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特表2024-537288CD19結合T細胞誘引抗体の皮下投与
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-10
(54)【発明の名称】CD19結合T細胞誘引抗体の皮下投与
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20241003BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20241003BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20241003BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20241003BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20241003BHJP
   A61K 47/40 20060101ALI20241003BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20241003BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
A61K39/395 N
A61P35/00
A61P35/02
A61K9/08
A61K47/26
A61K47/40
A61K47/34
C07K16/28 ZNA
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024521807
(86)(22)【出願日】2022-10-14
(85)【翻訳文提出日】2024-04-30
(86)【国際出願番号】 EP2022078638
(87)【国際公開番号】W WO2023062188
(87)【国際公開日】2023-04-20
(31)【優先権主張番号】63/256,056
(32)【優先日】2021-10-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/281,992
(32)【優先日】2021-11-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513105328
【氏名又は名称】アムジェン リサーチ (ミュニック) ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ザグマイヤー,ゲーアハルト
【テーマコード(参考)】
4C076
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076BB11
4C076CC27
4C076DD09
4C076DD26
4C076DD38
4C076DD51
4C076DD67
4C076EE39
4C076FF15
4C076FF61
4C085AA14
4C085BB11
4C085CC23
4C085EE01
4C085GG04
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA09
4H045DA76
4H045EA20
(57)【要約】
本発明は、概して、医療の分野に関し、特に、CD19×CD3二重特異性抗体の皮下投与の方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
CD19に結合するT細胞誘引ポリペプチド構築物を使用して、患者のリンパ腫又は白血病を治療又は改善する方法であって、
- 第1の治療サイクルで前記T細胞誘引ポリペプチド構築物を前記患者に投与する工程
を含み、
- 第1の量の前記T細胞誘引ポリペプチド構築物の少なくとも2回の個別の用量は、第1の所定の期間に皮下投与され、
- 任意選択的に、第2の量の前記T細胞誘引ポリペプチド構築物の少なくとも2回の個別の用量は、第2の所定の期間に皮下投与される、方法。
【請求項2】
前記第1の治療サイクルは、少なくとも1つの追加の治療サイクルによって先行及び/又は後続される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
第3の所定の無治療期間は、前記第1の治療サイクルに先行及び/又は後続する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
第4の所定の無治療期間は、前記第1の所定の期間に後続する、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記第1の量は、2~9回の個別の用量で投与される、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記第1の所定の期間は、5~9日間、特に7日間である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記第1の量は、10~80μg、20~80μg、特に30~75μg、より具体的には35~50μg、より具体的には40μgである、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記第1の量は、100~150μg、110μg~130μg、特に120μgである、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記第1の量は、150~300μg、200μg~275μg、特に250μgである、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記第1の量は、250~750μg、375μg~625μg、特に500μgである、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記第1の量は、500~1500μg、600μg~1250μg、特に1000μgである、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記第2の所定の期間は、1~28日間、特に1~21日間である、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記第2の量は、200~750μg、特に225~275μg、より具体的には250μgである、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法、特に請求項7又は8に記載の方法。
【請求項14】
前記第2の量は、250~750μg、375μg~625μg、特に500μgである、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法、特に請求項9に記載の方法。
【請求項15】
前記第2の量は、500~1250μg、600μg~1250μg、特に1000μgである、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法、特に請求項10に記載の方法。
【請求項16】
前記第2の量は、週に2~5回、特に週に3回投与される、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記少なくとも1つの後続サイクルで投与される量は、200~300μg、特に225~275μg、より具体的には250μgである、請求項1~9又は12若しくは13のいずれか一項に記載の方法、特に請求項9、12又は13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記少なくとも1つの後続サイクルで投与される量は、250~750μg、375μg~625μg、特に500μgである、請求項1~10又は12~14のいずれか一項に記載の方法、特に請求項10、12、13又は14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記少なくとも1つの後続サイクルで投与される量は、500~1500μg、750μg~1250μg、特に1000μgである、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法、特に請求項10、11、12又は15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記少なくとも1つの後続サイクルにおける前記量は、週に2~5回、好ましくは週に3回投与され、任意選択的に皮下投与される、請求項1~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記少なくとも1つの後続サイクルにおける前記量は、週に2~5回、好ましくは週に2回投与され、任意選択的に皮下投与される、請求項1~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記第1の量は、100μg~800μg、200~700μg、特に約112μg、225μg、450μg又は675μgのいずれかである、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記T細胞誘引ポリペプチド構築物は、CD3に結合する、請求項1~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記T細胞誘引ポリペプチド構築物は、ヒト及びマカクCD3に結合する、請求項1~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記T細胞誘引ポリペプチド構築物は、一本鎖ポリペプチド構築物である、請求項1~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記T細胞誘引ポリペプチド構築物は、配列番号11~22に示されるCDR領域を含む、請求項1~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記T細胞誘引ポリペプチド構築物は、配列番号3、5、7及び9に示されるVH及びVL領域を含む、請求項1~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記リンパ腫又は白血病は、NHL及びALLを含む群から選択される、請求項1~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記患者は、請求項1~28のいずれか一項に記載の皮下投与スキームに先行する少なくとも1つの更なる治療を受けており、且つ/又は受けることになり、前記先行する及び/又は更なる治療は、B細胞枯渇剤、特にブリナツモマブのcIV投与、CD19特異的CAR T細胞療法による投与、CD20標的化剤の投与及び/又は化学療法を含む群から選択される、請求項1~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記第1の量は、30~50μg、特に40μgであり、及び前記患者は、(再発性/難治性)B細胞前駆体急性リンパ芽球性白血病に罹患している、請求項1~21又は23~29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記患者は、(再発性/難治性、R/R)緩徐進行性非ホジキンリンパ腫に罹患している、請求項1~6又は22~29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
CD19に結合するT細胞誘引ポリペプチド構築物を、請求項1~31のいずれか一項に記載の量で含む容器/器物を含む装置。
【請求項33】
前記容器/器物は、単回使用のために予め充填される、請求項32に記載の装置。
【請求項34】
CD19に結合するT細胞誘引ポリペプチド構築物を、請求項1~33のいずれか一項に記載の量で含む少なくとも1つの容器/器物を、任意選択的に、請求項32又は33に記載の、CD19に結合する前記T細胞誘引ポリペプチド構築物を患者に投与するための装置と共に含むキットオブパーツ。
【請求項35】
a)T細胞誘引ポリペプチド構築物、b)リン酸カリウム、c)スクロース、d)マンニトール、e)スルホブチルエーテルβシクロデキストリン、及びf)ポリソルベート80を含む、請求項1~31のいずれか一項に記載の方法で使用するための組成物。
【請求項36】
pHは、pH6.5~7.5、pH6.7~7.3、pH6.8~7.2、pH6.9~7.1の範囲、例えばpH7.0である、請求項35に記載の使用のための組成物。
【請求項37】
a)T細胞誘引ポリペプチド構築物、L-グルタミン酸、スクロース及びポリソルベート80を含む、請求項1~31のいずれか一項に記載の方法で使用するための組成物。
【請求項38】
pHは、pH4.0~4.4、pH4.1~4.3の範囲、例えばpH4.2である、請求項37に記載の使用のための組成物。
【請求項39】
a)T細胞誘引ポリペプチド構築物、b)10mMリン酸カリウム、2%(w/v)スクロース、4%(w/v)マンニトール、1%(w/v)スルホブチルエーテルβシクロデキストリン、0.01%(w/v)ポリソルベート80を含み、pH7.0を有する、請求項35又は36に記載の方法で使用するための組成物。
【請求項40】
a)T細胞誘引ポリペプチド構築物、b)10mM L-グルタミン酸、9%(w/v)スクロース、0.01%(w/v)ポリソルベート80を含み、好ましくはpH4.2を有する、請求項37又は38に記載の方法で使用するための組成物。
【請求項41】
a)T細胞誘引ポリペプチド構築物、b)リン酸カリウム、c)スクロース、d)マンニトール、e)スルホブチルエーテルβシクロデキストリン、及びf)ポリソルベート80を含む医薬組成物を皮下投与することを含む、請求項1~31のいずれか一項に記載の治療方法。
【請求項42】
前記医薬組成物のpHは、pH6.5~7.5、pH6.7~7.3、pH6.8~7.2、pH6.9~7.1の範囲、例えばpH7.0である、請求項41に記載の治療方法。
【請求項43】
a)T細胞誘引ポリペプチド構築物、L-グルタミン酸、スクロース及びポリソルベート80を含む医薬組成物を皮下投与することを含む、請求項1~31のいずれか一項に記載の治療方法。
【請求項44】
前記医薬組成物のpHは、pH4.0~4.4、pH4.1~4.3の範囲、例えばpH4.2である、請求項43に記載の治療方法。
【請求項45】
a)T細胞誘引ポリペプチド構築物、b)10mMリン酸カリウム、2%(w/v)スクロース、4%(w/v)マンニトール、1%(w/v)スルホブチルエーテルβシクロデキストリン、0.01%(w/v)ポリソルベート80を含む医薬組成物を皮下投与することを含み、前記組成物は、約7.0のpHを有する、請求項41又は42に記載の治療方法。
【請求項46】
a)T細胞誘引ポリペプチド構築物、b)10mM L-グルタミン酸、9%(w/v)スクロース、0.01%(w/v)ポリソルベート80を含む医薬組成物を皮下投与することを含み、前記組成物は、約4.2のpHを有する、請求項43又は44に記載の治療方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CD19結合ドメインを含むT細胞エンゲージャーの皮下投与を使用して、血液癌、特に白血病又はリンパ腫に罹患している患者を治療する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
癌免疫療法は、活性であるために、癌細胞の表面に確実に結合される標的抗原を必要とする。癌標的抗原特異的結合ドメインを含む免疫療法薬は、表面標的に結合することにより、癌細胞に致命的なシグナルを直接送達することができるか、又はT誘引薬(T細胞エンゲージャー)である場合、例えば細胞傷害性T細胞を動員することによって間接的に送達することができる。理想的な治療シナリオでは、標的抗原は、あらゆる癌細胞上に豊富に存在し、アクセス可能であり、正常細胞上に存在しないか、遮蔽されているか又ははるかに少ない。代わりに、標的抗原は、正常細胞及びそれに由来する癌細胞の特定の系統に制限され得、標的抗原陽性正常細胞の枯渇は、例えば、標的抗原陰性幹細胞からのその回収のために許容される。これらの状況は、規定された量の免疫療法に基づく治療薬が癌細胞を効果的に攻撃するが、正常細胞を温存する治療窓の基礎となる。
【0003】
免疫療法薬のクラスの1つを形成し得る抗体並びに抗体のドメイン又は抗体の他の一般的に公知の誘導体及びその断片を含む他の治療薬は、多くの障害、特に癌を治療するのに有効な手段であるが、それらの投与は、必ずしも副作用がないわけではない。有害作用は、患者の健康状態の可逆的又は不可逆的な変化を引き起こし得る。有害作用は、潜在的に有害であり、非常に重要な治療の中断につながる可能性があるため、それを回避することが非常に望ましい。臨床試験では、有害作用(AE)と重篤な有害作用(SAE)とを一般的に区別することができる。具体的には、有害事象共通用語規準(CTCAE)バージョン4に従い、有害作用を5段階に分類することができる。グレード1は、軽度AE、グレード2は、中等度AE、グレード3は、重度AE、グレード4は、生命を脅かすか又は身体障害を引き起こすAEに関連し、グレード5は、AEに関連する死亡を意味する。抗体療法で観察される有害作用は、サイトカイン放出症候群(「CRS」)などの注入関連副作用の発生である。CRSに関連すると記載されている他の有害な副作用は、疲労、嘔吐、頻脈、高血圧、背部痛であるが、発作、脳症、脳浮腫、無菌性髄膜炎及び頭痛などの中枢神経系神経反応(CNS反応)でもある。多くの場合、数日後にCRSと異なる側で適時に起こる副作用は、神経学的副作用である。CRSの症状及び神経学的有害事象は、互いに類似し得るが、それらの発生は、当技術分野で知られているように全く異なる。
【0004】
サイトカイン放出及び神経反応は、T細胞受容体に結合するモノクローナル抗体で観察されているだけでなく、T細胞受容体のCD3部分に結合するCD19×CD3二重特異性一本鎖T細胞エンゲージャー(ブリナツモマブ(MT103)又はAMG103と呼ばれる)でも観察されている。
【0005】
ブリナツモマブは、ほぼ全てのB細胞及びB腫瘍細胞の表面上のCD19に結合し、同時にT細胞と係合することができ、それによりT細胞を誘発して標的B細胞又はB腫瘍細胞を死滅させる、B細胞悪性腫瘍指向のCD19×CD3組換え二重特異性一本鎖T細胞エンゲージャーである。ブリナツモマブは、単一のポリペプチド鎖に組み立てられた4つの免疫グロブリン可変ドメインからなる。可変ドメインの2つは、ほとんどのB細胞及びB腫瘍細胞上に発現される細胞表面抗原であるCD19に対する結合部位を形成する。他の2つの可変ドメインは、T細胞上のCD3複合体の結合部位を形成する。ブリナツモマブ(商標名:Blincyto(登録商標))は、体の細胞傷害性又は細胞破壊性T細胞を腫瘍細胞に対して誘導させるように設計されており、市場承認を受けた最初のBiTE(登録商標)(二重特異性T細胞エンゲージャー)分子である。
【0006】
例えば、国際公開第99/54440号パンフレットに記載されているように、B細胞由来慢性リンパ性白血病(B-CLL)の患者に反復ボーラス注入で投与されたブリナツモマブを用いて実施された試験で有害作用が観察された。これらの望ましくない副作用をより良好に管理しようとするために、CD19×CD3 T細胞エンゲージャーの投与様式は、ボーラス注入から前記抗体のより長期間の持続静脈内投与に切り替えられている点で変更されている。
【0007】
欧州医薬品庁(EMA)の認可の詳細(https://www.ema.europa.eu/en/medicines/human/EPAR/blincyto)によれば、Blincytoは、ポンプ装置を使用して静脈内に注入(点滴)することによって投与される。再発性又は難治性B前駆体ALLを治療するために、4週間の治療サイクル中にBlincytoを連続的に注入する。各サイクルは、2週間の無治療間隔によって分けられる。2サイクル後に癌の徴候がない患者は、利益が患者のリスクを上回る場合、最大3回の追加サイクルのBlincytoで治療することができる。微小残存病変(MRD)を有する患者の治療について、用量は、患者の体重に依存する。Blincytoは、4週間の治療サイクル中に連続的に注入される。第1の誘導サイクルを受けた後、患者を最大3回の更なる治療サイクルにわたって治療することができ、各治療サイクルは、2週間の無治療間隔後に行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第99/54440号パンフレット
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】https://www.ema.europa.eu/en/medicines/human/EPAR/blincyto
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、免疫療法薬、特にブリナツモマブは、非常に効率的で安全であることが証明されているが、患者は、依然として長期間の入院を必要とする。したがって、患者にとってより簡便な方法で免疫療法薬、特にブリナツモマブを投与する安全で効率的な方法、好ましくは治療期間を完全に又は部分的に病院外で行うことを可能にする投与様式を見出すことは、非常に有用であろう。患者の入院を防ぐことは、投与中の訓練された人員の必要性も減らし、それにより治療管理コストを低下させる。より好ましくは、そのような方法は、ポンプ装置などの体内装置を患者に装着させる必要もない。これにより、装置関連の感染のリスクがなくなり、注入関連反応の重症度が低下する。これらの問題に対処するための投与様式の1つは、ブリナツモマブの皮下投与である。皮下投与は、誤ったポンプ設定及び静脈ラインの閉塞によって引き起こされる過剰投与などのcIV注入ポンプ関連の予防に役立つ。更に、ブリナツモマブを皮下投与するための臨床試験が開始されているが(例えば、臨床研究ではNCT02961881及びNCT04521231)、許容可能な投薬計画の観点から、投薬様式に応じて患者を治療するための安全且つ効率的な投薬計画は、これまで知られていなかった。したがって、本発明の根底にある主な目的の1つは、長期の、すなわち費用がかかる、心理学的に困難な病院に依存する治療を必要としない皮下投与により、許容可能な副作用、例えばCRS症状がないか又は低く、管理可能なCRS症状のみがあるブリナツモマブを投与する安全で効率的な方法を提供することであった。更に、取り扱いが困難であることが多い携帯型装置を用いた外来治療は、病院ではなく、地域環境で行うこともできる本発明の方法によって同様に回避され得る。これは、患者の利便性及び健康関連の生活の質の全体的な改善につながる。更に、効率的且つ安全な投薬計画のために、薬物の薬物動態プロファイルを改善すること、すなわちブリナツモマブなどの薬物が存在し、治療される患者においてその薬理学的効果を発揮することができる期間を延長することも有益であろう。薬物動態プロファイルを延長することは、薬物の2回の個別の用量の投与間の間隔を延長し得ることを意味する。同時に、T細胞の活性化及び分布プロファイルは、急速にピークに達し、その後、低下するべきではなく、より遅い速度で増加し、プラトーのようなプロファイルに達するべきである。これは、CRS及び/又は神経毒性副作用などの有害事象を回避又は低減する観点から好ましい。上記の目的は、本発明の主題によって達成された。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本明細書で使用される場合、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」及び「その」は、文脈により別段の明確な指示がない限り、複数の指示対象を含むことに留意する必要がある。したがって、例えば、「試薬」に対する参照は、1種又は複数のそのような種々の試薬を含み、「方法」に対する参照は、本明細書で説明される方法のために改変され得るか、又は本明細書で説明される方法と置換され得る、当業者に既知の均等な工程及び方法に対する参照を含む。
【0012】
別段の指示がない限り、一連の要素に先行する「少なくとも」という用語は、一連のあらゆる要素を指すと理解すべきである。当業者であれば、本明細書に記載される本発明の具体的な実施形態に対する多くの均等物を、単なるルーチン実験を使用して認識又は確認することができるであろう。このような均等物は、本発明に包含されるものとする。
【0013】
本明細書及びそれに続く特許請求の範囲の全体において、文脈上他の意味が要求されない限り、「含む(comprise)」という語並びに「含む(comprises)」及び「含んでいる」等のバリエーションは、述べられる整数若しくは工程又は整数若しくは工程の群を含むことを意味するが、任意の他の整数若しくは工程又は整数若しくは工程の群を除外することを意味するものではないことを理解されたい。本明細書では、各場合において、「含む」、「から本質的になる」及び「からなる」という用語のいずれかは、他の2つの用語のいずれかに置き換えられ得る。
【0014】
本明細書の本文を通して、いくつかの文献が引用される。本明細書のいかなる内容も、本明細書の本文を通して引用された刊行物及び特許の開示(全ての特許、特許出願、科学刊行物、製造業者の仕様書、説明書などを含む)に先行する権利が本発明にないことを認めるものとして解釈されるべきではない。引用された資料が本明細書と矛盾するか又は不一致となる範囲において、本明細書がそのようないずれの資料よりも優先される。
【0015】
第1の実施形態では、本発明は、CD19に結合するT細胞誘引ポリペプチド構築物を使用して、患者のリンパ腫又は白血病を治療又は改善する方法であって、
- 第1の治療サイクルでT細胞誘引ポリペプチド構築物を患者に投与する工程
を含み、
- 第1の量のT細胞誘引ポリペプチド構築物の少なくとも2回の個別の用量は、第1の所定の期間に皮下投与され、
- 任意選択的に、第2の量のT細胞誘引ポリペプチド構築物の少なくとも2回の個別の用量は、第2の所定の期間に皮下投与される、方法に関する。
【0016】
本明細書で使用される場合、「第1の量」、「第2の量」などの用語は、所与の時点で投与される薬物、例えばブリナツモマブの個々の量を定義する。換言すれば、組み合わされた「量」の薬物が一定期間にわたって投与され、これは、本開示のために、特定の数が先行する「所定の期間」として定義される。これは、本発明者らが、薬剤を投与し、それにより本発明の方法及び使用の工程に適用される「所定の期間」を提供することが有益であるそれぞれの期間を特定したことを意味する。したがって、「治療サイクル」は、様々な「所定の期間」から構成される。
【0017】
第2の実施形態では、本発明は、前記第1の治療サイクルが少なくとも1つの追加の治療サイクルによって先行及び/又は後続される、実施形態1による方法に関する。追加の治療サイクルは、第1の治療サイクルに先行するか、前記サイクルに後続するか、又はその両方であり得る。いくつかの実施形態では、第1の治療サイクルで投与される薬剤は、先行サイクル及び/又は後続サイクルの薬剤と同一である。これらのサイクルの薬剤は、異なる又は同じ投与様式を使用して投与され得、すなわち、薬剤は、第1の治療サイクルと同様に皮下投与され得るか又は例えば静脈内投与され得る。更なる実施形態では、薬剤は、B細胞枯渇剤、特にブリナツモマブなどのT細胞エンゲージャーの投与を含む。
【0018】
第3の実施形態では、本発明は、第3の所定の無治療期間が前記第1の治療サイクルに先行及び/又は後続する、実施形態1又は2のいずれかによる方法に関する。
【0019】
第4の実施形態では、本発明は、第4の所定の無治療期間が前記第1の所定の期間に後続する、実施形態1~3のいずれかによる方法に関する。
【0020】
第5の実施形態では、本発明は、第1の量が2~9回投与される、実施形態1~4のいずれかによる方法に関する。
【0021】
第6の実施形態では、本発明は、第1の所定の期間が5~9日間、特に7日間である、実施形態1~5のいずれかによる方法に関する。
【0022】
第7の実施形態では、本発明は、第1の量が10~80μg、20~80μg、特に30~75μgのいずれかである、実施形態1~6のいずれかによる方法に関する。
【0023】
第8の実施形態では、本発明は、第1の量が100μg~800μg、200~700μg、特に約112μg、225μg、450μg又は675μgのいずれかである、実施形態1~6のいずれかによる方法に関する。
【0024】
第9の実施形態では、本発明は、第2の所定の期間が1~28日間、特に1~21日間である、実施形態1~7のいずれかによる方法に関する。
【0025】
第10の実施形態では、本発明は、第2の量が200~300μg、特に225~275μg、より具体的には250μgである、実施形態1~7及び9のいずれかによる方法に関する。
【0026】
第11の実施形態では、本発明は、第2の量が週に2~5回、特に週に3回投与される、実施形態1~7及び9~10のいずれかによる方法に関する。
【0027】
第12の実施形態では、本発明は、少なくとも1つの後続サイクルで投与される量が200~300μg、特に225~275μg、より具体的には250μgである、実施形態1~7及び9~11のいずれかによる方法に関する。
【0028】
第13の実施形態では、本発明は、少なくとも1つの後続サイクルにおける量が週に2~5回、好ましくは週に3回投与され、任意選択的に皮下投与される、実施形態1~7及び9~12のいずれかによる方法に関する。
【0029】
第14の実施形態では、本発明は、T細胞誘引ポリペプチド構築物がCD3に結合する、実施形態1~13のいずれかによる方法に関する。
【0030】
第15の実施形態では、本発明は、T細胞誘引ポリペプチド構築物がヒト及びマカクCD3、特にCD3複合体のイプシロン鎖に結合する、実施形態1~14のいずれかによる方法に関する。
【0031】
第16の実施形態では、本発明は、T細胞誘引ポリペプチド構築物が一本鎖ポリペプチドである、実施形態1~15のいずれかによる方法に関する。
【0032】
第17の実施形態では、本発明は、T細胞誘引ポリペプチド構築物が配列番号11~22に示されるCDR領域を含む、実施形態1~16のいずれかによる方法に関する。
【0033】
第18の実施形態では、本発明は、T細胞誘引ポリペプチド構築物が配列番号3、5、7及び9に示されるVH及びVL領域を含む、実施形態1~17のいずれかによる方法に関する。
【0034】
第19の実施形態では、本発明は、リンパ腫又は白血病が、非ホジキンリンパ腫及び急性リンパ芽球性白血病を含む群から選択される、実施形態1~18のいずれかによる方法に関する。
【0035】
第20の実施形態では、本発明は、患者が、実施形態1~19に記載の皮下投与スキームに先行する少なくとも1つの以下の治療を受けており、前記先行する治療が、任意選択的に化学療法に先行して又は化学療法と組み合わせて、B細胞枯渇剤、特にブリナツモマブのcIV投与、CD19特異的CAR T細胞療法による投与及び/又はCD20標的化剤の投与を含む群から選択される、実施形態1~19のいずれかによる方法に関する。
【0036】
第21の実施形態では、本発明は、第1の量が30~50μg、特に40μgであり、及び患者が(再発性/難治性)B細胞前駆体急性リンパ芽球性白血病に罹患している、実施形態1~7及び9~20のいずれかによる方法に関する。
【0037】
第22の実施形態では、本発明は、患者が(再発性/難治性、R/R)緩徐進行性非ホジキンリンパ腫に罹患している、実施形態1~6及び8、14~20のいずれかによる方法に関する。
【0038】
特定の実施形態では、本発明は、ブリナツモマブを用いて、再発性又は難治性B細胞前駆体急性リンパ芽球性白血病(R/R B-ALL)に罹患している成人患者を治療する方法であって、
- R/R B-ALLに罹患している患者を選択する工程、
- 34日間であり、26日間の治療期間及び8日間の無治療間隔を含む第1の治療サイクルでブリナツモマブを前記患者の皮下に投与する工程
を含み、
- 前記患者は、40μgのSCブリナツモマブを1~7日目に1日1回投与され、次いで250μgを8~26日目に週に3回(MWF)投与され、
続いて少なくとも1回の更なるサイクルが行われ、前記患者は、全治療期間中、250μgを毎週3回投与される、方法に関する。
【0039】
別の特定の実施形態では、本発明は、ブリナツモマブを用いて、再発性又は難治性B細胞前駆体急性リンパ芽球性白血病(R/R B-ALL)に罹患している成人患者を治療する方法であって、
- R/R B-ALLに罹患している患者を選択する工程、
- 34日間であり、26日間の治療期間及び8日間の無治療間隔を含む第1の治療サイクルでブリナツモマブを前記患者の皮下に投与する工程
を含み、
- 前記患者は、120μgのSCブリナツモマブを1~7日目に1日1回投与され、次いで250μgを8~26日目に週に3回(MWF)投与され、
- 任意選択的に、続いて少なくとも1回の更なるサイクルが行われ、前記患者は、全治療期間中、250μgを毎週3回投与される、方法に関する。
【0040】
別の特定の実施形態では、本発明は、ブリナツモマブを用いて、再発性又は難治性B細胞前駆体急性リンパ芽球性白血病(R/R B-ALL)に罹患している成人患者を治療する方法であって、
- R/R B-ALLに罹患している患者を選択する工程、
- 34日間であり、26日間の治療期間及び8日間の無治療間隔を含む第1の治療サイクルでブリナツモマブを前記患者の皮下に投与する工程
を含み、
- 前記患者は、250μgのSCブリナツモマブを1~7日目に1日1回投与され、次いで500μgを8~26日目に週に3回(MWF)投与され、
- 任意選択的に、続いて少なくとも1回の更なるサイクルが行われ、前記患者は、全治療期間中、500μgを毎週3回投与される、方法に関する。
【0041】
別の特定の実施形態では、本発明は、ブリナツモマブを用いて、再発性又は難治性B細胞前駆体急性リンパ芽球性白血病(R/R B-ALL)に罹患している成人患者を治療する方法であって、
- R/R B-ALLに罹患している患者を選択する工程、
- 34日間であり、26日間の治療期間及び8日間の無治療間隔を含む第1の治療サイクルでブリナツモマブを前記患者の皮下に投与する工程
を含み、
- 前記患者は、500μgのSCブリナツモマブを1~7日目に1日1回投与され、次いで1000μgを8~26日目に週に3回(MWF)投与され、
- 任意選択的に、続いて少なくとも1回の更なるサイクルが行われ、前記患者は、全治療期間中、1000μgを毎週3回投与される、方法に関する。
【0042】
別の特定の実施形態では、本発明は、ブリナツモマブを用いて、再発性又は難治性の緩徐進行性非ホジキンリンパ腫(NHL)に罹患した成人患者をブリナツモマブで治療する方法であって、
- 再発性又は難治性の緩徐進行性NHLに罹患している患者を選択する工程、
- 5~6週間である第1の治療サイクルでブリナツモマブを前記患者に約6日間投与する工程
を含み、
- 前記患者は、1日目、3日目及び5日目に3回の用量で約675μgのブリナツモマブを皮下投与され、
- 3週間のcIV段階的投与導入期間が先行し、そこで、患者は、1週目に9μg/日を投与され、続いて2週目に28μg/日を投与され、3週目に112μg/日を投与され、
- 続いてブリナツモマブを2日間投与せず、
- 5週目及び6週目に112μg/日を投与され、
- 任意選択的に、続いて2週間のブリナツモマブ無治療期間を設け、
- 更に、任意選択的に、その後にブリナツモマブによる更に3~6週間の治療サイクルが続き、そこで、患者は、1週目に9μg/日を投与され、続いて2週目に28μg/日を投与され、3週目に112μg/日を投与される、方法に関する。
【0043】
更なる実施形態では、本発明は、医薬の調製における、本明細書に記載のB細胞枯渇剤、特にブリナツムマブの使用であって、前記医薬は、上述の方法/投薬計画のいずれかによる投与を必要とする患者に投与するために適切に適合又は調製される、使用に関する。
【0044】
なお更なる実施形態では、本発明は、収容装置を含むか又はそのような収容装置と接続され得る装置であって、収容装置(例えば、シリンジ、容器など)は、上述の方法/投薬計画のいずれかによる投与を必要とする患者への投与に適切に適合又は調製された、本明細書に記載のB細胞枯渇剤、特にブリナツムマブを含む、装置に関する。
【0045】
本発明の更に他の実施形態は、上述の方法/投薬計画のいずれかによる投与を必要とする患者への投与に適切に適合又は調製された投与単位を含むキットオブパーツに関する。そのようなキットは、注射装置、例えばシリンジ、注射針、特にブリナツムマブ用の凍結乾燥された活性剤及び/又は添加剤を再構成するための液体を含む容器又は個々の投与単位の調製済み製剤を含み得る。個々の投与単位は、本発明の投薬計画の所与の時点で投与される適切な用量を選択するために色分けされ得る。当然のことながら、キットは、ハードコピーの形態又はデジタル化された形態の技術情報も含み得る。
【0046】
更なる実施形態は、添付の特許請求の範囲に列挙される。
【図面の簡単な説明】
【0047】
図1】5つのコホートでの投与を示す。
図2】各コホートでの投与量を示す。
図3a】SCブリナツモマブ処置に応答した薬力学マーカーの変化を示す。
図3b】SCブリナツモマブ処置に応答した薬力学マーカーの変化を示す。
図3c】SCブリナツモマブ処置に応答した薬力学マーカーの変化を示す。
図3d】SCブリナツモマブ処置に応答した薬力学マーカーの変化を示す。
図4A】患者がCRSのDLT(用量制限毒性)を示さない場合に使用される本発明の用量漸増スキームを示す。
図4B】患者が所与のコホートにおいてCRSのDLTを示す場合のデエスカレーションスキームを示す。
【発明を実施するための形態】
【0048】
非ホジキンリンパ腫(NHL)
本発明の意味の範囲内で、「B細胞非ホジキンリンパ腫」又は「B細胞由来非ホジキンリンパ腫」という用語は、緩徐進行性B細胞非ホジキンリンパ腫及びアグレッシブB細胞非ホジキンリンパ腫(B NHL)の両方を含む。本明細書で使用される「緩徐進行性又はアグレッシブB細胞非ホジキンリンパ腫(B NHL)」という用語は、悪性B細胞由来の腫瘍性疾患を表す。緩徐進行性B NHLは、低悪性度リンパ腫である。アグレッシブB-NHLは、高悪性度リンパ腫である。B細胞非ホジキンリンパ腫(B NHL)は、濾胞性リンパ腫、リンパ形質細胞性リンパ腫、辺縁帯細胞リンパ腫、マントル細胞リンパ腫(MCL)、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)、バーキットリンパ腫、小リンパ球性リンパ腫(SLL/CLL)及び任意の他のB細胞由来サブタイプであり得る。本明細書で使用される「B細胞白血病」という用語は、有利には、任意のB細胞白血病(例えば、慢性リンパ性白血病又は急性リンパ性白血病)であり得る。更なる参考文献については、例えば、http://www.cancer.org.を参照されたい。好ましくは、緩徐進行性非ホジキンリンパ腫は、下記の実施例で明らかにされるように、ヒトCD3及びヒトCD19の両方に対するT細胞誘引ポリペプチド構築物で治療され得る。
【0049】
急性リンパ芽球性白血病(ALL)
「急性リンパ芽球性白血病」又は「ALL」は、急性リンパ性白血病又は急性リンパ性白血病としても公知であり、一般に、典型的には癌性の未成熟白血球(リンパ芽球とも呼ばれる)の過剰産生及び/又は蓄積を特徴とする急性型の白血病を指す。本明細書で使用される場合、「ALL」という用語は、急性、難治性及び再発性ALLを含む。本明細書で使用される「難治性ALL」という用語は、化学療法及び/又は造血幹細胞移植(HSCT)などの従来の又は標準的なALL療法に対するALLの耐性、すなわち従来の又は標準的なALL療法は、全てのALL患者を最終的に治癒することができないことを意味する。本明細書で使用される「再発性ALL」という用語は、患者が寛解を享受した後のALL疾患の徴候及び症状の再発を表す。例えば、化学療法及び/又はHSCTを用いた従来のALL治療後、ALL患者は、ALLの徴候又は症状なしに寛解となり、数年間寛解したままであるが、その後、再発し、ALLを再び治療しなければならない。本明細書で使用される「ALL」という用語は、ALLを有する患者における微小残存病変(MRD)、すなわち治療中又は患者が寛解状態にある治療後に患者に残存する少数の癌性リンパ芽球の存在も含む。
【0050】
「ALL」という用語は、一般に、B細胞ALL及びT細胞ALLを包含する。「癌性」という用語は、本明細書では「悪性」という用語と互換的に使用され、増殖が自己制限されず、隣接組織に浸潤することができ、遠隔組織に広がる(転移する)ことができる細胞を指す。
【0051】
本明細書に開示される方法及び使用は、pro-B ALL、pre-B ALL又は共通ALL(cALL)などのB前駆体ALL及び成熟B細胞ALL(バーキット白血病)を含むB細胞ALLの治療に特に有用であることが想定される。「ALL」という用語は、小児ALL及び成人ALLの両方を含む。本発明の手段及び方法は、特に、再発性及び/又は難治性の成人B前駆体ALLの治療に有用であると想定される。
【0052】
「患者」という用語は、マウス、ラット、イヌ、ウマ、ラクダ、霊長類などの全ての哺乳動物を含むが、これらに限定されず、霊長類が好ましく、小児及び成人を含むヒトが最も好ましい。本明細書で使用される場合、「対象」という用語は、「患者」という用語と互換的に使用される。本明細書で「患者」に関して開示されることは、必要な変更を加えて、患者群にも適用される。
【0053】
本明細書で言及される「小児ALL」又は「小児ALL患者」という用語は、1ヶ月から18歳までの小児を意味する。示された年齢は、ALL疾患の診断時の小児の年齢として理解されるべきである。両方の時間間隔は、具体的には、上限及び下限も含む。これは、例えば、「1ヶ月から18歳」の時間間隔が「1ヶ月」及び「18歳」を含むことを意味する。国際公開第2010/052013号パンフレットは、小児又は小児期ALL、特に難治性及び/又は再発性小児ALLを治療するための手段及び方法を提供する。
【0054】
本明細書で言及される「成人ALL」又は「成人ALL患者」という用語は、18歳を超える成人、すなわち19歳、20歳、21歳、22歳、23歳、24歳、25歳、30歳、35歳、40歳又は50歳以上の患者を表す。70歳、75歳、80歳、85歳、90歳、100歳又はそれ以上の患者であっても、本発明の方法及び手段によって治療することができる。示された年齢は、ALL疾患の診断時の成人の年齢として理解されるべきである。国際公開第2010/052014号パンフレットは、成人ALLを治療するための手段及び方法を提供する。
【0055】
T細胞誘引ポリペプチド構築物
本発明の使用及び方法は、患者(又は患者群)への(治療有効量の)T細胞誘引ポリペプチド構築物の投与を含む。本明細書で使用される場合、T細胞誘引ポリペプチド構築物は、T細胞表面上の標的、例えばCD3分子の一部に結合する少なくとも1つのドメインを含み得る。T細胞誘引ポリペプチド構築物の別のドメインは、T細胞によって攻撃されるべき細胞上の構造に結合する少なくとも1つのドメインを含み得る。そのような細胞、例えば癌細胞の表面上の例示的な構造は、腫瘍関連抗原などのタンパク質を含み得る。T細胞誘引ポリペプチド構築物の作用機序にとって重要なことは、腫瘍関連抗原を発現する細胞、例えば癌細胞の表面上の前記構造を発現する別の細胞にT細胞を近接させ、T細胞が細胞溶解作用を発揮すること(例えば、当技術分野で公知のパーフォリン又は細胞傷害性T細胞によって産生される他の物質を分泌する)である。T細胞誘引ポリペプチド構築物の例は、当技術分野でBiTE(登録商標)分子(Amgen Inc.の登録商標である)としても公知の二重特異性T細胞エンゲージャーである。一方、T細胞誘引ポリペプチド構築物は、細胞溶解性T細胞によって発現されるタンパク質であり得る。タンパク質は、例えば腫瘍関連抗原に結合する、遺伝子操作の結果として発現される非天然発現T細胞受容体であり得る。後者のT細胞誘引ポリペプチド構築物は、CAR-T細胞療法の状況で一般的に使用される。更に、本明細書で使用される場合、「T細胞誘引ポリペプチド構築物」という用語は、自然界では通常見られない構築物、すなわち技術的手段を使用して設計及び生成された構築物を指すことを意味する。ポリペプチド構築物は、非ペプチド性要素、例えばアミノ酸を含まない要素、例えば毒素である有機分子、アミノ酸を含まない分子からなるリンカー分子又はビオチンなどの半減期延長部分を含むことも可能である。
【0056】
T細胞誘引ポリペプチド構築物に言及する代わりに、本明細書に記載の使用及び方法において、標的細胞とNK細胞との間の十分に近い接触の形成時にNK細胞を活性化して細胞溶解能を発揮させるNK誘引細胞ポリペプチドを投与することも企図されることに留意されたい。そのような場合、ポリペプチドは、CD19などの標的抗原及び活性化NK細胞が標的細胞を効果的に溶解又は他の方法で死滅させることを可能にする標的細胞とエフェクター細胞との間の近接性を確立するNK細胞特異的抗原に結合する。
【0057】
本発明による「二重特異性T細胞エンゲージャー」若しくは「一本鎖二重特異性T細胞エンゲージャー」という用語又は関連する用語は、完全な免疫グロブリン中に存在する定常部分及び/又はFc部分を欠く単一のポリペプチド鎖中の少なくとも2つの抗体可変領域を連結することから生じるT細胞エンゲージャー構築物を意味する。本明細書で使用される「リンカー」は、同じ特異性のVドメインを接続する一方、本明細書で使用される「スペーサ」は、異なる特異性のVドメインを連結する。例えば、二重特異性一本鎖T細胞エンゲージャーは、それぞれが別個の抗原に特異的に結合することができる合計で2つの抗体可変領域、例えば2つのVH領域を有する構築物であり得、スペーサを挟んだ2つの抗体可変領域が単一の連続したポリペプチド鎖として存在するように、短い(通常10アミノ酸未満)合成ポリペプチドスペーサを介して互いに連結され得る。二重特異性一本鎖T細胞エンゲージャーの別の例は、3つの抗体可変領域を有する単一のポリペプチド鎖であり得る。ここで、2つの抗体可変領域、例えば1つのVH及び1つのVLは、scFvを構成することができ、2つの抗体可変領域は合成ポリペプチドリンカーを介して互いに連結されており、合成ポリペプチドリンカーは、タンパク質分解に最大限耐性のままでありながら、免疫原性が最小限になるように遺伝子操作されていることが多い。このscFvは、特定の抗原に特異的に結合することができ、scFvによって結合されたものと異なる抗原に連結することができる更なる抗体可変領域、例えばVH領域に連結される。二重特異性一本鎖T細胞エンゲージャーの更に別の例は、4つの抗体可変領域を有する単一のポリペプチド鎖であり得る。ここで、第1の2つの抗体可変領域、例えばVH領域及びVL領域は、1つの抗原に結合することができる1つのscFvを形成し得るが、第2のVH領域及びVL領域は、別の抗原に結合することができる第2のscFvを形成し得る。単一の連続したポリペプチド鎖内で、1つの特異性の個々の抗体可変領域は、有利には上記の合成ポリペプチドリンカーによって分離され得るが、それぞれのscFvは、有利には上記の短いポリペプチドスペーサによって分離され得る。二重特異性一本鎖T細胞エンゲージャーの非限定的な例及びそれらを産生するための方法は、国際公開第99/54440号パンフレット、国際公開第2004/106381号パンフレット、Mack,J.Immunol.(1997),158,3965-70;Mack,PNAS,(1995),92,7021-5;Kufer,Cancer Immunol.Immunother.,(1997),45,193-7;Loeffler,Blood,(2000),95,6,2098-103;Bruehl,J.Immunol.,(2001),166,2420-2426に見ることができる。本明細書で使用される場合、上記の用語は、腫瘍関連抗原に結合する2つ以上のドメインを有するT細胞誘引分子にも拡張することができる。これは、少なくとも2つのドメインが、同じ又は異なる腫瘍関連標的上の少なくとも2つの抗原側に結合し得ることを意味する。同様に、それぞれの分子のT細胞誘引部分は、T細胞(又は場合によりNK細胞)によって発現される少なくとも2つの抗原に結合し得る。これらの2つの抗原は、同一であり得、例えば2つの同一の細胞表面タンパク質上の2つの同一の抗原又は同じタンパク質若しくは異なるタンパク質上の2つの異なる抗原が結合し得る。本発明によるT細胞エンゲージャーは、例えば、国際公開第2017/134140号パンフレットに開示されているような半減期延長ドメイン、特に特定のFc構築物を明示的に指す特許請求の範囲及び図1に開示されているもの並びにヒト血清アルブミン成分を含むT細胞エンゲージャーを含み得ることに留意されたい。
【0058】
本明細書で使用される場合、「ヒトCD3」は、多分子T細胞受容体複合体の一部としてヒトT細胞上に発現される抗原を表し、CD3は5つの異なる鎖、CD3-ε、CD3-γ、CD3-δ、CD3-η及びCD3-ζからなる。例えば抗CD3抗体によるT細胞上のCD3のクラスタリングは、上記のように、抗原の結合に類似するがT細胞サブセットのクローン特異性とは無関係のT細胞活性化をもたらす。したがって、本明細書で使用される「ヒトCD3抗原の特異性の1つと特異的に結合する二重特異性一本鎖T細胞エンゲージャーポリペプチド構築物」という用語は、ヒトT細胞上に発現されるヒトCD3複合体に結合することができ、標的細胞の排除/溶解を誘導することができるCD3特異的構築物に関し、そのような標的細胞は、二重特異性一本鎖T細胞エンゲージャーの他方の非CD3結合部分によって結合される抗原を担持/提示する。CD3特異的結合剤(例えば、本発明の医薬的手段及び方法に従って投与される二重特異性一本鎖T細胞エンゲージャーポリペプチド構築物)によるCD3複合体の結合は、当技術分野で公知のようにT細胞の活性化をもたらし、例えば、国際公開第99/54440号パンフレット又は国際公開第2004/106381号パンフレットを参照されたい。したがって、本発明の医薬的手段及び方法に適した構築物は、有利には、インビボ及び/又はインビトロで標的細胞を排除/溶解することが可能である。対応する標的細胞は、前述の構築物の第2の特異性(すなわち二重特異性一本鎖T細胞エンゲージャーの非CD3結合部分)によって認識されるCD19などの腫瘍抗原を発現する細胞を含む。好ましくは、前記第2の特異性は、国際公開第99/54440号パンフレット又は国際公開第2004/106381号パンフレットに既に記載されているヒトCD19に対するものである。この実施形態によれば、二重特異性一本鎖T細胞エンゲージャーの各抗原特異的部分は、抗体VH領域及び抗体VL領域を含む。この二重特異性一本鎖T細胞エンゲージャーの有利なバリアントは、N末端からC末端に、
VL(CD19)-VH(CD19)-VH(CD3)-VL(CD3)、
VH(CD19)-VL(CD19)-VH(CD3)-VL(CD3)、
VH(CD3)-VL(CD3)-VH(CD19)-VL(CD19)、又は
VH(CD3)-VL(CD3)-VL(CD19)-VH(CD19)
である。
【0059】
より具体的には、本発明の意味の範囲内で、「特異的結合」という用語又は「特異性」などの関連する用語は、主に2つのパラメータ:定性的パラメータ(結合エピトープ、すなわち抗体若しくは本発明のT細胞エンゲージャーが結合する場所)及び定量的パラメータ(結合親和性、すなわちこの抗体が結合する場所での結合の強さ)によって特徴付けられると理解されるべきである。どのエピトープが抗体によって結合されるかは、有利には、例えば、FACS法、ELISA、ペプチドスポットエピトープマッピング又は質量分析によって決定することができる。特定のエピトープに結合する抗体又は本発明のT細胞エンゲージャーの強度は、有利には、例えば公知のBiacore及び/又はELISA法によって決定され得る。このような技術の組合せにより、結合特異性の代表的な尺度としてのシグナル:ノイズ比の計算が可能となる。このようなシグナル:ノイズ比では、シグナルは、目的のエピトープに結合する抗体又はT細胞エンゲージャーの強度を表すのに対して、ノイズは、目的のエピトープと異なる他の関連しないエピトープに結合する抗体又はT細胞エンゲージャーの強度を表す。例えば、Biacore、ELISA又はFACSによって決定されるそれぞれの目的のエピトープについての、例えば、少なくとも50、好ましくは約80のシグナル:ノイズ比は、評価された抗体が目的のエピトープに特異的に結合する、すなわち「特異的結合剤」であるという指標として解釈され得る。「結合する/相互作用する」という用語は、ヒト標的分子の2つの領域又はその一部からなる立体配座エピトープ、構造エピトープ又は不連続エピトープにも関連し得る。本発明に関連して、立体配座エピトープは、ポリペプチドが天然タンパク質に折り畳まれた際に分子の表面上で一緒になる一次配列において分離された2つ以上の別個のアミノ酸配列によって定義される(Sela,(1969)Science 166,1365及びLaver,(1990)Cell 61,553-6)。「不連続エピトープ」という用語は、本発明に関連して、ポリペプチド鎖の離れた部分からの残基から構築される非線形エピトープを意味する。これらの残基は、ポリペプチド鎖が三次元構造に折り畳まれて立体配座/構造エピトープを構成する際に分子の表面上に一緒になる。
【0060】
本発明によれば、Ig由来の抗原相互作用に関連して使用される「可変領域」という用語は、抗体、抗体断片又はその誘導体に由来する1つのCDRを少なくとも含むポリペプチドの断片及び誘導体を含む。本発明により、前記少なくとも1つのCDRは、好ましくはCDR3であり、より好ましくは抗体の重鎖のCDR3(CDR-H3)であることが想定される。しかしながら、他の抗体由来CDRも、特に「可変領域」という用語に含まれる。
【0061】
B細胞枯渇剤/T細胞誘引ポリペプチド構築物
本発明の使用及び方法は、患者(又は患者群)への(治療有効量の)B細胞枯渇剤の投与を含む。様々な実施形態では、本発明の使用及び方法は、本発明に関連して主に使用されるB細胞枯渇剤であるT細胞誘引ポリペプチド構築物に関する。
【0062】
一般に、例えば、B細胞枯渇剤の製剤、生物学的利用能及び作用機序に応じて、任意の投与経路が考えられる。しかしながら、本発明に関連して、B細胞枯渇剤は、経皮的に、好ましくは皮下的に投与され得る。したがって、本発明の使用及び方法に関連して、皮下投与は、T細胞エンゲージャーポリペプチド構築物を皮下投与するサイクルに先行又は後続する、方法における工程が参照されない限り、特許請求される使用及び方法に関連して使用される。「治療有効量」とは、所望の治療効果、例えば、患者(又は患者群)の症状若しくは状態の緩和若しくは改善(完全又は部分的)又は患者(又は患者群)の症状、疾患若しくは状態の任意の他の所望の改善を誘発するB細胞枯渇剤の量を意味する。正確な量の用量は、例えば、年齢、体重、全身の健康状態、性別、食事、薬物相互作用及び状態の重症度に依存し得、当業者による日常的な実験で確認することができる。
【0063】
「B細胞枯渇剤」という用語は、一般に、患者のB細胞の数を減少及び/又は制御することができる薬剤、特にT細胞誘引ポリペプチド構築物を指す。
【0064】
したがって、この用語は、例えば、細胞死シグナル、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)、補体依存性細胞傷害(CDC)又は細胞傷害性T細胞の関与の誘導により、一部又は全部のB細胞を直接的又は間接的に破壊する薬剤及びB細胞の活性化又は発達を遮断する薬剤を含む。「B細胞」という用語には、前駆(又はpre-pro)B細胞、初期pro(又はpre-pre)B細胞、後期pro(又はpre-pre)B細胞、大型pre-B細胞、小型pre-B細胞、未成熟B細胞及び成熟B細胞が含まれる。B細胞枯渇は、部分的又は完全であり得、すなわち全てのB細胞又はB細胞の亜集団に影響を及ぼし得る。本発明の方法で使用するための好ましいB細胞枯渇剤は、本明細書中に記載されるような日常的な実験を使用して当業者によって確認され得るように、患者(又は患者群)の血液中のB細胞のレベルを所定の期間内に血清1mlあたり1個のB細胞以下に低下させる(又は維持する)ことができる。本発明の方法で使用されるB細胞枯渇剤は、末梢CD19+B細胞を枯渇させ得ることが特に想定される。
【0065】
B細胞枯渇剤は当技術分野で公知であり、共刺激遮断剤(アバタセプト及び7関連タンパク質-1)、サイトカイン(トシリズマブ及びバミネルセプト)、B細胞受容体標的剤(アベチムス及びエドラチド)、CD20、CD22、CD19、CD40-CD40L、TNFファミリーに属するB細胞活性化因子(BAFF)又は増殖誘導リガンド(APRIL)を標的とする薬剤が含まれるが、これらに限定されない。上記によれば、本発明の方法において有用な例示的なB細胞枯渇剤としては、抗CD20剤(例えば、リツキシマブ、オファツムマブ、オクレリズマブ、ベルツズマブ、トシツモマブ、イブリツモマブなどの抗CD20抗体)、抗CD25剤(例えば、アレムツズマブなどの抗CD25抗体)、BAFF阻害剤(例えば、ベリムマブ、アタシセプト)、抗CD154剤(例えば、ルプリズマブ、トラリズマブなどの抗CD154抗体、)、抗CD19剤(例えば、MDX-1342)、抗CD22剤(例えば、エプラツズマブ)及び抗胸腺細胞グロブリン(ATG)が挙げられる。
【0066】
特に、CD19及びCD22を標的とする薬剤、例えば二重特異性CD19×CD22一本鎖ポリペプチド、特にブリナツモマブが想定される。理論に拘束されることを望むものではないが、ブリナツモマブは、CD19B細胞をCD3T細胞に一時的に連結し、それにより、B細胞のT細胞媒介性連続溶解及び付随するT細胞増殖を誘導すると考えられる。
【0067】
ブリナツモマブは、
(a)配列番号11のCD3 CDR-H1(GYTFTRYTMH)、配列番号12のCD3 CDR-H2(YINPSRGYTNYNQKFKD)及び配列番号13のCD3 CDR-H3(YYDDHYCLDY)として示される重鎖の抗CD3 CDR、及び/又は
(b)配列番号14のCD3 CDR-L1(RASSSVSYMN)、配列番号15のCD3 CDR-L2(DTSKVAS)及び配列番号16のCD3 CDR-L3(QQWSSNPLT)として示される軽鎖の抗CD3 CDR、及び/又は
(c)配列番号17のCD19 CDR-H1(GYAFSSYWMN)、配列番号18のCD19 CDR-H2(QIWPGDGDTNYNGKFKG)及び配列番号19のCD19 CDR-H3(RETTTVGRYYYAMDY)として示される重鎖の抗CD19 CDR、及び/又は
(d)配列番号20のCD19 CDR-L1(KASQSVDYDGDSYLN)、配列番号21のCD19 CDR-L2(DASNLVS)及び配列番号22のCD19 CDR-L3(QQSTEDPWT)として示される軽鎖の抗CD19 CDR
を含む。
【0068】
代替形態において、ブリナツモマブは、
(a)配列番号3に示されるCD19結合可変重鎖(ヌクレオチド配列を配列番号4に示す)、及び/又は
(b)配列番号5に示されるCD19結合可変軽鎖(ヌクレオチド配列を配列番号6に示す)、及び/又は
(c)配列番号7に示されるCD3結合可変重鎖(ヌクレオチド配列を配列番号8に示す)、及び/又は
(d)配列番号9に示されるCD3結合可変軽鎖(ヌクレオチド配列を配列番号10に示す)
を含む。
【0069】
更なる代替形態では、ブリナツモマブは、
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列、
(b)配列番号2に示される核酸配列によってコードされるアミノ酸配列、
(c)(b)の核酸配列に対して少なくとも70%、80%、90%、95%又は99%の同一性を有する核酸配列によってコードされるアミノ酸配列であって、CD3及びCD19に結合することができるアミノ酸配列、及び
(d)(b)のヌクレオチド配列に対して遺伝子コードの結果として縮重している核酸配列によってコードされるアミノ酸配列であって、CD3及びCD19に結合することができるアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列
を含む。
【0070】
B細胞枯渇剤としてのブリナツモマブの代替物は、CD3×CD19抗体であり、そのCD3結合分子は、好ましくは、
(a)国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号27に示されるCDR-L1、国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号28に示されるCDR-L2及び国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号29に示されるCDR-L3、
(b)国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号117に示されるCDR-L1、国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号118に示されるCDR-L2及び国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号119に示されるCDR-L3、及び
(c)国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号153に示されるCDR-L1、国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号154に示されるCDR-L2及び国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号155に示されるCDR-L3から選択されるCDR-L1、CDR-L2及びCDR-L3を含むVL領域
を含み、及び/又は
(a)国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号12に示されるCDR-H1、国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号13に示されるCDR-H2及び国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号14に示されるCDR-H3、
(b)国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号30に示されるCDR-H1、国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号31に示されるCDR-H2及び国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号32に示されるCDR-H3、
(c)国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号48に示されるCDR-H1、国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号49に示されるCDR-H2及び国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号50に示されるCDR-H3、
(d)国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号66に示されるCDR-H1、国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号67に示されるCDR-H2及び国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号68に示されるCDR-H3、
(e)国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号84に示されるCDR-H1、国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号85に示されるCDR-H2及び国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号86に示されるCDR-H3、
(f)国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号102に示されるCDR-H1、国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号103に示されるCDR-H2及び国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号104に示されるCDR-H3、
(g)国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号120に示されるCDR-H1、国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号121に示されるCDR-H2及び国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号122に示されるCDR-H3、
(h)国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号138に示されるCDR-H1、国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号139に示されるCDR-H2及び国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号140に示されるCDR-H3、
(i)国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号156に示されるCDR-H1、国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号157に示されるCDR-H2及び国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号158に示されるCDR-H3、及び
(j)国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号174に示されるCDR-H1、国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号175に示されるCDR-H2及び国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号176に示されるCDR-H3から選択されるCDR-H1、CDR-H2及びCDR-H3を含むVH領域
を含む。
【0071】
CD3×CD19抗体のCD3結合分子は、好ましくは、国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号35、39、125、129、161又は165に示されるVL領域からなる群から選択されるVL領域を含み得、且つ/又は国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号15、19、33、37、51、55、69、73、87、91、105、109、123、127、141、145、159、163、177又は181に示されるVH領域からなる群から選択されるVH領域を含み得る。
【0072】
CD3×CD19抗体のCD3結合分子は、好ましくは、
(a)国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号17又は21に示されるVL領域及び国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号15又は19に示されるVH領域、
(b)国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号35又は39に示されるVL領域及び国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号33又は37に示されるVH領域、
(c)国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号53又は57に示されるVL領域及び国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号51又は55に示されるVH領域、
(d)国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号71又は75に示されるVL領域及び国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号69又は73に示されるVH領域、
(e)国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号89又は93に示されるVL領域及び国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号87又は91に示されるVH領域、
(f)国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号107又は111に示されるVL領域及び国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号105又は109に示されるVH領域、
(g)国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号125又は129に示されるVL領域及び国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号123又は127に示されるVH領域、
(h)国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号143又は147に示されるVL領域及び国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号141又は145に示されるVH領域、
(i)国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号161又は165に示されるVL領域及び国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号159又は163に示されるVH領域、及び
(j)国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号179又は183に示されるVL領域及び国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号177又は181に示されるVH領域
からなる群から選択されるVL領域及びVH領域を含み得る。
【0073】
CD3×CD19抗体のCD3結合分子は、好ましくは、国際公開第2008/119567号パンフレットの配列番号23、25、41、43、59、61、77、79、95、97、113、115、131、133、149、151、167、169、185又は187からなる群から選択されるアミノ酸配列を含み得る。
【0074】
CD19×CD3抗体のCD19結合分子は、好ましくは、本明細書中でブリナツモマブについて記載したように、VH領域及び/又はVL領域又はCDRによって特徴付けられる。
【0075】
B細胞枯渇剤が本発明の方法における使用に適しているかどうかは、日常的な実験を使用して当業者によって容易に確認可能である。例えば、適切なB細胞枯渇剤の選択は、治療される白血病又はリンパ腫のタイプ、特に、拡大したB細胞集団の発現プロファイルに依存し得る。例えば、白血病がALLであり、拡大するCD19B細胞集団を特徴とする場合、CD19を標的とするB細胞枯渇剤の使用が有用である可能性が高い。
【0076】
患者(又は患者群)の血液中のB細胞の数は、本明細書で定義される所定の期間内に血清1mlあたり1個のB細胞を維持するか又はそれを下回ることが想定される。
【0077】
一般に、B細胞数は、例えば白血球(white blood cell)(WBC又は白血球(leukocyte))数及び白血球の差を使用して、当技術分野で利用可能ないくつかの技術によって評価することができる。白血球は、血球計(ノイバウエルチャンバー)において手動で又は自動化されたカウンタを用いて計数することができる。差を決定するために、一滴の血液をスライドガラス上に薄く広げ、風乾し、ロマノフスキー染色剤、最も一般的にはWright又はMay-Grunewald-Giemsa技術で染色することができる。次いで、Blumenreich MS.The White Blood Cell and Differential Count.In:Walker HK,Hall WD,Hurst JW,editors.Clinical Methods:The History,Physical,and Laboratory Examinations.3rd edition.Boston:Butterworths;1990.Chapter 153に記載されているように、形態学的検査及び/又は組織化学を使用して細胞を計数及び分類する。代わりに、白血球を血液試料から単離し、リンパ球細胞表面マーカーに対する蛍光標識抗体で染色し、続いて添付の実施例に記載されるようにフローサイトメトリーによって分析する。各タイプのリンパ球の割合を絶対リンパ球数と乗算して、各リンパ球亜集団の絶対細胞数を計算する。
【0078】
治療された患者(又は治療された患者群)の血液中のB細胞の数は、前記B細胞枯渇剤による初期治療後の所定の期間内に血清1mlあたり1個のB細胞未満を維持するか又はそれを下回ることが想定される。適用されたB細胞枯渇剤による初期治療は、好ましくは、前記適用されたB細胞枯渇剤による第1の治療を意味し、すなわち、患者(又は患者群)は、適用されたB細胞枯渇剤を以前に受けたことがない。しかしながら、前記患者(又は患者群)は、本明細書の他の箇所で前述したように、更なるALL治療を受けていてもよい。患者(又は患者群)は、適用されたB細胞枯渇剤による初期治療前に別のB細胞枯渇剤を受けていることも考えられる。例えば、第1のB細胞枯渇剤が治療効果を有さず、及び/又は患者(又は患者群)の血液中のB細胞の数を血清1mlあたり1個のB細胞以下に減少させる(又は維持する)ことができない場合、第2のB細胞枯渇剤が使用され得る。次いで、第2のB細胞枯渇剤による初期治療は、第2のB細胞枯渇剤による患者(又は患者群)の治療の1日目に開始される。すなわち、異なるB細胞枯渇剤を用いて本発明の方法を繰り返し(すなわち数サイクルで)適用することが考えられ、「初期治療」は、それぞれのサイクルのB細胞枯渇剤による第1の治療の日に開始する。「異なる」B細胞枯渇剤という用語は、前のサイクルで使用されたのと同じB細胞枯渇剤を含むが、製剤又は濃度などが異なるものも含む。患者(又は患者群)の血液中のB細胞の所望のレベルが達成されるまで、同じB細胞枯渇剤で数サイクルの治療を繰り返すことも考えられる。
【0079】
B細胞の数が血清1mlあたり1個のB細胞を維持するか又はそれを下回る「所定の期間」は、15日以下、すなわち14、13、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3日以下であると想定される。所定の期間の長さは、当業者によって確認可能であり、適用されるB細胞枯渇剤、その濃度、治療計画、治療される白血病又はリンパ腫のタイプ、例えばALLなどに依存し得る。理論に拘束されることを望むものではないが、B細胞の数を所定の期間内に血清1mlあたり1個のB細胞の所望の数以下に調整することができる場合、その後の治療が有効である可能性が高いと考えられる。考えられる理由は、(末梢)B細胞のクリアランスを示す患者におけるT細胞集団及び/又はTEM細胞集団の拡大であり、これは、T細胞系の細胞傷害性の可能性を利用するその後の治療の臨床活性を高め得る。「その後の治療」は、B細胞数が所定の期間内に血清1mlあたり1個のB細胞以下に問題なく減少した(又は維持された)後、本発明の方法で適用されるB細胞枯渇剤による更なる治療、別のB細胞枯渇剤による更なる治療、本明細書に記載の更なる治療又はそれらの組み合わせによる更なる治療を含み得る。一般に、その後の治療は、必要ないことも考えられる。したがって、上記に従い、本発明の方法は、患者(又は患者群)の層別化、すなわち患者(又は患者群)を、その後の治療から利益を得ることができるか又は得ることができない者に分類することを可能にする。血液中のB細胞の数が所定の期間内に血清1mlあたり1個のB細胞以下に減少又は維持することができる患者(又は患者群)は、その後のALL療法から利益を得る可能性が高いが、血液中のB細胞の数が所定の期間内に血清1mlあたり1個のB細胞を超える患者は、その後の療法から利益を得ない可能性が高いことも想定される。
【0080】
前述の方法では、B細胞枯渇剤を受けた患者(又は患者群)の血液中のB細胞の数は、前記B細胞枯渇剤による初期治療後の第1の所定の期間後にモニタリング/決定される。患者(又は患者群)の血液中のB細胞の数を決定/モニタリングするための手段及び方法は、本明細書の他の箇所で定義されている。特に、第1の期間は、本明細書の他の箇所で定義される所定の期間よりも短く、好ましくは2~14日間、すなわち2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13又は14日間である。本発明の方法の工程(b)は、患者が前記B細胞枯渇剤の投与に対して応答性であるか否かを判定すること、すなわち患者を、第1の所定の期間後にその後の治療から利益を得る可能性が高い者とそうでない者とに層別化することにおいて有用である。B細胞の数が前記第1の所定の期間内に血清1mlあたり1個のB細胞を維持するか又はそれを下回る場合、その後の治療は、治療上有効である可能性が高い。
【0081】
しかしながら、B細胞枯渇剤が、例えば、第1の所定の期間内にB細胞の数を所望のレベルの血清1mlあたり1個のB細胞以下に減少又は維持することができない場合、B細胞枯渇剤は、患者(又は患者群)の血液中のB細胞の数が、好ましくは前記B細胞枯渇剤による初期治療後15日以下の所定の期間内に血清1mlあたり1個のBを維持するか又はそれを下回るように調整することができる。
【0082】
一般に、第1の所定の期間及び所定の期間は、第1の所定の期間が所定の期間よりも短い限り、任意の長さとすることができる。両方の期間は、本発明の方法において適用されるB細胞枯渇剤による初期治療の最初の日から、すなわち同じ日に開始する。当業者は、例えば、B細胞枯渇剤、その濃度、製剤、治療計画、患者(又は患者群)のタイプ、体格及び所見及び所定の期間に応じて、第1の所定の期間の所望の長さを容易に決定することができる。
【0083】
調整
本発明の方法は、B細胞枯渇剤を「調整する」ことを更に含み得る。「調整する」という用語は、治療された患者(又は患者群)において血清1mlあたり1個のB細胞以下の血清を達成するためのB細胞枯渇剤の意図的な変更を指す。したがって、患者の血液中のB細胞の数は、B細胞枯渇剤による投薬量又は治療計画を調整するために使用され、それにより、前記患者の血液中のB細胞の数は、前記B細胞枯渇剤による初期治療後の(第1の)所定の期間内に血清1mlあたり1個のB細胞を維持するか又はそれを下回る。調整(意図的な変更)は、投与量、治療計画、製剤などの変更を含み得る。例えば、患者の血液中のB細胞の数が(第1の)所定の期間内に血清1mlあたり1個のB細胞を超える場合、より高用量のB細胞枯渇剤が投与され得るか、又はB細胞枯渇剤が長期間投与され得る。
【0084】
B細胞枯渇の正確な投薬量は、治療の目的(例えば、寛解維持対疾患の急性増悪)、投与経路、年齢、体重、全身の健康状態、性別、食事、投与時間、薬物相互作用及び状態の重篤度に依存し、公知の技術を使用して当業者によって確認可能である。
【0085】
一般に、治療された患者(患者群)の血液中のB細胞の数が所定の期間内に血清1mlあたり1個のB細胞以下の数に減少又は維持されることが好ましい限り、任意の変更が考えられる。変更は、本明細書中に記載されるような更なる治療を追加で適用すること及び/又は別のB細胞枯渇剤を投与することも含み得る。
【0086】
更なる白血病又はリンパ腫の治療
本発明の使用及び方法と組み合わせて更なる白血病又はリンパ腫の治療を使用することも考えられる。更なる治療は、一般に、本発明の使用及び方法に先行して、同時に及び/又はその後に適用することができる。
【0087】
例えば、造血幹細胞移植(HSCT)は、一般的なALL治療である。この用語は、一般に、通常、骨髄又は血液に由来する造血幹細胞の移植を指し、自己(すなわち、幹細胞は、患者に由来する)及び同種(すなわち、幹細胞は、ドナーに由来する)のHSCTを含む。ALL治療のためには、同種HSCTが一般に好ましい。本発明の使用及び方法は、HSCT前若しくは後又はその両方或いは2つのHSCT処置間に適用され得ることも想定される。
【0088】
本発明の方法に従って処置される患者(又は患者群)は、化学療法的治療を受けることもできる。本発明に関連して、「化学療法的治療」は、抗腫瘍剤による治療又はこれらの薬剤を2つ以上組み合わせて標準化された治療計画にすることを指す。本発明に関連して、「化学療法的治療」という用語は、小型有機分子、ペプチド、オリゴヌクレオチドなどを含む任意の抗腫瘍剤を含む。化学療法の定義に含まれる薬剤は、アルキル化剤、例えば、メクロレタミン、シクロホスファミド、メルファラン、クロラムブシル、イホスファミド、ブスルファン、N-ニトロソ-N-メチル尿素(MNU)、カルムスチン(BCNU)、ロムスチン(CCNU)、セムスチン(MeCCNU)、フォテムスチン、ストレプトゾトシン、ダカルバジン、ミトゾロミド、テモゾロミド、チオテパ、マイトマイシン、ジアジコン(AZQ)、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、プロカルバジン及びヘキサメチルメラミン;代謝拮抗薬、例えば、メトトレキサート、ペメトレキセド、フルオロウラシル、カペシタビン、シタラビン、ゲムシタビン、デシタビン、ビダーザ、フルダラビン、ネララビン、クラドリビン、クロファラビン、ペントスタチン、チオグアニン、メルカプトプリン;微小管阻害剤、例えば、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビノレルビン、ビンデシン、ビンフルニン、パクリタキセル、ドセタキセル、ポドフィロトキシン;トポイソメラーゼ阻害剤、例えば、イリノテカン、トポテカン、エトポシド、ドキソルビシン、ミトキサントロン、テニポシド、ノボビオシン、メルバロン、アクラルビシン;細胞傷害性抗生物質、例えば、アクチノマイシン、ブレオマイシン、プリカマイシン、マイトマイシン、ドキソルビシン、ダウノルビシン、エピルビシン、イダルビシン、ピラルビシン、アクラルビシン及びミトキサントロンであるが、これらに限定されない。
【0089】
更なる治療には、放射線療法も含まれる。CNSの治療又は予防は、例えば、髄腔内化学療法並びに/又は脳及び脊髄の放射線療法により、悪性細胞がCNSに広がることを防ぐためにも想定される。
【0090】
本発明者らは、治療の成功が、T細胞抗癌活性、T細胞活性化及び/又は増殖の誘導物質及びエンハンサーの増強をもたらすT細胞集団の拡大に(部分的に)基づくことができると推測するため、CAR T細胞、ドナーT細胞、抗細胞傷害性Tリンパ球関連抗原4(CTLA-4)抗体なども想定される。
【0091】
治療
「治療」という用語は、その文法上の全ての形態において、白血病及びリンパ腫、例えばALL又はNHLの治療的又は予防的処置を含む。「治療的又は予防的処置」は、臨床的及び/若しくは病理学的症状の完全な予防を目的とした予防的処置又は臨床的及び/若しくは病理学的症状の改善若しくは寛解を目的とした治療的処置を含む。したがって、「治療」という用語は、白血病及びリンパ腫、例えばALLの改善又は予防も含む。本明細書で使用される「治療」という用語は、病気を軽減することを意図した最も広い意味の医療的手順又は用途を意味する。この場合、本明細書中に記載されるようなB細胞枯渇剤(患者への投与のために調製される)の投与は、患者における白血病又はリンパ腫の治療、改善又は排除のためのものである。
【0092】
医薬組成物
B細胞枯渇剤を医薬組成物の形態で投与することが想定される。「医薬組成物」という用語は、特にヒト又は動物に投与するのに適した組成物、すなわち薬学的に許容される成分を含有する組成物を指す。好ましくは、医薬組成物は、1つ又は複数の医薬賦形剤と共にB細胞枯渇剤を含む。組成物は、本明細書の他の箇所に記載されるような更なる薬剤も含み得る。「賦形剤」という用語は、充填剤、結合剤、崩壊罪、コーティング、吸着剤、付着防止剤、滑剤、保存剤、抗酸化剤、香味剤、着色剤、甘味剤、溶媒、共溶媒、緩衝化剤、キレート剤、粘性付与剤、界面活性剤、希釈剤、湿潤剤、担体、希釈剤、保存剤、乳化剤、安定剤又は浸透圧調節剤を含む。本発明の医薬組成物は、好ましくは、治療有効量のB細胞枯渇剤を含み、種々の形態、例えば固体、液体、気体又は凍結乾燥形態で製剤化され得、とりわけ軟膏、クリーム、経皮パッチ、ゲル、粉末、錠剤、溶液、エアロゾル、顆粒、丸剤、懸濁剤、エマルジョン、カプセル、シロップ、液体、エリキシル、抽出物、チンキ若しくは流体抽出物の形態であり得るか又は所望の投与方法に特に適した形態であり得る。
【0093】
本発明による皮下製剤は、T細胞誘引ポリペプチド構築物に加えて、リン酸カリウム(好ましくは10mM)、スクロース(好ましくは2%(w/v))、マンニトール(好ましくは4%(w/v))、スルホブチルエーテルβシクロデキストリン(好ましくは1%(w/v))、ポリソルベート80(好ましくは0.01%(w/v))、pH7.0を含む。
【0094】
代替的な実施形態では、本発明による皮下製剤は、T細胞誘引ポリペプチド構築物に加えて、L-グルタミン酸(好ましくは10mM)、スクロース(9%(w/v))、ポリソルベート80(好ましくは0.01%(w/v))、pH4.2を含む。
【0095】
本発明及びその利点のより適切な理解が以下の実施例から得られるが、実施例は、例示目的で提供されるに過ぎない。本実施例は、本発明の範囲を限定することを決して意図しない。
【実施例
【0096】
実施例1 - 再発性/難治性(R/R)緩徐進行性非ホジキンリンパ腫(NHL)における皮下(SC)投与を含むブリナツモマブ投与計画の第1b相試験
方法
本試験に参加している患者は、原発性難治性であった(1回以上の治療経験)、再発した(初回応答の1年以内)又は1年以上にわたって初期療法に応答し、抗CD20モノクローナル抗体を含む2回以上の治療経験後に再発した緩徐進行性NHL(濾胞性、辺縁帯、リンパ形質細胞性、マントル細胞又は小リンパ球性)を有する18歳以上の患者である。
【0097】
それぞれの疾患を有する患者は放射線照射されておらず、PET-CT又はCTで測定可能であった(≧1.5cm)。患者は、5つのコホートで3週間の持続静脈内(cIV)導入期間に続いて皮下(SC)投与され、更に2週間cIV投与され、cIV投与の第2のサイクルの選択肢で投与された(図1に示す)。決定された主要評価項目は、SCブリナツモマブの安全性及び忍容性であり、副次的評価項目には、最大耐量(MTD)、すなわち≦1/6の患者が用量制限毒性(DLT)を有した最高用量を推定する薬物動態(PK)及び有効性(NCT02961881)が含まれた。
【0098】
結果
患者(n=29)は、年齢の中央値(範囲)が64(42~75)歳であり、55%が男性、90%がコーカサス人であり、濾胞性I~IIIA(76%)、辺縁帯(10%)、マントル細胞(10%)及びリンパ形質細胞性リンパ腫(3%)のサブタイプを有し、患者は、以前に同種造血幹細胞移植(HSCT)を受けておらず、38%が以前に自己HSCTを受けていた。29名の患者のうち、5名がAE(n=3)、患者の要求(1)及び疾患進行(1)のためにブリナツモマブを中止(D/C)し、26名の患者が試験を完了し、患者は、中央値(範囲)で5(3~10)用量の投与を受けた。SC処置においてD/CをもたらすAEとしては、失語症及び発作の神経学的事象が含まれた。
【0099】
SC投与中、2つの用量制限毒性(DLT)が発生した(失語症及び発作、両方とも1名の患者)。最大耐量(MTD)に達しなかった。5名の患者はグレード3のAE(血小板減少症、びらん性食道炎、無力症、装置関連感染症、高血糖症、失語症、発作;患者は、グレード3以上のAEを2つ以上有し得る)を有し、致命的AE又はグレード4のAEはみられなかった。目的のAEには、神経学的事象(全て、n=15;グレード≧3、n=2)、感染(2;1)及びサイトカイン放出症候群(4;0)が含まれた。1名の患者は、グレード1の注射部位紅斑を有した。抗ブリナツモマブ抗体は検出されていない。
【0100】
予備的PK結果は、コホート及び3つの異なる投薬計画にわたって一貫していた。最初の投与後、約5~12時間後に最大濃度(Cmax)に達し、曝露(Cmax及び0~12時間の濃度-時間曲線下面積[AUC])は、用量に関連して増加した。定常状態では、曝露(投与間隔にわたるAUC)は、コホートにわたって12、24及び48時間に1回の投与間隔において、用量に関連した様式で増加した。ブリナツモマブの生物学的利用能及び見かけの最終排出半減期は、投与間隔を1日おきに1回、潜在的により長い間隔に延長するのに有利であった。興味深いことに、第1のコホートの6名の患者におけるこの投与スキームを使用したPK値は、非常に良好である。すなわち、33.7%の生物学的利用能は、予測よりも高く、平均半減期は、cIVよりも驚くほど長かった(SC投与では10.8時間対cIV処置患者では約2時間)。両方のcIV注入期間中の定常状態濃度は、NHL患者で以前に報告された濃度と一致していた。
【0101】
全患者において、Cheson基準あたりの全奏効率(ORR)は、69%(評価可能、n=23:完全奏効[CR]が21%;部分奏効[PR]が48%;サイクル1[C1]、n=22:ORRが62%;CRが14%;PRが48%;サイクル2[C2]、n=17:45%;17%;28%)であり、Lugano基準によると、ORRは、52%(n=21:CRが24%;PRが28%;C1、n=18:45%;17%;28%;C2、n=12:31%;21%;10%)であり、濾胞性リンパ腫について、ORRは、Chesonによると77%(n=19:CRが23%;PRが55%)であり、Luganoによると55%(n=15:CRが23%;PRが32%)であった。3週間のcIV投与後及び2週間のcIV投与前にSC投与を1週間のみ投与したため、有効性又は毒性の用量依存性は、観察されず、cIVに忍容性でなかった患者は、SC投与に移行しなかった。
【0102】
結論
R/R緩徐進行性NHL患者では、SCでのブリナツモマブ投与は安全性プロファイルが良好であり、cIVでのブリナツモマブ投与に忍容できなかった患者はSC投与に進まなかったという警告を伴った。有効性は、以前のブリナツモマブNHL研究におけるcIV投与で見られたものと同等であった。全サイクルにわたるブリナツモマブSC投与の安全性/忍容性は、現在、R/R急性リンパ芽球性白血病の患者の第1相試験(NCT04521231)で評価されている。ブリナツモマブの生物学的利用能及び半減期により、SC投与のための有望な特徴が示され、更なる調査を正当化された。
【0103】
実施例2 - 再発性/難治性B細胞前駆体急性リンパ芽球性白血病を有する患者へのブリナツモマブの皮下投与
上記の実施例1(ClinicalTrials.gov識別子:NCT 02961881)に示されているような進行中の試験で観察された有望なリスクプロファイル及びSC投与様式の潜在的な利便性により、本発明者らは、R/R B-ALLなどの他の悪性腫瘍を有する患者におけるSCブリナツモマブ送達を調査するようになった。
【0104】
方法
進行中の多施設、シングルアーム、非盲検、第1b相用量設定試験(NCT04521231)において、患者に2~5サイクルのSCブリナツモマブを投与した。適格患者は、以下の特徴を有する:
年齢18歳以上、
B-ALLの診断、
一次導入療法又は救済療法に対して難治性、
再発性疾患であって、
未治療の再発(任意の病期)、
難治性再発、又は
第1の救済療法後の再発、
同種造血幹細胞移植後の再発を含む再発性疾患、
米国東海岸癌臨床試験グループ(ECOG)パフォーマンスステータススコアが2以下、
骨髄中の5%以上の芽球。
【0105】
各サイクルは、34日間の長さであり、26日間の治療期間及び8日間の無治療間隔を含んでいた。コホート1、サイクル1では、患者は、40μg、120μg、250μg、500μg又は最大耐量(MTD)のいずれかを週3回、SCブリナツモマブを1日1回(QD)、1~7日目に投与され、次いで250μgをコホート1及び2において、500μgをコホート3において、1000μgをコホート4において又はMTDを週3回(MWF)、8~26日目に投与され、後続サイクルにおいて、患者は、250μg(コホート1及び2)、500μg(コホート3)、1000μg(コホート4)を週3回又はMTDを週2回、治療期間中に投与された(図2に示すように)。骨髄(BM)の評価を各サイクルの27日目に行った。更なる投薬計画を図4A)及びB)に示す。図4A)は、患者がCRSのDLT(用量制限毒性)を示さない場合に使用される本発明の用量漸増スキームを示す。あるコホートポイントから次のコホートポイントへの前記図中の矢印を使用し得る。患者が所与のコホートにおいてCRSのDLTを示す場合、デエスカレーションスキームが使用される(図4Bに示す)。例えば、患者がコホート2でCRSのDLTを経験する場合、図4B)のコホート2.1及び2.2に示すスキームに従って用量をデエスカレーションすることが可能である。
【0106】
結果
コホート1からの6名の患者がこの2021年6月22日のデータカットオフに含まれた。年齢中央値は64(範囲38~83)歳であった。以前の治療の数は2~4の範囲であった。2名の患者は、一次療法又は救済療法に対して難治性の疾患を有し、2名の患者は、化学療法後に再発し、2名の患者は、以前の同種造血幹細胞移植後に再発した。試験開始時のBM芽球数の中央値は、85%(範囲28%~95%)であった。1名の患者のみが50%未満(28%)のBM芽球を有した。登録時、全ての患者のECOGスコアは、0~1であった。開始されたSCブリナツモマブサイクルの数の中央値は、1(1~3の範囲)であった。
【0107】
SC用量についての曝露量は、ブリナツモマブについて承認されたcIV投与計画の有効な曝露量と同等であり、平均定常状態濃度は、40μgをQD及び250μgを週に3回SC投与ではそれぞれ215pg/mL及び853pg/mLであり、これに対して9μg/日及び28μg/日のcIV投与ではそれぞれ228pg/mL及び616pg/mLであった。末梢免疫細胞再分布(循環CD3+及びCD8+CD69+ T細胞)のSCブリナツモマブ後の薬力学的プロファイル、一過性サイトカイン上昇(IL-6、IL-10、IFN-γ)及びCD19+ B細胞数の検出限界未満への低下は、cIV投与患者の過去の薬力学的プロファイルと一致していた。
【0108】
グレード3以上のサイトカイン放出症候群事象は報告されなかった(表1)。1名の患者がヘルペス脳炎を発症し、ブリナツモマブとは無関係のグレード5の神経学的事象を経験し、他の神経学的事象は報告されなかった。2名の患者が有害事象のために治療を中止した(応答なしの患者における注射部位反応、疾患進行による白血球増加症)。
【0109】
3名の患者が2サイクル以内に測定可能な残存病変(MRD)を伴わずに完全な血液学的応答(CR)を示し(<10-4)、1名の患者が形態学的部分応答を示した(サイクル1の開始時に95%のBM芽球から15日目に22%の芽球)。この患者は、髄外疾患の進行後、サイクル1の15日目に中断した。データカットオフの時点で、2名の患者が試験を継続していた。これらの患者はCRを有し、MRDはなかった。
【0110】
結論
コホート1における本試験では、SCブリナツモマブは、R/R B-ALLで重度に前処置された患者において有益な抗白血病活性を実証した。薬物動態学的及び薬力学的結果は、SC投与の使用を支持している。安全性プロファイルは、管理可能であり、cIVブリナツモマブについて報告されたものと一致していた。
【0111】
【表1】
【0112】
上記の臨床試験中、合計9名の患者を含む追加のデータを表2に要約する。
【0113】
プロトコルに従い、治療サイクル1及び2において、各投与前及び投与後一定間隔でブリナツモマブの血清濃度、リンパ球数及び血清サイトカイン濃度を評価した。
【0114】
安全性評価
有害事象共通用語規準(CTCAE)を使用して、有害事象を等級分けした。
有効性評価
完全寛解(CR)は、以下の通りに定義される。
- 骨髄中の芽球が5%未満
- 疾患の証拠なし
- 末梢血数の完全な回復
- 血小板数が>100,000/μl
- 絶対好中球数が>1,000/μl
【0115】
部分的な血液学的回復を伴う完全寛解(CRh)は、以下の通りに定義される。
- 骨髄中の芽球が5%未満
- 疾患の証拠なし
- 末梢血数の部分的回復
- 血小板数が>50,000/μl、及び
- 絶対好中球数が>500/μl
【0116】
不完全な血液学的回復を伴う完全寛解(CRi)は、以下の通りに定義される。
- 骨髄中の芽球が5%未満
- 疾患の証拠なし、及び
- 末梢血数の不完全な回復
- 血小板数が>100,000/μl、又は
- 絶対好中球数が>1000/μl(両方ではない)
【0117】
微小残存病変(MRD)応答は、以下の通りに定義される。
- フローサイトメトリー又はPCRによって検出可能な10-4個未満の白血病細胞の検出
【0118】
【表2】
【0119】
有効性
コホート1及び2の合計9名の患者のうち、
- 5名の患者(5/9)がMRD陰性CR/CRh/Criを達成し、3名の患者(3/6)がコホート1からであり、2名(2/3)の患者がコホート2からであり、
- 5名のうちの3名の応答者が2~5回の治療サイクルを完了し、
- 1名の応答者が治療の代替過程に進み、
- 1名の応答者が治療とは無関係のグレード5の有害事象を発症し、
- CR/CRh/CRiを達成した患者は全て、第1の治療サイクル内で達成し、
- 2名の患者が疾患進行のために治療を中止し、これらのうち、1名の患者は、髄外疾患の進行のために中断したが、治療中断時に部分的な形態学的応答(サイクル1の開始時の95%から15日目の22%への骨髄芽球数の減少)を達成しており、
- 2名の患者が、少なくとも1回の治療サイクル後に持続性疾患を有する非応答者であった。これらのうち、1名の患者は有害事象(サイクル2での皮膚発疹)後に治療を中止した。
【0120】
薬力学
図3は、SCブリナツモマブ処置に応答した薬力学マーカーの変化を示す。ブリナツモマブSC投与後、約6~30時間以内に末梢免疫細胞(CD3+CD8+CD69+ T細胞)の再分布が認められた(図3a、図3b)。検出限界未満へのCD19+ B細胞数の減少は、処置開始の約48時間以内に認められた(図3c)。投与後約6~24時間でピークに達したサイトカイン(IL-6、IL-10、IFN-γ)レベルの一過性上昇が認められた(図3dは、処置開始後のIFN-γレベルの変化を示す)。SCブリナツモマブ投与の薬力学的プロフィールは、cIVブリナツモマブで観察されたものと類似していた。R/R B-ALLについてSCブリナツモマブを投与されている患者の結果の分析のこの追加部分におけるものである。安全性プロファイルは、管理可能であり、cIVブリナツモマブについて報告されたものと一致していた。SCブリナツモマブは、試験した両方の用量レベルにおいて、R/R B-ALLで重度に前処置された患者で有望な抗白血病活性を示した。有効用量のcIVブリナツモマブと比較して、類似の薬物動態学的曝露及び薬力学的プロファイルの証拠が得られた。コホート1及び2でこれまで試験した全ての対象は、抗ブリナツモマブ抗体について陰性であった。データは、cIV設定と比較して、SC設定における免疫原性の増加の証拠を示唆していない。
【0121】
再発性/難治性B細胞前駆体ALLを有する患者への皮下投与ブリナツモマブの上記試験の更なるコホート段階において、投与計画の有効性が確認された。14名の患者のうちの9名(64%)が1サイクル以内に完全寛解を経験し、14名中8名が微小残存病変(MRD)を有しなかった。
【0122】
試験の更なるコホートでは、合計22名の患者が登録された(コホート1では6名、コホート2では3名、コホート3では5名、コホート4では8名)。年齢中央値は58(範囲19~83)歳であった。10名の患者(50%)は、55歳を超えていた。以前の治療の数は、2~4の範囲であった。全ての患者は、登録時に0~1の米国東海岸癌臨床試験グループスコアを有した。6名の患者は、フロントライン療法及び救済療法に対して難治性であり、9名の患者は、化学療法後に再発し、3名の患者は、以前の造血幹細胞移植(HSCT)後に再発し、1名の患者は、以前のHSCT及び抗CD19キメラ抗原受容体T細胞療法後に再発し、1名の患者は、2回の以前のHSCT及びブリナツモマブ療法後に再発し、初期の残存疾患は、cIVブリナツモマブで消失し、最初のHSCTを可能が可能となった。投与されたSCブリナツモマブのサイクル数の中央値は、1(1~5の範囲)であった。7名の患者が1サイクルを受け、1名の患者が2サイクルを受け、1名の患者が4サイクルを受け、2名の患者が5サイクルを受けた。6名の患者がサイクル1中に治療を終了し、3名の患者でサイクル1が進行中である。試験開始時の骨髄芽球数の中央値は、77%(6~100%の範囲)であった。
【0123】
用量制限毒性は、いずれのコホートでも報告されなかった。17名の患者は、治療下で発現したグレード3以上の有害事象を有した(TEAE、表)。6名の患者(30.0%)が任意のグレードの神経毒性(NT)を有し、4名の患者(20%)がグレード3のNTを有した。16名の患者(80.0%)が任意のグレードのサイトカイン放出症候群(CRS)を有し、2名の患者(10.0%)がグレード3のCRSを有した(コホート4;各事象が48時間以内に回復し、後続サイクル1の用量を再開した)。グレード4以上のNT又はCRSの発生はなかった。6名の患者がTEAEのために治療を終了し、そのうちの4名の患者は、コホート1(n=1、ブリナツモマブとは無関係のグレード5のヘルペス脳炎;n=1、応答がない患者におけるサイクル2での注射部位反応;n=1、疾患進行による白血球増加症;n=1、髄外疾患の進行による顔面腫脹)からであり、2名の患者は、コホート3(n=1、グレード2のCRS、グレード3の肝臓酵素上昇及びグレード3のNT[構音障害及び失見当識];n=1、疾患非応答)からであった。予備的PK結果は、SCブリナツモマブの観察された曝露(定常状態での平均濃度[SS])が、cIVブリナツモマブの承認された投与計画の有効な曝露(SS濃度)と一致することを示した。PDプロファイルは、末梢T細胞の再分布及び活性化(CD3+及びCD8+CD69+ T細胞)、一過性サイトカイン上昇(IL-6、IL-10、IFN-γ)及びCD19+ B細胞枯渇が、cIVブリナツモマブの過去のPDプロファイルと一致することを実証した。
【0124】
コホート1~3の14名の患者のうちの9名(64.3%)は、測定可能な残存病変が存在することなく、SCブリナツモマブの2サイクル以内に完全又は部分的な血液学的回復(CR/CRh)を伴う完全奏効を達成した(MRD<10-4)。
【0125】
コホート4では、8名の患者を登録した。コホート4の開始から数週間後、コホート1~3で観察されるように、この臨床試験の対象は、抗ブリナツモマブ抗体について陰性である。持続静脈内(cIV)投与と比較して、皮下状況では免疫原性の増加もない。この試験における現在の抗薬物抗体(ADA)率は、いくつかの臨床試験にわたってブリナツモマブ(cIV)に対する過去のADA率と一致しており、用量漸増にわたる集計データは、皮下投与されたブリナツモマブに対する免疫原性の証拠を示さない。更に、コホート4(1~7日目、すなわち1週目に500μgを皮下投与;2~4週目に週3回1000μgを皮下投与)では、用量制限毒性(DLT)は、観察されていない。8名中7名のDLT評価可能な対象(2022年9月上旬)のうち、5名が少なくとも1サイクルを完了し、7名中5名(71%)のDLT評価可能な対象が完全な寛解(MRD陰性)を示した。臨床的に有意なバイタルサイン所見及び検査所見(例えば、血液学的、化学的、凝固、尿検査、CSF分析)は、認められなかった。
【0126】
この進行中の第1b相用量漸増試験では、SCブリナツモマブは、R/R B-ALLを有する重度に前処置された患者において許容される安全性プロファイル及び抗白血病活性を実証した。PK曝露及びPDプロファイルは、ブリナツモマブのcIV投与計画について報告されたものと一致しており、この患者集団におけるブリナツモマブのSC投与の使用を裏付けている。コホート4を介したブリナツモマブのSC投与による有望なPK結果が得られている。
・6~12時間の中央値に達したCmax
・曝露のほぼ用量比例的増加
・QD投与:1日目の第1の投与後、40μgから500μgへの用量の12.5倍の増加に対して、平均Cmax及びAUCのそれぞれ10倍及び12倍の増加。定常状態での4日目の投与と同様の結果。
・TIW投与:10日目の投与後の定常状態で250μgから1000μgへの用量の4倍の増加に対して、平均Cmax及びAUCのそれぞれ3.1倍倍及び3.2倍の増加。
・観察された見かけの半減期(約8~19時間)は、NHL対象におけるSC投与と一致している。
・NHL対象におけるSC投与と一致するSC生物学的利用能の推定値:約27%(他のR/R ALL試験からの28μg/日cIV投与についての616pg/mLの過去の平均Css値から計算した1.89L/時のCLを使用したcIVとの交差試験比較)。
【0127】
【表3】
【0128】
【表4】
【0129】
配列
【0130】
【表5】
【0131】
【表6】
【0132】
【表7】
【0133】
引用文献
1.国際公開第99/54440号パンフレット
2.https://www.ema.europa.eu/en/medicines/human/EPAR/blincyto
3.国際公開第2004/106381号パンフレット
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図1
図2
図3
図4
【配列表】
2024537288000001.xml
【国際調査報告】