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特表2024-537079対象物の表面欠陥および疲労試験を受けたブレーキディスクのクラックを人工知能によって識別し特徴付ける方法
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  • 特表-対象物の表面欠陥および疲労試験を受けたブレーキディスクのクラックを人工知能によって識別し特徴付ける方法 図1
  • 特表-対象物の表面欠陥および疲労試験を受けたブレーキディスクのクラックを人工知能によって識別し特徴付ける方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-10
(54)【発明の名称】対象物の表面欠陥および疲労試験を受けたブレーキディスクのクラックを人工知能によって識別し特徴付ける方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/88 20060101AFI20241003BHJP
   G06T 7/00 20170101ALI20241003BHJP
   G01M 17/007 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
G01N21/88 J
G06T7/00 610Z
G06T7/00 350C
G01M17/007 E
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024519726
(86)(22)【出願日】2022-09-28
(85)【翻訳文提出日】2024-05-14
(86)【国際出願番号】 IB2022059237
(87)【国際公開番号】W WO2023053029
(87)【国際公開日】2023-04-06
(31)【優先権主張番号】102021000025085
(32)【優先日】2021-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521259127
【氏名又は名称】ブレンボ・ソチエタ・ペル・アツィオーニ
【氏名又は名称原語表記】BREMBO S.p.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(72)【発明者】
【氏名】ベロッティ,ステファノ
(72)【発明者】
【氏名】ベネッティ,ダニーロ
(72)【発明者】
【氏名】レスカーティ,ミカエル
【テーマコード(参考)】
2G051
5L096
【Fターム(参考)】
2G051AA07
2G051AB03
2G051CA04
2G051EB05
5L096AA06
5L096BA03
5L096CA02
5L096DA02
5L096FA17
5L096FA64
5L096FA66
5L096FA69
5L096GA34
5L096HA11
5L096KA04
(57)【要約】
対象物の表面欠陥を同定し特徴付ける方法は、
表面欠陥を識別する必要がある対象物または対象物の一部の少なくとも1つのデジタル画像を取得するステップと、人工知能および/または機械学習技術によって訓練アルゴリズムに、取得された少なくとも1つのデジタル画像を提供するステップと、訓練アルゴリズムによって、取得された少なくとも1つのデジタル画像に存在する1つまたは複数の表面欠陥を識別するステップと、各識別された表面欠陥に関連するデジタル情報を生成するステップとを備える。方法はまた、識別された各表面欠陥について、表面欠陥の少なくとも1つの寸法を代表する少なくとも1つのそれぞれの寸法パラメータと、画像内に存在する基準点もしくは線、または前記基準点もしくは線に関連付けられた2次元空間座標系に対する表面欠陥の位置を代表する少なくとも1つのそれぞれの位置パラメータとを決定する。決定ステップは、電子処理手段によるデジタル情報のさらなる処理によって実行される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物上の表面欠陥を識別し特徴付けるための方法であって、
前記表面欠陥が識別される前記対象物又は前記対象物の一部の少なくとも1つのデジタル画像を取得するステップと、
取得された前記少なくとも1つのデジタル画像を、人工知能および/または機械学習技術によって訓練アルゴリズムに提供するステップと、
前記訓練アルゴリズムによって、取得された前記少なくとも1つのデジタル画像に存在する1つまたは複数の表面欠陥を識別するステップと、
識別された前記表面欠陥のそれぞれに関連するデジタル情報を生成するステップと、
識別された前記表面欠陥のそれぞれについて、前記表面欠陥の少なくとも1つの寸法を代表する少なくとも1つの寸法パラメータと、前記デジタル画像内に存在する基準点もしくは基準線、または前記基準点もしくは前記基準線に関連付けられた2次元空間座標系に対する前記表面欠陥の位置を代表する少なくとも1つの位置パラメータと、を決定するステップとを含み、
前記決定するステップは、電子処理手段による前記デジタル情報のさらなる処理によって実行され、
前記訓練アルゴリズムは、前記訓練アルゴリズムへの入力として供給される、デジタル訓練画像を含む訓練データセットに基づいて、予備訓練ステップによって訓練されるアルゴリズムであり、
前記訓練データセットは、前記表面欠陥が識別され特徴付けされる前記対象物と同じタイプの対象物を表し、
前記対象物は、寸法パラメータおよび位置パラメータが既知である表面欠陥を有し、前記表面欠陥もまた、前記訓練アルゴリズムへの入力として供給される、方法。
【請求項2】
前記予備訓練ステップは、前記訓練アルゴリズムに到達するために、転移学習技術を適用することにより、前記訓練データセットとは異なる予備訓練データセットに基づいて、予備訓練アルゴリズムから開始する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
動的条件下で機械部品上の表面欠陥を識別し特徴付けるように構成されており、
前記取得するステップは、前記機械部品の動作の動的進化の間に取得された、前記機械部品の複数のデジタル画像を順次取得することを含み、
前記提供するステップ、前記識別するステップ、前記生成するステップ、および前記決定するステップは、前記表面欠陥の存在、寸法、および位置の動的進化を監視するために、連続して取得された前記デジタル画像に対して連続的に実行される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記動的条件は、機械部品の疲労試験を含み、
前記方法はさらに、
前記疲労試験を継続するか中断するかを決定するように構成された、前記表面欠陥を評価するための評価基準を確立するステップと、
前記表面欠陥の時間的進化に関連する情報を前記評価基準と継続的に比較するステップと、
前記表面欠陥の前記評価基準がすべて満たされた場合、前記疲労試験を続行するステップと、
前記評価基準の少なくとも1つが満たされない場合、前記疲労試験を中止するステップを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記予備訓練ステップは、
前記デジタル訓練画像の存在する既知の表面欠陥のタグ付けまたはラベル付けを実行するステップと、
前記タグ付けまたは前記ラベル付けによって処理された前記デジタル訓練画像に基づいて、前記訓練アルゴリズムのパラメータを較正するステップを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記タグ付けまたは前記ラベル付けを実行するステップは、前記デジタル訓練画像上で、手作業で、および/または、ソフトウェアの支援により、明らかな表面欠陥を強調表示することにより実施される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
デジタル検証画像のさらなるデータセット上で、前記訓練アルゴリズムの予測能力を検証するステップを含む、請求項4-6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記訓練アルゴリズムが、ニューラルネットワークに基づく機械学習アルゴリズムである、請求項4-7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記ニューラルネットワークが、ディープニューラルネットワーク、または畳み込みニューラルネットワーク、もしくは領域ベース畳み込みニューラルネットワークを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記訓練アルゴリズムは、ディープオブジェクト検出器または二段階ディープオブジェクト検出器に基づく機械学習アルゴリズムである、請求項4-9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
少なくとも1つの取得されたデジタル画像に存在する前記1つまたは複数の表面欠陥を識別する前記識別するステップは、前記訓練アルゴリズムによって、表面欠陥を認識することと、認識された前記表面欠陥について、前記取得されたデジタル画像の基準座標系に関して、前記表面欠陥の空間座標を識別することとを含み、
前記基準座標系には、描かれた前記対象物の部分も既知の方法で参照され、
前記表面欠陥に関連する情報を生成する前記生成するステップは、識別された前記表面欠陥について、前記表面欠陥の前記空間座標を代表する前記デジタル情報を生成することと、後続の処理に利用できるように前記デジタル情報を保存することとを備える、請求項1-10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記決定するステップは、前記表面欠陥のそれぞれについて、前記表面欠陥の前記空間座標に基づいて、前記寸法パラメータおよび前記位置パラメータを決定することを備える、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記取得するステップの前に、前記画像取得手段の較正を実行するステップと、
前記較正に続いて、前記画像取得における幾何学的歪みの影響を補正するためにデータを取得するステップと、を含むことを特徴とする請求項1-12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
動的条件下で前記ブレーキディスクの前記ブレーキ表面または要素上のクラックを識別し特徴付けるように構成された方法であって、
前記対象物はブレーキディスクであり、
前記表面欠陥は前記ブレーキディスクのクラックであり、
前記取得するステップは、前記ブレーキディスクの前記ブレーキ表面または要素の少なくとも1つのデジタル画像を取得することを含み、
前記少なくとも1つのデジタル画像のセットは、前記ブレーキ表面または要素に対応する環状体全体を表し、
前記提供するステップは、前記少なくとも1つの取得されたデジタル画像を、人工知能および/または機械学習技術によって訓練アルゴリズムに提供することを含み、
前記識別するステップは、前記訓練アルゴリズムによって、前記少なくとも1つの取得されたデジタル画像に存在する1つまたは複数のクラックを識別することと、識別された前記クラックのそれぞれに関連するデジタル情報を生成することを含み、
前記寸法パラメータは、クラックの長さを含み、
前記位置パラメータは、前記ブレーキディスクおよび/または前記ブレーキ表面の縁部に対する前記クラックの位置を含み、
前記決定するステップは、前記さらなる処理によって、前記識別された前記クラックのそれぞれについて、前記ブレーキディスクおよび/または前記ブレーキ表面の前記縁部に対する前記クラックの位置を代表する前記長さおよび前記位置パラメータを決定することを含む、請求項1-13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
動的条件下で前記ブレーキディスクの前記ブレーキ表面または要素上のクラックを識別し特徴付けるように構成された方法であって、
前記取得するステップは、前記ブレーキディスクの動作の動的進化の間に取得された、前記ブレーキディスクの前記ブレーキ表面または要素の複数の前記デジタル画像を順次取得することを含み、
前記提供すること、前記識別すること、前記生成するステップ、および前記決定することは、クラックの存在、長さ、および位置の動的進化を監視するために、前記連続的に取得されたデ前記ジタル画像に対して、連続的に実行される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記動的条件は、ブレーキディスクの疲労試験を含み、
前記疲労試験を継続するか中断するかを決定するために、前記クラックを評価するための評価基準を確立するステップと、
前記クラックの時間的進展に関連する情報を前記評価基準と継続的に比較するステップと、
前記クラックの前記評価基準がすべて満たされた場合、前記疲労試験を続行するステップと、
前記評価基準の少なくとも1つが満たされない場合、前記疲労試験を中止するステップを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記評価基準は、
前記クラックの長さが、前記疲労試験の継続のためにもはや許容されないとみなされる、予め定義された最大長さ未満である;および/または
すべての前記クラックの端部が、前記ブレーキ表面または前記ブレーキディスクの縁部から、前記疲労試験を継続するためにもはや許容されない予め定義された最小距離以上離れていること、である請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記訓練アルゴリズムが、前記訓練アルゴリズムへの入力として既知のクラックサイズおよび位置に関連する入力情報とともに供給される、既知のクラックを有するブレーキ表面のデジタル画像からなる訓練データセットに基づき、予備訓練ステップによって訓練されるアルゴリズムである、請求項1および請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記予備学習ステップは、
前記デジタル訓練画像のそれぞれに存在する既知のクラックのタグ付けまたはラベル付けを実行するステップと、
前記タグ付けまたは前記ラベル付けによって処理された前記デジタル訓練画像に基づいて、前記訓練アルゴリズムのパラメータを較正するステップを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記タグ付けまたは前記ラベル付けステップは、前記デジタル訓練画像上に、手作業で、および/または、ソフトウェアの支援により、明らかなクラックの空間的傾向をトレースする線を引くことによって実施される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記少なくとも1つの取得されたデジタル画像に存在する1つまたは複数のクラックを識別する前記識別するステップは、
前記訓練アルゴリズムによって前記クラックを認識することと、
認識された前記クラックについて、前記取得されたデジタル画像の前記基準座標系に関して、セグメントとして近似された前記クラックの端部の前記空間座標を識別することとを含み、
前記基準座標系には、前記ブレーキディスクまたは前記ブレーキ表面の描かれた部分も既知の方法で参照され、
前記クラックのそれぞれに関連する情報を生成する前記ステップは、識別された前記クラックのそれぞれについて、前記クラックの前記空間座標を代表するデジタ前記ル情報を生成することと、前記デジタル情報を保存して後続の処理に利用可能にするステップを含む、請求項14-20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記情報を生成するステップは、前記1つ以上の識別されたクラックに関連するハイライトおよび/または表示を含むそれぞれの少なくとも1つの処理されたデジタル画像を生成することをさらに含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記識別されたクラックのそれぞれについて、前記長さおよび前記クラック位置を代表する少なくとも1つのそれぞれのパラメータを決定する前記ステップが、訓練されていないコンピュータビジョンアルゴリズムによって実施される、請求項1-22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
前記識別されたクラックのそれぞれについて、前記長さおよび前記クラック位置を代表する少なくとも1つのパラメータを決定する前記ステップが、さらに訓練された機械学習アルゴリズムによって実施される、又は
1つ以上のクラックを識別する前記ステップを実行するように構成された同じ訓練された機械学習アルゴリズムを用いて実行される、請求項14-22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
識別された前記クラックのそれぞれについて、前記長さおよび前記クラック位置を代表する少なくとも1つのパラメータを決定する前記ステップは、
前記クラックの端部の座標に基づいて前記クラックの長さを計算するステップと、
前記基準系に対して、クラック端部の座標およびクラック縁部の座標に基づいて、前記クラック縁部に最も近い前記クラック縁部までの距離として、前記クラック位置を代表する前記少なくとも1つのそれぞれのパラメータを計算するステップを含む、請求項21-24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
前記クラック位置を代表する前記パラメータを計算する前記ステップは、前記ブレーキディスク上の前記クラックの半径方向位置および/または角度位置を計算することを含む、請求項14-25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
木材および/またはプラスチックおよび/または布地および/またはガラス質および/またはセラミックおよび/またはセメント質および/または金属材料の対象物に対して操作する、請求項1-13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
機械部品に対して疲労試験を実施する方法であって、
疲労試験の実施中に、請求項1-13のいずれか1項に記載の表面欠陥を識別し特徴付けるための方法を実施するステップと、
予め定義された評価基準のセットのすべてのクラック評価基準が満たされる場合、前記疲労試験を続行するステップと、
前記評価基準の少なくとも1つが満たされない場合、前記疲労試験を中止するステップを含む、方法。
【請求項29】
ブレーキディスクの疲労試験を実施する方法であって、
前記疲労試験の実施中に、請求項14-26のいずれか1項に記載のクラックを識別し特徴付ける方法を実施するステップと、
予め定義された一連の評価基準のすべてのクラック評価基準が満たされた場合に、前記疲労試験を続行するステップと、
前記評価基準の少なくとも1つが満たされない場合、前記疲労試験を中止するステップを含み、
前記予め定義された評価基準は、
前記クラックの長さが予め定義された最大長さ未満であり、前記疲労試験の継続がもはや許容されないとみなされること、および/または
すべての前記クラックの端部が、前記ブレーキ表面または前記ブレーキディスクの縁部から、疲労試験の継続のためにもはや許容されないとみなされる予め定義された最小距離以上離れていること、である、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工知能(AI)によって対象物の表面欠陥を識別し特徴付ける方法に関する。
【0002】
より詳細には、本発明はさらに、ブレーキディスク上のクラックを識別し特徴付けるための人工知能(AI)に基づく方法に関する。
【背景技術】
【0003】
人工知能(AI)およびコンピュータビジョン(CV)技術を、表面欠陥またはクラックの検出およびその寸法的定量化に使用することは、現在、確立されている。このようなツールには、適切に設計されたアルゴリズム(通常、1つまたは複数のニューラルネットワーク)によって、オペレータまたはロボットによって撮影された画像の解析が含まれる。その画像には、異なる大きさや重症度を有する表面欠陥が存在し得る。主な応用分野は、過酷な環境(原子炉、水中構造物など)で動作する産業用の公共インフラおよび/または製品のモニタリングに関するものである。
【0004】
これらの方法が登場する前は、画像は人間のオペレータによって確認されていた。しかし、この手順はリソースの面で非常にコストがかかる。したがって、画像が利用可能であることを考慮すれば、画像中の対象物の検出に適用可能な確立された人工知能やコンピュータビジョン技術を使用して、このプロセスを自動化することはすぐに思いつく。
【0005】
しかし、このような技術を大規模に応用するためには、いくつかの問題が未解決のままである、すなわち、いずれにしてもいくつかのニーズが十分に満たされていない。
【0006】
まず、表面欠陥の位置を、絶対的な空間座標系だけでなく、検査される対象であって解析する画像に存在する対象の関連部分に結合された空間座標系に関しても、表面欠陥の位置を識別する必要性が感じられる。
【0007】
次に、多くの用途において、例えば、動的に動作する機械部品や、動的試験または疲労試験に供される機械部品では、動的な状況における表面欠陥の出現および進展を識別するだけでなく監視する必要性もある。
【0008】
前述の要件は、既知のソリューションでは満足されない。
【0009】
重要かつ典型的な応用例として、ブレーキディスクのクラックを識別・監視する必要がある。
【0010】
従来技術では、ブレーキディスクのクラックを識別するために、人工知能や機械学習(ML)技術やアルゴリズムの可能性を利用する試みはなされていない。
【0011】
現在使用されている手順によれば、ブレーキシステムの熱機械応力に対する耐性を測定するために、ブレーキシステムは動力学テストベンチで試験され、そのテストベンチでは、運転パラメータ(回転速度、ブレーキ圧力/トルク、温度)の観点から所定のブレーキングシーケンスが適用される。試験プロトコルは、あらかじめ決められた時間間隔でベンチを停止させ、静止したディスクをオペレータが目視で検査することを規定している。
【0012】
ディスクのブレーキ表面の両側にクラックが確認された場合、それぞれの側面の最長のクラックの長さがノギスで測定され、記録される。停止中に、ブレーキ表面の半径方向延長の割合で表されるある閾値を超える長さのクラック、またはブレーキ表面の外縁または内縁に過度に接近したクラックをオペレータが検出すると、試験は直ちに中断される。
【0013】
このようにして実施される疲労試験は、長い試験期間(特に長いものでは数週間の試験期間)のため、資源の観点からも非常に高価である。実際、機械の長時間稼働に加え、プロトコルで規定された停止時間内にクラックの手動測定を行うオペレータの常駐が必要である。さらに、定期的な停止は、さらなるコストの原因となる。実際、定期的にベンチを停止し、ディスクが冷めるまで待ち、オペレータがディスクにアクセスできるようにする必要がある。
【0014】
さらに、オペレータが行う測定は、必ずしも信頼性が高く正確であるとは限らないため、試験部品の挙動分析にさらなる誤差要因が生じる。
【0015】
最後に、この疲労試験の実施方法では、利用可能なすべての情報を実験から抽出することはできない。実際、ブレーキ表面に存在する最も長いクラックの長さに関する周期的な情報に加えて、ディスク上で確認されたすべてのクラックの長さ、半径方向位置、角度位置を知ることは興味深い。さらに、これらの量の経時変化や、存在するクラックの数に関するデータを収集することも興味深い。これらのデータが入手できれば、試験された製品の挙動をより詳細に調べることができる。
【発明の概要】
【0016】
本発明の目的は、人工知能の使用により、対象物上の表面欠陥を識別し特徴付ける方法を提供することであり、これにより、従来技術を参照して上述した欠点を少なくとも部分的に回避し、考慮される技術分野で特に感じられる前述のニーズに応えることができる。
【0017】
このような目的は、請求項1に記載の方法によって達成される。
【0018】
そのような方法のさらなる実施形態は、請求項2-13および27に定義される。
【0019】
本発明のさらなる目的は、人工知能の使用によって、ブレーキディスク上のクラックを識別し特徴付ける方法を提供することである。かかる目的は、請求項14に記載の方法によって達成される。
【0020】
この方法のさらなる実施形態は、請求項15-26に定義される。
【0021】
このような目的に関連して、本発明の別の目的は、ブレーキディスクの疲労試験を自動化するように、古典的なCV技術と組み合わせたAIの可能性を利用することである。より詳細には、使用されるリソースの観点から実験をより効率的にし、抽出される情報量を最大化するために、試験中にブレーキ表に発生するクラックの同定と定量化を自動化することである。さらに、プロセスの自動化は、得られた結果をより信頼でき、再現可能で、客観的なものにする必要性を満たすものである。
【0022】
本発明の他の目的は、機械部品、特にブレーキディスクの疲労試験を実施する方法を提供することである(表面欠陥およびクラックを識別し特徴付ける前述の方法を採用する)。このような目的は、それぞれ請求項28および29による方法によって達成される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
本発明による方法のさらなる特徴および利点は、添付の図面を参照して非限定的に示す好ましい例示的実施形態の以下の説明から明らかになる。
【0024】
図1図1は、本発明による方法の一実施形態を示すブロック図である。
【0025】
図2図2は、本発明による方法の実行が関連付けられるブレーキディスクの疲労試験を実施するための実験配置を示す図である。
【0026】
図3図3は、本方法の一実施形態に含まれるいくつかのステップを示す簡略化したブロック図である。
【0027】
図4図4は、本発明の実施形態による方法のステップに従って、既知のクラックがラベル付けされたブレーキディスクを示す。
【0028】
図5図5は、本発明の方法の実施形態による、学習ステップ中に機械学習アルゴリズムへの入力として提供される画像例を示す。
【0029】
図6図6は、本発明の方法の実施形態による、機械学習アルゴリズムからの出力で得られる画像の例を示す。
【0030】
図7図7は、本発明の方法の実施形態で採用されるピンホールカメラの幾何学的パラメータと光学図を示す。
【0031】
図8図8は、ブレーキディスクの画像に基準座標系を関連付けることを可能にする、ブレーキディスクの一部の例示的な配置を示す。
【0032】
図9図9は、精度-再現率の図を示す。
【0033】
図10図10は、本発明による方法を実施できるシステムの簡略ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
対象物の表面欠陥を識別し特徴付けるための方法を説明する。
【0035】
この方法は、表面欠陥が識別されなければならない対象物または対象物の一部の少なくとも1つのデジタル画像を取得するステップと、次に、人工知能および/または機械学習技術によって訓練されるアルゴリズムに、前記取得された少なくとも1つのデジタル画像を提供するステップと、次に、前記訓練アルゴリズムによって、前記取得された少なくとも1つのデジタル画像に存在する1つまたは複数の表面欠陥を識別するステップと、識別された各表面欠陥に関連するデジタル情報を生成するステップとを備える。
【0036】
次いで、本方法は、識別された各表面欠陥について、表面欠陥の少なくとも1つの寸法を代表する少なくとも1つのそれぞれの寸法パラメータと、画像内に存在する基準点もしくは線、または前記基準点もしくは線に関連付けられた2次元空間座標系に対する表面欠陥の位置を代表する少なくとも1つのそれぞれの位置パラメータとを決定することを提供する。
【0037】
前述の決定ステップは、電子処理手段による前述のデジタル情報のさらなる処理によって実行される。
【0038】
一実施形態によれば、本方法は、動的条件下で機械部品上の表面欠陥を識別し特徴付けるように構成される。
【0039】
この場合、前述の取得するステップは、機械部品の動作の動的進化の間に取得された、機械部品の複数のデジタル画像を順に取得することからなる。
【0040】
表面欠陥の存在、寸法および位置の動的進化を監視するために、前述の提供するステップ、識別するステップ、生成するステップ、および決定ステップは、連続して取得されたデジタル画像に対して、連続して実行される。
【0041】
実施オプションによれば、前述の動的条件は、機械部品の疲労試験からなる。
【0042】
この場合、本方法は、前記疲労試験を継続するか停止するかを決定するための表面欠陥評価基準を確立するステップと、さらに、表面欠陥の時間的進化に関連する情報を前記確立された評価基準と連続的に比較するステップと、その後、表面欠陥の評価基準がすべて満たされている場合は疲労試験を続行し、代わりに、評価基準の少なくとも1つが満たされていない場合は疲労試験を停止するステップとをさらに含む。
【0043】
本方法の一実施形態によれば、前述の訓練アルゴリズムは、予備訓練ステップによって訓練されるアルゴリズムである。予備訓練ステップは、デジタル訓練画像からなる訓練データセットに基づく。デジタル訓練画像は、訓練アルゴリズムへの入力として供給される、表面欠陥が識別および特徴付けされなければならない対象物と同じタイプの対象物を表す。このような対象物は、それぞれの寸法パラメータおよびそれぞれの位置パラメータが既知である表面欠陥を有し、これらも訓練アルゴリズムへの入力として供給される。
【0044】
前述の実施形態の実装オプションによれば、前述の予備訓練ステップは、訓練アルゴリズムに到達するために、転移学習技術を適用することにより、前述の訓練データセットとは異なる予備訓練データセットに基づいて、予備訓練アルゴリズムから開始する。
【0045】
このような実装オプションでは、機械学習(ML)アルゴリズムを構築するために、転移学習(TL)手法が使用される、すなわち、別のデータセットで事前に訓練アルゴリズムが選択される。転移学習は、機械学習では、問題を解決するために、類似の問題を解決する間に得られた知識を適用することを提供する技術である。
【0046】
新しいタスクを学習するために、以前に学習したタスクからの情報を再利用または転送することは、機械学習アルゴリズム(特に、深層学習アルゴリズム)の認識性能を大幅に向上させる可能性がある。
【0047】
前述の実施形態の実装オプションによれば、予備学習ステップは、デジタル学習画像の各々に存在する既知の表面欠陥にタグ付けまたはラベル付けすることを含み、次に、タグ付けまたはラベル付けによって処理されたデジタル学習画像に基づいて、訓練アルゴリズムのパラメータを較正する。
【0048】
可能な実施オプションによれば、前述のタグ付けまたはラベル付けのステップは、デジタル訓練画像上で、明らかな表面欠陥を、手動で、および/または、容易にするソフトウェアのサポートを用いて、強調表示することによって実施される。
【0049】
実施形態によれば、本方法は、デジタル検証画像のさらなるデータセット上で、訓練アルゴリズムの予測能力を検証するステップをさらに含む。
【0050】
本方法の実施形態によれば、前記訓練アルゴリズムは、ニューラルネットワークに基づく機械学習アルゴリズムである。
【0051】
様々な実施態様によれば、前記ニューラルネットワークは、ディープニューラルネットワーク、または畳み込みニューラルネットワーク、または領域ベース畳み込みニューラルネットワークからなる。
【0052】
別の実施態様によれば、前記学習済みアルゴリズムは、ディープオブジェクト検出器または二段階ディープオブジェクト検出器に基づく機械学習アルゴリズムである。
【0053】
本方法の一実施形態によれば、少なくとも1つの取得されたデジタル画像に存在する、1つまたは複数の表面欠陥を識別する前述のステップは、訓練アルゴリズムによって、表面欠陥を認識することと、認識された各表面欠陥について、取得されたデジタル画像の基準座標系に関して、表面欠陥の空間座標を識別することとを含み、この基準座標系には、描かれた対象物の部分も既知の方法で参照される。
【0054】
各表面欠陥に関連する情報を生成する前述のステップは、識別された各表面欠陥について、表面欠陥の前述の空間座標を代表するデジタル情報を生成することと、そのようなデジタル情報を後続の処理に利用できるように記憶することとを備える。
【0055】
一実施形態によれば、前記決定するステップは、各表面欠陥について、表面欠陥の空間座標に基づいて、それぞれの寸法パラメータおよび位置パラメータを決定することを備える。
【0056】
実施形態によれば、本方法は、取得するステップの前に、画像取得手段の較正を実行するステップと、較正に続いて、画像取得における幾何学的歪みの影響を補正するためにデータを取得するステップとをさらに備える。
【0057】
様々な可能な適用例によれば、本方法は、様々な可能な表面、例えば、平滑、粗い、スポンジ状、またはその他の表面上の表面欠陥を検出するために採用される。
【0058】
様々な実施態様に従って、本方法は、木材および/またはプラスチックおよび/または布製の対象物上の表面欠陥を識別し特徴付けるために適用される。
【0059】
他の実施態様に従って、本方法は、ガラス質、セラミック、セメント、金属材料の対象物上の表面欠陥を同定し特徴付けるために適用される。
【0060】
上記に示した方法は、その特徴により、上記したものに関して異なる材料からなる広範囲の複数の対象物にも適用できることに留意すべきである。
【0061】
また、いくつかの可能な適用例において、本方法は、クラック、穴、裂け目、傷、欠け、汚れなど、様々なタイプの表面欠陥を検出するために使用されることにも留意すべきである。
【0062】
実際、上に示した方法は、その特徴のために、幅広い複数の表面欠陥に適用することができ、それは、一般に、背景に関して画像によって捕らえることができるあらゆる不均一性として定義することができ、例えば、均一な背景に関して人間の目が何とか知覚することができるすべての不均一性である。
【0063】
様々な実施態様によれば、デジタル画像を取得するステップは、既に知られている画像取得手段、例えばカメラ、ビデオカメラ、または可視スペクトルにおける他の画像取得装置によって実施される。
【0064】
好ましい実施形態では、上に示した実施形態のいずれか1つに従って実行される本方法は、ブレーキディスク上の、より具体的にはブレーキディスクのブレーキ表面または要素上のクラックの検出および監視の分野で使用される。
【0065】
このような実施形態を、図1図11を参照して以下に詳細に示す。
【0066】
このような実施形態によれば、本方法は、ブレーキディスクのブレーキ表面または要素上のクラックを識別し特徴付けるように構成される。このような場合、前述の対象はブレーキディスクであり、前述の欠陥はブレーキディスクのクラックである。
【0067】
このような場合、前述の取得ステップは、ブレーキディスクのブレーキ表面または要素の少なくとも1つのデジタル画像を取得することからなり、この少なくとも1つのデジタル画像のセットは、ブレーキ表面または要素に対応する環状体全体を表す。
【0068】
前記提供するステップは、取得された少なくとも1つのデジタル画像を、人工知能および/または機械学習技術によって訓練されるアルゴリズムに提供することからなる。
【0069】
前記識別するステップは、前記訓練アルゴリズムによって、前記少なくとも1つの取得されたデジタル画像に存在する1つまたは複数のクラックを識別することと、各識別されたクラックに関連するデジタル情報を生成することとを備える。
【0070】
前述の寸法パラメータは、この場合、クラックの長さ(すなわち、クラックは主に一次元の欠陥であるため、クラックの延長寸法)からなる。
【0071】
前述の位置パラメータは、ブレーキディスクの縁部および/またはブレーキ表面に対するクラックの位置からなり、そのため、決定ステップは、前述のさらなる処理によって、識別された各クラックについて、ブレーキディスクの縁部および/またはブレーキ表面に対するクラックの位置を代表するそれぞれの長さおよびそれぞれの位置パラメータを決定することからなる。
【0072】
このような実施形態の実装オプションによれば、本方法は、動的条件下でブレーキディスクのブレーキ表面または要素上のクラックを識別し特徴付けるように構成される。
【0073】
この場合、取得ステップは、ブレーキディスクの動作の動的進化の間に取得された、ブレーキディスクのブレーキ表面または要素の複数のデジタル画像を順次取得することからなり、クラックの存在、長さ、および位置の動的進化を監視するために、提供するステップ、識別するステップ、生成するステップ、および決定するステップが、順次取得されたデジタル画像に対して、連続して実行される。
【0074】
前述の動的条件がブレーキディスク疲労試験からなる本方法の適用例によれば、本方法は、疲労試験を継続するか停止するかを決定するためのクラック評価基準を確立するステップと、さらに、クラックの時間的進化に関連する情報を確立された評価基準と連続的に比較するステップとをさらに含み、その後、本方法は、すべてのクラック評価基準が満たされる場合、疲労試験を続行し、評価基準の少なくとも1つが満たされない場合、代わりに疲労試験を停止することからなる。
【0075】
この実施形態の様々な可能な実施オプションによれば、前述の評価基準は、以下の基準のうちの1つまたは複数からなる。
【0076】
各クラックの長さが予め定義された最大長さ未満であり、疲労試験の継続がもはや許容されないと考えられること、および/または
【0077】
すべてのクラックの端部が、ブレーキ表面またはブレーキディスクの縁部から、疲労試験を継続するためにもはや許容されない予め定義された最小距離以上離れていること。
【0078】
本実施形態の実施オプションによれば、前述の学習済みアルゴリズムは、訓練アルゴリズムへの入力として供給される、既知のクラックを有するブレーキ表面のデジタル画像からなる学習データセットに基づき、既知のクラックのサイズおよび位置に関連する入力情報とともに、予備学習ステップによって訓練されるアルゴリズムである。
【0079】
ブレーキディスク上のクラックを識別し特徴付ける方法で使用される機械学習または人工知能アルゴリズムに関しては、表面欠陥を識別し特徴付けるより一般的な方法に関して既に示したすべての実装オプションを使用することができる。
【0080】
前述の実施形態の、既に述べた実施オプションによれば、前述の予備訓練ステップは、訓練アルゴリズムに到達するために、転移学習技術を適用することによって、前述の訓練データセットとは異なる予備訓練データセットに基づいて、予備訓練アルゴリズムから出発して動作する。
【0081】
言い換えれば、機械学習(ML)アルゴリズムを構築するために、転移学習(TL)手法が使用される、すなわち、別のデータセットで事前に訓練されるアルゴリズムが選択される。転移学習は、機械学習の文脈では、問題を解決するために、類似の問題の解決中に得られた知識を適用することを提供する技術である。
【0082】
実験された特定の実装例によると、クラック認識アルゴリズムは、関連するコンテキストの一般的なオブジェクト(例えば、車、人、航空機)の画像と注釈の膨大なデータセット(200,000以上のサンプル)上でMask-RCNNアルゴリズムを訓練し、その後、より具体的な訓練プロセスを通じて、ブレーキディスク上のクラックを認識するように学習させた、転移学習によって作成された。
【0083】
前述の伝達学習技術を適用することで、(「ゼロから」開始する、クラックを認識するために訓練する従来のディープラーニングアルゴリズムに関して)訓練に使用する画像数が同じでも、はるかに優れたアルゴリズム性能を達成することができる。
【0084】
実装オプションによれば、前述の予備訓練ステップは、デジタル訓練画像の各々に存在する既知のクラックにタグ付けまたはラベル付けすることからなり、次に、タグ付けまたはラベル付けによって処理されたデジタル訓練画像に基づいて、訓練アルゴリズムのパラメータを較正する。
【0085】
実施例に従って、前述のタグ付けまたはラベル付けステップは、デジタル訓練画像上に、手作業で、および/または、容易にするソフトウェアの支援を受けて、各明らかなクラックの空間的傾向をトレースする線を引くことによって実施される。
【0086】
ある実施態様によれば、「labelMe」ツールが使用される。
【0087】
可能な操作モードによれば、このようなツールは、例えば、画像に存在するすべてのクラックの端点のピクセル単位の座標のリストを報告することによって、クラックが画像内のどこに位置するかを指定する情報内容を有する「付随」ファイルを生成する。
【0088】
実装オプションに従って、少なくとも1つの取得されたデジタル画像に存在する1つまたは複数のクラックを識別する前述のステップは、学習されたアルゴリズムによってクラックを認識することと、認識された各クラックについて、取得されたデジタル画像の基準座標系に関して、セグメントとして近似されたクラックの端部の空間座標を識別することとを含み、この基準座標系には、ブレーキディスクまたはブレーキ表面の描写された部分も既知の方法で参照される。
【0089】
この場合、各クラックに関連する情報を生成する前述のステップは、識別された各クラックについて、クラックの空間座標を代表するデジタル情報を生成し、そのようなデジタル情報を保存して、後続の処理に利用できるようにすることからなる。
【0090】
実施オプションによれば、情報を生成する前述のステップは、1つまたは複数の識別されたクラックに関連するハイライトおよび/または表示を含むそれぞれの少なくとも1つの処理されたデジタル画像を生成することをさらに備える。
【0091】
ある実施態様によれば、識別されたクラックごとに、長さおよびクラック位置を代表する少なくとも1つのそれぞれのパラメータを決定する前述のステップは、訓練されていない画像処理アルゴリズムによって実施される。
【0092】
特定の実施オプションによれば、識別された各クラックについて、長さおよびクラック位置を代表する少なくとも1つの各パラメータを決定する前述のステップは、訓練されていないコンピュータビジョン(CV)アルゴリズムによって実行される。
【0093】
ある実施態様によれば、識別された各クラックについて、長さおよびクラック位置を代表する少なくとも1つの各パラメータを決定する前述のステップは、さらなる機械学習アルゴリズムによって実施される。
【0094】
別の実施オプションによれば、識別されたクラックごとに、長さおよびクラック位置を代表する少なくとも1つの各パラメータを決定する前述のステップは、1つまたは複数のクラックを識別する前述のステップを実施するように構成された同じ学習済み機械学習(ML)アルゴリズムによって実施される。
【0095】
後者の場合、単一のMLアルゴリズムが、画像からクラックの長さおよび/または位置まで、方法のすべてのステップを実行する。
【0096】
この場合、本発明に含まれる実施変形例によれば、エンドツーエンドの深層学習アルゴリズムが使用され、このアルゴリズムは、画像座標の決定を通過することなく、画像からクラックの長さと、画像に常に含まれる実際の基準系(例えばディスクの縁部)に対するクラックの位置を直接生成する。
【0097】
実施オプションによれば、識別された各クラックについて、長さおよびクラック位置を代表する少なくとも1つの各パラメータを決定する前述のステップは、以下のステップを含む。
【0098】
それぞれの端部の座標に基づいてクラックの長さを計算するステップ。
【0099】
クラック位置を代表する前記少なくとも1つの各パラメータを、前記基準系に関して、前記端部の座標および前記縁部の座標に基づいて、前記縁部に最も近いクラックの端部の縁部からの距離として計算するステップ。
【0100】
他の実施態様によれば、クラック位置を代表するパラメータを算出する前記ステップは、ブレーキディスク上のクラックの半径方向位置および角度位置を算出することからなる。
【0101】
次に、機械部品の疲労試験を実施する方法について説明する。
【0102】
この方法は、疲労試験の実施中に、先に説明した実施形態のいずれか1つに従って表面欠陥を識別し特徴付けるための方法を実施することからなる。
【0103】
この方法は、このように、予め定義された評価基準のセットのクラック評価基準がすべて満たされる場合に疲労試験を続行することと、代わりに、評価基準の少なくとも1つが満たされない場合に疲労試験を停止することとを含む。
【0104】
次に、ブレーキディスクの疲労試験を実施する方法について説明する。
【0105】
この方法は、疲労試験の実施中に、先に説明した実施形態のいずれか1つに従って、ブレーキディスク上のクラックを識別し特徴付けるための方法を実施することを備える。
【0106】
この方法は、次に、予め定義された評価基準のセットのすべてのクラック評価基準が満たされる場合に疲労試験を進め、代わりに、評価基準の少なくとも1つが満たされない場合に疲労試験を停止することを提供する。
【0107】
前記予め定義された評価基準は、例えば、以下のものを含む。
【0108】
各クラックの長さが予め定義された最大長さ未満であり、疲労試験の継続がもはや許容されないとみなされること、および/または
【0109】
すべてのクラックの端部が、ブレーキ表面またはブレーキディスクの縁部から、疲労試験の継続のためにもはや許容されないとみなされる予め定義された最小距離以上離れていること。
【0110】
単に非限定的な例として、疲労試験に供されるブレーキディスクの表面上のクラックを識別し特徴付けるための方法に焦点を当てた本発明の特定の実施形態による方法のさらなる詳細を、図1-10を参照して以下に報告する。
【0111】
この方法の論理的な流れを図1に示す。
【0112】
ダイナモメトリックベンチでの疲労試験の開始前に、ダイナモメトリックベンチ上に実験装置が設置される。実験装置は、試験の全期間にわたってブレーキ表面のさまざまな部分の静止画像を定期的に取得することができる。この例では、撮影されるディスクの部分は、試験の全期間にわたってブレーキ表面の環状部全体に関連する情報を周期的に取得することが可能であるようなものである。
【0113】
実施オプションによれば、取得はディスクの両側で同時に行われる。
【0114】
実施オプションでは、テストベンチに取り付けられた前述のシステム(実験装置)は、2つの金属製サポートから構成される。各サポートは、ベンチブレーキシステムの寸法に適合するサイズと、可能な限り広い動作温度範囲を持つように適切に選択されたカメラを含む。アームはディスクの表面からあらかじめ設定された距離をおいて取り付けられ、フレームの焦点が合うようになっている(図2参照)。各カメラの光軸は、ディスクの表面に対して垂直な方向でディスクに到達する必要がある。
【0115】
実施オプションによれば、ダイナミックベンチソフトウェアは、画像取得システムを管理する。画像取得システムは、ブレーキディスクの角度位置、照明、撮影時間を管理し取得し、取得した画像を保存する。画像取得が終了すると、ベンチは一時停止状態になり、画像処理の結果を待つ。
【0116】
こうして取得された画像は、機械学習(ML)モデルまたはアルゴリズムへの入力となり、クラックの可能性を識別することができる。
【0117】
実装オプションによれば、MLアルゴリズムを構築するために転移学習法が使用され、すなわち、別のデータセットで事前に訓練されるアルゴリズムが選択された。
【0118】
ここに示す例では、COCOオープンソースデータセットで訓練されたニューラルネットワーク(NN)に基づくMask-RCNNモデルが選択された。
【0119】
通常、MLアルゴリズムの開発フローは、入力準備、タグ付け、モデル学習である(図3参照)。
【0120】
入力準備ステップについては、使用するアルゴリズムがベンチのカメラで直接取得した画像を入力とするため、実施しない。これは、計算負荷の観点から有利であり、したがって、アルゴリズムがベンチに対してオンラインで動作するように設計されているため、重要な要素である時間の観点からも有利である。
【0121】
タグ付け作業に関しては、試験中にベンチ上で撮影された画像に描かれたクラックに手作業でラベルを付ける作業が含まれる。特に、この作業は画像上に線を引くことからなり、この線は明らかなクラックそれぞれの空間的傾向をトレースする。まれにクラックが折れ線に近い場合もあるが、その場合は、クラックの端点をつなぐセグメントとしてタグ付けされる。
【0122】
正確なタグ付けは、ディープラーニングアルゴリズムが十分に機能するための前提条件である。
【0123】
本発明に含まれる実装オプションに従って、タグ付け活動をサポートするために使用されるツールは、オープンソースツール(labelMe)から取得される。labelMeでタグ付けされた画像の例を図4に示す。
【0124】
タグ付けステップに続いて、従来の学習プロセスが行われる。タグ付けされたデータセットのサブセット(101の画像ファイルから成る)がAIアルゴリズムへの入力として提供され、モデルのパラメータを較正し、予測を提供するように適合させる。モデル学習に使用されるタグ付き入力の例を図5に示す。
【0125】
特定の実装オプションによると、タグ付きデータセットの前述のサブセットは、データ増強技術によって強化される。
【0126】
アルゴリズムが訓練されると、同じ性質の別のデータセットでその予測能力が検証される。
【0127】
アルゴリズムが入力画像上のクラックを、事前に設定された閾値を超える確実に検出すると、その始点と終点の幾何学的座標が保存される。
【0128】
実装オプションによれば、座標系は画像座標系である。
【0129】
クラックはセグメントとみなされ、これはほとんどすべての場合に有効な近似値である。このデータは、開始画像上にグラフィック形式で表示することができる(図6参照)。
【0130】
この方法の次のステップでは、古典的なCV技術を適用して、識別された各クラックに関連する情報を処理し、幾何学的な歪みなしにその長さを確実に計算する。実際、カメラを通して取得された各画像は、機器がどのように校正されたかの関数として、ある程度の歪みを持つ。これは、取得された画像上で等しい値の長さが、現実には必ずしも等しい長さに対応しないことを意味する。
【0131】
本発明では、物理的な基準を使用して実験セットアップの準備中にカメラが一度較正される。この較正により、カメラの固有歪みパラメータを計算することができる。このパラメータを基に、マトリクスカメラの適用など、連結ツールを使用して現象を補正することが可能である。この処理の後、画像上で測定された距離は、一定の係数に従って実際の距離に比例する。
【0132】
歪みが補正されると、その端点の座標から、任意の単位で画像内の各クラックの長さを決定することができる。計算式はユークリッド平面上のセグメントの計算式である。画像上で確認されたすべてのクラックについて、長さの計算結果を比較することで、その中で最も長いクラックを決定することができる。
【0133】
この比較を、十分に短い時間内に取得された複数の画像で撮影された、ディスクの2つのブレーキ表面に存在するすべてのクラックに拡大すると、どのクラックが最長であるかを決定することができる。
【0134】
任意の単位からmmへのクラック長さの値の変換は、ピンホールカメラモデル(図7に示すモデル)を適用することで簡単に行うことができる。
【0135】
図7を参照すると、異なる画像取得パラメータ間の関係は以下のようになる。
【0136】
H=(d/f)(S/R)n
【0137】
ここで、H(mm)は画像内のn個の画素で表される識別されたパターン(例えば、クラックの長さ)の長さ、d(mm)は作動距離(カメラ-対象物距離)、f(mm)はカメラの焦点距離、S(mm)はカメラセンサのサイズ、R(画素)はカメラセンサの解像度である。
【0138】
上記のように識別された最長のクラックの長さが、オペレータによって宣言され、試験開始前にアルゴリズムが利用できるようにされた閾値を超える場合、試験は自動的に中断される。
【0139】
試験の継続の可否が決定される第2の基準は、クラックとブレーキ表面の外縁との間の最小安全距離である。従って、ブレーキ表面の外側の帯状の部分には、たとえその部分全体がクラックでなくても、少なくとも1つのクラックが出現すれば、試験は中断される。
【0140】
これには、カメラフレームで構成されるブレーキ表面の各角度位置について、楕円の方程式で記述される外縁の位置を知ることが必要である。
【0141】
このような方程式を求めるには、次のようにする。試験を開始する前に、フレーム内に完全に構成されたバンドの一部に、背景に対して目立つ色のマーカーで環上の3本の光線をトレースする(図8参照)。このような光線と環の外周との交点3点の座標から、所望の方程式が計算される。この方程式は、クラックの両端の座標と同じように、数学的な補正変換を受ける。
【0142】
変換された方程式から、任意の所望の角度値で縁取られたブレーキ表面部分の外周の位置を決定することが可能である。
【0143】
少なくとも1つのクラックの外周端が、閾値(ピクセルまたはmmで表すことができる)に対して小さい縁部からの距離に位置する場合、試験は中断される。
【0144】
疲労試験の開始から、アルゴリズムは定期的に実行され、試験されたディスクのブレーキ表面の2つの側面をカバーするのに必要なすべての画像を検査する。試験停止のトリガーとなる基準の少なくとも1つが満たされると、試験は自動的に中断され、オペレータに通知が送信される。
【0145】
本開示に記載の方法により、疲労試験中に、進展するクラックに関連する多くの情報(ある時間瞬間における数、各クラックの長さ、外縁部に対する位置)を定期的に収集することが可能である。このようなデータセットから、疲労現象に対する製品の機械的反応の時間的変化を再構築することが可能である。
【0146】
性能の観点から、再現変数(recall variable)の関数としてのアルゴリズムの精度を図9に示す。
【0147】
描かれている指標は、テストデータセット、すなわちAIモデルの訓練に使用されなかったデータのサブセットにおけるモデルの性能に関するもので、IoU(intersection on union)パラメータを0.5に等しく設定する。
【0148】
文献では、「精度」とは、真陽性と偽陽性(モデルによって誤ってそのように識別されたクラック)の合計に対して、どれだけの真陽性(すなわち、モデルによって識別されたクラックが実際にクラックである)が存在するかを意味する。
【0149】
その代わりに、リコール変数は、真陽性+偽陰性(すなわち、モデルによってそのようにタグ付けされなかった、実際に存在するクラック)の合計に対する真陽性を定量化する。このモデルの平均平均精度(mAP)は0.85であった。
【0150】
本発明による、上述の方法を実施できるシステムの一実施形態を図10に示す。
【0151】
図10に示すシステムの構成要素は以下の通りである。
【0152】
AIサーバ(1つまたは複数の電子プロセッサまたはコンピュータを使用)。AIサーバは、使用されるAIモデル、または使用される機械学習アルゴリズム(「AI推論」ブロック)を実装することができ、場合によってはさらなるサービスを実装することができる1つまたは複数のソフトウェアモジュールを含む。
【0153】
一元化された電子アーカイブ。一元化された電子アーカイブには、本方法の実行から得られた多くの保存データが保存され、例えば、クラックの画像、クラック検出の結果、存在するクラックに関する要約レポートなどが存在する。
【0154】
少なくとも1つの実験台。実験台は、実験台I/Oインターフェースに加えて、少なくとも1つの電子プロセッサまたはコンピュータ(図10に示すアーキテクチャ例では、スレーブコンピュータである)を含み、クラックの画像、クラック検出結果、クラックの概要レポートなどのデジタルデータを受信し、処理し、提供することができる。
【0155】
実施オプションによれば、実験台に存在する少なくとも1つの電子プロセッサまたはコンピュータは、この目的のために開発されたアルゴリズム(訓練されていなくてもよい)、例えばコンピュータビジョン(CV)アルゴリズムを実装することによって、少なくとも1つの寸法パラメータおよび少なくとも1つのそれぞれの位置パラメータを決定するステップを(1つまたは複数の特定の要素によって)実行するように構成され、このアルゴリズムは、コンピュータ自体にロードされ実行可能な少なくとも1つのソフトウェアモジュールによって実行される。
【0156】
前述した実施オプション(および図10に示す)によれば、本方法は、2つのアルゴリズムの相乗的な協力によって実施される。2つのアルゴリズムは、AIまたはML技術によって訓練され(クラック認識用)、サーバーコンピュータにロード/実行可能なアルゴリズムと、訓練されていない別のコンピュータビジョンアルゴリズム(識別されたクラックの寸法および位置の特徴付け用)であって、実験台のコンピュータにロード/実行可能なアルゴリズムである。
【0157】
明らかに、2台のコンピュータは互いに動作可能に接続されている。
【0158】
別の実装オプションによれば、クラックの認識と特徴付けの両方は、単一のコンピュータ、例えば実験台の制御コンピュータ(組み込みソリューション)によって実行され、そのコンピュータには、MLアルゴリズムとCVアルゴリズムの両方を実装するソフトウェアモジュールが存在し、実行可能である。
【0159】
別の実装オプションによれば,本方法の機能は,クラウドおよび/またはサーバーレスアーキテクチャで実装されたシステムによって実行される。
【0160】
このように、先に示した本発明の目的は、上記に詳細に開示した特徴により、上述の方法により完全に達成される。本発明による方法によって解決される利点および技術的問題は、本方法の様々な特徴および態様を参照して既に上述した。
【0161】
当業者であれば、添付の特許請求の範囲の保護範囲から逸脱することなく、上述した方法の実施形態に変更および適合を加えることができ、または、偶発的なニーズを満たすために機能的に等価な他の要素と置き換えることができる。つの可能な実施形態に属するものとして上述された全ての特徴は、他の記載された実施形態から独立して実施され得る。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【国際調査報告】