(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-10
(54)【発明の名称】腰痛治療
(51)【国際特許分類】
A61K 31/5377 20060101AFI20241003BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20241003BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20241003BHJP
A61K 47/18 20170101ALI20241003BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20241003BHJP
A61P 29/02 20060101ALI20241003BHJP
A61K 49/04 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
A61K31/5377
A61K9/10
A61K47/10
A61K47/18
A61P31/04
A61P29/02
A61K49/04 210
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024520717
(86)(22)【出願日】2022-10-12
(85)【翻訳文提出日】2024-04-04
(86)【国際出願番号】 EP2022078403
(87)【国際公開番号】W WO2023062080
(87)【国際公開日】2023-04-20
(32)【優先日】2021-10-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519173912
【氏名又は名称】ペルシカ ファーマシューティカルズ リミテッド
【氏名又は名称原語表記】PERSICA PHARMACEUTICALS LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【氏名又は名称】本田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100152489
【氏名又は名称】中村 美樹
(72)【発明者】
【氏名】チャプレウスキ、ロイド
(72)【発明者】
【氏名】ハムリン、ピーター ジョン
(72)【発明者】
【氏名】マクヘール、ダンカン
(72)【発明者】
【氏名】カミングス、ポール ジョン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C085
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA22
4C076BB11
4C076CC32
4C076DD52
4C076EE23F
4C076EE48F
4C076FF16
4C076FF68
4C076GG47
4C085HH05
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4C085LL20
4C086AA01
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4C086MA03
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4C086MA08
4C086MA10
4C086MA23
4C086MA66
4C086NA05
4C086NA10
4C086ZA02
4C086ZA20
4C086ZB35
(57)【要約】
本開示は、慢性腰痛の治療用の抗生物質組成物及び投与方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
腰痛の治療方法であって、患者に治療有効量の抗生物質を投与することを含む方法において、前記抗生物質が脊椎における1つ以上の標的部位に投与される、方法。
【請求項2】
前記抗生物質がリネゾリド結晶形IIである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
リネゾリドが、ポロキサマー407とイオヘキソールとで構成される感熱性ヒドロゲル送達担体中に製剤化され、及びリネゾリドが滅菌微粉末として用量単位で予め調製されて、投与前に前記ポロキサマー407ベースの感熱性ヒドロゲル送達担体に負荷され、前記感熱性ヒドロゲル送達担体が滅菌溶液として予め調製される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
リネゾリドが約250mgの用量単位で予め調製されて、投与前に約5mlの前記感熱性ヒドロゲル送達担体に負荷される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記リネゾリド組成物が、少なくとも1つの椎間板、椎間腔、関節内腔、黄色靱帯、脊椎に付随する靱帯、硬膜外腔、脊椎に付随する腱、骨浮腫に隣接する部位、骨接合部、椎間関節、及び/又は他の脊椎コンパートメントに投与される、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
前記リネゾリド組成物が、1つ以上の椎間板に投与される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
リネゾリドが、前記1つ以上の椎間板に各椎間板につき約150mgで投与される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記リネゾリド組成物が、イントロデューサ針及び投与針を使用して前記1つ以上の椎間板に送達される、請求項3~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記リネゾリド組成物が、投与針を使用して前記1つ以上の椎間板に送達される、請求項3~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記投与針がルアーロックシリンジに接続される、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
前記投与針と前記ルアーロックシリンジとがフレキシブルコネクタを介して接続される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記患者が、脊椎における前記1つ以上の標的部位の各々に(例えば前記1つ以上の椎間板の各々に)単回用量の前記リネゾリド組成物の投与を受ける、請求項3~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記患者が、脊椎における前記1つ以上の標的部位の各々に(例えば前記1つ以上の椎間板の各々に)2用量の前記リネゾリド組成物の投与を受ける、請求項3~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
1回目の用量と2回目の用量との間の投与間隔が、約72時間~約132時間、任意選択で約72時間~約120時間である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
1回目の用量と2回目の用量との間の投与間隔が、72時間、96時間又は120時間である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記1回目及び2回目の用量に同じ量のリネゾリドが含まれる、請求項13~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記リネゾリド組成物の前記用量に約150mgリネゾリドが含まれる、請求項12~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記腰痛を患う患者が、椎体終板骨浮腫(モディック変化)を有する、請求項1~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記患者が、モディック変化I型、モディック変化II型、又はモディック変化I+II型を有する、請求項18に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、感染が原因で起こる腰痛(LBP)、特に慢性腰痛(CLBP)を有する患者の疼痛及び能力障害を緩和するための治療に関する。
【背景技術】
【0002】
慢性腰痛(CLBP)は、世界中の一般集団によく見られる。モディック変化と非特異的CLBPとの間の正の関連性が報告されている。非特異的CLBPを有する患者の集団では、一般集団よりも高い割合でモディック変化I型、及びモディック変化I+II型が見られる。モディック変化は、椎骨の浮腫(又は炎症)を特徴とするものであり、脊椎椎間円板の感染によって引き起こされる。幾つかの病原体が、嫌気性細菌、例えば、キューティバクテリウム・アクネス(Cutibacterium acnes)(C.アクネス(C.acnes))(旧名プロピオニバクテリウム・アクネス(Propionibacterium acnes)(P.アクネス(P.acnes)))を含め、椎間板に感染してモディック変化及び腰痛を引き起こし得る。
【0003】
モディック変化を伴うCLBPの治療においては、抗生物質療法が有効であり得る。例えば、アモキシシリン・クラブラン酸合剤などの抗生物質を経口投与すると、慢性LBP患者においてあらゆる評価項目尺度で臨床的に重要且つ統計的に有意な(p<0.001)改善が見られる。医薬の椎間板内注射を含め、幾つかの非外科的治療手法が、反復のない臨床試験でモディック変化及びCLBPの低減において何らかの短期有効性を実証しているが、これらの手法に成功は見られず、一部に至っては、物議を醸す結果さえ引き起こしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、腰痛、特に慢性腰痛(CLBP)の治療のための抗生物質組成物及び製剤並びに脊椎注射方法及び投与レジメンを提供することにより、このような未だ対処されていない課題に取り組む。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、患者の腰痛、特に慢性腰痛の治療のためのリネゾリド組成物及び投与方法を提供する。
一態様において、本開示は、患者の腰痛の治療方法であって;治療有効量のリネゾリドを患者の脊椎における1つ以上の標的部位に投与することを含む方法を提供する。
【0006】
一部の実施形態において、リネゾリドは、ポロキサマー407とイオヘキソールとで構成される感熱性ヒドロゲル送達担体中に製剤化される。そのため、一部の実施形態では、リネゾリド組成物が患者に投与され、ここでリネゾリド組成物は、リネゾリド結晶形IIと、ポロキサマー407及びイオヘキソールを含む感熱性ヒドロゲル送達担体とを含む。一部の実施形態において、リネゾリドは滅菌微粉末として用量単位で予め調製されて、投与前にポロキサマー407ベースの感熱性ヒドロゲル送達担体に負荷され、この感熱性ヒドロゲル送達担体は、滅菌溶液として予め調製される。非限定的な例として、リネゾリド(結晶形II)は約250mgの用量単位で予め調製され、投与前に約5mlの感熱性ヒドロゲル送達担体に負荷されて、脊椎投与に好適なリネゾリド組成物を形成する。
【0007】
一部の実施形態において、リネゾリド組成物は、少なくとも1つの椎間板、椎間腔、関節内腔、黄色靱帯、脊椎に付随する靱帯、硬膜外腔、脊椎に付随する腱、骨浮腫に隣接する部位、骨接合部、椎間関節、及び/又は他の脊椎コンパートメントに投与される。好ましい一実施形態において、リネゾリド組成物は1つ以上の椎間板に投与される。リネゾリド組成物は、イントロデューサ針及びルアーロックシリンジに接続されている投与針を使用して椎間板に送達されてもよい。一部の例において、リネゾリド組成物は、投与針のみを使用して椎間板に送達されてもよい。
【0008】
一部の実施形態において、患者は、単回用量のリネゾリド;例えば、脊椎にある1つ以上の標的部位の各々に単回用量の投与を受ける。他の実施形態において、患者は、2用量のリネゾリド;例えば、脊椎にある1つ以上の標的部位の各々に2用量の投与を受ける。1回目の用量と2回目の用量との間の投与間隔は、2日、3日、4日、5日、6日又は1週間である。一部の実施形態において、患者は、約150mgの用量のリネゾリドの投与を受ける。非限定的な例として、1回目及び2回目の用量には、同じ量のリネゾリド、例えば、各用量につき150mgのリネゾリドが含まれる。
【0009】
一部の実施形態において、腰痛を患う患者は、椎体終板骨浮腫(モディック変化)、例えば、モディック変化I型、II型又はI+II型などを有する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】ヒト血漿中のリネゾリド検出の代表的な検量線を示す図。
【
図2】サロゲートマトリックス中のポロキサマー407の代表的な検量線を示す図。
【
図3】時間数(hours)による時間に対する3mLのPP353(150mgリネゾリド)の投与後の血漿リネゾリド濃度をlog
10目盛りで3例の患者各々の折れ線として示す図。
【
図4】3mL用量のPP353(150mgリネゾリド)を患者に投与し、1回目の用量の120時間後に2回目の3mL用量を投与した後の時間数による時間に対する血漿リネゾリド濃度をlog
10目盛りで示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示の1つ以上の実施形態の詳細を以下の添付の説明に示す。特に定義しない限り、本明細書で使用される全ての科学技術用語は、本開示が属する技術分野の当業者が一般に理解するのと同じ意味を有する。本開示の実施又は試験においては、本明細書に記載されるものと同様の又は等価な任意の材料及び方法を使用し得るが、ここで好ましい材料及び方法を記載する。
【0012】
I.緒論
本開示は、CLBPなどの腰痛、具体的にはモディック変化を伴う腰痛の特別な治療に関する。腰痛は、脊椎の感染が原因で起こることもある。本開示は、有効量の医薬を脊椎及び/又は脊椎コンパートメントに送達するのに好適な抗生物質組成物及び投与方法を提供する。
【0013】
本開示は、1つ以上の脊椎コンパートメントなど、標的疾患範囲に抗生物質を有効に送達するための抗生物質組成物及び用量単位の特別な調製方法について考察する。抗生物質組成物は、生分解性ポロキサマーで構成される感熱性ヒドロゲルに製剤化される。抗生物質組成物は、注射可能な水性懸濁液である。患者への投与時、溶液は標的範囲でゲル化し、ヒドロゲルに負荷されている抗生物質をゆっくりと放出する。
【0014】
本開示はまた、疼痛及び/又は疼痛に関連する健康への悪影響、例えば能力障害を治療、予防、改善、及び/又は軽減するための、有効量の抗生物質を脊椎に送達することのできる投与方法も提供する。特に本開示は、腰痛及び能力障害を治療、予防、改善、及び/又は軽減すると同時に、頸椎、胸椎、腰椎及び/又は仙椎の細菌感染を除去するための、リネゾリド組成物を1つ以上の脊椎部位に送達する注射方法を提供する。本治療は、急性又は慢性腰痛の罹患者が、座る、眠る、又は運転するなど、その日常生活活動を痛みを感じることなく、又はあまり感じることなく行う助けとなる。詳細には、本抗生物質組成物及び投与方法は、患者の慢性腰痛、例えば、6ヵ月以上続く腰痛の治療に用いることができる。
【0015】
抗生物質の長期経口投与と比較して、本組成物及び投与方法によれば、全身性副作用のレベルが低下し、投与レジメンに対する患者コンプライアンスが向上し、及びより少ない抗生物質投薬量で作用部位における有効性が増加することになり得る。そうした利点には、例えば、局所送達による身体部位特異的作用、治療の有効性を損なうことのない投与頻度の低減、副作用の低減、作用発現時間の短縮及び投与コンプライアンスの向上が含まれ得る。
【0016】
II.腰痛治療
腰痛
腰痛は一般的であり、その強度は、鈍い恒常的な痛みから突発的な激痛又は電撃痛まで、様々である。腰痛は急性又は慢性であり得る。慢性腰痛(CLBP)は持続性、即ち慢性であり、3ヵ月以上続き得る。疼痛の種類としては、限定はされないが、急性痛、亜急性痛、慢性痛又は恒常的疼痛、局所痛、根痛、関連痛、体性痛、放散痛、神経因性疼痛、炎症性疼痛、及び混合痛を挙げることができる。
【0017】
LBPは、疾患特異的であることも、又は非特異的であることもある。本明細書で使用されるとき、用語「非特異的腰痛」は、概して、疼痛の正確な原因が不明である腰痛を指す。これは、認識可能な既知の特異的病変(例えば、腫瘍、骨粗鬆症、腰椎骨折、構造的変形、炎症性障害、根性症候群、又は馬尾症候群)に原因を帰することができない腰痛として定義される。非特異的腰痛は、最も多く見られる種類の背痛である。急性腰痛の症例の大多数は、非特異的に分類される。非特異的腰痛は、それが3ヵ月より長く続く場合には、慢性に分類される。人によってはこれが数ヵ月続き、又は更には数年続くことさえある。本明細書で考察するとおり、一部の非特異的CLBP、即ち、モディック変化を伴うCLBPは、細菌感染に関連することが分かっている。
【0018】
腰痛は、人の生活様式、仕事及び活動に大きな影響を及ぼす。現在の腰痛管理がもたらす疼痛及び能力障害の改善は、小幅から中程度である。種々の要因が腰痛を引き起こす可能性がある。類似した腰痛原因を共有する患者のサブグループを特定する戦略があれば、特異的治療の開発に有益となるであろう。
【0019】
持続期間が6ヵ月より長い慢性腰痛を患う患者は、MRIで痛みのある椎間板レベルに椎体終板骨浮腫(モディック変化、MC)、例えば、モディック変化I型、モディック変化II型、又はモディック変化I+II型などの診断を受けることが多いと報告されている。細菌感染が局所的炎症過程を誘発し、それが椎骨終板の変化につながり得る。モディック変化はLBPと強く関連するため、モディック変化と細菌感染との間に病因的相関があるという知見は、LBP、特にCLBPの新規治療戦略をもたらす。抗生物質で脊椎の感染を治療できれば、感染が原因で起こるモディック変化を伴う腰痛の治療となるであろう。
【0020】
抗生物質組成物
本開示によれば、腰痛、詳細にはCLBPの治療に、モディック変化及びCLBPを引き起こす細菌感染に対する抗生物質を含む医薬組成物及び製剤が使用される。
【0021】
抗生物質の選択は、モディック椎間板から分離される細菌性病原体に依存し得る。モディック椎間板から最も高頻度に分離される細菌性病原体は、スタフィロコッカス属種(Staphylococcus spp.)及びC.アクネス(C.acnes)である。抗生物質耐性は、世界の様々な集団及び地域毎にばらつきがある。ロバストで幅広く有効な療法を有するには、C.アクネス(C.acnes)及びスタフィロコッカス属(Staphylococcus)、又はC.アクネス(C.acnes)のみを最低限として、よく見られる耐性に対応することが好ましいであろう。好ましくは、モディック変化を伴う感染部位で分離される病原体の耐性プロファイルを所与として、任意の感染部位からの現在の臨床分離株に対して有効な抗生物質が、本組成物及び製剤の活性薬剤として選択されてもよい。一部の実施形態において、C.アクネス(C.acnes)及びスタフィロコッカス属(Staphylococcus)の両方に対して有効な抗生物質が、本組成物及び製剤の活性薬剤として選択されてもよい。一部の実施形態において、C.アクネス(C.acnes)及びスタフィロコッカス属(Staphylococcus)の両方に対して有効な抗生物質の組み合わせが選択されてもよい。一部の非限定的な例では、抗生物質組成物は、モディック変化I型を伴うC.アクネス(C.acnes)感染の治療用の少なくとも1つの抗生物質を含む。
【0022】
一部の実施形態において、抗生物質は、リネゾリド(化学名:((S)-N-((3-(3-フルオロ-4-モルホリノフェニル)-2-オキソオキサゾリジン-5-イル)メチル)アセトアミド)である。リネゾリドは、レンサ球菌、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)、及びメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)を含めた、多くのグラム陽性菌に対するオキサゾリジノンである。リネゾリドは吸収が良く、健常ボランティアでは約100%のバイオアベイラビリティである。リネゾリドは比較的速やかに組織に透過して、1mg/Lでその最小発育阻止濃度(MIC)に達することができる。従って、本明細書で考察するとおりのリネゾリド組成物は、必要としている対象の1つ以上の標的部位に治療有効量のリネゾリドを送達するように製剤化される。リネゾリドの有効量は、少なくとも一部には、標的細菌、投与手段、及び他の決定要因に基づいて提供される。一般に、有効量のリネゾリドは、標的細菌の効率的な殺傷又は阻害を提供し、必要としている対象の疼痛又は疼痛の発症リスクを低減する。
【0023】
一部の実施形態において、医薬品有効成分(API)としてのリネゾリドが送達媒体に製剤化されてもよい。様々な多形の結晶形(即ち、結晶変態)のリネゾリドを本組成物の活性成分として選択することができる。例えば、リネゾリドは、リネゾリド結晶形I(例えば、米国特許第6,444,813号明細書)、又は結晶形II(例えば、米国特許第6,559,305号明細書)、又は結晶形III(例えば、米国特許第7,718,799号明細書;米国特許出願公開第2007/0104785号明細書)、又は結晶形IV(例えば、米国特許出願公開第2008/0319191号明細書)、又はその他の、国際公開第2007/026369号、同第2006/110155号及び同第2014/013498号;並びに米国特許出願公開第2017/0008919号明細書に記載されるとおりの結晶形(これらの各々の内容は、全体として参照により本明細書に援用される)であってもよい。米国特許第6,559,305号明細書に詳述するとおり、リネゾリド((S)-N-[[3-[3-フルオロ-4-(4-モルホリニル)フェニル]-2-オキソ-5-オキサゾリジニル]メチル]アセトアミド)結晶形IIは、以下のピークを有する粉末X線回折(XRPD)スペクトルを特徴とし得る。
【0024】
【0025】
例えば、リネゾリド結晶形IIは、16.8、14.2及び22.4度(2θ)にピークを含むXPRDパターンを特徴とし得る。XPRDパターンは、更に21.6及び25.3度2θにピークを含み得る。2θ(2シータ)角として与えられる1つ以上のXRPDピークを用いて結晶形が特定されるとき、特に明示されない限り、2θ値の各々は所与の値±0.2度を意味するものと理解される。
【0026】
米国特許第6,559,305号明細書に詳述されるとおり、リネゾリド((S)-N-[[3-[3-フルオロ-4-(4-モルホリニル)フェニル]-2-オキソ-5-オキサゾリジニル]メチル]アセトアミド)結晶形IIは更に、鉱油マルとして以下のピーク:3364、1748、1675、1537、1517、1445、1410、1401、1358、1329、1287、1274、1253、1237、1221、1145、1130、1123、1116、1078、1066、1049、907、852、及び758cm-1を有する赤外(IR)スペクトルを特徴とし得る。
【0027】
非限定的な例として、リネゾリドは、粉砕された粉体形態のリネゾリド結晶形IIであり得る。リネゾリド(結晶形II)は、本開示の滅菌注射用組成物の調製のため微粉末に粉砕し、任意の好適な方法を用いて滅菌することができる。好ましくは、リネゾリド結晶形IIは、ガンマ線照射によって滅菌される。リネゾリド結晶形IIは調製され、個別に包装されてもよい。
【0028】
一部の実施形態において、リネゾリドは室温で水性懸濁液として調製されるが、インビボ注射後、この懸濁液は体温で非流動性/硬質ゲルへと転移することができる。数時間又は数日経つと、ゲルは崩壊する(即ち、生分解性である)。
【0029】
脊椎への抗生物質(例えば、リネゾリド)の送達には、任意の好適な送達担体を使用し得る。送達担体は、注射に、特に脊椎又は脊椎に近い範囲への注射に好適であり得る。例えば、送達担体は、水溶液、低粘度溶液、懸濁液、又は可逆性サーモゲルであってもよい。担体は好ましくは、生分解性且つ生体適合性の担体である。本明細書で使用されるとき、用語「生体適合性」は、組織及び細胞にとってその担体が有毒でないことを意味する。本明細書で使用されるとき、用語「生分解性」と「生体吸収性」とは同義的に使用される。生分解又は生体吸収とは、製剤化された治療用抗生物質(例えば、リネゾリド)を放出した後の送達材料の、生物学的環境における分解、解体、消化又は消失を指す。
【0030】
一部の実施形態において、送達担体は感熱性ヒドロゲルである。注射可能な感熱性ヒドロゲルは、生理的温度前後又はそれを下回るゾル-ゲル転移温度を有し得る。
非限定的な例として、注射可能な感熱性ヒドロゲルは、ポロキサマーで構成される。抗生物質-感熱性ヒドロゲル組成物は、1つ以上の脊椎コンパートメントなど、1つ又は複数の罹患部位への有効量のリネゾリドの局所送達を提供する。
【0031】
ポロキサマーは、FDA承認済みの感熱性合成ポリマーであり、中心にあるポリオキシプロピレン(ポリ(プロピレンオキシド))の疎水性鎖にポリオキシエチレン(ポリ(エチレンオキシド))の2本の親水性鎖が隣接している構成を持つ非イオン性トリブロック共重合体である。生体適合性ポロキサマーは、薬物送達及び組織工学に広く用いられている。ポロキサマーベースのヒドロゲルによれば、PEO及びPPOの組成、並びに総分子量及び濃度を調整することにより、特定の生理的温度及びpHの下での可逆的ゲル化が可能となる。
【0032】
一部の実施形態において、感熱性ヒドロゲルは、ポロキサマー407(別名プルロニック(Pluronic)(登録商標)F-127、コリフォール(Kolliphor)(登録商標)407、及びシンペロニック(Synperonic)(登録商標)PE/F 127)で構成される。ポロキサマー407は、平均分子量が11500の、重量基準で約70%のPEO(ポリエチレングリコール)及び30%のPPO(ポリプロピレンオキシド)からなるトリブロック共重合体である。ポロキサマー407は、熱可逆性ゲル化挙動を示す。ポロキサマー407は、純度20%(w/w)の濃度において、室温(約25℃)以下では水溶液で液体であるが、体温で軟質ゲルを形成する。
【0033】
一部の実施形態において、ポロキサマー407ベースの感熱性ヒドロゲルは、1つ又は複数の標的部位、例えば、椎間板へのリネゾリド製剤の適用を容易にするため、イオヘキソールなどの放射線造影剤を更に含む。本抗生物質製剤に放射線造影剤を加えると、臨床実務者(医師など)が、例えば蛍光透視又はCTを用いて投与されている製品を見たり、投与されている椎間板の状態をモニタしたりするのに役立つことになる。このリアルタイムの情報は、椎間板が充満して漏れ始めたときに実務者が注射を止めるべきタイミングを判断する助けとなり得る。
【0034】
送達担体中のポロキサマー407及びイオヘキソールの比率及び濃度は、リネゾリド濃度及びゲル化温度及び/又は他のパラメータのコンテクストで最適化し得る。送達担体中のイオヘキソール及びポロキサマー407の量は、本リネゾリド感熱性ヒドロゲル製剤のゾルからゲルへの転移の目標温度範囲が実現するように最適化される。
【0035】
好ましい一実施形態において、ポロキサマー407及びイオヘキソールを含有する送達担体は、別個の溶液として調製される。上記で考察したとおり、ポロキサマー及びイオヘキソールの濃度は、溶液のゲル化温度が体温又はそれに近い温度に最適化されるような特定の濃度に最適化される。非限定的な例として、イオヘキソール及びポロキサマー407の濃度は、26℃~38℃、又は26℃~32℃、又は32℃~36℃の範囲のゲル化温度が実現するように最適化される。
【0036】
好ましい一実施形態において、送達担体は、ポロキサマー407を重量基準で送達担体の約10%~約17%含み、又は担体の体積基準で約121mg/ml~約207mg/mlの濃度で含む。好ましくは担体は、ポロキサマー407を重量基準で担体の約11.5%~約13.5%含み、又は担体中約140mg/ml~165mg/mlの濃度で含み得る。他の実施形態において、担体は、イオヘキソールを重量基準で担体の約14.5%~約62.5%含み、又は担体中約174mg/ml~約755mg/mlの濃度で含む。好ましくは送達担体は、イオヘキソールを重量基準で担体の約18%~約35%含み、又は担体中約206mg/ml~425mg/mlの濃度で含み得る。本明細書に記載されるとおりの送達担体は、任意の薬物、例えば抗生物質の体腔深部への送達に使用することができる。
【0037】
送達溶液は低温で調製され、別々に貯蔵される。非限定的な例として、ポロキサマーヒドロゲル溶液は、以下の(1)トロメタミンとEDTAカルシウム二ナトリウムとを含む溶液(pH約8.0)にイオヘキソールを加えることにより冷イオヘキソール溶液を調製する工程;及び(2)冷イオヘキソール溶液にポロキサマー407粉末をゆっくりと加え、その溶液をポロキサマー粉末が完全に溶解するまで撹拌する工程で作られてもよく、ここでポロキサマー粉末は少量ずつ加えられる。このポロキサマー-イオヘキソール溶液は、滅菌し、別個のバイアル、又は即時使用可能なシリンジ(例えば、デュアルチャンバーシリンジ)に包装してもよい(例えば、PP353-B)。
【0038】
本開示に使用されるリネゾリド組成物は、詳細な所望の剤形に適しているとおりの、1つ以上の薬学的に許容可能な賦形剤を更に含み得る。当該技術分野においては、医薬組成物の製剤化用の様々な賦形剤及び組成物の調製技法が公知である(「レミントン薬科学(Remington:The Science and Practice of Pharmacy)」、第21版、A.R.ジェンナロ(A.R.Gennaro)著、リッピンコット・ウィリアムズ・アンド・ウィルキンス(Lippincott,Williams & Wilkins)、ボルチモア、メリーランド州、2006年を参照のこと;参照により本明細書に援用される)。本開示の範囲内では、従来の賦形剤媒体の使用を企図し得るが、但し、何らかの望ましくない生物学的効果を生じるか、又はその他、医薬組成物の任意の他の1つ又は複数の成分と有害な形で相互作用することによるなど、任意の従来の賦形剤媒体が物質又はその誘導体と不適合を起こし得る場合は除く。
【0039】
使用前、単位量の予め調製されたリネゾリド結晶形IIの滅菌粉末など、リネゾリド調製物(例えば、PP353-A)を送達担体(例えば、感熱性ヒドロゲル送達担体、例えば、PP353-B)に負荷することにより、リネゾリド組成物(即ち、リネゾリド懸濁液)が形成される。リネゾリド組成物は、有効量のリネゾリドが負荷された感熱性ポロキサマーヒドロゲルと、ポロキサマーのゾルゲル転移に最適化された濃度の非イオン性造影剤イオヘキソールと、任意選択で1つ以上の薬学的に許容可能な賦形剤とを含み得る。リネゾリド結晶形IIは、微粉末を形成するように粉砕し、ガンマ線照射によって滅菌したものであり、ポロキサマー-イオヘキソール感熱性ヒドロゲル担体中の懸濁液を形成する。リネゾリド結晶形II微粉末は、約50μm以下、任意選択で約20μm以下、任意選択で約10μm以下、任意選択で約3~約10μmのD90を有し得る。リネゾリド結晶形II微粉末は、約5μm以下、任意選択で約3μm以下、任意選択で約1μm以下、任意選択で約0.1~約1μmのD10を有し得る。本明細書で使用されるとき、用語D10及びD90は、当業者に公知のとおりのその従来の意味を有し、例えば、静的光散乱法、沈降場流動分画法、光子相関分光法、レーザー回折法又はディスク遠心法など、当該技術分野において公知の粒径測定技法により測定することができる。好ましくは、D10及びD90はレーザー回折法を用いて測定される。
【0040】
リネゾリドは、組成物の重量基準又は体積基準で約1%~20%、又は組成物の重量基準又は体積基準で約2.5%~約20%又は約2.5%~約10%、又は約3.0%~約10%の範囲の濃度で送達担体に負荷し得る。一態様において、リネゾリド製剤は、最終的な組成物の重量基準で約2.5%、5%、7.5%、10%、12.5%、15%、17.5%又は20%のリネゾリドを含み得る。リネゾリドは、約10mg/ml~約200mg/ml、又は約20mg/ml~約200mg/ml、又は約50mg/ml~約200mg/mlの濃度で存在し得る。特にリネゾリドは、製剤中に10mg/ml、25mg/ml、30mg/ml、35mg/ml、40mg/ml、45mg/ml、50mg/ml、55mg/ml、60mg/ml、65mg/ml、70mg/ml、75mg/ml、80mg/ml、85mg/ml、90mg/ml、100mg/ml、150mg/ml、又は200mg/mlの濃度で存在し得る。
【0041】
好ましい一実施形態において、リネゾリド組成物は、(i)製剤の重量基準(w/w)で約1%~約20%のリネゾリドと;(ii)製剤の重量基準(w/w)で約9.5%~約14.5%の(即ち、組成物中約115mg/ml~約173mg/mlの濃度の)ポロキサマー407、又は製剤の重量基準で約10.8%~約12.8%の(即ち、組成物中約130mg/ml~約156mg/mlの濃度の)ポロキサマー407と;(iii)製剤の重量基準(w/w)で約14%~59%の(即ち、製剤中約165mg/ml~約718mg/mlの濃度の)イオヘキソール、又は製剤の重量基準で約17%~約30%の(即ち、製剤中約206mg/ml~364mg/mlの濃度の)イオヘキソールとを含む。非限定的な例として、リネゾリド製剤は、約5%w/wのリネゾリドと、約11.8%w/wのポロキサマー407と、約27.2%w/wのイオヘキソールとを含む。一部の実施形態において、水性リネゾリド組成物は、約26℃、又は約27℃、又は約28℃、又は約30℃、又は約31℃、又は約32℃、又は約33℃、又は約34℃、又は約35℃、又は約36℃、又は約37℃、又は約38℃でゲル化し得る。一つの非限定的な例において、リネゾリド組成物は約28℃でゲル化する。リネゾリドは硬質ゲルから拡散し得る。数日経つと、ゲルは崩壊する。
【0042】
一部の実施形態において、脊椎投与用のリネゾリド組成物は、組成物(例えば、PP353)の重量基準で約2.5~20%のリネゾリド結晶形IIと、約17%~30%のイオヘキソールと、約10.8%~12.8%のポロキサマーとを含む。
【0043】
適用前に混合されるリネゾリド均一懸濁液(例えば、PP353)は、注射装置(例えば、デュアルチャンバー型シリンジ)に吸い上げて、意図される用量の容積に調製し得る。一部の実施形態において、リネゾリド組成物は、デュアルチャンバー型シリンジを使用して投与される。リネゾリド組成物は、任意の好適な方法を用いて滅菌される。
【0044】
リネゾリド組成物は注射可能である。注射可能な抗生物質組成物は、限定はされないが、椎間板、椎間腔、関節内腔、黄色靱帯、脊椎に付随する靱帯(例えば、棘間靱帯及び前/後縦靱帯)、硬膜外腔、脊椎に付随する腱、骨浮腫に隣接する部位、骨接合部、椎間関節、及び/又は他の脊椎コンパートメントを含め、対象の脊椎への有効量の抗生物質の送達用に製剤化される。
【0045】
投薬量及び投与レジメン
従って、本開示で考察するとおりの脊椎投与のための抗生物質組成物及び方法によれば、細菌感染によって引き起こされるモディック変化又は骨浮腫を伴う疾患、病態又は障害と同時に起こることが認められている腰痛及び/又は表現型提示、例えば、能力障害の治療、改善、及び/又は軽減のための感染部位への有効量の抗生物質の送達が確実となる。
【0046】
一部の実施形態において、慢性腰痛治療のため、患者に単回用量又は複数回用量の抗生物質組成物が投与されてもよい。単回用量又は複数回用量という表現は、1つ以上の椎間板の各々など、脊椎にある1つ以上の標的部位の各々における単回用量又は複数回用量を指し得る。
【0047】
一部の実施形態において、CLBPの治療のため、単回用量のリネゾリド組成物が投与される。単回投薬量は、細菌感染を阻害する有効量のリネゾリドをもたらす。従って、リネゾリドの投薬量は、標的細菌の最小発育阻止濃度(MIC)を上回る有効量のリネゾリドを提供する。標的細菌は、C.アクネス(C.acnes)、コリネバクテリウム・プロピンクム(Corynebacterium propinquum)、又はスタフィロコッカス属(Staphylococcus)のものなど、グラム陽性菌である。MICは、0.1~16mg/Lの範囲であり得る。非限定的な例では、リネゾリド懸濁液(例えば、PP353)の単回用量は、約10mg~約200mgのリネゾリド、又は10mg~100mg、又は10mg~150mg、又は20mg~100mg、又は20mg~150mg、又は20mg~200mg、又は30mg~150mg、又は30mg~200mg、又は50mg~100mg、又は50mg~150mg、又は50mg~200mg、又は100mg~120mg、又は100mg~150mg、又は120mg~200mgのリネゾリドを送達し得る。好ましい一実施形態において、リネゾリド組成物の1用量は、150mgリネゾリドを含有する。
【0048】
一部の実施形態において、2用量以上のリネゾリド組成物が、腰痛を患う患者に投与される。一部の実施形態において、投与間隔(例えば、投与レジメン中の用量間の時間)は、約24時間、48時間、72時間、96時間、120時間、144時間、168時間、又はそれ以上である。一部の実施形態において、投与間隔は、約24時間~約168時間、約48時間~約144時間、又は約72時間~約120時間である。一部の実施形態において、投与間隔は、約72時間~約168時間、約72時間~約144時間、約72時間~約132時間、又は約72時間~約120時間である。一部の実施形態において、患者は、決められた用量数のリネゾリド組成物を決められた期間にわたって投与される。例えば、患者は、72時間、96時間、又は120時間で2用量のリネゾリド組成物の投与を受け得る。具体的な量、投与回数、及び具体的な期間中の用量の頻度を含めた投与レジメンは、臨床所見に従い決定される。
【0049】
一部の実施形態において、リネゾリド組成物による疼痛治療の経過中、単一の投与間隔が用いられる。一部の実施形態において、リネゾリド組成物による疼痛治療の経過中、複数の投与間隔が用いられる。一部の実施形態において、投与間隔は固定される。一部の実施形態において、投与間隔は、所与の対象について、例えば、薬物動態/トキシコキネティクス(PK/TK)データ又はその対象に関する他の情報、例えば、年齢、体重、身長、ボディ・マス・インデックス、疾患重症度、共存症、人種、民族、出身国、遺伝子型、及び/又は過去の抗生物質治療反応歴などに基づき決定される個別化された間隔である。個別化された用量及び投与間隔の組み合わせは、固定間隔のレジメンについてのものと同じであっても、又は異なってもよい。
【0050】
一部の実施形態において、用量頻度、用量及び継続期間を含めた投与レジメン(例えば、1回目の投与レジメン及び/又は2回目の投与レジメン)は、対象の反応、副作用、及び治療有効性に基づき個人に合わせて調整される。
【0051】
脊椎投与
腰痛を治療するためには、感染部位の近くに抗生物質を送達する必要がある。治療上有効なアウトカムを生じさせる任意の投与経路を用いることができる。好ましい一実施形態において、有益なアウトカム(例えば、鎮痛及び能力障害の低減)をもたらすため、注射、特に脊椎注射を使用して有効なレベルのリネゾリド(標的細菌のMICを上回る)を生じさせ得る。
【0052】
本開示によれば、抗生物質組成物は、椎骨、椎間板、椎間腔、関節内腔、黄色靱帯、脊椎に付随する靱帯(例えば、棘間靱帯、及び前/後縦靱帯)、硬膜外腔、脊椎に付随する腱、骨浮腫に隣接する部位、骨接合部、椎間関節、及び/又は他の脊椎コンパートメントに投与されてもよい。
【0053】
一部の実施形態において、抗生物質組成物は、1つ以上の椎骨、椎間板、椎間腔、関節内腔、黄色靱帯、脊椎に付随する靱帯、硬膜外腔、脊椎に付随する腱、骨浮腫に隣接する部位、骨接合部、椎間関節、及び/又は他の脊椎コンパートメントに投与される。
【0054】
脊椎投与のための当該技術分野において公知の方法及び装置が、本明細書に開示される方法及び組成物と併せた使用に企図される。それらとしては、例えば、複数の針を有する方法及び装置、例えばルーメン又はカテーテルを用いるハイブリッド装置並びに熱、電流又は放射線によって駆動される機構を利用する装置が挙げられる。
【0055】
一部の実施形態において、抗生物質組成物は、1つ以上の椎間板に注射される。椎間板投与には、イントロデューサ針と投与針とを含む二針システムが用いられてもよい。イントロデューサ針は、椎間腔への到達を安全に実現するために使用し得るものであり、その先端部に斜めの側面開口を有し、それが先端部に組織貫通点を提供し得る。イントロデューサ針は、椎間板の外線維輪(outer annulus fibrosis)に相対して、又は外輪縁部の可能な限り近くに位置決めし得る。次に投与針を使用して、有効量のリネゾリド組成物(例えば、PP353)を髄核の中心に直接注射する。イントロデューサ針を使用すると、椎間板を標的化するのに役立つことに加え、投与針と皮膚との間の接触が回避されるため、それによって投与の間にリネゾリド組成物を可能な限り冷たいまま保つことができ、更に感染リスクを最小限に抑えることができる。刺入点におけるイントロデューサ針の位置は、椎間孔に近く、且つ投与針の先端が終板を貫通することなく椎間板を横断して中心に至ることが可能となるような角度である。投与針は、画像誘導下に直径の線を越えて髄核の中心部まで進められるが、線維輪の向こう側までは貫通しない。この誘導下注射により、発生した可能性のある分だけ多くの線維輪の変性した裂け目を含め、椎間板髄核にリネゾリド組成物(例えば、PP353)を充填することができる。この注射方法は、徹底的な充填をもたらすが、椎間腔それ自体を越えて隣接する腔へと材料が溢れ出すことを伴うものではない。
【0056】
リネゾリド用量は、椎間板に投与され、数分、例えば、1~10分、又は1~5分、又は2~10分、又は2~8分、又は3~10分をかけてゆっくりと注射されてもよい。
本注射手技は、脊椎コンパートメント深部への抗生物質の送達に関して他の方法に優る幾つかの利点を提供する。大きな利点は、椎間板、椎間腔、関節内腔、黄色靱帯、靱帯(棘間靱帯及び前/後縦靱帯など)、硬膜外腔、脊椎に付随する腱、骨浮腫に隣接する部位、骨接合部、椎間関節、及び/又は他の脊椎コンパートメントなど、脊椎コンパートメント深部を特異的に標的化するため、標的範囲への有効量の抗生物質の局所送達が可能になることである。
【0057】
III.定義
投与する:本明細書で使用されるとき、用語「投与する」又は「投与すること」は、本明細書では、対象への組成物、例えば抗生物質などの送達を意味して同義的に使用される。対象への投与には、当業者に公知のあらゆる好適な様式が含まれ得る。例えば、本方法において使用されるとおりの投与には、注射、経口投与、局所投与、脊椎注射、又は髄腔内投与など、全身性の又は標的化した投与様式が含まれ得る。
【0058】
医薬品有効成分(API):本明細書で使用されるとき、用語「医薬品有効成分(API)」は、生物学的活性のある医薬剤を指す。例えば、生物に投与されると、その生物に生物学的効果を及ぼす物質は、生物学的活性があると見なされる。本発明において、APIはリネゾリドである。
【0059】
送達担体:本明細書で使用されるとき、用語「送達担体」は、活性成分(例えば、本発明のAPI)を運び、それを指定された部位に送達することのできる任意の薬剤、化合物、又はこれらの任意の組み合わせを指す。送達担体は、限定はされないが、溶液、懸濁液、ヒドロゲル、ナノ粒子、リガンド及びウイルスであり得る。
【0060】
投与間隔:本明細書で使用されるとき、用語「投与間隔」は、対象に投与される複数の用量の間に経過する時間の長さを指す。
製剤:本明細書で使用されるとき、「製剤」は、少なくとも活性成分と送達剤とを含む。
【0061】
ヒドロゲル:本明細書で使用されるとき、用語「ヒドロゲル」は、非水溶性の架橋した三次元高分子鎖網目+高分子鎖間の空隙を満たす水と見なされる。架橋によって容易に水不溶性となり、要求される機械的強度及び物理的完全性が付与される。ヒドロゲルは、大部分が水である(高分子と比べて水の質量分率がはるかに高い)。ヒドロゲルは多量の水を保持可能であることから、必然的に高分子鎖は少なくともある程度の親水特性を有するということになる。
【0062】
MIC(最小発育阻止濃度):本明細書で使用されるとき、用語「MIC」は、一晩インキュベートした後の微生物の目に見える成長を阻害するであろう抗微生物薬の最も低い濃度を指す。低いMIC値は、その生物の成長を阻害するのに薬物が少なくて済むことを示している;従って、低いMICスコアの薬物ほど、有効性の高い抗微生物剤である。
【0063】
患者:本明細書で使用されるとき、用語「患者」又は「対象」は、治療を求め得るか、若しくは治療を必要とし得る、治療を要求し得る、治療を受けているところであり得る、治療を受けることになり得る任意の生物、又はある特定の疾患若しくは病態に関して訓練を受けた専門家による管理下にある対象を指す。生物は、マウス、ラット、ウサギ、非ヒト霊長類、及びヒトなど、哺乳類である。好ましくは、患者又は対象は、ヒトである。
【0064】
薬学的に許容可能:本明細書で使用されるとき、語句「薬学的に許容可能」は、本明細書では、妥当な医学的判断の範囲内で、合理的なリスク対効果比に見合った、過度の毒性、刺激作用、アレルギー反応、又は他の問題若しくは合併症を伴うことなくヒト及び動物の組織と接触して使用するのに好適な化合物、材料、組成物、及び/又は剤形を指して用いられる。
【0065】
医薬組成物:本明細書で使用されるとき、語句「医薬組成物」は、疾患、障害及び/又は病態の病因を変化させる組成物を指す。
治療有効量:本明細書で使用されるとき、用語「治療有効量」は、送達されることになる薬剤(例えば、抗生物質、薬物、治療用薬剤、診断用薬剤、予防用薬剤等)の量が、疾患、障害、及び/又は病態に罹患しているか、又はそれに罹り易い対象に投与したとき、疾患、障害、及び/又は病態を治療し、その症状を好転させ、それを診断し、それを予防し、及び/又はその発生を遅延させるのに十分であるような量を意味する。
【0066】
治療すること:本明細書で使用されるとき、用語「治療すること」は、ある特定の疾患、障害、及び/又は病態を部分的に又は完全に緩和すること、改善すること、好転させること、軽減すること、その発生を遅延させること、その進行を阻害すること、その重症度を低減すること、及び/又はその1つ以上の症状若しくは特徴の発生率を低減することを指す。治療は、疾患、障害、及び/又は病態に関連する病変の発症リスクを低下させる目的で、疾患、障害、及び/又は病態の徴候を示さない対象、及び/又は疾患、障害、及び/又は病態の初期徴候のみを示す対象に投与されてもよい。
【0067】
均等物及び範囲
当業者は、本明細書に記載される本発明に係る具体的な実施形態の多くの均等物を認識し、又は常法程度に過ぎない実験を用いてそれを確かめることができるであろう。本発明の範囲が上記の詳細な説明に限定されることは意図されず、むしろそれは添付の特許請求の範囲に示されるとおりである。
【0068】
特許請求の範囲では、「ある(a)」、「ある(an)」、及び「その(the)」などの冠詞は、そうでない旨が示されない限り、又は文脈上特に明らかでない限り、1つ又は2つ以上を意味し得る。ある群の1つ以上の構成要素間に「又は」を含む請求項又は記載は、そうでない旨が示されない限り、又は文脈上特に明らかでない限り、その群の構成要素の1つ、2つ以上、又は全てが所与の製品又は方法に存在し、それに用いられ、又はその他それと関連性がある場合に満たされているものと見なされる。本発明は、群の中の1つの構成要素だけが所与の製品又は方法に存在し、それに用いられ、又はその他それと関連性がある実施形態を含む。本発明は、群の構成要素が2つ以上、又は全て、所与の製品又は方法に存在し、それに用いられ、又はその他それと関連性がある実施形態を含む。
【0069】
また、用語「~を含んでいる(comprising)」は、オープン形式であることが意図され、追加の要素又はステップを含むことが、必須ではないが、許容されることも注記される。従って、用語「~を含んでいる(comprising)」が本明細書で使用されるときは、用語「~からなる(consisting of)」もまた包含され、開示される。
【0070】
範囲が与えられる場合、端点は含まれる。更には、特に指示されない限り、又は文脈及び当業者の理解から特に明らかでない限り、範囲として表される値は、文脈上特に明確な定めがない限り、その範囲の下限値の単位の10分の1に至るまでの、本発明の異なる実施形態において明示されている範囲内にある任意の具体的な値又は部分的範囲を想定し得ることが理解されるべきである。
【0071】
加えて、先行技術の範囲内に含まれる本発明の任意の特定の実施形態は、請求項の任意の1つ以上から明示的に除外され得ることが理解されるべきである。かかる実施形態は当業者に公知であると見なされるため、本明細書に除外が明示的に示されないとしても、それらは除外され得る。本発明の組成物の任意の詳細な実施形態(例えば、任意の抗生物質、治療薬又は活性成分;任意の製造方法;任意の使用方法等)が、先行技術の存在に関係があるか否かにかかわらず、何らかの理由で任意の1つ以上の請求項から除外されてもよい。
【0072】
使用されている文言は、限定でなく、むしろ説明の文言であり、本発明のその広義の態様における真の範囲及び趣旨から逸脱することなく添付の特許請求の範囲内で変更を加え得ることが理解されるべきである。
【0073】
本発明は、幾つかの説明される実施形態に関して、ある程度詳しく、且つある程度具体性をもって説明されたが、本発明が任意のかかる具体例若しくは実施形態又は任意の具体的な実施形態に限定されるべきであることを意図するものではなく、本発明は、添付の特許請求の範囲を参照して、先行技術に鑑みたかかる特許請求の範囲の最も広義の可能な解釈を提供するように、従って本発明の意図される範囲を有効に包含するように解釈されるべきである。
【実施例】
【0074】
実施例1:患者におけるPP353の単回注射の薬物動態(PK)
本研究では、3例の患者にPP353を椎間板内注射した;各患者が3ml(50mg/mlリネゾリド)のPP353の単回注射を受けた。
【0075】
PP353の調製
PP353は、PP353-A(253mgの微粉末化したガンマ線照射リネゾリド結晶形II粉末)、並びにイオヘキソール、ポロキサマー407、他の賦形剤及び注射用水を含有するPP353-Aの懸濁液用の送達溶液であるPP353-Bのバイアルを使用して作られる。PP353-A及びPP353-Bは、使用時まで低温、即ち、2~8℃に保つ。
【0076】
PP353-A及びPP353-Bは、国際公開第2019/097242号(本明細書によって全体として参照により援用される)の実施例9の手順に従い調製した。そこに示されるとおり、微粉末化したリネゾリド結晶形II(PP353-A)の規格はD10 0.2~1.0μm、D90 3~10μmに設定され、PP353-Bの成分は以下のとおりであった。
【0077】
【0078】
PP353-A及びPP353-Bの成分は、リネゾリド結晶形IIを含め、市販品を入手した。
PP353の調製方法には、以下の工程が含まれる:
(i)PP353-Aのバイアルを逆さにし、硬い表面を2~4回軽く叩いて、バイアルの底に固まった粉末があれば、それをほぐす。
【0079】
(ii)アルミニウムシールの剥ぎ取り部分を除き、アルコールを染み込ませたリントフリーのワイプでPP353-Aバイアルの栓の上面を拭く。
(iii)通気フィルターユニット(Minisart(商標)PLUS 0.2μm事前滅菌済みフィルター又は等価品及び19G 38mm(38mm(1.5インチ)皮下針(クインケポイント))を組み立て;及びその通気フィルターユニットをPP353-Aに、針先端がバイアルの肩部より下に位置するようにバイアル壁の方に向けて、粉末層又はバイアルの壁に接触しないようにしつつ挿入する。
【0080】
(iv)PP353-Bのバイアルを選択し、バイアルをアルミニウムシールとバイアルの下端で保持して最小限の接触を確保しながら、穏やかに5回逆さにして混合する。プラスチック製のフリップ式の蓋を取り除き、懸濁用のPP353-B希釈剤の栓を、アルコールを染み込ませたリントフリーのワイプで拭く。
【0081】
(v)5mlルアーロックシリンジ及び19G 38mm(1.5インチ)クインケポイント針(栓のコアリングのリスクを最小限に抑える鋭針)並びに適正な臨床注射実施技法を用いて、PP353-Bを約5.3ml吸い上げる。
【0082】
(vi)19G針を清浄な19G 38mm(1.5インチ)クインケポイント針に取り替え、気泡を全て追い出し、4.8mlの容積を残して針をプライミングする;針を栓の中央に垂直に挿入することにより、4.8ml PP353-BをPP353-Aに注入する。この工程の間、バイアル本体を保持して安定性を確保し得る。
【0083】
(vii)針及び空のシリンジを取り外して安全に廃棄し、通気部及び通気針を取り外して安全に廃棄する。
(viii)人差し指と親指の間にアルミニウムシールとバイアルの下端を保持して最小限の皮膚接触を確保しながらバイアル(これ以降PP353と称する)を約1~2分間穏やかに振盪することにより、目視で均一な懸濁液が得られるまで十分に混合する;バイアルの底に固形の粉末がないか調べる。
【0084】
(ix)PP353が滑らかな乳状のコンシステンシーに達し、明らかな塊状の粉末が存在しなくなったところで、この調製は完了する。使用時まで2~8℃に保つ。PP353は、調製から3時間以内に使用し得る。
【0085】
PP353の投与
PP353は、二針技法を用いて投与する。皮膚を無菌的に調製して、好適な局所麻酔剤を浸潤させた後、投与針を挿入するのに十分な太さの内穴を備えるイントロデューサ針を、注射しようとする脊椎椎間円板に隣接して位置決めする。針を位置決めする間、好ましくは患者は、針が神経根に触れた場合に痛みを訴えることができるように意識覚醒下にある。
【0086】
モディック1終板浮腫を発症している椎間板への椎間板内注射は、痛みを伴い得る。適切な麻酔が使用されてもよい。脊椎傍ブロック/局所麻酔が確立したところで、イントロデューサ針に投与針を挿入して椎間板縁まで進め、次に画像誘導を用いて椎間板の中央まで挿入する。少なくとも90mm長さの18Gクインケポイントルアーロック脊椎針をイントロデューサ(外側)針として使用し、最長178mm長さの22Gクインケポイントルアーロック脊椎針を投与(内側)針として使用することが推奨される。
【0087】
用量調製
用量調製には、PP353バイアル(本明細書で考察するとおり)の栓を、アルコールを染み込ませたリントフリーのワイプで拭くことを伴う。19G 38mm(1.5インチ)皮下針(クインケポイント)を使用して、気泡がないこと、及び1mlの目盛り線まで正確に充填することを確実にしながら3本の滅菌1mlルアーロックシリンジにPP353を充填する。2~8℃の無菌場所に置く。この調製後にシリンジ内に空気が認められる場合には、投与者は空気を追い出した後に、対象に確実に正しい用量が与えられることを慎重に判断し得る。更なる1ml滅菌シリンジを使用して10cmルアーロック延長チューブにPP353調製物をプライミングし、この場合もやはり、全ての気泡が追い出され、充填が完全であることを確実にしてから、チューブ上のキャップを取り替える。充填済みの延長チューブを充填済みの1mlシリンジの1つに接続する。注射は可能な限り速やかに実施し、PP353が温まることによってその粘度が高まり、ひいては注射が困難になることを最小限に抑える。針を位置決めしている間は、針管内でPP353が温まって過度に粘性となるのを避けるため、投与針はプライミングしてはならない。
【0088】
針の位置決め
イントロデューサ針は、椎間板の外輪に当たるように位置決めするか、又は長さが足りない場合には、可能な限り外輪縁の近くに位置決めする。イントロデューサ針の目的は、主に、椎間板内22G針と皮膚との間の接触を避けて感染リスクを最小限に抑えること、投与中にPP353を可能な限り低温に保つこと、及び椎間板の標的化を助けることである。椎間板への刺入点は、椎間孔に近く、且つ椎間板内投与22G針の先端が終板を貫通することなく椎間板を横断して中心部に至ることが可能となるような角度でなければならない。イントロデューサ針は、同側椎間孔の近くにあるように、しかし椎間孔の頭側の部分にある既存の神経根に当てないようにする必要がある。
【0089】
確認のための前後像及び側面像スクリーニング/イメージングを実施する。必要であれば、適切な位置決めが実現するまで、針を位置決めし直す。位置決めが終わり次第、18G針からスタイレットを取り外す。
【0090】
次に画像誘導下に22G投与針を直径の線を越えて髄核の中心部まで進める。22G針を線維輪の向こう側まで貫通させる必要はない。目的は、椎間板髄核にPP353を充填すること、及びこの「充填」に、発生した可能性のある分だけ多くの線維輪の変性した裂け目を含めることである。この実施技法は徹底的な充填をもたらすが、椎間腔それ自体を越えて隣接する腔に材料が溢れ出すことを伴うものではない。
【0091】
用量投与/注射
針が正しく位置決めされた後、以下の工程を実施して投与を完了する。
(i)投与針からスタイレットを取り外す;及びルアーロックが固定され、イントロデューサ針の位置が変わっていないことを確実にしつつ、プライミングした接続チューブ及び1mlシリンジを投与針に接続する;
(ii)針の軌道に対して90°でイメージングを実施して、針がどこに置かれているかチェックする;及び1ml(1本のシリンジ最大量)のPP353を注射し、針の軌道に対して90°でイメージングを実施して、溢れ出ていないかチェックする;
(iii)空の1mlシリンジを第2のプライミングした1mlシリンジに取り替え、2回目の1mlのPP353を注射する;及び針の軌道に対して90°でイメージングを実施して、溢れ出ていないかチェックする;
(iv)空の1mlシリンジを第3の最終の最大量のシリンジに取り替え、3回目の1mlの研究薬物を注射する;及び針の軌道に対して90°でイメージングを実施して、溢れ出ていないかチェックする;及び
(v)投与針及びイントロデューサ針の両方を一緒に取り出し、穿刺部位を清浄にし、滅菌密封包帯を適用する。
【0092】
薬物動態
3mlのPP353単回注射の椎間板内投与後様々な時点におけるEDTA抗凝固処理血漿試料でリネゾリド及びポロキサマー407の薬物動態を評価した。注射した患者から、例えば、注射後30分、2時間、4時間、8時間、12時間、24時間(2日目)、30時間、96時間(5日目)、144時間(7日目)、192時間(9日目)及び240時間(11日目)に血漿試料を採取する。血漿試料はまた、注射前にも採取する(投与前)。
【0093】
3患者全てについて、3mlのPP353の単回用量投与後に大幅に溢れ出たとの報告はなかった。
リネゾリドアッセイ
AB Sciex API 4000検出器(ABSラボラトリーズ(ABS Laboratories)、英国)で血漿リネゾリドを推定するための高速液体クロマトグラフィー法(タンデム質量分析検出)を開発する。
図1は、ヒト血漿中のリネゾリド検出の代表的な検量線を示す。
【0094】
ポロキサマー407アッセイ
AB Sciex API 6500検出器(ABSラボラトリーズ(ABS Laboratories)、英国)を使用して血漿ポロキサマー407を推定するための高速液体クロマトグラフィー法(タンデム質量分析検出)を開発する。
図2は、サロゲートマトリックス中のポロキサマー407の代表的な検量線を示す。
【0095】
ヒトにおける3mL椎間板内用量のPP353のリネゾリドPKパラメータ
最高血漿リネゾリド濃度(C
max)は1.0~1.5μg/mlであった一方、標準的な600mgのリネゾリド用量について観察されるC
maxは約15μg/mlである(表1:
図3)。このC
maxは、標準リネゾリド使用について観察されるC
maxの約10%である。3患者についてのPK曲線の単相性の消失相は平行で、半減期は、4~5時間である標準リネゾリド投与と比較して約13時間であった。本研究では、椎間板内リネゾリド濃度のサロゲートとして全身血漿濃度を使用し、予め指定された5ng/mlを、椎間板内デポーが枯渇したことを指し示すとし得る血漿リネゾリド濃度として使用した。この研究について、これは89~110時間であり、平均102時間であった。これらの結果から、およそこの時点での2回目の用量により、椎間板内抗生物質曝露量が8日間連続して最小発育阻止濃度(MIC)を上回るという目標を実現できることが示される。
【0096】
【0097】
PKのモデル化に基づいて、血漿中5ng/mlのリネゾリドという目標を設定した。これは1ng/mlのアッセイのLLOQを上回る。各患者についてPKプロファイルの曲線下面積(AUC)を評価することにより、5ng/mlの血漿目標に達した時点において椎間板から消失したリネゾリドの推定が可能であり、従って残留リネゾリドの推定を行い得る。残留リネゾリドは、各椎間板につき約200μgと推定された。これは、2回目の注射前のトラフ濃度として好適な抗細菌曝露を提供する。
【0098】
実施例2:患者における2用量のPP353後の薬物動態(PK)
PP353は、実施例1で考察した方法に従い調製する。この研究の患者には、2用量のPP353を投与する。注射は、実施例1で考察するのと同じ手順に従う。PP353は患者に1日目に投与し、次に5日目(±1日)に投与する。実施例1で検討されたとおり、各注射につき3mlのPP353が含まれる。
【0099】
この臨床研究には約40人の患者を募集し、20人の患者はPP353を投与され、残基の半分はプラセボとする。抗細菌濃度を上回る約8日間の連続した椎間板内リネゾリド曝露を提供することになるであろう投与レジメンを目標とする。この目的は、1日目及び5日目(±1日)の約4日を空けるPP353の2回の投与によって実現する。
【0100】
3mlのPP353の椎間板内への各投与後の様々な時点におけるEDTA抗凝固処理血漿試料でリネゾリド及びポロキサマー407の薬物動態を評価する。注射した患者から、例えば、初回注射の30分前及び初回投与後、例えば、1時間、2時間、4時間、6時間、8時間、12時間、24時間及び48時間で血漿試料を採取する。5日目(±1日)、患者に更なる3ml用量のPP353を投与する。5日目(±1日)、例えば、2回目の注射の30分前、及び2回目の投与後、例えば、1時間、2時間、4時間、6時間、8時間で血漿試料を採取する。次に、2回目の投与後、例えば、12時間、24時間、48時間、96時間、及び144時間で試料を採取する。血漿試料はまた、注射前にも採取する(投与前)。
【0101】
中間結果
1例の患者は、3mLのPP353の2回の椎間板内注射を1日目及び6日目に注射した。これらの注射後のPP353の薬物動態パラメータを表2に提示する。
【0102】
【0103】
3mLのPP353の単回の椎間板内注射後、投与後4時間及び6時間でそれぞれ858及び644ng/mLの最高血漿濃度(C
max)が測定された。PP353の血漿濃度は、ほぼ単相性の減衰を示し、見かけの終末相半減期は12時間であった。PP353の血漿濃度が規定の限界値5ng/mLを上回った時間は、165時間(6.8日)であった(
図3)。
【0104】
1回目の用量後の血漿濃度はパートAの対象と比較して低いように見え、これは恐らく、PP353への全身曝露量の対象間変動に起因した。2回目の用量後の血漿濃度は1回目の用量と比較して低いように見え、これは恐らく、PP353への全身曝露量の対象内変動に起因した。
【0105】
番号が付された実施形態
本発明の態様及び実施形態を以下の項目に列挙する。
1.腰痛の治療方法であって、患者に治療有効量の抗生物質を投与することを含む方法において;抗生物質が脊椎における1つ以上の標的部位に投与される、方法。
【0106】
2.抗生物質がリネゾリド結晶形IIである、項目1に記載の方法。
3.リネゾリドが、ポロキサマー407とイオヘキソールとで構成される感熱性ヒドロゲル送達担体中に製剤化され;及びリネゾリドが滅菌微粉末として用量単位で予め調製されて、投与前にポロキサマー407ベースの感熱性ヒドロゲル送達担体に負荷され、感熱性ヒドロゲル送達担体が滅菌溶液として予め調製される、項目2に記載の方法。
【0107】
4.リネゾリド組成物が投与され、リネゾリド組成物が、
リネゾリド結晶形II、及び
ポロキサマー407とイオヘキソールとを含む感熱性ヒドロゲル送達担体
を含み;
任意選択でリネゾリド結晶形IIが滅菌微粉末として用量単位で予め調製されて、投与前に感熱性ヒドロゲル送達担体に負荷され、感熱性ヒドロゲル送達担体が滅菌溶液として予め調製される、項目2に記載の方法。
【0108】
5.リネゾリドが約250mgの用量単位で予め調製されて、投与前に約5mlの感熱性ヒドロゲル送達担体に負荷される、項目3又は4に記載の方法。
6.リネゾリド組成物が、少なくとも1つの椎間板、椎間腔、関節内腔、黄色靱帯、脊椎に付随する靱帯、硬膜外腔、脊椎に付随する腱、骨浮腫に隣接する部位、骨接合部、椎間関節、及び/又は他の脊椎コンパートメントに投与される、項目3~5のいずれか一つに記載の方法。
【0109】
7.リネゾリド組成物が、1つ以上の椎間板に投与される、項目6に記載の方法。
8.リネゾリドが、前記1つ以上の椎間板に各椎間板につき約150mgで投与される、項目7に記載の方法。
【0110】
9.リネゾリド組成物が、イントロデューサ針及び投与針を使用して椎間板に送達される、項目3~8のいずれか一つに記載の方法。
10.リネゾリド組成物が、投与針を使用して椎間板に送達される、項目3~8のいずれか一つに記載の方法。
【0111】
11.投与針がルアーロックシリンジに接続される、項目9又は10に記載の方法。
12.投与針とルアーロックシリンジとがフレキシブルコネクタを介して接続される、項目11に記載の方法。
【0112】
13.患者が単回用量のリネゾリド組成物の投与を受け;任意選択で、患者が、脊椎における1つ以上の標的部位の各々に(例えば1つ以上の椎間板の各々に)単回用量のリネゾリド組成物の投与を受ける、項目3~12のいずれか一つに記載の方法。
【0113】
14.患者が2用量のリネゾリド組成物の投与を受け;任意選択で、患者が、脊椎における1つ以上の標的部位の各々に(例えば1つ以上の椎間板の各々に)2用量のリネゾリド組成物の投与を受ける、項目3~12のいずれか一つに記載の方法。
【0114】
15.1回目の用量と2回目の用量との間の投与間隔が、約72時間~約132時間、任意選択で約72時間~約120時間である、項目14に記載の方法。
16.1回目の用量と2回目の用量との間の投与間隔が、約72時間、約96時間又は約120時間である、項目15に記載の方法。
【0115】
17.1回目及び2回目の用量に同じ量のリネゾリドが含まれる、項目14~16のいずれか一つに記載の方法。
18.リネゾリド組成物の用量に約150mgリネゾリドが含まれる、項目13~17のいずれか一つに記載の方法。
【0116】
19.腰痛を患う患者が、椎体終板骨浮腫(モディック変化)を有する、項目1~18のいずれか一つに記載の方法。
20.患者が、モディック変化I型、モディック変化II型、又はモディック変化I+II型を有する、項目19に記載の方法。
【0117】
21.腰痛の治療方法における使用のための抗生物質であって、患者の脊椎における1つ以上の標的部位に投与される抗生物質。
22.リネゾリド結晶形IIである、項目21に記載の使用のための抗生物質。
【0118】
23.リネゾリドが、ポロキサマー407とイオヘキソールとで構成される感熱性ヒドロゲル送達担体中に製剤化され;及びリネゾリドが滅菌微粉末として用量単位で予め調製されて、投与前にポロキサマー407ベースの感熱性ヒドロゲル送達担体に負荷され、感熱性ヒドロゲル送達担体が滅菌溶液として予め調製される、項目22に記載の使用のための抗生物質。
【0119】
24.リネゾリド組成物が投与され、リネゾリド組成物が、
リネゾリド結晶形II、及び
ポロキサマー407とイオヘキソールとを含む感熱性ヒドロゲル送達担体
を含み;
任意選択でリネゾリド結晶形IIが滅菌微粉末として用量単位で予め調製されて、投与前に感熱性ヒドロゲル送達担体に負荷され、感熱性ヒドロゲル送達担体が滅菌溶液として予め調製される、項目22に記載の使用のための抗生物質。
【0120】
25.リネゾリドが約250mgの用量単位で予め調製されて、投与前に約5mlの感熱性ヒドロゲル送達担体に負荷される、項目23又は24に記載の抗生物質。
26.リネゾリド組成物が、少なくとも1つの椎間板、椎間腔、関節内腔、黄色靱帯、脊椎に付随する靱帯、硬膜外腔、脊椎に付随する腱、骨浮腫に隣接する部位、骨接合部、椎間関節、及び/又は他の脊椎コンパートメントに投与される、項目23~25のいずれか一つに記載の使用のための抗生物質。
【0121】
27.リネゾリド組成物が、1つ以上の椎間板に投与される、項目26に記載の使用のための抗生物質。
28.リネゾリドが、前記1つ以上の椎間板に各椎間板につき約150mgで投与される、項目27に記載の使用のための抗生物質。
【0122】
29.リネゾリド組成物が、イントロデューサ針及び投与針を使用して椎間板に送達される、項目23~28のいずれか一つに記載の使用のための抗生物質。
30.リネゾリド組成物が、投与針を使用して椎間板に送達される、項目23~28のいずれか一つに記載の使用のための抗生物質。
【0123】
31.投与針がルアーロックシリンジに接続される、項目29又は30に記載の使用のための抗生物質。
32.投与針とルアーロックシリンジとがフレキシブルコネクタを介して接続される、項目31に記載の使用のための抗生物質。
【0124】
33.患者が単回用量のリネゾリド組成物の投与を受け;任意選択で、患者が、脊椎における1つ以上の標的部位の各々に(例えば1つ以上の椎間板の各々に)単回用量のリネゾリド組成物の投与を受ける、項目23~32のいずれか一つに記載の使用のための抗生物質。
【0125】
34.患者が2用量のリネゾリド組成物の投与を受け;任意選択で、患者が、脊椎における1つ以上の標的部位の各々に(例えば1つ以上の椎間板の各々に)2用量のリネゾリド組成物の投与を受ける、項目23~32のいずれか一つに記載の使用のための抗生物質。
【0126】
35.1回目の用量と2回目の用量との間の投与間隔が、約72時間~約132時間、任意選択で約72時間~約120時間である、項目34に記載の使用のための抗生物質。
36.1回目の用量と2回目の用量との間の投与間隔が、約72時間、約96時間又は約120時間である、項目35に記載の使用のための抗生物質。
【0127】
37.1回目及び2回目の用量に同じ量のリネゾリドが含まれる、項目34~36のいずれか一つに記載の使用のための抗生物質。
38.リネゾリド組成物の用量に約150mgリネゾリドが含まれる、項目33~37のいずれか一つに記載の使用のための抗生物質。
【0128】
39.腰痛を患う患者が、椎体終板骨浮腫(モディック変化)を有する、項目21~38のいずれか一つに記載の使用のための抗生物質。
40.患者が、モディック変化I型、モディック変化II型、又はモディック変化I+II型を有する、項目39に記載の使用のための抗生物質。
【国際調査報告】