IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ センター ナショナル ド ラ ルシェルシュ サイエンティフィークの特許一覧 ▶ ユニベルシテ・ドゥ・リールの特許一覧

特表2024-537209光ビームの伝達および直接制御のための装置および方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-10
(54)【発明の名称】光ビームの伝達および直接制御のための装置および方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 1/00 20060101AFI20241003BHJP
   A61B 1/07 20060101ALI20241003BHJP
   G01M 11/02 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
A61B1/00 732
A61B1/07 730
G01M11/02 N
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024521019
(86)(22)【出願日】2022-10-07
(85)【翻訳文提出日】2024-06-04
(86)【国際出願番号】 FR2022051897
(87)【国際公開番号】W WO2023057728
(87)【国際公開日】2023-04-13
(31)【優先権主張番号】2110638
(32)【優先日】2021-10-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】506316557
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(71)【出願人】
【識別番号】518057608
【氏名又は名称】ユニベルシテ・ドゥ・リール
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】エスベン・ラウン・アンドレセン
(72)【発明者】
【氏名】ジャン・ヤミーン
【テーマコード(参考)】
4C161
【Fターム(参考)】
4C161CC04
4C161CC07
4C161FF46
4C161HH51
(57)【要約】
本願発明は光ビーム、特に、「レンズレス」と呼ばれる内視鏡イメージング用の、光ビームの伝達および制御のための装置および方法に関する。本願発明は、例えば、測定中に生体が自由に動き回るような状況であっても、生体の臓器などの内視鏡検査に適用される。より詳細には、本願発明は、光ファイバの構成が変化したとしても、光ファイバの伝達マトリクスを「ライブ」状態で測定することを可能にする。本願発明はまた、この方法を実施するために適した光ファイバ装置に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルチモード光ファイバなどの、第1光ファイバの伝達マトリクスを測定するための方法であって、
前記第1光ファイバは任意の構成であり、N個の固有モードをガイドしており、
前記第1光ファイバは、
近位端および遠位端を備える近位セクションと、
近位端および遠位端を備える遠位セクションと、を備え、
前記近位セクションの遠位端は、ファイバ間カプラによって前記遠位セクションの近位端に接続されており、
前記方法は、
前記第1光ファイバの前記近位セクションの遠位端において、n個の試験フィールドを別々に入射させるステップと、
前記第1光ファイバの前記近位セクションの近位端において、前記n個の入射された試験フィールドのそれぞれについて結果としてのフィールドを測定するステップと、
前記第1光ファイバのN個の固有モードの基底において表現された伝達マトリクスであるHestを推定するステップと、を備える、方法。
【請求項2】
前記試験フィールドは、お互いにコヒーレントであるように選択されている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記試験フィールドは、前記第1光ファイバの前記遠位セクションの遠位端から1mmと5cmとの間の距離だけ上流において接続されている、マルチコアファイバなどの第2光ファイバを通じて入射されている、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記第2光ファイバは、少なくとも試験フィールドと同じ数のコアを備えるマルチコアファイバである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記試験フィールドは、前記第2光ファイバの固有モードである、請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
前記第1光ファイバの前記近位セクションの遠位端において入射されている前記試験フィールドは、前記第2光ファイバを介して入射されている前記試験フィールドの仮想イメージである、請求項3から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
nは、前記第1光ファイバの相互縮退固有モードの最大数より大きいまたは同じとなるように選択されている、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
固有モード基底における伝達マトリクスの前記推定は、最小二乗平均アルゴリズムの使用など、最尤法によって実行されている、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
局在モード基底において、基準構成における前記第1光ファイバの前記伝達マトリクスを測定する準備ステップと、次いで、前記伝達マトリクスの前記基底を、固有モード基底に変換するステップと、を備える請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記n個の試験フィールドを入射させるステップはさらに、前記n個の試験フィールド間の相対位相を測定することができるように、n個の試験フィールドを同時に入射させるステップを備える、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項に記載の方法によって前記伝達マトリクスが決定されている光ファイバであって、
前記光ファイバは、
近位端および遠位端を備える近位セクションと、
近位端および遠位端を備える遠位セクションと、を備え、
前記近位セクションの遠位端は、ファイバ間カプラによって前記遠位セクションの前記近位端に接続されており、
前記ファイバ間結合手段は、マルチコア光ファイバのような第2光ファイバの端部を受け入れるように構成されている、光ファイバ。
【請求項12】
前記ファイバ間カプラは、前記光ファイバの前記遠位セクションの遠位端から1mm~5cm、好ましくは2cmの距離に位置している、請求項11に記載の光ファイバ。
【請求項13】
前記光ファイバの前記近位セクションの前記伝達マトリクスは、基準構成については既知である、請求項11または12に記載の光ファイバ。
【請求項14】
内視鏡イメージング用の装置であって、
光ビームを放出するための光源と、
前記光源によって放出された光ビームを伝達および制御するための、請求項11から13のいずれか一項に記載の光ファイバであって、
前記第1光ファイバの前記近位セクションは任意の構成である、第1光ファイバと、
サンプルによって反射され、前記光ファイバの前記遠位セクションおよび前記近位セクションを通過する光信号を測定するための検出チャネルと、を備える装置。
【請求項15】
請求項14に記載の装置を用いて行われる内視鏡イメージングのための方法であって、
前記方法は、
前記光ファイバの前記固有モード基底において前記第1光ファイバの前記伝達マトリクスを推定するステップであって、
前記光ファイバの前記近位セクションは任意の構成である、ステップと、
推定伝達マトリクスの関数としての位相マスクを計算するステップと、
前記光ファイバの前記遠位端において焦点を取得するために、前記位相マスクを順次、波面変調器に適用するステップと、
前記対象によって前記焦点から反射された信号を測定し、ピクセル毎に前記サンプルのイメージを再構成するステップと、
所定の期間が経過した後、および/または、前記近位セクションの構成が実質的に変化する毎に、前記伝達マトリクスを推定するステップを繰り返すステップと、を備える、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、特に、「レンズレス(lensless)」と呼ばれる内視鏡イメージング用の、光ビームの伝達(convey)および制御のための装置および方法に関する。本願発明は、例えば、測定中に生体(living being)が自由に動き回るような生体の臓器などの内視鏡検査に適用される。
【0002】
より詳細には、本願発明により、光ファイバの構成が変化したとしても、光ファイバの伝達マトリクスを「直接」測定することが可能となる。本願発明はまた、この方法を実施するために適した光ファイバ装置に関する。
【背景技術】
【0003】
内視鏡イメージングの開発には、フリースペースイメージングシステム(free-space imaging system)と比較して特定の特徴を有するファイバベースの光学機械装置を使用する必要がある。
【0004】
実際、医療用内視鏡の遠位端(測定するためのファイバ端部、サンプル方向側において、を意味する)において、光源と、集束光学系(focusing optics)と、カメラと、を備える小型顕微鏡を構成することは、全ての構成要素のバルクおよび阻害(obstructive)特性により不可能である。したがって、ファイバの遠位端におけるバルクおよび阻害特性を低減しながら、光ファイバを使用してサンプル画像を撮影することのできる解決策が求められている。
【0005】
「レンズレス内視鏡」技術が知られているが、これは遠位端における内視鏡のバルクおよび阻害特性を低減するものである。
【0006】
このような技術は、例えば、Cizmar et al., “Exploiting multi-mode waveguides for pure fibre-based imaging”, Nat. Common. 3, 1027 (2012)に記載されている。この技術はマルチモード光ファイバ(multi-mode optical fiber,MMF)の使用に基づいている。マルチモード光ファイバはコヒーレント光源によって近位側が照明される(「近位(proximal)」および「遠位(distal)」という用語は以下のように定められる:近位側は光源(source)に最も近く解析対象領域から最も遠い側、遠位側は光源から最も遠く、したがって解析対象領域に最も近い側である)。ファイバの近位側に位置する波面変調器(SLMと略される空間光変調器(spatial light modulator)としても知られている)により、光源から来るフィールド(field)を形成し、ひいてはマルチモード光ファイバに入射するフィールドを制御することが可能となる。言い換えると、波面変調器は、ファイバの伝搬モードがどのような振幅と位相とで励起されるかを制御することができ、これらのモードのコヒーレント加算によって、マルチモード光ファイバの遠位端、典型的には焦点(focus spot)(フォーカス(focus)とも呼ばれる)、において所望の強度プロファイルを生成できるようにする。
【0007】
例えば、マルチモード光ファイバの遠位端においてフォーカスを生成し、焦点でサンプルをスキャンすることができる。その後、サンプルスキャン領域は、サンプルから放出される蛍光、反射光または後方散乱光を解析することによって画像化されるサンプルの領域を定める。
【0008】
この技術は、ファイバ近位部において入射するフィールドを、遠位部において出射するフィールドに接続する(およびその逆)、ファイバ伝達マトリクスの決定論的性質(deterministic nature)により非常に強力であり、マルチモード光ファイバの遠位側において光学系を一切使用しないことが可能であり、したがって、バルクを低減することができる。
【0009】
しかし、ファイバの伝達マトリクスは、ファイバの幾何学的構成に強く依存している。したがって、マルチモード光ファイバを使用する内視鏡イメージングは、ファイバの動きに非常に敏感である。さらに、使用される光ファイバは一般的にマルチモードファイバであるため、近位端に近い短パルスは、遠位端に近づくにつれて伸長し、高ピーク強度の短光パルスを取り扱う必要のある非線形イメージングへの適用可能性が制限されている。
【0010】
マルチモードファイバの使用に基づく技術と平行して、MCF(multi-core fiber)と略されるマルチコアファイバまたはシングルモード光ファイバの束を使用する「レンズレス」である技術も同様に開発されている(例えばFrenchらの米国特許第8585587号明細書を参照)。米国特許第8585587号明細書において、シングルモード光ファイバの束の近位側に位置する波面変調器(SLM)は、ファイバの束の遠位端における、光源によって放出された波面を制御することができる。ファイバのシングルモードの性質により、いかなる多モード分散(intermodal dispersion)も発生しない。分散に寄与し、したがって短パルスの伸長に寄与するのは色分散のみである。これは、全てのシングルモード光ファイバについて同様であり、したがってグローバルに(globally)補償可能である。したがって、短パルスの伝搬には、マルチモードファイバよりもシングルモード光ファイバの束を使用することが望ましい(非線形光学を参照)。
【0011】
他の文献では、シングルモード光ファイバの束の使用に基づいたレンズレス内視鏡の変形形態が記載されている。これらの文献では、シングルモードファイバの束を使用することが記載されている。ガルバノメトリック(galvanometric)装置を用いて、波面変調器に対して、入力部において波面の可変角度を適用することにより、ファイバの遠位部において、焦点を非常に高速でスキャンすることが可能であることが示されている(例えば、E.R. Andresen et al. “Toward endoscopes with no distal optics: video-rate scanning microscopy through a fiber bundle”, Opt. Lett. Vol. 38, No.5, 609-611 (2013)を参照)。
【0012】
E.R. Andresen et al.(“Two-photon lensless endoscope”, Opt. Express 21, No.18, 20713-20721 (2013))では、著者はレンズレス内視鏡における2光子非線形イメージングシステム(TPEF,two-photon excited fluorescence)の実験的実行可能性を実証した。E.R. Andresen et al.(“Measurement and compensation of residual group delay in a multi-core fiber for lensless endoscopy”, JOSA B, Vol. 32, No.6, 1221-1228 (2015))では、シングルモード光ファイバの束の使用に基づくレンズレス内視鏡イメージングシステムにおける光パルスを伝達および制御するための群遅延制御(GDC,group delay control)のための装置が記載されている。
【0013】
図1Aは、N個の固有モードをガイドする、先行技術のマルチモード光ファイバMMFを使用したレンズレス内視鏡イメージングシステム100の模式図である。イメージングシステムは、一般的に、非線形イメージングの応用の場合には、連続的またはパルス状に形成された入射光ビームを放出するための放出光源10を有する放出チャネルを備える。イメージングシステム100は更に、対物レンズOBJとカメラとを備える検出チャネルを備える。検出チャネルの光路はプレートビームスプリッタ22によって放出チャネルの光路から分離されている。イメージングシステム100は同様に、マルチモード光ファイバMMFを備え、遠方の解析対象101を照明することを可能にする、光ビームを伝達および制御するための装置と、マルチモード光ファイバMMFの近位端に位置し、光源10から放出されるビームの波面(または、振幅および位相によって特徴づけられ単に「フィールド」と呼ばれ得る電磁場(electromagnetic field))を制御することを可能にする波面変調器SLMと、を備える。空間光変調器SLMは、入射ビームの波面の位相関数および振幅関数を調整し、ひいては、マルチモード光ファイバMMFから出射するビームの波面の位相関数および振幅関数を制御することができる。
【0014】
図1Bは、先行技術である、ファイバの伝達マトリクスを測定することのできるアセンブリの模式図である。
【0015】
図1Bのアセンブリは、実際には、図1Aのレンズレス内視鏡イメージングアセンブリの単純な変更形態である。遠位側に追加されたいくつかの構成要素(カメラCAM、対物レンズOBJ)は装置のバルクを増加させている。ファイバMMFの近位端において入射するフィールドを制御することと、ファイバMMFの遠位端における結果としてのフィールドを測定することと、により、ファイバの伝達マトリクスを計算することが可能となる。対物レンズ(OBJ)とカメラ(遠位CAM)とを取り外すことにより、当業者に公知の方法によって、ファイバの遠位端において位置するサンプルを画像化することが可能となる。しかし、ファイバMMFの構成が変化するとすぐに、測定をやり直す、すなわち、対物レンズとカメラとをファイバMMFの遠位端に戻し、ファイバMMFの伝達マトリクスを再計算する必要がある。
【0016】
図1Cは、任意の構成のファイバの局在モード基底における伝達マトリクスを計算するための、ファイバへの焦点の入射と、結果としてのフィールドの測定と、の模式図であり、近位局在モード基底は空間光変調器SLMを使用して生成されている。
【0017】
各近位局在モードに対して、以下のような工程が行われる。近位局在モードがファイバMMFの近位端に入射し(すなわち、光ビームはファイバの近位端に入射し、この場所で焦点を取得する)、カメラCAMはファイバMMFの遠位端において結果としてのフィールドを測定する。したがって、局在モード基底において、伝達マトリクスは、近位局在モードの入射の結果としてのフィールドを測定することにより計算され得る。
【0018】
「局在モード」は空間的に重ならない、または少しだけ重なる振幅プロファイルを有する。「遠位局在モード」はしばしば、カメラCAMによって測定されるピクセルまたはピクセル群として特定され得る。「近位局在モード」はしばしば、空間光変調器SLMによって生成されたピクセルまたはピクセル群として特定され得る。
【0019】
伝達マトリクスを測定するための先行技術の方法は、伝達マトリクスの測定中(図1B、1C)および解析対象から来るイメージの取得中(図1A)、ファイバが同じ構成のままであることを必要とする。
【0020】
局在モード基底において伝達マトリクスを測定するために、近位局在モードの数および遠位局在モードの数は両方とも、ファイバによってガイドされる固有モードの数よりも大きくなければならない。近位局在モードの数は必ずしも遠位局在モードの数と同じである必要はない。この測定方法は時間がかかり、ファイバ構成に非常に敏感である。測定を信頼できるものにするためには、測定の全期間に渡りファイバの構成が変わらないことが重要である。
【0021】
図1Dは、ファイバの構成が既知の構成REFから未知の構成RANDへと変化した場合の影響について示している。この構成の変化は、レンズレス内視鏡イメージングによって取得されたイメージが不鮮明になることにつながる。実際、内視鏡ファイバがマルチモード光ファイバMMFである場合、結果としてのイメージは不鮮明である。さらに、内視鏡ファイバがマルチコアファイバMCFである場合、結果としてのイメージは平行移動している。
【0022】
このような支障が生じるのは、ファイバの構成が変化すると、ファイバの固有モードが乱れるからである。その後、ファイバの伝達マトリクスは修正される。
【0023】
ファイバ構成の変化によりイメージが不鮮明になることは、in vivo、例えば臓器の観察中に特に問題となる。ファイバ構成が、伝達マトリクスの測定された構成から逸脱する度に、取得されたイメージが不鮮明となる。
【0024】
したがって、先行技術の測定方法では、自由に動き回る生物のin vivoイメージングは不可能である。したがって、より速く、より簡単に実行でき、解析対象を自由に動かすことのできるファイバ伝達マトリクスの測定方法は、かなりの利点となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0025】
【特許文献1】米国特許第8585587号明細書
【非特許文献】
【0026】
【非特許文献1】Cizmar et al., “Exploiting multi-mode waveguides for pure fibre-based imaging”, Nat. Common. 3, 1027 (2012)
【非特許文献2】E.R. Andresen et al., “Toward endoscopes with no distal optics: video-rate scanning microscopy through a fiber bundle”, Opt. Lett. Vol. 38, No.5, 609-611 (2013)
【非特許文献3】E.R. Andresen et al., “Two-photon lensless endoscope”, Opt. Express 21, No.18, 20713-20721 (2013)
【非特許文献4】E.R. Andresen et al., “Measurement and compensation of residual group delay in a multi-core fiber for lensless endoscopy”, JOSA B, Vol. 32, No.6, 1221-1228 (2015)
【非特許文献5】“Time-dependence of the transmission matrix of a specialty few-mode fiber”, APL Photonics 4, 022904 (2019); J. Yammine, A. Tandje, Michel Dossou, L. Bigot, and E. R. Andresen
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0027】
本願発明は、特に、「レンズレス」と呼ばれる内視鏡イメージングシステム用に、任意の構成においてファイバの伝達マトリクスをリアルタイムで測定することのできる、光ビームを伝達および制御するための装置および方法を提案することにより、状況を改善する。特に、本願発明のイメージング方法では、解析対象のイメージまたは一群のイメージを取得中にリアルタイムで波面変調器を調整する直前に、任意の構成のファイバの伝達マトリクスもリアルタイムで計算することができるため、解析対象が動いていたとしても解析対象をイメージングすることが可能である。測定されたイメージはファイバ構成に関係なく常に鮮明(sharap)である。
【0028】
本願発明は、時として、例えばマウスの脳など、イメージサンプル(imaged sample)およびそれに伴って内視鏡も動き回るにもかかわらず、リアルタイムでイメージを取得する必要のある生物学において、特に関心を集めている。
【課題を解決するための手段】
【0029】
したがって、第1態様によると、本願発明は、
マルチモードファイバなどの、第1光ファイバの伝達マトリクスを測定するための方法であって、
光ファイバは任意の構成であり、N個の固有モードをガイドしており、
ファイバは、
近位端および遠位端を備える近位セクションと、
近位端および遠位端を備える遠位セクションと、を備え、
近位セクションの遠位端は、ファイバ間カプラによって遠位セクションの近位端に接続されており、
方法は、
ファイバの近位セクションの遠位端において、n個の試験フィールドを別々に入射させるステップと、
第1光ファイバの近位セクションの近位端において、n個の入射された試験フィールドのそれぞれについて結果としてのフィールドを測定するステップと、
n個の入射された試験フィールドについての結果としてのフィールドの測定に基づき、光ファイバのN個の固有モードの基底において表現された伝達マトリクスであるHestを推定するステップと、を備える、方法、を提案している。
【0030】
このような方法により、任意の構成の光ファイバの伝達マトリクスを推定することができる。伝達マトリクスはまた、ミリ秒に近い極めて短い時間で得られている。伝達マトリクスの測定に極めて短い時間しかかからないことにより、レンズレス内視鏡を使用してリアルタイムにサンプルを画像化することができるという、直接的な帰結を有する。なぜなら、サンプルの各測定前に伝達マトリクスを決定することができるからである。伝達マトリクスの決定およびサンプルの解析に必要な測定は、極めて近い、または全く同じファイバ構成において実施されている。
【0031】
さらに、ファイバの近位端において既知のフィールドが大量に入射されており、遠位端において結果としてのフィールドが測定されている先行技術とは異なり、本願発明は、遠位端において少数の試験フィールドを入射するステップと、近位端において結果としてのフィールドを測定するステップと、を含む。しかし、第1光ファイバの近位セクションの遠位端において試験フィールドを入射するような、本願発明によって提案された手段では、従来の測定方法に係る、光ファイバの遠位端において結果としてのフィールドを測定する方法よりも嵩張らず(less bulky)、同一の内視鏡内に伝達マトリックスの測定およびサンプルの測定のための手段を有することが可能となる。
【0032】
試験フィールドの入射
【0033】
本願発明の目的のため、試験フィールドは、既知の特性を有し、遠位部における結果としてのフィールド(近位部に入射された場合)または近位部における結果としてのフィールド(遠位部に入射された場合)の測定に基づき、任意の構成において第1光ファイバの伝達マトリクスHを計算することができるフィールド、を意味するものとして理解される。n個の試験フィールドはファイバの近位セクションの遠位端において入射される。ここで、nは正の整数である。各試験フィールドは、[N×1]次元の列ベクトルEi,trial fieldを用いて表現されてもよく、ここで、iは1からnの正の整数であり、Nは第1ファイバの固有モードの数に対応する正の整数である。試験フィールドは、例えば、第1ファイバに入射されている焦点である。
【0034】
本願発明の目的のため、「ある場所において入射される焦点」、または、同様に「ある場所において入射される局在モード」という表現は、光ビーム(例えば、電磁場(electromagnetic field))がその場所において入射され、そこに焦点が存在するように入射されることを意味している。
【0035】
本願発明の伝達マトリクスの推定は、第1光ファイバの近位セクションの遠位端においてn個の試験フィールドを入射するステップから成るステップを備える。
【0036】
各n個の試験フィールドは、ファイバに単独で入射されている。一旦試験フィールドの入射による結果としてのフィールドが測定されると、別の試験フィールドが入射される、などである。n個の結果としてのフィールドは、したがって、逐次測定されている。
【0037】
n個の試験フィールドを入射させるステップはさらに、n個の試験フィールド間の相対位相を測定することができるように、n個の試験フィールドを同時に入射させるステップを備えてもよい。この場合、n+1個の結果としてのフィールドがその後測定されている。
【0038】
試験フィールドは、お互いにコヒーレント(coherent)である(同一のレーザから来る)ように選択されてもよい。これにより、伝達マトリクスの推定の信頼性を向上させることができる。
【0039】
好ましくは、第1ファイバの各固有モードは、少なくとも1つの試験フィールドと、非ゼロの空間的オーバーラップを有さなければならない。
【0040】
試験フィールドのn数は、マルチモードファイバの相互縮退固有モードの最大数より大きくまたは同じとなるように選択されてもよく、相互縮退固有モードの数は事前に測定されている、または既知である。
【0041】
入射される試験フィールドの数が多ければ多いほど、伝達マトリックスの推定はよりよいものとなる。しかし、入射される試験フィールドの数があまりにも多く、様々な結果としてのフィールドを測定することは、本願発明を実行するのにミリ秒超を必要とするというリスクを冒すことになる。逆に、少ない数ではあるが、第1ファイバの伝達マトリクスを推定することができるのに十分な数の試験フィールドを入射した場合、伝達マトリクスの推定はより近似的なものになるが、より短い計算時間を必要とし、特にミリ秒に近づくという利点を有する。ユーザは、したがって、短い測定時間と伝達マトリクスのよりよい推定との間で妥協点を自由に選択することができる。
【0042】
好ましくは、試験フィールドの数nは、第1ファイバの伝達マトリクスの相互縮退固有モードの最大数と同じになるように選択されている。
【0043】
試験フィールドは光源を用いて生成されている。光源は対物レンズのような光学装置に結合されてもよい。光源は例えばレーザである。光源は有利には対物レンズおよび波面変調器SLMに結合されてもよい。
【0044】
1つの例示的な実施形態によると、試験フィールドはマルチコア光ファイバのような第2光ファイバを用いて入射されてもよく、その遠位端は第1ファイバの近位セクションの遠位端と、例えば第1光ファイバの遠位セクションの遠位端から1mm~5cm、好ましくは2cm上流で接続されている。
【0045】
この例によると、試験フィールドは第2光ファイバの固有モードであってもよい。
【0046】
本願発明のこの例示的な実施形態によると、試験フィールドは第2光ファイバの近位端において入射され、第2光ファイバを通過し、第2光ファイバの遠位端において出現し、その後、第1光ファイバの近位セクションの遠位端において入射されている。試験フィールドはその後、第1光ファイバの近位セクションを通過し、最終的に、結果としてのフィールドがその全長(近位セクションおよび遠位セクション)にわたり第1ファイバの伝達マトリクスを測定するために測定され得る、第1光ファイバの近位端(近位セクションの近位端)において出現している。第1ファイバと第2ファイバとの間の接続は以下でより詳細に説明される。
【0047】
試験フィールドは、先行技術の手法のように第1ファイバの遠位セクションの遠位端においてではなく、第1ファイバの近位セクションの遠位端において入射されているため、本願発明の方法は第1光ファイバの遠位端(遠位セクションの遠位端)において位置する制限的な光学系(restrictive optics)を必要とすることなく実施されてもよい。第1光ファイバの遠位端にいかなる光学系もないため、第1光ファイバの遠位端が容易に小さな生体サンプルに近づくことが可能である。例えば、第1ファイバの遠位セクションの遠位端は生きたマウスの頭の中に挿入され、その脳の領域を画像化することができる。
【0048】
第2光ファイバは、好ましくは、シングルモードコアを有するマルチコアファイバである。マルチコア光ファイバは、少なくとも試験フィールドと同じ数のコアを備えてもよく、各試験フィールドは第1ファイバの遠位端において入射される前、マルチコア光ファイバの専用コア(dedicated core)において伝達されている。
【0049】
シングルモード光ファイバは、内部において光が電磁場のシングルモードにおいてのみ伝搬し得るようなファイバを意味するものと理解される。その延長線上で、「実行シングルモード(effective single mode)」と呼ばれる光ファイバは複数のモードを含むが、結合条件によって励起されるのはシングルモード(一般的には基本モード(fundamental mode))のみであり、このモードは光の伝搬全体を通して光を閉じ込める(confine)(他のモードへの漏れがない)ものと理解される。
【0050】
明細書全体を通して、「シングルモード光ファイバ」という用語は、個別のシングルモード光ファイバとマルチコア光ファイバのシングルモードコアとの両方を指すために使用されてもよい。
【0051】
マルチコア光ファイバの専用コア内で試験フィールドを伝達することにより、ファイバに沿って試験フィールドが光学歪み(optical distortion)を受けることを制限することが可能となる。実際、第2ファイバがマルチモードファイバである場合、試験フィールドは異なる歪みを受け得る一方、マルチコアファイバのシングルモードコアにおいては、全体的な位相シフトを除けば、試験フィールドの振幅特性および位相特性は変化しないままである。
【0052】
本願発明の1つまたは複数の態様によると、n個の試験フィールドのそれぞれは、第2光ファイバの近位端において入射される前に、波面変調器(SLM)によって事前に変調されてもよい。
【0053】
このような試験フィールドの変調により、第2ファイバ内で試験フィールドが受ける光学歪みを、たとえわずかであったとしても補償することが可能となる。
【0054】
波面変調器は分割変形ミラー(segmented deformable mirror)または膜ミラー(membrane mirror)を備えてもよく、反射モードにおいて動作する。波面変調器は液晶アレイ(array)を備えてもよく、反射または透過モードにおいて動作する。
【0055】
結果としてのフィールドの測定
【0056】
本願発明の方法は、n個の試験フィールドの入射による結果としてのフィールドの測定に基づき、任意の構成において第1光ファイバの伝達マトリクスを推定するステップから成るステップを備える。
【0057】
試験フィールドEi,trial fieldの入射の結果としてのフィールドEi,resultfieldはCMOSまたはCCDセンサなどのカメラを用いて測定されてもよく、カメラは第1光ファイバの近位セクションの近位端において位置している。第1光ファイバの近位セクションの近位端は、対物レンズなどの光学装置によってカメラに結合されてもよい。
【0058】
結果としてのフィールドの測定は、その位相関数および振幅関数を測定することから成る。
【0059】
試験フィールドの入射(第1光ファイバの近位セクションの遠位端または遠位セクションの遠位端において)の結果生じる、結果としてのフィールド(第1光ファイバの近位側において)の測定は、異なる偏光モードによって行われてもよい。好ましくは、結果としてのフィールドは2つの直交偏光状態によって測定されている。
【0060】
異なる偏光状態により結果としてのフィールドを測定することによって、伝達マトリクスの推定を改善することができる。
【0061】
伝達マトリクスの推定
【0062】
本願発明の方法は、結果としてのフィールドEi,resultfieldの測定に基づき、第1光ファイバの伝達マトリクスを推定するステップを備える。この推定ステップは、有利には、ミリ秒に近い極めて短い時間で行われている。したがって、一旦第1光ファイバの伝達マトリクスが推定されると、第1光ファイバはサンプルを画像化するためのレンズレス内視鏡として使用されてもよい。サンプルが動いている間など、再度第1光ファイバの構成が変化するとすぐに、その伝達マトリクスは再度推定される。
【0063】
任意の光ファイバは、入射フィールドと出射フィールドとを結びつける伝達マトリクスによって特徴づけられてもよい。例として、光ファイバの一端において入射された焦点は、変換(translated)、減衰(attenuated)またはスクランブルされて(scrambled)ファイバの反対の端部から出射してもよい。後者の場合、結果としてのフィールドはその後スペックル(speckle)を形成する。任意の構成における光ファイバの伝達マトリクスを知ることにより、ファイバの構成がそれを通過する光ビームに与える歪を予測することが可能になる。しかし、光ファイバの伝達マトリクスはファイバの幾何学的構成に依存する。同じ光ファイバであったとしても、真っ直ぐの場合と曲がっている場合とでは入射するフィールドに対して同じ歪を与えることにはならず、したがって、同じ伝達マトリクスを有することにはならない。
【0064】
実際に、光ファイバの伝達マトリクスは、CCDまたはCMOSセンサを備えるカメラを使用して測定されている。以下の文献は、マルチモードファイバの伝達マトリクスを決定しようとする方法の例を示している(“Time-dependence of the transmission matrix of a specialty few-mode fiber” APL Photonics 4, 022904 (2019); https://doi.org/10.1063/1.5047578, J. Yammine, A. Tandje, Michel Dossou, L. Bigot, and E. R. Andresen)。この時、伝達マトリクスの次元はカメラセンサの次元によって制限されている。測定される際、ファイバの伝達マトリクスは伝統的にその局在モード基底において表現される。数学的な操作により、光ファイバの伝達マトリクスはその固有モード基底において表現されてもよい。
【0065】
本願発明の1つまたは複数の態様によると、その固有モード基底における伝達マトリクスの推定は、最尤法を利用したアルゴリズムによって実行され、最尤法は好ましくは最小二乗平均法(a least mean squares method)である。したがって、アルゴリズムにより、任意の構成におけるファイバの伝達マトリクスHestを推定することが可能となる。
【0066】
最小二乗平均法はHestを最適化することにより、以下の数式1によって定められる関数fを最小化する。
【0067】
【数1】
【0068】
式中、ETrialsおよびEResultfieldsは[N×n]次元の行列であり、それぞれn個の試験フィールドEi,trialsおよびn個の結果としてのフィールドEi,resultfieldsを含有し、Nはファイバによってガイドされる固有モードの数である。
【0069】
アルゴリズムは、したがって、任意の構成におけるファイバの伝達マトリクスの最良の推定Hestを与えるように構成されている。
【0070】
このようなアルゴリズムにより、第1光ファイバの伝達マトリクスを高速で計算することができ、第1光ファイバの伝達マトリクスに対する納得のアプローチとなり得る。
【0071】
本願発明に係る方法は、局在モード基底において基準構成における第1光ファイバの伝達マトリクスを測定する準備ステップを備えてもよく、当業者にとって既知である伝達マトリクスを測定する方法によると、上述したとおり、その後、上述した伝達マトリクスの基底をその固有モード基底に変換するステップを備えてもよい。この場合、第1ファイバの伝達マトリクスは、例えば第1ファイバの全体にわたって近位―遠位方向において(または遠位―近位方向において)測定されている。
【0072】
H0proximal―distalを、近位―遠位方向において測定された基準構成における光ファイバの伝達マトリクスとする。遠位―近位方向において検討される同じファイバの伝達マトリクスH0proximal―distalは、上記を転置することにより得られる。
【0073】
第1光ファイバの全長にわたり第1光ファイバの伝達マトリクスを推定するための手順では、試験フィールドは、第1光ファイバの遠位セクションの遠位端において入射されていると仮定している。しかし、試験フィールドは、第1ファイバの近位セクションの遠位端において、すなわち、第1光ファイバの遠位セクションの遠位端から1mm~5cm、好ましくは2cm上流に位置するファイバ間カプラにおいて、第2光ファイバを使用して入射されてもよい。そのようにする場合、試験フィールドは第1光ファイバの遠位セクションの遠位端においては入射されておらず、第1光ファイバ(近位セクションおよび遠位セクション)の伝達マトリクスは多少歪み得る。
【0074】
本願は、あたかも試験フィールドが第1ファイバの遠位セクションの遠位端において入射されているかのように、第1ファイバの近位セクションの遠位端において入射されている試験フィールドの仮想イメージを考慮することにより、この課題を解決することができる。
【0075】
実際、マトリクスH0proximal-distalがわかると、以下の式により試験フィールドの仮想イメージを計算することが可能となる。Etrials,distal=H0proximal-distal・Eresultfields,proximal。式中、Etrials,distalは第1光ファイバの遠位セクションの遠位端において考慮されている試験フィールドの仮想イメージのフィールドに対応し、H0proximal-distalは当業者にとって既知の方法によって測定される、基準構成における第1光ファイバの伝達マトリクスであり、Eresultfields,proximalは第1ファイバの近位セクションの近位端において測定される、ファイバ間カプラを通じて第2光ファイバを介した試験フィールドの入射の結果としてのフィールドを示している。
【0076】
したがって、その全長(近位セクションおよび遠位セクション)にわたって関連する第1光ファイバの伝達マトリクスを測定する準備ステップにより、試験フィールドは第1光ファイバの遠位セクションの遠位端において直接入射することはできず、実際には第1ファイバの近位セクションの遠位端、すなわち、第1光ファイバの遠位セクションの遠位端から1mm~5cm、好ましくは2cm上流において入射し得る、という事実を補償することが可能となる。本願発明の方法によって得られた第1光ファイバの伝達マトリクスの推定は、したがって、より一層正確になる。
【0077】
好ましくは、第1光ファイバの伝達マトリクスを推定するための最尤法において考慮されている試験フィールドは、第2光ファイバを介して入射された試験フィールドの仮想イメージである。
【0078】
第1光ファイバ
【0079】
基準構成における第1光ファイバの伝達マトリクスが決定された場合、本願発明のイメージング方法を実行する度に事前の校正を不要とするために、それを保存しておくことが可能である。このような理由で、本願発明の対象(object)である第1光ファイバは、基準構成において取得されその固有モード基底において表現されたその伝達マトリクスによって特徴づけられ得る。
【0080】
他の態様によると、本願発明は、上述したファイバの基準構成における伝達マトリクスが既知である、第1マルチモード光ファイバに関連する。ファイバは近位端および遠位端を有する近位セクションを備え、遠位セクションは近位端および遠位端を有し、ファイバはその遠位端から少なくとも5cm上流に位置するファイバ間カプラを有し、ファイバ間カプラはマルチコアファイバのような第2光ファイバの端部を受け入れるように構成されている。
【0081】
第1光ファイバは好ましくはマルチモード光ファイバ(MMF)である。第1ファイバは例えば、ステップインデックス型またはグラディエントインデックス(gradient-index)型ファイバである。第1光ファイバは、ガラスまたはプラスチックから作られてもよい。好ましくは、これはガラスから作られている。
【0082】
そのようなファイバにより、遠位側において最小限のバルクで簡単かつ低コストで内視鏡を製造することが可能となる。
【0083】
ファイバ間カプラの機能は、近位セクションの遠位端を出射する光ビームの一部を、遠位セクションの近位端に伝達することである。ファイバ間カプラは同様に、遠位セクションの近位端から来る光ビームの一部を、近位セクションの遠位端に伝達することを意図している。最終的に、ファイバ間カプラは、第2ファイバの遠位端から来る光ビームの一部を、第1ファイバの近位セクションの遠位端に伝達することを意図している。
【0084】
したがって、ユーザは、サンプルを妨害することなく(マウスの脳の例を参照)、容易に第1光ファイバを操作し、これをサンプルの近くに都合良く位置することができる。
【0085】
ファイバ間カプラは、第1ファイバの遠位セクションの遠位端から1mm~5cm、好ましくは2cmの距離に位置されてもよい。第1ファイバの遠位セクションの長さはしたがって、1mm~5cmである。
【0086】
第1ファイバの遠位セクションと近位セクションとの間の結合は、好ましくは、50%超であり、光源から来て近位―遠位方向において第1光ファイバを通過する光が良好に利用され、また、サンプルによって反射または後方散乱された光またはサンプルによって放出された蛍光がそれぞれ遠位―近位方向において第1光ファイバを通過したものが良好に利用されるようになる。
【0087】
第2ファイバの遠位端と第1ファイバの近位セクションの遠位端との間の結合は、好ましくは50%未満である。
【0088】
第2光ファイバのコア間の結合は好ましくは-20dB/m未満であり、そのため、試験フィールドはその中を独立して伝搬している。
【0089】
ファイバ間カプラを実装するために、当業者は商業的に利用可能な装置を使用してもよく、または、既知の方法を用いて当業者自身がファイバ間カプラを作成してもよい。例えば、当業者は商業的に利用可能なマルチモードカプラを使用してもよい。同様に、当業者は、商業的に利用可能なレンズおよびプレートビームスプリッタを使用した小型自由空間光学系(miniaturized free-space optics)のアセンブリによって、または、3Dプリンタによって光学系およびプレートビームスプリッタを作成することによって、ファイバ間カプラを作成してもよい。最終的に、当業者はファイバの端部を斜めに切断し、斜めの面を研磨し、その後2つのファイバの端部同士を接続することにより、ファイバ同士を結合してもよい。切断および研磨されたファイバはその後「機能化されたファイバ」と呼ばれる。
【0090】
ファイバ間カプラは同様に、上記引用した方法を組み合わせることによって作成されてもよい。第1光ファイバおよび第2光ファイバは同様に、同一の光ファイバのコアまたはコア群として参照されてもよく、この場合において、ファイバ間カプラは、上述したような分離した光ファイバの場合と同様に、上述したコアを結合すべきである。
【0091】
第1光ファイバは数cmから数mの長さを有してもよい。長いファイバは、画像化されるサンプルがマウスの脳である例示的な場合において、マウスが自由にたくさん動き回ることができるという利点を有する。一方、長いファイバはその構成が容易に変化する。対照的に、短いファイバは、その基準構成から大きく逸脱することはないが、既に述べたような例示的な場合においてマウスの動きが制限される。
【0092】
ファイバの直径は50μmと1mmとの間であってもよい。
【0093】
内視鏡イメージング用の装置
【0094】
他の態様によれば、本願発明は内視鏡イメージング用の装置であって、
光ビームを放出するための光源と、
光源によって放出される光ビームを伝達および制御するための、上述のように定められた第1光ファイバであって、
第1ファイバの近位セクションは任意の構成であり、自由に動く、第1光ファイバと、
任意選択で、マルチコアファイバのような第2光ファイバであって、
上述したファイバ間カプラによって、第1光ファイバの近位セクションの遠位端に結合されている遠位端を有し、
第2ファイバは、n個の試験フィールドを第1ファイバの近位セクションの遠位端に伝達することができる、第2光ファイバと、
サンプルによって反射され、第1光ファイバの遠位セクションおよび近位セクションを通過する光信号を測定するように構成されている検出チャネルと、を備える装置、に関連している。
【0095】
任意選択で、第2光ファイバの近位端が波面変調器に結合されていると、第2光ファイバの遠位端における試験フィールドが分かり、修正可能となる。
【0096】
検出チャネルは、少なくとも1つの波面変調器と、対物レンズと、カメラと、を備えてもよい。検出チャネルは、第1光ファイバの近位セクションの構成の変化を検出することができるようなセンサも備えてもよい。このようなセンサは加速度センサまたはタイマーであってもよい。
【0097】
さらに別の態様によると、本願発明は、サンプルの内視鏡イメージング用の方法であって、
好ましくは、上述したような装置を使用することによって実装されており、
本発明の方法に従って、光ファイバの固有モード基底において第1光ファイバの伝達マトリクスを推定するステップであって、
ファイバは、好ましくは、マルチモードである、ステップと、
例えば焦点のように、第1光ファイバの遠位端において既知の位相関数の照明ビームを形成するために、推定された伝達マトリクスの関数としての位相マスクを計算し、それを逐次波面変調器に適用するステップと、
サンプルによって焦点から反射された信号を測定し、サンプルのイメージを再構成するステップと、
所定の期間が経過した後、または、例えば加速度センサもしくはタイマーからのデータに基づき、ファイバの構成が実質的に変化した後、伝達マトリクスを推定するステップを繰り返すステップと、を備える方法に関連している。
【0098】
このような内視鏡イメージング用の方法によって、第1光ファイバの直径により制限される、ミクロサイズ(microscopic size)のサンプルを画像化することが可能となる。この方法はまた、確実かつ高速である。
【0099】
最後の態様によると、本願発明は、コンピュータプログラムであって、このプログラムがプロセッサによって実行された際、本願発明の方法を実装するための説明を備える、コンピュータプログラム、に関連している。
【0100】
同様に、本願発明は、非一過性(non-transitory)のコンピュータ可読記憶媒体であって、プロセッサによってプログラムが実行された際、本願発明に係る方法を実装するためのプログラムが記憶されている、媒体、に関連している。
【0101】
本願発明の他の特徴、詳細、利点は、以下の詳細な説明を読み、添付の図面を分析することにより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0102】
図1A】先行技術に係る、N個の固有モードをガイドする光ファイバを使用したレンズレス内視鏡イメージングシステムの模式図である。
図1B】先行技術に係る、伝達マトリクスを測定するためのアセンブリの模式図である。
図1C】先行技術に係る、伝達マトリクスを測定するための方法の模式図である。
図1D】光ファイバの構成変化の影響により、先行技術のレンズレス内視鏡イメージングによって取得されたイメージにノイズが多く含まれることになることを示す図である。
図2】基準構成における第1マルチモード光ファイバを示す図である。
図3A】機能化された光ファイバのアセンブリを介して実装されるファイバ間カプラを示す図である。
図3B】機能化された光ファイバのアセンブリを介して実装される別のファイバ間カプラを示す図である。
図3C】小型化された自由空間光学系のアセンブリを介して実装されるファイバ間カプラを示す図である。
図3D】マルチモードファイバカプラを示す図である。
図4A】局在モード基底における光ファイバの伝達マトリクスを示す図である。
図4B】光ファイバの固有モード基底において表現されたことを除き、図4Aと同じ伝達マトリクスを示す図である。
図5】基準構成において、第1光ファイバから出射(遠位セクションの遠位端)する集束ビーム(focused beam)のスキャンを示す図である。
図6】基準構成とは異なる任意の構成におけるマルチモード第1光ファイバを示す図である。
図7】推定伝達マトリクスが、光ファイバの実際の構成とは異なる構成に対応する場合に、マルチモード第1ファイバを出射(遠位セクションの遠位端)するビームによる試行スキャンを示す図である。
図8】試験フィールドの入射の例を示す図である。
図9】2つの直交偏光状態に係る、試験フィールドの入射の結果としてのフィールドの測定を示す図である。
図10】実際の伝達マトリクスと本願発明のコンセプトによって推定された伝達マトリクスとの比較を示す図である。
図11】推定伝達マトリクスHestを用いた、フォーカスのスキャンを示す図である。
図12】本願発明に係る内視鏡イメージング用の装置を示す図であり、伝達マトリクスは先行技術の方法によって基準構成において測定されている。
図13】本願発明に係る内視鏡イメージング用の装置を示す図であり、伝達マトリクスHestは、試験フィールドの入射の結果としてのフィールドを測定した後に推定されている。
図14】サンプルをスキャンすることによって内視鏡イメージを取得するための、本願発明に係る装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0103】
以下の説明および図面の大部分は、本質的に特定の構成要素を含有する。したがって、本願発明のより深い理解を提供するだけでなく、適切な場合には、本願発明を定めることにも貢献することができる。参照符号OBJは図面において対物レンズ(または、より一般的には光学システム)を定めるために使用されている。しかし、同じ図面における2つの対物レンズは、必ずしも同じ特徴を有するとは限らず、必ずしも同一であるとは限らない。当業者であれば、各対物レンズを、光路中の位置に応じて適合させる方法が理解できるであろう。
【0104】
第1ファイバおよびファイバ間カプラ
【0105】
ここで、図2を参照する。図2は、N個の固有モードをガイドする基準構成(REF)における第1光ファイバ10を示す図である。第1光ファイバは、例えば、ステップインデックス(step-index)型もしくはグレーデッドインデックス(gradient-index)型ファイバまたはマルチコアファイバのようなマルチモードファイバである。第1ファイバ10は遠位端と近位端とを備える。遠位端は、画像化されるサンプルの可能な限り近くに位置することを意図している。近位端は、既知の特性でフィールドを入射させる波面変調器のような光学装置および検出チャネルに接続されることを意図している。
【0106】
ここで、本願発明に係るファイバ間カプラ33の例を示している図3A、3B、3C、3Dを参照する。
【0107】
第1ファイバ10は2つの異なるセクション10D、10Pを備えてもよい。近位セクション10Pは近位端10P-Pと遠位端10P-Dとを備え、近位端は、既知の特性でフィールドを入射させる波面変調器のような光学装置および検出チャネルに接続されることを意図している。そして、遠位セクション10Dは近位端10D-Pと遠位端10D-Dとを備え、遠位端10D-Dは、画像化されるサンプルの可能な限り近くに位置決めされることを意図している。近位セクションの遠位端10P-Dと遠位セクションの近位端10D-Pとはファイバ間カプラ33によって接続されている。
【0108】
機能化されたファイバ間カプラ
【0109】
図3A図3Bはファイバの機能化によって結合された2つのファイバ間カプラ33を示している。このファイバ間カプラは、第2ファイバ20の遠位端と、第1ファイバの近位セクションの遠位端10P-Dと、第1ファイバの遠位セクションの近位端10D-Pと、を一緒に接合することから成る。ファイバ間カプラは、第1ファイバの遠位端10D-Dから少なくとも5cm上流に位置している。ファイバ間カプラにより、第1ファイバの近位セクション10-Pを、長さ調整可能な遠位セクション10Dに結合することが可能となる。
【0110】
第2ファイバ20は、試験フィールド200を第1ファイバの遠位端10D-Dへと伝達することを意図している。図3Aにおいて、第1ファイバは第2ファイバと直角をなしている。第1ファイバの表面により、第2ファイバ20の遠位端から来る試験フィールドを、第1ファイバの近位端10P-Pへと方向転換することが可能である(光反射による)。図3Bでは、2つのファイバがお互いにくっついている(attached)。第2ファイバの端部にエアギャップ(air gap)があり、そして、第1ファイバの表面15によって試験フィールド200を方向転換することが可能となる。
【0111】
第1ファイバ10の遠位セクションの近位端10D-Pおよび近位セクションの遠位端10P-Dは、斜めに切断および研磨され、これらの端部が「機能化された」と呼ばれる。
【0112】
自由空間光学系(free-space optics)のアセンブリによって結合するファイバ間カプラ
【0113】
集積光学(integrated optics)とは異なり、図3Cに示される実施形態のファイバ間カプラ33は、例えば3Dプリンタを使用してプリントされたヨーク(yoke)を備える。このヨークは、第1光ファイバ10と第2光ファイバ20との間で光線を配光することを可能とするプレートビームスプリッタ150またはプリズムを備える。ファイバ間カプラは、第1光ファイバ10の遠位端10Dから少なくとも5cm上流に位置している。ファイバ間カプラ33は更に、光学系250を備える。光学系250は様々な光ファイバにおける光線を集束することを意図している。第2光ファイバ20によって入射された試験フィールド200は、プレートビームスプリッタ150によって第1ファイバ10の近位端へと方向転換されている。第1ファイバ10の近位端から来る光線は、プレートビームスプリッタ150によって屈折されることはなく、第1ファイバ10の遠位端に向けて進み続ける。同様に、第1ファイバ10の遠位端10Dから来る光線は、プレートビームスプリッタ150によって屈折されることなく、第1ファイバ10の近位端に向けて進み続ける。
【0114】
マルチモードカプラ
【0115】
図3Dは、例えばマルチコアファイバなどの第2ファイバ20の遠位端を、例えばマルチモードファイバなどの第1ファイバ10へと接続することを可能とするマルチモードカプラ33を示しており、第2ファイバ20の近位端において入射される試験フィールドが、第1ファイバの近位端10P-Pへと伝達されている。そして、マルチモードコネクタは、例えば解析対象サンプル上にフォーカスを合わせるため、第1ファイバ10の近位セクションの近位端10P-Pにおいて入射したフィールドが、ファイバの遠位セクションの遠位端10D-Dにおいて出射することを可能にする。
【0116】
第1光ファイバの伝達マトリクスの推定
【0117】
ステップインデックス型のマルチモード第1ファイバについて、第1ファイバが例えばN=30の固有モードをガイドすることを考える。
【0118】
図4Aには、局在モード基底において表現された伝達マトリクスの例が示されている。一度局在モード基底における伝達マトリクスが測定されると、基底の変換操作を介してその固有モード基底において表現されてもよい。このような操作は、従来のコンピュータソフトウェアおよびコンピュータを使用して自動で行われてもよい。図4Bはファイバの固有モード基底において表現された伝達マトリクスの例である。
【0119】
図1Bに示されるように、基準構成におけるファイバの伝達マトリクスHは先行技術の方法を使用して取得されてもよい。刊行物“Time-dependence of the transmission matrix of a specialty few-mode fiber”, APL Photonics 4, 022904 (2019); J. Yammine, A. Tandje, Michel Dossou, L. Bigot, and E. R. Andresenにおいて、当業者にとって既知である、近位から遠位方向におけるファイバの伝達マトリクスを測定するための方法が開示されている。
【0120】
一度ファイバの伝達マトリクスが既知となると、レンズレス内視鏡の原理に従って、光の集束ビームによってサンプルをスキャンすることにより、画像化を実行することが可能となる。しかし、この操作は、ファイバの構成が変わらないことを必要とする。実際、ファイバの伝達マトリクスは、以下の式によって入射フィールドと出射フィールドとを関連付けている。Eoutgoing=H・Eincoming。式中、Eincomingは近位局在モードの数と同数の要素を含有する、近位局在モード基底における列ベクトルである。また、式中、Eoutgoingは遠位局在モードの数と同数の要素を含有する、遠位局在モード基底において表現されたベクトルである。
【0121】
伝達マトリクスHが既知となると、したがって、Eoutgoingが焦点Eoutgoing=Efocus,iに対応することを保証することが可能となる。式中、Efocus,iは、添え字(index)iを除いてヌルベクトルである。このようにするために、単純に伝達マトリクスを逆行列にし(invert)、波面変調器を使用して以下のような新たな入射フィールドを入射させる。H -1・Efocus,i
【0122】
図5は、第1ファイバの遠位端を出射する集束ビームのスキャンを示している。
【0123】
続いて、図6を参照すると、第1ファイバはもはや基準構成ではなく、任意の構成となっている。
【0124】
新たな構成における光ファイバの伝達マトリクスHは、その基準構成における光ファイバの伝達マトリクスHとは異なっている。レンズレス内視鏡の原理に従って焦点をスキャンしようと試みた場合、任意の構成における光ファイバの伝達マトリクスHがHであると仮定すると、もはや光ファイバの遠位端におけるフォーカスをスキャンすることはできない。そして実際、ファイバからの出力における強度プロファイルは「スペックル」であり、もはや集束されたフィールドではない。
【0125】
図7は、光ファイバの構成は変化したが、伝達マトリクスは再計算されていない場合において取得されたスペックルを示している。再度焦点を取得するため、ファイバの伝達マトリクスを再測定する必要がある。
【0126】
続いて図8を参照する。任意の構成においてファイバの伝達マトリクスHを推定するために、本願発明の方法に係るファイバの遠位端においてn個の試験フィールドが入射されている。
【0127】
図4Bにおいて、この固有モード基底において表現された伝達マトリクスHはブロック対角行列であることがわかる。対角上に2+4+4+2+4+4+4+4+2=108の未知数(unknowns)を含む。
【0128】
各試験フィールドは、同一の基底においてHとして表現されており、N=30の既知数(knowns)を表している。各試験フィールドは実際、N=30の要素を備えるベクトルによって表現されており、ここでN=30はファイバによってガイドされる固有モードの数である。したがって、n=4の試験フィールドが入射するとn×N=4×30=120の既知数を表している。
【0129】
試験フィールドの入射の結果としてのフィールド(図9を参照)は、カメラの位置で測定され、その後、同一の基底においてHとして表現され、同様にn×N=4×30=120の既知数を表している。
【0130】
理論上、既知数の数(120)が未知数の数(108)よりも大きいため、試験フィールドと結果としてのフィールドとを関連付ける一次方程式系を解くことができ、以下の関係により伝達マトリクスHを直接計算することができる。EResultfields=H・ETrials。式中、EResultfieldsおよびETrialsは[N×n]=[30×4]次元の行列であり、それぞれ4つの試験フィールドおよび4つの結果としてのフィールドを含有する。
【0131】
図8を参照すると、試験フィールドは例えば以下の通りである。Trial1:位置1上に集束されたフィールド;Trial2:位置2上に集束されたフィールド;Trial3:位置3上に集束されたフィールド;Trial4:位置4上に集束されたフィールド。なお、位置1、2、3、4は同一でない限り任意である。
【0132】
本願発明の方法によると、試験フィールドは第1ファイバの遠位端において第1ファイバに入射している。結果としてのフィールドは、例えばカメラなどによって、第1ファイバの近位端において測定されている。デフォルトでは、カメラが検出するのは強度(振幅の2乗)のみである。フィールドを詳細に測定するためには(すなわち位相および振幅)、カメラは例えば「off-axis型ホログラフィ(off-axis holography)」法のような干渉計測法(interferometric method)と組み合わせて使用される。
【0133】
図9は5つの結果としてのフィールドを示しており、これらは2つの直交偏光状態によって測定されている。第5測定値、すなわち4つの試験フィールドの重ね合わせから、4つの試験フィールド間の相対位相を抽出することができる。
【0134】
任意の構成におけるファイバの伝達マトリクスHestを推定するために、本願発明に係る最小二乗平均アルゴリズム(least mean squares algorithm)が使用されている。
【0135】
ここで図10を参照する。図10は同一の構成における2つのファイバ伝達マトリクスを示している。左の伝達マトリクスは、本願明細書の導入部分において議論された、当業者に知られた従来方法によって測定されたものである。右の伝達マトリクスは、例に係る4つの試験フィールドの入射後に、結果としてのフィールドの測定に基づいて光ファイバの伝達マトリクスを推定する最小二乗平均アルゴリズムを使用して測定されたものである。図10は、本願発明が極めて短時間で光ファイバの伝達マトリクスの素晴らしい推定値を得ることができることを明確に表している。
【0136】
したがって、伝達マトリクスは5つの測定のみによって推定されている。ファイバがより多くのモードをガイドしている場合でも、依然としてHを推定するためには5つの測定で十分である。
【0137】
従来のマルチモードファイバが1000個のモードをガイドしている場合を考えると、先行技術の方法では少なくとも1000個の測定が必要である(実際にはもっと多いこともある)。したがって、本願発明により測定数を200分の1とすることが可能である。
【0138】
イメージング方法
【0139】
一旦本願発明の方法により第1ファイバの伝達マトリクスが推定されると、推定伝達マトリクスHestに基づいて位相マスクを計算すること、および、これを波面変調器に適用し、例えば焦点など、第1光ファイバの遠位端において既知の位相関数の照明ビームを形成することが可能になる。図11は、本願発明の方法に係るファイバの推定伝達マトリクスを使用してフォーカスをスキャンすることを示している。
【0140】
本願発明に係るイメージング方法について、ここから詳細に説明する。図12、13、14は本願発明に係る内視鏡イメージング用の同一の装置を示しており、この装置により本願発明の方法を実施することができる。
【0141】
装置
【0142】
内視鏡イメージング用の装置は、第1光ファイバ、好ましくは近位セクションおよび遠位セクションを備えるマルチモードMMF、を備える。第1光ファイバMMFは、上述のファイバを第2ファイバ、好ましくはマルチコアMCF、に接続しているファイバ間カプラを備える。第1ファイバの遠位セクションの遠位端にはいかなる光学系もない。したがって、第1光ファイバの遠位セクションの遠位端は、画像化されるサンプルの可能な限り近くに位置してもよい。例えば、サンプルはマウスの脳であり、マウスは生きており、自由に動き回る。本願発明に係る装置は、リアルタイムでマウスの脳を画像化可能である必要がある。
【0143】
イメージング用の装置は更に、カメラCAMを備える。カメラは対物レンズOBJが結合されてもよい。カメラおよび対物レンズにより、第2ファイバMCFを通じて試験フィールドが入射された後の、第1ファイバMMFの近位セクションの近位端における結果としてのフィールドを測定することができる。
【0144】
装置は、図示されていないが、例えばレーザなどの光源も備える。光源は、有利には波面変調器SLMに接続されている。波面変調器は、第1光ファイバMMFの近位セクションの近位端において、制御された光信号を入射させることを可能とする対物レンズOBJにも結合されてもよい。
【0145】
配光手段は波面変調器および対物レンズの後に加えられている。このシステムは例えば、ミラーまたはプリズムである。配光器によって、波面変調器からの光を第1光ファイバMMFに向ける、または、サンプルによって反射され第1光ファイバMMFを通過する光ビームを検出チャネルに向けることが可能となる。
【0146】
サンプルによって後方散乱され、第1光ファイバMMFを通じて遠位端から近位端へと伝達される光用の検出チャネルは、センサからの信号を処理するための処理ユニットだけではなくて、センサCAMproximalと、任意選択でセンサの検出表面上に後方散乱光を集束させるための対物レンズOBJと、を備えてもよい。
【0147】
準備ステップ―図12
【0148】
ここで、図12を参照する。図12は、本願発明の方法の1つの実施形態に係る、近位―遠位方向における第1ファイバの伝達マトリクスH0proximal-distalを測定することのできる内視鏡イメージングのための装置の構成を示す図であり、局在モード基底において基準構成(REF)における第1光ファイバMMFの伝達マトリクスを測定する準備ステップが実行されている。
【0149】
この構成において、第1光ファイバMMFの遠位セクションはまだサンプルに接続されていない。この構成において、対物レンズOBJを有するカメラCAMdistalを備える検出チャネルは、第1ファイバMMFの遠位セクションの遠位端において位置している。その全長にわたり第1ファイバの伝達マトリクスを測定する準備ステップに特有のこの検出チャネルは、結果としてのフィールドEresultfieldを測定する検出チャネルと同一、または、全く異なる検出チャネルであってもよい。
【0150】
光源は、波面変調器SLMによって形成され得る光ビームを放出している。これらの光ビームは、第1光ファイバの全長に沿って第1光ファイバを通過し、第1ファイバの遠位セクションの遠位端において、検出チャネルによって、カメラCAMdistalにおいて測定されている。
【0151】
試験フィールドの入射―図13
【0152】
ここで、図13を参照する。図13は、本願発明に係る、試験フィールドETrialsの入射の結果としてのフィールドEResultfieldsの測定を示している。ここから、第1光ファイバの遠位セクションの遠位端は、解析されるサンプルにおいて位置してもよい。
【0153】
n個の試験フィールドEtrials,lateralは第2光ファイバMCFを介して入射され、これらの試験フィールドは、ファイバ間コネクタ装置33によって、第1光ファイバMMFに向けて方向転換され、第1光ファイバの近位セクションの遠位端において、第1光ファイバの近位セクションの近位端に向けられ方向転換している。
【0154】
第1光ファイバMMFの近位セクションの近位端における結果としてのフィールドEresultfields,proximalは、検出チャネルによって測定されている。この測定は、好ましくは直交する2つの異なる偏光状態に対して行われてもよい。この場合、カメラCAMは例えば1/4波長板および/または1/2波長板に結合されてもよい。
【0155】
伝達マトリクスを推定する手順は、試験フィールドが第1ファイバの近位セクションの遠位端においてではなく、第1ファイバMMFの遠位端において直接、すなわち、第1ファイバの遠位セクションの遠位端から1mm~5cm上流に位置するファイバ間カプラにおいて、入射されていると仮定している。
【0156】
上述したように、ファイバ間カプラ33において入射される試験フィールドEtrials,lateralが第1光ファイバの遠位端において有するであろう仮想イメージ(virtual image)Etrials,distalを計算することができる。このようにするために、図12において示された準備ステップにおいて計算された、基準構成における光ファイバの伝達マトリクスHを考慮することが必要である。
【0157】
tials,distal=H・Eresultfields,proximal
【0158】
ここで、我々は、サイド(side)からEtrials,lateralを入射することが、遠位端からEtrials,distalを入射することと同等であることを理解している。入射されたのはEtrials,lateralではなくEtrials,distalであると仮定した場合、その全長にわたって(近位セクションおよび遠位セクション)考慮される第1ファイバの伝達マトリクスを推定する手順が可能となる。
【0159】
一旦試験フィールドが第1光ファイバMMFに入射され、結果としてのフィールドがカメラCAMによって第1光ファイバMMFの近位端において測定されると、本願発明の伝達マトリクスを推定する手法により、任意の構成(RAND)において第1光ファイバMMFの伝達マトリクスHestを推定することが可能になる。
【0160】
最小二乗平均アルゴリズム(またはLMS)は、推定伝達マトリクスHestを最適化することにより、以下の数式2によって定められる関数fを最小化する。
【0161】
【数2】
【0162】
式中、ETrialsおよびEResultfieldsは[N×n]次元の行列であり、それぞれn個の試験フィールドおよびn個の結果としてのフィールドを含有する。
【0163】
アルゴリズムは、Hの最適推定値である結果Hestを求める。標準的なコンピュータを用いた場合のアルゴリズムの実行時間は約1msである。
【0164】
サンプルイメージング―図14
【0165】
ここで、図14を参照する。図14において、任意の構成(RAND)における第1光ファイバMMFの伝達マトリクスHestは、本願発明の手法を使用して事前に測定されていると仮定する。
【0166】
第1ファイバMMFの伝達マトリクスが既知であるため、第1光ファイバMMFから制御された光ビーム、典型的には焦点を出力するために、波面変調器SLMを用いて位相マスクを計算することが可能である。
【0167】
サンプルはその後、例えば焦点をスキャンすることにより画像化される。結果としてのイメージは、対物レンズOBJを有するカメラCAMproximalを備える検出チャネルを使用してピクセル毎に測定される。本願発明に係るイメージング方法の様々なステップにおいて、検出チャネルは、各ステップで同一であってもよい。この場合、光ファイバ(MMFおよびMCF)の異なる端からの様々な光ビームを配光することのできる従来の光学システムが使用される。そうでなければ、各検出チャネルに特有の様々な対物レンズOBJが異なるものであり得る。
【0168】
ファイバの構成が変わる度に、試験フィールドの入射と、ファイバの新たな伝達マトリクスの推定と、が実行される。伝達マトリクスの推定はまた、所定の頻度で実行されてもよい。例えば、伝達マトリクスの推定は1秒に1回、1秒に2回、1秒に10回または1分に1回というより低い頻度で実行されてもよく、または、第1ファイバの伝達マトリクスの推定は、例えば、加速度センサのようなセンサが基準構成と比較して第1ファイバの動きを検知した際など、光ファイバの構成が変わった際に実行されてもよい。
図1A
図1B
図1C
図1D
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
【手続補正書】
【提出日】2024-06-06
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルチモード光ファイバなどの、第1光ファイバの伝達マトリクスを測定するための方法であって、
前記第1光ファイバは任意の構成であり、N個の固有モードをガイドしており、
前記第1光ファイバは、
近位端および遠位端を備える近位セクションと、
近位端および遠位端を備える遠位セクションと、を備え、
前記近位セクションの遠位端は、ファイバ間カプラによって前記遠位セクションの近位端に接続されており、
前記方法は、
前記第1光ファイバの前記近位セクションの遠位端において、n個の試験フィールドを別々に入射させるステップと、
前記第1光ファイバの前記近位セクションの近位端において、前記n個の入射された試験フィールドのそれぞれについて結果としてのフィールドを測定するステップと、
前記第1光ファイバのN個の固有モードの基底において表現された伝達マトリクスであるHestを推定するステップと、を備える、方法。
【請求項2】
前記試験フィールドは、お互いにコヒーレントであるように選択されている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記試験フィールドは、前記第1光ファイバの前記遠位セクションの遠位端から1mmと5cmとの間の距離だけ上流において接続されている、マルチコアファイバなどの第2光ファイバを通じて入射されている、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記第2光ファイバは、少なくとも試験フィールドと同じ数のコアを備えるマルチコアファイバである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記試験フィールドは、前記第2光ファイバの固有モードである、請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
前記第1光ファイバの前記近位セクションの遠位端において入射されている前記試験フィールドは、前記第2光ファイバを介して入射されている前記試験フィールドの仮想イメージである、請求項3から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
nは、前記第1光ファイバの相互縮退固有モードの最大数より大きいまたは同じとなるように選択されている、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
固有モード基底における伝達マトリクスの前記推定は、最小二乗平均アルゴリズムの使用など、最尤法によって実行されている、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
局在モード基底において、基準構成における前記第1光ファイバの前記伝達マトリクスを測定する準備ステップと、次いで、前記伝達マトリクスの前記基底を、固有モード基底に変換するステップと、を備える請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記n個の試験フィールドを入射させるステップはさらに、前記n個の試験フィールド間の相対位相を測定することができるように、n個の試験フィールドを同時に入射させるステップを備える、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項に記載の方法によって前記伝達マトリクスが決定されている光ファイバであって、
前記光ファイバは、
近位端および遠位端を備える近位セクションと、
近位端および遠位端を備える遠位セクションと、を備え、
前記近位セクションの遠位端は、ファイバ間カプラによって前記遠位セクションの前記近位端に接続されており、
前記ファイバ間カプラは、マルチコア光ファイバのような第2光ファイバの端部を受け入れるように構成されている、光ファイバ。
【請求項12】
前記ファイバ間カプラは、前記光ファイバの前記遠位セクションの遠位端から1mm~5cmの距離に位置している、請求項11に記載の光ファイバ。
【請求項13】
前記光ファイバの前記近位セクションの前記伝達マトリクスは、基準構成については既知である、請求項11または12に記載の光ファイバ。
【請求項14】
内視鏡イメージング用の装置であって、
光ビームを放出するための光源と、
前記光源によって放出された光ビームを伝達および制御するための、請求項11から13のいずれか一項に記載の光ファイバであって、
前記第1光ファイバの前記近位セクションは任意の構成である、第1光ファイバと、
サンプルによって反射され、前記光ファイバの前記遠位セクションおよび前記近位セクションを通過する光信号を測定するための検出チャネルと、を備える装置。
【請求項15】
請求項14に記載の装置を用いて行われる内視鏡イメージングのための方法であって、
前記方法は、
前記光ファイバの前記固有モード基底において前記第1光ファイバの前記伝達マトリクスを推定するステップであって、
前記光ファイバの前記近位セクションは任意の構成である、ステップと、
推定伝達マトリクスの関数としての位相マスクを計算するステップと、
前記光ファイバの前記遠位端において焦点を取得するために、前記位相マスクを順次、波面変調器に適用するステップと、
前記サンプルによって前記焦点から反射された信号を測定し、ピクセル毎に前記サンプルのイメージを再構成するステップと、
所定の期間が経過した後、および/または、前記近位セクションの構成が実質的に変化する毎に、前記伝達マトリクスを推定するステップを繰り返すステップと、を備える、方法。
【国際調査報告】