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特表2024-537347ハロゲンを含まない難燃性ポリマー組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-10
(54)【発明の名称】ハロゲンを含まない難燃性ポリマー組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/08 20060101AFI20241003BHJP
   C08K 3/32 20060101ALI20241003BHJP
   C08K 3/016 20180101ALI20241003BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20241003BHJP
   C09K 21/12 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C08L23/08
C08K3/32
C08K3/016
C08K3/22
C09K21/12
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024522222
(86)(22)【出願日】2022-10-12
(85)【翻訳文提出日】2024-06-10
(86)【国際出願番号】 EP2022078361
(87)【国際公開番号】W WO2023062062
(87)【国際公開日】2023-04-20
(31)【優先権主張番号】21202969.8
(32)【優先日】2021-10-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513276905
【氏名又は名称】ボレアリス・アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】BOREALIS AG
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【弁理士】
【氏名又は名称】森住 憲一
(74)【代理人】
【識別番号】100162710
【弁理士】
【氏名又は名称】梶田 真理奈
(72)【発明者】
【氏名】ペッレッキア,ロベルタ
(72)【発明者】
【氏名】ニルソン,スサン
(72)【発明者】
【氏名】ギトサス,アントニス
【テーマコード(参考)】
4H028
4J002
【Fターム(参考)】
4H028AA46
4H028BA04
4H028BA06
4J002BB053
4J002BB061
4J002BB071
4J002BB212
4J002DE076
4J002DE146
4J002DH047
4J002FB096
4J002FB236
4J002FD136
4J002FD137
4J002GQ00
4J002GQ01
4J002GQ05
(57)【要約】
本発明は、ハロゲンを含まない難燃性ポリマー組成物、特にリン酸ジルコニウムを含む難燃性ポリマー組成物に関し、さらに、上記難燃性ポリマー組成物を含む少なくとも1つの層を含むワイヤまたはケーブル、およびポリマー組成物の難燃特性および/または吸水特性を改善するためのリン酸ジルコニウムの使用に関する。該ポリマー組成物は、少なくとも(A)ポリマー組成物の全重量に基づいて、2.0~49.8重量%の極性基を有するモノマー単位を含有するエチレンコポリマー;
(C)ポリマー組成物の全重量に基づいて、30~65重量%の難燃フィラー;
(D)ポリマー組成物の全重量に基づいて、2.0~10.0重量%のリン酸ジルコニウム、および任意で(B)ポリマー組成物の全重量に基づいて最大6.0重量%の無水マレイン酸に由来する単位を含むエチレンホモもしくはコポリマーおよび/またはプロピレンホモもしくはコポリマー;および/またはさらに任意で(E)ポリマー組成物の全重量に基づいて最大17.0重量%の、ISO1183に従って測定される860kg/m~965kg/mの範囲の密度を有する、エチレンとC-C10アルファオレフィンコモノマーとのコポリマーを含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも以下の成分を含む難燃性ポリマー組成物:
(A)ポリマー組成物の全重量に基づいて、2.0~49.8重量%の、極性基を有するモノマー単位を含有するエチレンコポリマー;
(C)ポリマー組成物の全重量に基づいて、30~65重量%の難燃フィラー;
(D)ポリマー組成物の全重量に基づいて、2.0~10.0重量%のリン酸ジルコニウム。
【請求項2】
成分(A)の極性基を有する前記モノマー単位が、(a)ビニルカルボキシレートエステル、好ましくはビニルアセテート、およびそれらの混合物;(b)(メタ)アクリレート、好ましくはメチルアクリレート、およびそれらの混合物;(c)オレフィン性不飽和カルボン酸、およびそれらの混合物;(d)(メタ)アクリル酸誘導体、およびそれらの混合物;(e)ビニルエーテル、およびそれらの混合物、並びに(f)加水分解性シラン基、好ましくはビニルシラン基、およびそれらの混合物を含む単位から成る群から選択される、請求項1に記載の難燃性ポリマー組成物。
【請求項3】
成分(A)が10~35モル%の極性コモノマー含有量を有する、および/または、成分(A)が0.1~50g/10分のメルトフローレートMFR(190℃、2.16kg)を有する、請求項1または2に記載の難燃性ポリマー組成物。
【請求項4】
成分(C)の前記難燃フィラーが、水酸化アルミニウムおよび水酸化マグネシウム並びにそれらの混合物、好ましくは三水酸化アルミニウム、粉砕または沈殿水酸化マグネシウム並びにそれらの混合物から成る群から選択される水和フィラーである、請求項1~3のいずれかに記載の難燃性ポリマー組成物。
【請求項5】
(B)ポリマー組成物の全重量に基づいて、最大6.0重量%の無水マレイン酸に由来する単位を含むエチレンホモもしくはコポリマーおよび/またはプロピレンホモもしくはコポリマー;および/または
(E)ポリマー組成物の全重量に基づいて最大17.0重量%の、ISO1183に従って測定される860kg/m~965kg/mの範囲の密度を有する、エチレンとC-C10アルファオレフィンコモノマーとのコポリマー
をさらに含む、請求項1~4のいずれかに記載の難燃性ポリマー組成物。
【請求項6】
成分(E)がエチレンと1-オクテンとのコポリマーを含み;それによって前記コポリマーが
ISO1183に従って測定される870kg/m~910kg/mの範囲の密度;および/または
ISO1133に従って190℃、2.16kgの荷重で測定される、0.1~10.0g/10分の範囲のMFRを有する、請求項5に記載の難燃性ポリマー組成物。
【請求項7】
成分(B)が、ポリエチレンと無水マレイン酸との共重合および/またはグラフト重合によって得られ、それによって無水マレイン酸の含有量が0.15~2.0重量%の範囲である;および/または
成分(B)が、ISO1183に従って測定される910~950kg/mの範囲の密度を有する、および/または
成分(B)が、ISO1133に従って測定される0.5~5g/10分の範囲のMFRを有する;および/または
成分(B)が、無水マレイン酸でグラフト化された線状低密度ポリエチレンである、請求項5または6に記載の難燃性ポリマー組成物。
【請求項8】
成分(A)および/または成分(E)が、加水分解性シラン基を含むコモノマー単位を含む、請求項1~7のいずれかに記載の難燃性ポリマー組成物。
【請求項9】
前記ポリマー組成物が、実験セクションに記載されるように測定される、10~30MPaの範囲の引張強度、および/または
実験セクションに記載されるように測定される150~400%の範囲の破断点伸び、および/または
実験セクションに記載されているように測定される14日間、90℃で0.50~4.00mg/cmの範囲の吸水性を有する、
請求項1~8のいずれかに記載の難燃性ポリマー組成物。
【請求項10】
前記ポリマー組成物が、実験セクションに記載されるように測定される34.8~50%の範囲の限界酸素指数(LOI)、および/または
、実験セクションに記載されるように測定される少なくともV-1のUL94等級、および/または
実験セクションに記載されるように測定される、50~155kW/mの範囲のピーク放熱率(pHHR)を有する、請求項1~9のいずれかに記載の難燃性ポリマー組成物。
【請求項11】
電線またはケーブルの難燃特性および/または吸水特性を改善する方法であって、請求項1~10のいずれかに記載のポリマー組成物を、前記電線またはケーブルの少なくとも1つの層で使用する、方法。
【請求項12】
請求項1~10のいずれかに記載のポリマー組成物を含む層を少なくとも1層含む、電線またはケーブル。
【請求項13】
請求項12に記載のワイヤまたはケーブルの自動車用途、ヘルスケア用途または電気器具への使用。
【請求項14】
請求項1~10のいずれかに記載のポリマー組成物の難燃特性および/または吸水特性を改善するためのリン酸ジルコニウムの使用であって、前記ポリマー組成物の全重量に基づいてリン酸ジルコニウムが該ポリマー組成物に2.0~10.0重量%の量で添加される、使用。
【請求項15】
水和フィラーを含むポリマー組成物の難燃特性および/または吸水特性を改善するためのリン酸ジルコニウムの使用であって、前記ポリマー組成物の全重量に基づいてリン酸ジルコニウムが2.0~10.0重量%の量で該ポリマー組成物に添加される、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハロゲンを含まない難燃性ポリマー組成物、特にリン酸ジルコニウムを含む難燃性ポリマー組成物に関する。本発明はさらに、上記難燃性ポリマー組成物を含む少なくとも1つの層を含むワイヤまたはケーブル、およびポリマー組成物の難燃特性を改善するためのリン酸ジルコニウムの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
多種多様な高分子材料が、電力ケーブル用の電気絶縁および半導体シールド材料として利用されてきた。こうした高分子材料は、適当な誘電特性を有することに加えてまた耐久性もなければならず、長年の使用にわたって効果的かつ安全な性能を発揮するためには、初期の特性を実質的に保持しなければならない。こうした材料は、国際規格に定められた厳しい安全要件も満たさなければならない。特にシングルケーブルもしくはケーブルの束はそれ自体が燃えてはならないまたは火を伝播させてはいけない。ケーブルの燃焼ガスは人体にできるだけ無害でなければならず、生じる煙や燃焼ガスは避難経路を見えなくしたり、腐食性であってはならない。
【0003】
建築物に使用されるケーブルに対する難燃性の要求は、例えば欧州連合内で「建築製品指令」(CPR)が導入されたことにより高まっている。CPRでは、ケーブルなどの建設材料における煙の発生、粒子の滴り落ち、および煙の酸性度についての特定の基準が設定されている。EN50575では、ケーブルの欧州クラスが定義されており、各国は現在、どのケーブルクラスを特定の建物に使用すべきかを決定している。ケーブルについては、E、D、C、およびB2のクラスが注目されている。
【0004】
EN50525に準拠した欧州の熱可塑性および架橋されたケーブル絶縁材、例えばH07Z1やH07Zケーブルは、特定の難燃性、機械的特性、乾燥電気特性を満たすことが要求されている。
【0005】
米国では、難燃性絶縁ケーブル、熱可塑性ケーブル、架橋されたケーブルは、例えばUL2556に記載されているように、難燃特性、機械的特性、湿潤電気特性に重点を置いたUL要件を満たす必要がある。
【0006】
難燃剤は、火災の拡大を抑制または食い止めるポリマーで使用される化学物質である。ワイヤやケーブルに使用されるポリマー組成物の難燃性を改善するために、まずハロゲン化物を含む化合物がポリマーに添加されていた。しかし、これらの化合物は、燃焼時にハロゲン化水素のような危険で腐食性のガスが放出されるという欠点がある。
【0007】
次に、ハロゲンを含まないポリマー組成物において高い難燃特性を達成するための1つの手法として、水和化合物やヒドロキシ化合物などの無機フィラーを多量に、通常50~60重量%添加することが行われてきた。Al(OH)やMg(OH)を含むこうしたフィラーは、200~600℃の温度で吸熱分解し、不活性ガスを放出する。多量のフィラーを使用することの欠点は、ポリマー組成物の加工性および機械的特性の低下である。
【0008】
国際公開第2014/121804号は、ポリオレフィンおよび/または極性コモノマーを含有するポリオレフィンと、相乗効果のある添加剤として金属水酸化物と無機次亜リン酸塩との組合せと、任意で他の成分とを含む、ハロゲンを含まない、熱可塑性または架橋ポリマー組成物について言及している。ポリマー組成物を使用して得られる成形品は、射出成形および押出成形の広範な用途、特にケーブルに有用である。
【0009】
米国特許出願公開第2013/0220667号明細書は、導電体ケーブルに使用するための、ハロゲンを含まない、難燃性、低発煙性、水中で良好な電気特性を示す熱可塑性絶縁材を製造するためのポリオレフィン系組成物を開示している。この組成物は、樹脂100部当たり(phr)、a)少なくとも2種のポリオレフィン系ポリマー樹脂の混合物であって、約5~約95phrの第1の軟質かつ可撓性樹脂と、約5~約95phrの第2の引張強さおよび耐熱性を提供する樹脂を含む混合物;b)約0. 2~約50phrの少なくとも1種の相溶化剤および/またはカップリング剤;c)約40~約270phrの少なくとも1種の難燃剤、d)約0.1~約15phrの少なくとも1種の酸化防止剤、およびe)約0.2~約5phrの少なくとも1種の潤滑剤を含む。少なくとも2種のポリマー樹脂の混合物である軟質かつ可撓性樹脂は、ポリエチレンビニルアセテート(EVA)、ポリエチレンブチルアクリレート(EBA)、ポリエチレンエチルアクリレート(EEA)、ポリエチレンメチルアクリレート(EMA)、鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)およびエチレンプロピレンコポリマー(EP)から選択され、少なくとも2つのポリマー樹脂の混合物の引張強度および耐熱性を提供する樹脂は、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリプロピレン(PP)およびエチレンプロピレンコポリマー(EP)から選択される。
【0010】
中国特許出願公開第104004258号明細書は、エチレン-ビニルアセテートゴム、ハロゲンを含まない難燃システムおよび加工助剤でできた低排煙のハロゲンを含まない難燃性エチレン-ビニルアセテートコポリマー樹脂を開示している。ハロゲンを含まない複合難燃システムは、無機水酸化アルミニウムまたは無機水酸化マグネシウムでできており、加工助剤は、タルク、二酸化チタン、カーボンブラックまたは架橋剤から成る。
【0011】
特開平05-74231号公報には、発火時に有害ガスを発生せず、UL44規格を満たす耐熱エージング特性を有する絶縁電線用難燃性ポリマー組成物が開示されている。このポリマー組成物は、ポリオレフィン樹脂、例えばポリエチレン、エチレン-α-オレフィンコポリマー、エチレン-プロピレン系熱可塑性エラストマー、エチレン-ビニルアセテートコポリマー、エチレン-エチルアクリレートコポリマー、エチレン-メチルメタクリレート、またはそれらの混合物で表面処理された有機ケイ素化合物を含む。組成物は、水酸化マグネシウムフィラーをさらに含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】国際公開第2014/121804号
【特許文献2】米国特許出願公開第2013/0220667号明細書
【特許文献3】中国特許出願公開第104004258号明細書
【特許文献4】特開平05-74231号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
一般に、電線およびケーブル用途のポリマー組成物における難燃フィラーの添加には、いくつかの欠点がある。難燃剤の添加率は通常高く、膨張性難燃フィラーでは約25%、三水酸化アルミニウム(ATH)または二水酸化マグネシウム(MDH)のような鉱物系難燃フィラーでは50~65%であるため、いくつかのケーブル関連特性が悪影響を受ける。難燃性ケーブルの絶縁には、機械的特性、難燃特性、電気的特性の組み合わせを必要とし、これらを組み合わせて満たすことは通常困難である。特に要求の厳しい用途としては、90℃での長期湿潤エージング電気特性が要求されるアメリカのケーブル規格UL44やUL4703がある。ハロゲンを含まない難燃性(HFFR)材料は、難燃性要件を満たすために少なくとも60重量%の鉱物フィラーの添加を必要とするため、通常、ハロゲンをベースとする材料のみがこれらの要件に合格するが、そのことは逆に湿潤エージング特性に悪影響を及ぼす。湿潤エージング中の電気的性能低下の主な原因は、鉱物フィラーにおける高い吸水度であり、水は絶縁材の導電性を増加させるため、ケーブルの過熱や短絡のリスクを増大させる。
【0014】
さらに、電線やケーブルの場合、材料が湿気にさらされると電気的、機械的および難燃特性が変化することがあるため、難燃性システムは吸湿性が高すぎてはならない。
【0015】
さらに、電線やケーブルは、湿潤エージングおよび電気特性だけでなく、火炎拡散、放熱およびチャー形成などの小規模の難燃特性を満たさなければならない。
【0016】
そのため、優れた機械的特性、電気的特性および湿潤エージング特性をなお提供しながら、難燃性規格を満たすハロゲンを含まないポリマー組成物を特定することに継続する興味が存在する。同時に、ポリマー組成物は、より効率的に、より安価に製造されるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、比較的少量のリン酸ジルコニウム(ZrP)を添加することで、従来の難燃フィラーの含有量を同時に低減しながら、火炎の広がり、熱放出およびチャー形成などの小規模の難燃特性が強力に改善され、リン系難燃添加剤で従来問題とされてきた90℃での湿潤エージングおよび電気特性は高水準のままであるという知見に基づく。さらに、ZrPの添加によって、市販の高難燃性化合物と比較して難燃性ポリマー組成物の破断点伸びおよび引張特性が改善することが分かった。
【0018】
従って、本発明は、少なくとも以下の成分を含む難燃性ポリマー組成物に関する:
(A)ポリマー組成物の全重量に基づいて、2.0~49.8重量%の極性基を有するモノマー単位を含有するエチレンコポリマー;
(C)ポリマー組成物の全重量に基づいて、30~65重量%の難燃フィラー;
(D)ポリマー組成物の全重量に基づいて、2.0~10.0重量%のリン酸ジルコニウム。
【0019】
本発明の好ましい実施形態によれば、上記成分(A)、(C)、(D)を含む難燃性ポリマー組成物は、さらに
(B)ポリマー組成物の全重量に基づいて、最大6.0重量%の無水マレイン酸に由来する単位を含むエチレンホモもしくはコポリマーおよび/またはプロピレンホモもしくはコポリマーを含むことができる。
【0020】
本発明の他の好ましい実施形態によれば、上記成分(A)、(C)、(D)および任意で(B)を含む難燃性ポリマー組成物は、さらに
(E)ポリマー組成物の全重量に基づいて最大17.0重量%の、ISO1183に従って測定される860kg/m~965kg/mの範囲の密度を有する、エチレンとC-C10アルファオレフィンコモノマーとのコポリマーを含むことができる。
【0021】
本発明の他の好ましい実施形態によれば、上記成分(A)、(C)、(D)および任意で(B)および/または(E)を含む難燃性ポリマー組成物は、さらに
(F)ポリマー組成物の全重量に基づいて、最大5重量%の以下に記載される少なくとも1種の添加剤を含むことができる。
【0022】
成分(A)~(F)は合計すると上記ポリマー組成物の全重量の100重量%になる。
【0023】
本発明はさらに、電線またはケーブルの難燃性を改善する方法であって、上記難燃性ポリマー組成物を上記電線またはケーブルの少なくとも1つの層で使用する方法に関する。さらに、本発明は、上記難燃性ポリマー組成物を含む少なくとも1つの層を含む電線またはケーブルを提供する。
【0024】
本発明の難燃性ポリマー組成物のさらなる用途は、自動車用途、ヘルスケアおよび電気器具である。
【0025】
本発明はさらに本発明のポリマー組成物を含む層を少なくとも1層含む、電線またはケーブルに関する。
【0026】
本発明はなおさらに、水和フィラーの難燃特性を改善するための、好ましくは上記難燃性ポリマー組成物の難燃特性を改善するための、リン酸ジルコニウムの使用に関する。
【0027】
ポリマー組成物は本発明の成分(A)、(C)および(D)、並びに任意で成分(B)および/または(E)および/または任意の添加剤(F)を含む。成分(A)、(C)および(D)並びに任意で成分(B)および/または(E)および/または任意の添加剤は、合計で100重量%になる。これらの限界内において、個々の各成分の上下の範囲は、他の各成分の上下の範囲と任意の組み合わせで組み合わせることができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
<成分(A)>
本発明のポリマー組成物は、成分(A)として、ポリマー組成物の全重量に基づいて2.0~49.8重量%の、エチレン単位および極性基を有するモノマー単位を含むコポリマーを含む。好ましくは、極性基を有するモノマー単位は、アクリル酸、メタクリル酸、アクリレート、メタクリレート、アセテートおよびビニルアセテート並びにそれらの混合物から成る群から選択される。
【0029】
より好ましくは、極性基は(a)ビニルカルボキシレートエステル、好ましくはビニルアセテートおよびそれらの混合物、(b)(メタ)アクリレート、好ましくはメチルアクリレートおよびそれらの混合物;(c)オレフィン性不飽和カルボン酸およびそれらの混合物;(d)(メタ)アクリル酸誘導体およびそれらの混合物;(e)ビニルエーテルおよびそれらの混合物、並びに(f)加水分解性シラン基、好ましくはビニルシラン基およびそれらの混合物を含む単位から成る群から選択される。極性基は、さらに好ましくは、アルキルアクリレート、アルキルメタクリレート、およびビニルアセテートから成る群から選択され得る。さらにより好ましくは、極性基は、C-C-アルキルアクリレート、C-C-アルキルメタクリレート、およびビニルアセテートから成る群から選択される。なおさらにより好ましくは、極性基は、メチル、エチル、プロピルもしくはブチルアクリレートまたはビニルアセテートなどのC-C-アルキルから成る群から選択される。成分(A)はまた、上記の極性基含有単位の組み合わせを含んでいてもよい。
【0030】
例えば、極性モノマー単位は、メチル、エチルおよびブチル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸のアルキルエステル並びにビニルアセテートの群から選択することができる。特に好ましい実施形態では、(A)は、エチレンビニルアセテートコポリマー、エチレンメチルアクリレートもしくはエチレンブチルアクリレートコポリマー、またはそれらの組み合わせである。
【0031】
好ましくは、ポリマー組成物中の成分(A)の含有量は、ポリマー組成物の全重量に基づいて、7.5~40.5重量%、より好ましくは15.5~32重量%、さらにより好ましくは19.8~26.7重量%の範囲である。
【0032】
好ましくは、極性基を含むエチレンコポリマー(A)は、エチレンと上記の少なくとも極性コモノマーとを共重合することによって調製される。しかし、極性基をホモまたはコポリマー骨格にグラフト化することによっても製造することができる。エチレンコポリマー(A)はまた、ターポリマー、好ましくはエチレン(メタ)アクリレートターポリマー、またはエチレンビニルアセテートターポリマーであってもよい。これらのターポリマーは、後述するシラン含有単位をさらに含んでいてもよい。
【0033】
極性コポリマーが、エチレンと極性コモノマーとを共重合することによって調製される場合、これは、好ましくは、低密度のエチレンコポリマーをもたらす高圧プロセスで、または任意の適当な触媒、例えばクロム触媒、チーグラーナッタ触媒またはシングルサイト触媒の存在下の低圧プロセスで達成される。
【0034】
好ましくは、成分(A)は、10~35モル%、より好ましくは15~30モル%またはさらにより好ましくは20~30モル%の極性コモノマー含有量を有する。
【0035】
好ましくは、成分(A)は、コポリマーの総重量に基づいて20~30重量%、好ましくは23~27重量%の範囲の極性コモノマー含有量を有するエチレンとビニルアセテートとのコポリマーである。
【0036】
好ましくは、成分(A)は、0.1~50g/10分、より好ましくは0.1~10g/10分、さらにより好ましくは0.2~3.0g/10分のメルトフローレートMFR(190℃、2.16kg)を有する。
【0037】
好ましくは、成分(A)はISO1183に従って測定される920~960kg/m、より好ましくは935~950kg/mの範囲の密度を有する。
【0038】
成分(A)はさらに、加水分解性シラン基を有する単位をさらに含んでもよく、ここで、加水分解性シラン基を有する単位は、好ましくは式(I):
【化1】
(式中、Rは好ましくはエチレン性不飽和ヒドロカルビル基、ヒドロカルビルオキシ基または(メタ)アクリロキシヒドロカルビル基であり、各Rは好ましくは独立して脂肪族飽和ヒドロカルビル基であり、同一であっても異なっていてもよいYは好ましくは加水分解性有機基であり、qは0、1または2である)で表される。架橋性シラン基を含むコモノマー単位の含有量は、成分(A)の全重量に基づいて、好ましくは0.2~4重量%である。加水分解性シラン基を含有するこうしたコモノマーまたは化合物は、所望により架橋することができる。
【0039】
成分(A)が加水分解性シラン基を有する単位を含む場合、それは、好ましくは、例えばビニルアセテートおよび/またはメチルアクリレートなどの、上記の極性コモノマー単位の1つまたは複数を含むエチレンビニルシランコポリマーであってよい。成分(A)は、さらに好ましくは、エチレンビニルシランとEVAおよびEMAとのターポリマーを包含し得る。
【0040】
単位を含むシラン基は、成分(A)のポリマー中にコモノマーとして、またはポリマーに化学的にグラフト化された化合物として存在し得る。一般に、シラン基含有コモノマーのエチレンモノマーへの共重合およびシラン基含有単位のグラフト化は、ポリマー分野でよく知られた技術であり、当業者の技術の範囲内である。
【0041】
グラフト化は、エチレンポリマーの重合後に、シラン基含有単位の化合物を、生成されたエチレンポリマーの骨格に化学的に(例えば過酸化物を用いて)導入することである。
【0042】
好ましくは、シラン基含有単位は、成分(A)のポリマー中にコモノマーとして存在する。この実施形態において、ポリマーは、好ましくは、極性コモノマーおよびシラン基含有コモノマーの存在下でエチレンモノマーを共重合することによって生成される。共重合は、好ましくは、ラジカル開始剤を用いて高圧反応器中で行われる。
【0043】
本発明の成分(A)として使用できる適当な成分は、例えば、デュポン社(米国)からElvaloy(登録商標)の商品名で、またはエクソンモービル社(米国)からEscorene(登録商標)の商品名で市販されている。
【0044】
<成分(B)>
本発明のポリマー組成物は、成分(B)として、ポリマー組成物の全重量に基づいて、0~6.0重量%の無水マレイン酸に由来する単位を含むエチレンホモもしくはコポリマーおよび/またはプロピレンホモもしくはコポリマーを含むことができる。従って、成分(B)は、本発明の難燃性組成物中に存在してもよいし、なくてもよい。
【0045】
好ましくは、成分(B)は、ポリマー組成物の全重量に基づいて、1.0~6.0重量%、好ましくは2.5~5.5重量%、より好ましくは4.0~5.2重量%、なおより好ましくは4.5~5.2重量%、さらにより好ましくは4.8~5.2重量%の範囲で、本発明のポリマー組成物中に含まれる。
【0046】
本発明に従って、成分(B)は、好ましくは、エチレンホモもしくはコポリマーと無水マレイン酸との共重合および/またはグラフト化によって得ることができ、それによってグラフト化された線状低密度ポリエチレンが好ましい。
【0047】
無水マレイン酸の含有量は、好ましくは0.15~2.0重量%、より好ましくは0.2~1.0重量%の範囲である。
【0048】
好ましくは、成分(B)は、ISO1183に従って測定される910~950kg/mの範囲、好ましくは920~940kg/mの範囲の密度を有する。
【0049】
成分(B)は、ISO1133に従って測定される0.5~5g/10分、より好ましくは1.5~2.5g/10分の範囲のMFRを有することがさらに好ましい。
【0050】
本発明に従って成分(B)として使用することができる、無水マレイン酸に由来する単位を含む適当なエチレンホモもしくはコポリマーおよび/またはプロピレンホモもしくはコポリマーは、例えばHDC Hyundai EP Co., Ltd.からPolyglue(登録商標)GE300Cの商品名、またはAuserpolimeri、イタリアからCompoline CO/LLの商品名で市販されている。
【0051】
<成分(C)>
本発明によれば、難燃性ポリマー組成物は、難燃フィラーの全重量に基づいて、30~65重量%、好ましくは30重量%~60重量%、より好ましくは40~60重量%、さらにより好ましくは50重量%以上の難燃フィラーまたはこうしたフィラーの混合物を含む。上記の重量範囲限界の各々は互いに組み合わせることができる。
【0052】
本発明において、難燃フィラーは好ましくは水和フィラーであり、より好ましくは水酸化アルミニウムおよび水酸化マグネシウム、並びにそれらの混合物から成る群から選択される。
【0053】
なおより好ましくは、成分(C)は、被覆されたまたは被覆されていない三水酸化アルミニウム、粉砕または沈殿水酸化マグネシウム、およびそれらの混合物であってもよい。
【0054】
成分(C)は、好ましくは、1~20m/gの範囲、より好ましくは5~12m/gの範囲のBET表面積を有する、粉砕または沈殿水酸化マグネシウムであってもよい。
【0055】
本発明に従って、「粉砕された水酸化マグネシウム」は、水滑石などの水酸化マグネシウムをベースとする鉱物を粉砕することによって得られる水酸化マグネシウムである。水滑石は、純粋な形態で、またはより頻繁には、方解石、アラゴナイト、タルクまたはマグネサイトのような他の鉱物との組み合わせで、大抵ケイ酸塩堆積物間の層状形態で、例えば蛇紋石アスベスト、緑泥石または片岩中で見いだされる。
【0056】
成分(C)として使用され得る適当な粉砕水酸化マグネシウムは、例えばEuropiren B.V(オランダ)からEcopiren(登録商標)3.5Cの商品名で市販されている。
【0057】
好ましいフィラーである水酸化アルミニウムフィラーは、被覆されていない三水酸化アルミニウムであり、Nabaltec AG(ドイツ)からApyral 40CDの商品名で市販されている。
【0058】
水酸化アルミニウムフィラーは、好ましくは、1~5μmの範囲のメジアン粒径d50および/または2~8m/gのBET表面積を有することができる。
【0059】
成分(C)は、好ましくは、ステアリン酸マグネシウムまたはステアリン酸亜鉛などのステアリン酸塩;シランまたはポリマー成分で表面が処理された粒子の形態で使用することができる。成分(C)はまた、表面処理なしで使用することもできる。
【0060】
<成分(D)>
本発明の難燃性ポリマー組成物は、難燃添加剤として、ポリマー組成物の全重量に基づいて2.0~10.0重量%、好ましくは2.5~8.0重量%、より好ましくは3.0~5.0重量%のリン酸ジルコニウムを含む。リン酸ジルコニウムを使用することによって、難燃フィラー(C)を単独で使用する場合よりも組成物の難燃性を驚くほど改善するというのが本発明の知見である。
【0061】
さらに驚くべきことに、上記成分(D)を指示量で添加すると、残留難燃フィラー含有量を同時に低減しながら、火炎の広がり、熱放出およびチャー形成などの小規模の難燃特性が強力に改善されることが見出された。また、他のリン系難燃添加剤で従来問題となっていた90℃での湿潤エージングおよび電気特性は良好である。
【0062】
リン酸ジルコニウムは、好ましくは、ジルコニウム(IV)水素リン酸塩、Zr(HPO・HO、CAS番号:13772-29-7であってもよい。それは白色粉末として供給される。
【0063】
それは、25℃で3.3g/mLの相対密度を有する。ジルコニウム(IV)水素リン酸塩は、層状構造を有するα、γおよびθ形態として結晶形、および3次元構造を有するτ形態で使用できる。結晶形は構造をより制御しやすく、剥離性やインターカレーション性を有する。結晶構造の中でも、ジルコニウム(IV)原子がリン酸基の酸素原子と結合し、架橋ネットワークを形成しているα-ジルコニウム(IV)水素リン酸塩が特に好ましい。同じ層では、原子は共有結合によって結合している一方で、隣接する2つの層はファンデルワールス力によって引き付けられている。P-OH基は、α-ジルコニウム(IV)水素リン酸塩の中程度の強さのブレンステッド酸性に関与しており、インターカレーション化学を可能にする。構造の柔軟性と800℃までの高い熱安定性により、難燃剤シナジストとなる可能性がある。
【0064】
<成分(E)>
本発明の難燃性ポリマー組成物は、ポリマー組成物の全重量に基づいて0~17.0重量%の、ISO1183に従って測定される860kg/m~965kg/mの範囲の密度を有するエチレンとC-C10アルファオレフィンコモノマーとのコポリマーを含むことができる。従って、成分(E)は、難燃性組成物中に存在していてもよいし、なくてもよい。
【0065】
好ましくは、ポリマー組成物中の成分(E)の含有量は、ポリマー組成物の全重量に基づいて、3.0~16.0重量%の範囲、より好ましくは5.0~12.0重量%の範囲、さらにより好ましくは6.0~11.0重量%の範囲である。
【0066】
成分(E)は、好ましくは、エチレンと1-オクテンとのコポリマーであってよく、それによって、前記コポリマーは、ISO1183に従って測定される好ましくは860kg/m~920kg/mの範囲、より好ましくは870~910kg/mの範囲、さらにより好ましくは880~905kg/mの範囲の密度を有する。
【0067】
成分(E)は、成分(A)について上述したように、加水分解性シラン基を有するコモノマー単位を含むことができる。加水分解性シラン基を含むコモノマー単位の含有量は、成分(E)の全重量に基づいて好ましくは0.2~4重量%である。
【0068】
成分(E)は、好ましくは、シングルサイト触媒を使用して生成することができ、より好ましくは、シングルサイト触媒を使用して生成されるエチレンと1-オクテンとのコポリマーである。
【0069】
成分(E)は、さらに好ましくは、加水分解性シラン基を有する単位を含むことができる。成分(A)について上記したものと同じ単位および化合物を使用できる。
【0070】
190℃および2.16kgの荷重でISO1133に従って測定される成分(E)のMFRは、好ましくは0.1~10.0g/10分の範囲であってよく、より好ましくは0.5~5g/10分の範囲であってよく、さらにより好ましくは0.5~3g/10分の範囲であってよく、なおさらにより好ましくは1.0~3.0g/10分の範囲であってもよい。
【0071】
エチレンと1-ヘキセンの単位から成るコポリマーは、好ましくは成分(E)としてさらに使用できる。成分(E)はまた、エチレンと1-オクテンとのコポリマーと、エチレンと1-ヘキセンとのコポリマーとの混合物であってもよい。
【0072】
エチレンと1-ヘキセンとの単位から成る好ましいコポリマーは、成分(E)の全重量に基づいて、0.02~15重量%の範囲、より好ましくは0.5~5.0重量%の範囲の1-ヘキセンの含有量を有する。好ましくは、エチレンと1-ヘキセンとの前記コポリマーの密度は、ISO1183に従って測定される920kg/m~965kg/mの範囲、より好ましくは930~960kg/mの範囲、さらにより好ましくは945~955kg/mの範囲である。
【0073】
190℃および21.6kgの荷重でISO1133に従って測定される、エチレンと1-ヘキセンとの前記共重合体のMFRは、好ましくは2.0~40.0g/10分の範囲、より好ましくは3.0~30.0g/10分の範囲、さらにより好ましくは4.0~20.0g/10分の範囲、なおさらにより好ましくは5.0~15.0g/10分の範囲であってもよい。
【0074】
成分(E)として適当に使用できるエチレンと1-オクテンとのコポリマーは、例えばBorealis AG(オーストリア)からQueo(登録商標) 0201、Queo(登録商標)8201またはQueo(登録商標)8203の商品名で市販されている。
【0075】
成分(E)として適当に使用できるエチレンと1-ヘキセンとのコポリマーも、例えばBorealis AG(オーストリア)からBorsafe(登録商標)HE3490-LS-HまたはBorsafe(登録商標)HE3493-LS-Hの商品名で市販されている。
【0076】
<添加剤>
本発明のポリマー組成物は添加剤も含むことができる。
【0077】
好ましくは、本発明の難燃性ポリマー組成物は、好ましくは、滑り剤、UV安定剤、酸化防止剤、添加剤担体、核剤、雲母およびそれらの混合物から成る群から選択される少なくとも1種の添加剤を含み、それによって、これらの添加剤は、好ましくは、ポリマー組成物の全重量に基づいて、0.01~5重量%の量で、より好ましくは、0.1~4重量%の量で存在する。本発明の難燃性ポリマー組成物は、ポリマー組成物の全重量に基づいて、好ましくは雲母をより好ましくは、2.5~3.5重量%の量でさらに含むことができる。
【0078】
本発明の難燃性ポリマー組成物は、好ましくは、立体障害フェノール基または脂肪族硫黄基を含む酸化防止剤を含むことができる。こうした化合物は、加水分解性シラン基を含有するポリオレフィンの安定化に特に適当な酸化防止剤として欧州特許出願公開第1254923号明細書に開示されている。他の好ましい酸化防止剤は、国際公開第2005/003199号に開示されている。好ましくは、酸化防止剤は、ポリマー組成物の全重量に基づいて、0.01~3重量%、より好ましくは0.05~2重量%、最も好ましくは0.08~1.5重量%の量で組成物中に存在する。
【0079】
本発明の難燃性ポリマー組成物が架橋されている場合、スコーチ遅延剤を含んでいてもよい。スコーチ遅延剤は、欧州特許出願公開第0449939号明細書に記載されているようなシラン含有スコーチ遅延剤であってもよい。該当する場合、スコーチ遅延剤は、組成物の全重量に基づいて、0.3重量%~5.0重量%の量で組成物中に存在していてもよい。
【0080】
<ポリマー組成物>
本発明のポリマー組成物は、少なくとも成分(A)、(C)および(D)を含み、任意にさらに成分(B)、(E)および(F)の少なくとも1つを含む。本発明の好ましい実施形態は、実施例の項に記載されている。
【0081】
成分(A)~(F)は、上記で詳細に考察したような量で、パラメーターおよび特性を含めて、ポリマー組成物に導入することができる。1つの個別の成分の全範囲を、他の成分のいずれかの各範囲と任意の優先レベルで組み合わせることができる。
【0082】
本発明のポリマー組成物は、改善された難燃性、特に熱放出率およびUL94等級、引張強度および破断点伸びなどの機械的特性、並びに低吸水性の優れた組み合わせを示す。
【0083】
本発明のポリマー組成物の具体的に好ましい実施形態は、15.5~32重量%、より好ましくは19.8~26.7重量%の成分(A)、2.5~5.5重量%、より好ましくは4.0~5.2重量%、なおより好ましくは4.5~5.2重量%、さらにより好ましくは4.8~5.2重量%の成分(B)、40~60重量%、より好ましくは50重量%以上の成分(C)、2.5~8重量%、より好ましくは3.0~5.0重量%の成分(D)、および5.0~12.0重量%、より好ましくは6.0~11.0重量%の成分(E)を包含し得る。
【0084】
これらの実施形態のいずれか1つの範囲内で、本発明のポリマー組成物は、2.0g/10分などの0.2~3.0g/10分の範囲のMFR、948kg/mなどの935~950kg/mの範囲の密度を有する成分(A)を包含し得、上記範囲内で、任意に、極性コモノマー単位を含むことができる。このような好ましい成分(A)は、さらに好ましくは、エチレンビニルシランとEVAおよびEMAとのターポリマーを包含してもよく、さらに好ましくは、エチレンとビニルアセテート(EVA)とのコポリマーであってもよい。
【0085】
これらの実施形態のいずれか1つの範囲内において、本発明のポリマー組成物は、1.8g/10分などの1.5~2.5g/10分の範囲のMFR、930kg/mなどの920~940kg/mの範囲の密度を有する成分(B)を包含し得、上記の範囲内において、さらに好ましくは、無水マレイン酸でグラフト化された線状低密度ポリエチレン(無水マレイン酸含有量=0.15~2.0重量%、より好ましくは0.5~1.0重量%)を包含し得る。
【0086】
これらの実施形態のいずれか1つの範囲内で、本発明のポリマー組成物は、1.5μmなどの1~5μmの範囲のメジアン粒径d50および/または3.5m/gなどの2~8m/gのBET表面積を有する、被覆されていない三酸化アルミニウムである成分(C)を包含し得る。
【0087】
これらの実施形態のいずれか1つの範囲内で、本発明のポリマー組成物は、ジルコニウム(IV)水素リン酸塩、Zr(HPO・HO、より好ましくはα-形態であり、25度で3.3g/mLの相対密度を有する成分(D)を包含し得る。
【0088】
これらの実施形態のいずれか1つの範囲内で、本発明のポリマー組成物は、190℃および2.16kgの荷重でISO1133に従って測定される、1.0g/10分などの0.5~3g/10分の範囲のMFR、ISO1183に従って測定される、902kg/mなどの870~910kg/mの範囲、より好ましくは880~905kg/mの範囲の密度を有する成分(E)を包含し得、上記の範囲内で、さらに好ましくはエチレンと1-オクテンとの超低密度コポリマーを包含し得る。
【0089】
これらの実施形態のいずれか1つの範囲内で、本発明のポリマー組成物は、0.01~5重量%、より好ましくは0.1~4重量%の範囲の成分(F)を包含し得、0.2重量%などの0.05~2重量%、より好ましくは0.08~1.5重量%の範囲の酸化防止剤を含み得る。
【0090】
上述した実施形態のいずれか1つは、優先レベルに関係なく、示された数値範囲の任意の組み合わせで互いに組み合わせることができる。上記の好ましい実施形態のいずれか1つは、機械的特性を高レベルで維持しながら、限界酸素指数(LOI)、UL94等級、ピーク熱放出率(pHRR)を含む改善された難燃特性、低減された吸水性などの特性の上述の好ましい組み合わせを示す。
【0091】
特に、本発明のポリマー組成物の上記の好ましい実施形態のいずれかは、実験セクションに記載されるように測定される、少なくとも10MPa、より好ましくは10~30MPaの範囲の引張強さ、および/または、実験セクションに記載されるように測定される、少なくとも150%、より好ましくは150~400%の範囲の破断点伸び、および/または、実験セクションに記載されるように測定される、4.00mg/cm(14日間、90℃)以下、より好ましくは0.50~3.50mg/cm(14日間、90℃)の範囲の吸水性、および/または実験セクションに記載されているように測定される少なくとも34.8%、より好ましくは35~50%の範囲の限界酸素指数(LOI)、および/または実験セクションに記載されているように測定される少なくともV-1、より好ましくはV-2のUL94等級、および/または実験セクションに記載されているように測定される155kW/m以下、より好ましくは50~150kW/mの範囲のピーク熱放出率(pHHR)を示し得る。
【0092】
本発明の好ましい難燃性ポリマー組成物は、以下の成分を含み、好ましくはこれらの成分から成る:
(A)ポリマー組成物の全重量に基づいて、2.0~49.8重量%、好ましくは20~30重量%の極性基を有するモノマー単位を含有するエチレンコポリマー、好ましくはエチレンビニルアセテート;
(B)ポリマー組成物の全重量に基づいて、最大6.0重量%、好ましくは4.5~5.5重量%の無水マレイン酸、好ましくはMAHグラフト化LLDPEに由来する単位を含むエチレンホモもしくはコポリマーおよび/またはプロピレンホモもしくはコポリマー;
(C)ポリマー組成物の全重量に基づいて、30~65重量%、好ましくは48~52重量%の難燃フィラー、好ましくは三水酸化アルミニウム;
(D)ポリマー組成物の全重量に基づいて、2.0~10.0重量%、好ましくは2.5~5.5重量%のリン酸ジルコニウム;
(E)ポリマー組成物の全重量に基づいて最大17.0重量%、好ましくは9~11重量%の、ISO1183に従って測定される860kg/m~965kg/mの範囲の密度を有する、エチレンとC-C10アルファオレフィンコモノマーとのコポリマー、好ましくはエチレンと1-オクテンとのコポリマー。
【0093】
<ワイヤまたはケーブル>
本発明はさらに、本発明の難燃性ポリマー組成物を含む少なくとも1つの層を含むワイヤまたはケーブルに関する。
【0094】
好ましくは、本発明の難燃性ポリマー組成物を含む少なくとも1つの層は架橋されていてもよい。
【0095】
ワイヤまたはケーブルは、導電性コア上に異なる層を共押出しすることによって製造できる。次いで、任意に架橋が行われ、成分(A)が架橋性シラン基を含むコモノマー単位を含む場合は、好ましくは湿気硬化によって架橋が行われ、ここでシラン基は水または蒸気の影響下で加水分解される。湿気硬化は、好ましくは70~100℃のサウナまたは水浴中、または周囲条件で行われる。
【0096】
本発明のポリマー組成物は、ワイヤもしくはケーブルの周囲に押し出して絶縁もしくは外被層を形成できる、または敷設用コンパウンドとして使用できる。好ましくは、電力ケーブルの絶縁層に含まれる。
【0097】
その後、ポリマー組成物は任意に架橋される。
【0098】
ワイヤまたはケーブルは、好ましくは、架橋ポリエチレンまたは熱可塑性ポリエチレン、熱可塑性ポリプロピレンまたは難燃性ポリオレフィンから成る群から選択される材料を含むまたはから成る絶縁層を含むことが好ましい。適当な難燃性ポリオレフィンは、特に国際公開第2013/159942号に記載されている。適した熱可塑性絶縁材は、例えば国際公開第2007/137711号または国際公開第2013/1599442号に開示されており、例えばBorealis AG(オーストリア)からFR4802、FR4803、FR4807、FR6082、FR6083およびFR4804の商標名で市販されている。市販の架橋性絶縁材も、Borealis AG(オーストリア)からFR4850およびFR4851の商標名で入手できる。
【0099】
低電圧電力ケーブルの絶縁層は、用途に応じて0.4mm~3.0mmの範囲、好ましくは2.0mm未満の厚さを有し得る。好ましくは、絶縁材が導電体に直接コーティングされる。
【0100】
<使用>
本発明はさらに、ワイヤまたはケーブルの難燃層としての本発明の難燃性ポリマー組成物の使用に関する。
【0101】
本発明のポリオレフィン組成物の難燃層としての使用は、その架橋を含むことができる。
【0102】
本発明はさらに、上記のような水和フィラー、または水和フィラーを含むポリマー組成物、好ましくは上記で定義した少なくとも成分(A)および(C)を含むポリマー組成物の難燃特性および/または吸水特性を改善するためのリン酸ジルコニウムの使用に関し、リン酸ジルコニウムは、ポリマー組成物の全重量に基づいて2.0~10.0重量%の量でポリマー組成物に添加される。
【0103】
本発明はさらに、ワイヤまたはケーブルの難燃特性および/または吸水特性を改善する方法に関し、上記で定義したポリマー組成物をワイヤまたはケーブルの少なくとも1つの層に使用する。
【0104】
本発明の難燃性ポリマー組成物は、自動車用途、ヘルスケア用途、電気器具に特に有用である。
【0105】
上述したすべての好ましい態様および実施形態は、本発明の使用にも当てはまるものとする。
【0106】
ここで、本発明を以下の非限定的な実施例を参照して説明する。
【実施例
【0107】
実験部分
A.測定方法
以下の用語の定義および測定方法は、特に定義しない限り、上記の本発明の一般的説明および以下の実施例に適用される。
【0108】
1.メルトフローレート(MFR)
MFRはISO1133(Daventest社のDavenport R-1293)に従って測定した。MFR値を190℃で2.16kg(MFR)と21.6 kg(MFR21)の2つの異なる荷重で測定した。
【0109】
2.密度
密度はISO1183-1-方法A(2019)に従って測定した。試料の調製はISO1872-2:2007に従って圧縮成形で行った。
【0110】
3.成分A中のコモノマー含有量
ポリマー中に存在する極性コモノマーの含有量(重量%およびモル%)並びにポリマー組成物中に存在するシラン基含有単位の含有量(重量%およびモル%)は、定量核磁気共鳴(NMR)分光法によって測定した。
【0111】
400.15 MHzで動作するBruker Advance III 400 NMRスペクトロメーターを使用して、溶液状態で記録された定量H NMRスペクトル。すべてのスペクトルを標準的な広帯域インバース5mmプローブヘッドを使用し、100℃で、窒素ガスをすべての空気圧に使用して記録した。安定剤としてジターシャリブチルヒドロキシトルエン(BHT)(CAS 128-37-0)を用い、約200mgの材料を1,2-テトラクロロエタン-d(TCE-d)に溶解した。30度のパルス、3秒の緩和遅延を用いる標準的なシングルパルス励起を使用し、試料回転は行わなかった。2つのダミースキャンを使用して、1スペクトル当たり合計16の過渡信号を取得した。FIDごとに合計32kのデータポイントを60μsの待機時間で収集したが、これは約20ppmのスペクトルウィンドウに相当する。FIDをその後64kデータポイントまでゼロフィルし、0.3Hzの線幅拡大を有する指数窓関数を適用した。このセットアップは主に同じポリマー中に存在するメチルアクリレートとビニルトリメチルシロキサンの共重合から生じる定量的な信号を分解する能力で選択した。
【0112】
定量的H NMRスペクトルを処理し、積分し、カスタムスペクトル分析自動化プログラムを使用して定量的特性を決定した。すべての化学シフトは5.95ppmの残留プロトン化溶媒信号に対して内部参照した。
【0113】
存在する場合、ビニルアセテート(VA)、メチルアクリレート(MA)、ブチルアクリレート(BA)およびビニルトリメチルシロキサン(VTMS)のさまざまなコモノマー配列の導入から生じる特徴的な信号が観察された(Randell89)。すべてのコモノマー含有量は、ポリマー中に存在する他のすべてのモノマーに対して計算した。
【0114】
ビニルアセテート(VA)の導入は、*VA部位に割り当てられた4.84ppmの信号の積分値を用いて定量し、コモノマー当たりの報告核数を考慮し、BHT由来のOHプロトンが存在する場合はその重なりを補正した:
【数1】
【0115】
メチルアクリレート(MA)の導入は、コモノマー当たりの報告核数を考慮し、1MA部位に割り当てられた3.65ppmの信号の積分値を用いて定量した:
【数2】
【0116】
ブチルアクリレート(BA)の導入は、コモノマー当たりの報告核数を考慮し、4BA部位に割り当てられた4.08ppmの信号の積分値を用いて定量した:
【数3】
【0117】
ビニルトリメチルシロキサンの導入は、コモノマー当たりの報告核数を考慮し、1VTMS部位に割り当てられた3.56ppmの信号の積分値を用いて定量した:
【数4】
【0118】
安定剤としてBHTを追加使用した結果、特徴的なシグナルが観察された。
BHT含有量は、ArBHT部位に割り当てられた6.93ppmのシグナルの積分値を用いて定量した:
【数5】
【0119】
エチレンコモノマー含有量は、0.00~3.00ppmの脂肪族バルク(bulk)信号の積分値を用いて定量した。この積分値には、単離されたビニルアセテート導入からの1VA(3)およびαVA(2)部位、単離されたメチルアクリレート導入からのMAおよびαMA部位、単離されたブチルアクリレート導入からの1BA(3)、2BA(2)、3BA(2)、BA(1)およびαBA(2)部位、単離されたビニルシラン導入からのVTMSおよびαVTMS部位およびBHTからの脂肪族部位、並びにポリエチレン配列からの部位が含まれ得る。全エチレンコモノマー含有量は、バルク積分値に基づいて計算し、観察されたコモノマー配列とBHTを補正した:
【数6】
【0120】
バルク信号のα信号の半分はコモノマーではなくエチレンを表し、結合した分岐部位がない2つの飽和鎖末端(S)を補正することができないために、取るに足らない誤差が生じることに留意すべきである。
【0121】
ポリマー中の所与のモノマー(M)の全モル分率は、次のように計算した:
【数7】
【0122】
所与のモノマー(M)の全コモノマー導入量(モル%)は、標準的な方法でモル分率から計算した:
【数8】
【0123】
所与のモノマー(M)の全コモノマー導入量(重量%)は、標準的な方法でモノマーのモル分率と分子量(MW)から計算した:
【数9】
【0124】
randall89: J. Randall, Macromol. Sci., Rev. Macromol. Chem. Phys. 1989, C29, 201.
【0125】
他の特定の化学種からの特徴的な信号が観察された場合、定量および/または補正のロジックは、特定の化学種に使用されるものと同様の方法で拡張できる。すなわち、特徴的な信号の同定、特定の信号または複数の信号の積分による定量化、報告された核数のスケーリング、バルク積分値および関連計算における補正である。このプロセスは、問題となっている特定の化学種に特化しているが、手法はポリマーの定量NMR分光法の基本原理に基づいているため、必要に応じて当業者によって実施できる。
【0126】
4.メジアン粒径(d50)
金属水酸化物のメジアン粒径は、レーザー回折(ISO13320)、動的光散乱(ISO22412)またはふるい分析(ASTMD1921-06)によって測定できる。実施例で使用した金属水酸化物について、メジアン粒径d50の測定はレーザー回折法によって行った。特許請求の範囲のいかなる制限も、レーザー回折(ISO13320)から得られた値を指すものとする。
【0127】
5.BET表面積
BET表面積はISO9277(2010)に従って測定する。
【0128】
6.引張強さと破断伸度の測定に使用するテープの製造
引張強さと破断点伸びを測定するために、直径20mmの4.2:1、20D圧縮スクリューを備えたCollin TeachLine E20 Tテープ押出機でテープ(1.8mm)を製造した。温度プロファイルは120/140/150/160℃、スクリュー速度は55rpmであった。
【0129】
7.引張試験
引張試験は、ISO527-1およびISO527-2に従って、Alwetron TCT 10引張試験機を用いて実施した。ISO527-2/5A試験片を用いてプラークから10個の試験片を打ち抜き、相対湿度50±5%、温度23℃の気候室に試験前に少なくとも16時間置いた。試験片を50±2mmの距離のクランプ、20mmの距離の伸び計クランプ、1kNのロードセルの間に垂直に置いた。試験を実施する前に、すべての試料の正確な幅と厚さを測定し、記録した。各試料棒は、破断するまで50mm/分の一定速度で引張試験を行い、少なくとも6回の承認された並列試験を行った。高充填システムでは、一般に結果に大きなばらつきがあるため、破断点伸び(%)と引張強さ(MPa)の単一の値を抽出するためにメジアン値を使用した。
【0130】
8.圧縮成形
ISO293に従って、限界酸素指数とUL94燃焼性試験(Collin R 1358, edition: 2/060510)用のプラークを準備した。ペレットを2枚のマイラーフィルムシートの間にプレスし、正確な形状と寸法(140×150×3mm)の枠の中に配置した。試料を170℃で20バールの圧力を1分間かけた後、同じ温度で5分間200バールの圧力をかけることによってプレスした。残りの圧縮は、同じ高圧で9分間、15℃/分の冷却速度で行った。各プラークに使用したペレットの量は、材料の密度を用いて10重量%過剰に計算した。
【0131】
9.限界酸素指数
限界酸素指数(LOI)は、ASTM D 2863-87およびISO4589 [38]に基づく試験法に従って実施した。LOI用の試験片10枚を前述のプレスしたプラークから型抜きした。試験片の長さは12.5±0.5mmであった。棒の先端から50mmで線を引いた。試料スティックを、酸素と窒素の所定の雰囲気があるガラス容器に垂直に置いた。試料を点火前に30秒間以上、所定の雰囲気にさらした。外部の炎に5秒間接触している間に、スティックは試験片の頂部で点火した。スティックが3分後もまだ燃えている、または炎が測定した50mmを越えて燃え落ちていれば、試験は不合格であった。試験片が試験に合格するまでさまざまな酸素と窒素の比率を試験し、現在の酸素のパーセンテージを記録した。
【0132】
10.UL94に準拠した燃焼性試験
アンダーライターズラボラトリーズ(UL)によるUL94試験は、プラスチックの燃焼性の分類方法を規定している。IEC/DIN EN 60695-11-10および-20と同等である。
【0133】
圧縮成形したプラークから125×13×3mmの試料を打ち抜いた。試料は、試験前に23℃、50%RHで少なくとも48時間コンディショニングした。UL94試験はアトラスHVULのUL94試験室で行った。試験対象物の底面から10mmでバーナー先端を垂直に設置した50Wバーナーで試験試料を10秒間点火する。炎は約20mmである。試料の消火までの時間をt1とし、試料が消火した後、炎を再び10秒間当て、消火するまでの時間をt2とする。試料の滴り、または試験対象物の完全燃焼を記録する。分類はV-0、V-1またはV-2である。
【表1】
【0134】
11.コーンカロリーメーター
コーンカロリーメーター(Fire Testing Technology社製デュアルコーンカロリーメーター、FTT)法は、ISO5660に従って実施した。上記のように調製したプラークを、相対湿度50±5%、温度23℃の気候室に、試験前に24時間以上置いた。試験を初期化する前に、発煙システム、ガス分析器、c-ファクター値、熱流束および目盛りをソフトウェアConeCalc5で較正した。乾燥助剤とバルストンフィルターをチェックし、必要ならば交換した。試料プラークの重量を測定し、正確な寸法を測定した後、底面と側面を0.3mm厚さのアルミホイルで包み、繊維ブランケットとフレームを上部に詰めた試料ホルダーに設置した。試料を熱流束35kW/m、体積流量24L/minのコーンラジエントヒーターから60mmのローディングセル上の水平位置に置いた。ISO5660-1:2019に従って、FTTコーンカロリーメーターで特に熱放出率、着火までの時間、および発煙量の試験を行った。試験対象物は100×100×3mmの圧縮成形されたプラークであった。最大熱放出をピーク熱放出率(pHRR)として記録する。
【0135】
12.吸水性
吸水性はIEC 60811-402: 2012に従って測定した。試験対象物は約80×6×0.8mmで、真空下70℃で24時間予備乾燥した。その後、試料の重量を測定し、続いて90℃の脱イオン水に14日間浸漬した。試料を水中で冷却し、その後水から引き上げ、表面の水分を拭き取った後、再度重量を測定した。最後に、試料を70℃の真空下で重量が一定になるまで再度乾燥させた。吸水性はmg/cmとして記載した、ここでcmは試験対象物の表面積である。
【0136】
B.材料
成分A
「EVA」は、2.0g/10分のMFR、948kg/mの密度を有するエチレンとビニルアセテートとのコポリマー(重量比=75:25)であり、Borealis社からOE5325Iの名称で市販されている。
【0137】
成分B
「LLDPE-MAH」は、無水マレイン酸でグラフト化された線状低密度ポリエチレン(無水マレイン酸含有量=0.5~1.0重量%、MFR=1.8g/10分、密度=930kg/m)で、Auserpolimeri社からCompoline CO/LLの名称で市販されている。
【0138】
成分C
「ATH」は、d50=1.5μm、BET=3.5m/gの被覆されていない三酸化アルミニウム(ATH)である。化学組成はATH99.5%、NA2=0.011%、
水分0.2%。
【0139】
成分D
「ZrP」はα-ジルコニウム(IV)リン酸水素塩であり、中国のSunshine Factory Co.,Ltd.製。
【0140】
成分E
「VLDPE」は、902kg/mの密度と1.0g/10分のMFRを有するエチレンと1-オクテンとの非常に低密度のコポリマーであり、Borealis AG(オーストリア)からQueo 0201として市販されている。
【0141】
添加剤
「Irg1010」は酸化防止剤で、ペンタエリスリトールテトラキス[3-[3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル]プロピオネートであり、ドイツのBASF社から市販されている。
【0142】
表1は比較例および本発明例のポリマー組成物の成分および特性を示している。
【表2】
【0143】
以上の結果から、IE1の組成物は、リン酸ジルコニウムを含まないCE1と比較して、機械的特性を高レベルで維持しながら、LOI、UL94等級およびpHRRなどの難燃特性の改善、吸水性の低減が達成されていることがわかる。
【0144】
濃度を下げたリン酸ジルコニウムを含むIE2は、機械的特性は同等であると同時に、吸水性、LOI、pHRRはなお改善されている。
【0145】
さらに、本発明の実施例の上記の優れた特性は、難燃フィラーのレベルを下げても得られることに留意すべきである。
【0146】
従って、難燃剤シナジストとして比較的少量のリン酸ジルコニウムを添加することで、機械的特性を高レベルで維持しながら、ポリマー組成物の小規模の難燃性と吸水性を著しく改善することが明らかである。
【手続補正書】
【提出日】2024-06-10
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも以下の成分を含む難燃性ポリマー組成物:
(A)ポリマー組成物の全重量に基づいて、2.0~49.8重量%の、極性基を有するモノマー単位を含有するエチレンコポリマー;
(C)ポリマー組成物の全重量に基づいて、30~65重量%の難燃フィラー;
(D)ポリマー組成物の全重量に基づいて、2.0~10.0重量%のリン酸ジルコニウム。
【請求項2】
成分(A)の極性基を有する前記モノマー単位が、(a)ビニルカルボキシレートエステル、好ましくはビニルアセテート、およびそれらの混合物;(b)(メタ)アクリレート、好ましくはメチルアクリレート、およびそれらの混合物;(c)オレフィン性不飽和カルボン酸、およびそれらの混合物;(d)(メタ)アクリル酸誘導体、およびそれらの混合物;(e)ビニルエーテル、およびそれらの混合物、並びに(f)加水分解性シラン基、好ましくはビニルシラン基、およびそれらの混合物を含む単位から成る群から選択される、請求項1に記載の難燃性ポリマー組成物。
【請求項3】
成分(A)が10~35モル%の極性コモノマー含有量を有する、および/または、成分(A)が0.1~50g/10分のメルトフローレートMFR(190℃、2.16kg)を有する、請求項1に記載の難燃性ポリマー組成物。
【請求項4】
成分(C)の前記難燃フィラーが、水酸化アルミニウムおよび水酸化マグネシウム並びにそれらの混合物、好ましくは三水酸化アルミニウム、粉砕または沈殿水酸化マグネシウム並びにそれらの混合物から成る群から選択される水和フィラーである、請求項1に記載の難燃性ポリマー組成物。
【請求項5】
(B)ポリマー組成物の全重量に基づいて、最大6.0重量%の無水マレイン酸に由来する単位を含むエチレンホモもしくはコポリマーおよび/またはプロピレンホモもしくはコポリマー;および/または
(E)ポリマー組成物の全重量に基づいて最大17.0重量%の、ISO1183に従って測定される860kg/m~965kg/mの範囲の密度を有する、エチレンとC-C10アルファオレフィンコモノマーとのコポリマー
をさらに含む、請求項1に記載の難燃性ポリマー組成物。
【請求項6】
成分(E)がエチレンと1-オクテンとのコポリマーを含み;それによって前記コポリマーが
ISO1183に従って測定される870kg/m~910kg/mの範囲の密度;および/または
ISO1133に従って190℃、2.16kgの荷重で測定される、0.1~10.0g/10分の範囲のMFRを有する、請求項5に記載の難燃性ポリマー組成物。
【請求項7】
成分(B)が、ポリエチレンと無水マレイン酸との共重合および/またはグラフト重合によって得られ、それによって無水マレイン酸の含有量が0.15~2.0重量%の範囲である;および/または
成分(B)が、ISO1183に従って測定される910~950kg/mの範囲の密度を有する、および/または
成分(B)が、ISO1133に従って測定される0.5~5g/10分の範囲のMFRを有する;および/または
成分(B)が、無水マレイン酸でグラフト化された線状低密度ポリエチレンである、請求項5に記載の難燃性ポリマー組成物。
【請求項8】
成分(A)および/または成分(E)が、加水分解性シラン基を含むコモノマー単位を含む、請求項1に記載の難燃性ポリマー組成物。
【請求項9】
前記ポリマー組成物が、実験セクションに記載されるように測定される、10~30MPaの範囲の引張強度、および/または
実験セクションに記載されるように測定される150~400%の範囲の破断点伸び、および/または
実験セクションに記載されているように測定される14日間、90℃で0.50~4.00mg/cmの範囲の吸水性を有する、
請求項1に記載の難燃性ポリマー組成物。
【請求項10】
前記ポリマー組成物が、実験セクションに記載されるように測定される34.8~50%の範囲の限界酸素指数(LOI)、および/または
、実験セクションに記載されるように測定される少なくともV-1のUL94等級、および/または
実験セクションに記載されるように測定される、50~155kW/mの範囲のピーク放熱率(pHHR)を有する、請求項1に記載の難燃性ポリマー組成物。
【請求項11】
電線またはケーブルの難燃特性および/または吸水特性を改善する方法であって、請求項1に記載のポリマー組成物を、前記電線またはケーブルの少なくとも1つの層で使用する、方法。
【請求項12】
請求項1に記載のポリマー組成物を含む層を少なくとも1層含む、電線またはケーブル。
【請求項13】
請求項12に記載のワイヤまたはケーブルの自動車用途、ヘルスケア用途または電気器具への使用。
【請求項14】
請求項1に記載のポリマー組成物の難燃特性および/または吸水特性を改善するためのリン酸ジルコニウムの使用であって、前記ポリマー組成物の全重量に基づいてリン酸ジルコニウムが該ポリマー組成物に2.0~10.0重量%の量で添加される、使用。
【請求項15】
水和フィラーを含むポリマー組成物の難燃特性および/または吸水特性を改善するためのリン酸ジルコニウムの使用であって、前記ポリマー組成物の全重量に基づいてリン酸ジルコニウムが2.0~10.0重量%の量で該ポリマー組成物に添加される、使用。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0146
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0146】
従って、難燃剤シナジストとして比較的少量のリン酸ジルコニウムを添加することで、機械的特性を高レベルで維持しながら、ポリマー組成物の小規模の難燃性と吸水性を著しく改善することが明らかである。
本明細書の当初の開示は、少なくとも下記の態様を包含する。
[1]少なくとも以下の成分を含む難燃性ポリマー組成物:
(A)ポリマー組成物の全重量に基づいて、2.0~49.8重量%の、極性基を有するモノマー単位を含有するエチレンコポリマー;
(C)ポリマー組成物の全重量に基づいて、30~65重量%の難燃フィラー;
(D)ポリマー組成物の全重量に基づいて、2.0~10.0重量%のリン酸ジルコニウム。
[2]成分(A)の極性基を有する前記モノマー単位が、(a)ビニルカルボキシレートエステル、好ましくはビニルアセテート、およびそれらの混合物;(b)(メタ)アクリレート、好ましくはメチルアクリレート、およびそれらの混合物;(c)オレフィン性不飽和カルボン酸、およびそれらの混合物;(d)(メタ)アクリル酸誘導体、およびそれらの混合物;(e)ビニルエーテル、およびそれらの混合物、並びに(f)加水分解性シラン基、好ましくはビニルシラン基、およびそれらの混合物を含む単位から成る群から選択される、前記[1]に記載の難燃性ポリマー組成物。
[3]成分(A)が10~35モル%の極性コモノマー含有量を有する、および/または、成分(A)が0.1~50g/10分のメルトフローレートMFR(190℃、2.16kg)を有する、前記[1]または[2]に記載の難燃性ポリマー組成物。
[4]成分(C)の前記難燃フィラーが、水酸化アルミニウムおよび水酸化マグネシウム並びにそれらの混合物、好ましくは三水酸化アルミニウム、粉砕または沈殿水酸化マグネシウム並びにそれらの混合物から成る群から選択される水和フィラーである、前記[1]~[3]のいずれかに記載の難燃性ポリマー組成物。
[5](B)ポリマー組成物の全重量に基づいて、最大6.0重量%の無水マレイン酸に由来する単位を含むエチレンホモもしくはコポリマーおよび/またはプロピレンホモもしくはコポリマー;および/または
(E)ポリマー組成物の全重量に基づいて最大17.0重量%の、ISO1183に従って測定される860kg/m ~965kg/m の範囲の密度を有する、エチレンとC -C 10 アルファオレフィンコモノマーとのコポリマー
をさらに含む、前記[1]~[4]のいずれかに記載の難燃性ポリマー組成物。
[6]成分(E)がエチレンと1-オクテンとのコポリマーを含み;それによって前記コポリマーが
ISO1183に従って測定される870kg/m ~910kg/m の範囲の密度;および/または
ISO1133に従って190℃、2.16kgの荷重で測定される、0.1~10.0g/10分の範囲のMFR を有する、前記[5]に記載の難燃性ポリマー組成物。
[7]成分(B)が、ポリエチレンと無水マレイン酸との共重合および/またはグラフト重合によって得られ、それによって無水マレイン酸の含有量が0.15~2.0重量%の範囲である;および/または
成分(B)が、ISO1183に従って測定される910~950kg/m の範囲の密度を有する、および/または
成分(B)が、ISO1133に従って測定される0.5~5g/10分の範囲のMFR を有する;および/または
成分(B)が、無水マレイン酸でグラフト化された線状低密度ポリエチレンである、前記[5]または[6]に記載の難燃性ポリマー組成物。
[8]成分(A)および/または成分(E)が、加水分解性シラン基を含むコモノマー単位を含む、前記[1]~[7]のいずれかに記載の難燃性ポリマー組成物。
[9]前記ポリマー組成物が、実験セクションに記載されるように測定される、10~30MPaの範囲の引張強度、および/または
実験セクションに記載されるように測定される150~400%の範囲の破断点伸び、および/または
実験セクションに記載されているように測定される14日間、90℃で0.50~4.00mg/cm の範囲の吸水性を有する、
前記[1]~[8]のいずれかに記載の難燃性ポリマー組成物。
[10]前記ポリマー組成物が、実験セクションに記載されるように測定される34.8~50%の範囲の限界酸素指数(LOI)、および/または
、実験セクションに記載されるように測定される少なくともV-1のUL94等級、および/または
実験セクションに記載されるように測定される、50~155kW/m の範囲のピーク放熱率(pHHR)を有する、前記[1]~[9]のいずれかに記載の難燃性ポリマー組成物。
[11]電線またはケーブルの難燃特性および/または吸水特性を改善する方法であって、前記[1]~[10]のいずれかに記載のポリマー組成物を、前記電線またはケーブルの少なくとも1つの層で使用する、方法。
[12]前記[1]~[10]のいずれかに記載のポリマー組成物を含む層を少なくとも1層含む、電線またはケーブル。
[13]前記[12]に記載のワイヤまたはケーブルの自動車用途、ヘルスケア用途または電気器具への使用。
[14]前記[1]~[10]のいずれかに記載のポリマー組成物の難燃特性および/または吸水特性を改善するためのリン酸ジルコニウムの使用であって、前記ポリマー組成物の全重量に基づいてリン酸ジルコニウムが該ポリマー組成物に2.0~10.0重量%の量で添加される、使用。
[15]水和フィラーを含むポリマー組成物の難燃特性および/または吸水特性を改善するためのリン酸ジルコニウムの使用であって、前記ポリマー組成物の全重量に基づいてリン酸ジルコニウムが2.0~10.0重量%の量で該ポリマー組成物に添加される、使用。
【国際調査報告】