IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ クリスティアン−アルブレヒツ−ウニヴェアズィテート ツー キールの特許一覧

特表2024-537320ケトカルボン酸ビニルエステルの製造のための方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-10
(54)【発明の名称】ケトカルボン酸ビニルエステルの製造のための方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 67/14 20060101AFI20241003BHJP
   C07C 69/716 20060101ALI20241003BHJP
   C07C 69/36 20060101ALI20241003BHJP
   C07C 69/34 20060101ALI20241003BHJP
   B01J 31/24 20060101ALI20241003BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20241003BHJP
【FI】
C07C67/14
C07C69/716 Z CSP
C07C69/36
C07C69/34
B01J31/24 Z
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024522035
(86)(22)【出願日】2022-10-12
(85)【翻訳文提出日】2024-05-15
(86)【国際出願番号】 EP2022078451
(87)【国際公開番号】W WO2023062106
(87)【国際公開日】2023-04-20
(31)【優先権主張番号】21202303.0
(32)【優先日】2021-10-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513181698
【氏名又は名称】クリスティアン-アルブレヒツ-ウニヴェアズィテート ツー キール
【氏名又は名称原語表記】Christian-Albrechts-Universitaet zu Kiel
【住所又は居所原語表記】Christian-Albrechts-Platz 4, D-24118 Kiel, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100139527
【弁理士】
【氏名又は名称】上西 克礼
(74)【代理人】
【識別番号】100164781
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221981
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 大成
(72)【発明者】
【氏名】ヘルゲス・ライナー
(72)【発明者】
【氏名】ブラームス・アルネ
(72)【発明者】
【氏名】プラウディフツェフ・アンドレイ
(72)【発明者】
【氏名】へーフェナー・ヤン-ベルント
【テーマコード(参考)】
4G169
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4G169AA06
4G169BA27A
4G169BA27B
4G169BC71A
4G169BC71B
4G169BD01A
4G169BD01B
4G169BD03A
4G169BD03B
4G169BD04A
4G169BD04B
4G169BD07A
4G169BD07B
4G169BD15A
4G169BD15B
4G169BE02A
4G169BE02B
4G169BE25A
4G169BE25B
4G169BE34A
4G169BE34B
4G169BE35A
4G169BE35B
4G169BE37A
4G169BE37B
4G169CB25
4G169DA02
4H006AA01
4H006AA02
4H006AC48
4H006BA25
4H006BA37
4H006BB12
4H006BR10
4H006KA14
4H006KC12
4H006KD00
4H039CA66
4H039CD20
(57)【要約】
カルボン酸のビニルエステル、特にケトカルボン酸(α-ケトカルボン酸またはβ-ケトカルボン酸であることができる)のビニルエステルを製造するための方法。前記カルボン酸のビニルエステルはそれらのビニル基中に水素を有することができ、好ましくは重水素をそれらのビニル基中に有する。ビニルエステルをパラ水素で水素化することができ、パラ水素のスピンをカルボキシル基のカルボニル炭素原子(これは13Cである)に転移することができ、引き続きエステル基を加水分解することによって、過分極化13Cをカルボキシル基のカルボニル炭素原子中に有するカルボン酸、特にケトカルボン酸を製造することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケトカルボン酸のカルボン酸ハロゲン化物を、トリアルキルシリルエノールエーテルと反応させることにより、ケトカルボン酸ビニルエステルを製造するための方法。
【請求項2】
ケトカルボン酸のカルボン酸ハロゲン化物が、ケトカルボン酸をハロゲン化剤と反応させることによって製造されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ハロゲン化物が、塩化物、フッ化物または臭化物であることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
カルボン酸を、重水素化されたアルケニルビニルボロン酸エステルと、金属触媒の存在下で反応させることにより、ケトカルボン酸ビニルエステルを製造するための方法。
【請求項5】
重水素化されたアルケニルビニルボロン酸エステルが、トリビニルボロキシン/ピリジン錯体(またはボロン酸メチルイミノ二酢酸エステル)であることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
ケトカルボン酸のカルボニル炭素が、13C、または13Cの天然の割合もしくは富化された割合を有する炭素であることを特徴とする、請求項1~5のいずれか1つに記載の方法。
【請求項7】
トリアルキルシリルエノールエーテルのエノールエーテル部分が完全に重水素化されていることを特徴とする、請求項1~6のいずれか1つに記載の方法。
【請求項8】
ケトカルボン酸が完全に重水素化されていることを特徴とする、請求項1~7のいずれか1つに記載の方法。
【請求項9】
ケトカルボン酸が、末端メチル基が完全に重水素化されたピルベートであることを特徴とする、請求項1~8のいずれか1つに記載の方法。
【請求項10】
トリアルキルシリルエノールエーテルのエノールエーテル部分がビニル基であることを特徴とする、請求項1~9のいずれか1つに記載の方法。
【請求項11】
トリアルキルシリルエノールエーテルが、完全に重水素化されたビニル基を有し、および完全に重水素化されたテトラヒドロフランをブチルリチウム(BuLi)と反応させ、反応生成物をトリアルキルハロゲンシランと反応させることによって製造されることを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
ケトカルボン酸が、α-ケトカルボン酸またはβ-ケトカルボン酸であることを特徴とする、請求項1~11のいずれか1つに記載の方法。
【請求項13】
ビニル基がパラ水素でパラ水素化され、引き続き、パラ水素化されたビニル基からケトカルボン酸の13Cカルボニル炭素へスピン秩序を転移させ、エステル結合を加水分解し、および得られた過分極化ケトカルボン酸を反応混合物から分離することを特徴とする、請求項1~12のいずれか1つに記載の方法。
【請求項14】
パラ水素化の間、ケトカルボン酸ビニルエステルが、少なくとも1種のC~C10アルカンを含むかまたは当該アルカンからなる溶媒中に水素化触媒の存在下で存在し、パラ水素が前記溶媒中に導入されることを特徴とする、請求項1~13のいずれか1つに記載の方法。
【請求項15】
パラ水素化の間、前記アルカンが、圧力容器内において、アルカリ性水性相に隣接して配置されることを特徴とする、請求項13または14に記載の方法。
【請求項16】
水性相がケトカルボン酸またはそのアニオンを含有し、水性相が、前記水性相をアルカン溶媒相から除去することによって、前記アルカンおよび前記水素化触媒から分離されることを特徴とする、請求項13~15のいずれか1つに記載の方法。
【請求項17】
ケトカルボン酸のカルボン酸ハロゲン化物をトリアルキルシリルエノールエーテルと反応させることにより得られた反応混合物を、ケトカルボン酸エステルのビニル基をパラ水素化するためにパラ水素と接触させ、次いで、ケトカルボン酸基の13Cカルボニル炭素を過分極させるためにパラ水素原子からスピン秩序を転移させ、得られた反応が完了した反応混合物を、エステル結合の加水分解に付して、過分極化された1-13Cカルボニル炭素を有するケトカルボン酸を生成し、次いで、得られた反応が完了した反応混合物を引き続きケトカルボン酸の分離に付すことを特徴とする、請求項1~16のいずれか1つに記載の方法。
【請求項18】
パラ水素化の間、ケトカルボン酸ビニルエステルが、圧力容器において、超臨界COを含むかまたは当該超臨界COからなる溶媒中に水素化触媒の存在下で存在し、パラ水素が前記溶媒中に導入されることを特徴とする、請求項1~17のいずれか1つに記載の方法。
【請求項19】
パラ水素化触媒が、ジホスフィン配位子もしくは2つのモノホスフィン配位子、ジエン配位子を有するRhイオンとアニオンとから構成されることを特徴とする、請求項13~18のいずれか1つに記載の方法。
【請求項20】
超臨界CO溶媒が圧力容器内の圧力を低下させることによって除去され、引き続き残留物をアルカリ性水性相と、任意にさらにC~C10アルカンと接触させ、引き続きアルカリ性水性相をC~C10アルカンから分離することを特徴とする、請求項18または19に記載の方法。
【請求項21】
ケトカルボン酸が、溶媒およびトリアルキルハロゲンシラン副生成物を蒸発させることにより、および/または1つのクロマトグラフ分離ステップにより、反応混合物から分離されることを特徴とする、請求項1~20のいずれか1つに記載の方法。
【請求項22】
完全に重水素化されたテトラヒドロフラン(THF)をブチルリチウム(BuLi)と反応させ、得られた生成物をトリアルキルハロゲンシラン、例えばトリアルキルクロロシランとさらに反応させることにより、特に請求項1~21のいずれか1つに記載の方法において使用するための、重水素化されたトリアルキルシリルエノールエーテルを製造するための方法。
【請求項23】
ケトカルボン酸ビニルエステルをパラ水素化するための方法であって、ケトカルボン酸ビニルエステルを、溶媒中において、式Iを有するパラ水素化触媒の存在下で反応させることにより、ビニル部分が完全に重水素化され、および/またはケトカルボン酸部分が完全に重水素化される、前記方法。
【化1】
【請求項24】
前記溶媒が、C3~C10アルカン、またはこれらのうちの少なくとも2種の混合物からなることを特徴とする、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記溶媒が超臨界二酸化炭素からなること、ならびにパラ水素化に続いて二酸化炭素が放出され、次いでアルカン溶媒が添加され、その後アルカリ性水溶液が添加され、当該水溶液内に過分極化されたケトカルボン酸アニオンが得られることを特徴とする、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
以下の構造を有するケトカルボン酸のビニルエステル:
【化2】
[式中、R1、R2およびR3は各々重水素であり、Rは、完全に重水素化されている直鎖状または分枝状C~C12アルキルであり、およびケトカルボン酸のカルボニル炭素は13Cであり、ならびに/あるいはRは、末端に完全に重水素化されているカルボキシルまたはカルボニルエステルを有する直鎖状または分枝状C~C12アルキルである]。
【請求項27】
ビニル基のパラ水素でのパラ水素化、それに続く、パラ水素化されたビニル基からケトカルボン酸の13Cカルボニル炭素へのスピン秩序転移、エステル結合の加水分解、および得られた過分極化されたケトカルボン酸の反応混合物からの分離のための、請求項26に記載のビニルエステルの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルボン酸のビニルエステル、特にケトカルボン酸(α-ケトカルボン酸またはβ-ケトカルボン酸であることができる)のビニルエステルを製造するための方法に関する。カルボン酸のビニルエステルはそれらのビニル基中に水素を有することができ、好ましくは重水素をそれらのビニル基中に有する。ビニルエステルをパラ水素で水素化することができ、パラ水素のスピンをカルボキシル基のカルボニル炭素原子(当該カルボニル炭素原子は13Cである)に転移することができ、引き続きエステル基を加水分解することによって、過分極化13Cをカルボキシル基のカルボニル炭素原子中に有するカルボン酸、特にケトカルボン酸を製造することができる。カルボキシル基の13Cカルボニル原子の過分極を達成するための、パラ水素でのビニル基の水素化によってもたらされたスピン秩序の転移は、磁場循環によって、または適当なNMRパルスシーケンスによって加速することができる。
【0002】
カルボン酸のビニルエステル、とりわけケトカルボン酸のビニルエステルを製造するための前記方法は、高収率であり、13C-カルボニル標識ケトカルボン酸の、およびカルボニル原子として過分極化13Cを有するケトカルボン酸の重水素化ビニルエステルの製造を可能にするという利点を有する。
【0003】
前記方法の生成物は1-13C-過分極化カルボン酸、好ましくは1-13C-過分極化ケトカルボン酸であり、これらは例えば、磁気共鳴画像法(MRI)診断における磁気標識分子としての使用に適している。好ましいケトカルボン酸エステルは、診断用13C-MRIに使用するための、カルボキシル基のカルボニル炭素原子中に過分極化13Cを有するピルビン酸ビニルエステル(ビニルピルベートとも呼ばれる)である。
【背景技術】
【0004】
EP3063119B1(特許文献1)は、カルボキシレートの不飽和エステルを提供し、当該不飽和エステルをパラ水素で水素化してパラ水素化エステルを生成し、引き続き、(例えば磁場循環による)1-13Cカルボニル炭素原子へのスピン秩序転移により、1-13C-過分極化カルボキシレートを含有する化合物を生成し、当該エステルを水素化基の除去によって転化して、1-13C-過分極化カルボン酸を得ることを記載している。特に、アリルエステルおよびプロパルギルエステルが、パラ水素化のための基質として提案されており、なぜならば対応するアルコールおよびカルボン酸からのそれらの合成が容易だからである。1-13C-過分極のためのより効率的な基質であるビニルエステル(スピン秩序化H原子が13C-カルボニルにより近い)は、調製することがより困難である。許容可能な収率を与え得るビニルピルベートの合成のための経路は記載されていない。
【0005】
前記不飽和エステルは有機溶剤中に保持され、その中でパラ水素と反応され、次いで、磁場循環を適用し、有機相を水性相と混合し、エステルの加水分解および水性相中における水溶性1-13C-過分極化カルボン酸の富化を促進する。
【0006】
Chukanov et al., ACS Omega 2018, 3, 6673-6682(非特許文献1)は、酢酸ビニルおよびピルビン酸から、酢酸PdIIおよびKOHを用いて、25℃で3日間、ビニルピルベートを合成する収率が6%であることを記載しており、これは非効率的であり、パラ水素からのスピン転移には低すぎると考えられた。
【0007】
Salnikov et al., ChemPhysChem 2021, 22, 1389-1396(非特許文献2)には、Chukanov 2018に関連して収率がわずかに改善した合成手順(8%)が記載されており、これも過分極実験を行うために十分ではなかった。
【0008】
J. van den Broeke, E. de Wolf, B.-J. Deelman, G. van Koten, Adv. Synth. Catal. 2003, 345, 625-635(非特許文献3)は、ホスフィン配位子における置換基としてアルカンまたはシクロアルカンまたはアルカン架橋を有するロジウム-ジホスフィン触媒を記載している。
【0009】
Steemers, L., L. Wijsman, J. H. van Maarseveen, Advanced Synthesis & Catalysis 2018) 360, 4241-4245(非特許文献4)は、カルボン酸のビニルエステルの製造を記載している。
【0010】
W.-X. Lv., Q. Li, J.-L. Li, Z. Li, E Lin, D.-H. Tan, Y.-H. Cai, W.-X. Fan, .H. Wang, Angew. Chem. Int. Ed. 2018, 57, 16544-16548(非特許文献5)は、ビニルボロン酸MIDAエステル(MIDA=メチルイミノ二酢酸)の製造を記載している。
【0011】
Steemers et al. (Adv. Synth. Catal. 2018, 360, 4241-4245)(非特許文献6)は、重水素化ビニルボロン酸MIDAエステルをアリールカルボン酸と反応させるための方法を記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】EP3063119B1
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Chukanov et al., ACS Omega 2018, 3, 6673-6682
【非特許文献2】Salnikov et al., ChemPhysChem 2021, 22, 1389-1396
【非特許文献3】J. van den Broeke, E. de Wolf, B.-J. Deelman, G. van Koten, Adv. Synth. Catal. 2003, 345, 625-635
【非特許文献4】Steemers, L., L. Wijsman, J. H. van Maarseveen, Advanced Synthesis & Catalysis 2018) 360, 4241-4245
【非特許文献5】W.-X. Lv., Q. Li, J.-L. Li, Z. Li, E Lin, D.-H. Tan, Y.-H. Cai, W.-X. Fan, .H. Wang, Angew. Chem. Int. Ed. 2018, 57, 16544-16548
【非特許文献6】Steemers et al. (Adv. Synth. Catal. 2018, 360, 4241-4245)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、スピン転移およびエステル加水分解後に、特に磁気共鳴画像法における診断用化合物として使用するための、過分極化1-13Cカルボニル炭素化合物をもたらす、ケトカルボン酸ビニルエステルおよびそのパラ水素化生成物を効率的に製造する方法を提供することである。好ましくは、本発明の方法は、高収率および高純度で過分極化1-13Cカルボニル炭素原子を有する化合物を製造すべきである。さらなる目的は、1-13Cカルボニル炭素へのより高効率のスピン秩序転移を可能にするケトカルボン酸ビニルエステルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
発明の説明
本発明は特許請求の範囲の特徴によって前記目的を達成し、特に、カルボン酸ハロゲン化物、好ましくはケトカルボン酸の塩化物またはフッ化物もしくは臭化物を、トリアルキルシリルエノールエーテルと反応させて、ケトカルボン酸ビニルエステル、および副生成物としてトリアルキルシリルハロゲン化物、従って塩化物、フッ化物または臭化物を製造する方法を提供する。次いで、得られたケトカルボン酸ビニルエステルを、パラ水素での水素化によってパラ水素化することができ、ビニル基のパラ水素化をもたらす。パラ水素化ビニルエステルからケトカルボン酸の1-13Cカルボニル炭素への分極転移は、磁場循環によりまたは適当なNMRパルスシーケンスによって加速することができる。エステル結合のその後の加水分解が、過分極化1-13Cカルボニル炭素を有するフリーのケトカルボン酸を生成する。ケトカルボン酸、および従ってそのカルボン酸クロリドは、1-13Cカルボニル炭素を有する。好ましくは、トリアルキルシリルエノールエーテルは、トリアルキルシリルビニルエーテルである。
【0016】
ケトカルボン酸は、アルファ(α)-ケトカルボン酸またはベータ(β)-カルボン酸であることができる。
【0017】
以下の反応スキームにおいて、ハロゲン原子は、好ましい塩素によって表す。
カルボン酸クロリドは、以下の反応スキームの1つに従って、ケトカルボン酸を反応させてカルボン酸クロリドとすることによって製造することができる:
【0018】
【化1】
ケトカルボン酸クロリドは、対応するケトカルボン酸から、それを塩素化剤、例えば、ここに示されるような塩化オキサリルと反応させることによって生成される。塩化オキサリルの代替としては、塩化チオニルまたはリン-III-クロリドまたはリン-V-クロリドを使用することができる。好ましい剤は、触媒としてのシュウ酸クロリド(oxalic chloride)およびDMF、または1-クロロ-N,N,2-トリメチルプロペニルアミン(テトラメチル-α-クロレナミン,TMCE)または任意の他の適切な塩素化剤である。ケトカルボン酸クロリドは特定の場合には単離できるが、その不安定性のために、ケトカルボン酸クロリドは、好ましくは、その生成の直後に溶液中でさらに反応させる。
【0019】
後続のステップにおいて、α-、もしくはβ-ケトカルボン酸ハロゲン化物、例えばα-、もしくはβ-ケトカルボン酸クロリドを、トリアルキルシリルエノールエーテルと反応させて、対応するビニルエステルを得る。
【0020】
【化2】
Xは、ハロゲン原子、好ましくはClまたはBrまたはFを示す。上はα-ケトカルボン酸ハロゲン化物に関する反応スキーム、下はβ-ケトカルボン酸ハロゲン化物に関する反応スキーム。
【0021】
トリアルキルシリルエノールエーテルにおいて、R、R10、R11は、各々独立して、Hまたはアルキル、例えばC~C12アルキルであることができる。R、R、Rは、各々独立して、Hまたはアルキル、例えばC~C12アルキルであることができ、好ましくは、完全に重水素化されたビニル基に結合したトリアルキルシリルエノールエーテルを生成するために、R、R、Rの各々はDである。
【0022】
後続のパラ水素化および分極転移による過分極のために有利には、ケトカルボン酸のビニルエステルは、ビニル基において重水素化されており(R、R、Rの全てがD)、ケトカルボン酸クロリドのカルボニル原子が13Cで富化されている。
【0023】
好ましい実施態様において、ケトカルボン酸、および従ってトリアルキルシリルエノールエーテルと反応させるケトカルボン酸の酸塩化物は、完全に重水素化されており、水素原子の代わりに重水素を有する。好ましい重水素化ケトカルボン酸は、末端メチル基が完全に重水素化されているピルベートである。従って、ケトカルボン酸の好ましいビニルエステルにおいては、ビニル基も完全に重水素化されている。本発明の方法によって得ることができるケトカルボン酸の好ましいビニルエステルは以下の構造である
【0024】
【化3】
(式中、R1、R2およびR3は各々重水素であり、Rは、好ましくは完全に重水素化されている、直鎖状または分枝状C~C12アルキル、例えばCD、-CD-CDまたは-(CD-CD(n=1、2、3または4)であるか、Rは、末端で好ましくは完全に重水素化されている、カルボキシルまたはカルボニルエステルを有する直鎖状または分枝状C~C12アルキル、例えば-(CD-COOD、-(CD-COO(CD=CD)であり、ケトカルボン酸のカルボキシル炭素は13Cである)。
【0025】
ケトカルボン酸のビニル基が部分的に重水素化され、好ましくは完全に重水素化されている実施態様では、パラ水素化によってビニル基に導入されるスピン秩序がカルボニル基の13C原子に、より効果的に転移される。α-ケトカルボン酸ビニルエステル中のR基の重水素化は、過分極化13Cのより長い半減期(T)をもたらす。
【0026】
酸塩化物とトリアルキルシリルエノールエーテルとの反応に適した触媒は、遷移金属塩または遷移金属錯体である。試験された触媒の中で、PdClが、最良の収率を与えたので好ましい。
【0027】
【表1】
【0028】
溶媒の系統的なバリエーションは、以下の収率を与えたが、これは、全ての溶媒が50%を超える収率を与え、ベンゾニトリルおよびジクロロメタンが好ましく、THFおよびアセトニトリルが最も好ましいことを示す。
【0029】
【表2】
【0030】
好ましくは、トリアルキルシリルエノールエーテルのビニル基は完全に重水素化されている。概して、完全に重水素化されたビニル基のトリアルキルシリルノルエーテルは、完全に重水素化されたテトラヒドロフラン(THF)(deutero-オキソラン-dとも称する)をブチルリチウム(BuLi)と反応させてアセトアルデヒドの重水素化エノールエーテルのリチウム塩を得、得られた生成物をトリアルキルハロゲンシラン、例えばトリアルキルクロロシランと、例えば以下の反応スキームに従って、さらに反応させることによって製造することができる:
【0031】
【化4】
ここで、Xはハロゲン原子、好ましくは塩素である。
【0032】
トリアルキルクロロシランの、従って重水素化ビニルのトリアルキルシリルエノールエーテルのアルキル基R、R10、R11は、各々同一であるか、または独立して、例えばC~C12アルキルから選択することができ、例えば、R9、R10およびR11は、各々独立して、分岐状アルキル、例えばイソプロピルまたはtert-ブチル、またはフェニルであることができ、例えばR9、R10は各々メチルであり、R11はイソプロピルまたはtert-ブチルであり;あるいはR9、R10は各々メチルであり、R11はフェニルである。
【0033】
ビニルピルベートにおいて、ビニル基が水素を有する場合には、パラ水素化および適当なNMRパルスシーケンスの適用後、約15%のスピン秩序がケトカルボン酸基の1-13Cカルボニル炭素に過分極として転移されたが、一方、同じ手順を重水素化ビニル基に適用すると、1-13Cカルボニル炭素への約96%の過分極の転移をもたらすことが見出された。
【0034】
【表3】
【0035】
重水素化されていないか、好ましくは完全に重水素化されているかまたはそれらのビニル基において重水素化されているかのいずれかであるケトカルボン酸は、安定であり、長期間貯蔵することができる。以下のステップが、磁場中で、優先的にMRIスキャナ内部で、実行されなければならない。スピン秩序と過分極は緩和と共に指数関数的に減少するので、各ステップはできるだけ速く実行しなければならない。
【0036】
過分極化カルボニル原子を有するケトカルボン酸を製造するための方法では、ケトカルボン酸のカルボン酸ハロゲン化物をトリアルキルシリルエノールエーテルと反応させることによって得られる反応混合物、好ましくは前記反応混合物から単離されるケトカルボン酸エステルのビニルエステル、任意に前記反応混合物を一定期間貯蔵した場合には、それぞれ、ケトカルボン酸エステルの単離されたビニルエステルを、ケトカルボン酸エステルのビニル基をパラ水素化するためにパラ水素と接触させ、引き続きパラ水素原子からのスピン秩序転移によってケトカルボン酸基の13Cカルボニル炭素を過分極させ、パラ水素化から得られる完了した反応混合物を、エステル結合の加水分解に付して、過分極化1-13Cカルボニル炭素を有するケトカルボン酸を生成し、次いで、得られた完了した反応混合物を、引き続き反応混合物からのケトカルボン酸の分離に付す。従って、分離されたケトカルボン酸は、診断における使用に、例えば、MRI診断における使用のための造影剤として、適している。
(1)詳細には、in vivoで施用する前に、ケトカルボン酸のビニルエステルを水または有機溶媒(例えば、クロロホルム、ペンタン)に溶解し、加圧下、適切な水素化触媒の存在下においてパラ水素で処理する。これにより、パラ水素の固有のスピン秩序がビニル基(現在はエチル基)に転移される。
(2)それから磁場循環または適当なNMRパルスシーケンスを適用して、スピン秩序をエチル基から隣接するカルボニル基の13C原子の過分極に転移させる。この過分極転移は、ビニル基が重水素化されている場合、よりはるかに効率的である。ケトカルボン酸中のアルキル基のさらなる重水素化は、過分極化状態の半減期(T)(これはわずか0.5~2分のオーダーである)を増大させる。
(3)エチルエステルを強塩基、例えばNaOH水溶液で加水分解すると、フリーの過分極化ケトカルボン酸塩、例えばピルベート、およびエタノールが得られる。二相系において、後者の2つの化合物は水性相にあり、触媒および未反応の出発化合物は有機(例えばクロロホルムまたはペンタン)相にある。
(4)バッファーを添加することにより、強塩基性水溶液をpH7.4にする。過分極化化合物をin vivoで注入する前に、残留する微量の水素化触媒を除去しなければならず、なぜならこれらの遷移金属触媒は毒性であるためである。触媒を除去するための簡単な方法は、イオン交換カラムでの濾過である。残留する微量の有機溶媒も、例えば活性炭のカラムに溶液を通すことによって、除去しなければならない。この精製ステップは、より早い段階で適用することもできる。
【0037】
過分極化ケトカルボン酸の精製された水溶液はもう、注入およびMRI測定のための準備が整っている。
【0038】
この実施態様は、過分極した1-13Cカルボニル炭素を有するケトカルボン酸を短時間で製造することができ、一方で当該ケトカルボン酸を高い物質収率および過分極収率で、かつ高純度で提供するという利点を有する。
【0039】
パラ水素化のために、水素化触媒が反応混合物に添加される。
【0040】
好ましくは、該触媒は、均一系の水素化触媒、優先的には、一般式[Rh(ジホスフィン)(ジエン)]のロジウム錯体、例えば [1,4-ビス-(ジフェニルホスフィノ)-ブタン]-(1,5-シクロオクタジエン)-ロジウム(I)-テトラフルオロボレート(79255-71-3)または(ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2,5-ジエン)-[1,4-ビス-(ジフェニルホスフィノ)-ブタン]-ロジウム(I)-テトラフルオロボレート(82499-43-2)である。これらの水素化触媒はクロロホルムに可溶性である。有機クロロホルム相にアルカリ性水溶液を添加することによってパラ水素化ビニルエステルを加水分解すると、エステルの所望の酸部分が水性相に移動するだけでなく、ある量の水素化触媒およびクロロホルムが、レシピエントにおける毒性効果に関して十分に高く水性相に移動することが見出された。水中での水素化のために、水素化触媒は、ジホスフィン配位子が1,4-ビス-[(フェニル-3-プロパンスルホネート)-ホスフィン]-ブタン二ナトリウム塩である水溶性ロジウム錯体であることができる。
【0041】
一実施態様において、本発明は概して、ケトカルボン酸ビニルエステル、好ましくは完全に重水素化されたケトカルボン酸ビニルエステルを、アルカン、例えばC3~C10アルカン、好ましくはC4~C8アルカン(これは各々の場合に、n-アルカンもしくはシクロアルカンまたはこれらのうちの少なくとも2つの混合物であることができる)からなる溶媒に可溶性であるパラ水素化触媒で、パラ水素化するための方法に関し、好ましくは前記触媒は、前記溶媒にのみ本質的に可溶性であるが、アルカリ性水溶液には不溶性である。
【0042】
概して、パラ水素化触媒は、1つのジホスフィン配位子または2つのモノホスフィン配位子、ジエン配位子、例えば1,5-シクロオクタジエンまたはノルボルナジエンを有するRhイオン、およびアニオンから構成されることができる。好ましくは、低極性の溶媒における触媒の溶解度が、ホスフィン配位子における置換基としてアルカンまたはシクロアルカンまたはアルカン架橋を使用し、加えて、アニオンとして大きくて低配位性のアニオン、例えばテトラアリールボランを使用することによって高められる。
【0043】
好ましくは、パラ水素化は、式Iを有するパラ水素化触媒の存在下である
【0044】
【化5】
好ましくは、前記触媒は、反応温度で液体のアルカン、例えばC3~C10アルカン、好ましくはC4~C8アルカンからなる溶媒(各々の場合にn-アルカンもしくはシクロアルカン、またはこれらの少なくとも2つの混合物であり得る)中に存在する。好ましいアルカンはペンタン、例えばn-ペンタンおよび/またはイソペンタンであり、より好ましくはn-ペンタンのみである。式Iのパラ水素化触媒は、アルカン、特にペンタンに可溶性であるが、水性相に本質的に不溶性であり、例えばケトカルボン酸のパラ水素化ビニルエステルの加水分解生成物である過分極化アルファケト酸(これは好ましくはピルビン酸またはその塩であり、好ましくは部分的にまたは完全に重水素化されている)を含有するアルカリ性水性相に不溶性であるという利点を有する。式Iの触媒は、溶媒アルカン相から隣接する水性相に転移しないという利点を有し、このことは、水性相の毒性を効率的に最小化する。C3~C10アルカン、好ましくはC4~C8アルカン、好ましくはペンタン、n-ペンタンおよび/またはイソペンタンからなる有機相は、隣接する水性相に本質的には移動せず、レシピエントであるヒト患者において低い毒性を有するという利点を有する。従って、水性相中に過分極化されたケトカルボン酸またはその塩を迅速に製造するためには、溶媒中の式Iの触媒の存在下でケトカルボン酸のビニルエステルをパラ水素化すること、カルボン酸部分の13Cを過分極化すること、および得られたエステルを、アルカリ性の水性相を前記溶媒に添加することによって加水分解することが好ましく、これは、水性相中への触媒または溶媒の転移を本質的に伴わずに、過分極化ケトカルボン酸アニオンの水相中への転移をもたらす。
【0045】
アルカンからなる溶媒の代替として、ケトカルボン酸ビニルエステルのパラ水素化は、触媒、好ましくは式Iの触媒の存在下、超臨界二酸化炭素(hypercritical carbon dioxide)中において、例えば少なくとも30barの二酸化炭素分圧下で、実施することができる。超臨界二酸化炭素中でケトカルボン酸ビニルエステルをパラ水素化する場合、パラ水素化後、二酸化炭素を放出し、続いて過分極化ケトカルボン酸からのエステル結合を加水分解するためにアルカリ性水溶液を添加することが好ましい。そこでは、任意に、二酸化炭素の放出後のパラ水素化ケトカルボン酸ビニルエステルを、溶媒、例えばアルカン、例えば上記のようなアルカン、特にペンタンと接触させて、触媒をペンタンに溶解させ、次いでアルカリ性水溶液を添加することができる。
【0046】
溶媒が超臨界二酸化炭素からなる実施態様では、パラ水素化に続いて二酸化炭素が放出され、次いでアルカン溶媒が添加され、その後アルカリ性水溶液が添加されることが好ましく、これによって、水溶液内に過分極化ケトカルボン酸アニオンが得られる一方で、触媒がアルカン溶媒内に実質的に保持される。
【0047】
本発明の方法は、α-ケトカルボン酸について、少なくとも60%、例えば85%まで、好ましくは95%までの収率を与えることが見出された。この高い収率は、反応混合物からケトカルボン酸を分離した後にも得られる。目下のところ、高収率、ひいては高純度のケトカルボン酸は、前記反応の前記ステップによって生じ、特にケトカルボン酸のカルボン酸塩化物を、トリアルキルシリルエノールエーテルと反応させ、および従って逆反応または二量体化、例えばアルドール反応の発生を最小限に抑えることによって、生じると考えられ、なぜなら現在それらが、Chukanov et al., ACS Omega 2018に記載される合成において非常に低い収率を引き起こすと考えらえているからである。同じ理由で、本発明者らの手順に従うβ-ケトカルボン酸に関する収率は、α-ケトカルボン酸に関する収率よりも幾分低い。
【0048】
別の実施態様において、本発明は、好ましくは完全に重水素化されたビニル部分または完全に重水素化されたケトカルボン酸部分を有する、より好ましくは完全に重水素化された、ケトカルボン酸ビニルエステルを製造するための代替的な方法に関する。この実施態様では、完全に重水素化されたビニル部分を有するピルビン酸ビニルエステル(ビニルピルベート-D3)が、重水素化されたアルケニルビニルボロン酸エステル、例えばトリビニルボロキシン/ピリジン錯体からのビニル部分の転移によって生成される。α-ケトカルボン酸ではないカルボン酸のビニルエステルの調製は、L. Steemers, L. Wijsman, J. H. van Maarseveen, Advanced Synthesis & Catalysis 2018) 360, 4241-4245に記載されている。
【0049】
優先的には、ビニルピルベート-D3は、重水素化されたビニルボロン酸MIDAエステル(MIDA=メチルイミノ二酢酸)を金属触媒(優先的にはCu(II)塩)の存在下でa-ケトカルボン酸に直接反応させることによって製造することができる。
【0050】
【化6】
市販されている重水素化臭化ビニル(臭化ビニル-D3)を、標準条件下でエーテル中のMgと反応させて、対応するGrignard試薬を調製し、これをMIDA無水物(メチルイミノ二酢酸無水物)と反応させて、重水素化したビニルボロン酸MIDAエステルを得る(例えばLv et al. Angew. Chem. Int. Ed. 2018, 57, 16544-16548に記載される手順と同様に)。重水素化ビニルボロン酸MIDAエステルを、Steemers et al. (Adv. Synth. Catal. 2018, 360, 4241-4245)に記載される条件下で、ピルビン酸と反応させる(Steemers et al.は、この方法をアリールカルボン酸に適用した)。ビニルピルベート-D3が12%の収率で得られた。
【0051】
【化7】
一般に、記載された実施態様は互いに組み合わせることができ、例えば、ケトカルボン酸ビニルエステル(好ましくは完全に重水素化されたケトカルボン酸ビニルエステル)を製造するための各プロセスを、アルカン溶媒中または超臨界二酸化炭素中でのパラ水素化と、好ましくは各々の場合に式Iのパラ水素化触媒と、組み合わせることができる。
【0052】
例によって本発明をより詳細に説明する。
【実施例
【0053】
例1:トリメチルシロキシエテン-D3の製造
窒素でフラッシュしたオーブン乾燥した100mLフラスコに27.9mL(24.8g、344mmol)のTHF-D8(完全重水素化テトラヒドロフラン)を入れた。フラスコを0℃に冷却し、n-ヘキサンにおける7.82mL(86.0mmol)の11M n-ブチルリチウムを滴加した。0℃で0.5時間後、溶液を室温に温め、さらに0.5時間後、40℃に加熱した。溶液を40℃で16時間撹拌し、続いて溶媒を真空下で除去した。残った白色固体を20mLの乾燥ジグリムに溶解し、THFのさらなる残留物を真空下で除去した(40℃、50mbar)。追加量の30mL乾燥ジグリムを添加し、溶液を0℃に冷却した。次いで、11.2mL(88.0mmol)の乾燥トリメチルシリルクロリドをゆっくりと添加し、相当の量の白色析出物を形成させた。室温で2時間撹拌した後、25℃および50mbar(当該プロセス中に10mbarに低下させる)での反応混合物のフラッシュ蒸留によって、粗製生成物を析出物から分離した。次いで、一部のジグリムを含有する粗製生成物を、クーゲルロール蒸留によって大気圧および75℃でさらに蒸留した。
【0054】
例2:ジメチルイソプロピルシロキシエテン-D3の製造
窒素でフラッシュしたオーブン乾燥した100mLフラスコに27.9mL(24.8g、344mmol)のTHF-D8を入れた。フラスコを0℃に冷却し、n-ヘキサンにおける7.82mL(86.0mmol)の11M n-ブチルリチウムを滴加した。0℃で0.5時間後、溶液を室温に温め、さらに0.5時間後、40℃に加熱した。溶液を40℃で16時間撹拌し、続いて溶媒を真空下で除去した。残留物を乾燥ジエチルエーテル50mLに溶解し、0℃に冷却した。次いで、10.85mL(9.47g、69.3mmol)の乾燥ジメチルイソプロピルシリルクロリドを溶液にゆっくりと添加し、相当の量の白色析出物を形成させた。室温で2時間撹拌した後、溶液を分液漏斗に移し、50mLの飽和重炭酸ナトリウム溶液で1回および50mLの蒸留水で2回洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥し、溶媒を真空中で除去した。得られた粗製生成物(>95%)をさらに精製することなく使用した。
【0055】
例3:ビニルピルベートの製造:
ビニルピルベートを得るための好ましい実施態様において、窒素でフラッシュしたオーブン乾燥50mL二口フラスコに、10mLの乾燥ジクロロメタンを入れた。フラスコを0℃に冷却し、0.961mL(1.58g、12.5mmol)の塩化オキサリルを添加した。0.787mL(1.00g、11.2mmol)のピルビン酸を、5mLの乾燥ジクロロメタンおよび13滴のN,N-ジメチルホルムアミドと混合した。混合物を二口フラスコ中の冷却溶液に滴加した。反応液を0℃で2時間撹拌し、次いで室温でさらに2時間撹拌した。溶液をシュレンク条件下で慎重に脱気した。当該プロセスの間に、溶液の体積を15mLから10mLに減少させた(ここでは溶液Aと称する)。
【0056】
窒素でフラッシュしたオーブン乾燥50mL二口フラスコに80.0mg(0.450mmol)の塩化パラジウム(II)を入れ、10mLの乾燥ジクロロメタンを添加した。フラスコを0℃に冷却し、シリルエノールエーテルとして1.84mL(1.43g、12.34mmol)のトリメチル(ビニルオキシ)シランを加えた。溶液を0℃で0.5時間撹拌し、次いで溶液Aを0℃で0.5時間かけて滴加した。完全に添加した後、溶液を室温まで温め、さらに20時間撹拌した。溶液を一口フラスコに移し、スパチュラ先端量のヒドロキノン(約30mg、0.27mmol)を加え、溶媒を減圧下(600mbar、30℃)で除去した。残留物を3mLのジクロロメタン:n-ペンタン(1:1)中に回収し、次いでn-ペンタン、ジクロロメタンの勾配を使用するフラッシュカラムクロマトグラフィーによって精製した。生成物をわずかに黄色の油として68%の収率で単離した。
【0057】
例4:1- 13 Cビニルピルベート-D6の製造
13Cビニルピルベート-D6を得るための好ましい実施態様において、窒素でフラッシュしたオーブン乾燥50mL二口フラスコに、10mLの乾燥ジクロロメタンを入れた。フラスコを0℃に冷却し、0.961mL(1.58g、12.5mmol)の塩化オキサリルを添加した。0.787mL(1.00g、11.2mmol)の13Cピルビン酸を、5mLの乾燥ジクロロメタンおよび13滴のN,N-ジメチルホルムアミドと混合した。混合物を二口フラスコ中の冷却溶液に滴加した。反応液を0℃で2時間撹拌し、次いで室温でさらに2時間撹拌した。溶液をシュレンク条件下で慎重に脱気した。当該プロセスの間に、溶液の体積を15mLから10mLに減少させた(ここでは溶液Aと称する)。
【0058】
窒素でフラッシュしたオーブン乾燥50mL三口フラスコに80.0mg(0.450mmol)の塩化パラジウム(II)を入れ、10mLの乾燥ジクロロメタンを添加した。フラスコを0℃に冷却し、1.84mL(1.82g、12.38mmol)のジメチルイソプロピル(ビニルオキシ)シラン-D3を添加した。溶液を0℃で0.5時間撹拌し、次いで溶液Aを滴下漏斗を使用して0℃で0.5時間かけて添加した。完全に添加した後、溶液を室温まで温め、さらに20時間撹拌した。溶液を一口フラスコに移し、スパチュラ先端量のヒドロキノン(約30mg、0.27mmol)を加え、溶媒を減圧下(600mbar、30℃)で除去した。残留物を3mLのジクロロメタン:n-ペンタン(1:1)中に回収し、次いでn-ペンタン、ジクロロメタンの勾配を使用するフラッシュカラムクロマトグラフィーによって精製した。生成物をわずかに黄色の油として29パーセントの収率で単離した。
【0059】
例5:ジビニルオキサロアセテート(オキサロ酢酸ジビニルエステル)の製造
ジビニル-オキサロアセテートを得るために、α-オキサロ酢酸(1.00g、7.57mmol)を三口丸底フラスコにN雰囲気下で入れ、ジクロロメタン(75mmol)で懸濁させた。フラスコを0℃に冷却し、N,N-ジメチルホルムアミド(13滴)を加えた。その後、塩化オキサリル(1.17ml、13.7mmol)を、ジクロロメタン(10ml)中の溶液として滴加した。溶液を0℃で2時間撹拌し、室温でさらに2時間撹拌した。溶液をシュレンク条件下で脱気し、その体積を35mlまで減少させて、α-オキサロ酢酸クロリドの溶液(ここでは溶液Aと称する)を得た。
【0060】
塩化パラジウム(II)(48.5mg,0.274mmol)を丸底フラスコにN雰囲気下で入れ、ジクロロメタン(10ml)で懸濁させた。懸濁液を0℃に冷却し、トリメチルビニルオキシシラン(2.48ml、16.7mmol)を加えた。混合物を0.5時間撹拌し、前に調製した溶液Aを0.5時間かけて滴加した。さらに冷却することなく、溶液を20時間撹拌した。生成物を、n-ペンタンおよびジクロロメタンの勾配を用いるフラッシュカラムクロマトグラフィー後に17%の収率で得た。任意に、トリメチル(ビニルオキシ)シランのビニル基を重水素化した。
【0061】
例6:ジビニルα-ケトグルタレート(2-オキソグルタレートジビニルエステル)の製造
ジビニル-α-ケトグルタレートを得るために、α-ケトグルタル酸(1.00g、6.84mmol)をN雰囲気下で三口丸底フラスコに入れ、ジクロロメタン(75ml)で懸濁させた。フラスコを0℃に冷却し、N,N-ジメチルホルムアミド(13滴)を加えた。その後、塩化オキサリル(1.17ml、13.7mmol)を、ジクロロメタン(10ml)中の溶液として滴加した。溶液を0℃で2時間撹拌し、室温でさらに2時間撹拌した。溶液をシュレンク条件下で脱気し、その体積を35mlまで減少させて、α-ケトグルタル酸クロリドの溶液(ここでは溶液Aと称する)を得た。
【0062】
塩化パラジウム(II)(48.5mg,0.274mmol)を丸底フラスコにN雰囲気下で入れ、ジクロロメタン(10ml)で懸濁させた。懸濁液を0℃に冷却し、トリメチルビニルオキシシラン(2.48ml、16.7mmol)を加えた。混合物を0.5時間撹拌し、前に調製した溶液Aを0.5時間かけて滴加した。さらに冷却することなく、溶液を20時間撹拌した。生成物を、n-ペンタンおよびジクロロメタンの勾配を用いるフラッシュカラムクロマトグラフィー後に18%の収率で得た。任意に、トリメチル(ビニルオキシ)シランのビニル基を重水素化した。
【0063】
例7:ビニルアセトアセテート(ビニル-3-オキソブチレート)の製造
ビニルアセトアセテートを得るために、アセト酢酸リチウム(1.00g、9.26mmol)を三口丸底フラスコにN雰囲気下で入れ、ジクロロメタン(75ml)およびシュウ酸(無水物、0.83g、9.26mmol)で懸濁させ、5分間撹拌した。フラスコを0℃に冷却し、DMF(13滴)を加えた。その後、二塩化オキサリル(0.791ml、9.26mmol)を、ジクロロメタン(10ml)中の溶液として滴加した。溶液を0℃で2時間撹拌し、室温でさらに2時間撹拌した。溶液をシュレンク条件下で脱気し、その体積を35mlまで減少させて、アセト酢酸クロリドの溶液を得たが、これは周囲条件下で急速に分解するため、単離も貯蔵もできない。塩化パラジウム(II)(65.1mg,0.370mmol)を丸底フラスコにN雰囲気下で入れ、ジクロロメタン(10ml)で懸濁させた。懸濁液を0℃に冷却し、トリメチルビニルオキシシラン(1.51ml、10.2mmol)を加えた。混合物を0.5時間撹拌し、前に調製したアセト酢酸クロリドの溶液を0.5時間かけて滴加した。さらに冷却することなく、溶液を20時間撹拌した。生成物を15%の収率で得た。
【0064】
任意に、トリメチル(ビニルオキシ)シランのビニル基を重水素化した。
【0065】
パラ水素化:基質前駆体である1-13C-ビニルピルベート-d(またはd)(6.8mg)および水素化触媒[1,4-ビス-(ジフェニルホスフィノ)-ブタン]-(1,5-シクロオクタジエン)-ロジウム(I)-テトラフルオロボレート(26mg[Rh]、CAS79255-71-3)を6mLのクロロホルム-dに溶解した。
【0066】
NMR管(直径5mm、中肉厚、高圧用)に、上記溶液(ビニルピルベートおよびRh触媒)450μLを充填し、ガスラインに接続した。ガスラインをNで5barで約5秒間フラッシュした後に、NMR管に接続して早発の水素化を防止した。NMR管を、プローブを330Kに設定したNMR分光計(WB NMR 400MHz,Avance Neo,9.4T,Bruker)に挿入した。温度安定化に達するまでの2~3分間の待機時間の後、7barで10~15秒間、試料を通してパラ水素をフラッシュすることによって圧力を上昇させた。次いで、パラ水素バブリングを停止し、2秒後にスピン秩序転移シーケンスを実施した。
【0067】
同じ手順を、アルカン(例えば、ペンタン、ブタン、ヘキサンなど)、アセトン、ならびにアルコールおよび塩素含有溶媒を含む他の溶媒を用いて行うことができる。しかしながら、水素化はアルカンにおいて非常に非効率的であり、なぜならこれらの溶媒における触媒の低い溶解度のためである。
【0068】
n-ペンタン可溶性触媒の合成:ビス-(1,5-シクロオクタジエン)-ロジウム(I)-テトラフルオロボレート(5mg、0.0123mmol)およびトリシクロヘキシルホスフィン(6.90mg、0.0246mmol)およびテトラキス[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ホウ酸ナトリウム(10.9mg、0.0123mmol)を1mlの乾燥DCMに溶解した。この透明な橙色の溶液に、白色固体が析出し始めるまでn-ペンタンをゆっくりと添加した。固体を濾別し、溶媒を減圧下で蒸発させて、橙色固体を得た。橙色固体を10mlのn-ペンタンに懸濁した。上清の黄色のn-ペンタン溶液を、過分極実験に使用した。
【0069】
ペンタンにおけるパラ水素化:可溶性触媒の上記ペンタン溶液500μlをビニルピルベート10μlと混合した。次いで、試料を、低圧水素ガスラインが取り付けられた5mmのNMR管に入れた。ガスラインをNで5barで約5秒間フラッシュした後に、NMR管に接続した。NMR管を、プローブを330Kに設定したNMR分光計(WB NMR 400MHz,Avance Neo,9.4T,Bruker)に挿入した。温度安定化に達するまでの2~3分間の待機時間の後、7barで10~15秒間、試料を通してパラ水素をフラッシュすることによって圧力を上昇させた。次いで、パラ水素バブリングを停止し、2秒後にスピン秩序転移シーケンス(PASADENA experiment)を実施した。ペンタン系はOPSY(パラ水素分光法のみ)シーケンスで抑制された。
【0070】
スピン秩序転移:スピン秩序転移シーケンス:phINEPT+, Kadlecek, Goldman (10.1016/j.jmr.2012.08.016), SEPP-INEPT (10.1016/j.pnmrs.2012.03.001), ESOTHERIC (https://doi.org/10.1002/open.201800086)およびそれらの派生物(adiabatic and shape RF pulses (10.1021/jz501754j)またはvariation of magnetic field (10.1021/acs.jpcb.5b06222)を含む)を用いて、パラ水素から13Cへ分極を転移した。実験的に、我々は、水素化後の1-13C-エチルピルベート-dの100%分極をもたらすESOTHERIC SOTシーエンスを用いた。他のケトカルボン酸エステルは、同じ手順で類似の過分極の程度をもたらす。
【0071】
エステル加水分解:加水分解を行うために、13C-過分極化エチルエステル(450μL)を、パラ水素反応チャンバーから、予めNaOH水溶液(450μL、100mmol/L)を充填したガラスバイアルに押し出す。過分極化試料を水溶液中に押し込んだ後、バイアルを約3秒間振盪し、相分離を達成するためにさらに5~10秒間さらに静置する。次いで、上部水性相を回収する。微量の残留触媒は、水性相をイオン交換カラムに通すことにより除去され、微量の溶媒は活性炭を通した急速濾過によって除去される。ケトカルボン酸エステルがピルビン酸エステルである場合、エステル加水分解はアセトン-D6中で行われる。ピルビン酸ナトリウムはアセトンにほとんど溶解せず、析出、洗浄および水への再溶解によって精製される。
【0072】
得られた過分極化水溶液を、品質分析のためにNMR管に充填するか、またはインビトロ研究のために酵素もしくはタンパク質とともに予め充填する。必要に応じて、溶液のpHを、より酸性のバッファーを添加することによって調節して、所望のpH値(約7.4)を得る。品質保証(pH、純度、温度)後、過分極化13C-ケトカルボン酸は、in vivo分子MRIのために使用することができる。
【国際調査報告】