(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-10
(54)【発明の名称】合成ゲノム編集システム
(51)【国際特許分類】
C12N 15/09 20060101AFI20241003BHJP
C12N 15/113 20100101ALI20241003BHJP
C12N 9/16 20060101ALI20241003BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20241003BHJP
C12N 15/55 20060101ALI20241003BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20241003BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20241003BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20241003BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20241003BHJP
A61K 38/16 20060101ALI20241003BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20241003BHJP
A61K 47/64 20170101ALI20241003BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C12N15/09 100
C12N15/113 Z ZNA
C12N9/16 Z
C12N5/10
C12N15/55
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
A61K48/00
A61K38/16
A61K31/7088
A61K47/64
A61P43/00 111
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024521748
(86)(22)【出願日】2022-10-07
(85)【翻訳文提出日】2024-06-04
(86)【国際出願番号】 GB2022052555
(87)【国際公開番号】W WO2023057777
(87)【国際公開日】2023-04-13
(32)【優先日】2021-10-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(32)【優先日】2022-07-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524132553
【氏名又は名称】ペンシル バイオサイエンシズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100141195
【氏名又は名称】西澤 恵美子
(72)【発明者】
【氏名】イブラヒム,モハメド ラジック モハメド
(72)【発明者】
【氏名】カンワル,ニシャ
(72)【発明者】
【氏名】ライトスキン,オレーグ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C076
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4B065AA26X
4B065AA93X
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA44
4C076AA94
4C076AA95
4C076CC29
4C076CC42
4C076EE41
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4C076FF31
4C076FF34
4C076FF63
4C084AA01
4C084AA07
4C084AA13
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4C084BA31
4C084BA41
4C084NA13
4C084NA14
4C084NA15
4C084ZC41
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA13
4C086NA14
4C086NA15
4C086ZC41
(57)【要約】
本発明は、ゲノム編集のために用いうるDNA改変のための合成モジュラーシステムであって、DNAターゲティング能力とモジュラーポリペプチド構成要素の認識モジュールに結合する能力の両方を有するターゲティング核酸を含み、モジュラーポリペプチド構成要素が、エフェクター構成要素および標的中の既定配列(PBS)に結合する短ペプチドDNA結合配列(DBD)も含む、システムを提供する。DBDは好ましくは15マー以下でよく、結合すると標的とされるdsDNAの構造を不安定化し、それによって所望のDNA改変を促進する機能を果たす。エフェクター構成要素は、例えば、連結された自己集合性ペプチドを含む人工ニッカーゼでもよく、それによって細胞へのベクター送達に有利な小型のサイズの完全なゲノム編集システムを提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的核酸配列を改変するのに使用するための核タンパク質複合体であって、(A)ターゲティング核酸および(B)モジュラーポリペプチド構成要素を含み、
前記ターゲティング核酸が、
(i)標的の一領域に相補的であるターゲティング核酸エレメント(TE);
(ii)前記モジュラーポリペプチド構成要素の核酸認識モジュールと特異的に相互作用する認識エレメントおよび
(iii)前記ターゲティングエレメントと前記認識エレメントを連結する接続配列を含み、前記モジュラーポリペプチド構成要素が、連結された分離機能的モジュールとして:
(a)酵素活性を欠く前記核酸認識モジュール;
(b)標的中の既定の配列を認識するDNA結合ドメイン(DBD)であって、モジュール(a)および前記DBDは天然には連結して見出されることはない、DBD
(c)標的を改変するのに使用するためのエフェクター構成要素であって、それによって前記TEおよびDBDにより指示される部位特異的改変が生じる、エフェクター構成要素、ならびに
(d)任意選択的に、または必要ならば、モジュール(a)、(b)および(c)が接合される第1のリンカーおよび/または第2のリンカー
を含み、
前記DBDが、70~75以下のアミノ酸残基のポリペプチド配列である、
核タンパク質複合体。
【請求項2】
前記モジュラーポリペプチド構成要素が:
(a)前記核酸認識モジュール;
(b)標的中の既定配列を認識する、(a)に直接連結された前記DBDであって、モジュール(a)および前記DBDは天然には連結して見出されることはない、DBD;
(c)標的を改変するのに使用するための、(b)に直接連結されたエフェクター構成要素であって、それによって前記TEおよびDBDにより指示される部位特異的改変が生じる、エフェクター構成要素、ならびに
(d)任意選択的に、または必要ならば、それぞれ前記エフェクター構成要素および前記核酸認識モジュールへの前記DBDの直接連結を提供する第1のリンカーおよび/または第2のリンカー配列
を含む、請求項1に記載の核タンパク質複合体。
【請求項3】
前記ターゲティング核酸がRNAである、請求項1または請求項2に記載の核タンパク質複合体。
【請求項4】
前記ターゲティング核酸の前記認識エレメントが、前記モジュラーポリペプチド構成要素の前記モジュール(a)を提供するRNAスキャフォールド結合ドメイン(RSBD)に結合するRNAスキャフォールド(RS)であり、例えば、前記RSが19ntボックスB RNAモチーフであり、前記RSBDが配列番号2に示されるラムダN22ペプチドである、請求項1~3のいずれか一項に記載の核タンパク質複合体。
【請求項5】
前記構成要素として(A)完全な核酸構成要素(NAC)および(B)モジュラーポリペプチド構成要素を含み、
NACが:
(i)標的の一領域に相補的であるターゲティングエレメント(TE);
(ii)前記モジュラーポリペプチド構成要素のRNAスキャフォールド結合ドメイン(RSBD)に特異的に結合するRNAスキャフォールド(RS)および
(iii)前記TEとRSを連結する接続配列
を含み、前記モジュラーポリペプチド構成要素が、連結された分離機能的モジュールとして:
(a)前記RSBD;
(b)標的中の既定の配列を認識する、(a)に連結された前記DNA結合ドメイン、モジュール(a)および前記DBDは天然には連結して見出されることはない、DNA結合ドメイン、
(c)標的を改変するのに使用するための、(b)に連結されたエフェクター構成要素であって、それによって前記TEおよび前記DBDにより指示される部位特異的改変が生じる、エフェクター構成要素、ならびに
(d)任意選択的に、または必要ならば、それぞれ前記エフェクター構成要素およびRSBDに前記DBDを連結する第1のリンカーおよび/または第2のリンカー
を含む、請求項4に記載の核タンパク質複合体。
【請求項6】
前記ターゲティング核酸または前記NACが、同じまたは異なる2つ以上のRNAスキャフォールドを提供する、請求項4または5に記載の核タンパク質複合体。
【請求項7】
標的がdsDNAである、請求項1~6のいずれか一項に記載の核タンパク質複合体。
【請求項8】
前記DBDが、30マー以下、25マー以下、20マー以下、好ましくは15マー以下である、請求項1~7のいずれか一項に記載の核タンパク質複合体。
【請求項9】
標的がdsDNAであり、前記DNA結合ドメインが3~6ヌクレオチドの既定の配列に結合する、請求項8に記載の核タンパク質複合体。
【請求項10】
前記DBDが、15以下のアミノ酸のペプチド、例えば、5’から3’の配列5’GAGGTC3’により表されるdsDNA配列に結合する15マーの配列
【化1】
である、請求項9に記載の核タンパク質複合体。
【請求項11】
前記DBDが、1つよりも多い既定の配列に結合することができる、請求項1~10のいずれか一項に記載の核タンパク質複合体。
【請求項12】
前記モジュラーポリペプチド構成要素が、核局在化シグナル(NLS)および/またはオルガネラ局在化シグナルをさらに提供し、前記NLSおよび/またはオルガネラ局在化シグナルが、検出を助ける追加の配列に任意選択的に接続されているNまたはC末端で提供される、請求項1~11のいずれか一項に記載の核タンパク質複合体。
【請求項13】
前記エフェクター構成要素が、(i)二本鎖切断を生じさせるためのエンドヌクレアーゼまたはFok1ヌクレアーゼドメイン、(ii)ニッカーゼ、(iii)転写活性化因子、(iv)転写リプレッサー、(v)エピジェネティックモジュレーター酵素、(vii)リコンビナーゼ、(viii)トランスポザーゼ、(ix)インテグラーゼおよび(x)核酸塩基修飾酵素構築物から選択される、先行する請求項のいずれか一項に記載の核タンパク質複合体。
【請求項14】
前記エフェクター構成要素が、ベータシート構造を形成する連結された自己集合性ペプチドのマルチマーを含む人工ヌクレアーゼまたはニッカーゼであり、
(i)前記マルチマーの自己集合性ペプチドがそれぞれ交互パターンの疎水性と親水性残基を示し、それぞれのそのようなペプチドの親水性残基のすべてまたは少なくとも一部分がアミノ酸の触媒三残基を表し、それにより前記マルチマーがdsDNAの単一の鎖または両方の鎖を切断することができ;
(ii)自己集合性ペプチドがリンカーにより接合されて、マルチマー数を、例えば、4~15に、好ましくは5~10に制限し、
(iii)N末端およびC末端隣接配列は、1つまたは複数の正電荷残基の包含に起因して、例えば、1つまたは複数のリジンまたはアルギニン残基の包含により、マルチマーのペプチド単位と比べて正電荷が増加しているヌクレアーゼタンパク質のマルチマー間での凝集を防ぐまたは制限するためにマルチマーに連結されて提供される、
請求項13に記載の核タンパク質複合体。
【請求項15】
モジュラーポリペプチド構成要素が、構成要素(a)~(d)以外のいかなる切断可能タグもしくは局在化シグナルまたはいかなる他の配列も排除する220~300以下のアミノ酸である、請求項14に記載の核タンパク質複合体。
【請求項16】
前記マルチマーを形成する前記ペプチドが、同一の7マーであるかまたは2つ以上の非同一7マーを含み、交互の疎水性残基がN末端残基から開始するロイシンおよび/またはイソロイシンである、請求項14または請求項15に記載の核タンパク質複合体。
【請求項17】
前記マルチマーを形成する前記ペプチドが、逆平行ベータシート構造を提供するようにすべてがN末端からC末端方向に連続して連結される同一のペプチドである、請求項14~16のいずれか一項に記載の核タンパク質複合体。
【請求項18】
前記マルチマーのペプチドを接合するリンカーが、ベータターンまたはベータターン様ループを提供することができる、例えば、グリシン(G)、セリン(S)、アスパラギン(N)、グルタミン(Q)、スレオニン(T)、グルタミン酸(E)およびアスパラギン酸(D)から選択されるアミノ酸の組合せからなるアミノ酸リンカーである、請求項14~17のいずれか一項に記載の核タンパク質複合体。
【請求項19】
前記C末端隣接ペプチドのC末端が、可溶性を助けるためそのC末端で柔軟なテール配列を提供する、請求項14~18のいずれか一項に記載の核タンパク質複合体。
【請求項20】
前記マルチマーの前記ペプチドが、配列IEIDIHIの7マーである、請求項14~19のいずれか一項に記載の核タンパク質複合体。
【請求項21】
人工ニッカーゼが、配列
【化2】
または1つもしくは複数の変異ベータターンおよび/もしくはNQGSテール配列の変動を有するその変異体を含んで提供される、請求項20に記載の核タンパク質複合体。
【請求項22】
モジュラーポリペプチド構成要素が、N末端からC末端方向に融合された以下の構成要素:
(i)ラムダN22タンパク質、
【化3】
(ii)リンカー、
【化4】
(iii)5’から3’の配列5’GAGGTC3’により表されるdsDNA配列に結合するDBD
【化5】
(iv)リンカー
【化6】
および
(v)ニッカーゼモジュール:
【化7】
からなる配列番号1の配列、
または前記リンカーの1つもしくは両方が代替のリンカーにより置換されている同じモジュラーポリペプチド配列
を含む、請求項21に記載の核タンパク質複合体。
【請求項23】
前記人工ヌクレアーゼモジュールが、代替のエフェクター構成要素、例えば、VP64などの転写活性化因子により置換されている、請求項22に記載の核タンパク質複合体。
【請求項24】
宿主細胞における先行する請求項のいずれかに記載の1つまたは複数の核タンパク質複合体の提供のための核酸または核酸の組合せ。
【請求項25】
人工ニッカーゼおよび少なくとも1つのターゲティング核酸、例えば、ターゲティングRNAを提供する請求項14~22のいずれか一項に記載の核タンパク質複合体の両方のポリペプチド構成要素を発現することができるベクターである、請求項24に記載の核酸。
【請求項26】
ヒトの生殖系列アイデンティティーを改変する方法でもヒトまたは動物の身体で実行される処置方法でもないという条件で、請求項1~23のいずれか一項に記載の1つもしくは複数の核タンパク質複合体または宿主細胞におけるその提供のための1つもしくは複数の核酸を用いる1つまたは複数の標的核酸配列を改変するための方法。
【請求項27】
標的核酸を改変する方法において使用するための、例えば、治療処置のためのそのような方法において使用するための、(i)請求項1~23のいずれか一項に記載の核タンパク質複合体用の少なくとも1つのモジュラーポリペプチド構成要素またはそれをコードするポリヌクレオチドおよび(ii)前記ポリペプチド構成要素(複数可)と連結できる1つもしくは複数のターゲティング核酸、またはそれをコードする1つもしくは複数のポリヌクレオチドの組合せ。
【請求項28】
請求項1~23のいずれか一項に記載の1つもしくは複数の核タンパク質複合体または宿主細胞におけるその提供のための1つもしくは複数の核酸を用いて、例えばゲノムにおいて、1つまたは複数の標的核酸部位を改変することを含む、治療処置の方法。
【請求項29】
請求項14および16~22のいずれか一項で定義される人工ヌクレアーゼまたはニッカーゼを含むまたはからなるポリペプチド。
【請求項30】
請求項1~23のいずれか一項で定義されるモジュラーポリペプチド構成要素であり、任意選択的に、発現系における可溶性および/または精製および/または検出および/または膜透過を助ける1つまたは複数の配列を提供するN末端および/またはC末端伸長をさらに含む、請求項29に記載のポリペプチド。
【請求項31】
請求項29または請求項30に記載のポリペプチドを発現することができる核酸。
【請求項32】
請求項1および3~5のいずれか一項で定義されるターゲティング核酸またはNACならびにリンカー配列により接合される請求項1で定義される構成要素(a)および(b)を含むモジュラーポリペプチド構成要素を含む、標的DNA部位で転写を阻害するための核タンパク質複合体。
【請求項33】
宿主細胞、例えば、植物細胞またはヒトもしくは非ヒト動物細胞または原核細胞における請求項32に記載の核タンパク質複合体の提供のための核酸または核酸の組合せ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲノム編集のために用いうるDNA改変のための合成モジュラーシステムであって、DNAターゲティング能力とモジュラーポリペプチドの認識モジュールに結合する能力の両方を有するターゲティング核酸を含み、モジュラーポリペプチドが分離モジュールとしてエフェクター構成要素も含む、合成モジュラーシステムを提供する。エフェクター構成要素は、単独でまたは例えば二量体化後に遺伝子の構造または調節を改変するためのタンパク質構成要素でもよい。望ましくは、エフェクター構成要素は、現在本明細書でも教示される連結された自己集合性(linked, self-assembling)短ペプチドの多量体を含む人工ニッカーゼでもよい。モジュラーポリペプチド構成要素中にさらに酵素活性を欠き、標的中の既定の配列を認識する短ペプチドDNA結合構成要素を含むことにより、CRISPR-Cas9単一ガイドRNA(sgRNA)遺伝子改変システムよりもはるかに小さく、それにより細胞への送達を楽にする完全合成遺伝子改変ツールが獲得された。ポリペプチド構成要素は、単一AAVベクター中でターゲティング核酸(複数可)と一緒に送達されうる。
【背景技術】
【0002】
RNAガイドCRISPR-Cas9システムおよび他のRNAガイドCRISPR-Casシステムは、最初の研究が、標的DNAにおけるプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)認識によりCRISPR-Cas9二本鎖DNA切断を指示するsgRNAの能力を明らかにして以来遺伝子編集の分野に大改革をもたらした。しかし、すべての所望の目的に、特に治療的ゲノム改変のためにそのようなRNAガイドDNAターゲティングシステムを使用することに関していくつかの欠点がまだ取り組まれていない。1つのそのように認識されている不利な点は、効率的なAAVパッケージングを制限するサイズである。sgRNAを備えた化膿性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)Cas9(SpCas9)(最も広く使用されているCas9バージョン)はサイズが4.1kbp(1368アミノ酸)であり、つい最近同定されたもっと小型のcas酵素はそれでもかなりのサイズのヌクレアーゼであり、所望のベクター送達には決して最適ではない。AAVの全体サイズは、最大5kbの異種配列をパッケージすることができるだけである。
【0003】
さらに、免疫原性はヒトでのインビボ治療応用のために考慮すべき事柄である。化膿性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)Cas9反応性T細胞が成人ヒト集団において報告されている。
【0004】
Targetgene Biotechnologies Ltd.の国際公開第2013/088446号パンフレットは、連結ドメインを介して特異性付与核酸(SCNA)と連結されたFok1ヌクレアーゼドメインを用いる代替のDNA編集システムを提唱している。SCNAは、標的核酸の配列に相補的なヌクレオチド配列およびSCNAを連結ドメインに特異的に連結させることができる認識構成要素を含み、例えば、SCNAの認識構成要素は、特異的結合パートナーペアのうちの1つまたはその同族ポリペプチド結合構成要素を認識する天然に存在するRNAアプタマーでもよい。標的DNA上でのそのような人工核タンパク質複合体の対合は、Fok1ヌクレアーゼドメインの二量体化を可能にするのに必要とされる。さらに、このようにして提供されるFok1ヌクレアーゼは、DNAと効果的に相互作用して二本鎖DNAを標的部位で切断させることができなければならない。しかし、国際公開第2013/088446号パンフレットは、治療上の有用性については予言的例証しか提供しておらず、そのようなシステムの効率に対する疑念が残る。
【発明の概要】
【0005】
本発明者らは、この場合には、CRISPR-Cas/sgRNAシステムの使用の代替案としての遺伝子改変のための完全合成モジュラーシステムであって、ヌクレアーゼモードでは、既定の標的部位でのDNA標的二本鎖または一本鎖切断に良好な効率を提供し、はるかに小型のサイズの遺伝子編集システムを提供するように設計することができシステムを提供することを目指した。現在教示される人工ニッカーゼを使用して達成可能な小型のサイズは、1つまたは1つよりも多いターゲティングRNAを有する単一AAVベクター送達を含む多種多様な送達手段を選択する機会を提供する。
【0006】
一態様では、本発明は、標的核酸、例えば、標的DNAを改変するのに使用するための核タンパク質複合体であって、(A)ターゲティング核酸および(B)モジュラーポリペプチド構成要素を含み、
前記ターゲティング核酸が、
(i)標的の一領域(a region)に相補的であるターゲティング核酸エレメント(本明細書ではターゲティングエレメント、TEとも呼ばれる);
(ii)前記モジュラーポリペプチド構成要素の核酸認識モジュール(例えば、RNAスキャフォールド結合ドメイン、RSBD)と特異的に相互作用する認識エレメント(例えば、RNAスキャフォールド、RS)および
(iii)前記ターゲティングエレメントと前記認識エレメントを連結する接続配列を含み、
前記モジュラーポリペプチド構成要素が、連結された分離機能的モジュールとして(as linked, separate functional module):
(a)酵素活性を欠く前記核酸認識モジュール;
(b)標的中の既定の配列を認識するDNA結合ドメイン(DBD)、モジュール(a)および前記DBDは天然には連結して見出されることはない、DBD、ならびに
(c)それによってターゲティング核酸の前記ターゲティングエレメントと前記DBDにより指示される(directed by)部位特異的改変が生じる、標的を改変するのに使用するためのエフェクター構成要素、ならびに
(d)任意選択的に、または必要ならば、モジュール(a)、(b)および(c)が接合される第1のリンカーおよび/または第2のリンカーを含み、
前記DBDが、70~75以下のアミノ酸残基、例えば、30マー以下、25マー以下、20マー以下、好ましくは15マー以下のポリペプチド配列である、核タンパク質複合体を提供する。
【0007】
理論に縛られずに、DBDの意図された目的は、ハイブリダイズするためにターゲティング核酸配列がdsDNA構造に接近するのを促進するような様式で、既定の配列(PDS)に結合すると標的とされるdsDNAの構造を不安定化することである。そのような機能的能力は、例えば、DNA構造を評価するための選択されたPDSおよびT7エンドヌクレアーゼ1(T7E1)を含むdsDNAを使用して、実施例1において例証されるように査定しうる。T7E1は、dsDNAにおいて構造的奇形を検出する構造選択酵素として周知である。DBDポリペプチドがPDSに結合すると所望の構造変形を検出する他の方法は、認識される。
【0008】
DBDは単一の既定配列に対する結合親和性を有しうるが、1つを超える既定配列に結合する能力を有しうる。必要条件は、DBDが、ターゲティング核酸のターゲティングエレメントと協同して部位特異的改変を指示することである。しかし、DBDは必要な標的部位での位置決めのためのただの二次的ツール以上のものであると見なされており、ターゲティングエレメントのハイブリダイゼーションを促進し、それにより全体的な所望の標的改変を促進するのに構造的役割を有すると見なされている。したがって、この場合の短いDBDポリペプチド配列の提供は、特定のDNA配列へのエフェクターまたはエフェクターの一部を配置するためだけに、例えば、亜鉛フィンガータンパク質またはTALEアレイを使用することとは比較できないと認識される。
【0009】
一般的に、本発明のモジュラーポリペプチドのエフェクター構成要素は末端モジュールになる。好ましくは、核酸認識モジュール(例えば、RSBD)も末端モジュールになる。したがって、好ましくは、モジュラーポリペプチド構成要素は:
(a)前記核酸認識モジュール;
(b)標的中の既定配列を認識する、(a)に直接連結された前記DNA結合ドメイン(DBD)であって、モジュール(a)および前記DBDは天然には連結して見出されることはない、DBD;
(c)標的を改変するのに使用するための、(b)に直接連結されたエフェクター構成要素であって、それによってターゲティング核酸のターゲティングエレメントと前記DBDにより指示される部位特異的改変が生じる、エフェクター構成要素、ならびに
(d)任意選択的に、または必要ならば、それぞれ前記エフェクター構成要素および前記核酸認識モジュールへの前記DBDの直接連結を提供する第1のリンカーおよび/または第2のリンカー
を含む。
【0010】
モジュラーポリペプチド構成要素のモジュールは、一般に直線的に連結される。したがって、モジュール(a)、(b)および(c)は、例えば、N末端で(a)に、C末端でエフェクター構成要素にまたはその逆に直線的に接合されうる。このようにして、ターゲティング核酸とモジュラーポリペプチド構成要素の認識モジュールの相互作用はエフェクター構成要素から引き離されている。
【0011】
ターゲティング核酸は、RNAでよく、完全にRNAであることが好ましい。核酸ターゲティングエレメントは、機能的目的の点でCRISPR-Cas9 gRNAと比較可能であることが認識される。前述の通り、都合のよいことにはおよび好ましくは、このターゲティングエレメントは、コネクターを介して、モジュラーポリペプチド中の同族タンパク質またはペプチドモジュールに結合するRNAスキャフォールド(多分、あるいはRNAアプタマーと呼ばれる)を提供するRNAモチーフと接合されうる。この場合、モジュラーポリペプチド構成要素のRNAスキャフォールド認識モジュールは、RNAスキャフォールド結合ドメイン(RSBD)と呼ばれることもある。このように、核タンパク質複合体は、都合よく、(i)コード核酸配列からRNAとして発現することができる核酸構成要素(NAC)および(ii)これも単一コード核酸配列から発現可能なモジュラーポリペプチド構成要素を含みうる。
【0012】
このように、好ましい実施形態では、標的核酸、例えば、標的DNAを改変するのに使用するための本発明の核タンパク質複合体は、(A)完全な核酸構成要素(NAC)および(B)モジュラーポリペプチド構成要素を含み、
NACは:
(i)標的の一領域に相補的であるターゲティングエレメント(TE);
(ii)前記モジュラーポリペプチド構成要素のRNAスキャフォールド結合ドメイン(RSBD)に特異的に結合するRNAスキャフォールド(RS)および
(iii)前記TEとRSを連結する接続配列
を含み、前記モジュラーポリペプチド構成要素は、連結された分離機能的モジュールとして:
(a)前記RSBD;
(b)標的中の既定の配列を認識する、(a)に連結されたDNA結合ドメイン(DBD)、モジュール(a)および前記DBDは天然には連結して見出されることはない、DBD
(c)標的を改変するのに使用するための、(b)に連結されたエフェクター構成要素であって、それによってNACの前記ターゲティングエレメントと前記DBDにより指示される部位特異的改変が生じる、エフェクター構成要素、ならびに
(d)任意選択的に、または必要ならば、それぞれ前記エフェクター構成要素およびRSBDに前記DBDを連結する第1のリンカーおよび/または第2のリンカー
を含み、
上で論じられるように、前記DBDは、70~75以下のアミノ酸残基、例えば、30マー以下、25マー以下、20マー以下、好ましくは15マー以下のポリペプチド配列である。
図1を参照のこと。
【0013】
モジュラーポリペプチド構成要素の分離機能的モジュールは、独立して置換され、限定して直線的に連続して接合されるように単一核酸によりコード可能であることが都合がよいのは理解される。
【0014】
標的は、ウイルス核酸を含むいかなる標的核酸、RNAまたはDNAでもよい。標的は、一本鎖DNAまたはもっと一般的には二本鎖DNA(dsDNA)でもよい。上記の本発明の核タンパク質複合体は、特に植物細胞およびヒト細胞を含む真核細胞において、ゲノムDNA改変を達成するための細胞への送達にCRISPR-Casシステムの代替案として特に好まれうる。
【0015】
上述の通りに、理論に縛られることなく、DBDは、二本鎖DNAにおける既定の配列のその特異的認識により二重らせんの融解および/または巻き戻しを助け、それにより標的核酸によるターゲティングおよび所望の部位でのエフェクター構成要素の作用を助けると考えられている。
【0016】
核局在化シグナル(NLS)および/またはオルガネラ局在化シグナル、例えば、ミトコンドリアまたは葉緑体局在化シグナルは、真核細胞の核中への効率的輸送または所望の細胞オルガネラ中への効率的輸送のためにモジュラーポリペプチド構成要素の一部としても提供されうる。そのようなシグナル配列は一般にはNまたはC末端で提供される。そのようなシグナル配列は、モジュラーポリペプチド構成要素の必要な機能が維持されるという条件で、1つまたは複数の追加の配列、例えば、エピトープタグなどの検出を助ける検出タグに接続してよい;
図25を参照のこと。
【0017】
エフェクター構成要素は、前記既定の配列に特異的に結合することはなく、一般に標的結合能力を欠く。しかし、エフェクター構成要素は、核酸ターゲティングエレメントおよびDBDによる所望の改変の部位特異的ターゲティングを妨げないことが不可欠であるにすぎないことが認識される。これは、ある標的、例えば、DNA、認識能力を有するエフェクター構成要素を排除しなくてよい。
【0018】
前述の通り、標的の改変は、構造的または化学的改変、例えば、ヌクレオチド配列の変更、または調節の変更、例えば、転写活性化でもよい。
【0019】
エフェクター構成要素は、例えば、本発明の2つの核タンパク質複合体を標的DNA領域に適切に向けることにより、例えば、二量体化が起こると機能的ヌクレアーゼを形成できるFok1ヌクレアーゼドメイン(すなわち、Fok1ヌクレアーゼマイナスそのDNA結合ドメイン)を含む、DNAを改変することで知られているいかなるタイプのエフェクターでもよい。しかし、前述の通り、エフェクター構成要素は、下でさらに論じられるように、好ましくは、連結された自己集合性短ペプチドから形成される人工ヌクレアーゼを含みうる。そのような人工ヌクレアーゼは、それが標的とされる部位で二本鎖DNAの1つの鎖だけを切断する点で人工ニッカーゼとしての機能を果たしうる。エフェクター構成要素は、ニッカーゼが別の機能的構成要素、例えば、塩基エディターまたは逆転写酵素に連結されているまたはそれに置き換えられている融合タンパク質でよい。
【0020】
上述の通りに、DBDは、標的中の既定の配列、例えば、2~7、好ましくは、3~6ヌクレオチド、例えば、本明細書に例示されるdsDNA標的中の6ヌクレオチド配列5’GAGGTC3’に対する結合親和性で選択される、一般には、20マー以下、例えば、16マー~18マー以下、好ましくは、15マー以下の短いペプチドになる。DBDは、ゲノムのスキャニングを助け、所望の改変部位、例えば、切断部位の隣の最初の接触を確立すると予想される。さらに、標的DNAへのDBDの結合は、構造変化およびそれに続く隣接部位での融解の引き金を引くと予想されることがさらに強調される。そのような巻き戻しは、TEが相補性につい隣接する配列に問い合わせ、TEがRNA配列である場合は、RNA-DNA複合体(R-ループ)を形成するのを助けるはずである。したがって、本発明のゲノム編集ツールのDBD構成要素は、ゲノム改変効率を改善するのに重要なモジュールであって、好ましくは少なくとも1つのターゲティングRNAも発現するAAVベクターからの発現に適している、短い全ポリペプチド構成要素長への願いを傷つけることなく提供できるモジュールと見なされる。
【0021】
本発明のゲノム編集ツールのモジュラーポリペプチド構成要素は、したがって、リンカーを有し、標的DNA部位で人工ヌクレアーゼによってニッカーゼまたはヌクレアーゼ活性を提供する完全合成短ペプチドを含んでよい。モジュラーポリペプチド構成要素を用いるそのようなゲノム編集ツールは、「人工ペプチド性ゲノム編集ツール」を表すApGetと呼ばれてきた。そのようなポリペプチド構成要素は、
N末端からC末端方向に融合された以下の構成要素:
- ラムダN22タンパク質に相当する22アミノ酸のRSBD、
【0022】
【0023】
【化2】
すなわち、(GGGGS)
7
- 5’から3’の配列5’GAGGTC3’により表されるdsDNA配列に結合するDBD
【0024】
【0025】
【0026】
【化5】
マイナス、例えば、短いNLSおよび多分検出タグを提供するために、前述の通りに提供しうるいずれかの追加のNまたはC末端配列
からなる、
配列番号1のApGetポリペプチド:
【0027】
【化6】
により例示される220以下のアミノ酸(マイナスいずれかの切断可能タグ、局在化シグナルまたは構成要素(a)~(d)以外の他のいずれかの配列)でよい。
【0028】
ヌクレアーゼ(上の配列番号1に太字で示されている)は10個の同一な7マーペプチド単位(IEIDIHI;配列番号7)を有し、そのすべてが同じNからC末端方向に4マーリンカーで連結されて(本明細書では非反転デカマーの例と呼ばれる)ベータターンならびに追加のNおよびC末端隣接配列を与える。これにより折り畳みが可能になり、それにより同一のペプチド単位のデカマーは、連続モノマー単位が反対方向に配向して見える逆平行ベータシートに似た二次構造を生じさせることができる;
図8bおよび
図9を参照のこと。配列番号1のモジュラーポリペプチド構成要素は、本発明のDNA編集ツールの一部として、dsDNAの一本鎖を標的とされる部位で切断することができることが明らかにされている。したがって、人工ヌクレアーゼモジュールは、ニッカーゼの機能を与えると見なすことができ、したがって、人工ニッカーゼと呼んでもよい。より小型のそのようなゲノム編集ツールを達成できるほど、例えば、自己集合性ペプチドの多様性および/または他の構成要素の変動が低いヌクレアーゼが提供されると予想される。これには、同じパターンの任意の異なるペプチド配列および異なるペプチド配列の組合せも含まれる。
【0029】
配列番号1の人工ヌクレアーゼは、別のエフェクター構成要素、例えば、VP64などの転写活性化因子または下で論じられる別のエフェクター構成要素で置換しうる。さらに、柔軟な(flexible)リンカーのうちの1つまたは両方が代替のリンカーにより置換されうることが認識される。したがって、例えば、人工ヌクレアーゼ(または代替のエフェクター構成要素)とDBDの間のリンカー1は、リンカーL1a(配列番号69)として指定されるリンカーにより置換されうる。RSBDとDBDの間のリンカー2は、例えば、リンカー2b(配列番号70)により例示されるもっと短いリンカーにより置換されうる。本発明のモジュラーポリペプチド構成要素中のリンカーは、種々雑多でありDBD結合部位と標的切断部位の任意のペアについて最適化されうる。そのような変動は、既知の標的配列情報および適切な試験に基づく長さ必要条件計算の問題であると認識される。そのようなリンカーは、タンパク質安定性および/または可溶性を増加させるようにも設計されうる。
【0030】
ラムダN22タンパク質は、これが19ヌクレオチドボックスBラムダファージ配列を認識する周知の能力を備えた短い22アミノ酸配列にすぎないことに基づいて上に配列番号1として提示された実例となるApGetのためのRSBDとして選択された(Baron-Benhamou et al.(2004) Methods Mol. Biol. 257, 135-54)けれども、これはさらにまたは代わりに、RNAスキャフォールド、例えば、同じボックスB配列に対する所望の結合親和性を保持するその任意の変異体を含む、別のRSBDにより置換されてもよいことは認識される。RSは、複数のRSBDの結合を促進するように縦一列になって使用できることはさらに認識される。ターゲティング核酸のRSとして提供されるボックスB配列と対合したラムダN22タンパク質RSBDは、本明細書の下でさらに論じられるいくつかの他の周知のRNAアプタマー-ポリペプチド結合ドメイン対合のうちのいずれかにより置換しうる。
【0031】
小サイズのApGetのポリペプチド構成要素は、標的とされるDNA鎖の切断を生じさせ、ZFN、TALEN、メガヌクレアーゼおよびCRISPR-Cas実体などのより大きな分子量タンパク質を用いるための公知の遺伝子編集システムと比べてシステムのDNAスキャニングおよび認識効率を改善すると予想される。そのようなより大きな先行技術システムは、拡散速度がもっと低くなる。
【0032】
本明細書で提供される例証は、ApGetマイナス任意のヌクレアーゼまたは他のエフェクター構成要素、すなわち、DBDに連結され、適切なターゲティング核酸と結合している核酸認識モジュール、例えば、RSBDを含むだけなら、標的部位での転写を阻害するのに有用である可能性があることをさらに示している。そのようなシステムは、本明細書ではApGet-iシステムと呼ばれる。一部の例では、最終C末端リンカー配列、例えば、上の配列番号5のリンカーを付加してApGet-iポリペプチドを発現することが選択されうる。しかし、転写阻害のためには、ApGet-iポリペプチドマイナスそのようなリンカーが好ましくなる。
【0033】
本発明の核タンパク質複合体用のモジュラーポリペプチド構成要素が、発現系、例えば、大腸菌(E.coli)などの宿主細胞またはインビトロ発現系での、例えば、可溶性および/または精製および/または検出を助けるためにN末端および/またはC末端伸長のあるさらに長いポリペプチドの一部として最初に発現されてよいことは認識される。そのような伸長は、プロテアーゼ切断部位、例えば、TEVプロテアーゼ切断部位を含んでよく、それによりプロテアーゼ切断が標的改変用の最終モジュラーポリペプチドで望ましくない配列を取り除く;
図10および31を参照のこと。
【0034】
一部の場合では、膜を横断して、例えば、標的細胞中に送達することを促進する細胞透過性ペプチド(CPP)またはドメインと呼ばれることもある、タンパク質形質導入ドメイン(PTD)を含むモジュラーポリペプチド構成要素を発現することが選択されうる。再び、そのようなドメインは、プロテアーゼ切断部位を提供するリンカーと一緒に提供しうる。そのようなPTDは、N末端またはC末端に配置してよい。一般に、PTDは3つのタイプ:主にアルギニン、オルニチンおよび/またはリジン残基を含む、例えば、6~12アミノ酸長のカチオン性ペプチド、分泌された成長因子およびサイトカインのリーダー配列などの疎水性ペプチドならびに細胞特異的ペプチドに分類できる。例示的なPTDは、HIV TATタンパク質、ポリアルギニンペプチド配列、VP22ドメイン(Zender et al. (2002) Cancer Gene Ther. 9,, 486-96)、PDX1タンパク質形質導入ドメイン(Noguchi et al. (2003) Diabetes 52, 1732-1737)、切断型ヒトカルシトニンペプチド(Trehin et al. (2004) Pharma. Res. 21 1248-1256)およびポリリジン配列(Wender et al. (2000) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 97, 13003-13008)のPTDを含むがこれらに限定されない。正味電荷をほぼゼロまで減少しそれによって付着および細胞内への取込みを阻害するマッチングポリアニオン(例えば、Glu9またはE9)に切断可能なリンカーを介して接続されたポリカチオン性CPP(例えば、Arg9またはR9)を含む活性化可能なCPP(ACPP)が提供されうる(Aguilera et al. (2009) Integr. Biol. (Camb) 1, 371-381)。リンカーを切断すると、ポリアニオンが放出され、したがって、ポリアルギニンを局所的にアンマスクし、その固有の粘着性を活性化して膜輸送を促進する。
【0035】
本発明の核タンパク質複合体は、例えば、電気穿孔により活性複合体として、またはポリヌクレオチドにより発現されるポリペプチド構成要素とターゲティング核酸の一方もしくは両方と一緒に宿主細胞に送達されうる。
【0036】
したがって、さらなる態様では、宿主細胞での本発明の1つまたは複数の核タンパク質複合体を提供するための核酸または核酸の組合せが提供される。前述の通り、核酸は、好ましくは、例えば、本発明の人工ニッカーゼを含むモジュラーポリペプチド構成要素とターゲティング核酸の両方を発現できるベクター、例えば、AAVベクターでよい。1つよりも多い部位を標的とするために、1つよりも多いターゲティング核酸が宿主細胞に提供されてもよい。例えば、人工ニッカーゼを含む本発明の核タンパク質複合体のペアは、細胞へのベクター送達により、相同組換えのための配列鋳型と一緒におそらく単一のベクターにより提供されうる。
【0037】
本発明の核タンパク質複合体(単数または複数)の適用は、CRISPR-Cas/sgRNAを用いうるDNA改変のための完全一揃いの適用まで拡張する。したがって、本発明のさらなる態様として、本発明の1つもしくは複数の核タンパク質複合体または宿主細胞でのその提供のための1つもしくは複数の核酸を用いて1つまたは複数の標的核酸配列を改変するための方法が、ただし、主張されるそのような方法が、ヒトの生殖系列アイデンティティーを改変する方法またはヒトもしくは動物の身体自体で実行される医療の方法には拡張しないという条件で、提供される。前述の通り、望ましくは、1つまたは複数の核タンパク質複合体の提供のための単一のモジュラーポリペプチド構成要素は、ベクターからの発現により細胞において提供されうる。同じベクターは、好ましくは、必要な1つまたは複数のターゲティング核酸も発現しうる。
【0038】
本発明のさらにさらなる態様として、上で論じられる本発明の方法において使用するためにまたは治療的処置において使用するために、(i)本発明のゲノム改変ツール用の少なくとも1つのモジュラーポリペプチド構成要素、またはそれをコードするポリヌクレオチドおよび(ii)前記ポリペプチド構成要素(複数可)と連結できる1つもしくは複数のターゲティング核酸、またはそれをコードする1つもしくは複数のポリヌクレオチドの組合せが提供される。前述の通り、ポリペプチド構成要素と1つまたは複数のターゲティング核酸の両方は、好ましくは単一ベクターから発現されうる。
【0039】
本明細書で論じられるApGet核タンパク質複合体において使用するための人工ヌクレアーゼが本発明のもう1つの態様を表すことは認識される。触媒残基を組み入れる自己集合性ペプチドクラスターの使用は、エステラーゼとしての機能を果たすまたはいくつかの他の酵素反応を提供する人工酵素を生成するために以前使用された。しかし、発明者らはこの場合、サイズを最小限に抑えそれによってゲノム編集ツールにおいてエフェクターモジュールを提供するのによく適した人工酵素を提供しつつ必要な機能を果たすように設計されたアプローチで、連結された自己集合性短ペプチドを使用して、dsDNAにおいてニッカーゼ機能を提供できる人工ヌクレアーゼをはじめて獲得した。個々のペプチド単位をこのようにして連結すれば、自己集合性の程度を制御するのにも役立つ。
【0040】
本発明のそのような人工ヌクレアーゼおよびゲノム改変核タンパク質複合体は、以下に続く図を参照して下でさらに詳細に論じられる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【
図1】核酸構成要素(NAC)およびモジュラーポリペプチド構成要素からなる本発明のゲノム編集ツールの模式図である。NACは、TEが、標的の鎖領域に相補的な配列を提供するターゲティングエレメントであるターゲティングRNAである。RSは、RNAスキャフォールド結合ドメイン(RSBD)に結合するNACのRNAスキャフォールド部分であり、それによりNACはモジュラーポリペプチド構成要素と相互作用する。TEおよびRSは、必要な結合が生じることができるように、2つの機能的結合配列を接合する接続配列を有する単一核酸を形成する。DBDは、モジュラーポリペプチド構成要素のDNA結合ドメインであり、このドメインは標的DNAの既定の配列(PDS)を認識し、L1はDBDをゲノム改変のためのエフェクタータンパク質、例えば、ヌクレアーゼ(二本鎖切断のためのエンドヌクレアーゼまたは一本鎖切断のためのニッカーゼ)、転写活性化因子もしくはリプレッサーまたはメチラーゼに連結させるリンカーであり、L2はDBDとRSBDを連結するリンカーである。標的配列は、PDSに直ぐ隣接しているまたはPDSから間隔を開けていることも可能である。
【
図2】より具体的には、モジュラーポリペプチド構成要素が融合人工ヌクレアーゼを含むApGetシステムの模式図である。TEは、ニッカーゼ作用のために標的DNA領域で配列にハイブリダイズするターゲティングRNAのターゲティングエレメントである。ターゲティングRNAの認識エレメントは、接続配列によりTEに接合され、RNAスキャフォールド結合ドメイン(RSBD)に結合するRNAスキャフォールド(RS)を提供する。DBDは、標的dsDNAの一本の鎖上で既定の配列(PDS)に結合するDNA結合ドメインである。L1およびL2はペプチドリンカーである。PDSにDBDが結合すると、TEのその相補的配列へのハイブリダイゼーションが促進される。
【
図3-1】
図3a~c:12マーポリペプチドを示す選択されたファージクローンによるdsDNA標的の特異的結合および巻き戻しの証拠である。dsDNA標的は、2つのPDS配列:5’-GAGGTC-3’(PDS1)および5’-ACGGGT-3’(PDS2)を示した。選択されたファージクローンは、PDS1(反応3、4、5、10、11および12)またはPDS2(反応1、2、8および9)配列を含有するdsDNAと一緒におよびT7E1ヌクレアーゼ(反応1~5)またはサーベイヤーヌクレアーゼ(反応8~12)と一緒にインキュベートされた。モック反応は、選択されたファージクローンなしでの、T7E1(反応6および7)またはサーベイヤー(反応13および14)と一緒のdsDNAのインキュベーションである。ファージクローンがdsDNAに結合すると、部分的巻き戻しが生じることがあり、これがヘテロ二重鎖DNAに類似する構造を生成し、T7E1およびサーベイヤーヌクレアーゼによるエンドヌクレアーゼ的切断に対して適切な基質を提供し、それによってもっと速く遊走するDNAバンドが生じる(
図3aの矢印を参照のこと)。T7E1およびサーベイヤー媒介切断の定量化は、ImageJソフトウェアを使用するデンシトメトリー分析により実施した。結果は、それぞれ
図3bおよび3cに示されている。
【
図4】dsDNA標的およびdsDNA標的の巻き戻しにおける上で命名されたPDS1およびPDS2としての2つの6nt配列への化学的に合成されたペプチド1、2、3および4(実施例1における表2)の結合のためのT7E1酵素を使用する切断アッセイ結果である。矢印は、dsDNA標的がT7E1エンドヌクレアーゼ的切断すると増大するバンドを示す。これらの結果は、6nt PDS 5’-GAGGTC-3’に対するDNA結合ドメインとしてのペプチド1配列(配列番号4、表2では配列番号37としても示され、GGSリンカー配列を組み入れる)の選択をもたらした。
【
図5】RNAハイブリダイゼーションと共にPDSへのペプチド結合によるdsDNA標的の特異的結合および巻き戻しを評価するためのFRET実験を説明する模式図である。結果は、5’から3’への配列GAGGTCを有するPDS1へのペプチド1(表2に示される配列番号37)の結合についても示されている。FRETシグナルは、dsDNA標的を含有するPDS1を、ペプチドあり(2、4)のまたはペプチドなし(1、3)の5’FAM-RNAと一緒にインキュベートすると決定された。ペプチド1の結合は、FRETシグナルの増加から明らかなように、PDS1に隣接する配列へのRNAのハイブリダイゼーションを促進することが示されている。
【
図6】ターゲティングRNAのターゲティングエレメント(TE)の考えられる代替鎖ハイブリダイゼーションを示す本発明のゲノム編集ツールの模式図である。RSは、RNAスキャフォールド結合ドメイン(RSBD)を介してターゲティングRNAをモジュラーポリペプチド構成要素に繋ぐためのRNAスキャフォールドである。DBDは、短い既定の配列(PDS)に結合してヘテロ二重鎖形成を促進するDNA結合ドメインである。DBDは、核酸改変のためにリンカーを介してC末端エフェクタータンパク質に連結されている。
【
図7】7アミノ酸ペプチドLELDLHL(bDペプチド;配列番号8)の存在下でチオフラビンT(Tht)の発光シグナルであり、アミロイドβ-シート構造の生成を示す。
【
図8】リジンまたはアルギニンなどの正電荷残基による疎水性残基の置換により増加する正電荷を有する隣接しているペプチド単位と連結した同一のベータシート形成ペプチドの(a)ペンタマーまたは(b)デカマーを用いる人工ヌクレアーゼのための設計図である。H=疎水性残基。C=触媒アミノ酸。N=負のデザインペプチド単位(分子間重合化を制限するまたは回避する)、この場合、増加する正電荷を有するC末端およびN末端ペプチド単位。K=ベータシート形成ペプチドの疎水性残基と置き換わるリジン残基。C末端隣接ペプチドは、最終柔軟性可溶性テール、例えば、4マーNQRSを有してもよい。先行するペプチド単位のそれぞれは、例えば、ベータターンを提供する4アミノ酸残基のリンカーにより連結されている。
【
図9】「非反転および反転」人工ヌクレアーゼ設計である。「非反転」とは、ヌクレアーゼの個々のベータ鎖単位がNからC末端方向に同じ一次配列を共有していることを意味し、「反転」設計では、連続するベータ鎖単位の一次配列が反転している。ボックス1~7は、NからC末端方向へのベータペプチドのアミノ酸配列を示す。
【
図10】ApGetの完全なモジュラーポリペプチド構成要素におけるペンタマーおよびデカマーベータタンパク質ヌクレアーゼの構築を説明する図である。ベータペプチド単位(黒色)は5個または10個のベータペプチド単位を使用して構築される。単位は、接続ループのように一連のベータターンを使用して接続される。それぞれの設計は、分子間重合化を制限するために荷電残基(リジン、K)を組み入れる追加の隣接ベータペプチド単位、すなわち、負の設計(隣接する矢印)を含有する。ベータペプチド配列の配向は、平行または逆平行ベータシート折り畳みを模倣する試みで反転または非反転を模倣するように改変される(NからC末端方向へのベータペプチドのアミノ酸配列を示す
図9のボックス1~7を再び参照のこと)。それぞれの人工ベータタンパク質ヌクレアーゼ設計のN末端は、完全な合成ゲノム編集システムに必要なモジュールの残りを提供するApGet-iタンパク質のC末端上にApGet-1.0タンパク質と同じようにリンカー1で融合される。ApGet-iは、タンパク質発現および可溶性を増強するためにいくつかの精製/可溶性タグを含有できる。N末端とC末端の両方で6xHisタグに融合されたマルトース結合タンパク質を提供するそのようなタグが示される。C末端Hisタグは、スペーサー単位および全マルチエレメントタグを取り除くことができるTEV切断部位によりApGetのN末端から分離される。
【
図11】10マーのIbDペプチドを有するインビトロ転写および翻訳(IVTT)発現ApGet1.0タンパク質によるプラスミドDNA切断のゲル分析である。ApGet-i(C末端にApGet1.0のDBD酵素リンカーを追加で含んで発現される)およびタンパク質なし対照は、バッファー組成によりまたはIVTT混合物の混入タンパク質構成要素により可能になる活性について制御するためそれぞれのバッファー条件について実行された。プラスミドDNAは、金属なしまたは5mMのMn
2+もしくはMg
2+を含有する反応バッファーにおいてApGet1.0 10マー非反転、反転、ApGetiおよび水対照について、同一量の全IVTTタンパク質混合物(Ab 280nmにより)と混合された。Mn
2+存在下でのIVTTタンパク質とヌクレアーゼインヒビタータンパク質の切断を比較する二次反応も実行された。
【
図12】大腸菌(E.coli)細胞においてPDS標的配列部位へのターゲティング核酸によるApGet-iの動員を試験するのに使用されるプラスミドの図である。
【
図13】EPI300大腸菌(E.coli)細胞において(a)eYFP発現についてのディテクターおよび(b)LacZα発現についてのディテクターに対する転写活性を減少させるためのApGet-iを試験する結果である。例証での表5および6は、構築物試験をまとめている。提示される値は3通り行われた実験のeYFP/OD600またはLacZα/OD600の平均値であり、標準偏差が示される。
【
図14】大腸菌(E.coli)細胞において完全ApGetシステムを試験するのに使用される「エディター」プラスミドおよび「ディテクター」プラスミドの図である。ApGetモジュラーポリペプチド構成要素は配列番号1のアミノ酸配列であったが、人工ヌクレアーゼの代わりにFok1ヌクレアーゼドメインを有していた。
【
図15】
図14において例示される「エディター」および「ディテクター」プラスミドを使用して得られるApGet-FokI編集の結果である。ApGet-Fok1ヌクレアーゼ構築物による編集は、選択培地上での細菌成長の減少をもたらす標的含有ディテクタープラスミドの消失から明らかである(バー1~3を参照のこと)。示される結果は、ApGet-FokI発現エディタープラスミドと標的の「PDSin」配置および標的配列間に異なる長さのスペーサーを含有するディテクタープラスミドでのEPI300大腸菌(E.coli)細胞の同時形質転換からである。編集活性の検出は、アンヒドロテトラサイクリン(ATC)を用いたApGetの誘導1日後にOD600を測定することによった。対照実験は、EPI300細胞中への、ApGet-i発現エディター(ApGet構築物、ヌクレアーゼドメインを欠く)または非ApGet発現プラスミドとディテクタープラスミドの同時形質転換を含んだ。バーは、以下の:1.TEおよび5ntスペーサーディテクターを有するApGet-Fok12.TEおよび8ntスペーサーディテクターを有するApGet-Fok13.TEおよび14ntスペーサーを有するApGet-Fok14.TEを有しFok1および5ntスペーサーディテクターなしのApGet5.TEを有しFok1および8ntスペーサーディテクターなしのApGet6.TEを有しFok1および14ntスペーサーディテクターなしのApGet7.ベクター骨格単独および5ntスペーサーディテクター8.ベクター骨格単独および8ntスペーサーディテクター9.ベクター骨格単独および14ntスペーサーディテクターの通りであるApGet-Fok1構築物およびディテクター標的の発現に対応している。
【
図16】細菌細胞において人工ヌクレアーゼを有するApGetシステムを試験するのに使用した「エディター」プラスミドの概略図である。
【
図17】細菌細胞において人工ヌクレアーゼを有するApGetシステムを試験するのに使用した「ディテクター」プラスミドの概略図である。ディテクターは、PDS標的配列エレメントのペアについて、「PDS-out」配置(構築物f)または「PDS-in」配置(構築物g)で設計された。PDSinおよびPDSoutディテクターの標的およびPDS配列は、
図14でのように、正確に相同性アーム間に位置しており、
図14での標的およびPDS配列と同一である。首尾よくいったターゲティングは、適切なHDR鋳型の存在下でナノルシフェラーゼ活性の観察により示される。ナノルシフェラーゼに対する相同性指向修復(HDR)鋳型は、ApGetを分離単位として発現する同じプラスミド上で構築された。
【
図18】
図18および
図19は、本発明のゲノム編集ツールのペアが、標的ゲノムDNAの両方の鎖を選択された部位で改変する、例えば、切断するのに用いられる場合の考えられる代替のヘテロ二重鎖相互作用を示す模式図である。
図18では、それぞれのポリペプチド構成要素はFok1ヌクレアーゼドメインを含むものとして示される。2つのそのようなヌクレアーゼドメインは、標的DNAの反対鎖上の異なる配列を標的とする2つのターゲティングRNAの使用により機能的エンドヌクレアーゼを提供するために二量体化されるものとして示される。2つのDNA結合ドメインは、それぞれが、Fok1エンドヌクレアーゼが切断する標的DNAの完全相補的領域においてPDSに結合するものとして示される。PDS配列は両方が、標的配列のペアの内側である。これは、PDS-in位置を用いると呼ばれる。
図19では、それぞれのポリペプチド構成要素は、例えば、本明細書に記載される融合人工ニッカーゼでもよい融合酵素を含むものとして示される。この場合、それぞれのDBDは、異なる標的鎖とハイブリダイズする2つの異なるターゲティングRNAのターゲティング配列により形成される単一ヘテロ二重鎖領域の外側でPDSに結合するものとして示される。酵素ドメインのペアのそれぞれは、ヘテロ二重鎖領域内部の異なる鎖上で作用する。PDS配列のペアは標的配列のペアの外側にあるので、この図式はPDS-out位置を用いると呼ばれる。
【
図20】
図20aおよびb:破壊されたナノルシフェラーゼオープンリーディングフレームの相同性指向修復の引き金を引くことにより機能的ナノルシフェラーゼを回復するためのApGet編集の試験の結果である。種々の配置のApGet1.0(
図16)用の発現カセットを含み、ナノルシフェラーゼHDR鋳型用の発現カセットを有する種々のエディタープラスミドは、ナノルシフェラーゼの破壊されたオープンリーディングフレームを発現し標的を「PDSin」および「PDSout」配置で有するディテクタープラスミドで同時形質転換された(
図17)。ディテクターを有するApGet1.0の同時形質転換体のコロニーはIPTGを備えた液体培地においてまたは同じ構築物および対応する抗生物質についてIPTGありおよびなしで増殖され、Nanoluc/OD600シグナルは次の日に分析された。エラーバーは3実験の標準偏差である。
【
図21】PDS1(5’-GAGGTC-3’)の変異体への結合に対する配列番号4のDBDの柔軟性を評価するのに使用されるApGet-i発現エディタープラスミドを図示している。
【
図23】
図23aおよびbは、
図22のディテクタープラスミドと一緒に使用される対照プラスミドおよび種々の6マーPDSに対する試験されたDBDの結合能力についての結果を示す。
【
図24】哺乳動物細胞系においてApGet変異体の一過性発現のために設計されたApGet発現プラスミド構築物の概略図である。
【
図25】高コピー数の細菌複製起点および抗生物質耐性遺伝子と一緒に
図24に示されるプラスミド構築物中に組み入れられた変異ApGet発現単位の概略図である。それぞれの発現単位は、ApGetのN末端で、RSBDに連結する核局在化シグナルが先行する検出タグ(FLAG(登録商標)エピトープタグ)を提供した。
【
図26】PD-L1遺伝子のエキソン4におけるApGetターゲティング領域のレイアウトである。PD-L1標的部位と命名されたTE結合領域には、PDS部位が隣接している。TE結合領域の方向は、ApGetに対するフォワードおよびリバース相補鎖結合部位を示す。
【
図27】ApGetをトランスフェクトされた細胞培養物におけるPD-L1発現の減少を示す図である。それぞれの画像(ImageJ)由来の細胞試料におけるPD-L1発現の定量化。エラーバーは、試料中の個々の細胞のシグナル強度の標準偏差である。
【
図28】(a)PD-L1遺伝子中の標的領域のApGet媒介修復を調べるために実施例6(ii)で論じられるゲノム標的領域およびドナー鋳型構造の描写ならびに(b)用いられる編集構成要素およびHDRイベントのPCR確認についての試料結果を提示する表を提供する。
【
図29】実施例(6)(iii)で報告されるApGet発現構築物を用いたHEK293細胞におけるTSKU遺伝子のターゲティングを評価するのに使用されたプライマーのレイアウトを用いたゲノム参照配列を示す。
【
図30】非処理試料とApGetトランスフェクト試料の間の野生型配列からの置換のレベルを比較した、サンガーシーケンシングを使用する実施例(6)(iii)で報告される研究からのTIDER分析である。
【
図31】大腸菌(E.coli)発現系から精製された組換えApGetタンパク質の配置である。配置は、実施例7で論じられる種々の精製、可溶性および切断タグを詳細に述べる。
【
図32】HEK293T細胞におけるASCL-1遺伝子の転写活性化について実施例8で論じられるApGeti-VP64構築物を発現するために用いられる発現カセットの図解である。
【
図33】異なるプロモーター位置を標的とする4つのNACと併せて発現されるApGeti-VP64構築物を使用してHEK293T細胞におけるASCL-1遺伝子の転写活性化の結果およびdCas9-VP64融合構築物との比較である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
詳細な説明
本発明のゲノム編集ツールを提供するためのターゲティング核酸は一般にはRNAになる。ターゲティングエレメント(TE)は標的DNA上の配列に相補的である。「相補的」とは、TEが標的配列とハイブリダイズしてそのターゲティング目的を果たすことと理解され、一般に、TEは標的配列と完全に相補的になる。
【0043】
一般には、TEは15~25ヌクレオチド、例えば、15~20または21ヌクレオチド、好ましくは18~20または21ヌクレオチドである。しかし、もっと長いまたはもっと短いTE、例えば、約10~35ヌクレオチドのTEが一部の状況では実行可能になりうる。しかし、一本鎖核酸、例えば、一本鎖RNAでゲノム中の特定の配列を標的とするためには、選択された標的配列が巻き戻されしたがって接近可能状態であることが必要である。本発明者らは、この例では、例えば、3~6ヌクレオチドの近位の短い既定dsDNA配列(PDS)に結合できる小型のペプチドを提供することによりこれを助けることができると仮定した。理論に縛られたくはないが、ペプチド(DNA結合ドメインまたはDBD)とPDSの間の高親和性結合相互作用はdsDNAヘリックスの隣接領域でワトソン-クリック塩基対合を不安定にすることがあり、それが今度はTEのその相補的標的領域へのハイブリダイゼーションを促進すると推論された。TEがRNA配列である場合、それによってRループ、すなわち、一本鎖DNAの配列が、その相補体が侵入してくるRNA鎖とRNA/DNAハイブリッドヘリックスを形成する間に置き換えられる、さもなければ二本鎖DNAの領域が形成される。前述の通り、このタイプのDNA結合ドメインは、必要なゲノム改変の効率を最適化するのを助ける本発明のゲノム編集ツールの不可欠な要素と見なされる。
【0044】
既定の配列へのそのようなDBDの提供は、種々の方法により達成できる。そのような方法は、リガンド設計のためのコンピュータによる計算方法の使用を含んでよい。しかし、本明細書で例示される好ましい方法は、選択された標的dsDNA配列に対する結合親和性を有する表示されたペプチドを選択するためのファージディスプレイペプチドライブラリーの使用である。そのようなバイオパニング法の使用は、GGSリンカーによりファージマイナーコートタンパク質IIIのN末端に融合された約1×109のユニーク12アミノ酸長ペプチドを含有する市販のM13ファージディスプレイライブラリーを使用してのDBD候補の選択により本明細書では例示される。実施例1を参照のこと。この手段により、組み入れられたC末端GGSを備えた好ましい15マーペプチドが選択され(上の配列番号4を参照)、このペプチドは、PDSとしての考えられる選択を表す6マーdsDNA配列5’GAGGTC3’に結合する。これは用いてもよい1つのDBD-PDS組合せだけを表す。他の所望の短いdsDNA配列に結合する多くの代替のDBDペプチドを見つけうることが認識される。
【0045】
前述の通り、DBDは、例えば、70~75以下のアミノ酸残基、例えば、30マー以下、25マー以下、20マー以下、好ましくは15マー以下のポリペプチド配列でもよい。本発明のゲノム編集ツールのための全ポリヌクレオチド構成要素のサイズを最小限に抑えるという望ましさを踏まえつつ、しかし、15以下のアミノ酸、例えば、約12~15アミノ酸のDBDの提供が支持される(おそらく、C末端ではGGSエレメントを含む)。さらに、DBDは必ずしも6bpの認識を必要としないことがあると認識される。それは6bp未満、例えば、5’NNGG3’または5’GG3’が可能であろう。
【0046】
前述の通り、選択されたDBDは、1つよりも多い既定の配列、例えば、1つよりも多い6マーdsDNA配列に対する結合親和性を有しうる。これは、異なるDNA部位で使用する柔軟性を提供するのに支持されうる。したがって、配列番号4の例示されるDBDは、PDSとして5’GAGGTC3’以外のいくつかの6マーdsDNA配列が提示される場合、同じターゲティング核酸を用いるのが効果的であることが示された;実施例5および
図23bを参照のこと。例えば、配列5’TTGGTA3’、5’AAAAAA3’または5’AAAGTC3’のPDSとも対合することは特に支持されうる。
【0047】
DBDは、例えば、CRISPR-Casシステム、例えば、Cas9 CRISPRシステムがPAM制限のために接近できないゲノムの部分を標的とするのに選択しうる。DBDは、例えば、CGG領域においてCas9 PAM、すなわち、5’-NGG-3’を提供する領域よりむしろゲノムのATリッチ領域に結合するように特に設計しうる。
【0048】
ターゲティング核酸構成要素は、モジュラーポリペプチド構成要素のモジュールが結合しなければならない。好ましくは、これは末端モジュールになる。この相互作用は、核酸をポリペプチド構造中の認識ドメインと連結することで種々の手段により知られうる。例えば、ターゲティング核酸構成要素は、モジュラーポリペプチド構成要素との相互作用のためのその認識エレメントとして、特異的結合ペアのメンバーである非核酸標識を提示しうる。これは、モジュラーポリペプチド構成要素により提示されるその結合パートナーと結合する。例として、特異的結合ペアは、ビオチン-ストレプトアビジンでもよくまたは核酸は抗原エピトープと結合していてもよく、その場合、モジュラーポリペプチドの認識ドメインはエピトープに結合するためのScFVを含んでいてよい。しかし、さらに好ましくは、ターゲティング核酸構成要素がRNAである場合、前述の通り、提供される認識エレメントは、本明細書ではRNAスキャフォールド結合ドメイン(RSBD)と呼ばれるポリペプチド構成要素のモジュールに結合するRNAモチーフ(あるいは、RNAスキャフォールドと呼ばれる)になる。多くのそのような天然に存在するRNAスキャフォールド-RSBD相互作用が知られており、多くの場合、文献では、RNA配列をタンパク質ドメインに繋ぐためのRNAアプタマー-結合ドメイン相互作用と呼ばれる。そのような結合複合体の例は、(i)19ntボックスB RNAモチーフおよびラムダファージアンチターミネーターNタンパク質(ラムダN22ペプチド;上記配列番号2を参照)のその同族22アミノ酸RNA結合ドメイン、(ii)MS2ファージオペレータステム-ループおよびそのためのMS2コートタンパク質(MCP)結合ドメイン配列、(iii)PP7ファージオペレータステム-ループ配列およびそのためのPP7ファージコートタンパク質(PCP)結合ドメイン配列、(iv)ファージCom RNAスキャフォールド配列およびそのためのファージCom結合ポリペプチド、(v)テロメラーゼRNA Ku結合モチーフおよびそのKuタンパク質またはRNA結合セクションならびに(vi)テロメラーゼRNA Sm7結合モチーフおよびそのSm7タンパク質またはRNA結合セクションを含む。しかし、非天然RNAアプタマーまたはスキャフォールドは、モジュラーポリペプチド構成要素の合成結合ドメインに結合するターゲティングRNAの認識エレメントとして好まれうる。したがって、上記の天然に存在するRNAスキャフォールド-RSBDペアのいずれも、必要な結合親和性が維持されるという条件で、そのペアのどちらかのまたは両方のメンバーが突然変異配列である変異体で置換しうる。ファージディスプレイペプチドライブラリーは、RNAスキャフォールド、例えば、1つ以上のヘアピンを含むRNA構造に適したペプチド結合活性の同定のためにペプチド-RNAスキャフォールド結合ペアまたはペプチドライブラリーの代替のパニングを達成するのに再び用いてもよい。RNAスキャフォールドの長さは好ましくは、約15と25ヌクレオチドの間、例えば、ラムダボックスB配列により例示されるように19~20ヌクレオチドであるべきである。RNAスキャフォールド-RSBDペアは、高親和性相互作用を提供するためおよびいかなる宿主ゲノム配列とのスキャフォールド配列のオフターゲット非特異的相互作用をも減らすことを視野に入れて複数の接触点を有する。
【0049】
ターゲティング核酸もしくはそのRNAスキャフォールドエレメントおよび/またはコネクター配列が1つもしくは複数の改変ヌクレオチドおよび/または1つもしくは複数の改変ヌクレオチド間結合を組み入れることは選択しうる。この目的での改変ヌクレオチドは、例えば、2’-O-メチル類似体、2’-フルオロ類似体または2’デオキシ類似体を含みうる。2’ヒドロキシル基が2’C,4’-C-オキシメチレン結合を形成する糖環の4’炭素原子に連結されて、それによって二環式糖部分を提供するロックド核酸(LNA)モノマーの使用を想定してもよい。2-アミノプリン、5-ブロモウリジン、5-メチルシチジンおよび5-メトキシウリジンなどの改変塩基を用いてもよい。1つまたは複数のヌクレオチド間結合は、例えば、ホスホロチオエート結合でもよい。細胞環境において安定性および必要な活性を助けるためにRNAオリゴヌクレオチドを改変するためのそのような方法は周知であり、いかなるそのような方法も、本発明に従って使用するためのターゲティング核酸を設計する際に利用されうる。ターゲティング核酸の化学合成を核タンパク質複合体のRNP送達のために実行できる場合には、そのようなRNAオリゴヌクレオチド改変が想定されうることは認識される。
【0050】
その同族結合タンパク質に対する結合親和性を保持し本発明のターゲティング核酸において用いうる改変野生型ファージアプタマーの特定の例として、国際公開第2022/011232号パンフレット(Horizon Discovery Limited and Dharmacon、Inc;published 13 January 2022)でRNAステム-ループモチーフとして教示されるMS2ステム-ループ変異体、例えば、Aがステム-ループの5’末端から10位の2’-デオキシ-2-アミノプリンまたは2’-リボース-2-アミノプリンに変更されるMS2モチーフ変異体(同じ公開WO出願の
図2Bに示されるF-5変異体置換a)を参照しうる。
【0051】
一部の例では、システムの効率を増強するためにまたはRSBDを介して1つよりも多いタンパク質との相互作用を促進するためにターゲティングRNA上に2つ以上のRNAスキャフォールド(同じまたは異なる)、例えば、コネクター配列により分離された直列の2つの異なるRNAスキャフォールドを提供することが望ましい可能性がある。このようにして、単一ターゲティングRNAは、本発明の核タンパク質複合体用の同じでも異なっていてもよい1つよりも多いモジュラーポリペプチド構成要素と相互作用することがある。1つよりも多いRNAスキャフォールドを有するそのようなターゲティングRNAは、適切なRSBDに接合している別のエフェクター構成要素、例えば、塩基エディターを動員するのにも使用しうる。
【0052】
本明細書で報告される概念研究の最初の証明を目的として、前述の通り、ボックスB RNAモチーフは、その同族結合ペプチド、ラムダN22
【0053】
【化7】
を提供するモジュラーポリペプチド構成要素を有するターゲティングRNAスキャフォールドとして選択された。(Baron- Benhamou et al. (2004) Methods Mol. Biol. 257, 135-154, 'Using the lambdaN peptide to tether proteins to RNAs'参照)
【0054】
ターゲティング核酸の選択された認識エレメントが何であれ、例えば、2、3、4、5または6ヌクレオチドの短いコネクター配列が一般に、必ずしもではないが、ターゲティングエレメントと認識エレメントの間に提供されて、それぞれその相補的配列と結合ドメインの両方への正確な結合を促進する。RNAスキャフォールドは、核酸構成要素の5’または3’末端に置くことができる。したがって、下に与える実施例では、RNA核酸構成要素は、短いコネクターAATTTが太字で示されるBoxB RNAスキャフォールド配列に融合されている以下の配列の5’末端に融合されていた。
【0055】
【0056】
この配列でのコネクターは、代替の配列が、接合したターゲティングエレメント(TE)とRNAスキャフォールド(RS)の両方の正確な機能を可能にするという条件で、代替の配列により置換しうることが認識される。その上、TEまたはRSは5’末端配列でもよい。
【0057】
本発明の遺伝子編集ツール用のターゲティング核酸中のTEは、dsDNAのどちらかの鎖に結合するように設計しうる。
図6を参照のこと。
【0058】
完全なモジュラーポリペプチド構成要素は、それぞれのモジュールがその所望の目的を果たす能力を有するようにも設計しなければならず、したがって、1つまたは2つのモジュール間リンカーを必要としうることが認識される。したがって、ターゲティング核酸を繋ぐため、選択されたDBDおよびエフェクター構成要素と認識ドメインのうちの1つまたは両方の間でリンカー-
図1、2および6のいずれかのリンカー1および2として示される異なるリンカーペプチドのうちの1つまたは両方、が提供されうる。二次構造も望ましくないドメイン相互作用も与えないこの目的に適したリンカーは周知である;例えば、Chen et al. (2013) Adv. Drug Deliv. Rev. 65, 1357-1369, 'Fusion Protein Linkers: Property, Design and Functionality'を参照のこと。一般に、例えば、一続きのグリシンおよびセリン残基またはXTENペプチドリンカーで構成された柔軟なリンカーが好ましい (Komor et al, “Programmable Editing of a Target Base in Genomic DNA without Double-Stranded DNA Cleavage.” Nature 533 (7603) p.420-424)。適切なリンカーは、2~15またはそれよりも多いアミノ酸長、例えば、(Gly)nまたは(GGGGS)nでもよい。実施例8の研究に用いられるリンカー1aも参照のこと。一部の例では、15アミノ酸よりもはるかに長い柔軟なリンカー、例えば、RSBDとDBDを連結する配列番号1のApGet中のリンカーにより例示される最大35アミノ酸-(GGGGS)
7が好まれることがある。実施例8で用いられるこのリンカーの短縮バージョン(GGGGs)
6も参照のこと。いかなるそのようなリンカーの長さも、好ましくは、モジュラーポリペプチド構成要素の完全長ができる限り低い、例えば、本明細書に記載される人工ヌクレアーゼを含む場合、例えば、好ましくは220~250以下のアミノ酸であるという願いを視野に入れて、最小限に抑えうる。しかし、例えば、異なるエフェクター構成要素を使用するならば、もっと長い、例えば、300アミノ酸長またはそれよりも長いモジュラーポリペプチド構成要素が一部の場合では必要とされうる。
【0059】
上文に示されるエフェクター構成要素は、(i)二本鎖切断を生じさせるためのエンドヌクレアーゼ、例えば、Fok1ヌクレアーゼドメイン、(ii)ニッカーゼ、(iii)VP64などの転写活性化因子、(iv)転写リプレッサー、(v)エピジェネティックモジュレーター酵素、(vii)リコンビナーゼ、(viii)トランスポザーゼ、(ix)インテグラーゼおよび(x)例えば、塩基エディターと共に本明細書に記載される人工ニッカーゼなどのニッカーゼを含む核酸塩基修飾酵素構築物を含むDNAを改変する(構造または調節を改変する)のに使用するための多様な範囲の部分のいずれかでよい。
【0060】
前述の通り、エフェクター構成要素はDNA結合能力がないことが好まれうるけれども、エフェクター構成要素がある程度のDNA結合能力を有することは、それがターゲティングエレメントおよびDBDにより指示される部位特異的改変を妨げないという条件で、排除されない。例えば、ゲノム中への外因性核酸の部位特異的挿入のために、Cas9タンパク質をトランスポザーゼまたはHIVインテグラーゼと融合させることは知られている。トランスポザーゼまたはインテグラーゼは、今記載されているゲノム編集用のモジュラーポリペプチド構成要素中のエフェクター構成要素として同様に用いてもよく、同時供給される外因性核酸の部位特異的挿入は、DBDの結合により促進されるターゲティングエレメントのその相補的配列へのハイブリダイゼーションにより指示される。
【0061】
しかし、上述の通り、今下でさらに記載される人工ニッカーゼの提供が特に好ましい。エフェクター構成要素は、例えば、おそらく本明細書に記載される人工ヌクレアーゼを含むニッカーゼが塩基エディターまたは逆転写酵素と一緒に提供される融合構築物でもよい。
【0062】
人工ヌクレアーゼ
ベータシート構造を形成する連結された自己集合性ペプチドのマルチマーを含み、
(i)前記マルチマーの自己集合性ペプチドがそれぞれ交互パターン(alternating pattern)の疎水性と親水性残基を示し、それぞれのそのようなペプチドの親水性残基のすべてまたは少なくとも一部分がアミノ酸の触媒三残基(catalytic triad)または3つよりも多い触媒アミノ酸を表し、それにより前記マルチマーはdsDNAを両方の鎖でまたは単一の鎖で切断することができ、すなわち、ニッカーゼ活性を示し;
(ii)自己集合性ペプチドはリンカーにより接合されて、マルチマー数を、例えば、20以下に、例えば、4~15または16に、好ましくは10以下に、さらに好ましくは5~10に制限すし、
(iii)N末端およびC末端隣接配列は、1つまたは複数の正電荷残基の包含に起因して、例えば、1つまたは複数のリジンまたはアルギニン残基の包含により、マルチマーのペプチド単位と比べて正電荷が増加しているヌクレアーゼタンパク質のマルチマー間での凝集を防ぐまたは制限するためにマルチマーに連結されて提供される、人工ヌクレアーゼが今や提供される。Nおよび/またはC末端でマルチマーをキャッピングする他の手段を用いて、例えば、可溶性および/または安定性を助けることにより実行を助けてもよい。
【0063】
ベータシートにより構造は、望ましくはアミロイド様ベータシート構造として理解される。自己集合性ペプチドは、例えば、逆平行ベータシートを獲得することを視野に入れて選択され連結されうる。それぞれのそのようなペプチド間のリンカーは、同じまたは異なる長さを有することができる。したがって、リンカー長は、2~25アミノ酸でよく、例えば、4、5、6、7、8、9、10、11または12マーリンカーを選択しうる。ベータターンまたはベータターン様ループを提供するのに適した短いリンカー、例えば、4マーは、下でさらに論じられ例示されるように、天然のタンパク質中でのそのようなターンのアミノ酸組成の知識に基づいて設計しうる。
【0064】
適切な自己集合性ペプチド(あるいは、単一折り畳み構造でのように、折り畳みペプチドと呼ばれる)は、チオフラビンT(Tht)結合により同定することができる構造を形成する。チオフラビンT結合の蛍光放射アッセイは、アミロイド線維を検出するために一般に用いられる。アミロイド線維に結合すると、ThTは、450nmで励起された場合おおよそ482~485nmで強力な蛍光シグナルを発する(Xue et al. (2017) Royal . Soc. Open Sci. 4: 160696, 'Thioflavin T as an amyloid dye: fibril quantification, optimal concentration and effect on aggregation)。
【0065】
C末端隣接配列は、好ましくは、そのC末端で可溶性を助ける柔軟なテール配列、例えば、4マーNQGS[配列番号10]またはもっと長い配列も提供しうる。
【0066】
別々の酵素実体としてまたは融合構築物の一部としての産生では、人工ヌクレアーゼを含むそのようなポリペプチドは、望ましくは、精製および/もしくは可溶性を助けるためにN末端タグ、例えば、精製を助けるためにHisタグ、例えば、ヘキサHisタグ、または可溶性を助けるために1つもしくは複数のHisタグを含むタグおよび/もしくはマルトース結合タンパク質(MBP)などの配列と一緒に産生されてもよい。好ましくは、そのようなタグは、例えば、SUMOまたはTEVタグから選択される切断可能タグになる。したがって、適切なタグは、MBPに連結された6x Hisを、TEVプロテアーゼ切断部位から短いスペーサーにより分離されたさらなるC末端6x Hisタグと一緒に含みうる;
図10を参照のこと。
【0067】
エフェクター構成要素として本発明の合成ゲノム編集ツールへの包含では、本明細書で開示される人工ニッカーゼが好ましい。しかし、本発明はもっと一般的には、今教示される人工ヌクレアーゼを含むまたはそれからなるポリペプチドまで拡大することが認識される。
【0068】
前記マルチマーの自己集合性ペプチドは、上で論じられた配列番号6の人工ヌクレアーゼにおけるように、同一でもよいことは認識されるが、同じ長さ、例えば、7マーの2つ以上の非同一ペプチドを使用することを選択しうる。好ましくは、自己集合性ペプチドの交互疎水性残基は、N末端残基で始まる、ロイシンおよび/またはイソロイシン、最も好ましくは、イソロイシンでよい。しかし、疎水性アミノ酸残基は、例えば、バリンを含む任意の疎水性アミノ酸残基からも選択してよい。長さは、例えば、6マー~15マー、好ましくは、7マー~11マー、例えば、7マーまたは9マーでよいが、7マー、好ましくは、N末端残基から始まって交互イソロイシン残基を有する7マーが好まれる。
【0069】
マルチマーのペプチドはN末端からC末端方向に連続して連結されてよくまたは交互ペプチドは全体を通してまたは部分的に逆転させてもよく、便宜上、好ましくは同一になることが認識される。したがって、7マーの自己集合性ペプチドで形成されるマルチマーは:
(i)非反転マルチマー:(H-C1-H-C2-H-C3-H-(X)n-H-C1-H-C2-H-C3-H)n
または
(ii)反転マルチマー:(H-C1-H-C2-H-C3-H-(X)n-H-C3-H-C2-H-C1-H)n
として表してもよく、
H=疎水性残基、好ましくは、ロイシンまたはイソロイシン、最も好ましくは、イソロイシン、
C1、C2およびC3はそれぞれが異なる触媒アミノ酸であり、
Xは、多様であってよいアミノ酸リンカー、例えば、4、5、6、7、8、9、10、11または12マーのいずれか、好ましくは、ベータターンまたはベータターン様ループを提供する目的で設計された4マー、例えば、NDGG、DSSG、SSGS、NNGN、GSDG、GNSG、DNGG、DSDG、SSSG、GSEG、GDSG(配列番号11~21)ならびにグリシン(G)、極性アミノ酸セリン(S)、アスパラギン(N)、グルタミン(Q)、およびスレオニン(T)ならびに荷電アミノ酸であるグルタミン酸(E)およびアスパラギン酸(D)から選択されるアミノ酸の組合せからなる他のリンカーを表す。そのようなリンカーは、マルチマーサイズを制御するために任意の適切な自己集合性ペプチドと一緒に、ならびに所望のベータ構造設計の安定化および可溶性を助けることを視野に入れて用いてよい。考えられる選択肢は、提供された例示を考慮するタンパク質構造分析および設計の分野の当業者により容易に識別しうる。
【0070】
好ましくは、すべての自己集合性ペプチドは、NからC末端方向に連結される。このようにして、連続モノマー単位の集合は、下でさらに論じられるように、逆平行ベータシート構造で提供されうる。
図8および9を参照のこと。
【0071】
C1、C2およびC3は、dsDNAの一本鎖に切れ目を入れることができることで知られている天然に存在するヌクレアーゼの異なるアミノ酸のトリオ、例えば、そのようなヌクレアーゼの既知の触媒三残基に対応しうる。好ましくは、選択された触媒アミノ酸は、エンドヌクレアーゼ、例えば、Cas9ヌクレアーゼ中に存在するRuvCヌクレアーゼドメインの触媒アミノ酸、すなわち、グルタミン酸(E)、アスパラギン酸(D)およびヒスチジン(H)に対応しうる。
【0072】
Cas9ヌクレアーゼ中に存在するRuvCヌクレアーゼドメインは、4つの触媒アミノ酸、His983、Asp986、Asp10およびGlu762を有すると報告されていた。これらの触媒アミノ酸のいずれかの突然変異は、機能の消失をもたらすことが明らかにされた(Nishimasu et al. (2014) Cell 156, 935-949)。しかし、上記のマルチマーという文脈では、簡略化のために交互の疎水性残基を有する同一のペプチド単位、例えば、単一のHis、AspおよびGluだけを用いることが可能であり、それによりペプチド単位は超分子構造のような安定なβシートを形成する傾向を維持し、必要な触媒アミノ酸残基すべてが、機能しているニッカーゼに近接されることが明らかにされた。
【0073】
したがって、例として、上記の結合のための好ましい7アミノ酸ペプチドはIEIDIHIである。このペプチドは、5~11の間のいずれかの異なる長さのアミノ酸で作ることもできると考えられる。本発明の人工ヌクレアーゼでは、そのようなペプチドは、任意選択的に、マルチマー構造において、前述のアスパラギン酸(D残基)を提供するリンカー配列に融合させうる。D残基は、完全なヌクレアーゼの可溶性を潜在的に増加させることを視野に入れてベータターン設計中に組み入れてよい。
【0074】
上述の通り、同一自己集合性ペプチドのマルチマーは、凝集傾向を減少させるために、正電荷が増加したN末端およびC末端配列が隣接する。これは、正電荷残基による、マルチマー用の自己集合性ペプチドに他の点では同一であるペプチドにおける少なくとも1つの疎水性残基の置換、例えば、好ましくはリジンによる疎水性残基の置換によるものでよい。例えば、マルチマーが、ロイシンまたはイソロイシンから始まる交互の疎水性および触媒残基の7マー単位、好ましくは、例えば、IEIDIHIの7マー単位で形成される場合、そのようなC末端およびN末端単位は、N末端から3位および/または5位でのイソロイシンに対する正電荷アミノ酸、例えば、リジン(K)残基置換を除いて同一配列を有してよい。したがって、N末端隣接配列は、同一ペプチド単位のマルチマーの第1の7マーペプチド単位への結合のために、4マー連結配列に融合したIEKDIHI(配列番号22)またはIEIDKHI(配列番号23)でもよい。C末端隣接配列は、追加のC末端テール配列を有する同じ配列から選択しうる。したがって、N末端隣接配列はIEKDIHIでよく、C末端隣接配列はIEIDKHIでよく、またはその逆でもよい。1つまたは両方のリジン残基は、交互正電荷残基、例えば、アルギニンでよい。このようにして、例えば、そのような隣接単位が10の同一ペプチドのマルチマーに連結されている場合は、ヌクレアーゼ集合体の反発が存在する。前述の通り、C末端テール配列は、可溶性を助けるように選択しうる、例えば、NQGSである。
【0075】
連結された合成ペプチドから完全に形成されるそのような機能的ニッカーゼの例示により、以下の通り:
【0076】
【化9】
10の同一自己集合する7マーペプチド(疎水性イソロイシン残基を有するペプチドIbD)は太字で示されており、
すべてNからC末端方向に個々のペプチド単位として代わりに表すことができる配列番号6のアミノ酸配列が提供される。
【0077】
これらのペプチドはすべて、N末端からC末端方向に、ベータターンを提供することを目的とする4マーリンカーにより連結されているので、連続するペプチドモノマーは逆平行ベータシート構造において以下の通りに:
【0078】
【化10】
反対方向に配向されることは認識される。
【0079】
ベータターンの1つまたは複数は変動しているおよび/またはC末端NQGS配列でもよく、所望のヌクレアーゼ活性を維持することは認識される。
【0080】
配列番号1の人工ヌクレアーゼの置換
配列番号1で提供される人工ヌクレアーゼは、DBDへのリンカーの維持または変更を用いて、標的dsDNA部位の改変のために望まれるいかなる代替のエフェクター構成要素によっても置換しうることは認識される。例証として、今教示されるそのような機能的合成ゲノム編集ツールは、Fok1ヌクレアーゼドメイン(本明細書ではApGet-Fok1構築物と呼ばれる)により置換された配列番号1の人工ヌクレアーゼを有する。DBDに連結された核酸認識モジュールを含むいかなるApGet-iも、Fok1ヌクレアーゼドメインにさらに連結しうることは認識される。そのようなモジュラーポリペプチド構築物は、例えば、標的部位でdsDNAを切断できる機能的Fok1ヌクレアーゼを提供するために異なるTEを有するターゲティング核酸のペアと一緒に使用しうる。このための1つの配置が
図18に図示される。ディテクタープラスミドに二本鎖切断を生じさせるApGet-Fok1構築物の発現のために
図14に図示される「エディター」プラスミドを用いる下の例証も参照のこと。DBDおよびターゲティングエレメントは、異なるdsDNA標的部位で二本鎖切断を生じさせるように変更しうることは認識される。しかし、今教示される遺伝子編集ツールの完全なモジュラーポリペプチド構成要素の発現のためにサイズを最小に抑えることを視野に入れると、Fok1ヌクレアーゼドメインを本発明の人工ニッカーゼにより置換することが好ましい。
【0081】
さらなる例証として、配列番号1で提供される人工ヌクレアーゼは、転写活性化因子、例えば、VP64により置換され、得られたモジュラーポリペプチドはプロモーター位置を標的とするように設計された1つまたは複数のターゲティング核酸と組み合わされ、それによってプロモーターと作動的に連動した1つまたは複数のコード配列の転写を活性化するまたは増強しうる;実施例8を参照のこと。そのようなエフェクター構成要素置換は、RSBD、DBDおよびエフェクター構成要素の必要な機能が維持されるという条件で、RSBD、DBD、RSBDとDBDの間のリンカー(
図1に示されるリンカー2、L2)およびエフェクター構成要素とDBDの間のリンカー(
図1に示されるリンカーL1、L1)のうちの1つまたは複数の変更を伴いうる。したがって、例えば、実施例8により例示されるように、配列番号1の人工ヌクレアーゼは、リンカー2を短縮して(配列番号70のリンカー2b参照)またはリンカー1を変更して(配列番号69のリンカー1a参照)、VP64ポリペプチドにより置換されうる。
【0082】
本発明のさらなる態様
本発明の人工ニッカーゼは、上で論じられた完全合成遺伝子編集ツールへの包含を超えた用途があることは認識される。人工ニッカーゼは、おそらく塩基エディターまたは逆転写酵素などのDNA改変のためのさらなる構成要素にも連結されたDNA改変のための別の実体、例えば、dCas9と融合した融合酵素の一部として用いうる。人工ニッカーゼは、ポリヌクレオチド、例えば、発現ベクターから、融合タンパク質の一部、例えば、ターゲティング核酸と一緒に使用するためのDNA改変ツールのモジュラーポリペプチド構成要素として、または分離タンパク質として発現されうる。
【0083】
例えば、本発明の人工ヌクレアーゼまたはニッカーゼを含むまたはそれからなる、本発明のポリペプチドを発現することができるポリヌクレオチドおよびそのようなポリヌクレオチドにより形質転換される宿主細胞も本発明の態様を構成する。
【0084】
上で論じられた精製および可溶性を助けるためのN末端タグ配列、例えば、Hisタグと可溶性を助けるためのタグ、例えば、マルトース結合タンパク質(MBP)配列の両方を提供する切断可能なタグ配列であるそのようなタグ配列を有する本発明の人工ヌクレアーゼまたはニッカーゼタンパク質をコードするポリヌクレオチドも提供される。そのようなポリヌクレオチドは、インビトロ転写および翻訳システムにおいてヌクレアーゼもしくはニッカーゼタンパク質の産生のための発現カセットまたは宿主細胞、例えば、大腸菌(E.coli)細胞などの細菌細胞もしくは酵母細胞でのそのようなヌクレアーゼタンパク質の発現のための発現ベクターでもよい。このように形質転換された宿主細胞は、本発明のさらなる態様を表す。
【0085】
本発明の人工ヌクレアーゼまたはニッカーゼを含むポリペプチドを産生する方法であって、
(i)上記の宿主細胞を培養することまたは前記ポリペプチドが精製および可溶性を助けるためのN末端タグ配列と一緒に、望ましくは、切断可能His-MBP-His融合タグなどの切断可能タグと一緒に産生されるインビトロ転写-翻訳システムの使用;
(ii)N末端タグを使用してポリペプチドを単離することおよび前記N末端タグは切断可能である;
(iii)ポリペプチドからタグを切断することならびに
(iv)タグからポリペプチドを分離すること
を含む方法がさらに提供される。
【0086】
前述の通り、本発明の人工ヌクレアーゼ、好ましくは本発明の人工ニッカーゼは、しかし、本発明の人工遺伝子編集システムのモジュラーポリペプチドの一部として提供されるのが特に好まれる。この場合、人工ヌクレアーゼまたはニッカーゼは、DBDが選択されたPDSに結合できヌクレアーゼが必要な標的部位で機能することができるように、一般にリンカー配列によりDBDに接合される。そのようなモジュラーポリペプチドの発現には、全モジュラーポリペプチドをコードする発現カセット、例えば、ベクターが提供される。一部の例では、N末端タグ、例えば、切断可能Hisタグを提供しうる(
図16参照)。
【0087】
本発明の人工ヌクレアーゼを含むApGet-iまたは完全ApGetモジュラーポリペプチドの組換え産生のための好ましい方法が本明細書で今や教示される。したがって、標的配列改変のために本発明の核タンパク質複合体において使用するためのそのようなモジュラーポリペプチド構成要素、または任意のモジュラーポリペプチド構成要素は、最初は、例えば、大腸菌(E.coli)などの宿主細胞において、使用に先立って望まれないタグ配列を取り除くことができるプロテアーゼ切断部位を含む可溶性、精製および検出のすべてまたはいずれかを助けるための複数の構成要素タグ配列と一緒に発現しうる。そのような複数の構成要素タグ配列はNLSに連結させてよく、それによってプロテアーゼ切断するとNLSは、おそらく、必要な標的改変を妨害しない追加の配列、例えば、検出配列を含む末端配列と一緒に、NまたはC末端で保持される。そのような複数の構成要素配列タグは、望ましくは、(i)少なくとも1つのHisタグ、例えば、少なくとも1つのヘキサHisタグ、(ii)可溶性を助けるポリペプチド配列、例えば、MBPまたは小さなユビキチン様修飾因子(SUMO)、(iii)プロテアーゼ切断部位および(iv)検出配列、例えば、エピトープタグのすべてを提供しうる。そのような好ましい複数の構成要素タグの例として、NからC末端方向に、(i)ヘキサHisタグ、(ii)MBPまたはSUMOの可溶性タグ、(iii)スペーサーを提供するリンカー、(iv)TEVプロテアーゼ切断部位および(v)NLSに接合しているFLAG(登録商標)エピトープなどのエピトープタグのすべてを提供するN末端伸長と一緒にApGetまたはApGet-iを大腸菌(E.coli)で発現するのは有益であることが見出されている。プロテアーゼ切断すると、標的改変のための最終モジュラーポリペプチドは、NLSとエピトープタグの両方を、短いN末端リーダー配列、例えば、GWGSなどの4マーN末端リーダー配列と一緒に保持する(
図31参照)。可溶性タグとTEVプロテアーゼ切断部位の間のリンカーは、望ましくは、グリシンおよびセリンに対する要求を増やすリンカーよりむしろアスパラギンリッチリンカーでよい。ApGetの発現では、時期尚早に終結した産物からの分離を助けるためにC末端にStrep-タグ(登録商標)を組み入れることがさらに有益であることが見出された。しかし、可溶性および/または精製および/または検出および/または膜透過を助けるために、本発明のモジュラーポリペプチド構成要素を最初に発現する際に、種々の他のNおよびC末端タグを用いてよいことが認識される。例えば、前述の通り、モジュラーポリペプチド構成要素は、一部の例では、細胞透過性ペプチド配列を含めて発現されうる。
【0088】
本発明の合成遺伝子改変システムの使用
前述の通り、本発明の核タンパク質複合体は、例えば、電気穿孔により活性複合体として、またはポリヌクレオチドにより発現されるポリペプチド構成要素とターゲティング核酸構成要素のうちの1つもしくは両方と一緒に宿主細胞に送達されうる。
【0089】
ApGet構成要素の細胞中への送達
必要とされる核酸構成要素は、制限なく種々の適切な方法のいずれかにより細胞に送達することができる。多くのそのような方法が公知である。したがって、目的の細胞への合成RNA分子の直接導入は、電気穿孔、ヌクレオフェクション、トランスフェクションにより、ナノ粒子により、ウイルス媒介RNA送達により、非ウイルス媒介送達により、細胞外小胞(例えば、エキソソームおよび微小胞)により、真核細胞移入により(例えば、組換え酵母により)および核酸分子を詰め込んで標的生存可能細胞への送達を提供することができる他の方法でもよい。RNA分子の導入のための他の方法は、関連する配列が細胞内に転写されるDNAポリヌクレオチドの非組入れ一過性移入を含む。これは、限定せずに、DNAのみの媒体(例えば、プラスミド、ミニサークル、ミニベクター、ミニストリング、プロテロメラーゼ生成DNA分子(例えば、ドギーボーンズ(Doggybones)、人工染色体(例えば、HAC)、コスミド)を用いることによる、またはナノ粒子、細胞外小胞(例えば、エキソソームおよび微小胞)などの媒体の使用、真核細胞移入により(例えば、組換え酵母により)、AAVによる一過性ウイルス移入、非組入れウイルス粒子(例えば、レンチウイルスおよびレトロウイルスベースのシステム)、細胞透過性ペプチドおよびゲノムランドスケープ中への直接組入れなしで細胞中へのDNAの導入を媒介することができる他の技術を含む。RNA構成要素の導入のための別の方法は、標的細胞のゲノム中へのRNA転写用の機構の安定な導入のための組入れ遺伝子移入技術の使用を含む。これは、RNA発現を減弱する構成的またはプロモーター誘導システムにより制御することができる。安定な遺伝子移入のためのそのような技術は、組入れウイルス粒子(例えば、レンチウイルス、アデノウイルスおよびレトロウイルスベースのシステム)、トランスポザーゼ媒介移入(例えば、スリーピングビューティー(Sleeping Beauty)およびピギーバック(Piggybac))、および目的の細胞中への標的DNAの組入れを促進する他の技術を含むがこれらに限定されない。
【0090】
本システムの人工ニッカーゼなどのタンパク質またはペプチド作動性構成要素の送達は、同じ技術によって実行できるが、一部の状況では、異なる方法により送達を媒介する利点がある。そのような適用可能な方法は下に収載されているがそれに限定されない。第1に、目的の細胞へのタンパク質分子の直接導入は、電気穿孔、ヌクレオフェクション、トランスフェクションにより、ナノ粒子により、ウイルス媒介パッケージド送達、細胞外小胞(例えば、エキソソームおよび微小胞)により、真核細胞移入により(例えば、組換え酵母により)およびゲノムランドスケープ中への組入れなしで標的生存細胞への送達のために巨大分子を詰め込むことができる他の方法でもよい。タンパク質分子の導入のための他の方法は、必要な細胞内タンパク質分子を提供するために転写および翻訳に関連する配列を含むDNAポリヌクレオチドの非組入れ一過性移入を含む。再び、これは、限定せずに、DNAのみの媒体(例えば、プラスミド、ミニサークル、ミニベクター、ミニストリング、プロテロメラーゼ生成DNA分子(例えば、ドギーボーンズ)、人工染色体(例えば、HAC)、コスミド)の考えられる使用、またはナノ粒子、細胞外小胞(例えば、エキソソームおよび微小胞)などのDNA運搬媒体、真核細胞移入により(例えば、組換え酵母による)、AAVによる一過性ウイルス移入、非組入れウイルス粒子(例えば、レンチウイルスおよびレトロウイルスベースのシステム)およびゲノムランドスケープ中への直接組入れなしで細胞中へのDNAの導入を媒介することができる他の技術を含む。タンパク質構成要素(複数可)の導入のための別の方法は、標的細胞のゲノム中への転写および翻訳用の機構の安定な導入のための組入れ遺伝子移入技術の使用を含む。ゲノム改変分野では多くのそのような方法が周知である。制御は、再び、構成的または誘導性プロモーターシステムによることが可能である。設計は、有用性が満たされた(例えば、Cre-Lox組換えシステムを導入する)後にシステムを取り除くことができるようにしうる。安定な遺伝子移入のためのそのような技術は、組入れウイルス粒子(例えば、レンチウイルス、アデノウイルスおよびレトロウイルスベースのシステム)、トランスポザーゼ媒介移入(例えば、スリーピングビューティーおよびピギーバック)、および目的の細胞中への標的DNAの組入れを促進する他の技術を含むがこれらに限定されない。
【0091】
発現システム
前述の通り、コードポリヌクレオチドからいずれかのタンパク質構成要素および/またはRNA構成要素のうちの1つまたは複数を発現するのが望ましいことがある。これは、種々のやり方で実施することができる。
【0092】
例えば、1つまたは複数の中間ベクターは、原核または真核細胞中への導入のために用い、必要な構成要素(複数可)を発現するための複製および/または転写に適していることがある。発現ベクターは、選択された宿主細胞、例えば、植物細胞、動物細胞、例えば、トリ、哺乳動物細胞またはヒト細胞、真菌細胞、細菌細胞、または原生動物細胞への投与のために用いてもよい。したがって、本発明は、上述した本発明のRNA構成要素またはタンパク質のいずれかをコードする核酸を提供する。好ましくは、核酸は単離されるおよび/または精製される。
【0093】
本発明の核タンパク質複合体の適用において有用な発現構築物の例は、本発明の核酸配列が前向きにまたは反対向きに挿入されている、プラスミドまたはウイルスベクターなどのベクターを含む。好ましい実施形態では、構築物は、配列に作動可能に連結された、プロモーターを含む、調節配列をさらに含む。多数の適切なベクターおよびプロモーターが当業者には知られており、市販されている。
【0094】
本発明の核タンパク質複合体の適用において有用な発現ベクターの例は、染色体、非染色体および合成DNA配列、細菌プラスミド、ファージDNA、バキュロウイルス、酵母プラスミド、プラスミドとファージDNAの組合せに由来するベクター、ワクシニア、アデノウイルス、鶏痘ウイルス、および仮性狂犬病などのウイルスDNAを含む。
【0095】
ベクターは、発現を増幅するのに適した配列を含んでよい。さらに、発現ベクターは、好ましくは、真核細胞培養物にジヒドロ葉酸レダクターゼもしくはネオマイシン耐性などの、または大腸菌(E.coli)におけるテトラサイクリンもしくはアンピシリン耐性などの形質転換宿主細胞の選択のための表現型形質を提供する1つまたは複数の選択可能マーカー遺伝子を含有する。
【0096】
本発明の核タンパク質複合体の適用、例えば、モジュラーポリペプチド構成要素(複数可)および/もしくは1つもしくは複数のターゲティングRNAを細胞内で発現する、または本発明のタンパク質構成要素の産生における使用のためのベクター(単数または複数)は、選択された宿主細胞でのそのような発現または産生のために適切な制御配列と一緒に設計することができる。適切な発現宿主の例は、細菌細胞(例えば、大腸菌(E.coli)、ストレプトマイセス(Streptomyces)、ネズミチフス菌(Salmonella typhimurium))、真菌細胞(酵母)、昆虫細胞(例えば、ショウジョウバエ(Drosophila)およびヨトウガ(Spodoptera frugiperda)(Sf9))、動物細胞(例えば、CHO、COS、およびHEK293)、アデノウイルス、および植物細胞を含む。本発明のタンパク質、例えば、人工ヌクレアーゼ、の産生に適切な宿主の選択は、当業者の能力の範囲内である。
【0097】
適用
したがって、さらなる態様では、宿主細胞における本発明の1つまたは複数の核タンパク質複合体の提供のための核酸または核酸の組合せが提供される。しかし、宿主細胞への本発明の活性複合体(タンパク質構成要素プラスターゲティングRNA)の直接送達は排除されていない。そのような宿主細胞は、原核細胞または真核細胞でもよい。宿主細胞は、例えば、細菌細胞、酵母細胞、昆虫細胞、および真菌細胞ならびに植物細胞およびヒトおよび、例えば、ハムスター(例えば、CHO細胞)、サル(例えば、ベロ細胞)、ラット、マウス、トリまたはニワトリ細胞などの非ヒト動物細胞を含む真核細胞のいずれでもよい。適切な宿主細胞は、エキソビボ細胞、例えば、エキソビボ幹細胞、誘導多能性幹細胞(iPSC)および操作CAR-T細胞を含むエキソビボT細胞を含むと理解される。
【0098】
核酸は、好ましくは、ベクター、例えば、本発明の人工ニッカーゼを含む、本発明の少なくとも1つのモジュラーポリペプチド構成要素と少なくとも1つのターゲティング核酸構成要素の両方を発現することができる組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクター、レンチウイルス、レトロウイルス、アデノウイルス、またはセンダイウイルスベクターなどの、例えば、ウイルスベクターでよい。1つよりも多いDNA部位を標的とするため、1つよりも多いターゲティング核酸構成要素が宿主細胞に提供されてよい。この場合、それぞれのターゲティング核酸構成要素は、単一のモジュラーポリペプチド構成要素と相互作用してよく、すなわち、1つよりも多いターゲティング核酸、例えば、ペアは、単一PDSに会う単一DBDと作動中に組み合わされる。しかし、ペアのそれぞれのターゲティング核酸構成要素は、それぞれが異なるPDSに結合するDBDを有する異なるモジュラーポリペプチド構成要素と相互作用しうる。これらの送達様式のどちらが選択されようとも、ターゲティング核酸構成要素に対するDNA標的部位はPDS部位のペアの外側にあってよく(「PDS-in」配置と呼ばれる)またはターゲティング核酸構成要素に対するDNA標的部位はPDS部位のペアの内側にあってもよい(「PDS-out」配置と呼ばれる)。そのような配置は
図18および19に図示されており、それぞれのターゲティング核酸がdsDNAの異なるDNA鎖を標的としている。
【0099】
上記の通りに使用するための本発明の核タンパク質複合体のペアは、エフェクター構成要素として、適切なリンカー配列によりDBDに接合されたFok1ヌクレアーゼドメインを含みうる、すなわち、リンカーによりFok1エンドヌクレアーゼの触媒ドメインに接合されるApGet-i構築物(本明細書ではApGet-Fok1モジュラーポリペプチドと呼ばれる)を表すことが認識される。そのような複合体のペアは、dsDNAにおいて二本鎖切断、例えば、遺伝子ノックアウト用のゲノムDNAを生じさせるようにPDS-inまたはPDS-out配置で作用しうる。この目的のためにPDS-in配置で機能を果たすApGet-Fok1モジュラーポリペプチドのペアを図示する
図18を参照のこと。
【0100】
dsDNAの両方の鎖を切断するために細胞に人工ニッカーゼを提供する本発明の核タンパク質複合体のペアのベクター送達のためには、1つまたは複数のベクター、好ましくは、単一ベクターが特に好まれる。そのような送達は、非相同末端結合により遺伝子ノックアウトを達成することもできうる。しかし、そのような核タンパク質複合体送達は、相同組換え用の配列鋳型の提供を伴いうることは認識される。この配列鋳型は、完全分離発現構築物によりまたは同じベクター上の分離した発現カセットからの発現により提供されうる。
図16は、人工ヌクレアーゼを含むモジュラーポリペプチド、モジュラーポリペプチドと相互作用するためのターゲティング核酸構成要素および標的部位のペアの切断による酵素コード配列の相同修復のための配列のすべてを発現することができる単一ベクター構築物を図示する。
【0101】
本発明のさらなる態様として、宿主細胞において、本発明の1つまたは複数の核タンパク質複合体またはその提供のための1つまたは複数の核酸を用いて1つまたは複数の標的核酸配列を改変するための方法が提供される。但し、請求されるそのような方法は、ヒトの生殖系列アイデンティティーを改変する方法またはそういうものとしてヒトまたは動物の身体で実行される医学的処置の方法に拡張しない。前述の通り、望ましくは、1つまたは複数の核タンパク質複合体の提供のための単一ポリペプチド構成要素は、ベクターからの発現により細胞で提供されうる。同じベクターは、好ましくは、必要な1つまたは複数のターゲティング核酸、好ましくは1つまたは複数のターゲティングRNAも発現しうる。
【0102】
本発明のさらにさらなる態様として、(i)本発明のゲノム改変ツールのための少なくとも1つのポリペプチド構成要素、またはそれを発現することができるポリヌクレオチドおよび(ii)上記の方法で使用するための、または治療的処置において使用するための、前記ポリペプチド構成要素(複数可)と相互作用するもしくは連結することができる1つもしくは複数のターゲティング核酸、またはそれを発現することができる1つもしくは複数のポリヌクレオチドの組合せが提供される。そのような組み合わせは、1つまたは複数の特定の適用のためのキットの形態で提供しうる、例えば、単一のポリペプチド構成要素またはそれをコードするポリヌクレオチドは、1つまたは複数の所望の核酸位置を標的とするように設計された、1つもしくは複数のターゲティング核酸、または1つもしくは複数のポリヌクレオチドと一緒に提供しうる。しかし、前述の通り、ポリペプチド構成要素と1つまたは複数のターゲティング核酸、好ましくはターゲティングRNAの両方は、好ましくは単一ベクターから発現されてよい。
【0103】
例として、本発明は、バイオプロダクション、ワクチン作製、研究ツールおよび試薬、遺伝子改変動物および植物の作製ならびに細胞治療において利用される細胞を編集するのに役立たせることができることが認識される。本発明の構成要素は、遺伝子治療適用のために利用することができる。
【0104】
本発明の核タンパク質複合体は、例えば、治療において使用するための細胞の提供に利用しうる。1つのそのような適用は、キメラ抗原受容体(CAR-T)またはT細胞受容体(TCR)を発現するように操作されたT細胞などの治療細胞を作製することである。CAR-T/TCR細胞は、始原T細胞に由来するまたは幹細胞から分化してもよい。適切な幹細胞は、造血性、神経、胚性、誘導多能性幹細胞(iPSC)、間充織、中胚葉、肝臓、膵臓、筋肉および網膜幹細胞を含むがこれらに限定されないヒト幹細胞などの哺乳動物幹細胞を含むがこれらに限定されない。他の幹細胞は、マウス幹細胞、例えば、マウス胚性幹細胞などの哺乳動物幹細胞を含むがこれらに限定されない。
【0105】
本発明の核タンパク質複合体は、哺乳動物由来の細胞を含むがこれらに限定されない種々の型の細胞または細胞株において単一遺伝子または複数の遺伝子をノックアウトする、改変するまたはその発現を増加するのに使用しうる。本発明の核タンパク質複合体は、多重遺伝子改変に適応可能でありえ、この改変は、当技術分野で公知であるように、同じ遺伝子内で複数の遺伝子または複数の標的を遺伝的に改変することを含む。その技術は、非宿主細胞を宿主にとって非免疫原性にすることにより移植片対宿主病を予防するまたは非宿主細胞を宿主による攻撃に対して抵抗性にすることにより宿主対移植片病を予防するための遺伝子のノックアウトを含むがこれに限定されない、多くの適用のために使用しうる。これらのアプローチは、アロジェニック(オフザシェルフ(off-the-shelf))または自家性(患者特異的な)細胞ベースの治療薬を作製することにも関連する。標的遺伝子は、T細胞受容体、B2Mを含む、主要組織適合抗原(MHCクラスIおよびクラスII)遺伝子、および自然免疫応答に関与する遺伝子を含みうるがこれらに限定されない。
【0106】
前述の通りにおよび要約のため、今教示されているDNA改変システムは、
1.リボ核タンパク質粒子の導入
2.mRNA
3.ターゲティングRNA構成要素およびモジュラーポリペプチド構成要素を発現するプラスミド
4.上記1、2または3で言及されるいずれかを含有するウイルス様粒子
5.上記1、2または3で言及されるいずれかを含有する脂質ナノ粒子
6.上記1、2または3で言及されるいずれかを含有するエキソソーム
7.1、2または3で言及されるいずれかを含有するリポソーム
8.ターゲティングRNA構成要素およびモジュラーポリペプチド構成要素を発現するウイルスベクター、例えば、rAAVベクター
を含む細胞形質転換において当業者に周知である種々の方法で細胞中に送達されうることが認識される。
【0107】
上述の通り、連結した合成ペプチド単位から形成される人工ヌクレアーゼを含む今教示されている合成ゲノム編集ツールは、必要な発現カセットの送達のための単一ベクター、例えば、ApGetモジュラーポリペプチドおよび少なくとも1つのターゲティングRNAならびにおそらくさらに切断部位のペア間の相同組換えのための鋳型配列のすべてを発現できるベクターだけを用いて、遺伝子ノックアウトのためのゲノム編集、または相同組換えによる遺伝子改変を有利に可能にしうることが想定される。
【0108】
以下の非限定的実施例は、好ましくは、本発明の合成ゲノム編集システムのエレメントとして用いうる人工ニッカーゼの概念証明として、本発明を説明し配列番号1のモジュラーポリペプチド中のニッカーゼの誘導および試験をさらに記載するために提供される。
【実施例】
【0109】
[実施例1]
DNA結合ドメインの選択
上述の通り、市販のM13ファージディスプレイライブラリーを用いた(New England Biolabs、カタログ番号E8111L)。これは、ファージマイナーコートタンパク質IIIのN末端に融合された約1×109の12マーペプチドを含有する。下の表1に指定されるように、ストレプトアビジン被覆96ウェルプレート上に固定されたビオチンタグと共に、2つの異なる6nt dsDNAベイトが用いられた。
【0110】
【0111】
ELISAアッセイを使用して、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)で標識された抗M13ファージ抗体を使ってPDS1およびPDS2 dsDNAベイトへのファージディスプレイライブラリーのペプチドの結合を査定した。3ラウンドのバイオパニングおよびライブラリー中の結合したペプチドの配列分析後、2つの12マーペプチド配列を選択し、化学的に合成し、下の表2に提示される通りに改変した。
【0112】
DBDのバイオパニングおよび選択のさらなる詳細は下に提示される。
【0113】
DBDのバイオパニングおよび選択
1.ブロッキングバッファー(0.1MのNaHCO3(pH8.6)、5mg/mlのBSA、フィルター無菌化および4℃で保存)を用いたストレプトアビジン被覆96ウェルプレート(Fisher Scientific、UK)のブロッキングステップ
2.ブロッキング液を捨てた後の1×TBSTでの6ラウンドの洗浄
3.前複合体化ステップ(このステップは、上述のブロッキングステップと同じ時間に行うことができる)、増幅されたファージライブラリーを別々の反応においてdsDNAベイトのそれぞれと一緒にインキュベートした。それぞれのベイトは、PDS部位のうちの1つを含有する、アニールした二本鎖DNAオリゴ(dsDNA)を含む。今提供される実施例では、上述のdsDNAオリゴのそれぞれでのフォワード鎖がTEG-ビオチン(Sigma/Merck)で3’末端標識された。このステップでdsDNA PDS含有ベイトを作製するために使用された一本鎖DNAオリゴヌクレオチド配列は上記の表1に表されている。PDSの長さはできる限り短くしておくべきである(信頼のおけるオリゴヌクレオチド合成およびdsDNAを形成するための安定な塩基対合を可能にするため)。前複合体化ステップの条件:5micLファージライブラリー(1011pfu)は200μlのTBST(結合反応の全容積)中50nMのdsDNAベイト(最終濃度)とインキュベートされる。
4.固定化ステップ 前複合体化ライブラリーはストレプトアビジン被覆96ウェルプレート(Fisher Scientific、UK)上に固定化された。
5.未結合ファージを捨てた後TBSTで10回洗浄
6.溶出ステップ 0.2Mのグリシン-HCl(pH2.2)で10~20分間、続いて中和(15μMのTris-HCl、pH9.1から100μMの0.2M グリシン-HCl、pH2.2)
7.増幅およびタイタリングステップ(非増幅および増幅溶出物について)は、それぞれの選択(パニング)ラウンド前に、製造業者の説明書(NEB)に従って実施された。合計で、2~3ラウンドが行われた。
8.配列分析ステップ クローンPCRとサンガー配列のそれに続く分析(それぞれの試験ラウンドでそれぞれのベイトについて20クローン)は、タイタリング分析(NEB)からのLB寒天プレート上で成長させた「ブルー」(機能的b-galを有する)クローンで実施された。
【0114】
上記の選択手順の追加の修正は、以下を含んだ:
1.別々の対抗選択ラウンドの導入(第2ラウンド前または第1ラウンド前)、未結合ファージライブラリー(ステップ1後)は、実際のバイオパニングラウンド前に、収集され、増幅され、タイタリングにより試験された。
2.対抗選択ラウンド後のプレスクリーニングラウンドの導入。これは、PDS、続いて「伸長領域」配列を含有し、したがって、バイオパニング手順を37℃で実施することを可能にするベイトを用いた実験で行われた。プレスクリーニングステップは、「伸長領域のみ」を含有し、それゆえに、これらの伸長領域に結合するファージクローンを除去させるオリゴを用いて実施された。
【0115】
ファージライブラリー中のペプチド2は、PDS1 dsDNAベイトに対して高結合能力を有した。ペプチド4は、PDS2 dsDNAベイトへの結合に基づいて選択された。これらのペプチドは、GGSリンカーによりファージコートタンパク質にライブラリー中で接合される。したがって、C末端にこのリンカーを有するペプチド1およびペプチド3もさらなる試験のために提供された。
【0116】
【0117】
選択されたDNA結合ペプチドを有するファージクローンは、同族PDSを提示する領域でDNA二重鎖を変更し、それにより挿入または欠失(インデル)を検出するのに一般に使用される、T7E1などのDNAヌクレアーゼによる認識がもたらされることがあり、このインデルはCas9、Cas12a、等などのゲノム編集酵素の活性から生じると推論された。下の表3に提示される伸長dsDNAベイトならびにT7E1およびサーベイヤー酵素を使用する、不安定化されたDNA二重鎖についてのそのような切断アッセイの結果は、この仮説(
図3a~c参照)、すなわち、選択された融合ペプチドを提示するクローンのdsDNAへの結合が、RNAハイブリダイゼーションへの到達性を促進するようにDNA二重鎖の構造を不安定化することを支持している。
図2に示されるように、こうして得られる一過性巻き戻しおよびヘテロ二重鎖構造の形成を想定することができる。
【0118】
【0119】
表2に提示される改変ペプチドを使用して、M13ファージ連結なしでDNA結合ドメインとして使用するための配列を試験した。改変は、ペプチド安定性を改善し分解を予防する天然のペプチド改変を反映させるため、N末端およびC末端でのそれぞれアミド化およびアセチル化を含んでいた。ペプチド1および3の場合、追加のC末端リンカー(GGS)が前述の通りに提供された。これにより、異なる非ファージタンパク質への連結を可能にするリンカーの存在によって同族PDSへの結合特性の査定も可能になった。
【0120】
同族PDSを含有する伸長dsDNAを提示された場合、結合および非二重鎖構造形成についてT7E1酵素を使用する切断アッセイの結果は、PDS1が選択された既定の同族PDSである場合、DNA結合ドメインである最良の候補としてペプチド1配列をはっきりと指摘した。
図4参照のこと。
【0121】
これらの結果は、蛍光DNA結合アッセイを実施することによりさらに裏付けられた。FRET実験を実行して、
図5に模式的に示される伸長dsDNA標的中のPDS1が提示されるとRNAハイブリダイゼーションを促進する能力を有するペプチド1の結合および巻き戻し活性を査定した。結合すると、ペプチド1はdsDNAのある程度の一過性巻き戻しを引き起こしてターゲティングRNAの結合を促進すると仮定された。蛍光ドナー、6-カルボキシフルオセイン(FAM)を使用して、適切なターゲティングRNAに15bpの相補的配列をタグ付けした。標的DNAは、3’末端に蛍光アクセプターCy5をまたは5’末端にTexas Redをタグ付けした。RNA-DNAハイブリダイゼーションは、FAM励起するとFRETシグナル-Cy5またはTexas Red蛍光シグナルにより反映される、ペプチド1のその同族PDS1配列への結合により促進されることが明らかにされた(
図5参照)。
【0122】
まとめると、切断およびFRET実験からの結果は、ペプチド1がdsDNA中のそのそれぞれのPDSに結合し、dsDNAの部分的および一過性の巻き戻しを引き起こして相補的RNAのハイブリダイゼーションを促進することと矛盾しない。したがって、C末端GGSリンカーを組み入れるペプチド1アミノ酸配列(配列番号4)は、本発明のゲノム編集ツール、例えば、ApGetシステムにおけるDNA結合ドメインとして使用するための支持されるポリペプチド配列の一例である。類似する研究により、短いポリペプチド配列は、6または6未満のヌクレオチドの他の所望の既定のdsDNA標的配列への結合に向いていると見出されうることが認識される。部位特異的変異誘発は、いかなる所望のPDSに対する結合能力もさらに改善するのに利用しうる。
【0123】
ペプチド1は一般には、さらにターゲティング核酸認識ドメインおよびエフェクター構成要素を含む完全な必要とされるモジュラーポリペプチド構成要素中への組入れのための少なくとも第2のリンカーと一緒に提供されることが認識される。さらに、組込まれたGGSリンカーを伸長することが望ましい場合がある。しかし、これは、PDSに対する所望の結合特性の維持により達成され、適切なさらなる試験により確認できる。したがって、DBDとしてのペプチド1は、GおよびS残基のさらなる配列、例えば、配列番号1のAgPet中で用いられる配列番号5のリンカー
【0124】
【化11】
によるC末端の伸長により、エフェクター構成要素、例えば、人工ヌクレアーゼに連結しうる。
【0125】
[実施例2]
人工ニッカーゼの提供
人工ニッカーゼの設計の第1のステップは、超分子自己集合性ナノ構造を形成することができる規則正しいポリペプチドの選択であった。この目的のために、交互パターンの疎水性ロイシンと親水性リジン残基を有する長さ7または9アミノ酸のベータシート形成ペプチドが選択された。そのようなパターンは、自己集合性ナノ構造を形成し、アミロイド構造形成の傾向があることが知られている。このパターンは、天然に存在するヌクレアーゼ、例えば、Cas9に存在するRuvC1ヌクレアーゼドメインの既知の触媒アミノ酸に基づいて親水性位置でアミノ酸の置換によりさらに改変された。
【0126】
複数のそのようなベータシート形成ペプチドは、7マーについて下に示される数を制御するためにリンカーまたはループにより接合されることができると推測され、下ではHは疎水性アミノ酸のことであり、Cは触媒アミノ酸のことであり、Xは長さnのアミノ酸の接続リンカーのことである。ペプチド単位のそれぞれは同一でよく、その場合、それぞれのCは触媒トリオの異なるアミノ酸、認識された触媒三残基または、RuvC1ヌクレアーゼドメインなどの既知の天然に存在するヌクレアーゼの触媒機能を与える異なるアミノ酸タイプのトリオでもよい。交互の連結ペプチド単位は、N末端からC末端にまたは逆戻りに連結されていてもよい。
(H-C1-H-C2-H-C3-H-(X)n-H-C1-H-C2-H-C3-H)n
または
(H-C1-H-C2-H-C3-H-(X)n-H-C3-H-C2-H-C1-H)n
【0127】
下の表4は、最初に効率的な人工ニッカーゼを開発するのに使用された7または9アミノ酸の正確なペプチド配列を提示する。前述の通りの開始配列(bA)は、交互ロイシン残基およびリジン残基の不活性7マーであった。触媒トリオのアミノ酸の親水性位置で提供するための天然に存在するヌクレアーゼドメインが収載されている。例えば、ペプチドbB、bD、iBD、bE、bFのすべては、すべてのリジンが、RuvC1ヌクレアーゼドメインの触媒アミノ酸と一致し疎水性残基により分離された3アミノ酸[グルタミン酸(E)アスパラギン酸(D)およびヒスチジン(H)]により置換されていた。
【0128】
上述の通りに、RuvC1ヌクレアーゼドメインは、4触媒アミノ酸、His983、Asp986、Asp10およびGlu762を有することが報告されている。これらの触媒アミノ酸のいずれの突然変異でも、機能消失をもたらすことが明らかにされた(Nishimasu et al. (2014) Cell 156, 935-949)。しかし、上記のマルチマーという文脈では、簡略化するため、交互の疎水性残基ならびに、例えば、単一のHis、AspおよびGluだけを有する同一のペプチド単位を用いることで十分でありえ、それによって、必要な触媒アミノ酸残基すべてを機能しているヌクレアーゼに対して近接させつつ疎水性残基は安定なβ-シート様超分子構造を形成する傾向を維持すると推論された。しかし、9マーペプチドbEは、2つのAsp残基プラスグルタミン酸およびヒスチジンと一緒に提供された。
【0129】
一部の場合、ロイシンはイソロイシンによっても置換された。したがって、bDは、ロイシンから開始してロイシン残基をE、DおよびHとその順番で交互に有する7マーである。IbDは、疎水性残基としてイソロイシン(I)によるロイシンの置換を除いて同じアミノ酸パターンを有する。イソロイシン残基がβ-シート構造の形成をロイシン残基よりも効率的に助けられることが起こりうる。なぜならば、前者の方が後者よりも疎水性が大きいからである。
【0130】
【0131】
ペプチドIbDおよびペプチドbDは前で、それぞれ配列番号7および配列番号8として上では表されている。残りのペプチドは、配列番号47~59である。
【0132】
そのようなペプチドは、自己集合してβ-シート超分子構造およびニッカーゼ活性を与える能力について試験した。β-シート超分子構造を与える能力は、チオフラビンT蛍光結合により判定された(Xue et al. (2017) Royal Soc. Open Sci. 4: 160696)。ニッカーゼ活性は、ゲルプラスミド切断アッセイと組み合わせた分子ビーコンアッセイによって調べた。
【0133】
チオフラビンTアッセイ
チオフラビンT(ThT)は反応バッファー液中でペプチドと混ぜ合わせた。ペプチドは反応バッファー液(下に提示される最初の分子ビーコンアッセイについて使用されたのと同じバッファー)を使用して200μMまで(DMSO中4.4mMの保存溶液から)希釈した。ThTは、パルスボルテックスおよび遠心分離を用いて、反応バッファー液中25μMでペプチドに付加した。ペプチド/Tht溶液を細胞あたり200μl含有するプレートを37℃でインキュベートした。485nmの発光シグナルは、450nmの励起波長を使用して5分毎に測定した。発光シグナルの増加はThTがアミロイド様原線維に結合したことを示すと解釈された。ペプチドbDでは、高発光シグナルが測定され、そのような原線維を形成するペプチドの迅速な自己集合を即座に示した(
図7参照)。
【0134】
ニッカーゼ活性調査
第1に分子ビーコンアッセイを使用して、DNA結合および切断についてペプチドのそれぞれをスクリーニングした。こうした研究を目的として、33ヌクレオチドを含有する以下のDNAオリゴヌクレオチドを用い、
【0135】
【化12】
それぞれの末端の最初の6ヌクレオチドが互いに補い合って6bpの二本鎖DNAステムを形成する。これにより、23ヌクレオチド一本鎖DNAループ領域が生じる。形成されるヘアピン構造は、5’改変として蛍光分子(6-FAM)を、3’改変として蛍光クエンチャー(BHQ1)を含有する。ヘアピン立体構造では、分子ビーコンの蛍光シグナルが減少する。ペプチドが結合するまたは切断を引き起こす場合、ヘアピン構造は分解してクエンチャーからフルオロフォアを放出する。
【0136】
反応条件は、それぞれのペプチドによるDNA切断の可能性を増強すると予想されうる条件を反映するように選択された。上述の通りに、ペプチドデザインは、既知のヌクレアーゼの触媒活性部位により示唆された。多くの場合、そのような部位に一般的に好まれる二価金属はMg2+である。しかし、Mg2+イオンを有する反応中間体を生成するには、厳密な配向幾何および電荷要件が必要であり、基質特異的および高度に選択的でありうる。これとは対照的に、Mn2+イオンは、触媒作用を促進するのに必要な配位部位は少なくて済む。Mn2+イオンは、インビトロで変異ヌクレアーゼをスクリーニングするのに使用されてきた。なぜならば、そのようなイオンは緩い基質特異性を示す傾向があり、Mg2+イオンと比べて欠陥のある酵素を救済することができるからである。したがって、Mn2+イオンは、この場合では、ペプチドの最初の活性スクリーニングに使用された。
【0137】
それぞれの反応は、25mMのTris-HCl(pH7.5)、130mMのNaCl、27μMのKClおよび5mMのMnCl2の反応バッファーで実行された。分子ビーコンは、400nMの濃度で提供された。
【0138】
15分間インキュベーション後のフルオロフォアの発光シグナルは、500対1の濃度比で分子ビーコンと混合されたそれぞれのペプチドについて測定された。
【0139】
ペプチドbLおよびbNは、そのような条件で比較的高度な発光シグナルを出した。したがって、これらのペプチドを使用して、Mn2+濃度、金属イオン依存性およびペプチド濃度に関するアッセイ条件の変動をさらに査定した。
【0140】
金属濃度
最初のスクリーニングで使用される塩化マンガンの濃度は過剰であった。これは、反応を完了まで推し進めるため反応中間体を形成する可能性を増強するためであった。金属イオンの過剰量はインビトロ反応ではよく用いられる。しかし、金属が多すぎると、反応に阻害効果を生じることがある。0~5mMの塩化マンガン濃度の範囲を用いることにより、bNペプチドに対する最適塩化マンガン濃度は0.25mMであることが分かった。
【0141】
金属依存性
金属イオンが異なる反応は、bLまたはbNペプチドを用いた分子ビーコンが発するシグナルの違いを示した。分子ビーコンの分解は、bLペプチドについてのマンガン、カルシウムおよび塩化マグネシウムと比べて塩化亜鉛イオンの存在下でのほうが広範であった。これとは対照的に、bNペプチドは、反応中の金属とは無関係にシグナルの高い増加を示した。高シグナルは、いかなる金属イオンなしでも観察された。しかし、シグナルはMn2+イオンがあったほうが大きかった。これにより、異なる活性部位領域を含有する異なるペプチド設計を使用することにより、DNA切断の潜在的に異なる機構を生成できることが示唆される。
【0142】
ペプチド濃度の効果
400nMでの分子ビーコンが、Mn2+またはZn2+イオンの存在下0~800μMの漸増濃度のbNペプチドに付加された。bNペプチドは、Mn2+およびZn2+イオンありでシグナル変化を誘発した。しかし、400μMの濃度では、Mn2+イオンありのbNペプチドからのシグナルは、Mg2+イオンありのbNペプチドよりも大きかった。分子ビーコンの分解について測定されたシグナルの全体的増加が、ペプチドbN濃度が増すにしたがって観察された。Mn2+イオン存在下でのbNペプチドのシグナルは400μM後飽和せず、Zn2+イオンありではシグナルは800μMのbNペプチドまでまだ増加することが見出された。
【0143】
ゲルプラスミド切断アッセイ
分子ビーコンから発せられるシグナルは、ペプチドによるDNAの切断から生じ、こうして生じたオリゴについて低いTm範囲(融解温度)のためにヘアピン構造の二本鎖領域の解離が生じることができた。しかし、シグナルは、ペプチドがDNAに結合し、ヘアピン構造の形状をゆがめることによっても発生させることができた。これは、フルオロフォアとクエンチャーの近接を変えることができ、それによりシグナル放出も生じることができた。したがって、分子ビーコンアッセイは結合と切断を区別できない。
【0144】
こうした理由で、切断を探すためにさらなるゲルプラスミド切断アッセイが用いられた。そのようなゲル切断アッセイは、無傷である(切断なし)、切れ目が入っている(ssDNA切断)および直線化されている(dsDNA切断)プラスミドを区別できる。なぜならば、3つのプラスミド種はアガロースゲル上の移動が異なるからである。無傷のプラスミドはスーパーコイル構造を有しており、したがって、アガロースゲル中を容易に移動でき、プラスミド上のssDNA切断はこのスーパーコイル構造を緩める。これにより、ポア中をもっとゆっくり移動する緩んだサークル/ニック構造が生じる。プラスミドのdsDNA切断は直線化したプラスミドを生じさせる。直線構造は、緩んだサークル構造よりも速く移動するが、スーパーコイル構造ほど速くはない。
【0145】
アッセイを最適化するため、プラスミドDNA(pBR322)を、Zn2+イオンの存在下で漸増濃度のペプチドbLまたはbNと混合した。これは、12時間後ニックプラスミドのパーセンテージの増加をもたらすことが分かった。ニック種のパーセンテージは、bLとbNの両方でペプチド濃度が大きくなるに従って増加する。ニックプラスミドのパーセンテージは、bNペプチドでは600μMよりも大きなペプチド濃度と共に減少し、bLペプチドではそのようなより高いペプチド濃度ではニックプラスミドの量は増加し続ける。プラスミドDNAの増加する割合はゲルのウェルでも観察される。このDNAはペプチドに結合することができ、ゲル中に移動できない複合体を引き起こす。
【0146】
ペプチドbL、bNおよびbDはすべてある程度の切断を実証した。しかし、ペプチドbDは、ThTアッセイにより査定した場合、高度に安定なアミロイドベータシート構造を生じさせるそのより高い傾向のためにさらなる研究のために選択された。
【0147】
タンパク質設計
ペプチドbDにより生じる切断のパーセンテージは、ペプチド濃度と共に増加することが見い出されており、超分子構造へのペプチドの集合が切断酵素としてのその機能性を増強ことが示唆される。しかし、制御されないペプチド集合は大きな凝集体を生じさせることがある。したがって、いくつかの同一なペプチドが、ベータターン様構造を作り出すことを予想できる短いアミノ酸リンカーまたはループにより連結されている構築物が設計された。これは、モノマー単位を接続するだけではなく、ペプチドが所望のベータシート構造を作り出すことを促進するモノマー単位の密接な近接も可能にする。
【0148】
概念設計の実証は以下の原則を考慮した:
1.交互パターンの疎水性および親水性残基が使用される長さ7または9アミノ酸(以下ベータペプチドと呼ばれる)のベータ鎖模倣ペプチド。疎水性ロイシン残基はイソロイシンと交換可能である。
2.ベータターンを与え接続ペプチド単位間のベータシート折り畳みを促進するように設計された個々のベータ鎖模倣モノマーを接続するための4アミノ酸のリンカーの提供。
3.ネガティブ設計(negative design)の隣接単位の提供、すなわち、それぞれのベータシートタンパク質分子間の分子間結合および凝集を妨げるため。
【0149】
概念構築物の最終の実証では、ペプチドbDのロイシン残基がイソロイシンで置き換えられて7マーペプチドibDを与えた。なぜならば、ibDは、最も高い試験濃度でさえ観察可能な凝集物を生じないことが見い出されたからであった。イソロイシンはロイシンよりも疎水性なので、前者のほうが後者よりも効率的にβ-シート構造の形成を助けることができた可能性がある。bDペプチドは、インビトロでのペプチド機能性研究から最大のシグナルを示さなかった。しかし、このペプチドが示した凝集し沈殿する傾向は最小であり、したがって、bDペプチドは、設計されたデカマーなどのもっと大きなマルチマー構築物のモノマー単位としてさらに安定なペプチドになると予想された。安定な二次ベータ構造に折り畳まれる潜在力を増強するため、ロイシンはイソロイシンで置換された。これは、アミロイド形成ペプチドの酵素活性を増強することが以前実証されており(Rufo et al. Short peptides self-assemble to produce catalytic amyloids. Nature Chem. (2014) 6, 303-309)、これが適用されて、マルチマー構築物に対してより安定な折り畳みを潜在的に生じさせた。
【0150】
ベータターン設計
ベータペプチド単位を互いに接続することができるベータターンを作製するためには、それぞれのベータターンの適切な長さおよびアミノ酸組成を設計する必要がある。天然のタンパク質中のベータターンの設計とベータ鎖配列(ベータペプチド単位)を水素結合に配向してベータシート構造を作り出すのに必要なアミノ酸側鎖のタイプの両方が考慮される。研究によれば、天然のタンパク質中の最適ベータターン長は多くの場合、2、4または5残基長であることが示されている。天然のタンパク質では、2または5アミノ酸からなるベータターンは多くの場合、特定の鏡像異性に有利になるように折り畳まれ、4アミノ酸の長さを有するベータターンはいかなる特定の鏡像異性に有利になるように折り畳まれることはない。したがって、概念実証では、選択された自己集合性ペプチド間にリンカーを提供するため、4のアミノ酸長が選択された。
【0151】
ベータターンの役割は、ペプチド単位を互いに近づけることによりこの自己集合性を促進することである。したがって、特定のターン立体構造を強制しベータペプチドの潜在的な構造折り畳みを制限する可能性のあるアミノ酸残基を有する硬直したベータターンを設計する必要はない。それどころか、ベータターンの設計はもっと柔軟性がある。天然のタンパク質では、極性アミノ酸残基(セリン、アスパラギン、グルタミンおよびスレオニン)は多くの場合、ベータターンに存在する。これらのアミノ酸の親水性側鎖は容易に水素結合して、潜在的ベータターン立体構造を安定化することができる。さらに、これらのアミノ酸の側鎖は電荷がなく、したがって、構造再配置に寄与するまたは活性部位残基と相互作用する可能性は少ない。主として疎水性のベータペプチド単位を安定化するためには、荷電アミノ酸(グルタミン酸およびアスパラギン酸)もベータターン設計中に組み入れられ、完全タンパク質の可溶性を潜在的に増加させる。4番目のアミノ酸の選択は、優先的にグリシンにさらに制限される。このアミノ酸の小型で柔軟な側鎖は立体反発を防ぎ、β-β接続を可能にする。
【0152】
隣接単位のネガティブ設計
容易にベータシート構造に自己集合するベータベプチドの能力は、ベータシートタンパク質構造を作り出すのに有利であるが、ベータペプチドの自己集合性は制御不可能であり、潜在的に大きな原線維構造を作り出す。ベータターンを導入すれば、分子あたりのベータペプチドの数を制御できる。しかし、これは、これらのベータシートタンパク質分子の分子間集合を妨げない。これを防ぐためには、「ネガティブ設計」が、天然のβ-シートタンパク質に見られるように、ベータシートタンパク質設計中に組み入れられる(Richardson and Richardson (2002 PNAS 99, 2754-2759参照)。このため、荷電側鎖を有する単一アミノ酸であるリジンアミノ酸残基が、それぞれの隣接ベータペプチド単位中に導入され、それによって分子間インターフェイスで荷電残基を提供してベータシートタンパク質分子の凝集を阻害した。
【0153】
概念構築物の実証では、第2および第3の疎水性残基(3位および5位)を、それぞれのNおよびC末端ベータペプチド単位においてリジンアミノ酸残基の代わりに使用した。
図8を参照のこと。
【0154】
ベータシートペプチド配向
FTIR実験により、ベータペプチド単位が主に逆平行ベータシート構造を取り入れていることが示唆されたが、同じ実験により、自己集合性が動的であり、平衡ベータシートおよび一部の非構造ループ領域を含みながら時間をかけて発展することも示唆された。人工構築物は、モノマーが同じNからC末端方向にまたは反対方向に互いに結合する2つの異なるタイプの二次構造形成を有することができることが認識された。非反転ベータシート様集合を作り出すためには、それぞれのペプチド単位は、ベータターンを使用してNからC末端方向に接続された。これにより、第2のペプチド単位の6位の触媒残基に潜在的に水素結合する第1のペプチド単位の2位の触媒残基がもたらされる(
図9)。したがって、例えば、連続するibDペプチドは以下の通りベータターンを提供するN
4リンカーにより連結されうる:
【0155】
【0156】
反転ベータシート様構造を作り出すためには、一つおきのペプチド単位の配列が反転される。これにより、ペプチド単位2の2位の触媒残基に潜在的に水素結合するペプチド単位1の2位(NからC末端方向に)の触媒残基が得られる(
図9)。
【0157】
[実施例3]
ApGetモジュラーポリペプチドへの人工ニッカーゼの融合
上記の設計態様を取り上げて、ベータペプチドを最初に、5ベータペプチドからなるペンタマー、および10ベータペプチドからなるデカマーに集合させた。ペンタマーおよびデカマー(
図8)は、上で説明したように凝集を減らすためにネガティブ設計を組み入れるベータペプチド単位によりそのNおよびC末端に隣接させた。さらに、反転および非反転設計を作り出した(
図9参照)。それぞれのペプチド単位は、潜在的ベータ鎖を表し、4アミノ酸のベータターンにより分離される。N末端は、リンカー(リンカー1)を通じて配列番号1に示されるDBDのC末端に直接融合された。柔軟で可溶性の領域は、アスパラギン、グルタミン、グリシンおよびセリンからなるC末端隣接領域の末端で提供された。
【0158】
さらにRSBDとDBDの両方を提供するもっと長い融合構築物の一部としてのニッカーゼ活性の試験では、それぞれのタンパク質構築物は、リンカー配列の提供により構築物ApGet-i(配列番号1マイナス最終リンカーおよびニッカーゼ)のC末端領域に融合された。選択されたリンカーは、
【0159】
【化14】
であった。
この最終構築物は、ApGet1.0ヌクレアーゼタンパク質と呼ばれる。
【0160】
そのようなモジュラーポリペプチドは、種々の作用機序またはインビトロ特徴付け研究を使用する2つの異なるシステム:(i)インビトロ転写翻訳(IVTT)および2)細菌組換えタンパク質産生(大腸菌(E.coli)タンパク質産生)を使用して発現された。可溶性を増強するためおよび下流タンパク質精製ステップを楽にするため、一連のタンパク質タグをApGet1.0配列に結合させた(
図10参照)。第1のタンパク質設計は、プロテアーゼ特異的切断部位(TEV切断部位)に先行するN末端ヘキサヒスチジンタグ(6His-タグ)を含有していた。切断部位はTEVプロテアーゼにより切断でき、ApGet1.0タンパク質の精製後6His-タグの除去が可能になる。第2のタンパク質設計は、マルトース結合タンパク質(MBP)をApGet1.0のN末端に融合することによりApGet1.0構築物の可溶性を潜在的に増強すると考えられた。MBPタグはN末端6His-タグと一緒に提供された。C末端は、第2の6Hisタグに、続いてグリシンおよびセリンからなるスペーサー領域に、続いてTEVプロテアーゼ切断部位に融合された。スペーサーは、ApGet1.0の折り畳みによりMBPの立体障害を減少させ、ApGet1.0からのHis-MBP-Hisタグの首尾よい切断のために、TEVプロテアーゼへの適切な接近を可能にする。
【0161】
インビトロ転写および翻訳(IVTT)
IVTT発現システムを使用して、上で論じられたように発現を増強し、最初に切断活性についてApGet1.0タンパク質をスクリーニングした。無細胞インビトロ転写および翻訳システムは、細胞環境の束縛なしでタンパク質を翻訳する。そのようなシステムは、細胞内で安定しておらず別の点では凝集するまたは細胞死を引き起こしてタンパク質収量を減らすと考えられる不溶性で毒性にあるタンパク質を発現するために使用されることが多い。プロテアーゼ、RNアーゼおよびDNアーゼなしでタンパク質を発現できるPURExpress(登録商標)IVTTシステム(New England BioLabs)が使用された。プロテアーゼが存在すると全タンパク質収量を減らすことができ、RNアーゼ/DNアーゼはインビトロ切断アッセイを妨害できるので、これは望ましかった。
【0162】
MBP融合ApGet1.0は、大きなMBPタンパク質を取り除くためいかなる切断アッセイにも先立って切断された。なぜならば、それはApGet1.0タンパク質の作用を立体的に妨害する可能性があったからであった。切断されたタンパク質は、Ni-NTA樹脂とのタンパク質混合物の粗(バッチ)精製を実行することにより切断アッセイ前に半精製された。樹脂は、タンパク質溶液からHis-MBP-His融合タグおよびHis-TEVプロテアーゼを抽出する6Hisタグを捕獲する。
【0163】
ApGet1.0タンパク質を用いた最初の非特異的切断アッセイ
最初の切断アッセイは、IVTTで発現されプラスミドDNA基質と一緒にインキュベートされたApGet1.0デカマータンパク質を用いて実行された。負の対照としての機能を果たすため、ApGet1.0デカマーを用いたアッセイは、IVTT混合物からの種々雑多な活性について制御するためのIVTT発現ApGet-i(C末端にApGet1.0のDBD酵素リンカーを追加で包含して発現された)および異なるバッファー組成について制御するためのタンパク質なし対照と一緒に実行された。関連するターゲティング核酸なしでは、ApGet1.0タンパク質によるDNA基質のいかなる切断も非特異的であると予想された。人工ヌクレアーゼのために使用された設計原理は、二価金属カチオンが活性に不可欠であると予測するので、金属なし、Mn2+またはMg2+を含有するバッファーが試験された。Mn2+およびMg2+は5mMで使用された。残りのバッファー成分は生理的条件を反映した:25mMのTris-HCl pH8.0、150mMのNaCl。
【0164】
例として、配列番号1のApGet1.0タンパク質は、Mg2+またはMn2+イオンの存在下でプラスミドDNAに切れ目を入れる(ssDNA切断を表す)ことが見い出された。前述の通り、これは、配列番号6の人工ヌクレアーゼを用いるApGETである。
【0165】
【0166】
この配列では、IbD(IEIDIHI)の7マーモノマー単位すべてが反転なしでN末端からC末端方向に4マーリンカーにより連結されてベータターンを提供する。隣接するN末端およびC末端ペプチド単位はすぐ上において太字で示されており、それぞれ2番目および3番目の疎水性残基位置が正電荷リジン残基により置換されている。前述の通り、C末端単位も、可溶性を助けるためにNQGSのC末端配列で提供される。
【0167】
二価金属が存在しなければ切断は検出されなかった。ニックド種(nicked species)のパーセンテージは、Mg
2+と比べてMn
2+が存在する場合のほうが大きかった。タンパク質なし対照およびApGet-iは、金属の存在下でも非存在下でもDNA基質を切断できず、ibDペプチドデカマーと関連する特異的な切断活性を示している(
図11参照)。
【0168】
大腸菌(E.coli)における組換えタンパク質発現
IVTTシステムを使用するApGet1.0 10マータンパク質の発現は、最初の切断活性についてスクリーニングすることができるので有用である。しかし、タンパク質収量の増加、純度およびタンパク質を定量化する能力は、酵素の効率を明らかにしその作用機序を理解するのを支援できる。大腸菌(E.coli)組換え技術は、より大きな収量のタンパク質を産生でき、精製はクロマトグラフィー用の一連のカラムを使用して支援することができる。
【0169】
発現および精製
増加した高レベル発現では、上で論じられたMBPタグ付きのApGet1.0タンパク質をコードするDNA配列は、高コピープラスミドであるpET24a内に置かれ、このプラスミドは形質転換すると、それぞれの細胞がApGet1.0タンパク質の多くのコピーを含有し、それによってタンパク質収量を増やすことを保証する。これはT7プロモーターを使用することによりさらに増強された。このプラスミドを使用して、T7 RNAポリメラーゼ遺伝子を含有するDE3溶原性細菌細胞を形質転換し、RNAポリメラーゼの発現はIPTGにより誘導された。
【0170】
選択された宿主細胞はBL21(DE3)RIPLコドンプラス大腸菌(E.coli)細胞(Agilent Technologies)であった。MBP融合ApGet1.0タンパク質は、誘導温度18℃で12~18時間過剰発現された。ApGet-iタンパク質(再びC末端リンカーを含む)は37℃で4時間、同様に発現された。
【0171】
ApGet1.0タンパク質を精製するため、過剰発現ApGet1.0タンパク質を含有する細胞ライセートは、6His-タグを使用してNi-NTAアフィニティーベースのクロマトグラフィーカラム中を通過させ、MBP融合ApGet1.0タンパク質をライセートから精製した。第2のカチオン交換カラムを使用して、MBP-ApGet1.0タンパク質をさらに精製し、続いてTEVプロテアーゼを用いて切断反応させた。これにより、標的タンパク質は全His-MBP-Hisタンパク質タグから切断される。標的タンパク質からのHis-MBP-HisタグおよびTEVプロテアーゼの最終分離は、Ni-NTA樹脂を使用するバッチ精製により実行した。標的タンパク質は溶液中に残り、タグおよびプロテアーゼは樹脂に結合する。
【0172】
[実施例4]
細菌細胞での概念試験の実証
我々は、まず第一に、大腸菌(E.coli)細胞においてApGetポリペプチドのオンターゲット動員を調査するための試験プラットフォームを考案した。大腸菌(E.coli)は、試験されるApGet配置をコードする「エディター」と名付けられた第1のプラスミドおよびApGetシステムにより媒介される遺伝子編集により差次的シグナルを生成する因子をコードする「ディテクター」である第2のプラスミドで同時形質転換された。2つのプラスミドははっきり異なる適合性の複製起点を有し、大腸菌(E.coli)集団において両方のプラスミドの同時形質転換および安定な維持を可能にする異なる抗生物質耐性遺伝子を含有する。
【0173】
細菌細胞中へのApGet-iシステムの送達および転写阻害の実証
エディタープラスミドはマルチコピープラスミドであり、天然のSpCas9プロモーターの制御下のApGetポリペプチドおよびJ23119プロモーターの制御下の核酸構成要素(NAC)をコードする。これは、大腸菌(E.coli)においてgRNA発現を駆動する一般に使用されている強力な合成プロモーターである(例えば、in Qi et al. Repurposing CRISPR as an RNA-guided platform for sequence specific control of gene expression. Cell (2013) 152, 1173-1183参照)。ディテクタープラスミドは、Lacプロモーター駆動eYFPまたはLacZaタンパク質コード配列を含み、その5’上流領域はApGetシステムに配置される標的エレメントに相補的な4つの同一な標的を含有する。
図12を参照のこと。
【0174】
エディタープラスミド中の標的エレメント配列(TE)は:
【0175】
【0176】
NAC中のターゲティングエレメントは、コネクターAATTTを使用してBoxB RNAスキャフォールド配列に融合され、このスキャフォールド配列はApGetポリペプチドのRSBDに結合する。
【0177】
2つのディテクタープラスミド中の標的は以下の通りである(配列番号62):
PC1およびPC2における5’から3’方向への標的配列(灰色の箱の配列はPDSであり、白色の箱の配列は標的であり、中間は他の配列で分離されている):
【0178】
【0179】
予備実験では、エディタープラスミドによりコードされるタンパク質構成要素はいかなるヌクレアーゼも排除する「ApGet-i」システムが作製された。これは、配列番号1のApGetポリペプチドの連結されたRSBDおよびDBD構成要素マイナス人工ニッカーゼと同一であった。にもかかわらず、PDS含有標的へApGetモジュラーポリペプチド-NAC複合体が首尾よく動員されれば、eYFPの転写が阻害されて蛍光シグナルを減らすまたはLacZaの発現を阻害すると予想された。これは事実であると判明した;
図13aおよびbを参照のこと。誘導後、eYFP蛍光のまたはLacZa遺伝子の活性(o-ニトロフェニル-ベータ-D-ガラクトシダーゼの加水分解において)の減少はディテクタープラスミドのどちらかがApGet-i発現プラスミドと一緒に送達された時だけ観察され、ApGet-iの転写阻害活性を示していた。
【0180】
下の表5は、eYFPの発現の検出を用いた構築物試験を要約する。下の表6は、LacZaの発現の検出を用いた構築物試験を要約する。構築物1=ApGet-iの発現用のプラスミド。構築物2=eYFPディテクタープラスミド。構築物3=LacZaディテクタープラスミド。構築物4=構築物1に類似する骨格を有するが、ApGet-i発現カセットはないプラスミド。
【0181】
【0182】
【0183】
Fok1ヌクレアーゼドメインを用いた試験
次に、ApGet概念の試験は、完全に機能的なRNA依存性ゲノム編集酵素を作出するためにFokIヌクレアーゼの触媒単位をリンカー(配列番号1において上で示される配列番号5のリンカー)を通じてApGet-iのDBDドメインに融合させることにより拡張した。ヌクレアーゼリンカーは、一部分、合成DNA断片の合成用のヌクレオチド配列を最適化するように選択された。この場合、ApGet-FokIシステムのエディタープラスミドは、構成的J23119プロモーター制御下で発現される核酸構成要素(NAC)および誘導性Tet-Onプロモーターの制御下のApGet-FokIタンパク質(Tetリプレッサー(TetR)は、Tetオペレータ(TetO)配列)に結合することによりTetプロモーター(TetP)の発現を調節する)からなっていた。エディタープラスミドの骨格はpET28aに由来し、ColE1複製起点およびカナマイシン耐性発現単位を含む(
図14参照)。ディテクタープラスミドは、向かい合っているDNA鎖上に2つの同一の標的配列(実験で使用されるエディタープラスミドから発現される単一のApGet NAC構成要素により認識される)を含む標的カセットを含有し、例えば、PDS配列はそのそれぞれの標的配列の内部に位置していた(我々は、これを「インワード」または「PDS-in」配置と名付ける)。
標的エレメント配列および標的配列は以下の通りであった:
標的エレメント配列:
【0184】
【化18】
標的配列(灰色の箱はPDSを示し、白色の箱は標的配列を示す):
「PDSout」配置:
【0185】
【化19】
5ntスペーサーを有する「PDSin」配置:
【0186】
【化20】
8ntスペーサーを有する「PDSin」配置:
【0187】
【化21】
14ntスペーサーを有する「PDSin」配置:
【0188】
【0189】
ディテクタープラスミドは、ori2およびoriV複製起点ならびに抗生物質耐性遺伝子、エディタープラスミド上の抗生物質耐性遺伝子とは異なり、この特定の実施例ではクロラムフェニコール耐性遺伝子を含有するpCC1由来のエレメントも含有していた(再び、
図14参照)。
【0190】
ApGet-FokIの動員に成功すれば、部位特異的二本鎖切断を生じ、ディテクタープラスミドが消失すると予想され、この消失により、このプラスミドは培養培地中に存在する抗生物質に対する耐性遺伝子を含有するので、細菌成長が減少するはずである(
図15)。ApGetの編集活性の検出を促進するために、これらの試験は、EPI300細胞(EpiCentre)中へのエディターおよびディテクタープラスミドの同時形質転換により行われ、これらのプラスミドはL-アラビノースにより誘導可能なParaBADプロモーターの厳格な調節下でoriV活性化因子trfaをコードするように操作されていた。L-アラビノースを欠く増殖培地においてエディターおよびディテクタープラスミドで同時形質転換されたEPI300細胞が成長すると、非常に低いコピー数のディテクタープラスミドが生じる(マルチコピーori-V複製起点が活性化されていないからである)。これは、ApGet-FokIのDNA編集活性の結果としてディテクタープラスミドが消失すると、クロラムフェニコールに対して細胞をさらに感受性にすると予想された。編集活性の検出は、アンヒドロテトラサイクリン(ATC)を用いたApGetの誘導1日後OD600を測定することによった。対照実験は、EPI300細胞へのApGet-i発現エディター(ApGet構築物、ヌクレアーゼドメインを欠く)または非ApGet発現プラスミドおよびディテクタープラスミドの同時形質転換を含んでいた。試験に成功したかどうかは、PDS-標的配列ペアおよび5、8または14ntのこれらのペア間のスペーサーに対して「PDS-in」フォーマットを有するディテクタープラスミドも含有する細胞でのApGet-FoK1の発現と共に観察されるOD600の減少により例証される(
図15でのバー1~3参照)。
【0191】
人工ニッカーゼモジュールを用いた試験
FokIヌクレアーゼに融合されたApGetプラットフォームの成功した試験に続いて、我々は試験を、前述の通りの好ましい選択された人工ニッカーゼ(配列番号6)を含む人工ヌクレアーゼ(AN)に融合されたApGetまで拡大した。
【0192】
要約すると、ApGetシステムは、破壊された遺伝子を修正する目的で、大腸菌(E.coli)細菌細胞に送達された。細胞は、破壊されたナノルシフェラーゼ遺伝子を保有するディテクタープラスミドおよびApGetシステムを発現するエディタープラスミドで同時形質転換され、このシステムでは、システムのポリペプチド構成要素(例えば、配列番号1のアミノ酸配列を有するモジュラーポリペプチド)がT7プロモーターおよびLacオペレータの制御下にありシステムのRNA構成要素が合成プロモーター(J23119)の制御下で発現される。修復鋳型も、おおよそ200bpの右および左相同アームと一緒にエディタープラスミドに包埋される。
【0193】
ドナーまたは修復鋳型エレメントの5’から3’方向への配列は以下の通りであった:(左相同アームの配列は下線が引かれており、右相同アームの配列は灰色で強調されている):
【0194】
【0195】
ヌクレアーゼペプチド単位の長さおよび配向が異なる種々のApGetポリペプチドを試験した(
図16参照)。発現カセットは、上で論じられた精製および試験のために、ApGetポリペプチド産生の発現のための発現カセットと比べて改変された。発現試みにより、可溶性タグMBPを付加すると大腸菌(E.coli)でのタンパク質の発現が増強されたことが示された。しかし、そのようなタグは、編集活性を得るのに必要ではなかった。しかし、切断可能な6Hisタグは保持された。具体的には、我々は、「非反転」および「反転」タンパク質翻訳方向に最大10ペプチド単位(デカマー)からなるヌクレアーゼドメインを有するApGet1.0を試験した。ApGet編集活性の検出感度を最大にするため、ディテクタープラスミドは「機能獲得型」検出システムを提供し、そこではディテクターエレメントの二本鎖DNA配列中でニックを生成すると相同組換え修復(HDR)を促進して、ドナー鋳型の存在下でディテクター活性を回復させることができる。検出活性をさらに増やすため、ディテクターは、T7プロモーターの制御下で発現され標的カセットにより破壊され、ApGet1.0により認識されるナノルシフェラーゼ遺伝子の形態で設計された。標的カセットは、「PDS-out」または「PDS-in」配置で縦一列に並んだ2つの同一の標的配列で構成されている。(
図17においてそれぞれ構築物fおよびgを参照)。PDS-inおよびPDS-outディテクターは、以前用いられ上述の同じ標的配列を用い、相同アームの間に正確に位置していた。
【0196】
我々は、標的カセットは、互いにごく接近して位置する2つの標的配列からなるが、ApGet1.0のANのクラスター化ニッキング活性を増加し、したがって、二本鎖切断の機会を増やし、それが今度はより効率的なHDRの引き金を引く可能性があって、機能的ナノルシフェラーゼの発現をもたらすと推論した。上述の通りに、ナノルシフェラーゼ用の相同組換え修復(HDR)鋳型はApGetを分離単位として発現する同じプラスミド上に構築された。
【0197】
図18および19は、本発明の合成ゲノム編集システムにより標的とされるPDS-標的配列のペアのPDS-inおよびPDS-out配置の使用をさらに図解する。
【0198】
試験されたApGet1.0の種々の配置が下の表7に収載されている。
【0199】
【0200】
BL21(DE3)細胞を、これらの配置のそれぞれおよびナノルシフェラーゼオープンリーディングフレーム(Nanoluc ORF)が破壊されている2つのタイプのディテクターのどちらかで同時形質転換した(PDS-inまたはPDS-out配置)。機能的ナノルシフェラーゼを回復させるHDRの効率を反映するNanolucシグナル/OD600比をそれぞれの試料について分析した(
図19)。HDRイベントは、サンガーシーケンシング分析ならびにディテクター単位の修復されたナノルシフェラーゼコード配列のディープアンプリコンシーケンシングにより確かめられた。
【0201】
これらの結果は、明らかに組込み部位にニックを生じることにより、大腸菌(E.coli)においてHDRを促進する際のApGet1.0システムの識別可能な活性をはっきり示していた。適切なターゲティング核酸を有する配列番号1のApGetモジュラーポリペプチドはこの目的に好ましい。
【0202】
[実施例5]
変異PDSへの選択されたDBDの結合能力
前述の通り、配列
【0203】
【化24】
のDBDは、5’から3’の配列5’GAGGTC3’(ターゲティングにおいて使用するために最初に選択された既定の配列(PDS))により表されるdsDNA配列に対する結合親和性に基づいて選択された。ナノルシフェラーゼ検出アッセイ(Promega)を使用して同じDBDに結合するためのこのPDS中の種々のヌクレオチドの重要性を判定するためにさらなる研究に着手した。これは、細菌でのApGet-iの発現が、NACプラスDBD選択のために使用されるPDSについての標的部位を含有する配列の転写を抑制できるという前述の先行所見に基づいていた。
【0204】
ApGet-i発現プラスミド(エディタープラスミド)は
図21に示される通りに提供された。ナノルシフェラーゼ発現カセットは、DBD選択のために最初に使用されたPDSおよび
図22に示される標的領域でのそのPDSの変異体を有する第2のプラスミドベクター(ディテクタープラスミド)にクローニングされた。
【0205】
細菌細胞は、ApGet-i発現がTetRプロモーターの制御下であったエディタープラスミドで形質転換された。NACも、構成的J23119プロモーターの制御下で同じプラスミドにより発現された。異なる耐性遺伝子および適合する複製起点を有するディテクターおよびエディタープラスミドが提供された。ApGet-i発現プラスミドはCoIE1高コピー複製起点を有する。ディテクタープラスミドはOri2およびOriV複製起点を有する。ディテクターおよびエディタープラスミドの形質転換はEPI300細胞(Lucigen)で実行され、この細胞はディテクタープラスミドのコピー制御を可能にする。形質転換された培養物はその次の日にアンヒドロテトラサイクリン(ATC)を用いて誘導されて、ApGet-iの発現を誘導し、ナノルシフェラーゼ発現はIPTG(イソプロピル β-D-1-チオガラクトピラノシド)を用いて誘導された。ナノルシフェラーゼのシグナルはマイクロプレートリーダー上でモニターされ、培養中の細菌成長の程度を考慮するために正規化された。
【0206】
エディタープラスミドに類似する骨格を有しApGet-i ORFのないLacZタンパク質を発現するプラスミドは対照として使用された(
図23a)。この対照により、種々のPDSの影響下でのルシフェラーゼ遺伝子の発現レベルの減少が比較できた。
【0207】
【0208】
DNAの異なるPDSに向けられたDBDがルシフェラーゼの発現を阻害するのに効果的であることが実証された。これにより、本発明のDBDがDNAに結合するその能力という点で柔軟であることが確かめられる。例えば、配列番号4のDBDは、dsDNA中の5’GAGGTC3’配列だけではなく、例えば、5’TTGGGTC3’および5’AAAAAA3’も、こちらの方が上というわけではないがよい親和性で標的とするのに効果的であることが予想できる。
【0209】
[実施例6]
哺乳動物細胞における遺伝子編集研究
哺乳動物細胞におけるApGetの編集効率は、HEK293TおよびHAP1細胞で試験された。この目的のため、プラスミドまたはRNP形態のApGetの最適化配置が作り出された。哺乳動物細胞培養物でのApGetの一過性発現では、ApGetおよびNAC発現単位が最小必要長さの環状ベクターで構築され、このベクターの効率的作製を可能にする高コピー複製起点および抗生物質耐性遺伝子を含有するだけであった(
図24)。ApGetおよびNAC単位は、それぞれRNA pol IIおよびRNA pol IIIプロモーター下で発現され:ApGetの発現用にCMV、Cbh/CAGまたはEf1Aプロモーターおよび2つのNAC単位のそれぞれの発現用にU6プロモーターが使用された。用いられたApGet発現カセットの変異体は、
図25にさらに完全に図解されている。核局在化シグナルはN末端でFLAG(登録商標)エピトープタグの後で提供された。
【0210】
(i)免疫蛍光顕微鏡を使用するApGetによるPD-L1/CD274編集の検出
本実施例では、ApGetの標的領域が、PD-L1遺伝子(CD274としても知られる)のオープンリーディングフレームを有するすべての既知の選択的スプライシング転写物の発現に影響するように選択された(Q9NZQ7-1、Q9NZQ7-2、Q9NZQ7-3、Uniprot)。ApGet標的エレメントの結合部位およびPDS部位を含む、PD-L1遺伝子標的のエキソン4中のApGetターゲティング領域のレイアウトは
図26に示されている。
【0211】
ApGet RNPは電気穿孔(NEON、Thermofisher)によりハプロイドHAP1細胞に送達された。ハプロイド細胞は、この細胞が単一コピーの標的遺伝子を含有するだけなのでいかなるリーディングフレーム変化または著しい欠失変異の直接表現型結果も予測できるように選択された。トランスフェクション2時間後、インターフェロンガンマがトランスフェクトした細胞培養物に添加されて、PD-L1発現を誘導した。トランスフェクション24時間後、細胞は固定され、PD-L1は免疫蛍光標識抗体を使用して検出された。
【0212】
PD-L1発現細胞の定量化は、ImageJにより行われ、値はMS Excelを使用してグラフにプロットされた;
図27参照のこと。
【0213】
この実験により、インターフェロンガンマ誘導に応答したPD-L1タンパク質の発現は大いに減少していることが確かめられ、これはApGetシステムにより標的とされたPD-L1遺伝子座での遺伝子編集と一致している。
【0214】
(ii)ApGet活性は相同組換え修復(HDR)を通じたドナー鋳型配列のゲノム組込みを促進する
HAP1細胞は、ApGet(
図25、構築物1)、RNAオリゴの形態でのPD-L1遺伝子中の標的領域の2つの隣接領域に対するNACおよび一本鎖DNAオリゴ(ssODN、Alt-R、IDT)の形態でのドナー鋳型を発現するベクターで同時トランスフェクトされた。ドナー鋳型は、3’末端に終止コドンを備え両側から50bpの相同アームで隣接されたHAタグ配列を有するように設計された。ドナー鋳型の相同アームは、すでに組み込まれたHDR鋳型に対する標的領域上およびそれに接する潜在的ApGet活性の効果を最小限に抑えるように標的領域の30bp上流および下流の配列に結合するように設計された(
図28a)。細胞はトランスフェクションの24時間後に収穫され、ゲノムDNAは抽出されHDR特異的PCRにより分析され、そこではプライマーのうちの1つが組み込まれたHAタグに結合し別のプライマーが相同アームの外側のゲノム配列に結合する。本実施例に記載される実験のレイアウトおよび結果は
図28bに提示されている。
【0215】
実験は、ApGet媒介編集が、HDR機構による染色体DNA中へのHAタグの組込みの引き金を引いたという証拠を提出している。
【0216】
(iii)ApGetはヒト細胞において標的部位での染色体編集を誘起する
HEK293T細胞は、標的部位のどちらかの側に並置されたPDS配列を含む、TSKU遺伝子に向けた、ApGet発現構築物(
図25に示されるjおよびk)でトランスフェクトされた;
図29参照のこと。ゲノムDNAはトランスフェクションの48時間後に収集され、標的部位に隣接するプライマーを使用してPCRにより増幅させた。蛍光鎖終結残基を用いたサンガーシーケンシング由来のDNA配列痕跡はPCR産物から得られた。これらは、それぞれの位置で野生型配列の割合を査定することにより遺伝子編集の程度を計算するクラウドベースのソフトウェアパッケージであるTIDERを使用して分析された。非トランスフェクト試料は対照として使用された(Brinkman et al, Nucleic Acids Res. (2018))。
【0217】
図30に示される結果は、対照試料と比べて、試験試料中の配列位置5’から塩基対150まで野生型配列からの高い置換率を示す。これは、ApGetシステムがヒトHEK-293細胞において染色体DNAを標的部位で編集しているという主張を強く支持している。
【0218】
[実施例7]
ApGetタンパク質の組換え産生
組換えタンパク質発現および精製技法を使用して、ApGetタンパク質産生に関するさらなる研究に着手した。これらの研究は、大腸菌(E.coli)での発現によりApGet-iおよびApGet産生(下では「目的のタンパク質」またはPOIと呼ばれる)を最適化することを視野に入れて着手された。POIは、種々のタグとの融合物を産生することにより可溶性発現および精製の容易さを可能にするように改変された。これらの融合タンパク質のために用いられた開始配置は
図31に詳述されており、以下のもの:固定化金属アフィニティークロマトグラフィー(IMAC)ベースの精製用のHisタグ(6×ヒスチジン)、マルトース結合タンパク質(MBP)または低分子ユビキチン様修飾因子(SUMO)の可溶性タグ、スペーサー、続いてTEVプロテアーゼ切断部位、FLAG(登録商標)エピトープタグ、核局在化配列(NLS)、POI配列および最後はC末端のStrepタグ(登録商標)II配列からなっていた。このタグは、ApGetiとApGet産生の両方で使用しうる。しかし、ApGetiはStrepIIタグなしでも精製することができ、したがってC末端にリンカー1(配列番号5)を包含するだけで発現しうる。
【0219】
Hisタグと可溶性タグの間に、いくつかのグリシンまたはセリン残基が組み入れられた。可溶性タグとTEVプロテアーゼ部位の間のスペーサーは最初はグリシンセリンリッチなリンカーであったので、タンパク質構築物中のグリシンおよびセリン残基の数を減らすために、これはアスパラギンリッチなリンカーで置き換えられた。
【0220】
これらの構築物中のTEVプロテアーゼ媒介切断は、アミノ酸Gly-Trp-Gly-Ser(GWGS)からなるNH2末端リーダーを生成し、したがって、追加の芳香族アミノ酸残基を導入して、タンパク質定量化のために280nmでの吸光度測定の感度を改善した。
【0221】
COOH末端タグとして組み入れられると、StrepIIタグは、完全長タンパク質を選択するためにストレプトアビジンの特に操作されたバージョンでのアフィニティークロマトグラフィーの使用を可能にする。これは、最終タンパク質製剤からの時期尚早で終了した翻訳産物の除去を可能にした。この方法を通じて、精製、検出および可溶性タグを備えた完全長ApGetタンパク質の産生が首尾よく達成された。
【0222】
[実施例8]
VP64に連結されたApGetiを使用する転写活性化
非ヌクレアーゼエフェクターに連結されたApGetiプラットフォームの遺伝子調節の改変を提供する能力ならびにシステムの個々の構成要素のモジュール性を証明するための実験に着手した。ApGeti-VP64と名付けられた構築物を提供するために配列番号1に一致するApGetモジュラーポリペプチド中の人工ヌクレアーゼをVP64転写活性化因子タンパク質で置換し、HEK293T細胞においてこの構築物がASCL1遺伝子を転写的に活性化する能力が判定された。リンカー変動およびdCas9-VP64構築物を有するApGeti-VP64の2つの変異体も試験された。
【0223】
ASCL-1遺伝子は、背景転写レベルが低いそのようなCRISPR/Casベースの転写活性化因子で知られる標的遺伝子として選択された。4つの異なるNACを使用して標的とされる遺伝子プロモーター領域の4つの位置が選択された。それぞれのNACは、短いコネクターにより同じRNAスキャフォールドに接合されたターゲティングエレメントからなっていた(ボックスBラムダファージ配列)。前述の通り、3つの異なるモジュラーApGetポリペプチドが同じVP64エフェクターおよび同じRSBDと一緒に用いられた(ラムダN22ペプチド)。VP64構成要素とDBDの間のリンカー1またはRSBDとDBDの間のリンカー2は、下の表8に示されるように多彩であった。
【0224】
【表8】
上に収載されるApGeti-VP64モジュラーポリペプチドの種々の構成要素のアミノ酸配列は表9に提供されている。
【0225】
【0226】
それぞれのApGeti-VP64変異体は、同じプラスミドから4つの分離NAC転写単位と一緒に発現された。
図32に示されるように、プラスミド構築物はすべて、最小主義のベクター骨格(ColE1複製起点および細菌耐性遺伝子を含有する)を含む全体構造および5つの分離転写単位を含むインサート:2つのU6プロモーター駆動NAC単位、続いておよび転写の逆方向にEf1-αプロモーター駆動ApGeti―VP64発現単位、続いて別の2つの分離U6プロモーター駆動NAC単位を有していた。異なるNAC発現単位ならびにApGeti-VP64変異発現単位の配列は、以下の表10に提示されている。表11はそれぞれのプラスミド構築物の発現単位をまとめている。
【0227】
NAC番号付け(1~4)は構築物中のNACの位置による(5’から3’)。NAC1およびNAC2配列は、ApGeti-VP64およびNAC3およびNAC4に対して逆転写配向しているので、逆相補鎖上に与えられる。それぞれのNAC発現単位は、U6プロモーター、続いてRS(太字)、TE(下線部配列)および7×tを含むターミネーター配列を含む。それぞれのApGeti-VP64発現配列は、Ef1-αプロモーターおよび5’非翻訳領域、続いてRSBD(イタリック体大文字)を含むApGeti-VP64コード配列(下線部)、続いてリンカー2(太字)、DBD(太字大文字)、リンカー1(大文字)およびVP64モジュール(イタリック体)を含む。
【0228】
表10
NAC1(配列番号72)
【0229】
【0230】
【0231】
【0232】
【化28】
ApGeti-VP64(配列番号76)
【0233】
【化29】
RSBD(ラムダN22)DNA配列(配列番号77)
【0234】
【化30】
リンカー1(L1)DNA配列(配列番号78)
【0235】
【化31】
改変リンカー1(L1a)DNA配列(配列番号79)
【0236】
【化32】
リンカー2(L2)DNA配列(配列番号80)
【0237】
【化33】
改変リンカー2(L2b)DNA配列(配列番号81)
【0238】
【化34】
VP64モジュールDNA配列(配列番号82)
【0239】
【0240】
【0241】
【0242】
細胞の成長およびトランスフェクション
HEK293T細胞は、リポフェクタミン3000試薬を製造業者の説明書に従って使用してVP64に融合されたApGet-iタンパク質プラス4つのNACを発現するプラスミドでトランスフェクトした。ApGeti-VP64発現プラスミド2.5mgを、6ウェルプレートフォーマット(ThermoFisher Scientific)でウェル中0.7~1×106HEK293T細胞に用いた。
【0243】
RNAおよびcDNA調製
全RNAは、市販のRNA調製キット(Monarch Total RNA Miniprep Kit、NEB)を使用してトランスフェクション48時間後に抽出した。収穫し精製したRNAは、また市販のキット、Improm-II(商標)Reverse Transcriprion Systemを使用して転写した。mRNAの発現レベルは、予め設計されたTaqman qPCRアッセイ(IDT)を使用して定量化した。標的Cq値(FAM色素)はActinB Cq値(HEX色素)に正規化した。標的遺伝子(ASCL1)発現の倍率変化は、モックトランスフェクト対照と比べることにより決定した。
【0244】
結果
種々のApGet-VP64ポリペプチドにより転写活性化を査定するTaqman qPCRアッセイの結果は、
図33に示されている。それぞれの試料について、ASC1特異的シグナルはActBシグナルに正規化した。モックトランスフェクト細胞(ApGet-VP64がないベクター骨格)のレベルに正規化されたASCL-1遺伝子の転写レベルの相対的倍率変化はグラフに提示されている。
【0245】
試験したApGeti-VP64ポリペプチドのすべてが転写活性化を示した。
【配列表】
【国際調査報告】