(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-10
(54)【発明の名称】遷移金属水酸化物、酸化物、及びそれらのナノ粒子の合成
(51)【国際特許分類】
H01M 12/08 20060101AFI20241003BHJP
B01J 21/18 20060101ALI20241003BHJP
C25B 1/01 20210101ALI20241003BHJP
【FI】
H01M12/08 K
B01J21/18 M
C25B1/01 C
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024519842
(86)(22)【出願日】2023-03-30
(85)【翻訳文提出日】2024-04-01
(86)【国際出願番号】 US2023016824
(87)【国際公開番号】W WO2024005885
(87)【国際公開日】2024-01-04
(32)【優先日】2022-04-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2022-10-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】506229844
【氏名又は名称】アスペン エアロゲルズ,インコーポレイティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【氏名又は名称】村上 智史
(72)【発明者】
【氏名】フーマン ヤグーブネジャド アズル
【テーマコード(参考)】
4G169
4K021
5H032
【Fターム(参考)】
4G169AA02
4G169BA08A
4G169BA08B
4G169CB81
4G169DA05
4K021AB19
5H032AA02
5H032AS01
5H032AS11
5H032BB07
5H032CC16
5H032CC27
5H032EE15
5H032HH06
(57)【要約】
多孔質炭素要素を用いた再充電可能電池カソード前駆体材料の電気化学的合成のための技術が開示されている。多孔質炭素要素は、酸素を還元するためのエアカソードとして作用する。還元された酸素種は、遷移金属アノードを酸化し得、それによって、ニッケルなどの一般に腐食に耐性のあるものを含む遷移金属との室温酸化還元反応を促進する。遷移金属反応生成物(複数可)は、危険な廃棄生成物も合成することなく、再充電可能電池カソード材料に更に加工され得る。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
方法であって、
電気化学電池を構成することであって、前記電気化学電池が、
遷移金属アノードと、
触媒と、
酸素源であって、酸素が前記電気化学電池においてカソードとして機能する、前記酸素源と、
前記遷移金属アノード及び前記触媒と接触している電解質と、を含む、前記構成することと、
前記酸素を前記触媒により還元させることであって、前記酸素の還元により前記電解質中にヒドロキシアニオンを生成する、前記還元させることと、
前記ヒドロキシアニオンを前記遷移金属アノードと反応させることであって、前記反応が、前記遷移金属アノードの前記遷移金属を酸化する、前記反応させることと、を含む、前記方法。
【請求項2】
前記電気化学電池に電位を印加することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記酸素の還元及び前記遷移金属酸化物の酸化が、15℃~35℃の1つ以上の温度で行われる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記遷移金属アノードがニッケルを含む、先行請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記ヒドロキシアニオンと、前記ニッケルを含む遷移金属アノードとの前記反応が、少なくとも水酸化ニッケルを生じる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記酸化遷移金属をリチウム塩と反応させて、再充電可能なリチウムイオン電池カソード材料を製造することを更に含む、先行請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記遷移金属アノードが鉄を含む、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記電解質が、アルカリ金属ハロゲン化物、例えば塩化ナトリウムの溶液である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
水酸化鉄(II)Fe(OH)
2、及び/またはその部分酸化形態Fe(OH)
2-xO
xを前記電気化学電池から分離すること、前記水酸化鉄(II)Fe(OH)
2及び/またはその部分酸化形態Fe(OH)
2-xO
xを反応容器に移すこと、並びに、例えば、pHが7、8、9または10より大きく、好ましくはpHが8より大きい塩基性条件下で酸化することを更に含む、請求項7または請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記反応容器から磁性IONPを磁気的に分離することを更に含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記電気化学電池に、酸素を、好ましくは空気バブリングによって導入することを更に含む、請求項7~10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
濾過、遠心分離、デカンテーション、及びこれらの混合を含むリストから任意に選択される物理的分離を使用して、前記電気化学電池から非磁性IONPを分離することを更に含む、請求項7~11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記触媒が、炭化ポリウレタンフォームなどの多孔質炭素材料を含み、かつ、任意に、前記触媒を通して空気をバブリングすることによって前記電気化学電池に酸素が導入される、先行請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記触媒がカーボンエアロゲル触媒を含む、先行請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記カーボンエアロゲル触媒が、モノリシックカーボンエアロゲル要素または粒状カーボンエアロゲル要素の一方または両方を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
非球形状を有し、かつ40%より大きい充填率を有する、再充電可能電池カソード材料。
【請求項17】
前記非球形状が、円形断面または矩形断面を有するワイヤの1つ以上である、請求項16に記載の再充電可能電池カソード材料。
【請求項18】
前記非球形状が、スパイラル構成、平行配列構成、ジグザグ構成、ブルズアイ構成、またはグリッド構成のうちの1つの中に細長い構造体を備える、請求項16または17に記載の再充電可能電池カソード材料。
【請求項19】
NCM 111またはNCM 811の1つ以上を更に含む、請求項16~18のいずれかに記載の再充電可能電池カソード材料。
【請求項20】
水酸化ニッケル及びナトリウムを含む組成物。
【請求項21】
20nm~1000nmの特性寸法を有する鉄を含むナノ粒子を含み、かつ
10メートル
2(m
2)/グラム(g)~65m
2/gの比表面積を有する、組成物。
【請求項22】
前記特性寸法が30nm~70nmであり、かつ前記比表面積が20m
2/g~40m
2/gである、請求項21に記載の組成物。
【請求項23】
前記特性寸法が30nm~60nmであり、かつ前記比表面積が22m
2/g~40m
2/gである、請求項21に記載の組成物。
【請求項24】
前記特性寸法が20nm~40nmであり、かつ前記比表面積が60m
2/g~80m
2/gである、請求項21に記載の組成物。
【請求項25】
前記鉄を含むナノ粒子がマグネタイトである、請求項21に記載の組成物。
【請求項26】
カリウム、ナトリウム、またはその両方を含む表面を更に含む、請求項21に記載の組成物。
【請求項27】
前記ナノ粒子が、マンガンを更に含む、請求項21に記載の組成物。
【請求項28】
請求項27に記載の組成物を含む、エネルギー貯蔵システム。
【請求項29】
請求項21に記載の組成物を含む、エネルギー貯蔵システム。
【請求項30】
20nm~1000nmの特性寸法を有するLiFePO
4(LFP)ナノ粒子を含み、かつ
10メートル
2(m
2)/グラム(g)~65m
2/gの比表面積を有する、組成物。
【請求項31】
前記特性寸法が30nm~70nmであり、かつ前記比表面積が20m
2/g~65m
2/gである、請求項10に記載の組成物。
【請求項32】
前記特性寸法が30nm~60nmであり、かつ前記比表面積が22m
2/g~40m
2/gである、請求項30に記載の組成物。
【請求項33】
前記特性寸法が20nm~40nmであり、かつ前記比表面積が60m
2/g~80m
2/gである、請求項30に記載の組成物。
【請求項34】
前記LFPナノ粒子がマグネタイトを更に含む、請求項30に記載の組成物。
【請求項35】
前記ナノ粒子が、マンガンを更に含む、請求項30に記載の組成物。
【請求項36】
請求項35に記載の組成物を含む、エネルギー貯蔵システム。
【請求項37】
請求項30に記載の組成物を含む、エネルギー貯蔵システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2022年4月1日に出願され、“Oxidation of Metals and Alloys Using a Carbon Aerogel Counter Electrode”と題された米国仮特許出願第63/326,353号、及び2022年10月7日に出願され、“Oxidation of Metals and Alloys Using a Porous Carbon Counter Electrode“と題された米国仮特許出願第63/378,756号の優先権及び利益を主張し、これらの両方は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、種々の用途、例えば、再充電可能な電池組成物を製造するために使用される特定の金属の酸化物及び水酸化物ナノ材料の合成に関する。特に、本開示は、遷移金属水酸化物及び酸化物、並びにそれらのナノ粒子の合成に関する。
【背景技術】
【0003】
遷移金属酸化物及び水酸化物は、再充電可能電池カソード材料の前駆体としての用途を含む、多くの重要な工業用途を有する。しかしながら、遷移金属酸化物及び水酸化物を合成するための従来のプロセスは、一般に、大量の有害廃棄物を生成する。同様に、鉄を含むマイクロ粒子及びナノ粒子は、様々な工業プロセスにおいて使用される。特に、鉄微粒子及びナノ粒子は、高い比表面積(例えば、メートル2(m2)/グラム(g))が望まれる用途において好ましい場合がある。
【0004】
しかしながら、金属、例えば鉄のナノ粒子を生成するための従来のプロセスは、一般に、エネルギー集約的であり、時間がかかり、高価であり、かつ十分に小さいまたは単分散粒子サイズを有する粒子を依然として生成しない可能性がある。
【0005】
本開示を、添付の図面の図において、限定ではなく一例として例示する。本開示における「1つの(an)」または「1つの(one)」実施形態または態様の参照は必ずしも同じ実施形態または態様に対するものではなく、それらは少なくとも1つを意味することに留意されたい。図面中、
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】
図1は、本開示の1つ以上の態様による、多孔質炭素要素を用いて遷移金属を酸化するためのシステムを概略的に示す。
【
図2】
図2は、本開示の1つ以上の態様による、多孔質炭素要素を用いて遷移金属を酸化するための電気化学電池を概略的に示す。
【
図3】
図3は、本開示の1つ以上の態様に従って、アノードとしてNi金属(Ni)を用いて
図1のシステムに印加される電位と、結果として生じる電流との間の関係を示す、実験的に決定されたグラフである。
【
図4】
図4は、本開示の1つ以上の態様による、層状酸化組成物を有する遷移金属成分の概略図である。
【
図5A】
図5Aは、本開示の1つ以上の態様による、
図1に概略的に示すシステムに類似するシステムに印加される電位と、アルミニウム(Al)に対して得られる電流との間の関係を示す、実験的に決定されたグラフである。
【
図5B】
図5Bは、本開示の1つ以上の態様による、
図1に概略的に示すシステムに類似するシステムに印加される電位と、亜鉛(Zn)に対して得られる電流との間の関係を示す、実験的に決定されたグラフである。
【
図5C】
図5Cは、本開示の1つ以上の態様による、
図1に概略的に示すシステムに類似するシステムに印加される電位と、スズ(Sn)に対して得られる電流との間の関係を示す、実験的に決定されたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下の記載において、説明目的で、完全な理解を提供するために多くの特定の詳細が述べられている。1つ以上の態様は、これらの特定の詳細なしに実施され得る。本開示の1つの実施形態または態様に記載される特徴は、異なる実施形態に記載される特徴と組み合わされてもよい。いくつかの例では、本発明を不必要に不明瞭にすることを回避するために、周知の構造及びデバイスが、ブロックダイヤグラム形式を参照して説明される。
【0008】
開示される技術のいくつかの例示的な態様を説明する前に、この技術は、以下の説明に記載される構築またはプロセスステップの詳細に限定されないことを理解されたい。本技術は、他の実施であることができ、様々な方法で実施または実行することができる。
1.一般概要
2.用語の説明
3.多孔質炭素成分
3.1エアロゲル由来の炭素成分
3.2他の多孔質炭素成分
4.カソード組成物合成チャレンジ
5.ニッケルの室温酸化
6.層状の遷移金属電極材料
7.多孔質金属酸化物材料の合成
8.実験例
9.LFP用の磁性酸化鉄ナノ粒子(IONP)前駆体の製造
10.LFP用の非磁性酸化鉄ナノ粒子(IONP)前駆体の製造
【0009】
1.一般概要
1つ以上の態様は、電解質及び多孔質炭素成分を使用して遷移金属を室温で酸化し得る技法を含む。多孔質炭素要素は、酸素を還元し、それによって酸素を遷移金属アノードを有する電気化学電池におけるカソードとして作用させ得る「エアカソード」として作用し得る。このようにして、本明細書に記載の態様は、遷移金属との室温酸化還元反応を促進する。本明細書に記載のいくつかの態様は、ニッケルなどの腐食に耐性のある遷移金属を酸化し得る。本明細書に記載のプロセスの態様は、酸素の還元に必要な活性化エネルギーを低減する多孔質炭素成分(または同等に、多孔質炭素要素)を介して、室温でバルク遷移金属(及び/またはそれらの合金)を酸素と反応させ得る。遷移金属反応生成物(複数可)は、危険な廃棄生成物も合成することなく、再充電可能電池カソード材料に更に加工され得る。いくつかの例では、酸化鉄の磁性及び/または非磁性ナノ粒子が生成される。いくつかの例では、酸化鉄ナノ粒子は、メートル2(m2)/グラム(g)で測定した場合、高い、更に予想外に高い比表面積を有する。
【0010】
説明の便宜上、再充電可能電池の活性材料に関連する態様では、用語「カソード」は、充電中に酸化され(例えば、Co3+からCo4+へ)、放電中に還元される(例えば、Co4+からCo3+へ)電池成分を指すために使用される。用語「アノード」は、充電中に還元され(例えば、CからLiC6へ)、放電中に酸化される(例えば、LiC6からCへ)電池成分を指すために使用される。更に、簡潔にするために、用語「遷移金属(transitional metal)」もまた、合金、金属間化合物、及び複数の遷移金属の他の組み合わせを含む。
【0011】
本明細書に記載され及び/または特許請求の範囲に記載される1つ以上の態様は、この一般概要のセクションに含まれなくてもよい。
【0012】
2.用語の説明
本開示で使用される用語に関して、以下の定義が提供される。本出願は、用語が現れる文章の文脈が異なる意味を必要としない限り、以下に定義する以下の用語を使用する。
【0013】
冠詞「a」及び「an」は、本明細書では、冠詞の文法的対象の1つまたは1つ超(すなわち、少なくとも1つ)を指すように使用している。本明細書を通して使用される用語「約」は、小さな変動を説明し、考慮するために使用される。例えば、用語「約」は、±10%以下、または±5%以下、例えば、±2%以下、±1%以下、±0.5%以下、±0.2%以下、±0.1%以下、または±0.05%以下を表すことができる。本明細書における全ての数値は、明示的に示されているか否かにかかわらず、用語「約」によって修飾される。「約」という言葉で修飾された値は、当然ながら具体的な値も含む。例えば、「約5.0」は5.0を含まなければならない。
【0014】
本開示の文脈において、いくつかの例では、用語「フレームワーク」または「フレームワーク構造」は、ゲルまたはエアロゲルの固体構造を形成する相互連結されたオリゴマー、ポリマー、またはコロイド粒子のネットワークを指す。フレームワーク構造を構成するポリマーまたは粒子は、典型的には、約100オングストロームの直径を有する。熱分解または炭化エアロゲルの例では、用語「フレームワーク」または「フレームワーク構造」は、細孔を画定するフレームワークを形成するように節で互いに連結され得る線状フィブリルの相互連結されたネットワークを指す。
【0015】
本明細書で使用される場合、用語「エアロゲル」及びエアロゲル材料は、形状またはサイズに関係なく、フレームワーク内に組み込まれた相互連結された細孔の対応するネットワークを有する相互連結された固体構造のフレームワーク含み、空気などのガスを分散された格子間媒体として含有する、固体を指す。したがって、エアロゲルは、ガスによって全体積を通して膨張するオープンな非流体コロイドまたはポリマーネットワークであり、実質的な体積減少またはネットワーク圧縮なしに、対応するウェットゲルから全ての膨潤剤を除去することによって形成される。エアロゲルは、一般に、エアロゲルに起因する以下の物理的及び構造的特性(窒素ポロシメトリー試験及びヘリウムピクノメトリーによる)によって特徴付けられる:(a)約2nm~約100nmの平均細孔径;(b)少なくとも60%以上の多孔度、及び(c)窒素吸着分析による約1、約10、または約20~約100または約1000m2/gの比表面積。強化材料または電気化学的に活性な種、例えばケイ素などの添加物を含めると、得られるエアロゲル複合体の多孔度及び比表面積が減少し得ることが理解され得る。緻密化はまた、得られるエアロゲル複合体の多孔度を減少させ得る。本開示のエアロゲル材料(例えば、ポリイミド及びカーボンエアロゲル)は、前の段落に記載された定義要素を満たす任意のエアロゲルを含む。
【0016】
したがって、本開示のエアロゲル材料は、先の段落に記載された定義要素を満たす任意のエアロゲルまたは他のオープンセル化合物を含み、キセロゲル、クライオゲル、アンビゲル、ミクロ多孔性材料(例えば、ポリマーフォーム)などとして他の方法でカテゴライズされることができる化合物を含む。
【0017】
本明細書で使用される場合、用語「キセロゲル」は、実質的な体積減少を回避するか、または圧縮を遅らせるために何ら注意を払わずに、対応するゲルから全ての膨潤剤を除去することによって形成される、オープンな、非流体のコロイドまたはポリマーネットワークを含むゲルを指す。キセロゲルは、一般に、コンパクト構造を含む。キセロゲルは、周囲圧力乾燥中に実質的な体積減少を受け、一般に、約40%以下の多孔度を有する。
【0018】
3.多孔質炭素成分
特定の例では、本開示は、電気化学電池における電極材料として、カーボンエアロゲルなどのナノ多孔質炭素系足場または構造を形成及び使用して、それらの遷移金属酸化物、水酸化物、及びナノ粒子を合成することを含む。本開示の多孔質炭素成分の例としては、炭化エアロゲル材料(例えば、炭化ポリイミドエアロゲル、炭化ポリアミック酸エアロゲル)及び炭化ポリマーフォーム(例えば、炭化ポリウレタンフォーム)が挙げられるが、これらに限定されない。便宜上、炭化エアロゲルは、「カーボンエアロゲル」として、本明細書中で同等に参照される場合がある。
【0019】
更に、本明細書では、カーボンエアロゲルを含む多孔質炭素材料は、モノリシック構造の形態を取ることができることが考えられる。モノリシック多孔質炭素は、別個のバインダー材料を必要としない。言い換えれば、エアカソードはバインダーレスであり得る。本明細書で使用する場合、用語「モノリシック」は、炭素材料または組成物中に含まれる炭素の大部分(重量で)が、単一の連続的な相互連結された炭素構造の形態である多孔質炭素材料を指す。炭化エアロゲル材料の特定の例では、これは、相互連結エアロゲルナノ構造体を含み得る。モノリシックエアロゲル材料には、単一の相互連結されたゲルまたはエアロゲルナノ構造を有するように最初に形成されるが、その後に、割れるか、破砕されるかまたはセグメント化されて、非単一のエアロゲルナノ構造になる可能性があるエアロゲル材料が含まれる。
【0020】
モノリシック多孔質炭素材料は、粒子状多孔質炭素材料とは区別される。用語「粒子状多孔質炭素材料」は、多孔質炭素材料であって、炭素材料中に含まれる炭素の大部分(重量で)が、微粒子、粒子、顆粒、ビーズ、または粉末の形態である多孔質炭素材料を指す。これらは、一緒に(すなわち、ポリマーバインダーなどのバインダーを介して)組み合わせられるかまたは一緒に圧縮できるが、個々の粒子間の相互連結構造を欠いている。集合的に、この形態の材料は、粉末または粒子の形態を有すると言う(モノリシックの形態とは対照的に)。単一構造を有する粉末の個々の粒子にもかかわらず、個々の粒子は、本明細書ではモノリスとはみなされないことに留意されたい。
【0021】
本開示の文脈において、用語「バインダーレス」もしくは「バインダーフリー」(またはその派生語)は、ある材料を一緒に保持するためのバインダーまたは接着剤をその材料が実質的に含まないことを指す。例えば、モノリシックナノ多孔質炭素材料は、そのフレームワークが単一の連続相互連結構造として形成されるので、バインダーを含まない。バインダーレスであることの利点は、バインダーのいかなる効果(例えば、導電率及び細孔容積に対する)も回避することを含む。一方、エアロゲル粒子は、より大きな官能性材料を形成するために、バインダーを一緒に保持する必要がある。そのような大きな材料は、本明細書ではモノリスとは考えられない。加えて、この「バインダーフリー」という用語は、バインダーの全ての使用を除外するわけではない。例えば、本開示によるモノリシックエアロゲルは、エアロゲル材料の主表面上にバインダーまたは接着剤を配置することによって、別のモノリシックエアロゲルまたは非エアロゲル材料に固定され得る。このように、バインダーは、積層複合材を作り出し、集電体への電気的接触を提供するために使用されるが、バインダーは、モノリシックエアロゲルフレームワーク自体の安定性を維持する機能を有さない。
【0022】
3.1 エアロゲル由来の多孔質炭素成分
いくつかの例では、炭化エアロゲルを、本明細書に記載のシステム及び方法において多孔質炭素要素として使用し得る。炭化エアロゲルは、有機ポリマーエアロゲルのいくつかの組成物を炭化することによって形成され得る。炭化可能な有機ポリマーエアロゲルの一例は、ポリイミドのものである。多孔質炭素源の他の例を以下に示す。
【0023】
ポリイミドゲルまたはエアロゲルの形成方法としては、有機溶媒溶液中で、ジアミンとテトラカルボン酸二無水物とを縮合させてポリアミック酸を形成し、ポリアミック酸を脱水してポリイミドゲルを調製する方法が挙げられる。例えば、Rhine et al.の米国特許第7,071,287号及び同第7,074,880号、並びにZafiropoulos et al.の米国特許出願公開第2020/0269207号を参照のこと。
【0024】
特定の態様によれば、エアロゲルの生成は、以下のステップを含む:i)ゲル前駆体を含む溶液を形成すること、ii)溶液からゲルを形成すること、及びiii)溶媒をゲル材料から抽出して乾燥エアロゲル材料を得ること。
【0025】
一例では、ポリイミドエアロゲルは、少なくとも1種のジアミンと少なくとも1種の二無水物とを共通の極性非プロトン性溶媒(複数可)中で組み合わせることにより形成される。ポリイミドゲル/エアロゲルの形成に関する更なる詳細は、とりわけ、Rhine et al.の米国特許第7,074,880号及び第7,071,287号;Suzuki et al.の米国特許第6,399,669号;Leventis et al.の米国特許第9,745,198号;Leventis et al.,Polyimide Aerogels by Ring-Opening Metathesis Polymerization(ROMP),Chem.Mater.2011,23,8,2250-2261に見出すことができ、これらの各々は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0026】
本開示によるカーボンエアロゲルなどのナノ多孔質炭素は、任意の好適な有機前駆体材料から形成することができる。そのような材料の例としては、RF(レゾルシノール-ホルムアルデヒド)、PF(フェノール-フルフラール)、PI(ポリイミド)、ポリアミド、ポリオキシアルキレン、ポリウレタン、ポリアクリロニトリル、クレゾールホルムアルデヒド、ポリイソシアネート、ポリビニルアルコールジアルデヒド、ポリイソシアヌレート、種々のエポキシド樹脂、キトサン、並びにこれらの組み合わせ及び誘導体が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの例では、カーボンエアロゲルは、熱分解/炭化ポリイミド系エアロゲル、すなわち、ポリイミドの重合から形成される。更により具体的には、ポリイミド系エアロゲルは、米国特許第7,071,287号及び第7,074,880号(Rhine et al.)に記載の1つ以上の方法論を使用して、例えば、ポリ(アミド)酸のイミド化及び結果として得られたゲルを超臨界流体を使用して乾燥させることによって、製造することができる。
【0027】
本開示の炭化エアロゲル、例えば、ポリイミド由来のカーボンエアロゲルは、元素分析で決定される残留窒素含有量が少なくとも約1wt%の「ヘテロ原子」(すなわち、非炭素原子)を有することができる。例えば、カーボンエアロゲルは、少なくとも約1wt%、及び最大約10wt%の残留窒素含有量を有し得る。いくつかの態様では、残留窒素含有量は、約1、約2、約3、約4、約5、約6、約7、約8、約9、または約10wt%である。
【0028】
本開示の例では、乾燥ポリマーエアロゲル組成物を、有機(例えば、ポリイミド)エアロゲルの炭化のために、処理温度200℃以上、400℃以上、600℃以上、800℃以上、1000℃以上、1200℃以上、1400℃以上、1600℃以上、1800℃以上、2000℃以上、2200℃以上、2400℃以上、2600℃以上、2800℃以上、またはこれらの値のうちの任意の2つの間の範囲に供することができる。いくつかの例では、材料は、酸素の非存在下及び/または還元環境中で炭化される。この温度に曝露することによって、乾燥ポリマーエアロゲルを炭化エアロゲルに変換することができる。例示的な態様では、乾燥したポリマーエアロゲル組成物を、約1000℃~約1100℃の範囲、例えば、約1050℃における処理温度に供することができる。理論に拘束されるものではないが、エアロゲル組成物の導電率は、炭化温度とともに増加することが、本明細書では考えられる。いくつかの例では、いくつかの組成物またはエアロゲルのタイプは、閾値炭化温度を超えて(例えば、400℃を超えて、500℃を超えて、600℃を超えて)炭化されると、導電性になる。
【0029】
いくつかの例では、炭化ポリイミドエアロゲル及び炭化ポリ(アミック)酸エアロゲルなどの炭化エアロゲルは、機械的に強く、炭化材料に対して予想外に高いヤング率を示し得る。特定の態様では、本開示の炭化エアロゲル材料または組成物は、ヤング率が、約0.2GPa以上、0.4GPa以上、0.6GPa以上、1GPa以上、2GPa以上、4GPa以上、6GPa以上、8GPa以上、またはこれらの値のうちの任意の2つの間の範囲である。ヤング率は、当該技術分野で公知の方法によって決定され得、これには、例えば、Standard Test Practice for Instrumented Indentation Testing(ASTM E2546,ASTM International,West Conshocken,PA);またはStandardized Nanoindentation(ISO 14577,国際標準化機構,Switzerland)が含まれるが、これらに限定されない。本開示の文脈の範囲内で、ヤング率の測定値は、特に明記しない限り、ASTM E2546及びISO14577に従って取得される。
【0030】
本開示の文脈の範囲内で、用語「細孔サイズ分布」は、多孔質材料のサンプル体積内の各細孔サイズの統計的分布または相対量を指す。より狭い細孔サイズ分布は、狭い範囲の細孔サイズにおける比較的大きな割合の細孔を指し、したがって、電気化学的に活性な種を囲むことができる細孔の量を増大させ、細孔容積の使用を最大にする。逆に、より広い細孔サイズ分布は、狭い範囲の細孔サイズにおける比較的小さい割合の細孔を指す。したがって、細孔サイズ分布は、細孔容積の関数として測定することができ、細孔サイズ分布チャートにおける主ピークの半値全幅の単位サイズとして記録することができる。多孔質材料の細孔サイズ分布は、当該技術分野で公知の方法によって決定され得、これには、例えば、細孔サイズ分布を計算することができる窒素吸脱着による表面積及び多孔度分析器が含まれるが、これに限定されない。本開示の文脈の範囲内で、細孔サイズ分布の測定値は、特に明記しない限り、この方法に従って取得される。いくつかの例では、本開示のエアロゲル材料または組成物は、約50nm以下、45nm以下、40nm以下、35nm以下、30nm以下、25nm以下、20nm以下、15nm以下、10nm以下、5nm以下、またはこれらの値のうちの任意の2つの間の範囲の比較的狭い細孔サイズ分布(半値全幅)を有する。
【0031】
本開示の文脈の範囲内で、用語「細孔容積」は、多孔質材料のサンプル内の細孔の全容積を指す。細孔容積は、多孔質材料内空隙の容積として具体的に測定される。その空隙は測定可能であり得、及び/または別の材料、例えば、シリコン粒子などの電気化学的に活性な種によってアクセス可能であり得る。それは、立方センチメートル/グラム(cm3/gまたはcc/g)として記録することができる。多孔質材料の細孔容積は、当該技術分野で公知の方法によって決定され得、これには、例えば、細孔容積を計算することができる窒素吸脱着による表面積及び多孔度分析器が含まれるが、これらに限定されない。本開示の文脈の範囲内で、細孔容積の測定値は、特に明記しない限り、この方法に従って取得される。特定の例では、本開示のエアロゲル材料または組成物(炭化エアロゲルを含む)は、約0.5cc/g以上、1cc/g以上、1.5cc/g以上、2cc/g以上、2.5cc/g以上、3cc/g以上、3.5cc/g以上、4cc/g以上、またはこれらの値のうちの任意の2つの間の範囲の比較的大きな細孔容積を有する。
【0032】
本開示の文脈において、用語「多孔度」とは、エアロゲルサンプルの全(エンベロープ)体積の割合としての、エアロゲルサンプル内の空き空間を指す。多孔度は、例えば、骨格密度-嵩密度を骨格密度で割ったものを含むが、これらに限定されない、当技術分野で公知の方法によって計算することができる。骨格密度は、他の方法の中でもとりわけ、ヘリウムピクノメトリーによって測定され得る。嵩密度は、エアロゲルサンプルの重量対幾何体積の比によって決定され得る。本開示の文脈の範囲内で、多孔度の測定値は、特に明記しない限り、この方法に従って取得される。特定の態様では、本開示のエアロゲル材料または組成物は、約99%以下、80%以下、70%以下、60%以下、50%以下、40%以下、30%以下、20%以下、10%以下、またはこれらの値のうちの任意の2つの間の範囲の多孔度を有する。
【0033】
本開示の文脈の範囲内で、用語「分布からの最大ピークにおける細孔サイズ」は、細孔サイズ分布を例示するグラフ上での認識できるピークにおける値を指す。分布からの最大ピークにおける細孔サイズは、最大の割合の細孔が形成される細孔サイズとして具体的に測定される。それは、細孔サイズの任意の単位長さ、例えばμmまたはnmとして記録することができる。分布からの最大ピークにおける細孔サイズは、当該技術分野で公知の方法によって決定され得、これには、例えば、細孔サイズ分布を計算することができ、最大ピークにおける細孔サイズを決定することができる窒素吸脱着による表面積及び多孔度分析器が含まれるが、これらに限定されない。本開示の文脈の範囲内で、分布からの最大ピークにおける細孔サイズの測定値は、特に明記しない限り、この方法に従って取得される。本開示のエアロゲル材料または組成物は、約150nm以下、140nm以下、130nm以下、120nm以下、110nm以下、100nm以下、90nm以下、80nm以下、70nm以下、60nm以下、50nm以下、40nm以下、30nm以下、20nm以下、10nm以下、5nm以下、2nm以下、またはこれらの値のうちの任意の2つの間の範囲の分布からの最大ピークにおける細孔サイズを有することができる。
【0034】
3.2 他の多孔質炭素成分
本開示の多孔質炭素は、炭化エアロゲルに限定されない。本明細書に記載のシステムにおいて酸素を還元するのに十分な化学活性を示す他の多孔質炭素もまた使用され得る。いくつかの例では、従来のポリマーフォームは、炭化され、本明細書に記載の例のいずれかにおいて使用され得る。1つの実験例では、炭化ポリウレタンフォームを用いて水酸化ニッケルを生成した。別の例では、炭化ポリウレタンフォームを使用して、酸化鉄のナノ粒子を合成した。炭化に寄与する他のポリマー(例えば、フェニル環、不飽和結合、及び他の同様の構造を有する骨格を含むもの)は、多孔性構造を有するように発泡または合成されてもよく、その後、本明細書に記載されるシステム及び例において使用されてもよいことが理解されるであろう。セクション3.1に記載の炭化技術は、非エアロゲル材料を炭化処理すること、すなわち、酸素の非存在下でポリマーを炭化温度に加熱することに適用可能である。
【0035】
4.カソード組成物合成チャレンジ
リチウムイオン電池(「LIB」)のような多くの一般的なタイプの再充電可能電池は、再充電可能電池カソード材料の前駆体として遷移金属酸化物及び/または水酸化物を使用する。再充電可能なLIBカソード材料の初期世代は、主な遷移金属としてコバルト(Co)に依存した。しかしながら、再充電可能な電池の引き続く世代は、カソード材料中のコバルトの量を徐々に減少させた。例えば、多くの初期の再充電可能な電池組成物は、カソード組成物中の多価遷移金属としてコバルトのみを使用した(例えば、リチウムコバルト酸化物(LiCoO2))。しかしながら、カソード材料のより最近の組成は、いくらかのコバルトをニッケル及び他の代替物で置き換えている。ニッケル及びコバルトの両方を含むカソード組成物の例としては、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2(「NCM 111」)及びLiNi0.8Co0.1Mn0.1O2(「NCM 811」)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0036】
コバルトを他の遷移金属で置き換えることは、多くの利点を有する。例えば、コバルトは環境毒性であることが知られており、ヒトの健康に対して種々の脅威を引き起こすことも知られている。コバルトを、毒性が少ない及び/または健康に対するリスクが少ない他の材料で置き換えることにより、再充電可能な電池の生産、使用、及び廃棄に関連する環境及び健康のリスクを低減し得る。いくつかの例では、コバルトを他の材料と置き換えることはまた、再充電可能電池のコストを低減し得る(例えば、蓄積エネルギー単位、充電/放電サイクル単位で)。更に、コバルトを他の遷移金属で置き換えることは、更なる利点を有する。コバルトは、一般に、他の遷移金属よりも高い財務コストを有し、社会的に問題のある状況下で採掘され得る。コバルトの代替物を使用することにより、これらの欠点に対処し得る。
【0037】
ニッケル、コバルト、及びマンガン(NCM)カソード組成物の前駆体材料は、一般に、大量の廃水を生成する水性合成技術を介して形成される。いくつかの例では、硫酸塩などの遷移金属塩を最初に水酸化カリウム(KOH)と反応させて、水不溶性金属水酸化物を生成する。これらの金属水酸化物は、いくつかの例では、他の遷移金属酸化物及び/または水酸化物の中でもとりわけ、Ni(OH)2を含む。金属水酸化物は、最終的に溶液から固体形態になって沈殿する。これらの沈殿物を脱イオン水で洗浄して硫酸カリウム不純物を除去し、次いで乾燥する。次いで、乾燥した沈殿物を炭酸リチウム(Li2CO3)と混合し、熱処理してカソード組成物(例えば、NCM 111、NCM 811)を生成する。いくつかの例では、水酸化リチウムは、高Ni含有量のカソード材料に対して炭酸リチウムの代わりに使用される。
【0038】
ニッケル系遷移金属カソード材料の合成は、種々の欠点を有する。例えば、アンモニア(NH3)は、しばしば、上記のような遷移金属水溶液に添加される。理論に拘束されることを望むものではないが、アンモニアは水溶液中で遷移金属と錯体を形成すると考えられる。これらの錯体は、ヒドロキシアニオン(例えば、OH-)による制御された沈殿が起こる前に、溶液中の遷移金属カチオンを高pHで安定化すると考えられる。これにより、遷移金属析出物の組成均一性が改善され得、最終的に、そこから得られるカソード組成物の組成均一性が改善され得る。
【0039】
アンモニア含有水溶液からの廃棄物は、環境及びヒトの健康に対して危険を示す。例えば、これらの廃棄物は、NH3及びK2SO4を含み得る。これらの廃棄物の両方は、廃棄前に処理、改善、及び処置の間の適切な取り扱いを要し、その全てが電池生産コストを増加させ、環境上の欠点を示す。更に、上記の水性プロセスは膨大である。数十または数百リットルの廃棄物が、1キログラムのカソード組成物ごとに生成され得る。この大量の廃棄物は、特に、自動車及び/またはグリッド電力貯蔵用途に適用される場合の再充電可能な電池生産の潜在的な規模を考慮すると、重要な欠点である。有害な廃棄物を多量に生成することなく、化学量論的に好ましいカソード組成物前駆体を生成する代替の合成技術は、製造コストを低減し、環境及びヒトの健康のリスクを低下させる。
【0040】
更に、本明細書に記載の態様は、従来のNCM電池カソード材料反応に対する前駆体を合成するために使用される廃棄物の生成も有利に排除する。例えば、上述の水性反応に用いられる硫酸ニッケル(NiSO4)は、金属ニッケルまたはその水酸化物もしくは炭酸塩を硫酸で処理することによって合成することができる。反応生成物NiSO4は、分離され、洗浄され、及び乾燥され、これらの全ては、エネルギーを必要とし、汚染物質(例えば、硫酸)を生成する。
【0041】
5.ニッケルの室温酸化
驚くべきことに、ある種のタイプの多孔質炭素材料(上述の技術に従って製造されたカーボンエアロゲルを含む)が、室温で酸素を触媒的に還元する「エアカソード」として作用し得ることが実験的に観察された。水性電解質を有する電気化学電池に配置される場合、酸素は、遷移金属対電極を酸化し得る水酸化物アニオンに還元され得る。本明細書に記載の技術は、通常は酸化に耐性の遷移金属に対してさえも効果的に作用し得る。いくつかの例では、本明細書の態様は、ニッケルを酸化して水酸化ニッケルを生成し得る。いくつかの例では、本明細書の態様は、数時間以内に室温で遷移金属成分を反応させて完結させる(すなわち、電解質と接触する遷移金属の部分を完全に消費する)ことができる。
【0042】
本明細書に記載のカーボンエアロゲル及び他の多孔質炭素の触媒効果を用いて、室温(例えば、5℃~25℃)で固体状態のニッケルを酸化することができる。これは、天然に存在する不動態化層を超える酸化ニッケルの動力学的な好ましくなさ、及び二酸素の水酸化物への還元的解離を考慮すると、予想外である。いくつかの例では、本明細書に記載の態様を使用して、とりわけ、NCM111、NCM811、LiNi0.8Co0.15Al0.05O2(「NCA 85 15 5」)を含むがこれらに限定されない再充電可能電池で使用される前駆体材料を合成することができる。
【0043】
図1は、本明細書に記載の1つ以上の態様による、室温でニッケルを酸化するために使用されるシステム100の概略図である。システム100は、多孔質炭素要素104と、セパレータ108と、電解質112と、遷移金属電極116と、導体120とを含む。いくつかの態様では、電極116は、とりわけ、アルミニウム、スズなどの非遷移金属(または合金)から形成される。
【0044】
理論に拘束されることを望むものではないが、多孔質炭素要素104は、上述のように、酸素の還元のための活性化エネルギーを低減し、それによって、電気的に連結された遷移金属が室温酸化還元反応に関与することを可能にし得ると考えられる。また上述したように、再充電可能電池カソード材料で使用されるような遷移金属の室温酸化は予想外であり、また多くの利点を有する。
【0045】
様々な態様において、多孔質炭素要素104は、上述の技術に従って合成及び/または製造され得る。これらの技法のいくつかの態様は、ポリイミド由来カーボンエアロゲルの熱分解を含む。いくつかの例では、熱分解ポリイミド誘導カーボンエアロゲルは、エアロゲル合成または熱分解中に除去されない残留窒素または他のヘテロ原子(すなわち、非炭素原子)を含み得る。多孔質炭素要素104を触媒として使用して遷移金属電極116を酸化することにより、酸化ニッケル(NiO)、水酸化ニッケル(Ni(OH)2)、NiCO3(電解中にCO2が存在する場合)及びコバルト、マンガン及び他の遷移金属の類似の組成を含むが、これらに限定されないカソード前駆体材料を生成することができる。本明細書に記載のプロセスは、大量の廃水を生成することなく、固体状態で、とりわけ、遷移金属カソード前駆体材料(例えば、Ni(OH)2、Co(OH)2、Mn(OH)2)を生成することができる。
【0046】
いくつかの例では、本明細書に記載の態様のいくつかを使用する遷移金属水酸化物は、汚染物質の精製及び/または洗浄を必要としない反応生成物を生成し得る(例えば、NH3、K2SO4、NiSO4)。塩化ナトリウムが電解質中に存在する例では、反応生成物は、水で反応生成物を洗浄することによって単に除去され得る良性NaClを含み得る。NaClは、環境に対する汚染が少なく、代替の処理技術によって生成される硫酸塩及びアンモニアよりも低いヒトの健康に対する脅威を引き起こす。電解質が塩化アンモニウム(NH4Cl)を含む例の場合、改善は他のプロセスよりも問題が少ない。NH4Clは、か焼中に338℃でNH3及びHClのガス混合物に分解する。ガス混合物の温度は、ガスの発生後に338℃未満に低下させて、NH4Clが凝縮して固体形態に戻るようにすることができ、これは再循環させることができる。このため、NH4Cl塩の不純物は洗浄を必要としないので排水を生じない。
【0047】
理論に束縛されるものではないが、いくつかの例では、多孔質炭素要素104は、多孔質炭素と電気的に連通している金属(例えば、遷移金属電極116)から酸素へ(導体120を介して)電子を移動させる活性化エネルギーを低減し得る。この低減された活性化エネルギーは、多孔質炭素と電気的に連通して配置された場合に、遷移金属が酸化される速度を増加させ得る。いくつかの例では、電解質(例えば、NaCl(aq))が多孔質炭素要素104の表面を濡らす。これにより、多孔質炭素要素104におけるヒドロキシアニオンの生成が促進され得る。生成されたヒドロキシアニオンは、次いで、遷移金属電極116に拡散し、それと反応して、遷移金属の酸化形態を生成し得る。
【0048】
理論に拘束されることを望むものではないが、多孔質炭素要素104の高い比表面積は、酸素の効率的な触媒還元及び電解的に連結された遷移金属電極116のその後の酸化の要因となり得る。例えば、炭化エアロゲルを使用する多孔質炭素要素104(その例は上述されている)は、100m2/g~600m2/gの非熱分解エアロゲル前駆体の範囲の比表面積を有し得る。
【0049】
理論に拘束されることを望むものではないが、炭化エアロゲルを含む多孔質炭素要素104のいくつかの例は、非炭素「ヘテロ原子」を含み得、その一部は、酸素が還元される効率を増加させ、その後、遷移金属が酸化され得る。例えば、ポリイミドエアロゲルの熱分解に由来する本開示のいくつかのカーボンエアロゲルは、残留窒素を含み得る。いくつかの例では、カーボンエアロゲルの残留窒素含有量は、少なくとも約4wt%であり得る。例えば、本明細書中に開示された態様によるカーボンエアロゲルは、残留窒素含有量が、少なくとも約0.1wt%、少なくとも約0.5wt%、少なくとも約1wt%、少なくとも約2wt%、少なくとも約3wt%、少なくとも約4wt%、少なくとも約5wt%、少なくとも約6wt%、少なくとも約7wt%、少なくとも約8wt%、少なくとも約9wt%、少なくとも約10wt%、またはこれらの値のうちの任意の2つの間の範囲であり得る。本明細書に記載の反応に関与し得る他のヘテロ原子は、いくつかの例では、酸素、水素、黒鉛状炭素も含み得る。
【0050】
理論に拘束されることを望むものではないが、炭化エアロゲルを含む多孔質炭素要素104のいくつかの例は、他の形態の炭素と比較して比較的高い導電率を有し得る。炭化エアロゲルの高い導電率は、酸素の還元を促進し得る。特定の態様では、本開示の炭化エアロゲル材料または組成物は、導電率が、約1S/cm以上、約5S/cm以上、約10S/cm以上、20S/cm以上、30S/cm以上、40S/cm以上、50S/cm以上、60S/cm以上、70S/cm以上、80S/cm以上、またはこれらの値のうちの任意の2つの間の範囲である。
【0051】
いくつかの例では、酸化還元反応の速度(より具体的には、遷移金属の酸化)は、反応が行われる1つ以上の条件を変更することによって選択され得る(例えば、基準反応速度に対して増加または減少する)。いくつかの例では、反応速度は、以下の1つ以上によって増加され得る:反応が行われる温度を上昇させる、酸素の分圧を上昇させる(それによってヒドロキシアニオン生成の速度を上昇させる)、電解質の濃度を上昇させる(例えば、1モル(M)溶液から複数モル溶液へ)、及び/または多孔質炭素/遷移金属系100に印加される電位差の大きさを上昇させる。同様に、反応速度は、前述のパラメータのいずれかを制限することによって減少させることができる。電解質のpHまたは電解質の組成を変えることはまた、反応の速度、並びに反応生成物(複数可)の組成及び形態に影響を及ぼし得る。
【0052】
多孔質炭素要素104は、モノリシック形態、粒状形態、またはこれらの組み合わせであり得る。
【0053】
いくつかの例では、酸素以外のガスを排除することは、反応生成物に影響を与え得る。例えば、純粋な酸素または二酸化炭素を含まないガスの混合物の使用は、反応生成物中の炭酸塩種の存在を減少させ得る。これは、酸化遷移金属化合物中の望ましくない反応生成物(例えば、炭酸塩)の存在を低減及び/または排除し得る。
【0054】
セパレータ108は、イオンが通過し得る構造を提供する電気絶縁材料である。この組み合わせは、システム100の電気的短絡を防止する一方で、多孔質炭素要素104と遷移金属電極116との間のイオン移動を介した電流の流れを可能にする。セパレータ108の例は、とりわけ、セルロース系紙、繊維状ポリマー布またはフェルトを含み得る。また、電極が物理的に離れて保持される場合(例えば、フラッドセル(flooded cell)設計)、セパレータは除去され得る。
【0055】
セパレータ108内に配置された電解質112は、多孔質炭素要素104から遷移金属電極116へのイオン移動を促進する。電解質の例としては、とりわけ、塩化ナトリウム(NaCl(aq))、塩化アンモニア(NH3Cl(aq))、炭酸ナトリウム(NaCO3(aq))の水溶液(例えば、蒸留水、脱イオン水、蒸留脱イオン水、水道水)が挙げられる。いくつかの例では、電解質の濃度は、溶質で飽和され得る。他の例では、電解質の濃度は、飽和溶液未満であり得る。いくつかの例において、電解質の濃度は、種々の基準に従って選択され得、これらの基準としては、とりわけ、遷移金属アノードにおける所望の反応速度(より高い濃度は、一般に酸化速度を加速する)、遷移金属アノードにおける酸化物反応生成物の形態及び/または構成が挙げられるが、これらに限定されない。
【0056】
理論に拘束されることを望むものではないが、電解質中の塩化物の存在が、遷移金属電極116の表面からのヒドロキシル化反応生成物の分離を促進することが観察されてきた。したがって、塩化物含有電解質を使用する場合、反応が進行するにつれて遷移金属電極116の新しい表面が自然に露出されるので、プロセスは、遷移金属電極116の全体の質量を反応生成物に自然に変換し得る。他の例では、反応生成物の構成及び/または形態は、電解質の組成、電解質のpH、または他の同様のパラメータを変更することによって変更されてもよい。例えば、反応生成物が遷移金属電極116に付着したままとなるように、電解質またはpHを変化させてもよい。付着した反応生成物は、層状または段階的な組成を有し、その処理中にその構成を保持する遷移金属電極を再充電可能電池カソードに処理するなど、いくつかの例において有益であり得る。そのような例は、以下でより詳細に説明される。
【0057】
遷移金属電極116は、
図1に示すように、多孔質炭素要素104と電気的及びイオン的に連通する遷移金属の一片であり得る。遷移金属電極116に用いることができる遷移金属の例としては、再充電可能電池カソード材料に用いられる遷移金属が挙げられる。いくつかの例では、これらは、ニッケル、コバルト、マンガン、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、モリブデン、タングステン、鉄、亜鉛、それらの銅合金、及び/またはそれらの金属間化合物を含み得る。
【0058】
いくつかの例では、遷移金属電極116は、導電性を改善し、酸化反応速度を改善し、及び/または遷移金属酸化物/水酸化物のカソード組成への変換を改善するために添加される遷移金属ではない組成成分を含み得る。
【0059】
以下のセクション6及び
図4に記載されるようないくつかの例では、遷移金属電極116は、遷移金属、非遷移金属、及び/または他の化合物の1つ以上の組み合わせを含み得る。いくつかの例では、多成分遷移金属電極116の成分は、成分の層を含み得る。1つの例示的な構成では、遷移金属電極116は、コバルトの層によって取り囲まれるか、または他の方法で封入されるニッケルのコアを含み得る。理論に拘束されることを望むものではないが、コバルトの層は、そのヒドロキシル化形態に変換され、次いでLi
2CO
3と反応してカソード組成物を形成する場合、カソード表面におけるニッケル系副反応の蔓延を低減し得る。これらの副反応は、ニッケル酸化反応中に時々生成される複数の異なる酸化ニッケル及び水酸化物組成物によって引き起こされ得る。
【0060】
導体120は、多孔質炭素要素104と遷移金属電極116とを連結する銅ワイヤ、アルミニウムワイヤ、金ワイヤ、及びこれらの合金などの電気導体とすることができる。いくつかの例では、導体120は、遷移金属電極116において酸化反応を開始し、維持する電位をシステム100に印加するためにも使用され得る。
【0061】
外部ソースから導体120を介していくつかの例で印加される最小印加電位は、遷移電極116に対して選択される1つの(または複数の)遷移金属に応じて変化する。遷移金属酸化物116における酸化反応を促進するために必要とされる最小印加電位は、遷移金属電極116として使用される特定の遷移金属と比較して、酸素を還元するために(例えば、ヒドロキシアニオン生成のために)使用される炭素触媒の触媒活性の指標であり得る。印加電位の上限は、電解質に基づき得る。例示の目的のために、水ベースの電解質に印加される電位は、水の酸素及び水素への加水分解に使用される電圧より低くなるように選択され得る。電解質は、より高い電圧を維持するように選択され得る。
【0062】
図2は、本開示の一態様における、電気化学電池200の概略図である。電気化学電池200は、システム100のいくつかの態様の代替表現である。電気化学電池200は、電極204、遷移金属成分208、導体212、カーボンエアロゲル要素216、酸化反応生成物層220、及び電解質224を含む。
【0063】
図2の電気化学電池200に示される要素の多くは、
図1に示されるシステム100に関連して上述された要素に類似する。電極204は、遷移金属成分208(遷移金属電極116に類似)が電気的に連通する電気接点であり得る。導体212は、導体120に類似する。
【0064】
多孔質炭素要素216は、多孔質炭素要素104に類似している。いくつかの例では、多孔質炭素要素216は、ポリイミドエアロゲルまたはポリ(アミド)酸エアロゲルを炭化することによって形成されたカーボンエアロゲル材料である。いくつかの例では、多孔質炭素要素216は、炭化ポリウレタンフォームである。いくつかの例では、多孔質炭素要素216は、炭化エアロゲルと炭化ポリウレタンフォームとの組み合わせまたは混合物である。
【0065】
図1に関連して既に説明した要素に加えて、
図2は、1Vの大きさを有する外部電圧を印加した際に電気化学電池200内で生じる酸化還元反応を概略的に示す。酸化反応を促進するのに必要な印加電圧の最小値の大きさ(「開始電圧」)は、成分208の特定の遷移金属及び多孔質炭素要素216の触媒効率によって決定することができる。いくつかの例では、電気化学電池200内の遷移金属の酸化は、最小値よりも小さい大きさを有する印加電圧に対して起こらない場合がある。
【0066】
特に、
図2は、多孔質炭素要素216の酸素への曝露を概略的に示す。いくつかの例では、酸素は、空気中に見られるよりも高い酸素濃度を有する空気または市販のガス混合物からなどの気体であり得る。酸素は、電解質224で予め湿潤された多孔質炭素要素216に入り得る。
【0067】
酸素は、電解質224も含む及び/またはそれで被覆された多孔質炭素要素216に遭遇すると、最終的に、電解質224によって溶媒和されたヒドロキシアニオンに変換され得る。
【0068】
次いで、ヒドロキシアニオンは、遷移金属成分208と反応して、遷移金属とヒドロキシアニオンとの反応から生じる遷移金属酸化物、水酸化物、及び/または他の反応生成物220の1つ以上を形成し得る。これらの反応生成物は、
図2の陰付き領域220で示される。反応生成物220は、遷移金属成分208と直接接触するように
図2に示されるが、これは必ずしもそうである必要はない。上述のように、異なる電解質組成物は、反応生成物220中に異なる物理的構成を生成し得る。例えば、電解質224中の塩化物の存在は、遷移金属成分208から分離する反応生成物220を生成する。
【0069】
いくつかの例では、酸素は、電気化学電池200のカソードである。すなわち、多孔質炭素要素216(これは「エアカソード」として機能する)に遭遇する酸素は、電気化学電池200の動作の際に低減される。
図2中の「e
-」と表示された矢印は、多孔質炭素要素216に入る酸素が、電気化学電池200の動作によって生成される電子の受容体であることを示す。酸素の量は、非排出性源(例えば、地球大気から)から、または電極208中の遷移金属のモル数と等しいかまたはそれを超える数のモル数を有する源からのものであり得るので、いくつかの例では、遷移金属電極208は完結まで反応し得る。特に、遷移金属成分208からの反応生成物220の分離の際に新たな反応表面が露出すると、遷移金属電極208は完結まで反応し得る。他の例では、遷移金属電極は、ヒドロキシルイオンが反応生成物220の接着層を通って遷移金属電極208の未反応部分に拡散すると、部分的または完全に反応し得る。
【0070】
図3は、サイクリックボルタンメトリー実験データを示し、これは、複数の異なる印加電位(x軸)における電気化学電池100(飽和NaCl(aq)電解質中)に関連する電流(y軸)を含む。
図3のデータは、室温で収集した(約20℃+/-5℃)。
図3において、遷移金属カソードはニッケル(Ni)である。示されるように、電流の大きさは、約0.2V(すなわち、約0.2Vと0.4Vとの間)を印加すると、ほぼ0から数ミリアンペア(mA)まで増加する。
図3(及び
図5A、5B、5C)のデータを収集するために使用される電気的構成は、
図2に概略的に示されるものであり、外部電位源の負極が多孔質炭素要素に印加される。理解されるように、比較的低い印加電圧は、ニッケルを室温で酸化ニッケル、水酸化ニッケル、及び/または他の同様の反応生成物の1つ以上に変換するのに十分である。
【0071】
6.層状の遷移金属電極材料
いくつかの態様では、上記の態様の1つ以上に従って反応した遷移金属成分は、層状または段階的な組成物であり得る。いくつかの例では、遷移金属成分は、2つ以上の遷移金属(例えば、Ni及びCo;Ni、Co、及びMn)を含み得る。いくつかの例では、複数の遷移金属は、均一な組成を有し得る、または複数の相を含み得る合金に組み合わされる。他の例では、複数の遷移金属は、1つ以上の合金の代わりに、またはそれに加えて、金属間化合物を含み得る。いくつかの例では、組成物は、遷移金属成分の外面が、1つの遷移金属に富み、成分の中心までの距離が減少するにつれて別の成分に徐々に富むように、段階的に変化し得る。
【0072】
図4に示すような他の態様では、遷移金属成分は、カプセル化されたまたは線条化された組成を有し得る。
図4に示すように、遷移金属成分400は、第1の組成物とは異なる第2の組成物を有する内部コア408の周りに配置され、それと接触する第1の組成物である外層404を含む。第1の組成物及び第2の組成物は、限定されないが、上記の組成物のいずれか並びに上記の組成物の任意の組み合わせであり得る。
【0073】
1つの態様では、遷移金属成分400は、外層404をその対応する酸化形態(例えば、酸化物、水酸化物、過酸化物)に変換するために、上述の技術に従って処理され得る。内部コア408のいくつかまたは全部は、その対応する酸化形態に反応され得る。この例の一例では、外側層404は、コバルトを含む第1の組成物であってもよく、内部コア408は、ニッケルを含む第2の組成物であり得る。リチウム塩を用いた熱処理の際の酸化及びカソード材料への変換の後、コバルトリッチな表面層は、より伝統的に構成されたカソードにおいてカソード性能を低下させるNiO側反応の発生率を低下させ得る。
【0074】
7.多孔質金属酸化物材料の合成
本明細書のいくつかの態様は、多成分及び/または多相システムの1つの成分を室温で選択的に酸化することによって、微孔性及び/またはナノ多孔質材料を合成するために適用され得る。説明の便宜上、第1の金属と第2の金属との2相合金を形成することができ、この場合、第1の金属は、第2の金属よりも低い印加電位で酸化し得る(カーボンエアロゲルエアカソードを有する電気化学電池に配置される場合)。このようにして、第1の合金に富む合金の領域を選択的に酸化し、合金から除去し得る。したがって、この技術は、1グラム当たり数百または数千平方メートルの特定の比表面積を有し得る3次元ナノ多孔質要素を生成し得る。これらの高表面積の金属成分は、触媒基材として使用され得るか、または、それ自体が高い表面化学活性を有する。他の例では、これらの技術を使用して、それらの非ナノ多孔質類似体と同等であるか、またはそれより良好な機械的特性(例えば、破壊靱性、弾性率、降伏強度)を有する軽量金属成分を生成することができる。
【0075】
図5A、
図5B、及び
図5Cは、本明細書の態様を使用して、合金の一相を選択的に除去して、上述したようなナノ多孔質金属材料を生成することができる方法を示すサイクリックボルタンメトリー実験データを示す。これらの図は、以下を除いて、
図3(類似の実験的構成、例えば
図2に示すものを用いる)に類似している:
図5Aは、アルミニウム(Al)/カーボンエアロゲル(CA)システムのサイクリックボルタンメトリー実験結果を示す;
図5Bは、亜鉛(Zn)/カーボンエアロゲル(CA)システムのサイクリックボルタンメトリー実験結果を示す;
図5Cは、スズ(Sn)/カーボンエアロゲル(CA)システムのサイクリックボルタンメトリー実験結果を示す。これらのデータは全て、飽和NaCl
(aq)溶液を用いて電気化学電池から収集した。
図5A、5B、及び5Cの軸も
図3と類似している:x軸は、印加された電位差(ボルト)を示し、y軸は、測定された電流(ミリアンペア(mA))を示す。
【0076】
図5A、5B、及び5Cに示される金属のそれぞれに対応する金属の酸化は、異なる開始電位で起こる。これらの例では、開回路電圧(OCV)は、ゼロ電流での電圧である。アルミニウムの場合(
図5A)、開始電位は約0.5Vである。亜鉛の場合(
図5B)、開始電位は約0.9Vである。スズの場合(
図5C)、開始電位は約0.35Vである。これらの図は、本明細書に記載されるように、対応する金属がカーボンエアロゲルエアカソードを有する電気化学電池内に配置されたときに酸化が開始する異なる開始電位及び開回路電圧を単に示すために提示されている。これらの図はまた、カーボンエアロゲルエアカソードにおける酸素の還元のための最大の過電圧(すなわち、OCVと開始電位との差)を示す。例えば、保護受動フィルムを形成せず、及び亜鉛金属などの容易な酸化反応を示すシステムは、エアカソード及び酸素還元反応の活性化エネルギーを排他的に調べる機会を提供する。
【0077】
開始電圧の差は、合金中の1つの金属を選択的に酸化するために使用され得るが、異なる開始電圧を有する他の金属は酸化されない。例えば、アルミニウム及び亜鉛は、アルミニウムリッチ(α)相及び亜鉛リッチ(η)相の固溶体を形成する。この例では、アルミニウムは優先的に酸化され、α相領域のサイズと同様の寸法を有する細孔を残し得る。アニーリング及び組成パラメータは、これらのα相領域のサイズを変え、それによって孔の除去の際に孔のサイズを変えるように選択することができる。銅に関するサイクリックボルタメトリデータは示されていないが、アルミニウム及び銅は固溶体を形成することが知られている。本明細書に記載される技術は、アルミニウム-銅合金、並びに多くの他のタイプの合金にも適用され得る。
【0078】
同様に、機械的加工を使用して、材料の開始電圧もまた変更し得る。機械的変形(例えば、材料の降伏応力を超える)は、変形の位置で酸化を促進することが知られている。曲げ、圧縮、冷間圧延(または他のタイプの変形)、溶接などを用いて、上述の技術を使用する材料の優先的な除去を促進することができる。
【0079】
8.実験例
1つの実験例では、
図1に示した構成と同様の構成を用いた。本実験では、カーボンエアロゲルのブロックを電解質溶液と接触させて配置した。本例における電解質は、蒸留脱イオン水中の飽和塩化ナトリウム(NaCl)溶液であった。電解質のpHは、ほぼ中性(約7のpH)であった。電解質は、浸漬セパレータに含まれていた。
【0080】
ニッケルアノードを、電解質溶液に挿入し(すなわち、直接接触させ)、カーボンエアロゲルエアカソードに間接的に接触させた。ニッケルアノードは、純ニッケル線の一部であった。純ニッケル集電体(純ニッケルアノードと同じ材料)を、ニッケルアノードと接触させて配置した。ニッケル集電体は、電解質と接触していなかった。純粋なニッケルアノード及び純粋なニッケル集電体は、両方ともTEMCo(登録商標)から購入した。
【0081】
回路を完成させるために、ステンレス鋼ワイヤの第1の端部をカーボンエアロゲルエアカソードと接触させて配置した。ステンレス鋼ワイヤの第2の端部(第1の端部の反対側)を、ニッケル集電体及びNiワイヤアノードと接触させて配置した。ワニ口クリップを使用して、集電体を直流電圧源に電気的に連結した。
【0082】
外部電源を使用して、電位差を上記電気化学電池に印加し、ここで、カーボンエアカソードを電源の負端子に連結した。本例では、約1ボルト(V)の電位差をカーボンエアロゲルエアカソード及びニッケル集電体に印加した。本実験では、カーボンエアロゲルエアカソードを電源の負端子に連結し、ニッケルアノードを電源の正端子に連結した。1Vの電位差は、便宜上、及びシステムのクーロン効率を低下させる寄生水電解反応を回避するために選択された。水の電解はまた、気体水素及び酸素を生成し、これは、安全性リスクを更に示す。
図3に示すサイクリックボルタンメトリーデータは、より小さい電圧の大きさ(例えば、0.2V程度の低さ)が、ニッケルアノードの酸化を生じさせるのに十分であることを示す。
【0083】
反応は、大気雰囲気(空気)中で、標準温度(約20℃)及び圧力(1気圧)で行った。
【0084】
次いで、電気化学電池を上記の条件下で反応させた。純粋なニッケルアノードは、約160分で完結まで反応した。この時点で、電解質と接触しているニッケルアノードの部分が消費され、それによって、電解質と、もはや電解質と接触していないアノードの残りのスタブとの間に開回路が生じた。反応生成物はビーカーの底部に配置され、Ni(OH)2、NiCO3、またはその両方の混合物と一致する緑色を有した。
【0085】
9.LFP用磁性IONP(酸化鉄ナノ粒子)の製造
本発明者らは、驚くべきことに、
図1に示した方法と類似の方法で、遷移金属電極116として鉄を使用することによって、本開示の方法を使用して、磁性及び非磁性の酸化鉄ナノ粒子(IONP)の両方を生成することもできることを発見した。磁性及び非磁性のIONPは、酸化鉄(II、III)の種々の組成物として当業者に公知である。これらのIONPは、リン酸鉄リチウム(LFP)電池における鉄の供給源として使用され得るので、電池技術の分野において特に有用であり得る。
【0086】
第1に、開示された磁性IONPの製造方法では、遷移金属アノードとして鉄を使用し、上述のように多孔質炭素要素104を使用することができ、酸素の還元のための活性化エネルギーを低減し、それによって電気的に連結された鉄金属が室温酸化還元反応に関与することを可能にする。本発明者らは、要素104としてカーボンエアロゲルの代わりに炭化ポリウレタンフォームを用いることができることを見出した。実際、本発明者らは、任意の多孔質炭素材料が使用され得ると考える。
【0087】
炭化ポリウレタンフォームは、以下に記載される反応においてカーボンエアロゲルよりも化学的及び機械的に安定であり得るため、磁性IONPを製造する方法において有利であり得る。加えて、本発明者らは、炭化ポリウレタンフォームとカーボンエアロゲルとの組み合わせを、例えば、組み合わせて使用することができ、カーボンエアロゲルは、炭化ポリウレタンフォームの細孔内で安定化され、この場合、炭化ポリウレタンフォームがカーボンエアロゲル材料に対して追加の機械的安定性を提供すると考える。
【0088】
磁性IONPの製造は、既に上で説明されている
図2を参照して説明することができ、この場合、参照番号126は、カーボンエアロゲル要素及び/または炭化ポリウレタンフォームを示し、参照番号208は、遷移金属成分であり、鉄片、例えば、鉄箔である。磁性IONPの製造のために、本発明者らは、電解質224として塩化ナトリウムを使用できることを見出した。一例として、電解質224の濃度は、1モル(1M)であり得る。しかしながら、電解質はそのように限定されない。電解質224は、ハロゲンを有するアルカリ金属の塩、例えば、塩化ナトリウムまたは塩化カリウムの溶液であり得、電解質の濃度は、約0.1M~2.0M、0.2M~1.5M、0.5M~1M、または最大で電解質の飽和溶液の濃度、例えば、最大約6.14M(すなわち、室温での飽和NaCl溶液)であり得ることが理解されるべきである。アノード金属の腐食速度は、電解質中の塩の濃度とともに単調に増加する。特定の例は、特定の態様では、1M及び0.2Mであり得る。
【0089】
電解反応が進行すると、鉄金属208が酸化して、「緑青」、すなわち水酸化鉄(II)(Fe(OH)2)及び/またはその部分的に酸化された形態、Fe(OH)2-xOxが生成される。実際には、この材料は沈殿し、反応チャンバの底部に落下し、例えば重力によって、または別個のチャンバへのポンプ輸送によって除去することができる。別個のチャンバにおいて、緑青は放置され、周囲条件下で部分的に更に酸化されて、レピドクロサイト(γ-FeO(OH))を形成する。この結果として生じる(部分的に酸化された)水酸化鉄は、塩基性条件(例えば、pH>8)での空気バブリングによって更に酸化され、磁性IONP、及び特にマグヘマイトγ-Fe2O3を生じる。空気バブリングは、約1~5L/分、例えば約2L/分の容量で進行し得る。磁性IONP(例えば、マグネタイト、マグヘマイト、及び/またはそれらの固溶体)はフェリ磁性であり、反応混合物から磁気的に分離することができる(鉄オキシ(oxy)/水酸化物は常磁性であることに留意されたい)。次いで、回収されたIONPを洗浄し、例えばLFP合成における鉄源としての以降の処理のために乾燥させる。
【0090】
以上のようにして生成された磁性IONPはXRD分析を受け、観察されたXRDパターンが立方晶スピネルの計算パターンと一致することが確認された。この方法で生成された磁性粒子は、ナノ粒子、すなわち、走査型電子顕微鏡を用いて観察した場合に20~100nmの領域のサイズを有する粒子の形態である。驚くべきことに、プロセスで使用される電解質の濃度は、生成された粒子の粒径に影響を及ぼし得ることが観察された。例えば、1M NaCl電解質は、約60~70nmのサイズを有する粒子を生成することが示されており(比表面積22.46m2/g)、0.2M KCl電解質は、20~40nmのサイズを有する粒子を生成することが示されている(比表面積40.22m2/g)。したがって、プロセスは、意図される最終用途に応じて、異なるサイズの粒子を生成するように調整され得る。
【0091】
マグヘマイト(γ-Fe2O3)ナノ粒子の製造の実験例。
反応は、水道水中で調製した1M NaCl溶液10Lを充填した15Lの矩形プラスチック容器中で行った。エアカソードは、寸法が4×10×16cmであるカーボンフォームの4つの矩形ブロックで構成された。エアカソードブロックを反応器内に機械的に固定し、電気的に連結した。各カーボンフォームブロックは、その長さに沿って穿孔された中央孔を有し、この中央孔を通して空気をポンプで送り込むことができる。しかしながら、磁性γ-Fe2O3(マグヘマイト)の合成には、強制空気拡散は必要ない。
【0092】
純鉄(約15×2×0.04cm)アノードの箔をカーボンエアカソードの間に導入し、電気的に連結した。混合速度が約250rpmのオーバーヘッドミキサーを反応器中に導入して、大気酸素の還元によって生成された水酸化物試薬の濃度を均質化した。まず、1Vの電圧を電極に印加した。直ちに、以下の反応により約2Aの電流が流れ始める:
カソード: 1/2O2+H2O+2e→2OH-
アノード: Fe→Fe2++2e
【0093】
腐食がFeアノードの表面粗さを増加させるにつれて、電流の大きさは時間とともに約4アンペア(A)まで増加する。溶解度積定数を超える電解質中のFe2+及びOH-イオンの放出は、ナノ粒子状Fe(OH)2、すなわち緑青の形成をもたらす。大気酸素との接触による緑青の部分酸化は、マグヘマイトと同様の立方結晶構造を採用するFeO1-x(OH)2-x(すなわち、レピドクロサイト)などの中間酸化状態へのいくつかの酸化を引き起こす。約24時間の反応後、Feアノードは腐食する。
【0094】
第2のステップにおいて、レピドクロサイト微細スラッジを抽出し、適切な量のNa2CO3を添加することによって溶液のpHを9に上昇させ、マグヘマイトγ-Fe2O3への酸化的ジヒドロキシ化用の溶液を通して空気をバブリングさせる(1L/分、3時間)。磁石試験を用いて、レピドクロサイトのマグヘマイトへの完全な変換を終結させる。次に、ナノ粒子状のマグヘマイトは、磁気分離及びその後の洗浄によって、塩化物イオンがなくなるまで、塩化ナトリウム/炭酸塩の電解質から容易に分離される(毎回、1Lの水で2~3回洗浄する)。
【0095】
10.LFP用非磁性IONPの生成
非磁性IONPの生成は、
図2を参照して上述した磁性IONPの生成と部分的に同様に進行し得、参照番号126は、空気を伴うカーボンエアロゲル要素及び/または炭化ポリウレタンフォームが2L/分の速度で中心孔を通してポンプ輸送されることを示し、また、参照番号208は、遷移金属成分であり、鉄片、例えば、鉄箔である。非磁性IONPの製造のために、本発明者らは、電解質224として塩化ナトリウムを使用できることを見出した。一例として、電解質224の濃度は、1モル(1M)であり得る。しかしながら、電解質はそのように限定されない。電解質224は、ハロゲンを有するアルカリ金属の塩、例えば、塩化ナトリウムまたは塩化カリウムの溶液であり得、電解質の濃度は、約0.1M~2.0M、0.2M~1.5M、0.5M~1M、または最大で電解質の飽和溶液の濃度、例えば、最大約6.14M(すなわち、室温での飽和NaCl溶液)であり得ることが理解されるべきである。特定の例は、特定の態様では、1M及び0.2Mであり得る。
【0096】
電解反応が進行すると、鉄金属208が酸化して、「緑青」、すなわち水酸化鉄(II)Fe(OH)2及び/またはその部分的に酸化された形態、Fe(OH)2-xOxが生成される。本開示の第1の代替の方法では、この材料は沈殿し、反応チャンバの底部に落下し、例えば重力によって、または別個のチャンバへのポンプ輸送によって除去することができる。別のチャンバにおいて、空気をバブリングすることによって緑青を更に酸化させて、非磁性IONP及び特にゲータイト(FeOOH)を得ることができる。空気バブリングは、約1~5L/分、例えば約2L/分の容量で進行し得る。ナノ粒子ゲータイトは、洗浄及びデカンテーション、または濾過、または遠心分離の少なくとも1回、好ましくは複数のサイクルによって溶液から分離される。次いで、回収されたIONPを、例えばLFP合成における鉄源としての以降の処理のために乾燥させる。
【0097】
本開示の別の方法では、電解反応で形成されたFe(OH)2は、例えば空気をバブリングすることにより、任意かつ好都合に電解中に多孔質炭素アノードを通して、酸素を電気化学電池に導入することにより、インサイツで直接酸化されてゲータイトナノ粒子となり得る。空気バブリングは、約1~5L/分、例えば約2L/分の容量で進行し得る。このような代替方法は、中性から僅かに酸性のpH条件(例えば、5<pH<7、例えば約6のpH)で行うことができる。ナノ粒子ゲータイトは、洗浄及びデカンテーション、または濾過、または遠心分離の類似のサイクルによって、塩化ナトリウム電解質から分離される。次いで、回収されたIONPを、例えばLFP合成における鉄源としての以降の処理のために乾燥させる。
【0098】
ゲータイト(α-FeOOH)ナノ粒子を作製する実験例
反応は、水道水中で調製した1M NaCl溶液10Lを充填した15Lの矩形プラスチック容器中で行った。エアカソードは、寸法が4×10×16cmであるカーボンフォームの4つの矩形ブロックで構成された。エアカソードブロックを反応器内に機械的に固定し、電気的に連結した。各カーボンフォームブロックは、その長さに沿って穿孔された中央孔を有し、この中央孔を通して必要に応じて空気をポンプで送り込むことができる。純鉄(約15×2×0.04cm)アノードの箔をカーボンエアカソードの間に導入し、電気的に連結した。混合速度が約250rpmのオーバーヘッドミキサーを反応器中に導入して、水酸化物試薬の濃度を均質化した。まず、空気を2L/分の速度でカーボンカソードを通してポンプで送り込みながら、1Vの電圧を電極に印加した。直ちに、以下の反応により、約4Aの電流が流れ始める:
カソード: 1/2O2+H2O+2e→2OH-
アノード: Fe→Fe2++2e
【0099】
電解質中の溶解O2の高濃度により、形成されたFe(OH)2ナノ粒子は直接酸化してゲータイトナノ粒子となる。上記の状況下で、Feアノードの完全なエッチングが7~10時間以内に起こる。
【0100】
次いで、ナノ粒子ゲータイトを、洗浄及びデカンテーション、または濾過、または遠心分離の連続するサイクルによって、塩化ナトリウム電解質から分離する。
【0101】
理論に拘束されることを望むものではないが、本発明者らは、安定な二価カチオン(例えば、Fe、Mn、Ni、Co、Cu、Zn、Snなど)を形成することができる全ての金属(M)について、Mアノードの表面で形成される即時反応生成物は、金属二重水酸化物塩、M(OH)2であると考える。また、+2が可能な最も高い酸化状態である金属(例えば、Zn)または+2よりも高い酸化状態が空気中で低温で生じるのにエネルギー的に好ましくない金属(例えば、Ni、Co、Cu)では、M(OH)2は最終反応生成物であると思われる。Fe(及びMn)の特定の場合、低温で空気中で+3の酸化状態が容易に得られるので、M(OH)2は中間体である傾向があり、電位-pH及び酸化条件に依存してより高い酸化状態をもたらす。
【0102】
Feの具体例では、Fe(OH)2及び/またはその部分的に酸化された形態、FeOx(OH)2-x、すなわち緑青が、電解中に形成される第1の中間体であると考えられる。中性pHでの更なる特定の処理を行わないと、緑青は徐々に酸化してゲータイトFeO(OH)になる。一方、本発明の記載の方法において、pHを8より上に増加させ、空気による酸化を制御すると、マグヘマイト、Fe2O3(またはマグネタイトのスピネル表記ではFe8/3V1/3O4、式中、V=空孔度)が得られる。マンガンに対する+3酸化状態の利用可能性に起因して、同様の変換が期待される。
【0103】
本発明者らは、反応条件、及び特に酸化に利用可能な空気からの酸素を制御することによって、本開示の方法によって磁性または非磁性IONPを生成することができることを見出した。上記の例において、両方とも同じスケールで行われ(15Lの電解反応器、10Lの電解質)、空気が炭素アノードを通ってバブリングされない場合の反応器中の限定された酸素は、緑青をレピドクロサイトFeO(OH)に酸化させ、これは後にアルカリ条件での空気バブリングによる強制酸化を受けて磁性マグヘマイトFe2O3になる。別の方法では、塩基性条件での電解中の空気バブリングは、緑青を直ちに直接非磁性ゲータイトFeO(OH)に酸化させる。したがって、空気、したがって酸素が電解質中に導入され、これにより、ガンマ形レピドクロサイトではなくアルファ形の鉄(III)酸化物-水酸化物、すなわちゲータイトへのインサイツでの酸化を促進する。しかしながら、本発明者らはまた、これらの反応をより小さいスケール(例えば、1.5Lの電解質)で行う場合、炭素カソードによる空気バブリングを用いても、反応はレピドクロサイトに進み、次いで後にマグヘマイトに進むことを観察した。理論に拘束されることを望むものではないが、より小さい規模では、電解質中の酸素が緑青を直接酸化してゲータイトにするには不十分であると考えられる。
【0104】
本開示の方法によって製造される磁性IONPは、LFPを合成するのに有用であると記載されてきたが、磁性IONPは、例えば、触媒において、防衛産業において、例えば、マイクロ波及びレーダー吸収材料(RAM)として、磁性流体として、記録テープ用に、汚染の改善において、及び医療用途において、多くの工業的用途を有する。
【0105】
上述のような磁性IONPを生成する方法は、電気化学反応が第1の容器中で進行し得、反応生成物が上述のようなポンプを用いて第2の容器に移送され得る一方で、電気化学反応が継続し停止される必要がないという点で、半連続的である。電解質は再利用され得、それによって廃棄物を回避することができる。
【0106】
表1は、種々の実験条件についての粒径及び比表面積データを示す。いくつかの実施形態は、市販の材料よりも予想外に10倍も大きい比表面積にアクセスするためのボールミリングを含むことに留意されたい。
【表1】
【0107】
本明細書及び特許請求の範囲において使用される場合、用語「含む(comprises)」及び「含む(comprising)」並びにその変形は、指定された特徴、ステップまたは整数が含まれることを意味する。これらの用語は、他の特徴、ステップまたは構成要素の存在を除外すると解釈されるべきではない。
【0108】
本発明はまた、本明細書で参照または示される部分、要素、ステップ、例及び/または特徴において、2つ以上の前記部分、要素、ステップ、例及び/または特徴の任意及び全ての組み合わせにおいて、個別または集合的に、広く構成され得る。特に、本明細書に記載される実施形態のいずれかにおける1つ以上の特徴は、本明細書に記載される他の実施形態(複数可)からの1つ以上の特徴と組み合わされ得る。
【0109】
保護は、本開示と組み合わせて本明細書で参照される任意の1つ以上の公開された文書に開示される任意の特徴に対して求めることができる。
【0110】
本発明の特定の例示的な実施形態が記載されてきたが、添付の特許請求の範囲は、これらの実施形態のみに限定されることを意図しない。特許請求の範囲は、文字通りに、目的を持って、及び/または等価物を包含すると解釈されるべきである。
【手続補正書】
【提出日】2024-04-09
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0110
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0110】
本発明の特定の例示的な実施形態が記載されてきたが、添付の特許請求の範囲は、これらの実施形態のみに限定されることを意図しない。特許請求の範囲は、文字通りに、目的を持って、及び/または等価物を包含すると解釈されるべきである。
本発明に関連する発明の実施態様の一部を以下に示す。
[実施形態1]
方法であって、
電気化学電池を構成することであって、前記電気化学電池が、
遷移金属アノードと、
触媒と、
酸素源であって、酸素が前記電気化学電池においてカソードとして機能する、前記酸素源と、
前記遷移金属アノード及び前記触媒と接触している電解質と、を含む、前記構成することと、
前記酸素を前記触媒により還元させることであって、前記酸素の還元により前記電解質中にヒドロキシアニオンを生成する、前記還元させることと、
前記ヒドロキシアニオンを前記遷移金属アノードと反応させることであって、前記反応が、前記遷移金属アノードの前記遷移金属を酸化する、前記反応させることと、を含む、前記方法。
[実施形態2]
前記電気化学電池に電位を印加することを更に含む、実施形態1に記載の方法。
[実施形態3]
前記酸素の還元及び前記遷移金属酸化物の酸化が、15℃~35℃の1つ以上の温度で行われる、実施形態1または2に記載の方法。
[実施形態4]
前記遷移金属アノードがニッケルを含む、実施形態1~3のいずれかに記載の方法。
[実施形態5]
前記ヒドロキシアニオンと、前記ニッケルを含む遷移金属アノードとの前記反応が、少なくとも水酸化ニッケルを生じる、実施形態4に記載の方法。
[実施形態6]
前記酸化遷移金属をリチウム塩と反応させて、再充電可能なリチウムイオン電池カソード材料を製造することを更に含む、実施形態1~5のいずれかに記載の方法。
[実施形態7]
前記遷移金属アノードが鉄を含む、実施形態1~3のいずれかに記載の方法。
[実施形態8]
前記電解質が、アルカリ金属ハロゲン化物、例えば塩化ナトリウムの溶液である、実施形態7に記載の方法。
[実施形態9]
水酸化鉄(II)Fe(OH)
2
、及び/またはその部分酸化形態Fe(OH)
2-x
O
x
を前記電気化学電池から分離すること、前記水酸化鉄(II)Fe(OH)
2
及び/またはその部分酸化形態Fe(OH)
2-x
O
x
を反応容器に移すこと、並びに、例えば、pHが7、8、9または10より大きく、好ましくはpHが8より大きい塩基性条件下で酸化することを更に含む、実施形態7または実施形態8に記載の方法。
[実施形態10]
前記反応容器から磁性IONPを磁気的に分離することを更に含む、実施形態9に記載の方法。
[実施形態11]
前記電気化学電池に、酸素を、好ましくは空気バブリングによって導入することを更に含む、実施形態7~10のいずれかに記載の方法。
[実施形態12]
濾過、遠心分離、デカンテーション、及びこれらの混合を含むリストから任意に選択される物理的分離を使用して、前記電気化学電池から非磁性IONPを分離することを更に含む、実施形態7~11のいずれかに記載の方法。
[実施形態13]
前記触媒が、炭化ポリウレタンフォームなどの多孔質炭素材料を含み、かつ、任意に、前記触媒を通して空気をバブリングすることによって前記電気化学電池に酸素が導入される、実施形態1~12のいずれかに記載の方法。
[実施形態14]
前記触媒がカーボンエアロゲル触媒を含む、実施形態1~13のいずれかに記載の方法。
[実施形態15]
前記カーボンエアロゲル触媒が、モノリシックカーボンエアロゲル要素または粒状カーボンエアロゲル要素の一方または両方を含む、実施形態14に記載の方法。
[実施形態16]
非球形状を有し、かつ40%より大きい充填率を有する、再充電可能電池カソード材料。
[実施形態17]
前記非球形状が、円形断面または矩形断面を有するワイヤの1つ以上である、実施形態16に記載の再充電可能電池カソード材料。
[実施形態18]
前記非球形状が、スパイラル構成、平行配列構成、ジグザグ構成、ブルズアイ構成、またはグリッド構成のうちの1つの中に細長い構造体を備える、実施形態16または17に記載の再充電可能電池カソード材料。
[実施形態19]
NCM 111またはNCM 811の1つ以上を更に含む、実施形態16~18のいずれかに記載の再充電可能電池カソード材料。
[実施形態20]
水酸化ニッケル及びナトリウムを含む組成物。
[実施形態21]
20nm~1000nmの特性寸法を有する鉄を含むナノ粒子を含み、かつ
10メートル
2
(m
2
)/グラム(g)~65m
2
/gの比表面積を有する、組成物。
[実施形態22]
前記特性寸法が30nm~70nmであり、かつ前記比表面積が20m
2
/g~40m
2
/gである、実施形態21に記載の組成物。
[実施形態23]
前記特性寸法が30nm~60nmであり、かつ前記比表面積が22m
2
/g~40m
2
/gである、実施形態21に記載の組成物。
[実施形態24]
前記特性寸法が20nm~40nmであり、かつ前記比表面積が60m
2
/g~80m
2
/gである、実施形態21に記載の組成物。
[実施形態25]
前記鉄を含むナノ粒子がマグネタイトである、実施形態21に記載の組成物。
[実施形態26]
カリウム、ナトリウム、またはその両方を含む表面を更に含む、実施形態21に記載の組成物。
[実施形態27]
前記ナノ粒子が、マンガンを更に含む、実施形態21に記載の組成物。
[実施形態28]
実施形態27に記載の組成物を含む、エネルギー貯蔵システム。
[実施形態29]
実施形態21に記載の組成物を含む、エネルギー貯蔵システム。
[実施形態30]
20nm~1000nmの特性寸法を有するLiFePO
4
(LFP)ナノ粒子を含み、かつ
10メートル
2
(m
2
)/グラム(g)~65m
2
/gの比表面積を有する、組成物。
[実施形態31]
前記特性寸法が30nm~70nmであり、かつ前記比表面積が20m
2
/g~65m
2
/gである、実施形態10に記載の組成物。
[実施形態32]
前記特性寸法が30nm~60nmであり、かつ前記比表面積が22m
2
/g~40m
2
/gである、実施形態30に記載の組成物。
[実施形態33]
前記特性寸法が20nm~40nmであり、かつ前記比表面積が60m
2
/g~80m
2
/gである、実施形態30に記載の組成物。
[実施形態34]
前記LFPナノ粒子がマグネタイトを更に含む、実施形態30に記載の組成物。
[実施形態35]
前記ナノ粒子が、マンガンを更に含む、実施形態30に記載の組成物。
[実施形態36]
実施形態35に記載の組成物を含む、エネルギー貯蔵システム。
[実施形態37]
実施形態30に記載の組成物を含む、エネルギー貯蔵システム。
【手続補正2】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
方法であって、
電気化学電池を構成することであって、前記電気化学電池が、
遷移金属アノードと、
触媒と、
酸素源であって、酸素が前記電気化学電池においてカソードとして機能する、前記酸素源と、
前記遷移金属アノード及び前記触媒と接触している電解質と、を含む、前記構成することと、
前記酸素を前記触媒により還元させることであって、前記酸素の還元により前記電解質中にヒドロキシアニオンを生成する、前記還元させることと、
前記ヒドロキシアニオンを前記遷移金属アノードと反応させることであって、前記反応が、前記遷移金属アノードの前記遷移金属を酸化する、前記反応させることと、を含む、前記方法。
【請求項2】
前記電気化学電池に電位を印加することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記酸素の還元及び前記遷移金属酸化物の酸化が、15℃~35℃の1つ以上の温度で行われる、請求項
1に記載の方法。
【請求項4】
前記遷移金属アノードがニッケルを含む、請求項
1に記載の方法。
【請求項5】
前記ヒドロキシアニオンと、前記ニッケルを含む遷移金属アノードとの前記反応が、少なくとも水酸化ニッケルを生じる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記酸化遷移金属をリチウム塩と反応させて、再充電可能なリチウムイオン電池カソード材料を製造することを更に含む、請求項
1に記載の方法。
【請求項7】
前記遷移金属アノードが鉄を含む、請求項
1に記載の方法。
【請求項8】
前記電解質が、アルカリ金属ハロゲン化物、例えば塩化ナトリウムの溶液である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
水酸化鉄(II)Fe(OH)
2、及び/またはその部分酸化形態Fe(OH)
2-xO
xを前記電気化学電池から分離すること、前記水酸化鉄(II)Fe(OH)
2及び/またはその部分酸化形態Fe(OH)
2-xO
xを反応容器に移すこと、並びに、例えば、pHが7、8、9または10より大きく、好ましくはpHが8より大きい塩基性条件下で酸化することを更に含む、請求項7または請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記反応容器から磁性IONPを磁気的に分離することを更に含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記電気化学電池に、酸素を、好ましくは空気バブリングによって導入することを更に含む、請求項
7に記載の方法。
【請求項12】
濾過、遠心分離、デカンテーション、及びこれらの混合を含むリストから任意に選択される物理的分離を使用して、前記電気化学電池から非磁性IONPを分離することを更に含む、請求項
7に記載の方法。
【請求項13】
前記触媒が、炭化ポリウレタンフォームなどの多孔質炭素材料を含み、かつ、任意に、前記触媒を通して空気をバブリングすることによって前記電気化学電池に酸素が導入される、請求項
1に記載の方法。
【請求項14】
前記触媒がカーボンエアロゲル触媒を含む、請求項
1に記載の方法。
【請求項15】
前記カーボンエアロゲル触媒が、モノリシックカーボンエアロゲル要素または粒状カーボンエアロゲル要素の一方または両方を含む、請求項14に記載の方法。
【国際調査報告】