(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-10
(54)【発明の名称】電気化学電池用の高分子量官能化ポリマー
(51)【国際特許分類】
C08G 65/34 20060101AFI20241003BHJP
H01M 10/0565 20100101ALI20241003BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20241003BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C08G65/34
H01M10/0565
H01M4/62 Z
H01B1/06 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024518513
(86)(22)【出願日】2022-09-27
(85)【翻訳文提出日】2024-03-22
(86)【国際出願番号】 US2022044841
(87)【国際公開番号】W WO2023049494
(87)【国際公開日】2023-03-30
(32)【優先日】2021-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521565730
【氏名又は名称】アイオニック マテリアルズ インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】IONIC MATERIALS,INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100116322
【氏名又は名称】桑垣 衛
(72)【発明者】
【氏名】モハメド、アレクサンダー アリ イブラヒム
(72)【発明者】
【氏名】ライトナー、アンドリュー ポール
【テーマコード(参考)】
4J005
5G301
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
4J005AA21
4J005BB02
4J005BD02
4J005BD05
4J005BD06
5G301CD01
5H029AJ06
5H029AK03
5H029AL12
5H029AM16
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5H029HJ20
5H050AA12
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB12
5H050DA13
5H050EA08
5H050EA24
5H050GA10
5H050HA14
5H050HA19
(57)【要約】
高分子量官能化ポリマー(「高誘電性ポリマー」)が、関連する使用方法および製造方法とともに本明細書に開示される。高誘電性ポリマーは、比較的高い誘電率(例えば、10超)ならびに比較的低いガラス転移温度(例えば、-30℃未満)を有する。ポリマーは、付加重合またはアニオン性開環を利用して生成され、多数の残留求核基を含有する直鎖または分岐ポリマー骨格を得ることができる。次いで、求核置換を実施して、残留求核基を官能化することができる。次いで、官能化ポリマーを精製し、必要に応じて、電気化学電池中のポリマー電解質として(例えば、二次Liイオン電池中の非水性ポリマー電解質として)使用することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高誘電性ポリマーを生成する方法であって、前記方法は:
少なくとも3つの求核部位を含有する出発材料を架橋剤と反応させてポリドナーを生成するステップであって、前記ポリドナーが、複数の反応性求核部位を含有する分岐ポリマーである、ステップと、
前記ポリドナーの前記複数の反応性求核部位を官能化して、高誘電性ポリマーを生成するステップと、
前記高誘電性ポリマーを精製するステップと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記出発材料が、ポリアルコール(ポリオール)、ソルビトール、ペンタエリスリトール、イノシトール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、アミノアルコール、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオール、システイン、ジチオスレイトール、他のチオール、および/またはポリエチレンイミンからなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記出発材料がマイケル供与体である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記複数の求核部位が、-OH、-NH
2、および/または-SH基を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記架橋剤が二官能性架橋剤である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記架橋剤が、ジグリシジルエーテル、ジクロリド、ジブロミド、ジイソシアネート、エピクロロヒドリン、ジアクリレート、ジビニル、および/またはジアルデヒドである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記架橋剤が、ジビニルスルホン、グリセロールジグリシジルエーテル、PEG-ジグリシジルエーテル、およびエピクロロヒドリンからなる群より選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記ポリドナーを精製することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記複数の反応性求核部位を官能化することが、求核付加によって達成される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記複数の反応性求核部位を官能化することが、マイケル付加によって達成される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記高誘電性ポリマーを電気化学的活物質と組み合わせて、ポリマー電解質を形成することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記ポリマー電解質をアノライトまたはカソライトとしてリチウムイオン電池に組み込むことをさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
電気化学電池であって:
第1の電気化学的活物質を含むアノードと、
第2の電気化学的活物質を含むカソードと、
前記アノードまたは前記カソードのいずれかの中に配置された第1の電解質と、
前記アノードと前記カソードとの間に介在する第2の電解質と、
を含み、
前記第1の電解質および前記第2の電解質のうちの少なくとも1つは、10超の誘電率および-30℃未満のガラス転移温度を有する高誘電性ポリマーを含む、電気化学電池。
【請求項14】
前記高誘電性ポリマーの誘電率が20超であり、前記ガラス転移温度が-70℃未満である、請求項13に記載の電気化学電池。
【請求項15】
前記第2の電気化学的活物質がリチウムイオンを含む、請求項13に記載の電気化学電池。
【請求項16】
前記第1の電解質が前記高誘電性ポリマーを含む、請求項15に記載の電気化学電池。
【請求項17】
分岐かつ官能化されたポリマー骨格を含む高誘電性ポリマーであって、前記高誘電性ポリマーが10超の誘電率および-30℃未満のガラス転移温度を有する、高誘電性ポリマー。
【請求項18】
前記高誘電性ポリマーが、ポリドナーの複数の求核部位を官能化することによって生成される、請求項17に記載の高誘電性ポリマー。
【請求項19】
請求項17に記載の高誘電性ポリマーを含有するポリマー電解質を含む電気化学電池。
【請求項20】
前記電気化学電池がリチウムイオン電池である、請求項19に記載の電気化学電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ポリマー電解質に関し、より詳細には、電気化学電池(例えば、リチウムイオン電池)用の高分子量官能化ポリマーに関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池等の非水系電池は、エネルギー密度が高いという特徴を有するため、小型のデバイスおよび携帯用デバイスの用途における電源として広く用いられている。より最近では、そのような電池のエネルギー密度および信頼性は、すべての電動化自動車に使用可能なレベルまで向上している。これらの開発と並行して、安全性を確保することも重要である。
【0003】
現代のLiイオン電池は、典型的には3つの構成要素からなる:(1)正極、(2)負極、および(3)電気絶縁性であるがイオン伝導性の中間層(すなわち、セパレータ)。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
高分子量官能化ポリマーが、関連する使用方法および製造方法とともに本明細書に開示される。本開示の高分子量官能化ポリマーは、比較的高い誘電率(dielectric permittivity)(例えば、10超)、並びに比較的低いガラス転移温度(例えば、-30℃未満)を有する。これらの特性は、ポリマーがリチウムイオン電池などの電気化学電池中のポリマー電解質として使用される場合に特有の利点を示す。例えば、材料の高誘電定数は、イオンの強い解離を可能にし、次に、リチウム塩の高い溶解度をもたらす。
【0005】
ポリマーのガラス転移温度(Tg)は、構造内のポリマー鎖が自由に動き回ることがどれほど容易または困難であるかを示し、したがって、イオンが同構造を通ってどれほど容易に輸送され得るかを示す。非晶質ポリマーのガラス転移温度は、ポリマーが硬くて脆い状態から柔らかくてゴムのような状態に移行する温度を表す。そのため、ポリマーのガラス転移温度を下げることで、セグメント運動が活発になり、導電性が向上する。
【0006】
開示されたポリマー材料において直鎖状ポリマーの代わりに分岐ポリマーを使用することも、分岐が鎖の充填を妨げ(すなわち、妨害し)、ポリマーの結晶化を防止するので、以前のアプローチと比較して有利である。これは、ポリマーのガラス転移温度の低下に起因して、ポリマーが固体ではなく、比較的粘性のある液体のようなポリマーになることで現れる。本開示の高分子量官能化ポリマー(あるいは、本明細書では「高誘電性ポリマー(high dielectric polymers)」とも称される)は、高い誘電率および低いガラス転移温度の両方を有するので、リチウムイオン電池におけるポリマー電解質としての使用に非常に適している。
【0007】
開示された高誘電性ポリマーは、付加重合またはアニオン性開環を利用して生成することができ、多数の残留求核部位(residual nucleophiles)を含有する直鎖状または分岐状のポリマー骨格を生成し得る。次いで、求核置換により、残留求核部位を官能化することができる。マイケル付加は求核置換の適切な方法であるが、より標準的なSN2型求核置換のためにハロゲン化アルキルを使用することも可能である。マイケル付加の場合、第1のステップで生成される、プロトン性求核基(-OH、-SH、-NH2)を含む直鎖状または分岐状のポリマー出発材料は、ポリマーマイケル供与体として作用する。強力な電子求引基(EWG)に結合したα,β-不飽和C=C結合を有する官能基は、マイケル受容体として作用する。供与体と受容体を触媒の存在下で反応させて、マイケル受容体をポリマー出発材料に結合させる。その後、この官能化ポリマーを精製することができる。
【0008】
一態様において、少なくとも3つの求核部位を含有する出発材料を架橋剤と反応させて、ポリドナー(polydonor)を生成するステップであって、ポリドナーが、複数の反応性求核部位を含有する分岐ポリマーである、生成するステップと、ポリドナーの複数の反応性求核部位を官能化して、高誘電性ポリマーを生成するステップと、高誘電性ポリマーを精製するステップとを含む、高誘電性ポリマーを生成する方法が開示される。開示される方法において、出発材料は、ポリアルコール(ポリオール)、ソルビトール、ペンタエリスリトール、イノシトール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、アミノアルコール、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオール、システイン、ジチオスレイトール、他のチオール、および/またはポリエチレンイミンからなる群から選択され得る。これらおよび他の方法において、出発材料はマイケル供与体であってもよい。いくつかの実施形態において、複数の求核部位は、-OH、-NH2、および/または-SH基を含み得る。これらおよび他の実施形態において、架橋剤は、二官能性架橋剤であってもよい。いくつかのそのような実施形態において、架橋剤は、ジグリシジルエーテル、ジクロリド、ジブロミド、ジイソシアネート、エピクロロヒドリン、ジアクリレート、ジビニル、および/またはジアルデヒド(例えば、ジビニルスルホン、グリセロールジグリシジルエーテル、PEG-ジグリシジルエーテル、および/またはエピクロロヒドリン)であってもよい。開示される方法は、必要に応じて、ポリドナーを精製することをさらに含み得る。これらおよび他の実施形態において、複数の反応性求核部位を官能化することは、求核付加によって達成され得る。選択された実施形態において、複数の反応性求核部位を官能化することは、マイケル付加によって達成され得る。方法はまた、高誘電性ポリマーを電気化学的活物質(electrochemically active material)と組み合わせて、ポリマー電解質を形成することを含み得る。いくつかのそのような実施形態において、方法はまた、アノライト(anolyte)またはカソライト(catholyte)として、ポリマー電解質をリチウムイオン電池に組み込むステップを含んでもよい。
【0009】
別の態様において、第1の電気化学的活物質を有するアノードと、第2の電気化学的活物質を有するカソードと、アノードまたはカソードのいずれかに配置される第1の電解質と、アノードとカソードとの間に介在する第2の電解質とを含む電気化学電池が開示される。第1の電解質および第2の電解質のうちの少なくとも1つは、10を上回る誘電率および-30℃未満のガラス転移温度を有する、高誘電性ポリマーを含む。いくつかのそのような実施形態において、高誘電性ポリマーの誘電率は20超であり、ガラス転移温度は-70℃未満である。これらおよび他の実施形態において、第2の電気化学的活物質はリチウムイオンを含む。いくつかのそのような実施形態において、第1の電解質は、高誘電性ポリマーを含んでもよい。
【0010】
さらに別の態様において、分岐状の官能化ポリマー骨格を含む高誘電性ポリマーが開示され、同高誘電性ポリマーは、10超の誘電率および-30℃未満のガラス転移温度を有する。高誘電性ポリマーは、いくつかの実施形態において、ポリドナーの複数の求核部位を官能化することによって生成され得る。本開示の高誘電性ポリマーを含有するポリマー電解質を含む電気化学電池を形成することができる。いくつかのそのような実施形態において、電気化学電池は、リチウムイオン電池であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本開示に従って構成されたポリマー電解質を形成する例示的な方法を示す。
【
図2】本開示の実施形態に従って構成された高誘電性ポリマーを形成する化学反応スキームの一例を示す。
【
図3】本明細書に開示されるようなポリドナーを形成する例示的反応スキームを示す。
【
図4】開示される方法に従って使用され得る種々の二官能性架橋剤についての例示的な化学反応スキームを示す。
【
図5】開始分子としてn-ブタノールおよびモノマーとしてグリシドールを使用する、超分岐ポリグリセロールの生成のための例示的な化学反応スキームを示す。
【
図6】アルコールとアミンとの間のマイケル付加を示す。
【
図7】種々の受容体での第一級アルコールへのマイケル付加を示す。
【
図8】求核基とハロゲン化アルキルとの間の求核付加の例を示す。
【
図9A】実施例1で得られた高誘電性ポリマーの化学構造を示す図である。
【
図9B】
図9Aの高誘電性ポリマーの示差走査熱量測定(DSC)曲線を示す。
【
図9C】
図9Aの高誘電性ポリマーのFTIRスペクトルを示す。
【
図10】実施例5のポリドナーを生成するための化学的反応スキームを示す。
【
図11】実施例7のポリドナーを生成するための化学的反応スキームを示す。
【
図12】実施例8の高誘電性ポリマー電解質を含有する複合カソード電極の断面顕微鏡写真画像を示す。
【
図13】実施例8に記載され、
図12に示される複合カソード電極を使用するカソード半電池の例示的なサイクル挙動を示す図である。
【
図14】実施例1の高誘電性ポリマーおよび実施例7に記載されるポリドナーから生成された高誘電性ポリマーについて測定された誘電率のチャートを示す。
【
図15】実施例1のポリマーから生成されたポリマー電解質の2つの異なる塩について、塩濃度の関数として測定されたイオン伝導度のチャートを示す。
【
図16】40重量%のLiTFSIを含有するポリマー電解質にした場合の、実施例1に記載された高誘電性ポリマーの測定された導電率のチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
開示されたシステムが関連する技術分野の当業者が、それを作成し使用する方法をより容易に理解するように、以下の図面を参照することができる。
再充電可能なリチウムイオン電池(ならびに他のタイプの電気化学電池)のための以前の、および現在の電解質は、重大な欠点を有する。従来の液体電解質、ポリマー電解質、およびセラミック電解質の具体的な欠点は、以下に詳細に議論され、続いて、本開示の高誘電性ポリマーならびに関連する製造方法および使用方法の完全な説明がなされる。
【0013】
正極は、単結晶または微粒子状の1種類以上の正極活物質を、電気化学的に不活性だが電子伝導性の材料、ポリマーバインダー、溶媒と混合してスラリーにしたものを用いるのが一般的であったが、これに限定されるものではない。次いで、スラリーを、アルミニウム箔などであるがこれに限定されない適切な基材の両面上にコーティングした。次いで、コーティングされた基材を乾燥させて溶媒を除去した。その後、電極を緻密化するために、通常、コーティングされたままの基板をローラーの間に通すことによって、アセンブリをカレンダー処理した。
【0014】
負極を製造するためのプロセスは同様であったが、負極活物質と、銅箔などであるがこれに限定されない異なる基材とを用いた。設計上、組み立てられたままの電極は、所望のエネルギー密度を提供しながら非水電解質との接触を可能にする、一定の多孔性、平均細孔径、細孔径分布を有する。電極は、予め設計された多孔性および細孔特性を有する、電子的に絶縁性であるがイオン伝導性の膜であるセパレータによって分離され、細孔空間は、溶解されたリチウム塩を含有する液体有機溶媒で充填される。有機溶媒とリチウム塩との混合物は、電解質として知られており、正極および負極への、および正極および負極からのリチウムイオンの輸送に必要である。セパレータは、2つ以上の層を有してもよい。これは、典型的には、熱暴走(thermal runaway)(電池の壊滅的な故障の一種)の温度よりも十分に低い温度で溶融し、溶融中にその細孔を閉鎖することによって電気化学反応を停止させることができるポリオレフィン層を含む。残念ながら、これらの膜の寸法安定性は不十分であり、高温で収縮する可能性があるため、正極と負極が物理的に接触する可能性がある。これは、壊滅的な熱暴走事象につながる短絡を生じさせる。この不具合を軽減するために、1つまたは2つの耐熱層がシャットダウン層に取り付けられる。耐熱層は、バインダーと、通常0.2~2.0ミクロン(0.2~2.0μm)の範囲にあるがこれに限定されない、Al2O3、SiO2、またはTiO2(これらに限定されない)を含み、組み立てられたセパレータ層の収縮を、電池の電極が互いに接触することができない量まで最小限に抑えることができる濃度で存在する耐熱性微粒子とからなる。
【0015】
Liイオン電池に使用される従来の電解質は、限定されるものではないが、エチレンカーボネートのような環状カーボネート、およびジエチルカーボネートのような直鎖カーボネートなどの非常に可燃性の液体の混合物を含有し、これは、電池が短絡し、過充電され、過熱され、または何らかの他の不具合を経験した場合に熱暴走事象をもたらす可能性がある。電解質の可燃性およびLiイオン電池の一般的な安全性は、正極(通常、ある種のリチウム含有遷移金属酸化物であるが、これに限定されない)の存在によって悪化する。これらの遷移金属酸化物は固体酸素源として機能し、加熱されると酸素を放出するため、空気がもはや供給されなくなってもリチウムイオン電池の燃焼を続けることができる。
【0016】
これらの安全性の問題を克服するために、研究者らは、従来の可燃性液体電解質を熱的に頑強なポリマー電解質およびセラミック電解質で置き換えることに注目してきた。セラミック電解質は、10-3~10-2S/cmのオーダーの高い固有導電率を提供するが、高い処理温度を必要とし、空気/水分に対して非常に敏感であり、多くの場合、脆くて剛性であり、正極および負極との界面接触の問題をもたらす。ポリマー電解質は70年代から研究されており、ポリエチレンオキシド(PEO)が圧倒的に最も研究されている。しかしながら、PEOは常温での導電率が比較的低いという問題を抱えており、ほとんどのPEO-塩配合物は、室温でわずか10-6~10-4S/cmの導電率に達し、>60℃の温度でのみ有意な導電率を示す。これは、部分的には、PEO内のLi+輸送の性質に起因する。約6~7の比較的低い誘電率を有するPEOは、4つのエーテルが中心のLi+の周りに巻き付けられた、Li+との強力なキレート化錯体の形成に依存する。このキレート化構造は、系内でのLi+の転移数を比較的低くするため、測定された導電率の大部分は、電池の性能に有意に寄与しない、アニオン輸送によるものである。このキレート化構造はまた、Li+の鎖間輸送が鎖内輸送よりも支配的になることをもたらす。したがって、PEOにおけるLi+の輸送は、主として、鎖内のセグメント(またはセグメント化された)運動を介するので、有用な導電率を達成するために高温を必要とする。所与の温度でセグメント運動の量を増加させるための1つの方法は、ポリマーのガラス転移温度を下げることである。これは、ポリマーの分子量を減少させることによって、または分岐ポリマー構造を作製することによって、ある程度達成することができる。高い分岐度を有するポリマーは、一般に、あまり効率的に充填されず(すなわち、より過剰な自由体積、およびより低い密度を有する)、その結果、それらの直鎖状の対応物よりも低いガラス転移温度を有する。直鎖の代わりに分岐構造を使用すると、ポリマーゲル電解質(ポリマーゲルは、溶解したリチウム塩を含有する小分子液体で膨潤したポリマーマトリックスからなる)の導電性を効果的に増加させることができ、分岐の程度が高いほど、より良好な導電性を示す。
【0017】
電池電解質用の溶媒の1つの重要な態様は、高度のイオン解離を促進するべく、比較的高い誘電率を有するべきであるということであり、それは高い導電性を可能にする。エチレンカーボネート(ε≒90)、プロピレンカーボネート(ε≒64)、およびアセトニトリル(ε≒36)などの標準的な有機溶媒は、PEOよりも6~15倍高い誘電定数を有する。ポリマー電解質が実際の用途のために十分な導電性に達するためには、誘電率は>10、好ましくは>20であるべきであり、誘電率はイオンホッピング速度のオーダーの周波数、すなわち>106Hzで高いままであることが提案されている。ポリマーで高い誘電率を達成するために、高い双極子モーメントを含有する官能基を組み込むことができ、より高い周波数で高い誘電率を維持するために相対的に高い移動度を持つべきである。分子動力学シミュレーションを通して、高い双極子官能基の密度の最適なバランスが存在し、これは、ポリマーの過剰な双極子-双極子相互作用(これは、低い自由体積およびより高い周波数での誘電率の低下をもたらす)を伴わずに、多量のイオン対解離を可能にすることが実証されている。
【0018】
安全性の改善に加えて、バルクポリマー電解質の開発は、新しい電極の加工および製造方法を可能にする。ポリマーは溶融状態で利用することができるので、電極は、押出などの無溶媒プロセスで製造することができる。これは、簡略化された電極製造方法を可能にし、製造コストを下げる。いくつかの態様において、本開示は、>10、多くの実施形態では>20の誘電率を有し、関連する周波数および温度でこの高い誘電率を維持するポリマーを提供する。他の態様において、本開示は、これらのポリマーを電極および二次Liイオン電池に製造するための方法を提供する。
【0019】
定義
本明細書で使用される以下の用語は、慣用的な意味が本明細書で提供される定義と矛盾しない限り、以下に記載される意味ならびにそれらの慣用的な技術的意味を有するものと理解されるべきである。
【0020】
ポリマー-互いに共有結合したいくつかの繰り返し単位からなる分子。本明細書では、マイケル供与体と架橋剤との反応生成物(ポリドナーにおいて以下に定義される)およびマイケル受容体とポリドナーとの反応生成物(以下に定義される)を参照するために使用される。
【0021】
マイケル付加-マイケル供与体とマイケル受容体との間の共役付加反応。
マイケル供与体-プロトン化された求核基(nucleophile)またはカルバニオンを含有する任意の分子。求核基の例としては、アルコール(-OH)、アミン(-NH2、-NH-)、およびチオール(-SH)が挙げられる。他の求核基としては、-PHxO3-x(式中、0≦x<4)、ならびにマロネート(malonates)およびニトロアルカンなどの活性メチレンが含まれる。
【0022】
マイケル受容体-強力な電子求引基が結合したα,β-不飽和炭素を含有する任意の分子。電子求引性基に対するαおよびβ炭素の両方は、非置換であってもよいが、これは厳密には必要ではなく、より好ましい立体配置のために、より速く、より効率的な反応を可能にするのみである。
【0023】
架橋剤-マイケル供与体と反応してオリゴマーおよびポリマーを生成することができる任意の二官能性分子。架橋剤の例としては、限定されるものではないが、ジグリシジルエーテル、ジハロゲン化有機化合物、ジイソシアネート、ジビニルおよびジアクリレートが挙げられる。
【0024】
触媒-架橋剤とマイケル供与体との反応速度、またはマイケル供与体の求核基とマイケル受容体との反応速度を高めるために使用される任意の分子またはエネルギー源。使用することができる塩基の例としては、水酸化リチウム(LiOH)、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)、炭酸セシウム(Cs2CO3)、炭酸カリウム(K2CO3)、リチウムメトキシド(LiOMe)、リチウムtert-ブトキシド(LiOt-Bu)、カリウムtert-ブトキシド(KOt-Bu)が挙げられる。しかしながら、ビストリフリミド酸(bistriflimidic acid)(HTFSI)、テトラフルオロホウ酸(HBF4)、ヘキサフルオロリン酸(HPF6)、トリフリック酸(HOTf)などの強ブレンステッド酸、ならびに強ルイス酸もまた、マイケル付加のための効率的な触媒であることが示されており、使用することもできる。紫外線放射、赤外線放射、および/または熱もまた、本明細書において説明される任意の好適な化学反応のための触媒として使用されてもよい。
【0025】
ポリドナー-1つ以上のマイケル供与体と1つ以上の上記で定義した架橋剤とのポリマー反応生成物。
高誘電性ポリマー-ポリドナーと1つ以上のマイケル受容体との精製されたポリマー反応生成物。
【0026】
塩-イオン結合した2つ以上の部分を含み、適切な溶媒によって解離することができる化合物。
ポリマー電解質-1つ以上の高誘電性ポリマーと、1つ以上のリチウム塩との混合物であり、1つ以上の添加剤が存在してもしなくてもよい。
【0027】
添加剤-生成されたポリマー電解質および電池のより望ましい特性を得るために(例えば、加工性、機械的特性を改善するために、または電気化学的性能のために)10重量%未満の量でポリマー電解質に添加される任意の化合物。
【0028】
可塑剤-高誘電性ポリマーおよび/またはポリマー電解質の粘度および/またはガラス転移温度を低下させるように作用する添加剤のサブクラス。
共溶媒-塩の所与の負荷に対して、高誘電性ポリマーが塩を完全に解離することができない場合に、リチウム塩の解離を促進するために使用される添加剤のサブクラス。
【0029】
高誘電性ポリマーを形成する方法:
前述のように、本開示は、独特の高誘電性ポリマー、ならびに電気化学電池(例えば、リチウムイオン電池)において高誘電性ポリマーを使用する方法を記載する。
図1は、本開示の様々な実施形態に従って高誘電性ポリマーを製造する例示的な方法を示す。
【0030】
図1に示されるように、方法100は、出発材料を架橋剤と反応させてポリドナーを生成することを含む(ブロック102)。出発材料は、3つ以上の反応性求核部位を有する任意の化合物であり得る。いくつかの実施形態において、出発材料はマイケル供与体分子であってもよい。選択された実施形態において、出発材料は、ソルビトール、ペンタエリスリトール、イノシトール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、または他のポリオールなどの多価アルコール(ポリオール)、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオール、または他のアミノアルコール、システイン、ジチオスレイトール、他のチオール、および/またはポリエチレンイミン、であってもよい。架橋剤は、任意の好適な種類の二官能性分子(すなわち、出発材料の求核部位と反応性)であってもよい。例示的な架橋剤としては、限定されるものではないが、ジグリシジルエーテル、ジクロリド、ジブロミド、ジイソシアネート、エピクロロヒドリン、ジアクリレート、ジビニル、および/またはジアルデヒドが挙げられる。
【0031】
出発材料と架橋剤との反応を完了させるために(ブロック102)、水酸化カリウム(KOH)、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化リチウム(LiOH)、炭酸カリウム(K2CO3)、炭酸セシウム(Cs2CO3)、トリエチルアミン(TEA)、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン(DBU)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化バリウム(BaO)、または酸化アルミニウム(Al2O3)などの触媒を用いて、または用いずに、出発材料を適切な溶媒に溶解させる。
【0032】
架橋剤は、激しく撹拌しながら、反応に適した温度で出発材料混合物に滴下して加えることができる。架橋剤を出発材料溶液に滴加することにより、常に過剰の出発材料(例えば、マイケル供与体)が存在し、その結果、統計的に、架橋剤の各反応性基が2つの異なる出発材料分子と反応することが確実になる。出発材料の激しく混合している溶液に架橋剤を滴下すると、オリゴマーが形成され、最終的に連結し始め、ポリマーを形成する。オリゴマーおよびポリマーは多数の残留(residual)反応性部位を含有するので、付加重合はランダムに分岐したポリマー構造をもたらすであろう。出発材料、架橋剤、および温度に依存して、触媒は、反応を進行させるために必要であってもなくてもよく、または所望されてもされなくてもよい。さらに、塩化物および臭化物などの特定の架橋剤の場合、NaOHまたはトリエチルアミンなどの化合物は、塩化物/臭化物とマイケル供与体との反応から生成されるHClおよびHBrを中和または捕捉するために、塩化物/臭化物濃度に対して少なくとも等モル比で存在すべきである。反応は、架橋剤の全ての反応性基が反応したことを確実にするのに十分な時間進行させる。このステップで生成されるポリマーは、ポリドナーと称される(使用されるマイケル供与体出発材料のポリマーバージョンであるため)。
【0033】
分岐ポリドナーを生成するための付加重合に代わる方法は、グリシドール、修飾グリシジルエーテル、オキシラン、オキセタン、およびそれらの混合物のアニオン開環重合によるものである。これらの実施形態において、超分岐(hyperbranched)ポリドナーの調製は、1つ以上のアルコール、アミン(一級または二級)、またはチオールを含有するシーディングモノマーを使用し、続いてリチウムメトキシド等の強塩基を添加し、続いてグリシドールを添加して行われる。グリシドールの環構造は、脱プロトン化された求核基と反応し、開環して炭素-求核基結合を形成し、第二級および第一級アルコールを同時に生成する。次いで、この反応から生成される第一級および第二級アルコールは、より多くのグリシドールが反応するための2つの新たな求核部位を提供する。このプロセスは、多数の残留求核基を有する超分岐ポリエーテル構造をもたらす。得られる超分岐ポリマーの分子量は、グリシドール、オキシラン、およびオキセタンに対するシーディングモノマーの比を変化させることによって制御することができる。グリシドール、オキシランおよびオキセタンに対するシーディングモノマーの比が低いほど、生成されるポリマーの分子量は大きくなる。
【0034】
このようにして生成される分岐ポリドナーの典型的な例は、超分岐ポリグリセロール(HPG)である。HPGは、ブタノール、エタンジオール、トリス(ヒドロキシメチル)プロパンなどの様々なシーディングモノマーの存在下でグリシドールのアニオン性開環重合を介して生成される。これは、構造中に様々な分岐度および高密度のアルコールを有するHPGをもたらす。グリシドールを、水酸化物などの求核基を含有しないオキシランまたはオキセタンと共重合させることによって、構造中の求核基の最終濃度を調整することが可能であり、その結果、最終的な高誘電性ポリマー中の官能化された高誘電性基の最終濃度を制御することが可能である。
【0035】
ポリドナー骨格が生成された後、それを精製することができる(ブロック104)。本明細書中で議論され、そして
図1に示されるが、ポリドナーの精製は、必ずしも必要ではないかもしれない。精製は、ポリドナーの生成に使用される反応溶媒または触媒が官能化ステップ(ブロック106)に適していない場合に有利であり得る。ポリドナー合成(ブロック102)のための溶媒および触媒の両方が、官能化ステップ(ブロック106)に好適である場合、ポリドナーの精製(ブロック104)を回避して、ステップの数を最小化し、収率を最大化することができる。
【0036】
実施される場合、ポリドナーの精製(ブロック104)は、通常、(1)塩基触媒を中和すること、(2)溶媒を除去すること、および(3)任意の非ポリマー化合物(例えば、中和からの塩、反応からのオリゴマー、または残留モノマー)を除去することによって達成することができる。処理を容易にするために、ポリドナーを溶媒に再溶解させることができるが、これは厳密には必要ではない。
【0037】
方法100は、続いて、ポリドナーの求核部位を官能化する(ブロック106)。いくつかの実施形態において、ポリドナーの求核部位は、1つ以上のマイケル受容体とのマイケル付加を介して官能化され得る。マイケル受容体には、限定されるものではないが、アクリロニトリル、2-スルホレン、メチルビニルスルホン、エチルビニルスルホン、フマロニトリル、エテンスルホニルフルオリド、N-メチルマレイミド、ビニルホスホン酸、ジメチルビニルホスホネート、メチレンフルタロニトリル(methyleneflutaronitrile)、リチウムビニルスルホネート、およびメチルビニルエーテルが挙げられる。マイケル受容体は、より一般的には、電子求引基が結合したα,β-不飽和炭素結合を含む化合物である。
【0038】
出発材料と架橋剤との反応(ブロック102)と同様に、ポリドナーの求核部位の官能化反応(ブロック106)を進行させるために、塩基触媒が必要な場合も必要でない場合もある。触媒は、活性求核基がアルコールまたはチオールである場合に有用であり得る。反応のために触媒が使用される場合、最初に塩基性触媒がポリドナーに添加され、完全に混合される。次いで、ポリドナー-触媒混合物を、マイケル受容体の溶液に滴下し、マイケル受容体は、ポリドナー中に存在する求核部位のモル数に対して1.2~10倍過剰のモル比で存在する。激しく撹拌しながらポリドナーを過剰のマイケル受容体に滴加することは、ポリドナーの求核部位が迅速に反応することを確実にするので有利であり得る。しかしながら、この反応は、ポリドナーと触媒とを激しく混合した溶液にマイケル受容体を滴下することによっても行うことができる。
【0039】
ポリドナーの官能化反応(ブロック106)は、周囲温度で実施することができる。しかしながら、他の実施形態において、反応は、与えられたポリドナー、触媒、およびマイケル受容体の反応性に応じて、周囲温度未満に冷却されたとき、または周囲温度を超えて加熱されたときに進行する。例えば、マイケル受容体としてアクリロニトリルを使用し、塩基触媒としてNaOHを使用する場合、OH-アニオンによるアクリロニトリルのアニオン攻撃を回避するために、反応温度を<30℃に維持することが好ましい。ジメチルスルホキシド(DMSO)などの非プロトン性溶媒を用い、マイケル受容体としてアクリロニトリルを用いる高極性の場合、過剰のアクリロニトリルの暴走反応を回避するために、積極的に冷却しながら温度を周囲温度未満に維持することが好ましい。温度を慎重に制御しない場合、または多すぎる触媒を使用する場合、触媒とマイケル受容体との間の過剰な副反応のために、重合溶液が変色する可能性がある。ポリドナーおよびマイケル受容体が完全に結合したら、反応を完了まで進行させる。マイケル受容体で官能化されたポリドナーからなる最終生成物は、高誘電性ポリマーと呼ばれる。
【0040】
触媒を使用して高誘電性ポリマーを生成する場合、等モル量の酸を添加して系を中和することができる。中和後、任意の溶媒および残留したマイケル受容体は除去されてもよい。次いで、高誘電性ポリマーを精製することができる(ブロック108)。高誘電性ポリマーを精製するために、高誘電性ポリマーを溶媒に再溶解すること、および中和からの残留塩および反応の任意の副生成物を除去することを含む、様々な精製技術を使用することができる。この最初の精製が完了した後、最終的な精製は、溶媒を除去し、高誘電性ポリマーを無水溶媒中に再溶解し、そして乾燥剤(例えば、MgSO4、Na2SO4、CaH2、または分子ふるいであるが、これらに限定されない)を添加して、水分含有量を100ppm未満、好ましくは20ppm未満、そしてより好ましくは2ppm未満に低下させることによって実施され得る。一旦乾燥されると、溶媒は、高誘電性ポリマーから除去されてもよく、またはさらなる処理を容易にするためにそのまま残されてもよい。
【0041】
ポリドナーは、マイケル付加以外の方法によって官能化(ブロック106)されてもよいことに留意することが重要である。例えば、いくつかの実施形態において、ポリドナーは、ハロゲン化アルキルを使用する求核置換を介して官能化され得る。このプロセスは、塩基触媒が使用されるという点でマイケル付加に類似するが、添加されるハロゲン化アルキルに対して少なくとも等モル量の塩基の使用を必要とする。このプロセスに好適なハロゲン化アルキルとしては、限定されるものではないが、4-ブロモブチロニトリル、3-ブロモプロピオニトリル、4-クロロプロピオニトリル、1-ブロモ-2-(メチルスルホニル)エタン、および1-ブロモ-2-(メチルスルホニル)プロパンが挙げられる。この官能化を実行するために、ポリドナーは、アセトニトリル(ACN)、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、ジオキソラン、ジメチルスルフォキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、または別の好適な溶媒等の非プロトン性溶媒中に最初に溶解される。次に、使用されるハロゲン化アルキルと等モル量の塩基を添加する。適切な塩基としては、限定されるものではないが、アルカリ金属炭酸塩(例えば、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム)、アルカリ金属水酸化物(例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム)、アルカリアルコキシド(例えば、リチウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムテルブトキシド)、または第三級アミン(例えば、トリエチルアミン(TEA))が挙げられる。他の適切な塩基としては、リチウムジイソプロピルアミド(LDA)、水素化リチウム、および水素化ナトリウムが挙げられる。ポリドナーおよび塩基を含有する溶液に、ハロゲン化アルキルを添加し、反応させる。この反応の生成物は、高誘電性ポリマーおよび利用されたハロゲン化物と塩基との塩である。例えば、TEAが塩基として使用され、3-ブロモプロピオニトリルがハロゲン化アルキルとして使用される場合、副生成物は臭化トリエチルアンモニウム、すなわちトリエチルアミンの臭素塩である。ポリドナーがハロゲン化アルキルの求核付加を介して官能化されて高誘電性ポリマーが生成されたら、過剰のハロゲン化物塩を完全に除去することを確実にするように特別に注意を払いながら、それを精製することができる(ブロック108)。
【0042】
方法100によって生成される高誘電性ポリマーは、他のポリマーと比較して特有の特徴を有し得る。例えば、いくつかの実施形態において、開示される高誘電性ポリマーは、10を超える、いくつかの実施形態においては、20、25、30、35、40、45、または50を超える誘電率を有し得る。これらおよび他の実施形態において、本開示の高誘電性ポリマーは、-30℃未満、例えば、-70℃、-80℃、-90℃、または-100℃未満のガラス転移温度(Tg)を有し得る。比較的低いガラス転移温度も有する高誘電性ポリマーは、従来の電解質と比較して、ポリマー電解質として有意義な利点を提供することができる。
【0043】
図2は、
図1の方法100を用いて高誘電性ポリマーが生成される化学反応スキームを示す。特に、
図2は、分岐ポリドナーを形成するためのソルビトール(出発材料)とブタンジオールジグリシジルエーテル(架橋剤)との反応、続いて高誘電性ポリマーを形成するためのアクリロニトリルでのマイケル付加官能化を示す。
図3は、ジペンタエリスリトール(出発材料)とジビニルスルホン(架橋剤)との反応を介してポリドナーを形成する例示的な反応スキームを示す。ポリドナー生成物は直鎖状で示されているが、実際には、第一級アルコールの全てがジビニルスルホンと等しく反応する可能性があるので、構造はランダムに分岐している。
【0044】
図4は、種々の二官能性架橋剤についての化学反応スキームを示す。特に、ジグリシジルエーテル、ジクロリド(アルコール供与体)、ジクロリド(アミン供与体)、ジイソシアネート(アルコール供与体)、ジイソシアネート(アミン供与体)、ジビニルおよびジアクリレートが
図4に示されている。
図4で使用されるように、「X」は任意のコア分子構造を表し、「R」は任意のドナー分子を表す。
図5は、開始分子としてn-ブタノールおよびモノマーとしてグリシドールを使用する、超分岐ポリグリセロールの生成のための例示的な反応を示す。
図5の最終ポリマーの分子量は、グリシドールに対する開始分子の比によって決定される。
図6は、アルコール,-OH(この反応は、チオール,-SHが使用された場合と等価であることに留意されたい)とアミン.-NH
2との間のマイケル付加を示す。
【0045】
図7は、種々の受容体による第一級アルコールへのマイケル付加を示す。特に、
図7は、フマロニトリル、2-スルホレン、炭酸ビニレン、およびビニルスルホン酸リチウムの反応を示す。
【0046】
図8は、求核基(-OH、-SH、NH
2)とハロゲン化アルキル(臭化アルキル)との間の求核付加の例を示す。
ポリマー電解質の生成方法:
本開示の高誘電性ポリマーからポリマー電解質を生成するために、高誘電性ポリマーは、1つ以上のリチウム塩、および任意に1つ以上の添加剤と混合される。例示的なリチウム塩としては、限定されるものではないが、以下が挙げられる:六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF
4)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)、リチウムビス(オキサラト)ボラート(LiBOB)、ジフルオロ(オキサラト)ホウ酸リチウム(LiDFOB)、ジフルオロリン酸リチウム(LiDFP)、リチウムトリフラート(LiOTf)、硝酸リチウム(LiNO
3)。高誘電性ポリマーに対するリチウム塩濃度の標準的な範囲は、塩の溶解度および最終混合物の性能に応じて、5~40重量%である。ポリマー・イン・ソルト(Polymer-in-salt)電解質は、塩濃度を>50重量%に増加させることによっても生成することができる。例えば、LiFSIは、いくつかの高誘電性ポリマーに少なくとも75重量%まで可溶である。これらのポリマー・イン・ソルト混合物におけるイオン伝導の性質は、標準的なポリマー電解質におけるものとは異なると予想される。
【0047】
リチウム塩とは別に、添加剤を高誘電性ポリマーに添加して、より高い導電性、電池のより安定なサイクルを得ることができ、生成された電極の機械的特性を向上させることができ、安全性を向上させることができ、可燃性を低下させることができ、および/または下流の処理を容易にするより望ましいレオロジー特性を提供することもできる。例えば、トリエチルホスフェートを添加すると、可燃性を低下させることができると同時に、電解質の導電性も高めることができる。炭酸ジメチル(低沸点、低誘電性、高揮発性溶媒)の添加は、粘度を低下させて、電極のスラリーコーティング中のより良好なフィルム形成を可能にするために使用することができ、後に熱で容易に除去することができる。ヒュームドシリカの添加は、ポリマー電解質の粘度および剛性を増加させるために使用することができ、電極混合物のカレンダー加工を容易にする。
【0048】
開示されたポリマー電解質は、必要に応じて、電気化学電池に組み込むことができる。ポリマー電解質は、電極、独立型誘電体において、または電極間に挿入される非電気化学的活性電解質として使用され得る。リチウムイオン電池において、ポリマー電解質は、アノード、カソードにおいて、および/またはアノード電極とカソード電極との間に介在する独立型の誘電性の非電気化学的活性電解質として使用されてもよい。独立型の誘電性の非電気化学的活性電解質は、加熱し、積層プロセスなどを用いてポリマー電極をアノードまたはカソードに付着させることによって、アノードまたはカソード上に熱成形することができる。他の実施形態において、ポリマー電解質は、共押出プロセスによってアノードまたはカソードに接合されてもよい。ポリマー電解質がアノライトまたはカソライトとして使用される実施形態において、ポリマー電解質は、当業者に公知の従来の技法を使用して、集電体に積層することができる。
【0049】
リチウム塩は、ポリマーがLiイオン電池において電解質として機能するために使用されてもよく、「LiA」として一般化することができ、ここで、Aは任意のアニオン種を表す。これらの塩は、電池性能に最適な特性を得るために、任意の適切な量(例えば、25重量%~50重量%)で添加することができる。
【0050】
ポリマーのイオン伝導性をさらに改善し、活物質表面を不動態化し、安全性を高め、または加工に必要な特定のレオロジー特性を得るために、添加剤を使用することができる。これらの添加剤としては、限定されるものではないが、ポリマーのオリゴマー(短鎖ポリマー、一般に10マー単位未満)バージョン、小分子添加剤(ジエチルカーボネート、スルホラン、ピバロニトリル、エチレンカーボネート、ホスファゼン、トリエチルホスフェートなど)、およびセラミック粉末(ヒュームドシリカ、ナノリチウムランタンジルコネート(LLZO)、ナノアルミナ)が挙げられる。本明細書に詳細に記載されるように、ポリマー電解質という用語は、前述のポリマー、リチウム塩(複数可)、および存在する任意の添加剤(複数可)の混合物を指す。
【0051】
このようにして生成されたポリマー電解質は、次に、活物質(active material)、導電性添加剤、および必要な場合または所望の場合にはバインダー材料と混合することができる。次いで、この混合物を処理して、電極(正極または負極のいずれか)になる薄いフィルム状構造体を生成することができる。フィルムが生成されると、集電体として機能する金属基板に適用されてもよい。
【0052】
いくつかの態様において、本明細書に記載の高誘電性ポリマーを含有するポリマー電解質を含む電気化学電池が開示される。いくつかの実施形態において、電気化学電池はリチウムイオン電池である。電気化学電池は、第1の電気化学的活物質を含むアノードと、第2の電気化学的活物質を含むカソードと、アノードまたはカソードのいずれかの内部に配置される第1の電解質と、アノードとカソードとの間に介在する第2の電解質とを含むことができる。いくつかのそのような実施形態において、第1の電解質および第2の電解質のうちの少なくとも1つは、本明細書に記載されるような高誘電性ポリマー(例えば、10を上回る誘電率および-30℃未満のガラス転移温度を有する高誘電性ポリマー)を含んでもよい。これらおよび他の実施形態において、高誘電性ポリマーの誘電率は20超であってもよく、ガラス転移温度は-70℃未満であってもよい。第2の電気化学的活物質は、いくつかの実施形態において、リチウムイオンを含み得る。これらおよび他の実施形態において、第1の電解質は、高誘電性ポリマーを含んでもよい。
【実施例】
【0053】
実施例1:高誘電性ポリマーの調製:
500mLの丸底フラスコに、磁気撹拌ビーズを添加した。次に、20.0g(110mmol)のソルビトール、3.25g(10mmol)の炭酸セシウム、および100.0gのジメチルホルムアミド(DMF)をフラスコに加えた。次いで、フラスコをシリコーン製セプタムストッパーで蓋をし、加熱した撹拌プレート上の油浴中に置いた。温度プローブを加熱した撹拌プレートに接続し、油中に沈めた。温度を100℃に設定し、撹拌を600rpmに設定した。2本のステンレス鋼針(20ゲージ)を使用して、セプタムストッパーを穿刺した。針の1つをシュレンクラインに接続し、丸底フラスコのヘッドスペースを1時間当たり1標準立方フィート(SCFH)(0.42L/分)の速度にて窒素ガスでパージするために使用した。第2の針はリリーフとして作用し、圧力の蓄積を防止した。ソルビトール、炭酸セシウム、DMFの混合物を1時間混合した。
【0054】
一方、50mLの丸底フラスコに、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(Mn=400)の48.3g(分析証明書(COA)に供給されたエポキシド数に基づいて109mmol)を充填し、シリコーン製セプタムストッパーで蓋をした。シリコーン製セプタムストッパーを2本の針で穿刺した。一方の針はフラスコの圧力均一化のために使用し、他方の針は、フラスコの底にキャピラリーチューブを挿入するために使用し、次いで内径1/16インチ(1.59mm)、外径1/8インチ(3.18mm)の蠕動ポンプチューブに接続し、Ismatec(登録商標) Regloコンパクトカセットポンプに接続した。チューブの他端を、針を介して、ソルビトール、炭酸セシウム、DMF混合物を含有するフラスコに接続した。次いで、蠕動ポンプを2rpmに設定し、一晩または14~24時間作動させた。その後、全ての針およびチューブを取り外し、DMF中のポリドナーを含有するフラスコを熱から取り出した。シリコーン製ストッパーをフラスコから取り外し、PTFEスリーブを挿入した。次いで、フラスコを、バンプトラップを備えたロータリーエバポレーターに接続し、全てのDMFを混合物から除去した。
【0055】
生成物は、ポリドナーと炭酸セシウムとの混合物であった。次に、この混合物を10.0gのメタノールおよび60.0gのテトラヒドロフランに溶解し、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテルについて記載したのと同じ方法で蠕動ポンプに接続した。第2の500mLフラスコに、磁気撹拌ビーズを200gのアクリロニトリルと共に添加し、次いでシリコーン製セプタムストッパーで蓋をした。次いで、アクリロニトリルを含有するフラスコを35℃の油浴に入れた。次いで、MeOH/THFに溶解したポリドナー、炭酸セシウムを、蠕動ポンプを介して15rpmで添加した。完全に添加したら、反応を一晩継続させた。
【0056】
完了したら、沈殿した炭酸セシウムを濾別し、1M HClを使用して混合物を中性にした。残留溶媒、THF、アクリロニトリルを、先に使用したのと同じ方法で回転蒸発により除去した。全ての溶媒を除去した後、CsCl塩が沈殿するのが認められた。次いで、高誘電性ポリマーを過剰のアセトンに溶解し、遠心分離してCsClを除去した。次いで、アセトンを回転蒸発により除去した。
【0057】
得られた高誘電性ポリマーを乾燥室に移し、アセトニトリル中に約50重量%まで溶解し、数グラムのMgSO
4を添加し、混合して乾燥剤として作用させた。混合物を遠心分離して、溶液からMgSO
4を分離した。ポリマーアセトニトリル溶液をMgSO
4からデカントした。試料を乾燥させてアセトニトリルを除去し、FTIRを用いて構造を確認し、Keysight E4980AL精密LCRメーターを用いて10
2~10
6Hzの範囲で誘電定数(dielectric constant)を測定した。1MHzで、誘電定数は33.22であった。示差走査熱量測定を使用してガラス転移温度を決定し、約-50℃であることが分かった。
図9Aは、本実施例で得られた高誘電性ポリマーの化学構造を示し、
図9Bは、高誘電性ポリマーの示差走査熱量測定(DSC)曲線を示す。
図9Cは、高誘電性ポリマーのFTIRスペクトルを示し、構造中に残留アルコールが実質的にないこと(3000~3500cm
-1の間のピークの欠如)、強いニトリルピーク(2250cm
-1)、および強いエーテルピーク(1100cm
-1)を示す。
【0058】
実施例2:ポリマー電解質の調製:
実施例1で生成した高誘電性ポリマーを用いてポリマー電解質を調製した。使用前に、回転蒸発ユニットを使用して高誘電性ポリマーから全ての溶媒を除去した。電解質は、Max40カップを備えたFlackTek Speedmixer(商標)を使用して調製した。プラスチックカップに、実施例1の高誘電性ポリマー10.0gを添加し、続いてLiTFSI塩2.50gを添加した。カップに蓋をし、800rpmで15秒間、1400rpmで15秒間、2000rpmで1分間、および2600rpmで1分間混合した。混合後、溶液の透明性をチェックした。未溶解塩の兆候が存在した場合、カップを60℃のオーブンに5分間入れ、Speedmixer(商標)に戻し、前述の混合プロファイルを使用して再び混合した。このプロセスを、全てのリチウム塩が溶解するまで繰り返した。生成物は、20重量%のLiTFSI塩を含有する高粘性の透明なポリマー電解質12.5gであった。生成された電解質の導電率を測定したところ、25℃で約0.4mS/cmであった。
【0059】
実施例3:ポリマー電解質の調製:
使用前に、全ての溶媒を高誘電性ポリマーから除去した。電解質は、Max40カップを備えたFlackTek Speedmixer(商標)を用いて調製した。このプラスチックカップに、実施例1の高誘電性ポリマー5.0gを添加し、続いてLiFSI塩9.286gを添加した。カップに蓋をし、800rpmで15秒間、1400rpmで15秒間、2000rpmで1分間、および2600rpmで1分間混合した。混合後、溶液の透明性をチェックした。溶解していない塩の兆候が存在した場合、カップを50℃の真空オーブンに5分間入れ、その間、真空にして脱気し、次いでSpeedmixer(商標)に戻し、前述の混合プロファイルを使用して再び混合した。このプロセスを、全てのリチウム塩が溶解するまで繰り返した。生成物は、65重量%のLiFSI塩を含有する14.286gのガラス状の超高粘度透明ポリマー電解質であった。正極にさらに加工するための適切なレオロジーを得るために、1.587gのジエチルカーボネート(DEC)を混合カップに添加し、上記の混合ステップを繰り返した。生成物は、塩電解質中の15.873gの高粘性ポリマーであった。
【0060】
実施例4:高誘電性ポリマーの調製:
250mLの丸底フラスコに、磁気撹拌ビーズを添加した。次に、20.0g(110mmol)のソルビトール、1.4g(10mmol)の水酸化カリウム(40重量%水溶液)、および20.0gの脱イオン水をフラスコに添加した。次いで、フラスコをシリコーン製セプタムストッパーで蓋をした。フラスコを加熱攪拌プレート上の油浴中に置いた。温度プローブを加熱した撹拌プレートに接続し、油中に沈めた。温度を60℃に設定し、撹拌を600rpmに設定した。2本のステンレス鋼針(20ゲージ)を使用して、セプタムストッパーを穿刺した。針の1つをシュレンクラインに接続し、丸底フラスコのヘッドスペースを1SCFH(0.42L/分)の速度にて窒素ガスでパージするために使用した。第2の針はリリーフとして作用し、圧力の蓄積を防止した。ソルビトール、水酸化カリウム溶液を1時間混合した。一方、50mLの丸底フラスコに、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(Mn=400)の48.3g(分析証明書(COA)に供給されたエポキシド数に基づいて109mmol)を充填し、シリコーン製セプタムストッパーで蓋をした。シリコーン製セプタムストッパーを2本の針で穿刺した。一方の針はフラスコの圧力均一化のために使用した。他方の針は、フラスコの底にキャピラリーチューブを挿入するために使用し、次いで内径1/16インチ(1.59mm)、外径1/8インチ(3.18mm)の蠕動ポンプチューブに接続し、Ismatec(登録商標) Regloコンパクトカセットポンプに接続した。チューブの他端を、針を介してソルビトール溶液を含有するフラスコに接続した。次いで、蠕動ポンプを2rpmに設定し、一晩または14~24時間作動させた。その後、全ての針およびチューブを取り外し、脱イオン水中のポリドナーを含有するフラスコを熱から取り出し、室温にした。
【0061】
第2の500mLフラスコに、磁気撹拌ビーズを200gのアクリロニトリルと共に添加し、次いでシリコーン製セプタムストッパーで蓋をした。次いで、アクリロニトリルを含有するフラスコを35℃の油浴に入れた。次に、ポリドナー、水酸化カリウム水溶液を蠕動ポンプにより10rpmで添加した。完全に添加したら、反応を一晩継続させた。完了したら、1M HClを使用して混合物を中性にした。残留するアクリロニトリルおよび水を、実施例1と同じ方法で回転蒸発により除去した。全ての溶媒を除去した後、KCl塩が沈殿するのが認められた。次に、高誘電性ポリマーを過剰のアセトンに溶解し、遠心分離してKClを除去した。次いで、アセトンを回転蒸発により除去した。最後に、高誘電性ポリマーを乾燥室に移し、アセトニトリルに溶解して約50重量%にし、残留する水分が除去されるように十分な無水MgSO4を添加した(MgSO4を乾燥剤として使用する場合は、塊にならず溶液全体に均一に分散し始めるまで添加した)。混合物を遠心分離し、グレード4のWhatman(商標)濾紙を通してデカントし、溶液からMgSO4を分離した。高誘電性ポリマーを、さらなる処理のためにアセトニトリル中に溶解したままにした。
【0062】
実施例5:ポリドナーの調製:
250mLの丸底フラスコに、磁気撹拌ビーズを、20.0gのソルビトール(110mmol)、20.0gの脱イオン水、および19.0gのエピクロロヒドリン(205mmol)と共に添加した。フラスコにシリコーン製セプタムで蓋をし、温度を60℃に設定した油浴に入れた。実施例1に記載したように不活性ガスでパージした。40mLのセプタムバイアルに、28gの水酸化カリウム溶液(45重量%)(225mmol)を添加した。実施例1に記載の蠕動ポンプと同じ設定に従って、水酸化カリウムを5rpmの速度で添加した。水酸化カリウムの全てを添加したら、溶液を一晩混合した。反応の完了後、溶液を1M HClで中性にし、溶液を室温に冷却した。次いで、溶液を1kDaカットオフの透析チューブに移し、脱イオン水および攪拌棒を充填した1ガロン(3.8リットル)のプラスチック製のジャーに入れた。ジャーを撹拌プレート上に置き、脱イオン水を1日2回交換しながら2日間混合した。透析後、ポリマー溶液を回収し、過剰の水を回転蒸発により除去した。最終生成物は21gの粘性の透明なポリドナーであった。
図10は、本実施例のポリドナーを製造するための化学的反応スキームを示す。
【0063】
実施例6:ポリドナーとしての超分岐ポリグリセロールの調製:
ポリドナーとしての超分岐ポリグリセロールの生成のために、メタノール中のリチウムメトキシド溶液(2.2M)を一口丸底フラスコに移した。次に、丸底フラスコを80℃の回転蒸発ユニットに取り付けて、メタノールを除去した。メタノールを除去した後、n-ブタノール(開始モノマー)をフラスコに添加し、窒素ガス下で80℃に加熱した。ブタノール対リチウムメトキシドのモル比は10:1であった。
【0064】
次いで、フラスコを窒素ガスラインおよびバブラー出口に接続した。混合物を80℃に維持して、ブタノールとメトキシドアニオンとの間の反応から生成されたメタノールがバブラーを通って出る時間を与えた。次に、25gのグリシドールを、やはり窒素ガス下で、シリンジポンプを使用して0.2mL/分で丸底フラスコに注入した。反応を窒素ブランケット下で16時間進行させた後、1mLの脱イオン水の添加によりクエンチした。
【0065】
次に、20~50mLのメタノールを添加して粘性ポリマーを希釈し、続いて200mLのアセトン中で沈殿させた。ポリマーを遠心分離によって回収し、次いで別の200mLのアセトンで洗浄した。洗浄したポリマーを40mLバイアルに移し、油浴温度を80℃に設定した回転蒸発ユニットに取り付け、真空を引いて一晩運転した。最後に、溶媒を含まない粘性ポリマーを核磁気共鳴(NMR)によって分析して、分子量(MW)および分岐度(DB)を決定した。
【0066】
実施例7:ポリドナーの調製:
500mLの丸底フラスコに、磁気撹拌ビーズを添加した。次に、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(tris)10.0g(83mmol)およびジメチルホルムアミド(DMF)100.0gをフラスコに加えた。トリスは第一級アミンを含有するので、アミンが塩基として作用するので、反応を推進するために炭酸セシウムまたは他の塩基触媒を添加する必要はなかった。次いで、フラスコにシリコーン製セプタムストッパーで蓋をした。フラスコを加熱攪拌プレート上の油浴中に置いた。温度プローブを加熱した撹拌プレートに接続し、油中に沈めた。温度を100℃に設定し、撹拌を600rpmに設定した。2本のステンレス鋼針(20ゲージ)を使用して、セプタムストッパーを穿刺した。針の1つをシュレンクラインに接続し、丸底フラスコのヘッドスペースを1SCFH(0.42L/分)の速度にて窒素ガスでパージするために使用した。第2の針はリリーフとして作用し、圧力の蓄積を防止した。トリス-DMF混合物を1時間混合した。
【0067】
一方、60mLの計量滴下漏斗(metered addition funnel)に、36.6g(COA中に供給されたエポキシド数に基づいて82mmol)のポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(Mn=400)を添加した。次いで、トリス-DMF溶液を含有するフラスコに取り付けられたストッパーを取り外し、滴下漏斗を接続し、ストッパーを滴下漏斗の上部に再接続して、不活性ガスによるパージを継続した。滴下漏斗を不活性ガスで15分間パージし、次いで計量ストップコックを開け、6~10秒毎に1滴の架橋剤が添加されるまでニードル弁を調節した。滴下漏斗を一晩開けたままにし、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテルを数時間にわたって滴下した。約20時間後、加熱および撹拌を停止した。シリコーン製ストッパーおよび滴下漏斗をフラスコから取り外し、PTFEスリーブを挿入した。次いで、フラスコを、バンプトラップを備えたロータリーエバポレーターに接続し、全てのDMFを混合物から除去した。生成物は淡褐色の粘稠な液体であった。
図11は、この実施例のポリドナーを生成する化学的反応スキームを示す(「n」は、PEG-ジグリシジルエーテル架橋剤中の繰り返しユニットの数を表す)。
【0068】
実施例8:溶媒ベースの方法による正極の調製:
Max20カップを備えたFlackTek Speedmixer(商標)を使用して、電極スラリーを作製した。プラスチックカップに、1.57gのN-メチル-2-ピロリドン(NMP)、およびリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)などの25重量%のリチウム塩を含有する0.63gの無溶媒高誘電性ポリマー電解液を添加して、イオン伝導性カソライトとして作用させた。次いで、カップに蓋をし、800rpmで15秒間、1200rpmで15秒間、1600rpmで15秒間、2000rpmで30秒間、および2750rpmで2分間混合した。次いで、LITX(商標)200(Cabot)などの電子伝導性炭素添加剤0.50gを添加し、次いで、800rpmで15秒間、1200rpmで15秒間、1600rpmで15秒間、2200rpmで30秒間、および2750rpmで3分間の3回混合した。次いで、8.98gのリチウムニッケルコバルトマンガン酸化物(NCM811、POSCO N83MA11、D50 11.8μm)のようなリチウム含有カソード活物質、1.57gのNMP、および20重量%のポリフッ化ビニリデン(PVDF、Arkema Kynar(登録商標)HSV1810)からなる0.02gの予混合バインダー溶液をカップに添加し、次いで、800rpmで15秒間、1000rpmで15秒間、1400rpmで15秒間、1800rpmで30秒間、および2000rpmで5分間の2回混合した。最後に、0.95gのNMPを添加し、次いで800rpmで15秒間、1000rpmで15秒間、1400rpmで15秒間、1800rpmで30秒間、および2000rpmで5分間混合した。次いで、得られたスラリーを、60μmのギャップ高さ設定を有する調節可能なドクターブレードを使用して、目標装填量で炭素被覆アルミニウム箔(BlueNano、17μm)上にキャストした。次いで、コーティングされた箔を、強制対流オーブン(Yamato DNK402)中、100℃で16時間乾燥させてNMPを除去し、89.8重量%のNCM811、5重量%のLITX(商標)200カーボンブラック、5重量%の誘電性ポリマー電解質、および0.3重量%のHSV1810 PVDFの組成を有する乾燥複合電極を得た。次いで、乾燥した複合電極を、55℃で加熱したカレンダーロール(TOB-JS-250L)を使用して緻密化して、電極の多孔性を低下させた。得られた電極は、NCM811(208mAh/g)の完全利用を仮定して、20μmの厚さおよび約1.15mAh/cm
2の面積負荷を有していた。次いで、完成した電極シートを正確な寸法に打ち抜き、次いで、ホットメルト接着剤が予め塗布されたアルミニウムタブを、打ち抜いた電極タブ領域上に超音波溶接(Branson MWX100)して、完全なカソードアセンブリを作製した。
図12は、実施例8に記載される高誘電性ポリマー電解質を含む複合カソード電極(NCM811)の断面顕微鏡写真画像を示す。電極コーティング厚さは約17μmであった。
【0069】
リチウムアノード(Honjo、8μmのCu上の20μmのLi)、セラミック充填セパレータ(Entek、CF9)、ならびに60重量%のリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)および添加剤として10重量%のジエチルカーボネート(DEC)を含有する無溶媒高誘電性ポリマー電解質から構成されるバルク電解質からなるスモールファクターポーチセル(small factor pouch cells)(2.526cm
2)を使用して、カソライトを含有する複合カソードの電気化学試験を行った。セパレータ層の完全な湿潤を確実にするために、電池が構築されたときに、ポリマー電解質を電池として(as the cell)CF9セパレータに適用した。組み立てられたスタックを100kpaで真空密封し、3バール(300kPa)で圧力固定具に固定し、サイクリング前に45℃で6時間静置した。
図13は、実施例8に記載されるようなNCM811複合カソード電極を用いたカソード半セルの例示的なサイクル挙動を示す。サイクリングは、3~4.3Vの間にて行われ、0.05Cの一定電流(CC)Cレートを用いて4.3Vまで実施し、電流が0.025C未満に低下するまで一定電圧(CV)で保持した。3Vまで0.05Cレートで一定電流放電を行った。サイクリングは45℃で行った。
【0070】
実施例9:無溶媒法による正極の調製:
Max10カップを有するResodyn Lab RAM I(商標)を使用して、電極ペーストを作製した。プラスチックカップに、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)などの0.29gのリチウム塩、LITX(商標)200(Cabot)などの0.20gの導電性カーボン添加剤、リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物(NCM811、POSCO N83MA11、D50 11.8μm)などの17.15gのリチウム含有カソード活物質、1.59gの高誘電性ポリマー、およびトリエチルホスフェート(TEP)などの0.78gの添加剤を、LabRAM I(商標)アコースティックミキサーシステムを使用して混合した。加速力を30gから70gまで傾斜させて、電力レベルが混合中に低く安定したままであることを確実にした。混合時間は約12分であり、容器温度が約70℃に達して安定することを確実にするような方法で行った。次いで、得られた電極ペーストを、炭素被覆アルミニウム箔(BlueNano、17μm)などの適切な集電体に塗布し、続いてKapton(登録商標)フィルム(ポリイミドフィルム)を積層して、剥離ライナーとして機能させた。加熱したカレンダーロール(TOB-JS-250L)を使用して、70℃で積層体をカレンダー加工して、塗布されたペーストを平坦化し、均一な厚さおよび低い気孔率を有する電極を作製した。厚さの減少は、ギャップが測定された厚さよりも約10%小さくなるように設定され、ギャップ設定を減少させる前に数回カレンダー加工されるように、段階的に減少させた。目標の厚さおよび面積負荷が達成されるまで、このプロセスを数回繰り返した。剥離ライナーを除去するために、試料を環境チャンバ(Test Equity、Model115A-F)内で<-40℃に冷却し、Kapton(登録商標)剥離ライナーを、きれいな剥離を確実にすることを助けるように表面に平行になるように反対方向に180°引っ張った。次いで、これらの電極を正しい寸法に打ち抜き、次いで、ホットメルト接着剤が予め塗布されたアルミニウムタブを、打ち抜いた電極タブ領域上に超音波溶接(Branson MWX100)して、完全なカソードアセンブリを作製した。
【0071】
比較試験:
周波数の関数としての誘電率を、2つの異なる高誘電性ポリマーについて測定した。
図14は、実施例1の高誘電性ポリマー(1MHzで約33の誘電率)についての試験データ、および実施例7に記載されるポリドナーから生成された高誘電性ポリマー(アクリロニトリルをマイケル受容体として使用し、そして測定された誘電率は、1MHzで約26であった)についての試験データを示す。
【0072】
実施例1に記載のポリマーから生成されたポリマー電解質の、2つの異なる塩についての、塩濃度の関数としてのイオン伝導度を測定した。その結果を
図15に示す。エラーバーは、3つの異なる導電率のセルの標準偏差を表す。ピーク導電率は、40重量%のLiTFSIについて約0.5mS/cmで見られる。
【0073】
実施例1に記載した高誘電性ポリマーの導電率を、40重量%のLiTFSIを含有するポリマー電解質にしたときに測定した。得られた測定値を
図16に示す。
本技術は、ある特定の実施形態に関して説明されているが、当業者は、本開示の発明的性質から逸脱することなく、当業者によって、種々の変更および/または修正が本技術に行われ得ることを容易に理解するであろう。さらに、本開示の概念は、以下の特許請求の範囲によって、これらの特許請求の範囲がそれらの言語によって他に明示的に述べられない限り、包含されることが意図されることが理解されるべきである。
【国際調査報告】