(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-10
(54)【発明の名称】硫化物固体電解質及びその調製方法並びに使用
(51)【国際特許分類】
H01B 1/10 20060101AFI20241003BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20241003BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20241003BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20241003BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20241003BHJP
H01M 4/131 20100101ALI20241003BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20241003BHJP
H01M 4/136 20100101ALI20241003BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20241003BHJP
【FI】
H01B1/10
H01B13/00 Z
H01M10/0562
H01M4/62 Z
H01M4/525
H01M4/131
H01M4/58
H01M4/136
H01M4/505
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024514366
(86)(22)【出願日】2023-05-12
(85)【翻訳文提出日】2024-04-16
(86)【国際出願番号】 CN2023093799
(87)【国際公開番号】W WO2023217260
(87)【国際公開日】2023-11-16
(31)【優先権主張番号】202210519948.2
(32)【優先日】2022-05-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524080483
【氏名又は名称】上海屹▲り▼新能源科技有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】張希
(72)【発明者】
【氏名】朱金輝
(72)【発明者】
【氏名】陳振営
【テーマコード(参考)】
5G301
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5G301CA05
5G301CA16
5G301CA18
5G301CA19
5G301CD01
5H029AJ05
5H029AK01
5H029AK03
5H029AK18
5H029AM12
5H029CJ02
5H029CJ03
5H029CJ08
5H029HJ02
5H050AA07
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA29
5H050DA13
5H050EA01
5H050GA02
5H050GA03
5H050GA10
5H050HA02
5H050HA20
(57)【要約】
本発明は、具体的に硫化物固体電解質及びその調製方法並びに使用に関する。本発明にかかる電解質材料はLi
6P
l-a(M)
aS
5Xである(ただし、MはV、Nb、Taの元素の中の1種または複数種であり、XはF、Cl、Brの中の1種または複数種である。)。本発明で提供される硫化物固体電解質材料は、P元素を第5族元素で部分的に置換し、硫化物電解質材料が良好な硫銀ゲルマン鉱の結晶相を有することを保証する場合には、バナジウム、ニオブ、タンタルなどの元素の制御可能なドーピングにより、リチウム系負極との相溶性が向上し、より良い電気化学的安定性を有し、硫化物全固体電池のサイクル安定性がさらに向上する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫化物固体電解質であって、組成がLi
6P
l-a(M)
aS
5Xである(ただし、MがV、Nb、Taの元素の中の1種または複数種であり、XはF、Cl、Brの中の1種または複数種である。)硫化物固体電解質。
【請求項2】
aの値の範囲が0<a<1であることを特徴とする請求項1に記載の硫化物固体電解質。
【請求項3】
aの値の範囲が0<a≦0.2であることを特徴とする請求項2に記載の硫化物固体電解質。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかの1項に記載の硫化物固体電解質の調製方法であって、
Li
6P
l-a(M)
aS
5X(ただし、0<a<1)の化学量論比に従って原料であるLi源、P源、S源、M源、X源を秤量し、均一に混合した後、ボールミリング処理を行い、硫化物固体電解質前駆体粉末が得られるステップS1と、
前駆体粉末を篩い分け、粉末をプレスしてシート状固体にするステップS2と、
前記シート状固体を真空高温で焼結して前記硫化物固体電解質を得るステップS3と、を含むことを特徴とする調製方法。
【請求項5】
ステップS1において、前記固体電解質の原料には、
Li源:LiH、Li
2S
2、Li
2Sの中の1種または複数種、
S源:S、H
2S、P
2S
5、P
4S
9、P
4S
3、Li
2S
2、およびLi
2Sの中の1種または複数種、
P源:P、P
2S
5、P
4S
9、P
4S
3、P
4S
6、P
4S
5の中の1種または複数種、
X源:LiCl、LiBr、LiI、LiF、VCl
5、NbCl
5、TaCl
5の中の1種または複数種と、
M源:VF
5、NbCl
5、TaCl
5の中の1種または複数種が含まれることを特徴とする請求項4に記載の調製方法。
【請求項6】
ステップS1において、前記ボールミリング処理は、回転速度が380~1500rpmであり、時間が7~48時間であることを特徴とする請求項4に記載の調製方法。
【請求項7】
ステップS1において、前記ボールミリングの前に、さらに、手動での研磨を含み、前記手動での研磨は、時間が15~30分間であり、メノウ乳鉢を使用することを特徴とする請求項4に記載の調製方法。
【請求項8】
ステップS1において、前記ボールミリングは遊星型ボールミルを使用することを特徴とする請求項4又は6に記載の調製方法。
【請求項9】
ステップS2において、前記篩分けは、300~1200メッシュの篩を使用することを特徴とする請求項4に記載の調製方法。
【請求項10】
ステップS2において、前記プレスの圧力は300~500MPaであることを特徴とする請求項4に記載の調製方法。
【請求項11】
ステップS2において、前記シート状固体の厚さは200~1000μmであることを特徴とする請求項4に記載の調製方法。
【請求項12】
ステップS3において、前記真空高温焼結は、温度が350~700℃、時間が1~8時間であることを特徴とする請求項4に記載の調製方法。
【請求項13】
ステップS3が、前記シート状固体を真空石英管に封入し、次いでマッフル炉に入れて高温で焼結して前記硫化物固体電解質を得ることであることを特徴とする請求項4又は12に記載の調製方法。
【請求項14】
前記真空高温焼結の昇温速度が0.5~5℃/分間であることを特徴とする請求項12に記載の調製方法。
【請求項15】
ステップS3において、前記高温焼結の後に、さらに0.5~5℃/分間の降温速度で温度を室温までに下げることを含むことを特徴とする請求項4に記載の調製方法。
【請求項16】
ステップS1~S3において、前記秤量、均一な混合、ボールミリング、篩分け、プレスおよび真空高温焼結はすべて不活性雰囲気の保護下で行われることを特徴とする請求項4に記載の調製方法。
【請求項17】
請求項1~3のいずれかの1項に記載の硫化物固体電解質、または請求項4~16のいずれかの1項に記載の調製方法により調製された硫化物固体電解質の、フルバッテリーの調製における応用。
【請求項18】
電池用正極、電池用負極及び電池用電解質を含む固体電池であって、前記電池用正極、電池用負極、電池用電解質の少なくとも1つが、請求項1~3のいずれかの1項に記載の硫化物固体電解質、または請求項4~16のいずれかの1項に記載の調製方法により調製された硫化物固体電解質を含むことを特徴とする固体電池。
【請求項19】
前記電池用正極における前記固体電解質の重量は、全重量に占めるパーセントが0~40重量%であることを特徴とする請求項18に記載の固体電池。
【請求項20】
前記電池用正極における正極活物質が、LiCoO
2、LiFePO
4、LiNi
xCo
yMn
1-x-yO
2、LiNi
xCo
yAl
1-x-yO
2、LiNi
0.5Mn
1.5O
4、LiFe
xMn
1-xPO
4の中の1種または2種以上の混合物であることを特徴とする請求項18に記載の固体電池。
【請求項21】
前記電池の負極は、負極活物質と請求項1~3のいずれかの1項に記載の硫化物固体電解質との混合物からなり、前記負極活物質がリチウム合金負極材料であることを特徴とする請求項18に記載の固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2022年05月13日に中国特許庁へ提出された、出願番号202210519948.2であり、発明の名称が「硫化物固体電解質及びその調製方法並びに使用」である中国特許出願に基づく優先権を主張し、その全内容は、援用により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、エネルギー技術の分野に属し、具体的に硫化物固体電解質及びその調製方法並びに使用に関し、特に、第5族元素・ハロゲンドープ硫化物固体電解質の調製方法並びにフルバッテリーへの応用に関する。
【背景技術】
【0003】
リチウムイオン電池はポータブル電子機器に広く使用されており、エネルギー貯蔵システムや電気自動車などの応用にますます注目されている。固体電解質による全固体電池は、高エネルギー密度及び安全性の次世代電池の候補になる。さらに、固体電解質は、従来のリチウムイオン電池における可燃性・揮発性の液体電解質を代わることにより、安全性を顕著に向上させる。様々なタイプの固体電解質の中でも、硫化物固体電解質は、そのイオン伝導率が高いため、広く研究されている。硫化物固体電解質は、良好な機械的特性のため、加工の点でも大きな利点がある。
【0004】
近年、LPSC型硫化物固体電解質は、その高いイオン伝導率及び空気安定性により、有望な硫化物電解質の一つとして注目されている。しかし、LPSC型硫化物固体電解質は、負極材料との相溶性が悪く、サイクル安定性が悪いなどの多くの問題がある。これらの問題は、今後の実用化に向けた大きな課題となっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、従来技術の不足を克服し、硫化物固体電解質及びその調製方法並びに使用を提供することを主な目的とする。本発明にかかる第5族元素・ハロゲンドープ硫化物固体電解質の組成は、Li6Pl-a(M)aS5Xである(Mはバナジウム、ニオブ、タンタル元素の中の1種または複数種の組成物であり、XはF、Cl、Brの中の1種または複数種である。)。本発明で提供される硫化物固体電解質材料は、P元素を第5族元素で部分的に置換し、硫化物電解質材料が良好な硫銀ゲルマン鉱の結晶相を有することを保証する場合には、バナジウム、ニオブ、タンタルなどの元素の制御可能なドーピングにより、リチウム系負極との適合性が向上し、よりよい電気化学的安定性が実現される。さらに、硫化物全固体電池のサイクル安定性を向上させている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の発明の目的を達成するために、本発明は以下の技術案を提供する。
本発明は、組成がLi6Pl-a(M)aS5Xである(ただし、MはV、Nb、Taの元素の中の1種または複数種であり、XはF、Cl、Brの中の1種または複数種である。)硫化物固体電解質を提供する。
【0007】
他の金属元素と比較して、第5族元素であるM元素のドーピングすることにより、硫化物電解質の表面にM2O5の層を生じることができるため、電解質のサイクル安定性が向上し、しかも、リチウム負極との相溶性も良好である。結晶格子中のリチウム元素の割合は、M元素のドープ量の増加とともに増加する。
【0008】
好ましくは、aの値の範囲は0<a<1である。
【0009】
本発明は、さらに、前記硫化物固体電解質の調製方法であって、
Li6Pl-a(M)aS5Xの化学量論比に従って原料であるLi源、P源、S源、M源、及びX源を秤量し、均一に混合した後、ボールミリング処理を行い、硫化物固体電解質の前駆体粉末を得るステップS1と、
前駆体粉末を篩い分け、粉末をプレスしてシート状固体にするステップS2と、
前記シート状固体を真空高温で焼結して前記硫化物固体電解質を得るステップS3と、を含む調製方法を提供する。
【0010】
好ましくは、ステップS1において、前記固体電解質の原料には、以下の成分を含む。即ち、
Li源:LiH、Li2S2、Li2Sの中の1種または複数種
S源:S、H2S、P2S5、P4S9、P4S3、Li2S2、およびLi2Sの中の1種または複数種
P源:P、P2S5、P4S9、P4S3、P4S6、P4S5の中の1種または複数種
X源:LiCl、LiBr、LiI、LiF、VCl5、NbCl5、TaCl5の中の1種または複数種
M源:VF5、NbCl5、TaCl5の中の1種または複数種。
【0011】
本発明にかかる1つの実施態様としては、ステップS1において、前記ボールミリング処理の回転速度は380~1500rpmであり、ボールミリングの時間は7~48時間である。ボールミリングの前に、まず手動で研磨した後、機械的にボールミリングし、手動研磨時間は15~30分間であり、機械的なボールミリングには、遊星型ボールミルを使用する。
【0012】
好ましくは、ステップS2において、前記プレスの圧力は300~500MPaである。圧力が高すぎると、金型を損傷しやすくなり、圧力が低すぎると、圧縮が不十分になりやすく、焼結過程中に効果的な結晶相を形成できなくなることをもたらす。
【0013】
好ましくは、ステップS2において、前記シート状固体の厚さは200~1000μmである。厚みが大きすぎると、離型の困難、及び焼結過程中における焼結不十分を招きやすく、電解質シートの破砕・破断を招きやすい。
【0014】
好ましくは、ステップS2において、前記篩分けは、サイズが300~1200メッシュの篩を使用して、前駆体粉末を篩い分ける。
【0015】
好ましくは、篩分けの前にさらに研磨ステップも含まれる。具体的には、メノウ乳鉢を使用して研磨する。
【0016】
好ましくは、ステップS3では、具体的に、前記シート状固体を真空石英管に封入し、次いでマッフル炉に入れて高温焼結して前記硫化物固体電解質を得ることである。
【0017】
好ましくは、ステップS3において、前記高温焼結は、温度が350~700℃であり、時間が1~8時間である。昇温速度は0.5~5℃/分間である。温度が高すぎても低すぎても、目的とする電解質の有効な結晶相の形成に影響を与え、昇温速度が速すぎても遅すぎても結晶相の形成に影響を与える。
【0018】
好ましくは、ステップS3において、前記高温焼結が完了した後、0.5~5℃/分間の降温速度で温度を室温まで下げる。
【0019】
好ましくは、ステップS1~S3において、前記秤量、均一な混合、ボールミリング処理、篩分け、プレス、および高温焼結は、すべて不活性雰囲気の保護下で行われる。
【0020】
本発明は、さらに、前記態様に記載された硫化物固体電解質、または前記態様に記載された調製方法により調製された硫化物固体電解質の、フルバッテリーの製造における応用を提供する。
【0021】
本発明は、さらに、電池用正極、電池用負極、及び電池用電解質を含む固体電池であって、前記電池用正極、電池用負極、電池用電解質の少なくとも1つは、前記態様に記載された硫化物固体電解質を含む固体電池を提供する。
【0022】
好ましくは、前記電池用正極における固体電解質の重量は、全重量に占めるパーセントが0~40重量%である。前記電池用正極における正極活物質は、LiCoO2、LiFePO4、LiNixCoyMn1-x-yO2、LiNixCoyAl1-x-yO2、LiNi0.5Mn1.5O4、LiFexMn1-xPO4の中の1種または2種以上の混合物である。
【0023】
好ましくは、前記負極部分は、負極活物質と上記硫化物固体電解質との混合物からなり、負極活物質がリチウム系合金負極材料である。
【0024】
本発明は、硫化物固体電解質にハロゲン元素および第5族元素を組み込ませて硫化物電解質を得る。当該電解質の調製に必要とするプロセスは簡単である。イオン伝導率は同分野の電解質と同じレベル乃至それ以上に達する。ハロゲン元素のドーピング及び第5族元素の組み込みにより、電池動作時のサイクル安定性及び電解質シートの延性を向上させる。以上より、本発明は、室温で良好なイオン伝導率、サイクル安定性、および良好な加工性を有する、少量のハロゲン元素および第5族元素がドープされた硫化物固体電解質を調製している。
【発明の効果】
【0025】
従来技術と比較して、本発明は以下の有益な効果を有する。
【0026】
1)第5族元素をドープすることにより、目的とする硫化物固体電解質の大気安定性及びサイクル安定性を向上させている。
【0027】
2)調製された硫化物固体電解質材料は、ハロゲンをドープすることにより、全固体電池におけるサイクル安定性が向上する。
【0028】
3)正極を調製する際に硫化物固体電解質を組み込まれることにより、電池の全体的な電気化学的性能を向上させている。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】
図1は、実施例1、実施例2および比較例1のサイクル効率を示す図である。
【
図2】
図2は、実施例1及び比較例1のインピーダンスを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面および具体的な実施例を参照して本発明を詳細に説明する。以下の実施例は、本発明の技術案を前提として実施され、当業者が本発明をさらに理解するのに役立つ詳細な実施形態および具体的な操作プロセスを提供する。なお、本発明の保護範囲は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の思想に基づいて行われる若干の調整や改良はいずれも本発明の保護範囲に属するものである。
【実施例1】
【0031】
本実施例は、Li6P0.8V0.2S5F固体電解質を提供し、その製造方法の具体的なステップは以下の通りである。
化学量論比Li2S:P2S5:VF5=3:0.4:0.2に従って純試薬Li2S、P2S5およびVF5を秤量し、混合した後、手動で15分間研磨した。ジルコニアボールミルタンクに入れ、ジルコニアボールを質量比1:50で加えてボールミリングし、ボールミリングの回転速度を550rpmに設定し、17時間ボールミリングした後、タンク壁に付着したサンプルを掻き落とし、さらに乳鉢を用いて手動で15分間研磨し、400メッシュの篩にかけて篩い分けた後、均一に混合された前駆体が得られた。次に、350MPaの圧力で錠(直径12mm)に打錠した。石英管に装入して密封した。0.5/minの速度で550℃までに昇温し、7時間保温し、冷却後、Li6P0.8V0.2S5F固体電解質粉末を得た。XRDから、当該方法で調製された固体電解質粉末は、結晶形が良好で純度の高い硫銀ゲルマン鉱型立方晶相であることを確認した。固体電解質粉末を580MPaの圧力でプレスし、3分間保持して固体電解質シートが得らる。上記すべての製造プロセスはアルゴン保護雰囲気下で実行した。
【0032】
室温で該固体電解質シートのリチウムイオン伝導率は、5×10
-3S/cmである(硫化物電解質の交流インピーダンスは、マルチチャンネル電気化学ワークステーションを使用して、温度298~375K、周波数1MHz~10Hzで測定されたものである。)。サイクル効率を
図1に示し、
図1から、フルバッテリーは50サイクルにわたって優れた安定性を示していることが分かった。インピーダンスを
図2に示し、
図2から、実施例1で調製された固体電解質シートは高いイオン伝導率を有することが分かった。
【実施例2】
【0033】
本実施例は、Li6P0.8Ta0.2S5F固体電解質を提供し、その製造方法の具体的なステップは以下の通りである。
化学量論比Li2S:P2S5:TaF5=3:0.4:0.2に従って純試薬Li2S、P2S5およびVF5を秤量し、混合した後、手動で15分間研磨した。ジルコニアボールミルタンクに入れ、ジルコニアボールを質量比1:50で加えてボールミリングし、ボールミリングの回転速度を550rpmに設定し、17時間ボールミリングした後、タンク壁に付着したサンプルを掻き落とし、さらに乳鉢を用いて手動で15分間研磨し、400メッシュの篩にかけて篩い分けた後、均一に混合された前駆体が得られた。次に、350MPaの圧力で錠(直径12mm)に打錠した。石英管に装入して密封した。0.5/minの速度で550℃まで昇温し、7時間保温し、冷却後、Li6P0.8Ta0.2S5F固体電解質粉末を得た。XRDから、当該方法で調製された固体電解質粉末は、結晶形が良好で純度の高い硫銀ゲルマン鉱型立方晶相であることが分かった。固体電解質粉末を580MPaの圧力でプレスし、3分間保持して固体電解質シートが得られた。上記すべての製造プロセスはアルゴン保護雰囲気下で実行した。室温で固体電解質シートのリチウムイオン伝導率は5.3×10-3S/cmである(硫化物電解質の交流インピーダンスは、マルチチャンネル電気化学ワークステーションを使用して、温度298~375K、周波数1MHz~10Hzで測定されたものである。)。
【比較例1】
【0034】
Li6PS5F固体電解質であって、その調製方法の具体的なステップは次の通りである。
必要な化学量論比に従って純試薬Li2S、P2S5及びLiFを秤量し、混合した後、手動で15分間研磨した。ジルコニアボールミルタンクに入れ、ジルコニアボールを質量比1:50で加えてボールミリングし、ボールミリングの回転速度を550rpmに設定し、17時間ボールミリングした後、タンク壁に付着したサンプルを掻き落とし、さらに乳鉢を用いて手動で15分間研磨し、400メッシュの篩にかけて篩い分けた後、均一に混合された前駆体が得られた。次に、350MPaの圧力で錠(直径12mm)に打錠した。石英管に装入して密封した。0.5/minの速度で550℃まで昇温し、7時間保温し、冷却後、Li6PS5F固体電解質粉末を得た。固体電解質粉末を580MPaの圧力でプレスし、3分間保持して固体電解質シートが得られた。上記すべての製造プロセスはアルゴン保護雰囲気下で実行した。室温下、比較例1で提供される固体電解質シートのリチウムイオン伝導率は、1.5×10-3S/cmであった。
【比較例2】
【0035】
Li6P0.8Sb0.2S5F硫化物固体電解質であって、その調製方法は、実施例1と同様であり、原料の違いは、比較例2における原料がLi2S:P2S5:SbF5=3:0.4:0.2であるのみである。室温下、比較例2で得られた固体電解質シートのリチウムイオン伝導率は、1.1×10-3S/cmであった。
【0036】
以上、本発明の具体的な実施例について説明した。本発明は、上述した具体的な実施例に限定されるものではなく、当業者であれば、特許請求の範囲に種々の変形や変更を行うことができ、これらは本発明の実質的な内容に影響を与えないことを理解すべきである。
【手続補正書】
【提出日】2024-04-16
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫化物固体電解質であって、組成がLi
6P
l-a(M)
aS
5Xである(ただし、MがV、Nb、Taの元素の中の1種または複数種であり、XはF、Cl、Brの中の1種または複数種である。)硫化物固体電解質。
【請求項2】
aの値の範囲が0<a<1であることを特徴とする請求項1に記載の硫化物固体電解質。
【請求項3】
aの値の範囲が0<a≦0.2であることを特徴とする請求項2に記載の硫化物固体電解質。
【請求項4】
請求項
1に記載の硫化物固体電解質の調製方法であって、
Li
6P
l-a(M)
aS
5X(ただし、0<a<1)の化学量論比に従って原料であるLi源、P源、S源、M源、X源を秤量し、均一に混合した後、ボールミリング処理を行い、硫化物固体電解質前駆体粉末が得られるステップS1と、
前駆体粉末を篩い分け、粉末をプレスしてシート状固体にするステップS2と、
前記シート状固体を真空高温で焼結して前記硫化物固体電解質を得るステップS3と、を含むことを特徴とする調製方法。
【請求項5】
ステップS1において、前記固体電解質の原料には、
Li源:LiH、Li
2S
2、Li
2Sの中の1種または複数種、
S源:S、H
2S、P
2S
5、P
4S
9、P
4S
3、Li
2S
2、およびLi
2Sの中の1種または複数種、
P源:P、P
2S
5、P
4S
9、P
4S
3、P
4S
6、P
4S
5の中の1種または複数種、
X源:LiCl、LiBr、LiI、LiF、VCl
5、NbCl
5、TaCl
5の中の1種または複数種と、
M源:VF
5、NbCl
5、TaCl
5の中の1種または複数種が含まれることを特徴とする請求項4に記載の調製方法。
【請求項6】
ステップS1において、前記ボールミリング処理は、回転速度が380~1500rpmであり、時間が7~48時間であることを特徴とする請求項4に記載の調製方法。
【請求項7】
ステップS1において、前記ボールミリングの前に、さらに、手動での研磨を含み、前記手動での研磨は、時間が15~30分間であり、メノウ乳鉢を使用することを特徴とする請求項4に記載の調製方法。
【請求項8】
ステップS1において、前記ボールミリングは遊星型ボールミルを使用することを特徴とする請求項
6に記載の調製方法。
【請求項9】
電池用正極、電池用負極及び電池用電解質を含む固体電池であって、前記電池用正極、電池用負極、電池用電解質の少なくとも1つが、請求項1~3のいずれかの1項に記載の硫化物固体電解質、または請求項4~
8のいずれかの1項に記載の調製方法により調製された硫化物固体電解質を含むことを特徴とする固体電池。
【請求項10】
前記電池用正極における正極活物質が、LiCoO
2、LiFePO
4、LiNi
xCo
yMn
1-x-yO
2、LiNi
xCo
yAl
1-x-yO
2、LiNi
0.5Mn
1.5O
4、LiFe
xMn
1-xPO
4の中の1種または2種以上の混合物であることを特徴とする請求項
9に記載の固体電池。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0033
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0033】
本実施例は、Li6P0.8Ta0.2S5F固体電解質を提供し、その製造方法の具体的なステップは以下の通りである。
化学量論比Li2S:P2S5:TaF5=3:0.4:0.2に従って純試薬Li2S、P2S5およびTaF
5
を秤量し、混合した後、手動で15分間研磨した。ジルコニアボールミルタンクに入れ、ジルコニアボールを質量比1:50で加えてボールミリングし、ボールミリングの回転速度を550rpmに設定し、17時間ボールミリングした後、タンク壁に付着したサンプルを掻き落とし、さらに乳鉢を用いて手動で15分間研磨し、400メッシュの篩にかけて篩い分けた後、均一に混合された前駆体が得られた。次に、350MPaの圧力で錠(直径12mm)に打錠した。石英管に装入して密封した。0.5/minの速度で550℃まで昇温し、7時間保温し、冷却後、Li6P0.8Ta0.2S5F固体電解質粉末を得た。XRDから、当該方法で調製された固体電解質粉末は、結晶形が良好で純度の高い硫銀ゲルマン鉱型立方晶相であることが分かった。固体電解質粉末を580MPaの圧力でプレスし、3分間保持して固体電解質シートが得られた。上記すべての製造プロセスはアルゴン保護雰囲気下で実行した。室温で固体電解質シートのリチウムイオン伝導率は5.3×10-3S/cmである(硫化物電解質の交流インピーダンスは、マルチチャンネル電気化学ワークステーションを使用して、温度298~375K、周波数1MHz~10Hzで測定されたものである。)。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0036
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0036】
以上、本発明の具体的な実施例について説明した。本発明は、上述した具体的な実施例に限定されるものではなく、当業者であれば、特許請求の範囲に種々の変形や変更を行うことができ、これらは本発明の実質的な内容に影響を与えないことを理解すべきである。
以下に、本願出願の当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[1]
硫化物固体電解質であって、組成がLi
6
P
l-a
(M)
a
S
5
Xである(ただし、MがV、Nb、Taの元素の中の1種または複数種であり、XはF、Cl、Brの中の1種または複数種である。)硫化物固体電解質。
[2]
aの値の範囲が0<a<1であることを特徴とする[1]の硫化物固体電解質。
[3]
aの値の範囲が0<a≦0.2であることを特徴とする[2]の硫化物固体電解質。
[4]
[1]~[3]のいずれか1つの硫化物固体電解質の調製方法であって、
Li
6
P
l-a
(M)
a
S
5
X(ただし、0<a<1)の化学量論比に従って原料であるLi源、P源、S源、M源、X源を秤量し、均一に混合した後、ボールミリング処理を行い、硫化物固体電解質前駆体粉末が得られるステップS1と、
前駆体粉末を篩い分け、粉末をプレスしてシート状固体にするステップS2と、
前記シート状固体を真空高温で焼結して前記硫化物固体電解質を得るステップS3と、を含むことを特徴とする調製方法。
[5]
ステップS1において、前記固体電解質の原料には、
Li源:LiH、Li
2
S
2
、Li
2
Sの中の1種または複数種、
S源:S、H
2
S、P
2
S
5
、P
4
S
9
、P
4
S
3
、Li
2
S
2
、およびLi
2
Sの中の1種または複数種、
P源:P、P
2
S
5
、P
4
S
9
、P
4
S
3
、P
4
S
6
、P
4
S
5
の中の1種または複数種、
X源:LiCl、LiBr、LiI、LiF、VCl
5
、NbCl
5
、TaCl
5
の中の1種または複数種と、
M源:VF
5
、NbCl
5
、TaCl
5
の中の1種または複数種が含まれることを特徴とする[4]の調製方法。
[6]
ステップS1において、前記ボールミリング処理は、回転速度が380~1500rpmであり、時間が7~48時間であることを特徴とする[4]の調製方法。
[7]
ステップS1において、前記ボールミリングの前に、さらに、手動での研磨を含み、前記手動での研磨は、時間が15~30分間であり、メノウ乳鉢を使用することを特徴とする[4]の調製方法。
[8]
ステップS1において、前記ボールミリングは遊星型ボールミルを使用することを特徴とする[4]又は[6]の調製方法。
[9]
ステップS2において、前記篩分けは、300~1200メッシュの篩を使用することを特徴とする[4]の調製方法。
[10]
ステップS2において、前記プレスの圧力は300~500MPaであることを特徴とする[4]の調製方法。
[11]
ステップS2において、前記シート状固体の厚さは200~1000μmであることを特徴とする[4]の調製方法。
[12]
ステップS3において、前記真空高温焼結は、温度が350~700℃、時間が1~8時間であることを特徴とする[4]の調製方法。
[13]
ステップS3が、前記シート状固体を真空石英管に封入し、次いでマッフル炉に入れて高温で焼結して前記硫化物固体電解質を得ることであることを特徴とする[4]又は[12]の調製方法。
[14]
前記真空高温焼結の昇温速度が0.5~5℃/分間であることを特徴とする[12]の調製方法。
[15]
ステップS3において、前記高温焼結の後に、さらに0.5~5℃/分間の降温速度で温度を室温までに下げることを含むことを特徴とする[4]の調製方法。
[16]
ステップS1~S3において、前記秤量、均一な混合、ボールミリング、篩分け、プレスおよび真空高温焼結はすべて不活性雰囲気の保護下で行われることを特徴とする[4]の調製方法。
[17]
[1]~[3]のいずれか1つの硫化物固体電解質、または[4]~[16]のいずれか1つの調製方法により調製された硫化物固体電解質の、フルバッテリーの調製における応用。
[18]
電池用正極、電池用負極及び電池用電解質を含む固体電池であって、前記電池用正極、電池用負極、電池用電解質の少なくとも1つが、[1]~[3]のいずれか1つの硫化物固体電解質、または[4]~[16]のいずれか1つの調製方法により調製された硫化物固体電解質を含むことを特徴とする固体電池。
[19]
前記電池用正極における前記固体電解質の重量は、全重量に占めるパーセントが0~40重量%であることを特徴とする[18]の固体電池。
[20]
前記電池用正極における正極活物質が、LiCoO
2
、LiFePO
4
、LiNi
x
Co
y
Mn
1-x-y
O
2
、LiNi
x
Co
y
Al
1-x-y
O
2
、LiNi
0.5
Mn
1.5
O
4
、LiFe
x
Mn
1-x
PO
4
の中の1種または2種以上の混合物であることを特徴とする[18]の固体電池。
[21]
前記電池の負極は、負極活物質と[1]~[3]のいずれか1つの硫化物固体電解質との混合物からなり、前記負極活物質がリチウム合金負極材料であることを特徴とする[18]の固体電池。
【国際調査報告】