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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-10
(54)【発明の名称】医療デバイス用の薬剤コーティング
(51)【国際特許分類】
   A61L 29/04 20060101AFI20241003BHJP
   A61L 29/08 20060101ALI20241003BHJP
   A61L 29/06 20060101ALI20241003BHJP
   A61L 31/06 20060101ALI20241003BHJP
   A61L 31/08 20060101ALI20241003BHJP
   A61L 31/12 20060101ALI20241003BHJP
   A61L 29/12 20060101ALI20241003BHJP
   A61L 29/16 20060101ALI20241003BHJP
   A61L 31/16 20060101ALI20241003BHJP
   A61K 31/436 20060101ALI20241003BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20241003BHJP
   A61L 31/04 20060101ALI20241003BHJP
   A61F 2/82 20130101ALI20241003BHJP
【FI】
A61L29/04 100
A61L29/08
A61L29/06
A61L31/06
A61L31/08
A61L31/12 100
A61L29/12 100
A61L29/16
A61L31/16
A61K31/436
A61K45/00
A61L31/04 110
A61L31/04 120
A61F2/82
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024520736
(86)(22)【出願日】2021-10-05
(85)【翻訳文提出日】2024-05-24
(86)【国際出願番号】 US2021053656
(87)【国際公開番号】W WO2023059318
(87)【国際公開日】2023-04-13
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521442637
【氏名又は名称】バード・ペリフェラル・バスキュラー・インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100107249
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 恭久
(72)【発明者】
【氏名】ワン、ジェフリー
(72)【発明者】
【氏名】リーシー、チャル
(72)【発明者】
【氏名】カバナー、ミカエラ
(72)【発明者】
【氏名】グレース、ローガン
(72)【発明者】
【氏名】ゴエル、エミリー
(72)【発明者】
【氏名】ミア、ディロン
【テーマコード(参考)】
4C081
4C084
4C086
4C267
【Fターム(参考)】
4C081AC08
4C081AC09
4C081AC10
4C081CA05
4C081CA08
4C081CA10
4C081CA16
4C081CD02
4C081CD03
4C081CD08
4C081CD09
4C081CD15
4C081CD31
4C081CE02
4C081DA03
4C081DB06
4C081DC03
4C084AA17
4C084NA12
4C086AA01
4C086AA02
4C086CB22
4C086MA03
4C086MA05
4C086NA12
4C086ZB08
4C267AA41
4C267AA74
4C267BB02
4C267BB03
4C267BB04
4C267BB06
4C267BB19
4C267BB20
4C267BB26
4C267BB39
4C267BB40
4C267CC08
4C267GG02
4C267GG11
4C267GG43
4C267HH08
(57)【要約】
本開示は、医療デバイスの外面又は一部を覆う医療デバイス用の薬剤コーティング層に関係する。薬剤コーティング層は、治療薬又は治療薬を充填したポリマー微粒子が埋め込まれた生体吸収性材料を含む。材料が生体吸収されるにつれて、治療薬が放出され、対象内で局所的活性を提供する。いくつかの態様において、薬剤コーティング層は、対象の体温に起因して粘着性を有するようになり、脈管壁への付着を可能にする材料からなる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療デバイスであって、
前記医療デバイスの外面の少なくとも一部の上に薬剤コーティング層を備え、
薬剤コーティング層は、
疎水性層と、
疎水性層に埋め込まれ、治療剤、又は治療剤を含有するポリマー微粒子と
を備える、医療デバイス。
【請求項2】
請求項1に記載の医療デバイスにおいて、
疎水性層は、37℃以下のガラス転移温度を有した疎水性材料を含む、医療デバイス。
【請求項3】
請求項2に記載の医療デバイスにおいて、
疎水性材料は、半合成グリセリド、ステアリン酸メチル、水素化やし油、やし油、カカオ脂、グリセリンゼラチン、水素化植物油、ハードファット、ワセリン/ペトロラタム、PEG-脂肪酸エステル、又はこれらの組み合わせである、医療デバイス。
【請求項4】
請求項1に記載の医療デバイスにおいて、
疎水性材料は、水素化やし油、やし油、鉱油、セチルアルコール、ワセリン、デカノール、トリデカノール、ドデカノール、長鎖飽和脂肪酸、長鎖不飽和脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪酸エーテル、ウイテプゾール、固体脂質、ステアリン酸メチル、トリグリセリド、グリセリルモノステアレート、グリセリルパルミトステアレート、ステアリン酸、パルミチン酸、デカン酸、ベヘン酸、蜜ろう、カルナウバろう、パラフィン、脂肪酸トリグリセリド、脂肪酸アルコール、又はこれらの組み合わせである、医療デバイス。
【請求項5】
請求項1、3、4のうちいずれか1項に記載の医療デバイスにおいて、
ポリマー微粒子は、ポリ(乳酸-co-グリコール酸)(PLGA)と、PLGAに充填された治療剤とを含む、医療デバイス。
【請求項6】
請求項1又は4に記載の医療デバイスにおいて、
ポリマー微粒子は、治療剤が分散された滑らかな微粒子である、医療デバイス。
【請求項7】
請求項5に記載の医療デバイスにおいて、
治療剤は、パクリタキセル、ラパマイシン、ダウノルビシン、5-フルオロウラシル、ドキソルビシン、スニチニブ、ソラフェニブ、イリノテカン、ベバシズマブ、セツキシマブ、バイオリムス(バイオリムス A9)、エベロリムス、ゾタロリムス、タクロリムス、デキサメタゾン、プレドニゾロン、コルチコステロン、シスプラチン、ビンブラスチン、リドカイン、及びブピバカイン、又はこれらの組み合わせである、医療デバイス。
【請求項8】
請求項5に記載の医療デバイスにおいて、
治療剤はシロリムスである、医療デバイス。
【請求項9】
請求項8に記載の医療デバイスにおいて、
シロリムスは、ポリマー微粒子中に、ポリマー微粒子の30~50重量%で充填されている、医療デバイス。
【請求項10】
請求項9に記載の医療デバイスにおいて、
ポリマー微粒子は、第1のサイズグループと第2のサイズグループとを有し、第1のサイズグループは、10μmの平均サイズを有し、さらに第2のサイズグループは、第1のサイズグループとは異なる平均サイズを有する、医療デバイス。
【請求項11】
請求項10に記載の医療デバイスにおいて、
第2のサイズグループは、30μm、35μm、又は40μmの平均サイズを有する、医療デバイス。
【請求項12】
請求項1、3、4のうちいずれか1項に記載の医療デバイスにおいて、
治療剤は結晶性粒子である、医療デバイス。
【請求項13】
請求項12に記載の医療デバイスにおいて、
結晶性粒子の平均サイズは、0.1μm~100μmである、医療デバイス。
【請求項14】
請求項1、3、4のうちいずれか1項に記載の医療デバイスにおいて、
医療デバイスは、薬剤溶出ステントである、医療デバイス。
【請求項15】
請求項1、3、4のうちいずれか1項に記載の医療デバイスにおいて、
医療デバイスは、バルーンカテーテルである、医療デバイス。
【請求項16】
請求項1に記載の医療デバイスにおいて、
治療剤又はポリマー微粒子は、親水性である、医療デバイス。
【請求項17】
医療デバイスであって、
医療デバイスの外面の少なくとも一部の上に薬剤コーティング層を備え、
薬剤コーティング層は、
親水性層と、
親水性層に埋め込まれた、疎水性治療剤又は疎水性ポリマー微粒子と
を備える、医療デバイス。
【請求項18】
請求項17に記載の医療デバイスにおいて、
親水性層は、ポリ(エチレングリコール)、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、N-(2-ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド(HPMA)、ジビニルエーテル-無水マレイン酸(DIVEMA)、ポリオキサゾリン、キサンタンガム、ペクチン、キトサン誘導体、デキストラン、カゼインナトリウム、セルロースエーテル、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒアルロン酸(HA)、アルブミン、又はこれらの組合せから構成される、医療デバイス。
【請求項19】
請求項17に記載の医療デバイスにおいて、
親水性層は、37℃以下のガラス転移温度を有した親水性材料を含む、医療デバイス。
【請求項20】
請求項17に記載の医療デバイスにおいて、
ポリマー微粒子は、治療剤が分散された疎水性ポリマー微粒子である、医療デバイス。
【請求項21】
請求項17に記載の医療デバイスにおいて、
治療剤は、疎水性ポリマー微粒子に、疎水性ポリマー微粒子の30~50重量%で充填されている、医療デバイス。
【請求項22】
請求項20に記載の医療デバイスにおいて、
疎水性ポリマー微粒子は、第1のサイズグループと第2のサイズグループとを有し、第1のサイズグループは、10μmの平均サイズを有し、さらに第2のサイズグループは、第1のサイズグループとは異なる平均サイズを有する、医療デバイス。
【請求項23】
請求項22に記載の医療デバイスにおいて、
第2のサイズグループは、30μm、35μm、又は40μmの平均サイズを有する、医療デバイス。
【請求項24】
請求項17に記載の医療デバイスにおいて、
治療剤は結晶性粒子である、医療デバイス。
【請求項25】
請求項24に記載の医療デバイスにおいて、
結晶性粒子の平均サイズは、0.1μm~100μmである、医療デバイス。
【請求項26】
請求項17、20、24のうちいずれか1項に記載の医療デバイスにおいて、
医療デバイスは、薬剤溶出ステントである、医療デバイス。
【請求項27】
請求項17、20、24のうちいずれか1項に記載の医療デバイスにおいて、
医療デバイスは、バルーンカテーテルである、医療デバイス。
【請求項28】
医療デバイスをコーティングする方法であって、
治療剤が充填されたポリ(乳酸-co-グリコール酸)(PLGA)のポリマー微粒子、溶媒、及び添加剤を含むコーティングスラリー溶液を調製することと、
コーティングスラリー溶液をかき混ぜることと、
コーティングスラリー溶液を医療デバイスの外面の少なくとも一部に医療デバイスの長さに沿って単一方向に付与することと
を備える、方法。
【請求項29】
請求項28に記載の方法において、
コーティングスラリー溶液は、シリンジ内で、シリンジのバレル内に位置するスターラーによってかき混ぜられる、方法。
【請求項30】
請求項28に記載の方法において、
コーティングスラリー溶液は、攪拌することによってかき混ぜられ、次にピペットのバレルに引き込まれる、方法。
【請求項31】
請求項30に記載の方法において、
ピペットは、コーティングスラリー溶液で1回プライミングされる、方法。
【請求項32】
請求項30に記載の方法において、
ピペットは、コーティングスラリー溶液を医療デバイスに1回付与した後、処分される、方法。
【請求項33】
請求項29又は30に記載の方法において、
コーティングスラリーは、バレルに操作可能に接続されたチップを通じてコーティングスラリー溶液を分注することによって、医療デバイスに付与され、
分注は一定の速度で行われ、チップはある角度で維持され、チップは医療デバイスの長さに沿って一定の速度で移動する、方法。
【請求項34】
請求項33に記載の方法において、
チップは、バルーンの長さに対して、45度、水平、又は垂直である角度にある、方法。
【請求項35】
請求項33に記載の方法において、
コーティングスラリー溶液は、約3~約100μL/sの速度で分注される、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、概して、対象での長期の薬剤放出をもたらす医療デバイス用の薬剤コーティングに関連する。
【背景技術】
【0002】
薬剤溶出ステント(drug-eluting stent:DES)や薬剤コーティングバルーン(drug coated balloon:DCB)カテーテルなどの薬剤溶出デバイスは、長年にわたり市販されており、より高い臨床効果とともに同等の安全性を対象に提供している。初期世代は、ポリエチレン-co-酢酸ビニル(PEVA)及びポリブチルメタクリレート(PBMA)、ポリ(スチレン-ブロック-イソブチレン-ブロック-スチレン)(SIBS)、並びにポリフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン(PVDF-HFP)などの生体安定性(biostable)ポリマーを含んで、薬剤が損傷部位で長期間利用できるように薬剤放出を調節していた。しかしながら、生体安定性ポリマー薬剤コーティングは、慢性炎症反応を引き起こす可能性がある。慢性炎症性の問題に対処するために、デバイスのより新たな世代では、ポリ乳酸及びポリグリコール酸、並びにこれらのコポリマーのポリ乳酸-co-グリコール酸などの生体吸収性ポリマーが開発され、使用されてきた。生体吸収性ポリマー(ポリ(α-ヒドロキシ酸)ファミリー)は、水に晒すと、体内で経時的に乳酸とグリコール酸に分解する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
生体吸収性薬剤コーティングの1つの不都合は、生体吸収性ポリマーの分解が速すぎることにより、薬剤溶出時間が短くなることである。結果として、治療後、後になって狭窄が起きるときには、薬剤は完全に無くなっている。例えば、ステント治療後の浅大腿動脈(SFA)の再狭窄は2か月~72か月の範囲で起こり、一方、冠動脈の再狭窄は3か月~12か月の範囲で起こることが文献で報告されている。後の時点で起こる再狭窄を防止するためには、薬剤コーティングデバイスの薬剤溶出は、より長い溶出時間を有する必要がある。したがって、治療後の晩期再狭窄を防止することができるように、生体吸収性ポリマーの分解を遅延させ、薬剤放出時間を延長させる必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本開示は、溶出した薬剤を脈管構造の脈管壁の内部に提供するための医療デバイス、システム、及び方法に関係する。いくつかの態様において、本開示は、溶出した治療薬を対象の脈管構造の脈管壁の内表面及び/又は内部組織に提供することができる1つ又は2つ以上のコーティング層に関係する。
【0005】
本開示の第1の態様は、単独で又は本明細書の他の態様と組み合わせて、医療デバイスであって、医療デバイスの外面の少なくとも一部の上に薬剤コーティング層を備える医療デバイスに関係し、薬剤コーティング層は、疎水性層と、疎水性層に埋め込まれた、治療剤又は治療剤を含有するポリマー微粒子とを含む。
【0006】
本開示の第2の態様は、単独で又は本明細書の他の態様と組み合わせて、第1の態様の医療デバイスに関係し、疎水性層は、37℃以下のガラス転移温度を有した疎水性材料を含む。
【0007】
本開示の第3の態様は、単独で又は本明細書の他の態様と組み合わせて、第2の態様の医療デバイスに関係し、疎水性材料は、半合成グリセリド、ステアリン酸メチル、水素化やし油、やし油、カカオ脂、グリセリンゼラチン、水素化植物油、ハードファット、ワセリン(petroleum jelly)/ペトロラタム、PEG-脂肪酸エステル、又はこれらの組み合わせである。
【0008】
本開示の第4の態様は、単独で又は本明細書の他の態様と組み合わせて、第1の態様の医療デバイスに関係し、疎水性材料は、水素化やし油、やし油、鉱油、セチルアルコール、ワセリン、デカノール、トリデカノール、ドデカノール、長鎖飽和脂肪酸、長鎖不飽和脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪酸エーテル、ウイテプゾール、固体脂質、ステアリン酸メチル、トリグリセリド、グリセリルモノステアレート、グリセリルパルミトステアレート、ステアリン酸、パルミチン酸、デカン酸、ベヘン酸、蜜ろう、カルナウバろう、パラフィン、脂肪酸トリグリセリド、脂肪酸アルコール、又はこれらの組み合わせである。
【0009】
本開示の第5の態様は、単独で又は本明細書の他の態様と組み合わせて、第1、第3、又は第4の態様の医療デバイスに関係し、ポリマー微粒子は、ポリ(乳酸-co-グリコール酸)(PLGA)と、PLGAに充填された(loaded)治療剤とを含む。
【0010】
本開示の第6の態様は、単独で又は本明細書の他の態様と組み合わせて、第1又は第4の態様の医療デバイスに関係し、ポリマー微粒子は、治療剤が分散された滑らかな微粒子である。
【0011】
本開示の第7の態様は、単独で又は本明細書の他の態様と組み合わせて、第5の態様の医療デバイスに関係し、治療剤は、パクリタキセル、ラパマイシン、ダウノルビシン、5-フルオロウラシル、ドキソルビシン、スニチニブ、ソラフェニブ、イリノテカン、ベバシズマブ、セツシサマブ(cetuxamab)、バイオリムス(バイオリムス A9)、エベロリムス、ゾタロリムス、タクロリムス、デキサメタゾン、プレドニゾロン、コルチコステロン、シスプラチン、ビンブラスチン、リドカイン、及びブピバカイン、又はこれらの組み合わせである。
【0012】
本開示の第8の態様は、単独で又は本明細書の他の態様と組み合わせて、第5の態様の医療デバイスに関係し、治療剤はシロリムスである。
本開示の第9の態様は、単独で又は本明細書の他の態様と組み合わせて、第8の態様の医療デバイスに関係し、シロリムスは、ポリマー微粒子の30~50重量%でポリマー微粒子に充填されている。
【0013】
本開示の第10の態様は、単独で又は本明細書の他の態様と組み合わせて、第9の態様の医療デバイスに関係し、ポリマー微粒子は、第1のサイズグループと第2のサイズグループとを有し、第1のサイズグループは、10μmの平均サイズを有し、さらに第2のサイズグループは、第1のサイズグループとは異なる平均サイズを有する。
【0014】
本開示の第11の態様は、単独で又は本明細書の他の態様と組み合わせて、第10の態様の医療デバイスに関係し、第2のサイズグループは、30μm、35μm、又は40μmの平均サイズを有する。
【0015】
本開示の第12の態様は、単独で又は本明細書の他の態様と組み合わせて、第1、第3、又は第4の態様の医療デバイスに関係し、治療剤は結晶性粒子である。
本開示の第13の態様は、単独で又は本明細書の他の態様と組み合わせて、第12の態様の医療デバイスに関係し、結晶性粒子の平均サイズは、0.1μm~100μmである。
【0016】
本開示の第14の態様は、単独で又は本明細書の他の態様と組み合わせて、第1、第3、又は第4の態様の医療デバイスに関係し、医療デバイスは、薬剤溶出ステントである。
本開示の第15の態様は、単独で又は本明細書の他の態様と組み合わせて、第1、第3、又は第4の態様の医療デバイスに関係し、医療デバイスは、バルーンカテーテルである。
【0017】
本開示の第16の態様は、単独で又は本明細書の他の態様と組み合わせて、第1の態様の医療デバイスに関係し、治療剤又はポリマー微粒子は、親水性である。
本開示の第17の態様は、単独で又は本明細書の他の態様と組み合わせて、医療デバイスであって、医療デバイスの外面の少なくとも一部の上に薬剤コーティング層を備える、医療デバイスに関係し、薬剤コーティング層は、親水性層と、親水性層に埋め込まれた、疎水性治療剤又は疎水性ポリマー微粒子とを含む。
【0018】
本開示の第18の態様は、単独で又は本明細書の他の態様と組み合わせて、第17の態様の医療デバイスに関係し、親水性層は、ポリ(エチレングリコール)、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、N-(2-ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド(HPMA)、ジビニルエーテル-無水マレイン酸(DIVEMA)、ポリオキサゾリン、キサンタンガム、ペクチン、キトサン誘導体、デキストラン、カゼインナトリウム、セルロースエーテル、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒアルロン酸(HA)、アルブミン、又はこれらの組合せから構成される。
【0019】
本開示の第19の態様は、単独で又は本明細書の他の態様と組み合わせて、第17の態様の医療デバイスに関係し、親水性層は、37℃以下のガラス転移温度を有した親水性材料を含む。
【0020】
本開示の第20の態様は、単独で又は本明細書の他の態様と組み合わせて、第17の態様の医療デバイスに関係し、ポリマー微粒子は、治療剤が分散された疎水性ポリマー微粒子である。
【0021】
本開示の第21の態様は、単独で又は本明細書の他の態様と組み合わせて、第17の態様の医療デバイスに関係し、治療剤は、疎水性ポリマー微粒子の30~50重量%で疎水性ポリマー微粒子に充填されている。
【0022】
本開示の第22の態様は、単独で又は本明細書の他の態様と組み合わせて、第20の態様の医療デバイスに関係し、疎水性ポリマー微粒子は、第1のサイズグループと第2のサイズグループとを有し、第1のサイズグループは、10μmの平均サイズを有し、さらに第2のサイズグループは、第1のサイズグループとは異なる平均サイズを有する。
【0023】
本開示の第23の態様は、単独で又は本明細書の他の態様と組み合わせて、第22の態様の医療デバイスに関係し、第2のサイズグループは、30μm、35μm、又は40μmの平均サイズを有する。
【0024】
本開示の第24の態様は、単独で又は本明細書の他の態様と組み合わせて、第17の態様の医療デバイスに関係し、治療剤は結晶性粒子である。
本開示の第25の態様は、単独で又は本明細書の他の態様と組み合わせて、第24の態様の医療デバイスに関係し、結晶性粒子の平均サイズは、0.1μm~100μmである。
【0025】
本開示の第26の態様は、単独で又は本明細書の他の態様と組み合わせて、第17、第20、又は第24の態様の医療デバイスに関係し、医療デバイスは、薬剤溶出ステントである。
【0026】
本開示の第27の態様は、単独で又は本明細書の他の態様と組み合わせて、第17、第20、又は第24の態様の医療デバイスに関係し、医療デバイスは、バルーンカテーテルである。
【0027】
本開示の第28の態様は、単独で又は本明細書の他の態様と組み合わせて、医療デバイスをコーティングする方法に関係し、方法は、治療剤が充填されたポリ(乳酸-co-グリコール酸)(PLGA)のポリマー微粒子、溶媒、及び添加剤を含むコーティングスラリー溶液を調製することと、コーティングスラリー溶液をかき混ぜることと、コーティングスラリー溶液を医療デバイスの外面の少なくとも一部に医療デバイスの長さに沿って単一方向に付与することとを含む。
【0028】
本開示の第29の態様は、単独で又は本明細書の他の態様と組み合わせて、第28の態様の方法に関係し、コーティングスラリー溶液は、シリンジ内で、シリンジのバレル内に位置するスターラーによってかき混ぜられる。
【0029】
本開示の第30の態様は、単独で又は本明細書の他の態様と組み合わせて、第28の態様の方法に関係し、コーティングスラリー溶液は、攪拌することによってかき混ぜられ、次にピペットのバレルに引き込まれる。
【0030】
本開示の第31の態様は、単独で又は本明細書の他の態様と組み合わせて、第30の態様の方法に関係し、ピペットは、コーティングスラリー溶液で1回プライミングされる。
本開示の第32の態様は、単独で又は本明細書の他の態様と組み合わせて、第30の態様の方法に関係し、ピペットは、コーティングスラリー溶液を医療デバイスに1回付与した後、処分される。
【0031】
本開示の第33の態様は、単独で又は本明細書の他の態様と組み合わせて、第29又は第30の態様の方法に関係し、コーティングスラリーは、バレルに操作可能に接続されたチップを通じてコーティングスラリー溶液を分注することによって、医療デバイスに付与され、分注は一定の速度で行われ、チップはある角度で維持され、チップは医療デバイスの長さに沿って一定の速度で移動する。
【0032】
本開示の第34の態様は、単独で又は本明細書の他の態様と組み合わせて、第33の態様の方法に関係し、チップは、バルーンの長さに対して、45度、水平、又は垂直である角度にある。
【0033】
本開示の第35の態様は、単独で又は本明細書の他の態様と組み合わせて、第33の態様の方法に関係し、コーティングスラリー溶液は、約3~約100μL/sの速度で分注される。
【0034】
本明細書に記載される態様によって提供されるこれら及び付加的な特徴は、図面と共に、以下の詳細な説明を考慮するとより完全に理解されるであろう。
図面に示した態様は、本質的に例証的及び例示的なものであり、特許請求の範囲によって定義される主題を限定するようには意図されていない。以下の例証的な態様の詳細な説明は、同様の構造が同様の参照番号で示されている以下の図面と共に読むと理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】本開示による、医療デバイス、特にバルーンカテーテルの例示的な態様の概略図。
図2A】線A-Aに沿って得られた、バルーンの外面上に薬剤コーティング層を備える図1のバルーンカテーテルの遠位部分のいくつかの態様の断面図。
図2B】線A-Aに沿って得られた、バルーンの外面と薬剤コーティング層との間に中間層を備える図1のバルーンカテーテルの遠位部分のいくつかの態様の断面図。
図3】本開示による、医療デバイス、特にステントの例示的な態様の概略図。
図4】線A-Aに沿って得られた、ステントの外面上に薬剤コーティング層を備える図1のバルーンカテーテルの遠位部分のいくつかの態様の断面図。
図5A】医療デバイスの表面上の治療薬が埋め込まれたポリマー微粒子を示す図。
図5B】医療デバイスの表面上の疎水性マトリックス層中における治療薬が埋め込まれたポリマー微粒子を示す図。
図6】膨張した血管形成術用バルーンの表面上における疎水性層の上に重なるコーティング層を示す図。
図7】疎水性コーティング中におけるPLGA/SRLビーズ(三角の点)及びPLGA/SRLビーズ(丸及び星印の点)の溶出を示す図。
図8】微粒子のスラリー溶液をバルーンの表面上にピペットで移す際の変動の影響を示す図。
図8A】容器内の位置(上部、中央、底部)のコーティングへの影響%を示す図。
図8B】バルーンへのスラリーの付与の前にピペットチップが何回濯がれたかによって見られた影響を示す図。
図8C】ピペットのチップが変更されない場合に見られたコーティングにおける影響を示す図。
図8D】チップを1回使用する場合と2回使用する場合との間におけるコーティングでの差異を示す図。
図8E】ピペットチップの種類を変更することでコーティングに見られた差異を示す図。
図8F】ピペット技術に基づくコーティングの影響を示す図。
図8G】スラリーを大気に開放しておくことによって、異なるサイズのバイアル中で喪失されるmLを示す図。
図8H】特定されたアリコート濃度によるコーティングに対する影響を示す図。
図9】自動化されたプロセスでのコーティングに対する様々なパラメータの影響を示す図。
図9A】コーティングの攪拌速度及びシリンジの向きの影響を示す図。
図9B】分注の向き及び分注速度による影響を示す図。
図9C】向き及び攪拌速度による第2の自動機械での影響を示す図。
図9D】チューブサイズ及びシリンジの向きに対する変更によりコーティングで見られた影響を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本開示は、溶出した薬剤を脈管構造の脈管壁の内部に提供するための医療デバイス、システム、及び方法に関係する。いくつかの態様において、本開示は、溶出した治療薬を対象の脈管構造の脈管壁の内表面及び/又は内部組織に提供することができる1つ又は2つ以上のコーティング層に関係する。
【0037】
いくつかの態様において、本開示は、医療デバイスの外表面に設けられた1つ又は複数のコーティング層に関係する。いくつかの態様において、本開示は、医療デバイス又は医療デバイスの一部の外表面又は外面に設けられた1つ又は複数の薬剤コーティング層に関係する。ある態様において、医療デバイスは、対象の循環系の流れを改善及び/又は治療及び/又は修復するなど、対象の脈管構造を改善及び/又は治療及び/又は修復するためのものである。いくつかの態様において、医療デバイスは、血管などの対象の脈管系又は循環系の脈管内に挿入する及び/又は埋め込むためのものである。このようなデバイスには、ステント、カテーテル、バルーン、ガイドワイヤ、閉塞デバイス、足場、弁、フィルタ、エアレータ、血管形成術用バルーン、カテーテル、ガイドワイヤ、フィルタ、ステントグラフト、人工血管(vascular graft)、動脈瘤充填コイル、メッシュ、人工心臓弁、ペースメーカリード、ポート、ニードル、クリップ、及び薬剤コーティングを有するすべての他のデバイスが含まれ得る。
【0038】
いくつかの態様において、本開示は、医療デバイスの外表面上における薬剤コーティング層に関係する。いくつかの態様において、コーティング層は、薬剤コーティング層と脈管構造管の内壁又は内腔を画定する壁との間の接触を可能にする及び/又は与えるように、医療デバイスの外表面に付与される。本明細書で特定されるように、医療デバイスは、対象の脈管系又は循環系の脈管の内腔内に埋め込む及び/又は挿入するためのものである。医療デバイスの外表面又は外面に薬剤コーティング層を付与することにより、薬剤コーティング層は、1つ以上の時点において脈管の内表面又は内腔壁と接触することができる。当業者には、いくつかの医療デバイスが、対象の循環系の脈管の断面が円形である性質に対して、半径方向に拡張することができるか、又は半径方向に操作可能に拡張され得ることが理解されるであろう。よって、いくつかの態様において、本開示の1つ以上の薬剤コーティング層は、デバイスが対象の脈管内で拡張されるときに、脈管壁と接触し得る。さらなる態様において、本明細書に示すように、コーティング層は1層以上であってもよい。当業者には、外側コーティング層までの内層は、先行する外層が除去され且つ/又は崩壊して、そのような層を内側の脈管壁に晒すにつれて、脈管の内壁と接触し得ることが理解されるであろう。
【0039】
疎水性層
いくつかの態様において、本開示は、医療デバイスの外表面上に設けられた薬剤コーティング層に関係し、薬剤コーティング層は、疎水性層、又はポリマー、ポリマー組成物及び/若しくは治療組成物が分散された疎水性層を含む。
【0040】
いくつかの態様において、疎水性層は、医療デバイスの外表面又はその一部のまわりにそのような疎水性層を形成するための1つ以上の疎水性材料又は組成物を含む。
いくつかの態様において、疎水性層は、1つ以上の治療薬を疎水性層中に含む。ある態様において、疎水性層は、治療剤(複数可)を充填したポリマー微粒子などの、生体吸収性ポリマー微粒子又はビーズと治療剤/薬剤との混合物が埋め込まれている疎水性マトリックス層である。いくつかの態様において、疎水性層マトリックスは、生体吸収性ポリマー微粒子及び治療剤が水及び/又は水性環境に直接又は即時に晒されるのを制限し、結果として、疎水性層マトリックス内のポリマーの分解及び/又は治療薬の放出を遅延させ得る。いくつかの態様では、治療剤は、それ自体が疎水性層に埋め込まれる生体吸収性ポリマー微粒子内に組み込まれてもよく、且つ/又は包み込まれてもよい。いくつかの態様において、疎水性層は、疎水性ポリマー及び/又は疎水性小分子を含み得るが、これらに限定されるものではない。いくつかの態様において、疎水性ポリマー及び/又は疎水性小分子は、生体吸収性の疎水性材料である。いくつかの態様において、疎水性層は、2つ以上の疎水性材料の混合物であってもよい。ある態様において、疎水性材料は、これらの疎水性材料が経時的に身体によって生分解可能であること及び/又は生体吸収されることに基づいて選択される。本明細書で使用される場合、「生体吸収性」とは、対象の周囲組織若しくは局所組織によって吸収され得る及び/又は対象の組織によって分解され吸収され得る化合物を表す。いくつかの態様において、疎水性層は、医療デバイスがインサイチュで拡張又は配置されたときに層が対象の脈管構造の内壁(inner wells)に移行するように、デバイスの外面又は外表面から容易に移行される。他の態様では、疎水性層は、デバイスが対象内でインサイチュに配置されたときに、医療デバイスの外面又は外表面に付着した状態を保つ。いくつかの態様において、医療デバイスは層全体を脈管壁に移行させ、薬剤放出及び吸収の大部分はこの移行後に起こることが理解されよう。他の態様では、疎水性層を保持することにより、その薬剤放出及び吸収の大部分が医療デバイス自体から起こることが可能となることも理解されよう。いくつかの態様において、疎水性層には1つ以上の治療剤が埋め込まれている。よって、いくつかの態様では、疎水性層は、埋め込まれたポリマー微粒子及び/又は治療剤を保持し、治療薬を脈管壁から放出又は溶出する。他の態様では、疎水性層は、埋め込まれたポリマー微粒子及び/又は治療剤を保持し、治療薬を医療デバイス自体から放出又は溶出する。いくつかの態様において、治療剤は、ポリマー微粒子の侵食によって送達される。他の態様では、治療薬は、治療剤の特定サイズの結晶性形態及び/又は非晶質形態を直接埋め込むことなどで、疎水性層の侵食及び/又は分解によって直接放出される。
【0041】
いくつかの態様において、疎水性層は、生体吸収性の疎水性材料である疎水性ポリマー及び/又は疎水性小分子を含み得るが、これらに限定されるものではない。いくつかの態様において、疎水性層は、疎水性層が経時的に身体によって生分解可能であること及び/又は生体吸収されることに基づいて選択される2種以上の疎水性材料の混合物であってもよい。一例として、これらに限定されるものではないが、生体吸収性の疎水性材料の例としては、半合成グリセリド(例えばSuppocire(登録商標) AIML、AML、BML、BS2、BS2X、NBL、NAIS 10、CS2X)、レシチン、水素化やし油、やし油、カカオ脂、グリセリンゼラチン、水素化植物油、ハードファット、鉱油、セチルアルコール、ペトロラタム、ワセリン、デカノール、軟パラフィン、トリデカノール、ドデカノール、長鎖飽和脂肪酸、長鎖不飽和脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪酸エーテル、ウイテプゾール、固体脂質、ステアリン酸メチル、トリグリセリド、グリセリルモノステアレート、グリセリルパルミトステアレート、ステアリン酸、パルミチン酸、デカン酸、ベヘン酸、蜜ろう、カルナウバろう、パラフィン、脂肪酸トリグリセリド、脂肪酸アルコール、PEG-脂肪酸エステル(13未満の親水性-親油性バランス(HLB)を有する)、13未満のHLBを有したPEG-表面活性剤、又はこれらの組み合わせが挙げられ得る。
【0042】
いくつかの態様において、生体吸収性の疎水性ポリマー及び/又は疎水性小分子は、37℃以下のガラス転移温度を有する。体温より低いガラス転移温度を有した疎水性材料を疎水性層マトリックスに提供することにより、医療デバイスがヒト対象者内でインサイチュに配置されたときに疎水性層マトリックスが、粘着性又は粘り気を有するようになり得る。いくつかの態様において、対象に配置されたときにデバイスを取り囲む組織の体温により、疎水性ポリマーがガラス転移温度より高くまで温められ、疎水性ポリマーが対象内で粘り気又は粘着性を有するようになることができる。疎水性層マトリックスが粘着性を有するようにできることにより、コーティングを医療デバイスの外表面から脈管壁に付着又は移行させることが可能となる。いくつかの態様において、そのような疎水性層マトリックス内に治療薬を埋め込むことにより、水又は血液環境又は血液の水性環境に晒されることが制限され、結果として、放出が妨げられ、且つ/又は延長され得る。いくつかの態様において、治療剤を放出する時間的経過を延長すると、再狭窄の発生を防止又は低減することができる。いくつかの態様において、疎水性材料は、半合成グリセリド、ステアリン酸メチル、水素化やし油、やし油、カカオ脂、グリセリンゼラチン、水素化植物油、ハードファット、ワセリン/ペトロラタム、及びPEG-脂肪酸エステルから選択される。ある態様において、疎水性材料は、ワセリン又はペトロラタムである。
【0043】
いくつかの態様において、生体吸収性ポリマーは、医療デバイスの表面上に残存し、材料が生体吸収されるとともに一定の期間にわたって侵食される。ガラス転移温度は、より一時的又は過渡的な医療デバイスに有益であるが、固体のままである他の疎水性材料は、恒久的又は半恒久的な医療デバイスに有益である。このような態様では、疎水性マトリックス層が、該層に埋め込まれた薬剤混合物が水に晒されるのを制限し、結果として、薬剤溶出プロファイルが延長される。
【0044】
いくつかの態様において、本開示は、コーティング溶液を調製して医療デバイスの表面又は該表面上の前のコーティングに疎水性層を設けることに関係する。いくつかの態様において、コーティングする方法は、治療剤又はポリマー微粒子のポリマーを溶解しない溶媒中に疎水性層を溶解させることを含む。本方法はまた、溶解した疎水性材料と治療薬とを含む溶媒のスラリー、又は溶解した疎水性材料と治療剤が充填されたポリマー微粒子とを含む溶媒のスラリーを生成することと、医療デバイスの外面若しくはその一部に、又は医療デバイスの外面に以前に付与されたコーティング若しくはその一部に、上記スラリーを付与することとを含む。本方法は、溶媒を蒸発させることをさらに含む。コーティング溶液は、1回又は2回以上付与され得ることが理解されよう。いくつかの態様において、付与される量及び/又は付与する回数によって、疎水性層の厚さを制御することができる。
【0045】
微粒子
いくつかの態様において、本開示は、治療剤及び/又は生体吸収性ポリマー微粒子若しくはビーズ内に分散された治療剤が埋め込まれた疎水性ポリマー及び/又は疎水性小分子の疎水性層マトリックスに関係する。いくつかの態様において、微粒子の生体吸収性ポリマーは、ポリグリコール酸及びポリ-L-乳酸を含む、グリコール酸及び乳酸又はL-乳酸の1つ以上のポリマー又は結合若しくは架橋ネットワークを含み得る。いくつかの態様において、微粒子に利用される生体吸収性ポリマーは、ポリ-グリコール酸(PGA)及びポリ-L-乳酸(PLLA)のポリマーネットワークなどのポリマーの組合せであり得る。組み合わせて又は単独で微粒子に利用することができる他の生体吸収性ポリマーとしては、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ-DL-乳酸(PDLLA)、ポリ(トリメチレンカーボネート)(PTMC)、ポリ(エステルアミン)(PEA)、ポリ(パラ-ジオキサノン)(PPDO)、ポリ-2-ヒドロキシブチレート(PHB)、及びこれらの様々な比率のコポリマーが挙げられる。いくつかの態様では、生体吸収性ポリマーは、単独で又は他の生体吸収性ポリマーと組み合わせて、乳酸とグリコール酸のポリマーの組合せ、ポリ-乳酸-co-グリコール酸(PLGA)を含み得る。当業者には、PLGAは、乳酸とグリコール酸の割合を変えることができ、ラクチドユニットの量が高いほど、ポリマーは分解するまでにより長くインサイチュで存続できることが理解されよう。PLGAによる付加的な調整可能な特性は、分子量に関係し、分子量が高いほど増大した機械的強度を示す。いくつかの態様では、2つ以上の生体吸収性ポリマーを各微粒子に利用することができ、且つ/又は様々な異なる治療薬充填微粒子を利用して、所望の治療薬放出プロファイルを提供することができる。いくつかの態様において、ポリマー中に分散された治療薬は、エマルション蒸発によって調製され、治療剤及びポリマーは、ジクロロメタン(DCM)又は酢酸エチル(EtOAc)などの溶媒中で混合され、次いで溶媒が蒸発するとともに形成される。微粒子のサイズは、マイクロ流体チャネルサイズ又は膜乳化などのプロセスによって制御され得る。いくつかの態様において、微粒子は、本明細書に示す酸化防止剤を用いて調製され得る。いくつかの態様において、微粒子は、ブチル化ヒドロキシトルエンを用いて調製される。
【0046】
いくつかの態様において、生体吸収性ポリマーは、アミン、カルボン酸、ポリエチレングリコール(PEG)、又はアミノ酸が付加された(appended)ような、付加ユニットのポリマーであってもよい。いくつかの態様において、生体吸収性ポリマーは、付加PLGAである。
【0047】
本開示のいくつかの態様において、治療薬が埋め込まれたポリマーの微粒子を調製する際に利用される溶媒は、モルフォロジー、薬剤負荷プロファイル、及び薬剤溶出において異なるポリマー微粒子を生成するであろう。いくつかの態様において、本開示は起伏のある(contoured)ポリマー微粒子に関係する。起伏のあるポリマー微粒子とは、ジクロロメタン(DCM)などの溶媒を用いたエマルション蒸発及び/又はマイクロ流体工学的混合によって入手可能なポリマー微粒子を指す。いくつかの態様において、本開示は、PLGA又はPLGA-DCM微粒子の起伏のある微粒子に関係する。本明細書で言及される場合、PLGA-DCMとは、DCMが溶媒である場合に生じるPLGAの起伏のあるポリマー微粒子を指す。PLGA-DCMはまた、クラスター化されている、その中に埋め込まれた薬剤も表す。いくつかの態様において、本開示は、滑らかなポリマー微粒子に関係する。滑らかなポリマー微粒子とは、酢酸エチル(EtOAc)などの溶媒を用いたエマルション蒸発及び/又はマイクロ流体工学的混合によって入手可能なポリマー微粒子を指す。いくつかの態様において、本開示は、PLGA又はPLGA-EtOAcの起伏のあるポリマー微粒子に関係する。本明細書で言及される場合、PLGA-EtOAcとは、EtOAcが溶媒である場合に生じるPLGAの滑らかなポリマー微粒子を指す。PLGA-EtOAcはまた、微粒子の全体にわたる埋め込まれた薬剤の一様な分布も表す。
【0048】
いくつかの態様において、本開示は、ポリマー微粒子を調製するための製剤に関係する。いくつかの態様において、製剤は、溶媒、ポリマー及び治療剤(複数可)を含む。いくつかの態様において、溶媒は、ジクロロメタン(DCM)又は酢酸エチル(EtOAc)である。ある態様において、ポリマー微粒子のための製剤は、DCM又はEtOAc、PLGA、シロリムス、及びBHTを含む。微粒子は、乳化中に、マイクロ流体チャネルにおける混合又は膜乳化のいずれかを通じて生じる。微粒子のサイズは、チャネルの幅又は膜の細孔の幅などの要因によって制御され得る。
【0049】
本開示の他の態様において、ポリマー微粒子は、治療薬を埋め込んだ生体吸収性ポリマーからなり、微粒子は、ある平均サイズ又はD50±標準偏差のものであり、上記標準偏差は、約9.9、9.8、9.7、9.6、9.5、9.4、9.3、9.2、9.1、9.0、8.9、8.8、8.7、8.6、8.5、8.4、8.3、8.2、8.1、8.0、7.9、7.8、7.7、7.6、7.5、7.4、7.3、7.2、7.1、7.0、6.9、6.8、6.7、6.6、6.5、6.4、6.3、6.2、6.1、6.0、5.0、5.8、5.7、5.6、5.5、5.4、5.3、5.2、5.1、5.0以下を含む、約10μm以下である。いくつかの態様において、ポリマー微粒子は、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、30、40、50、60、70、80、90、110、120、130、140、150、160、170、180、及び190μmを含む、100nm~200μmの平均サイズを有し得る。いくつかの態様では、上記平均サイズは、約100nm~約300μmであってもよい。いくつかの態様において、上記平均サイズ又はD50は、約1μm~約300μm、約1μm~約100μm、約1μm~約50μm、約1μm~約40μm、約1μm~約30μm、約10μm~約300μm、約10μm~約100μm、約10μm~約、約10μm~約40μm、又は約10μm~約30μmであってもよい。いくつかの態様において、平均サイズは、D50値である。D50値は、レーザー回折などのプロセスを通じて決定され得る。本開示の他の態様において、ポリマー微粒子は、治療薬を充填した生体吸収性ポリマーからなり、ポリマー微粒子は、ポリマー微粒子の95%が選択した平均サイズの20パーセント以下以内に入るような、均一なサイズ又は狭いサイズ分布のものである。いくつかの態様において、ポリマー微粒子は、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、30、40、50、60、70、80、90、110、120、130、140、150、160、170、180、及び190μm(全て±20%)を含む、100nm~200μm(±20%)の均一な又は狭い分布サイズを有し得る。いくつかの態様において、ポリマー微粒子には、治療薬が、ポリマー微粒子の10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、及び70重量%を含む、ポリマー微粒子の5~75重量%(w/w)となるように、治療薬が充填されているか又は埋め込まれている。いくつかの態様において、ポリマー微粒子は、治療薬を充填した又は埋め込んだPLGAからなる。いくつかの態様において、治療薬はリムス(limus)薬である。ある態様において、治療薬は、シロリムスである。さらなる態様において、治療薬は、ポリマー微粒子の35~45%w/wで充填されるシロリムスである。いくつかの態様において、PLGAは、PLGA-DCMである。他の態様において、PLGAは、PLGA-EtOAcである。さらなる態様において、ポリマー微粒子は、PLGA-DCMとPLGA-EtOAcとの組合せである。いくつかの態様において、ポリマー微粒子の平均サイズは、10、20、30、40、又は50μmであり、ポリマー微粒子は、ポリマー微粒子の35~45%w/wでシロリムスを充填したPLGA-DCM又はPLGA-EtOAcからなる。
【0050】
いくつかの態様において、治療薬が充填された生体吸収性ポリマー微粒子を疎水性層マトリックス内に埋め込むことにより、治療剤及び/又は生体吸収性ポリマーと治療剤との混合物が水又は血液環境又は血液の水性環境に晒されることが制限され、結果として、ポリマーの分解が遅延され、疎水性層の吸収及び微粒子中のポリマーの吸収の双方によって治療剤の放出が制御されて、持続的な局所送達が可能となる。いくつかの態様において、治療剤を放出する時間的経過を延長及び/又は持続させることにより、再狭窄の発生を防止又は低減することができる。いくつかの態様において、疎水性マトリックス層は、水素化やし油、やし油、鉱油、セチルアルコール、ワセリン、デカノール、トリデカノール、ドデカノール、長鎖飽和脂肪酸、長鎖不飽和脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪酸エーテル、ウイテプゾール、固体脂質、ステアリン酸メチル、トリグリセリド、グリセリルモノステアレート、グリセリルパルミトステアレート、ステアリン酸、パルミチン酸、デカン酸、ベヘン酸、蜜ろう、カルナウバろう、パラフィン、脂肪酸トリグリセリド、及び脂肪酸アルコール、又はこれらの組合せからなり、これらにポリマー微粒子が埋め込まれている。
【0051】
いくつかの態様において、本開示は、疎水性層に関係するものであり、生体吸収性の疎水性材料は、ステアリン酸メチル及び/又はパラフィンである。いくつかの態様において、ステアリン酸メチル及び/又はパラフィンには、本明細書に示す治療剤が埋め込まれてもよく、且つ/又は1つ以上の治療剤を充填した微粒子が埋め込まれてもよい。いくつかの態様において、治療剤は、マクロライドを含み得る。いくつかの態様において、マクロライドは、タクロリムス、ピメクロリムス及び/又はシロリムス(ラパマイシン)などの、免疫抑制性及び/又は免疫調節性マクロライドであってもよい。ある態様において、治療薬は、少なくともシロリムスを単独で又は本明細書に記載の1つ以上の治療薬と組み合わせて含む。いくつかの態様において、ポリマー微粒子には、BHTなどの酸化防止剤も充填されるか又は埋め込まれる。他の態様において、治療薬には、本明細書に記載の任意の治療薬が含まれ得る。他の態様において、ステアリン酸メチル及び/又はパラフィンには、シロリムスを単独で又は1つ以上の治療剤と組み合わせて充填した生体吸収性ポリマー微粒子又はビーズが埋め込まれ得る。他の態様において、ステアリン酸メチル及び/又はパラフィンには、シロリムスを単独で又は1つ以上の治療剤及び/又は酸化防止剤と組み合わせて充填したPLGA微粒子が埋め込まれ得る。
【0052】
反対極性
疎水性材料のコーティング層(複数可)に加えて、ポリマー微粒子及び/又は治療剤が埋め込まれるコーティング層用の材料は、この材料に疎水性治療薬及び/又は疎水性ポリマー微粒子が充填されるのであれば、本質的に親水性であり得ることも考えられる。いくつかの態様において、本開示は、ポリマー(複数可)と治療剤及び/又はポリマー微粒子との間に反対の関係があり、他方は疎水性であるという条件でいずれか一方が本質的に親水性である、医療デバイスの外面におけるポリマーコーティングに関係する。いくつかの態様において、ポリマーコーティングは親水性であり、ポリマー微粒子及び/又はポリマー微粒子に埋め込まれた治療薬は親油性である。いくつかの態様において、ポリマーコーティングは親油性であり、ポリマー微粒子及び/又はポリマー微粒子に埋め込まれた治療薬は親水性である。いくつかの態様において、ポリマーコーティングは、親水性/疎油性のポリマーと疎水性/親油性の薬剤、又は疎水性/親油性のポリマーと親水性/疎油性の薬剤のいずれかで調製され得る。いくつかの態様において、本開示は、結晶性治療薬が埋め込まれたポリマーコーティングに関係する。
【0053】
いくつかの態様において、本開示は、親水性ポリマー及び疎水性治療剤のポリマーコーティングに関係する。いくつかの態様において、治療剤は、疎水性の結晶性治療剤であり得る。親水性ポリマーとしては、ポリ(エチレングリコール)、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、N-(2-ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド(HPMA)、ジビニルエーテル-無水マレイン酸(DIVEMA)、ポリオキサゾリン、キサンタンガム、ペクチン、キトサン誘導体、デキストラン、カゼインナトリウム、セルロースエーテル、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒアルロン酸(HA)、アルブミン、及びこれらの組合せが挙げられ得る。ある態様において、疎水性治療剤は当技術分野では理解されているが、利用される疎水性治療薬はシロリムスを含む。
【0054】
他の態様において、本開示は、疎水性ポリマー及び親水性治療剤のポリマーコーティングに関係する。いくつかの態様において、治療剤は、親水性の結晶性治療剤であり得る。疎水性ポリマーとしては、ポリ(ラクチド-co-グリコリド)(PLGA)、ポリラクチド(PLA)、ポリグリコリド(PGA)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリウレタン、ポリアクリレート、ポリn-ブチルメタクリレート、ポリフッ化ビニリデン・ヘキサフルオロプロピレン(PVDF-HFP)、ポリエチレン-co-酢酸ビニル、ポリ-n-ブチルメタクリレート、ポリエチレン、及びこれらの組合せが挙げられ得る。親水性剤としては、ラパマイシン、バイオリムス(バイオリムス A9)、エベロリムス、ゾタロリムス、タクロリムス、デキサメタゾン、プレドニゾロン、コルチコステロン、パクリタキセル、5-フルオロウラシル、シスプラチン、ビンブラスチン、リドカイン、ブピバカイン、及びこれらのすべて誘導体、異性体、ラセミ体、ジアステレオ異性体、プロドラッグ、水和物、エステル、又は類似体が挙げられ得る。ある態様において、治療剤は、ラパマイシン、バイオリムス(バイオリムス A9)、エベロリムス、ゾタロリムス、タクロリムス、又はこれらの組合せのうちの1つ以上であり得る。
【0055】
いくつかの態様において、疎水性/親水性コーティングは、ポリマーを溶媒中に溶解させて調製される。反対の極性のために、治療剤及び/又はポリマー微粒子は、溶媒に難溶/不溶であろう。次に、この混合物を攪拌してスラリーを与え、これを医療デバイスの外表面に付与することができる。溶媒が蒸発するにつれて、溶液からポリマーが出現し、それによって治療剤を医療デバイスの表面上に包み込む。
【0056】
コーティング
いくつかの態様において、本開示は、疎水性層を医療デバイスの外面に調製する及び/又は付与する方法に関係する。このような方法は、疎水性コーティングが可溶であるだけでなく、生体吸収性ポリマー及び/又は選択した1つ又は複数の治療剤が可溶でないか、又は低溶解度である溶媒(又は溶媒の混合物)を選択することと、次にすべての原料を混合して、懸濁液を形成することであって、懸濁液は次に医療デバイスに付与され得ることと、次に溶媒(複数可)を蒸発させるか、又は溶媒が周囲大気中に蒸発できるようにすることとを含む。
【0057】
いくつかの態様において、本開示は、親水性層を医療デバイスの外面に調製する及び/又は付与する方法に関係する。このような方法は、親水性コーティングが可溶であるだけでなく、生体吸収性ポリマー及び/又は選択した1つ又は複数の治療剤が可溶でないか、又は低溶解度である溶媒(又は溶媒の混合物)を選択することと、次にすべての原料を混合して、懸濁液を形成することであって、懸濁液は次に医療デバイスに付与され得ることと、次に溶媒(複数可)を蒸発させるか、又は溶媒が周囲大気中に蒸発できるようにすることとを含む。
【0058】
本明細書で使用される場合、低溶解度とは、例えば1g/L以下、例えば0.9g/L、0.8g/L、0.7g/L、0.6g/L、0.5g/L、0.4g/L、0.3g/L、0.2g/L、0.1g/L、0.01g/L、0.001g/L、又はそれ未満であるものなどの、特定の溶媒に容易に溶解することができない材料を表す。溶媒としては、水、アルコール、エーテル類、エステル、ケトン、芳香族溶媒、アルカン、及びハロゲンを含有する溶媒(フッ化物及び塩化物など)、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、酢酸エチル、ベンゼン、トルエン、クロロホルム、四塩化炭素、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、ペンタン、アセトニトリル、ベンゼン、iso-ブタノール、n-ブタノール、tert-ブタノール、クロロベンゼン、シクロヘキサノン、シクロペンタン、ジクロロメタン、ジエチルエーテル、ジオキサン、エチルエーテル、二塩化エチレン、キシレン、並びにこれらの混合物のうちの1つ以上が挙げられ得る。
【0059】
薬剤コーティング溶液を医療デバイスに付与する方法には、ディップコーティング、計量コーティング(metering coating)、スプレーコーティング、静電スプレーコーティング、ローラーコーティング、スピンコーティング、インクジェット印刷、3D印刷、又はこれらの組合せが含まれ得る。好ましい方法は、計量コーティング及びスプレーコーティングである。溶媒が蒸発した後、感圧性の疎水性薬剤コーティングがバルーン表面上に残される。医療デバイス上の薬剤用量密度は、0.1~10μg/mmであり得る。好ましい薬剤用量密度は、0.5~5μg/mmである。
【0060】
いくつかの態様において、本開示は、疎水性/親油性のポリマーと親水性/疎油性の治療剤及び/若しくはポリマー微粒子とのポリマーコーティング、又は親水性/疎油性のポリマーと疎水性/親油性の治療剤及び/若しくはポリマー微粒子とのポリマーコーティングを医療デバイス上に調製するための方法にさらに関係する。結晶性治療薬について、このようなポリマーコーティングは、結晶性治療剤を所望のサイズ範囲に粉砕し、粉砕した治療剤及びポリマーを溶媒(又は本明細書に記載した複数の溶媒)と混合してスラリーコーティング溶液を形成することと、次にスラリーコーティング溶液を医療デバイス上に付与し、熱及び/若しくは空気を加えるか、又は溶媒が自然に蒸発できるようにするかのいずれかで溶媒を蒸発させることとを通じて得ることができる。次いで医療デバイスは、包装され、且つ/又は対象に使用する前に殺菌され得る。
【0061】
いくつかの態様において、コーティングは、1つ又は複数の特定のサイズ範囲の結晶性治療剤及び/又は非晶質治療剤を含み得る。いくつかの態様では、結晶性及び/又は非晶質治療剤は、疎水性/親水性の層内に埋め込まれ得る。他の態様では、結晶性及び/又は非晶質治療剤は、疎水性/親水性の層に埋め込まれたポリマー微粒子内に充填されている。さらなる態様では、結晶性及び/又は非晶質治療剤は、溶媒の蒸発によって医療デバイスの表面に付着する。いくつかの態様において、結晶性及び/又は非晶質治療剤の微粒子サイズは、約0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、30、40、50、60、70、80、90、99μm、及びそれらの中の任意のサイズ又は数を含む、約0.1μm~約100μmで変化し得る。いくつかの態様において、粒子サイズは、約1μm~約20μmである。他の態様では、粒子サイズは、約10μm~約100μmである。サイズ選択は、所定の細孔又は穴の大きさの網に通過させることによるなどの当技術分野で了解されている方法を通じて行われ得る。所望の粒子サイズは、乾式粉砕又は湿式粉砕によって得ることができる。粉砕法としては、ジョークラッシャ、超遠心分離ミル、サイクロンミル、クロスビータミル、ロータビータミル、カッティングミル、ナイフミル、モルタルグラインダ、ディスクミル、ミキサーミル、クライオミル、遊星ボールミル、ドラムミル、及び/又は微粉砕ロッドミルの使用などの手法が挙げられ得る。いくつかの態様において、上記粒子サイズは、ボールミルを用いて得られ得る。粉砕された薬剤粒子及びポリマーの混合物は、溶媒(又は溶媒の混合物)と合わせられ、スラリーコーティング溶液を形成し得る。本方法はまた、スラリーコーティング溶液を医療デバイス表面に付与することも含み得る。このような付与の手法としては、ディップコーティング、計量コーティング、スプレーコーティング、静電スプレーコーティング、ローラーコーティング、スピンコーティング、インクジェット印刷、及び3D印刷が挙げられ得る。ある態様において、本方法は、計量コーティングを含む。
【0062】
本開示のある態様において、薬剤コーティングは、医療デバイスの外表面上において疎水性層によって埋め込まれた結晶性治療薬を含む。ある態様において、疎水性層は、ペトロラタムを含み得る。ある態様において、薬剤コーティングは、溶媒中でペトロラタム及び結晶性治療薬を調製し、溶液を医療デバイス上にコーティングし、溶媒を蒸発させて溶液から疎水性層を出現させ、治療薬を医療デバイスの表面上に包み込むことによって調製され得る。いくつかの態様において、溶媒は、シクロヘキサンであり得る。いくつかの態様において、コーティングは、計量コーティングによるものであり得る。ある態様において、治療薬は、粒子サイズ/粒子径が約10μm~約100μmの結晶性シロリムスであり得る。
【0063】
第2の親水性/溶解可能なコーティング
さらなる態様において、薬剤含有コーティング層(複数可)は、医療デバイスが対象内の所望の位置に位置するまで、コーティング層(複数可)を保護するためにカバー層によってさらに覆われ得る。いくつかの態様において、カバー層は、使用者によって、バルーンの少なくとも一部を覆っている状態から操作可能に引っ込められ得る後退可能なカバー層であり得る。いくつかの態様では、カバー層は、バルーンの膨張の前に後退させられ得る。ある態様において、カバー層は、バルーンをインサイチュで萎ませた場合などに、少なくともバルーンの一部を再度覆うようにさらに操作可能に移動され得る。いくつかの態様では、カバー層は、層が対象の循環系の流れの中で溶解し、薬剤含有コーティング層(複数可)を露出させることができるように、水溶性材料のものであり得る。カバー層の存在により、医療デバイスが対象の所望の位置に移動されるときに、薬剤コーティング層が保護された又は覆われた若しくは部分的に覆われた状態を保つことができ、これにより、治療剤が所望の治療部位から離れた脈管壁又は脈管構造の一部に不必要に又は意図せず堆積することが回避される。カバー層は、医療デバイスをインサイチュでその所望の位置に配置するのに十分な移送時間を確保するために、様々な厚さのものとすることができることが理解されよう。医療デバイスは、カバー層が溶解できるようにするために、拡張を許容する前に適所に放置又は維持され得ることも理解されよう。他の態様では、医療デバイスの配置中、及び任意で医療デバイスが適所に位置したら、医療デバイスを対象内で保持することにより、薬剤コーティングマトリックスが十分な温度に達して粘着性又は粘り気を有するようになり得ることが理解されよう。保持期間が長いほど、薬剤コーティングマトリックス層の粘着性が高められ得ることが理解されよう。
【0064】
いくつかの態様において、第2のカバー層は、体温及び/又は37℃よりも低いガラス転移温度を有した材料を含む下部薬剤コーティング層を保護することができ、それにより、下部コーティング層がインサイチュで粘着性を有するようになるときに、デバイスが適所に位置するまで下部コーティングが脈管の内腔に付着することから保護される。デバイスが適所に位置したら、第2のカバー層が溶解するか又は下部薬剤コーティング層(複数可)を露出させることができるようにすることによって、デバイスが所望の位置に移動するときに薬剤又はコーティング層の不注意による喪失が低減される。いくつかの態様において、本開示は、非晶質形態又は結晶性形態のいずれかである、下部コーティング層内の薬剤であって、体温(37℃)よりも低いガラス転移温度を有した疎水性材料内に埋め込まれている薬剤と、薬剤コーティング層を保護するか又は包むための薬剤コーティング層の上に位置する上部水溶性カバー層とに関係する。医療デバイスを対象の所望部位に配置する前の薬剤放出を保護又は低減できるようにすることに加えて、上部コートは、医療デバイスを折り畳むか又は潰すこと、取り扱うこと、及び包装することなどを伴う、医療デバイスの製造にさらに役立ち得る。
【0065】
いくつかの態様において、少なくとも2つのコーティングでコーティングされた医療デバイスが血液に晒されると、水溶性上部カバー層は溶解され、薬剤コーティング層のみが残存する。薬剤コーティング層がインサイチュでガラス転移相に移行すると、下部薬剤コーティング層は、脈管壁に対して粘着性を有する。さらなる態様では、薬剤コーティング層の疎水性により、薬剤コーティング層が血液によって押し流されることが防止され、送達中の薬剤喪失が低減される。さらに、薬剤コーティング層のガラス転移温度は体温より低いため、薬剤コーティング層がインサイチュで粘着性及び粘り気を有するようになり、薬剤コーティングは感圧性となり、医療デバイスが脈管壁で拡張されると脈管壁に付着できるようになる。例えば、バルーンをインサイチュで膨張させて、薬剤コーティング層が脈管壁と接触するとき、薬剤コーティング層は、脈管壁に押し付けられ、脈管壁に容易に移行される。薬剤コーティング層の疎水性により、薬剤コーティング層と脈管の内腔の組織との間に良好な付着性がさらに提供され得る。
【0066】
いくつかの態様において、水溶性外側カバー層は、下部薬剤含有コーティング層(複数可)を完全に又は部分的に覆うように医療デバイスに付着した又は固定された粉末、細粒、又は薄膜からなる。いくつかの態様において、水溶性カバー層は、下部薬剤含有コーティング層内に部分的に埋め込まれて、そこに埋め込まれた治療薬を覆うことができる。
【0067】
水溶性カバー層自体は、任意の非毒性の水溶性化合物又はこれらの組合せからなり得る。このようなものとしては、水溶性塩類、水溶性炭水化物(例えば単糖類、二糖類、オリゴ糖類、及び多糖類)、及び/又は水溶性ポリマーが挙げられ得る。例として、水溶性塩類としては、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、硝酸塩、塩化物塩、及び硫酸塩が挙げられ得るが、これらに限定されるものではない。適当な炭水化物としては、ソルビトール、マンニトール、糖アルコール、フルクトース、グルコース、ガラクトース、スクロース、ラクトース、マルトース、デンプン、デキストリン、セルロース、ペクチン及びグリコーゲンが挙げられ得るが、これらに限定されるものではない。水溶性ポリマーとしては、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、キトサン、リンタンパク質、カゼインナトリウム、カゼイン、デキストラン、ヒアルロン酸、及び/又はアルブミンが挙げられ得るが、これらに限定されるものではない。
【0068】
治療剤
いくつかの態様による医療デバイスのコーティング層において利用される治療薬は、治療剤と少なくとも1つの添加物とを含む。いくつかの態様において、薬剤コーティングは、特異性が向上した副作用がより少ない再狭窄の治療の実行可能な標的であり得る、細胞増殖抑制剤、抗線維症薬(anti-fibrosis drug)、マクロライド、キナーゼ阻害剤、細胞毒性薬、又はこれらの組合せを含むことができる。
【0069】
いくつかの態様において、治療薬は、パクリタキセル、シロリムス(ラパマイシン)、ダウノルビシン、5-フルオロウラシル、ドキソルビシン、スニチニブ、ソラフェニブ、イリノテカン、ベバシズマブ、セツキシマブ、バイオリムス(バイオリムス A9)、エベロリムス、ゾタロリムス、タクロリムス、デキサメタゾン、プレドニゾロン、コルチコステロン、5-フルオロウラシル、シスプラチン、ビンブラスチン、リドカイン、ブピバカイン、及びこれらのすべての類似体、誘導体、異性体、ラセミ体、ジアステレオ異性体、プロドラッグ、水和物、エステル、及び/又は類似体のうちの1つ以上を含み得る。
【0070】
ある態様において、治療薬は、リムス薬などの細胞増殖抑制剤とすることができる。リムス薬には、シロリムス、バイオリムス(バイオリムス A9)、エベロリムス、ゾタロリムス、及びタクロリムスのうちの1つ以上が含まれ得る。いくつかの態様において、治療剤は、結晶性形態及び/又は非晶質形態のものである。ある態様において、薬剤コーティング層中に直接及び/又はポリマー微粒子への充填を通じて存在する治療薬は、約1μm~約20μmのものである。他の態様において、結晶性及び/又は非晶質の治療剤の粒子サイズ/直径は、約10μm~約100μmである。
【0071】
いくつかの態様において、治療剤は、抗線維化薬(anti-fibrotic drug)であってもよい。抗線維症の薬理学的作用機序は、局所的線維芽細胞増殖の低減、局所炎症の低減、及び線維組織生長因子の低減を含む。抗線維化薬としては、例えば、トリアムシクロン(triamciclone)、トラニラスト、ハロフジノン、モンテルカスト(montelikast)、ザフィルルカスト、ピルフェニドン及びニンテダニブが挙げられる。例えば、ピルフェニドン及びニンテダニブなどの治療剤は、瘢痕組織蓄積の進行を遅延させ得る。
【0072】
いくつかの態様において、ポリマーコーティングは、ポリマーコーティングに対する埋め込まれた治療剤又はポリマー微粒子の比が、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、30、40、50、60、70、80、90、99、及びそれらの中の任意の数を含む、約0.01~約100のものであり得る。いくつかの態様において、ポリマーに対する治療剤の比は、約0.1~約10であってもよい。いくつかの態様において、治療剤は、結晶性治療剤であり得る。
【0073】
いくつかの態様において、治療剤又はポリマー微粒子は、医療デバイス上において特定の密度でポリマーコーティング内に提供され得る。いくつかの態様において、治療剤は、結晶性治療剤であり得る。いくつかの態様において、ポリマーコーティング内の治療剤又はポリマー微粒子の密度は、約0.1~10μg/mmである。ある態様において、治療剤又はポリマー微粒子は、デバイス上において約0.5~約5μg/mmの密度でポリマーコーティング中に提供される。いくつかの態様において、医療デバイス上及び/又は各ポリマー微粒子内における治療剤(複数可)の用量密度は、約0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3.0、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9、4.0、4.1、4.2、4.3、4.4、4.5、4.6、4.7、4.8、4.9、5.0、5.1、5.2、5.3、5.4、5.5、5.6、5.7、5.8、5.9、6.0、6.1、6.2、6.3、6.4、6.5、6.6、6.7、6.8、6.9、7.0、7.1、7.2、7.3、7.4、7.5、7.6、7.7、7.8、7.9、8.0、8.1、8.2、8.3、8.4、8.5、8.6、8.7、8.8、8.9、9.0、9.1、9.2、9.3、9.4、9.5、9.6、9.7、9.8、及び9.9μg/mmを含む、約0.1~約10μg/mmで変化し得る。いくつかの態様において、上記薬剤用量密度は、約0.5~約5μg/mmである。
【0074】
いくつかの態様において、薬剤コーティング中又はポリマー微粒子内における治療剤の濃度密度は、0.1μg/mm~10μg/mm、0.1μg/mm~8μg/mm、0.1μg/mm~6μg/mm、0.1μg/mm~4μg/mm、0.1μg/mm~2μg/mm、0.1μg/mm~1μg/mm、1μg/mm~10μg/mm、1μg/mm~8μg/mm、1μg/mm~6μg/mm、1μg/mm~4μg/mm、1μg/mm~2μg/mm、2μg/mm~10μg/mm、2μg/mm~8μg/mm、2μg/mm~6μg/mm、2μg/mm~4μg/mm、4μg/mm~10μg/mm、4μg/mm~8μg/mm、4μg/mm~6μg/mm、6μg/mm~10μg/mm、6μg/mm~8μg/mm、又は8μg/mm~10μg/mmであり得る。いくつかの態様において、薬剤コーティング中又はポリマー微粒子中における少なくとも1つの治療剤の濃度密度は、0.5μg/mm~5μg/mmであり得る。
【0075】
本開示において有用であり得る他の薬剤としては、グルココルチコイド(例えばコルチゾール、ベタメタゾン)、ヒルジン、アンギオペプチン、アスピリン、成長因子、アンチセンス剤、抗がん剤、抗増殖剤、オリゴヌクレオチド、並びに、より一般的には、抗血小板剤、抗凝固剤、抗有糸分裂剤、酸化防止剤、代謝拮抗剤、抗走化性剤、及び抗炎症剤が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また本開示の態様において有用であるものは、炎症、及び/又は平滑筋細胞若しくは線維芽細胞の増殖性、収縮性、若しくは運動性を阻害する、例えば、ポリヌクレオチド、アンチセンス、RNAi、又はsiRNAである。抗血小板剤としては、アスピリン及びジピリダモールなどの薬剤を挙げることができる。アスピリンは、鎮痛剤、解熱剤、抗炎症薬、及び抗血小板薬として分類される。ジピリダモールは、抗血小板特性を有するという点でアスピリンに類似した薬剤である。ジピリダモールは、冠血管拡張薬としても分類される。本開示の態様で使用するための抗凝固剤としては、ヘパリン、プロタミン、ヒルジン及びダニ抗凝固タンパク質などの薬剤を挙げることができる。抗酸化剤としては、プロブコールを挙げることができる。抗増殖剤としては、アムロジピン及びドキサゾシンなどの薬剤を挙げることができる。本開示の態様に使用できる抗有糸分裂剤及び代謝拮抗剤としては、メトトレキサート、アザチオプリン、ビンクリスチン、アドリアマイシン及びムタマイシン(mutamycin)などの薬剤が挙げられる。本開示の態様で使用するための抗生物質製剤としては、ペニシリン、セフォキシチン、オキサシリン、トブラマイシン、及びゲンタマイシンが挙げられる。本開示の態様で使用するために適当な酸化防止剤としては、プロブコールが挙げられる。加えて、遺伝子若しくは核酸、又はこれらの一部を、本開示の態様において治療剤として使用することができる。例えば、ポルフィマーなどの様々なポルフィリン化合物を含む、光力学的療法又は放射線療法のための光感作性薬剤も本開示の態様において薬剤として有用である。
【0076】
薬剤の組合せも本開示のいくつかの態様で使用することができる。組合せのうちのいくつかは、それらが異なる機構を有するため、付加的な効果を有する。態様において、付加的な効果は、本明細書に記載の薬剤コーティングで使用するために有利であり得る。例えば、いくつかの態様において、付加的な効果により、薬剤の用量を低減することができる。態様において、治療剤の組合せは、高用量の治療剤を使用することによる合併症を低減し得る。
【0077】
添加剤
いくつかの態様において、医療デバイス上の1つ以上のコーティング層は、1つ又は複数の添加剤を含み得る。いくつかの態様において、添加剤は、1つ以上のコーティング層と同時に付与される。いくつかの態様において、添加剤は、薬剤コーティング層の下に位置し得る。他の態様では、薬剤コーティング層が、1つ以上の添加剤を含んでもよい。他の態様では、添加剤は、薬剤コーティング層上に付与及び/又コーティングされてもよい。他の態様では、添加剤は、医療デバイス上の第2の又はトップコーティング層の下に位置してもよい。治療剤又は治療剤の組合せに加えて、薬剤コーティングは、いくつかの態様によれば、少なくとも1つの添加剤を含み得る。一態様において、薬剤コーティングは、複数の添加剤、例えば、2つ、3つ、又は4つの添加剤を含んでもよい。
【0078】
添加剤又は添加剤の組合せの選択は、使用される治療剤、疎水性層/親水性層の材料、微粒子組成、及び/又はコーティング溶媒(複数可)に基づき得る。本明細書で特定されるように、添加剤又は添加剤の組合せは、治療剤、疎水性ポリマー/小分子、親水性材料、及び/又はコーティング溶媒(複数可)と混合されてコーティング混合物を形成することができ、このコーティング混合物が、医療デバイスの外面上にコーティングされる。代わりに又は加えて、ある態様は、添加剤(複数可)を医療デバイスの外面に独立して付与することを含み得る。いくつかの態様において、添加剤又は添加剤の組合せは、治療剤がコーティング溶媒に溶解される前に医療デバイスに付与され得る。いくつかの態様において、添加剤又は添加剤の組合せは、治療剤がコーティング溶媒に溶解された後に医療デバイスに付与され得る。理論によって縛られるわけではないが、選択した添加剤又は添加剤の組合せは、コーティング粒子が取り扱い及び/又は介入手順の間に脱落しないように医療デバイスに付着するコーティング混合物の一部であり得る。代わりに又は加えて、選択した添加剤又は添加剤の組合せは、治療剤又は1つ若しくは複数のコーティング溶媒の前に又は後に続いて付与される場合、コーティング粒子が取り扱い及び/又は介入手順の間に脱落しないように医療デバイスに付着しなくてはならない。
【0079】
薬剤コーティング中における治療剤及び1つ以上の添加剤の相対量は、該当する状況に応じて変化し得る。1つ以上の添加剤の最適な量は、例えば、選択される特定の治療剤及び他の添加剤、表面改質剤がミセルを形成する場合には表面改質剤の臨界ミセル濃度、添加剤の親水性-親油性バランス(HLB)、1つ以上の添加剤のオクタノール(octonol)-水分配係数(P)、添加剤の融点、添加剤及び/又は治療剤の水溶解度、表面改質剤の水溶液の表面張力、等に依存し得る。他の考慮すべき事柄が、添加剤の具体的な割合の選択にさらに情報を与えるであろう。これらの考慮すべき事柄としては、添加剤の生体許容性(bioacceptability)の程度及び提供される治療剤の所望の投与量が挙げられる。
【0080】
いくつかの態様において、添加剤は、ポリマーを含み得る。上記ポリマーは、アニオン性ポリマーであり得る。アニオン性ポリマーの例としては、ポリグルタミン酸又はポリグルタミン酸を含有する任意のブロックポリマー、ポリアクリル酸又はポリアクリル酸を含有する任意のブロックポリマー、ポリメチルアクリル酸又はポリメチルアクリル酸を含有する任意のブロックポリマー、ポリスチレンスルホネート又はポリスチレンスルホネートを含有する任意のブロックポリマー、ヘパリン、ヒアルロン酸、及びアルギナートが挙げられる。理論によって縛られるわけではないが、治療剤が本質的にカチオン性である場合には、アニオン性ポリマーを含む薬剤コーティングにより、持続的な薬剤放出のために治療剤が保持されることが可能となる。同様に、アニオン性治療剤に対して、カチオン性ポリマーにより、持続的な薬剤放出のために治療剤が保持されることが可能となり得る。
【0081】
さらなる態様において、添加剤は、生体耐久性(biodurable)ポリマーであり得る。本明細書に示すように、生体耐久性ポリマーには、対象又はその免疫反応細胞に接触したときに耐容性が良好であり且つ/又は反応せず、対象又はその循環系の中での侵食、並びに/又は酵素的分解及び/若しくは溶解に耐性を有するポリマーが含まれ得る。生体耐久性ポリマーとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ナイロン6,6、ポリウレタン(PU)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエチレン(PE、低密度及び高密度、並びに超高分子量(UHMW))、ポリシロキサン(シリコーン)、及びポリ(メタクリル酸メチル)(PMMA)及びポリ(フッ化ビニリデン-co-ヘキサフルオロプロピレン)(PVDF-HFP)が挙げられる。いくつかの態様において、添加剤は、PVDF-HFPであり得る。理論によって縛られるわけではないが、生分解性ポリマーの利用により、不完全な薬剤放出の低減又は排除が可能となる。さらなる態様では、添加剤は、生分解性ポリマーであり得る。本明細書に示すように、生分解性ポリマーには、対象又はその免疫反応細胞に接触したときに耐容性が良好であり且つ/又は反応せず、時間の経過とともに対象又はその循環系の中で侵食、並びに/又は酵素的分解及び/若しくは溶解を起こしやすいポリマーが含まれ得る。生分解性ポリマーの例としては、ポリ乳酸ポリマー(PLA、PLLA、PDLA、PDLLA)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ乳酸-co-グリコール酸(PLGA)、及びポリ(エチレングリコール)メチルエーテル-ブロック-ポリ(ラクチド-co-グリコリド)(PLGA-b-mPEG)が挙げられる。
【0082】
態様において、ポリマー対治療剤の重量比は、5:1~8:1、5:1~7:1、5:1~6:1、6:1~8:1、6:1~7:1、又は7:1~8:1であり得る。
本開示のいくつかの態様に使用できる適当な添加剤としては、有機及び無機医薬品添加剤、天然物、及びこれらの誘導体(糖類、ビタミン、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、及び脂肪酸など)、表面活性剤(アニオン性、カチオン性、非イオン性、及びイオン性)、並びにこれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。本開示において有用な添加剤の下記リストは、例示のみを目的として提供されており、網羅的であるようには意図されていない。他の多くの添加剤、例えば、ポリグルタミン酸、ポリアクリル酸(polyacrilic acid)、ヒアルロン酸、アルギナート、PVA、PVP、Pluronic(登録商標)(PEO-PPO-PEO)、セルロース、CMC、HPC、デンプン、キトサン、ヒト血清アルブミン(HSA)、リン脂質、脂肪酸、脂肪酸エステル、トリグリセリド、蜜ろう、シクロデキストリン、ポリソルベート、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン(PVP)、及び脂肪族ポリエステルなど、が本開示の目的に有用であり得る。
【0083】
いくつかの態様において、添加剤は、薬剤親和性部分を特徴とし得る。薬剤親和性部分は、水素結合及び/又はファンデルワールス相互作用によって治療剤に対する親和性を提供する。本開示の添加剤は、親水性部分を特徴とし得る。当技術分野でよく知られているように、「親水性」及び「疎水性」という用語は、相対的な用語である。本開示のいくつかの態様で添加剤として機能するために、添加剤は、極性又は荷電した親水性部分、並びに非極性疎水性(親油性)部分を含む化合物である。親水性部分は拡散を加速し、組織内への治療剤の浸透を増大させ得る。添加剤の親水性部分は、疎水性薬剤分子が互いに及びデバイスに凝集するのを防止すること、間質腔における薬剤溶解度を増大させること、及び/又は極性頭部基を通じて標的組織の細胞膜の脂質二重層へ薬剤が通過するのを加速させることによって、標的部位における留置中に治療剤が拡張可能な医療デバイスから迅速に移動するのを促進し得る。
【0084】
添加剤の相対的な親水性及び疎水性を特徴付けるために一般に使用される経験的パラメータは、親水性-親油性バランス(「HLB」値)である。HLB値が低い添加剤ほど、より疎水性であり、油へのより高い溶解度を有し、一方、HLB値が高い表面活性剤ほど、より親水性であり、水溶液へのより高い溶解度を有する。おおよその目安としてHLB値を用いると、親水性添加剤は、一般に、約10より大きなHLB値を有するそのような化合物、並びにHLBスケールが一般に適用できないアニオン性、カチオン性、又は双性イオン性化合物であると考えられる。同様に、疎水性添加剤は、約10未満のHLB値を有する化合物である。ある態様における添加剤のHLB値は、約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、及び39を含む、約0.0~約40の範囲にある。添加剤のHLB値は、例えば、工業用、医薬用、及び化粧品用のエマルションの製剤を可能にするために一般に使用される大まかな目安にすぎないことを理解されたい。これらの固有の問題点に留意し、HLB値を目安として用いると、本明細書に記載するように、本開示の態様で使用するために適当な親水性又は疎水性を有する添加剤を特定することができる。
【0085】
医薬化合物の相対的な親水性及び疎水性を特徴付けるために医薬品化学において一般に使用される経験的パラメータは、2つの非混和性溶媒、通常はオクタノール及び水、の混合物の二相中における非イオン化化合物の濃度の比である分配係数Pであり、P=([溶質]オクタノール/[溶質]水)である。より高いlog Pを有する化合物ほど、より疎水性であり、一方、より低いlog Pを有する化合物ほど、より親水性である。リピンスキーの法則により、5未満(<5)のlog Pを有する医薬化合物は典型的には膜透過性がより高いことが示唆される。本開示のある態様において、添加剤は、製剤される治療剤のlog Pよりも小さいlog Pを有することができる。治療剤と添加剤との間におけるlog Pの差が大きいほど、治療剤の相分離が促進され得る。例えば、添加剤のlog Pが薬剤のlog Pよりも遥かに低い場合、添加剤は、そうでない場合には治療剤が密着する可能性があるデバイスの表面から水性環境中への治療剤の放出を加速させることができ、それにより介入部位における短時間の留置中に組織への薬剤送達を加速させる。本開示のある態様において、添加剤のlog Pは、負である。他の態様では、添加剤のlog Pは、治療剤のlog Pよりも小さい。化合物のオクタノール-水分配係数P又はlog Pは、相対的な親水性及び疎水性の尺度として有用であるが、本開示のいくつかの態様で使用するための適当な添加剤を規定する際に有用であり得る大まかな目安にすぎない。
【0086】
本開示における用途のための例示的な添加剤には、1つ以上のヒドロキシル、アミノ、カルボニル、カルボキシル、酸、アミド、又はエステル部分を有した化学物質が含まれ得る。ある態様では、5,000未満~10,000の分子量を有する、1つ以上のヒドロキシル、アミノ、カルボニル、カルボキシル、酸、アミド、又はエステル部分を有した親水性化学物質が好ましい。他の態様では、1つ以上のヒドロキシル、アミノ、カルボニル、カルボキシル、酸、アミド、又はエステル部分を有した添加剤の分子量は、好ましくは1000未満~5,000であり、又はより好ましくは750未満~1,000であり、又は最も好ましくは750未満である。これらの態様では、添加剤の分子量は、送達される治療剤の分子量よりも小さい。
【0087】
いくつかの態様において、1つ以上の添加剤は、環状及び直鎖状の脂肪族基と芳香族基との双方において、アミノアルコール、アルコール、アミン、酸、アミド及びヒドロキシル酸から選択され得る。例としては、L-アスコルビン酸及びその塩、D-グルコアスコルビン酸及びその塩、トロメタミン、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、メグルミン、グルカミン、ドクサートナトリウム、尿素、アミンアルコール、グルコヘプトン酸、グルコム酸(glucomic acid)、ヒドロキシルケトン、ヒドロキシルラクトン、グルコノラクトン、グルコヘプトノラクトン、グルコオクタン酸ラクトン、グロン酸ラクトン、マンノン酸ラクトン、リボン酸ラクトン、ラクトビオン酸、グルコサミン、グルタミン酸、ベンジルアルコール、安息香酸、ヒドロキシ安息香酸、4-ヒドロキシ安息香酸プロピル、リジン酢酸塩、ゲンチジン酸、ラクトビオン酸、ラクチトール、ソルビトール、グルシトール、糖リン酸、グルコピラノースホスフェート、糖サルフェート、糖アルコール、シナピン酸、バニリン酸、バニリン、メチルパラベン、プロピルパラベン、キシリトール、2-エトキシエタノール、糖、ガラクトース、グルコース、リボース、マンノース、キシロース、スクロース、ラクトース、マルトース、アラビノース、リキソース、フルクトース、シクロデキストリン、(2-ヒドロキシプロピル)-シクロデキストリン、アセトアミノフェン、イブプロフェン、レチノイン酸、酢酸リジン、ゲンチジン酸、カテキン、没食子酸カテキン、チレタミン、ケタミン、プロポフォール、乳酸、酢酸、任意の有機酸と上記アミンの塩、ポリグリシドール、グリセロール、マルチグリセロール、ガラクチトール、ジ(エチレングリコール)、トリ(エチレングリコール)、テトラ(エチレングリコール)、ペンタ(エチレングリコール)、ジ(プロピレングリコール)、トリ(プロピレングリコール)、テトラ(プロピレングリコール)、及びペンタ(プロピレングリコール)、並びにこれらの組合せが挙げられる。本明細書に記載の1つ以上のヒドロキシル、アミン、カルボニル、カルボキシル、アミド、又はエステル部分を有した化学物質のうちのいくつかは、加熱下で非常に安定しており、エチレンオキシド滅菌プロセスに耐え、且つ/又は滅菌中に治療剤と反応しない。
【0088】
いくつかの態様において、1つ以上の添加剤は、アミノ酸及びその塩から選択され得る。例えば、添加剤は、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、シスチン、グルタミン酸、グルタミン、グリシン、ヒスチジン、プロリン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン、及びこれらの誘導体のうちの1つ以上であってもよい。特定のアミノ酸は、それらの双性イオンの形態及び/又は一価若しくは多価イオンを有する塩の形態において、極性基、比較的高いオクタノール-水分配係数を有し、本開示のいくつかの面で有用である。本開示の文脈において、「低溶解度アミノ酸」とは、非緩衝水中で約4%未満(40mg/mL)の溶解度を有するアミノ酸を指す。これらには、シスチン、チロシン、トリプトファン、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン酸、及びメチオニンが含まれる。
【0089】
アミノ酸二量体、糖コンジュゲート、及び他の誘導体も添加剤として検討され得る。付加的な添加剤を本開示の態様において有用にするために、当技術においてよく知られている単純な反応を通じて、親水性分子を疎水性アミノ酸に結合させるか、又は疎水性分子を親水性アミノ酸に結合させることができる。ドーパミン、レボドパ、カルビドパ、及びDOPAなどのカテコールアミンも添加剤として有用である。
【0090】
いくつかの態様において、添加剤は、ガラス転移温度が37℃以上である材料であり得る。本明細書で特定されるように、対象の脈管内においてインサイチュで粘着力又は粘着性を有する状態に移行する材料を医療デバイス上に提供することにより、コーティングを脈管壁に付着させることが可能となる。このような材料としては、水素化やし油、やし油、鉱油、セチルアルコール、ペトロラタム、ワセリン、デカノール、軟パラフィン、トリデカノール、ドデカノール、長鎖飽和脂肪酸、長鎖不飽和脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪酸エーテル、ウイテプゾール、固体脂質、ステアリン酸メチル、トリグリセリド、グリセリルモノステアレート、グリセリルパルミトステアレート、ステアリン酸、パルミチン酸、デカン酸、ベヘン酸、蜜ろう、カルナウバろう、パラフィン、脂肪酸トリグリセリド、脂肪酸アルコール、又はこれらの組み合わせが挙げられ得る。
【0091】
いくつかの態様において、添加剤は、液体添加物であり得る。1つ以上の液体添加剤を医療デバイスコーティングに使用して、コーティングの完全性を向上させることができる。理論によって縛られるわけではないが、液体添加剤は、コーティング混合物中における治療剤の適合性を向上させることができる。本開示の態様に使用される液体添加剤は、溶媒ではない。エタノール、メタノール、ジメチルスルホキシド、及びアセトンなどの溶媒は、コーティングを乾燥させた後、蒸発させられであろう。換言すると、溶媒は、コーティングを乾燥させた後、コーティング中に残留しない。対照的に、本開示の態様における液体添加剤は、コーティングを乾燥させた後、コーティング中に残留する。液体添加剤は、室温及び1気圧で液体又は半液体である。液体添加剤は、室温でゲルを形成し得る。いくつかの態様において、液体添加剤は、非イオン性表面活性剤であり得る。液体添加剤の例としては、上述したように、PEG-脂肪酸及びエステル、PEG-オイルエステル交換生成物、ポリグリセリル脂肪酸及びエステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、PEGソルビタン脂肪酸エステル、並びにPEGアルキルエーテルが挙げられる。液体添加剤のいくつかの例は、Tween(登録商標) 80、Tween(登録商標) 81、Tween(登録商標) 20、Tween(登録商標) 40、Tween(登録商標) 60、Solutol(登録商標) HS 15、Cremophor(登録商標) RH40及びCremophor(登録商標) EL&ELPである。
【0092】
いくつかの態様において、添加剤は、表面活性剤;1つ以上のヒドロキシル、アミン、カルボニル、カルボキシル、アミド、又はエステル部分を有した化学物質;又はこれらの双方である。例示的な表面活性剤は、PEG脂肪酸エステル、PEGオメガ-3脂肪酸エステル及びアルコール、グリセロール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、PEGグリセリル脂肪酸エステル、PEGソルビタン脂肪酸エステル、糖脂肪酸エステル、PEG糖エステル、Tween(登録商標) 20、Tween(登録商標) 40、Tween(登録商標) 60、p-イソノニルフェノキシポリグリシドール、PEGラウレート、PEGオレエート、PEGステアレート、PEGグリセリルラウレート、PEGグリセリルオレエート、PEGグリセリルステアレート、ポリグリセリルラウレート、ポリグリセリルオレエート、ポリグリセリルミリステート、ポリグリセリルパルミテート、ポリグリセリル-6ラウレート、ポリグリセリル-6オレエート、ポリグリセリル-6ミリステート、ポリグリセリル-6パルミテート、ポリグリセリル-10ラウレート、ポリグリセリル-10オレエート、ポリグリセリル-10ミリステート、ポリグリセリル-10パルミテート、PEGソルビタンモノラウレート、PEGソルビタンモノラウレート、PEGソルビタンモノオレエート、PEGソルビタンステアレート、PEGオレイルエーテル、PEGラウライルエーテル、Tween(登録商標) 20、Tween(登録商標) 40、Tween(登録商標) 60、Tween(登録商標) 80、オクトキシノール、モノキシノール(monoxynol)、チロキサポール、スクロースモノパルミテート、スクロースモノラウレート、デカノイル-N-メチルグルカミド、n-デシル-β-D-グルコピラノシド、n-デシル-β-D-マルトピラノシド、n-ドデシル-β-D-グルコピラノシド、n-ドデシル-β-D-マルトシド、ヘプタノイル-N-メチルグルカミド、n-ヘプチル-β-D-グルコピラノシド、n-ヘプチル-β-D-チオグルコシド、n-ヘキシル-β-D-グルコピラノシド、ノナノイル-N-メチルグルカミド、n-ノニル-β-D-グルコピラノシド、オクタノイル-N-メチルグルカミド、n-オクチル-β-D-グルコピラノシド、オクチル-β-D-チオグルコピラノシド、及びこれらの誘導体から選択され得る。いくつかの態様において、添加剤は、ソジウムドクサートソルビトール(sodium docusate sorbitol)、尿素、BHT、BHA、PEG-ソルビタンモノラウレート(PEG-sorbitan monolaureate)、ペトロラタム、ステアリン酸メチル、又はこれらの組合せのうちの1つを含み得る。
【0093】
いくつかの態様において、表面活性剤又は小さな水溶性分子(1つ以上のヒドロキシル、アミン、カルボニル、カルボキシル、アミド又はエステル部分を有した化学物質)のうちの1つ以上を治療剤と合わせたものは、場合によって、治療剤及び単一の添加剤のみを用いるよりも優れている。1つ以上の付加的な添加剤を組み込むことによって、薬剤コーティングは、治療剤と1つのみの添加剤とを含むいくつかの製剤と比較すると、治療的介入の標的部位で内腔壁の組織に対して押し付けられるとき、移送及び迅速な薬剤放出の間に増大した安定性を有することができる。さらに、治療剤と添加剤との又は薬剤コーティングと医療デバイスとの混和性及び適合性は、一般に、1つ以上の付加的な添加剤の存在によって改善される。例えば、表面活性剤は、コーティングの均一性及び完全性の改善を可能にし得る。
【0094】
いくつかの態様において、薬剤コーティング(複数可)は複数の添加剤を含んでもよく、1つの添加剤は、他の添加剤のうちの1つ以上よりも親水性である。別の実施形態では、薬剤コーティングは複数の添加剤を含み、1つの添加剤は、他の添加剤のうちの1つ以上のそれとは異なる構造を有する。別の実施形態では、薬剤コーティングは、複数の添加剤を含み、1つの添加剤は、他の添加剤のうちの1つ以上のそれとは異なるHLB値を有する。さらに別の実施形態では、薬剤コーティングは、複数の添加剤を含み、1つの添加剤は、他の添加剤のうちの1つ以上のそれとは異なるLog Pを有する。
【0095】
本開示のいくつかの態様は、少なくとも2つの付加的な添加剤の混合物、例えば、1つ以上の表面活性剤と、1つ以上のヒドロキシル、アミン、カルボニル、カルボキシル、アミド又はエステル部分を有した1つ以上の化学物質との組合せを含み得る。例えば、治療剤は、表面活性剤よりも、極めて水溶性の高い小分子への結合が不十分である場合があり、これにより次善のコーティング均一性及び完全性がもたらされ得る。いくつかの表面活性剤は、治療剤及び医療デバイスの表面に非常に強力に付着し得るため、治療剤は標的部位において医療デバイスの表面から迅速に遊離することができない。一方、いくつかの水溶性小分子(1つ以上のヒドロキシル、アミン、カルボニル、カルボキシル、アミド又はエステル部分を有する)は、医療デバイスへの付着があまりに不十分であるため、水溶性小分子は、コーティングされたバルーンカテーテルが介入の標的とされる部位まで移送される間、医療デバイスが標的部位に到達する前に、治療剤を例えば血清中に放出する。複数の添加剤の混合物を組み込むことによって、薬剤コーティングは、1つのみの添加剤を含むか又は添加剤を含まない製剤に対して、改善された特性を有し得る。
【0096】
いくつかの態様において、1つ以上の付加的な添加剤としては、酸化防止剤が挙げられ得る。酸化防止剤は、他の分子の酸化を遅延させる又は防止することができる分子である。酸化反応は、連鎖反応を開始し治療剤の劣化を引き起こすことがあるフリーラジカル及び/又は過酸化物を生成し得る。酸化防止剤は、フリーラジカルを除去することによってこれらの連鎖反応を終了させ、それ自身が酸化されることによって活性薬剤の酸化を阻害する。酸化防止剤は、ある態様において、医療デバイス用のコーティング中における治療剤の酸化を防止する又は遅延させるための1つ以上の付加的な添加剤として使用される。酸化防止剤は、フリーラジカルスカベンジャーの一種である。酸化防止剤は、ある態様において、単独で又は他の付加的な添加剤と組み合わせて使用されてもよく、使用前の滅菌又は保管の間に活性治療剤の分解を防止し得る。本開示の薬剤コーティングで使用され得る酸化防止剤のいくつかの代表的な例としては、オリゴマー性又はポリマー性のプロアントシアニジン、ポリフェノール、ポリホスフェート、ポリアゾメチン、高硫酸塩寒天(high sulfate agar)オリゴマー、部分的なキトサンの加水分解により得られるキトオリゴ糖、立体障害フェノール類、ヒンダードアミン、例えば、限定されるものではないが、p-フェニレンジアミン、トリメチルジヒドロキノロン、及びアルキル化ジフェニルアミンなどを有する多官能性オリゴマーチオエーテル、1つ以上のバルキーな官能基、例えば第三級ブチル、アリールアミン、ホスファイト、ヒドロキシルアミン、及びベンゾフラノンなどを有する置換フェノール化合物(ヒンダードフェノール類)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、p-フェニレンジアミン、ジフェニルアミン、及びN,N’二置換p-フェニレンジアミンなどの芳香族アミンも、フリーラジカルスカベンジャーとして利用され得る。他の例としては、ブチル化ヒドロキシトルエン(「BHT」)、ブチル化ヒドロキシアニソール(「BHA」)、L-アスコルビン酸塩(ビタミンC)、ビタミンE、ハーブのローズマリー、セージ抽出物、グルタチオン、レスベラトロール、エトキシキン、ロスマノール、イソロスマノール、ロスマリジフェノール、没食子酸プロピル、没食子酸、コーヒー酸、p-クメル酸(coumeric acid)、p-ヒドロキシ安息香酸、アスタキサンチン、フェルラ酸、デヒドロジンゲロン、クロロゲン酸、エラグ酸、プロピルパラベン、シナピン酸、ダイジン、グリシチン、ゲニスチン、ダイゼイン、グリシテイン、ゲニステイン、イソフラボン、及びtert-ブチルヒドロキノンが挙げられるが、これらに限定されるものではない。いくつかのホスファイトの例としては、ジ(ステアリル)ペンタエリスリトールジホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、ジラウリルチオジプロピオネート、及びビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトが挙げられる。ヒンダードフェノール類のいくつかの例としては、オクタデシル-3,5,ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシシンナメート、テトラキス-メチレン-3-(3’,5’-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネートメタン2,5-ジ-tert-ブチルヒドロキノン、イオノール、ピロガロール、レチノール、及びオクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネートが挙げられるが、これらに限定されるものではない。酸化防止剤としては、グルタチオン、リポ酸、メラトニン、トコフェロール、トコトリエノール、チオール、β-カロテン、レチノイン酸、クリプトキサンチン、2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、没食子酸プロピル、カテキン、没食子酸カテキン、及びケルセチンが挙げられ得る。好ましい酸化防止剤は、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)及びブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)である。
【0097】
コーティング溶媒
いくつかの態様において、本開示は、医療デバイス表面(複数可)に本明細書に示すコーティング(複数可)を付与するための溶媒及びその選択に関係する。本明細書で「コーティング溶媒」と称される、薬剤コーティングを調製するための溶媒は、治療剤及び添加物を溶解するために使用される。コーティング溶媒に溶解した治療剤及び添加物が共に「コーティング混合物」を構成し、これが医療デバイス上にコーティングされる。
【0098】
いくつかの態様において、コーティング溶媒は、薬剤コーティングの疎水性材料(複数可)を溶解するのに適した任意の溶媒又は溶媒の組合せであり得る。他の態様では、コーティング溶媒は、選択した治療剤を溶解するのに適した任意の溶媒又は溶媒の組合せであり得る。さらなる態様において、コーティング溶媒は、疎水性材料(複数可)及び治療剤(複数可)を溶解するのに適した任意の溶媒又は溶媒の組合せであり得る。本明細書で特定されるように、いくつかの態様において、治療剤は、溶媒に溶解した疎水性/親水性材料の溶液に懸濁した治療薬の混合物又はスラリーを調製することによって、医療デバイスの表面に提供される。溶解しない治療薬は、本明細書に記載するように、結晶性形態若しくは非晶質形態のものであってもよく、又は本明細書に記載されるように微粒子内に充填されていてもよく、微粒子及び/又は微粒子に充填された治療薬は溶媒に溶解しない。したがって、医療デバイスの表面からの溶媒の蒸発により、治療薬が懸濁された疎水性層又は親水性層が残る。
【0099】
いくつかの態様において、コーティング溶媒には、例として、下記の、水;ペンタン、シクロペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、及びオクタンなどのアルカン;ベンゼン、トルエン、及びキシレンなどの芳香族溶媒;メタノール、エタノール、2,2,2-トリフルロエタノール(trifluroethanol)、プロパノール、及びイソプロパノール、イソ-ブタノール、n-ブタノール、tert-ブタノール、ジエチルアミド、エチレングリコールモノエチルエーテル、トラスクトール(trascutol)、並びにベンジルアルコールなどのアルコール;ジオキサン、ジメチルエーテル、エチルエーテル、ジエチルエーテル、ジ-n-プロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、t-ブチルメチルエーテル、石油エーテル、及びテトラヒドロフランなどのエーテル類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソブチル、酢酸i-プロピル及び酢酸n-ブチルなどのエステル/酢酸エステル;アセトン、アセトニトリル、ジエチルケトン、シクロヘキサノン、及びメチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン;クロロホルム、ジクロロメタン、二塩化エチレンなどの塩素化炭化水素;四塩化炭素、及びクロロベンゼン;ジオキサン;テトラヒドロフラン;ジメチルホルムアミド;アセトニトリル;ジメチルスルホキシド;1,6-ジオキサン;N,N-ジメチルアセトアミド(DMA);ジエチレングリコール;ジグリム;1,2-ジメトキシエタン;ヘキサメチルホスホルアミド;並びに水/エタノール、水/アセトン、水/メタノール、水/テトラヒドロフランなどの混合物のうちの1つ以上の任意の組合せが含まれ得る。コーティング溶媒は蒸発するが、溶媒の量は薬剤コーティングの均一性に影響を与え得るため、使用されるコーティング溶媒の量は、コーティングプロセス及び粘度に依存する。
【0100】
他の態様において、2種以上の溶媒、2種以上の治療剤、2種以上のポリマー微粒子、2種以上の添加物、又は任意で、2種以上の付加的な添加物が、コーティング溶液又はコーティング混合物に使用されてもよい。特定の態様では、疎水性ポリマー材料又は親水性ポリマー材料が、添加物としてコーティング混合物に使用されてもよい。
【0101】
様々な手法、例えば、計量(metering)、流延、スピニング、噴霧、ディッピング(浸漬)、ローリング、インクジェット印刷、3D印刷、静電的手法、プラズマエッチング、蒸着、及びこれらのプロセスの組合せなどが、コーティング溶液又はコーティング混合物を医療デバイスに付与するために使用され得る。付与手法の選択は、主にコーティング溶液又はコーティング混合物の粘度及び表面張力に依存する。本開示の態様において、薬剤コーティングの厚さの均一性並びに医療デバイスに付与される治療剤の濃度が制御し易くなるので、計量、ディッピング、および噴霧が好ましい場合がある。コーティング溶液又はコーティング混合物が、噴霧により付与されるか、又はディッピングにより付与されるか、又は別の方法若しくは方法の組合せにより付与されるかにかかわらず、医療デバイスに付与される治療物質及び添加物の均一性及び量を制御するために、各層は、複数の付与ステップで医療デバイスに付与され得る。
【0102】
付与された各層は、0.1μm~15μm、0.1μm~10μm、0.1μm~5μm、0.1μm~1μm、1μm~15μm、1μm~10μm、1μm~5μm、5μm~15μm、5μm~10μm、又は10μm~15μmの厚さを有し得る。医療デバイスに付与される層の総数は、1~50、1~40、1~30、1~20、1~10、10~50、10~40、10~30、10~20、20~50、20~40、20~30、30~40、又は40~50の範囲にある。いくつかの態様では、1つの層のみが医療デバイスに付与される。いくつかの態様では、2つ以上の層が医療デバイスに付与される。コーティングの総厚は、0.1μm~200μm、0.1μm~150μm、0.1μm~100μm、0.1μm~50μm、0.1μm~10μm、0.1μm~1μm、1μm~200μm、1μm~150μm、1μm~100μm、1μm~50μm、1μm~10μm、10μm~200μm、10μm~150μm、10μm~100μm、10μm~50μm、50μm~200μm、50μm~150μm、50μm~100μm、100μm~200μm、100μm~150μm、又は150μm~200μmであり得る。他の態様では、薬剤コーティング溶媒が蒸発した後に、第2の水溶性コートが付与される。さらなる態様において、薬剤コーティング層の溶媒が蒸発する前に、第2の水溶性コーティングが付与される。
【0103】
薬剤コーティング及び第2の水溶性コーティングを含む層に加えて、医療デバイスは、1つ以上の中間層又はトップ層を備え得る。いくつかの態様において、中間層又はトップ層は、医療デバイスに対する薬剤コーティングの付着性を増進するため、添加物を含む付加的な層とするため、又は標的部位に留置される前のデバイス送達プロセス中に薬剤が時期尚早に喪失するのを防止するために有利であり得る。
【0104】
1つの例示的な例において、使用され得る付与デバイスは、レギュレータ(Norgren、0~160psi)を介して圧縮空気源を提供されるBadger Model 150などのエアブラシに取り付けられたペイントジャーである。このような付与デバイスを使用する場合、ブラシホースがレギュレータの下流の圧縮空気源に取り付けられると、空気が付与され得る。圧力は約15psi~25psiに調整され得、ノズル状態はトリガーを押圧することによって確認され得る。噴霧前に、弛緩した拡張可能な医療デバイスの両端部を2つの弾性リテーナ、すなわちワニ口クリップによって固定具に固定し、拡張可能な医療デバイスが、弛緩した状態、例えば萎んで折り畳まれた状態、又は膨張若しくは部分的に膨張して広がった状態を保つように、クリップの間の距離を調整することができる。次に、ローターにエネルギーを与え、回転速度を所望のコーティング速度、約40rpmに調整し得る。拡張可能な医療デバイスをほぼ水平な面内で回転させながら、ノズルから拡張可能な医療デバイスまでの距離が約2.54cm~10.16cm(1インチ~4インチ)となるようにスプレーノズルを調整し得る。最初に、ブラシを拡張可能な医療デバイスに沿って拡張可能な医療デバイスの遠位端部から近位端部へ、次に近位端部から遠位端部へ掃くような動作で導きながら、拡張可能な医療デバイスが約3回転する間に1回の噴霧サイクルが行われるような速度で、コーティング溶液又はコーティング混合物をほぼ水平に噴霧し得る。有効量の薬剤が拡張可能な医療デバイス上に堆積されるまで、拡張可能な医療デバイスにコーティング溶液を繰り返し噴霧し、続いて乾燥させ得る。付与デバイス、固定具、及び噴霧手法についてのこの説明は例示的なものにすぎないことを理解されたい。任意の他の適当な噴霧又は他の手法が、拡張可能な医療デバイスをコーティングするため、特にバルーンカテーテルのバルーン又はステント送達システム若しくはステントをコーティングするために用いられ得る。
【0105】
本開示の1つの付加的な例では、拡張可能な医療デバイスを拡張させる、例えば膨張させる又は部分的に膨張させることができ、コーティング溶液又はコーティング混合物を、例えば噴霧によって、拡張した拡張可能な医療デバイスに付与することができ、次に拡張可能な医療デバイスを乾燥させ、続いて弛緩させるか又は圧縮させることができる。例えば、拡張可能な医療デバイスがバルーンである場合には、バルーンは乾燥され、萎められ、折り畳まれる。乾燥は真空下で行われ得る。
【0106】
医療デバイスにコーティング溶液又はコーティング混合物を噴霧した後、コーティングされた医療デバイスを乾燥に供することができ、ここでコーティング溶媒が蒸発させられる。これにより、拡張可能な医療デバイス上に、治療剤を及び添加物を含有するコーティングマトリックスが生成される。乾燥手法の一例としては、コーティングされた拡張可能な医療デバイスを約20℃以上の炉内に約24時間配置することが挙げられ得る。別の例としては、空気乾燥が挙げられ得る。コーティング溶液を乾燥させる任意の他の適当な方法が用いられ得る。時間及び温度は、具体的な添加物及び治療剤によって変化し得る。
【0107】
さらなる態様において、医療デバイスは、エチレンオキシド、蒸気、乾性温熱、放射線、蒸気化過酸化水素、二酸化塩素、蒸気化過酢酸、オゾン、超臨界二酸化炭素、及び/又は二酸化窒素に晒すことなどによる、滅菌プロセスを受けることができる。
【0108】
微粒子コーティング法
いくつかの態様において、医療デバイスをコーティングする方法は、溶液中における本明細書に示す結晶性微粒子及び/又はポリマー微粒子などの固体微粒子のスラリー又は混合物を付与することを含む。いくつかの態様において、スラリーは、バルーンカテーテルのバルーンの外面に一様なコーティングを提供するために1つ以上の付加的なステップを必要とし得る。例えば、結晶性微粒子及び/又はポリマー微粒子は、これらの質量及び/又は密度に起因して、溶液中で沈降し得ることが理解され得る。均一なコーティングは、医療デバイスの外面のコーティングされた部分にわたる微粒子の均一性だけでなく、ある医療デバイスが第2のバルーン医療デバイスと一貫した効果を提供すると使用者が期待できるように、医療デバイス間の均一性も必要とする。
【0109】
いくつかの態様において、本方法は、溶液中の微粒子のスラリーをかき混ぜて微粒子の沈降を防止することを含む。かき混ぜは、スラリーを収容又は保持する容器を攪拌する及び/又は震盪することによって行うことができる。かき混ぜは、微粒子の沈降を回避するために十分な強度で行うべきであることが理解されよう。いくつかの態様において、かき混ぜは、微粒子のサイズ及び組成の完全性が維持されるように、微粒子間の衝突力及び/又は侵食を最小限に抑えるために強度を制限される。特定の態様において、スラリー溶液は、医療デバイスをコーティングする前に攪拌される。いくつかの態様において、医療デバイスは、スラリー溶液を付与する前に、スラリー溶液の溶媒で前処理されるか又は濡らされる。
【0110】
いくつかの態様において、微粒子を医療デバイス上にコーティングする方法は、医療デバイスの外側に付与する前に、スラリー溶液を攪拌することを含み得る。いくつかの態様において、攪拌は、強磁性スターラー又はロッド及び回転磁界を用いて磁気的に攪拌することによって行われ得る。他の態様では、攪拌は、モーター式スターラー又はロッドによって、約300~約3000rpmの速度、又は約500~1000rpmの速度などで、行われてもよい。いくつかの態様において、スラリーは、音波でかき混ぜることができる。
【0111】
いくつかの態様において、微粒子をコーティングする方法は、スラリーの流れを制御して均一な付与を可能にすることができる操作可能なディスペンサーに接続されたチップ又はノズルの管腔からスラリーを分注することを含み得る。チップは、ディスペンサー内の保持されたスラリーのリザーバ、例えばバレル、に操作可能に接続され得る。バレルは、シリンジ又はピペット若しくは同様のものの本体の一部であり得る。チップからのスラリーの流れは、スラリーをバレルから制御された方法及び/又は一様な方法で吐き出すために、プランジャなどによる、バレルに対する手動加圧変位又は機械的ポンプ変位又は力の付与によって制御され得る。いくつかの態様において、スラリーはディスペンサーのバレル内でかき混ぜられ、力の付与により、スラリーがバレルからチップの管腔を通って医療デバイスの外面上へ流れることが可能となる。他の態様では、スラリーは、外部容器内で攪拌することによってかき混ぜられ、スラリーをバレルに引き込み、次にスラリーをバレルからチップの管腔を通じて医療デバイスの外側に放出するか又は流す。いくつかの態様において、スラリーは、バレルに導入される前及びバレル自体の中でかき混ぜられ得る。バレル内にかき混ぜ手段を備えたバレルの例としては、ソノテック(Sono-Tek)(ミルトン、ニューヨーク州)及びセトーニ(Cetoni)(コルブーセン(Korbussen)、ドイツ)による製品が挙げられる。
【0112】
いくつかの態様において、本方法は、ディスペンサーのバレル内に配置する前にスラリーをかき混ぜることを含み得る。いくつかの態様において、スラリーは、ポンプ送出又は吸引などの付与された力によって、ディスペンサーのバレル内に引き込まれる。いくつかの態様において、スラリーは、チップ又はノズルの管腔を通ってバレルに引き込まれる。いくつかの態様において、スラリーは、スラリーを保持する容器から引き出される。いくつかの態様において、容器は、かき混ぜが不十分になるか又は低減される突出部(abscess)又は角部などによる沈降を防止するために平らな底部を有した円筒状又は部分円筒状である。いくつかの態様において、スターラーは、沈降を低減するために円筒底部の直径となっていてもよい。他の態様では、沈降を低減するために、容器及び/又はスターラーをかき混ぜ中に移動させて、スターラーが円筒壁と接触できるようにすることができる。
【0113】
いくつかの態様において、医療デバイスをコーティングする方法は、製剤の調製とバルーンのコーティングとの間における溶媒の蒸発、スラリーを医療デバイス上にコーティングする角度及び継続時間、各チップの使用数、コーティングスラリーの付与間及び/又は医療デバイス間におけるリンス及びその回数、チップ又はノズルの材料、並びにスラリーを抜き取るための容器における配置を制御することを含む。いくつかの態様において、本方法は、チップ又はノズルの管腔をスラリー及び/又はスラリーの溶媒で濡らすこと(ウェッティング)を含み得る。
【0114】
いくつかの態様において、本方法は、スラリーを外面にピペットで移すことを含む。いくつかの態様において、方法は、ウェッティング又はプライミングリンスの回数が維持されること、ピペットの材料が維持されること、スラリーを付与する方向が維持されること、及び医療デバイスに沿って通過させる回数が維持されることを含み得る。本方法は、コーティングされる各医療デバイスに対して新しいピペットを与えることをさらに含み得る。いくつかの態様において、ピペットは、分注されるべき量を超えてピペットのバレルを十分に濡らす又はプライミングすることを可能にする二段階停止位置(2-stop)ピペット又は同様のものである。いくつかの態様において、ピペットは二段階停止位置(two-stop)ピペットであり、第1の停止位置は選択された体積を吐出し、第2の停止位置はすべての液体を吐出する。いくつかの態様において、本方法は、スラリーをかき混ぜ、次いでスラリーをピペットのバレル内に引き込むことを含む。いくつかの態様において、ピペットは、第1の停止位置まで押し下げ、チップをスラリー中に配置し、ピペットプランジャを第2の停止位置まで押し下げてから解放して、スラリーをバレルに引き込むことなどによって、プライミングされ得る。次に、ピペットチップは、スラリーから引き抜かれ、プランジャが第2の停止位置まで押し下げられてピペットチップ内のすべてのスラリーを吐出し、任意で放出を繰り返す。次に、第1の停止位置まで押し、チップをスラリー中に戻し、プランジャを解放することによって、スラリーがバレル内に引き戻され得る。スラリーは、次に、チップを約45°の角度、水平な角度、又は垂直な角度で保ち、プランジャを均等に適用して制御された時間内に医療デバイスの近位端部から遠位端部まで長さに沿って移動させることによって、コーティングされ得る。いくつかの態様において、チップが医療デバイスの長さに沿って約1~5cm/sの速度で又は医療デバイスの長さに沿って医療デバイスの長さ当たり(約80~約250mmの長さ基づいて)約5~30秒間の速度で移動するとともに、スラリー溶液は約3~100μL/sの割合で分注される。医療デバイスの長さに沿って1回の通過で遠位端部に到達したら、いかなる残留流体も吐出され、チップ自体を医療デバイスに接触させて付与されたスラリーを広げる。ピペットチップは交換され、同じプライミング手順に続いて新しいチップでさらになる医療デバイスがコーティングされ得る。実施例に示すように、同一のチップの使用により、一貫性のない付与が生じる。また実施例に示すように、プレウェッティングリンスの回数の変更によっても一貫性のない付与が生じる可能性がある。
【0115】
いくつかの態様において、スラリーは、攪拌機構又は超音波発生装置を有したシリンジを用いて付与される。いくつかの態様において、シリンジは自動化された装置の一部であり、使用者がバルーンを装着し、スラリーは自動化されたプロセスを通じて付与される。いくつかの態様において、自動化プロセスは、スラリーを分注する速度、分注の角度、かき混ぜる速度、及びチューブサイズに注意する必要がある場合がある。
【0116】
治療剤
いくつかの態様において、本開示は、微粒子から構成される製剤に関係する。いくつかの態様において、微粒子は、治療剤を含む。いくつかの態様において、微粒子は、結晶性治療剤からなる。他の態様では、微粒子は、治療剤が埋め込まれたポリマーからなる。いくつかの態様において、治療剤は、非晶質形態にあるポリマー又は疎水性層に埋め込まれている。いくつかの態様において、治療剤は、パクリタキセル、ラパマイシン、ダウノルビシン、5-フルオロウラシル、ドキソルビシン、スニチニブ、ソラフェニブ、イリノテカン、ベバシズマブ、セツキシマブ、バイオリムス(バイオリムスA9)、エベロリムス、ゾタロリムス、タクロリムス、デキサメタゾン、プレドニゾロン、コルチコステロン、シスプラチン、ビンブラスチン、リドカイン、及びブピバカインのうちの1つ以上である。
【0117】
いくつかの態様において、治療剤は、シロリムス、バイオリムス、エベロリムス、ゾタロリムス、及びピメクロリムスを含む細胞増殖抑制薬又はリムス薬である。しかしながら、本明細書の実施例はシロリムスの効果的な取り込みを示しているが、医療デバイスの外面上の活性薬剤は、このようなものに限定される必要はないことが理解されるであろう。他の細胞増殖抑制薬/細胞毒性薬、例えば、シクロホスファミド、イホスファミド、メルファラン、トレオスルファン、カルムスチン、カルボプラチン、シスプラチン、オキサプラチン(oxaplatin)、ドキソルビシン、エピルビシン、アクチノマイシンD、ブレオマイシン、マイトマイシン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビノレルビン、ドセタキセル、パクリタキセル、イリノトレカン(irinotrecan)、トポテカン、VP16、メトトレキサート、ペメトレキセド、5-フルオロウラシル、カペシタビン、シトシンアラビノシド(cytosinarabinosid)、ゲムシタビン、エリブリン、ミトタン(mitotan)、及び/又はトラベクテジンなども、単独で又はリムス薬と組み合わせて使用されてもよい。
【0118】
いくつかの態様において、本開示は、医療デバイスのバルーンの外面上の疎水性層/親水性層に埋め込まれた1つ以上の結晶性及び/又は非晶質の薬剤に関係する。いくつかの態様において、結晶性薬剤粒子は、典型的には微粒子の断面幅として測定される、1つの平均サイズを有する。本明細書で使用される場合、平均サイズとは、結晶性微粒子の集まりが、所望の選択サイズ±選択したサイズの10%又はその2つの標準偏差以内となるように、特定の直径又は断面幅に選択された結晶性微粒子の単離された又は予め単離された集まりを表し得る。いくつかの態様において、結晶性薬剤は、1つ以上の異なるサイズのグループで埋め込まれる。いくつかの態様において、結晶性薬剤は、サイズの異なる2つ以上のグループを有する。いくつかの態様において、製剤は、均一なサイズの結晶性微粒子の2つ以上の集団を有してもよく、一方の集団は、他方の集団よりも選択サイズが小さい。結晶性粒子は、薬剤結晶を所望の粒子サイズに粉砕することによって得ることができる。粉砕は、ジョークラッシャ、ローターミル、カッティングミル及びナイフミル、ディスクミル、モルタルグラインダ、並びにボールミルなどの装置によって行われ得る。結晶性粒子を得るためのプロセスは、乾式製粉、湿式製粉、及び/又は凍結粉砕によるものであり得る。粉砕に続いて、特定の所望サイズの結晶性粒子は、サイズ選択プロセス、例えば、網にかけること(meshing)、篩別、重量選択、及びろ過などによって得ることができる。
【0119】
他の態様では、製剤は、リムス薬が懸濁されたポリマーの微粒子からなる。いくつかの態様において、製剤は、リムス薬が懸濁されたポリマーの微粒子のサイズの1つ以上のグループを有する。他の態様において、製剤は、リムス薬が懸濁されたポリマーの微粒子のサイズの2つ以上のグループを有する。
【0120】
いくつかの態様において、本開示は、治療剤並びにその誘導体及び類似体、例えばシロリムスの誘導体及び/又は類似体などに関係する。本明細書で使用される場合、「誘導体」とは、親化合物に構造的に類似しており、その親化合物(例えば、デキサメタゾン)から(実際に又は理論的に)誘導可能である化学物質の化学的又は生物学的に改変されたものを指す。誘導体は、親化合物とは異なる化学的又は物理的特性を有してもよいし、有さなくてもよい。例えば、誘導体は、親化合物と比較して、より親水性であってもよく、又は変化した反応性を有してもよい。誘導体化(すなわち改変)は、分子内の1つ以上の部分の置換(例えば官能基の変更)を伴い得る。例えば、水素は、フッ素又は塩素などのハロゲンと置換されてもよく、又はヒドロキシル基(-OH)はカルボン酸部分(-COOH)と置き換えられてもよい。「誘導体」という用語には、親化合物のコンジュゲート及びプロドラッグ(すなわち、生理的条件下で原化合物に変換され得る化学的に改変された誘導体)も含まれる。例えば、プロドラッグは、活性薬剤の不活性形態であり得る。生理的条件下で、プロドラッグは、化合物の活性形態に変換され得る。プロドラッグは、例えば、窒素原子上の1つ又は2つの水素原子をアシル基(アシルプロドラッグ)又はカルバメート基(カルバメートプロドラッグ)で置き換えることによって形成され得る。プロドラッグに関連するより詳細な情報は、例えば、フライシャー(Fleisher)ら、Advanced Drug Delivery Reviews 19(1996年)115;Design of Prodrugs、H.Bundgaard(ed.)、Elsevier、1985年;又はH.Bundgaard、Drugs of the Future 16(1991年)443に見られる。「誘導体」という用語はまた、親化合物のあらゆる溶媒和化合物、例えば水和物又は付加物(例えば、アルコールとの付加物)、活性代謝物、及び塩を説明するために用いられる。調製され得る塩の種類は、化合物内の部分の性質に依存する。例えば、酸性基、例えばカルボン酸基は、アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、及びカルシウム塩、並びに生理学的に許容される四級アンモニウムイオンとの塩、及びアンモニアや生理学的に許容される有機アミン、例えばトリエチルアミン、エタノールアミン、又はトリス-(2-ヒドロキシエチル)アミンなどとの酸付加塩)を形成することができる。塩基性基は、例えば、塩酸、硫酸、若しくはリン酸などの無機酸と、又は酢酸、クエン酸、安息香酸、マレイン酸、フマル酸、酒石酸、メタンスルホン酸、若しくはp-トルエンスルホン酸などの有機カルボン酸及びスルホン酸と、酸付加塩を形成することができる。塩基性基と酸性基とを、例えば塩基性の窒素原子に加えてカルボキシル基を、同時に含有する化合物は、双性イオンとして存在することができる。塩は、当業者に知られている慣習的方法により、例えば化合物を溶媒若しくは希釈剤中で無機酸若しくは有機酸若しくは塩基と混ぜ合わせることにより、又は陽イオン交換若しくは陰イオン交換により他の塩から、得ることができる。
【0121】
本明細書で使用される場合、「アナログ(analog)」又は「類似体(analogue)」とは、別のものに構造的に類似しているが、組成でわずかに異なっており(1つの原子が異なる元素の原子によって置き換えられている、又は特定の官能基が存在するように)、しかし親化合物から誘導可能であっても誘導可能でなくてもよい化学物質を指す。親化合物が「誘導体」を生成するための出発物質となり得るのに対して、親化合物が「アナログ」を生成するための出発物質として必ずしも使用されない場合があるという点で、「誘導体」は「アナログ」又は「類似体」と異なる。
【0122】
本明細書で開示される薬剤コーティングは、単一の治療剤に限定される必要はないが、1つ以上の付加的な治療剤若しくは薬剤、並びに/又はこれらの誘導体及び/若しくは類似体を含み得ることも理解されるであろう。本開示において有用であり得る他の薬剤としては、グルココルチコイド(例えばコルチゾール、ベタメタゾン)、ヒルジン、アンギオペプチン、アセチルサリチル酸(acetylsalicyclic acid)、NSAID(非ステロイド性抗炎症薬)、成長因子、アンチセンス剤、抗がん剤、抗増殖剤、オリゴヌクレオチド、並びに、より一般的には、抗血小板剤、抗凝固剤、抗有糸分裂剤、酸化防止剤、代謝拮抗剤、抗走化性剤、及び抗炎症剤が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また本開示の態様において、炎症、及び/又は平滑筋細胞若しくは線維芽細胞の増殖性、収縮性、若しくは運動性を阻害する、例えば、ポリヌクレオチド、アンチセンス、RNAi、又はsiRNAも有用である。抗血小板剤としては、アスピリン及びジピリダモールなどの薬剤を挙げることができる。アスピリンは、鎮痛剤、解熱剤、抗炎症薬、及び抗血小板薬として分類される。ジピリダモールは、抗血小板特性を有するという点でアスピリンに類似した薬剤である。ジピリダモールは、冠血管拡張薬としても分類される。本開示の態様で使用するための抗凝固剤としては、ヘパリン、プロタミン、ヒルジン及びダニ抗凝固タンパク質などの薬剤を挙げることができる。抗酸化剤としては、プロブコールを挙げることができる。抗増殖剤としては、パクリタキセル、アムロジピン及びドキサゾシンなどの薬剤を挙げることができる。本開示の態様に使用できる抗有糸分裂剤及び代謝拮抗剤としては、メトトレキサート、アザチオプリン、ビンクリスチン、アドリアマイシン及びムタマイシンなどの薬剤が挙げられる。本開示の態様で使用するための抗生物質製剤としては、ペニシリン、セフォキシチン、オキサシリン、トブラマイシン、及びゲンタマイシンが挙げられる。本開示の態様で使用するために適当な酸化防止剤としては、プロブコールが挙げられる。加えて、遺伝子若しくは核酸、又はこれらの一部を、本開示の態様において治療剤として使用することができる。例えば、ポルフィマーなどの様々なポルフィリン化合物を含む、光力学的療法又は放射線療法のための光感作性薬剤も本開示の態様において薬剤として有用である。
【0123】
医療デバイス
限定されない例としてバルーンカテーテル及びステントを含む特定の医療デバイスの態様について説明する。医療デバイスにおいて、薬剤コーティングは、医療デバイスの外面の上に付与される。コーティングは、簡単な調整によって、付加的な医療デバイスの外面(複数可)に同様に付与できることは当業者には明白であろう。
【0124】
バルーンカテーテル
いくつかの態様において、医療デバイスは、バルーンカテーテルである。図1に示した例を参照すると、バルーンカテーテル10は、近位端部18と遠位端部20とを有する。
【0125】
バルーンカテーテル10は、当業者に知られている従来のバルーンカテーテルを含む、所望の用途に適した任意のカテーテルであり得る。例えば、バルーンカテーテル10は、迅速交換カテーテル又はオーバー・ザ・ワイヤーカテーテルであり得る。いくつかの具体的な例において、バルーンカテーテルは、BD ペリフェラル インターベンション(BD Peripheral Intervention)から入手可能なClearStream(商標)末梢カテーテルであり得る。バルーンカテーテル10は、任意の適当な生体適合性材料で製造され得る。バルーンカテーテルのバルーン12は、単なる例として、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン、ナイロン、PEBAX(すなわちポリエーテルとポリアミドとのコポリマー)、ポリウレタン、ポリスチレン(PS)、ポリエチレンテレフタレート(PETP)、又は当業者には明らかな様々な他の適当な材料などのポリマー材料を含み得る。
【0126】
図1のバルーンカテーテル10の様々な様相が、図1の線A-Aに沿った断面によって図2A及び図2Bに例示されている。図1図2A及び図2Bを一緒に参照すると、バルーンカテーテル10は、拡張可能なバルーン12と長尺状部材14とを備える。長尺状部材14は、バルーンカテーテル10の近位端部18と遠位端部20との間に延びている。長尺状部材14は、少なくとも1つの管腔26a,26b及び遠位端部20を有する。長尺状部材14は、適当な生体適合性材料で製造されたチューブである可撓性部材であり得る。長尺状部材14は、1つの管腔、又は図1図2A、及び図2Bに示すように2つ以上の管腔26a,26bを長尺状部材14内に有し得る。例えば、長尺状部材14は、バルーンカテーテル10の近位端部18にあるガイドワイヤポート15からバルーンカテーテル10の遠位端部20まで延びるガイドワイヤ管腔26bを備え得る。長尺状部材14はまた、バルーンカテーテル10の膨張ポート17から拡張可能なバルーン12の内側まで延びて拡張可能なバルーン12の膨張を可能にする膨張管腔26aも備え得る。図1図2A及び図2Bの態様から、膨張管腔26a及びガイドワイヤ管腔26bは並んだ管腔として示されているが、長尺状部材14内に存在する1つ以上の管腔は、例えば、膨張媒体の導入及び/又はガイドワイヤの導入を含む意図した管腔の目的に適合した任意の方法で構成され得ることを理解されたい。多くのこのような構成は、当技術分野ではよく知られている。
【0127】
拡張可能なバルーン12は、長尺状部材14の遠位取り付け端部22に取り付けられている。拡張可能なバルーン12は、外面25を有し、膨張可能である。拡張可能なバルーン12は、長尺状部材14の管腔と(例えば、膨張管腔26aと)流体連通している。長尺状部材14の少なくとも1つの管腔は、膨張媒体を受け入れ、そのような媒体を、拡張可能なバルーン12を拡張させるために拡張可能なバルーン12へ通過させるように構成されている。膨張媒体の例としては、空気、生理食塩水、及び造影剤が挙げられる。
【0128】
依然として図1を参照すると、一実施形態において、バルーンカテーテル10は、ハブ16などのハンドルアセンブリを備える。ハブ16は、バルーンカテーテル10の近位端部18でバルーンカテーテル10に取り付けられ得る。ハブ16は、膨張媒体(例えば、空気、生理食塩水、若しくは造影剤)の供給源又はガイドワイヤなどの1つ以上の適当な医療デバイスに接続し、且つ/又はそれを受け入れることができる。例えば、膨張媒体の供給源(図示せず)は、ハブ16の膨張ポート17に(例えば膨張管腔26aを通じて)接続することができ、ガイドワイヤ(図示せず)は、ハブ16のガイドワイヤポート15に(例えばガイドワイヤ管腔26bを通って)導入され得る。
【0129】
いくつかの態様において、図1の断面A-Aは、図2Aに従って示された通りであり得る。図2Aでは、薬剤コーティング層30は、バルーン12の外面25上に直接付与されている。様々な態様による薬剤コーティング層30自体の具体的な組成については、後でまたより詳細に説明する。他の例示的な態様では、図1の断面A-Aは、図2Bに従って示された通りであり得る。図2Bでは、薬剤コーティング層30は、バルーン12の外面25の上に重なる中間層40上に付与されている。いくつかの態様において、外面25は、表面改質を受けていてもよい。外面25が改質された外面である態様において、外面25には、薬剤コーティング層30を付与する前に外面25の表面自由エネルギーを低下させるフッ素プラズマ処理などの表面改質が施されている。外面に表面改質を施すことにより、コーティング層を付与する前に外面の表面自由エネルギーを低下させ、バルーンからのコーティング層中の薬剤の放出動態、薬剤層の結晶化度、コーティングの表面モルフォロジー及び粒子形状、又はコーティング層における治療層の薬剤の粒子サイズ、表面上の薬剤分布に影響を与えることができる。
【0130】
図1の断面A-Aが図2Aに従って示された通りである態様において、バルーンカテーテル10は、バルーン12の外面25の上に付与された薬剤コーティング層30を備える。薬剤コーティング層30自体は、治療剤と添加物とを含む。1つの特定の態様において、薬剤コーティング層30は、キナーゼ阻害剤又は抗線維症治療剤、ポリマー、及び1つ以上の付加的な添加物を含む。さらなる態様では、薬剤コーティング層30は、ポリマーを含まない。
【0131】
他の態様では、2つ以上の治療剤が、薬剤コーティング層で併用される。他の態様では、デバイスは、薬剤コーティング層30の上に重なるトップ層(図示せず)を備え得る。いくつかの態様において、トップコート層は、標的部位に留置される前のデバイス送達プロセス中に時期尚早に薬剤が喪失するのを防止するために有利であり得る。
【0132】
薬剤溶出ステント
いくつかの態様において、医療デバイスは、薬剤溶出ステント100である。図3の例示的な実施形態を参照すると、薬剤溶出ステント100は、近位端部180と遠位端部200とを有する。薬剤溶出ステント100は、当業者に知られている従来のステント含む、所望の用途に適した任意のベースステント102を備え得る。ベースステント102は、任意の適当な生体適合性金属合金で製造され得る。生体適合性金属合金の例としては、ステンレス鋼、ニチノール又はElgiloy(登録商標)が挙げられ得る。態様において、ニチノールの形状記憶特性により、正常な体温の管状身体脈管に配置されると、ベースステント102の自己拡張が可能となり得る。
【0133】
図3の薬剤溶出ステント100の様々な態様が、図3の線B-Bに沿った断面によって図4に例示されている。いくつかの例示的な態様では、図3の断面B-Bは、図4に従って示された通りであり得る。図4では、薬剤コーティング層110は、ベースステント102の外面107上に直接付与されている。後で説明するいくつかの態様では、外面107は、表面改質を受けていてもよい。外面107が改質された外面である態様において、外面107には、薬剤コーティング層110を付与する前に外面107の表面自由エネルギーを低下させるフッ素プラズマ処理などの表面改質が施されている。外面に表面改質を施すことにより、コーティング層を付与する前に外面の表面自由エネルギーを低下させ、バルーンからのコーティング層中の薬剤の放出動態、薬剤層の結晶化度、コーティングの表面モルフォロジー及び粒子形状、又はコーティング層における治療層の薬剤の粒子サイズ、表面上の薬剤分布に影響を与えることができる。
【0134】
図3の断面B-Bが図4に従って示された通りである態様において、薬剤溶出ステント100は、ベースステント102の外面107の上に付与された薬剤コーティング層100を備える。薬剤コーティング層110自体は、治療剤と添加物とを含む。1つの特定の実施態様において、薬剤コーティング層110は、キナーゼ阻害剤、抗線維化薬治療剤、ポリマー、及び1つ以上の付加的な添加物を含む。さらなる態様では、薬剤コーティング層110は、ポリマーを含まない。
【0135】
他の態様では、2つ以上の治療剤が、薬剤コーティング層110で併用される。他の態様では、デバイスは、薬剤コーティング層100の上に重なるトップ層(図示せず)を備え得る。いくつかの態様において、トップコート層は、標的部位に留置される前のデバイス送達プロセス中に時期尚早に薬剤が喪失するのを防止するために有利であり得る。
【0136】
いくつかの態様において、本開示は、医療デバイスの外面の少なくとも一部の上に位置する疎水性層又は親水性層に関係する。図5Aは、医療デバイス表面200に付着したポリマー微粒子/薬剤結晶210を示す。図5Bは、医療デバイス表面200上の疎水性層又は親水性層220を示しており、層220にはポリマー微粒子/薬剤結晶210が埋め込まれている。図6は、疎水性層又は親水性層310がその外面の少なくとも一部を覆っている下に位置する医療デバイス300を示す。さらに図6には、いくつかの態様において疎水性層又は親水性層310を保護又は遮蔽することができる第2のコーティング層320が示されている。
【0137】
本開示の態様において、治療剤は、医療デバイスを組織と接触させた後、急速に放出され、容易に吸収される。例えば、本開示のデバイスの特定の態様は、短時間の直接的な圧接によって、バルーン血管形成中に高い薬剤濃度で増殖性医薬品(proliferative pharmaceutical)を脈管組織に送達する、薬剤でコーティングされた拡張可能な医療デバイスを含む。治療剤は、送達部位で標的組織に優先的に保持され、そこで過形成及び再狭窄を阻害するが、なおも内皮化を可能にする。これらの態様において、本開示のコーティング製剤は、留置中に薬剤がバルーン表面から迅速に放出され、薬剤が標的組織内に移行するのを促進するだけでなく、薬剤が、標的部位に到達する前に曲がりくねった動脈の解剖学的構造を通る移送中にデバイスから拡散すること、及び薬剤コーティングが脈管壁の表面と直接接触するように押し付けられる前にバルーン膨張の初期段階の間に破裂してデバイスから離れてしまうことも防止する。
【実施例
【0138】
実施例1
75mgのワセリンを5mLのシクロヘキサン中に溶解させた。25mgのシロリムスを<40μmの選択したサイズ範囲に粉砕してから溶液に添加した。シロリムスはシクロヘキサンに可溶ではないため、これにより結晶性シロリムススラリー溶液が形成された。薬剤対ワセリンの比は1:3であった。またコーティング溶液濃度は5mg/mLである。
【0139】
溶液のバイアルを攪拌プレート上に配置した。較正したピペットを用いて、攪拌されているバイアルから分注すべき量を抜き取った。分注量は、2μg/mmの目標投与量が得られるように計算した。バルーンを膨張させ回転させながら、コーティングをピペットで表面全体を覆うように分注した。コーティングが完了したら、バルーンを3~5分間回転させて維持して、コーティングを乾燥させ一様に分散させる時間を与えた。
【0140】
この薬剤コーティングバルーン(DCB)を、溶媒が完全に蒸発したことを確実にするために、12時間放置して乾燥させた。乳棒及び乳鉢を用いて塩化ナトリウムを粉砕し、小さな粒子を形成した。これらの粒子をバルーンの表面上に広げ、コーティングされた領域を覆って水溶性カバーを提供した。
【0141】
コーティングされたデバイスを流動シリコーンチューブループに留置して、コーティングの移行効率を評価した。流動ループは、バルーン直径に基づいて適切な内径(ID)を有したチューブを通して体温(37±2℃)の水をポンプで送出するように設計した。止血弁を介してガイドワイヤを標的部位まで押し込んだ。バルーンインフレータを用いて、バルーンカテーテルから空気を除去した。ガイドワイヤを用いて、止血弁を介してバルーンカテーテルを標的部位まで押し込んだ。DCBは、水を1分間ポンプで送出しながら、萎んだ状態で位置を維持した。空気を膨張装置から除去した。次に、ポンプのスイッチを切っている間に、DCBを7気圧で1分間膨張させた。バルーンを萎ませ、システムから除去した。薬剤含量をDCB及びチューブについて評価した。この時点をT=0日とした。同じ試験を行なったが、バルーンカテーテルを除去した後に、システムを通して水を24時間ポンプで送出して、分析の時点をT=1日とした。
【0142】
実施例2
9.93mgのパラフィンを1mLのシクロヘキサン中に溶解させた。次に、この溶液に、およそ50μmのPLGA/シロリムスビーズ10.08mgを添加した。これにより懸濁液が形成された。懸濁液が入ったバイアルを攪拌プレート上に置いた。攪拌されているバイアルからピペットで124μLの懸濁液を抜き取り、清浄なナイロンクーポン片上に分注した。溶媒が蒸発した後、薬剤コーティングがナイロンクーポン表面上に形成された。
【0143】
溶出試験を実施して、実施例#1からの放出速度を、疎水性コーティングを有さないPLGA/SRLビーズに対して比較した。各試料を前処理した透析チューブの内部に配置した。次に、透析チューブを、0.5%のラウリル硫酸ナトリウム及び0.9%の塩化ナトリウムの水溶液が入ったバイアル内に配置した。すべてのバイアルを37℃のオービタルシェーカーの内部に置いた。溶出媒体を各時点で新鮮な媒体で置き換え、次いでHPLCによって分析した。各試料における各薬剤の溶出を、全薬剤のパーセンテージとして図7に示したグラフにプロットした。
【0144】
実施例20:ピペットによるスラリーコーティング
二段階停止位置ピペットを利用して、スラリーをバルーンの表面上にコーティングした。スラリーは、10mLのシクロヘキサン中に、褐色バイアル内で、10μm及び40μmのシロリムスポリマー微粒子を250mgのドクサートナトリウムとともに加えたものであった。PTFEでコーティングされた攪拌子を使用し、攪拌子がバイアルの壁と確実に接触できるようにするためにバイアルを旋回させた。分注を行う直前に、バイアルを、穏やかに2~3回旋回させ、必要に応じて傾斜させた。二段階停止位置ピペットについて、第1の停止位置はプランジャを押し下げたときに、選択した体積を分注するために用いられ、第2の停止位置はプランジャを押し下げたときに、チップから液体をすべて吐出するために用いられる。ピペットプランジャを第1の停止位置まで押して保ち、次に、攪拌子のほぼ真上でスラリー溶液中に入れた。チップをスラリー溶液中に残したまま、プランジャを最後までゆっくりと解放して溶液を抜き取った。プランジャを完全に解放したら、ピペットチップを、バイアルの外には出さないが、溶液から取り出した。次に、プランジャを第2の停止位置まで押してチップから液体をすべて吐出させ、次いで再びすべての液体を吐出させた。次に、ピペットを第1の停止位置まで押し、スラリー溶液中に戻し、そのとき、スラリー中で引き込むためにプランジャをゆっくり解放した。プランジャ(pluger)を完全に解放した後、チップをバイアルから取り出し、蒸発を避けるためにバイアルにキャップを被せた。チップを、バルーンの近位端部のマーカーにおいてバルーンに沿って45°の角度で保った。プランジャをゆっくり押し下げ、チップをバルーンの遠位マーカバンドに向かって、近位端部に戻ったり又はチップを用いて付与したスラリー溶液を広げたりすることなく、1回の通過で移動させた。遠位端部に到達したら、プランジャを第2の停止位置まで押して液体をすべて吐出させた。次にチップを廃棄した。
【0145】
このプロセスから、次にバイアルから抜き取る位置、リンスの回数、チップの交換、抜き取りの手法、チップの種類、並びに溶液の分取及びリアルタイムアッセイについて試験した。
【0146】
抜き取り位置について、各条件に対して、それぞれ50μLの試料を5つ採取した。50μLの分注に対するシロリムスの「ラベル表示」(%LC)量は1250μgである。図8Aは見られた結果を示す。すべての位置は、約+/-3%RSD(相対標準偏差)の小さなばらつきを有したが、底部引き上げ位置(攪拌子の真上と定義)が意図した投与量に最も近かった。これが抜き取り位置に用いられる基準点となると結論付けられた。
【0147】
プレリンス又はプライミングの回数について、正しいピペット手法は、量の正確度を高めるために、溶液を抜き取る前にピペットチップをプライミングするか又は「リンス」してチップを液体でコーティングすることを伴う。チップをリンスするために、設定量の液体を抜き取り、次に溶液中に吐き出して戻した。スラリーについてチップをリンスするリスクは、懸濁粒子がチップに付着して正確度の変動を生じることである。リンスの回数を変更した試験に対して、それぞれ50μLの試料を5つ採取した。図8Bは結果を示す。リンスを1回及び5回行った分注は、%RSDが低く非常に一貫していたが、チップをリンスしないと、分注されたシロリムスの量が劇的に減少しただけでなく、%RSDも劇的に増大した。分注される薬剤の一貫性、並びに処理時間及び複雑さを最適化するために、ピペットチップはコーティング前に1回リンスされると結論付けられた。
【0148】
ピペットチップの交換に関して、チップを交換せずに、50μLの溶液を連続して5回分注した。チップを最初の分注の前にリンスした。図8Cは、得られた結果を示す。おそらく粒子が経時的にピペットチップに付着し、後続の分注中に吐き出されるため、分注されたシロリムスの量は、分注回数が多くなるとともに増大した。1回目の分注と2回目の分注との間で薬剤含量の増大が一貫しているかどうかを試験するために、ピペットチップを交換せずに、50μLの溶液を2回分注した。図8Dは結果を示す。シロリムス含量の増大は、1回目の分注と2回目の分注との間で非常に一貫しており、約6~7%であった。この試験からのチップを集め、溶液を抜き取ったり分注したりせずに単にコーティング溶液に浸した他のチップと同様に、薬剤含量について試験した。各試験について3つのチップを用いた。ピペットチップに付着したシロリムスの量は、分注回数が多くなるとともに一貫して増大し、これは図8Dに示した結果と整合した。薬剤投与量の一貫性を最適化するためには、ピペットチップは、チップの再使用後に付加的なシロリムスが分注されるリスクを回避するために、各分注後に廃棄されると結論付けられた。
【0149】
利用されるピペットチップの種類に関して、図8Eは、本明細書で特定される様々なブランド及び材料を用いて得られた結果を示す。すべてのピペットチップが一貫していたが、5mm切り取ったフィッシャー(Fisher)低滞留チップ、及びVWR低付着性チップは、分注された薬剤含量が最も高かった。フィッシャー低滞留チップのうちの5mmを、粒子がチップを詰まらせるのを防止するために切り取った。
【0150】
次に、スラリーを抜き取り、スラリーを分注する手法を評価した。各条件に対して50μLの分注を5回行い、ピペットチップは、最初の分注の前にリンスした。以下の、通常の手法、チップ交換なし-溶液の底部から抜き取り、1回リンスし、垂直位置で分注する;水平分注-溶液を通常通りに抜き取り、ピペットを水平に配置して分注する;抜き取りの停止位置通過-1回リンスし、次に第1の停止位置を越えてプランジャを押して、分注されるように意図されたよりも多くの溶液を抜き取り、設定量の溶液のみを分注する;及び、通常の手法-溶液の底部から抜き取り、1回リンスし、垂直位置で分注する、といった条件について試験した。図8Fは、得られた結果を示す。チップを交換しないものを除くすべての手法は、低い%RSDを有した。手法「c」(抜き取りの停止位置通過)は、分注されたシロリムスが最も高かったが、複雑さが増すため、使用を除外した。これらの結果に基づいて、通常の手法及び各分注後にチップを廃棄することが、非常に一貫した分注結果をもたらす最も容易な手法であったと結論付けられた。
【0151】
使用者が溶液を抜き取るために絶えずバイアルのキャップを取り外す際に揮発性溶媒(シクロヘキサン)が蒸発するので、ピペットコーティングプロセスは、経時的に溶液中の薬剤濃度の増大の影響を受けやすい。この経時的な溶媒の喪失を測定し、図8Gに示す。この現象は、バルーンカテーテルを長時間コーティングしている間に観察された。コーティング中、コーティングされたバルーン20個ごとに1つのインプロセスアッセイ試料を取得した。ここで20個のバルーンのコーティングは、コーティングするのに約40分を要する。総コーティング時間は約4時間であり、セットアップ中、休止中、及び停止中には、溶液にキャップを被せた。溶液濃度は、溶媒が蒸発するにつれて着実に増大し、92%LCで開始して、その日の終わりまでに117%LCまで増大した。蒸発に対する1つの解決策は、20個のバルーンをコーティングした後に溶液試料を取得し、結果を待ち、次いで溶液濃度に基づいて分注量を調整することである。例えば、初期分注を行い(72μL)、濃度が高すぎたために分注量を64μLに低減し、次に20部品をコーティングし、また別の試料を取得し、この試料はまた別の溶液濃度の増大を示し、分注量を58μLに低減する、など。蒸発に対処する第2の方法は、1つの大量の溶液を作って、それをより小さなアリコートに分割することであり、各アリコートは、20部品のみをコーティングするために用いられる。この場合、分析結果が製造を開始する前に得られるため、結果を待つためのコーティング中のダウンタイムがない。85mLの「マスター」溶液を作り、すべての粒子を十分に攪拌して懸濁させた後、7.5mLを、同様に攪拌子を含むアリコート(より小さなバイアル)に移した。これを合計13個のアリコートのために13回繰り返した。それぞれ7.5mLを移した後、マスター溶液から50μLの試料を3つ取得して、濃度が増減していないか確認した。各アリコートからも50μLの試料を3つ取得して、それらの濃度を確認した。図8Hは結果を示す。マスター溶液及びアリコートの濃度は非常に類似しており、すべてのアリコート濃度は、95~97%LCの間で非常に一貫していた。
【0152】
実施例21:自動化によるスラリーコーティング
操作者がカテーテルを機械に装填し、コーティングはシリンジポンプ及び精巧な自動システムを用いて自動的に付与される「オートコーター」を用いて製造するためのパラメータを評価するために、実験を設計した。スラリーに適合させるために、攪拌シリンジを利用した。試験は、ペトロラタム及びレシチンを含む溶媒溶液中に結晶性微粒子を入れたものを用いて実施した。溶媒はシクロヘキサンであり、PTFE攪拌子を、磁性攪拌子が収まる凹部がプランシャに組み込まれているソノテックによる攪拌シリンジ内で利用した。次に、攪拌速度は外部モジュールによって制御され、シリンジは溶液を分注するために標準ポンプに装填され得る。3つの変数、シリンジの向き(45度下方向き 対 垂直下向き)、攪拌速度(低速(1~300rpm)、中速(300~650rpm)、高速(700~3000rpm))、及び分注速度(高速 対 低速)(3~100μL/s)について、攪拌シリンジで試験した。シリンジにはチューブは接続されず、分注液は、シリンジの流出口から直接収集された。
【0153】
図9Aは、攪拌速度及びシリンジの向きからの結果を示す。高速及び中速の攪拌速度は、比較的一貫しており、シリンジの向きによって影響を受けなかった。しかしながら、低速の攪拌速度では、すべての粒子がシリンジ開口部に沈降するため、薬剤含量が増大し、また45度では、粒子はシリンジ開口部から離れたシリンジの角部に沈降した。図9Bは、向き及び分注速度の結果を示す。分注速度が速いほど、より一貫した結果が得られた。これは、シリンジとポンプの組合せの精度能力に起因し得る。
【0154】
ソノテックのシリンジは容量制限を有するため、攪拌子の回転及び直線的な前後の移動の双方を行って溶液を混合する攪拌モジュールを備えるセトーニのneMIXも試験した。シリンジ容積、攪拌子サイズ、ポンプの向き、攪拌速度、及び線速度について試験した。長さ約2.54cm(1”)の分注チップを50mLのシリンジの流出口に接続した。図9Cは、特定された向き及び攪拌速度で見られた結果を示す。攪拌速度が速いほど、分注の変動が減少した。この系では、向きは、分注の一貫性に影響を与えるようには見えないが、垂直下向き位置が最も一貫していた。すべての試験の%RSDが非常に低く、攪拌能力が微粒子コーティングプロセスに十分であることを示した。スラリーを分注するためにシリンジポンプを用いることに関する課題は、分注チップがシリンジの端部に直接接続されなければならないことである。さもなければ、シリンジと分注チップとの間の任意のチューブは投与量の一貫性に影響を与えるであろう懸濁粒子の沈降を引き起こす可能性がある。これを試験するために、様々なチューブサイズを有したシリンジを用いてピペット法と同様に溶液を抜き取り、シリンジポンプを用いて溶液をチューブから分注した。図9Dは得られた結果を示す。結果は、任意のチューブを使用することは、ピペットコーティング法を用いること、又は任意のチューブなしで攪拌シリンジポンプを用いることよりも、変動が大きく、精度が低いことを示している。大小のチューブサイズは双方とも、シリンジポンプがオートコーターに実装された場合には制御するのが困難であろうチューブの向きによって影響を受けた。
【0155】
本明細書に記載される態様は、血管の血管内治療のためのシステム、方法、及びカテーテルに関する。血管内治療としては、瘻孔形成、脈管閉鎖、血管形成術、血栓除去術、アテローム切除術、クロッシング、薬剤コーティングバルーン血管形成術、ステント留置術(カバーなし及びカバー付き)、溶解療法が挙げられ得るが、これらに限定されるものではない。よって、様々な態様は2つの血管間における瘻孔形成に関するが、他の血管治療が考えられ、可能である。
【0156】
特定の態様が本明細書で例示され説明されているが、請求される主題の趣旨及び範囲から逸脱することなく、様々な他の変更及び改変がなされてもよいことを理解されたい。さらに、請求される主題の様々な態様が本明細書で説明されているが、このような態様を組み合わせて利用する必要はない。したがって、添付される特許請求の範囲は、請求される主題の範囲内にあるすべてのこのような変更及び改変に及ぶことが意図される。
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図8C
図8D
図8E
図8F
図8G
図8H
図9A
図9B
図9C
図9D
【国際調査報告】