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特表2024-537170調整可能な養子細胞療法のための操作されたサイトカイン受容体
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-10
(54)【発明の名称】調整可能な養子細胞療法のための操作されたサイトカイン受容体
(51)【国際特許分類】
   C07K 19/00 20060101AFI20241003BHJP
   C07K 16/00 20060101ALI20241003BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20241003BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20241003BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20241003BHJP
   C07K 16/30 20060101ALI20241003BHJP
   C07K 17/08 20060101ALI20241003BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20241003BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C07K19/00 ZNA
C07K16/00
C12N15/13
C12N15/62 Z
C12N5/10
C07K16/30
C07K17/08
A61K47/68
A61P35/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024520862
(86)(22)【出願日】2022-10-05
(85)【翻訳文提出日】2024-05-14
(86)【国際出願番号】 US2022077610
(87)【国際公開番号】W WO2023060126
(87)【国際公開日】2023-04-13
(31)【優先権主張番号】63/252,850
(32)【優先日】2021-10-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】399052796
【氏名又は名称】デイナ ファーバー キャンサー インスティチュート,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【弁理士】
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(74)【代理人】
【識別番号】100221741
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 直子
(74)【代理人】
【識別番号】100114926
【弁理士】
【氏名又は名称】枝松 義恵
(72)【発明者】
【氏名】ノヴィナ カール
(72)【発明者】
【氏名】小林 綾
(72)【発明者】
【氏名】ディステル ロバート ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】ノビリ アルベルト
(72)【発明者】
【氏名】ネイヤー スティーブン
【テーマコード(参考)】
4B065
4C076
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA94X
4B065AB01
4B065AC14
4B065CA24
4B065CA44
4C076AA95
4C076CC27
4C076CC41
4C076EE41
4C076EE59
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA09
4H045BA41
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
受容体サイトカインスイッチ、それらを含有する免疫細胞、及び制御可能な養子細胞療法のためのそれらの使用が開示される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シグナルペプチドと、
合成の実質的に非免疫原性の小分子(「合成小分子」)に特異的に結合する、一本鎖抗体断片(scFv)と、
ヒンジドメインと、
膜貫通ドメインと、
第1のサイトカイン受容体の天然型のものである又はそれに由来する、細胞内ドメインと
を含む、サイトカイン受容体スイッチ。
【請求項2】
前記シグナルペプチドが、第2のサイトカイン受容体の天然型のものであり、
前記第1及び第2のサイトカイン受容体が、同じであるか又は異なる、
請求項1に記載のサイトカイン受容体スイッチ。
【請求項3】
前記シグナルペプチドが、IL-2RA、IL-2RB、IL-2RG、IL-4RA、IL-7RA、IL-9R、IL-15RA、又はIL-21Rの天然型のものである、請求項2に記載のサイトカイン受容体スイッチ。
【請求項4】
前記シグナルペプチドが、IL-2RAの天然型のものであり、配列番号1の核酸配列及び配列番号2のアミノ酸配列を有する、請求項3に記載のサイトカイン受容体スイッチ。
【請求項5】
前記シグナルペプチドが、IL-2RBの天然型のものであり、配列番号3の核酸配列及び配列番号4のアミノ酸配列を有する、請求項3に記載のサイトカイン受容体スイッチ。
【請求項6】
前記シグナルペプチドが、IL-2RGの天然型のものであり、配列番号5の核酸配列及び配列番号6のアミノ酸配列を有する、請求項3に記載のサイトカイン受容体スイッチ。
【請求項7】
前記シグナルペプチドが、IL-4RAの天然型のものであり、配列番号7の核酸配列及び配列番号8のアミノ酸配列を有する、請求項3に記載のサイトカイン受容体スイッチ。
【請求項8】
前記シグナルペプチドが、IL-7RAの天然型のものであり、配列番号9の核酸配列及び配列番号10のアミノ酸配列を有する、請求項3に記載のサイトカイン受容体スイッチ。
【請求項9】
前記シグナルペプチドが、IL-9Rの天然型のものであり、配列番号11の核酸配列及び配列番号12のアミノ酸配列を有する、請求項3に記載のサイトカイン受容体スイッチ。
【請求項10】
前記シグナルペプチドが、IL-15RAの天然型のものであり、配列番号13の核酸配列及び配列番号14のアミノ酸配列を有する、請求項3に記載のサイトカイン受容体スイッチ。
【請求項11】
前記シグナルペプチドが、IL-21Rの天然型のものであり、配列番号15の核酸配列及び配列番号16のアミノ酸配列を有する、請求項3に記載のサイトカイン受容体スイッチ。
【請求項12】
前記scFvが、フルオレセイン若しくはフルオレセイン誘導体、4-[(6-メチルピラジン-2-イル)オキシ]ベンゾエート(MPOB)、アントラキノン-2-カルボキシレート(AQ)、又はテトラキセタン(DOTA)に結合する、請求項1に記載のサイトカイン受容体スイッチ。
【請求項13】
前記scFvが、フルオレセイン及びフルオレセイン誘導体に結合し、配列番号51の核酸配列及び配列番号52のアミノ酸配列を有する、請求項12に記載のサイトカイン受容体スイッチ。
【請求項14】
前記scFvが、MPOBに結合し、配列番号53の核酸配列及び配列番号54のアミノ酸配列を有する、請求項12に記載のサイトカイン受容体スイッチ。
【請求項15】
前記scFvが、AQに結合し、配列番号55の核酸配列及び配列番号56のアミノ酸配列を有する、請求項12に記載のサイトカイン受容体スイッチ。
【請求項16】
前記scFvが、DOTAに結合し、配列番号57の核酸配列及び配列番号58のアミノ酸配列を有する、請求項12に記載のサイトカイン受容体スイッチ。
【請求項17】
前記ヒンジドメインが、表面抗原分類8(CD8)に由来する、請求項1に記載のサイトカイン受容体スイッチ。
【請求項18】
ヒンジドメインペプチドが、配列番号49の核酸配列及び配列番号50のアミノ酸配列を有する、請求項17に記載のサイトカイン受容体スイッチ。
【請求項19】
前記膜貫通ドメインが、IL-2RA、IL-2RB、IL-2RG、IL-4RA、IL-7RA、IL-9RA、IL-15RA、又はIL-21Rに由来する、請求項1に記載のサイトカイン受容体スイッチ。
【請求項20】
膜貫通ドメインペプチドが、IL-2RAに由来し、配列番号17の核酸配列及び配列番号18のアミノ酸配列を有する、請求項19に記載のサイトカイン受容体スイッチ。
【請求項21】
膜貫通ドメインペプチドが、IL-2RBに由来し、配列番号19の核酸配列及び配列番号20のアミノ酸配列を有する、請求項19に記載のサイトカイン受容体スイッチ。
【請求項22】
膜貫通ドメインペプチドが、IL-2RGに由来し、配列番号21の核酸配列及び配列番号22のアミノ酸配列を有する、請求項19に記載のサイトカイン受容体スイッチ。
【請求項23】
膜貫通ドメインペプチドが、IL-4RAに由来し、配列番号23の核酸配列及び配列番号24のアミノ酸配列を有する、請求項19に記載のサイトカイン受容体スイッチ。
【請求項24】
膜貫通ドメインペプチドが、IL-7RAに由来し、配列番号25の核酸配列及び配列番号26のアミノ酸配列を有する、請求項19に記載のサイトカイン受容体スイッチ。
【請求項25】
膜貫通ドメインペプチドが、IL-9Rに由来し、配列番号27の核酸配列及び配列番号28のアミノ酸配列を有する、請求項19に記載のサイトカイン受容体スイッチ。
【請求項26】
膜貫通ドメインペプチドが、IL-15RAに由来し、配列番号29の核酸配列及び配列番号30のアミノ酸配列を有する、請求項19に記載のサイトカイン受容体スイッチ。
【請求項27】
膜貫通ドメインペプチドが、IL-21Rに由来し、配列番号31の核酸配列及び配列番号32のアミノ酸配列を有する、請求項19に記載のサイトカイン受容体スイッチ。
【請求項28】
前記細胞内ドメインが、IL-2RA、IL-2RB、IL-2RG、IL-4RA、IL-7RA、IL-9RA、IL-15RA、又はIL-21Rに由来する、請求項1に記載のサイトカイン受容体スイッチ。
【請求項29】
前記細胞内ドメインが、IL-2RAに由来し、配列番号33の核酸配列及び配列番号34のアミノ酸配列を有する、請求項28に記載のサイトカイン受容体スイッチ。
【請求項30】
前記細胞内ドメインが、IL-2RBに由来し、配列番号35の核酸配列及び配列番号36のアミノ酸配列を有する、請求項28に記載のサイトカイン受容体スイッチ。
【請求項31】
前記細胞内ドメインが、IL-2RGに由来し、配列番号37の核酸配列及び配列番号38のアミノ酸配列を有する、請求項28に記載のサイトカイン受容体スイッチ。
【請求項32】
前記細胞内ドメインが、IL-4RAに由来し、配列番号39の核酸配列及び配列番号40のアミノ酸配列を有する、請求項28に記載のサイトカイン受容体スイッチ。
【請求項33】
前記細胞内ドメインが、IL-7RAに由来し、配列番号41の核酸配列及び配列番号42のアミノ酸配列を有する、請求項28に記載のサイトカイン受容体スイッチ。
【請求項34】
前記細胞内ドメインが、IL-9Rに由来し、配列番号43の核酸配列及び配列番号44のアミノ酸配列を有する、請求項28に記載のサイトカイン受容体スイッチ。
【請求項35】
前記細胞内ドメインが、IL-15RAに由来し、配列番号45の核酸配列及び配列番号46のアミノ酸配列を有する、請求項28に記載のサイトカイン受容体スイッチ。
【請求項36】
前記細胞内ドメインが、IL-21Rに由来し、配列番号47の核酸配列及び配列番号48のアミノ酸配列を有する、請求項28に記載のサイトカイン受容体スイッチ。
【請求項37】
抗フルオレセイン-IL2-RAサイトカイン受容体スイッチであり、配列番号59のアミノ酸配列を有する、請求項1に記載のサイトカイン受容体スイッチ。
【請求項38】
請求項1に記載のサイトカイン受容体スイッチをコードする、核酸。
【請求項39】
請求項38に記載の核酸を含有する免疫細胞を含む、組成物。
【請求項40】
前記免疫細胞が、前記核酸のうちの少なくとも2つを更に含み、
前記2つの核酸が、
異なるシグナルペプチド、異なる膜貫通ドメイン、及び/又は前記サイトカイン受容体の異なる細胞内ドメインを含む、異なるサイトカイン受容体スイッチ
をコードする、請求項39に記載の組成物。
【請求項41】
少なくとも2つの前記サイトカイン受容体スイッチが、異なるscFvを含む、請求項40に記載の組成物。
【請求項42】
前記サイトカイン受容体スイッチが、同じscFvを含む、請求項40に記載の組成物。
【請求項43】
少なくとも2つの前記サイトカイン受容体スイッチが、
IL-2RGシグナルペプチド、抗小分子scFv、CD8ヒンジ、IL-2RG膜貫通ドメイン、IL-2RG細胞内ドメインを含む、第1のサイトカイン受容体スイッチと、
IL-7RAシグナルペプチド、抗小分子scFv、CD8ヒンジ、IL-7RA膜貫通ドメイン、及びIL-7RA細胞内ドメインを含む、第2のサイトカイン受容体スイッチと
を含む、請求項40に記載の組成物。
【請求項44】
前記免疫細胞が、前記第1及び第2のサイトカイン受容体スイッチとは異なる第3のサイトカイン受容体スイッチをコードする少なくとも第3の核酸を更に含む、請求項40に記載の組成物。
【請求項45】
少なくとも3つの前記サイトカイン受容体スイッチが、
IL-2RBシグナルペプチド、抗小分子scFv、CD8ヒンジ、IL-2RB膜貫通ドメイン、及びIL-2RB細胞内ドメインを含む、第1のサイトカイン受容体スイッチと、
IL-2RGシグナルペプチド、抗小分子scFv、CD8ヒンジ、IL-2RG膜貫通ドメイン、及びIL-2RG細胞内ドメインを含む、第2のサイトカイン受容体スイッチと、
IL-15RAシグナルペプチド、抗小分子scFv、CD8ヒンジ、IL-15RA膜貫通ドメイン、及びIL-15RA細胞内ドメインを含む、第3のサイトカイン受容体スイッチと
を含む、請求項44に記載の組成物。
【請求項46】
前記免疫細胞が、T細胞又はNK細胞である、請求項39に記載の組成物。
【請求項47】
前記T細胞が、CD8又はCD4である、請求項46に記載の組成物。
【請求項48】
前記免疫細胞が、細胞表面抗原に対して向けられたキメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸を更に含む、請求項39に記載の組成物。
【請求項49】
前記細胞表面抗原が、CD19、B細胞成熟抗原(BCMA)、ヒト上皮成長因子受容体2(HER2)、又は上皮成長因子受容体(EGFR)、ムチン1(MUC1)、又はTNF受容体スーパーファミリーメンバー13B(TNFRSF13B)である、請求項48に記載の組成物。
【請求項50】
免疫細胞が、キメラ抗原受容体(BAT-CAR)をコードするバイナリー活性化T細胞である、請求項46に記載の組成物。
【請求項51】
免疫細胞が、キメラ抗原受容体をコードする核酸を含むバイナリー活性化NK細胞である、請求項46に記載の組成物。
【請求項52】
請求項39に記載の組成物中の免疫細胞を刺激するための方法であって、前記免疫細胞を、増殖を促進するのに十分な濃度の合成小分子と接触させることを含む、方法。
【請求項53】
前記接触させることが、前記免疫細胞の表現型の変化も促進する、請求項52に記載の方法。
【請求項54】
処理が、記憶表現型、細胞傷害性表現型、及び調節性表現型から選択される表現型の変化を促進する、請求項53に記載の方法。
【請求項55】
前記合成小分子が、フルオレセイン若しくはフルオレセイン誘導体、MPOB、AQ、又はDOTAである、請求項52に記載の方法。
【請求項56】
前記合成小分子が、担体にコンジュゲートされている、請求項52に記載の方法。
【請求項57】
前記担体にコンジュゲートされた前記合成小分子が、高親和性プレート、ディッシュ、又はフラスコに結合されている、請求項56に記載の方法。
【請求項58】
前記担体が、ウシ若しくはヒト血清アルブミン、デキストラン、又は抗体である、請求項56に記載の方法。
【請求項59】
前記合成小分子が、ポリマーである、請求項52に記載の方法。
【請求項60】
前記ポリマーが、モノポリマー、ヘテロポリマー、又は分岐ポリマーである、請求項59に記載の方法。
【請求項61】
前記抗体が、抗HER2抗体、抗EGFR抗体、抗BCMA、又は抗CD19抗体である、請求項58に記載の方法。
【請求項62】
前記抗体が、ペルツズマブ、セツキシマブ、ベレンタマブ、J6M0、又はダラツズマブである、請求項61に記載の方法。
【請求項63】
前記合成小分子の濃度が、前記組成物の総体積に基づいて0.1~1000μg/mLの範囲である、請求項52又は53に記載の方法。
【請求項64】
前記合成小分子の濃度が、前記組成物の総体積に基づいて0.1~100μg/mLの範囲である、請求項63に記載の方法。
【請求項65】
前記免疫細胞を十分な濃度の前記合成小分子で最大2週間以上処理する、請求項52に記載の方法。
【請求項66】
前記免疫細胞を十分な濃度の前記合成小分子で1週間処理する、請求項52に記載の方法。
【請求項67】
前記免疫細胞を前記合成小分子とエクスビボで接触させる、請求項52に記載の方法。
【請求項68】
前記免疫細胞を前記合成小分子とインビボで接触させる、請求項52に記載の方法。
【請求項69】
前記免疫細胞を前記合成小分子と全身的に接触させる、請求項68に記載の方法。
【請求項70】
前記免疫細胞を前記合成小分子と局所的に接触させる、請求項68に記載の方法。
【請求項71】
疾患又は障害を治療するための方法であって、
その治療を必要とする対象に、治療有効量の請求項39に記載の組成物を投与することと、
担体にコンジュゲートされた十分な濃度の少なくとも1つの合成小分子を前記対象に投与し、それによって前記組成物中の前記免疫細胞を刺激することと
を含む、方法。
【請求項72】
前記合成小分子が、フルオレセイン若しくはフルオレセイン誘導体、MPOB、AQ、又はDOTAである、請求項71に記載の方法。
【請求項73】
前記担体が、ヒト血清アルブミン又は抗体である、請求項71に記載の方法。
【請求項74】
前記抗体が、抗HER2抗体、抗EGFR抗体、抗BCMA抗体、又は抗CD19抗体である、請求項73に記載の方法。
【請求項75】
前記抗体が、ペルツズマブ、セツキシマブ、ベレンタマブ、J6M0、又はダラツズマブである、請求項74に記載の方法。
【請求項76】
前記疾患又は障害が、がんである、請求項71に記載の方法。
【請求項77】
前記がんが、乳がん、卵巣がん、多発性骨髄腫、肺がん、又は多形性神経膠芽腫である、請求項76に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
関連出願の相互参照本出願は、2021年10月6日に出願された米国特許仮出願第63/252,850号に対する米国特許法第119条(e)の下での優先権の利益を主張するものであり、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
政府による実施権
本開示は、米国国立衛生研究所によって授与された助成金番号1DP1 DK105602-01に基づく政府の支援を受けて行われた。政府は、本発明に一定の権利を有する。
【0003】
配列表
本出願は、XML形式で電子的に提出されている配列表を含有し、その全体が参照によって本明細書に組み込まれる。2022年8月27日に作成された当該XMLコピーの名称は、52095-631001WO_ST.xmlであり、サイズは69キロバイトである。
【背景技術】
【0004】
開示の背景
養子細胞移入(adoptive cell transfer、ACT)を使用する免疫療法は、免疫を刺激又は抑制することを目的とする。ACTの最も有望なアプローチの1つは、抗原特異的T細胞又はキメラ抗原受容体-T(chimeric antigen receptor-T、CAR T)細胞の投与である。B細胞抗原CD19を標的とするCAR T細胞は、B細胞悪性腫瘍を有する患者において顕著な臨床応答を有した(Davila and Brentjens,Clin.Adv.Hematol.Oncol.14(10):802-808(2016)(非特許文献1)、Halim and Maher,Ther.Adv.Vaccines Immunother.8:1-17(2020)(非特許文献2))。血液がんにおける成功にもかかわらず、固形腫瘍に対するCAR-T細胞の効果は、注入後のCAR-T細胞の限定された持続性、生存、増殖、及び有効性のために部分的に限定されている(Kosti,et al.,Front.Immunol.9:1104-9(2018)(非特許文献3);Jafarzadeh,et al.,Front.Immunol.11,702-17(2020(非特許文献4))。
【0005】
メモリーT細胞の生成は、CAR T細胞療法の長期持続に必須である。それらの形成は、3つのシグナル、すなわち、抗原、共刺激及び炎症促進性サイトカインを必要とする。サイトカインは、様々な免疫細胞の発生、増殖、生存、及び分化において重要な役割を有する(Foster,Int.J.Exp.Pathol.82(3):171,192(2001)(非特許文献5))。サイトカイン標的免疫療法は、特定の免疫細胞機能を促進又は阻害することによって免疫応答を調節することができる。インターロイキン-2(Interleukin-2、IL-2)は、T細胞の発生及び生存を刺激する。高用量IL-2療法は、転移性黒色腫及び腎臓がんの治療のために、米国食品医薬品局(Food and Drug Administration、FDA)によって承認された(Jiang,et al.,Oncoimmunology 5(6):e1163462-10(2016)(非特許文献6))。しかしながら、サイトカインの全身投与は、制御されないサイトカイン放出症候群及び耐えられない毒性のために、大部分が不成功であった。したがって、特定の細胞におけるサイトカインシグナル伝達の制御可能な活性化が、全身性毒性を予防し、操作された免疫細胞駆動性有効性を改善するために必要である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Davila and Brentjens,Clin.Adv.Hematol.Oncol.14(10):802-808(2016)
【非特許文献2】Halim and Maher,Ther.Adv.Vaccines Immunother.8:1-17(2020)
【非特許文献3】Kosti,et al.,Front.Immunol.9:1104-9(2018)
【非特許文献4】Jafarzadeh,et al.,Front.Immunol.11,702-17(2020
【非特許文献5】Foster,Int.J.Exp.Pathol.82(3):171,192(2001)
【非特許文献6】Jiang,et al.,Oncoimmunology 5(6):e1163462-10(2016)
【発明の概要】
【0007】
開示の概要
本開示の第1の態様は、シグナルペプチドと、合成の実質的に非免疫原性の小分子に特異的に結合する一本鎖抗体断片(single chain antibody fragment、scFv)(以下、「合成小分子」)と、ヒンジドメインと、膜貫通ドメインと、サイトカイン受容体の細胞内ドメインとを含む、サイトカイン受容体スイッチに関する。
【0008】
いくつかの実施形態では、シグナルペプチドは、サイトカイン受容体の天然型(native)のものであるか、又はそれに由来し、この場合、シグナルペプチド及び細胞内ドメインは、異なるサイトカイン受容体の天然型のものであるか、又はそれに由来し得る。いくつかの実施形態では、シグナルペプチドは、インターロイキン-2受容体アルファ鎖(interleukin-2 receptor alpha chain、IL-2RA)、IL-2RB、IL-2RG、IL-4RA、IL-7RA、IL-9R、IL-15RA、若しくはIL-21Rの天然型のものであるか、又はそれらに由来する。他の実施形態では、シグナルペプチドは、表面抗原分類8(cluster of differentiation 8、CD8)の天然型のものであるか、又はそれに由来する。
【0009】
いくつかの実施形態では、scFvに特異的に結合する合成小分子は、フルオレセイン、例えば、フルオレセインイソチオシアネート(fluorescein isothiocyanate、FITC)、4-[(6-メチルピラジン-2-イル)オキシ]ベンゾエート(MPOB)、アントラキノン-2-カルボキシレート(AQ)、テトラキセタン(DOTA)、又はポリヒスチジンタグ(Hisタグ)である。
【0010】
いくつかの実施形態では、ヒンジドメインは、CD8の天然型のものであるか、又はそれに由来する。
【0011】
いくつかの実施形態では、膜貫通ドメイン及び細胞内ドメインは、各々独立して、IL-2RA、IL-2RB、IL-2RG、IL-4RA、IL-7RA、IL-9R、IL-15RA、若しくはIL-21Rの天然型のものであるか、又はそれらに由来する。
【0012】
本開示の別の態様は、本明細書に記載されるサイトカイン受容体スイッチをコードする核酸に関する。
【0013】
更なる態様は、サイトカイン受容体スイッチをコードする外因性核酸を含む免疫細胞を含む組成物に関する。いくつかの実施形態では、免疫細胞は、CD8及びCD4T細胞などのT細胞である。他の実施形態では、免疫細胞は、NK細胞である。
【0014】
いくつかの実施形態では、免疫細胞は、
異なるサイトカイン受容体由来の異なるシグナルペプチド、異なる膜貫通ドメイン、及び/又はサイトカイン受容体の異なる細胞内ドメインを含む、異なるサイトカイン受容体スイッチ
をコードする少なくとも2つの核酸を含む。
【0015】
いくつかの実施形態では、免疫細胞は、細胞表面抗原に対するキメラ抗原受容体(chimeric antigen receptor、CAR)をコードする外因性核酸を含有する。いくつかの実施形態では、細胞表面抗原は、CD19、B細胞成熟抗原(B-cell maturation antigen、BCMA)、ヒト上皮成長因子受容体2(human epidermal growth factor receptor 2、HER2)、上皮成長因子受容体(epidermal growth factor receptor、EGFR)、ムチン1(mucin 1、MUC1)、又はTNF受容体スーパーファミリーメンバー13B(TNF receptor superfamily member 13B、TNFRSF13B)である。
【0016】
いくつかの実施形態では、免疫細胞は、バイナリー活性化キメラ抗原受容体(binary activated chimeric antigen receptor、BAT-CAR)をコードする核酸を含む。
【0017】
いくつかの態様では、本開示は、サイトカイン受容体スイッチをコードする外因性核酸を含む免疫細胞を刺激するための方法であって、免疫細胞を十分な濃度の合成小分子と接触させることを含み、接触が免疫細胞の増殖を促進する、方法、に向けられている。それはまた、免疫細胞の表現型(例えば、記憶表現型、細胞傷害性表現型、及び調節性表現型)の変化を促進し得る。
【0018】
いくつかの実施形態では、接触させることは、エクスビボで行われる。サイトカイン受容体スイッチをコードする外因性核酸を含有する免疫細胞を、好適な培地に入れ、培地の総体積に基づいて、有効濃度、例えば0.1~1000μg/mLの合成小分子と接触させる。いくつかの実施形態では、合成小分子の濃度は、培地の総体積に基づいて0.1~100μg/mLの範囲である。接触(本明細書では「処理」又は「処理すること」とも称される)の持続期間は、数時間、数日及び数週間(例えば、1、2、3、4週間以上)ほどであり得る。いくつかの実施形態では、接触は、合成小分子が担体にコンジュゲートされている高親和性プレート、ディッシュ、又はフラスコ中で行われてもよく、担体は本質的にポリマーであってもよく、例えば、その表面に固定されたウシ血清アルブミン(bovine serum albumin、BSA)であってもよい。
【0019】
いくつかの他の実施形態では、免疫細胞を合成小分子とインビボで接触させる。いくつかの実施形態では、免疫細胞を合成小分子と全身的に接触させる。他の実施形態では、免疫細胞は、CARの結合特異性に起因して、特異的な細胞表面抗原(例えば、腫瘍表面抗原)に向けられ、したがって、免疫細胞の局所刺激を可能にする、CAR含有免疫細胞である。本開示の更なる態様は、がんを治療する方法に関する。いくつかの実施形態では、エクスビボ刺激された免疫細胞を含有する治療的有効濃度の組成物が対象に投与される。他の実施形態では、方法は、治療的有効濃度の免疫細胞を、それを必要とする対象に投与することと、有効濃度の合成小分子を好適な期間にわたって対象に投与し、それによって免疫細胞を刺激することと、合成モノマー小分子又は合成ポリマー小分子を含有する組成物を対象に投与することによって、免疫細胞の刺激を減少させることと、を含む。刺激を最適化するために、合成小分子は、多量体として、例えば、小分子の単量体がBSAなどの担体にコンジュゲートされている多量体として、投与するのが有利である。
【0020】
いくつかの実施形態では、がんは、白血病、リンパ腫又は多発性骨髄腫などの血液がんである。いくつかの実施形態では、がんは、乳がん、卵巣がん、肺がん、又は脳のがん例えば多形性神経膠芽腫、などの固形腫瘍の存在を特徴とする。
【0021】
サイトカイン受容体スイッチをコードする核酸を含む免疫細胞を刺激する方法は、例えば、米国特許第5,747,292号並びに国際公開第2018/111834号及び国際公開第2019/193197号に記載されているように、当技術分野で既知であり、これらの各々は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。サイトカイン受容体スイッチをコードする核酸を含む免疫細胞を作製及び刺激する方法は、以下の文献にも記載されている:Nelson et al.,Nature,369(6478):333-336(1994)、Gerhartz et al.,J.Biol.Chem.,271:12991-12998(1996)、Sockolosky et al.,Science,2018,359(6379):1037-1042(1996)、Chang et al.,Nat.Chem.Biol.14(3):317-324(2018)、Leung et al.,JCI Insight 4(11):e124430-18(2019)、及びYang et al.,PNAS 118:e2106612118-12(2021)。
【0022】
本発明のサイトカイン受容体スイッチは、既知のキメラサイトカイン受容体とは異なる。例えば、米国特許第5,747,292号に教示されるキメラ受容体は、天然の(natural)受容体と交差反応する内因性タンパク質によって活性化される。国際公開第2019/193197号に教示されるキメラ受容体は、実質的に非免疫原性ではない細菌タンパク質(例えば、GFP及びmCherry)によって活性化される(すなわち、細菌タンパク質GFP及びmCherryは免疫原性である)。
【0023】
本開示は、それらの天然リガンドとは無関係に、制御可能なサイトカイン受容体シグナル伝達を所望の一連の免疫細胞に向ける組成物及び方法を提供する。先行技術とは対照的に、本開示は、人工リガンドとして及び天然型サイトカインの代替物として機能しかつ実質的に非免疫原性でもある合成小分子の使用を必要とする。したがって、サイトカイン受容体スイッチは、外因性部分、すなわち合成小分子の制御下にあり、エクスビボ及びインビボの両方において、サイトカイン受容体の活性化又は刺激及びその後のシグナル伝達の正確な制御を可能にする。基本的に、合成小分子は、オン/オフスイッチとして作用する。
【0024】
本開示は、特にCAR-T細胞に関連して、いくつかの更なる利点を提供し得る。異なるサイトカイン受容体スイッチとCARとの組み合わせは、記憶表現型、エフェクター表現型、又は調節性表現型を有するT細胞をプレコンディショニングし得、それによりCAR T細胞の持続性及び細胞傷害性を大幅に改善し得る。それらの活性化又は刺激を制御することに加えて、サイトカイン受容体スイッチを含有するCAR-T細胞は、固形腫瘍微小環境に特徴的な免疫抑制環境に対してより大きい抵抗性を示し得る。以下の実施例に示されるように、メモリーマーカーを発現するT細胞サブセットは、本開示の組成物を使用することにより増加した。合成小分子の使用は、特にサイトカイン受容体スイッチを含有するCAR-T細胞のエクスビボ増殖に関して、すなわち抗体及び組換えサイトカインの使用と比較したコストの点で、更なる利点を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1A図1A~1Dは、本発明のサイトカイン受容体スイッチの構造及び一次配列を示す画像である。図1Aは、サイトカイン受容体スイッチのコンポーネントを示す画像である。合成小分子は、サイトカイン受容体の天然サイトカインの代わりに人工リガンドとして機能する。
図1B図1A~1Dは、本発明のサイトカイン受容体スイッチの構造及び一次配列を示す画像である。図1Bは、非免疫原性足場又は抗体にコンジュゲートされた小分子による、サイトカイン受容体スイッチの全身的及び局所的活性化を示す画像である。サイトカイン受容体スイッチは、キメラ抗原受容体(CAR)と組み合わせることができる。同じ低分子に対する(homotargeted)合成低分子(scFv)又は異なる低分子に対する(heterotargeted)異なるscFvのいずれかを、サイトカイン受容体スイッチ又はCARに融合させた。
図1C図1A~1Dは、本発明のサイトカイン受容体スイッチの構造及び一次配列を示す画像である。図1Cは、本発明のサイトカイン受容体スイッチの代表的な一次配列を示す画像である。
図1D図1A~1Dは、本発明のサイトカイン受容体スイッチの構造及び一次配列を示す画像である。図1Dは、本発明のサイトカイン受容体スイッチの一次配列を示す画像である。
図2】培養プレート上にコーティングされたウシ血清アルブミン(BSA)に結合したフルオレセインイソチオシアネート(FITC)によって刺激された初代ヒトT細胞上に発現されたサイトカイン受容体スイッチを示す画像である。
図3A図3A~3Dは、本発明のサイトカイン受容体スイッチが、CD3/CD28共刺激有りの場合にT細胞上のエフェクター及びセントラルメモリーマーカーを増加させたことを示す一連のグラフである。図3Aは、本発明のIL2RA及びIL15RA-サイトカイン受容体スイッチが、CD3/CD28共刺激有りの場合にCD4T細胞上のエフェクターメモリーマーカーを増加させ、IL2RA-、IL2RB-、IL2RG-、IL7RA-、及びIL15RA-サイトカイン受容体スイッチが、CD3/CD28共刺激有りの場合にCD8T細胞上のエフェクターメモリーマーカーを増加させたことを示す一連のグラフである。
図3B図3A~3Dは、本発明のサイトカイン受容体スイッチが、CD3/CD28共刺激有りの場合にT細胞上のエフェクター及びセントラルメモリーマーカーを増加させたことを示す一連のグラフである。図3Bは、本発明のIL2RA及びIL7RA-サイトカイン受容体スイッチが、CD3/CD28共刺激有りの場合にCD8T細胞上のセントラルメモリーマーカーを増加させたことを示す一連のグラフである。
図3C図3A~3Dは、本発明のサイトカイン受容体スイッチが、CD3/CD28共刺激有りの場合にT細胞上のエフェクター及びセントラルメモリーマーカーを増加させたことを示す一連のグラフである。図3Cは、本発明のサイトカイン受容体スイッチが、CD3/CD28共刺激なしではエフェクターメモリーマーカーCD4及びCD8T細胞にほとんど影響を及ぼさなかったことを示す一連のグラフである。
図3D図3A~3Dは、本発明のサイトカイン受容体スイッチが、CD3/CD28共刺激有りの場合にT細胞上のエフェクター及びセントラルメモリーマーカーを増加させたことを示す一連のグラフである。図3Dは、本発明のIL7RA-サイトカイン受容体スイッチが、CD3/CD28共刺激なしでCD4T細胞上のセントラルメモリーマーカーを増加させたことを示す一連のグラフである。
図4】CARによる、又はキメラ抗原受容体(BAT-CAR)をコードする核酸を含むバイナリー活性化T細胞による、本発明のサイトカイン受容体スイッチの使用を示す画像である。
図5A図5A~5Cは、高親和性プレート上に結合したBSA-FITCが、フルオレセイン特異的BAT-CAR-T細胞を効率的に刺激したことを示す一連のグラフである。図5Aは、通常の組織培養プレート上に結合したBSA-FITC(プレート結合(通常))、高親和性プレート上に結合したBSA-FITC(プレート結合 高親和性)、及び細胞に直接添加したBSA-FITC溶液(フリー)によって刺激されたBAT-CAR-CD8T細胞におけるインターロイキン-2の発現を示すグラフである。
図5B図5A~5Cは、高親和性プレート上に結合したBSA-FITCが、フルオレセイン特異的BAT-CAR-T細胞を効率的に刺激したことを示す一連のグラフである。図5Bは、通常の組織培養プレート上に結合させたBSA-FITC、高親和性プレート上に結合させたBSA-FITC、及び細胞に直接添加したBSA-FITC溶液によって刺激されたBAT-CAR-CD8T細胞におけるインターフェロンγ(IFNg)の発現を示すグラフである。
図5C図5A~5Cは、高親和性プレート上に結合したBSA-FITCが、フルオレセイン特異的BAT-CAR-T細胞を効率的に刺激したことを示す一連のグラフである。図5Cは、通常の組織培養プレート上に結合したBSA-FITC、高親和性プレート上に結合したBSA-FITC、及び細胞に直接添加されたBSA-FITC溶液によって刺激されたBAT-CAR-CD8T細胞上のCD69の発現を示すグラフである。
図6A図6A~6Bは、本発明のサイトカイン受容体が、活性化NK細胞をスイッチすることを示す一連のグラフである。図6Aは、本発明のIL15RA-、IL2RB及びIL2RG-サイトカイン受容体スイッチの組み合わせが、ヒトナチュラルキラー(natural killer、NK)細胞、NK92の細胞増殖を促進したことを示す線グラフである。
図6B図6A~6Bは、本発明のサイトカイン受容体が、活性化NK細胞をスイッチすることを示す一連のグラフである。図6Bは、本発明のIL7RA及びIL2RG-サイトカイン受容体スイッチの組み合わせが、NK92細胞上の活性化マーカーCD69の発現を増加させたことを示す棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
開示の詳細な説明
別途定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本主題が属する当業者に通常理解される意味と同じ意味を有する。本明細書及び添付の特許請求の範囲において使用される場合、別段の定めがない限り、以下の用語は、本開示の理解を容易にするために示される意味を有する。
【0027】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用される単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、及び「その(the)」は、文脈が明らかに他のことを示さない限り、複数の指示対象を含む。したがって、例えば、「1つの組成物(a composition)」への言及は、2つ以上のかかる組成物の混合物を包含し、「1つの阻害剤(an inhibitor)」への言及は、2つ以上のかかる阻害剤の混合物を包含する、などである。
【0028】
特に明記しない限り、「約」という用語は、「約」という用語によって修飾される特定の値の10%以内(例えば、5%、2%又は1%以内)を意味する。
【0029】
「含む(including)」、「含有する(containing)」、又は「によって特徴付けられる(characterized by)」と同義である移行句「含む(comprising)」は、包括的又はオープンエンドであり、追加の列挙されていない要素又は方法ステップを除外しない。対照的に、移行句「からなる」は、特許請求の範囲に明記されていない任意の要素、ステップ、又は成分を除外する。移行句「から本質的になる」は、特許請求の範囲の範囲を、特許請求される開示の特定の材料又はステップ「と、基本的かつ新規の特徴に実質的に影響を及ぼさないものと」に限定する。
【0030】
本明細書で使用される場合、「免疫細胞」は、自然免疫応答及び/又は適応免疫応答の開始及び/又は実行に機能的に関与する造血系起源の細胞を指す。免疫細胞の代表的な例としては、T細胞及びナチュラルキラー(NK)細胞が挙げられる。本明細書で使用される「免疫細胞」という用語は、幹細胞に由来する細胞をも指す。幹細胞は、成熟幹細胞、非ヒト胚性幹細胞、より具体的には非ヒトの幹細胞、臍帯血幹細胞、前駆細胞、骨髄幹細胞、人工多能性幹細胞、全能性幹細胞又は造血幹細胞であり得る。
【0031】
いくつかの実施形態では、免疫細胞は、CD8T細胞である。いくつかの実施形態では、免疫細胞は、CD4T細胞である。いくつかの実施形態では、免疫細胞は、CD8T細胞及びCD4T細胞の組み合わせである。いくつかの実施形態では、免疫細胞は、NK細胞である。
【0032】
用語「記憶表現型」は、本明細書で使用される場合、本発明のサイトカイン受容体スイッチをコードする外因性核酸を含む免疫細胞が、ナイーブ免疫細胞(外因性核酸を含有しない)よりも迅速に抗原に応答する準備ができていることを指す。
【0033】
本明細書で使用される「細胞傷害性表現型」という用語は、毒性である免疫細胞(すなわち、腫瘍細胞、感染細胞、又はそうでなければ損傷のある若しくは機能不全である細胞などの他の細胞の死を誘導する免疫細胞)を指す。例えば、細胞傷害性T細胞は、同族抗原を有する標的細胞(例えば、がん細胞)の溶解を媒介する。細胞傷害性T細胞は、一般に、標的細胞の表面上のMHC分子と会合している場合のみ抗原ペプチドを認識するという点で、抗原特異的かつ主要組織適合性複合体(major histocompatibility complex、MHC)拘束性である。NK細胞は、ストレスを受けた、ウイルス若しくは微生物に感染した細胞又は悪性細胞を含む異常細胞を標的とし、かつ死滅させる。
【0034】
用語「抗体」は、本明細書において最も広い意味で使用され、ポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体を含み、それらには、インタクトな抗体及び機能的(抗原結合)抗体断片、断片抗原結合(fragment antigen binding、Fab)断片、F(ab’)断片、Fab’断片、Fv断片、組換えIgG(recombinant IgG、rIgG)断片、抗原に特異的に結合することができる可変重鎖(heavy chain、VH)領域、単鎖可変断片(scFv)を含む単鎖抗体断片、並びに単一ドメイン抗体(例えば、sdAb、sdFv、ナノボディ)断片が含まれる。scFvは、抗体のVH及び軽鎖(light chain、VL)の可変領域を含み、典型的には、最大約50個(例えば、約10個)のアミノ酸残基を含む。リンカーは、VHのN末端をVLのC末端と接続するか、又はその逆のいずれかであり得る。scFvは、当技術分野で既知の方法に従って調製することができる(例えば、Birdet al.、Science242:423-426(1988)及びHustonet al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA85:5879-5883(1988)を参照)。いくつかの実施形態では、リンカー配列は、アミノ酸グリシン及びセリンを含み、いくつかの場合において、(Gly4Ser)n(式中、nは1以上の整数である)などの、グリシン及びセリン反復のセットを含む。リンカーの長さ及びアミノ酸組成は、例えば、機能的エピトープを作製するためのVHとVLとの間の最適な折り畳み及び相互作用を達成するために変更され得る。例えば、Hollinger et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.90,6444-6448(1993)を参照。「抗体」という用語は、イントラボディ、ペプチボディ、キメラ抗体、完全ヒト抗体、ヒト化抗体、及びヘテロ接合抗体、多重特異性、例えば二重特異性抗体、ナノボディ、ダイアボディ、トリアボディ、及びテトラボディ、タンデムジ-scFv、タンデムトリ-scFvなどの免疫グロブリンの遺伝子操作された形態及び/又は他の方法で改変された形態を包含する。特に明記しない限り、「抗体」という用語は、その機能的抗体断片を包含すると理解されるべきである。この用語はまた、IgG及びそのサブクラス、IgM、IgE、IgA、並びにIgDを含む任意のクラス又はサブクラスの抗体を含む、インタクトな抗体又は全長抗体を包含する。
【0035】
本明細書中で使用される場合、「合成の実質的に非免疫原性の小分子」とは、対象において有意な免疫応答を惹起することなく、本発明のサイトカイン受容体スイッチ上のscFvに結合し得、単官能性であり、約50ダルトン~約10,000ダルトン、通常は約50ダルトン~約5000ダルトン、より通常は約100ダルトン~約1000ダルトンのサイズの範囲である、有機分子又は化合物を指す。
【0036】
本明細書で使用される実質的に非免疫原性の小分子の例としては、フルオレセイン及びフルオレセイン誘導体(例えば、フルオレセインイソチオシアネート(FITC))、4-[(6-メチルピラジン-2-イル)オキシ]ベンゾエート(MPOB)、アントラキノン-2-カルボキシレート(AQ)、テトラキサン(DOTA)、又はポリヒスチジン-タグ(His-タグ)が挙げられる。「顕著な免疫」応答は、本開示の教示に従って使用される合成小分子のインビボ有用性を限定又は制限する任意の免疫応答である。検出可能な免疫応答は、必ずしも「顕著な免疫応答」ではない。すなわち、「実質的に非免疫原性」は、検出可能であるが顕著ではない免疫応答を包含する。いくつかの実施形態では、実質的に非免疫原性の小分子は、担体にコンジュゲートされている。
【0037】
本明細書に記載される合成小分子に関して、及びそれらを更に記載するために以下の用語が本明細書で使用される範囲で、以下の定義が適用される。
【0038】
「特異的結合」という用語は、合成小分子と単鎖抗体断片(scFv)との間の相互作用に関する場合、合成小分子と他の内因性の実体(タンパク質性及び非タンパク質性など)との結合が検出可能であるが機能的に重要ではない場合があるという点で実質的に特異的である分子間相互作用を指す。
【0039】
サイトカイン受容体スイッチ、CAR及びBAT-CARのコンポーネントの文脈において本明細書で使用される場合、「~に由来する」(また、「~に由来する、例えば、~の天然型のものである」とも称される)という用語は、天然遺伝子中のそのコンポーネントの配列と同一の配列の少なくとも一部を有するコンポーネント、例えばIL-2RA受容体と天然に関連するシグナルペプチド(例えば、IL-2RA受容体に対して「天然型の」シグナルペプチド)、及び少なくとも1つの修飾、例えばアミノ酸置換、付加(例えば、いずれか又は両方の末端)又は欠失(例えば、「~に由来する」)の点で天然配列とは異なる、非天然配列を有するコンポーネントを包含するが、ただし、修飾は、コンポーネントがサイトカイン受容体スイッチの一部として行う機能を損なわないことを条件とする。いくつかの実施形態では、タンパク質に由来するサイトカイン受容体スイッチ、CAR、及びBAT-CARのエレメントは、天然遺伝子からの1つ以上の改変を有する天然遺伝子の一部分の配列を含むか、又はある範囲のアミノ酸若しくは核酸について天然遺伝子と同一であり得るが、同一配列の範囲外の改変、置換、又は欠失を有する。
【0040】
本明細書で使用される場合、「十分な濃度」という用語は、合成小分子が使用されている状況において(例えば、インビトロ又はインビボで)、サイトカインスイッチを活性化するのに必要な合成小分子の濃度を指す。
【0041】
サイトカイン受容体スイッチ
本開示の重要な態様は、サイトカイン受容体の天然型のものであるか、又はそれに由来するシグナルペプチド、例えば、合成小分子に特異的に結合する単鎖抗体断片(scFv)と、ヒンジドメインと、膜貫通ドメインと、サイトカイン受容体の細胞内ドメインとを含む、サイトカイン受容体スイッチを対象とする(図1A図1C、及び図1D)。本明細書に記載のサイトカイン受容体スイッチの代表的なコンポーネントのDNA及びアミノ酸配列を表1に記載する。
【0042】
(表1)
【0043】
シグナルペプチドは、新生タンパク質を小胞体に向かわせる。いくつかの実施形態では、サイトカイン受容体スイッチに含まれるシグナルペプチドは、インターロイキン-2受容体アルファ鎖(IL-2RA)、IL-2RB、IL-2RG、IL-4RA、IL-7RA、IL-9R、IL-15RA、若しくはIL-21Rの天然型のものであるか、又はそれらに由来する。いくつかの実施形態では、シグナルペプチドは、CD8の天然型のもの、すなわち、CD8シグナルペプチドである。いくつかの実施形態では、シグナルペプチド及び細胞内ドメインは、同じサイトカイン受容体の天然型のものである。いくつかの実施形態では、シグナルペプチド及び細胞内ドメインは、異なるサイトカイン受容体の天然型のものである。
【0044】
いくつかの実施形態では、シグナルペプチドは、IL-2RAの天然型のものであり、配列番号1の核酸配列及び配列番号2のアミノ酸配列を有する。
【0045】
いくつかの実施形態では、シグナルペプチドは、IL-2RBの天然型のものであり、配列番号3の核酸配列及び配列番号4のアミノ酸配列を有する。
【0046】
いくつかの実施形態では、シグナルペプチドは、IL-2RGの天然型のものであり、配列番号5の核酸配列及び配列番号6のアミノ酸配列を有する。
【0047】
いくつかの実施形態では、シグナルペプチドは、IL-4RAの天然型のものであり、配列番号7の核酸配列及び配列番号8のアミノ酸配列を有する。
【0048】
いくつかの実施形態では、シグナルペプチドは、IL-7RAの天然型のものであり、配列番号9の核酸配列及び配列番号10のアミノ酸配列を有する。
【0049】
いくつかの実施形態では、シグナルペプチドは、IL-9Rの天然型のものであり、配列番号11の核酸配列及び配列番号12のアミノ酸配列を有する。
【0050】
いくつかの実施形態では、シグナルペプチドは、IL-15RAの天然型のものであり、配列番号13の核酸配列及び配列番号14のアミノ酸配列を有する。
【0051】
いくつかの実施形態では、シグナルペプチドは、IL-21Rの天然型のものであり、配列番号15の核酸配列及び配列番号16のアミノ酸配列を有する。
【0052】
scFvは、合成小分子に結合している。本明細書で使用される「合成小分子」という用語は、単官能性であり、サイズが約50~約10,000ダルトン、通常は約50~約5000ダルトン、より通常は約100~約1000ダルトンの範囲である、有機分子又は化合物を指す。
【0053】
合成小分子の代表的な例としては、フルオレセイン及びフルオレセイン誘導体(例えば、FITC、5-カルボキシフルオレセイン、6-カルボキシフルオレセイン、5/6-カルボキシフルオレセイン、NHS-フルオレセイン(5(6)-カルボキシフルオレセインN-ヒドロキシスクシンイミドエステル)、5-(ヨードアセトアミド)フルオレセイン、5-([4,6-ジクロロトリアジン-2-イル]アミノ)フルオレセイン塩酸塩、5-(ブロモメチル)フルオレセイン、及びフルオレセイン5-カルバモイルメチルチオプロパン酸)、4-[(6-メチルピラジン-2-イル)オキシ]ベンゾエート(MPOB)、アントラキノン-2-カルボキシレート(AQ)、及びテトラキセタン(DOTA)が挙げられる。いくつかの実施形態では、合成小分子は、ポリマーであり、ポリマーは、モノポリマー、ヘテロポリマー、又は分岐ポリマーである。ポリマー合成小分子の代表的な例は、約6~約9個のヒスチジン(His)残基を有するポリヒスチジンタグ(Hisタグ)である。例示的な6Hisタグは、約800ダルトンの分子量を有する。
【0054】
いくつかの実施形態では、scFvは、フルオレセイン及びフルオレセイン誘導体、4-[(6-メチルピラジン-2-イル)オキシ]ベンゾエート(MPOB)、アントラキノン-2-カルボキシレート(AQ)、テトラキセタン(DOTA)、ポリヒスチジンタグ(Hisタグ)である合成小分子に結合する。
【0055】
この合成小分子は、実質的に非免疫原性である。いくつかの実施形態では、合成小分子は、非免疫原性であり、その結果、それ単独で動物に注射された場合、その動物に抗体又はそれに対して反応性のT細胞を産生させない。いくつかの実施形態では、合成小分子は、動物においてIgM抗体を生成するが、抗体クラススイッチを引き起こさない。いくつかの実施形態では、合成小分子は、合成小分子が中和されることなく1つ以上のサイトカイン受容体スイッチに依然として結合し得るように、動物において低レベルの抗体を生成する。いくつかの実施形態では、合成小分子は、顕著な免疫応答を生じない。「顕著な免疫」応答は、本開示の教示に従って使用される合成小分子のインビボ有用性を限定又は制限する任意の免疫応答である。
【0056】
フルオレセインに結合するscFvの代表的な例は、配列番号51の核酸配列及び配列番号52のアミノ酸配列を有する。
【0057】
MPOBに結合するscFvの代表的な例は、配列番号53の核酸配列及び配列番号54のアミノ酸配列を有する。
【0058】
AQに結合するscFvの代表的な例は、配列番号55の核酸配列及び配列番号56のアミノ酸配列を有する。
【0059】
DOTAに結合するscFvの代表的な例は、配列番号57の核酸配列及び配列番号58のアミノ酸配列を有する。
【0060】
膜貫通(transmembrane、TM)ドメインは、サイトカイン受容体スイッチが免疫細胞の細胞膜に安定的に固定されることを可能にする。膜貫通ドメインは、サイトカイン受容体スイッチの他のドメインが由来する同じタンパク質又は異なるタンパク質に由来し得る。膜貫通ドメインは、天然由来又は組換え由来に由来し得る。供給源が天然である場合、ドメインは、任意の膜結合タンパク質又は膜貫通タンパク質に由来し得る。
【0061】
いくつかの実施形態では、膜貫通ドメインは、IL-2RA、IL-2RB、IL-2RG、IL-4RA、IL-7RA、IL-9RA、IL-15RA、又はIL-21Rに由来する。
【0062】
いくつかの実施形態では、膜貫通ドメインペプチドは、IL-2RAに由来し、配列番号17の核酸配列及び配列番号18のアミノ酸配列を有する。
【0063】
いくつかの実施形態では、膜貫通ドメインペプチドは、IL-2RBに由来し、配列番号19の核酸配列及び配列番号20のアミノ酸配列を有する。
【0064】
いくつかの実施形態では、膜貫通ドメインペプチドは、IL-2RGに由来し、配列番号21の核酸配列及び配列番号22のアミノ酸配列を有する。
【0065】
いくつかの実施形態では、膜貫通ドメインペプチドは、IL-4RAに由来し、配列番号23の核酸配列及び配列番号24のアミノ酸配列を有する。
【0066】
いくつかの実施形態では、膜貫通ドメインペプチドは、IL-7RAに由来し、配列番号25の核酸配列及び配列番号26のアミノ酸配列を有する。
【0067】
いくつかの実施形態では、膜貫通ドメインペプチドは、IL-9Rに由来し、配列番号27の核酸配列及び配列番号28のアミノ酸配列を有する。
【0068】
いくつかの実施形態では、膜貫通ドメインペプチドは、IL-15RAに由来し、配列番号29の核酸配列及び配列番号30のアミノ酸配列を有する。
【0069】
いくつかの実施形態では、膜貫通ドメインペプチドは、IL-21Rに由来し、配列番号31の核酸配列及び配列番号32のアミノ酸配列を有する。
【0070】
サイトカイン受容体スイッチは、scFvに間接的に連結されている膜貫通ドメインを含むように設計することができる。かかる実施形態では、膜貫通ドメインは、ヒンジドメインを介してscFvに結合している。本明細書で使用される場合、「ヒンジドメイン」という用語は、細胞外結合ドメインを膜貫通ドメインに連結し、細胞外結合ドメインに柔軟性を付与し得るドメインを指す。いくつかの実施形態では、ヒンジドメインは、細胞外ドメインを免疫細胞の原形質膜の近くに配置して、抗体又はその結合断片による認識の可能性を最小限にする。ヒンジドメインは、天然(例えば、ヒトタンパク質由来のヒンジ)又は合成であり得る。ヒンジドメインの供給源としては、ヒトIg(免疫グロブリン)ヒンジ(例えば、IgG4ヒンジ、IgDヒンジ)、及びCD8(例えば、CD8αヒンジ)が挙げられる。
【0071】
いくつかの実施形態では、ヒンジドメインは、表面抗原分類8(CD8)に由来する。
【0072】
いくつかの実施形態では、ヒンジドメインペプチドは、配列番号49の核酸配列及び配列番号50のアミノ酸配列を有する。
【0073】
本明細書で使用される場合、「細胞内ドメイン」という用語は、T細胞などの免疫細胞に、例えば、活性化、増殖、分化、及び/又はサイトカイン分泌などの細胞応答を媒介するシグナルを提供するシグナル伝達部分を指す。いくつかの実施形態では、細胞内ドメインは、IL-2RA、IL-2RB、IL-2RG、IL-4RA、IL-7RA、IL-9RA、IL-15RA、若しくはIL-21Rの天然型のものであるか、又はそれらに由来する。
【0074】
いくつかの実施形態では、細胞内ドメインは、IL-2RAに由来し、配列番号33の核酸配列及び配列番号34のアミノ酸配列を有する。
【0075】
いくつかの実施形態では、細胞内ドメインは、IL-2RBに由来し、配列番号35の核酸配列及び配列番号36のアミノ酸配列を有する。
【0076】
いくつかの実施形態では、膜貫通ドメインペプチドは、IL-2RGに由来し、配列番号37の核酸配列及び配列番号38のアミノ酸配列を有する。
【0077】
いくつかの実施形態では、膜貫通ドメインペプチドは、IL-4RAに由来し、配列番号39の核酸配列及び配列番号40のアミノ酸配列を有する。
【0078】
いくつかの実施形態では、膜貫通ドメインペプチドは、IL-7RAに由来し、配列番号41の核酸配列及び配列番号42のアミノ酸配列を有する。
【0079】
いくつかの実施形態では、膜貫通ドメインペプチドは、IL-9Rに由来し、配列番号43の核酸配列及び配列番号44のアミノ酸配列を有する。
【0080】
いくつかの実施形態では、膜貫通ドメインペプチドは、IL-15RAに由来し、配列番号45の核酸配列及び配列番号46のアミノ酸配列を有する。
【0081】
いくつかの実施形態では、膜貫通ドメインペプチドは、IL-21Rに由来し、配列番号47の核酸配列及び配列番号48のアミノ酸配列を有する。
【0082】
代表的なサイトカイン受容体スイッチには、上記で開示したシグナルペプチド、scFv、膜貫通ドメイン、ヒンジドメイン及び細胞内ドメインの配列の組み合わせが含まれる。
【0083】
いくつかの実施形態では、サイトカイン受容体スイッチは、IL-2RBシグナルペプチド、抗小分子scFv、CD8ヒンジ、IL-2RB膜貫通ドメイン、及びIL-2RB細胞内ドメインを含む。いくつかの実施形態では、サイトカイン受容体スイッチは、IL-2RGシグナルペプチド、抗小分子scFv、CD8ヒンジ、IL-2RG膜貫通ドメイン、IL-2RG細胞内ドメインを含む。いくつかの実施形態では、サイトカイン受容体スイッチは、IL-7RAシグナルペプチド、抗小分子scFv、CD8ヒンジ、IL-7RA膜貫通ドメイン、及びIL-7RA細胞内ドメインを含む。いくつかの実施形態では、サイトカイン受容体スイッチは、IL-15RAシグナルペプチド、抗小分子scFv、CD8ヒンジ、IL-15RA膜貫通ドメイン、及びIL-15RA細胞内ドメインを含む。
【0084】
いくつかの実施形態では、本開示のサイトカイン受容体スイッチは、抗フルオレセイン-IL2-RAサイトカイン受容体スイッチであり、以下のアミノ酸配列(配列番号59)を有する:
【0085】
本発明のサイトカイン受容体スイッチをコードする核酸を含む免疫細胞
いくつかの態様では、本開示は、サイトカイン受容体スイッチをコードする少なくとも1つの核酸を含む免疫細胞を含む組成物に関する。本開示において有用な免疫細胞は、哺乳動物、好ましくは霊長類の免疫細胞、例えばサル及びヒト由来の免疫細胞である。いくつかの実施形態では、免疫細胞は、T細胞である。いくつかの実施形態では、免疫細胞は、NK細胞である。いくつかの実施形態では、免疫細胞は、レシピエント対象と同種異系であり(同じ種に由来するが、異なるドナーに由来する)、いくつかの実施形態では、免疫細胞は、自己由来であり(ドナー及びレシピエントは同じである)、いくつかの実施形態では、免疫細胞は、同系である(ドナー及びレシピエントは異なるが、一卵性双生児である)。ナチュラルキラー(NK)細胞は、養子がん免疫療法のための重要なエフェクター細胞型である。T細胞と同様に、いくつかの実施形態では、本開示において有用なNK細胞は、同種異系、自己、又は同系である。例えば、いくつかの実施形態では、T細胞は、CD8又はCD4T細胞である。いくつかの実施形態では、NK細胞は、CD56dimCD16NK細胞である。いくつかの実施形態では、NK細胞は、CD56brightCD16NK細胞である。いくつかの実施態様において、NK細胞は、初代NK細胞、メモリー様NK細胞、又は誘導メモリー様NK細胞である。組成物は、核酸によってコードされる同じ又は異なるサイトカイン受容体スイッチを含む2つ以上のタイプの免疫細胞の組み合わせを含み得る。
【0086】
いくつかの実施形態では、組成物は、配列番号59のアミノ酸配列を有する抗フルオレセイン-IL2-RAサイトカイン受容体スイッチをコードする核酸を含む免疫細胞を含む。
【0087】
いくつかの実施形態では、免疫細胞は、少なくとも2つのサイトカイン受容体スイッチをコードする少なくとも2つの核酸を含み、それぞれのシグナルペプチド、膜貫通ドメイン、及び細胞内ドメインのうちの少なくとも1つは異なる。
【0088】
例えば、いくつかの実施形態では、少なくとも2つのサイトカイン受容体スイッチは、異なるscFvを含む。
【0089】
いくつかの実施形態では、免疫細胞は、少なくとも2つのサイトカイン受容体スイッチをコードする少なくとも2つの核酸を含み、核酸は、
IL-2RGシグナルペプチド、抗小分子scFv、CD8ヒンジ、IL-2RG膜貫通ドメイン、IL-2RG細胞内ドメインを含む第1のサイトカインスイッチと、
IL-7RAシグナルペプチド、抗小分子scFv、CD8ヒンジ、IL-7RA膜貫通ドメイン、及びIL-7RA細胞内ドメインを含む第2のサイトカインスイッチと
をコードする。
【0090】
いくつかの実施形態では、免疫細胞は、少なくとも3つのサイトカイン受容体スイッチをコードする少なくとも3つの核酸を含み、それぞれのシグナルペプチド、膜貫通ドメイン、及び細胞内ドメインのうちの少なくとも1つは異なる。
【0091】
いくつかの実施形態では、免疫細胞は、
IL-2RBシグナルペプチド、抗小分子scFv、CD8ヒンジ、IL-2RB膜貫通ドメイン、及びIL-2RB細胞内ドメインを含む第1のサイトカインスイッチ、
IL-2RGシグナルペプチド、抗小分子scFv、CD8ヒンジ、IL-2RG膜貫通ドメイン、及びIL-2RG細胞内ドメインを含む第2のサイトカインスイッチ、並びに、
IL-15RAシグナルペプチド、抗小分子scFv、CD8ヒンジ、IL-15RA膜貫通ドメイン、及びIL-15RA細胞内ドメインを含む第3のサイトカインスイッチ
を含む少なくとも3つのサイトカイン受容体スイッチをコードする少なくとも3つの核酸を含む。
【0092】
いくつかの実施形態では、免疫細胞は、人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell、iPSC)、臍帯血、又は末梢血単核細胞(peripheral blood mononuclear cell、PBMC)に由来する。iPSCの前駆体採取、生成、及び維持は、当技術分野において既知である。例えば、米国特許第9,260,696号、同第10,214,722号、同第10,428,309号、同第10,844,356号、及び同第11,193,108号を参照のこと。iPSCと同様に、臍帯血から幹細胞を採取、生成、及び維持するための方法も、当技術分野において既知である。米国特許第6,338,942号、同第7,311,905号、同第8,889,411号及び同第9,260,696号を参照のこと。同様に、PBMCから免疫細胞を採取、生成、及び維持するための方法も、当技術分野において既知である。米国特許第9,476,028号、同第11,162,072号、同第11,229,689号及び米国特許公開第2017/0051252号を参照のこと。T細胞及びNK細胞を前駆細胞、多能性細胞又は幹細胞から所望の細胞サブセットに分化及び単離するための方法は、当技術分野において既知である。
【0093】
キメラ抗原受容体(CAR)-免疫細胞
いくつかの実施形態では、免疫細胞は、キメラ抗原受容体(CAR)-免疫細胞(例えば、CAR-T細胞)であり、細胞表面抗原に対するCARも含有する(図1B図4)。
【0094】
本明細書で使用される「キメラ抗原受容体」(CAR)という用語は、疾患又は障害に関連する細胞抗原(「細胞関連抗原」)に結合しかつスペーサードメインを介してT細胞の細胞内ドメインに連結される、抗体若しくはその結合断片、ナノボディ又は他のタンパク質配列を含む細胞外結合ドメインを含む、合成的に設計された受容体を指す。スペーサードメインは、膜貫通ドメインを含み、いくつかの実施形態ではヒンジドメインを含む。
【0095】
細胞外結合ドメイン
本明細書で使用される場合、細胞外結合ドメインは、標的抗原、すなわち腫瘍関連抗原などの細胞表面抗原に特異的に結合する部分である。細胞外結合ドメインは、タンパク質、ポリペプチド、オリゴペプチド、又はペプチドを含み得る。細胞外結合ドメインは、天然に存在するもの、合成、半合成、又は組換え産生されたものであってもよい。
【0096】
いくつかの実施形態では、細胞外結合ドメインは、腫瘍細胞上の細胞関連抗原(「腫瘍関連抗原」(tumor associated antigen、TAA))に結合する。
【0097】
いくつかの実施形態では、CARの細胞外結合ドメインは、抗体の一本鎖可変断片(scFv)である(上で定義したとおり)。
【0098】
CARのコンポーネントとして有用であり得る、細胞関連抗原に対する特異性を有する他のタイプの抗体断片としては、Fv、Fab、及び(Fab)断片が含まれる。例えば、米国特許第4,946,788号を参照。
【0099】
かかる細胞外結合ドメインの代表例を表2に示す。
【0100】
(表2)
【0101】
脳のがんの治療を伴ういくつかの実施形態では、例えば、標的指向リガンドは、脳腫瘍関連抗原に結合する。例えば、GBM細胞上に存在する腫瘍関連抗原としては、ACVR1、EGFRvIII、IL13Rα2及びHER2が挙げられる。例えば、EGFRvIII、IL13Rα2及びHER2を同時に標的とする多重化アプローチを使用して脳のがんを治療することができる。脳のがんに関与しており、本開示の二官能性化合物によって標的化され得る他のタンパク質としては、EphA2、CSPG4、GD2、PDGFRα及びGRP78が挙げられる。脳腫瘍関連抗原に結合する抗体及び/又はその機能的断片は、当技術分野において既知である。例えば、とりわけ、ACVR1、PDGFRα、GD2及びEphA2に結合する抗体及び/又はその断片を記載する上記表1を参照。PDGFRαに結合する標的指向部分は、オララツマブ(及びその結合変異体)に基づくscFvを含み得る。
【0102】
いくつかの実施形態では、標的指向リガンドは、乳がん、肺がん、結腸直腸がん、脳腫瘍、卵巣がん、及び膵臓がんなどのHER2悪性腫瘍上のHER2に結合する。HERに結合し、本開示において有用であり得る代表的な標的指向リガンドとしては、それぞれ、HERの細胞外ドメインIV及びIIに結合するトラスツズマブ及びペルツズマブ、並びにそれらのHER結合断片(例えば、scFv)が挙げられる。
【0103】
EGFRvIIIに結合する抗体断片は、O’Rourke,et al.,Sci.Transl.Med.9(399):eaaa0984-30(2017)に記載されている。EGFRvIIIに結合する他の抗体又はその断片は、市販のシルツキシマブ及びmAb DH8.3(Novus Biologicals)である。本開示において有用であり得る、EGFRvIIIを標的とするscFvをコードするアミノ酸又は遺伝子配列の更なる代表例は、米国特許出願公開第2015/0259423号に記載されている。
【0104】
IL13Rα2に結合する抗体断片は、Brown,et al.,N.Engl.J.Med.375(26):2561-2569(2016)に記載されている。IL13Rα2に結合する他の抗体又はその断片は、Abnova及びMilliporeから市販されている。
【0105】
HER2に結合する抗体断片は、Ahmed,et al.,JAMA Oncol.3(8):1049-1101(2017)に記載されている。トラスツズマブ及びFRP5を含む、HER2に結合する他の抗体又はその断片が、市販されている。本開示において有用であり得る、HER2を標的とするscFvをコードするアミノ酸又は遺伝子配列の更なる代表例は、米国特許出願公開第2011/0313137号に記載されている。
【0106】
EphA2に結合する抗体断片の別の例は、Chow,et al.,Mol.Ther.21(3):629-637(2013)に記載されている。EphA2に結合する更に他の抗体又はその断片は、Thermo Fisher(mAb4H5及びmAb 1C11A12)及びRND Systemsから市販されている。本開示において有用であり得る、EphA2を標的とするscFvをコードするアミノ酸又は遺伝子配列の更なる代表例は、米国特許出願公開第2010/436783号に記載されている。
【0107】
CSPG4に結合する抗体断片は、Pellegatta,et al.,Sci.Transl.Med.,10:eaao2731-33(2018)に記載されている。CSPG4に結合する別の抗体は、Fenton et al.,Oncol.Res.22(2):117-21(2015)に記載されている。CSPG4に結合する他の抗体又はその断片は、市販のベバシズマブ及びCreative Biolabs mAb225.28である。CSPG4に結合する更に他の抗体又はその断片は、Aviva Systems Biologyから市販されている。本開示において有用であり得る、CSPG4を標的とするscFvをコードするアミノ酸又は遺伝子配列の更なる代表例は、米国特許第9,801,928号及び米国特許出願公開第2019/0008940号に記載されている。
【0108】
GD2に結合する抗体断片の別の例は、Mount et al.,Nat.Med.24,572-579(2018)に記載されている。GD2に結合する他の抗体又はその断片としては、ジヌツキシマブ、mAb 3F8、mAb 14g2a、及びmAb 14.18が挙げられる。本開示において有用であり得る、GD2を標的とするscFvをコードするアミノ酸又は遺伝子配列の更なる代表例は、米国特許第4,675,287号に記載されている。
【0109】
PDGFRαに結合する抗体断片の別の例は、Brennan et al.,PLoS One,4(11):e7752-10(2009)に記載されている。PDGFRαに結合する他の抗体又はその断片は、Abcam、LifeSpan Bio、Santa Cruz(sc-338)及びThermo Fisher(mAb APA5)から市販されている。本開示において有用であり得る、PDGFRαを標的とするscFvをコードするアミノ酸又は遺伝子配列の更なる代表例は、米国特許出願公開第2012/0027767号に記載されている。
【0110】
GRP78に結合する抗体断片は、Kang et al.,Sci.Rep.6,34922-7(2016)に記載されている。GRP78に結合する他の抗体又はその断片は、Thermo Fisher(PA1-014A)及びAbcam(N-20)から市販されている。本開示において有用であり得る、GRP78を標的とするscFvをコードするアミノ酸又は遺伝子配列の更なる代表例は、米国特許第10,259,884号に記載されている。
【0111】
脳のがんに関与しており、本開示の二官能性化合物によって標的化され得る他のタンパク質としては、神経細胞接着分子(neural cell adhesion molecule、NCAM)、表面抗原分類276(cluster of differentiation 276、CD276)、及び神経外胚葉幹細胞マーカー(ネスチン)が挙げられる。
【0112】
NCAMに結合する抗体は、Modak et al.,Cancer Res.61,4048-4054(2001)に記載されている。NCAMに結合する他の抗体又はその断片は、mAb UJ13A及びmAb ERIC-1である。本開示において有用であり得る、NCAMを標的とするscFvをコードするアミノ酸又は遺伝子配列の更なる代表例は、米国特許第7,402,560号に記載されている。
【0113】
ネスチンに結合する抗体又はその断片は、Abcam(ab6142)及びNovus Biologicals(NB100-1604)から市販されている。βIII-チューブリンに結合する抗体又はその断片は、Abcam(2G10)及びRND Systems(mAB1195)から市販されている。
【0114】
CS-1に結合する抗体断片の別の例は、Chu et al.,Blood,122:14(2013)に記載されている。CS-1に結合する他の抗体又はその断片は市販されており、REA150(Miltenyi)又は162.1(Biolegend)が挙げられる。本開示において有用であり得る、CS-1を標的とするscFvをコードするアミノ酸又は遺伝子配列の更なる代表例は、国際公開第2004/100898(A2)号に記載されている。
【0115】
BCMAに結合する抗体断片の別の例は、Raje et al.,N.Engl.J.Med.380(18):1726-1737(2019)に記載されている。BCMAに結合する他の抗体又はその断片は市販されており、REA315(Miltenyi)、J6M0(Abeomics)(ベランタマブコンジュゲーション組成物に含まれる抗BCMA)、及び19F2(Biolegend)が挙げられる。本開示において有用であり得る、BCMAを標的とするscFvをコードするアミノ酸又は遺伝子配列の更なる代表例は、国際公開第2010/104949(A2)号及び国際公開第2003/014294(A2)号に記載されている。
【0116】
いくつかの実施形態では、細胞表面抗原は、CD19、B細胞成熟抗原(BCMA)、ヒト上皮成長因子受容体2(HER2)、上皮成長因子受容体(EGFR)、CD38、CS1(SLAMファミリーメンバー7(SLAM family member 7、SLAMF7))、Gタンパク質共役受容体クラスCグループ5メンバーD(G Protein-Coupled Receptor Class C Group 5 Member D、GPRC5D)、又はTNFRSF13B(TACI)である。
【0117】
膜貫通(TM)ドメインは、CARが免疫細胞の細胞膜に安定的に固定されることを可能にする。膜貫通ドメインは、CARの他のドメインが由来する同じタンパク質又は異なるタンパク質に由来してもよい。膜貫通ドメインは、天然由来又は組換え由来に由来し得る。供給源が天然である場合、ドメインは、任意の膜結合タンパク質又は膜貫通タンパク質に由来し得る。本開示において有用であり得る膜貫通ドメインの代表的な例としては、CD28、CD27、CD3イプシロン、CD45、CD4、CD5、CD8、CD9、CD16、CD22、CD33、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137、CD154の膜貫通領域が挙げられる。
【0118】
CARは、細胞外結合ドメインに間接的に連結されている膜貫通ドメインを含むように設計することができる。かかる実施形態では、膜貫通ドメインは、ヒンジドメインを介してCARの細胞外領域に結合している。本明細書で使用される場合、「ヒンジドメイン」という用語は、細胞外結合ドメインを膜貫通ドメインに連結し、細胞外結合ドメインに柔軟性を付与し得るドメインを指す。いくつかの実施形態では、ヒンジドメインは、細胞外ドメインを免疫細胞の原形質膜の近くに配置して、抗体又はその結合断片による認識の可能性を最小限にする。ヒンジドメインは、天然(例えば、ヒトタンパク質由来のヒンジ)又は合成であり得る。ヒンジドメインの供給源としては、ヒトIg(免疫グロブリン)ヒンジ(例えば、IgG4ヒンジ、IgDヒンジ)、及びCD8(例えば、CD8αヒンジ)が挙げられる。
【0119】
いくつかの実施形態では、ヒンジドメインは、表面抗原分類8(CD8)、例えば配列番号50に由来する。
【0120】
細胞内シグナル伝達ドメインは、標的細胞上の細胞関連抗原へのCAR(例えば、第2世代、第3世代、操作されたT細胞受容体(T cell receptor、TCR))の結合時に免疫細胞活性化を補助する。かかるドメインは当技術分野で既知であり、一般に第2、第3及び第4世代CAR並びに操作されたT細胞受容体(TCR)と称される。細胞内シグナル伝達ドメインは一般に、CARが導入されている免疫細胞の正常なエフェクター機能の少なくとも1つを活性化する役割を担っている。細胞内シグナル伝達ドメインの例としては、TCRの細胞質配列及び抗原受容体結合後にシグナル伝達を開始するように協力して作用する共受容体が挙げられる。当技術分野で知られているように、TCR単独を介して生成されるシグナルは、T細胞の完全な活性化には不十分であり、したがって、二次又は共刺激シグナルも必要とされる。したがって、T細胞活性化は、2つの異なるクラスの細胞質シグナル伝達配列、すなわち、TCRを介して抗原依存的一次活性化を開始するもの(すなわち、一次細胞内シグナル伝達ドメイン)及び、抗原非依存的に作用して二次シグナル又は共刺激シグナルを提供するもの(すなわち、二次細胞質ドメイン又は共刺激ドメイン)によって媒介される。一次シグナル伝達ドメインは、刺激的に又は阻害的にのいずれかでTCR複合体の一次活性化を調節する。刺激的に作用する一次細胞内シグナル伝達ドメインは、免疫受容体チロシン活性化モチーフ(immunoreceptor tyrosine-based activation motif、ITAM)として知られるシグナル伝達モチーフを含有し得る。本開示における使用に好適であり得るITAM含有一次細胞内シグナル伝達ドメインの代表的な例としては、CD3ζ、一般的なFcRγ(FCER1G)、Fc-γRIIa、FcR-β(Fc-εR1b)、CD3γ、CD3δ、及びCD3εのものが挙げられる。いくつかの実施形態では、CARは、CD3ζの一次シグナル伝達ドメインを含有する細胞内シグナル伝達ドメインを含む。
【0121】
CARの細胞内シグナル伝達ドメインはまた、少なくとも1つの他の細胞内シグナル伝達又は共刺激ドメインを含み得る。共刺激分子は、効率的なリンパ球の抗原への応答に必要な、抗原受容体又はそのリガンド以外の細胞表面分子である。本開示のCARにおいて有用であり得る共刺激ドメインの代表的な例としては、CD27、CD28、4-1BB(CD137)、OX40、CD30、CD40、PD-1、ICOS、HVEM(LIGHTR)、リンパ球機能関連抗原-1(lymphocyte function-associated antigen-1、LFA-1)、CD2、CD7、LIGHT、NKG2C、及びB7-H3が挙げられる。例えば、CD27共刺激は、ヒトCAR T細胞のインビトロの増殖、エフェクター機能、及び生存を増強し、ヒトT細胞の持続性及び抗腫瘍活性をインビボで増大させることが実証されている(Song,et al.,Blood 119(3):696-706(2012)を参照)。
【0122】
細胞内シグナル伝達ドメインは、1つ以上、例えば、1、2、3、4、5、又はそれ以上、の共刺激シグナル伝達ドメインを含むように設計することができ、これらは、指定された順序又はランダムな順序で、任意選択でリンカー分子を介して互いに連結することができる。長さが約1~10アミノ酸であるポリペプチドリンカーは、連続した細胞内シグナル伝達配列を連結し得る。かかるリンカーの例としては、Gly-Serなどのダブレット、並びに単一アミノ酸、例えばAla及びGlyが挙げられる。T細胞活性化ドメインを構成し得る組み合わせは、T細胞の生存及び増殖を増強するように働くCD28、CD137(4-1BB)、OX40及びHVEMの細胞質領域、並びにT細胞活性化を誘導するCD3、CD3ζ及びFcRεに基づき得る。例えば、3つのITAMを含有するCD3ζは、CARの最も一般的に使用される細胞内ドメインコンポーネントであり、抗原が結合した後にT細胞に活性化シグナルを伝達する。しかしながら、更なる共刺激シグナル伝達を提供するために、CAR免疫細胞が増殖/生存シグナルを伝達することを可能にするCD28及びOX40ドメインをCD3ζと共に使用することができる。
【0123】
本開示において使用され得るCAR及びそれらを作製する方法は、当技術分野において既知であり、例えば、米国特許出願公開第2018/0169109号に記載されており、これらの各々は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。有用であり得る更なるCARは、FDAによって承認されており、チサゲンレクルユーセル(キムリア(商標))、アキシカブタゲンシロロイセル(イエスカルタ(商標))、イデカブタゲンビクルユーセル(アベクマ(登録商標))、及びリソカブタゲンマラルユーセル(ブレヤンジ(登録商標))、ブレクスカブタゲンオートルーセル(テカルタス)、及びシルタカブタジンオートルーセル(カービクティ)が挙げられる。
【0124】
例示的なサイトカイン受容体スイッチ及びCAR構築物を以下の表3に示す。
【0125】
(表3)サイトカイン受容体スイッチ及びCAR構築物
CD19-、BCMA-、HER2-、及びEGFR-CARを含むCAR。
【0126】
表3は、免疫細胞中に存在し得る、同じ又は異なるscFvを有するCAR及びサイトカイン受容体スイッチの例示的な組み合わせを例解する。
【0127】
BAT-CAR
いくつかの実施形態では、免疫細胞は、キメラ抗原受容体(BAT-CAR)をコードする核酸を含むバイナリー活性化T細胞である。BAT-CARは、設計、及び各スペーサードメイン(例えば、膜貫通ドメイン、及び細胞内ドメイン)に関してCARと実質的に同一である。しかしながら、腫瘍関連抗原などの細胞関連抗原に直接結合するように操作されているCAR T細胞とは対照的に、BAT-CAR細胞は、正常細胞又はがん細胞上に存在しない合成抗原(マスクされたプロ抗原、又はマスクされていないもの、であり得る)に結合する。合成抗原は、送達され、そして細胞関連抗原に結合する抗体又はその断片とのコンジュゲートの形態で細胞関連抗原に付着される。BAT-CAR細胞は、異なる細胞関連抗原に結合する抗体又は断片を含有する単一のコンジュゲート又は複数のコンジュゲートと共に対象に投与することができる。腫瘍細胞標的化と腫瘍細胞殺傷とを分けることによって、(合成抗原又はマスクされていないプロ抗原に対する)単一の特異性を有するCAR T細胞は、複数の腫瘍関連抗原を同時に標的指向することができる。したがって、BAT-CAR免疫細胞の設計は、細胞外結合ドメインに関して、それだけではないが、主にCAR免疫細胞とは異なっている。
【0128】
BAT-CARの細胞外ドメインは、典型的には、アミノ末端に存在し、免疫細胞の表面上に提示される。その特異性を除いて、BAT-CARの細胞外ドメインは、典型的には、抗体又はその抗原結合断片、例えばscFvである。
【0129】
合成抗原の代表的な例としては、フルオレセイン及びフルオレセイン誘導体(例えば、FITC)が挙げられる。フルオレセイン及びFITCに結合する細胞外結合ドメインの代表的な例は、(サイトカイン受容体スイッチ自体に関連して)上記のとおりである。BAT-CARにおいて細胞外結合ドメインとして有用であり得る他の結合部分の代表的な例は、例えば4M5.3 ScFv(Midelfort et al.J.Mol.Biol.343:685-701(2004)に開示)及び2D12.5、2D12.5ds、又はC8.2.5(Orcutt et al.Nucl.Med.38(2):223-233(2011)に開示)である。マスクされたプロ抗原の代表的な例は、当技術分野で既知であり、例えば、国際公開第2017/143094号、国際公開第2018/200713号、国際公開第2019/236522号、及び国際公開第2020/006312号、これらの各々は参照により本明細書に組み込まれる。
【0130】
マスクされたプロ抗原及びBAT-CARの代表例は、マスクされたフルオレセインプロ抗原及びフルオレセインに対する特異性を有するBAT-CARである。刺激(例えばUV光)は、マスクされたフルオレセイン分子をアンマスクし、それによってフルオレセイン特異的BAT-CARを発現する細胞を活性化する。例えば、Kobayashi et al.,ChemMedChem17:e202100722-5(2022)を参照されたい。いくつかの実施形態では、合成抗原は、1つ以上の5-カルボキシメトキシ-2-ニトロベンジル(CMNB)ケージング基の付加によってマスクされる。
【0131】
本開示において使用され得るBAT-CAR及びそれらを作製する方法は、当技術分野において既知であり、例えば、国際公開第2017/143094号、国際公開第2018/200713号、国際公開第2019/236522号、及び国際公開第2020/006312号に記載されており、これらの各々は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0132】
BAT-CAR抗FL CAR-CD28-4-1BB-CD3ζをコードするポリヌクレオチドの代表的な例は、配列番号60として指定される配列を有する:
【0133】
サイトカイン受容体スイッチをコードするポリヌクレオチドの免疫細胞への導入
T細胞などの免疫細胞は、既知の技術に従って、発現サイトカイン受容体スイッチをコードする核酸を含むように操作することができる。一般に、サイトカイン受容体スイッチをコードするポリヌクレオチドベクターが構築され、このベクターが免疫細胞集団に導入される(例えば、トランスフェクトされる、又は形質導入される)。次いで、細胞を、サイトカイン受容体スイッチをコードするポリヌクレオチドの発現を促進する条件下で増殖させる。首尾よいトランスフェクション(又はウイルス媒介遺伝子組み込みを指す形質導入)及びサイトカイン受容体スイッチの提示は、標準的な技術を介して行うことができる。いくつかの実施形態では、免疫細胞は、選択されたサイトカイン受容体スイッチをコードするレトロウイルスベクターを最初に構築することによって、サイトカイン受容体スイッチを産生するように操作され得る。レトロウイルス形質導入は、既知の技術を使用して実施され得る(例えば、Johnson,et al.,Blood 114:535-546(2009))。トランスフェクトされた免疫細胞上のサイトカイン受容体スイッチの表面発現は、例えば、フローサイトメトリーによって測定することができる。
【0134】
サイトカイン受容体スイッチをコードする発現ベクターは、1つ以上のDNA分子又は構築物として導入され得、そこに、構築物を含む宿主細胞の選択を可能にする少なくとも1つのマーカーが存在してもよい。
【0135】
DNA構築物は、標的細胞又は組織への導入(すなわち、トランスフェクション又は形質導入)のための核酸の人工的に構築されたセグメントである。本明細書で使用される「核酸」という用語は、ヌクレオチドのポリマーを指し、その各々は、ヌクレオシド(核酸塩基及び五炭糖)及びリン酸からなる有機分子である。ヌクレオチドという用語には、特に明記されない限り、又は文脈から明らかでない限り、リボース糖(すなわち、リボ核酸、RNAを形成するリボヌクレオチド)、又は2’-デオキシリボース糖(すなわち、デオキシリボ核酸、DNAを形成するデオキシリボヌクレオチド)を有するヌクレオシドが含まれる。ヌクレオチドは、核酸ポリマー又はポリヌクレオチドのモノマー単位として働く。DNA中の4つの核酸塩基は、グアニン(G)、アデニン(A)、シトシン(C)及びチミン(T)である。RNA中の4つの核酸塩基は、グアニン(G)、アデニン(A)、シトシン(C)及びウラシル(U)である。核酸は、1つのヌクレオチドのホスホリル基と、隣接するヌクレオチド中の糖(すなわち、リボース又は2’-デオキシリボース)のヒドロキシル基との間の一連のエステル結合によって化学的に結合されたヌクレオチドの直鎖(例えば、少なくとも3つのヌクレオチド)である。
【0136】
核酸は、少なくともサイトカイン受容体スイッチタンパク質をコードする。用語「タンパク質」及び「ポリペプチド」は、本明細書中で使用される場合、アミド結合によって連結された一連のアミノ酸(代表的には、少なくとも10アミノ酸長以上)を指す。タンパク質は、通常、生物由来であるが、これに限定されず、例えば、人工的に設計された配列から構成されていてもよい。また、天然由来のタンパク質、合成タンパク質又は組換えタンパク質のいずれであってもよい。
【0137】
サイトカイン受容体スイッチの個々のコンポーネントを所望の順序でライゲーションし、適切なクローニング宿主にクローニングし、制限酵素若しくは配列決定によって解析するか又は他の便利な手段で解析し得る従来の方式で、構築物を調製することができる。特に、PCRを使用すると、機能単位の全部又は部分を含む個々の断片を単離することができ、「プライマー修復」、ライゲーション、インビトロ変異誘発などを適宜使用して、1つ以上の変異を導入することができる。一旦完成し、適切な配列を有することが実証された構築物は、次いで、好適なベクターにパッケージングされ得、次いで、このベクターは、任意の簡便な手段によって免疫細胞(すなわち、T細胞)に導入される。有用なエレメント、例えば、細菌又は酵母の複製起点、選択可能及び/又は増幅可能なマーカー(例えば、ヒポキサンチン-グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(phosphoribosyltransferase、hprt)、ネオマイシン耐性、チミジンキナーゼ、ハイグロマイシン耐性など)、原核生物又は真核生物における発現のためのプロモーター/エンハンサーエレメント、核酸配列の挿入のための1つ以上の好適な部位、例えば、マルチクローニング部位(multiple cloning site、MCS)などを含む、構築物DNAのストックを調製するため及びトランスフェクションを実施するために使用され得るベクターは、当該分野で周知であり、多くが市販されている。
【0138】
細胞への感染や形質導入のために、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(Adeno-associated virus、AAV)、単純ヘルペスウイルス(Herpes simplex virus、HSV)などの非複製型の欠陥ウイルスゲノムへと、又はレトロウイルスベクターやレンチウイルスベクターを含む他のものへと、構築物が組み込まれかつパッケージ化されてもよい。構築物は、必要に応じて、トランスフェクションのためのウイルス配列を含み得る。代替的に、構築物は、融合、エレクトロポレーション、バイオリスティック法、トランスフェクション、リポフェクションなどによって導入されてもよい。宿主免疫細胞を構築物を導入する前に培養物中で増殖及び増大(expand)させ、その後、構築物を導入し、構築物を組み込むための適切な処理を行うことができる。次に、細胞を増大させ、構築物中に存在するマーカーによってスクリーニングする。
【0139】
いくつかの例では、構築物が特定の遺伝子座に組み込まれることが望まれる場合、構築物は、相同組換えのための標的部位を有するように操作され得る。例えば、内因性遺伝子をノックアウトし、相同組換えについて当技術分野で知られている材料及び方法を使用して、それを(同じ遺伝子座又は他の場所で)構築物によってコードされる遺伝子で置き換えることができる。相同組換えのために、OMEGA又はO-ベクターのいずれかを使用することができる。例えば、Thomas and Capecchi,Cell 51:503-512(1987)、Mansour et al.,Nature 336:348-352(1988)、及びJoyner et al.,Nature 338:153-156(1989)を参照のこと。
【0140】
いくつかの実施形態では、ベクターは、レンチウイルスベクター又は組換えレンチウイルスベクターである。いくつかの実施形態では、発現ベクターは、非組込み型かつ非複製型の組換えレンチウイルスベクターである。例示的なレンチウイルスベクターとしては、例えば、Oxford BioMedicaからのLentiVector及びLentiStable、GibcoからのLV-Maxなどが挙げられる。レンチウイルスベクターの構築は、例えば、米国特許第5,665,577号、同第5,981,276号、同第6,013,516号、同第7,090,837号、同第8,119,119号及び同第10,954,530号に記載されている。
【0141】
製剤及び使用方法
サイトカイン受容体スイッチ含有免疫細胞を含有する製剤
本発明の免疫細胞は、薬学的に受容可能なビヒクル又は担体中に製剤化され得、その選択及び量は、投与の様式に依存して決定され得る。製剤の治療有効量は、製剤の全体積中の細胞の濃度に依存し得る。対象に投与される本発明の免疫細胞の数は、例えば、がんの位置、タイプ、及び重症度、並びに治療される個体の年齢及び状態を含む様々な要因に依存して、広い範囲で変動し得、治療する医師の技術レベルの範囲内である。一般に、製剤は、約1×10~約1×1010個の本発明の免疫細胞を含有する。いくつかの実施形態では、製剤は、約1×10~約1×10個の本発明の免疫細胞、約5×10~約5×10個の本発明の免疫細胞、又は約1×10~約1×10個の本発明の免疫細胞を含有する。例えば、その全体が参照により本明細書に組み込まれる国際公開第2020/006312号を参照されたい。
【0142】
本発明の免疫細胞の製剤は、許容される医療行為に従って、それを必要とする対象に投与することができる。例示的な投与様式は静脈内注射である。他の投与様式には、腫瘍内、皮内、皮下(s.c.、s.q.、sub-Q、Hypo)、筋肉内(i.m.)、腹腔内(i.p.)、動脈内、髄内、心臓内、関節内(関節)、滑液内(関節液領域)、頭蓋内(対流増強送達を含む)、脊髄内、及び髄腔内(髄液)が含まれ得る。製剤の非経口注射又は注入に有用な任意の既知のデバイスを使用して、かかる投与様式に影響を及ぼすことができる。代表的なビヒクル及び担体としては、中性緩衝化生理食塩水、リン酸緩衝化生理食塩水などの緩衝液が挙げられる。組成物は、1つ以上の薬学的に許容される賦形剤を更に含んでもよい。かかる賦形剤の例としては、グルコース、マンノース、スクロース又はデキストラン、マンニトールなどの炭水化物、タンパク質、ポリペプチド又はアミノ酸、例えばグリシン、抗酸化剤、キレート剤、例えばEDTA又はグルタチオン、アジュバント、例えば、水酸化アルミニウム、及び防腐剤が挙げられる。
【0143】
合成小分子を含有する製剤
本発明の免疫細胞をインビボで刺激するために、治療有効量の合成小分子を、それを必要とする対象に、許容される医療行為に従って投与することができる。合成小分子は、薬学的に許容されるビヒクル又は担体中に製剤化することができ、その選択及び量は、投与様式に応じて決定することができる。例示的な投与様式は静脈内注射である。他の様式としては、腫瘍内、皮内、皮下(s.c.、s.q.、sub-Q、Hypo)、i.m.、i.p.、動脈内、髄内、心臓内、関節内、滑液嚢内、頭蓋内、髄腔内、及びくも膜下腔内が挙げられる。製剤の非経口注射又は注入に有用な任意の既知のデバイスを使用して、合成小分子の投与を行うことができる。薬学的に受容可能なビヒクル又は担体の代表的な例は、血清アルブミン(例えば、ヒト血清アルブミン)、デキストラン、及び抗体である。
【0144】
一般に、合成小分子の量は、組成物の総体積に基づいて0.1~1000μg/mLの範囲である。いくつかの実施形態では、合成小分子の量は、組成物の総体積に基づいて約0.1~100μg/mLの範囲である。小分子の総量は、ビヒクル又は担体に応じて異なり得る。例えば、インビボ注射の場合、注射された小分子の全てが腫瘍に送達され得るわけではないので、有効用量はエクスビボより高くてもよい。
【0145】
本発明のサイトカイン受容体スイッチを発現する免疫細胞を刺激するための方法
広義には、本発明の方法は、免疫細胞を、十分な濃度の合成小分子で処理又はそれと接触させることを必要とする。
【0146】
いくつかの実施形態では、本方法はエクスビボで行われる。サイトカイン受容体スイッチをコードする外因性核酸を含有する免疫細胞を、好適な容器、好適な培地に入れ、培地の総体積に基づいて、例えば0.1~1000μg/mLの量で、合成小分子と接触させる。いくつかの実施形態では、合成小分子の量は、培地の総体積に基づいて約0.1~100μg/mLの範囲である。本方法の実施において使用され得る好適な培地の代表的な例としては、RPMI-1640(Gibco(商標))及びX-VIVO(商標)15(BioWhittaker(商標))が挙げられる。
【0147】
接触(本明細書では「処理」又は「処理すること」又は「刺激すること」とも称される)の持続期間は、数時間、数日及び数週間(例えば、1、2、3、4週間以上)ほどであり得る。いくつかの実施形態では、接触は、高親和性プレート、ディッシュ、又はフラスコ中で行われ得、低分子は、容器の表面に固定された担体にコンジュゲートされている。担体の代表的な例としては、ウシ又はヒト血清アルブミン、デキストラン、及び抗体(例えば、抗HER2抗体、抗EGFR抗体、抗BCMA抗体、及び抗CD19抗体)が挙げられる。いくつかの実施形態では、ペルツズマブ、セツキシマブ、ベレンタマブ、J6M0、又はダラツズマブである。
【0148】
いくつかの実施形態では、刺激は、免疫細胞の増殖又は表現型の変化を促進する。例えば、刺激は、刺激された免疫細胞の集団の増加を、少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、100%、又はそれ以上促進し得る。
【0149】
いくつかの実施形態では、免疫細胞刺激は、免疫細胞の表現型の変化を促進する。例示的な表現型としては、記憶表現型、細胞傷害性表現型、及び調節性表現型が挙げられる。
【0150】
いくつかの実施形態では、サイトカイン受容体スイッチをコードする核酸を含む免疫細胞は、CD3/CD28共刺激の存在下で、漸増用量のフルオレセインイソチオシアネート(FITC)(0、0.1、1、10、100、及び1000μg/mL)を用いて、FITCコンジュゲートウシ血清アルブミン(BSA)コーティングプレート上で、最大2週間刺激される。CD4及びCD8T細胞上のセントラルメモリー(CD45RA-、C-Cケモカイン受容体7型(CCR7))マーカー、及びエフェクターメモリー(CD45RACCR7)マーカーは、フローサイトメトリーによって評価することができる。
【0151】
いくつかの実施形態では、サイトカイン受容体スイッチをコードする核酸を含む免疫細胞は、CD3/CD28共刺激の存在下又は非存在下で、漸増用量のFITC(0、0.1、1、10、100、及び1000μg/mL)を用いて、FITCコンジュゲートBSAコーティングプレート上で、最大2週間刺激される。CD4及びCD8T細胞上のエフェクターメモリー(CD45RACCR7)マーカー、セントラルメモリー(CD45RA-、CCR7)マーカー、及び活性化(CD69)マーカーは、フローサイトメトリーによって評価することができる。
【0152】
いくつかの実施形態では、サイトカイン受容体スイッチをコードする核酸を含む免疫細胞は、CD3/CD28共刺激の存在下で、漸増用量のカルボキシフルオレセイン(0、0.1、1、10、100、及び1000μg/mL)を用いて、カルボキシフルオレセインコンジュゲートBSAコーティングプレート上で、最大2週間刺激される。
【0153】
いくつかの実施形態では、異なるサイトカイン受容体スイッチの1つ又は組み合わせを有するか又は有さないCARをコードする核酸を含む免疫細胞は、CD3/CD28共刺激の存在下又は非存在下で、漸増用量(0、0.1、1、10、及び100μg/mL)の小分子コンジュゲートを用いて、小分子コンジュゲート抗体コーティングプレート上で、刺激される。CD4及びCD8T細胞におけるIL-2、IFN-γ及びCD69の発現は、フローサイトメトリーによって評価することができる。
【0154】
刺激された免疫細胞を培地から単離し、次いで、対象への送達のために製剤化することができる。いくつかの実施形態では、免疫細胞は、インビボで刺激される。
【0155】
これらの実施形態は、治療有効量の本明細書に記載の組成物を、それを必要とする対象に投与すること、及び治療有効量の合成小分子を対象に投与すること、を伴う。合成小分子及び免疫細胞は、同じ又は異なる製剤を介して、実質的に同時に又は連続して投与され得る。方法は、刺激を減少させる働きをする合成モノマー又はポリマー小分子の製剤を対象に投与することを更に含み得る。
【0156】
エクスビボで活性化された免疫細胞の投与及びインビボ免疫細胞の活性化は、典型的には、疾患又は障害、すなわちがんを治療する状況において行われる。
【0157】
本明細書で使用される「対象」(又は「患者」)という用語には、示された疾患又は障害に罹患しやすいか又は罹患している動物界の全ての構成生物が含まれる。いくつかの実施形態では、対象は、哺乳動物、例えば、ヒト又は非ヒト哺乳動物である。本方法はまた、イヌ及びネコなどの愛玩動物、並びにウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ブタなどの家畜、並びに他の家畜化された動物及び野生動物にも適用可能である。本開示による治療「を必要とする」対象は、特定の疾患又は障害「に罹患しているか又は罹患している疑いがある」対象であってもよく、陽性と診断されていてもよく、又はそうでなければ、対象が疾患又は障害に罹患していると医療専門家が診断又は疑うことができるような、十分な数の危険因子、又は十分な数若しくは組み合わせの、徴候若しくは症状を呈していてもよい。したがって、特定の疾患又は障害に罹患している対象及び罹患している疑いのある対象は、必ずしも2つの異なる群である必要はない。
【0158】
広義には、本方法は、がん腫(原発性腫瘍及び転移性腫瘍の両方を含む固形腫瘍)、肉腫、黒色腫、並びに白血病、リンパ腫、及び多発性骨髄腫などの血液がん(リンパ球、骨髄、及び/又はリンパ節を含む血液に影響を及ぼすがん)の治療において有効であり得る。成人腫瘍/がん、及び小児腫瘍/がんも含まれる。がんは、血管新生されているか、又はまだ実質的に血管新生されていないか、又は血管新生されていない腫瘍であり得る。
【0159】
がんの代表例としては、副腎皮質がん、エイズ関連がん(例えば、カポジ及びエイズ関連リンパ腫)、虫垂がん、小児がん(例えば、小児小脳星細胞腫、小児脳星細胞腫)、基底細胞がん、皮膚がん(非黒色腫)、胆道がん、肝外胆管がん、肝内胆管がん、膀胱がん、泌尿器膀胱がん、脳のがん(例えば、脳幹神経膠腫、妊娠性絨毛腫瘍神経膠腫、小脳星細胞腫、脳星細胞腫/悪性神経膠腫、上衣腫、髄芽腫、テント上原始神経外胚葉腫瘍、視覚路及び視床下部神経膠腫などの神経膠腫及び神経膠芽腫)、乳がん、気管支腺腫/カルチノイド、カルチノイド腫瘍、神経系がん(例えば、中枢神経系がん、中枢神経系リンパ腫)、子宮頸がん、慢性骨髄増殖性障害、結腸直腸がん(例えば、結腸がん、直腸がん)、リンパ系新生物、真菌症、セザリー症候群、子宮内膜がん、食道がん、頭蓋外胚細胞腫瘍、顎外胚細胞腫瘍、肝外胆管がん、眼のがん、眼内黒色腫、網膜芽細胞腫、胆嚢がん、消化器がん(胃がん、小腸がん、消化管カルチノイド腫瘍、消化管間質腫瘍(gastrointestinal stromal tumor、GIST))、胆管がん、胚細胞腫瘍、卵巣胚細胞腫瘍、頭頸部がん、神経内分泌腫瘍、ホジキンリンパ腫、アナーバー病期III期及びIV期の小児非ホジキンリンパ腫、ROS1陽性難治性非ホジキンリンパ腫、白血病、リンパ腫、多発性骨髄腫、下咽頭がん、眼内黒色腫、眼球がん、膵島細胞腫瘍(膵内分泌腫瘍)、腎がん(例えば、ウィルム腫瘍、腎細胞がん)、肝臓がん、肺がん(例えば、非小細胞肺がん、及び小細胞肺がん)、ALK陽性未分化大細胞リンパ腫、ALK陽性進行性悪性固形新生物、ワルデンストーム巨細胞腫、黒色腫、眼内(眼の)黒色腫、メルケル細胞がん、中皮腫、原発不明転移性扁平上皮頸部がん、多発性内分泌腫瘍(multiple endocrine neoplasia、MEN)、骨髄異形成症候群、骨髄異形成/骨髄増殖性疾患、上咽頭がん、神経芽細胞腫、口腔(oral)がん(例えば、口腔(mouth)がん、口唇がん、口腔(oral cavity)がん、舌がん、中咽頭がん、咽頭(throat)がん、喉頭がん)、卵巣がん(例えば、卵巣上皮がん、卵巣胚細胞腫瘍、卵巣低悪性度腫瘍)、膵臓がん、膵島細胞膵臓がん、副鼻腔及び鼻腔がん、副甲状腺がん、陰茎がん、咽頭(pharyngeal)がん、褐色細胞腫、松果体芽細胞腫、転移性甲状腺未分化がん、甲状腺未分化がん、甲状腺乳頭がん、下垂体腫瘍、形質細胞新生物/多発性骨髄腫、胸膜肺芽腫、前立腺がん、網膜芽細胞腫、横紋筋肉腫、唾液腺がん、子宮がん(例えば、子宮内膜子宮がん、子宮肉腫、子宮体がん)、扁平上皮がん、精巣がん、胸腺腫、胸腺がん、甲状腺がん、若年性黄色肉芽腫、腎盂・尿管及び他の泌尿器の移行細胞がん、尿道がん、妊娠性絨毛腫瘍、膣がん、外陰がん、肝芽腫、横紋体腫瘍、並びにウィルムス腫瘍が挙げられる。
【0160】
本開示の方法で治療可能であり得る肉腫としては、軟組織及び骨肉腫の両方が同様に挙げられ、その代表例としては、骨肉種又は骨原性肉腫(骨)(例えば、ユーイング肉腫)、軟骨肉腫(軟骨組織)、平滑筋肉腫(平滑筋)、横紋筋肉腫(骨格筋)、中皮肉腫又は中皮種(体腔の膜性被覆)、線維肉腫(線維組織)、血管肉腫又は血管内皮腫(血管)、脂肪肉腫(脂肪組織)、神経膠腫又は星状膠細胞腫(脳に見出される神経性結合組織)、粘液肉腫(原始胚結合組織)、間葉腫瘍又は混合中胚葉腫瘍(混合結合組織型)、及び組織球性肉腫(免疫性のがん)が挙げられる。
【0161】
いくつかの実施形態では、本開示の方法は、血液系、肝臓、脳、肺、結腸、膵臓、前立腺、卵巣、乳房、皮膚、及び子宮内膜の細胞増殖性疾患又は障害を有する対象の治療を伴う。
【0162】
本明細書で使用される場合、「血液系の細胞増殖疾患又は障害」としては、リンパ種、白血病、骨髄性新生物、肥満細胞性新生物、骨髄異形成、良性単クローン性免疫グロブリン血症、リンパ腫様丘疹症、真性赤血球増加症、原因不明骨髄化生、及び本態性血小板血症が挙げられる。したがって、血液がんの代表例としては、多発性骨髄腫、リンパ腫(T細胞リンパ腫、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫(びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(diffuse large B-cell lymphoma、DLBCL)、濾胞性リンパ腫(follicular lymphoma、FL)、マントル細胞リンパ腫(mantle cell lymphoma、MCL)及びALK+未分化大細胞リンパ腫(例えば、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(例えば、胚中心B細胞様びまん性大細胞型B細胞リンパ腫又は活性化B細胞様びまん性大細胞型B細胞リンパ腫)、バーキットリンパ腫/白血病、マントル細胞リンパ腫、縦隔(胸腺)大細胞型B細胞リンパ腫、濾胞性リンパ腫、辺縁帯リンパ腫、リンパ球形質細胞性リンパ腫/ワルデンシュトレーム・マクログロブリン血症、転移性膵臓腺がん、難治性B細胞性非ホジキンリンパ腫、及び再発性B細胞性非ホジキンリンパ腫から選択されるB細胞性非ホジキンリンパ腫、小児リンパ腫、及びリンパ球由来及び皮膚由来のリンパ腫、例えば小リンパ球性リンパ腫、小児白血病を含む白血病、毛様細胞性白血病、急性リンパ性白血病、急性骨髄球性白血病、急性骨髄性白血病(例えば、急性単球性白血病)、慢性リンパ性白血病、小リンパ球性白血病、慢性骨髄球性白血病、慢性骨髄性白血病、及び肥満細胞白血病、骨髄性新生物及び肥満細胞新生物が挙げられ得る。
【0163】
多発性骨髄腫は、血液系の細胞増殖性疾患又は障害である。多発性骨髄腫は、形質細胞新生物である。健康な形質細胞は、病原体を認識し攻撃する抗体を産生する。多発性骨髄腫では、がん性形質細胞が骨髄に蓄積し、健康な血液細胞を排除する。がん性骨髄腫形質細胞は、抗体を産生するのではなく、合併症を引き起こし得る異常なタンパク質を産生する。形質細胞の過剰増殖はまた、正常な血液形成細胞の密集をもたらし、血球数の低下並びに血小板減少症及び白血球減少症をもたらす。骨髄腫形質細胞は、モノクローナル免疫グロブリン、モノクローナルタンパク(Mタンパク)、Mスパイク、又はパラタンパクとして知られる異常な抗体を産生する。
【0164】
多発性骨髄腫基準を満たさない他の形質細胞腫としては、重要性不明の単クローン性免疫グロブリン血症(monoclonal gammopathy of uncertain significance、MGUS)、くすぶり型多発性骨髄腫(smoldering multiple myeloma、SMM)、孤立性形質細胞腫、及び軽鎖アミロイドーシスが挙げられる。微小残存病変(minimal residual disease、MRD)は、従来の形態学的評価で利用可能な検出限界未満の少数の悪性細胞を指す。多発性骨髄腫におけるMRDは、臨床応答(clinical response、CR)を測定した後に骨髄中に存在し、対象が寛解状態にある骨髄腫細胞を指す。これらの残存骨髄腫細胞は、疾患の進行及び再発をもたらし得るため、臨床的に重要である。
【0165】
本明細書中で使用される場合、「肝臓の細胞増殖性疾患又は障害」は、肝臓に影響を及ぼす全ての形態の細胞増殖性障害を含む。肝臓の細胞増殖障害には、肝臓がん(例えば、肝細胞がん、肝内胆管がん及び肝芽腫)、肝臓の前がん又は前がん状態、肝臓の良性増殖又は病変、及び肝臓の悪性増殖又は病変、並びに肝臓以外の体内の組織及び器官における転移性病変が含まれ得る。肝臓の細胞増殖性障害には、肝臓での過形成、化生及び異形成が含まれ得る。
【0166】
本明細書中で使用される場合、「脳の細胞増殖性疾患又は障害」には、脳に影響を及ぼす全ての形態の細胞増殖性障害が含まれる。脳の細胞増殖性障害としては、脳のがん(例えば神経膠腫、神経膠芽腫、髄膜腫、下垂体腺腫、前庭神経鞘腫、及び原始神経外胚葉性腫瘍(髄芽腫))、脳の前がん又は前がん状態、脳の良性増殖又は病変、及び脳の悪性増殖又は病変、並びに脳以外の体内の組織及び器官における転移性病変が含まれ得る。脳の細胞増殖性障害は中枢神経系(central nervous system、CNS)腫瘍とも呼ばれ、星状細胞腫瘍、オリゴデンドログリア腫瘍、混合神経膠腫、上衣腫瘍、髄芽細胞腫、松果体実質腫瘍、髄膜腫瘍、胚細胞腫瘍、頭蓋咽頭腫(グレードI)が含まれる。脳の細胞増殖性障害には、脳での過形成、化生及び異形成が含まれ得る。脳に広がったがんは、転移性脳腫瘍と称される。転移性脳腫瘍のおよそ半分は肺腫瘍に由来する。脳に広がる傾向を有する他の腫瘍としては、例えば、メラノーマ、乳がん、結腸がん、腎がん、及び上咽頭がんが挙げられる。
【0167】
神経膠芽腫(Glioblastoma、GBM)は、グレードIV星状細胞腫とも称され、脳の、急速に成長する侵襲性の細胞増殖性障害である。GBMは、星状細胞(グリア細胞型)で始まる星状細胞腫瘍であり、神経膠腫と呼ばれることもある。GBMは、近くの脳組織に侵入するが、一般に、離れた器官には広がらない。GBMは、脳内でデノボで生じ得るか、又は低悪性度の星状細胞腫から発生し得る。
【0168】
本明細書中で使用される場合、「肺の細胞増殖性疾患又は障害」は、肺細胞に影響を及ぼす細胞増殖性障害の全ての形態を含む。肺の細胞増殖性障害としては、肺がん、肺の前がん及び前がん状態、肺の良性増殖又は病変、肺での過形成、化生、及び異形成、並びに肺以外の体内の組織及び器官における転移性病変が挙げられる。肺がんには、全ての形態の肺がん、例えば悪性肺新生物、上皮内がん腫、典型的なカルチノイド腫瘍、及び非定型カルチノイド腫瘍が含まれる。肺がんには、小細胞肺がん(「small cell lung cancer、SLCL」)、非小細胞肺がん(「non-small cell lung cancer、NSCLC」)、腺がん、小細胞がん、大細胞がん、扁平上皮がん、及び中皮腫が含まれる。肺がん細胞には、「瘢痕がん」、細気管支肺胞上皮がん、巨細胞がん、紡錘細胞がん、及び大細胞神経内分泌がんが含まれ得る。肺がんはまた、組織学的及び超微細構造不均一性(例えば、混合細胞型)を有する肺新生物を含む。いくつかの実施形態では、本開示の化合物は、非転移性又は転移性肺がん(例えば、NSCLC、ALK陽性NSCLC、ROS1再構成を有するNSCLC、肺腺がん、及び扁平上皮細胞肺がん)を治療するために使用され得る。
【0169】
本明細書で使用される場合、「結腸の細胞増殖性疾患又は障害」には、結腸がん、結腸の前がん又は前がん状態、結腸の腺腫性ポリープ及び結腸の異時性病変を含む、結腸細胞に影響を及ぼす全ての形態の細胞増殖性障害が含まれる。結腸がんとしては、散発性及び遺伝性結腸がん、悪性結腸新生物、上皮内がん腫、定型カルチノイド腫瘍、及び非定型カルチノイド腫瘍、腺がん、扁平上皮がん、及び扁平上皮がんが挙げられる。結腸がんは、遺伝性非ポリポーシス大腸がん、家族性大腸腺腫、MYH関連ポリポーシス、Gardner症候群、Peutz-Jeghers症候群、Turcot症候群及び若年性ポリポーシスなどの遺伝性症候群に関連し得る。結腸の細胞増殖性障害はまた、結腸での過形成、化生、又は異形成によって特徴付けられ得る。
【0170】
本明細書で使用される場合、「膵臓の細胞増殖性疾患又は障害」には、膵臓細胞に影響を及ぼす全ての形態の細胞増殖性障害が含まれる。膵臓の細胞増殖性障害としては、膵臓がん、膵臓の前がん又は前がん状態、膵臓での過形成、膵臓での異形成、膵臓の良性増殖又は病変、及び膵臓の悪性増殖又は病変、並びに膵臓以外の体内の組織及び器官における転移性病変が挙げられ得る。膵臓がんには、管腺がん、腺扁平上皮がん、多形性巨細胞がん、粘液性腺がん、破骨細胞様巨細胞がん、粘液性嚢胞腺がん、腺房がん、未分類大細胞がん、小細胞がん、膵臓芽細胞腫、乳頭状腫瘍、粘液性嚢胞腺腫、乳頭状嚢胞腺腫、及び漿液性嚢胞腺腫、並びに組織化学的及び超微細構造的異質性(例えば混合性)を有する膵臓新生物を含む、全ての形態の膵臓がんが含まれる。
【0171】
本明細書中で使用される場合、「前立腺の細胞増殖性疾患又は障害」には、前立腺に影響を及ぼす全ての形態の細胞増殖性障害が含まれる。前立腺の細胞増殖性障害としては、前立腺がん、前立腺の前がん又は前がん状態、前立腺の良性増殖又は病変、及び前立腺の悪性増殖又は病変、並びに前立腺以外の体内の組織及び器官における転移性病変が挙げられ得る。前立腺の細胞増殖性障害には、前立腺での過形成、化生及び異形成が含まれ得る。
【0172】
本明細書中で使用される場合、「卵巣の細胞増殖性疾患又は障害」には、卵巣の細胞に影響を及ぼす全ての形態の細胞増殖性障害が含まれる。卵巣の細胞増殖障害には、一方若しくは両方の卵巣、ファロピウス管、又は腹腔内の器官を覆う組織において形成される細胞の増殖が含まれる(例えば、嚢胞腺がん、卵巣胎児性がん、卵巣腺がん)。卵巣の細胞増殖性障害としては、卵巣の前がん又は前がん状態、卵巣の良性増殖又は病変、卵巣がん、並びに卵巣以外の体内の組織及び器官における転移性病変が挙げられ得る。卵巣の細胞増殖性障害としては、卵巣での過形成、化生及び異形成が挙げられ得る。卵巣の細胞増殖性障害としては、卵巣上皮がん(上皮性卵巣がん)、胚細胞腫瘍、及び間質細胞腫瘍が挙げられる。上皮性卵巣がんは、最も一般的なタイプの卵巣がんである。これらのがんの約85%~90%は、卵巣の外表面を覆う細胞を含む。それらは、一般に、最初に骨盤及び腹部の内層及び器官に広がり、次いで身体の他の部分に広がる。このタイプの卵巣がんを有する女性のほぼ70%が、進行期であると診断される。卵巣上皮がん、卵管がん、及び原発性腹膜がんは、上皮性卵巣がんである。
【0173】
本明細書中で使用される場合、「乳房の細胞増殖性疾患又は障害」には、乳房細胞に影響を及ぼす全ての形態の細胞増殖性障害が含まれる。乳房の細胞増殖性障害には、乳がん、乳房の前がん又は前がん状態、乳房の良性増殖又は病変、並びに乳房以外の体内の組織及び器官における転移性病変が含まれ得る。乳房の細胞増殖性障害は、乳房の細胞が制御不能に成長する障害の群である。乳房の細胞増殖性障害としては、乳房での過形成、化生及び異形成が挙げられ得る。乳房の細胞増殖性障害は、乳房の異なる部分で始まり得る。乳房は、3つの主要部分:小葉、腺管、及び結合組織から構成される。小葉は、乳汁を産生する腺である。腺管は、乳を乳首に運ぶ管である。結合組織(これは、線維組織及び脂肪組織からなる)は、乳房組織を取り囲み、かつ連結させる。ほとんどの乳がんは、腺管又は小葉で始まる。浸潤性腺管がん及び浸潤性小葉がんは、乳がんの2つの最も一般的なタイプである。浸潤性腺管がんでは、がん細胞は腺管で発生し、次いで腺管の外側で乳房組織の他の部分に拡散又は転移する。浸潤性小葉がんでは、がん細胞は小葉に由来し、次いで小葉から近くにある乳房組織に広がる。本明細書中で使用される場合、「皮膚の細胞増殖性疾患又は障害」には、皮膚細胞に影響を及ぼす全ての形態の細胞増殖性障害が含まれる。皮膚の細胞増殖性障害としては、皮膚の前がん又は前がん状態、皮膚の良性増殖又は病変、黒色腫、悪性黒色腫又は皮膚の他の悪性増殖又は病変、並びに皮膚以外の体内の組織及び器官における転移性病変が挙げられ得る。皮膚の細胞増殖性障害には、皮膚での過形成、化生及び異形成が含まれ得る。
【0174】
本明細書中で使用される場合、「子宮内膜の細胞増殖性疾患又は障害」には、子宮内膜の細胞に影響を及ぼす全ての形態の細胞増殖性障害が含まれる。子宮内膜の細胞増殖性障害としては、子宮内膜の前がん又は前がん状態、子宮内膜の良性増殖又は病変、子宮内膜がん、並びに子宮内膜以外の体内の組織及び器官における転移性病変が挙げられ得る。子宮内膜の細胞増殖性障害としては、子宮内膜での過形成、化生及び異形成が挙げられ得る。
【0175】
いくつかの実施形態では、がんは、乳がん、卵巣がん、多発性骨髄腫、肺がん、又は多形性神経膠芽腫である。本開示の治療方法は、単独で、又は他の治療と組み合わせて、いずれの抗がん治療もまだ受けていない患者における「第一選択」、すなわち、初期治療であり得る。本開示の治療方法は、少なくとも1つの以前の抗がん治療レジメン、例えば、化学療法、放射免疫療法、毒素療法、プロドラッグ活性化酵素療法、抗体療法、外科的療法、免疫療法、放射線療法、標的療法又はそれらの任意の組み合わせを、単独で又は他の治療と組み合わせて受けた患者に投与されるという点で、「第二選択」療法として有利に使用され得る。場合によっては、以前の療法は不成功であったか又は部分的に成功している場合があるが、これは患者が特定の治療に対して不耐性になった場合、特に、抗原喪失/エスケープが理由で最前線の療法がもはや有効ではない場合である。
【0176】
併用療法
ある特定の実施形態では、がんを治療する本発明の方法は、併用療法の一部であり得、対象は間接的又は直接的な効果を発揮する別の薬剤でも治療される。BAT-CAR免疫細胞の投与の場合、他の薬剤は、腫瘍関連抗原などの細胞表面抗原に結合する結合部分にコンジュゲートされる合成抗原である。BAT-CAR免疫細胞は、合成抗原に結合するBAT-CARの細胞外結合ドメインを介して間接的に細胞表面抗原に結合する。合成抗原及びそのコンジュゲートの代表的な例は、例えば、国際公開第2017/143094号、国際公開第2018/200713号、及び国際公開第2020/006312号に記載されており、これらは各々、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。いくつかの実施形態では、合成抗原は、BAT-CARの細胞外結合ドメインに結合することができないようにマスク又はケージされている(「プロ抗原」)。これらの実施形態は、BAT-CARの細胞外結合ドメインと相互作用することができるように、抗原を脱マスキング又は脱ケージングする更なる薬剤の投与を必要とする。この特徴は、本発明の方法に更に別のレベルの制御を加える。合成抗原及びそのコンジュゲートの代表的な例は、例えば、国際公開第2017/143094号、国際公開第2018/200713号、及び国際公開第2020/006312号に記載されており、これらは参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。いくつかの実施形態では、合成抗原は、1つ以上のCMNBケージング基の付加によってマスクされ、脱マスキング剤はUV光である。
【0177】
いくつかの実施形態では、方法は、別の抗がん剤の投与を伴う。「抗がん」剤は、例えば、がん細胞を殺傷すること、がん細胞のアポトーシスを誘導すること、がん細胞の増殖率を減少させること、転移の発生率若しくは数を減少させること、腫瘍サイズを減少させること、腫瘍増殖を阻害すること、腫瘍若しくはがん細胞への血液供給を減少させること、がん細胞若しくは腫瘍に対する免疫応答を促進すること、がんの進行を防止若しくは阻害すること、又はがんを有する対象の寿命を延ばすことにより、対象のがんに悪影響を与えることができる。より一般的には、これらの他の組成物は、細胞の殺傷又は増殖を阻害するのに有効な組み合わせ量で提供される。このプロセスは、がん細胞を、発現構築物及び薬剤又は複数の因子と同時に接触させることを含み得る。これは、細胞を、単一の組成物又は両方の薬剤を含む薬理学的製剤と接触させることによって、又は細胞を、同時に2つの異なる組成物(一方の組成物は発現構築物を含み、もう1つの組成物は第2の薬剤を含む。)又は製剤と接触させることによって、達成され得る。
【0178】
化学療法剤及び放射線療法剤に対する腫瘍細胞の耐性は、臨床腫瘍学における主要な問題である。現在のがん研究の1つの目標は、化学療法及び放射線療法を、他の療法と組み合わせることで、その効果を改善する方式を見つけることである。本発明との関連で、細胞療法は、化学療法、放射線療法、又は免疫療法の介入、並びにアポトーシス促進剤又は細胞周期調節剤と併せて同様に使用され得ると考えられる。
【0179】
代替的に、本発明の療法は、数分から数週間の範囲の間隔で、他の薬剤の治療に先行又は後行することができる。他の薬剤と本発明が個別に適用される実施形態では、一般に、薬剤及び本発明の療法が、依然として細胞に対して有利に併用効果を発揮することができるように、各送達時間の間に著しい期間が経過しないことを確実にする。そのような場合、互いに約12~24時間以内、より好ましくは互いに約6~12時間以内に両方のモダリティと細胞を接触させ得ることが企図される。いくつかの状況では、それぞれの投与の間に、数日(2、3、4、5、6、又は7日)~数週間(1、2、3、4、5、6、7、又は8週)が経過する場合、治療期間を著しく延長することが望ましいことがある。
【0180】
治療サイクルは必要に応じて繰り返されることが予想される。また、本発明の細胞療法と組み合わせて、様々な標準的な療法、並びに外科的介入を適用することができると考えられる。
【0181】
本明細書に記載の本発明の療法との併用に好適な複数の骨髄腫治療剤としては、ベランタマブマホドチン-blmf(ブレンレップ(登録商標))、ボルテゾミブ(ベルケイド(登録商標))、カルフィルゾミブ(カイプロリス(登録商標))、カルムスチン(BiCNU(登録商標))、シルタカブタゲン・オートロイセル(カービクティ(登録商標))、シクロホスファミド、ダラツムマブ(ダラザレックス(登録商標))、ダラツムマブ及びヒアルロニダーゼ-fihj(ダラザレックス・ファスプロ(登録商標))、ドキソルビシン塩酸塩リポソーム(ドキシル(登録商標))、エロツズマブ(エムプリシティ(登録商標))、イデカブタゲン・ビクルユーセル(アベクマ(登録商標))、イサツキシマブ-irfc(サークリサ(登録商標))、イキサゾミブクエン酸塩(ニンラーロ(登録商標))、レナリドミド(レブリミド)、メルファラン及びメルファラン塩酸塩(アルケラン(登録商標)錠、注射用アルケラン(登録商標)、エボメラ(登録商標))、パミドロン酸ジナトリウム(アレディア(登録商標))、プレリキサホル(モゾビル(登録商標))、ポマリドミド(ポマリスト(登録商標))、セリネクソール(キシポビオ(登録商標))、サリドマイド(サロミド(登録商標))、ゾレドロン酸(ゾメタ(登録商標))、並びにボルテゾミブ(PS-341)、ドキソルビシン塩酸塩(アドリアマイシン(登録商標))及びデキサメタゾンのPAD併用が挙げられる。
【0182】
本明細書に記載される本発明の療法との組み合わせに好適な乳がん予防及び治療剤としてはまた、ラロキシフェン及びタモキシフェンクエン酸塩(ソルタモックス(登録商標))、アベマシクリブ(ベルゼニオ(登録商標))、パクリタキセル(アブラキサン(登録商標))、アドトラスツズマブエムタンシン(カドサイラ(登録商標))、エバロリムス(アフィニトール(登録商標)、ゾートレス(登録商標)、アフィニトール・ジスペルツ(登録商標))、アルペリシブ(ピクレイ(登録商標))、アナストロゾール(アリミデックス(登録商標))、パミドロン酸ジナトリウム(アレディア(登録商標))、エキセメスタン(アロマシン(登録商標))、シクロホスファミド、ドキソルビシン塩酸塩、エピルビシン塩酸塩(エレンス(登録商標))、fam-トラスツズマブ・デラクステカン-nxki(エンハーツ(登録商標))、フルオロウラシル(5-FU;アドルシル(登録商標))、トレミフェン(フェアストン(登録商標))、レトロゾール(フェマーラ(登録商標))、ゲムシタビン(ジェムザール(登録商標)、インフジェム(登録商標))、メシル酸エリブリン(ハラベン(登録商標))、トラスツズマブ及びヒアルロニダーゼ-oysk(ハーセプチン・ハイレクタ(登録商標))、トラスツズマブ(ハーセプチン(登録商標))、パルボシクリブ(イブランス(登録商標))、イクサベピロン(イグゼンプラ(登録商標))、ペンブロリズマブ(キイトルーダ(登録商標))、リボシクリブ(キスカリ(登録商標))、オラパリブ(リムパーザ(登録商標))、マルゲツキシマブ-cmkb(マルゲンザ(登録商標))、マレイン酸ネラチニブ(ネルリンクス(登録商標))、ペルツズマブ(パージェタ(登録商標))、ペルツズマブトラスツズマブ及びヒアルロニダーゼ-zzxf(フェスゴ(登録商標))、トシル酸タラゾパリブ(ターゼナ(登録商標))、ドセタキセル(タキソテール(登録商標))、アテゾリズマブ(テセントリク(登録商標))、チオテパ(テパディナ(登録商標))、メトトレキサートナトリウム(トレキサール(登録商標))、サシツズマブゴビテカン-hziy(トロデルビ(登録商標))、ツカチニブ(ツキサ(登録商標))、ラパチニブジトシレート(チケルブ(登録商標))、ビンブラスチン硫酸塩、カペシタビン(ゼローダ(登録商標))、及びゴセレリン酢酸塩(ゾラデックス(登録商標))が挙げられ得る。
【0183】
本明細書に記載される本発明の療法との組み合わせに好適な卵巣がん治療剤としては、メルファラン(アルケラン(登録商標))、ベバシズマブ(アリムシス(登録商標)、アバスチン(登録商標)、ムバシ(登録商標)、ジラベブ(登録商標))、シスプラチン、シクロホスファミド、ドキソルビシン塩酸塩、ドキソルビシン塩酸塩リポソーム(ドキシル(登録商標))、ゲムシタビン塩酸塩(ジェムザール(登録商標)、インフジェム(登録商標))、塩酸トポテカン(ハイカムチン(登録商標))、オラパリブ(リムパーザ(登録商標))、カルボプラチン(パラプラチン(登録商標))、カンシル酸ルカパリブ(ルブラカ(登録商標))、チオテパ(テパディナ(登録商標))、及びトシル酸ニラパリブ1水和物(ゼジューラ(登録商標))が挙げられる。上皮性卵巣がんを治療するために承認された薬剤は、卵巣胚細胞がんに適用され得る。
【0184】
本明細書に記載の本発明の療法との組み合わせに好適な脳のがん治療剤としては、ベルツチファン(Welireg)、ベバシズマブ(アリムシス、アバスチン、ムバシ、ジラベブ)、カルムスチン(BiCNU)、カルムスチンインプラント(ジラデル・ウェファー)、エベロリムス(アフィニトール、アフィニトール・ジスペルツ)、ロムスチン、ナキシタマブ-gqgk(ダニエルザ)、及びテモゾロミド(テモダール)が挙げられる。
【0185】
免疫療法
チェックポイント阻害剤(例えば、ペンブロリズマブ(キイトルーダ(登録商標))、ニボルマブ(オプジーボ(登録商標))、セミプリマブ(リブタヨ(登録商標))、アテゾリズマブ(テセントリク(登録商標))、アベルマブ(バベンシオ(登録商標))、デュルバルマブ(イミフィンジ(登録商標))又は他の免疫調節抗体若しくは試薬もまた、併用療法の一部として、本発明の遺伝子療法と併せて使用され得る。
【0186】
化学療法
がん療法には、化学物質と放射線に基づく治療の両方を用いた様々な併用療法も含まれる。併用化学療法としては、例えば、アブラキサン(登録商標)、アルトレタミン、ドセタキセル、ハーセプチン(登録商標)、メトトレキサート、ノバントロン(登録商標)、ゾラデックス(登録商標)、シスプラチン(CDDP)、カルボプラチン、プロカルバジン、メクロレタミン、シクロホスファミド、カンプトテシン、イホスファミド、メルファラン、クロラムブシル、ブスルファン、ニトロスウレア、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、ブレオマイシン、プリコマイシン、マイトマイシン、エトポシド(VP16)、タモキシフェン、ラロキシフェン、エストロゲン受容体結合剤、タキソール(登録商標)、ゲムシタビエン、ナベルビン(登録商標)、ファルネシルプロテインタンスフェラーゼ阻害剤、トランスプラチナム(transplatinum)、5-フルオロウラシル、ビンクリスチン、ビンブラスチン及びメトトレキサート、又は前述の任意の類似体若しくは誘導体のバリアント、及びこれらの組み合わせが挙げられる。
【0187】
特定の実施形態では、個体に対する化学療法は、本開示と組み合わせて、例えば、本開示の投与の前、間、及び/又は後に採用される。
【0188】
放射線療法
DNA損傷を引き起こし、広く使用されている他の要因としては、γ線、X線として一般に知られているもの、及び/又は腫瘍細胞への放射性同位元素の誘導送達が挙げられる。マイクロ波及び紫外線照射など、他の形態のDNA損傷因子も考えられる。これらの要因の全てが、DNA、DNAの前駆体、DNAの複製と修復、染色体の組み立てと維持に広範囲の損傷を与える可能性が最も高い。X線の線量範囲は、長期間(3~4週間)についての1日の線量50~200レントゲンから、単回線量の2000~6000レントゲンまでである。放射性同位元素の線量範囲は大きく異なり、同位元素の半減期、放出される放射線の強度とタイプ、新生細胞による取り込みに依存する。
【0189】
遺伝子
更に別の実施形態では、二次治療は、本開示の臨床的実施形態の前、後、又は同時に治療用ポリヌクレオチド(例えば、mRNA又はレプリコンなどの治療用RNA)が投与される遺伝子療法である。細胞増殖の誘導物質、細胞増殖の阻害剤、又はプログラムされた細胞死の制御因子を含む、様々な発現産物が本開示に包含される。
【0190】
手術
がん患者の約60%は、予防的、診断的、病期診断的、治癒的及び緩和的手術を含む、ある種の手術を受ける。治癒的手術は、本開示の治療、化学療法、放射線療法、ホルモン療法、遺伝子療法、免疫療法及び/又は代替療法などの他の療法と組み合わせて使用され得るがん治療である。
【0191】
治癒的手術には、がん性組織の全部又は一部が物理的に除去され、切り取られ、及び/又は破壊される切除が含まれる。腫瘍切除とは、腫瘍の少なくとも一部を物理的に除去することを指す。腫瘍の切除に加えて、手術による治療には、レーザ手術、凍結手術、電気手術、及び顕微鏡下手術(モース術)が含まれる。本開示は、表在がん、前がん、又は付随的な量の正常組織の除去と組み合わせて使用され得ることが更に企図される。
【0192】
がん性細胞、組織、又は腫瘍の全て又は一部を切除すると、体内に空洞が形成されることがある。治療は、灌流、直接注射、又は追加の抗がん療法によるその部位への局所適用によって達成され得る。このような治療は、例えば、1、2、3、4、5、6、若しくは7日ごと、又は1、2、3、4、及び5週間ごと、又は1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、若しくは12か月ごとに繰り返すことができる。これらの治療は、同様に様々な投与量のものであり得る。
【0193】
他の薬剤
更なる薬剤が、本発明の方法において使用され得る。これらの追加の薬剤には、免疫調節剤、細胞表面受容体とGAP結合の上方制御に影響を与える薬剤、細胞増殖抑制剤と分化剤、細胞接着阻害剤、又はアポトーシス誘導物質に対する過剰増殖細胞の感受性を高める薬剤が含まれる。免疫調節剤としては腫瘍壊死因子、F42K及び他のサイトカイン類似体、又はMIP-1、MIP-1β、MCP-1、RANTES、及び他のケモカインが挙げられる。細胞表面受容体又はそれらのリガンド、例えば、Fas/Fasリガンド、DR4又はDR5/TRAILの上方制御は、過剰増殖細胞に対するオートクリン又はパラクリン効果の確立により、本発明の組成物及び方法のアポトーシス誘導能力を増強し得る。GAP結合の数を増やすことによって、細胞間シグナル伝達を増加させると、隣接する過剰増殖細胞集団に対する抗過剰増殖効果が増加し得る。したがって、他の実施形態では、細胞増殖抑制剤又は分化剤は、本開示と組み合わせて使用して、抗過剰増殖効力を更に増強し得る。細胞接着阻害剤もまた、本開示の有効性を増強し得る。細胞接着阻害剤の例は、焦点接着キナーゼ(focal adhesion kinase、FAK)阻害剤及びロバスタチンである。アポトーシスに対する過剰増殖性細胞の感受性を増加させる更に他の薬剤(例えば、抗体c225)が使用され得る。
【0194】
本開示のこれら及び他の態様は、本開示のある特定の具体的な実施形態を例解することが意図されるが、特許請求の範囲によって定義されるその範囲を限定することは意図されない、以下の実施例を考慮すると更に理解されるであろう。
【実施例
【0195】
実施例1:CD3/CD28共刺激の有無における、CD4及びCD8T細胞に対する本発明のサイトカイン受容体スイッチの効果
サイトカイン受容体スイッチをコードする核酸を含むT細胞を、CD3/CD28共刺激の存在下又は非存在下で、漸増用量のFITC(0、0.1、1、10、100、及び1000μg/mL)を用いて、FITCコンジュゲートBSAコーティングプレート(図2)上で、最大2週間刺激した。CD4及びCD8T細胞上のエフェクターメモリー(CD45RACCR7)マーカー、セントラルメモリー(CD45RA、CCR7)マーカー、及び活性化(CD69)マーカーをフローサイトメトリーによって評価した。
【0196】
図3Aは、IL2RA-IL2RB-、IL2RG-、IL7RA-及びIL15RA-サイトカイン受容体スイッチが、CD3/CD28共刺激有りの場合にCD8+T細胞上のエフェクターメモリーマーカーを増加させたことを示す。IL2RA及びIL15RA-サイトカイン受容体スイッチはまた、CD3/CD28共刺激有りの場合にCD4T細胞上のエフェクターメモリーマーカーを増加させた。
【0197】
図3Bは、IL2RA及びIL7RA-サイトカイン受容体スイッチが、CD3/CD28共刺激有りの場合にCD8T細胞上のセントラルメモリーマーカーを増加させたことを示す。
【0198】
図3Cは、サイトカイン受容体スイッチが、CD3/CD28共刺激なしでは、T細胞上のエフェクターメモリーマーカーにほとんど影響を及ぼさなかったことを示す。
【0199】
図3Dは、IL7RA-サイトカイン受容体スイッチが、CD3/CD28共刺激がなくてもCD4T細胞上のセントラルメモリーマーカーを増加させたことを示す。
【0200】
実施例2:高親和性プレート上に結合したBSA-FITCは、キメラ抗原受容体(CAR)-T細胞を効率的に刺激した
抗フルオレセインCARをコードする核酸を含むT細胞を、CD3/CD28共刺激の存在下又は非存在下で、漸増用量のFITC(0、0.1、1、10、及び100μg/mL)を用いて、FITCコンジュゲート抗体でコーティングした通常の(通常)若しくは高親和性(高親和性)プレート又は抗体-FITC溶液(フリー)上で刺激した。CD8T細胞におけるIL-2、IFN-γ及びCD69の発現をフローサイトメトリーによって評価した。
【0201】
図5Aは、IL-2の発現がCAR T細胞においてFITC用量依存的様式で増加したことを示す。高親和性プレートに結合した抗体-FITCは、通常のプレートに結合した又は溶液中の抗体-FITCよりも効果的にCAR-T細胞を刺激した。
【0202】
図5Bは、IFN-γの発現がCAR T細胞においてFITC用量依存的様式で増加したことを示す。高親和性プレートに結合した抗体-FITCは、通常のプレートに結合した又は溶液中の抗体-FITCよりも効果的にCAR-T細胞を刺激した。
【0203】
図5Cは、CD69の発現がCAR T細胞においてFITC用量依存的様式で増加したことを示す。高親和性プレートに結合した抗体-FITCは、通常のプレートに結合した又は溶液中の抗体-FITCよりも効果的にCAR-T細胞を刺激した。
【0204】
実施例3:NK細胞に対する本発明のサイトカイン受容体スイッチの効果
異なる組み合わせのサイトカイン受容体スイッチ(IL2RB及びIL2RG-サイトカイン受容体スイッチ、又はIL15RA-、IL2RB及びIL2RG-サイトカイン受容体スイッチ)を発現するヒトナチュラルキラー(NK)細胞株、NK92を、漸増用量のFITC(0、0,1、1、10、100μM)を用いて、FITCコンジュゲートBSAコーティングプレート上で、最大7日間刺激した。生存細胞の増加倍率を細胞増殖アッセイによって評価した。NK92細胞上の活性化マーカーCD69をフローサイトメトリーによって評価した。図6Aは、本発明のIL15RA-、IL2RB及びIL2RG-サイトカイン受容体スイッチの組み合わせが、NK92細胞の細胞増殖を促進したことを示す。これらのNK92細胞は、
IL-2RBシグナルペプチド、抗小分子scFv、CD8ヒンジ、IL-2RB膜貫通ドメイン、及びIL-2RB細胞内ドメインを含む第1のサイトカインスイッチ、
IL-2RGシグナルペプチド、抗小分子scFv、CD8ヒンジ、IL-2RG膜貫通ドメイン、及びIL-2RG細胞内ドメインを含む第2のサイトカインスイッチ、並びに
IL-15RAシグナルペプチド、抗小分子scFv、CD8ヒンジ、IL-15RA膜貫通ドメイン、及びIL-15RA細胞内ドメインを含む第3のサイトカインスイッチ
を含む3つのサイトカイン受容体スイッチをコードする3つの核酸を含む。
【0205】
異なる組み合わせのサイトカイン受容体スイッチ(IL7RA及びIL2RG-サイトカイン受容体スイッチ又はIL2RB及びIL2RG-サイトカイン受容体スイッチ)を発現するNK92細胞を、漸増用量のFITC(0、0,1、1、10、100、1000μM)を用いて、FITCコンジュゲートBSAコーティングプレート上で、最大7日間刺激した。NK92細胞上の活性化マーカーCD69をフローサイトメトリーによって評価した。図6Bは、本発明のIL7RA及びIL2RG-サイトカイン受容体スイッチの組み合わせが、NK92細胞上の活性化マーカーCD69の発現を増加させたことを示す。これらのNK92細胞は、
IL-2RGシグナルペプチド、抗小分子scFv、CD8ヒンジ、IL-2RG膜貫通ドメイン、IL-2RG細胞内ドメインを含む第1のサイトカインスイッチ、並びに
IL-7RAシグナルペプチド、抗小分子scFv、CD8ヒンジ、IL-7RA膜貫通ドメイン、及びIL-7RA細胞内ドメインを含む第2のサイトカインスイッチ
を含む2つのサイトカイン受容体スイッチをコードする2つの核酸を含む。
【0206】
全ての特許公報及び非特許公報は、本開示が関係する当業者の技術レベルを示す。全てのこれらの刊行物(参照されるその任意の特定の部分を含む)は、各個々の刊行物が参照により組み込まれるものとして具体的かつ個別に示される場合と同程度に、参照により本明細書に組み込まれる。
【0207】
本明細書の開示は、具体的な実施形態を参照して説明されてきたが、これらの実施形態は、本開示の原理及び用途の単なる例解であることを理解されたい。したがって、添付の特許請求の範囲によって定義される本開示の趣旨及び範囲から逸脱することなく、例解的な実施形態に対して多数の修正を行うことができ、他の構成を考案することができることを理解されたい。
図1A
図1B
図1C
図1D
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図4
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
【配列表】
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【国際調査報告】