(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-10
(54)【発明の名称】初代卵巣癌細胞用の培養培地、初代卵巣癌細胞の培養方法及び用途
(51)【国際特許分類】
C12N 5/09 20100101AFI20241003BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20241003BHJP
C12N 9/99 20060101ALN20241003BHJP
【FI】
C12N5/09
C12Q1/02
C12N9/99
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024522183
(86)(22)【出願日】2021-11-22
(85)【翻訳文提出日】2024-06-11
(86)【国際出願番号】 CN2021131967
(87)【国際公開番号】W WO2023060696
(87)【国際公開日】2023-04-20
(31)【優先権主張番号】202111201798.2
(32)【優先日】2021-10-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522178669
【氏名又は名称】合肥中科普瑞昇生物医▲薬▼科技有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110003845
【氏名又は名称】弁理士法人籾井特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲劉▼ 青松
(72)【発明者】
【氏名】赫 玉影
(72)【発明者】
【氏名】黄 涛
(72)【発明者】
【氏名】▲陳▼ 程
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ61
4B063QQ91
4B063QR77
4B063QS10
4B063QS13
4B063QX01
4B065AA93X
4B065BA30
4B065BB04
4B065BB19
4B065BB25
4B065BB34
4B065BB40
4B065BC03
4B065BC07
4B065BC46
4B065BD15
4B065BD18
4B065BD45
4B065CA46
(57)【要約】
初代卵巣癌細胞用の培養培地、初代卵巣癌細胞のin vitroでの培養方法及び用途。培養培地は、MST1/2キナーゼ阻害剤と、Y27632、ファスジル及びH-1152のうち少なくとも1つから選択されるRhoタンパク質キナーゼ阻害剤と、インスリン-トランスフェリン-亜セレン酸ナトリウムのサプリメントと、インスリンと、プロスタグランジンE2と、上皮成長因子と、ガストリンと、インスリン様成長因子-1と、コレラ毒素と、アンフィレグリンと、N2と、B27とを含有する。既存の培養方法と比較して、上記培養培地を用いたin vitroにおける培養はより高い増幅効率を有する。初代卵巣癌細胞の培養に該培養培地を使用することにより、初代組織の形態構造及び病理学的特徴を維持し、初代卵巣癌細胞の培養成功率及び培養した初代卵巣癌細胞の生存率を改善することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
初代卵巣癌細胞用の培養培地であって、
MST1/2キナーゼ阻害剤と、Y27632、ファスジル及びH-1152からなる群から選択される少なくとも1つのRhoキナーゼ阻害剤と、インスリン-トランスフェリン-亜セレン酸ナトリウムのサプリメントと、インスリンと、プロスタグランジンE2と、上皮成長因子と、ガストリンと、インスリン様成長因子-1と、コレラ毒素と、アンフィレグリンと、N2と、B27とを含むことを特徴とし、
前記MST1/2キナーゼ阻害剤が、式(I):
【化1】
(式中、
R
1は、C1~C6アルキル、C3~C6シクロアルキル、C4~C8シクロアルキルアルキル、C2~C6スピロシクロアルキル、並びに1個~2個の独立したR
6で任意に置換されたアリール、1個~2個の独立したR
6で任意に置換されたアリールC1~C6アルキル、及び1個~2個の独立したR
6で任意に置換されたヘテロアリールから選択され、
R
2及びR
3は、それぞれ独立して、C1~C6アルキルから選択され、
R
4及びR
5は、それぞれ独立して、水素、C1~C6アルキル、C3~C6シクロアルキル、C4~C8シクロアルキルアルキル、ヒドロキシルC1~C6アルキル、C1~C6ハロアルキル、C1~C6アルキルアミノC1~C6アルキル、C1~C6アルコキシC1~C6アルキル、及びC3~C6ヘテロシクリルC1~C6アルキルから選択され、
R
6は、ハロゲン、C1~C6アルキル、C1~C6アルコキシ、及びC1~C6ハロアルキルから選択される)の化合物、又はその薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物を含む、培養培地。
【請求項2】
R
1が、C1~C6アルキル、C3~C6シクロアルキル、C4~C8シクロアルキルアルキル、C2~C6スピロシクロアルキル、並びに1個~2個の独立したR
6で任意に置換されたフェニル、1個~2個の独立したR
6で任意に置換されたナフチル、1個~2個の独立したR
6で任意に置換されたフェニルメチル、及び1個~2個の独立したR
6で任意に置換されたチエニルから選択され、
R
2及びR
3が、それぞれ独立して、C1~C3アルキルから選択され、
R
4及びR
5が、それぞれ独立して、水素、C1~C6アルキル、C3~C6シクロアルキル、C4~C8シクロアルキルアルキル、ヒドロキシルC1~C6アルキル、C1~C6ハロアルキル、C1~C6アルキルアミノC1~C6アルキル、C1~C6アルコキシC1~C6アルキル、ピペリジルC1~C6アルキル、及びテトラヒドロピラニルC1~C6アルキルから選択され、
R
6が、ハロゲン、C1~C6アルキル、C1~C6アルコキシ、及びC1~C6ハロアルキルから選択される、
請求項1に記載の培養培地。
【請求項3】
前記MST1/2キナーゼ阻害剤が、式(Ia):
【化2】
(式中、
R
1は、C1~C6アルキル、1個~2個の独立したR
6で任意に置換されたフェニル、1個~2個の独立したR
6で任意に置換されたチエニル、及び1個~2個の独立したR
6で任意に置換されたフェニルメチルから選択され、
R
5は、水素、C1~C6アルキル、及びC3~C6シクロアルキルから選択され、
R
6は、独立して、ハロゲン、C1~C6アルキル、及びC1~C6ハロアルキルから選択される)の化合物、又はその薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物を含む、請求項1に記載の培養培地。
【請求項4】
R
1が1個~2個の独立したR
6で任意に置換されたフェニルであり、
R
5が水素であり、
R
6が、フルオロ、メチル又はトリフルオロメチルである、請求項3に記載の培養培地。
【請求項5】
前記MST1/2キナーゼ阻害剤が、以下の化合物又はその薬学的に許容可能な塩から選択される少なくとも1つである、請求項1に記載の培養培地:
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【表1-4】
【表1-5】
【請求項6】
前記培養培地中の成分の量が、以下の条件:
(1)前記培養培地中の前記MST1/2キナーゼ阻害剤の量が、2.5μM~20μMである;
(2)前記培養培地中の前記Rhoキナーゼ阻害剤の量が、2.5μM~20μMである;
(3)前記培養培地に対する前記インスリン-トランスフェリン-亜セレン酸ナトリウムのサプリメントの体積比が1:800~1:50である;
(4)前記培養培地中の前記インスリンの量が、1μg/mL~27μg/mLである;
(5)前記培養培地中の前記プロスタグランジンE2の量が、2.5μM~10μMである;
(6)前記培養培地中の前記上皮成長因子の量が、2.5ng/mL~40ng/mLである;
(7)前記培養培地中の前記ガストリンの量が、1nM~9nMである;
(8)前記培養培地中の前記インスリン様成長因子-1の量が、25ng/mL~100ng/mLである;
(9)前記培養培地中の前記コレラ毒素の量が、0.05μg/mL~0.8μg/mLである;
(10)前記培養培地中の前記アンフィレグリンの量が、1ng/mL~81ng/mLである;
(11)前記培養培地に対する前記B27添加剤の体積比が、好ましくは1:25~1:400である;
(12)前記培養培地に対する前記N2添加剤の体積比が、好ましくは1:50~1:400である;
のうちのいずれか1つ以上又は全てを満たすことを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の培養培地。
【請求項7】
DMEM/F12、DMEM、F12又はRPMI-1640からなる群から選択される初期培地と、ストレプトマイシン/ペニシリン、アムホテリシンB及びPrimocinからなる群から選択される1つ以上の抗生物質とを更に含むことを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の培養培地。
【請求項8】
初代卵巣癌細胞を培養する方法であって、
(1)請求項1~7のいずれか一項に記載の初代卵巣癌細胞用の培養培地を調製する工程と、
(2)卵巣癌組織試料から初代卵巣癌細胞を得る工程と、
(3)工程(2)で得られた前記初代卵巣癌細胞に、工程(1)で得られた初代卵巣癌細胞用の前記培養培地を添加し、培養する工程と、
を含むことを特徴とする、方法。
【請求項9】
卵巣癌を治療するための薬物を評価又はスクリーニングする方法であって、
(1)請求項8に記載の初代卵巣癌細胞を培養する方法を用いて、初代卵巣癌細胞を培養する工程と、
(2)被検薬物を選択するとともに、所望の濃度勾配に前記薬物を希釈する工程と、
(3)工程(1)で培養した前記初代卵巣癌細胞に、様々な濃度勾配に希釈した前記薬物を添加する工程と、
(4)細胞生存率を検出する工程と、
を含むことを特徴とする、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物医学技術の分野、特に培養培地及びその用途、より詳細には、初代卵巣癌細胞用の培養培地、並びに初代卵巣癌細胞の培養方法及び用途に関する。
【背景技術】
【0002】
卵巣癌とは、卵巣に発生する悪性腫瘍疾患を指し、女性の生殖器の一般的な悪性腫瘍の1つであり、また子宮頸癌及び子宮体癌に次いで発生率が高い疾患である。上皮性卵巣癌が最も一般的な種類の卵巣癌であり、悪性卵巣胚細胞腫瘍がそれに続く。上皮性卵巣癌は、あらゆる種類の婦人科腫瘍の中で最も死亡率が高く、女性の生命に重大な脅威をもたらすおそれがある。卵巣癌は初期段階では無症状であることが多いが、後期になると下腹部の不快感、膨満感及び食欲低下等の消化器症状が現れることがある。卵巣癌の主な治療選択肢としては、外科的切除、薬物療法及び放射線療法が挙げられ、全般的な予後は不良である。
【0003】
化学療法は、卵巣腫瘍の主な治療法の1つである。現在、臨床使用に利用可能な化学療法薬は数多くあるが、卵巣腫瘍の臨床治療効果はわずか約25%である。その主な理由は、患者が使用する化学療法薬のレジメンの殆どが臨床医の経験に基づいており、患者の個体差を考慮せずに治験評価による投薬変更及び治験再評価が行われており、薬物の治療効果を改善させることができないだけでなく、最良の治療期間を逃すこととなり、腫瘍が進行期に入ってしまうからである。さらに、患者は、治療過程を通じて薬物の副作用及び極めて高額な医療費を負担することになる。
【0004】
それ故、in vitroでの初代腫瘍モデルを確立し、それを使用して、効率的な薬物スクリーニング実験を行うことが、有望な解決策である。現在、初代卵巣腫瘍のin vitro培養モデルを確立する主な方法は、患者腫瘍移植(PDX)モデルであり、これは、患者からの腫瘍細胞をヌードマウスに移植し、種々の抗腫瘍薬物の治療効果を検査することを伴う。しかしながら、PDX方法には、ヒトとマウスとの種の違い、長い試験サイクル(4週間超)、高額な費用(200000超)、偽陽性及び偽陰性等といった幾つかの欠点も存在する。
【発明の概要】
【0005】
上述の技術的課題を解決するために、本発明は、初代卵巣癌細胞用の培養培地、並びにそのin vitroでの培養方法及び用途を提供する。
【0006】
本発明の一態様は、MST1/2キナーゼ阻害剤と、Y27632、ファスジル及びH-1152からなる群から選択される少なくとも1つのRhoキナーゼ阻害剤と、インスリン-トランスフェリン-亜セレン酸ナトリウムのサプリメントと、インスリンと、プロスタグランジンE2と、上皮成長因子(EGF)と、ガストリンと、インスリン様成長因子-1と、コレラ毒素と、アンフィレグリンと、N2と、B27とを含む、初代卵巣癌細胞用の培養培地を提供することである。
【0007】
ここで、MST1/2キナーゼ阻害剤は、式(I):
【化1】
(式中、
R
1は、C1~C6アルキル、C3~C6シクロアルキル、C4~C8シクロアルキルアルキル、C2~C6スピロシクロアルキル、並びに1個~2個の独立したR
6で任意に置換されたアリール(例えば、フェニル及びナフチル等)、1個~2個の独立したR
6で任意に置換されたアリールC1~C6アルキル(例えば、フェニルメチル等)、及び1個~2個の独立したR
6で任意に置換されたヘテロアリール(例えば、チエニル等)から選択され、
R
2及びR
3は、それぞれ独立して、C1~C6アルキル、好ましくはC1~C3アルキル、より好ましくはメチルから選択され、
R
4及びR
5は、それぞれ独立して、水素、C1~C6アルキル、C3~C6シクロアルキル、C4~C8シクロアルキルアルキル、ヒドロキシルC1~C6アルキル、C1~C6ハロアルキル、C1~C6アルキルアミノC1~C6アルキル、C1~C6アルコキシC1~C6アルキル、及びC3~C6ヘテロシクリルC1~C6アルキル(ヘテロシクリルは、例えば、ピペリジル、テトラヒドロピラニル等から選択される)から選択され、
R
6は、ハロゲン(好ましくはフルオロ及びクロロ、より好ましくはフルオロ)、C1~C6アルキル(好ましくはメチル)、C1~C6アルコキシ(好ましくはメトキシ)、及びC1~C6ハロアルキル(好ましくはトリフルオロメチル)から選択される)の化合物、又はその薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物を含む。
【0008】
好ましい実施の形態において、MST1/2キナーゼ阻害剤は式(Ia):
【化2】
(式中、
R
1は、C1~C6アルキル、1個~2個の独立したR
6で任意に置換されたフェニル、1個~2個の独立したR
6で任意に置換されたチエニル、及び1個~2個の独立したR
6で任意に置換されたフェニルメチルから選択され、より好ましくは、R
1は1個~2個の独立したR
6で任意に置換されたフェニルであり、
R
5は、水素、C1~C6アルキル及びC3~C6シクロアルキルから選択され、より好ましくは、R
5は水素であり、
R
6は、ハロゲン、C1~C6アルキル及びC1~C6ハロアルキルから独立して選択され、より好ましくは、R
6は、フルオロ、メチル又はトリフルオロメチルである)の化合物、又はその薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物を含む。
【0009】
好ましくは、MST1/2キナーゼ阻害剤は、以下の化合物又はその薬学的に許容可能な塩、若しくは溶媒和物から選択される少なくとも1つである:
【0010】
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【表1-4】
【表1-5】
【0011】
最も好ましくは、本発明のMST1/2キナーゼ阻害剤は化合物1である。
【0012】
本発明の実施の形態において、本発明の培養培地中の成分の量は、以下の条件:
(1)培養培地中のMST1/2キナーゼ阻害剤の量が、2.5μM~20μMである;
(2)培養培地中のRhoキナーゼ阻害剤の量が、2.5μM~20μMである;
(3)培養培地に対するインスリン-トランスフェリン-亜セレン酸ナトリウムのサプリメントの体積比が1:800~1:50である;
(4)培養培地中のインスリンの量が、1μg/mL~27μg/mLである;
(5)培養培地中のプロスタグランジンE2の量が、2.5μM~10μMである;
(6)培養培地中の上皮成長因子の量が、2.5ng/mL~40ng/mLである;
(7)培養培地中のガストリンの量が、1nM~9nMである;
(8)培養培地中のインスリン様成長因子-1の量が、25ng/mL~100ng/mLである;
(9)培養培地中のコレラ毒素の量が、0.05μg/mL~0.8μg/mLである;
(10)培養培地中のアンフィレグリンの量が、1ng/mL~81ng/mLである;
(11)培養培地に対するB27添加剤の体積比が、好ましくは1:25~1:400である;
(12)培養培地に対するN2添加剤の体積比が、好ましくは1:50~1:400である;
のうちのいずれか1つ以上又は全てを満たす。
【0013】
本発明の実施の形態において、培養培地は、DMEM/F12、DMEM、F12又はRPMI-1640からなる群から選択される初期培地と、ストレプトマイシン/ペニシリン、アムホテリシンB及びPrimocinからなる群から選択される1つ以上の抗生物質とを更に含む。
【0014】
好ましい実施の形態において、抗生物質としてストレプトマイシン/ペニシリンを使用する場合、ストレプトマイシンの濃度範囲は、25μg/mL~400μg/mLであり、ペニシリンの濃度範囲は、25U/mL~400U/mLであり、抗生物質としてアムホテリシンBを使用する場合、濃度範囲は0.25μg/mL~4μg/mLであり、抗生物質としてPrimocinを使用する場合、濃度範囲は25μg/mL~400μg/mLである。
【0015】
第2の態様によれば、本発明はまた、in vitroで初代卵巣癌細胞を培養する方法を提供する。初代卵巣癌細胞をin vitroで培養する本発明の方法においては、本発明の初代卵巣癌細胞用の培養培地を用いて初代卵巣癌細胞をin vitroで培養する。
【0016】
初代卵巣癌細胞をin vitroで培養する本発明の方法は、以下の工程を含む。
【0017】
1.初代卵巣癌細胞の単離
(1)卵巣癌組織試料を分離し、基本培地及び組織消化液(注釈:組織消化液の添加量は、腫瘍組織1gに対して組織消化液約5mL~10mLである)を1:3の比率で添加し、恒温振盪機に入れ、4℃~37℃の消化温度、200rpm~350rpmの速度で消化を行う。
(2)消化が完全に完了し、すなわち、明らかな組織破片が見られなくなり、消化時間が3時間~6時間になれば消化を停止してもよい。
(3)1200rpm~1600rpmの遠心分離速度での2分間~6分間の遠心分離後に、上清を捨て、後の使用のために基本培地を添加して細胞を再懸濁する。
【0018】
ここで、基本培地の配合は、DMEM/F12、DMEM、F12又はRPMI-1640からなる群から選択される初期培地と、ストレプトマイシン/ペニシリン、アムホテリシンB及びPrimocinからなる群から選択される1つ以上の抗生物質とを含む。組織消化液の配合は、1640培地、コラゲナーゼII(1mg/mL~2mg/mL)、コラゲナーゼIV(1mg/mL~2mg/mL)、DNアーゼ(50U/mL~100U/mL)、ヒアルロニダーゼ(0.5mg/mL~1mg/mL)、塩化カルシウム(1mM~5mM)、ウシ血清アルブミンBSA(5mg/mL~10mg/mL)を含む。
【0019】
2.本発明の初代卵巣癌細胞用の培養培地を用いた細胞の培養
基本培地を、マトリゲル(Corning(商標)、356231)と25:1~100:1の比率で氷上において混合する。細胞をプレーティングした後、プレートを37℃の5%CO2インキュベーター内で25分間~35分間インキュベートし、上清を捨てる。上記工程1で得られた初代卵巣癌細胞を、本発明の初代卵巣癌細胞用の培養培地で再懸濁し、細胞を計数する。細胞密度を2×104細胞/cm2~8×104細胞/cm2に調節する。本発明の初代卵巣癌細胞用の培養培地を添加し、細胞をインキュベーター内で培養する。
【0020】
更に別の態様において、本発明は、以下の工程:
(1)本発明の初代卵巣癌細胞を培養する方法を用いて、初代卵巣癌細胞を培養する工程と、
(2)被検薬物を選択するとともに、所望の濃度勾配に薬物を希釈する工程と、
(3)工程(1)で培養した細胞に、様々な濃度勾配に希釈した薬物を添加する工程と、
(4)細胞生存率を検出する工程と、
を含む、卵巣癌疾患用の薬物スクリーニング方法も提供する。
【0021】
本発明の技術的解決策は、以下の技術的効果を達成することができる:
(1)初代卵巣癌細胞の培養の成功率が改善され、本発明により、上皮癌、悪性胚細胞腫瘍、間質腫瘍及び転移性腫瘍等の様々な試料供給元からの腫瘍組織を培養することが可能となり、成功率は80%以上である;
(2)in vitroで培養した初代卵巣癌細胞は、確実に患者の病理学的特徴を維持する;
(3)培養した初代卵巣癌細胞は、線維芽細胞及び脂肪細胞等の間質細胞によって干渉されない;
(4)拡大増殖効率が高く、初代卵巣癌細胞は約1週間で首尾よく培養することができ、拡大増殖した初代卵巣癌細胞は、継続的な継代能力を有する;
(5)培養培地は、Wntアゴニスト等の高額な因子を必要としないため、培養コストを抑制可能である;
(6)培養培地は血清を含まず、初代細胞と間質細胞との共培養を避けることができ、血清の含有及び間質細胞との共培養等の従来の培養プロトコルに存在する一連の問題も解決する;
(7)上記技術によって培養した初代卵巣癌細胞は、数が多く、高度に均質化されているため、新たな候補化合物の高スループットスクリーニングに適しており、患者に対するin vitroでの高スループット薬物感受性をもたらす。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】初代卵巣癌細胞の成長に対する、初代卵巣癌細胞用の培養培地中の添加因子の種々の組合せの影響を示すグラフである。
【
図2-1】
図2A~
図2Fは、初代卵巣癌細胞の成長に対する、初代卵巣癌細胞用の培養培地に添加した各因子の種々の濃度の影響を示すグラフである。
【
図2-2】
図2G~
図2Lは、初代卵巣癌細胞の成長に対する、初代卵巣癌細胞用の培養培地に添加した各因子の種々の濃度の影響を示すグラフである。
【
図3】
図3A~
図3Fは、本発明の初代卵巣癌細胞用の培養培地を用いて培養した初代卵巣癌細胞の顕微鏡下で撮影された写真である。
【
図4-1】
図4A~
図4Fは、元の卵巣癌組織細胞の免疫組織化学的結果を示す図である。
【
図4-2】
図4Gは、元の卵巣癌組織細胞の免疫組織化学的結果を示す図である。
【
図5-1】
図5A~
図5Dは、本発明の初代卵巣癌細胞用の培養培地を用いて元の卵巣癌組織細胞を第4継代まで培養することによって得られた初代卵巣癌細胞の免疫組織化学的結果を示す図である。
【
図5-2】
図5E~
図5Gは、本発明の初代卵巣癌細胞用の培養培地を用いて元の卵巣癌組織細胞を第4継代まで培養することによって得られた初代卵巣癌細胞の免疫組織化学的結果を示す図である。
【
図6】
図6A~
図6Cは、本発明の初代卵巣癌細胞用の培養培地、従来技術の培養培地、及び市販の培養培地それぞれを用いて培養した初代卵巣癌細胞の細胞成長曲線である。
【
図7】
図7A~
図7Fは、本発明の初代卵巣癌細胞用の培養培地を用いて種々の継代に培養した初代卵巣癌細胞の薬物スクリーニングの結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明をより良く理解するために、実施形態及び図面と組み合わせて以下に更に説明する。以下の実施例は、本発明を限定するものではなく、例示のみを目的として提示される。
【0024】
(MST1/2キナーゼ阻害剤の調製例)
本明細書では、MST1/2キナーゼ阻害剤とは、直接的又は間接的にMST1/2シグナル伝達を負に制御するあらゆる阻害剤を指す。一般に、MST1/2キナーゼ阻害剤は、例えば、MST1/2キナーゼに結合することにより、MST1/2キナーゼの活性を低下させる。MST1とMST2は構造が似ているため、MST1/2キナーゼ阻害剤は、例えば、MST1又はMST2に結合してその活性を低下させる化合物であってもよい。
【0025】
1.MST1/2キナーゼ阻害剤化合物1の調製
4-((7-(2,6-ジフルオロフェニル)-5,8-ジメチル-6-オキソ-5,6,7,8-テトラヒドロプテリジン-2-イル)アミノ)ベンズスルファミド1
【化3】
【0026】
メチル2-アミノ-2-(2,6-ジフルオロフェニル)アセテート(A2):2-アミノ-2-(2,6-ジフルオロフェニル)酢酸(2.0g)、次いでメタノール(30mL)を丸底フラスコに加え、続いて塩化チオニル(1.2mL)を氷浴下で滴下して加えた。反応系を85℃で一晩反応させた。反応終了後、この系を減圧下で蒸発させて溶剤を乾燥させ、得られた白色固体をそのまま次の工程に使用した。
【0027】
メチル2-((2-クロロ-5-ニトロピリミジン-4-イル)アミノ)-2-(2,6-ジフルオロフェニル)アセテート(A3):丸底フラスコにメチル2-アミノ-2-(2,6-ジフルオロフェニル)アセテート(2g)、次いでアセトン(30mL)及び炭酸カリウム(2.2g)を加え、次いで氷塩浴で系を-10℃に冷却した後、アセトン中の2,4-ジクロロ-5-ニトロピリミジン(3.1g)の溶液をゆっくりと加えた。反応系を室温で一晩撹拌した。反応終了後、反応混合物を濾過し、濾液から減圧下で溶剤を除去し、残渣を加圧シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製して、化合物A3を得た。LC/MS:M+H 359.0。
【0028】
2-クロロ-7-(2,6-ジフルオロフェニル)-7,8-ジヒドロプテリジン-6(5H)-オン(A4):丸底フラスコにメチル2-((2-クロロ-5-ニトロピリミジン-4-イル)アミノ)-2-(2,6-ジフルオロフェニル)アセテート(2.5g)、次いで酢酸(50mL)及び鉄粉(3.9g)を加えた。反応系を60℃で2時間撹拌した。反応終了後、反応系を減圧下で蒸発させて溶剤を乾燥させ、得られたものを飽和炭酸水素ナトリウム溶液でアルカリ性に中和し、酢酸エチルで抽出した。有機相を水と飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。有機相を濾過し、減圧下で蒸発乾固させて、粗生成物を得た。粗生成物をジエチルエーテルで洗浄し、化合物A4を得た。LC/MS:M+H 297.0。
【0029】
2-クロロ-7-(2,6-ジフルオロフェニル)-5,8-ジメチル-7,8-ジヒドロプテリジン-6(5H)-オン(A5):丸底フラスコに2-クロロ-7-(2,6-ジフルオロフェニル)-7,8-ジヒドロプテリジン-6(5H)-オン(2g)及びN,N-ジメチルアセトアミド(10mL)を加え、-35℃に冷却し、続いてヨードメタン(0.9mL)、次いで水素化ナトリウム(615mg)を加え、反応系を2時間撹拌した。反応終了後、反応混合物を水でクエンチし、酢酸エチルで抽出した。有機相をそれぞれ水及び飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。有機相を濾過し、減圧下で蒸発乾固させて、粗生成物を得た。粗生成物をジエチルエーテルで洗浄し、化合物A5を得た。LC/MS:M+H 325.0。
【0030】
4-((7-(2,6-ジフルオロフェニル)-5,8-ジメチル-6-オキソ-5,6,7,8-テトラヒドロプテリジン-2-イル)アミノ)ベンズスルファミド(1):丸底フラスコに2-クロロ-7-(2,6-ジフルオロフェニル)-5,8-ジメチル-7,8-ジヒドロプテリジン-6(5H)-オン(100mg)、スルファニルアミド(53mg)、p-トルエンスルホン酸(53mg)及びsec-ブタノール(5mL)を加えた。反応系を120℃で一晩撹拌した。反応終了後、反応混合物を濾過し、メタノール及びジエチルエーテルで洗浄し、化合物1を得た。LC/MS:M+H 461.1。
【0031】
2.本発明の他のMST1/2阻害剤化合物の調製
本発明の他のMST1/2阻害剤化合物を化合物1と同様の方法で合成し、それらの構造及び質量スペクトルデータを以下の表に示す。
【0032】
【表2-1】
【表2-2】
【表2-3】
【表2-4】
【表2-5】
【0033】
実施例1.初代卵巣癌細胞の増殖に対する、初代卵巣癌細胞用の培養培地に添加した様々な因子の影響
(1)初代卵巣癌細胞用の培養培地の調製
初めに、初期培地を含有する基本培地を調製した。初期培地は、当該技術分野において一般に使用されているDMEM/F12、DMEM、F12、又はRPMI-1640からなる群から選択することができる。本実施例において、基本培地の配合は、DMEM/F12培地(Corningから購入)+100μg/mL Primocin(InvivoGenから購入、0.2%(体積/体積)、市販品の濃度は50mg/mLである)である。種々のタイプの添加剤(表1を参照)を基本培地に添加し、種々の成分を含む初代卵巣癌細胞用の培養培地を調製した。
【0034】
(2)初代卵巣癌細胞の単離及び処理
1.試料の選択
卵巣癌固形腫瘍の組織試料(術中)は、専門医療機関の専門医療従事者によって患者から得られ、全ての患者がインフォームドコンセントに署名した。サイズが0.25cm3の術中試料、サイズが0.025cm3の内視鏡試料を、市販の組織保存液(製造業者:Miltenyi Biotec)を用いて保管及び輸送した。
【0035】
2.材料の準備
表面滅菌に供した後、15mL滅菌遠心分離管、ピペッター、10mLピペット、滅菌ピペットチップ等を超清浄作業台に置き、30分間紫外線照射した。基本培地は、4℃の冷蔵庫から30分前に取り出し、組織消化液は、-20℃の冷蔵庫から30分前に取り出した。
【0036】
組織消化液:1640培地(Corning、10-040-CVR)、コラゲナーゼII(2mg/mL)、コラゲナーゼIV(2mg/mL)、DNアーゼ(50U/mL)、ヒアルロニダーゼ(0.75mg/mL)、塩化カルシウム(3.3mM)、BSA(10mg/mL)。
【0037】
上述のコラゲナーゼII、コラゲナーゼIV、DNアーゼ及びヒアルロニダーゼは、全てSigma Corporationから購入し、塩化カルシウムはSangon Biotech (Shanghai) Co., Ltd.から購入し、BSAはBiofroxx Corporationから購入した。
【0038】
3.初代卵巣癌細胞の単離
3.1.組織試料を超清浄作業台から培養皿に移し、血液が付いた組織を除去した。組織試料を基本培地で2回洗浄した後、別の培養皿に移し、滅菌メスで1×1×1mm3のサイズの組織ブロックに機械的に切断した。
【0039】
3.2.切断した術中組織を15mL遠心分離管に吸引し、これに5mLの基本培地を添加し、完全に混合した後、1500rpmで4分間遠心分離した。
【0040】
3.3.上清を捨て、得られたものに基本培地及び組織消化液(組織消化液の添加量は、1gの腫瘍組織に対して約10mLの組織消化液とした)の1:3混合物を添加した。試料に名前及び番号を付け、シーリングフィルムで密閉した後、振盪機(Zhichu InstrumentのZQLY-180N)内にて37℃、300rpmで消化した。消化の完了は、30分毎の観察により、目に見える粒子が存在するか否かに基づいて決定した。消化時間は4時間であった。
【0041】
3.4.消化が完了した後、未消化の組織塊を100μMフィルターメッシュに通して濾過した。フィルターメッシュ上の組織塊を、細胞の喪失を減らすために基本培地で遠心分離管に洗い入れた。得られたものを25℃、1500rpmで4分間遠心分離した。
【0042】
3.5.上清を捨て、得られたものを観察して、血球が存在するかを決定した。血球が存在する場合、得られたものに8mLの血球溶解液(Sigmaから購入)を添加し、完全に混合し、4℃で20分間溶解させた。この過程で転倒混和を1回行った。得られたものを25℃、1500rpmで4分間遠心分離した。
【0043】
3.6.上清を捨て、2mLの基本培地を添加し、細胞を再懸濁して保存した。
【0044】
4.細胞の計数及び処理
4.1.顕微鏡観察:少量の再懸濁細胞を培養皿にプレーティングし、癌細胞の密度及び形態を顕微鏡(CNOPTEC、BDS400)下で観察した。
【0045】
4.2.生存細胞の計数:12μLの再懸濁した細胞懸濁液を12μLのトリパンブルー染色液(Sangon Biotech (Shanghai) Co., Ltd.)と完全に混合した後、20μLの混合物を細胞計数プレート(Countstar、仕様:50個/箱)に添加した。セルカウンター(Countstar、IC1000)を用いて、生存大細胞(10μm超の細胞サイズ)のパーセンテージ=生存細胞数/総細胞数×100%を算出した。
【0046】
(3)初代卵巣癌細胞の培養
上記工程(2)に従って2例の卵巣癌組織(符号L40及びLQQ)から単離した初代卵巣癌細胞を、それぞれ表1中の培養培地に再懸濁し、細胞数を計数した。基本培地をマトリゲル(Corning(商標)、356231)と50:1の比率で氷上において混合した。300μLの混合物をプレーティングし、37℃の5%CO2インキュベーター内で25分間~35分間、好ましくは30分間インキュベートした。上清は捨てた。初代卵巣癌細胞を含有する、表1の種々の成分を含む培養培地を、1ウェル当たり4×104細胞、及び500μL/ウェルとなるまで48ウェルプレートに添加した。添加剤を全く含まない基本培地をコントロールとして使用した。培養の7日~10日後、細胞は85%まで成長し、培養培地を捨て、細胞を1ウェル当たり100μLの0.05%トリプシン(Gibcoから購入)で一度濯いだ。トリプシンを吸引した後、200μLの0.05%トリプシンを各ウェルに添加した。次いでプレートを37℃及び5%CO2のインキュベーター内に入れ、10分間反応させ、細胞が完全に消化することを顕微鏡(CNOPTEC、BDS400)下で観察した。次いで、10%血清(Excell Bio、FND500)を含有する300μLのDMEM/F12培地を添加して、消化を停止し、得られたもの20μLを細胞計数プレート(Countstar、サイズ:50個/箱)に添加した。セルカウンター(Countstar、IC1000)を用いて、総細胞数を計数した。実験結果を表1に示す。
【0047】
【0048】
ここで、「+」は、基本培地と比較して、添加剤(複数の場合もある)を添加した培養培地が、卵巣癌組織から単離した初代卵巣癌細胞の2例の増殖を促進する効果を有することを示し、「-」は、添加剤(複数の場合もある)を添加した培養培地が、卵巣癌組織から単離した初代卵巣癌細胞の1例の増殖を促進する効果を有することを示し、「〇」は、添加剤(複数の場合もある)を添加した培養培地が、卵巣癌組織から単離した初代卵巣癌細胞の少なくとも2例の増殖に対して顕著な影響を及ぼさないことを示す。
【0049】
上記の結果により、化合物1、プロスタグランジンE2、B27、N2、上皮成長因子、インスリン、インスリン-トランスフェリン-亜セレン酸ナトリウムのサプリメント、アンフィレグリン、Y-27632、インスリン様成長因子-1、ガストリン、コレラ毒素等の因子を更なる培養実験に選択した。
【0050】
実施例2 初代卵巣癌細胞の増殖に対する、初代卵巣癌細胞用の培養培地に添加した因子の種々の組合せの影響
添加因子の種々の組合せを含有する初代卵巣癌細胞用の培養培地を、表2の成分に従って調製し、初代卵巣癌細胞に対する種々の添加因子の組合せの増殖促進効果を調査した。
【0051】
【0052】
初代卵巣癌細胞は、実施例1の工程(2)-3のプロセスに従って卵巣癌組織(符号L46、L55、L56)から得た。得られた細胞懸濁液を14等分し、次いで1500rpmで4分間遠心分離した。遠心分離後、細胞を200μLのBM及び培養培地番号1~13にそれぞれ再懸濁した。基本培地をマトリゲル(Corning(商標)、356231)と50:1の比率で氷上において混合した。300μLの混合物を48ウェルプレートにプレーティングし、37℃の5%CO2インキュベーター内で25分間~35分間、好ましくは30分間インキュベートした。上清は捨てた。初代卵巣癌細胞を、48ウェルプレートに生細胞密度4×104細胞/ウェル(1ウェル当たり40000細胞)で接種した。48ウェルプレートの各ウェルに、体積が1mLとなるまで対応する培養培地を補充し、得られたものを十分に混合した。表面滅菌後、プレートを37℃の5%CO2インキュベーター(Thermo Fisherから購入)に入れ、培養した。
【0053】
細胞が48ウェルプレート内で85%を超えるまで成長したら、培養培地を捨てた。細胞を1ウェル当たり100μLの0.05%トリプシン(Gibcoから購入)で一度濯いだ。トリプシンを吸引した後、200μLの0.05%トリプシンを各ウェルに添加した。次いでプレートを37℃及び5%CO
2のインキュベーターに入れ、10分間反応させ、細胞が完全に消化することを顕微鏡(CNOPTEC、BDS400)下で観察した。次いで、10%ウシ胎児血清を含有する300μLのDMEM培地を添加して、消化を停止し、得られたもの20μLを細胞計数プレート(Countstar、仕様:50個/箱)に添加した。総細胞数をセルカウンター(Countstar、IC1000)で計数した。L46、L55及びL56(術中)から単離した初代卵巣癌細胞から得られた結果を
図1に示す。
【0054】
図1の結果によれば、基本培地と比較して、上記の培養培地番号1~13は、程度の差こそあれ初代卵巣癌細胞の増殖を促進し得る。したがって、初代卵巣癌細胞を、添加剤、例えば、化合物1、プロスタグランジンE2、B27、N2、上皮成長因子、インスリン、インスリン-トランスフェリン-亜セレン酸ナトリウムのサプリメント、アンフィレグリン、Y-27632、インスリン様成長因子-1、ガストリン、コレラ毒素を含有する培養培地で培養すると、増殖がより良好となる。
【0055】
実施例3 初代卵巣癌細胞の増殖に対する、初代卵巣癌細胞用の培養培地に含まれる種々の濃度の添加因子の影響
初代卵巣癌細胞は、実施例1の工程(2)-3のプロセスに従って組織試料(符号A26083、L56、L62)から得た。実施例2における有効な因子の組合せを含む培養培地を使用して培養した。基本培地をマトリゲル(Corning(商標)、356231)と50:1の比率で氷上において混合した。4mLの混合物をT12.5培養フラスコでプレーティングし、37℃の5%CO2インキュベーター内で25分間~35分間、好ましくは30分間インキュベートした。上清は捨てた。
【0056】
得られた初代卵巣癌細胞をT12.5ウェルプレート(1ウェル当たり300000細胞)に生細胞密度2.4×104細胞/cm2で播種した。次いでプレートを、表面滅菌後に37℃の5%CO2インキュベーター(Thermo Fisherから購入)に入れた。実施例2で求めた有効な因子の組合せを含む培養培地(基本培地(BM)、20μM化合物1、5μMプロスタグランジンE2、1:100(体積/体積)B27、1:100(体積/体積)N2、10ng/mL上皮成長因子、3μg/mLインスリン、1:50(体積/体積)インスリン-トランスフェリン-亜セレン酸ナトリウムのサプリメント、27ng/mLアンフィレグリン、5μM Y-27632、50ng/mLインスリン様成長因子-1、27nMガストリン、0.1μg/mLコレラ毒素を含有する)を用いて、細胞が85%以上に成長するまで、細胞を培養及び拡大増殖させ、500μLの0.05%トリプシン(Gibcoから購入)を添加して細胞を1分間濯いだ。トリプシンを吸引した後、500μLの0.05%トリプシンを次いで各ウェルに添加し、プレートを37℃の5%CO2インキュベーターに入れ、2分間~10分間反応させた。細胞が完全に消化したら消化を停止した。1500rpmでの4分間の遠心分離後、上清を捨てた。細胞ペレットをDMEM/F12に再懸濁した後、20μLの懸濁液を細胞計数プレート(製造業者:Countstar、仕様:50個/箱)に添加し、総細胞数をセルカウンター(Countstar、IC1000)で計数した。得られた細胞を以下の培養実験に使用した。
【0057】
以下の12種類の培養培地の配合を実験用に調製した。
【0058】
配合1:化合物1を含まない上述の初代卵巣癌細胞用の培養培地、
配合2:プロスタグランジンE2を含まない上述の初代卵巣癌細胞用の培養培地、
配合3:B27を含まない上述の初代卵巣癌細胞用の培養培地、
配合4:N2を含まない上述の初代卵巣癌細胞用の培養培地、
配合5:上皮成長因子を含まない上述の初代卵巣癌細胞用の培養培地、
配合6:インスリンを含まない上述の初代卵巣癌細胞用の培養培地、
配合7:インスリン-トランスフェリン-亜セレン酸ナトリウムのサプリメントを含まない上述の初代卵巣癌細胞用の培養培地、
配合8:アンフィレグリンを含まない上述の初代卵巣癌細胞用の培養培地、
配合9:Y-27632を含まない上述の初代卵巣癌細胞用の培養培地、
配合10:インスリン様成長因子-1を含まない上述の初代卵巣癌細胞用の培養培地、
配合11:ガストリンを含まない上述の初代卵巣癌細胞用の培養培地、
配合12:コレラ毒素を含まない上述の初代卵巣癌細胞用の培養培地。
【0059】
4×104細胞を含有する細胞再懸濁液20μlを各ウェルに添加し、次いでこれを上記の配合1~配合12の培養培地1mLでそれぞれ希釈した。
【0060】
配合1の培養培地を使用する場合、初代細胞を播種した48ウェルプレートの各ウェルに、調製した化合物1を、化合物1の最終濃度がそれぞれ2.5μM、5μM、10μM、20μM及び40μMとなるように1ウェル当たり1mL添加した。配合1の培養培地を用いてブランクコントロール(BC)のウェルを設定した。
【0061】
配合2の培養培地を使用する場合、初代細胞を播種した48ウェルプレートの各ウェルに、調製したプロスタグランジンE2を、プロスタグランジンE2の最終濃度がそれぞれ2.5μM、5μM、10μM、20μM及び40μMとなるように1ウェル当たり1mL添加した。配合2の培養培地を用いてブランクコントロール(BC)のウェルを設定した。
【0062】
配合3の培養培地を使用する場合、初代細胞を播種した48ウェルプレートの各ウェルに、調製したB27を、B27の最終濃度がそれぞれ1:400(体積/体積)、1:200(体積/体積)、1:100(体積/体積)、1:50(体積/体積)及び1:25(体積/体積)となるように1ウェル当たり1mL添加した。配合3の培養培地を用いてブランクコントロール(BC)のウェルを設定した。
【0063】
配合4の培養培地を使用する場合、初代細胞を播種した48ウェルプレートの各ウェルに、調製したN2を、N2の最終濃度がそれぞれ1:400(体積/体積)、1:200(体積/体積)、1:100(体積/体積)、1:50(体積/体積)及び1:25(体積/体積)となるように1ウェル当たり1mL添加した。配合4の培養培地を用いてブランクコントロール(BC)のウェルを設定した。
【0064】
配合5の培養培地を使用する場合、初代細胞を播種した48ウェルプレートの各ウェルに、調製した上皮成長因子を、上皮成長因子の最終濃度がそれぞれ2.5ng/mL、5ng/mL、10ng/mL、20ng/mL及び40ng/mLとなるように1ウェル当たり1mL添加した。配合5の培養培地を用いてブランクコントロール(BC)のウェルを設定した。
【0065】
配合6の培養培地を使用する場合、初代細胞を播種した48ウェルプレートの各ウェルに、調製したインスリンを、インスリンの最終濃度がそれぞれ1μg/mL、3μg/mL、9μg/mL、27μg/mL及び81μg/mLとなるように1ウェル当たり1mL添加した。配合6の培養培地を用いてブランクコントロール(BC)のウェルを設定した。
【0066】
配合7の培養培地を使用する場合、初代細胞を播種した48ウェルプレートの各ウェルに、調製したインスリン-トランスフェリン-亜セレン酸ナトリウムのサプリメントを、インスリン-トランスフェリン-亜セレン酸ナトリウムのサプリメントの最終濃度がそれぞれ1:800(体積/体積)、1:400(体積/体積)、1:200(体積/体積)、1:100(体積/体積)及び1:50(体積/体積)となるように1ウェル当たり1mL添加した。配合7の培養培地を用いてブランクコントロール(BC)のウェルを設定した。
【0067】
配合8の培養培地を使用する場合、初代細胞を播種した48ウェルプレートの各ウェルに、調製したアンフィレグリンを、アンフィレグリンの最終濃度がそれぞれ1ng/mL、3ng/mL、9ng/mL、27ng/mL及び81ng/mLとなるように1ウェル当たり1mL添加した。配合8の培養培地を用いてブランクコントロール(BC)のウェルを設定した。
【0068】
配合9の培養培地を使用する場合、初代細胞を播種した48ウェルプレートの各ウェルに、調製したY-27632を、Y-27632の最終濃度がそれぞれ2.5μM、5μM、10μM、20μM及び40μMとなるように1ウェル当たり1mL添加した。配合9の培養培地を用いてブランクコントロール(BC)のウェルを設定した。
【0069】
配合10の培養培地を使用する場合、初代細胞を播種した48ウェルプレートの各ウェルに、調製したインスリン様成長因子-1を、インスリン様成長因子-1の最終濃度がそれぞれ12.5ng/mL、25ng/mL、50ng/mL、100ng/mL及び200ng/mLとなるように1ウェル当たり1mL添加した。配合10の培養培地を用いてブランクコントロール(BC)のウェルを設定した。
【0070】
配合11の培養培地を使用する場合、初代細胞を播種した48ウェルプレートの各ウェルに、調製したガストリンを、ガストリンの最終濃度がそれぞれ1nM、3nM、9nM、27nM及び81nMとなるように1ウェル当たり1mL添加した。配合11の培養培地を用いてブランクコントロール(BC)のウェルを設定した。
【0071】
配合12の培養培地を使用する場合、初代細胞を播種した48ウェルプレートの各ウェルに、調製したコレラ毒素を、コレラ毒素の最終濃度がそれぞれ0.05μg/mL、0.1μg/mL、0.2μg/mL、0.4μg/mL及び0.8μg/mLとなるように1ウェル当たり1mL添加した。配合12の培養培地を用いてブランクコントロール(BC)のウェルを設定した。
【0072】
細胞が48ウェルの約85%まで拡大増殖した場合、細胞を消化して計数し、ブランクコントロール(BC)のウェル内の細胞数を参照することによって増殖倍数を算出し、結果はそれぞれ
図2A~
図2Lに示した。
図2A~
図2L中、比率は、ブランクコントロールの対応するウェルで培養した第1継代の細胞数に対する、各培養培地を用いることによって培養した第1継代の細胞数の比率である。この比率が1より大きければ、種々の濃度の因子又は低分子化合物を含有する調製された培養培地の増殖促進効果が、ブランクコントロールのウェル内の培養培地の増殖促進効果よりも好ましいことを示す。この比率が1未満であれば、種々の濃度の因子又は低分子化合物を含有する調製された培養培地の増殖促進効果が、ブランクコントロールのウェル内の培養培地の増殖促進効果よりも低いことを示す。
【0073】
図2A~
図2Lの結果によれば、化合物1、プロスタグランジンE2、B27、N2、上皮成長因子、インスリン、インスリン-トランスフェリン-亜セレン酸ナトリウムのサプリメント、アンフィレグリン、Y-27632、インスリン様成長因子-1、ガストリン及びコレラ毒素が、初代卵巣癌細胞に対して顕著な増殖促進効果を有する。本実施例の結果によれば、化合物1の量は、好ましくは2.5μM~20μM、より好ましくは2.5μM~10μMであり、濃度が5μMである場合に細胞増殖効果が最も顕著である。プロスタグランジンE2の量は好ましくは2.5μM~10μMであり、濃度が2.5μMである場合に細胞増殖効果が最も顕著である。B27の量は、好ましくは1:25(体積/体積)~1:400(体積/体積)、より好ましくは1:50(体積/体積)~1:200(体積/体積)であり、濃度が1:100(体積/体積)である場合に細胞増殖効果が最も顕著である。N2の量は好ましくは1:50(体積/体積)~1:400(体積/体積)であり、濃度が1:400(体積/体積)である場合に細胞増殖効果が最も顕著である。上皮成長因子の量は、好ましくは2.5ng/mL~40ng/mL、より好ましくは5ng/mL~20ng/mLであり、濃度が10ng/mLである場合に細胞増殖効果が最も顕著である。インスリンの量は、好ましくは1μg/mL~27μg/mL、より好ましくは3μg/mL~9μg/mLであり、濃度が9μg/mLである場合に細胞増殖効果が最も顕著である。インスリン-トランスフェリン-亜セレン酸ナトリウムのサプリメントの量は、好ましくは1:50(体積/体積)~1:800(体積/体積)、より好ましくは1:400(体積/体積)~1:100(体積/体積)であり、濃度が1:200(体積/体積)である場合に細胞増殖効果が最も顕著である。アンフィレグリンの量は、好ましくは1ng/mL~81ng/mL、より好ましくは1ng/mL~27ng/mLであり、濃度が3ng/mLである場合に細胞増殖効果が最も顕著である。Y-27632の量は好ましくは2.5μM~20μMであり、濃度が5μMである場合に細胞増殖効果が最も顕著である。インスリン様成長因子-1の量は好ましくは25ng/mL~100ng/mLであり、濃度が50ng/mLである場合に細胞増殖効果が最も顕著である。ガストリンの量は好ましくは1nM~9nMであり、濃度が3nMである場合に細胞増殖効果が最も顕著である。コレラ毒素の量は、好ましくは0.05μg/mL~0.8μg/mL、より好ましくは0.05μg/mL~0.2μg/mLであり、濃度が0.1μg/mLである場合に細胞増殖効果が最も顕著である。
【0074】
上記の培養培地に添加された各因子の最も好ましい濃度を使用すると、以下の実施例で使用される本発明の初代卵巣癌細胞用の培養培地は、基本培地(BM)、5μM化合物1、2.5μMプロスタグランジンE2、1:100(体積/体積)B27、1:400(体積/体積)N2、10ng/mL上皮成長因子、9μg/mLインスリン、1:200(体積/体積)インスリン-トランスフェリン-亜セレン酸ナトリウムのサプリメント、3ng/mLアンフィレグリン、5μM Y-27632、50ng/mLインスリン様成長因子-1、3nMガストリン、0.1μg/mLコレラ毒素を含有する(以後、培養培地「OC-2」と称する)。
【0075】
実施例4 初代卵巣癌細胞の培養
実施例1の工程(2)-3のプロセスに従って6例の術中組織試料(符号A26083、L65、L66、L72、L74、L84)から初代卵巣癌細胞を得て、培養培地OC-2を用いて培養した。基本培地をマトリゲル(Corning(商標)、356231)と50:1の比率で氷上において混合した。2mLの混合物を6ウェルプレートにプレーティングし、37℃で5%CO2インキュベーター内において25分間~35分間、好ましくは30分間インキュベートし、上清を捨てた。得られた初代卵巣癌細胞を6ウェルプレート(1ウェル当たり250000細胞)に生細胞密度2×104細胞/cm2で播種し、4mLの培養培地OC-2を添加した。表面滅菌後、プレートを37℃の5%CO2インキュベーター(Thermo Fisherから購入)に入れ、培養した。
【0076】
培養した初代卵巣癌細胞を顕微鏡(EVOS M500、Invitrogen)下で観察した。
図3A~
図3Fは、4日間~6日間培養した後にそれぞれ試料A26083、L65、L66、L72、L74及びL84から得られ、10倍の対物レンズで撮影した初代卵巣癌細胞の写真である。顕微鏡の下で観察すると、細胞は密に配置されており、形状は僅かに不規則であった。
【0077】
実施例5 初代卵巣癌細胞の培養物の組織化学的特定
およそ0.25cm3の癌組織を、卵巣癌患者の術中組織(試料符号L74)から取り出し、1mLの4%パラホルムアルデヒド中に浸漬させることによって固定した。実施例4の方法を使用して、本発明の初代卵巣癌細胞用の培養培地OC-2を用いて試料L74を第4継代まで培養し続けた。4%パラホルムアルデヒドで固定した初代卵巣癌細胞をパラフィンに包埋し、ミクロトームを用いて厚さ4μmの組織切片に切断した。次いでルーチンの免疫組織化学的検出を実施した(具体的な手順については、Li et al., Nature Communication, (2018) 9: 2983を参照)。使用した一次抗体は、ER、PR、P53、NapsinA、Pax-8、WT-1、及びKi-67(全てCSTから購入)とした。
【0078】
図4A~
図4G及び
図5A~
図5Gはそれぞれ、元の組織細胞と、本発明の初代卵巣癌細胞用の培養培地OC-2で元の組織細胞を培養することによって得られた初代卵巣癌細胞との免疫組織化学的結果の比較用写真である。
図4A及び
図5Aはそれぞれ、卵巣癌組織及び培養した初代卵巣癌細胞におけるER抗体標識の写真である。
図4B及び
図5Bはそれぞれ、卵巣癌組織及び培養した初代卵巣癌細胞におけるPR抗体標識の写真である。
図4C及び
図5Cはそれぞれ、卵巣癌組織及び培養した初代卵巣癌細胞におけるP53抗体標識の写真である。
図4D及び
図5Dはそれぞれ、卵巣癌組織及び培養した初代卵巣癌細胞におけるNapsinA抗体標識の写真である。
図4E及び
図5Eは、卵巣癌組織及び培養した初代卵巣癌細胞におけるPax-8抗体標識の写真である。
図4F及び
図5Fはそれぞれ、卵巣癌組織及び培養した初代卵巣癌細胞におけるWT-1抗体標識の写真である。
図4G及び
図5Gは、卵巣癌組織及び培養した初代卵巣癌細胞におけるKi-67抗体標識の写真である。これにより、本発明の技術を用いて培養した初代卵巣癌細胞を第4継代まで培養する場合、初代卵巣癌細胞上の卵巣癌に関連するバイオマーカーの発現が、初代卵巣癌細胞が由来する元の組織切片の発現と一致することを確認することができる。本発明の技術によって培養した初代卵巣癌細胞は、卵巣癌患者の癌組織の元の病理学的特徴を維持することが示される。
【0079】
実施例6 既存の培養培地の培養効果との比較、初代卵巣癌細胞の培養サイクル及び細胞数の統計、並びに集団倍加(PD)数の算出
以下の配合を有する従来技術の培養培地(Xuefeng Liu et al., Nat. Protoc., 12(2): 439-451, (2017)):DMEM/F12培地+250ng/mLアムホテリシンB(Selleckから購入)+10μg/mLゲンタマイシン(MCEから購入)+0.1nMコレラ毒素+0.125ng/mL EGF+25ng/mLヒドロコルチゾン+10μM Y27632+10% FBS。
【0080】
市販の培養培地:既定のK-SFMであるケラチノサイト血清培地(gibcoから購入、10744-019)
【0081】
初代卵巣癌細胞は、実施例1の工程(2)-3のプロセスに従って3例の卵巣癌組織試料(符号L65、L66及びA22083)から得た。従来技術の培養培地、市販の培養培地、及び実施例3の培養培地OC-2をそれぞれ用いて、得られた初代卵巣癌細胞を培養し、細胞を6ウェルプレートに生細胞密度3×104細胞/cm2で播種した。細胞が95%まで拡大増殖した後、それらを消化して計数し、消化までの培養日数を培養サイクルとして記録した。この実験条件下で、拡大増殖させた細胞を、異なる継代で拡大増殖させた。各継代の細胞を消化して計数し、対応する培養サイクルを記録した。PD数は次の式に従って算出した。集団倍加(PD)=3.32×log10(消化後の総細胞数/接種した細胞の初期数)。式については、Chapman et al., Stem Cell Research & Therapy 2014, 5: 60を参照されたい。
【0082】
図6A~
図6Cは、Graphpad Prismソフトウェアによって描かれた、従来技術の培養培地、市販の培養培地、及び本発明の初代卵巣癌細胞用の培養培地OC-2を用いて培養した3例の初代細胞の成長曲線を示す。横軸は細胞培養の日数を表し、縦軸は細胞増殖の累積倍数、すなわち、培養サイクルにおける細胞増殖の倍数を表す。値が大きいほど、或る特定のサイクル内で細胞が拡大増殖する回数が多くなり、すなわち、より多くの細胞が拡大増殖する。傾きは細胞拡大増殖速度を表す。
図6A~
図6Cから、本発明の培養培地OC-2で培養した初代卵巣癌細胞が少なくとも30日間継続的に培養及び拡大増殖される場合、細胞拡大増殖速度は基本的に変化せず、細胞は依然として拡大増殖し続ける能力を有することを確認することができる。
図6A~
図6Cの結果は、従来技術の培養培地及び市販の培地を用いて培養した初代卵巣癌細胞の拡大増殖速度が、OC-2培地における拡大増殖速度よりも著しく低いことを示す。要するに、従来技術の培養培地及び市販の培地と比較して、本発明の初代卵巣癌細胞用の培養培地を用いてin vitroで培養した卵巣癌細胞の増殖効率は著しく良好である。
【0083】
実施例7 薬物のスクリーニング及び有効性評価のための、本発明の培養培地を用いて拡大増殖した初代卵巣癌細胞の使用
1.細胞の培養及びプレーティング
実施例1の工程(2)-3のプロセスに従って初代卵巣癌細胞(符号A22083)を単離し、一世代として使用し、これを、細胞が85%まで拡大増殖して継代するまで、本発明の初代卵巣癌細胞用の培養培地OC-2で培養した。細胞を継代し、実施例1の工程(2)-4に従って計数した。細胞をローディングスロット(Corningから購入)に生細胞密度1×105細胞/mLで入れた。十分に混合した後、それらを384ウェルの不透明白色細胞培養プレート(Corningから購入)に、1ウェル当たり50μLの容量及び5000細胞/ウェルの細胞数で入れた。本発明の初代卵巣癌細胞用の培養培地をプレートの端から加えることによってプレートを封止し、試料名、投与時間、及びCellTiter-Glo(Promega)の試験時間をプレートにマークした。プレートの表面を75%アルコール(LIRCON)で消毒し、プレートを37℃の5%CO2インキュベーター内で培養し、24時間後に投与した。薬物スクリーニングのために培養の第1、第2、第3、第4及び第5継代の細胞をそれぞれ得て、継続的な継代用の本発明の培養培地を用いて培養した初代卵巣癌細胞の薬物感受性を試験した。
【0084】
2.候補薬物の調製
以下の表に従って、6つの薬物(シタラビン、ドキソルビシン、ボルテゾミブ、パノビノスタット、アザシチジン、及びホモハリングトニン、全てMCEから購入)を6つの濃度勾配で調製し、これを384ウェルプレート(Thermo Fisher)に1ウェル当たり30μLの体積で添加し、使用まで保管した。
【0085】
【0086】
3.高スループット投与
調製した薬物を含むプレートを取り出し、室温に維持した。プレートを室温で1000rpm、遠心分離機(Beckman)において1分間遠心分離し、次いで遠心分離機から取り出した。高スループット投与には、高スループット自動ワークステーション(JANUS、Perkin Elmer)を使用した。培養した初代卵巣癌細胞を含む384ウェルプレートの各ウェルに、対応する濃度の候補薬物0.1μLを添加した。投与後、384ウェルプレートの表面を消毒し、インキュベーターに移動させた。細胞生存率を72時間後に測定した。
【0087】
4.細胞生存率の測定
CellTiter-Glo発光試薬(Promega)を4℃の冷蔵庫から取り出し、試薬10mLをローディングスロットに添加した。試験する384ウェルプレートをインキュベーターから取り出し、CellTiter-Glo発光試薬10μLを各ウェルに添加した。10分間静置した後、多機能マイクロプレートリーダー(Envision、Perkin Elmer)を用いて試験を行った。
【0088】
5.データ処理
細胞阻害率(%)=100%-薬物投与ウェルの化学発光値/コントロールウェルの化学発光値×100%の式に従って、種々の薬物で処理した細胞の細胞阻害率を算出し、細胞上の薬物の半数阻害率(IC
50)を、graphpad prismソフトウェアによって算出した。結果を
図7A~
図7Fに示す。
【0089】
図7A~
図7Fから、本発明の初代卵巣癌細胞用の培養培地OC-2から培養した初代卵巣癌細胞を薬物スクリーニングに使用する場合、種々の継代の培養細胞に対する同じ薬物の阻害効果が実質的に一貫している(阻害曲線が実質的に一貫している)。同じ患者からの細胞は、人体の最大血中濃度において異なる薬物に対して異なる感受性を有する。この結果に従って、卵巣癌患者の臨床使用における薬物の有効性を判断することができる。同時に、結果から、薬物に対する、本発明の培養方法により得られた種々の継代の腫瘍細胞の感受性は安定していることが示される。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明は、初代卵巣癌細胞をin vitroで培養するための初代細胞培養培地及び培養方法を提供し、培養した細胞は、薬物の有効性評価及びスクリーニングに使用することができる。したがって、本発明は産業上の利用に適している。
【0091】
本発明を本明細書において詳細に説明したが、本発明はこれに限定されず、当業者であれば本発明の原理に従って変更を加えることができる。したがって、本発明の原理に従って加えられたいかなる変更も、本発明の保護範囲に含まれると理解されるものとする。
【国際調査報告】