(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-10
(54)【発明の名称】がんを処置するためのWNTシグナル伝達を増強するための組成物および方法
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20241003BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241003BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20241003BHJP
A61K 31/5513 20060101ALI20241003BHJP
A61K 31/5377 20060101ALI20241003BHJP
A61K 31/497 20060101ALI20241003BHJP
A61K 45/06 20060101ALI20241003BHJP
C07K 14/47 20060101ALN20241003BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P43/00 111
A61P35/00
A61K31/5513
A61K31/5377
A61K31/497
A61K45/06
C07K14/47 ZNA
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2024520926
(86)(22)【出願日】2022-10-07
(85)【翻訳文提出日】2024-05-30
(86)【国際出願番号】 US2022077746
(87)【国際公開番号】W WO2023060226
(87)【国際公開日】2023-04-13
(32)【優先日】2021-10-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】596060697
【氏名又は名称】マサチューセッツ インスティテュート オブ テクノロジー
(71)【出願人】
【識別番号】592017633
【氏名又は名称】ザ ジェネラル ホスピタル コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】エング, ジョージ
(72)【発明者】
【氏名】イルマズ, オメル
(72)【発明者】
【氏名】ブレイバーマン, ジョナサン
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA17
4C084AA20
4C084MA02
4C084MA52
4C084MA55
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4C084ZC201
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4C086CB05
4C086GA07
4C086GA08
4C086GA09
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4C086GA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA52
4C086MA55
4C086MA63
4C086MA66
4C086NA14
4C086ZB26
4C086ZC20
4H045BA10
4H045CA40
4H045EA20
(57)【要約】
被験体の組織においてWntシグナル伝達経路活性を増強するための方法および組成物が、がん、特に、APC(adenomatous polyposis coli)遺伝子において1またはこれより多くの変異を有するがんの処置のために開発された。好ましくは、Wntシグナル伝達を増強するための組成物の量は、上記被験体における正常の健常細胞の増殖または生存率を低減または阻害しない。いくつかの実施形態において、1種またはこれより多くのGSK-3阻害剤の有効量を含む医薬組成物は、被験体においてがん細胞の増殖または生存率を低減するために投与される。好ましいGSK-3阻害剤は、ナノ粒子内に被包されているかまたはナノ粒子と会合しているLY2090314である。投与のためにナノ粒子内に被包されているかまたはナノ粒子と会合しているLY2090314の投与形態がまた、記載される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
がんの処置の必要性のある被験体においてがんを処置するための方法であって、前記方法は、前記被験体において、がん細胞増殖を低減するおよび/またはがん細胞生存率を低減するために、前記被験体のがん細胞においてWntシグナル伝達活性を増加させるための有効量の組成物を前記被験体に投与することを包含する方法。
【請求項2】
前記組成物の量は、前記被験体において健常細胞の増殖および/または生存率を低減しない、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
Wntシグナル伝達活性を増加させるための前記組成物は、シンターゼキナーゼ3(GSK-3)阻害剤を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記GSK-3阻害剤は、構造:
【化15】
を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記GSK-3阻害剤は、LY2090314、SAR502250、AZD2858、またはそのアナログ、誘導体、もしくはプロドラッグである、請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
前記GSK-3阻害剤は、同量の前記GSK-3阻害剤単独の血清半減期と比較して、前記GSK-3阻害剤の血清半減期を増加させる送達ビヒクル内に被包されているおよび/または前記送達ビヒクルと会合している、請求項3~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記送達ビヒクルは、リポソーム、ポリマー粒子、ウイルス様粒子、およびタンパク質ナノ構造体からなる群より選択されるナノ粒子またはマイクロ粒子である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記ポリマーナノ粒子は、ポリ(乳酸-co-グリコール酸)(PLGA)および/またはポリヒドロキシアルカノエートを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
Wntシグナル伝達活性を増加させるための前記組成物は、単離されたWnt-3aタンパク質を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記がん細胞は、正常のコントロール細胞と比較して、増加したWntシグナル伝達活性によって特徴づけられる、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記がん細胞は、adenomatous polyposis coli(APC)遺伝子において1またはこれより多くの変異を有する、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記がんは、結腸がん、直腸がん、腹膜癌腫症、膵臓がん、腺癌、卵巣がん、多発性骨髄腫、ならびに膵臓、骨、膀胱、脳、乳房、子宮頚部、食道、腎臓、肝臓、肺、鼻咽頭、前立腺、皮膚、胃、および子宮の肉腫からなる群より選択される、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記がんは、結腸がんである、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記組成物は、前記被験体への投与のために薬学的に受容可能な賦形剤を含む、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記組成物は、前記被験体に、静脈内、筋肉内、血管内、心膜内、髄腔内、嚢内、眼窩内、心内、腹腔内、皮下、関節内、くも膜下、脊髄内、および経口からなる群より選択される経路によって投与される、請求項1~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記被験体に、化学療法剤、抗感染剤、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される1種またはこれより多くのさらなる活性薬剤を投与することをさらに包含する、請求項1~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
PD-1アンタゴニスト、PD-1リガンドアンタゴニスト、およびCTLA4アンタゴニストからなる群より選択される1種またはこれより多くの免疫チェックポイント調節剤を投与することをさらに包含する、請求項1~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
養子T細胞治療、および/またはがんワクチンをさらに含む、請求項1~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
手術または放射線治療をさらに含む、請求項1~18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記被験体は、がんを除去する手術を受けたことがあり、前記組成物は、前記被験体においてがん細胞の増殖を低減もしくは防止する、および/または前記被験体における正常組織の成長を増強するために投与される、請求項1~19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
がん細胞においてWntシグナル伝達経路活性を増強する方法であって、前記方法は、前記がん細胞と、前記細胞においてWntシグナル伝達を増加させるための有効量のGSK-3阻害剤とを接触させることを包含する方法。
【請求項22】
前記方法は、前記がん細胞の増殖および/または生存率を低減する、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記細胞は、前記APC遺伝子に1またはこれより多くの変異を有する、請求項21または22に記載の方法。
【請求項24】
前記GSK-3阻害剤は、LY2090314である、請求項21~23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
被験体のがん細胞においてWntシグナル伝達活性を増加させ、前記被験体においてがん細胞増殖を低減および/またはがん細胞生存率を低減するために有効な量で、ナノ粒子中に被包されたGSK-3阻害剤を含む、注射のためまたは経口投与のための投与形態。
【請求項26】
がん細胞においてWntシグナル伝達活性を増加させるために有効な前記量は、前記被験体において健常細胞の増殖および/または生存率を低減しない、請求項25に記載の投与形態。
【請求項27】
前記GSK-3阻害剤は、LY2090314、SAR502250、AZD2858、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項25または26に記載の投与形態。
【請求項28】
前記がんは、結腸がん、直腸がん、癌腫症、膵臓がん、および腺癌からなる群より選択される、請求項25~27のいずれか1項に記載の投与形態。
【請求項29】
前記有効量は、腫瘍サイズを低減するために有効である、請求項25~28のいずれか1項に記載の投与形態。
【請求項30】
被験体のがん細胞においてWntシグナル伝達活性を増加させる、ならびに前記被験体においてがん細胞増殖を低減するおよび/またはがん細胞生存率を低減するために有効な量でナノ粒子中に被包されたGSK-3阻害剤、ならびに請求項1~24のいずれか1項に記載の使用のための指示を含むキット。
【請求項31】
精製Wntタンパク質を調製する方法であって、前記方法は、
組換え発現されたWntタンパク質を、ポリエチレングリコール(PEG)を使用して沈殿させるステップ、
を包含する方法。
【請求項32】
単離された前記Wntタンパク質は、配列番号1のアミノ酸配列、または配列番号1と少なくとも55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、もしくは少なくとも99.5% 配列同一性を有するそのバリアントを有する、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記Wntタンパク質は、1またはこれより多くのさらなるタンパク質構成成分、例えば、アファミン、TEV(タバコエコーウイルス)部分、またはヒスチジンタグに融合される、請求項31に記載の方法。
【請求項34】
1またはこれより多くのさらなるタンパク質構成成分に融合された前記Wntタンパク質は、単独で発現されたWnt3aタンパク質と比較して、増加された収量、増強された安定性、および/または改善された精製の容易さを有する、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
1またはこれより多くのさらなるタンパク質構成成分に融合された前記Wntタンパク質は、配列番号2のアミノ酸配列、または配列番号2と少なくとも55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、もしくは少なくとも99.5% 配列同一性を有するそのバリアントを有する、請求項33に記載の方法。
【請求項36】
1またはこれより多くのさらなるタンパク質構成成分に融合された前記Wntタンパク質は、配列番号3のアミノ酸配列、または配列番号3と少なくとも55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、もしくは少なくとも99.5% 配列同一性を有するそのバリアントを有する、請求項33に記載の方法。
【請求項37】
前記Wntタンパク質は、約40%~約10%の間(両端を含む);または約30%~約20%の間(両端を含む)のPEGの最終濃度を使用して沈殿される、請求項31~36のいずれか1項に記載の方法。
【請求項38】
前記タンパク質を沈殿させるために使用されるPEGは、PEG400、PEG1500、PEG6000、PEG8000、PEG10,000、およびPEG20,000のうちの1種またはこれより多くのものである、請求項31~37のいずれか1項に記載の方法。
【請求項39】
がん患者を処置することにおける使用のための医薬組成物であって、前記組成物は、有効量の
GSK-3阻害剤、および
Wntアゴニスト、
の組み合わせを含み、
ここで前記医薬組成物の投与は、前記被験体への、同量のGSK-3阻害剤単独または同量のWntアゴニスト単独の投与よりもより大きな程度までまたはより長い継続時間にわたって、がん細胞の増殖または生存率、あるいは1またはこれより多くの関連症状を低減する、
組成物。
【請求項40】
前記GSK-3阻害剤は、LY2090314、SAR502250、AZD2858、またはそのアナログ、誘導体、もしくはプロドラッグである、請求項39に記載の医薬組成物。
【請求項41】
前記Wntアゴニストは、単離されたR-スポンジン1もしくはR-スポンジン3タンパク質、またはこれらの誘導体を含む、請求項39または40に記載の医薬組成物。
【請求項42】
がんの処置の必要性のある被験体においてがんを処置するための方法であって、前記方法は、被験体に、有効量の、請求項39~41のいずれか1項に記載のGSK-3阻害剤およびWntアゴニストを含む医薬組成物を投与することを包含する方法。
【請求項43】
前記医薬組成物は、前記被験体において健常細胞の増殖および/または生存率を低減しないかまたは最小限に低減する、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記GSK-3阻害剤および前記Wntアゴニストは、処置サイクル内で異なる経路および/または時間で投与される、請求項42または43に記載の方法。
【請求項45】
前記GSK-3阻害剤および前記Wntアゴニストは、経口でまたは注射によるかのいずれかで投与される、請求項42~44のいずれか1項に記載の方法。
【請求項46】
前記GSK-3阻害剤および前記Wntアゴニストは、送達ビヒクルの非存在下での同量の前記GSK-3阻害剤または前記Wntアゴニストの血清半減期と比較して、前記GSK-3阻害剤および前記Wntアゴニストの血清半減期を増加させる前記送達ビヒクル内に被包されているおよび/または前記送達ビヒクルと会合している、請求項42~45のいずれか1項に記載の方法。
【請求項47】
前記送達ビヒクルは、リポソーム、ポリマー粒子、ウイルス様粒子、およびタンパク質ナノ構造体からなる群より選択されるナノ粒子またはマイクロ粒子である、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
前記ポリマーナノ粒子は、ポリ(乳酸-co-グリコール酸)(PLGA)および/またはポリヒドロキシアルカノエートを含む、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
前記がん細胞は、正常のコントロール細胞と比較して、増加したWntシグナル伝達活性によって特徴づけられる、請求項42~48のいずれか1項に記載の方法。
【請求項50】
前記がん細胞は、adenomatous polyposis coli(APC)遺伝子において1またはこれより多くの変異を有する、請求項42~49のいずれか1項に記載の方法。
【請求項51】
前記がんは、結腸がん、直腸がん、腹膜癌腫症、膵臓がん、腺癌、卵巣がん、多発性骨髄腫、ならびに膵臓、骨、膀胱、脳、乳房、子宮頚部、食道、腎臓、肝臓、肺、鼻咽頭、前立腺、皮膚、胃、および子宮の肉腫からなる群より選択される、請求項42~50のいずれか1項に記載の方法。
【請求項52】
前記がんは、結腸がんである、請求項42~51のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
政府が資金提供した研究に関する陳述
本発明は、National Institutes of Healthによって授与された助成金番号R01 CA211184およびR01 CA254314の下で政府の支援を得て行われた。政府は、本発明において一定の権利を有する。
【0002】
関連出願の引用
本出願は、2021年10月7日出願の米国特許出願第63/253,380号(これは、その全体において本明細書に参考として援用される)の利益および優先権を主張する。
【0003】
配列表に対する言及
「MIT_23378.xml」(作成日:2022年10月6日、サイズ:6,332バイト)と命名したxmlファイルとして提出された配列表は、米国特許法施行規則§1.834(c)(1)に従って本明細書に参考として援用される。
【0004】
発明の分野
本発明は一般に、抗腫瘍組成物およびその方法、最も詳細には、Wntシグナル伝達経路をモジュレートして、がん、特に、結腸がんを処置するための低分子GSK阻害剤の使用の分野にある。
【背景技術】
【0005】
発明の背景
結腸直腸がん(CRC)は、全世界でがんによる罹患率および死亡率の原因第2位である。人口のほぼ半分が、人生の間に少なくとも1個の良性の結腸腺腫性ポリープを発生させると推測され、その症例のうちの3%未満が、結腸直腸がんを発生させるように進む。非常に後期になるまで症状は希であることから、大部分の症例は、検出されない。結腸がんは、それ自体、悪性腫瘍へと進行するポリープ様の成長として出現する;次いで、リンパ節、肝臓、および肺へと転移する。これらは、進行した疾患を有する患者の主な死亡原因である。
【0006】
Wntシグナル伝達経路は、細胞増殖、細胞極性、発生の細胞運命決定、および組織ホメオスタシスに必須である(Logan, C.Y. & Nusse, R. Annu. Rev. Cell Dev. Biol. 20, 781-810 (2004))。結果として、Wntシグナル伝達の調節解除はしばしば、がんおよび他の疾患と関連する(Clevers, H. Cell 127, 469-480 (2006); MacDonald, B.T.ら, Dev. Cell 17, 9-26 (2009))。顕著なことには、結腸直腸がん(CRC)のうちの90%超が、Wnt経路を活性化する変異を有し、80%超が、WntアンタゴニストであるAdenomatous Polyposis Coli(APC)において変異を含む(Nature 487, 330-337 (2012))。ヒトAPC変異は一般に、「変異クラスター領域」(MCR)といわれるオープンリーディングフレームの中央領域において生じ、短縮化されたタンパク質生成物を生じる。APC短縮化は、複数のβ-カテニン結合部位(20R)、Axin相互作用部位(SAMP)、核局在化配列、および細胞骨格相互作用を媒介するC末端塩基性領域の喪失を生じる。結腸幹細胞における生殖細胞系列または散発性のAPC変異は、ポリープ形成をもたらし、結腸直腸腫瘍形成における開始事象と考えられる。Wntシグナル伝達の文脈において、APCがβ-カテニン破壊複合体の足場として作用することは、十分に確立されている。
【0007】
結腸がんは、単一の「ゲートキーパー遺伝子」のパラダイムに厳密に従う。APC(adenomatous polyposis coli(大腸腺腫性ポリポーシス))遺伝子を不活性化する変異は、全てのヒト結腸腫瘍のうちのおよそ80%において見出され、このような変異に関するヘテロ接合性は、ヒトおよびマウスモデルにおける常染色体優性結腸がん素因を生じる。APC変異および過剰メチル化はまた、膵臓がんおよび胃がんを含む種々の他のがんタイプにおいて見出されている。Wnt/β-カテニンシグナル伝達は、腸のホメオスタシスに必須であり、腫瘍抑制因子APCの変異を通じて、大部分のCRCにおいて異常に活性化される。APCは、破壊のためにβ-カテニンを標的化する細胞質タンパク質複合体の必須の構成成分である。
【0008】
遺伝性および散発性両方の結腸腫瘍における中心的病変は、Wntシグナル伝達経路の活性化を生じる(Kennell J. A. and Cadigan, K. M. Adv. Exp. Med. Biol. 656: 1-12 (2009))。ほぼ全ての腫瘍において、APCまたはGSK3β変異の非活性化またはCTNNB1(β-カテニンをコードする)変異の安定化が存在する(Fearnhead NSら, Br Med Bull. 64:27-43 (2002))。より具体的には、APCの規準的腫瘍抑制因子機能は、Wntシグナル伝達の非存在下でがん原遺伝子β-カテニンのユビキチン化およびその後のプロテアソームによる分解を促進するアキシン/アキシン2およびGSK-3βとの「破壊複合体を形成することである。APC機能の喪失は、β-カテニンの蓄積を生じ、これは、核に移動し、Tcf/Lef転写因子複合体に結合して、サイクリンD1、c-myc、およびCRD-BPを含む多数の標的遺伝子の転写を活性化する(Noubissi FKら, Nature. 441:898-901(2006))。調節されていないβ-カテニン活性の腫瘍形成性の結果は、細胞成長および増殖の直接的刺激の両方に、ならびに分化プログラムの破壊に関係している可能性がある。
【0009】
結腸がんにおける分子経路の複雑性は、臨床治療の難題を示す。結腸がんと早期に診断された患者の生存がしばしば優れているとしても、結腸がんの発生率は、特に若年者間で増加し続けている。従って、結腸がん、ならびにAPC調節不全および過剰メチル化と関連する他のがんのための新たなかつ有効な処置が必要である。
【0010】
本発明の目的は、結腸がんの処置のための組成物およびその使用方法を提供することである。
【0011】
本発明の別の目的は、APC遺伝子を不活性化する変異と関連するがんを処置するための組成物および方法を提供することである。
【0012】
本発明のさらに別の目的は、全身毒性がほとんどまたは全くないがんを処置するための組成物および方法を提供することである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Logan, C.Y. & Nusse, R. Annu. Rev. Cell Dev. Biol. 20, 781-810 (2004)
【非特許文献2】Clevers, H. Cell 127, 469-480 (2006)
【非特許文献3】MacDonald, B.T.ら, Dev. Cell 17, 9-26 (2009)
【非特許文献4】Nature 487, 330-337 (2012)
【非特許文献5】Kennell J. A. and Cadigan, K. M. Adv. Exp. Med. Biol. 656: 1-12 (2009)
【非特許文献6】Fearnhead NSら, Br Med Bull. 64:27-43 (2002)
【非特許文献7】Noubissi FKら, Nature. 441:898-901(2006)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0014】
発明の要旨
がん、特に、高いWntシグナル伝達活性およびAPC遺伝子を不活性化する変異と関連する結腸がんを処置するための医薬組成物およびその使用方法が、開発されている。上記組成物は、調節不全のWnt活性と関連するがんにおいてWntシグナル伝達を増加させる1種またはこれより多くの活性薬剤を送達する。がん細胞における閾値を超える過剰なWnt活性は、減少したがん細胞増殖および腫瘍負荷の低減を生じる。
【0015】
がんの処置の必要性のある被験体においてがんを処置するための方法は、上記被験体に、有効量の、上記被験体のがん細胞におけるWntシグナル伝達活性を増加させるための組成物を投与して、上記被験体においてがん細胞増殖を低減するおよび/またはがん細胞生存率を低減することを包含する。代表的には、上記組成物の量は、上記被験体において健常細胞の増殖および/または生存率を低減しない。好ましい実施形態において、Wntシグナル伝達活性を増加させるための上記組成物は、グリコーゲンシンターゼキナーゼ3(GSK-3)阻害剤を含む。例示的なGSK-3阻害剤は、以下の構造:
【化1】
【化2】
を含む。
【0016】
好ましい実施形態において、上記GSK-3阻害剤は、LY2090314、SAR502250、AZD2858、またはそのアナログ、誘導体、もしくはプロドラッグである。代表的には、上記GSK-3阻害剤は、同量の上記GSK-3阻害剤単独の血清半減期と比較して、GSK-3阻害剤の血清半減期を増加させる送達ビヒクル内に被包されているおよび/または送達ビヒクルと会合している。好ましい送達ビヒクルは、ポリマーナノ粒子またはマイクロ粒子である。特定の実施形態において、ポリマーナノ粒子は、ポリ(乳酸-co-グリコール酸)(PLGA)および/またはポリヒドロキシアルカノエートを含む。他の実施形態において、Wntシグナル伝達活性を増加させるための上記組成物は、単離されたWnt-3aタンパク質を含む。
【0017】
代表的には、上記がん細胞は、正常のコントロール細胞と比較して、増加したWntシグナル伝達活性によって特徴づけられる。例示的な実施形態において、上記がん細胞は、adenomatous polyposis coli(APC)遺伝子において1またはこれより多くの変異を有する。上記がんは、結腸がん、直腸がん、腹膜癌腫症、膵臓がん、腺癌、卵巣がん、多発性骨髄腫、ならびに膵臓、骨、膀胱、脳、乳房、子宮頚部、食道、腎臓、肝臓、肺、鼻咽頭、前立腺、皮膚、胃、および子宮の肉腫であり得る。好ましい実施形態において、上記がんは、結腸がんである。
【0018】
いくつかの実施形態において、上記方法は、上記被験体に、1種またはこれより多くのさらなる活性薬剤(例えば、化学療法剤、抗感染剤、抗炎症剤、および診断剤)を投与することを包含する。いくつかの実施形態において、上記方法はまた、養子T細胞治療、手術、もしくは放射線治療、および/またはがんワクチンもしくは免疫チェックポイント調節剤(例えば、PD-1アンタゴニスト、PD-1リガンドアンタゴニスト、およびCTLA4アンタゴニスト)を投与することを包含する。例示的な実施形態において、上記被験体は、がんを除去する手術を受けたことがあり、上記組成物は、上記被験体においてがん細胞の増殖を低減もしくは防止する、および/または上記被験体において正常組織の成長を増強するために投与される。
【0019】
がん細胞においてWntシグナル伝達経路活性を増強するための方法は、がん細胞と、有効量のGSK-3阻害剤とを接触させて、上記細胞においてWntシグナル伝達を増加させることを包含する。代表的には、上記方法は、APC遺伝子上に1またはこれより多くの変異を有するがん細胞の増殖および/または生存率を低減する。例示的なGSK-3阻害剤は、LY2090314である。
【0020】
注射用の投与形態は、被験体のがん細胞においてWntシグナル伝達活性を増加させる、ならびに上記被験体においてがん細胞増殖を低減するおよび/またはがん細胞生存率を低減するために有効な量で、ナノ粒子中に被包されているGSK-3阻害剤を含む。代表的には、がん細胞においてWntシグナル伝達活性を増加するために有効な量は、上記被験体において健常細胞の増殖および/または生存率を低減しない。好ましい投与形態は、被験体のがん細胞においてWntシグナル伝達活性を増加させる、ならびにがん細胞増殖を低減する、および/または結腸がん、直腸がん、癌腫症、膵臓がん、および腺癌から選択されるがん細胞の生存率を低減するために有効な量でナノ粒子中に被包されているLY2090314を含む。代表的には、上記有効量は、腫瘍サイズを低減するために有効である。
【0021】
キットは、被験体のがん細胞においてWntシグナル伝達活性を増加させる、ならびに上記被験体においてがん細胞増殖を低減するおよび/またはがん細胞生存率を低減するために有効な量でナノ粒子中に被包されているGSK-3阻害剤、ならびに記載される方法に従う使用のための指示を含む。
【0022】
腫瘍成長もしくは腫瘍サイズを低減するために、その必要性のある被験体への投与のための有効量の1種またはこれより多くの活性薬剤(例えば、1種またはこれより多くのGSK-3阻害剤)を含むナノ粒子組成物および医薬製剤を作製する方法がまた、提供される。PEGタンパク質をより効率的に精製する方法がまた、開発されている。
【0023】
GSK-3阻害剤およびWntアゴニストの有効量の組み合わせを含む医薬組成物は、一緒にまたは別個に投与され得る。がんを有する被験体を選択し、処置する方法がまた、提供される。代表的には、上記2種の活性薬剤(すなわち、GSK-3阻害剤およびWntアゴニスト)の組み合わせの投与は、がん細胞の増殖もしくは生存率、または1もしくはこれより多くの関連症状を、同量のGSK-3阻害剤単独もしくは同量のWntアゴニスト単独を上記被験体に投与するよりもより大きな程度までもしくはより長い持続時間にわたって低減するために有効である。最も好ましい実施形態において、がんを有する被験体におけるがん細胞の増殖または生存率の低減は、GSK-3阻害剤およびWntアゴニスト単独を投与することによって達成される相加的な低減より大きい。腫瘍を有するいくらかの被験体では、上記組み合わせは、腫瘍負荷を低減する、腫瘍進行を低減する、腫瘍細胞増殖の速度を低減する、またはこれらの組み合わせのために有効である。例示的なGSK-3阻害剤としては、LY2090314、SAR502250、AZD2858、またはそのアナログ、誘導体、もしくはプロドラッグが挙げられる。例示的なWntアゴニストは、単離されたR-スポンジン1もしくはR-スポンジン3タンパク質、またはこれらの誘導体を含む。がんの処置の必要性のある被験体においてがんを処置するための方法は、被験体に、有効量の医薬組成物を、上記被験体においてがん細胞のWntシグナル伝達を増加させて、上記被験体においてがん細胞増殖を低減するおよび/またはがん細胞生存率を低減するために投与することを包含する。代表的には、上記組成物の量は、上記被験体において健常細胞の増殖および/または生存率を顕著に低減しない。好ましい実施形態において、有効量のGSK-3阻害剤およびWntアゴニストが投与される。好ましくは、上記組成物は、上記被験体において健常細胞の増殖および/または生存率を低減しないかまたは最小限に低減する。代表的には、上記組成物は、上記被験体に、非経口的にまたは経腸的に投与される。いくつかの実施形態において、上記GSK-3阻害剤および上記Wntアゴニストは、経口でまたは注射によるかのいずれかで投与される。いくつかの実施形態において、上記GSK-3阻害剤および上記Wntアゴニストは、異なる経路および/または処置サイクル内の時間で投与される。好ましい実施形態において、上記GSK-3阻害剤および上記Wntアゴニストは、送達ビヒクルの非存在下で、同量の上記GSK-3阻害剤または上記Wntアゴニストの血清半減期と比較して、上記GSK-3阻害剤および上記Wntアゴニストの血清半減期を増加させる送達ビヒクル内に被包されているおよび/または送達ビヒクルと会合している。例示的な送達ビヒクルとしては、ナノ粒子またはマイクロ粒子(例えば、リポソーム、ポリマー粒子、ウイルス様粒子、およびタンパク質ナノ構造体)が挙げられる。好ましい実施形態において、上記送達ビヒクルは、ポリ(乳酸-co-グリコール酸)(PLGA)および/またはポリヒドロキシアルカノエートを含むポリマーナノ粒子である。代表的には、上記がん細胞は、正常のコントロール細胞と比較して、増加したWntシグナル伝達活性によって特徴づけられる(例えば、adenomatous polyposis coli(APC)遺伝子における1またはこれより多くの変異を有するもの)。いくつかの実施形態において、処置に適した上記がんは、結腸がん、直腸がん、腹膜癌腫症、膵臓がん、腺癌、卵巣がん、多発性骨髄腫、ならびに肉腫(膵臓、骨、膀胱、脳、乳房、子宮頚部、食道、腎臓、肝臓、肺、鼻咽頭、前立腺、皮膚、胃、および子宮のがん)である。1つの実施形態において、上記がんは、結腸がんである。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、それぞれ、以下の各々に関する濃度の関数(Log
10)として細胞の相対的成長(0~650)を示す線グラフである:
【化3】
【0025】
【
図2】
図2は、LY2090314の濃度に対する細胞の成長速度を示す棒グラフであり、成長(0~1500)およびオフターゲット阻害(0~0.001)は、それぞれ、0成長速度に関する閾値の上および下に示される。成長速度が減少し、オフターゲット阻害が開始される点は、矢印で示される。
【0026】
【化4】
の細胞の各々におけるLY2090314(0~1,000nm)の濃度に対する非処理(0~1.4)に対して正規化したオルガノイド成長を示す線グラフである。
【0027】
【
図4】
図4は、粒子直径(0~1000,000nm)にわたる計数(0~30)を示すLYナノ粒子サイズ分布のグラフである。
【0028】
【
図5A】
図5A~5Cは、LYナノ粒子処置に伴う腫瘍負荷の定量を示す。
図5Aは、それぞれ、非処置およびLYナノ粒子処置サンプルの各々における腫瘍数(0~150)を示すTdT+ 腫瘍数/マウスのグラフである。
図5Bは、それぞれ、非処置およびLYナノ粒子処置サンプルの各々における平均蛍光(0~80)を示す、平均蛍光/腫瘍のグラフである。
図5Cは、それぞれ、非処置およびLYナノ粒子処置サンプルの各々における面積×蛍光強度(0~1.5×10
8)を示す、腫瘍負荷/マウスのグラフである。
【
図5B-C】
図5A~5Cは、LYナノ粒子処置に伴う腫瘍負荷の定量を示す。
図5Aは、それぞれ、非処置およびLYナノ粒子処置サンプルの各々における腫瘍数(0~150)を示すTdT+ 腫瘍数/マウスのグラフである。
図5Bは、それぞれ、非処置およびLYナノ粒子処置サンプルの各々における平均蛍光(0~80)を示す、平均蛍光/腫瘍のグラフである。
図5Cは、それぞれ、非処置およびLYナノ粒子処置サンプルの各々における面積×蛍光強度(0~1.5×10
8)を示す、腫瘍負荷/マウスのグラフである。
【0029】
【
図6】
図6は、マウスを2週間にわたってそれらの飼料中の2.5mg/kg/日 LYナノ粒子で処置した処置群のものに対する、コントロール群におけるAPC minマウスのパーセント生存のグラフである。処置ウインドウは、2つの点線で示される。
【0030】
【化5】
の各々についてのLY濃度(M)(0~1.5×10
-5)に対するヒト腺癌処置、生存率(0~1.1)のグラフである。
【0031】
【
図8A-B】
図8Aおよび8Bは、LY2090314および5-フルオロウラシル(5-FU)の漸増濃度の存在下での結腸がんオルガノイドの生存割合を示すグラフである。
【0032】
【
図9】
図9は、WRN濃縮係数(0.125~32)に対する相対的成長AKPVT(0~2.0)を示す、WRN(Wnt3a R-スポンジン3、ノギン)濃度のグラフである。
【0033】
【
図10A-C】
図10A~10Cは、ドキシサイクリン(Dox)またはドキシサイクリンなしのコントロール(Doxなし)で処置したマウスにおける腫瘍の数(
図10A)、平均蛍光/腫瘍(
図10B)、および腫瘍負荷(
図10C)を示すグラフである。
【0034】
【
図11】
図11は、ドキシサイクリン(Dox)またはドキシサイクリンなしのコントロール(Doxなし)で処置したマウスにおける手術後の日数に対するパーセント生存を示すカプラン-マイアープロットである。
【0035】
【
図12A】
図12A~12Eは、 PBS、または6.25mg/kg/日、12.5mg/kg/日、25mg/kg/日、および50mg/kg/日(
図12A)の投与量の5-フルオロウラシルで処置したマウスにおける、5-フルオロウラシルの投与後1週間の、0日目に対する体重の変化;コントロールマウスおよび5FUで処置したマウスにおける腫瘍数(
図12B)、平均蛍光/腫瘍(
図12C)、および腫瘍負荷/マウス(
図12D);ならびに播種性結腸がんを処置するために使用されるLY2090314ナノ粒子の投与後8日間の期間にわたる体重変化(
図12E)を示すグラフである。
【
図12B-D】
図12A~12Eは、 PBS、または6.25mg/kg/日、12.5mg/kg/日、25mg/kg/日、および50mg/kg/日(
図12A)の投与量の5-フルオロウラシルで処置したマウスにおける、5-フルオロウラシルの投与後1週間の、0日目に対する体重の変化;コントロールマウスおよび5FUで処置したマウスにおける腫瘍数(
図12B)、平均蛍光/腫瘍(
図12C)、および腫瘍負荷/マウス(
図12D);ならびに播種性結腸がんを処置するために使用されるLY2090314ナノ粒子の投与後8日間の期間にわたる体重変化(
図12E)を示すグラフである。
【
図12E】
図12A~12Eは、 PBS、または6.25mg/kg/日、12.5mg/kg/日、25mg/kg/日、および50mg/kg/日(
図12A)の投与量の5-フルオロウラシルで処置したマウスにおける、5-フルオロウラシルの投与後1週間の、0日目に対する体重の変化;コントロールマウスおよび5FUで処置したマウスにおける腫瘍数(
図12B)、平均蛍光/腫瘍(
図12C)、および腫瘍負荷/マウス(
図12D);ならびに播種性結腸がんを処置するために使用されるLY2090314ナノ粒子の投与後8日間の期間にわたる体重変化(
図12E)を示すグラフである。
【0036】
【
図13A-B】
図13A~13Cは、野生型結腸オルガノイドに対するSAR502250 × LY2090314の用量応答を示すグラフであり、それぞれ、x軸およびy軸上で各薬物に関する野生型オルガノイドを成長させる相加的応答および独立した能力(
図13A);6×10
-8~2×10
-5のSAR502250の濃度範囲にわたるAKPVT(0~1.5)の相対的成長を示すがんオルガノイドに対するSAR502250の用量応答(
図13B);および1×10
-7~1×10
-4のAZD2858の濃度範囲にわたる蛍光単位を示す野生型オルガノイド成長に対するAZD2858の用量応答(
図13C)を明らかに示す。
【
図13C】
図13A~13Cは、野生型結腸オルガノイドに対するSAR502250 × LY2090314の用量応答を示すグラフであり、それぞれ、x軸およびy軸上で各薬物に関する野生型オルガノイドを成長させる相加的応答および独立した能力(
図13A);6×10
-8~2×10
-5のSAR502250の濃度範囲にわたるAKPVT(0~1.5)の相対的成長を示すがんオルガノイドに対するSAR502250の用量応答(
図13B);および1×10
-7~1×10
-4のAZD2858の濃度範囲にわたる蛍光単位を示す野生型オルガノイド成長に対するAZD2858の用量応答(
図13C)を明らかに示す。
【0037】
【
図14】
図14は、レサズリンベースのアッセイによって評価される、結腸がんオルガノイド成長(AKPVT)の阻害に対する、LY2090314によるRSPO1の二次元用量応答である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
発明の詳細な説明
I.定義
用語「投薬計画(dosage regime)」とは、製剤、投与経路、薬物用量、投与間隔および処置継続時間に関する薬物投与に言及する。
【0039】
用語「個体」、「宿主」、「被験体」、および「患者」は、交換可能に使用され、哺乳動物(例えば、霊長類(例えば、ヒト)、ならびに齧歯類(例えば、マウスおよびラット)および他の実験動物が挙げられるが、これらに限定されない)に言及する。
【0040】
用語「有効量」または「治療上有効な量」とは、処置されている疾患状態を処置する、阻害する、またはその疾患状態の1もしくはこれより多くの症状を緩和するために、あるいは別の方法で所望の薬理学的および/または生理学的効果を提供するために十分な投与量を意味する。正確な投与量は、被験体依存性の変数(例えば、年齢、免疫系の健康状態など)、疾患、および投与されている処置のような種々の要因に応じて変動する。上記有効量の効果は、コントロールに対するものであり得る。このようなコントロールは、当該分野で公知であり、本明細書で考察され、例えば、上記薬物、もしくは薬物の組み合わせの投与の前もしくは投与の非存在下での上記被験体の状態であり得るか、または薬物の組み合わせの場合には、上記組み合わせの効果は、上記薬物のうちの一方のみの投与の効果と比較され得る。
【0041】
用語「薬学的に受容可能な(pharmaceutically acceptable)」とは、確かな医学的判断の範囲内で、過度の毒性、刺激、アレルギー応答、または他の問題もしくは合併症なしに、合理的な利益/リスク比と釣り合った、ヒトおよび動物の組織と接触した状態での使用に適している、それら化合物、材料、組成物、および/または投与形態に言及する。用語「薬学的に受容可能なキャリア」は、任意のおよび全ての溶媒、分散媒、コーティング、抗細菌および抗真菌剤、等張剤および吸収遅延物質などを含む。薬学的に活性な物質のためのこのような媒体および作用物質(agent)の使用は、当該分野で周知である。任意の従来の媒体または作用物質が活性化合物と不適合である限りを除いて、治療用組成物におけるその使用が企図される。補助的な活性化合物がまた、上記組成物へと組み込まれ得る。
【0042】
用語「薬学的に受容可能な塩」とは、本明細書で使用される場合、本明細書で定義される化合物の誘導体であって、ここでその親化合物がその酸塩または塩基塩を作製することによって修飾される誘導体に言及する。薬学的に受容可能な塩の例としては、アミンのような塩基性残基の無機酸または有機酸の塩;およびカルボン酸のような酸性残基のアルカリ塩もしくは有機塩が挙げられるが、これらに限定されない。上記薬学的に受容可能な塩は、例えば、非毒性の無機酸または有機酸から形成される親化合物の従来の非毒性塩または四級アンモニウム塩を含む。このような従来の非毒性塩は、無機酸(例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、スルファミン酸、リン酸、および硝酸)に由来する非毒性塩;および有機酸(例えば、酢酸、プロピオン酸、コハク酸、グリコール酸、ステアリン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、アスコルビン酸、パモ酸、マレイン酸、ヒドロキシマレイン酸、フェニル酢酸、グルタミン酸、安息香酸、サリチル酸、スルファニル酸、2-アセトキシ安息香酸、フマル酸、トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、メタンスルホン酸、エタンジスルホン酸、シュウ酸、およびイセチオン酸塩)から調製される塩を含む。上記化合物の薬学的に受容可能な塩は、上記親化合物から合成され得る。これは、従来の化学的方法によって、塩基性部分または酸性部分を含む。一般に、このような塩は、これらの化合物の遊離酸または遊離塩基形態を、水中もしくは有機溶媒中、またはその2つの混合物中で、適切な塩基または酸の化学的量論的量と反応させることによって調製され得る;一般に、エーテル、酢酸エチル、エタノール、イソプロパノール、またはアセトニトリルのような非水性媒体が好ましい。適切な塩のリストは、Remington’s Pharmaceutical Sciences, 第20版, Lippincott Williams & Wilkins, Baltimore, MD, 2000, p. 704;および「Handbook of Pharmaceutical Salts: Properties, Selection, and Use」, P. Heinrich Stahl and Camille G. Wermuth, Eds., Wiley-VCH, Weinheim, 2002において見出される。
【0043】
用語「プロドラッグ」とは、本明細書で使用される場合、不活性(または活性がかなり低い)形態で投与される薬理学的物質(薬物)に言及する。いったん投与されると、上記プロドラッグは、活性化合物へと身体の中で(インビボで)代謝される。
【0044】
阻害の文脈において用語「阻害する」または「低減する」とは、活性および量において低減するまたは減少することを意味する。これは、活性もしくは量における完全な阻害もしくは低減、または部分的阻害もしくは低減であり得る。阻害または低減は、コントロールまたは標準レベルと比較され得る。阻害は、5%、10%、25%、50%、75%、80%、85%、90%、95%、99%、または100%であり得る。例えば、がん細胞の1種またはこれより多くの阻害剤を含む組成物は、阻害剤組成物を受けなかった、またはこれで処置されなかった被験体の等価な腫瘍組織における同じ細胞の活性および/または量から、がん細胞の活性および/または量を、約10%、20%、30%、40%、50%、75%、85%、90%、95%、または99%阻害または低減し得る。いくつかの実施形態において、上記阻害および低減は、mRNA、タンパク質、細胞、組織、および器官レベルで比較される。例えば、腫瘍増殖または腫瘍サイズ/容積における阻害および低減。
【0045】
用語、疾患、障害、または状態を「処置すること」または「防止すること」とは、上記疾患、障害、および/または状態に対する素因があり得るが、それを有すると未だ診断されていない動物において起こることから防止すること;上記疾患、障害もしくは状態を阻害すること、例えば、その進行を妨げること;および上記疾患、障害、もしくは状態を軽減すること、例えば、上記疾患、障害および/もしくは状態の退縮を引き起こすこと。上記疾患または状態を処置することは、その根底にある病態生理が影響を受けないとしても、上記疾患もしくは状態の少なくとも1つの症状を改善する(例えば、このような薬剤が疼痛の原因を処置しないとしても、鎮痛剤の投与によって被験体の疼痛を処置する)ことを含む。処置の所望の効果としては、疾患進行の速度を減少させる、上記疾患状態を改善する、もしくは和らげる、および寛解または改善された予後が挙げられる。例えば、個体は、がんと関連する1またはこれより多くの症状が軽減または排除される場合に、首尾よく「処置される」(がん性細胞の増殖の低減、上記疾患から生じる症状の減少、上記疾患に罹患している個体のクオリティーオブライフの増加、上記疾患を処置するために必要とされる他の薬物療法の用量の減少、上記疾患の進行の遅延、および/または個体の生存の長期化が挙げられるが、これらに限定されない)。
【0046】
用語「生分解性」とは、一般に、生理学的条件下で、上記被験体によって代謝、排除、または排出され得るより小さな単位または化学種へと分解または腐食する材料に言及する。分解時間は、組成および形態の関数である。
【0047】
用語「標的化部分」とは、特定の場所に局在するかまたはそこから離れている部分を意味する。上記部分は、例えば、タンパク質、核酸、核酸アナログ、炭水化物、または低分子であり得る。上記場所は、組織、特定の細胞タイプ、または細胞下構成成分であり得る。1つの実施形態において、上記標的化部分は、活性薬剤の局在化を方向づける。
【0048】
用語「長期にわたる滞留時間」とは、薬物が患者の身体、またはその患者の器官もしくは組織から消失するために必要とされる時間の増加を意味する。ある特定の実施形態において、「長期にわたる滞留時間」とは、比較の標準物質(例えば、送達ビヒクル(例えば、ナノ粒子)との会合または送達ビヒクル内への被包化なしの匹敵する薬剤)より10%、20%、50%または75%長い半減期で消失される薬剤に言及する。ある特定の実施形態において、「長期にわたる滞留時間」とは、比較の標準物質(例えば、腫瘍と関連した特定の細胞タイプを特異的に標的とするナノ粒子なしの匹敵する薬剤)より2倍、5倍、10倍、20倍、50倍、100倍、200倍、500倍、1000倍、2000倍、5000倍、または10000倍長い半減期で消失される薬剤に言及する。
【0049】
用語「組み込まれる(incorporated)」および「被包される(encapsulated)」とは、所望の適用において活性薬剤の制御された放出(例えば、徐放)を可能にする組成物へとおよび/またはその組成物上にそのような薬剤を組み込む、製剤化する、または別の方法で含むことに言及する。上記活性薬剤または他の材料は、上記薬剤を、上記粒子構造内、内部、またはこのような粒子の1もしくはこれより多くの表面官能基への(共有結合的、イオン性、または他の結合相互作用によって)被包、物理的混合などによって、粒子へと組み込まれ得る。
【0050】
用語「Wntシグナル伝達」または「Wntシグナル伝達活性」または「Wntシグナル伝達経路活性」は、交換可能に使用され、細胞表面レセプターを通じて、細胞へとシグナルを通過させるタンパク質で始まるシグナル伝達経路のグループに言及する。用語「Wnt経路」とは、FrizzledファミリーレセプターへのWnt-タンパク質リガンドの結合によって活性化される、規準的Wnt経路、非規準的平面内細胞極性経路(noncanonical planar cell polarity pathway)、および非規準的Wnt/カルシウム経路を含む、3種のWntシグナル伝達経路のうちのいずれか1つに言及する。Wntシグナル伝達経路の活性を評価するために使用される例示的なアッセイとしては、レポーター活性を有するTCF LEF転写因子結合ドメインへのβカテニン結合の機能的リードアウトであるTCF/LEF Reporterキット;または野生型オルガノイドを介した幹細胞成長によるものが挙げられる。いくつかの実施形態において、Wntシグナル伝達経路の活性は、発光または蛍光を使用して、安定なレポーター発現細胞株を使用して評価され得る。
【0051】
II. 組成物
A. Wnt活性またはレベルを増加させる化合物
Wnt経路
Wntシグナル伝達は、Wntタンパク質がFrizzled(Fz)ファミリーレセプターのN末端細胞外システインリッチドメインに結合すると開始する。これらのレセプターは、形質膜を7回またぎ、Gタンパク質共役レセプター(GPCRs)の別個のファミリーを構成する。しかし、Wntシグナル伝達を促進するために、共レセプターが、Wntタンパク質とFzレセプターとの間の相互作用と一緒に必要とされ得る。例としては、リポタンパク質レセプター関連タンパク質(LRP)-5/6、レセプターチロシンキナーゼ(RTK)、およびROR2が挙げられる。レセプターの活性化の際に、シグナルは、リンタンパク質Dishevelled(Dsh)(これは、細胞質に位置する)へと送られる。このシグナルは、FzとDshとの間の直接的相互作用を介して伝えられる。Dshタンパク質は、全ての生物に存在し、全て、以下の高度に保存されたタンパク質ドメイン:アミノ末端DIXドメイン、中央のPDZドメイン、およびカルボキシ末端DEPドメインを共有する。これらの異なるドメインは、Dsh後に、Wntシグナルが複数の経路へと分岐し得、各経路は、上記3つのドメインの異なる組み合わせと相互作用することから、重要である。
【0052】
上記3つの最良に特徴づけられたWntシグナル伝達経路は、規準的Wnt経路、非規準的平面内細胞極性経路、および非規準的Wnt/カルシウム経路である。それらの名称が示唆するように、これらの経路は、2つのカテゴリー:規準的または非規準的のうちの一方に属する。上記カテゴリー間の差異は、規準的経路がタンパク質β-カテニンと関わる一方で、非規準的経路がそれとは無関係に動作することである。上記規準的Wnt経路(またはWnt/β-カテニン経路)は、細胞質中のβ-カテニンの蓄積およびTCF/LEFファミリーに属する転写因子の転写活性化補助因子として作用するための核へのその最終的な移動を引き起こすWnt経路である。Wntがなければ、β-カテニンは、細胞質中に蓄積しない。なぜなら破壊複合体が通常はそれを分解するからである。この破壊複合体は、以下のタンパク質:アキシン、adenomatosis polyposis coli(APC)、タンパク質ホスファターゼ2A(PP2A)、グリコーゲンシンターゼキナーゼ3(GSK-3)およびカゼインキナーゼ1α(CK1α)を含む。従って、いくつかの実施形態において、がん細胞においてWntシグナル伝達経路を増強するための活性薬剤の組成物は、アキシン、adenomatosis polyposis coli(APC)、タンパク質ホスファターゼ2A(PP2A)、グリコーゲンシンターゼキナーゼ3(GSK-3)およびカゼインキナーゼ1α(CK1α)のうちの1種またはこれより多くの阻害剤を含む。好ましい実施形態において、がん細胞においてWntシグナル伝達経路を増強するための活性薬剤は、グリコーゲンシンターゼキナーゼ3(GSK-3)の1種またはこれより多くの阻害剤を含む。
【0053】
Wnt活性の異常に高いレベルおよび/または低減されたAPC機能によって特徴づけられるがん細胞におけるWntシグナル伝達活性の増加は、がん細胞増殖の阻害を生じることが確立されている。がん細胞において閾値を超える過剰なWnt活性は、減少したがん細胞増殖および腫瘍負荷の低減を生じる。好ましい実施形態において、Wnt活性を増加させる上記活性薬剤は、Wntシグナル伝達経路の1種またはこれより多くの阻害剤のレベルまたは活性を低減する薬剤である。
【0054】
Wnt活性を増強する1つの薬剤は、APC媒介性活性の阻害剤(例えば、GSK-3の阻害剤)である。従って、いくつかの実施形態において、1種またはこれより多くのGSK-3阻害剤の組成物および方法は、増加したWnt活性によって特徴づけられるがん細胞における閾値を上回ってWnt活性を増加させて、被験体においてがんを処置する。
【0055】
がん細胞においてWntシグナル伝達経路を増強するための活性薬剤の組成物は、Wntシグナル伝達を増強する1種またはこれより多くの活性薬剤を含む。いくつかの実施形態において、上記活性薬剤は、タンパク質、核酸、核酸アナログ、炭水化物、またはWntシグナル伝達経路を増強するために適した低分子である。好ましい実施形態において、上記活性薬剤は、タンパク質、核酸、核酸アナログ、炭水化物、または好ましくは、グリコーゲンシンターゼキナーゼ3(GSK-3)を阻害することによって、Wntシグナル伝達経路を増強するために適した低分子である。
【0056】
1.グリコーゲンシンターゼキナーゼ3阻害剤
いくつかの実施形態において、上記活性薬剤は、グリコーゲンシンターゼキナーゼ3(GSK-3)の阻害剤である。好ましい実施形態において、上記GSK-3阻害剤は、低分子阻害剤、LY2090314である。
【0057】
代表的には、上記GSK-3阻害剤、例えば、LY2090314は、上記被験体のがん細胞においてGSK-3活性を低減または阻害するために有効な量で、被験体のがん細胞に投与される。例えば、いくつかの実施形態において、上記LY2090314は、上記被験体においてがんの1またはこれより多くの症状を処置または防止するために有効な量で投与される。LY2090314の短い血清半減期に起因して、被験体においてがんを処置および防止することに関するLY2090314の有効性は、上記被験体の身体において上記LY2090314分子を保護する1種またはこれより多くの遮蔽剤(shielding agent)または送達システムによって増加する。好ましい送達システムは、1種またはこれより多くのGSK-3阻害剤、例えば、LY2090314を被包する、これと複合体化する、または別の方法で会合するナノ粒子である。GSK-3は、遍在的に発現されるセリン/スレオニンキナーゼである。それは、多くの代謝プロセスにおいて、特に、グリコーゲン合成に関与する最終酵素として基礎的な役割を果たす。GSK-3αおよびGSK-3βとして公知の、GSK-3の2つの主要な公知のアイソフォームが存在する。別段特定されなければ、本明細書で記載されるとおりのGSK-3の阻害剤は、GSK-3αおよびGSK-3βを阻害する。従って、好ましい実施形態において、GSK-3の阻害剤は、GSK-3αおよびGSK-3βを阻害する。他の実施形態において、上記阻害剤は、GSK-3αの阻害剤であり、これは、GSK-3αアイソフォームを阻害するが、GSK-3βアイソフォームに対してほとんどまたは全く活性を有しない。他の実施形態において、上記阻害剤は、GSK-3βの阻害剤であり、これは、GSK-3βアイソフォームを阻害するが、GSK-3αアイソフォームに対してほとんどまたは全く活性を有しない。
【0058】
GSK-3の発現は遍在性であり、そのアイソフォームの異なる濃度がヒト組織において存在し、多くの細胞経路(PI3K/PTEN/Akt/mTORC1、およびRas/Raf/MEK/ERKが挙げられる)において重要な役割を有する。GSK-3は、正常条件下でヒト細胞において構成的に活性であり、S9およびY216でのリン酸化は、GSK-3活性を調節する。その広い機能を考慮すれば、調節不全の場合、GSK-3は、糖尿病、双極性障害、神経変性疾患(アルツハイマー病)、および心血管疾患を含むいくつかのヒト疾患の発生に関連している。従って、好ましい実施形態において、GSKの阻害剤は、上記被験体において毒性を誘導することなく、被験体においてがんを処置または防止するために有効な量にある。
【0059】
GSK-3はまた、細胞生存および形態に関与するWntおよびHedgehog(HH)経路において重要な役割を果たす。GSK-3は、部分的にWntおよびHH経路を介して、種々のヒトがんの腫瘍形成および進行に影響を及ぼし、黒色腫、肝細胞癌、卵巣がん、前立腺がん、膵臓がん、および結腸直腸がんの発生に関連している(Takahashi-Yanaga Fら, Biochem. Pharmacol., 86(2013), pp. 191-199; Cervello, M.ら, Adv. Biol. Regul., 65(2017), pp. 59-76)。
【0060】
APC
いくつかの実施形態において、上記GSK-3阻害剤は、APC遺伝子産物の活性を媒介する。結腸がんのうちの70%までが、APC遺伝子において変異を含む。APCは、Wntシグナル伝達の重要な調節因子である。この経路の活性化は、β-カテニンの核蓄積(GSK-3阻害によって媒介されるプロセス)をもたらす。核のβ-カテニンは、T細胞因子4と相互作用して、VEGFおよびc-mycの転写を誘導する。GSK-3によるβ-カテニンのリン酸化は、分解のためにそれを標的とする(Vidri, et al., Biochimica et Biophysica Acta (BBA) - Molecular Cell Research, V 1867, (4), 118626, (2020), ISSN 0167-4889; Kwong, et al., Advances in experimental medicine and biology, V656 85-106. (2009) doi:10.1007/978-1-4419-1145-2_8;およびMancinelli, et al., Oxidative Medicine and Cellular Longevity, V. 2017, Article ID 4629495, doi.org/10.1155/2017/4629495)。
【0061】
いくつかの実施形態において、上記活性薬剤は、GSK-3を阻害し得る低分子である。用語「低分子(small molecule)」とは、約100ダルトン(Da)より大きくかつ約2,500Da未満、好ましくは、約100 Da~約2,000 Daの間(両端を含む)、より好ましくは約100 Da~約1,250 Daの間(両端を含む)、より好ましくは約100 Da~約1,000 Daの間(両端を含む)、より好ましくは約100 Da~約750 Daの間(両端を含む)、より好ましくは約200 Da~約600ダルトンの間(両端を含む)の分子量を有する小さな有機化合物に言及する。
【0062】
i. LY2090314
いくつかの実施形態において、上記GSK3αβ阻害剤は、以下の式Iに示されるとおりの分子構造を有するLY2090314である:
【化6】
【0063】
LY2090314(CAS# 603288-22-8)は、512.53 Daの分子量および式 C28H25FN6O3を有し、DMSO中で31mg/mL(60.48mM)の溶解度を有する低分子である。LY2090314は、グリコーゲンシンターゼキナーゼ-3(GSK-3)の強力な阻害剤であり、GSK-3αおよびGSK-3βに関して、それぞれ、1.5nMおよび0.9nMのIC50値を有する。LY2090314(20nM)は、β-カテニン全タンパク質の時間依存性の安定化およびアキシン2の誘導を促進する。LY2090314は、キナーゼの大きなパネルに対するその選択性倍率によって示されるように、GSK3に対する選択性が高い。LY2090314は、BRAF変異状態とは無関係に、黒色腫細胞株のパネルにおいてアポトーシス性細胞死を極力誘導する。LY2090314によって誘導される細胞死は、β-カテニンに依存し、GSK3βノックダウンは、LY2090314に対する細胞の感受性を増加させる。LY2090314は、PLX4032に対して耐性の細胞株において活性なままであり、独立した作用機序を有する。LY2090314は、高いクリアランス(肝血流に近い)および中程度の分布容積(およそ1~2L/kg)を示し、迅速な排除を生じる(半減期は、ラット、イヌ、およびヒトにおいて、それぞれ、およそ0.4時間、0.7時間、および1.8~3.4時間)。LY2090314は、広範な代謝によって迅速に消失し、糞便への代謝産物の胆汁中排泄に起因して、明らかな腸管再吸収はなく、循環代謝産物曝露は無視できる程度である(Zamek-Gliszczynski, et al., Drug Metab Dispos, 2013 Apr;41(4):714-26. doi: 10.1124/dmd.112.048488. Epub 2013 Jan 10)。LY2090314(25mg/kg Q3D, i.v.)は、Axin2遺伝子発現をインビボで上昇させ、黒色腫のA375異種移植片モデルにおいて単一薬剤活性を明らかに示し、DTICの有効性を増強する。
【0064】
LY2090314は、複数の市販の供給源(MedChem Express, Catalogue No. HY-16294を含む)から入手可能である。
【0065】
ii.他の低分子GSK-3阻害剤
いくつかの実施形態において、上記GSK-3の阻害剤は、GSK-3の活性を阻害する別の低分子薬物である。例示的な低分子GSK-3阻害剤としては、CHIR-99021、SB 216763、チデグルシブ、TWS119、AR-A014418、TDZD-8、GSK 3阻害剤IX、ケンパウロン(Kenpaullone)、クロモリンナトリウム、CHIR-98014、AZD1080、R547、RGB-286638、9-ING-41、SB 415286、BRD0705、IM-12、AZD2858、インジルビン-3’-モノオキシム、1-アザケンパウロン、CP21R7、ビキニン、BIO-アセトキシム、VP3.15ジヒドロブロミド、GNF4877、GSK-3β阻害剤1、およびhSMG-1阻害剤11jが挙げられる。
【0066】
いくつかの実施形態において、上記GSK-3阻害剤は、式IIにおいて示されるとおりの低分子阻害剤、SAR502250である。
【化7】
【0067】
他の実施形態において、上記GSK-3阻害剤は、式IIIにおいて示されるとおりの低分子阻害剤、AZD2858である。
【化8】
【0068】
2.Wnt3aタンパク質
いくつかの実施形態において、上記1種またはこれより多くの活性薬剤は、単離されたWnt3aタンパク質(Wingless型MMTV統合部位ファミリーメンバー3A)である。Wnt3aは、遺伝子産物のWntファミリーのメンバーであり、これは、規準的Wntシグナル伝達経路を活性化して、複数の生物学的機能を示す。Wnt3aは、胚発生、神経発生、細胞分化、増殖、および腫瘍形成と関連する。Wnt3aは、7回膜貫通レセプターのfrizzledファミリーのメンバーのリガンドとして働く。Wnt-3およびWnt-3aは、発生中の神経管の形態形成の間に、細胞間シグナル伝達において別個の役割を果たす。Wnt3aへの細胞の曝露は、例えば、Wntシグナル伝達経路を介してシグナル伝達を増強して、Wnt活性を増強し得ることが確立された。
【0069】
例示的なヒトWnt 3aポリペプチドは、約385アミノ酸を含み、約60~70 kDaの分子量を有する。いくつかの実施形態において、上記単離されたWnt3aタンパク質は、以下に示されるアミノ酸配列を有する:
【化9】
【0070】
いくつかの実施形態において、単離されたWnt3aタンパク質は、必要に応じて、ヒスチジンタグのような1またはこれより多くの精製タグとともに、組換え発現される。
【0071】
いくつかの実施形態において、上記単離されたWnt3aタンパク質は、単離されたWnt3aタンパク質発現単独と比較して、収率の増加、安定性の増強、精製の容易さなどのために、1またはこれより多くのさらなる構成成分と共発現または融合される。1つの実施形態において、上記Wnt3aタンパク質は以下に示されるアミノ酸配列を有し、アファミン(AFM)に融合されて、精製(pulldown)用のヒスチジンタグ(例えば、6×HISタグ)を有するTEV(タバコエコーウイルス)部分で改変された複合体化タンパク質AFMの精製を介して機能的未改変Wnt3aの精製を可能にする:
【化10】
【化11】
【0072】
別の実施形態において、上記Wnt3aタンパク質は、以下に示されるアミノ酸配列を有する、ヒスチジンタグ(例えば、6×HISタグ)を有するTEV(タバコエコーウイルス)部分で直接タグ化される:
【化12】
【0073】
いくつかの実施形態において、上記Wnt3aタンパク質は、ポリエチレングリコールでの沈殿を使用して単離または精製される。好ましい実施形態において、上記Wnt3aタンパク質は、高濃度のポリエチレングリコールで、例えば、最終PEG濃度 40%超、30%超、25%超、20%超、15%超、10%超、もしくは5%超、または約40%~約10%の間(両端を含む);もしくは約30%~約20%の間(両端を含む)で沈殿される。具体的な実施形態において、ヒスチジンタグを有するTEV(タバコエコーウイルス)部分に結合体化された上記Wnt3aタンパク質は、高濃度のポリエチレングリコール、例えば、30%、25%、20%、15%、10%、5%で沈殿される。いくつかの実施形態において、タンパク質沈殿のためのPEGは、PEG400、PEG1500、PEG6000、PEG8000、PEG10,000、および/またはPEG20,000である。
【0074】
従って、いくつかの実施形態において、1種またはこれより多くの活性薬剤は、単離されたWnt3aタンパク質(例えば、配列番号1のアミノ酸配列を有する可溶性ポリペプチド、または配列番号1と50%もしくはこれより大きい配列同一性(例えば、配列番号1と少なくとも55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、もしくは少なくとも99.5% 配列同一性)を有するそのバリアントである。組換えヒトWnt3aタンパク質は、複数の市販の供給源(Abcam Catalogue No. ab153563を含む)から入手可能である。
【0075】
いくつかの実施形態において、1種またはこれより多くの活性薬剤は、単離されたWnt3aタンパク質およびR-スポンジン3およびノギンのうちの1またはこれより多くのものである。例示的なR-スポンジン3タンパク質は、以下に示されるアミノ酸配列を有する:
【化13】
【0076】
B. ナノ粒子およびマイクロ粒子
いくつかの実施形態において、がん細胞においてWntシグナル伝達経路を増強するための活性薬剤の組成物は、Wntシグナル伝達を増強する活性薬剤を身体へと送達するために1またはこれより多くの粒子を含む。
【0077】
上記化合物のための適切な送達ビヒクルは、当該分野で公知であり、特定の活性薬剤に適合するように選択され得る。例えば、いくつかの実施形態において、上記組成物は、ナノ粒子、マイクロ粒子、マイクロスフェア、ミセル、合成リポタンパク質粒子、またはカーボンナノチューブへと組み込まれるか、これらによって被包されるか、またはこれらに結合される。
【0078】
例えば、上記組成物は、上記活性薬剤(複数可)の放出の制御を提供するビヒクル(例えば、ポリマーマイクロ粒子またはポリマーナノ粒子)へと組み込まれ得る。いくつかの実施形態において、薬物(複数可)の放出は、上記粒子からの上記活性薬剤(複数可)の拡散、ならびに/または加水分解および/もしくは酵素分解による上記ポリマー粒子の分解によって、制御される。
【0079】
好ましい実施形態において、上記組成物は、上記活性薬剤(複数可)の制御放出を提供する、上記システムからの迅速なクリアランスを低減する、および/または上記活性薬剤(複数可)の迅速な肝代謝を低減する、ポリマーマイクロ粒子またはポリマーナノ粒子へと組み込まれる。
【0080】
一般に、上記粒子は、上記1種またはこれより多くのGSK-3阻害剤を被包する、これと複合体化する、またはこれと別の方法で会合させる、1種またはこれより多くのポリマー、脂質、または他の適切な材料から形成される。上記粒子は、GSK-3阻害剤を身体内での分解または破壊から遮蔽し、それによって、上記GSK-3阻害剤の血清半減期および滞留時間を増強する。いくつかの実施形態において、上記粒子は、例えば、上記GSK-3阻害剤を任意の標的化部位(例えば、特定の細胞タイプ、特定のオルガネラ)に送達するために、1種またはこれより多くの標的化剤(targeting agent)を含む。
【0081】
上記粒子は、被包されるかまたは会合した活性薬剤の生物学的活性を許容および/または増強する。代表的には、上記粒子は上記活性薬剤を保護して、上記活性薬剤の滞留時間をインビボで効果的に延長する。従って、上記粒子は、粒子の非存在下での上記活性薬剤の半減期と比較して、上記活性薬剤(複数可)の血清半減期をインビボで効果的に増加させる。いくつかの実施形態において、上記粒子は、上記活性薬剤の血清半減期を、粒子のような送達ビヒクルとの会合またはその内部への被包化がない上記活性薬剤の血清半減期より、10%、20%、50%、75%、100%、200%、300%、400%またはこれより大きく増強する。ある特定の実施形態において、Wntシグナル伝達活性を増強するために被包化された薬剤は、比較のための標準物質(例えば、腫瘍と関連する特定の細胞タイプを特異的に標的とする粒子なしの匹敵する薬剤)より2倍、5倍、10倍、20倍、50倍、100倍、200倍、500倍、1000倍、2000倍、5000倍、または10000倍長い半減期で消失される。上記粒子は、代表的には、血清中の単独での同量の同じGSK-3阻害剤の半減期の少なくとも2倍、3倍、4倍、5倍、10倍、または20倍である規定の時間経過にわたって、代表的には上記GSK-3阻害剤を身体へと放出する。いくつかの実施形態において、2種の活性薬剤(標的化部分ありまたはなし)が、同じ粒子へと組み込まれ、異なる時間でのおよび/または異なる期間にわたる放出のために製剤化される。例えば、いくつかの実施形態において、上記薬剤のうちの一方は、第2の薬剤の放出が始まる前に、上記粒子から完全に放出される。他の実施形態において、第1の薬剤の放出が始まり、続いて、第1の薬剤全てが放出される前に、第2の薬剤が放出される。さらに他の実施形態において、両方の薬剤が、同じ期間にわたって、または異なる期間にわたって同時に放出される。
【0082】
1. ポリマーナノ粒子
いくつかの実施形態において、上記活性薬剤は、ポリマーナノ粒子内に被包されるかまたはこれと複合体化される。
【0083】
上記粒子は、ポリマー粒子、脂質粒子、固体脂質粒子、無機粒子、またはこれらの組み合わせであり得る。例えば、上記粒子は、脂質安定化したポリマー粒子であり得る。好ましい実施形態において、上記粒子は、ポリマー粒子、固体脂質粒子、または脂質安定化したポリマー粒子である。上記粒子は、生分解性ポリマー、非生分解性ポリマー、またはこれらの組み合わせから形成されるポリマー粒子を含み得る。上記ポリマー粒子コアは、全体的にまたは部分的に生分解性ポリマーコアであり得る。
【0084】
FDAが承認した生分解性ポリマー
いくつかの実施形態において、上記活性薬剤は、ナノメートル寸法を有する粒子を形成するために、ポリヒドロキシ酸エステル、例えば、ポリ(乳酸-co-グリコール酸)(PLGA)、ポリ(乳酸)(PLA)、またはポリ(グリコール酸)(PGA)内に被包および/またはこれと複合体化される。ポリ(乳酸-co-グリコール酸)(PLGA)、または(PLG)は、その生分解性および生体適合性のために、多くの食品医薬品局(FDA)が承認した治療用デバイスにおいて使用されるコポリマーである。重合の間に、連続的な(グリコール酸または乳酸の)モノマーユニットが、エステル連結によってPLGAの中で一緒に連結され、従って、生成物として、直線状の脂肪族ポリエステルを生じる。
【0085】
他のFDAが承認したポリマーとしては、ポリ酸無水物、ポリオルトエステル、ポリヒドロキシアルカノエート、およびいくらかの非生分解性ポリマー(例えば、ポリメタクリレートおよびシアノメタクリレート)が挙げられる。ポリヒドロキシアルカノエートを含む粒子は、消化管に沿った領域への送達および/または経腸的投与に続く消化管を通じた吸収を介する全身送達に特に適している。好ましい実施形態において、上記粒子は、ポリヒドロキシアルカノエートを含む。
【0086】
いくつかの実施形態において、上記粒子は、1種またはこれより多くのさらなるポリマーとブレンドされるか、またはこれと共有結合された生分解性ポリマーを含む。上記さらなるポリマーは、形成の際に、上記粒子の内部コア内におよび/または外表面に存在し得、例えば、PLGAとブレンドされ得るか、または上記粒子の外部にもっぱら結合され得る。
【0087】
ポリアルキレンオキシド(PEO)ポリマー(ポリアルキレン、ポリアルキレングリコール、またはポリアルキレンオキシドともいわれる)は、上記ポリマーの表面に頻繁に結合されるか、または疎水性生分解性ポリマーに共有結合され、これは、自己アセンブリして、表面にPEOポリマーおよびコアに疎水性ポリマーを有する粒子を形成する。好ましいPEOは、ポリエチレングリコール(PEG)である。
【0088】
他の生分解性ポリマー
いくつかの実施形態において、上記活性薬剤は、生分解性ポリマー内に被包化されるおよび/またはこれと複合体化される。例示的な生分解性ポリマーとしては、身体の中で化学的にまたは酵素により水溶性材料へと変換される、水に不溶性またはわずかに可溶性であるポリマーが挙げられる。生分解性ポリマーは、架橋されたポリマーを水に不溶性またはわずかに可溶性にするように、加水分解可能な架橋基によって架橋された可溶性のポリマーを含み得る。代表的な生分解性ポリマーとしては、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアルキレンテレフタレート、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、ポリビニルエステル、ポリビニルハライド、ポリビニルピロリドン、ポリグリコリド、ポリシロキサン、ポリウレタンおよびこれらのコポリマー、改変セルロース、ならびにアクリレートポリマーが挙げられる。
【0089】
賦形剤はまた、コアポリマーに添加されて、その多孔性、透過性、およびまたは分解プロフィールを変化させ得る。
【0090】
親水性ポリマー
いくつかの実施形態において、上記活性薬剤は、1種またはこれより多くの親水性ポリマー内に被包されるおよび/またはこれと複合体化される。代表的な親水性ポリマーとしては、セルロースポリマー、例えば、デンプンおよびポリサッカリド;親水性ポリペプチドおよびポリ(アミノ酸)、例えば、ポリ-L-グルタミン酸(PGS)、γ-ポリグルタミン酸、ポリ-L-アスパラギン酸、ポリ-L-セリン、またはポリ-L-リジン;ポリアルキレングリコールおよびポリアルキレンオキシド、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール(PPG)、およびポリ(エチレンオキシド)(PEO);ポリ(オキシエチル化ポリオール);ポリ(オレフィンアルコール);ポリビニルピロリドン);ポリ(ヒドロキシアルキルメタクリルアミド);ポリ(ヒドロキシアルキルメタクリレート);ポリ(サッカリド);ポリ(ヒドロキシ酸);ポリ(ビニルアルコール)、およびこれらのコポリマーが挙げられる。
【0091】
疎水性ポリマー
代表的な疎水性ポリマーとしては、ポリヒドロキシ酸、例えば、ポリ(乳酸)、ポリ(グリコール酸)、およびポリ(乳酸-co-グリコール酸);ポリヒドロキシアルカノエート、例えば、ポリ3-ヒドロキシブチレートまたはポリ4-ヒドロキシブチレート;ポリカプロラクトン;ポリ(オルトエステル);ポリ酸無水物;ポリ(ホスファゼン);ポリ(ラクチド-co-カプロラクトン);ポリカーボネート、例えば、チロシンポリカーボネート;ポリアミド(合成および天然のポリアミドを含む)、ポリペプチド、およびポリ(アミノ酸);ポリエステルアミド;ポリエステル;ポリ(ジオキサノン);ポリ(アルキレンアルキレート);疎水性ポリエーテル;ポリウレタン;ポリエーテルエステル;ポリアセタール;ポリシアノアクリレート;ポリアクリレート;ポリメチルメタクリレート;ポリシロキサン;ポリ(オキシエチレン)/ポリ(オキシプロピレン)コポリマー;ポリケタール;ポリホスフェート;ポリヒドロキシバレレート;ポリアルキレンオキサレート;ポリアルキレンスクシネート;ポリ(マレイン酸)、ならびにこれらのコポリマーが挙げられる。
【0092】
両親媒性ポリマー
代表的な両親媒性ポリマーとしては、上記の疎水性および親水性ポリマーのうちのいずれかのブロックコポリマーが挙げられる。両親媒性化合物はまた、0.01~60の間の比(脂質重量 /ポリマー重量)、最も好ましくは0.1~30の間の比(脂質重量/ポリマー重量)で組み込まれた、リン脂質(例えば、1,2 ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DSPE)、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、ジアラキドイルホスファチジルコリン(DAPC)、ジベヘノイルホスファチジルコリン(DBPC)、ジトリコサノイルホスファチジルコリン(DTPC)、およびジリグノセロイルホスファチジルコリン(dilignoceroylphatidylcholine)(DLPC)を含む。
【0093】
PEG化
上記で注記されるように、代表的には、表面PEOポリマーへの組み込みによって利用可能なヒドロキシル基を増加させる上記粒子の表面の改変は、血液からのクリアランス速度を減少させるため、および細胞または組織取り込みを増強するために使用され得る。上記ポリマー粒子の表面改変またはPEOポリマーの組み込みのための方法は、当業者に公知である。
【0094】
2. 脂質粒子
いくつかの実施形態において、上記粒子は、脂質粒子、リポソームもしくはミセルであるか、または脂質コアを含む。脂質粒子および脂質ナノ粒子は、当該分野で公知である。脂質粒子は、生理学的pHにおいて中性、アニオン性、またはカチオン性であり得る、1種またはこれより多くの脂質から形成される。上記脂質粒子は、好ましくは、1種またはこれより多くの生体適合性脂質から作製される。上記脂質粒子は、1種より多くの脂質の組み合わせから形成され得る。例えば、荷電された脂質は、生理学的pHにおいて非イオン性または荷電されていない脂質と組み合わされ得る。
【0095】
代表的な中性およびアニオン性脂質としては、ステロールおよび脂質、例えば、コレステロール、リン脂質、リゾ脂質、リゾリン脂質、スフィンゴ脂質またはpeg化脂質が挙げられるが、これらに限定されない。中性およびアニオン性脂質としては、ホスファチジルコリン(PC)(例えば、卵PC、ダイズPC)(1,2-ジアシル-グリセロ-3-ホスホコリンを含む);ホスファチジルセリン(PS)、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシトール(PI);糖脂質;スフィンゴリン脂質、例えば、スフィンゴミエリンならびにセラミドガラクトピラノシド、ガングリオシドおよびセレブロシドのようなスフィンゴ糖脂質(1-セラミジルグルコシドとしても公知);脂肪酸,カルボン酸基を含むステロール(例えば、コレステロール)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0096】
代表的なカチオン性脂質としては、N-[1-(2,3-ジオレオイルオキシ)プロピル]-N,N,N-トリメチルアンモニウム塩(TAP脂質(例えば、メチル硫酸塩)ともいわれる)が挙げられるが、これらに限定されない。代表的なTAP脂質としては、DOTAP(ジオレオイル-)、DMTAP(ジミリストイル-)、DPTAP(ジパルミトイル-)、およびDSTAP(ジステアロイル-)が挙げられるが、これらに限定されない。リポソームにおける代表的なカチオン性脂質としては、以下が挙げられるが、これらに限定されない: ジメチルジオクタデシルアンモニウムブロミド(DDAB)、1,2-ジアシルオキシ-3-トリメチルアンモニウムプロパン、N-[1-(2,3-ジオレイル)プロピル]-Ν,Ν-ジメチルアミン(N-[1-(2,3-dioloyloxy)propyl]-Ν,Ν-dimethyl amine)(DODAP)、1,2-ジアシルオキシ-3-ジメチルアンモニウムプロパン、N-[1-(2,3-ジオレイルオキシ)プロピル]-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロリド(DOTMA)、1,2-ジアルキルオキシ-3-ジメチルアンモニウムプロパン、ジオクタデシルアミドグリシルスペルミン(DOGS)、3-[N-(N’,N’-ジメチルアミノ-エタン)カルバモイル]コレステロール(DC-Chol);2,3-ジオレオイルオキシ-N-(2-(スペルミンカルボキサミド)-エチル)-N,N-ジメチル-1-プロパナミニウムトリフルオロ-アセテート(DOSPA)、β-アラニルコレステロール、セチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)、ジC14-アミジン、N-tert-ブチル-N’-テトラデシル-3-テトラデシルアミノ-プロピオンアミジン(N-ferf-butyl-N’-tetradecyl-3-tetradecylamino-propionamidine)、N-(α-トリメチルアンモニオアセチル)ジドデシル-D-グルタメートクロリド(TMAG)、ジテトラデカノイル-N-(トリメチルアンモニオ-アセチル)ジエタノールアミンクロリド、1,3-ジオレオイルオキシ-2-(6-カルボキシ-スペルミル)-プロピルアミド(DOSPER)、およびN,N,N’,N’-テトラメチル-,N’-ビス(2-ヒドロキシルエチル)-2,3-ジオレオイルオキシ-1,4-ブタンジアンモニウムヨージド。1つの実施形態において、上記カチオン性脂質は、1-[2-(アシルオキシ)エチル]2-アルキル(アルケニル)-3-(2-ヒドロキシエチル)-イミダゾリニウムクロリド誘導体、例えば、1-[2-(9(Z)-オクタデセノイルオキシ)エチル]-2-(8(Z)-ヘプタデセニル-3-(2-ヒドロキシエチル)イミダゾリニウムクロリド(DOTIM)、および1-[2-(ヘキサデカノイルオキシ)エチル]-2-ペンタデシル-3-(2-ヒドロキシエチル)イミダゾリニウムクロリド(DPTIM)であり得る。1つの実施形態において、上記カチオン性脂質は、四級アミン上にヒドロキシアルキル部分を含む2,3-ジアルキルオキシプロピル四級アンモニウム化合物誘導体、例えば、1,2-ジオレオイル-3-ジメチル-ヒドロキシエチルアンモニウムブロミド(DORI)、1,2-ジオレイルオキシプロピル-3-ジメチル-ヒドロキシエチルアンモニウムブロミド(DORIE)、1,2-ジオレイルオキシプロピル-3-ジメチル-ヒドロキシプロピルアンモニウムブロミド(DORIE-HP)、1,2-ジオレイル-オキシ-プロピル-3-ジメチル-ヒドロキシブチルアンモニウムブロミド(DORIE-HB)、1,2-ジオレイルオキシプロピル-3-ジメチル-ヒドロキシペンチルアンモニウムブロミド(DORIE-Hpe)、1,2-ジミリスチルオキシプロピル-3-ジメチル-ヒドロキシルエチルアンモニウムブロミド(DMRIE)、1,2-ジパルミチルオキシプロピル-3-ジメチル-ヒドロキシエチルアンモニウムブロミド(DPRIE)、および1,2-ジステリルオキシプロピル-3-ジメチル-ヒドロキシエチルアンモニウムブロミド(DSRIE)であり得る。
【0097】
ミセル
いくつかの実施形態において、上記粒子または粒子コアは、脂質ミセルである。脂質ミセルは、例えば、脂質界面活性剤との油中水型エマルジョンとして形成され得る。エマルジョンは、2つの非混和性の相のブレンドであり、ここで界面活性剤が分散した液滴を安定化するために添加される。いくつかの実施形態において、上記脂質ミセルは、マイクロエマルジョンである。マイクロエマルジョンは、透明なかつ熱力学的に安定なシステムを生じる少なくとも水、油および脂質界面活性剤から構成される熱力学的に安定な系である。その液滴サイズは、1ミクロン未満、約10nm~約500nm、または約10nm~約250nmである。脂質ミセルは、疎水性活性薬剤(疎水性治療剤、疎水性予防剤、または疎水性診断剤を含む)を被包するために概して有用である。
【0098】
リポソーム
いくつかの実施形態において、上記粒子または粒子コアは、リポソームである。リポソームは、球状の二重層の中に配列された脂質によって囲まれた水性媒体から構成される小さな小胞である。リポソームは、小型単層小胞、大型単層小胞、または多層小胞として分類され得る。多層リポソームは、多数の同心円状脂質二重層を含む。リポソームは、親水性薬剤を水性内部にもしくは二重層の間に捕捉することによって、または疎水性薬剤を二重層内に捕捉することによって、標的化薬剤を被包するために使用され得る。
【0099】
上記脂質ミセルおよびリポソームは、代表的には、水性の中心を有する。上記水性の中心は、水または水およびアルコールの混合物を含み得る。代表的なアルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール(例えば、イソプロパノール)、ブタノール(例えば、n-ブタノール,イソブタノール、sec-ブタノール、tert-ブタノール)、ペンタノール(例えば、アミルアルコール、イソブチルカルビノール)、ヘキサノール(例えば、1-ヘキサノール、2-ヘキサノール、3-ヘキサノール)、ヘプタノール(例えば、1-ヘプタノール、2-ヘプタノール、3-ヘプタノールおよび4-ヘプタノール)またはオクタノール(例えば、1-オクタノール)またはこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0100】
1つの実施形態において、リポソームは、長鎖脂肪酸およびフィトステロール製剤から調製される。
【0101】
固体脂質粒子
いくつかの実施形態において、上記粒子は、固体脂質粒子であるか、または固体脂質コアを含む。固体脂質粒子は、コロイド性ミセルおよびリポソームの代替物を提供する。固体脂質粒子は、代表的には、サブミクロンのサイズ、すなわち、約10nm~約1ミクロン、10nm~約500nm、または10nm~約250nmである。固体脂質粒子は、室温において固体である脂質から形成される。それらは、液状の油を固体脂質で置き換えることによって、水中油型エマルジョンから得られる。
【0102】
代表的な固体脂質としては、より高級な飽和アルコール、より高級な脂肪酸、スフィンゴ脂質、合成エステル、ならびにより高級な飽和脂肪酸のモノ-、ジ-、およびトリグリセリドが挙げられるが、これらに限定されない。固体脂質としては、10~40個、好ましくは12~30個の炭素原子を有する脂肪族アルコール(例えば、セトステアリルアルコール)が挙げられ得る。固体脂質としては、10~40個、好ましくは12~30個の炭素原子のより高級な脂肪酸(例えば、ステアリン酸、パルミチン酸、デカン酸、ベヘン酸)が挙げられ得る。固体脂質としては、10~40個、好ましくは12~30個の炭素原子を有するより高級な飽和脂肪酸のグリセリド(モノグリセリド、ジグリセリド、およびトリグリセリドを含む)(例えば、グリセリルモノステアレート、グリセロールベヘネート、グリセロールパルミトステアレート、グリセロールトリラウレート、トリカプリン、トリラウリン、トリミリスチン、トリパルミチン、トリステアリン、および水素化ヒマシ油)が挙げられ得る。代表的な固体脂質としては、セチルパルミテートまたは蜜蝋が挙げられ得る。シクロデキストリンがまた、使用され得る。
【0103】
3.無機粒子
いくつかの実施形態において、上記粒子は、金属、金属酸化物または半導体粒子のような無機粒子から形成されるか、または上記無機粒子をから形成されるコアを含む。上記粒子は、金属ナノ粒子,半導体ナノ粒子、またはコア-シェルナノ粒子であり得る。無機粒子および無機ナノ粒子は、種々の形状(例えば、桿体、シェル、スフェア、および錐体)へと組み立てられ得る。上記無機粒子は、任意の寸法を有し得る。上記無機粒子は、1ミクロン未満、約10nm~約1ミクロン、約10nm~約500nm、または10nm~約250nmの最大寸法を有し得る。
【0104】
上記無機粒子または粒子コアは、金属酸化物を含み得る。上記の金属のうちのいずれかの金属酸化物が、企図される。適切な金属酸化物としては、以下の金属のうちの1種またはこれより多くのものを含む金属酸化物が挙げられ得る: チタン、スカンジウム、鉄、タンタル、コバルト、クロム、マンガン、白金、イリジウム、ニオブ、バナジウム、ジルコニウム、タングステン、ロジウム、ルテニウム、銅、亜鉛、イットリウム、モリブデン、テクネチウム、パラジウム、カドミウム、ハフニウム、レニウムおよびこれらの組み合わせ。適切な金属酸化物としては、セリウム酸化物、白金酸化物、イットリウム酸化物、タンタル酸化物、チタン酸化物、亜鉛酸化物、鉄酸化物、マグネシウム酸化物、アルミニウム酸化物、イリジウム酸化物、ニオブ酸化物、ジルコニウム酸化物、タングステン酸化物、ロジウム酸化物、ルテニウム酸化物、アルミナ、ジルコニア、ケイ素酸化物(silicone oxide)(例えば、シリカベースのガラスおよび二酸化ケイ素)、またはこれらの組み合わせが挙げられ得る。上記金属酸化物は、非生分解性であり得る。上記金属酸化物は、生分解性金属酸化物であり得る。生分解性金属酸化物は、二酸化ケイ素、酸化アルミニウムおよび酸化亜鉛が挙げられ得る。
【0105】
ハイブリッド粒子
いくつかの実施形態において、上記粒子または粒子コアは、ハイブリッド粒子である。ハイブリッド粒子とは、本明細書で使用される場合、ポリマー粒子、脂質粒子、および無機粒子のうちの2種またはこれより多くのものの特徴(feature)を併せ持つ粒子に言及する。ハイブリッド粒子の例としては、ポリマー安定化リポソーム、ポリマーコーティング無機粒子、または脂質コーティングポリマー粒子が挙げられ得る。上記ハイブリッド粒子は、ポリマー内部領域、脂質内部領域、または無機内部領域を含み得る。上記ハイブリッド粒子は、ポリマー外部層、脂質外部層、または無機外部層を含み得る。
【0106】
4. デンドリマー粒子
いくつかの実施形態において、上記粒子または粒子コアは、デンドリマーである。デンドリマーは、高密度表面末端基を含む三次元の、超分岐した、単分散の、球形の、かつ多価の高分子である。用語「デンドリマー」としては、以下が挙げられるが、これらに限定されない: 内部コアおよびこの内部コアに結合しかつここから延びる反復ユニットの層(または「世代(generation)」)であって、各層は、1またはこれより多くの分岐点を有する層、ならびに最も外側の世代に結合した末端基の外部表面を有する分子構造。いくつかの実施形態において、デンドリマーは、規則的なデンドリマーのまたは「スターバースト(starburst)」分子構造を有する。
【0107】
使用され得る適切なデンドリマー足場としては、ポリ(アミドアミン)(PAMAMとしても公知)、またはSTARBURSTTM デンドリマー;ポリプロピルアミン(POPAM)、ポリエチレンイミン、ポリリジン、ポリエステル、イプチセン、脂肪族ポリ(エーテル)、および/または芳香族ポリエーテルデンドリマーが挙げられる。上記デンドリマーは、カルボン酸、アミン、および/またはヒドロキシル末端を有し得る。好ましい実施形態において、上記デンドリマーは、ヒドロキシル末端を有する。上記デンドリマー複合体の各デンドリマーは、他のデンドリマーとは化学的性質が同じまたは類似であってもよいし、異なっていてもよい(例えば、第1のデンドリマーが、PAMAMデンドリマーを含み得る一方で、第2のデンドリマーはPOPAMデンドリマーであり得る)。
【0108】
一般に、デンドリマーは、約1nm~約50nmの間、より好ましくは約1nm~約20nmの間、約1nm~約10nmの間、または約1nm~約5nmの間の直径を有する。いくつかの実施形態において、上記直径は、約1nm~約2nmの間である。結合体は、概して同じサイズ範囲にあるが、抗体のような大きなタンパク質は、5~15nm程度サイズを増加させ得る。一般に、薬剤は、薬剤とデンドリマーの質量比が0.1:1~4:1の間(両端を含む)で結合体化される。
【0109】
いくつかの実施形態において、デンドリマーは、約500ダルトン~約100,000ダルトンの間、好ましくは約500ダルトン~約50,000ダルトンの間、最も好ましくは約1,000ダルトン~約20,000ダルトンの間の分子量を有する。
【0110】
デンドリマーを作製するための方法は、当業者に公知であり、一般に、中心のイニシエーターコア(例えば、エチレンジアミン-コア)の周りに樹状のβ-アラニンユニットの同心円状のシェル(世代)を生成する2段階反復反応シーケンスを伴う。各々のその後の成長段階は、より大きな分子直径、2倍の反応性表面部位数、および先行する世代のおよそ2倍の分子量を有するポリマーの新「世代」を表す。使用に適したデンドリマー足場は、種々の世代において市販されている。好ましい上記デンドリマー組成物は、第0世代、第1世代、第2世代、第3世代、第4世代、第5世代、第6世代、第7世代、第8世代、第9世代または第10世代デンドリマー足場に基づく。このような足場は、それぞれ、4個、8個、16個、32個、64個、128個、256個、512個、1024個、2048個、および4096個の反応部位を有する。従って、これらの足場に基づく上記デンドリマー化合物は、組み合わされた標的化部分(あるとすると)および薬剤の相当する数までを有し得る。
【0111】
5.標的化部分または結合部分
いくつかの実施形態において、上記粒子は、ナノ粒子をインビボで特定の位置に標的化するために、および/または身体内の所望の位置においてインビボ滞留時間を増強するために、1種またはこれより多くの組織標的化部分または組織結合部分を含む。例えば、いくつかの実施形態において、上記粒子は、身体への局所または全身投与後に、隔離されるかまたは1種もしくはこれより多くの別個の組織または器官に結合される。従って、標的化部分または結合部分の存在は、標的化部分または結合部分の非存在下で、上記ナノ粒子および活性薬剤と比較して、標的部位への活性薬剤の送達を増強し得る。1種またはこれより多くの標的化部分または結合部分への上記ナノ粒子の結合体化は、スペーサー、および上記スペーサーとナノ粒子との間の連結を介するものであり得る、および/または上記スペーサーおよび標的化剤は、上記ナノ粒子-標的化剤複合体の放出可能なまたは放出不能な形態を提供するために設計され得る。
【0112】
いくつかの実施形態において、上記粒子は、経腸的投与後に消化管に沿って長期にわたって滞留する。
【0113】
6.粒子特性
Wntシグナル伝達をコードする活性薬剤の送達のための上記粒子は、細胞の浸透、組織への薬剤の送達、およびある特定の投与経路のために最適化された特性を有する。上記粒子は、約10nm~約100,000nmの間(両端を含む)の直径を有し得る。例えば、ナノ粒子は、10nm~900nm、10nm~800nm、10nm~700nm、10nm~600nm、10nm~500nm、20nm~500nm、30nm~500nm、40nm~500nm、50nm~500nm、60nm~400nm、50nm~350nm、50nm~300nm、または50nm~200nmの直径を有し得る。好ましい実施形態において、上記ナノ粒子は、500nm未満、400nm未満、300nm未満、または200nm未満の直径を有し得る。いくつかの実施形態において、マイクロ粒子は、約1ミクロン~約100ミクロンの間(両端を含む)、約1ミクロン~20ミクロンの間(両端を含む)および約2ミクロン~10ミクロンの間(両端を含む)の直径を有し得る。
【0114】
いくつかの実施形態において、Wntシグナル伝達を増強するために1種またはこれより多くの活性薬剤を被包するナノ粒子は、約10nm~約500nmの間(両端を含む)、約20nm~約500nmの間(両端を含む)または約25nm~約250nmの間(両端を含む)の任意の直径(両端を含む)を有する。好ましい実施形態において、上記粒子コアは、約25nm~約250nmの間の(両端を含む)直径を有するナノ粒子コアである。最も好ましい実施形態において、上記粒子は、10nm~150nmの間(両端を含む)の直径を有する。
【0115】
1つの実施形態は、例えば、上記粒子の表面に存在するか、またはその表面に別の方法で会合した1種またはこれより多くの化合物の量を調整することによって、腫瘍微小環境、および/または腫瘍血管系への上記ナノ粒子の半減期および標的化を最大化するように操作されたナノ粒子を提供する。1つの実施形態において、ナノ粒子は、上記ナノ粒子上のPEGの量を調整することによって、腫瘍微小環境、および/または腫瘍血管系への上記ナノ粒子の半減期および標的化を最大化するように操作されている。
【0116】
C. 送達されるべきさらなる活性薬剤
ナノ粒子またはマイクロ粒子の上記組成物は、Wntシグナル伝達を増強する活性薬剤および1種またはこれより多くのさらなる活性薬剤、特に、がんの1またはこれより多くの症状を防止または処置する1種またはこれより多くの活性薬剤を送達するために使用され得る。適切な治療剤、診断剤、および/または予防剤は、生体分子(例えば、酵素、タンパク質、ポリペプチド、もしくは核酸または有機性、無機性、および有機金属性の薬剤を含む低分子薬剤(例えば、2000 amu未満、好ましくは1500 amu未満の分子量))であり得る。
【0117】
1. 治療剤
いくつかの実施形態において、上記1種またはこれより多くのさらなる治療剤、予防剤または診断剤としては、化学療法剤、抗感染剤、およびその組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0118】
例えば、いくつかの実施形態において、上記ナノ粒子は、LY2090314および/または1種もしくはこれより多くのGSK-3阻害剤(CHIR-99021、SB 216763、チデグルシブ、TWS119、AR-A014418、TDZD-8、GSK-3阻害剤IX、ケンパウロン、クロモリンナトリウム、CHIR-98014、AZD1080、R547、RGB-286638、9-ING-41、SB 415286、BRD0705、IM-12、AZD2858、インジルビン-3’-モノオキシム、1-アザケンパウロン、CP21R7、ビキニン、BIO-アセトキシム、VP3.15ジヒドロブロミド、GNF4877、GSK-3β阻害剤1、およびhSMG-1阻害剤11jを含む)、ならびに/または単離されたWnt3aタンパク質、ならびに必要に応じて1種もしくはこれより多くのさらなる治療剤を送達する。
【0119】
いくつかの実施形態において、上記さらなる治療剤は、APC、GSK-3α、GSK-3β、またはWntシグナル伝達経路の1種もしくはこれより多くの構成成分のうちの1つまたはこれより多くのものを標的化する任意の阻害剤である。他の実施形態において、上記さらなる治療剤は、クリゾチニブ、セリチニブ、アレクチニブ、ブリガチニブ、ボスチニブ、ダサチニブ、イマチニブ、ニロチニブ、ベムラフェニブ、ダブラフェニブ、イブルチニブ、パルボシクリブ、ソラフェニブ、リボシクリブ、カボザンチニブ、ゲフィチニブ、エルロチニブ、ラパチニブ、バンデタニブ、アファチニブ、オシメルチニブ、ルキソリチニブ、トファシチニブ、トラメチニブ、アキシチニブ、レンバチニブ、ニンテダニブ、パゾパニブ、レゴラフェニブ、スニチニブ、バンデタニブ、ダコミチニブ、およびポナチニブのような阻害剤である。
【0120】
いくつかの実施形態において、上記さらなる治療剤は、チロシンキナーゼ阻害剤(例えば、HER2阻害剤、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤)である。例示的なEGFRチロシンキナーゼ阻害剤としては、ゲフィチニブ、エルロチニブ、アファチニブ、ダコミチニブ、およびオシメルチニブが挙げられる。
【0121】
いくつかの実施形態において、上記さらなる治療剤は、抗血管新生薬剤である。代表的な抗血管新生薬剤としては、以下が挙げられるが、これらに限定されない: 血管内皮成長因子(VEGF)に対する抗体(例えば、ベバシズマブ(アバスチン(登録商標))およびrhuFAb V2(ラニビズマブ、ルセンティス(登録商標))、および他の抗VEGF化合物(アフリベルセプト(アイリーア(登録商標)を含む);マクジェン(登録商標)(ペガプタニブナトリウム、抗VEGFアプタマーもしくはEYE001)(Eyetech Pharmaceuticals);色素上皮由来因子(複数可)(PEDF);COX-2阻害剤(例えば、セレコキシブ(セレブレックス(登録商標))およびロフェコキシブ(バイオックス(登録商標)));インターフェロンα;インターロイキン-12(IL-12);サリドマイド(サロミド(登録商標))およびその誘導体(例えば、レナリドミド(レブリミド(登録商標));スクアラミン;エンドスタチン;アンギオスタチン;リボザイム阻害剤(例えば、アンジオザイム(登録商標)(Sirna Therapeutics));多機能性抗血管新生薬剤(例えば、ネオバスタット(NEOVASTAT)(登録商標)(AE-941)(Aeterna Laboratories, Quebec City, Canada));レセプターチロシンキナーゼ(RTK)阻害剤(例えば、スニチニブ(スーテント(登録商標)));チロシンキナーゼ阻害剤(例えば、ソラフェニブ(ネクサバール(登録商標))およびエルロチニブ(タルセバ(登録商標)));表皮成長因子レセプターに対する抗体(例えば、パニツムマブ(ベクティビックス(登録商標))およびセツキシマブ(アービタックス(登録商標)))、ならびに当該分野で公知の他の抗血管新生薬剤。
【0122】
いくつかの実施形態において、1種またはこれより多くのさらなる治療剤としては、従来のがん治療剤、例えば、化学療法剤、サイトカイン、ケモカイン、および放射線治療が挙げられる。化学療法薬の大部分は、アルキル化剤、代謝拮抗剤、アントラサイクリン、植物アルカロイド、トポイソメラーゼ阻害剤、および他の抗腫瘍薬剤に分けられ得る。これらの薬物は、細胞分裂またはDNA合成および機能にある種の方法で影響を及ぼす。さらなる治療剤としては、モノクローナル抗体およびチロシンキナーゼ阻害剤(例えば、イマチニブメシル酸塩(グリベック(GLEEVEC))(登録商標)またはグリベック(GLIVEC)(登録商標))が挙げられ、これは、がんのある特定のタイプ(慢性骨髄性白血病、消化管間質腫瘍)における分子異常を直接標的とする。
【0123】
Wntシグナル伝達を増強する1種またはこれより多くの活性薬剤を被包またはこれと混合され得る代表的な化学療法剤としては、以下が挙げられるが、これらに限定されない: アムサクリン、ブレオマイシン、ブスルファン、カンプトテシン、カペシタビン、カルボプラチン、カルムスチン、クロラムブシル、シスプラチン、クラドリビン、クロファラビン、クリサンタスパーゼ、シクロホスファミド、シタラビン、ダカルバジン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ドセタキセル、ドキソルビシン、エピポドフィロトキシン、エピルビシン、エトポシド、エトポシドリン酸塩、フルダラビン、フルオロウラシル、ゲムシタビン、ヒドロキシカルバミド、イダルビシン、イホスファミド、イリノテカン(innotecan)、ロイコボリン、リポソームドキソルビシン、リポソームダウノルビシン(liposomal daunorubici)、ロムスチン、メクロレタミン、メルファラン、メルカプトプリン、メスナ、メトトレキサート、マイトマイシン、ミトキサントロン、オキサリプラチン、パクリタキセル、ペメトレキセド、ペンタスタチン、プロカルバジン、ラルチトレキセド、サトラプラチン、ストレプトゾシン、テニポシド、テガフール-ウラシル、テモゾロミド、テニポシド、チオテパ、チオグアニン、トポテカン、トレオスルファン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン、ビノレルビン、ボリノスタット、タキソール、トリコスタチンAおよびその誘導体、トラスツズマブ(ハーセプチン(登録商標))、セツキシマブ、およびリツキシマブ(リツキサン(登録商標)もしくはマブセラ(登録商標))、ベバシズマブ(アバスチン(登録商標))、ならびにこれらの組み合わせ。代表的なアポトーシス促進剤としては、フルダラビンスタウロスポリン(fludarabinetaurosporine)、シクロヘキシミド、アクチノマイシンD、ラクトシルセラミド、15d-PGJ(2)5およびこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0124】
いくつかの実施形態において、上記組成物および方法は、免疫治療(例えば、1種またはこれより多くの免疫チェックポイント調節剤(例えば、PD-1アンタゴニスト、PD-1リガンドアンタゴニスト、およびCTLA4アンタゴニスト)を使用するPD-1/PD-L1/2軸またはCD28-CTLA-4軸の構成成分のようなチェックポイントタンパク質の阻害)、養子T細胞治療、および/またはがんワクチンの前にまたはこれとともに使用される。免疫治療において使用される例示的な免疫チェックポイント調節剤としては、ペムブロリズマブ(抗PD1 mAb)、デュルバルマブ(抗PDL1 mAb)、PDR001(抗PD1 mAb)、アテゾリズマブ(抗PDL1 mAb)、ニボルマブ(抗PD1 mAb)、トレメリムマブ(抗CTLA4 mAb)、アベルマブ(抗PDL1 mAb)、およびRG7876(CD40アゴニストmAb)が挙げられる。いくつかの実施形態において、上記組成物および方法は、抗PDL2 mAbの前にまたはこれとともに使用される。
【0125】
いくつかの実施形態において、上記さらなる治療剤は、抗感染剤である。例示的な抗感染剤としては、抗ウイルス剤、抗細菌剤、抗寄生生物薬剤、および抗真菌剤が挙げられる。例示的な抗生物質としては、モキシフロキサシン、シプロフロキサシン、エリスロマイシン、レボフロキサシン、セファゾリン、バンコマイシン、チゲサイクリン、ゲンタマイシン、トブラマイシン、セフタジジム、オフロキサシン、ガチフロキサシン;抗真菌剤:アンホテリシン、ボリコナゾール、ナタマイシンが挙げられる。
【0126】
III. 粒子を作製する方法
Wntシグナル伝達活性を増加させる抗がん組成物を作製するための方法が、提供される。上記方法は、一般に、1種またはこれより多くの活性薬剤を送達して、調節不全のWnt活性と関連するがんにおいてWntシグナル伝達活性を増加させるための組成物を調製することを包含する。代表的には、上記方法は、ポリマー合成、および/または上記組成物の被包を含め、ナノ粒子調製を含む。
【0127】
A. エマルジョン方法
いくつかの実施形態において、ナノ粒子は、エマルジョン溶媒エバポレーション方法を使用して調製される。例えば、ポリマー材料は、水に非混和性の有機溶媒中に溶解され、薬物溶液または薬物溶液の組み合わせと混合される。いくつかの実施形態において、被包されるべき治療剤、予防剤、または診断剤の溶液は、上記ポリマー溶液と混合される。上記ポリマーは、以下のうちの1種またはこれより多くのものであり得るが、これらに限定されない: PLA、PGA、PCL、これらのコポリマー、ポリアクリレート、前述のPEG化ポリマー、前述のポリマー-薬物結合体、前述のポリマー-ペプチド結合体、または前述の蛍光標識ポリマー、またはこれらの組み合わせの種々の形態。上記薬物分子は、以下のうちの1種またはこれより多くのものであり得るが、これらに限定されない: PPARγ活性化剤(例えば、ロシグリタゾン、(RS)-5-[4-(2-[メチル(ピリジン-2-イル)アミノ]エトキシ)ベンジル]チアゾリジン-2,4-ジオン、ピオグリタゾン、(RS)-5-(4-[2-(5-エチルピリジン-2-イル)エトキシ]ベンジル)チアゾリジン-2,4-ジオン、トログリタゾン、(RS)-5-(4-[(6-ヒドロキシ-2,5,7,8-テトラメチルクロマン-2-イル)メトキシ]ベンジル)チアゾリジン-2,4-ジオンなど)、プロスタグランジンE2アナログ(PGE2、(5Z,11α,13E,15S)-7-[3-ヒドロキシ-2-(3-ヒドロキシオクタ-1-エニル)-5-オキソ-シクロペンチル]ヘプタ-5-エン酸など)、β3アドレナリン作用性レセプターアゴニスト(CL 316243、5-[(2R)-2-[[(2R)-2-(3-クロロフェニル)-2-ヒドロキシエチル]アミノ]プロピル]-1,3-ベンゾジオキソール-2,2-ジカルボキシレートヒドレート二ナトリウムなど)、線維芽細胞成長因子21(FGF-21)、イリシン(Irisin)、RNA、DNA、化学療法化合物、核磁気共鳴(NMR)造影剤、またはこれらの組み合わせ。水に非混和性の有機溶媒は、以下のうちの1種またはこれより多くのものであり得るが、これらに限定されない: クロロホルム、ジクロロメタン、および酢酸アシル。上記薬物は、以下のうちの1種またはこれより多くのものに溶解され得るが、これらに限定されない: アセトン、エタノール、メタノール、イソプロピルアルコール、アセトニトリル、およびジメチルスルホキシド(DMSO)。
【0128】
いくつかの実施形態において、上記ポリマー溶液は、上記で記載されるとおりの1種またはこれより多くのポリマー結合体を含む。上記ポリマー溶液は、疎水性ポリマーブロック、親水性ポリマーブロック、および親水性末端に結合体化された標的化部分を有する第1の両親媒性ポリマー結合体を含み得る。好ましい実施形態において、上記ポリマー溶液は、1種またはこれより多くのさらなるポリマーまたは両親媒性ポリマー結合体を含む。例えば、上記ポリマー溶液は、上記第1の両親媒性ポリマー結合体に加えて、1種またはこれより多くの疎水性ポリマー、親水性ポリマー、脂質、両親媒性ポリマー、ポリマー-薬物結合体、または他の標的化部分を含む結合体を含み得る。上記第1の両親媒性ポリマー 対 上記さらなるポリマーまたは両親媒性ポリマー結合体の比を制御することによって、上記標的化部分の密度が制御され得る。上記第1の両親媒性ポリマーは、上記ポリマー溶液中のポリマーの1重量%~100重量%で存在し得る。例えば、上記第1の両親媒性ポリマーは、上記ポリマー溶液中のポリマーの10重量%、20重量%、30重量%、40重量%、50重量%、または60重量%で存在し得る。
【0129】
次いで、水性溶液は、乳化によってエマルジョン溶液を得るために、得られた混合物溶液に添加される。乳化技術は、プローブ超音波処理またはホモジナイザーを介した均質化であり得るが、これらに限定されない。プラーク標的化ペプチドまたは発蛍光団または薬物は、この粒子のポリマーマトリクスの表面と会合する、そのマトリクス内に被包される、そのマトリクスによって囲まれる、および/またはそのマトリクス全体に分布する場合もある。
【0130】
溶媒エバポレーション
溶媒エバポレーションにおいて、上記ポリマーは、揮発性有機溶媒(例えば、塩化メチレン)中に溶解される。上記薬物(微細な粒子として溶解されるかまたは分散されるかのいずれか)は、上記溶液に添加され、その混合物は、表面活性剤(例えば、ポリ(ビニルアルコール))を含む水性溶液中に懸濁される。その得られたエマルジョンは、上記有機溶媒のうちの大部分がエバポレートされ、固体マイクロ粒子が残るまで撹拌される。その得られたマイクロ粒子は、水で洗浄され、凍結乾燥機中で一晩乾燥される。異なるサイズ(0.5~1000ミクロン)および形態を有するマイクロ粒子は、この方法によって得られ得る。この方法は、ポリエステルおよびポリスチレンのような比較的安定なポリマーに有用である。
【0131】
B.ナノ沈澱法
別の実施形態において、ナノ粒子は、ナノ沈澱法またはマイクロ流体デバイスを使用して調製される。ポリマー材料は、水に混和性の有機溶媒中の薬物または薬物の組み合わせと混合される。上記ポリマーは、以下のうちの1種またはこれより多くのものであり得るが、これらに限定されない: PLA、PGA、PCL、これらのコポリマー、ポリアクリレート、前述のPEG化ポリマー、前述のポリマー-薬物結合体、前述のポリマー-ペプチド結合体、もしくは前述の蛍光標識ポリマー、またはこれらの組み合わせの種々の形態。上記薬物分子は、以下のうちの1種またはこれより多くのものであり得るが、これらに限定されない: PPARγ活性化剤(例えば、ロシグリタゾン、(RS)-5-[4-(2-[メチル(ピリジン-2-イル)アミノ]エトキシ)ベンジル]チアゾリジン-2,4-ジオン、ピオグリタゾン、(RS)-5-(4-[2-(5-エチルピリジン-2-イル)エトキシ]ベンジル)チアゾリジン-2,4-ジオン、トログリタゾン、(RS)-5-(4-[(6-ヒドロキシ-2,5,7,8-テトラメチルクロマン-2-イル)メトキシ]ベンジル)チアゾリジン-2,4-ジオンなど)、プロスタグランジンE2アナログ(PGE2、(5Z,11α,13E,15S)-7-[3-ヒドロキシ-2-(3-ヒドロキシオクタ-1-エニル)-5-オキソ-シクロペンチル]ヘプタ-5-エン酸など)、β3アドレナリン作用性レセプターアゴニスト(CL 316243、5-[(2R)-2-[[(2R)-2-(3-クロロフェニル)-2-ヒドロキシエチル]アミノ]プロピル]-1,3-ベンゾジオキソール-2,2-ジカルボキシレートヒドレート二ナトリウムなど)、RNA、DNA、化学療法化合物、核磁気共鳴(NMR)造影剤、またはこれらの組み合わせ。水に混和性の有機溶媒は、以下のうちの1種またはこれより多くのものであり得るが、これらに限定されない: アセトン、エタノール、メタノール、イソプロピルアルコール、アセトニトリルおよびジメチルスルホキシド(DMSO)。次いで、その得られた混合物溶液は、ナノ粒子溶液を得るために、ポリマー非溶媒(例えば、水性溶液)に添加される。プラーク標的化ペプチドまたは発蛍光団または薬物は、この粒子のポリマーマトリクスの表面と会合する、そのマトリクス内に被包される、そのマトリクスによって囲まれる、および/またはそのマトリクス全体に分布する場合もある。
【0132】
C. マイクロフルイディクス
マイクロフルイディクスを使用してナノ粒子を作製する方法は、当該分野で公知である。適切な方法としては、米国特許出願公開番号2010/0022680 A1(Karnikらによる)に記載されるものが挙げられる。一般に、マイクロ流体デバイスは、混合装置へと集まる少なくとも2つのチャネルを含む。上記チャネルは、代表的には、ポリマー表面のリソグラフィー、エッチング、エンボス加工、または成形によって形成される。流体の供給源は、各チャネルに取り付けられ、上記供給源に圧力を適用すると、上記チャネル中の流体の流れが引き起こされる。上記圧力は、シリンジ、ポンプ、および/または重力によって適用され得る。ポリマー、標的化部分、脂質、薬物、ペイロードなどを有する溶液の入り口の流れが、集まって混合し、その得られた混合物は、ポリマー非溶媒溶液と合わされて、所望のサイズおよびその表面上の部分の密度を有するナノ粒子が形成される。上記入り口チャネルにおける圧力および流速、ならびに上記流体供給源の性質および組成を変化させることによって、再現性のあるサイズおよび構造を有するナノ粒子が生成され得る。
【0133】
D. 噴霧乾燥
この方法では、上記ポリマーは、有機溶媒中に溶解される。既知量の活性薬物が、上記ポリマー溶液中で懸濁(不溶性薬物)または共溶解(可溶性薬物)される。次いで、上記溶液または上記分散物は、噴霧乾燥される。小型噴霧乾燥器(Buchi)の代表的なプロセスパラメーターは、以下のとおりである: ポリマー濃度=0.04g/mL、入口温度=-24℃、出口温度=13~15℃、吸引器設定=15、ポンプ設定=10mL/分、噴霧流=600Nl/時間、およびノズル直径=0.5mm。1~10ミクロンの間の範囲に及ぶマイクロ粒子は、使用されるポリマーのタイプに応じた形態で得られる。
【0134】
E.ヒドロゲルマイクロ粒子
ゲルタイプポリマー(例えば、アルギネート)から作製されるマイクロ粒子は、旧来のイオンゲル化技術を通じて生成される。上記ポリマーは、水性溶液中に先ず溶解され、硫酸バリウムまたはある種の生物活性剤と混合され、次いで、マイクロ液滴形成デバイスを通して押し出され、これは、場合によっては、上記液滴を切り離すために窒素ガス流を使用する。ゆっくりと撹拌された(およそ100~170RPM)イオン硬化バスを、上記押し出しデバイスの下に配置して、形成しているマイクロ液滴を受け止める。上記マイクロ粒子は、ゲル化が起こるために十分な時間を与えるために、20~30分間、そのバスの中でインキュベートしておく。マイクロ粒子の粒子サイズは、種々のサイズの押し出し機を使用するか、または窒素ガスもしくはポリマー溶液の流速のいずれかを変動させることによって制御される。キトサンマイクロ粒子は、上記ポリマーを酸性溶液中に溶解し、これをトリポリホスフェートで架橋することによって調製され得る。カルボキシメチルセルロース(CMC)マイクロ粒子は、上記ポリマーを酸溶液中に溶解し、上記マイクロ粒子を鉛イオンで沈殿させることによって調製され得る。負に荷電したポリマー(例えば、アルギネート、CMC)の場合には、異なる分子量の正に荷電したリガンド(例えば、ポリリジン、ポリエチレンイミン)が、イオン結合され得る。
【0135】
IV. 製剤
がんの1またはこれより多くの症状を処置するために、その必要性のある個体に投与するために適した医薬キャリア中に有効量の、Wntシグナル伝達活性を増加させるための上記組成物を含む製剤および医薬組成物が、提供される。
【0136】
好ましい実施形態において、Wnt活性を増加させる上記活性薬剤は、Wntシグナル伝達経路の1種またはこれより多くの阻害剤を低減する薬剤である。Wnt活性を増強する1つのこのような薬剤は、APC媒介性活性の阻害剤(例えば、GSK-3の阻害剤)である。従って、いくつかの実施形態において、1種またはこれより多くのGSK-3阻害剤を含む医薬製剤は、被験体においてがんを処置するために、増加したWnt活性によって特徴づけられるがん細胞の閾値を超えてWnt活性を増加させることに関して記載される。好ましい実施形態において、上記医薬製剤は、以下に示される分子構造を有する低分子阻害剤、LY2090314:
【化14】
またはその誘導体、もしくはアナログ、もしくはプロドラッグを含む。
【0137】
LY2090314の短い血清半減期に起因して、被験体においてがんを処置および防止することに関するLY2090314の有効性は、上記被験体の身体において上記LY2090314分子を保護する1種またはこれより多くの遮蔽剤または送達システムによって増加される。従って、好ましい実施形態において、医薬製剤は、1種またはこれより多くの遮蔽剤または送達システム内で保護されたLY2090314を含む。好ましい送達システムは、LY2090314を被包するか、これと複合体化されるか、または別の方法でこれと会合するナノ粒子である。従って、ナノ粒子と会合している1種またはこれより多くのGSK-3阻害剤を含む医薬製剤が、記載される。
【0138】
適切な製剤は、選択される投与経路に依存する。好ましい実施形態において、Wntシグナル伝達活性を増加させるための組成物は、非経口的送達(例えば、筋肉内、腹腔内、静脈内(IV)または皮下注射もしくは注入による)のために製剤化される。いくつかの実施形態において、上記組成物は、腫瘍内注射のために製剤化される。局所的に(例えば、口、肺、鼻内、腟内などのような粘膜表面へと)投与することも、可能であり得る。従って、Wntシグナル伝達活性を増加させるための組成物は、局所または全身に投与されるように設計される。上記組成物は、使用直前に再水和するために、単回使用バイアル中で凍結乾燥して貯蔵され得る。従って、いくつかの実施形態において、Wntシグナル伝達活性を増加させるための組成物は、凍結乾燥される。例えば、いくつかの実施形態において、Wntシグナル伝達活性を増加させるための上記組成物は、使用直前に再水和するために、単回使用バイアル内で凍結乾燥される。再水和および投与のための他の手段は、当業者に公知である。
【0139】
Wntシグナル伝達活性を増加させるための活性薬剤の医薬製剤は、代表的には、上記1種またはこれより多くの活性薬剤を、1種またはこれより多くの薬学的に受容可能な賦形剤と組み合わせて含む。代表的な賦形剤としては、溶媒、希釈剤、pH調整剤、保存剤、抗酸化剤、懸濁化剤、湿潤剤、粘度調整剤、等張剤、安定化剤、およびこれらの組み合わせが挙げられる。適切な薬学的に受容可能な賦形剤は、好ましくは、一般に安全と見做されている(GRAS)材料から選択され、望ましくない生物学的副作用または不要な相互作用を引き起こすことなく、個体に投与され得る。
【0140】
一般に、薬学的に受容可能な塩は、活性薬剤の遊離酸または塩基形態と、水中もしくは有機溶媒中の、またはこの2つの混合物中の化学量論的な量の適切な塩基または酸との反応によって調製され得る;一般に、エーテル、酢酸エチル、エタノール、イソプロパノール、またはアセトニトリルのような非水性媒体が好ましい。薬学的に受容可能な塩としては、無機酸、有機酸、アルカリ金属塩、およびアルカリ土類金属塩から得られる活性薬剤の塩、ならびに薬物と適切な有機リガンドとの反応によって形成される塩(例えば、四級アンモニウム塩)が挙げられる。適切な塩のリストは、例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences, 第20版, Lippincott Williams & Wilkins, Baltimore, MD, 2000, p. 704に見出される。
【0141】
いくつかの実施形態において、Wntシグナル伝達活性を増加させるための上記組成物は、投与の容易さおよび投与量の均質性のために、投薬単位形態(dosage unit form)で製剤化される。語句「投薬単位形態」とは、処置されるべき患者に適した活性薬剤の物理的に個別の単位をいう。しかし、上記組成物の全ての単一投与は、確かな医学的判断の範囲内で主治医によって決定されることが理解される。いくつかの実施形態において、Wntシグナル伝達活性を増加させるための薬剤の治療上有効な用量は、細胞培養アッセイ、または動物モデル、通常は、マウス、ウサギ、イヌ、もしくはブタのいずれかにおいて最初に予測される。上記動物モデルはまた、所望の濃度範囲および投与経路を達成するために使用される。次いで、このような情報は、 ヒトにおいて有用な用量および投与経路を決定するために有用であるはずである。結合体の治療的有効性および毒性は、細胞培養または実験動物において標準的な薬学的手順によって決定され得る(例えば、ED50(この用量は、集団の50%において治療上有効である)およびLD50(この用量は、集団の50%に致死的である))。毒性効果 対 治療効果の用量比は、治療指数であり、それは、比、LD50/ED50として表され得る。大きな治療指数を示す医薬組成物が好ましい。細胞培養アッセイおよび動物試験から得られるデータは、ヒトでの使用のための投与量範囲を製剤化するにあたって使用され得る。
【0142】
非経口的(筋肉内、腹腔内、静脈内(IV)または皮下注射)、経腸的投与経路による投与のために製剤化される医薬組成物が、記載される。
【0143】
A. 非経口的投与
語句「非経口的投与」および「非経口的に投与される」とは、当該分野で認識される用語であり、経腸的および外用投与以外の投与様式(例えば、注射)を含み、静脈内、筋肉内、血管内、髄腔内、嚢内、眼窩内、心内、皮内、腹腔内、経気管、皮下、表皮下、関節内、被膜下、くも膜下、および脊髄内注射および注入が挙げられるが、これらに限定されない。Wntシグナル伝達活性を増加させるための組成物は、非経口的に、例えば、硬膜下、静脈内、髄腔内、室内、動脈内、関節内、滑膜内、羊膜内、腹腔内、または皮下経路によって投与され得る。
【0144】
液体製剤に関しては、薬学的に受容可能なキャリアは、例えば、水性溶液もしくは非水性溶液、懸濁物、エマルジョン、または油であり得る。非経口的ビヒクル(皮下、静脈内、動脈内、または筋肉内注射のため)としては、例えば、塩化ナトリウム溶液、リンゲルデキストロース、デキストロースおよび塩化ナトリウム、乳酸加リンゲル液および不揮発性油が挙げられる。非水性溶媒の例は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、および注射用有機エステル(例えば、オレイン酸エチル)である。水性キャリアとしては、例えば、水、アルコール性/水性溶液、シクロデキストリン、エマルジョンまたは懸濁物(塩類溶液および緩衝媒体を含む)が挙げられる。Wntシグナル伝達活性を増加させるための組成物はまた、エマルジョン、例えば、油中水型で投与され得る。油の例は、石油系、動物性、植物性、または合成起源のもの、例えば、ラッカセイ油、ダイズ油、鉱油、オリーブ油、ヒマワリ油、魚肝油、ゴマ油、綿実油、コーン油、オリーブ、ワセリン、およびミネラルである。非経口的製剤における使用のための適切な脂肪酸としては、例えば、オレイン酸、ステアリン酸、およびイソステアリン酸が挙げられる。オレイン酸エチルおよびミリスチン酸イソプロピルは、適切な脂肪酸エステルの例である。
【0145】
非経口的投与に適した製剤は、抗酸化剤、バッファー、静菌剤、および上記製剤を、意図されたレシピエントの血液と等張にする溶質、ならびに懸濁化剤を含み得る水性および非水性の無菌懸濁物、可溶化剤、濃化剤、安定化剤、ならびに保存剤を含み得る。静脈内ビヒクルは、流体および栄養補給剤、電解質補給剤(例えば、リンゲルデキストロースに基づくもの)を含み得る。一般に、水、塩類溶液、水性デキストロースおよび関連糖溶液、ならびにグリコール(例えば、プロピレングリコールまたはポリエチレングリコール)は、好ましい液体キャリアであり、特に注射用液剤のために好ましい。
【0146】
注射用組成物のための注射用医薬キャリアは、当業者に周知である(例えば、Pharmaceutics and Pharmacy Practice, J.B. Lippincott Company, Philadelphia, PA, Banker and Chalmers編, 第238~250頁(1982)、およびASHP Handbook on Injectable Drugs, Trissel, 第15版, 第622~630頁(2009)を参照のこと)。
【0147】
B. 経腸的投与
いくつかの実施形態において、Wntシグナル伝達活性を増加させるための組成物は、経腸的に投与される。上記キャリアまたは希釈剤は、固体製剤のための固体キャリアもしくは希釈剤、液体製剤のための液体キャリアもしくは希釈剤、またはこれらの混合物であり得る。
【0148】
液体製剤に関しては、薬学的に受容可能なキャリアは、例えば、水性または非水性溶液、懸濁物、エマルジョン、または油であり得る。非水性溶媒の例は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、および注射用有機エステル(例えば、オレイン酸エチル)である。水性キャリアとしては、例えば、水、アルコール性/水性溶液、シクロデキストリン、エマルジョンまたは懸濁物(塩類溶液および緩衝媒体を含む)が挙げられる。
【0149】
油の例は、石油系、動物性、植物性、または合成起源のもの、例えば、ラッカセイ油、ダイズ油、鉱油、オリーブ油、ヒマワリ油、魚肝油、ゴマ油、綿実油、コーン油、オリーブ、ワセリン、およびミネラルである。非経口的製剤における使用のための適切な脂肪酸としては、例えば、オレイン酸、ステアリン酸、およびイソステアリン酸が挙げられる。オレイン酸エチルおよびミリスチン酸イソプロピルは、適切な脂肪酸エステルの例である。
【0150】
ビヒクルとしては、例えば、塩化ナトリウム溶液、リンゲルデキストロース、デキストロースおよび塩化ナトリウム、乳酸加リンゲル液および不揮発性油が挙げられる。製剤は、例えば、水性および非水性の等張性無菌注射用液剤を含み、これは、抗酸化剤、バッファー、静菌剤、および上記製剤を、意図されたレシピエントの血液と等張にする溶質、ならびに懸濁化剤を含み得る水性および非水性の無菌懸濁物、可溶化剤、濃化剤、安定化剤、ならびに保存剤を含み得る。ビヒクルとしては、例えば、流体および栄養補給剤、電解質補給剤(例えば、リンゲルデキストロースに基づくもの)が挙げられ得る。一般に、水、塩類溶液、水性デキストロースおよび関連糖溶液は、好ましい液体キャリアである。これらはまた、タンパク質、脂肪、サッカリド、および乳児用調整乳の他の構成成分とともに製剤化され得る。
【0151】
ある特定の実施形態において、上記組成物は、経口投与のために製剤化される。経口製剤は、チューインガム剤、ゲルストリップ、錠剤、カプセル剤、またはトローチ剤の形態にあり得る。腸溶性コーティングされた経口製剤の調製のための被包物質としては、酢酸フタル酸セルロース、ポリビニルアセテートフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートおよびメタクリル酸エステルコポリマーが挙げられる。固体経口製剤(例えば、カプセル剤または錠剤)が好ましい。エリキシル剤およびシロップ剤はまた、周知の経口製剤である。
【0152】
V. 使用方法
がん細胞内のWntシグナル伝達活性を増加させるための組成物を使用する方法が、提供される。
【0153】
A. がんの処置
高いWnt活性を示すがんにおいて閾値を上回ってWnt活性を増加させると、がん細胞増殖の減少および腫瘍負荷の低減が生じることは、確立されている。従って、がん、特に、高いWntシグナル伝達活性およびAPC遺伝子を不活性化する変異と関連するがんを処置する方法が、提供される。上記方法は、代表的には、がんの処置の必要性のある被験体に、有効量の、Wntシグナル伝達活性を増加させるための組成物を投与して、上記被験体において増加したWnt活性によって特徴づけられるがんを処置または防止することを包含する。
【0154】
いくつかの実施形態において、上記方法は、調節不全のWnt活性と関連するがんを有するか、または有するリスクにあるとして特定されている被験体に、ナノ粒子に被包またはナノ粒子と会合した、Wntシグナル伝達を増加させる1種またはこれより多くの活性薬剤を投与する。好ましい実施形態において、上記方法は、GSK-3の阻害剤を投与する。従って、好ましい実施形態において、被験体においてがんを処置する方法は、調節不全のWnt活性と関連するがんを有するか、または有するリスクにあるとして特定されている被験体に、ナノ粒子に被包されたまたはナノ粒子と会合した、1種またはこれより多くのGSK-3阻害剤を投与することを包含する。好ましいGSK-3阻害剤は、低分子阻害剤、LY2090314である。従って、好ましい実施形態において、被験体においてがんを処置する方法は、調節不全のWnt活性と関連するがんを有するか、または有するリスクにあるとして特定されている被験体に、ナノ粒子に被包されたまたはナノ粒子と会合したLY2090314を投与することを包含する。
【0155】
好ましい実施形態において、Wntシグナル伝達を増加させる1種またはこれより多くの活性薬剤は、被験体のがん細胞においてWntシグナル伝達活性を増加させるために有効な量で、上記被験体におけるがん細胞に投与される。例えば、いくつかの実施形態において、GSK-3活性を低減または阻害する1種またはこれより多くの活性薬剤は、被験体のがん細胞においてGSK-3活性を低減または阻害するために有効な量で、上記被験体におけるがん細胞に投与される。例えば、いくつかの実施形態において、LY2090314は、被験体のがん細胞においてGSK-3活性を低減または阻害するために有効な量で、上記被験体におけるがん細胞に投与される。GSK-3を不活性化すると、がん細胞生存および増殖に必要な閾値を超えてWnt活性が増強されることから、GSK-3活性を低減または阻害する薬剤を、上記被験体に、GSK-3を不活性化するために有効な量で投与することは、上記被験体においてがんの1またはこれより多くの症状を処置または防止するために有効である。従って、好ましい実施形態において、被験体においてがんを処置する方法は、上記被験体に、ナノ粒子に被包またはこれと会合した1種またはこれより多くのGSK-3阻害剤(例えば、LY2090314)を、上記被験体においてがんの1またはこれより多くの症状を防止または低減するために有効な量で投与することを包含する。
【0156】
いくつかの実施形態において、GSK3阻害の方法は、処置の有効性を増強するために、1種またはこれより多くのWntアゴニストと組み合わせて使用される。いくつかの実施形態において、上記方法は、1種またはこれより多くのWntアゴニストと1種またはこれより多くのGSK3阻害剤との組み合わせを使用することを伴う。例えば、好ましい実施形態において、R-スポンジン1および/またはR-スポンジン3は、結腸がんを処置するために、1種またはこれより多くのGSK3阻害剤(例えば、LY2090314)と組み合わせて使用される。今日までの試験に基づいて、化合物の各クラスの有効用量は、上記化合物が単独で投与される場合よりも少ない。なぜなら上記組み合わせは「相乗効果」を示す、すなわち、両方のクラスの化合物でがん細胞を処置することの結果は、いずれかのクラス単独での処置、またはその相加的な有効用量から予測されるものより大きいからである。いくつかの実施形態において、組み合わせて使用される一方のまたは両方の薬剤の有効量は、別個に投与される場合の各薬剤の有効量より低い。これは、有効性に利益を提供し得る。なぜなら組み合わせでは化合物のより大きな用量を使用することができ、これは、ただ1つのクラスの化合物の同量を使用するより安全だからである。用語「組み合わせ」または「組み合わされる(combined)」とは、上記GSK3阻害剤および上記Wntアゴニストの併用(concomitant)、同時、または逐次投与のいずれかに言及するために使用され得る。上記組み合わせは、いずれも別個に、しかし同時に(例えば、別個の静脈内ラインを介して同じ被験体に;一方の薬剤は経口的に与えられるが、他方の薬剤は注入または注射によって与えられるなど)、あるいは逐次(例えば、一方の薬剤を先ず与え、続いて、第2のものを与える)投与され得る。上記2種の化合物の投与間に異なる期間があってもよく、処置サイクルの間に異なる期間があってもよい。
【0157】
好ましくは、上記組み合わせ処置のうちの1種またはこれより多くの成分は、放出制御製剤ありまたはなしで、ナノ粒子内に被包される。
【0158】
B. 処置レジメン
がん細胞内でWntシグナル伝達活性を増加させるための組成物を使用する方法は、1またはこれより多くの処置レジメンを含み得る。措置レジメンは、所望の生理学的変化を達成するためにWntシグナル伝達を増加させる組成物の1回または複数回の投与を含み得る。例えば、いくつかの実施形態において、処置方法は、被験体(例えば、哺乳動物、特に、ヒト)に、有効量のWntシグナル伝達を増加させる上記組成物を投与して、増加したWntシグナル伝達活性によって特徴づけられるがん、もしくはその症状を処置する、および/または上記被験体において生理学的変化を生じさせることを包含する。
【0159】
1. 投与量および有効量
いくつかの実施形態において、被験体においてがんを処置する方法は、がん細胞内でWntシグナル伝達活性を増加させるための組成物を、上記がんを処置するために有効な量で投与することを包含する。上記方法は、代表的には、上記被験体に、有効量の、上記被験体のがん細胞においてWntシグナル伝達活性を増加させるための組成物を投与して、上記被験体においてがん細胞増殖を低減するおよび/またはがん細胞生存率を低減する。Wntシグナル伝達活性を増加させる例示的な方法は、GSK3阻害(例えば、GSK3阻害剤を使用する)および/またはWntシグナル伝達を増加させること(例えば、Wntアゴニストを使用する)を含む。好ましくは、活性薬剤の1またはこれより多くのクラスが、Wntシグナル伝達を増加させるために組み合わせて使用される場合、がんを有する上記被験体におけるがん細胞の増殖または生存率の低減は、上記薬剤の各々を単独で投与することによって達成される付加的な低減より大きい。
【0160】
がんを有する被験体におけるがん細胞の増殖および生存率は、上記がん細胞のWnt活性を増加させることによって減少および防止され得、それによって、Wnt活性のその同じ増加が、同じ被験体において健常細胞の成長および増殖を増強することが確立されている。これは、がんを処置するためのWntシグナル伝達活性を増加させるための組成物を、所定のがんのタイプに関して従来の化学療法剤と関連した副作用を低減または最小限にして、特に安全かつ有効にする。上記被験体における健常細胞の増殖または生存率の増加は、例えば、上記被験体における治癒または組織再生を増加させるために、上記被験体に有利であり得る。従って、いくつかの実施形態において、上記組成物の量は、上記被験体において健常細胞の増殖および/または生存率を増加または刺激する。例示的な実施形態において、被験体に投与される、Wntシグナル伝達活性を増加させるための組成物の量は、腫瘍細胞増殖および生存率を低減し、また、上記被験体において正常の健常細胞の増殖および生存率を増強するために有効である。従って、いくつかの実施形態において、上記組成物の量は、上記被験体(例えば、手術、化学療法または別の有害な治療もしくは手順を受けた被験体)において治癒または組織修復を増強するために有効である。例示的な実施形態において、上記組成物の量は、被験体(例えば、結腸がんを除去するために手術を受けた被験体)において結腸組織の再生を増強する一方で、結腸がん細胞生存率、増殖または転移を低減する。
【0161】
投与量および投与レジメンは、上記障害もしくは傷害の重篤度および位置、ならびに/または投与方法に依存し、当業者に公知である。がんの処置において使用される上記組成物の治療上有効な量は、代表的には、がんの1またはこれより多くの症状を低減または緩和するために十分である。がんの症状は、身体的(例えば、腫瘍負荷)、または生物学的(例えば、がん細胞の増殖)であり得る。よって、上記組成物の量は、例えば、腫瘍細胞を殺滅するか、または腫瘍細胞の増殖もしくは転移を阻害するために有効であり得る。好ましくは、1種またはこれより多くの活性薬剤(例えば、GSK3αβ阻害剤)を含む上記組成物は、腫瘍組織の中または周りに優先的に送達される。好ましくは、上記活性薬剤は、腫瘍組織内にないもしくは腫瘍組織と関連しない健常細胞を標的としないかまたは別段その健常細胞の活性もしくは量をモジュレートしないか、あるいはがんまたはがん関連細胞と比較して低減したレベルでモジュレートする。このようにして、上記組成物と関連する副生成物および他の副作用が低減され、好ましくは、がん細胞死を直接または間接的にもたらす。いくつかの実施形態において、Wntシグナル伝達活性を増加させるための上記組成物は、がん細胞の移動、血管新生、免疫回避、またはこれらの組み合わせを直接または間接的に低減する。いくつかの実施形態において、Wntシグナル伝達活性を増加させるための上記組成物は、がん細胞自体またはその微少環境における変化を直接または間接的に誘導し、これは、上記がん細胞の増殖を抑制する、上記がん細胞のアポトーシスを誘導する、もしくは上記がん細胞に対する免疫応答の活性化を誘導する、またはこれらの組み合わせである。
【0162】
いくつかのインビボアプローチにおいて、Wntシグナル伝達活性を増加させるための組成物は、腫瘍サイズを低減するために、治療上有効な量で被験体に投与される。例えば、いくつかの実施形態において、Wntシグナル伝達活性を増加させるための上記組成物の有効量は、がんを寛解した状態にするために、および/またはがんを寛解した状態で維持するために使用される。また、有効量の、がん幹細胞増殖を低減または停止させる、Wntシグナル伝達活性を増加させるための組成物が提供される。
【0163】
上記組成物の実際の有効量は、投与される具体的活性薬剤、製剤化される特定の組成物、投与様式、ならびに処置されている上記被験体の年齢、体重、状態、ならびに投与経路および疾患または障害を含む要因によって変動し得る。いくつかの実施形態において、Wntシグナル伝達活性を増加させるための上記組成物は、静脈内、筋肉内、血管内、心膜内、髄腔内、嚢内、眼窩内、心内、腹腔内、皮下、関節内、くも膜下、脊髄内、および経口から選択される経路によって投与される。好ましい実施形態において、Wntシグナル伝達活性を増加させるための組成物は、非経口的に、例えば、硬膜下、静脈内、髄腔内、室内、動脈内、腹腔内、または皮下経路によって投与される。他の実施形態において、Wntシグナル伝達活性を増加させるための組成物は、経腸的に投与される。一般に、静脈内注射または注入に関しては、投与量はより低くてよい。
【0164】
一般に、投与のタイミングおよび頻度は、所定の処置または診断スケジュールの有効性と所定の送達システムの副作用とのバランスを取るために調整される。例示的な投与頻度としては、連続注入、1回または複数回の投与(例えば、毎時、毎日、毎週、毎月または毎年投与)が挙げられる。
【0165】
いくつかの実施形態において、投与量は、毎日、1日おきに、2日間、3日間、4日間、5日間、または6日間に、1回、2回、または3回、ヒトに投与される。いくつかの実施形態において、投与量は、1週間毎、2週間ごと、3週間ごと、または4週間ごとに約1回または2回投与される。いくつかの実施形態において、投与量は、1ヶ月ごと、2ヶ月ごと、3ヶ月ごと、4ヶ月ごと、5ヶ月ごと、または6ヶ月ごとに、約1回または2回投与される。
【0166】
投与レジメンが、上記被験体において状態を処置するために十分な任意の時間の長さであり得ることは、当業者によって理解される。いくつかの実施形態において、上記レジメンは、1回またはこれより多くの治療サイクルに続いて、休薬日(例えば、薬物なし)を含む。休薬日は、1日、2日、3日、4日、5日、6日、もしくは7日;または1週間、2週間、3週間、4週間、または1か月、2か月、3か月、4か月、5か月、もしくは6か月であり得る。
【0167】
がん細胞内のWntシグナル伝達活性を増加させるための組成物の投与形態がまた、記載される。いくつかの実施形態において、ナノ粒子中に被包されるGSK-3阻害剤の投与形態は、非経口的または経腸的投与に適した形態にある、被験体のがん細胞においてWntシグナル伝達活性を増加させる、ならびに上記被験体においてがん細胞増殖を低減するおよび/またはがん細胞生存率を低減するために有効な量である。例示的な実施形態において、上記投与形態(the dosage form of)は、がん細胞においてWntシグナル伝達活性を増加させるために有効な量にあるが、上記被験体において健常細胞の増殖および/または生存率を低減しない。
【0168】
いくつかの実施形態において、投与に適した上記GSK-3阻害剤の有効濃度は、約0.1マイクロモル濃度と約10マイクロモル濃度との間である。
【0169】
2. コントロール
Wntシグナル伝達活性を増加させるための上記組成物の治療結果は、コントロールと比較され得る。適切なコントロールは、当該分野で公知であり、例えば、非処理細胞または非処置被験体を含む。代表的なコントロールは、標的薬剤(targeted agent)の投与前および投与後の被験体の状態または症状の比較である。上記状態または症状は、生化学的、分子的、生理学的、または病理学的な読み取りであり得る。例えば、特定の症状、薬理学的、または生理学的インジケーターに対する上記組成物の効果は、非処置被験体、または処置前の上記被験体の状態と比較され得る。いくつかの実施形態において、上記症状、薬理学的、または生理学的インジケーターは、処置前の被験体において測定され、処置が開始された後に再び1回またはこれより多く測定される。いくつかの実施形態において、上記コントロールは、参照レベル、または処置されるべき疾患または状態を有しない1名もしくはこれより多くの被験体(例えば、健常被験体)における症状、薬理学的、もしくは生理学的インジケーターの測定に基づいて決定される平均である。いくつかの実施形態において、上記処置の効果は、当該分野で公知の従来の処置と比較される。
【0170】
C. 組み合わせ治療および手順
Wntシグナル伝達活性を増加させるための上記組成物は、単独で、あるいは1種もしくはこれより多くの従来の治療、または手順(例えば、従来のがん治療または手術)と組み合わせてさらに投与され得る。
【0171】
いくつかの実施形態において、従来のがん治療は、1種またはこれより多くのさらなる活性薬剤の形態にある。従って、いくつかの実施形態において、上記方法は、Wntシグナル伝達活性を増加させるための組成物を、1種またはこれより多くのさらなる活性薬剤と組み合わせて投与する。上記組み合わせ治療は、同じ混合物で一緒に、または別個の混合物で、Wntシグナル伝達活性を増加させるための上記組成物およびさらなる活性薬剤を投与することを含み得る。従って、いくつかの実施形態において、上記方法は、Wntシグナル伝達活性を増加させるための組成物および1種、2種、3種、またはこれより多くのさらなる活性薬剤を含む医薬製剤を投与する。このような製剤は、代表的には、有効量の、Wntシグナル伝達活性を増加させるための組成物および有効量のさらなる治療剤、予防剤または診断剤を含む。上記さらなる活性薬剤は、同じまたは異なる作用機序を有し得る。いくつかの実施形態において、上記組み合わせは、がんの処置に対して相加的効果を生じる。いくつかの実施形態において、上記組み合わせは、上記疾患または障害の処置に対して相加的より大きい効果を生じる。
【0172】
上記さらなる治療または手順は、Wntシグナル伝達活性を増加させるための上記組成物の投与と同時または逐次であり得る。いくつかの実施形態において、上記さらなる治療は、薬物サイクル間に、または上記組成物投薬計画の一部である休薬日中に行われる。例えば、いくつかの実施形態において、上記さらなる治療または手順は、手術、放射線治療、または化学療法である。
【0173】
さらなる治療剤としては、上記で考察されるように、従来のがん治療、例えば、化学療法剤、サイトカイン、ケモカイン、および放射線治療が挙げられる。化学療法薬の大部分は、アルキル化剤、代謝拮抗剤、アントラサイクリン、植物アルカロイド、トポイソメラーゼ阻害剤、および他の抗腫瘍薬剤に分けられ得る。これらの薬物は、細胞分裂またはDNA合成および機能にある種の方法で影響を及ぼす。さらなる治療剤としては、モノクローナル抗体およびチロシンキナーゼ阻害剤(例えば、イマチニブメシル酸塩(グリベック(GLEEVEC))(登録商標)またはグリベック(GLIVEC)(登録商標))が挙げられ、これは、がんのある特定のタイプ(慢性骨髄性白血病、消化管間質腫瘍)における分子異常を直接標的とする。
【0174】
いくつかの実施形態において、上記さらなる治療は、化学療法剤である。代表的な化学療法剤としては、以下が挙げられるが、これらに限定されない: アムサクリン、ブレオマイシン、ブスルファン、カンプトテシン、カペシタビン、カルボプラチン、カルムスチン、クロラムブシル、シスプラチン、クラドリビン、クロファラビン、クリサンタスパーゼ、シクロホスファミド、シタラビン、ダカルバジン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ドセタキセル、ドキソルビシン、エピポドフィロトキシン、エピルビシン、エトポシド、エトポシドリン酸塩、フルダラビン、フルオロウラシル、ゲムシタビン、ヒドロキシカルバミド、イダルビシン、イホスファミド、イリノテカン、ロイコボリン、リポソームドキソルビシン、リポソームダウノルビシン、ロムスチン、メクロレタミン、メルファラン、メルカプトプリン、メスナ、メトトレキサート、マイトマイシン、ミトキサントロン、オキサリプラチン、パクリタキセル、ペメトレキセド、ペンタスタチン、プロカルバジン、ラルチトレキセド、サトラプラチン、ストレプトゾシン、テニポシド、テガフール-ウラシル、テモゾロミド、テニポシド、チオテパ、チオグアニン、トポテカン、トレオスルファン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン、ビノレルビン、ボリノスタット、タキソール、トリコスタチンAおよびこれらの誘導体、トラスツズマブ(ハーセプチン(登録商標))、セツキシマブ、およびリツキシマブ(リツキサン(登録商標)またはマブセラ(登録商標))、ベバシズマブ(アバスチン(登録商標))、ならびにこれらの組み合わせ。代表的なアポトーシス促進剤としては、フルダラビンスタウロスポリン、シクロヘキシミド、アクチノマイシンD、ラクトシルセラミド、15d-PGJ(2)5およびこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0175】
結腸直腸がんを処置する場合に、上記さらなる化学療法剤による治療およびレジメンとしては、FOLFOX(ロイコボリンカルシウム、フルオロウラシル、およびオキサリプラチン)、CAPEOX(カペシタビンおよびオキサリプラチン)、FOLFIRI(ロイコボリンカルシウム、フルオロウラシル、およびイリノテカン)、FOLFOXIRI(ロイコボリンカルシウム、フルオロウラシル、オキサリプラチン、およびイリノテカン)、および5-FU/LV(5-フルオロウラシルおよびロイコボリンカルシウム)が挙げられ、好ましくは、NCCNガイドラインによって指示されるとおりである。FOLFOXの例示的なレジメンは、以下を含む: 1日目:2時間かけてオキサリプラチン 85mg/m2 IVと、1日目:2時間かけてロイコボリン 400mg/m2 IV、続いて、1~2日目:1日目にフルオロウラシル 400mg/m2 IV注射、次いで、1,200mg/m2/日×2日間(46~48時間かけて合計2,400mg/m2) IV連続注入;2週間ごとにサイクルを反復。FOLFOXのさらなる例示的なレジメンは、以下を含む: 1日目:2時間かけてオキサリプラチン 85mg/m2 IVと、1日目:2時間かけてロイコボリン 400mg/m2 IV、続いて、1~2日目:フルオロウラシル 1,200mg/m2/日(46~48時間かけて合計2,400mg/m2) IV連続注入;2週間ごとに反復。いくつかの実施形態において、上記さらなる化学療法剤による治療は、FOLFOX + ベバシズマブ; FOLFOX + セツキシマブ;またはFOLFOX + パニツムマブであり、好ましくは、NCCNガイドラインによって指示されるとおりである。
【0176】
いくつかの実施形態において、上記組成物および方法は、免疫治療(例えば、1種またはこれより多くの免疫チェックポイント調節剤(例えば、PD-1アンタゴニスト、PD-1リガンドアンタゴニスト、およびCTLA4アンタゴニスト)を使用するPD-1/PD-L1軸またはCD28-CTLA-4軸の構成成分のようなチェックポイントタンパク質の阻害)、養子T細胞治療、および/またはがんワクチンの前にまたはこれとともに使用される。免疫治療において使用される例示的な免疫チェックポイント調節剤としては、ペムブロリズマブ(抗PD1 mAb)、デュルバルマブ(抗PDL1 mAb)、PDR001(抗PD1 mAb)、アテゾリズマブ(抗PDL1 mAb)、ニボルマブ(抗PD1 mAb)、トレメリムマブ(抗CTLA4 mAb)、アベルマブ(抗PDL1 mAb)、およびRG7876(CD40アゴニストmAb)が挙げられる。
【0177】
いくつかの実施形態において、上記さらなる治療は、養子T細胞治療である。養子T細胞治療の方法は、当該分野で公知であり、臨床診療において使用される。一般に、養子T細胞治療は、ワクチン接種単独によって得られ得るものより多数のT細胞を達成するために、腫瘍特異的T細胞の単離およびエキソビボ拡大を伴う。次いで、上記腫瘍特異的T細胞は、患者の免疫系に、T細胞(これは、がんを攻撃および殺滅し得る)を介して残留腫瘍を圧倒する能力を与えようと試みて、がんを有する患者に注入される。養子T細胞治療のいくつかの形態が、腫瘍浸潤リンパ球またはTILを培養すること;1つの特定のT細胞またはクローンを単離および拡大すること;ならびに腫瘍を認識および攻撃するように操作されているT細胞を使用することが挙げられるが、これらに限定されないがん処置のために使用され得る。いくつかの実施形態において、上記T細胞は、患者の血液から直接採取される。適応T細胞がん治療のためにインビトロでT細胞をプライミングおよび活性化する方法は、当該分野で公知である。例えば、Wangら, Blood, 109(11):4865-4872(2007)およびHervas-Stubbsら, J. Immunol.,189(7):3299-310(2012)を参照のこと。
【0178】
歴史的には、養子T細胞治療ストラテジーは、腫瘍細胞を直接殺滅し得る腫瘍抗原特異的細胞傷害性T細胞(CTL)の注入に主に集中していた。しかし、CD4+ Tヘルパー(Th)細胞(例えば、Th1、Th2、Tfh、Treg、およびTh17)がまた、使用され得る。Thは、抗原特異的エフェクター細胞を活性化し、自然免疫系の細胞(例えば、マクロファージおよび樹状細胞)を動員して、抗原提示(APC)を補助し得、抗原でプライミングされたTh細胞は、腫瘍抗原特異的CTLを直接活性化し得る。APCを活性化する結果として、抗原特異的Th1は、腫瘍において他の抗原への免疫の拡大であるエピトープまたは決定基拡散の開始因子として関わっている。エピトープ拡散を誘発する能力は、免疫応答を腫瘍における多くの潜在的抗原へと拡げ、異種の応答を開始する能力に起因して、より効率的な腫瘍細胞殺滅をもたらし得る。このようにして、養子T細胞治療は、内因性免疫を刺激するために使用され得る。いくつかの実施形態において、上記T細胞は、キメラ抗原レセプター(CAR、CAR T細胞、またはCART)を発現する。人工T細胞レセプターは、操作されたレセプターであり、これは、特定の特異性を免疫エフェクター細胞に移植する。代表的には、これらのレセプターは、モノクローナル抗体の特異性をT細胞へと移植するために使用され、実質的に任意の腫瘍関連抗原を標的とするように操作され得る。第1世代CARは、代表的には、CD3 ζ鎖に由来する細胞内ドメイン(これは、内因性TCRからのシグナルの主要な伝達物質である)を有した。第2世代CARは、種々の共刺激タンパク質レセプター(例えば、CD28、41BB、ICOS)からCARの細胞質テールまでの細胞内シグナル伝達ドメインを付加して、T細胞へのさらなるシグナルを提供し、第3世代CARは、有効性を増強するために、複数のシグナル伝達ドメイン(例えば、CD3z-CD28-41BBまたはCD3z-CD28-OX40)を併せ持つ。
【0179】
いくつかの実施形態において、上記組成物および方法は、がんワクチン、例えば、樹状細胞がんワクチンの前にまたはこれとともに使用される。ワクチン接種は、代表的には、被験体に、治療的T細胞をインビボで誘発するようにアジュバントと一緒に抗原(例えば、がん抗原)を投与することを包含する。いくつかの実施形態において、上記がんワクチンは、樹状細胞によって送達される抗原が、がん抗原を提示するようにエキソビボでプライミングされた樹状細胞がんワクチンである。例としては、PROVENGE(登録商標)(シプロイセル-T)が挙げられ、これは、前立腺がんの処置のための樹状細胞ベースのワクチンである(Ledfordら, Nature, 519, 17-18(05 March 2015)。このようなワクチンおよび他の組成物ならびに免疫治療のための方法は、Paluckaら, Nature Reviews Cancer, 12, 265-277(April 2012)において総説される。
【0180】
いくつかの実施形態において、上記組成物および方法は、例えば、原発性腫瘍の転移を防止するにあたって、腫瘍の外科的除去の前にまたはこれとともに使用される。いくつかの実施形態において、上記組成物および方法は、身体自体の抗腫瘍免疫機能を増強するために使用される。
【0181】
D. 処置されるべき被験体
一般に、Wntシグナル伝達活性を増加させるための組成物を投与する方法は、腫瘍治療を含む、がんを処置する文脈において有用である。記載される方法は全て、処置の必要性のある被験体、または上記組成物での投与から利益を受ける被験体を特定および選択するステップを包含し得る。
【0182】
代表的には、処置されるべき上記被験体は、増殖性疾患(例えば、良性または悪性の腫瘍)を有する。いくつかの実施形態において、処置されるべき上記被験体は、ステージI、ステージII、ステージIII、またはステージIVのがんと診断されている。
【0183】
用語、がんとは、具体的には、悪性腫瘍に言及する。制御されない成長に加えて、悪性腫瘍は、転移を示す。このプロセスにおいて、がん性細胞の小さなクラスターが、腫瘍から移動し、血管またはリンパ管に侵襲し、他の組織へと運ばれ、その場所で、それらは増殖し続ける。このようにして、1つの部位の原発性腫瘍は、別の部位において二次的腫瘍を生じ得る。
【0184】
上記組成物および方法は、被験体において腫瘍の成長を遅延もしくは阻害すること、腫瘍の成長もしくはサイズを低減すること、腫瘍の転移を阻害もしくは低減すること、および/または腫瘍発生もしくは成長と関連する症状を阻害もしくは低減することによって良性または悪性の腫瘍を有する被験体を処置するために有用である。
【0185】
処置され得る悪性腫瘍は、その腫瘍が由来する組織の発生起源に応じて分類される。癌は、内胚葉性または外胚葉性の組織(例えば、皮膚または内臓および腺の上皮内層)に由来する腫瘍である。上記組成物は、癌を処置するにあたって特に有効である。肉腫(これは、それほど頻繁には生じない)は、中胚葉性結合組織(例えば、骨、脂肪および軟骨)に由来する。白血病およびリンパ腫は、骨髄の造血細胞の悪性腫瘍である。白血病は、単一細胞として増殖するのに対して、リンパ腫は、腫瘍塊として成長する傾向にある。悪性腫瘍は、身体の多くの器官または組織に現れて、がんを樹立し得る。
【0186】
提供される組成物および方法で処置され得るがんのタイプとしては、結腸直腸がん、腹膜癌腫症、膵臓がん、(用語、腺癌は、組織特異的ではない)、多発性骨髄腫、肉腫、脳、乳房、食道、肝臓、肺、胃、および子宮などのがんが挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、上記組成物は、複数のがんタイプを併せて処置するために使用される。上記組成物はまた、複数の位置にある転移または腫瘍を処置するために使用され得る。いくつかのがんタイプは、直接WNTで駆動される(例えば、肝細胞癌、胆管癌および髄芽腫)。従って、好ましい実施形態において、処置されるべき上記がんは、肝細胞癌、胆管癌および髄芽腫である。
【0187】
処置され得る例示的ながんとしては、以下が挙げられる: 脳腫瘍(神経膠腫、星細胞腫、脳幹神経膠腫、上衣腫、乏突起神経膠腫、非グリア腫瘍、聴神経鞘腫、頭蓋咽頭腫、髄芽腫、髄膜腫、松果体細胞腫、松果体芽腫、原発性脳リンパ腫が挙げられるが、これらに限定されない);乳がん(腺癌、小葉癌(小細胞癌)、管内癌、髄様乳がん、粘液性乳がん、管状乳がん、乳頭部乳がん(papillary breast cancer)、パジェット病、および炎症性乳がんが挙げられるが、これらに限定されない);副腎がん(褐色細胞腫および副腎皮質癌が挙げられるが、これらに限定されない);甲状腺がん(例えば、甲状腺乳頭がんまたは甲状腺濾胞がん、甲状腺髄様がんおよび甲状腺未分化がんが挙げられるが、これらに限定されない);膵臓がん(インスリノーマ、ガストリノーマ、グルカゴノーマ、ビポーマ、ソマトスタチン分泌腫瘍、およびカルチノイドまたは膵島細胞腫瘍が挙げられるが、これらに限定されない);下垂体がん(クッシング病、プロラクチン分泌腫瘍、先端巨大症、および尿崩症(diabetes insipius)が挙げられるが、これらに限定されない);眼のがん(虹彩黒色腫、脈絡膜黒色腫、および毛様体黒色腫のような眼の黒色腫、ならびに網膜芽細胞腫が挙げられるが、これらに限定されない);腟がん(扁平上皮癌、腺癌、および黒色腫が挙げられるが、これらに限定されない);外陰がん(扁平上皮癌、黒色腫、腺癌、基底細胞癌、肉腫、およびパジェット病が挙げられるが、これらに限定されない);子宮頚がん(扁平上皮癌、および腺癌が挙げられるが、これらに限定されない);子宮がん(子宮内膜癌および子宮肉腫が挙げられるが、これらに限定されない);卵巣がん(卵巣上皮癌、境界性腫瘍(borderline tumor)、胚細胞腫瘍、および間質腫瘍が挙げられるが、これらに限定されない);食道がん(扁平上皮がん(squamous cancer)、腺癌、腺様嚢胞癌(adenoidcyctic carcinoma)、粘膜類表皮癌、腺扁平上皮癌、肉腫、黒色腫、形質細胞腫、疣贅性癌、および燕麦細胞(小細胞)癌が挙げられるが、これらに限定されない);胃がん(腺癌、菌状発生(fungating)(ポリープ状)、潰瘍化、表在拡大型、びまん性拡大型(diffusely spreading)、悪性リンパ腫、脂肪肉腫、線維肉腫、および癌肉腫が挙げられるが、これらに限定されない);結腸がん;直腸がん;肝臓がん(肝細胞癌および肝芽腫が挙げられるが、これらに限定されない)、胆嚢がん(腺癌が挙げられるが、これらに限定されない);胆管癌(乳頭型、結節型、およびびまん型が挙げられるが、これらに限定されない);肺がん(非小細胞肺がん、扁平上皮癌(類表皮癌)、腺癌、大細胞癌および小細胞肺がんが挙げられるが、これらに限定されない);精巣がん(胚性腫瘍、セミノーマ、未分化、古典的(典型的)、精母細胞性、非セミノーマ、胎児性癌、奇形腫癌(teratoma carcinoma)、絨毛癌(卵黄嚢腫瘍)が挙げられるが、これらに限定されない)、前立腺がん(腺癌、平滑筋肉腫、および横紋筋肉腫が挙げられるが、これらに限定されない);陰茎がん(penal cancer); 口腔がん(扁平上皮癌が挙げられるが、これらに限定されない);基底がん;唾液腺がん(腺癌、粘膜類表皮癌、および腺様嚢胞癌が挙げられるが、これらに限定されない);咽頭がん(扁平上皮がん、および疣贅性が挙げられるが、これらに限定されない);皮膚がん(基底細胞癌、扁平上皮癌および黒色腫、表在性拡大型黒色腫、結節型黒色腫、悪性黒子黒色腫、末端黒子型黒色腫が挙げられるが、これらに限定されない);腎臓がん(腎細胞がん、腺癌、副腎腫、線維肉腫、移行上皮がん(腎盂および/または尿管(uterer))が挙げられるが、これらに限定されない);ウィルムス腫瘍;膀胱がん(移行上皮癌、扁平上皮がん、腺癌、癌肉腫が挙げられるが、これらに限定されない)。
【0188】
いくつかの実施形態において、上記がんは、Adenomatous polyposis coli(APC)遺伝子において1またはこれより多くの変異を有するとして特徴づけられる。記載されるとおりの方法および組成物は、予防的および治療的両方の処置のために有用である。
【0189】
治療的処置は、がんが診断された後に、被験体に、記載されるとおりの治療上有効な量の上記組成物またはその薬学的に受容可能な塩を投与することを伴う。
【0190】
さらなる実施形態において、上記組成物は、予防的使用、すなわち、発症の防止、遅延、発症後の徴候もしくは症状の減少、根絶、または増悪の遅延、および再発の防止のために使用される。いくつかの実施形態において、上記被験体は、良性の(非がん性)成長であるが、結腸直腸がんへの前駆的な病変であり得る結腸および/または直腸の腺腫様ポリープ(腺腫)を有する。予防的使用に関しては、治療上有効な量の化合物および組成物または記載されるとおりのその薬学的に受容可能な塩は、発症前に(例えば、がんの明らかな徴候の前に)、早期の発生中に(例えば、がんの初期の徴候および症状の際に)、またはがんの発生が確立された後に、被験体に投与される。予防的投与は、症状発現前に数日間から数年間行い得る。予防的投与は、例えば、前癌病変を示す被験体、初期ステージの悪性腫瘍と診断された被験体、および特定のがんに対して感受性を有する下位集団(例えば、家族、人種、および/または職業)の予防的化学療法処置(chemo-preventative treatment)において使用され得る。
【0191】
1. Adenomatous Polyposis Coli(APC)変異および関連の癌
Adenomatous polyposis coli(APC)は、結腸直腸がん(CRC)において高度に変異している腫瘍抑制遺伝子として広く受け入れられている。この遺伝子の変異および不活性化は、結腸直腸腫瘍形成においてほぼ唯一観察される重要かつ早期の事象である。APC遺伝子における変化は、短縮化された遺伝子産物を生成し、Wntシグナル伝達経路の活性化および複数の他の細胞プロセスの調節解除をもたらす。
【0192】
従って、いくつかの実施形態において、上記組成物およびその医薬製剤は、APC遺伝子における1もしくはこれより多くの変異または不活性化と関連するがんの1もしくはこれより多くの症状を処置することにおける使用に適している。好ましい実施形態において、上記組成物およびその医薬製剤は、APC遺伝子における1もしくはこれより多くの変異または不活性化と関連する結腸がんの1もしくはこれより多くの症状を処置することにおける使用に適している。
【0193】
VI. キット
医療用キットがまた、開示される。上記医療用キットは、例えば、がん細胞におけるWntシグナル伝達活性をインビボで増加させるために有効な量で、ナノ粒子中に被包されたGSK-3阻害剤の投薬供給物を含み得る。上記活性薬剤は、単独で供給され得る(例えば、凍結乾燥)か、または医薬組成物中にあり得る。上記活性薬剤は、単位投与量において、または投与前に希釈されるべきであるストック中に存在し得る。いくつかの実施形態において、上記キットは、薬学的に受容可能なキャリアの供給物を含む。上記キットはまた、上記活性薬剤または組成物の投与のためのデバイス(例えば、シリンジ)を含み得る。上記キットは、上記のとおりの使用において上記化合物を投与するための印刷物による指示を含み得る。
【0194】
本発明は、以下の非限定的な実施例を参照することによってさらに理解される。
【実施例】
【0195】
実施例1: 結腸オルガノイド成長を支持する能力に関するGSK3αβ阻害剤のスクリーニング
材料および方法
マウスおよびヒトオルガノイドを、MATRIGEL(登録商標)および5% ウシ胎仔血清を有するAdvanced DMEM/F12培地、およびGLUTAMAX(登録商標)補充物を使用する標準的オルガノイド培養システムにおいて成長させた。標識薬物の用量応答を、オルガノイド培養物に適用し、レサズリン生存率アッセイを、4日間の培養後に行った。相対的成長を、レサズリンからレゾルフィンへの変換によって評価し、y軸に示す。
【0196】
結果
種々の薬物のスクリーニングから、LY2090314が、他のGSK3阻害剤のうちのいくつかのより制限された範囲および絶対的な成長と比較して、広い薬物濃度範囲にわたって野生型結腸オルガノイドの成長を強力に可能にすることが強調される(
図1)。
【0197】
オルガノイドにおけるオンターゲット 対 オフターゲット機能に基づいて、最も優れた薬物は、有効性が減少していく順に、以下のとおりである: LY2090314(
図2)、SAR502250、A-1070722、およびCHIR 99021。他の薬物の大部分は、制限されたオンターゲット 対 オフターゲット特性を示し、特に結腸上皮細胞において他の機序によって機能する可能性がある。
【0198】
実施例2: GSK3阻害は、全ての濃度においてAPC
-/-である複合結腸がんオルガノイド遺伝子型を強力に阻害する
材料および方法
図1と同じであるが、試験したオルガノイドの遺伝子型は、野生型ではなく変化しており、図の説明の中で示されるとおりの変異を含む。
【0199】
結果
全ての濃度において、LY2090314は、APC変異を有するオルガノイドの成長を阻害した。これは、さらなるがんを引き起こす変異がAPC変異の上に付加されたとしても保存された(
図3)。これは、野生型オルガノイド成長で認められ得る成長の全般的な改善と比較するものであり、腫瘍オルガノイドにおけるGSK3阻害の成長に対する差次的な感受性を強調する。
【0200】
実施例3: GSK3αβ阻害剤のナノ粒子製剤
材料および方法
ナノ粒子を、PLGA 5~10k mw、50:50 乳酸 対 グリコール酸比を使用して製剤化した。乳化剤として2% ダイズレシチンを用いる二重エマルジョン技術を使用して合成した。LY2090314を、二重エマルジョン中に、ジクロロメタンを溶媒として用いて、PLGAに対して0.1mg/mlおよび1:100mg/mg w/wで被包した。先端プローブを介する2分間の75W 超音波処理出力を使用して、乳化を誘導した。上記粒子を室温で一晩撹拌乾燥した。
【0201】
結果
DLS結果は、上記粒子が500nmおよび10,000nmの2峰性分布を有する多分散サイズ範囲を有することを示す(
図4)。
【0202】
実施例4: マウスモデルにおける、ナノ粒子中に製剤化したGSK3αβ阻害剤を使用する腹膜癌腫症の処置
材料および方法
マウス結腸腫瘍オルガノイドを、B6マウスに腹膜に注射した。これらの腫瘍オルガノイドは、APC-/- KRAS(G12D)、P53 -/-遺伝子型(ヒト結腸がんの最も一般的な遺伝子型)のものであった。LY2090314を含む先に記載したナノ粒子の毎日の注射を、一方のアーム(処置群)に与えたが、他方の非処置群には、何も与えなかった。上記腫瘍がまた、TdTomato蛍光タンパク質を発現することから、上記腫瘍を、処置または処置なしの1週間後に、解剖顕微鏡検査を介して画像化した。
【0203】
結果
処置群 対 非処置群の腫瘍の数、平均蛍光、および全体の腫瘍負荷(平均蛍光×面積)は、評価した全てのメトリクスにおいて腫瘍負荷の統計的に有意な低減を示した(
図5A~5C)。マウス1匹あたり平均腫瘍負荷において93%低減が観察された。
【0204】
実施例5: LYナノ粒子の経腸的製剤は、マウスモデルにおいて生存を増加させた
材料および方法
APC、Min/+ マウスを、LY2090314含有ナノ粒子を、
図6中の点線で示されるとおり2週間にわたって飼料中に(in their good)入れることによって処置した。用量は、約2.5mg/kg/日を与えた。
【0205】
結果
Min(多発性腸新生物)は、マウスApc(adenomatous polyposis coli)遺伝子座の変異体対立遺伝子であり、コドン850においてナンセンス変異をコードする。APCにおいて生殖細胞系列変異を有するヒトと同様に、Min/+ マウスは、腸腺腫形成に対して素因がある。Minマウスは、腸および乳腺の腫瘍形成の開始および進行におけるApcおよび相互作用遺伝子の役割を試験するための良好な動物モデルを提供する。
【0206】
データは、薬物を有するナノ粒子が疾患の状況において腸の再生を増加させ、根底にある幹細胞を直接刺激し、おそらく腺腫を処置する可能性があることを示す。上記ナノ粒子を、腫瘍の傾向があるマウス(APC minモデル)の飼料に組み込んだ場合、生存は、腫瘍の傾向があるマウスの腸への経腸的な飼料ベースの送達によって有意に改善した(
図6)。しかし、製剤は、管腔の滞留時間を増加させ、全身吸収を制限する必要がある。なぜなら本発明者らは、腸の全長の処置を望んだからである。従って、PHAナノ粒子または早期の小腸吸収を制限する他のキャリアとの組み合わせが理想的であった。浣腸はまた、機能する可能性があり、結腸がんまたは直腸がんに関しては最良の送達法であり得る。
【0207】
実施例6: ヒト結腸がん細胞は、GSK3αβ阻害剤、LY2090314に感受性である
材料および方法
ヒト結腸がんを、MGHで手術室から収集した。結腸腫瘍オルガノイド系を、切除物から生成し、標準的結腸オルガノイド培養条件で維持した。LY2090314の用量応答を、種々のヒト結腸がんに適用し、レサズリン細胞数計数を、4日間の培養後に行った。
【0208】
結果
あらゆるヒト結腸がんが、LY2090314への感受性を示した。これは、この現象がマウス試験からヒト由来の結腸がんに適用可能であることを確証する(
図7)。
【0209】
さらに、濃縮WRNまたはWnt3a、R-スポンジン3、およびノギンの使用は、用量依存性様式でマウス結腸がんオルガノイドに対する濃縮組換えタンパク質の阻害能力を示した(
図9)。
【0210】
実施例7: GSK3αβ阻害剤、LY2090314、および他の従来の化学療法剤を使用する組み合わせ処置
5-フルオロウラシル(5-FU)は、緩和および補助療法において、結腸直腸がん(CRC)に関する全身的化学療法の必須の構成成分である。現在までのCRC治療における心強い進歩にもかかわらず、治療への患者の応答率は、依然として低いままであり、5-FUベースから受ける患者の利益は、化学療法抵抗性の発生によって頻繁に損なわれている。
【0211】
LY2090314を5-FUとともに、結腸がんオルガノイドに対して使用した。データは、LY2090314によるこの細胞殺滅または腫瘍阻害の機序が、5-FUとは無関係であることを示す(
図8Aおよび8B)。LY2090314の細胞殺滅または腫瘍阻害効果は、5-FUで付加的である。従って、LY2090314は、結腸がんに対する既存の化学療法レジメンの多くに追加して転帰を改善することができる。
【0212】
実施例8: 単離されたWntタンパク質は、AKPVT腫瘍オルガノイド成長を阻害し得る
図9はWRN濃縮係数(0.125~32)に対する相対的成長AKPVT(0~2.0)を示す。データは、単離されたWntタンパク質が、より高い濃度でAKPVT腫瘍オルガノイド成長を阻害することを明らかに示した。
【0213】
実施例9: GSK3α -/-、GSK3β -/-、KRAS G12D +/-、P53 -/-、TdTomato shAPC(3ABKPT shAPC)オルガノイドを使用するインビボ結果
材料および方法
10匹のRAG2免疫不全マウスに、300,000 細胞の3ABKPT shAPCオルガノイド細胞を注射し、2群(ドキシサイクリンで処置したものおよびなしのもの)に分けた。ドキシサイクリン625mg/kgを飼料に組み込んだ。1週間で、TdTomato蛍光の量を画像化し、定量した。
【0214】
結果
これらのオルガノイドは、GSK3のアルファ遺伝子およびβ遺伝子の両方の二重ノックアウトによってWnt非依存性である。それらはまた、KRAS、およびP53の両方のコピーにおいて変異を有し、その結果、それらは、別の方法でヒト結腸がんにおいてそれらの発がん性シグナル伝達経路を模倣する。それらは、Rosa遺伝子座からTdTomatoを発現し、腫瘍内で活性化されると、構成的に赤色の蛍光を発する。shAPC構築物は、APCのドキシサイクリン依存性ノックダウンを可能にする。このシステムを使用して、APCノックダウンの効果は、遺伝的APC喪失の状況におけるGSK3薬物阻害とは正反対に、GSK3αおよびβの遺伝子座の状況において示され得る。これはさらに、APCでのGSK3αおよびβの阻害またはノックダウンによって合成脆弱性の概念を拡げるが、GSK3阻害剤の使用なしでそのようにし、GSK3αおよびβ喪失の状況におけるAPCノックダウンが、この効果を同様に媒介し得ることをも示す(
図10A~10C)。
【0215】
腹膜癌腫症の代わりに転移性腫瘍成長の脾臓注射モデルを使用して類似の実験を行った場合、類似の結果を観察した。簡潔には、GSK3ABKPT shAPCオルガノイドを解離し、250,000 細胞をマウスの脾臓に注射した。その脾臓を5分の灌流後に取り出し、その腫瘍を、ドキシサイクリンありまたはなしで、マウスの肝臓において成長させた。上記マウスを、それらがエンドポイント(安楽死基準によって定義されるとおり)に達するか、または死ぬまで、ドキシサイクリン含有飼料またはコントロール飼料のいずれかで維持した。
図11におけるカプラン-マイアープロットに示されるドキシサイクリンで処置したものにおいて、マウスの生存に有意差があった。
【0216】
実施例10: 5-フルオロウラシルと比較して、増強された安全性および有効性
この処置モダリティーの最も重要な側面のうちの1つは、結腸がんを同時に処置および殺滅しながら、副作用が非常に制限され、かつ正常細胞成長が潜在的に改善される可能性である。ヒトにおいて、化学療法、5-フルオロウラシルは、結腸がん治療の骨格であるが、重大な毒性の副作用がある。マウスは、ヒトと比較して、1日あたり体重あたりに基づいて、より高い用量の5-フルオロウラシルに耐える。5-フルオロウラシルの高用量がマウスに投与される場合、彼らは、1週間で彼らの全体重の20%を失う(
図12A)。これは、
図12B~12Dにおいて定量される腫瘍のクリアランスを生じた。これは、LY2090314のナノ粒子製剤を使用することによって特定された腫瘍負荷の改善された阻害および処置効果とは正反対である(
図5A~5C)。腫瘍負荷を処置および低減することに関するLY2090314の改善された全臨床的有効性に加えて、上記マウスは、最小限の体重変化を示し、全て活動的かつ健康である(
図12Eに表される)。
【0217】
実施例11: さらなる低分子阻害剤
種々のGSK3阻害剤を使用するアプローチをさらに一般化するために、GSK3阻害を介して、結腸オルガノイドにおいてWnt応答を誘導する2つの他の化合物を特定した。具体的には、SAR502250およびAZD2858は、正常の野生型オルガノイドを成長させ、TOP-TdTomatoレポーター活性に基づいてWnt応答を促進する能力を示す。初代野生型結腸陰窩を使用して、SAR502250が野生型オルガノイド成長を促進する能力を、レサズリン代謝ベースのアッセイを使用して評価した。LY2090314は、SAR502250より強力であるが、SAR502250は、独立して、野生型オルガノイド成長を可能にし得る(
図13A)。
【0218】
SAR502250はまた、
図13Bに示されるように結腸がん成長を阻害した。ここで結腸がんオルガノイド(APC、KRASG12D、P53において変異を有し、赤色蛍光を発するAKPVT)に対する薬物の用量応答は、2×10
-5Mですら、LY2090314より穏やかな阻害を明らかに示す。生存率減少を、レサズリンベースの代謝/増殖アッセイを使用して評価した。
【0219】
AZD2858はまた、野生型オルガノイド培養物を成長させる類似の能力を示した。AZD2858を、野生型オルガノイドに適用した場合、その薬物は、正常結腸オルガノイド成長を支持する明らかに低いナノモル濃度の能力を明らかに示した(
図13C)。さらに、これは、野生型オルガノイドへのその遺伝的組み込みの後に、TOP/TdTomatoレポーターを使用して、オンターゲットのWntシグナル伝達であることが確認された。
【0220】
実施例12: R-スポンジンおよびLY2090314を使用する組み合わせ処置
ここで、GSK3阻害剤(LY2090314)が、Wntアゴニストと組み合わせた場合に相乗効果を有することを示した。上記組み合わせは、腫瘍オルガノイド成長を阻害する全体的な能力を増加させた(
図14)。
【0221】
以下のヒートマップにおいて示されるように、濃縮RSPO1単独は、がんオルガノイド単独を阻害する効果は中程度である(下の列)。しかし、低ナノモル濃度のLY2090314の存在下では、結腸がんオルガノイドの阻害に対するRSPO1の効果は、個々の成分単独によって達成される結果の相加的なものより大きくなり得る:オルガノイドに対する生存率の低減は、上記薬物各々単独より大きく、40%超程度減少する。
【0222】
別段定義されなければ、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語は、開示される発明が属する分野の当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書で引用される刊行物、およびそれらが引用される資料は、参考として具体的に援用される。
【0223】
当業者は、本明細書に記載される発明の具体的実施形態に対する多くの均等物を、慣用的な実験のみを使用して、認識するか、または確認し得る。このような均等物は、以下の特許請求の範囲によって包含されることが意図される。
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2024-06-06
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
がんを処置する
方法における使用のための、Wntシグナル伝達活性を増加させるための組成物であって、
前記がん細胞は、がんの処置の必要性のある被験体においてadenomatous polyposis coli(APC)遺伝子において1またはこれより多くの変異を有し、前記方法は、前記被験体において、がん細胞増殖を低減するおよび/またはがん細胞生存率を低減するために、前記被験体の
前記がん細胞においてWntシグナル伝達活性を増加させるための有効量の
前記組成物を前記被験体に投与することを包含
し、
Wntシグナル伝達活性を増加させるための前記組成物は、シンターゼキナーゼ3(GSK-3)阻害剤および/または精製Wntタンパク質を含む、組成物。
【請求項2】
前記組成物の量は、前記被験体において健常細胞の増殖および/または生存率を低減しない、請求項1に記載の
組成物。
【請求項3】
Wntシグナル伝達活性を増加させるための前記組成物は、シンターゼキナーゼ3(GSK-3)阻害剤を含む、請求項1または2に記載の
組成物。
【請求項4】
前記GSK-3阻害剤は、構造:
【化15】
を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の
組成物。
【請求項5】
前記GSK-3阻害剤は、LY2090314、SAR502250、AZD2858、またはそのアナログ、誘導体、もしくはプロドラッグである、請求項3または4に記載の
組成物。
【請求項6】
前記GSK-3阻害剤は、同量の前記GSK-3阻害剤単独の血清半減期と比較して、前記GSK-3阻害剤の血清半減期を増加させる送達ビヒクル内に被包されているおよび/または前記送達ビヒクルと会合している、請求項3~5のいずれか1項に記載の
組成物。
【請求項7】
前記送達ビヒクルは、リポソーム、ポリマー粒子、ウイルス様粒子、およびタンパク質ナノ構造体からなる群より選択されるナノ粒子またはマイクロ粒子である、請求項6に記載の
組成物。
【請求項8】
前記ポリマーナノ粒子は、ポリ(乳酸-co-グリコール酸)(PLGA)および/またはポリヒドロキシアルカノエートを含む、請求項7に記載の
組成物。
【請求項9】
Wntシグナル伝達活性を増加させるための前記組成物は、単離されたWnt-3aタンパク質を含む、請求項1に記載の
組成物。
【請求項10】
前記がん細胞は、正常のコントロール細胞と比較して、増加したWntシグナル伝達活性によって特徴づけられる、請求項1~9のいずれか1項に記載の
組成物。
【請求項11】
前記がん細胞は、
前記adenomatous polyposis coli(APC)遺伝子において
1より多くの変異を有する、請求項1~10のいずれか1項に記載の
組成物。
【請求項12】
前記がんは、結腸がん、直腸がん、腹膜癌腫症、膵臓がん、腺癌、卵巣がん、多発性骨髄腫、ならびに膵臓、骨、膀胱、脳、乳房、子宮頚部、食道、腎臓、肝臓、肺、鼻咽頭、前立腺、皮膚、胃、および子宮の肉腫からなる群より選択される、請求項1~11のいずれか1項に記載の
組成物。
【請求項13】
前記がんは、結腸がんである、請求項1~12のいずれか1項に記載の
組成物。
【請求項14】
前記組成物は、前記被験体への投与のために薬学的に受容可能な賦形剤を含む、請求項1~13のいずれか1項に記載の
組成物。
【請求項15】
前記組成物は、前記被験体に、静脈内、筋肉内、血管内、心膜内、髄腔内、嚢内、眼窩内、心内、腹腔内、皮下、関節内、くも膜下、脊髄内、および経口からなる群より選択される経路によって投与される
ことを特徴とする、請求項1~14のいずれか1項に記載の
組成物。
【請求項16】
前記組成物が、前記被験体に、化学療法剤、抗感染剤、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される1種またはこれより多くのさらなる活性薬剤
と組み合わせて投与
されることを特徴とする、請求項1~15のいずれか1項に記載の
組成物。
【請求項17】
前記組成物が、PD-1アンタゴニスト、PD-1リガンドアンタゴニスト、およびCTLA4アンタゴニストからなる群より選択される1種またはこれより多くの免疫チェックポイント調節剤
と組み合わせて投与
されることを特徴とする、請求項1~16のいずれか1項に記載の
組成物。
【請求項18】
前記組成物が、養子T細胞治療、および/またはがんワクチン
と組み合わせて投与されることを特徴とする、請求項1~17のいずれか1項に記載の
組成物。
【請求項19】
前記組成物が、手術または放射線治療
と組み合わせて投与されることを特徴とする、請求項1~18のいずれか1項に記載の
組成物。
【請求項20】
前記被験体は、がんを除去する手術を受けたことがあり、前記組成物は、前記被験体においてがん細胞の増殖を低減もしくは防止する、および/または前記被験体における正常組織の成長を増強するために投与される
ことを特徴とする、請求項1~19のいずれか1項に記載の
組成物。
【請求項21】
adenomatous polyposis coli(APC)遺伝子において1またはこれより多くの変異を有するがん細胞においてWntシグナル伝達経路活性を増強する方法
における使用のための組成物であって、
前記組成物は、GSK-3阻害剤および/または精製Wntタンパク質を含み、前記方法は、前記がん細胞と、前記細胞においてWntシグナル伝達を増加させるための有効量の
前記GSK-3阻害剤
および/または前記精製されたWntタンパク質とを接触させることを包含する
組成物。
【請求項22】
前記方法は、
正常細胞に対しては低減した毒性で、前記がん細胞の増殖および/または生存率を低減する、請求項21に記載の
組成物。
【請求項23】
前記細胞は、前記APC遺伝子に
1より多くの変異を有する、請求項21または22に記載の
組成物。
【請求項24】
前記GSK-3阻害剤は、LY2090314である、請求項21~23のいずれか1項に記載の
組成物。
【請求項25】
被験体のがん細胞においてWntシグナル伝達活性を増加させ、前記被験体においてがん細胞増殖を低減および/またはがん細胞生存率を低減するために有効な量で、ナノ粒子中に被包されたGSK-3阻害剤
またはWntタンパク質を含む、注射のためまたは経口投与のための投与形態。
【請求項26】
がん細胞においてWntシグナル伝達活性を増加させるために有効な前記量は、前記被験体において健常細胞の増殖および/または生存率を低減しない、請求項25に記載の投与形態。
【請求項27】
前記GSK-3阻害剤は、LY2090314、SAR502250、AZD2858、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項25または26に記載の投与形態。
【請求項28】
前記がんは、結腸がん、直腸がん、癌腫症、膵臓がん、および腺癌からなる群より選択される、請求項25~27のいずれか1項に記載の投与形態。
【請求項29】
前記有効量は、腫瘍サイズを低減するために有効である、請求項25~28のいずれか1項に記載の投与形態。
【請求項30】
被験体のがん細胞においてWntシグナル伝達活性を増加させる、ならびに前記被験体においてがん細胞増殖を低減するおよび/またはがん細胞生存率を低減するために有効な量でナノ粒子中に被包されたGSK-3阻害剤、ならびに請求項1~24のいずれか1項に記載の使用のための指示を含むキット。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0223
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0223】
当業者は、本明細書に記載される発明の具体的実施形態に対する多くの均等物を、慣用的な実験のみを使用して、認識するか、または確認し得る。このような均等物は、以下の特許請求の範囲によって包含されることが意図される。
特定の実施形態では、例えば、以下が提供される:
(項目1)
がんの処置の必要性のある被験体においてがんを処置するための方法であって、前記方法は、前記被験体において、がん細胞増殖を低減するおよび/またはがん細胞生存率を低減するために、前記被験体のがん細胞においてWntシグナル伝達活性を増加させるための有効量の組成物を前記被験体に投与することを包含する方法。
(項目2)
前記組成物の量は、前記被験体において健常細胞の増殖および/または生存率を低減しない、項目1に記載の方法。
(項目3)
Wntシグナル伝達活性を増加させるための前記組成物は、シンターゼキナーゼ3(GSK-3)阻害剤を含む、項目1または2に記載の方法。
(項目4)
前記GSK-3阻害剤は、構造:
【化15】
を含む、項目1~3のいずれか1項に記載の方法。
(項目5)
前記GSK-3阻害剤は、LY2090314、SAR502250、AZD2858、またはそのアナログ、誘導体、もしくはプロドラッグである、項目3または4に記載の方法。
(項目6)
前記GSK-3阻害剤は、同量の前記GSK-3阻害剤単独の血清半減期と比較して、前記GSK-3阻害剤の血清半減期を増加させる送達ビヒクル内に被包されているおよび/または前記送達ビヒクルと会合している、項目3~5のいずれか1項に記載の方法。
(項目7)
前記送達ビヒクルは、リポソーム、ポリマー粒子、ウイルス様粒子、およびタンパク質ナノ構造体からなる群より選択されるナノ粒子またはマイクロ粒子である、項目6に記載の方法。
(項目8)
前記ポリマーナノ粒子は、ポリ(乳酸-co-グリコール酸)(PLGA)および/またはポリヒドロキシアルカノエートを含む、項目7に記載の方法。
(項目9)
Wntシグナル伝達活性を増加させるための前記組成物は、単離されたWnt-3aタンパク質を含む、項目1に記載の方法。
(項目10)
前記がん細胞は、正常のコントロール細胞と比較して、増加したWntシグナル伝達活性によって特徴づけられる、項目1~9のいずれか1項に記載の方法。
(項目11)
前記がん細胞は、adenomatous polyposis coli(APC)遺伝子において1またはこれより多くの変異を有する、項目1~10のいずれか1項に記載の方法。
(項目12)
前記がんは、結腸がん、直腸がん、腹膜癌腫症、膵臓がん、腺癌、卵巣がん、多発性骨髄腫、ならびに膵臓、骨、膀胱、脳、乳房、子宮頚部、食道、腎臓、肝臓、肺、鼻咽頭、前立腺、皮膚、胃、および子宮の肉腫からなる群より選択される、項目1~11のいずれか1項に記載の方法。
(項目13)
前記がんは、結腸がんである、項目1~12のいずれか1項に記載の方法。
(項目14)
前記組成物は、前記被験体への投与のために薬学的に受容可能な賦形剤を含む、項目1~13のいずれか1項に記載の方法。
(項目15)
前記組成物は、前記被験体に、静脈内、筋肉内、血管内、心膜内、髄腔内、嚢内、眼窩内、心内、腹腔内、皮下、関節内、くも膜下、脊髄内、および経口からなる群より選択される経路によって投与される、項目1~14のいずれか1項に記載の方法。
(項目16)
前記被験体に、化学療法剤、抗感染剤、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される1種またはこれより多くのさらなる活性薬剤を投与することをさらに包含する、項目1~15のいずれか1項に記載の方法。
(項目17)
PD-1アンタゴニスト、PD-1リガンドアンタゴニスト、およびCTLA4アンタゴニストからなる群より選択される1種またはこれより多くの免疫チェックポイント調節剤を投与することをさらに包含する、項目1~16のいずれか1項に記載の方法。
(項目18)
養子T細胞治療、および/またはがんワクチンをさらに含む、項目1~17のいずれか1項に記載の方法。
(項目19)
手術または放射線治療をさらに含む、項目1~18のいずれか1項に記載の方法。
(項目20)
前記被験体は、がんを除去する手術を受けたことがあり、前記組成物は、前記被験体においてがん細胞の増殖を低減もしくは防止する、および/または前記被験体における正常組織の成長を増強するために投与される、項目1~19のいずれか1項に記載の方法。
(項目21)
がん細胞においてWntシグナル伝達経路活性を増強する方法であって、前記方法は、前記がん細胞と、前記細胞においてWntシグナル伝達を増加させるための有効量のGSK-3阻害剤とを接触させることを包含する方法。
(項目22)
前記方法は、前記がん細胞の増殖および/または生存率を低減する、項目21に記載の方法。
(項目23)
前記細胞は、前記APC遺伝子に1またはこれより多くの変異を有する、項目21または22に記載の方法。
(項目24)
前記GSK-3阻害剤は、LY2090314である、項目21~23のいずれか1項に記載の方法。
(項目25)
被験体のがん細胞においてWntシグナル伝達活性を増加させ、前記被験体においてがん細胞増殖を低減および/またはがん細胞生存率を低減するために有効な量で、ナノ粒子中に被包されたGSK-3阻害剤を含む、注射のためまたは経口投与のための投与形態。
(項目26)
がん細胞においてWntシグナル伝達活性を増加させるために有効な前記量は、前記被験体において健常細胞の増殖および/または生存率を低減しない、項目25に記載の投与形態。
(項目27)
前記GSK-3阻害剤は、LY2090314、SAR502250、AZD2858、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される、項目25または26に記載の投与形態。
(項目28)
前記がんは、結腸がん、直腸がん、癌腫症、膵臓がん、および腺癌からなる群より選択される、項目25~27のいずれか1項に記載の投与形態。
(項目29)
前記有効量は、腫瘍サイズを低減するために有効である、項目25~28のいずれか1項に記載の投与形態。
(項目30)
被験体のがん細胞においてWntシグナル伝達活性を増加させる、ならびに前記被験体においてがん細胞増殖を低減するおよび/またはがん細胞生存率を低減するために有効な量でナノ粒子中に被包されたGSK-3阻害剤、ならびに項目1~24のいずれか1項に記載の使用のための指示を含むキット。
(項目31)
精製Wntタンパク質を調製する方法であって、前記方法は、
組換え発現されたWntタンパク質を、ポリエチレングリコール(PEG)を使用して沈殿させるステップ、
を包含する方法。
(項目32)
単離された前記Wntタンパク質は、配列番号1のアミノ酸配列、または配列番号1と少なくとも55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、もしくは少なくとも99.5% 配列同一性を有するそのバリアントを有する、項目31に記載の方法。
(項目33)
前記Wntタンパク質は、1またはこれより多くのさらなるタンパク質構成成分、例えば、アファミン、TEV(タバコエコーウイルス)部分、またはヒスチジンタグに融合される、項目31に記載の方法。
(項目34)
1またはこれより多くのさらなるタンパク質構成成分に融合された前記Wntタンパク質は、単独で発現されたWnt3aタンパク質と比較して、増加された収量、増強された安定性、および/または改善された精製の容易さを有する、項目33に記載の方法。
(項目35)
1またはこれより多くのさらなるタンパク質構成成分に融合された前記Wntタンパク質は、配列番号2のアミノ酸配列、または配列番号2と少なくとも55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、もしくは少なくとも99.5% 配列同一性を有するそのバリアントを有する、項目33に記載の方法。
(項目36)
1またはこれより多くのさらなるタンパク質構成成分に融合された前記Wntタンパク質は、配列番号3のアミノ酸配列、または配列番号3と少なくとも55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、もしくは少なくとも99.5% 配列同一性を有するそのバリアントを有する、項目33に記載の方法。
(項目37)
前記Wntタンパク質は、約40%~約10%の間(両端を含む);または約30%~約20%の間(両端を含む)のPEGの最終濃度を使用して沈殿される、項目31~36のいずれか1項に記載の方法。
(項目38)
前記タンパク質を沈殿させるために使用されるPEGは、PEG400、PEG1500、PEG6000、PEG8000、PEG10,000、およびPEG20,000のうちの1種またはこれより多くのものである、項目31~37のいずれか1項に記載の方法。
(項目39)
がん患者を処置することにおける使用のための医薬組成物であって、前記組成物は、有効量の
GSK-3阻害剤、および
Wntアゴニスト、
の組み合わせを含み、
ここで前記医薬組成物の投与は、前記被験体への、同量のGSK-3阻害剤単独または同量のWntアゴニスト単独の投与よりもより大きな程度までまたはより長い継続時間にわたって、がん細胞の増殖または生存率、あるいは1またはこれより多くの関連症状を低減する、
組成物。
(項目40)
前記GSK-3阻害剤は、LY2090314、SAR502250、AZD2858、またはそのアナログ、誘導体、もしくはプロドラッグである、項目39に記載の医薬組成物。
(項目41)
前記Wntアゴニストは、単離されたR-スポンジン1もしくはR-スポンジン3タンパク質、またはこれらの誘導体を含む、項目39または40に記載の医薬組成物。
(項目42)
がんの処置の必要性のある被験体においてがんを処置するための方法であって、前記方法は、被験体に、有効量の、項目39~41のいずれか1項に記載のGSK-3阻害剤およびWntアゴニストを含む医薬組成物を投与することを包含する方法。
(項目43)
前記医薬組成物は、前記被験体において健常細胞の増殖および/または生存率を低減しないかまたは最小限に低減する、項目42に記載の方法。
(項目44)
前記GSK-3阻害剤および前記Wntアゴニストは、処置サイクル内で異なる経路および/または時間で投与される、項目42または43に記載の方法。
(項目45)
前記GSK-3阻害剤および前記Wntアゴニストは、経口でまたは注射によるかのいずれかで投与される、項目42~44のいずれか1項に記載の方法。
(項目46)
前記GSK-3阻害剤および前記Wntアゴニストは、送達ビヒクルの非存在下での同量の前記GSK-3阻害剤または前記Wntアゴニストの血清半減期と比較して、前記GSK-3阻害剤および前記Wntアゴニストの血清半減期を増加させる前記送達ビヒクル内に被包されているおよび/または前記送達ビヒクルと会合している、項目42~45のいずれか1項に記載の方法。
(項目47)
前記送達ビヒクルは、リポソーム、ポリマー粒子、ウイルス様粒子、およびタンパク質ナノ構造体からなる群より選択されるナノ粒子またはマイクロ粒子である、項目46に記載の方法。
(項目48)
前記ポリマーナノ粒子は、ポリ(乳酸-co-グリコール酸)(PLGA)および/またはポリヒドロキシアルカノエートを含む、項目47に記載の方法。
(項目49)
前記がん細胞は、正常のコントロール細胞と比較して、増加したWntシグナル伝達活性によって特徴づけられる、項目42~48のいずれか1項に記載の方法。
(項目50)
前記がん細胞は、adenomatous polyposis coli(APC)遺伝子において1またはこれより多くの変異を有する、項目42~49のいずれか1項に記載の方法。
(項目51)
前記がんは、結腸がん、直腸がん、腹膜癌腫症、膵臓がん、腺癌、卵巣がん、多発性骨髄腫、ならびに膵臓、骨、膀胱、脳、乳房、子宮頚部、食道、腎臓、肝臓、肺、鼻咽頭、前立腺、皮膚、胃、および子宮の肉腫からなる群より選択される、項目42~50のいずれか1項に記載の方法。
(項目52)
前記がんは、結腸がんである、項目42~51のいずれか1項に記載の方法。
【国際調査報告】