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特表2024-537321ヒトおよびカニクイザルタンパク質に対して交差反応性を有する抗CD3抗体
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-10
(54)【発明の名称】ヒトおよびカニクイザルタンパク質に対して交差反応性を有する抗CD3抗体
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/28 20060101AFI20241003BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20241003BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20241003BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20241003BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20241003BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20241003BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20241003BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20241003BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20241003BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20241003BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C07K16/28 ZNA
C07K16/46
C12N15/13
C12N15/62 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61P35/00
A61K39/395 E
A61P35/02
A61K39/395 T
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024522067
(86)(22)【出願日】2022-10-12
(85)【翻訳文提出日】2024-06-10
(86)【国際出願番号】 CN2022124968
(87)【国際公開番号】W WO2023061419
(87)【国際公開日】2023-04-20
(31)【優先権主張番号】PCT/CN2021/123371
(32)【優先日】2021-10-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524069695
【氏名又は名称】コンセプト トゥー メディシン バイオテック カンパニー, リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ジェン, ウェイ
(72)【発明者】
【氏名】ヤン, リウ
(72)【発明者】
【氏名】ファン, レイ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AB01
4B065AB04
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA44
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB11
4C085BB41
4C085BB44
4C085CC01
4C085DD62
4C085EE01
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA72
4H045FA74
(57)【要約】
本開示は、ヒト化されたものを含む新たな抗CD3抗体、およびそれらの抗原結合性断片を提供する。これらの抗体は、ヒトCD3とカニクイザルCD3の両方に高い親和性で結合することができ、それらの一本鎖断片(scFv)を容易に多重特異性抗体に組み込んで腫瘍細胞の存在下でT細胞を有効に活性化することができる。さらに、たとえ比較的少数であったとしても、これらの抗体は、広範囲の抗CD3活性を有し、それに基づいて9つの異なるグレードにカテゴリー分けされる。さらに実証されるように、これらの抗CD3抗体および断片を二重または三重特異性抗体において適切に使用して、最適化された活性および安全域を達成することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトCD3タンパク質とカニクイザルCD3タンパク質の両方に対して結合特異性を有する、抗CD3抗体またはその抗原結合性断片であって、VH CDR1、VH CDR2、およびVH CDR3を含む重鎖可変領域(VH)、ならびにVL CDR1、VL CDR2、およびVL CDR3を含む軽鎖可変領域(VL)を含み、
前記VH CDR1が、配列番号7のアミノ酸配列を含み、前記VH CDR2が、配列番号8、64、65もしくは66のアミノ酸配列を含み、前記VH CDR3が、配列番号9のアミノ酸配列を含み、前記VL CDR1が、配列番号10のアミノ酸配列を含み、前記VL CDR2が、配列番号11のアミノ酸配列を含み、前記VL CDR3が、配列番号12もしくは67のアミノ酸配列を含むか;
前記VH CDR1が、配列番号13のアミノ酸配列を含み、前記VH CDR2が、配列番号14、68、69もしくは70のアミノ酸配列を含み、前記VH CDR3が、配列番号15のアミノ酸配列を含み、前記VL CDR1が、配列番号16のアミノ酸配列を含み、前記VL CDR2が、配列番号11のアミノ酸配列を含み、前記VL CDR3が、配列番号17もしくは71のアミノ酸配列を含むか;または
前記VH CDR1が、配列番号13のアミノ酸配列を含み、前記VH CDR2が、配列番号18、72、73もしくは74のアミノ酸配列を含み、前記VH CDR3が、配列番号19のアミノ酸配列を含み、前記VL CDR1が、配列番号20のアミノ酸配列を含み、前記VL CDR2が、配列番号21もしくは75のアミノ酸配列を含み、前記VL CDR3が、配列番号22もしくは76のアミノ酸配列を含む、
抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項2】
前記VH CDR1が、配列番号7のアミノ酸配列を含み、前記VH CDR2が、配列番号8のアミノ酸配列を含み、前記VH CDR3が、配列番号9のアミノ酸配列を含み、前記VL CDR1が、配列番号10のアミノ酸配列を含み、前記VL CDR2が、配列番号11のアミノ酸配列を含み、前記VL CDR3が、配列番号12のアミノ酸配列を含むか;
前記VH CDR1が、配列番号13のアミノ酸配列を含み、前記VH CDR2が、配列番号14のアミノ酸配列を含み、前記VH CDR3が、配列番号15のアミノ酸配列を含み、前記VL CDR1が、配列番号16のアミノ酸配列を含み、前記VL CDR2が、配列番号11のアミノ酸配列を含み、前記VL CDR3が、配列番号17のアミノ酸配列を含むか;または
前記VH CDR1が、配列番号13のアミノ酸配列を含み、前記VH CDR2が、配列番号18のアミノ酸配列を含み、前記VH CDR3が、配列番号19のアミノ酸配列を含み、前記VL CDR1が、配列番号20のアミノ酸配列を含み、前記VL CDR2が、配列番号21のアミノ酸配列を含み、前記VL CDR3が、配列番号22のアミノ酸配列を含む、
請求項1に記載の抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項3】
前記VH CDR1が、配列番号7のアミノ酸配列を含み、前記VH CDR2が、配列番号8、64、65または66のアミノ酸配列を含み、前記VH CDR3が、配列番号9のアミノ酸配列を含み、前記VL CDR1が、配列番号10のアミノ酸配列を含み、前記VL CDR2が、配列番号11のアミノ酸配列を含み、前記VL CDR3が、配列番号12または67のアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項4】
前記VHが、G55A置換、S61A置換またはこれらの組合せを必要に応じて有する、配列番号1および23~28からなる群から選択されるアミノ酸配列を含み、前記VLが、S93A置換を必要に応じて有する、配列番号2および30~32からなる群から選択されるアミノ酸配列を含み、全てのアミノ酸位置がKabat番号付けに準拠する、請求項3に記載の抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項5】
前記VHが、配列番号24のアミノ酸配列を含み、前記VLが、配列番号30のアミノ酸配列を含むか;
前記VHが、配列番号25のアミノ酸配列を含み、前記VLが、配列番号30のアミノ酸配列を含むか;または
前記VHが、配列番号26のアミノ酸配列を含み、前記VLが、配列番号30のアミノ酸配列を含む、
請求項4に記載の抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項6】
前記VHが、配列番号23のアミノ酸配列を含み、前記VLが、配列番号31のアミノ酸配列を含むか;または
前記VHが、配列番号23のアミノ酸配列を含み、前記VLが、配列番号32のアミノ酸配列を含む、
請求項4に記載の抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項7】
前記VH CDR1が、配列番号13のアミノ酸配列を含み、前記VH CDR2が、配列番号14、68、69または70のアミノ酸配列を含み、前記VH CDR3が、配列番号15のアミノ酸配列を含み、前記VL CDR1が、配列番号16のアミノ酸配列を含み、前記VL CDR2が、配列番号11のアミノ酸配列を含み、前記VL CDR3が、配列番号17または71のアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項8】
前記VHが、G55A置換、S61A置換またはこれらの組合せを必要に応じて有する、配列番号3および36~41からなる群から選択されるアミノ酸配列を含み、前記VLが、S93A置換を必要に応じて有する、配列番号4および44~46からなる群から選択されるアミノ酸配列を含み、全てのアミノ酸位置がKabat番号付けに準拠する、請求項7に記載の抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項9】
前記VHが、配列番号37のアミノ酸配列を含み、前記VLが、配列番号45のアミノ酸配列を含むか;
前記VHが、配列番号38のアミノ酸配列を含み、前記VLが、配列番号45のアミノ酸配列を含むか;
前記VHが、配列番号39のアミノ酸配列を含み、前記VLが、配列番号45のアミノ酸配列を含むか;
前記VHが、配列番号37のアミノ酸配列を含み、前記VLが、配列番号46のアミノ酸配列を含むか;
前記VHが、配列番号38のアミノ酸配列を含み、前記VLが、配列番号46のアミノ酸配列を含むか;または
前記VHが、配列番号39のアミノ酸配列を含み、前記VLが、配列番号46のアミノ酸配列を含む、
請求項8に記載の抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項10】
前記VHが、G55A置換、S61A置換またはこれらの組合せを必要に応じて有する、配列番号37のアミノ酸配列を含み、前記VLが、S93A置換を必要に応じて有する、配列番号45のアミノ酸配列を含み、全てのアミノ酸位置がKabat番号付けに準拠する、請求項8に記載の抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項11】
前記VHが、配列番号37のアミノ酸配列を含み、前記VLが、配列番号44のアミノ酸配列を含むか;
前記VHが、配列番号38のアミノ酸配列を含み、前記VLが、配列番号44のアミノ酸配列を含むか;または
前記VHが、配列番号39のアミノ酸配列を含み、前記VLが、配列番号44のアミノ酸配列を含む、
請求項8に記載の抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項12】
前記VH CDR1が、配列番号13のアミノ酸配列を含み、前記VH CDR2が、配列番号18、72、73または74のアミノ酸配列を含み、前記VH CDR3が、配列番号19のアミノ酸配列を含み、前記VL CDR1が、配列番号20のアミノ酸配列を含み、前記VL CDR2が、配列番号21または75のアミノ酸配列を含み、前記VL CDR3が、配列番号22または76のアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項13】
前記VHが、G55A置換、S61A置換またはこれらの組合せを必要に応じて有する、配列番号5および50~55からなる群から選択されるアミノ酸配列を含み、前記VLが、S53A置換、S93A置換またはこれらの組合せを必要に応じて有する、配列番号6および59~62からなる群から選択されるアミノ酸配列を含み、全てのアミノ酸位置がKabat番号付けに準拠する、請求項12に記載の抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項14】
前記VHが、配列番号50のアミノ酸配列を含み、前記VLが、配列番号60のアミノ酸配列を含むか;または
前記VHが、配列番号50のアミノ酸配列を含み、前記VLが、配列番号61のアミノ酸配列を含む、
請求項12に記載の抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項15】
前記VHが、配列番号53のアミノ酸配列を含み、前記VLが、配列番号59のアミノ酸配列を含む、請求項12に記載の抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項16】
抗CD3ユニットが、CD3複合体に特異的な一本鎖断片(scFv)を含む、請求項1から15のいずれか一項に記載の多重特異性抗体。
【請求項17】
請求項1から16のいずれか一項に記載の抗CD3抗原結合性断片と、抗腫瘍関連抗原(TAA)ユニットとを含む、多重特異性抗体。
【請求項18】
前記抗TAAユニットが、重鎖可変領域(VH)と軽鎖可変領域(VL)の対を含むFab断片を含み、前記抗CD3抗原結合性断片が、一本鎖断片(scFv)である、請求項17に記載の多重特異性抗体。
【請求項19】
前記抗CD3抗原結合性断片および前記抗TAAユニットが、両方とも、Fc断片のN末端に配置されている、請求項17に記載の多重特異性抗体。
【請求項20】
前記TAAが、クローディン18.2、GPC3、5T4、EGFR、Her2、EpCAM、CD20、CD30、CD33、CD47、CD52、CD133、CD73、CEA、gpA33、ムチン、TAG-72、CIX、PSMA、葉酸結合タンパク質、GD2、GD3、GM2、VEGF、VEGFR、インテグリン、αVβ3、α5β1、ERBB2、ERBB3、MET、IGF1R、EPHA3、TRAILR1、TRAILR2、RANKL、FAPおよびテネイシンからなる群から選択される、請求項17から19のいずれか一項に記載の多重特異性抗体。
【請求項21】
請求項1から20のいずれか一項に記載の抗体または断片をコードする、1つまたは複数のポリヌクレオチド。
【請求項22】
請求項21に記載の1つまたは複数のポリヌクレオチドを含む、細胞。
【請求項23】
請求項1から20のいずれか一項に記載の抗体もしくは断片、請求項21に記載の1つもしくは複数のポリヌクレオチド、または請求項22に記載の細胞を含む、組成物。
【請求項24】
がんを処置するための方法であって、請求項1から20のいずれか一項に記載の抗体または断片の有効量をがん患者に投与するステップを含む方法。
【請求項25】
がんを処置するための医薬の製造のための、請求項1から20のいずれか一項に記載の抗体または断片の使用。
【請求項26】
前記がんが、前立腺がん、膵臓がん、白血病、乳がん、大腸がん、胃がん、頭頸部がん、肝臓がん、食道がん、子宮頸がん、甲状腺がん、肺がん、膀胱がん、腎臓がん、子宮がん、または黒色腫である、請求項24に記載の方法または請求項25に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
背景
CD3(表面抗原分類3)は、タンパク質複合体であり、細胞傷害性T細胞(CD8+ナイーブT細胞)とヘルパーT細胞(CD4+ナイーブT細胞)の両方を活性化することに関与するT細胞共受容体である。CD3は、4本の別個の鎖で構成されている。哺乳動物では、この複合体は、CD3γ鎖、CD3δ鎖、および2本のCD3ε鎖を含有する。これらの鎖は、T細胞受容体(TCR)およびCD3-ゼータ(ζ鎖)と会合して、Tリンパ球において活性化シグナルを生成する。TCR、CD3-ゼータ、および他のCD3分子が一緒にTCR複合体を構成する。
【0002】
その複雑な細胞外構造を考えると、抗CD3アゴニスト抗体は、開発するのが難しい。CD3を標的とする治療用抗体を生成する当初の試み以来、何十年にもわたって、成功しているものは、ほとんどない。SP34は、最初に広く使用された抗CD3アゴニスト抗体であり、カニクイザルCD3と交差反応し得る。また、かなりの数の誘導体が、元のSP34抗体に基づいて開発されている。とはいえ、SP34抗体またはその誘導体をscFv形式に組み入れることが大きな課題であることは証明されている。scFvは、二重特異性または三重特異性抗体への組込みに最も一般的に使用されている断片であることを考えると、この欠損がSP34の応用を大幅に制限している。もう1つの広く使用されている抗CD3抗体は、OKT3であり、これは、カニクイザルCD3との交差反応性を残念ながら有さず、それ故、好適な前臨床試験モデルの欠如によりその臨床使用が妨げられている。
【0003】
抗CD3ユニットを有する二重特異性抗体は、患者自身のT細胞を悪性細胞に結合させる標的化されたがん免疫プラットフォームを提供する。そのような二重特異性抗体は、T細胞のがん細胞への直接的な結合を確実にし、したがって、T細胞活性化を可能ならしめることができ、その結果、細胞傷害活性が、がん細胞に指向されることになる。CD3に対して特異性を有する二重特異性抗体の開発は、バランスのとれた作用強度、カニクイザルに対する交差反応性、および好適な断片形式への組入れ可能性を有する抗CD3抗体の欠如により妨げられている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
要旨
本開示は、ヒト化されたものを含む新たな抗CD3抗体、およびそれらの抗原結合性断片を提供する。これらの抗体は、ヒトCD3とカニクイザルCD3の両方に高い親和性で結合することができ、それらの一本鎖断片(scFv)には合理的な開発可能性があり、したがって、これらのCD3抗体を容易に多重特異性抗体に組み込んで腫瘍細胞の存在下でT細胞を有効に活性化することができる。さらに、それらのうち比較的少数で、これらの抗体は、広範囲の抗CD3活性を示した。活性に基づいて、これらの抗体を9個異なるグレード(グレード1~9)にカテゴリー分けした。
【0005】
したがって、一実施形態では、抗CD3抗体またはその抗原結合性断片が提供される。一部の実施形態では、抗CD3抗体またはその抗原結合性断片は、ヒトCD3とカニクイザルCD3の両方に対して結合親和性を有する。一部の実施形態では、抗CD3抗体またはその抗原結合性断片は、VH CDR1、VH CDR2、およびVH CDR3を含む重鎖可変領域(VH)、およびVL CDR1、VL CDR2、およびVL CDR3を含む軽鎖可変領域(VL)を含み、VH CDR1が、配列番号7のアミノ酸配列を含み、VH CDR2が、配列番号8、64、65もしくは66のアミノ酸配列を含み、VH CDR3が、配列番号9のアミノ酸配列を含み、VL CDR1が、配列番号10のアミノ酸配列を含み、VL CDR2が、配列番号11のアミノ酸配列を含み、VL CDR3が、配列番号12もしくは67のアミノ酸配列を含むか;VH CDR1が、配列番号13のアミノ酸配列を含み、VH CDR2が、配列番号14、68、69もしくは70のアミノ酸配列を含み、VH CDR3が、配列番号15のアミノ酸配列を含み、VL CDR1が、配列番号16のアミノ酸配列を含み、VL CDR2が、配列番号11のアミノ酸配列を含み、VL CDR3が、配列番号17もしくは71のアミノ酸配列を含むか;またはVH CDR1が、配列番号13のアミノ酸配列を含み、VH CDR2が、配列番号18、72、73もしくは74のアミノ酸配列を含み、VH CDR3が、配列番号19のアミノ酸配列を含み、VL CDR1が、配列番号20のアミノ酸配列を含み、VL CDR2が、配列番号21もしくは75のアミノ酸配列を含み、VL CDR3が、配列番号22もしくは76のアミノ酸配列を含む。
【0006】
一部の実施形態では、VH CDR1は、配列番号7のアミノ酸配列を含み、VH CDR2は、配列番号8、64、65または66のアミノ酸配列を含み、VH CDR3は、配列番号9のアミノ酸配列を含み、VL CDR1は、配列番号10のアミノ酸配列を含み、VL CDR2は、配列番号11のアミノ酸配列を含み、VL CDR3は、配列番号12または67のアミノ酸配列を含む。
【0007】
一部の実施形態では、VHは、G55A置換、S61A置換またはこれらの組合せを必要に応じて有する、配列番号1および23~28からなる群から選択されるアミノ酸配列を含み、VLは、S93A置換を必要に応じて有する、配列番号2および30~32からなる群から選択されるアミノ酸配列を含み、全てのアミノ酸位置は、Kabat番号付けに準拠する。
【0008】
一部の実施形態では、VHは、配列番号24のアミノ酸配列を含み、VLは、配列番号30のアミノ酸配列を含むか;VHは、配列番号25のアミノ酸配列を含み、VLは、配列番号30のアミノ酸配列を含むか;またはVHは、配列番号26のアミノ酸配列を含み、VLは、配列番号30のアミノ酸配列を含む。
【0009】
一部の実施形態では、VH CDR1は、配列番号13のアミノ酸配列を含み、VH CDR2は、配列番号14、68、69または70のアミノ酸配列を含み、VH CDR3は、配列番号15のアミノ酸配列を含み、VL CDR1は、配列番号16のアミノ酸配列を含み、VL CDR2は、配列番号11のアミノ酸配列を含み、VL CDR3は、配列番号17または71のアミノ酸配列を含む。
【0010】
一部の実施形態では、VHは、G55A置換、S61A置換またはこれらの組合せを必要に応じて有する、配列番号3および36~41からなる群から選択されるアミノ酸配列を含み、VLは、S93A置換を必要に応じて有する、配列番号4および44~46からなる群から選択されるアミノ酸配列を含み、全てのアミノ酸位置は、Kabat番号付けに準拠する。
【0011】
一部の実施形態では、VHは、配列番号37のアミノ酸配列を含み、VLは、配列番号45のアミノ酸配列を含むか;VHは、配列番号38のアミノ酸配列を含み、VLは、配列番号45のアミノ酸配列を含むか;VHは、配列番号39のアミノ酸配列を含み、VLは、配列番号45のアミノ酸配列を含むか;VHは、配列番号37のアミノ酸配列を含み、VLは、配列番号46のアミノ酸配列を含むか;VHは、配列番号38のアミノ酸配列を含み、VLは、配列番号46のアミノ酸配列を含むか;またはVHは、配列番号39のアミノ酸配列を含み、VLは、配列番号46のアミノ酸配列を含む。
【0012】
一部の実施形態では、VHは、G55A置換、S61A置換またはこれらの組合せを必要に応じて有する、配列番号37のアミノ酸配列を含み、VLは、S93A置換を必要に応じて有する、配列番号45のアミノ酸配列を含み、全てのアミノ酸位置は、Kabat番号付けに準拠する。
【0013】
一部の実施形態では、VH CDR1は、配列番号13のアミノ酸配列を含み、VH CDR2は、配列番号18、72、73または74のアミノ酸配列を含み、VH CDR3は、配列番号19のアミノ酸配列を含み、VL CDR1は、配列番号20のアミノ酸配列を含み、VL CDR2は、配列番号21または75のアミノ酸配列を含み、VL CDR3は、配列番号22または76のアミノ酸配列を含む。
【0014】
一部の実施形態では、VHは、G55A置換、S61A置換またはこれらの組合せを必要に応じて有する、配列番号5および50~55からなる群から選択されるアミノ酸配列を含み、VLは、S53A置換、S93A置換またはこれらの組合せを必要に応じて有する、配列番号6および59~62からなる群から選択されるアミノ酸配列を含み、全てのアミノ酸位置は、Kabat番号付けに準拠する。
【0015】
一部の実施形態では、VHは、配列番号50のアミノ酸配列を含み、VLは、配列番号60のアミノ酸配列を含むか;またはVHは、配列番号50のアミノ酸配列を含み、VLは、配列番号61のアミノ酸配列を含む。
【0016】
がんなどの疾患を処置するために、開示される抗体または断片を使用するための方法および使用も、提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、抗CD3キメラ抗体が、異なる作用強度でヒトPBMCおよびカニクイザルPBMCに結合したことを示す。
【0018】
図2図2は、試験したキメラ抗体のCD3活性が、ベンチマーク抗体OKT3と比較して弱い応答を呈したことを示す。
【0019】
図3図3は、試験した抗CD3キメラ抗体により誘導された4-1BB発現を示す。
【0020】
図4-1】図4は、試験したヒト化CD3抗体の細胞ベースの結合を示す。
図4-2】図4は、試験したヒト化CD3抗体の細胞ベースの結合を示す。
【0021】
図5-1】図5は、試験したヒト化CD3抗体が、多種多様なCD3活性を示したことを示す。
図5-2】図5は、試験したヒト化CD3抗体が、多種多様なCD3活性を示したことを示す。
【0022】
図6図6は、ヒト化CD3抗体により誘導された4-1BB発現を示す。
【0023】
図7図7は、TCR/CD3細胞により調べたCD3 NFAT活性を示す。
【0024】
図8図8は、SP34と比較して、CD3 BsAbのTAA依存性アゴニスト活性を示す。
【0025】
図9図9は、1+1形式の二重特異性抗体が、2+Lc2形式の二重特異性抗体より頑強な応答を誘導したことを示す。
【0026】
図10図10は、4-1BB誘導IL-2分泌がCD3依存性であったことを示す。
【0027】
図11図11は、三重特異性抗体により刺激されたIL-2分泌にはCD3 NFAT活性の正の相関があったことを示す。
【0028】
図12図12は、三重特異性抗体により刺激された4-1BB誘導がCD3 NFAT活性の正の相関を示すことを示す。
【0029】
図13図13は、ベンチマーク二重特異性抗体により誘導されたIL-2分泌および細胞溶解活性を示す。
【0030】
図14図14は、ベンチマーク三重特異性抗体により誘導されたIL-2分泌および細胞溶解活性を示す。
【0031】
図15図15は、三重特異性抗体によってB16F10-h5T4誘導腫瘍を処置するためのin vivo実験の計画および結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0032】
詳細な説明
定義
用語「1つの(a)」または「1つの(an)」実体は、その実体の1つまたは複数を指し、例えば、「1つの抗体(an antibody)」は、1つまたは複数の抗体を表すと理解されることに留意されたい。したがって、用語「1つの(a)」(または「1つの(an)」)、「1つまたは複数(one or more)」および「少なくとも1つ(at least one)」は、本明細書では同義で使用され得る。
【0033】
本明細書で使用される場合、用語「ポリペプチド」は、単数の「ポリペプチド」はもちろん複数の「ポリペプチド」も含み、アミド結合(ペプチド結合としても公知)により直鎖状に連結された単量体(アミノ酸)で構成されている分子を指す。用語「ポリペプチド」は、2またはそれより多いアミノ酸数の任意の鎖(単数)または鎖(複数)を指し、生成物の特定の長さを指さない。したがって、ペプチド、ジペプチド、トリペプチド、オリゴペプチド、「タンパク質」、「アミノ酸鎖」、または2もしくはそれより多いアミノ酸数の鎖(単数)もしくは鎖(複数)を指すために使用される任意の他の用語は、「ポリペプチド」の定義に含まれ、用語「ポリペプチド」は、これらの用語のいずれかの代わりに、またはいずれかと同義で使用され得る。用語「ポリペプチド」は、グリコシル化、アセチル化、リン酸化、アミド化、公知の保護/ブロッキング基による誘導体化、タンパク質分解的切断、または天然に存在しないアミノ酸による改変を含むがこれらに限定されない、ポリペプチドの発現後改変の産物を指すことを意図したものでもある。ポリペプチドは、天然の生物学的起源に由来することもあり、または組換え技術により産生されることもあるが、必ずしも示されている核酸配列から翻訳されるとは限らない。それは、化学合成によるものを含む、任意の手法で生成され得る。
【0034】
用語「単離された」は、細胞、核酸、例えば、DNAまたはRNAに関して本明細書で使用される場合、高分子の天然源に存在する他のDNAまたはRNAから分離された分子をそれぞれ指す。本明細書で使用される場合の用語「単離された」はまた、組換えDNA技法により産生された場合、細胞物質もウイルス物質も培養培地も実質的にない、または化学合成された場合、化学的前駆体も他の化学物質も実質的にない、核酸もしくはペプチドを指す。さらに、「単離された核酸」は、断片として天然に存在しないおよび自然な状態で見出されない、核酸断片を含むように意図されている。用語「単離された」は、他の細胞タンパク質または組織から単離されている細胞またはポリペプチドを指すためにも本明細書で使用される。単離されたポリペプチドは、精製されたポリペプチドと組換えポリペプチドの両方を包含するように意図されている。
【0035】
本明細書で使用される場合、「抗体」または「抗原結合性断片」は、抗原を特異的に認識し、それに結合する、ポリペプチドまたはポリペプチド複合体を指す。抗体は、全抗体およびその任意の抗原結合性断片または一本鎖であり得る。したがって、用語「抗体」は、抗原に結合する生物活性を有する免疫グロブリン分子の少なくとも一部分を含む分子を含有する、任意のタンパク質またはペプチドを含む。そのようなものの例としては、重鎖もしくは軽鎖またはそのリガンド結合部分の相補性決定領域(CDR)、重鎖または軽鎖可変領域、重鎖または軽鎖定常領域、フレームワーク(FR)領域、あるいはその任意の部分、あるいは結合タンパク質の少なくとも一部分が挙げられるが、これらに限定されない。
【0036】
用語「抗体断片」または「抗原結合性断片」は、本明細書で使用される場合、抗体の一部分、例えば、F(ab’)、F(ab)、Fab’、Fab、Fv、scFvなどである。構造に関係なく、抗体断片は、無傷抗体により認識される同じ抗原と結合する。用語「抗体断片」は、アプタマー、スピーゲルマー、およびダイアボディを含む。用語「抗体断片」は、特定の抗原に結合して複合体を形成することにより抗体のように動作する、任意の合成のまたは遺伝子操作されたタンパク質も含む。
【0037】
「一本鎖可変断片」または「scFv」は、免疫グロブリンの重鎖(V)の可変領域と軽鎖(V)の可変領域の融合タンパク質を指す。一部の態様では、領域は、10~約25アミノ酸の短いリンカーペプチドによって結合されている。リンカーは、可動性のためにグリシンはもちろん可溶性のためにセリンまたはトレオニンも多く含むことができ、VのN末端をVのC末端と結合すること、またはその逆、どちらかができる。このタンパク質は、定常領域の除去およびリンカーの導入にもかかわらず、元の免疫グロブリンの特異性を保持する。scFv分子は、当技術分野において公知であり、例えば米国特許第5,892,019号に、記載されている。
【0038】
抗体という用語は、生化学的に区別され得るポリペプチドの様々な広範なクラスを包含する。重鎖が、ガンマ、ミュー、アルファ、デルタまたはイプシロン(γ、μ、α、δ、ε)として、一部はこれらの中のサブクラス(例えば、γ1~γ4)として、分類されることは、当業者には理解されるであろう。それは、それぞれIgG、IgM、IgA、IgGまたはIgEのような抗体の「クラス」を決定するこの鎖の性質である。免疫グロブリンサブクラス(アイソタイプ)、例えば、IgG、IgG、IgG、IgG、IgGなどは、十分に特徴付けられており、機能の特化をもたらすことが公知である。これらのクラスおよびアイソタイプの各々についての改変バージョンは、本開示に鑑みて当業者には容易に識別可能であり、したがって、本開示の範囲内である。全ての免疫グロブリンクラスは、明らかに本開示の範囲内であり、以下の論述は、一般に、免疫グロブリン分子のIgGクラスに関することになる。IgGに関して、標準的な免疫グロブリン分子は、分子量おおよそ23,000ダルトンの2つの同一の軽鎖ポリペプチド、および分子量53,000~70,000の2つの同一の重鎖ポリペプチドを含む。4本の鎖は、典型的に、ジスルフィド結合により「Y」形状に連結されており、軽鎖が、「Y」の口で始まって可変領域まで続いて重鎖を両側から挟んでいる。
【0039】
本開示の抗体、その抗原結合性ポリペプチド、バリアントまたは誘導体は、ポリクローナル、モノクローナル、多重特異性、ヒト、ヒト化、霊長類化またはキメラ抗体、一本鎖抗体、エピトープ結合性断片、例えば、Fab、Fab’およびF(ab’)、Fd、Fv、一本鎖Fv(scFv)、一本鎖抗体、ジスルフィド連結Fv(sdFv)、VKまたはVHドメインを含む断片、Fab発現ライブラリーにより生成される断片、ならびに抗イディオタイプ(抗Id)抗体(例えば、本明細書で開示される抗CD3抗体を含む)を含むが、これらに限定されない。本開示の免疫グロブリンまたは抗体分子は、免疫グロブリン分子の任意のタイプ(例えば、IgG、IgE、IgM、IgD、IgAおよびIgY)、クラス(IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1およびIgA2)またはサブクラスのものであり得る。
【0040】
軽鎖は、カッパまたはラムダ(Kまたはλ)のどちらかとして分類される。各重鎖は、カッパ軽鎖と結合していることもあり、またはラムダ軽鎖と結合していることもある。一般に、軽鎖および重鎖は、互いに共有結合しており、2本の重鎖の「尾」部分は、免疫グロブリンがハイブリドーマ、B細胞または遺伝子操作された宿主細胞のいずれかにより生成されたとき、共有結合性ジスルフィド連結または非共有結合性連結によって互いに結合している。重鎖の場合、アミノ酸配列は、Y形状の分岐した末端におけるN末端から各鎖の底部におけるC末端に及ぶ。
【0041】
軽鎖と重鎖の両方は、構造的および機能的相同領域に分けられる。用語「定常」および「可変」は、機能的に使用される。このことに関して、軽鎖(VK)部分と重鎖(VH)部分の両方の可変ドメインが、抗原認識および特異性を決定することは理解されるであろう。逆に、軽鎖の定常ドメイン(CK)および重鎖の定常ドメイン(CH1、CH2またはCH3)は、重要な生物学的特性、例えば、分泌、経胎盤移動度、Fc受容体結合、補体結合などを付与する。慣例により、定常領域ドメインの番号付けは、それらが抗体の抗原結合部位またはアミノ末端から遠位になるにつれて増加する。N末端部分は、可変領域であり、C末端部分に定常領域があり、CH3およびCKドメインは、実際には、重鎖および軽鎖のカルボキシ末端をそれぞれ含む。
【0042】
上述のとおり、可変領域は、抗体が抗原上のエピトープを選択的に認識し、それに特異的に結合することを可能にする。つまり、抗体の、VKドメインおよびVHドメイン、または相補性決定領域(CDR)のサブセットは、三次元抗原結合部位を規定する可変領域を形成するように化合している。この四次抗体構造は、Yの各腕の末端に存在する抗原結合部位を形成する。より具体的には、抗原結合部位は、VHおよびVK鎖の各々の上の3つのCDR(すなわち、CDR-H1、CDR-H2、CDR-H3、CDR-L1、CDR-L2およびCDR-L3)により規定される。一部の事例、例えば、ラクダ科動物種に由来する、またはラクダ科動物免疫グロブリンに基づいて操作された、ある特定の免疫グロブリン分子、では、完全免疫グロブリン分子は、軽鎖を有さずに、重鎖のみからなり得る。例えば、Hamers-Casterman et al., Nature 363:446-448 (1993)を参照されたい。
【0043】
天然に存在する抗体の場合、各抗原結合ドメインに存在する6つの「相補性決定領域」または「CDR」は、抗体が水性環境でその三次元形状をとったときに抗原結合ドメインを形成するように特異的に配置されている、アミノ酸の短い不連続な配列である。「フレームワーク」領域と呼ばれる、抗原結合ドメイン内のアミノ酸の残部は、分子間可変性をあまり示さない。フレームワーク領域は、主としてβシート立体構造をとり、CDRは、ループを形成し、これらのループは、βシート構造を結合し、一部の場合にはその一部を形成する。したがって、フレームワーク領域は、鎖間の非共有結合性相互作用によりCDRを正しい配向で配置することに備える足場を形成するように作用する。配置されたCDRにより形成される抗原結合ドメインは、免疫反応性抗原上のエピトープに相補的な表面を規定する。この相補的表面は、抗体のその同種エピトープへの非共有結合を促進する。CDRおよびフレームワーク領域をそれぞれ構成するアミノ酸を、当業者は、任意の所与の重鎖または軽鎖可変領域について容易に同定することができる。それらは、正確に定義されているからである(“Sequences of Proteins of Immunological Interest,” Kabat, E., et al., U.S. Department of Health and Human Services, (1983);およびChothia and Lesk, J. MoI. Biol., 196:901-917 (1987)を参照されたい)。
【0044】
当技術分野において使用されているおよび/または認められている用語について2つまたはそれより多くの定義がある場合、本明細書で使用される場合のその用語の定義は、相いれない明示的な記述がない限り、全てのそのような意味を含むように意図されている。具体的な例は、重鎖ポリペプチドと軽鎖ポリペプチド両方の可変領域内に見られる不連続な抗原結合部位を記載するための用語「相補性決定領域」(「CDR」)の使用である。この特定の領域は、Kabat et al., U.S. Dept. of Health and Human Services, “Sequences of Proteins of Immunological Interest” (1983)によりおよびChothia et al., J. MoI. Biol. 196:901-917 (1987)により記載されており、これらの参考文献は、それら全体が参照により本明細書に組み込まれる。KabatおよびChothiaによるCDR定義は、互いに比較すると、アミノ酸残基のオーバーラップまたはサブセットを含む。とはいえ、抗体またはそのバリアントのCDRに言及するためのどちらの定義の適用も、本明細書で定義され使用される用語の範囲内であるように意図されている。上に引用された参考文献の各々により定義されているようなCDRを包含する適切なアミノ酸残基は、下の表に比較として示されている。特定のCDRを包含する正確な残基数は、CDRの配列およびサイズによって変わることになる。当業者は、抗体の可変領域アミノ酸配列に鑑みて、どの残基が特定のCDRを含むのかを、常套的に決定することができる。
【表11】
【0045】
Kabatらは、任意の抗体に適用できる可変ドメイン配列の番号付けシステムも定義している。当業者は、配列それ自体以外にいずれの実験データにも頼ることなく、「Kabat番号付け」のこのシステムを任意の可変ドメイン配列に明確に割り当てることができる。本明細書で使用される場合、「Kabat番号付け」は、Kabat et al., U.S. Dept. of Health and Human Services, “Sequence of Proteins of Immunological Interest” (1983)により示されている番号付けシステムを指す。
【0046】
上の表に加えて、Kabat番号付けシステムは、CDR領域を以下のように記載している:CDR-H1は、おおよそアミノ酸31(すなわち、最初のシステイン残基のおおよそ9残基後)で始まり、おおよそ5~7個のアミノ酸を含み、次のトリプトファン残基で終わる。CDR-H2は、CDR-H1の終了後15番目の残基で始まり、おおよそ16~19個のアミノ酸を含み、次のアルギニンまたはリシン残基で終わる。CDR-H3は、CDR-H2の終了後おおよそ33番目のアミノ酸残基で始まり、3~25個のアミノ酸を含み、配列W-G-X-Gで終わり、この配列中のXは、任意のアミノ酸である。CDR-L1は、おおよそ残基24(すなわち、システイン残基の後)で始まり、おおよそ10~17個の残基を含み、次のトリプトファン残基で終わる。CDR-L2は、CDR-L1の終了後おおよそ16番目の残基で始まり、おおよそ7個の残基を含む。CDR-L3は、CDR-L2の終了後(すなわち、システイン残基の後)おおよそ33番目の残基で始まり、おおよそ7~11個の残基を含み、配列FまたはW-G-X-Gで終わり、この配列中のXは、任意のアミノ酸である。
【0047】
本明細書で開示される抗体は、鳥類および哺乳動物を含む任意の動物起源のものであり得る。好ましくは、抗体は、ヒト、マウス、ロバ、ウサギ、ヤギ、モルモット、ラクダ、ラマ、ウマ、またはニワトリ抗体である。別の実施形態では、可変領域は、起源が軟骨魚網様のもの(例えば、サメからのもの)であり得る。
【0048】
本明細書で使用される場合、用語「重鎖定常領域」は、免疫グロブリン重鎖に由来するアミノ酸配列を含む。重鎖定常領域を含むポリペプチドは、CH1ドメイン、ヒンジ(例えば、上部、中部および/もしくは下部ヒンジ領域)ドメイン、CH2ドメイン、CH3ドメイン、またはそのバリアントもしくは断片のうちの少なくとも1つを含む。例えば、本開示における使用のための抗原結合ポリペプチドは、CH1ドメインを含むポリペプチド鎖;CH1ドメインとヒンジドメインの少なくとも一部分とCH2ドメインとを含むポリペプチド鎖;CH1ドメインとCH3ドメインとを含むポリペプチド鎖;CH1ドメインとヒンジドメインの少なくとも一部分とCH3ドメインとを含むポリペプチド鎖;またはCH1ドメインとヒンジドメインの少なくとも一部分とCH2ドメインとCH3ドメインとを含むポリペプチド鎖を含み得る。別の実施形態では、本開示のポリペプチドは、CH3ドメインを含むポリペプチド鎖を含む。さらに、本開示における使用のための抗体は、CH2ドメインの少なくとも一部分(例えば、CH2ドメインの全てまたは一部)を欠いていることがある。上で示されたとおり、重鎖定常領域を、それらがアミノ酸配列の点で天然に存在する免疫グロブリン分子と異なるように改変することができることは、当業者には理解されるであろう。
【0049】
本明細書で開示される抗体の重鎖定常領域は、異なる免疫グロブリン分子に由来し得る。例えば、ポリペプチドの重鎖定常領域は、IgG分子に由来するCH1ドメイン、およびIgG分子に由来するヒンジ領域を含み得る。別の例では、重鎖定常領域は、一部がIgG分子におよび一部がIgG分子に由来する、ヒンジ領域を含み得る。別の例では、重鎖部分は、一部がIgG分子におよび一部がIgG分子に由来する、キメラヒンジを含み得る。
【0050】
本明細書で使用される場合、用語「軽鎖定常領域」は、抗体軽鎖に由来するアミノ酸配列を含む。好ましくは、軽鎖定常領域は、定常カッパドメインまたは定常ラムダドメインの少なくとも一方を含む。
【0051】
「特異的に結合する」または「に対して特異性を有する」とは、一般に、抗体がその抗原結合ドメインを介してエピトープに結合すること、および結合が抗原結合ドメインとエピトープ間のある程度の相補性を必要とすることを意味する。この定義によれば、抗体は、エピトープに、それがそのエピトープに、それがランダムな無関係のエピトープに結合するよりも容易に、その抗原結合ドメインを介して結合する場合、「特異的に結合する」と言われる。用語「特異性」は、ある特定の抗体がある特定のエピトープに結合する相対的親和性を認定するために本明細書では使用される。例えば、抗体「A」は、抗体「B」よりも所与のエピトープに対して高い特異性を有すると見なされることがあり、または抗体「A」は、それが関連エピトープ「D」に対して有するよりも高い特異性でエピトープ「C」に結合すると言われることがある。
【0052】
本明細書で使用される場合、用語「処置する」または「処置」は、治療的処置も、目的が、望ましくない生理的変化または障害、例えばがんの進行、を予防するまたは減速させる(減らす)ことである、予防的対策または予防対策も、指す。有益なまたは所望の臨床結果としては、検出可能であるか検出不能であるかを問わず、症候の緩和、疾患の程度の低下、疾患の安定化した(すなわち、悪化しない)状態、疾患進行の遅延または緩徐化、病状の改善または軽減、および寛解(部分寛解であるか完全寛解あるかを問わず)が挙げられるが、これらに限定されない。「処置」は、処置を受けなかった場合の予想生存期間と比較して生存期間を延長することも意味し得る。処置を必要とする者は、状態または障害に既に罹患している者はもちろん、状態もしくは障害に罹患しやすい者、または状態もしくは障害を予防すべき者を含む。
【0053】
「対象」または「個体」または「動物」または「患者」または「哺乳動物」とは、診断、予後判定または治療が望まれる任意の対象、特に、哺乳動物対象を意味する。哺乳類の対象としては、ヒト、飼育動物、家畜、動物園、競技またはペット動物、例えば、イヌ、ネコ、モルモット、ウサギ、ラット、マウス、ウマ、ウシ、雌ウシなどが挙げられる。
【0054】
本明細書で使用される場合、「処置を必要とする患者に」または「処置を必要とする対象」などの句は、例えば、検出に、診断手順に、および/または処置に、使用される本開示の抗体または組成物の投与の恩恵を受けることになる対象、例えば、哺乳類の対象を含む。
改善された治療指数のT細胞エンゲージャー
【0055】
CD3(表面抗原分類3)は、タンパク質複合体であり、細胞傷害性T細胞(CD8ナイーブT細胞)とヘルパーT細胞(CD4ナイーブT細胞)の両方を活性化することに関与するT細胞共受容体である。CD3は、4本の別個の鎖で構成されている。哺乳動物では、この複合体は、CD3γ鎖、CD3δ鎖、および2本のCD3ε鎖を含有する。これらの鎖は、T細胞受容体(TCR)およびCD3-ゼータ(ζ鎖)と会合して、Tリンパ球において活性化シグナルを生成する。TCR、CD3-ゼータ、および他のCD3分子が一緒にTCR複合体を構成する。
【0056】
その複雑な細胞外構造を考えると、抗CD3アゴニスト抗体は、開発するのが難しい。CD3を標的とする治療用抗体を生成する最初の試み以来、何十年にもわたって、成功しているものは、ほとんどない。SP34は、最初に広く使用された抗CD3アゴニスト抗体であり、カニクイザルCD3と交差反応し得る。また、かなりの数の誘導体が、元のSP34抗体に基づいて開発されている。とはいえ、SP34抗体またはその誘導体をscFv形式に組み入れることが大きな課題であることは証明されている。scFvは、二重特異性または三重特異性抗体への組込みに最もよく使用されている断片であることを考えると、この欠損がSP34の臨床応用を大幅に制限している。もう1つの広く使用されている抗CD3抗体は、OKT3であり、これは、カニクイザルCD3との交差反応性を残念ながら有さず、それ故、好適な前臨床試験モデルの欠如によりその臨床使用が妨げられている。
【0057】
抗CD3抗体の現行の治療上の使用は、標的となる腫瘍細胞の非存在下でのCD3活性化に起因してオフターゲット毒性を伴うことが多い。この課題は、異なる活性/物理的および化学的特性/安全性プロファイルを有する抗CD3抗体の限られた利用可能性によってさらに複雑化される。
【0058】
これに関連して、一実施形態では、本開示は、ヒト化されたものを含む新たな抗CD3抗体、およびそれらの抗原結合性断片を提供する。153A6B1、155A9B1および192A7B9(表1)という3つのマウスハイブリドーマクローンを生成した。ヒト化によって、VH/VLの各々から2つ~6つの間のヒト化バージョン(表4~6)を得た。これらのVH/VL配列の組合せは、70未満の抗体(表4A~6A)の産生につながった。
【0059】
意外なことに、これら約70の抗体は、活性化T細胞核内因子(NFAT)ルシフェラーゼレポーターアッセイまたは4-1BB誘導アッセイにより測定して、非常に異なるin vitro機能活性を示した。NFAT活性または4-1BB誘導活性に基づいて、これらの抗体を9つの異なるグレード(表10、グレード1~9)にカテゴリー分けした。
【0060】
これらの抗CD3抗体のいくつかを使用して、二重特異性および三重特異性抗体(二重特異性または三重特異性T細胞エンゲージャー)を構築した。T細胞は、完全に活性化されるために2つのシグナルを必要とする。抗原特異的である第1のシグナルは、抗原提示細胞(APC)の膜上のペプチド-MHC分子と相互作用するT細胞受容体(TCR)によって提供される。共刺激シグナルである第2のシグナルは、抗原非特異的であり、APCの膜上に発現される共刺激分子とT細胞上に発現される共刺激分子との相互作用により提供される。4-1BB(CD137、腫瘍壊死因子受容体スーパーファミリー9)は、TNF-受容体スーパーファミリー(TNFRSF)のメンバーであり、自然免疫細胞と適応免疫細胞の両方である免疫細胞の活性化後に発現される重要な共刺激分子である。
【0061】
CD3、腫瘍関連抗原(TAA)および4-1BBに対して特異性を有する三重特異性T細胞エンゲージャーは、少なくとも以下の利点を有することができると考えられる。第1に、そのような三重特異性抗体は、第1の(TCRシグナル)および第2の(共刺激)活性化シグナル伝達を同時に提供して、完全に、および持続的におよび効率的に、T細胞を活性化し、さらにメモリーT細胞応答を形づくり、その結果、悪性細胞に立ち向かう。第2に、4-1BBは、活性化または腫瘍浸潤TおよびNK細胞上に発現される、誘導性共刺激分子である。CD3シグナルは、T細胞上での4-1BB発現を誘導することによって4-1BBシグナルとさらに相乗作用することができる。第3に、TAA依存性抗4-1BB抗体(すなわち、対応するTAAが存在しないとアゴニスト活性を有さない抗4-1BB抗体)が使用された場合、三重特異性T細胞エンゲージャーは、非腫瘍環境でよりいっそう安全になる。最後に、三重特異性抗体におけるCD3活性を(例えば、適切なグレードの抗CD3部分、例えば表9、を使用することにより)調整して、4-1BB活性化を微調整することができる。同様に、異なる作用強度の抗CD3抗体を、腫瘍関連抗原(TAA)をさらに標的とする二重特異性T細胞エンゲージャーにおいて最適に使用することもできる。
【0062】
したがって、そのような三重特異性T細胞エンゲージャーのために、4-1BBシグナルとよりよく相乗作用し得るバランスのとれた作用強度を有する抗CD3ユニットを同定することが重要である。好適な抗CD3ユニットは、例えば、IL2活性化および4-1BB誘導およびTAA陽性標的細胞の死滅によって明らかなように、腫瘍抗原の存在下ではT細胞を効率的に活性化することができ、腫瘍抗原の非存在下ではT細胞を活性化することができない。そのような好適な抗CD3ユニットによって、三重特異性T細胞エンゲージャーは、対応するTAAの存在下では強い4-1BB活性化作用強度を有することができ、対応するTAAの非存在下では低い(例えば、<10%4-1BB陽性細胞)4-1BB活性化作用強度を有することができるかまたは4-1BB活性化作用強度を有することができない。
【0063】
グレード4抗体(わずかなin vitroアゴニスト活性を有する抗CD3抗体、例えば、Hu153A6B1-2、-3および-4、Hu155A9B1-8、-9、-10、-14、-15および-16、ならびにHu192A7B9-7および-13)を伴う、抗CD3/抗4-1BB/抗クローディン18.2三重特異性抗体は、対照細胞では非特異的活性化がないがクローディン18.2陽性細胞では十分なサイトカイン放出および4-1BB誘導を誘導することが、実証された。その一方で、グレード3抗体(例えば、Hu153A6B1-7および13、Hu155A9B1-2、-3および-4、ならびにHu192A7B9-4)も、TAA陰性対照細胞では非特異的活性化がないがクローディン18.2陽性細胞では許容可能なサイトカイン放出および4-1BB誘導を誘導した。
【0064】
それに基づいて、これらのバランスのよい抗CD3抗体を追加の試験に付し、これらの抗体は、二重特異性および三重特異性形式に組み込まれたとき、最高の有効性および治療指数を示した。したがって、これらのデータは、比較的弱い抗CD3抗体が二重特異性および三重特異性T細胞エンゲージャーへの組込みの卓越した候補であり得ることを実証する。また重要なこととして、異なる作用強度の抗CD3抗体は、異なるシナリオに好適であり得る。したがって、今般得られた抗体は、広範な臨床使用であり得、したがって既成の自己免疫-腫瘍治療への応用を可能にする。
【0065】
さらに、二重および三重特異性抗体の異なる構造を試験した。それらのうちの1つ、1+1形式は、抗CD3ユニットを一本鎖断片(scFv)に、および抗TAAユニットを正規のFab(VH/VL)ドメインに含む。他の構造、2+Lc2形式は、対称であり、TAAに対して特異性を有する一対のFabの2本の軽鎖の各々のC末端に融合している2つの抗CD3 scFvを含む。4-1BBに対して特異性をさらに有する三重特異性抗体については、抗4-1BBユニットは、抗TAA/CD3二重特異性ユニットのFcドメインの各々のC末端に融合している2つのナノボディを含み得る(図6および10Aにおける図解を参照されたい)。1+1形式は、より良好な安全域を有し、それ故、好ましいものであるが、それでもやはり、形式2+Lc2も許容可能であることが、本明細書で明らかにされる。
【0066】
したがって、本開示の一実施形態によれば、抗CD3ユニットと抗腫瘍関連抗原(TAA)ユニットとを含む多重特異性抗体が提供される。多重特異性抗体は、二重特異性(抗CD3および抗TAA)、三重特異性(抗CD3、抗TAAおよび抗4-1BBもしくは別の共刺激因子)、または四重特異性であり得るが、これらに限定されない。
バランスのとれたT細胞活性化活性を有する抗CD3ユニット
【0067】
好ましい実施形態では、本開示のT細胞エンゲージャーは、「バランスのよいT細胞活性化活性」(または単に「バランスのとれた作用強度」)を有する抗CD3ユニットを含む。バランスのよいT細胞活性化活性の例は、付随する実験例で実証されるように、および下でさらに説明されるように、グレード3または4により代表される。
【0068】
抗CD3ユニット(例えば、抗体または断片)の作用強度を、当技術分野において公知の様々な異なるアッセイによって、異なる形式で、測定することができる。一部の実施形態では、アッセイは、4-1BB誘導アッセイである。一部の実施形態では、アッセイは、T細胞増殖アッセイである。一部の実施形態では、アッセイは、NFAT(活性化T細胞核内因子)シグナル伝達アッセイである。
A.T細胞活性化NFATアッセイ
【0069】
一例では、T細胞活性化活性は、NFAT(活性化T細胞核内因子)アッセイによって測定される。そのようなアッセイでは、T細胞活性化活性は、最大効果(Emax、これは、アッセイからの最高発光計測値である)として表され得る。NFATアッセイの一例は、以下のように行われる。抗CD3抗体または抗原結合性断片(濃度範囲:1nM~100nM)を、NFAT応答エレメント(NFAT-RE)により調節されるレポーター遺伝子を含有する2.5×10個のジャーカットT細胞(例えば、Promega、CAT#J1601からの)とともに、6時間インキュベートする。レポーター遺伝子の発現を発光計測値として測定し、その最大値をEmaxとして記録し、それを使用して、抗CD3抗体または断片のT細胞活性化活性を表す。
【0070】
抗CD3抗体または断片ごとに、2つのEmax値を得ることができる。「TAA依存性Emax」または「Emax(TAA+)」と呼ばれる、それらのうちの1つは、被験抗体が、腫瘍関連抗原(TAA)を標的とする抗体ユニットも含み、ジャーカットT細胞がTAA発現細胞(例えば、CHO細胞または他の腫瘍細胞)と混合されるとき、測定される。一部の実施形態では、T細胞とTAA発現細胞間の細胞数の比は、1:1、または代替的に、1:2、2:1、1:3、3:1、1:4もしくは4:1である。一部の実施形態では、そのような抗体は、二重特異性(CD3+TAA)抗体である。一部の実施形態では、そのような抗体は、三重特異性(例えば、CD3+TAA+4-1BB)抗体である。腫瘍抗原の非限定的な例としては、クローディン18.2、5T4、GPC3、EGFR、Her2、EpCAM、CD20、CD30、CD33、CD47、CD52、CD133、CD73、CEA、gpA33、ムチン、TAG-72、CIX、PSMA、葉酸結合タンパク質、GD2、GD3、GM2、VEGF、VEGFR、インテグリン、αVβ3、α5β1、ERBB2、ERBB3、MET、IGF1R、EPHA3、TRAILR1、TRAILR2、RANKL、FAPおよびテネイシンが挙げられる。一部の実施形態では、TAAは、クローディン18.2である。一部の実施形態では、TAAは、5T4である。
【0071】
「TAA非含有Emax」または「Emax(TAA-)」と呼ばれる、第2のEmax値は、被験抗体が追加の抗TAAユニットを含まないとき、インキュベーションがTAA発現細胞を含まないとき、または2つのTAAが異なるとき、測定される。
【0072】
交差プラットフォーム再現性を増強するために、参照抗CD3抗体を使用することができ、活性を、参照抗体のものに対するパーセンテージとして表すことができる。参照抗CD3抗体の一例は、従来のフルサイズ、単一特異性Fab形式でのSP34である(表2B、配列番号78および79における配列を参照されたい)。したがって、NFATアッセイ条件(例えば、ジャーカットT細胞数)は、最終結果(SP34活性に対する%)に影響を与えることなく変わり得る。好ましい実施形態では、TAA非含有Emaxの測定について、被験抗CD3抗体は二価であり、参照抗体(例えば、SP34)も二価である。例えば、両方は、従来のフルサイズFab抗体形式のものである。一部の実施形態では、TAA非含有Emaxの測定について、被験抗CD3抗体および参照抗体(例えば、SP34)は、同じ形式のもの、例えば、フルサイズFab抗体、scFv、または多重特異性抗体である。しかし、そのような選択は、一部の実施形態では、TAA依存性Emaxの測定には適用されない。
【0073】
一部の実施形態では、本開示の抗CD3抗体または抗原結合性断片は、NFATアッセイで測定されたときに以下の基準を満たす、バランスのとれたT細胞活性化活性を有する:(A)Emax(TAA-)<[SP34のEmax(TAA-)の50%]、および(B)Emax(TAA+)>[SP34のEmax(TAA-)]。一部の実施形態では、基準(A)について、Emax(TAA-)は、SP34のEmax(TAA-)の10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%または70%未満であり、その一方で(B)では、Emax(TAA+)>[SP34のEmax(TAA-)]。一部の実施形態では、基準(A)について、Emax(TAA-)は、SP34のEmax(TAA-)の1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%または20%より高いが10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%または70%未満であり、その一方で(B)では、Emax(TAA+)>[SP34のEmax(TAA-)]。
B.代替T細胞活性化アッセイ
【0074】
一部の実施形態では、抗CD3ユニットのT細胞活性化活性を、実施例で説明するものなどのNFATアッセイにおいて、ユニット、または多重特異性抗体全体に関して、測定することができる。一部の実施形態では、活性は、NFATアッセイからEC50として表される。
【0075】
一部の実施形態では、10μg/mLより高いEC50は、測定がTAAを発現する細胞の非存在下で行われた場合(EC50TAA-)、バランスのとれたT細胞活性化活性と見なされる。一部の実施形態では、バランスのとれたT細胞活性化活性を有する抗CD3抗体または断片について、EC50またはEC50TAA-は、5μg/mL、10μg/mL、20μg/mL、30μg/mL、40μg/mL、50μg/mL、100μg/mL、200μg/mLまたは300μg/mLより高い。一部の実施形態では、バランスのとれたT細胞活性化活性を有する抗CD3抗体または断片について、EC50TAA-は、50μg/mL、100μg/mL、200μg/mL、300μg/mL、400μg/mL、500μg/mL、1000μg/mLまたは5000μg/mL未満である。
【0076】
一部の実施形態では、抗CD3ユニット(または多重特異性抗体全体)は、10nMより高いT細胞活性化活性、EC50、を有する。一部の実施形態では、測定は、TAAを発現する細胞の非存在下で行われる(EC50TAA-)。一部の実施形態では、バランスのとれたT細胞活性化活性を有する抗CD3抗体または断片について、EC50またはEC50TAA-は、5nM、10nM、20nM、30nM、40nM、50nM、100nM、200nMまたは300nMより高い。一部の実施形態では、バランスのとれたT細胞活性化活性を有する抗CD3抗体または断片について、EC50TAA-は、50nM、100nM、200nM、300nM、400nM、500nM、1000nMまたは5000nM未満である。
【0077】
一部の実施形態では、抗CD3ユニットは、それが、EC50TAA-のせいぜい5分の1であるTAA依存性T細胞活性化活性EC50TAA+を有する場合、バランスのとれたT細胞活性化を有すると見なされる。一部の実施形態では、EC50TAA+は、EC50TAA-のせいぜい6分の1、7分の1、8分の1、9分の1、10分の1、11分の1、12分の1、13分の1、14分の1、15分の1、20分の1、25分の1、30分の1、40分の1、50分の1、100分の1、200分の1、500分の1、または1000分の1である。
【0078】
一部の実施形態では、EC50TAA+を測定する場合、T細胞とTAA発現細胞間の細胞数の比は、1:1、または代替的に、1:2、2:1、1:3、3:1、1:4もしくは4:1である。
【0079】
一部の実施形態では、EC50TAA-は、100μg/mL、90μg/mL、80μg/mL、70μg/mL、60μg/mL、50μg/mL、40μg/mL、30μg/mL、20μg/mL、15μg/mL、10μg/mL、9μg/mL、8μg/mL、7μg/mL、6μg/mL、5μg/mL、4μg/mL、3μg/mL、2μg/mL、1μg/mL、0.5μg/mLまたは0.1μg/mL未満である。一部の実施形態では、EC50TAA-は、100nM、90nM、80nM、70nM、60nM、50nM、40nM、30nM、20nM、15nM、10nM、9nM、8nM、7nM、6nM、5nM、4nM、3nM、2nM、1nM、0.5nMまたは0.1nM未満である。
C.4-1BB誘導アッセイ
【0080】
一部の実施形態では、抗CD3ユニットのT細胞活性化活性は、4-1BB誘導アッセイによって測定される。一実施形態では、4-1BB誘導アッセイは、従来の形式のモノクローナル/単一特異性抗CD3抗体に関して行われる。
【0081】
従来の形式のモノクローナル/単一特異性抗CD3抗体の4-1BB誘導活性を、以下の様に決定することができる。初代ヒトPBMCをウェル当たり細胞1×10個の密度で96ウェルプレートにおいて培養することができる。ヒトPBMC細胞は、アッセイに最適である約30%CD8細胞を概して含む。試験される抗体を段階希釈し、96ウェルプレートに、例えば20nMから出発する、最終濃度で添加することができる。37℃での48時間のインキュベーション後、細胞を収集することができる。PBSによる洗浄後、試料を、次の抗体:抗ヒトCD4-APC(Ebiosciene、17-0048-42)、抗ヒトCD8-BV510(BD bioscience、563919)、抗ヒト4-1BB-PE(BD Pharmingen、555956)との暗所における室温での30分間のインキュベーションによる標準手順を使用して、染色することができる。次いで、試料をFACS緩衝液で2回洗浄することができる。遠心分離後、上清を廃棄し、細胞を0.2mLのFACS緩衝液に再懸濁させる。CD8T細胞の中の4-1BBCD8T細胞サブセットをMACSQuant Analyzer 16により評価することができる。全CD8T細胞に対する4-1BBCD8T細胞のパーセンテージ(%)を使用して4-1BB誘導率を示す:
【数1】
【0082】
より手短に述べると、単一特異性抗CD3抗体の4-1BB誘導活性は、ヒト末梢血CD8+細胞を、例えば20nMの最終濃度での、抗CD3ユニットを含む単一特異性抗体とともに、37℃で48時間インキュベートすること、およびCD8+細胞の総数に対する4-1BB+CD8+細胞のパーセンテージを4-1BB誘導率として測定することにより、測定される。一部の実施形態では、単一特異性抗CD3抗体は、二価である。一部の実施形態では、単一特異性抗CD3抗体は、従来のFab+Fc形式を有する。
【0083】
抗体の最終濃度は、上で説明されたように20nM、または代替的に、1nM、5nM、10nM、15nM、20nM、30nM、40nM、50nMもしくは100nMであり得るが、これらに限定されない。好ましい実施形態では、濃度は、10nMまたは20nMである。
【0084】
4-1BB誘導活性測定手順の上の例は、ドナー個体からの初代ヒト末梢血細胞を使用する。一部の実施形態では、代替細胞、例えば、樹立細胞系からのCD8細胞が、使用され得る。
【0085】
上の4-1BB誘導アッセイは、単一特異性抗CD3抗体のT細胞活性化活性を測定するように説明されているが、それを二重特異性または三重特異性/多重特異性抗体に使用することもできる。抗TAAユニットをさらに含む二重特異性または三重特異性/多重特異性抗体に関して、4-1BB誘導活性は、TAA依存性4-1BB誘導活性(例えば、TAA発現細胞とのコインキュベーション)であることがあり、またはTAA非含有4-1BB誘導活性(例えば、TAA発現細胞とのコインキュベーションなし)であることがある。
【0086】
一部の実施形態では、これらのTAA非含有またはTAA依存性4-1BB誘導率は、多重特異性抗体が抗4-1BBユニットを有さないときに測定される。一部の実施形態では、これらのTAA非含有またはTAA依存性4-1BB誘導率は、多重特異性抗体が抗4-1BBユニットをさらに含むときに測定される。
【0087】
一部の実施形態では、測定は、1+1形式の多重特異性抗体に関して行われる。一部の実施形態では、測定は、2+2Lc形式の多重特異性抗体に関して行われる。一部の実施形態では、測定は、本開示の三重特異性抗体に関して行われる。一部の実施形態では、三重特異性抗体は、抗CD3ユニット、抗TAAユニット、および抗4-1BBユニットを含む。一部の実施形態では、抗4-1BBユニットは、1つまたは2つのTAA依存性アゴニスト抗体または断片を含む。
【0088】
多重特異性抗体のTAA非含有およびTAA依存性4-1BB誘導率を、単一特異性抗体のためのものと同様の方法によって測定することができる。例えば、ヒトPBMCをウェル当たり細胞1×10個の密度で96ウェルプレートにおいて培養することができる。TAAを発現する標的細胞系(TAA発現細胞)または対照細胞(CHO-K1)を2.5×10の密度(したがって、4:1のE:T比、または1:1のCD8:T比)で播種することができる。被験抗体を段階希釈し、96ウェルプレートに、100nMから出発する、最終濃度で添加することができる。37℃での48時間のインキュベーション後、細胞を収集することができる。PBSによる洗浄後、試料を、次の抗体:抗ヒトCD4-APC(Ebiosciene、17-0048-42)、抗ヒトCD8-BV510(BD bioscience、563919)、抗ヒト4-1BB-PE(BD Pharmingen、555956)との暗所における室温での30分間のインキュベーションによる標準手順を使用して、染色することができる。試料をFACS緩衝液で2回洗浄することができる。遠心分離後、上清を廃棄することができ、ヒトPBMCを0.2mLのFACS緩衝液に再懸濁させることができる。CD8T細胞の中の4-1BBCD8T細胞サブセットをMACSQuant Analyzer 16により評価することができる。4-1BB誘導率は、以下のように算出することができる:
【数2】
【数3】
【0089】
より手短に述べると、一部の実施形態では、TAA非含有4-1BB誘導率は、TAA発現細胞の非存在下で、ヒト末梢血CD8+細胞を、100nMの最終濃度での多重特異性抗体とともに37℃で48時間インキュベートすること、およびCD8+細胞の総数に対する4-1BBCD8細胞のパーセンテージをTAA非含有4-1BB誘導率として測定することにより、測定される。一部の実施形態では、多重特異性抗体は、100nMで少なくとも20%のTAA依存性4-1BB誘導率を有し、TAA依存性4-1BB誘導率は、1:1の比のヒト末梢血CD8細胞とTAA発現細胞を100nMの最終濃度での多重特異性抗体とともに37℃で48時間インキュベートすること、およびCD8+細胞の総数に対する4-1BBCD8細胞のパーセンテージをTAA依存性4-1BB誘導率として測定することにより、測定される。
【0090】
一部の実施形態では、多重特異性抗体は、TAA発現細胞の存在下ではその非存在下でよりもかなり高い4-1BB誘導活性を有する。例えば、一部の実施形態では、多重特異性抗体は、TAA非含有4-1BB誘導率と比較して少なくとも2倍である4-1BB誘導率を有する。一部の実施形態では、多重特異性抗体は、TAA非含有4-1BB誘導率と比較して少なくとも1.5倍、2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、10倍、11倍、12倍、13倍、14倍、15倍または20倍である4-1BB誘導率を有する。
【0091】
一部の実施形態では、多重特異性抗体は、二重特異性である。一部の実施形態では、多重特異性抗体は、三重特異性である。一部の実施形態では、多重特異性抗体は、形式1+1(図9)で示されるような三重特異性形式を有する。この形式では、抗TAAユニットは、Fab断片であり、抗CD3ユニットは、scFvであり、抗4-1BBユニットは、Fc断片のC末端に融合している2つのナノボディを含む。
【0092】
一部の実施形態では、多重特異性抗体における抗CD3ユニットは、少なくとも1つの一本鎖断片(scFv)を含む。一部の実施形態では、多重特異性抗体における抗CD3ユニットは、1つだけのscFvを含む。一部の実施形態では、scFvは、FcのN末端に、必要に応じてリンカーまたはヒンジ断片を介して、融合している。
【0093】
一部の実施形態では、多重特異性抗体における抗TAAユニットは、VH/VL対からなるFab断片を含む。一部の実施形態では、抗TAAユニットは、FcのN末端に、必要に応じてリンカーまたはヒンジ断片を介して、融合している。
【0094】
多重特異性抗体のFc断片は、野生型ヒトFc断片と比較して、非対称抗体の誤対合を低減させるためにノブ・イン・ホールまたは改変塩架橋を含むように、必要に応じて改変されている。
【0095】
一部の実施形態では、多重特異性抗体は、抗原結合ユニットをさらに含む。一部の実施形態では、追加の抗原結合ユニットは、ヒト4-1BBタンパク質に対して特異性を有する。一部の実施形態では、抗4-1BBユニットは、2本のFc鎖の一方または両方のN末端に融合している。一部の実施形態では、抗4-1BBユニットは、1つのまたは一対のscFvを含む。一部の実施形態では、抗4-1BBユニットは、1つのまたは一対のナノボディを含む。一部の実施形態では、抗4-1BBユニットは、非アゴニスト抗4-1BB抗体またはその断片である。非アゴニスト抗4-1BB抗体または断片は、腫瘍関連抗原への結合の非存在下では4-1BBに結合するがそれを活性化しない。
【0096】
一部の実施形態では、バランスのとれたT細胞活性化活性を有すると見なされる抗CD3抗体または断片は、1%~25%であるTAA非含有4-1BB誘導率を有する。一部の実施形態では、4-1BB誘導率は、25%、24%、23%、22%、21%、20%、19%、18%、17%、16%、15%、14%、13%、12%、11%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%または2%以下である。一部の実施形態では、4-1BB誘導率は、少なくとも1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、20%または25%である。
【0097】
一部の実施形態では、バランスのとれたT細胞活性化活性を有すると見なされる抗CD3抗体または断片についてのTAA非含有4-1BB誘導率は、1%~25%、1%~24%、1%~23%、1%~22%、1%~21%、1%~20%、1%~19%、1%~18%、1%~17%、1%~16%、1%~15%、1%~14%、1%~13%、1%~12%、1%~11%、1%~10%、2%~25%、2%~24%、2%~23%、2%~22%、2%~21%、2%~20%、2%~19%、2%~18%、2%~17%、2%~16%、2%~15%、2%~14%、2%~13%、2%~12%、2%~11%、2%~10%、3%~25%、3%~24%、3%~23%、3%~22%、3%~21%、3%~20%、3%~19%、3%~18%、3%~17%、3%~16%、3%~15%、3%~14%、3%~13%、3%~12%、3%~11%、3%~10%、4%~25%、4%~24%、4%~23%、4%~22%、4%~21%、4%~20%、4%~19%、4%~18%、4%~17%、4%~16%、4%~15%、4%~14%、4%~13%、4%~12%、4%~11%、4%~10%、5%~25%、5%~24%、5%~23%、5%~22%、5%~21%、5%~20%、5%~19%、5%~18%、5%~17%、5%~16%、5%~15%、5%~14%、5%~13%、5%~12%、5%~11%、5%~10%、6%~25%、6%~24%、6%~23%、6%~22%、6%~21%、6%~20%、6%~19%、6%~18%、6%~17%、6%~16%、6%~15%、6%~14%、6%~13%、6%~12%、6%~11%、6%~10%、7%~25%、7%~24%、7%~23%、7%~22%、7%~21%、7%~20%、7%~19%、7%~18%、7%~17%、7%~16%、7%~15%、7%~14%、7%~13%、7%~12%、7%~11%、7%~10%、8%~25%、8%~24%、8%~23%、8%~22%、8%~21%、8%~20%、8%~19%、8%~18%、8%~17%、8%~16%、8%~15%、8%~14%、8%~13%、8%~12%、8%~11%、8%~10%、9%~25%、9%~24%、9%~23%、9%~22%、9%~21%、9%~20%、9%~19%、9%~18%、9%~17%、9%~16%、9%~15%、9%~14%、9%~13%、9%~12%、9%~11%、9%~10%、10%~25%、10%~24%、10%~23%、10%~22%、10%~21%、10%~20%、10%~19%、10%~18%、10%~17%、10%~16%、10%~15%、10%~14%、10%~13%、10%~12%、または10%~11%である。
【0098】
一部の実施形態では、TAA非含有4-1BB誘導率の測定について、抗体の最終濃度は、本明細書で試験されるような100nM、または代替的に1nM、5nM、10nM、15nM、20nM、30nM、40nM、もしくは50nMであり得るが、これらに限定されない。
【0099】
一部の実施形態では、バランスのとれたT細胞活性化活性を有すると見なされる抗CD3抗体または断片は、1%~80%であるTAA依存性4-1BB誘導率を有する。一部の実施形態では、TAA依存性4-1BB誘導率は、80%、75%、70%、65%、60%、55%、50%、45%、40%、35%、30%、29%、28%、27%、26%または25%以下である。一部の実施形態では、TAA依存性4-1BB誘導率は、少なくとも15%、20%、25%、30%、35%、40%または50%である。
【0100】
一部の実施形態では、バランスのとれたT細胞活性化活性を有すると見なされる抗CD3抗体または断片についてのTAA依存性4-1BB誘導率は、15%~80%、15%~70%、15%~60%、15%~50%、15%~40%、15%~35%、20%~80%、20%~70%、20%~60%、20%~50%、20%~40%、20%~35%、20%~30%、25%~80%、25%~70%、25%~60%、25%~50%、25%~40%、25%~35%、25%~30%、30%~80%、30%~70%、30%~60%、30%~50%、30%~40%、または30%~35%である。
【0101】
一部の実施形態では、TAA依存性4-1BB誘導率の測定について、抗体の最終濃度は、上で説明されたように1nM、または代替的に0.5nM、2nM、5nM、10nM、15nM、20nM、30nM、40nM、50nMもしくは100nMであり得るが、これらに限定されない。一実施形態では、濃度は、5nMである。一実施形態では、濃度は、10nMである。一実施形態では、濃度は、20nMである。
【0102】
一部の実施形態では、多重特異性抗体は、100nMの抗体濃度で5%、10%、15%、20%または25%以下のTAA非含有4-1BB誘導率を有する。一部の実施形態では、多重特異性抗体は、100nMの抗体濃度で15%、14%、14%、13%、12%、11%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%または1%以下のTAA非含有4-1BB誘導率を有する。一部の実施形態では、測定は、1nM、2nM、3nM、4nM、5nM、10nM、20nM、30nM、40nM、50nM、60nM、70nM、80nM、90nm、100nM、150nMまたは200nMの代替抗体濃度で行われる。
【0103】
一部の実施形態では、多重特異性抗体は、1nMで少なくとも10%のTAA依存性4-1BB誘導率を有する。一部の実施形態では、多重特異性抗体は、1nMの抗体濃度で、少なくとも5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、21%、22%、23%、24%、25%、26%、27%、28%、29%、30%、31%、32%、33%、34%、35%、36%、37%、38%、39%または40%のTAA依存性4-1BB誘導率を有する。一部の実施形態では、測定は、1nM、2nM、3nM、4nM、5nM、10nM、20nM、30nM、40nMまたは50nMの代替抗体濃度で行われる。
CD3および4-1BBアゴニズムの相乗作用を生じさせるT細胞エンゲージャー
【0104】
抗CD3アゴニスト抗体は、4-1BB誘導を活性化することができる。上で提供されたように、抗CD3抗体の4-1BB誘導活性を、腫瘍抗原発現細胞の存在に「依存」させることができる。つまり、腫瘍抗原の非存在下では4-1BB誘導率が低く、腫瘍抗原の存在下では4-1BB誘導率がそれより何倍も高い。そのような腫瘍抗原依存性は、それがオフターゲット毒性を低下させるので、患者にとって有益である。
【0105】
これに関連して、腫瘍抗原依存性と腫瘍抗原依存性4-1BB誘導の両方は、T細胞エンゲージャーが抗CD3ユニットと抗4-1BBユニットの両方を含むとき、相乗的に増強され得ることが、本明細書でさらに明らかにされる。特に、抗4-1BBユニットそれ自体が腫瘍抗原依存性アゴニスト性抗体であるとき、相乗作用はさらに増大される。腫瘍抗原依存性アゴニスト性抗4-1BB抗体は、腫瘍抗原の存在がなければ4-1BBシグナル伝達を活性化しない(または低い活性化能力を有する)が、腫瘍抗原の存在下では4-1BBシグナル伝達を活性化する。そのような抗4-1BB抗体は、「腫瘍抗原依存性アゴニスト抗4-1BB抗体」または「非アゴニスト抗4-1BB抗体」と呼ばれる。
【0106】
興味深いことに、抗CD3抗体と抗4-1BB抗体のそのような相乗作用は、抗CD3抗体と、CD28などの他のT細胞共刺激因子を標的とする抗体との間では観察されていない。したがって、この相乗作用は、全く予想外である。
【0107】
もう1つの驚くべき発見は、抗CD3ユニットと抗4-1BBユニットの両方が多重特異性抗体に含まれるとき、それらは、互いに「離れて」位置するのが好ましいことである。例えば、図6に示されているような1+1形式または2+Lc2形式のどちらかでは、抗CD3ユニットおよび抗4-1BBユニットは、Fc断片の同じ末端に位置するのではなく、Fc断片によって隔てられているのが好ましい。対照的に、抗TAAユニットも含まれるとき、抗CD3ユニットおよび抗TAAユニットは、Fc断片の同じ側(例えば、N末端)に位置するのが好ましい。
【0108】
そのような多重特異性抗体の劇的な有効性は、B16F10のin vivo動物モデルを用いて実施例18で実証される。B16F10は、「冷たい腫瘍」と一般に呼ばれる、周知のPD1非応答性および抵抗性モデルである。冷たい腫瘍は、定義上、特に治療が難しい。予想どおり、図14に示されているように、抗PD1治療は、有効性を示さなかった。TAAおよびCD3または4-1BBのどちらかをもっぱら標的とする二重特異性抗体(4-1BBを標的としないCTM01-01A、およびCD3を標的としないCTM01-01B)は、最適とは言えない有効性を有した。TAA、CD3および4-1BBの全てを標的とする三重特異性抗体(CTM01-01)は、はるかに優れた有効性を有した。したがって、この例は、冷たい腫瘍の処置において本明細書で開示されるような方式でCD3と4-1BBの両方を標的とすることの予想外に素晴らしい有効性を実証する。
【0109】
したがって、本開示の一実施形態は、ヒトCD3複合体に対して結合特異性を有する抗CD3抗体または抗原結合性断片を含む抗CD3ユニットと;ヒト4-1BBタンパク質に対して結合特異性を有する抗4-1BB抗体または抗原結合性断片を含む抗4-1BBユニットとを含む、多重特性抗体を提供する。一部の実施形態では、多重特異性抗体は、ヒトTAAに対して結合特異性を有する抗TAA抗体または抗原結合性断片を含む、抗腫瘍関連抗原(TAA)ユニットをさらに含む。
【0110】
一部の実施形態では、多重特異性抗体は、Fc断片をさらに含む。Fc断片を有する多重特異性抗体の形式の例は、図6に示されている。一部の実施形態では、抗CD3ユニットおよび抗TAAユニットは、両方とも、Fc断片のN末端側に位置する。
【0111】
1+1形式では、抗CD3抗体または抗原結合性断片は、Fc断片の鎖のN末端に融合している一本鎖断片(scFv)であり、抗TAA抗体または抗原結合性断片は、Fc断片の別の鎖に融合しているFab断片である。
【0112】
2+Lc2形式では、抗TAAユニットは、Fc断片のN末端に、それぞれの重鎖を介して、融合している2つの抗TAA Fabを含み、抗CD3ユニットは、抗TAAユニットのFabの軽鎖のC末端に各々融合している2つのscFvを含む。
【0113】
両方の説明された形式において、抗4-1BBユニットは、Fc断片のC末端に融合していることがある。一部の実施形態では、抗4-1BBユニットは、2つの抗4-1BBナノボディまたはscFvを含む。
【0114】
一部の実施形態では、抗4-1BB抗体または抗原結合性断片は、腫瘍関連抗原依存性アゴニスト抗体または抗原結合性断片である。一部の実施形態では、抗4-1BB抗体または抗原結合性断片は、細胞表面に4-1BBタンパク質のクラスターを形成しない。そのような抗体、例えば、Abl Bioからの1A10は、当技術分野において公知である。
【0115】
腫瘍壊死因子受容体(TNFR)スーパーファミリー(TNFRSF)メンバーとしてのヒト4-1BBは、その後のシグナル伝達を開始させるためにTNF受容体関連因子(TRAF)結合モチーフを含有するC末端細胞質領域に結合されたN末端細胞外領域に4つのシステインリッチドメイン(CRD)を含有する。これら4つのCRD、CRD1、CRD2、CRD3およびCRD4の位置は、表Aに示されている。
【0116】
4-1BBシグナル伝達活性化は、アゴニスト抗体、例えば、ウトミルマブ(PF-05082566)およびウレルマブ(BMS-663513)について予想される機構である。ウレルマブは、CRD1に結合し、ウトミルマブは、CRD3に結合する。本開示の多重特異性抗体への組込みに好ましい抗4-1BB抗体または断片は、CRD1に結合しない。その代わりに、それは、CRD2、CRD3もしくはCRD4、またはこれらの組合せに結合する。一部の実施形態では、そのような抗4-1BB抗体または抗原結合性断片は、アゴニスト活性を有さない。
【表A-1】
【表A-2】
【0117】
「腫瘍関連抗原」または「腫瘍抗原」は、腫瘍細胞において産生される抗原性物質であり、すなわち、それは、宿主において免疫応答を誘発する。腫瘍抗原は、腫瘍細胞を同定するのに有用であり、がん治療における使用のための可能性のある候補である。体内の正常なタンパク質は、抗原性ではない。しかし、ある特定のタンパク質は、腫瘍発生中に産生または過剰発現され、それ故、身体にとって「異物」に見える。これは、免疫系から十分に隔絶されている正常なタンパク質、極めて少量で通常は産生されるタンパク質、ある特定の発達段階においてしか通常は産生されないタンパク質、またはその構造が変異に起因して改変されているタンパク質を含み得る。
【0118】
多数の腫瘍抗原が当技術分野において公知であり、新たな腫瘍抗原は、スクリーニングによって容易に同定され得る。腫瘍抗原の非限定的な例としては、クローディン18.2、5T4、GPC3、EGFR、Her2、EpCAM、CD20、CD30、CD33、CD47、CD52、CD133、CD73、CEA、gpA33、ムチン、TAG-72、CIX、PSMA、葉酸結合タンパク質、GD2、GD3、GM2、VEGF、VEGFR、インテグリン、αVβ3、α5β1、ERBB2、ERBB3、MET、IGF1R、EPHA3、TRAILR1、TRAILR2、RANKL、FAPおよびテネイシンが挙げられる。特定の実施形態では、TAAは、クローディン18.2である。クローディン18.2を標的とする抗体の例は、例えば、PCT公開WO/2020/200196、同WO/2021/058000、同WO/2020/147321および同WO/2019/219089において開示されているものを含めて、当技術分野において公知である。
【0119】
一部の実施形態では、抗体または抗原結合性断片は、免疫細胞の表面に発現される抗原に結合する。一部の実施形態では、抗体または抗原結合性断片は、CD1a、CD1b、CD1c、CD1d、CD2、CD3、CD4、CD5、CD6、CD7、CDS、CD9、CD10、CD11A、CD11B、CD11C、CDw12、CD13、CD14、CD15、CD15s、CD16、CDwl7、CD18、CD19、CD20、CD21、CD22、CD23、CD24、CD25、CD26、CD27、CD28、CD29、CD3Q、CD31、CD32、CD33、CD34、CD35、CD36、CD37、CD38、CD39、CD40、CD41、CD42a、CD42b、CD42c、CD42d、CD43、CD44、CD45、CD45RO、CD45RA、CD45RB、CD46、CD47、CD48、CD49a、CD49b、CD49c、CD49d、CD49e、CD49f、CD50、CD51、CD52、CD53、CD54、CD55、CD56、CD57、CD58、CD59、CDw60、CD6I、CD62E、CD62L、CD62P、CD63、CD64、CD65、CD66a、CD66b、CD66c、CD66d、CD66e、CD66E CD68、CD69、CD70、CD71、CD72、CD73、CD74、CD75、CD76、CD79o、0O79b、CD80、CD81、CD82、CD83、CDw84、CD85、CD86、CD87、CD88、CD89、CD90、CD91、CDw92、CD93、CD94、CD95、CD96、CD97、CD98、CD99、CD100、CDIGI、CD102、CD103、CD104、CD105、CD106、CD107a、CD107b、CDw’108、CD109、CD114、CD115、CD116、CD117、CD118、CD119、CD120a、CD120b、CD121a、CDwl21b、CD122、CD123、CD124、CD125、CD126、CD127、CDwl28、CD129、CD130、CDwl31、CD132、CD134、CD135、CDw136、CDwl37、CD138、CD139、CD140a、CD140b、CD141、CD142、CD143、CD144、CD145、CD146、CD147、CD148、CD15G、CD151、CD152、CD153、CD154、CD155、CD156、CD157、CD158a、CD158b、CD161、CD162、CD163、CD164、CD165、CD166、およびCD182からなる群から選択される表面抗原分類分子に結合する。
抗CD3抗体の例
【0120】
本開示は、一部の実施形態では、単独で使用され得る、または本技術のT細胞エンゲージャーへの組込みに選択され得る、抗CD3抗体および断片の例も提供する。
【0121】
本開示の一実施形態によれば、ヒトCD3複合体に対して結合特異性を有する抗体または抗原結合性断片であって、VH CDR1とVH CDR2とVH CDR3とを含む重鎖可変領域(VH)、およびVL CDR1とVL CDR2とVL CDR3とを含む軽鎖可変領域(VL)を含む、抗体または抗原結合性断片がある。
【0122】
一実施形態では、抗体は、153A6B1もしくはその誘導体、またはそのヒト化バージョンである。一部の実施形態では、VH CDR1は、配列番号7のアミノ酸配列を含み、VH CDR2は、配列番号8のアミノ酸配列を含み、VH CDR3は、配列番号9のアミノ酸配列を含み、VL CDR1は、配列番号10のアミノ酸配列を含み、VL CDR2は、配列番号11のアミノ酸配列を含み、VL CDR3は、配列番号12のアミノ酸配列を含む。
【0123】
VH CDR2(RIRYNDTSYNALKS、配列番号8)は、翻訳後改変(PTM)のリスクがある、G55残基およびS61残基(Kabat番号付け)を含むことが観察されている。したがって、一部の実施形態では、153A6B1またはヒト化もしくは派生バージョンについては、G55A置換および/またはS61A置換をVHに導入してPTMを防止することができる。そのような変化を伴う、代替VH CDR2は、RIRYNDTSYNSALKS(配列番号64)、RIRYNGDTSYNALKS(配列番号65)、またはRIRYNDTSYNALKS(配列番号66)であり得る。
【0124】
同様に、VL CDR3(LQHGGYT、配列番号12)は、PTMのリスクがあるS93A残基を含む。したがって、一部の実施形態では、153A6B1またはヒト化もしくは派生バージョンについては、S93A置換をVLに導入してPTMを防止することができる。そのような変化を伴う、代替VL CDR3は、LQHGGYT(配列番号67)であり得る。
【0125】
一部の実施形態では、VHは、配列番号1および23~28、特に、配列番号23~28からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む。一部の実施形態では、VHには、G55A置換、S61A置換、またはこれらの組合せが組み込まれている。一部の実施形態では、VLは、配列番号2および30~32、特に、配列番号30~32からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む。一部の実施形態では、VLには、S93A置換が組み込まれている。
【0126】
一部の実施形態では、VHは、配列番号23を含み、VLは、配列番号30を含む。一部の実施形態では、VHは、配列番号23を含み、VLは、配列番号31を含む。一部の実施形態では、VHは、配列番号23を含み、VLは、配列番号32を含む。一部の実施形態では、VHは、配列番号24を含み、VLは、配列番号30を含む。一部の実施形態では、VHは、配列番号24を含み、VLは、配列番号31を含む。一部の実施形態では、VHは、配列番号24を含み、VLは、配列番号32を含む。一部の実施形態では、VHは、配列番号25を含み、VLは、配列番号30を含む。一部の実施形態では、VHは、配列番号25を含み、VLは、配列番号31を含む。一部の実施形態では、VHは、配列番号25を含み、VLは、配列番号32を含む。一部の実施形態では、VHは、配列番号26を含み、VLは、配列番号30を含む。一部の実施形態では、VHは、配列番号26を含み、VLは、配列番号31を含む。一部の実施形態では、VHは、配列番号26を含み、VLは、配列番号32を含む。一部の実施形態では、VHは、配列番号27を含み、VLは、配列番号30を含む。一部の実施形態では、VHは、配列番号27を含み、VLは、配列番号31を含む。一部の実施形態では、VHは、配列番号27を含み、VLは、配列番号32を含む。一部の実施形態では、VHは、配列番号28を含み、VLは、配列番号30を含む。一部の実施形態では、VHは、配列番号28を含み、VLは、配列番号31を含む。一部の実施形態では、VHは、配列番号28を含み、VLは、配列番号32を含む。一部の実施形態では、VHには、G55A置換、S61A置換、またはこれらの組合せが組み込まれている。一部の実施形態では、VLには、S93A置換が組み込まれている。
【0127】
配列解析および活性データの比較によって、ある特定の復帰変異は抗体の活性を決定する上で重要な役割を果たすことが本明細書において認められる。VHにおける復帰変異27F、78V、29Lおよび30Tは、抗体のT細胞活性化活性を強く促進する一方で、VHにおける復帰変異37V、71R、48M、67Lおよび93Tは、活性(グレード3または4)のバランスを維持するのに役立つと考えられる。
【0128】
したがって、一実施形態では、本開示の抗CD3抗体または断片は、抗体153A6B1のCDRまたはそれらのリスク回避バージョン(上記のとおり)を含み、VHに復帰変異37V、71R、48M、67Lおよび93Tのうちの少なくとも1つをさらに含む。一部の実施形態では、抗CD3抗体または断片は、VHに37Vを少なくとも含む。一部の実施形態では、抗CD3抗体または断片は、VHに71Rを少なくとも含む。一部の実施形態では、抗CD3抗体または断片は、VHに48Mを少なくとも含む。一部の実施形態では、抗CD3抗体または断片は、VHに67Lを少なくとも含む。一部の実施形態では、抗CD3抗体または断片は、VHに93Tを少なくとも含む。
【0129】
一部の実施形態では、抗CD3抗体または断片は、VHに37Vおよび71R、37Vおよび48M、37Vおよび67L、または37Vおよび93Tを少なくとも含む。一部の実施形態では、抗CD3抗体または断片は、VHに71Rおよび48M、71Rおよび67L、または71Rおよび93Tを少なくとも含む。一部の実施形態では、抗CD3抗体または断片は、VHに48Mおよび67L、または48Mおよび93Tを少なくとも含む。一部の実施形態では、抗CD3抗体または断片は、VHに67Lおよび93Tを少なくとも含む。一部の実施形態では、抗CD3抗体または断片は、VHに37V、71R、48M、67Lおよび93Tのうちの少なくとも3つを含む。一部の実施形態では、抗CD3抗体または断片は、VHに37V、71R、48M、67Lおよび93Tのうちの少なくとも4つを含む。一部の実施形態では、抗CD3抗体または断片は、VHに37V、71R、48M、67Lおよび93Tの全てを含む。
【0130】
一部の実施形態では、抗CD3抗体または断片は、27F、78V、29Lおよび30Tのうちの少なくとも1つをVHに含まない。一部の実施形態では、抗CD3抗体または断片は、少なくとも、27Fおよび78Vも、27Fおよび29Lも、27Fおよび30Tも、VHに含まない。一部の実施形態では、抗CD3抗体または断片は、78V、29Lおよび30Tも、27F、29Lおよび30Tも、27F、78Vおよび30Tも、27F、78Vおよび29Lも、VHに含まない。一部の実施形態では、抗CD3抗体または断片は、27F、78V、29Lおよび30Tのいずれも、VHに含まない。
【0131】
一部の実施形態では、本開示の抗CD3抗体または断片は、抗体153A6B1のCDRまたはそれらのリスク回避バージョン(上記のとおり)を含み、VHに、復帰変異37V、71R、48M、67Lおよび93Tのうちの少なくとも1つ(または上記のようにそれらのうちの2つ、3つ、4つもしくはそれより多く)をさらに含み、27F、78V、29Lおよび30Tのうちの少なくとも1つ(または上記のようにそれらのうちの2つ、3つもしくはそれより多く)を含まない。
【0132】
一部の実施形態では、抗CD3抗体または断片は、表10(例えば、153-2、3、4)で定義されるような作用強度グレード4のものである。一部の実施形態では、VHは、配列番号24を含み、VLは、配列番号30を含む。一部の実施形態では、VHは、配列番号25を含み、VLは、配列番号30を含む。一部の実施形態では、VHは、配列番号26を含み、VLは、配列番号30を含む。一部の実施形態では、VHには、G55A置換、S61A置換、またはこれらの組合せが組み込まれている。一部の実施形態では、VLには、S93A置換が組み込まれている。
【0133】
一部の実施形態では、VHは、配列番号24に対して少なくとも85%、90%または95%の配列同一性を有し、配列番号24のCDRを含み、復帰変異37V、71R、48M、67Lおよび93Tのうちの少なくとも1つ(または上記のようにそれらのうちの2つ、3つ、4つもしくはそれより多く)を含み、27F、78V、29Lおよび30Tのうちの少なくとも1つ(または上記のようにそれらのうちの2つ、3つもしくはそれより多く)を含まず、VLは、配列番号30に対して少なくとも85%、90%または95%の配列同一性を有し、配列番号30のCDRを含む。
【0134】
一部の実施形態では、VHは、配列番号25に対して少なくとも85%、90%または95%の配列同一性を有し、配列番号25のCDRを含み、復帰変異37V、71R、48M、67Lおよび93Tのうちの少なくとも1つ(または上記のようにそれらのうちの2つ、3つ、4つもしくはそれより多く)を含み、27F、78V、29Lおよび30Tのうちの少なくとも1つ(または上記のようにそれらのうちの2つ、3つもしくはそれより多く)を含まず、VLは、配列番号30に対して少なくとも85%、90%または95%の配列同一性を有し、配列番号30のCDRを含む。
【0135】
一部の実施形態では、VHは、配列番号26に対して少なくとも85%、90%または95%の配列同一性を有し、配列番号26のCDRを含み、復帰変異37V、71R、48M、67Lおよび93Tのうちの少なくとも1つ(または上記のようにそれらのうちの2つ、3つ、4つもしくはそれより多く)を含み、27F、78V、29Lおよび30Tのうちの少なくとも1つ(または上記のようにそれらのうちの2つ、3つもしくはそれより多く)を含まず、VLは、配列番号30に対して少なくとも85%、90%または95%の配列同一性を有し、配列番号30のCDRを含む。
【0136】
一部の実施形態では、抗CD3抗体または断片は、表10(例えば、153-7、13)で定義されるような作用強度グレード3のものである。一部の実施形態では、VHは、配列番号23を含み、VLは、配列番号31を含む。一部の実施形態では、VHは、配列番号23を含み、VLは、配列番号32を含む。一部の実施形態では、VHには、G55A置換、S61A置換、またはこれらの組合せが組み込まれている。一部の実施形態では、VLには、S93A置換が組み込まれている。
【0137】
一部の実施形態では、VHは、配列番号23に対して少なくとも85%、90%または95%の配列同一性を有し、配列番号23のCDRを含み、復帰変異37V、71R、48M、67Lおよび93Tのうちの少なくとも1つ(または上記のようにそれらのうちの2つ、3つ、4つもしくはそれより多く)を含み、27F、78V、29Lおよび30Tのうちの少なくとも1つ(または上記のようにそれらのうちの2つ、3つもしくはそれより多く)を含まず、VLは、配列番号31に対して少なくとも85%、90%または95%の配列同一性を有し、配列番号31のCDRを含む。
【0138】
一部の実施形態では、VHは、配列番号23に対して少なくとも85%、90%または95%の配列同一性を有し、配列番号23のCDRを含み、復帰変異37V、71R、48M、67Lおよび93Tのうちの少なくとも1つ(または上記のようにそれらのうちの2つ、3つ、4つもしくはそれより多く)を含み、27F、78V、29Lおよび30Tのうちの少なくとも1つ(または上記のようにそれらのうちの2つ、3つもしくはそれより多く)を含まず、VLは、配列番号32に対して少なくとも85%、90%または95%の配列同一性を有し、配列番号32のCDRを含む。
【0139】
一実施形態では、抗体は、155A9B1もしくはその誘導体、またはそのヒト化バージョンである。一部の実施形態では、VH CDR1は、配列番号13のアミノ酸配列を含み、VH CDR2は、配列番号14のアミノ酸配列を含み、VH CDR3は、配列番号15のアミノ酸配列を含み、VL CDR1は、配列番号16のアミノ酸配列を含み、VL CDR2は、配列番号11のアミノ酸配列を含み、VL CDR3は、配列番号17のアミノ酸配列を含む。
【0140】
VH CDR2(RVRYNDTSYNALKS、配列番号14)は、翻訳後改変(PTM)のリスクがある、G55残基およびS61残基(Kabat番号付け)を含むことが観察されている。したがって、一部の実施形態では、155A9B1またはヒト化もしくは派生バージョンについては、G55A置換および/またはS61A置換をVHに導入してPTMを防止することができる。そのような変化を伴う、代替VH CDR2は、RVRYNDTSYNSALKS(配列番号68)、RVRYNGDTSYNALKS(配列番号69)、またはRVRYNDTSYNALKS(配列番号70)であり得る。
【0141】
同様に、VL CDR3(LQHNGYT、配列番号17)は、PTMのリスクがあるS93A残基を含む。したがって、一部の実施形態では、155A9B1またはヒト化もしくは派生バージョンについては、S93A置換をVLに導入してPTMを防止することができる。そのような変化を伴う、代替VL CDR3は、LQHNGYT(配列番号71)であり得る。
【0142】
一部の実施形態では、VHは、配列番号3および34~41からなる群、特に、配列番号3および36~41からなる群、または配列番号36~41だけからなる群から選択されるアミノ酸配列を含む。一部の実施形態では、VHには、G55A置換、S61A置換、またはこれらの組合せが組み込まれている。一部の実施形態では、VLは、配列番号4および43~46、特に、配列番号44~46からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む。一部の実施形態では、VLには、S93A置換が組み込まれている。
【0143】
一部の実施形態では、VHは、配列番号36を含み、VLは、配列番号44を含む。一部の実施形態では、VHは、配列番号36を含み、VLは、配列番号45を含む。一部の実施形態では、VHは、配列番号36を含み、VLは、配列番号46を含む。一部の実施形態では、VHは、配列番号37を含み、VLは、配列番号44を含む。一部の実施形態では、VHは、配列番号37を含み、VLは、配列番号45を含む。一部の実施形態では、VHは、配列番号37を含み、VLは、配列番号46を含む。一部の実施形態では、VHは、配列番号38を含み、VLは、配列番号44を含む。一部の実施形態では、VHは、配列番号38を含み、VLは、配列番号45を含む。一部の実施形態では、VHは、配列番号38を含み、VLは、配列番号46を含む。一部の実施形態では、VHは、配列番号39を含み、VLは、配列番号44を含む。一部の実施形態では、VHは、配列番号39を含み、VLは、配列番号45を含む。一部の実施形態では、VHは、配列番号39を含み、VLは、配列番号46を含む。一部の実施形態では、VHは、配列番号40を含み、VLは、配列番号44を含む。一部の実施形態では、VHは、配列番号40を含み、VLは、配列番号45を含む。一部の実施形態では、VHは、配列番号40を含み、VLは、配列番号46を含む。一部の実施形態では、VHは、配列番号41を含み、VLは、配列番号44を含む。一部の実施形態では、VHは、配列番号41を含み、VLは、配列番号45を含む。一部の実施形態では、VHは、配列番号41を含み、VLは、配列番号46を含む。一部の実施形態では、VHには、G55A置換、S61A置換、またはこれらの組合せが組み込まれている。一部の実施形態では、VLには、S93A置換が組み込まれている。
【0144】
配列解析および活性データの比較によって、ある特定の復帰変異は抗体の活性を決定する上で重要な役割を果たすことが本明細書において認められる。VHにおける復帰変異27F、78A、29Lおよび30Tは、抗体のT細胞活性化活性を強く促進する一方で、VHにおける復帰変異37V、71R、48M、67Lおよび93Tは、活性(グレード3または4)のバランスを維持するのに役立つと考えられる。さらに、VLにおける復帰変異36Fおよび58Iは、活性(グレード3または4)のバランスを維持するのに役立つ。
【0145】
したがって、一実施形態では、本開示の抗CD3抗体または断片は、抗体155A9B1のCDRまたはそれらのリスク回避バージョン(上記のとおり)を含み、VHに復帰変異37V、71R、48M、67Lおよび93Tのうちの少なくとも1つをさらに含む。一部の実施形態では、抗CD3抗体または断片は、VHに37Vを少なくとも含む。一部の実施形態では、抗CD3抗体または断片は、VHに71Rを少なくとも含む。一部の実施形態では、抗CD3抗体または断片は、VHに48Mを少なくとも含む。一部の実施形態では、抗CD3抗体または断片は、VHに67Lを少なくとも含む。一部の実施形態では、抗CD3抗体または断片は、VHに93Tを少なくとも含む。
【0146】
一部の実施形態では、抗CD3抗体または断片は、VHに37Vおよび71R、37Vおよび48M、37Vおよび67L、または37Vおよび93Tを少なくとも含む。一部の実施形態では、抗CD3抗体または断片は、VHに71Rおよび48M、71Rおよび67L、または71Rおよび93Tを少なくとも含む。一部の実施形態では、抗CD3抗体または断片は、VHに48Mおよび67L、または48Mおよび93Tを少なくとも含む。一部の実施形態では、抗CD3抗体または断片は、VHに67Lおよび93Tを少なくとも含む。一部の実施形態では、抗CD3抗体または断片は、VHに37V、71R、48M、67Lおよび93Tのうちの少なくとも3つを含む。一部の実施形態では、抗CD3抗体または断片は、VHに37V、71R、48M、67Lおよび93Tのうちの少なくとも4つを含む。一部の実施形態では、抗CD3抗体または断片は、VHに37V、71R、48M、67Lおよび93Tの全てを含む。
【0147】
一部の実施形態では、抗CD3抗体または断片は、VHに27F、78A、29Lおよび30Tのうちの少なくとも1つを含まない。一部の実施形態では、抗CD3抗体または断片は、少なくとも、27Fおよび78Aも、27Fおよび29Lも、27Fおよび30Tも、VHに含まない。一部の実施形態では、抗CD3抗体または断片は、78A、29Lおよび30Tも、27F、29Lおよび30Tも、27F、78Aおよび30Tも、27F、78Aおよび29Lも、VHに含まない。一部の実施形態では、抗CD3抗体または断片は、27F、78A、29Lおよび30Tのいずれも、VHに含まない。
【0148】
したがって、一実施形態では、本開示の抗CD3抗体または断片は、抗体155A9B1のCDRまたはそれらのリスク回避バージョン(上記のとおり)を含み、VLに復帰変異36Fおよび/または58Iの少なくとも1つをさらに含む。
【0149】
一部の実施形態では、本開示の抗CD3抗体または断片は、抗体155A9B1のCDRまたはそれらのリスク回避バージョン(上記のとおり)を含み、VHに、復帰変異37V、71R、48M、67Lおよび93Tのうちの少なくとも1つ(または上記のようにそれらのうちの2つ、3つ、4つもしくはそれより多く)をさらに含み、27F、78A、29Lおよび30Tのうちの少なくとも1つ(または上記のようにそれらのうちの2つ、3つもしくはそれより多く)を含まない。一部の実施形態では、VLは、復帰変異36Fおよび/または58Iの少なくとも1つを含む。
【0150】
特定の実施形態では、VHは、配列番号37を含み、VLは、配列番号45を含む。一部の実施形態では、VHは、G55A置換、S61A置換またはこれらの組合せを有する配列番号37を含み、VLは、配列番号45を含む。一部の実施形態では、VHは、配列番号37を含み、VLは、S93A置換を有する配列番号45を含む。一部の実施形態では、VHは、G55A置換、S61A置換またはこれらの組合せを有する配列番号37を含み、VLは、S93A置換を有する配列番号45を含む。
【0151】
一部の実施形態では、抗CD3抗体または断片は、表10(例えば、155-8、9、10、14、15、16)で定義されるような作用強度グレード4のものである。一部の実施形態では、VHは、配列番号37を含み、VLは、配列番号45を含む。一部の実施形態では、VHは、配列番号38を含み、VLは、配列番号45を含む。一部の実施形態では、VHは、配列番号39を含み、VLは、配列番号45を含む。一部の実施形態では、VHは、配列番号37を含み、VLは、配列番号46を含む。一部の実施形態では、VHは、配列番号38を含み、VLは、配列番号46を含む。一部の実施形態では、VHは、配列番号39を含み、VLは、配列番号46を含む。一部の実施形態では、VHには、G55A置換、S61A置換、またはこれらの組合せが組み込まれている。一部の実施形態では、VLには、S93A置換が組み込まれている。
【0152】
一部の実施形態では、VHは、配列番号37に対して少なくとも85%、90%または95%の配列同一性を有し、配列番号37のCDRを含み、復帰変異37V、71R、48M、67Lおよび93Tのうちの少なくとも1つ(または上記のようにそれらのうちの2つ、3つ、4つもしくはそれより多く)を含み、27F、78A、29Lおよび30Tのうちの少なくとも1つ(または上記のようにそれらのうちの2つ、3つもしくはそれより多く)を含まず、VLは、配列番号45に対して少なくとも85%、90%または95%の配列同一性を有し、配列番号45のCDRを含み、復帰変異36Fおよび/または58Iを少なくとも含む。
【0153】
一部の実施形態では、VHは、配列番号38に対して少なくとも85%、90%または95%の配列同一性を有し、配列番号38のCDRを含み、復帰変異37V、71R、48M、67Lおよび93Tのうちの少なくとも1つ(または上記のようにそれらのうちの2つ、3つ、4つもしくはそれより多く)を含み、27F、78A、29Lおよび30Tのうちの少なくとも1つ(または上記のようにそれらのうちの2つ、3つもしくはそれより多く)を含まず、VLは、配列番号45に対して少なくとも85%、90%または95%の配列同一性を有し、配列番号45のCDRを含み、復帰変異36Fおよび/または58Iを少なくとも含む。
【0154】
一部の実施形態では、VHは、配列番号39に対して少なくとも85%、90%または95%の配列同一性を有し、配列番号39のCDRを含み、復帰変異37V、71R、48M、67Lおよび93Tのうちの少なくとも1つ(または上記のようにそれらのうちの2つ、3つ、4つもしくはそれより多く)を含み、27F、78A、29Lおよび30Tのうちの少なくとも1つ(または上記のようにそれらのうちの2つ、3つもしくはそれより多く)を含まず、VLは、配列番号45に対して少なくとも85%、90%または95%の配列同一性を有し、配列番号45のCDRを含み、復帰変異36Fおよび/または58Iを少なくとも含む。
【0155】
一部の実施形態では、VHは、配列番号37に対して少なくとも85%、90%または95%の配列同一性を有し、配列番号37のCDRを含み、復帰変異37V、71R、48M、67Lおよび93Tのうちの少なくとも1つ(または上記のようにそれらのうちの2つ、3つ、4つもしくはそれより多く)を含み、27F、78A、29Lおよび30Tのうちの少なくとも1つ(または上記のようにそれらのうちの2つ、3つもしくはそれより多く)を含まず、VLは、配列番号46に対して少なくとも85%、90%または95%の配列同一性を有し、配列番号46のCDRを含み、復帰変異36Fおよび/または58Iを少なくとも含む。
【0156】
一部の実施形態では、VHは、配列番号38に対して少なくとも85%、90%または95%の配列同一性を有し、配列番号38のCDRを含み、復帰変異37V、71R、48M、67Lおよび93Tのうちの少なくとも1つ(または上記のようにそれらのうちの2つ、3つ、4つもしくはそれより多く)を含み、27F、78A、29Lおよび30Tのうちの少なくとも1つ(または上記のようにそれらのうちの2つ、3つもしくはそれより多く)を含まず、VLは、配列番号46に対して少なくとも85%、90%または95%の配列同一性を有し、配列番号46のCDRを含み、復帰変異36Fおよび/または58Iを少なくとも含む。
【0157】
一部の実施形態では、VHは、配列番号39に対して少なくとも85%、90%または95%の配列同一性を有し、配列番号39のCDRを含み、復帰変異37V、71R、48M、67Lおよび93Tのうちの少なくとも1つ(または上記のようにそれらのうちの2つ、3つ、4つもしくはそれより多く)を含み、27F、78A、29Lおよび30Tのうちの少なくとも1つ(または上記のようにそれらのうちの2つ、3つもしくはそれより多く)を含まず、VLは、配列番号46に対して少なくとも85%、90%または95%の配列同一性を有し、配列番号46のCDRを含み、復帰変異36Fおよび/または58Iを少なくとも含む。
【0158】
一部の実施形態では、抗CD3抗体または断片は、表10(例えば、155-2、3、4)で定義されるような作用強度グレード3のものである。一部の実施形態では、VHは、配列番号37を含み、VLは、配列番号44を含む。一部の実施形態では、VHは、配列番号38を含み、VLは、配列番号44を含む。一部の実施形態では、VHは、配列番号39を含み、VLは、配列番号44を含む。一部の実施形態では、VHには、G55A置換、S61A置換、またはこれらの組合せが組み込まれている。一部の実施形態では、VLには、S93A置換が組み込まれている。
【0159】
一部の実施形態では、VHは、配列番号37に対して少なくとも85%、90%または95%の配列同一性を有し、配列番号37のCDRを含み、復帰変異37V、71R、48M、67Lおよび93Tのうちの少なくとも1つ(または上記のようにそれらのうちの2つ、3つ、4つもしくはそれより多く)を含み、27F、78A、29Lおよび30Tのうちの少なくとも1つ(または上記のようにそれらのうちの2つ、3つもしくはそれより多く)を含まず、VLは、配列番号44に対して少なくとも85%、90%または95%の配列同一性を有し、配列番号44のCDRを含み、復帰変異36Fおよび/または58Iを少なくとも含む。
【0160】
一部の実施形態では、VHは、配列番号38に対して少なくとも85%、90%または95%の配列同一性を有し、配列番号38のCDRを含み、復帰変異37V、71R、48M、67Lおよび93Tのうちの少なくとも1つ(または上記のようにそれらのうちの2つ、3つ、4つもしくはそれより多く)を含み、27F、78A、29Lおよび30Tのうちの少なくとも1つ(または上記のようにそれらのうちの2つ、3つもしくはそれより多く)を含まず、VLは、配列番号44に対して少なくとも85%、90%または95%の配列同一性を有し、配列番号44のCDRを含み、復帰変異36Fおよび/または58Iを少なくとも含む。
【0161】
一部の実施形態では、VHは、配列番号39に対して少なくとも85%、90%または95%の配列同一性を有し、配列番号39のCDRを含み、復帰変異37V、71R、48M、67Lおよび93Tのうちの少なくとも1つ(または上記のようにそれらのうちの2つ、3つ、4つもしくはそれより多く)を含み、27F、78A、29Lおよび30Tのうちの少なくとも1つ(または上記のようにそれらのうちの2つ、3つもしくはそれより多く)を含まず、VLは、配列番号44に対して少なくとも85%、90%または95%の配列同一性を有し、配列番号44のCDRを含み、復帰変異36Fおよび/または58Iを少なくとも含む。
【0162】
一実施形態では、抗体は、192A7B9もしくはその誘導体、またはそのヒト化バージョンである。一部の実施形態では、VH CDR1は、配列番号13のアミノ酸配列を含み、VH CDR2は、配列番号18のアミノ酸配列を含み、VH CDR3は、配列番号19のアミノ酸配列を含み、VL CDR1は、配列番号20のアミノ酸配列を含み、VL CDR2は、配列番号21のアミノ酸配列を含み、VL CDR3は、配列番号22のアミノ酸配列を含む。
【0163】
VH CDR2(RMRYNDTSYNALKS、配列番号18)は、翻訳後改変(PTM)のリスクがある、G55残基およびS61残基(Kabat番号付け)を含むことが観察されている。したがって、一部の実施形態では、192A7B9またはヒト化もしくは派生バージョンについては、G55A置換および/またはS61A置換をVHに導入してPTMを防止することができる。そのような変化を伴う、代替VH CDR2は、RMRYNDTSYNSALKS(配列番号72)、RMRYNGDTSYNALKS(配列番号73)、またはRMRYNDTSYNALKS(配列番号74)であり得る。
【0164】
同様に、VL CDR2(IANLQT、配列番号21)は、PTMのリスクがあるS53残基を含む。したがって、一部の実施形態では、192A7B9またはヒト化もしくは派生バージョンについては、S53A置換をVLに導入してPTMを防止することができる。そのような変化を伴う、代替VL CDR2は、IANLQT(配列番号75)であり得る。
【0165】
また、VL CDR3(LQHNWYT、配列番号22)は、PTMのリスクがあるS93A残基を含む。したがって、一部の実施形態では、192A7B9またはヒト化もしくは派生バージョンについては、S93A置換をVLに導入してPTMを防止することができる。そのような変化を伴う、代替VL CDR3は、LQHNWYT(配列番号76)であり得る。
【0166】
一部の実施形態では、VHは、配列番号5および48~55からなる群、特に、配列番号5および50~55からなる群、または配列番号50~55だけからなる群から選択されるアミノ酸配列を含む。一部の実施形態では、VHには、G55A置換、S61A置換、またはこれらの組合せが組み込まれている。一部の実施形態では、VLは、配列番号6および57~62、特に、配列番号59~62からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む。一部の実施形態では、VLには、S53A置換が組み込まれている。一部の実施形態では、VLには、S93A置換が組み込まれている。
【0167】
一部の実施形態では、VHは、配列番号50を含み、VLは、配列番号59を含む。一部の実施形態では、VHは、配列番号50を含み、VLは、配列番号60を含む。一部の実施形態では、VHは、配列番号50を含み、VLは、配列番号61を含む。一部の実施形態では、VHは、配列番号50を含み、VLは、配列番号62を含む。一部の実施形態では、VHは、配列番号51を含み、VLは、配列番号59を含む。一部の実施形態では、VHは、配列番号51を含み、VLは、配列番号60を含む。一部の実施形態では、VHは、配列番号51を含み、VLは、配列番号61を含む。一部の実施形態では、VHは、配列番号51を含み、VLは、配列番号62を含む。一部の実施形態では、VHは、配列番号52を含み、VLは、配列番号59を含む。一部の実施形態では、VHは、配列番号52を含み、VLは、配列番号60を含む。一部の実施形態では、VHは、配列番号52を含み、VLは、配列番号61を含む。一部の実施形態では、VHは、配列番号52を含み、VLは、配列番号62を含む。一部の実施形態では、VHは、配列番号53を含み、VLは、配列番号59を含む。一部の実施形態では、VHは、配列番号53を含み、VLは、配列番号60を含む。一部の実施形態では、VHは、配列番号53を含み、VLは、配列番号61を含む。一部の実施形態では、VHは、配列番号53を含み、VLは、配列番号62を含む。一部の実施形態では、VHは、配列番号54を含み、VLは、配列番号59を含む。一部の実施形態では、VHは、配列番号54を含み、VLは、配列番号60を含む。一部の実施形態では、VHは、配列番号54を含み、VLは、配列番号61を含む。一部の実施形態では、VHは、配列番号54を含み、VLは、配列番号62を含む。一部の実施形態では、VHは、配列番号55を含み、VLは、配列番号59を含む。一部の実施形態では、VHは、配列番号55を含み、VLは、配列番号60を含む。一部の実施形態では、VHは、配列番号55を含み、VLは、配列番号61を含む。一部の実施形態では、VHは、配列番号55を含み、VLは、配列番号62を含む。一部の実施形態では、VHには、G55A置換、S61A置換、またはこれらの組合せが組み込まれている。一部の実施形態では、VLには、S53A置換が組み込まれている。一部の実施形態では、VLには、S93A置換が組み込まれている。
【0168】
一部の実施形態では、抗CD3抗体または断片は、表10(例えば、192-7、13)で定義されるような作用強度グレード4のものである。一部の実施形態では、VHは、配列番号50を含み、VLは、配列番号60を含む。一部の実施形態では、VHは、配列番号50を含み、VLは、配列番号61を含む。
【0169】
一部の実施形態では、抗CD3抗体または断片は、表10(例えば、192-4)で定義されるような作用強度グレード3のものである。一部の実施形態では、VHは、配列番号53を含み、VLは、配列番号59を含む。
【0170】
一部の実施形態では、抗体または断片は、クラスIgG1、IgG2、IgG3またはIgG4のものである。一部の実施形態では、抗体または断片は、抗体依存性細胞傷害(ADCC)能を有する。一部の実施形態では、抗体または断片は、ADCC能を有さない。
【0171】
本明細書で開示される抗体を、それらが由来した天然に存在する結合ポリペプチドとはアミノ酸配列の点で異なるように、改変することができることも、当業者には理解されるであろう。例えば、指定タンパク質に由来するポリペプチドまたはアミノ酸配列は、出発配列と同様であり得、例えば、出発配列に対してある特定の同一性パーセントを有し得、例えば、それは、出発配列と60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、98%または99%同一であり得る。
【0172】
ある特定の実施形態では、抗体は、抗体に通常は付随しないアミノ酸配列または1つもしくは複数の部分を含む。例示的な改変は、下でより詳細に説明される。例えば、本開示の抗体は、可動性リンカー配列を含むことがあり、または機能的部分(例えば、PEG、薬物、毒素、もしくは標識)を付加するように改変されていることがある。
【0173】
本開示の抗体、そのバリアント、または誘導体は、改変されている、すなわち、任意のタイプの分子の抗体への共有結合によりその共有結合がエピトープへの抗体の結合を妨げないように改変されている、誘導体を含む。例として、しかし限定としてではなく、抗体を、例えば、グリコシル化、アセチル化、PEG化、リン酸化、アミド化、公知の保護/ブロッキング基よる誘導体化、タンパク質分解的切断、細胞リガンドまたは他のタンパク質への連結になどにより、改変することができる。非常に多くの化学的改変のいずれを、特異的な化学的切断、アセチル化、ホルミル化、ツニカマイシンの代謝合成などを含むがこれらに限定されない、公知の技法によって行ってもよい。加えて、抗体は、1つまたは複数の非古典的アミノ酸を含有し得る。
【0174】
一部の実施形態では、抗体は、治療剤、プロドラッグ、ペプチド、タンパク質、酵素、ウイルス、脂質、生物学的応答改変物質、医薬品、またはPEGにコンジュゲートされ得る。
【0175】
抗体は、検出可能な標識、例えば、放射性標識、免疫調節物質、ホルモン、酵素、オリゴヌクレオチド、光活性治療または診断剤、薬物または毒素であり得る細胞傷害剤、超音波強化剤、非放射性標識、これらの組合せ、および当技術分野において公知の他のそのような薬剤にコンジュゲートまたは融合され得る。
【0176】
抗体を、化学発光化合物とカップリングさせることにより、検出可能に標識することができる。その結果、化学発光タグ付き抗原結合ポリペプチドの存在は、化学反応の過程において生ずる発光の存在を検出することにより決定される。特に有用な化学発光標識化合物の例は、ルミノール、イソルミノール、セロマティック(theromatic)アクリジニウムエステル、イミダゾール、アクリジニウム塩およびシュウ酸エステルである。
【0177】
蛍光を発する金属、例えば、152Eu、またはランタニド系列の他のものを使用して、抗体を検出可能に標識することもできる。ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)またはエチレンジアミン四酢酸(EDTA)のような金属キレート基を使用して、これらの金属を抗体に結合させることができる。様々な部分を抗体にコンジュゲートするための技法は、周知であり、例えば、Arnon et al., “Monoclonal Antibodies For Immunotargeting Of Drugs In Cancer Therapy”, in Monoclonal Antibodies And Cancer Therapy, Reisfeld et al. (eds.), pp. 243-56 (Alan R. Liss, Inc. (1985);Hellstrom et al., “Antibodies For Drug Delivery”, in Controlled Drug Delivery (2nd Ed.), Robinson et al., (eds.), Marcel Dekker, Inc., pp. 623- 53 (1987);Thorpe, “Antibody Carriers Of Cytotoxic Agents In Cancer Therapy: A Review”, in Monoclonal Antibodies '84: Biological And Clinical Applications, Pinchera et al. (eds.), pp. 475-506 (1985);“Analysis, Results, And Future Prospective Of The Therapeutic Use Of Radiolabeled Antibody In Cancer Therapy”, in Monoclonal Antibodies For Cancer Detection And Therapy, Baldwin et al. (eds.), Academic Press pp. 303-16 (1985)、およびThorpe et al., “The Preparation And Cytotoxic Properties Of Antibody-Toxin Conjugates”, Immunol. Rev. (52:119-58 (1982))を参照されたい。
T細胞エンゲージャー形式および配列の例
【0178】
本開示のある特定の実施形態は、ヒトCD3複合体に対して結合特異性を有する抗CD3抗体または抗原結合性断片を含む抗CD3ユニットと;ヒト4-1BBタンパク質に対して結合特異性を有する抗4-1BB抗体または抗原結合性断片を含む抗4-1BBユニットとを含む、多重特性抗体を提供する。
【0179】
一部の実施形態では、多重特異性抗体は、ヒトTAAに対して結合特異性を有する抗TAA抗体または抗原結合性断片を含む、抗腫瘍関連抗原(TAA)ユニットをさらに含む。一部の実施形態では、多重特異性抗体は、Fc断片をさらに含む。
【0180】
一部の実施形態では、抗CD3ユニットは、Fc断片のN末端側に位置する。一部の実施形態では、抗CD3ユニットは、一価である。一部の実施形態では、抗CD3ユニットは、scFv、Fabまたはナノボディの形式を有する。
【0181】
一部の実施形態では、抗4-1BBユニットは、Fc断片のN末端もしくはC末端または軽鎖のC末端に融合している。一部の実施形態では、抗4-1BBユニットは、1つもしくは2つの抗4-1BBナノボディまたはscFvを含む。
【0182】
一部の実施形態では、抗TAAユニットは、Fc断片のN末端側に位置する。一部の実施形態では、抗TAAユニットは、Fc断片のC末端側に位置する。一部の実施形態では、抗TAAユニットは、一価または二価である。一部の実施形態では、抗TAAユニットは、scFv、Fabまたはナノボディの形式を有する。
【0183】
一部の実施形態では、多重特異性抗体は、Fc断片をさらに含み、抗CD3および抗TAAユニットは、Fc断片のN末端に位置する。一部の実施形態では、抗4-1BBユニットは、Fc断片のC末端に融合している。一部の実施形態では、抗CD3および抗TAAユニットは、一価であり、抗4-1BBユニットは、2つの抗4-1BBナノボディまたはscFvを含む。
【0184】
一部の実施形態では、抗CD3抗体または抗原結合性断片は、一本鎖断片(scFv)またはFab断片またはナノボディであり、Fc断片の鎖のN末端に融合している。一部の実施形態では、抗TAA抗体または抗原結合性断片は、Fab断片またはscFvまたはナノボディであり、Fc断片の別の鎖に融合している。抗4-1BB抗体または抗原結合性断片は、Fc断片のC末端に融合している、Fab断片またはナノボディまたはscFvである。
【0185】
一部の実施形態では、抗CD3抗体は、一価形式の、Fc断片の鎖のN末端に融合している一本鎖断片(scFv)であり、抗TAA抗体または抗原結合性断片は、一価形式の、Fc断片の別の鎖に融合しているFab断片であり、抗4-1BBユニットは、FcのC末端に融合している、かつ二価形式の、ナノボディである。
抗体をコードするポリヌクレオチドおよび抗体を調製する方法
【0186】
本開示は、本開示の抗体、そのバリアントまたは誘導体をコードする、単離されたポリヌクレオチドまたは核酸分子も提供する。本開示のポリヌクレオチドは、抗原結合ポリペプチド、そのバリアントまたは誘導体の重鎖および軽鎖可変領域全体を同じポリヌクレオチド分子上にまたは別々のポリヌクレオチド分子上にコードし得る。加えて、本開示のポリヌクレオチドは、抗原結合ポリペプチド、そのバリアントまたは誘導体の重鎖および軽鎖可変領域の部分を同じポリヌクレオチド分子上にまたは別々のポリヌクレオチド分子上にコードし得る。
【0187】
抗体を作製する方法は、当技術分野において周知であり、本明細書に記載される。ある特定の実施形態では、本開示の抗原結合ポリペプチドの可変領域と定常領域の両方が、完全にヒトのものである。完全ヒト抗体は、当技術分野において記載されている技法を使用して、および本明細書に記載されているように作製することができる。例えば、特定の抗原に対する完全ヒト抗体を、抗原投与に応答してそのような抗体を産生するように改変されているが内在性遺伝子座が無効にされているトランスジェニック動物に抗原を投与することによって、調製することができる。そのような抗体を作製するために使用され得る例示的な技法は、米国特許第6,150,584号、同第6,458,592号、同第6,420,140号に記載されており、これらの参考特許文献は、それら全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0188】
ある特定の実施形態では、調製された抗体は、処置すべき動物において、例えば、ヒトにおいて、有害な免疫応答を惹起しないであろう。一実施形態では、本開示の抗原結合ポリペプチド、そのバリアントまたは誘導体は、当技術分野において認知されている技法を使用してそれらの免疫原性を低下させるように改変される。例えば、抗体を、ヒト化、霊長類化、脱免疫化することができ、またはキメラ抗体を作製することができる。これらのタイプの抗体は、親抗体の抗原結合特性を保持するまたは実質的に保持するがヒトにおける免疫原性がより低い非ヒト抗体、典型的にはマウスまたは霊長類抗体に由来する。これを、(a)非ヒト可変ドメイン全体をヒト定常領域にグラフトしてキメラ抗体を生成すること;(b)非ヒト相補性決定領域(CDR)の1つもしくは複数についての少なくとも一部を、ヒトフレームワーク領域および定常領域に、極めて重要なフレームワーク残基を保持してもしくはせずにグラフトすること;または(c)非ヒト可変ドメイン全体を移植するが、それらを表面残基の置き換えによりヒト様セクションで「クローキング」することを含む、様々な方法により、得ることができる。そのような方法は、Morrison et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 57:6851-6855 (1984);Morrison et al., Adv. Immunol. 44:65-92 (1988);Verhoeyen et al., Science 239:1534-1536 (1988);Padlan, Molec. Immun. 25:489-498 (1991);Padlan, Molec. Immun. 31:169-217 (1994)、ならびに米国特許第5,585,089号、同第5,693,761号、同第5,693,762号および同第6,190,370号において開示されており、これらの参考文献の全ては、これによりそれらの全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0189】
脱免疫化を使用して抗体の免疫原性を減少させることもできる。本明細書で使用される場合、用語「脱免疫化」は、T細胞エピトープを改変するための抗体の変更を含む(例えば、国際出願公開番号WO/9852976 A1およびWO/0034317 A2を参照されたい)。例えば、出発抗体からの可変重鎖および可変軽鎖配列が解析され、各V領域から、配列内の相補性決定領域(CDR)および他の肝要な残基との関連でエピトープの位置を示すヒトT細胞エピトープ「マップ」が作成される。T細胞エピトープマップからの個々のT細胞エピトープが、最終抗体の活性を変更するリスクが低い代替アミノ酸置換を同定するために解析される。アミノ酸置換の組合せを含む、様々な代替可変重鎖および可変軽鎖配列が設計され、これらの配列が、その後、様々な結合ポリペプチドに組み込まれる。典型的には、12~24の間のバリアント抗体が生成され、結合および/または機能について試験される。次いで、改変された可変およびヒト定常領域を含む完全な重鎖および軽鎖遺伝子が、発現ベクターにクローニングされ、その後のプラスミドが、全抗体の産生のために細胞系に導入される。次いで、抗体は、適切な生化学的および生物学的アッセイで比較され、最適なバリアントが同定される。
【0190】
本開示の抗原結合ポリペプチドの結合特異性を、in vitroアッセイ、例えば、免疫沈降法、ラジオイムノアッセイ(RIA)または酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)により、決定することができる。
腫瘍、特に、冷たい腫瘍の処置
【0191】
本明細書に記載されるように、本開示の抗体、バリアントまたは誘導体を、ある特定の処置および診断方法において使用することができる。
【0192】
本開示は、本開示の抗体を患者、例えば、動物、哺乳動物およびヒトに投与して、本明細書に記載される障害または状態の1つまたは複数を処置することを含む、抗体に基づく治療に、さらに関する。本開示の治療化合物は、本開示の抗体(本明細書に記載のそのバリアントおよび誘導体を含む)、および本開示の抗体(本明細書に記載のそのバリアントおよび誘導体を含む)をコードする核酸またはポリヌクレオチドを含むが、これらに限定されない。
【0193】
本開示の抗体を使用してがんを処置または阻害することもできる。一部の実施形態では、腫瘍抗原(例えば、クローディン18.2)は、腫瘍細胞において過剰発現される。したがって、一部の実施形態では、それを必要とする患者におけるがんを処置するための方法が提供される。方法は、一実施形態では、本開示の抗体の有効量を患者に投与するするステップを必然的に伴う。一部の実施形態では、患者におけるがん細胞(例えば、間質細胞)の少なくとも1つは、腫瘍抗原を発現するか、過剰発現するか、または発現するように誘導される。遺伝子発現の誘導は、例えば、腫瘍ワクチンまたは放射線治療の投与によって行うことができる。
【0194】
好適に処置され得る腫瘍は、膀胱がん、非小細胞肺がん、腎がん、乳がん、尿道がん、大腸がん、頭頸部がん、扁平上皮がん、メルケル細胞癌、消化管がん、胃がん、食道がん、卵巣がん、腎がん、および小細胞肺がんのものを含む。したがって、本開示の抗体を使用して、いずれか1つまたは複数のそのようながんを処置することができる。
【0195】
一部の実施形態では、処置される腫瘍は、従来のがん免疫療法によって、例えば、免役チェックポイント(ICP)を標的とする抗体によって、処置することが特に難しいものである。そのような腫瘍は、「冷たい腫瘍」または「非免疫原性腫瘍」と呼ばれることもある。上で説明されたように、本開示の多重特異性抗体は、「冷たい腫瘍」であるB16F10のin vivo動物モデルにおいて劇的な有効性を示した(例えば、実施例18を参照されたい)。一部の実施形態では、それに基づいて、本開示は、本明細書で開示される多重特異性抗体によって冷たい腫瘍を処置するための方法および使用を提供する。
【0196】
一部の実施形態では、非免疫原性腫瘍は、T細胞によって浸潤されないもの、あるいはT細胞濾過、抗原提示細胞(APC)もしくはT細胞活性化が欠損している、または腫瘍床へのT細胞ホーミングが不足しているものである。前立腺がん、膵臓がんおよび白血病の全てが非免疫原性である。乳がんの大多数(95%)、大腸がんの大多数(95%)、胃がんの大多数(87%)、頭頸部がんの大多数(84%)、肝臓がんの大多数(83%)、食道がんの大多数(86%)、子宮頸がんの大多数(87%)および甲状腺がんの大多数(87%)も、非免疫原性である。加えて、肺がんの83%、膀胱がんの79%、腎臓がんの77%、70%の子宮がんおよび66%の黒色腫も、非免疫原性である。
【0197】
非免疫原性または冷たい腫瘍の同定を、腫瘍内の免疫細胞の型、密度および位置の測定によって行うこともできる。例えば、Galon and Bruni(Nature Reviews Drug Discovery volume 18, pages 197-218 (2019))には、熱いおよび冷たい腫瘍のガイド付き層別化のための、例えば、切除された組織における、2つのリンパ球集団(CD3およびCD8)の定量化に基づく標準化スコアリングシステムであるイムノスコアが、記載されている。イムノスコアには、イムノスコア0(I0、両方の領域における両方の細胞型の低い密度、例えば、非存在)からI4(両方の位置における高い免疫細胞密度)までの幅がある。がんをそれらの免疫浸潤に従って分類することにより、このスコアリングシステムは、「熱い」(高浸潤型、イムノスコアI4)および「冷たい」(非浸潤型、イムノスコアI0)腫瘍の定義を含む、腫瘍の免疫に基づく分類を提供する。
【0198】
一部の実施形態では、腫瘍は、免疫チェックポイント阻害剤、例えば、PD-L1阻害剤、PD-1阻害剤、CTLA-4阻害剤、またはこれらの組合せによる処置に対して抵抗性である。一部の実施形態では、がんは、前立腺がん、膵臓がん、または白血病である。一部の実施形態では、がんは、乳がん、大腸がん、胃がん、頭頸部がん、肝臓がん、食道がん、子宮頸がん、または甲状腺がんである。一部の実施形態では、がんは、肺がん、膀胱がん、腎臓がん、子宮がん、または黒色腫である。
【0199】
本開示の抗体もしくはバリアント、またはそれらの誘導体によって処置、予防、診断および/または予後判定され得る、細胞生存期間の増加に関連するさらなる疾患または状態としては、悪性病変および関連障害、例えば、白血病(急性白血病(例えば、急性リンパ球性白血病、急性骨髄球性白血病(骨髄芽球性、前骨髄球性、骨髄単球性、単球性、および赤白血病を含む))および慢性白血病(例えば、慢性骨髄球性(顆粒球性)白血病および慢性リンパ球性白血病)を含む)、真性赤血球増加症、リンパ腫(例えば、ホジキン病および非ホジキン病)、多発性骨髄腫、ワルデンストレーム高ガンマグロブリン血症、重鎖病、および固形腫瘍の、進行および/または転移が挙げられるがこれらに限定されず、固形腫瘍には、肉腫および癌腫、例えば、線維肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、骨原性肉腫、脊索腫、血管肉腫、内皮肉腫、リンパ管肉腫、リンパ管内皮肉腫、滑膜腫、中皮腫、ユーイング腫瘍、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、結腸癌、膵臓がん、乳がん、甲状腺がん、子宮内膜がん、黒色腫、前立腺がん、卵巣がん、前立腺がん、扁平上皮癌、基底細胞癌、腺癌、汗腺癌、脂腺癌、乳頭癌、乳頭腺癌、嚢胞腺癌、髄様癌、気管支原性癌、腎細胞癌、ヘパトーマ、胆管癌、絨毛癌、精上皮腫、胎児性癌、ウィルムス腫瘍、子宮頸がん、精巣腫瘍、肺癌、小細胞肺癌、膀胱癌、上皮癌、神経膠腫、星細胞腫、髄芽腫、頭蓋咽頭腫、上衣腫、松果体腫、血管芽細胞種、聴神経腫瘍、乏突起神経膠腫、髄膜腫(menangioma)、黒色腫、神経芽細胞腫および網膜芽細胞腫が含まれるが、これらに限定されない。
【0200】
いずれの特定の患者についても具体的な投薬量および処置レジメンは、使用される特定の抗体、そのバリアントまたは誘導体、患者の年齢、体重、総体的な健康、性別および食事、ならびに投与の回数、排泄率、薬物の組合せ、ならびに処置される特定の疾患の重症度をはじめとする、様々な因子に依存することになる。医療介護者によるそのような因子の判断は、当技術分野における通常技能の範囲内である。量は、処置すべき個々の患者、投与経路、製剤のタイプ、使用される化合物の特徴、疾患の重症度、および所望される効果にも依存することになる。使用される量を当技術分野において周知の薬理学および薬物動態の原則によって決定することができる。
【0201】
抗体、バリアントまたはそれらの誘導体の投与方法は、皮内、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下、鼻腔内、硬膜外および経口経路を含むが、これらに限定されない。抗原結合ポリペプチドまたは組成物を、任意の適便な経路により、例えば、注入またはボーラス注射により、上皮または粘膜皮膚内層(例えば、口腔粘膜、直腸および腸粘膜など)からの吸収により、投与することができ、他の生物活性薬剤とともに投与することができる。したがって、本開示の抗原結合ポリペプチドを含有する医薬組成物を、経口投与、直腸投与、非経口投与、大槽内(intracistemally)投与、膣内投与、腹腔内投与、局所的に投与(粉末、軟膏、滴剤もしくは経皮パッチによるような)、頬側投与、または口腔噴霧剤もしくは点鼻薬として投与することができる。
【0202】
用語「非経口」は、本明細書で使用される場合、静脈内、筋肉内、腹腔内、胸骨内、皮下および関節内注射および注入を含む、投与方法を指す。
【0203】
投与は、全身または局所のものであり得る。加えて、本開示の抗体を、脳室内および髄腔内注射を含む任意の好適な経路により、中枢神経系に導入することが望ましいことがあり、脳室内注射を、例えば、オマヤ貯留槽などの貯留槽に取り付けられた、脳室内カテーテルによって容易にすることができる。経肺投与も、例えば、吸入器またはネブライザー、およびエアロゾル化剤を含有する製剤を使用することにより、利用することができる。
【0204】
本開示の抗体、ポリペプチドまたは組成物を、処置を必要とするエリアに局所投与することが望ましいことがあり、これは、例として、限定としてではなく、外科手術中の局所注入、外科手術後の創傷包帯法の、例えばそれと併せての、局所的適用により、注射により、カテーテルによって、坐薬によって、または留置剤によって達成することができ、前記留置剤は、膜、例えばシラスティック(sialastic)膜、または繊維を含む、多孔質、無孔質またはゼラチン質材料のものである。好ましくは、本開示の、抗体を含む、タンパク質を投与する場合、タンパク質が吸収されない材料を使用するように心掛けなければならない。
組成物
【0205】
本開示は、医薬組成物も提供する。そのような組成物は、抗体の有効量と許容可能な担体とを含む。
【0206】
具体的な実施形態では、用語「薬学的に許容される」とは、動物における、さらに特にヒトにおける使用について、連邦もしくは州政府の監督機関により承認された、または米国薬局方もしくは他の一般に認知されている薬局方に収載されている、という意味である。さらに、「薬学的に許容される担体」は、一般に、任意のタイプの、非毒性固体、半固体もしくは液体フィラー、希釈剤、カプセル化材または製剤助剤であろう。
【0207】
用語「担体」は、それを用いて治療薬が投与される、希釈剤、アジュバント、賦形剤、またはビヒクルを指す。そのような医薬担体は、滅菌液、例えば、水および油であり得、この油には、石油、動物、植物または合成起源のもの、例えば、落花生油、大豆油、鉱物油、ゴマ油などが含まれる。水は、医薬組成物が静脈内投与されるときに好ましい担体である。生理食塩水、ならびにデキストロースおよびグリセロール水溶液も、液体担体として、特に、注射可能溶液に、利用することができる。好適な医薬賦形剤としては、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、麦芽、米、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、タルク、塩化ナトリウム、脱脂粉乳、グリセロール、プロピレン、グリコール、水、エタノールなどが挙げられる。組成物は、所望される場合には、少量の湿潤もしくは乳化剤、またはpH緩衝剤、例えば、酢酸塩、クエン酸塩もしくはリン酸塩も含有し得る。抗菌剤、例えば、ベンジルアルコールまたはメチルパラベン;抗酸化剤、例えば、アスコルビン酸または亜硫酸水素ナトリウム;キレート剤、例えば、エチレンジアミン四酢酸;および浸透張力の調整のための薬剤、例えば、塩化ナトリウムまたはデキストロースも、想定される。これらの組成物は、溶液、懸濁液、エマルジョン、錠剤、ピル、カプセル、粉末、徐放性製剤などの形態をとり得る。旧来の結合剤および担体、例えば、トリグリセリドを用いて、組成物を坐薬として製剤化することができる。経口製剤は、標準的な担体、例えば、医薬品グレードのマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウムなどを含み得る。好適な医薬品担体の例は、参照により本明細書に組み込まれる、E.W.MartinによるRemington’s Pharmaceutical Sciencesに記載されている。そのような組成物は、好ましくは精製された形態での、抗原結合ポリペプチドの治療有効量を、患者への適正投与のための形態を提供するために好適な量の担体とともに、含有することになる。製剤は、投与方法に適していなければならない。非経口調製物は、ガラスまたはプラスチック製のアンプル、使い捨て注射器または複数回投与用バイアルに封入され得る。
【0208】
ある実施形態では、組成物は、人間への静脈内投与に適応する医薬組成物として常套的手順に従って製剤化される。典型的には、静脈内投与用の組成物は、滅菌等張性水性緩衝液中の溶液である。必要に応じ、組成物は、可溶化剤、および注射部位の痛みを和らげるためのリグノカインなどの局所麻酔薬も含み得る。一般に、これらの成分は、別々にまたは混合されて単位剤形で、のどちらかで、例えば、活性薬剤の量を示すアンプルまたはサッシェなどの密閉シールされている容器の中の乾いた凍結粉末または無水濃縮物として供給される。組成物を注入により投与すべき場合、それは、医薬品グレードの滅菌水または食塩水が入っている注入ボトルを用いて分注され得る。組成物が注射により投与される場合、投与の前に成分を混合することができるように、注射用滅菌水または食塩水のアンプルが提供され得る。
【0209】
本開示の化合物を中性または塩形態として製剤化することができる。薬学的に許容される塩は、塩酸、リン酸、酢酸、シュウ酸、酒石酸などに由来するものなどのアニオンとで形成されるもの、およびナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、水酸化第二鉄、イソプロピルアミン、トリエチルアミン、2-エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカインなどに由来するものなどのカチオンとで形成されるものを含む。
【実施例
【0210】
(実施例1)
抗ヒトCD3抗体の生成および試験
この実施例は、ハイブリドーマ技術を使用する抗ヒトCD3モノクローナル抗体の生成を説明する。
【0211】
抗原:ヒトCD3DおよびCD3Eヘテロ二量体タンパク質(Sino biological、CT026-H0323H)。
【0212】
免疫化:ヒトCD3に対するモノクローナル抗体を生成するために、ウィスターラットおよびSDラットをCD3DおよびCD3Eヘテロ二量体タンパク質によって免疫した。4ラウンドの免疫化後、免疫化ラットの血清を、ELISAによる抗体力価評価に付した。手短に述べると、マイクロタイタープレートを、ELISAコーティング用緩衝剤中の0.5または1μg/mlのヒトCD3タンパク質、100μl/ウェルで、4℃で一晩、コーティングし、次いで、200μl/ウェルの5%脱脂粉乳でブロックした。免疫化マウスからの血清の希釈物を各ウェルに添加し、1~2時間、37℃でインキュベートした。プレートをPBS/Tween(登録商標)で洗浄し、次いで、ペルオキシダーゼAffiniPureヤギ抗ラットIgGとともに30分間、37℃でインキュベートした。洗浄後、プレートをTMB基質で現像し、分光光度計によりOD 450nmで解析した。抗CD3 IgGの十分な力価を有するラットに、ヒトCD3DおよびCD3Eヘテロ二量体タンパク質によって追加免疫した。
【0213】
細胞融合:細胞融合を電気融合により行った。融合細胞を、融合ごとに50の96ウェルプレートに蒔いた。
【0214】
サブクローニングおよびスクリーニング:各融合からの陽性初代クローンを、サブクローンが単一の親細胞に確実に由来するように限界希釈によってサブクローニングした。サブクローニングを初代クローンと同じアプローチでスクリーニングし、陽性クローンの培養上清に、親和性ランク付けによる追加の確認スクリーニングを行った。
【0215】
ハイブリドーマクローン153A6B1、155A9B1および192A7B9をさらなる解析に選択した。153A6B1、155A9B1および192A7B9の可変領域のアミノ酸配列を下の表1で提供し、CDR配列を表1Aに要約する。
【表1】
【表1A】
【0216】
(実施例2)
CD3抗原に対するキメラ抗体の結合活性
ELISA試験
ハイブリドーマクローン153A6B1、155A9B1および192A7B9の結合活性を評価するために、これらのクローンからのキメラmAbをELISA試験に付した。
【0217】
手短に述べると、マイクロタイタープレートを、PBS中の1μg/mlのヒト、カニクイザルおよびマウスCD3タンパク質、100μl/ウェルで、4℃で一晩、コーティングし、次いで、150μl/ウェルの1%BSAでブロックした。15μg/mlで出発する153A6B1、155A9B1および192A7B9抗体の3倍希釈物を各ウェルに添加し、1時間、37℃でインキュベートした。プレートをPBS/Tweenで洗浄し、次いで、抗ヒトIgG(H&L)(ヤギ)抗体・ペルオキシダーゼコンジュゲート型とともに、30分間、37℃でインキュベートした。洗浄後、プレートをTMB基質で現像し、分光光度計によりOD 450nmで解析した。表2に示すように、153A6B1、155A9B1および192A7B9の全てが、ヒトCD3とカニクイザルCD3の両方に結合した。試験した抗体は全て、マウスCD3には結合しなかった。SP34(Biointron、B6762)は、ベンチマーク対照としての役割を果たした。SP34の配列を表2Bで提供する。
【表2A】
【0218】
NA:入手不能
【表2B】
細胞ベースの結合
【0219】
FACSを使用して、ヒトまたはカニクイザルPBMCに対する153A6B1、155A9B1および192A7B9キメラmAbの結合活性を評価した。SP34(Biointron、B6762)およびOKT3(Biointron、B6928)は、ベンチマーク対照としての役割を果たした。
【0220】
手短に述べると、先ず、cynoPBMCを、10nMで出発して3倍段階希釈した153A6B1、155A9B1および192A7B9キメラmAbとともに4℃で30分間、インキュベートした。その一方で、huPBMCを、10nMで出発して4倍段階希釈した153A6B1、155A9B1および192A7B9キメラmAbとともに4℃で30分間、インキュベートした。PBSにより洗浄した後、PEヤギ抗ヒトIgG Fc二次抗体(eBioscience(商標)、Invitrogen)を各ウェルに添加し、4℃で30分間インキュベートした。試料をFACS緩衝液で2回洗浄した。PEの平均蛍光強度(MFI)をMACSQuant Analyzer 16により評価した。図1Aおよび1Bに示すように、153A6B1、155A9B1および192A7B9は、ヒトPBMCとcyno PBMCの両方に結合した。
【0221】
(実施例3)
CD3キメラ抗体の結合親和性
組換えCD3DおよびEタンパク質(ヒトCD3-hisタグ)への153A6B1、155A9B1および192A7B9抗体の結合を、捕捉法を使用してBiacoreで試験した。153A6B1、155A9B1および192A7B9 mAbを、プロテインAチップを使用して捕捉した。ヒトCD3-hisタグタンパク質の段階希釈物を、捕捉された抗体上に3分間、30μl/分の流速で注入した。抗原を、120~360秒間、放置して解離させた。全ての実験を、Biacore T200で行った。データ解析は、Biacore T200評価ソフトウェアを使用して行った。結果を表3に示す。
【表3】
【0222】
(実施例4)
CD3キメラ抗体の機能活性
この実施例は、キメラCD3抗体の機能活性を試験した。
CD3キメラ抗体の細胞系ベースの機能の特徴付け
【0223】
CD3シグナル伝達経路を活性化するCD3キメラ抗体の能力を評価するために、市販のCD3 NFATルシフェラーゼレポーター系を使用した。このアッセイでは、ジャーカット-CD3-NFATをレポーター細胞系として使用した。ジャーカット-CD3-NFAT細胞系は、応答エレメントの下流にCD3およびルシフェラーゼを安定的に発現するように遺伝子改変されている(Genomeditech #C17940)。ルシフェラーゼ発現は、CD3受容体への抗体結合によって誘導される。手短に述べると、レポーター細胞をウェル当たり細胞2.5×10個の密度で白色96ウェルプレートにおいて培養した。抗体を3倍段階希釈し、10nM~0.0005nMの範囲の最終濃度で白色96ウェルアッセイプレートに添加した。37℃での6時間のインキュベーション後、ルシフェラーゼの基質を添加することにより発光を得、マイクロプレートリーダーにより測定した。4パラメーターロジスティック曲線解析をGraphPadソフトウェアによって行った。
【0224】
図2に示すように、153A6B1、155A9B1および192A7B9抗体の全てが、OKT3と比較して弱いCD3 NFAT活性を呈し、192A7B9は、SP34に対して同等のCD3 NFAT活性を示した。
【0225】
(実施例5)
CD3キメラ抗体により誘導されるCD8細胞における4-1BB発現
この実施例は、キメラCD3抗体により誘発されるCD8細胞における4-1BB誘導を試験した。
【0226】
4-1BB発現を誘導するCD3キメラ抗体の能力を評価するために、ヒトPBMCをウェル当たり細胞1×10個の密度で96ウェルプレートにおいて培養した。キメラ抗体を3倍段階希釈し、10nM~0.0015nMの範囲の最終濃度で96ウェルプレートに添加した。37℃で48時間のインキュベーション後、ヒトPBMCをさらなる解析のために収集した。PBSによる洗浄後、試料を、次の抗体:抗ヒトCD4-APC(Ebiosciene、17-0048-42)、抗ヒトCD8-BV510(BD bioscience、563919)、抗ヒトCD137-PE(BD Pharmingen、555956)との暗所における室温での30分間のインキュベーションによる標準手順を使用して、染色した。試料をFACS緩衝液で2回洗浄した。遠心分離後、上清を廃棄し、ヒトPBMCを0.2mLのFACS緩衝液に再懸濁させた。CD8T細胞の中のCD137CD8T細胞サブセットを、MACSQuant Analyzer 16により評価した。
【0227】
図3に示すように、SP34およびOKT3と同様に、3つ全てのキメラ抗体は、強い4-1BB誘導活性を示した。
【0228】
(実施例6)
CD3抗体のヒト化
153A6B1/155A9B1/192A7B9可変領域遺伝子を利用して、ヒト化mAbを作出した。このプロセスの第1ステップでは、153A6B1/155A9B1/192A7B9のVHおよびVKのアミノ酸配列を、ヒトIg遺伝子配列の利用可能なデータベースと比較して、全体として最もよくマッチするヒト生殖細胞系列Ig遺伝子配列を見つけた。
【0229】
153A6B1の軽鎖については、VK1-39(O12)-JK2が最良適合生殖細胞系列であり、153A6B1の重鎖については、VH4-59-JH3をヒト化骨格として選択した。次いで、ヒト化153A6B1 CDRグラフト抗体を設計し、CDRL1、L2およびL3をVK1-39(O12)-JK2のフレームワーク配列にグラフトし、CDRH1、H2およびH3をVH4-59-JH3のフレームワーク配列にグラフトした。次いで、3Dモデルを生成して、抗体結合および立体構造に不可欠である、元のマウスFR領域配列内のアミノ酸を決定した。153A6B1 CDRグラフト抗体配列に基づいて、6本の追加のヒト化重鎖および3本の追加の軽鎖を作出した。
【0230】
155A9B1の軽鎖については、VK1-39(O12)-JK2が最良適合生殖細胞系列であり、155A9B1の重鎖については、VH4-59-JH3をヒト化骨格として選択した。次いで、ヒト化155A9B1 CDRグラフト抗体を設計し、CDRL1、L2およびL3をVK1-39(O12)-JK2のフレームワーク配列にグラフトし、CDRH1、H2およびH3をVH4-59-JH3のフレームワーク配列にグラフトした。次いで、3Dモデルを生成して、抗体結合および立体構造に不可欠である、元のマウスFR領域配列内のアミノ酸を決定した。155A9B1 CDRグラフト抗体配列に基づいて、6本の追加のヒト化重鎖および3本の追加の軽鎖を作出した。
【0231】
192A7B9の軽鎖については、VK1-39(O12)-JK2が最良適合生殖細胞系列であり、192A7B9の重鎖については、VH4-59-JH3をヒト化骨格として選択した。次いで、ヒト化192A7B9 CDRグラフト抗体を設計し、CDRL1、L2およびL3をVK1-39(O12)-JK2のフレームワーク配列にグラフトし、CDRH1、H2およびH3をVH4-59-JH3のフレームワーク配列にグラフトした。次いで、3Dモデルを生成して、抗体結合および立体構造に不可欠である、元のマウスFR領域配列内のアミノ酸を決定した。192A7B9 CDRグラフト抗体配列に基づいて、6本の追加のヒト化重鎖および4本の追加の軽鎖を作出した。
【0232】
CDRグラフティングに使用したヒト生殖細胞系列の配列、および得られたヒト化配列を、表4~6に収載する。
【表4-1】
【表4-2】
【表4A】
【表5-1】
【表5-2】
【表5A】
【表6-1】
【表6-2】
【表6A-1】
【表6A-2】
【0233】
CD3ヒト化抗体とベンチマークSP34の物理的および化学的特性を比較するために、scFv形態の示されているモノクローナル抗体を、一過的にトランスフェクトされたHEK293細胞上清から、プロテインA親和性カラムにより精製した。純度をSEC-HPLCにより調べた。表6Bは、155A9B1-8-scFv hFcモノ抗体が、SP34と比較して高い純度および収量を有したことを示す。同じ実験条件で発現させることができたSP34-scFv hFc抗体はなかった。
【表6B】
【0234】
(実施例7)
CD3抗原に対するヒト化抗体の結合活性
ELISA試験
ヒト化抗体の結合活性を評価するために、ヒト化CD3抗体をELISA試験に付した。
【0235】
手短に述べると、マイクロタイタープレートを、PBS中の1μg/mlのヒトCD3タンパク質、100μl/ウェルで、4℃で一晩、コーティングし、次いで、150μl/ウェルの1%BSAでブロックした。15μg/mlで出発するヒト化抗体の3倍希釈物を各ウェルに添加し、1時間、37℃でインキュベートした。プレートをPBS/Tweenで洗浄し、次いで、抗ヒトIgG(H&L)(ヤギ)抗体・ペルオキシダーゼコンジュゲート型とともに、30分間、37℃でインキュベートした。洗浄後、プレートをTMB基質で現像し、分光光度計によりOD 450nmで解析した。表7に示すように、ヒト化CD3抗体は、ヒトCD3に異なる結合作用強度で結合した。
表7.ヒト化抗体の結合活性
【表7A】
【表7B】
【表7C】
【表7D】
【表7E】
【表7F】
【表7G】
【表7H】
【表7I】
【表7J】
細胞ベースの結合
【0236】
FACSを使用して、ヒトPBMCに対するヒト化抗体の結合活性を評価した。
【0237】
手短に述べると、huPBMC細胞を、3倍段階希釈したヒト化CD3抗体とともに4℃で30分間まずインキュベートした。PEヤギ抗ヒトIgG Fc二次抗体(eBioscience(商標)、Invitrogen)を各ウェルに添加し、4℃で30分間インキュベートした。試料をFACS緩衝液で2回洗浄した。PEの平均蛍光強度(MFI)をMACSQuant Analyzer 16により評価した。図4に示すように、ヒト化CD3抗体は、ヒトPBMCに様々な結合親和性で結合した。
【0238】
(実施例8)
ヒト化抗体の結合親和性
組換えCD3DおよびEタンパク質(ヒトCD3-hisタグ)へのヒト化抗体の結合を、捕捉法を使用してBiacoreで試験した。ヒト化抗体を、プロテインAチップを使用して捕捉した。ヒトCD3-hisタグタンパク質の段階希釈物を、捕捉された抗体上に3分間、30μl/分の流速で注入した。抗原を、120~360秒間、放置して解離させた。全ての実験を、Biacore T200で行った。データ解析は、Biacore T200評価ソフトウェアを使用して行った。結果を表8に示す。
表8.Biacoreにより測定した親和性
【表8A】
【表8B-1】
【表8B-2】
【表8C】
【0239】
(実施例9)
ヒト化抗体により誘導されるCD3 NFAT活性
この実施例は、ヒト化CD3抗体の機能活性を試験した。
CD3ヒト化抗体の細胞系ベースの機能の特徴付け
【0240】
CD3シグナル伝達経路を活性化するCD3ヒト化抗体の能力を評価するために、市販のCD3 NFATルシフェラーゼレポーター系を使用した。このアッセイでは、ジャーカット-CD3-NFATをレポーター細胞系として使用した。ジャーカット-CD3-NFAT細胞系は、遺伝子改変されており、NFAT応答エレメントの下流にCD3を有する。ルシフェラーゼ発現は、CD3レポーターへの抗体結合によって誘導される。手短に述べると、レポーター細胞をウェル当たり細胞2.5×10個の密度で白色96ウェルプレートにおいて培養した。被験抗体を5倍段階希釈し、3μg/mlで出発する最終濃度で白色96ウェルアッセイプレートに添加した。37℃での6時間のインキュベーション後、ルシフェラーゼの基質を添加することにより発光を得、マイクロプレートリーダーにより測定した。4パラメーターロジスティック曲線解析をGraphPadソフトウェアによって行った。
【0241】
図5に示すように、ヒト化CD3抗体は、様々な異なるCD3活性を示した。
【0242】
(実施例10)
ヒト化抗体により誘導される4-1BB発現
この実施例は、4-1BB発現を活性化するCD3ヒト化抗体の能力を評価した。
【0243】
手短に述べると、ヒトPBMCをウェル当たり細胞1×10個の密度で96ウェルプレートにおいて培養した。試験した抗体を10倍段階希釈し、20nM~0.0002nMの範囲の最終濃度で96ウェルプレートに添加した。37℃で48時間のインキュベーション後、ヒトPBMCをさらなる解析のために収集した。PBSによる洗浄後、試料を、次の抗体:抗ヒトCD4-APC(Ebiosciene、17-0048-42)、抗ヒトCD8-BV510(BD bioscience、563919)、抗ヒトCD137(4-1BB)-PE(BD Pharmingen、555956)との暗所における室温での30分間のインキュベーションによる標準手順を使用して、染色した。試料をFACS緩衝液で2回洗浄した。遠心分離後、上清を廃棄し、ヒトPBMCを0.2mLのFACS緩衝液に再懸濁させた。CD8T細胞の中のCD137(4-1BB)CD8T細胞サブセットを、MACSQuant Analyzer 16により評価した。全CD8T細胞に対するCD137(4-1BB)CD8T細胞のパーセンテージ(%)を使用して4-1BB誘導率を示した:
【数4】
【0244】
興味深いことに、NFAT試験において試験してわずかな応答を有したまたは応答を有さなかったこれらのヒト化抗体(グレード1~4)を、4-1BB誘導活性に基づいてより明確に分類することができた。4-1BB誘導率は、CD3 NFAT活性とよく相関する(図6)。
【0245】
(実施例11)
CD3モノクローナル抗体および多重特異性抗体により誘導されるCD3 NFAT活性
CD3作用強度をさらに定義するために、CD3媒介NFAT活性を、TCR/CD3エフェクター細胞において参照としてSP34を使用することにより測定した。TCR/CD3エフェクター細胞(NFAT、Promega カタログ番号J1601)を使用した。抗TCR/CD3刺激が加わると、受容体媒介シグナル伝達は、発光(NFATの活性化による)を誘導し、これを、Bio-Glo(商標)試薬を添加し、ルミノメーターで定量することによって検出することができる。
CD3モノクローナル抗体により誘導されるCD3 NFAT活性
【0246】
手短に述べると、TCR/CD3エフェクター細胞をウェル当たり細胞2.5×10個の密度で白色96ウェルプレートにおいて培養した。CD3ヒト化抗体を4倍段階希釈し、100nMから出発する最終濃度で白色96ウェルアッセイプレートに添加した。37℃での6時間のインキュベーション後、ルシフェラーゼの基質を添加することにより発光を得、マイクロプレートリーダーにより測定した。4パラメーターロジスティック曲線解析をGraphPadソフトウェアによって行った。
【0247】
図7および表10に示すように、ヒト化CD3抗体は、様々な異なるCD3活性を示した。それらの中で、NFAT応答に関してSP34の50%以下を示した最大効果(最高発光計測値、Emax)を、グレード1~4と定義した。NFAT応答に関してSP34の50%より高い%を示した最大効果(最高発光計測値、Emax)を、グレード5~9と定義した。表9は、CD3-NFATアッセイにおいてSP34により誘導された最高値(Emax)およびその相対パーセンテージを示した。
【表9-1】
【表9-2】
【表9-3】
【0248】
SP34群の最高値を各アッセイについて100%と設定した。SP34の最高値に対する示されている抗体の最高値のパーセンテージを使用して、CD3 T細胞活性化活性を示した:
【数5】
CD3多重特異性抗体により誘導されるCD3 NFAT活性
【0249】
CD3活性をさらに定義するために、CD3多重特異性抗体を生成し、CD3活性を、TAA陽性細胞の存在下で多重特異性形式に関してさらに決定した。二重特異性抗体については、FcのN末端に融合しているscFv形態の抗CD3、およびFcの別のN末端に融合しているFab形態の抗クローディン18.2またはGPC3を、1+1形式の二重特異性抗体になるように構築した(図9A)。三重特異性抗体については、重鎖のN末端に融合しているscFv形態の抗CD3、Fcの別のN末端に融合しているFab形態の5T4、および各重鎖のC末端に融合している抗4-1BBを、三重特異性抗体1+1形式になるように構築した(図11A)。SP34は、参照対照としての役割を果たした。
【0250】
手短に述べると、TCR/CD3エフェクター細胞をウェル当たり細胞2.5×10個の密度で白色96ウェルプレートにおいて培養した。クローディン18.2(CHO-K1-hCLDN18.2)、5T4(CHO-K1-h5T4およびMCF7)またはGPC3(HepG2)を発現する標的細胞系を、2.5×10の密度(したがって、1:1のE:T比)で播種した。被験CD3-二重特異性または三重特異性抗体を段階希釈し、100nMから出発する最終濃度で白色96ウェルアッセイプレートに添加した。SP34(Biointron、B6762)は、ベンチマーク対照としての役割を果たした。37℃での6時間のインキュベーション後、ルシフェラーゼの基質を添加することにより発光を得、マイクロプレートリーダーにより測定した。4パラメーターロジスティック曲線解析をGraphPadソフトウェアによって行った。
【0251】
驚くべきことに、グレード1~4活性に属する全てのCD3抗体を、上述のアッセイにおいて測定したそれらのTAA依存性T細胞活性化活性に基づいて、さらに定義および分類することができた。ベンチマークSP34モノクローナル抗体との比較でのそれらのTAA依存性活性に基づいて、SP34モノクローナル抗体より強い活性を有する抗CD3抗体をグレード3および4と定義し、その一方で、検出不能の活性を有する抗CD3抗体をグレード1および2と定義した。
【0252】
図8A~Bに示すように、155-7および155-1などの、グレード1または2活性を有する全てのCD3抗体は、クローディン18.2の存在下で検出不能のCD3活性を有し、その一方で、グレード2レベルより上の活性を有する全ての他の抗体は、SP34モノクローナル抗体と比較して強いCD3活性を示した。同様に、図8Cに示すように、グレード2より上の活性を有する全ての試験したCD3抗体(例えば、155-5は、「グレード5~9活性」に属し、155-14および155-16は、「グレード4活性」に属する)は、SP34モノクローナル抗体により誘導されるものより強い活性を示し、これらのCD3抗体を、GPC3-CD3二重特異性抗体を用いて、GPC3発現HepG2細胞の存在下で構築した。この場合もやはり、一貫して、グレード2より上の活性を有する全ての試験したCD3抗体(例えば、155-8および155-16は、「グレード4活性」に属し、153-7は、「グレード3活性」に属する)もまた、これらの抗CD3抗体を5T4×CD3二重特異性抗体になるように構築したとき、5T4高発現細胞系においてSP34モノクローナル抗体と比較してより有意なCD3活性化を誘導した(図8D~E)。
【0253】
したがって、グレード2より上の全ての抗体は、TAA-CD3二重特異性抗体の形式で卓越したTAA依存性CD3活性を示した。グレード3および4配列は、CD3モノクローナル抗体形式に関してはNFAT応答の点でわずかなCD3アゴニズム活性を有するかまたは全くCD3アゴニズム活性を有さず、TAA-CD3二重特異性形式に関してはTAA発現細胞が関与したときに強力なNFAT応答を有するので目を引く。そしてその一方で、グレード3~4配列によって誘導される最大効果(Emaxとして測定した)は、少なくとも、SP34抗体によって誘導されるものより大きい。
【0254】
(実施例12)
ヒトPBMC上のヒトCD3に対するCD3/クローディン18.2二重特異性抗体の結合活性
以下の二重特異性分子をこの実施例では調製した。重鎖のN末端に融合しているscFv形態の155A9B1-8からの抗CD3抗体断片および別のN末端に融合しているFab形態のクローディン18.2を、2つの異なる二重特異性抗体形式AおよびBになるように構築した(図9A)。二重特異性抗体155-8Aによって代表される形式A(「1+1形式」とも呼ばれる)は、N末端に(右側に)抗CD3 scFvを含み、別の末端に(左側に)抗クローディン18.2 Fabを含む。誤対合を低減させるためにノブ・イン・ホール置換をFc領域において使用する。二重特異性抗体155-8Bによって代表される形式B(「2+Lc2形式」とも呼ばれる)は、抗クローディン18.2 Fabの軽鎖可変領域の各々のC末端に融合している2つの抗CD3 scFvを含む。
【0255】
ヒト化抗体155-8のscFvを含む155-8Aおよび155-8Bである、2つの二重特異性抗体に加えて、第3の二重特異性抗体も調製した。この参照二重特異性抗体、Xmabは、1+1形式をとり、プラモタマブ(Xencor)からのCD3 scFvを含んだ。
【0256】
FACSを使用して、ヒトPBMCに対する、クローディン18.2/CD3二重特異性抗体および参照単一特異性抗体SP34および155-8という異なる形式についての結合活性を評価した。
【0257】
手短に述べると、先ず、huPBMCを、100nMで出発して4倍段階希釈したクローディン18.2/CD3二重特異性抗体とともに4℃で30分間、インキュベートした。PEヤギ抗ヒトIgG Fc二次抗体(eBioscience(商標)、Invitrogen)を各ウェルに添加し、4℃で30分間インキュベートした。試料をFACS緩衝液で2回洗浄した。PEの平均蛍光強度(MFI)をMACSQuant Analyzer 16により評価した。
【0258】
結果を図9Bに示す。二重特異性抗体155-8Aおよび155-8BによるhuPBMCに対する結合活性は、参照単一特異性抗体はもちろんXmabよりも弱かった。
【0259】
(実施例13)
CD3/クローディン18.2二重特異性抗体により誘導される4-1BB発現
この実施例は、CD3/クローディン18.2二重特異性抗体の異なる形式についての4-1BB発現を活性化する能力を測定した。
【0260】
手短に述べると、ヒトPBMCをウェル当たり細胞1×10個の密度で96ウェルプレートにおいて培養した。クローディン18.2を発現する標的細胞系(CHO-K1-hCLDN18.2)または対照細胞(CHO-K1)を、2.5×10の密度(したがって、4:1のE:T比)で播種した。FACS解析は、CHO-K1-hCLDN18.2細胞におけるクローディン18.2の過剰発現倍数が、CHO-K1細胞と比較して約90であることを示した。FACS試験抗体は、Ganymed Pharmaceuticals AGにより開発されたIMAB362である。したがって、試験した二重特異性抗体を4倍段階希釈し、100nM~0.0004nMの範囲の最終濃度で96ウェルプレートに添加した。37℃で48時間のインキュベーション後、ヒトPBMCをさらなる解析のために収集した。PBSによる洗浄後、試料を、次の抗体:抗ヒトCD4-APC(Ebiosciene、17-0048-42)、抗ヒトCD8-BV510(BD bioscience、563919)、抗ヒトCD137-PE(BD Pharmingen、555956)との暗所における室温での30分間のインキュベーションによる標準手順を使用して染色した。試料をFACS緩衝液で2回洗浄した。遠心分離後、上清を廃棄し、ヒトPBMCを0.2mLのFACS緩衝液に再懸濁させた。CD8T細胞の中のCD137(4-1BB)CD8T細胞サブセットを、MACSQuant Analyzer 16により評価した。
【0261】
全CD8T細胞に対するCD137(4-1BB)CD8T細胞のパーセンテージ(%)を使用して4-1BB誘導率を示した。腫瘍関連抗原(クローディン18.2)発現細胞を使用したときにTAA依存性4-1BB誘導率を得、これらのTAA発現細胞の非存在下で(その代わりにCHO-K1細胞を用いて)TAAフリー4-1BB誘導率を得た。
【0262】
図9Cは、155-8A(1+1形式)が、155-8B(2+Lc2形式)より頑強な応答を誘導したことを示す。また重要なこととして、SP34およびXmAbは、クローディン18.2細胞(CHO-K1)とクローディン18.2細胞の両方において強い4-1BB活性化活性を示した一方で、155-8Aおよび155-8Bの活性は、クローディン18.2細胞において有意にさらに顕著であった。これは、クローディン18.2発現へのそれらの依存性を示す。
【0263】
(実施例14)
クローディン18.2/4-1BB二重特異性抗体により誘導されるIL-2分泌はCD3依存性である
この実施例は、クローディン18.2/4-1BB二重特異性抗体により誘導されるIL-2分泌がCD3依存性であるかどうかを調べた。
【0264】
手短に述べると、実験を2つの群に分けた。第1の群では、プレートをCD3抗体(クローンHIT3a)でプレコーティングし、第2の群では、いかなるCD3抗体も使用しなかった。次いで、ヒトPBMCをウェル当たり細胞1×10個の密度で96ウェルプレートにおいて培養した。クローディン18.2を発現する標的細胞系(CHO-K1-hCLDN18.2)または対照細胞(CHO-K1)を、2.5×10の密度(したがって、4:1のE:T比)で播種した。クローディン18.2/4-1BB二重特異性抗体を4倍段階希釈し、100nM~0.0061nMの範囲の最終濃度で96ウェルアッセイプレートに添加した。37℃で48時間のインキュベーション後、上清をさらなる解析のために収集した。IL-2を、TR-FRETアッセイ(Perkin Elmer)、続いて製造業者のプロトコールによって測定した。Lanceシグナルを、Envisionを使用して検出した。615nM(チャネル1)および665nM(チャネル2)からの二重放射を得た。Lance計数(標準物質の濃度に対するCh1/Ch2比)をプロットすることにより、標準曲線を生成した。非線形回帰、4パラメーターロジスティック方程式を使用して、データを解析した。
【0265】
図10に示すように、4-1BB誘導IL-2分泌は、実際、CD3活性化に依存性であった。
【0266】
(実施例15)
三重特異性抗体により刺激されるIL-2分泌
この実施例は、クローディン18.2、CD3および4-1BBと相互作用してT細胞活性化と腫瘍標的化の両方を増強する、三重特異性抗体を説明した。この三重特異性抗体は、腫瘍細胞上のタンパク質クローディン18.2、ならびにT細胞上のタンパク質CD3および4-1BBという、3つの標的に結合する。抗体の標的結合ドメインを図11Aに示す。それは、Fc断片のC末端に融合している2つの抗4-1BBナノボディを有する、1+1形式の抗TAA/CD3部分を含む。
【0267】
T細胞を活性化するCD3三重特異性抗体の能力を評価するために、IL-2分泌をLANCE(Perkin Elmer)により調べた。手短に述べると、ヒトPBMC細胞をウェル当たり細胞1×10個の密度で96ウェルプレートにおいて培養した。クローディン18.2を発現する標的細胞系(CHO-K1-hCLDN18.2)または対照細胞(CHO-K1)を、2.5×10の密度(4:1のE:T比である)で播種した。被験三重特異性抗体を4倍段階希釈し、100nM~0.098nMの範囲の最終濃度で96ウェルプレートに添加した。37℃で48時間のインキュベーション後、上清をさらなる解析のために収集した。IL2を、TR-FRETアッセイにより、製造業者のプロトコールに従って測定した。Lanceシグナルを、Envisionを使用して検出した。615nM(チャネル1)および665nM(チャネル2)からの二重放射を得た。Lance計数(標準物質の濃度に対するCh1/Ch2比)をプロットすることにより、標準曲線を生成した。非線形回帰、4パラメーターロジスティック方程式を使用して、データを解析した。
【0268】
CHO-K1-hCLDN18.2細胞の存在下で、ヒトPBMCにおけるIL-2分泌(図11B)は、CD3 NFAT活性との正の相関を示した。わずかなCD3アゴニスト活性を有する155-8、155-9および155-14を含む、グレード4B抗体は、CHO-K1対照細胞において非特異的活性化なしに強力なサイトカイン放出を誘導した。グレード3抗体(155-2)では、非特異的IL-2活性化が、クローディン18.2の存在下でそのIL-2活性化があまり顕著ではなかったとはいえ、クローディン18.2の非存在下で検出不能であった。したがって、グレード4抗体とグレード3抗体の両方が卓越した安全域を示した。
【0269】
(実施例16)
三重特異性抗体により誘導される4-1BB発現
この実施例は、4-1BB発現を活性化する三重特異性抗体の能力を評価した。
【0270】
手短に述べると、ヒトPBMCをウェル当たり細胞1×10個の密度で96ウェルプレートにおいて培養した。クローディン18.2を発現する標的細胞系(CHO-K1-hCLDN18.2)または対照細胞(CHO-K1)を、2.5×10の密度(したがって、4:1のE:T比)で播種した。試験した抗体を4倍段階希釈し、100nM~0.098nMの範囲の最終濃度で96ウェルプレートに添加した。37℃で48時間のインキュベーション後、ヒトPBMCをさらなる解析のために収集した。PBSによる洗浄後、試料を、次の抗体:抗ヒトCD4-APC(Ebiosciene、17-0048-42)、抗ヒトCD8-BV510(BD bioscience、563919)、抗ヒトCD137-PE(BD Pharmingen、555956)との暗所における室温での30分間のインキュベーションによる標準手順を使用して染色した。試料をFACS緩衝液で2回洗浄した。遠心分離後、上清を廃棄し、ヒトPBMCを0.2mLのFACS緩衝液に再懸濁させた。CD8T細胞の中のCD137(4-1BB)CD8T細胞サブセットを、MACSQuant Analyzer 16により評価した。
【0271】
全CD8T細胞に対するCD137(4-1BB)CD8T細胞のパーセンテージ(%)を使用して4-1BB誘導率を示した。腫瘍関連抗原(クローディン18.2)発現細胞を使用したときにTAA依存性4-1BB誘導率を得、これらのTAA発現細胞の非存在下で(その代わりにCHO-K1細胞を用いて)TAAフリー4-1BB誘導率を得た。
【0272】
CHO-K1-hCLDN18.2細胞の存在下で、ヒトPBMC CD8細胞における4-1BB誘導(図12)は、CD3 NFAT活性との正の相関を示した。図10Bと同様に、グレード4B抗体155-8、155-9および155-14は、CHO-K1対照細胞において非特異的活性化なしに強力な4-1BB誘導を誘導した。また、グレード3抗体(155-2)では、非特異的4-1BB活性化が、クローディン18.2の存在下でその活性化があまり顕著ではなかったとはいえ、クローディン18.2の非存在下で検出不能であった。この場合もやはり、グレード4抗体とグレード3抗体の両方が卓越した安全域を示した。
【0273】
TAAを伴わないCD3ユニットにより誘導されたCD3-NFAT活性(図7A~D)、TAA-CD3二重特異性抗体によるTAA依存性T細胞活性化(図8A~E)、およびCD3-4-1BB-TAA三重特異性抗体によるTAA依存性4-1BB誘導(図12)からのデータに基づいて、CD3活性を表10に示すような9つのカテゴリーに分けることができた。
【表10】
【0274】
(実施例17)
ベンチマーク二重特異性抗体により誘導されるIL-2分泌および細胞溶解活性
候補抗体と市販のベンチマークCD3抗体のCD3活性を比較するために、この実施例は、図9Aに示すような二重特異性1+1形式になるように本発明者らのCD3および市販のベンチマークCD3配列を構築した。Xencor-BiAbは、プラモタマブ(Xencor)から得たCD3配列を表し、Roche-BiAbは、モスネツズマブ(Roche)から得たCD3配列を表し、Amt-BiAbは、タルラタマブ(Amgen)から得たCD3配列を表し、Amb-BiAbは、ブリナツモマブ(Amgen)から得たCD3配列を表し、SP34-BiAbは、SP34から得たCD3配列を表す。
【0275】
この実施例は、IL-2分泌および細胞溶解活性をCD3活性の読み出し情報として使用し、ひいては、CHO-K1-hCLDN18.2細胞と共培養したヒトPBMCのIL-2産生および細胞溶解活性に対する二重特異性CD3抗体の効果を評価した。
CD3二重特異性抗体により誘導されるIL-2分泌
【0276】
T細胞を活性化するCD3二重特異性抗体の能力を評価するために、IL-2分泌をLANCE(Perkin Elmer)により調べた。
【0277】
手短に述べると、ヒトPBMCをウェル当たり細胞1×10個の密度で96ウェルプレートにおいて培養した。クローディン18.2を発現する標的細胞系(CHO-K1-hCLDN18.2)または対照細胞(CHO-K1)を、2.5×10の密度で播種した。したがって、E:T比は、4:1である。抗体を5倍段階希釈し、100nM~0.032nMの範囲の最終濃度で96ウェルプレートに添加した。37℃で48時間のインキュベーション後、上清をさらなる解析のために収集した。IL2を、TR-FRETアッセイにより、製造業者のプロトコールに従って測定した。Lanceシグナルを、Envisionを使用して検出した。615nM(チャネル1)および665nM(チャネル2)からの二重放射を得た。Lance計数(標準物質の濃度に対するCh1/Ch2比)をプロットすることにより、標準曲線を生成した。非線形回帰、4パラメーターロジスティック方程式を使用して、データを解析した。
CD3二重特異性抗体により誘導される細胞溶解活性
【0278】
T細胞を活性化するCD3二重特異性抗体の能力を評価するために、損傷した細胞のサイトゾルから放出される乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)活性をCytotoxicity Detection KitPLUS(Roche)により調べた。
【0279】
手短に述べると、CD8細胞をヒトPBMCからCD8単離キット(Miltenyi Biotec Inc.)により単離した。CD8細胞をウェル当たり細胞2×10個の密度で96ウェルプレートにおいて培養した。クローディン18.2を発現する標的細胞系(CHO-K1-hCLDN18.2)または対照細胞(CHO-K1)を、1×10の密度で播種した。したがって、E:T比は、20:1である。抗体を4倍段階希釈し、10nM~3.81E-05nMの範囲の最終濃度で96ウェルアッセイプレートに添加した。37℃で24時間のインキュベーション後、上清をさらなる解析のために収集した。LDHを、製造業者のプロトコールに従って調べた。ELISAリーダーを使用して492nmでの試料の吸光度を測定した。
【0280】
図13Aに示すように、CHO-K1-hCLDN18.2細胞の存在下では被験物質155-8二重特異性抗体は、ベンチマーク二重特異性抗体より小さい細胞溶解活性を示したが、CHO-K1細胞の存在下では155-8二重特異性抗体は、ベンチマーク二重特異性抗体とは対照的に、より小さい非特異的細胞溶解活性も誘発した。
【0281】
さらに、IL-2分泌(図13B)については、CHO-K1-hCLDN18.2細胞の存在下で、被験二重特異性抗体の全てがアイソタイプ対照と同等のIL-2分泌を誘発した。
【0282】
(実施例18)
ベンチマーク三重特異性抗体により誘導されるIL-2分泌および細胞溶解活性
本発明者らの候補と市販のベンチマークCD3抗体のCD3活性を比較するために、この実施例は、図11Aに示すような三重特異性1+1形式になるように本発明者らのCD3および市販のベンチマークCD3配列を構築した。Xencor-TriAbは、プラモタマブ(Xencor)から得たCD3配列を表し、Roche-TriAbは、モスネツズマブ(Roche)から得たCD3配列を表し、Amt-TriAbは、タルラタマブ(Amgen)から得たCD3配列を表し、Amb-TriAbは、ブリナツモマブ(Amgen)から得たCD3配列を表す。本発明者らは、IL-2分泌および細胞溶解活性をCD3活性の読み出し情報として使用し、ひいては、CHO-K1-hCLDN18.2細胞と共培養したヒト末梢血単核細胞(PBMC)のIL-2産生および細胞溶解活性に対する三重特異性CD3抗体の効果を評価した。
CD3三重特異性抗体により誘導されるIL-2分泌
【0283】
T細胞を活性化するCD3三重特異性抗体の能力を評価するために、IL-2分泌をLANCE(Perkin Elmer)により調べた。
【0284】
手短に述べると、ヒトPBMCをウェル当たり細胞1×10個の密度で96ウェルプレートにおいて培養した。クローディン18.2を発現する標的細胞系(CHO-K1-hCLDN18.2)または対照細胞(CHO-K1)を、2.5×10の密度で播種した。したがって、E:T比は、4:1である。抗体を5倍段階希釈し、100nM~0.032nMの範囲の最終濃度で96ウェルプレートに添加した。37℃で48時間のインキュベーション後、上清をさらなる解析のために収集した。IL2を、TR-FRETアッセイ、続いて製造業者のプロトコールにより測定した。Lanceシグナルを、Envisionを使用して検出した。615nM(チャネル1)および665nM(チャネル2)からの二重放射を得た。Lance計数(標準物質の濃度に対するCh1/Ch2比)をプロットすることにより、標準曲線を生成した。非線形回帰、4パラメーターロジスティック方程式を使用して、データを解析した。
CD3三重特異性抗体により誘導される細胞溶解活性
【0285】
T細胞を活性化するCD3三重特異性抗体の能力を評価するために、損傷した細胞のサイトゾルから放出される乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)活性をCytotoxicity Detection KitPLUS(Roche)により調べた。
【0286】
手短に述べると、ヒトPBMCをウェル当たり細胞4×10個の密度で96ウェルプレートにおいて培養した。クローディン18.2を発現する標的細胞系(CHO-K1-hCLDN18.2)を、2×10の密度で播種した。したがって、E:T比は、10:1である。抗体を5倍段階希釈し、100nM~0.032nMの範囲の最終濃度で96ウェルプレートに添加した。37℃で48時間のインキュベーション後、上清をさらなる解析のために収集した。LDHを調べ、続いて製造業者のプロトコールによって調べた。ELISAリーダーを使用して492nmでの試料の吸光度を測定した。
【0287】
図14Aに示すように、CHO-K1-hCLDN18.2細胞の存在下では被験物質155-8三重特異性抗体は、他のベンチマークCD3配列を使用することによる三重特異性抗体と同等の細胞溶解活性を示したが、CHO-K1細胞の存在下では、155-8三重特異性抗体は、他の対照よりも有意に小さい、わずかなオフターゲット細胞溶解活性を誘発した。
【0288】
さらに、IL-2分泌(図14B)については、CHO-K1-hCLDN18.2細胞の存在下で、被験物質155-8三重特異性抗体は、ベンチマーク三重特異性抗体と比較してヒトPBMCからの頑強なIL-2放出を誘導した。その一方で、CHO-K1細胞の存在下では、155-8三重特異性抗体は、ベンチマーク三重特異性抗体とは対照的に、より少ない非特異的IL-2分泌を誘導した。
【0289】
これらの結果は、155-8のCD3活性が、1+1形式の三重特異性抗体においてTAA依存性T細胞活性化を開始させるのに十分なほど正確であったことを示す。
【0290】
(実施例19)
三重特異性抗体によるin vivo腫瘍処置
この実施例は、B16F10-h5T4腫瘍の処置における155-8と抗5T4(ナプツモマブ、Active Biotech)と抗4-1BBエレメントとを利用する三重特異性抗体の有効性を試験した。
【0291】
B16F10は、肺黒色腫小結節に由来するマウス黒色腫細胞系である。B16F10-h5T4細胞をCD3/4-1BBヒト化マウスに注射した。処置は、腫瘍サイズが100mmに達したときに開始した。
【0292】
155-8に基づく三重特異性抗体(CTM01-01)に加えて、対照処置は、CTM01-01の2つの変異体を含んだ。変異体の一方、CTM01-01Aは、抗4-1BB抗体に不活性化変異を含むものであり、他方、CTM01-01Bは、抗CD3抗体に不活性化変異を含むものであった。
【0293】
B16F10腫瘍は、最も処置困難な腫瘍の1つと広く見なされている、周知のPD-1非応答および抵抗性モデルである。結果を図15に示す。マウス抗PD-1治療は、このモデルでは有効性がなかった。CTM01-01(CD3と4-1BBとTAAとしてのヒト5T4とを標的とする野生型三重特異性抗体)での処置は、劇的に腫瘍を低減させる結果となった。対照的に、抗CD3部分を不活性化したCTM01-01Bでの処置には有意な効果がなく、抗4-1BB部分を不活性化したCTM01-01Aでの処置には最適とは言えない有効性しかなかった。したがって、これらの結果は、抗CD3/4-1BB/h5T4三重特異性抗体の並外れたin vivo有効性を実証する。
* * *
【0294】
本開示は、記載した特定の実施形態によって範囲が限定されることはなく、これらの実施形態は、本開示の個々の態様の単一の実例として意図したものであり、機能的に等価であるあらゆる組成物または方法が本開示の範囲内である。本開示の主旨および範囲を逸脱することなく、本開示の方法および組成物に様々な改変および変形を加えることができることは、当業者には明らかであろう。したがって、本開示は、本開示の改変形態および変形形態を、それらが添付の請求項およびそれらの均等物の範囲内に入ることを条件に、包含する。
【0295】
本明細書で言及した全ての公表文献および特許出願は、個々の公表文献または特許出願各々が参照により組み込まれると具体的かつ個別に示された場合と同程度に、参照により本明細書に組み込まれる。
図1
図2
図3
図4-1】
図4-2】
図5-1】
図5-2】
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
【配列表】
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【国際調査報告】