(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-10
(54)【発明の名称】廃プラスチックの熱分解方法
(51)【国際特許分類】
C10G 1/10 20060101AFI20241003BHJP
C10G 19/073 20060101ALI20241003BHJP
C10G 11/00 20060101ALI20241003BHJP
C08J 11/12 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C10G1/10 ZAB
C10G19/073
C10G11/00
C08J11/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024522088
(86)(22)【出願日】2022-10-20
(85)【翻訳文提出日】2024-04-11
(86)【国際出願番号】 KR2022016038
(87)【国際公開番号】W WO2023068842
(87)【国際公開日】2023-04-27
(31)【優先権主張番号】10-2021-0140266
(32)【優先日】2021-10-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】308007044
【氏名又は名称】エスケー イノベーション カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SK INNOVATION CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】26, Jong-ro, Jongno-gu, Seoul 110-728 Republic of Korea
(71)【出願人】
【識別番号】515215276
【氏名又は名称】エスケー ジオ セントリック カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】ジョ サンファン
(72)【発明者】
【氏名】ジュン ジェフム
(72)【発明者】
【氏名】カン スキル
【テーマコード(参考)】
4F401
4H129
【Fターム(参考)】
4F401AA08
4F401AA09
4F401AA11
4F401AA13
4F401AA22
4F401AB10
4F401BA02
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4F401CA70
4F401DA05
4F401EA11
4F401FA01Z
4F401FA07Z
4F401FA20Z
4H129AA03
4H129BA04
4H129BB03
4H129CA22
4H129DA04
4H129DA05
4H129HA07
4H129HB02
4H129NA01
4H129NA22
4H129NA23
4H129NA43
4H129NA46
(57)【要約】
本発明は、廃プラスチックを熱分解反応器に投入して熱分解ガスを製造する熱分解工程と、前記熱分解ガスを中和剤が充填された高温フィルタ(hot filter)に投入して熱分解油を製造する軽質化工程と、を含み、前記熱分解油は、総重量に対して沸点150℃以下のナフサと沸点150~265℃のKeroを50重量%以上および塩素を100ppm未満含む、廃プラスチック熱分解油の製造方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃プラスチックを熱分解反応器に投入して熱分解ガスを製造する熱分解工程と、
前記熱分解ガスを中和剤が充填された高温フィルタ(hot filter)に投入して熱分解油を製造する軽質化工程と、
を含み、
前記熱分解油は、総重量に対して沸点150℃以下のナフサと沸点150~265℃のKeroを50重量%以上および塩素を100ppm未満含む、廃プラスチック熱分解油の製造方法。
【請求項2】
前記熱分解工程は、非酸化性雰囲気下で400~550℃の温度で行われる、請求項1に記載の廃プラスチック熱分解油の製造方法。
【請求項3】
前記廃プラスチックは、総重量に対して100~1,000ppmの塩素を含む、請求項1に記載の廃プラスチック熱分解油の製造方法。
【請求項4】
前記軽質化工程は、無酸素雰囲気下で400~550℃の温度および常圧~0.5barの圧力で行われる、請求項1に記載の廃プラスチック熱分解油の製造方法。
【請求項5】
前記中和剤は、酸化カルシウム、廃FCC触媒、または銅化合物から選択された少なくとも1つ以上を含む、請求項1に記載の廃プラスチック熱分解油の製造方法。
【請求項6】
前記高温フィルタは、L/D比(長さ/内径比)が5~20である、請求項1に記載の廃プラスチック熱分解油の製造方法。
【請求項7】
前記高温フィルタは、D/D
50比(高温フィルタの内径/中和剤の平均粒子サイズ)が10~200である、請求項1に記載の廃プラスチック熱分解油の製造方法。
【請求項8】
前記中和剤は、高温フィルタに10~50vol%で含まれる、請求項1に記載の廃プラスチック熱分解油の製造方法。
【請求項9】
前記高温フィルタは、内部温度センサを含む、請求項1に記載の廃プラスチック熱分解油の製造方法。
【請求項10】
前記軽質化工程は、下記式1および式2を満たす、請求項1に記載の廃プラスチック熱分解油の製造方法。
[式1]
50<(A
2-A
1)/A
1(%)<100
[式2]
-100<(B
2-B
1)/B
1(%)<-50
前記式1中、A
1は、前記熱分解ガスの沸点150℃以下のナフサと沸点150~265℃のKeroの総量(重量%)であり、前記A
2は、前記熱分解油の沸点150℃以下のナフサと沸点150~265℃のKeroの総量(重量%)であり、
前記式2中、B
1は、前記熱分解ガスの塩素含量(ppm)であり、前記B
2は、前記熱分解油の塩素含量(ppm)である。
【請求項11】
前記熱分解工程および軽質化工程は、下記式3を満たす、請求項1に記載の廃プラスチック熱分解油の製造方法。
[式3]
0.7<T
2/T
1<1.3
前記式3中、T
1およびT
2は、それぞれ熱分解工程および軽質化工程が行われる温度である。
【請求項12】
前記熱分解ガスは、総重量に対して沸点150℃以下のナフサ5~35重量%、沸点150~265℃のKero 10~60重量%、沸点265~380℃のLGO 20~40重量%、および沸点380℃以上のUCO-2/AR 5~40重量%を含む、請求項1に記載の廃プラスチック熱分解油の製造方法。
【請求項13】
前記熱分解油は、総重量に対して沸点150℃以下のナフサ30~50重量%、沸点150~265℃のKero 30~50重量%、沸点265~380℃のLGO 10~30重量%、および沸点380℃以上のUCO-2/AR 0~10重量%を含む、請求項1に記載の廃プラスチック熱分解油の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃プラスチックの熱分解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
廃プラスチック熱分解油などの廃棄物のクラッキング(Cracking)、熱分解(Pyrolysis)反応により生成されたオイル(廃油)中には廃棄物に起因する多量の不純物が含まれているため、それを燃料として活用する場合、SOx、NOxなどの大気汚染物質を排出する恐れがあり、特にCl成分は、高温処理過程で装置の腐食を引き起こす恐れがあるHClに転化されて排出されるという問題がある。
【0003】
従来、精製(Refinery)技術を活用した水素化処理(Hydrotreating:HDT)工程、Cl処理などの後処理工程によりClを除去していたが、廃プラスチック熱分解油などの廃油が高含量のClを含むため、HDT工程で形成される過剰のHClの発生により装置の腐食や反応異常、製品の性状悪化の問題が報告されており、前処理していない廃油をHDT工程に導入することは難しい。従来の精製(Refinery)工程を活用してClオイルを除去するためには、精製(Refinery)工程に導入可能なレベルにCl含量を低減する廃油のCl低減処理技術が必要である。
また、不純物の除去の他に、収率の向上、軽質化、色/臭気の除去などを含む廃プラスチック熱分解油の高付加価値化に関する技術開発が求められる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
多量の不純物を含む廃プラスチック熱分解油を後処理工程を行うことなく軽質化および不純物を低減して高付加価値の熱分解油を提供することができ、熱分解油製造工程の工程簡素化を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一実施形態は、廃プラスチックを熱分解反応器に投入して熱分解ガスを製造する熱分解工程と、前記熱分解ガスを中和剤が充填された高温フィルタ(hot filter)に投入して熱分解油を製造する軽質化工程と、を含み、前記熱分解油は、総重量に対して沸点150℃以下のナフサと沸点150~265℃のKeroを50重量%以上および塩素を100ppm未満含む、廃プラスチック熱分解油の製造方法を提供する。
【0006】
前記熱分解工程は、非酸化性雰囲気下で400~550℃の温度で行われてもよい。
前記廃プラスチックは、総重量に対して100~1,000ppmの塩素を含んでもよい。
【0007】
前記軽質化工程は、無酸素雰囲気下で400~550℃の温度および常圧~0.5barの圧力で行われてもよい。
前記中和剤は、酸化カルシウム、廃FCC触媒、または銅化合物から選択された少なくとも1つ以上を含んでもよい。
【0008】
前記高温フィルタは、L/D比(長さ/内径比)が5~20であってもよい。
前記高温フィルタは、D/D50比(高温フィルタの内径/中和剤の平均粒子サイズ)が10~200であってもよい。
【0009】
前記中和剤は、高温フィルタに10~50vol%で含まれてもよい。
前記高温フィルタは、内部温度センサを含んでもよい。
前記軽質化工程は、下記式1および式2を満たしてもよい。
【0010】
[式1]
50<(A2-A1)/A1(%)<100
[式2]
-100<(B2-B1)/B1(%)<-50
【0011】
前記式1中、A1は、前記熱分解ガスの沸点150℃以下のナフサと沸点150~265℃のKeroの総量(重量%)であり、前記A2は、前記熱分解油の沸点150℃以下のナフサと沸点150~265℃のKeroの総量(重量%)であり、
前記式2中、B1は、前記熱分解ガスの塩素含量(ppm)であり、前記B2は、前記熱分解油の塩素含量(ppm)である。
前記熱分解工程および軽質化工程は、下記式3を満たしてもよい。
【0012】
[式3]
0.7<T2/T1<1.3
【0013】
前記式3中、T1およびT2は、それぞれ熱分解工程および軽質化工程が行われる温度である。
【0014】
前記熱分解ガスは、総重量に対して沸点150℃以下のナフサ5~35重量%、沸点150~265℃のKero 10~60重量%、沸点265~380℃のLGO 20~40重量%、および沸点380℃以上のUCO-2/AR 5~40重量%を含んでもよい。
【0015】
前記熱分解油は、総重量に対して沸点150℃以下のナフサ30~50重量%、沸点150~265℃のKero 30~50重量%、沸点265~380℃のLGO 10~30重量%、および沸点380℃以上のUCO-2/AR 0~10重量%を含んでもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、廃プラスチック原料物質を熱分解した後、別の後処理工程を行うことなく非常に高いレベルに熱分解油を軽質化可能であるとともに、精製(Refinery)工程に適用可能なレベルに低い不純物含量を有する熱分解油を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
特に定義しない限り、本明細書で用いられる全ての用語(技術的および科学的用語を含む)は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者に共通に理解できる意味として用いられてもよい。明細書の全体にわたって、ある部分がある構成要素を「含む」とする際、これは、特に反対の記載がない限り、他の構成要素を除くのではなく、他の構成要素をさらに含んでもよいことを意味する。また、単数形は、文言で特に言及しない限り、複数形も含む。
【0018】
本明細書において、「A~B」とは、特に定義しない限り、「A以上B以下」を意味する。
また、「Aおよび/またはB」とは、特に定義しない限り、AおよびBからなる群から選択される少なくとも1つを意味する。
本明細書において、特に言及なしに用いられる沸点は、1気圧を基準としたものであり、沸点またはbpなどの表現を含む。
【0019】
本発明の一実施形態は、廃プラスチック熱分解油の製造方法を提供する。前記方法は、廃プラスチックを熱分解反応器に投入して熱分解ガスを製造する熱分解工程と、前記熱分解ガスを中和剤が充填された高温フィルタ(hot filter)に投入して熱分解油を製造する軽質化工程と、を含み、前記熱分解油は、総重量に対して沸点150℃以下のナフサと沸点150~265℃のKeroを50重量%以上含み、塩素を100ppm未満含むことを特徴とする。これにより、本発明は、廃プラスチック原料物質を熱分解した後、別の後処理工程を行うことなく非常に高いレベルに熱分解油を軽質化可能であるとともに塩素除去が可能である。好ましくは、上記で製造された熱分解油は、総重量に対して沸点150℃以下のナフサと沸点150~265℃のKeroを60重量%以上含んでもよく、より好ましくは70重量%以上含んでもよく、好ましくは、塩素を60ppm未満含んでもよく、より好ましくは50ppm未満含んでもよい。
【0020】
前記熱分解工程は、廃プラスチックを熱分解反応器に投入し加熱して熱分解ガスを製造する工程である。前記熱分解工程は、非酸化性雰囲気下で400~550℃の温度で行われてもよく、具体的に、前記非酸化性雰囲気は、廃プラスチックが酸化(燃焼)しない雰囲気であり、例えば、酸素濃度が1体積%以下に調整された雰囲気、窒素、水蒸気、二酸化炭素、およびアルゴンなどの不活性ガス雰囲気であってもよい。前記熱分解温度が400℃以上である場合には、塩素含有プラスチックの融着を防止することができ、熱分解温度が550℃以下である場合には、廃プラスチック中の一部の塩素が熱分解チャー(char)に残留することができるので好ましい。
【0021】
前記熱分解工程は、熱分解ガス相、オイルおよびワックスを含む熱分解液相、および熱分解チャーを含む熱分解固相を生成することができる。前記熱分解工程は、上記範囲で熱分解を行うことで、熱分解ガス相と熱分解液相をガスとして回収することができる。
【0022】
前記廃プラスチックは、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ塩化ビニル(PVC)、およびポリスチレン(PS)からなる群から選択された少なくとも1つを含んでもよい。前記廃プラスチックは、有機塩素(organic Cl)および無機塩素(Inorganic Cl)を含んでもよい。廃プラスチック熱分解油などの廃プラスチックのクラッキング(Cracking)、熱分解(Pyrolysis)反応により生成された廃油中には、廃プラスチックに起因する多量の不純物が含まれる。そこで、廃油の活用時、大気汚染物質を排出する恐れがあり、特に有機塩素および無機塩素成分などは、高温処理過程でHClに転化されて排出されるという問題があるため、廃油を前処理して前記塩素成分の不純物を除去する必要がある。
【0023】
本発明の前記廃プラスチックは、総重量に対して100~1,000ppmの塩素を含んでもよい。
一般的に、廃プラスチックは、生活系廃プラスチック廃棄物と産業系廃プラスチック廃棄物に区分することができる。生活系廃プラスチック廃棄物は、PE、PP以外のPVC、PS、PET、PBTなどが混合されたプラスチックであり、本発明ではPE、PPとともにPVCを3重量%以上含む混合廃プラスチック廃棄物を意味し得、廃プラスチックの塩素含量は、例えば、5,000ppm以上、5,000~15,000ppmであって、塩素含量が相対的に高いという特徴がある。産業系廃プラスチック廃棄物は、PE/PPが大半を占め、塩素含量は、100~1,000ppm、500~1,000ppm、または700~1,000ppmであって、生活系廃プラスチックに比べて塩素含量が低いが、接着剤または染料成分に起因する有機Cl含量が高く、特に芳香環(aromatic ring)に含有された塩素の割合が高いという特徴がある。
【0024】
特に、生活系廃プラスチック中のPVCに起因する塩素は、HClとして除去(Hydrogen chloride elimination)されるのに対し、産業系廃プラスチック中の大半を占めるPEおよびPPの塩素は、接着剤または染料成分に起因するものであって、ほとんどが鎖末端に形成する有機塩素に比べて芳香族環に起因する有機塩素の割合が高く、これは一般的な熱分解や中和剤では除去が難しいという特徴がある。
【0025】
前記熱分解工程により製造された熱分解ガスは、総重量に対して沸点150℃以下のナフサ5~35重量%、沸点150~265℃のKero 10~60重量%、沸点265~380℃のLGO 20~40重量%、および沸点380℃以上のUCO-2/AR 5~40重量%を含んでもよく、具体的に、沸点150℃以下のナフサ5~30重量%、沸点150~265℃のKero 15~50重量%、沸点265~380℃のLGO 20~35重量%、および沸点380℃以上のUCO-2/AR 10~40重量%、または沸点150℃以下のナフサ5~20重量%、沸点150~265℃のKero 15~35重量%、沸点265~380℃のLGO 25~35重量%、および沸点380℃以上のUCO-2/AR 15~40重量%を含んでもよい。また、前記熱分解ガスは、重質留分(LGOとUCO-2/ARの合計)に対する軽質留分(ナフサとKeroの合計)の重量比が0.1~3、0.1~2.0、または0.2~1.0であってもよい。前述した留分組成の範囲を有する熱分解ガスをその後の本発明の高温フィルタに投入する場合、目的とする熱分解油の軽質化および不純物の除去効果を向上させることができる。具体的に、高温フィルタでは、一次的に高温で熱分解反応が起こり、追加の塩素解離と留分の軽質化が同時に行われ、二次的に解離した塩素は、中和剤(CaO)と接触して塩(salt)の形態で固定される。特に、PVCが含まれた生活系廃プラスチックに由来する熱分解油でHCl発生量が多く、前記HCl解離塩素は、炭化水素と再結合(recombination)せず、高温フィルタ内の中和剤(CaO)に固定される割合が高いと分析される。したがって、本発明の熱分解油の製造方法は、生活系廃プラスチック原料物質を用いる場合、塩素除去効率がより良くなる。しかし、産業系廃プラスチックの場合、生活系廃プラスチックに比べて原料物質中の塩素含量自体が低いため、塩素除去効率がやや低くなり得るが、廃プラスチックの組成の違いにより、軽質化効果が著しく改善されることができる。
【0026】
前記熱分解反応器は、オートクレーブ反応器(Autoclave reactor)、バッチ反応器(batch stirred reactor)、流動層反応器(Fluidised-bed reactor)、および固定層反応器(Packed-bed reactor)などで行われてもよく、具体的に、撹拌と昇温の制御が可能な全ての反応器に適用してもよく、本発明は、バッチ反応器(Batch reactor)で行われてもよい。
【0027】
一方、前述したように、前記熱分解工程は、熱分解ガス相、オイルおよびワックスを含む熱分解液相、および熱分解チャーを含む熱分解固相を生成することができる。前記熱分解工程は、上記温度範囲で熱分解を行うことで、熱分解ガス相と熱分解液相をガスとして回収することができる。
【0028】
前記熱分解工程は、熱分解固相(固形分)を微粒物と粗粒物に分離する分離工程をさらに含んでもよい。前記分離工程では、熱分解工程で生成された固相のうち、固形分、例えば、炭化物と中和剤および/または銅化合物を微粒物と粗粒物に分離する。具体的に、塩素含有プラスチックの平均粒子直径よりも小さく、また、中和剤および銅化合物の平均粒子直径よりも大きい篩を用いて分級することで、熱分解反応により生成された固形分を微粒物と粗粒物に分離することができる。前記分離工程では、固形分を、塩素含有中和剤および銅化合物を相対的に多く含む微粒物と、炭化物を相対的に多く含む粗粒物に分離することが好ましい。前記微粒物と炭化物は、必要に応じて再処理されてもよく、熱分解工程で再使用、燃料として使用、または廃棄されてもよく、本発明はこれに限定されない。
【0029】
前記熱分解工程は、生成された気相のうち、メタン(CH4)、エタン(C2H6)、プロパン(C3H8)のような低沸点炭化水素化合物を含む熱分解ガスを別途回収してもよい。前記熱分解ガスは、一般的に、水素、一酸化炭素、低分子量の炭化水素化合物などの可燃性物質を含む。炭化水素化合物の例としては、メタン、エタン、エチレン、プロパン、プロペン、ブタン、ブテンなどが挙げられる。このような熱分解ガスは、可燃性物質を含むため、燃料として用いることができる。
【0030】
次に、前記軽質化工程では、製造された熱分解ガスを中和剤が充填された高温フィルタ(hot filter)に投入して熱分解油を製造する。
前記軽質化工程は、無酸素雰囲気下で400~550℃の温度および常圧~0.5barの圧力で行われてもよく、前記無酸素雰囲気は、不活性ガス雰囲気または酸素のない閉鎖系の雰囲気であってもよい。前述した軽質化工程(高温フィルタ)の温度範囲である場合、熱分解ガスの軽質化が十分に行われ、ワックスによる閉塞現象および差圧発生を改善することができるので好ましい。
【0031】
前記軽質化工程は、GHSV(gas Volumetric flow rate)が0.3~1.2/hrまたは0.5~0.8/hrであってもよい。これにより、後処理工程を行うことなく廃プラスチック熱分解物の軽質化および不純物(Clなど)を低減することができ、熱分解ガスの滞留時間(GHSV)を調節することで、本発明が目的とする軽質留分を製造することができる。
【0032】
前記中和剤は、金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩、またはこれらの組み合わせであってもよく、前記金属は、カルシウム、アルミニウム、マグネシウム、亜鉛、鉄、銅、またはこれらの組み合わせであってもよい。具体的に、前記中和剤は、アルミニウム酸化物、カルシウム酸化物、マグネシウム酸化物、亜鉛酸化物、鉄酸化物、および/または銅酸化物であってもよい。また、前記中和剤は、廃FCC触媒(E-cat)などのゼオライト成分であってもよく、前記金属酸化物に廃FCC触媒をさらに含むものであってもよい。前記中和剤は、好ましくは、カルシウム酸化物、廃FCC触媒、銅金属、または銅酸化物であってもよく、またはカルシウム酸化物であってもよい。
【0033】
当該技術分野では、高温フィルタが熱分解物中のガス(pyrolysis gas)とチャー(char)を分離する役割をするのが一般的であるが、本発明では、軽質化と同時に不純物(Cl)を除去するために中和剤が充填された高温フィルタを適用した。そこで、前述したように、高温フィルタの温度などの運転条件および中和剤の平均粒子サイズを特定の範囲に調節した。特に、後述するように、従来の原油などの石油系オイルとは異なる廃プラスチック熱分解油固有の物性を考慮し、L/D比(長さ/内径比)、D/D50比(高温フィルタの内径/中和剤の平均粒子サイズ比)が特定の範囲を満たす高温フィルタを用いることで、軽質化効率および不純物の除去効率を著しく上昇させることができる。
【0034】
前記高温フィルタとしては、小型タンク反応器、チューブ(Tubing)タイプ、または従来公知のタイプの様々な高温フィルタを用いることができる。廃プラスチックから生成された熱分解ガスの軽質化効率向上の面で、チューブ(Tubing)タイプの高温フィルタが好ましいが、必ずしもこれに限定されるものではない。
【0035】
前記高温フィルタがチューブ(Tubing)タイプの高温フィルタである場合、前記中和剤は、チューブ(Tubing)内に充填されてもよい。前記チューブ(Tubing)の材質は、Cr、Mo、W、およびFeを含む耐食性合金であってもよく、例えば、ハステロイ(Hastelloy)系合金であってもよい。炭素鋼やステンレス鋼を用いる場合、熱分解過程で出るCl、Fなどの酸性ガスおよび酸性雰囲気による腐食でSHE(safety、health and environment)問題が発生し得る。ハステロイ(Hastelloy)系合金を用いて、前記SHE(safety、health and environment)問題を防止することができる。
【0036】
前記高温フィルタは、L/D比(長さ/内径比)が30を超えない、具体的には5~20であってもよい。L/D比が上記範囲を満たす場合、軽質化効率および不純物の除去効率が向上することができ、従来の商用工程は、30以上のL/D比を有し、工程効率が低下するのに対し、前記高温フィルタは、5~20の範囲のL/D比を有するため、高温フィルタの保温および熱伝達の面で最適化され、軽質化効率および不純物の除去効率が著しく向上することができる。前記L/D比は、好ましくは5~15であってもよく、より好ましくは7~13であってもよい。
【0037】
一方、中和剤の平均粒子サイズは、D50を意味し、前記D50は、レーザ散乱法による粒度分布測定において、小さい粒径から累積体積が50%になったときの粒子直径を意味する。ここで、D50は、製造された炭素質材料に対して、KS A ISO 13320-1規格に準じて試料を採取し、Malvern社製のMastersizer3000を用いて粒度分布を測定することができる。具体的に、エタノールを溶媒とし、必要に応じて超音波分散機を用いて分散させた後に体積密度を測定することができる。
【0038】
前記高温フィルタは、D/D50比(高温フィルタの内径/中和剤の平均粒子サイズ比)が10~200であってもよい。前記熱分解ガスが前記D/D50比を満たす高温フィルタを通過する場合、流量の流れに影響を与えるウォール効果(wall effect)の最小化および透過効率が最適化されることで工程効率が向上することができ、これにより、軽質化効率および不純物の除去効率が著しく向上することができる。前記D/D50比は、好ましくは20~160であってもよく、より好ましくは30~120であってもよい。
【0039】
具体的に、前記中和剤の平均粒子サイズは400~900μmであってもよい。本発明の軽質化工程の運転条件では、高温フィルタに前記平均粒子サイズを有する中和剤を充填することで熱分解ガスの滞留時間(GHSV)を調節して留分の軽質化を達成するとともに、工程の運転過程で発生するプラギング(Plugging)現象を最小化することで高温フィルタの差圧発生を抑制して工程の運転効率を改善することができる。具体的に、前記中和剤の平均粒子サイズは500~800μmであってもよく、より具体的には500~700μmであってもよい。
【0040】
前記中和剤は、高温フィルタに10~50vol%で含まれてもよい。前記高温フィルタに含まれる中和剤の含量は、高温フィルタのVolumeおよびFeedに応じて異なり得、上記範囲で含まれることで数十回の連続工程が可能であるため、工程効率を最大化することができる。具体的に、中和剤は10~40vol%で含まれてもよい。この場合、中和剤を除いた残りの成分は、無機ビーズであってもよく、例えば、ガラス玉(Glass bead)であってもよい。
【0041】
前記高温フィルタの仕様を具体的に見ると、内径が1~8cmであり、外径が2~10cmであり、厚さが0.1~1cmであってもよい。上記範囲を満たすことで、軽質化効率および不純物の除去効率が向上することができる。具体的に、内径が2~8cmであり、外径が4~8cmであり、厚さが0.2~0.8cmであってもよく、より具体的に、内径が2~6cmであり、外径が4~6cmであり、厚さが0.2~0.6cmであってもよい。
【0042】
前記高温フィルタは、断面積が10~30cm2であってもよい。前記高温フィルタの断面積は、具体的には10~25cm2であってもよく、より具体的には15~25cm2であってもよい。
【0043】
前記高温フィルタは、内部温度センサを含んでもよい。内部温度センサは、高温フィルタの内壁または外壁に位置してもよく、軽質化工程の温度をリアルタイムで測定し、軽質化反応を調節して軽質化効率を向上させることができる。
【0044】
前記高温フィルタは、前記熱分解反応器に連結され、熱分解反応器から製造された熱分解ガスが流入することができる。この場合、前記高温フィルタをBench触媒塔の形態で用いることができ、loading/uplodingが可能なように設計して高温フィルタの寿命を向上させることができる。
【0045】
前記高温フィルタの体積/廃プラスチック原料比(Vol/Feed ratio)は、0.05を超え、0.1~0.8であってもよい。従来の商用工程が0.05未満のVol/Feedを有することに比べて高いVol/Feedを有するため、上記範囲である場合、軽質化効率および不純物の除去効率が向上することができ、高温フィルタの寿命も向上することができる。具体的に、前記Vol/Feed ratioは0.1~0.6であってもよく、より具体的に、前記Vol/Feed ratioは0.3~0.5であってもよい。
前記軽質化工程は、下記式1および式2を満たしてもよい。
【0046】
[式1]
50<(A2-A1)/A1(%)<100
[式2]
-100<(B2-B1)/B1(%)<-50
【0047】
前記式1中、A1は、前記熱分解ガスの沸点150℃以下のナフサと沸点150~265℃のKeroの総量(重量%)であり、前記A2は、前記熱分解油の沸点150℃以下のナフサと沸点150~265℃のKeroの総量(重量%)であり、前記式2中、B1は、前記熱分解ガスの塩素含量(ppm)であり、前記B2は、前記熱分解油の塩素含量(ppm)である。
【0048】
前記式1および式2は、具体的に、60<(A2-A1)/A1(%)<90、65<(A2-A1)/A1(%)<85、または70<(A2-A1)/A1(%)<80であってもよく、-75<(B2-B1)/B1(%)<-55、-70<(B2-B1)/B1(%)<-55、または-65<(B2-B1)/B1(%)<-55であってもよい。
【0049】
前記式1および式2は、本発明の中和剤が充填された高温フィルタを用いることによる廃プラスチック熱分解物の軽質化および重質化の程度を数値で示したものである。本発明では、高温フィルタに投入される熱分解ガスの留分組成と塩素含量および前記塩素を含む有/無機物質を調節することで、熱分解油の軽質化の程度を非常に高いレベルに向上させることに技術的特徴がある。
【0050】
前記軽質化工程により製造された熱分解油は、総重量に対して沸点150℃以下のナフサ30~50重量%、沸点150~265℃のKero 30~50重量%、沸点265~380℃のLGO 10~30重量%、および沸点380℃以上のUCO-2/AR 0~10重量%を含んでもよく、具体的に、沸点150℃以下のナフサ35~50重量%、沸点150~265℃のKero 35~50重量%、沸点265~380℃のLGO 10~30重量%、および沸点380℃以上のUCO-2/AR 0~8重量%、または沸点150℃以下のナフサ35~45重量%、沸点150~265℃のKero 35~45重量%、沸点265~380℃のLGO 10~20重量%、および沸点380℃以上のUCO-2/AR 0~6重量%を含んでもよい。また、前記熱分解ガスは、重質留分(LGOとUCO-2/ARの合計)に対する軽質留分(ナフサとKeroの合計)の重量比が2.5~5、2.5~4、または3~3.8であってもよい。
【0051】
本発明の一実施形態に係る廃プラスチック熱分解油の製造方法において、前記熱分解工程と軽質化および塩素固定化工程は、下記式1を満たしてもよい。
【0052】
[式3]
0.7<T2/T1<1.3
【0053】
前記式3中、T1およびT2は、それぞれ熱分解工程および軽質化(および塩素固定化)工程が行われる温度である。
【0054】
前記T2/T1値が0.7以下を満たすように熱分解工程および軽質化工程を行う場合、相対的に熱分解工程の温度が高いか、または軽質化(および塩素固定化)工程の温度が低くなり得る。この場合、高温フィルタで凝縮されて熱分解反応器に循環される割合が高くなり、熱分解油の最終沸点が過度に低くなり得る。これに対し、前記T2/T1値が1.3以上を満たすように前記工程を行う場合、ガス相で失われる割合が過度に高くなり、熱分解油の収率が低くなり得る。前記T2/T1値が0.7~1.3の範囲を満たす場合、軽質化の程度を著しく向上させることができる。具体的に、前記T2/T1は0.7~1.2、0.8~1.2、0.8~1.1、0.9~1.1、または一例として1であってもよい。
【0055】
本発明の一実施形態に係る廃プラスチック熱分解油の製造方法において、前記熱分解工程の前に、廃プラスチックの前処理ステップをさらに含んでもよく、また、前記前処理ステップは、廃プラスチックをスクリュー反応器に投入して常温で粉砕する工程をさらに含んでもよいが、本発明はこれに限定されない。
【0056】
以下、本発明の好ましい実施例および比較例を記載する。ただし、下記の実施例は本発明の好ましい一実施例にすぎず、本発明が下記の実施例に限定されるものではない。
【0057】
実施例
(実施例1)
産業系廃ビニル3Kgをバッチ(Batch)熱分解反応器に投入し、500℃で熱分解を行った。用いられた産業系廃ビニルは、免税店から出た廃ビニルとしてPE/PPが大半であり、総Cl含量が853ppmであった。
【0058】
前記熱分解により生成された熱分解ガスをCaOフィルタを含むBench触媒塔に流入させた後、凝縮器(condenser)を経て、回収部を介して液相熱分解油として回収した。この際、CaOフィルタとしては、ハステロイ(Hastelloy)HC-276材質からなる、内径5.4cm、長さ53cmのCaOフィルタを用いた。前後端の差圧を考慮し、500μmの平均粒子サイズ(D50)を有するCaOを40g充填し、熱分解反応温度と同様に500℃に維持した。
【0059】
(実施例2)
実施例1において、ハステロイ(Hastelloy)HC-276材質からなる、内径5.4cm、長さ200cmのCaOフィルタを用いたことを除いては、実施例1と同様に行って熱分解油を得た。
【0060】
(実施例3)
実施例1において、平均粒子サイズが8000μmの中和剤で充填されたCaOフィルタを用いたことを除いては、実施例1と同様に行って熱分解油を得た。
【0061】
(実施例4)
実施例1において、熱分解反応器の温度を400℃にして熱分解を行い、熱分解ガスのCaOフィルタ通過時の温度を600℃にして反応を行ったことを除いては、実施例1と同様の条件で反応を行った。
【0062】
(実施例5)
実施例1において、熱分解反応器の温度を600℃にして熱分解を行い、熱分解ガスのCaOフィルタ通過時の温度を400℃にして反応を行ったことを除いては、実施例1と同様の条件で反応を行った。
【0063】
(比較例1)
実施例1において、CaOフィルタを用いず、熱分解により生成された熱分解ガスが直ちに凝縮器を経たことを除いては、実施例1と同様に行って熱分解油を得た。
【0064】
評価例:熱分解油の軽質化結果および熱分解油中の不純物の低減結果の解釈
実施例1~5および比較例1で製造された廃プラスチック熱分解油中の沸点分布確認のためにGC-Simdis分析(HT 750)を行い、不純物Cl含量に対する分析のためにICP、TNS、EA-O、XRF分析を行った。
先ず、不純物Cl含量に対する分析結果を下記表1に示した。
【0065】
【0066】
上記表1に示すように、CaOフィルタを適用した実施例1~実施例5の場合、熱分解油中の総塩素含量が100ppm以下に効果的に低減されることを確認することができる。
【0067】
特に、実施例1の場合、熱分解油中の総塩素含量が42ppm以下に低減され、塩素除去効果に著しく優れることを確認できるのに対し、実施例2は、L/D比が本発明の5~20から外れることにより総塩素含量が92ppmに、実施例3は、D/D50比が本発明の10~200から外れることにより総塩素含量が90ppmに低減され、塩素除去効果が実施例1に比べてやや低下することを確認することができる。
【0068】
また、実施例4および実施例5も、T2/T1がそれぞれ本発明の0.7~1.3から外れることにより総塩素含量がそれぞれ97ppmおよび87ppmに低減され、塩素除去効果が実施例1に比べてやや低下することを確認することができる。
【0069】
比較例1の場合、総塩素含量が310ppmであって、CaOフィルタを用いない単純な熱分解工程だけでは、塩素除去効果が著しく低下することを確認することができる。
また、製造された廃プラスチック熱分解油中の沸点分布確認のためにGC-Simdis分析(HT 750)を行って下記表2に示した。
【0070】
【0071】
上記表2に示すように、CaOフィルタを適用した実施例1~実施例5の場合、沸点150℃以下のナフサと沸点150~265℃のKeroの合計重量が50%と軽質化効果に優れることを確認することができる。
【0072】
特に、実施例1の場合、ナフサとKeroの合計重量が77.2%と軽質化効果に著しく優れることを確認できるのに対し、実施例2は、ナフサとKeroの合計重量が54.2%とL/D比が本発明の5~20から外れ、実施例3は、ナフサとKeroの合計重量が53.8%とD/D50比が本発明の10~200から外れることにより、軽質化効果が実施例1に比べてやや低下するが、比較例1に比べて優れることを確認することができる。
【0073】
また、実施例4および実施例5も、ナフサとKeroの合計重量がそれぞれ57.8%および50.9%とT2/T1が本発明の0.7~1.3から外れることにより、軽質化効果が実施例1に比べてやや低下するが、比較例1に比べて優れることを確認することができる。
【0074】
比較例1の場合、ナフサとKeroの合計重量が41.9%であって、CaOフィルタを用いない単純な熱分解工程だけでは、軽質化効果が著しく低下することを確認することができる。
【0075】
以上、本発明の実施例について説明したが、本発明は、上記の実施例に限定されるものではなく、互いに異なる様々な形態で製造されてもよく、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者であれば、本発明の技術的思想や必須の特徴を変更せずに他の具体的な形態で実施可能であることを理解することができる。したがって、以上で記述された実施例は、全ての面で例示的なものであって、限定的なものではないことを理解しなければならない。
【国際調査報告】