(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-10
(54)【発明の名称】グラフェンナノプレートを含むポリイミドフィルムおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 79/08 20060101AFI20241003BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20241003BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20241003BHJP
C08K 7/00 20060101ALI20241003BHJP
C08G 73/10 20060101ALI20241003BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C08L79/08
C08J5/18 CFG
C08K3/04
C08K7/00
C08G73/10
H05K1/03 610N
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024519123
(86)(22)【出願日】2022-09-29
(85)【翻訳文提出日】2024-03-27
(86)【国際出願番号】 KR2022014667
(87)【国際公開番号】W WO2023055131
(87)【国際公開日】2023-04-06
(31)【優先権主張番号】10-2021-0129373
(32)【優先日】2021-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520160738
【氏名又は名称】ピーアイ・アドバンスド・マテリアルズ・カンパニー・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】チョン,ジン ソク
(72)【発明者】
【氏名】ヨ,ムン ジン
(72)【発明者】
【氏名】ペク,ソン ヨル
(72)【発明者】
【氏名】リー,キル ナム
【テーマコード(参考)】
4F071
4J002
4J043
【Fターム(参考)】
4F071AA60X
4F071AB03
4F071AD05
4F071AF40Y
4F071AG28
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4J043XA16
4J043YA06
4J043ZA42
4J043ZB50
(57)【要約】
本発明は、ベンゾフェノンテトラカルボキシリックジアンハイドライド(BTDA)、ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライド(BPDA)およびピロメリティックジアンハイドライド(PMDA)を含む二無水物酸成分と、m-トリジン(m-tolidine)およびパラフェニレンジアミン(PPD)を含むジアミン成分とを含むポリアミック酸溶液をイミド化反応させて得られ、グラフェンナノプレート(graphene nanoplatelets)を0.5~2.5重量%含むポリイミドフィルムを提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベンゾフェノンテトラカルボキシリックジアンハイドライド(BTDA)、ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライド(BPDA)およびピロメリティックジアンハイドライド(PMDA)を含む二無水物酸成分と、m-トリジン(m-tolidine)およびパラフェニレンジアミン(PPD)を含むジアミン成分とを含むポリアミック酸溶液をイミド化反応させて得られ、
グラフェンナノプレート(graphene nanoplatelet)を0.5~2.5重量%含む、
ポリイミドフィルム。
【請求項2】
前記ジアミン成分の総含有量100モル%を基準として、m-トリジンの含有量が20モル%以上40モル%以下であり、パラフェニレンジアミンの含有量が60モル%以上80モル%以下である、
請求項1に記載のポリイミドフィルム。
【請求項3】
前記二無水物酸成分の総含有量100モル%を基準として、ベンゾフェノンテトラカルボキシリックジアンハイドライドの含有量が20モル%以上45モル%以下であり、
ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライドの含有量が20モル%以上45モル%以下であり、
ピロメリティックジアンハイドライドの含有量が20モル%以上45モル%以下である、請求項1に記載のポリイミドフィルム。
【請求項4】
前記グラフェンナノプレートの平均厚さが6~8nmであり、
平均粒子大きさが5~25μmであり、
比表面積は120~150m
2/gである、
請求項1に記載のポリイミドフィルム。
【請求項5】
誘電率が4.0以上、7.0以下であり、
誘電損失率が0.01以下である、
請求項1に記載のポリイミドフィルム。
【請求項6】
(a)ベンゾフェノンテトラカルボキシリックジアンハイドライド(BTDA)、ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライド(BPDA)およびピロメリティックジアンハイドライド(PMDA)を含む二無水物酸成分と、m-トリジン(m-tolidine)およびパラフェニレンジアミン(PPD)で構成されたジアミン成分とを有機溶媒中で重合してポリアミック酸を製造するステップ;
(b)前記ポリアミック酸にグラフェンナノプレートを追加して混合するステップ;および
(c)前記グラフェンナノプレートが含まれた前記ポリアミック酸をイミド化するステップ;を含む、
ポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項7】
前記ジアミン成分の総含有量100モル%を基準として、m-トリジンの含有量が20モル%以上40モル%以下であり、パラフェニレンジアミンの含有量が60モル%以上80モル%以下であり、
前記二無水物酸成分の総含有量100モル%を基準として、ベンゾフェノンテトラカルボキシリックジアンハイドライドの含有量が20モル%以上45モル%以下であり、
ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライドの含有量が20モル%以上45モル%以下であり、
ピロメリティックジアンハイドライドの含有量が20モル%以上45モル%以下である、請求項6に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項8】
前記ポリイミドフィルムの誘電率が4.0以上、7.0以下であり、
誘電損失率が0.01以下である、
請求項6に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項9】
請求項1ないし請求項5のうちいずれか一項に記載のポリイミドフィルムを含む、
多層フィルム。
【請求項10】
請求項1ないし請求項5のうちいずれか一項に記載のポリイミドフィルムと電気伝導性の金属箔とを含む、
軟性金属箔積層板。
【請求項11】
請求項10に記載の軟性金属箔積層板を含む、
電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラフェンナノプレートを含む優れた誘電特性のポリイミドフィルムおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミド(polyimide、PI)は、剛直な芳香族主鎖とともに化学的安定性に非常に優れたイミド環を基礎とし、有機材料の中でも最高水準の耐熱性、耐薬品性、電気絶縁性、耐化学性、耐候性を有する高分子材料である。
【0003】
特に、優れた絶縁特性、すなわち低い誘電率のような優れた電気的特性によって、電気、電子、光学分野などに至るまで高機能性高分子材料として脚光を浴びている。
最近、電子製品が軽量化、小型化するにつれて、集積度が高く柔軟な薄型回路基板が活発に開発されている。
このような薄型回路基板は、優れた耐熱性、耐低温性および絶縁特性を有するとともに屈曲が容易なポリイミドフィルム上に金属箔を含む回路が形成されている構造が多く活用される傾向にある。
このような薄型回路基板としては、軟性金属箔積層板が主に用いられており、一例として、金属箔として薄い銅板を用いる軟性銅箔積層板(Flexible Copper Clad Laminate、FCCL)が含まれる。その他にも、ポリイミドを薄型回路基板の保護フィルム、絶縁フィルムなどとして活用することもある。
【0004】
一方、最近、電子機器に多様な機能が内在されるにつれて、前記電子機器に速い演算速度と通信速度が要求されており、これを満たすために高周波で高速通信が可能な薄型回路基板が開発されている。
高周波高速通信の実現のために、高周波でも電気絶縁性を維持できる高いインピーダンス(impedance)を有する絶縁体が必要である。インピーダンスは、絶縁体に形成される周波数および誘電定数(dielectric constant;Dk)と反比例の関係が成り立つので、高周波でも絶縁性を維持するためには誘電定数ができるだけ低くなければならない。
しかし、通常のポリイミドの場合、誘電特性が高周波通信で十分な絶縁性を維持できる程度に優れた水準ではないのが実情である。
また、絶縁体が低誘電特性を有するほど薄型回路基板で好ましくない浮遊用量(stray capacitance)とノイズの発生を減少させることができ、通信遅延の原因を相当部分解消できるものと知られている。
したがって、低誘電特性のポリイミドが薄型回路基板の性能に何より重要な要因として認識されている実情である。
【0005】
特に、高周波通信の場合、必然的にポリイミドを通じる誘電損失(dielectric
dissipation)が発生することになるが、誘電損失率(dielectric dissipation factor;Df)は、薄型回路基板の電気エネルギー損失程度を意味し、通信速度を決定する信号伝達遅延と密接に関係していて、ポリイミドの誘電損失率ができるだけ低く維持することも、薄型回路基板の性能に重要な要因として認識されている。
また、ポリイミドフィルムに湿気が多く含まれるほど誘電定数が大きくなって誘電損失率が増加する。ポリイミドフィルムの場合、優れた固有の特性によって薄型回路基板の素材として適しているのに対し、極性を帯びるイミド基によって湿気に相対的に脆弱であり、これにより絶縁特性が低下する可能性がある。
したがって、ポリイミド特有の機械的特性を一定の水準に維持する誘電特性のポリイミドフィルムの開発が必要な実情である。
また、最近は、伝送速度が速くなるにつれて、反射信号がRising time部位を乱して半導体動作を妨げる問題を解決するために、回路の端部にターミネーター(terminator)を取り付けてエネルギーを吸収する方式を適用している。このような吸収方式の適用のためには、ターミネーターのインピーダンスと伝送回路のインピーダンスとが同一でなければならない。
このとき、ターミネーター抵抗(terminator Resistor)のインピーダンス値は決められているので、印刷回路基板(PCB)の回路のインピーダンスの調節が必要である。
すなわち、電子機器の小型化傾向で絶縁厚さが薄くなるにつれてインピーダンスが減少する中で、決められているターミネーター抵抗のインピーダンス値を合わせるためには、誘電率を従来のポリイミドフィルム(Dk:3.5)より高めなければならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】韓国公開特許公報第10-2015-0069318号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これにより、前記のような問題を解決するために、優れた誘電特性を有するポリイミドフィルムおよびその製造方法を提供することに目的がある。
これにより、本発明は、その具体な実施例を提供することに実質的な目的がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記のような目的を果たすための本発明の一実施形態は、ベンゾフェノンテトラカルボキシリックジアンハイドライド(BTDA)、ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライド(BPDA)およびピロメリティックジアンハイドライド(PMDA)を含む二無水物酸成分と、m-トリジン(m-tolidine)およびパラフェニレンジアミン(PPD)を含むジアミン成分とを含むポリアミック酸溶液をイミド化反応させて得られ、グラフェンナノプレート(graphene nanoplatelets)を0.5~2.5重量%含む、ポリイミドフィルムを提供する。
【0009】
前記ジアミン成分の総含有量100モル%を基準として、m-トリジンの含有量が20モル%以上40モル%以下であり、パラフェニレンジアミンの含有量が60モル%以上80モル%以下であってもよい。
【0010】
また、前記二無水物酸成分の総含有量100モル%を基準として、ベンゾフェノンテトラカルボキシリックジアンハイドライドの含有量が20モル%以上45モル%以下であり、ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライドの含有量が20モル%以上45モル%以下であり、ピロメリティックジアンハイドライドの含有量が20モル%以上45モル%以下であってもよい。
【0011】
前記グラフェンナノプレートの平均厚さが6~8nmであり、平均粒子大きさが5~25μmであり、比表面積は120~150m2/gであってもよい。
【0012】
一方、前記ポリイミドフィルムの誘電率は4.0以上、7.0以下であり、誘電損失率が0.01以下であってもよい。
【0013】
本発明の他の一実施形態は、(a)ベンゾフェノンテトラカルボキシリックジアンハイド
ライド(BTDA)、ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライド(BPDA)およびピロメリティックジアンハイドライド(PMDA)を含む二無水物酸成分と、m-トリジン(m-tolidine)およびパラフェニレンジアミン(PPD)で構成されたジアミン成分とを有機溶媒中で重合してポリアミック酸を製造するステップ;(b)前記ポリアミック酸にグラフェンナノプレートを追加して混合するステップ;および(c)前記グラフェンナノプレートが含まれた前記ポリアミック酸をイミド化するステップ;を含むポリイミドフィルムの製造方法を提供する。
【0014】
本発明のまた他の一実施形態は、前記ポリイミドフィルムを含む多層フィルム、前記ポリイミドフィルムと電気伝導性の金属箔とを含む軟性金属箔積層板および前記軟性金属箔積層板を含む電子部品を提供する。
【発明の効果】
【0015】
以上で説明しているように、本発明は、特定の成分および特定の組成比からなるポリイミドフィルムおよびその製造方法を通じて優れた誘電特性を有するポリイミドフィルムを提供することによって、このような特性が要求される多様な分野、特に軟性金属箔積層板などの電子部品などに有用に適用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下で、本発明に係る「ポリイミドフィルム」および「ポリイミドフィルムの製造方法」の順に発明の実施形態をより詳細に説明する。
【0017】
これに先立って、本明細書および請求の範囲に使用された用語や単語は、通常の又は辞書的な意味に限定して解釈されてはならず、発明者は、その自分の発明を最も最善の方法で説明するために用語の概念を適切に定義できるという原則に即して、本発明の技術的思想に合致する意味と概念で解釈されなければならない。
したがって、本明細書に記載された実施例の構成は、本発明の最も好ましい一つの実施例に過ぎないだけで、本発明の技術的思想を全て代弁するものではないので、本出願時点においてこれらを代替できる多様な均等物と変形例が存在可能であることを理解しなければならない。
【0018】
本明細書で、単数の表現は文脈上明白に異に意味しない限り、複数の表現を含む。本明細書で、「含む」、「備える」または「有する」などの用語は、実施された特徴、数字、ステップ、構成要素またはこれらを組み合わせたものが存在するのを指定しようとするものであって、一つまたはその以上の他の特徴や数字、ステップ、構成要素、またはこれらを組み合わせたものなどの存在または付加可能性をあらかじめ排除しないものと理解されなければならない。
【0019】
本明細書で、量、濃度、または他の値もしくはパラメーターが、範囲、好ましい範囲または好ましい上限値および好ましい下限値の列挙として与えられる場合、範囲が別に開示されるのか否かにかかわず、任意の一対の任意の上限範囲値または、好ましい値および任意の下限範囲値または好ましい値で形成された全ての範囲を具体的に開示するものと理解されなければならない。
数値の範囲が、本明細書で言及される場合、特に記述されない限り、その範囲は、その終点およびその範囲内の全ての整数と分数を含むものと意図される。本発明の範疇は、範囲を定義する時に言及される特定の値で限定されないものと意図される。
【0020】
本明細書で、「二無水物酸」は、その前駆体または誘導体を含むものと意図されるが、これらは、技術的には二無水物酸ではないこともあるが、それにもかかわらず、ジアミンと反応してポリアミック酸を形成し、このポリアミック酸は再びポリイミドに変換すること
ができる。
【0021】
本明細書で、「ジアミン」は、その前駆体または誘導体を含むものと意図されるが、これらは技術的にはジアミンではないこともあるが、それにもかかわらず、ジアンハイドライドと反応してポリアミック酸を形成し、このポリアミック酸は再びポリイミドに変換することができる。
【0022】
本明細書で、数値範囲を示す「aないしb」および「a~b」で、「ないし」および「~」は≧aで≦bと定義する。
【0023】
本発明に係るポリイミドフィルムは、ベンゾフェノンテトラカルボキシリックジアンハイドライド(BTDA)、ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライド(BPDA)およびピロメリティックジアンハイドライド(PMDA)を含む二無水物酸成分と、m-トリジン(m-tolidine)およびパラフェニレンジアミン(PPD)を含むジアミン成分とを含むポリアミック酸溶液をイミド化反応させて得られ、グラフェンナノプレート(graphene nanoplatelets)を0.5~2.5重量%含んでもよい。
【0024】
前記ジアミン成分の総含有量100モル%を基準として、m-トリジンの含有量が20モル%以上40モル%以下であり、パラフェニレンジアミンの含有量が60モル%以上80モル%以下であってもよい。
特に、m-トリジンは、特に疎水性を帯びるメチル基を有していて、ポリイミドフィルムの低吸湿特性に寄与する。
【0025】
前記二無水物酸成分の総含有量100モル%を基準として、ベンゾフェノンテトラカルボキシリックジアンハイドライドの含有量が20モル%以上45モル%以下であり、ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライドの含有量が20モル%以上45モル%以下であり、ピロメリティックジアンハイドライドの含有量が20モル%以上45モル%以下であってもよい。
【0026】
本発明のビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライドに来由のポリイミド鎖は、電荷移動錯体(CTC:Charge transfer complex)と命名された構造、すなわち、電子供与体 (electron donnor)と電子受容体(electron acceptor)とが互いに近接するように位置する規則的な直線構造を有することになり、分子間相互作用(intermolecular interaction)が強化される。
また、カルボニルグループを有しているベンゾフェノンテトラカルボキシリックジアンハイドライドも、ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライドと同様に、CTCの発現に寄与する。
このような構造は、水分との水素結合を防止する効果があるので、吸湿率を下げるのに影響を与えてポリイミドフィルムの吸湿性を下げる効果を極大化することができる。
【0027】
一つの具体的な例で、前記二無水物酸成分は、ピロメリティックジアンハイドライドを追加的に含んでもよい。ピロメリティックジアンハイドライドは、相対的に剛直な構造を有する二無水物酸成分であって、ポリイミドフィルムに適切な弾性を付与できる点で好ましい。
ポリイミドフィルムが適切な弾性と吸湿率とを同時に満足するためには、二無水物酸の含有量比が特に重要である。例えば、ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライドの含有量比が減少するほど前記CTC構造による低い吸湿率を期待し難くなる。
【0028】
また、ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライドおよびベンゾフェノンテトラカルボキシリックジアンハイドライドは、芳香族部分に該当するベンゼン環を2つ含むのに対し、ピロメリティックジアンハイドライドは、芳香族部分に該当するベンゼン環を1つ含む。
【0029】
二無水物酸成分において、ピロメリティックジアンハイドライド含有量の増加は、同一の分子量を基準とするとき、分子内のイミド基が増加するものと理解することができ、これは、ポリイミド高分子鎖に前記ピロメリティックジアンハイドライドに来由のイミド基の割合が、ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライドおよびベンゾフェノンテトラカルボキシリックジアンハイドライドに来由のイミド基に対して相対的に増加するものと理解することができる。
すなわち、ピロメリティックジアンハイドライド含有量の増加は、ポリイミドフィルム全体に対しても、イミド基の相対的な増加とみなすことができ、これにより低い吸湿率を期待し難くなる。
逆に、ピロメリティックジアンハイドライドの含有量比が減少すると、相対的に剛直な構造の成分が減少することになり、ポリイミドフィルムの弾性が所望の水準以下に低下する可能性がある。
【0030】
このような理由で、前記ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライドおよびベンゾフェノンテトラカルボキシリックジアンハイドライドの含有量が前記範囲を上回るか、ピロメリティックジアンハイドライドの含有量が前記範囲を下回る場合、ポリイミドフィルムの機械的物性が低下し、軟性金属箔積層板を製造するのに適切な水準の耐熱性を確保することができない。
逆に、前記ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライドおよびベンゾフェノンテトラカルボキシリックジアンハイドライドの含有量が前記範囲を下回るか、ピロメリティックジアンハイドライドの含有量が前記範囲を上回る場合、適切な水準の誘電定数、誘電損失率および吸湿率の達成が難しいので好ましくない。
【0031】
一方、前記グラフェンナノプレートの平均厚さが6~8nmであり、平均粒子大きさが5~25μmであり、比表面積は120~150m2/gであってもよい。
前記グラフェンナノプレートは、他の炭素ナノ素材に比べて相対的に分散性に優れ、ポリイミドフィルムに添加する時にポリイミドフィルムの誘電損失率の下落を最小化させることができる。
【0032】
一具現例において、前記ポリイミドフィルムは、誘電率が4.0以上、7.0以下であり、誘電損失率が0.01以下であってもよい。
前記誘電率は、好ましくは4.5以上であってもよく、より好ましくは5.0以上であってもよい。
【0033】
これに関連して、誘電率(Dk)および誘電損失率(Df)をいずれも満足するポリイミドフィルムの場合、軟性金属箔積層板用絶縁フィルムとして活用可能であるだけでなく、製造された軟性金属箔積層板が10GHz以上の高周波で信号を伝送する電気的信号伝送回路として用いられても、それの絶縁安全性を確保することができ、信号伝達遅延も最小化することができる。
【0034】
本発明で、ポリアミック酸の製造は、例えば、
(1)ジアミン成分全量を溶媒の中に入れ、その後、二無水物酸成分をジアミン成分と実質的に等モルになるように添加して重合する方法;
(2)二無水物酸成分全量を溶媒の中に入れ、その後、ジアミン成分を二無水物酸成分と実質的に等モルになるように添加して重合する方法;
(3)ジアミン成分のうち一部の成分を溶媒の中に入れた後、反応成分に対して二無水物酸成分のうち一部の成分を約95~105モル%の割合で混合した後、残りのジアミン成分を添加し、これに続き、残りの二無水物酸成分を添加して、ジアミン成分および二無水物酸成分が実質的に等モルになるようにして重合する方法;
(4)二無水物酸成分を溶媒の中に入れた後、反応成分に対してジアミン化合物のうち一部の成分を95~105モル%の割合で混合した後、他の二無水物酸成分を添加し、続いて残りのジアミン成分を添加して、ジアミン成分および二無水物酸成分が実質的に等モルになるようにして重合する方法;
(5)溶媒中で一部のジアミン成分と一部の二無水物酸成分とのいずれか一つが過量になるように反応させて第1組成物を形成し、また他の溶媒中で一部のジアミン成分と一部の二無水物酸成分とのいずれか一つが過量になるように反応させて第2組成物を形成した後、第1、第2組成物を混合して、重合を完結する方法であって、このとき、第1組成物を形成する時にジアミン成分が過剰の場合、第2組成物では二無水物酸成分を過量にし、第1組成物で二無水物酸成分が過剰の場合、第2組成物ではジアミン成分を過量にして、第1、第2組成物を混合してこれらの反応に用いられる全体のジアミン成分と二無水物酸成分とが実質的に等モルになるようにして重合する方法などが挙げられる。
【0035】
ただし、前記重合方法が以上の例だけに限定されるものではなく、前記ポリアミック酸の製造は、公知されたいかなる方法を用いることができることは言うまでもない。
【0036】
一つの具体的な例で、本発明に係るポリイミドフィルムの製造方法は、
(a)ベンゾフェノンテトラカルボキシリックジアンハイドライド(BTDA)、ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライド(BPDA)およびピロメリティックジアンハイドライド(PMDA)を含む二無水物酸成分と、m-トリジン(m-tolidine)およびパラフェニレンジアミン(PPD)で構成されたジアミン成分とを有機溶媒中で重合してポリアミック酸を製造するステップ;
(b)前記ポリアミック酸にグラフェンナノプレートを追加して混合するステップ;および
(c)前記グラフェンナノプレートが含まれた前記ポリアミック酸をイミド化するステップ;を含んでもよい。
【0037】
前記ジアミン成分の総含有量100モル%を基準として、m-トリジンの含有量が20モル%以上40モル%以下であり、パラフェニレンジアミンの含有量が60モル%以上80モル%以下であり、前記二無水物酸成分の総含有量100モル%を基準として、ベンゾフェノンテトラカルボキシリックジアンハイドライドの含有量が20モル%以上45モル%以下であり、ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライドの含有量が20モル%以上45モル%以下であり、ピロメリティックジアンハイドライドの含有量が20モル%以上45モル%以下であってもよい。
【0038】
本発明では、前記のようなポリアミック酸の重合方法を任意(random)重合方式で定義することができ、前記のような過程で製造された本発明のポリアミック酸から製造されたポリイミドフィルムは、優れた誘電特性を有する本発明の効果を極大化させるの面で好ましく適用することができる。
【0039】
ただし、前記重合方法は、先に説明した高分子鎖内の繰り返し単位の長さが相対的に短く製造されるので、二無水物酸成分に来由のポリイミド鎖が有するそれぞれの優れた特性を発揮するには限界がある。したがって、本発明で特に好ましく用いられるポリアミック酸の重合方法は、ブロック重合方式であってもよい。
【0040】
一方、ポリアミック酸を合成するための溶媒は特に限定されるものではなく、ポリアミッ
ク酸を溶解させる溶媒であれば、いかなる溶媒も用いることができるが、アミド係溶媒であることが好ましい。
具体的には、前記溶媒は有機極性溶媒であってもよく、詳細には、非プロトン性極性溶媒(aprotic polar solvent)であってもよく、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-ピロリドン(NMP)、ガンマブチロラクトン(GBL)、ジグリム(Diglyme)からなる群より選択された一つ以上であってもよいが、これに制限されるものではなく、必要に応じて単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
一つの例で、前記溶媒は、N,N-ジメチルホルムアミドおよびN,N-ジメチルアセトアミドを特に好ましく用いることができる。
【0041】
また、ポリアミック酸製造工程では、摺動性、熱伝導性、コロナ耐性、ヌープ硬度などのフィルムの様々な特性を改善する目的で充填材を添加してもよい。添加される充填材は特に限定されるものではないが、好ましい例としては、シリカ、酸化チタン、アルミナ、窒化ケイ素、窒化ホウ素、リン酸水素カルシウム、リン酸カルシウム、雲母などが挙げられる。
【0042】
充填材の粒径は特に限定されるものではなく、改質すべきフィルム特性と添加する充填材の種類によって決定すればよい。一般的には、平均粒径が0.05ないし100μm、好ましくは0.1ないし75μm、より好ましくは0.1ないし50μm、特に好ましくは0.1ないし25μmである。
粒径が、この範囲を下回ると、改質効果が示され難くなり、この範囲を上回ると、表面性を大きく損傷させるか機械的特性が大きく低下する場合がある。
【0043】
また、充填材の添加量に対しても特に限定されるものではなく、改質すべきフィルム特性や充填材粒径などによって決定さればよい。一般的に、充填材の添加量は、ポリイミド100重量部に対して0.01ないし100重量部、好ましくは0.01ないし90重量部、より好ましくは0.02ないし80重量部である。
充填材添加量が、この範囲を下回ると、充填材による改質効果が示され難く、この範囲を上回ると、フィルムの機械的特性が大きく損傷される可能性がある。充填材の添加方法は特に限定されるものではなく、公知されたいかなる方法を用いてもよい。
【0044】
本発明の製造方法で、ポリイミドフィルムは、熱イミド化法および化学的イミド化法によって製造することができる。
また、熱イミド化法および化学的イミド化法を併行する複合イミド化法によって製造することもできる。
【0045】
前記熱イミド化法とは、化学的触媒を排除し、熱風や赤外線乾燥器などの熱源でイミド化反応を誘導する方法である。
前記熱イミド化法は、前記ゲルフィルムを100ないし600℃の範囲の可変的な温度で熱処理してゲルフィルムに存在するアミック酸基をイミド化することができ、詳細には、200ないし500℃、より詳細には、300ないし500℃で熱処理してゲルフィルムに存在するアミック酸基をイミド化することができる。
【0046】
ただし、ゲルフィルムを形成する過程でも、アミック酸のうち一部(約0.1モル%ないし10モル%)をイミド化することができ、このために50℃ないし200℃の範囲の可変的な温度でポリアミック酸組成物を乾燥することができ、これもまた、前記熱イミド化法の範疇に含むことができる。
化学的イミド化法の場合、当業界に公知された方法によって脱水剤およびイミド化剤を用いてポリイミドフィルムを製造することができる。
複合イミド化法の一例として、ポリアミック酸溶液に脱水剤およびイミド化剤を投入した後、80ないし200℃、好ましくは100ないし180℃で加熱し、部分的に硬化および乾燥した後、200ないし400℃で5ないし400秒間加熱することによって、ポリイミドフィルムを製造することができる。
【0047】
以上のような製造方法によって製造された本発明のポリイミドフィルムは、誘電率が4.0以上、7.0以下であり、誘電損失率が0.01以下であってもよい。
【0048】
本発明は、前述したポリイミドフィルムを含む多層フィルムおよび前述したポリイミドフィルムと電気伝導性の金属箔とを含む軟性金属箔積層板を提供する。
【0049】
前記多層フィルムは、熱可塑性樹脂層、特に熱可塑性ポリイミド樹脂層を含んでもよい。
【0050】
用いる金属箔は特に限定されるものではないが、電子器機または電気器機用途に本発明の軟性金属箔積層板を用いる場合には、例えば、銅または銅合金、ステンレス鋼またはその合金、ニッケルまたはニッケル合金(42合金も含む)、アルミニウムまたはアルミニウム合金を含む金属箔であってもよい。
一般的な軟性金属箔積層板では、圧延銅箔、電解銅箔という銅泊が多く用いられ、本発明でも好ましく用いることができる。また、これらの金属箔の表面には、防錆層、耐熱層または接着層が塗布されていてもよい。
本発明で、前記金属箔の厚さについては特に限定されるものではなく、その用途によって十分な機能を発揮できる厚さであればよい。
【0051】
本発明に係る軟性金属箔積層板は、前記ポリイミドフィルムの一面に金属箔がラミネートされているか、前記ポリイミドフィルムの一面に熱可塑性ポリイミドを含む接着層が付加していて、前記金属箔が接着層に付着された状態でラミネートされている構造であってもよい。
【0052】
本発明はまた、前記軟性金属箔積層板を電気的信号伝送回路として含む電子部品を提供する。前記電気的信号伝送回路は、少なくとも2GHzの高周波、詳細には、少なくとも5GHzの高周波、より詳細には、少なくとも10GHzの高周波で信号を伝送する電子部品であってもよい。
前記電子部品は、例えば、携帯端末機用通信回路、コンピューター用通信回路、または宇宙航空用通信回路であってもよいが、これに限定されるものではない。
【実施例】
【0053】
以下、発明の具体的な実施例を通じて、発明の作用および効果をより詳述することにする。ただし、このような実施例は、発明の例示として提示されたものに過ぎず、これによって発明の権利範囲が決まるものではない。
【0054】
<製造例>
撹拌器および窒素注入・排出管を備えた500ml反応器に窒素を注入させながらDMFを投入し、反応器の温度を30℃以下に設定した後、ジアミン成分として、m-トリジンおよびパラフェニレンジアミンと、二無水物酸成分として、ベンゾフェノンテトラカルボキシリックジアンハイドライド、ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライドおよびピロメリティックジアンハイドライドを投入して完全に溶解されたことを確認した。
前記ジアミン成分の総含有量100モル%を基準として、m-トリジンの含有量が34モル%であり、パラフェニレンジアミンの含有量が66モル%であり、前記二無水物酸成分の総含有量100モル%を基準として、ベンゾフェノンテトラカルボキシリックジアンハ
イドライドの含有量が33モル%であり、ビフェニルテトラカルボキシリックジアンハイドライドの含有量が32モル%であり、ピロメリティックジアンハイドライドの含有量が35モル%であった。
以後、窒素雰囲気下で、40℃に反応器の温度を上げて加熱しながら120分間撹拌し続け、ポリアミック酸を製造した。
このように製造したポリアミック酸にグラフェンナノプレートを添加した後、撹拌した。このように製造した最終のポリアミック酸に触媒および脱水剤を添加し、1,500rpm以上の高速回転を通じて気泡を除去した後、スピンコーターを用いてガラス基板に塗布した。
その後、窒素雰囲気下、120℃の温度で30分間乾燥してゲルフィルムを製造し、これを450℃まで2℃/分の速度で昇温し、450℃で60分間熱処理した後、30℃まで2℃/分の速度で再び冷却することによって、最終的なポリイミドフィルムが得られ、蒸留水にディッピング(dipping)してガラス基板から剥離させた。
製造されたポリイミドフィルムの厚さは15μmであった。製造されたポリイミドフィルムの厚さは、Anritsu社のフィルム厚さ測定器(Electric Film thickness tester)を用いて測定した。
【0055】
<実施例1、2および比較例1ないし5>
先に説明した製造例によって製造するが、グラフェンナノプレートの含有量を、表1に示すように調節した。
【0056】
【0057】
<実験例>誘電率および誘電損失率の評価
前記表1に示しているように、実施例1、2および比較例1ないし5でそれぞれ製造したポリイミドフィルムに対して誘電率および誘電損失率を測定した。
(1)誘電率の測定
誘電率(Dk)は、Keysight社のSPDR測定器を用いて、10GHzでの誘電率を測定した。
(2)誘電損失率の測定
誘電損失率(Df)は、抵抗計Agilent 4294Aを用いて、72時間軟性金属箔積層板を放置して測定した。
【0058】
表1に示しているように、本発明の実施例によって製造されたポリイミドフィルムは誘電率が4.0以上、7.0以下であり、誘電損失率が0.01以下である条件をいずれも満足した。
グラフェンナノプレートを含まないか、少量(0.1重量%)含む比較例1および2のポリイミドフィルムは、誘電率が4.0未満であった。
また、グラフェンナノプレートを過量(3重量%以上)含む比較例3ないし5は、誘電率が7.0を超過し、特に比較例4および5は、誘電損失率も0.01を超過した。
したがって、実施例に係るグラフェンナノプレートの含有量範囲内でのみ誘電率および誘電損失率が所望の水準であることが確認できる。
このような結果は、本願で特定された成分および組成比によって達成されるものであって、各成分の含有量が決定的役目を果たすことが分かる。
これに対し、実施例と異なる成分を有する比較例1および2のポリイミドフィルムは、実施例のポリイミドフィルムに対して、誘電率および誘電損失率のいずれか一つの面以上で、ギガ単位の高周波で信号伝送が行われる電子部品に用い難いことが予想できる。
以上、本発明の実施例を参照して説明しているが、本発明の属する分野における通常の知識を有する者であれば、前記内容に基づいて本発明の範疇内で多様な応用および変形を行うことが可能であろう。
【産業上の利用可能性】
【0059】
以上で説明しているように、本発明は、特定の成分および特定の組成比からなるポリイミドフィルムおよびその製造方法を通じて優れた誘電特性を有するポリイミドフィルムを提供することによって、このような特性が要求される多様な分野、特に軟性金属箔積層板などの電子部品などに有用に適用することができる。
【国際調査報告】