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特表2024-537089リン酸遷移金属リチウムカソード材料を調製するためのプロセス
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-10
(54)【発明の名称】リン酸遷移金属リチウムカソード材料を調製するためのプロセス
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/58 20100101AFI20241003BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
H01M4/58
H01M4/36 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024519870
(86)(22)【出願日】2023-03-30
(85)【翻訳文提出日】2024-04-01
(86)【国際出願番号】 US2023016845
(87)【国際公開番号】W WO2024025622
(87)【国際公開日】2024-02-01
(31)【優先権主張番号】63/326,353
(32)【優先日】2022-04-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/336,640
(32)【優先日】2022-04-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/352,571
(32)【優先日】2022-06-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/378,756
(32)【優先日】2022-10-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/416,996
(32)【優先日】2022-10-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/381,666
(32)【優先日】2022-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/381,672
(32)【優先日】2022-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/381,681
(32)【優先日】2022-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/381,687
(32)【優先日】2022-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/381,694
(32)【優先日】2022-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/381,771
(32)【優先日】2022-11-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/381,777
(32)【優先日】2022-11-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】506229844
【氏名又は名称】アスペン エアロゲルズ,インコーポレイティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 智史
(72)【発明者】
【氏名】フーマン ヤグーブネジャド アズル
(72)【発明者】
【氏名】レドゥアン ベガグ
(72)【発明者】
【氏名】ルシー ソニ
(72)【発明者】
【氏名】ニコラス レベンティス
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA17
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050EA08
5H050FA17
5H050GA02
5H050GA10
5H050GA12
5H050GA15
5H050GA27
5H050HA05
5H050HA07
5H050HA08
5H050HA14
(57)【要約】
本開示は、導電性炭素マトリックス内にリン酸及びフルオロリン酸遷移金属リチウム材料を形成する方法を対象とする。開示の方法は、安価な反応物を利用する点で有利であり、より均質な生成物を提供しながら、合成中の不純物の形成を軽減することができ、従来のリン酸遷移金属リチウムと比較して、向上したタップ密度を有するカソード材料を提供することができる。開示の方法によって調製されるリン酸及びフルオロリン酸遷移金属リチウム材料は、連続的な三次元導電性炭素マトリックス内で炭素と密接に混合される。開示の方法に従って調製される材料は、例えば、リチウムイオン電池内のカソード材料として、電気化学反応を伴う環境での使用に好適である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性炭素マトリックス内にリン酸遷移金属リチウムカソード材料を調製する方法であって、前記方法が、
前記リン酸遷移金属リチウムカソード材料を合成するための前駆体の群を組み合わせることであって、前記群のうちの少なくとも第1の前駆体が、1グラム(g)/立方センチメートル(cc)超の第1の密度を有する固相を含み、前記群のうちの少なくとも第2の前駆体が、第2の密度を有する液相を含み、前記第2の密度が、前記第1の密度未満である、前記組み合わせることと、
流体状態で1つ以上の炭素前駆体を提供することであって、前記1つ以上の炭素前駆体が、ゲル化開始剤の存在下で固体オルガノゲルを形成するように構成され、前記固体オルガノゲルが、熱分解時に導電性炭素マトリックスを形成するように構成される、前記提供することと、
前記前駆体の群を前記1つ以上の炭素前駆体と混合して、前駆体混合物を形成することと、
前記ゲル化開始剤を前記前駆体混合物に添加することと、
前記1つ以上の炭素前駆体にゲル化を施すことを可能にし、前記固体オルガノゲルを形成することと、
前記固体オルガノゲルを熱分解して、前記導電性炭素マトリックス内に前記リン酸遷移金属リチウムカソード材料を形成することと、を含む、前記方法。
【請求項2】
前記固体オルガノゲルが、前記ゲル化開始剤の添加後5秒~15分以内に形成される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記固体オルガノゲルが、相互接続した固相ポリマー構造の多孔質ネットワークを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記多孔質ネットワークが、前記群のうちの前記第1の前駆体と、前記群のうちの前記第2の前駆体との間の接触を維持する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記接触が、少なくとも約300℃の温度に維持される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記第1の前駆体が、鉄を含み、
前記第2の前駆体が、リチウム源及びリン酸を含み、
前記リン酸遷移金属リチウムカソード材料が、リン酸鉄リチウムである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記鉄が、鉄(II)塩、鉄(III)塩、酸化鉄(II)(FeO)、酸化鉄(III)(Fe)、混合酸化鉄(Fe)、またはそれらの組み合わせの形態で存在する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記固体オルガノゲルが、フロログルシノール-フルフラールポリマーまたはレゾルシノール-フルフラールポリマーを含み、前記1つ以上の炭素前駆体が、フロログルシノールまたはレゾルシノール及びフルフラールである、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記ゲル化開始剤が、アミン塩基または酸である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記固体オルガノゲルが、ポリウレタンポリマーを含み、前記1つ以上の炭素前駆体が、ポリオール及びイソシアネートを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記ゲル化開始剤が、アルキルアミンを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記オルガノゲルが、ポリアミック酸ポリマーを含み、前記ゲル化開始剤が、無水酢酸、酢酸、またはそれらの組み合わせを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記前駆体の群が、マイクロ波感受性を有する前駆体を含み、前記熱分解することが、マイクロ波放射を適用することによって実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記マイクロ波感受性を有する前駆体が、炭素、マグネタイト、及びマグヘマイトのうちの1つ以上を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
20nm~100nmの特徴的な寸法を有するマグネタイト及びマグヘマイトのうちの1つ以上のナノ粒子を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記第1の前駆体が、マンガン、バナジウム、またはその両方を含み、
前記第2の前駆体が、リチウム源及びリン酸を含み、
前記リン酸遷移金属リチウムカソード材料が、リン酸マンガンリチウムまたはリン酸バナジウムリチウムである、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
マイクロ波放射を適用することによって、前記リン酸遷移金属リチウムカソード材料を乾燥させることを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
1グラム超の前記第1の密度を有する前記固相が、強磁性鉄化合物、フェリ磁性鉄化合物、またはその両方を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記強磁性鉄化合物、前記フェリ磁性鉄化合物、またはその両方が、
鉄含有アノードを、多孔質炭素基材、酸素カソード、ならびに前記鉄含有アノード及び前記多孔質炭素基材の両方と接触している電解質を含む電気化学セル内で酸化させることを含む方法によって合成され、
前記酸化させることが、20nm~100nmの特徴的な寸法を有する前記強磁性鉄化合物、前記フェリ磁性鉄化合物、またはその両方の粒子を生成する、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
磁気濾過によって前記粒子を除去することを更に含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
マイクロ波放射を適用することによって、前記粒子を乾燥させることを更に含む、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記電気化学セルの操作及び前記強磁性鉄化合物、前記強磁性鉄化合物、またはその両方の前記形成が、15℃~35℃の温度で行われる、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
請求項1に記載の方法によって調製された、リン酸遷移金属リチウムカソード材料。
【請求項24】
請求項1に記載の方法によって調製されたリン酸遷移金属リチウムカソード材料を含む、エネルギー貯蔵システム。
【請求項25】
オリビン型リン酸鉄リチウムを含み、導電性炭素マトリックスと一体であるナノ粒子を含む、組成物であって、前記ナノ粒子が、20nm~1000nmの特徴的な寸法、及び10メートル(m)/グラム(g)~65m/gの比表面積を有する、前記組成物。
【請求項26】
前記特徴的な寸法が、30nm~70nmであり、前記比表面積が、20m/g~65m/gである、請求項25に記載の組成物。
【請求項27】
前記特徴的な寸法が、30nm~60nmであり、前記比表面積が、22m/g~40m/gである、請求項25に記載の組成物。
【請求項28】
前記特徴的な寸法が、20nm~40nmであり、前記比表面積が、60m/g~80m/gである、請求項25に記載の組成物。
【請求項29】
前記ナノ粒子が、マグネタイト、マグヘマイト、またはその両方を更に含む、請求項25に記載の組成物。
【請求項30】
前記ナノ粒子が、マンガンを更に含む、請求項25に記載の組成物。
【請求項31】
前記導電性炭素マトリックスが、炭化オルガノゲルポリマーマトリックスを含む、請求項25に記載の組成物。
【請求項32】
請求項25に記載の組成物を含む、エネルギー貯蔵システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、これらの各々全体が参照により本明細書に組み込まれる、2022年11月1日出願の米国仮特許出願第63/381777号、2022年11月1日出願の米国仮特許出願第63/381771号、2022年10月31日出願の米国仮特許出願第63/381694号、2022年10月31日出願の米国仮特許出願第63/381687号、2022年10月31日出願の米国仮特許出願第63/381681号、2022年10月31日出願の米国仮特許出願第63/381672号、2022年10月31日出願の米国仮特許出願第63/381666号、2022年10月18日出願の米国仮特許出願第63/416996号、2022年10月7日出願の米国仮特許出願第63/378756号、2022年6月15日出願の米国仮特許出願第63/352571号、2022年4月29日出願の米国仮特許出願第63/336640号、及び2022年4月1日出願の米国仮特許出願第63/326353号の優先権及び利益を主張する。
【0002】
本開示は、一般に、リチウムイオン電池で使用するためのカソード活物質及びそれを作製するためのプロセスに関する。
【背景技術】
【0003】
再充電式電池の最も一般的な形態のうちの1つは、リチウムイオン電池(LIB)である。LIBは、手持ち式エレクトロニクスから自動車まで、多様な用途で広く見られている。LIBは、リチウムイオンが放電中にアノードからカソードへ、及び充電サイクル(再充電)中にカソードからアノードへ移動する種類の電池である。従来、LIBのアノードは、リチウムイオンが充電サイクル中にグラファイト層内にインターカレートする、グラファイト及び/または合金化材料(例えば、Si)、または酸化物(例えば、LiTi12)で形成され、エネルギー貯蔵を提供する。LIBカソード材料は、一般的に、ニッケル、コバルト、またはマンガン(「NCM」)、またはアルミニウムの酸化物化合物である。NCMカソード材料は、他の種類のカソード材料と比較して、高い充電容量(約200ミリアンペアアワー/グラム(mAh/g))を有するので、これらの材料が対象となる。しかしながら、これらの材料は、調製するのが高価であり得、必要な前駆体を提供するために高価な鉱石を取得し処理する必要があり、取得し処理する間に有毒な廃棄物材料が生成されることに起因して、環境に悪影響を及ぼし得る。
【0004】
別のLIBカソード材料は、リン酸鉄リチウム(例えば、LiFePO、「LFP」)である。そのようなLFPカソード材料は、NCMカソード材料よりも低い理論充電容量(約170mAh/g)を有する。それにもかかわらず、LFPは、限定されないが、環境への影響の低減、ならびにNCMを調製するための鉱石と比較して、前駆体が安価であることを含む、多くの商業的利点を有する。しかしながら、LFPは、これらの利点のうちのいくつかを相殺する、合成における欠点を有する。例えば、以前に報告されたほとんどの合成プロセスは、均質な生成物を提供するのに必要な前駆体間の密接な接触を達成するために、固相前駆体材料の(例えば、ボールミリングを介した)大掛かりな機械的混合を伴う。
【0005】
したがって、効率的であり、比較的安価であり、環境への影響が低いリン酸遷移金属リチウムカソード活物質を調製するための方法を提供することが、当該技術分野において望ましいであろう。
【発明の概要】
【0006】
本技術は、一般に、導電性炭素マトリックス内にリン酸遷移金属リチウムカソード材料を調製するための方法を対象とする。
【0007】
リン酸鉄リチウム(LFP)材料を形成する様々な固相及び溶液相方法が以前に報告されている。例えば、Wangらに対する米国特許出願公開第2011/0110838号、Huangらに対する同第2008/0099720号、Mishimaらに対する同第2010/0065787号及び同第2011/0091772号、Parkらに対する米国特許第7,988,879号、Saidiらに対する同第7,060,238号、Dongに対する欧州特許出願公開第1,921,698号、ならびにBarkerらに対する国際特許出願公開第WO2004/092065号を参照されたい。
【0008】
本明細書に開示の方法は、少なくともいくつかの態様では、導電性炭素マトリックス内にLFPを含む、以前に報告されたLFP材料を調製する方法と比較して、利点を有する。以前に報告された方法は、例えば、炭素を含むLFPカソード材料を提供するが、この炭素は、典型的には、炭素粒子(例えば、カーボンブラック)またはLFP前駆体及び糖分子の混合物の熱分解のいずれかを使用して添加される。カソード材料に炭素を導入するこれらの従来の方法のうちのいずれも、本開示の方法に従って提供されるものと同等の導電性マトリックスを提供しない。
【0009】
本明細書に記載の態様のいくつかまたは全ての利益は、LFPカソード材料が合成されるより従来の方法と比較して、LFP合成の様々なプロセスステップを除去することを含む。例えば、多くの従来のLFPプロセスは、大量の廃棄水(例えば、アンモニア水溶液)を生成し得る溶液化学技法を使用する。廃棄水の生成は、本開示の態様のいくつかでは、ほぼ完全に回避される。更に、LFPを生成する(及び廃棄水生成を大幅に回避する)従来の固相反応は、大量の高密度固相粉末を混合し粉砕するためにかなりのエネルギー入力を必要とするという欠点を有する。また、前駆体の組成的に均一な混合物を達成し、維持することが困難であることに起因して、粉末混合の生成物は、均質かつ均一なLFPである可能性が低い。本開示の態様は、粘性媒体中の反応物の密接な接触を維持するので、混合及び粉砕の程度及び持続時間は、従来の技法と比較して低減される。これによって、LFPの合成に必要なエネルギー及びプロセスの複雑さが低減される。更なる利点は、本方法は、不活性(例えば、窒素)雰囲気下での熱分解のみを必要とすることである。対照的に、ある特定の従来の方法では、還元(水素)雰囲気を必要とし、そのような合成を実施することの複雑さ、コスト、及び危険性が加わる。開示の方法は、驚くべきことに、導電性炭素マトリックス内のリン酸遷移金属リチウムカソード材料中の炭素含有量を、1~10重量%程度の範囲まで下げる制御を可能にし、(市販製品に好適である)85~90%の範囲のLFP活物質利用率を提供し、スケーラブルかつ安価である。更に、いくつかの態様では、本明細書に開示の方法は、従来のリン酸遷移金属リチウムと比較して、向上したタップ密度を有するリン酸遷移金属リチウムを提供し、それによって、電池パック内でのそのような材料の商業的実行可能性を改善する。開示の方法、及びこの方法によって調製される材料は、本明細書で以下に更に記載の追加の利点を有する。
【0010】
本明細書に開示の方法は、一般に、リン酸遷移金属リチウムカソード材料を合成するための前駆体の群を組み合わせ、流体状態で1つ以上の炭素前駆体を提供し、前駆体の群を1つ以上の炭素前駆体と混合して前駆体混合物を形成することと、ゲル化開始剤を前駆体混合物に添加することと、1つ以上の炭素前駆体にゲル化を施すことを可能にし、固体オルガノゲルを形成することと、固体オルガノゲルを熱分解して導電性炭素マトリックス内にリン酸遷移金属リチウムカソード材料を形成することと、を含む。1つ以上の炭素前駆体は、ゲル化開始剤の存在下で固体オルガノゲルを形成するように構成され、固体オルガノゲルは、熱分解時に導電性炭素マトリックスを形成するように構成される。開示の方法で生成された固体オルガノゲルは、炭素前駆体のゲル化によって形成され、オルガノゲルの熱分解は、導電性炭素マトリックスを生成することが理解されるものである。本開示全体を通して、記載の方法の文脈において、「固体オルガノゲル」及び「オルガノゲル」という用語は、単にオルガノゲルについて記載されていることを別途文脈が明らかにしない限り、リン酸遷移金属リチウムカソード材料を合成するための前駆体及び/またはこれらの様々な前駆体の中間反応生成物を更に含むように解釈されることが意図されることも理解されるものである。開示の方法では、リン酸遷移金属リチウムカソード材料を合成するための前駆体の群のうちの少なくとも第1の前駆体は、1グラム(g)/立方センチメートル(cc)超の第1の密度を有する固相を含み、群のうちの少なくとも第2の前駆体は、第2の密度を有する液相を含み、第2の密度が、第1の密度未満である。固体オルガノゲルは、前駆体の群中の固相構成成分が、前駆体の群中の液相構成成分から分離する(例えば、固相と液相との間の密度勾配に起因して沈降する)ことを防止する。特に、固体オルガノゲルは、混合物内で前駆体のリン酸遷移金属リチウム基の均一な接触を維持するので、前駆体が、反応してリン酸遷移金属リチウムカソード材料(例えば、リン酸鉄リチウム(LFP))を形成することができる。更に、固体オルガノゲルはまた、LFPをカソード材料として使用するのに必要な導電性炭素マトリックスに変換されることによって、商業的に実行可能なLFPの合成に寄与することができる。
【0011】
上述したように、本明細書に開示の方法は、様々な前駆体材料、例えば、Fe前駆体とリン酸リチウムとの間の均一な接触を維持するのに有利である。重要なことに、方法で利用される固体オルガノゲル材料は、固体状態をかなり高い温度(例えば、最大少なくとも約300℃)まで維持するように選択されるので、固体オルガノゲルは、LiHPOの融解温度を超えて、遷移金属(例えば、Fe)前駆体と中間体リン酸リチウム(LiHPO)との間の接触を維持し続ける。これによって、LiHPOが、LFP合成反応温度で液相に溶融した場合でさえも、前駆体が、LFPへと反応し、相分離しないことが可能になる。オルガノゲル前駆体及び条件は、迅速なゲル化を可能にするように選択されるので(例えば、数秒~約15分などの15分未満)、前駆体間の接触を維持することに関する固体オルガノゲルの利点が迅速に実現される。更に、いくつかの態様では、方法は、固相(例えば、ミクロンサイズの)粒子として構成成分を混合する方法と比較して、より小さなスケール(例えば、ナノサイズの溶媒和分子スケール)で前駆体材料のより密接な混合及び相互作用を提供する。このより密接な混合は、合成中の不純物の形成を緩和することができ、より均質な生成物を提供する。驚くべきことに、そのような密接な混合は、以前に報告されたプロセスで必要とされる大量消費型の粉砕の低減または更には排除を達成することができる。開示の方法の別の利点は、リン酸遷移金属リチウム前駆体の存在下でのオルガノゲル前駆体のゲル化が、熱分解後に、連続的な三次元導電性炭素マトリックス内で炭素と密接に混合しているカソード材料の生成を可能にすることである。
【0012】
したがって、一態様では、導電性炭素マトリックス内にリン酸遷移金属リチウムカソード材料を調製する方法であって、方法が、
リン酸遷移金属リチウムカソード材料を合成するための前駆体の群を組み合わせることであって、群のうちの少なくとも第1の前駆体が、1グラム(g)/立方センチメートル(cc)超の第1の密度を有する固相を含み、群のうちの少なくとも第2の前駆体が、第2の密度を有する液相を含み、第2の密度が、第1の密度未満である、組み合わせることと、
流体状態で1つ以上の炭素前駆体を提供することであって、1つ以上の炭素前駆体が、ゲル化開始剤の存在下で固体オルガノゲルを形成するように構成され、固体オルガノゲルが、熱分解時に導電性炭素マトリックスを形成するように構成される、提供することと、
前駆体の群を1つ以上の炭素前駆体と混合して、前駆体混合物を形成することと、
ゲル化開始剤を前駆体混合物に添加することと、
1つ以上の炭素前駆体にゲル化を施すことを可能にし、固体オルガノゲルを形成することと、
固体オルガノゲルを熱分解して、導電性炭素マトリックス内にリン酸遷移金属リチウムカソード材料を形成することと、を含む、方法が提供される。
【0013】
いくつかの態様では、固体オルガノゲルは、ゲル化開始剤の添加後5秒~15分以内に形成される。
【0014】
いくつかの態様では、固体オルガノゲルは、相互接続した固相ポリマー構造の多孔質ネットワークを含む。
【0015】
いくつかの態様では、多孔質ネットワークは、群のうちの第1の前駆体と群のうちの第2の前駆体との間の接触を維持する。
【0016】
いくつかの態様では、接触は、少なくとも約300℃の温度に維持される。
【0017】
いくつかの態様では、第1の前駆体は、鉄を含み、第2の前駆体は、リチウム源及びリン酸を含み、リン酸遷移金属リチウムカソード材料は、リン酸鉄リチウムである。
【0018】
いくつかの態様では、鉄は、鉄(II)塩、鉄(III)塩、酸化鉄(II)(FeO)、酸化鉄(III)(Fe)、混合酸化鉄(Fe)、またはそれらの組み合わせの形態で存在する。
【0019】
いくつかの態様では、固体オルガノゲルは、フロログルシノール-フルフラールポリマーまたはレゾルシノール-フルフラールポリマーを含み、1つ以上の炭素前駆体は、フロログルシノールまたはレゾルシノール及びフルフラールである。いくつかの態様では、ゲル化開始剤は、アミン塩基または酸である。
【0020】
いくつかの態様では、固体オルガノゲルは、ポリウレタンポリマーを含み、1つ以上の炭素前駆体は、ポリオール及びイソシアネートを含む。いくつかの態様では、ゲル化開始剤は、アルキルアミンを含む。
【0021】
いくつかの態様では、オルガノゲルは、ポリアミック酸ポリマーを含み、ゲル化開始剤は、無水酢酸、酢酸、またはそれらの組み合わせを含む。
【0022】
いくつかの態様では、前駆体の群は、マイクロ波感受性を有する前駆体を含み、熱分解することは、マイクロ波放射を適用することによって実施される。いくつかの態様では、マイクロ波感受性を有する前駆体は、炭素、マグネタイト、及びマグヘマイトのうちの1つ以上を含む。いくつかの態様では、マイクロ波感受性を有する前駆体は、20nm~100nmの特徴的な寸法を有するマグネタイト及びマグヘマイトのうちの1つ以上のナノ粒子を含む。
【0023】
いくつかの態様では、第1の前駆体は、マンガン、バナジウム、またはその両方を含み、第2の前駆体は、リチウム源及びリン酸を含み、リン酸遷移金属リチウムカソード材料は、リン酸マンガンリチウムまたはリン酸バナジウムリチウムである。
【0024】
いくつかの態様では、方法は、マイクロ波放射を適用することによって、リン酸遷移金属リチウムカソード材料を乾燥させることを更に含む。
【0025】
いくつかの態様では、1グラム超の第1の密度を有する固相は、強磁性鉄化合物、フェリ磁性鉄化合物、またはその両方を含む。
【0026】
いくつかの態様では、強磁性鉄化合物、フェリ磁性鉄化合物、またはその両方は、鉄含有アノードを、多孔質炭素基材、酸素カソード、ならびに鉄含有アノード及び多孔質炭素基材の両方と接触している電解質を含む電気化学セル内で酸化させることを含む方法によって合成され、酸化させることが、20nm~100nmの特徴的な寸法を有する強磁性鉄化合物、フェリ磁性鉄化合物、またはその両方の粒子を生成する。
【0027】
いくつかの態様では、方法は、磁気濾過によって粒子を除去することを更に含む。
【0028】
いくつかの態様では、方法は、マイクロ波放射を適用することによって粒子を乾燥させることを更に含む。
【0029】
いくつかの態様では、電気化学セルの操作、及び強磁性鉄化合物、フェリ磁性鉄化合物、またはその両方の形成は、15℃~35℃の温度で行われる。
【0030】
別の態様では、本明細書に開示の方法によって調製されたリン酸遷移金属リチウムカソード材料が提供される。
【0031】
更に別の態様では、本明細書に開示の方法によって調製されたリン酸遷移金属リチウムカソード材料を含む、エネルギー貯蔵システムが提供される。
【0032】
更に更なる態様では、オリビン型リン酸鉄リチウムを含み、導電性炭素マトリックスと一体であるナノ粒子を含む、組成物であって、ナノ粒子が、20nm~1000nmの特徴的な寸法、及び10メートル(m)/グラム(g)~65m/gの比表面積を有する、組成物が提供される。いくつかの態様では、特徴的な寸法は、30nm~70nmであり、比表面積は、20m/g~65m/gである。いくつかの態様では、特徴的な寸法は、30nm~60nmであり、比表面積は、22m/g~40m/gである。いくつかの態様では、特徴的な寸法は、20nm~40nmであり、比表面積は、60m/g~80m/gである。
【0033】
いくつかの態様では、ナノ粒子は、マグネタイト、マグヘマイト、またはその両方を更に含む。
【0034】
いくつかの態様では、ナノ粒子は、マンガンを更に含む。
【0035】
いくつかの態様では、導電性炭素マトリックスは、炭化オルガノゲルポリマーマトリックスを含む。
【0036】
更に別の態様では、本明細書に開示の組成物を含むエネルギー貯蔵システムが提供される。
【0037】
本開示は、限定されないが、以下の態様を含む。
【0038】
態様1:導電性炭素マトリックス内にリン酸遷移金属リチウムカソード材料を調製する方法であって、前記方法が、
前記リン酸遷移金属リチウムカソード材料を合成するための前駆体の群を組み合わせることであって、前記群のうちの少なくとも第1の前駆体が、1グラム(g)/立方センチメートル(cc)超の第1の密度を有する固相を含み、前記群のうちの少なくとも第2の前駆体が、第2の密度を有する液相を含み、前記第2の密度が、前記第1の密度未満である、前記組み合わせることと、
流体状態で1つ以上の炭素前駆体を提供することであって、前記1つ以上の炭素前駆体が、ゲル化開始剤の存在下で固体オルガノゲルを形成するように構成され、前記固体オルガノゲルが、熱分解時に導電性炭素マトリックスを形成するように構成される、前記提供することと、
前記前駆体の群を前記1つ以上の炭素前駆体と混合して、前駆体混合物を形成することと、
前記ゲル化開始剤を前記前駆体混合物に添加することと、
前記1つ以上の炭素前駆体にゲル化を施すことを可能にし、前記固体オルガノゲルを形成することと、
前記固体オルガノゲルを熱分解して、前記導電性炭素マトリックス内に前記リン酸遷移金属リチウムカソード材料を形成することと、を含む、前記方法。
【0039】
態様2:前記固体オルガノゲルが、前記ゲル化開始剤の添加後5秒~15分以内に形成される、態様1に記載の方法。
【0040】
態様3:前記固体オルガノゲルが、相互接続した固相ポリマー構造の多孔質ネットワークを含む、態様1または2に記載の方法。
【0041】
態様4:前記多孔質ネットワークが、前記群のうちの前記第1の前駆体と、前記群のうちの前記第2の前駆体との間の接触を維持する、態様1~3のいずれか1項に記載の方法。
【0042】
態様5:前記接触が、少なくとも約300℃の温度に維持される、態様1~4のいずれか1項に記載の方法。
【0043】
態様6:前記第1の前駆体が、鉄を含み、前記第2の前駆体が、リチウム源及びリン酸を含み、前記リン酸遷移金属リチウムカソード材料が、リン酸鉄リチウムである、態様1~5のいずれか1項に記載の方法。
【0044】
態様7:前記第1の前駆体が、鉄を含み、前記第2の前駆体が、リチウム源及びリン酸を含み、前記リン酸遷移金属リチウムカソード材料が、リン酸鉄リチウムである、態様1~6のいずれか1項に記載の方法。
【0045】
態様8:前記鉄が、鉄(II)塩、鉄(III)塩、酸化鉄(II)(FeO)、酸化鉄(III)(Fe)、混合酸化鉄(Fe)、またはそれらの組み合わせの形態で存在する、態様1~7のいずれか1項に記載の方法。
【0046】
態様9:前記固体オルガノゲルが、フロログルシノール-フルフラールポリマーまたはレゾルシノール-フルフラールポリマーを含み、前記1つ以上の炭素前駆体が、フロログルシノールまたはレゾルシノール及びフルフラールである、態様1~8のいずれか1項に記載の方法。
【0047】
態様10:前記ゲル化開始剤が、アミン塩基または酸である、態様9に記載の方法。
【0048】
態様11:前記固体オルガノゲルが、ポリウレタンポリマーを含み、前記1つ以上の炭素前駆体が、ポリオール及びイソシアネートを含む、態様1~8のいずれか1項に記載の方法。
【0049】
態様12:前記ゲル化開始剤が、アルキルアミンを含む、態様11に記載の方法。
【0050】
態様13:前記オルガノゲルが、ポリアミック酸ポリマーを含み、前記ゲル化開始剤が、無水酢酸、酢酸、またはそれらの組み合わせを含む、態様1~8のいずれか1項に記載の方法。
【0051】
態様14:前記前駆体の群が、マイクロ波感受性を有する前駆体を含み、前記熱分解することが、マイクロ波放射を適用することによって実施される、態様1~13のいずれか1項に記載の方法。
【0052】
態様15:前記マイクロ波感受性を有する前駆体が、炭素、マグネタイト、及びマグヘマイトのうちの1つ以上を含む、態様14に記載の方法。
【0053】
態様16:前記マイクロ波感受性を有する前駆体が、20nm~100nmの特徴的な寸法を有するマグネタイト及びマグヘマイトのうちの1つ以上のナノ粒子を含む、態様14に記載の方法。
【0054】
態様17:前記第1の前駆体が、マンガン、バナジウム、またはその両方を含み、前記第2の前駆体が、リチウム源及びリン酸を含み、前記リン酸遷移金属リチウムカソード材料が、リン酸マンガンリチウムまたはリン酸バナジウムリチウムである、先行態様のいずれか1項に記載の方法。
【0055】
態様18:前記方法が、マイクロ波放射を適用することによって、前記リン酸遷移金属リチウムカソード材料を乾燥させることを更に含む、先行態様のいずれか1項に記載の方法。
【0056】
態様19:1グラム超の前記第1の密度を有する前記固相が、強磁性鉄化合物、フェリ磁性鉄化合物、またはその両方を含む、先行態様のいずれか1項に記載の方法。
【0057】
態様20:前記強磁性鉄化合物、前記フェリ磁性鉄化合物、またはその両方が、鉄含有アノードを、多孔質炭素基材、酸素カソード、ならびに前記鉄含有アノード及び前記多孔質炭素基材の両方と接触している電解質を含む電気化学セル内で酸化させることを含む方法によって合成され、前記酸化させることが、20nm~100nmの特徴的な寸法を有する前記強磁性鉄化合物、前記フェリ磁性鉄化合物、またはその両方の粒子を生成する、先行態様のいずれか1項に記載の方法。
【0058】
態様21:前記方法が、磁気濾過によって前記粒子を除去することを更に含む、態様20に記載の方法。
【0059】
態様22:前記方法が、マイクロ波放射を適用することによって前記粒子を乾燥させることを更に含む、先行態様のいずれか1項に記載の方法。
【0060】
態様23:前記電気化学セルの操作及び前記強磁性鉄化合物、前記強磁性鉄化合物、またはその両方の前記形成が、15℃~35℃の温度で行われる、態様20に記載の方法。
【0061】
態様24:本明細書に開示の方法によって調製された、リン酸遷移金属リチウムカソード材料。
【0062】
態様25:本明細書に開示の方法によって調製されたリン酸遷移金属リチウムカソード材料を含む、エネルギー貯蔵システム。
【0063】
態様26:オリビン型リン酸鉄リチウムを含み、導電性炭素マトリックスと一体であるナノ粒子を含む、組成物であって、前記ナノ粒子が、20nm~1000nmの特徴的な寸法、及び10メートル(m)/グラム(g)~65m/gの比表面積を有する、前記組成物。
【0064】
態様27:前記特徴的な寸法が、30nm~70nmであり、前記比表面積が、20m/g~65m/gである、態様26に記載の組成物。
【0065】
態様28:前記特徴的な寸法が、30nm~60nmであり、前記比表面積が、22m/g~40m/gである、態様26に記載の組成物。
【0066】
態様29:前記特徴的な寸法が、20nm~40nmであり、前記比表面積が、60m/g~80m/gである、態様26に記載の組成物。
【0067】
態様30:前記ナノ粒子が、マグネタイト、マグヘマイト、またはその両方を更に含む、態様26~29のいずれか1項に記載の組成物。
【0068】
態様31:前記ナノ粒子が、マンガンを更に含む、態様26~30のいずれか1項に記載の組成物。
【0069】
態様32:前記導電性炭素マトリックスが、炭化オルガノゲルポリマーマトリックスを含む、態様26~31のいずれか1項に記載の組成物。
【0070】
態様33:本明細書に開示の組成物を含む、エネルギー貯蔵システム。
【0071】
本開示のこれら及び他の特徴、態様、及び利点は、以下に簡潔に記載される添付の図面と一緒に、以下の詳細な説明を閲読することから明らかになるであろう。本発明は、上記の態様のうちの2つ、3つ、4つ、またはそれ以上の任意の組み合わせ、ならびに本開示に記載の任意の2つ、3つ、4つ、またはそれ以上の特徴または要素の組み合わせを、そのような特徴または要素が本明細書の特定の態様の記載で明示的に組み合わされているかどうかにかかわらず、含む。本開示は、別途文脈が明らかに示さない限り、その様々な態様のうちのいずれにおいても、開示の発明の任意の分離可能な特徴または要素は、組み合わせ可能であることが意図されているとみなされるべきであるように、総体的に閲読されることが意図される。
【0072】
技術の態様の理解を提供するために、必ずしも縮尺通りに描かれていない添付の図面が参照される。図面は、単なる例示であり、技術を限定するものとして解釈されるべきではない。本明細書に記載の本開示は、添付の図面において、限定としてではなく、例示として示されている。
【図面の簡単な説明】
【0073】
図1図1は、炭素マトリックス内のリン酸鉄リチウムへの従来の固体状態での合成経路の概略図である。
図2図2は、本開示の非限定的な態様による、炭素マトリックス内のリン酸鉄リチウムへのスラリー/ゾル-ゲル合成経路の概略図である。
図3図3は、非限定的な態様による、炭素エアロゲル構成成分を使用する、限定されないが、鉄を含む遷移金属を酸化させるためのシステムを概略的に示す。
図4図4は、非限定的な態様による、炭素エアロゲル構成成分を使用する、限定されないが、鉄を含む遷移金属を酸化させるための電気化学セルを概略的に示す。
図5A図5Aは、本開示の非限定的な態様による、鉄の強制空気アノード酸化によって調製されたナノ粒子状マグネタイト(Fe)の試料の100,000倍の倍率での走査型電子顕微鏡写真である。
図5B図5Bは、本開示の非限定的な態様による、鉄の強制空気アノード酸化によって調製されたナノ粒子状マグネタイトの試料の粉末X線回折(XRD)パターンである。
図6図6は、本開示の非限定的な態様による、鉄の強制空気アノード酸化からナノ粒子状マグネタイトを調製し、それをリン酸鉄リチウムへと炭素マトリックス内で変換する半連続的な方法の概略図である。
図7図7A及び7Bは、本開示の非限定的な態様に従って調製された炭素マトリックス内のリン酸鉄リチウムの試料の2つの倍率(それぞれ、1,490倍及び5,050倍)での走査型電子顕微鏡写真である。
図8図8は、本開示の非限定的な態様に従って調製された炭素マトリックス内のリン酸鉄リチウムの試料の粉末X線回折(XRD)パターンである。
図9図9A及び9Bは、本開示の非限定的な態様に従って調製された炭素マトリックス内のリン酸鉄リチウムの試料の2つの倍率(それぞれ、10,000倍及び49,900倍)での走査型電子顕微鏡写真である。
図10図10は、本開示の非限定的な態様に従って調製された炭素マトリックス内のリン酸鉄リチウムの試料の粉末XRDパターンである。
図11図11A及び11Bは、本開示の非限定的な態様に従って調製された炭素マトリックス内のリン酸鉄リチウムの試料の2つの倍率(それぞれ、10,000倍及び100,000倍)での走査型電子顕微鏡写真である。
図12図12は、本開示の非限定的な態様に従って調製された炭素マトリックス内のリン酸鉄リチウムの試料の粉末XRDパターンである。
図13図13A及び13Bは、本開示の非限定的な態様に従って調製された炭素マトリックス内のリン酸鉄リチウムの試料の2つの倍率(それぞれ、2,000倍及び20,000倍)での走査型電子顕微鏡写真である。
図14図14は、本開示の非限定的な態様に従って調製された炭素マトリックス内のリン酸鉄リチウムの試料の粉末XRDパターンである。
図15図15A及び15Bは、本開示の非限定的な態様に従って調製された炭素マトリックス内のリン酸鉄リチウムの試料の2つの倍率(それぞれ、2,000倍及び50,000倍)での走査型電子顕微鏡写真である。
図16図16は、本開示の非限定的な態様に従って調製された炭素マトリックス内のリン酸鉄リチウムの試料の粉末XRDパターンである。
図17図17は、本開示の非限定的な態様に従って調製された炭素マトリックス内のリン酸鉄リチウムの試料の粉末XRDパターンである。
【発明を実施するための形態】
【0074】
本技術のいくつかの例示的な態様について記載する前に、本技術は、以下の説明に記載の構成またはプロセスステップの詳細に限定されないことが理解されるものである。本技術は、他の態様が可能であり、様々な方式で実践または実行することが可能である。
【0075】
一般に、本技術は、導電性炭素マトリックス内にリン酸遷移金属リチウムカソード材料を調製するための方法を対象とする。本開示によれば、驚くべきことに、本明細書に開示されるように調製されたリン酸遷移金属リチウムカソード材料は、大量消費型の粉砕ステップを必要とせずに、より均質な生成物を提供し、また、リン酸遷移金属リチウムを調製するための従来の方法と比較して、向上したタップ密度を有するカソード材料を提供することが見出された。更に、開示の方法は、連続的な三次元導電性炭素マトリックス内で、炭素と密接に混合されたリン酸遷移金属リチウムカソード材料を提供する。
【0076】
したがって、本明細書で提供されるのは、リン酸鉄リチウム、リチウム-遷移金属-リン酸塩、及びフルオロリン酸バナジウムリチウムカソード材料を導電性炭素マトリックス内で調製する方法である。一般的な非限定的な説明として、開示の方法は、一般に、リン酸遷移金属リチウムカソード材料を合成するための前駆体の群を組み合わせ、流体状態で1つ以上の炭素前駆体を提供し、前駆体の群を1つ以上の炭素前駆体と混合して前駆体混合物を形成することと、ゲル化開始剤を前駆体混合物に添加することと、1つ以上の炭素前駆体にゲル化を施すことを可能にし、固体オルガノゲルを形成することと、固体オルガノゲルを熱分解して導電性炭素マトリックス内にリン酸遷移金属リチウムカソード材料を形成することと、を含む。更に提供されるのは、開示の方法によって調製されたリン酸遷移金属リチウムカソード材料、オリビン型リン酸鉄リチウムを含み、導電性炭素マトリックスと一体であるナノ粒子を含む組成物、及び本明細書に記載のリン酸遷移金属リチウムカソード材料または組成物を含むエネルギー貯蔵システムである。本方法の構成成分、材料、及び材料を含む生成物の各々は、本明細書で以下に更に説明される。
【0077】
定義
この開示で使用される用語に関して、以下の定義が提供される。本出願は、別途用語が現れる本文の文脈が異なる意味を必要としない限り、以下に定義される以下の用語を使用する。
【0078】
「a」及び「an」という冠詞は、冠詞の文法上の目的語のうちの1つまたは2つ以上(すなわち、少なくとも1つ)を指すために本明細書で使用される。
【0079】
本明細書全体を通して使用される「約」という用語は、小さな変動について記載し、説明するために使用される。例えば、「約」という用語は、±10%以下、または±2%以下、±1%以下、±0.5%以下、±0.2%以下、±0.1%以下、もしくは±0.05%以下などの±5%以下を指し得る。本明細書の全ての数値は、明示的に示されているかどうかにかかわらず、「約」という用語によって修飾される。当然ながら、「約」という用語によって修飾された値は、特定の値を含む。例えば、「約5.0」は、5.0を含む必要がある。
【0080】
本明細書で引用される任意の範囲は、包括的である。
【0081】
本明細書で使用される場合、「含む」及び「含むこと」という用語、ならびにその変形は、指定された特徴、ステップ、または整数を含むことを意味する。この用語は、他の特徴、ステップ、または構成成分の存在を除くものと解釈されるものではない。本発明は、開示の特徴及び特許請求される特徴を含むか、それからなるか、またはそれから本質的になる。
【0082】
本開示の文脈において、「フレームワーク」または「フレームワーク構造」という用語は、ゲルまたはキセロゲルの固体構造を形成する、相互接続したオリゴマー、ポリマー、またはコロイド粒子のネットワークを指す。フレームワーク構造を構成するポリマーまたは粒子(例えば、炭素)は、典型的には、約100オングストロームの直径を有する。しかしながら、本開示のフレームワーク構造はまた、ゲルまたはキセロゲル内の固体構造を形成する、全ての直径サイズの相互接続したオリゴマー、ポリマー、またはコロイド粒子のネットワークを含み得る。
【0083】
いくつかの態様では、ゲル材料は、本明細書では、具体的にはキセロゲルと称され得る。本明細書で使用される場合、「キセロゲル」という用語は、実質的な体積低減を回避するか、または圧縮を遅らせるための予防措置を講じることなく、対応する湿潤ゲルから全ての膨張剤を除去することによって形成される、開放型の非流体コロイドまたはポリマーネットワークを含むゲルの種類を指す。キセロゲルは、一般に、コンパクトな構造で構成される。キセロゲルは、周囲圧力乾燥中に実質的な体積低減を被り、一般に、窒素吸着分析によって測定して、約0~約20m/gなどの0~100m/gの表面積を有する。
【0084】
本明細書で使用される場合、「ゲル化」または「ゲル遷移」という用語は、ポリマー系、例えば、本明細書に記載のPFまたはポリイミドからの湿潤ゲルの形成を指す。「ゲル点」として定義される、本明細書に記載の重合、イミド化、または乾燥の時点で、ゾルは、流動性を失う。任意の特定の理論に拘束されることを意図するものではないが、ゲル化点は、ゲル化している溶液が、流れに対する抵抗を呈する点とみなすことができる。本文脈では、ゲル化は、初期のゾル状態(例えば、ポリアミック酸のアンモニウム塩の液体溶液)から、分散状態が固化し、ゾルゲル(ゲル点)まで、高粘度の分散状態を通って進行し、湿潤ゲル(例えば、ポリイミドゲル)が得られる。溶液中のポリマーが、もはや流れることができない形態のゲルへと変わるためにかかるそのような時間は、「現象的ゲル化時間」と称される。形式上、ゲル化時間は、レオロジーを使用して測定される。ゲル点では、固体ゲルの弾性特性が、流体ゾルの粘性特性を上回り始める。形式的なゲル化時間は、ゲル化しているゾルの実構成成分及び架空構成成分の複素弾性率が交差する時間に近い。2つの弾性率は、レオメータを使用して時間と相関して監視される。時間は、ゾルの最後の構成成分が溶液に追加された瞬間から計測を開始する。例えば、H.H.Winter“Can the Gel Point of a Cross-linking Polymer Be Detected by the G’-G’ Crossover?”Polym.Eng.Sci.,1987,27,1698-1702、S.-Y.Kim,D.-G.Choi and S.-M.Yang“Rheological analysis of the gelation behavior of tetraethylorthosilane/vinyltriethoxysilane hybrid solutions“Korean J.Chem.Eng.,2002,19,190-196、及びM.Muthukumar”Screening effect on viscoelasticity near the gel point”Macromolecules,1989,22,4656-4658におけるゲル化の考察を参照されたい。いくつかの態様では、ゲル化は、好適なゲル化開始剤の添加によって誘導される。他の態様では、ゲル化は、例えば、ポリアミック酸の塩を含む溶液からの溶媒の除去によって誘導され得る。そのような溶媒除去は、限定されないが、噴霧乾燥を含む様々な乾燥技法によって達成され得る。
【0085】
本明細書で使用される場合、「湿潤ゲル」という用語は、相互接続した孔のネットワーク内の移動性の介在する相が、主に、従来の溶媒または水などの液相で構成されるゲルを指す。湿潤ゲルの例としては、限定されないが、アルコゲル、ヒドロゲル、ケトゲル、炭素ゲル、及び当業者に既知の他の湿潤ゲルが挙げられる。
【0086】
本明細書で使用される「炭素キセロゲル」という用語は、多孔質の炭素系材料を指す。炭素キセロゲルのいくつかの非限定的な例としては、炭化ポリイミドゲルなどの炭化キセロゲルが挙げられる。キセロゲルの文脈における「炭化」という用語は、オルガノゲル組成物を少なくとも実質的に純粋な炭素に分解または変換するために熱分解を施されたオルガノゲル(例えば、PFポリマーまたはポリイミド)を指す。本明細書で使用される場合、「熱分解する」もしくは「熱分解」、または「炭化」という用語は、熱によって引き起こされる、純粋なまたは実質的に純粋な炭素への有機マトリックスの分解または変換を指す。本明細書で以下に記載されるそのような熱分解中に、マトリックス内に存在する様々な構成成分の反応が生じ、同時にまたはその後、炭素マトリックス内にそれぞれのリン酸またはフルオロリン酸遷移金属リチウムカソード材料が形成される。
【0087】
本明細書で使用される場合、「平均粒径」という用語は、D50と同義であり、粒子の集団の半分が、この点を上回る粒径を有し、半分が、この点を下回る粒径を有することを意味する。粒径は、レーザ光散乱技法によって、または顕微鏡技法によって測定され得る。別途示されない限り、本明細書で報告される平均粒径は、較正スケールバー及び画像処理ソフトウェア(ImageJなど)を使用したSEM画像の視覚的解釈によって得られる。複数の粒子をランダムに測定し、結果を平均化し、標準偏差を計算する。二次粒子及び凝集体については、レーザ回折粒径分析が使用される。
【0088】
本開示の文脈において、「密度」という用語は、材料の単位体積当たりの質量の測定値を指す。「密度」という用語は、一般に、材料の真のもしくはHe真密度、材料もしくは組成物のかさ密度、または材料もしくは組成物のタップ密度を指す。密度は、典型的には、kg/mまたはg/cmとして報告される。
【0089】
材料のHe真密度は、材料内の孔及び材料の粒子間の空隙を除く、材料の質量対材料の体積の比である。He真密度は、限定されないが、ヘリウムピクノメトリを含む当該技術分野で既知の方法によって決定することができる。
【0090】
材料のかさ密度は、材料内の孔及び材料の粒子間の空隙を含む、材料の質量対材料の体積の比である。「包絡密度」とも称される、かさ密度は、限定されないが、Standard Test Method for Dimensions and Density of Preformed Block and Board-Type Thermal Insulation(ASTM C303、ASTM International,West Conshohocken,Pa.)、Standard Test Methods for Thickness and Density of Blanket or Batt Thermal Insulations(ASTM C167、ASTM International,West Conshohocken,Pa.)、またはDetermination of the apparent density of preformed pipe insulation(ISO18098、International Organization for Standardization,Switzerland)を含む、当該技術分野で既知の方法によって決定され得る。本開示の文脈において、別途記述されない限り、密度測定値は、ASTM C167基準に従って取得される。
【0091】
本開示の文脈において、材料の「タップ密度(tap density)」または「タップ密度(tapped density)」という用語は、材料が特定の条件下で振動またはタップされたときに測定された材料の質量対材料の体積の比である。粉末のタップ密度は、そのランダムな高密度充填を表す。タップ密度値は、不規則な形状の粒子と比較して、より規則的な形状の粒子(例えば、球体)で高い。タップ密度は、式中、M=グラムでの質量、及びV=立方センチメートル(cm)でのタップされた体積である、式M/Vを使用して計算することができる。タップ密度は、一般に、まず、既知の試料塊を目盛り付きシリンダに穏やかに導入し、粉末を圧縮せずに慎重に水平にすることによって測定される。次いで、好適な固定の落下距離及び公称落下速度を提供する好適な機械的タップ密度試験機を使用して、シリンダを上昇させ、シリンダが自重で落下させることによって、シリンダを機械的にタップする。タップ密度測定のための標準的な試験方法は、MPIF-46、ASTM B-52722、及びISO3953に記載されている。別途示されない限り、本明細書に記載の材料のタップ密度は、ASTM B-52722の方法によって得られる。
【0092】
本明細書で使用される場合、「正極」という用語は、カソードと交換可能に使用される。同様に、「負極」という用語は、アノードと交換可能に使用される。
【0093】
本開示の文脈において、「電気伝導率」という用語は、電流を伝導する材料の能力の測定値、またはそれを通過またはその中での電子の流れを可能にする他のものを指す。電気伝導率は、具体的には、材料の単位サイズ当たりの材料の電気コンダクタンス/サセプタンス/アドミタンスとして測定される。典型的には、S/m(シーメンス/メートル)またはS/cm(シーメンス/センチメートル)として記録される。材料の電気伝導率または抵抗率は、例えば、限定されないが、(ASTM F84-99のデュアル構成試験方法を使用する)インライン4点抵抗率を含む、当該技術分野で既知の方法によって決定することができる。本開示の文脈において、電気伝導率の測定は、別途記述されない限り、電圧(V)を電流(I)によって除算したものを測定することによって得られる、ASTM F84-抵抗率(R)測定に従って取得される。ある特定の態様では、本開示の材料は、約10S/cm以上、20S/cm以上、30S/cm以上、40S/cm以上、50S/cm以上、60S/cm以上、70S/cm以上、80S/cm以上、またはこれらの値のうちの任意の2つの間の範囲の電気伝導率を有する。
【0094】
本明細書で使用される「実質的に」という用語は、別途示されない限り、特定の文脈(例えば、実質的に純粋な、実質的に同じなど)に関連する、参照される特徴、量などの、例えば、約95%超、約99%超、約99.9%超、99.99%超、または更には100%程度高いことを意味する。
【0095】
I.導電性炭素マトリックス内にリン酸遷移金属リチウムカソード材料を調製する方法
一態様では、導電性炭素マトリックス内にリン酸遷移金属リチウムカソード材料を調製する方法が提供される。本明細書で上述されるように、リン酸鉄リチウム(LFP)などのリン酸遷移金属リチウムカソード材料を調製するための多くの以前に報告された合成プロセスは、均質な生成物を提供するのに必要な前駆体間の密接な接触を達成するために、固相前駆体材料の(例えば、ボールミリングを介した)大掛かりな機械的混合を伴う。更に、そのような固相スキームは、複数のエネルギー大量消費型のステップを利用する。例えば、図1は、典型的な固相プロセス方法100の概略図を提供する。図1を参照すると、乾燥、混合、粉砕、か焼、及び焼成は全て、顕著なエネルギー入力、時間、またはその両方を必要とし、生産コストを増加させる。エネルギー大量消費型のステップは、アスタリスクによって示される。対照的に、本明細書に開示の方法は、少なくとも、エネルギー及び/または時間の大量消費型のステップの数を低減することに関して有利である。例えば、図2は、本明細書に記載のスラリー/ゾル-ゲル合成方法を使用する非限定的な態様による、プロセス200の概略図を提供する。図2を参照すると、ステップの総数、具体的にはエネルギー大量消費型のステップの数は、図1のスキームと比較して低減する。更に、上述したように、開示の方法は、より小さなスケール(例えば、ナノサイズの溶媒和分子スケール)での構成成分のより密接な混合及び相互作用を可能にし、これは、合成中の不純物の形成を緩和することができ、より均質な生成物を提供する。開示の方法の別の利点は、リン酸遷移金属リチウム前駆体の存在下でのオルガノゲル前駆体のゲル化が、連続的な三次元導電性炭素マトリックス内で炭素と密接に混合しているカソード材料の生成を可能にしながら、ゲル化中に形成されたオルガノゲルマトリックスが、反応構成成分の相分離を阻害することである。
【0096】
別の態様では、本明細書に開示の液相(例えば、水)、不混和性溶媒、前駆体(例えば、リン酸水溶液)、または様々な溶液、懸濁液、もしくはエマルションからのそれらの組み合わせの除去中に、反応構成成分の相分離が阻害され得る。例えば、溶液、懸濁液、またはエマルションの乾燥または濃縮によるそのような除去中の、様々な構成成分を含む自己支持性固相の形成は、ゲル化開始剤の存在下でゲル化前駆体をゲル化することによって形成される自己支持性固相オルガノゲルと同じ役割を果たし得る。
【0097】
一般的な非限定的な説明として、開示の方法は、一般に、リン酸遷移金属リチウムカソード材料を合成するための前駆体の群を組み合わせ、流体状態で1つ以上の炭素前駆体を提供し、前駆体の群を1つ以上の炭素前駆体と混合して前駆体混合物を形成することと、ゲル化開始剤を前駆体混合物に添加することと、1つ以上の炭素前駆体にゲル化を施すことを可能にし、固体オルガノゲルを形成することと、固体オルガノゲルを熱分解して導電性炭素マトリックス内にリン酸遷移金属リチウムカソード材料を形成することと、を含む。本方法の個々の構成成分及びその調製操作の各々は、本明細書で以下に更に説明される。
【0098】
A.リン酸遷移金属リチウムカソード材料の前駆体
開示の方法は、リン酸遷移金属リチウムカソード材料を合成するための前駆体の群を組み合わせることを含み、群のうちの少なくとも第2の前駆体が、第2の密度を有する液相を含み、第2の密度が、第1の密度未満である。
【0099】
1.第1の前駆体
前駆体の群のうちの少なくとも第1の前駆体は、1グラム(g)/立方センチメートル(cc)超の第1の密度を有する固相を含む。いくつかの態様では、密度は、約1、約2、約3、約4、または約5g/ccなどの、約1~約5の範囲である。
【0100】
いくつかの態様では、前駆体の群は、遷移金属塩または遷移金属酸化物である、第1の前駆体を含む。本明細書で使用される場合、「遷移金属塩」及び「遷移金属酸化物」という用語は、遷移金属の任意の塩または酸化物を指し、2つ以上の遷移金属の混合物を含み得る。本明細書で使用される場合、「遷移金属」という用語は、周期表のdブロック内の任意の金属元素を指し、これは、白金族金属を除く、周期表の第3族~第12族を含む。遷移金属塩または酸化物は、遷移金属の様々な酸化状態を含み得る。酸化物に関して、これらとしては、限定されないが、特定の遷移金属の原子価(例えば、2、3、4、または5)に応じて、一酸化物、二酸化物などを挙げることができる。一般に、塩または酸化物中に存在する1つの遷移金属または複数の遷移金属は、(II)または(III)酸化状態である。好適な遷移金属としては、例えば、バナジウム、チタン、マンガン、鉄、コバルト、銅、及びニッケルが挙げられる。特に好適な遷移金属としては、マンガン、鉄、及びバナジウムのうちの1つ以上が挙げられる。それぞれの塩、酸化物、または混合酸化物の形態の特定の遷移金属の選択は、意図される電池セル電圧または他の性能パラメータ、可用性、コスト、毒性、及び他の変数に基づいて、当業者によって決定され得る。
【0101】
いくつかの態様では、第1の前駆体は、遷移金属酸化物を含む。開示の方法での使用に好適な遷移金属酸化物(例えば、Fe及び/またはFeなどの酸化鉄)の粒径は変動し得る。一般に、約5ミクロン以下などの小さな粒径は、そのような粒径が、他の反応構成成分(例えば、リチウム及びリン酸イオン、ならびにオルガノゲル前駆体材料)との遷移金属酸化物の密接な接触を可能にするので、特に好適である。いくつかの態様では、遷移金属酸化物は、約1~約5ミクロンの範囲などの約5ミクロン以下の平均粒径を有する。いくつかの態様では、遷移金属酸化物は、(以下に記載されるように)、約20nm~約100nmの範囲などの約5ナノメートル(nm)~約200nmの平均粒径を有するように合成され得る。あるいは、約5ミクロン以上の平均粒径を有する遷移金属酸化物を粉砕して、所望の粒径範囲を提供してよい。そのような粉砕は、他の反応構成成分と混合する前に実施してもよいか、または本明細書で以下に更に記載するように、その場で実施してもよい。
【0102】
開示の方法で使用する前の遷移金属酸化物の密度は、変動し得る。一般に、高タップ密度の遷移金属酸化物が、特に好適である。本明細書で使用される場合、「高密度」という用語は、約1.1g/cm超のタップ密度を有する材料を指す。任意の特定の理論に拘束されることを望むものではないが、高タップ密度の遷移金属酸化物は、最終的なリン酸鉄リチウムカソード材料の物理的特性を(例えば、「同型」反応を介して)鋳型化するように機能し、望ましい高密度の生成物をもたらすと考えられる。カソード材料の単位体積当たりで、より多くの電力が生成される(すなわち、より大きな体積エネルギー密度が提供される)ので、高密度カソード材料は、電池用途に望ましいとみなされる。驚くべきことに、いくつかの態様では、開示の方法は、約0.8~約1.1g/cmの範囲などの約0.8g/cm以上のタップ密度を有するカソード材料を提供する。したがって、本開示のカソード材料のタップ密度は、商業的実行可能性の範囲内である(すなわち、以前の利用可能なLFPのものと同等である)。
【0103】
いくつかの態様では、遷移金属酸化物の遷移金属は、マンガン、バナジウム、鉄、またはそれらの組み合わせを含む。いくつかの態様では、遷移金属酸化物の遷移金属は、マンガンまたはバナジウムである。
【0104】
いくつかの態様では、遷移金属酸化物の遷移金属は、マンガンである。好適な酸化マンガンの例としては、限定されないが、MnO、MnO、及びMnが挙げられる。いくつかの態様では、遷移金属酸化物は、酸化マンガン(II)(MnO)または酸化マンガン(III)(Mn)である。
【0105】
いくつかの態様では、遷移金属酸化物は、V、VO2,、またはVなどの酸化バナジウムである。いくつかの態様では、遷移金属酸化物は、酸化バナジウムであり、リン酸バナジウムリチウムカソード材料は、LiSc(POの構造種類を有する。
【0106】
いくつかの態様では、遷移金属酸化物の遷移金属は、鉄である。酸化鉄中の鉄の酸化状態は、変動し得る。例えば、酸化鉄は、酸化鉄(II)(FeO)、酸化鉄(III)(Fe)、またはそれらの組み合わせ(例えば、Fe)であり得る。
【0107】
特定の態様では、酸化鉄は、酸化鉄(III)(Fe)である。酸化鉄(III)は、安価かつ容易に入手可能な、酸化に対して安定である酸化物であり、したがって(例えば、酸化鉄(II)の場合であり得るように、酸化を回避するための)特別な取り扱いを必要としない。更に、約5ミクロン以下の平均粒径を有する酸化鉄(例えば、Fe)は、商業的に得ることができる。市販のバルクFe(すなわち、約1ミクロン超の粒径を有するFe)を粉砕して、所望のナノ粒子状材料を生成することができるが、これは、時間を消費する、エネルギー大量消費型のプロセスである。そのようなサイズを下げたFeは、本明細書では、「ナノ粒子状酸化鉄(III)」と称され、約30~約50ナノメートルの範囲などの約10ナノメートル~最大約100ナノメートルの範囲の平均粒径を有し得る。しかしながら、そのようなナノ粒子状酸化鉄(III)は、商業規模では非常に高価である。驚くべきことに、本開示によれば、安価かつ容易に入手可能なシュウ酸鉄(II)(FeC)を、二酸化炭素を放出しながら空気中で加熱して、ナノ多孔質酸化鉄(III)を提供することができることが見出された。例えば、空気雰囲気中でシュウ酸鉄を約350~約450℃の範囲の温度に約1時間の間加熱することによって、シュウ酸鉄がナノ多孔質酸化鉄(III)に変換されることが見出された。特に、シュウ酸鉄の熱分解によって生成される酸化鉄(III)粒子は、数ミクロン程度の平均粒径を有するが、100nm程度の孔径を有する内部浸透性多孔性を生じる。したがって、そのような粒子は、本明細書では、「ナノ多孔質」と称される。いくつかの態様では、FeC 2HOの熱分解によって得られるFeは、約9.95m/gのBET窒素表面積を有する。
【0108】
いくつかの態様では、酸化鉄は、マグネタイト(Fe)もしくはマグヘマイト(Fe)、またはその両方の固溶体もしくは混合物の形態であり、平均組成Fe3-x、(0≦x≦0.33)を有し、本明細書では磁性酸化鉄ナノ粒子(磁性IONP)と称される。そのようなIONPは、購入することができるか、または既知の方法に従って調製することができる。いくつかの態様では、IONPは、電気化学セル内の空気による鉄の酸化によって調製される。本開示によれば、ある特定の種類の炭素エアロゲルまたは他の多孔質炭素構造(例えば、炭化ポリウレタンフォーム、炭化ポリウレタンフォームの孔内の炭素エアロゲルの組み合わせ)が、室温で酸素を触媒的に還元するための「空気カソード」として作用することができることが見出された。水性電解質を有する電気化学セル内に配置されると、酸素は、鉄などの遷移金属を酸化しながら水酸化物アニオンへと還元され得る。いくつかの態様では、水酸化鉄、マグネタイト、マグヘマイト、またはそれらの組み合わせを生成するために、鉄が酸化され得る。本明細書に記載の炭素エアロゲルの触媒効果を使用して、室温(例えば、5℃~25℃)で固体状態の鉄を酸化させることができる。
【0109】
図3は、本明細書に記載の1つ以上の態様による、室温で鉄を酸化させるために使用されるシステム300の概略図である。システム300は、多孔質導電性炭素要素304、セパレータ308、電解質312、鉄を含む電極316、及び導体320を含む。理論に拘束されることを望むものではないが、炭素エアロゲル要素304は、酸素の還元のための活性化エネルギーを低減することができ、それによって、電気的に接続された鉄電極が室温の酸化還元反応に参与することを可能にすると考えられる。
【0110】
様々な態様では、多孔質導電性炭素要素304(「基材」と同等に称される)は、ポリイミドエアロゲルの熱分解を含む技法に従って合成及び/または生成することができる。いくつかの例では、熱分解されたポリイミドエアロゲルは、エアロゲルの合成または熱分解中に除去されない残留窒素または他のヘテロ原子(すなわち、非炭素原子)を含み得る。鉄電極316を酸化させる触媒として多孔質導電性炭素要素304を使用することによって、限定されないが、Fe(OH)、Fe(OH)、Fe、及びFeを含むカソード前駆体材料を生成することができる。本明細書に記載のプロセスは、空気、水、及び唯一の反応物として鉄金属を使用して、大量の廃棄水を生成することなく、固体状態の酸化鉄/水酸化鉄を生成することができる。
【0111】
本明細書に記載される態様のうちの多くは、電気化学セル内での炭素エアロゲル要素の使用について記載しているが、本明細書の態様は、炭素エアロゲルを含むものに限定されない。より一般には、多孔質導電性炭素要素304は、空気カソードとして作用することができる多様な多孔質炭素基材のうちのいずれかであり得る。炭素エアロゲル材料(例えば、ポリイミド由来炭素エアロゲル)は、室温で鉄などの遷移金属の高い酸化速度を支援すると考えられるが、他の多孔質炭素もまた、適切な実験条件下では同じ効果を有し得る。炭素エアロゲル基材の代わりに、または炭素エアロゲル基材に加えて使用することができる多孔質炭素基材の追加の例としては、限定されないが、多孔質グラファイト炭素基材、カーボンナノチューブから作製される炭素基材、炭化ポリマーフォーム(例えば、炭化ポリウレタンフォーム)、炭素フラーレン、グラフェン、酸化グラフェン、及び/または活性炭が挙げられる。いくつかの例では、これらの基材の比表面積は、少なくとも100m/gであり得る。例えば、本開示の多孔質導電性炭素要素304は、熱分解されていないエアロゲル前駆体の範囲の比表面積(例えば、100m/g~600m/g)を有する炭素エアロゲルであり得る。多孔質導電性炭素要素304は、モノリシック形態、粒子状形態、またはそれらの組み合わせの炭素エアロゲルであり得る。
【0112】
ある特定の態様では、本開示の多孔質導電性炭素材料または組成物は、約1シーメンス(S)/センチメートル(cm)以上、約5S/cm以上、約10S/cm以上、20S/cm以上、30S/cm以上、40S/cm以上、50S/cm以上、60S/cm以上、70S/cm以上、80S/cm以上、またはこれらの値のうちのいずれか2つの間の範囲の電気伝導率を有する。
【0113】
いくつかの例では、酸化還元反応の速度(より具体的には、鉄金属の酸化)は、反応が実施される1つ以上の条件を修正することによって選択することができる(例えば、参照反応速度と比較して増加または減少させることができる)。いくつかの例では、反応速度は、反応が実施される温度を増加させること、酸素の分圧を増加させること(それによって、ヒドロキシアニオン生成速度を増加させること)、電解質の濃度を(例えば、1モル(M)溶液から複数モル溶液へと)増加させること、及び/または炭素エアロゲル/遷移金属システム300に適用される電位差の大きさを増加させることのうちの1つ以上によって増加させることができる。同様に、反応速度は、先述のパラメータのうちのいずれかを制限することによって減少させることができる。また、電解質のpHまたは電解質の組成を変更することによって、反応速度、ならびに反応生成物(複数可)の組成及び形態に影響を及ぼすことができる。加えて、電解質の濃度を(例えば、1Mから0.2Mへ)低減する、及び/または電解質カチオンを(例えば、NaからKへ)変更することによって、ナノ粒子の平均直径をおよそ100nmから5nm~20nmほど低くまで低減することができることが予想外に見出された。これらのナノ粒子は、ひいては、有利に反応して、(以下の表1に記載の)非常に高い表面積を有する同様のサイズのリン酸金属リチウムカソード材料を形成することができる。
【0114】
いくつかの例では、酸素以外のガスを除外することによって、反応生成物に影響を与えることができる。例えば、純粋な酸素または二酸化炭素を除くガスの混合物を使用することによって、反応生成物中の炭酸塩種の存在を低減することができる。これは、ひいては、酸化鉄金属化合物中の望ましくない反応生成物(例えば、炭酸塩)の存在を低減及び/または排除することができる。
【0115】
セパレータ308は、イオンが通って移動することができる構造を提供する、電気絶縁材料である。この組み合わせは、多孔質導電性炭素要素304と鉄金属電極316との間のイオン移動を介した電流の流れを可能にしながら、システム300の電気的短絡を防止する。セパレータ308の例としては、とりわけ、セルロース系の紙、繊維状ポリマー生地、またはフェルトを挙げることができる。
【0116】
セパレータ308内に配置された電解質312は、多孔質導電性炭素要素304から鉄金属電極316へのイオン移動を容易にする。電解質の例としては、とりわけ、塩化ナトリウム(NaCl(水溶液))、塩化アンモニア(NHCl(水溶液)))、炭酸ナトリウム(NaCO3(水溶液))、塩化カリウム(KCl)の水溶液(例えば、蒸留水、脱イオン水、蒸留脱イオン水、水道水)が挙げられる。いくつかの例では、電解質の濃度は、溶質で飽和され得る。他の例では、電解質の濃度は、飽和溶液未満であり得る。いくつかの例では、電解質の濃度は、限定されないが、とりわけ、鉄金属アノードでの所望の反応速度(一般により高い濃度は、酸化速度を加速する)、鉄金属アノードでの酸化物反応生成物の形態及び/または構成を含む、様々な基準に従って選択され得る。
【0117】
理論に拘束されることを望むものではないが、電解質中の塩化物の存在は、鉄金属電極316の表面からのヒドロキシル化された反応生成物の分離を促進することが観察されている。したがって、塩化物含有電解質を使用する場合、反応が進行するにつれて、鉄金属電極316の新鮮な表面が自然に露出するので、プロセスは、鉄金属電極316の塊全体を反応生成物に自然に変換することができる。
【0118】
鉄金属電極316は、図3に図示されるように、多孔質導電性炭素要素304と電気的及びイオン的に連通している鉄金属片であり得る。いくつかの例では、鉄金属電極316は、導電性を改善するか、酸化反応速度を改善するか、またはその両方のために添加される、組成構成成分を含み得る。
【0119】
導体320は、炭素エアロゲル要素304及び遷移金属電極316を接続する、銅線、アルミニウム線、金線、及びそれらの合金などの電気導体であり得る。いくつかの例では、導体320はまた、鉄金属電極316での酸化反応を開始及び維持する電位をシステム300に印加するために使用され得る。
【0120】
いくつかの例では、外部源から導体320を介して印加される最小印加電位は、鉄電極316のために選択された鉄金属に応じて変動する。鉄金属酸化物316での酸化反応を促進するために必要な最小印加電位は、鉄金属電極316に対する酸素を(例えば、ヒドロキシアニオン生成のために)還元するために使用される炭素触媒の触媒活性の指標であり得る。最大電位は、電解質の電解(電気的に誘導される分解)を回避するように選択され得る。
【0121】
図4は、本開示の一態様による、電気化学セル400の概略図である。電気化学セル400は、システム300のいくつかの態様の代替的な表現である。電気化学セル400は、電極404、鉄金属構成成分408、導体412、多孔質導電性炭素要素416、酸化反応生成物層420、及び電解質424を含む。
【0122】
図4の電気化学セル400に示される要素の多くは、図3に示されるシステム300の文脈において上述される要素と同質である。電極404は、鉄金属構成成分408(鉄金属電極316と同質である)が電気的に連通している電気的接点であり得る。導体412は、導体320と同質である。多孔質導電性炭素要素416は、多孔質導電性炭素要素304と同質である。
【0123】
図3の文脈においてすでに記載されている要素に加えて、図4は、1ボルト(V)の大きさを有する外部電圧の印加時に、電気化学セル400内で生じる酸化還元反応を概略的に示す。酸化反応を促進するのに必要な印加電圧(「開始電圧」)の最小値の大きさは、構成成分408の特定の遷移金属(すなわち、鉄)、及び多孔質導電性炭素要素416の触媒効率によって決定され得る。いくつかの例では、電気化学セル400内の鉄金属の酸化は、最小値未満の大きさを有する印加電圧では生じ得ない。
【0124】
特に、図4は、酸素に対する多孔質導電性炭素要素416の曝露を概略的に示す。いくつかの例では、酸素は、空気、または空気中に見出されるものよりも高い酸素の濃度を有する商業用ガス混合物からなどのガス状であり得る。酸素は、電解質424で事前に湿潤された多孔質導電性炭素要素416に入ることができる。酸素は、電解質424も含有する、及び/または電解質424でコーティングされた多孔質導電性炭素要素416との遭遇時に、最終的に、電解質424によって溶媒和されたヒドロキシアニオンへと変換され得る。
【0125】
次いで、ヒドロキシアニオンは、酸化鉄金属成分408と反応して、鉄金属酸化物、水酸化物、及び/または鉄金属及びヒドロキシアニオンの反応から生じる他の反応生成物420のうちの1つ以上を形成し得る。これらの反応生成物は、図4の影付き領域420によって示される。図4に示される反応生成物420は、鉄金属構成成分408と直接接触しているが、そうである必要はない。上に示されるような異なる電解質組成は、反応生成物420における異なる物理的構成を生じ得る。例えば、電解質424中の塩化物の存在は、反応生成物420を生成し、これは、鉄金属構成成分408から分離される。
【0126】
いくつかの例では、酸素は、電気化学セル400内のカソードである。すなわち、多孔質導電性炭素要素416(「空気カソード」として機能する)に遭遇する酸素は、電気化学セル400の操作時に還元される。「e」と標識付けされた図4の矢印は、炭素エアロゲル要素416に入る酸素が、電気化学セル400の操作によって生成される電子のレシピエントであることを示す。酸素の量は、無尽蔵の源(例えば、地球の大気)から、または電極408の鉄金属のモル数以上のモル数を有する源からであり得るので、鉄金属電極408は、任意選択的に、完了まで反応することができる。特に、鉄金属電極408は、鉄金属構成成分408からの反応生成物420の分離時に新鮮な反応面が露出する場合、完了まで反応することができる。他の例では、鉄金属電極は、反応生成物420の接着層を通じて鉄金属電極408の未反応部分へのヒドロキシルイオンの拡散時に、部分的にまたは完全に反応することができる。電解反応は、進行して、鉄金属408を酸化して、水酸化鉄(II)Fe(OH)及び/またはその部分的酸化形態Fe(OH)-xOである、「グリーンラスト」を生成する。実際には、この材料は、反応チャンバの底部に落下し、例えば、重力によって、または別々のチャンバにポンプで送ることによって除去することができる。別々のチャンバでは、(部分的に酸化した)水酸化鉄を、塩基条件(例えば、pH>8)の空気で処理して、磁性IONPを得ることができる。
【0127】
電気化学セルの操作及び酸化鉄金属生成物(例えば、強磁性鉄化合物、フェリ磁性鉄化合物、またはその両方)の形成は、様々な温度で実施することができる。いくつかの態様では、操作は、15℃~35℃の温度で行われる。
【0128】
酸化鉄金属生成物の調製についてが、本明細書に記載されているが、電気化学/空気酸化プロセスは、鉄に限定されないことに留意されたい。他の金属を使用してもよく、当業者は、好適な金属及びそれらの酸化生成物を認識するであろう。理論に拘束されることを望むものではないが、安定な二価カチオンを形成することが可能な全ての金属(M)(例えば、Fe、Mn、Ni、Co、Cu、Zn、Snなど)では、Mアノードの表面に形成される即時反応生成物は、対応する金属二重水酸化物塩、M(OH)2であると考えられる。+2が可能な限り最も高い酸化状態である金属(例えば、Zn)を用いる場合、または金属が、+2よりも高い酸化状態(例えば、Ni、Co、Cu)の場合、低温の空気中で形成するのにエネルギー的に好都合ではなく、M(OH)も同様に、最終反応生成物であると思われる。Fe(及びMn)の特定の場合では、+3の酸化状態が低温の空気中で容易に利用可能であるので、M(OH)は、中間体である傾向があり、本明細書で以下に記載の潜在的なpH条件に応じて、より高い酸化状態をもたらす。
【0129】
磁性IONP(例えば、マグネタイト、マグヘマイト、及び/またはそれらの固溶体)は、強磁性であり、(水酸化鉄が常磁性であることに留意して)反応混合物から磁性によって分離することができる。次いで、回収されたマグネタイトを洗浄し、例えば、LFP合成における鉄源としての先行処理のために乾燥させる。
【0130】
上述のように生成された磁性IONPは、XRD分析を受けており、観察されたXRDパターンが、計算された立方体スピネルのパターンと一致することが確認されている。この方法で生成される磁性粒子は、ナノ粒子の形態、すなわち、走査型電子顕微鏡を使用して観察すると、20~100nmの領域のサイズを有する粒子である。驚くべきことに、プロセスで使用される電解質の濃度が、生成される粒子の粒径に影響を与え得たことが観察された。
【0131】
Feの特定の例では、Fe(OH)及び/またはその部分的酸化形態FeO(OH)2-x(すなわち、「グリーンラスト」)は、形成される第1の中間体であるように思われる。いくつかの態様では、水酸化鉄/酸化鉄生成物は、水酸化鉄(I)(Fe(OH))または部分的酸化形態(オキシ水酸化鉄;FeO(OH)2-x)である。したがって、いくつかの態様では、方法は、水酸化鉄またはオキシ水酸化鉄を、それぞれ、マグネタイト(Fe)またはマグヘマイト(Fe)に酸化変換することを更に含む。いくつかの態様では、酸化変換は、アルカリ性条件下での通気を含む。中性pHでの任意の特定の更なる処理なしでは、グリーンラストは、ゆっくりとゴエタイト、FeOOHに酸化する。一方で、pHを8超まで上げ、空気による制御された酸化は、脱水を伴うマグネタイト(Fe)をもたらす。空気によるマグネタイトの更なる酸化は、マグヘマイト(Fe;またはマグネタイトのスピネル表記のFe8/3V1/3O4、式中、V=空孔)をもたらす。マンガンの+3酸化状態の可用性に起因して、同様の変換が、予想される。
【0132】
いくつかの態様では、鉄の電気化学的空気酸化は、アルカリ性環境で実施され、磁性ではない酸化鉄/水酸化鉄の形態をもたらす。他の態様では、鉄の電気化学的空気酸化を、本明細書で上述されるように実施し、生じる水酸化鉄またはオキシ水酸化鉄を、単離し、その後、約8、約9、または約10~最大約11、約12、約13、または約14などの約8超のpHを有する水性環境に曝露させ、次いで、空気などの酸素源と接触させる。一態様では、アルカリ性水系に懸濁または溶解された水酸化鉄/オキシ水酸化鉄に通して、空気をバブリングする。そのようなアルカリ性水系は、例えば、炭酸塩または水酸化物などの塩基の水溶液によって提供され得る。
【0133】
いくつかの態様では、水酸化鉄/酸化鉄生成物は、汚染物質を除去するための精製及び/または洗浄を必要としない。塩化ナトリウムが電解質中に存在する例では、反応生成物は、反応生成物を水で洗浄することによって単純に除去することができる、良性の塩化ナトリウム(NaCl)を含み得る。塩化ナトリウムは、環境汚染が少なく、代替的な処理技法によって生成される硫酸塩及びアンモニアよりもヒトの健康への脅威が低い。電解質が塩化アンモニウム(NHCl)を含む例では、修復もまた、他のプロセスよりも問題が少ない。塩化アンモニウムは、か焼中に338℃で、NHとHClとのガス状混合物に分解される。NHClが、リサイクルすることができる固体形態に再度凝縮するように、ガス混合物の温度は、ガスの発生後に338℃未満に低減され得る。これを理由として、NHCl塩の不純物は、洗浄を必要とせず、したがって、廃棄水を生成しない。
【0134】
いくつかの態様では、IONPは、マグネタイト、マグヘマイト、またはそれらの固溶体もしくは混合物などの磁性であり、磁性プロセスによって電解質424から分離される。特に、酸化物生成物420を(例えば、永久磁石または電磁石からの)磁場に曝露させると、磁性IONP生成物が磁場によって引き付けられ、磁場によって保持される。次いで、保持されたマグネタイトを、例えば、水で洗浄し、その後、収集することができる。例えば、磁場を除去してもよいか、またはマグネタイトを磁石から物理的に分離してもよい。磁性IONPは、任意選択的に、任意の好適な従来手段によって乾燥させてもよいか、または湿潤形態もしくは部分的乾燥形態で以下に記載の開示の方法で利用してもよい。マグネタイト及びマグヘマイトは、マイクロ波感受性を呈するので、これらの反応生成物は、炉を介した間接加熱を使用するよりもエネルギー効率が高いマイクロ波放射を使用して加熱され、したがって乾燥させることができる。
【0135】
いくつかの態様では、前駆体の群は、マイクロ波感受性を有する前駆体を含む。1つの特定の態様では、マグネタイトは、マグネタイトのマイクロ波感受性を考慮すると、好ましい遷移金属酸化物である(すなわち、マイクロ波サセプタである)。マイクロ波エネルギーを受け取り、それを熱に変換することによって、マグネタイトは、無駄かつエネルギー非効率的な炉処理なしに、オルガノゲルの炭化及びLFPへの反応物の変換を可能にする。反応及び炭化プロセス中にマグネタイトが消費されると、そのマイクロ波感受性は減少する。しかしながら、マグネタイトの消費中に、オルガノゲルは、ますます炭素へと変換される。炭素もまた、マイクロ波サセプタであるので、徐々により多くのマイクロ波放射を熱へと変換し、それによってLFPへの反応物の変換を維持する。これらの構成成分の磁気感受性(例えば、強磁性、常磁性、またはその両方)はまた、エネルギー大量消費型かつ不便な熱乾燥に頼ることなく、試薬及び完成したLFPのマイクロ波乾燥を支援する。
【0136】
いくつかの態様では、開示の空気アノード酸化プロセスによって生成される酸化鉄は、ナノ粒子状である。本明細書で上述の空気アノード酸化によって生成されたナノ粒子状酸化鉄の走査型電子顕微鏡写真が、図5Aとして提供されており、平均(おおよそ立方体の)粒径は、約60nmであることを示す。驚くべきことに、平均粒径は、電解質の濃度を低減すること、及び/または電解質アニオンをNaからKに変更することによって低減することができることが見出された。粉末X線回折図が、図5Bとして提供されており、Fe3-x(0≦x≦0.33)生成物の立方体構造を実証している。いくつかの態様では、IONPは、組成Fe3-x(0≦x≦0.333)を有するマグネタイト-マグヘマイトの固溶体として形成される。そのような態様では、鉄の酸化状態は、2.67~3である。開示のように調製されたIONPの窒素吸着BET表面積は、例えば、電解質の同一性及び濃度の変化とともに変動し得る。例えば、本開示によれば、電解質として1MのNaClを使用して得られたFe3-xは、22.46m/gのBET表面積を有する一方で、電解質として0.2MのKClで得られたFe3-xは、40.22m/gのBET表面積を有することが見出された。したがって、プロセスは、意図される最終用途に応じて、異なるサイズの粒子を生成するように調整することができる。この場合の「サイズ」という用語は、粒子の特徴的な寸法を指す。おおよそ球状の粒子の特徴的な寸法は、直径であり得る。他の場合では、粒子の形状に応じて、特徴的な寸法は、幅、長さ、及び/または深さのうちの1つ以上であり得る。
【0137】
表1は、本明細書に記載の様々な実験条件下で、酸化鉄及びそれから調製された本開示の対応するLFPの粒径及び比表面積データを表す。いくつかの例は、予想外に市販の材料の10倍ほど大きい比表面積に近づくために、ボールミルを含むことに留意されたい。
【表1】
【0138】
磁性IONPを調製する開示の空気アノード酸化方法は、特に、磁性分離及び洗浄と組み合わせると、半連続的または連続的なプロセスで実装することができる。マグネタイトの半連続合成のための生成スキームの非限定的なフロー図を、図6に提供する。図6に示されるプロセスの各々は、異なる文脈で本明細書に記載されており、更なる説明を必要としない。
【0139】
いくつかの態様では、遷移金属酸化物の遷移金属は、マンガン及び鉄の組み合わせ(例えば、鉄-マンガン混合酸化物)である。いくつかの態様では、遷移金属酸化物は、式中、0.0≦x≦1.5である、式Fe3-xMnを有する混合酸化鉄-マンガンである。いくつかの態様では、生じるリン酸遷移金属リチウムカソード材料は、式中、0.0≦y≦0.5である、式LiFe1-yMnを有する。
【0140】
2.第2の前駆体
i.リン酸
前駆体の群のうちの少なくとも第2の前駆体は、第2の密度を有する液相を含み、第2の密度が、第1の密度未満(例えば、約1未満、約2未満、約3未満、約4未満、または約5g/cc未満)である。
【0141】
いくつかの態様では、前駆体の群は、リン酸水溶液(HPO)を含む液相を含む。一般に、リン酸の水溶液は、所望の体積の濃リン酸を所望の体積の水に添加することによって提供される。水溶液の体積及び溶液中に存在するリン酸の量(すなわち、濃度)は、変動し得る。一般に、リン酸は、LiMPOカソードファミリーでは約1:1、Li(POカソードファミリーでは約1:1.5の遷移金属対リン酸塩(PO 3-)のモル比を提供する量で提供される。いくつかの態様では、水溶液の体積は、約0.1~約10モル(すなわち、リットル当たりのモル)、または約2~3モルなどの約1~約5モルの範囲のリン酸濃度を提供するように選択される。
【0142】
ii.リチウムイオン源
いくつかの態様では、液相は、リチウムイオン源を含む。水溶性であるか、またはリン酸水溶液中に溶解させることが可能である任意のリチウム化合物が使用され得る。好適なリチウム塩の例としては、限定されないが、水酸化リチウム、炭酸リチウム、酢酸リチウム、塩化リチウムなどが挙げられる。1つの特に好適なリチウムイオン源は、比較的安価であり、容易に入手可能である炭酸リチウム(LiCO)である。炭酸リチウムは、二酸化炭素ガスの発生に伴い、徐々にリン酸水溶液に溶解する。存在するリチウムイオンの少なくとも一部分は、一塩基性リン酸リチウムとしてリン酸イオンと会合し得る。添加されるリチウムイオン源(例えば、炭酸リチウム)の量は、変動し得る。一般に、リチウムイオン源は、約1:1:1のリチウムイオン対リン酸塩及び遷移金属イオンのモル比を提供するのに十分な量で添加される。
【0143】
iii.第1または第2の前駆体の代替物
第1の前駆体及び第2の前駆体は、それぞれ、遷移金属酸化物及びリチウム/リン酸に関して上述されているが、本明細書では、第1の前駆体及び第2の前駆体の同一性が逆転され得ることが想定される。したがって、第1及び第2の前駆体の記載は、先述の態様に限定されることを意図するものではない。
【0144】
更に、遷移金属(例えば、鉄)の他の源が、本明細書では想定される。例えば、遷移金属は、鉄であり得るが、源は、酸化物以外であり得る。そのような代替物について、以下記載する。
【0145】
代替的な遷移金属源(シュウ酸鉄)
いくつかの態様では、遷移金属は、鉄であり、鉄源は、シュウ酸鉄である。驚くべきことに、本開示によれば、最初に酸化鉄(III)に変換することなく、シュウ酸鉄を方法で直接使用することができることが見出された。したがって、別の態様では、方法は、シュウ酸鉄(FeC)、リン酸水溶液(HPO)、及び炭酸リチウムを前駆体の群として組み合わせることを含む。導電性炭素マトリックス内で生じるリン酸鉄リチウムカソード材料は、連続的な方法(シュウ酸鉄が、最初に酸化鉄(III)に変換される)によって調製されるものと同等のナノ粒子状形態を有することが見出された。
【0146】
いくつかの態様では、遷移金属は、鉄であり、鉄源は、シュウ酸鉄である。しかしながら、この順列では、シュウ酸鉄が、最初にリン酸鉄に変換され、リン酸鉄を、炭酸リチウム及び1つ以上のオルガノゲル前駆体材料と反応させる。したがって、別の態様では、方法は、シュウ酸鉄(FeC)とリン酸水溶液(HPO)とを組み合わせて、式中、xが、1であり、yが、1であるか、またはxが、3であり、yが、2である、式Fe(POを有するリン酸鉄の混合物を形成することと、リン酸鉄の混合物をリチウムイオン源と組み合わせることと、を含む。理論に拘束されることを望むものではないが、混合及び熱分解中に生じる化学反応は、以下の等式によって表すことができると考えられる:
(1)3Fe(C+2HPO→Fe(PO+3H、式中、x=y=1
(2)Fe(POLiCO+PAA/HO→LFP/C、式中、x=y=1
(3)Fe(PO+LiPO+PAA/HO→LFP/C、式中、x=3、y=2。
【0147】
代替的な遷移金属源(硫酸鉄及び硫酸マンガン)
いくつかの態様では、遷移金属は、鉄及びマンガンである。1つの順列では、硫酸鉄及び硫酸マンガンをシュウ酸と一緒に反応させて、混合シュウ酸塩を形成し、混合シュウ酸塩を、混合シュウ酸鉄-マンガンに変換し、混合シュウ酸鉄-マンガンを炭酸リチウム及びリン酸と反応させる。したがって、別の態様では、硫酸鉄(II)、硫酸マンガン(II)、及びシュウ酸を水中で組み合わせ、式Fe1-xMnの混合シュウ酸鉄-マンガンの沈殿物を形成することと、リン酸水溶液(HPO)中にナノ多孔質混合酸化鉄-マンガンが懸濁している式Fe2-2xMn2x3tまたはFe3-xMnのナノ多孔質混合酸化鉄-マンガンに混合シュウ酸鉄-マンガンを変換するのに十分な期間の間、混合シュウ酸鉄-マンガンを約350~約450℃の範囲の温度の空気に曝露させることと、一定期間の間、懸濁液を混合することと、リチウムイオン源を懸濁液に添加して反応混合物を形成することと、を含む、方法が提供される。このようにして調製されたリン酸マンガン鉄リチウムカソード材料は、式中、xが、[0≦x≦1]である、式LiFe1-xMnPOを有する。本開示による、対応する混合シュウ酸塩の分解によって調製された式Fe2-2xMn2xのナノ多孔質混合酸化鉄-マンガンは、数ミクロン程度の平均サイズの粒子を有することが見出されたが、しかしながら、高分解能撮像からは、孔の直径が約100nmである内部浸透性多孔性の存在が明らかである。更に、Fe1-xMnxC.2HOの熱分解によって得られたFe2xMn2xは、約11.93m/gのBET窒素表面積を有することが見出された。
【0148】
理論に拘束されることを望むものではないが、混合及び熱分解中に生じる化学反応は、以下の等式によって表すことができると考えられる:
(1)xFeSO+1-xMnSO+H+HO→FeMn1-x4(s)+H(水溶液)+SO 2- (水溶液)
(2)FeMn1-x+air→Fe2-2xMn2x3(ナノ多孔質)+CO(350~450℃)
(3)Fe2-2xMn2x3(ナノ多孔質)+2HPO+LiCO+PAA/HO→LMFP/C(ナノ粒子状)
【0149】
別の順列では、硫酸鉄及び硫酸マンガンをシュウ酸と一緒に反応させて、混合シュウ酸塩を形成し、混合シュウ酸塩をリン酸及び炭酸リチウムと反応させる。したがって、別の態様では、方法は、硫酸鉄(II)、硫酸マンガン(II)、及びシュウ酸を水中で組み合わせ、式Fe1-xMnの混合シュウ酸鉄-マンガンを含む混合物を形成することと、炭酸リチウム及びリン酸水溶液(HPO)を添加し、熱分解後に、式中、xが、[0≦x≦1]である、式LiFe1-xMnPOを有するリン酸マンガン鉄リチウムを形成することと、を含む。理論に拘束されることを望むものではないが、混合及び熱分解中に生じる化学反応は、以下の等式によって表すことができると考えられる:
(1)xFeSO+1-xMnSO+H+HO→FeMn1-x4(s)+H(水溶液)+SO 2- (水溶液)
(2)FeMn1-xLiCO+HPO+PAA/HO→LMFP/C(ナノ粒子状)
【0150】
更に別の順列では、硫酸鉄及び硫酸マンガンをシュウ酸と一緒に反応させて、混合シュウ酸塩を形成し、混合シュウ酸塩をリン酸と反応させて、中間体混合リン酸鉄-マンガンを形成する。次いで、この混合リン酸塩をリン酸リチウムと反応させる。したがって、別の態様では、方法は、硫酸鉄(II)、硫酸マンガン(II)、及びシュウ酸を水中で組み合わせ、式Fe1-xMnの混合シュウ酸鉄-マンガンの沈殿物を形成することと、混合シュウ酸鉄-マンガンをリン酸(HPO)の水溶液中に懸濁して、混合シュウ酸金属を混合リン酸金属に変換することと、リン酸リチウムを添加し、熱分解後に、xが、[0≦x≦1]である、式LiFe1-xMnPOを有するリン酸マンガン鉄リチウムを形成することと、を含む。理論に拘束されることを望むものではないが、混合及び熱分解中に生じる化学反応は、以下の等式によって表すことができると考えられる:
(1)xFeSO+1-xMnSO+H+HO→FeMn1-x4(s)+H(水溶液)+SO 2- (水溶液)
(2)3FeMn1-x+2HPO→(FeMn1-x(PO+3H
(3)(FeMn1-x(PO+LiPO+PAA/HO→3LiFeMn1-xPO/C
【0151】
B.炭素前駆体
方法は、流体状態で1つ以上の炭素前駆体を提供することを含み、流体状態とは、それらを含む混合物が流れることができ、固定された形状を有さず、外部応力に対する耐性が低いか、または全くないことを意味する。流体状態の1つ以上の炭素前駆体は、ゲル化開始剤の存在下で固体オルガノゲルを形成するように構成され、固体オルガノゲルは、熱分解時に導電性炭素マトリックスを形成するように構成される。代替的な態様では、固体オルガノゲルは、溶液から液相(例えば、溶媒)を除去することを通じて形成され得る。例えば、いくつかの態様では、乾燥方法によって溶媒を部分的または完全に除去することは、ゲル化開始剤によって誘導されるゲル化の不在下で、オルガノゲルを生じ得る。一般に、導電性炭素マトリックスは、オルガノゲルの炭化形態及び/またはその前駆体材料を含み、LMP粒子及び/またはその前駆体を取り囲む。導電性炭素マトリックスは、グラファイト状炭素、非晶質炭素、またはそれらの混合物を含み得る。任意のその後の粉砕時の粒径の低減にもかかわらず、導電性炭素マトリックスは維持される。
【0152】
いくつかの態様では、方法は、リン酸遷移金属リチウムカソード材料前駆体の群を1つ以上の炭素前駆体と混合して、前駆体混合物を形成することと、ゲル化開始剤を前駆体混合物に添加することと、1つ以上の炭素前駆体にゲル化を施すことを可能にし、固体オルガノゲルを形成することと、を含む。本明細書で上述されるように、そのような固体オルガノゲルは、リチウム-遷移金属-リン酸塩材料の前駆体の存在下で形成され、したがって、そのような種を含む固体オルガノゲルの熱分解時に最終的にリン酸遷移金属リチウム材料をもたらすそのような前駆体、その反応生成物、及び中間体を含むことが理解されるものである。
【0153】
「炭素前駆体」とは、重合または他のゲル化反応を施されて固体オルガノゲルを生成することが可能であり、次いで、熱分解されて導電性炭素マトリックスを形成することができる材料を意味する。一般に、固体オルガノゲルは、本質的に多孔質であり、本明細書で以下に記載の高温条件への曝露時に、導電性炭素マトリックスを形成することが可能である。いくつかの態様では、ゲル化を開始及び/または完了するために、触媒またはゲル化開始剤が利用される。好適なオルガノゲルとしては、限定されないが、フロログルシノール-フルフラールアルデヒドポリマー、レゾルシノール-フルフラールアルデヒドポリマー、フェノール-ホルムアルデヒドポリマー、ポリウレタン、メライミン-アルデヒドポリマー、ポリアクリルアミドポリマー、ポリベンゾオキサジンポリマー、ポリアミック酸、及びポリイミドが挙げられる。これらのオルガノゲル及びそれらのそれぞれの前駆体材料(すなわち、炭素前駆体)、ならびにゲル化条件の各々は、本明細書で以下に更に記載される。
【0154】
1.フロログルシノール-フルフラール、レゾルシノール-フルフラール、及びフェノール-ホルムアルデヒドポリマー
いくつかの態様では、固体オルガノゲルは、フロログルシノール-フルフラール(PF)ポリマーである。そのような態様では、オルガノゲル前駆体材料は、フロログルシノール及びフルフラールである。そのような態様では、方法は、一般に、フロログルシノール及びフルフラールを反応混合物に添加し、フロログルシノール及びフルフラールを反応させることと、PFオルガノゲルを含む有機マトリックスを形成することと、を含む。フロログルシノール及びフルフラール混合物のゲル化は、ほぼ瞬時(例えば、30秒以下、15秒以下、5秒以下)に生じる。したがって、フロログルシノール及びフルフラールは、いずれかの順序で、反応混合物に連続して個々に添加される。いくつかの態様では、フロログルシノール及びフルフラールは、各々、エタノール溶液として別々に提供される。触媒または開始剤は、必要とされない。しかしながら、いくつかの態様では、ゲル化開始剤が、利用される。いくつかの態様では、ゲル化開始剤は、アミン塩基または酸である。フロログルシノール及びフルフラールが、任意選択的に、開始剤と組み合わせられると、PFポリマーのゲル化が急速に(例えば、約30秒以下で)生じる。生じたPFポリマーは、いくつかの反復単位(「n」)を含み、これは、反応条件及び反応物比に応じて変動し得る。一般に、生じたPFオルガノゲルは、剛性の三次元構造を有する。
【0155】
他の態様では、固体オルガノゲルは、レゾルシノール-フルフラールポリマーである。そのようなポリマーは、フロログルシノールをレゾルシノールに置換して上のように調製することができる。
【0156】
なお他の態様では、固体オルガノゲルは、フェノール-ホルムアルデヒド(PF)ポリマーである。そのようなポリマーは、フロログルシノールをフェノールに置換し、フルフラールをホルムアルデヒドに置換して上のように調製することができる。
【0157】
2.ポリウレタンポリマー
いくつかの態様では、固体オルガノゲルは、ポリウレタンポリマーを含むか、またはポリウレタンポリマーである。そのような態様では、前駆体は、ポリオール及びイソシアネートを含む。いくつかの態様では、ポリオールは、セルロースである。そのような態様では、ゲル化開始剤は、アルキルアミン(例えば、トリエチルアミン)を含む。
【0158】
3.ポリアミック酸
いくつかの態様では、オルガノゲルは、ポリアミック酸である。ポリアミック酸は、カルボン酸基、カルボキサミド基、ならびにポリアミック酸が由来するジアミン及びテトラカルボン酸を含む芳香族または脂肪族部分を含む、反復単位を有するポリマーアミドである。本明細書で定義される「反復単位」は、反復単位をポリマー鎖に沿って連続的に一緒に連結することによって、その反復が(末端アミノ基または未反応の無水物末端を除く)完全なポリマー鎖を生成するであろう、ポリアミック酸(または対応するポリイミド)の一部である。当業者は、ポリアミック酸反復単位が、ジアミンのアミノ基とのテトラカルボン酸二無水物のカルボキシル基の部分的な縮合から生じることを認識するであろう。
【0159】
いくつかの態様では、ポリアミック酸は、任意の市販のポリアミック酸である。他の態様では、ポリアミック酸は、従来の合成方法に従って、有機溶媒中のジアミン及びテトラカルボン酸二無水物の反応によって、事前に形成され(「予め形成され」)、単離されている、例えば、調製されている。いずれの場合でも、購入されたか、または調製及び単離されたかにかかわらず、好適なポリアミック酸は、実質的に純粋な形態である。予め形成され、単離されたか、または市販のポリアミック酸は、例えば、粉末もしくは結晶形態などの固体形態、または液体形態であり得る。
【0160】
好適なポリアミック酸、ポリイミド、及びそれらを調製する方法は、例えば、これらの各々全体が本明細書に組み込まれる、Zafiropoulosに対する米国特許出願公開第US2022/0069290号、及びLeventisに対する米国特許出願第17/546,761号、及びBegagに対する同第17/546,529号に提供されている。
【0161】
いくつかの態様では、ポリアミック酸は、水溶性塩の形態で提供され、これは次いで、反応混合物の酸性化によって、不溶性ポリアミック酸として反応混合物から沈殿し得る。そのような態様では、オルガノゲル前駆体材料は、ポリアミック酸アンモニウムまたはアルカリ金属塩であり、方法は、ゲル化開始剤を反応混合物に添加することを更に含む。
【0162】
いくつかの態様では、オルガノゲル前駆体材料は、限定されないが、トリアルキルアミンを含むアンモニウム塩を含む、ポリアミック酸アンモニウム塩である。いくつかの態様では、アンモニウム塩は、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ-n-プロピルアミン、トリ-n-ブチルアミン、N-メチルピロリジン、N-メチルピペリジン、ジイソプロピルエチルアミン、またはそれらの組み合わせとのポリアミック酸の塩である。いくつかの態様では、アンモニウム塩は、ポリアミック酸とトリエチルアミンとの塩である。いくつかの態様では、アンモニウム塩は、ポリアミック酸とジイソプロピルエチルアミンとの塩である。
【0163】
いくつかの態様では、オルガノゲル前駆体材料は、リチウム、ナトリウム、またはカリウム塩などの、ポリアミック酸のアルカリ金属塩である。
【0164】
ゲル化開始剤は、一般に、酸、または酸を形成するために加水分解することができる物質である。好適な酸のうちの1つの非限定的な例は、酢酸である。酸を形成するために加水分解することができる好適な物質のうちの1つの非限定的な例は、無水酢酸である。したがって、いくつかの態様では、方法は、ゲル化開始剤として、酢酸、無水酢酸、天然プロトン化リン酸塩、またはそれらの組み合わせを添加することを含む。いくつかの態様では、方法は、無水酢酸を添加し、無水酢酸を加水分解することと、酢酸を形成し、ポリアミック酸のゲル化を誘導することと、を含む。
【0165】
4.ポリイミド
いくつかの態様では、固体オルガノゲルは、ポリイミドを含むか、またはポリイミドである。いくつかの態様では、ポリイミドは、ポリアミック酸のイミド化から形成される。好適なポリイミド、及びそれらを調製する方法は、例えば、これらの各々全体が本明細書に組み込まれる、Zafiropoulosに対する米国特許出願公開第US2022/0069290号、及びLeventisに対する米国特許出願第17/546,761号、及びBegagに対する同第17/546,529号に提供されている。
【0166】
いくつかの態様では、ポリアミック酸塩をイミド化することは、対応するポリアミック酸を熱的にイミド化することを含む。マイクロ波周波数エネルギーによる湿式ゲルポリアミン酸材料の照射は、特に好適な熱処理の1つである。
【0167】
他の態様では、ポリアミック酸塩をイミド化することは、化学イミド化を実施することを含み、化学イミド化が、ゲル化開始剤をポリアミック酸の塩の水溶液に添加して、ゲル化混合物(「ゾル」)を形成することと、(例えば、型で、またはシート上にキャストする、またはビーズなどの他の様々なフォーマットで)ゲル化混合物をゲル化させることと、を含む。そのような態様では、ゲル化開始剤を添加して、イミド化を開始及び駆動し、ポリアミック酸塩からポリイミド湿潤ゲルを形成する。
【0168】
ゲル化開始剤の構造は、変動し得るが、一般に、反応溶液中に少なくとも部分的に可溶性であり、ポリアミック酸塩のカルボキシレート基と反応性であり、水溶液との反応性を最小限に抑えながら、ポリアミック酸カルボキシル基及びアミド基のイミド化を駆動するのに有効な試薬である。好適なゲル化開始剤のクラスの一例は、無水酢酸、無水プロピオン酸などの無水カルボン酸である。いくつかの態様では、ゲル化開始剤は、無水酢酸である。
【0169】
いくつかの態様では、ゲル化開始剤の量は、テトラカルボン酸二無水物またはポリアミック酸の量に基づいて変動し得る。例えば、いくつかの態様では、ゲル化開始剤は、テトラカルボン酸二無水物との様々なモル比で存在する。いくつかの態様では、ゲル化開始剤は、ポリアミック酸との様々なモル比で存在する。ゲル化開始剤対テトラカルボン酸二無水物またはポリアミック酸のモル比は、所望の反応時間、試薬構造、及び所望の材料特性に応じて変動し得る。いくつかの態様では、モル比は、約2、約3、約4、または約5~約6、約7、約8、約9、または約10などの、約2~約10である。いくつかの態様では、比は、約2~約5である。
【0170】
ゲル化反応が進行することを可能にする温度は、変動し得るが、一般に、約10~約50℃、または約15~約25℃などの約50℃未満である。
【0171】
5.他のポリマーオルガノゲル
いくつかの態様では、固体オルガノゲルは、メラミン-アルデヒドポリマーを含む。いくつかの態様では、固体オルガノゲルは、ポリアクリルアミドポリマーを含む。いくつかの態様では、固体オルガノゲルは、ポリベンゾオキサジンポリマーを含む。そのようなポリマー、その前駆体、及びその形成に適切なゲル化開始剤は、当業者に既知である。
【0172】
6.オルガノゲル前駆体材料の濃度
いくつかの例では、オルガノゲル前駆体材料は、集合的に、生じるリン酸金属リチウム材料の炭素含有量のものに近似する、全混合物(すなわち、リン酸遷移金属リチウムカソード材料前駆体を含む)の濃度で存在する。例えば、オルガノゲル前駆体は、およそ1重量%(wt%)~5重量%の、化学量論量の1:1:1の比のリチウム、遷移金属、及びリン前駆体で存在し得る。
【0173】
C.混合
方法は、リン酸遷移金属リチウムを合成するための前駆体の群と流体状態の1つ以上の炭素前駆体とをある期間の間混合して、前駆体混合物を形成し、続いてゲル化開始剤を添加することを含む。混合することは、一般に、混合物を(すなわち、懸濁液として)室温(例えば、およそ20℃)で約1~約12時間、典型的には約2~約4時間の期間の間、撹拌することによって行われる。この時間の間、遷移金属酸化物の粒径は、一般に、初期粒径から約1~約3ミクロンの範囲の粒径に低減される。初期粒径に応じて、いくつかの態様では、粉砕、研削などによって、活性粒径の低減を実施することが望ましい場合がある。他の態様では、そのような粒径の低減は、記載の撹拌を超えて実施されない。混合物は、一般に、水性懸濁液中のリチウムイオン源の完全な溶解を可能にするのに十分な期間の間、(例えば、撹拌することによって)混合させる。
【0174】
D.固体オルガノゲル
本明細書で上述のように、方法は、1つ以上のオルガノゲル前駆体材料にゲル化を施すことによって、固体オルガノゲルを形成することを含む。オルガノゲルに対する言及において本明細書で使用される「固体」という用語は、オルガノゲルが自己支持性であることを意味し、例えば、固体オルガノゲルは、任意の抑制の不在下で、定義された形状を維持するものである。
【0175】
固体オルガノゲルは、PFポリマー、ポリアミック酸、ポリイミド、または本明細書に記載の別のポリマーを含むかどうかにかかわらず、三次元の外部(すなわち、マクロ)及び内部(例えば、原線維/孔などのマイクロ)構造を有する。いくつかの態様では、固体オルガノゲルは、ポリアミック酸、ポリイミド、またはそれらの組み合わせである。例えば、ある特定の態様では、ゲル化後に、本明細書で上述のポリアミック酸アンモニウム塩は、対応するポリアミック酸に部分的に、及び対応するポリイミドに部分的に変換される。ポリアミック酸及びポリイミドの相対的な割合は、変動し得る。各々の割合は、核磁気共鳴(NMR)及びフーリエ変換赤外線分光法(FTIR)などの当該技術分野で既知の方法によって決定され得る。理論に拘束されることを望むものではないが、有機マトリックス内でポリイミドの割合がより大きいことによって、熱分解後に炭素マトリックスに埋め込まれた、より硬い固体のリン酸金属リチウム材料を生じると考えられる。更に、驚くべきことに、本開示によれば、少なくともいくつかの態様では、有機マトリックス内の比較的大量のポリアミック酸の存在は、比較的大量のポリイミドの存在下で得られる生成物と比較して、より少ない不純物、粒径のより高い均一性、形態のより高い均一性、またはそれらの組み合わせを有するリン酸遷移金属リチウム/炭素マトリックス生成物を提供することが発見された。これらの差は、限定されないが、X線回折法、電子顕微鏡法、及び音響密度測定法を含む、複数の観察技法によって推測することができる。
【0176】
固体オルガノゲルは、リチウムイオン、遷移金属酸化物粒子(例えば、酸化鉄(IIまたはIII))、リン酸(PO -)イオン、及び懸濁される水などの、反応混合物中に存在する追加の構成成分を更に含む。リチウムイオン及びリン酸イオンの少なくとも一部分は、リン酸リチウムとして会合し得る。一般に、存在する様々な種(リチウム、及びリン酸イオンまたはその塩、遷移金属酸化物、及び水)は、オルガノゲル内で近接して一緒に保持される。任意の特定の理論に拘束されることを望むものではないが、この密接な物理的接触は、熱分解中のカソード材料の形成を容易にし、有利には、カソード材料に望ましい物理的特性を提供すると考えられる。本明細書で上述されるように、オルガノゲルの使用は、リン酸遷移金属リチウムカソード材料の形成中の前駆体材料の相分離を阻害する。カソード材料の形成は、拡散が限定的なプロセスであるので、リン酸遷移金属リチウム前駆体材料間の密接な接触を維持することは、リン酸遷移金属リチウムカソード材料の効率的かつ有効な合成に特に重要である。オルガノゲルの粘度、オルガノゲル前駆体材料を含む反応混合物、またはその両方は、変動し得、一般に、室温及び大気圧で、オルガノゲルの粘度が、密度差に起因する、反応混合物からの(限定されないが、遷移金属酸化物などの遷移金属源及び液相材料(複数可)を含む)固相材料の沈降を防止するのに十分であるように選択される。
【0177】
いくつかの例では、オルガノゲル前駆体材料は、ほぼ瞬時(例えば、30秒未満、15秒未満、5秒未満)にゲル化し得、それによって、他の前駆体(例えば、1グラム/cm超の密度を有する固相及び約1グラム/cmの密度を有する液相)の相分離を防止する。いくつかの例では、ゲル化は、溶媒の除去を通じてではなく、上述の重合反応を介して生じる。これは、エネルギー大量消費型の乾燥プロセスの必要性を回避または低減することによって、リン酸鉄リチウムカソード材料を生成するのに必要なエネルギー入力を低減することができる。特に、そのようなゲル化によって生成された固体エアロゲルは、炭素マトリックス(例えば、ゲル化しない糖またはデンプン)中のLFP材料の以前に報告された合成で利用された他の固相材料とは異なり、別個である。
【0178】
更に、本明細書で上述されるように、前駆体及びゲル化の条件は、生じるオルガノゲルが、所望の固体形態を維持するように選択され、それによって、前駆体をリン酸遷移金属リチウムカソード材料に変換するのに必要な熱処理(熱分解)中の反応物間の密接な接触を維持する。いくつかの態様では、固体オルガノゲルは、相互接続した固相ポリマー構造の多孔質ネットワークを含み、多孔質ネットワークは、群の第1の前駆体と、群の第2の前駆体、例えば、酸化鉄及びリチウム/リン酸塩種(例えば、LiHPO)などの遷移金属種との間の接触を維持する。特に、リン酸リチウム(LiHPO)は、300℃超で融解する。したがって、いくつかの態様では、オルガノゲルは、前駆体間の接触を少なくとも約300℃の温度に維持する。また、開示のオルガノゲルのこの特性は、炭素マトリックス(例えば、加熱時に構造的剛性を維持しない糖またはデンプン)中のLFP材料の以前に報告された合成で利用された他の固相材料とは異なり、別個である。
【0179】
E.熱分解
次いで、リン酸遷移金属リチウム前駆体材料(例えば、リチウムイオン、1つ以上の遷移金属酸化物、及びリン酸イオン)を含む固体オルガノゲルを、熱分解(例えば、炭化)し、熱分解(例えば、炭化)するとは、オルガノゲルが、1)実質的に全てのオルガノゲル材料を炭素へと変換し、導電性炭素マトリックスを形成すること、2)任意選択的に、より高い酸化状態の遷移金属をより低い状態に還元すること(例えば、Fe中のFe(III)の、LiFePO中で必要とされるFe(II)への還元すること)、及び3)導電性炭素マトリックス内に含まれるリン酸遷移金属リチウムカソード材料を形成することを意味する。熱分解の文脈で本明細書で使用される場合、「実質的に全て」とは、オルガノゲルの99%、または99.9%、または99.99%、または100%でさえも炭素に変換されることなどの、オルガノゲル材料の95%超が炭素に変換されることを意味する。オルガノゲルを熱分解することは、オルガノゲルを同型の炭素マトリックスに変換し、炭素マトリックスへの変換とは、オルガノゲルの物理的特性(例えば、多孔性、表面積、孔径、直径など)が対応する炭素マトリックス内に実質的に保持されることを意味する。理論に拘束されることを望むものではないが、炭化は、生じるマトリックスの良好な電気伝導率を促進するのに役立ち、同時に、遷移金属酸化物、リチウムイオン、及びリン酸イオン間の反応を開始し、完了まで駆動して、導電性炭素マトリックス内にリチウム-遷移金属-リン酸塩カソード材料を形成すると考えられる。更に、本明細書に開示のオルガノゲル材料は、熱分解時に、高い導電性を有する炭素マトリックスを生じる芳香族環が豊富である。更には、連続的な三次元導電性炭素マトリックス全体にわたるリチウム-遷移金属-リン酸塩カソード材料の均一な分布は、本明細書で以下に更に記載されるように、そのようなカソード材料を利用する電池の優れた性能特性を提供する。
【0180】
理論に拘束されることを望むものではないが、熱分解中に、リチウム-遷移金属-リン酸塩カソード材料は、前駆体遷移金属酸化物の形態を継承し、テンプレート化プロセスによって遷移金属酸化物の上に形成されると考えられる。これは、水がスラリーから蒸発し、蒸発中にゆるい前駆体イオンが会合する、LiFePOを形成するための以前に報告されたプロセスとは異なり、別個であると考えられる。
【0181】
遷移金属酸化物の遷移金属が、本明細書で上述のリチウム-遷移金属-リン酸塩カソード材料中に存在するものよりも高い酸化状態で存在する態様では、熱分解中に生成される炭素の一部分は、遷移金属の酸化状態を(例えば、Feに存在する鉄(III)から鉄(II)へと)還元するように機能すると考えられる。
【0182】
熱分解に必要とされる温度は、変動し得る。いくつかの態様では、オルガノゲルマトリックスは、約600℃、約650℃、約700℃、約750℃、約800℃、約850℃、約900℃、もしくは約950℃などの約600℃以上、またはこれらの値のうちのいずれか2つの間の範囲の処理温度を施されて、オルガノゲルマトリックスが炭化され、リチウム-遷移金属-リン酸塩カソード材料の形成が完了する。いくつかの態様では、熱分解温度は、約600~約800℃である。一般に、熱分解は、有機材料及び/または炭素材料の燃焼を防止し、遷移金属の再酸化を防止するために、不活性雰囲気下またはわずかに還元された雰囲気下で行われる。好適な雰囲気としては、限定されないが、窒素、アルゴン、水素、メタン、またはそれらの組み合わせが挙げられる。いくつかの態様では、熱分解は、窒素下で実施される。
【0183】
いくつかの態様では、熱分解は、マイクロ波照射を使用して実施される。マイクロ波は、0.001~0.3メートルの範囲の波長及び1,000~300,000MHzの範囲の周波数を有する、低エネルギー電磁波である。典型的なマイクロ波デバイスは、2450MHzの周波数でのマイクロ波で操作される。いくつかの態様では、前駆体の群は、マイクロ波感受性を有する前駆体を含み、熱分解することは、マイクロ波放射を適用することによって実施される。
【0184】
いくつかの態様では、マイクロ波感受性を有する前駆体は、炭素、マグネタイト、及びマグヘマイトのうちの1つ以上を含む。いくつかの態様では、前駆体は、ナノ粒子状マグネタイトまたはマグヘマイトなどの磁性酸化鉄ナノ粒子(磁性IONP)を含む。いくつかの態様では、マイクロ波感受性を有する前駆体は、20nm~100nmの特徴的な寸法を有するマグネタイト及びマグヘマイトのうちの1つ以上のナノ粒子を含む。
【0185】
いくつかの態様では、磁性IONPが、徐々にLiFe(PO)に変換され、オルガノゲル前駆体が、炭素へと熱分解されるにつれて、マイクロ波を吸収している構成成分は、磁相から炭化構成成分に変化する。これは、LiFe(PO)自体が、マイクロ波放射に強く応答しないが、本明細書で上述の炭素材料は、マイクロ波放射への曝露時に効率的に加熱されることが理由である。
【0186】
熱分解の完了に必要な時間は、変動し得、温度及び特定のマトリックス構成成分に依存し得る。一般に、マトリックスは、約8時間などの、約4~約20時間の範囲の期間の間、熱分解条件を施される。いくつかの例では、約10分~約1時間、または約1時間~約3時間などの、約10分~約3時間である期間を使用するマイクロ波熱分解は、よりエネルギー効率的かつより高速であり得る。
【0187】
開示の方法の別の利点は、炭素源(例えば、ポリアミック酸またはポリイミドなどのオルガノゲル)が、高い炭素収率を有し、したがって、反応物組成全体に対して、必要とされる炭素源の重量パーセンテージ(約20重量%)が相対的に低く、高効率的かつコスト削減をもたらすことである。特に、少量の炭素源は、熱分解中に、全てのより高い酸化状態の遷移金属種(例えば、酸化鉄(III)前駆体の場合、Fe(III)からFe(II))を還元し、リチウム-遷移金属-リン酸塩の表面に約2~3%の導電性炭素を残すのに十分である。
【0188】
更に、本明細書に開示の炭素源(例えば、ポリアミック酸、ポリイミド、及び上述の他のポリマーなどのオルガノゲル)は、豊富な芳香環を含む。したがって、これらの材料は、熱分解中にリチウム-遷移金属-リン酸塩のグラファイト炭素コーティングを生成する。これらの材料の炭化時に生成されるグラファイト炭素は、糖またはデンプンなどの他の炭素源の炭化から見出される飽和炭素よりも良好な電気特性(例えば、より高い導電率)を提供する。
【0189】
F.粉砕
いくつかの態様では、導電性炭素マトリックス内のリチウム-遷移金属-リン酸塩カソード材料は、任意選択的に、1つ以上の粉砕手順を施されて、粒径が低減されるか、または粒径の均一な分布が提供される。任意の好適な粉砕技法が利用され得る。いくつかの態様では、ボールミルを使用して粉砕が実施され得る。いくつかの態様では、粉砕することは、約100~400rpmの範囲の速度で約30分~約48時間の範囲の時間の間、ステンレス鋼遊星ボールミルで実施される。
【0190】
粉砕の必要性、粉砕の種類、及びその持続時間は、導電性炭素マトリックスの性質に基づいて変動し得る。例えば、いくつかの態様では、ポリイミドオルガノゲルの熱分解から調製されるカソード材料粒子は、硬い炭素マトリックスを有し、(すなわち、均一に小さい粒径を有する)粉末材料を提供するために粉砕を必要とし得る。対照的に、ポリアミック酸オルガノゲルの熱分解から調製されるカソード材料粒子は、より柔らかくなる傾向があり、比較的少ない粉砕を必要とし得る。
【0191】
II.リン酸遷移金属リチウムカソード材料の特性
熱分解に続いて、導電性炭素マトリックス内のリチウム-遷移金属-リン酸塩カソード材料は、式中、Mが、鉄(Fe)、マンガン(Mn)、もしくはFeとMnとの組み合わせである、式LiM(PO)を有するか、または導電性炭素マトリックス内のリチウム-遷移金属-リン酸塩カソード材料は、式中、Mが、バナジウム(V)である、式LiM(POを有する。Mが、FeとMnとの組み合わせである態様では、Fe対Mnの化学量論は、変動し得る。例えば、Fe対Mnのモル比は、約0.1、約0.2、約0.3、約0.4、約0.5、約0.6、約0.7、約0.8、約0.9、もしくは約1~約2、約3、約4、約5、約6、約7、約8、約9、または約10などの、約0.1~約10の範囲にあり得る。いくつかの態様では、Fe対Mnのモル比は、約4:1~約1:4、約2:1~約1:2、または約1:1である。
【0192】
いくつかの態様では、導電性炭素マトリックス内のリチウム-遷移金属-リン酸塩カソード材料は、式中、Mが、鉄(Fe)、マンガン(Mn)、またはFeとMnとの組み合わせである、式LiM(PO)を有し方法で利用される遷移金属酸化物源は、マグネタイト、マグヘマイト、またはそれらの組み合わせを含む。いくつかのそのような態様では、残留量のマグネタイト、マグヘマイト、またはそれらの組み合わせは、導電性炭素マトリックス内のリチウム-遷移金属-リン酸塩カソード材料中に存在し続ける場合がある。残留量は、変動し得るが、一般に、カソード材料に磁気感受性を付与するのに十分な量で存在する。残留磁性酸化鉄材料によって付与される磁気感受性は、変動し得るが、一般に、強力なネオジム磁石との、導電性炭素マトリックス内のリチウム-遷移金属-リン酸塩カソード材料の試料の相互作用を通じて少なくとも定性的に観察されるのに十分であるが、弱い。定量的測定は、限定されないが、グーイの磁気天秤(試料が、電磁石の極の間にぶら下がっており、電磁石がオンになったときの重量の変化が、感受性に比例する)及びエバンス天秤(磁石自体に対する力を測定する)が挙げられる、感受性測定のための既知の方法に従って実施され得る。
【0193】
いくつかの態様では、導電性炭素マトリックス内のリチウム-遷移金属-リン酸塩カソード材料は、マグネタイト、マグヘマイト、またはそれらの組み合わせから調製される場合、約0.6~約1.1g/cmの範囲のタップ密度を有する。
【0194】
いくつかの態様では、リチウム-遷移金属-リン酸塩カソード材料は、オリビン型リン酸鉄リチウムである。したがって、別の態様では、オリビン型リン酸鉄リチウムを含み、導電性炭素マトリックスと一体であるナノ粒子を含む、組成物であって、ナノ粒子が、20nm~1000nmの特徴的な寸法、及び10メートル(m)/グラム(g)~65m/gの比表面積を有する、組成物が提供される。いくつかの態様では、特徴的な寸法は、30nm~70nmであり、比表面積は、20m/g~65m/gである。いくつかの態様では、特徴的な寸法は、30nm~60nmであり、比表面積は、22m/g~40m/gである。いくつかの態様では、特徴的な寸法は、20nm~40nmであり、比表面積は、60m/g~80m/gである。
【0195】
いくつかの態様では、ナノ粒子は、マグネタイト、マグヘマイト、またはその両方を更に含む。
【0196】
いくつかの態様では、ナノ粒子は、マンガンを更に含む。
【0197】
いくつかの態様では、導電性炭素マトリックスは、本明細書に記載の炭化オルガノゲルを含む。
【0198】
III.導電性炭素マトリックス内でフルオロリン酸バナジウムリチウムカソード材料を形成する方法;フルオロリン酸イオン
本開示の別の態様では、フルオロリン酸バナジウムリチウムカソード材料を導電性炭素マトリックス内で調製する方法が提供される。方法は、リン酸をフルオロリン酸イオン源(FPO 2-)で置き換え、遷移金属酸化物としてバナジウム酸化物を選択することを除いて、本明細書で上述のリン酸遷移金属リチウムカソード材料を形成するための方法と実質的に同様である。混合、リチウムイオン源、オルガノゲル前駆体材料、ゲル化、固体オルガノゲル、及びそれらの熱分解の各々は、本明細書で上述したとおりである。
【0199】
酸化バナジウムは、酸化バナジウム(III)(V)、酸化バナジウム(IV)(VO)、酸化バナジウム(V)(V)、またはメタバナジン酸アンモニウム(NHVO)などの、バナジウムの任意の容易に利用可能な酸化物であり得る。
【0200】
フルオロリン酸イオン源は、変動し得る。例えば、フルオロリン酸、またはモノフルオロリン酸ナトリウムもしくはモノフルオロリン酸アンモニウムなどのフルオロリン酸塩が、フルオロリン酸イオンを提供するために利用され得る。あるいは、フルオロリン酸イオンは、リチウムイオン源、リン酸イオン源、及びフッ化物イオン源からその場で形成してもよい。リチウム、リン酸塩、及びフッ化物源は、個々であり得るか、または様々な組み合わせで提供され得る。例えば、方法は、フッ化水素酸またはフッ化アンモニウムなどのフッ化物及びリン酸塩の別々の源、ならびにリン酸、またはリン酸のアルカリ金属またはアンモニウム塩のいずれかとともに、本明細書で上述のリチウム源を利用することができる。あるいは、方法は、フッ化リチウムなどのリチウム及びフッ化物の組み合わせた源を利用してもよい。当業者は、反応混合物中にリチウム及びフルオロリン酸イオンを提供するために利用することができるリチウム、フッ化物、及びリン酸塩の様々な組み合わせを認識し、本明細書では、そのような全ての組み合わせが想定される。任意のそのような構成成分(リチウムイオン源、フッ化物イオン、及びリン酸イオン源、フルオロリン酸塩源など)の添加の順序は、変動し得、連続的であっても同時であってもよい。
【0201】
熱分解に続いて、導電性炭素マトリックス内のフルオロリン酸バナジウムリチウムカソード材料は、式LiVFPOを有する。生じるカソード材料は、任意選択的に、リン酸遷移金属リチウム材料に関して上述したように粉砕してもよい。
【0202】
IV.導電性炭素マトリックス内でフルオロリン酸バナジウムリチウムカソード材料を形成する方法;F源としてのフルオロポリマー
本開示の別の態様では、フルオロリン酸バナジウムリチウムカソード材料を導電性炭素マトリックス内で調製する代替的な方法が提供される。方法は、フルオロリン酸イオン源をリン酸に置き換え、フルオロポリマーの形態でフッ化物を提供することを除いて、本明細書で上述のフルオロリン酸バナジウムリチウムカソード材料を形成するための方法と実質的に同様である。混合、リチウムイオン源、オルガノゲル前駆体材料、ゲル化、固体オルガノゲル、及びそれらの熱分解の各々は、本明細書で上述したとおりである。方法は、ゲル化前に、フルオロポリマーを前駆体混合物に添加することを更に含む。
【0203】
酸化バナジウムは、酸化バナジウム(III)(V)、酸化バナジウム(IV)(VO)、酸化バナジウム(V)(V)、またはメタバナジン酸アンモニウム(NHVO)などの、バナジウムの任意の容易に利用可能な酸化物であり得る。
【0204】
好適なフルオロポリマーの例としては、限定されないが、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、及びそれらの組み合わせが挙げられる。理論に拘束されることを望むものではないが、そのようなフルオロポリマーは、オルガノゲルポリマーに化学的に組み込まれるのではなく、オルガノゲルマトリックスに(例えば、物理的な組み合わせとして)物理的に組み込まれ、その後の熱分解中に、フルオロポリマーが分解され、フッ素種が遊離し、フッ素種が、リン酸イオンと反応してその場でフルオロリン酸塩を形成し、及び/または酸化バナジウム種と直接反応して、最終種の中間体を形成し、中間体中のフッ素が、バナジウムと協調すると考えられる。そのような代替的な方法は、フルオロリン酸(HFPO)などのフルオロリン酸塩源を用いる潜在的な問題に対処する。具体的には、フルオロリン酸は、徐々にHPOとフッ化水素(HF)とに加水分解される。HFは、揮発性かつ毒性であり、乾燥時に反応混合物から漏れる場合があり、必要な1:1:1:1のリチウム:バナジウム:リン酸塩:フッ素の化学量論を維持することを困難にする。フルオロポリマーを使用する本明細書に開示の方法は、フルオロリン酸を使用する必要性を回避する。
【0205】
V.導電性炭素マトリックス内でフルオロリン酸バナジウムリチウムカソード材料を形成する方法;フルオロモノマー
本開示の別の態様では、フルオロリン酸バナジウムリチウムカソード材料を導電性炭素マトリックス内で調製する、更なる代替的な方法が提供される。方法は、フルオロポリマーが、フルオロモノマーで置き換えられ、フルオロモノマーが、オルガノゲル前駆体材料と共重合して、水素原子置換基の少なくとも一部分がフッ素原子で置き換えられたオルガノゲルを形成することを除いて、本明細書で上述のフルオロポリマーを使用して、フルオロリン酸バナジウムリチウムカソード材料を形成するための方法と実質的に同様である。
【0206】
上に開示のフルオロポリマーを使用して、フルオロリン酸バナジウムリチウムカソード材料を導電性炭素マトリックス内で調製するための方法と同様に、この代替的な方法は、フッ化モノマーを用い、フッ化モノマーは、オルガノゲルポリマーに化学的に組み込まれる。「1つ以上のオルガノゲル前駆体材料のうちの少なくとも一部分がフッ化モノマーを含む」とは、ある量の1つ以上のオルガノゲル前駆体材料が、フッ化されていることを意味する。オルガノゲル前駆体材料として存在するフッ化モノマーの量は、例えば、利用されるオルガノゲル前駆体材料の総量の約1%~約100%の範囲で変動し得る。更に、当該モノマー内のフッ化の程度(すなわち、所与のオルガノゲル前駆体モノマー構造上に存在するフッ素置換基の数)は、変動し得る。いくつかの態様では、オルガノゲルは、ポリイミドであり、ポリイミドオルガノゲル前駆体材料のうちのいくつかの部分(例えば、ジアミン及びテトラカルボン酸二無水物、またはポリアミック酸)は、1つ以上のフッ素置換基を担持する。いくつかの態様では、ポリイミドは、フェニレンジアミン及びテトラカルボン酸二無水物であるオルガノゲル前駆体材料からその場で形成され、フェニレンジアミン、テトラカルボン酸二無水物、またはその両方は、1つ以上のフッ素置換基を担持する。特定の態様では、フッ化モノマーは、1つ以上のフッ素原子を担持する1,4-フェニレンジアミン、例えば、2,3,5,6-テトラフルオロベンゼン-1,4-ジアミンである。繰り返しになるが、フッ化物源としてフルオロ置換基を担持するオルガノゲル前駆体材料を利用することは、溶媒蒸発の初期段階及び初期乾燥中の揮発性かつ有毒なHFガスの損失を回避する。
【0207】
VI.エネルギー貯蔵システム
本開示の別の態様では、本明細書に記載のリン酸遷移金属リチウムカソード材料を含む、エネルギー貯蔵システムが提供される。本開示の別の態様では、オリビン型リン酸鉄リチウムを含み、導電性炭素マトリックスと一体であるナノ粒子を含む、組成物であって、ナノ粒子が、20nm~1000nmの特徴的な寸法、及び10メートル(m)/グラム(g)~65m/gの比表面積を有する組成物を含む、エネルギー貯蔵システムが提供される。
【0208】
エネルギー貯蔵システムの例としては、本明細書に記載の組成物またはカソード材料を含む、リチウムイオン電池などの電池が挙げられる。本明細書で更に開示されるのは、本明細書に記載の組成物またはカソード材料を含む、電池セル、電池モジュール、電池パック、電子デバイス、及び電気自動車である。
【0209】
本出願では、ある特定の米国特許、米国特許出願、及び他の資料(例えば、論説)が、参照により組み込まれる。しかしながら、そのような米国特許、米国特許出願、及び他の資料の文章は、そのような文章と本明細書に記載の他の記述及び図面との間に矛盾が存在しない程度にのみ、参照により組み込まれる。そのような矛盾が生じた場合、参照によりそのように組み込まれる米国特許、米国特許出願、及び他の資料におけるそのような矛盾するいずれの文章も、具体的に本特許に参照により組み込まれない。本開示と組み合わせて、本明細書で参照される任意の1つ以上の公開文書に開示の任意の特徴についての保護を求めることができる。本明細書に記載の全ての方法は、別途本明細書に示されない限り、または別途文脈によって明らかに矛盾しない限り、任意の好適な順序で実施され得る。本明細書で提供されるありとあらゆる例または例示的文言(例えば、「など」)の使用は、材料及び方法をより良好に説明することのみを意図するものであり、別途特許請求されない限り、範囲に限定を課さない。本明細書におけるいかなる文言も、特許請求されていない任意の要素が、開示の材料及び方法の実施に必須であることを示すものと解釈されるべきではない。
【0210】
本明細書に記載の組成物、方法、及び用途に対する好適な修正及び翻案が、それらの任意の態様の範囲または態様から逸脱することなく行われ得ることは、関連する技術分野における当業者には容易に明らかであろう。提供される組成物及び方法は、例示的なものであり、特許請求される態様の範囲を限定することを意図するものではない。本明細書に開示の様々な態様及び選択肢の全ては、全ての変形で組み合わせることができる。本明細書に記載の組成物、配合物、方法、及びプロセスの範囲は、本明細書の態様、選択肢、例、及び選好の全ての実際のまたは潜在的な組み合わせを含む。
【0211】
本明細書の技術について、特定の態様を参照して記載してきたが、これらの態様は、本技術の原理及び用途の単なる例示であることが理解されるものである。本技術の趣旨及び範囲から逸脱することなく、本技術の方法及び装置に対して様々な修正及び変形を行うことができることは、当業者には明らかであろう。したがって、本技術は、添付の特許請求の範囲及びそれらの等価物の範囲内にある修正及び変形を含むことが意図される。
【0212】
本明細書全体を通して「一態様(one aspect)」、「ある特定の態様」、「1つ以上の態様」、または「一態様(an aspect)」への言及は、態様に関連して記載される特定の特徴(feature)、構造、材料、または特徴(characteristic)が、本技術の少なくとも1つの態様に含まれることを意味する。したがって、「1つ以上の態様では」、「ある特定の態様では」、「一態様(one aspect)では」、または「一態様(an aspect)では」などの語句が本明細書全体を通じる様々な箇所に出現することは、必ずしも技術の同じ態様を指しているわけではない。更に、特定の特徴(feature)、構造、材料、または特徴(characteristics)は、1つ以上の態様では任意の好適な様式で組み合わせられてもよい。本発明はまた、広義には、本明細書で個々にまたは集合的に言及または示される部品、要素、ステップ、例、及び/または特徴は、2つ以上の当該部品、要素、ステップ、例、及び/または特徴のありとあらゆる組み合わせからなり得る。特に、態様、例、及び本明細書に記載の態様のうちのいずれかにおける1つ以上の特徴は、本明細書に記載の任意の他の例及び態様からの1つ以上の特徴と組み合わせられ得る。
【0213】
本技術の態様は、以下の実施例を参照してより完全に例示される。本技術のいくつかの例示的な態様について記載する前に、本技術は、以下の説明に記載の構成またはプロセスステップの詳細に限定されないことが理解されるものである。本技術は、他の態様が可能であり、様々な方式で実践または実行することが可能である。
【0214】
本発明の更なる修正及び代替的な態様は、本記載を考慮して当業者には明らかであろう。したがって、本記載は、単に例示として解釈されるべきであり、本発明を実行する一般様式を当業者に教示する目的のためのものである。本明細書に示され、記載される本発明の形態は、態様の例として解釈されるものであることが理解されるものである。要素及び材料は、本明細書に例示され記載されるものと置換される場合があり、部品及びプロセスは、反対にされる場合があり、本発明のある特定の特徴は、本発明の本記載の利益を得た後、全てが当業者に明らかになるように、独立して利用され得る。以下の特許請求の範囲に記載の本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、本明細書に記載の要素に変更が行われる場合がある。
【0215】
本発明のある特定の例示的な態様について記載してきたが、添付の特許請求の範囲は、これらの態様のみに限定されることを意図するものではない。特許請求の範囲は、文字通り、意図的に、及び/または等価物を包含するように解釈されるものである。
【0216】
以下の実施例は、本技術のある特定の態様を例示するために記載されており、それを限定するものとして解釈されるものではない。
【実施例
【0217】
本発明は、方法について記載する以下の非限定的な実施例によって更に例示され得る。
【0218】
実施例1:炭素マトリックス内のリン酸鉄リチウム(Fe/フロログルシノール/フルフラールアルデヒド)の合成。
鉄源として酸化鉄(III)(Fe)、及び炭素源としてフロログルシノール-フルフラールアルデヒドポリマーを使用して、炭素マトリックス内にリン酸鉄リチウムの試料を調製した。酸化鉄(III)(2.8g、13mmol、5ミクロン以下の粒径)を脱イオン水(10ml)に添加し、懸濁液を室温で5分間撹拌した。リン酸(85%HPO;2ml、26mmol)を添加し、懸濁液を2時間撹拌した。炭酸リチウム(LiCO;0.96g、13mmol)を添加し、二酸化炭素の発生が停止するまで、生じた懸濁液を撹拌した。別々の容器内で、フロログルシノール(1.68g)を10mlのエタノールに溶解させた。フルフラールアルデヒド(1.68ml)をフロログルシノール溶液に添加し、溶液を5分間混合した。混合後、溶液を酸化鉄/リチウム/リン酸塩懸濁液に一度に添加した。懸濁液を室温で一晩撹拌し、粘性混合物を生じた。100℃で撹拌することによって、溶媒(エタノール及び水)を蒸発させた。均一な乾燥粉末を得、これを窒素下で、表2に提供される温度勾配を使用して熱分解して、炭素マトリックス内に粉末リン酸鉄リチウムを提供した。
【表2】
【0219】
炭素マトリックス内の粉末リン酸鉄リチウムの試料を走査型電子顕微鏡法によって分析した。2つの倍率(1,490倍及び5,050倍)の顕微鏡写真を、それぞれ、図7A及び図7Bとして提供する。図7A及び図7Bを参照すると、リン酸鉄リチウムは、サイズがサブミクロンから数ミクロンの一次粒子として形成されている。一次粒子は、直径数十ミクロンの二次粒子へと凝集し、炭素マトリックスを介して互いに接続している。また、試料に粉末X線回折(XRD)分析を施し、これによって、材料の主な相がオリビン型LiFePOであり、同定されていない不純物を含む副相を伴うことが実証された(図8)。
【0220】
実施例2:炭素マトリックス内のリン酸鉄リチウム(Fe(OH)/フロログルシノール/フルフラールアルデヒド)の合成
鉄源として水酸化鉄(III)(Fe(OH))、及び炭素源としてフロログルシノール-フルフラールアルデヒドポリマーを使用して、炭素マトリックス内にリン酸鉄リチウムの試料を調製した。硝酸鉄(III)水和物(Fe(NO)-3.9HO;3.50g、8.7mmol)を脱イオン水(30ml)に溶解させることによって、水酸化鉄(III)を調製した。この溶液に、脱イオン水(15ml)中の水酸化ナトリウム(2.1g;52.5mmol)の溶液を添加し、水酸化鉄(III)ゲルの水性懸濁液の瞬間的な形成を生じた。水酸化鉄ゲルを母液中で一晩熟成させ、次いで分離し、遠心分離及び脱イオン水中での再懸濁のサイクル(合計5サイクル)によって精製した。リン酸(85%HPO;0.7ml、8.7mmol)、続いて炭酸リチウム(LiCO;0.32g、4.3mmol)を添加し、二酸化炭素の発生が停止するまで、生じた懸濁液を撹拌した。別々の容器に、フロログルシノール(1.05g)を4mlのエタノールに溶解させた。フルフラールアルデヒド(0.57ml)をフロログルシノール溶液に添加し、溶液を5分間混合した。混合後、溶液を水酸化鉄/リチウム/リン酸塩懸濁液に一度に添加した。懸濁液を室温で一晩撹拌し、粘性混合物を生じた。100℃で撹拌することによって、溶媒(エタノール及び水)を蒸発させた。均一な乾燥粉末を得、これを窒素下で、実施例1に記載のプロトコルを使用して熱分解して、炭素マトリックス内にリン酸鉄リチウムを提供した。
【0221】
炭素マトリックス内の粉末リン酸鉄リチウムの試料を走査型電子顕微鏡法によって分析した。2つの倍率(10,000倍及び49,900倍)の顕微鏡写真を、それぞれ、図9A及び図9Bとして提供する。図9A及び図9Bを参照すると、LFPは、約100nm~約1ミクロンの直径の微細な結晶質として形成され、導電性炭素ネットワーク内に均一に分散していた。二次粒子の凝集体は、約1ミクロン~数ミクロンのサイズで変動し、電解質が透過することができるオープンフレームワーク構造を有する。また、試料に粉末X線回折(XRD)分析を施し、これによって、材料の主な相がオリビン型LiFePOであり、およそ2%の鉄を含む副相を伴うことが実証された(図10)。鉄不純物相は、磁性によって分離することができるか、または、例えば、磁気電極フィルム鋳造中にカソードフィルム内の粒子の充填密度を増加させる強磁性剤として利用することができる。
【0222】
実施例3:炭素マトリックス内のリン酸鉄リチウム(Fe(OH)/フロログルシノール/フルフラールアルデヒド)の合成
粒径分布及び不純物プロファイルに対する残留炭素の影響を評価するために、炭素マトリックス内のリン酸鉄リチウムの第2の試料は、実施例2の手順に従うが、2倍のPF前駆体対LFP前駆体の比を使用して調製した。
【0223】
炭素マトリックス内の粉末リン酸鉄リチウムの試料を、2つの倍率(10,000倍及び100,000倍)の走査型電子顕微鏡法によって分析した。各倍率の顕微鏡写真を、それぞれ、図11A及び図11Bとして提供する。図11A及び図11Bを参照すると、LFPは、約100nm~約1ミクロンの直径の微細な結晶質として形成され、導電性炭素ネットワーク内に均一に分散していた。二次粒子の凝集体は、約1ミクロン~数ミクロンのサイズで変動し、電解質が透過することができるオープンフレームワーク構造を有する。また、試料に粉末X線回折(XRD)分析を施し、これによって、材料の主な相がオリビン型LiFePOであり、およそ3%の鉄を含む副相を伴うことが実証された(図12)。鉄不純物相は、磁性によって分離することができるか、または、例えば、磁気電極フィルム鋳造中にカソードフィルム内の粒子の充填密度を増加させる強磁性剤として利用することができる。
【0224】
実施例4:炭素マトリックス内のリン酸鉄リチウム(Fe/ピロメリット酸二無水物/1,4-フェニレンジアミン;PAA/低PIゲル)の合成
鉄源として酸化鉄(III)(Fe)、及び炭素源としてポリイミドゲルを使用して、炭素マトリックス内にリン酸鉄リチウムの試料を調製した。酸化鉄(III)(10.38g、65mmol)を脱イオン水(50ml)に添加し、懸濁液を室温で5分間撹拌した。リン酸(85%HPO;10ml、130mmol)を添加し、懸濁液を2時間撹拌した。炭酸リチウム(LiCO;5.05g、68.2mmol)を添加し、二酸化炭素の発生が停止するまで、生じた懸濁液を撹拌した。別々の容器に、1,4-フェニレンジアミン(PDA;2.0g)、ピロメリット酸二無水物(PMDA;6.8g)、及びトリエチルアミン(9.3ml)を脱イオン水(100ml)に添加した。混合物を一晩反応させて、ポリアミック酸トリエチルアンモニウム塩溶液を形成した。この溶液に無水酢酸(11.3ml)を添加して、イミド化を開始した。1分間混合した後、ゲル化溶液を鉄懸濁液に一度に添加した。生じた反応混合物にゆるく蓋をし、100℃で24時間撹拌しながら加熱した。この時間の間、溶媒が蒸発し、均一な乾燥粉末が得られた。有機マトリックスは、ポリアミック酸が豊富なポリイミドとポリアミック酸との混合物で構成されていた。この乾燥粉末を、実施例1に記載のプロトコルを使用して熱分解して、炭素マトリックス内にリン酸鉄リチウムを提供した。
【0225】
炭素マトリックス内の粉末リン酸鉄リチウムの試料を走査型電子顕微鏡法によって分析した。2つの倍率(2,000倍及び20,000倍)の顕微鏡写真を、それぞれ、図13A及び図13Bとして提供する。図13A及び図13Bを参照すると、LFPは、導電性炭素ネットワークによって一緒に保持されたサブミクロンの一次粒子の凝集体として、直径およそ10ミクロンの二次粒子へと形成された。また、試料に粉末X線回折(XRD)分析を施し、これによって、材料の主な相がオリビン型LiFePOであり、同定されていない不純物を含む副相を伴うことが実証された(図14)。
【0226】
実施例5:炭素マトリックス内のリン酸鉄リチウム(Fe/ピロメリット酸二無水物/1,4-フェニレンジアミン;PAA/低PIゲル)の合成
鉄源として酸化鉄(III)(Fe)、及び炭素源としてポリアミック酸を使用して、炭素マトリックス内にリン酸鉄リチウムの試料を調製した。酸化鉄(III)(10.38g、65mmol)を脱イオン水(50ml)に添加し、懸濁液を室温で5分間撹拌した。リン酸(85%HPO;10ml、130mmol)を添加し、懸濁液を2時間撹拌した。炭酸リチウム(LiCO;5.05g、68.2mmol)を添加し、二酸化炭素の発生が停止するまで、生じた懸濁液を撹拌した。別々の容器に、1,4-フェニレンジアミン(PDA;2.0g)、ピロメリット酸二無水物(PMDA;6.8g)、及びトリエチルアミン(9.3ml)を脱イオン水(100ml)に添加した。混合物を一晩反応させて、ポリアミック酸トリエチルアンモニウム塩溶液を形成した。次いで、ゲル前駆体混合物を酸化鉄懸濁液に添加し、直ちに無水酢酸(11.3ml)を添加した。生じた反応混合物にゆるく蓋をし、100℃で24時間撹拌しながら加熱した。この時間の間、溶媒が蒸発し、均一な乾燥粉末が得られた。有機マトリックスは、主にポリアミック酸と少量のポリイミドで構成されていた。理論に拘束されることを望むものではないが、酸性環境は、酢酸への無水酢酸の加水分解、及び最小限のイミド化の発生を伴う不溶性ポリアミック酸のゲル化を生じたと考えられる。この乾燥粉末を、実施例1に記載のプロトコルを使用して熱分解して、炭素マトリックス内にリン酸鉄リチウムを提供した。
【0227】
炭素マトリックス内の粉末リン酸鉄リチウムの試料を走査型電子顕微鏡法によって分析した。2つの倍率(2,000倍及び50,000倍)の顕微鏡写真を、それぞれ、図15A及び図15Bとして提供する。図15A及び図15Bを参照すると、LFPは、均一な2ミクロンの一次粒子の凝集体として形成され、凝集体は、電解質が透過することができる多孔質ネットワーク内の10ミクロンの二次粒子へと組み立てられる。また、試料に粉末X線回折(XRD)分析を施し、これによって、材料の主な相がオリビン型LiFePOであり、同定されていない不純物を含む副相を伴うことが実証された(図16)。
【0228】
実施例6:炭素マトリックス内のリン酸鉄リチウム(Fe/ピロメリット酸二無水物/1,4-フェニレンジアミン;PAA/中程度PIゲル)の合成
鉄源として酸化鉄(III)(Fe)、及び炭素源としてポリアミック酸を使用して、炭素マトリックス内にリン酸鉄リチウムの試料を調製した。酸化鉄(III)(10.38g、65mmol)を脱イオン水(50ml)に添加し、懸濁液を室温で5分間撹拌した。リン酸(85%HPO;10ml、130mmol)を添加し、懸濁液を2時間撹拌した。炭酸リチウム(LiCO;5.05g、68.2mmol)を添加し、二酸化炭素の発生が停止するまで、生じた懸濁液を撹拌した。別々の容器に、1,4-フェニレンジアミン(PDA;2.0g)、ピロメリット酸二無水物(PMDA;6.8g)、及びトリエチルアミン(9.3ml)を脱イオン水(100ml)に添加した。混合物を一晩反応させて、ポリアミック酸トリエチルアンモニウム塩溶液を形成した。トリエチルアミン(およそ20mL)を酸化鉄懸濁液に添加し、pHを(初期の4.0から)約8.0まで上昇させた。次いで、ゲル前駆体溶液を全て一度に酸化鉄懸濁液、続いて無水酢酸(11.3mL)を添加して、化学イミド化を開始した。生じた反応混合物にゆるく蓋をし、100℃で24時間撹拌しながら加熱した。この時間の間、溶媒が蒸発し、均一な乾燥粉末が得られた。有機マトリックスは、いくつかのポリイミドとともに主にポリアミック酸で構成されていた。理論に拘束されることを望むものではないが、比較的中性の環境は、実施例4及び5と比較して、ポリアミック酸塩のイミド化/ゲル化の増加を生じたと考えられる。この乾燥粉末を、実施例1に記載のプロトコルを使用して熱分解して、炭素マトリックス内にリン酸鉄リチウムを提供した。
【0229】
生成物の試料に粉末X線回折(XRD)分析を施し、これによって、材料が、LiFePO(70%重量未満)、未反応のLiPO(約30%重量)の混合物であり、残りがFeであることが実証された(図17)。この実施例は、驚くべきことに、オルガノゲル中のより高いPI/PAA比で、未反応の試薬のかなりの部分が最終生成物中に存在することを示している。理論に拘束されることを望むものではないが、剛性ポリイミドゲルは、LFP前駆体間の効率的な接触の低下をもたらし、反応の均質性の低さ及び生成物収率の低さを生じると考えられる。
【0230】
実施例7:炭素マトリックスのラマン分光法
実施例1~7のその場で形成された炭素の電子構造を、ラマン分光法によって評価する。理論に拘束されることを望むものではないが、開示の方法に従って形成された炭素マトリックスは、リン酸金属リチウムカソード材料に添加された粒子状炭素よりも導電性が高いことができると考えられる。
【0231】
実施例8:炭素ナノ構造の分析
炭素マトリックスからリン酸金属リチウムを溶出させることによって、実施例1~7で形成されたカソード材料の炭素マトリックスのナノ構造を評価する。残りの炭素材料を分析して、多孔性、孔径、及び炭素ストラットサイズを決定する。具体的には、Heピクノメトリ、ならびにN吸着等温線を介した表面及び孔構造によって、He真密度を決定する。中長期の微細構造分析について、SEM、TEM、ラマン、及びX線散乱を実施する。また、CHNの元素分析を実施する。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7A
図7B
図8
図9A
図9B
図10
図11A
図11B
図12
図13A
図13B
図14
図15A
図15B
図16
図17
【手続補正書】
【提出日】2024-04-05
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0231
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0231】
実施例8:炭素ナノ構造の分析
炭素マトリックスからリン酸金属リチウムを溶出させることによって、実施例1~7で形成されたカソード材料の炭素マトリックスのナノ構造を評価する。残りの炭素材料を分析して、多孔性、孔径、及び炭素ストラットサイズを決定する。具体的には、Heピクノメトリ、ならびにN吸着等温線を介した表面及び孔構造によって、He真密度を決定する。中長期の微細構造分析について、SEM、TEM、ラマン、及びX線散乱を実施する。また、CHNの元素分析を実施する。
本発明に関連する発明の実施態様の一部を以下に示す。
[実施形態1]
導電性炭素マトリックス内にリン酸遷移金属リチウムカソード材料を調製する方法であって、前記方法が、
前記リン酸遷移金属リチウムカソード材料を合成するための前駆体の群を組み合わせることであって、前記群のうちの少なくとも第1の前駆体が、1グラム(g)/立方センチメートル(cc)超の第1の密度を有する固相を含み、前記群のうちの少なくとも第2の前駆体が、第2の密度を有する液相を含み、前記第2の密度が、前記第1の密度未満である、前記組み合わせることと、
流体状態で1つ以上の炭素前駆体を提供することであって、前記1つ以上の炭素前駆体が、ゲル化開始剤の存在下で固体オルガノゲルを形成するように構成され、前記固体オルガノゲルが、熱分解時に導電性炭素マトリックスを形成するように構成される、前記提供することと、
前記前駆体の群を前記1つ以上の炭素前駆体と混合して、前駆体混合物を形成することと、
前記ゲル化開始剤を前記前駆体混合物に添加することと、
前記1つ以上の炭素前駆体にゲル化を施すことを可能にし、前記固体オルガノゲルを形成することと、
前記固体オルガノゲルを熱分解して、前記導電性炭素マトリックス内に前記リン酸遷移金属リチウムカソード材料を形成することと、を含む、前記方法。
[実施形態2]
前記固体オルガノゲルが、前記ゲル化開始剤の添加後5秒~15分以内に形成される、実施形態1に記載の方法。
[実施形態3]
前記固体オルガノゲルが、相互接続した固相ポリマー構造の多孔質ネットワークを含む、実施形態1に記載の方法。
[実施形態4]
前記多孔質ネットワークが、前記群のうちの前記第1の前駆体と、前記群のうちの前記第2の前駆体との間の接触を維持する、実施形態3に記載の方法。
[実施形態5]
前記接触が、少なくとも約300℃の温度に維持される、実施形態4に記載の方法。
[実施形態6]
前記第1の前駆体が、鉄を含み、
前記第2の前駆体が、リチウム源及びリン酸を含み、
前記リン酸遷移金属リチウムカソード材料が、リン酸鉄リチウムである、実施形態1に記載の方法。
[実施形態7]
前記鉄が、鉄(II)塩、鉄(III)塩、酸化鉄(II)(FeO)、酸化鉄(III)(Fe )、混合酸化鉄(Fe )、またはそれらの組み合わせの形態で存在する、実施形態6に記載の方法。
[実施形態8]
前記固体オルガノゲルが、フロログルシノール-フルフラールポリマーまたはレゾルシノール-フルフラールポリマーを含み、前記1つ以上の炭素前駆体が、フロログルシノールまたはレゾルシノール及びフルフラールである、実施形態1に記載の方法。
[実施形態9]
前記ゲル化開始剤が、アミン塩基または酸である、実施形態8に記載の方法。
[実施形態10]
前記固体オルガノゲルが、ポリウレタンポリマーを含み、前記1つ以上の炭素前駆体が、ポリオール及びイソシアネートを含む、実施形態1に記載の方法。
[実施形態11]
前記ゲル化開始剤が、アルキルアミンを含む、実施形態10に記載の方法。
[実施形態12]
前記オルガノゲルが、ポリアミック酸ポリマーを含み、前記ゲル化開始剤が、無水酢酸、酢酸、またはそれらの組み合わせを含む、実施形態1に記載の方法。
[実施形態13]
前記前駆体の群が、マイクロ波感受性を有する前駆体を含み、前記熱分解することが、マイクロ波放射を適用することによって実施される、実施形態1に記載の方法。
[実施形態14]
前記マイクロ波感受性を有する前駆体が、炭素、マグネタイト、及びマグヘマイトのうちの1つ以上を含む、実施形態13に記載の方法。
[実施形態15]
20nm~100nmの特徴的な寸法を有するマグネタイト及びマグヘマイトのうちの1つ以上のナノ粒子を含む、実施形態14に記載の方法。
[実施形態16]
前記第1の前駆体が、マンガン、バナジウム、またはその両方を含み、
前記第2の前駆体が、リチウム源及びリン酸を含み、
前記リン酸遷移金属リチウムカソード材料が、リン酸マンガンリチウムまたはリン酸バナジウムリチウムである、実施形態1に記載の方法。
[実施形態17]
マイクロ波放射を適用することによって、前記リン酸遷移金属リチウムカソード材料を乾燥させることを更に含む、実施形態1に記載の方法。
[実施形態18]
1グラム超の前記第1の密度を有する前記固相が、強磁性鉄化合物、フェリ磁性鉄化合物、またはその両方を含む、実施形態1に記載の方法。
[実施形態19]
前記強磁性鉄化合物、前記フェリ磁性鉄化合物、またはその両方が、
鉄含有アノードを、多孔質炭素基材、酸素カソード、ならびに前記鉄含有アノード及び前記多孔質炭素基材の両方と接触している電解質を含む電気化学セル内で酸化させることを含む方法によって合成され、
前記酸化させることが、20nm~100nmの特徴的な寸法を有する前記強磁性鉄化合物、前記フェリ磁性鉄化合物、またはその両方の粒子を生成する、実施形態18に記載の方法。
[実施形態20]
磁気濾過によって前記粒子を除去することを更に含む、実施形態19に記載の方法。
[実施形態21]
マイクロ波放射を適用することによって、前記粒子を乾燥させることを更に含む、実施形態19に記載の方法。
[実施形態22]
前記電気化学セルの操作及び前記強磁性鉄化合物、前記強磁性鉄化合物、またはその両方の前記形成が、15℃~35℃の温度で行われる、実施形態19に記載の方法。
[実施形態23]
実施形態1に記載の方法によって調製された、リン酸遷移金属リチウムカソード材料。
[実施形態24]
実施形態1に記載の方法によって調製されたリン酸遷移金属リチウムカソード材料を含む、エネルギー貯蔵システム。
[実施形態25]
オリビン型リン酸鉄リチウムを含み、導電性炭素マトリックスと一体であるナノ粒子を含む、組成物であって、前記ナノ粒子が、20nm~1000nmの特徴的な寸法、及び10メートル (m )/グラム(g)~65m /gの比表面積を有する、前記組成物。
[実施形態26]
前記特徴的な寸法が、30nm~70nmであり、前記比表面積が、20m /g~65m /gである、実施形態25に記載の組成物。
[実施形態27]
前記特徴的な寸法が、30nm~60nmであり、前記比表面積が、22m /g~40m /gである、実施形態25に記載の組成物。
[実施形態28]
前記特徴的な寸法が、20nm~40nmであり、前記比表面積が、60m /g~80m /gである、実施形態25に記載の組成物。
[実施形態29]
前記ナノ粒子が、マグネタイト、マグヘマイト、またはその両方を更に含む、実施形態25に記載の組成物。
[実施形態30]
前記ナノ粒子が、マンガンを更に含む、実施形態25に記載の組成物。
[実施形態31]
前記導電性炭素マトリックスが、炭化オルガノゲルポリマーマトリックスを含む、実施形態25に記載の組成物。
[実施形態32]
実施形態25に記載の組成物を含む、エネルギー貯蔵システム。
【手続補正2】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性炭素マトリックス内にリン酸遷移金属リチウムカソード材料を調製する方法であって、前記方法が、
前記リン酸遷移金属リチウムカソード材料を合成するための前駆体の群を組み合わせることであって、前記群のうちの少なくとも第1の前駆体が、1グラム(g)/立方センチメートル(cc)超の第1の密度を有する固相を含み、前記群のうちの少なくとも第2の前駆体が、第2の密度を有する液相を含み、前記第2の密度が、前記第1の密度未満である、前記組み合わせることと、
流体状態で1つ以上の炭素前駆体を提供することであって、前記1つ以上の炭素前駆体が、ゲル化開始剤の存在下で固体オルガノゲルを形成するように構成され、前記固体オルガノゲルが、熱分解時に導電性炭素マトリックスを形成するように構成される、前記提供することと、
前記前駆体の群を前記1つ以上の炭素前駆体と混合して、前駆体混合物を形成することと、
前記ゲル化開始剤を前記前駆体混合物に添加することと、
前記1つ以上の炭素前駆体にゲル化を施すことを可能にし、前記固体オルガノゲルを形成することと、
前記固体オルガノゲルを熱分解して、前記導電性炭素マトリックス内に前記リン酸遷移金属リチウムカソード材料を形成することと、を含む、前記方法。
【請求項2】
前記固体オルガノゲルが、前記ゲル化開始剤の添加後5秒~15分以内に形成される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記固体オルガノゲルが、相互接続した固相ポリマー構造の多孔質ネットワークを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記多孔質ネットワークが、前記群のうちの前記第1の前駆体と、前記群のうちの前記第2の前駆体との間の接触を維持する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記接触が、少なくとも約300℃の温度に維持される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記第1の前駆体が、鉄を含み、
前記第2の前駆体が、リチウム源及びリン酸を含み、
前記リン酸遷移金属リチウムカソード材料が、リン酸鉄リチウムである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記鉄が、鉄(II)塩、鉄(III)塩、酸化鉄(II)(FeO)、酸化鉄(III)(Fe)、混合酸化鉄(Fe)、またはそれらの組み合わせの形態で存在する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記固体オルガノゲルが、フロログルシノール-フルフラールポリマーまたはレゾルシノール-フルフラールポリマーを含み、前記1つ以上の炭素前駆体が、フロログルシノールまたはレゾルシノール及びフルフラールである、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記ゲル化開始剤が、アミン塩基または酸である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記固体オルガノゲルが、ポリウレタンポリマーを含み、前記1つ以上の炭素前駆体が、ポリオール及びイソシアネートを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記ゲル化開始剤が、アルキルアミンを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記オルガノゲルが、ポリアミック酸ポリマーを含み、前記ゲル化開始剤が、無水酢酸、酢酸、またはそれらの組み合わせを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記前駆体の群が、マイクロ波感受性を有する前駆体を含み、前記熱分解することが、マイクロ波放射を適用することによって実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記マイクロ波感受性を有する前駆体が、炭素、マグネタイト、及びマグヘマイトのうちの1つ以上を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
20nm~100nmの粒子サイズを有するマグネタイト及びマグヘマイトのうちの1つ以上のナノ粒子を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記第1の前駆体が、マンガン、バナジウム、またはその両方を含み、
前記第2の前駆体が、リチウム源及びリン酸を含み、
前記リン酸遷移金属リチウムカソード材料が、リン酸マンガンリチウムまたはリン酸バナジウムリチウムである、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
マイクロ波放射を適用することによって、前記リン酸遷移金属リチウムカソード材料を乾燥させることを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
1グラム超の前記第1の密度を有する前記固相が、強磁性鉄化合物、フェリ磁性鉄化合物、またはその両方を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記強磁性鉄化合物、前記フェリ磁性鉄化合物、またはその両方が、
鉄含有アノードを、多孔質炭素基材、酸素カソード、ならびに前記鉄含有アノード及び前記多孔質炭素基材の両方と接触している電解質を含む電気化学セル内で酸化させることを含む方法によって合成され、
前記酸化させることが、20nm~100nmの粒子サイズを有する前記強磁性鉄化合物、前記フェリ磁性鉄化合物、またはその両方の粒子を生成する、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
磁気濾過によって前記粒子を除去することを更に含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
マイクロ波放射を適用することによって、前記粒子を乾燥させることを更に含む、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記電気化学セルの操作及び前記強磁性鉄化合物、前記強磁性鉄化合物、またはその両方の前記形成が、15℃~35℃の温度で行われる、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
請求項1に記載の方法によって調製された、リン酸遷移金属リチウムカソード材料。
【請求項24】
請求項1に記載の方法によって調製されたリン酸遷移金属リチウムカソード材料を含む、エネルギー貯蔵システム。
【請求項25】
オリビン型リン酸鉄リチウムを含み、導電性炭素マトリックスと一体であるナノ粒子を含む、組成物であって、前記導電性炭素マトリックスが、炭化オルガノゲルポリマーマトリックスを含み、前記ナノ粒子が、20nm~1000nmの粒子サイズ、及び10メートル(m)/グラム(g)~65m/gの窒素吸着BET表面積を有し、前記粒子サイズは、直径、あるいは、幅、長さ、及び/または深さのうちの1つ以上である、前記組成物。
【請求項26】
前記粒子サイズが、30nm~70nmであり、前記窒素吸着BET表面積が、20m/g~65m/gである、請求項25に記載の組成物。
【請求項27】
前記粒子サイズが、30nm~60nmであり、前記窒素吸着BET表面積が、22m/g~40m/gである、請求項25に記載の組成物。
【請求項28】
前記粒子サイズが、20nm~40nmであり、前記窒素吸着BET表面積が、60m/g~80m/gである、請求項25に記載の組成物。
【請求項29】
前記ナノ粒子が、マグネタイト、マグヘマイト、またはその両方を更に含む、請求項25に記載の組成物。
【請求項30】
前記ナノ粒子が、マンガンを更に含む、請求項25に記載の組成物。
【請求項31】
請求項25に記載の組成物を含む、エネルギー貯蔵システム。
【国際調査報告】