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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-10
(54)【発明の名称】試料分離用磁性ナノ粒子
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/44 20060101AFI20241003BHJP
   C12N 15/10 20060101ALI20241003BHJP
   C01G 49/08 20060101ALI20241003BHJP
   C12N 9/50 20060101ALN20241003BHJP
【FI】
H01F1/44 150
C12N15/10 114Z
C01G49/08 A
C12N9/50
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024516478
(86)(22)【出願日】2022-09-30
(85)【翻訳文提出日】2024-05-09
(86)【国際出願番号】 US2022077402
(87)【国際公開番号】W WO2023056457
(87)【国際公開日】2023-04-06
(31)【優先権主張番号】PCT/US2021/052974
(32)【優先日】2021-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】399117121
【氏名又は名称】アジレント・テクノロジーズ・インク
【氏名又は名称原語表記】AGILENT TECHNOLOGIES, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】110002310
【氏名又は名称】弁理士法人あい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ブラマン,ジェフリー,カール
(72)【発明者】
【氏名】ノヴォラドフスカヤ,ナタリア
(72)【発明者】
【氏名】ロン,デイヴィッド
(72)【発明者】
【氏名】リヒター,ブルース
(72)【発明者】
【氏名】ルーカス,デリック
【テーマコード(参考)】
4G002
5E041
【Fターム(参考)】
4G002AA04
4G002AB02
4G002AE02
5E041AB11
5E041BC01
5E041BD07
5E041BD12
5E041CA01
5E041HB14
5E041HB17
5E041NN05
5E041NN06
(57)【要約】
【課題】診断および研究用途のために、様々な試料形態から精製核酸を簡単かつ確実に製造するための磁性ナノ粒子および組成物ならびにそれらの製造方法を提供する。
【解決手段】分散を保つ能力が高いシリカ被覆磁性ナノ粒子、ならびに、新たに製造された粒子の水性分散剤を室温でシリカ被覆磁性ナノ粒子のクラスターが生成する時間インキュベートすることを含むシリカ被覆磁性ナノ粒子の製造方法。得られたクラスターは、ヒト臨床試料からのウイルスRNAの抽出に最適のサイズである。磁性ナノ粒子はコアとコーティングとを含み、コアはFeまたは他の磁性材料を含み、コーティングは厚さ約1.5nm~約2nmを有する。磁性ナノ粒子は、核酸を他の成分から分離することと、核酸濃度を正規化することと、による、分析用の核酸の調製に有用である。
【選択図】図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体媒体中に磁性ナノ粒子を含む組成物であって、
前記磁性ナノ粒子が、それぞれ磁性コアと前記コア上のコーティングとを含み、前記コーティングが厚さ約1nm~約2nmを有し、前記組成物中の磁性ナノ粒子が約110m/g~約130m/gのBrunauer-Emmett-Teller(BET)表面積を有し、前記組成物が個々の磁性ナノ粒子のクラスターを含み、前記クラスターが約250nm~約350nmの平均クラスターサイズを有する、組成物。
【請求項2】
前記コーティングが約1.5nm~約2.0nmの厚さを有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記磁性ナノ粒子が約113m/g~約127m/gのBET表面積を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
個々の前記磁性ナノ粒子が約15nm以下の平均総直径を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
個々の前記磁性ナノ粒子が約10~約15nmの平均総直径を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記磁性ナノ粒子の前記コアが約10nm以下の平均直径を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記コアが、常磁性を示すFeの単一ドメイン磁性ナノ粒子である、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記コアがマグネタイトのナノスケール単一結晶である、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記コアがFeを実質的に含まない、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
前記コーティングがシリカを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
前記コーティングが、分析物に結合する結合部位をさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
前記分析物が核酸である、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
前記液体媒体が水である、請求項1に記載の組成物。
【請求項14】
前記組成物が安定な水性分散剤である、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
前記組成物が、前記水に分散された前記磁性ナノ粒子のクラスターを含む、請求項13に記載の組成物。
【請求項16】
前記クラスターが約300nmの平均クラスターサイズを有する、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
前記組成物が前記磁性ナノ粒子の安定な懸濁液であり、前記磁性ナノ粒子が約3~約30g/Lの濃度で存在する、請求項1に記載の組成物。
【請求項18】
前記磁性ナノ粒子が、約25℃の温度で短くとも6ヶ月懸濁したままである、請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
密封パッケージ中にパッケージされた磁性ナノ粒子の安定な懸濁液であって、
前記磁性ナノ粒子がコアと前記コア上のコーティングとを含み、前記コーティングが厚さ約1nm~約2nmを有し、
前記密封パッケージの内容積が酸素を実質的に含まない、懸濁液。
【請求項20】
シリカ被覆磁性ナノ粒子を製造する方法であって、
脱イオン脱酸素水中のFe3+/Fe2+モル比が約2/1のFe3+およびFe2+イオンの水溶液を調製することと、
前記水溶液を超音波処理することと、
前記水溶液からFeを沈殿させ、それによってFeナノ粒子を含む混合物を作成する、沈殿させることと、
前記混合物に脱酸素アルコールおよびケイ酸塩を加えることと、
前記Feナノ粒子上にシリカコーティングを形成することと、
前記混合物から前記シリカ被覆Feナノ粒子を分離することと、
を含む、方法。
【請求項21】
前記水溶液中のFe3+の前記濃度が2~50mMであり、前記水溶液中のFe2+の前記濃度が1~25mMである、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記水溶液が、FeClとFeClとを脱イオン脱酸素水に溶解することによって調製される、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
不活性雰囲気下で前記水溶液に塩基を添加することをさらに含む、請求項20に記載の方法。
【請求項24】
前記塩基がアンモニアであり、前記塩基が2倍以上のモル過剰で添加される、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記混合物を撹拌することなく不活性雰囲気下で沈降時間維持し、その間に前記Feナノ粒子が前記混合物から沈降する、維持することと、
前記沈降時間の後、前記混合物から大部分の水を除去し、それによってFeナノ粒子の前記混合物を濃縮する、除去することと、
をさらに含む、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
前記不活性雰囲気下でコーティング時間撹拌することをさらに含む、請求項23に記載の方法。
【請求項27】
前記沈降時間および/または前記コーティング時間が約8時間~約24時間である、請求項20に記載の方法。
【請求項28】
無水ケイ酸塩溶液を添加する前に、前記混合物に追加の塩基を添加することをさらに含む、請求項20に記載の方法。
【請求項29】
前記混合物を撹拌し、超音波処理しながら、前記混合物に前記ケイ酸塩を滴下添加する、請求項20に記載の方法。
【請求項30】
前記Feナノ粒子を前記混合物から磁気捕捉によって分離し、前記方法が、メタノールで前記シリカ被覆Feナノ粒子を洗浄することをさらに含む、請求項20に記載の方法。
【請求項31】
前記分離されたシリカ被覆Feナノ粒子を真空乾燥させ、それによって前記シリカ被覆Feナノ粒子の粉末を形成する、真空乾燥させることをさらに含む、請求項20に記載の方法。
【請求項32】
不活性雰囲気下でパッケージに密封する前に、前記粉末を脱酸素水に分散させ、不活性ガスでスパージングし、超音波処理することをさらに含む、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
約250nm~約350nmの平均クラスターサイズを有する個々の磁性ナノ粒子のクラスターを形成するために、シリカ被覆Feナノ粒子をクラスタリング時間の間維持することをさらに含む、請求項20に記載の方法。
【請求項34】
前記クラスタリング時間の間、20℃~30℃の温度に前記シリカ被覆Feナノ粒子を維持する、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記クラスタリング時間が短くとも一ヶ月である、請求項33に記載の方法。
【請求項36】
分析用の核酸を調製するための方法であって、
核酸を含む試料と、結合媒体および磁性ナノ粒子組成物とを容器内で混合するステップであって、
前記磁気粒子組成物が、コアと前記コア上のコーティングとを含む複数の磁性ナノ粒子を含み、前記コーティングが約1.5nm~約2nmの厚さを有し、
前記核酸が前記磁性ナノ粒子の前記コーティングに結合する、混合するステップと、
結合時間の後、磁石を用いて前記核酸結合磁性ナノ粒子を前記容器内の液体から分離するステップと、
前記容器から前記液体を除去し前記核酸結合磁性ナノ粒子を前記容器内に保持するステップと、
前記ナノ粒子が前記容器内の前記磁石に引き付けられたままである間に、前記ナノ粒子を洗浄して不純物を除去するステップと、
前記洗浄媒体を除去するステップと、
前記核酸結合磁性ナノ粒子と溶出媒体とを接触させ、それによって前記磁性ナノ粒子から前記結合核酸を分離する、接触させるステップと、
磁石を用いて前記容器内の核酸含有液から前記磁性ナノ粒子を分離するステップと、
前記容器から前記核酸を除去し、それによって核酸調製物を得る、除去するステップと、
を含む、方法。
【請求項37】
前記試料が前記核酸の入力量を含み、
前記磁性ナノ粒子組成物が、核酸の出力量に対する結合能を有し、前記出力量が前記入力量よりも少ない、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
少なくとも80v/v%のアルコールを含む洗浄媒体で前記核酸結合磁性ナノ粒子を洗浄することをさらに含む、請求項36に記載の方法。
【請求項39】
前記磁性ナノ粒子の前記コーティングが、前記核酸に結合するように構成されている結合部位を含む、請求項36に記載の方法。
【請求項40】
前記磁性ナノ粒子組成物が正規化係数0.8~1.2を有し、前記正規化係数が、第1試料からの第1出力量と第2試料からの第2出力量との比であり、前記第1試料が、請求項36に記載の方法、
【請求項41】
前記出力量が、前記磁性ナノ粒子組成物の所定の出力量の10%以内である、請求項36に記載の方法。
【請求項42】
前記核酸調製物が、所定の長さの範囲内の長さを有する核酸を含む、請求項36に記載の方法。
【請求項43】
前記入力試料が200ng未満の核酸を含む、請求項36に記載の方法。
【請求項44】
前記入力試料が50ng未満の核酸を含む、請求項36に記載の方法。
【請求項45】
前記方法の前記ステップが自動化装置によって行われる、請求項36に記載の方法。
【請求項46】
生体試料から核酸を取得し分析用の核酸を調製する方法であって、
核酸を含む生体試料を容器に入れて試料混合物を作成し、前記生体試料は細胞またはウイルスである、容器に入れることと、
前記容器に前記試料混合物に応じた磁性ナノ粒子組成物を添加し、前記磁性粒子組成物がコアと前記コア上のコーティングとを含む複数の磁性ナノ粒子を含み、前記コーティングが厚さ約1.5nm~約2nmを有する、添加することと、
前記試料混合物と前記磁性ナノ粒子とを混合し、インキュベーション時間インキュベートすることと、
前記試料混合物から前記磁性ナノ粒子を分離することと、
前記容器に溶出媒体を添加し前記磁性ナノ粒子と前記溶出媒体とを混合することと、
核酸を前記磁性ナノ粒子から溶出して溶出液を作成する溶出時間の後、前記容器から前記溶出液を除去することと、
を含む、方法。
【請求項47】
前記生体試料と、グアニジンチオシアネート(GTC)およびプロテイナーゼKとを接触させて前記試料混合物を作成することと、
試料調製時間の間、前記試料混合物を高温でインキュベートすることと、
前記容器内の前記試料混合物にニートアルコールを添加することことと、
をさらに含む、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
磁力を加えて前記容器内の上清から前記磁性ナノ粒子を分離することと、
分離している前記磁性ナノ粒子を乱すことなく前記容器から前記上清を除去することと、
分離された前記磁性ナノ粒子をアルコール溶液で1回または複数回洗浄することと、
によって前記磁性ナノ粒子が前記試料混合物から分離される、請求項46に記載の方法。
【請求項49】
前記溶出時間が10分未満である、請求項46に記載の方法。
【請求項50】
除去された前記溶出液を第2容器に入れることと、
前記第2容器を密封することと、
前記第2容器を低温で保存することと、
をさらに含む、請求項46に記載の方法。
【請求項51】
前記試料調製時間および/または前記インキュベーション時間が約10分以下である、請求項46に記載の方法。
【請求項52】
前記アルコール溶液が約80v/v%以上のアルコールを含む、請求項46に記載の方法。
【請求項53】
前記核酸がRNAである、請求項46に記載の方法。
【請求項54】
前記核酸がDNAである、請求項46に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、米国特許商標庁を受理官庁として2021年9月30日に出願された国際出願PCT/US2021/052974号に基づく優先権を主張するものであり、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、シリカ被覆磁性ナノ粒子、このような磁性ナノ粒子を含む組成物、ならびにこのような磁性ナノ粒子と組成物とを用いて生体試料から分析物を分離する技術に関する。
【背景技術】
【0003】
分析および処理のために生体試料から分子を分離する際に、様々な表面修飾を有する磁性粒子が用いられる。磁性粒子に所望の分子を結合させ、分子が結合した粒子を外部磁場を加えて試料の残りの部分から捕捉し、粒子を洗浄して不純物を除去し、最終的に水または低イオン強度緩衝液を用いて所望の分子を回収することによって、分析する分子が試料中の他の成分から分離される。
【0004】
生体分子の分離に用いる磁性粒子は、通常、そのコアに磁性酸化鉄を有する。磁性酸化鉄粒子は、一般にマグネタイト(Fe)、マグヘマイト(γ-Fe)またはヘマタイト(Fe)として存在する。磁性粒子は、たとえばシリカで被覆することができ、数十~数百ナノメートルから数ミクロンまでの幅広い粒径分布が想定される。シリカ被覆磁性粒子を作製するための合成方法の多くは、結果として境界不明瞭な(不均一な)シリカ表面を有する材料となる、および/または懸濁液から沈殿して処理の困難な大きな凝集体を生成する。そのため、生体分子を最大限に結合させ、高純度の材料を回収するために、プロトコルの前および最中に粒子を混合する必要がある。
【0005】
より具体的には、生体試料から核酸を単離するためにシリカ被覆磁性粒子を用いることができる。シリカを用いた試料からの核酸の捕捉の最初の例は、Vogelsteinによって提示された[非特許文献1]。彼は、核酸が、カオトロピック塩の存在下でシリカガラスに強固に結合することを見出した。核酸をシリカに結合させたままで結合した核酸を水性有機溶媒で洗浄して不純物を除去することができた。次いで、低イオン強度緩衝液に暴露すると、核酸はシリカから放出された。大変小さな、または最適に小さなシリカ被覆「ナノ粒子」(nanoparticles;NP)を作製するための再現可能な合成法を開発することによって、凝集およびその後の沈降という付随する問題なしに、核酸をシリカ表面に捕捉し、洗浄して不純物を除去し、低イオン強度緩衝液で溶出することができる。
【0006】
上記のナノ粒子NPは、様々な核酸精製プロトコルに使用することができる。たとえば、Covid-19疾患の病原体であるSARS-CoV-2ウイルスからのRNAの濃縮に依存する診断法を開発することができる。得られたRNAは、定量的逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(QRT-PCR)によって検出することができる。Flu-A、Flu-Bおよびレジオネラ菌(レジオネラ症を引き起こす)などの様々な他のウイルス性および細菌性の感染性病原体は、それぞれ、高度に精製したナノ粒子NPベースの核酸が提供されれば、様々な分析ツールを用いて検出することができる。
【0007】
さらに、次世代シーケンシング(NGS)プロトコルは、ナノ粒子NPを使用して各NGSライブラリーを「正規化」と呼ばれる同じ特定の標的濃度に調整することによって、合理化し、より高い試料処理量をもたらすことができる。濃度にばらつきがある複数のNGSライブラリーを正規化することによって、配列決定装置にロードする前にそれらをプールすることができる。このプロセスによって、1回の配列決定操作で複数のNGSライブラリーを配列決定することができ、データ収集を最大化し、配列決定装置のコストを最小限に抑えることができる。
【0008】
濃度にばらつきがあるNGSライブラリーを正規化するためのいくつかの既存のアプローチがある。これらは、分光光度法、蛍光測定、定量PCR、または電気泳動により核酸定量を行い、続いて所望の濃度を計算し、次にすべての試料を正規化された濃度に希釈することを含む。核酸正規化の他のアプローチは、Corning Life Sciences社などによって販売されているキットを含む。Corning社の「AxyPrep Mag PCR Normalizer」プロトコルは、10μLのビーズ混合物が、入力ライブラリーDNA200ngに対する結合能を有していることを述べている。このプロトコルは、「各データポイントでのばらつきを最小限に抑えるために、入力DNAは、所望のDNA量より少なくとも3~4倍多くなくてはならない。たとえば、所望の溶出DNA濃度が2ng/μLである場合、入力試料は少なくとも8ng/μLでなければならない」と推奨している。配列決定プロジェクトにおいて、これらの量のライブラリーDNA、たとえばライブラリー回収容量50μLまたは濃度200nMからDNA400ngを実現することは非常に難しい。これは、NGSライブラリー合成に用いるDNAが、特性上、ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)試料から回収されたDNAなどの質の悪いものである場合に特に当てはまる。
【0009】
Agilent Technologies社(カリフォルニア州サンタクララ)は、現在、「SureSelectXT Target Enrichment System」などの次世代シーケンシングライブラリーを作製するためのキットを提供している。SureSelectXT法は、10nMから約50nMまでの非正規化DNA量のライブラリーを作製する。これらのDNA量は、AxyPrep Mag PCR Normalizerキットを使用するには少なすぎると推定される。
【0010】
研究および医療診断における核酸ベースの診断および配列決定の使用は増えているが、分析前の核酸の調製は、リアルタイムPCR、核酸配列決定およびハイブリダイゼーション試験などの核酸分析技術に関する重要なコスト要素である。試料調製は試験結果を遅らせ、十分に訓練された人材を擁する研究室の、これらのアッセイを実施する能力を制限する。現在の試料調製プロセスは、労力を要し、時間がかかり、研究室の能力を必要とする。
【0011】
診断および研究用途のために、様々な試料形態から精製核酸を簡単かつ確実に製造するための磁性ナノ粒子および組成物の必要性が残っている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Vogelstein,B.およびGillespie,D.,Proc.Nalt.Acad.Sci.アメリカ合衆国、第76巻(2)号、615~619ページ、1979年
【発明の概要】
【0013】
本発明の一態様として、磁性粒子の安定な水性分散剤が提供される。個々の磁性ナノ粒子は、それぞれ、磁性コアと、コアを取り囲む均一なコンフォーマルコーティングとで構成される。均一なコンフォーマルコーティングは厚さ約1.5nm~約2nmを有する。個々の均一なコンフォーマル被覆磁性ナノ粒子の平均総直径は約10nm~約20nmである。いくつかの例では、分散剤中で平均クラスターサイズ約50~約190nmを有する、磁性ナノ粒子の小さなクラスターが形成される。いくつかの例では、クラスターは、分散剤中で約10~約1000nm、たとえば約300nmの平均クラスターサイズを有する。
【0014】
本発明の別の態様として、シリカ被覆磁性ナノ粒子の製造方法が提供される。Feナノ粒子をアルコール混合物で提供し、この混合物を超音波処理しながらケイ酸塩(silicate)溶液を加える。磁性ナノ粒子上のシリカコーティング厚さは、加えるケイ酸塩の量を変えることによって調整してもよい。
【0015】
共沈法を用いてFe粒子を製造するいくつかの例では、本方法は、不必要なFeの形成を最小限に抑える/排除するためにFe共沈反応中に酸素を排除する。いくつかの例では、コーティング厚さは、(1)Feへのさらなる酸化からFeコアを保護し、(2)磁性コアを完全に覆い、(3)最終粒子をより核酸に結合しやすくするシラノール基(Si-OH)を高密度に含むように、得られたコアシェル粒子の表面化学を変化させるように選択される。コーティング厚さと表面積は、生体試料から核酸を精製するための本磁性粒子の使用および効率に関する重要なパラメータであることが見出された。
【0016】
別の態様では、本明細書に記載のナノ粒子の水性分散剤を、安定で最適なサイズのクラスターの形成をもたらすクラスタリング時間の間維持する方法が提供される(「熟成(aged)」ナノ粒子)。たとえば、ナノ粒子は、個々の磁性ナノ粒子が、選択された値または範囲の平均クラスターサイズ(たとえば直径)を有するクラスターを形成するように、短くとも1ヶ月、あるいは短くとも2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月、6ヵ月、7ヶ月または8ヶ月であってもよいクラスタリング時間にわたって、室温または20℃~30℃に維持することができる。たとえば、平均クラスターサイズは、小さくとも約200nm、あるいは小さくとも約220nm、あるいは小さくとも約235nm、あるいは小さくとも約250nm、あるいは小さくとも約260nmとすることができ、および/または、平均クラスターサイズは、大きくとも約400nm、あるいは大きくとも約370nm、あるいは大きくとも約350nm、あるいは大きくとも約320nm、あるいは大きくとも約300nm、あるいは大きくとも約290nmとすることができる。上記の最小値と最大値のいずれかを組み合わせて約200nm~約400nmの範囲、あるいは約250nm~約350nmの範囲などの選択された範囲を形成することができることが明示的に企図されている。ヒト臨床試料中の核酸の検出の強化は、「未熟性(unaged)」ナノ粒子と比較して、熟成ナノ粒子を用いることによって実現される。いくつかの実施の形態では、熟成ナノ粒子は、約250nm、約255nm、約260nm、約265nm、約270nm、約275nm、約280nm、約285nm、約290nm、約295nm、約300nm、約305nm、約310nm、約315nm、または約320nmの平均クラスターサイズを有するクラスターを形成し、これらの値のいずれかを組み合わせてある範囲を形成してもよいことが企図される。上記の概略値のそれぞれは、具体的な値の開示であることも企図されており、ここに明記される。
【0017】
別の態様では、分析用の核酸を調製するための方法が提供される。方法は、核酸を含む試料と、結合媒体および本明細書に記載の磁性ナノ粒子組成物とを容器内で混合するステップと、磁性ナノ粒子のコーティングに核酸を結合させるステップと、磁場を使用することによって容器内の液体からナノ粒子を分離するステップと、容器から液体を除去し容器内に核酸結合磁性ナノ粒子を保持するステップと、磁性ナノ粒子が磁石に引き付けられたままである間か、または磁性ナノ粒子を分散させた後で磁場によって再び引き付けられたままである間に核酸結合磁性ナノ粒子と洗浄液とを接触させて不純物を除去し、続いて洗浄液を除去するステップと、最後に溶出媒体を添加して磁性ナノ粒子から放出された核酸を回収するステップとを含む。容器から核酸を除去し、それによって核酸調製物を得る。
【0018】
本発明の別の態様として、生体試料からRNAを取得し、分析用にRNAを調製するための方法が提供される。方法は、RNAを含む生体試料を容器に入れることを含み、生体試料は細胞またはウイルスである。生体試料と、グアニジンチオシアネート(GTC)およびプロテイナーゼKとを接触させて試料混合物を作成し、試料調製時間の間、この試料混合物を高温でインキュベートする。ニートアルコールおよび磁性ナノ粒子組成物(本明細書に記載の実施の形態)を容器内の試料混合物に添加する。方法は、試料混合物と磁性ナノ粒子とを混合することと、第2インキュベーション時間の間インキュベートすることと、次いで磁力を加えて容器内の上清から磁性ナノ粒子を分離することと、も含む。分離された磁性ナノ粒子を乱すことなく容器から上清を除去し、分離された磁性ナノ粒子をアルコール溶液で1回または複数回洗浄する。分離された磁性ナノ粒子を乾燥させ、溶出媒体を容器に添加し、磁性ナノ粒子と混合する。磁性ナノ粒子からRNAを溶出して溶出液を作成する溶出時間の後、溶出液を容器から除去する。
【0019】
本方法および組成物のこれらおよび他の特徴および利点は、添付の特許請求の範囲とあわせて、以下の詳細な説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1A図1Aは、本技術によるシリカ被覆磁性ナノ粒子の調製のための一実施の形態を示す図である。
図1B図1Bは、本技術によるシリカ被覆磁性ナノ粒子の調製のための一実施の形態を示す図である。
図2A図2Aは、個々のシリカ被覆Feナノ粒子と、水性分散剤中の未熟成粒子によって形成された一般的なクラスターサイズとを示す電子顕微鏡写真である。
図2B図2Bは、個々のシリカ被覆Feナノ粒子と、水性分散剤中の未熟成粒子によって形成された一般的なクラスターサイズとを示す電子顕微鏡写真である。
図2C図2Cは、本技術によるシリカ被覆磁性ナノ粒子のレーザー回折データを示す。
図2D図2Dは、実施例1で調製したシリカ被覆磁性ナノ粒子TEM像である。
図2E図2Eは、実施例1で調製したシリカ被覆磁性ナノ粒子TEM像である。
図2F図2Fは、実施例1で調製したシリカ被覆磁性ナノ粒子TEM像である。
図2G図2Gは、実施例1で調製したシリカ被覆磁性ナノ粒子TEM像である。
図2H図2Hは、実施例1で調製したシリカ被覆磁性ナノ粒子TEM像である。
図2I図2Iは、実施例1で調製したシリカ被覆磁性ナノ粒子TEM像である。
図3図3は、FT-IR分光法によるシリカ被覆磁性ナノ粒子の全スペクトルを示す。約580cm-1にFe-O伸縮振動、約1100cm-1にSi-O-Si伸縮振動が明瞭に見られる。
図4-1】図4-1は、シリカコーティングプロセスに使用したTEOSの容量(0.5ml~2.5ml)が増加するにつれてSi-O対Fe-Oのピーク比が増加することを強調する一連のIRスペクトルを示す。Si-O対Fe-Oのピーク比シグナルが高いほど、Feナノ粒子コア上に厚いシリカシェルが形成される。
図4-2】図4-2は、図4-1の続きの図を示す。
図5図5は、シリカコーティングの厚さが、TEOS量の増加に伴って直線的に増加することを示すグラフである。
図6図6は、250,000倍の倍率での、本技術によるシリカ被覆磁性ナノ粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)像である。粒子は、1.5mlのTEOSおよび超音波処理を用いて製造した。
図7図7は、本技術によるシリカ被覆磁性ナノ粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)像である。一般的なFeコアは7~10nmの範囲である。1.5mlのTEOSを用いたときの粒子上のシリカコーティングの平均厚さは約1.6nmであった。コアの内部に見えるFeの顕著な結晶格子は、ナノ粒子が合成中に酸化されなかったことを示している。
図8A図8Aは、診断定量的逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(QRT-PCR)の結果を示す。手動プロトコル(図8A図8C)および自動化プロトコル(図8D図8F)と磁性シリカナノ粒子の複数のロットとを用い、試料からウイルスRNAを回収し、診断QRT-PCRによって分析した。
図8B図8Bは、診断定量的逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(QRT-PCR)の結果を示す。手動プロトコル(図8A図8C)および自動化プロトコル(図8D図8F)と磁性シリカナノ粒子の複数のロットとを用い、試料からウイルスRNAを回収し、診断QRT-PCRによって分析した。
図8C図8Cは、診断定量的逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(QRT-PCR)の結果を示す。手動プロトコル(図8A図8C)および自動化プロトコル(図8D図8F)と磁性シリカナノ粒子の複数のロットとを用い、試料からウイルスRNAを回収し、診断QRT-PCRによって分析した。
図8D図8Dは、診断定量的逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(QRT-PCR)の結果を示す。手動プロトコル(図8A図8C)および自動化プロトコル(図8D図8F)と磁性シリカナノ粒子の複数のロットとを用い、試料からウイルスRNAを回収し、診断QRT-PCRによって分析した。
図8E図8Eは、診断定量的逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(QRT-PCR)の結果を示す。手動プロトコル(図8A図8C)および自動化プロトコル(図8D図8F)と磁性シリカナノ粒子の複数のロットとを用い、試料からウイルスRNAを回収し、診断QRT-PCRによって分析した。
図8F図8Fは、診断定量的逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(QRT-PCR)の結果を示す。手動プロトコル(図8A図8C)および自動化プロトコル(図8D図8F)と磁性シリカナノ粒子の複数のロットとを用い、試料からウイルスRNAを回収し、診断QRT-PCRによって分析した。
図9図9は、NGS関連の「正規化」結果を示す。提示データは、下記で定義される正規化が達成される電気泳動および次世代シーケンシングデータメトリクス検証である。
図10図10は、小型磁石を用いた安定な懸濁液からのシリカ被覆磁性ナノ粒子の磁気分離の写真である。
図11A図11Aは、様々なパラメータによって分析したNGSライブラリーの正規化の結果を示す。
図11B図11Bは、様々なパラメータによって分析したNGSライブラリーの正規化の結果を示す。
図11C図11Cは、様々なパラメータによって分析したNGSライブラリーの正規化の結果を示す。
図11D図11Dは、様々なパラメータによって分析したNGSライブラリーの正規化の結果を示す。
図11E図11Eは、様々なパラメータによって分析したNGSライブラリーの正規化の結果を示す。
図11F図11Fは、様々なパラメータによって分析したNGSライブラリーの正規化の結果を示す。
図11G図11Gは、様々なパラメータによって分析したNGSライブラリーの正規化の結果を示す。
図11H図11Hは、様々なパラメータによって分析したNGSライブラリーの正規化の結果を示す。
図11I図11Iは、様々なパラメータによって分析したNGSライブラリーの正規化の結果を示す。
図11J図11Jは、様々なパラメータによって分析したNGSライブラリーの正規化の結果を示す。
図12A図12Aは、ナノ粒子のクラスターのサイズが熟成により増大したことを示す。
図12B図12Bは、ナノ粒子のクラスターのサイズが熟成により増大したことを示す。
図13A図13Aは、ナノ粒子のクラスターのサイズが熟成により増大したことを示す。
図13B図13Bは、ナノ粒子のクラスターのサイズが熟成により増大したことを示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本技術は、添付の図面とともに読むと、以下の詳細な説明から最もよく理解される。特徴は必ずしも縮尺どおりに描かれていない。
【0022】
本開示のシリカ被覆磁性ナノ粒子(本明細書では、「ナノ粒子NP」とも略記する)は、試料からの核酸の分離に驚くほど有効である。シリカコーティングは親水性基質を提供し、核酸の精製などの重要な用途において非特異的結合を大幅に低減させる。
【0023】
いくつかの実施の形態では、本技術は、定量的逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(QRT-PCR)検出アッセイの一部として、細胞試料またはウイルス試料から得られたRNAの濃縮に用いる。例として、本技術は、QRT-PCRによってRNAを検出する前に、SARS-CoV-2または他のウイルス病原体からRNAを濃縮するために使用することができる。いくつかの実施の形態では、本技術は、ヒトRNA、ヒトDNAおよび細菌DNAの濃縮に用いる。たとえば、本技術は、レジオネラ菌(レジオネラ症病原体)などの呼吸器病原体からDNAを濃縮し検出するために使用してもよい。いくつかの実施の形態では、本技術は、次世代シーケンシング(NGS)の前にDNAライブラリーの正規化に用いる。いくつかの実施の形態では、本技術は、試料の分析前のDNAまたはRNA試料の正規化に用いる。
【0024】
図1Aを参照すると、本技術は、コア10と、コア10を実質的に封入するコア10上の均一なコンフォーマルコーティング20とを含む磁性ナノ粒子100を提供する。一例では、コーティング20はコア10を完全に封入する。コア10は、金属、合金、または金属酸化物で製造することができ、コーティングはシリカで製造することができる。一例では、コア10はFeとすることができ、コーティングはシリカを含む。一例では、シリカコーティングは実質的に非多孔質である。コア直径とコーティング厚さとの比と、コーティング表面の特性は、試料溶液中の分析物が磁性ナノ粒子100のコーティング表面に最適に結合できるようにして複数の磁性ナノ粒子100が凝集するようなものであってもよい。次に、磁性ナノ粒子100を有する試料溶液に磁場を加えることによって、被覆表面に結合した分析物を有する磁性ナノ粒子100を試料溶液から迅速に除去することができる。
【0025】
図1Aは、本磁性ナノ粒子100の調製の一実施の形態を示す。一例では、磁性ナノ粒子100は、約9nm~約40nm、たとえば約20nm~約30nmのサイズを含むことができる。コア10は、約5nm~約20nm、たとえば約7nm~約15nm以下、たとえば約10nm~約15nm以下、たとえば約8.8nm以下、約8nm以下、または約7.9nmの直径を含むことができる。コーティング20はコア10を実質的に封入する。いくつかの例では、コーティング20は、約0.5nm~約7.5nm、約1nm~約2nm、たとえば約1.5nm~約2nmの厚さを含むことができる。図1Bは、約2.5nmのコーティング厚さを有し、約15nmの粒径を有する磁性ナノ粒子100を示す。
【0026】
図2Aおよび図2Bに示すように、コア直径とシリカコーティング20の厚さとの比と、シリカコーティング20の特性との組み合わせは、磁性ナノ粒子100が凝集し、クラスターを生成することを可能にする。一例では、クラスターは、約10nm~約1000nm、たとえば約20nm~約500nm、約100nm~約500nm、約200nm~約500nm、約250nm~約450nm、約275nm~約325nm(たとえば約300nm)、約30nm~約400nm、約40nm~約300nmとなることができる。図2Cは、Malvern Panalytical社のMastersizer3000を用いて測定したレーザー回折データを示し、一般的な水性分散剤でのナノ粒子NPの粒径分布を示す。直径で約1ミクロンまでのクラスターの個々の粒子が分散剤中に存在し、平均クラスターサイズは直径128~174nmである。この例でのナノ粒子は「未熟成」であった。
【0027】
本ナノ粒子NPは、手動および自動化ワークフローにおいて高い磁化率を示す。これには、磁性粒子捕捉のタイミングおよび効率が重要であり、捕捉、洗浄および溶出ステップにおいて迅速かつ定量的な粒子回収を必要とする自動化プラットフォームにおいて特に望ましい。
【0028】
いくつかの実施の形態では、ナノ粒子のコアは、大部分または全体がFeの結晶格子で構成される。いくつかの実施の形態では、ナノ粒子のコアは、大部分または全体が、常磁性を示すマグネタイト(Fe)のナノスケール単一結晶またはFeの単一ドメイン磁性ナノ粒子で構成される。
【0029】
いくつかの例では、ナノ粒子NPは、少なくとも105m/g、たとえば少なくとも約110m/g~約180m/gまたは少なくとも約110m/g~約130m/gのBrunauer-Emmett-Teller(BET)表面積を有する。ナノ粒子NPのBET表面積は、窒素吸着法によって測定することができる。たとえば、窒素吸着/脱離等温線は、メソ多孔性(mesoporosity)を測定するためのMicromeritics ASAP2020容量吸着分析器を用いて液体窒素温度(-196℃)で測定することができる。
【0030】
本明細書に記載のシリカ被覆磁性ナノ粒子は、直接用いることもできるし、機能化して特定の用途の必要性に合わせることもできる。カルボキシレート、エポキシドおよびトシレートなどの官能基をシリカコーティングに含めるか、またはシリカコーティングに添加することができ、また、そのような官能基は共有結合的機能化のための簡便な方法となり得る。さらなる例として、シリカコーティングは、シリカマトリックスに1つまたは複数のタイプの有機基を組み込むことによって修飾することもできる。有機基は、シリカコーティングの表面および/または細孔を共有結合で機能化することができる。他の例として、ポリマーは、単純なコーティングまたは共有結合によってシリカ表面を機能化することもできる。
【0031】
本明細書に記載のシリカ磁性ナノ粒子のコーティングは、磁性ナノ粒子の表面まで延びている細孔を含むことができる。コーティングは、その細孔の内部および外部の両方を官能基で修飾することができる。いくつかの例では、コーティングは、核酸などの分析物に結合するように構成されている反応性化学部分をさらに含む。
【0032】
本技術は、本明細書に記載の複数の磁性ナノ粒子を含むことができる組成物を提供する。複数の磁性ナノ粒子は、約15nm以下、または約12nm以下、または約11nm以下の平均粒径を有する。組成物は、水などの液体媒体中の磁性ナノ粒子の安定な懸濁液である。いくつかの例では、磁性ナノ粒子は、3~30g/L、または10~20g/L、または約13g/Lの濃度で安定な懸濁液中に存在する。
【0033】
いくつかの例では、ナノ粒子は、25℃の温度で、短くとも6ヶ月、あるいは短くとも9ヶ月懸濁したままである。いくつかの例では、ナノ粒子は、使用される前、使用者に発送される前、または一般的な使用もしくは特定の使用のために販売される前に、ある凝集時間の間保持される。凝集時間は、ナノ粒子が、所望のサイズまたは特性のクラスターを形成するように選択される。例示的な凝集時間は、短くとも約1ヶ月、短くとも約2ヶ月、短くとも約3ヶ月、短くとも約4ヶ月、短くとも約6ヶ月、短くとも約8ヶ月、またはそれ以上を含む。あるいは、例示的な凝集時間は、長くとも約18ヶ月、長くとも約12ヶ月、長くとも約10ヶ月、長くとも約8ヶ月、長くとも約6ヶ月、長くとも約5ヶ月、またはそれより短い時間を含む。最小値が最大値より短ければ、上記の最小値と最大値のいずれかを組み合わせて範囲を形成することができることが企図される。いくつかの例では、一般的な使用は、試料からRNAなどの分析物を分離することである。いくつかの例では、特定の使用は、試料から得られた核酸の量を正規化することである。
【0034】
本技術は、磁性ナノ粒子がパッケージされた安定な懸濁液も含む。本明細書に記載の磁性粒子または組成物は、内容積がナノ粒子の水性懸濁液である密封パッケージで提供することができる。
【0035】
本技術は、シリカ被覆磁性ナノ粒子を製造する方法を提供する。シリカ被覆磁性ナノ粒子を製造するための本方法は、室温、不活性雰囲気下で塩基(たとえばアンモニアまたはNaOH)を添加することによってFe3+/Fe2+塩水溶液から磁性酸化鉄を合成することを含む。Fe粒子は共沈法を用いて製造してもよい。磁性ナノ粒子のサイズ、形状および組成物は、使用する塩の種類(たとえば塩化物、硫酸塩、硝酸塩)、Fe3+/Fe2+比、反応温度およびpH値に依存する。合成条件を一定にすれば、合成されたマグネタイトナノ粒子の最終的な特性は完全に再現可能となる。Feナノ粒子の形成における本技術の利点は、迅速な粒子形成、安価な溶媒の使用、生成物の単離のための磁気分離、制御された粒径および形態、再現可能な磁気特性、およびより大きな工業規模でナノ粒子の合成を行う能力を含む。いくつかの例では、共沈法に用いるFe+の濃度は、0.1M未満、あるいは0.05M未満、あるいは0.02M未満、たとえば0.01Mである。
【0036】
方法は、脱イオン脱酸素水中、Fe3+/Fe2+モル比が約2/1のFe3+およびFe2+イオンの水溶液を調製することを含む。いくつかの例では、水溶液中のFe3+の濃度は約2~約50mMであり、水溶液中のFe2+の濃度は約1~約25mMである。水溶液は、FeClおよびFeClを脱イオン脱酸素水に溶解することによって調製することができるが、他の鉄塩を使用して溶解することもできる。水は、水と鉄塩とを混合する前に、十分な脱酸素時間の間、不活性ガスによるスパージング、超音波処理、および/または撹拌などの任意の適切な技術によって脱酸素することができる。脱酸素時間は一般に短くとも2時間であるが、これより長い時間または短い時間を使用してもよい。
【0037】
Fe3+およびFe2+イオンの水溶液をさらに超音波処理し、任意選択で(水溶液を室温から加熱するなどして)約35℃に調整してもよい。不活性雰囲気下で、加熱された水溶液に塩基を添加してもよい。いくつかの例では、適切な塩基はアンモニア、水酸化ナトリウムなどを含む。塩基は、水溶液からFeCOコアを形成するのに十分な量で添加される。たとえば、塩基は、2倍以上(たとえば、4倍または8倍)のモル過剰で添加してもよい。十分な量の塩基を添加した結果として、FeCOナノ粒子とアルカリ水とを含む混合物が形成される。いくつかの例では、塩基は、任意選択で水溶液を撹拌および/または超音波処理しながら、水溶液に滴下添加してもよい。
【0038】
混合物は、Feナノ粒子がアルカリ水から沈降する沈降時間の間、撹拌することなく不活性雰囲気下で維持される。いくつかの例では、沈降時間は一晩または約12時間である。他の例では、沈降時間は短くとも4、6、8、12、もしくは18時間であり、および/または60時間、48時間、36時間、24時間もしくは20時間以下である。上記の値を組み合わせて沈降時間の範囲を作成することができる。沈降時間の後、アルカリ水の大部分が吸引によって混合物から移動する。これによって、アルカリ水中のFeナノ粒子の濃縮混合物が得られる。
【0039】
濃縮混合物に脱酸素アルコールを添加して水性アルコール混合物を作成する。水性アルコール混合物を撹拌し、超音波処理して、Feナノ粒子を懸濁させる。いくつかの例では、さらなる処理の前に、水性アルコール混合物に追加の塩基を添加する。
【0040】
超音波処理し、不活性雰囲気を維持しながら、水性アルコール混合物にケイ酸塩溶液を添加する。シリカコーティング厚さは、用いる反応物の量によって制御することができる。ケイ酸塩溶液は、混合物を撹拌し超音波処理しながら、たとえば30~90分かけて水性アルコール混合物に徐々に滴下添加してもよい。ケイ酸塩溶液はオルトケイ酸テトラエチル(TEOS)およびアルコールを含む。いくつかの例では、ケイ酸塩溶液は無水である。
【0041】
この混合物を不活性雰囲気下でコーティング時間撹拌し、その間にFeナノ粒子上にシリカコーティングを形成させる。いくつかの例では、コーティング時間は一晩または約12時間である。他の実施の形態では、コーティング時間は短くとも4、6、8、12、もしくは18時間であり、および/または60時間、48時間、36時間、24時間もしくは20時間以下である。上記の値を組み合わせて、コーティング時間の範囲を作成することができる。
【0042】
シリカ被覆Feナノ粒子は、任意の適切な分離技術によってアルコール水性混合物から分離される。いくつかの例では、Feナノ粒子は、水性アルコール混合物から磁性捕捉によって分離される。シリカ被覆Feナノ粒子は、メタノールまたは他のアルコールまたは溶媒で洗浄することができる。分離されたシリカ被覆Feナノ粒子は、たとえば真空乾燥によって乾燥させることができる。シリカ被覆Feナノ粒子の粉末は、乾燥によって形成される。いくつかの例では、シリカ被覆Feナノ粒子を含む粉末は、ナノ粒子を粉砕または機械的に分離することなく形成される。
【0043】
得られた乾燥ナノ粒子を脱酸素水に分散させて組成物を作製してもよい。いくつかの例では、組成物は安定な懸濁液である。得られた粒子懸濁液は、ナノ粒子の平均クラスターサイズが平均125nmから260nmまで増大できるように、6ヶ月まで熟成させることができる。
【0044】
本技術は、試料から核酸を分離することによって分析用の核酸を調製するための方法も含む。いくつかの例では、方法は、核酸を含む試料と、本明細書に記載の結合媒体および磁性ナノ粒子組成物とを容器内で混合するステップを含む。核酸は磁性ナノ粒子のコーティングに結合する。結合時間の後、核酸結合磁性ナノ粒子は容器内で結合媒体から分離される。核酸結合磁性ナノ粒子を洗浄液と接触させて不必要な不純物を除去し、次いで溶出媒体と接触させ、それによって結合核酸を磁性ナノ粒子から分離する。磁性ナノ粒子は磁石によって引き付けられ、得られた所望の核酸を含む清澄化溶液を容器から除去し、それによって核酸調製物を得る。
【0045】
本明細書に記載の磁性ナノ粒子および組成物は、生体試料からの小分子、タンパク質、および/または核酸などの分析物の分離のためなどの多くの用途を有する。磁性ナノ粒子および組成物は、たとえば貴金属粒子、低分子の有機または無機分子、DNA、ペプチドまたはポリペプチド(たとえば抗体および他のタンパク質)、および全細胞を含む、化学物質種または生物学的種の担体として使用してもよい。このような担体の用途は、磁気共鳴画像法(MRI)、光イメージング、標的薬物送達および細胞送達を含んでもよい。
【0046】
本技術は、分析用の核酸を調製するための方法を提供する。この方法は、核酸を含む試料と、結合媒体および本明細書に記載の磁性ナノ粒子組成物とを容器内で混合するステップを含む。核酸は磁性ナノ粒子のコーティングに結合する。結合時間の後、核酸結合磁性ナノ粒子は、容器内で結合媒体から分離される。いくつかの例では、核酸結合磁性ナノ粒子は、次いで、水性アルコールまたは様々な水混和性有機溶媒、たとえばアセトニトリル、アセトンおよびスルホランなどを含む洗浄媒体で洗浄される。次いで、核酸結合磁性ナノ粒子を容器内に保持するように注意しながら、液体(結合媒体および/または洗浄媒体)の大部分を容器から除去する。核酸結合磁性ナノ粒子を溶出媒体と接触させ、それによって磁性ナノ粒子から結合核酸を分離する。容器から核酸を除去し、それによって核酸調製物を得る。
【0047】
磁性ナノ粒子のコーティングは、核酸または別の分析物に選択的に結合するように構成されている結合部位を含んでもよい。
【0048】
試料からの核酸の分離は、他の分析物、たとえば、医薬品などの小分子、タンパク質もしくはポリペプチド、脂質、または他の分析物を分離する場合の例示である。
【0049】
本方法は、試料から得られた核酸の量を正規化するために使用してもよい。このような方法では、試料は入力量の核酸を含み、磁性ナノ粒子組成物は、出力量の核酸に対する結合能を有する。出力量は入力量よりも少ない。
【0050】
磁性ナノ粒子組成物は正規化係数0.8~1.2を有してもよく、正規化係数とは、高濃度の核酸に暴露した後に磁性シリカナノ粒子から回収した核酸の濃度値を、低濃度の核酸に暴露した後に磁性シリカナノ粒子から回収した核酸の濃度値で割ったものを指す。理想的には、NGS用に調製した組成物の場合、正規化係数は約1.0である。
【0051】
核酸調製物は、所定の長さの範囲内の長さを有する核酸を含む。いくつかの例では、最小ヌクレオチド長は、50ヌクレオチド(以下、nt)、または70nt、または75nt、または80nt、または100nt、または150nt、または200nt、または500nt、または2,000nt、または5,000nt、または10,000nt、または50,000nt、または100,000ntである。最大ヌクレオチドは、200万nt、または100万nt、または500,000nt、または200,000nt、または75,000nt、または25,000nt、または12,500nt、または6,000nt、または3,000nt、または1,500nt、または750nt、または400nt、または250ntであってもよい。最小値が最大値より小さければ、上記の最小値および最大値のいずれかを組み合わせて所望のヌクレオチド長範囲を形成することが可能である。
【0052】
本方法は、入力試料が少量の核酸、たとえば、1,000ng未満、または500ng未満、または200ng未満、または100g未満、または50ng未満の核酸を含む場合に使用してもよい。
【0053】
本技術は、生体試料からRNAを取得し、分析用のRNAを調製する方法を提供する。この方法では、RNAを含む生体試料を容器に入れる。生体試料は細胞またはウイルスであってもよい。
【0054】
方法は、生体試料と、グアニジンチオシアネート(GTC)およびプロテイナーゼKとを接触させて試料混合物を作成し、試料調製時間の間(たとえば10分以下または約5分)、高温(たとえば約60℃)でインキュベートすることを含む。GTCおよびプロテイナーゼKは別々に添加してもよいし、予め混合して一緒に添加してもよい。試料調製時間の後、ニートアルコールを容器内の試料混合物に添加し、本明細書に記載の磁性ナノ粒子組成物の1つも容器内の試料混合物に添加する。試料混合物と磁性ナノ粒子とを混合し、第2インキュベーション時間の間(たとえば10分以下または約5分)、インキュベートする。
【0055】
第2インキュベーション時間の後、磁力を加えて、容器内の上清から磁性ナノ粒子を分離する。分離している磁性ナノ粒子を乱すことなく容器から上清を除去し、この磁性ナノ粒子をアルコール溶液で1回または複数回洗浄する。適切なアルコール溶液は、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、またはそれらの混合物などの、80v/v%以上の低級アルコールを含んでもよい。水と混和性のある様々な非アルコール有機溶媒も、洗浄目的に有効であり、かつ当業者に公知である。そのいくつかは、限定されるものではないが、アセトニトリル、アセトンおよびスルホランを含む。分離された磁性ナノ粒子を乾燥させ、溶出媒体を容器に添加する。磁性ナノ粒子を溶出時間の間(たとえば10分未満)溶出媒体と混合し、次いでRNAを磁性ナノ粒子から溶出して溶出液を作成する。RNAを含む溶出液を容器から除去し、次いでRNAは、診断および研究目的のために定量的逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(QRT-PCR)などの分析に供してもよく、または、SangerおよびNGS配列決定などのヌクレオチド配列決定の基質として機能するように修飾することができる。あるいは、除去された溶出液は、発送またはその後の分析などのために、第2容器に入れ、低温で密封保存してもよい。
【0056】
いくつかの例では、上記の方法の1つ、いくつかまたはすべてのステップが自動化装置で行われる。
【0057】
(用語)
本明細書で用いられる用語は、特定の実施の形態を説明するためだけのものであり、限定することを意図するものではないと理解すべきである。定義された用語は、本開示の技術分野において一般的に理解され受け入れられている定義された用語の技術的および科学的意味に追加されるものである。
【0058】
「核酸」および「ポリヌクレオチド」という用語は、本明細書では、ヌクレオチド、たとえば、デオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドで構成される、たとえば、約10塩基を超える、約100塩基を超える、約500塩基を超える、1000塩基を超える、10,000塩基を超える、もしくはそれ以上の任意の長さのポリマー、またはたとえば2つの天然に存在する核酸と同様に、天然に存在する核酸と配列特異的にハイブリダイズすることが可能な、たとえば、Watson-Crick塩基対相互作用に関与することができる合成的に製造された化合物、を説明するために同義で使用される。天然に存在するヌクレオチドは、グアニン、シトシン、アデニン、チミンおよびウラシル(それぞれG、C、A、TおよびU)を含む。
【0059】
「相補性」、「相補鎖」または「相補的な核酸配列」という用語は、Watson-Crick塩基対形成則によって別の核酸鎖の塩基配列と関連する核酸鎖を指す。一般に、各配列の3’末端が他の配列の5’末端にハイブリダイズし、一方の配列の各A、T/U、G、Cが、他方の配列のT/U、A、C、Gのそれぞれと整列するように、一方の配列が他方の配列とアンチパラレルセンス(antiparallel sense)にハイブリダイズすることができる場合、2つの配列は相補的である。
【0060】
「二本鎖」という用語は、全部または一部が相補的にWatson-Crick型塩基対形成を行って、そのヌクレオチドのすべてまたは大部分の間で安定な複合体が形成される少なくとも2つの配列を意味する。「アニーリング」および「ハイブリダイゼーション」という用語は、安定な二本鎖の形成を意味するために同義で使用される。
【0061】
ヌクレオチド配列の文脈において、「ハイブリダイゼーション」および「ハイブリッド形成」という用語は、本明細書では同義で使用される。2つのヌクレオチド配列が互いにハイブリダイズする能力は、2つのヌクレオチド配列の相補性の程度に基づいており、これは一方で、マッチした相補的ヌクレオチド対の割合に基づいている。所定の配列において、別の配列に相補的なヌクレオチドが多ければ多いほど、ハイブリダイゼーションの条件はよりストリンジェントになり、2つの配列のハイブリダイゼーションはより特異的になる。ストリンジェンシーを高くすることは、温度を上げること、補助溶剤の比率を増やすこと、塩濃度を下げることなどによって実現することができる。
【0062】
本明細書および添付の特許請求の範囲で使用する場合、また通常の意味に付け加えるとき、「実質的」または「実質的に」という用語は、当業者にとって許容できる限度または程度内であることを意味する。たとえば、「実質的にキャンセルされる」とは、当業者がキャンセルを許容できると考えることを意味する。
【0063】
本明細書および添付の特許請求の範囲で使用する場合、また通常の意味に付け加えるとき、「およそ」および「約」という用語は、当業者にとって許容できる限度または量内であることを意味する。「約」という用語は、一般に、記載された数の±15%を指す。たとえば、「約10」は、8.5~11.5の範囲を示すことが可能である。たとえば、「ほぼ同じ」とは、比較された品目を当業者が同じと考えることを意味する。
【0064】
本開示において、数値範囲は、その範囲を規定する数を含む。化学構造および式は、例示目的で引き延ばしたり拡大したりすることがあることを認識すべきである。
【0065】
別途定義しない限り、本明細書で用いられるすべての科学技術用語は、本開示が属する分野で働く人々によって一般に理解される意味と同じ意味を有する。
【0066】
様々な実施の形態が説明される前に、本開示の技術が、説明されている特定の実施の形態に限定されるものではなく、そのようなものとして多様であり得ることを理解すべきである。本明細書で用いられる用語は、特定の実施の形態を説明するためだけのものであり、本開示の範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるため、限定することを意図するものではないと理解すべきである。
【0067】
本明細書に開示されるように、多数の値の範囲が提供される。文脈により明確に否定されない限りは、その範囲の上限と下限との間の、下限の単位の10分の1までの各介在値(intervening value)も具体的に開示されていることが理解されよう。
【0068】
別途定義しない限り、本明細書で用いられるすべての科学技術用語は、本開示が属する当業者によって一般に理解される意味と同じ意味を有する。本明細書に記載のものと類似または同等の任意の方法および材料も本技術の実施または試験に使用してよいが、いくつかの例示的な方法および材料をここに記載する。
【0069】
本明細書で言及されるすべての特許および刊行物は、参照により明示的に組み込まれる。
【0070】
本明細書および添付の特許請求の範囲で使用される場合、「ある(a)」、「ある(an)」、および「その(the)」という用語は、文脈により明確に否定されない限りは、単数および複数の指示対象を含む。したがって、たとえば、「ある部位」は、1つの部位および複数の部位を含む。
【実施例
【0071】
(実施例1)
本実施例では、上記および下記の方法を用いてシリカ被覆磁性ナノ粒子(ナノ粒子NP)が製造される。Feナノ粒子を1gスケールで合成する例示的な手順を以下のように行った。ハードNパージ、機械的撹拌および超音波処理を用いてDI水400mlを2時間十分に脱酸素した。脱酸素後、2.508gのFeCl(9.24mM)および0.919gのFeCl(4.62mM)を窒素雰囲気下で添加し、さらにパージ/超音波処理を行った。超音波処理の過程で、水の温度は35℃まで上昇した。その後、迅速に撹拌し超音波処理した溶液に28%アンモニア溶液10ml(0.18M、これは鉄をマグネタイトに完全に変換するのに必要な約4モル過剰量である)を迅速に加えた。溶液は即座に黒色となり、ナノ粒子の沈殿物が見られた。超音波処理を中止し、混合物を窒素雰囲気下でさらに4時間撹拌した。その後、撹拌することなく翌日まで窒素雰囲気下で粒子を放置した。ナノ粒子はフラスコの底部に沈殿し、透明な上部の水層と、磁性Feナノ粒子からなる黒色の底部の層とが得られた。
【0072】
翌日、アンモニア/水の透明な上層を吸引除去することによって沈殿Feナノ粒子を分離した。残りの溶媒(100ml)はそのまま残した。次いで、この黒色スラリーに脱酸素エタノール300mlを加えた。粒子を1時間撹拌および超音波処理してナノ粒子を再懸濁した。超音波処理しながら、TEOS 1.5mlを無水エタノール80mlと混合し、窒素パージ下で滴下ロートに入れ、フラスコに取り付けた。N気流下でフラスコをパージし、次いで密封した。次いで、この黒色ナノ粒子懸濁液に追加のアンモニア溶液(28%)5mlを加えた。混合物を再び超音波処理し、窒素気流下で機械的に10分攪拌した。次いで、撹拌し超音波処理したナノ粒子に約60分かけてTEOS溶液を滴下添加した。TEOS溶液の添加後、N下で一晩ゆっくりと撹拌を継続した。
【0073】
翌日、磁石を用いて、フラスコの底部にナノ粒子を分離した。透明なエタノール/水混合物を、磁石によってその場に保持されたナノ粒子からデカントして除いた。シリカ被覆Feナノ粒子を新しいメタノールで2回洗浄し、磁気的に分離した。次いで、ナノ粒子を窒素気流下で乾燥させて粉末にし、次いで脱酸素水100mlに分散させた。ナノ粒子を窒素で十分にスパージし、超音波処理し、不活性雰囲気下で密封して、1.3重量%のナノ粒子水溶液を得た。
【0074】
様々な分析を行うために、シリカ被覆Feナノ粒子試料を乾燥粒子として単離した。走査型電子顕微鏡法(SEM)を用いて粒子を画像化し、個々の粒子の凝集の程度および全サイズを見積もった。図2A図2Bは、本技術によるシリカ被覆磁性ナノ粒子の走査型電子顕微鏡法(SEM)像である。図2Cは、本技術によるシリカ被覆磁性ナノ粒子のレーザー回折データを示す。
【0075】
合成中の超音波処理を含む現在の技術の使用は、ナノ粒子コアを分散させるのに役立ち、それによって均一なシリカコーティングが行われることを可能にし、かつ早期の粒子の凝集を防止する。SEMによる推定では、最終的なシリカ被覆Feナノ粒子が直径10~15nmであることが示されている。これによって、コア上のコーティング構造は、厚さ約1.5nmの均一な外部シリカシェルを組み込んだ直径約7~10nmの内部Feナノ粒子で構成されていることが示唆される。これらのサイズは高分解能TEMを用いて確認された。
【0076】
実施例1-1、実施例1-2、および実施例1-3は、異なる量のTEOS溶液を用い、上記の技術を用いて調製した。シリカ被覆Feナノ粒子をIRおよびTEMによって分析したところ、これらの粒子は非常に望ましいサイズ特性およびSiO:FeO比を有していることが見出された。図2Dおよび図2Eは、実施例1-1のTEM像であり、図2Fおよび図2Gは実施例1-2のTEM像であり、図2Hおよび図2Iは実施例1-3のTEM像である。以下の表は、これらの実施例のそれぞれの平均シェル厚さおよび平均コア粒径を示す。
【0077】
【表1】
上記の表において、反応に用いたTEOS量を容量および相当量で示した。得られたシリカ被覆ナノ粒子におけるSiO対FeOの比はIR分析によって測定した。シェル厚さおよびコア粒径はTEM分析に基づいて測定した。
【0078】
Brunauer-Emmett-Teller(BET)理論を用いた乾燥シリカ被覆Feナノ粒子の分析は、105m/gを超える、たとえば113~127m2/gの材料表面積を示し、これは粒子の推定直径とよく一致する。ナノ粒子の分析は、シリカシェルを用いた機能化の前後にもFT-IR分光法を用いて行った。非被覆Feナノ粒子のFT-IR分析では、580cm-1および630cm-1に2つの重なり合ったバンドが見られ、これはFe磁性相の結晶格子の金属-酸素Fe-O伸縮振動に関連している。ナノ粒子をシリカでコーティングした後、これらのバンドには、SiOシェルのシリカのO-H伸縮およびSi-O伸縮に由来する3400cm-1、1094cm-1、および467cm-1の追加モードが加わる(図3参照)。新しいモードの出現は、シリカの薄いシェルによるナノ粒子の封入を裏付けている。
【0079】
シリカ被覆ナノ粒子の他の2つのバッチを、実施例1-1と同様に調製し、コーティング厚さを評価した。以下の表に示すように、本手順は、極めて安定したコーティング厚さを有し、バッチ間のばらつきがほとんどないシリカ被覆ナノ粒子をもたらした。
【0080】
【表2】
(実施例2)
本実施例では、異なる量のケイ酸塩を本手順に用いたこと以外は、実施例1に記載されている手順に基づいてシリカ被覆ナノ粒子を調製した。以下の表で、本実施例で調製した磁性ナノ粒子の5つの異なる実施の形態を要約する。
【0081】
【表3】
【0082】
【表4】
シリカ被覆磁性ナノ粒子をFT-IRで分析した。図4-1および図4-2はそのスペクトルを示す。様々な実施の形態の粒子は、異なるシリカコーティング厚さを有する。IR分析は、シリカコーティング厚さが、TEOS量の増加に伴って直線的に増加することを示した。
【0083】
図5は、TEOS量の増加に伴ってシリカコーティング厚さが直線的に増加することを示すグラフである。
【0084】
図6は、250,000倍の倍率での、本技術によるシリカ被覆磁性ナノ粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)像である。粒子は、1.5mlのTEOSおよび超音波処理を用いて製造した。
【0085】
図7は、本技術によるシリカ被覆磁性ナノ粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)像である。個々のシリカ被覆磁性ナノ粒子が見える。粒子の凝集も見える。一般的なFeコアは7~10nmの範囲である。1.5mlのTEOSを用いたときの粒子上のシリカコーティングの平均厚さは約1.6nmであった。コアの内部にはFeの結晶格子が見えており、これはナノ粒子が合成または輸送中に酸化されなかったことを示している。
【0086】
(実施例3)
本実施例では、実施例1に記載されている手順に基づいてシリカ被覆磁性ナノ粒子のいくつかのロットを調製し、それによって実施例3-1~実施例3-14を製造した。これらの実施例のいくつかの表面積をBrunauer-Emmett-Teller(BET)表面積によって測定し、約113m/g~約127m/gの表面積を有していることが見出された。
【0087】
【表5】
(実施例4)
本実施例では、本開示の磁性ナノ粒子を用いて、手動および自動化プロトコルの両方で試料からRNAを回収した。これらの方法では、RNAを含む生体試料のアリコート75μLを0.2mlストリップチューブにピペットで移した。溶解緩衝液を含むグアニジンチオシアネート(GTC)75μLとプロテイナーゼK(20mg/ml)2μLとを各チューブに添加した。チューブにキャップをし、ボルテックスで混合し、回転させた。チューブを60℃で5分インキュベートした。インキュベーション後、各チューブに、コア粒径8.82nmとコーティング厚さ1.56nmとに基づいて粒径10.38nmを有する磁性ナノ粒子2μLとともに75μLの100%EtOHを添加した。チューブにキャップをし、混合し、短時間回転させ、室温で5分インキュベートした。この第2インキュベーション時間の間に、試料からのRNAはシリカ被覆磁性ナノ粒子に結合した。
【0088】
第2インキュベーション時間の後、チューブを磁石上に5分置いた。次いで、ナノ粒子ペレットを乱すことなくすべての上清をチューブから除去した。洗浄媒体(80%EtOH)200μLをチューブ内のペレットに添加した。ナノ粒子ペレットを乱すことなく洗浄媒体を除去し、洗浄ステップおよび除去ステップを繰り返した。ナノ粒子ペレットを室温で3分インキュベートしてナノ粒子を乾燥させた。
【0089】
次いで、65℃に予熱した溶出媒体75μLをチューブに添加し、上下に数回ピペッティングして、気泡の発生を避けながらナノ粒子を混合した。チューブを2分放置し、ナノ粒子を磁石で捕捉し、RNAを含む溶出液を回収し、新しいチューブに移した。新しいチューブにキャップをし、氷上に置いた。
【0090】
(実施例5)
本実施例では、本開示の磁性ナノ粒子を用いて手動プロトコルで試料からRNAを回収した。図8Aは、手動ワークフローを用いた場合の、ウイルスRNA抽出のための6つのナノ粒子(ナノ粒子NP)ロットの比較を示す。
【0091】
SARS-CoV-2のN1およびN2標的の最終濃度が1マイクロリットルあたり10、10、10、10、10、1および0.5コピーになるようにVTMに採取した鼻腔スワブ(NS)にSARS-CoV-2アーマード合成RNAをスパイクインすることによって人為的(contrived)試料を調製した。NAP手動プロトコルに従って、各希釈液75ulを2連で用いてRNA抽出を行った。つまり、各試料75ulと、溶解緩衝液75ulおよびプロテイナーゼK2ulとを混合し、RTで5分、60℃で5分インキュベートし、次いでナノ粒子ビーズ2ulを含む100%エタノール75ulを加えた。この実験では、以下の6つのナノ粒子ロット、実施例3-3、実施例3-5、実施例3-6、実施例3-7、実施例3-8、および実施例3-9を用いた。試料を混合し、RTで5分インキュベートして、核酸を磁性ビーズに結合させ、次いでチューブをマグネットスタンドに移し、ビーズをチューブの底側で採取した(このステップでは、RNAは磁性ビーズに結合したままである)。上清を吸引した後、ビーズを80%エタノールで2回洗浄し、RTで3分乾燥させて、低TE緩衝液(10mM Tris、0.1mM EDTA、pH8.0)30ulでRNAを溶出した。
【0092】
SARS-CoV-2のN1およびN2標的と、ヒトRNアーゼP遺伝子とに特異的なプライマーおよびプローブを用いるマルチプレックスQRT-PCR反応に、各抽出RNA試料5ulを用いた。アッセイは、Agilent社のAriaMx Real-Time PCRシステムで行った。N1、N2およびRP標的の増幅曲線を図8A図8Bおよび図8Cに示し、対応するCq値を表A、表Bおよび表Cに示した。6つのナノ粒子ロット間に有意差は認められず、10~0.5コピー/ulのSARS-CoV2のN1およびN2 RNA標的ならびにヒトRPのQRT-PCR検出が実証された。
【0093】
【表6】
【0094】
【表7】
【0095】
【表8】
(実施例6)
以下の実施例では、本開示の磁性ナノ粒子を用いて、試料から自動化プロトコルでRNAを回収した。図8D図8Eおよび図8Fは、自動ワークフローを用いたウイルスRNA抽出のための6つのナノ粒子ロットの比較を示す。
【0096】
SARS-CoV-2のN1およびN2標的の最終濃度が1マイクロリットルあたり10、10、10、10、10、1および0.5コピーになるようにウイルス移入媒体(VTM:viral transfer medium)に採取した鼻腔スワブ(NS)にSARS-CoV-2アーマード合成RNAをスパイクインすることによって人為的試料を調製した。各希釈液75ulを用いてRNA抽出を行った。つまり、各試料75ulと、溶解緩衝液75ulおよびプロテイナーゼK2ulとを混合し、RTで5分インキュベートし、次いで自動処理のためにBravo装置に移した。この実験では、以下のナノ粒子ロット、実施例3-2、実施例3-3(2つの異なるバイアルからのものであり、3-3a、3-3bと呼ぶ)、実施例3-4、実施例3-5、および実施例1-1Bを用いた。RNAを低TE緩衝液(10mM Tris、0.1mM EDTA、pH8.0)30ulで溶出した。
【0097】
SARS-CoV-2のN1およびN2標的と、ヒトRNアーゼP遺伝子とに特異的なプライマーおよびプローブを用いるマルチプレックスQRT-PCR反応に、各抽出RNA試料5ulを用いた。アッセイは、Agilent社のAriaMx Real-Time PCRシステムで行った。N1、N2およびRP標的の増幅曲線を図8D図8Eおよび図8Fに示し、対応するCq値を表D、表Eおよび表Fに示した。6つのナノ粒子ロット間に有意差は認められず、10~0.5コピー/ulのSARS-CoV2のN1およびN2 RNA標的ならびにヒトRPのQRT-PCR検出が実証された。
【0098】
【表9】
【0099】
【表10】
【0100】
【表11】
(実施例7)
本実験では、平均クラスターサイズに対するナノ粒子NP熟成(aging)効果を評価した。図12Aおよび図12Bは、本開示のナノ粒子組成物を218日まで熟成させたときのクラスターサイズの増加を示す。表Hは、示された時点で測定された値を示す。
【0101】
【表12】
図13Aおよび13Bは、本開示の別のナノ粒子組成物を109日まで熟成させたときのクラスターサイズの増加を示す別の実験を示す。表Iは、示された時点で測定された値を示す。
【0102】
【表13】
これらの実験は、ナノ粒子のモードサイズがクラスター時間にわたって増加しており、約300nm、より詳細には約260nmで横這いになったことを示している。このサイズのクラスターを含むナノ粒子組成物を、例示的なRNAの単離/QRT-PCRアッセイおよびNGSの正規化に用いた。
【0103】
(実施例8)
本実施例では、2週間および14週間経過したナノ粒子NPを用いて単離したRNAのQRT-PCR分析を比較することによって、核酸抽出効率に対するナノ粒子NPの熟成効果を評価した。核酸を14個の鼻咽頭(ナノ粒子NP)臨床試料から抽出し、そのうち8個はヒトメタニューモウイルス(hMPV)陽性であり、6個はヒトパラインフルエンザウイルス3型(hPIV3)陽性であることが判明していた。抽出されたウイルスRNA量は、Brilliant III QRT-PCR試薬、ABI TaqMan微生物アッセイ(hMPVまたはhPIV3を検出するためのプライマーおよびプローブ)および各RNA試料2μlを20μlのPCR反応に用いて、AriaMx Real-Time PCRシステムでQRT-PCRにより評価した。結果を、AriaMx v1.5ソフトウェア(各試料のΔCq値は[ΔCq=Cq2週間-Cq14週間]として計算した)を用いて分析した。そのデータを下表に示す。
【0104】
表Gに示すように、14週経過したナノ粒子NPを用いて抽出された14試料のうち10試料(71%)が、0.5Cqを超える改善を示した(ΔCq1=RNA収量の3倍差)
【0105】
【表14】
本実験は、14週経過したナノ粒子NP組成物(「熟成」ナノ粒子NP組成物)により、QRT-PCRによって測定した臨床試料からのウイルスRNA収量に有意な改善が見られることを示した。
【0106】
(実施例9)
以下の実施例では、異なる濃度を有し、「ライブラリー」と呼ぶNGS用DNA試料を「正規化した」。これは、磁性シリカナノ粒子が暴露されたDNA濃度にかかわらず、正規化後に得られるすべてのDNA濃度がほぼ等しい濃度であることを意味する。
【0107】
以下のステップはすべて4℃で行った。
【0108】
磁性ナノ粒子10μL(0.1μg/mL;1μg)およびDNA結合媒体60μLを、チューブA1~H1(ナノ粒子ロットCS-019A)およびA2~H2(ナノ粒子CS-019B)に加え、ピペッティングにより混合する。
【0109】
10nM DNAライブラリー20μLをチューブA1~D1およびチューブA2~D2に加え、100nM DNAライブラリー20μLをチューブE1~H1およびチューブE2~H2に加え、ピペッティングにより混合し、直ちに粒子を捕捉する。
【0110】
捕捉した粒子を80%EtOH 150μLで1回洗浄し、上清を除去し、粒子を乾燥させ、10mM Tris-0.1mM EDTA(pH8.0)10μLを加え、混合し、直ちに粒子を捕捉し、上清について電気泳動分析(HSD1000 TapeStation)を行う。
【0111】
図9はTapeStation分析の結果を示す。正規化法のための入力としてDNAライブラリーにおいて異なる濃度の核酸を用いたにもかかわらず、正規化係数は、CS-019Aについて1.1、CS-019Bについて1.0であった。チューブA1~D1およびE1~H1(CS-019A)の平均DNA濃度はそれぞれ9.4nMおよび10.4nMであった。10.4を9.4で割れば、正規化係数はほぼ1.1となる。チューブA2~D2およびE2~H2(CS-019B)の平均DNA濃度は、それぞれ9.8nMおよび9.7nMであった。9.8を9.7で割れば、正規化係数はほぼ1.0となる。
【0112】
(実施例10)
本実施例では、異なる濃度を有するNGS用DNA試料(またはライブラリー)を正規化した。本実施例は、濃度にばらつきがある核酸ライブラリーをナノ粒子NPを用いて正規化することによってNGSプロトコルを改善することができ、その結果、より高い試料処理量と、削減された配列決定装置の時間およびコストとがもたらされることをさらに示す。NGS装置のプラットフォームは、一般に、配列決定装置にロードされる特定の濃度の核酸を必要とする。濃度が低すぎたり高すぎたりすると、配列データの出力および品質が低下する。濃度にばらつきがあるNGS用核酸を正規化するために、いくつかの既存のアプローチがある。これらには、分光光度法、蛍光測定、定量PCR、または電気泳動による核酸定量と、それに続く所望の濃度の計算、および正規化された濃度へのすべての試料のさらなる希釈とが含まれる。以下のNGSデータ比較は、電気泳動(Agilent社のTapeStation装置)と比較して、ナノ粒子NP正規化の品質が同等以上であることを示す。
【0113】
実施例8に記載されている正規化手順を、実施例1に従って調製したシリカ被覆磁性ナノ粒子(ナノ粒子ロットCS-019)で使用した。
【0114】
結果を図11A図11Jに示す。これらの図において、BNはナノ粒子NP正規化ライブラリーを指し、TSはTapeStation正規化ライブラリーを指す。図11AはTapeStation分析の結果を示す。
【0115】
図11Bは、「bamカウント」を示す。bamカウントは、遺伝子、エクソン、転写物などの標的とする各特徴にマッピングされた配列リードの数である。bamカウントは、TS正規化ライブラリーと比較してナノ粒子NP正規化ライブラリーでは低かったが、より均一であった。
【0116】
図11Cは、正規化ライブラリーの複雑さを示す。これは、所定の実験計画によって生じる偏りの量を反映する。ライブラリーの複雑さに関しては、理想は、原材料のもともとの複雑さを忠実に反映する非常に複雑なライブラリーである。ほぼ等しい変動係数によって示されるように、ナノ粒子NP正規化とTS正規化は、等しい複雑さを生じた。ナノ粒子NP正規化ライブラリーとTS正規化ライブラリーは、等しく複雑である。
【0117】
図11Dは、正規化ライブラリーの均一性を示す。これは、リード深度が、平均領域標的カバレッジ深度を規定回数超える標的塩基位置の割合である。ナノ粒子NP正規化ライブラリーはTS正規化ライブラリーよりも均一であった。
【0118】
図11Eは、正規化ライブラリーのカバレッジを示す。標的領域内の特定の塩基が配列データで示される回数はカバレッジまたはカバレッジ深度と呼ばれる。「倍」の前の数はカバレッジ(ゲノムが配列決定される平均回数)である。たとえば、30倍の全ゲノム配列決定(WGS)を行う場合、「30倍」は、全ゲノムを平均30回配列決定することを意味する。20倍および30倍カバレッジの両方で、ナノ粒子NP正規化とTS正規化は等しい結果を示す。
【0119】
図1IFは、「fold 80」塩基対ペナルティを示す。これは、80%の標的塩基が平均カバレッジを達成するのを確実にするのに必要な追加の配列決定のfoldである。オンターゲット率が低いほど、またはfold-80が高いほど、捕捉の非効率性および無駄な配列決定が多くなる。ナノ粒子NP正規化では平均「fold 80」が3であったのに対し、TS正規化では平均「fold 80」が3.25であった。これは、ナノ粒子NP正規化ライブラリーでは、TS正規化ライブラリーと比較して、より少ない配列決定しか必要としないことを意味する。fold 80の数が低いほど、よい結果となる。
【0120】
図11Gは、正規化ライブラリーにおける重複を示す。複数の配列決定リードが、3’末端および5’末端の座標を含む正確な同じ位置にマッピングされる場合、それらは重複リードとみなされる。重複率は、特定のデータセットにおいてマークされたマップリードの割合である。オーバーラップリードと対照的に、重複リードは追加情報を提供せず、バイオインフォマティクス分析中配列決定データから除去され、これは、重複排除として知られているプロセスである。ナノ粒子NP正規化とTS正規化は、等しい重複値を与える。
【0121】
図11Hは、AT/GCドロップアウト(dropout)を示す。AT/GCドロップアウトメトリクスは、ATまたはGC含量に基づく特定の領域の不十分なカバレッジの程度を示す。ナノ粒子NP正規化ライブラリーおよびTS正規化ライブラリーの場合、これらのメトリクスの値は等しかった。
【0122】
図11Iは平均挿入サイズを示す。挿入サイズは、配列決定される長さであり、かつアダプター間に「挿入される」DNA(またはRNA)の長さである。ナノ粒子NP正規化ライブラリーの場合、平均挿入サイズは220bpであり、TS正規化ライブラリーの場合、平均挿入サイズは190bpであり、ナノ粒子NP正規化のほうが30bp高いという違いがあった。
【0123】
図11Jは、正規化ライブラリーのオンターゲット値を示す。パーセントオンターゲット塩基は、標的領域にマップする塩基の数であり、パーセントオンターゲットリードは、標的領域に1塩基でもオーバーラップするすべての配列決定リードを含む。標的領域内に含まれる塩基またはリードが多いほど、全体のオンターゲット率は高くなり、高いプローブ特異性、高品質なプローブ、およびハイブリダイゼーションに基づく効率的なターゲット濃縮を示す。ナノ粒子NP正規化ライブラリーとTS正規化ライブラリーの差はわずか0.03%であった。
【0124】
本開示を考慮すれば、本方法、組成物、およびシステムは本技術に従って実施することができることに留意されたい。さらに、様々な成分、材料、構造およびパラメータは、例示としてのみ含まれ、いかなる限定的な意味においても含まれない。本開示を考慮すれば、本技術は他の用途に実施することができ、これらの用途を実施するための成分、材料、構造および装置は、添付の特許請求の範囲に留まりながら決定することができる。
図1A
図1B
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図2F
図2G
図2H
図2I
図3
図4-1】
図4-2】
図5
図6
図7
図8A
図8B
図8C
図8D
図8E
図8F
図9
図10
図11A
図11B
図11C
図11D
図11E
図11F
図11G
図11H
図11I
図11J
図12A
図12B
図13A
図13B
【国際調査報告】