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特表2024-536973光信号検出用の耐傍受単一光子検出装置
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  • 特表-光信号検出用の耐傍受単一光子検出装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-10
(54)【発明の名称】光信号検出用の耐傍受単一光子検出装置
(51)【国際特許分類】
   H04B 10/70 20130101AFI20241003BHJP
   H04L 9/12 20060101ALI20241003BHJP
   G01J 1/02 20060101ALI20241003BHJP
   H04B 10/66 20130101ALI20241003BHJP
【FI】
H04B10/70
H04L9/12
G01J1/02 R
H04B10/66
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024506819
(86)(22)【出願日】2022-07-28
(85)【翻訳文提出日】2024-03-28
(86)【国際出願番号】 EP2022071279
(87)【国際公開番号】W WO2023012040
(87)【国際公開日】2023-02-09
(31)【優先権主張番号】102021119983.2
(32)【優先日】2021-08-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524044717
【氏名又は名称】ピクセル フォトニクス ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100115255
【弁理士】
【氏名又は名称】辻丸 光一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100201732
【弁理士】
【氏名又は名称】松縄 正登
(74)【代理人】
【識別番号】100154081
【弁理士】
【氏名又は名称】伊佐治 創
(74)【代理人】
【識別番号】100227019
【弁理士】
【氏名又は名称】安 修央
(72)【発明者】
【氏名】ボイテル、ファビアン
(72)【発明者】
【氏名】ペルニーチェ、ヴォルフラム
(72)【発明者】
【氏名】ヴォルター、ニコライ
【テーマコード(参考)】
2G065
5K102
【Fターム(参考)】
2G065AA12
2G065AB15
2G065AB19
2G065BA31
2G065BA32
2G065BB04
2G065BC14
2G065CA30
2G065DA13
2G065DA20
5K102AA15
5K102AB11
5K102PH31
(57)【要約】
本発明の単一光子検出装置(10)は、光信号検出用の単一光子検出装置(10)であって、光導波路(12)と、少なくとも2つのナノワイヤ(16、18)とを含む。前記光導波路(12)は光軸(14)に沿って前記光信号を導くように設計され、前記少なくとも2つのナノワイヤ(16、18)は前記光軸(14)に沿って配置され、少なくとも1つの第2ナノワイヤ(18)は、前記光軸(14)に関して、第1ナノワイヤ(16)の前に配置され、前記少なくとも2つのナノワイヤ(16、18)は所定の温度で超伝導であるように設計され、光信号の閾値強度を超えると超伝導状態で出力信号を生成するように構成され、前記少なくとも2つのナノワイヤ(16、18)は互いに異なる閾値強度を有するように設計される。また、本発明の単一光子検出装置の使用は、量子鍵配送で暗号化された信号送信中の攻撃を認識するための使用である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光信号検出用の単一光子検出装置(10)であって、
光導波路(12)と、
少なくとも2つのナノワイヤ(16、18)とを含み、
前記光導波路(12)は光軸(14)に沿って前記光信号を導くように設計され、
前記少なくとも2つのナノワイヤ(16、18)は前記光軸(14)に沿って配置され、少なくとも1つの第2ナノワイヤ(18)は、前記光軸(14)に関して、第1ナノワイヤ(16)の前に配置され、
前記少なくとも2つのナノワイヤ(16、18)は所定の温度で超伝導であるように設計され、光信号の閾値強度を超えると超伝導状態で出力信号を生成するように構成され、
前記少なくとも2つのナノワイヤ(16、18)は互いに異なる閾値強度を有するように設計される、単一光子検出装置(10)。
【請求項2】
前記第2ナノワイヤ(18)が、前記第1ナノワイヤ(16)よりも閾値強度が高くなるように設計される、請求項1に記載の単一光子検出装置(10)。
【請求項3】
前記少なくとも2つのナノワイヤ(16、18)の吸収係数が互いに異なる、先行する請求項のいずれか一項に記載の単一光子検出装置(10)。
【請求項4】
前記第2ナノワイヤ(18)が前記第1ナノワイヤ(16)よりも短い、先行する請求項のいずれか一項に記載の単一光子検出装置(10)。
【請求項5】
前記第1ナノワイヤ(16)が、前記導波路(12)の光軸(14)に沿って延在する、先行する請求項のいずれか一項に記載の単一光子検出装置(10)。
【請求項6】
前記第1ナノワイヤ(16)がU字形である、先行する請求項のいずれか一項に記載の単一光子検出装置(10)。
【請求項7】
前記第2ナノワイヤ(18)が、前記導波路(12)の光軸(14)に対して横方向に延在する、先行する請求項のいずれか一項に記載の単一光子検出装置(10)。
【請求項8】
前記第2ナノワイヤ(18)がI字形である、先行する請求項のいずれか一項に記載の単一光子検出装置(10)。
【請求項9】
前記少なくとも2つのナノワイヤ(16、18)が、互いに電気的に直列、電気的に並列、または電気的に独立して動作可能である、先行する請求項のいずれか一項に記載の単一光子検出装置(10)。
【請求項10】
前記第2ナノワイヤ(18)が、前記光導波路(12)に適用されるか、前記光導波路(12)の空間的近傍に配置されるか、または前記導波路(12)に一体化される、先行する請求項のいずれか一項に記載の単一光子検出装置(10)。
【請求項11】
量子鍵配送で暗号化された信号送信中の攻撃を認識するための、先行する請求項のいずれか一項に記載の単一光子検出装置(10)の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光導波路と少なくとも2つのナノワイヤとを含む、光信号検出用の単一光子検出装置に関する。
【0002】
本発明はさらに、量子鍵配送で暗号化された信号送信中の攻撃を認識するための前記装置の使用に関する。
【背景技術】
【0003】
量子コンピュータの出現により、量子コンピュータを使用した効率的な攻撃が可能になったため、従来の暗号化方法は危険にさらされている。これに対し、量子鍵配送(QKD)の方法自体は、量子コンピュータを使用すると安全である。QKDでは、量子力学の特性により、二者に共有乱数を提供する。この数字は、暗号技術において、対称暗号化方式によって盗聴から保護された形で信号送信するための秘密鍵として使用される。
【0004】
QKDは物理的原理に基づく検証可能な安全な通信を可能にするが、これは、達成されるセキュリティが、コンピュータの性能およびアルゴリズムに関する仮定または信頼できる人物の信頼性に関する仮定に基づくのではなく、既知の物理的法則に基づくからである。QKDのセキュリティは、攻撃者の鍵の送信の盗聴に気づくことから生じる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、物理システムにおけるQKDの実施において、使用される物理的構成要素(単一光子検出器)もまた特定の基準を満たす必要がある。重要な前提条件の1つは、物理的構成要素が外部攻撃者による影響を受けずに、確率的に機能しなければならないことである。
【0006】
単一光子検出器におけるQKDに対する想定される攻撃は、一般に、単一光子検出器を確率的動作領域から攻撃者によって制御される動作領域に移すことを目的とする。そのような攻撃を、検出器盲検攻撃(detector-blinding attacks)と呼ぶ。この攻撃により、検出器はQKDに必要とされる確率的挙動の前提条件を満たさなくなるため、検証可能なセキュリティを有効でなくなる。
【0007】
これまでに知られている単一光子検出器における検出器盲検攻撃を認識するためのアプローチは、検出器に入射する光の一部を分岐し、それが攻撃者から発生した可能性がある高光力かを検査する。これには、実際の検出セットアップから切り離されたビームスプリッタや検出器などの追加の構成要素を必要とする。このように、追加の構成要素に起因して、セットアップにおける複雑さや空間要件が増加する。また、追加の構成要素によって新たなセキュリティギャップがマスクされる。
【0008】
そこで、本発明の目的は検出器盲検攻撃を確実に認識することができ、複雑さが低減された単一光子検出器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的は、独立請求項の特徴によって達成される。従属請求項は、好ましい発展形態に関する。
【0010】
このように、本発明の単一光子検出装置は、
光信号検出用の単一光子検出装置であって
光導波路と、
少なくとも2つのナノワイヤとを含み、
前記光導波路は光軸に沿って前記光信号を導くように設計され、
前記少なくとも2つのナノワイヤは前記光軸に沿って配置される、少なくとも1つの第2ナノワイヤは、前記光軸に関して、第1ナノワイヤの前に配置され、
前記少なくとも2つのナノワイヤは所定の温度で超伝導であるように設計され、閾値強度を超えると超伝導状態で光信号の出力信号を生成するように構成され、
前記少なくとも2つのナノワイヤは互いに異なる閾値強度を有するように設計される、単一光子検出装置。
【0011】
この目的は、量子鍵配送で暗号化された信号送信中の攻撃を認識するための前記単一光子検出装置の使用によって達成される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は本発明の好ましい実施形態の単一光子検出装置の概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の中心になるのは、互いに異なる閾値強度を有し、且つ、出力信号を生成することが可能な少なくとも2つのナノワイヤの同一光導波路における使用である。すなわち、単一光子検出装置において、少なくとも2つの超伝導ナノワイヤ単一光子検出器(SNSPD)が同一光導波路で使用される。SNSPDは、実際の検出素子として、十分に低い温度で超伝導であるナノワイヤを有する。SNSPDは光信号の強度が所定の閾値(閾値強度)を超えるときにのみ、出力信号生成を許可する。
【0014】
少なくとも2つのナノワイヤが光導波路の光軸に沿って配置されているので、光導波路内で導かれた光信号は、それぞれのナノワイヤを連続的に通過する。ナノワイヤは、互いに異なる閾値強度を有するので、それぞれのナノワイヤは、光導波路内で導かれる光信号の強度が異なる場合に、それぞれの出力信号を生成する。したがって、ナノワイヤの出力信号の統計的評価により、入射光信号の強度に関する結論を引き出すことができる。このようにして、単一光子検出器に対する検出器盲検攻撃を確実に認識することができる。
【0015】
したがって、単一光子検出装置は、光信号の強度に関する結論を引き出すためにビームスプリッタや検出器などの追加の構成要素が使用される既知の装置と比較して、複雑さが低減される。このように、第2ナノワイヤが第1ナノワイヤと同一の導波路に配置されており、攻撃者が悪用する可能性がある強い波長依存特性をそれ自体が持ち得る追加のフォトニック構成要素が使用されないので、セキュリティが向上する。加えて、ナノワイヤは非常に小さいので、空間要件は非常に低い。空間要件が低いため、単一光子検出装置の製造費も安価である。さらに、複雑性が低いために、単一光子検出装置を容易にスケールアップすることができる。したがって、単一光子検出装置は、さらなる検出器および/または光学構成要素を有さず、少なくとも2つのナノワイヤにより単一光子検出装置に対する検出器盲検攻撃を認識することができる。すなわち、これは、QKDにおいて使用可能な、盗聴に対して保護された単一光子検出装置である。
【0016】
原則的には、単一光子検出装置は、各々が光導波路の光軸に沿って配置される複数のナノワイヤを有してもよい。この配置において、前記光導波路内で前記光軸に沿って導かれる光信号が最後に到達するナノワイヤは、一次検出器として使用される単一光子検出装置のSNSPDの検出器要素に対応する。このナノワイヤは、以下、第1ナノワイヤともいう。したがって、さらなるナノワイヤ(第2ナノワイヤ、第3等のナノワイヤ)は、前記光軸に関して、第1ナノワイヤの前に配置される。その結果、前記光導波路内で導かれた光信号は、第1ナノワイヤに到達する前に、最初にさらなるナノワイヤを通過する。好ましくは、第1ナノワイヤは、第1ナノワイヤの出力信号が非常に少ない光子に基づいて、特に好ましくは単一の光子に基づいて生成可能であるように設計される。このように、単一光子検出装置の一次検出器は非常に感度が高く、個々の光子さえも検出することができる。
【0017】
さらなるナノワイヤは、二次検出器として使用されるSNSPDの検出器要素に対応し、単一光子検出装置に対する攻撃を確実に認識する。単一光子検出装置は少なくとも1つの二次検出器を有するため、単一光子検出装置は、第1ナノワイヤと共に、少なくとも2つのナノワイヤを含む。その結果、単一光子検出装置は、QKDで必要とされるように、単一光子レベルで光信号を認識することができ、同時に、その強度が想定される強度から逸脱しており検出器盲検攻撃から生じている可能性のある光信号を認識することができる。
【0018】
SNSPDの検出機構は以下の原理に基づいている。ナノワイヤの超伝導が破壊される臨界電流よりも絶対値換算でやや低い外部直流電流をナノワイヤに供給する。前記ナノワイヤに入射される1つ以上の光子は、クーパーペアの崩壊により、臨界電流の絶対値を、印加する直流電流の絶対値未満に局所的に減少させる。これにより、有限の電気抵抗を有する局所的な非超伝導領域またはホットスポットを形成する。有限の電気抵抗のために、測定可能な信号(出力信号)が、読み出し増幅器において生成される。
【0019】
光導波路は、集積光学ユニットに使用される平面光導波路構造であることが好ましい。第1ナノワイヤは、原則的に、光導波路に適用することができる。第1ナノワイヤは、導波路内に一体化されることが好ましい。第1ナノワイヤは、チップ上に成形される導波路の製造中に導波路構造内に直接一体化されることが特に好ましい。
【0020】
本発明の好ましい発展形態によれば、第2ナノワイヤは、第1ナノワイヤよりも閾値強度が高くなるように設計される。すでに述べたように、光導波路内に導かれた光信号は、最初に第2ナノワイヤを通過する。後者は閾値強度が高いことが好ましいので、第2ナノワイヤは前記閾値を下回る強度の光信号に対して出力信号を生成しない。すなわち、光信号強度が低い場合は、二次検出器はトリガーされない。しかしながら、一方で、第2ナノワイヤは、強度の高い光信号に対して出力信号を生成する。このようにして、第2ナノワイヤを使用して、単一光子検出装置に対する検出器盲検攻撃を確実に認識することが可能である。2つ以上のナノワイヤがある場合、すなわち、2つ以上の二次検出器がある場合、すべてのさらなるナノワイヤは第1ナノワイヤよりも高い閾値強度を有することが好ましく、また、さらなるナノワイヤの閾値強度は互いに異なる。したがって、ナノワイヤの出力信号の統計的評価により、入射光信号の強度に関する結論を引き出すことが可能である。
【0021】
第2ナノワイヤは、光信号が光導波路によって導かれる方向に関して第1ナノワイヤの前に配置されるだけでなく、第1ナノワイヤの空間的近傍に配置されることが好ましい。第2ナノワイヤは、光軸に関して第1ナノワイヤから100nm以下の距離に位置されることが好ましい。特に、集積光学ユニットにおける単一光子検出装置の製造に関連して、空間的近傍には異なる収率をもたらす可能性のある製造中の不均一性が発生しないという利点がある。
【0022】
ナノワイヤの閾値強度は、とりわけ、ナノワイヤの吸収係数によって特定することができる。これに関連して、本発明の好ましい発展形態によれば、少なくとも2つのナノワイヤの吸収係数が互いに異なる。特に好ましくは、光導波路内で導かれた光信号の一部のみが第2ナノワイヤによって吸収されるように第2ナノワイヤを設計する。これに対し、光導波路内で導かれた光信号の全てが第1ナノワイヤによって吸収されるように第1ナノワイヤを設計することが好ましい。吸収係数が異なるために光信号の大部分が第2ナノワイヤを通過することができるので、光信号は、一次検出器の検出器要素として作用する第1ナノワイヤにほとんど変化せずに到達することができる。
【0023】
第1および第2ナノワイヤの相互に異なる吸収係数に関して、本発明の好ましい発展形態によれば、第2ナノワイヤが第1ナノワイヤよりも短い。ナノワイヤの長さはナノワイヤの吸収係数に影響を及ぼすため、吸収係数はナノワイヤの長さに対応して特定することができる。第1ナノワイヤは、光導波路内に導かれた光を完全に吸収できる長さであることが好ましい。これに対し、第2ナノワイヤは、第1ナノワイヤよりも短いことが好ましい。特に好ましくは、第2ナノワイヤの長さは第1ナノワイヤの長さの最大で5分の1、さらに好ましくは、最大で10分の1である。第2ナノワイヤの長さを短くすることで、光信号の強度が低い場合には第2ナノワイヤは出力信号を生成せずに第1ナノワイヤのみが出力信号を生成することを確実にする。加えて、第2ナノワイヤの長さを短くすることで、導波路内で導かれる光信号のごく一部のみが吸収されることを確実にする。また、第2ナノワイヤは長さが短いため検出率が非常に高く、デッドタイムが短い。このように、第2ナノワイヤは、非常に短い光信号を高い繰り返し率で認識することができる。これにより、検出器盲検攻撃の認識がさらに簡素化される。
【0024】
ナノワイヤの長さだけでなく、光導波路内で導かれる光信号の伝搬方向に対するナノワイヤの配向もナノワイヤの吸収係数に影響を与える。原則的に、ナノワイヤは、光信号の伝搬方向に対して任意の所望の配向で延在することができる。例えば、ナノワイヤは光軸に沿ってまたは光軸に対して垂直に蛇行することができる。しかしながら、これに関連して、本発明のさらに好ましい発展形態によれば、第1ナノワイヤは、導波路の光軸に沿って延在する。第1ナノワイヤによる光信号の吸収は、光軸に沿って延在することにより第1ナノワイヤの幅に依存せず、幅よりも何倍も長いその長さに依存する。さらに、前記吸収は、第1ナノワイヤの長さによって設定することができる。第1ナノワイヤの長さは、光導波路内で導かれた光信号の全てが第1ナノワイヤによって吸収される長さになっていることが好ましい。
【0025】
第1ナノワイヤは一次検出器の検出素子として作用するので、光軸に沿った第1ナノワイヤの長さが長くなるにつれて、単一光子検出装置の検出率は低下する。これに対し、光軸に沿った第1ナノワイヤの長さが長くなるにつれて、単一光子検出装置の感度は上がる。良好なバランスに関して、本発明の好ましい発展形態によれば、第1ナノワイヤはU字形である。すなわち、第1ナノワイヤがU字形になるように、第1ナノワイヤが光軸に沿って互いに平行に延在する2つの領域を含み、前記2つの領域がその端部で第3の領域によって接続されることが好ましい。このU字形は単一光子検出装置の高い検出率と高感度とを組み合わせ、加えて製造が簡単である。U字形のさらなる利点は、第1ナノワイヤの2つの端部が光軸に関して実質的に同じ点にあることである。これによって、電極の取付、ひいては単一光子検出装置の製造を単純化する。U字形の代わりに、二重U字形またはW字形でもよい。この場合、「W」の2つの端部は、同様に、光軸に関して実質的に同じ点にある。また、W字形の場合の第1ナノワイヤは、U字形の場合と比較して光軸に沿った同じ範囲で長さが長くなる。その結果、第1ナノワイヤによる吸収も増加する。
【0026】
第2ナノワイヤの配向に関して、本発明のさらに好ましい発展形態によれば、第2ナノワイヤが導波路の光軸に対して横向きに延在する。第2ナノワイヤが光軸に対して横方向に延在するため、第2ナノワイヤによる光信号の吸収は、第2ナノワイヤの長さではなく長さよりも何倍も短いその幅に依存する。このように、光信号のごく一部のみが第2ナノワイヤによって吸収されるため、光信号はほとんど変化せずに第1のナノワイヤに到達することができる。加えて、これにより、第2ナノワイヤの長さを長くすることなく、電極への、特に好ましくは第1ナノワイヤの電極への第2ナノワイヤの末端の接続が単純化される。
【0027】
これに関連して、本発明の好ましい発展形態によれば、第2ナノワイヤはI字形である。第2ナノワイヤは蛇行形状ではなく、I字形で導波路の光軸を横切る直線に延在することが特に好ましい。これにより、第2ナノワイヤを可能な限り短くできる。第2ナノワイヤの長さが短いと、検出率が高くデッドタイムが短くなるため、検出器盲検攻撃を認識するのに特に有利である。
【0028】
第1および第2ナノワイヤの長さに関して、第1ナノワイヤの長さを1μm~500μmとするのが好ましく、特に好ましくは20μm~500μmであり、および/または第2ナノワイヤの長さを100nm~50μmとするのが好ましく、特に好ましくは100nm~10μmである。前記特定の長さは、検出器盲検攻撃を確実に認識するのに特に適していることが証明されている。前記長さは、ナノワイヤの一端から他端までの範囲に対応する。ナノワイヤ、特に第1ナノワイヤは蛇行形状、U字形、または任意の他の所望の形状でもよいので、ナノワイヤの長さは光軸に沿ったナノワイヤの範囲に必ずしも対応するとは限らない。
【0029】
本発明のさらに好ましい発展形態によれば、少なくとも2つのナノワイヤは、互いに電気的に直列、電気的に並列、または電気的に独立して動作可能である。すでに述べたように、一次および二次検出器として使用されるSNSPDの原理は、ナノワイヤに外部直流電流が供給されるという事実に基づく。少なくとも2つのナノワイヤを互いに電気的に独立して制御することは、各ナノワイヤに個々の量の直流電流を供給することができるという利点がある。このように、ナノワイヤによって出力信号が生成され始める強度閾値は、直流電流の量によってナノワイヤごとに個別に影響を受ける可能性がある。しかしながら、電気的に独立した制御の欠点は、空間要件が増すことに加えて製造コストが高くなることである。電気的直列制御および/または電気的並列制御は、非常に省スペースで実施できることに加えて安価であるという利点がある。さらに、電気的直列制御および/または電気的並列制御は追加の接点および読み出し電子回路を必要としないが、これは、単一光子検出装置への電気線の数がさらなるナノワイヤの数とは無関係であることを意味する。
【0030】
出力信号の生成に関して、本発明の好ましい発展形態では、単一光子検出装置が少なくとも2つの電極を含み、ナノワイヤの端部はそれぞれ電極に接続される。原則的に、単一光子検出装置が厳密に2つの電極を含み、全てのナノワイヤの端部がこの2つの電極に接続(すなわち、それぞれ、各ナノワイヤの第1端部が第1電極に接続され、各ナノワイヤの第2端部が第2電極に接続)することは可能である。このように、1つの電極が複数のナノワイヤに使用される。あるいは、各ナノワイヤを2つの専用電極に接続することにより、単一光子検出装置が3つ以上の電極を有してもよい。さらに、ナノワイヤが多数の場合には、混合形態でもよい。電極により、外部直流電流をナノワイヤに供給できる。電極は金属材料、例えば、クロムおよび/または金で作られることが好ましい。原則的に、電極は、ナノワイヤと接触している限り、光導波路の任意の所望の位置に配置することができる。
【0031】
すでに述べたように、第1ナノワイヤは、好ましくは導波路一体型ナノワイヤである。これに関連して、本発明のさらに好ましい発展形態によれば、第2ナノワイヤは、光導波路に適用されるか、光導波路の空間的近傍に配置されるか、または光導波路に一体化される。したがって、第2ナノワイヤは、導波路一体型ナノワイヤであってもよい。このように、単一光子検出装置により、集積光学ユニットのみを使用して検出器盲検攻撃を認識することができる。あるいは、第2ナノワイヤを導波路の上面または導波路の下面に適用することができる。加えて、第2ナノワイヤは、導波路の側面に適用することもできる。同様に、第2ナノワイヤは光導波路の空間的近傍に、好ましくは導波路の光近接場に、特に好ましくは光導波路から1μm以下離れて配置してもよい。
【0032】
さらに好ましくは、ナノワイヤの断面は実質的に長方形であり、ナノワイヤの厚さは超伝導電流をナノワイヤを通して導くことできるような厚さである。好ましくは、ナノワイヤの厚さは3nm~20nmである。さらに好ましくは、ナノワイヤの幅は10nm~500nmである。ナノワイヤの厚さは、製造工程中に、堆積される超伝導層の厚さの影響を受ける可能性がある。前記層は堆積後に、例えば、電子ビームリソグラフィおよびプラズマ補助エッチング法によって構造化することができ、ナノワイヤの幅は、前記工程中に決定することができる。
【0033】
ナノワイヤの原料に関して、ナノワイヤがNb、NbN、NbTi、NbTiN、NbGe、NbSn、SmFeAsO1-x、CeOFeAs、MgB、WSi1-x、MoRe、MoSi、TaN、グラフェン、鉄系高温超伝導体(鉄プニクチド)、および酸化銅を有する高温超伝導体(特にYBCOおよび/またはBSCCO)を含む群から選択される原料のうちの少なくとも1つを含むことが好ましい。ナノワイヤは前記材料のうちの1つから、または、いくつかの材料の任意の所望の組合せから構成されてもよい。これに代えて、またはこれに加えて、ナノワイヤは、さらなる超伝導材料から構成されてもよい。
【0034】
以下、本発明について、好ましい実施形態を用い、図面を参照して、例を挙げて説明する。
【0035】
図1は本発明の好ましい実施形態の単一光子検出装置の概略図を示す。
【0036】
図1は、光信号検出用の単一光子検出装置10の概略図を示す。単一光子検出装置10は光導波路12を含む。導波路12は光軸14に沿って光信号を導くように設計される。単一光子検出装置10はさらに、少なくとも2つのナノワイヤ16、18を含む。ナノワイヤ16、18は十分に低い温度で超伝導であるように設計され、光信号の閾値強度を超えると超伝導状態で出力信号を生成するように構成されている。ナノワイヤ16、18は超伝導ナノワイヤ単光子検出器(SNSPD)の実際の検出器要素であり、一次検出器20および二次検出器22として導波路12上で使用される。
【0037】
第1ナノワイヤ16は、単一光子検出装置10の一次検出器20の一部である。そのために、第1ナノワイヤ16はその端部24a、24bによって、それぞれ、この場合では導波路12の左右に配置される電極26a、26bに接続される。第1ナノワイヤ16はU字形で、その2つの端部24a、24bが同じ高さになるように、導波路12の光軸14に沿って延在する。
【0038】
第2ナノワイヤ18は、単一光子検出装置10の二次検出器22の一部である。第2ナノワイヤ18は、導波路12の光軸14に関して、第1ナノワイヤ16の前に配置される。したがって、光軸14に沿って導波路内で導かれる光信号は最初に第2ナノワイヤ18に達し、次いで第1ナノワイヤ16に達する。第2ナノワイヤ18は導波路12の光軸14に対して横方向に延在し、直線のI字形である。第2ナノワイヤ18の2つの端部28a、28bは同様に、電極26a、26bに接続される。そのために、2つの電極26a、26bはそれぞれ、延長部30a、30bを有する。
【0039】
原則的に、単一光子検出装置10が2つ以上の二次検出器22を含んでもよく、そのため、第2ナノワイヤ18に加えてさらに別のナノワイヤが存在してもよい。
【0040】
一次検出器20および二次検出器22のナノワイヤ16、18は、互いに異なる閾値強度を有するように設計される。この場合、第2ナノワイヤ18の方がより高い閾値強度を有するため、出力信号は、より高い強度の光信号からのみ二次検出器22によって生成される。この場合の第2ナノワイヤ18は、第1ナノワイヤ16よりも短いことに加えて、光軸14に沿って延在する第1ナノワイヤ16とは対照的に、光軸14に対して横方向に配向されることによって、より高い閾値強度を有することができる。第1ナノワイヤ16の長さは好ましくは180μmであり、この場合の第2ナノワイヤ18の長さは5μmである。
【符号の説明】
【0041】
10 単光子検出装置
12 導波路
14 光軸
16 第1ナノワイヤ
18 第2ナノワイヤ
20 一次検出器
22 二次検出器
24 第1ナノワイヤの端部
26 電極
28 第2ナノワイヤの端部
30 電極の延長部
図1
【国際調査報告】