(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-08
(54)【発明の名称】金属粉末の熱処理方法
(51)【国際特許分類】
B22F 1/142 20220101AFI20241001BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20241001BHJP
C21D 1/70 20060101ALI20241001BHJP
【FI】
B22F1/142
B22F1/00 M
B22F1/00 K
B22F1/00 L
B22F1/00 S
C21D1/70 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024521215
(86)(22)【出願日】2022-10-07
(85)【翻訳文提出日】2024-04-08
(86)【国際出願番号】 KR2022015101
(87)【国際公開番号】W WO2023059123
(87)【国際公開日】2023-04-13
(31)【優先権主張番号】10-2021-0134206
(32)【優先日】2021-10-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2022-0116987
(32)【優先日】2022-09-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510307244
【氏名又は名称】コリア インスティチュート オブ インダストリアル テクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヤン、スン ミン
(72)【発明者】
【氏名】チョン、ヨン キュ
(72)【発明者】
【氏名】クォン、オヒョン
(72)【発明者】
【氏名】キム、キュン フン
(72)【発明者】
【氏名】キム、クン ヒ
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018BA01
4K018BA02
4K018BA04
4K018BA13
4K018BC03
4K018KA32
(57)【要約】
本発明の一観点によると、金属粉末の熱処理方法が提供される。本発明の一実施例によると、前記金属粉末の熱処理方法は、焼結防止剤の内部に互いに離隔するように分散されて配置された金属粉末を含む金属粉末-焼結防止剤複合体を準備する段階;及び前記金属粉末-焼結防止剤複合体を熱処理する段階;を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属粉末を熱処理する方法として、
焼結防止剤の内部に互いに離隔するように分散されて配置された金属粉末を含む金属粉末-焼結防止剤複合体を準備する段階;及び
前記金属粉末-焼結防止剤複合体を熱処理する段階;を含む、金属粉末の熱処理方法。
【請求項2】
前記焼結防止剤は金属塩を含む、請求項1に記載の金属粉末の熱処理方法。
【請求項3】
前記焼結防止剤は、熱によってセラミックに遷移されるセラミック前駆体をさらに含む、請求項2に記載の金属粉末の熱処理方法。
【請求項4】
前記熱処理する段階は、
前記セラミック前駆体をセラミックに遷移する段階を含む、請求項3に記載の金属粉末の熱処理方法。
【請求項5】
前記金属粉末-焼結防止剤複合体の製造方法は、
溶媒に焼結防止剤が溶解された焼結防止剤溶液を準備する段階;
前記焼結防止剤溶液に金属粉末を投入した後で分散させ、金属粉末分散液を製造する段階;及び
前記分散粒子分散液を噴霧乾燥させる段階;を含む、請求項1に記載の金属粉末の熱処理方法。
【請求項6】
前記熱処理する段階以降に、前記焼結防止剤を除去する段階をさらに含む、請求項1に記載の金属粉末の熱処理方法。
【請求項7】
前記焼結防止剤は金属塩を含む、請求項5に記載の金属粉末の熱処理方法。
【請求項8】
前記焼結防止剤は、熱によってセラミックに遷移されるセラミック前駆体をさらに含む、請求項7に記載の金属粉末の熱処理方法。
【請求項9】
前記金属粉末は、ニッケル粉末、銅粉末、銀粉末、鉄粉末及びこれらの合金粉末のうちいずれか一つ以上を含む、請求項1及び5に記載の金属粉末の熱処理方法。
【請求項10】
前記金属塩は塩化金属を含む、請求項1又は7に記載の金属粉末の熱処理方法。
【請求項11】
前記塩化金属は、NiCl
2、BaCl
2、NaCl及びKClを含む、請求項10に記載の金属粉末の熱処理方法。
【請求項12】
前記セラミック前駆体は、Al(NO
3)
3、Al
2(SO
4)
3、(Ba(NO
3)
2)、TiCl
4及び(Mg(NO
3)
2)を含む、請求項3又は8に記載の金属粉末の熱処理方法。
【請求項13】
前記熱処理する段階は、
水素雰囲気、酸化雰囲気、炭化雰囲気、脱炭雰囲気、還元雰囲気、不活性雰囲気、大気雰囲気、硫化雰囲気、脱硫雰囲気及び真空雰囲気のうちいずれか一つを含む雰囲気で行われる、請求項1に記載の金属粉末の熱処理方法。
【請求項14】
前記熱処理する段階が完了した後、前記焼結防止剤を除去し、金属粉末を回収する段階をさらに含み、
前記焼結防止剤を除去する段階において、前記セラミック前駆体から遷移されたセラミックが、前記回収された金属粉末の表面の少なくとも一部に残存する、請求項3に記載の金属粉末の熱処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の技術的思想は、金属粉末を熱処理する方法に関し、より詳細には、金属粉末の高温熱処理時における粒子間の凝集及び焼結を防止し、均一な粒度を与える熱処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
積層セラミックコンデンサ(Multi Layer Ceramic Capacitor、MLCC)は、電子回路で一時的に電気を充電したり、ノイズを除去するチップ形態のキャパシタであって、電流を貯蔵してから必要な分だけ電気を安定的に供給し、電子装置を正しく動作させる部品である。現代において、前記積層セラミックコンデンサは、電子産業のコメと呼ばれる程度に需要が多く、例えば、パーソナルコンピューターやスマートフォンには約1000個が必要で、TVには約2000個が必要である。
【0003】
このような積層セラミックコンデンサは、サイズを減少させ、貯蔵電気容量を増加させる必要がある。このために、積層セラミックコンデンサは、内部に約500層のセラミック層と金属電極層が交互に積層された構造を有する。積層セラミックコンデンサは、離型フィルム上にセラミックシートを形成する成形工程と、前記セラミックシートに電極パターンを形成する印刷工程と、前記セラミックシートを切断し、離型フィルムを除去した後、前記セラミックシートと金属電極層を積層する積層工程とで形成される。前記積層セラミックコンデンサで重要な技術は、金属電極層を最大限薄くしながら多く積層し、また、1000℃以上の高温でも亀裂なしで形成することである。
【0004】
近年、前記積層セラミックコンデンサの超小型化及び高積層化に伴い、内部電極の超薄層化が要求されており、このような金属電極層の持続的な微細化によって追加的な対策が必要である。
【0005】
このような対策の一環として、従来から金属電極層の素材として使用されるニッケル粉末に硫黄(S)を添加したり、ニッケル粉末の表面を酸化させたり、ニッケル粉末の結晶性を向上させたり、結晶粒を成長させたり、或いは、製造過程で添加された硫黄成分を除去するための多様な目的の熱処理が行われている。
【0006】
ところが、このような熱処理は、通常高温で行われるので、このような熱処理を行う過程でニッケル粒子が焼結されて凝集してしまうという問題が発生する。このようなニッケル粒子の焼結が起こると、粒子サイズが大きくなり、形状も不規則になることによって、ニッケル粉末の品質が劣悪になる。このような問題は、ニッケル粉末に限定されるものではなく、通常の金属粉末を高温で熱処理する場合に発生し得る一般的な問題である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の技術的思想が達成しようとする技術的課題は、ニッケル粉末を含む多様な金属粉末の高温熱処理時、金属粉末間の焼結による凝集を防止する熱処理方法を提供することにある。しかし、このような課題は例示的なものであって、本発明の技術的思想がこれに限定されることはない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一観点によると、金属粉末の熱処理方法が提供される。
【0009】
本発明の一実施例によると、前記金属粉末の熱処理方法は、焼結防止剤の内部に互いに離隔するように分散されて配置された金属粉末を含む金属粉末-焼結防止剤複合体を準備する段階;及び前記金属粉末-焼結防止剤複合体を熱処理する段階;を含む。
【0010】
本発明の一実施例によると、前記焼結防止剤は金属塩を含むことができる。前記金属塩は塩化金属を含むことができ、例えば、前記塩化金属は、NiCl2、BaCl2、NaCl、及びKClを含むことができる。
【0011】
本発明の一実施例によると、前記金属粉末は、ニッケル粉末、銅粉末、銀粉末、鉄粉末及びこれらの合金粉末のうちいずれか一つ以上を含むことができる。
【0012】
本発明の一実施例によると、前記焼結防止剤は、金属塩と共に、熱によってセラミックに遷移されるセラミック前駆体をさらに含むことができる。前記セラミック前駆体は、Al(NO3)3、Al2(SO4)3、Ba(NO3)2、TiCl4、及びMg(NO3)2を含むことができる。
【0013】
本発明の一実施例によると、前記熱処理する段階は、前記セラミック前駆体をセラミックに遷移する段階を含むことができる。
【0014】
本発明の一実施例によると、前記金属粉末-焼結防止剤複合体の製造方法は、溶媒に焼結防止剤が溶解された焼結防止剤溶液を準備する段階;前記焼結防止剤溶液に金属粉末を投入した後で分散させ、金属粉末分散液を製造する段階;及び前記分散粒子分散液を噴霧乾燥させる段階;を含むことができる。
【0015】
本発明の一実施例によると、前記熱処理する段階以降に、前記焼結防止剤を除去する段階をさらに含むことができる。
【0016】
本発明の一実施例によると、前記熱処理する段階は、水素雰囲気、酸化雰囲気、炭化雰囲気、脱炭雰囲気、還元雰囲気、不活性雰囲気、大気雰囲気、硫化雰囲気、脱硫雰囲気及び真空雰囲気のうちいずれか一つを含む雰囲気で行われ得る。
【0017】
本発明の一実施例によると、前記熱処理する段階が完了した後、前記焼結防止剤を除去し、金属粉末を回収する段階をさらに含み、前記焼結防止剤を除去する段階において、前記セラミック前駆体から遷移されたセラミックは、前記回収された金属粉末の表面の少なくとも一部に残存し得る。
【発明の効果】
【0018】
本発明の技術的思想による場合、高温で金属粉末を熱処理する間に焼結防止剤によって金属粉末間の焼結が抑制され、金属粉末の凝集問題が発生しなくなる。また、焼結防止剤に含まれたセラミック前駆体が、熱処理過程でセラミックに遷移された後、焼結防止剤の除去段階で金属粉末の表面に残存することによって、後で金属粉末がMLCCの金属電極層の製造に使用される場合、焼結収縮に対する抵抗性を向上させることができる。
【0019】
上述した本発明の各効果は例示的に記載されたものであって、これらの各効果によって本発明の範囲が限定されることはない。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の技術的思想による金属粉末熱処理方法を示すフローチャートである。
【
図2】実験に使用されたニッケル粉末及びニッケル粉末-焼結防止剤複合体をSEMで観察した結果である。
【
図3】対照群1乃至対照群4の熱処理後の状態をSEMで観察した結果である。
【
図4】実験群3及び4の熱処理後の状態(上側の写真)、及び焼結防止剤の除去後に回収されたニッケル粉末の状態(下側の写真)をSEMで観察した結果である。
【
図5】熱処理が完了したニッケル粉末-焼結防止剤複合体の焼結防止剤を全て除去した後で回収したニッケル粉末の状態をSEMで観察し、EDSで成分分析を行った結果である。
【
図6】後処理を経ていないニッケル粉末と後処理を経たニッケル粉末を用いたTGA分析結果である。
【
図7】噴霧乾燥処理によって獲得された金属粉末-焼結防止剤複合体の構造である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付の図面を参照して本発明の好適な実施例を詳細に説明する。本発明の各実施例は、当該技術分野で通常の知識を有する者に本発明の技術的思想をさらに完全に説明するために提供されるものであって、下記の実施例は、様々な他の形態に変形可能であり、本発明の技術的思想の範囲が下記の実施例に限定されることはない。むしろ、これらの実施例は、本開示をさらに充実且つ完全にし、当業者に本発明の技術的思想を完全に伝達するために提供されるものである。本明細書全体にわたって同一の符号は、同一の要素を意味する。さらに、図面における多様な要素と領域は、概略的に図示したものである。よって、本発明の技術的思想は、添付の図面に図示した相対的なサイズや間隔によって制限されない。
【0022】
図1には、本発明の一実施例に係る金属粉末-焼結防止剤複合体を製造した後、これを用いて金属粉末を熱処理する方法が提示されている。
【0023】
図1のS1段階を参照すると、溶媒に焼結防止剤を投入した後で溶解し、焼結防止剤溶液を形成する段階が行われる。焼結防止剤は、溶媒に溶解された後、後述する噴霧乾燥段階で再度析出される物質である。前記溶媒は、水或いは有機溶媒であり得る。
【0024】
前記焼結防止剤は金属塩を含む。前記金属塩は、例えば、NiCl2、BaCl2、NaCl、KClなどの塩化金属を含む。
【0025】
前記焼結防止剤は、金属塩と共に、セラミック前駆体をさらに含むことができる。前記セラミック前駆体は、後続する熱処理過程中に熱分解によってセラミックに遷移される物質である。前記セラミックは、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物及びこれらの複合物(例えば、金属酸窒化物など)を含む。例えば、金属酸化物は、アルミニウム酸化物(Al2O3)及びバリウムチタン酸化物(BaTiO3)を含む。例えば、アルミニウム酸化物の前駆体として、硝酸アルミニウム(Al(NO3)3)及び硫酸アルミニウム(Al2(SO4)3)を含み、バリウムチタン酸化物の前駆体として、硝酸バリウム(Ba(NO3)2)及び塩化チタン(TiCl4)を含み、マグネシウム酸化物の前駆体として硝酸マグネシウム(Mg(NO3)2)を含むことができる。
【0026】
溶媒に溶解される焼結防止剤は、金属塩であり得る。或いは、金属塩及びセラミック前駆体が共に溶解され得る。金属塩及びセラミック前駆体が共に溶媒に溶解される場合、噴霧乾燥段階で析出される焼結防止剤は、金属塩とセラミック前駆体が互いに混合されている混合体として析出されるようになる。
【0027】
図1のS2段階を参照すると、焼結防止剤が溶解されている溶液に金属粉末を投入し、これを溶液内に分散させることによって金属粉末分散液を製造する。
【0028】
前記金属粉末は、例えば、ニッケル粉末、銅粉末、銀粉末、ニッケル-銅合金粉末、鉄粉末及びこれらの合金粉末(例えば、ニッケル-銅合金粉末、鉄-コバルト合金粉末など)などを含み得るが、これに限定されることはない。
【0029】
図1のS3段階を参照すると、前記金属粉末分散液の噴霧乾燥処理を用いた金属粉末-焼結防止剤複合体を製造する。噴霧乾燥処理過程で金属粉末分散液を噴霧して微粒化した後、これを熱風を用いて乾燥させ、液相を瞬間的に蒸発させることによって、金属粉末及び焼結防止剤を含む粉粒相(以下、金属粉末-焼結防止剤複合体という)を得るようになる。
【0030】
図7には、噴霧乾燥処理によって獲得された金属粉末-焼結防止剤複合体の構造が提示されている。
図7を参照すると、金属粉末-焼結防止剤複合体は、焼結防止剤の内部に複数の金属粉末(金属粒子)が互いに離隔して分散配置されている構造を有することができる。
【0031】
焼結防止剤は、溶液内に溶解されていた金属塩、或いは金属塩及びセラミック前駆体の混合体が噴霧乾燥処理段階で固体として析出されて形成されたものである。析出される過程において、焼結防止剤は、金属粉末を覆いながら形成される。
【0032】
場合によって、焼結防止剤内には、噴霧乾燥過程で一部のセラミック前駆体が遷移されながら形成されたセラミックが含まれ得る。
【0033】
図7に示すように、本発明の実施例によって製造された金属粉末-焼結防止剤複合体は、焼結防止剤が金属粉末を取り囲んでいるので、金属粉末が物理的に隔離距離を置いて配置されるようになる。したがって、金属粉末-焼結防止剤複合体を高温で熱処理したとしても、金属粉末の接触が焼結防止剤によって遮断されることによって、熱処理過程中に金属粉末が互いに接触した後、焼結されて凝集する現象を防止できるようになる。
【0034】
図1のS4段階を参照すると、噴霧乾燥処理を通じて金属粉末-焼結防止剤複合体を形成した後、前記金属粉末-焼結防止剤複合体を熱処理する段階が行われ得る。
【0035】
前記熱処理は、金属粉末の特性を向上させたり、改質するために行われる熱処理である。例示的には、ニッケル粉末の場合、MLCC製造過程でニッケル粉末の焼結及び収縮を抑制するために表面に硫黄を投入したり、或いは表面を酸化させる目的で熱処理が行われ得る。他の例として、ニッケル粉末の結晶性を向上させるために、真空或いは不活性雰囲気で熱処理が行われ得る。更に他の例として、化学気相方法でニッケル粉末を製造する過程でニッケル粉末に投入されていた硫黄成分を再度脱硫処理するための脱硫雰囲気での熱処理が行われ得る。
【0036】
その他にも、ニッケル粉末以外の他の金属粉末の改質のための還元雰囲気、酸化雰囲気、真空雰囲気、不活性雰囲気などの多様な雰囲気が使用され得る。
【0037】
このような熱処理が行われる間に、焼結防止剤によってニッケル粉末間の焼結が起こらなくなる。
【0038】
一方、噴霧乾燥処理によって形成された焼結防止剤は、内部に気体が移動し得る微細な空間を含み、よって、酸素雰囲気或いは硫黄雰囲気で熱処理される場合、焼結防止剤を通じて酸素ガス或いは硫黄ガスなどの反応ガスが焼結防止剤の内部にある金属粉末に到逹し得るようになる。
【0039】
焼結防止剤内にセラミック前駆体が含まれている場合、前記熱処理が行われる過程中にセラミック前駆体がセラミックに遷移され得る。このとき、熱処理が完了した場合、金属粉末-焼結防止剤複合体の焼結防止剤には、金属塩と共に、セラミック前駆体から遷移されたセラミックが含有され得る。
【0040】
セラミック前駆体から遷移されて形成されたセラミックは、焼結防止剤の焼結防止特性をさらに向上させる役割を行うようになる。また、場合によって、前記セラミックは、後述する焼結防止剤除去段階以降にも金属粉末の表面に残存し、金属粉末の特性に影響を与え得る。
【0041】
例えば、金属粉末がニッケル粉末である場合、ニッケル粉末の表面には、セラミックとして、アルミニウム酸化物、マグネシウム酸化物、バリウムチタン酸化物或いはバリウムチタン酸化物の前駆物質が残存し得る。このようにニッケル粉末の表面にセラミックが残存する場合、ニッケル粉末をMLCC用電極として使用するとき、高温での焼結によるニッケル粉末の非正常な成長を抑制する効果を得ることができる。
【0042】
前記熱処理は、目的によって所定の温度で所定の時間の間に維持される区間を有することができる。焼結防止剤内にセラミック前駆体が含まれている場合は、セラミック前駆体の熱分解温度以上に熱処理温度を昇温することができる。
【0043】
他の例として、前記熱処理は、温度を連続的に昇温する過程中に行われ得る。この場合、特定の温度で所定の時間の間に維持されないが、熱処理温度に昇温される過程中にセラミック前駆体がセラミックに遷移され得る。
【0044】
図1のS5段階を参照すると、熱処理段階が完了した金属粉末-焼結防止剤複合体は、洗浄段階を通じて焼結防止剤を選択的に除去し、金属粉末を回収するようになる。
【0045】
焼結防止剤は、焼結防止剤を溶解できる洗浄液で洗浄して除去することができる。例えば、焼結防止剤が水溶性金属塩化物であるNiCl2或いはBaCl2を含む場合は、水で洗浄し、これらを全て溶解して除去することができる。その他に、有機溶媒或いは酸/アルカリ溶液などが洗浄液として使用され得る。
【0046】
以下、本発明の理解を促進するための実験結果を提示する。このような実験結果は、本発明の理解を促進するための例示的なものであって、本発明がこれに限定されないことは当然である。
【0047】
1次実験
【0048】
金属粉末としては、NiCl
2及びH
2を原料として使用する化学気相合成法で製造したニッケル粉末(平均直径200nm級)を使用した。
図2(a)には、製造されたニッケル粉末をSEMで観察した結果が示されている。
【0049】
焼結防止剤としては、金属塩であるNiCl2及びBaCl2を使用した。NiCl2及びBaCl2のそれぞれの207.6gを水450mlに溶解させ、焼結防止剤溶液を製造した。製造された焼結防止剤溶液のそれぞれにニッケル粉末を投入し、金属粉末分散液を製造した。前記金属粉末分散液を180℃で噴霧乾燥処理し、金属粉末-焼結防止剤複合体を製造した。
【0050】
図2(b)及び
図2(c)には、それぞれ焼結防止剤としてNiCl
2及びBaCl
2を使用したニッケル粒子-焼結防止剤複合体をSEMで観察した結果が示されている。これを参照すると、ニッケル粒子が、焼結防止剤であるNiCl
2及びBaCl
2にうまく分散されていることを確認することができる。EDS(energy dispersive spectroscopy)を用いて焼結防止剤の成分を分析した結果、
図2(b)の試験片ではNiとClが検出され、
図2(c)の試験片ではBaとClが検出されたので、焼結防止剤が正常に製造されたことを確認することができた。
【0051】
製造した金属粉末-焼結防止剤複合体を水素(H2)或いは酸素(O2)雰囲気で熱処理した後、金属粉末の焼結有無、結晶粒サイズ及びニッケル酸化物(NiO)の含量を測定した。表1には、1次実験における試験片の種類及びこれによる後処理実験条件が示されている。
【0052】
【0053】
表1において、対照群1~4は、焼結防止剤を形成していないニッケル粉末(以下、CVSニッケル粉末という)を水素雰囲気で温度別に熱処理したものであって、温度によってニッケル粉末が焼結されることを確認するために上記の処理を行った。
【0054】
実験群1~4は、焼結防止剤がBaCl2であるニッケル粒子-焼結防止剤複合体を水素雰囲気で温度別に熱処理したものであって、凝集を防止しながらニッケル粉末の結晶粒サイズを向上させるために上記の処理を行った。
【0055】
実験群5~6は、焼結防止剤がNiCl2であるニッケル粒子-焼結防止剤複合体を酸素雰囲気で温度別に熱処理したものであって、凝集を防止しながらニッケル粉末の酸化熱処理のために上記の処理を行った。
【0056】
熱処理は、常温から熱処理温度まで40分間昇温し、前記熱処理温度で5分間維持した後で炉冷した。
【0057】
熱処理が完了した対照群及び実験群のニッケル粒子-焼結防止剤は、水を用いて洗浄し、焼結防止剤を全て除去した後、ニッケル粉末を回収した。
【0058】
表1を参照すると、対照群の場合、300℃では温度が過度に低いために、ニッケル粉末間の焼結が起こらなかったが、それより高い温度では全て焼結が起こった。
【0059】
図3は、対照群1乃至対照群4の熱処理後の状態をSEMで観察した結果である。
図3を参照すると、400℃以上からニッケル粉末の焼結が活発に起こり、焼結によって粒子間の凝集が発生しながら形状の激しい変化も伴われることが分かる。
【0060】
表1を参照すると、実験群1~4の全ての温度で焼結が起こっておらず、熱処理温度が増加するにつれて結晶粒サイズが増加することが分かる。このとき、結晶粒サイズはX-線回折法で測定した。
【0061】
図4は、代表的に実験群3及び4の熱処理後の焼結防止剤を除去する前の状態(上側の写真)、及び焼結防止剤の除去後に回収されたニッケル粉末の状態(下側の写真)をSEMで観察した結果である。
図4を参照すると、実験群3及び4のいずれにおいても、焼結防止剤であるBaCl
2により、ニッケル粉末が互いに接触して焼結されることが遮断されたことを確認することができる。
【0062】
表1を参照すると、実験群5~6は、全ての温度で焼結が起こっておらず、熱処理温度が増加するにつれてニッケル粉末の結晶粒サイズが増加することを確認することができる。また、X-線回折分析の結果、ニッケル酸化物(NiO)が形成されたことを確認することができた。これを通じて、本発明の技術思想によると、金属粉末間の焼結を防止しながら、高温で結晶性が高いニッケル酸化物をニッケル粒子の表面に形成できることを確認することができる。
【0063】
2次実験
【0064】
表2には、2次実験における試験片の種類及びこれによる実験条件が示されている。金属塩であるBaCl2 207.6gとアルミニウム酸化物の前駆体であるAl(NO3)3 0.19gを水450mlに溶解して製造した焼結防止剤溶液に、1次実験で使用していたCVSニッケル粉末5gを投入して分散させた。前記金属粉末分散液を180℃で噴霧乾燥させ、ニッケル粒子-焼結防止剤複合体を製造した。前記焼結防止剤をEDSで分析した結果、Ba、Al、及びCl成分が検出され、これにより、焼結防止剤は、BaCl2とAl(NO3)3が混合された混合体であることが分かる。
【0065】
【0066】
次に、これを熱処理炉に投入し、水素雰囲気で熱処理を行った。熱処理温度は300℃、400℃、及び500℃であった。昇温から炉冷までの熱処理条件は、1次実験と同一であった。
【0067】
熱処理が完了した実験群7~9のニッケル粒子-焼結防止剤複合体の試験片をEDSで分析した結果、全ての試験片でBa、Al、及びCl成分が検出された。また、X-線回折分析の結果、全ての試験片でアルミニウム酸化物(Al2O3)が検出された。これは、熱処理過程において、焼結防止剤内で熱分解温度が約200℃であるAl(NO3)3が、300℃以上の温度で熱分解され、アルミニウム酸化物に遷移されたことを意味する。したがって、熱処理後のニッケル粒子-焼結防止剤複合体の焼結防止剤は、BaCl2とAl2O3が混合された混合体であって、焼結防止剤溶液の製造時に添加されたAl(NO3)3の量から計算すると、焼結防止剤内にはAl2O3が約10wt%含有されていることが分かる。
【0068】
熱処理が完了した実験群7~9のニッケル粒子-焼結防止剤複合体を水で洗浄し、焼結防止剤を除去した後、ニッケル粉末を回収した。回収されたニッケル粉末をSEMで観察した結果、熱処理温度とは関係なく、全てのニッケル粉末で焼結が発生しなかったことを確認した。
【0069】
図5は、実験群9に該当する後処理を経た後で回収されたニッケル粉末、すなわち、500℃の熱処理が完了したニッケル粒子-焼結防止剤複合体を水で洗浄し、焼結防止剤を全て除去した後で回収したニッケル粉末の状態をSEMで観察し、EDSで成分分析を行った結果である。
【0070】
図5を参照すると、回収されたニッケル粉末でもアルミニウム成分が検出されることを確認することができる。これは、熱処理過程中に前駆体から形成されたアルミニウム酸化物が、ニッケル粒子の表面にも形成され、焼結防止剤の除去後にもニッケル粒子の表面に残存していることを示唆する。
【0071】
このようにニッケル表面に高融点のアルミニウム酸化物が形成されている場合は、MLCC製造過程中の前記ニッケル粉末の焼結収縮に対する抵抗性が高いために、焼結収縮による問題発生率が低くなることを意味する。
【0072】
図6(a)には、何ら後処理も経ていないCVSニッケル粉末に対して、TGAを用いて大気中で酸化による重さ増加を観察し、最終酸化終了温度を測定した結果である。
図6(b)は、実験群9に該当する後処理後に回収されたニッケル粉末を用いたTGA分析結果である。
【0073】
図6(a)及び
図6(b)を参照すると、後処理を経ていないCVSニッケル粉末の場合は、酸化終了温度が670℃である一方で、実験群9に該当する後処理後に回収されたニッケル粉末の場合は、酸化終了温度が770℃として約100℃だけさらに高い値を示した。酸化が終了する温度が高いほど、MLCC製造過程中の焼成工程で焼結温度がさらに高いと見なすことができ、これは、焼結収縮に対する抵抗性がさらに高いことを意味する。
【0074】
以上で説明した本発明の技術的思想が上述した実施例及び添付の図面に限定されなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内で様々な置換、変形及び変更が可能であることは、本発明の技術的思想の属する技術分野で通常の知識を有する者にとって明らかであろう。
【手続補正書】
【提出日】2024-04-08
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼結防止剤の内部に互いに離隔するように分散されて配置された金属粉末を含む金属粉末-焼結防止剤複合体を準備する段階;及び
前記金属粉末-焼結防止剤複合体を熱処理する段階;を含む、金属粉末の熱処理方法。
【請求項2】
前記金属粉末-焼結防止剤複合体
を準備する段階は、
溶媒に焼結防止剤が溶解された焼結防止剤溶液を準備する段階;
前記焼結防止剤溶液に金属粉末を投入した後で分散させ、金属粉末分散液を製造する段階;及び
前記
金属粉末分散液を噴霧乾燥
させ、前記金属粉末-焼結防止剤複合体を形成する段階;を含む、請求項1に記載の金属粉末の熱処理方法。
【請求項3】
前記熱処理する段階
を行った後で、
前記金属粉末-焼結防止剤複合体から前記焼結防止剤を除去
し、前記金属粉末を回収する段階
;をさらに含む、請求項1に記載の金属粉末の熱処理方法。
【請求項4】
前記焼結防止
剤の除去は、前記金属粉末
-焼結防止剤複合体を、前記焼結防止剤を溶解できる洗浄液で洗浄して行われる、請求項3に記載の金属粉末の熱処理方法。
【請求項5】
前記熱処理する段階は、
水素雰囲気、酸化雰囲気、炭化雰囲気、脱炭雰囲気、還元雰囲気、不活性雰囲気、大気雰囲気、硫化雰囲気、脱硫雰囲気及び真空雰囲気のうちいずれか一つを含む雰囲気で行われる、請求項1に記載の金属粉末の熱処理方法。
【請求項6】
前記焼結防止剤は、熱によってセラミックに遷移されるセラミック前駆体を含む、請求項1に記載の金属粉末の熱処理方法。
【請求項7】
前記熱処理する段
階において、前記セラミック前駆体
がセラミック
に遷移される、請求項
6に記載の金属粉末の熱処理方法。
【請求項8】
前記熱処理する段階を行った後、前記焼結防止剤を除去することによって回収された金属粉末の表面の少なくとも一部に、前記セラミック前駆体から遷移される前記セラミックが残存する、請求項6に記載の金属粉末の熱処理方法。
【請求項9】
前記セラミック前駆体は、金属酸化物、金属窒化物、金属酸窒化物、金属硫化物、金属塩化物及びこれらの複合物のうち少なくともいずれか一つを含む、請求項6に記載の金属粉末の熱処理方法。
【請求項10】
前記セラミック前駆体は、Al(NO
3
)
3
、Al
2
(SO
4
)
3
、(Ba(NO
3
)
2
)、TiCl
4
及び(Mg(NO
3
)
2
)のうち少なくともいずれか一つを含む、請求項6に記載の金属粉末の熱処理方法。
【請求項11】
前記焼結防止剤は金属塩を含む、請求項1に記載の金属粉末の熱処理方法。
【請求項12】
前記焼結防止剤は塩化金属を含む、請求項1に記載の金属粉末の熱処理方法。
【請求項13】
前記焼結防止剤は、NiCl
2
、BaCl
2
、NaCl及びKClのうち少なくともいずれか一つを含む、請求項1に記載の金属粉末の熱処理方法。
【請求項14】
前記金属粉末は、ニッケル粉末、銅粉末、銀粉末、鉄粉末、コバルト粉末及びこれらの合金粉末のうちいずれか一つ以上を含む、請求項1に記載の金属粉末の熱処理方法。
【国際調査報告】