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特表2024-537036標的成分を分離及び精製する分離システム及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-10
(54)【発明の名称】標的成分を分離及び精製する分離システム及び方法
(51)【国際特許分類】
   C07K 1/34 20060101AFI20241003BHJP
   C12N 1/00 20060101ALI20241003BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C07K1/34
C12N1/00 K
C12P21/02 C
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024519059
(86)(22)【出願日】2022-10-13
(85)【翻訳文提出日】2024-03-27
(86)【国際出願番号】 EP2022078562
(87)【国際公開番号】W WO2023062151
(87)【国際公開日】2023-04-20
(31)【優先権主張番号】21202682.7
(32)【優先日】2021-10-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】511034561
【氏名又は名称】ザルトリウス ステディム ビオテック ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】クルーゼ トーマス
(72)【発明者】
【氏名】カンプマン マルクス
(72)【発明者】
【氏名】へリング アレクサンダー
(72)【発明者】
【氏名】ロイトホルト マルティン
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG27
4B064CA19
4B064CC24
4B064CE06
4B064DA01
4B065AA91X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065BD18
4B065CA25
4B065CA46
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA76
4H045FA72
4H045FA74
4H045GA10
(57)【要約】
本発明は、標的成分を分離及び精製する分離システム、標的成分を分離及び精製する方法、並びに水性二相系の分離後に得られる標的成分を含む標的相を処理するためのクロスフローダイアフィルトレーションユニットの使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の成分を含む流体を処理するように構成された分離システムであって、前記流体の前記複数の成分のうちの少なくとも1つの成分が標的成分であり、かつ該分離システムは、
前記流体の水性二相抽出用の水性二相抽出ユニットと、
水性二相抽出後に得られる前記標的成分を含む標的相を分離する分離ユニットと、
分離された標的相の連続ダイアフィルトレーションにより保持液及び透過液を得るクロスフローダイアフィルトレーションユニットであって、ダイアフィルトレーションチャネル、第1の濾材、保持液チャネル、第2の濾材、及び透過液収集チャネルを少なくとも備え、前記第1の濾材が前記ダイアフィルトレーションチャネルと前記保持液チャネルとを互いに区切り、かつ前記第2の濾材が前記保持液チャネルと前記透過液収集チャネルとを互いに区切るように配置されている、クロスフローダイアフィルトレーションユニットと、
を備え、
前記ダイアフィルトレーションチャネルは、ダイアフィルトレーション媒体用の少なくとも1つの入口に流体伝導的に接続されており、前記保持液チャネルは、前記標的相用の少なくとも1つの入口及び前記保持液用の少なくとも1つの出口に流体伝導的に接続されており、かつ前記透過液収集チャネルは、前記透過液用の少なくとも1つの出口に流体伝導的に接続されている、分離システム。
【請求項2】
流体中に含まれる標的成分を精製する方法であって、該方法は、
(a)前記流体を水性二相抽出にかける工程と、
(b)水性二相抽出後に得られる前記標的成分を含む標的相とその他の相とを分離する工程と、
(c)分離された標的相を、クロスフローダイアフィルトレーションユニットを使用してダイアフィルトレーションにかける工程と、
を含み、
前記クロスフローダイアフィルトレーションユニットは、ダイアフィルトレーションチャネル、第1の濾材、保持液チャネル、第2の濾材、及び透過液収集チャネルを少なくとも備え、前記第1の濾材が前記ダイアフィルトレーションチャネルと前記保持液チャネルとを互いに区切り、かつ前記第2の濾材が前記保持液チャネルと前記透過液収集チャネルとを互いに区切るように配置されており、
前記ダイアフィルトレーションチャネルは、ダイアフィルトレーション媒体用の少なくとも1つの入口に流体伝導的に接続されており、前記保持液チャネルは、前記標的相用の少なくとも1つの入口及び前記保持液用の少なくとも1つの出口に流体伝導的に接続されており、かつ前記透過液収集チャネルは、前記透過液用の少なくとも1つの出口に流体伝導的に接続されている、方法。
【請求項3】
水性二相系の分離後に得られる標的成分を含む標的相を処理するためのクロスフローダイアフィルトレーションユニットの使用であって、前記クロスフローダイアフィルトレーションユニットは、ダイアフィルトレーションチャネル、第1の濾材、保持液チャネル、第2の濾材、及び透過液収集チャネルを少なくとも備え、前記第1の濾材が前記ダイアフィルトレーションチャネルと前記保持液チャネルとを互いに区切り、かつ前記第2の濾材が前記保持液チャネルと前記透過液収集チャネルとを互いに区切るように配置されており、
前記ダイアフィルトレーションチャネルは、ダイアフィルトレーション媒体用の少なくとも1つの入口に流体伝導的に接続されており、前記保持液チャネルは、前記標的相用の少なくとも1つの入口及び前記保持液用の少なくとも1つの出口に流体伝導的に接続されており、かつ前記透過液収集チャネルは、前記透過液用の少なくとも1つの出口に流体伝導的に接続されている、使用。
【請求項4】
前記標的成分は、ダイアフィルトレーション後の前記保持液中に含まれている、請求項1に記載の分離システム、又は請求項2に記載の方法、又は請求項3に記載の使用。
【請求項5】
前記分離された標的相は、前記クロスフローダイアフィルトレーションユニットに直接適用される、請求項1若しくは4に記載の分離システム、又は請求項2若しくは4に記載の方法、又は請求項3若しくは4に記載の使用。
【請求項6】
供給されるダイアフィルトレーション媒体の体積流量は、供給される標的相の体積流量の0.5倍~20倍である、請求項1、4、及び5のいずれか一項に記載の分離システム、又は請求項2、4、及び5のいずれか一項に記載の方法、又は請求項3~5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
前記供給されるダイアフィルトレーション媒体の体積流量は、前記供給される標的相の体積流量の5.0倍~7.0倍である、請求項6に記載の分離システム、又は請求項6に記載の方法、又は請求項6に記載の使用。
【請求項8】
前記分離された標的相中の前記標的成分の濃度は、0.5g/L~10g/Lである、請求項1及び請求項4~7のいずれか一項に記載の分離システム、又は請求項2及び請求項4~7のいずれか一項に記載の方法、又は請求項3~7のいずれか一項に記載の使用。
【請求項9】
ダイアフィルトレーション後の前記保持液中の前記標的成分の濃度は、0.5g/L~10g/Lである、請求項1及び請求項4~8のいずれか一項に記載の分離システム、又は請求項2及び請求項4~8のいずれか一項に記載の方法、又は請求項3~8のいずれか一項に記載の使用。
【請求項10】
前記第1の濾材と前記第2の濾材とは、同一である、請求項1及び請求項4~9のいずれか一項に記載の分離システム、又は請求項2及び請求項4~9のいずれか一項に記載の方法、又は請求項3~9のいずれか一項に記載の使用。
【請求項11】
前記ダイアフィルトレーション媒体のpHは、2.0~12.0である、請求項1及び請求項4~10のいずれか一項に記載の分離システム、又は請求項2及び請求項4~10のいずれか一項に記載の方法、又は請求項3~10のいずれか一項に記載の使用。
【請求項12】
前記ダイアフィルトレーション媒体は、KPiバッファー、リン酸ナトリウムバッファー、酢酸ナトリウムバッファー、PBS、グリシン、クエン酸バッファー、トリスバッファー、BIS-トリスバッファー、HEPESバッファー、及び水からなる群から選択される、請求項1及び請求項4~11のいずれか一項に記載の分離システム、又は請求項2及び請求項4~11のいずれか一項に記載の方法、又は請求項3~11のいずれか一項に記載の使用。
【請求項13】
前記水性二相抽出用の組成物は、該組成物の総量に対して、4.0重量%~25.0重量%の300~20000の平均分子量を有するポリエチレングリコールと、5.0重量%~40重量%のリン酸塩、クエン酸塩、及び硫酸塩から選択される第1の塩、又はポリマーと、0重量%~10.0重量%の第2の塩と、10.0重量%~50.0重量%の前記標的成分を含む流体とを含み、かつ残部は水である、請求項1及び請求項4~12のいずれか一項に記載の分離システム、又は請求項2及び請求項4~12のいずれか一項に記載の方法、又は請求項3~12のいずれか一項に記載の使用。
【請求項14】
前記標的成分は、タンパク質、モノクローナル抗体、ホルモン、ワクチン、核酸、エキソソーム、ウイルス、及びウイルス様粒子から選択される、請求項1及び請求項4~13のいずれか一項に記載の分離システム、又は請求項2及び請求項4~13のいずれか一項に記載の方法、又は請求項3~13のいずれか一項に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標的成分を分離及び精製する分離システム、標的成分を分離及び精製する方法、並びに水性二相系の分離後に得られる標的成分を含む標的相を処理するためのクロスフローダイアフィルトレーションユニットの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、標的成分を産生する細胞系統の上流プロセスにおいて大幅な改善が達成されている。これにより、生産におけるボトルネックが下流プロセス(DSP)における後続の清澄化ユニット、捕捉ユニット、及び精製ユニットの操作に移行するという状況がもたらされた。
【0003】
一例はモノクローナル抗体(mAb)である。モノクローナル抗体は、癌、自己免疫障害、及び炎症性疾患のような幾つかの重度の疾患の治療にとって重要であるため、モノクローナル抗体についての市場は大きくなっている。チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞のようなmAb産生細胞系統の上流プロセスにおける継続的な改善により、細胞密度の増大及び最大25g/lの高い産生物力価が得られた。しかしながら、これらの業績により、mAb産生におけるボトルネックはDSPに移行した。
【0004】
mAbは培地中に分泌されるため、最初に細胞を除去しなければならない。最も一般的な連続式ディスクスタック遠心分離機は、その経済的利益及び拡張可能性のため、商業的規模での最初の清澄化工程として使用される。代替的な清澄化方法は、深層濾過、フロキュレーション、動的ボディフィード濾過、又は音響細胞保持デバイスの使用である。後続のmAb捕捉工程として、殆どのプラットフォームプロセスにおいてプロテインAアフィニティークロマトグラフィーが使用され、こうして、高い収率及び純度並びに減容化という利点がもたらされる。しかしながら、DSPにおける問題は、主にクロマトグラフィー方法の能力の限界と、特にプロテインAクロマトグラフィーの場合にはその価格とによって引き起こされる。
【0005】
このボトルネックを克服する有望なアプローチは、特許文献1及び特許文献2に記載される水性二相抽出(ATPE、図1)の適用である。水性二相系(ATPS)の形成は、水中で様々な相形成成分を混合することによって行われる。相形成成分の或る特定の濃度を上回ると、2つの非混和相が形成される。相形成成分としては、ポリマー/ポリマー(通常、ポリエチレングリコール(PEG)及びデキストラン)又はポリマー/塩(例えば、リン酸塩、クエン酸塩、又は硫酸塩)が最も一般的に使用される。後者の場合、例えば、ポリマーが豊富な軽相(LP)と、塩が豊富な重相(HP)とが形成される。ATPSの組成に基づいて、標的分子(例えば、mAb)の選択的抽出を達成することができる一方で、デオキシリボ核酸(DNA)及び宿主細胞タンパク質(HCP)のような不純物が他の相において濃縮される。細胞、細胞破片、及びその他の生体粒子のような粒子はATPS界面相に蓄積することから、清澄化と最初の標的成分の精製との統合が可能となる。
【0006】
ATPEは、mAbの下流プロセスにおける最初の精製工程として適しており、現在確立されているプラットフォームプロセスと比較して経済的利益を有し、環境的に持続可能であることが実証されている(非特許文献1、及び非特許文献2を参照)。更なる精製には、mAbを含む標的相の分離を確実にしなければならない。確立された方法では、ATPSからの両相の異なる密度が利用される。
【0007】
重力による相分離は、多くの場合、ミキサセトラデバイスによって行われる。しかしながら、両相間の密度差は小さいため、この方法には時間がかかることから、費用が高くなることが多い。これまでの代替策はカラム又は遠心抽出機であるが、分離はまた両相間の密度差によって実現される。しかしながら、これらの方法は、完全な細胞除去を確実にする清澄化ユニットの操作として使用されるのであれば、追加の滅菌濾過工程を必要とする。クロスフローダイアフィルトレーションのような膜技術も相分離に適用されている(非特許文献1、及び非特許文献2を参照)。
【0008】
後続の精製工程では、一般的にバッファー交換を行う必要がある。この目的のために、分離された標的含有相をダイアフィルトレーションによって更に処理することができる。しかしながら、このような膜技術は、標的成分の沈殿により生成物の高い損失又は濾過前に希釈工程を適用する必要性に見舞われるため、より多くの廃棄物、時間及び費用の浪費を招く。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2014/135420号
【特許文献2】米国特許出願公開第2011/0257378号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Kruse et al. Antibodies 2019, 8, 40
【非特許文献2】Kruse et al. Biochemical Engineering Journal, Volume 161, 107703
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、本発明の基礎となる技術的課題は、標的成分の下流処理用の手段を提供することであり、それにより、上記手段は、DSP用の従来の手段と比較した場合、かなり廉価であるべきであり、依然として高い純度及び収率をもたらすべきである。特に、精製工程としてATPEを適用する場合、後続の精製工程で効率的にバッファー交換する手段を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の技術的課題の解決策は、特許請求の範囲において特徴付けられる実施の形態によって実現される。
【0013】
特に、本発明は、複数の成分を含む流体を処理するように構成された分離システムであって、流体の複数の成分のうちの少なくとも1つの成分が標的成分であり、かつ分離システムは、
流体の水性二相抽出用の水性二相抽出ユニットと、
水性二相抽出後に得られる標的成分を含む標的相を分離する分離ユニットと、
分離された標的相の連続ダイアフィルトレーションにより保持液及び透過液を得るクロスフローダイアフィルトレーションユニットであって、ダイアフィルトレーションチャネル、第1の濾材、保持液チャネル、第2の濾材、及び透過液収集チャネルを少なくとも備え、第1の濾材がダイアフィルトレーションチャネルと保持液チャネルとを互いに区切り、かつ第2の濾材が保持液チャネルと透過液収集チャネルとを互いに区切るように配置されている、クロスフローダイアフィルトレーションユニットと、
を備え、
ダイアフィルトレーションチャネルは、ダイアフィルトレーション媒体用の少なくとも1つの入口に流体伝導的に接続されており、保持液チャネルは、標的相用の少なくとも1つの入口及び保持液用の少なくとも1つの出口に流体伝導的に接続されており、かつ透過液収集チャネルは、透過液用の少なくとも1つの出口に流体伝導的に接続されている、分離システムに関する。
【0014】
本発明の分離システムを用いると、好ましくは、水性二相抽出から分離後に得られる標的相を、事前に標的相を希釈する必要なくクロスフローダイアフィルトレーションに直接適用することが有利に可能である。これにより、必要な液体量を大幅に削減することができる。さらに、ダイアフィルトレーション中の標的成分の沈殿は、好ましくは、標的相を供給流体として使用する特定のクロスフローダイアフィルトレーションユニット(図2及び図3を参照)を適用することによって有利に回避することができる。さらに、好ましくは、ダイアフィルトレーション後に、高濃度での標的成分の高い収率を有利に達成することができ、バッファー交換を非常に迅速に行うことができる。
【0015】
標的成分は特に限定されない。例えば、標的成分は、タンパク質、mAb、ホルモン、ワクチン、核酸、及びエキソソーム、並びにウイルス及びウイルス様粒子等の対象となるあらゆる生体分子であってよい。好ましい実施の形態において、標的成分は抗体、より好ましくはモノクローナル抗体、又はそのフラグメント若しくは誘導体である。モノクローナル抗体の例は、アダリムマブ、セツキシマブ、リツキシマブ、インフリキシマブ、オマリズマブ、及びデノスマブである。標的成分は、例えば、「チャイニーズハムスター卵巣細胞」(CHO細胞)又はその他の哺乳動物細胞系統等の細胞培養物から取得され得る。ATPE用の出発材料としての流体は、標的成分を含むものであれば特に限定されない。適切な流体は、濾過方法若しくは遠心分離方法によって得られる細胞ブロス及び細胞ブロス上清、又は更に精製された材料である。
【0016】
本発明において使用される水性二相抽出ユニットは特に限定されない。例えば、水性二相系を受け入れることができるあらゆる槽、容器等を適用することができる。
【0017】
「二相系」という用語は、組成物が少なくとも2つの相を形成することができる限り、いかなる特定の制限も受けない。好ましくは、組成物は2つの相を形成する。一般的に、それにより、上部相は下部相(複数の場合もある)よりも低い密度を有する。
【0018】
あらゆるATPSを使用することができる。さらに、ATPSのあらゆる相をダイアフィルトレーションにかけることができる。ATPSの例は、(1)ポリマー-ポリマー系(例えば、PEG/デキストラン)、(2)ポリマー-塩系(例えば、PEG/リン酸塩又はクエン酸塩又は硫酸塩)、(3)アルコール-塩系(例えば、プロパノール又はエタノール/塩)、(4)ミセル状ATPS(界面活性剤に基づく)、及び(5)イオン液体に基づくATPSである。
【0019】
標的成分はATPSのどの相にも存在し得る。好ましくは、標的成分は主にATPSの相のうちの1つに存在する。好ましくは、所望の物質は主に上部相に存在する。
【0020】
組成物は二相系を形成し、その一方の相に優先的に標的成分が位置する。組成物中の標的成分の総量/総質量に対する濃縮相中の標的成分の割合は、いかなる特定の制限も受けない。濃縮相中の抗体等の標的成分の割合は、例えば、ATPS中の標的成分の総質量に対して、少なくとも70重量%、少なくとも80重量%、少なくとも90重量%、少なくとも95重量%、少なくとも97重量%、少なくとも98重量%、又は少なくとも99重量%である。
【0021】
ATPEを受ける成分の生物物理学的特性が異なるため、それらの分布は2つの相間で異なる(図1)。この分配係数は水性二相系の組成によって影響され得る。分配係数に影響を与える更なるパラメーターは、例えば、温度、pH、及び標的成分の特性である。各プロセス/生成物ごとに、最適な純度及び収率について水性二相系の組成を再決定することができる。
【0022】
標的分子の高い収率及び純度を伴うATPS組成の最適化は、統計的実験計画法(DoE)アプローチを使用した多くの研究において既に説明されている(Gronemeyer, P. et al. Biochem. Eng. J. 2016, 113, 158-166、Glyk, A. et al. Chemom. Intell. Lab. Syst. 2015, 149, 12-21、Rosa, P.A.J. et al. J. Chromatogr. A 2007, 1141, 50-60、非特許文献1、及び非特許文献2)。所与の標的成分及び付随する不純物について、標的成分の収率が可能な限り高くなると同時にプロセス関連の不純物が最も減少する最適な系の組成を導き出すのに使用することができるモデルを作成することができる。
【0023】
例えば、組成物の総量に対して、4.0重量%~25.0重量%の300~20000の平均分子量を有するポリエチレングリコールと、5.0重量%~40重量%のリン酸塩、クエン酸塩、及び硫酸塩から選択される第1の塩、又はポリマー、特にデキストランと、0重量%~10.0重量%の第2の塩、特に塩化物塩又は硫酸二アンモニウム(NHSOと、10.0重量%~50.0重量%の細胞培養ブロス又はその濾液等の標的成分を含む流体とを含み、残部が水である水性二相系用の組成物を適用することができる。その他の適切な系は当業者に知られている。個々の成分の割合はATPSが形成するように選択される。ポリエチレングリコールの平均分子量及び含有量は相互に適切に選択される。例えば、上限の平均分子量を有するポリエチレングリコールを適用する場合、その含有量を下限で選択することができ、その逆も同様である。
【0024】
様々な成分の示された量は組成物の総量/総質量を指す。従来技術において知られるように、ポリエチレングリコール、第1の塩又はポリマー、第2の塩、及び流体(例えば、細胞培養ブロス又はその濾液)に加えて、他の成分が含まれていてよい。この場合、水以外の他の成分を加えた後に残る残量は、組成物に含まれる水の量に相当し、ここで、流体(例えば、細胞培養ブロス又は濾液)に含まれる水は流体の量に含まれるため、残りの水には含まれない。成分を純粋な物質の形態で又は溶液で使用して組成物を形成することができる。組成物中のこれらの成分の示された重量基準の割合は、対応する純粋な物質の重量基準の割合に対応する。したがって、その割合のあらゆる溶媒が任意の更なる成分に添加されるか、又は水溶液の場合には水に添加される。例えば、とりわけ、600gの40%(重量/重量)のリン酸塩水溶液及び90gの50%(重量/重量)のPEG1450水溶液を使用することによって調製された1kgの総質量を有する組成物は、24重量%(240g)のリン酸塩及び4.5重量%(45g)のPEG1450を含む。
【0025】
「ポリエチレングリコール」という用語は特に限定されない。単一のポリエチレングリコール又は異なる分子量を有する幾つかのポリエチレングリコールの混合物を使用することができる。
【0026】
組成物は300~20000の平均分子量を有するポリエチレングリコールを含んでよい。好ましくは、ポリエチレングリコールは、350~10000、より好ましくは350~4000、より好ましくは400~2000の平均分子量を有する。対応するポリエチレングリコールは、例えば市販されている。
【0027】
ATPE用の組成物のpHは、いかなる特定の制限も受けず、例えば4.0~10.0、好ましくは5.0~9.0、より好ましくは6.0~8.0であってよい。8.0よりも高いpH値では、例えば抗体のアミノ酸において脱アミノ化が起こる可能性がある。
【0028】
ATPEについての期間は特に限定されない。好ましくは、ATPEは相平衡に達するまで実施される。
【0029】
本発明において使用される分離ユニットは特に限定されない。したがって、水性二相抽出後に得られる相を分離する当該技術分野において知られるあらゆる分離ユニットを適用することができる。適切な分離ユニットとしては、例えばミキサセトラデバイス、遠心分離機、及びカラム又は遠心抽出機、並びに膜ベースの相分離方法(非特許文献1を参照)が挙げられる。好ましくは、分離ユニットは遠心分離機である。分離ユニットによって、ATPE後に得られる相を互いに分離することが可能である。次いで、標的成分(の大部分)を含む標的相をダイアフィルトレーションユニットに移送することができる。残りの他の相(複数の場合もある)は、標的成分を全く含まないか、又は少量の標的成分を含む。
【0030】
クロスフローダイアフィルトレーションユニットは、ダイアフィルトレーションチャネル、(好ましくは平坦な)第1の濾材、保持液チャネル、(好ましくは平坦な)第2の濾材、及び透過液収集チャネルを少なくとも備え、第1の濾材がダイアフィルトレーションチャネルと保持液チャネルとを互いに区切り、かつ第2の濾材が保持液チャネルと透過液収集チャネルとを互いに区切るように配置されており、
ダイアフィルトレーションチャネルは、ダイアフィルトレーション媒体用の少なくとも1つの入口に流体伝導(連通)的に接続されており、保持液チャネルは、標的相用の少なくとも1つの入口及び保持液用の少なくとも1つの出口に流体伝導的に接続されており、かつ透過液収集チャネルは、透過液用の少なくとも1つの出口に流体伝導的に接続されている。それぞれのクロスフローダイアフィルトレーションユニットの例は、例えば、図2及び図3に概略的に示されている。適切なクロスフローダイアフィルトレーションユニットは、例えば、独国特許出願公開第102016004115号(連続ダイアフィルトレーション用のクロスフローダイアフィルトレーションユニット)に記載されている。
【0031】
第1の濾材及び第2の濾材の形状(空間的形態)は、いかなる特定の制約も受けない。好ましくは、第1の濾材及び第2の濾材は平坦な濾材である。「平坦」という用語は、それぞれの濾材が実質的に単一の平面内にあることを示す。好ましい実施の形態において、全ての濾材は、多かれ少なかれ互いに実質的に平行な平面内にある。別の好ましい実施の形態において、2つの濾材は流れの方向に沿って距離の縮小を示し、これにより生成物の更なる濃縮向上(up-concentration)がもたらされ得る。
【0032】
さらに、クロスフローダイアフィルトレーションユニットは、巻付形モジュールであってよい。この目的のために、第1の濾材及び第2の濾材(並びにダイアフィルトレーションチャネル、保持液チャネル、及び透過液チャネル)がそれぞれ螺旋形の断面を有するように、第1の濾材及び第2の濾材の当初は平坦又は平面の配置物がコアの周りに巻き付けられる。
【0033】
さらに、クロスフローダイアフィルトレーションユニットは中空糸モジュールであってよい。この場合、第1の濾材及び第2の濾材は中空糸形状を有する(円板形状の端断面を有しない円筒)。第1の中空糸濾材及び第2の中空糸濾材の内径は、第1の濾材及び第2の濾材がそれぞれ第2の濾材及び第1の濾材に挿入されてダイアフィルトレーションチャネル、保持液チャネル、及び透過液チャネルを形成することができるように異なっている。
【0034】
第1の濾材は、好ましくは、1kDa~1500kDaの範囲内の分子量カットオフ(MWCO)を有する。第2の濾材は、好ましくは、1kDa~1500kDaの範囲内の分子量カットオフを有する。米国規格ASTM E1343-90(「平坦シート限外濾過膜の分子量カットオフ評価のための標準試験方法(Standard test method for molecular weight cutoff evaluation of flat sheet ultrafiltration membranes)」)に従って、分子量カットオフの決定を行うことができる。膜のMWCOは、好ましくは、標的成分が保持液チャネル内に保持される一方で、ATPSのより小さい相形成成分が膜を透過して透過液出口で取り出されるように選択される。
【0035】
第1の濾材は、好ましくは、0.001μm~50μm、好ましくは0.01μm~0.5μmの細孔サイズを有する。第2の濾材は、好ましくは、0.001μm~50μm、好ましくは0.01μm~0.5μmの細孔サイズを有する。
【0036】
少なくとも0.1μmの細孔サイズの場合、すなわち0.1μm~10μmの平均細孔サイズを有する精密濾過膜の場合、細孔サイズを決定するのに毛細管流動ポロメトリー(capillary flux porometry)が使用される。これは、最初に湿った状態で、次に乾燥した状態で、膜試料を通過するガス差圧及び流量を測定する気体/液体ポロシメトリー(gas/liquid porosimetry)である。測定前に、膜試料と湿潤液とを、全ての細孔がこの液体で満たされるように接触させる。細孔を満たし、試料を導入した後に、測定セルを閉じて測定を開始しなければならない。測定開始後、ガス圧が自動的に徐々に上昇し、加えられた圧力に対応して細孔径がガス圧によって空になる。これを、関連する細孔範囲が網羅されるまで、すなわち、測定範囲内に存在する最小の細孔からも液体がなくなるまで継続する。次いで、再び減圧され、目下乾燥した試料に対して自動的に測定が繰り返される。細孔サイズ分布は、ヤング・ラプラスの式を使用して2つの圧力-流量曲線間の差から計算される(A. Shrestha著の「ポロメトリーによる多孔質膜の特性評価(Characterization of porous membranes via porometry)」、2012年、機械工学卒業論文及び博士論文、論文38、コロラド大学ボルダー校も参照)。
【0037】
10μmより大きく、かつ1mmまでの細孔サイズを決定するには、Journal of Membrane Science 372 (2011)の第66頁~第74頁に記載される画像解析ベースの方法を使用することができる。
【0038】
0.1μm未満の細孔サイズの場合は、毛細管流動ポロメトリーと類似性を有する液体-液体置換法が使用される。しかしながら、ガス流量の代わりに、置換液体の流量が差圧増加の関数として測定される(R. Davila著の「液体-液体置換ポロシメトリーによる限外濾過及びナノ濾過の市販のフィルターの特性評価(Characterization of ultra and nanofiltration commercial filters by liquid-liquid displacement porosimetry)」、2013年も参照)。
【0039】
第1の濾材は、例えば、濾過膜、不織布、又は多孔質シートであってよい。好ましい実施の形態によれば、第1の濾材が第1の濾過膜であるか、又は第2の濾材が第2の濾過膜である。第1の濾材が第1の濾過膜であり、かつ第2の濾材が第2の濾過膜であることが特に好ましい。
【0040】
特に、限外濾過及び精密濾過の範囲における多孔質膜は、第1の濾材及び/又は第2の濾材として適している。
【0041】
好ましい実施の形態において、第1の濾材と第2の濾材とは同一である。
【0042】
限外濾過膜は、0.01μm未満の細孔サイズ、又はおよそ1kDa~1500kDaの分子量範囲内にある分子量カットオフを特徴とする一方で、精密濾過膜は、0.01μm~50μm、好ましくは0.01μm~0.5μmの範囲内の細孔サイズ、又は30kDa~1500kDaの分子量カットオフを有する。濾過膜は、例えば、ポリフッ化ビニリデン、セルロース及びその誘導体、ポリエーテルスルホン又はポリスルホンからなっていてよく、ここで、架橋セルロース水和物が特に好ましい。
【0043】
必要に応じて、チャネル、すなわちダイアフィルトレーションチャネル、保持液チャネル、及び透過液収集チャネルを、スペーサー等の当該技術分野において知られるそれぞれの手段によって開放したままにしておくことができる。このようなスペーサーを、例えば、不織布等のあらゆる適切な材料で作ることができる。
【0044】
供給流体(本明細書では標的相)用の入口は、好ましくはクロスフローダイアフィルトレーションユニットの第1の端部領域に取り付けられ、保持液用の出口は、第1の端部領域に面するクロスフローダイアフィルトレーションユニットの第2の端部領域に取り付けられる。この配置のおかげで、開始点としての供給流体用の入口から終点としての保持液用の出口までの保持液の流れの実質的に均一な方向を規定することが可能である。結果として、保持液の流れの方向は、(平坦な)濾材に沿った流路と実質的に平行に、すなわち本質的に偏向することなく進むため、安定した信頼性の高い保持液の流れがクロスフローダイアフィルトレーションユニットによって保証され得る。さらに、偏向、ループ等を伴わない実質的に線形の流路により、濾過ユニット内の圧力降下だけでなく、供給流体中に含まれる標的物質に対する非線形な流れの不所望な作用も最小限に抑えることが可能である。上記の理由から、ダイアフィルトレーション媒体用の入口をクロスフローダイアフィルトレーションユニットの第1の端部領域に取り付けることも好ましい。しかしながら、ダイアフィルトレーション媒体用の入口を第2の端部領域又は第3の端部領域及び/又は第4の端部領域に取り付けることも可能である。
【0045】
好ましい実施の形態によれば、透過液用の出口は、クロスフローダイアフィルトレーションユニットの第2の端部領域に取り付けられる。いずれの場合も、透過液用の少なくとも1つの出口をクロスフローダイアフィルトレーションユニットの第1の端部領域及び第2の端部領域の両方に取り付けることが特に好ましい。本発明の別の実施の形態において、透過液用の出口は、代替として又は追加として、クロスフローダイアフィルトレーションユニットの第3の端部領域及び/又は第4の端部領域に取り付けられる。第3の端部領域は、クロスフローダイアフィルトレーションユニットをダイアフィルトレーションチャネル側から平面視したときに、流れ方向の左側に位置する。相応して、第4の端部領域は右側に位置するため、第3の端部領域の反対側にある。上記の出口(複数の場合もある)の配置により、特に高い透過液性能を達成するだけでなく、設計上の利点を達成することも可能となる。
【0046】
第1の端部領域は、好ましくは、流れの方向と反対側の濾過ユニットの長さの外側3分の1を構成する。相応して、第2の端部領域は、流れの方向に沿って濾過ユニットの長さの外側3分の1を構成する。第3の端部領域及び第4の端部領域にも同じことが当てはまる。第1の端部領域から第4の端部領域までを可能な限り小さくすることが有利である。したがって、端部領域は、最大でそれぞれの外側20%、更により好ましくは、最大でそれぞれの外側10%、最も好ましくは、最大でそれぞれの外側3%を構成することが特に好ましい。
【0047】
原則として、入口及び出口の取り付けに特別な制約はない。例えば、供給流体が流れの方向で保持液チャネルに入って、流れの方向で保持液チャネルから出るようにして、入口及び出口を取り付けることができる。相応して、透過液用の出口を、透過液が流れの方向で透過液収集チャネルを出るように取り付けることができ、及び/又はダイアフィルトレーション媒体用の入口を、ダイアフィルトレーション媒体が流れの方向でダイアフィルトレーションチャネルに入るようにして取り付けることができる。しかしながら、好ましくは、入口及び出口は、ダイアフィルトレーション媒体が流れの方向に対して垂直にダイアフィルトレーションチャネルに入った後に、供給流体が流れの方向に対して垂直に保持液チャネルに入り、流れの方向に対して垂直に保持液として保持液チャネルを出るようにして取り付けられる。このような入口及び出口の取り付けにより、複数の本発明による濾過ユニットを配置してフィルターカセットを形成することが容易になる。それぞれの配置を、例えば、図2及び図3に概略的に示す。図3に示されるように、標的成分だけでなく相形成成分も含むATPS標的相は供給物入口を介して供給される。膜の選択されたMWCOにより、標的成分が保持液チャネル内に保持される一方で、より小さい相形成成分が膜を透過して透過液出口で取り出される。同時に、ダイアフィルトレーションバッファーを追加のチャネルによって積極的に供給すると、ダイアフィルトレーションバッファーは膜を透過して、相形成成分を保持液から透過液に洗出する(バッファー交換)。
【0048】
好ましくは、クロスフローダイアフィルトレーションユニットは、供給流体(本明細書では標的相)用の複数の入口と、保持液用の複数の出口と、透過液用の複数の出口とを備える。
【0049】
連続ダイアフィルトレーションにおいては、プロセスを中断する必要がないように、供給流体(本明細書では標的相)及びダイアフィルトレーション媒体の両方を連続的に添加する。結果として、クロスフローダイアフィルトレーションユニットにより、プロセスを効率的かつ経済的に実行することが可能となる。
【0050】
ダイアフィルトレーション媒体は特に限定されない。原則的に、あらゆる流体が適しており、ここで、水及び塩水溶液が好ましい。例えば、ダイアフィルトレーション媒体としてバッファー水溶液を使用することができる。好ましくは、ダイアフィルトレーション媒体は、KPiバッファー、リン酸ナトリウムバッファー、酢酸ナトリウムバッファー、PBS(リン酸緩衝生理食塩水)、グリシン、クエン酸バッファー、トリスバッファー、BIS-トリスバッファー、HEPESバッファー、及び水からなる群から選択される。水溶液中のバッファーの濃度は特に限定されず、例えば1.0mM~5.0M、好ましくは5.0mM~1.0M、より好ましくは10mM~200mM、最も好ましくは25mM~100mMであってよい。
【0051】
ダイアフィルトレーション媒体のpHは特に限定されない。例えば、ダイアフィルトレーション媒体のpHは2.0~12.0、好ましくは3.0~10.0、最も好ましくは5.0~9.0であってよい。低いpH、好ましくは2.5~4.5、最も好ましくは3.0~4.0でダイアフィルトレーションを使用する場合、好ましくは、有利には、ダイアフィルトレーション中の酸性化によってウイルス不活化を達成することが可能である。
【0052】
好ましい実施の形態において、クロスフローダイアフィルトレーションユニットは、供給されるダイアフィルトレーション媒体の体積流量が、供給される標的相(すなわち、供給される供給流体)の体積流量の0.5倍~20倍であるように構成される。供給されるダイアフィルトレーション媒体の体積流量は、供給される標的相の体積流量の好ましくは1.0倍~15倍、より好ましくは2.0倍~10倍、より好ましくは4.0倍~9.0倍、最も好ましくは5.0倍~7.0倍である。
【0053】
供給されるダイアフィルトレーション媒体の体積流量は1.0mL/分~2.0L/分、好ましくは2.0mL/分~1.0L/分、より好ましくは4.0mL/分~500mL/分、最も好ましくは10mL/分~175mL/分であり得る。供給される標的相の体積流量は0.5mL/分~100mL/分、好ましくは1.0mL/分~50mL/分、より好ましくは2.0mL/分~25mL/分であり得る。出口での保持液の体積流量は0.5mL/分~100mL/分、好ましくは1.0mL/分~50mL/分、より好ましくは2.0mL/分~25mL/分であり得る。
【0054】
好ましい実施の形態において、ダイアフィルトレーション媒体は0.1bar~4barの圧力で供給される。より好ましくは、ダイアフィルトレーション媒体は、保持液出口の圧力より大きな圧力で供給される。この文脈において、「より大きな」という用語は、例えば、ダイアフィルトレーション媒体が供給される圧力が保持液出口の圧力よりも少なくとも0.1bar、少なくとも0.2bar、少なくとも0.3bar、少なくとも0.5bar、少なくとも1bar、少なくとも2bar、少なくとも3bar、又は少なくとも5bar大きいことを意味する。
【0055】
好ましくは、ダイアフィルトレーションは連続的に、すなわち、ダイアフィルトレーション媒体及び供給流体を一定に/連続的に添加しつつ実施されるため、特に効率的かつ経済的な濾過方法が提供され得る。
【0056】
好ましくは、分離された標的相は、クロスフローダイアフィルトレーションユニットに直接適用される。したがって、分離された標的相は、好ましくは、一切希釈せずにクロスフローダイアフィルトレーションユニットに適用される。必要に応じて、分離された標的相を、ダイアフィルトレーションの前に(例えば、0.2μmの滅菌フィルターを用いた)濾過に供してもよい。可能性のある洗浄工程を、上記濾過の後に、大幅な希釈が起こらない程度(例えば、0.50体積当量未満、より好ましくは0.1体積当量未満、より好ましくは0.01体積当量未満での希釈)まで実施してよい。
【0057】
分離された標的相中の標的成分の濃度は特に限定されない。例えば、分離された標的相中の標的成分の濃度は0.01g/L~500g/L、好ましくは0.1g/L~50g/L、最も好ましくは0.5g/L~10g/Lであってよい。
【0058】
ダイアフィルトレーション後の保持液中の標的成分の濃度は特に限定されない。例えば、ダイアフィルトレーション後の保持液中の標的成分の濃度は0.01g/L~500g/L、好ましくは0.1g/L~50g/L、最も好ましくは0.5g/L~10g/Lであってよい。
【0059】
クロスフローダイアフィルトレーション後、標的成分(の大部分)は、好ましくは、保持液中に含まれる。したがって、ダイアフィルトレーションにかけられる標的成分の総質量に対する保持液中に含まれる標的成分の質量の質量比は、好ましくは50質量%超、より好ましくは少なくとも80質量%、より好ましくは少なくとも90質量%、最も好ましくは少なくとも95質量%である。
【0060】
ダイアフィルトレーション後、保持液又は透過液、好ましくは保持液を、あらゆる適切な順序において、アフィニティークロマトグラフィー及び/又は疎水性相互作用クロマトグラフィー及び/又は陽イオン交換クロマトグラフィー及び/又は陰イオン交換クロマトグラフィー、及び/又は滅菌濾過及び/又はウイルス濾過、及び/又はウイルス不活化等の更なる精製工程にかけることができる。したがって、本発明の分離システムは、あらゆる適切な順序において、アフィニティークロマトグラフィーユニット及び/又は疎水性相互作用クロマトグラフィーユニット及び/又は陽イオン交換クロマトグラフィーユニット及び/又は陰イオン交換クロマトグラフィーユニット、及び/又は滅菌濾過ユニット及び/又はウイルス濾過ユニット、及び/又はウイルス不活化ユニット等のそれぞれの更なる精製ユニットを更に備え得る。好ましくは、ダイアフィルトレーション媒体は、得られる保持液又は透過液、好ましくは保持液が後続の精製工程(複数の場合もある)に適切なバッファーを有するように選択される。
【0061】
更なる態様において、本発明は、流体中に含まれる標的成分を精製する方法であって、該方法は、
(a)流体を水性二相抽出にかける工程と、
(b)水性二相抽出後に得られる標的成分を含む標的相とその他の相とを分離する工程と、
(c)分離された標的相を、クロスフローダイアフィルトレーションユニットを使用してダイアフィルトレーションにかける工程と、
を含み、
クロスフローダイアフィルトレーションユニットは、ダイアフィルトレーションチャネル、第1の濾材、保持液チャネル、第2の濾材、及び透過液収集チャネルを少なくとも備え、第1の濾材がダイアフィルトレーションチャネルと保持液チャネルとを互いに区切り、かつ第2の濾材が保持液チャネルと透過液収集チャネルとを互いに区切るように配置されており、
ダイアフィルトレーションチャネルは、ダイアフィルトレーション媒体用の少なくとも1つの入口に流体伝導的に接続されており、保持液チャネルは、標的相用の少なくとも1つの入口及び保持液用の少なくとも1つの出口に流体伝導的に接続されており、かつ透過液収集チャネルは、透過液用の少なくとも1つの出口に流体伝導的に接続されている、方法に関する。本発明のこの態様には、上記の記述及び定義が同様に適用される。好ましくは、本発明による方法は、本発明による分離システムを使用することによって実施される。
【0062】
更なる態様において、本発明は、水性二相系の分離後に得られる標的成分を含む標的相を処理するためのクロスフローダイアフィルトレーションユニットの使用であって、クロスフローダイアフィルトレーションユニットは、ダイアフィルトレーションチャネル、第1の濾材、保持液チャネル、第2の濾材、及び透過液収集チャネルを少なくとも備え、第1の濾材がダイアフィルトレーションチャネルと保持液チャネルとを互いに区切り、かつ第2の濾材が保持液チャネルと透過液収集チャネルとを互いに区切るように配置されており、
ダイアフィルトレーションチャネルは、ダイアフィルトレーション媒体用の少なくとも1つの入口に流体伝導的に接続されており、保持液チャネルは、標的相用の少なくとも1つの入口及び保持液用の少なくとも1つの出口に流体伝導的に接続されており、かつ透過液収集チャネルは、透過液用の少なくとも1つの出口に流体伝導的に接続されている、使用に関する。本発明のこの態様には、上記の記述及び定義が同様に適用される。好ましくは、クロスフローダイアフィルトレーションユニットは、本発明による分離システムのクロスフローダイアフィルトレーションユニットである。好ましくは、水性二相抽出は、本発明による分離システムの水性二相抽出ユニットを適用することによって行われる。
【0063】
符号
図1及び図3
1=ポリマーが豊富な軽相(LP)、2=標的成分、mAb、3=宿主細胞タンパク質(HCP)、4=細胞、5=DNA、6=塩が豊富な重相(HP)、31=標的成分、32=ATPS相形成成分、33=ダイアフィルトレーションバッファー。
【図面の簡単な説明】
【0064】
図1】標的成分としての、例えばmAbを抽出する水性二相系における生体分子の標的分布(targeted distribution)の概略図である。
図2】本発明において使用されるクロスフローダイアフィルトレーションユニットの一実施形態の概略図である。FIR=流量センサー(表示、記録)、CIR=導電率センサー(表示、記録)、PIR=圧力センサー(表示、記録)。
図3】本発明において使用されるクロスフローダイアフィルトレーションユニットの使用中の実施形態の概略図である。標的成分だけでなく相形成成分も含むATPS標的相が供給物入口を介してダイアフィルトレーションユニットに供給される。膜の選択されたMWCOにより、標的成分は保持液チャネル内に保持される一方で、より小さい相形成成分が膜を透過して透過液出口において取り出される。同時に、ダイアフィルトレーションバッファーを追加のチャネルによって積極的に供給すると、ダイアフィルトレーションバッファーは膜を透過して、相形成成分を保持液から透過液に洗出する(バッファー交換)。ダイアフィルトレーションバッファーの積極的な供給により、効率的かつ迅速なバッファー交換が強力に支持されることから、標的相を事前に希釈することなく、標的成分の沈殿は大幅に少なくなる。
図4】実施例3における標的相の従来のダイアフィルトレーション全体を通した透過液の流量を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0065】
本発明を以下の実施例において更に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例
【0066】
実施例1
mAb(免疫グロブリンG型、IgG、等電点=8.4)を、市販の無血清培地を用いたCHO細胞の流加培養において生成した。細胞をAmbr(商標)250シングルユースバイオリアクター(Sartorius、ドイツ、ゲッティンゲン)において855rpm、36.8℃、及びpH7.1で12日間培養した。採取時点では、生存率は80%以上であり、生細胞密度は1ml当たり10×10個以上の細胞であり、IgG濃度は2.8g/l以上であった。
【0067】
培養ブロスからの直接抽出用のATPS組成(表1を参照)を、標的軽相(LP)におけるDNA及びHCPに関する最高のmAb収率及び純度に向けてのDoEアプローチに基づいた以前の研究(非特許文献1)から採用した。400g/molの分子量を有するPEGをMerck(ドイツ、ダルムシュタット)から購入した。無水第一リン酸ナトリウム(NaHPO)及び無水第二リン酸カリウム(KHPO)を使用して、それぞれのストック溶液(40質量%のリン酸バッファー)を調製した。両方のストック溶液の滴定によってpH値を調整した。置換剤(displacement agent)としてのNaClを含む全ての塩をCarl Roth(ドイツ、カールスルーエ)から購入した。
【0068】
【0069】
適切な量のATPS成分をSchottフラスコ中で秤量した。供給物として、細胞含有培養ブロスを使用した。平衡状態を確保するのに、ATPSをマグネチックスターラーによって500rpmで10分間撹拌した。迅速かつ容易な相分離のために、水性二相抽出後に得られた標的相(LP)を分離する分離ユニットとして遠心分離機を使用した。したがって、ATPSを500mlのCorning(商標)遠心分離チューブ(Sigma-Aldrich、米国、セントルイス)に移し、538×gで5分間遠心分離した。mAb含有相としてのLPをピペッティングにより取り出した。完全な細胞の除去を確実にするのに、0.2μmの公称細孔サイズを有する滅菌フィルター(Sartopore 2(商標)XLG、Sartorius、ゲッティンゲン)をLP濾過用に1barの一定圧力で使用した。
【0070】
【0071】
ATPE及び相分離の後、81.9%の収率のmAbが得られた。mAbは、培養ブロスの濃度(2.9mg/ml、表2)と比較して、LPへとわずかに希釈された(2.2mg/ml)。濁度は2235NTUから10.5NTUに減少した。
【0072】
ATPE及び相分離の後に、DNAの大部分(95.3%)及びHCPの45.7%がプロセス関連不純物として除去された。DNA濃度は393μg/mLから7557ppmに相当する16.8μg/mLに減少した。同時に、HCP濃度は452μg/mLから102467ppmに相当する228μg/mLまで減少した(表2)。これらの結果は、十分な清澄化及びATPEによる高収率での培養ブロスからの直接的な生成物(IgG)の捕捉と同時のDNA及びHCPのようなプロセス関連不純物の除去を裏付けている。
【0073】
実施例2
実施例1に記載のように分離された標的成分(IgG)を含む標的相を本発明のダイアフィルトレーションアプローチにより更に精製した。したがって、30kDaの平均分子量カットオフを有するポリエーテルスルホン膜を使用した。2種の異なるダイアフィルトレーションバッファーである、中性のバッファー条件の場合の例としての50mMのKPiバッファー(pH7.4)と、酸性化によるウイルス不活化を可能にするのに使用することもできる酸性のバッファー条件の例としての50mMの酢酸ナトリウム(NaAc)(pH3.0)とを例として調査した。両方のダイアフィルトレーションについて、400gの分離された標的相を処理した。それにより、このプロセスを、大幅により多量の標的相の場合にも又は連続的にも行うことができる。
【0074】
【0075】
【0076】
両方の実験について、標的相及び保持液の流量を10mL/分に設定し、それぞれのダイアフィルトレーションバッファーの流量を50mL/分に設定した。標的相の密度により、およそ359mLの体積に相当するおよそ400gを計画通りに処理した。生成物(保持液)のIgG濃度は、両方の流れの流量が等しいため、およそ2g/Lで標的相と同様であった。プロセス全体で、それぞれ50mMのKPiバッファー及び50mMの酢酸ナトリウムの場合に94.0%(表3)及び95.3%(表4)という高いIgG収率が達成された。プロセス全体を通して、生成物相中に沈殿は観察されず、したがって、5NTU未満の非常に低い濁度が得られた。
【0077】
実施例3
比較例として、実施例1によって得られた同じ標的相を、実施例2と同じ種類の膜(30kDaのMWCO、ポリエーテルスルホン)を利用したが、従来のダイアフィルトレーションを適用して処理した。400cmの総膜面積を有する2つのSlice 200膜カセットを備えたSartoflow Smartベンチトップダイアフィルトレーションシステムを使用した。ダイアフィルトレーションバッファーとして、実施例2と同様に、50mMのKPiバッファー(pH7.4)を使用した。
【0078】
ダイアフィルトレーションの開始時に、およそ25g/分の透過液流が得られ、これは効率的なバッファー交換を示している。しかしながら、既に4分間の処理時間後に、透過液流が5g/分未満に大幅に減少したことにより、実験を中止することが必要となった。したがって、この場合に、完全なダイアフィルトレーションは不可能であった。
【0079】
生成物(mAb)の激しい沈殿によって膜汚損が引き起こされ、その結果、中断されたプロセスの終了時におよそ500NTUの高い濁度及び48%の低収率がもたらされた。
【0080】
従来のダイアフィルトレーションを可能にする考えられるアプローチは、Kruse et al. 2020によって記載されるように、標的相をダイアフィルトレーションバッファーで5倍に希釈して標的成分の沈殿を避けることである。しかしながら、この結果、処理時間がより長時間になること、及び標的成分の初期濃度を回復するのに追加の濃縮工程が必要となることのような幾つかの欠点がもたらされる。
【0081】
この理由のため、本発明のアプローチでは幾つかの利点がもたらされる。それというのも、標的成分の大幅な沈殿が起こらず、結果として、高収率の標的成分で効率的なバッファー交換がもたらされ、かつ標的相の追加の希釈が必要とされないからである。
図1
図2
図3
図4
【国際調査報告】