(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-10
(54)【発明の名称】操作されたTGF-βモノマーおよび使用法
(51)【国際特許分類】
C07K 14/495 20060101AFI20241003BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20241003BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20241003BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20241003BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20241003BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20241003BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20241003BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241003BHJP
A61K 38/18 20060101ALI20241003BHJP
C12N 5/0783 20100101ALN20241003BHJP
【FI】
C07K14/495 ZNA
C12N15/12
C12N15/63 Z
C07K19/00
C12N5/10
A61P35/00
A61P27/02
A61P43/00 111
A61K38/18
C12N5/0783
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024521130
(86)(22)【出願日】2022-10-11
(85)【翻訳文提出日】2024-05-09
(86)【国際出願番号】 US2022077879
(87)【国際公開番号】W WO2023064747
(87)【国際公開日】2023-04-20
(32)【優先日】2021-10-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】504279968
【氏名又は名称】ユニバーシティ オブ ピッツバーグ - オブ ザ コモンウェルス システム オブ ハイヤー エデュケイション
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ヒンク, アンドリュー ピー.
(72)【発明者】
【氏名】デポー, クリスティン
(72)【発明者】
【氏名】デルゴフ, グレッグ エム.
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA44
4C084AA02
4C084AA03
4C084BA44
4C084DB52
4C084NA14
4C084ZA33
4C084ZB26
4C084ZC41
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA71
4H045BA72
4H045CA40
4H045EA20
4H045FA74
4H045GA23
(57)【要約】
ダイマー化を防止し、TGF-βシグナル伝達を遮断するように操作された組換えTGF-β2モノマーが記載される。上記操作されたモノマーは、TGF-βI型レセプター(TβRI)を結合および動員する能力を欠くが、高親和性TGF-β II型レセプター(TβRII)を結合する能力を保持する。上記TGF-β2モノマーはまた、それらのTβRIIに対する親和性を増加させる、それらの凝集を低減する、および/またはそれらの折りたたみを改善するさらなる改変を含む。組換えTGF-β2モノマーをコードする核酸分子およびベクターがまた、記載される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組換えトランスフォーミング成長因子(TGF)-β2モノマーであって、
配列番号1の残基77に相当するアミノ酸残基において、システインからセリンへの置換、またはシステインからアルギニンへの置換;
配列番号1のアミノ酸残基52~71に相当するα3ヘリックスの欠失;
配列番号1の残基25に相当するアミノ酸残基において、リジンからアルギニンへの置換;
配列番号1の残基51に相当するアミノ酸残基において、ロイシンからアルギニンへの置換;
配列番号1の残基74に相当するアミノ酸残基において、アラニンからリジンへの置換;
配列番号1の残基94に相当するアミノ酸残基において、リジンからアルギニンへの置換;
(i)配列番号1の残基26に相当するアミノ酸残基において、アルギニンからリジンへの置換;配列番号1の残基79に相当するアミノ酸残基において、バリンからアルギニンへの置換;配列番号1の残基89に相当するアミノ酸残基において、ロイシンからバリンへの置換;配列番号1の残基92に相当するアミノ酸残基においてイソロイシンからバリンへの置換;配列番号1の残基95に相当するアミノ酸残基においてスレオニンからリジンへの置換;および配列番号1の残基98に相当するアミノ酸残基においてイソロイシンからバリンへの置換;
(ii)配列番号1の残基7に相当するアミノ酸残基においてシステインからバリンへの置換;および配列番号1の残基16に相当するアミノ酸残基においてシステインからアラニンへの置換;または
(iii)配列番号1の残基7に相当するアミノ酸残基においてシステインからバリンへの置換;配列番号1の残基16に相当するアミノ酸残基においてシステインからアラニンへの置換;配列番号1の残基26に相当するアミノ酸残基においてアルギニンからリジンへの置換;配列番号1の残基79に相当するアミノ酸残基においてバリンからアルギニンへの置換;配列番号1の残基89に相当するアミノ酸残基においてロイシンからバリンへの置換;配列番号1の残基92に相当するアミノ酸残基においてイソロイシンからバリンへの置換;配列番号1の残基95に相当するアミノ酸残基においてスレオニンからリジンへの置換;および配列番号1の残基98に相当するアミノ酸残基においてイソロイシンからバリンへの置換、
を含む、組換えTGF-β2モノマー。
【請求項2】
配列番号1の残基77に相当するアミノ酸残基においてシステインからアルギニンへの置換を含む、請求項1に記載の組換えTGF-β2モノマー。
【請求項3】
前記TGF-β2モノマーのアミノ酸配列は、配列番号4を含むかまたはそれからなる、請求項2に記載の組換えTGF-β2モノマー。
【請求項4】
前記TGF-β2モノマーのアミノ酸配列は、配列番号6を含むかまたはそれからなる、請求項2に記載の組換えTGF-β2モノマー。
【請求項5】
配列番号1の残基77に相当するアミノ酸残基においてシステインからセリンへの置換を含む、請求項1に記載の組換えTGF-β2モノマー。
【請求項6】
前記TGF-β2モノマーのアミノ酸配列は、配列番号5を含むかまたはそれからなる、請求項5に記載の組換えTGF-β2モノマー。
【請求項7】
組換えトランスフォーミング成長因子(TGF)-β2モノマーであって、前記TGF-β2モノマーのアミノ酸配列は、配列番号7を含むかまたはそれからなる、組換えTGF-β2モノマー。
【請求項8】
PEG化されている、請求項1に記載の組換えTGF-β2モノマー。
【請求項9】
グリコシル化または高グリコシル化されている、請求項1に記載の組換えTGF-β2モノマー。
【請求項10】
放射線治療剤、化学療法のための細胞傷害性薬剤、薬物、イメージング剤、蛍光色素、または蛍光性タンパク質タグをさらに含む、請求項1に記載の組換えTGF-β2モノマー。
【請求項11】
請求項1に記載の組換えTGF-β2モノマーおよび異種タンパク質を含む、融合タンパク質。
【請求項12】
前記異種タンパク質は、タンパク質タグ、Fcドメイン、アルブミン、アルブミン結合ポリペプチド、抗体、抗体の抗原結合フラグメントまたは標的化部分を含む、請求項11に記載の融合タンパク質。
【請求項13】
前記融合タンパク質は、1本鎖ポリペプチドである、請求項11に記載の融合タンパク質。
【請求項14】
前記融合タンパク質は、ダイマーポリペプチドを形成する、請求項11に記載の融合タンパク質。
【請求項15】
前記融合タンパク質は、ヘテロダイマーのものである、請求項11に記載の融合タンパク質。
【請求項16】
前記融合タンパク質は、マルチマーのものである、請求項11に記載の融合タンパク質。
【請求項17】
請求項1に記載の組換えTGF-β2モノマーをコードする、単離された核酸分子。
【請求項18】
プロモーターに作動可能に連結されている、請求項17に記載の核酸分子。
【請求項19】
請求項18に記載の核酸分子を含むベクター。
【請求項20】
請求項19に記載のベクターを含む単離された細胞。
【請求項21】
前記細胞は、Tリンパ球である、請求項20に記載の単離された細胞。
【請求項22】
請求項1に記載の組換えTGF-β2モノマー;および
薬学的に受容可能なキャリア、希釈剤、または賦形剤、
を含む組成物。
【請求項23】
細胞におけるTGF-βシグナル伝達を阻害する方法であって、前記細胞と、有効量の請求項1に記載の組換えTGF-β2モノマーとを接触させることを包含する方法。
【請求項24】
異常なTGF-βシグナル伝達と関連する疾患または障害を有する被験体においてTGF-βシグナル伝達を阻害する方法であって、前記被験体に、有効量の請求項1に記載の組換えTGF-β2モノマーを投与することを包含する方法。
【請求項25】
被験体において異常なTGF-βシグナル伝達と関連する疾患または障害を処置する方法であって、前記被験体に、治療上有効な量の請求項1に記載の組換えTGF-β2モノマーを投与することを包含する方法。
【請求項26】
異常なTGF-βシグナル伝達と関連する前記疾患または障害は、線維性障害である、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
異常なTGF-βシグナル伝達と関連する前記疾患または障害は、乳がん、脳がん、膵臓がん、前立腺がん、皮膚がん、膀胱がん、肝臓がん、卵巣がん、腎がん、子宮内膜がん、結腸直腸がん、胃がん、皮膚がんまたは甲状腺がんである、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
異常なTGF-βシグナル伝達と関連する前記疾患または障害は、眼疾患である、請求項25に記載の方法。
【請求項29】
異常なTGF-βシグナル伝達と関連する前記疾患または障害は、結合組織の遺伝的障害である、請求項25に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年10月11日出願の米国仮特許出願第63/254,249号(これはその全体において本明細書に参考として援用される)の利益を主張する。
【0002】
分野
本開示は、改善された特性を有するトランスフォーミング成長因子(TGF)-βモノマー、およびTGF-βシグナル伝達を阻害し、異常なTGF-βシグナル伝達と関連する障害を処置するためのそれらの使用に関する。
【0003】
政府支援の謝辞
本発明は、National Institutes of Healthによって授与された助成金番号CA247129の下で政府支援を得て行われた。政府は、本発明において一定の権利を有する。
【背景技術】
【0004】
背景
TGF-βは、がん免疫治療の重要な標的である。なぜならTGF-β媒介性免疫抑制は、調節性T(Treg)細胞が免疫抑制性サイトカインの分泌およびエフェクターT細胞の直接的阻害を通じて抗腫瘍免疫を抑制して、細胞傷害性が不十分な環境を引き起こす。腫瘍微小環境(TME)におけるTGF-βの過剰発現は、高い腫瘍負荷および不十分な臨床転帰と相関した。さらに、チェックポイント治療非応答患者は、TGF-β媒介性免疫排除に起因して、T細胞枯渇表現型を有する。TGF-β阻害剤は、PD-1およびPD-L1治療の補助として、インビボでチェックポイント単剤療法を超越することがさらに示されており、このようなアプローチは、臨床試験で追求されている最中である。TGF-βアイソフォームはまた、マトリクスタンパク質(例えば、コラーゲンおよびフィブロネクチン)の蓄積を強力に刺激し、線維性障害(例えば、特発性肺線維症(IPF)、腎線維症、心臓線維症、および冠動脈再狭窄)を駆動し得る。IPF(これは、高齢の成人において起こる進行性の肺機能喪失によって特徴づけられる)は、診断後5年という平均生存率を有する。種々の形態の線維症を誘発する機序は多様であるが、それらは、TGF-βタンパク質のレベルの増加という共通する誘導を共有している。IPFおよび腎線維症では、TGF-βタンパク質のレベルの増加が線維芽細胞の活性化および筋線維芽細胞への分化を刺激し、これは、細胞外マトリクス(ECM)の異常な沈着を引き起こし、瘢痕化および器官機能の低下をもたらす。
【0005】
中和抗体を使用する、がんおよび線維症両方の文脈におけるTGF-βの阻害は、有効性が限られている。なぜならTGF-βの大部分はおそらく、ECM中で潜伏タンパク質として貯蔵され、阻害されにくくしているからである。TGF-βレセプターキナーゼ阻害剤は、それらの標的であるTGF-β I型およびII型レセプターのキナーゼドメインによりアクセスし易くするが、特異性を欠いており、他のTGF-βファミリー I型レセプターのみならず、非TGF-βレセプターキナーゼをも阻害する。キナーゼ阻害剤は、臨床試験においてフェーズIIを過ぎて進行しておらず、現在、FDA承認のTGF-β阻害剤は存在しない。従って、異常なTGF-βシグナル伝達と関連する障害を処置するための改善された治療が必要である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
概要
ダイマー化を防止し、TGF-βシグナル伝達を遮断するように操作されたTGF-β2モノマーが、本明細書で記載される。上記操作されたモノマーは、TGF-βI型レセプター(TβRI)を結合および動員する能力を欠いているが、高親和性TGF-β II型レセプター(TβRII)を結合する能力を保持する。本開示のTGF-β2モノマーはまた、それらのTβRIIに対する親和性を増加させる、それらの凝集を低減する、および/またはそれらの折りたたみを改善するさらなる改変を含む。本開示のTGF-β2モノマーおよびその組成物は、例えば、異常なTGF-βシグナル伝達と関連する障害(例えば、線維性障害およびがん)を処置するために使用され得る。
【0007】
野生型ヒトTGF-β2(配列番号1として示される)のアミノ酸残基52~71に相当するα3(ヒール(heel))ヘリックスの欠失、および配列番号1の残基77に相当するアミノ酸残基において、システインからアルギニンもしくはセリンへの置換を含む組換えTGF-β2モノマーが本明細書で提供される;これらの改変は、上記モノマーのダイマー化を防止する。上記TGF-β2モノマーは、配列番号1の残基51に相当するアミノ酸残基においてロイシンからアルギニンへの置換、および配列番号1の残基74に相当するアミノ酸残基においてアラニンからリジンへの置換をさらに含む;これらの改変は、上記モノマーの正味の電荷を増加させる。上記TGF-β2モノマーはまた、配列番号1の残基25に相当するアミノ酸残基においてリジンからアルギニンへの置換、および配列番号1の残基94に相当するアミノ酸残基においてリジンからアルギニンへの置換を含み、これは、TβRIIに対する上記モノマーの親和性を増加させる。いくつかの実装において、上記TGF-β2モノマーは、TβRIIに対する上記モノマーの親和性を増加させる、凝集を低減する、および/または折りたたみを改善する1またはこれより多くのさらなる改変をさらに含む。
【0008】
DanおよびCerberusに関係するタンパク質(PRDC)のシスチンノット領域を含むように改変されている操作されたTGF-β2モノマーがまた、本明細書で提供され、これは、上記モノマーの折りたたみを増強する。
【0009】
TGF-β2モノマーおよび異種タンパク質を含む融合タンパク質がまた、提供される。いくつかの実装において、上記異種タンパク質としては、タンパク質タグ、Fcドメイン、アルブミン、アルブミン結合ポリペプチド、抗体、抗体の抗原結合フラグメントまたは標的化部分が挙げられる。
【0010】
本明細書で開示される組換えTGF-β2モノマーまたは融合タンパク質をコードする核酸分子およびベクターがまた、提供される。組換えTGF-β2モノマーまたは融合タンパク質をコードする核酸分子またはベクターを含む単離された細胞(例えば、単離されたT細胞)が、さらに提供される。
【0011】
本明細書で開示される組換えTGF-β2モノマー、融合タンパク質、核酸分子、ベクターまたは単離された細胞および薬学的に受容可能なキャリア、希釈剤、または賦形剤を含む組成物が、さらに提供される。
【0012】
細胞と、本明細書で開示される組換えTGF-β2モノマー、融合タンパク質、核酸分子、ベクター、または組成物とを接触させることによって、上記細胞におけるTGF-βシグナル伝達を阻害する方法がまた、提供される。
【0013】
異常なTGF-βシグナル伝達と関連する疾患または障害を有する被験体においてTGF-βシグナル伝達を阻害する方法が、さらに提供される。いくつかの実装において、上記方法は、上記被験体に、有効量の本明細書で開示される組換えTGF-β2モノマー、融合タンパク質、核酸分子、ベクター、単離された細胞(例えば、T細胞)または組成物を投与することを包含する。被験体において異常なTGF-βシグナル伝達と関連する疾患または障害を処置する方法が、さらに提供される。いくつかの実装において、上記方法は、上記被験体に、治療上有効な量の本明細書で開示される組換えTGF-β2モノマー、融合タンパク質、核酸分子、ベクター、単離された細胞(例えば、T細胞)または組成物を投与することを包含する。本開示の方法のうちのいくつかの例では、異常なTGF-βシグナル伝達と関連する上記疾患または障害は、線維性障害、がん、眼障害または結合組織の遺伝的障害である。
【0014】
本開示の前述のおよび他の目的および特徴は、添付の図面を参照しながら進められる、以下の詳細な説明からより明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図面の簡単な説明
【
図1-1】
図1A~1E: TGF-β2(配列番号1)に対する操作されたTGF-β2モノマーmmTGF-β2-7M(配列番号3)(
図1A)、mmTGF-β2-7M2R(配列番号4)(
図1B)、mmTGF-β2-2M-Del7_16(配列番号5)(
図1C)、mmTGF-β2-7M-PRDC(配列番号7)(
図1D)、およびmmTGF-β2-7M2R-Del7-16(配列番号6)(
図1E)の配列比較。配列の差異を、その2つの整列させた配列の下に数字で示し、その数字は、差異の性質が何であるかを示す。配列同一性は、アスタリスクによって示される。
図1A中の配列の下に示されているものは、TGF-β3-(TβRII)
2-(TβRI)
2複合体(PDB 2PJY)(左)およびmmTGF-β2-7M-TβRII複合体(PDB 5TX4)(右)の構造であり、主な構造特徴のうちのいくつかは強調されている。
【0016】
【
図2】
図2A~2F: 親タンパク質、mmTGF-β2-7M(
図2D~2F)と比較した、mmTGF-β2-7M2R(
図2A~2C)のアミド
1H-
15N 1結合シフト相関核磁気共鳴(Amide
1H-
15N one-bond shift correlation nuclear magnetic resonance)(NMR)スペクトル。スペクトルを、pH 4.6(
図2Aおよび2D)またはpH7.2の10mM リン酸緩衝液において、緩衝液中のCHAPSの非存在下(
図2Bおよび2E)またはCHAPSを最終濃度10mMへと添加(
図2Cおよび2F)のいずれかで、37℃で記録した。
【0017】
【
図3】
図3A~3C: mmTGF-β2-2M-Del7-16のアミド
1H-
15N 1結合シフト相関NMRスペクトル。スペクトルを、10mM リン酸緩衝液(pH6.0(
図3B)、またはpH4.5)において、緩衝液中のCHAPSの非存在下(
図3A)またはCHAPSを最終濃度10mMへと添加(
図3C)のいずれかで、37℃で記録した。
【0018】
【
図4】
図4A~4D: mmTGF-β2-7M-PRDCのアミド
1H-
15N 1結合シフト相関NMRスペクトル(
図4A~4C)およびネイティブゲル電気泳動によって検出されるとおりのTβRIIへの結合(
図4D)。スペクトルを、pH4.8(
図4A)またはpH 6.0(
図4B~4C)において10mM リン酸緩衝液中、37℃で記録した。
図4Bおよび
図4Cは、シグナルがプロットされる等高線レベルにおいてのみ異なる(
図4Bは、パネル
図4Cと比較して、ノイズにより近い等高線レベルでプロットされる)。
図7Dに示されるネイティブゲルは、2μgのTβRII単独で(最も左側のレーン)または特定のモル比において添加された上記操作されたTGF-βモノマー(+Aおよび+Bは、それぞれ、1:1または2:1モル比のいずれかでのTβRII:操作されたTGF-βモノマーを示す)のいずれかを泳動させることによって行った。
【0019】
【
図5】
図5: 等温滴定熱量測定(ITC)によって検出される場合の上記操作されたTGF-βモノマー(mmTGF-β2-7Mは左;mmTGF-β2-7M2Rは中央;およびmmTGF-β2-2M-Del7-16は右)の、TGF-β II型レセプター(TβRII)への結合。上側のパネルは、 3回の反復滴定についての生のサーモグラムを示す一方で、下側のパネルは、1:1結合等温線(滑らかな線)にグローバルフィットした3回の反復滴定に関する統合熱(データ点)を示す。フィットしたパラメーターを、下の表中に提供する。
【0020】
【
図6】
図6A~6D: 互いに対する上記操作されたTGF-βモノマーの阻害効力を評価するHEK-293細胞ベースのCAGA-Luc TGF-βレポーターアッセイ。TGF-β CAGA-Lucレポーターで安定したトランスフェクトされたHEK-293細胞を、特定した濃度で30分間、その示した、操作されたTGF-βモノマーで処理し、次いで、10pM TGF-β3の添加によって刺激した。細胞を、14時間後に採取し、ルシフェラーゼ活性をアッセイした。(
図6A) mmTGF-β2-7M(配列番号3)、IC
50は58.23nM。(
図6B) mmTGF-β2-7M2R(配列番号4)、IC
50は53.29nM。(
図6C) mmTGF-β2-2M-Del7-16(配列番号5)、IC
50は111.0nM。(
図6D) mmTGF-β2-7M-PRDC(配列番号7)、IC
50は282.5nM。示されるデータ点およびエラーバーは、三連の測定の平均および標準偏差に相当する。滑らかな曲線は、標準的用量応答阻害等温線へのフィットに相当する。フィットしたIC
50値を示す。
【0021】
配列表
配列表は、8123-107062-03という名称のST.26配列表XMLファイル(作成日2022年10月3日、サイズは7561バイトである)として提出されており、これは本明細書に参考として援用される。添付の配列表において:
【0022】
配列番号1は、野生型ヒトTGF-β2のアミノ酸配列である。
【0023】
配列番号2は、mmTGF-β2と称される、操作されたヒトTGF-β2モノマーのアミノ酸配列である。
【0024】
配列番号3は、mmTGF-β2-7Mと称される、操作されたヒトTGF-β2モノマーのアミノ酸配列である。
【0025】
配列番号4は、mmTGF-β2-7M2Rと称される、操作されたヒトTGF-β2モノマーのアミノ酸配列である。
【0026】
配列番号5は、mmTGF-β2-2M-Del7-16と称される、操作されたヒトTGF-β2モノマーのアミノ酸配列である。
【0027】
配列番号6は、mmTGF-β2-7M2R-Del7-16と称される、操作されたヒト TGF-β2モノマーのアミノ酸配列である。
【0028】
配列番号7は、mmTGF-β2-7M-PRDCと称される、操作されたヒトTGF-β2モノマーのアミノ酸配列である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
詳細な説明
I.略語
CKGF シスチンノット成長因子折りたたみ
ECM 細胞以外マトリクス
ER 小胞体
GFD 成長因子ドメイン
IPF 特発性肺線維症
ITC 等温滴定熱量測定
NGF 神経成長因子
NMR 核磁気共鳴
PDGF 血小板由来成長因子
PRDC DanおよびCerberusに関係するタンパク質
TGF-β トランスフォーミング成長因子β
TβRI トランスフォーミング成長因子-β I型レセプター
TβRII トランスフォーミング成長因子-β II型レセプター
TME 腫瘍微小環境
VEGF 血管内皮成長因子
【0030】
II.用語
別段注記されなければ、技術用語は、従来の使用法に従って使用される。分子生物学分野における一般的用語の定義は、Jones & Bartlett Publishers, 2009によって出版されたBenjamin Lewin, Genes X;およびWiley-VCHによって16巻で2008年に出版されたMeyersら(編), The Encyclopedia of Cell Biology and Molecular Medicine;ならびに他の類似の参考文献の中に見出され得る。
【0031】
本明細書で使用される場合、単数形「a(1つの、ある)」「an(1つの、ある)」および「the(上記、その、この)」は、文脈が別段明らかに示さなければ、単数形および複数形の両方に言及する。例えば、用語「1つの抗原(an antigen)」とは、タンパク質数または複数の抗原を含み、語句「少なくとも1つの抗原(at least one anntgen)」に等しいと考えられ得る。本明細書で使用される場合、用語「含む、包含する(comprises)」とは、「含む、包含する、が挙げられる(includes)」を意味する。任意のおよび全ての塩基サイズまたはアミノ酸サイズ、ならびに全ての分子量または分子質量の値は、核酸またはポリペプチドに関して与えられる場合、概算値であり、別段示されなければ、説明目的で提供されることがさらに理解されるべきである。本明細書で記載されるものに類似または等価な多くの方法および材料が使用され得るが、特定の適した方法および材料が本明細書で記載される。矛盾する場合、用語の説明を含め、本明細書が優先する。さらに、材料、方法、および例は、例証に過ぎず、限定することを意図しない。
種々の実装の精査を促進するために、以下の用語の説明が提供される:
【0032】
異常な(TGF-βシグナル伝達)): 異常なまたは調節不全のTGF-βシグナル伝達。本開示の文脈において、「異常なTGF-βシグナル伝達」とは、TGF-βシグナル伝達経路の過剰な(病的な)活性化をいう。
【0033】
投与: 被験体に薬剤(例えば、治療剤(例えば、TGF-βモノマー))を任意の有効な経路によって提供または与えること。例示的な投与経路としては、注射または注入(例えば、腫瘍内、皮下、筋肉内、皮内、腹腔内、髄腔内、静脈内、前立腺内、脳室内、線条体内、頭蓋内および脊髄への)、経口、管内(intraductal)、舌下、直腸、経皮、鼻内、膣および吸入経路が挙げられるが、これらに限定されない。
【0034】
接触する: 直接的な物理的関連のある状態に配置すること; 固体形態および液体形態の両方を含む。インビボでの方法の文脈において使用される場合、「接触する」はまた、投与を含む。
【0035】
線維症: 修復プロセスまたは反応プロセスにおける器官または組織の中での過剰な線維性の結合組織の形成。線維症は、多くの異なる身体組織(例えば、心臓、肺および肝臓)において、代表的には炎症または損傷の結果として起こり得る。線維性障害としては、肺線維症、嚢胞性線維症、特発性肺線維症、間質性肺疾患、肝硬変、腎線維症(例えば、糖尿病によって引き起こされる損傷に由来する)、心房線維症、心内膜心筋線維症、アテローム動脈硬化症、再狭窄および強皮症が挙げられるが、これらに限定されない。線維症は、手術の合併症、化学療法薬、放射線、傷害または熱傷の結果としても起こり得る。
【0036】
融合タンパク質: 2つの異なる(異種)タンパク質の部分を少なくとも含むタンパク質。本明細書中のいくつかの実装において、上記融合タンパク質は、タンパク質タグ、Fcドメイン(例えば、ヒトFcドメイン)またはアルブミンに融合されたTGF-β2モノマーを含む。
【0037】
グリコシル化: アスパラギン(N-グリコシル化)、またはセリンもしくはスレオニン残基(O-グリコシル化)への炭水化物部分の共有結合のプロセス。グリコシル化のレベルおよびタイプは、組換え発現に使用される宿主生物が異なれば変動し得る。新規なグリコシル化部位は、タンパク質の溶媒露出領域の中にグリコシル化シークオンを導入することによって配列操作され得る。例えば、N-グリコシル化シークオン、NX[S/T]は、本明細書で開示されるある特定の実行の配列内の1またはこれより多くの場所で導入され得る。グリコシル化のタイプおよび程度の変動は、可溶性、機能および半減期を調節する、ならびに部位特異的化学的共役を可能にすることにおいて、実際的な適用を有する。
【0038】
異種の: 別個の遺伝的供給源または種に由来すること。
【0039】
単離された: 「単離された」生物学的構成成分(例えば、核酸、タンパク質(抗体を含む)、オルガネラ、または組換えウイルス)は、上記構成成分が存在する環境(例えば、細胞)中の他の生物学的構成成分(例えば、他の染色体および染色体外DNAおよびRNA、タンパク質ならびにオルガネラ)から離れて実質的に分離または精製されている。「単離され(isolated)」ている核酸およびタンパク質は、標準的な精製法によって精製された核酸およびタンパク質を含む。上記用語はまた、宿主細胞中での組換え発現によって調製される核酸およびタンパク質、ならびに化学合成される核酸またはタンパク質を包含する。単離された(isolated)は、絶対的な純度を要求せず、少なくとも50%単離された(例えば、少なくとも75%、80%、90%、95%、98%、99%、またはさらには99.9%単離された)タンパク質、ペプチド、核酸分子またはウイルスを含み得る。
【0040】
改変: 核酸配列またはタンパク質配列の配列における変化。例えば、アミノ酸配列改変としては、例えば、置換、挿入および欠失、またはこれらの組み合わせが挙げられる。挿入としては、アミノ末端および/またはカルボキシル末端の融合、ならびに単一のもしくは複数のアミノ酸残基の配列内挿入が挙げられる。欠失は、タンパク質配列からの1またはこれより多くのアミノ酸残基の除去によって特徴づけられる。本明細書中のいくつかの実装において、改変(例えば、置換、挿入または欠失)は、機能の変化(例えば、特定のタンパク質活性の低減または増強(例えば、凝集の低減、折りたたみの改善または標的タンパク質の親和性の増加))を生じる。実質的な改変は、少なくとも1個の残基が除去され、異なる残基がその場所に挿入されたものである。アミノ酸置換は、代表的には、単一の残基のものであるが、一度に多くの異なる位置において起こり得る。置換、欠失、挿入またはこれらの任意の組み合わせは、最終変異体配列に達するように組み合わせられ得る。これらの改変は、そのタンパク質をコードするDNAにおけるヌクレオチドの改変によって調製され得、それによって、上記改変をコードするDNAを生成し得る。既知の配列を有するDNA中の所定の部位において挿入、欠失および置換変異を行うための技術は、公知である。「改変された」タンパク質または核酸は、上記で概説されるとおりの1またはこれより多くの改変を有するものである。
【0041】
モノマー: 他の分子ユニットに結合して、ダイマーまたはポリマーを形成し得る単一の分子ユニット(例えば、タンパク質)。本開示の文脈において、「TGF-β2モノマー」とは、単一のTGF-β2ポリペプチド鎖であり、その野生型バージョンは、他のTGF-β2モノマーを結合して、ダイマーを形成し得る。本明細書中のいくつかの実装において、上記組換えTGF-β2モノマーは、ダイマー化を防止するように操作されている。本明細書中の他の実装において、それらの直接的ダイマー化を防止するように操作されている上記組換えTGF-β2モノマーは、それ自体でダイマー化し得る異種タンパク質(例えば、IgGのFcドメイン)に融合され得る。
【0042】
新生物、悪性腫瘍、がんまたは腫瘍: 新生物は、過剰な細胞分裂から生じる組織または細胞の異常な成長である。新生物性成長は、腫瘍を生じ得る。個体における腫瘍の量は、その腫瘍の数、容積、または重量として測定され得る「腫瘍負荷」である。転移しない腫瘍は、「良性」といわれる。周辺組織を侵襲するおよび/または転移し得る腫瘍は、「悪性(malignant)」といわれる。
【0043】
血液腫瘍の例としては、白血病(急性白血病(例えば、11q23陽性急性白血病、急性リンパ性白血病、急性骨髄性白血病(acute myelocytic leukemia)、急性骨髄性白血病(acute myelogenous leukemia)および骨髄芽球性白血病、前骨髄球性白血病、骨髄単球性白血病、単球性白血病および赤白血病)、慢性白血病(例えば、慢性骨髄性(顆粒球性)白血病、慢性骨髄性白血病、および慢性リンパ性白血病)が挙げられる)、真性赤血球増加症、リンパ腫、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫(無症候性および高悪性度形態)、多発性骨髄腫、ワルデンシュトレーム・マクログロブリン血症、重鎖病、骨髄異形成症候群、ヘアリー細胞白血病および骨髄異形成が挙げられる。
【0044】
固形腫瘍(例えば、肉腫および癌)の例としては、線維肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、骨原性肉腫、および他の肉腫、滑膜腫、中皮腫、ユーイング腫瘍、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、結腸癌、悪性リンパ腫(lymphoid malignancy)、膵臓がん、乳がん(基底乳癌、乳管癌および小葉乳癌が挙げられる)、肺がん、卵巣がん、前立腺がん、肝細胞癌、扁平上皮癌、基底細胞癌、腺癌、汗腺癌、甲状腺髄様癌、甲状腺乳頭癌、褐色細胞腫 皮脂腺癌、乳頭癌、乳頭腺癌、髄様癌、気管支原性癌、腎細胞癌、肝細胞癌、胆管癌、絨毛癌、ウィルムス腫瘍、子宮頚がん、精巣腫瘍、精上皮腫、膀胱癌、およびCNS腫瘍(例えば、神経膠腫、星細胞腫、髄芽腫、頭蓋咽頭腫(craniopharyrgioma)、上衣腫、松果体腫、血管芽腫、聴神経腫、乏突起神経膠腫、髄膜腫、黒色腫、神経芽腫および網膜芽細胞腫)が挙げられる。
【0045】
PEG化: 共有結合および非共有結合の両方または分子およびマクロ構造(例えば、薬物、治療用タンパク質または小胞)へのポリエチレングリコール(PEG)ポリマー鎖の融合(amalgamation)のプロセス。そうして、これは、PEG化される(またはペグ化)といわれる。PEG化は、PEGの反応性誘導体を標的分子とインキュベートすることによって慣用的に達成される。薬物または治療用タンパク質へのPEGの共有結合は、上記薬剤を宿主の免疫系から隠し(免疫原性および抗原性の低減)、上記薬剤の流体力学的サイズ(溶液中のサイズ)を増加させることができ、これは、腎クリアランスを低減することによってその循環時間を延ばす。PEG化はまた、疎水性薬物およびタンパク質に水溶性を提供し得る。
【0046】
ペプチドまたはポリペプチド: アミド結合を通じて一緒に結合される上記モノマーがアミノ酸残基であるポリマー。アミノ酸がα-アミノ酸である場合、L-光学異性体またはD-光学異性体のいずれかが使用され得る。用語「ペプチド」、「ポリペプチド」、または「タンパク質」は、本明細書で使用される場合、任意のアミノ酸配列を包含し、改変された配列を含むことが意図される。用語「ペプチド」および「ポリペプチド」は、天然に存在するタンパク質、および組換え生成または合成して生成されるものをも網羅することが具体的に意図される。
【0047】
保存的アミノ酸置換は、行われる場合、その元のタンパク質の特性に最小限に干渉する、すなわち、そのタンパク質の構造および特に機能が保存され、かつこのような置換によって有意に変化しないそれらの置換である。保存的置換の例は、以下に示される。
【表2-1】
【表2-2】
【0048】
保存的置換は一般に、(a)置換の領域中のポリペプチド骨格の構造(例えば、シートまたはらせんコンホメーションとして)、(b)標的部位における分子の電荷もしくは疎水性、または(c)側鎖のかさ高さを維持する。
【0049】
タンパク質特性において最も大きな変化、例えば、(a)親水性残基(例えば、セリンまたはスレオニン)が、疎水性残基(例えば、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、バリンまたはアラニン)で置換される;(b)システインまたはプロリンが任意の他の残基で置換される;(c)正電荷の側鎖を有する残基(例えば、リジン、アルギニン、またはヒスチジン)が、負電荷の残基(例えば、グルタミン酸またはアスパラギン酸)で置換される;あるいは(d)かさ高い側鎖を有する残基(例えば、フェニルアラニン)が、側鎖を有しないもの(例えば、グリシン)で置換される変化を生じると概して予測される置換は、非保存的である。
【0050】
薬学的に受容可能なキャリア: 本開示において有用な薬学的に受容可能なキャリア(ビヒクル)は、従来どおりのものである。Remington: The Science and Practice of Pharmacy, The University of the Sciences in Philadelphia編, Lippincott, Williams, & Wilkins, Philadelphia, PA, 第21版(2005)は、1またはこれより多くの治療用化合物、分子または薬剤(例えば、組換えTGF-β2モノマー)の医薬送達に適した組成物および製剤を記載する。
【0051】
一般に、キャリアの性質は、使用しようとしている特定の投与様式に依存する。例えば、非経口製剤は通常、薬学的におよび生理学的に受容可能な流体(例えば、ビヒクルとして、水、生理食塩水、平衡塩類溶液、水性デキストロース、グリセロールなど)を含む注射用の流体を含む。固体組成物(例えば、散剤、丸剤、錠剤またはカプセル剤形態)に関して、従来の非毒性固体キャリアとしては、例えば、製薬グレードのマンニトール、ラクトース、デンプン、またはステアリン酸マグネシウムが挙げられ得る。生物学的に中性のキャリアに加えて、投与されるべき医薬組成物は、少量の非毒性補助物質(例えば、湿潤剤もしくは乳化剤、保存剤、およびpH緩衝剤など(例えば、酢酸ナトリウムまたはソルビタンモノラウレート))を含み得る。
【0052】
疾患を防止、処置または改善する: 疾患を「防止する」とは、疾患の完全な発生を阻害することに言及する。「処置する」とは、疾患の徴候もしくは症状またはそれが発生してしまった後の病的状態を改善する(例えば、腫瘍負荷の低減(例えば、腫瘍の容積もしくはサイズの減少)または転移の数もしくはサイズの減少)治療的介入に言及する。「改善する」とは、疾患の徴候もしくは症状の数もしくは重篤度の低減に言及する。
【0053】
組換え: 組換え核酸、タンパク質もしくはウイルスは、天然に存在しない配列を有するか、または配列の2つの別個のセグメントを人工的に組み合わせることによって作製される配列を有するものである。この人工的組み合わせはしばしば、化学合成によって、または核酸の単離されたセグメントの人工的操作によって、例えば、遺伝子操作技術によって達成される。用語、組換えは、天然の核酸分子またはタンパク質の一部の付加、置換、または欠失によって変化させている核酸、タンパク質およびウイルスを含む。
【0054】
配列同一性/類似性: 2もしくはこれより多くの核酸配列、または2もしくはこれより多くのアミノ酸配列の間の同一性は、その配列の間の同一性または類似性に関して表される。配列同一性は、パーセンテージ同一性に関して測定され得る;そのパーセンテージが高いほど、配列はより同一である。配列類似性は、パーセンテージ類似性に関して測定され得る(これは、保存的アミノ酸置換を考慮している);そのパーセンテージが高いほど、配列はより類似である。核酸またはアミノ酸配列のホモログまたはオルソログは、標準的方法を使用して整列させる場合、比較的高い程度の配列同一性/類似性を有する。この相同性は、上記オルソログのタンパク質またはcDNAが、より関係性が遠い種(例えば、ヒト配列およびC.elegans配列)と比較して、より関係性が近い種(例えば、ヒト配列およびマウス配列)に由来する場合、より有意である。
【0055】
比較のための配列のアラインメント方法は、当該分野で周知である。種々のプログラムおよびアラインメントアルゴリズムは、以下に記載される: Smith & Waterman, Adv. Appl. Math. 2:482, 1981; Needleman & Wunsch, J. Mol. Biol. 48:443, 1970; Pearson & Lipman, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:2444, 1988; Higgins & Sharp, Gene, 73:237-44, 1988; Higgins & Sharp, CABIOS 5:151-3, 1989; Corpetら, Nuc. Acids Res. 16:10881-90, 1988; Huangら Computer Appls. in the Biosciences 8, 155-65, 1992;およびPearsonら, Meth. Mol. Bio. 24:307-31, 1994。Altschulら, J. Mol. Biol. 215:403-10, 1990は、配列アラインメント方法および相同性計算の詳細な考慮を示す。
【0056】
NCBI Basic Local Alignment Search Tool(BLAST)(Altschulら, J. Mol. Biol. 215:403-10, 1990)は、配列分析プログラム、blastp、blastn、blastx、tblastnおよびtblastxに関連して使用するために、いくつかの情報源(National Center for Biological Information (NCBI)を含む)からおよびインターネット上で入手可能である。さらなる情報は、NCBIウェブサイトで見出され得る。
【0057】
被験体: 脊椎動物を含む、生きている多細胞生物(ヒトおよび非ヒト哺乳動物の両方を含むカテゴリー)。
【0058】
タグ: タンパク質または核酸に(例えば、標識、検出または精製目的のために)結合され得る分子。いくつかの実装において、上記タグは、タンパク質タグである。いくつかの実装において、上記タンパク質タグは、アフィニティータグ(例えば、Avitag、ヘキサヒスチジン、キチン結合タンパク質、マルトース結合タンパク質、またはグルタチオン-S-トランスフェラーゼ)、エピトープタグ(例えば、V5、c-myc、HAまたはFLAG)または蛍光タグ(例えば、GFPまたは別の周知の蛍光タンパク質)である。
【0059】
治療上有効な量: 処置されている被験体において所望の効果を達成するために十分な、化合物または組成物、例えば、組換えTGF-β2モノマーの量。例えば、これは、細胞においてTGF-βシグナル伝達を阻害または遮断するために必要な量であり得る。他の場合には、これは、腫瘍の成長を阻害または抑制するために必要な量であり得る。1つの実装において、治療上有効な量は、例えば、処置の前のサイズ/容積/数と比較して、腫瘍を除去し、そのサイズを低減する、またはその転移を防止する(例えば、腫瘍サイズおよび/もしくは容積を、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも50%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、またはさらには100%低減する、ならびに/または転移の数および/もしくはサイズ/容積を、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも50%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、またはさらには100%低減する)ために必要な量である。1つの実装において、治療上有効な量は、例えば、上記組換えTGF-β2モノマーでの処置のない同じがんを有する被験体の生存時間と比較して、被験体の生存時間を、例えば、少なくとも3ヶ月、少なくとも4ヶ月、少なくとも5ヶ月、少なくとも6ヶ月、少なくとも9ヶ月、少なくとも1年、少なくとも1.5年、少なくとも2年、少なくとも3年、少なくとも4年、または少なくとも5年増加させるために必要な量である。他の場合には、上記治療上有効な量は、線維症を阻害または低減する、例えば、処置前と比較して、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも50%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、またはさらには100%低減するために必要な効果である。被験体に投与される場合、所望のインビトロでの効果を達成することが示されている標的組織濃度(例えば、腫瘍における)を達成する投与量が、一般に使用される。
【0060】
トランスフォーミング成長因子-β(TGF-β): 増殖、細胞分化および多くの他の細胞機能を調節する,分泌型の多機能タンパク質。多くの細胞は、TGF-βを合成し、ほぼ全ての細胞は、TGF-βに対するレセプターを発現する。用語「TGF-β」とは、遺伝子TGFB1、TGFB2、TGFB3によってそれぞれコードされる、3種の異なるタンパク質アイソフォーム、TGF-β1、TGF-β2およびTGF-β3に言及する。
【0061】
TGF-βシグナル伝達経路: 多くの細胞プロセス(例えば、細胞増殖、分化およびアポトーシス)に関与するシグナル伝達経路。TGF-β経路のメンバーとしては、TGF-β1、TGF-β2、TGF-β3、TGF-βレセプターI型およびTGF-βレセプターII型が挙げられるが、これらに限定されない。
【0062】
TGF-βレセプター: 用語「TGF-βレセプター」は、TGF-βレセプターI型(TGFBR1によってコードされるTβRI)およびTGF-βレセプターII型(TGFBR2によってコードされるTβRII)を含む。TGF-βレセプターは、セリン/スレオニンタンパク質キナーゼである。上記I型およびII型のTGF-βレセプターは、TGF-βに結合した場合、ヘテロダイマー複合体を形成し、細胞表面から細胞質へとTGF-βシグナルを伝達する。
【0063】
III.組換えTGF-β2モノマー
ダイマー化を防止し、TGF-βシグナル伝達を遮断するように操作されたTGF-β2モノマーが、本明細書で開示される。上記操作されたモノマーは、TGF-βI型レセプター(TβRI)を結合および動員する能力を欠いているが、高親和性TGF-β II型レセプター(TβRII)を結合する能力を保持する。本開示のTGF-β2モノマーはまた、それらのTβRIIに対する親和性を増加させる、それらの凝集を低減する、および/またはそれらの折りたたみを改善するさらなる改変を含む。本開示のTGF-β2モノマーおよびその組成物は、例えば、細胞または被験体においてTGF-βシグナル伝達を阻害するために、または異常なTGF-βシグナル伝達と関連する障害(例えば、線維性障害、がん、眼疾患または結合組織の遺伝的障害)を処置するために使用され得る。
【0064】
野生型ヒトTGF-β2(配列番号1として示される)のアミノ酸残基52~71に相当するα3ヘリックスの欠失、および配列番号1の残基77に相当するアミノ酸残基においてシステインからアルギニン(もしくはセリン)への置換を含む組換えTGF-β2モノマーが、本明細書で提供される;これらの改変は、上記モノマーのダイマー化を防止する。上記TGF-β2モノマーはさらに、配列番号1の残基51に相当するアミノ酸残基においてロイシンからアルギニンへの置換、および配列番号1の残基74に相当するアミノ酸残基においてアラニンからリジンへの置換を含む;これらの改変は、上記モノマーの正味の電荷を増加させる。上記TGF-β2モノマーはまた、配列番号1の残基25に相当するアミノ酸残基においてリジンからアルギニンへの置換、および配列番号1の残基94に相当するアミノ酸残基においてリジンからアルギニンへの置換を含み、これは、TβRIIに対する親和性を増強する。上記TGF-β2モノマーは、必要に応じてさらに、TβRIIに対する上記モノマーの親和性を増加させる、凝集を低減する、および/または折りたたみを改善する1またはこれより多くのさらなる改変を含む。
【0065】
いくつかの実装において、上記TGF-β2モノマーは、配列番号1の残基26に相当するアミノ酸残基においてアルギニンからリジンへの置換;配列番号1の残基79に相当するアミノ酸残基においてバリンからアルギニンへの置換;配列番号1の残基89に相当するアミノ酸残基においてロイシンからバリンへの置換;配列番号1の残基92に相当するアミノ酸残基においてイソロイシンからバリンへの置換;配列番号1の残基95に相当するアミノ酸残基においてスレオニンからリジンへの置換;および配列番号1の残基98に相当するアミノ酸残基においてイソロイシンからバリンへの置換をさらに含む。いくつかの例では、上記TGF-β2モノマーは、配列番号1の残基77に相当するアミノ酸残基においてシステインからアルギニンへの置換を有する。特定の例において、上記TGF-β2モノマーのアミノ酸配列は、配列番号4と(上記に列挙したアミノ酸置換を保持しながら)少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%同一である。具体的な非限定的例では、上記TGF-β2モノマーのアミノ酸配列は、配列番号4として本明細書で示されるmmTGF-β2-7M2Rのアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる。
【0066】
他の実装において、上記TGF-β2モノマーは、配列番号1の残基7に相当するアミノ酸残基においてシステインからバリンへの置換;および配列番号1の残基16に相当するアミノ酸残基においてシステインからアラニンへの置換をさらに含む。いくつかの例では、上記TGF-β2モノマーは、配列番号1の残基77に相当するアミノ酸残基においてシステインからセリンへの置換を有する。特定の例では、上記TGF-β2モノマーのアミノ酸配列は、配列番号5と(上記に列挙したアミノ酸置換を保持しながら)少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%同一である。具体的な非限定的例では、上記TGF-β2モノマーのアミノ酸配列は、配列番号5として本明細書で示されるmmTGF-β2-2M-Del7-16のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる。
【0067】
他の実装において、上記TGF-β2モノマーは、配列番号1の残基7に相当するアミノ酸残基においてシステインからバリンへの置換;配列番号1の残基16に相当するアミノ酸残基においてシステインからアラニンへの置換;配列番号1の残基26に相当するアミノ酸残基においてアルギニンからリジンへの置換;配列番号1の残基79に相当するアミノ酸残基においてバリンからアルギニンへの置換;配列番号1の残基89に相当するアミノ酸残基においてロイシンからバリンへの置換;配列番号1の残基92に相当するアミノ酸残基においてイソロイシンからバリンへの置換;配列番号1の残基95に相当するアミノ酸残基においてスレオニンからリジンへの置換;および配列番号1の残基98に相当するアミノ酸残基においてイソロイシンからバリンへの置換をさらに含む。いくつかの例では、上記TGF-β2モノマーは、配列番号1の残基77に相当するアミノ酸残基においてシステインからアルギニンへの置換を有する。特定の例では、上記TGF-β2モノマーのアミノ酸配列は、配列番号6と(上記に列挙したアミノ酸置換を保持しながら)少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%同一である。具体的な非限定的例では、上記TGF-β2モノマーのアミノ酸配列は、配列番号6として本明細書で示されるmmTGF-β2-7M2R-Del7-16(「バリアント1」または「var1」)のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる。
【0068】
上記モノマーの折りたたみを増強するために、DanおよびCerberusに関係するタンパク質(PRDC)のシスチンノット領域を含むように改変されている組換えTGF-β2モノマーがまた、本明細書で提供される。いくつかの実装において、上記TGF-β2モノマーのアミノ酸配列は、配列番号7と少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%同一である。特定の例では、上記TGF-β2モノマーのアミノ酸配列は、配列番号7として本明細書で示されるmmTGF-β2-7M-PRDCのアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる。
【0069】
本明細書中のいくつかの実装において、上記組換えTGF-β2モノマーは、PEG化、グリコシル化、高グリコシル化されるか、または循環時間を延ばす別の改変を含む。
【0070】
いくつかの実装において、上記組換えTGF-β2モノマーは、放射線治療剤、化学療法のための細胞傷害性薬剤、薬物、イメージング剤、蛍光色素、または蛍光性タンパク質タグをさらに含む。
【0071】
TGF-β2モノマーおよび異種タンパク質を含む融合タンパク質がまた、本明細書で提供される。いくつかの実装において、上記異種タンパク質は、タンパク質タグである。いくつかの例では、上記タンパク質タグは、アフィニティータグ(例えば、Avitag、ヘキサヒスチジン、キチン結合タンパク質、マルトース結合タンパク質、またはグルタチオン-S-トランスフェラーゼ)、エピトープタグ(例えば、V5、c-myc、HAまたはFLAG)または蛍光タグ(例えば、GFPまたは別の周知の蛍光タンパク質)である。
【0072】
他の実装において、上記異種タンパク質は、Fcドメイン(例えば、マウスまたはヒトFcドメイン)を含む。具体的な実装において、上記異種タンパク質は、上記融合タンパク質のホモダイマー状態(例えば、ヒトIgG1、IgG2、IgG3に由来するFcドメイン)、ヘテロダイマー状態(例えば、操作されたFcドメイン、E/Kコイルドコイル)、またはマルチマー状態(例えば、ペンタボディ、ナノ粒子)への分子間会合を促進する。従って、いくつかの例では、上記融合タンパク質は、1本鎖ポリペプチドである。他の例では、上記融合タンパク質は、ダイマーまたはマルチマーポリペプチドを形成する。具体的な例では、上記融合タンパク質は、ヘテロダイマーである。
【0073】
他の実装において、上記異種タンパク質は、アルブミン、アルブミン結合タンパク質もしくは作用物質(agent)、または上記TGF-βモノマーの循環時間をインビボで増加させる別のタンパク質である。
【0074】
本明細書で開示される組換えTGF-β2モノマーまたは融合タンパク質をコードする単離された核酸分子が、本明細書でさらに提供される。いくつかの実装において、上記核酸分子は、プロモーター、例えば、T細胞特異的プロモーターに作動可能に連結されている。
【0075】
開示される核酸分子を含むベクターがまた、提供される。いくつかの例では、上記ベクターは、ウイルスベクター(例えば、レンチウイルスベクター)である。本明細書で開示される核酸分子またはベクターを含む単離された細胞が、さらに提供される。いくつかの例では、上記細胞は、T細胞である。上記細胞は、上記被験体に対して自己であり得るか、またはそれらは、異種(同種異系)であり得る。
【0076】
本明細書で開示される組換えTGF-β2モノマー、融合タンパク質、核酸分子、ベクター、または単離された細胞、および薬学的に受容可能なキャリア、希釈剤、または賦形剤を含む組成物がさらに、本明細書で提供される。
【0077】
細胞においてTGF-βシグナル伝達を阻害する方法がまた、本明細書で提供される。いくつかの実装において、上記方法は、上記細胞と、有効量の、本明細書で開示される組換えTGF-β2モノマー、融合タンパク質、核酸分子、ベクター、単離された細胞または組成物とを接触させることを包含する。いくつかの例では、上記方法は、インビトロでの方法である。他の例では、上記方法は、エキソビボでの方法である。さらに別の例では、上記方法は、インビトロでの方法である。
【0078】
異常なTGF-βシグナル伝達と関連する疾患または障害を有する被験体においてTGF-βシグナル伝達を阻害する方法が、さらに提供される。いくつかの実装において、上記方法は、上記被験体に、有効量の本明細書で開示される組換えTGF-β2モノマー、融合タンパク質、核酸分子、ベクター、単離された細胞または組成物を投与することを包含する。いくつかの例では、異常なTGF-βシグナル伝達と関連する上記疾患または障害は、線維性障害(例えば、肺線維症、嚢胞性線維症、特発性肺線維症、間質性肺疾患、肝硬変、腎線維症(例えば、糖尿病によって引き起こされる損傷に由来する)、心房線維症、心内膜心筋線維症、アテローム動脈硬化症、再狭窄、強皮症、または手術の合併症、化学療法薬、放射線、傷害もしくは熱傷によって引き起こされる線維症が挙げられるが、これらに限定されない)である。他の例では、異常なTGF-βシグナル伝達と関連する上記疾患または障害は、乳がん、脳がん、膵臓がん、前立腺がん、皮膚がん、膀胱がん、肝臓がん、卵巣がん、腎がん、子宮内膜がん、結腸直腸がん、胃がん、皮膚がん(例えば、悪性黒色腫)、または甲状腺がんである。他の例では、異常なTGF-βシグナル伝達と関連する上記疾患または障害は、眼疾患である。さらに他の例では、異常なTGF-βシグナル伝達と関連する上記疾患または障害は、結合組織の遺伝的障害である。
【0079】
被験体において異常なTGF-βシグナル伝達と関連する疾患または障害を処置する方法が、さらに提供される。いくつかの実装において、上記方法は、上記被験体に、治療上有効な量の、本明細書で開示される組換えTGF-β2モノマー、融合タンパク質、核酸分子、ベクター、単離された細胞または組成物を投与することを包含する。いくつかの例では、異常なTGF-βシグナル伝達と関連する上記疾患または障害は、線維性障害(例えば、肺線維症、嚢胞性線維症、特発性肺線維症、間質性肺疾患、肝硬変、腎線維症(例えば、糖尿病によって引き起こされる損傷に由来する)、心房線維症、心内膜心筋線維症、アテローム動脈硬化症、再狭窄、強皮症、または手術の合併症、化学療法薬、放射線、傷害もしくは熱傷によって引き起こされる線維症が挙げられるが、これらに限定されない)である。他の例では、異常なTGF-βシグナル伝達と関連する上記疾患または障害は、乳がん、脳がん、膵臓がん、前立腺がん、皮膚がん、膀胱がん、肝臓がん、卵巣がん、腎がん、子宮内膜がん、結腸直腸がん、胃がん、皮膚がん(例えば、悪性黒色腫)、または甲状腺がんである。他の例では、異常なTGF-βシグナル伝達と関連する上記疾患または障害は、眼疾患である。さらに他の例では、異常なTGF-βシグナル伝達と関連する上記疾患または障害は、結合組織の遺伝的障害である。
【0080】
IV.操作されたTGF-βモノマーの投与
組換えヒトTGF-β2モノマー、融合タンパク質、またはTGF-β2モノマーもしくは融合タンパク質をコードする核酸分子もしくはベクターを含む組成物(例えば、医薬組成物)が、本明細書で提供される。組換えヒトTGF-β2モノマー(もしくはその融合タンパク質)をコードするベクターを含む単離された細胞(例えば、T細胞)を含む組成物がまた、提供される。いくつかの実装において、上記組成物は、薬学的に受容可能なキャリア、希釈剤または賦形剤を含む。
【0081】
本開示において有用な薬学的に受容可能なキャリアおよび賦形剤は、従来どおりのものである。例えば、Remington: The Science and Practice of Pharmacy, The University of the Sciences in Philadelphia, 編, Lippincott, Williams, & Wilkins, Philadelphia, PA, 第21版(2005)を参照のこと。例えば、非経口製剤は通常、薬学的におよび生理学的に受容可能な流体ビヒクル(例えば、水、生理食塩水、他の平衡塩類溶液、水性デキストロース、グリセロールなど)である注射用の流体を含む。固体組成物(例えば、散剤、丸剤、錠剤またはカプセル剤形態)に関して、従来の非毒性固体キャリアとしては、例えば、製薬グレードのマンニトール、ラクトース、デンプン、またはステアリン酸マグネシウムが挙げられ得る。生物学的に中性のキャリアに加えて、投与されるべき医薬組成物は、少量の非毒性補助物質(例えば、湿潤剤もしくは乳化剤、保存剤、およびpH緩衝剤など(例えば、酢酸ナトリウムまたはソルビタンモノラウレート))を含み得る。含まれ得る賦形剤は、例えば、他のタンパク質(例えば、ヒト血清アルブミンまたは血漿調製物)である。
【0082】
細胞の投与に関しては、上記細胞を導入するための種々の水性キャリアが使用され得る(例えば、緩衝食塩水など)。これらの溶液は無菌であり、概して望ましくない物質を含まない。これらの組成物は、従来の周知の滅菌技術によって滅菌され得る。上記組成物は、生理学的条件に近づけるために必要とされる場合の薬学的に受容可能な補助物質(例えば、pH調整剤および緩衝剤、張度調整剤(toxicity adjusting agent)など(例えば、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、乳酸ナトリウムなど))を含み得る。これらの製剤中での濃度は、広く変動し得、選択される特定の投与様式および被験体の必要性に応じて、主に、液量(fluid volume)、粘性、体重などに基づいて選択される。
【0083】
上記組成物の投与形態は、選択される投与様式によって決定される。例えば、注射用流体に加えて、局所製剤、吸入製剤、経口製剤および坐剤製剤が使用され得る。局所的調製物としては、点眼剤、軟膏剤、スプレー、パッチなどが挙げられ得る。吸入調製物は、液体(例えば、液剤および懸濁剤)であり得、ミスト、スプレーなどを含み得る。経口製剤は、液体(例えば、シロップ剤、液剤または懸濁剤)、または固体(例えば、散剤、丸剤、錠剤、またはカプセル剤)であり得る。坐剤調製物はまた、固体、ゲルであり得るか、または懸濁物形態にあり得る。固体組成物に関しては、従来の非毒性固体キャリアとしては、製薬グレードのマンニトール、ラクトース、デンプン、またはステアリン酸マグネシウムが挙げられ得る。このような投与形態を調製する実際の方法は、当業者に公知であるかまたは明らかである。
【0084】
組換えヒトTGF-β2モノマーまたは融合タンパク質(またはTGF-β2モノマーもしくは融合タンパク質をコードする核酸分子/ベクター)を含む組成物(例えば、医薬組成物)が、正確な投与量の個々の投与に適した単位投与形態で製剤化され得る。投与されるTGF-β2モノマー、融合タンパク質、核酸分子またはベクターの量は、処置されている被験体、苦痛の重篤度、および投与様式に依存し、処方する臨床医の判断に委ねられるのが最良である。これらの範囲内で、投与されるべき製剤は、処置されている被験体において所望の効果を達成するために十分な量の活性な構成成分(複数可)の量を含み得る。
【0085】
上記TGF-β2モノマー、またはその組成物は、それらが種々の様式で(例えば、局所的に、経口的に、静脈内に、筋肉内に、腹腔内に、鼻内に、皮内に、髄腔内に、皮下に、吸入を介してまたは坐剤を介して)有効である組織に対して、ヒトまたは他の動物に投与され得る。特定の投与様式および投与レジメンは、その症例の詳細(例えば、被験体、疾患、関わっている疾患状態、および処置が予防的であるかどうか)を考慮に入れて、担当臨床医によって選択される。処置は、数日から数ヶ月、またはさらには数年の期間にわたって、化合物(複数可)の毎日の投与または毎日複数回投与を要し得る。
【0086】
V.例示的条項
条項1.組換えトランスフォーミング成長因子(TGF)-β2モノマーであって、
配列番号1の残基77に相当するアミノ酸残基において、システインからセリンへの置換、またはシステインからアルギニンへの置換;
配列番号1のアミノ酸残基52~71に相当するα3ヘリックスの欠失;
配列番号1の残基25に相当するアミノ酸残基において、リジンからアルギニンへの置換;
配列番号1の残基51に相当するアミノ酸残基において、ロイシンからアルギニンへの置換;
配列番号1の残基74に相当するアミノ酸残基において、アラニンからリジンへの置換;
配列番号1の残基94に相当するアミノ酸残基において、リジンからアルギニンへの置換;
(i)配列番号1の残基26に相当するアミノ酸残基において、アルギニンからリジンへの置換;配列番号1の残基79に相当するアミノ酸残基において、バリンからアルギニンへの置換;配列番号1の残基89に相当するアミノ酸残基において、ロイシンからバリンへの置換;配列番号1の残基92に相当するアミノ酸残基においてイソロイシンからバリンへの置換;配列番号1の残基95に相当するアミノ酸残基においてスレオニンからリジンへの置換;および配列番号1の残基98に相当するアミノ酸残基においてイソロイシンからバリンへの置換;
(ii)配列番号1の残基7に相当するアミノ酸残基においてシステインからバリンへの置換;および配列番号1の残基16に相当するアミノ酸残基においてシステインからアラニンへの置換;または
(iii)配列番号1の残基7に相当するアミノ酸残基においてシステインからバリンへの置換;配列番号1の残基16に相当するアミノ酸残基においてシステインからアラニンへの置換;配列番号1の残基26に相当するアミノ酸残基においてアルギニンからリジンへの置換;配列番号1の残基79に相当するアミノ酸残基においてバリンからアルギニンへの置換;配列番号1の残基89に相当するアミノ酸残基においてロイシンからバリンへの置換;配列番号1の残基92に相当するアミノ酸残基においてイソロイシンからバリンへの置換;配列番号1の残基95に相当するアミノ酸残基においてスレオニンからリジンへの置換;および配列番号1の残基98に相当するアミノ酸残基においてイソロイシンからバリンへの置換、
を含む、組換えTGF-β2モノマー。
【0087】
条項2.配列番号1の残基77に相当するアミノ酸残基においてシステインからアルギニンへの置換を含む、条項1に記載の組換えTGF-β2モノマー。
【0088】
条項3.前記TGF-β2モノマーのアミノ酸配列は、配列番号4を含むかまたはそれからなる、条項2に記載の組換えTGF-β2モノマー。
【0089】
条項4.前記TGF-β2モノマーのアミノ酸配列は、配列番号6を含むかまたはそれからなる、条項2に記載の組換えTGF-β2モノマー。
【0090】
条項5.配列番号1の残基77に相当するアミノ酸残基においてシステインからセリンへの置換を含む、条項1に記載の組換えTGF-β2モノマー。
【0091】
条項6.前記TGF-β2モノマーのアミノ酸配列は、配列番号5を含むかまたはそれからなる、条項5に記載の組換えTGF-β2モノマー。
【0092】
条項7.組換えトランスフォーミング成長因子(TGF)-β2モノマーであって、前記TGF-β2モノマーのアミノ酸配列は、配列番号7を含むかまたはそれからなる、組換えTGF-β2モノマー。
【0093】
条項8.PEG化されている、条項1~7のいずれか一項に記載の組換えTGF-β2モノマー。
【0094】
条項9.グリコシル化または高グリコシル化されている、条項1~7のいずれか一項に記載の組換えTGF-β2モノマー。
【0095】
条項10.放射線治療剤、化学療法のための細胞傷害性薬剤、薬物、イメージング剤、蛍光色素、または蛍光性タンパク質タグをさらに含む、条項1~9のいずれか一項に記載の組換えTGF-β2モノマー。
【0096】
条項11.条項1~10のいずれか一項に記載の組換えTGF-β2モノマーおよび異種タンパク質を含む、融合タンパク質。
【0097】
条項12.前記異種タンパク質は、タンパク質タグ、Fcドメイン、アルブミン、アルブミン結合ポリペプチド、抗体、抗体の抗原結合フラグメントまたは標的化部分を含む、条項11に記載の融合タンパク質。
【0098】
条項13.前記融合タンパク質は、1本鎖ポリペプチドである、条項11または条項12に記載の融合タンパク質。
【0099】
条項14.前記融合タンパク質は、ダイマーポリペプチドを形成する、条項11または条項12に記載の融合タンパク質。
【0100】
条項15.前記融合タンパク質は、ヘテロダイマーのものである、条項11または条項12に記載の融合タンパク質。
【0101】
条項16.前記融合タンパク質は、マルチマーのものである、条項11または条項12に記載の融合タンパク質。
【0102】
条項17. 条項1~10のいずれか1項に記載の組換えTGF-β2モノマーまたは条項11~16のいずれか1項に記載の融合タンパク質をコードする、単離された核酸分子。
【0103】
条項18. プロモーターに作動可能に連結されている、条項17に記載の核酸分子。
【0104】
条項19. 条項17または条項18に記載の核酸分子を含む、ベクター。
【0105】
条項20. 条項17もしくは条項18に記載の核酸分子、または条項19に記載のベクターを含む、単離された細胞。
【0106】
条項21. 前記細胞は、Tリンパ球である、条項20に記載の単離された細胞。
【0107】
条項22.
条項1~10のいずれか1項に記載の組換えTGF-β2モノマー、条項11~16のいずれか1項に記載の融合タンパク質、条項17もしくは条項18に記載の核酸分子、条項19に記載のベクター、または条項20もしくは条項21に記載の単離された細胞;および
薬学的に受容可能なキャリア、希釈剤、または賦形剤、
を含む、組成物。
【0108】
条項23. 細胞におけるTGF-βシグナル伝達を阻害する方法であって、前記細胞と、有効量の、条項1~10のいずれか1項に記載の組換えTGF-β2モノマー、条項11~16のいずれか1項に記載の融合タンパク質、条項17もしくは条項18に記載の核酸分子、条項19に記載のベクター、条項20もしくは条項21に記載の単離された細胞、または条項22に記載の組成物とを接触させることを包含する方法。
【0109】
条項24. 異常なTGF-βシグナル伝達と関連する疾患または障害を有する被験体においてTGF-βシグナル伝達を阻害する方法であって、前記被験体に、有効量の条項1~10のいずれか1項に記載の組換えTGF-β2モノマー、条項11~16のいずれか1項に記載の融合タンパク質、条項17もしくは条項18に記載の核酸分子、条項19に記載のベクター、条項20もしくは条項21に記載の単離された細胞、または条項22に記載の組成物を投与することを包含する方法。
【0110】
条項25. 被験体において異常なTGF-βシグナル伝達と関連する疾患または障害を処置する方法であって、上記被験体に、治療上有効な量の条項1~10のいずれか1項に記載の組換えTGF-β2モノマー、条項11~16のいずれか1項に記載の融合タンパク質、条項17もしくは条項18に記載の核酸分子、条項19に記載のベクター、条項20もしくは条項21に記載の単離された細胞、または条項22に記載の組成物を投与することを包含する方法。
【0111】
条項26. 異常なTGF-βシグナル伝達と関連する前記疾患または障害は、線維性障害である、条項24または条項25に記載の方法。
【0112】
条項27. 異常なTGF-βシグナル伝達と関連する前記疾患または障害は、乳がん、脳がん、膵臓がん、前立腺がん、皮膚がん、膀胱がん、肝臓がん、卵巣がん、腎がん、子宮内膜がん、結腸直腸がん、胃がん、皮膚がんまたは甲状腺がんである、条項24または条項25に記載の方法。
【0113】
条項28. 異常なTGF-βシグナル伝達と関連する前記疾患または障害は、眼疾患である、条項24または条項25に記載の方法。
【0114】
条項29. 異常なTGF-βシグナル伝達と関連する前記疾患または障害は、結合組織の遺伝的障害である、条項24または条項25に記載の方法。
【実施例】
【0115】
実施例
実施例1: インビボでの投与のための改変されたTGF-β2モノマー
本実施例は、TGF-β2モノマーのインビボでの送達を増強するための改変を評価する試験を記載する。
【0116】
ダイマー化を防止し、それによって、TGF-βI型レセプター(TβRI)への結合および動員を防止するように操作されたTGF-βモノマーは、WO 2018/094173(これは、その全体において本明細書に参考として援用される)に記載される。上記TGF-β2モノマー、mmTGF-β2-7Mは、ダイマー化を防止するためにC77S置換およびα3ヘリックスの欠失を含み、高親和性TβRII結合を増強する7つのアミノ酸置換およびその電荷、従ってその溶解度を増加させるための2つの置換された塩基性残基をさらに含む(
図1A)。このモノマーの特性を改善するために、mmTGF-β2-7Mの4つのバリアントを生成した(配列番号4~7)。これらは、表1および
図1B~1Eに記載される。単一のアミノ酸置換および欠失の位置は、配列番号1に示されるヒトTGF-β2に対するものである。
表1. TGF-βモノマーバリアント
【表1-1】
【表1-2】
【0117】
以下でより詳細に記載されるように、C77のアルギニンでの置換は、mmTGF-β2-7Mにおけるとおりのセリンの代わりに、V79のアルギニンでの置換とともに、モノマー形成を可能にし、mmTGF-β2-7M2Rの凝集を低減した(
図1B)。誤った折りたたみの低減を、C7VおよびC16A置換のいずれかによって(mmTGF-β2-2M-Del7-16;
図1C)、またはシスチンノット領域のPRDCのものでの置き換えによって(mmTGF-β2-7M-PRDC;
図1D)、C7-C16ジスルフィドの除去によって達成した。モノマー、mmTGF-β2-7M2R-Del7-16(
図1E)は、凝集を低減しかつ折りたたみを改善する改変を含む。
配列番号1 - WT ヒト TGF-β2 ALDAAYCFRNVQDNCCLRPLYIDFKRDLGWKWIHEPKGYNANFCAGACPYLWSSDTQHSKVLSLYNTINPEASASPCCVSQDLEPLTILYYIGKTPKIEQLSNMIVKSCKCS
配列番号2 - mmTGF-β2 ALDAAYCFRNVQDNCCLRPLYIDFKRDLGWKWIHEPKGYNANFCAGACPYRASKSPSCVSQDLEPLTILYYIGKTPKIEQLSNMIVKSCKCS
配列番号3 - mmTGF-β2-7M
ALDAAYCFRNVQDNCCLRPLYIDFRKDLGWKWIHEPKGYNANFCAGACPYRASKSPSCVSQDLEPLTIVYYVGRKPKVEQLSNMIVKSCKCS
配列番号4 - mmTGF-β2-7M2R
ALDAAYCFRNVQDNCCLRPLYIDFRKDLGWKWIHEPKGYNANFCAGACPYRASKSPRCRSQDLEPLTIVYYVGRKPKVEQLSNMIVKSCKCS
配列番号5 - mmTGF-β2-2M-Del7-16
ALDAAYVFRNVQDNCALRPLYIDFRRDLGWKWIHEPKGYNANFCAGACPYRASKSPSCVSQDLEPLTILYYIGRTPKIEQLSNMIVKSCKCS
配列番号6 - mmTGF-β2-7M2R-Del7-16
ALDAAYVFRNVQDNCALRPLYIDFRKDLGWKWIHEPKGYNANFCAGACPYRASKSPRCRSQDLEPLTIVYYVGRKPKVEQLSNMIVKSCKCS
配列番号7 - mmTGF-β2-7M-PRDC
KEVLASSQEALVVTERKYLKSDWCKLRPLYIDFRKDLGWKWIHEPKGYNANFCYGQCNSFYIPRHVKKEEDSFQSSAFCVSQDLEPLTIVYYVGRKPKVEQLSNMIVKSCRCMSV
【0118】
いくつかの実装において、上記の配列のうちのいずれかは、N末端メチオニン(M)残基を含む。
【0119】
凝集する傾向の除去または低減
mmTGF-β2-7Mが凝集する傾向を除去または低減する改変を、先ず調査した。上記操作されたmmTGF-β2-7M モノマーは、凝集する傾向が野生型TGF-β2よりはるかに低いことは以前に示されたが、にもかかわらず、mmTGF-β2-7Mは、ある種の凝集する傾向を保持する(Kimら, J Biol Chem 292(17):7173-7188, 2017)。これは、非変性洗浄剤 3-[(3-コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-1-プロパンスルホネート(CHAPS)の非存在下(
図2D、2E)またはその存在下(
図2F)のいずれかで記録した場合に、二次元
1H-
15N NMRシフト相関(HSQC, heteronuclear single-quantum correlation)スペクトルによって検出されるように、アミド骨格
1H-
15Nシグナルの出現から明らかになった。CHAPSの非存在下では、骨格アミドシグナルは、非常に強度において変動性であり、いくらかは、特に、タンパク質の可溶性がpH4.6でのものと比較して低減されることが公知であるpH7.2では、ほとんど検出可能でなかった。シグナル強度におけるこの変動タイプは、より高次の凝集物の一過性の形成によって引き起こされる。このような凝集物の形成は、タンパク質の回転相関時間(τ
c)を長くし、従って、NMRシグナルを広くし、シグナル強度を減少させる。pH4.6または7.2のいずれかにおいてCHAPSの漸増濃度を添加すると、多くのシグナルの強度において改善、および従って、観察されるスペクトルにおいてこれらの均質性の増加がもたらされことが観察された(
図2F)。シグナル強度における改善は、CHAPSの濃度に依存し、実質的な改善は、約10mMの濃度まで起こった。
【0120】
CHAPSがmmTGF-β2-7Mの凝集を低減するにあたって果たした役割は、野生型のTGF-β2ホモダイマーがダイマー境界の一部であったフィンガーの基部として最もよく記載される、分子の領域に残っているいくつかの疎水性残基を介した凝集物の一過性の形成に起因するという仮説が立てられた(
図1A)。凝集物形成に対してほとんど効果を有しないことが見出されたいくつかの置換を試験したが、mmTGF-β2-7Mにおける2つの残基のアルギニンへの置換、S57RおよびV59R(
図1B)は、配列番号1の野生型ヒトTGF-β2に関するC77SおよびV79R置換に相当し、凝集する傾向を有意に低減した。アルギニンで置き換えられた2つの残基を有するmmTGF-β2-7Mのこのバリアントは、mmTGF-β2-7M2R(配列番号4)と称される。凝集する傾向の低減に関する証拠は、pHまたは非変性CHAPSが添加されたか否かにかかわらず、このバリアントに関して観察された遙かにより均一なNMRシグナル強度であった(
図2A~2C)。
【0121】
折りたたみを改善する改変
TGF-βタンパク質は、シスチンノット成長因子折りたたみ(CKGF)を有するとして分類されるモノマーから形成される(Hinckら, Cold Spring Harb Prospect Biol 8(12):a022103, 2016)。この折りたたみは、TGF-βファミリーの全てのタンパク質において存在するが、ヒトにおける多くの他のシグナル伝達タンパク質およびシグナル伝達タンパク質アンタゴニストにおいても見出される。これらとしては、シグナル伝達タンパク質である、血小板由来成長因子(PDGF)、血管内皮成長因子(VEGF)、および神経成長因子(NGF)ならびにアンタゴニスト(例えば、ノギン、スクレロスチン、およびDanおよびCerberusに関係するタンパク質(PRDC)が挙げられる。TGF-βファミリーのタンパク質は、CKGFタンパク質の中でも、それらが全て、N末端プロドメインを有するという点で特有である。プロドメインの役割はなお調査されている最中であるが、それらは、上記ファミリーの多くのタンパク質に対して調節的な役割を有することが公知である(Hinckら, Cold Spring Harb Prospect Biol 8(12):a022103, 2016)。この調節は、成長因子ドメイン(GFD)へのプロドメインの結合からもたらされ、ときおり、十分な(ナノモル濃度からサブナノモル濃度までの)親和性が、GFDがI型およびII型レセプターを結合する能力を完全に遮断する。いくつかのプロドメイン(例えば、TGF-β1、TGF-β2、およびTGF-β3に関するもの)は、GFDと非常に高親和性で結合するのみならず、従って、それらが活性化されるまで不活性(潜伏性)形態を維持するが、GFDの適切な折りたたみのために必要とともされる。TGF-βのGFDは、他のCKGFタンパク質のものと同様に、シスチンノット(これは、3つのジスルフィドによって安定化された構造モチーフである)によって特徴づけられる(Schwarz, Biol Chem 398(12): 1295-1308, 2017)。3つのジスルフィドは、空間中で互いに非常に近いので、それらの形成は複雑であり、正確なものに加えて、多くの可能な代替のトポロジー配置が存在する。
【0122】
これは、シスチンノット(ならびに1つのさらなるジスルフィド(8-17ジスルフィド(配列番号1に関して残基7および16でのシステインに相当し、従って本明細書中で「7-16」といわれる)として公知)を保持することから、mmTGF-β2-7Mに関連している。mmTGF-β2-7Mタンパク質を生成する1つの方法は、これを細菌において不溶性封入体の形態において発現し、そのタンパク質を再折りたたみして、ジスルフィドの天然の対を形成することである(Huang and Hinck, Methods Mol Biol 1344:63-92, 2016)。全体的な折りたたみ収量は、にもかかわらず、誤った折りたたみおよびその8つのシステイン残基の不適切な対形成の結果として形成する凝集物によって限られている。mmTGF-β2-7Mタンパク質はまた、分泌型タンパク質として(しかし、野生型TGF-βホモダイマーとは異なり、プロドメインがない)真核生物宿主中でタンパク質を発現することによって生成され得る。しかし、mmTGF-β2-7Mの発現のためにこの方法を使用しようとする試みは、有意な誤って折りたたまれたジスルフィド結合凝集物の形成をもたらした。
【0123】
従って、mmTGF-β2-7Mの折りたたみを改善することを目的とした改変を調査した。折りたたみを改善するために、mmTGF-β2-7Mの4つのジスルフィドの各々を、一度に1つのジスルフィドずつ除去した。これを行うために、各ジスルフィドを形成する2つのシステインを、バリン-アラニン対で置換し、次いで、その改変したタンパク質を発現させ、再折りたたみし、以前の手順に従って精製した(Kimら, J Biol Chem 292(17):7173-7188, 2017)。天然に折りたたまれたタンパク質を獲得する可能性を高めるために、上記置換を、上記操作されたTGF-β2モノマーの文脈で、しかしただ2つの本質的な残基、K25およびK94で生成し、mmTGF-β2-7Mにおけるとおりの7つの置換の代わりに、TGF-β1のものに変化させた。これらのバリアントは、TβRIIを高親和性で結合するが、改善された効率で折りたたまれるとなお予測された。なぜならTGF-β2は、TGF-β1より遙かに高い効率で折りたたまれることが公知だからである(Huang and Hinck, Methods Mol Biol 1344:63-92, 2016)。結果は、このバックグラウンドにおいて、7-16ジスルフィドを形成するシステインをバリンおよびアラニンで置換したバリアント(mmTGF-β2-2M-Del7-16と称される(配列番号5;
図1C))が、天然に折りたたまれる(
図3A~3C)が、他の3つのジスルフィドを除去したバリアント(15-78、44-109および48-111)は、非天然であることを示した。CHAPSの非存在下でのNMRシグナル強度には著しく有意な、凝集を示唆するバリエーションがあったが、これらの不均衡は、CHAPSを添加すると少なくなる(
図3A~3C)。7-16ジスルフィドが、タンパク質の折りたたみを破壊することなく除去され得るという事実は、上記タンパク質が細菌中で生成され、インビトロで再折りたたまれようが、または分泌型タンパク質として真核生物中で上記タンパク質が生成されるとしても、これが折りたたみにおいて有意な改善をもたらし得ることを示す。
【0124】
調査した改変の第3のタイプはまた、mmTGF-β2-7Mの折りたたみを改善することを目的とした。選択したストラテジーは、いくつかのCKGFタンパク質が存在する(例えば、天然にモノマーとして生成され、プロドメインを有さず、折りたたみに関してもプロドメインに依拠しない骨形成タンパク質(BMP)アンタゴニストPRDC)という事実を利用することであった。PRDCの折りたたみにおける潜在的な改善を利用するが、高親和性TβRII結合を保持するために、キメラmmTGF-β2-7M:PRDC構築物を生成し、ここでmmTGF-β2-7Mのフィンガー1-2および3-4領域(これは、TβRIIの結合を担う領域である)を、PRDCのシスチンノット領域に移植した。この構築物は、mmTGF-β2-7M-PRDC(配列番号7;
図1D)と称され、これを、E.coli中で発現させ、mmTGF-β27Mに関して使用したもの(Kimら, J Biol Chem 292(17):7173-7188, 2017)に類似の様式で再折りたたみし、高分解能カチオン交換クロマトグラフィーを使用して均質になるまで精製した。NMR分析を介して、このタンパク質は、
1H次元において7.9~8.5ppmに相当するランダムコイル領域の十分外側にアミドシグナルが分散していることによって明らかにされるように、天然に折りたたまれることが示された(
図4A~4C)。これは、PRDCのシスチンノット領域がmmTGF-β2-7Mのフィンガー領域と十分に一体化されて、設計が成功したことを示す。
【0125】
mmTGF-β2-7Mバリアントの結合特性
細胞の中およびインビボで機能的であるために、任意の設計されたmmTGF-β2-7Mバリアントの必要条件は、これがTβRIIを高親和性で結合することである。本明細書で記載されるmmTGF-β2-7Mバリアント(mmTGF-β2-7M2R(配列番号4)、mmTGF-β2-2M-Del7-16(配列番号5)、およびmmTGF-β2-7M-PRDC(配列番号7))がTβRIIを結合する能力を評価するために、等温滴定熱量測定(ITC)およびネイティブゲルを使用した。ITC結合実験を、漸増量のTβRIIをmmTGF-β2-7M2R(配列番号4)またはmmTGF-β2-2M-Del7-16(配列番号5)へと、参照コントロールとして使用されるmmTGF-β2-7M(配列番号3)とともに注入することによって行った。これらの滴定は、大きな負のエンタルピーおよびほぼ1:1結合化学量論を有する容易に検出可能な等温線を生じた(
図5)。統合熱の1:1結合モデルへのフィットから、mmTGF-β2-7M2RおよびmmTGF-β2-2M-Del7-16に関して、それぞれ75.1nMおよび80.1nMというTβRIIの結合に関する解離定数(K
D)が生じた(
図5)。これらのK
Dは、mmTGF-β2-7M(60.5nM)に関して決定されたものの実験誤差の範囲内であり、これは、凝集を低減するかまたは折りたたみを改善するために導入された置換が、上記タンパク質がTβRIIを結合する能力に対して有害な効果を有しなかったことを示す。
【0126】
mmTGF-β2-7M-PRDC(配列番号7)の結合を、代わりにネイティブゲルを使用して評価した。これらは、K
Dの定量可能な測定値を提供しないが、高親和性結合を示す。なぜなら複合体の検出は、その2つのタンパク質が電気泳動の時間スケールに匹敵する時間スケール(これは、およそ1時間である)で結合したままであることを必要とするからである。ネイティブゲルは、mmTGF-β2-7M、mmTGF-β2-7M2R、およびmmTGF-β2-7M-PRDCが全て、ゲルの長さのおよそ1/4を移動するバンドを形成する一方で、TβRIIがゲルのほぼ全長にわたって泳動することを示した(
図4D)。これは、mmTGF-β2-7M、mmTGF-β2-7M2R、およびmmTGF-β2-7M-PRDC単独ではゲルに入らないという以前の発見と合わせると、これらのタンパク質の3つ全てが、TβRIIを高親和性で結合することを示唆する。これは、mmTGF-β2-7MおよびmmTGF-β2-7M2Rバリアントに関するITC結果と一致し、これは、mmTGF-β2-7M-PRDCにもあてはまることを示す。
【0127】
mmTGF-β2-7Mバリアントの阻害特性
インビボで機能的であるために、任意の設計したmmTGF-β2-7Mバリアントは、TGF-βシグナル伝達を細胞中で阻害するべきである。本開示のmmTGF-β2-7Mバリアントに関してこのことを評価するために、mmTGF-β2-7M2R(配列番号4)、mmTGF-β2-2M-Del7-16(配列番号5)、およびmmTGF-β2-7M-PRDC(配列番号7)、HEK-293 TGF-βルシフェラーゼレポーター細胞株(ここで上記細胞は、ルシフェラーゼレポーター遺伝子に融合されたTGF-β CAGAエンハンサーエレメントで安定したトランスフェクトされている)を使用した。このアッセイで阻害能力を評価するために、上記細胞を、96ウェルプレートにプレーティングし、種々の濃度のmmTGF-β2-7M2R、mmTGF-β2-2M-Del7-16、およびmmTGF-β2-7M-PRDCを、mmTGF-β2-7Mをコントロールとして使用して、添加した。30分後、TGF-βシグナル伝達を、TGF-β3を最終濃度 10pMになるように添加することによって刺激し、12時間後に、上記細胞を溶解し、ルシフェラーゼ活性を評価した。得られた結果は、mmTGF-β2-7M2R、mmTGF-β2-2M-Del7-16、およびmmTGF-β2-7M-PRDCGAOの各々が、TGF-β3によって誘導されるシグナル伝達を強力に阻害する(フィットしたIC
50値は、それぞれ、53nM、111nM、および283nM)ことを示した(
図6B~6D)。mmTGF-β2-7M2RおよびmmTGF-β2-2M-Del7-16の値はともに、mmTGF-β2-7M(
図6A)に関して測定されたものの2倍以内であった。これは、これらのタンパク質の両方が、mmTGF-β2-7Mとほぼ同程度に有効であることを示す(IC
50 58nM)。なお強力ではあるが、mmTGF-β2-7M-PRDCのIC
50は、283nMであり、これは、mmTGF-β2-7Mと比較して約5倍低減されている。これは、mmTGF-β2-7M-PRDCが機能的TGF-β阻害剤であるが、その効力は、2つのフィンガー領域の配向におけるいくらかの小さな変化に起因して、わずかに損なわれ得ることを示す。
【0128】
概要
本明細書で開示されるmmTGF-β2-7Mバリアントは、それらの凝集傾向を低減し、それらの折りたたみ傾向を増加させる置換を有する。上記mmTGF-β2-7Mバリアントは、TβRIIを高親和性で結合し、培養された細胞においてTGF-β3シグナル伝達を強力に阻害する能力を保持することが各々示された。従って、本開示のmmTGF-β2-7Mバリアントは、それらがインビボで投与される能力を改善し、従って、治療的に介入してTGF-β媒介性疾患の進行を弱めるための新たな道筋を提供する属性を有する。
【0129】
開示される発明の原理が適用され得る多くの可能な実装に鑑みて、その例証される実装が、本発明の好ましい例に過ぎず、本発明の範囲を限定するとして解釈されるべきでないことは、認識されるべきである。むしろ、本発明の範囲は、以下の特許請求の範囲によって定義される。本発明者らは、従って、これらの請求項の範囲および趣旨内に入る全てを本発明者らの発明として特許請求する。
【配列表】
【国際調査報告】