(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-08
(54)【発明の名称】外骨格を動かすための方法
(51)【国際特許分類】
A61H 3/00 20060101AFI20241001BHJP
A61H 1/02 20060101ALI20241001BHJP
B25J 13/00 20060101ALI20241001BHJP
【FI】
A61H3/00 B
A61H1/02 N
B25J13/00 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024520902
(86)(22)【出願日】2022-10-06
(85)【翻訳文提出日】2024-05-29
(86)【国際出願番号】 FR2022051894
(87)【国際公開番号】W WO2023057727
(87)【国際公開日】2023-04-13
(32)【優先日】2021-10-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516282835
【氏名又は名称】ワンダークラフト
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100229448
【氏名又は名称】中槇 利明
(72)【発明者】
【氏名】フイン,ヴェイー
(72)【発明者】
【氏名】エル コウリー,アントニオ
【テーマコード(参考)】
3C707
4C046
【Fターム(参考)】
3C707AS38
3C707KS31
3C707KS34
3C707XK03
3C707XK12
3C707XK27
3C707XK45
3C707XK52
3C707XK54
3C707XK69
4C046AA25
4C046AA42
4C046AA49
4C046BB01
4C046BB07
4C046CC01
4C046DD02
4C046DD03
4C046DD12
4C046DD38
4C046DD39
4C046EE07
4C046EE09
4C046FF04
4C046FF09
(57)【要約】
本発明は、人間のオペレータを収容する二足歩行外骨格(1)を動かすための方法に関し、この方法は、外骨格(1)のデータ処理手段(11)によって、(a)オペレータが運動動作を行うために、外骨格(1)によって適用される少なくとも1つの姿勢命令を取得するステップと;(b)決定した少なくとも1つの姿勢命令に基づいて、階層化した逆運動学によって外骨格(1)の軌道を決定するステップであって、階層化した逆運動学は、最も高い優先順位のタスクとして、オペレータの前記運動動作中に、外骨格(1)の足を地面に付け続けるタスクを含む階層化タスクのスタックを含む、ステップと;を実行することを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
人間のオペレータを収容する二足歩行外骨格(1)を動かすための方法であって、当該方法は、前記外骨格(1)のデータ処理手段(11)によって、
(a)前記オペレータが運動動作を行うために、前記外骨格(1)によって適用される少なくとも1つの姿勢命令を取得するステップと、
(b)決定した前記少なくとも1つの姿勢命令に基づいて、階層化した逆運動学によって前記外骨格(1)の軌道を決定するステップであって、前記階層化した逆運動学は、最も高い優先順位のタスクとして、前記オペレータの前記運動動作中に、前記外骨格(1)の足を地面に付け続けるタスクを含む階層化タスクのスタックを含む、ステップと、を実行することを含む、
方法。
【請求項2】
前記階層化タスクのスタックは、前記外骨格(1)の前記足を前記地面に付け続けるタスクよりも優先順位が低い、前記外骨格(1)の残りの部分を制御する少なくとも1つのタスクをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記外骨格(1)の残りの部分を制御する前記少なくとも1つのタスクは、
前記外骨格(1)の質量中心(CoM)を制御するタスクと、
前記外骨格(1)の骨盤を制御するタスクと、
前記外骨格(1)の姿勢を制御するタスクと、から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記階層化タスクのスタックは、優先順位の降順に、前記外骨格(1)の前記足を前記地面に付け続けるタスク、前記外骨格(1)の前記CoMを制御するタスク、前記外骨格(1)の前記骨盤を制御するタスク、及び前記外骨格(1)の前記姿勢を制御するタスクを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記外骨格(1)の前記CoMを制御するタスクは、柔軟な倒立振子モデルに基づくコントローラを介したCoM位置制御及び安定化のタスクである、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
前記ステップ(b)は、前記決定した軌道を実現するために、タスク毎に前記外骨格(1)の位置の展開を規定する制御ループを実行するステップを含む、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
タスク毎に独立した制御ループがあり、前記階層化した逆運動学は前記制御ループ内で実現される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記外骨格(1)の前記位置は、前記外骨格(1)の作動自由度の関節位置のベクトルによって規定される、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
前記ステップ(a)は、
前記外骨格(1)のセンサによって取得したデータから、前記オペレータによる動作意図を特定するステップと、
前記動作意図から前記少なくとも1つの姿勢命令を決定するステップと、を含む、請求項1乃至8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記少なくとも1つの姿勢命令は、前記オペレータの前記運動動作中の前記外骨格(1)の所望の姿勢を規定する重心、CoM、及び/又は関節命令である、請求項1乃至9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記外骨格(1)を移動させるための請求項1乃至10のいずれか一項に記載の方法を実施するように構成されたデータ処理手段(11)を含む外骨格(1)。
【請求項12】
プログラムをコンピュータで実行するときに、外骨格(1)を移動させるための請求項1乃至10のいずれか一項に記載の方法を実行するためのコード命令を含むコンピュータプログラム。
【請求項13】
コンピュータプログラムが、外骨格(1)を動かすための請求項1乃至10のいずれか一項に記載の方法を実行するためのコード命令を含む、コンピュータ装置によって読み取り可能な記憶手段。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外骨格(exoskeleton)型ロボットの分野に関する。
より正確には、本発明は、運動モードと呼ばれるモードで外骨格を動かすための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、外骨格と呼ばれる歩行補助装置が、対麻痺等の重大な運動障害を持つ人々のために登場した。この装置は、オペレータ(人間のユーザ)が、外骨格の動きを自分自身の動きとリンクさせるアタッチメントシステムを使用して「装着」する外部ロボット装置である。下肢の外骨格には、歩行動作を再現するために、通常は少なくとも膝及び股関節に複数の関節がある。アクチュエータによってこれらの関節を動かすことが可能になり、それによってオペレータが動く。インターフェイスシステムにより、オペレータは外骨格に命令を与えることができ、コマンドシステムにより、これらの命令がアクチュエータへのコマンドに変換される。通常、センサは装置を完成させる。
【0003】
これらの外骨格は、オペレータが立って歩くことを可能にするため、車椅子から一歩進んだものである。外骨格はもはや車輪による制限がなくなり、理論的には殆どの都市環境で展開することができる。車輪は、脚とは異なり、段差、階段、高過ぎる障害物等の重大な障害物を乗り越えることができない。
【0004】
外骨格は、運動能力の回復に加えて、特に脳卒中等の神経学的事故後のリハビリテーションにも強い関心を集めている。
【0005】
「垂直化(verticalization:立ち上がり)」は、運動能力が低下した人のリハビリテーションにおいて特に重要な運動である。それは心理的であれ、肉体的であれ、人に大きな影響を与える。この運動により、一方では、その人が、社会的に交流するために周囲の人々と同じレベルに立つことができ、その人の気力(自信及び尊厳)に非常に良い影響を与える。その一方で、その運動は、呼吸、血液循環、さらには消化を改善し、筋肉の収縮及び床ずれの発生を防ぐ。
【0006】
「運動(exercise)」モードは、患者のリハビリテーション及び/又は体にエネルギーを与えるように関心のある運動動作を行うために、患者が動かず、両足が常に地面に接触したままになる(両足が動かない)外骨格の動作モードである。
【0007】
問題は、対麻痺者が外骨格に「追従」するような動きをすることができないことである。歩行の場合に、外骨格は予め規定した軌道を適用できるが、運動モードではセンサデータに基づいて患者が動きを完全に制御する必要があるため、これはもはや不可能になる。
【0008】
対麻痺者が立った姿勢で運動を行うことを可能にする外骨格は1つだけ知られており、それがRexBionicsのREXである。しかしながら、これは単純な原理に従って機能する。つまり、外骨格は所定の姿勢で静止し、次に患者は上半身を動かすことができるが、外骨格を制御する可能性はない。
【0009】
この解決策は、可能な運動動作を大幅に制限すると理解される。REXの「運動」モードでは、上半身でのボール及びウェイトトレーニング器具の取り扱いしか許容されておらず、患者がスクワット、物を掴むための屈伸運動、腰を動かす等を実行できるようにすると有益である。
【0010】
さらに、患者を静止姿勢に保つと、次のような問題が生じる:
- 外骨格にはまり込んだ感覚、
- 患者の大きな動きによってロボットが転倒し、その結果、患者が負傷するリスク、
- 低位置にある物体に届かない。
【0011】
逆に、垂直化を促進し、到達可能なスペースを増やすことは、この運動における患者のモチベーションを高め、動きをコントロールできるように動機付けするのに役立つ。
【0012】
患者にとって安定性及び安全性を保ちながら、より多様な運動を可能にする、外骨格を動かすための新しい解決策を得ることが望ましい。
【発明の概要】
【0013】
こうして、本発明は、第1の態様によれば、人間のオペレータを収容する二足歩行外骨格を動かすための方法に関し、この方法は、外骨格のデータ処理手段によって、
(a)オペレータが運動動作を行うために、外骨格によって適用される少なくとも1つの姿勢命令を取得するステップと、
(b)決定した少なくとも1つの姿勢命令に基づいて、階層化した逆運動学によって外骨格の軌道を決定するステップであって、階層化した逆運動学は、最も高い優先順位のタスクとして、オペレータの運動動作中に、外骨格の足を地面に付け続けるタスクを含む階層化タスクのスタックを含む、ステップと、を実行することを含む。
【0014】
有利で非限定的な特徴によれば、次のとおりである。
階層化タスクのスタックは、外骨格の足を地面に付け続けるタスクよりも優先順位が低い、外骨格の残りの部分を制御する少なくとも1つのタスクをさらに含む。
【0015】
外骨格の残りの部分を制御する少なくとも1つのタスクは、
外骨格の質量中心(CoM)を制御するタスクと、
外骨格の骨盤を制御するタスクと、
外骨格の姿勢を制御するタスクと、から選択される。
【0016】
階層化タスクのスタックは、優先順位の降順(decreasing order)に、外骨格の足を地面に付け続けるタスク、外骨格のCoMを制御するタスク、外骨格の骨盤を制御するタスク、及び外骨格の姿勢を制御するタスクを含む。
【0017】
外骨格のCoMを制御するタスクは、柔軟な倒立振子(flexible inverted pendulum)モデルに基づくコントローラを介したCoM位置制御及び安定化のタスクである。
【0018】
ステップ(b)は、決定した軌道を実現するために、タスク毎に外骨格の位置の展開を規定する制御ループの実行を含む。
【0019】
タスク毎に独立した制御ループがあり、階層化した逆運動学は制御ループ内で実現される。
【0020】
外骨格の位置は、外骨格の作動自由度の関節位置のベクトルによって規定される。
【0021】
ステップ(a)は、外骨格のセンサによって取得したデータから、オペレータによる動作意図を特定するステップと、動作意図から少なくとも1つの姿勢命令を決定するステップとを含む。
【0022】
少なくとも1つの姿勢命令は、オペレータの運動動作中の外骨格の所望の姿勢を規定する重心、CoM、及び/又は関節命令である。
【0023】
第2の態様によれば、本発明は、外骨格を動かすための第1の態様による方法を実施するように構成されたデータ処理手段を含む外骨格に関する。
【0024】
第3及び第4の態様によれば、本発明は、外骨格を動かすための第1の態様による方法を実行するためのコード命令を含むコンピュータプログラム製品に関し、コンピュータプログラム製品が外骨格を動かすための第1の態様による方法を実行するためのコード命令を含む、コンピュータ装置によって読み取り可能な記憶手段に関する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
本発明の他の特徴及び利点は、好ましい実施形態に関する以下の説明を読めば明らかになろう。この説明は、添付の図面を参照して行う。
【
図1】本発明による方法によって使用される外骨格の図である。
【
図2】本発明による方法の好ましい実施形態を示す図である。
【
図3a】本発明による方法の好ましい実施形態で使用される第1の制御ループを概略的に示す図である。
【
図3b】本発明による方法の好ましい実施形態で使用される第2の制御ループを概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
アーキテクチャ
本発明は、外骨格1を動かすための方法を提案する。
【0027】
図1を参照すると、外骨格1は、作動及び命令され、2本の脚を備えた二足歩行ロボット装置タイプの多関節機械システムであり、より正確には、外骨格1の一方の脚と一体化した(特にストラップの使用)下肢を有する人間のオペレータに適応する。こうして、その外骨格は多かれ少なかれ人型ロボットであり得る。
【0028】
ここで、オペレータの動き(これは、外骨格が行う身体の腕及び上半身の動きを含む全体的な動きであり、本発明の文脈上「運動動作」と呼ばれる)と、外骨格1単独の動き又は「軌道」(従って、脚に限定される)との間に相違が生じる。実際には、運動を行う、従って上半身を物理的に動かすのはオペレータであり、外骨格1は軌道を実現することによって応答し、その間に、外骨格1の足が地面と接触して動かない。
【0029】
換言すると、本運動モードでは、外骨格1の足を固定した状態に維持することによって外骨格1を動かす。これは、運動モードによって課される制約であることが理解される(すなわち、足を地面に付け続けることが、外骨格1が運動モードにあるときに課される)。
【0030】
「外骨格1の足が地面に接触したままである間」の動作は、動きを生じさせるために、実際には立位で脚を代替的に支持する「歩行」タイプの動作とは反対を意味することが理解される。典型的に、外骨格の歩行動作は一連のステップで構成されており、各ステップでは足が地面から離れて静止し、その後役割が逆転する(つまり、左足と右足のステップが交互に行われる)。
【0031】
こうして、本方法の文脈では、足が動かないことによる外骨格1の動きはないが、REXの例の場合とは逆に、外骨格1は動き続けており(そしてその全ての自由度は可動である)、オペレータを支援する。運動モードの一般的な目的は、患者が上半身を動かすときに直立状態を安定させながら、患者の手の届くスペースを増やすことである。実際に、例えば、ユーザが目の前の地面に置かれたものを拾い上げることができるように、外骨格1の膝が曲がることが不可欠であることが理解される。
【0032】
オペレータが実行するこの運動動作は、例えば次のようになる:
片腕又は両腕で物体を持ち上げる/引っ張る/捕まえる/投げる、
おそらく何かを拾うためにかがむ、
1つ又は複数の軸上で骨盤の回転運動を行う。骨盤の「回転」運動(縦軸の回転)は一般に「揺れ」と呼ばれる、
スクワットをする、
ストレッチをする、
スポーツをする(ラケットスポーツ、ボクシング、バスケットボール等)等。
【0033】
しかしながら、外骨格1の足が固定されたままの任意の運動動作は、この動作を安定して達成する方法がある限り、本発明の枠組み内で制限なく行うことができることが理解されよう。
【0034】
外骨格1は、複数の自由度、すなわち、それぞれが「作動」又は「非作動」である変形可能な関節(一般に回転を介して)、すなわち互いに対して移動可能である関節を有する。作動自由度は、データ処理手段11によって命令されるアクチュエータを備えた関節を指し、つまり、この自由度は制御され、作用することができる。後で分かるように、これらの自由度の一部は「柔軟(flexible)」にすることができる。
【0035】
データ処理手段11は、命令を処理し、異なるアクチュエータへのコマンドを生成するように適合されたコンピュータ装置(典型的に、外骨格1が「遠隔制御」される場合には外部にあるが、好ましくは外骨格1に埋め込まれたプロセッサ、以下を参照)を指す。後者(アクチュエータ)は電気式、油圧式等であってもよい。
【0036】
外骨格1は、データ記憶手段12、慣性測定手段14(慣性ユニット)、地面に対する足の衝撃を検出するための手段13、及び必要に応じて接触力を推定するための手段(接触センサ又は場合によっては圧力センサ)、及び/又はセンサを備えたベスト15をさらに含んでもよい。
【0037】
本願は、いかなる外骨格アーキテクチャ1にも限定されず、その例は、出願WO2015140352及びWO2015140353に記載されているものとされる。
【0038】
こうして、好ましくは、これらの要求に従って、外骨格1は、外骨格を装着した人の脚の足が支持できる支持面を含む足構造を各脚に有する。
【0039】
「外骨格1の足が地面に接したままである」とは、この構造を足と呼ぶことを意味する。
【0040】
しかしながら、当業者であれば、本発明の方法を他の機械構造に適用することができ、外骨格が2つの脚を有し、それぞれが足で終わるものであれば十分である。
【0041】
原理
外骨格の「軌道」は従来、時間又は位相変数の関数として表される各自由度(特に作動しているが、非作動度は他の自由度のコマンドアルゴリズムに関与する可能性がある)の展開を意味する。この説明の残りの部分では、外骨格1の「位置」は、有利には脚当たり6つの作動自由度の関節位置、すなわち12次元のベクトルによって規定される位置として理解されよう。
【0042】
ここでの軌道には足が固定されているという制約があることが分かるが、全ての自由度は展開し続けている。
【0043】
この制約を尊重するために、本発明は、「階層化した」逆運動学を実現することによって、すなわち、複数の階層化タスクを有することによって軌道を決定することを提案する。
【0044】
逆運動学(しばしばIKと略される)は、所望の姿勢を得るために外骨格1の「位置」(すなわち、説明したようにその全ての関節位置の構成)を計算するための解を指す。逆運動学という用語は、計算の解が一般に関節モデルの運動学方程式に基づいているという事実を指す。
【0045】
「タスク」は、所望の姿勢の全て又は一部を規定する逆運動学目標と呼ばれ(こうして、所望の姿勢は複数の切り離されたタスクとして規定できる)、最も高い優先順位から最も低い優先順位まで階層化した特定の数のタスクを「積み重ねる」ことによって制御則を取得する方法が知られている。これは、文献では「タスクのスタック」を意味するSoTと呼ばれる。
【0046】
逆運動学の解は、効率的な階層化した逆運動学アルゴリズムが現在知られているとしても、特に複数の階層化タスクで構成されている場合に、計算の観点から見ると一般に複雑である。例えば、文献A Dedicated Quadradic Program for Fast Hierarchical-Inverse-Kinematic Resolution. A. Escande, N. Mansard and P-B. Wieber. In IEEE Int. Conf. on Robotics and Automation (ICRA’10), Anchorage, USA, May 2010.を参照されたい。
【0047】
本発明は、外骨格1の足を固定するタスクを最も高い優先順位のタスク(タスク0)とすることにより、運動モードに階層化した逆運動学を非常に巧みに利用している。より正確には、最も高い優先順位のタスクは外骨格1の足の制御、有利には位置及び回転(6D)を保証し、これらの足が動いてはならないという命令がある。それが最も高い優先順位のタスクである限り、それは最も強力な制約であり、こうして、優先順位の低いタスクが完全には達成されない、すなわち外骨格1は正確には期待どおりの姿勢でない場合でも、外骨格1の足が地面に着いたままであることが保証される。こうして、従来技術のように外骨格1全体を遮断しなくてもよい。
【0048】
当然のことながら、階層化した逆運動学は、外骨格1の残りの部分を制御する、より低い優先順位、有利には2つ、又はさらには3つ、優先的に、
特に安定化のために、外骨格1の質量中心(CoM)を(位置に)制御するタスク、
動きをより擬人化するために、外骨格1の骨盤を(回転で)制御するタスク、
アルゴリズムが実行可能な解に向けてより迅速に収束できるようにするために、外骨格1の姿勢を制御するタスクから選択される少なくとも1つの他のタスクをさらに含む。
【0049】
好ましくは、階層化した逆運動学は、優先順位の降順(つまり、最も高い優先順位から最も低い優先順位まで)に階層化した次の4つのタスクで構成される:
タスク0-足を固定しておくタスク、
タスク1-外骨格1のCoMを制御するタスク、
タスク2-外骨格1の骨盤を制御するタスク、
タスク3-外骨格1の姿勢を制御するタスク。
【0050】
次のタスクの組合せを実装できる:タスク0及び1、タスク0及び2、タスク0及び3、タスク0、1、及び2、タスク0、1、及び3、タスク0、2、及び3、並びにタスク0、1、2、及び3。
【0051】
外骨格1が何よりも足を地面に維持し、次にCoMを所望通りに安定した方法で配置し、最後に、最初の2つの条件が満たされる場合には、骨盤を最適な位置に配置することが所望どおりに全体的な姿勢を調整することが理解される。
【0052】
これらの各タスクの制御ループの例については、後で詳しく説明する。
【0053】
方法
図2を参照すると、外骨格1を動かすための方法は、オンボードデータ処理手段11によって実行され、オペレータが運動動作を行うために、外骨格1によって適用される少なくとも1つの姿勢命令を取得するステップ(a)から始まる。姿勢命令とは、外骨格の所望の姿勢を規定するCoM及び/又は関節命令を意味する。例えば、スクワットでは膝を曲げるという命令がある。各姿勢命令は、タスクの全て又は一部にとって重要であり得ることが理解される。例えば、CoM命令は、CoMを制御するタスクにはもちろん重要であるが、足を地面に付け続けるタスクには重要ではない。
【0054】
既知の方法で、ステップ(a)は、センサによって取得したデータから、オペレータによる動作意図を特定するステップと、制約を尊重しながら、動作意図から姿勢命令を決定するステップと、を含むことができる。
【0055】
動作の意図を特定するために、説明したように、オペレータは、胸部(bust)の形状(向き)を検出できるセンサベスト15及び/又はリモコンを装備することができる。
【0056】
次に、質量中心の命令は、慣性測定手段14を使用して決定することができる。
【0057】
このアイデアは、有利には、例えば、慣性測定値から決定されるオペレータの胴体のピッチ角及び/又はロール角(pitch_angle及びroll_angleと示される)から、オプションで、特にピッチ角について、所定の閾値と比較した後に、命令を計算することである。閾値を下回る場合に、外骨格1は「バランス」モードになる。そのモードは、システムの安定性を維持しながら、オペレータの左右及び前後の動きを補助する。
【0058】
比例則を適用することができ、CoMの命令ctは次の方法で計算できる:cx=Kt*pitich_angle及び:cy=Kr*roll_angle。
【0059】
ピッチ角のこの同じ閾値を超えると、外骨格は「スクワット(squat:しゃがむ)」モードになる。角度が大きいほど、外骨格はより半スクワット(semi-squat)姿勢になる。つまり、ロールの比例法則が維持される(つまり、cy=Kr*roll_angle)が、有利には、ピッチ角を半スクワットにつながる姿勢に結びつける幾何学的法則がピッチに使用され、次に、cxに関する特定の命令ではなく、半スクワット姿勢を規定する外骨格1の関節に関連する姿勢命令が取得される。
【0060】
同様に、動作をより擬人化してオペレータにとって快適なものにするために、外骨格は背中の側方屈曲動作を補助し、特に骨盤の姿勢に関する命令ctを比例法則によって計算することができる:Croll_angle_pelvis=Kr*roll_angle。
【0061】
姿勢命令を規定するための特定の戦略に制限はなく、これらの命令の数及び性質は運動動作毎に大きく異なる可能性があることが理解されよう。当業者は、自分が選択した姿勢命令を規定する方法を知っており、外骨格1は、あらゆる場合にそれら命令をどの様に使用するかを知っている。
【0062】
次に、ステップ(b)において、説明したように、外骨格1の軌道は、決定した姿勢命令に従って、階層化した逆運動学の実行により、足を地面に留める間に決定され、最も高い優先順位のタスクは、オペレータが運動動作を行う際に外骨格1の足を地面に付け続けるタスクである。
【0063】
好ましくは、ステップ(b)は、「柔軟性」安定化及び補償アルゴリズムを介して質量中心命令を質量中心の加速命令に変換することを事前にさらに含んでもよい。
【0064】
より正確には、外骨格1は「剛体ロボット」、つまり、その力学が剛体ロボット工学の従来の方程式で十分によく記述できる関節システムであると考えることはできない:
外骨格1内のオペレータ自体が潜在的に重大な外乱の発生源である、
外骨格の一部(特に足首及び/又は股関節)は変形可能であり、その結果、特にオペレータが横に傾くと、CoMが一般に遠くなり、安定領域から外れてしまう可能性がある。
【0065】
本方法は、命令変換のために剛体ロボットに関連した外骨格1の柔軟性モデルを考慮することにより、これらの問題を非常に巧みに解決する。
【0066】
そのため、外骨格1のCoMを制御するタスクは、好ましくは、柔軟な(flexible)倒立振子モデルに基づくコントローラを介したCoMの位置制御及び安定化のタスクであり、例えば、文献Estimation and Stabilization of Humanoid Flexibility Deformation Using Only Inertial Measurement Units and Contact Information. Mehdi Benallegue, Florent Lamiraux. International Journal of Humanoid Robotics, World Scientific Publishing, 2015を参照されたい。
【0067】
最後に、ステップ(c)で、運動動作を達成するために軌道が実行される。
【0068】
タスク制御ループ
既知の方法では、この方法は、決定した軌道を実行するように、すなわち外骨格1を動かすように、タスク毎に外骨格1の位置の展開(つまり関節位置のベクトル)を規定する制御ループの実行を含む。これらのループの実行により、ステップ(b)及び(c)のリアルタイム実現が可能になることが理解される。
【0069】
全体として、タスク毎に1つのループがあり、階層化した逆運動学が実際には制御ループ内で実現される。
【0070】
こうして、例えば、タスク0には足の位置/向きに関する制御ループがあり、タスク1にはCoMの位置に関する制御ループがあり、タスク2には骨盤の向きに関する制御ループがあり、及び/又はタスク3には姿勢に関する制御ループがある。
【0071】
図3a及び
図3bを参照すると、2種類の制御ループが考えられる:
第1の制御ループは、その一例が
図3aに示されており、外骨格1の足を地面に付け続けるというタスクだけでなく、外骨格の骨盤を制御し、外骨格の姿勢1を制御するという可能なタスクも行う;
第2の制御ループは、その例が
図3bに示されており、CoMを制御するタスクに固有である。
【0072】
ここで、各ループの実施形態をより詳細に説明するが、任意の制御ループは、所与のタスクに対して、そのタスクに関して対象となる姿勢命令を入力として受け取り、逆運動学を実行し、少なくとも1つのコントローラを使用できるものであることが理解されよう。
【0073】
図3a(第1のループ)の例では、タスクに関して対象となる姿勢命令は
【数1】
として示され、特にタスクに関与する外骨格1の本体又は一部の予想される位置/向き、微分値(速度)、及び二次微分値(加速度)が記録される。例えば、外骨格1の足を地面に付け続けるというタスクには、一定に保たれなければならない足(6D)の位置/向き(すなわち、導関数及び二次導関数がゼロである)が含まれる。
【0074】
次に、ループは、これらの命令と、外骨格1の現在の状態の対応する推定値
【数2】
(つまり、タスクに関与する外骨格1の本体又は部分の推定位置/向き、例えば、外骨格の足の推定位置1)との間に示されるエラー(誤差)
【数3】
の計算を含む。
【0075】
第1のコントローラ、例えば比例微分(PD)は、作動度
【数4】
の誤差と適用される位置/速度(ターゲットと呼ばれる)からコマンド
【数5】
を計算する。
【0076】
その後、好ましくは、前述の文献A Dedicated Quadradic Program for Fast Hierarchized-Inverse-Kinematic Resolution. A. Escande, N. Mansard and P-B. Wieber. In IEEE Int. Conf. on Robotics and Automation (ICRA’10), Anchorage, USA, May 2010で提案されるアルゴリズムを適用することによって、階層化した逆運動学をタスクスタック(IK+SoT)に対して実行して、作動度
【数6】
の目標加速度を正確に決定し、1つ又は2つの積分で作動度
【数7】
の目標位置/速度を見つけることができる。
【0077】
低レベルコントローラ(LLC)によって、外骨格1の自由度のターゲット
【数8】
と瞬間状態
【数9】
に基づいて外骨格のアクチュエータを制御できる。
【0078】
有利には、慣性測定に基づく変形推定器は、例えば文献Vigne, Matthieu, and al. “State Estimation for a Legged Robot With Multiple Flexibilities Using IMU s: A Kinematic Approach.” IEEE Robotics and Automation Letters 5.1 (2019): 195-202に記載されるアルゴリズムを使用して、作動度
【数10】
の「実際の」位置/速度(柔軟性を考慮した値
【数11】
の修正に対応する)を推定する。
【0079】
最後に、直接運動学により、命令に対応する推定値
【数12】
(つまり、タスクに関与する外骨格1の本体又は部分の位置/向き)を推定することができる)。
【0080】
図3bの例では、
【数13】
は、CoMを制御するタスクに関するターゲットの姿勢命令、つまり、CoM命令を示す。好ましいモードでは、加速命令は、外骨格1の柔軟性の安定化及び補償のためのアルゴリズム(有利には、線形-二次レギュレータ(LQR, Linear-quadratic regulator)の柔軟な倒立振子モデルに基づくコントローラ)を介して導出されるため、加速命令がまだ存在しないことに留意されたい。出力
【数14】
は、他のタスクの
【数15】
と同様のコマンドである。
【0081】
第1のループと同じ方法で、好ましくは、上述の文献A Dedicated Quadradic Program for Fast Hierarchized-Inverse-Kinematic Resolution. A. Escande, N. Mansard and P-B. Wieber. In IEEE Int. Conf. on Robotics and Automation (ICRA’10), Anchorage, USA, May 2010で提案されるアルゴリズムを適用することによって、階層化した逆運動学をタスクスタック(IK+SoT)に対して実行して、作動度
【数16】
の目標加速度を正確に決定し、1つ又は2つの積分で作動度
【数17】
の目標位置/速度を見つけることができる。
【0082】
同じ低レベルコントローラ(LLC)により、外骨格の自由度のターゲット
【数18】
と瞬間状態
【数19】
に基づいて外骨格1のアクチュエータを制御できる。
【0083】
有利には、慣性測定に基づく変形推定器は、例えば、文献Vigne, Matthieu, and al. “State Estimation for a Legged Robot With Multiple Flexibilities Using IMU s: A Kinematic Approach.” IEEE Robotics and Automation Letters 5.1 (2019): 195-202に記載されるアルゴリズムを使用して、作動度
【数20】
の「実際の」位置/速度(柔軟性を考慮することによる値
【数21】
の修正に対応する)を再度推定する。
【0084】
最後に、直接運動学により、命令に対応する推定値
【数22】
(つまり、CoMの推定位置/速度)を推定することができる。
【0085】
設備及びシステム
【0086】
第2の態様によれば、本発明は、第1の態様による方法を実施するための外骨格1に関する。
【0087】
外骨格1は、第1の態様による方法を実施するように構成されたデータ処理手段11、並びに必要に応じてデータ記憶手段12、慣性測定手段14(慣性ユニット)、地面に対する足の衝撃を検出する手段13(接触センサ又は場合によっては圧力センサ)、及び/又はセンサを備えたベスト15を含む。
【0088】
その外骨格は、データ処理手段11によって命令されるアクチュエータによって作動される少なくとも1つの自由度を含む複数の自由度を有する。
【0089】
コンピュータプログラム製品
第3及び第4の態様によれば、本発明は、外骨格1を動かす第1の態様による方法を(処理手段11上で)実行するためのコード命令を含むコンピュータプログラム製品と、このコンピュータプログラム製品が配置されるコンピュータ機器によって読み取り可能である記憶手段とに関する。
【国際調査報告】