(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-10
(54)【発明の名称】キメラタンパク質及び発現系
(51)【国際特許分類】
C07K 19/00 20060101AFI20241003BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20241003BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20241003BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20241003BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C07K19/00 ZNA
C12N15/62 Z
C12N15/63 Z
C12N1/19
C12P21/02 C
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024521249
(86)(22)【出願日】2022-10-04
(85)【翻訳文提出日】2024-05-24
(86)【国際出願番号】 GB2022052514
(87)【国際公開番号】W WO2023057750
(87)【国際公開日】2023-04-13
(32)【優先日】2021-10-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524130593
【氏名又は名称】エンドクライン リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【氏名又は名称】松田 七重
(74)【代理人】
【識別番号】100156982
【氏名又は名称】秋澤 慈
(72)【発明者】
【氏名】イーガン ローナン
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG01
4B064CA19
4B064CC24
4B064CE12
4B064DA20
4B065AA72X
4B065AA72Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA60
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA15
4H045DA89
4H045EA60
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】
Lip5ポリペプチドに作動可能に連結されたBol3ポリペプチドを含む、宿主細胞において酸化ストレスを軽減する新規なキメラタンパク質が記載される。このキメラタンパク質は、Bol3ポリペプチドとLip5ポリペプチドの間にリンカーを含み得る。このリンカーは、ポリヒスチジンリンカーであり得る。又、このキメラタンパク質をコードするポリヌクレオチド、そのポリヌクレオチドを組み込んだベクター、及びそのベクターで形質転換した宿主細胞も記載される。真核生物宿主細胞内で少なくとも1つのジスルフィド結合(例えば、少なくとも3つのジスルフィド結合)を有する標的ポリペプチド、例えば、ICKを有する標的ポリペプチドを発現させる方法であって、前記宿主細胞を、前記キメラタンパク質をコードするポリヌクレオチドで形質転換すること、及び前記宿主細胞を、前記キメラタンパク質と前記ポリペプチドが共に発現される条件下で培養することを含む方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Lip5ポリペプチドに作動可能に連結されたBol3ポリペプチドを含む、キメラタンパク質。
【請求項2】
前記Bol3ポリペプチドが配列番号1のアミノ酸配列に対して少なくとも50%の配列同一性を有する、請求項1に記載のキメラタンパク質。
【請求項3】
前記Lip5ポリペプチドが、配列番号2のアミノ酸配列と少なくとも50%の配列同一性を有する、請求項1に記載のキメラタンパク質。
【請求項4】
前記キメラタンパク質がBol3ポリペプチドとLip5ポリペプチドの間にリンカー配列を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のキメラタンパク質。
【請求項5】
前記リンカー配列がポリヒスチジンペプチドを含む、請求項4に記載のキメラタンパク質。
【請求項6】
前記リンカー配列がポリヒスチジンリンカー中の6~20個の連続するヒスチジン残基を含む、請求項5に記載のキメラタンパク質。
【請求項7】
前記タンパク質が配列番号3のアミノ酸配列に対して少なくとも70%の配列同一性を有する、請求項1~6のいずれか一項に記載のキメラタンパク質。
【請求項8】
前記リンカー配列がCia2配列を含む、請求項4に記載のキメラタンパク質。
【請求項9】
前記リンカー配列が配列番号28のアミノ酸配列を含む、請求項8に記載のキメラタンパク質。
【請求項10】
前記リンカー配列が配列番号29のアミノ酸配列を含む、請求項9に記載のキメラタンパク質。
【請求項11】
前記キメラタンパク質が配列番号31のアミノ酸配列に対して少なくとも70%の配列同一性を有する、請求項8~10のいずれか一項に記載のキメラタンパク質。
【請求項12】
配列番号32のポリヌクレオチドから発現される、請求項1~4のいずれか一項に記載のキメラタンパク質。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載のキメラタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
【請求項14】
配列番号4のヌクレオチド配列に対して少なくとも50%の配列同一性を有し、及び/又は配列番号5のヌクレオチド配列に対して少なくとも50%の配列同一性を有する配列を含む、請求項13に記載のポリヌクレオチド。
【請求項15】
配列番号3のヌクレオチド配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有する配列を有するポリペプチドをコードする、請求項13及び14のいずれか一項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項16】
配列番号32に対して少なくとも70%の配列同一性を有する、請求項13~15のいずれか一項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項17】
請求項13~16のいずれか一項に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項18】
請求項13~15のいずれか一項に記載のポリヌクレオチド又は請求項17に記載のベクターで形質転換された宿主細胞。
【請求項19】
酵母細胞である、請求項18に記載の宿主細胞。
【請求項20】
宿主細胞内で標的ポリペプチドを発現させるための発現系であって、請求項17に記載の発現ベクターを含み、前記ベクターは又、標的ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの挿入のためのクローニング部位も含む、発現系。
【請求項21】
宿主細胞内で標的ポリペプチドを発現させるための発現系であって、請求項17に記載の発現ベクター及び前記標的ポリペプチドをコードする発現ベクターを含む、発現系。
【請求項22】
前記標的ポリペプチドが少なくとも1つのジスルフィド結合を有する、請求項20及び21のいずれか一項に記載の発現系。
【請求項23】
前記標的ポリペプチドが2つ~5つのジスルフィド結合を含む、請求項22に記載の発現系。
【請求項24】
前記標的ポリペプチドのジスルフィド結合がICKを形成する、請求項23に記載の発現系。
【請求項25】
宿主細胞内で少なくとも1つのジスルフィド結合を有する標的ポリペプチドを産生するための方法であって、請求項18及び19のいずれか一項に記載の宿主細胞を、前記標的ポリペプチドの発現と共に前記キメラタンパク質の発現に適した条件下で培養することを含む、方法。
【請求項26】
前記標的ポリペプチドが少なくとも1つのジスルフィド結合を有する、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記標的ポリペプチドが2つ~5つのジスルフィド結合を含む、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記標的ポリペプチドのジスルフィド結合がICKを形成する、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記標的ペプチドが毒素ペプチドである、請求項25~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記宿主細胞が前記標的ポリペプチドを発現するように遺伝子操作されている、請求項25~29のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、キメラタンパク質及び複雑なジスルフィド結合ポリペプチドの生産のためにそのキメラタンパク質を用いる真核生物発現系に関する。この発現系は、「複雑な」翻訳後修飾タンパク質産物、即ち、ジスルフィドに富むタンパク質の異種発現に特に有用である。このキメラタンパク質と目的の複雑なタンパク質の共発現は、細胞の適応力を増進してそれらの発現に伴う有害作用が大幅に緩和(「救済」)される。
このキメラタンパク質は、宿主細胞が少なくとも1つのジスルフィド結合を有する標的ポリペプチドも発現している場合に特に有用である。新規融合タンパク質の共発現は、酵母の複製(即ち増殖速度)及び/又は少なくとも1つのジスルフィド結合を有する標的ポリペプチドの収量を増加させることが示されている。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
ジスルフィド結合二次構造を含むポリペプチドは一般に、化学的、熱的及び酵素的(例えば、タンパク質消化に対する抵抗性)安定性を著しく高めることが実証され、これらの安定性は、分子の生物活性(即ち、より長い半減期及び標的親和性)を補助する(Hayward et al., 2017, Journal of Biological Chemistry, 292(38), 15670-15680; Sermadiras et al., 2013, PLoS ONE, 8(12), 1-11)。
特定の例として、インヒビターシスチンノット(inhibitor cystine knot)(「ICK」)モチーフと総称される、複雑なジスルフィドに富んだ(3+結合)構造を典型的に含む毒素由来ペプチドがある。ICKモチーフによって観察される有益な安定性と生物活性形質から、ICKモチーフを有するポリペプチドを組換え発現させ、新規治療薬として利用する数多くの試みに至っている(Cao et al., 2003, Peptides, 24(2), 187-192; Schmoldt et al., 2005, Protein Expression and Purification, 39(1), 82-89; Sermadiras et al., 2013, 前掲; Zhong et al., 2014, PLoS ONE, 9(10), 2-7)。多くの場合、ICKペプチドは微量しか存在しないため(例えば、毒液分泌物内)、それらの研究と工業的スケールアップは極めて困難で、コストがかかり、予測不可能である(Sermadiras et al., 2013, 前掲)ことに留意されたい。
【0003】
ICKモチーフを含むポリペプチドは細菌系でも真核生物系で問題なく生産できることが多くの研究で証明されているが(Sermadiras et al., 2013, 前掲)、真核生物宿主細胞内での発現はあまり成功していない。出芽酵母サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)は、よく研究され、遺伝学的に扱いやすい真核微生物であり、バイオテクノロジー産業において長く確かな実績がある。他の真核生物と同様に、酵母のジスルフィド結合形成は、58kDaのタンパク質ジスルフィドイソメラーゼ(PDI)とその同族パートナーであるチオールオキシダーゼEro1(65kDa)の協働作用によって小胞体(ER)内で行われる。結合形成を触媒するために、PDIはまず標的タンパク質上のシステインチオールから電子を除去し、この電子はEro1を経由して最終的なアクセプター。通常は酸素にシャトルされる(Frand & Kaiser, 1998; Tyo et al., 2012)。このシャトルは又、生成される各ジスルフィド結合に対して化学量論的な量の酸化剤、過酸化水素(H2O2)を生成する(Tyo et al., 2012, 前掲)。これに加えて、タンパク質の「適切な」折り畳みを維持・保証する酵母のプロテオスタシス機構である小胞体ストレス応答(unfolded protein response)(UPR)が、このような高い折り畳み要求の下で活性化され、更なる代謝コストと宿主の適応力への影響をもたらす可能性がある(Karagoz, et al., 2019 Cold Spring Harbor perspectives in biology vol. 11,9)。
【0004】
結果的に、ジスルフィド結合タンパク質はバイオテクノロジー産業にとって魅力的な生物活性標的である一方、組換えジスルフィド結合タンパク質の商業生産には、宿主細胞にかかる代謝負担(例えば、酸化ストレス)を緩和する新たな戦略が必要となる。
ジスルフィド結合の生成によって引き起こされる代謝ストレスの直接的な結果として、このようなポリペプチドの発現は、ポリペプチドが複数のジスルフィド結合を有する場合に特に悪化する問題をもたらす。ICKモチーフを含むような「複雑な」ジスルフィド含有ペプチドの異種発現の場合、これらのストレス(例えば、酸化ストレス)は、宿主の増殖指標(例えば、増殖率、倍加時間など)の低下から、プロセス時間(及び支出)の指数関数的な増加、最終産物の品質、バルクバイオマス(湿細胞質量、g/L)、及び収量の低下に至るまで、多くの有害な結果をもたらす可能性がある。
製品の品質に関しても、酸化剤の生成が抑制されないと、タンパク質の酸化、特にカルボニル化を介した付加物形成の可能性が高まり、最終産物の品質に悪影響を及ぼす可能性がある(Yang, et al., 2014 Analytical Chemistry, 86(10), 4799-4806)。タンパク質付加物は、N末端又はスルフヒドリル官能基若しくはアミン官能基を含むアミノ酸側鎖など、タンパク質中の求核部位と求電子部位との反応から生じる共有結合修飾である。タンパク質へのカルボニル基の付加は付加物の一例である。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、このような問題に取り組む。特に、本発明は、少なくとも1つのジスルフィド結合を有する標的ポリペプチド、例えば、ICKモチーフを含む標的ポリペプチドを発現するトランスジェニック宿主細胞の増殖(増殖率、毎時の世代数)の低さを著しく緩和するキメラタンパク質(又は「キメラ」)を提供する。
本発明は又、宿主細胞の適応力の改善及び/又は標的ポリペプチド収率の改善をもたらす、少なくとも1つのジスルフィド結合を有する標的ポリペプチド、例えば、ICKモチーフを含む標的ポリペプチドを発現させる方法も提供する。少なくとも1つのジスルフィド結合を有する標的ポリペプチド、例えば、ICKモチーフを含む標的ポリペプチドを生産するための発現系も記載される。
【0006】
発明の概要
本発明は、リポイルシンターゼ(「Lip5」)ポリペプチドに作動可能に連結されたBol3ポリペプチドを含む新規なキメラタンパク質を提供する。このキメラタンパク質は、Bol3ポリペプチドとLip5ポリペプチドの間にリンカーを含み得る。リンカーは、好都合にフレキシビリティーを確保し、キメラタンパク質においてBol3ドメインをLip5ドメインから離すことを容易にする。
更に、本発明は、このキメラタンパク質をコードするポリヌクレオチド、このポリヌクレオチドを組み込んだベクター、及びこのベクターで形質転換した宿主細胞を提供する。
【0007】
更なる態様において、本発明は、少なくとも1つのジスルフィド結合を有する標的ポリペプチド(例えば、少なくとも3つのジスルフィド結合を有する標的ポリペプチド、例えば、ICKモチーフの形態で少なくとも3つのジスルフィド結合を有する標的ポリペプチド)を真核生物宿主細胞内で発現させる方法を提供し、前記方法は、前記宿主細胞を、キメラタンパク質をコードするポリヌクレオチドで形質転換すること、及び前記宿主細胞を前記キメラタンパク質と前記標的ポリペプチドが発現される条件下で培養することを含む。特筆すべきは、更に、キメラタンパク質自体の発現は、その発現だけでは細胞増殖率に悪影響を与えないため、宿主に十分に忍容されるということである。
本発明は更に、目的の標的タンパク質の発現のための発現系を提供し、その発現系は、本発明によるキメラタンパク質、及び目的の標的ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの挿入のためのクローニング部位を含む発現ベクターを含む。一般に、標的ポリペプチドは、少なくとも1つのジスルフィド結合(例えば、標的ポリペプチドは、少なくとも3つのジスルフィド結合を有し、例えば、標的ポリペプチドは、ICKモチーフの形態で少なくとも3つのジスルフィド結合を有する)。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】A:増幅のTAEゲル;及びB:OE-PCRの模式図。
【
図2】プラスミドマップ表示。多重クローニング部位(MCS)1及び2を示す。MCS-1は、キメラオープンリーディングフレームを含む。
【
図3】本発明によるキメラタンパク質(キメラ)と対照株(対照)の増殖率の箱ひげ図。データは、酵母がキメラを発現する場合には有意差はない(即ち、適応力の低下がない)ことを示す。N=12、有意性には一元配置ANOVAを使用、有意性がないことは「NS」で示す。
【
図4】本発明によるキメラタンパク質の精製。画分3及び4でキメラタンパク質のおよその分子量に単一のバンドが分離した。12%SDS-PAGEゲル、5μLのPageRuler Prestainedタンパク質ラダーを含む20μLローディング容量。
【
図5】酸化ストレス下での本発明によるキメラタンパク質(キメラ-1)と対照株(対照)の増殖率の箱ひげ図。データは、キメラの発現が5mMまでの過酸化水素に対して耐性を助長することを示す。各条件N=6。有意性には一元配置ANOVAを使用。
**=p<0.01、NS.=有意性なし。
【
図6】還元ストレス下での本発明によるキメラタンパク質(キメラ)と対照株(対照)の増殖率の箱ひげ図。各条件N=6、有意性には一元配置ANOVAを使用。
***=p<0.001、n.s.=有意性なし。
【
図7】A:エバシン遺伝子(配列番号19)(EVA)のゲル画像;及びB:NiNTAアフィニティークロマトグラフィーにより精製したポリペプチド産物(配列番号18(EVA)のゲル画像。
【
図8】A:C8エバシンの多重配列比較及び構造。8つのエバシン変異体は、(8)つの保存されたシステイン残基を示す。B:C8エバシンファミリーの構造にはシスチンノット(ICKモチーフ)が示される。
【
図9】エバシン発現酵母(「エバシン-2」)の最大増殖率及びキメラの共発現(キメラ;+エバシン-2)によるその救済を示す箱ひげ図。有意性には一元配置ANOVAを使用した。
***=p<0.001、NS.=有意性なし。
【
図10】各ペプチドに存在するシスチンノットの場所を示すペプチドの模式図。シスチンは「C」で示し、その後に一次配列における場所を示した。
【
図11】ポリヒスチジンタグ付きポリペプチド、プロトキシン-1、プサルモトキシン-1及びエバシン-2の競合ラテラルフローアッセイ。バンドパターンは、目的産物の発現の成功を示す。
【
図12】酵母(S.セレビシエ)の増殖率に対する他のICKポリペプチド(プロトキシン-1、プサルモトキシン-1)の影響を示す箱ひげ図。有意性には一元配置ANOVAを使用した。
***=p<0.001、
*=p<0.05、NS.=有意性なし。
【
図13】キメラ;+EVAの発酵。バッチモード、各バッチの結果(湿細胞質量g/L、最終OD
600及び溶存酸素設定値までの時間)。
【
図14】EVA(エバシン-2)の発酵。バッチモード、各バッチの結果(湿細胞質量g/L、最終OD
600及び溶存酸素設定値までの時間)。
【
図15】キメラを共発現するプロトキシン-1の発酵。バッチモード、各バッチの結果(湿細胞質量g/L、最終OD
600及び溶存酸素設定値までの時間)。
【
図16】プロトキシン-1の発酵。バッチモード、各バッチの結果(湿細胞質量g/L、最終OD
600及び溶存酸素設定値までの時間)。
【発明を実施するための形態】
【0009】
発明の詳細な説明
以下、本発明のキメラタンパク質、ポリヌクレオチド及びキメラタンパク質をコードするベクター、発現系及び方法を更に詳細に説明する。
本明細書で使用する場合「及び/又は」という用語は、2つの指定された特徴又は構成要素のそれぞれについて、他方の有無にかかわらず具体的に開示されていると理解されるべきである。
本明細書で使用する場合、「を含む」という用語は、「を包含する」及び「からなる」の両方を包含すると解釈されるべきであり、両方の意味は、具体的に意図され、従って、本発明に従って個別に開示された実施形態である。
【0010】
本明細書で使用する場合、「ポリペプチド」という用語は、ペプチド結合によって連結されたアミノ酸から構成されるポリマーを指し、特定の長さのポリマーを指すものではない。「ペプチド結合」は、一方のアミノ酸のα-アミノ基が他のアミノ酸のα-カルボキシル基に結合されている1つのアミノ酸間の共有結合である。ポリペプチドは、例えば、グリコシル化、アミド化、カルボキシル化、リン酸化など、修飾されていてもよい。修飾はin vitroであってもin vivoであってもよい。約100アミノ酸未満の長さのアミノ酸鎖は一般に当技術分野で「ペプチド」と見なされるが、「ペプチド」と「タンパク質」は、本明細書で使用する場合、「ポリペプチド」の定義内に含まれる。「アミノ酸配列」及び「ポリペプチド配列」という用語は、互換的に使用される。全てのアミノ酸又はポリペプチド配列は、特に断りのない限り、アミノ末端(N末端)からカルボキシ末端(C末端)へと記載される。
命名の便宜上、本願は、「キメラタンパク質」(又は「キメラ」)及び「少なくとも1つのジスルフィド結合を有する標的ポリペプチド」に言及する。しかしながら、「キメラタンパク質」という用語における「タンパク質」及び「少なくとも1つのジスルフィド結合を有する標的ポリペプチド」という用語における「ポリペプチド」という呼称は、当該2つのポリマーのサイズ又は相対的サイズに関する情報を示唆することを意図するものではない。
【0011】
本発明は、特に、少なくとも1つのジスルフィド結合を有する標的ポリペプチドの発現に関する。ジスルフィド結合は、ポリペプチド内の2つのシステイン残基のチオール基の共有結合によって形成される。2つのシステイン残基は、各ジスルフィド結合に必要とされる。上記に説明したように、ジスルフィド結合の形成は、宿主細胞に酸化ストレスをもたらす。任意選択により、標的ポリペプチドは、2つ以上のジスルフィド結合を有する。任意選択により、標的タンパク質は、3つ以上のジスルフィド結合を有する。任意選択により、少なくとも1つのジスルフィド結合を有する標的タンパク質は、以下に更に詳細に定義するようなICKを有する。任意選択により、標的ポリペプチドは、環状シスチンノット又は増殖因子シスチンノットなどの別のシスチンモチーフを含み得る。
「インヒビターシスチンノット」又は「ICK」は、3つの別個のジスルフィド結合を形成する少なくとも3対のシステイン残基を含む、ポリペプチド内のモチーフを指す。2つのジスルフィド結合はループを形成し、そのループに3つ目のジスルフィド結合(配列中の3番目のシステインと6番目のシステインをつなぐ)が通ってノットを形成する。
【0012】
アミノ酸配列に適用される場合に本明細書で使用する「保存的置換」とは、あるアミノ酸残基の、類似の物理的及び化学的特性を備えた側鎖を有する別のアミノ酸残基での置換を指す。例えば、保存的置換は、疎水性側鎖を有するアミノ酸残基(例えば、Met、Ala、VaL、Leu、及びIle)、中性親水性側鎖を有するアミノ酸残基(例えば、Cys、Ser、Thr、Asn、及びGln)、酸性側鎖を有するアミノ酸残基(例えば、Asp及びGlu)、塩基性側鎖を有するアミノ酸残基(例えば、His、Lys、及びArg)、又は芳香族側鎖を有するアミノ酸残基(例えば、Trp、Tyr及びPhe)の中で行うことができる。タンパク質のコンフォメーション構造に大きな変化を生じず、従ってタンパク質の生物活性を保持し得ることが当技術分野で知られている。
「ポリヌクレオチド」という用語は、核酸、例えば、DNA、cDNA、RNA又は合成生産されたDNA若しくはRNAのポリマー,或いはこれらのポリヌクレオチドの1つを単独で若しくは組み合わせて含む組換え生産されたキメラポリヌクレオチド分子を指す。「核酸」という用語は、「ポリヌクレオチド」という用語と互換的に使用される。
【0013】
「ベクター」という用語は、本明細書で使用する場合、標的ポリヌクレオチドの取り扱いを容易にするための遺伝子構築物を指す。ベクターは、適切な宿主細胞内、及び適切な条件下でベクターの選択を可能とするマーカー遺伝子などの遺伝子を更に含み得る。前記ポリヌクレオチド又はベクターの発現は、ポリヌクレオチドの、翻訳可能なmRNAへの転写を含む。通常、ベクターは、転写の開始を保証する調節配列を含む。調節要素など、転写の開始を担う他の要素も存在してよい。ベクターは又、標的ポリヌクレオチドの下流に転写終結シグナルも含む。
【0014】
アミノ酸配列(又は核酸配列)に適用される場合、「配列同一性パーセント」とは、配列アラインメントの際に、及び必要に応じて、同一のアミノ酸(又は核酸)の数を最大にするためにギャップを導入した後に、候補配列中のアミノ酸(又は核酸)残基と比較して、候補配列中の、参照配列のものと同一のアミノ酸(又は核酸)残基のパーセンテージを指す。アミノ酸残基の保存的置換は、同一残基とみなしてもみなさなくてもよい。アミノ酸(又は核酸)配列の配列同一性パーセントは、当技術分野で開示されているツールによって配列をアラインすることにより決定することができる。当業者は、ツールのデフォルトパラメーターを使用するか、又は例えば適切なアルゴリズムを選択することにより、アラインメントの必要性に応じてパラメーターを適切に調整することができる。2つのポリペプチド配列間の同一性パーセンテージは、http://blast.ncbi.nlm.nih.govに公開されているBLASTpなどのプログラムによって容易に決定することができる。
【0015】
「単離された」材料は、その天然の状態から人為的に変更されている。「単離された」物質又は構成要素が自然界に存在する場合、それはその元の状態から変化しているか、取り出されているか、又はその両方である。例えば、生きている動物に天然に存在するポリヌクレオチド又はポリペプチドは、単離されてはいないが、そのポリヌクレオチド又はポリペプチドが、本来の状態で共存する物質から十分に分離され、十分に純粋な状態で存在する場合には、「単離された」とみなすことができる。いくつかの実施形態では、ポリヌクレオチド又はポリペプチドは、電気泳動(例えば、SDS-PAGE、等電点電気泳動、キャピラリー電気泳動)、又はクロマトグラフィー(例えば、イオン交換クロマトグラフィー若しくは逆相HPLC)により決定した場合に、少なくとも90%、93%、95%、96%、97%、98%、99%の純度である。
「変異体」、「ホモログ」又は「誘導体」という用語は、ヌクレオチド配列に関して、その配列からの又はその配列に対する1つの(又は複数の)核酸のいずれの置換、変動、修飾、置換、欠失又は付加も含む。
【0016】
第1の態様において、本発明は、Lip5ポリペプチドに作動可能に連結されたBol3ポリペプチドを含む新規なキメラタンパク質を提供する。キメラタンパク質は、Bol3ポリペプチドとLip5ポリペプチドの間にリンカーを含み得る。キメラタンパク質の発現は、宿主細胞における酸化ストレスを軽減し、宿主が少なくとも1つのジスルフィド結合を有する標的ポリペプチドも発現する場合に特に有用性が見られる。
「Bol3」という用語は、酵母(例えば、S.セレビシエ)のBol3タンパク質を表すために使用されるが、本明細書では、他種のこのタンパク質のホモログ、特に、真核生物(マウス、ウシ及びヒト細胞のBol3Aホモログなど)及び大腸菌(E. coli)のBol3タンパク質のホモログを指すためにも使用される。
【0017】
一実施形態では、Bol3ポリペプチドは、配列番号1に対して少なくとも50%の配列同一性を含む。
任意選択により、Bol3ポリペプチドは、配列番号1に対して50%を超える配列同一性を有し、例えば、配列番号1に対して少なくとも55%、60%、65% 70%、75% 80%、85%又は90%の配列同一性を有する。任意選択により、Bol3ポリペプチドは、配列番号1に対して90%を超える配列同一性を有し、例えば、配列番号1に対して95%以上、例えば、98%以上の配列同一性を有する。配列番号1は、S.セレビシエのBol3タンパク質の配列である。
任意選択により、Bol3ポリペプチドは、配列番号4から発現されるタンパク質に対して50%を超える配列同一性を有し、例えば、配列番号4から発現されるタンパク質に対して少なくとも55%、60%、65% 70%、75% 80%、85%又は90%の配列同一性を有する。任意選択により、Bol3ポリペプチドは、配列番号4から発現されるタンパク質に対して90%を超える配列同一性を有し、配列番号4から発現されるタンパク質に対して例えば95%以上の、例えば、98%以上の配列同一性を有する。配列番号4は、実施例に記載されるキメラタンパク質において使用される、天然終止コドンを含まない、S.セレビシエのBol3タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列である。
【0018】
「Lip5」という用語は、酵母(例えば、S.セレビシエ)のLip5タンパク質を表すために使用されるが、本明細書では、他種のこのタンパク質のホモログ、特に、真核生物、植物及び大腸菌のLip5タンパク質のホモログを指すためにも使用される。
任意選択により、Lip5ポリペプチドは、配列番号2に対して少なくとも50%の配列同一性を含む。任意選択により、Lip5ポリペプチドは、配列番号2に対して55%を超える配列同一性を有し、例えば、配列番号2に対して60%、65%、70%、75%、80%、85%又は90%の配列同一性を有する。任意選択により、Lip5ポリペプチドは、配列番号2に対して90%を超える配列同一性を有し、例えば、配列番号2に対して95%以上の、例えば、98%以上の配列同一性を有する。
任意選択により、Lip5ポリペプチドは、配列番号5から発現されるタンパク質に対して少なくとも50%の配列同一性を含む。任意選択により、Lip5ポリペプチドは、配列番号5から発現されるタンパク質に対して55%を超える配列同一性を有し、例えば、配列番号5から発現されるタンパク質に対して60%、65%、70%、75%、80%、85%又は90%の配列同一性を有する。任意選択により、Lip5ポリペプチドは、配列番号5から発現されるタンパク質に対して90%を超える配列同一性を有し、例えば、配列番号5から発現されるタンパク質に対して95%以上の、例えば、98%以上の配列同一性を有する。配列番号5は、実施例に記載されるキメラタンパク質において使用される、天然開始コドンを含まない、S.セレビシエのLip5タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列である。
【0019】
一実施形態では、リンカー配列は、Bol3ポリペプチドとLip5ポリペプチドの間に位置する。「リンカー」という用語は、本明細書で使用する場合、キメラタンパク質の2つの部分を連結することを可能にする基又は配列を表す。例えば、リンカーは、Bol3ポリペプチドとLip5ポリペプチドとの連結とを可能にする。リンカーは2つの構成要素を連結する役割を果たす。本発明によるリンカーは、フレキシブルでもリジッドでもよいが、より好ましくは、キメラタンパク質のBol3部分とLip5部分の間にある程度のフレキシビリティーを可能とするものである。適切なリンカーは当業者に公知である。より具体的には、「リンカー」という用語は、ペプチド結合を形成する1~50アミノ酸からなるペプチド鎖、又はその誘導体を指し、そのN末端及びC末端は、それぞれBol3ドメイン又はLip5ドメインのいずれかと共有結合を形成し、それによってBol3ドメインをLip5ドメインに結合する。
任意選択により、リンカー配列は、ポリヒスチジンリンカーである。例えば、リンカー配列は、ポリヒスチジンリンカーの6~20個(例えば8~16個、例えば8~12個)のヒスチジン残基を含むことができ、即ち、リンカーは、ポリヒスチジンリンカーを形成するために、6~20個の連続するヒスチジン残基を含む。
他の適切なリンカーも当技術分野で公知であり、FLAGタグ、Cysタグ、GSTタグなどが含まれる。別の適切なリンカーとして、Cia2タンパク質のN末端部分(配列番号28参照)があり、任意選択により、付加的な連結アミノ酸を伴う。配列番号28はCia2タンパク質のN末端部分を示し、任意選択により、リンカーは更なるアミノ酸を含むことができ、例えば、配列番号29の配列がリンカーとして使用できる。任意選択により、Cia2タンパク質のこのN末端部分をコードするポリヌクレオチド配列は、インフレームクローニングを保証するために付加的ヌクレオチドと共に使用することができる。例えば、配列番号30は、適切なリンカー配列をコードするポリヌクレオチドを示し、Cia2配列は、ヌクレオチド19~52(含む)によってコードされている。配列番号29は、配列番号30によってコードされるアミノ酸配列を示す。よって、リンカーは、配列番号29の配列を含む配列であり得る。
【0020】
本発明の一実施形態は、配列番号1に対して少なくとも50%の配列同一性又は配列番号4によってコードされるポリペプチドに対して少なくとも50%の配列同一性を有するBol3の第1のアミノ酸配列、リンカーペプチド及び配列番号2に対して少なくとも50%の配列同一性又は配列番号5によってコードされるポリペプチドに対して少なくとも50%の配列同一性を有するLip5の第2のアミノ酸配列を含むキメラタンパク質である。任意選択により、リンカー配列は、ポリヒスチジンリンカーである。例えば、リンカー配列は、ポリヒスチジンリンカー中の6~20個(例えば8~16個、例えば8~12個)のヒスチジン残基を含み得る。例えば、リンカー配列は、Cia2タンパク質のN末端部分であり得る。任意選択により、リンカーは、配列番号28又は配列番号29の配列を含み得る、又はからなり得る。
任意選択により、上記のキメラタンパク質における、配列番号1又は配列番号4によってコードされるポリペプチドに対する、キメラタンパク質中のBol3ポリペプチドの配列同一性は、50%を超え、例えば、少なくとも55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%又は90%である。任意選択により、上記のキメラタンパク質中のBol3ポリペプチドは、配列番号1又は配列番号4によってコードされるポリペプチドに対して90%を超える配列同一性を有する。
任意選択により、上記のキメラタンパク質における、配列番号2又は配列番号5によってコードされるポリペプチドに対する、キメラタンパク質中のLip5ポリペプチドの配列同一性は、50%を超え、例えば、少なくとも55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%又は90%である。任意選択により、上記のキメラタンパク質中のLip5ポリペプチドは、配列番号2又は配列番号5によってコードされるポリペプチドに対して90%を超える配列同一性を有する。
【0021】
本発明の一実施形態は、配列番号1又は配列番号4によってコードされるポリペプチドに対して少なくとも95%の配列同一性を有するBol3の第1のアミノ酸配列、リンカーペプチド及び配列番号2又は配列番号5によってコードされるポリペプチドに対して少なくとも95%の配列同一性を有するLip5の第2のアミノ酸配列を含むキメラタンパク質である。任意選択により、リンカー配列は、ポリヒスチジンリンカーである。例えば、リンカー配列は、ポリヒスチジンリンカー中の6~20個(例えば8~16個、例えば8~12個)のヒスチジン残基を含み得る。任意選択により、リンカー配列は、Cia2タンパク質のN末端部分(配列番号28参照)である。任意選択により、リンカーは、配列番号28又は配列番号29の配列を含み得る、又はからなり得る。
いくつかの実施形態では、第1のアミノ酸配列(Bol3)は、配列番号1又は配列番号4によってコードされるポリペプチドのアミノ酸配列に対して少なくとも96%、97%、98%、99%又はそれを超える配列同一性を有する。
いくつかの実施形態では、第2のアミノ酸配列(Lip5)は、配列番号2又は配列番号5によってコードされるポリペプチドのアミノ酸配列に対して少なくとも96%、97%、98%、99%又はそれを超える配列同一性を有する。
任意選択により、キメラタンパク質は、配列番号3のアミノ酸配列に対して少なくとも70%の配列同一性を含み、例えば、配列番号3のアミノ酸配列に対して少なくとも75%、80%、85%、90%、又は95%の配列同一性を有する。任意選択により、キメラタンパク質は、配列番号3のアミノ酸配列に対して少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又はそれを超える配列同一性を有する。
【0022】
本発明の一実施形態では、キメラタンパク質は、配列番号3に示されるアミノ酸配列を含む。
本発明の一実施形態では、キメラタンパク質は、配列番号31から発現されるタンパク質に対して少なくとも50%の配列同一性を有する。任意選択により、キメラタンパク質は、配列番号31から発現されるタンパク質に対して55%を超える配列同一性を有し、例えば、配列番号31から発現されるタンパク質に対して60%、65%、70%、75%、80%、85%又は90%の配列同一性を有する。任意選択により、キメラタンパク質は、配列番号31から発現されるタンパク質に対して90%を超える配列同一性を有し、例えば、配列番号31から発現されるタンパク質に対して95%以上の、例えば、98%以上の配列同一性を有する。任意選択により、キメラタンパク質は、配列番号31によってコードされる。
【0023】
本発明の第2の態様において、本発明は、上記のキメラタンパク質をコードするポリヌクレオチドを提供する。更に、本発明は又、キメラタンパク質をコードするポリヌクレオチドと、ストリンジェント条件下で特異的にハイブリダイズするポリヌクレオチドも包含する。本明細書の目的で、ストリンジェントハイブリダイゼーション条件下でのハイブリダイゼーションとは、Sambrook et al (Molecular Cloning. A Laboratory Manual. Cold Spring Harbor Press)により記載されているように、少なくとも68℃の温度にて0.1×SSC、0.5%SDSで洗浄した後もハイブリダイゼーションを維持することを意味する。
任意選択により、本発明は、単離されたポリヌクレオチドを提供する。本発明の実施形態によれば、単離されたポリヌクレオチドは、上記のようなキメラタンパク質をコードする。よって、本発明による、単離されたポリヌクレオチドは、宿主細胞内で酸化ストレスを軽減するキメラタンパク質をコードするために使用可能である。
【0024】
多くの異なるポリヌクレオチド及び核酸が遺伝子コードの縮重の結果として同じポリペプチドをコードし得ることが当業者に理解されるであろう。更に、当業者は、慣例の技術を用いて、ポリペプチドを発現させる任意の特定の宿主生物のコドン使用頻度を反映するために、本明細書に記載のポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチド配列を変更しないヌクレオチド置換を行うことができると理解される。
本発明のポリヌクレオチドは、DNA又はRNAからなり得る。ポリヌクレオチドは、一本鎖又は二本鎖であり得る。ポリヌクレオチドは、合成又は修飾ヌクレオチドを含み得る。ポリヌクレオチドに対するいくつかの異なるタイプの修飾が当技術分野で公知である。これらには、メチルホスホネート及びホスホロチオエート骨格、分子の3’末端及び/又は5’末端へのアクリジン又はポリリジン鎖の付加が含まれる。本明細書に記載の発明の目的では、ポリヌクレオチドは当技術分野で利用可能ないずれの方法によって修飾されてもよいと理解されるべきである。このような修飾は、目的のポリヌクレオチドのin vivo活性又は寿命を増大させるために行うことができる。
【0025】
任意選択により、本発明のポリヌクレオチドは、配列番号4のヌクレオチド配列に対して少なくとも50%の配列同一性を有する配列を含む。任意選択により、本発明のポリヌクレオチドは、配列番号4のヌクレオチド配列に対して少なくとも55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%又は90%の配列同一性を有する配列を含む。任意選択により、本発明のポリヌクレオチドは、配列番号4のヌクレオチド配列に対して少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は99%を超える配列同一性を含む。
任意選択により、本発明のポリヌクレオチドは、配列番号5のヌクレオチド配列に対して少なくとも50%の配列同一性を有する配列を含む。任意選択により、本発明のポリヌクレオチドは、配列番号5のヌクレオチド配列に対して少なくとも55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%又は90%配列同一性を有する配列を含む。任意選択により、本発明のポリヌクレオチドは、配列番号5のヌクレオチド配列に対して少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は99%を超える配列同一性を含む。
任意選択により、本発明のポリヌクレオチドは、配列番号3に対して少なくとも70%配列同一性を有するキメラタンパク質を発現するヌクレオチド配列を有する。任意選択により、本発明のポリヌクレオチドは、配列番号3に対して70%を超える、例えば、75%、80%、85%、90%又は更にはそれを超える配列同一性を有するポリペプチドをコードする。任意選択により、本発明のポリヌクレオチドは、配列番号3のヌクレオチド配列に対して少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は99%を超える配列同一性を有するポリペプチドをコードする。
【0026】
任意選択により、本発明のポリヌクレオチドは、配列番号32のヌクレオチド配列に対して少なくとも50%の配列同一性を有する。任意選択により、本発明のポリヌクレオチドは、配列番号32のヌクレオチド配列に対して少なくとも55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%又は90%の配列同一性を有する配列を含む。任意選択により、本発明のポリヌクレオチドは、配列番号32のヌクレオチド配列に対して少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は99%を超える配列同一性を含む。
任意選択により、本発明のポリヌクレオチドは、配列番号3のヌクレオチド配列を含むポリペプチドをコードする。
任意選択により、本発明のポリヌクレオチドは、配列番号31のヌクレオチド配列を含むポリペプチドをコードする。
【0027】
第3の態様において、本発明は、このようなポリヌクレオチドを含むベクター、特に、前記ポリヌクレオチドを発現する、又は過剰発現する発現ベクターを提供する。
本発明において「ベクター」は、タンパク質をコードするポリヌクレオチドを、そのタンパク質の発現を可能とするように作動可能に挿入することができる伝達体を指す。ベクターは、ベクターが保持している遺伝要素が宿主細胞内で発現されるように、宿主細胞に形質転換、形質導入、又はトランスフェクション(これらの用語は本明細書では互換的に使用される)を行うために使用することができる。様々なベクターが利用可能である。ベクターは、プロモーター配列、転写開始配列、エンハンサー配列、シグナル配列、1以上のマーカー遺伝子、選択要素、リポーター遺伝子、及び転写終結配列を含む発現を制御する様々な要素を含み得る。更に、ベクターは又、複製起点も含み得る。ベクターは又、限定されるものではないが、ウイルス粒子、リポソーム、又はタンパク質殻を含む、ベクターの細胞への進入を助ける構成要素も含み得る。
例えば、ベクターとしては、プラスミド、ファージミド、コスミド、人工染色体(例えば、酵母人工染色体(YAC)、細菌人工染色体(BAC)又はP1由来人工染色体(PAC))、バクテリオファージ(例えば、2バクテリオファージ又はM13バクテリオファージ)、動物ウイルスなどが含まれる。
いくつかの実施形態では、ベクター系としては、哺乳動物、細菌、及び酵母系が含まれ、限定されるものではないが「pENDO-2」などのプラスミド及び研究室から入手可能な他のベクター又は市販のベクターも含む。適切な真核生物ベクターとしては、2ミクロン又はセントロメア複製起点を有するベクターが含まれる。適切なベクターとしては、プラスミド又はウイルスベクター(例えば、複製欠陥レトロウイルス、アデノウイルス、及びアデノ随伴ウイルス)を含み得る。
【0028】
よって、本発明は、上記のポリヌクレオチドを含む発現ベクターを提供する。本実施形態の発現ベクターは、従来から知られている任意の遺伝子工学的方法によって上記のようなポリヌクレオチドを発現ベクターにサブクローニングすることによって作製することができる。本実施形態で使用可能な発現ベクターのタイプは特に限定はなく、その例には、真核生物における異種遺伝子発現に適切であり、且つ、標的ポリペプチドの発現を駆動できるいずれの発現ベクターも含まれる。例えば、2ミクロン又はセントロメア複製起点を、例えばTef1プロモーターなどの構成プロモーター/ターミネーターカセットと共に有する真核生物ベクターを好都合に使用することができる。
キメラタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むベクターは、当技術分野で周知の組換え技術を用いて、クローニング(DNAの増幅)又は遺伝子発現のために宿主細胞に導入することができる。別の実施形態では、キメラタンパク質は、当技術分野で周知の相同組換え法によって作製することができる。
【0029】
よって、第4の態様において、本発明は、上記のようなベクター又はポリヌクレオチドを含む宿主細胞を提供する。
本発明において「宿主細胞」とは、外因性のポリヌクレオチド及び/又はベクターが導入される細胞を指す。本願の融合タンパク質のアミノ酸配列は、当技術分野で周知の遺伝子工学的技術を用いて、相当するDNAコード配列に変換することができる。遺伝コードの縮重のために、形質転換されたDNA配列は、コードされるタンパク質配列は不変のまま、完全には同一ではない場合がある。
本発明のベクターへのクローニング又は発現に適切な宿主細胞は、原核細胞、酵母又は上述の高度な真核細胞である。本発明での使用に適切な原核細胞としては、大腸菌(例えば、大腸菌DH5α及びBL21de3)が含まれる。
【0030】
一実施形態では、真核宿主細胞は、キメラタンパク質をコードするベクターのクローニング又は発現のために使用される。サッカロミセス・セレビシエ(S288C)又はパン酵母は、最もよく使用されている下等な真核宿主微生物である。しかしながら、多くの他の属、種及び株も一般的であり、本発明での使用に適切であり、例えば、サッカロミセス分岐群の他のメンバー(S.パストリアヌス(S. pastorianus)、S.ユーバヤヌス(S. eubayanus)及びS.パラドキサス(S. paradoxus)を含む)、コマガタエラ属(Komagataella)(K.パストリス(K. pastoris)を含む)、クルイベロミセス属(Kluyveromyces)(K.ラクチス(K. lactis)を含む)及びヤロウイア属(Yarrowia)(Y.リポリチカ(Y. lipolytica)を含む)がある。本発明の別の態様では、本発明は、上記のようなポリヌクレオチド又はベクターを含む組換え細胞又は組換え微生物を提供する。よって、本発明による組換え細胞又は組換え微生物は、本発明のキメラタンパク質を発現し得る。本発明は更に、上記のようなポリヌクレオチド、又はベクターを含む組換え宿主細胞に関する。宿主細胞中に存在する本発明のポリヌクレオチド又はベクターは、宿主細胞のゲノムに組み込まれ得るか、又は染色体外で維持され得る。ポリヌクレオチド又はベクターが適当な「宿主細胞」に組み込まれると、宿主細胞は、そのポリヌクレオチド又はベクターの高レベル発現に適切な条件下で維持される。
【0031】
形質転換宿主細胞は、細胞増殖を達成するために当技術分野で公知の方法論に従って増殖させることができる。
任意選択により、発現させたところで、キメラタンパク質は当技術分野の標準的な手順に従って精製することができる。アフィニティーカラム、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)などのカラムクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、硫酸アンモニウム沈殿などが挙げられる。次に、本発明のキメラタンパク質は、増殖培地、細胞溶解液、又は細胞膜画分から単離することができる。キメラタンパク質の単離及び精製は、例えば、分取クロマトグラフィー分離などの従来のいずれの手段によるものでもよい。
【0032】
宿主細胞は、キメラタンパク質を生産できる上述の発現又はクローニングベクターで形質転換させ、次いで、プロモーターの誘導、形質転換細胞の選択、又は改変された後の標的配列をコードする遺伝子の増幅に適切な、従来栄養培地で培養する。
本発明においてキメラタンパク質を生産するために使用される宿主細胞は、当技術分野で公知の様々な培地で培養することができる。培地は又、当技術分野で公知の他の必要な添加剤を適切な濃度で含んでもよい。温度、pHなどの培地の条件は、宿主細胞の発現のために従前に選択したものであり、当業者に周知である。
【0033】
本発明は更に、上記のようなキメラタンパク質を生産するための方法を提供し、その方法は、以下の工程:組換え宿主細胞を適宜培養すること、及びキメラタンパク質をコードするポリヌクレオチド又はキメラタンパク質をコードするベクターを発現させることを含む。
第5の態様において、本発明は、宿主細胞内で、少なくとも1つのジスルフィド結合を有する標的ポリペプチドを生産するための方法を提供し、前記方法は、標的ポリペプチドの発現と共にキメラタンパク質の発現に適切な条件下で宿主細胞を培養することを含む。
【0034】
標的ポリペプチドは、天然又は合成ポリペプチドであり得る。
任意選択により、標的ポリペプチドは、その所望の3D構造を作り出すために2つ以上のジスルフィド結合を有し、例えば、2、3、4又は5つのジスルフィド結合を有する。任意選択により、これらのジスルフィド結合は、隣接していないシステイン残基間で形成され、即ち、ジスルフィド結合は、標的ポリペプチドに複雑な3D配置の「ノット」を形成する。任意選択により、標的ポリペプチドは、「インヒビターシスチンノット」又は「ICK」を含む。
任意選択により、標的ポリペプチドは、毒素ポリペプチドであり、例えば、唾液ペプチドの「エバシン」ファミリーに由来する。任意選択により、標的ポリペプチドは、配列番号6~13のいずれか1つに対して少なくとも90%の配列同一性を有する。任意選択により、標的ポリペプチドは、配列番号18、配列番号20又は配列番号22に対して少なくとも90%の配列同一性を有する。
【0035】
任意選択により、標的ポリペプチドは、毒素ポリペプチドであり、例えば、コモリグモ(Alopecosa marikovskyi)の「プロトキシン」(配列番号20、又は配列番号21によってコードされる)及び/又はトリニダードシェブロンタランチュラ(Psalmopoeus cambridgei)の「プサルモトキシン-1」(UniProt ID:TXP1_PSACA)(配列番号22、又は配列番号23によってコードされる)に由来する。或いは、標的ポリペプチドは、例えば、アメリカカブトガニ(Limulus polyphemus)の因子「C」と「B」及び/又はカブトガニ(Tachypleus tridentatus)の「コアギュローゲン-1」(UniProt ID:COAG_TACTR)、又はジャイアントキーホールリンペット(Megathura crenulata)の「ヘモシアニン-1」(UniProt ID:HCY1_MEGCR)及びジャイアントキーホールリンペット(Megathura crenulata)の「ヘモシアニン-2」(UniProt ID:HCY2_MEGCR)、並びにウシ血清アルブミン、BSA、UniProtKB-P02769(ALBU_BOVIN)、ヒト血清アルブミン、HSA、UniProt-B-P02768(ALBU_HUMAN)、ヒトインスリン(ヒトインスリン類似体及びヒトインスリン模倣ペプチドを含む)UniProtKB-P01308(INS_HUMAN)、ヒトエリスロポエチンUniProtKB-P01588(EPO_HUMAN)又はヒト顆粒球マクロファージコロニー刺激因子UniProtKB-P04141(CSF2_HUMAN)など、ジスルフィド結合を有する他の目的ポリペプチドであってもよい。
任意選択により、標的ポリペプチドは、抗体、例えば、モノクローナル抗体、ヒト化抗体又は抗体フラグメントであってもよい。
任意選択により、標的ポリペプチドは、糖タンパク質、例えば、分泌配列を有する糖タンパク質(即ち、宿主細胞から分泌される糖タンパク質)であってもよい。
【0036】
宿主細胞は、前記標的ポリペプチドを発現するように遺伝子操作することができる。例えば、宿主細胞は、標的ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列を含む発現ベクターで形質転換させることができる。発現ベクターは、宿主細胞のゲノムに組み込まれ得るか、又は染色体外で維持され得る。ベクターが適当な「宿主細胞」に導入されると、宿主細胞は、標的ポリペプチドの高レベル発現に適切な条件下で維持される。
宿主細胞は、標的ポリペプチドを発現するように遺伝子操作し、次いでキメラタンパク質を発現するように更に遺伝子操作することができ、又はその逆も可能である。任意選択により、宿主細胞は、標的ポリペプチドを自然に発現し、上記のようなキメラタンパク質を発現するように形質転換させるだけである。
任意選択により、キメラタンパク質と標的ポリペプチドの両方をコードするポリヌクレオチドを含む単一のベクターを形成することができ、次いで、宿主細胞を、標的ポリペプチドとキメラタンパク質の両方を発現させることができるこのベクターで形質転換させるだけである。任意選択により、両ポリヌクレオチドは、同じプロモーター/インデューサー/エンハンサーの制御下にある。
【0037】
更なる態様において、本発明は、上記のようなキメラタンパク質をコードするポリヌクレオチド及び標的ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの挿入のためのクローニング部位を含む発現ベクターを提供する。クローニング部位は、標的ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの容易な挿入を可能とする適切な制限部位によって定義され得る。例えば、発現ベクターは、標的ポリペプチドの異なる構築物の容易な挿入を助けるために、最大20の異なる制限部位を有する多重クローニング部位を含み得る。
【0038】
なお更なる側面において、本発明は、宿主細胞内で目的の標的ポリペプチドを発現させるための発現系を提供し、前記系は、上記のようなキメラタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクター及び標的ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの挿入のためのクローニング部位を含むベクターを含む。任意選択により、クローニング部位は、本発明のキメラタンパク質をコードするベクター上に提供することができる。或いは、別のベクターに標的ポリペプチドの発現のためのクローニング部位を提供することもできる。クローニング部位は、標的ポリペプチドをコードするポリヌクレオチの容易な挿入を可能とする適切な制限部位によって定義することができる。例えば、発現ベクターは、標的ポリペプチドの異なる構築物の容易な挿入を助けるために、最大20の異なる制限部位を有する多重クローニング部位を含み得る。
【0039】
標的ポリペプチドは、天然又は合成ポリペプチドであり得る。
任意選択により、標的ポリペプチドは、少なくとも1つのジスルフィド結合を有し、その所望の3D構造を作り出すために2つ以上のジスルフィド結合を含んでよく、例えば、2、3、4又は5つのジスルフィド結合を有する。任意選択により、ジスルフィド結合は、隣接していないシステイン残基間で形成され、即ち、ジスルフィド結合は、標的ポリペプチドに複雑な3D配置の「ノット」を形成する。任意選択により、標的ポリペプチドは、「インヒビターシスチンノット」又は「ICK」を含む。
任意選択により、標的ポリペプチドは、毒素ポリペプチドであり、例えば、唾液ペプチドの「エバシン」ファミリーに由来する。任意選択により、標的ポリペプチドは、配列番号6~13のいずれか1つに対して少なくとも90%の配列同一性を有する。任意選択により、標的ポリペプチドは、配列番号18、配列番号20又は配列番号22に対して少なくとも90%の配列同一性を有する。
【0040】
任意選択により、標的ポリペプチドは、毒素ポリペプチドであり、例えば、コモリグモ(Alopecosa marikovskyi)の「プロトキシン」(配列番号20及び21参照)及び/又はトリニダードシェブロンタランチュラ(Psalmopoeus cambridgei)の「プサルモトキシン-1」(UniProt ID:TXP1_PSACA)(配列番号22及び23参照)に由来する。任意選択により、標的ポリペプチドは、アメリカカブトガニ(Limulus polyphemus)の因子「C」若しくは「B」、カブトガニ(Tachypleus tridentatus)の「コアギュローゲン-1」(UniProt ID:COAG_TACTR)、又はジャイアントキーホールリンペット(Megathura crenulata)の「ヘモシアニン-1」(UniProt ID:HCY1_MEGCR)及びジャイアントキーホールリンペット(Megathura crenulata)の「ヘモシアニン-2」(UniProt ID:HCY2_MEGCR)、ウシ血清アルブミン(BSA、UniProtKB-P02769(ALBU_BOVIN)、ヒト血清アルブミン(has)UniProt-B-P02768(ALBU_HUMAN)、ヒトインスリンUniProtKB-P01308(INS_HUMAN)、ヒトエリスロポエチンUniProtKB-P01588(EPO_HUMAN)、又はヒト顆粒球マクロファージコロニー刺激因子UniProtKB-P04141(CSF2_HUMAN)に由来する。
【0041】
任意選択により、標的ポリペプチドは、抗体、例えば、モノクローナル抗体、ヒト化抗体又は抗体フラグメントであってもよい。
任意選択により、標的ポリペプチドは、糖タンパク質、例えば、分泌配列を有する糖タンパク質(即ち、宿主細胞から分泌される糖タンパク質)であってもよい。
任意選択により、発現させたところで、標的タンパク質は当技術分野の標準的な手順に従って精製することができる。アフィニティーカラム、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)などのカラムクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、硫酸アンモニウム沈殿などが挙げられる。次に、標的ポリペプチドは、増殖培地、細胞溶解液、又は細胞膜画分から単離することができる。標的ポリペプチドの単離及び精製は、例えば、分取クロマトグラフィー分離などの従来のいずれの手段によるものでもよい。
【0042】
本明細書で言及される全ての文書は、参照により組み込まれる。当業者に明らかであろう記載された実施形態に対する任意の修正及び/又は変形も本明細書に包含される。本発明を特定の具体的な実施形態及び実施例を参照して本明細書に記載してきたが、本発明は、これらの具体的な実施形態又は実施例に不当に限定されることを意図するものではないことを理解されたい。
本発明の各態様又は実施形態の好ましい特徴又は代替の特徴は、本発明の他の各態様又は実施形態に準用される(文脈上別段の要求がない限り)。
【実施例】
【0043】
方法
菌株、培養条件及び材料
この研究のためのオリゴヌクレオチド及び配列は、サッカロミセスゲノムデータベースを参照して、まずin silicoクローニングソフトウエアを用いて設計し、その後ThermoFisherカスタムオリゴオーダーサービスから購入した。PCR用鋳型は、サッカロミセス・セレビシエ(BY4741, MATa his3Δ1 leu2Δ0 met15Δ0 ura3Δ0)の新鮮な一晩培養液から、20mg/mL Lyticase(Sigma Aldrich、UK)を用いたデジタルドライブロック(ThermoFisher、UK)中+37℃での消化とその後のNew England Biolabsのトータル・ゲノミック・スピン・プレップ・キット(Monarch、New England Biolabs、UK)を行って精製した。サブクローニングには、10μLのエレクトロコンピテント大腸菌(DH5α)細胞(New England Biolabs、UK)を通常使用し、プラスミド選択はLuria Bertani(LB)培地に100μg/mLのアンピシリンを添加した正の抗生物質選択下で行った。大腸菌の形質転換は製造者の説明書に従って行い、形質転換体は+37℃、静置で少なくとも16時間インキュベートした。使用前に、全てのアリコートとバッファーを最大速度(15,500 r.c.f.)で少なくとも60秒間、短時間で遠心分離した。
融合ORFの作出
融合ORFを作出するために2つの方法論を用いた;用いた第1の方法論は、Hilgarth & Lanigan, (2020), MethodsX, 7 (October 2019), 100759から採用した。後者の構築物では、従来の制限酵素クローニングを用いた。
【0044】
ステージ1: PCR用のHigh Fidelity DNAポリメラーゼは、4mM MgCl2、及び2mM dNTPミックスを含む(2×)マスターミックス(Hot Start Q5 High Fidelity、NEB UK)として使用した。通常、PCRは清浄な薄壁の0.2mLチューブ(ThermoFisher、UK)中50μLで行い、氷上で調製し、最大速度でパルスボルテックス撹拌(Stuart、UK)を行うことで十分に混合した。サーモサイクリングは、24ウェルPrime3サーモサイクラー(Techne、UK)にて、予熱した蓋(+105℃)をして2時間30分行った。OE-PCRのステージ1とステージ3の一般的なサーモサイクリング条件は、+98℃で10秒の初期変性、+98℃で10秒、+60℃で60秒、次いで+72℃で2分秒の伸長段階を35サイクルとした。これを合計35サイクル行った。最後に、+72℃で10分の最終伸長段階を行った。反応はその後+20℃で保持した。
サーモサイクリングの後、15,000 r.c.f.で約10秒間のパルス遠心によりアンプリコンを短時間で再構成した。この後、DNAインターカレーターとして0.7%w/vアガロース(FisherSci、UK)と0.05%v/v EtBr(Sigma-Aldrich、UK)を用いたTAEゲル電気泳動によって反応を確認した。ゲルは、小型ゲルタンク(Alpha labs、UK)と電気泳動パワーパック(FisherSci、UK)を用いて、150V、400mAで30分間実施した。終了後、ゲルを青色光(proBLUEView、Alpha Labs、UK)下で注意深く可視化した。アンプリコンのおおよその分子量を決定するために、10μLのGeneRuler 1kb(ThermoFisher、UK)を標準として用いた。PCRの結果、約350bpsと1200bpsの2つの単一バンドが得られ、これらはそれぞれBol3とLip5の参照分子量(Saccharomyces genome database, yeastgenome.org)と一致していた。その後、ゲル断片を清浄なメスで切り出し、市販のスピンカラムプロトコール(GeneJet Gel Extraction Kit、ThermoFisher、UK)によって、製造者の説明書に従って精製した。
【0045】
ステージ2: 第2ステージは、各アンプリコン間に組み込まれた相補性を用いて両方のORFを融合させた。これは、アニーリング配列の融解温度よりもわずかに高い融解温度(+68℃)を持つ30マーのポリヒスチジン(10×)配列を付加することで実現した。この領域は各ORF間の「リンカー」を形成した。tRNAの枯渇を避けるため、ヒスチジンのコドンは交互に配置した。ステージ1とは異なり、このステージではポリヒスチジンリンカー領域に対してより高い感度が得られるように、タッチダウンPCRプロトコールを用いた。タッチダウンPCR用の鋳型は、ステージ1で生成されたアンプリコンの等モル(1:1)濃度(ng/μL)で構成された。計算はライゲーション計算機を用いて行い、短い方の配列を「インサート」とみなした。PCRは蒸発を軽減するために、予熱した蓋を使用して再度行った。サーモサイクリングは、+95℃で30秒の変性、その後+72℃で15秒のアニーリングを3分、1サイクルごとにアニーリング温度を0.5℃ずつ下げながらの9サイクルからなった。その後、+95℃で30秒の変性、次いで+67.5℃で30秒のアニーリングを5サイクル行い、その後+68℃で30秒の伸長ステップを3分行った。最後に、+68℃で10分の伸長工程を行った。
【0046】
ステージ3: OE-PCRの最終ステージでは、第2ステージの未精製PCR産物を鋳型として用いた。サーモサイクリングは、異なるオリゴヌクレオチドを用いたこと以外はステージ1と同じプログラムで行った。ここでは、第1及び第2のORFの5’(フォワード)及び3’(リバース)に対するオリゴヌクレオチドを用いて、ステージ2で生成された融合配列のみを増幅した。使用したオリゴヌクレオチドを以下の表1に示す。上述のように、融合反応の成否を確認するためにTAEゲル電気泳動を行った。ここでは、両方のORFを合わせた分子量を表す単一のバンドが検出された。その後、ゲル切片を切り出し、上記のように市販のゲル抽出キットを用いてDNAを精製した。
【表1】
【0047】
制限酵素消化とその後のクローニング
制限酵素(Xba I、Not I及びSac II)は、New England BiolabsのCutSmart range(New England Biolabs、UK)から入手し、消化(50μL)は、製造者の説明書に従い、デジタルドライバッチ内で+37℃にて2時間、1×CutSmartバッファー中で行った。消化の後、任意の凝縮物をベンチトップ遠心機(SciQuip、UK)にて、最大速度(15,500 r.c.f.)でのパルス遠心により除去した。DNAライゲーション(20μL)も同様に、Quick Ligation Kit(New England Biolabs、UK)を製造者の説明書に従って用い、インサートとベクターのモル比を5:1として(ベクター比1を27fmolで標準化した)行った。通常通り、DNA(ng/μL)を、スペクトル(260~700nm)のUV/Vis分光光度計(SpectroStar Nano、BMG Labtech、UK)を用いて定量した。インキュベーション後、氷上で2μLのライゲーション反応物をエレクトコンピテントDH5α大腸菌細胞に形質転換した。+37℃で少なくとも16時間のインキュベーション(コロニー成長を可能とする)の後、個々のコロニーを診断敵消化とコロニーPCRでライゲーションの成否を分析した。最終反応量20μLで、1ライゲーション当たり約20コロニーをスクリーニングした。このプロトコールは、反応当たり1つのコロニー(マークされたもの)を使用すること以外は上記と同様にステージ3を繰り返した。増幅に成功していたものは個々のコロニーに戻し、市販のMiniPrepキット(GeneJet MiniPrep Kit、ThermoFisher)でプラスミドを精製した。精製後、プラスミド溶出液を標識し、-20℃で保存した。
【0048】
迅速酵母形質転換
新たに作製したプラスミドのS.セレビシエ宿主への導入は、BY4741の一晩培養と予め乾燥させたウラシルドロップアウトプレート(Kaiser minimal drop-out media、Formedium、UK)を用いて行った。反応を行う前に、1mg/mLの一本鎖DNA(Ultrapure Salmon sperm、Sigma Aldrich、UK)1mLを+95℃で10分煮沸した後、すぐに氷上に置いた。トランスフォーメーションは、240μLの50%w/vポリエチレングリコール(PEG4000、Melford、UK)、36μLの1M酢酸リチウム(Sigma Aldrich、UK)、10μLの新たに煮沸した一本鎖キャリアDNA、7.2μLの5M DTT(Melford、UK)、2μLのプラスミド及び最後に69.5μLの滅菌ミリQ水を含む反応混合物を用いて行った。全ての溶液及び緩衝液は、使用前にオートクレーブで滅菌した。
反応混合物を組み立てた後、混合物を形質転換ごとに少なくとも1分間、最大速度で十分にボルテックス撹拌し、室温で20分間インキュベートし、次いで+42℃で更に20分間ヒートショックを与えた。この後、反応混合物を2000r.c.f.で2分間ゆっくりと遠心分離してペレットとし、200μLの滅菌脱イオン水に穏やかに再懸濁し、予め乾燥させたドロップアウトプレートにプレーティングした。プレートを密封し、+30℃で4日間インキュベートした後、コロニーが出現した。
【0049】
高分解能増殖率分析
酵母株を10mLの規定の合成カイザードロップアウト培地(ウラシルドロップアウト、Formedium)中、+30℃、175r.p.m.で一晩(少なくとも16時間)インキュベートした。インキュベーション後、各培養物の密度を分光法(SpectroStar Nano、BMG Labtech、UK)により、1mLキュベット(BMG Labtech、UK)中の600ナノメートル(OD600nm)の光学密度で定量した。次に、培養物をOT-2液体ハンドリングロボット(Opentrons、USA)に装填し、滅菌平底96ウェルプレート(360μLウェル容量、Greiner CELLSTAR(登録商標)96ウェルプレート、Sigma Aldrich UK)で光学密度(OD600nm)が0.1になるまで希釈し直した。その後、各株の増殖を飽和するまで継続的にモニターし、その時点で実験を終了し、データを収集した。
【0050】
バッチ発酵
発酵は、規定の合成ウラシルドロップアウト培地(Kaiser、Formedium、UK)で一晩増殖させた組換え酵母の培養物を用いて行った。通常、アミノ酸を含まないYeast Nitrogen Base(Formedium、UK)0.67g、関連アミノ酸サプリメント0.19g、及び無水D-グルコース(Melford、UK)2gからなる100mLの実施容量(総容量250mL)を使用した。反応器(MiniBio総容量250mL、Applikon Biotechnology、NL)を組み立て、その内容物は、Prestige Medical Classicオートクレーブ(+121℃、104kPa、30分)で滅菌した。この後、反応器をMiniBio発酵コントロールシステム(Applikon Biotechnology、NL)に接続し、チューブ(アルカリ、空気)を接続し、プローブ(pH及び溶存酸素)を室温で一晩放置して分極させた。このステップは、無菌対照としても用いた。
酵母の一晩培養物(5mL)を適切なドロップアウト培地で調製し、上記のように175r.p.m.、+30℃で16時間インキュベートした。一方、プローブは次のように較正した:溶存酸素(DO2)は、未接種培地の100%DO2(+30℃で約70nA)を読み取るように較正した。pHは、pH4.0及びpH7.0の標準液(20mL)(Sigma、UK)で較正した。翌朝、菌株をOD600nmが0.2になるまで継代培養し(5mL)、175 r.p.m.、+30℃で4時間、再びインキュベートした。この時間が経過した後、バイオリアクターに予め計算した接種量(mL)を0.1(OD600nm)となるように接種し、Lucullus Process Information Management Software(SecureCell、CH)を用いて発酵を監視した。設定値は、35%DO2±5%、pH5.0±0.5及び圧縮空気(Bambi PT5 UK)で1vvmのスパージングとした。通常、全発酵時間は20時間であった。
【0051】
下流処理
発酵後、全サンプル(約120mL、OD600nmは株によって約35~55)を抽出し、2本の50mLファルコンチューブ(ThermoFisher、UK)にデカントした。次に、15mLの培養液を15,500r.c.f.で10分間遠心分離してペレットとし、秤量し(湿細胞質量g/L)、次いで製造者の説明書に従って、Yeast Protein Extraction Reagent(YPER、Pierce、UK)に溶解した。
化学的細胞溶解(タンパク質抽出)
サンプルの溶解は、上記の「下流処理」の説明と同様に行った。細胞ペレットを適切な量のYPER(製造者の説明書に従う)に入れ、Pierce Protease Inhibitor Tablets(Thermo Scientific、UK)を用いて1800r.p.m.(Stuart Vortex、UK)で20分間室温で撹拌した。その後、サンプルを遠心分離して不溶性の残渣を取り除くことで清澄化し、更なる分析のために上清を清浄な1.5mLエッペンドルフチューブ(Eppendorf、UK)に吸引した。
【0052】
アフィニティー精製
固定化金属アフィニティークロマトグラフィー(IMAC)を行い、60kDaの融合タンパク質の発現を確認した。Bol3及びLip5ポリペプチドの個々の分子量は、それぞれ13及び46kDaである(出典、Saccharomyces Genome database, yeastgenome.org)。精製のために、1mLのHisPur Nickelクロマトグラフィー樹脂(Sigma、UK)を空のPD-10(10mL、Sigma-Aldrich、UK)カラムに分注し、1カラム容量の変性結合バッファー(8M尿素、10mMイミダゾール、137mM NaCl、2.7mM KCl、10mM Na2HPO4、1.8mM KH2PO4、20%v/vグリセロール pH7.4)で平衡化した。これに、「化学的細胞溶解(タンパク質抽出)」で調製したサンプルをピペットで注意深く添加し、重力で流出させた。通過液を回収し、更なる分析のために「RT」と表示した。洗浄は、(8M尿素、50mMイミダゾール、137mM NaCl、2.7mM KCl、10 mM Na2HPO4、1.8mM KH2PO4、20%v/vグリセロール、pH7.4)を用いて行った。タンパク質を溶出バッファーB(8M尿素、50mMイミダゾール、137mM NaCl、2.7mM KCl、10mM Na2HPO4、1.8mM KH2PO4、20%v/vグリセロール、pH7.4)を用いて溶出し、15×1mL画分(1.5mLエッペンドルフチューブ)に回収した。全てのサンプルは精製の間、氷上で維持した。LVisプレート(BMG、UK)を用いた280nmでのUV/Vis分光法(SPECTROstar Nano、英国)を使用してタンパク質濃度(mg/mL)を定量した。
【0053】
ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)による組換えタンパク質の検出
上記のアフィニティー精製ステップからの画分を、100Vで10分間及び180V、200mAで50分間のドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)によって分析した。ポリアクリルアミドゲルは、Laemmliスタック法に従い、10%v/v分離ゲル(Surecast、Resolvingバッファー pH8.8、Thermo Fisher、UK)及び4%v/vスタッキングゲル(Surecast Stackingバッファー、pH6.8、Thermo Fisher、UK)を用いて調製し、重合は50μLの10%w/v過硫酸アンモニウム(Sigma、UK)及び5μLの100%v/vテトラメチルエチレンジアミン(TEMED、Melford、UK)で誘導した。
サンプルを4×Laemmli還元バッファー中で変性させ、最終容量20μLで実施濃度(1×)に希釈し、サーモサイクラー(Prime3、Techne、UK)で5分間+100℃に加熱した。サンプル当たり20μLの希釈(1:20)サンプルを、5μLのPageRulerプレステイン分子量マーカー(ThermoFisher、UK)と一緒にウェルに添加した。泳動後、ゲルを除去し、SimplyBlueタンパク質染色液(Invitrogen、UK)を用い、製造者の説明書に従って染色した。染色後、白色光透過照明(proBLUE View、Cleaver Scientific)を用いてゲルを記録した。
【0054】
ポリヒスチジンタグ付きポリペプチドの競合ラテラルフローアッセイ
Pro-Detect(商標)Rapid His競合アッセイキット(Thermo Scientific、UK)を用い、製造者の説明書に従って組換えポリヒスチジンタグ付きポリペプチドの発現を確認した。
データ解析
データ解析分析及びグラフ化は通常、RStudio(RStudio、V4.0.01)で行い、その後、Adobe IllustratorCC(2020)で可視化した。
増殖率は、https://cran.rproject.org/web/packages/growthcurver/vignettes/Growthcurver-vignette.htmlで利用できる「GrowthCurver」スクリプトを用いて計算した。通常、グラフィックデザインにはhttps://ggplot2.tidyverse.org/で利用可能なグラフィクスの文法(ggplot2)を使用した。
発酵データは、Lucullus Process Information Management ソフトウエア(Applikon、Getinge、NL and SecureCell、CH)を用いて記録し、可視化した。
【0055】
結果
実施例1:組換えBol3-Lip5キメラのエピソーム発現
オーバーラップ伸長PCRを用いて、bol3とlip5の2つのオープンリーディングフレームを、それぞれbol3とlip5の天然停止コドンと開始コドンを欠く、単一の融合オープンリーディングフレームに融合させ(
図1B)、単一の融合転写産物とした。増幅すると、最終的なキメラアンプリコンはおおよその分子量1632bpsに移動した。これはbol3とlip5の両方を合わせた場合に予想される質量と一致していた(
図1A)。
次に、アンプリコンのゲルを切り出し、消化し、セントロメア酵母発現構築物に連結した後、製造者(New England Biolabs、UK)の説明書に従って化学コンピテントDH5α大腸菌に形質転換した。得られた構築物(
図2)を次に、100mMのDTTを用い、改変LiAC/PEG法(Gietz, et al., 2002 Methods in Enzymology, Volume 350, 87-96頁)に従ってサッカロミセス・セレビシエ(BY4741)に形質転換した。両ORFを連結する働きをするポリヒスチジンモチーフが存在するために、ニッケルカラムクロマトグラフィーにより酵母溶解液から融合ポリペプチドを精製することが可能であった。これにより、Bol3(13kDa)及びLip5(46kDa)の両方のポリペプチドを合わせた分子量と一致する約60kDaのおおよその分子量に分離した単一のポリペプチドが得られた(
図4)。
【0056】
キメラタンパク質の発現は酵母の増殖率に悪影響を及ぼさず、環境刺激からの圧力を緩和する助けをする
高分解能増殖率分析は、新たに作出したキメラ発現酵母株の細胞の適応力は対照と統計学的に区別できない(CI=95%)ことを示した(
図3)。これらのデータは、このキメラが酵母系で十分に忍容されていることを示唆する。
準致死的~致死的な酸化条件下(過酸化水素)で更に実験を行ったところ、キメラ発現は10mMの過酸化物濃度まで十分な程度の保護を与えることが示された(
図5)。重要なことに、この所見はキメラ発現酵母に特有のものであった。
これに反して、還元状態での実験では、キメラの発現は対照に比べて、ジスルフィド結合破壊剤であるジチオトレイトール(DTT)に対する感受性が高いことが示された(
図6)。
【0057】
実施例2:組換え毒素由来ペプチドEVAの発現
合成ポリペプチド「EVA」(配列番号18)は、生理活性唾液ペプチドのダニ「エバシン」ファミリーの分泌タンパク質に由来する(
図8)(Hayward et al., 2017 前掲)。宿主生物(Amblyomma cajennense、「ケイジャンダニ」を含む)内で、エバシンは唾液腺から分泌され、寄生虫を排除するために宿主が放出するCXXC及びCXCケモカイン及びサイトカインを標的として隔離することにより、寄生虫の生存を促進する(Denisov et al., 2019, Journal of Biological Chemistry, 294(33), 12370-12379)。これらの分子を隔離することで、ダニは宿主の防御(免疫細胞の走化性)を効果的に弱め、ひいては、摂食と寄生のライフサイクルを長期化する(Denisov et al., 2019, 前掲)。最近、このメカニズムは、ウイルスと他の病態の両方に関連する、そうでなければ致命的な「サイトカインストーム」を治療(沈静化)するための潜在的治療薬として注目されている(Darlot et al., 2020, The Journal of Biological Chemistry, 295(32), 10926-10939)。
図7Aに示すように、酵母培養物が組換えEVA遺伝子(配列番号19)を保有していることを決定した後、ニッケルクロマトグラフィー及びSDS-PAGEを用いてタンパク質発現を確認した。この結果を
図7Bに示し、EVAの予測分子量(約30kDa)にほぼ相当する濃いバンドが分離されたことを示す。抗体に基づくアッセイを用いて、ポリヒスチジンタグ付きポリペプチドが画分内に存在することを確認した(
図11)。
【0058】
実施例3:EVA保有酵母は対照に比べて増殖率に著しい温度依存的低下を示す
摂氏+30及び+32度の両方で高分解能成長率分析を行ったところ、EVAの発現は、対照(野生型及びエンプティベクター)と比較して、増殖率に有意な低下(p<0.001)をもたらすことが示された(
図9)。これらのデータ(表2に要約)は、EVAの発現は、野生型及びエンプティベクター対照と比較して、相対増殖率にそれぞれおよそ60及び40%の低下をもたらすことを示した。これは、インキュベーション温度を+32℃まで上げると悪化し、直線性が示された。
【表2】
【0059】
実施例4:増強されたミトコンドリア抗酸化系によるEVA増殖率低下の救済
キメラとEVAの共発現はEVA依存性の増殖率低下を有意に救済する
強力な抗酸化物質であり、PDHとaKDHの両酵素のリポイル化を介した代謝の重要な調節因子であるので、リポ酸の過剰産生は、細胞内の酸化ストレスに対する抵抗性を高め得るという仮説を立てた。細胞増殖率は、様々な酸化条件下で、細胞の適応力の尺度として用いた(
図5)。
上記に示したように、ダニポリペプチド類似体EVAの発現は、細胞の適応力(増殖率)に著しい(野生型の約60%及び対照の40%の)低下をもたらした。EVA及びキメラタンパク質は、増強された抗酸化系が見られる表現型を救済する働きをする可能性があるという仮説をもって共発現された。
【0060】
表3は、増殖率救済実験の実験計画を詳細に示す。合計4つの独立した酵母株の増殖率を比較した。「エンプティ」プラスミドを保有する「対照」株は、組換えタンパク質が発現していない低コピー(セントロメア)プラスミドを維持することのバックグラウンド代謝効果を調べるために使用した。全ての酵母は同じ遺伝的バックグラウンドを持っていた。
【表3】
【0061】
これらの実験のデータを
図9及び表4にまとめる。
【表4】
【0062】
図9及び表4のデータは又、救済された場合、キメラ;+EVA培養物の増殖は対照(+エンプティベクター、又は非EVA発現)培養物に比べて統計学的に有意ではないことも示し、キメラの発現はそれだけで細胞野適応力の保存に十分であったことが示唆される。
これらの実験は又、キメラの発現がEVA発現酵母において温度依存的な増殖率の低下を逆転させることも示した。
【0063】
キメラ融合物と他の2つのICK-ペプチド、プロトキシン-1及びプサルモトキシン-1との共発現はEVAと同様の応答を惹起する
キメラ株が1つのICKポリペプチドの増殖を有意に救済できることがデータから示されたので、更に2つのICK発現株が救済できるかどうかも調べた。毒ペプチドであるコモリグモAlopecosa marikovskyi由来の「プロトキシン」(UniProt ID:TXPR1_ALOMR)(配列番号20及び21参照)とトリニダードシェブロンタランチュラPsalmopoeus cambridgei由来の毒ペプチド「プサルモトキシン-1」(UniProt ID:TXP1_PSACA)(配列番号22及び23参照)の発現構築物を酵母培養物に形質転換し、それらの増殖率を上記のように監視した。両方のペプチドは、鎮痛剤又は抗マラリア剤としての治療的可能性が十分に記載されており、他のICKペプチドと共に、それぞれ4つ及び3つのジスルフィド結合を含んでいる。それぞれのペプチドの模式図を
図10に示す。両ポリペプチドの発現は抗体に基づくアッセイで確認された(
図11)。
【0064】
合計4つの独立した酵母株の増殖率を比較した(表5参照)。「エンプティ」プラスミドを保有する「対照」株は、組換えタンパク質が発現していない低コピーの(セントロメア)プラスミドを維持することのバックグラウンド代謝効果を調べるために使用した。全ての酵母はBY4741バックグラウンドを持っていた。
【表5】
【表6】
【0065】
上記の表6に示される(
図12でのグラフで示される)データは、ここでも、キメラ融合物の共発現がICKペプチドのいずれかを発現する細胞の増殖率を回復させるために十分であったことを示す。エバシン(EVA)の発現に比べて、これらのデータセット内にはより大きな変動が示された。これは特にプサルモトキシン-1発現酵母(プサルモトキシン-1)の増殖に当てはまり、おそらく比較的複雑でない(ジスルフィドの点で)ポリペプチドに対する忍容性を反映している。
組み合わせて見ると(
図10及び12)、各毒素ペプチドに存在するジスルフィド(S-S)の数(表6)は、酵母培養物がそれらの発現にどの程度応答(増殖率)するか(又はしないか)を推測するものであると思われる。この効果は、各ペプチドの分子量とは無関係のようである(表5)。ジスルフィドの数が多い場合(エバシン及びプロトキシン、4つ)は、少ない(プサルモトキシン、3つ)場合よりも増殖率に大きな低下がもたらされた。同様に、キメラ依存的な増殖率の救済もこの所見を反映しており、高分子量(26 kDa)でジスルフィドの数が多い(4)と、より強い救済が見られた(
図10及び表6)。
【0066】
次に、上記の増殖度の所見(すなわち、プロトキシンとエバシン)が商業的に適切なバッチ発酵システムに移行できるかどうかを確認するために、パイロットスケールの100mL発酵を行った。これらのデータを
図13~16に示す。4つの独立したバッチ発酵において、キメラの発現は、培養(光学)密度(OD
600)と湿細胞質量の両方に関して、最終収量と同様に、より速い増殖指標(設定点DOまでの時間)をもたらした。特に注目すべきは、これらのバッチ発酵が、
図9及び
図12で得られた増殖測定と一致していること、すなわち、キメラ発現によって、酵母系内で高分子量エバシンがプロトキシン-1よりも良好に支持されることである。
ジスルフィドが豊富なICKを組換え発現させると、酸化的タンパク質フォールディング経路のフラックスが増大し、その結果、ラジカル種の産生が増加すると推測される。各ジスルフィド結合は、Ero1依存的なシステインチオールの酸化を介して、化学量論的量のラジカル酸素種を形成することから(Tyo et al., 2012, BMC Biology, 10.)、ICKペプチドの異種発現も又、酸化物質の産生の「増大」をもたらし、タンパク質フォールディング機構(UPRを含む)に大きな負担をかけ、その結果、蔵書率と最終産物収率に悲惨な結果をもたらす可能性もあるいう仮説を立てた。このことは、エバシン、プロトキシン-1及びプサルモトキシンの増殖率の違いによって証明されており、ジスルフィドの数が最も少ないペプチド(プサルモトキシン、ジスルフィドn=3)は、エバシン又はプロトキシン-1(それぞれ4つのジスルフィド)よりも忍容性が高い(増殖率への影響が小さい)ようである。
【0067】
本発明者らは、キメラを介して重要な抗酸化経路の改変型を共発現させることで、ICK発現酵母がもはや遅い増殖率を示さなくなり、それらの適応力が回復したように見えることを実証することができた。これは、キメラタンパク質の発現による間接的な抗酸化「緩衝」効果によるものであったことが示唆される。これには、ラジカルが主要な生体分子(核酸、脂質、タンパク質など)を傷害し、細胞の適応力を損なうのを防ぐことで、酵母宿主が組換えICKのフォールディング「コスト」に耐えられるようにする効果があると考えられる。
【配列表】
【国際調査報告】