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特表2024-537272筋萎縮を診断するための方法とキット
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-10
(54)【発明の名称】筋萎縮を診断するための方法とキット
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/68 20180101AFI20241003BHJP
   C12Q 1/6851 20180101ALI20241003BHJP
   C12Q 1/6837 20180101ALI20241003BHJP
   C12Q 1/6869 20180101ALI20241003BHJP
   C12Q 1/6883 20180101ALI20241003BHJP
   A61K 31/573 20060101ALN20241003BHJP
   A61K 45/00 20060101ALN20241003BHJP
   A61P 21/00 20060101ALN20241003BHJP
【FI】
C12Q1/68 ZNA
C12Q1/6851 Z
C12Q1/6837 Z
C12Q1/6869 Z
C12Q1/6883 Z
A61K31/573
A61K45/00
A61P21/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024521362
(86)(22)【出願日】2022-10-05
(85)【翻訳文提出日】2024-05-15
(86)【国際出願番号】 EP2022077714
(87)【国際公開番号】W WO2023057521
(87)【国際公開日】2023-04-13
(31)【優先権主張番号】21306403.3
(32)【優先日】2021-10-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521402321
【氏名又は名称】インスティトュート ナシオナル ドゥ ルシェルシェ プル ラグリキュルテュール,ラリマンタスィヨン エ ランヴィロンヌマン
(71)【出願人】
【識別番号】524132276
【氏名又は名称】ユニベルシテ クレルモン オーヴェルニュ
(71)【出願人】
【識別番号】524132287
【氏名又は名称】センター ホスピタリア ユニヴェルシテール ドゥ クレルモン―フェラン
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】タイヤンディエ,ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】ヘン,アンヌ エリザベス
(72)【発明者】
【氏名】アニオート,ジュリアン
【テーマコード(参考)】
4B063
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA19
4B063QQ03
4B063QQ53
4B063QR08
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS32
4B063QS34
4B063QX02
4C084AA17
4C084NA14
4C084ZA94
4C086AA01
4C086AA10
4C086DA10
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA94
(57)【要約】
本発明は、対象における筋萎縮を検出するための組成物及び方法に関する。本発明はまた、対象における筋肉量の喪失のインビトロ又はエクスビボの検出を可能にする新規バイオマーカーを提供する。本発明はまた、対象における疾患もしくは障害の発症、又は発症リスクの指標としての筋萎縮の使用に関する。さらに、本発明は、これらの方法での使用のためのキット及び試薬に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液試料における筋萎縮のインビトロ又はエクスビボの検出用のバイオマーカーとしてのACTR6(配列番号1)、GIMAP2(配列番号2)、RCN2(配列番号3)、RPL22L1(配列番号4)、TRIAP1(配列番号5)、NIFK(配列番号6)、APIP(配列番号7)、GEMIN6(配列番号8)、RWDD1(配列番号9)、ZNF613(配列番号10)、BPNT1(配列番号11)、CCT2(配列番号12)及びLYRM2(配列番号13)から選択される少なくとも1つの遺伝子又はその遺伝子産物の使用。
【請求項2】
対象から取得された血液試料中のACTR6(配列番号1)、GIMAP2(配列番号2)、RCN2(配列番号3)、RPL22L1(配列番号4)、TRIAP1(配列番号5)、NIFK(配列番号6)、APIP(配列番号7)、GEMIN6(配列番号8)、RWDD1(配列番号9)、ZNF613(配列番号10)、BPNT1(配列番号11)、CCT2(配列番号12)及びLYRM2(配列番号13)から選択される少なくとも1つのバイオマーカーの発現レベルを決定することを含む、対象における筋萎縮を診断するためのインビトロ又はエクスビボの方法であって、参照値と比較して前記少なくとも1つのバイオマーカーの発現レベルにおける低下が、前記対象における筋萎縮を示す、方法。
【請求項3】
前記少なくとも1つのバイオマーカーが、ACTR6、GIMAP2及びRCN2、又はそれらの組み合わせから選択され、かつ参照値と比較して、前記少なくとも1つのバイオマーカー、又はそれらの組み合わせの発現レベルにおける低下が、筋萎縮を示す、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
バイオマーカーの以下の組み合わせ:ACTR6とGIMAP2、ACTR6とRCN2、GIMAP2とRCN2、又はACTR6とGIMAP2とRCN2の1つの発現レベルを決定することを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
RPL22L1、TRIAP1、NIFK、APIP、GEMIN6、RWDD1、ZNF613、BPNT1、CCT2及びLYRM2から選択される少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの発現レベルを決定することをさらに含む、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
対象において筋萎縮を逆転させる治療の有効性を評価するためのインビトロ又はエクスビボの方法であって、
(i)前記治療の前に又は前記治療の初期ステージで取得された対象からの第1の血液試料においてACTR6、GIMAP2、RCN2、RPL22L1、TRIAP1、NIFK、APIP、GEMIN6、RWDD1、ZNF613、BPNT1、CCT2及びLYRM2から選択される少なくとも1つのバイオマーカーの発現レベルを決定する工程;及び
(ii)前記治療の間に、後のステージで、又は後で取得された対象からの第2の血液試料において同じ少なくとも1つのバイオマーカーの発現レベルを決定する工程であって、工程(i)で測定される同じ少なくとも1つのバイオマーカーの発現レベルを上回る工程(ii)で測定される少なくとも1つのバイオマーカーの発現レベルが、その治療が有効であることを示す、工程
を含む、方法。
【請求項7】
疾患を患っている対象における治療を選択すること、適合させること又は変更することを支援するためのインビトロ又はエクスビボの方法であって、(i)請求項2~5のいずれか一項に記載の方法により前記対象における筋萎縮の存在を評価する工程;及び
(ii)疾患を患っている対象における治療を選択する、適合させる又は変更するために筋萎縮の存在を考慮する工程
を含む、方法。
【請求項8】
筋萎縮に対する治療法を選択する工程(iii)をさらに含み、前記治療法が、薬物(グルココルチコイド、抗炎症薬などの薬理学的薬剤)、栄養剤(栄養補助食品、ウルソール酸、トマチジンなど)、運動、又はそれらの組み合わせを含む、請求項7に記載のインビトロ又はエクスビボの方法。
【請求項9】
前記少なくとも1つのバイオマーカーの発現レベルが、核酸レベルで決定される、請求項2~8のいずれか一項に記載のインビトロ又はエクスビボの方法。
【請求項10】
前記少なくとも1つのバイオマーカーの発現レベルが、リアルタイム逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)、定量的リアルタイム逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(qRT-PCR)、デジタルPCR、RNAseq、マイクロアレイ、遺伝子チップ、nCounter遺伝子発現アッセイ、遺伝子発現連続解析(SAGE)、遺伝子発現迅速解析(RAGE)、ヌクレアーゼ保護アッセイ、ノーザンブロッティング、又は任意の他の同等の遺伝子発現検出技術を用いて決定される、請求項9に記載のインビトロ又はエクスビボの方法。
【請求項11】
前記少なくとも1つのバイオマーカーの発現レベルが、定量的リアルタイム逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(qRT-PCR)又はデジタルPCRを使用して決定される、請求項9に記載のインビトロ又はエクスビボの方法。
【請求項12】
前記対象が、哺乳動物、好ましくはヒト対象、さらにより好ましくは成人のヒト対象である、請求項2~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記血液試料が、末梢血、血漿及び血清試料から選択される、請求項1に記載の使用又は請求項2~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
配列番号14~39からなる群から選択される核酸配列を有するオリゴヌクレオチド。
【請求項15】
ACTR6、GIMAP2、RCN、RPL22L1、TRIAP1、NIFK、APIP、GEMIN6、RWDD1、ZNF613、BPNT1、CCT2及びLYRM2から選択される少なくとも1つのバイオマーカーを増幅するための請求項14に記載の少なくとも2つのオリゴヌクレオチド、及び任意に増幅反応を実施するための試薬及び/又は使用のための説明書を含むキット。
【請求項16】
筋萎縮を診断するための;筋萎縮を逆転させる治療の有効性を評価するための;対象における疾患の発症又は発症のリスクを評価するための及び/又は疾患を患っている対象における治療を選択すること、適合させること、又は変更することを支援するための血液試料に対する請求項15に記載のキットの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、対象の血液試料において筋萎縮を検出するための組成物及び方法に関する。本発明はまた、対象の血液試料での筋肉量減少のインビトロ又はエクスビボの検出を可能にする新規バイオマーカーを提供する。本発明はまた、対象における疾患もしくは障害の発症、又は発症のリスクの指標としての筋萎縮の使用に関するものであり、いくつかの治療法の潜在的な有害作用及び潜在的な対策の有効性に対処することを含む。さらに、本発明は、これらの方法で使用するための、キット及びオリゴヌクレオチドなどの試薬に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
骨格筋は人体の質量のほぼ半分を占めている。運動、代謝、恒常性、及びエネルギーと窒素の貯蔵におけるその役割に加えて、骨格筋(人体の全タンパク質の50~75%を含有する)は、病状の発生時に重要な臓器により使用されるアミノ酸の不可欠な供給者である。
【0003】
栄養失調、筋肉の廃用、老化、病気又は損傷は、骨格筋線維を萎縮させ、最終的に筋肉量の喪失をもたらす。骨格筋萎縮と呼ばれるこのプロセスは、原因となる疾患に関係なく、生活の質の低下、耐性と治療応答の減少、及び罹患率と死亡率の増加と関連付けられている(Kalantar-Zadehら,J Cachexia Sarcopenia Muscle(2013)4:89-94)。骨格筋の萎縮が長期間確立されていると、逆転させることは非常に困難である。そのため、筋萎縮が定着しつつあることを疾患において早期に予測することが不可欠であると考えられる。
【0004】
骨格筋の恒常性は、多数のシグナル伝達経路により制御されている。筋肉量の減少は、タンパク質分解を支持するタンパク質の恒常性の不均衡によるものである。異なる異化状態からの筋肉の遺伝子発現プロファイルの比較は、タンパク質の喪失に重要であると考えらる、アトロジーンと呼ばれる共通の遺伝子パネルの特定を可能にした。いくつかのアトロジーンは、2つの主要な細胞分解システム、ユビキチン-プロテアソームとオートファジー-リソソーム、に属する。げっ歯類の萎縮する筋では、2種類のユビキチンリガーゼである筋肉リングフィンガー-1(MuRF1/TRIM63)と筋萎縮F-box(MAFbx/アトロジン-1)が、筋萎縮のマスター遺伝子と考えられており(Bodineら,Science(2001)294(5547):1704-1708)、一方でTRIM32が、オートファジーの開始による筋肉再生のマスター調節因子と考えられる(Overaら,J Cell Sci.(2019)132(23):jcs236596)。
【0005】
アトロジーンの発見後、転写因子が筋萎縮を促進するという概念が、現在では十分に確立されている(Sartoriら,Nature Communications(2021)12:330。FoxO1、3、4は、IGF1/インスリン-Akt経路の下流の転写因子であり、それらの阻害は、空腹、後肢懸垂、運動抑制、糖尿病、及びグルココルチコイド治療における筋肉喪失及び筋力の低下を完全に回避する。NF-κB及Stat3転写因子は、特にMuRF1又はMAFbxのいずれかを上方制御することにより、筋肉消耗に対するTNF-α及びIL-6の作用を媒介する。アンフォールドタンパク質応答(UPR)及び小胞体(ER)ストレス関連経路は、ATF4及びXBP1転写因子を介して筋萎縮を調節すると見出されている。
【0006】
筋萎縮はまた、筋肉特異的な疾患と関連付けられ得る。廃用性筋萎縮ほど重症ではないが、疾患関連筋萎縮は、個々の筋肉に供給する神経に影響を与える疾患(すなわち、神経原性萎縮)又は筋肉組織に固有の疾患(すなわち、筋疾患)のいずれかから生じ得る。神経原性萎縮では、筋肉への神経供給が、神経細胞内の圧迫、損傷、又は疾患により中断され又は損なわれ、一時的又は永続的な神経欠損をもたらし得る。筋肉への神経供給を中断する又は損なう可能性のある神経細胞内の疾患は、例えば、多発性硬化症、筋萎縮性側索硬化症(ALS、又はルーゲーリッグ病)、ギランバレー症候群、脳卒中、及び神経細胞のウイルス感染(例えば、灰白髄炎)を含む。筋疾患は、筋組織に固有である(例えば、筋ジストロフィー、多発性筋炎、もしくは筋緊張症)か、又は全身性の病気(例えば、甲状腺機能低下症又は甲状腺機能亢進症、副腎欠乏、糖尿病、もしくは自己免疫疾患)への応答として生じる場合もある。筋肉減少症は、高齢者を苦しめる衰弱性疾患であり、加齢に伴う筋肉量と機能の喪失を特徴とする。
【0007】
全身的な筋肉の消耗(悪液質)はまた、進行癌、後天性免疫不全症候群(AIDS)、慢性閉塞性肺疾患、うっ血性心不全、心筋症、慢性肝疾患、腎疾患、肺気腫、結核、骨軟化症、ホルモン欠乏症、神経性食欲不振、全身性栄養失調、及び薬物乱用(例えば、アルコール、アヘン剤、又はステロイドの乱用)などの疾患の二次的な結果として生じる場合がある。悪液質における骨格筋萎縮は、原因である病状の治療がない場合に、食物摂取量を増やすことにより逆転させることはできない(Konishiら,J Cachexia Sarcopenia(2016)7:107-109)。機械的ストレスと神経ホルモンメディエーターもまた、悪液質における筋肉量の制御に関与する。筋肉の消耗のメカニズムに関する研究はほとんど、若い成長中のげっ歯類などの、動物モデルで行われている。動物モデルで説明されているいくつかの異常がヒトで確認されているが、観察された変更が萎縮プログラムに直接関連しているのか、又は疾患自体に特異的であるかどうかはまだ確立されていない。さらに、筋肉の消耗は一般的に、若いげっ歯類において異化刺激後1~2週間以内に検出されるが、ヒトの疾患では、一般的により長い期間内に及び成人で検出される。加えて、げっ歯類の生理機能は、人間の生理機能と厳密には同等でない。
【0008】
筋萎縮のバイオマーカーを特定する試みが、慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの特定の病状を患っている患者の筋生検において行われている(Debigareら,Journal of chronic obstructive pulmonary disease(2008)5(2):75-84)。しかし、特定されたマーカーが筋萎縮又はCOPDに関連しているかは明らかではない。ヒトの筋生検で実施された他の研究は、固定(米国特許第11,090,313 B2号)又は除神経(米国特許公開第2006/003959 A1)などの特異的な状況で誘発される筋萎縮に関与するバイオマーカーの特定を可能にした。筋萎縮のメカニズムはまた、インビトロ(KR2020 0001068 A)又はインビボでのげっ歯類の筋生検(米国特許公開第2006/069049 A1号)でも研究されたが、げっ歯類で得られた結果の90%はヒトに置き換え可能ではないことがよく知られている。さらに、日常的な診断に筋生検を使用することは、臨床的に実行可能でない。
【0009】
最近、本発明者らは、肺癌(LC)及び慢性血液透析(HD)患者からの萎縮骨格筋生検での研究を実施した(Aniortら,J Cachexia Sarcopenia Muscle(2019)10(2):323-337)。ユビキチンプロテアソーム系とオートファジー系の両方が、LC患者とHD患者で活性化されており、すでに知られているE3リガーゼのいくつかが、ヒトの筋萎縮の強力なマーカーとして確認された。Wnt-βカテニン及びATF4シグナル伝達経路もまた、患者において活性化された。230超のタンパク質のパネルは、健康なヒトのプロテオームと比較すると、LC及びHD患者において異なって発現される。しかし、タンパク質の変動は、トランスクリプトームレベルでは取り組まれなかった。さらに、タンパク質の質量分析は、直接的な臨床使用にはほとんど役に立たない。加えて、筋生検は、痛みを伴い、アクセスが困難であり、経時的に筋萎縮をモニタするのに適していない。
【0010】
そのため、疾患とは無関係に良好な感度と特異性を有して、簡単にアクセスできる試料から筋萎縮のバイオマーカーを特定することが強く求められている。そのようなバイオマーカーは、対象における筋萎縮を診断するために、特に、疾患又は障害を患っている対象における筋肉量の喪失をモニタするため、かつ治療の管理を支援するために非常に役立ち得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、筋萎縮、特に骨格筋萎縮の診断を可能にする、血液試料において検出可能な新規バイオマーカーの特定に基づく。異なるタイプの病状を患い、かつ筋肉量の喪失を患っている罹患対象からの血液試料において制限された遺伝子パネルを特定することにより、本発明者らは、筋萎縮を診断する及びモニタするための簡便で信頼性の高い方法を開発した。これらの遺伝子の発現は、どんな疾患であれ、萎縮プログラムと高く相関する。本発明は、そのため、病状管理における筋萎縮を治療するか又は低下させることにより、対象の治療を調整する及び改善することを可能にする。特に、臨床的に実行可能な方法での罹患対象における筋萎縮の検出及び治療は、治療的処置の効果を高めることができる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、筋萎縮、特に骨格筋萎縮の血液試料におけるインビトロ又はエクスビボ検出用のバイオマーカーとしての、ACTR6(配列番号1)、GIMAP2(配列番号2)、RCN2(配列番号3)、RPL22L1(配列番号4)、TRIAP1(配列番号5)、NIFK(配列番号6)、APIP(配列番号7)、GEMIN6(配列番号8)、RWDD1(配列番号9)、ZNF613(配列番号10)、BPNT1(配列番号11)、CCT2(配列番号12)及びLYRM2(配列番号13)から選択される少なくとも1つの遺伝子又はその遺伝子産物の使用に関する。
【0013】
本発明の別の目的は、対象から取得される血液試料中のACTR6、GIMAP2、RCN2、RPL22L1、TRIAP1、NIFK、APIP、GEMIN6、RWDD1、ZNF613、BPNT1、CCT2及びLYRM2から選択される少なくとも1つのバイオマーカーの発現レベルを決定することを通常含む、対象における筋萎縮、特に骨格筋萎縮を診断するためのインビトロ又はエクスビボの方法に関し、ここで参照値と比較して上記少なくとも1つのバイオマーカーの発現レベルの低下が、対象における筋萎縮、特に骨格筋萎縮を示す。
【発明の効果】
【0014】
本発明はまた、対象の血液試料において、筋萎縮、特に骨格筋萎縮を逆転させる治療の有効性を評価するためのインビトロ又はエクスビボの方法に関する。この方法は通常、
(i)上記治療の前又は上記治療の初期ステージで取得された対象からの第1の血液試料において、ACTR6、GIMAP2、RCN2、RPL22L1、TRIAP1、NIFK、APIP、GEMIN6、RWDD1、ZNF613、BPNT1、CCT2及びLYRM2から選択される少なくとも1つのバイオマーカーの発現レベルを決定する工程;及び
(ii)上記治療の間に、後のステージで、又は上記治療の後に取得された対象からの第2の血液試料において同じ少なくとも1つのバイオマーカーの発現レベルを決定する工程であって、工程(i)で測定される同じ少なくとも1つのバイオマーカーの発現レベルを上回る工程(ii)で測定される少なくとも1つのバイオマーカーの発現レベルは、治療が有効であることを示す、工程
を含む。
【0015】
本発明はさらに、本明細書に記載の方法により筋萎縮、特に骨格筋萎縮の存在を評価することを含む、対象における疾患の発症又は発症のリスクを評価するためのインビトロ又はエクスビボの方法に関し;ここで筋萎縮、特に骨格筋萎縮の存在は、対象における疾患の発症又は発症のリスクを示す。
【0016】
別の態様では、本発明は、疾患を患っている対象における治療を選択すること、適合させること又は変更することを支援するためのインビトロ又はエクスビボの方法に関する。この方法は通常、
(i)本明細書に記載の方法により、対象における筋萎縮、特に骨格筋萎縮の存在を評価する工程;及び
(iii)疾患を患っている対象における治療を選択する、適合させる又は変更するために筋萎縮、特に骨格筋萎縮の存在を考慮する工程
を含む。
【0017】
好ましい態様では、疾患を患っている対象における治療を選択すること、適合させること又は変更することを支援するためのインビトロ又はエクスビボの方法は、筋萎縮、特に骨格筋萎縮に対する治療法を選択する工程(iii)をさらに含み、上記治療法は通常、薬物(グルココルチコイド、抗炎症薬などの薬理学的薬剤)、栄養剤(栄養補助食品、ウルソール酸、トマチジンなど)、運動、又はそれらの組み合わせを含む。
【0018】
本発明は、哺乳動物、好ましくはヒト対象、さらにより好ましくは成人ヒト対象に用いてよい。
【0019】
本発明の方法の様々な実施形態では、バイオマーカーの発現レベルの測定は、例えばリアルタイム逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)、定量的リアルタイム逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(qRT-PCR)、デジタルPCR、RNAseq、マイクロアレイ、遺伝子チップ、nCounter遺伝子発現アッセイ、遺伝子発現連続解析(SAGE)、遺伝子発現迅速解析(RAGE)、ヌクレアーゼ保護アッセイ、ノーザンブロッティング、又は任意の他の同等の遺伝子発現検出技術などの良く知られている技術を用いて、核酸、特にRNA又はcDNAのレベルで決定され得る。好ましい態様では、少なくとも1つのバイオマーカーの発現レベルは、定量的リアルタイム逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(qRT-PCR)又はデジタルPCRを用いて決定される。
【0020】
本発明の方法の他の実施形態では、バイオマーカーの発現レベルの測定は、例えばイムノアッセイ、免疫吸着アッセイ(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、質量分析、ウェスタンブロッティング、フローサイトメトリー、又は任意の他の同等のタンパク質検出技術を用いて、タンパク質レベルで決定され得る。
【0021】
本発明は、好ましくは末梢血、血漿、及び血清試料から選択される血液試料に対し使用され得る。好ましい態様では、試料は、末梢血試料である。
【0022】
別の態様では、本発明は、配列番号14~39からなる群から選択される核酸配列を有するオリゴヌクレオチドに関する。オリゴヌクレオチドは、プライマー、特にプライマー対として使用されてよく、各対は、標的バイオマーカーの1つを増幅するための特異的なフォワードプライマーとリバースプライマーを含む。
【0023】
本発明の方法を実施するために、上述したオリゴヌクレオチドプライマー対は、例えば、カラム、アレイ又はマイクロアレイなどのデバイスの一部;又はキットであり得る。
【0024】
さらなる態様では、本発明は、ACTR6、GIMAP2、RCN2、RPL22L1、TRIAP1、NIFK、APIP、GEMIN6、RWDD1、ZNF613、BPNT1、CCT2及びLYRM2から選択される少なくとも1つのバイオマーカーを増幅するための本明細書に記載の少なくとも2つのオリゴヌクレオチドプライマー、並びに任意に、増幅反応を実施するための試薬及び/又は使用説明書、を含むキットに関する。
【0025】
本発明はまた、筋萎縮、特に骨格筋萎縮を診断するための;筋萎縮、特に骨格筋萎縮を逆転させる治療の有効性を評価するための;対象において疾患の発症又は発症のリスクを評価するため、及び/又は疾患を患っている対象における治療を選択する、適合させる又は変更することを支援するための、対象から取得された血液試料でのデバイス又はキットの使用に関する。
【0026】
本発明はまた、(i)対象から取得された血液試料においてACTR6、GIMAP2、RCN2、RPL22L1、TRIAP1、NIFK、APIP、GEMIN6、RWDD1、ZNF613、BPNT1、CCT2及びLYRM2から選択される少なくとも1つのバイオマーカーの発現レベルを決定することであって;ここで参照値と比較して少なくとも1つのバイオマーカーの発現レベルの低下が、対象における筋萎縮、特に骨格筋萎縮を示す、決定すること;並びに
(ii)薬物(グルココルチコイド、抗炎症薬などの薬理学的薬剤)、栄養剤(栄養補助食品、ウルソール酸、トマチジンなど)、運動、又はそれらの組み合わせにより、筋萎縮、特に骨格筋萎縮を有すると工程(i)で特定された対象を治療すること
を含む、対象において筋萎縮、特に骨格筋萎縮を診断する及び治療するための方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1A図1A: sPLS-DAを、4つの外れ値を含む、PROMETHE患者とPHD患者の両方のqRT-PCRデータを使用して実施した。健康なボランティアと筋肉が萎縮している患者(血液透析又は肺癌)を、sPLS-DAモデルの2つの第1の成分によって定義されるスペースに位置付ける。異化状態を有する患者は、健康なボランティアとは異なる集団のように見える。
図1B図1B図1Aで使用したデータを使用して、sPLS-DAを、PROMETHE患者とPHD患者の両方のqRT-PCRデータを使用するが4つの外れ値を含まずに、実施した。
図2A図2A:ROC解析を、1成分モデルを使用して、PROMETHE患者とPHD患者の両方のqRT-PCRデータを使用して実施した。ACTR6とGIMAP2は、1成分モデルを最もよく予測した。ROC曲線下面積(AUC)=0.9736。
図2B図2B:ROC解析を、2成分モデルを使用して、PROMETHE患者とPHD患者の両方のqRT-PCRデータを使用して実施した。NIFK、RPL22L1、CCT2、GEMIN6及びRCN2は、2成分モデルを予測した。ROC曲線下面積(AUC)=0.9934。
図3図3:異なるコホートに対しRT-qPCRにより決定したバイオマーカーレベル。、対照と有意に異なる(CT、n=13)、p<0.05。CKD、慢性腎臓病、n=57;肺癌、n=14;腹部癌(膵臓癌又は結腸癌)、n=7。
図4図4:バイオマーカーとハウスキーピング遺伝子についてqRT-PCRにより得られた検量線。
図5図5:検量線を用いたqRT-PCRによるバイオマーカーの絶対定量。逆転写に用いたRNA1ngあたりのコピー数を、対応する検量線を用いて計算した。データをn=3~5の平均±SEMとして表す。対照(CTL)と有意に異なる、p<0.05;**p<0.01。同じ患者を全ての検査に使用した。CKD、慢性腎臓病。絶対定量は、トータルRNA1ngあたりのバイオマーカーのRNA分子数を決定することにより、異化患者を特定することを可能にする。
図6図6:RT-qPCRとデジタルPCR(dPCR)により取得したバイオマーカーの絶対定量の比較。バイオマーカー濃度を、Bio-RadからのデジタルPCRを使用して計算し、RT-qPCR絶対定量についての検量線を使用して取得したデータと比較した。癌患者とCKD患者は、以前の実験でグループ間に差異が観察されなかったため、プールし(
【化1】
)、健康なボランティア(CTL、
【化2】
)と比較した。CTLと有意に異なる、p<0.05;**p<0.01、***p<0.001。デジタルPCRは、バイオマーカーレベルの測定に有効であり、従来の絶対RT-qPCR分析よりも正確な定量を可能にする。
【発明を実施するための形態】
【0028】
発明の詳細な説明
骨格筋萎縮は、敗血症、グルココルチコイド投与、絶食、筋肉の廃用、慢性腎臓病、糖尿病、腎不全、癌、HIV/AIDS、尿毒症、及び他の多数の慢性又は全身性疾患を含む様々な状態に応答して生じる。
【0029】
筋肉量の喪失に影響を与える遺伝子とタンパク質の多様性を理解すると、筋萎縮、特に骨格筋萎縮の対象において診断を可能にする関連バイオマーカーを特定すること及び選択することは、困難である。萎縮プログラムに直接結びつき、かつ疾患又は障害自体とは無関係な特異的バイオマーカーを特定することは、さらにより複雑である。
【0030】
本発明は、筋萎縮、好ましくは骨格筋萎縮の特異的で信頼性の高いバイオマーカーの特定に基づく。これらのマーカーは、ACTR6、GIMAP2、RCN2、RPL22L1、TRIAP1、NIFK、APIP、GEMIN6、RWDD1、ZNF613、BPNT1、CCT2、LYRM2及び/又はそれらの変異体である。これらのマーカーは、患者の血液試料中で検出可能であり、上記患者に影響を与える疾患又は障害に関係なく、信頼性が高く、筋萎縮を予測できる。これらのマーカーは、血液試料で特異的に特定されており、筋萎縮プログラム中に筋肉に存在するメカニズムを間接的に反映している。特定されたマーカーは、従来技術の筋生検において特定されたマーカーとは無関係である。最初に、試料が異なるため、同じマーカー(血液マーカー対筋生検)を見つける理由はない。加えて、本発明者らは、新たな戦略を開発した。実際に、病状から完全に独立したマーカーの特定を確実にするために、進行の異なるステージ(例えば、診断初期対病状経過の後期[2年];治療前対化学療法後)で異なる疾患を有する患者を使用した。
【0031】
第1の態様では、本発明は、血液試料で筋萎縮、特に骨格筋萎縮のインビトロ又はエクスビボ検出用のバイオマーカーとしての、ACTR6(配列番号1)、GIMAP2(配列番号2)、RCN2(配列番号3)、RPL22L1(配列番号4)、TRIAP1(配列番号5)、NIFK(配列番号6)、APIP(配列番号7)、GEMIN6(配列番号8)、RWDD1(配列番号9)、ZNF613(配列番号10)、BPNT1(配列番号11)、CCT2(配列番号12)及びLYRM2(配列番号13)から選択される少なくとも1つの遺伝子又はその遺伝子産物の使用に関する。
【0032】
本発明は、対象からの血液試料中の上で列挙した少なくとも1つの標的遺伝子の発現レベルの変化を使用することにより、筋萎縮、特に骨格筋萎縮を診断するために有用なバイオマーカーの決定法を提供する。少なくとも1つのバイオマーカーの発現レベルの変化は一般に、参照値と比較することにより得られる。
【0033】
定義
「遺伝子」という用語は、1以上の配列関連RNA/タンパク質を指定するDNA配列(その構成要素セグメントは必ずしも物理的に連続している必要はない)を指す。本発明において意図されるように、遺伝子は、それぞれの遺伝子(cDNA)の配列のタンパク質コード部分のみの配列の形態であってよく、タンパク質をコードする部分以外の配列(DNA)を含んでよい。全てのヒトにおいて、遺伝物質の多様性は遺伝子多型につながる。「遺伝子多型」は、遺伝子を構成するDNAの塩基配列の個体差である。一般に、それは、1%以上の集合頻度で出現すると定義される。一塩基多型(SNP)は、1000塩基対ごとに1個起こり得る変化として定義され、ヒトゲノムに共通しており、例えば、プロモーター、コード領域又は非コード領域及びまた遺伝子間領域でなどの遺伝子の異なる領域に位置し得る。
【0034】
「遺伝子産物」という表現は、mRNA又はタンパク質などの、問題の遺伝子から転写される又は翻訳されるものを指す。mRNAの異なるアイソフォーム又は変異型、及び結果として生じるタンパク質アイソフォーム又は変異体は、遺伝子産物という用語内に企図される。遺伝子産物の断片はまた、それらが機能的に活性である限り、企図される。
【0035】
本明細書で用いる場合、「バイオマーカー」という用語は、その存在及び/又は濃度が検出され、かつ関心のある状態と典型的に相関し得る生体分子を指す。バイオマーカーは、ポリペプチド又はそれをコードする核酸(例えば、mRNA)であり得る。本発明の文脈において、バイオマーカーは、「筋萎縮」試料として対象からの試料を分類するため、筋萎縮の重症度を評価するため、罹患対象における治療の有効性を評価するため、かつ/又は筋萎縮を患っている対象における疾患の発症又は発症のリスクを評価するために使用され得る。
【0036】
「萎縮」という用語は、細胞の収縮及び/又は細胞数の減少による組織又は臓器のサイズの減少を定義する。細胞サイズの減少は、細胞小器官、タンパク質及び細胞質の喪失により引き起こされる。
【0037】
「筋萎縮」という表現は、筋線維の喪失並びに/又は筋肉の進行性の衰弱及び/もしくは変性を含む、筋肉量の喪失を指す。筋肉量の喪失並びに/又は筋肉の進行性の衰弱及び/もしくは変性は、例えば、異常に高いタンパク質分解速度、異常に低いタンパク質合成速度、又は両者の組み合わせのため生じ得る。異常に高い筋タンパク質分解速度はまた、筋タンパク質の異化作用(すなわち、糖新生の基質としてアミノ酸を使用するための筋肉タンパク質の分解)により生じ得る。筋萎縮はまた、筋力の著しい喪失も包含し得る。「筋力の著しい喪失」は、対照対象における同じ筋組織に対して、対象における疾患、損傷、又は未使用の筋組織における力の低下を意味する。
【0038】
筋萎縮は、遺伝的、器質的又は全身的な起源を有し得る。主に骨格筋組織に影響を与える遺伝性障害の主なカテゴリーは、筋ジストロフィーとミオパチーである。
【0039】
筋萎縮は、活動に対してだけでなく、例えば高尿毒症、慢性閉塞性肺疾患、糖尿病、敗血症、肥満、エイズ、癌及び心不全などの多くの全身性疾患に対する衰弱した応答である。一般に、筋肉量の喪失は、筋肉の機能及び質(すなわち、筋肉組織の各容積単位により生成される力)の喪失を伴う。本明細書で定義される「骨格筋萎縮」は、過度のタンパク質分解、及び/又は骨格筋の進行性の衰弱及び変性により引き起こされる、筋肉量の低下を指す。
【0040】
「骨格筋萎縮」という表現は、骨格筋量の喪失並びに/又は骨格筋の進行性の衰弱及び/もしくは変性を指す。
【0041】
筋肉は、筋肉細胞を含むほとんどの動物に見られる軟部組織である。筋肉細胞はタンパク質フィラメントを含み、それらは、互いにスライドし、筋肉細胞の長さと形状の両方を変化させる収縮をもたらす。筋肉は、力と動きをもたらすように機能する。身体には3種類の筋肉:a)骨格筋(四肢及び体の外部領域を動かすのに関与する筋肉);b)心筋(心臓の筋肉);及びc)平滑筋(動脈と腸の壁に存在する筋肉)、がある。
【0042】
骨格筋、又は随意筋は一般的に、腱により骨に固定され、かつ歩行などの骨格の動きをもたらすために又は姿勢の維持に一般的に使用される。骨格筋のある程度の制御は一般的に、無意識の反射(例えば、姿勢筋又は横隔膜)として維持されるが、骨格筋は、意識的な制御に反応する。骨格筋には横紋があり、非常に規則的な束の配置へと詰め込まれたサルコメアを含む。
【0043】
骨格筋はさらに、I型(又は「遅筋」)とII型(又は「速筋」)の2型に大別される。I型筋線維は、毛細血管が密集しており、かつミトコンドリアとミオグロビンに富み、それは、特徴的な赤い色をI型筋組織に与える。I型筋線維は、脂肪又は炭水化物を燃料に用いて、より多くの酸素を運び、有酸素活動を維持できる。I型筋線維は、長期間収縮するが、力はほとんどかからない。ヒトを含む大型哺乳動物では、II型筋線維は、収縮速度と生じる力の両方が異なる2つの主要なサブタイプ(IIa及びIIx)に細分化され得る。II型の筋線維は、迅速かつ強力に収縮するが、非常に急速に疲労し、そのため、筋肉の収縮が痛みを伴うようになる前は、活動の短時間の無酸素バーストのみを生じる。
【0044】
「対象」又は「患者」という用語は、筋萎縮、特に骨格筋萎縮の検出及び/又は評価を必要とする個人を指す。対象は、(骨格)筋萎縮のリスクがあるか、又はそれに罹患している。対象は、無症候性であるか、又は(骨格)筋萎縮とは関係のない症状に苦しんでいる可能性がある。通常、対象は、上述した全身性疾患の1つを有し得る。「対象」又は「患者」という用語は、哺乳動物、ヒト又はヒト以外の哺乳動物のいずれかを含むが、これらに限定されない。好ましくは、対象は、成人である。
【0045】
「生体試料」という用語は、診断、予測、又はモニタリングの目的で使用され得る、対象からの任意の生体試料を含む。生体試料は、体液試料であってよい。本発明の文脈で使用できる生体液試料の典型的な例は、血液試料である。場合により、生体試料は、血漿、末梢血又は血清試料である。本発明の方法において、試料は、純粋で又は希釈して使用されてよい。試料の希釈は、目的のバイオマーカーの発現レベルの測定を妨げる可能性のある阻害剤を除去するのに有用であり得る。試料の予備濃縮が、バイオマーカーを濃縮するために実施され得る。試料は、使用前に処理され、かつ/又は凍結されもしくは凍結乾燥され、かつ/又は即時に使用されてよい。
【0046】
本明細書に記載される、試料、対照又は参照物質におけるバイオマーカー「の発現レベルを決定する」という表現は、試験される試料中の上記バイオマーカーの存在の検出及び定量化を指す。例えば、上記試料中のバイオマーカーの濃度は、試験される試料中に存在するタンパク質/ポリペプチドの量を測定することにより直接定量化され得る。しかし、バイオマーカーのコード遺伝子の遺伝子発現を評価することにより、例えばそれぞれのバイオマーカーをコードする発現されたmRNAの定量化により、間接的にバイオマーカーの量を定量化することも可能である。本発明は、所与のバイオマーカーのレベルを決定するための任意の特定の方法に限定されるものではなく、直接的又は間接的に、上記バイオマーカーの発現レベルの定量化又は推定を可能にする全ての手段を包含するものとする。本発明の文脈における「レベル」はしたがって、所与の試料中のバイオマーカーの絶対量を、例えば絶対重量、体積、又はモル量として説明するパラメータであり;又は別法として「レベル」は、相対量、例えばかつ好ましくは試験試料中の上記バイオマーカーの濃度、例えば、
mol/l、g/l、g/molなどに関する。qRT-PCRを使用して遺伝子発現を解析する場合、標的遺伝子の「発現レベル」は、ΔΔCt値として、μlあたりのmRNA分子数として、又はRNA1ngあたりのコピー数として表される。デジタルPCRを使用して遺伝子発現を解析する場合、標的遺伝子の「発現レベル」は、μlあたりの標的のコピーとして、ドロップレットあたりの標的のコピーとして(CPD)、又はRNA1ngあたりのコピーとして表される。
【0047】
バイオマーカーの発現レベルにおける差を定量化するために、発現比を計算できる。この差異的発現は、筋萎縮を有する対象と参照値の間のバイオマーカーの発現レベルにおける定量的及び質的な差を指す。バイオマーカーの発現レベルにおける「低下」という用語は、同じバイオマーカーについての参照値よりも低い、試験される対象の血液試料中の少なくとも1つのバイオマーカーについての発現値を指す。通常、バイオマーカーの発現レベルにおける低下は、同じバイオマーカーについての参照値の発現レベルの5%以上、10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上の減少に対応し得る。あるいは、バイオマーカーの発現レベルにおける低下は、参照値と比較して2~10倍の減少に対応し得る。
【0048】
「参照値」という用語は、参照の対象又は集団の、通常は健康な対象又は健康な対象の集団もしくはコホートの、すなわち、筋萎縮、特に骨格筋萎縮を患っていない対象の、血液試料(複数可)を用いて取得された値(測定されたレベル、量もしくは濃度)の中央値又は平均に対応する基礎値を指してよい。参照値は、統計的値/閾値又は識別値/閾値、すなわち、健康な対照集団と、(骨格)筋萎縮及び/又は骨格筋萎縮を二次的な結果として有する任意の他の疾患、障害もしくは機能不全状態を患っている集団の両方でパラメータを測定することにより決定された値、であり得る。「正常」と「萎縮」の間の閾値は、筋萎縮、特に骨格筋萎縮を患っていない健康な対象と、筋萎縮、特に骨格筋萎縮を経験している疾患患者の間の境界として定義される。識別値は、パラメータの値と、健康な対照の対象/集団の及び罹患した患者対象/集団の既知の臨床データの間の関係の分析に基づき、いずれも熟練者により事前に決定された、特異性及び/又は感度を用いて罹患集団を特定する。この方法で決定された識別値は、将来の個別検査において同じ実験設定に対し有効である。参照値は、対照となる対象からの試料で測定された値でもあり得る。「参照値」はまた、標的バイオマーカー(複数可)の既知量(μmole又はコピー)を用いる検量線により置き換えられ得る。
【0049】
特定の態様では、参照値は、筋萎縮を有する対象と筋萎縮を有しない対象を識別することを可能にする試料中のマーカーの量の閾値である。
【0050】
「診断」及び「診断すること」という用語は、病状、疾患、障害又は機能不全状態、通常は(骨格)筋萎縮の存在、病期、重症度、進行などの検出もしくは特定、又は対象におけるそのような筋萎縮の重症度もしくはステージの評価/判断(投薬、比較)を指す。診断は、筋萎縮の早期検出、すなわち臨床徴候の出現前の検出を可能にし得るか、又は開業医による臨床所見を確認するために介入する。
【0051】
任意の及び全ての値(数値範囲の下限及び上限を含む)に関連して本明細書で使用される場合、「約」という用語は、最大で±10%(例えば、±0.5%、±1%、±1.5%、±2%、±2.5%、±3%、±3.5%、±4%、±4.5%、±5%、±5.5%、±6%、±6.5%、±7%、±7.5%、±8%、±8.5%、±9%、±9.5%)の偏差の許容範囲を有する任意の値を意味する。値の文字列の先頭での用語「約」の使用は、各値を修飾する(すなわち、「約1、2及び3」は、約1、約2及び約3を指す)。さらに、値の列挙が本明細書に記載される場合(例えば、約50%、60%、70%、80%、85%又は86%)、その列挙は、それらの全ての中間の値及び少数の値(例えば、54%、85.4%)を含む。
【0052】
バイオマーカー
本発明は、筋萎縮、特に骨格筋萎縮の効率的な診断を可能にするバイオマーカーの特定を開示する。これらのバイオマーカーは、肺癌又は腎不全の患者においてRNAseqアプローチにより特定された約1,500のmRNAのセットから選択された。例えば、健康な対象と病気の対象の間の変動の振幅が大きい、ある対象から別の対象への良好な再現性などの基準に基づく2回目の選択は、30個のmRNAのサブセットの特定をもたらした。このサブセットの中で、12個のmRNAは、単独で及び/又は組み合わせて(複数可)、筋萎縮、特に骨格筋萎縮の強力で特異的な診断結果をもたらすのに十分である。
【0053】
これらのバイオマーカーの配列情報は、公開されており、既知のNCBI Entrez遺伝子又はタンパク質データベースで照会され得る。これらのバイオマーカーの各々についての特定並びに核酸及びタンパク質配列を、以下で及び表Aで提供する。
【0054】
表A:バイオマーカーのリスト
【表1】
【0055】
本発明の文脈において、「ACTR6遺伝子」という表現は、好ましくはヒトACTR6遺伝子、特に(i)遺伝子#64431の配列又はそれと相補的な配列;(ii)多型などの(i)の配列の自然変異体;又は(iii)(i)又は(ii)の配列と少なくとも90%の同一性、好ましくは少なくとも95、96、97、98又は99%の同一性を有する配列、を含む核酸分子又は配列を指す。特定の実施形態では、本方法は、ACTR6遺伝子のエクソンによりコードされる少なくとも1つの配列の存在、不在又は量を決定することを含む。
【0056】
同じ定義が、表Aの対応する参照配列を参照することにより、本出願で引用される任意の他の遺伝子にもあてはまる。対象がヒト以外の哺乳動物である場合、対応するオルソログが、使用される。
【0057】
本発明での使用に好ましいバイオマーカーは、ACTR6、GIMAP2及びRCN2又はそれらの任意の組み合わせである。実施例で開示されるように、これらのバイオマーカーの1つの発現レベルを測定することは、筋萎縮、特に骨格筋萎縮の信頼できる診断を提供するために十分である。
【0058】
ACTR6に関して、特定の実施形態では、本方法は好ましくは、配列番号1もしくはその相補鎖からなるか又はそれに含まれる標的配列を測定することを含む。別の特定の実施形態では、本方法は好ましくは、受け入れ番号Q9GZN1で特定されるタンパク質を測定することを含む。
【0059】
GIMAP2に関して、特定の実施形態では、本方法は好ましくは、配列番号2もしくはその相補鎖からなるか、又はそれに含まれる標的配列を測定することを含む。別の特定の実施形態では、本方法は好ましくは、受け入れ番号Q9UG22で特定されるタンパク質を測定することを含む。
【0060】
RCN2に関して、特定の実施形態では、本方法は好ましくは、配列番号3もしくはその相補鎖からなるか、又はそれに含まれる標的配列を測定することを含む。別の特定の実施形態では、本方法は好ましくは、受け入れ番号Q14257で特定されるタンパク質を測定することを含む。
【0061】
本発明は、上記の遺伝子又はそれらの代替アイソフォームが、筋萎縮、特に骨格筋萎縮を有する対象において調節解除され、それによりこれらの遺伝子によりコードされる発現産物の任意の配列を測定して筋萎縮と相関付け得ることを示す。
【0062】
前述のバイオマーカーのいくつかの組み合わせは、筋萎縮、特に骨格筋萎縮を診断するために非常に高い感度と特異性を示すと考えられる。
【0063】
好ましい態様では、本発明は、ACTR6、GIMAP2及びRCN2から選択される少なくとも2つのバイオマーカーの組み合わせの発現レベルを測定することを含む。
【0064】
より好ましい態様では、本発明は、2つのバイオマーカーACTR6とGIMAP2の発現レベルを測定することを含む。実験の節に示される結果は、ACTR6とGIMAP2の発現を測定することにより、ROC曲線下面積が約0.9736であることを実証する。「骨格筋萎縮」の予測精度は、95%である。
【0065】
別の好ましい態様では、本発明は、2つのバイオマーカーACTR6とRCN2の発現レベルを測定することを含む。
【0066】
別の好ましい態様では、本発明は、2つのバイオマーカーGIMAP2とRCN2の発現レベルを測定することを含む。
【0067】
別の好ましい態様では、本発明は、3つのバイオマーカーACTR6、GIMAP2とRCN2の組み合わせの発現レベルを測定することを含む。
【0068】
さらに、上記3つのバイオマーカーは信頼性の高い検査を提供するが、本発明者らが特定したさらなるバイオマーカーと上記マーカーを組み合わせることにより、方法をさらに改善することが可能である。本発明で使用するのに適する妥当な(二次)診断バイオマーカーは、ACTR6、GIMAP2及びRCN2に加えて、RPL22L1、TRIAP1、NIFK、APIP、GEMIN6、RWDD1、ZNF613、BPNT1、CCT2及びLYRM2から選択される。
【0069】
本発明の一実施形態では、バイオマーカーの数は、以下の数のバイオマーカー:1以上、2以上、3以上、4以上、5以上、6以上、7以上、8以上、9以上、10以上、11以上、12以上、又は13、のいずれか1つを含む。一般に、本発明のバイオマーカーについての最適なパネルサイズは、1~5、好ましくは3~5である。
【0070】
RPL22L1に関して、特定の実施形態では、本方法は好ましくは、配列番号4もしくはその相補鎖からなるか、又はそれに含まれる標的配列を測定することを含む。別の特定の実施形態では、本方法は好ましくは、受け入れ番号Q6P5R6で特定されるタンパク質を測定することを含む。
【0071】
TRIAP1に関して、特定の実施形態では、本方法は好ましくは、配列番号5もしくはその相補鎖からなるか、又はそれに含まれる標的配列を測定することを含む。別の特定の実施形態では、本方法は好ましくは、受け入れ番号O43715で特定されるタンパク質を測定することを含む。
【0072】
NIFKに関して、特定の実施形態では、本方法は好ましくは、配列番号6もしくはその相補鎖からなるか、又はそれに含まれる標的配列を測定することを含む。別の特定の実施形態では、本方法は好ましくは、受け入れ番号Q9BYG3で特定されるタンパク質を測定することを含む。
【0073】
APIPに関して、特定の実施形態では、本方法は好ましくは、配列番号7もしくはその相補鎖からなるか、又はそれに含まれる標的配列を測定することを含む。別の特定の実施形態では、本方法は好ましくは、受け入れ番号Q96GX9で特定されるタンパク質を測定することを含む。
【0074】
GEMIN6に関して、特定の実施形態では、本方法は好ましくは、配列番号8もしくはその相補鎖からなるか、又はそれに含まれる標的配列を測定することを含む。別の特定の実施形態では、本方法は好ましくは、受け入れ番号Q8WXD5で特定されるタンパク質を測定することを含む。
【0075】
RWDD1に関して、特定の実施形態では、本方法は好ましくは、配列番号9もしくはその相補鎖からなるか、又はそれに含まれる標的配列を測定することを含む。別の特定の実施形態では、本方法は好ましくは、受け入れ番号Q9H446で特定されるタンパク質を測定することを含む。
【0076】
ZNF613に関して、特定の実施形態では、本方法は好ましくは、配列番号10もしくはその相補鎖からなるか、又はそれに含まれる標的配列を測定することを含む。別の特定の実施形態では、本方法は好ましくは、受け入れ番号Q6PF04で特定されるタンパク質を測定することを含む。
【0077】
BPNT1に関して、特定の実施形態では、本方法は好ましくは、配列番号11もしくはその相補鎖からなるか、又はそれに含まれる標的配列を測定することを含む。別の特定の実施形態では、本方法は好ましくは、受け入れ番号O95861で特定されるタンパク質を測定することを含む。
【0078】
CCT2に関して、特定の実施形態では、本方法は好ましくは、配列番号12もしくはその相補鎖からなるか、又はそれに含まれる標的配列を測定することを含む。別の特定の実施形態では、本方法は好ましくは、受け入れ番号P78371で特定されるタンパク質を測定することを含む。
【0079】
LYRM2に関して、特定の実施形態では、本方法は好ましくは、配列番号13もしくはその相補鎖からなるか、又はそれに含まれる標的配列を測定することを含む。別の特定の実施形態では、本方法は好ましくは、受け入れ番号Q9NU23で特定されるタンパク質を測定することを含む。
【0080】
バイオマーカーの発現レベルを決定するための方法
好ましい態様によれば、ACTR6、GIMAP2、RCN2、RPL22L1、TRIAP1、NIFK、APIP、GEMIN6、RWDD1、ZNF613、BPNT1、CCT2及びLYRM2から選択される少なくとも1つのバイオマーカーの発現レベルを決定することは、核酸及び/又はタンパク質レベルで行われてよい。
【0081】
mRNAが、そのレベルが決定される遺伝子産物(又はその1つ)として選択される場合、これは、研究中の遺伝子(複数可)の全てのmRNAアイソフォームの合計、又は1以上の特異的mRNAであり得る。タンパク質が、そのレベルが決定される遺伝子産物(又はその1つ)として選択される場合、同じ考慮事項が適用され:総タンパク質レベルが決定されてよく、または特異的アイソフォームのみのタンパク質レベルが決定されてもよい(例えば、異なるC末端に対する抗体を使用して)。最も特には、全てのタンパク質アイソフォームが検出され得る(例えば、共通のエピトープに対する抗体を使用して)。注目すべきことに、mRNAとタンパク質の両方が決定されることも企図される。この場合、検出されるアイソフォームは、実験の設定に応じて、mRNAとタンパク質の両方の全てのアイソフォーム、同一のアイソフォーム(完全に重複する)、又は異なるアイソフォーム(部分的に重複する又は重複しない)であり得る。同一のアイソフォームでは、mRNAアイソフォームが対応するタンパク質アイソフォームをコードすることを意味する。しかし、いくつかの遺伝子では、検出されるタンパク質アイソフォームの数は一般に、可能なmRNA転写産物の数(ひいては、タンパク質アイソフォームの数)よりも少ないことが知られている。標的遺伝子がいくつかのアイソフォームで存在する場合、この遺伝子の主要なアイソフォーム、いくつかの又は全てのアイソフォームを増幅することを選択できる。
【0082】
好ましい実施形態によれば、本方法は、好ましくは選択的増幅により、上で定義される標的遺伝子によりコードされるRNAの発現レベルを決定することを含む。
【0083】
選択的増幅による測定
標的遺伝子の選択的増幅は好ましくは、対象からの試料中の標的遺伝子(複数可)、すなわち標的核酸(複数可)の全部又は一部を増幅するために、プライマー、1つのプライマー対、又は複数のプライマー対を使用して実施される。
【0084】
「プライマー」という用語は、相補的な鋳型と塩基対を形成し、かつ適切な緩衝溶液及び温度で試薬(ポリメラーゼ又は逆転写酵素)及び4つの異なるヌクレオシド三リン酸(NTP)の存在下で鋳型の増幅を開始する役割を果たすことができる、核酸分子を指す。
【0085】
本発明のプライマー対は、標的遺伝子の検出の感度及び特異性を最大化するように慎重に設計される。プライマーは通常、10~30塩基、好ましくは15~30塩基、より好ましくは15~25塩基を含む長さの一本鎖核酸である。プライマーは、標的遺伝子中の標的配列と完全に一致できるか、又は標的遺伝子のいくつかのアイソフォームが存在する場合、ミスマッチ(複数可)が標的配列の特異的増幅を損なわないことを条件として、標的配列と1以上のミスマッチを有することができる。本発明のプライマーは、基本特性を変化させない、当技術分野において公知のさらなる特徴/修飾を組み込むことができる。このような修飾の例は、メチル化、キャッピング、1以上のヌクレオチドの置換、及びホスホネート、ホスホトリエステル、ホスホロアミダート又はカルバメート、ホスホロチオエート又はホスホロジチオエートなどの非荷電結合を含むが、これらに限定されない。本発明で用いるプライマーの核酸配列はまた、検出可能なシグナルを直接的又は間接的に提供できる標識を用いて修飾されてもよい。
【0086】
本明細書で使用する場合、「増幅」及び「増幅する」という用語は、標的核酸配列をコピー又は再生し、それにより試料中の核酸配列のコピー数又は量を増加させるための全ての方法を包含する。増幅は、指数関数的又は直線的であり得、標的核酸は、DNA、cDNA又はRNAであり得る。このようにして増幅された配列は、本明細書では「アンプリコン」と称される。
【0087】
本発明の方法は、対象から取得された血液試料中のACTR6、GIMAP2、RCN2、RPL22L1、TRIAP1、NIFK、APIP、GEMIN6、RWDD1、ZNF613、BPNT1、CCT2及びLYRM2から選択される少なくとも1つのバイオマーカーからの少なくとも1つの標的配列を増幅することを含み得る。特定の実施形態では、増幅される標的配列(すなわち、アンプリコン)は、長さが70~250nt、好ましくは80~230nt、より好ましくは90~210ntである。標的バイオマーカーの増幅(複数可)を行うのに適切なプライマーの具体例を、以下の表Bで提供する。これらのプライマーは、配列番号1~13の標的配列を結合するように設計されている。さらなるプライマーを、配列番号1~13の標的配列の1つ以上を結合し、かつ増幅するように設計できる。
【0088】
表B:標的配列の増幅用プライマーのリスト
【表2】
【0089】
好ましい態様では、標的バイオマーカーの発現レベルは、例えば、RNA又はcDNAなどの、対象の血液試料中の標的遺伝子をコードする核酸を検出及び/又は定量化することにより核酸レベルで決定される。特定の態様では、本方法は、血液試料からRNAを抽出すること、およびマーカーの核酸レベルを測定することを含む。
【0090】
この特定の態様では、少なくとも1つのバイオマーカーの発現レベルを決定することは、リアルタイム逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)、定量的リアルタイム逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(qRT-PCR)、デジタルPCR、RNAseq、マイクロアレイ、遺伝子チップ、nCounter遺伝子発現アッセイ、遺伝子発現の連続解析(SAGE)、遺伝子発現の迅速解析(RAGE)、ヌクレアーゼ保護アッセイ、ノーザンブロッティング、又は任意の他の同等の遺伝子発現検出技術を実施することを含む。好ましい態様では、少なくとも1つのバイオマーカーの発現レベルを決定することは、定量的リアルタイム逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(qRT-PCR)又はデジタルPCRを実施することを含む。
【0091】
いくつかの実施形態では、目的の2以上の遺伝子からの配列は、同じ反応容器中で増幅される。この場合、アンプリコン(複数可)は、最初にアンプリコンをサイズ分離し、次いでサイズ分離されたアンプリコンを検出することにより検出され得る。異なるサイズのアンプリコンの分離は、例えば、ゲル電気泳動、カラムクロマトグラフィー、変性HPLC、キャピラリー電気泳動、プローブとのハイブリダイゼーション、又は配列決定により達成できる。これらの及び他の分離方法は、当技術分野において周知である。一例では、それらのサイズが10塩基対以上異なる約10~約150塩基対のアンプリコンを、例えば、4%~5%のアガロースゲル(約150~約300塩基対のアンプリコンについては2%~3%のアガロースゲル)又は6%~10%のポリアクリルアミドゲル上で分離できる。分離された核酸を次いで、エチジウムブロマイドなどの色素で染色でき、得られた染色バンド又は複数のバンドのサイズを、標準的なDNAラダーと比較できる。
【0092】
あるいは、アンプリコンは、特異的プローブとのハイブリダイゼーションにより検出されてもよい。本明細書で使用される「プローブ」という用語は、標的配列に特異的に結合でき、かつ特異的に増幅される標的配列の存在を特定するために標識されてよい、数個~数十個の塩基からなる増幅された標的配列(すなわち、アンプリコン)の一部に相補的な核酸分子を指す。
【0093】
有用な標識は、例えば、蛍光色素(例えば、Cy5、Cy3、FITC、ローダミン、ランタミド(lanthamide)リン光体、テキサスレッド)、32P、35S、3H、14C、125I、131I、高電子密度の試薬(例えば、金)、酵素、例えば、ELISAで一般的に使用されるもの(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ、ベータ-ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、アルカリホスファターゼ)、比色標識(例えば、金コロイド)、磁気標識(例えば、Dynabcads(商標))、ビオチン、ジオキシゲニン、又は抗血清抗体又はモノクローナル抗体が利用可能なハプテン及びタンパク質を含む。他の標識は、対応するオリゴヌクレオチドと複合体を形成できるリガンド又はオリゴヌクレオチドを含む。標識は、検出されるべき核酸中に直接組み込まれ得るか、又は検出されるべき核酸にハイブリダイズもしくは結合するプローブ(例えば、オリゴヌクレオチド)もしくは抗体に付着され得る。
【0094】
リアルタイム定量RT-PCR(qRT-PCR)は、二重標識された蛍光発生プローブを介してPCR産物の蓄積を測定する。qRT-PCRで採用されるプローブは、蛍光消光の原理に基づいており、5’末端にドナー蛍光色素(レポーター色素とも呼ばれる)、および3’末端に消光部分(クエンチャー色素とも呼ばれる)を含む。本明細書で使用される「クエンチャー部分」という用語は、ドナー蛍光色素に近接して、ドナーにより生成された発光エネルギーを取り込み、そのエネルギーを熱として放散するか、又はドナーの発光波長よりも長い波長の光を放出する分子を意味する。フルオロフォアは、FAM、TAMRA、VIC、JOE、TET、HEX、ROX、RED610、RED670、NED、Cy3、Cy5、及びテキサスレッドであり得るが、これらに限定されない。クエンチャーは、6-TAMRA、BHQ-1,2,3及びMGB-NFQであり得るが、これらに限定されない。蛍光色素-クエンチャー対の選択は、クエンチャーの励起スペクトルが蛍光色素の発光スペクトルと重なるように行うことができる。例は、FAM-TAMRA、FAM-MGB、VIC-MGBなどのペアである。当業者は、他の適切なペアを認識する方法を知っているであろう。
【0095】
プローブは、一本鎖DNA、二本鎖DNA、RNA又はハイブリッドDNA-RNAの形態で調製されてよい。プローブの典型的な長さは、10~60nt、好ましくは15~55nt、より好ましくは20~50nt、より好ましくは30~45nt、さらにより好ましくは10~30ntである。
【0096】
TaqMan(商標)、Molecular Beacon(商標)、Scorpion(商標)、及びLUX(商標)プローブなどの様々なプローブフォーマットを、リアルタイムRT-PCRを実施するために使用できる。
【0097】
本発明の別の目的はそのため、筋萎縮、特に骨格筋萎縮を診断するための、表Bに記載のヌクレオチド配列のいずれか1つを有する核酸、それらを含む組成物、並びにこれらの核酸の使用に関する。
【0098】
特に、本発明は、配列番号14~39からなる群から選択される核酸配列を有するオリゴヌクレオチドに関する。
【0099】
オリゴヌクレオチドは、上記で特定されたバイオマーカーの1以上の特異的アンプリコンを増幅するためのプライマー、特にプライマー対として使用され得る。通常、プライマー対は、フォワードプライマーとリバースプライマーからなり、両方が標的配列にハイブリダイズする。本発明の文脈において、オリゴヌクレオチドプライマー対は、配列番号1~13の少なくとも1つの標的配列を結合しかつ増幅できるフォワードオリゴヌクレオチドプライマーとリバースオリゴヌクレオチドプライマーを含み、ここでオリゴヌクレオチドは、配列番号14~39の核酸配列を有する。
【0100】
特定の態様では、本発明は、ACTR6、GIMAP2、RCN2、RPL22L1、TRIAP1、NIFK、APIP、GEMIN6、RWDD1、ZNF613、BPNT1、CCT2及びLYRM2から選択される少なくとも1つのバイオマーカーに特異的なオリゴヌクレオチドプライマー対のセットに関する。本明細書で使用される場合、「特異的」という用語は、プライマーが本発明のバイオマーカーの1つにのみ結合し、本発明の他のバイオマーカー又は分析される血液試料中の他の分析物への結合は無視できる程度であることを意味する。これは、本発明のバイオマーカーを用いる診断アッセイ及びその結果の完全性が、追加の結合事象により損なわれないことを確実にする。標的バイオマーカーの各々を増幅するのに適するオリゴヌクレオチドプライマー対の例を、表Bに列挙する。一例として、配列番号14のフォワードプライマー及び配列番号15のリバースプライマーを含むオリゴヌクレオチドプライマーのセットは、ACTR6の増幅を可能にする。
【0101】
本明細書に記載の本発明の方法のいくつかの実施形態では、プローブは、上述したバイオマーカーの少なくとも1つを検出するため、又は取得されたアンプリコンを定量化するために使用できる。
【0102】
標的配列の各々について増幅された核酸は、同時に(すなわち、同じ反応容器中で)又は個別に(すなわち、別々の反応容器中で)検出されてよい。いくつかの実施形態では、増幅されたDNAは、それぞれが異なる標的配列にハイブリダイズする、識別可能に標識された遺伝子特異的オリゴヌクレオチドプローブを用いて、マルチプレックスフォーマットで同時に検出される。アッセイが別々の反応容器中で並行して実施される場合、遺伝子特異的オリゴヌクレオチドプローブは、同じ標識を有する可能性がある。バイオマーカー(複数可)と反応容器(チューブ、マイクロプレートなど)の相互作用を最小限に抑えるために、表面コーティングが一切ないか又は結合特性の低い容器(チューブ、マイクロプレートなど)を使用することが好ましい。好ましい態様では、容器は、付着防止ピペットチップ、PCRチューブ又は1.5~2mlチューブなどのポリプロピレンチューブなどの低結合/低保持プラスチック容器又はチューブである。増幅バイアスを回避するために、増幅反応中に標的バイオマーカーの非特異的結合をブロックすることが望ましい場合がある。そのため、好ましい態様では、増幅は、担体、好ましくは酵母tRNA及びMS2 RNAなどのRNAキャリア、又はサケ精子DNAなどのDNAキャリアの存在下で行われる。
【0103】
アッセイされるRNAの量の違いと、使用されるRNAの質のばらつきの両方を補正(正規化)するために、アッセイは、GAPDH(Entrez遺伝子ID#P04406、配列番号40)、36B4/RPLP0(Entrez遺伝子ID#P05388、配列番号41)、ACTB(Entrez遺伝子ID#p60709、配列番号42)などのよく知られているハウスキーピング遺伝子を含む、ある参照遺伝子(又は「正規化遺伝子」)の発現の分析を任意で組み込んでよい。参照遺伝子の増幅(複数可)を行うのに適切なプライマーの具体例を、以下の表Cで提供する。これらのプライマーは、配列番号40~42の標的配列を結合するように設計されている。さらなるプライマーを、配列番号40~42の標的配列の1つ以上を結合しかつ増幅するように設計できる。
【0104】
表C:参照遺伝子の増幅用のプライマーのリスト
【表3】
【0105】
あるいは、標的バイオマーカーの絶対定量を、較正標準物質(較正曲線)又はデジタルPCR(dPCR)により取得してもよい。RNA又はDNAの量は、既知の量のRNA又はDNAの連続希釈のリアルタイムPCRにより作成された検量線と結果を比較することにより決定され得る。ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)増幅における標的分子の絶対的又は相対的なコピー数は、サイクル閾値(Ct)値を、検量線、参照核酸のサイクル閾値(Ct)値、又は絶対定量化標準核酸と比較することにより決定できる。絶対定量化の場合、同じ少なくとも1つのバイオマーカーの発現の範囲は、血液試料中に存在する分子の数として表される。
【0106】
ポリペプチドの測定
別の好ましい態様によれば、本方法は、上記で定義される標的遺伝子によりコードされるポリペプチドの発現レベルを決定することを含む。
【0107】
この特定の態様では、標的バイオマーカーの発現レベルは、対象の血液試料中のタンパク質レベルで決定される。言い換えれば、標的バイオマーカーの発現レベルは、対象の血液試料においてACTR6、GIMAP2、RCN2、RPL22L1、TRIAP1、NIFK、APIP、GEMIN6、RWDD1、ZNF613、BPNT1、CCT2及びLYRM2のポリペプチドを検出することにより決定される。
【0108】
試料中のポリペプチドを測定する又はアッセイすることは、任意の公知の技術により、最も注目すべきは、標的遺伝子、例えば抗体、抗体断片又はその誘導体によりコードされるポリペプチドを結合する特異的リガンドにより実施され得る。本明細書で使用される場合、「抗体」という用語は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、二重特異性抗体、ヒト化抗体又はキメラ抗体、一本鎖抗体、Fab断片及びF(ab’)2断片、Fab発現ライブラリーにより生成された断片、抗イディオタイプ(抗Id)抗体及び上記のいずれかのエピトープ結合断片を含むが、これらに限定されない。「エピトープ」という用語は、抗体がそれに結合する、抗原上の部位を指す。エピトープは、1以上のタンパク質の三次折り畳みにより並置された連続アミノ酸又は非連続アミノ酸から形成され得る。本明細書で使用される場合、「抗体」という用語はまた、免疫グロブリン分子及び免疫グロブリン分子の免疫学的に活性な部分、すなわち、抗原を特異的に結合する抗原結合部位を含有する分子を指す。本開示の免疫グロブリン分子は、任意のクラス(例えば、IgG、IgE、IgM、IgD及びIgA)又は免疫グロブリン分子のサブクラスであり得る。
【0109】
抗体断片の非限定的な例は、(i)Fab断片、VL、VH、CL及びCH1ドメインからなる1価断片;(ii)F(ab’)2断片、ヒンジ領域でジスルフィド架橋により連結された2つのFab断片を含む二価断片;(iii)VHドメイン及びCH1ドメインからなるFd断片;(iv)抗体の単腕のVLドメイン及びVHドメインからなるFv断片、(v)VHドメインからなるdAb断片;及び(vi)単離された相補性決定領域(CDR)を含む。さらに、Fv断片の2つのドメインVLとVHは別々の遺伝子によりコードされるが、それらは、VLとVHの領域が対になって一価分子を形成する単一タンパク質鎖(一本鎖Fv(scFv)として知られる)としてそれらが作製されることを可能にする合成の又は天然のリンカーにより、組換え法を使用して、結合され得る。特異的な一本鎖抗体のVH及びVL配列は、完全なIgG分子又は他のアイソタイプをコードする発現ベクターを生成するために、ヒト免疫グロブリン定常領域cDNA又はゲノム配列に連結され得る。VH及びVLは、タンパク質化学又は組換えDNA技術のいずれかを使用して、免疫グロブリンのFab、Fv又は他の断片の生成においても使用できる。ダイアボディなどの他の形態の一本鎖抗体もまた、包含される。
【0110】
「F(ab’)2」及び「Fab’」部分は、ペプシン及びパパインなどのプロテアーゼで免疫グロブリン(モノクローナル抗体)を処理することにより生成でき、かつ2つのH鎖の各々の中のヒンジ領域間に存在するジスルフィド結合の近くで免疫グロブリンを消化することにより生成される抗体断片を含む。例えば、パパインは、2つのH鎖の各々の中のヒンジ領域間に存在するジスルフィド結合の上流でIgGを切断して、VL(L鎖可変領域)とCL(L鎖定常領域)で構成されるL鎖と、VH(H鎖可変領域)とCHγ1(H鎖の定常領域中のγ1領域)で構成されるH鎖断片が、ジスルフィド結合を介してそれらのC末端領域で連結される、2つの相同抗体断片を生成する。これらの2つの相同抗体断片の各々は、Fab’と呼ばれる。ペプシンもまた、2本のH鎖の各々の中のヒンジ領域間に存在するジスルフィド結合の下流でIgGを切断して、上述した2つのFab’がヒンジ領域で連結される断片よりもわずかに大きい抗体断片を生成する。この抗体断片は、F(ab’)2と呼ばれる。
【0111】
Fab断片はまた、軽鎖の定常ドメインも含み、重鎖Fab’断片の第1定常ドメイン(CH1)は、抗体ヒンジ領域からの1以上のシステイン(複数可)を含む重鎖CH1ドメインのカルボキシル末端での少数の残基の付加によりFab断片と異なる。Fab’-SHは、定常ドメインのシステイン残基(複数可)が遊離チオール基を保有するFab’の本明細書における呼称である。F(ab’)2抗体断片はもともと、それらの間にヒンジシステインを有するFab’断片のペアとして生成された。抗体断片の他の化学的カップリングもまた、知られている。
【0112】
「Fv」は、完全な抗原認識及び抗原結合部位を含有する最小の抗体断片である。この領域は、緊密な非共有結合での1つの重鎖可変ドメインと1つの軽鎖可変ドメインの二量体からなる。各可変ドメインの3つの超可変領域が相互作用してVH-VL二量体の表面で抗原結合部位を画定するのは、この構成である。まとめると、これらの6つの超可変領域は、抗体に抗原結合特異性を与える。しかし、単一可変ドメイン(又は抗原に特異的な3つの超可変領域のみを含むFvの半分)でさえ、結合部位全体よりも親和性は低いものの、抗原を認識し結合する能力を有する。
【0113】
「一本鎖Fv」又は「sFv」抗体断片は、抗体のVHドメイン、VLドメイン、又はVHドメインとVLドメインの両方を含み、ここで両方のドメインは、単一ポリペプチド鎖中に存在する。いくつかの態様では、Fvポリペプチドは、VHドメインとVLドメインの間にポリペプチドリンカーをさらに含み、これは、sFvが抗原結合のための所望の構造を形成することを可能にする。
【0114】
好ましくは、リガンドは、ACTR6、GIMAP2、RCN2、RPL22L1、TRIAP1、NIFK、APIP、GEMIN6、RWDD1、ZNF613、BPNT1、CCT2又はLYRM2のポリペプチドのエピトープに結合する特異的抗体、抗体断片又はその誘導体である。
【0115】
市販の抗体が、例えばマウスモノクローナル抗体sc-514988(抗ACTR6抗体)、ABIN525619(抗GIMAP2抗体)、SAB1404305(抗RCN2抗体)、ABIN2586231(抗NIFK抗体)、sc-376666(抗APIP抗体)、sc-514919(抗GEMIN6抗体)、sc-514496(抗RWDD1抗体)、sc-393185(抗BPNT1抗体)、sc-374152(抗CCT2抗体);及びウサギポリクローナル抗体HPA038587(抗ACTR6抗体)、HPA013589(抗GIMAP2抗体)、AB104516(抗RCN2抗体)、HPA056207(抗RPL22L1抗体)、HPA043640(抗TRIAP1抗体)、HPA021188(抗APIP抗体)、HPA035727(抗GEMIN6抗体)、HPA028712(抗RWDD1抗体)、HPA026833(抗ZNF613抗体)、HPA048461(抗BPNT1抗体)、HPA003198(抗CCT2抗体)及びHPA063932(抗LYRM2抗体)などの、いくつかの標的ポリペプチドについて利用可能である。
【0116】
標的ポリペプチドの他の特異的抗体は、従来技術により、特に、標的ポリペプチドの一部又は全部を含む免疫原での非ヒト哺乳動物の免疫、および抗体(ポリクローナル)又はモノクローナル抗体生成細胞の回収により生成され得る。免疫原は、以前に定義されたような核酸標的の、合成により、又は適切な宿主での発現により生成できる。一般的なモノクローナル抗体法では、合成された抗体遺伝子は、抗体発現用のウイルスベースの又は非ウイルス発現ベクターに中にそれらを挿入することにより発現され及び精製され得る。例えば大腸菌、枯草菌、サルモネラ菌、セラチア、又はシュードモナスなどの原核細胞と、例えばHEK293、CHO又はCHO-DG44などの真核細胞の両方は、抗体を生成するのに適している。本発明の抗体を発現させるために、他の微生物、例えば、酵母を使用でき、およびバキュロウイルスベクターと組み合わせた昆虫細胞も使用されてよい。このようなモノクローナル抗体又はポリクローナル抗体、並びに同じ抗原特異性を有するそれらの断片又は誘導体は、筋萎縮、特に骨格筋萎縮を診断するためのその使用だけでなく、本発明のさらなる目的を構成する。
【0117】
本発明のこの特定の態様では、少なくとも1つのバイオマーカーの発現レベルを決定することは、イムノアッセイ、免疫吸着アッセイ(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、質量分析、ウェスタンブロッティング、フローサイトメトリー、又は任意の他の同等のタンパク質検出技術を実施することを含む。
【0118】
方法
本明細書に記載のバイオマーカーの発現レベルは、罹患対象に生じる筋萎縮プログラムと高い相関を有する。本明細書で提供されるのは、対象における筋萎縮状態を評価するための効率的な方法である。本発明は、例えば、:(i)筋萎縮、特に、骨格筋萎縮を有する対象を診断すること、予後診断すること及び/又は評価すること;(ii)(骨格)筋萎縮を逆転させるための治療の有効性を評価すること;(iii)(骨格)筋萎縮と診断された患者における疾患の発症もしくは発症のリスクを評価すること;及び/又は(iv)罹患対象における治療を選択すること、適合させることもしくは変更することを支援すること、の1以上に使用できる。
【0119】
別の態様では、本発明は、対象から取得された血液試料においてACTR6、GIMAP2、RCN2、RPL22L1、TRIAP1、NIFK、APIP、GEMIN6、RWDD1、ZNF613、BPNT1、CCT2及びLYRM2から選択される少なくとも1つのバイオマーカーの発現レベルを決定することを含む、対象における筋萎縮、特に骨格筋萎縮を診断するためのインビトロ又はエクスビボの方法に関し;ここで、参照値と比較して上記少なくとも1つのバイオマーカーの発現レベルの低下が、対象における筋萎縮、特に骨格筋萎縮を示す。任意に、血液試料は、末梢血、血漿及び血清試料からなる群において選択される。
【0120】
特定の態様では、対象は、哺乳動物、好ましくはヒト対象、さらにより好ましくは、例えば18歳以上(限定されないが)などの、成人ヒト対象である。
【0121】
対象は、性別に関係なく試験され得る。対象は、一見健康であるか、又は例えば高尿血症、敗血症、脳卒中、脊髄損傷、癌、糖尿病、肥満、神経筋疾患、慢性炎症性疾患、慢性腎臓病、心不全(うっ血性心不全(congestive heart failure)又はうっ血性心不全(congestive cardiac failure)など)、肺疾患(慢性閉塞性肺疾患など)、及び急性重症病の慢性腎不全などの、任意の疾患もしくは障害、又は任意の他の疾患を患っている可能性がある。特定の態様では、対象は、癌、特に肺癌又は小腸癌、結腸癌、膵臓癌もしくは胃癌などの腹部癌を患っている。別の特定の態様では、対象は、慢性疾患、特に慢性腎不全を患っている。
【0122】
特定の態様では、血液試料は、末梢血、血漿及び血清由来である。より特定の態様では、血液試料は、末梢血である。
【0123】
本発明者らにより特定されたバイオマーカーの発現レベルは、健康な対象と比較して、筋萎縮、特に骨格筋萎縮を患っている対象において減少され得る。減少は、健康な対象における参照値と比較して2~10倍の減少に対応し得る。
【0124】
あるいは、本方法は、試料中のマーカーの絶対量、例えばRNA1ngあたりのコピー数などの、試料から抽出されたRNA量あたりのコピー数の決定を含み得る。健康な集団及び筋萎縮(特に、その疾患が何であれ)を有する対象の集団の分析に基づき、本発明の1つ又はいくつかのマーカーについて健康な対象と筋萎縮を有する対象を識別するための閾値を決定することが可能である。閾値は、マーカーごとに異なり得る。
【0125】
例えば、およびより正確には、増幅がqRT-PCRにより行われる場合、閾値は:
-ACTR6の場合、閾値は、RNA1ngあたり約12未満のコピー数を有する対象は筋萎縮を有し一方でRNA1ngあたり約12超のコピー数を有する対象は筋萎縮を有しない可能性があり得る;及び/又は
-RCN2の場合、閾値は、RNA1ngあたり約105未満のコピー数を有する対象は筋萎縮を有し一方でRNA1ngあたり約105超のコピー数を有する対象は筋萎縮を有しない可能性があり得る;及び/又は
-GIMAP2の場合、閾値は、RNA1ngあたり約205~220未満のコピー数を有する対象は筋萎縮を有し一方でRNA1ngあたり約205~220超のコピー数を有する対象は筋萎縮を有しない可能性があり得る(例えば、閾値は、RNA1ngあたり205、210、215もしくは220コピー数、又はこれらの値で定義される任意の範囲であり得る)
であり得る。
【0126】
閾値は、本発明の他のマーカーに対しても決定できる。
【0127】
いくつかのマーカーの絶対量又は閾値が、筋萎縮を有する対象と筋萎縮を有しない対象の識別の性能を高めるために、組み合わされてよい。例えば、絶対量又は閾値の組み合わせは、筋萎縮を有する対象と筋萎縮を有しない対象を識別することを可能にするスコアの計算につながり得る。
【0128】
例えば、およびより正確には、増幅がデジタルPCRにより行われる場合、閾値は:
-ACTR6の場合、閾値は、RNA1ngあたり約12~15未満のコピー数を有する対象は筋萎縮を有し一方でRNA1ngあたり約12~15超のコピー数を有する対象は筋萎縮を有しない可能性があり得る(例えば、閾値は、RNA1ngあたり12、13、14又は15コピー数、又はこれらの値で定義される任意の範囲であり得る);及び/又は
-RCN2の場合、閾値は、RNA1ngあたり約40~70未満のコピー数を有する対象は筋萎縮を有し一方でRNA1ngあたり約40~70コピー数を有する対象は筋萎縮を有しない可能性があり得る(例えば、閾値は、RNA1ngあたり40、45、50、55、60、65もしくは70コピー数、又はこれらの値で定義される任意の範囲であり得る);及び/又は
-GIMAP2の場合、閾値は、RNA1ngあたり約220~280未満のコピー数を有する対象は筋萎縮を有し一方でRNA1ngあたり約220~280超のコピー数を有する対象は筋萎縮を有しない可能性があり得る(例えば、閾値は、RNA1ngあたり220、230、240、250、260、270もしくは280コピー数、又はこれらの値で定義される任意の範囲であり得る)
であり得る。
【0129】
閾値は、本発明の他のマーカーに対しても決定できる。
【0130】
いくつかのマーカーの絶対量又は閾値が、筋萎縮を有する対象と筋萎縮を有しない対象の識別の性能を高めるために、組み合わされてよい。例えば、絶対量又は閾値の組み合わせは、筋萎縮を有する対象と筋萎縮を有しない対象を識別することを可能にするスコアの計算につながり得る。
【0131】
個々のバイオマーカー(例えば、3つのバイオマーカーACTR6、GIMAP2及びRCN2)の発現レベルを組み合わせて、スコア、例えば「萎縮スコア」と呼ばれ得る単一の値を得ることができる。異なるコホートを用いて得られた発現レベル(すなわち、絶対RT-qPCR又はdPCR)を、部分的最小二乗判別分析(PLS-DA,Bereton and Lloyd,Chemometrics,2014;28,213-225)により分析できる。この分析では、バイオマーカーの全ての保持された定量化尺度に対する存在/不在の筋萎縮要因の共分散空間に関する個人の絶対データを、予測できる。標準的なPCAでのように、最大共分散に基づく(PLS-DAによる)主成分を得ることができ、第1の成分のみを保持して「萎縮スコア」を作成できる。萎縮検出の閾値を次いで、正常状態(萎縮なし)、中程度の状態(萎縮/回復プロセスが安定化されない)及び萎縮状況を識別するために簡単に推定し及び使用できる。この分析を含むマクロは、エクセルファイル(又は任意の他のソフトウェア)で作成され、医療検査室で使用するための検出キットを提供できる。任意の将来の患者の「萎縮スコア」を計算するために、dPCR又は絶対RT-qPCRにより取得されたバイオマーカーの絶対値(コピー数/RNA1μg)を、示された位置でエクセルファイルにて保管できる。萎縮スコアは自動的に、例えば色分けされた強調表示(緑=萎縮なし;オレンジ=中程度[萎縮又は回復が安定していない]、赤=萎縮)で表示される。
【0132】
特定の実施形態では、対象における筋萎縮、特に骨格筋萎縮を診断するためのインビトロ法又はエクスビボ法は、対象から取得された血液試料においてACTR6、GIMAP2、RCN2、又はそれらの組み合わせから選択される少なくとも1つのバイオマーカーの発現レベルを決定することを含み;ここで参照値と比較した上記少なくとも1つのバイオマーカーの発現レベルの低下が、対象における筋萎縮を示す。
【0133】
本発明により意図されるACTR6、GIMAP2及びRCN2バイオマーカーの組み合わせは、2つのバイオマーカー:ACTR6とGIMAP2、ACTR6とRCN2、GIMAP2とRCN2、又は3つのバイオマーカーACTR6、GIMAP2とRCN2の組み合わせであってよい。
【0134】
ACTR6、GIMAP2及びRCN2バイオマーカーは信頼性の高い検査を提供するが、本発明者らが特定したさらなるバイオマーカーと上記バイオマーカーを組み合わせることにより本方法をさらに改良することが可能である。本発明における使用に適する適切な(二次)診断バイオマーカーは、ACTR6、GIMAP2及びRCN2に加えて、RPL22L1、TRIAP1、NIFK、APIP、GEMIN6、RWDD1、ZNF613、BPNT1、CCT2及びLYRM2から選択される。
【0135】
別の特定の実施形態では、対象において筋萎縮、特に骨格筋萎縮を診断するためのインビトロ又はエクスビボの方法は、RPL22L1(配列番号4)、TRIAP1(配列番号5)、NIFK(配列番号6)、APIP(配列番号7)、GEMIN6(配列番号8)、RWDD1(配列番号9)、ZNF613(配列番号10)、BPNT1(配列番号11)、CCT2(配列番号12)及びLYRM2(配列番号13)からなる群から選択される少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの発現レベルを決定することをさらに含む。
【0136】
事象を診断することを目的とした方法の精度は、その受信者動作特性(ROC)により最もよく説明される。ROCプロット上の各点は、特定の決定閾値に対応する感度/特異性のペアを表す。所望の信頼区間に応じて、ROC曲線から閾値を導出でき、それぞれ、感度と特異性の適切なバランスを有して所与の事象についての診断又は予測を可能にする。したがって、本発明の方法に使用される参照、すなわち筋萎縮を有する対象と筋萎縮を有しない対象を識別することを可能にする閾値は、好ましくは、上記のように上記コホートについてのROC分析を確立すること、およびそこから1以上の閾値の量又は濃度を導出することにより生成できる。診断法に望まれる感度と特異性に応じて、ROCプロットは、調整可能な適切な閾値を導出することを可能にする。最適な感度が、筋萎縮を除く(すなわち、除外する)ために望まれる一方で、最適な特異性が、筋萎縮を有する(すなわち、起こり得る)と特定される対象に対し想定されることが理解されよう。
【0137】
3つの好ましいバイオマーカーに関して、本明細書に記載される対象の血液試料中の少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの絶対定量が、較正標準物質(較正曲線)又はデジタルPCRにより得られる。検量線は一般的に、10倍連続希釈系列又は任意の他の希釈係数、例えば、2倍又は3倍希釈を使用して作成される。本方法に適すると決定されたバイオマーカーの濃度の上限と下限の間の間隔は、実用的な範囲に対応する。各バイオマーカーは、独自の実用的な範囲を有する。絶対定量の場合、同じ少なくとも1つのバイオマーカーの発現の範囲は、血液試料中に存在する分子の数で表される。較正曲線が使用される場合、本明細書に記載される対象の血液試料中の少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの発現レベルが、筋萎縮、特に骨格筋萎縮の診断を可能にする統計的な値/閾値又は識別の値/閾値と比較される。
【0138】
筋萎縮の診断が行われると、対象は、筋肉量の喪失の全部又は一部を回復するために治療され得る。「対策」又は「治療」と呼ばれる様々なアプローチが、(骨格)筋萎縮及び機能喪失を逆転させる試みにおいて実施され得る(Chopardら,J.Cell.Mol.Med.,(2009)13(9b):3032-3050)。これらのアプローチは、運動と身体トレーニング、栄養補助剤及び薬物の使用、の3つの別々のクラスにグループ化できる。動的なかつ最大の抵抗運動は、MAFbx及びMURF1(すなわち、2つの筋肉特異的萎縮関連遺伝子)の誘導における減少と関連し、そのため、収縮タンパク質、細胞骨格タンパク質及び膜結合タンパク質の減少を打ち消すことにより、筋肉量の維持を可能にする。アミノ酸の補給はまた、タンパク質合成を促進できる。必須アミノ酸の中でも、ロイシンは、タンパク質/アミノ酸摂取がタンパク質代謝に及ぼす影響のほとんどを媒介すると考えられ、その潜在的な同化作用が認められている。例えばIGF、FGF及びTGF-βなどの成長因子もまた、筋肉中のサテライト細胞の増殖を促進することにより、筋肉遺伝子の発現に大きな影響を与えることが知られている。例えば大豆タンパク質、ビタミンC、ビタミンE、N-アセチルシステイン及びクルクミンなどの、抗酸化特性を有する化合物は、筋肉タンパク質分解関連遺伝子の発現を調節することによりその効果を発揮する。より最近では、ウルソール酸とトマチジンが、骨格筋肥大を刺激することによりマウスモデルの骨格筋萎縮を軽減すると見出された(Ebertら,Physiology(2019),34:232-239)。
【0139】
筋萎縮、特に骨格筋萎縮の診断は、筋肉量及び/又は筋力の回復のフォローアップを可能にし得る。
【0140】
別の態様では、本発明は、対象における筋萎縮を逆転させる治療の有効性を評価するためのインビトロ又はエクスビボの方法に関し、方法は、
(i)上記治療の前に又は上記治療の初期ステージで取得された対象からの第1の血液試料において、ACTR6、GIMAP2、RCN2、RPL22L1、TRIAP1、NIFK、APIP、GEMIN6、RWDD1、ZNF613、BPNT1、CCT2及びLYRM2から選択される少なくとも1つのバイオマーカーの発現レベルを決定すること;及び
(ii)上記治療の間に、後のステージで、又は上記治療の後で対象から取得された第2の血液試料において同じ少なくとも1つのバイオマーカーの発現レベルを決定することであって、ここで工程(i)で測定される同じ少なくとも1つのバイオマーカーの発現レベルを上回る工程(ii)で測定される少なくとも1つのバイオマーカーの発現レベルが、治療が有効であることを示す、決定すること
を含む。
【0141】
「筋萎縮を逆転させる治療の有効性を評価する」という表現は、本発明の目的のために、筋萎縮を逆転させるための対策(すなわち治療)を受ける対象における筋萎縮、特に骨格筋萎縮の進行又は退行を観察することを意味する。言い換えれば、治療中の対象は、適用される治療の効果について定期的にモニタされ、これは、開業医が、処方された治療が筋萎縮を逆転させるために有効かどうかを治療中の初期ステージで推定すること、かつそれに応じて治療を調整することを可能にする。筋萎縮、特に骨格筋萎縮は、筋萎縮の少なくとも1つの症状が軽減される、緩和される、終了される、減速される又は予防されるならば、逆転される。筋肉量は、以下のアプローチ:DXA(デュアルエネルギーX線デンシトメーター)、骨格筋指数、骨格筋面積、咬筋断面積(CSA)、大腰筋CSA、総大腰筋面積、L4脊椎指数、CTスキャンなどにより決定され得る(詳細については、Xiao-Ming Zhang,BMC Geriatrics,2021を参照されたい)。
【0142】
別の好ましい態様では、本発明は、対象における筋萎縮を逆転させる治療の有効性を評価するためのインビトロ又はエクスビボの方法に関し、方法は、
(i)上記治療の前又は上記治療の初期ステージで取得された対象からの第1の血液試料において、ACTR6、GIMAP2、RCN2、又はそれらの組み合わせから選択される少なくとも1つのバイオマーカーの発現レベルを決定すること;及び
(ii)上記治療の間に、後のステージで、又は上記治療の後で対象から取得された第2の血液試料において同じ少なくとも1つのバイオマーカー、又はそれらの組み合わせの発現レベルを決定することであって、ここで工程(i)で測定される同じ少なくとも1つのバイオマーカーの発現レベルを上回る工程(ii)で測定される少なくとも1つのバイオマーカー、又はそれらの組み合わせの発現レベルが、治療が有効であることを示す、決定すること
を含む。
【0143】
3つのバイオマーカーの全ての可能な組み合わせを、本明細書で記載する。
【0144】
さらに別の好ましい態様では、本方法は、工程(i)において、RPL22L1、TRIAP1、NIFK、APIP、GEMIN6、RWDD1、ZNF613、BPNT1、CCT2及びLYRM2から選択される少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの発現レベルを決定することをさらに含む。
【0145】
多くの疾患又は障害が、骨格筋の萎縮、筋力低下、及び一般的な筋肉疲労と関連付けられている。骨格筋の消耗(すなわち、萎縮)は、罹患率と死亡率の増加、及び生活の質の低下と関連付けられる。筋肉の消耗とそれに伴う脱力感に加えて、筋肉疲労は、癌を患っている対象が経験する最も一般的で衰弱させる症状の1つである。慢性炎症性疾患は、体幹及び手足の骨格筋に対する直接有害な影響を有し、技能の低下、ひいては疲労をもたらすと考えられている。しかし、神経障害では、疲労はしばしば、筋肉の性能の変化が観察される前に現れる。筋萎縮、特に骨格筋萎縮の診断は、筋萎縮に直面する対象が、疾患もしくは障害を有するか、又は有する疑いがあるか、又は有するリスクがあるかどうかを決定することにおいても有用であり得る。
【0146】
別の態様では、本発明は、本明細書に記載の方法により対象における筋萎縮の存在を評価することを含む、対象における疾患の発症又は発症のリスクを評価するためのインビトロ又はエクスビボの方法に関し;ここで筋萎縮の存在は、対象における疾患の発症又は発症のリスクを示す。
【0147】
この方法の特定の態様では、筋萎縮、特に骨格筋萎縮の存在は、ACTR6、GIMAP2、RCN2、RPL22L1、TRIAP1、NIFK、APIP、GEMIN6、RWDD1、ZNF613、BPNT1、CCT2及びLYRM2から選択される少なくとも1つのバイオマーカーの発現レベルを決定することにより確立される。
【0148】
この方法の別の特定の態様では、筋萎縮、特に骨格筋萎縮の存在は、ACTR6、GIMAP2、RCN2又はそれらの組み合わせから選択される少なくとも1つのバイオマーカーの発現レベルを決定することにより確立される。この特定の態様では、RPL22L1、TRIAP1、NIFK、APIP、GEMIN6、RWDD1、ZNF613、BPNT1、CCT2及びLYRM2から選択される少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの発現レベルを決定することは、筋萎縮、特に骨格筋萎縮の診断を改善するために使用され得る。
【0149】
筋萎縮に起因する又は先行する疲労は、疾患又は障害の治療選択肢を制限する可能性がある。実際に、知覚される疲労は、他の疾患又は障害に関連する症状よりも、日常活動及び生活の質に悪影響を及ぼすと認められている。疲労は、疾患又は障害自体と疾患又は障害の治療の副作用の両方の結果として起こる。したがって、疾患又は障害を患っている対象において、治療薬又は治療レジメンにより治療を調整する必要があり得る。
【0150】
別の態様では、本発明は、疾患を患っている対象における治療を選択すること、適合させること又は変更することを支援するためのインビトロ又はエクスビボの方法に関し、方法は、
(i)本明細書に記載の方法により、対象における筋萎縮、特に骨格筋萎縮の存在を評価すること;及び
(ii)疾患を患っている対象における治療を選択する、適合させる又は変更するために筋萎縮、特に骨格筋萎縮の存在を考慮すること、
を含む。
【0151】
この方法の特定の態様では、筋萎縮、特に骨格筋萎縮の存在は、ACTR6、GIMAP2、RCN2、RPL22L1、TRIAP1、NIFK、APIP、GEMIN6、RWDD1、ZNF613、BPNT1、CCT2及びLYRM2から選択される少なくとも1つのバイオマーカーの発現レベルを決定することにより確立される。
【0152】
この方法の別の特定の態様では、筋萎縮、特に骨格筋萎縮の存在は、ACTR6、GIMAP2及びRCN2、又はそれらの組み合わせから選択される少なくとも1つのバイオマーカーの発現レベルを決定することにより確立される。この特定の態様では、RPL22L1、TRIAP1、NIFK、APIP、GEMIN6、RWDD1、ZNF613、BPNT1、CCT2及びLYRM2から選択される少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの発現レベルを決定することは、筋萎縮、特に骨格筋萎縮の診断を改善するために使用され得る。
【0153】
他のさらなる特定の態様では、疾患を患っている対象における治療を選択すること、適合させること又は変更することを支援するためのインビトロ又はエクスビボの方法は、筋萎縮のための治療法を選択する工程(iii)をさらに含み、ここで上記治療法は、薬物(グルココルチコイド、抗炎症薬などの薬理学的薬剤)、栄養剤(栄養補助食品、ウルソール酸、トマチジンなど)、運動、又はそれらの組み合わせを含む。
【0154】
さらに別の態様では、本発明はまた、対象における筋萎縮、特に骨格筋萎縮を診断及び治療するための方法に関し、方法は、
(i)対象から取得された血液試料におけるACTR6、GIMAP2、RCN2、RPL22L1、TRIAP1、NIFK、APIP、GEMIN6、RWDD1、ZNF613、BPNT1、CCT2及びLYRM2から選択される少なくとも1つのバイオマーカーの発現レベルを決定することであって;ここで参照値と比較して少なくとも1つのバイオマーカーの発現レベルの低下が、対象における筋萎縮、特に骨格筋萎縮を示す、決定すること;並びに
(ii)工程(i)で筋萎縮、特に骨格筋萎縮を有すると特定された対象を、薬物(グルココルチコイド、抗炎症薬などの薬理学的薬剤)、栄養剤(栄養補助食品、ウルソール酸、トマチジンなど)、運動、又はそれらの組み合わせで治療すること、
を含む。
【0155】
「治療するための方法」は、個体、例えば、哺乳動物、特にヒトの状態に有益な変化をもたらすことを意図したプロセスを意味する。有益な変化は、筋肉量及び/又は筋力の回復、筋萎縮の制限もしくは遅延、又は患者の状態、疾患もしくは障害の悪化の予防、制限もしくは遅延の1以上を含み得る。特に、本明細書で使用されるように、「治療」(また「治療する」又は「治療すること」)という用語は、特定の疾患、障害、及び/又は状態により引き起こされる筋萎縮を部分的もしくは完全に軽減する、改善する、緩和する、抑制する、発症を遅らせる、重症度を低下させる、かつ/又は発症率を低下させる、あらゆる対策を指す。そのような治療は、筋萎縮の徴候を示さない対象、及び/又は筋萎縮の初期の徴候のみを示す対象に対するものであり得る。あるいは又は追加して、そのような治療は、筋萎縮の1以上の確立された徴候を示す対象に対するものであり得る。
【0156】
本方法の工程(i)はまた、キャリブレーターとして使用される検量線を使用して実施されてよい。較正曲線が使用される場合、対象の血液試料中の本明細書に記載の少なくとも1つのバイオマーカーの発現レベルが、筋萎縮、特に骨格筋萎縮の診断を可能にする統計的な値/閾値又は識別の値/閾値と比較される。
【0157】
特定の態様では、対象における筋萎縮、特に骨格筋萎縮の存在は、工程(i)において、ACTR6、GIMAP2、RCN2、又はそれらの組み合わせから選択される少なくとも1つのバイオマーカーの発現レベルを決定することにより確立される。この特定の態様では、RPL22L1、TRIAP1、NIFK、APIP、GEMIN6、RWDD1、ZNF613、BPNT1、CCT2及びLYRM2から選択される少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの発現レベルを決定することは、対象における筋萎縮、特に骨格筋萎縮の診断を改善するために使用され得る。
【0158】
キット
別の態様では、本発明は、対象の血液試料においてACTR6、GIMAP2、RCN2、RPL22L1、TRIAP1、NIFK、APIP、GEMIN6、RWDD1、ZNF613、BPNT1、CCT2及びLYRM2から選択される少なくとも1つのバイオマーカーの発現レベルを測定するのに適切な手段を含む適切なキットに関する。キットは一般的に、例えば核酸抽出/精製試薬、増幅試薬などの試薬;容器;及び任意に使用説明書のリーフレットを含む。試薬は、同じ容器又は別々の容器に存在してよい。使用者は、説明書に従って、反応を実施するために試薬の任意の一部を使用してよい。
【0159】
特定の態様では、対象からの血液試料においてACTR6、GIMAP2、RCN2、RPL22L1、TRIAP1、NIFK、APIP、GEMIN6、RWDD1、ZNF613、BPNT1、CCT2及びLYRM2から選択される少なくとも1つのバイオマーカーの発現レベルを測定するためのキットは、配列番号14~39からなる群から選択される核酸配列を有する少なくとも2つのオリゴヌクレオチド、及び任意に、増幅反応を実施するための試薬及び/又は使用説明書を含む。
【0160】
ACTR6、GIMAP2、RCN2、RPL22L1、TRIAP1、NIFK、APIP、GEMIN6、RWDD1、ZNF613、BPNT1、CCT2及びLYRM2から選択される少なくとも1つのバイオマーカーを増幅するために選択されるオリゴヌクレオチドのペアの具体例は、表Bに列挙されるフォワードプライマー及びリバースプライマーに対応する。
【0161】
別の特定の態様では、キットは、ACTR6、GIMAP2及びRCN2、又はその組み合わせから選択される少なくとも1つのバイオマーカーの発現を測定するのに適切なオリゴヌクレオチドプライマー対を含む。この特定の態様では、オリゴヌクレオチドは、配列番号14~19の核酸配列を有し、ここで配列番号14及び15のオリゴヌクレオチドはACTR6の増幅を可能にし、配列番号16及び17のオリゴヌクレオチドはGIMAP2の増幅を可能にし、配列番号18及び19のオリゴヌクレオチドはRCN2バイオマーカーの増幅を可能にする。
【0162】
別の特定の態様では、キットは、RPL22L1、TRIAP1、NIFK、APIP、GEMIN6、RWDD1、ZNF613、BPNT1、CCT2及びLYRM2から選択される少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの発現レベルを測定するのに適切なオリゴヌクレオチドをさらに含んでよい。この特定の実施形態では、キットは、配列番号20~39の塩基配列を有するオリゴヌクレオチドを含み、ここで、それぞれ、配列番号20及び21のオリゴヌクレオチドはRPL22L1の増幅を可能にし、配列番号22及び23のオリゴヌクレオチドはTRIAP1の増幅を可能にし、配列番号24及び25のオリゴヌクレオチドはNIFKの増幅を可能にし、配列番号26及び27のオリゴヌクレオチドはAPIPの増幅を可能にし、配列番号28及び29のオリゴヌクレオチドはGEMIN6の増幅を可能にし、配列番号30及び31のオリゴヌクレオチドはRWDD1の増幅を可能にし、配列番号32及び33のオリゴヌクレオチドはZNF613の増幅を可能にし、配列番号34及び35のオリゴヌクレオチドはBPNT1の増幅を可能にし、配列番号36及び37のオリゴヌクレオチドはCCT2の増幅を可能にし、配列番号38及び39のオリゴヌクレオチドはLYRM2バイオマーカーの増幅を可能にする。
【0163】
本発明はまた、インビトロ又はエクスビボで筋萎縮、好ましくは骨格筋萎縮を診断するための;筋萎縮、好ましくは骨格筋萎縮を逆転させる治療の有効性を評価するための;(骨格)筋萎縮と診断された対象における疾患の発症もしくは発症のリスクを評価するための、及び/又は疾患を患っている対象における治療を選択すること、適合させることもしくは変更することを支援するための、対象から取得された血液試料での上記のキットの使用に関する。
【0164】
以下の実施例は、本発明のある好ましい態様を実証し、さらに例示するために提供され、発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【0165】
実施例
材料と方法
1-生体試料
全血試料を、合計92人の対象のPROMETHEコホート及びPHDコホートの患者から収集した。53人の患者が慢性腎不全を有し、14人の患者が肺癌を有し、7人の患者が結腸癌又は膵臓癌を有しており、13人の対象を、対照又は健康な対象として使用する。下の表1は、この研究で登録された対象の主なパラメータを提供する。
【0166】
表1:患者の特徴
【表4】
【0167】
2.5mlの血液試料を、PAXgene(登録商標)Blood RNAチューブ(PreAnalytiX、カタログ番号/ID:762165、Qiagenにより配布)中に収集し、直立して室温(18~25℃)で最低2時間、最大72時間保存してから処理するか、又は冷蔵庫(2~8℃)もしくは冷凍庫(-20℃又は-70/-80℃)に入れた。
【0168】
2-血液RNAの抽出、精製及び濃縮
血液試料を含有するPAXgene(登録商標)Blood RNAチューブを、血液細胞の完全溶解に必要な時間である、約2時間、室温(18~25℃)で解凍した。トータルRNAを、最終RNA溶出工程においてRNaseを含まない水により緩衝液BM5を置換することを除き、製造業者の手順に従いPAXgene Blood miRNAキット(PreAnalytiX、カタログ番号/ID:763134、Qiagenにより配布)を用いて抽出した。簡単に説明すると、PAXgene Blood RNAチューブを最初に、遠心分離して試料をペレット化し、これを次いで、水で洗浄し、バッファーBM1に再懸濁する。プロテイナーゼKによる緩衝液BM2中の消化の後、試料を、PAXgene Shredderスピンカラムを通して遠心分離することにより、ホモジナイズする。イソプロパノールを、結合条件を最適化するために試料に添加し、試料を次いで、PAXgene RNAスピンカラムを通して遠心分離し、そこでトータルRNA>18ヌクレオチド(miRNAを含む)がPAXgeneシリカ膜に結合する。結合されたRNAを、DNase消化に供してゲノムDNAの混入を除去し、緩衝液BM3で洗浄した後、緩衝液BM4で洗浄する。純粋なRNAを次いで、RNAseを含まない水中に溶出する。抽出されたRNA(80μl)を、5分間65℃にてウォーターバスで変性させ、直ちに氷の中に入れ、次いで-80℃で保存する。
【0169】
抽出したRNAを次いで、製造業者の手順に従いRNeasy(登録商標)MinElute(登録商標)Cleanupキット(カタログ番号/ID:74204、Qiagen)を用いてさらに精製し濃縮した。
【0170】
3-RNAseq
遺伝子発現解析(mRNA解析)を、ヒト血液試料で実施した。Illumina Ribo-Zero rRNA除去キットを最初に、rRNA除去のために使用した。グロビン除去もまた、RNA試料について推奨されるように、実施した。PolyA mRNAを、磁気ビーズに連結されたオリゴ-dTを使用して精製し、断片化及びランダムプライミングした。cDNA合成に続いて、末端修復、リン酸化(5’末端)及びAテーリング(3’末端)を行った。独自のアダプターをライゲーションし、cDNA断片を、PCRにより増幅し、Illuminaプラットフォーム(試料あたり1300~2100万の読み取り情報)を使用して配列決定した(2×150bp)。
【0171】
4-qRT-PCR
RNeasy(登録商標)MinElute(登録商標)Cleanupキットで取得した精製され濃縮されたRNAを、5分間65℃にてウォーターバス中で変性させ、次いで、氷上に置いて再生を防いだ。ゲノムDNAの除去とRNAのcDNAへの逆転写を、製造業者の手順に従い、QuantiTect(登録商標)逆転写キット(カタログ番号/ID:205311又は205313、Qiagen)を使用して行った。簡単に説明すると、精製したRNA試料を、2分間42℃にてgDNA Wipeout緩衝液中でインキュベートし、混入したゲノムDNAを効果的に除去する。ゲノムDNAの除去後に、RNA試料は、Quantiscrip逆転写酵素、Quantiscript RT緩衝液、及びRTプライマーミックスから調製したマスターミックスを使用する逆転写にすぐ使用できる。全反応を、42℃で30分間行い、次いで95℃で3分間不活化する。cDNA試料を、qPCRまで-20℃で保存する。
【0172】
半定量的qPCRを、製造業者の手順に従い、SsoADV Univer SYBR(登録商標)Green Supermixキット(カタログ番号/ID:1725274、Bio-Rad)を使用してcDNA試料にて実施する。最初に、cDNA試料を、1/50に希釈する。各試料(1ウェル)について、反応混合物の量は10μlである。それは、0.7μlの10μM センスプライマー、0.7μlの10μM アンチセンスプライマー、7μlのMix iQ及び1.6μlのRNaseを含まない水を含む。96ウェルPCRプレートで、1/16に希釈した4μlのcDNA試料を、10μlの反応混合物と共に各ウェルに分配する。各cDNA試料を、二重に分配する。半定量的qPCR反応を、CFX96 Bio-Rad Laboratoriesサーマルサイクラーにて行う。計算を、ハウスキーピング遺伝子を用いる比較法ΔΔCtを使用して行う。
【0173】
5-絶対RT-qPCR
遺伝子のクローニングと検量線
異なる遺伝子(ハウスキーピング遺伝子を含む)を、出発物質としてHEK293細胞及びプラスミドの増幅用の大腸菌Novablue(Novagen)を用いて、pBluescript SK-(ThermoFisher)プラスミドにクローニングした。プラスミドを、QIAprep Spin Miniprep(QIAgen(登録商標))を使用して精製し、ナノドロップ分光計(Thermofisher Scientific)を使用して定量化した。本発明者らは、以下の式を使用して、異なるバイオマーカー(1μlあたり300,000~30コピー)について、連続希釈により検量線を作成した。
【0174】
ACTR6コンストラクトのサイズ(4173塩基対)、1塩基対の平均質量(1,096×10^(-21)g)に基づき、ACTR6プラスミドの300,000コピーの質量(m)は、
m=4173×(1,096×10^(-21))×300000
m=1,37208×10^(-12)g
である。
【0175】
分光分析アッセイを使用して、各検量線を、各プラスミド構造の正確なサイズを使用して、この計算に従い作成した。
【0176】
PCRの信頼性は、2つの基準:-3.6~-3.1の傾きと90~110%の効率、相関係数>99%、により定義される(例えば、詳細については、Thermofisherのウェブサイト[https://www.thermofisher.com/fr/fr/home/life-science/pcr/real-time-pcr/real-time-pcr-learning-center/real-time-pcr-basics/efficiency-real-time-pcr-qpcr.html]を参照されたい)。
【0177】
本発明者らは、これらの基準に対応する信頼性及び再現性のある検量線を取得するために、いくつかのアッセイを実施し、それらは、異なるプラスチック供給者、キャリア核酸の使用及び凍結融解サイクルを含んだ。
【0178】
健康なボランティア(n=5)と萎縮患者(n=12、CKD、肺癌及び結腸癌を含む)からランダムに選択したRNA試料を、各試料のRNA200ngを使用してRT-qPCRにより分析し、絶対定量を、事前に確立した検量線を使用して計算した。データを、開始トータルRNA1ngあたりのコピー数として計算した。
【0179】
6-デジタルPCR
主要なバイオマーカーとハウスキーピング遺伝子の絶対定量を、デジタルPCR(dPCR)技術(QX600 Droplet Digital PCR System,Bio-Rad)を使用して実施した。RT-qPCRによる絶対定量のために使用したまったく同じRNA試料をまた、QX200 ddPCR Evagreen Supermix(登録商標)を用いて、製造業者の指示に従い、dPCR分析のためにも使用した。相対的RT-qPCR用に設計した同じプライマー(表B及びCを参照されたい)を、最終濃度100nMで使用し、200ngのトータルRNAを、各試料について使用した。
【0180】
7-mRNA発現データのバイオインフォマティクス解析
配列読み取り情報を、Trimmomatic v.0.36を使用して、可能なアダプター配列及び低品質のヌクレオチドを除去するためにトリミングした。トリミングした読み取り情報を、Starアライナーv.2.5.2bを使用して、ENSEMBL上で入手可能なホモサピエンスGRCh38参照ゲノムにマッピングした。STARアライナーは、スプライスジャンクションを検出し、それらを組み込んで、全読み取り配列のアライメントを支援するスプライスアライナーである。BAMファイルを、この工程の結果として生成した。以下は、読み取り情報を参照ゲノムにマッピングした場合の統計である。特有の遺伝子ヒット数を、Subreadパッケージv.1.5.2のfeature Countsを使用して計算した。エクソン領域内に収まった特有の読み取り情報のみを、カウントした。鎖特異的なライブラリー調製を実施したため、読み取り情報を鎖特異的にカウントした。
【0181】
8-統計解析
統計解析を、Rソフトウェア(https://www.R-project.org)を使用して行った。検定を、両側で行い、タイプIの誤差を、α=0.05に設定した。p値を、Benjamini-Hoschberg法を使用して調整した。差次的発現解析を、Limma Voom Rパッケージを用いて線形モデルを使用して実施した。その発現が少なくとも同じ条件の全ての試料において0.5CPMを超えた遺伝子を、除去した。正規化を、TMM法を使用して実施した。健康な対照と比較して、肺癌及び血液透析患者において一致して有意に増加又は減少したRNAを、選択した。PLSモデルを次いで、mixomic Rパッケージを使用して構築して、全血のRNA発現マトリックスを用いて筋生検のプロテオミクス解析から発現マトリックスを予測した。モデルを構築するために選択した最初の30のRNAを、保持した。qRT-PCRにより測定したRNA発現データを次いで使用して、PLS-DAを使用して患者グループ(病気又は健康)のメンバーシップをモデル化した。グループメンバーシップを予測するモデルの能力を、受信者動作特性曲線下面積を用いて評価した。
【0182】
絶対RT-qPCRデータを、Mann&Whitney検定を使用して解析し、dPCR解析を、Welch t検定を使用して実施した。
【0183】
結果
患者の全血中に存在するいくつかのmRNAは、病状に関係なく、筋萎縮の存在に直接関連する発現レベルを有する。約1,500のmRNAが、肺癌又は腎不全の患者においてRNAseqにより特定されている。RNAseqアプローチは、1つの試料中の全mRNAを特定するが、病院で日常的に適用するには費用がかかりすぎる。したがって、30個の最良の候補(健康な患者と病気の患者の間で変動の振幅が大きい、ある患者から別の患者への再現性が良好である、など)を選択し、RT-qPCR試験により検証した。本発明者らはこのようにして、特定された30個の事前選択されたmRNAの中から、健康な患者と病気の患者を最も識別できるものを選択した。
【0184】
その発現レベルが2つの異なる異化状態(血液透析n=7及び肺癌n=7対対照n=7)のヒトの筋生検で観察された共通のプロテオミクス変化と最もよく相関する全血RNAを、最初に特定した。RNAseqによる血液トランスクリプトームの鑑別解析を、質量分析による骨格筋プロテオミクス解析と組み合わせて、一連の候補遺伝子を特定した(MixOmic RパッケージのPLSスパース回帰アルゴリズム)。
【0185】
qRT-PCRを、PROMETHEコホート(腎不全n=7及び肺癌n=14対対照n=13)及び血液透析患者コホートn=38(PHDコホート)でのRNAseqの結果を検証するために実施した。ロジスティック回帰を使用して、誘導コホート(PROMETHEコホートからの腎不全n=7人の患者、肺癌n=7人の患者及び対照n=7人の患者)にて異化状態を特定するための潜在的なバイオマーカーの能力を評価し、異なる検証コホート(PHDコホートからの血液透析n=38人の患者、PROMETHEコホートからの肺癌=7人の患者、対照n=7人の患者)にて検証した。得られた結果を表2にまとめる。
【0186】
表2:ROCパラメータ
【表5】
【0187】
qRT-PCRデータを使用して、部分的最小二乗判別分析(PLS-DA)を、病的状態(癌又は腎不全のいずれか)のため筋萎縮を有するという予測のために全ての患者(PROMETHE+PHD)を使用して実施した。最初に患者を、誘導コホート(n=21)と検証コホート(n=52)にランダムに分けた。
【0188】
試料の分類に役立つ最も予測的又は識別的な特徴を選択するために、本発明者らは、4つの外れ値を有する(図1A)又は有しない(図1B)場合で、PROMETHE患者とPHD患者の両方のqRT-PCRデータを使用して、スパース部分的最小二乗判別分析(sPLS-DA)を実施した。
【0189】
本発明者らは、ACTR6及びGIMAP2を含む1成分分析が、患者が筋萎縮/病状グループに属することを予測するのに十分であることを明らかにした。ROCのAUCは、0.9736である(図2A)。検証コホートにおける「骨格筋萎縮」の予測精度は、95%である。加えて、RCN2は、ACTR6のように振る舞った。
【0190】
2成分モデルでは、NIFK、RPL22L1、CCT2、GEMIN6及びRCN2を選択した。ROCのAUCは、0.9934である(図2B)。検証コホートにおける「骨格筋萎縮」の予測精度は、95%である。
【0191】
全体として、以下の遺伝子:ACTR6、GIMAP2、RCN2をコードするmRNAを、メインリストに保持した。以下の遺伝子:RPL22L1、TRIAP1、NIFK、APIP、GEMIN6、RWDD1、ZNF613、BPNT1、CCT2、LYRM2をコードするmRNAを、相補的リストに保持した。これらの全ての遺伝子は、本発明が提案するような血液検査のために組み合わせて使用できるが、個々に又は組み合わせて使用される3つのmRNAは、筋萎縮を予測するのに十分であり(sPLS-DA統計検定)、そのため検査の費用を制限する。いくつかのmRNAは個別に使用できるが、いくつかのmRNAの組み合わせは、それが偽陰性の数を減らし、かつ最大の実現可能な集団に対し使用できるため、有意な追加の値を提供する。最大10~12個の相補的mRNAを、それにもかかわらず、保持でき、理由は、追加の実験が最終的に、応答する患者の数、変動の振幅、各mRNAに応答する病状の数などに基づき他のマーカーを含めることを可能にするからである。
【0192】
これらの最初の決定に続いて、バイオマーカーを、腹部癌(結腸又は膵臓)を患っている患者の小さなコホートで試験し、PROMETHEコホート及びPHDコホートからの患者で測定された発現と比較した(図3)。このデータは、腹部癌が13のバイオマーカーをコードするmRNAの相対発現を減少させていることを示し、そのため、結腸癌又は膵臓癌を患っている患者の筋萎縮を検出するためのそれらの適用性を実証した。
【0193】
これらのバイオマーカーは、それらが筋肉の萎縮を反映しているとしても、血液にのみ有効であることに注意する必要がある。実際に、骨格筋では、mRNAレベルで系統的に上方制御又は下方制御される遺伝子は、「アトロジーン」と呼ばれる。本発明者らは最近、げっ歯類及びヒトにおいて合計30の異なる異化状態及び/又は病状における骨格筋のトランスクリプトームを分析した、259報の論文からデータをまとめた(Taillandier & Polge,Biochimie,2019,https://doi.org/10.1016/j.biochi.2019.07.014)。その発現が少なくとも2つの異化状況で同様に変更された遺伝子のみを、選択した。血液バイオマーカーとして本明細書に記載される13個の遺伝子はいずれも、骨格筋では見出されず、そのため、これらのバイオマーカーは血液中で解析される場合にのみ効果的であることを実証した。
【0194】
RT-qPCRによる絶対定量を最初に、有効な検量線の取得のために使用した(図4)。本発明者らは最初に、低結合プラスチックの使用が、再現性の高い検量線の取得を可能にしたことを観察した(r>0.99、図4)。加えて、傾きは、-3.2/-3.5の範囲であり、効率は、93~104%であった。これに対し、標準的なピペットチップとチューブの使用は、検量線(r=0.85~0.95%、図示せず)をもたらし、傾きは、-3.8~-4.6の範囲であり(図4)、効率は、64~86%であった。本発明者らはまた、キャリアRNAの使用(酵母tRNA、試料あたり10μg)は、信頼性の高い検量線の取得を可能にすることを発見した(図4)。最大で5回の凍結融解サイクルは、検量線の効率と傾きを顕著に変えなかった(図4)。
【0195】
最適な検量線を使用して、本発明者らは、健康なボランティアと患者の間の主要なバイオマーカーの発現の違いを確認し、今度は試料中に存在する各mRNAの正確なコピー数を定量化できた(図5)。ACTR6については、健康なボランティアでは11~25コピー/RNA1ngが存在し、患者については0.5~12コピー/RNA1ngが存在した。GIMAP2の発現は、健康なボランティアと患者でそれぞれ230~380及び45~205コピー/RNA1ngであった。RCN2については、健康なボランティアと患者でそれぞれ105~170及び20~105コピー/RNA1ngであった。APIPについては、健康なボランティアと患者でそれぞれ38~57及び9~35コピー/RNA1ngであった。dPCRの場合、本発明者らは異なるグループ間の差異を検出しなかったため、異なる病状を患っている萎縮患者について取得したデータを混合した。より容易な比較のために、同じ試料から得られたqPCRデータとdPCRデータを並べて配置した(図6)。dPCRはバイオマーカーの絶対定量に完全に適しているものの、値は、検量線を使用した場合に得られる値とわずかに異なるが同じ範囲内であるということを見出した(図6及び表3)。これは、PCRの分野で知られており、かつこれは、健康なボランティアと患者について得られる値が技術に依存していることを意味する。各技術は、健康なボランティアと筋萎縮を起こしている患者を分けるために有効である。しかし、患者の値と対照の値の間のより正確な閾値は、各アプローチについて決定され得る。dPCRは現在、mRNAの絶対定量のゴールドスタンダードと見なされている(Williamsら,Front Oncol 2022,doi:10.3389/fonc.2022.864820)が、すでにdPCR装置を導入している生物学研究所はほとんどないことに留意されたい。
【0196】
表3:トータルRNA1ngあたりのコピー数で表されるバイオマーカーの濃度
【表6】
図1A
図1B
図2A
図2B
図3
図4-1】
図4-2】
図5
図6
【配列表】
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【国際調査報告】