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特表2024-537239インターロイキン-10ムテイン及びその融合タンパク質
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-10
(54)【発明の名称】インターロイキン-10ムテイン及びその融合タンパク質
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/24 20060101AFI20241003BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20241003BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20241003BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20241003BHJP
   C12N 15/24 20060101ALI20241003BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20241003BHJP
   A61K 38/20 20060101ALI20241003BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20241003BHJP
   A61K 47/64 20170101ALI20241003BHJP
   A61K 47/65 20170101ALI20241003BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20241003BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241003BHJP
   C07K 16/46 20060101ALN20241003BHJP
【FI】
C07K16/24
C12N15/63 Z ZNA
C12N15/62 Z
C07K19/00
C12N15/24
C12N5/10
A61K38/20
A61K47/68
A61K47/64
A61K47/65
A61K39/395 C
A61K39/395 L
A61P43/00 111
C07K16/46
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024521160
(86)(22)【出願日】2022-10-06
(85)【翻訳文提出日】2024-05-14
(86)【国際出願番号】 US2022077660
(87)【国際公開番号】W WO2023060165
(87)【国際公開日】2023-04-13
(31)【優先権主張番号】63/252,772
(32)【優先日】2021-10-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521083094
【氏名又は名称】エリクシロン・イミュノセラピューティクス・(ホンコン)・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】フン-カイ・チェン
(72)【発明者】
【氏名】パンデラキス・アンドレアス・コニ
(72)【発明者】
【氏名】ポ-ハオ・チャン
(72)【発明者】
【氏名】ジン-イ・フアン
(72)【発明者】
【氏名】ウェイ・ファン
(72)【発明者】
【氏名】ツン-ハオ・チャン
(72)【発明者】
【氏名】シー-ラン・ヤン
(72)【発明者】
【氏名】イン-ピン・ワン
【テーマコード(参考)】
4B065
4C076
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA44
4C076AA95
4C076CC29
4C076CC41
4C076EE41
4C076EE59
4C076FF31
4C084AA01
4C084BA01
4C084BA02
4C084BA08
4C084BA22
4C084BA23
4C084BA41
4C084DA12
4C084MA13
4C084MA17
4C084MA56
4C084MA66
4C084NA12
4C084NA13
4C084ZC02
4C085AA21
4C085BB31
4C085CC22
4C085CC23
4C085EE01
4C085GG01
4C085GG02
4C085GG10
4H045AA10
4H045AA11
4H045BA09
4H045BA41
4H045DA02
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本開示は、IL-10ムテイン、及び、融合タンパク質におけるIL-10ムテインの使用を提供する。IL-10ムテイン、又は、融合タンパク質は、野生型IL-10のアミノ酸と比べて、104位、107位、及び、それらの組合せにおけるアミノ酸に1つ以上の置換を含む。有利なことに、IL-10ムテイン、又は、その融合タンパク質は、精製過程での凝集能の減少、及び、半減期の延長を備える。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
野生型IL-10のアミノ酸と比べて、104位、107位、及び、それらの組合せにおけるアミノ酸に置換を含む、IL-10ムテイン。
【請求項2】
前記野生型IL-10は、配列番号2と、少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、の同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項1に記載のIL-10ムテイン。
【請求項3】
前記置換は:
(1) R104Q;
(2) R107A、R107E、R107Q及びR107Dのいずれか1つ;又は、
(3) それらの組合せ
を含む、請求項1に記載のIL-10ムテイン。
【請求項4】
前記置換は、
R104Q/R107A、R104Q/R107E、R104Q/R107Q、又は、R104Q/R107Dを含む、
請求項3に記載のIL-10ムテイン。
【請求項5】
単量体、又は、二量体である、請求項1に記載のIL-10ムテイン。
【請求項6】
シグナルペプチドを更に含む、請求項1記載のIL-10ムテイン。
【請求項7】
前記シグナルペプチドは配列番号14のアミノ酸配列を含む、請求項6に記載のIL-10ムテイン。
【請求項8】
標的タンパク質に結合するポリペプチドであって、
前記標的タンパク質の抗体、若しくは、その断片、アンタゴニスト、受容体、若しくは、リガンド、又は、プロテイン-トラップを含む、ポリペプチドと;
前記ポリペプチドに融合された請求項1に記載のIL-10ムテインと、
を含む、融合タンパク質。
【請求項9】
前記ポリペプチドは、リンカーを介して前記IL-10ムテインに融合されている、請求項8に記載の融合タンパク質。
【請求項10】
前記リンカーは配列番号15~20のアミノ酸配列を含む、請求項9に記載の融合タンパク質。
【請求項11】
前記IL-10ムテインは前記ポリペプチドのN末端又はC末端に融合されている、請求項8に記載の融合タンパク質。
【請求項12】
前記IL-10ムテインは単量体、又は、二量体である、請求項8に記載の融合タンパク質。
【請求項13】
(1) 配列番号13;
(2) 配列番号21、及び、配列番号22;
(3) 配列番号23、及び、配列番号24;
(4) 配列番号25、及び、配列番号26;
(5) 配列番号27、及び、配列番号28;又は、
(6) 配列番号29
と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項8に記載の融合タンパク質。
【請求項14】
前記プロテイン-トラップは、アフリベルセプトを始めとする血管内皮増殖因子-トラップ(VEGF-トラップ)を含む、請求項8に記載の融合タンパク質。
【請求項15】
配列番号29と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項9に記載の融合タンパク質。
【請求項16】
(i)前記抗体はヒト抗体、ヒト化抗体、若しくは、キメラ抗体である;
(ii)前記抗体は、クラスIgGの完全長抗体であり、任意選択により、前記クラスIgG抗体は、IgG1、IgG2、IgG3、及び、IgG4から選択されるアイソタイプを有する;
(iii)前記抗体は、Fc領域バリアント、任意選択により、エフェクター機能を変化させるFc領域バリアント、及び/若しくは、抗体の半減期を変化させるバリアントを含む;
(iv)前記抗体は、任意選択により、F(ab')2、Fab'、Fab、Fv、単一ドメイン抗体(VHH)、及び、scFvからなる群から選択される抗体断片である;
(v)前記抗体は、免疫複合体であって、任意選択により、CSF1R媒介性、PDL1媒介性、PD1媒介性若しくはVEGF媒介性の疾患、若しくは、状態の治療のための治療剤を含む免疫複合体を含む;又は、
(vi)前記抗体は、多重特異性抗体、任意選択により、二重特異性抗体である、
請求項8に記載の融合タンパク質。
【請求項17】
前記ポリペプチドは半減期延長部分である、請求項8に記載の融合タンパク質。
【請求項18】
前記半減期延長部分は、IgG定常ドメイン、若しくは、その断片、ヒト血清アルブミン(HSA)、又は、アルブミン結合ポリペプチド、若しくは、残基を含む、請求項17に記載の融合タンパク質。
【請求項19】
請求項1から7のいずれか一項に記載のIL-10ムテイン、又は、請求項8から18のいずれか一項に記載の融合タンパク質をコードする、単離されたポリヌクレオチド、又は、ベクター。
【請求項20】
請求項19に記載の単離されたポリヌクレオチド、又は、ベクターを含む単離された宿主細胞であって;
任意選択により、
チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、Y0、NS0、又は、Sp2/0を含む骨髄腫細胞、COS-7を含むサル腎臓細胞、293を含むヒト胎児腎臓系、ベビーハムスター腎臓細胞(BHK)、TM4を含むマウスセルトリ細胞、VERO-76を含むアフリカミドリザル腎臓細胞、ヒト子宮頸がん細胞(HELA)、イヌ腎臓細胞、W138を含むヒト肺細胞、Hep G2を含むヒト肝臓細胞、マウス乳腺腫瘍細胞、TR1細胞、医学研究審議会5(MRC5)細胞、及び、FS4細胞、
からなる群から選択される、単離された宿主細胞。
【請求項21】
IL-10ムテイン、又は、融合タンパク質が産生されるように、請求項20に記載の単離された宿主細胞を培養する工程を含む、IL-10ムテイン、又は、融合タンパク質を産生する方法。
【請求項22】
請求項1から7のいずれか一項に記載のIL-10ムテイン、又は、請求項8から18のいずれか一項に記載の融合タンパク質、及び、薬学的に許容される担体、希釈剤、又は、賦形剤を含む、医薬組成物。
【請求項23】
医薬の製造のための、請求項1から7のいずれか一項に記載のIL-10ムテイン、又は、請求項8から18のいずれか一項に記載の融合タンパク質の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年10月6日出願の米国仮特許出願第63/252,772号の米国特許法第119条(e)の下でその利益を主張するものであり、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、インターロイキン-10(IL-10)の生物活性ムテイン並びに凝集の減少及び半減期の延長を備えるインターロイキン-10(IL-10)の生物活性ムテインを含む融合タンパク質に関する。
【0003】
配列表への参照
配列表の公式な写しは、EFS-Webを介し、ASCIIフォーマットのテキストファイルとして、ファイル名「09793-006WO1_SeqList_ST25.txt」、作成日2021年5月12日、及びサイズ234,722バイトで、本明細書と同時に提出される。EFS-Webを介して出願の配列表は、本明細書の一部であり、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0004】
インターロイキン-10(IL-10)は、非共有結合した2つの単量体から構成される35kDのホモ二量体である1。IL-10の二量体化は生理活性において必要不可欠である。各単量体は、単量体内に存在する2つのジスルフィド架橋(C30~C126及びC80~C132)を備える6つのヘリックスから構成される。成熟野生型ヒトIL-10単量体ドメインの配列は、配列番号2と少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0005】
IL-10は、2つのIL-10Rαサブユニットと2つのIL-10Rβサブユニットで構成される細胞表面IL-10受容体(IL-10R)への結合を通して、その自然免疫効果及び適応免疫効果を発揮する。IL-10RへのIL-10の結合によりJAK1の活性化がもたらされ、次いでこのことによりSTAT3のリン酸化が誘導される。
【0006】
IL-10は、主要組織適合性遺伝子複合体の発現を低下させることを通して抗原提示を減少させることによって、並びに単球及びマクロファージを始めとする多くの細胞からの炎症性サイトカインの産生を阻害することによって、強力な抗炎症効果を発揮する。したがって、IL-10は自己免疫疾患を治療する有望な候補であり、潰瘍性大腸炎、及び、クローン病に向けた治験で研究されてきた。しかし、加えて、IL-10はまたいくつかの免疫刺激特性(例えばCD8T細胞の刺激)も提示し、このことをがん治療法に向けて開発する試みがなされてきた1-4。例えば、半減期延長型IL-10(ペグ化IL-10)により、マウス腫瘍モデルにおいてCD8+T細胞依存性の様式で効果的な腫瘍制御が可能であったものの5、ペグ化IL-10は、この半減期が依然として短いためと推定されるが、1日につき2回投薬する必要があった。また、ペグ化IL-10はがん患者の治験で忍容性が高く、CD8+T細胞増殖、IFN-γ及びグランザイムBの上昇を始めとするCD8+T細胞免疫を誘導する6。とはいえ、ペグ化IL-10が、現行の標準治療の意義ある効果を超えて、意義ある効果をもたらすことはまだ後期治験で証明されていない。
【0007】
より最近の研究が明らかにしてきたところは、別の半減期延長型のIL-10である免疫グロブリンFcドメイン融合タンパク質(IL10-Fc)が、後期疲弊CD8+T細胞に直接作用して代謝能力を回復し、その結果、エフェクター機能の再獲得及び増殖性拡大を引き起こし、それによってマウス腫瘍モデルにおいて抗腫瘍活性をブーストすること7、である。こういったIL10-Fcにより、このような半減期延長型のIL-10の有用性が実証されたが7、一方、留意されたいこととは、免疫抑制性の有害な副作用が最小の状態である最適な腫瘍制御に向けてIL-10の「治療指数」を最適化する上で課題が残っていると推定されたので、本研究ではIL10-Fcの腫瘍周囲の投与を使用したこと7、である。
【0008】
有効性を最適化、及び、IL-10の毒性を低減又は頻繁な投薬を回避するためにIL-10の半減期を延長する様々な試みがあった。例えば、前臨床研究における半減期を延長するためのFcへのIL-10の融合である7。抗原提示細胞上でIL-10受容体シグナル伝達を選択的に誘発することに向けたIL-10への抗CD86抗体の融合、又はRA患者の関節炎関節を標的とするためのIL-10への抗体断片F8の融合である8-9。異なる2つ以上のタンパク質を1つの融合分子に組み合わせると、細胞培養又は精製プロセス過程での凝集などの製造上の問題が起きる可能性がある。ドメインスワッピング特性を備える二量体として10、IL-10二量体のヘリックス構造は、IL-10の医薬開発においてある課題を提起した。真核生物系で発現させた場合、高分子量分子がIL-10及びIL-10融合タンパク質について観察されてきた7,10。生産過程での凝集する傾向は、IL-10の医薬開発における課題である。
【0009】
IL-10の治療有効性を改善する戦略とは、変化した活性を備えるIL-10ムテインを使用することである。87位のアミノ酸イソロイシンをアラニンへと、又は111位のフェニルアラニンをセリンへと単一置換すると、IL10活性が減少する11,12。IL-10RβへのIL-10の結合親和性が向上したIL-10ムテインが、酵母ディスプレイスクリーニングで見出される13,14。4つの置換を有するIL-10ムテインであるSuper 10は、IL-10Rβへの結合親和性の向上を示した12。Super 10における18位のアミノ酸アスパラギンのチロシンへの置換(N18Y)と104位のアルギニンのトリプトファンへの置換(R104W)のどちらを置換した場合にも、IL-10Rβへの疎水性相互作用が増強されかつ一部の選択された細胞タイプでSTAT3のより十分な活性化がもたらされることが、提唱された13
【0010】
要約すると、前述の研究は全て、IL-10シグナル伝達活性の増強、又は低下に向けた置換を示すが、製造性を改善することを示すものではない。製造性が改善されたIL-10ムテインは、とりわけIL-10ムテインが別の分子に融合されている場合、IL-10に基づいた治療法の発展においてずば抜けた実用的価値があるものと思われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】US 7,749,490 B2
【特許文献2】US 2017/0015747 A1
【特許文献3】US5,328,989
【特許文献4】米国特許第6,171,586号
【特許文献5】WO2006/044908
【特許文献6】米国特許第6,267,958号
【特許文献7】米国特許公開第2005/0260186号
【特許文献8】米国特許公開第2006/0104968号
【特許文献9】PCT公開番号WO2020242950A1
【特許文献10】PCT公開番号WO2021231741A2
【特許文献11】WO2013079174(A09-246-2)
【特許文献12】WO2013181586
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Sambrookら、Molecular Cloning-A Laboratory Manual(第2版)、1~3巻、Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor、N.Y.、1989
【非特許文献2】Current Protocols in Molecular Biology、F. M. Ausubelら編、Current Protocols、a joint venture between Greene Publishing Associates, Inc.及びJohn Wiley & Sons, Inc.(2011年まで補遺)
【非特許文献3】Antibody Engineering、1及び2巻、R. Kontermann及びS. Dubel編、Springer-Verlag、Berlin and Heidelberg(2010)
【非特許文献4】Monoclonal Antibodies: Methods and Protocols、V. Ossipow及びN. Fischer編、第2版、Humana Press(2014)
【非特許文献5】Therapeutic Antibodies: From Bench to Clinic、Z. An編、J. Wiley & Sons、Hoboken、N.J.(2009)
【非特許文献6】Phage Display、Tim Clackson及びHenry B. Lowman編、Oxford University Press、United Kingdom(2004)
【非特許文献7】ncbi.nlm.nih.gov/BLASTにてのNCBIウェブサイト
【非特許文献8】Devereuxら、Nucleic Acids Res. 12:387頁、1984
【非特許文献9】Atschulら、J Mol Biol 215:403頁、1990
【非特許文献10】Naing, A.ら「PEGylated IL-10(Pegilodecakin) Induces Systemic Immune Activation, CD8+ T Cell Invigoration and Polyclonal T Cell Expansion in Cancer Patients.」 Cancer Cell 34、775~791頁.e3(2018)
【非特許文献11】Gorby, C.ら「Engineered IL-10 variants elicit potent immunomodulatory effects at low ligand doses.」 Sci Signal 13、(2020)
【非特許文献12】Yoon, S. I.ら「Epstein-Barr virus IL-10 engages IL-10R1 by a two-step mechanism leading to altered signaling properties.」 J Biol Chem 287、26586~26595頁(2012)
【非特許文献13】Slobedman B.ら、J. Virol. 2009年9月、9618~9629頁
【非特許文献14】Ouyang P.ら、J. Gen. Virol.(2014)、95、245~262頁
【非特許文献15】Remington's Pharmaceutical Sciences 16版、Osol, A.編(1980)
【非特許文献16】Blood. 2000;96(5):1879~88頁
【非特許文献17】J Biol Chem. 2016;291(6):3100~13頁
【非特許文献18】J Mol Graph Model. 2015;62:97~104頁
【非特許文献19】Front Immunol. 2020;11:1794頁
【非特許文献20】Cancer Res. 2012;72(14):3570~81頁
【非特許文献21】Pharm Res. 2014;31(7):1823~33頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
動物モデル、及び、ヒト患者のいずれにおいてもIL-10の研究は、炎症性疾患、悪性疾患、及び、自己免疫疾患におけるIL-10の重要な役割を裏付けるものであり、十分に安定かつ受け入れ可能な形態が開発することができる場合には治療法でのIL-10の使用の可能性を裏付けるものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本開示は、とりわけIL-10がポリペプチド部分に融合されている場合に製造性が改善されている、生物活性IL-10ムテインを提供する。IL-10受容体結合は低減しているが同等の生理活性を有する本開示のIL-10ムテインは、様々な薬物動態特徴、又は、特定の標的細胞選択性を備える薬物を設計するのに使用することができる。
【0015】
第一の態様では、精製過程での凝集能の減少、及び、半減期の延長を備えるIL-10ムテインであって、野生型IL-10のアミノ酸と比べて、104位、107位、及び、それらの組合せにおけるアミノ酸に1つ以上の置換を含む、IL-10ムテインが提供される。
【0016】
一実施形態では、IL-10ムテインは、配列番号2と、少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むことができ、配列番号2のR104、及び、R107からなる群から選択されるアミノ酸残基に対応するアミノ酸置換を更に含んでもよい。
【0017】
一部の実施形態では、1つ以上のアミノ酸置換は、アラニン置換、アスパラギン酸置換、グルタミン酸置換、グルタミン置換、及び、それらの任意の組合せからなる群から独立して選択される。
【0018】
一実施形態では、置換は:
(1) R104Q;
(2) R107A、R107E、R107Q及びR107Dのいずれか1つ;又は、
(3) それらの組合せ
を含んでもよい。
【0019】
一部の実施形態では、本開示のIL-10ムテインは、配列番号2と、少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は、99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、以下のアミノ酸置換:(a) R104Q; (b) R107A; (c) R107E; (d) R107Q; (e) R107D; (f) R104Q/R107A; (g) R104Q/R107E; (h) R104Q/R107Q;及び、(i) R104Q/R107Dに対応するアミノ酸置換を更に含む。
【0020】
一実施形態では、IL-10ムテインは単量体、又は、二量体であってもよい。
【0021】
一実施形態では、IL-10ムテインはシグナルペプチドを更に含んでもよい。好ましくは、シグナルペプチドは配列番号14のアミノ酸配列を含んでもよい。
【0022】
少なくとも1つの実施形態では、本開示は、
標的タンパク質に結合することができるポリペプチドであって、標的タンパク質の抗体若しくはその断片、アンタゴニスト、受容体、若しくは、リガンド、又はプロテイン-トラップを含む、ポリペプチドと;
ポリペプチドに融合された上記のIL-10ムテインと、
を含む、融合タンパク質を提供する。
【0023】
一実施形態では、ポリペプチドはリンカーを介して、IL-10ムテインに融合されていてもよい。
【0024】
一実施形態では、リンカーは配列番号15~20のアミノ酸配列を含んでもよい。
【0025】
一実施形態では、IL-10ムテインはポリペプチドのN末端又はC末端に融合されていてもよい。
【0026】
一実施形態では、IL-10ムテインは単量体、又は、二量体であってもよい。
【0027】
一実施形態では、融合タンパク質は:
(1) 配列番号13;
(2) 配列番号21及び配列番号22;
(3) 配列番号23及び配列番号24;
(4) 配列番号25及び配列番号26;
(5) 配列番号27及び配列番号28;又は、
(6) 配列番号29
と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列を含んでもよい。
【0028】
一実施形態では、プロテイン-トラップは、アフリベルセプトを始めとする血管内皮増殖因子-トラップ(VEGF-トラップ)を含む。好適な一実施形態では、融合タンパク質は、配列番号29と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列を含んでもよい。
【0029】
一実施形態では、
(i)抗体はヒト抗体、ヒト化抗体、若しくは、キメラ抗体である;
(ii)抗体は、クラスIgGの完全長抗体であり、任意選択により、クラスIgG抗体は、IgG1、IgG2、IgG3、及び、IgG4から選択されるアイソタイプを有する;
(iii)抗体は、Fc領域バリアント、任意選択により、エフェクター機能を変化させるFc領域バリアント、及び/若しくは、抗体の半減期を変化させるバリアントを含む;
(iv)抗体は、任意選択により、F(ab')2、Fab'、Fab、Fv、単一ドメイン抗体(VHH)、及び、scFvからなる群から選択される抗体断片である;
(v)抗体は免疫複合体であって、任意選択により、CSF1R媒介性、PDL1媒介性、PD1媒介性、若しくは、VEGF媒介性の疾患、若しくは、状態の治療のための治療剤を含む、免疫複合体を含む;又は、
(vi)抗体は多重特異性抗体、任意選択により、二重特異性抗体である。
【0030】
一実施形態では、ポリペプチドは半減期延長部分であってもよい。好適な実施形態では、半減期延長部分は、IgG定常ドメイン、若しくは、その断片、ヒト血清アルブミン(HSA)、又は、アルブミン結合ポリペプチド、若しくは、残基を含む。
【0031】
一実施形態では、ポリペプチドはIL-10二量体形成を可能にしてもよい。
【0032】
本開示の好適な実施形態では、IL10ムテインは、N末端又はC末端を介して、分子に融合されている;好ましくは、本分子は抗体の結晶性領域断片(Fc)である。
【0033】
好適な実施形態では、Fc部分は、ヒト免疫グロブリン重鎖、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4又は他のクラスに由来する;好ましくは、本FcはヒトIgG1及びIgG4に由来する;好ましくは、本Fcは、Fcエフェクター機能をモジュレートする変異を有する。
【0034】
本開示の好適な実施形態では、抗体、又は、その抗原結合断片は、完全長抗体、キメラ抗体、Fab'、fab、F(ab')2、二重特異性抗体からなる群から選択される。
【0035】
本開示はまた、上記のIL-10ムテイン、又は、上記の融合タンパク質をコードする単離されたポリヌクレオチド、又は、ベクターの実施形態を提供する。
【0036】
少なくとも1つの実施形態では、本開示は、上記の単離されたポリヌクレオチド、又は、ベクターを含む単離された宿主細胞であって;任意選択により、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、Y0、NS0、又は、Sp2/0を含む骨髄腫細胞、COS-7を含むサル腎臓細胞、293を含むヒト胎児腎臓系、ベビーハムスター腎臓細胞(BHK)、TM4を含むマウスセルトリ細胞、VERO-76を含むアフリカミドリザル腎臓細胞、ヒト子宮頸がん細胞(HELA)、イヌ腎臓細胞、W138を含むヒト肺細胞、Hep G2を含むヒト肝臓細胞、マウス乳腺腫瘍細胞、TR1細胞、Medical Research Council 5(MRC5)細胞、及び、FS4細胞からなる群から選択される、単離された宿主細胞、を提供する。
【0037】
少なくとも1つの実施形態では、本開示は、IL-10ムテイン、又は、融合タンパク質が産生されるように、上記の宿主細胞を培養する工程を含む、IL-10ムテイン、又は、融合タンパク質を産生する方法、を提供する。
【0038】
少なくとも1つの実施形態では、本開示は、上記のIL-10ムテイン、又は、上記の融合タンパク質、及び、薬学的に許容される担体、希釈剤、又は、賦形剤を含む医薬組成物、を提供する。
【0039】
少なくとも1つの実施形態では、本開示は、医薬の製造のための、上記のIL-10ムテイン、又は、上記の融合タンパク質の使用、を提供する。
【0040】
以上の概要は例示にすぎず、いかようにも限定することを意図するものではない。本明細書に記載の例示的な実施形態、及び、特性に加えて、本開示の更なる態様、実施形態、目的、及び、特性は、図面、及び、詳細な説明、及び、特許請求の範囲から完全に明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】ヒトIL-10の前駆体、及び、成熟型の配列を図示する図である。
図2A】それぞれに1つの置換(強調)を有するIL-10ムテインの配列を図示する図である。
図2B】それぞれに2つの置換(強調)を有するIL-10ムテインの配列を図示する図である。
図3】野生型IL10-Fcの配列を図示する図である。IL-10配列はイタリック体、リンカーは下線が付してあり、ヒトIgG1 Fcは太字体である。
図4】野生型IL10-Fc、及び、種々のムテインIL10-Fc融合タンパク質の非還元SDS-PAGEに関する結果を図示する図である。
図5A】IL10(WT)-Fc、及び、種々のムテインIL10-Fc融合タンパク質(1つの置換を有する)のサイズ排除HPLCのクロマトグラムを図示する図であり、高分子量(HMW)、単量体、及び、低分子量(LMW)のパーセントピーク面積(%Area)の解析を伴う。
図5B】CHO-S標準化一過性タンパク質発現法を使用して産生されたIL10 (WT)-Fc、及び、種々のムテインIL10-Fc融合タンパク質の総タンパク質収量対単量体タンパク質収量を図示する図である。
図5C】流速0.5ml/分のSuperdex 200 10/300 GLを使用したAKTA purifier 10によるIL10(WT)-Fc、及び、IL10(R104Q/R107A)-Fcのゲル濾過のクロマトグラムを図示する図である。
図6A】IL10(WT)-Fc、及び、種々のムテインIL10-Fc融合タンパク質の組換えヒトIL-10Rα結合に関する結果を図示する図である。
図6B】IL10(WT)-Fc、及び、種々のムテインIL10-Fc融合タンパク質の組換えヒトIL-10Rα結合に関する結果を図示する図である。
図6C】IL10(WT)-Fc、及び、種々のムテインIL10-Fc融合タンパク質の組換えヒトIL-10Rβ結合に関する結果を図示する図である。
図7】ヒトIL-10RαへのIL10(WT)-Fc及びIL10(R104Q)-Fcの結合親和性に対する凍結解凍(5サイクル)の影響を図示する図である。
図8】HeLa IL10Rα-STAT3ルシフェラーゼレポーター細胞におけるIL10(WT)-Fc、及び、種々のムテインIL10-Fc融合タンパク質によって誘導されるSTAT3活性化に関する結果を図示する図である。
図9】ヒトCD8+T細胞におけるIL10(WT)-Fc、及び、種々のムテインIL10-Fc融合タンパク質によって誘導されるグランザイムB分泌に関する結果を図示する図である。
図10A】IL10-Fc-VEGF TRAPの配列を図示する図である。IL10:小文字、リンカー:大文字イタリック体、Fc:大文字、VEGFトラップ:太字体の大文字。
図10B】IL10(WT)-Fc-VEGF TRAP、及び、IL10(R104Q/R107A)-Fc-VEGF TRAPの融合タンパク質の単量体収量に関する結果を図示する図である。
図11】IL10融合タンパク質の配列を図示する図である。(A)6D4H22-IL10融合タンパク質; (B)ベバシズマブ-IL10; (C)YP7G-IL10; (D)アベルマブ-IL10;可変ドメイン:大文字、定常ドメイン:小文字、リンカー:大文字イタリック体、IL-10:大文字下線付き。
図12】サイズ排除クロマトグラフィーの結果又は種々のIL-10融合タンパク質の収量を図示する図である。(A)サイズ排除HPLCの結果から導出された総タンパク質含量に対する種々の6D4H22-IL10融合タンパク質のHMW及び単量体のパーセントピーク面積(%Area)。(B)種々の6D4H22-IL10融合タンパク質のクロマトグラフィーの例を示す。
図13】6D4H22-IL10野生型及び種々の6D4H22-IL10ムテインの融合タンパク質の組換え(A)ヒトIL-10Rα結合並びに(B)マウスIL-10Rα結合に関する結果を図示する図である。
図14】6D4H22-IL10(WT)融合タンパク質対種々の6D4H22-IL10ムテイン融合タンパク質によって誘導されるSTAT3活性化に関する結果を図示する図である。
図15】ヒトCD8+T細胞における6D4H22-IL10(WT)融合タンパク質対種々の6D4H22-IL10ムテイン融合タンパク質によって誘導されるグランザイムB分泌に関する結果を図示する図である。
図16A】ベバシズマブ-IL10(WT)及び種々のベバシズマブ-IL-10ムテインの融合タンパク質のサイズ排除クロマトグラフィーの結果を図示する図である。
図16BC】(B)種々のYP7G-IL10融合タンパク質、及び、(C) 種々のアベルマブ-IL10融合タンパク質、の単量体の精製収量を図示する図である。
図17】静脈内投与後のマウスにおけるIL10(WT)-Fc、及び、種々のIL10-ムテイン-Fc融合タンパク質の濃度-時間プロファイルを図示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
本開示は、全体として、精製過程での凝集能の減少、及び、半減期の延長をもたらす新規IL-10ムテイン、及び、融合タンパク質に関する。下により詳細に記載されるように、IL-10ムテインは、104位、107位、又は、それらの組合せに少なくとも1つのアミノ酸置換を含む。
【0043】
用語及び技法のあらまし
全体として、本明細書で使用される命名法並びに本明細書に記載される技法及び手順には、当業者であれば十分に理解され一般に用いられるもの、例えば、
Sambrookら、Molecular Cloning-A Laboratory Manual(第2版)、1~3巻、Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor、N.Y.、1989(以下「Sambrook」);
Current Protocols in Molecular Biology、F. M. Ausubelら編、Current Protocols、a joint venture between Greene Publishing Associates, Inc.及びJohn Wiley & Sons, Inc.(2011年まで補遺)(以下「Ausubel」);
Antibody Engineering、1及び2巻、R. Kontermann及びS. Dubel編、Springer-Verlag、Berlin and Heidelberg(2010);
Monoclonal Antibodies: Methods and Protocols、V. Ossipow及びN. Fischer編、第2版、Humana Press(2014);
Therapeutic Antibodies: From Bench to Clinic、Z. An編、J. Wiley & Sons、Hoboken、N.J.(2009);
並びにPhage Display、Tim Clackson及びHenry B. Lowman編、Oxford University Press、United Kingdom(2004)において記載されている一般技法、及び、方法論が含まれる。
【0044】
本開示において参照されるあらゆる刊行物、特許、特許出願、及び、他の文献は、それぞれ個々の刊行物、特許、特許出願、又は、他の文献が、あらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれることが個々に示されているのと同程度に、あらゆる目的のためにそれら全体の参照により本明細書に組み込まれる。
【0045】
別段の定義がない限り、本明細書で使用される全ての技術用語、及び、科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者であれば一般に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を説明するためのものにすぎず、限定することを意図するものではないことを理解されたい。本開示を解釈する目的で、以下の用語の説明が適用され、適切な場合、単数形で使用される用語は複数形も含み、逆もまた同様である。
【0046】
本明細書の説明、及び、添付の特許請求の範囲について、単数形「a」及び「an」には、文脈上明らかに別段の指示がない限り、複数の指示対象が含まれる。したがって、例えば、「タンパク質(a protein)」への言及には、1つ以上のタンパク質が含まれ、「化合物(a compound)」への言及は、1つ以上の化合物を指す。特許請求の範囲は、任意選択による要素を除外するように起草され得ることに更に留意されたい。したがって本記載は、請求項要素の列挙に関連して、又は「否定的」制限の使用に関連して、「もっぱら(solely)」、「のみ(only)」等のそのような排他的用語を使用するための前提としての役割を果たすことが意図される。「含む(comprise)」、「含む(comprises)」、「含む(comprising)」、「含む(include)」、「含む(includes)」、及び「含む(including)」の使用は、互いに交換可能であり、限定することを意図するものではない。種々の実施形態の記載が「含む(comprising)」という用語を使用する場合、当業者であれば、いくつかの特定の例において、実施形態が「から本質的になる」又は「からなる」という言語を使用して代替的に説明し得ることを理解するであろうことを、更に理解されたい。
【0047】
値の範囲が設けられている場合、文脈上明らかに別段の指示がない限り、ここで理解されることは、その範囲の上限と下限の間の、文脈上明らかに別段の指示がない限りは値のそれぞれ介在する整数、及び、値のそれぞれ介在する整数のそれぞれの10分の1、並びに、その記載された範囲内の他の任意の記載された値、又は、介在する値は、本発明内に包含されること、である。これらのより小さな範囲の上限及び下限は、より小さな範囲に独立して含まれてもよく、また、記載された範囲内の任意の具体的に除外された限度を条件として、本発明の範囲内に包含される。記載された範囲にその上下限の一方、又は、両方が含まれる場合、この含まれた上下限の(i)いずれか、又は、(ii)両方が除外されている範囲も本発明に含まれる。例えば、「1~50」には、「2~25」、「5~20」、「25~50」、「1~10」等が含まれる。
【0048】
本明細書で使用される場合、IL-10ポリペプチドの「バリアント」又は「ムテイン」という用語は、基準IL-10ポリペプチド、例えば野生型IL-10ポリペプチドのアミノ酸配列と比較して、1つ以上のアミノ酸置換、欠失、及び/又は、挿入が存在するポリペプチドを指す。したがって、「IL-10ポリペプチドバリアント」という用語には、IL-10ポリペプチドの天然に存在するアレルバリアント、又は、選択的スプライシングバリアントが含まれる。例えば、ポリペプチドバリアントは、類似、若しくは、相同アミノ酸又は非類似アミノ酸による、親IL-10ポリペプチドのアミノ酸配列における1個以上のアミノ酸の置換を含む。
【0049】
「作動可能に連結された」という用語は、本明細書で使用される場合、2つ以上のエレメントどうしの間、例えば、ポリペプチド配列どうしの間、又は、ポリヌクレオチド配列どうしの間の物理的、又は、機能的リンケージを意味するが、このリンケージによって上記エレメントがこれの意図された様式で作動することが可能になる。例えば、目的とするポリヌクレオチドと調節配列(例えば、プロモーター)との間の作動可能なリンケージとは、目的とするポリヌクレオチドの発現を可能にする機能的な連結である。「作動可能に連結された」エレメントは、連続するものであっても非連続なものであってもよいことを理解されたい。ポリペプチドに関しては、「作動可能に連結された」とは、ポリペプチドの記載された活性を提供する、アミノ酸配列(例えば異なるドメイン)どうしの間の物理的なリンケージ(例えば、直接、又は、間接的連結)を指す。本開示では、本開示の組換えポリペプチドの種々のドメインを、細胞内において組換えポリペプチドの適切なフォールディング、プロセッシング、ターゲティング、発現、結合、及び、その他の機能上の各特性が保持されるように作動可能に連結することができる。本開示の組換えポリペプチドの作動可能に連結されたドメインは、連続するものであっても非連続な(例えば、リンカーを通して互いに連結された)ものであってもよい。
【0050】
「ポリヌクレオチド」という用語は、鎖状に共有結合したヌクレオチド単量体から構成される生体高分子を指す。ポリヌクレオチドの例は、DNA(デオキシリボ核酸)、及び、RNA(リボ核酸)を含む。ポリヌクレオチドは、目的のタンパク質、例えばIL-10ムテイン、又は、その融合タンパク質を必要とする対象内で直接発現させるように、当技術分野で既知の方法で必要とする対象に送達することができる。
【0051】
「パーセント同一性」という用語は、本明細書で2つ以上の核酸、又は、タンパク質と関連して使用される場合、下記のデフォルトパラメータを用いるBLAST、若しくは、BLAST2.0配列比較アルゴリズムを使用して評価して、又は、手作業によるアラインメントと目視によって評価して、同一である2つ以上の配列、又は、サブシーケンスを指すか、又は、同一であるヌクレオチド、若しくは、アミノ酸の特定のパーセンテージ(例えば、比較ウィンドウ、又は、指定された領域にわたり、最大の一致に向けて比較し、かつアラインメントを取った場合に、特定領域にわたり約60%の配列同一性、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は、それよりも高い同一性)を有する2つ以上の配列、又は、サブシーケンスを指す。例えば、ncbi.nlm.nih.gov/BLASTにてのNCBIウェブサイトを参照されたい。次いで、このような配列を「実質的に同一」であると言う。本定義は配列の相補性のことも指す、又は、この定義を配列の相補性へ適用してもよい。本定義にはまた、欠失、及び/又は、付加を有する配列、並びに、置換を有する配列も含まれる。配列同一性は、公開済の技法、及び、広く利用可能なコンピュータプログラム、例えばGCSプログラムパッケージ(Devereuxら、Nucleic Acids Res. 12:387頁、1984)、BLASTP、BLASTN、FASTA(Atschulら、J Mol Biol 215:403頁、1990)を使用して算出することができる。配列同一性は、配列解析ソフトウェア、例えば、それらのデフォルトパラメータを用いる、Sequence Analysis Software Package of the Genetics Computer Group at the University of Wisconsin Biotechnology Center(1710 University Avenue、Madison、Wis. 53705)を使用して測ることができる。
【0052】
本明細書で使用されるような「医薬的に許容される担体、希釈剤、又は、賦形剤」という用語は、対象に目的の化合物を投与するための医薬的に許容される担体、添加剤、又は、希釈剤を供給する適切な任意の物質を指す。したがって、「医薬的に許容される担体、希釈剤又は賦形剤」は、医薬的に許容される希釈剤、医薬的に許容される添加剤、及び、医薬的に許容される担体と呼ばれる物質を包含することができる。本明細書で使用される場合、「医薬的に許容される担体」という用語には、それらに限定されないが、医薬の投与に適合した生理食塩水、溶媒、分散媒、コーティング剤、抗菌剤、及び、抗真菌剤、等張化剤、及び、吸収遅延剤、等が含まれる。補助的な活性化合物(例えば、抗生物質、及び、更なる治療剤)も組成物の中へと組み込むことができる。
【0053】
本明細書で使用されるような「組換え」若しくは「操作された」核酸分子、又は、ポリペプチドという用語は、ヒトの介在を通して変更された核酸分子、又は、ポリペプチドを指す。非限定的な例として、cDNAは組換えDNA分子であり、同様に、cDNAは、in vitro ポリメラーゼ反応によって生成された任意の核酸分子、又は、リンカーが付着された任意の核酸分子、又は、クローニングベクター、若しくは、発現ベクターなどのベクターに統合された任意の核酸分子である。非限定的な例として、組換え核酸分子は、1)例えば、化学的、若しくは、酵素的な技法を使用してin vitro で合成、若しくは、改変された組換え核酸分子;2)天然では結合していない結合ヌクレオチド配列を含む組換え核酸分子;3)天然に存在する核酸分子配列と比べて1つ以上のヌクレオチドを欠くように、分子クローニング技法を使用して操作された組換え核酸分子;及び/又は、4)天然に存在する核酸配列と比べて1つ以上の配列変化、若しくは、再構成を有するように、分子クローニング技法を使用してマニピュレーションされた組換え核酸分子;であってもよい。非限定的な例として、cDNAは組換えDNA分子であり、同様に、cDNAは、in vitro ポリメラーゼ反応によって生成された任意の核酸分子、又は、リンカーが付着された任意の核酸分子、又は、クローニングベクター、若しくは、発現ベクターなどのベクターに統合された任意の核酸分子である。組換え核酸、及び、組換えタンパク質の別の非限定的な例は、本明細書に開示のIL-10ポリペプチドバリアントである。
【0054】
「IL10」又は「IL-10」とは、本明細書で使用される場合、サイトカイン合成阻害因子(CSIF)としても知られるサイトカイン、インターロイキン10を指し、そのサイトカイン機能を保持するインターロイキン10の天然に存在するバリアント、操作されたバリアント、及び/又は、合成的改変バージョンが含まれることも意図するものである。種々の例示的なIL10ポリペプチド、及び、組換えIL10融合構築物のアミノ酸配列を、下のTable 2(表2)、及び、添付の配列表に提供する。サイトカイン機能を保持するその他の例示的な操作された、及び/又は、改変されたIL10ポリペプチドが当技術分野で知られている(例えば、以下を参照されたい:
US 7,749,490 B2;
US 2017/0015747 A1;
Naing, A.ら「PEGylated IL-10(Pegilodecakin) Induces Systemic Immune Activation, CD8+ T Cell Invigoration and Polyclonal T Cell Expansion in Cancer Patients.」Cancer Cell 34、775~791頁.e3(2018);
Gorby, C.ら「Engineered IL-10 variants elicit potent immunomodulatory effects at low ligand doses.」Sci Signal 13、(2020);
Yoon, S. I.ら「Epstein-Barr virus IL-10 engages IL-10R1 by a two-step mechanism leading to altered signaling properties.」J Biol Chem 287、26586~26595頁(2012))。
【0055】
「融合タンパク質」とは、本明細書で使用される場合、天然には存在しない立体配置で連結(又は「融合」)されている2つ以上のタンパク質、及び/又は、ポリペプチド分子を指す。本開示の例示的な融合タンパク質としては、そのC末端にてのポリペプチドリンカー配列を通して免疫グロブリンFc領域ポリペプチドに共有結合で連結されたIL10ポリペプチドを含む「IL10-Fc」融合タンパク質が含まれる。本開示の融合タンパク質にはまた、その重鎖C末端にてのポリペプチドリンカー配列を通してIL10ポリペプチドに共有結合で連結された完全長IgG抗体(重鎖ポリペプチドと軽鎖ポリペプチドの両方を備える)を含む「抗体融合体」も含まれる。
【0056】
本明細書で使用されるような「ポリペプチドリンカー」又は「リンカー配列」とは、2個以上のアミノ酸の鎖を指し、この場合、上記鎖の各末端が異なるポリペプチド分子に共有結合で付着し、それによって上記異なるポリペプチドをコンジュゲート、又は、融合するように機能する。通常には、ポリペプチドリンカーは、1~42個のアミノ酸、好ましくは5~30個のアミノ酸のポリペプチド鎖を含む。広範囲のポリペプチドリンカーが当技術分野で知られており、本開示の組成物、及び、方法において使用することができる。例示的なポリペプチドリンカーとしては、Table 1(表1)に示されるもの、及び、本明細書の他の場所に開示されるその他の特定のリンカー配列が含まれる。
【0057】
【表1】
【0058】
「抗体」とは、本明細書で使用される場合、特定の抗原に特異的に結合する、又は、特定の抗原に免疫学的に反応性を有する、1つ以上のポリペプチド鎖を含む分子を指す。本開示の例示的な抗体としては、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、抗体融合体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、一価抗体(例えば、単一武装抗体)、多価抗体、抗原結合断片(例えば、Fab'、F(ab')2、Fab、Fv、rIgG及びscFv断片)、並びに、合成抗体(又は、抗体模倣物)が含まれる。
【0059】
「完全長抗体」、「インタクト抗体」又は「全抗体」とは、本明細書では互換的に使用されて、天然抗体の構造に実質的に類似の構造を有する、又は、本明細書で定義のFc領域を含有する重鎖を有する、抗体を指す。
【0060】
「抗体断片」とは、完全長抗体と同じ抗原を結合することができる、完全長抗体の一部を指す。抗体断片の例としては、それらに限定されないが、Fv、Fab、Fab'、Fab'-SH、F(ab')2;ダイアボディ;直鎖状抗体;一価、又は、単一武装抗体;単鎖抗体分子(例えば、scFv);及び、抗体断片から形成された多重特異性抗体が含まれる。
【0061】
「Fc領域」とは、免疫グロブリン重鎖のC末端ポリペプチド配列を含む二量体複合体を指し、ここで、C末端ポリペプチド配列とは、インタクトな抗体のパパイン消化によって入手可能であるC末端ポリペプチド配列である。Fc領域は、天然、又は、バリアントのFc配列を含んでもよい。免疫グロブリン重鎖のFc配列の境界は様々であるが、ヒトIgG重鎖Fc配列は通常、Fc配列の、Cys226位付近にあるアミノ酸残基から、又は、Pro230位付近から、カルボキシル末端まで及ぶと定義されている。しかし、Fc配列のC末端リジン(Lys447)は、存在しても存在しなくてもよい。免疫グロブリンのFc配列は一般に、2つの定常ドメイン、CH2ドメイン、及び、CH3ドメインを含み、任意選択により、CH4ドメインを含む。
【0062】
「抗体融合体」とは、通常にはリンカーを介して、抗体の軽鎖(LC)、又は、重鎖(HC)の末端へとポリペプチド、又は、タンパク質に共有結合でコンジュゲートされている(又は融合されている)抗体を指す。本開示の例示的な抗体融合体としては、抗体重鎖のC末端からIL10ポリペプチドのN末端へと、アミノ酸14個のポリペプチドリンカーを介して、組換えIL10ポリペプチドに融合された、抗CSF1R抗体(例えば配列番号21~22)が含まれる。抗体融合体は、本明細書において、「抗体-ポリペプチド(Antibody-polypeptide)」の順に記して命名し、例えば「Ab-IL10」又は「抗CSF1R-IL10」のように融合体の構成を示す。本明細書の他の場所に記載されるように、本開示の抗体融合体は、重鎖-軽鎖を一対とする二量体複合体を含む完全長IgG抗体が含まれ得るが、この場合、各重鎖C末端はポリペプチドリンカー配列を通してIL10ポリペプチドに連結されている。
【0063】
本開示の半減期延長部分は、IL-10ムテインに、共有結合で融合、付着、連結、又は、コンジュゲートすることができる。半減期延長部分は、ポリマー、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)コレステロール基、炭水化物、若しくは、オリゴ糖;脂肪酸、又は、サルベージ受容体に結合する任意の天然、若しくは、合成タンパク質、ポリペプチド、若しくは、ペプチドであってもよい。好ましくは、半減期延長部分は、血清半減期の長い血漿タンパク質(アルブミン、及び、免疫グロブリン)に、任意選択により、リンカーを介して、共有結合で連結されている。他の実施形態では、半減期延長部分はアルブミン結合残基である。本明細書において使用されるような「アルブミン結合残基」とは、ヒト血清アルブミンに非共有結合で結合する残基を意味する。一実施形態では、アルブミン結合残基は親油性残基である。別の実施形態では、アルブミン結合残基は生理的pHで負に帯電している。アルブミン結合残基は、負に帯電することができるカルボン酸を通常には含む。アルブミン結合性残基の例としては脂肪酸が挙げられる。他の実施形態では、半減期延長部分は、IgG定常ドメイン、若しくは、その断片(例えばFc領域)、ヒト血清アルブミン(HSA)、又は、アルブミン結合性ポリペプチド、若しくは、例えば脂肪酸のような残基である。好ましくは、バイオコンジュゲートの半減期延長部分の部分はヒト血清アルブミン、又は、Fc領域である。最も好ましくは、バイオコンジュゲートの半減期延長部分の部分はFc領域である。
【0064】
半減期延長部分は、本開示のバイオコンジュゲートの構成部分、例えば、本開示のIL-10ムテインの生理機能を増強するように、かつ/又は、その妨げとならないように付着される。一部の実施形態では、本開示のIL-10ムテインは、半減期延長部分に、任意選択により、リンカーを介して、融合させることができる。半減期延長部分は、IgG定常ドメイン、若しくは、その断片(例えば、Fc領域)、ヒト血清アルブミン(HSA)などのタンパク質、又は、アルブミン結合性ポリペプチド、若しくは、残基(例えば脂肪酸)であってもよい。本明細書で開示するこのようなタンパク質は、多量体を形成する場合もある。
【0065】
一部の実施形態では、半減期延長部分(例えば、HSA、Fc、脂肪酸等)は、本開示のIL-10ムテインのN末端に共有結合で連結、又は、融合している。他の実施形態では、半減期延長部分(例えば、HSA、Fc、脂肪酸等)は、本開示のIL-10ムテインのC末端に共有結合で連結又は融合している。
【0066】
ある特定範囲は、「約」という用語が先行する数値を伴って本明細書で提示される。「約」という用語は、本明細書で、それが先行する正確な数字並びに当該用語が先行する数字に近い、又は、近似する数字に字義どおりの裏付けを提供するために使用される。ある数字が具体的に挙げられている数字に近いか、又は、近似するかを判定する際、近い、又は、近似の挙げられていない数字は、それが提示されている文脈において、具体的に挙げられている数字の実質的均等物を提供する数字であってもよい。
【0067】
明確性のために、別個の実施形態の文脈で記載されている本開示のある特定の特性は、単一の実施形態では組み合わせて提供されてもよいことが理解される。逆に、簡潔性のために、単一の実施形態の文脈で記載されている本開示の種々の特性は、別個に、又は、適切な任意の部分的組合せで提供されてもよい。本開示に属する実施形態の全ての組合せは、本開示によって具体的に内包され、あたかもありとあらゆる組合せが個々に、及び、明示的に開示されているかのように、本明細書で開示される。加えて、種々の実施形態、及び、それらの要素の全ての部分的組合せも、本開示によって具体的に内包され、あたかもありとあらゆるそのような部分的組合せが個々に及び明示的に本明細書で開示されているかのように、本明細書で開示される。
【0068】
種々の実施形態の詳細な説明
I. IL10ムテイン及びその融合タンパク質
ヒトIL10サイトカインは、2つのポリペプチドサブユニットのホモ二量体タンパク質である。IL10は、2つのIL10受容体-1(IL-10Rαサブユニット)タンパク質と2つのIL10受容体-2(IL-10Rβサブユニット)タンパク質から構成されるIL-10Rを通してシグナルを伝達する。したがって、機能的な受容体は4つのIL10受容体分子から構成される。IL10がIL-10Rに結合することで、JAK1及びTyk2によるIL10受容体の細胞質尾部のリン酸化を介して、STAT3シグナル伝達が誘導される。IL-10は、主に単球によって、程度は低いがリンパ球、具体的に言うとII型Tヘルパー細胞(TH2)、マスト細胞、CD4+CD25+Foxp3+制御性T細胞によって、及び活性化T細胞及びB細胞のある特定のサブセットにおいて、産生される。本開示の実施例で使用されるヒトIL10ポリペプチド及び組換えIL10-Fc融合構築物のアミノ酸配列、及びそれらの配列識別子の要約した説明を、下のTable 2(表2)に提供する。配列は添付の配列表にも含まれている。
【0069】
【表2A】
【0070】
【表2B】
【0071】
IL-10、又は、IL-10ポリペプチドという用語は、天然のものであるか組換えのものであるか関わりなく野生型IL-10を指し、そのホモログ、オルソログ、バリアント及び断片、並びに、例えばリーダー配列(例えばシグナルペプチド)を有するIL-10ポリペプチドを包含する。したがって、IL-10ポリペプチドには、それらに限定されないが、組換えで作製されたIL-10ポリペプチド、合成で作製されたIL-10ポリペプチド、及び、細胞又は組織から抽出されたIL-10-ポリペプチドが含まれる。本開示のIL-10ポリペプチドの非限定的な例として、成熟ヒトIL-10のアミノ酸配列を配列番号2で図示する。他の哺乳動物の種由来の例示的IL-10ホモログ、及び、その改変形態としては、ラット(アクセッションNP_036986.2; GI 148747382);ウシ(アクセッションNP_776513.1; GI 41386772);ヒツジ(アクセッションNP_00 1009327.1; GI 57164347);イヌ(アクセッションABY86619.1; GI 166244598);及び、ウサギ(アクセッションAAC23839.1; GI 3242896)由来の各IL-10ポリペプチドが挙げられる。本明細書に記載のアミノ酸置換の導入に適したIL-10ポリペプチドの更なる例としては、ウイルスコードのIL-10ホモログが挙げられるが、これには、それらに限定されないが以下が含まれる:サイトメガロウイルス(Cytomegalovirus)、リンホクリプトウイルス(Lymphocryptovirus)、マカウイルス(Macavirus)、ペルカウイルス(Percavirus)、パラポウイルス(Parapoxvirus)、カプリポックスウイルス(Capripoxvirus)、及び、アビポックスウイルス(Avipoxvirus)の各属に由来するIL-10ポリペプチド。サイトメガロウイルスIL-10ポリペプチドの非限定的な例としては、ヒトサイトメガロウイルス(アクセッションAAR31656、及び、ACR49217)、ミドリザルサイトメガロウイルス(アクセッションAEV80459)、アカゲザルサイトメガロウイルス(アクセッションAAF59907)、ヒヒサイトメガロウイルス(アクセッションAAF63436)、ヨザルサイトメガロウイルス(アクセッションAEV80800)、並びに、リスザルサイトメガロウイルス(アクセッションAEV80955)に由来するものが挙げられる。サイトメガロウイルスIL-10ポリペプチドの例としては、エプスタイン-バーウイルス(アクセッションCAD53385)、ボノボヘルペスウイルス(アクセッションXP_003804206.1)、アカゲザルリンホクリプトウイルス(アクセッションAAK95412)、及び、ヒヒリンホクリプトウイルス(アクセッションAAF23949)に由来するものが挙げられる。ウイルスIL-10ポリペプチド、及び、宿主免疫機能のそれらの制御に関する更なる情報については、例えばSlobedman B.ら、J. Virol. 2009年9月、9618~9629頁;及び、Ouyang P.ら、J. Gen. Virol.(2014)、95、245~262頁に見出すことができる。
【0072】
野生型ヒトIL-10前駆体ポリペプチド(例えば、シグナルペプチドを含むプレタンパク質)のアミノ酸配列を配列番号1に図示するが、これは、178個のアミノ酸残基のタンパク質であり、これは配列番号14に図示するN末端のアミノ酸18個のシグナルペプチドを備えるタンパク質であり、このシグナルペプチドが除去されて配列番号2のアミノ酸160個の成熟タンパク質を生成することができる。しかし、成熟タンパク質は多くの場合、組換えポリペプチド構築物を生成するために使用される。IL-10のN末端バリアントが報告されてきた(US5,328,989)。したがって、本開示の目的のために、アミノ酸付番の全ては配列番号2に記載のIL-10タンパク質の成熟ポリペプチド配列に基づく。
【0073】
天然に存在するヒトIL-10に加えて、IL-10のサイトカイン機能を保持する様々な操作された、及び/又は、合成で改変されたIL-10ポリペプチドが当該技術分野で知られている。PEG化IL-10、ペギロデカキンは、天然に存在するヒトIL-10の抗腫瘍性の免疫監視機能を保持していることが示されてきた。Naing, A.ら「PEGylated IL-10(Pegilodecakin) Induces Systemic Immune Activation, CD8+ T Cell Invigoration and Polyclonal T Cell Expansion in Cancer Patients.」 Cancer Cell 34、775~791頁.(2018)を参照されたい。操作されたIL-10バリアントR5A11は、IL-10Rβにより高い親和性を有し、ヒトCD8+T細胞において増強されたシグナル伝達活性を呈し、CAR-T細胞の抗腫瘍機能を増強することが示されてきた。Gorby, C.ら「Engineered IL-10 variants elicit potent immunomodulatory effects at low ligand doses.」Sci Signal 13、(2020)を参照されたい。エプスタイン-バーウイルス(Epstein-Barr virus)由来のIL-10は、IL-10R1により弱い結合を有するが、ヒトIL10の免疫抑制サイトカイン活性を保持し、一方、一部の細胞による免疫刺激活性を誘導する能力を失ってしまっている。Yoon, S. I.ら「Epstein-Barr virus IL-10 engages IL-10R1 by a two-step mechanism leading to altered signaling properties.」 J Biol Chem 287、26586~26595頁(2012)を参照されたい。US7,749,490B2、及び、US2017/0015747A1には、MC/9細胞増殖アッセイにおいてより低い免疫刺激活性を呈する、操作されたIL-10変異体(例えば、F129S-IL-10)について記載されている。全体として、一部のIL-10サイトカイン機能を保持するIL-10ポリペプチドの操作又は改変された任意のバージョンを、本開示のIL-10ムテイン、及び、融合タンパク質のいずれかにおいて使用することができることが、企図されている。
【0074】
いかなる特定の理論にも束縛されるものではないが、本明細書に記載される実験データが裏付けるところは、とりわけIL-10が別の分子に融合されている場合にはIL-10ムテインの製造、例えば収量が改善されること、である。また、本開示は、IL-10ムテインが野生型IL-10を超えてより十分な薬理学的特性を有することも可能にする。更に、IL-10受容体結合が減少しているが同等の生物活性を備えるIL-10ムテインも提供されており、そういったIL-10ムテインを様々な薬物動態特徴、又は、標的細胞選択性を備える薬物を設計するのに使用することができる。
【0075】
II. IL10ムテイン、又は、その融合タンパク質の医薬組成物、及び、製剤
本開示はまた、IL10ムテイン、又は、その融合タンパク質を含む医薬組成物、及び、医薬製剤も提供する。一部の実施形態では、本開示は、本明細書に記載されるIL10ムテイン、又は、その融合タンパク質、及び、薬学的に許容される担体を含む医薬製剤を提供する。このような医薬製剤は、所望の純度を有するIL10ムテイン、又は、その融合タンパク質を、1種以上の薬学的に許容される担体と混合することによって調製することができる。典型的には、このような抗体製剤は、水性溶液(例えば、米国特許第6,171,586号、及び、WO2006/044908を参照されたい)として、又は、凍結乾燥製剤(例えば、米国特許第6,267,958号を参照されたい)として調製することができる。
【0076】
薬学的に許容される担体は一般に、用いられる投薬量、及び、濃度でレシピエントに対して無毒である。広範囲のこのような薬学的に許容される担体が当技術分野でよく知られている(例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences 16版、Osol, A.編(1980)を参照されたい)。本開示の製剤に有用である薬学的に許容される例示的な担体としては、それらに限定されないが、以下が挙げられ得る:ホスフェート、シトレート、及び、その他の有機酸などの緩衝剤;アスコルビン酸、及び、メチオニンを始めとする抗酸化剤;保存剤(例えば、オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリド;ヘキサメトニウムクロリド;ベンザルコニウムクロリド;ベンゼトニウムクロリド;フェノール、ブチル、又は、ベンジルアルコール;メチル、又は、プロピルパラベンなどのアルキルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;及びm-クレゾール);低分子量(約10残基未満)ポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチン、若しくは、免疫グロブリンなどのタンパク質;ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、又は、リジンなどのアミノ酸;単糖類、二糖類、及び、グルコース、マンノース、若しくは、デキストリンを始めとするその他の炭水化物;EDTAなどのキレート剤;スクロース、マンニトール、トレハロース、若しくは、ソルビトールなどの糖類;ナトリウムなどの塩形成対イオン;金属錯体(例えば、Zn-タンパク質複合体);及び/又は、ポリエチレングリコール(PEG)などの非イオン性界面活性剤。
【0077】
本開示の製剤に有用な薬学的に許容される担体にはまた、例えば、可溶性中性活性ヒアルロニダーゼ糖タンパク質(sHASEGP)(例えば、米国特許公開第2005/0260186号及び同第2006/0104968号を参照されたい)などの、例えば、ヒト可溶性PH-20ヒアルロニダーゼ糖タンパク質(例えば、rHuPH20、又は、HYLENEX(登録商標)、Baxter International, Inc.社)などの、間質薬物分散剤も含まれ得る。
【0078】
本明細書に開示される製剤は、製剤が投与される対象において治療される特定の適応症に必要に応じて、IL10ムテイン、又は、その融合タンパク質に加えて有効成分を含有することができることも企図される。好ましくは、更なる任意の有効成分は、IL10ムテイン、又は、その融合タンパク質活性の活性に補完性の活性を有し、それらの活性は相互に悪影響を及ぼさない。
【0079】
有効成分は、例えば、コアセルベーション技法によって、又は、界面重合によって、例えば、コロイド薬物送達システム(例えば、リポソーム、アルブミンミクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子、及び、ナノカプセル)において、又は、マクロエマルジョンにおいて、それぞれ、ヒドロキシメチルセルロース又はゼラチン-マイクロカプセル及びポリ-(メチルメタクリレート)マイクロカプセルによって、調製されるマイクロカプセルに封入することができる。このような技法は、Remington's Pharmaceutical Sciences 16版、Osol, A.編(1980)に開示されている。
【0080】
一部の実施形態では、製剤は、抗体、及び/又は、その他の有効成分の徐放性調製物であってもよい。徐放性調製物の適切な例としては、抗体を含有する固体疎水性ポリマーの半透性マトリクスが挙げられ、このマトリクスは、成形品、例えば、フィルム、又は、マイクロカプセルの形態である。
【0081】
典型的には、対象に投与される本開示の製剤は無菌である。無菌製剤は、よく知られた技法を使用して、例えば、無菌濾過膜を通す濾過によって容易に調製することができる。
【0082】
本開示の治療方法の一部の実施形態では、IL10ムテイン、若しくは、その融合タンパク質、又は、IL10ムテイン、若しくは、その融合タンパク質を含む医薬製剤は、対象に、薬剤を全身的に、又は、所望の標的組織に送達する任意の投与様式によって投与される。全身投与とは一般に、対象への、直接所望の標的部位、組織、又は、臓器へ以外での部位にての抗体の任意の投与様式を指し、その結果、抗体、又は、その製剤は対象の循環系に入り、その結果、代謝、及び、他の同様なプロセスを受ける。
【0083】
したがって、本開示の治療方法において有用な投与様式には、それらに限定されないが、注射、輸注、滴下注入、及び、吸入が含まれ得る。注射による投与には、静脈内、筋肉内、動脈内、髄腔内、脳室内、嚢内、眼窩内、心臓内、皮内、腹腔内、経気管、皮下、表皮下、関節内、嚢下、くも膜下、脊髄内、脳脊髄内、及び、胸骨内の注射、並びに、輸注が含まれ得る。
【0084】
一部の実施形態では、IL10ムテイン、又は、その融合タンパク質の医薬製剤は、抗体が腸での不活性化から保護されるように、製剤化される。したがって、本治療方法は製剤の経口投与を含んでもよい。
【0085】
一部の実施形態では、医薬としての本開示のIL10ムテイン、又は、その融合タンパク質を含む組成物、又は、製剤の使用も提供される。加えて、一部の実施形態では、本開示はまた、医薬、特に疾患を治療、予防、又は、阻害するための医薬の製造、又は、調製におけるIL10ムテイン、又は、その融合タンパク質を含む、組成物、又は、製剤の使用も提供する。更なる実施形態では、本医薬は、疾患を有する個体に医薬の有効量を投与する工程を含む、疾患を治療、予防、又は、阻害するための方法で使用するためのものである。ある特定の実施形態では、医薬は、少なくとも1つの更なる治療剤の有効量、又は、治療法を更に含む。
【0086】
本開示の組成物、及び、製剤に含有されるIL10ムテイン、又は、その融合タンパク質の適正な投薬量(単独で、又は、他の更なる1種以上の治療剤と組み合わせて使用される場合)は、治療される特定の疾患、又は、状態、疾患の重症度、及び、経過、抗体が予防目的のために、又は、治療目的のために投与されるか、患者に施された前治療歴、患者の病歴、及び、抗体に対する応答、並びに主治医の判断に依存することになる。本明細書に記載の組成物、及び、製剤に含まれるIL10ムテイン、又は、その融合タンパク質は、一度に、又は、一連の治療にわたって患者に適切に投与することができる。それらに限定されないが、様々な時点にわたる単回投与、又は、複数回投与、ボーラス投与、及び、パルス輸注を始めとする様々な投薬スケジュールが、本明細書で企図される。
【0087】
疾患のタイプ、及び、重症度に応じて、本開示の製剤に含まれるIL10ムテイン、又は、その融合タンパク質約1μg/kg~15mg/kgは、例えば、1回以上の別々の投与によるか、又は、持続輸注によるかを問わず、ヒト対象に投与するための初回の候補投薬量である。全体として、IL10ムテイン、又は、融合タンパク質の投与される投薬量は、約0.001mg/kgから約10mg/kgまでの範囲であろう。一部の実施形態では、約0.5mg/kg、2.0mg/kg、4.0mg/kg、又は、10mg/kg(又はそれらの任意の組合せ)の1つ以上の用量を患者に投与してもよい。
【0088】
投薬量の投与は、対象の状態に応じて、数日以上にわたって維持することができ、例えば、当技術分野で知られている方法によって決定されるように、疾患が十分に治療されるまで投与を続けることができる。一部の実施形態では、より高い初期負荷用量を投与し、これに続いて、1回以上のより低い用量を投与することができる。しかし、他の投薬レジメンが有用な場合もある。投薬量投与の治療効果の進行は、従来の技法、及び、アッセイによってモニタリングすることができる。
【0089】
したがって、本開示の方法の一部の実施形態では、IL10ムテイン、又は、その融合タンパク質の投与は、約1mg/kgから約100mg/kgまでの1日投薬量を含む。一部の実施形態では、IL10ムテイン、又は、その融合タンパク質の投薬量は、少なくとも約0.01mg/kg、少なくとも約0.1mg/kg、少なくとも約1mg/kg、少なくとも約10mg/kg、又は、少なくとも約20mg/kgの1日投薬量、を含む。
【実施例
【0090】
本開示の様々な特性及び実施形態は、以下の代表的な実施例で例示され、これらは、例示であることを意図するものであり、限定するものではない。当業者であれば、特定の実施例が、その後に続く特許請求の範囲においてより完全に説明されるように、本発明の例示にすぎないことを容易に理解するであろう。本出願に記載されているあらゆる実施形態、及び、特性は、その中に含まれるあらゆる実施形態と互換性があり、組み合わせ可能であると理解されたい。
【0091】
(実施例1:IL-10ムテインの設計)
ヘパリンの存在下でのIL-10活性に関するモジュレーションが報告されてきた(Blood. 2000;96(5):1879~88頁)。ヘパリン結合部位は、ヘリックスDのC末端と、アルギニン102、104、106及び107、並びに、リジン117、及び、119を伴う隣接するDEループとに位置する正荷電残基のパッチである(J Biol Chem. 2016;291(6):3100~13頁; J Mol Graph Model. 2015;62:97~104頁)。ヘパリン結合に対するこれらの残基の寄与を調査するために、アルギニン104、107、及び、リジン119の置換を最初に調査した。例示的なIL-10単量体野生型(WT)、及び、置換を含むバリアントの配列を、それぞれ図1、及び、図2A図2Bに図示する。IL-10単量体の置換付番は、図1に示す成熟型IL-10配列、配列番号2に基づいており、置換は、明瞭性のために図2A図2Bにおいて灰色でラベルされていることに留意されたい。
【0092】
(実施例2:IL10-Fcにおける例示的なIL-10ムテイン)
ヘパリン結合に及ぼすアルギニン104、107、及び、リジン119の置換の影響を調査するために、本発明者らはまず、図3に示す配列番号13のアミノ酸配列を有するIL10 (WT)-Fc(野生型IL10-Fc)融合タンパク質を生成するが、この融合タンパク質は同一の2つ単量体を含む。各単量体は、ペプチドリンカーを介して、ヒトIgG1 Fc(P01857の残基100~残基330)のN末端に共有結合したIL-10単量体を含む。IL-2シグナルペプチド(MYRMQLLSCIALSLALVTNS、配列番号14)を有するIL10 (WT)-Fc融合タンパク質をコードする核酸分子の合成は、GeneArt(Thermo Fisher Scientific社GENEART)によって実施し、ベクターpCDNA3.4内に構築して、哺乳動物細胞において融合タンパク質を発現させるための組換え発現ベクターを得た。その後、R104Q、R107A、R107E、R107Q及びK119Sなどの単一点変異、又は、複数の点変異をIL10(WT)-Fc断片に導入して、それぞれ、IL10(R104Q)-Fc、IL10(R107A)-Fc、IL10(R107E)-Fc、IL10(R107Q)-Fc、及びIL10(K119S)-Fc、IL10(R104Q/R107A)-Fc、IL10(R104Q/R107Q)及びIL10(R104Q/R107E)-Fcを生成した。IL-10バリアントの例示的な配列は、図2A図2Bにある。
【0093】
IL10-Fcムテインの産生及び特性評価
製造業者(Thermo Fisher社、ExpiCHO(商標)Expression System Kit A29133)により提供されるマニュアルに従って、ExpiCHO細胞に構築した発現ベクターをトランスフェクトした。7~8日間培養した後、一過性発現産物の上清を採取し、IL10(WT)-Fc及びIL-10バリアントを含むIL10-Fc融合体をプロテインAセファロースを使用して精製し、0.1M pH2.5のグリシンで溶出し、これに続いて1M tris pH9.0で中和した。プロテインA精製タンパク質の質を非還元SDS-PAGEによって分析した。驚くべきことに、図4に示すように、IL10(R104Q)-Fc、IL10(R107A)-Fc、IL10(R107E)-Fc及びIL10(R107Q)-Fcは、IL10(WT)-Fcと比較した場合に凝集がより少ないことを示した。対照的に、IL10(K119S)-Fcは、IL10(WT)-Fcと比較した場合に同様の凝集を呈した。プロテインAによって精製されたIL10-Fcバリアントを、標準Size Exclusion HPLC(SE-HPLC)を使用してタンパク質凝集について更に解析した。抗体40μgをHPLC(Waters社ARC HPLC)に適用し、移動相0.1Mリン酸ナトリウム、pH6.8を使用してゲル濾過カラム(Waters社、XBridge BEH200 SEC 7.8×300)上で分離を行った。抗体のピークを280でのUV吸光度をモニタリングし、ピーク面積をEmpowerソフトウェアを使用して決定した。SDS-PAGEの結果と一致して、IL10(WT)-Fcは有意レベルの凝集体を有する。IL10(R104Q)-Fc、IL10(R107A)-Fc、IL10(R107E)-Fc、及び、IL10(R107Q)-Fcは、図5Aに示すIL10(WT)-Fcと比較して、実質的な凝集減少、及び、分解減少を呈した。このようなことは、とりわけIL10(R107A)-Fcについては予想外である。106、107及び110各位にてのヘリックス中のアミノ酸アルギニンがアラニン(R106A、R107A又はR110A)へと置換されると、IL-10のヘリックス構造を不安定化することが知られている(Front Immunol.2020;11:1794頁.)。プロテインA精製におけるIL10(WT)-Fc、及び、ムテインの収量を図5Bに示す。プロテインA手順により精製したIL10-Fcムテインの単量体収量は、明らかに総タンパク質収量の増加と凝集パーセンテージがより低いことが原因で、IL10(WT)-Fcの単量体収量よりも少なくとも1.5倍高かった。R104、及び、R107にての同時置換の影響も調査した。図5Cに示すように、IL10の二重置換によって、凝集傾向が有意に減少したことも示された。
【0094】
IL10バリアントを含むIL10-Fc融合体を更に特徴付けるために、全ての融合タンパク質を、1×PBSを用いるSuperdex 200 Increase10/300 GLカラム(GE Healthcare社)でのゲル濾過クロマトグラフィーによって更に精製して、凝集体を除去した。結合試験では、IL10(WT)-Fc又はムテインを1×PBSで連続希釈し、次いで、100μlを、組換えヒトIL-10Rα(R&D systems社9100-R1) 0.8μg/ml又は組換えヒトIL-10Rβ(Sinobiological社10945-H08H) 0.1μg/mlでコーティングされた各ウェルに添加した。プレートを37℃で1.5時間インキュベートし、未結合IL10-Fcを1×PBSTで3回洗い流した。HRP-コンジュゲート抗ヒトFc抗体を添加し、37℃で1時間インキュベートした。過剰な検出抗体を洗い流し、3,3',5,5'-テトラメチルベンジジンを各ウェルに添加した。インキュベーション後、等量の停止液(2M H2SO4)を添加し、450/650nmで吸光度を読み取る。図6A及び図6Bに見られるように、104及び107の置換いずれも、並びにR104とR107にての同時置換は、IL10(WT)-Fcと比較した場合、ヒトIL-10Rα結合の有意な減少を呈した。対照的に、N15、N92、K99、及び、F111でGorbyら(Sci Signal.2020年9月15日;13(649):eabc0653)によって記載された複数の置換を有するIL-10ムテインであるR5A11は、ヒトIL-10Rα結合及びIL-10Rβ結合の増強を示した。IL10バリアントを含むIL10-Fc融合体のIL-10Rβへの結合も、ELISAアッセイにおいて有意に減少した(図6C)。本発明者らはまた、IL-10Rα結合ELISAを使用して、IL10(R104Q)-Fcの凍結解凍安定性も調査した。PBS中のIL10-Fc融合タンパク質を5回凍結解凍した。サイクルは、試料を-70℃に24時間超で置くことから構成した。翌日、試料を室温で少なくとも1時間解凍した。図7に見られるように、5回の凍結解凍処理は、IL-10RαへのIL10(WT)-Fcの結合親和性に対して負の影響を及ぼした。対照的に、ヒトIL-10RαへのIL10(R104Q)-Fcの結合は、5回の凍結解凍処理後でも変化していなかった。
【0095】
IL10-FcムテインによるSTAT3活性化
細胞ベースのバイオアッセイをIL-10によるSTAT3活性化を研究するために確立した。HeLa細胞は内因性IL-10Rβを発現するが、IL-10Rαは発現しない。したがって、STAT3の転写制御下でヒトIL-10Rα及びSTAT3ホタルルシフェラーゼレポーター遺伝子を安定して発現するHeLa IL10Rα-STAT3ルシフェラーゼレポーター細胞を、標準レンチウイルス技法を使用して生成した。STAT3ホタルルシフェラーゼレポーターレンチウイルスはCellomics Technology社(PLV-10065-50)から購入した。レンチウイルスコードのIL-10Rα(NM_001558)は、トランスファーベクターpLAS5w.Phyg、及び、標準法を使用して生成した。ピューロマイシン、及び、ハイグロマイシンを使用して、HeLa IL10Rα-STAT3安定細胞を選択した。STAT3活性化アッセイでは、IL10Rα-STAT3安定細胞を、増殖培地100μl中の白色ソリッドボトム96ウェルマイクロプレートに5×104個の細胞/ウェルで播種した。次いで細胞をCO2インキュベーターにて37℃で更に6時間インキュベートし、次いで、様々な濃度のIL10(WT)-Fc、又は、IL10バリアントを含むIL10-Fc融合体で刺激した。再度18時間培養した後、製造業者の使用説明書に従ってONE-Glo(商標) Luciferase Assay System(Promega社E6120)によってルシフェラーゼ活性を決定した。図8に示すように、IL10バリアントを含むIL10-Fc融合体の活性は、IL10(WT)-Fcと同等であった。IL10(R5A11)-Fcはより十分な活性を示したが、これは文献の観察と一致する。
【0096】
IL10-FcムテインによるCD8T細胞の活性化
CD8+T細胞の刺激は、IL-10の抗腫瘍特性の1つである。CD8+T細胞上のIL-10Rは、IL-10で治療した担腫瘍マウスにおいて腫瘍内在性CD8+T細胞の増殖を高め、活性を上昇させるのに必要かつ十分であった(Cancer Res. 2012;72(14):3570~81頁.)。したがって、CD8+T細胞上のIL10バリアントを含むIL10-Fc融合体の機能活性を、初代CD8+T細胞を使用して評価した。CD8マイクロビーズ(Miltenyi Biotec社: 130-045-201)を使用してCD8+T細胞をPBMCから単離し、AIM-V培地(Thermo Fisher Scientific社: 12055083)中でT細胞TransAct(Miltenyi Biotec社: 130-111-160)を用いて72時間刺激した。刺激後、活性化CD8+T細胞をIL10-Fc融合タンパク質と共にインキュベートした。分泌されたグランザイムBを、製造業者の使用説明書に従ってELISA(R&DSystems社 DY2906-05)によって決定した。IL10(R104Q)-Fc及びIL10(R107Q)-Fcは、IL10(WT)-Fcと比較して同等の刺激活性を示したが(図9)、一方、IL10(R104Q)-Fc、IL10(R107A)-Fc、IL10(R107E)-Fc及びIL10(R107Q)-FcのヒトIL-10Rα結合活性は、IL10(WT)-Fcよりも弱い。これらのデータが示唆するところは、IL10(R104Q)-Fc、IL10(R107A)-Fc、IL10(R107E)-Fc及びIL10(R107Q)-Fcは、受容体結合が大幅に減弱しているにもかかわらず、ヒトCD8+T細胞アッセイにおいてIL10(WT)-Fcのように機能することができること、である。
【0097】
IL10-Fc-VEGFトラップ
IL10ムテインの凝集能の減少も別の融合例で観察された。血管内皮増殖因子(VEGF)トラップを、IL10野生型又はムテインのC末端に融合させた。VEGFトラップの配列は、VEGFR2由来のIgドメインに融合されたVEGFR1由来のIgドメイン2(配列番号29)からなる(図10A)。融合タンパク質を、前記のように発現させ、精製し、SE-HPLCによって解析した。図10Bに見られるように、IL-10(R104Q/R107A)-Fc-VEGFトラップは、IL-10(WT)-Fc-VEGFトラップ融合タンパク質と比較した場合、凝集の減少を示した。
【0098】
(実施例3:抗体-IL10フォーマット)
IL-10ムテインのN末端が別のタンパク質のC末端に融合されている場合に、IL-10ムテインの製造性の改善を観察することができるかを調査するために、6D4H22-IL10(配列番号21~22)を含むモノクローナル抗体に基づく抗体-IL10融合構築物を、標準クローニング技法によって生成した。図11に示すように、IL10を、ペプチドリンカーを介して、それぞれの抗体のC末端に融合させて、抗体-IL10融合タンパク質を生成した。6D4H22(抗CSF1R)抗体の生成、親和性成熟、及び、特性評価についての詳細は、参照により本明細書に組み込まれるPCT公開番号WO2020242950A1に添付の実施例に見出すことができる。次に、IL-10配列内の単一置換(R104Q、R107A、R107E若しくはR107Q)又は二重置換(R104Q/R107A、R104Q/R107D、R104Q/R107E若しくR104Q/R107Q)を含有する抗体-IL10融合タンパク質を標準クローニング技法によって生成した。例示的なIL-10ムテインの配列を図2に図示する。
【0099】
6D4H22-IL10ムテインの凝集
プロテインA溶出6D4H22-IL10(WT)、及び、種々の6D4H22-IL10ムテイン融合タンパク質の凝集含量を、上記のようにSE-HPLCを使用して解析した。全ての6D4H22-IL10ムテインは、6D4H22-IL10(WT)に対して生産上の利点を呈した。第一に、単量体のパーセンテージは、種々の6D4H22-IL10ムテイン融合タンパク質において大幅に向上している(図12A)。第二に、6D4H22-IL10の、R104Q、R107A、R107E、R107Qを含む単一ムテイン及び二重ムテインR104Q/R107A、R104Q/R107Q、R104Q/R107Eにおいて、メインピークの不均一性はまったく観察されなかった(図12B)。単量体のショルダーが二重ムテインR104Q/R107Dにおいてなおも観察された。
【0100】
IL-10Rα結合
本発明者らは、こういったIL10ムテインは別のタンパク質のC末端に融合された場合にヒトIL-10Rαへのより低い結合を呈するかどうかを調査した。プロテインA溶出6D4H22-IL10(WT)及び種々の6D4H22-IL10ムテインの融合タンパク質全てを、1×PBSを用いたSuperdex 200 Increase10/300 GLカラム(GE Healthcare社)でのゲル濾過クロマトグラフィーによって更に精製して、凝集体を除去した。結合試験では、6D4H22-IL10(WT)及びムテインを1×PBSで連続希釈し、次いで、100μlを、組換えヒトIL-10Rα(R&D systems社274-R1)でコーティングされた各ウェルに添加した。図13Aに見られるように、6D4H22-IL10のIL-10部分における104、及び、107の全ての置換は、6D4H22-IL-10(WT)と比較した場合にヒトIL-10Rα結合の有意な減少を呈した(図11A)。マウスIL-10Rα(R&D systems社7704-MR-025/CF)への6D4H22-IL10ムテイン融合タンパク質の結合活性もまた、ヒトIL-10Rαへの同じムテインの結合と同様のパターンで減少した(図13B)。データが示唆したところは、受容体結合の減少はこれらIL-10ムテインの特徴であり、IL-10が別のポリペプチドのC末端、又は、N末端に融合されている場合には変化しないと思われること、である。
【0101】
6D4H22-IL10ムテインによるSTAT3活性化
簡潔に述べると、HeLa IL10Rα-STAT3ルシフェラーゼレポーター細胞を、増殖培地100μl中の白色ソリッドボトム96ウェルマイクロプレートに5×104個の細胞/ウェルで播種した。CO2インキュベーターで37℃にて更に6時間細胞をインキュベートし、次いで、様々な濃度の6D4H22-IL10(WT)、及び、6D4H22-IL10ムテインの融合タンパク質で細胞を刺激する。再度18時間培養した後、ONE-Glo(商標) Luciferase Assay System(Promega社E6210)によってルシフェラーゼ活性を決定した。図14に示すように、6D4H22-IL10ムテイン融合タンパク質は生物活性を保持したが、一方、IL-10Rαへの融合タンパク質の結合は大幅に減少した。
【0102】
6D4H22-IL10ムテインによるCD8+T細胞活性化
CD8+T細胞に対する6D4H22-IL10バリアントの機能活性を、初代CD8+T細胞を使用して評価した。CD8マイクロビーズ(Miltenyi Biotec社: 130-045-201)を使用してCD8+T細胞をPBMCから単離し、AIM-V培地(Thermo Fisher Scientific社: 12055083)中でT細胞TransAct(Miltenyi Biotec社: 130-111-160)を用いて72時間刺激した。刺激後、活性化CD8+T細胞を6D4-IL10バリアントと共にインキュベートした。分泌されたグランザイムBをELISA(R&DSystems社 DY2906-05)によって決定した。IL10-FcフォーマットのIL-10ムテインと一致して、6D4H22-IL10(R104Q)は、6D4H22-IL10(WT)と比較して同等の刺激活性を示した(図15)。
【0103】
C末端にてのIL-10との他の融合体
IL10(WT)、及び、ムテインを、ペプチドリンカーを介して、ベバシズマブ(IgG1、配列番号23~24)、YP7G(IgG4、配列番号25~26)、又は、アベルマブ(IgG1、配列番号27~28)のC末端に融合させて(図11(B)~図11(D))、抗体-IL10融合タンパク質を生成した。YP7G(抗PD-L1)抗体の生成、親和性成熟、及び、特性評価についての詳細は、参照により本明細書に組み込まれるPCT公開番号WO2021231741A2に添付の実施例に見出すことができる。アベルマブ、及び、ベバシズマブのアミノ酸配列は、それぞれWO2013079174(A09-246-2)、及び、WO2013181586に見出すことができる。ベバシズマブ、及び、アベルマブは、抗体-IL-10融合体の構築物から得た。全ての融合タンパク質をCHO-Sで発現させ、前記のようにプロテインAビーズによって精製した。図16A中、サイズ排除クロマトグラフィーの結果が示したところは、ベバシズマブがIL10ムテインR104Q、R107A、又は、R104/Q/R107Aに融合された場合には凝集レベルが大幅に減少したこと、である。また、抗PD-L1抗体、YP7G、及び、アベルマブの単量体収量も、抗体-IL10(WT)融合体と比較した場合、IL10ムテインとの融合体において有意に向上した(図16B、及び、図16C)。
【0104】
(実施例4:IL-10融合タンパク質の薬物動態)
IL-10(R104Q)-Fc、IL-10(R107A)-Fc、及び、IL-10(R104Q/R107A)-Fc融合タンパク質の薬物動態プロファイルをIL-10(WT)-Fcのプロファイルと比較した。薬物動態研究を、i.v.投与(10mg/kg)後に非絶食雌性C57BL6マウスにおいて実施した。マウスには、PBS中で製剤化したIL-10(WT)-Fc、又は、IL-10ムテイン-Fcの融合タンパク質のいずれかを与えた(3匹のマウス毎群)。連続血液試料(10μl)を、投与前、投与後0.25時間、1時間、8時間、24時間、48時間、72時間、及び、96時間に、尾静脈での微量採取(Pharm Res. 2014;31(7):1823~33頁.)によって収集し、1%BSAを含むPBS 90μlで希釈した。研究の終了時(196時間)に、血清試料も、心臓穿刺を介して採取した。試料を、hIL-10Fc濃度の解析まで-80℃で保存した。インタクトなタンパク質濃度を、IL-10Fc融合体が抗IL10抗体(Biolegend社506802)によって捕捉され抗ヒトFc(Abcam社Ab97225)によって検出される、ELISAアッセイで決定した。代表的な実験の結果を図17に示す。196時間にわたるIL-10融合体の濃度の時間経過が示したところは、IL-10(WT)-Fcと比較した場合、IL-10ムテイン-Fc融合タンパク質(R104Q、R107A又はR104Q/R107A)の実質的に延長した半減期、である。196時間目で、IL-10(WT)-Fcの濃度は検出限界未満であったが、一方、IL-10(R104Q)-Fc、IL-10(R107A)-Fc、及び、IL-10(R104Q/R107A)-Fcは、なおも検出可能であった。
【0105】
添付の特許請求の範囲にかかわらず、本明細書に記載される本開示はまた、以下の段落によっても定義され、それは、単独で、又は、1つ以上の他の理由、若しくは、実施形態との組合せで、有益であってもよい。上記の説明を限定することなく、下のように付番される本開示のある特定の非限定的な段落が提供され、個々に付番された段落のそれぞれは、先行する、又は、後続の段落のいずれかと共に使用してもよく組み合わせてもよい。したがって、このことは、全てのそのような組合せについての裏付けを提供することを意図するものであり、下に明確に提供される特定の組合せに必ずしも限定されるものではない。
【0106】
本発明の上述の開示について、明確化かつ理解のために、例、及び、例示として多少とも詳細に説明してきたが、本明細書で説明される実施例、説明、及び、実施形態を含めて本開示は、例示の目的のためであり、例示であるものとし、本開示を限定するとは解釈されるものではない。本明細書で説明される実施例、説明、及び、実施形態への様々な改変、又は、変更が為され得ること、並びに、それらが本開示及び添付の特許請求の範囲の趣旨及び範囲内に含まれることは、当業者であれば明白であろう。更に、当業者であれば、本明細書で説明される方法、及び、手順と均等ないくつかの方法、及び、手順を理解するであろう。全てのそのような均等物は、本開示の範囲内にあることが理解されるべきであり、添付の特許請求の範囲によって包含される。
【0107】
本明細書で挙げられるあらゆる刊行物、特許出願、特許、又は、他の文献の開示は、それぞれそのような個々の刊行物、特許、特許出願、又は、他の文献が、あらゆる目的のためにその全体が参照により本明細書に組み込まれていると個々に具体的に示されているかのように、かつ、本明細書にその全体が記載されているかのように同程度に、あらゆる目的のためにそれら全体の参照により本明細書に明示的に組み込まれる。矛盾する場合には、特定の用語を含めて本明細書が優先する。
【0108】
[参考文献]
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図6C
図7
図8
図9
図10A
図10B
図11AB
図11CD
図12A
【図
図12B
図13
図14
図15
図16A
図16B
図16C
図17
【配列表】
2024537239000001.xml
【国際調査報告】