(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-10
(54)【発明の名称】固体電解質
(51)【国際特許分類】
H01B 1/06 20060101AFI20241003BHJP
H01M 10/056 20100101ALI20241003BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20241003BHJP
H01G 11/56 20130101ALI20241003BHJP
H01G 11/52 20130101ALI20241003BHJP
H01M 8/1016 20160101ALN20241003BHJP
【FI】
H01B1/06 A
H01M10/056
H01M10/052
H01G11/56
H01G11/52
H01M8/1016
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024519618
(86)(22)【出願日】2022-09-30
(85)【翻訳文提出日】2024-05-27
(86)【国際出願番号】 FR2022051852
(87)【国際公開番号】W WO2023052736
(87)【国際公開日】2023-04-06
(32)【優先日】2021-10-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】505005522
【氏名又は名称】アルケマ フランス
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ゴディヨ,ジェローム
(72)【発明者】
【氏名】ナバロ,クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】リュッツ,セシル
(72)【発明者】
【氏名】プレショ,ミュリエル
【テーマコード(参考)】
5E078
5G301
5H029
5H126
【Fターム(参考)】
5E078AA11
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5H126GG11
5H126GG18
5H126GG19
5H126JJ01
5H126JJ05
(57)【要約】
本発明は、1種以上のゼオライトの結晶、0.5重量%~20重量%の量の少なくとも1種のポリマーバインダー、及び少なくとも1種のリチウム塩を含む少なくとも1種のイオン伝導体を含む組成物に関する。
本発明はまた、例えば二次電池、より具体的には全固体電池の電池セパレータとしての前記組成物の使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
A/ 1種以上のゼオライトの結晶、
B/ 少なくとも1種のポリマーバインダーであって、前記ポリマーバインダーの量は、ゼオライト結晶及びバインダーの総重量に対して、0.5重量%~20重量%の間、好ましくは1重量%~10重量%の間であるポリマーバインダー、及び
C/ 少なくとも1種のリチウム塩を含む少なくとも1種のイオン伝導体
を含む組成物。
【請求項2】
ゼオライト結晶が、フォージャサイト(FAU)、MFIゼオライト、チャバザイト(CHA)、ヒューランダイト(HEU)、リンデA型(LTA)ゼオライト、EMTゼオライト、ベータゼオライト(BEA)、モルデナイト(MOR)、及びこれらの混合物から選択される1種以上のゼオライトの結晶である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
ゼオライト結晶が、Y型、X型、MSX型又はLSX型フォージャサイト、完全に好ましくはX型、MSX型又はLSX型フォージャサイト、より好ましくはMSX型又はLSX型フォージャサイト、及び、完全に好ましくはLSX型フォージャサイトから選択される1種以上のゼオライトの結晶である、請求項1又は請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
ゼオライト結晶が、そのカウンターカチオンが、ヒドロニウムイオン、有機カチオン、アルカリ金属カチオン、アルカリ土類金属カチオン、遷移金属カチオン、希土類金属カチオン、及びこれらの2種以上の混合物から選択される1種以上のゼオライトの結晶である、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
ゼオライト結晶が、そのカウンターカチオンがリチウムカチオンであり、任意選択でヒドロニウムカチオン及び/又は1種以上の他のアルカリ金属若しくはアルカリ土類金属カチオン、例えばナトリウムカチオン、カリウムカチオン、ルビジウムカチオン、セシウムカチオン、マグネシウムカチオン、カルシウムカチオン、ストロンチウムカチオン、若しくはバリウムカチオン、並びにそれらの混合物を有する1種以上のゼオライトの結晶である、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
ゼオライト結晶のサイズが、0.02μm~20.00μmの間、より好ましくは0.02μm~10.00μmの間、より好ましくは0.03μm~5.00μmの間、及び、有利には0.05μm~1.00μmの間である、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記少なくとも1種のポリマーバインダーが、フルオロポリマー、カルボキシメチルセルロース、スチレン-ブタジエンゴム、ポリアクリル酸及びそのエステル、並びにポリイミドから、好ましくは、官能化されてもよいフッ素化ホモポリマー及び官能化されてもよいフッ素化コポリマーを含むフルオロポリマーから選択される、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
前記少なくとも1種のポリマーバインダーが、ポリフッ化ビニリデン、及びフッ化ビニリデンと、フッ化ビニリデンと相溶性のある少なくとも1種のコモノマーとのコポリマーから選択される、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
リチウム塩が、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、リチウム2-トリフルオロメチル-4,5-ジシアノイミダゾール、リチウムヘキサフルオロホスフェート、リチウムテトラフルオロボレート、硝酸リチウム、リチウムビス(オキサラト)ボレート、並びに任意の割合のこれらの2つ以上の混合物から選択され、好ましくはリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、及びリチウム2-トリフルオロメチル-4,5-ジシアノイミダゾールとの混合物から選択される、請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
イオン伝導体の量が、固体(ゼオライト結晶+ポリマーバインダー)に対して、一般に5重量%~400重量%の間、好ましくは5重量%~300重量%の間、及び、より好ましくは10重量%~200重量%の間である、請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
イオン伝導体が、LiFSI、LiTFSI、又はLiFSI及びLiTFSIの混合物を、SN、DOL、DME、F1EC及びEG4DMEから有利に選択される1種以上の溶媒と、任意選択で1種以上のイオン性液体と組み合わせて含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
A/ 好ましくはリチウムと交換される、FAU型ゼオライトの結晶、有利にはLSXゼオライトの結晶、
B/ 1種以上のゼオライトの結晶及びバインダーの総重量に対して、0.5重量%~20重量%の間、好ましくは1重量%~10重量%の間の量の少なくとも1種のフッ素化ポリマーバインダー、好ましくはPVDF、及び
C/ 少なくとも1種のリチウム塩、有利にはLiFSIと、SN、DOL、DME、F1EC及びEG4DMEから有利に選択される少なくとも1種の溶媒と、任意選択で少なくとも1種のイオン性液体とを含む少なくとも1種のイオン伝導体
を含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の組成物のセパレータとしての、及び/又はカソード(カソード液)における、及び/又はアノード(アノード液)における使用であって、特に電池、より具体的には二次電池、典型的には全固体電池、並びに、さらにより具体的には全固体リチウムイオン電池における使用。
【請求項14】
5μm~500μmの間、好ましくは5μm~100μmの間、より好ましくは5μm~50μmの間、及び、さらに好ましくは5μm~20μmの間の厚みを有するフィルムの形態の、全固体電池用セパレータとしての請求項14に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本特許出願は、電池、より具体的には二次電池、より具体的にはLiイオンタイプの二次電池、特に、全固体電池としても知られる固体電解質を有するリチウム電池における、電気エネルギー貯蔵の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
電池、特に二次電池の分野における研究、及びこの分野における過去数十年にわたる開発は、プレーヤーの数及び関与する金額に関して非常に重要であり、かつ非常に重要なままである。
【0003】
再充電可能電池又は二次電池は、電池の正極及び負極で起こる関連する化学反応が可逆的であるため、一次(非再充電可能)電池よりも有利である。二次セルの電極は、電荷を印加することによって数回再生することができる。これが、電荷を貯蔵するための多くの電極システムが開発されている理由である。並行して、電気化学セルの容量を改善することができる電解質の開発に多大な努力が払われてきた。
【0004】
典型的には、電池は、銅集電体に結合された少なくとも1つの負極(又はアノード)、アルミニウム集電体に結合された正極(又はカソード)、セパレータ及び電解質を含む。電解質は、例えば、リチウム塩からなり、リチウム塩は、Liイオン電池の場合には一般にリチウムヘキサフルオロホスフェートであり、イオン輸送及び解離を最適化するように選択された、一般に有機カーボネートの混合物である溶媒と混合される。高誘電率はイオン解離に有利であり、したがって所与の体積で利用可能なイオンの数に有利であり、低粘度はイオン拡散に有利であり、これは、他のパラメータの中でも、電気化学システムの充電及び放電速度において重要な役割を果たす。
【0005】
したがって、典型的なLiイオン電池は、特に最も頻繁には溶媒、リチウム塩及び添加剤をベースとする液体電解質を含む。コンピュータ、タブレット又は携帯電話(スマートフォン)などの一般的な電子消費製品の分野だけでなく、特に電気自動車を用いる輸送の分野におけるこの種の電池の使用の増加を考慮すると、これらのリチウム電池の安全性を改善し、製造コストを低減することが大きな課題である。
【0006】
具体的には、液体電解質は、良好なイオン伝導性の利点を提供するが、電池への機械的及び/又は化学的損傷の場合に流体が漏れて(漏出して)しまうという欠点を有する。漏出は、通常、電池の誤作動又はさらには故障につながるだけでなく、とりわけ、電池の腐食又はさらには発火及び/若しくは爆発による、汚染及び劣化にもつながるため、有害である。
【0007】
この問題を解決するため、可燃性液体電解質の代替として、近年、固体ポリマー電解質を含む「全固体」電池(その代表がSPE(固体ポリマー電解質(Solid Polymer Electrolites)の略)である)が検討されている。固体ポリマー電解質であるSPEは、液体溶媒を含まず、したがって従来のLiイオン電池におけるような可燃性液体成分の使用を回避し、より薄くより可撓性の電池の製造を可能にする。
【0008】
SPE以外にも、酸化物又はリン酸塩から主として構成される全固体電池がある。これらの全固体電池は、例えば3次元マイクロ電池などの小型用途、及び電気自動車用などの大規模エネルギー貯蔵用途の両方に大きな可能性を示している。
【0009】
また、予想される性能を提供するために、そのような全固体電池に存在する固体電解質のイオン伝導度は、少なくとも液体電解質のイオン伝導度と同等でなければならず、すなわち電気化学的インピーダンス分光法によって測定して25℃で10-3S.cm-1のオーダーでなければならない。電気化学的安定性は、例えば自動車産業の場合のように、高いエネルギー密度が必要とされる分野において、高電圧、特に4.4Vを超える電圧で機能することができるカソード材料とともに電解質を使用することを可能にしなければならない。最後に、固体電解質は、発火又は電池暴走に対する特定の耐性を有していなければならず、すなわち、少なくとも80℃まではいかなる重大な問題もなく機能できなければならず、130℃未満で発火してはならない。
【0010】
したがって、固体電解質は、上に列挙した欠点を克服するための集中的な研究の対象であり続けている。酸化物、リン酸塩及びセラミックなどの無機材料は、25℃で10-3S.cm-1までの導電率(液体電解質の導電率の大きさのオーダー)を有するが、非常に硬く、又は脆いことさえある。結果として、それらは、電極と固体電解質との間の接触の喪失につながり得る、サイクル中に電極が受ける体積変化にうまく対処しない。
【0011】
他の無機材料であるチオリン酸塩(ACS Energy Lett.、(2020)、5(10)、3221-3223を参照)は、より良好な導電率(25℃で10-2S.cm-1まで)を提供し、これは液体電解質の導電率を超えることができる。しかし、チオリン酸塩はまた、比較的剛性であり、低い電気化学的安定性ウィンドウを有するが、とりわけ、水に関して非常に不安定であり、セルの偶発的な開放の場合に硫化水素(H2S)を放出し、これは、環境保護の明らかな理由のためだけでなく、とりわけ使用者の安全性の点で許容できない。
【0012】
想定される別の解決策は、ポリマーを使用することであり、ポリマーは、その高い可撓性に起因して、サイクル中の電極体積の変動に対処し、電極/電解質界面における破砕のリスクを回避する可能性が最も高い。しかし、ある特定の場合において、ポリマーは、電気化学的安定性が多少制限されるという問題があり、とりわけ、導電率が低いというものであり、これは25℃で10-4S.cm-1未満であることが多い。
【0013】
室温でのこの低いイオン伝導性を克服するだけでなく、機械的特性をさらに改善するために、鉱物フィラータイプの材料、例えばゼオライトを添加することが提案された(L.Z.Fan、H.He、C.W.Nan、「Tailoring inorganic-polymer composites for the mass production of solid-state batteries」、Nat.Rev.Mater.、(2021)、https://doi.org/10.1038/s41578-021-00320-0)。「活性フィラー」という用語は、該フィラーがリチウムイオン伝導体(例えば、LATP-リチウムアルミニウムチタンホスフェート、LLZO-リチウムランタンジルコニウムオキシド、リチウムゼオライトなどである。)である場合に使用され、イオン伝導体でない場合(SiO2、Al2O3など)、「不活性フィラー」が使用される。ポリマー/鉱物フィラー複合体からなる固体電解質は、ハイブリッド固体電解質と呼ばれる。
【0014】
現時点では、固体ポリマー電解質として最も一般的に使用されるポリマーは、ポリエーテル、例えばPEOとしても知られるポリ(エチレンオキシド)である。しかし、これらのポリマーは、特に室温に近い温度で容易に結晶化するという欠点を有し、これはポリマーのイオン伝導性を非常に著しく低下させる効果を有する。これがこれらのポリマーが、それらのガラス転移温度より高い、例えば60℃より高い最低温度でのみ挿入される電池の使用を可能にする理由である。しかし、そのような電池を室温で、さらには負の温度で、典型的には-20℃又はさらにはそれより低い温度で使用できることは便利であろう。さらに、これらのPEOは高度に親水性であり、特にリチウム塩の存在下で可塑化する傾向を有し、これはそれらの機械的安定性を低下させる。最後に、ポリ(エチレンオキシド)モノマーは、吸入によって致死的であることが知られており、この生成物の使用は健康に有害である。
【0015】
ポリマー電解質は、電池の充電/放電サイクル中の機械的安定性を保証し、過度に長い鎖によってイオン伝導性を損なうことなく、電解質と電極との間の凝集を保存し、リチウムの挿入/脱挿入に関係する体積変化中における2つの電極間の電気的絶縁を保証することを可能にする。これまで、特にPEOを用いてこのサイズ安定性の問題を解決するためには、鎖の絡み合いを得て電極の機械的安定性を確保するために、非常に長い鎖を有するポリマーを製造することが必要であった。しかし、ポリマーの分子量のこの増加は、その鎖の移動度、そのガラス転移温度及びそのイオン伝導性を損なう。
【0016】
したがって、高効率の電池を得るために、室温又は低温、典型的には-20℃~+80℃の間の温度でも良好なイオン伝導体であるポリマーを得るためには、第1に電池の動作温度で結晶化することができず、イオン伝導性を弱めるように、その結晶化度を最小限に抑えることが必要であり、第2にポリマーが電池の動作温度でそれ自体もイオン伝導性を弱める傾向があるガラス状態を有しないように、できるだけ低く、電池の動作温度よりも低いガラス転移温度を有することが必要である。
【0017】
上述のように、従来のLiイオン電池(液体電解質を有する)の別の構成要素は、2つの電極の間に位置し、第1に機械的及び電子的障壁として作用し、第2にイオン伝導体として作用するセパレータである。セパレータの総称によって参照することができるセパレータのいくつかのカテゴリーが存在し、それは乾燥ポリマー膜、ゲル化ポリマー膜、及び液体電解質に浸されたミクロ多孔性又はマクロ多孔性セパレータである。
【0018】
セパレータ市場は、現在、一般に押出成形及び/又は延伸によって製造されるポリオレフィン(例えば、Celgard、旭化成、Toray、住友化学及びSK Innovationによって最も一般的な名前で販売されているもの)の使用によって支配されている。セパレータは、同時に、薄い厚さ、電解質に対する最適な親和性、及び充分な機械的強度を有しなければならない。ポリオレフィンの最も有利な代替物の中でも、ポリ(フッ化ビニリデン)(PVDF)及びポリ(フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロペン)(P(VDF-co-HFP))など、システムの内部抵抗を低減するために、標準電解質に対してより良好な親和性を有するポリマーが提案されている。
【0019】
液体溶媒を含まない乾燥ポリマー膜は、従来のLiイオン電池におけるような可燃性液体成分の使用を回避し、より薄くより柔軟な電池の製造を可能にする。しかし、それらは、特にイオン伝導性に関して、液体電解質の特性よりも著しく劣る特性を有する。高いレジームで機能するために、例えば携帯電話のために、高速充電のために、特に電気自動車のために、又は電力用途のために、例えば動力工具のために、良好な導電性が必要とされる。
【0020】
ゲル化高密度膜はまた、液体電解質で浸漬されたセパレータの代替物を構成する。「高密度膜」という用語は、もはや自由多孔性を有さない膜を指す。それらは溶媒で膨潤するが、該溶媒は膜材料に強く化学的に結合し、その溶媒和特性のすべてを失った。次いで、溶質は、いかなる溶媒も同伴することなく膜を通過する。これらの膜の場合、自由空間は、ポリマー鎖によって膜間に残されたものに対応し、単純な有機分子又は水和イオンのサイズを有する。これらのゲル化膜の主な欠点は、それらが大量の可燃性溶媒を含有することである。言及され得る別の欠点は、それらが膨潤後にそれらの機械的特性を失うことであり、これは、セル製造のためのセパレータの容易な取り扱い及び電池の充電/放電サイクル中の機械的応力に対する良好な耐性を損なう。
【0021】
US5296318号は、リチウム塩(LiPF6)及び溶媒としての炭酸塩の混合物からなる電解質中で膨潤したVDF-HFPコポリマーをベースとするセパレータを記載する。記載された実施例は、それぞれ12重量%及び15重量%のHFPを含有するKynar Flex(R)2801及びKynar Flex(R)2750を使用する。より一般的には、前記特許は、HFPの8重量%~25重量%の最適HFP含有率を記載している。8%未満のHFPでは、著者らは、膜の使用に関連する難点に言及している。25%を超えると膨潤後の機械的強度が不足する。セパレータを製造するプロセスは、非常に揮発性の溶媒であるテトラヒドロフランの使用を含む溶媒系のプロセスである。実施例1及び2で報告されたイオン伝導度は、それぞれ0.3mS.cm-1及び0.4mS.cm-1である。
【0022】
前記文献は、膨潤後の機械的強度を強化するために、25重量%超のHFP含有率を有するVDF-HFPコポリマーをベースとするセパレータに、追加の架橋ステップを使用する必要性を記載している。これらのコポリマーは、70℃まで加熱した後でも満足のいく結果を与える。しかし、溶媒の影響下で膨潤したコポリマーは、80℃を超える温度で液体電解質に可溶性である。一定の応力下で電解質膜が溶融すると、電解質が流れて電池内部が短絡し、急速な放電及び加熱を引き起こす可能性がある。
【0023】
この問題を解決するために、US2019/0088916号は、電解質溶液中に有機溶媒でゲル化可能な高分子材料を含み、電解質溶液の添加により高分子ゲル電解質を形成する非多孔質セパレータを提案している。この非多孔質セパレータは、少なくとも1種の合成高分子化合物又は1種の天然高分子化合物を含み、また、マトリックスとして、有機溶媒でゲル化できない少なくとも1種の高分子材料を含む。実施例は、非ゲル化性ポリマーが、ゲル化可能なポリマーの溶液を含浸させた多孔質膜の形態で使用されることを示す。したがって、このアプローチは、非ゲル化可能なポリマーの多孔質膜を製造するための複雑なステップを課し、それにより、多孔度及び多孔度の性質(細孔サイズ及び開放多孔度)を制御することが可能になる。さらに、この製造プロセスは、多孔質膜の孔を含浸するために溶媒系のステップの使用を必要とし、これは、溶媒を使用するという欠点を有し、蒸発ステップを必要とする。
【0024】
国際特許出願WO2020/0127454号は、RAFT/MADIX技術を用いたVF2を含有するモノマーの水性分散重合に関する。より具体的には、前記文献は、分散体の乾燥ステップ後にセパレータを作製するための、ゼオライト又はシリカであり得る非電気活性鉱物フィラーを含有する組成物を記載している。
【0025】
X.Chiら(Nature、592巻、(2021)、551-571)による研究は、Li-空気技術に基づく電池の関連において、カーボンナノチューブ(CNT)を鋼メッシュ上にグラフトし、続いてCNT上にLiXゼオライトをシード成長させることによって得られる連続膜を提案する。ゼオライトは、CNT上で直接結晶成長することによってその場で優先的に生成される。したがって、それは、鋼とカーボンナノチューブとゼオライトとを組み合わせたハイブリッドシステムであり、工業規模でのその製造は比較的困難であり、したがって高価であると思われる。さらに、このハイブリッドシステムの機械的強度は、亀裂がリチウムデンドライトにつながり得、それが電池の短絡を引き起こし得ることを考慮すると、不充分又は不適切でさえあることが証明され得る。
【0026】
科学文献及び特許文献における他の文献は、例えば、セパレータの成分として、通常は水又は酸などの望ましくない分子の吸着剤としてのみならず、その機械的特性を強化するためのセパレータ自体上のコーティング剤としてのLiイオン電池におけるゼオライトの存在を記載している。したがって、この構成では、それは、ゼオライトの表面層を有する多孔質ポリマー(例えばポリプロピレン)のフィルムからなる、液体又はゲル電解質を有するリチウムイオン電池用の多孔質セパレータであり、多孔質ポリマーとゼオライトとの間の接着は、通常、別のポリマー、例えばPVDFによって確保される。
【0027】
特許US5728489号は、その構造的完全性を、液体電解質の1重量%~30重量%の間の量で存在するリチウム化ゼオライトで強化することができるポリマーマトリックスを含む液体電解質を記載している。上述のように、液体電解質電池は、前記液体電解質の漏出にさらされ得るという点で満足のいくものではない。
【0028】
CN104277423号は、電池の動作温度を低下させるための材料を記載し、該材料は熱伝導性及び難燃性であり、少量のゼオライトを含む鉱物フィラーの混合物を含み、該混合物はセラミックフィラーとの焼結に供される。CN201210209283号は、ポリオキシエチレン又はその誘導体と、リチウム塩と、金属/有機骨格(MOF)、共有結合/有機骨格(COF)、及びゼオライト/イミダゾール骨格(ZIF)から選択される有機/鉱物ハイブリッド骨格とを含む固体電解質を記載する。
【0029】
したがって、今日知られており、先に想起された欠点を持たない全固体電池が依然として必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0030】
【特許文献1】米国特許第5296318号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2019/0088916号明細書
【特許文献3】国際公開第2020/0127454号
【特許文献4】米国特許第5728489号明細書
【特許文献5】中国特許出願公開第104277423号明細書
【特許文献6】中国特許出願公開第201210209283号明細書
【非特許文献】
【0031】
【非特許文献1】ACS Energy Lett.、(2020)、5(10)、3221-3223
【非特許文献2】L.Z.Fan、H.He、C.W.Nan、「Tailoring inorganic-polymer composites for the mass production of solid-state batteries」、Nat.Rev.Mater.、(2021)、https://doi.org/10.1038/s41578-021-00320-0
【非特許文献3】X.Chiら、Nature、592巻、(2021)、551-571
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0032】
したがって、本発明の第1の目的は、電池の機械的損傷の場合に漏出の危険性がない全固体電池を製造するための固体電解質を提案することである。さらなる主題として、本発明は、金属集電体への凝集の喪失及び接着の喪失を回避するために、満足のいく機械的安定性、より具体的には満足のいくサイズ安定性を有する電極を製造するための固体電解質を提案する。
【0033】
本発明の別の目的は、典型的には80℃未満、-20℃又はさらに-30℃まで低下し得る低温でさえも満足のいく導電率を有し、特に液体電解質の導電率と同等又はさらに高い導電率、例えば、10-3S.cm-1のオーダーの導電率を有する固体電解質を提案することである。さらに別の目的は、典型的には4.4V以上の電圧下で高い化学的安定性(電気化学的安定性)を有する固体電解質を提案することである。
【0034】
本発明の別の目的は、実施するのに迅速で、容易で、安価であり、デンドライトの形成を回避することを可能にし、無水であり、劣化の危険性をなくすことができ、発火の危険性をなくすために、揮発性化合物の可能な限り少ない量を有するシステムの製造を可能にする、固体電解質の製造プロセスを提案することである。別の目的は、良好な耐火性を有する、特に120℃未満の温度で発火する危険性が限られるか、又は全くない固体電解質を提案することである。別の目的は、動作条件下、例えば約80℃までの温度で、暴走に対する良好な耐性、特に電気的特性、特に導電率特性を維持する固体電解質を提案することである。さらに他の目的は、以下に提示される本発明の説明に照らして明らかになる。
【課題を解決するための手段】
【0035】
したがって、本発明は、電気化学デバイス、特にリチウムイオン電池、及び、より具体的には全固体リチウム電池の分野に関する。より具体的には、本発明は、そのような電池において、特にセパレータにおいて、及び/又はカソード(カソード液)において、及び/又はアノード(アノード液)において使用するための固体電解質組成物に関する。本発明はまた、特に全固体リチウム電池の製造を意図したこのような組成物の製造プロセスに関する。より具体的には、この組成物は、そのような電池のセパレータの製造を目的とする。本発明はまた、そのような固体電解質組成物を含む電池セパレータ及びその製造プロセスに関する。
【0036】
本発明者らは、以下に詳述され、とりわけ導電性に関する液体電解質の利点と、とりわけ安定性及び漏れの危険性の非存在に関する固体電解質によってもたらされる利点の両方を組み合わせることを特に可能にする本発明によって、上記の目的のすべてではないにしても少なくともいくつかを達成することが可能であることを今や発見した。
【0037】
したがって、第1の態様によれば、本発明は、
A/ 1種以上のゼオライトの結晶、
B/ 少なくとも1種のポリマーバインダーであって、該ポリマーバインダーの量は、ゼオライト結晶及びバインダーの総重量に対して0.5重量%~20重量%の間、好ましくは1重量%~10重量%の間であるポリマーバインダー、及び
C/ 少なくとも1種のリチウム塩を含む少なくとも1種のイオン伝導体
を含む組成物に関する。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本開示において別段の指示がない限り、値の範囲は、限界値を含むと理解される。
【0039】
したがって、本発明は、固定されたゼオライト結晶をポリマーバインダーと組み合わせて固体電解質に凝集力をもたらすとともに、機械的強度及び可撓性をもたらす固体電解質であって、電池での使用に完全に適している固体電解質に関する。さらにポリマーバインダーによって結合されたゼオライト結晶は、イオン伝導体のためのリザーバとして作用し、したがって、電池、特に二次電池における使用に完全に好適な電気伝導性を保証する。換言すれば、本発明による組成物のイオン伝導体は、ゼオライト結晶+ポリマーバインダー(内部及び表面)の固体の組み合わせに含まれる。
【0040】
先行技術の固体電解質では、ゼオライトが存在する場合、それらは、イオン伝導体を保持することができる固体三次元ネットワークを形成するのではなく、水(水分)などの望ましくない要素を捕捉するために使用される。さらに、先行技術では、固体電解質中のゼオライトの割合は常に低いか、又は非常に低いことさえある。
【0041】
本発明に用いることができるゼオライト結晶は、同一の又は異なる1種以上のゼオライトの結晶であることができる。「ゼオライト」という用語は、アルミノケイ酸塩骨格を有する特定の負に帯電したセラミックを意味し、その電気的中性は1種以上のカウンターカチオンによって確保される。
【0042】
本発明での使用に完全に適しているゼオライト結晶の例には、天然又は合成ゼオライト、より具体的には天然ゼオライトから選択される1種以上のゼオライトの結晶が含まれる。より具体的には、ゼオライトは、フォージャサイト(FAU)、MFIゼオライト、チャバザイト(CHA)、ヒューランダイト(HEU)、リンデA型(LTA)ゼオライト、EMTゼオライト、ベータゼオライト(BEA)、モルデナイト(MOR)、及びこれらの混合物から選択される。これらの様々なタイプのゼオライトは、例えば、「Atlas of Zeolite Framework Types」、第5版、(2001)、Elsevierに明確に定義されており、当業者に容易に市販されているか、又は科学文献及び特許文献において利用可能な既知の手順によって容易に合成される。
【0043】
本発明の目的のために、例えば特許出願WO2015/019013号又はWO2007/043731号に記載されるような直接合成によって、特に犠牲剤を使用することによって、又は例えばWO2013/106816号に記載されるような後処理によって、一般に得られる上記のゼオライトの階層的に多孔性の同族体(「HPZ」として知られる)を使用することも可能である。
【0044】
好ましくは、ゼオライト結晶は、フォージャサイト、好ましくはY型、X型、MSX型又はLSX型フォージャサイト、完全に好ましくはX型、MSX型又はLSX型フォージャサイト、より好ましくはMSX型又はLSX型フォージャサイト、及び、完全に好ましくはLSX型フォージャサイトから選択される1種以上のゼオライトの結晶である。これらの様々なタイプのフォージャサイトは、それらのケイ素/アルミニウム(Si/Al)モル比によって特徴付けられ、これは当業者に周知であり、本明細書において後に記載される特徴付け技法において与えられる指示に従って測定することができる。LSX型フォージャサイトは、Si/Alモル比が約1.00±0.05に等しいことを特徴とする。MSX型フォージャサイトは、1.05~1.15の間のSi/Alモル比によって特徴付けられ、X型フォージャサイトは、1.15~1.50の間のSi/Alモル比によって特徴付けられ、Y型フォージャサイトは、1.50を超えるSi/Alモル比によって特徴付けられる。均質性の理由から、1種類のゼオライトのみ、好ましくはフォージャサイト型ゼオライトである1種類のゼオライトのみを使用することが好ましい。
【0045】
ゼオライトを中和するために使用されるカウンターカチオンは、当業者に周知の任意のカチオンであってよく、例えば、ヒドロニウムイオン、有機カチオン(イミダゾリウム、ピリジニウム、ピロリジニウムなど)、アルカリ金属カチオン、アルカリ土類金属カチオン、遷移金属カチオン、希土類金属カチオン、特にランタンカチオン、プラセオジムカチオン、ネオジムカチオン、及びまた上記に列挙したカチオンの2種以上の混合物から選択されるカチオンであってよい。本発明の目的のために、固体電解質がリチウムイオン電池の調製に特に適している場合、好ましいゼオライトは、カウンターカチオンがリチウムカチオンであり、任意選択でヒドロニウムカチオン及び/又は1種以上の他のアルカリ金属カチオン若しくはアルカリ土類金属カチオン、例えばナトリウムカチオン、カリウムカチオン、ルビジウムカチオン、セシウムカチオン、マグネシウムカチオン、カルシウムカチオン、ストロンチウムカチオン又はバリウムカチオン、及びそれらの混合物を有するものであり、該カチオンは、好ましくは、リチウムカチオンに対して無視できる量、例えば、以下に記載される特徴付け技術において与えられる指示に従って交換可能な部位の5%未満である。
【0046】
本発明の好ましい態様によれば、ゼオライトのカウンターカチオンは、以下に示すように、交換可能な部位の95%超、好ましくは98%超、より好ましくは99%超の量のリチウムであり、ゼオライトの中性に必要な他のカウンターカチオンは、有利には、アルカリ金属カチオン及びアルカリ土類金属カチオン、希土類金属カチオン、及び遷移金属カチオン、例えばチタン、ジルコニウム、ハフニウム、ラザフォージウム、及びヒドロニウムカチオン、並びに上記のカチオンの混合物である。
【0047】
最も特に有利な態様によれば、本発明の組成物はLSX型フォージャサイトゼオライトを含み、そのカウンターカチオンは交換可能な部位の95%を超える量のリチウムであり、このゼオライトは一般に「LiLSX」と称される。
【0048】
本発明による組成物中に存在するゼオライト結晶のサイズ及び粒度分布は、広い割合で変化し得る。しかし、特徴付け技術において後に示される走査型電子顕微鏡(SEM)観察によって評価される結晶のサイズは、0.02μm~20.00μmの間、より好ましくは0.02μm~10.00μmの間、より好ましくは0.03μm~5.00μmの間、及び、有利には0.05μm~1.00μmであることが好ましい。最も特に好ましい態様によれば、結晶サイズの粒度分布は、単峰性、二峰性又は多峰性であり、好ましくは二峰性である。
【0049】
本発明による組成物は固体組成物であり、有利には無水であり、すなわち水を含まないか、又は微量の水、すなわち体積で1000ppm未満、好ましくは100ppm未満、さらに良好には50ppm未満の量の水のみを有する。
【0050】
固体組成物である本発明による組成物において、ポリマーバインダーはゼオライト結晶の凝集を確実にする。ポリマーバインダーは、非常に有利には電気化学的に安定であり、すなわち、電圧下で分解又はそれ以外の点で劣化せず、したがって、電池構成要素の物理的完全性及び電気化学的特性は、特に、典型的には-20℃~+80℃の範囲の電池の動作温度及び電圧、典型的には4.4Vを超える電圧にさらされた場合に維持される。本発明の目的に最も適したポリマーの例としては、フルオロポリマー(PVDF、PTFE)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリル酸(PAA)及びそのエステル、ポリイミドなど、好ましくは、任意選択で官能化されたフッ素化ホモポリマー及び任意選択で官能化されたフッ素化コポリマーを含むフルオロポリマーが挙げられるが、これらに限定されない。
【0051】
フルオロポリマーの中でも、略語PVDFによってよりよく知られているポリ(フッ化ビニリデン)が好ましい。フッ化ビニリデン(VDF)と少なくとも1種のVDF適合性コモノマーとのコポリマーも好ましい。「VDF適合性コモノマー」という用語は、ハロゲン化(フッ素化及び/又は塩素化及び/又は臭素化)されていてもハロゲン化されていなくてもよく、VDFと重合可能であるコモノマーを意味する。
【0052】
好適なコモノマーの非限定的な例としては、フッ化ビニル、1,2-ジフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、トリフルオロプロペン、特に3,3,3-トリフルオロプロペン、テトラフルオロプロペン、特に2,3,3,3-テトラフルオロプロペン又は1,3,3,3-テトラフルオロプロペン、ヘキサフルオロイソブチレン、ペルフルオロブチルエチレン、ペンタフルオロプロペン、特に1,1,3,3,3-ペンタフルオロプロペン又は1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン、ペルフルオロアルキルビニルエーテル、特に一般式Rf-O-CF=CF2のものが挙げられ、Rfは、好ましくは1~4個の炭素原子を含むアルキル基である(好ましい例は、ペルフルオロプロピルビニルエーテル及びペルフルオロメチルビニルエーテルである)。コモノマーは、フッ素に加えて、1個以上の塩素原子及び/又は臭素原子を含んでもよい。このようなコモノマーは、特にブロモトリフルオロエチレン、クロロフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン及びクロロトリフルオロプロペンから選択することができる。クロロフルオロエチレンは、1-クロロ-1-フルオロエチレン又は1-クロロ-2-フルオロエチレンのいずれかを表すことができる。1-クロロ-1-フルオロエチレン異性体が好ましい。クロロトリフルオロプロペンは、好ましくは1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン及び2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、並びにそれらの混合物から選択される。
【0053】
好ましい実施形態によれば、コモノマーは、フッ化ビニル、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、1,2-ジフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、ペルフルオロ(アルキルビニル)エーテル、例えばペルフルオロ(メチルビニル)エーテル(PMVE)、ペルフルオロ(エチルビニル)エーテル(PEVE)、ペルフルオロ(プロピルビニル)エーテル(PPVE)、及びこれらの混合物から選択される。
【0054】
一実施形態によれば、VDFコポリマーはターポリマーである。一実施形態によれば、ポリマーバインダーは、フッ化ビニリデン(VDF)とヘキサフルオロプロピレン(HFP)とのコポリマーであり、より一般的にはP(VDF-co-HFP)として知られている。有利には、前記P(VDF-co-HFP)コポリマーは、5%以上45%以下のHFPの質量含有率を有する。
【0055】
本発明の好ましい態様によれば、ポリマーバインダーは、イオン伝導体に可溶性ではない。別の好ましい態様によれば、ポリマーバインダーはフルオロポリマーであり、好ましくは、ポリマーは、官能化されてもよいPVDF、及び官能化されてもよいPVDF系コポリマーから選択される。2種以上の異なるポリマーバインダーが本発明の組成物において使用され得ることが明確に理解される。
【0056】
前述のように、ゼオライト結晶の量に対して最小限の割合で使用されるポリマーバインダーは、本発明の組成物のイオン伝導体のための固体リザーバのように挙動する前記ゼオライト結晶間の凝集を可能にする。本発明による組成物中に存在するゼオライト結晶の質量は、空気中、25℃~450℃、+5℃.min-1の加熱速度での熱重量分析(TGA)によって測定することができる。
【0057】
本発明による組成物中に存在するイオン伝導体は、好ましくは、非常に有利には無水であり、すなわち、それは水を全く含有しないか、又は微量の水のみを含有する、すなわち、体積で1000ppm未満、好ましくは100ppm未満、さらに良好には50ppm未満の量の水のみを含有する。
【0058】
一実施形態によれば、イオン伝導体は、少なくとも1種のリチウム塩を含み、好ましくはそれからなる。本発明との関連で使用され得るリチウム塩は、好ましくは、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド)(LiTFSI)、リチウム2-トリフルオロメチル-4,5-ジシアノイミダゾール(LiTDI)、リチウムヘキサフルオロホスフェート(LiPF6)、リチウムテトラフルオロボレート(LiBF4)、硝酸リチウム(LiNO3)、リチウムビス(オキサラト)ボレート(LiBOB)、及び任意の割合でのこれらの2種以上の混合物から選択される。本発明の目的のために特に好ましいリチウム塩は、Solvayによって販売されているLiTFSI、又はアルケマ社によって販売されているLiFSI及び/若しくはLiTDIである。LiFSIは、任意にアルケマからのLiTDIとの混合物として最も特に好ましい。
【0059】
存在する場合、使用される溶媒は、リチウム塩のための溶媒である。完全に適している溶媒の中でも、イオン性液体、特に有機カチオンとアニオンとの組み合わせによって形成されるイオン性液体を挙げることができる。
【0060】
有機カチオンの非限定的な例として、アンモニウムカチオン、スルホニウムカチオン、ピリジニウムカチオン、ピロリジニウムカチオン、イミダゾリウムカチオン、イミダゾリニウムカチオン、ホスホニウムカチオン、グアニジニウムカチオン、ピペリジニウムカチオン、チアゾリウムカチオン、トリアゾリウムカチオン、オキサゾリウムカチオン及びピラゾリウムカチオン、並びにそれらの混合物を挙げることができる。一実施形態によれば、このカチオンは、C1~C30アルキル基、例えば1-ブチル-1-メチルピロリジニウム(BMPYR)、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム(EMIM)、トリブチルメチルホスホニウム(TBMPHO)、N-メチル-N-プロピルピロリジニウム又はN-メチル-N-ブチルピペリジニウムを含み得る。
【0061】
一実施形態によれば、それに関連するアニオンは、非限定的な例として、イミド、特にビス(フルオロスルホニル)イミド及びビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、ボレート、ホスフェート、ホスフィネート及びホスホネート、特にアルキルホスホネート、アミド(特にジシアナミド)、アルミネート(特にテトラクロロアルミネート)、ハロゲン化物(例えば臭素アニオン、塩素アニオン及びヨウ素アニオン)、シアネート及びアセテート(CH3COO-)、並びに特にトリフルオロアセテート(CF3COO-)、スルホン酸塩、特にメタンスルホネート(CH3SO3
-)又はトリフルオロメタンスルホネート(CF3SO3
-)、及び硫酸塩、特に硫酸水素塩から選択される。
【0062】
好ましい実施形態によれば、アニオンは、テトラフルオロボレート(BF4
-)、ビス(オキサラト)ボレート(BOB-)、ヘキサフルオロホスフェート(PF6
-)、ヘキサフルオロアルセネート(AsF6
-)、トリフレート又はトリフルオロメチルスルホネート(CF3SO3
-)、ビス(フルオロスルホニル)イミド(FSI-)、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(TFSI-)、硝酸塩(NO3
-)及び4,5-ジシアノ-2-(トリフルオロメチル)イミダゾール(TDI-)から選択される。一実施形態によれば、前記アニオンは、TDI-、FSI-、TFSI-、PF6
-、BF4
-、NO3
-及びBOB-から選択され、好ましくは、前記アニオンはFSI-である。
【0063】
好ましいイオン性液体の中で挙げることができる非限定的な例としては、EMIM-FSI、EMIM-TFSI、BMPYR-FSI、BMPYR-TFSI、TBMPHO-FSI、TBMPHO-TFSI、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0064】
他の可能な溶媒として、非限定的な様式で以下を挙げることができる。
- 炭酸塩、例えば、ビニレンカーボネート(VC)(CAS:872-36-6)、フルオロエチレンカーボネート又は4-フルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン(F1EC)(CAS:114435-02-8)、trans-4,5-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン(F2EC)(CAS:171730-81-7)、エチレンカーボネート(EC)(CAS:96-49-1)、プロピレンカーボネート(PC)(CAS:108-32-7)、
- ニトリル、例えば、スクシノニトリル(SN)、3-メトキシプロピオニトリル(CAS:110-67-8)、(2-シアノエチル)トリエトキシシラン(CAS:919-31-3)、
- エーテル、例えば1,3-ジオキソラン(DOL)、ジメトキシエタン(DME)、ジブチルエーテル(DBE)、ポリ(エチレングリコールジメチルエーテル)、特にジエチレングリコールジメチルエーテル(EG2DME)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(EG3DME)、及びテトラエチレングリコールジメチルエーテル(EG4DME)、
- スルホラン(CAS:126-33-0)、及び
- トリエチルホスフェート(TEP)(CAS:78-40-0)。
【0065】
上記に列挙した溶媒の中でも、EG4DME、DOL、DME、SN及びF1ECが好ましい。先に定義した溶媒の2種以上の混合物を、任意選択で先に定義した1種以上のイオン性液体と組み合わせて使用することができる。溶媒(複数可)の量は、広い割合で、例えば1重量%~99重量%の範囲で変化し得る。
【0066】
したがって、イオン伝導体の非限定的かつ純粋に例示的な例としては、LiFSI、LiTFSI、又はLiFSI及びLiTFSIの混合物が挙げられ、これらは、SN、DOL、DME、F1EC及びEG4DMEから有利に選択される1種以上の溶媒と組み合わせて、任意選択で1種以上のイオン性液体、例えばEMIM-FSI又はTBMPHO-FSIと組み合わせて用いられる。
【0067】
より特に好ましい例としては、以下の混合物、(LiFSI及びSN)、(LiTFSI及びSN)、(LiFSI及びTEP)、(LiFSI及びEG4DME)、(LiFSI、EC及びF1EC)、(LiFSI、EG4DME及びEMIM-FSI)、(LiFSI、EG4DME及びTBMPHO-FSI)、(LiFSI、EC、F1EC及びEMIM-FSI)、(LiFSI、DOL及びDME)、並びに(LiFSI、DOL、DME及びSN)が挙げられる。
【0068】
本発明の目的に完全に適しているイオン伝導体の例としては、以下のものが挙げられる。
- LiFSI(14重量%)及びスクシノニトリル(86重量%)、
- LiTFSI(20重量%)及びスクシノニトリル(80重量%)、
- LiFSI(14重量%)及びTEP(86重量%)、
- LiFSI(14重量%)及びEG4DME(86重量%)、
- LiFSI(14重量%)、EC(80重量%)及びF1EC(6重量%)、
- LiFSI(14重量%)、EG4DME(43重量%)及びEMIM-FSI(43重量%)、
- LiFSI(14重量%)、EG4DME(43重量%)及びTBMPHO-FSI(43重量%)、
- LiFSI(14重量%)、EC(37重量%)、F1EC(6重量%)及びEMIM-FSI(43重量%)、
- LiFSI(14重量%)、DOL(43重量%)及びDME(43重量%)、
- LiFSI(14重量%)、DOL(21.5重量%)、DME(21.5重量%)及びSN(43重量%)。
【0069】
以下に示すように、イオン伝導体を固体(ゼオライト結晶+ポリマーバインダー)に浸み込ませる。前記固体に浸み込むことができるイオン伝導体の量は、広い割合で、とりわけ、ゼオライトの性質及びゼオライト結晶のサイズ、ゼオライト/バインダーの重量比、イオン伝導体の各成分の性質及び量に応じて、限定されることなく変動し得る。この量は、固体(ゼオライト結晶+ポリマーバインダー)に対して、一般に5重量%~400重量%の間、好ましくは5重量%~300重量%の間、より好ましくは10重量%~200重量%の間である。
【0070】
したがって、本発明による組成物は、少なくとも1種のポリマーバインダーによって一体に結合された1種以上のゼオライトの結晶の組に浸み込む(液体)イオン伝導体の存在を特徴とする固体電解質である。本発明の一実施形態によれば、1種以上のゼオライトの結晶の量は、イオン伝導体を含まない固体(ゼオライト+バインダー)の少なくとも55重量%、好ましくは少なくとも60重量%、より好ましくは少なくとも80重量%、有利には少なくとも90重量%、より優先的には少なくとも95重量%に相当する。
【0071】
本発明による組成物の非限定的な例は、以下を含む組成物である。
A/ 好ましくはリチウムと交換される、FAU型ゼオライト(複数可)の結晶、有利にはLSXゼオライトの結晶、
B/ 1種以上のゼオライトの結晶及びバインダーの総重量に対して、0.5重量%~20重量%の間、好ましくは1重量%~10重量%の間の量の少なくとも1種のフッ素化ポリマーバインダー、好ましくはPVDF、
C/ 少なくとも1種のリチウム塩、有利にはLiFSIと、SN、DOL、DME、F1EC及びEG4DMEから有利に選択される少なくとも1種の溶媒と、任意選択で少なくとも1種のイオン性液体、例えばEMIM-FSIを含む少なくとも1種のイオン伝導体。
【0072】
本発明による組成物の非限定的な例として、以下を挙げることができる。
- ゼオライトLiLSX(45重量%)、PVDF(5重量%)及びイオン伝導体[50重量%、LiFSI(14重量%)及びスクシノニトリル(86重量%)から構成される]、
- LiLSXゼオライト(58.5重量%)、PVDF(6.5重量%)及びイオン伝導体[35重量%、LiFSI(14重量%)及びスクシノニトリル(86重量%)から構成される]、
- LiLSXゼオライト(61.7重量%)、PVDF(3.3重量%)及びイオン伝導体[35重量%、LiFSI(14重量%)及びスクシノニトリル(86重量%)から構成される]、
- LiLSXゼオライト(61.7重量%)、PVDF(3.3重量%)及びイオン伝導体[35重量%、LiTFSI(20重量%)及びスクシノニトリル(80重量%)から構成される]、
- LiLSXゼオライト(61.7重量%)、PVDF(3.3重量%)及びイオン伝導体[35重量%、LiFSI(14重量%)及びTEP(86重量%)から構成される]、
- LiLSXゼオライト(61.7重量%)、PVDF(3.3重量%)及びイオン伝導体[35重量%、LiFSI(14重量%)及びEG4DME(86重量%)から構成される]、
- LiLSXゼオライト(61.7重量%)、PVDF(3.3重量%)及びイオン伝導体[35重量%、LiFSI(14重量%)、EC(80重量%)及びF1EC(6重量%)から構成される]、
- LiLSXゼオライト(61.7重量%)、PVDF(3.3重量%)及びイオン伝導体[35重量%、LiFSI(14重量%)、EMIM-FSI(43重量%)及びEG4DME(43重量%)から構成される]、
- LiLSXゼオライト(61.7重量%)、PVDF(3.3重量%)及びイオン伝導体[35重量%、LiFSI(14重量%)、TBMPHO-FSI(43重量%)及びEG4DME(43重量%)から構成される]、
- LiLSXゼオライト(61.7重量%)、PVDF(3.3重量%)及びイオン伝導体[35重量%、LiFSI(14重量%)、EMIM-FSI(43重量%)、EC(37重量%)及びF1EC(6重量%)から構成される]、
- ゼオライトLiLSX(61.7重量%)、PVDF(3.3重量%)及びイオン伝導体[35重量%、LiFSI(14重量%)、DOL(21.5重量%)、DME(21.5重量%)及びSN(43重量%)から構成される]。
【0073】
本発明の組成物は、固体電解質であると同時に良好な可撓性を有し、電池、特にリチウムイオン電池に使用するのに完全に好適な機械的強度を提供するという利点を有する。全く驚くべきことに、本発明の組成物の導電率は、固体[ゼオライト+バインダー]に浸み込むイオン伝導体の導電率と同程度であるか、又は同一でさえあることが発見された。したがって、本発明による組成物は、最適化された機械的特性(固体電解質及び可撓性電解質)と最大イオン伝導率との間の優れた妥協点を提供する。
【0074】
本発明の組成物は、系(ゼオライト結晶+ポリマーバインダー)にイオン伝導体を吸収させることによって、又はゼオライト結晶にイオン伝導体を吸収させ、続いてポリマーバインダーを添加することによって調製することができる。
【0075】
一実施形態によれば、本発明による組成物を調製するためのプロセスは、以下を含む。
a) 固体状態で、ゼオライト結晶を少なくとも1種のポリマーバインダーと混合し、
b) 所望の外観及びサイズに形成し、
c) ポリマーバインダーを軟化させるように、均質化され、成形されたアセンブリを加熱及び加圧し、
d) ゼオライト結晶とバインダーとの間に凝集が生じるまで温度及び圧力を維持し、
e) バインダーが硬化するまで冷却すること。
【0076】
ステップa)における混合は、固体の混合のための当業者に周知の任意の従来の技術に従って行われ得る。ステップb)の所望の外観及びサイズへの成形は、例えば、押出成形又は当業者に周知である任意の他の技術によって行われ得る。
【0077】
ステップc)における加熱は、ポリマーバインダーが軟化してゼオライト結晶に付着するのに充分な温度で行わなければならない。加熱温度は、典型的には、ポリマーバインダーの融点又は軟化温度より約5℃~10℃高い。適用される圧力は、バインダーに対する結晶の量、ゼオライト結晶のサイズ、バインダーの性質等を含む多くの要因に依存し、典型的には10MPa~2000MPaの間、一般に100MPa~1500MPaの間である。
【0078】
吸収ステップは、ゼオライト結晶に対して行われるか、又は上記のプロセスのステップe)における冷却後に得られる物品に対して行われるかにかかわらず、それ自体既知の任意の手段によって、例えば、イオン伝導体への部分的又は全体的、好ましくは全体的な浸漬によって、本発明の組成物の様々な成分の性質及び量に応じた様々な期間、典型的には、数分~数時間の範囲であり得る期間にわたって行われ得る。
【0079】
本発明の組成物は、いくつかの態様及びサイズで、例として及び純粋に例示目的で、フィルム又は様々な形態の弱凝集体の形態であり得る。例えば、組成物が全固体電池のセパレータとして使用される場合、組成物はフィルム形態である。
【0080】
したがって、本発明の組成物は、固体電解質に浸されたゼオライト結晶を含む固体の形態であり、該結晶はポリマーバインダーによって固定化される。本発明の組成物は、液体電解質を含むリザーバのように挙動し、電解質の漏出は起こり得ない。これにより、電解質の可燃性が大幅に低減される。
【0081】
したがって、ゼオライト結晶を固定化するポリマーバインダーは、本発明の固体組成物に、例えばリチウムイオン型電池における固体電解質としての使用に完全に適している機械的強度及び可撓性を与える。
【0082】
したがって、本発明による固体組成物は、ゼオライトの細孔及び結晶間の隙間が少なくとも部分的又は全体的に液体イオン伝導体で充填された固体電解質のように挙動し、イオンは、固体電解質が電解質を漏出することなく、該細孔及び隙間内で自由に循環することができる。
【0083】
固体電解質である本発明による組成物は、イオン伝導性及び電気化学的安定性に関して液体電解質と少なくとも同等の性能品質を示す。具体的には、本発明の組成物は、電圧が印加されたときの酸化及び還元に対する非常に良好な耐性を有するという点で、完全に満足のいく適切な電気化学的安定性を提供することが観察された。したがって、本発明による組成物のさらなる利点の1つは、それが少なくとも液体電解質の電気化学的性能と等しい電気化学的性能をもたらすと同時に安全性を改善することである。
【0084】
また、本発明による組成物は、驚くべきことに、短絡を引き起こすことによって電池の正しい機能に有害であり得るデンドライト、典型的にはリチウムデンドライトの成長に対する耐性を示す。したがって、本発明の組成物は、例えばグラファイト、グラファイト/ケイ素又はケイ素で作られたアノードを有する電池だけでなく、金属アノード、例えばリチウム金属を有する電池にも使用することができ、これは特に従来のLiイオン技術と比較してエネルギー密度の獲得を可能にする。
【0085】
本発明の組成物によってもたらされる多数の利点のため、本発明による組成物は、非限定的な例として、電池、キャパシタ、電気化学二重層キャパシタ、燃料電池又はエレクトロクロミックデバイス用の膜電極アセンブリ(MEA)などの多くの電気化学デバイスにおける固体電解質として非常に有利に使用することができる。より具体的には、前述のように、本発明の固体電解質は、特に電池、より具体的には二次電池、典型的には全固体電池、及び、さらにより具体的には全固体リチウムイオン電池における、セパレータとして、及び/又はカソード(カソード液)において、及び/又はアノード(アノード液)において使用され得る。
【0086】
さらに別の態様によれば、本発明は、全固体電池のセパレータとしての前述の組成物の使用に関する。さらに別の態様によれば、本発明は、本発明による組成物を含む、特にLiイオン二次電池用のセパレータに関する。好ましい実施形態において、本発明による組成物は、全固体電池のセパレータを構成する。本発明による組成物はまた、電池、例えばLiイオン二次電池、より具体的には全固体電池におけるアノード液又はカソード液として使用され得る。
【0087】
本発明のセパレータの一実施形態によれば、それはフィルムの形態である。セパレータは、有利には、パルマーマイクロメーターで測定して、5μm~500μmの間、好ましくは5μm~100μmの間、より好ましくは5μm~50μmの間、及び、さらにより好ましくは5μm~20μmの間の厚さを有する。
【0088】
最後に、本発明は、そのようなセパレータを含む再充電可能なLiイオン電池を提供することに関する。
【0089】
また、本発明は、先に定義した1種以上のゼオライトの結晶を含む少なくとも1つの組成物を含む電池であって、全固体電池又はLiイオン二次電池である電池に関する。本発明による電池において、1種以上のゼオライトの結晶を含む前記少なくとも1つの組成物は、前記電池のセパレータ及び/又はアノード液及び/又はカソード液、好ましくはセパレータを構成する。
【0090】
<特徴付け技術>
ゼオライトの物性は、当業者に既知の方法によって評価され、その主なものを以下に述べる。
【0091】
<ゼオライト結晶粒径>
ゼオライト結晶の数平均直径は、走査型電子顕微鏡(SEM)による観察により推定される。試料上のゼオライト結晶のサイズを推定するために、1組の画像を少なくとも5000の倍率で撮影する。次いで、少なくとも200個の結晶の直径を、専用ソフトウェア、例えば、LoGraMiによって発行されたSmile Viewソフトウェアを使用して測定する。精度は3%程度である。
【0092】
<ゼオライトの化学分析-Si/Al比及び交換度>
ゼオライトの元素化学分析は、波長分散分光計(WDXRF)、例えば、Brueker社のTiger S8装置で、規格NF EN ISO 12677:2011に記載されているX線蛍光による化学分析の技術に従って行われる。
【0093】
X線蛍光は、X線範囲の原子の光ルミネセンスを利用して試料の元素組成を確立する非破壊スペクトル技術である。一般にX線ビーム又は電子衝撃による原子の励起は、原子の基底状態に戻った後に特定の放射線を生成する。0.4重量%未満の測定不確実性は、従来、各酸化物の較正後に得られる。
【0094】
分析の他の方法は、例えば、Agilent 5110などの機械についての規格NF EN ISO 21587-3又はNF EN ISO 21079-3に記載されている原子吸光分析(AAS)及び誘導結合プラズマ原子発光分析(ICP-AES)法によって例示される。
【0095】
各酸化物SiO2及びAl2O3について、また様々な酸化物(例えば、交換可能なカチオン、例えばナトリウムに由来するもの)について較正した後、従来、0.4重量%未満の測定不確実性が得られる。ICP-AES法は、リチウム含有量の測定に特に適している。
【0096】
したがって、上述の元素化学分析は、使用されるゼオライトのSi/Alモル比をチェックすることを可能にする。本発明の説明において、Si/Al比の測定不確実性は±5%である。吸着材料中に存在するゼオライトのSi/Al比の測定は、固体ケイ素核磁気共鳴(NMR)分光法によって行うこともできる。
【0097】
イオン交換の質は、交換後のゼオライト結晶中の考慮中のカチオンのモル数に関連している。より正確には、交換可能な部位の数に対するカチオンの割合は、(電子中性に達するための)前記カチオンの等モル数と、ゼオライトの骨格中に存在するアルミニウム原子の総数に等しい交換可能な部位の総数との間の比を評価することによって推定される。各カチオンのそれぞれの量は、対応するカチオンの化学分析によって評価される。
【実施例】
【0098】
以下の実施例は、本発明の範囲を非限定的に例示する。
【0099】
[実施例1:Liイオン電池のセパレータ用固体電解質の調製]
175℃未満の融点を有する5質量%のPVDF(アルケマ社のKynar(R))及び95質量%のリチウムゼオライトLiLSX(NaLSX結晶をEP2244976に従って調製し、次いで、従来の技術に従って塩化リチウム溶液中でナトリウムカチオンを交換することによってリチウムと交換する)を含む混合物を調製する。LiLSX結晶の数平均直径は5.5μmである。バインダー+ゼオライト結晶混合物を乳鉢で粉砕し、次いでペレタイザー中で3000kg.cm-2及び160℃で15分間圧縮する。次に、250μm厚のフィルムを得て、これをイオン伝導体Aの溶液に浸漬することによって室温で浸漬する。イオン伝導体Aは、80質量%のスクシノニトリル及び20質量%のLiTFSI(Gotion社製)から構成される。次いで、フィルムを排出し、計量して、吸収後の質量の増加を決定し、増加は約55%である。次いで、最終固体電解質は、LiLSXゼオライト(61.7重量%)、PVDF(3.3重量%)及びイオン伝導体A(35重量%)から構成される。これをSE1と名付ける。
【0100】
[実施例2:Liイオン電池のセパレータ用PEO系固体電解質の調製]
比較のために、80質量%のPEO及び20質量%のLiTFSIから構成されるPEO(ポリ(エチレンオキシド))系固体電解質を調製する。PEOをアセトニトリルに溶解し、次いでLiTFSIを添加する。得られた溶液を、溶媒キャスティングによってガラスプレート上に堆積させ、次いで、60℃で、真空下で乾燥させて、アセトニトリルを蒸発させる。次いで、SE2と名付けた自己支持性フィルムを得る。
【0101】
[実施例3:全固体セパレータの導電率の測定]
(不活性雰囲気下で)固体電解質を漏出防止導電率セルの2つの金電極間及び不活性雰囲気下(CESH、BioLogic)に置くことによって、電気化学的インピーダンス分光法によって、導電率(σ)を評価する。結果を表1に示す。電解質SE1は、25℃で参照PEO(SE2)よりもはるかに高い導電率を有する。
【0102】
【0103】
[実施例4:全固体セパレータの熱安定性の測定]
(不活性雰囲気下で)固体電解質を漏出防止導電率セルの2つの金電極間及び不活性雰囲気下(CESH、BioLogic)に置くことによって、電気化学的インピーダンス分光法によって導電率(σ)を評価する。結果を表2に示す。電解質SE1は、25℃で参照PEO(SE2)よりもはるかに高い導電率を有する。
【0104】
【0105】
[実施例5:全固体セパレータの電気化学的安定性の測定]
(不活性雰囲気下で)60℃でのサイクリックボルタンメトリーによって、ステンレス鋼電極とリチウム金属電極との間のボタン電池内に固体電解質を配置することによって、様々な固体電解質の電気化学的安定性を評価する。サイクリックボルタンメトリーは、1mV/秒で2V~6Vの間で実施する。結果を表3に示す。電解質SE1は、参照PEO(SE2)よりもはるかに高い電気化学的安定性を有する。
【0106】
【手続補正書】
【提出日】2024-05-27
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
A/ 1種以上のゼオライトの結晶、
B/ 少なくとも1種のポリマーバインダーであって、前記ポリマーバインダーの量は、ゼオライト結晶及びバインダーの総重量に対して、0.5重量%~20重量%の
間であるポリマーバインダー、及び
C/ 少なくとも1種のリチウム塩を含む少なくとも1種のイオン伝導体
を含む組成物。
【請求項2】
前記ポリマーバインダーの量は、ゼオライト結晶及びバインダーの総重量に対して、1重量%~10重量%の間である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
ゼオライト結晶が、フォージャサイト(FAU)、MFIゼオライト、チャバザイト(CHA)、ヒューランダイト(HEU)、リンデA型(LTA)ゼオライト、EMTゼオライト、ベータゼオライト(BEA)、モルデナイト(MOR)、及びこれらの混合物から選択される1種以上のゼオライトの結晶である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
ゼオライト結晶が、Y型、X型、MSX型又はLSX型フォージャサイ
トから選択される1種以上のゼオライトの結晶である、請求項
1に記載の組成物。
【請求項5】
ゼオライト結晶が、X型、MSX型又はLSX型フォージャサイトから選択される1種以上のゼオライトの結晶である、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
ゼオライト結晶が、そのカウンターカチオンが、ヒドロニウムイオン、有機カチオン、アルカリ金属カチオン、アルカリ土類金属カチオン、遷移金属カチオン、希土類金属カチオン、及びこれらの2種以上の混合物から選択される1種以上のゼオライトの結晶である、請求項
1に記載の組成物。
【請求項7】
ゼオライト結晶が、そのカウンターカチオンがリチウムカチオンで
ある1種以上のゼオライトの結晶である、請求項
1に記載の組成物。
【請求項8】
ゼオライト結晶が、そのカウンターカチオンがリチウムカチオンであり、ヒドロニウムカチオン及び/又は1種以上の他のアルカリ金属若しくはアルカリ土類金属カチオンを有する1種以上のゼオライトの結晶である、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
ゼオライト結晶のサイズが、0.02μm~20.00μmの
間である、請求項
1に記載の組成物。
【請求項10】
前記少なくとも1種のポリマーバインダーが、フルオロポリマー、カルボキシメチルセルロース、スチレン-ブタジエンゴム、ポリアクリル酸及びそのエステル、並びにポリイミドか
ら選択される、請求項
1に記載の組成物。
【請求項11】
前記少なくとも1種のポリマーバインダーが、ポリフッ化ビニリデン、及びフッ化ビニリデンと、フッ化ビニリデンと相溶性のある少なくとも1種のコモノマーとのコポリマーから選択される、請求項
1に記載の組成物。
【請求項12】
リチウム塩が、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、リチウム2-トリフルオロメチル-4,5-ジシアノイミダゾール、リチウムヘキサフルオロホスフェート、リチウムテトラフルオロボレート、硝酸リチウム、リチウムビス(オキサラト)ボレート、並びに任意の割合のこれらの2つ以上の混合物から選択さ
れる、請求項
1に記載の組成物。
【請求項13】
イオン伝導体の量が、固体(ゼオライト結晶+ポリマーバインダー)に対して
、5重量%~400重量%の
間である、請求項
1に記載の組成物。
【請求項14】
イオン伝導体が、LiFSI、LiTFSI、又はLiFSI及びLiTFSIの混合物を
、1種以上の溶媒
と組み合わせて含む、請求項
1に記載の組成物。
【請求項15】
A/ FAU型ゼオライトの結晶
、
B/ 1種以上のゼオライトの結晶及びバインダーの総重量に対して、0.5重量%~20重量%の
間の量の少なくとも1種のフッ素化ポリマーバインダー
、及び
C/ 少なくとも1種のリチウム塩
、少なくとも1種の溶
媒を含む少なくとも1種のイオン伝導体
を含む、請求項
1に記載の組成物。
【請求項16】
FAU型ゼオライトの結晶が、リチウムと交換されるLSXゼオライトの結晶である、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
少なくとも1種のフッ素化ポリマーバインダーが、PVDFバインダーである、請求項15に記載の組成物。
【請求項18】
少なくとも1種のイオン伝導体が、少なくとも1種のリチウム塩並びにSN、DOL、DME、F1EC及びEG4DMEから選択される少なくとも1種の溶媒を含む、請求項15に記載の組成物。
【請求項19】
請求項1~
18のいずれか一項に記載の組成物のセパレータとしての、及び/又はカソード(カソード液)における、及び/又はアノード(アノード液)における使
用。
【請求項20】
5μm~500μmの
間の厚みを有するフィルムの形態の、全固体電池用セパレータとしての請求項
19に記載の使用。
【国際調査報告】