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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-10
(54)【発明の名称】肺がんの治療用RNA
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/00 20060101AFI20241003BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20241003BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20241003BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20241003BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20241003BHJP
   C07K 14/705 20060101ALI20241003BHJP
   C07K 14/47 20060101ALI20241003BHJP
   C12N 15/113 20100101ALI20241003BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
A61K39/00 H
A61K48/00
A61P11/00
A61P35/00
A61P37/04
C07K14/705 ZNA
C07K14/47
C12N15/113 Z
C12N15/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024521854
(86)(22)【出願日】2022-10-10
(85)【翻訳文提出日】2024-06-07
(86)【国際出願番号】 EP2022078084
(87)【国際公開番号】W WO2023061931
(87)【国際公開日】2023-04-20
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2021/078022
(32)【優先日】2021-10-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2022/050135
(32)【優先日】2022-01-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520193437
【氏名又は名称】バイオンテック・エスイー
(71)【出願人】
【識別番号】513288447
【氏名又は名称】トロン-トランスラショナル・オンコロジー・アン・デア・ウニヴェルシテーツメディツィン・デア・ヨハネス・グーテンベルク-ウニヴェルシテート・マインツ・ゲマインニューツィゲ・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ウグール・ザヒン
(72)【発明者】
【氏名】ダーヴィト・ヴェーバー
(72)【発明者】
【氏名】カリーナ・ヴァルター
(72)【発明者】
【氏名】ディアナ・バレア・ロルダン
(72)【発明者】
【氏名】ループレヒト・クーナー
(72)【発明者】
【氏名】メラニー・ハイン
(72)【発明者】
【氏名】マルティン・ズハン
(72)【発明者】
【氏名】ヴェレーナ・キスラー
(72)【発明者】
【氏名】レナ・マレーン・クランツ
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA13
4C084MA16
4C084MA34
4C084MA41
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZA591
4C084ZB091
4C084ZB261
4C085AA03
4C085DD61
4C085EE01
4C085GG02
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA09
4H045DA86
4H045EA20
(57)【要約】
本開示は、肺がん、特に非小細胞肺癌(NSCLC)を治療するためのRNAの分野に関する。肺がんは、女性では3番目に多い悪性腫瘍であり、男性では2番目に多い悪性腫瘍である。NSCLCは、肺がん全体の約85%を占める。本明細書では、肺がんを治療するための組成物、使用、及び方法が開示される。本明細書で開示される肺がんを有する患者への治療用RNAの投与は、腫瘍サイズを低減させ、進行(progressive disease)までの時間を延長させ、並びに/又は腫瘍の転移及び/若しくは再発から保護し、最終的に生存時間を延長することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下のアミノ酸配列:
(i)クローディン6(CLDN6)、その免疫原性バリアント、又は前記CLDN6若しくは前記その免疫原性バリアントの免疫原性断片を含むアミノ酸配列、
(ii)北九州肺がん抗原1(KK-LC-1)、その免疫原性バリアント、又は前記KK-LC-1若しくは前記その免疫原性バリアントの免疫原性断片を含むアミノ酸配列、
(iii)メラノーマ抗原A3(MAGE-A3)、その免疫原性バリアント、又は前記MAGE-A3若しくは前記その免疫原性バリアントの免疫原性断片を含むアミノ酸配列、
(iv)メラノーマ抗原4(MAGE-A4)、その免疫原性バリアント、又は前記MAGE-A4若しくは前記その免疫原性バリアントの免疫原性断片を含むアミノ酸配列、
(v)メラノーマ優先発現抗原(PRAME)、その免疫原性バリアント、又は前記PRAME若しくは前記その免疫原性バリアントの免疫原性断片を含むアミノ酸配列、及び
(vi)メラノーマ抗原C1(MAGE-C1)、その免疫原性バリアント、又は前記MAGE-C1若しくは前記その免疫原性バリアントの免疫原性断片を含むアミノ酸配列
をコードする少なくとも1つのRNA
を含む組成物又は医学的調製物。
【請求項2】
(i)クローディン6(CLDN6)、その免疫原性バリアント、又は前記CLDN6若しくは前記その免疫原性バリアントの免疫原性断片を含むアミノ酸配列をコードするRNA、
(ii)北九州肺がん抗原1(KK-LC-1)、その免疫原性バリアント、又は前記KK-LC-1若しくは前記その免疫原性バリアントの免疫原性断片を含むアミノ酸配列をコードするRNA、
(iii)メラノーマ抗原A3(MAGE-A3)、その免疫原性バリアント、又は前記MAGE-A3若しくは前記その免疫原性バリアントの免疫原性断片を含むアミノ酸配列をコードするRNA、
(iv)メラノーマ抗原4(MAGE-A4)、その免疫原性バリアント、又は前記MAGE-A4若しくは前記その免疫原性バリアントの免疫原性断片を含むアミノ酸配列をコードするRNA、
(v)メラノーマ優先発現抗原(PRAME)、その免疫原性バリアント、又は前記PRAME若しくは前記その免疫原性バリアントの免疫原性断片を含むアミノ酸配列をコードするRNA、及び
(vi)メラノーマ抗原C1(MAGE-C1)、その免疫原性バリアント、又は前記MAGE-C1若しくは前記その免疫原性バリアントの免疫原性断片を含むアミノ酸配列をコードするRNA
を含む、請求項1に記載の組成物又は医学的調製物。
【請求項3】
(i)、(ii)、(iii)、(iv)、(v)、又は(vi)のアミノ酸配列の各々が、別々のRNAによりコードされている、請求項1又は2に記載の組成物又は医学的調製物。
【請求項4】
(i)(i)のアミノ酸配列をコードするRNAが、配列番号3若しくは4のヌクレオチド配列、又は配列番号3若しくは4のヌクレオチド配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するヌクレオチド配列を含み、及び/或いは
(ii)(i)のアミノ酸配列が、配列番号1若しくは2のアミノ酸配列、又は配列番号1若しくは2のアミノ酸配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するアミノ酸配列を含む、
請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物又は医学的調製物。
【請求項5】
(i)(ii)のアミノ酸配列をコードするRNAが、配列番号7若しくは8のヌクレオチド配列、又は配列番号7若しくは8のヌクレオチド配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するヌクレオチド配列を含み、及び/或いは
(ii)(ii)のアミノ酸配列が、配列番号5若しくは6のアミノ酸配列、又は配列番号5若しくは6のアミノ酸配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するアミノ酸配列を含む、
請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物又は医学的調製物。
【請求項6】
(i)(iii)のアミノ酸配列をコードするRNAが、配列番号11若しくは12のヌクレオチド配列、又は配列番号11若しくは12のヌクレオチド配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するヌクレオチド配列を含み、及び/或いは
(ii)(iii)のアミノ酸配列が、配列番号9若しくは10のアミノ酸配列、又は配列番号9若しくは10のアミノ酸配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するアミノ酸配列を含む、
請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物又は医学的調製物。
【請求項7】
(i)(iv)のアミノ酸配列をコードするRNAが、配列番号15若しくは16のヌクレオチド配列、又は配列番号15若しくは16のヌクレオチド配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するヌクレオチド配列を含み、及び/或いは
(ii)(iv)のアミノ酸配列が、配列番号13若しくは14のアミノ酸配列、又は配列番号13若しくは14のアミノ酸配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するアミノ酸配列を含む、
請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物又は医学的調製物。
【請求項8】
(i)(v)のアミノ酸配列をコードするRNAが、配列番号19若しくは20のヌクレオチド配列、又は配列番号19若しくは20のヌクレオチド配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するヌクレオチド配列を含み、及び/或いは
(ii)(v)のアミノ酸配列が、配列番号17若しくは18のアミノ酸配列、又は配列番号17若しくは18のアミノ酸配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するアミノ酸配列を含む、
請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物又は医学的調製物。
【請求項9】
(i)(vi)のアミノ酸配列をコードするRNAが、配列番号23若しくは24のヌクレオチド配列、又は配列番号23若しくは24のヌクレオチド配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するヌクレオチド配列を含み、及び/或いは
(ii)(vi)のアミノ酸配列が、配列番号21若しくは22のアミノ酸配列、又は配列番号21若しくは22のアミノ酸配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するアミノ酸配列を含む、
請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物又は医学的調製物。
【請求項10】
(i)配列番号4のヌクレオチド配列を含むRNA、
(ii)配列番号8のヌクレオチド配列を含むRNA、
(iii)配列番号12のヌクレオチド配列を含むRNA、
(iv)配列番号16のヌクレオチド配列を含むRNA、
(v)配列番号20のヌクレオチド配列を含むRNA、及び
(vi)配列番号24のヌクレオチド配列を含むRNA
を含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物又は医学的調製物。
【請求項11】
(i)、(ii)、(iii)、(iv)、(v)、又は(vi)の少なくとも1つのアミノ酸配列が、免疫寛容を毀損するアミノ酸配列を含み、及び/又は少なくとも1つのRNAが、免疫寛容を毀損するアミノ酸配列をコードするRNAと共投与される、請求項1~10のいずれか一項に記載の組成物又は医学的調製物。
【請求項12】
(i)、(ii)、(iii)、(iv)、(v)、又は(vi)の各アミノ酸配列が、免疫寛容を毀損するアミノ酸配列を含み、及び/又は各RNAが、免疫寛容を毀損するアミノ酸配列をコードするRNAと共投与される、請求項1~11のいずれか一項に記載の組成物又は医学的調製物。
【請求項13】
前記免疫寛容を毀損するアミノ酸配列が、ヘルパーエピトープ、好ましくは破傷風トキソイド由来ヘルパーエピトープを含む、請求項11又は12に記載の組成物又は医学的調製物。
【請求項14】
(i)前記免疫寛容を毀損するアミノ酸配列をコードするRNAが、配列番号34のヌクレオチド配列、又は配列番号34のヌクレオチド配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するヌクレオチド配列を含み、及び/或いは
(ii)前記免疫寛容を毀損するアミノ酸配列が、配列番号33のアミノ酸配列、又は配列番号33のアミノ酸配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するアミノ酸配列を含む、
請求項11~13のいずれか一項に記載の組成物又は医学的調製物。
【請求項15】
(i)、(ii)、(iii)、(iv)、(v)、又は(vi)のアミノ酸配列の少なくとも1つが、コドン最適化されており、及び/又は野生型コード配列と比較してG/C含有量が増加されたコード配列によりコードされており、コドン最適化及び/又は前記G/C含有量の増加が、好ましくは、コードされたアミノ酸配列の配列を変化させない、請求項1~14のいずれか一項に記載の組成物又は医学的調製物。
【請求項16】
(i)、(ii)、(iii)、(iv)、(v)、又は(vi)のアミノ酸配列の各々が、コドン最適化されており、及び/又は野生型コード配列と比較してG/C含有量が増加されたコード配列によりコードされており、コドン最適化及び/又は前記G/C含有量の増加が、好ましくは、前記コードされたアミノ酸配列の配列を変化させない、請求項1~15のいずれか一項に記載の組成物又は医学的調製物。
【請求項17】
少なくとも1つのRNAが、5'キャップm2 7,2'-OGppsp(5')Gを含む、請求項1~16のいずれか一項に記載の組成物又は医学的調製物。
【請求項18】
各RNAが、5'キャップm2 7,2'-OGppsp(5')Gを含む、請求項1~17のいずれか一項に記載の組成物又は医学的調製物。
【請求項19】
少なくとも1つのRNAが、配列番号35のヌクレオチド配列、又は配列番号35のヌクレオチド配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するヌクレオチド配列を含む5'UTRを含む、請求項1~18のいずれか一項に記載の組成物又は医学的調製物。
【請求項20】
各RNAが、配列番号35のヌクレオチド配列、又は配列番号35のヌクレオチド配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するヌクレオチド配列を含む5'UTRを含む、請求項1~19のいずれか一項に記載の組成物又は医学的調製物。
【請求項21】
(i)、(ii)、(iii)、(iv)、(v)、又は(vi)の少なくとも1つのアミノ酸配列が、抗原プロセシング及び/又は提示を増強するアミノ酸配列を含む、請求項1~20のいずれか一項に記載の組成物又は医学的調製物。
【請求項22】
(i)、(ii)、(iii)、(iv)、(v)、又は(vi)の各アミノ酸配列が、抗原プロセシング及び/又は提示を増強するアミノ酸配列を含む、請求項1~21のいずれか一項に記載の組成物又は医学的調製物。
【請求項23】
前記抗原プロセシング及び/又は提示を増強するアミノ酸配列が、MHC分子、好ましくはMHCクラスI分子の膜貫通ドメイン及び細胞質ドメインに対応するアミノ酸配列を含む、請求項21又は22に記載の組成物又は医学的調製物。
【請求項24】
(i)前記抗原プロセシング及び/又は提示を増強するアミノ酸配列をコードするRNAが、配列番号32のヌクレオチド配列、又は配列番号32のヌクレオチド配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するヌクレオチド配列を含み、及び/或いは
(ii)前記抗原プロセシング及び/又は提示を増強するアミノ酸配列が、配列番号31のアミノ酸配列、又は配列番号31のアミノ酸配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するアミノ酸配列を含む、
請求項21~23のいずれか一項に記載の組成物又は医学的調製物。
【請求項25】
少なくとも1つのRNAが、配列番号36のヌクレオチド配列、又は配列番号36のヌクレオチド配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するヌクレオチド配列を含む3'UTRを含む、請求項1~24のいずれか一項に記載の組成物又は医学的調製物。
【請求項26】
各RNAが、配列番号36のヌクレオチド配列、又は配列番号36のヌクレオチド配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するヌクレオチド配列を含む3'UTRを含む、請求項1~25のいずれか一項に記載の組成物又は医学的調製物。
【請求項27】
少なくとも1つのRNAが、ポリA配列を含む、請求項1~26のいずれか一項に記載の組成物又は医学的調製物。
【請求項28】
各RNAが、ポリA配列を含む、請求項1~27のいずれか一項に記載の組成物又は医学的調製物。
【請求項29】
前記ポリA配列が、少なくとも100個のヌクレオチドを含む、請求項27又は28に記載の組成物又は医学的調製物。
【請求項30】
前記ポリA配列が、配列番号37のヌクレオチド配列を含むか又はからなる、請求項27~29のいずれか一項に記載の組成物又は医学的調製物。
【請求項31】
前記RNAが、液体として製剤化されているか、固体として製剤化されているか、又はそれらの組合せである、請求項1~30のいずれか一項に記載の組成物又は医学的調製物。
【請求項32】
前記RNAが、注射用に製剤化されている、請求項1~31のいずれか一項に記載の組成物又は医学的調製物。
【請求項33】
前記RNAが、静脈内投与用に製剤化されている、請求項1~32のいずれか一項に記載の組成物又は医学的調製物。
【請求項34】
前記RNAが、リポプレックス粒子として製剤化されているか又は製剤化されることになる、請求項1~33のいずれか一項に記載の組成物又は医学的調製物。
【請求項35】
RNAリポプレックス粒子が、前記RNAをリポソームと混合することにより得ることができる、請求項1~34のいずれか一項に記載の組成物又は医学的調製物。
【請求項36】
(i)、(ii)、(iii)、(iv)、(v)、又は(vi)のアミノ酸配列をコードする少なくとも1つのRNAが、免疫寛容を毀損するアミノ酸配列をコードするRNAと共にリポプレックス粒子として共製剤化されているか又は共製剤化されることになる、請求項34又は35に記載の組成物又は医学的調製物。
【請求項37】
(i)、(ii)、(iii)、(iv)、(v)、又は(vi)のアミノ酸配列をコードする各RNAが、免疫寛容を毀損するアミノ酸配列をコードするRNAと共にリポプレックス粒子として共製剤化されているか又は共製剤化されることになる、請求項34~36のいずれか一項に記載の組成物又は医学的調製物。
【請求項38】
医薬組成物である、請求項1~37のいずれか一項に記載の組成物又は医学的調製物。
【請求項39】
前記医薬組成物が、1つ又は複数の薬学的に許容される担体、希釈剤、及び/又は賦形剤を更に含む、請求項38に記載の組成物又は医学的調製物。
【請求項40】
前記医学的調製物がキットである、請求項1~37のいずれか一項に記載の組成物又は医学的調製物。
【請求項41】
前記RNAが、別々のバイアルに存在する、請求項40に記載の組成物又は医学的調製物。
【請求項42】
肺がんを治療又は予防するための、前記組成物又は医学的調製物の使用説明書を更に含む、請求項40又は41に記載の組成物又は医学的調製物。
【請求項43】
薬学的使用のための、請求項1~42のいずれか一項に記載の組成物又は医学的調製物。
【請求項44】
前記薬学的使用が、疾患又は障害の療法的治療又は予防的治療を含む、請求項43に記載の組成物又は医学的調製物。
【請求項45】
前記疾患又は障害の療法的治療又は予防的治療が、肺がんを治療又は予防することを含む、請求項44に記載の組成物又は医学的調製物。
【請求項46】
ヒトに投与するためのものである、請求項1~45のいずれか一項に記載の組成物又は医学的調製物。
【請求項47】
対象の肺がんを治療するための方法であって、対象に、
以下のアミノ酸配列:
(i)クローディン6(CLDN6)、その免疫原性バリアント、又は前記CLDN6若しくは前記その免疫原性バリアントの免疫原性断片を含むアミノ酸配列、
(ii)北九州肺がん抗原1(KK-LC-1)、その免疫原性バリアント、又は前記KK-LC-1若しくは前記その免疫原性バリアントの免疫原性断片を含むアミノ酸配列、
(iii)メラノーマ抗原A3(MAGE-A3)、その免疫原性バリアント、又は前記MAGE-A3若しくは前記その免疫原性バリアントの免疫原性断片を含むアミノ酸配列、
(iv)メラノーマ抗原4(MAGE-A4)、その免疫原性バリアント、又は前記MAGE-A4若しくは前記その免疫原性バリアントの免疫原性断片を含むアミノ酸配列、及び
(v)メラノーマ優先発現抗原(PRAME)、その免疫原性バリアント、又は前記PRAME若しくは前記その免疫原性バリアントの免疫原性断片を含むアミノ酸配列、及び
(vi)メラノーマ抗原C1(MAGE-C1)、その免疫原性バリアント、又は前記MAGE-C1若しくは前記その免疫原性バリアントの免疫原性断片を含むアミノ酸配列
をコードする少なくとも1つのRNA
を投与する工程を含む方法。
【請求項48】
(i)クローディン6(CLDN6)、その免疫原性バリアント、又は前記CLDN6若しくは前記その免疫原性バリアントの免疫原性断片を含むアミノ酸配列をコードするRNA、
(ii)北九州肺がん抗原1(KK-LC-1)、その免疫原性バリアント、又は前記KK-LC-1若しくは前記その免疫原性バリアントの免疫原性断片を含むアミノ酸配列をコードするRNA、
(iii)メラノーマ抗原A3(MAGE-A3)、その免疫原性バリアント、又は前記MAGE-A3若しくは前記その免疫原性バリアントの免疫原性断片を含むアミノ酸配列をコードするRNA、
(iv)メラノーマ抗原4(MAGE-A4)、その免疫原性バリアント、又は前記MAGE-A4若しくは前記その免疫原性バリアントの免疫原性断片を含むアミノ酸配列をコードするRNA、
(v)メラノーマ優先発現抗原(PRAME)、その免疫原性バリアント、又は前記PRAME若しくは前記その免疫原性バリアントの免疫原性断片を含むアミノ酸配列をコードするRNA、及び
(vi)メラノーマ抗原C1(MAGE-C1)、その免疫原性バリアント、又は前記MAGE-C1若しくは前記その免疫原性バリアントの免疫原性断片を含むアミノ酸配列をコードするRNA
を投与する工程を含む、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
(i)、(ii)、(iii)、(iv)、(v)、又は(vi)のアミノ酸配列の各々が、別々のRNAによりコードされている、請求項47又は48に記載の方法。
【請求項50】
(i)(i)のアミノ酸配列をコードするRNAが、配列番号3若しくは4のヌクレオチド配列、又は配列番号3若しくは4のヌクレオチド配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するヌクレオチド配列を含み、及び/或いは
(ii)(i)のアミノ酸配列は、配列番号1若しくは2のアミノ酸配列、又は配列番号1若しくは2のアミノ酸配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するアミノ酸配列を含む、
請求項47~49のいずれか一項に記載の方法。
【請求項51】
(i)(ii)のアミノ酸配列をコードするRNAが、配列番号7若しくは8のヌクレオチド配列、又は配列番号7若しくは8のヌクレオチド配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するヌクレオチド配列を含み、及び/或いは
(ii)(ii)のアミノ酸配列が、配列番号5若しくは6のアミノ酸配列、又は配列番号5若しくは6のアミノ酸配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するアミノ酸配列を含む、
請求項47~50のいずれか一項に記載の方法。
【請求項52】
(i)(iii)のアミノ酸配列をコードするRNAが、配列番号11若しくは12のヌクレオチド配列、又は配列番号11若しくは12のヌクレオチド配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するヌクレオチド配列を含み、及び/或いは
(ii)(iii)のアミノ酸配列が、配列番号9若しくは10のアミノ酸配列、又は配列番号9若しくは10のアミノ酸配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するアミノ酸配列を含む、
請求項47~51のいずれか一項に記載の方法。
【請求項53】
(i)(iv)のアミノ酸配列をコードするRNAが、配列番号15若しくは16のヌクレオチド配列、又は配列番号15若しくは16のヌクレオチド配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するヌクレオチド配列を含み、及び/或いは
(ii)(iv)のアミノ酸配列が、配列番号13若しくは14のアミノ酸配列、又は配列番号13若しくは14のアミノ酸配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するアミノ酸配列を含む、
請求項47~52のいずれか一項に記載の方法。
【請求項54】
(i)(v)のアミノ酸配列をコードするRNAが、配列番号19若しくは20のヌクレオチド配列、又は配列番号19若しくは20のヌクレオチド配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するヌクレオチド配列を含み、及び/或いは
(ii)(v)のアミノ酸配列が、配列番号17若しくは18のアミノ酸配列、又は配列番号17若しくは18のアミノ酸配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するアミノ酸配列を含む、
請求項47~53のいずれか一項に記載の方法。
【請求項55】
(i)(vi)のアミノ酸配列をコードするRNAが、配列番号23若しくは24のヌクレオチド配列、又は配列番号23若しくは24のヌクレオチド配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するヌクレオチド配列を含み、及び/或いは
(ii)(vi)のアミノ酸配列が、配列番号21若しくは22のアミノ酸配列、又は配列番号21若しくは22のアミノ酸配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するアミノ酸配列を含む、
請求項47~54のいずれか一項に記載の方法。
【請求項56】
(i)配列番号4のヌクレオチド配列を含むRNA、
(ii)配列番号8のヌクレオチド配列を含むRNA、
(iii)配列番号12のヌクレオチド配列を含むRNA、
(iv)配列番号16のヌクレオチド配列を含むRNA、
(v)配列番号20のヌクレオチド配列を含むRNA、及び
(vi)配列番号24のヌクレオチド配列を含むRNA
を投与する工程を含む、請求項47~55のいずれか一項に記載の方法。
【請求項57】
(i)、(ii)、(iii)、(iv)、(v)、又は(vi)の少なくとも1つのアミノ酸配列が、免疫寛容を毀損するアミノ酸配列を含み、及び/又は少なくとも1つのRNAは、免疫寛容を毀損するアミノ酸配列をコードするRNAと共投与される、請求項47~56のいずれか一項に記載の方法。
【請求項58】
(i)、(ii)、(iii)、(iv)、(v)、又は(vi)の各アミノ酸配列が、免疫寛容を毀損するアミノ酸配列を含み、及び/又は各RNAは、免疫寛容を毀損するアミノ酸配列をコードするRNAと共投与される、請求項47~57のいずれか一項に記載の方法。
【請求項59】
前記免疫寛容を毀損するアミノ酸配列が、ヘルパーエピトープ、好ましくは破傷風トキソイド由来ヘルパーエピトープを含む、請求項57又は58に記載の方法。
【請求項60】
(i)前記免疫寛容を毀損するアミノ酸配列をコードするRNAが、配列番号34のヌクレオチド配列、又は配列番号34のヌクレオチド配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するヌクレオチド配列を含み、及び/或いは
(ii)前記免疫寛容を毀損するアミノ酸配列が、配列番号33のアミノ酸配列、又は配列番号33のアミノ酸配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するアミノ酸配列を含む、
請求項57~59のいずれか一項に記載の方法。
【請求項61】
(i)、(ii)、(iii)、(iv)、(v)、又は(vi)のアミノ酸配列の少なくとも1つが、コドン最適化されており、及び/又は野生型コード配列と比較してG/C含有量が増加されたコード配列によりコードされており、コドン最適化及び/又は前記G/C含有量の増加は、好ましくは、コードされたアミノ酸配列の配列を変化させない、請求項47~60のいずれか一項に記載の方法。
【請求項62】
(i)、(ii)、(iii)、(iv)、(v)、又は(vi)のアミノ酸配列の各々が、コドン最適化されており、及び/又は野生型コード配列と比較してG/C含有量が増加されたコード配列によりコードされており、コドン最適化及び/又は前記G/C含有量の増加は、好ましくは、前記コードされたアミノ酸配列の配列を変化させない、請求項47~61のいずれか一項に記載の方法。
【請求項63】
少なくとも1つのRNAが、5'キャップm2 7,2'-OGppsp(5')Gを含む、請求項47~62のいずれか一項に記載の方法。
【請求項64】
各RNAが、5'キャップm2 7,2'-OGppsp(5')Gを含む、請求項47~63のいずれか一項に記載の方法。
【請求項65】
少なくとも1つのRNAが、配列番号35のヌクレオチド配列、又は配列番号35のヌクレオチド配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するヌクレオチド配列を含む5'UTRを含む、請求項47~64のいずれか一項に記載の方法。
【請求項66】
各RNAが、配列番号35のヌクレオチド配列、又は配列番号35のヌクレオチド配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するヌクレオチド配列を含む5'UTRを含む、請求項47~65のいずれか一項に記載の方法。
【請求項67】
(i)、(ii)、(iii)、(iv)、(v)、又は(vi)の少なくとも1つのアミノ酸配列が、抗原プロセシング及び/又は提示を増強するアミノ酸配列を含む、請求項47~66のいずれか一項に記載の方法。
【請求項68】
(i)、(ii)、(iii)、(iv)、(v)、又は(vi)の各アミノ酸配列が、抗原プロセシング及び/又は提示を増強するアミノ酸配列を含む、請求項47~67のいずれか一項に記載の方法。
【請求項69】
前記抗原プロセシング及び/又は提示を増強するアミノ酸配列が、MHC分子、好ましくはMHCクラスI分子の膜貫通ドメイン及び細胞質ドメインに対応するアミノ酸配列を含む、請求項67又は68に記載の方法。
【請求項70】
(i)前記抗原プロセシング及び/又は提示を増強するアミノ酸配列をコードするRNAが、配列番号32のヌクレオチド配列、又は配列番号32のヌクレオチド配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するヌクレオチド配列を含み、及び/或いは
(ii)前記抗原プロセシング及び/又は提示を増強するアミノ酸配列が、配列番号31のアミノ酸配列、又は配列番号31のアミノ酸配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するアミノ酸配列を含む、
請求項67~69のいずれか一項に記載の方法。
【請求項71】
少なくとも1つのRNAが、配列番号36のヌクレオチド配列、又は配列番号36のヌクレオチド配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するヌクレオチド配列を含む3'UTRを含む、請求項47~70のいずれか一項に記載の方法。
【請求項72】
各RNAが、配列番号36のヌクレオチド配列、又は配列番号36のヌクレオチド配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するヌクレオチド配列を含む3'UTRを含む、請求項47~71のいずれか一項に記載の方法。
【請求項73】
少なくとも1つのRNAが、ポリA配列を含む、請求項47~72のいずれか一項に記載の方法。
【請求項74】
各RNAが、ポリA配列を含む、請求項47~73のいずれか一項に記載の方法。
【請求項75】
前記ポリA配列が、少なくとも100個のヌクレオチドを含む、請求項73又は74に記載の方法。
【請求項76】
前記ポリA配列が、配列番号37のヌクレオチド配列を含むか又はからなる、請求項73~75のいずれか一項に記載の方法。
【請求項77】
前記RNAが、注射により投与される、請求項47~76のいずれか一項に記載の方法。
【請求項78】
前記RNAが、静脈内投与により投与される、請求項47~77のいずれか一項に記載の方法。
【請求項79】
前記RNAが、リポプレックス粒子として製剤化されている、請求項47~78のいずれか一項に記載の方法。
【請求項80】
RNAリポプレックス粒子が、前記RNAをリポソームと混合することにより得ることができる、請求項47~79のいずれか一項に記載の方法。
【請求項81】
(i)、(ii)、(iii)、(iv)、(v)、又は(vi)のアミノ酸配列をコードする少なくとも1つのRNAが、免疫寛容を毀損するアミノ酸配列をコードするRNAと共にリポプレックス粒子として共製剤化されている、請求項79又は80に記載の方法。
【請求項82】
(i)、(ii)、(iii)、(iv)、(v)、又は(vi)のアミノ酸配列をコードする各RNAが、免疫寛容を毀損するアミノ酸配列をコードするRNAと共にリポプレックス粒子として共製剤化されている、請求項79~81のいずれか一項に記載の方法。
【請求項83】
前記対象がヒトである、請求項47~82のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、肺がん、特に非小細胞肺癌(NSCLC)を治療するためのRNAの分野に関する。肺がんは、女性では3番目に多い悪性腫瘍であり、男性では2番目に多い悪性腫瘍である。NSCLCは、肺がん全体の約85%を占める。
【0002】
本明細書では、肺がんを治療するための組成物、使用、及び方法が開示される。本明細書で開示される肺がんを有する患者への治療用RNAの投与は、腫瘍サイズを低減させ、進行(progressive disease)までの時間を延長させ、並びに/又は腫瘍の転移及び/若しくは再発から保護し、最終的に生存時間を延長することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開2017/060314号
【特許文献2】国際公開第2011/015347号
【特許文献3】国際公開第2016/005324号A1
【特許文献4】国際公開第2013/143683号
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】A multilingual glossary of biotechnological terms: (IUPAC Recommendations)」、H.G.W. Leuenberger、B. Nagel、及びH. Kolbl編、Helvetica Chimica Acta、CH-4010 Basel、Switzerland(1995年)
【非特許文献2】Molecular Cloning: A Laboratory Manual、第2版、J. Sambrookら編、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor 1989年
【非特許文献3】Koppel, D.、J. Chem. Phys. 57巻、1972年、4814~4820頁、ISO 13321
【非特許文献4】Smith及びWaterman、1981年、Ads App. Math.、2巻、482頁
【非特許文献5】Neddleman及びWunsch、1970年、J. Mol. Biol.、48巻、443頁
【非特許文献6】Pearson及びLipMan、1988年、Proc. Natl Acad. Sci. USA、88巻、2444頁
【非特許文献7】Holtkampら、2006年、Blood、108巻、4009~4017頁
【非特許文献8】Remington's Pharmaceutical Sciences、Mack Publishing Co.(A. R Gennaro編、1985年)
【非特許文献9】Nature 489巻、519~525頁(2012年)
【非特許文献10】Campbell, J. D.ら、Nat. Genet.、48巻、607~616頁(2016年)
【非特許文献11】Nature 511巻、543~550頁(2014年)
【非特許文献12】Mortazavi, A.ら、Nature methods 5巻、621~628頁(2008年)
【非特許文献13】Langmead, B.ら、Genome biology 10巻、R25;(2009年)
【発明の概要】
【0005】
本発明は、概して、1セットのアミノ酸配列、つまりワクチン抗原をコードするRNA、つまりワクチンRNAを投与することを含む対象の免疫療法的治療であって、前記アミノ酸配列の各々は、腫瘍抗原、その免疫原性バリアント、又は腫瘍抗原若しくはその免疫原性バリアントの免疫原性断片、つまり抗原性ペプチド又はタンパク質を含む、免疫療法的治療を包含する。したがって、ワクチン抗原は、対象において腫瘍抗原に対する免疫応答を誘導するための腫瘍抗原のエピトープを含む。ワクチン抗原をコードするRNAは、標的抗原(腫瘍抗原)又はそのプロセション産物(procession product)を標的とする免疫応答を誘導するための、つまり刺激するための、初回刺激する(priming)ための、及び/又は拡大させるための抗原を提供するために(適切な標的細胞によるポリヌクレオチドの発現後に)投与される。一実施形態では、本開示により誘導されることになる免疫応答は、T細胞媒介姓免疫応答である。一実施形態では、免疫応答は抗がん性であり、特に抗非小細胞肺癌(NSCLC)免疫応答等の抗肺がん免疫応答である。
【0006】
本明細書に記載のワクチンは、レシピアントの細胞に進入するとそれぞれのタンパク質に翻訳され得る一本鎖RNAを活性成分として含む。抗原配列をコードする野生型又はコドン最適化配列に加えて、RNAは、安定性及び翻訳効率に関してRNAの効能を最大化するように最適化された1つ又は複数の構造エレメント(5'キャップ、5'UTR、3'UTR、ポリ(A)テール)を含んでいてもよい。一実施形態では、RNAは、こうしたエレメントの全てを含む。一実施形態では、ベータ-S-ARCA(D1)(m2 7,2'-OGppSpG)を、RNA薬物物質の5'末端の特異的キャッピング構造として使用してもよい。5'-UTR配列としては、翻訳効率を増加させるために任意選択で最適化「Kozak配列」を有する、ヒトアルファ-グロビンmRNAの5'-UTR配列を使用してもよい。3'-UTR配列として、より高い最大タンパク質レベル及びmRNA持続期間延長を保証するために、コード配列とポリ(A)テールとの間に配置された、「アミノ末端スプリットエンハンサー」(AES)mRNA(Fと呼ばれる)及びミトコンドリアコード12SリボソームRNA(Iと呼ばれる)に由来する2つの配列エレメント(FIエレメント)の組合せを使用してもよい。これらは、RNA安定性を付与し、総タンパク質発現を強化する配列のex vivo選択プロセスにより特定された(国際公開2017/060314号を参照。この文献は参照により本明細書に組み込まれる)。更に、30個アデノシン残基のストレッチ、それに続く10個ヌクレオチドのリンカー配列(ランダムヌクレオチドの)、及び別の70個のアデノシン残基からなる、110ヌクレオチド長の長さのポリ(A)テールを使用してもよい。このポリ(A)テール配列は、RNA安定性及び翻訳効率を増強するために設計された。
【0007】
一実施形態では、本明細書に記載のワクチン抗原は、免疫寛容を毀損するアミノ酸配列を含む。免疫寛容を毀損するアミノ酸配列は、ワクチン配列、つまり抗原性ペプチド又はタンパク質のC末端に、直接的に又はリンカーにより隔てられているかのいずれかで融合されていてもよい。任意選択で、免疫寛容を毀損するアミノ酸配列は、抗原性ペプチド又はタンパク質及びMITDを下記で更に記載のように連結してもよい。免疫寛容を毀損するアミノ酸配列は、RNAにコードされていてもよい。一実施形態では、抗原標的指向性RNAは、免疫寛容を毀損するアミノ酸配列をコードするRNAと一緒に適用される。免疫寛容を毀損するアミノ酸配列をコードするこのRNAは、抗原コードRNAについて上記に記載されている、安定性及び翻訳効率に関してRNAの効能を最大化にするために最適化された構造エレメント(5'キャップ、5'UTR、3'UTR、ポリ(A)テール)を含んでいてもよい。
【0008】
一実施形態では、免疫寛容を毀損するアミノ酸配列は、ヘルパーエピトープを含む。一実施形態では、ヘルパーエピトープは、破傷風トキソイド由来のもの、例えば、クロストリジウム・テタニ(Clostridium tetani)の破傷風トキソイド(TT)に由来するP2P16アミノ酸配列であってもよい。こうした配列は、初回刺激中に腫瘍非特異的T細胞補助を提供することにより、自己抗原に対する免疫応答を効率的に誘導するために、自己寛容機序を克服することを支援することができる。破傷風トキソイド重鎖は、MHCクラスII対立遺伝子と無差別に結合し、ほぼ全ての破傷風ワクチン接種個体においてCD4+メモリーT細胞を誘導することができるエピトープを含む。加えて、TTヘルパーエピトープと腫瘍関連抗原との組合せは、初回刺激中にCD4+媒介性T細胞補助を提供することにより、腫瘍関連抗原のみの適用と比較して免疫刺激を向上させることが公知である。CD8+ T細胞を刺激するリスクを低減するために、無差別結合性ヘルパーエピトープを含むことが公知である2つのペプチド配列を使用して、可能な限り多くのMHCクラスII対立遺伝子、例えば、P2及びP16に結合することを保証することができる。
【0009】
更に、sec(分泌シグナルペプチド)及び/又はMITD(MHCクラスI輸送ドメイン)は、それぞれのエレメントがN末端タグ又はC末端タグとしてそれぞれ翻訳されるように、抗原コード領域及び/又はヘルパーエピトープコード領域に融合されていてもよい。ヒトMHCクラスI複合体(HLA-B51、ハプロタイプA2、B27/B51、Cw2/Cw3)をコードする配列に由来する融合タンパク質タグは、抗原プロセシング及び提示を向上させることが示されている。Secは、新生ポリペプチド鎖の小胞体(endoplasmatic reticulum)への移行を導く分泌シグナルペプチドをコードする78bp断片に対応していてもよい。MITDは、MHCクラスI輸送ドメインとも呼ばれる、MHCクラスI分子の膜貫通ドメイン及び細胞質ドメインに対応していてもよい。独自の分泌シグナルペプチド及び膜貫通ドメインを有するCLDN6等の抗原は、融合タグの追加を必要としない可能性がある。融合タンパク質に一般的に使用される、アミノ酸グリシン(G)及びセリン(S)から主になる短鎖リンカーペプチドをコードする配列を、GS/リンカーとして使用することができる。
【0010】
ワクチンRNAは、リポソームと複合体化して、静脈内(i.v.)投与用の血清安定性RNA-リポプレックス(RNA(LIP))を生成することができる。異なるRNAの組合せを使用する場合、RNAをリポソームと別々に複合体化させて、静脈内(i.v.)投与用の血清安定性RNA-リポプレックス(RNA(LIP))を生成してもよい。RNA(LIP)は、リンパ器官の抗原提示細胞(APC)を標的とし、それにより免疫系の効率的な刺激をもたらす。
【0011】
RNAリポプレックス粒子は、脂質エタノール溶液を水又は好適な水性相に注入することにより得ることができるリポソームを使用して調製することができる。一実施形態では、水性相は、酸性pHを有する。一実施形態では、水性相は、例えば約5mMの量の酢酸を含む。リポソームは、リポソームをRNAと混合することによりRNAリポプレックス粒子を調製するために使用することができる。一実施形態では、リポソーム及びRNAリポプレックス粒子は、少なくとも1つのカチオン性脂質及び少なくとも1つの追加の脂質を含む。一実施形態では、少なくとも1つのカチオン性脂質は、1,2-ジ-O-オクタデセニル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTMA)を含む。一実施形態では、少なくとも1つの追加の脂質は、1,2-ジ-(9Z-オクタデセノイル)-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DOPE)を含む。一実施形態では、少なくとも1つのカチオン性脂質は、1,2-ジ-O-オクタデセニル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTMA)を含み、少なくとも1つの追加の脂質は、1,2-ジ-(9Z-オクタデセノイル)-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DOPE)を含む。一実施形態では、リポソーム及びRNAリポプレックス粒子は、1,2-ジ-O-オクタデセニル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTMA)及び1,2-ジ-(9Z-オクタデセノイル)-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DOPE)を含む。一実施形態では、少なくとも1つのカチオン性脂質の少なくとも1つの追加脂質に対するモル比は約2:1である。一実施形態では、生理学的pHでは、RNAリポプレックス粒子中の正電荷の負電荷に対する電荷比は、約1.6:2~約1:2又は約1.6:2~約1.1:2である。特定の実施形態では、生理学的pHでは、RNAリポプレックス粒子中の正電荷の負電荷に対する電荷比は、約1.6:2.0、約1.5:2.0、約1.4:2.0、約1.3:2.0、約1.2:2.0、約1.1:2.0、又は約1:2.0である。
【0012】
一実施形態では、ワクチンRNAは、免疫寛容を毀損するアミノ酸配列をコードするRNAとのリポプレックス粒子として共製剤化される。
【0013】
一態様では、本発明は、
以下のアミノ酸配列:
(i)クローディン6(CLDN6)、その免疫原性バリアント、又はCLDN6若しくはその免疫原性バリアントの免疫原性断片を含むアミノ酸配列、
(ii)北九州肺がん抗原1(KK-LC-1)、その免疫原性バリアント、又はKK-LC-1若しくはその免疫原性バリアントの免疫原性断片を含むアミノ酸配列、
(iii)メラノーマ抗原A3(MAGE-A3)、その免疫原性バリアント、又はMAGE-A3若しくはその免疫原性バリアントの免疫原性断片を含むアミノ酸配列、
(iv)メラノーマ抗原4(MAGE-A4)、その免疫原性バリアント、又はMAGE-A4若しくはその免疫原性バリアントの免疫原性断片を含むアミノ酸配列、及び
(v)メラノーマ優先発現抗原(Preferentially Expressed Antigen In Melanoma、PRAME)、その免疫原性バリアント、又はPRAME若しくはその免疫原性バリアントの免疫原性断片を含むアミノ酸配列
をコードする少なくとも1つのRNA
を含む組成物又は医学的調製物に関する。
【0014】
一実施形態では、少なくとも1つのRNAは、以下のアミノ酸配列:
(vi)メラノーマ抗原C1(MAGE-C1)、その免疫原性バリアント、又はMAGE-C1若しくはその免疫原性バリアントの免疫原性断片を含むアミノ酸配列、及び
(vii)ニューヨーク食道扁平上皮癌-1(NY-ESO-1)、その免疫原性バリアント、又はNY-ESO-1若しくはその免疫原性バリアントの免疫原性断片を含むアミノ酸配列
の一方又は両方を更にコードする。
【0015】
一実施形態では、少なくとも1つのRNAは、
(vi)メラノーマ抗原C1(MAGE-C1)、その免疫原性バリアント、又はMAGE-C1若しくはその免疫原性バリアントの免疫原性断片を含むアミノ酸配列
を更にコードする。
【0016】
一実施形態では、少なくとも1つのRNAは、
(i)クローディン6(CLDN6)、その免疫原性バリアント、又はCLDN6若しくはその免疫原性バリアントの免疫原性断片を含むアミノ酸配列、
(ii)北九州肺がん抗原1(KK-LC-1)、その免疫原性バリアント、又はKK-LC-1若しくはその免疫原性バリアントの免疫原性断片を含むアミノ酸配列、
(iii)メラノーマ抗原A3(MAGE-A3)、その免疫原性バリアント、又はMAGE-A3若しくはその免疫原性バリアントの免疫原性断片を含むアミノ酸配列、
(iv)メラノーマ抗原4(MAGE-A4)、その免疫原性バリアント、又はMAGE-A4若しくはその免疫原性バリアントの免疫原性断片を含むアミノ酸配列、
(v)メラノーマ優先発現抗原(PRAME)、その免疫原性バリアント、又はPRAME若しくはその免疫原性バリアントの免疫原性断片を含むアミノ酸配列、及び
(vi)メラノーマ抗原C1(MAGE-C1)、その免疫原性バリアント、又はMAGE-C1若しくはその免疫原性バリアントの免疫原性断片を含むアミノ酸配列
をコードする。
【0017】
一実施形態では、(i)、(ii)、(iii)、(iv)、(v)、(vi)、又は(vii)のアミノ酸配列の各々は、別々のRNAによりコードされている。
【0018】
一実施形態では、
(i)(i)のアミノ酸配列をコードするRNAは、配列番号3若しくは4のヌクレオチド配列、又は配列番号3若しくは4のヌクレオチド配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するヌクレオチド配列を含み、及び/或いは
(ii)(i)のアミノ酸配列は、配列番号1若しくは2のアミノ酸配列、又は配列番号1若しくは2のアミノ酸配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0019】
一実施形態では、
(i)(ii)のアミノ酸配列をコードするRNAは、配列番号7若しくは8のヌクレオチド配列、又は配列番号7若しくは8のヌクレオチド配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するヌクレオチド配列を含み、及び/或いは
(ii)(ii)のアミノ酸配列は、配列番号5若しくは6のアミノ酸配列、又は配列番号5若しくは6のアミノ酸配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0020】
一実施形態では、
(i)(iii)のアミノ酸配列をコードするRNAは、配列番号11若しくは12のヌクレオチド配列、又は配列番号11若しくは12のヌクレオチド配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するヌクレオチド配列を含み、及び/或いは
(ii)(iii)のアミノ酸配列は、配列番号9若しくは10のアミノ酸配列、又は配列番号9若しくは10のアミノ酸配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0021】
一実施形態では、
(i)(iv)のアミノ酸配列をコードするRNAは、配列番号15若しくは16のヌクレオチド配列、又は配列番号15若しくは16のヌクレオチド配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するヌクレオチド配列を含み、及び/或いは
(ii)(iv)のアミノ酸配列は、配列番号13若しくは14のアミノ酸配列、又は配列番号13若しくは14のアミノ酸配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、又は80%同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0022】
一実施形態では、
(i)(v)のアミノ酸配列をコードするRNAは、配列番号19若しくは20のヌクレオチド配列、又は配列番号19若しくは20のヌクレオチド配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するヌクレオチド配列を含み、及び/或いは
(ii)(v)のアミノ酸配列は、配列番号17若しくは18のアミノ酸配列、又は配列番号17若しくは18のアミノ酸配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、又は80%同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0023】
一実施形態では、
(i)(vi)のアミノ酸配列をコードするRNAは、配列番号23若しくは24のヌクレオチド配列、又は配列番号23若しくは24のヌクレオチド配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するヌクレオチド配列を含み、及び/或いは
(ii)(vi)のアミノ酸配列は、配列番号21若しくは22のアミノ酸配列、又は配列番号21若しくは22のアミノ酸配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、又は80%同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0024】
一実施形態では、
(i)(vii)のアミノ酸配列をコードするRNAは、配列番号27若しくは28のヌクレオチド配列、又は配列番号27若しくは28のヌクレオチド配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するヌクレオチド配列を含み、及び/或いは
(ii)(vii)のアミノ酸配列は、配列番号25若しくは26のアミノ酸配列、又は配列番号25若しくは26のアミノ酸配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、又は80%同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0025】
一実施形態では、(i)、(ii)、(iii)、(iv)、(v)、(vi)、又は(vii)の少なくとも1つのアミノ酸配列は、免疫寛容を毀損するアミノ酸配列を含み、及び/又は少なくとも1つのRNAは、免疫寛容を毀損するアミノ酸配列をコードするRNAと共投与される。一実施形態では、(i)、(ii)、(iii)、(iv)、(v)、(vi)、又は(vii)の各アミノ酸配列は、免疫寛容を毀損するアミノ酸配列を含み、及び/又は各RNAは、免疫寛容を毀損するアミノ酸配列をコードするRNAと共投与される。一実施形態では、免疫寛容を毀損するアミノ酸配列は、ヘルパーエピトープ、好ましくは破傷風トキソイド由来ヘルパーエピトープを含む。一実施形態では、
(i)免疫寛容を毀損するアミノ酸配列をコードするRNAは、配列番号34のヌクレオチド配列、又は配列番号34のヌクレオチド配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するヌクレオチド配列を含み、及び/或いは
(ii)免疫寛容を毀損するアミノ酸配列は、配列番号33のアミノ酸配列、又は配列番号33のアミノ酸配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0026】
一実施形態では、(i)、(ii)、(iii)、(iv)、(v)、(vi)、又は(vii)のアミノ酸配列の少なくとも1つは、コドン最適化されており、及び/又は野生型コード配列と比較してG/C含有量が増加されたコード配列によりコードされており、コドン最適化及び/又はG/C含有量の増加は、好ましくは、コードされたアミノ酸配列の配列を変化させない。一実施形態では、(i)、(ii)、(iii)、(iv)、(v)、(vi)、又は(vii)のアミノ酸配列の各々は、コドンが最適化され、及び/又は野生型のコード配列と比較してG/C含有量が増加したコード配列によってコードされ、コドンの最適化及び/又はG/C含有量の増加は、好ましくは、コードされたアミノ酸配列の配列を変更しない。
【0027】
一実施形態では、少なくとも1つのRNAは、修飾RNA、特に安定化mRNAである。一実施形態では、少なくとも1つのRNAは、少なくとも1つのウリジンの代わりに修飾ヌクレオシドを含む。一実施形態では、少なくとも1つのRNAは、各ウリジンの代わりに修飾ヌクレオシドを含む。一実施形態では、各RNAは、少なくとも1つのウリジンの代わりに修飾ヌクレオシドを含む。一実施形態では、各RNAは、各ウリジンの代わりに修飾ヌクレオシドを含む。一実施形態では、修飾ヌクレオシドは、プソイドウリジン(ψ)、N1-メチル-プソイドウリジン(m1ψ)、及び5-メチルウリジン(m5U)から独立して選択される。
【0028】
一実施形態では、少なくとも1つのRNAは、5'キャップm2 7,2'-OGppsp(5')Gを含む。一実施形態では、各RNAは5'キャップm2 7,2'-OGppsp(5')Gを含む。
【0029】
一実施形態では、少なくとも1つのRNAは、配列番号35のヌクレオチド配列、又は配列番号35のヌクレオチド配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するヌクレオチド配列を含む5'UTRを含む。一実施形態では、各RNAは、配列番号35のヌクレオチド配列、又は配列番号35のヌクレオチド配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するヌクレオチド配列を含む5'UTRを含む。
【0030】
一実施形態では、(i)、(ii)、(iii)、(iv)、(v)、(vi)、又は(vii)の少なくとも1つのアミノ酸配列は、抗原プロセシング及び/又は提示を増強するアミノ酸配列を含む。一実施形態では、(iii)、(iv)、(v)、(vi)、又は(vii)の各アミノ酸配列は、抗原プロセシング及び/又は提示を増強するアミノ酸配列を含む。一実施形態では、(i)、(ii)、(iii)、(iv)、(v)、(vi)、又は(vii)の各アミノ酸配列は、抗原プロセシング及び/又は提示を増強するアミノ酸配列を含む。一実施形態では、抗原プロセシング及び/又は提示を増強するアミノ酸配列は、MHC分子、好ましくはMHCクラスI分子の膜貫通ドメイン及び細胞質ドメインに対応するアミノ酸配列を含む。一実施形態では、
(i)抗原プロセシング及び/又は提示を増強するアミノ酸配列をコードするRNAは、配列番号32のヌクレオチド配列、又は配列番号32のヌクレオチド配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するヌクレオチド配列を含み、並びに/或いは
(ii)抗原プロセシング及び/又は提示を増強するアミノ酸配列は、配列番号31のアミノ酸配列、又は配列番号31のアミノ酸配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0031】
一実施形態では、抗原プロセシング及び/又は提示を増強するアミノ酸配列は、分泌シグナルペプチドをコードするアミノ酸配列を更に含む。一実施形態では、
(i)分泌シグナルペプチドをコードするRNAは、配列番号30のヌクレオチド配列、又は配列番号30のヌクレオチド配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するヌクレオチド配列を含み、及び/或いは
(ii)分泌シグナルペプチドは、配列番号29のアミノ酸配列、又は配列番号29のアミノ酸配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0032】
一実施形態では、少なくとも1つのRNAは、配列番号36のヌクレオチド配列、又は配列番号36のヌクレオチド配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するヌクレオチド配列を含む3'UTRを含む。一実施形態では、各RNAは、配列番号36のヌクレオチド配列、又は配列番号36のヌクレオチド配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するヌクレオチド配列を含む3'UTRを含む。
【0033】
一実施形態では、少なくとも1つのRNAは、ポリA配列を含む。一実施形態では、各RNAは、ポリA配列を含む。一実施形態では、ポリA配列は、少なくとも100個のヌクレオチドを含む。一実施形態では、ポリA配列は、配列番号37のヌクレオチド配列を含むか又はからなる。
【0034】
一実施形態では、RNAは液体として製剤化されているか、固体として製剤化されているか、又はそれらの組合せとして製剤化されている。一実施形態では、RNAは注射用に製剤化されている。一実施形態では、RNAは、静脈内投与用に製剤化されている。
【0035】
一実施形態では、RNAは、リポプレックス粒子として製剤化されているか又は製剤化されることになる。一実施形態では、RNAリポプレックス粒子は、RNAをリポソームと混合することにより得ることができる。一実施形態では、(i)、(ii)、(iii)、(iv)、(v)、(vi)、及び/又は(vii)のアミノ酸配列をコードする少なくとも1つのRNAは、免疫寛容を毀損するアミノ酸配列をコードするRNAと共にリポプレックス粒子として共製剤化されているか又は共製剤化されることになる。一実施形態では、(i)、(ii)、(iii)、(iv)、(v)、(vi)、及び/又は(vii)のアミノ酸配列をコードする各RNAは、免疫寛容を毀損するアミノ酸配列をコードするRNAと共にリポプレックス粒子として共製剤化されているか又は共製剤化されることになる。一実施形態では、(i)、(ii)、(iii)、(iv)、(v)、(vi)、及び/又は(vii)のアミノ酸配列をコードするRNAは、免疫寛容を毀損するアミノ酸配列をコードするRNAと、約4:1~約16:1、約6:1~約14:1、約8:1~約12:1、又は約10:1の比率でリポプレックス粒子として共製剤化されているか又は共製剤化されることになる。
【0036】
一実施形態では、組成物又は医学的調製物は、
(i)配列番号2のアミノ酸配列を含むアミノ酸配列をコードするRNA、
(ii)配列番号6のアミノ酸配列を含むアミノ酸配列をコードするRNA、
(iii)配列番号10のアミノ酸配列を含むアミノ酸配列をコードするRNA、
(iv)配列番号14のアミノ酸配列を含むアミノ酸配列をコードするRNA、
(v)配列番号18のアミノ酸配列を含むアミノ酸配列をコードするRNA、及び
(vi)配列番号22のアミノ酸配列を含むアミノ酸配列をコードするRNA
を含む。
【0037】
一実施形態では、組成物又は医学的調製物は、
(i)配列番号4のヌクレオチド配列を含むRNA、
(ii)配列番号8のヌクレオチド配列を含むRNA、
(iii)配列番号12のヌクレオチド配列を含むRNA、
(iv)配列番号16のヌクレオチド配列を含むRNA、
(v)配列番号20のヌクレオチド配列を含むRNA、及び
(vi)配列番号24のヌクレオチド配列を含むRNA
を含む。
【0038】
一実施形態では、組成物又は医学的調製物は、医薬組成物である。一実施形態では、医薬組成物は、1つ又は複数の薬学的に許容される担体、希釈剤、及び/又は賦形剤を更に含む。
【0039】
一実施形態では、医学的調製物はキットである。一実施形態では、RNAは別々のバイアルに存在する。
【0040】
一実施形態では、組成物又は医学的調製物は、肺がんを治療又は予防するための組成物又は医学的調製物の使用説明書を更に含む。
【0041】
一実施形態では、組成物又は医学的調製物は、薬学的使用のためのものである。一実施形態では、薬学的使用は、疾患又は障害の療法的治療又は予防的治療を含む。一実施形態では、疾患又は障害の療法的治療又は予防的治療は、肺がんの治療又は予防を含む。一実施形態では、組成物又は医学的調製物は、ヒトに投与するためのものである。
【0042】
更なる態様では、本発明は、対象の肺がんを治療するための方法であって、対象に、
以下のアミノ酸配列:
(i)クローディン6(CLDN6)、その免疫原性バリアント、又はCLDN6若しくはその免疫原性バリアントの免疫原性断片を含むアミノ酸配列、
(ii)北九州肺がん抗原1(KK-LC-1)、その免疫原性バリアント、又はKK-LC-1若しくはその免疫原性バリアントの免疫原性断片を含むアミノ酸配列、
(iii)メラノーマ抗原A3(MAGE-A3)、その免疫原性バリアント、又はMAGE-A3若しくはその免疫原性バリアントの免疫原性断片を含むアミノ酸配列、
(iv)メラノーマ抗原4(MAGE-A4)、その免疫原性バリアント、又はMAGE-A4若しくはその免疫原性バリアントの免疫原性断片を含むアミノ酸配列、及び
(v)メラノーマ優先発現抗原(PRAME)、その免疫原性バリアント、又はPRAME若しくはその免疫原性バリアントの免疫原性断片を含むアミノ酸配列
をコードする少なくとも1つのRNA
を投与する工程を含む方法に関する。
【0043】
一実施形態では、少なくとも1つのRNAは、以下のアミノ酸配列:
(vi)メラノーマ抗原C1(MAGE-C1)、その免疫原性バリアント、又はMAGE-C1若しくはその免疫原性バリアントの免疫原性断片を含むアミノ酸配列、及び
(vii)ニューヨーク食道扁平上皮癌-1(NY-ESO-1)、その免疫原性バリアント、又はNY-ESO-1若しくはその免疫原性バリアントの免疫原性断片を含むアミノ酸配列
の一方又は両方を更にコードする。
【0044】
一実施形態では、少なくとも1つのRNAは、
(vi)メラノーマ抗原C1(MAGE-C1)、その免疫原性バリアント、又はMAGE-C1若しくはその免疫原性バリアントの免疫原性断片を含むアミノ酸配列
を更にコードする。
【0045】
一実施形態では、少なくとも1つのRNAは、
(i)クローディン6(CLDN6)、その免疫原性バリアント、又はCLDN6若しくはその免疫原性バリアントの免疫原性断片を含むアミノ酸配列、
(ii)北九州肺がん抗原1(KK-LC-1)、その免疫原性バリアント、又はKK-LC-1若しくはその免疫原性バリアントの免疫原性断片を含むアミノ酸配列、
(iii)メラノーマ抗原A3(MAGE-A3)、その免疫原性バリアント、又はMAGE-A3若しくはその免疫原性バリアントの免疫原性断片を含むアミノ酸配列、
(iv)メラノーマ抗原4(MAGE-A4)、その免疫原性バリアント、又はMAGE-A4若しくはその免疫原性バリアントの免疫原性断片を含むアミノ酸配列、
(v)メラノーマ優先発現抗原(PRAME)、その免疫原性バリアント、又はPRAME若しくはその免疫原性バリアントの免疫原性断片を含むアミノ酸配列、及び
(vi)メラノーマ抗原C1(MAGE-C1)、その免疫原性バリアント、又はMAGE-C1若しくはその免疫原性バリアントの免疫原性断片を含むアミノ酸配列
をコードする。
【0046】
一実施形態では、(i)、(ii)、(iii)、(iv)、(v)、(vi)、又は(vii)のアミノ酸配列の各々は、別々のRNAによりコードされている。
【0047】
一実施形態では、
(i)(i)のアミノ酸配列をコードするRNAは、配列番号3若しくは4のヌクレオチド配列、又は配列番号3若しくは4のヌクレオチド配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するヌクレオチド配列を含み、及び/或いは
(ii)(i)のアミノ酸配列は、配列番号1若しくは2のアミノ酸配列、又は配列番号1若しくは2のアミノ酸配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、又は80%同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0048】
一実施形態では、
(i)(ii)のアミノ酸配列をコードするRNAは、配列番号7若しくは8のヌクレオチド配列、又は配列番号7若しくは8のヌクレオチド配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するヌクレオチド配列を含み、及び/或いは
(ii)(ii)のアミノ酸配列は、配列番号5若しくは6のアミノ酸配列、又は配列番号5若しくは6のアミノ酸配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、又は80%同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0049】
一実施形態では、
(i)(iii)のアミノ酸配列をコードするRNAは、配列番号11若しくは12のヌクレオチド配列、又は配列番号11若しくは12のヌクレオチド配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するヌクレオチド配列を含み、及び/或いは
(ii)(iii)のアミノ酸配列は、配列番号9若しくは10のアミノ酸配列、又は配列番号9若しくは10のアミノ酸配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0050】
一実施形態では、
(i)(iv)のアミノ酸配列をコードするRNAは、配列番号15若しくは16のヌクレオチド配列、又は配列番号15若しくは16のヌクレオチド配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するヌクレオチド配列を含み、及び/或いは
(ii)(iv)のアミノ酸配列は、配列番号13若しくは14のアミノ酸配列、又は配列番号13若しくは14のアミノ酸配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、又は80%同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0051】
一実施形態では、
(i)(v)のアミノ酸配列をコードするRNAは、配列番号19若しくは20のヌクレオチド配列、又は配列番号19若しくは20のヌクレオチド配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するヌクレオチド配列を含み、及び/或いは
(ii)(v)のアミノ酸配列は、配列番号17若しくは18のアミノ酸配列、又は配列番号17若しくは18のアミノ酸配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0052】
一実施形態では、
(i)(vi)のアミノ酸配列をコードするRNAは、配列番号23若しくは24のヌクレオチド配列、又は配列番号23若しくは24のヌクレオチド配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するヌクレオチド配列を含み、及び/或いは
(ii)(vi)のアミノ酸配列は、配列番号21若しくは22のアミノ酸配列、又は配列番号21若しくは22のアミノ酸配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0053】
一実施形態では、
(i)(vii)のアミノ酸配列をコードするRNAは、配列番号27若しくは28のヌクレオチド配列、又は配列番号27若しくは28のヌクレオチド配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するヌクレオチド配列を含み、及び/或いは
(ii)(vii)のアミノ酸配列は、配列番号25若しくは26のアミノ酸配列、又は配列番号25若しくは26のアミノ酸配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0054】
一実施形態では、(i)、(ii)、(iii)、(iv)、(v)、(vi)、若しくは(vii)の少なくとも1つのアミノ酸配列は、免疫寛容を毀損するアミノ酸配列を含み、及び/又は少なくとも1つのRNAは、免疫寛容を毀損するアミノ酸配列をコードするRNAと共投与される。一実施形態では、(i)、(ii)、(iii)、(iv)、(v)、(vi)、若しくは(vii)の各アミノ酸配列は、免疫寛容を毀損するアミノ酸配列を含み、及び/又は各RNAは、免疫寛容を毀損するアミノ酸配列をコードするRNAと共投与される。一実施形態では、免疫寛容を毀損するアミノ酸配列は、ヘルパーエピトープ、好ましくは破傷風トキソイド由来ヘルパーエピトープを含む。一実施形態では、
(i)免疫寛容を毀損するアミノ酸配列をコードするRNAは、配列番号34のヌクレオチド配列、又は配列番号34のヌクレオチド配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するヌクレオチド配列を含み、及び/或いは
(ii)免疫寛容を毀損するアミノ酸配列は、配列番号33のアミノ酸配列、又は配列番号33のアミノ酸配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0055】
一実施形態では、(i)、(ii)、(iii)、(iv)、(v)、(vi)、又は(vii)のアミノ酸配列の少なくとも1つは、コドン最適化されており、及び/又は野生型コード配列と比較してG/C含有量が増加されたコード配列によりコードされており、コドン最適化及び/又はG/C含有量の増加は、好ましくは、コードされたアミノ酸配列の配列を変化させない。一実施形態では、(i)、(ii)、(iii)、(iv)、(v)、(vi)、又は(vii)のアミノ酸配列の各々は、コドンが最適化されおり、及び/又は野生型のコード配列と比較してG/C含有量が増加したコード配列によりコードされており、コドンの最適化及び/又はG/C含有量の増加は、好ましくは、コードされたアミノ酸配列の配列を変化させない。
【0056】
一実施形態では、少なくとも1つのRNAは、修飾RNA、特に安定化mRNAである。一実施形態では、少なくとも1つのRNAは、少なくとも1つのウリジンの代わりに修飾ヌクレオシドを含む。一実施形態では、少なくとも1つのRNAは、各ウリジンの代わりに修飾ヌクレオシドを含む。一実施形態では、各RNAは、少なくとも1つのウリジンの代わりに修飾ヌクレオシドを含む。一実施形態では、各RNAは、各ウリジンの代わりに修飾ヌクレオシドを含む。一実施形態では、修飾ヌクレオシドは、プソイドウリジン(ψ)、N1-メチル-プソイドウリジン(m1ψ)、及び5-メチル-ウリジン(m5U)から独立して選択される。
【0057】
一実施形態では、少なくとも1つのRNAは、5'キャップm2 7,2'-OGppsp(5')Gを含む。一実施形態では、各RNAは、5'キャップm2 7,2'-OGppsp(5')Gを含む。
【0058】
一実施形態では、少なくとも1つのRNAは、配列番号35のヌクレオチド配列、又は配列番号35のヌクレオチド配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%の同一性を有するヌクレオチド配列を含む5'UTRを含む。一実施形態では、各RNAは、配列番号35のヌクレオチド配列、又は配列番号35のヌクレオチド配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するヌクレオチド配列を含む5'UTRを含む。
【0059】
一実施形態では、(i)、(ii)、(iii)、(iv)、(v)、(vi)、又は(vii)の少なくとも1つのアミノ酸配列は、抗原プロセシング及び/又は提示を増強するアミノ酸配列を含む。一実施形態では、(iii)、(iv)、(v)、(vi)、又は(vii)の各アミノ酸配列は、抗原プロセシング及び/又は提示を増強するアミノ酸配列を含む。一実施形態では、(i)、(ii)、(iii)、(iv)、(v)、(vi)、又は(vii)の各アミノ酸配列は、抗原プロセシング及び/又は提示を増強するアミノ酸配列を含む。一実施形態では、抗原プロセシング及び/又は提示を増強するアミノ酸配列は、MHC分子、好ましくはMHCクラスI分子の膜貫通ドメイン及び細胞質ドメインに対応するアミノ酸配列を含む。一実施形態では、
(i)抗原プロセシング及び/又は提示を増強するアミノ酸配列をコードするRNAは、配列番号32のヌクレオチド配列、又は配列番号32のヌクレオチド配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するヌクレオチド配列を含み、及び/或いは
(ii)抗原プロセシング及び/又は提示を増強するアミノ酸配列は、配列番号31のアミノ酸配列、又は配列番号31のアミノ酸配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0060】
一実施形態では、抗原プロセシング及び/又は提示を増強するアミノ酸配列は、分泌シグナルペプチドをコードするアミノ酸配列を更に含む。一実施形態では、
(i)分泌シグナルペプチドをコードするRNAは、配列番号30のヌクレオチド配列、又は配列番号30のヌクレオチド配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するヌクレオチド配列を含み、及び/或いは
(ii)分泌シグナルペプチドは、配列番号29のアミノ酸配列、又は配列番号29のアミノ酸配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0061】
一実施形態では、少なくとも1つのRNAは、配列番号36のヌクレオチド配列、又は配列番号36のヌクレオチド配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するヌクレオチド配列を含む3'UTRを含む。一実施形態では、各RNAは、配列番号36のヌクレオチド配列、又は配列番号36のヌクレオチド配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するヌクレオチド配列を含む3'UTRを含む。
【0062】
一実施形態では、少なくとも1つのRNAは、ポリA配列を含む。一実施形態では、各RNAは、ポリA配列を含む。一実施形態では、ポリA配列は、少なくとも100個のヌクレオチドを含む。一実施形態では、ポリA配列は、配列番号37のヌクレオチド配列を含むか又はからなる。
【0063】
一実施形態では、RNAは注射により投与される。一実施形態では、RNAは、静脈内投与より投与される。
【0064】
一実施形態では、RNAは、リポプレックス粒子として製剤化されている。一実施形態では、RNAリポプレックス粒子は、RNAをリポソームと混合することにより得ることができる。一実施形態では、(i)、(ii)、(iii)、(iv)、(v)、(vi)、及び/又は(vii)のアミノ酸配列をコードする少なくとも1つのRNAは、免疫寛容を毀損するアミノ酸配列をコードするRNAと共にリポプレックス粒子として共製剤化されている。一実施形態では、(i)、(ii)、(iii)、(iv)、(v)、(vi)、及び/又は(vii)のアミノ酸配列をコードする各RNAは、免疫寛容を毀損するアミノ酸配列をコードするRNAと共にリポプレックス粒子として共製剤化されている。一実施形態では、(i)、(ii)、(iii)、(iv)、(v)、(vi)、及び/又は(vii)のアミノ酸配列をコードするRNAは、免疫寛容を毀損するアミノ酸配列をコードするRNAと、約4:1~約16:1、約6:1~約14:1、約8:1~約12:1、又は約10:1の比率でリポプレックス粒子として共製剤化されている。
【0065】
一実施形態では、本方法は、
(i)配列番号2のアミノ酸配列を含むアミノ酸配列をコードするRNA、
(ii)配列番号6のアミノ酸配列を含むアミノ酸配列をコードするRNA、
(iii)配列番号10のアミノ酸配列を含むアミノ酸配列をコードするRNA、
(iv)配列番号14のアミノ酸配列を含むアミノ酸配列をコードするRNA、
(v)配列番号18のアミノ酸配列を含むアミノ酸配列をコードするRNA、及び
(vi)配列番号22のアミノ酸配列を含むアミノ酸配列をコードするRNA
を投与する工程を含む。
【0066】
一実施形態では、本方法は、
(i)配列番号4のヌクレオチド配列を含むRNA、
(ii)配列番号8のヌクレオチド配列を含むRNA、
(iii)配列番号12のヌクレオチド配列を含むRNA、
(iv)配列番号16のヌクレオチド配列を含むRNA、
(v)配列番号20のヌクレオチド配列を含むRNA、及び
(vi)配列番号24のヌクレオチド配列を含むRNA
を投与する工程を含む。
【0067】
一実施形態では、対象はヒトである。
【0068】
一態様では、本明細書では、本明細書に記載のRNA、例えば、
(i)クローディン6(CLDN6)、その免疫原性バリアント、又はCLDN6若しくはその免疫原性バリアントの免疫原性断片を含むアミノ酸配列をコードするRNA、
(ii)北九州肺がん抗原1(KK-LC-1)、その免疫原性バリアント、又はKK-LC-1若しくはその免疫原性バリアントの免疫原性断片を含むアミノ酸配列をコードするRNA、
(iii)メラノーマ抗原A3(MAGE-A3)、その免疫原性バリアント、又はMAGE-A3若しくはその免疫原性バリアントの免疫原性断片を含むアミノ酸配列をコードするRNA、
(iv)メラノーマ抗原4(MAGE-A4)、その免疫原性バリアント、又はMAGE-A4若しくはその免疫原性バリアントの免疫原性断片を含むアミノ酸配列をコードするRNA、及び
(v)メラノーマ優先発現抗原(PRAME)、その免疫原性バリアント、又はPRAME若しくはその免疫原性バリアントの免疫原性断片を含むアミノ酸配列をコードするRNA、
並びに任意選択で、
(vi)メラノーマ抗原C1(MAGE-C1)、その免疫原性バリアント、又はMAGE-C1若しくはその免疫原性バリアントの免疫原性断片を含むアミノ酸配列をコードするRNA、及び/或いは
(vii)ニューヨーク食道扁平上皮癌-1(NY-ESO-1)、その免疫原性バリアント、又はNY-ESO-1若しくはその免疫原性バリアントの免疫原性断片を含むアミノ酸配列をコードするRNA
の1つ又は複数が、本明細書に記載の方法での使用のために提供される。
【0069】
使用のためのRNAの実施形態は、例えば、本発明の組成物又は医学的調製物又は方法に関して本明細書に記載の通りである。
【図面の簡単な説明】
【0070】
図1】881個のNSCLC腫瘍及び37個の正常組織部位における、標的遺伝子のRNA発現強度。 発現値は、肺腺癌(LUAD)、肺扁平上皮癌(LUSC)、及び正常組織部位のRNA配列決定データから、キロベース百万当たりのリード数(rpkm、reads per kilobase million)で算出した。
図2】881個のNSCLC腫瘍にわたる、標的を発現する腫瘍パーセンテージ及び累積網羅率。 個々の標的発現腫瘍パーセンテージ及び標的組合せにより達成された累積網羅率を比較するために、RNA配列発現データ及び陽性腫瘍のカットオフが含まれていた。上部の数字は、存在値、非存在値、及び標的発現値を表す。累積網羅率が増加するように、標的を最高追加値で左から右へと順位付けした。
図3】881個のNSCLC腫瘍にわたって、少なくとも2つ、3つ、又はそれよりも多くの標的を発現する、4つの異なる標的セット毎の腫瘍割合。 5コア標的セットは、KK-LC-1、MAGEA3、PRAME、MAGEA4、及びCLDN6を、こうした5標的のうち少なくとも2つを有する腫瘍の約60%を網羅する最小標的セットとして含む。2つの6標的セットは、MAGEC1又はNY-ESO-1のいずれかを含む。7標的セットは、所与の標的を全て含む。
図4】164個のNSCLC及び他の肺腫瘍並びに43個の正常組織部位における、標的のRNA発現。 発現値は、肺腺癌(LUAD)、肺扁平上皮癌(LUSC)、他の肺腫瘍、及び正常組織部位の定量的リアルタイムPCRデータから算出した。正規化発現値は、任意単位(a.u.)で示されている。
図5】164個のNSCLC及び他の肺腫瘍にわたる、標的を発現する腫瘍パーセンテージ及び累積網羅率。 個々の標的発現腫瘍パーセンテージ及び標的組合せにより達成された累積網羅率を比較するために、qRT-PCR配列発現データ及び陽性腫瘍の標的特異的カットオフが含まれていた。上部の数字は、存在値、非存在値、及び標的発現値を表す。累積網羅率が増加するように、標的を最高追加値で左から右へと順位付けした。
図6】164個のNSCLC及び他の肺腫瘍にわたって少なくとも2つ、3つ、又はそれよりも多くの標的を発現する、4つの異なる標的セット毎の腫瘍割合。 5コア標的セットは、KK-LC-1、MAGEA3、PRAME、MAGEA4、及びCLDN6を、こうした5標的のうち少なくとも2つを有する腫瘍の約60%を網羅する最小標的セットとして含む。2つの6標的セットは、MAGEC1又はNY-ESO-1のいずれかを含む。7標的セットは、所与の標的を全て含む。
図7】MAGEA3をコードするRNA、KK-LC-1をコードするRNA、CLDN6をコードするRNA、NY-ESO-1をコードするRNA、MAGEA4をコードするRNA、PRAMEをコードするRNA、及びMAGEC1をコードするRNAによる脾臓での抗原特異的T細胞の誘導。 MAGEA3、KK-LC-1、CLDN6、NY-ESO-1、MAGEA4、PRAME、及びMAGEC1をコードするリポプレックス製剤化RNAで免疫したマウスの脾臓のT細胞エフェクターのIFN-γELISPOT分析。最終免疫化の5日後に得られた脾細胞を、対応するヒトタンパク質の全域をカバーするペプチドプール又は無関連対照ペプチドのいずれかで再刺激した。MAGEC1 RNAの場合、脾細胞刺激は、MAGEC1の抗原コードRNA又は陰性対照としての無関連RNAのいずれかでエレクトロポレーションした、エレクトロポレート培養マウスBMDCを使用して実施した。点は個々の動物を表し、水平バーは3匹の動物の平均±SDを示す。
図8】KKLC1、CLDN6(A)、及びPRAME(B)に対するワクチン誘導性CD8+及びCD4+ T細胞応答。PBMCを個々のTAA PepMixでパルス処理した後、8回のワクチン接種前(V1)及び接種後(FU)の患者WO5YAH(A)及びAW8VMT(B)のex vivo T細胞応答を測定した。陰性対照、PBMC/細胞のみ:培地でインキュベートしたPBMC;陽性対照、抗CD3抗体と共にインキュベートしたPBMC。
図9】RT-qPCRによる遺伝子発現を分析するためのプロセスの概要。
図10】ヒトHLAトランスジェニックA2/DR1マウスにおける、BNT116によるDe novo抗原特異的CD8+ T細胞誘導。 1、8、15日目に、2μgのMAGE-A3 RNA-LPX(RBL003.3 [研究等級]、n=5)(A)、又はPRAME、CLDN6、KK-LC-1、MAGE-A4、又はMAGE-C1 RNA-LPX(1群当たりn=3)(B)(それぞれRBL012.2、RBL005.3、RBL007.2、RBL027.2、又はRBL035.2 [CTM])を、C57BL/6 A2/DR1マウスに3回IVでワクチン接種した。BNT116ペプチドミックス、又はヘルパーエピトープP2P16の全域をカバーするP2P16P17ペプチドミックスでex vivo再刺激した後、脾細胞のIFN-γ産生により20日目に抗原特異的T細胞の誘導をELISpotで分析した。対照を、無関連ヒトサイトメガロウイルス(hCMV)pp65495-504ペプチドで再刺激した。個々のデータポイントは、1マウス当たり三重重複の平均を表す。水平線及びエラーバーは、各群の平均±SEMを示す。PRAME RNA-LPX免疫化群の1匹のマウスの脾細胞をPRAME PepMixで再刺激すると、数え切れないほど多くのIFN-γスポット数がもたらされた。統計分析を実施するためにスポット数を1,700と仮定した(B)。同族ペプチド混合物又は無関連ペプチド混合物で再刺激した群間の統計的有意性は、一元配置反復測定ANOVA及びダネット多重比較検定で決定した。注:スポット計数感度が(A)及び(B)のデータセット間で異なっていたため、絶対値を比較することはできない。*p≦0.05、**p≦0.01、****p<0.0001。 ANOVA=分散分析;CTM=臨床治験物質;ELISpot=酵素結合免疫吸着スポット;hCMV=ヒトサイトメガロウイルス;IFN=インターフェロン;IV=静脈内;RNA-LPX=リボ核酸リポプレックス。 出典:研究番号R-21-0164(A)、R-21-0358(B)。
図11】単回注射内で投与されたBNT116によるヒトHLAトランスジェニックA2/DR1マウスにおける抗原特異的T細胞のde novo誘導。 1、8、15日目にて、C57BL/6 A2/DR1マウス(1群当たりn=6)に、まず製剤化してから混合したか(プロセス1)、又はまず混合してから製剤化したか(プロセス2)のいずれかの、6つ全てのBNT116 RNA(PRAME[RBL012.2]、CLDN6[RBL005.3]、KK-LC-1[RBL007.2]、MAGE-3[RBL003.3]、MAGE-A4[RBL027.2]、及びMAGE-C1[RBL035.2])の混合物を、3回IVワクチン接種した。プロセス1に従ってBNT116を受け取ったマウスには、マウス1匹当たり10.8μgを投薬し、プロセス2に従ってBNT116を受け取ったマウスには、マウス1匹当たり9.2μgを投薬した。BNT116ペプチドミックス、又はヘルパーエピトープP2P16の全域をカバーするP2P16P17ペプチドミックスでex vivo再刺激した後、脾細胞のIFN-γ産生により20日目に抗原特異的T細胞の誘導をELISpotで分析した。対照ウェルを、無関連ヒトサイトメガロウイルス(hCMV)pp65495-504ペプチドで再刺激した。個々のデータポイントは、1マウス当たり三重重複の平均を表す。水平線及びエラーバーは、各群の平均±SEMを示す。外れ値は、グラブスの外れ値検定に従って除外した(アルファ=0.05;プロセス2のPRAME;プロセス1及び2のKK-LC-1;プロセス2のMAGE-A3;プロセス2のMAGE-A4;プロセス1の対照において外れ値を除去した)。統計的有意性は、独立両側t検定で決定した。**p≦0.01。有意な差異のみに印が付けられている。
【発明を実施するための形態】
【0071】
配列の説明
以下の表は、本明細書で参照されるある特定の配列の一覧を提供する。
【0072】
【表1A】
【0073】
【表1B】
【0074】
【表1C】
【0075】
【表1D】
【0076】
【表1E】
【0077】
【表1F】
【0078】
【表1G】
【0079】
【表1H】
【0080】
【表1I】
【0081】
【表1J】
【0082】
【表1K】
【0083】
【表1L】
【0084】
【表1M】
【0085】
【表1N】
【0086】
【表1O】
【0087】
詳細な説明
本開示は下記で詳細に説明されるが、本開示は、本明細書に記載の特定の方法論、プロトコール、及び試薬に限定されるものではなく、それらは様々であってもよいことが理解されるべきである。また、本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を説明するためのものに過ぎず、本開示の範囲を限定するものではなく、本開示の範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定されることになることも理解されるべきである。別様に定義されていない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、当業者が一般的に理解する意味と同じ意味を有する。
【0088】
好ましくは、本明細書で使用される用語は、「A multilingual glossary of biotechnological terms:(IUPAC Recommendations)」、H.G.W. Leuenberger、B. Nagel、及びH. Kolbl編、Helvetica Chimica Acta、CH-4010 Basel、Switzerland(1995年)に記載の通りに定義される。
【0089】
本開示の実施では、別様の指示がない限り、当分野の文献で説明されている化学、生化学、細胞生物学、免疫学、及び組換えDNA技術の従来法が使用されることになる(例えば、Molecular Cloning: A Laboratory Manual、第2版、J. Sambrookら編、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor 1989年を参照)。
【0090】
以下、本開示の要素について説明するものとする。こうした要素は、特定の実施形態と共に列挙されているが、任意の様式及び任意の数で組み合わせて、追加の実施形態を作出することができることが理解されるべきである。種々の記載されている例及び実施形態は、本開示を、明示的に記載されている実施形態にのみ限定するものであると解釈されるべきではない。本記載は、明示的に記載されている実施形態と任意の数の本開示の要素とを組み合わせた実施形態を開示及び包含すると理解されるべきである。更に、文脈が別様に指示しない限り、全ての記載されている要素のあらゆる順列及び組合せは、本記載により開示されているとみなされるべきである。
【0091】
「約」という用語は、およそ又はほぼという意味であり、一実施形態において本明細書に示されている数値又は範囲の文脈では、記載又は特許請求されている数値又は範囲の±20%、±10%、±5%、又は±3%を意味する。
【0092】
本開示を記載する文脈(特に特許請求の範囲の文脈)において使用される「a」及び「an」及び「the」という用語及び類似の参照は、本明細書で別様に指示されていない限り、又は文脈と明らかに矛盾しない限り、単数及び複数の両方をカバーすると解釈されるべきである。本明細書における値の範囲の記載は、範囲内に入る各々別々の値を個々に参照するための簡略的な方法としての役割を果たすことが意図されているに過ぎない。本明細書で別様に指示されていない限り、各々個々の値は、本明細書に個々に記載されているかの如く本明細書に組み込まれる。本明細書に記載の全ての方法は、本明細書で別様に指示されていない限り、又は文脈と明らかに矛盾しない限り、あらゆる好適な順序で実施することができる。本明細書で提供されるあらゆる全ての例又は例示的文言(例えば「等」)の使用は、本開示をより良好に説明することが意図されているに過ぎず、特許請求の範囲に限定を課すものではない。本明細書の文言は、本開示の実施に不可欠なあらゆる特許請求されていない要素を示すと解釈されるべきではない。
【0093】
別様に明示的に指定されていない限り、「含む(comprising)」という用語は、本文書の文脈では、「含む(comprising)」により導入されたリストのメンバーに加えて、更なるメンバーが任意選択で存在してもよいことを示すために使用される。しかしながら、本開示の特定の実施形態として、「含む(comprising)」という用語は、更なるメンバーが存在しない可能性を包含することが企図されており、つまり、その実施形態の目的では、「含む(comprising)」は「からなる(consisting of)」という意味を有すると理解されるべきである。
【0094】
本明細書の本文全体にわたって、幾つかの文書が引用されている。本明細書に引用されている文書(全ての特許、特許出願、科学出版物、製造元の仕様書、使用説明書等を含む)の各々は、上記又は下記に関わらず、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれる。本明細書のいかなる内容も、本開示がそのような開示に先行する権利を有していなかったことを認めるものとして解釈されるべきではない。
【0095】
定義
以下において、本開示の全ての態様に適用される定義が提供されることになる。以下の用語は、別様に指示がない限り、以下の意味を有する。あらゆる未定義の用語は、それらの技術分野で認識されている意味を有する。
【0096】
「低減させる」、「減少させる」、「阻害する」、又は「損なう」等の用語は、本明細書で使用される場合、好ましくは、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも50%、少なくとも75%、又はそれよりも更に大幅なレベルの全体的な低減又は全体的な低減を引き起こす能力に関する。こうした用語は、完全な又は本質的に完全な阻害、つまりゼロ又は本質的にゼロへの低減を含む。
【0097】
「増加する」、「増強する」、又は「超える」等の用語は、好ましくは、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも80%、少なくとも100%、少なくとも200%、少なくとも500%、又はそれよりも更に大幅な増加又は増強に関する。
【0098】
本明細書において使用される「生理学的pH」は、約7.5のpHを指す。
【0099】
「イオン強度」という用語は、特定の溶液中の異なる種類のイオン種の数とそれぞれの電荷との間の数学的関係性を指す。したがって、イオン強度Iは、以下の式
【0100】
【数1】
【0101】
により数学的に表され、
数式中、cは特定のイオン種のモル濃度であり、zはその電荷の絶対値である。合計Σは、溶液中の全ての異なる種類のイオン(i)の合計である。
【0102】
本開示によると、「イオン強度」という用語は、一実施形態では、一価イオンの存在に関する。二価イオン、特に二価カチオンの存在に関して、キレート剤の存在により、それらの濃度又は有効濃度(自由イオンの存在)は、一実施形態では、RNA分解を防止するために十分な程度に低い。一実施形態では、二価イオンの濃度又は有効濃度は、RNAヌクレオチド間のホスホジエステル結合の加水分解の触媒レベルを下回る。一実施形態では、自由二価イオンの濃度は20μM又はそれよりも低い。一実施形態では、自由二価イオンは存在しないか又は実質的に存在しない。
【0103】
「凍結」という用語は、通常は熱を除去して液体を凝固させることに関する。
【0104】
「凍結乾燥する」又は「凍結乾燥」という用語は、物質を凍結し、次いで周囲圧力を低減させて、物質の凍結媒体を固相から気相へと直接昇華させることにより物質をフリーズドライすることに関する。
【0105】
「噴霧乾燥」という用語は、(加熱された)ガスを、霧化(噴霧)される流体と容器(噴霧乾燥器)内で混合することにより物質を噴霧乾燥し、形成された液滴から溶媒が蒸発して乾燥粉末がもたらされることを指す。
【0106】
「凍結保護剤」という用語は、凍結段階中に有効成分を保護するために製剤に添加される物質を指す。
【0107】
「凍結乾燥保護剤」という用語は、乾燥段階中に有効成分を保護するために製剤に添加される物質に関する。
【0108】
「再構成」という用語は、乾燥製品に水等の溶媒を添加して、その元の液体状態等の液体状態に戻すことに関する。
【0109】
「単離」は、自然状態からの変更又は除去を意味する。例えば、生体動物に天然で存在する核酸又はペプチドは「単離」されていないが、同じ核酸又はペプチドでも、その自然状態の共存物質から部分的に又は完全に分離されたものは「単離」されている。単離された核酸又はタンパク質は、実質的に精製された形態で存在してもよく、又は、例えば宿主細胞等の非天然環境に存在してもよい。
【0110】
本開示の文脈での「組換え」という用語は、「遺伝子工学により製作された」ことを意味する。一実施形態では、本開示の文脈での「組換え体」は、天然には存在しない。
【0111】
「天然に存在する」という用語は、本明細書で使用される場合、物体を自然界に見出すことができるという事実を指す。例えば、生物(ウイルスを含む)に存在し、自然界の供給源から単離することができ、研究室で人間により意図的に改変されていないペプチド又は核酸は、天然に存在するものである。「自然界に見出される」という用語は「自然界に存在する」という意味であり、既知の物体だけでなく、まだ自然界から発見及び/又は単離されていないが、将来的に自然界の供給源から発見及び/又は分離される可能性のある物体も含む。
【0112】
本開示の文脈では、「粒子」という用語は、分子又は分子複合体により形成された構造化実体に関する。一実施形態では、「粒子」という用語は、マイクロサイズ又はナノサイズの小型構造等のマイクロサイズ又はナノサイズ構造に関する。
【0113】
本開示の文脈では、「RNAリポプレックス粒子」という用語は、脂質、特にカチオン性脂質、及びRNAを含む粒子に関する。正荷電リポソームと負荷電RNAとの間の静電相互作用は、RNAリポプレックス粒子の複合体化及び自発的形成をもたらす。正荷電リポソームは、一般に、DOTMA等のカチオン性脂質及びDOPE等の追加の脂質を使用して合成することができる。一実施形態では、RNAリポプレックス粒子はナノ粒子である。
【0114】
粒子製剤では、各RNA種(異なるワクチン抗原をコードするRNA等)を個々の粒子状製剤として別々に製剤化することが可能である。その場合、各々個々の粒子状製剤は、1つのRNA種を含むことになる。個々の粒子状製剤は、例えば別々の容器に、別々の実体として存在してもよい。このような製剤は、各RNA種を別々に(典型的には、各々がRNA含有溶液の形態で)粒子形成剤と一緒に提供し、それにより粒子の形成を可能にすることにより得ることができる。それぞれの粒子は、粒子(個々の粒子状製剤)を形成する際に提供される特定のRNA種を排他的に含むことになる。一実施形態では、医薬組成物等の組成物は、1つよりも多くの個々の粒子製剤を含む。対応する医薬組成物は混合粒子状製剤と呼ばれる。本発明による混合粒子状製剤は、個々の粒子状製剤を上記に記載のように別々に形成し、続いて個々の粒子状製剤を混合する工程により得ることができる。混合工程により、RNA含有粒子の混合集団を含む製剤を得ることができる(例としては、第1の粒子集団はワクチン抗原をコードするRNAを含んでいてもよく、第2の粒子製剤は異なるワクチン抗原をコードするRNAを含んでいてもよい)。個々の粒子状集団は1つの容器に一緒に存在し、個々の粒子状製剤の混合集団を含んでいてもよい。代替的には、医薬組成物の異なるRNA種(例えば、ワクチン抗原をコードするRNA及び異なるワクチン抗原をコードするRNA)を複合粒子状製剤として一緒に製剤化することが可能である。そのような製剤は、異なるRNA種の複合製剤(典型的には、複合溶液)を粒子形成剤と一緒に提供し、それにより粒子の形成を可能にすることにより得ることができる。混合粒子状製剤とは対照的に、複合粒子状製剤は、典型的には、1つよりも多くのRNA種を含む粒子を含むことになる。複合粒子状組成物では、典型的には、異なるRNA種が単一粒子に一緒に存在する。
【0115】
本開示で使用される場合、「ナノ粒子」は、RNA及び少なくとも1つのカチオン性脂質を含み、静脈内投与に好適な平均直径を有する粒子を指す。
【0116】
「平均直径」という用語は、結果として、長さの次元を有するいわゆるZ平均及び無次元である多分散指数(PI)を提供する、いわゆるキュムラントアルゴリズムを使用したデータ分析による動的光散乱(DLS)により測定した粒子の平均流体力学的直径を指す(Koppel, D.、J. Chem. Phys. 57巻、1972年、4814~4820頁、ISO 13321)。ここでは、粒子の「平均直径」、「直径」、又は「サイズ」は、このZ平均値と同義的に使用される。
【0117】
「多分散性指数」という用語は、本明細書では、ナノ粒子等の粒子のアンサンブルのサイズ分布の尺度として使用される。多分散性指数は、いわゆるキュムラント分析による動的光散乱測定に基づいて算出される。
【0118】
「エタノール注入技法」は、脂質を含むエタノール溶液を針で水溶液に急速注入する方法を指す。この作業により、脂質が溶液全体に分散され、脂質構造形成、例えば、リポソーム形成等の脂質小胞形成が促進される。一般に、本明細書に記載のRNAリポプレックス粒子は、コロイド状リポソーム分散体にRNAを添加することにより得ることができる。そのようなコロイド状リポソーム分散体は、一実施形態では、エタノール注入技法を使用して以下のように形成される。DOTMAのようなカチオン性脂質等の脂質及び追加の脂質を含むエタノール溶液を、水溶液に撹拌しながら注入する。一実施形態では、本明細書に記載のRNAリポプレックス粒子は、押出し工程を用いずに得ることができる。
【0119】
「押出す」又は「押出し」という用語は、一定の断面プロファイルを有する粒子の作出を指す。特に、この用語は、画定された細孔を有するフィルターを粒子が通過することを強いることにより粒子を小型化することを指す。
【0120】
本明細書で使用される場合、「使用説明資料」又は「使用説明書」は、本発明の組成物及び方法の有用性を伝えるために使用することができる出版物、録音、図表、又はあらゆる他の表現媒体を含む。本発明のキットの使用説明資料は、例えば、本発明の組成物を含む容器に貼付してもよく、組成物を含む容器と一緒に発送してもよい。代替的には、使用説明資料は、受取人が使用説明資料及び組成物を連携させて使用することを意図して、容器とは別に発送してもよい。
【0121】
本明細書で使用される場合、「ワクチン」という用語は、対象に接種すると免疫応答を誘導する組成物を指す。一部の実施形態では、誘導された免疫応答は療法的免疫を提供する。
【0122】
肺がんは、肺癌としても知られており、肺の組織における制御不能な細胞増殖により特徴付けられる悪性肺腫瘍である。この増殖は、転移の過程により肺を越えて近くの組織又は体内の他の部分に広がる可能性がある。肺がんは、女性では3番目に多い悪性腫瘍であり、男性では2番目に多い悪性腫瘍であり、男性ではがん関連死亡の原因として最も多く、女性では乳がんに次いで2番目に多い原因である。肺がんは、癌腫、つまり上皮細胞から生じる悪性腫瘍である。肺癌は、組織病理学者が顕微鏡で観察した悪性細胞のサイズ及び外観により分類される。療法目的では、非小細胞肺癌(NSCLC)及び小細胞肺癌(SCLC)という2つの大まかなクラスに区別される。NSCLCの3つの主要サブタイプは、腺癌、扁平上皮癌、及び大細胞癌である。希少サブタイプとしては、肺腸腺癌が挙げられる。
【0123】
肺がんのほぼ40%は、通常は末梢肺組織から発生する腺癌である。扁平上皮癌は、肺がんの約30%の原因である。扁平上皮癌は、典型的には、太い気道の付近に生じる。腫瘍の中心部には空洞及びそれに伴う細胞死が広く見出される。肺がんのほぼ9%は大細胞癌である。大細胞癌は、がん細胞が大きく、細胞質が過剰であり、核が大きく、核小体が目立つことから、このように呼ばれている。
【0124】
「共投与された」又は「共投与」等の用語は、本明細書で使用される場合、単一製剤の一部として又は同じ若しくは異なる経路で投与される複数の製剤としてのいずれかで、2つ又はそれによりも多くの作用剤を同時的に、同時に、又は本質的に同時に投与することを指す。「本質的に同時に」は、本明細書で使用される場合、互いに約1分間、5分間、10分間、15分間、30分間、1時間、2時間、又は6時間以内であることを意味する。
【0125】
本開示は、それぞれ所与の核酸配列又はアミノ酸配列(参照配列)とある度合いの同一性を有する核酸配列及びアミノ酸配列を記載する。
【0126】
2つの核酸配列間の「配列同一性」は、配列間で同一であるヌクレオチドのパーセンテージを示す。2つのアミノ酸配列間の「配列同一性」は、配列間で同一であるアミノ酸のパーセンテージを示す。
【0127】
「%同一である」、「同一性%」という用語、又は類似の用語は、特に、比較しようとする配列間を最適にアラインメントしたうえで同一であるヌクレオチド又はアミノ酸のパーセンテージを指すことが意図されている。前記パーセンテージは、純粋に統計的なものであり、2つの配列間の差異は、比較しようとする配列の全長にわたってランダムに分布していてもよいが、必ずしもそうであるとは限らない。2つの配列の比較は、通常は、対応する配列の局所領域を特定するために、最適なアライメントを行った後、セグメント又は「比較ウィンドウ」に関して配列を比較することにより実施される。比較のための最適なアライメントは、手作業で実施してもよく、又はSmith及びWaterman、1981年、Ads App. Math.、2巻、482頁による局所相同性アルゴリズムの助けを借りて、Neddleman及びWunsch、1970年、J. Mol. Biol.、48巻、443頁による局所相同性アルゴリズムの助けを借りて、Pearson及びLipMan、1988年、Proc. Natl Acad. Sci. USA、88巻、2444頁による類似性探索アルゴリズムの助けを借りて、又は前記アルゴリズムを使用するコンピュータープログラム(Wisconsin Genetics Software Package、Genetics Computer Group社、575 Science Drive、マディソン、ウィスコンシン州のGAP、BESTFIT、FASTA、BLAST P、BLAST N、及びTFASTA)の助けを借りて実施してもよい。一部の実施形態では、2つの配列の同一性パーセントは、米国国立バイオテクノロジー情報センター(NCBI)ウェブサイト(例えば、blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi?PAGE_TYPE=BlastSearch&BLAST_SPEC=blast2seq&LINK_LOC=align2seq)で入手可能なBLASTN又はBLASTPアルゴリズムを使用して決定される。一部の実施形態では、NCBIウェブサイトのBLASTNアルゴリズムに使用されるアルゴリズムパラメーターとしては、(i)10に設定された期待値閾値、(ii)28に設定されたワードサイズ、(iii)0に設定されたクエリ範囲内の最大一致数、(iv)1、-2に設定された一致/不一致スコア、(v)線形に設定されたギャップコスト、及び(vi)低複雑性領域のフィルターの使用が挙げられる。一部の実施形態では、NCBIウェブサイトのBLASTPアルゴリズムに使用されるアルゴリズムパラメーターとしては、(i)10に設定された期待値閾値、(ii)3に設定されたワードサイズ、(iii)0に設定されたクエリ範囲内の最大一致数、(iv)BLOSUM62に設定されたマトリックス、(v)存在:11、伸長:1に設定されたギャップコスト、及び(vi)条件付き構成スコアマトリックス調整が挙げられる。
【0128】
同一性パーセンテージは、比較しようとする配列が対応する同一位置の数を決定し、この数を比較する位置の数(例えば、参照配列内の位置の数)で割り、その結果に100を掛けることにより得られる。
【0129】
一部の実施形態では、同一性の度合いは、参照配列の全長の少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、又は約100%の領域に対して与えられる。例えば、参照核酸配列が200個のヌクレオチドからなる場合、同一性の度合いは、少なくとも約100個、少なくとも約120個、少なくとも約140個、少なくとも約160個、少なくとも約180個、又は約200個のヌクレオチドに、一部の実施形態では連続したヌクレオチドに対して与えられる。一部の実施形態では、同一性の度合いは、参照配列の全長に対して与えられる。
【0130】
それぞれ所与の核酸配列又はアミノ酸配列と特定の度合いの同一性を有する核酸配列又はアミノ酸配列は、例えば、前記所与の配列の少なくとも1つの機能的特性を示すことができ、一部の場合では、前記所与の配列と機能的に同等である。1つの重要な特性は、特に対象に投与された場合の免疫原性特性を含む。一部の実施形態では、所与の核酸配列又はアミノ酸配列に対して特定の度合いの同一性を有する核酸配列又はアミノ酸配列は、所与の配列と機能的に同等である。
【0131】
RNA
本開示では、「RNA」という用語は、リボヌクレオチド残基を含む核酸分子に関する。好ましい実施形態では、RNAは、リボヌクレオチド残基の全て又は大部分を含む。本明細書で使用される場合、「リボヌクレオチド」は、β-D-リボフラノシル基の2'位にヒドロキシル基を有するヌクレオチドを指す。RNAは、限定ではないが、二本鎖RNA、一本鎖RNA、部分的に精製されたRNA等の単離されたRNA、本質的に純粋なRNA、合成RNA、組換え的に産生されたRNA、並びに1つ又は複数のヌクレオチドの付加、欠失、置換、及び/又は変更により天然に存在するRNAとは異なる修飾RNAを包含する。そのような変更は、内部RNAヌクレオチド又はRNAの末端への非ヌクレオチド物質の付加を指す場合がある。本明細書では、RNAのヌクレオチドは、化学的に合成されたヌクレオチド又はデオキシヌクレオチド等の非標準ヌクレオチドであってもよいことも企図される。本開示では、こうした変更されたRNAは、天然に存在するRNAのアナログであるとみなされる。
【0132】
本開示のある特定の実施形態では、RNAは、ペプチド又はタンパク質をコードするRNA転写物に関するメッセンジャーRNA(mRNA)である。当技術分野で確立されているように、mRNAは、一般に、5'非翻訳領域(5'-UTR)、ペプチドコード領域、及び3'非翻訳領域(3'-UTR)を含む。一部の実施形態では、RNAは、in vitro転写又は化学合成により産生される。一実施形態では、mRNAは、DNA鋳型を使用したin vitro転写により産生され、DNAはデオキシリボヌクレオチドを含む核酸を指す。
【0133】
一実施形態では、RNAは、in vitro転写RNA(IVT-RNA)であり、適切なDNA鋳型のin vitro転写により得ることができる。転写を制御するためのプロモーターは、任意のRNAポリメラーゼの任意のプロモーターであってもよい。in vitro転写用のDNA鋳型は、核酸、特にcDNAをクローニングし、それをin vitro転写用の適切なベクターに導入することにより得ることができる。cDNAは、RNAの逆転写により得ることができる。
【0134】
一実施形態では、RNAは、修飾ヌクレオシドを有していてもよい。一部の実施形態では、RNAは、少なくとも1つの(例えば、全ての)ウリジンの代わりに修飾ヌクレオシドを含む。
【0135】
「ウラシル」という用語は、本明細書で使用される場合、RNAの核酸に存在し得る核酸塩基の1つを表す。ウラシルの構造は以下の通りである。
【0136】
【化1】
【0137】
「ウリジン」という用語は、本明細書で使用される場合、RNAに存在し得るヌクレオシドの1つを表す。ウリジンの構造は以下の通りである。
【0138】
【化2】
【0139】
UTP(ウリジン5'-三リン酸)は、以下の構造を有する。
【0140】
【化3】
【0141】
プソイドUTP(プソイドウリジン5'-三リン酸)は、以下の構造を有する。
【0142】
【化4】
【0143】
「プソイドウリジン」は、ウラシルが窒素-炭素グリコシド結合ではなく炭素-炭素結合を介してペントース環に付着している、ウリジンの異性体である修飾ヌクレオシドの一例である。
【0144】
別の例示的な修飾ヌクレオシドは、N1-メチル-プソイドウリジン(m1ψ)であり、その構造は以下の通りである。
【0145】
【化5】
【0146】
N1-メチル-プソイドUTPは、以下の構造を有する。
【0147】
【化6】
【0148】
別の例示的な修飾ヌクレオシドは、5-メチル-ウリジン(m5U)であり、その構造は以下の通りである。
【0149】
【化7】
【0150】
一部の実施形態では、本明細書に記載のRNAの1つ又は複数のウリジンが修飾ヌクレオシドに置き換えられている。一部の実施形態では、修飾ヌクレオシドは修飾ウリジンである。
【0151】
一部の実施形態では、ウリジンを置き換える修飾ウリジンは、プソイドウリジン(ψ)、N1-メチル-プソイドウリジン(m1ψ)、又は5-メチル-ウリジン(m5U)である。
【0152】
一部の実施形態では、RNAの1つ又は複数の、例えば全てのウリジンを置き換える修飾ヌクレオシドは、3-メチル-ウリジン(m3U)、5-メトキシ-ウリジン(mo5U)、5-アザ-ウリジン、6-アザ-ウリジン、2-チオ-5-アザ-ウリジン、2-チオ-ウリジン(s2U)、4-チオ-ウリジン(s4U)、4-チオ-プソイドウリジン、2-チオ-プソイドウリジン、5-ヒドロキシ-ウリジン(ho5U)、5-アミノアリル-ウリジン、5-ハロ-ウリジン(例えば、5-ヨード-ウリジン又は5-ブロモ-ウリジン)、ウリジン5-オキシ酢酸(cmo5U)、ウリジン5-オキシ酢酸メチルエステル(mcmo5U)、5-カルボキシメチル-ウリジン(cm5U)、1-カルボキシメチル-プソイドウリジン、5-カルボキシヒドロキシメチル-ウリジン(chm5U)、5-カルボキシヒドロキシメチル-ウリジンメチルエステル(mchm5U)、5-メトキシカルボニルメチル-ウリジン(mcm5U)、5-メトキシカルボニルメチル-2-チオ-ウリジン(mcm5s2U)、5-アミノメチル-2-チオ-ウリジン(nm5s2U)、5-メチルアミノメチル-ウリジン(mnm5U)、1-エチル-プソイドウリジン、5-メチルアミノメチル-2-チオ-ウリジン(mnm5s2U)、5-メチルアミノメチル-2-セレノ-ウリジン(mnm5se2U)、5-カルバモイルメチル-ウリジン(ncm5U)、5-カルボキシメチルアミノメチル-ウリジン(cmnm5U)、5-カルボキシメチルアミノメチル-2-チオ-ウリジン(cmnm5s2U)、5-プロピニル-ウリジン、1-プロピニル-プソイドウリジン、5-タウリノメチル-ウリジン(τm5U)、1-タウリノメチル-プソイドウリジン、5-タウリノメチル-2-チオ-ウリジン(τm5s2U)、1-タウリノメチル-4-チオ-プソイドウリジン、5-メチル-2-チオ-ウリジン(m5s2U)、1-メチル-4-チオ-プソイドウリジン(m1s4ψ)、4-チオ-1-メチル-プソイドウリジン、3-メチル-プソイドウリジン(m3ψ)、2-チオ-1-メチル-プソイドウリジン、1-メチル-1-デアザ-プソイドウリジン、2-チオ-1-メチル-1-デアザ-プソイドウリジン、ジヒドロウリジン(D)、ジヒドロプソイドウリジン、5,6-ジヒドロウリジン、5-メチル-ジヒドロウリジン(m5D)、2-チオ-ジヒドロウリジン、2-チオ-ジヒドロプソイドウリジン、2-メトキシ-ウリジン、2-メトキシ-4-チオ-ウリジン、4-メトキシ-プソイドウリジン、4-メトキシ-2-チオ-プソイドウリジン、N1-メチル-プソイドウリジン、3-(3-アミノ-3-カルボキシプロピル)ウリジン(acp3U)、1-メチル-3-(3-アミノ-3-カルボキシプロピル)プソイドウリジン(acp3ψ)、5-(イソペンテニルアミノメチル)ウリジン(inm5U)、5-(イソペンテニルアミノメチル)-2-チオ-ウリジン(inm5s2U)、α-チオ-ウリジン、2'-O-メチル-ウリジン(Um)、5,2'-O-ジメチル-ウリジン)(m5Um)、2'-O-メチル-プソイドウリジン(ψm)、2-チオ-2'-O-メチル-ウリジン(s2Um)、5-メトキシカルボニルメチル-2'-O-メチル-ウリジン(mcm5Um)、5-カルバモイルメチル-2'-O-メチル-ウリジン(ncm5Um)、5-カルボキシメチルアミノメチル-2'-O-メチル-ウリジン(cmnm5Um)、3,2'-O-ジメチル-ウリジン(m3Um)、5-(イソペンテニルアミノメチル)-2'-O-メチル-ウリジン(inm5Um)、1-チオ-ウリジン、デオキシチミジン、2'-F-アラ-ウリジン、2'-F-ウリジン、2'-OH-アラ-ウリジン、5-(2-カルボメトキシビニル)ウリジン、5-[3-(1-E-プロペニルアミノ)ウリジン、又は当技術分野で公知の任意の他の修飾ウリジンの任意の1つ又は複数であってもよい。
【0153】
一部の実施形態では、少なくとも1つのRNAは、少なくとも1つのウリジンの代わりに修飾ヌクレオシドを含む。一部の実施形態では、少なくとも1つのRNAは、各ウリジンの代わりに修飾ヌクレオシドを含む。一部の実施形態では、各RNAは、少なくとも1つのウリジンの代わりに修飾ヌクレオシドを含む。一部の実施形態では、各RNAは、各ウリジンの代わりに修飾ヌクレオシドを含む。
【0154】
一部の実施形態では、修飾ヌクレオシドは、プソイドウリジン(ψ)、N1-メチル-プソイドウリジン(m1ψ)、及び5-メチル-ウリジン(m5U)から独立して選択される。一部の実施形態では、修飾ヌクレオシドはプソイドウリジン(ψ)を含む。一部の実施形態では、修飾ヌクレオシドは、N1-メチル-プソイドウリジン(m1ψ)を含む。一部の実施形態では、修飾ヌクレオシドは5-メチル-ウリジン(m5U)を含む。一部の実施形態では、少なくとも1つのRNAは、1つよりも多くのタイプの修飾ヌクレオシドを含んでいてもよく、修飾ヌクレオシドは、プソイドウリジン(ψ)、N1-メチル-プソイドウリジン(m1ψ)、及び5-メチルウリジン(m5U)から独立して選択される。一部の実施形態では、修飾ヌクレオシドは、プソイドウリジン(ψ)及びN1-メチル-プソイドウリジン(m1ψ)を含む。一部の実施形態では、修飾ヌクレオシドは、プソイドウリジン(ψ)及び5-メチル-ウリジン(m5U)を含む。一部の実施形態では、修飾ヌクレオシドは、N1-メチル-プソイドウリジン(m1ψ)及び5-メチル-ウリジン(m5U)を含む。一部の実施形態では、修飾ヌクレオシドは、プソイドウリジン(ψ)、N1-メチル-プソイドウリジン(m1ψ)、及び5-メチル-ウリジン(m5U)を含む。
【0155】
一実施形態では、RNAは、他の修飾ヌクレオシドを含むか、又は更なる修飾ヌクレオシド、例えば修飾シチジンを含む。例えば、一実施形態では、RNAにおいて、5-メチルシチジンが、シチジンの代わりに部分的又は完全に、好ましくは完全に置換されている。一実施形態では、RNAは、5-メチルシチジン、並びにプソイドウリジン(ψ)、N1-メチル-プソイドウリジン(m1ψ)、及び5-メチル-ウリジン(m5U)から選択される1つ又は複数を含む。一実施形態では、RNAは、5-メチルシチジン及びN1-メチル-プソイドウリジン(m1ψ)を含む。一部の実施形態では、RNAは、各シチジンの代わりに5-メチルシチジンを含み、各ウリジンの代わりにN1-メチル-プソイドウリジン(m1ψ)を含む。
【0156】
一部の実施形態では、本開示によるRNAは5'-キャップを含む。一実施形態では、本開示のRNAは、未キャップ5'-三リン酸を有しない。一実施形態では、RNAは、5'-キャップアナログにより修飾されていてもよい。「5'-キャップ」という用語は、mRNA分子の5'末端に見出される構造を指し、一般には、5'と5'との三リン酸連結を介してmRNAに接続されたグアノシンヌクレオチドからなる。一実施形態では、このグアノシンは、7位がメチル化されている。RNAに5'-キャップ又は5'-キャップアナログを提供することは、in vitro転写により達成することができ、その場合、5'-キャップは共転写的にRNA鎖へと発現されるか、又はキャッピング酵素を使用して転写後にRNAに付着させてもよい。
【0157】
一部の実施形態では、RNAのビルディングブロックキャップは、m2 7,3'-OGppp(m12'-O)ApG(m2 7,3`OG(5')ppp(5')m2'-OApGとも呼ばれることがある)であり、以下の構造を有する。
【0158】
【化8】
【0159】
以下は、RNA及びm2 7,3`OG(5')ppp(5')m2'-OApGを含む例示的なCap1 RNAである。
【0160】
【化9】
【0161】
以下は、別の例示的なCap1 RNA(キャップアナログを有しない)である。
【0162】
【化10】
【0163】
一部の実施形態では、RNAは、一実施形態では、以下の構造を有するキャップアナログアンチリバースキャップ(ARCA Cap(m2 7,3`OG(5')ppp(5')G))を使用して、「Cap0」構造で修飾されている。
【0164】
【化11】
【0165】
以下は、RNA及びm2 7,3`OG(5')ppp(5')Gを含むCap0 RNAの例である。
【0166】
【化12】
【0167】
一部の実施形態では、「Cap0」構造は、以下の構造を有するキャップアナログベータ-S-ARCA(m2 7,2`OG(5')ppSp(5')G)を使用して生成される。
【0168】
【化13】
【0169】
以下は、ベータ-S-ARCA(m2 7,2`OG(5')ppSp(5')G)及びRNAを含む例示的なCap0 RNAである。
【0170】
【化14】
【0171】
特に好ましいキャップは、5'-キャップm2 7,2`OG(5')ppSp(5')Gを含む。一部の実施形態では、本明細書に記載の少なくとも1つのRNAは、5'-cap m2 7,2`OG(5')ppSp(5')Gを含む。一部の実施形態では、本明細書に記載の各RNAは、5'-cap m2 7,2`OG(5')ppSp(5')Gを含む。ベータ-S-ARCAの「D1」ジアステレオマー又は「ベータ-S-ARCA(D1)」は、ベータ-S-ARCAのD2ジアステレオマー(ベータ-S-ARCA(D2))と比較して、HPLCカラムから最初に溶出し、したがってより短い保持時間を呈するベータ-S-ARCAのジアステレオマーである(国際公開第2011/015347号を参照、この文献は参照により本明細書に組み込まれる)。特に好ましいキャップは、ベータ-S-ARCA(D1)(m2 7,2'-OGppSpG)である。
【0172】
一部の実施形態では、本開示によるRNAは、5'-UTR及び/又は3'-UTRを含む。「非翻訳領域」又は「UTR」という用語は、転写されるがアミノ酸配列には翻訳されないDNA分子の領域、又はmRNA分子等のRNA分子の対応する領域に関する。非翻訳領域(UTR)は、オープンリーディングフレームの5'(上流)(5'-UTR)及び/又はオープンリーディングフレームの3'(下流)(3'-UTR)に存在してもよい。5'-UTRは、存在する場合、タンパク質コード領域の開始コドンの上流の5'末端に位置する。5'-UTRは、5'-cap(存在する場合)の下流にあり、例えば、5'-capに直接隣接している。3'-UTRは、存在する場合、タンパク質コード領域の終止コドンの下流の3'末端に位置するが、「3'-UTR」という用語は、好ましくは、ポリA配列を含まない。したがって、3'-UTRは、ポリA配列(存在する場合)の上流にあり、例えば、ポリA配列に直接隣接している。
【0173】
特に好ましい5'-UTRは、配列番号35のヌクレオチド配列を含む。特に好ましい3'-UTRは、配列番号36のヌクレオチド配列を含む。
【0174】
一部の実施形態では、少なくとも1つのRNAは、配列番号35のヌクレオチド配列、又は配列番号35のヌクレオチド配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するヌクレオチド配列を含む5'-UTRを含む。一部の実施形態では、各RNAは、配列番号35のヌクレオチド配列、又は配列番号35のヌクレオチド配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するヌクレオチド配列を含む5'-UTRを含む。
【0175】
一部の実施形態では、少なくとも1つのRNAは、配列番号36のヌクレオチド配列、又は配列番号36のヌクレオチド配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するヌクレオチド配列を含む3'-UTRを含む。一部の実施形態では、各RNAは、配列番号36のヌクレオチド配列、又は配列番号36のヌクレオチド配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するヌクレオチド配列を含む3'-UTRを含む。
【0176】
一部の実施形態では、本開示によるRNAは3'-ポリ(A)配列を含む。
【0177】
本明細書で使用される場合、用語「ポリAテール」又は「ポリA配列」は、典型的には、RNA分子の3'末端に位置するアデニレート残基の非中断配列又は中断配列を指す。ポリAテール又はポリA配列は、当業者にとって公知であり、本明細書に記載のRNAの3'-UTRの後に続いていてもよい。非中断ポリAテールは、連続したアデニレート残基により特徴付けられる。自然界では、非中断ポリAテールが典型的である。本明細書で開示されるRNAは、転写後に鋳型非依存性RNAポリメラーゼによりRNAの遊離3'末端に付着させたポリAテールを有していてもよく、又はDNAによりコードされ、鋳型依存性RNAポリメラーゼにより転写されるポリAテールを有していてもよい。
【0178】
約120個のAヌクレオチドのポリAテールは、トランスフェクトされた真核細胞におけるRNAレベル、並びにポリAテールの上流(5')に存在するオープンリーディングフレームから翻訳されるタンパク質のレベルに有益な影響を及ぼすことが示されている(Holtkampら、2006年、Blood、108巻、4009~4017頁)。
【0179】
ポリAテールは任意の長さであってもよい。一部の実施形態では、ポリAテールは、少なくとも20個、少なくとも30個、少なくとも40個、少なくとも80個、又は少なくとも100個、及び最大500個、最大400個、最大300個、最大200個、又は最大150個のAヌクレオチド、特に、約120個のAヌクレオチドを含むか、から本質的になるか、又はからなる。この文脈では、「から本質的になる」は、ポリAテールのほとんどのヌクレオチド、典型的には、ポリAテールのヌクレオチド数の少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%はAヌクレオチドであるが、残りのヌクレオチドは、Uヌクレオチド(ウリジレート)、Gヌクレオチド(グアニレート)、又はCヌクレオチド(シチジレート)等のAヌクレオチド以外のヌクレオチドであることが許容されることを意味する。この文脈では、「からなる」は、ポリAテールの全てのヌクレオチド、つまりポリAテールのヌクレオチド数の100%がAヌクレオチドであることを意味する。「Aヌクレオチド」又は「A」という用語は、アデニレートを指す。
【0180】
一部の実施形態では、ポリAテールは、コード鎖に相補的な鎖に反復dTヌクレオチド(デオキシチミジレート)を含むDNA鋳型に基づき、RNA転写中に、例えば、in vitro転写RNAの調製中に付着させる。ポリAテールをコードするDNA配列(コード鎖)は、ポリ(A)カセットと呼ばれる。
【0181】
一部の実施形態では、DNAのコード鎖に存在するポリ(A)カセットは、dAヌクレオチドから本質的になるが、4つのヌクレオチド(dA、dC、dG、及びdT)のランダムな配列により中断されている。そのようなランダム配列は、5~50、10~30、又は10~20ヌクレオチド長であってもよい。そのようなカセットは、国際公開第2016/005324号A1に開示されており、この文献は、参照により本明細書に組み込まれる。本発明では、国際公開第2016/005324号A1に開示されている任意のポリ(A)カセットを使用することができる。dAヌクレオチドから本質的になるが、4つのヌクレオチド(dA、dC、dG、dT)が均等に分布し、例えば5~50個ヌクレオチドの長さを有するランダム配列により中断されているポリ(A)カセットは、DNAレベルでは、大腸菌(E. coli)においてプラスミドDNAの絶え間ない増殖を示し、RNAレベルでもRNA安定性の支援に関して依然として有益な特性と関連付けられ、翻訳効率が包含される。したがって、一部の実施形態では、本明細書に記載のRNA分子に含まれるポリAテールは、Aヌクレオチドから本質的になるが、4つのヌクレオチド(A、C、G、U)のランダム配列により中断されている。そのようなランダム配列は、5~50、10~30、又は10~20ヌクレオチド長であってもよい。
【0182】
一部の実施形態では、Aヌクレオチド以外のヌクレオチドは、ポリAテールの3'末端をフランキングしておらず、つまり、ポリAテールは、3'末端がA以外のヌクレオチドにより遮蔽されてもおらず、A以外のヌクレオチドが3'末端の後に続いていたりしない。
【0183】
一部の実施形態では、ポリAテールは配列番号37の配列を含む。
【0184】
一部の実施形態では、少なくとも1つのRNAは、ポリAテールを含む。一部の実施形態では、各RNAはポリAテールを含む。一部の実施形態では、ポリAテールは、少なくとも20個、少なくとも30個、少なくとも40個、少なくとも80個、又は少なくとも100個、及び最大500個、最大400個、最大300個、最大200個、又は最大150個のヌクレオチドを含んでいてもよい。一部の実施形態では、ポリAテールは、少なくとも20個、少なくとも30個、少なくとも40個、少なくとも80個、又は少なくとも100個、及び最大500個、最大400個、最大300個、最大200個、又は最大150個のヌクレオチドから本質的になっていてもよい。一部の実施形態では、ポリAテールは、少なくとも20個、少なくとも30個、少なくとも40個、少なくとも80個、又は少なくとも100個、及び最大500個、最大400個、最大300個、最大200個、又は最大150個のヌクレオチドからなっていてもよい。一部の実施形態では、ポリAテールは、配列番号37に示されているポリAテールを含んでいてもよい。一部の実施形態では、ポリAテールは、少なくとも100個のヌクレオチドを含む。一部の実施形態では、ポリAテールは、約150個のヌクレオチドを含む。一部の実施形態では、ポリAテールは、約120個のヌクレオチドを含む。
【0185】
一部の実施形態では、少なくとも1つのRNAは、配列番号37のヌクレオチド配列、又は配列番号37のヌクレオチド配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するヌクレオチド配列を含むポリAテールを含む。一部の実施形態では、各RNAは、配列番号37のヌクレオチド配列、又は配列番号37のヌクレオチド配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するヌクレオチド配列を含むポリAテールを含む。
【0186】
本開示の文脈では、「転写」という用語は、DNA配列の遺伝子コードがRNAへと転写されるプロセスに関する。その後、RNAは、ペプチド又はタンパク質へと翻訳され得る。
【0187】
本発明によると、「転写」という用語は、「in vitro転写」を含み、「in vitro転写」という用語は、好ましくは適切な細胞抽出物を使用して、RNA、特にmRNAが無細胞系でin vitro合成されるプロセスに関する。好ましくは、転写物の生成にはクローニングベクターが応用される。こうしたクローニングベクターは、一般に転写ベクターと称され、本発明によると「ベクター」という用語に包含される。本発明によると、本発明で使用されるRNAは、好ましくは、in vitro転写RNA(IVT-RNA)であり、適切なDNA鋳型のin vitro転写により得ることができる。転写を制御するためのプロモーターは、任意のRNAポリメラーゼの任意のプロモーターであってもよい。RNAポリメラーゼの特定の例は、T7、T3、及びSP6 RNAポリメラーゼである。好ましくは、本発明によるin vitro転写は、T7プロモーター又はSP6プロモーターにより制御される。in vitro転写用のDNA鋳型は、核酸、特にcDNAをクローニングし、それをin vitro転写用の適切なベクターに導入することにより得ることができる。cDNAは、RNAの逆転写により得ることができる。
【0188】
RNAに関して、「発現」又は「翻訳」という用語は、mRNAの鎖がアミノ酸配列のアセンブリを指図してペプチド又はタンパク質を製作する、細胞のリボソームにおけるプロセスに関する。
【0189】
一実施形態では、例えばRNAリポプレックス粒子として製剤化された、本明細書に記載のRNAを投与した後、RNAの少なくとも一部が標的細胞に送達される。一実施形態では、RNAの少なくとも一部が標的細胞の細胞質に送達される。一実施形態では、RNAは標的細胞により翻訳され、それがコードするペプチド又はタンパク質が産生される。一実施形態では、標的細胞は脾細胞である。一実施形態では、標的細胞は、脾臓のプロフェッショナル抗原提示細胞等の抗原提示細胞である。一実施形態では、標的細胞は、樹状細胞又はマクロファージである。本明細書に記載のRNAリポプレックス粒子は、そのような標的細胞にRNAを送達するために使用することができる。したがって、本開示は、対象の標的細胞にRNAを送達するための方法であって、本明細書に記載のRNAリポプレックス粒子を対象に投与する工程を含む方法にも関する。一実施形態では、RNAは、標的細胞の細胞質に送達される。一実施形態では、RNAは標的細胞により翻訳され、RNAがコードするペプチド又はタンパク質が産生される。
【0190】
本開示によると、「RNAがコードする」という用語は、RNAは、適切な環境、例えば、標的組織の細胞内に存在すると、アミノ酸のアセンブリを指図して、それがコードするペプチド又はタンパク質を翻訳の過程で産生することできることを意味する。一実施形態では、RNAは、細胞翻訳機構と相互作用してペプチド又はタンパク質の翻訳を可能にすることができる。細胞は、コードされたペプチド若しくはタンパク質を細胞内(例えば、細胞質内及び/又は核内)で産生する場合もあり、コードされたペプチド若しくはタンパク質を分泌する場合もあり、又は表面に産生する場合もある。
【0191】
本開示によると、「ペプチド」という用語は、オリゴペプチド及びポリペプチドを含み、ペプチド結合を介して互いに連結された約2個又はそれよりも多くの、約3個又はそれよりも多くの、約4個又はそれよりも多くの、約6個又はそれよりも多くの、約8個又はそれよりも多くの、約10個又はそれよりも多くの、約13個又はそれよりも多くの、約16個又はそれよりも多くの、約20個又はそれよりも多くの、及び最大で約50個の、約100個の、又は約150個の連続アミノ酸を含む物質を指す。「タンパク質」という用語は、大型ペプチド、特に少なくとも約151個のアミノ酸を含むペプチドを指すが、「ペプチド」及び「タンパク質」という用語は、本明細書では通常は同義語として使用される。
【0192】
「抗原」という用語は、免疫応答を生成することができるエピトープを含む作用剤を指す。「抗原」という用語は、特にタンパク質及びペプチドを含む。一実施形態では、抗原は、樹状細胞又はマクロファージのような抗原提示細胞等の免疫系の細胞により提示される。抗原又はT細胞エピトープ等のそのプロセシング産物は、一実施形態では、T細胞受容体若しくはB細胞受容体と、又は抗体等の免疫グロブリン分子と結合する。したがって、抗原又はそのプロセシング産物は、抗体又はTリンパ球(T細胞)と特異的に反応することができる。一実施形態では、抗原は腫瘍抗原等の疾患関連抗原であり、エピトープはそのような抗原に由来する。
【0193】
「疾患関連抗原」という用語は、疾患に関連付けられるあらゆる抗原を指すために、最も幅広い意味で使用される。疾患関連抗原は、宿主の免疫系を刺激して、疾患に対する細胞性抗原特異的免疫応答及び/又は体液性抗体応答を引き起こすことになるエピトープを含む分子である。したがって、疾患関連抗原又はそのエピトープは、療法目的に使用することができる。疾患関連抗原は、がん、典型的には腫瘍と関連付けることができる。
【0194】
「腫瘍抗原」という用語は、細胞質、細胞表面、及び細胞核に由来する可能性のあるがん細胞の構成要素を指す。特に、この用語は、細胞内で又は腫瘍細胞の表面抗原として産生される抗原を指す。
【0195】
本明細書で開示される腫瘍抗原は、CLDN6(配列番号1)、KK-LC-1(配列番号5)、MAGE-A3(配列番号9)、MAGE-A4(配列番号13)、PRAME(配列番号17)、MAGE-C1(配列番号21)、又はNY-ESO-1(配列番号25)であってもよい。
【0196】
「エピトープ」という用語は、免疫系により認識される抗原等の分子の一部又は断片を指す。例えば、エピトープは、T細胞、B細胞、又は抗体により認識される可能性がある。抗原のエピトープは、抗原の連続部分又は不連続部分を含んでいてもよく、約5~約100アミノ酸長の範囲であってもよい。一実施形態では、エピトープは、約10~約25アミノ酸長である。「エピトープ」という用語は、T細胞エピトープを含む。
【0197】
「T細胞エピトープ」という用語は、MHC分子の状況で提示された際にT細胞により認識されるタンパク質の一部又は断片を指す。「主要組織適合遺伝子複合体」という用語及び「MHC」という略語は、MHCクラスI分子及びMHCクラスII分子を含み、全ての脊椎動物に存在する遺伝子の複合体に関する。MHCタンパク質又は分子は、免疫反応においてリンパ球と抗原提示細胞又は疾患細胞との間のシグナル伝達に重要であり、MHCタンパク質又は分子は、ペプチドエピトープに結合し、T細胞上のT細胞受容体による認識のためにペプチドエピトープを提示する。MHCによりコードされるタンパク質は細胞の表面上に発現され、自己抗原(細胞自体に由来するペプチド断片)及び非自己抗原(例えば、侵入微生物の断片)の両方をT細胞に提示する。クラスI MHC/ペプチド複合体の場合、結合ペプチドは、典型的には約8~約10アミノ酸長であるが、より長いペプチド又はより短いペプチドが有効である可能性がある。クラスII MHC/ペプチド複合体の場合、結合ペプチドは、典型的には、約10~約25アミノ酸長であり、特に約13~約18アミノ酸長であるが、より長いペプチド及びより短いペプチドが有効である可能性がある。
【0198】
本開示のある特定の実施形態では、RNAは、少なくとも1つのエピトープをコードする。ある特定の実施形態では、エピトープは、本明細書に記載の腫瘍抗原に由来する。
【0199】
一部の実施形態では、本明細書に記載の腫瘍抗原、その免疫原性バリアント、又は腫瘍抗原若しくはその免疫原性バリアントの免疫原性断片を含むアミノ酸配列は、コドン最適化されており、及び/又は野生型コード配列と比較してG/C含有量が増加されたコード配列によりコードされている。これには、コード配列の1つ又は複数の配列領域が、コドン最適化されており、及び/又は野生型コード配列の対応する配列領域と比較してG/C含有量が増加されている実施形態も含まれる。一実施形態では、コドン最適化及び/又はG/C含有量の増加は、好ましくは、コードされたアミノ酸配列の配列を変化させない。
【0200】
「コドン最適化」という用語は、好ましくは、核酸分子によりコードされるアミノ酸配列を変更させずに、宿主生物の典型的なコドン使用頻度を反映するように核酸分子のコード領域のコドンを変更することを指す。本発明の文脈内では、コード領域は、好ましくは、本明細書に記載のRNA分子を使用して治療されることになる対象での最適な発現のためにコドン最適化されている。コドン最適化は、翻訳効率も細胞のtRNAの出現頻度の差異により決定されるという知見に基づく。したがって、RNAの配列は、頻繁に生じるtRNAにより利用可能なコドンが「希少コドン」の代わりに挿入されるように改変されていてもよい。
【0201】
本発明の一部の実施形態では、本明細書に記載のRNAのコード領域のグアノシン/シトシン(G/C)含有量は、野生型RNAの対応するコード配列のG/C含有量と比較して増加されており、RNAによりコードされるアミノ酸配列は、好ましくは、野生型RNAによりコードされるアミノ酸配列と比較して改変されていない。RNA配列のこの改変は、翻訳されることになる任意のRNA領域の配列がそのmRNAの効率的な翻訳に重要であるという事実に基づく。G(グアノシン)/C(シトシン)含有量が増加された配列は、A(アデノシン)/U(ウラシル)含有量が増加された配列よりも安定的である。幾つかのコドンが1つの同じアミノ酸をコードするという事実(いわゆる遺伝子コードの縮重性)を考慮して、安定性にとって最も好ましいコドンを決定することができる(いわゆる代替的コドン使用)。RNAによりコードされるアミノ酸に応じて、その野生型の配列と比較してRNA配列を改変するには種々の可能性が存在する。特に、A及び/又はUヌクレオチドを含むコドンは、同じアミノ酸をコードするがA及び/若しくはUを含まないか、又はA及び/若しくはUヌクレオチドの含有量がより低い他のコドンでそうしたコドンを置換することにより改変することができる。
【0202】
種々の実施形態では、本明細書に記載のRNAのコード領域のG/C含有量は、野生型RNAのコード領域のG/C含有量と比較して、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも55%、又は更にそれよりも大幅に増加されている。
【0203】
投与されるRNA
一部の実施形態では、本明細書に記載の組成物又は医学的調製物は、クローディン6(CLDN6)ワクチン抗原をコードするRNA、北九州肺がん抗原1(KK-LC-1)ワクチン抗原をコードするRNA、メラノーマ抗原A3(MAGE-A3)ワクチン抗原をコードするRNA、メラノーマ抗原4(MAGE-A4)ワクチン抗原をコードするRNA、メラノーマ優先発現抗原(PRAME)ワクチン抗原をコードするRNA、並びにメラノーマ抗原C1(MAGE-C1)ワクチン抗原をコードするRNA、並びにニューヨーク食道扁平上皮癌1(NY-ESO-1)ワクチン抗原をコードするRNAの一方又は両方を含む。一部の実施形態では、本明細書に記載の組成物又は医学的調製物は、クローディン6(CLDN6)ワクチン抗原をコードするRNA、北九州肺がん抗原1(KK-LC-1)ワクチン抗原をコードするRNA、メラノーマ抗原A3(MAGE-A3)ワクチン抗原をコードするRNA、メラノーマ抗原4(MAGE-A4)ワクチン抗原をコードするRNA、メラノーマ優先発現抗原(PRAME)ワクチン抗原をコードするRNA、及びメラノーマ抗原C1(MAGE-C1)ワクチン抗原をコードするRNAを含む。同様に、本明細書に記載の方法は、クローディン6(CLDN6)ワクチン抗原をコードするRNA、北九州肺がん抗原1(KK-LC-1)ワクチン抗原をコードするRNA、メラノーマ抗原A3(MAGE-A3)ワクチン抗原をコードするRNA、メラノーマ抗原4(MAGE-A4)ワクチン抗原をコードするRNA、メラノーマ優先発現抗原(PRAME)ワクチン抗原をコードするRNA、並びにメラノーマ抗原C1(MAGE-C1)ワクチン抗原をコードするRNA及びニューヨーク食道扁平上皮癌1(NY-ESO-1)ワクチン抗原をコードするRNAの一方又は両方を投与する工程を含む。一部の実施形態では、本明細書に記載の方法は、クローディン6(CLDN6)ワクチン抗原をコードするRNA、北九州肺がん抗原1(KK-LC-1)ワクチン抗原をコードするRNA、メラノーマ抗原A3(MAGE-A3)ワクチン抗原をコードするRNA、メラノーマ抗原4(MAGE-A4)ワクチン抗原をコードするRNA、メラノーマ優先発現抗原(PRAME)ワクチン抗原をコードするRNA、及びメラノーマ抗原C1(MAGE-C1)ワクチン抗原をコードするRNAを投与する工程を含む。
【0204】
CLDN6ワクチン抗原の分子構造及び機能
ヒトクローディン6遺伝子(CLDN6)は、16番染色体に位置し、220個アミノ酸のタンパク質をコードする2つのアイソフォームを含む。CLDN6は種間で高度に保存されており、少なくとも27個のメンバーからなるクローディンのグループに属する。一般に、CLDN6を含むクローディンは、上皮性障壁調節に重要であり、タイトジャンクション分子のグループに属する。CLDN6は、4つの膜貫通ドメイン、2つの細胞外ループ、細胞内N末端及びC末端、並びにPDZ結合ドメインを含み、表皮細胞の透過性障壁及び経上皮抵抗性を維持するうえで役割を果たすことが示されている。加えて、CLDN6は、正常な胚盤胞形成に必要であると考えられる。一実施形態では、CLDN6は、配列番号1によるアミノ酸配列を有する。
【0205】
クローディン6(CLDN6)ワクチン抗原は、CLDN6、その免疫原性バリアント、又はCLDN6若しくはその免疫原性バリアントの免疫原性断片を含むアミノ酸配列を含み、配列番号1若しくは2のアミノ酸配列を含むアミノ酸配列、又は配列番号1若しくは2のアミノ酸配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するアミノ酸配列を有してもよい。CLDN6ワクチン抗原をコードするRNAは、(i)配列番号3若しくは4のヌクレオチド配列、又は配列番号3若しくは4のヌクレオチド配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するヌクレオチド配列を含んでいてもよく、及び/或いは(ii)配列番号1若しくは2のアミノ酸配列を含むアミノ酸配列、又は配列番号1若しくは2のアミノ酸配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するアミノ酸配列をコードしていてもよい。
【0206】
KK-LC-1ワクチン抗原の分子構造及び機能
北九州肺がん抗原1(KK-LC-1)は、がん/精巣抗原83、CT83、CXorf61とも呼ばれ、がん/精巣抗原のグループに由来するタンパク質及び腫瘍抗原である。KK-LC-1は、113個アミノ酸の長さを有する。KK-LC-1は、健常細胞(免疫特権精母細胞を除く)では腫瘍抗原としてはほとんど見出されないが、種々の腫瘍、例えば非小細胞肺がんで発現されることが多い。一実施形態では、KK-LC-1は、配列番号5によるアミノ酸配列を有する。
【0207】
北九州肺がん抗原1(KK-LC-1)ワクチン抗原は、KK-LC-1、その免疫原性バリアント、又はKK-LC-1若しくはその免疫原性バリアントの免疫原性断片を含むアミノ酸配列を含み、配列番号5若しくは6のアミノ酸配列、又は配列番号5若しくは6のアミノ酸配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するアミノ酸配列を含むアミノ酸配列を有していてもよい。KK-LC-1ワクチン抗原をコードするRNAは、(i)配列番号7若しくは8のヌクレオチド配列、又は配列番号7若しくは8のヌクレオチド配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するヌクレオチド配列を含んでいてもよく、及び/或いは(ii)配列番号5若しくは6のアミノ酸配列、又は配列番号5若しくは6のアミノ酸配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するアミノ酸配列を含むアミノ酸配列をコードしていてもよい。
【0208】
MAGE-A3ワクチン抗原の分子構造及び機能
ヒトメラノーマ抗原A3(MAGE-A3)遺伝子は、メラノーマ関連抗原遺伝子ファミリーのメンバーである。このファミリーのメンバーは、互いに50~80%の配列同一性を有するタンパク質をコードする。MAGEA遺伝子は染色体位置Xq28にクラスター化している。これらは、先天性角化異常症等の、一部の遺伝性疾患に関与が示唆されている。健常細胞におけるMAGE-A3の正常機能は不明である。一実施形態では、MAGE-A3は、配列番号9によるアミノ酸配列を有する。
【0209】
メラノーマ抗原A3(MAGE-A3)ワクチン抗原は、MAGE-A3、その免疫原性バリアント、又はMAGE-A3若しくはその免疫原性バリアントの免疫原性断片を含むアミノ酸配列を含み、配列番号9若しくは10のアミノ酸配列、又は配列番号9若しくは10のアミノ酸配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するアミノ酸配列を含むアミノ酸配列を有していてもよい。MAGE-A3ワクチン抗原をコードするRNAは、(i)配列番号11若しくは12のヌクレオチド配列、又は配列番号11若しくは12のヌクレオチド配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するヌクレオチド配列を含んでいてもよく、及び/或いは(ii)配列番号9若しくは10のアミノ酸配列、又は配列番号9若しくは10のアミノ酸配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するアミノ酸配列を含むアミノ酸配列をコードしていてもよい。
【0210】
MAGE-A4ワクチン抗原の分子構造及び機能
ヒトメラノーマ抗原4(MAGE-A4)遺伝子は、MAGEA遺伝子ファミリーのメンバーである。このファミリーのメンバーは、互いに50~80%の配列同一性を有するタンパク質をコードする。MAGEA遺伝子は染色体位置Xq28にクラスター化している。これらは、先天性角化異常症等の、一部の遺伝性疾患に関与が示唆されている。一実施形態では、MAGE-A4は、配列番号13によるアミノ酸配列を有する。
【0211】
メラノーマ抗原4(MAGE-A4)ワクチン抗原は、MAGE-A4、その免疫原性バリアント、又はMAGE-A4若しくはその免疫原性バリアントの免疫原性断片を含むアミノ酸配列を含み、配列番号13若しくは14のアミノ酸配列、又は配列番号13若しくは14のアミノ酸配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するアミノ酸配列を含むアミノ酸配列を有していてもよい。MAGE-A4ワクチン抗原をコードするRNAは、(i)配列番号15若しくは16のヌクレオチド配列、又は配列番号15若しくは16のヌクレオチド配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するヌクレオチド配列を含んでいてもよく、及び/或いは(ii)配列番号13若しくは14のアミノ酸配列、又は配列番号13若しくは14のアミノ酸配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するアミノ酸配列を含むアミノ酸配列をコードしていてもよい。
【0212】
PRAMEワクチン抗原の分子構造及び機能
ヒトメラノーマ優先発現(PRAME)遺伝子は、22番染色体に位置し、8つのアイソフォームを含み、そのうち7つは509個アミノ酸の同一タンパク質をコードするが、8番目のアイソフォームは最初の16個アミノ酸を欠如する。FLAGタグ付き又はGFPタグ付きPRAMEを使用した局在化研究では、このタンパク質が核に局在化することが示唆されている。更に、PRAMEは、アポトーシス及び細胞増殖に重要な役割を果たす。更なる機能研究により、PRAMEは、レチノイン酸受容体シグナル伝達を阻害し、それによりアポトーシス及び分化におけるその役割を誘発することが明らかになった。PRAMEは、32個のPRAME様遺伝子及び擬似遺伝子からなる多重遺伝子ファミリーに属する。PRAMEに最も近いタンパク質コード類縁体は、このタンパク質と53%相同性を呈する(blastソフトウェアパッケージのblastpコマンドを使用)。詳細なRT-qPCRベース分析により、精巣、精巣上体、及び子宮にてPRAMEの発現が高いことが明らかになった。一実施形態では、PRAMEは、配列番号17によるアミノ酸配列を有する。
【0213】
メラノーマ優先発現抗原(PRAME)ワクチン抗原は、PRAME、その免疫原性バリアント、又はPRAME若しくはその免疫原性バリアントの免疫原性断片を含むアミノ酸配列を含み、配列番号17若しくは18のアミノ酸配列、又は配列番号17若しくは18のアミノ酸配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するアミノ酸配列を含むアミノ酸配列を有していてもよい。PRAMEワクチン抗原をコードするRNAは、(i)配列番号19若しくは20のヌクレオチド配列、又は配列番号19若しくは20のヌクレオチド配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するヌクレオチド配列を含んでいてもよく、及び/或いは(ii)配列番号17若しくは18のアミノ酸配列、又は配列番号17若しくは18のアミノ酸配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するアミノ酸配列を含むアミノ酸配列をコードしていてもよい。
【0214】
MAGE-C1ワクチン抗原の分子構造及び機能
メラノーマ抗原C1(MAGE-C1)は、がん/精巣抗原7(CT7)とも呼ばれ、がん/精巣抗原のグループに由来するヒト腫瘍抗原である。MAGE-C1は、1,142個アミノ酸の長さ及び123,643Daの質量を有する。MAGE-C1は、最大で4つのセリン、S63、S207、S382、及びS1063がリン酸化されている。MAGE-C1は、抗アポトーシス特性を有し、NY-ESO-1に結合する。MAGE-C1は、健常細胞(免疫特権精母細胞を除く)には存在しないが、腫瘍、例えば多発性骨髄腫において多く発現される。MAGE-C1は、そこで悪性形質細胞により形成される。一実施形態では、MAGE-C1は、配列番号21によるアミノ酸配列を有する。
【0215】
メラノーマ抗原C1(MAGE-C1)ワクチン抗原は、MAGE-C1、その免疫原性バリアント、又はMAGE-C1若しくはその免疫原性バリアントの免疫原性断片を含むアミノ酸配列を含み、配列番号21若しくは22のアミノ酸配列、又は配列番号21若しくは22のアミノ酸配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するアミノ酸配列を含むアミノ酸配列を有していてもよい。MAGE-C1ワクチン抗原をコードするRNAは、(i)配列番号23若しくは24のヌクレオチド配列、又は配列番号23若しくは24のヌクレオチド配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するヌクレオチド配列を含んでいてもよく、及び/或いは(ii)配列番号21若しくは22のアミノ酸配列、又は配列番号21若しくは22のアミノ酸配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するアミノ酸配列を含むアミノ酸配列をコードしていてもよい。
【0216】
NY-ESO-1ワクチン抗原の分子構造及び機能
ニューヨーク食道扁平上皮癌-1(NY-ESO-1)は、がん/精巣抗原1、LAGE2、又はLAGE2Bとも呼ばれ、ヒトではCTAG1B遺伝子によりコードされるタンパク質である。CTAG1Bは、X染色体の長腕(Xq28)に位置する。この遺伝子は、180個アミノ酸のポリペプチドをコードし、胚発生中18週から出生までヒト胎児精巣で発現される。また、成体精巣の精原細胞及び一次精母細胞でも強力に発現されるが、減数分裂後細胞又は精巣体細胞では発現されない。NY-ESO-1は、様々な悪性腫瘍ではmRNAレベル及びタンパク質レベルで発現されるが、また正常成体組織では精巣生殖細胞に制限されるがん精巣抗原(CTA)のファミリーに属する。一実施形態では、NY-ESO-1は、配列番号25によるアミノ酸配列を有する。
【0217】
ニューヨーク食道扁平上皮癌-1(NY-ESO-1)ワクチン抗原は、NY-ESO-1、その免疫原性バリアント、又はNY-ESO-1若しくはその免疫原性バリアントの免疫原性断片を含むアミノ酸配列を含み、配列番号25若しくは26のアミノ酸配列、又は配列番号25若しくは26のアミノ酸配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するアミノ酸配列を含むアミノ酸配列を有していてもよい。NY-ESO-1ワクチン抗原をコードするRNAは、(i)配列番号27若しくは28のヌクレオチド配列、又は配列番号27若しくは28のヌクレオチド配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するヌクレオチド配列を含んでいてもよく、及び/或いは(ii)配列番号25若しくは26のアミノ酸配列、又は配列番号25若しくは26のアミノ酸配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するアミノ酸配列を含むアミノ酸配列をコードしていてもよい。
【0218】
初回刺激中にT細胞支援を提供することにより自己抗原に対する免疫応答を効率的に開始するために、クロストリジウム・テタニ(Clostridium tetani)の破傷風トキソイドに由来するアミノ酸配列を使用して、自己寛容機序を克服することができる。
【0219】
破傷風トキソイド重鎖は、MHCクラスII対立遺伝子と無差別に結合し、ほぼ全ての破傷風ワクチン接種個体においてCD4+メモリーT細胞を誘導することができるエピトープを含む。加えて、破傷風トキソイド(TT)ヘルパーエピトープと腫瘍関連抗原との組合せは、初回刺激中にCD4+媒介姓T細胞支援を提供することにより、腫瘍関連抗原のみの適用と比較して免疫刺激を向上させることが知られている。腫瘍抗原特異的T細胞応答の意図された誘導と競合する可能性のある破傷風配列によるCD8+ T細胞刺激のリスクを低減するために、CD8+ T細胞エピトープを含むことが知られている破傷風トキソイドの断片C全体は使用されない。その代わり、できるだけ多くのMHCクラスII対立遺伝子との結合を保証するために、無差別結合ヘルパーエピトープを含む2つのペプチド配列を選択した。ex vivo研究のデータに基づき、周知のエピトープp2(QYIKANSKFIGITEL;TT830-844)及びp16(MTNSVDDALINSTKIYSYFPSVISKVNQGAQG;TT578-609)を選択した。p2エピトープは、抗メラノーマ活性を後押しするために、臨床治験においてペプチドワクチン接種に既に使用されている。
【0220】
現在の非臨床データ(未発表)は、腫瘍抗原に加えて無差別結合破傷風トキソイド配列を両方ともコードするRNAワクチンが、腫瘍抗原に対するCD8+ T細胞応答の増強及び寛容性の毀損の向上に結び付くことを示した。腫瘍抗原特異的配列とインフレームで融合されたそうした配列を含むワクチンでワクチン接種した患者の免疫モニタリングデータは、選択された破傷風配列がほぼ全ての患者において破傷風特異的T細胞応答を誘導することができることを明らかにした。
【0221】
ある特定の実施形態によると、免疫寛容を毀損するアミノ酸配列は、直接的に又はリンカー、例えば、アミノ酸配列GGSGGGGSGGを有するリンカーを介してのいずれかで、抗原性ペプチド又はタンパク質、つまり、CLDN6(配列番号1)、KK-LC-1(配列番号5)、MAGE-A3(配列番号9)、MAGE-A4(配列番号13)、PRAME(配列番号17)、MAGE-C1(配列番号21)、又はNY-ESO-1(配列番号25)、それらのバリアント、又はそれらの断片に融合されている。
【0222】
免疫寛容を毀損するそのようなアミノ酸配列は、好ましくは、抗原性ペプチド又はタンパク質のC末端に位置するが(及び任意選択で、抗原プロセシング及び/又は提示を増強するアミノ酸配列のN末端に位置し、免疫寛容を毀損するアミノ酸配列並びに抗原プロセシング及び/又は提示を増強するアミノ酸配列は、直接的に又はリンカー、例えば、アミノ酸配列GSSGGGGSPGGGSSを有するリンカーを介してのいずれかで融合されていてもよい)、それに限定されない。本明細書で定義される免疫寛容を毀損するアミノ酸配列は、好ましくはT細胞応答を向上させる。一実施形態では、本明細書で定義される免疫寛容を毀損するアミノ酸配列としては、これらに限定されないが、破傷風トキソイド由来ヘルパー配列p2及びp16(P2P16)に由来する配列、特に配列番号33のアミノ酸配列又はその機能的バリアントを含む配列が挙げられる。
【0223】
一実施形態では、免疫寛容を毀損するアミノ酸配列は、配列番号33のアミノ酸配列、配列番号33のアミノ酸配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するアミノ酸配列、或いは配列番号33のアミノ酸配列又は配列番号33のアミノ酸配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するアミノ酸配列の機能的断片を含む。一実施形態では、免疫寛容を毀損するアミノ酸配列は、配列番号33のアミノ酸配列を含む。
【0224】
破傷風トキソイドヘルパーエピトープと融合された抗原RNAを使用する代わりに、腫瘍抗原RNAを、ワクチン接種中に、TTヘルパーエピトープをコードする別のRNAと共投与してもよい。ここで、TTヘルパーエピトープコードRNAは、調製前に抗原コードRNAの各々に添加してもよい。このようにして、両化合物を所与のAPCに送達するために、抗原及びヘルパーエピトープコードRNAの両方を含む混合リポプレックスナノ粒子が形成される。
【0225】
したがって、一部の実施形態では、本明細書に記載の組成物は、破傷風トキソイド由来ヘルパー配列p2及びp16(P2P16)をコードするRNAを含んでいてもよい。同様に、本明細書に記載の方法は、破傷風トキソイド由来ヘルパー配列p2及びp16(P2P16)をコードするRNAを投与する工程を含んでいてもよい。
【0226】
したがって、更なる態様は、
(i)ワクチン抗原をコードするRNA、及び
(ii)免疫寛容を毀損するアミノ酸配列をコードするRNA
を含むリポプレックス粒子等の粒子を含む医薬組成物等の組成物に関する。
【0227】
そのような組成物は、ワクチン抗原に対する、したがって疾患関連抗原に対する免疫応答を誘導するための方法に有用である。
【0228】
更なる態様は、免疫応答を誘導する方法であって、
(i)ワクチン抗原をコードするRNA、及び
(ii)免疫寛容を毀損するアミノ酸配列をコードするRNA
を含むリポプレックス粒子等の粒子を投与する工程を含む方法に関する。
【0229】
一実施形態では、免疫寛容を毀損するアミノ酸配列は、ヘルパーエピトープ、好ましくは破傷風トキソイド由来ヘルパーエピトープを含む。
【0230】
一実施形態では、ワクチン抗原をコードするRNAは、約4:1~約16:1、約6:1~約14:1、約8:1~約12:1、又は約10:1の比率で、免疫寛容を毀損するアミノ酸配列をコードするRNAを有するリポプレックス粒子等の粒子として共製剤化されている。
【0231】
ある特定の実施形態によると、シグナルペプチドは、直接的に又はリンカー、例えば、アミノ酸配列GGSGGGGSGGを有するリンカーを介してのいずれかで、抗原性ペプチド又はタンパク質、例えば、MAGE-A3(配列番号9)、PRAME(配列番号17)、MAGE-C1(配列番号21)、又はNY-ESO-1(配列番号25)、それらのバリアント、又はそれらの断片に融合されている。
【0232】
そのようなシグナルペプチドは、典型的には、約15~30個アミノ酸の長さを呈する配列であり、好ましくは、抗原性ペプチド又はタンパク質のN末端に位置するが、それに限定されない。本明細書で定義されるシグナルペプチドは、好ましくは、RNAによりコードされる抗原性ペプチド又はタンパク質を、画定された細胞区画、好ましくは、細胞表面、小胞体(ER)、又はエンドソーム-リソソーム区画へと輸送することを可能にする。一実施形態では、本明細書で定義されるシグナルペプチド配列は、これらに限定されないが、ヒトMHCクラスI複合体(HLA-B51、ハプロタイプA2、B27/B51、Cw2/Cw3)をコードする配列に由来するシグナルペプチド配列を含み、好ましくは、新生ポリペプチド鎖の小胞体への移送を導く分泌シグナルペプチドをコードする78bp断片に対応し、特に、配列番号29のアミノ酸配列又はその機能的バリアントを含む配列を含む。
【0233】
一実施形態では、シグナル配列は、配列番号29のアミノ酸配列、配列番号29のアミノ酸配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するアミノ酸配列、或いは配列番号29のアミノ酸配列又は配列番号29のアミノ酸配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するアミノ酸配列の機能的断片を含む。一実施形態では、シグナル配列は、配列番号29のアミノ酸配列を含む。
【0234】
そのようなシグナルペプチドは、好ましくは、コードされた抗原性ペプチド又はタンパク質の分泌を促進するために使用される。より好ましくは、本明細書で定義されるシグナルペプチドは、本明細書で定義されるコードされた抗原性ペプチド又はタンパク質に融合されている。
【0235】
したがって、特に好ましい実施形態では、本明細書に記載のRNAは、抗原性ペプチド又はタンパク質及びシグナルペプチドをコードする少なくとも1つのコード領域を含み、前記シグナルペプチドは、好ましくは、抗原性ペプチド又はタンパク質に、より好ましくは、本明細書に記載の抗原性ペプチド又はタンパク質のN末端に融合されている。
【0236】
ある特定の実施形態によると、抗原プロセシング及び/又は提示を増強するアミノ酸配列は、直接的に又はリンカーを介してのいずれかで、抗原性ペプチド又はタンパク質、例えば、MAGE-A3(配列番号9)、MAGE-A4(配列番号13)、PRAME(配列番号17)、MAGE-C1(配列番号21)、又はNY-ESO-1(配列番号25)、それらのバリアント、又はそれらの断片に融合されている。
【0237】
抗原プロセシング及び/又は提示を増強するそのようなアミノ酸配列は、好ましくは、抗原性ペプチド又はタンパク質のC末端に位置するが(及び任意選択で、免疫寛容を毀損するアミノ酸配列のC末端に位置し、免疫寛容を毀損するアミノ酸配列及び抗原プロセシング及び/又は提示を増強するアミノ酸配列は、直接的に又はリンカー、例えば、アミノ酸配列GSSGGGGSPGGGSSを有するリンカーを介してのいずれかで融合されていてもよい)、それに限定されない。
【0238】
本明細書で定義される抗原プロセシング及び/又は提示を増強するアミノ酸配列は、好ましくは、抗原プロセシング及び提示を向上させる。一実施形態では、本明細書で定義される抗原プロセシング及び/又は提示を増強するアミノ酸配列としては、ヒトMHCクラスI複合体(HLA-B51、ハプロタイプA2、B27/B51、Cw2/Cw3)に由来する配列、特に配列番号31のアミノ酸配列又はその機能的バリアントを含む配列が挙げられるが、それらに限定されない。
【0239】
一実施形態では、抗原プロセシング及び/又は提示を増強するアミノ酸配列は、配列番号31のアミノ酸配列、配列番号31のアミノ酸配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するアミノ酸配列、或いは配列番号31のアミノ酸配列又は配列番号31のアミノ酸配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、若しくは80%同一性を有するアミノ酸配列の機能的断片を含む。一実施形態では、抗原プロセシング及び/又は提示を増強するアミノ酸配列は、配列番号31のアミノ酸配列を含む。
【0240】
抗原プロセシング及び/又は提示を増強するそのようなアミノ酸配列は、好ましくは、コードされた抗原性ペプチド又はタンパク質の抗原プロセシング及び/又は提示を促進するために使用される。より好ましくは、本明細書で定義される抗原性プロセシング及び/又は提示を増強するアミノ酸配列は、本明細書で定義されるコードされた抗原性ペプチド又はタンパク質に融合されている。
【0241】
したがって、特に好ましい実施形態では、本明細書に記載のRNAは、抗原性ペプチド又はタンパク質並びに抗原プロセシング及び/又は提示を増強するアミノ酸配列をコードする少なくとも1つのコード領域を含み、前記抗原プロセシング及び/又は提示を増強するアミノ酸配列は、好ましくは、抗原性ペプチド又はタンパク質に、より好ましくは、本明細書に記載の抗原性ペプチド又はタンパク質のC末端に融合されている。
【0242】
以下では、ワクチンRNAの実施形態が説明されており、それらの要素を説明する際に使用されるある特定の用語は、以下の意味を有する。
hAg-Kozak:翻訳効率を増加させるために最適化された「Kozak配列」を有するヒトアルファ-グロビンmRNAの5'-UTR配列。
sec/MITD:抗原プロセシング及び提示を向上させることが示されている、ヒトMHCクラスI複合体(HLA-B51、ハプロタイプA2、B27/B51、Cw2/Cw3)をコードする配列に由来する融合タンパク質タグ。Secは、新生ポリペプチド鎖の小胞体への移送を導く分泌シグナルペプチドをコードする78bp断片に対応する。MITDは、MHCクラスI輸送ドメインとも呼ばれる、MHCクラスI分子の膜貫通ドメイン及び細胞質ドメインに対応する。
Antigen:対応する腫瘍抗原をコードする配列。
グリシン-セリンリンカー(GS):融合タンパク質に広く使用される、アミノ酸グリシン(G)及びセリン(S)から主になる短いリンカーペプチドをコードする配列。
P2P16:免疫寛容を毀損する破傷風トキソイド由来ヘルパーエピトープをコードする配列。
FIエレメント:3'-UTRは、「スプリットのアミノ末端エンハンサー」(AES)mRNA(Fと呼ばれる)及びミトコンドリアでコードされる12SリボソームRNA(Iと呼ばれる)に由来する2つの配列エレメントの組合せである。これらは、RNA安定性を付与し、総タンパク質発現を増大する配列のex vivo選択プロセスにより特定された。
A30L70:30個のアデノシン残基のストレッチ、それに続く10個ヌクレオチドのリンカー配列、並びに樹状細胞におけるRNA安定性及び翻訳効率を増強するために設計された別の70個アデノシン残基でからなる、110ヌクレオチド長のポリ(A)テール。
【0243】
一実施形態では、特にCLDN6(配列番号1)又はKK-LC-1(配列番号5)の場合、本明細書に記載のワクチンRNAは、以下の構造を有する。
ベータ-S-ARCA(D1)-hAg-Kozak-Antigen-GS(2)-P2P16-FI-A30L70
【0244】
一実施形態では、本明細書に記載のワクチン抗原は、以下の構造を有する。
Antigen-GS(2)-P2P16
【0245】
一実施形態では、特にMAGE-A4(配列番号13)の場合、本明細書に記載のワクチンRNAは、以下の構造を有する。
ベータ-S-ARCA(D1)-hAg-Kozak-Antigen-GS(2)-P2P16-GS(3)-MITD-FI-A30L70
【0246】
一実施形態では、本明細書に記載のワクチン抗原は、以下の構造を有する。
Antigen-GS(2)-P2P16-GS(3)-MITD
【0247】
一実施形態では、特にMAGE-A3(配列番号9)、PRAME(配列番号17)、MAGE-C1(配列番号21)、又はNY-ESO-1(配列番号25)の場合、本明細書に記載のワクチンRNAは、以下の構造を有する。
ベータ-S-ARCA(D1)-hAg-Kozak-sec-GS(1)-Antigen-GS(2)-P2P16-GS(3)-MITD-FI-A30L70
【0248】
一実施形態では、本明細書に記載のワクチン抗原は、以下の構造を有する。
sec-GS(1)-Antigen-GS(2)-P2P16-GS(3)-MITD
【0249】
一実施形態では、hAg-Kozakは、配列番号35のヌクレオチド配列を含む。異なる実施形態では、Antigenは、CLDN6のアミノ酸配列(配列番号1)、KK-LC-1のアミノ酸配列(配列番号5)、MAGE-A3のアミノ酸配列(配列番号9)、MAGE-A4のアミノ酸配列(配列番号13)、PRAMEのアミノ酸配列(配列番号17)、MAGE-C1のアミノ酸配列(配列番号21)、及びNY-ESO-1のアミノ酸配列(配列番号25)からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む。一実施形態では、secは、配列番号29のアミノ酸配列を含む。CLDN6、KK-LC-1、及びMAGE-A4の場合、内因性シグナルペプチドが存在するため、配列番号1、5、及び13に更なるシグナルペプチドを付加する必要はない。一実施形態では、P2P16は、配列番号33のアミノ酸配列を含む。一実施形態では、MITDは、配列番号31のアミノ酸配列を含む。一実施形態では、GS(1)は、アミノ酸配列GGSGGGGSGGを含む。一実施形態では、GS(2)は、アミノ酸配列GGSGGGGSGGを含む。一実施形態では、GS(3)は、アミノ酸配列GSSGGGGSPGGGSSを含む。一実施形態では、FIは、配列番号36のヌクレオチド配列を含む。一実施形態では、A30L70は、配列番号37のヌクレオチド配列を含む。
【0250】
「断片」は、アミノ酸配列(ペプチド又はタンパク質)に関する場合、アミノ酸配列の一部、つまり、N末端及び/又はC末端が短縮されたアミノ酸配列を表す配列を指す。C末端が短縮された断片(N末端断片)は、例えば、オープンリーディングフレームの3'末端を欠如する短縮オープンリーディングフレームの翻訳により得ることができる。N末端が短縮された断片(C末端断片)は、例えば、短縮オープンリーディングフレームが翻訳を開始させる役目を果たす開始コドンを含む限り、オープンリーディングフレームの5'末端を欠如する短縮オープンリーディングフレームの翻訳により得ることができる。アミノ酸配列の断片は、例えば、アミノ酸配列のアミノ酸残基の少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%を含む。アミノ酸配列の断片は、好ましくは、アミノ酸配列の少なくとも6個、特に少なくとも8個、少なくとも12個、少なくとも15個、少なくとも20個、少なくとも30個、少なくとも50個、又は少なくとも100個の連続したアミノ酸を含む。
【0251】
本明細書では、「バリアント」とは、少なくとも1つのアミノ酸改変により親アミノ酸配列と異なるアミノ酸配列を意味する。親アミノ酸配列は、天然に存在するか若しくは野生型(WT)のアミノ酸配列であってもよく、又は野生型アミノ酸配列の改変型であってもよい。好ましくは、バリアントアミノ酸配列は、親アミノ酸配列と比較して少なくとも1つのアミノ酸改変、例えば、親と比較して1~約20個のアミノ酸改変、好ましくは1~約10個、又は1~約5個のアミノ酸改変を有する。
【0252】
「野生型」又は「WT」又は「天然」は、本明細書では、対立遺伝子変異を含む、自然界に見出されるアミノ酸配列を意味する。野生型アミノ酸配列、ペプチド、又はタンパク質は、意図的に改変されていないアミノ酸配列を有する。
【0253】
本開示の目的では、アミノ酸配列(ペプチド、タンパク質、又はポリペプチド)の「バリアント」は、アミノ酸挿入バリアント、アミノ酸付加バリアント、アミノ酸欠失バリアント、及び/又はアミノ酸置換バリアントを含む。「バリアント」という用語は、全ての変異体、スプライスバリアント、翻訳後修飾バリアント、立体構造、アイソフォーム、対立遺伝子バリアント、種バリアント、及び種ホモログ、特に天然に存在するものを含む。「バリアント」という用語は、特に、アミノ酸配列の断片を含む。
【0254】
アミノ酸挿入バリアントは、特定のアミノ酸配列における単一の又は2つの又はそれよりも多くのアミノ酸の挿入を含む。挿入を有するアミノ酸配列バリアントの場合、アミノ酸配列の特定の部位に1つ又は複数のアミノ酸残基が挿入されているが、得られる産物の適切なスクリーニングによるランダム挿入も可能である。アミノ酸付加バリアントは、1、2、3、5、10、20、30、50個、又はそれよりも多くのアミノ酸等、1つ又は複数のアミノ酸のアミノ末端及び/又はカルボキシ末端融合体を含む。アミノ酸欠失バリアントは、配列から1つ又は複数のアミノ酸が除去されていることにより、例えば、1、2、3、5、10、20、30、50個、又はそれよりも多くのアミノ酸が除去されていることにより特徴付けられる。欠失は、タンパク質の任意の位置であってもよい。タンパク質のN末端及び/又はC末端の欠失を含むアミノ酸欠失バリアントは、N末端及び/又はC末端切断バリアントとも呼ばれる。アミノ酸置換バリアントは、配列の少なくとも1つの残基が除去されており、その代わりに別の残基が挿入されていることにより特徴付けられる。相同性タンパク質又はペプチド間で保存されていないアミノ酸配列の位置での改変、及び/又はアミノ酸を同様の特性を有する他のアミノ酸に置き換える改変が好ましい。好ましくは、ペプチド及びタンパク質バリアントにおけるアミノ酸変化は、保存的アミノ酸変化、つまり、同様の荷電アミノ酸又は非荷電アミノ酸の置換である。保存的アミノ酸変化は、側鎖に関するアミノ酸ファミリーの1つの置換を含む。天然に生じるアミノ酸は、一般に、4つのファミリー:酸性アミノ酸(アスパラギン酸、グルタミン酸)、塩基性アミノ酸(リジン、アルギニン、ヒスチジン)、非極性アミノ酸(アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、及び非荷電極性アミノ酸(グリシン、アスパラギン、グルタミン、システイン、セリン、トレオニン、チロシン)に別けられる。フェニルアラニン、トリプトファン、及びチロシンは、芳香族アミノ酸としてまとめて分類されることもある。一実施形態では、保存的アミノ酸置換としては、以下のグループ内での置換が挙げられる。
グリシン、アラニン;
バリン、イソロイシン、ロイシン;
アスパラギン酸、グルタミン酸;
アスパラギン、グルタミン;
セリン、トレオニン;
リジン、アルギニン;及び
フェニルアラニン、チロシン。
【0255】
好ましくは、所与のアミノ酸配列と、前記所与のアミノ酸配列のバリアントであるアミノ酸配列との間の類似性、好ましくは同一性の度合いは、少なくとも約80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%であるだろう。類似性又は同一性の度合いは、好ましくは、参照アミノ酸配列の全長の少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、又は約100%であるアミノ酸領域に対して与えられる。例えば、参照アミノ酸配列が200個のアミノ酸からなる場合、類似性又は同一性の度合いは、好ましくは、少なくとも約100個、少なくとも約120個、少なくとも約140個、少なくとも約160個、少なくとも約180個、又は約200個のアミノ酸、好ましくは連続アミノ酸に対して与えられる。好ましい実施形態では、類似性又は同一性の度合いは、参照アミノ酸配列の全長に対して与えられる。
【0256】
「配列類似性」は、同一であるか又は保存的アミノ酸置換を表すかのいずれかであるアミノ酸のパーセンテージを示す。2つのアミノ酸配列間の「配列同一性」は、配列間で同一であるアミノ酸のパーセンテージを示す。
【0257】
一実施形態では、アミノ酸配列(ペプチド又はタンパク質)の断片又はバリアントは、好ましくは、「機能的断片」又は「機能的バリアント」である。アミノ酸配列の「機能的断片」又は「機能的バリアント」という用語は、それが由来するアミノ酸配列の特性と同一であるか又は類似する1つ又は複数の機能的特性を呈するあらゆる断片又はバリアントに関し、つまりそれは機能的に同等である。抗原又は抗原性配列に関して、1つの特定の機能は、断片又はバリアントが由来するアミノ酸配列により示される1つ又は複数の免疫原性活性である。「機能的断片」又は「機能的バリアント」という用語は、本明細書で使用される場合、特に、親分子又は配列のアミノ酸配列と比較して1つ又は複数のアミノ酸が変更されたアミノ酸配列を含み、依然として親分子又は配列の機能の1つ又は複数、例えば、免疫応答の誘導を果たすことが可能なバリアント分子又は配列を指す。一実施形態では、親分子又は配列のアミノ酸配列の改変は、分子又は配列の特質に著しく影響を及ぼさないか又は変更しない。異なる実施形態では、機能的断片又は機能的バリアントの機能は低減されていてもよいが、依然として有意義に存在しており、例えば、機能的バリアントの免疫原性は、親分子又は配列の少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、又は少なくとも90%であってもよい。しかしながら、他の実施形態では、機能的断片又は機能的バリアントの免疫原性は、親分子又は配列と比較して増強されていてもよい。
【0258】
指定されたアミノ酸配列(ペプチド、タンパク質、又はポリペプチド)に「由来する」アミノ酸配列(ペプチド、タンパク質、又はポリペプチド)は、最初のアミノ酸配列の起源を指す。好ましくは、特定のアミノ酸配列に由来するアミノ酸配列は、その特定の配列又はその断片と同一であるか、本質的に同一であるか、又は相同性であるアミノ酸配列を有する。特定のアミノ酸配列に由来するアミノ酸配列は、その特定の配列又はその断片のバリアントであってもよい。例えば、当業者であれば、本明細書での使用に好適な抗原は、天然配列の望ましい活性を保持しつつ、それらが由来した天然に存在する配列又は天然配列とは配列が異なるように変更されていてもよいことが理解されるだろう。
【0259】
本明細書に記載のペプチド及びタンパク質抗原(CLDN6タンパク質、KK-LC-1タンパク質、MAGE-A3タンパク質、MAGE-A4タンパク質、PRAMEタンパク質、MAGE-C1タンパク質、及びNY-ESO-1タンパク質)は、抗原、つまりワクチン抗原をコードするRNAを投与することにより対象に提供されると、好ましくは、対象においてT細胞の刺激、初回刺激、及び/又は拡大増殖をもたらす。前記刺激され、初回刺激され、及び/又は拡大増殖したT細胞は、好ましくは、標的抗原、特に、疾患細胞、組織、及び/又は器官により発現される標的抗原、つまり疾患関連抗原に対して向けられる。したがって、ワクチン抗原は、疾患関連抗原、又はその断片若しくはバリアントを含んでいてもよい。一実施形態では、そのような断片又はバリアントは、疾患関連抗原と免疫学的に同等である。本開示の文脈では、「抗原の断片」又は「抗原のバリアント」という用語は、特に疾患細胞、組織、及び/又は器官の表面に発現されると、刺激された、初回刺激された、及び/又は拡大増殖したT細胞が疾患関連抗原を標的とする、T細胞の刺激、初回刺激、及び/又は拡大増殖をもたらす作用剤を意味する。したがって、本開示に従って投与されるワクチン抗原は、疾患関連抗原に対応していてもよく若しくはそれを含んでいてもよく、疾患関連抗原の断片に対応していてもよく若しくはそれを含んでいてもよく、又は疾患関連抗原若しくはその断片と相同性である抗原に対応していてもよく若しくはそれを含んでいてもよい。本開示に従って投与されるワクチン抗原が、疾患関連抗原の断片、又は疾患関連抗原の断片と相同性であるアミノ酸配列を含む場合、前記断片又はアミノ酸配列は、疾患関連抗原のエピトープ、又は疾患関連抗原のエピトープと相同性である配列を含んでいてもよく、T細胞は前記エピトープに結合する。したがって、本開示によると、抗原は、疾患関連抗原の免疫原性断片、又は疾患関連抗原の免疫原性断片と相同性であるアミノ酸配列を含んでいてもよい。本開示による「抗原の免疫原性断片」は、好ましくは、T細胞を刺激、初回刺激、及び/又は拡大増殖させることが可能である抗原の断片に関する。ワクチン抗原(疾患関連抗原に類似する)は、T細胞が結合するための関連エピトープを提供することが好ましい。また、ワクチン抗原(疾患関連抗原に類似する)は、T細胞が結合するための関連エピトープを提供するように、抗原提示細胞等の細胞の表面に発現されることが好ましい。本発明によるワクチン抗原は、組換え抗原であってもよい。
【0260】
「免疫学的に同等」という用語は、免疫学的に同等なアミノ酸配列等の免疫学的に同等な分子が、例えば、免疫学的効果のタイプに関して、同じ又は本質的に同じ免疫学的特性を呈し、及び/又は同じ又は本質的に同じ免疫学的効果を発揮することを意味する。本開示の文脈では、「免疫学的に同等」という用語は、好ましくは、抗原又は抗原バリアントの免疫学的効果又は特性に関して使用される。例えば、アミノ酸配列は、参照アミノ酸配列に結合するT細胞又は参照アミノ酸配列を発現する細胞に曝露された際に、前記アミノ酸配列が、参照アミノ酸配列と反応する特異性、特にT細胞の刺激、初回刺激、及び/又は拡大増殖を示す免疫反応を誘導する場合、参照アミノ酸配列と免疫学的に同等である。したがって、抗原と免疫学的に同等である分子は、T細胞の刺激、初回刺激、及び/又は拡大増殖に関して、T細胞が標的とする抗原と同じ若しくは本質的に同じ特性を呈し、及び/又は同じ若しくは本質的に同じ効果を発揮する。
【0261】
「活性化」又は「刺激」は、本明細書で使用される場合、検出可能な細胞増殖を誘導するのに十分な刺激を受けたT細胞の状態を指す。活性化は、サイトカイン産生の誘導及び検出可能なエフェクター機能とも関連付けることができる。「活性化T細胞」という用語は、とりわけ、細胞分裂を起こしているT細胞を指す。
【0262】
「初回刺激」という用語は、T細胞がその特異的な抗原と初めて接触し、エフェクターT細胞への分化を引き起こすプロセスを指す。
【0263】
「クローン性拡大増殖」又は「拡大増殖」という用語は、特定の実体が倍増するプロセスを指す。本開示の文脈では、この用語は、好ましくは、リンパ球が抗原により刺激され、増殖し、前記抗原を認識する特異的なリンパ球が増幅される免疫学的応答の文脈で使用される。好ましくは、クローン性拡大増殖は、リンパ球の分化に結び付く。
【0264】
リポプレックス粒子
ワクチン抗原をコードするRNAは、粒子、例えばタンパク質及び/又は脂質粒子として製剤化して投与してもよい。本開示のある特定の実施形態では、本明細書に記載のRNAは、RNAリポプレックス粒子に存在していてもよい。本明細書に記載のRNAリポプレックス粒子及びRNAリポプレックス粒子を含む組成物は、非経口投与後、特に静脈内投与後にRNAを標的組織へと送達するために有用である。RNAリポプレックス粒子は、脂質のエタノール溶液を水又は好適な水性相に注入することにより得ることができるリポソームを使用して調製することができる。一実施形態では、水性相は、酸性pHを有する。一実施形態では、水性相は、例えば約5mMの量の酢酸を含む。一実施形態では、リポソーム及びRNAリポプレックス粒子は、少なくとも1つのカチオン性脂質及び少なくとも1つの追加の脂質を含む。一実施形態では、少なくとも1つのカチオン性脂質は、1,2-ジ-O-オクタデセニル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTMA)及び/又は1,2-ジオレオイル-3-トリメチルアンモニウム-プロパン(DOTAP)を含む。一実施形態では、少なくとも1つの追加の脂質は、1,2-ジ-(9Z-オクタデセノイル)-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DOPE)、コレステロール(Chol)、及び/又は1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DOPC)を含む。一実施形態では、少なくとも1つのカチオン性脂質は、1,2-ジ-O-オクタデセニル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTMA)を含み、少なくとも1つの追加の脂質は、1,2-ジ-(9Z-オクタデセノイル)-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DOPE)を含む。一実施形態では、リポソーム及びRNAリポプレックス粒子は、1,2-ジ-O-オクタデセニル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTMA)及び1,2-ジ-(9Z-オクタデセノイル)-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DOPE)を含む。リポソームは、リポソームをRNAと混合することによりRNAリポプレックス粒子を調製するために使用することができる。
【0265】
脾臓標的指向性RNAリポプレックス粒子は、国際公開第2013/143683号に記載されており、この文献は参照により本明細書に組み込まれる。正味負電荷を有するRNAリポプレックス粒子を使用して、抗原提示細胞、特に樹状細胞等の、脾臓組織又は脾臓細胞を優先的に標的とすることができることが見出されている。したがって、RNAリポプレックス粒子の投与後、脾臓におけるRNA蓄積及び/又はRNA発現が生じる。したがって、本開示のRNAリポプレックス粒子は、脾臓においてRNAを発現させるために使用することができる。実施形態では、RNAリポプレックス粒子の投与後、肺及び/又は肝臓におけるRNA蓄積及び/又はRNA発現は、全く生じないか又は本質的に生じない。一実施形態では、RNAリポプレックス粒子の投与後、脾臓のプロフェッショナル抗原提示細胞等の抗原提示細胞におけるRNA蓄積及び/又はRNA発現が生じる。したがって、本開示のRNAリポプレックス粒子は、そのような抗原提示細胞においてRNAを発現させるために使用することができる。一実施形態では、抗原提示細胞は、樹状細胞及び/又はマクロファージである。
【0266】
RNAリポプレックス粒子直径
本明細書に記載のRNAリポプレックス粒子は、一実施形態では、約200nm~約1000nm、約200nm~約800nm、約250~約700nm、約400~約600nm、約300nm~約500nm、又は約350nm~約400nmの範囲の平均直径を有する。実施形態では、RNAリポプレックス粒子は、約250nm~約700nmの範囲の平均直径を有する。別の実施形態では、RNAリポプレックス粒子は、約300nm~約500nmの範囲の平均直径を有する。例示的な実施形態では、RNAリポプレックス粒子は、約400nmの平均直径を有する。
【0267】
一実施形態では、本明細書に記載のRNAリポプレックス粒子は、約0.5未満、約0.4未満、又は約0.3未満の多分散指数を呈する。例として、RNAリポプレックス粒子は、約0.1~約0.3の範囲の多分散指数を呈することができる。
【0268】
脂質
一実施形態では、本明細書に記載の脂質溶液、リポソーム、及びRNAリポプレックス粒子は、カチオン性脂質を含む。本明細書で使用される場合、「カチオン性脂質」は、正味正電荷を有する脂質を指す。カチオン性脂質は、脂質マトリックスとの静電相互作用により負荷電RNAに結合する。一般に、カチオン性脂質は、ステロール鎖、アシル鎖、又はジアシル鎖等の親油性部分を有し、脂質の頭部基は、典型的には正電荷を帯びている。カチオン性脂質の例としては、1,2-ジ-O-オクタデセニル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTMA)、ジメチルジオクタデシルアンモニウム(DDAB)、1,2-ジオレオイル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTAP)、1,2-ジオレオイル-3-ジメチルアンモニウム-プロパン(DODAP)、1,2-ジアシルオキシ-3-ジメチルアンモニウムプロパン、1,2-ジアルキルオキシ-3-ジメチルアンモニウムプロパン、ジオクタデシルジメチルアンモニウムクロリド(DODAC)、2,3-ジ(テトラデコキシ)プロピル-(2-ヒドロキシエチル)-ジメチルアザニウム(DMRIE)、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-エチルホスホコリン(DMEPC)、1,2-ジミリストイル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DMTAP)、1,2-ジオレイルオキシプロピル-3-ジメチル-ヒドロキシエチルアンモニウムブロミド(DORIE)、及び2,3-ジオレイルオキシ-N-[2(スペルミンカルボキサミド)エチル]-N,N-ジメチル-1-プロパンアミウムトリフルオロアセテート(DOSPA)が挙げられるが、それらに限定されない。DOTMA、DOTAP、DODAC、及びDOSPAが好ましい。特定の実施形態では、カチオン性脂質は、DOTMA及び/又はDOTAPである。
【0269】
追加の脂質を組み込んで、RNAリポプレックス粒子の全体的正電荷対負電荷比及び物理的安定性を調整することができる。ある特定の実施形態では、追加の脂質は中性脂質である。本明細書で使用される場合、「中性脂質」は、正味電荷がゼロである脂質を指す。中性脂質の例としては、1,2-ジ-(9Z-オクタデセノイル)-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DOPE)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DOPC)、ジアシルホスファチジルコリン、ジアシルホスファチジルエタノールアミン、セラミド、スフィンゴミエリン、セファリン、コレステロール、及びセレブロシドが挙げられるが、これらに限定されない。特定の実施形態では、追加の脂質は、DOPE、コレステロール、及び/又はDOPCである。
【0270】
ある特定の実施形態では、RNAリポプレックス粒子は、カチオン性脂質及び追加の脂質の両方を含む。例示的な実施形態では、カチオン性脂質はDOTMAであり、追加の脂質はDOPEである。理論に束縛されることは望まないが、少なくとも1つの追加の脂質の量と比較した少なくとも1つのカチオン性脂質の量は、RNAの電荷、粒径、安定性、組織選択性、及び生物活性等の重要なRNAリポプレックス粒子特質に影響を及ぼす可能性がある。したがって、一部の実施形態では、少なくとも1つのカチオン性脂質の少なくとも1つの追加の脂質に対するモル比は、約10:0~約1:9、約4:1~約1:2、又は約3:1~約1:1である。特定の実施形態では、モル比は、約3:1、約2.75:1、約2.5:1、約2.25:1、約2:1、約1.75:1、約1.5:1、約1.25:1、又は約1:1であってもよい。例示的な実施形態では、少なくとも1つのカチオン性脂質の少なくとも1つの追加の脂質に対するモル比は約2:1である。
【0271】
電荷比
本開示のRNAリポプレックス粒子の電荷は、少なくとも1つのカチオン性脂質に存在する電荷及びRNAに存在する電荷の合計である。電荷比は、少なくとも1つのカチオン性脂質に存在する正電荷の、RNAに存在する負電荷に対する比である。少なくとも1つのカチオン性脂質に存在する正電荷の、RNAに存在する負電荷に対する電荷比は、以下の数式により算出される:電荷比=[(カチオン性脂質濃度(mol))*(カチオン性脂質の正電荷の総数)]/[(RNA濃度(mol))*(RNAの負電荷の総数)]。RNAの濃度及び少なくとも1つのカチオン性脂質の量は、当業者であれば日常的な方法を使用して決定することができる。
【0272】
一実施形態では、生理学的pHにおける、RNAリポプレックス粒子における正電荷対負電荷の電荷比は、約1.6:2~約1:2、又は約1.6:2~約1.1:2である。特定の実施形態では、RNAリポプレックス粒子における正電荷対負電荷の電荷比は、生理学的pHでは、約1.6:2.0、約1.5:2.0、約1.4:2.0、約1.3:2.0、約1.2:2.0、約1.1:2.0、又は約1:2.0である。
【0273】
そのような電荷比を有するRNAリポプレックス粒子を使用して、抗原提示細胞、特に樹状細胞等の脾臓組織又は脾臓細胞を優先的に標的とすることができることが見出されている。したがって、一実施形態では、RNAリポプレックス粒子の投与後、脾臓におけるRNA蓄積及び/又はRNA発現が生じる。したがって、本開示のRNAリポプレックス粒子は、脾臓にてRNAを発現させるために使用することができる。実施形態では、RNAリポプレックス粒子の投与後、肺及び/又は肝臓におけるRNA蓄積及び/又はRNA発現は、全く生じないか又は本質的に生じない。一実施形態では、RNAリポプレックス粒子の投与後、脾臓のプロフェッショナル抗原提示細胞等の抗原提示細胞におけるRNA蓄積及び/又はRNA発現が生じる。したがって、本開示のRNAリポプレックス粒子は、そのような抗原提示細胞にてRNAを発現させるために使用することができる。一実施形態では、抗原提示細胞は、樹状細胞及び/又はマクロファージである。
【0274】
A. 塩及びイオン強度
本開示によると、本明細書に記載の組成物は、塩化ナトリウム等の塩を含んでいてもよい。理論に束縛されることは望まないが、塩化ナトリウムは、少なくとも1つのカチオン性脂質と混合する前にRNAを前処理するためのイオン性浸透圧剤として機能する。本開示においてある特定の実施形態では、塩化ナトリウムの代わりに代替的な有機塩又は無機塩が企図される。代替的な塩としては、限定ではないが、塩化カリウム、リン酸二カリウム、リン酸一カリウム、酢酸カリウム、炭酸水素カリウム、硫酸カリウム、酢酸カリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸一ナトリウム、酢酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、硫酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、塩化リチウム、塩化マグネシウム、リン酸マグネシウム、塩化カルシウム、及びエチレンジアミン四酢酸(EDTA)のナトリウム塩が挙げられる。
【0275】
一般に、本明細書に記載のRNAリポプレックス粒子を含む組成物は、好ましくは、0mM~約500mM、約5mM~約400mM、又は約10mM~約300mMの範囲の濃度の塩化ナトリウムを含む。一実施形態では、RNAリポプレックス粒子を含む組成物は、そのような塩化ナトリウム濃度に対応するイオン強度を含む。
【0276】
B. 安定剤
本明細書に記載の組成物は、凍結、凍結乾燥、噴霧乾燥中に、又は凍結、凍結乾燥、若しくは噴霧乾燥された組成物の保管等の保管中に、製品品質の大幅な喪失、特にRNA活性の大幅な喪失を回避するために安定剤を含んでいてもよい。
【0277】
実施形態では、安定剤は炭水化物である。「炭水化物」という用語は、本明細書で使用される場合、単糖、二糖、三糖、オリゴ糖、及び多糖を指し、それらを包含する。
【0278】
本開示の実施形態では、安定剤は、マンノース、グルコース、スクロース、又はトレハロースである。
【0279】
本開示によると、本明細書に記載のRNAリポプレックス粒子組成物は、組成物の安定性にとって、特にRNAリポプレックス粒子の安定性にとって及びRNAの安定性にとって好適な安定剤濃度を有する。
【0280】
C. pH及び緩衝剤
本開示によると、本明細書に記載のRNAリポプレックス粒子組成物は、RNAリポプレックス粒子の安定性にとって、特にRNAの安定性にとって好適なpHを有する。一実施形態では、本明細書に記載のRNAリポプレックス粒子組成物は、約5.5~約7.5のpHを有する。
【0281】
本開示によると、緩衝剤を含む組成物が提供される。理論に束縛されることは望まないが、緩衝剤の使用により、組成物の製造、保管、及び使用中に組成物のpHが維持される。本開示のある特定の実施形態では、緩衝剤は、炭酸水素ナトリウム、リン酸一ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸一カリウム、リン酸二カリウム、[トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミノ]プロパンスルホン酸(TAPS)、2-(ビス(2-ヒドロキシ-エチル)アミノ)酢酸(ビシン)、2-アミノ-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-1,3-ジオール(Tris)、N-(2-ヒドロキシ-1,1-ビス(ヒドロキシメチル)エチル)グリシン(トリシン)、3-[[1,3-ジヒドロキシ-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-2-イル]アミノ]-2-ヒドロキシプロパン-1-スルホン酸(TAPSO)、2-[4-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-1-イル]エタンスルホン酸(HEPES)、2-[[1,3-ジヒドロキシ-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-2-イル]アミノ]エタンスルホン酸(TES)、1,4-ピペラジンジエタンスルホン酸(PIPES)、ジメチルアルシン酸、2-モルホリン-4-イルエタンスルホン酸(MES)、3-モルホリノ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸(MOPSO)、又はリン酸緩衝生理食塩水(PBS)であってもよい。他の好適な緩衝剤は、酢酸の塩、クエン酸の塩、ホウ酸の塩、及びリン酸の塩であってもよい。
【0282】
一実施形態では、緩衝剤は、HEPESである。
【0283】
一実施形態では、緩衝剤は、約2.5mM~約15mMの濃度を有する。
【0284】
D. キレート剤
本開示のある特定の実施形態では、キレート剤の使用が企図される。キレート剤は、金属イオンと少なくとも2つの配位共有結合を形成し、それにより安定した水溶性錯体を生成することが可能な化学的化合物を指す。理論に束縛されることは望まないが、キレート剤は、本開示において、そうでなければRNA分解の加速を誘導する可能性のある遊離二価イオンの濃度を低減させる。好適なキレート剤の例としては、限定ではないが、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、EDTAの塩、デスフェリオキサミンB、デフェロキサミン、ジチオカルブナトリウム、ペニシラミン、ペンテト酸カルシウム、ペンテト酸のナトリウム塩、サクシマー、トリエンチン、ニトリロ三酢酸、トランス-ジアミノシクロヘキサン四酢酸(DCTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、ビス(アミノエチル)グリコールエーテル-N,N,N',N'-四酢酸、イミノ二酢酸、クエン酸、酒石酸、フマル酸、又はそれらの塩が挙げられる。ある特定の実施形態では、キレート剤は、EDTA又はEDTAの塩である。例示的な実施形態では、キレート剤は、EDTA二ナトリウム二水和物である。
【0285】
一部の実施形態では、EDTAは、約0.05mM~約5mMの濃度である。
【0286】
E. 本開示の組成物の物理的状態
実施形態では、本開示の組成物は、液体又は固体である。固体の非限定的な例としては、凍結形態又は凍結乾燥形態が挙げられる。好ましい実施形態では、組成物は液体である。
【0287】
一部の実施形態では、本開示の組成物は、本明細書に記載のワクチン抗原をコードするRNA、HEPES等の緩衝剤、DOTMA等のカチオン性脂質、DOPE等のヘルパー脂質、EDTA等の安定剤、塩化ナトリウム等の浸透圧剤、スクロース等の凍結保護剤、及び注射用水等の溶媒を含む。一部の実施形態では、DOTMA等のカチオン性脂質及びDOPE等のヘルパー脂質は、RNAと複合体化する。一部の実施形態では、DOTMA等のカチオン性脂質及びDOPE等のヘルパー脂質は、RNAとのRNAリポプレックス粒子を形成する。一部の実施形態では、本開示の組成物は、本明細書に記載のワクチン抗原をコードするRNA、HEPES、DOTMA、DOPE、EDTA、塩化ナトリウム、スクロース、及び注射用水を含む。
【0288】
本開示の医薬組成物
本明細書に記載の作用剤は、医薬組成物又は医薬として投与することができ、任意の好適な医薬組成物の形態で投与することができる。一実施形態では、本明細書に記載の医薬組成物は、対象において肺がんに対する免疫応答を誘導するための免疫原性組成物である。例えば、一実施形態では、免疫原性組成物はワクチンである。
【0289】
本発明の全ての態様の一実施形態では、ワクチン抗原をコードするRNA等の本明細書に記載の成分は、薬学的に許容される担体を含んでいてもよく、任意選択で1つ又は複数のアジュバント、安定剤等を含んでいてもよい医薬組成物で投与してもよい。一実施形態では、医薬組成物は、療法的治療又は予防的治療のためであり、例えば、肺がんの治療又は予防に使用するためのものである。
【0290】
本明細書に記載のRNAは、例えば、RNAリポプレックス粒子として製剤化され、療法的治療又は予防的治療のための医薬組成物又は医薬として、又はそれらの調製に有用である。
【0291】
本開示の組成物は、任意の好適な医薬組成物の形態で投与することができる。
【0292】
「医薬組成物」という用語は、好ましくは薬学的に許容される担体、希釈剤、及び/又は賦形剤と共に、療法的に有効な作用剤を含む製剤に関する。前記医薬組成物は、前記医薬組成物を対象に投与することにより、疾患又は障害を治療、予防、又はその重症度を低減するために有用である。医薬組成物は、当技術分野では医薬製剤としても知られている。本開示の文脈では、医薬組成物は、例えばRNAリポプレックス粒子として製剤化された、本明細書に記載のRNAを含む。
【0293】
本開示の医薬組成物は、好ましくは1つ若しくは複数のアジュバントを含むか、又は1つ若しくは複数のアジュバントと共に投与してもよい。「アジュバント」という用語は、免疫応答を延長、増強、又は加速させる化合物を指す。アジュバントは、油乳剤(例えば、フロイントアジュバント)、ミネラル化合物(ミョウバン等)、細菌産物(百日咳菌(Bordetella pertussis)毒素等)、又は免疫刺激複合体等の異種性化合物群を含む。アジュバントの例としては、限定ではないが、LPS、GP96、CpGオリゴデオキシヌクレオチド、増殖因子、及びモノカイン、リンホカイン、インターロイキン、ケモカイン等のサイトカインが挙げられる。ケモカインは、IL-1、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IL-12、INFa、INF-γ、GM-CSF、LT-aであってもよい。更なる既知アジュバントは、水酸化アルミニウム、フロイントアジュバント、又はMontanide(登録商標)ISA51等の油である。本開示で使用するための他の好適なアジュバントとしては、Pam3Cys等のリポペプチドが挙げられる。
【0294】
本開示による医薬組成物は、一般に、「薬学的有効量」及び「薬学的に許容される調製物」に適用される。
【0295】
「薬学的に許容される」という用語は、医薬組成物の有効成分の作用と相互作用しない物質の非毒性を指す。
【0296】
「薬学的有効量」という用語は、単独で又は更なる用量と共に、所望の反応又は所望の効果を達成する量を指す。特定の疾患を治療する場合、所望の反応は、好ましくは、疾患の経過の阻害に関する。これには、疾患の進行を緩徐させること、特に疾患の進行を中断又は逆転させることが含まれる。また、疾患の治療に望ましい反応は、前記疾患又は前記状態の発症の遅延又は発症の予防であってもよい。本明細書に記載の組成物の有効量は、治療しようとする状態、疾患の重症度、年齢、生理学的状態、体格、及び体重を含む患者の個々のパラメーター、治療の期間、付随する療法のタイプ(存在する場合)、投与の特定の経路、及び類似の要因に依存することになる。したがって、本明細書に記載の組成物の投与用量は、そのような種々のパラメーターに依存する可能性がある。初回用量で患者の反応が不十分な場合は、より高い用量(又は異なるより局所的な投与経路により達成されるより高い有効用量)を使用してもよい。
【0297】
一部の実施形態では、有効量は、腫瘍/病変の縮小を引き起こすのに十分な量を含む。一部の実施形態では、有効量は、腫瘍の増殖速度を減少させるのに(腫瘍増殖を抑制する等)十分な量である。一部の実施形態では、有効量は、腫瘍発達の遅延に十分な量である。一部の実施形態では、有効量は、腫瘍再発の予防又は遅延に十分な量である。一部の実施形態では、有効量は、腫瘍増殖及び/又はサイズ及び/又は転移が低減、遅延、改善、及び/又は予防されるように、腫瘍に対する対象の免疫応答を増加させるのに十分な量である。有効量は、1回又は複数回の投与で投与することができる。一部の実施形態では、有効量(例えば、mRNAを含む組成物の)の投与は、(i)がん細胞の数を低減させることができ、(ii)腫瘍サイズを低減させることができ、(iii)がん細胞の末梢器官への浸潤をある程度阻害、遅延、緩徐させることができ、停止させることができ、(iv)転移を阻害(例えば、ある程度緩徐及び/又は遮断若しくは防止する)ことができ、(v)腫瘍増殖を阻害することができ、(vi)腫瘍の発生及び/若しくは再発を予防若しくは遅延させることができ、及び/又は(vii)がんに関連付けられる症状の1つ若しくは複数をある程度緩和することができる。
【0298】
本開示の医薬組成物は、塩、緩衝剤、保存剤、及び任意選択で他の療法剤を含んでいてもよい。一実施形態では、本開示の医薬組成物は、1つ又は複数の薬学的に許容される担体、希釈剤、及び/又は賦形剤を含む。
【0299】
本開示の医薬組成物での使用に好適な保存剤としては、限定ではないが、塩化ベンザルコニウム、クロロブタノール、パラベン、及びチメロサールが挙げられる。
【0300】
「賦形剤」という用語は、本明細書で使用される場合、本開示の医薬組成物に存在してもよいが、有効成分ではない物質を指す。賦形剤の例としては、限定ではないが、担体、結合剤、希釈剤、潤滑剤、増粘剤、界面活性剤、保存剤、安定剤、乳化剤、緩衝剤、香味料、又は着色剤が挙げられる。
【0301】
「希釈剤」という用語は、希釈用の及び/又は希薄用の作用剤を指す。更に、「希釈剤」という用語は、流体、液体、又は個体懸濁物、及び/又は混合媒体のいずれか1つ又は複数を含む。好適な希釈剤の例としては、エタノール、グリセロール、及び水が挙げられる。
【0302】
「担体」という用語は、医薬組成物の投与を容易にするか、増強するか、又は可能にするために有効成分が組み合わされている、天然、合成、有機、無機であってもよい成分を指す。担体は、本明細書で使用される場合、対象への投与に好適である1つ又は複数の適合性の固体又は液体充填剤、希釈剤、又は封入物質であってもよい。好適な担体としては、限定ではないが、滅菌水、リンゲル液、乳酸リンゲル液、滅菌塩化ナトリウム溶液、等張性生理食塩水、ポリアルキレングリコール、水素化ナフタレン、及び特に生体適合性ラクチドポリマー、ラクチド/グリコリドコポリマー、又はポリオキシエチレン/ポリオキシプロピレンコポリマーが挙げられる。一実施形態では、本開示の医薬組成物は、等張性生理食塩水を含む。
【0303】
療法使用のための薬学的に許容される担体、賦形剤、又は希釈剤は、薬学分野では周知であり、例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences、Mack Publishing Co.(A. R Gennaro編、1985年)に記載されている。
【0304】
薬学的な担体、賦形剤、又は希釈剤は、意図されている投与経路及び標準的な薬学的慣習を考慮して選択することができる。
【0305】
本開示の医薬組成物の投与経路
一実施形態では、本明細書に記載の医薬組成物は、静脈内、動脈内、皮下、皮内、結節内、又は筋肉内に投与することができる。ある特定の実施形態では、医薬組成物は、局所投与用又は全身投与用に製剤化されている。全身投与は、消化管を介した吸収を伴う経腸投与、又は非経口投与を含んでいてもよい。本明細書で使用される場合、「非経口投与」は、静脈内注射による等、経胃腸管以外の任意の様式での投与を指す。好ましい実施形態では、医薬組成物は、全身投与用に製剤化されている。別の好ましい実施形態では、全身投与は静脈内投与による。
【0306】
本開示の医薬組成物の使用
例えばRNAリポプレックス粒子として製剤化された、本明細書に記載のRNAは、RNAによりコードされているアミノ酸配列を対象に提供することにより、療法効果又は予防効果がもたらされる、疾患の療法的治療又は予防的治療に使用することができる。
【0307】
「疾患」という用語は、個体の身体に影響を及ぼす異常な状態を指す。疾患は、多くの場合、特定の症状及び兆候に関連付けられる医学的状態であると解釈される。疾患は、感染性疾患等の外部供給源に起源がある要因により引き起こされる可能性があり、又は自己免疫疾患等の内部機能不全により引き起こされる可能性がある。ヒトの場合、「疾患」は、より幅広く使用されることが多く、罹患した個体に対して疼痛、機能不全、苦痛、社会的問題、若しくは死亡を引き起こすか、又は個体と接触したものに同様の問題を引き起こすあらゆる状態を指す。このより幅広い意味では、「疾患」には、傷害、身体障害、障害、症候群、感染症、単発症状、逸脱行動、構造及び機能の非定型的変化が含まれることがあるが、他の文脈及び他の目的では、これらは区別可能なカテゴリーとみなすことができる。疾患は、通常、身体だけでなく精神にも影響を及ぼす。多くの疾患にかかり、それらを抱えて生きることは、人生観及び性格を変化させる可能性があるからである。
【0308】
本文脈において、「治療」、「治療すること」、又は「療法的介入」という用語は、疾患又は障害等の状態と闘うことを目的とした、対象の管理及びケアに関する。この用語は、症状又は合併症を軽減するため、疾患、障害、若しくは状態の進行を遅延させるため、症状及び合併症を軽減若しくは緩和するため、及び/又は疾患、障害、若しくは状態を治癒若しくは除去するため、並びに状態を予防するための療法的に有効な化合物の投与等、対象が患っている所与の状態に対するあらゆる種類の治療を含むことが意図されており、予防は、疾患、状態、又は障害と闘う目的での個体の管理及びケアであると理解されるべきであり、症状又は合併症の発症を予防するための活性化合物の投与を含む。
【0309】
「療法的治療」という用語は、個体の健康状態を向上させ、及び/又は寿命を延ばす(増加させる)あらゆる治療を指す。前記治療は、個体における疾患を排除し、個体における疾患の発達を停止若しくは緩徐させ、個体における疾患の発達を阻害若しくは緩徐させ、個体における症状の頻度若しくは重症度を減少させ、及び/又は現在疾患を有するか若しくは過去に有していた個体における再発を減少させることができる。
【0310】
「予防的治療」又は「防止的治療」という用語は、個体における疾患の発生を予防することが意図されているあらゆる治療を指す。本明細書では、「予防的治療」又は「防止的治療」という用語は同義的に使用される。
【0311】
「個体」及び「対象」という用語は、本明細書では同義的に使用される。こうした用語は、疾患若しくは障害(例えば、がん)に罹患している可能性があるか又は罹患し易いが、疾患若しくは障害を有していてもよく又は有していなくてもよいヒト又は他の哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウシ、ブタ、ヒツジ、ウマ、又は霊長類)を指す。多くの実施形態では、個体はヒトである。別様に述べられていない限り、「個体」及び「対象」という用語は、特定の年齢を示すものではなく、したがって成体、高齢個体、仔、及び新生仔を包含する。本開示の実施形態では、「個体」又は「対象」は「患者」である。
【0312】
「患者」という用語は、治療するための個体又は対象、特に疾患個体又は対象を意味する。
【0313】
本開示の一実施形態では、1つ又は複数の腫瘍抗原を発現するがん細胞に対する免疫応答を提供すること、及び1つ又は複数の腫瘍抗原を発現する細胞が関与するがん疾患を治療することを目的とする。一実施形態では、がんは肺がんである。一実施形態では、がんは非小細胞肺がん、例えば、非扁平上皮癌及び扁平上皮癌等の、進行性又は転移性非小細胞肺がんである。一実施形態では、がんは、切除不能ステージIII又は転移性ステージIVのNSCLCである。一実施形態では、腫瘍抗原は、CLDN6、KK-LC-1、MAGE-A3、MAGE-A4、PRAMEであり、任意選択で、MAGE-C1及びNY-ESO-1の一方又は両方である。
【0314】
RNAを含む医薬組成物は、対象に投与して、対象において、RNAによりコードされている1つ若しくは複数の抗原又は1つ若しくは複数のエピトープに対する免疫応答を誘発することができ、療法的であってもよく又は部分的若しくは完全に防御的であってもよい。当業者であれば、免疫療法及びワクチン接種の原理の1つは、治療しようとする疾患に関して免疫学的に関連する抗原又はエピトープで対象を免疫することにより、疾患に対する免疫保護反応が生成されるという事実に基づくことを知っているであろう。したがって、本明細書に記載の医薬組成物は、免疫応答を誘導又は増強するために適用可能である。したがって、本明細書に記載の医薬組成物は、抗原又はエピトープが関与する疾患、特に肺がんの予防的及び/又は療法的治療に有用である。
【0315】
本明細書で使用される場合、「免疫応答」は、抗原又は抗原を発現する細胞に対する総合的な身体応答を指し、細胞性免疫応答及び/又は体液性免疫応答を指す。細胞性免疫応答としては、限定ではないが、抗原を発現し、クラスI又はクラスII MHC分子による抗原の提示により特徴付けられる細胞に対する細胞性応答が挙げられる。細胞性反応は、Tリンパ球に関しており、Tリンパ球は、免疫応答を調節することにより中心的な役割を果たすヘルパーT細胞(CD4+ T細胞とも称される)又は感染細胞若しくはがん細胞にアポトーシスを誘導するキラー細胞(細胞傷害性T細胞、CD8+ T細胞、又はCTLとも称される)に分類することができる。一実施形態では、本開示の医薬組成物の投与は、1つ又は複数の腫瘍抗原を発現するがん細胞に対する抗腫瘍CD8+ T細胞応答の刺激を含む。特定の実施形態では、腫瘍抗原は、クラスI MHC分子により提示される。
【0316】
本開示は、防御的、防止的、予防的、及び/又は療法的であってもよい免疫応答を企図する。本明細書で使用される場合、「免疫応答を誘導する[又は誘導すること]」は、誘導前には特定の抗原に対する免疫応答が存在しなかったことを示す場合もあり、又は誘導前には特定の抗原に対する基礎レベルの免疫応答が存在し、誘導後にそれが増強されたことを示す場合もある。したがって、「免疫反応を誘導する[又は誘導すること]」は、「免疫応答を増強する[又は増強すること]」を含む。
【0317】
「免疫療法」という用語は、免疫反応を誘導又は増強することにより疾患又は状態を治療することを指す。「免疫療法」という用語は、抗原免疫化又は抗原ワクチン接種を含む。
【0318】
「免疫化」又は「ワクチン接種」という用語は、例えば療法又は予防の理由で免疫応答を誘導する目的で個体に抗原を投与するプロセスを表す。
【0319】
一実施形態では、本開示は、脾臓組織を標的とする本明細書に記載のRNAリポプレックス粒子が投与される実施形態を起想する。RNAは、例えば本明細書に記載の抗原又はエピトープを含むペプチド又はタンパク質をコードする。RNAは、樹状細胞等の脾臓の抗原提示細胞により取り込まれ、ペプチド又はタンパク質を発現する。抗原提示細胞による任意選択のプロセシング及び提示に続いて、抗原又はエピトープに対する免疫応答が生成され、抗原又はエピトープが関与する疾患の予防的及び/又は療法的治療をもたらすことができる。一実施形態では、本明細書に記載のRNAリポプレックス粒子により誘導される免疫応答は、樹状細胞及び/又はマクロファージ等の抗原提示細胞による、エピトープ等の抗原又はその断片の提示、及びこの提示による細胞傷害性T細胞の活性化を含む。例えば、RNA又はそれらのプロセッション産物によりコードされるペプチド又はタンパク質を、抗原提示細胞上に発現される主要組織適合遺伝子複合体(MHC)タンパク質により提示させることができる。次いで、MHCペプチド複合体は、T細胞又はB細胞等の免疫細胞により認識され、それらの活性化に結び付く。
【0320】
したがって、一実施形態では、本明細書に記載のRNAリポプレックス粒子のRNAは、投与後に、脾臓に送達され、及び/又は脾臓で発現される。一実施形態では、RNAリポプレックス粒子は、脾臓抗原提示細胞を活性化するために脾臓に送達される。したがって、一実施形態では、RNAリポプレックス粒子の投与後、抗原提示細胞でのRNA送達及び/又はRNA発現が生じる。抗原提示細胞は、プロフェッショナル抗原提示細胞であってもよく又は非プロフェッショナル抗原提示細胞であってもよい。プロフェッショナル抗原提示細胞は、樹状細胞及び/又はマクロファージであってもよく、更により好ましくは、脾臓樹状細胞及び/又は脾臓マクロファージであってもよい。
【0321】
したがって、本開示は、免疫応答、好ましくは肺がんに対する免疫応答を誘導又は増強するための、本明細書に記載のRNAリポプレックス粒子又はRNAリポプレックス粒子を含む医薬組成物に関する。
【0322】
一実施形態では、本明細書に記載のRNAリポプレックス粒子又はRNAリポプレックス粒子を含む医薬組成物の全身投与は、RNAリポプレックス粒子又はRNAの脾臓への標的化及び/又は蓄積をもたらし、肺及び/又は肝臓への標的化及び/又は蓄積をもたらさない。一実施形態では、RNAリポプレックス粒子は、脾臓にてRNAを放出し、及び/又は脾臓の細胞に進入する。一実施形態では、本明細書に記載のRNAリポプレックス粒子又はRNAリポプレックス粒子を含む医薬組成物を全身投与すると、RNAが脾臓の抗原提示細胞へと送達される。特定の実施形態では、脾臓の抗原提示細胞は、樹状細胞又はマクロファージである。
【0323】
「マクロファージ」という用語は、単球の分化により産生される食細胞のサブグループを指す。炎症、免疫サイトカイン、又は微生物産物により活性化されたマクロファージは、加水分解及び酸化攻撃によりマクロファージ内の外来性病原体を非特異的に貪食及び死滅させ、病原体の分解をもたらす。分解されたタンパク質に由来するペプチドは、マクロファージ細胞表面に提示され、そこでT細胞により認識され得、B細胞表面上の抗体と直接的に相互作用して、T細胞及びB細胞活性化並びに免疫応答の更なる刺激をもたらすことができる。マクロファージは、抗原提示細胞のクラスに属する。一実施形態では、マクロファージは、脾臓マクロファージである。
【0324】
「樹状細胞」(DC)という用語は、抗原提示細胞のクラスに属する食細胞の別のサブタイプを指す。一実施形態では、樹状細胞は、造血骨髄前駆細胞に由来する。こうした前駆細胞は、まず未熟樹状細胞へと変化する。こうした未熟細胞は、高い貪食活性及び低いT細胞活性化能力により特徴付けられる。未熟樹状細胞は、ウイルス及び細菌等の病原体を探すために周囲環境を絶えずサンプリングしている。未熟樹状細胞は、提示可能な抗原と接触すると、活性化されて成熟樹状細胞になり、脾臓又はリンパ節へと遊走し始める。未熟樹状細胞は病原体を貪食し、それらのタンパク質を小片へと分解し、成熟すると、MHC分子を使用してそうした断片を細胞表面に提示する。同時に、未熟樹状細胞は、CD80、CD86、CD40等、T細胞活性化の共受容体として作用する細胞表面受容体を上方制御し、T細胞を活性化する能力を大幅に増強させる。また、未熟樹状細胞は、血流を介して脾臓への又はリンパ系を介してリンパ節への樹状細胞の移動を誘導する走化性受容体であるCCR7を上方制御する。ここで、未熟樹状細胞は、抗原提示細胞として作用し、抗原を非抗原特異的共刺激シグナルと共にそれらに提示することにより、ヘルパーT細胞、キラーT細胞、並びにB細胞を活性化する。したがって、樹状細胞は、T細胞又はB細胞関連免疫応答を能動的に誘導することができる。一実施形態では、樹状細胞は、脾臓樹状細胞である。
【0325】
「抗原提示細胞」(APC)という用語は、細胞表面上に(又は細胞表面に)少なくとも1つの抗原又は抗原性断片を呈示、獲得、及び/又は提示することが可能な細胞の一種の細胞を指す。抗原提示細胞は、プロフェッショナル抗原提示細胞及び非プロフェッショナル抗原提示細胞に区別することができる。
【0326】
「プロフェッショナル抗原提示細胞」という用語は、ナイーブT細胞との相互作用に必要な主要組織適合複合体クラスII(MHCクラスII)分子を構成的に発現する抗原提示細胞に関する。T細胞が抗原提示細胞の膜上のMHCクラスII分子複合体と相互作用すると、抗原提示細胞は、T細胞の活性化を誘導する共刺激分子を産生する。プロフェッショナル抗原提示細胞は、樹状細胞及びマクロファージを含む。
【0327】
「非プロフェッショナル抗原提示細胞」という用語は、MHCクラスII分子を構成的には発現しないが、インターフェロン-ガンマ等のある特定のサイトカインにより刺激されると発現する抗原提示細胞に関する。例示的な非プロフェッショナル抗原提示細胞としては、線維芽細胞、胸腺上皮細胞、甲状腺上皮細胞、グリア細胞、膵臓ベータ細胞、又は血管内皮細胞が挙げられる。
【0328】
「抗原プロセシング」は、抗原を分解して、前記抗原の断片であるプロセッション産物にすること(例えば、タンパク質を分解してペプチドにすること)、及びそうした断片の1つ又は複数をMHC分子に付随させて(例えば、結合により)、抗原提示細胞等の細胞を特定のT細胞に提示させることを指す。
【0329】
「抗原が関与する疾患」又は「エピトープが関与する疾患」という用語は、抗原又はエピトープの関与が示唆されるあらゆる疾患、例えば、抗原又はエピトープの存在により特徴付けられる疾患を指す。抗原又はエピトープが関与する疾患は、がん疾患又は単なるがんであってもよい。上述のように、抗原は、腫瘍関連抗原等の疾患関連抗原であってもよく、エピトープは、そのような抗原に由来してもよい。
【0330】
「がん疾患」又は「がん」という用語は、典型的には、調節不能な細胞増殖により特徴付けられる個体の生理学的状態を指すか又は記述する。がんの例としては、癌腫、リンパ腫、芽腫、肉腫、及び白血病が挙げられるが、これらに限定されない。より具体的には、そのようながんの例としては、骨がん、血液がん、肺がん、肝臓がん、膵臓がん、皮膚がん、頭頸部がん、皮膚又は眼内メラノーマ、子宮がん、卵巣がん、直腸がん、肛門領域がん、胃がん、結腸がん、乳がん、前立腺がん、子宮がん、生殖器官の癌腫、ホジキン病、食道がん、小腸がん、内分泌系がん、甲状腺がん、副甲状腺がん、副腎がん、軟部肉腫、膀胱がん、腎臓がん、腎細胞癌、腎盂癌、中枢神経系(CNS)の新生物、神経外胚葉がん、脊髄軸腫瘍、神経膠腫、髄膜腫、及び下垂体腺腫が挙げられる。本明細書に記載の組成物及び方法により治療することができるがんの1つの特定の形態は肺がんである。一実施形態では、がんは、非小細胞肺がん、例えば、非扁平上皮癌及び扁平上皮癌等の進行性又は転移性非小細胞肺がんである。一実施形態では、がんは、切除不能ステージIII又は転移性ステージIVのNSCLCである。本開示による「がん」という用語はがん転移も含む。
【0331】
本開示の治療の特定の実施形態
一実施形態では、例えばRNAリポプレックス粒子として製剤化された本明細書に記載のRNAは、静脈内(IV)注射により投与される。
【0332】
一実施形態では、例えばRNAリポプレックス粒子として製剤化された本明細書に記載のRNAは、20μg~200μg、例えば、30μg~100μg、例えば60μg~90μgの用量で投与される。例えば、本明細書に記載のRNAは、約30μg、40μg、50μg、60μg、70μg、80μg、又は90μgの用量で投与してもよい。
【0333】
一実施形態では、例えばRNAリポプレックス粒子として製剤化された本明細書に記載のRNAは、MAGEA3をコードするRNA、CLDN6をコードするRNA、KK-LC-1をコードするRNA、PRAMEをコードするRNA、MAGE-A4をコードするRNA、及びMAGE-C1をコードするRNAを等モル量で含む。
【0334】
一実施形態では、本明細書に記載の治療は、1回又は複数回のサイクルを含む。一実施形態では、本明細書に記載の治療は、複数回のサイクル、例えば、3回若しくはそれよりも多くのサイクル、4回若しくはそれよりも多くのサイクル、5回若しくはそれよりも多くのサイクル、6回若しくはそれよりも多くのサイクル、7回若しくはそれよりも多くのサイクル、8回若しくはそれよりも多くのサイクル、9回若しくはそれよりも多くのサイクル、10回若しくはそれよりも多くのサイクル、11回若しくはそれよりも多くのサイクル、12回若しくはそれよりも多くのサイクル、13回若しくはそれよりも多くのサイクル、14回若しくはそれよりも多くのサイクル、又は15回若しくはそれよりも多くのサイクルを含む。一実施形態では、サイクルの長さは14~28日であり、例えば約21日である。
【0335】
一実施形態では、本明細書に記載の治療は、1回若しくはそれよりも多くのサイクル、例えば2回のサイクルを含み、例えばRNAリポプレックス粒子として製剤化された本明細書に記載のRNAは、サイクルの異なる日に数回投与される。例えば、サイクルの長さは21日間であってもよく、RNAは、サイクルの1日目、8日目、及び15日目に投与してもよい。
【0336】
一実施形態では、本明細書に記載の治療は、1回又はそれよりも多くのサイクル、例えば2、3、4、5、6、7、8、9、10回、又はそれよりも更に多くのサイクルを含み、例えばRNAリポプレックス粒子として製剤化された本明細書に記載のRNAは、サイクルの単一の日にのみ投与される。例えば、サイクルの長さは21日間であってもよく、RNAは、サイクルの1日目に投与してもよい。
【0337】
一実施形態では、本明細書に記載の治療は、1回又は複数回のサイクル、例えば、2回のサイクルを含む複数回のサイクルを含み、例えばRNAリポプレックス粒子として製剤化された本明細書に記載のRNAは、サイクルの異なる日に数回投与され(例えば、サイクルの長さは21日間であってもよく、RNAはサイクルの1日目、8日目、及び15日目に投与してもよい)、その後に1回又は複数回のサイクル、例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10回、又は更にそれよりも多くのサイクルが続き、例えばRNAリポプレックス粒子として製剤化された本明細書に記載のRNAは、サイクルの単一の日にのみに投与される(例えば、サイクルの長さは21日間であってもよく、RNAはサイクルの1日目に投与してもよい)。
【0338】
一実施形態では、患者は、サイクル1及び2の1日目、8日目、及び15日目にRNAを受け取り、サイクル3以降は1日目にのみRNAが投与される。この実施形態では、サイクル1の1日目のRNAの量は60μgであってもよく、全てのその後の適用(サイクル1の8日目及び15日目、サイクル2の1日目、8日目、及び15日目、並びにサイクル3以降)のRNAの量は90μgであってもよい。
一実施形態では、本明細書に記載のRNAは、単独療法として投与される。一実施形態では、以前の治療は、適格性の場合、少なくとも1つのPD1/PD-L1阻害剤及び1つの白金ベース化学療法レジメン、並びに1つの追加の全身療法を含んでいた。
【0339】
本明細書で参照されている文書及び研究の引用は、前述のいずれかが関連先行技術であることを認めるものではない。こうした文書の内容に関する全ての記述は、申請人が入手可能な情報に基づいており、こうした文書の内容の正確性に関するいかなる承認も構成するものではない。
【0340】
以下の説明は、当業者が種々の実施形態を製作及び使用することができるように提示されている。特定のデバイス、技法、及び応用の説明は、例として提供されているに過ぎない。本明細書に記載の例に対する種々の改変は、当業者であれば容易に明らかであろう。本明細書で規定された基本原理は、種々の実施形態の趣旨及び範囲から逸脱することなく、他の例及び応用に適用することができる。したがって、種々の実施形態は、本明細書で説明されており、示されている例に限定されることは意図されておらず、特許請求の範囲と一致する範囲が与えられるべきである。
【実施例
【0341】
(実施例1)
非小細胞肺がんの治療に使用するための1セットの免疫原性標的の特定
前臨床研究の範囲は、2つの目的:(1)非小細胞肺がんにおける1セットの有用な免疫原性標的の特定、(2)ワクチン接種による標的特異的免疫反応及び療法利益の高い可能性を有する適切ながん患者の選択に焦点を当てた。
【0342】
初期標的発見手法では、最も頻繁に及び腫瘍特異的に発現される標的遺伝子を選択するために、非小細胞肺がん及び健常組織のRNA配列決定データを探索した。こうした標的は、著しい数の腫瘍で発現されるべきであり、脳及び心臓のような必須器官では発現が弱くなければならないか又は存在してはならず、生殖組織又は婦人科組織を除く他のヒト組織では、腫瘍と比較して発現が低くなければならないか又は存在してはならない。上述の基準に基づく遺伝子の選択及びフィルタリングは、標的が、免疫原性を誘導することができ(自己抗原として認識されない)、毒性が限定的である(必須器官では発現されない)可能性を高めることを目的としている。標的を、非小細胞肺がんの2つの主なサブタイプである肺腺癌及び扁平上皮癌に対して評価し、最終的に両疾患サブタイプに対処するように選択した。
【0343】
全てのin silico分析は、公的に入手可能な(GTEx、遺伝子型-組織発現プロジェクト(Nature genetics 45巻、580~585頁(2013年)及びTCGA、The Cancer Genome Atlas(Nature 489巻、519~525頁(2012年);Campbell, J. D.ら、Nat. Genet.、48巻、607~616頁(2016年);Nature 511巻、543~550頁(2014年))及び独自のRNA-Seq遺伝子発現データを使用して行った。RNAリードを、hg19参照ゲノム及びトランスクリプトームにアラインし、遺伝子発現を、UCSC既知遺伝子転写物及びエクソン座標と比較することにより決定し、続いてRPKM単位に対して正規化した(Mortazavi, A.ら、Nature methods 5巻、621~628頁(2008年);Langmead, B.ら、Genome biology 10巻、R25;(2009年))。標的は、腫瘍組織及び正常組織での発現を比較することにより、腫瘍コホート全体にわたって高い網羅率を達成するように選択した。標的発現腫瘍は、発現値が>1rpkmであることにより画定した。
【0344】
Fluidigm Biomark(商標)プラットフォームを使用したqRT-PCR分析には、164個の新鮮凍結原発性肺がん組織試料を使用した。43個の異なる組織タイプに由来する合計91個の新鮮凍結正常組織試料をqRT-PCR分析に使用した。Qiagen RNeasy Lipid Tissue Mini Kitを製造業者の使用説明書に従って使用してRNAを組織から単離した。製造業者の使用説明書に従ってgDNA Eraserを用いたTAKARA-PrimeScript(商標)RT試薬キットを使用して、RNAを第一鎖cDNA合成によりcDNAに変換した。製造業者の使用説明書に従ってFluidigm検出システムを使用してqRT-PCR分析を行った。ハウスキーピング遺伝子HPRT1、HMBS、及びTBPに対して正規化した後、ΔΔCt計算を使用して相対的RNA発現を定量化した。この分析では、30(PCRで使用した最大サイクル数)から正常組織試料のHPRT1ハウスキーピング遺伝子値の平均を引いた値に相当する18.2の較正値を使用した。分析に使用したプライマーはTable 1(表2)に列挙されている。異なるcDNA合成を含む技術的複製物を、発現中央値を使用することによりまとめた。正常組織における目的の遺伝子の相対的発現は、同じ組織タイプの1つよりも多くの組織試料を分析した場合、発現中央値を明らかにする。標的発現腫瘍は、重要な正常組織における発現強度に応じた特定のカットオフにより画定した(Table 1(表2))。
【0345】
【表2】
【0346】
RNA-Seqデータを使用した腫瘍及び正常組織におけるNSCLC標的遺伝子の発現分析
3809個の正常組織試料、466個の肺腺癌(LUAD)試料及び415個の扁平上皮肺癌(LUSC)試料を含む881個の非小細胞肺癌(NSCLC)試料から得られた公開の及びインハウスで生成したRNA-Seq遺伝子発現データを使用して、発現ヒートマップを作成した(図1)。標的のほとんどでは、NSCLC組織の大部分で強力なRNA発現が検出されたが、精巣及び胎盤のような正常組織では少数でしか検出されなかった。精巣及び胎盤を除き、副腎、腎臓、卵巣、及び下垂体でもPRAME RNA発現が検出され、これは今後の臨床研究で注意深くモニターしなければならない。
【0347】
ワクチン手法により潜在的に対処することができるNSCLC患者のパーセンテージを計算するために、個々の標的について並びに標的を組み合わせた場合の累積網羅率について、腫瘍パーセンテージを計算した(図2)。例えば、MAGEA3単独は、腫瘍の66%で発現された。網羅率は、標的を4つ追加することにより、1つ又は複数の標的を発現する腫瘍が最大で84%に増加した。標的MAGEC1及びNY-ESO-1の追加値を試験するために、少なくとも2つ、3つ、又はそれよりも多くの標的を発現する腫瘍の割合を計算した(図3)。標的の数がより多いセットでは腫瘍割合が増加し、例えば、MAGEC1、NY-ESO-1、又はその両方のような標的の追加値を示していた4つ及びそれよりも多くの標的を発現する腫瘍は約10%増加した。
【0348】
qRT-PCRデータを使用した腫瘍及び正常組織におけるNSCLC標的遺伝子の発現分析
独立した方法及び患者コホートを使用してNSCLC及び正常組織における標的の発現を確認するために、Fluidigm Biomark(商標)プラットフォームを使用してqRT-PCR分析を実施した。164個のNSCLC及び他の肺腫瘍及び43個の正常組織部位のRNA発現強度を使用して、発現ヒートマップを作成した(図4)。多くの肺腫瘍組織で強力なRNA発現が検出されたが、精巣及び胎盤、精巣上体及び子宮のような正常組織では少数でしか発現されなかった。
【0349】
ワクチン手法により潜在的に対処することができるNSCLC患者のパーセンテージを計算するために、個々の標的について並びに標的を組み合わせた場合の累積網羅率について、腫瘍パーセンテージを計算した(図5)。例えば、MAGEA3単独は、腫瘍の56%で発現された。網羅率は、標的を4つ追加することにより、1つ又は複数の標的を発現する腫瘍が最大で80%に増加した。標的MAGEC1及びNY-ESO-1の追加値を試験するために、少なくとも2つ、3つ、又はそれよりも多くの標的を発現する腫瘍の割合を計算した(図6)。標的の数がより多いセットでは腫瘍割合が増加し、例えば、MAGEC1、NY-ESO-1、又はその両方のような標的の追加値を示していた4つ及びそれよりも多くの標的を発現する腫瘍は約10%増加した。
【0350】
結論
本研究の目的は、免疫療法標的を調査及び選択することだった。正常組織及び腫瘍組織のトランスクリプトームデータを比較することにより、非小細胞肺がんに対する組換えRNAワクチンを開発するための標的として、抗原KK-LC-1、MAGEA3、PRAME、MAGEA4、CLDN6、MAGEC1、及びNY-ESO-1を選択した。
【0351】
RNA-Seqデータ及びqRT-PCRデータは、肺腺癌及び扁平上皮癌の両サブタイプで7つの標的の豊富な発現を示した。7つの標的のうち少なくとも1つを発現する腫瘍割合に基づくと、NSCLCを有する患者の5人中最大で4人がワクチン接種アプローチの利益を受ける可能性がある。腫瘍において発現頻度がより低い標的MAGEC1及びNY-ESO-1のワクチン接種は、2つ又はそれよりも多くの標的を発現する患者の割合が増加するという点で、及び以前に観察された免疫原性のため、利益を有する可能性がある。ほとんどの標的の正常組織における転写プロファイルは、ワクチン接種による重篤な器官毒性のリスクを示さなかった。
【0352】
(実施例2)
抗原特異的T細胞のin vivo誘導
本研究の目的は、上記で言及したGMP条件下で生産されたMAGEA3、KK-LC-1、CLDN6、NY-ESO-1、MAGEA4、及びPRAMEをコードするRNAバッチによる抗原特異的T細胞のin vivo誘導を確認すること、並びにR&D条件下で生産したMAGEC1をコードするin vitro転写RNAの免疫原性を評価することだった。RNAは、静脈内(i.v.)注射したリポソーム製剤化RNA-LPXを使用してマウスにおいてin vivoで試験した。抗原配列は、プロセシング及び提示増強ドメインに埋め込まれている。本会社は、得られたタンパク質のN末端に、リボソームへの移送を容易にするための分泌ドメインを構築した。他方、C末端には、MHCクラスII提示を増強するために、ヒトMHC分子の膜貫通ドメイン及び細胞質部分がインフレームで融合されている。本実験では、ヒトHLA-A*0201及びHLA-DRB1*01分子を発現するが、内因性の、つまりマウスのMHCクラスI及びクラスII分子を発現しないように遺伝子操作されたトランスジェニックA2/DR1マウスを使用して、HLA制限エピトープに対して反応するT細胞の誘導を調べた。A2/DR1マウスは、T細胞免疫原性及び最も高頻繁のヒトMHC対立遺伝子を示すモデルに類似する。
【0353】
ヒトMHCトランスジェニックマウス(A2/DR1マウス)を使用して、HLA制限エピトープに対してin vivoで反応するT細胞の生成を調べた。3~5匹マウスの7群を、以下に示すリポソームを使用して、上記で言及した抗原をコードするRNA-LPXをi.v.注射することにより、1日目、8日目、15日目、22日目に3~4回免疫した。動物を、更に5日後、20日目又は27日目のいずれかに安楽死させ、脾臓を取り出して脾細胞の単細胞懸濁物を調製した。使用したRNA-LPXの免疫原性を、対応するペプチドのプールで再刺激した脾細胞を使用して試験した。MAGEC1 RNAの場合、in vitro転写されたMAGEC1 RNAでエレクトロポレーションした骨髄由来樹状細胞(BMDC)で再刺激した脾細胞を使用して免疫原性を試験した。特異的なT細胞のIFN-γ分泌を、ELISPOTアッセイで測定した。ConAを、アッセイの機能性を試験するための陽性対照として使用した。陰性対照として、培地のみ及び無関連ペプチド、又はT細胞により認識されない無関連抗原をコードするin vitro転写RNAを使用した。
【0354】
試験物品
RNA-LPX製剤化用のリポソーム
名称:L1
含有量:1.8mg/mL DOTMA及び1.0mg/mL DOPE
名称:L2
含有量:1.8mg/mL DOTMA及び1.0mg/mL DOPE
名称:L3
含有量:0.4mg/mL DOTMA及び0.23mg/mL DOPE
In vitro転写RNA
名称:MAGEA3
濃度:0.04mg RNA/mL
名称:KK-LC-1
濃度:0.5mg RNA/mL
名称:CLDN6
濃度:0.5mg RNA/mL
名称:NY-ESO-1
濃度:0.5mg RNA/mL
名称:MAGEA4
濃度:0.5mg RNA/mL
名称:PRAME
濃度:0.5mg RNA/mL
名称:MAGEC1
【0355】
RNA-LPXを調製するために、試験物品を解凍し、全ての試薬を室温(15~25℃)に戻した。全ての物質は無RNaseだった。RNAストック溶液、水、1.5mM NaCl、及びリポソームを使用して、1匹の余剰マウスを含む最大5匹のマウス(200μL/マウス)に注射した。RNAを有するバイアルを準備し、水を添加し、希釈したRNAをボルテックスし、その後1.5M NaClを添加し、続いて更にボルテックスした。得られた混合物にリポソームを添加して、1.3:2(リポソーム:RNA)の電荷比を有するRNA-LPXのそれぞれの量の等張溶液を得、チューブを2~4回反転させ、室温で10分間インキュベートした。得られた溶液はわずかに不透明なRNA-LPX分散体だった。得られたRNA-LPX分散体の粒径を光子相関分光法により調査した。
【0356】
試験系
種:マウス
系統:HLA-A2.1+/+/HLA-DR1+/+ダブルトランスジェニック、H-2クラスI(β2m0)-/クラスII(IA βb0)-KOマウス
ブリーダー:動物施設、BioNTech SE社
性別:雄/雌
年齢:6~41週
動物数:33匹
【0357】
動物ケア
基本情報
マウスは、セクション0で指定されているように、BioNTech SE社の動物施設で飼育された。全ての実験及びプロトコールは、地方当局(動物福祉試験認可-ラインラントプファルツ州規制当局第23 177-07/G 14-12-088号)により承認され、FELASA推奨事項に従い、EC指令2010/63/EUに準拠して実施した。健康状態に問題のない動物のみを試験手順のために選択した。実験動物群体管理システムPyRAT (Scionics Computer Innovation GmbH社、ドレスデン、ドイツ)を用いて、各動物を到着時又は出生時に登録し、安楽死するまで追跡した。各ケージには、マウスの系統、性別、生年月日、及び1ケージ当たりの動物数を示すケージカードを標記した。実験の開始時に、プロジェクト番号及びライセンス番号、実験の開始、及び介入の詳細を含む追加情報を追加した。識別のために必要な場合、動物には耳標を付けて無作為に付番した。
【0358】
畜舎環境及び飼畜
マウスは、BioNTech SE社の動物施設にて障壁及び特定病原体のない条件下で、個別換気ケージ(Sealsafe GM500 IVC Green Line, TECNIPLAST社、Hohenpeissenberg、ドイツ;500cm2)に1ケージ当たり最大5匹を収容した。ケージ及び動物ユニット内の温度及び相対湿度を、それぞれ20~24℃、45~55%に維持し、ケージ内の空気を75回交換/時の速度で交換した。剥皮アスペン材(Abedd LAB & VET Service GmbH社、ウィーン、オーストリア、製品コード:LTE E-001)で作られた無塵敷料を敷いたケージを週1回交換した。オートクレーブ処理したssniff MZ食餌(sniff Spezialdiaten GmbH社、ゾースト、ドイツ;製品コード:V1124)及びオートクレーブ処理した水道水を自由摂取で提供し、少なくとも週1回交換した。全ての物質を使用前にオートクレーブ処理した。
【0359】
動物モニタリング及び観察
定期的な動物モニタリングを毎日実施し、それには、死亡動物の検査並びに食餌及び水供給の管理が含まれていた。各動物の健康状態を、体重、毛皮状態、活動、体温、行動、臨床兆候、自傷行為、喧嘩の兆候、及び呼吸に関して少なくとも週1回詳しく評価した。
【0360】
実験のエンドポイント/終了基準
ドイツ動物福祉法第4条及びGV-SOLASの勧告に準拠し頸椎脱臼により、動物を安楽死させた。研究は、実験の21日目又は27日目に終了した。
【0361】
処置スケジュール、投与経路、投与量
【0362】
【表3】
【0363】
それぞれの試験物品製剤を、イソフルラン麻酔下で200μLの一定量で眼窩後部に注射した。
【0364】
試料収集及び処理
脾細胞
安楽死後に脾臓を取り出し、単一細胞懸濁物を以下ように調製した:取り出した臓器を、注射器のプランジャーを使用して70μm細胞メッシュに押し通し、臓器の細胞をチューブへと放出させる。PBSで洗浄した後、細胞ペレットを赤血球溶解緩衝液でインキュベートし、PBSで洗浄し、再度70μm細胞メッシュに通す。最後に細胞を培地に再懸濁し、計数する。
【0365】
IFN-γELISPOTアッセイ
IFN-γELISPOTアッセイを使用して、抗原特異的T細胞の誘導の指標として、in vitroで再刺激したT細胞のIFN-γ放出を測定した。
【0366】
ペプチドの調製
到着後、全てのペプチドを細胞培養等級DMSOに溶解し、最終濃度を1~2mg/mLにした。このペプチド溶液から、2μL又は4μLのいずれか(4μg)を1.5mLチューブに移し、培地で1,000μLまで満たして最終濃度を4μg/mLにした。100μLのペプチド溶液を、100μLの単一脾細胞単一細胞懸濁物を含む各ウェルにピペットした(1ウェル当たりのペプチド最終濃度:2μg/mL)。
【0367】
脾細胞
200μL中5×105細胞/ウェルの単離脾細胞を、対応するヒトタンパク質の全域をカバーするペプチドプール(15量体、11個アミノ酸が重複;2μg/mL)を使用して96ウェルプレートにて37℃で約20時間刺激した。ペプチド対照として、脾細胞を、2μg/mLの破傷風トキソイド由来ペプチド(P2、P16、及びP17)及び無関連CMVペプチドと共にインキュベートした。MAGEC1 RNAの場合、骨髄から単離したエレクトロポレート培養マウスBMDCを使用して脾細胞刺激を実施した。培養マウスBMDCを、MAGEC1に対する抗原コードRNAでエレクトロポレーションし、陰性対照として、GAGEC2をコードするRNAでエレクトロポレーションした。100μL中合計5×104個エレクトロポレートBMDC/ウェルを、5×105個の脾細胞と共に37℃で20時間インキュベートした。全ての群で、脾細胞を、陰性対照としての培地のみで、又は内部陽性対照試験としての2μg/mLのConAと共にインキュベートし、アッセイの機能性を実証した。スポット数を、ImmunoSpot(登録商標)S5 Versa ELISPOT分析機、ImmunoCapture(商標)画像収集ソフトウェア、及びImmunoSpot(登録商標)分析ソフトウェアバージョン5(C.T.L.;Cellular Technologies Ltd.社)を使用して計数及び分析した。
【0368】
結果
最終RNA-LPX注射の5日後に免疫A2/DR1マウスから得た脾細胞での、抗原特異的T細胞のin vivo誘導を、ELISPOT分析により決定した。免疫原性RNAを試験するために、脾細胞を、対応するヒトタンパク質の全域をカバーするペプチドプール(15量体、11個アミノ酸が重複)又はエレクトロポレートBMDCで再刺激した。
【0369】
ペプチドプール又は免役したマウスに由来するエレクトロポレートBMDCで脾細胞を再刺激することにより、特異的免疫原性がもたらされた(図7)。MAGEA3、KK-LC-1、CLDN6、NY-ESO-1、MAGEA4、PRAME、及びMAGEC1をコードするRNA-LPXにより誘導されたIFN-γ+スポット数は、対応する対照による再刺激と比較して有意により高かった。全てのELISPOTプレートにおいて、脾細胞がどの動物に由来していたかに関わりなく、陰性対照培地のみでは最小限のスポット数しか誘導されず、陽性対照としてのConAでは、ELISPOTアッセイにおいて多数のスポットが誘導され、予想通り、単離脾細胞に機能的T細胞が存在することが確認された。
【0370】
結論
この研究は、臨床治験で使用するために製造された肺がん抗原MAGEA3、KK-LC-1、CLDN6、NY-ESO-1、MAGEA4、及びPRAME、並びにR&D条件下で生産されたMAGEC1 RNAの免疫原性を確認するために設計した。得られたデータは、全ての生産バッチが、A2/DR1マウスのヒトHLA-A02背景において免疫原性であることを示している。まとめると、本データは、7つのRNA全てを、患者において抗原特異的T細胞を誘導するための免疫療法手法に使用することができることを示唆している。
【0371】
(実施例3)
抗原特異的T細胞のin vivo誘導
RNAでコードされた腫瘍関連抗原(TAA)の免疫原性を決定するために、本発明者らは、IFNγ-ELISPOTアッセイを使用して患者のワクチン接種前及び接種後の血液試料中のT細胞応答を分析した。
【0372】
IFNγELISpot
IFNγに特異的な抗体(ELISpotProキット、Mabtech社)でプレコーティングされたマルチスクリーンフィルタープレート(Merck Millipore社)をPBSで洗浄し、2%ヒト血清アルブミン(CSL-Behring社)を含むX-VIVO 15(Lonza社)で1~5時間ブロッキングした。ex vivo T細胞応答の分析には、3×105細胞/ウェルのCD4-又はCD8-枯渇PBMCに加えて3×104 CD8+又はCD4+ T細胞/ウェルを、それぞれCD8及びCD4エフェクターとして使用した。試験は、三重重複又は二重重複で実施し、陽性対照及び陰性対照、つまりそれぞれ抗CD3と共にインキュベートしたPBMC及び培地のみでインキュベートしたPBMCが含まれていた。スポットを、ExtrAvidinアルカリホスファターゼALP及びBCIP/NBT基質(ELISpotProキット、Mabtech社)に直接コンジュゲートされた二次抗体で可視化した。プレートを、AID Classic Robot ELISPOTリーダーを使用してスキャンし、AID ELISPOT 7.0ソフトウェアで分析した。
【0373】
ワクチンで処置した患者WO5YAHでは、KKLC1及びCLDN6に対するde novoワクチン誘導性CD4+及びCD8+ T細胞応答が、処置後試料にてex vivo ELISPOT分析により検出された(図8A)。ワクチンで処置した患者AW8VMTでは、PRAMEに対するde novoワクチン誘導性CD4+及びCD8+ T細胞応答が、処置後試料にてex vivo ELISPOT分析により検出された(図8B)。
【0374】
(実施例4)
非小細胞肺がんを有する患者の臨床腫瘍試料の後向きコホートにおける、免疫組織化学染色を使用したPD-L1発現分析と組み合わせたRT-qPCRを使用した、腫瘍関連抗原(TAA)の調査
背景、目的、研究設計
肺がんプロジェクトの標的を、遺伝子発現を評価するための異なる方法を使用した幾つかの供給源に基づいて選択した。TCGA(The Cancer Genome Atlas)には、ハイスループットNGSにより生成されたRNASeqデータが集約されていたが、より高感度で特異的なアッセイで結果を検証するために、RT-qPCR(逆転写定量的リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応)をより小規模なコホートに対して使用した。データセットは、評価したサブタイプで異なるTAA(腫瘍関連抗原)頻度プロファイル及び網羅率を示したが、それらはデータセットの予想される変動範囲内である。こうしたデータセットには、選択されたTAAの発現を超えるデータは含まれていなかった。本発明者らのデータを強化するために、臨床ルーチンから約200個試料のコホートを得、TAA並びにPD-L1発現を分析した。臨床データから変異データを収集した。
【0375】
この研究の目的は、肺腺癌、肺扁平上皮癌、及び大細胞神経内分泌癌試料のセットにおけるTAA及びPD-L1発現に関するデータを生成することだった。主な疑問は、選択されたTAA(少なくとも1つが発現)を一般に並びにPD-L1発現及び/又はドライバー変異と組み合わせて分析した試料の網羅パーセントだった。
【0376】
この研究では、初期に200個の試料、その中にできるだけ多くの大細胞神経内分泌癌(LCNEC)試料並びに同数の肺腺癌(LUAD)試料及び肺扁平上皮癌(LUSC)試料を収集することが意図されていた。可能な場合は、TAA発現の差異を評価する原発腫瘍試料と対になる転移を分析した。全ての試料について、IHC IVDを使用してPD-L1発現を評価した。試料は、サブタイプ及び/又はバイオマーカープロファイルにより画定された群の選択されたTAAで網羅するためのものだった。
【0377】
物質及び方法
逆転写定量リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(RT-qPCR)
ワンステップRT-qPCRでは、逆転写及びqPCRが1つの反応に組み合わされている。特異的なリバースプライマーを使用した特異的な逆転写が起こり、後にDNAポリメラーゼを使用したPCR増幅が進行する。分析のために、アッセイミックス、酵素ミックス(逆転写酵素、DNAポリメラーゼ、緩衝液、及びdNTPを含む)、及び水を含むマスターミックスを調製する。マスターミックスを96ウェルプレートのウェルに分注し、RNA試料及び適切な対照(PC及びNC)を添加する。この試験は、3つの個々のアッセイ/標的を含む3つのトリプレックスアッセイミックスを含む。検出には、トリプレックス反応のアッセイを区別するために、異なる蛍光染料(FAM、HEX、ATTO647N)を使用する加水分解プローブ技術を応用する。RT-qPCRは、BioRad社のCFX96機器で実施する。患者分析のためのRT-qPCR実行では、後に1つのキットロットの試薬のみを使用することになる(異なるキットロットの試薬を混合しない)。
【0378】
PD-L1免疫組織化学
このプロセスでは、患者の腫瘍試料が切片で提供され、PD-L1分析に使用される。切片には、患者ID及び生体試料採取IDを含むベンチマーク準拠ラベルで、PD-L1染色(PD-L1(SP263)アッセイ(Ventana))が標識される。染色プロセスが完了した後、全てのスライドを、切片に印を付けるための印刷されたDatamatrixコードラベルで標識することになる。
【0379】
染色された切片を、SOP-010-165_Axio Scan.Z1-スライドスキャナーに詳述されているように切片スキャナー、又は同等のデバイスを使用してデジタル化(全スライド画像化)し、保存する。加えて、切片ラベルの画像を、デジタル化スライドファイルの一部として保存する。デジタル化切片画像には、切片IDに対応するファイル名が自動的に割り当てられる。
【0380】
試料のPD-L1スコアは、染色切片に基づき病理学者により決定する。半定量的分析では、腫瘍割合スコア(TPS:腫瘍細胞数/生存腫瘍細胞数)、免疫細胞スコア(IC+:PD-L1染色を示す腫瘍関連免疫細胞)、及び複合陽性スコア(CPS:陽性腫瘍細胞、リンパ球、及びマクロファージの数/生存細胞数×100)のパーセンテージが、染色患者切片で推定されるはずである。
【0381】
試験物品
ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)組織試料を切片化に供した。3μmの切片を、IHC分析用のガラススライドに載せ、10μmの切片(「カール(curl)」)を、その後の核酸単離のためにマイクロリットルチューブに入れた。
【0382】
コホートサイズは、200個の標本を目標とした。LCNEC並びに転移及び入手可能な場合はそれらの原発性腫瘍を優先した。コホートには、LUSC試料及びLUAD試料が同数含まれることになっていた。最終コホートは、170個の原発腫瘍検体及び18個の転移検体で構成されていた。増幅可能なRNA量が不十分なため、合計で4つの検体は無効な測定値を返した(2つの原発性試料、2つの転移性試料)。一部のサブタイプは、本発明者らの範囲内ではなく、個々の分析から除外した。したがって、関連コホートは、74個の原発肺腺癌(LUAD)及び13個のLUAD転移、59個の肺扁平上皮癌(LUSC)検体、並びに26個の大細胞神経内分泌癌(LCNEC)検体で構成されていた。10個未満の検体の群(サブタイプ別の原発性/転移性)は、結論には考慮しなかった。
【0383】
以下の物質及びデバイスを使用した。
【0384】
【表4】
【0385】
RT-qPCRによる遺伝子発現の分析
患者FFPE腫瘍試料から抽出したRNAを、腫瘍関連抗原CLDN6、CT83、MAGEA3、MAGEA4、MAGEC1、及びPRAMEのmRNA発現について分析する。この目的のために、遺伝子特異的RT-qPCRアッセイが開発されており、R&D分析に使用することになる。
【0386】
RNA抽出
確立された分析前処理は、IFUに従ってRNXtract(登録商標)RNA抽出キット(BioNTech Diagnostics GmbH社)を使用して、1×10μmのFFPE組織切片から全RNAを抽出することから始まる。簡単に説明すると、組織切片を水性緩衝液中で80℃に加熱することにより脱パフィン化し、続いてプロテイナーゼKを使用して溶解する。次いで、RNAを促進性緩衝液条件下でビーズに結合させ、各ステップで結合から上清を除去する前に、3回の洗浄ステップの各々の間、及びまた最終溶出時に、ビーズを磁力で固定する。
【0387】
RT-qPCR
抽出したRNAをワンステップRT-qPCRで分析する。この分析では、mRNAをまず相補性DNA(cDNA)へと逆転写し、次いで遺伝子特異的及びアイソフォーム特異的プライマー及びプローブを使用してqPCRにより増幅する。RT-qPCRは、CFX96機器(Bio-Rad社)で実施する。確立された陽性対照及び陰性対照(PC及びNC)を各RT-qPCR実行内で分析して、実行の有効性を決定し、PCの場合は分析の較正値としても機能する。有効な実行のみを分析する。RT-qPCRアッセイは、1反応当たり3つの標的の分析を可能にするトリプレックスアッセイとして確立する。1反応内のアッセイは、異なる蛍光色素のプローブ(FAM、HEX、及びATTO647N、下記の表を参照)により区別される。主要分析出力は、各標的の定量化サイクル(Cq)値であり、これはシグナルがバックグラウンドシグナルを上回る画定閾値を超える地点である。Cqは、PCR増幅前の試料中の標的分子の量の尺度である。各アッセイで1試料当たり三重重複測定を実施し、Cq中央値を計算に使用する。各試料について、分析に十分な分析物(=増幅可能なRNA)が存在するか否かを決定しなければならない。このために、3つの参照遺伝子(RG):CALM2、HUWE1、及びMRPL19の発現レベルを、RNA量の代理指標として使用する。3つのRGのCq中央値の平均を計算し、以降は「複合参照値」(CombRef)と称し、これは、異なるRNA入力量に対する標的遺伝子発現の正規化の役目も果たす。そのために、標的のCq中央値からCombRefを減算して、各標的の正規化された相対的発現=デルタCq(dCq)を得る。実行間及び機器間のバラツキを補正するために、試料のdCqを、dCq試料からdCqPCを減算して、最終試験結果をデルタデルタCq(ddCq)として得ることにより、較正値としてのPCのdCqに対して更に正規化する。事前に画定されたカットオフに従って、標的の(半)定量的なddCq値を陽性又は陰性に更に分類することができる。ddCqカットオフは、正常な肺及び他の正常組織における遺伝子発現と比較した、肺がん試料の発現分析に基づいて画定した。
【0388】
確立されたアッセイミックス:
【0389】
【表5】
【0390】
ddCq結果計算
CombRef=(Cq[CALM2]中央値+Cq[HUWE1]中央値+Cq[MRPL19]中央値)/3
dCq試料=(Cq[標的試料]中央値-[CombRef試料])
dCqPC=(Cq[標的PC中央値]-[CombRefPC])
ddCq=dCq試料-dCq PC
処理フロー
図9は処理の概要を示す。
【0391】
結果
RT-qPCRで決定したTAA発現を、188個の検体のうち184個で測定した。一部の検体のサブタイプは、本発明者らの範囲内でなかったか、又はその特定のサブタイプについて結論を導き出すには数が少な過ぎたため、分析は、標的とされるサブタイプである肺腺癌(LUAD)、肺扁平上皮癌(LUSC)、及び大細胞神経内分泌癌(LCNEC)に焦点を当てた。転移はLUADについてのみ十分な量が得られた。
【0392】
特定のTAAの発現頻度は、腫瘍のサブタイプにより異なり、原発腫瘍と転移腫瘍との間でも異なる。CLDN6は、約20個のLUSC又はLCNEC腫瘍のうちおよそ1個でのみ発現を示すが、それでも全ての腫瘍にわたって網羅率の最大化に寄与する。一部のTAA、つまりMAGEA4及びCT83は、原発腫瘍よりもLUADの転移において頻度がより高いと思われる。これにより、更なる選択を行わずに転移に対処することが可能になる。
【0393】
神経内分泌癌も、非常に異なる組織であるが、網羅される。
【0394】
【表6】
【0395】
【表7】
【0396】
【表8A】
【0397】
【表8B】
【0398】
(実施例5)
ヒト化MHCマウスモデルにおいてBNT116により誘導されたin vivo抗原特異的T細胞拡大増殖
RNA-LPXによるin vivo腫瘍抗原特異的T細胞のDe novo誘導を、ヒト化MHCマウスモデルにおいてBNT116を用いて示した。BNT116は6つのRNA-LPXを含み、RNA-LPXの各々のRNAは、一本鎖の5'キャッピング非ヌクレオシド修飾ウリジン含有mRNAである。RNAは、RBL003.3(配列番号12、MAGEA3をコードする)、RBL005.3(配列番号4、CLDN6をコードする)、RBL007.2(配列番号8、KK-LC-1をコードする)、RBL012.2(配列番号20、PRAMEをコードする)、RBL027.2(配列番号16、MAGE-A4をコードする)、及びRBL035.2(配列番号24、MAGE-C1をコードする)を含む。
【0399】
HLA-A*0201及びHLA-DRB1*01のトランスジェニックであり、内因性MHCクラスI及びIIが欠損しているA2/DR1マウスは、最も高頻度のヒトHLA対立遺伝子(つまり、HLA-A2.1及びHLA-DR1)に対するT細胞免疫原性を調査するためのモデルとしての役目を果たす。
【0400】
A2/DR1マウスに、MAGE-A3、CLDN6、KK-LC-1、PRAME、MAGE-A4、又はMAGE-C1(それぞれ、RBL003.3、RBL005.3、RBL007.2、RBL012.2、RBL027.2、又はRBL035.2[RBL003.3:研究等級の物質;全ての他のRNA:臨床試験物質])をコードするRNA-LPXを、3回、1、8、及び15日目にIVでワクチン接種した。20日目には、脾細胞を、各BNT116抗原の全長を網羅するペプチドミックス、又はヘルパーエピトープP2P16の全域をカバーするP2P16P17ペプチドでex vivo再刺激した。IFN-γ産生を、酵素結合免疫吸着スポット(ELISpot)アッセイで測定した。対照を、無関連ヒトサイトメガロウイルス(hCMV)pp65495-504ペプチドで再刺激した。活動、体調、及び身体的異常を注意深く観察し、マウスの全般的な健康状態及び幸福度をモニターした。実験の1日目、8日目、15日目、及び20日目に全てのマウスの個々の体重を測定した。
【0401】
試験品目関連死亡はなかった。体重に対する有害効果はなかった。KK-LC-1 RNA-LPXで処置した1匹マウスには身体状態の不良が見出され、7日目に犠牲にしなければならなかった。これは試験物品とは無関連であるが、少なからぬ炎症性創傷に結び付いた攻撃的なケージ仲間による噛みつきと関連していたと考えられた。剖検でも特に所見はなかった。
【0402】
6つのBNT116抗原全てに対するワクチン接種は、抗原特異的T細胞免疫をもたらした。MAGE-A3、PRAME、及びCLDN6 RNA-LPXにより誘導され、同族ペプチドミックスで再刺激したT細胞により生成されたIFN-γスポットの数は、無関連対照ペプチドで再刺激した際に同じマウスのT細胞により生成されたIFN-γスポットの数よりも統計的に有意により高かった。KK-LC-1、MAGE-A4、及びMAGE-C1 RNA-LPXに応答してIFN-γを分泌したT細胞の数は、対照群と比較して明らかに増加したが、統計的な有意性には達しなかった。
【0403】
P2P16P17ペプチドミックスを有するBNT116で免疫したマウスに由来する脾細胞の再刺激により誘導されたIFN-γ分泌は、対照ペプチドで再刺激した同じマウスの脾細胞と比較して明らかにより高く、こうしたヘルパーエピトープに対する抗原特異的CD4+ T細胞応答が誘導されたことを示した(図10)。
【0404】
RNA-LPXワクチン接種により誘導されたT細胞機能は、in vivo細胞傷害アッセイで更に示された。このアッセイでは、MAGE-A3に対する既知HLA-A*0201特異的ペプチドでパルスした標識脾細胞は、誘導された抗原特異的CD8+ T細胞により効率的に溶解された。
【0405】
こうした結果は、臨床等級のBNT116によるワクチン接種が、BNT116によりコードされた抗原に対する抗原特異的T細胞及び細胞傷害性T細胞を効率的にde novo誘導することができることを示している。
【0406】
(実施例6)
進行性非小細胞肺がんを有する患者におけるBNT116単独及び併用の安全性、忍容性、及び予備的効能を評価する臨床治験
BNT116のファーストインヒューマン(FIH)治験を、進行性又は転移性非小細胞肺がん(NSCLC)を有する患者における、BNT116単独療法、並びにセミプリマブと併用したBNT116又はドセタキセルと併用したBNT116の安全性プロファイル及び安全用量を確立することを目的として実施する。この治験は、単独療法及び併用での用量確認のための幾つかのコホートを含む。
【0407】
集団及び介入は以下の通りである。
【0408】
【表9】
【0409】
評価指標は以下の通りである。
主要評価指標:
1.サイクル1中の用量制限毒性(DLT)の発生[期間:最初のサイクル(21日間)中に評価]
2.国立がん研究所有害事象共通用語基準(NCI-CTCAE)v5.0に従って、関係性、重篤度、及びグレード別に報告された、治療中に発生した未解消有害事象(TEAE)の発生[期間:最大27か月間]
二次評価指標:
1.効能分析セット中の患者数で除算した、固形腫瘍応答評価基準(RECIST)v1.1による最良全体奏効率(BOR)としての完全奏効率(CR)又は部分奏効率(PR)を示した患者数であると定義した全体奏効率(ORR)[期間:最大27か月]
2.RECIST v1.1に従って、初期応答から最初の客観的腫瘍進行までの時間であると定義される奏効期間(DoR)[期間:最大27か月]
3.効能分析セット中の患者数で除算した、RECIST v1.1によるBORとしてのCR又はPR又は疾患安定(SD)を示す患者数であると定義される病勢制御率(DCR)[期間:最大27か月]
4.RECIST v1.1による疾患安定又は応答の初期応答から最初の客観的腫瘍進行までの期間として定義される病勢制御期間[期間:最大27か月]
5.最初の治験治療からRECIST v1.1による最初の客観的腫瘍進行又は任意の原因による死亡のいずれか早い方までの期間であると定義される無増悪生存期間(PFS)[期間:最大48か月]
6.最初の治験治療から任意の原因による死亡までの期間であると定義される全生存期間(OS)[期間:最大48か月]
【0410】
基準は以下の通りである。
主要な組み入れ基準:
・ 患者は、組織学的に確認された切除不能ステージIII又は転移性ステージIVのNSCLC及びRECIST v1.1により測定可能な疾患を有していなければならない。注:コホート1の患者は、測定可能な疾患を有している必要はない。
・ コホート2及び4の患者は、追加の抗PD-1療法に耐えることができなければならず(つまり、毒性のために抗プログラム細胞死タンパク質1(PD-1)/プログラム細胞死リガンド1(PD-L1)療法を恒久的に中止しなかった)、あらゆる以前のPD-1/PD-L1関連毒性からステージ1又は0に回復していなければならないか又は安定ホルモン補充療法を受けていなければならない。
・ コホート2及び3の患者は、Eastern Cooperative Oncology Groupパフォーマンスステータス(ECOG-PS)が≦1でなければならない。ECOG-PSが0~2であるコホート1及び4の患者は適格性である。
【0411】
コホート特異的な組み入れ基準:
コホート1:
・ 患者の以前の療法は、少なくともPD-1/PD-L1阻害剤及び白金ベース化学療法レジメン並びに1つの他の種類の全身療法を含んでいなければならない(患者が白金ベース化学療法及び/若しくはPD-1/PD-L1阻害剤並びに/又は別の種類の全身療法の候補でない場合は除く)。
コホート2:
・ 患者は、腫瘍細胞における腫瘍割合スコア(TPS)が≧50%であるPD-L1発現を示していなければならない(この治験に組み入れる前に現地で決定)。
・ 患者は、以下のいずれかの進行性疾患を示していなければならない:
1.PD-1/PD-L1阻害剤療法中であるか、又は第一選択治療としてのこの治療の終了から6か月以内の進行ステージ又は転移性ステージのNSCLC、又は
2.この治験に登録される前に(つまり、初期併用療法後)、単独療法で少なくとも3か月間投与されたPD-1/PD-L1阻害剤による継続中のアジュバント療法に対して不応性であるもの。
コホート3:
・ 患者の以前の療法は、少なくともPD-1/PD-L1阻害剤及び白金ベース化学療法レジメンを含んでいなければならない(患者が白金ベース化学療法及び/又はPD-1/PD-L1阻害剤の候補でない場合は除く)。
コホート4:
・ 進行ステージ又は転移性ステージのNSCLCに対する第一選択治療として化学療法の候補でない患者は、腫瘍細胞におけるPD-L1発現:TPS≧1%を示している場合に登録することができる。
【0412】
主要な除外基準:
・ NSCLCに対する継続中の積極的全身治療。
・ 承認された標的療法が利用可能であるドライバー変異の存在。
・ 免疫関連の有害事象のリスクを示唆する可能性がある、全身免疫抑制治療による治療を必要としていた重大な自己免疫疾患の継続中の又は最近の証拠(過去5年以内)。注:自己免疫関連甲状腺機能亢進症、自己免疫関連甲状腺機能低下症を有する寛解中の患者、又は安定用量の甲状腺補充ホルモンが投与されている患者、白斑、又は乾癬の患者は含まれていてもよい。
・ スクリーニング中の新たな又は増殖中の脳転移又は脊髄転移の現行の証拠。軟膜疾患を有する患者は除外される。既知の脳転移又は脊髄転移を有する患者は、以下の条件に該当する場合、適格性であり得る。
・ 脳転移又は脊椎骨転移に対する放射線療法又は別の適切な療法を受けていた場合、及び
・ 現行の脳病変に起因する可能性のある神経学的症状を示していない場合、及び
・ インフォームドコンセントに署名する前の4週間以内にコンピューター断層撮影(CT)又は磁気共鳴画像(MRI)スキャンで安定脳疾患又は脊髄疾患を有する場合(少なくとも4週間の間隔を空けた2回のスキャンで安定病変であることにより確認される)、及び
・ 治験治療の最初の用量前14日以内に脳転移又は脊髄転移を治療するためのステロイド療法を必要としない場合。注:切迫した骨折又は脊髄圧迫が予測されない限り、脊椎骨転移(つまり、椎骨の)は許容される。
・ 全身免疫抑制:
・ 慢性全身ステロイド薬剤の現行の使用(≦5mg/日のプレドニゾロン相当量は許可される)。副腎機能不全又は下垂体機能不全のために生理学的補充用量のプレドニゾンを使用している患者は適格性である。
・ 治験登録前の過去3か月以内の他の臨床的に関連する全身免疫抑制。
・ CD4+ T細胞(CD4+)数が<350個/μLであり、後天性免疫不全症候群(AIDS)を画定する日和見感染の履歴がある、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)の既知血清陽性歴。
・ 以前の脾臓摘出術。
【0413】
(実施例7)
単回注射内で投与されたBNT116によるヒトHLAトランスジェニックA2/DR1マウスにおける抗原特異的T細胞のde novo誘導。
臨床開発目的では、連続注射又は輸注と比較して、6つのBNT116製品全てを1回の注射又は輸注で投与することが好ましいと考えられる。注射又は輸注の回数を低減させることにより、患者の身体的及び精神的負担が減少し、適用に必要な時間が低減される。実施例5では、本発明者らは、ヒトHLAトランスジェニックマウスにBNT116 RNA-LPXワクチンの各々を別々に投与することにより(各マウスは、1つの特定のBNT116抗原をコードするRNAで構成されたワクチンを受け取った)、コードされたBNT116抗原に特異的なT細胞のde novo誘導が促進されたことを示した。全てのBNT116製品を1回の単一注射に組み合わせることにより、6つの抗原全てに対して測定可能な免疫を誘導することができるか否かを試験するために、2つのプロセス:まずRNAをRNA-LPXとして製剤化し、次いで混合するか(プロセス1)、又はまずRNAを混合し、次いでRNA-LPXとして製剤化するか(プロセス2)のいずれか従って2つの注射用BNT116混合物を調製した。
【0414】
C57BL/6 A2/DR1マウス(1群当たりn=6)に、プロセス1又は2に従って調製した6つのBNT116 RNA(PRAME[RBL012.2]、CLDN6[RBL005.3]、KK-LC-1[RBL007.2]、MAGE-3[RBL003.3]、MAGE-A4[RBL027.2]、及びMAGE-C1[RBL035.2])全ての混合物を、3回、1、8、及び15日目にIVでワクチン接種した。BNT116ペプチドミックス、又はヘルパーエピトープP2P16の全域をカバーするP2P16P17ペプチドミックスでex vivo再刺激した後、抗原特異的T細胞の誘導を、20日目に脾細胞のIFN-γ産生によりELISpotで分析した。対照ウェルは、無関連ヒトサイトメガロウイルス(hCMV)pp65495-504ペプチドで再刺激した。
【0415】
活動、体調、及び身体的異常を注意深く観察し、マウスの全般的な健康状態及び幸福度をモニターした。実験の1、8、13、15、及び20日目に全てのマウスの個々の体重を測定した。試験品目関連死亡はなかった。プロセス2によるBNT116混合物を受け取った群のマウス1匹は、8日目に体重低減(治療開始時の初期体重の84%)を示したが、その後2日以内に急速に回復した。
【0416】
2つのBNT116混合物のいずれかによるワクチン接種は、6つの抗原全てに対する抗原特異的T細胞免疫をもたらした(図11A)。実施例5に記載した結果と同様に、PRAME、CLDN6、及びMAGE-A4に対する応答は、MAGE-A3、MAGE-C1、及びKK-LC-1に対する応答よりも優勢だった。全体的な免疫応答は、BNT116混合物調製の2つの異なるプロセス間で非常に類似していたが、個々の抗原を標的とする免疫応答は、プロセス1により生産したBNT116混合物で誘導した場合により強力だった(図11B)。投与用量は、2群間でわずかに異なるものの、ほぼ同一であると考えることができるため、プロセス1により調製したBNT116混合物は、このマウスモデルにおいてBNT116特異的T細胞を誘導する効力がわずかに優れている可能性がある。
【0417】
こうした結果は、1回の注射内で全てのBNT116製品を組み合わせてワクチン接種することが、BNT116にコードされた抗原を認識してIFN-γを産生する抗原特異的T細胞をde novo誘導するのに非常に適していることを示している。
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【配列表】
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【国際調査報告】