンモニウムイオンと金属ハロゲン化物との許容因子に関するデータを提供している。この材料の許容因子は、アンモニウムカチオンのイオン半径が増加するとともに上昇する。臭化スズについては、表1の選択されたAカチオンの許容因子が、最小のAカチオン(イミダゾリウム)の1.049オングストロームから始まり、最大のAカチオン(トロピリウム)の1.203オングストロームに達することが示されている。一方、ヨウ化スズについては、許容因子は1.03から1.167である。鉛に関しては、表1のカチオンの許容因子は、臭化物の場合、1.019から1.212オングストロームまで変化し、ヨウ化物の場合、0.997から1.153まで変化する。
【0070】
従って、PbおよびSnの混合成分と組み合わせて、AカチオンおよびXアニオンの量および同一性を最適化することにより、本発明による材料の許容因子を有利に操作して、安定なペロブスカイト構造を得ることができる。
【0071】
好適実施形態では、A’は、エチルアンモニウム(EA)、イミダゾリウム(Im)、グアニジニウム(Gua)、ジメチルアンモニウム(DMA)、およびアセトアミジニウム(Ac)、テトラメチルアンモニウム(TMA)、チアゾリウム(TM)、トロピリウム(TP)からなる群から選択される1価の有機カチオンである。好ましくは、A’は、エチルアンモニウム(EA)またはジメチルアンモニウムカチオンである。最も好ましくは、A’は、エチルアンモニウム(EA)カチオンである。
【0072】
好適実施形態では、A’は、それが不動態化剤として作用しないような十分な量で使用される。光起電力の分野では、不動態化剤が、材料中の欠陥を不動態化するための追加の材料またはプロセスの使用を含むことが一般に知られている。従って、不動態化剤を使用する目的は、新しい組成を形成することではなく、既存の組成物の特性を改善することである。不動態化剤は、一般に、過剰量で添加され、ペロブスカイト構造にインターカレートしない。一方、本発明では、大きなカチオンA’が、意図的にペロブスカイト構造に置換され、その一部となる。置換によって、材料の組成が変化し得る。
【0073】
先行技術では、時に、著者は、不動態化において、追加の成分が構造の一部になると主張することがあるが、これは、一般に意図も証明もされてもいない。(もしあったとしても)実際にどれだけ構造格子に入るかは、知られていない。
【0074】
一実施形態において、好ましくは0.03<b<1、より好ましくは0.05<b<1、さらに好ましくは0.1<b<1、さらに好ましくは0.15<b<0.5、さらに好ましくは0.15<b≦0.4である。本実施形態において、Aは、以下に列挙するような1価の有機カチオンであってもよい。
【0075】
Aは、A’とは異なるカチオンで構成される。一実施形態において、Aは、好ましくは1価の有機カチオンである。典型的には、Aは、メチルアンモニウム(MA、CH3NH3
+)、ホルムアミジニウム(FA;HC(NH)2)2
+)およびエチルアンモニウム(EA;CH3CH2NH3
+)から選択される有機カチオンである。一実施形態において、Aは、FAおよびMAから選択される有機カチオンで構成される。最も好ましくは、AはMAである。
【0076】
yの値は、0から1である。好ましくは、yは、0.2より大きく0.7より小さく、または0.25より大きく0.65より小さい。最も好ましくは、yは約0.6である。
【0077】
存在する場合、好ましくは、A’’は、Cs+、Rb+、Cu+、Pd+、Pt+、Ag+、Au+、Rh+およびRu+から選択される無機カチオンである。好ましくは、A’’は、Cs+およびRb+から選択される無機カチオンで構成される。最も好ましくは、A’’は、Cs+である。
【0078】
好適態様では、A’はEAカチオンであり、AはMAカチオンである。A’がEAカチオンである場合、AとA’は異なるので、AはEAカチオンから構成されない。
【0079】
Xは、ハロゲン化物アニオンを含む。Xは、フッ化物、塩化物、臭化物、およびヨウ化物から選択される1つ以上のハロゲン化物アニオンを含む。ペロブスカイト構造中の各異なるXアニオンは、同じであっても異なっていてもよい。好ましくは、Xは、臭化物およびヨウ化物から選択される1種以上のハロゲン化物アニオンを含む。いくつかの例では、Xは、好ましくは、フッ化物、塩化物、臭化物、およびヨウ化物から選択される2つの異なるハロゲン化物アニオンを有し、好ましくは塩化物、臭化物、およびヨウ化物から選択される2つの異なるハロゲン化物アニオンを含む。より好ましくは、ペロブスカイト内のハロゲン化物アニオンXは、臭化物およびヨウ化物を含む。
【0080】
好ましい実施形態では、cはゼロであり、すなわちペロブスカイトは、二重カチオンペロブスカイトである。この式は次のように表されてもよい:
A(x)A’(1-x)Sn(y)Pb(1-y)X3
ここで0<x<1および0<y<1である。
A、A’およびXの定義は、前述の通りである。典型的には、0.03<x<1、好ましくは0.05<x<1、より好ましくは0.1<x<1である。xは、0.1より大きく0.6より小さく、または0.1より大きく0.3より小さいことが好ましい。最も好ましくは、xは約0.2である。
【0081】
yの値は、0から1であってもよい。好ましくは、yは、0.2より大きく0.7より小さく、または0.25より大きく0.65より小さい。最も好ましくは、yは約0.6である。
【0082】
特に好ましいペロブスカイトは、一般式:A’xMA1-xSnyPb1-yI3を有し、ここで、0<x<1および0<y<1である。典型的には0.1<x<1である。
【0083】
本発明の一実施形態では、ペロブスカイト材料は、
一般式EA(x)MA(1-x)Sn(y)Pb(1-y)X3
を有し、ここで、xおよびyは上記で定義された通りである。別の好適実施形態では、ペロブスカイト材料は、一般式EA(x)MA(1-x)Sn(y)Pb(1-y)I3を有し、ここで、xおよびyの値は上記で定義されたとおりである。
【0084】
本発明の別の実施形態では、ペロブスカイト組成物は、三重カチオンペロブスカイトであり、上記一般式AaA’bA’’cSn(y)Pb(1-y)X3を有し、ここで、A、A’およびA’’は、上記で定義された通りであり、cは>0であり、1-a-bに等しく、0<b<1および0<a<1である。
【0085】
3つのカチオンを含むペロブスカイトでは、通常、0.03<b<1であり、好ましくは0.05<b<1、より好ましくは0.1<b<1、さらにより好ましくは0.15<b<0.5、さらに好ましくは0.15<b≦0.4である。好ましくは、A’’はCs+であり、AはMAであり、三重カチオンペロブスカイトの好ましい一般式は、MAaA’bCs1-a-bSnyPb1-yX3(0<a<1、0<b<1、および0<c<1)である。Xは、1つ以上のハロゲン化物アニオンから選択される。好ましくは、XはIである。
【0086】
これらの三重カチオン組成物に対しては、0.5≦y≦0.7であることが好ましい。この場合、τ~1は、3つの異なるカチオンの比を変えることにより達成できる。一般に、格子中の小さなカチオンである、Csの割合が大きいほど、より多くのA’(より大きなカチオン)を付加することができる。最大30%までのCs比、および好適なA’/MA比の場合、τ=1が達成できることが認められている。A’の割合について、理想的な許容因子値を得るためには、50~60%の範囲の値が好ましい。Csが多いほど、τ値が1未満に低下し、A’の含有量が多いほど、1を超える値が得られる。
【0087】
本発明の好ましいペロブスカイトは、一般式AaA’bA’’cPbySn(1-y)I3およびAxA’(1-x)PbySn(1-y)I3を有し、ここで、AはMAであり、A’は、半径>2.53オングストロームを有する1価の有機カチオンであり、存在する場合、A’’(存在する場合)は、Cs+およびRb+から選択される。
【0088】
これらの好ましいペロブスカイトにおいて
0<a<1、
0<b<1、好ましくは0.1<b<1、
0≦c<1、
a+b+c=1、ならびに
0<x<1および0<y<1である。
【0089】
別の実施形態では、ペロブスカイト材料は、一般式(I):
AaA’bA’’cSn(y)Pb(1-y)X3 (I)
を有し、
ここで、Aは1価カチオンを有し、
A’は、2.53オングストロームよりも大きなイオン半径を有する1価の有機カチオンを含み、
A’’は、1価の無機カチオンを含み、
Xは、ハロゲン化物アニオンを含み、
0<a<1、
0<b<1、
0≦c<1、
a+b+c=1、および
0<y<1である。
【0090】
本発明の第3の態様では、本発明の第1または第2の態様による金属ハロゲン化物ペロブスカイト材料を含む光活性領域を有する半導体装置が開示される。本発明の一実施形態では、半導体は、光活性領域を有する光起電装置である。
【0091】
本発明の別の実施形態では、光起電力装置の光活性領域は、ペロブスカイト材料の薄膜を有し、ペロブスカイト材料の薄膜の厚さは、通常、50 nmから2000 nmの範囲であり、好ましくは100 nmから1500 nmの範囲である。
【0092】
一実施形態では、光活性領域は、少なくとも1つのn型層を含むn型領域と、該n型領域と接触するペロブスカイト材料の層とを有する。
【0093】
別の実施形態では、光活性領域は、少なくとも1つのn型層を含むn型領域と、少なくとも1つのp型層を含むp型領域と、n型領域とp型領域との間に配置されたペロブスカイト材料の層とを有する。
【0094】
光活性層は、開放ポロシティのない緻密層であることが好ましい。
【0095】
本発明の第4の態様では、2つ以上のサブセルを含む多重接合光起電力装置が開示され、第1のサブセルは、本発明の第3の態様による光起電力装置を有し、別のサブセルは、1.5から2.0 eVの間、または1.55から1.95 eVの間、または1.6から1.9 eVの間のバンドギャップを有する光活性層を有する。好ましくは、別のサブセルの光活性領域のバンドギャップは、1.5から1.9 eVの間であり、好ましくは1.6から1.9 eVの範囲である。
【0096】
本発明者らは、そのようなペロブスカイト材料が1.3 eVから1.65 eVの領域にバンドギャップを有することができ、そのようなペロブスカイト材料の層が好適な結晶形態および相を有するように容易に形成され得ることを見出した。バンドギャップは、UV-VISおよびTaucプロット分析を用いて計算される。特に、本発明者らは、より広いバンドギャップのペロブスカイト上部サブセルと組み合わせて、全ペロブスカイトタンデム光起電力装置の底部サブセルに使用される光活性ペロブスカイト材料を開発した。代替的に、この材料は、単一接合装置において使用することができ、または、例えば、ペロブスカイト-ペロブスカイト-Si、ペロブスカイト-ペロブスカイト-CI GSまたは全ペロブスカイト三重接合装置のような、多重接合装置における中間接合(バンドギャップが約1.40から1.45eVの場合)として使用することができる。
【0097】
本発明では、結晶性の高い新たなペロブスカイト材料が提供される。このペロブスカイトの低いバンドギャップにより、単接合装置のみならず、全てのペロブスカイトタンデム構造での使用が可能となり、この新しい材料の重要性が大幅に高められる。
【0098】
本発明者らは、驚くべきことに、好適なサイズのカチオンの導入、例えば、EAカチオンを混合Pb/Snペロブスカイトに導入することで、材料内に高いテクスチャリングおよび配向を形成することが支援され、有利なバンドギャップを提供しつつ、結晶構造を有利に安定化できることを見出した。
【0099】
典型的な多重接合装置では、スタックの頂上部の光活性領域/サブセルが最も高いバンドギャップを有し、下側の光活性領域/サブセルのバンドギャップは、装置の底部に向かって減少する。頂上部の光活性領域/サブセルが最も高いエネルギーの光子を最初に吸収する一方、より少ないエネルギーで光子の透過が可能となるため、この配置では、光子エネルギー抽出が最大化される。
【0100】
次に、各後続の光活性領域/サブセルは、そのバンドギャップに最も近い光子からエネルギーを抽出し、これにより熱化損失が最小限に抑制される。次に、底部の光活性領域/サブセルは、そのバンドギャップを超えるエネルギーを有する残り全ての光子を吸収する。従って、多重接合セルを設計する場合、太陽スペクトルの収集を最適化するため、好適なバンドギャップを有する光活性領域/サブセルを選択することが重要となる。この点に関して、2つの光活性領域/サブセル、頂上部光活性領域/サブセル、および底部光活性領域/サブセルを有するタンデム光起電装置では、底部光活性領域/サブセルは、約1.1 eVのバンドギャップを有する一方、頂上部光活性領域/サブセルは、約1.7eVのバンドギャップを有する必要があることが示されている(Coutts,Tら,(2002)「多結晶薄膜タンデム太陽電池のモデル化された特性」、光起電力装置の進歩:研究と応用、10(3)、195-203ページ)。
【0101】
単一接合装置での使用のため、および前述の三重接合太陽電池における中間接合のため、1.3から1.45eVの領域のバンドギャップを有する高品質材料が引き続き必要とされている。従来技術では、一部のPb/Snが1.34 eVの材料が開示されているが、これらは、結晶性が低く、装置効率が低い。驚くべきことに、実用的な光起電力装置に十分な品質を有する、1.40~1.45eVの材料は知られていない。本発明は、この以前にはアクセスできなかったバンドギャップエネルギー範囲を満たす。
【0102】
(光起電力装置)
本発明のペロブスカイト材料は、半導体装置、好ましくは光起電力装置に使用されてもよい。ペロブスカイト材料は、光起電力装置の光活性領域内で光吸収体/光増感剤として機能するように有利に構成される。
【0103】
光活性領域は、ペロブスカイト材料の薄膜を含んでもよく、好ましくはペロブスカイト材料の薄膜の厚さは、典通常、50nmから2000nm、好ましくは100nmから1500nm、より好ましくは400nmから1200nm、さらにより好ましくは600nmから1000nmである。
【0104】
光活性領域は、少なくとも1つのn型層を含むn型領域と、n型領域と接触するペロブスカイト材料の層とを有してもよい。
【0105】
光活性領域は、少なくとも1つのn型層を含むn型領域と、少なくとも1つのp型層を含むp型領域と、n型領域とp型領域との間に配置されたペロブスカイト材料の層と、を含んでもよい。
【0106】
光活性領域は、開放ポロシティのないペロブスカイト材料の層を含んでもよい。次に、ペロブスカイト材料の層は、n型領域およびp型領域の一方または両方と共に、平面ヘテロ接合を形成してもよい。
【0107】
あるいは、あまり好ましくはないが、ペロブスカイト材料の層は、n型領域とp型領域との間に配置される多孔質足場材料と接触してもよい。多孔質足場材料は、任意の誘電体材料および半導体/電荷輸送材料を有し、または本質的にそれらで構成されてもよい。次に、ペロブスカイト材料の層は、多孔質足場材料のポア内に配置されてもよく、換言すれば、多孔質足場材料の表面と共形であってもよい。あるいは、ペロブスカイト材料の層は、多孔質足場材料のポアを充填し、多孔質足場材料にキャッピング層を形成してもよい。ここで、キャッピング層は、開放ポロシティのない光活性材料の層で構成される。
【0108】
光起電力装置は、さらに、第1の電極および第2の電極を有してもよく、光活性領域は、第1の電極と第2の電極との間に配置され、第1の電極は、光活性領域のn型領域と接触し、第2の電極は、光活性領域のp型領域と接触する。第1および第2の電極は、透明なまたは光透過性の導電性材料を有してもよく、第2の電極は、金属または第2の光透過性の導電性材料を有してもよい。第1の電極は、電子収集電極であり、第2の電極は、正孔収集電極であってもよい。
【0109】
光起電力装置は、さらに、第1の電極および第2の電極を有してもよく、光活性領域は、第1の電極と第2の電極との間に配置され、第1の電極は、光活性領域のp型領域と接触し、第2の電極は、光活性領域のn型領域と接触してもよい。第1の電極は、透明なまたは光透過性の導電性材料を含んでもよく、第2の電極は、金属または第2の光透過性の導電性材料を含んでもよい。第1の電極は、正孔収集電極であり、第2の電極は電子収集電極であってもよい。
【0110】
光起電装置は、第2のサブセルの上に配置された第1のサブセルを含む多重接合構造を有してもよく、第1のサブセルは、ペロブスカイト材料を含む光活性領域を含む。光起電装置は、モノリシックな集積構造を有することができる。モノリシックな集積マルチ接合光起電装置では、2つ以上の光起電力サブセルが互いに直接堆積され、従って、電気的に直列に接続される。光起電力装置は、さらに、第1のサブセルを第2のサブセルに接続する中間領域を有してもよく、各中間領域は、1つ以上の相互接続層を有する。
【0111】
多重接合構造を有する光起電力装置は、さらに、第1の電極および第2の電極を有し、第1のサブセルおよび第2のサブセルは、第1の電極と第2の電極の間に配置されてもよい。
【0112】
第1の電極は、次に、第1のサブセルのp型領域と接触してもよく、第1の電極は、透明なまたは半透明の導電性材料を有する。第1の電極は、正孔収集電極であり、第2の電極は、電子収集電極である。タンデム装置において、第2の電極は、第2のサブセルと接触する。
【0113】
あるいは、第1の電極は、第1のサブセルのn型領域と接触してもよく、第1の電極は、透明なまたは半透明の導電性材料を含む。第1の電極は、電子収集電極であり、第2の電極は、正孔収集電極であってもよい。タンデム装置では、第2の電極は、第2のサブセルと接触する。
【0114】
光起電力装置が多重接合構造を有する場合、光起電力装置の第2のサブセルは、任意の第2のペロブスカイト材料、結晶質シリコン、CdTe、CuZnSnSSe、CuZnSnS、またはCuInGaSe(CIGS)のいずれかを含み得る。
【0115】
あるいは、多重接合太陽電池は、3つのサブセルを含むことができ、上部セルは、1.5から1.9eVの範囲のバンドギャップを有するペロブスカイトセルであり、中間のサブセルは、本発明によるペロブスカイト層を有し、底部サブセルは、例えば、結晶質シリコン、狭小バンドギャップペロブスカイト層またはCIGSのような、1.1から1.3eVの範囲のエネルギーバンドギャップを有するサブセルを有する。
【0116】
ペロブスカイト層は、国際公開第WO2013/171517号、国際公開第WO2014/045021号、国際公開第WO2016/198889号、国際公開第WO2016/005758号、国際公開第WO2017/089819号、および参考文献「光起電力態様エネルギー:基礎から応用まで」(Angele ReindersおよびPierre Verlinden編、Wiley-Blackwell(2017)ISBN-13:978-1118927465)、および「有機-無機ハロゲン化物ペロブスカイト光起電力装置:基礎から装置構成まで」Nam-Gyu Parkら編、Springer(2016)ISBN-13:978-3319351124)に記載されているように調製されてもよい。
【0117】
ペロブスカイトは、以下の実施例の章でさらに説明するように、SnF2を用いてまたは用いずに調合することができる。SnF2は、Snリッチな環境を導入することにより、すなわち、SnF4の形態におけるSn4+のフッ化物イオンによる選択的錯体形成を介して、Sn4+空孔を減少させることにより、スズ/鉛ペロブスカイトの酸化を首尾よく抑制することが報告されている(Pascualら、「ハロゲン化スズペロブスカイトにおけるフッ化物の化学」、Angewandte Chemie International Edition,Vol.60,39,2021)。
【0118】
本発明の好適装置において、光活性層は、開放ポロシティのない緻密層である。
【0119】
本発明の装置を製造する方法は、国際公開第WO2016/198889号にさらに記載されている。
【0120】
本発明による装置の製造の間、ペロブスカイト材料の固体層が生成され、ペロブスカイト材料の固体層を硬化させるステップが実施されてもよい。ペロブスカイト材料の固体層を硬化させるステップは、通常、ペロブスカイト材料の固体層を、所定の時間、高温に加熱するステップを有し、硬化ステップに使用される温度および時間は、ペロブスカイト材料の特定の組成に依存する。この点に関し、当業者は、過度の実験を必要としない良く知られた手順を使用することによって、ペロブスカイト材料の固体層を硬化させるための好適な温度および時間を容易に定めることができる。特に、当業者には、硬化ステップで使用される正確な温度および時間が、硬化ステップを実施するために使用される設備および機器の変動に依存し、これらのパラメーターの値の選択は、当業者にとってルーチン事項であることが認識されることが留意される。
【0121】
以下、実施例により本発明について説明する。
【0122】
(例)
薄膜および装置の作製-混合カチオン
材料
議論された組成の薄膜および装置は全て、Alfa Aesar社のSnI2(純度99.999%)およびPbI2(純度99.999%)を用いて作製された。ヨウ化メチルアンモニウム(MAI)およびヨウ化エチルアンモニウム(EAI)は、Greatcell Solar社から購入した。アセトアミジニウムヨウ化物、ジエチルアンモニウムヨウ化物、イミダゾリウムヨウ化物、PEDOT:PSS(Al 4083)およびフェニル-C 61-酪酸メチルエステル(PCBM)は、Ossila社から入手した。グアニジニウムヨウ化物は、Sigma-Aldrichから、バソクプロイン(BCP)は、Alfa Aesar社から入手した。使用した全ての溶媒、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、クロロベンゼン、1,2-ジクロロベンゼン、メタノールおよびイソプロパノール(IPA)も、Sigma Aldrichから入手した。
【0123】
ペロブスカイト前駆体溶液
組成に応じて、DMF:DMSO(4:1)の溶媒混合物中で、対応する成分をAカチオン比およびPb/Sn比で混合することにより、1M濃度の前駆体溶液を調製した。溶液を撹拌し、その後スピンコーティングに使用した。
【0124】
装置製造
予めパターン化されたITOガラス基板をアセトンおよびイソプロパノールを用いて順次洗浄し、その後、O2-プラズマで処理した。メタノール中のPEDOT:PSS溶液(PEDOT:PSS:メタノール-1:2)をITO基板上に4000 rpmで40秒間スピンコートし、空気中、150℃で10分間アニールした。冷却後、基板をN2充填したグローブボックス中に移した。ペロブスカイト膜は、合計20秒間成膜させ、その間、アニソール(400μL)を反溶媒として滴下した。その後、基板を100℃で10分間アニールした。PCBM(CB:DCB(3:1)中20mg/ml)を2000rpmで30秒間動的に回転させ、その後、90℃で2分間アニールした。次に、4000 rpmで20秒間の動的スピニングプロセスにより、BCP(IPA中0.5mg/ml)を堆積させた。最後に、100 nmのAg上部電極を0.2 nm/秒の速度で熱蒸着させた。
【0125】
(例1)
装置スタックは、ガラス基板/ITO/PEDOT:PSS(15 nm)/ペロブスカイト/PCBM(20 nm)/BCP(5 nm)/Ag(150 nm)を有する。
1.EA0.2MA0.8Sn0.6Pb0.4I3
PEDOT:PSS溶液(Al 4083-Ossila)をメタノール(PEDOT:PSS/メタノール-1:2)で希釈し、0.45μmのガラス繊維フィルターで濾過し、その後パターン化されたITO/ガラス基板上にスピンコーティングした。スピンコーティング中、溶液を基板上に滴下し、空気下、4000rpmで40秒間スピンし、続いて150℃で10分間アニールした。
【0126】
ペロブスカイトEA0.2MA0.8Sn0.6Pb0.4I3:
EAI(20%)およびMAI(80%)をDMF:DMSO(4:1)に溶解し、1M溶液を調製した。次に、溶液を、PbI2(40%)およびSnI2(60%)(両方とも99.999%、Sigma Aldrich製)を含むバイアルに移して、最終的なペロブスカイト前駆体溶液を形成した。このペロブスカイト溶液を基板上に滴下し、20秒間スピンした。アニソールを反溶媒として用い、スピン開始後に滴下した。次に、膜を120℃で10分間アニールした。
【0127】
20mg/ml濃度で、PC60BM粉末をクロロベンゼン/ジクロロベンゼン(3:1)に溶解した。溶液を0.2μmのPTFEフィルターで濾過し、使用前に90℃で加熱した。動的スピンは、2000rpmで30秒間行った。試料を90℃で2分間アニールした。
【0128】
BCP(バソクプロイン)を0.5mg/mlの濃度でIPAに溶解し、一晩撹拌した後、0.2μmのPTFEフィルターで濾過した。動的スピニングは、4000rpmで20秒間行った。その後、アニールは実施しなかった。
【0129】
Agの上部電極を蒸着した(150 nm)。
【0130】
結果
EA0.2MA0.8Sn0.6Pb0.4I3は、高テクスチャ化された低ギャップのペロブスカイト構造を形成することが示され、PCEが最大4.98%に達する機能装置が得られた。
【0131】
例2
許容因子計算に基づく低ギャップ組成物の代替のA-カチオンの組み合わせをスクリーニングする最初の試験では、EA
0.3MA
0.7Sn
0.5 Pb
0.5I
3は、高テクスチャ化され、単相組成であることが示された。この組成を出発点として、Sn/Pb比とEA/MA比の影響を調べた。EA
0.2MA
0.8Sn
0.6Pb
0.4I
3は、最も結晶性が高く、高配向された組成であることがわかった。ペロブスカイト構造を形成することができるSn/Pb比の範囲を定めるため、一般式A
0.2MA
0.8Sn
xPb
1-xI
3におけるSnの割合(0から100%)を変化させて実験を行った。EA
0.2MA
0.8Sn
xPb
1-xI
3(x=0~1)のXRDパターン、吸収スペクトル、SEM像を
図1A~1Cに示す。
【0132】
許容因子の計算(
図4)で示したように、固定された20%のEAの場合、ペロブスカイト構造は、全ての異なるSn百分率で形成される。興味深いことに、異常なバンドギャップ効果も観察され、最小バンドギャップ値は、Snが40から60%の間にある(
図2B)。さらに、より多くのSnを含むことにより、14°において、主回折ピークのより高い2θ値へのシフトが観察され、これは、Pb原子がSn原子よりも大きいため、予想される格子収縮と一致する(
図3Aおよび3B)。
【0133】
例3
前述の結果に従い、構造(A’xMA1-XSnyPb1-yI3)を同様に安定化し得る同様のイオン半径を有する、EA(エチルアンモニウム)を除く代替の大きな有機カチオンを探索した(表1)。表2には、MA、FAおよびCsのような、一般式AMX3におけるAサイトの代表的なペロブスカイトカチオン、ならびに参考のためのそれらの対応するイオン半径のリストを示す。好適なA’カチオンは、上記の表1に示されている。
【0134】
まず、混合Pb/Sn組成物によるこれらのカチオンの安定性を評価するため、Pb単独でのXRDとの比較を実施した。従って、表1からのAカチオンの選択、すなわちIm、DMA、EA、AD、Guaを調べた。
図5に示すように、すべてのPb/Sn系の試料は、明らかにより大きな安定性を示し、これは、~12.5゜でのPbI
2ピークの強度の欠如または減少により確認された。特徴的な劣化側相。Pb単独試料と比較して、Pb/Sn試料では、他の不純物ピークも除去されることが観測され、これは、探索した処理空間におけるより良い構造的完全性を示した。
【0135】
前述のものと同じイオンの吸収能も評価し、
図6に示した。いずれの場合も、吸収スペクトルは、Pb/Sn組成物の方がPb対応物よりも改善され、より広い波長範囲にわたってより大きな吸収を示した。
【0136】
各種MA:A’の組み合わせについて、許容因子計算を行った。ここでA’は、表1からの前述のカチオンの1つである。対応する陰影マップをFA:CsおよびMA:FAのマップとも比較した(
図4)。Snが構造中に導入されるため、取り込まれ得るより大きな有機カチオンの量は、低下する。
【0137】
【表2】
例4
他のより大きな有機カチオンを含めることで低ギャップペロブスカイト構造を安定化できるかどうかを確認するため、Snが60%に固定されたA
0.2MA
0.8Sn
0.6Pb
0.4I
3と同様の許容因子を有する組成物を選択し、実験的に評価した(表3)。対応するPbのみの組成を調べ、Pb/Snの対応物と比較した。
【0138】
【表3】
興味深いことに、Pbのみの系の組成物は、
図10のXRDパターンおよび
図8のSEM画像で観測されたように、不純物相を示す。一方、Pb-Snペロブスカイトのより小さな無機骨格は、より大きなカチオンを収容できないと予想されるにもかかわらず、混合Pb-Sn組成物の大部分は、高度に配向され、二次相を含まずにテクスチャ化されている。XRDパターンおよび主ペロブスカイトピークのより高い2θへのシフトに基づくと、これらのより大きなカチオンは、ペロブスカイト構造のA’’サイト(式IのA’位置に対応する)を占める。このように、純粋で高度にテクスチャ化されたPb-Snペロブスカイトが形成された。光学特性に関しては、Snの添加により、バンドギャップが所望の値の範囲(1.2~1.3eV)に低下するものの、バンドギャップの値は、
図7に示されるように、A’-カチオンを変化させることにより、微調整できると思われる。
【0139】
例5
表3における前述の組成で装置を製造した。より具体的には、装置構成は、ガラス/ITO/PEDOT:PSS/ペロブスカイト/PCBM/BCP/Agであった。各ケースにおける最良の装置の結果を
図9および表4に示す。
【0140】
【表4】
代替のEA-MAおよびDMA-MA構造は、MA単独系の組成物と同様の効率を示す(表4)。材料が好ましい光学的配列を達成するように調整されるフル装置スタックにおける最適化に際し、表4のより大きなカチオンベースの装置は、標準的な鉛系のペロブスカイトに匹敵するPCEを達成する極めて有望な可能性を示す。
【0141】
図12に示すように、これらの装置は、SnF
2を含む装置と比較された。一般に、V
OCは、SnF
2を有する装置で高くなる傾向があり、一方、J
SCは、SnF
2のない装置で高くなった。SnF
2による高電圧化は、Sn空孔を補償するSn
2+の利用可能性に起因すると考えられる。しかしながら、SnF
2が添加された場合、J
SCが低くなるのは、
図11のSEM画像における形態によって示されるように、構造に導入されたより多くのピンホールによるものである可能性がある。ピンホールの存在は、結晶性の低下につながり、従って、電流密度を下げる可能性がある。
【0142】
最終的に、SnF2は、VOCおよび湿度安定性のような、ペロブスカイトの特定の特徴を改善する有益な材料となり得る。しかしながら、一部のシナリオでは、SnF2は、ペロブスカイトの構造特性に対してわずかながら障害となる可能性があるため、特定のペロブスカイト組成物との調合に関して慎重に検討し、混合Pb-Snペロブスカイトに対してこの添加材を使用する際には、添加されるSnF2の量を考慮する必要がある。
【0143】
例6
また、表3に示したしたそれぞれの構造について、SnF2の有無の直接的な比較とともに、熱安定性および湿度曝露に対する回復力(resilience)を調べた。窒素雰囲気下で85℃に加熱し、0時間、24時間、48時間での主(100)ペロブスカイトピークの相対強度を測定することにより、熱安定性を測定した。また、同様に、これらの時間間隔で湿度安定性を測定した。ただし、相対湿度は40%の条件とした。
【0144】
図13Aには、湿度曝露下での、SnF
2の有無における大きなAカチオンの主(100)XRDペロブスカイトピークの強度変化のまとめを示す。湿度回復力は、(100)ピーク強度の%変化で決定した。いずれの場合も、ピーク強度の変化が小さいことから、SnF
2の存在は、劣化をわずかに遅延させることがわかった。
【0145】
これらの大きなAカチオンのペロブスカイトの熱安定性を調べるため、同じ測定を行った。SnF
2の有無の加熱下で、各カチオンについて、分解産物であるPbI
2の存在が観測された。しかしながら、XRDにおいて、主(100)ピークについては、SnF
2を含まない全ての組成物で、そのSnF
2対応物と比べて、熱処理下で強度のより遅い低下が認められ、従って、
図13Bに示される強度のより低い全体的な変化が認められた。従って、SnF
2を含まない材料は、SnF
2を含む材料と比較して、熱処理下において、改善された構造的完全性を示した。
【0146】
全体として、SnF2を含まない化合物は、より低い湿度安定性を示したが、熱安定性は、改善された。しかしながら、多くの場合、湿度に起因する劣化は、好適な封止によって防ぐことができるが、ソーラーモジュールでは、熱応力が不可避となる。
【0147】
結論として、実施例5および6からの結果により、SnF2は、ある特性を改善するために組み込むことができるが、装置の他の特徴および特定の条件に応じて、必ずしも必要ではないことが示された。
【0148】
例7
三重カチオン構造(A’
xMA
yCs
1-y-xSn
yPb
1-yI
3)について、許容因子計算を実施した。ここで、Snは60%で存在し、A’
xは、表1による任意の大きなカチオンであり得る。より具体的には、MAと、Im、DMA、EA、Ac、Guaのような大きなA’カチオンとで構成される二重A-カチオンペロブスカイトにおけるCs添加の効果を調べた。
図14に示すように、結果は、陰影付きの三角形のマップとして表示されている。FAおよびImカチオンは、通常、これらのイオンの50%以上の組成で安定化され、MAおよびCsは、それぞれ、約50%および25%未満であった。EA、Dm、AcおよびGuaでは、これらのイオンは、組成物中に約30%以上存在する場合、好適な許容因子範囲を示し、MAおよびCsは、それぞれ、約70%および37.5%未満であった。一般に、Csが最大30%の百分率、A’/MA比の好適な配置、および50から60%のA’百分率において、τ=1を達成することができる。Csが多くなると、τ値は、1未満に低下し、A’含有量が多くなると、1を超える値となる。従って、3つのAカチオンの各々の比率の最適化により、望ましい範囲0.8<τ<1の許容因子が可能となる。
【0149】
大きなカチオンIm、DMA、EAおよびGuaを有する各種三重カチオン化合物の実験的な許容因子値を、以下の表5に示す。参照組成物EA0.2MA0.8Sn0.6Pb0.4I3は、許容因子が0.991であり、高いテクスチャ化示し、機能装置における集積に成功することが示され、これを三重カチオン組成を選択するための指針として使用した。
【0150】
【表5】
次に、表5の組成物のXRDを実施し、
図15Aおよび15Bに示すように、全ての化合物において、ペロブスカイト相がうまく形成されることを確認した。Cs
0.1EA
0.3MA
0.6Sn
0.6Pb
0.4I
3は、最も純粋な相を示し、余分なピークは観察されなかった一方、Cs
0.1Im
0.4MA
0.5Sn0
.6Pb
0.4I
3は、最も不純物の多いピークを示した。Cs
0.1DMA
0.3MA
0.6Sn
0.6Pb
0.4I
3およびCs
0.2Gua
0.35MA
0.45Sn
0.6Pb
0.4I
3は、11.5~12゜付近に二次相のピークを示した。
【0151】
さらに、表5に列挙された組成物の各々の有効Aカチオン半径R
A、および関連する主ペロブスカイトピーク位置を、
図16に示す。全ての三重カチオン組成物は、同様のR
A値を有するが、それでも、ピーク位置およびそれに応じた単位格子サイズの変動が、グループ間で観察される。例えば、同じ比率のA-カチオンを使用したCs
0.1DMA
0.3MA
0.6Sn
0.6Pb
0.4I
3およびCs
0.1EA
0.3MA
0.6Sn
0.6Pb
0.4I
3は、参照組成に対して異なるピーク位置シフトを示し、これにより、EA化合物は、より高い2θへの有意に大きな位置シフトを示し、従って、三重カチオンDMA化合物よりも単位格子が収縮した。これは、格子に取り込まれた各大きなカチオンの形状および相互作用が、最終的なペロブスカイト構造に極めて大きな影響を与える役割を果たすことを示唆する。
【0152】
また、アニール温度の影響について調べた。100℃および120℃でアニールした各組成物のXRDパターンを
図17に示す。より高い温度でアニールすることにより結晶性が増大し、低θ領域に現れる二次相ピークが部分的に抑制された。興味深いことに、Cs
0.2Gua
0.35MA
0.45Sn
0.6Pb
0.4I
3では、試料を高温でアニールした場合、6.5°付近に2D相に関連するピークが現れた。
【0153】
大きなAカチオンに依存して、わずかに異なる構造を採用して、好ましい許容因子を有する三重カチオン混合Pb/Snペロブスカイトを首尾よく形成することができる。従って、各特有の組成物の製造条件の最適化により、改善された材料品質および全体的に高い純度が得られる。
【0154】
例8
さらに、参照二重カチオン組成物EA0.2MA0.8Sn0.6Pb0.4I3に微量のCsを添加した場合の影響を調べた。EA/MA比は、一定に維持され、Csの導入は、1%、3%および5%の量とした。以下の表6には、組成のリストを示す。
【0155】
【表6】
次に、
図18Aおよび
図18B(12~15°の範囲の拡大図)に示すように、表6に示す組成物について、参照組成物とともにXRDを実施した。明らかに、選択された量でCsが添加された場合、参照組成物で観測された高いテクスチャ化が維持され、Csが取り込まれた場合、任意の追加のピークが存在しないことが確認される。次に、
図18Bから、~14゜のピークの強度を各化合物について調べた(
図19)。0.01のCsが構造に添加された場合でも、各Cs量に対してピーク強度の有意な減少が観測された。しかしながら、いかなる有意なピークシフトも存在しないため、格子の収縮または拡大は生じず、安定した構造が示唆された。
【国際調査報告】