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特表2024-537276炎症性腸疾患を処置するためのキヌレニンアミノトランスフェラーゼ及びその産物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-10
(54)【発明の名称】炎症性腸疾患を処置するためのキヌレニンアミノトランスフェラーゼ及びその産物
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/45 20060101AFI20241003BHJP
   A61K 31/47 20060101ALI20241003BHJP
   A61K 35/74 20150101ALI20241003BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20241003BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20241003BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241003BHJP
   A61K 31/7084 20060101ALI20241003BHJP
   A61K 35/744 20150101ALI20241003BHJP
   A61K 35/747 20150101ALI20241003BHJP
   C12N 1/21 20060101ALN20241003BHJP
   C12N 9/10 20060101ALN20241003BHJP
【FI】
A61K38/45
A61K31/47
A61K35/74 Z
A61P1/00
A61P29/00
A61P43/00 121
A61K31/7084
A61K35/744
A61K35/747
C12N1/21 ZNA
C12N9/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024521745
(86)(22)【出願日】2022-10-04
(85)【翻訳文提出日】2024-05-31
(86)【国際出願番号】 EP2022077614
(87)【国際公開番号】W WO2023057469
(87)【国際公開日】2023-04-13
(31)【優先権主張番号】21306397.7
(32)【優先日】2021-10-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522052233
【氏名又は名称】アンスティテュ・ナシオナル・ドゥ・ルシェルシェ・プール・ラグリクルテュール・ラリマンタシオン・エ・ランヴィロンヌマン
(71)【出願人】
【識別番号】524132564
【氏名又は名称】アンスティテュ・ナシオナル・デ・シアンス・エ・インドゥストリー・デュ・ヴィヴァン・エ・ドゥ・ランヴィロンヌマン
(71)【出願人】
【識別番号】518059934
【氏名又は名称】ソルボンヌ・ユニヴェルシテ
【氏名又は名称原語表記】SORBONNE UNIVERSITE
(71)【出願人】
【識別番号】507139834
【氏名又は名称】アシスタンス ピュブリック-オピト ドゥ パリ
(71)【出願人】
【識別番号】507002516
【氏名又は名称】アンスティチュート、ナシオナル、ドゥ、ラ、サンテ、エ、ドゥ、ラ、ルシェルシュ、メディカル
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT NATIONAL DELA SANTE ET DE LA RECHERCHE MEDICALE
(71)【出願人】
【識別番号】520179305
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ パリ-サクレー
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE PARIS-SACLAY
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ハリー・ソコル
(72)【発明者】
【氏名】クロエ・ミショーデル
(72)【発明者】
【氏名】フィリップ・ランジェラ
(72)【発明者】
【氏名】アンヌ・オクテュリエ
(72)【発明者】
【氏名】ルイス・ベルムデス
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA21X
4B065AA26X
4B065AA30X
4B065AA49X
4B065AB01
4B065BA02
4B065BB23
4B065CA29
4B065CA41
4B065CA44
4C084AA02
4C084CA18
4C084DC25
4C084NA14
4C084ZA661
4C084ZA662
4C084ZB111
4C084ZB112
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC29
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA66
4C086ZA68
4C086ZB11
4C086ZC75
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC30
4C087BC34
4C087BC56
4C087BC59
4C087BC61
4C087CA08
4C087NA14
4C087ZA66
4C087ZA68
4C087ZB11
(57)【要約】
本発明は、キヌレニンアミノトランスフェラーゼ、前記キヌレニンアミノトランスフェラーゼを発現及び分泌するように遺伝子改変されている生きた組換え細菌、及び/又はキサンツレン酸、その誘導体、又はその任意の薬学的に許容される塩若しくは溶媒和物である前記キヌレニンアミノトランスフェラーゼの産物での炎症性腸疾患の処置に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炎症性腸疾患の処置において使用するための組成物であって、
- キヌレニンアミノトランスフェラーゼ(KAT)、及び/又は
- 前記キヌレニンアミノトランスフェラーゼを発現及び分泌するように遺伝子改変されている生きた組換え細菌、及び/又は
- キサンツレン酸、その誘導体、又はその任意の薬学的に許容される塩若しくは溶媒和物である前記キヌレニンアミノトランスフェラーゼの産物
を含む組成物。
【請求項2】
前記炎症性腸疾患が、クローン病、潰瘍性大腸炎、不確定大腸炎(IC)、他の非感染性胃腸炎、腸炎、全腸炎及び大腸炎、並びに回腸嚢炎からなる群から選択される、請求項1に記載の使用のための組成物。
【請求項3】
前記炎症性腸疾患が、クローン病及び潰瘍性大腸炎からなる群から選択される、請求項1又は2に記載の使用のための組成物。
【請求項4】
前記炎症性腸疾患が、腸炎、全腸炎、回腸嚢炎、並びにクローン病、潰瘍性大腸炎及び不確定大腸炎以外の非感染性胃腸炎からなる群から選択される、請求項1又は2に記載の使用のための組成物。
【請求項5】
前記炎症性腸疾患が、腸炎、全腸炎及び回腸嚢炎からなる群から選択される、請求項1又は2に記載の使用のための組成物。
【請求項6】
前記キヌレニンアミノトランスフェラーゼが、ヒトキヌレニン/アルファ-アミノアジペートアミノトランスフェラーゼ(KAT II)、ヒトキヌレニン--オキソグルタレートトランスアミナーゼ1(KAT I)、ヒトキヌレニン--オキソグルタレートトランスアミナーゼ3(KAT III)、ヒトミトコンドリアアスパルテートアミノトランスフェラーゼ(KAT IV)、そのオルソログ、及びそのバリアントからなる群から選択され、前記バリアントが、ヒトKAT I、ヒトKAT II、ヒトKAT III、ヒトKAT IVに対して、又はその任意のオルソログに対して少なくとも80%の配列同一性を有し、かつキヌレニンアミノトランスフェラーゼ活性を示す、請求項1から5のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項7】
前記キヌレニンアミノトランスフェラーゼが、ヒトKAT II、ヒトKAT III、ヒトKAT IV、そのオルソログ、及びそのバリアントからなる群から選択され、前記バリアントが、ヒトKAT II、ヒトKAT III、ヒトKAT IVに対して、又はその任意のオルソログに対して少なくとも80%の配列同一性を有し、かつキヌレニンアミノトランスフェラーゼ活性を示す、請求項1から6のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項8】
前記キヌレニンアミノトランスフェラーゼが、ヒトKAT II、そのオルソログ、及びそのバリアントからなる群から選択され、前記バリアントが、ヒトKAT IIに対して、又はその任意のオルソログに対して少なくとも80%の配列同一性を有し、キヌレニンアミノトランスフェラーゼ活性を示す、請求項1から7のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項9】
前記キヌレニンアミノトランスフェラーゼが、配列番号1~32のKATタンパク質、及び配列番号1~32のいずれかの配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有し、かつキヌレニンアミノトランスフェラーゼ活性を示すそのバリアントからなる群から選択される、請求項1から6のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項10】
前記キヌレニンアミノトランスフェラーゼが、配列番号10~16のKATタンパク質、及び配列番号10~16のいずれかの配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有し、かつキヌレニンアミノトランスフェラーゼ活性を示すそのバリアントからなる群から選択される、請求項1から9のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項11】
前記キヌレニンアミノトランスフェラーゼを含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項12】
前記キヌレニンアミノトランスフェラーゼを発現及び分泌するように遺伝子改変されている組換え細菌を含む、請求項1から11のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項13】
前記組換え細菌が、アロバキュラム属、アドレクルーツィア属、アナエロスティペス属、ビフィドバクテリウム属、プロピオニバクテリウム属、バクテロイド属、ユーバクテリウム属、エンテロコッカス属、ルミノコッカス属及びフィーカリバクテリウム属に属する細菌、大腸菌、並びにラクトバチルス属、ラクトコッカス属及びストレプトコッカス属に属する細菌等の乳酸菌からなる群から選択される、請求項1から12のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項14】
キサンツレン酸、その誘導体又はその任意の薬学的に許容される塩若しくは溶媒和物を含み、前記キサンツレン酸誘導体が、式(I)のもの
【化1】
[式中、
R1、R2及びR3は、水素原子、ヒドロキシル基、ハロゲン原子、-CO-R8基又は-CO2R8基(R8は、H又はC1~10アルキル基である)、-NR9R9'(R9及びR9'は独立に、水素原子又はC1~10アルキル基である)、ニトロ基、シアノ基、ハロゲン原子により置換されていてもよいC1~10アルキル、C2~10アルケニル又はC2~10アルキニル基、並びにハロゲン原子により置換されていてもよいC1~10アルキルオキシからなる群から独立に選択され;
R4及びR6は、水素原子、及びC1~10アルキル基からなる群から独立に選択され;
R5は、ヒドロキシル基、水素原子、-NR7R7'(R7及びR7'は独立に、水素原子又はC1~10アルキル基である)、C1~10アルキル基、及びC1~10アルコキシ基からなる群から選択される]
又はその互変異性型である、請求項1から13のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項15】
前記キサンツレン酸誘導体が、オキソ-キサンツレン酸(OXA)及びジ-オキソ-キサンツレン酸(DOXA)からなる群から選択される、請求項1から14のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項16】
キサンツレン酸又はその任意の薬学的に許容される塩若しくは溶媒和物を含む、請求項1から15のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項17】
ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド若しくはその前駆体を更に含むか、又はニコチンアミドアデニンジヌクレオチド若しくはその前駆体との組合せで使用される、請求項1から16のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項18】
炎症性腸疾患を処置するための医薬を製造するための、請求項1から17のいずれか一項に規定の組成物の使用。
【請求項19】
対象において炎症性腸疾患を処置するための方法であって、前記対象に、請求項1から17のいずれか一項に規定の組成物を投与する工程を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炎症性腸疾患を処置するための医薬品、詳細には、組成物の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
炎症性腸疾患(IBD)は、クローン病(CD)及び潰瘍性大腸炎(UC)を含む胃腸(GI)管の炎症性障害の群を特定するために使用される一般名である。IBDの正確な原因は完全には理解されていないが、遺伝的素因、腸微生物相の腸内菌共生バランス失調及び環境の影響に関係することが公知である。IBDは、臨床的再発及び寛解の反復する交互サイクルにより特徴づけられる。適性な処置の非存在下では、IBDは、慢性炎症、したがって、不可逆的な腸管損傷につながる。
【0003】
CDは、GI管のいずれの部分にも影響を及ぼし得るが、最も一般的には、結腸の開始部分と接続する小腸の末端(回腸)に影響を及ぼす。CDは、「斑」に表れ得て、GI管のいくつかの領域に影響を及ぼすが、他の部分はまったく無傷のままである。CDでは、炎症は、腸壁の全層にわたって広がり得る。UCは、大腸(結腸)及び直腸に限定される。炎症は、腸管の内側の最内層でのみ起こる。これは通常、直腸及び下部結腸で始まるが、伝播して、結腸全体に連続して及ぶこともある。一部の個体では、それらのIBDがCD又はUCかどうかを決定することは困難である。これらの希少な症例では、不確定大腸炎(IC)の診断が人に与えられる。
【0004】
いくつかの最近の研究により、アリール炭化水素受容体(AhR)アゴニスト又はそのようなアゴニストを産生する細菌性プロバイオティクスがIBDに対して有益効果を有し得ることが明らかになっている(WO 2018/065132及びWO 2017/032739を参照されたい)。しかしながら、基礎疾患プロセスの理解が高まっているにもかかわらず、治療法は存在しない。抗炎症薬コルチコステロイド及び免疫系抑制薬等の現在利用可能な薬物が、徴候及び症状を引き起こす炎症を減少させるために使用される。しかしながら、その同じ処置が、感染リスクの上昇、悪性病変のリスクの上昇を含む重大な潜在的毒性を有し、処置が長期間使用された場合には、多くの患者が奏功を失い得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO 2018/065132
【特許文献2】WO 2017/032739
【特許文献3】米国特許出願第US2006199246号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Needleman and Wunsch algorithm;Needleman and Wunsch、1970
【非特許文献2】Smith and Waterman algorithm (Smith and Waterman, 1981)
【非特許文献3】Sambrook et al. (Sambrook J, Russell D (2001) Molecular cloning: a laboratory manual、Third Edition Cold Spring Harbor)
【非特許文献4】Morello et al.、J Mol Microbiol Biotechnol 2008;14:48~58頁
【非特許文献5】Kuipers et al.、J Biotechnol 1998;64:15~21頁
【非特許文献6】Christie et al.、1981、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 78:4180~4184頁
【非特許文献7】Orosz et al. Eur J Biochem. 1991 Nov 1;201(3):653~9頁
【非特許文献8】Borrero et al.、2011. Applied Microbiology and Biotechnology 89(1):131~43頁
【非特許文献9】Ravn et al. Microbiology (Reading). 2003 Aug;149(Pt 8):2193~2201頁
【非特許文献10】Charbonneau et al. 2020、Nature Communications volume 11、Article number: 1738
【非特許文献11】J. Pharm. Sci. 1977、66、2
【非特許文献12】Handbook of Pharmaceutical Salts: Properties, Selection, and Use、P. Heinrich Stahl and Camille G.編、Wermuth 2002
【非特許文献13】Fernandez-Salguero et al. Science. 1995、268、722~726頁
【非特許文献14】Kreymborg et al.、J. Immunol. 2007、179、8098~8104頁
【非特許文献15】Sokol et al.、Gastroenterology. 2013 Sep;145(3):591~601頁、e3.
【非特許文献16】Lefevre et al.、Talanta 195 (2019) 593~598頁
【非特許文献17】R.Gill and G.N. Woodruff、1990、European Journal of Pharmacology
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、IBDの処置において使用される新たな薬物がいまだに強く必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは本明細書において、キヌレニンアミノトランスフェラーゼ又はその産物の1種、すなわち、キサンツレン酸の投与が、DSS誘導性大腸炎に罹患しているマウスにおいて抗炎症作用をもたらすことを実証した。
【0009】
したがって、本発明は、炎症性腸疾患の処置において使用するための組成物であって、
- キヌレニンアミノトランスフェラーゼ(KAT)、
- 前記キヌレニンアミノトランスフェラーゼを発現及び分泌するように遺伝子改変されている生きた組換え細菌、及び/又は
- キサンツレン酸、その誘導体、又はその任意の薬学的に許容される塩若しくは溶媒和物である前記キヌレニンアミノトランスフェラーゼの産物
を含む組成物に関する。
【0010】
炎症性腸疾患は好ましくは、クローン病、潰瘍性大腸炎、不確定大腸炎(IC)、他の非感染性胃腸炎、腸炎、全腸炎及び大腸炎、及び回腸嚢炎からなる群から選択され、より好ましくは、クローン病及び潰瘍性大腸炎から選択される。
炎症性腸疾患は、腸炎、全腸炎、回腸嚢炎並びにクローン病、潰瘍性大腸炎及び不確定大腸炎以外の非感染性胃腸炎からなる群、又は腸炎、全腸炎及び回腸嚢炎からなる群から選択されてもよい。
【0011】
キヌレニンアミノトランスフェラーゼは、ヒトキヌレニン--オキソグルタレートトランスアミナーゼ1(KAT I)、ヒトキヌレニン/アルファ-アミノアジペートアミノトランスフェラーゼ(KAT II)、ヒトキヌレニン--オキソグルタレートトランスアミナーゼ3(KAT III)、ヒトミトコンドリアアスパルテートアミノトランスフェラーゼ(KAT IV)、そのオルソログ、及びそのバリアントからなる群から選択され得、前記バリアントは、ヒトKAT I、ヒトKAT II、ヒトKAT III、ヒトKAT IVに対して、又はその任意のオルソログに対して少なくとも80%の配列同一性を有し、かつキヌレニンアミノトランスフェラーゼ活性を示す。詳細には、前記キヌレニンアミノトランスフェラーゼは、ヒトKAT II、ヒトKAT III、ヒトKAT IV、そのオルソログ、及びそのバリアントからなる群から選択され得、前記バリアントは、ヒトKAT II、ヒトKAT III、ヒトKAT IVに対して、又はその任意のオルソログに対して少なくとも80%の配列同一性を有し、キヌレニンアミノトランスフェラーゼ活性を示す。より詳細には、前記キヌレニンアミノトランスフェラーゼは、ヒトKAT II、そのオルソログ、及びそのバリアントからなる群から選択され得、前記バリアントは、ヒトKAT IIに対して、又はその任意のオルソログに対して少なくとも80%の配列同一性を有し、キヌレニンアミノトランスフェラーゼ活性を示す。
【0012】
特定の一実施形態では、前記キヌレニンアミノトランスフェラーゼは、配列番号1~32のKATタンパク質、及び配列番号1~32のいずれかの配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有し、かつキヌレニンアミノトランスフェラーゼ活性を示すそのバリアントからなる群から選択される。更に特定の一実施形態では、前記キヌレニンアミノトランスフェラーゼは、配列番号10~16のKATタンパク質、及び配列番号10~16のいずれかの配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有し、かつキヌレニンアミノトランスフェラーゼ活性を示すそのバリアントからなる群から選択される。
【0013】
前記組成物は、前記キヌレニンアミノトランスフェラーゼを含んでよい。
【0014】
別法で、又は加えて、前記組成物は、前記キヌレニンアミノトランスフェラーゼを発現及び分泌するように遺伝子改変されている組換え細菌を含んでよい。好ましくは、前記組換え細菌は、アロバキュラム(Allobaculum)属、アドレクルーツィア(Adlercreutzia)属、アナエロスティペス(Anaerostipes)属、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属、プロピオニバクテリウム(Propionibacterium)属、バクテロイド(Bacteroides)属、ユーバクテリウム(Eubacterium)属、エンテロコッカス(Enterococcus)属、ルミノコッカス(Ruminococcus)属及びフィーカリバクテリウム(Faecalibacterium)属に属する細菌、大腸菌(Escherichia coli)、並びにラクトバチルス(Lactobacillus)属、ラクトコッカス(Lactococcus)属及びストレプトコッカス(Streptococcus)属に属する細菌等の乳酸菌からなる群から選択される。
【0015】
別法では、又は加えて、前記組成物は、キサンツレン酸、その誘導体又はその任意の薬学的に許容される塩若しくは溶媒和物を含んでよく、前記キサンツレン酸誘導体は、式(I)のもの
【0016】
【化1】
【0017】
[式中、
R1、R2及びR3は、水素原子、ヒドロキシル基、ハロゲン原子、-CO-R8基又は-CO2R8基(R8は、H又はC1~10アルキル基である)、-NR9R9'(R9及びR9'は独立に、水素原子又はC1~10アルキル基である)、ニトロ基、シアノ基、ハロゲン原子により置換されていてもよいC1~10アルキル、C2~10アルケニル又はC2~10アルキニル基、並びにハロゲン原子により置換されていてもよいC1~10アルキルオキシからなる群から独立に選択され;
R4及びR6は、水素原子、及びC1~10アルキル基からなる群から独立に選択され;
R5は、ヒドロキシル基、水素原子、-NR7R7'(R7及びR7'は独立に、水素原子又はC1~10アルキル基である)、C1~10アルキル基、及びC1~10アルコキシ基からなる群から選択される]
又はその互変異性型である。
【0018】
詳細には、前記キサンツレン酸誘導体は、
R1、R2及びR3が、水素原子、酸素原子、ハロゲン原子、ハロゲン原子により置換されていてもよいC1~10アルキル、C2~10アルケニル又はC2~10アルキニル基からなる群から独立に選択され;
R4及びR6が、水素原子及びC1~10アルキル基からなる群から独立に選択されるか、又はR4及び/又はR6は非存在であり;
R5が、ヒドロキシル基、NHR7、NR7R7及びC1~10アルキル又はアルコキシ基(R7は、水素原子及びC1~10アルキル基からなる群から選択される)からなる群から選択される、式(I)の化合物であってよい。
【0019】
詳細には、前記キサンツレン酸誘導体は、オキソ-キサンツレン酸(OXA)及びジ-オキソ-キサンツレン酸(DOXA)からなる群から選択されてよい。好ましくは、前記組成物は、キサンツレン酸又はその任意の薬学的に許容される塩若しくは溶媒和物を含む。
【0020】
前記組成物は、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド若しくはその前駆体を更に含んでよいか、又はニコチンアミドアデニンジヌクレオチド若しくはその前駆体との組合せで使用されてよい。
【0021】
本発明はまた、炎症性腸疾患を処置するための医薬を製造するための、本発明の組成物の使用に関する。
【0022】
本発明は更に、対象において炎症性腸疾患を処置するための方法であって、前記対象に、本発明の組成物を投与することを含む方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】キヌレン酸(KYNA)及びキサンツレン酸(XANA)存在量は、DSS誘導性大腸炎中の炎症と負に相関している。(A)大腸炎の経過中の組織学的スコア(Histological score)及び結腸長さ(Colon length)の動態、n=8~10、(B)大腸炎の経過中の血清及び結腸組織におけるキヌレニン経路代謝産物の動態、n=8~10。
図2】KYNA及びXANAは、DSS誘導性大腸炎に対して保護するが、キノリン酸(QUIN)は保護しない。体重減少(A)、DAI(B)、結腸長さ(C)、組織学的スコア(D)、結腸画像(E)。統計的解析:1群あたりn=マウス16~20匹、二元又は一元ANOVA、ボンフェローニ事後検定を伴う。
図3-1】KYNA及びXANAの血管周囲注射は大腸炎から保護する。体重減少(A)、DAI(B)、結腸長さ(C)、及び組織学的スコア(D)。統計的解析:1群あたりn=マウス10匹、二元又は一元ANOVA、ボンフェローニ事後検定を伴う。
図3-2】KYNA及びXANAの血管周囲注射は大腸炎から保護する。結腸画像(E)。
図4-1】大腸菌におけるAADAT産生。pStaby1プラスミド(A)及びmuAADATプラスミド(B)。
図4-2】AADATタンパク質の産生の誘導。(C)次の試料をアクリルアミドゲルタンパク質にロードした:誘導前(a);誘導後(b)及び未染色タンパク質ラダーBiorad(c)。産生されて精製されたAADATタンパク質の可視化(D)。次の試料をアクリルアミドゲルにロードした:培養上清(c);培養ペレット(d);通過画分(e)、40mMイミダゾール洗浄液(f)及び溶離画分(1~8)。
図4-3】キヌレニン及び3-ヒドロキシキヌレニン分解を介してのAADAT活性の評価(E)。本発明者らのAADAT産生に伴うKYNA、XANA及び他の代謝産物におけるKYNUの変換(F)。
図5-1】AADAT注射はDSS誘導性大腸炎中に保護する。体重減少(A)、DAI(B)、結腸長さ(C)、及び組織学的スコア(D)。統計的解析:1群あたりn=マウス8~10匹、二元又は一元ANOVA、ボンフェローニ事後検定を伴う。
図5-2】AADAT注射はDSS誘導性大腸炎中に保護する。結腸画像(E)。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明者らは本明細書において、DSSにより誘導される腸管炎症のマウスモデルにおいて、キサンツレン酸(XANA)及びキヌレン酸(KYNA)が炎症と負に相関する一方で、キヌレニン及びキノリン酸が反対の動態を有することを実証した。本発明者らは更に、この結果をヒトの状況において確認したところ、負の相関が、クローン病活性のいくつかのマーカーとKYNA及びXANAとの間で観察された。これらの結果に基づき、本発明者らは、DSS誘導性大腸炎を甘受しているマウスにおけるXANA及びKYNAの経口又は血管周囲投与が、より少ない体重減少、より低い大腸炎の活動指数、より長い結腸、より低い組織学的スコア及び炎症誘発性サイトカインの発現の減少につながることも示し、それにより、XANA及びKYNAの全身抗炎症効果を実証した。DSSにより誘導される大腸炎のマウスモデルにおいて、精製キヌレニンアミノトランスフェラーゼ、詳細にはアルファ-アミノアジペートアミノトランスフェラーゼ(AADAT又はKAT II)の血管周囲投与により、同様の結果が得られた。結果は、最も低い用量でも、体重減少及び臨床的スコアの点において、しかし結腸長さ又は組織学的スコアにおいても炎症に対して保護を示した。したがって本発明者らは本明細書において、キヌレニンアミノトランスフェラーゼ又はキサンツレン酸の投与が、炎症性腸疾患を処置又は予防する強い治療可能性を示すことを実証した。
【0025】
したがって、第1の態様では;本発明は、炎症性腸疾患の処置において使用するための組成物に関する。炎症性腸疾患を処置するための医薬を製造するための組成物の使用にも関する。更に、対象において炎症性腸疾患を処置するための方法であって、前記対象に組成物を投与することを含む方法に関する。
【0026】
前記組成物は、
- キヌレニンアミノトランスフェラーゼ、及び/又は
- 前記キヌレニンアミノトランスフェラーゼを発現及び分泌するように遺伝子改変されている生きた組換え細菌、及び/又は
- キサンツレン酸若しくはその誘導体、又はその任意の薬学的に許容される塩
を含んでよい。
【0027】
詳細には、前記組成物は、
- キヌレニンアミノトランスフェラーゼ;又は
- 前記キヌレニンアミノトランスフェラーゼを発現及び分泌するように遺伝子改変されている生きた組換え細菌;又は
- キサンツレン酸若しくはその誘導体、又はその任意の薬学的に許容される塩;又は
- (i)キヌレニンアミノトランスフェラーゼ及び(ii)前記キヌレニンアミノトランスフェラーゼを発現及び分泌するように遺伝子改変されている生きた組換え細菌;又は
- (i)キヌレニンアミノトランスフェラーゼ及び(ii)キサンツレン酸若しくはその誘導体、又はその任意の薬学的に許容される塩;又は
- (i)前記キヌレニンアミノトランスフェラーゼを発現及び分泌するように遺伝子改変されている生きた組換え細菌及び(ii)キサンツレン酸若しくはその誘導体、又はその任意の薬学的に許容される塩;又は
- (i) キヌレニンアミノトランスフェラーゼ、(ii)前記キヌレニンアミノトランスフェラーゼを発現及び分泌するように遺伝子改変されている生きた組換え細菌、及び(iii)キサンツレン酸若しくはその誘導体、又はその任意の薬学的に許容される塩
を含んでよい。
【0028】
本明細書において使用される場合、「キヌレニンアミノトランスフェラーゼ」又は「KAT」という用語は、キヌレニンのアミノ基転移を触媒してキヌレン酸を形成する、及び/又は3-ヒドロキシキヌレニンのアミノ基転移を触媒してキサンツレン酸を形成する酵素を指す。
【0029】
本明細書において使用される場合、「KAT活性」は、キヌレニンのアミノ基転移を触媒してキヌレン酸を形成する作用、及び/又は3-ヒドロキシキヌレニンのアミノ基転移を触媒してキサンツレン酸を形成する作用、好ましくは、キサンツレン酸を形成する3-ヒドロキシキヌレニンの触媒作用を指す。KAT活性は、当業者に公知の任意の方法により評価され得る。例えば、KAT活性は、実験セクション、すなわち、キヌレニン及び/又は3-ヒドロキシキヌレニンの消失に基づくアッセイにおいて記載されているとおりに評価され得るであろう。簡単に述べると、バッファー100mMリン酸カリウム(pH7.4)中で調製された10mM L-キヌレニン又は3-ヒドロキシキヌレニン、2mM α-オキソグルタレート、40μM PLP(ピリドキサール5'-ホスフェート)及び試験されるべきタンパク質0又は1μLを含有する反応混合物(最終体積50μL)を37℃で15分間インキュベートする。反応を、等体積の30%酢酸を添加することにより停止する。3000gで10分間、4℃での遠心分離により得られた反応混合物の上清を等しくエールリッヒ液と混合し、15分、室温でインキュベートして、比色反応を得る。並行して、0μMから1000μMまでの標準範囲のキヌレニン又は3-ヒドロキシキヌレニンを同じ条件下で作製する。試料中に存在するキヌレニン又は3-ヒドロキシキヌレニンの量を、分光光度計を用いて492nmのODで測定し、標準範囲を使用して計算する。キヌレニン及び/又は3-ヒドロキシキヌレニンの消失は、そのタンパク質がKAT活性を呈することを示す。より詳細には、キヌレニンの消失は、そのタンパク質が、キヌレン酸を形成するキヌレニンのアミノ基転移を触媒し得ることを示し、3-ヒドロキシキヌレニンの消失は、そのタンパク質が、キサンツレン酸を形成する3-ヒドロキシキヌレニンのアミノ基転移を触媒し得ることを示す。キヌレン酸及び/又はキサンツレン酸の産生は質量分析法により確認され得る。
【0030】
4種のKATが哺乳類において報告されている:キヌレニン-オキソグルタレートトランスアミナーゼ1(KAT I)、キヌレニン/アルファ-アミノアジペートアミノトランスフェラーゼ(KAT II又はAADAT)、キヌレニン-オキソグルタレートトランスアミナーゼ3(KAT III)及びミトコンドリアアスパルテートアミノトランスフェラーゼ(KAT IV)。本発明では、キヌレニンアミノトランスフェラーゼは、ヒトKAT又はオルソロガスなタンパク質であってよい。本明細書において使用される場合の「オルソログ」又は「オルソロガスなタンパク質」という用語は、別の種におけるタンパク質の機能性カウンターパート(すなわち、KAT活性を示す)を指す。オルソロガスなタンパク質は、相互に類似していて、それというのも、それらは、共通の祖先に由来するためである。したがって、オルソログ間の配列の差は、種分化の結果である。オルソロガスな配列は、より長い、又はより短いアイソフォームに包含され得る。オルソロガスなタンパク質を同定するための方法は当技術分野で周知である。
【0031】
ヒトキヌレニン-オキソグルタレートトランスアミナーゼ1(KAT I)は、CCBL1(Uniprot受託番号:Q16773)とも名付けられている遺伝子KYAT1によりコードされる。ヒトKAT Iの3つのアイソフォームは、選択的スプライシングにより生産される:アイソフォーム1(配列番号1)、アイソフォーム2(配列番号2)及びアイソフォーム3(配列番号3)。
【0032】
ヒトKAT Iのオルソロガスなタンパク質も、本発明において使用してよい。好ましくは、本発明において使用されるヒトKAT Iのオルソロガスなタンパク質は哺乳類タンパク質である。本発明において使用され得るヒトKAT Iのオルソロガスなタンパク質の例には、これに限定されないが、Table1(表1)に列挙されているオルソログが含まれる。
【0033】
【表1】
【0034】
ヒトキヌレニン/アルファ-アミノアジペートアミノトランスフェラーゼ(KAT II又はAADAT)は、KYAT2又はKAT2(Uniprot受託番号:Q8N5Z0)とも名付けられている遺伝子AADATによりコードされる。ヒトKAT IIの2つのアイソフォームは、選択的スプライシングにより生産される:アイソフォーム1(配列番号10)及びアイソフォーム2(配列番号11)。
【0035】
ヒトKAT IIのオルソロガスなタンパク質も、本発明において使用してよい。好ましくは、本発明において使用されるヒトKAT IIのオルソロガスなタンパク質は、哺乳類タンパク質である。本発明において使用され得るヒトKAT IIのオルソロガスなタンパク質の例には、これに限定されないが、Table2(表2)に列挙されているオルソログが含まれる。
【0036】
【表2】
【0037】
ヒトキヌレニン--オキソグルタレートトランスアミナーゼ3(KAT III又はCCBL2)は、遺伝子KYAT3(Uniprot受託番号:Q6YP21)によりコードされる。ヒトKAT IIIの3つのアイソフォームは、選択的スプライシングにより生産される:アイソフォーム1(配列番号17)、アイソフォーム2(配列番号18)及びアイソフォーム3(配列番号19)。
【0038】
ヒトKAT IIIのオルソロガスなタンパク質も、本発明において使用してよい。好ましくは、本発明において使用されるヒトKAT IIIのオルソロガスなタンパク質は、哺乳類タンパク質である。本発明において使用され得るヒトKAT IIIのオルソロガスなタンパク質の例には、これに限定されないが、Table3(表3)に列挙されているオルソログが含まれる。
【0039】
【表3】
【0040】
ヒトミトコンドリアアスパルテートアミノトランスフェラーゼ(KAT IV)は、KYAT4(Uniprot受託番号:P00505)とも名付けられている遺伝子GOT2によりコードされる。ヒトKAT IVの2つのアイソフォームは、選択的スプライシングにより生産される:アイソフォーム1(配列番号26)及びアイソフォーム2(配列番号27)。
【0041】
ヒトKAT IVのオルソロガスなタンパク質も、本発明において使用してよい。好ましくは、本発明において使用されるヒトKAT IVのオルソロガスなタンパク質は、哺乳類タンパク質である。本発明において使用され得るヒトKAT IVのオルソロガスなタンパク質の例には、これに限定されないが、Table4(表4)に列挙されているオルソログが含まれる。
【0042】
【表4】
【0043】
一実施形態では、前記組成物中に含まれるか、又は前記組換え細菌により発現される前記キヌレニンアミノトランスフェラーゼは、
- ヒトKAT I、ヒトKAT II、ヒトKAT III、ヒトKAT IV、及びそのオルソログ、並びに
- ヒトKAT I、ヒトKAT II、ヒトKAT III、ヒトKAT IVに対して、又はそのいずれかのオルソログに対して少なくとも80%の配列同一性を有し、かつKAT活性を示すバリアント
からなる群から選択され得る。
【0044】
好ましくは、前記組成物中に含まれるか、又は前記組換え細菌により発現される前記キヌレニンアミノトランスフェラーゼは、配列番号1~32のKATタンパク質、及び配列番号1~32のいずれかの配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有し、かつKAT活性を示すそれらのバリアントからなる群から選択される。
【0045】
本明細書において使用される場合の「バリアント」という用語は、野生型キヌレニンアミノトランスフェラーゼ、ヒトキヌレニンアミノトランスフェラーゼ又はそのオルソログに由来し、かつ改変、すなわち、置換、挿入、及び/又は欠失を1つ又は複数(例えば、いくつかの)位置に含む酵素を指す。位置又はアミノ酸に関して使用される「欠失」という用語は、特定の位置にあるアミノ酸が欠失している、又は非存在であることを意味する。位置又はアミノ酸に関して使用される「挿入」という用語は、1つ又は複数のアミノ酸が、特定の位置を占めているアミノ酸に隣接して、その直後に挿入されている、又は存在することを意味する。バリアントは、当技術分野で周知の様々な技術により得ることができる。詳細には、野生型タンパク質をコードするDNA配列を改変するための技術の例には、これに限定されないが、特定部位の突然変異誘発、ランダム変異誘発及び合成オリゴヌクレオチド構築が含まれる。
【0046】
本明細書において使用される場合、「配列同一性」又は「同一性」という用語は、2つのポリペプチド配列のアラインメントからの位置におけるマッチ(同一のアミノ酸残基)の数(%)を指す。配列同一性は、配列ギャップを最小限にしながらオーバーラップ及び同一性を最大化するようにアラインさせた場合に配列を比較することにより決定される。詳細には、配列同一性は、2つの配列の長さに応じて、いくつかの数学的大域又は局所アラインメントアルゴリズムのいずれかを使用して決定することができる。同様の長さの配列は好ましくは、全長にわたって最適に配列をアラインさせる大域アラインメントアルゴリズム(例えば、Needleman and Wunsch algorithm;Needleman and Wunsch、1970)を使用してアラインさせる一方で、かなり異なる長さの配列は好ましくは、局所アラインメントアルゴリズム(例えば、Smith and Waterman algorithm (Smith and Waterman, 1981)又はAltschulアルゴリズム(Altschul et al., 1997; Altschul et al., 2005))を使用してアラインさせる。アミノ酸配列同一性のパーセントを決定する目的でのアラインメントは、当技術分野における技能の範囲内である様々な方法で、例えば、http://blast.ncbi.nlm.nih.gov/又はhttp://www.ebi.ac.uk/Tools/emboss/)等のインターネットウェブサイトで入手可能な公共利用可能なコンピューターソフトウェアを使用して達成することができる。当業者は、比較されるべき配列の全長にわたって最大アラインメントを達成するために必要とされる任意のアルゴリズムを含めて、アラインメントを測定するために適切なパラメーターを決定することができる。好ましくは、本明細書における目的では、アミノ酸配列同一性%値は、局所アラインメントアルゴリズム、好ましくは、配列間の局所類似の領域を見出してマッチの統計学的有意性を計算するBasic Local Alignment Search Tool(BLAST)を使用して生成された値を指し、その際、すべての検索パラメーターがデフォルト値、すなわち、blastpアルゴリズム、Expect threshold= 0.05, word size= 3, Scoring matrix = BLOSUM62, Gap costs: existence=11, extension = 1, Conditional compositional score matrix adjustmentに設定される。
【0047】
別の実施形態では、前記組成物中に含まれるか、又は前記組換え細菌により発現される前記キヌレニンアミノトランスフェラーゼは、
- ヒトKAT II、ヒトKAT III、ヒトKAT IV、及びそのオルソログ、並びに
- ヒトKAT II、ヒトKAT III、ヒトKAT IVに対して、又はその任意のオルソログに対して少なくとも80%の配列同一性を有し、かつKAT活性を示すバリアント
からなる群から選択される。
【0048】
好ましくは、前記組成物中に含まれるか、又は前記組換え細菌により発現される前記キヌレニンアミノトランスフェラーゼは、配列番号10~32のKATタンパク質、及び配列番号10~32のいずれかの配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有し、かつKAT活性を示すそれらのバリアントからなる群から選択される。
【0049】
好ましい一実施形態では、前記組成物中に含まれるか、又は前記組換え細菌により発現される前記キヌレニンアミノトランスフェラーゼは、
- ヒトKAT II及びそのオルソログ、並びに
- ヒトKAT IIに対し、又はその任意のオルソログに対して少なくとも80%の配列同一性を有し、かつKAT活性を示すバリアント
からなる群から選択される。
【0050】
好ましくは、前記組成物中に含まれるか、又は前記組換え細菌により発現される前記キヌレニンアミノトランスフェラーゼは、配列番号10~16のKATタンパク質、及び配列番号10~16のいずれかの配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有し、かつKAT活性を示すそれらのそのバリアントからなる群から選択される。
【0051】
一部の実施形態では、前記組成物中に含まれるか、又は前記組換え細菌により発現される前記キヌレニンアミノトランスフェラーゼをそのN末端及び/又はC末端で、別のポリペプチドに融合させて、ハイブリッドポリペプチド又は融合ポリペプチドを作製することができる。融合ポリペプチドを生産するための技術は、当技術分野で公知であり、バリアントをコードするコード配列及び別のポリペプチドの付加領域を、それらがフレーム内にあり、融合ポリペプチドの発現が同じプロモーター及びターミネーターの制御下にあるようにライゲートすることを含む。融合ポリペプチドの付加領域は、酵素の安定性を増強する、細胞(細菌細胞等)からの融合タンパク質の分泌(N末端疎水性シグナルペプチド等)を促進する、又は融合タンパク質の精製をアシストするように選択することができる。より詳細には、追加の領域は、酵素の精製又は固定化のために有用なタグであってよい。そのようなタグは当業者に周知であり、例えば、Hisタグ(His6)、FLAGタグ、HAタグ(インフルエンザタンパク質血球凝集素に由来するエピトープ)、マルトース結合タンパク質(MPB)、MYCタグ(ヒトプロトオンコプロテインMYCに由来するエピトープ)又はGSTタグ(小さなグルタチオン-S-トランスフェラーゼ)である。融合ポリペプチドは、酵素と付加領域との間に、プロテアーゼ又は化学薬剤のための切断部位を更に含んでよい。融合タンパク質が分泌されると、その部位は切断されて、2つの別々のポリペプチドを放出する。キヌレニンアミノトランスフェラーゼは、そのN末端及び/又はC末端で、別個の酵素活性を示す1つ又は複数のポリペプチドに融合していてもよい。任意選択で、これは、安定性又は活性等のその特徴の1つを改善するために、(例えば、化学的に、酵素的に、物理的に、等)改変されてもよい。
【0052】
一部の実施形態では、本発明において使用される組成物は、キヌレニンアミノトランスフェラーゼ、すなわち、KAT活性を示し、かつ上で定義されたとおりのタンパク質を含む。
【0053】
前記キヌレニンアミノトランスフェラーゼは、組換え技術等の公知の方法により生産することができる。詳細には、これは宿主細胞、好ましくは、下に定義されるとおり、又は実施例において例示されるとおりの組換え細菌から発現及び分泌され、単離又は精製され得る。本明細書において使用される場合、「宿主細胞」という用語は、本発明において使用されるとおりのキヌレニンアミノトランスフェラーゼをコードするポリヌクレオチドを含む核酸構築物又は発現ベクターを用いる形質転換、トランスフェクション、形質導入、又は同様のものに対して感受性があり、かつ前記酵素を発現し得る任意の細胞型を意味する。
【0054】
詳細には、前記キヌレニンアミノトランスフェラーゼは、(a)宿主細胞、詳細には、下に定義されるとおりの組換え細菌を好適な培養培地中で、前記キヌレニンアミノトランスフェラーゼを発現するために好適な条件下で培養すること;及び(b)前記キヌレニンアミノトランスフェラーゼを前記細胞培養物から回収することを含む方法により生産することができる。
【0055】
当技術分野で公知の方法を使用して、宿主細胞を、ポリペプチドを生産するために好適な栄養培地中で培養する。例えば、前記細胞を好適な培地中で、かつ酵素が発現され、及び/又は単離されることを可能にする条件下で行われるフラスコ振盪培養、又は実験室用若しくは工業用発酵槽内での小規模若しくは大規模発酵(連続、バッチ、供給-バッチ、又は固体状態発酵を含む)により培養することができる。培養を、炭素及び窒素供給源並びに無機塩を含む好適な栄養培地中で、当技術分野で公知の手順を使用して行う。好適な培地は、商用供給者から入手可能であるか、又は(例えば、American Type Culture Collectionのカタログにおいて)公開されている組成物により調製することができる。
【0056】
前記酵素は、当技術分野で公知の任意の方法を使用して回収することができる。例えば、前記酵素は、栄養培地から、これに限定されないが、収集、遠心分離、濾過、抽出、噴霧乾燥、蒸発、又は沈殿を含む慣用の手順により回収することができる。任意選択で、前記酵素は、これに限定されないが、クロマトグラフィー(例えば、イオン交換、アフィニティー、疎水性、クロマトフォーカシング、及びサイズ排除)、電気泳動手順(例えば、分取等電点電気泳動)、溶解度差(例えば、硫酸アンモニウム沈殿)、SDS-PAGE、又は抽出を含む当技術分野で公知の様々な手順により部分的に、又は完全に精製して、実質的に純粋なポリペプチドを得ることができる。好ましくは、前記酵素は栄養培地に分泌されて、単離又は精製される前に培養上清から直接回収することができる。
【0057】
前記組成物がキヌレニンアミノトランスフェラーゼを含む実施形態では、前記キヌレニンアミノトランスフェラーゼは好ましくは、単離又は精製された形態である。
【0058】
本明細書において使用される場合、ポリペプチドに関する「単離された」という用語は、調製物を生産するために使用される任意のプロセスにおいて、供給物質(例えば、少なくとも1つの他の細胞成分から分離される)又はタンパク質と関連する任意の物質において見い出される少なくとも1つの関連物質から分離されているポリペプチドを指す。例えば、単離されたポリペプチドは典型的には、通常関連しているか、又は通常、共に混合されているか、又は溶液中にある細胞、例えば、組換え細胞の少なくとも一部のタンパク質又は他の成分を欠いている。
【0059】
本明細書において使用される場合、「精製された」という用語は、例えば、組換え宿主細胞の培養物から精製された生成物又は非組換え供給源から精製された生成物であるように、タンパク質が他のタンパク質を本質的に随伴しないことを意味する。「精製された」という用語は、絶対純度を必要とせず、むしろ、相対的定義として意図されている。これは、当技術分野で周知の分析技術により決定された場合に他の成分を本質的に非含有であるタンパク質を示す(例えば、精製タンパク質は、電気泳動ゲル、クロマトグラフィー溶離液、及び/又は密度勾配遠心分離に掛けられた培地において別個のバンドを形成する)。精製されたタンパク質は、純度少なくとも50パーセント、通常は純度少なくとも75、80、85、90、95、96、97、98、99パーセント(例えば、モルベースでの質量パーセント)である。
【0060】
前記キヌレニンアミノトランスフェラーゼは、成熟形態で、又は前駆体の形態で投与することができる。
【0061】
本発明で使用される、詳細には、前記組成物中に含有されるKATは、様々に改変されていてよい。例えば、L配置の1つ又は複数のアミノ酸がD配置のアミノ酸に置き換えられていてよい。前記ポリペプチドは、翻訳後修飾及び/又は追加の化学的改変、詳細には、グリコシル化、アミド化、アシル化、アセチル化又はメチル化を施されていてよい。保護基がC末端及び/又はN末端に付加されていてもよい。例えば、N末端にある保護基は、アシル化又はアセチル化であってよく、C末端にある保護基は、アミド化又はエステル化であってよい。前記ポリペプチドは、CHOH-CH2、NHCO、CH2-O、CH2CH2、CO-CH2、N-N、CH=CH、CH2NH、及びCH2-S等、「従来の」CONHペプチド結合に代わって、ペプチダーゼに対する耐性の増加を付与するシュードペプチド結合を含んでもよい。1つ又は複数のアミノ酸が、希少アミノ酸、詳細には、ヒドロキシプロリン、ヒドロキシリジン、アロヒドロキシリジン、6-N-メチルリジン、N-エチルグリシン、N-メチルグリシン、N-エチルアスパラギン、アロ-イソロイシン、N-メチルイソロイシン、N-メチルバリン、ピログルタミン及びアミノ酪酸;又は合成アミノ酸、詳細には、オルニチン、ノルロイシン、ノルバリン及びシクロヘキシルアラニンで置き換えられていてもよい。
【0062】
本発明はまた、そのようなポリペプチドの薬学的に許容される塩の使用に及ぶ。薬学的に許容される塩は、医薬分野で通常使用される、例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸及びリン酸等の薬学的に許容される無機酸との塩;酢酸、クエン酸、マレイン酸、リンゴ酸、コハク酸、アスコルビン酸及び酒石酸等の薬学的に許容される有機酸との塩;ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム若しくはアンモニウム塩等の薬学的に許容される無機塩基との塩;又は塩形成性窒素を有する有機塩基との塩であってよい。これらの塩を調製するための方法は、当業者に周知である。
【0063】
本発明において使用される組成物は、1つ又はいくつかのKAT酵素を含んでよく、すなわち、
(i)
- ヒトKAT I、ヒトKAT II、ヒトKAT III、ヒトKAT IV、及びそのオルソログ、並びに
- ヒトKAT I、ヒトKAT II、ヒトKAT III、ヒトKAT IVに対して、又はその任意のオルソログに対して少なくとも80%の配列同一性を有し、かつKAT活性を示すバリアント;
からなる群から選択されるか、又は
(ii)
- ヒトKAT II、ヒトKAT III、ヒトKAT IV、及びそのオルソログ、並びに
- ヒトKAT II、ヒトKAT III、ヒトKAT IVに対して、又はその任意のオルソログに対して少なくとも80%の配列同一性を有し、かつKAT活性を示すバリアント
からなる群から選択されるか、又は
(iii)
- ヒトKAT II及びそのオルソログ、並びに
- ヒトKAT IIに対して、又はその任意のオルソログに対して少なくとも80%の配列同一性を有し、かつKAT活性を示すバリアント
からなる群から選択される、1つ又はいくつかのKAT酵素を含んでよい。
【0064】
好ましくは、本発明において使用される医薬組成物は、
- ヒトKAT II及びそのオルソログ、並びに
- ヒトKAT IIに対して、又はその任意のオルソログに対して少なくとも80%の配列同一性を有し、かつKAT活性を示すバリアント
からなる群から選択される1つ又はいくつかのKAT酵素を含む。
【0065】
一部の実施形態では、本発明において使用される組成物は、キヌレニンアミノトランスフェラーゼ、すなわち、KAT活性を示し、かつ上で定義されたとおりのタンパク質を発現及び分泌するように遺伝子改変されている組換え細菌を含む。
【0066】
本明細書において使用される場合、「組換え細菌」又は「遺伝子改変された細菌」という用語は、天然には見い出されず、かつその遺伝因子の欠失、挿入又は改変のいずれかの結果として改変されたゲノムを含有する細菌を指す。詳細には、この用語は、下に記載されているとおりの異種核酸、発現カセット又はベクター、すなわち前記細菌において天然には生じない核酸、カセット又はベクターを含む細菌を指す。
【0067】
本明細書において使用される場合、細菌に関する「内在性」という用語は、前記細菌に天然に存在する遺伝因子又はタンパク質を指す。細菌に関する「異種」という用語は、前記細菌に天然に存在しない遺伝因子又はタンパク質を指す。
【0068】
本発明において使用される組換え細菌は、上で定義されたとおりのKAT酵素をコードする核酸を含む異種発現カセット又はベクターを導入することにより遺伝子改変されている。
【0069】
KAT酵素をコードする核酸は、タンパク質の配列から導き出すことができ、コドン使用は、核酸がその中で転写される細菌に従って適合させることができる。これらのステップは、当業者に周知の方法により実施することができ、そのうちの一部は、参照マニュアルSambrook et al. (Sambrook J, Russell D (2001) Molecular cloning: a laboratory manual、Third Edition Cold Spring Harbor)に記載されている。
【0070】
本明細書において使用される場合の発現カセットは、制御配列と適合性である条件下で組換え細菌において前記核酸の発現を指示する1つ又は複数の制御配列に作動可能に結合している、前記で定義されたとおりのKAT酵素をコードする核酸を含む。
【0071】
制御配列は、組換え細菌により認識されるプロモーターを含んでよい。プロモーターは、KAT酵素の発現を媒介する転写制御配列を含有する。プロモーターは、変異、短縮化、及びハイブリッドプロモーターを含めて、組換え細菌中で転写活性を示す任意のポリヌクレオチドであってよく、細菌に対して同種又は異種のいずれかの細胞外又は細胞内ポリペプチドをコードする遺伝子から得ることができる。プロモーターは、強い、弱い、構成的又は誘導的プロモーターであってよい。通常、プロモーターは、KAT酵素をコードする核酸に対して異種である、すなわち、前記核酸に元々は作動可能に結合していないか、又は元々は別の位置で作動可能に結合している。プロモーターは、組換え細菌において転写活性を示すように選択されるべきである。
【0072】
好適なプロモーターの例には、これに限定されないが、P21、P23、P32、P44又はP59等の構成的プロモーター(Morello et al.、J Mol Microbiol Biotechnol 2008;14:48~58頁)又は一部のラクトコッカス・ラクチス株において存在するnis(nisABTCIPRKEFG)オペロンから得られるナイシン誘導性制御遺伝子発現(NICE)系等の誘導的プロモーター(Kuipers et al.、J Biotechnol 1998;64:15~21頁)が含まれる。
【0073】
制御配列は、転写を終結するように細菌により認識される転写ターミネーターであってもよい。ターミネーターは、KAT酵素をコードする核酸の3'末端に作動可能に結合している。細菌において機能性である任意のターミネーターを本発明において使用することができる。通常、ターミネーターは、プロモーターと相関して選択される。好適なターミネーターの例には、これに限定されないが、rho非依存性転写ターミネーターtrpA(Christie et al.、1981、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 78:4180~4184頁)、大腸菌においてリボソームRNAをコードするrrnB遺伝子の終端領域(Orosz et al. Eur J Biochem. 1991 Nov 1;201(3):653~9頁)が含まれる。
【0074】
制御配列は、コードされるポリペプチドのN末端に結合したシグナルペプチドをコードし、ポリペプチドを細胞の分泌経路へと、すなわち、細胞外(又は周辺質)空間への分泌へと向けるシグナルペプチドコード配列であってもよい。発現したポリペプチドを細菌の分泌経路へと向ける任意のシグナルペプチドコード配列を使用してよい。シグナルペプチドコード配列をいくつかのシグナルペプチダーゼにより切断して、発現したポリペプチドの残りの部分から除去することができる。細菌宿主細胞のための有効なシグナルペプチドコード配列の例には、これに限定されないが、ラクトコッカス・ラクチスにより分泌される主要なSec依存性タンパク質であるUsp45のシグナルペプチド(SPUsp45)(Borrero et al.、2011. Applied Microbiology and Biotechnology 89(1):131~43頁)、シグナルペプチドSP310(Ravn et al. Microbiology (Reading). 2003 Aug;149(Pt 8):2193~2201頁)、及びシグナルペプチドExp4(米国特許出願第US2006199246号)が含まれる。組換え細菌の成長と比べてKAT酵素の発現を調節する調節配列を付加することが望ましいこともある。調節系の例は、調節化合物の存在を含む化学的又は物理的刺激に応答して、遺伝子の発現をオン又はオフさせるものである。原核細胞系における調節系には、lac、tac、及びtrpオペレーター系が含まれる。
【0075】
典型的には、発現カセットは、転写プロモーター及び転写ターミネーターに作動可能に結合したKAT酵素をコードする核酸を含むか、又はそれからなる。発現カセットは、転写プロモーター及び転写ターミネーターに作動可能に結合したいくつかのKAT酵素をコードするいくつかの核酸を含んでもよい。好ましくは、発現カセットは、細胞外空間へのKAT酵素の分泌をもたらすシグナルペプチドコード配列を更に含む。
【0076】
発現カセットは、細菌を形質転換するためにそのまま使用してもよいし、又は発現ベクターに導入してもよく、前記ベクターを細菌を形質転換するために使用してもよい。
【0077】
ベクターの選択は典型的には、ベクターと、そのベクターが導入されるべき細菌との適合性に依存することとなる。ベクターは、自律複製ベクター、すなわち、染色体外実体として存在し、その複製が染色体複製から独立しているベクター、例えば、プラスミド、染色体外因子、小染色体、又は人工染色体であってよい。ベクターは、自己複製を保証するための任意の手段を含有してよい。別法では、ベクターは、細菌に導入された場合に、ゲノムに組み込まれて、それが組み込まれている染色体と一緒に複製されるものであってよい。
【0078】
ベクターは好ましくは、ベクターを含む細菌の容易な選択を可能にする1つ又は複数の選択マーカーを含む。選択マーカーは、その産物が殺虫剤又はウイルス耐性、重金属に対する耐性、栄養素要求性に対する原栄養性、及び同様のものをもたらす遺伝子である。細菌選択マーカーの例には、これに限定されないが、アンピシリン、クロラムフェニコール、カナマイシン、ネオマイシン、スペクチノマイシン、又はテトラサイクリン耐性等の抗生物質耐性を付与するマーカーが含まれる。
【0079】
ベクターは好ましくは、細菌のゲノムへのベクターの組込み又はゲノムに非依存的な細胞におけるベクターの自律複製を可能にする因子を含む。宿主細胞ゲノムへの組込みの場合に、ゲノムへの配列の組込みは、相同又は非相同組換えに依存し得る。一方では、ベクターは、宿主細胞のゲノムへの正確な場所での相同組換えによる組込みを指示するための追加のポリヌクレオチドを含有してよい。これらの追加のポリヌクレオチドは、宿主細胞のゲノムにおける標的配列と相同である任意の配列であってよい。他方で、ベクターを非相同組換えにより、宿主細胞のゲノムに組み込んでもよい。
【0080】
自律複製では、ベクターは、ベクターが該当する細菌において自律複製することを可能にする複製開始点を更に含んでよい。複製開始点は、細胞において機能する自律複製を媒介する任意のプラスミドレプリケーターであってもよい。「複製開始点」又は「プラスミドレプリケーター」という用語は、プラスミド又はベクターがin vivoで複製することを可能にするポリヌクレオチドを意味する。細菌の複製開始点の例には、これに限定されないが、大腸菌(E.coli)において複製を可能にするプラスミドpBR322、pUC19、pACYC177、及びpACYC184、並びにバチルス属において複製を可能にするpUB1 10、pE194、pTA1060、及びpAMβ1の複製開始点が含まれる。
【0081】
発現がその中で望まれる細菌に応じて因子を選択するための方法は、当業者に周知である。ベクターは、当業者に周知の分子生物学の古典的技術により構築することができる。
【0082】
本発明において使用される組換え細菌は、前記のとおりの発現カセット又はベクターを導入することにより得ることができるので、カセット又はベクターは、染色体組込み体として、又は自己複製染色体外ベクターとして維持される。細菌への前記発現カセット又はベクターの導入は、当業者に周知の任意の方法を使用して実施することができる。好ましくは、少なくとも発現カセット、又はKAT酵素をコードし、前記核酸の発現を可能にする核酸を含むその一部を細菌のゲノムに組み込む。
【0083】
本発明において使用される組成物に含まれる組換え細菌は、生細菌である。この細菌は、Live Biotherapeutic Product(LBP)、すなわち、対象において疾患又は病態を処置する、治癒させる、又は予防するために設計及び開発された生きた生体であってよい。「生細菌」では、細胞の完全性が維持されていること、並びに細菌を好適な培地及び条件で培養した場合に、細胞プロセスが生じるか、又は起こり得ることが理解されるべきである。生細菌は、好適な培養培地に再播種し、好適な条件下で成長させることができる。生細菌は、投与前に、液体窒素での凍結、段階的凍結又は凍結乾燥及びその後の、好ましくは+4℃~-80℃の範囲の温度での貯蔵により保存することができる。
【0084】
組換え細菌は、疾患を誘導することなく対象に投与することができ(非病原性細菌)、消化管環境に適合した代謝を有する任意の細菌であってよい。組換え細菌は、その薬物動態及び薬力学的特性を改善するように遺伝子操作されていてもよい。例えば、細菌は、供給される代謝産物の非存在下での細菌複製を限定するために栄養素要求性を示すように改変されていてよい。操作された生細菌治療薬のためのシャーシ生体を開発するための例及びストラテジーが最近、概説されており(Charbonneau et al. 2020、Nature Communications volume 11、Article number: 1738)、当業者は、本発明の使用に適合させる細菌シャーシを容易に選択することができる。
【0085】
詳細には、組換え細菌は、アロバキュラム属(例えば、アロバクルム・ステルコリカニス(Allobaculum stercoricanis))、アッカーマンシア(Akkermansia)属(例えば、アッカーマンシア・ムシニフィラ(Akkermansia muciniphila))、アナエロスティペス属(例えば、アナエロスティペス・ハドラス(Anaerostipes hadrus)、アナエロスティペス・カカエ(Anaerostipes caccae)及びアナエロスティペス・ブチラチカス(Anaerostipes butyraticus)、ビフィドバクテリウム属、バシラス(Bacillus属(例えば、枯草菌(Bacillus subtilis)及びバシラス・クラウシ(Bacillus clausii))、プロピオニバクテリウム(Propionibacterium)属、バクテロイド属、ユーバクテリウム属、エンテロコッカス属、ルミノコッカス属(例えば、ルミノコッカス・グナバス(Ruminococcus gnavus))、ロゼブリア(Roseburia)属(例えば、ロゼブリア・ホミニス(Roseburia hominis))及びフィーカリバクテリウム属(例えば、フィーカリバクテリウム プラウスニッツイ(Faecalibacterium prausnitzii))に属する細菌、大腸菌、及び乳酸菌、詳細には、ラクトバチルス属(例えば、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルス・タイワネンシス(Lactobacillus taiwanensis)、ラクトバチルス・ジョンソニ(Lactobacillus johnsonii)、ラクトバチルス・アニマリス(Lactobacillus animalis)、ラクトバチルス・ムリナス(Lactobacillus murinus)、ラクトバチルス・サリバリウス(Lactobacillus salivarius)、ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)、ラクトバチルス・ブルガリクス(Lactobacillus bulgaricus)、及びラクトバチルス・デルブリッキィ亜種ブルガリクス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus))、ラクトコッカス属(例えば、ラクトコッカス・ラクチス(Lactococcus lactis))及びストレプトコッカス属(例えば、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus))に属する乳酸菌からなる群から選択され得る。好ましくは、組換え細菌は、ラクトバチルス属及びラクトコッカス属に属する細菌から、詳細にはラクトバチルス・カゼイ及びラクトコッカス・ラクチスからなる群から選択される。
【0086】
一部の他の実施形態では、本発明において使用される組成物は、キサンツレン酸、その誘導体又はその任意の薬学的に許容される塩若しくは溶媒和物を含む。
【0087】
一実施形態では、前記キサンツレン酸誘導体は、式(I)のもの
【0088】
【化2】
【0089】
[式中、
R1、R2及びR3は、水素原子、ヒドロキシル基、ハロゲン原子、-CO-R8基又は-CO2R8基(R8は、H又はC1~10アルキル基である)、-NR9R9'(R9及びR9'は独立に、水素原子又はC1~10アルキル基である)、ニトロ基、シアノ基、ハロゲン原子により置換されていてもよいC1~10アルキル、C2~10アルケニル又はC2~10アルキニル基、並びにハロゲン原子により置換されていてもよいC1~10アルキルオキシからなる群から独立に選択され;
R4及びR6は、水素原子、及びC1~10アルキル基からなる群から独立に選択され;
R5は、ヒドロキシル基、水素原子、-NR7R7'(R7及びR7'は独立に、水素原子又はC1~10アルキル基である)、C1~10アルキル基、及びC1~10アルコキシ基からなる群から選択される]
又はその互変異性型である。
【0090】
特定の一実施形態では、前記キサンツレン酸誘導体は、
R1、R2及びR3が、水素原子、ヒドロキシル基、ハロゲン原子、ハロゲン原子により置換されていてもよいC1~10アルキル、C2~10アルケニル又はC2~10アルキニル基からなる群から独立に選択され;
R4及びR6が、水素原子及びC1~10アルキル基からなる群から独立に選択され;
R5が、ヒドロキシル基、-NR7R7'(R7及びR7'は独立に、水素原子又はC1~10アルキル基である)、C1~10アルキル基、及びC1~10アルコキシ基からなる群から選択される、
式(I)のもの又はその互変異性型である。
【0091】
別の特定の実施形態では、前記キサンツレン酸誘導体は、
R1、R2及びR3が、水素原子、ヒドロキシル基、ハロゲン原子、ハロゲン原子により置換されていてもよいC1~6アルキル、C2~6アルケニル又はC2~6アルキニル基からなる群から独立に選択され;
R4及びR6が、水素原子及びC1~6アルキル基からなる群から独立に選択され;
R5が、ヒドロキシル基、-NR7R7'(R7及びR7'は独立に、水素原子又はC1~6アルキル基である)、C1~6アルキル基、及びC1~6アルコキシ基からなる群から選択される、
式(I)のもの又はその互変異性型である。
【0092】
別の特定の実施形態では、前記キサンツレン酸誘導体は、
R1、R2及びR3が、水素原子、酸素原子、ハロゲン原子、ハロゲン原子により置換されていてもよいC1~10アルキル、C2~10アルケニル又はC2~10アルキニル基からなる群から独立に選択され;
R4及びR6が、水素原子及びC1~10アルキル基からなる群から独立に選択されるか、又はR4及び/又はR6が、非存在であり;
R5が、ヒドロキシル基、NHR7、NR7R7及びC1~10アルキル又はアルコキシ基からなる群から選択される(ここで、R7は、水素原子及びC1~10アルキル基からなる群から選択される)、
式(I)のものである。
【0093】
別の特定の実施形態では、前記キサンツレン酸誘導体は、
R1、R2及びR3が、水素原子、酸素原子、ハロゲン原子、ハロゲン原子により置換されていてもよいC1~6アルキル、C2~6アルケニル又はC2~6アルキニル基からなる群から独立に選択され;
R4及びR6が、水素原子及びC1~6アルキル基からなる群から独立に選択されるか、又はR4及び/又はR6が、非存在であり;
R5が、ヒドロキシル基、NHR7、NR7R7及びC1~6アルキル又はアルコキシ基(R7は、水素原子及びC1~6アルキル基からなる群から選択される)からなる群から選択される、
式(I)のものである。
【0094】
例えば、C1~C10、C1~C6又はC2~C10等の接頭辞を伴って本明細書において記述される用語は、C1~C9、C1~C5、又はC2~C9等、より少ない数の炭素原子を伴って使用することもできる。例えば、C1~C10という用語が使用されるならば、これは、対応する炭化水素鎖が、1~10個の炭素原子、特に、1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10個の炭素原子を含んでよいことを意味する。例えば、C1~C6という用語が使用されるならば、これは、対応する炭化水素鎖が1~6個の炭素原子、特に1、2、3、4、5又は6個の炭素原子を含んでよいことを意味する。例えば、C2~C6という用語が使用されるならば、これは、対応する炭化水素鎖が、2~6個の炭素原子、特に2、3、4、5又は6個の炭素原子を含んでよいことを意味する。
【0095】
本明細書において使用される場合、「アルキル」という用語は、直鎖又は分枝鎖で配置された炭素及び水素原子のみを含有する一価ラジカルを指す。(C1~C3)-アルキル基には、メチル、エチル、プロピル、又はイソプロピルが含まれる。好ましくは、(C1~C3)-アルキル基は、メチル又はエチル、より好ましくは、メチルである。(C1~C6)-アルキル基には、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、tert-ブチル、ペンチル又はヘキシルが含まれる。
【0096】
本明細書において使用される場合、「アルケニル」という用語は、少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を含む不飽和直鎖又は分枝脂肪族基を指す。「(C2~C6)アルケニル」という用語は、より具体的には、エテニル、プロペニル、イソプロペニル、ブテニル、イソブテニル、ペンテニル、又はヘキセニルを意味する。
【0097】
「アルキニル」という用語は、少なくとも1つの炭素-炭素三重結合を含む不飽和直鎖又は分枝脂肪族基を指す。「(C2~C6)アルキニル」という用語は、より具体的には、エチニル、プロピニル、ブチニル、ペンチニル、イソペンチニル、又はヘキシニルを意味する。
【0098】
「ハロゲン」という用語は、フッ素、塩素、臭素、又はヨウ素原子に対応する。
【0099】
キサンツレン酸誘導体の例には、これに限定されないが、オキソ-キサンツレン酸(OXA)及びジ-オキソ-キサンツレン酸(DOXA)が含まれる。
【0100】
【表5】
【0101】
好ましい一実施形態では、前記組成物は、キサンツレン酸又はその任意の薬学的に許容される塩若しくは溶媒和物を含む。
【0102】
キサンツレン酸は、式(II)のもの
【0103】
【化3】
【0104】
である。
【0105】
本開示において記載されているある特定の化合物は互変異性型で存在し得て、前記化合物のそのような互変異性型はすべて、本開示の範囲内であることは当業者には明らかであろう。詳細には、「キサンツレン酸」という用語には、式(II)の化合物及びその互変異性型、例えば、式(III)及び(IV)の化合物が含まれる。
【0106】
【化4】
【0107】
キサンツレン酸又はその誘導体の薬学的に許容される塩は、患者に非毒性であり、かつ前記化合物の安定性を維持して、標的細胞又は組織への前記化合物の送達を可能にするために好適である塩である。薬学的に許容される塩は当技術分野で周知である。より具体的には、「薬学的塩」には、無機、更には有機酸塩が含まれる。好適な無機酸の代表的な例には、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、リン酸、及び同様のものが含まれる。好適な有機酸の代表的な例には、ギ酸、酢酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、プロピオン酸、安息香酸、ケイ皮酸、クエン酸、フマル酸、マレイン酸、メタンスルホン酸及び同様のものが含まれる。薬学的無機又は有機酸付加塩の更なる例には、J. Pharm. Sci. 1977、66、2及びHandbook of Pharmaceutical Salts: Properties, Selection, and Use、P. Heinrich Stahl and Camille G.編、Wermuth 2002に列挙されている薬学的塩が含まれる。「薬学的塩」には、無機、更には有機塩基塩も含まれる。好適な無機塩基の代表的な例には、ナトリウム又はカリウム塩、アルカリ土類金属塩、例えば、カルシウム又はマグネシウム塩、又はアンモニウム塩が含まれる。有機塩基との好適な塩の代表的な例には、例えば、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、ピペリジン、モルホリン又はトリス-(2-ヒドロキシエチル)アミンとの塩が含まれる。
【0108】
本明細書において使用される場合、「溶媒和物」という用語は、化学量論的又は非化学量論的量の溶媒を含有する溶媒付加形態を指す。一部の化合物は、結晶性固体状態で固定されたモル比の溶媒分子を捕捉して、溶媒和物を形成する傾向を有する。溶媒が水であれば、形成される溶媒和物は水和物である。溶媒がアルコールであるときは、形成される溶媒和物はアルコラートである。水和物は、1つ又は複数の水分子と、水がその中でH2Oとしてのその分子状態を保持する物質の1つとの組合せにより形成され、そのような組合せは、1つ又は複数の水和物を形成することができる。
【0109】
本発明において使用される組成物は、医薬組成物、食品組成物又は食品サプリメントであってもよい。
【0110】
前記組成物が医薬組成物である実施形態では、上で定義されたとおりの活性化合物、すなわち、キヌレニンアミノトランスフェラーゼ、前記キヌレニンアミノトランスフェラーゼを発現及び分泌するように遺伝子改変されている生きた組換え細菌、及び/又はキサンツレン酸若しくはその誘導体、又はその任意の薬学的に許容される塩若しくは溶媒和物を薬学的に許容される添加剤、及び任意選択で生分解性ポリマー等の持続放出マトリックスと組み合わせて、治療用組成物を形成することができる。
【0111】
「薬学的に」又は「薬学的に許容される」は、適切に哺乳類、詳細にはヒトに投与された場合に不利なアレルギー性又は他の有害な反応をもたらさない分子実体及び組成物を指す。薬学的に許容される担体又は添加剤は、任意の種類の非毒性固体、半固体又は液体増量剤、希釈剤、カプセル化物質又は製剤補助剤を指す。本発明による組成物において使用され得る薬学的に許容される添加剤は、当業者に周知であり、処置される疾患及び投与経路により変化してよい。
【0112】
本発明において使用される組成物は、処置される対象の消化管、好ましくは、小腸及び/又は結腸に置くために好適な任意の方法により投与することができる。詳細には、前記組成物を腸内又は非経口経路により、好ましくは、経口、舌下、皮下、筋肉内、静脈内、経皮、局所又は直腸投与経路により投与することができる。好ましくは、前記組成物を投与するか、又は直腸若しくは経口経路により投与するために適合させる。
【0113】
詳細には、前記組成物がキヌレニンアミノトランスフェラーゼ及び/又はキサンツレン酸又はその誘導体を含む一部の実施形態では、前記組成物を好ましくは、経口、直腸、皮下又は静脈内経路により投与する。前記組成物が生きた組換え細菌を含む一部の他の実施形態では、前記組成物を好ましくは、経口又は直腸経路により投与する。
【0114】
一実施形態では、前記医薬組成物を経口経路により投与することができる。経口投与では、前記医薬組成物を、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤並びにシロップ剤、エリキシル剤、及び濃縮滴剤等の液体製剤等の従来の経口剤形に製剤化することができる。例えば、医薬グレードのマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、滑石、セルロース、グルコース、スクロース、マグネシウム、炭酸塩、及び同様のものが含まれる非毒性固体担体又は希釈剤を使用してもよい。圧縮錠剤では、粉末化物質に凝集性を付与する薬剤である結合剤も必要である。例えば、デンプン、ゼラチン、ラクトース又はデキストロース等の糖、及び天然又は合成ゴムを結合剤として使用することができる。錠剤の分解を容易にするために、錠剤中に、崩壊剤も必要であり得る。崩壊剤には、デンプン、クレイ、セルロース、アルギン、ゴム及び架橋ポリマーが含まれる。更に、製造プロセスにおける表面への錠剤物質の付着を防止して、製造中の粉末物質の流動特性を改善するために、滑沢剤及び流動促進剤も錠剤中に含まれてよい。コロイド状二酸化ケイ素が流動化促進剤として最も一般的に使用され、タルク又はステアリン酸等の化合物が滑沢剤として最も一般的に使用される。トウモロコシデンプン、寒天、天然又は合成ゴム、樹脂、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、グアール、キサンタン及び同様のもの等、周知の増粘剤を組成物に添加してもよい。メチルパラベン、プロピルパラベン、ベンジルアルコール及びエチレンジアミンテトラ酢酸塩を含む防腐剤を組成物に含ませてもよい。
【0115】
好ましくは、経口投与では、前記組成物は、前記組成物中に含有される活性化合物が胃を通過して、小腸に放出されることを可能にする胃耐性経口形態である。腸溶コーティングにおいて使用され得る物質には、例えば、アルギン酸、酢酸フタル酸セルロース、プラスチック、ワックス、シェラック及び脂肪酸(例えば、ステアリン酸又はパルミチン酸)が含まれる。
【0116】
別の実施形態では、前記医薬組成物を直腸経路により投与することができる。好適な直腸経路形態には、これに限定されないが、坐剤及び浣腸剤が含まれる。詳細には、活性化合物を当技術分野で公知の方法により公知の坐剤基剤のいずれかに導入することができる。そのような塩基の例には、カカオバター、ポリエチレングリコール(カーボワックス)、ポリエチレンソルビタンモノステアレート、及びこれらと融点又は溶解速度を調節するための他の適合性物質との混合物が含まれる。
【0117】
本発明において使用される組成物は、投与したら実質的に直後に、又は投与後の任意の所定の時間若しくは期間に活性化合物を放出するように製剤化することができる。
【0118】
本発明において使用される医薬組成物は、少なくとも1つの追加の活性成分、詳細には、炎症性腸疾患の処置において有用な少なくとも1つの細菌性プロバイオティクス及び/又は少なくとも1つのプレバイオティクス及び/又は少なくとも1つの薬物と組み合わせて使用することもできるし、又はそれらを更に含んでもよい。
【0119】
「細菌性プロバイオティクス」という用語は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、宿主の健康に有利な作用をもたらし得る、すなわち、宿主、好ましくは、ヒトの疾患又は病態の予防、処置又は治癒に適用可能である有用な細菌を指す。この用語は、死滅又は生細菌を指し得る。好ましくは、この用語は、生細菌(生きた生物学的製剤とも名付けられている)を指す。好ましくは、前記細菌性プロバイオティクスは抗炎症活性を示す。そのような細菌性プロバイオティクスは、例えば、アロバキュラム属(例えば、アロバクルム・ステルコリカニス)、アッカーマンシア属(例えば、アッカーマンシア・ムシニフィラ)、アナエロスティペス属(例えば、アナエロスティペス・ハドラス、アナエロスティペス・カカエ及びアナエロスティペス・ブチラチカス)、ビフィドバクテリウム属、バシラス属(例えば、枯草菌及びバシラス・クラウシ)、プロピオニバクテリウム属、バクテロイド属、ユーバクテリウム属、エンテロコッカス属、ルミノコッカス属(例えば、ルミノコッカス・グナバス)、ロゼブリア属(例えば、ロゼブリア・ホミニス)及びフィーカリバクテリウム属(例えば、フィーカリバクテリウム・プラウスニッツイ)に属する細菌、大腸菌、及び乳酸菌、詳細には、ラクトバチルス属(例えば、ラクトバチルス・ロイテリ、ラクトバチルス・プランタラム、ラクトバチルス・タイワネンシス、ラクトバチルス・ジョンソニ、ラクトバチルス・アニマリス、ラクトバチルス・ムリナス、ラクトバチルス・サリバリウス、ラクトバチルス・ガセリ、ラクトバチルス・ブルガリクス、及びラクトバチルス・デルブリッキィ亜種ブルガリクス)、ラクトコッカス属及びストレプトコッカス属(例えば、ストレプトコッカス・サーモフィルス)に属する乳酸菌からなる群から選択され得る。
【0120】
本明細書で使用される場合、「プレバイオティクス」は、投与されるプロバイオティクス及び/又は消化管微生物叢の組成及び/又は活性の両方において特定の変化を誘発し、宿主に利益をもたらし得る成分を指す。好ましくは、前記プレバイオティクスはプロバイオティクスにより分解され得て、患者への投与後の前記プロバイオティクスの保存寿命を増大させ得る。プレバイオティクスの例には、これに限定されないが、プロバイオティクスの生存に必須である複合炭水化物、ポリフェノール、アミノ酸、ペプチド、ミネラル、又は他の栄養成分が含まれる。詳細には、プレバイオティクスは、イヌリン、イノシトール、タガトース、ラクツロース、アルファ-グルカンオリゴ糖、トランス-ガラクト-オリゴ糖(TOS)、フラクト-オリゴ糖(FOS)、ガラクト-オリゴ糖(GOS)、キシロ-オリゴ糖(XOS)及びそれらの混合物からなる群から選択され得る。
【0121】
炎症性腸疾患の処置において有用な薬物の例には、これに限定されないが、コルチコステロイド、5-アミノサリチレート、免疫抑制薬、例えば、シクロスポリン、アザチオプリン、6-メルカプトプリン、メトトレキサート、抗TNF薬(インフリキシマブ、アダリムマブ、ゴリムマブ、セルトリズマブ等)、抗インテグリン薬(ナタリズマブ、ベドリズマブ等)、抗IL12及び/又はIL23抗体(ウステキヌマブ等)、JAK阻害薬(トファシチニブ等)、抗生物質、抗下痢薬、鎮痛薬、鉄サプリメント、ビタミンB-12、カルシウム及びビタミンDが含まれる。
【0122】
他の実施形態では、前記組成物は、食品組成物又は食品サプリメントであってよい。
【0123】
「食品組成物」では、多量栄養素、微量栄養素、ビタミン及び/又はミネラル等の食品成分を含む任意の組成物が意味されている。食品組成物は、ヒト又は動物消費が意図されていてもよく、液体、ペースト又は固体であってもよい。食品組成物の例には、これに限定されないが、チーズ、バター、クリーム、ヨーグルト、発酵乳、アイスクリーム等の乳製品、パン、ビスケット及びケーキ等の調理製品、フルーツジュース、フルーツコンポート又はフルーツペースト等の果物製品、大豆食品製品、デンプンベースの食品製品、食用オイル組成物、スプレッド、朝食用シリアル、乳児用調製粉乳、食品バー(例えば、シリアルバー、朝食用バー、エネルギーバー、栄養バー)、チューインガム、飲料、飲用サプリメント(飲料に添加される粉末)が含まれる。
【0124】
本明細書において使用される場合、「食品サプリメント」という用語は、対象、すなわち、ヒト又は動物の栄養摂取を補うために他の食品とは別々に製剤化されて投与される任意の組成物を指す。このサプリメントは、当業者に周知の任意の好適な形態で、好ましくは、食事用食品又は経口補充物の形態であってよい。
【0125】
特定の実施形態では、医薬組成物、食品組成物又は食品サプリメントは、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)、又はその前駆体を更に含むか、又はNAD、又はその前駆体と組み合わせて使用され得る。NADは、酸化(NAD+)又は還元(NADH)形態で投与してもよい。NAD前駆体の例には、これに限定されないが、ニコチンアミド(NAM)、ニコチン酸(NA)、ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)、及びニコチンアミドリボシド(NR)が含まれる。
【0126】
好ましくは、これらの実施形態では、医薬組成物、食品組成物又は食品サプリメントはKAT酵素を含む。
【0127】
好ましくは、前記ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド又はその前駆体を経口又は静脈内経路により投与する。組成物の性質及び投与経路に応じて、前記ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド又はその前駆体並びに前記組成物を同時に、又は別々に同じ経路を介して、又は異なる経路を介して投与することができる。
【0128】
前記のとおりの組成物を炎症性腸疾患の処置において使用する。本発明はまた、炎症性腸疾患を処置するための医薬を製造するための、前記のとおりの組成物の使用に関する。本発明は更に、対象において炎症性腸疾患を処置するための方法であって、前記のとおりの組成物を対象に投与することを含む方法に関する。
【0129】
本明細書において使用される場合、「処置」、「処置する」又は「処置すること」という用語は、疾患の治療、防止、予防及び遅延等、患者の健康状態を改善するために意図される任意の行為を指す。ある特定の実施形態では、そのような用語は、疾患又はそれと関連する症状の改善又は根絶を指す。他の実施形態では、この用語は、疾患を有する対象への1つ又は複数の治療薬、例えば、本発明の組成物の投与から生じる、そのような疾患の伝播又は悪化の最小化を指す。
【0130】
本明細書において使用される場合、「炎症性腸疾患」又は「IBD」は、小腸の全部又は一部の炎症により特徴づけられる様々な疾患のいずれかを指す。炎症性腸疾患の例には、これに限定されないが、クローン病(腸炎、回腸炎、大腸炎、回結腸炎、胃十二指腸及び肛門周囲クローン病等)、潰瘍性大腸炎(潰瘍性全腸炎、潰瘍性回結腸炎、潰瘍性直腸炎、潰瘍性直腸S状結腸炎、結腸の偽ポリポーシス、粘膜直腸結腸炎、及び左側又は全大腸炎型潰瘍性大腸炎等)、不確定大腸炎(IC)、他の非感染性胃腸炎、腸炎、全腸炎及び大腸炎(コラーゲン形成大腸炎及びリンパ球性大腸炎を含む非顕微鏡的大腸炎、放射線誘導性、毒性誘導性、アレルギー性誘導性、食事誘導性、虚血性、好酸球性胃腸炎、腸炎、全腸炎又は大腸炎、憩室と関連する区域性大腸炎、空置性大腸炎及びベーチェット大腸炎等)、更には回腸嚢炎が含まれる。
【0131】
好ましくは、炎症性腸疾患は、クローン病及び潰瘍性大腸炎からなる群から選択される。
【0132】
本発明の組成物は、抗炎症食又は低炭水化物食と組み合わせて使用することができる。詳細には、そのような抗炎症食は、1)炎症誘発食、詳細には、例えば、精製炭水化物、揚げた食品、ソフトドリンク及び他の加糖飲料、赤身肉及び加工肉を回避すること;2)抗炎症食、例えば、オリーブ油、ほうれん草又はケールのような緑色葉野菜、アーモンド及びクルミ等のナッツ、サーモン、サバ、マグロ及びイワシ等の油ののった魚、イチゴ、ブルーベリー、サクランボ、オレンジ、リンゴ及びトマトのような果実の摂取を優先することを含んでよい。
【0133】
本発明の組成物で処置される対象は、動物、好ましくは、哺乳類である。一実施形態では、前記対象は、イヌ、ネコ、ウシ、ヒツジ、ウマ又はげっ歯類等の家庭用又は飼育動物である。好ましい一実施形態では、前記対象は、成人、小児、新生児及び出生前段階のヒトを含むヒトである。本明細書において使用される場合、「対象」、「個体」及び「患者」という用語は互換的である。
【0134】
上で定義されたとおりの活性化合物、すなわち、キヌレニンアミノトランスフェラーゼ、前記キヌレニンアミノトランスフェラーゼを発現及び分泌するように遺伝子改変されている生きた組換え細菌、及び/又はキサンツレン酸若しくはその誘導体、又はその任意の薬学的に許容される塩若しくは溶媒和物の投薬量は、治療上有効な量が得られる等、年齢、症状、体重、及び意図された用途等の基準に従って適切に調節することができる。本明細書において使用される場合の「治療上有効な量」という用語は、処置される疾患に対して有利な影響を得るために、すなわち、疾患の少なくとも1つの有害作用を予防する、除去する、又は減少させるために必要な量を指す。治療上有効な量は好ましくは、腸管炎症又は下痢、発熱若しくは疼痛等の疾患のいずれかの症状に対して影響を得るために必要な量と定義される。
【0135】
一部の実施形態では、前記組成物は、組成物1mgあたり103~1011の、上で定義されたとおりの生きた組換え細菌細胞を含んでよい。詳細には、1日あたり摂取される、上で定義されたとおりの生きた組換え細菌細胞の量は、1×106~1×1011CFU/身体、好ましくは0.1×109~10×109CFU/身体、より好ましくは0.3×109~5×109細胞/身体であってよい。経口摂取される本発明の組成物中に含有される上で定義されたとおりの生きた組換え細菌細胞の含有率は、例えば、1%~100%(w/w、すなわち、細菌乾燥質量/組成物の全乾燥質量)、好ましくは1%~75%(w/w)、及びより好ましくは5%~50%(w/w)であってよい。
【0136】
一部の他の実施形態では、前記組成物は、組成物1mgあたり上で定義されたとおりのKAT酵素0.001mg~1mgを含んでよい。詳細には、1日あたり摂取される上で定義されたとおりのKAT酵素の量は、0.001mg/身体~100mg/身体であってよい。経口摂取される本発明の組成物中に含有される上で定義されたとおりのKAT酵素の含有率は、例えば、0.1%~100%(w/w、すなわち、KAT酵素質量/組成物の全乾燥質量)、好ましくは0.1%~75%(w/w)であってよい。
【0137】
一部の他の実施形態では、前記組成物は、組成物1mgあたり上で定義されたとおりのキサンツレン酸又はその誘導体0.001mg~1mgを含んでよい。詳細には、1日あたり摂取される上で定義されたとおりのキサンツレン酸又はその誘導体の量は、0.001mg/身体~100mg/身体であってよい。経口摂取される本発明の組成物中に含有される上で定義されたとおりのキサンツレン酸又はその誘導体の含有率は、例えば、0.1%~100%(w/w、すなわち、キサンツレン酸又は誘導体質量/組成物の全乾燥質量)、好ましくは0.1%~75%(w/w)、より好ましくは0.5%~50%(w/w)であってよい。
【0138】
本発明の組成物は、単回用量として、又は複数の用量で投与することができる。詳細には、対象の年齢又は生理学的条件に応じて、1日用量を分割して、例えば、朝に1回の投与と、晩に別の投与とで、投与を容易にしてもよい。
【0139】
一部の実施形態では、前記組成物を、好ましくは毎日から毎月の間で、より好ましくは、毎日から2週ごとの間で、より好ましくは毎日から毎週の間で定期的に投与することができる。一部の特定の実施形態では、前記組成物を毎日投与することができる。
【0140】
本発明の組成物での処置の期間は、1日から数年の間、好ましくは1日から1年の間、より好ましくは1日から6か月の間に含まれてよい。
【0141】
本明細書に引用された参照文献はすべて、参照により本出願に援用される。本発明の他の特徴及び利点は、説明を目的として示されていて、制限を意図したものではない次の例で明らかになるであろう。
【実施例
【0142】
(実施例1)
材料及び方法
マウス
雄及び雌のC57BL/6JRjマウスをJanvier社(フランス)から購入した。C57BL/6JRjをバックグラウンドとするAhR-/-マウスをJackson laboratory(JAXストック#002831)(Fernandez-Salguero et al. Science. 1995、268、722~726頁)から入手し、Saint-Antoine Research Centerで飼育した。Il22-/-マウス(Kreymborg et al.、J. Immunol. 2007、179、8098~8104頁)を入手し、Transgenose Institute(TAMM~CNRS、Orleans、フランス)で飼育した。すべてのマウスを、フランス国「Direction Departementale de la Protection des Populations (DDPP78)」により認可されているIERP施設(INRA、Jouy-en-Josas、フランス)で飼育した。すべての実験を、Comite d'Ethique en Experimentation Animale (COMETHEA C2EA - 45, Jouy en Josas、フランス)に従って行った。
【0143】
DSSモデル
Janvier labからの7週齢のC57BL/6JRjを、IERP(INRA、Jouy en Josas、France)にある本発明者らの特定病原体不在動物施設で飼育した。すべての実験で、1群あたり雌のマウス5~10匹を使用し、温度制御(23℃)された施設内で厳密な12時間明暗サイクルで飼育し、食品及び水を自由に摂らせた。1週間の順応の後に、本発明者らは水をDSS2%(MP Biomedical)に7日間変え(0日目から7日目)、回復期間を12日目まで実行した(5日間)。体重減少及びDAI(疾患活動指数)を毎日実行した。12日間の後に、試料を採取した。
【0144】
【表6】
【0145】
結腸組織診
結腸遠位部分(3つの部分に切断)をDSSモデル後の12日目に採取し、PFA(Rothi(登録商標)-Histofix 4%)中に48時間、直接入れ、標準的な前固定オートマットまでエタノール70%中に移し、パラフィン包埋した。HES着色を5μm切断部で実行した。スコアリングを最悪の切断部で実行し、以前に記載されたとおりにスコアリングした(Sokol et al.、Gastroenterology. 2013 Sep;145(3):591~601頁、e3.)。
【0146】
統計的解析
データを、Prism version 7(Graphpad Software社、San Diego, USA)を使用して解析した。ノンパラメトリック マン・ホイットニー検定又はパラメトリック一元ANOVA検定を多重ボンフェローニ比較検定と共に実行した。値を平均±SEMとして表す。統計学的有意性をp値****<0.0001、***<0.001、**<0.01、*<0.05で定義した。
【0147】
結果
マウスにおいてDSS(デキストラン硫酸ナトリウム)により誘導される腸管炎症のモデル中に、以前に記載されたとおりに(Lefevre et al.、Talanta 195 (2019) 593~598頁)、キヌレニン経路をモニターした。この経路を構成する代謝産物は、トリプトファン、キヌレニン(KYNU)、キヌレン酸(KYNA)、3-ヒドロキシキヌレニン(3HK)、キサンツレン酸(XANA)、3-ヒドロキシアントラニル酸(3-HAA)、ピコリン酸及びキノリン酸である。これらの代謝産物の動態が相互に異なることが観察された。詳細には、キヌレニン及びキノリン酸の動態は炎症と相関するが、キサンツレン酸又はキヌレン酸の動態は反対の動態を有した。この現象は、D9での炎症のピークで特に明白である(図1A~B)。
【0148】
次いで、この現象をヒトの状況で調査した。この目的のために、クローン病における糞便微生物相移植を評価する治験に参加した患者からの糞便及び血清試料(NCT02097797)を分析した。トリプトファン代謝産物を標的とするメタボロミック分析をこれらの試料で実行し、疾患活性の様々な臨床的、内視鏡的及び生物学的マーカーで、相関を作成した。疾患活性の複数のマーカーとKYNA及びXANAとの間で(更には、それぞれKYNA、XANA及びそれらの前駆体、キヌレニン及び3-ヒドロキシキヌレニンの間の比で)負の相関が観察された。キヌレニン及びキノリン酸では、反対のことが観察された(データは図示せず)。したがって、これらの結果により、マウスで同定されたデータのヒト関連性が確認された。
【0149】
これらの結果に基づき、XANA及びKYNAは抗炎症作用を有し得るであろうと仮定された。これらの代謝産物の作用を更に調査するために、XANA及びKYNAを、DSS誘導性大腸炎を甘受しているマウスに投与した。毎日、KYNA8mg及びXANA6mgを各マウスに経口送達した。用量は、KYNAについての文献(R.Gill and G.N. Woodruff、1990、European Journal of Pharmacology)と一致する。体重減少及び大腸炎の活動指数を毎日測定すると、これら2つの代謝産物は抗炎症作用を有することが示された(図2A~B)。モデルの最終時点の12日目に、これらのマウスにおける結腸長さは、より長く、かつ組織学的スコアはより低くなり(図2C~E)、KYNA及びXANAの保護作用が確認される。IL-1又はIL-17等の多くの炎症誘発性サイトカインの結腸発現(nanostring(登録商標)技術により測定)も、XANA又はKYNAで処置されたマウスでは減少した(データは図示せず)。加えて、XANA及びKYNAの血管周囲注射も、これらの代謝産物が経口で与えられた場合に観察されたものと同様の保護を誘導し、全身効果を示唆した(図3A~E)。
【0150】
(実施例2)
材料及び方法
大腸菌におけるマウスアルファ-アミノアジペートアミノトランスフェラーゼ(AADAT)のクローニング
マウスAADAT(muAADAT、配列番号13)をコードする、GeneArt社により合成された遺伝子のコドン使用(pMA:muAADATプラスミド)。次いで、muAADATをコードするDNA断片をNheI及びXhoI制限酵素での消化後に回収し、同じ酵素で先に消化されたpStaby 1ベクター(DelphiGenetics社)にクローニングした。pStaby 1プラスミドの使用(図4A)は、アフィニティークロマトグラフィーを使用してファージT7 RNAポリメラーゼプロモーター(T7ポリメラーゼ)の制御下でのmuAADATのその後の精製を可能にするC末端6ヒスチジンタグ(Hisタグ)の導入を可能にする。最終ベクターpStaby:muAADAT(図4B)をT7 Express Competent大腸菌(NEB)に移入し、形質転換体を37℃で、終夜(ON)、アンピシリン(Amp、100μg/mlL)を含有するLuria-Bertani培地10mL中で、180rpmで振盪させながら成長させた。プラスミドDNAを陽性クローンから抽出し、配列決定してそれらの同一性を確認した。
【0151】
大腸菌における組換えマウスAADATタンパク質の発現及び精製
muAADATを発現する大腸菌株を37℃で、ON、Amp100μg/mlを補充されたLB100mL中で、180rpmで振盪しながら培養し、次いで、37℃でAmp100μg/mlのLB10L中で培養した。0.8~1.0の光学密度(OD600nm)が達成されたら、遺伝子発現を、0.25mM IPTGを添加することにより誘導し、培養物を16℃で、ON、180rpmで撹拌しながらインキュベートした(図4C)。細菌を遠心分離により採取し、細胞ペレットをPBSで洗浄し、Binding Buffer100ml(0.1% 10Xトリトン及び1Xプロテアーゼ阻害薬を補充されたPBSバッファー、pH7.4-300mM NaCl、Rock社)に再懸濁した。次いで、細胞を氷内で40%の振幅で5秒、次いで、停止3秒で20分間音波処理した。次いで、溶解産物を15,000gで30分間、4℃で遠心分離して、細胞ペレットからの可溶性画分を分離した。AADATを含有する可溶性画分をアフィニティークロマトグラフィーにより精製した。上清100mLをNi-NTAアガロース樹脂4mLと共に(Invitrogen社製のref. R901-15)4℃で1時間インキュベートし、次いで、BioRadカラムに入れた。樹脂に固定されたAADATタンパク質を100mLのPBSバッファーpH7.4-500mM NaCl、次いで、25mLのPBSバッファーpH7.4-300mM NaCl-20mMイミダゾール及び10mLのバッファー.PBSバッファーpH7.4-300mM NaCl-40mMイミダゾールで洗浄した。AADATタンパク質を8mlのPBSバッファーpH7.4-300mM NaCl-300mMイミダゾールで溶離した(図4D)。画分2~6を貯留し、1LのPBS、50%グリセロール-300mM NaCl Specta/Port6に対して透析した。タンパク質を-20℃で貯蔵した。プレキャストBioRadミニプロティアンTGXステインフリー、4~20%ゲルを実施して、精製の異なる段階を制御した。
【0152】
AADAT活性試験の検証
活性試験は、AADATの基質であるキヌレニン及び3-ヒドロキシキヌレニンの消失に基づく。バッファー100mMリン酸カリウム(pH7.4)中で調製された10mM L-キヌレニン又は3-ヒドロキシキヌレニン、2mM α-オキソグルタレート、40μM PLP(ピリドキサール5’-リン酸)及び0又は1μLの精製タンパク質試料を含有する反応混合物(最終体積50μL)。次いで、混合物を37℃で15分間インキュベートし、反応を等量の30%酢酸の添加により停止した。3000gで10分間、4℃での遠心分離により得られた反応混合物の上清をエールリッヒ液と等量で混合し、15分間、室温でインキュベートして、比色反応を得た。並行して、0μM~1000μMのキヌレニン又は3-ヒドロキシキヌレニンの標準範囲を同じ条件下で作製した。試料中に存在するキヌレニン又は3-ヒドロキシキヌレニンの量を492nmのODで分光光度計で測定し、標準範囲を使用して計算した(図4E)。本発明者らの酵素の作用による、KYNU(1000μM)の存在下での15分間中のin vitroでのKYNA及びXANAの産生の検証を実施した(図4F)。用量効果は、KYNUのKYNA及びXANAへの変換から観察することができる。
【0153】
結果
すべてのチェックが成されたら、次いで、DSSにより誘導された大腸炎モデルの間に、マウスに精製AADATタンパク質を血管周囲で投与した。本発明者らの酵素のKYNU及び3HKの分解(図4E)及び上清におけるKYNA及びXANAの産生(図4F)を考慮して、1μLで、3つの用量を評価した(1日あたり及びマウス1匹あたり10、1及び0.1μL)。得られた結果は、用量効果を伴って、体重減少及び臨床的スコアの両方、しかし更に12日目の結腸長さ又は組織学的スコア(図5A~E)の点において、保護を示している。保護効果は2つの、より低い用量でも見られる。
【0154】
まとめると、これらの結果は、XANAの投与を介した、及び/又は組換え酵素AADATの使用によるキヌレニン経路の保護代謝産物へのトリプトファンの代謝の分極を介した強い治療可能性を示している。
図1
図2
図3-1】
図3-2】
図4-1】
図4-2】
図4-3】
図5-1】
図5-2】
【配列表】
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【国際調査報告】