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特表2024-537353改変された結合タンパク質及びその治療上の使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-10
(54)【発明の名称】改変された結合タンパク質及びその治療上の使用
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/28 20060101AFI20241003BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20241003BHJP
   C07K 14/47 20060101ALI20241003BHJP
   C07K 14/725 20060101ALI20241003BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20241003BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20241003BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20241003BHJP
   C12N 15/85 20060101ALI20241003BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20241003BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALI20241003BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20241003BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20241003BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20241003BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20241003BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20241003BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20241003BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20241003BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C07K16/28 ZNA
C07K19/00
C07K14/47
C07K14/725
C12N15/13
C12N15/12
C12N15/62 Z
C12N15/85 Z
C12N5/10
C12N5/0783
C12N15/09 Z
C12P21/08
C12P21/02 C
A61P37/02
A61K35/17
A61P37/06
A61P35/00
A61P31/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024522258
(86)(22)【出願日】2022-10-12
(85)【翻訳文提出日】2024-06-10
(86)【国際出願番号】 AU2022051227
(87)【国際公開番号】W WO2023060308
(87)【国際公開日】2023-04-20
(31)【優先権主張番号】2021903279
(32)【優先日】2021-10-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】594202523
【氏名又は名称】モナシュ ユニバーシティ
(71)【出願人】
【識別番号】518224598
【氏名又は名称】クイーンズランド ユニバーシティ オブ テクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】スティーヴン・ロバート・デイリー
(72)【発明者】
【氏名】ステファニー・グラス
(72)【発明者】
【氏名】ニコール・ラ・グルタ
(72)【発明者】
【氏名】ピルーズ・ザレイエ
(72)【発明者】
【氏名】クリストファー・ゼトー
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG20
4B064AG27
4B064CA19
4B064CC24
4B065AA94X
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB37
4C087BB65
4C087NA14
4C087ZB07
4C087ZB08
4C087ZB26
4C087ZB31
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045DA50
4H045DA76
4H045EA22
4H045EA28
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、改変されたT細胞受容体、並びに様々な疾患又は状態、特に癌及び自己免疫疾患を処置することにおけるそれらの使用に関する。HLA分子と結合したペプチドと接触することができる相補性決定領域(CDR)を含む可変ドメインを含む結合タンパク質であって、CDRが、HLA分子と結合したペプチドにおけるシステインとジスルフィド結合を形成することができるシステインを含み、典型的には、システインが、既存の残基の変異又は改変によってCDRに導入されている、結合タンパク質。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
HLA分子と結合したペプチドと接触することができる相補性決定領域(CDR)を含む可変ドメインを含む結合タンパク質であって、前記CDRが、前記HLA分子と結合した前記ペプチドにおけるシステインとジスルフィド結合を形成することができるシステインを含み、前記システインが、既存の残基の変異又は改変によって前記CDRに導入されている、結合タンパク質。
【請求項2】
抗原結合タンパク質である、請求項1に記載の結合タンパク質。
【請求項3】
前記抗原結合タンパク質が抗体又はその抗原結合断片である、請求項2に記載の結合タンパク質。
【請求項4】
前記抗原結合タンパク質がT細胞受容体又はその断片である、請求項1又は2に記載の結合タンパク質。
【請求項5】
前記抗原結合タンパク質がキメラ又は融合タンパク質である、請求項2に記載の結合タンパク質。
【請求項6】
前記キメラタンパク質がキメラ抗原受容体(CAR)である、請求項5に記載の結合タンパク質。
【請求項7】
前記CDRがCDR3である、請求項1から6のいずれか一項に記載の結合タンパク質。
【請求項8】
α鎖可変ドメイン(Vα)又はβ鎖可変ドメイン(Vβ)を含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の結合タンパク質。
【請求項9】
前記システインを含有する前記CDRが前記α鎖可変ドメインに存在する、請求項8に記載の結合タンパク質。
【請求項10】
前記システインを含有する前記CDRが前記β鎖可変ドメインに存在する、請求項8に記載の結合タンパク質。
【請求項11】
前記CDRが、Table 3(表3)又はTable 4(表4)に示されるアミノ酸配列であって、示された位置にシステイン残基が存在する、アミノ酸配列を含むか、それから本質的になるか、又はそれからなる、請求項1から10のいずれか一項に記載の結合タンパク質。
【請求項12】
前記HLAがHLAクラスIである、請求項1から11のいずれか一項に記載の結合タンパク質。
【請求項13】
前記HLAクラスIがHLA-A、HLA-B又はHLA-Cである、請求項12に記載の結合タンパク質。
【請求項14】
前記HLAクラスIがHLA-E、HLA-F又はHLA-Gである、請求項12に記載の結合タンパク質。
【請求項15】
前記HLAがHLAクラスIIである、請求項1から11のいずれか一項に記載の結合タンパク質。
【請求項16】
前記HLAクラスIIがHLA-DR、HLA-DP又はHLA-DQである、請求項15に記載の結合タンパク質。
【請求項17】
HLA分子と結合したペプチドにおけるシステインとジスルフィド結合を形成することができる前記システインが、前記CDRにおいて、3、4、5、6、7、8、9又は10位に存在し、番号付けが、前記CDRのN末端におけるアミノ酸に対するものである(すなわち、前記CDRのN末端におけるアミノ酸が1位である)、請求項1から16のいずれか一項に記載の結合タンパク質。
【請求項18】
前記CDRがTCRα鎖可変ドメインに存在し、前記システインが、前記CDRにおいて、3、4、5、6、7、8、9又は10位に存在し、番号付けが、前記CDRのN末端におけるアミノ酸に対するものであり(すなわち、前記CDRのN末端におけるアミノ酸が1位であり)、それによって、HLAクラスI分子と結合したペプチドに存在するシステイン、好ましくはP4、P5又はP6位に存在するシステインとのジスルフィド結合の形成を可能にする、請求項1から16のいずれか一項に記載の結合タンパク質。
【請求項19】
前記CDRがTCRβ鎖可変ドメインに存在し、前記システインが、前記CDRにおいて、3、4、5、6、7、8、9又は10位に存在し、番号付けが、前記CDRのN末端におけるアミノ酸に対するものであり(すなわち、前記CDRのN末端におけるアミノ酸が1位であり)、それによって、HLAクラスII分子と結合したペプチドに存在するシステイン、好ましくはP4、P5、P6、P7、P8又はP9位に存在するシステインとのジスルフィド結合の形成を可能にする、請求項1から16のいずれか一項に記載の結合タンパク質。
【請求項20】
前記CDRがTCRα鎖可変ドメインに存在し、前記システインが、前記CDRにおいて、5、6、7、8又は11位に存在し、番号付けが、前記CDRのN末端におけるアミノ酸に対するものであり(すなわち、前記CDRのN末端におけるアミノ酸が1位であり)、それによって、HLAクラスII分子と結合したペプチドに存在するシステイン、より好ましくはP1、P2又はP5位に存在するシステインとのジスルフィド結合の形成を可能にする、請求項1から16のいずれか一項に記載の結合タンパク質。
【請求項21】
前記CDRがTCRβ鎖可変ドメインに存在し、前記システインが、前記CDRにおいて、5、6、7、8又は9位に存在し、番号付けが、前記CDRのN末端におけるアミノ酸に対するものであり(すなわち、前記CDRのN末端におけるアミノ酸が1位であり)、それによって、HLAクラスII分子と結合したペプチドに存在するシステイン、より好ましくはP4、P5、P6、P7又はP8位に存在するシステインとのジスルフィド結合の形成を可能にする、請求項1から16のいずれか一項に記載の結合タンパク質。
【請求項22】
前記CDRがTCRα鎖可変ドメインに存在し、前記システインが、前記CDRにおいて、HLAクラスI分子と結合したTable 3(表3)に示されるペプチドに存在するシステインとのジスルフィド結合の形成を可能にする位置に存在する、請求項1から16のいずれか一項に記載の結合タンパク質。
【請求項23】
前記CDRがTCRβ鎖可変ドメインに存在し、前記システインが、前記CDRにおいて、HLAクラスI分子と結合したTable 3(表3)に示されるペプチドに存在するシステインとのジスルフィド結合の形成を可能にする位置に存在する、請求項1から16のいずれか一項に記載の結合タンパク質。
【請求項24】
前記CDRがTCRα鎖可変ドメインに存在し、前記システインが、前記CDRにおいて、HLAクラスII分子と結合したTable 2(表2)又はTable 3(表3)に示されるペプチドに存在するシステインとのジスルフィド結合の形成を可能にする位置に存在する、請求項1から14のいずれか一項に記載の結合タンパク質。
【請求項25】
前記CDRがTCRβ鎖可変ドメインに存在し、前記システインが、前記CDRにおいて、HLAクラスII分子と結合したTable 1(表1)又はTable 4(表4)に示されるペプチドに存在するシステインとのジスルフィド結合の形成を可能にする位置に存在する、請求項1から14のいずれか一項に記載の結合タンパク質。
【請求項26】
可溶型である、請求項1から25のいずれか一項に記載の結合タンパク質。
【請求項27】
請求項1から26のいずれか一項に記載の結合タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含むか、それから本質的になるか、又はそれからなる核酸。
【請求項28】
請求項27に記載の核酸を含むベクター。
【請求項29】
請求項28に記載のベクターを含む細胞。
【請求項30】
請求項1から26のいずれか一項に記載の結合タンパク質を表面に発現する細胞。
【請求項31】
免疫細胞である、請求項30に記載の細胞。
【請求項32】
NK細胞である、請求項31に記載の細胞。
【請求項33】
T細胞である、請求項31に記載の細胞。
【請求項34】
前記T細胞がCD4+T細胞である、請求項33に記載の細胞。
【請求項35】
前記T細胞がCD8+T細胞である、請求項33に記載の細胞。
【請求項36】
前記T細胞が調節性T細胞である、請求項33に記載の細胞。
【請求項37】
自己免疫疾患の処置における使用のための調節性T細胞の集団を調製する方法であって、
- 調節性T細胞の集団を提供する工程、
- 請求項27に記載の核酸又は請求項28に記載のベクターを前記調節性T細胞の集団に導入する工程、及び
- 前記調節性T細胞の表面における結合タンパク質の発現を可能にする条件を提供する工程
を含み、それによって自己免疫疾患の処置における使用のための調節性T細胞の集団を調製する方法。
【請求項38】
移植拒絶反応の処置又は防止における使用のための調節性T細胞の集団を調製する方法であって、
- 調節性T細胞の集団を提供する工程、
- 請求項27に記載の核酸又は請求項28に記載のベクターを前記調節性T細胞の集団に導入する工程、及び
- 前記調節性T細胞の表面における結合タンパク質の発現を可能にする条件を提供する工程
を含み、それによって移植拒絶反応の処置又は防止における使用のための調節性T細胞の集団を調製する方法。
【請求項39】
癌又は感染症の処置における使用のための細胞傷害性T細胞の集団を調製する方法であって、
- 細胞傷害性T細胞の集団を提供する工程、
- 請求項27に記載の核酸又は請求項28に記載のベクターを前記細胞傷害性T細胞の集団に導入する工程、及び
- 前記細胞傷害性T細胞の表面における結合タンパク質の発現を可能にする条件を提供する工程
を含み、それによって癌又は感染症の処置における使用のための細胞傷害性T細胞の集団を調製する方法。
【請求項40】
対象における自己免疫疾患を処置又は防止する方法であって、前記対象に、請求項1から26のいずれか一項に記載の結合タンパク質、請求項27に記載の核酸、請求項28に記載のベクター、又は請求項29から36のいずれか一項に記載の細胞を投与する工程を含み、それによって前記対象における前記自己免疫疾患を処置又は防止する方法。
【請求項41】
対象における移植拒絶反応を処置又は防止する方法であって、前記対象に、請求項1から26のいずれか一項に記載の結合タンパク質、請求項27に記載の核酸、請求項28に記載のベクター、又は請求項29から36のいずれか一項に記載の細胞を投与する工程を含み、それによって前記対象における前記移植拒絶反応を処置又は防止する方法。
【請求項42】
対象における癌又は感染症を処置又は防止する方法であって、前記対象に、請求項1から26のいずれか一項に記載の結合タンパク質、請求項27に記載の核酸、請求項28に記載のベクター、又は請求項29から36のいずれか一項に記載の細胞を投与する工程を含み、それによって前記対象における前記癌又は感染症を処置又は防止する方法。
【請求項43】
対象における自己免疫疾患を処置又は防止するための医薬の製造における、請求項1から26のいずれか一項に記載の結合タンパク質、請求項27に記載の核酸、請求項28に記載のベクター、又は請求項29から36のいずれか一項に記載の細胞の使用。
【請求項44】
対象における移植拒絶反応を処置又は防止するための医薬の製造における、請求項1から26のいずれか一項に記載の結合タンパク質、請求項27に記載の核酸、請求項28に記載のベクター、又は請求項29から36のいずれか一項に記載の細胞の使用。
【請求項45】
対象における癌又は感染症を処置又は防止するための医薬の製造における、請求項1から26のいずれか一項に記載の結合タンパク質、請求項27に記載の核酸、請求項28に記載のベクター、又は請求項29から36のいずれか一項に記載の細胞の使用。
【請求項46】
対象における癌又は感染症を処置又は防止することにおける使用のための、請求項1から26のいずれか一項に記載の結合タンパク質、請求項27に記載の核酸、請求項28に記載のベクター、又は請求項29から36のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項47】
対象における自己免疫疾患を処置又は防止することにおける使用のための、請求項1から26のいずれか一項に記載の結合タンパク質、請求項27に記載の核酸、請求項28に記載のベクター、又は請求項29から36のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項48】
対象における移植拒絶反応を処置又は防止することにおける使用のための、請求項1から26のいずれか一項に記載の結合タンパク質、請求項27に記載の核酸、請求項28に記載のベクター、又は請求項29から36のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項49】
HLAと結合した標的ペプチド(pHLA)に対する解離の速度が、変異していないTCRと比較して低下している変異型TCRを同定する方法であって、
- α鎖CDR3配列及び/又はβ鎖CDR3配列にシステイン残基を導入する変異を有する複数のTCRを作製する工程、
- 前記複数のTCRのメンバーと前記標的pHLAとの相互作用を決定する工程、並びに
- 前記標的pHLAに対する解離の速度が、前記変異していないTCRと比較して低下している1つ又は複数のメンバーを選択する工程であって、
前記解離の速度の低下がジスルフィド結合の形成に起因する、工程
を含む方法。
【請求項50】
請求項1から26のいずれか一項に記載の結合タンパク質を作製する方法であって、請求項29に記載の細胞を、前記結合タンパク質の発現を可能にする条件下で培養する工程を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改変された結合タンパク質、例えばT細胞受容体、並びに様々な疾患又は状態、特に癌及び自己免疫疾患を処置することにおけるそれらの使用に関する。
【0002】
関連出願
本出願は、豪国仮出願第2021903279号の優先権を主張し、その内容全体は参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
T細胞受容体(TCR)は、T細胞による特定の抗原の認識を媒介し、したがって、免疫系の細胞群の働きに不可欠である。本来備わっている(native)TCRは、シグナル伝達の媒介に関与するCD3複合体の不変タンパク質と会合する、免疫グロブリンスーパーファミリーのヘテロ二量体細胞表面タンパク質である。TCRはαβ及びγδ形態において存在し、これらは、構造的に類似しているが、全く異なる解剖学的位置及び機能を有する。TCRは、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)タンパク質によって提示されたペプチドの形態の抗原を認識する。MHCクラスI及びクラスIIリガンドもまた免疫グロブリンスーパーファミリータンパク質であるが、これらは、抗原提示に特化しており、これらが抗原提示細胞(APC)の表面に多種多様なペプチド断片を提示することを可能にする高度に多型のペプチド結合部位を伴う。
【0004】
2つの更なるクラスのタンパク質がTCRリガンドとして機能できることが公知である。CD1抗原は、その遺伝子が古典的MHCクラスI及びクラスIIと異なる染色体上に位置するMHCクラスI関連分子である。CD1分子は、従来のクラスI及びクラスII MHC-ペプチド複合体と同様の方式で、ペプチド及び非ペプチド(例えば脂質、糖脂質)部分をT細胞に提示することができる。例えば、(Barclayら、(1997) The Leucocyte Antigen Factsbook第2版、Academic Press)及び(Bauer (1997) Eur J Immunol 27 (6) 1366~1373))を参照されたい。細菌スーパー抗原は、クラスII MHC分子とTCRのサブセットとの両方と結合することができる可溶性毒素である(Fraser (1989) Nature 339 221~223)。多くのスーパー抗原は、1つ又は2つのVベータセグメントに対して特異性を呈するが、他のスーパー抗原は、より乱雑な結合を呈する。いずれにしても、スーパー抗原は、T細胞のサブセットをポリクローナルに刺激することができるため、増強した免疫応答を誘発することができる。
【0005】
本来備わっているヘテロ二量体αβ及びγδTCRの細胞外部分は2つのポリペプチドからなり、そのポリペプチドのそれぞれは、膜近位定常ドメイン及び膜遠位可変ドメインを有する。定常ドメイン及び可変ドメインのそれぞれは、鎖内ジスルフィド結合を含み、各ヘテロ二量体の2本の鎖は、鎖間ジスルフィド結合によって連結している。可変ドメインは、抗体の相補性決定領域(CDR)と同様の高度に多型のループを含有する。αβTCRのCDR3は主に、MHCによって提示されたペプチドと相互作用し、αβTCRのCDR1及び2は主に、ペプチド及びMHCと相互作用する。TCR可変ドメイン配列の多様性は、連結された可変(V)、多様(D)、及び結合(J)遺伝子の体細胞再構成によって生じる。
【0006】
T細胞活性化は、APCの表面のMHC分子によって提示されたペプチド抗原のαβT細胞抗原受容体(TCR)同時認識に依存する。
【0007】
細胞免疫療法における近年の進展には、腫瘍抗原を効率的に認識するT細胞の養子移入が関与している。これらのT細胞は、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)に由来し、また、抗原特異的TCRを用いて遺伝子改変された後に腫瘍抗原を効率的に認識することができる末梢血T細胞(TCR-T)であってもよい。養子T細胞療法には、キメラ抗原受容体(CAR)ベースのCAR-T療法及びT細胞受容体ベースのTCR-T療法が含まれる。表面に発現したタンパク質を認識するCAR T細胞と異なり、TCRは、細胞の内側の腫瘍特異的タンパク質を認識することができる。
【0008】
TCR遺伝子療法に関する主要な課題は、T細胞刺激を誘発するほど十分に長く続く、TCRとペプチド-MHC(pMHC)との間の結合事象を達成することである。更に、低存在量のペプチドはT細胞を刺激することができない場合があるため、現在のTCR療法には限界がある。
【0009】
癌及び自己免疫疾患を含む様々な状態の処置のための、新規な及び/又は改良された細胞ベースの療法、特にT細胞ベースの療法、又はTCRベースの療法に対する必要性が存在する。
【0010】
本明細書におけるいずれかの先行技術への言及は、この先行技術が任意の権利範囲において通常の一般的知識の一部を形成すること、又はこの先行技術が、当業者によって、理解される、先行技術の他の部分と関連していると考えられる、及び/若しくは先行技術の他の部分と組み合わされると合理的に予想され得ることを認めるものでも示唆するものでもない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】WO97/09433
【特許文献2】米国特許出願公開第2004/0087025号
【特許文献3】US2011/0243972
【特許文献4】US2011/0189141
【特許文献5】WO2016/141357
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Barclayら、(1997) The Leucocyte Antigen Factsbook第2版、Academic Press
【非特許文献2】Bauer (1997) Eur J Immunol 27 (6) 1366~1373
【非特許文献3】Fraser (1989) Nature 339 221~223
【非特許文献4】J. Perbal、A Practical Guide to Molecular Cloning、John Wiley and Sons (1984)
【非特許文献5】J. Sambrookら、Molecular Cloning: A Laboratory Manual、Cold Spring Harbour Laboratory Press (1989)
【非特許文献6】T.A. Brown(編)、Essential Molecular Biology: A Practical Approach、第1巻及び第2巻、IRL Press (1991)
【非特許文献7】D.M. Glover及びB.D. Hames(編)、DNA Cloning: A Practical Approach、第1~4巻、IRL Press(1995及び1996)
【非特許文献8】F.M. Ausubelら(編)、Current Protocols in Molecular Biology、Greene Pub. Associates and Wiley-Interscience (1988、現在までの全ての改訂版を含む)
【非特許文献9】Ed Harlow及びDavid Lane(編)、Antibodies: A Laboratory Manual、Cold Spring Harbour Laboratory、(1988)
【非特許文献10】J.E. Coliganら(編)、Current Protocols in Immunology、John Wiley & Sons (現在までの全ての改訂版を含む)
【非特許文献11】Kabat Sequences of Proteins of Immunological Interest、National Institutes of Health、Bethesda、Md.、1987及び1991
【非特許文献12】Borkら、J Mol. Biol. 242、309~320、1994
【非特許文献13】Chothia及びLesk J. Mol Biol. 196:901~917、1987
【非特許文献14】Chothiaら、Nature 342、877~883、1989
【非特許文献15】Al-Lazikaniら、J Mol Biol 273、927~948、1997
【非特許文献16】Lehninger、Biochemistry、第2版;Worth Publishers, Inc. NY、NY、71~77ページ、1975
【非特許文献17】Lewin、Genes IV、Oxford University Press、NY and Cell Press、Cambridge、MA、8ページ、1990
【非特許文献18】Janewayら、Immunobiology: The Immune System in Health and Disease、第3版、Current Biology Publications、4ページ:33、1997
【非特許文献19】Joresら、Proc. Nat'l. Acad. Sci. U.S.A. 57:9138、1990
【非特許文献20】Chothiaら、EMBO J. 7:3745、1988
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【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、TCR相補性決定領域(CDR)と、ヒト白血球抗原(HLA)分子とも呼ばれるMHCタンパク質と結合したペプチドとの間の共有結合連結、典型的にはTCR CDRにおけるシステインと、MHC分子と結合したペプチドにおけるシステインとの間に形成されたジスルフィド結合を形成することが可能であることを同定した。
【0014】
一態様では、本発明は、HLA分子と結合したペプチドと接触することができる相補性決定領域(CDR)を含む可変ドメインを含む結合タンパク質であって、CDRが、HLA分子と結合したペプチドにおけるシステインとジスルフィド結合を形成することができるシステインを含む、結合タンパク質を提供する。
【0015】
本発明の任意の態様では、結合タンパク質は、抗原結合タンパク質、例えば抗体若しくはその抗原結合断片、又はT細胞受容体若しくはその断片であり得る。一実施形態では、T細胞受容体は可溶型T細胞受容体である。一実施形態では、抗原結合タンパク質又はT細胞受容体は、キメラ又は融合タンパク質の一部であり得る、例えば、抗原結合タンパク質は、キメラ抗原受容体(CAR)の一部であり得る。一実施形態では、キメラ又は融合タンパク質は、本明細書に記載される本発明の可溶型T細胞受容体を含む。
【0016】
結合タンパク質が抗体である本発明の任意の態様では、可変ドメインは、重鎖可変ドメインであっても軽鎖可変ドメインであってもよい。好ましくは、CDRはCDR3である。したがって、システインを含有するCDR3は、重鎖可変ドメインにあっても軽鎖可変ドメインにあってもよい。
【0017】
結合タンパク質がT細胞受容体である本発明の任意の態様では、可変ドメインは、α鎖可変ドメイン(Vα)であってもβ鎖可変ドメイン(Vβ)であってもよい。したがって、システインを含有するCDR3は、α鎖にあってもβ鎖にあってもよい。好ましくは、結合タンパク質は、α鎖可変ドメインとβ鎖可変ドメインとの両方を含み、HLA分子と結合したペプチドにおけるシステインとジスルフィド結合を形成することができるシステインを含むCDRは、α鎖可変ドメイン又はβ鎖可変ドメインに存在するが、両方共には存在しない。例えば、CDR3は、Table 3(表3)又はTable 4(表4)に示されるアミノ酸配列であって、示された位置にシステイン残基が存在する、アミノ酸配列を含み得るか、それから本質的になり得るか、又はそれからなり得る。
【0018】
一実施形態では、TCRは、Table 3(表3)又はTable 4(表4)に示されるCDR3を含むα鎖可変ドメインとTable 3(表3)又はTable 4(表4)に示されるCDR3を含むβ鎖可変ドメインとを有し、ここで、VαCDR3又はVβCDR3に示される残基は、システインで置き換えられている。
【0019】
本発明の任意の態様では、HLAは、任意のHLA分子又はペプチド抗原を細胞表面に提示することができる任意のHLA様分子であり得る。任意の実施形態では、HLAは、HLAクラスI又はHLAクラスIIであり得る。更に、HLAは、HLA-E等のHLA様分子であってもよい。MHCクラスIに対応するHLAとしては、HLA-A、HLA-B、及びHLA-Cが挙げられる。MHCクラスIIに対応するHLAとしては、HLA-DP、HLA-DQ、及びHLA-DRが挙げられる。
【0020】
本発明の任意の態様では、結合タンパク質は、組換え結合タンパク質、合成結合タンパク質、精製された結合タンパク質、又は実質的に精製された結合タンパク質であり得る。
【0021】
典型的には、システインは、既存の残基の変異又は改変によってCDRに導入されている。
【0022】
本発明の任意の態様では、CDRは、好ましくはCDR3である。
【0023】
本発明の任意の態様では、システインは、CDRにおいて、HLA分子と結合したペプチドに存在するシステインとのジスルフィド結合の形成を可能にする位置に存在し、ここで、ペプチドにおけるシステインは、P1、P2、P3、P4、P5、P6、P7、P8又はP9位のうちの1つにあり、MHCクラスIにおいて、ペプチド位置(P2)は、MHCクラスI分子のBポケットを占有するか又はそれに最も近いアミノ酸であり、MHCクラスIIにおいて、ペプチド位置1は、MHCクラスII分子のP1ポケットを占有するか又はそれに最も近いアミノ酸である。
【0024】
本発明の任意の態様では、システインは、CDRにおいて、HLAクラスI分子と結合したペプチドに存在するシステインとのジスルフィド結合の形成を可能にする位置に存在し、ここで、ペプチドにおけるシステインは、P4、P5、P6、P7、P8又はP9位のうちの1つにあり、MHCクラスIにおいて、ペプチド位置(P2)は、MHCクラスI分子のBポケットを占有するか又はそれに最も近いアミノ酸であり、MHCクラスIIにおいて、ペプチド位置1は、MHCクラスII分子のP1ポケットを占有するか又はそれに最も近いアミノ酸である。
【0025】
本発明の任意の態様では、システインは、CDRにおいて、HLAクラスII分子と結合したペプチドに存在するシステインとのジスルフィド結合の形成を可能にする位置に存在し、ここで、ペプチドにおけるシステインは、P1、P2、P4、P5、P6、P7又はP8位のうちの1つにあり、MHCクラスIにおいて、ペプチド位置(P2)は、MHCクラスI分子のBポケットを占有するか又はそれに最も近いアミノ酸であり、MHCクラスIIにおいて、ペプチド位置1は、MHCクラスII分子のP1ポケットを占有するか又はそれに最も近いアミノ酸である。
【0026】
CDRがTCRα鎖可変ドメインに存在する一実施形態では、システインは、CDRにおいて、HLA分子と結合したペプチドに存在するシステインとのジスルフィド結合の形成を可能にする位置に存在し、好ましくは、ペプチドにおけるシステインは、P4、P5又はP6位のうちの1つにある。好ましくは、HLAはHLAクラスIである。CDRがTCRβ鎖可変ドメインに存在する別の実施形態では、システインは、CDRにおいて、HLA分子と結合したペプチドに存在するシステインとのジスルフィド結合の形成を可能にする位置に存在し、好ましくは、ペプチドにおけるシステインは、P4、P5、P6、P7、P8又はP9位のうちの1つにある。好ましくは、HLAはHLAクラスIである。
【0027】
CDRがTCRα鎖可変ドメインに存在する一実施形態では、システインは、CDRにおいて、HLA分子と結合したペプチドに存在するシステインとのジスルフィド結合の形成を可能にする位置に存在し、ここで、ペプチドにおけるシステインは、P1、P2又はP5位のうちの1つにある。好ましくは、HLAはHLAクラスIIである。CDRがTCRβ鎖可変ドメインに存在する別の実施形態では、システインは、CDRにおいて、HLA分子と結合したペプチドに存在するシステインとのジスルフィド結合の形成を可能にする位置に存在し、ここで、ペプチドにおけるシステインは、P4、P5、P6、P7又はP8位のうちの1つにある。好ましくは、HLAはHLAクラスIIである。
【0028】
CDRがTCRα鎖可変ドメインに存在する本発明の任意の態様では、システインは、CDRにおいて、HLAクラスI分子と結合したTable 2(表2)又はTable 3(表3)に示されるペプチドに存在するシステインとのジスルフィド結合の形成を可能にする位置に存在する。
【0029】
CDRがTCRβ鎖可変ドメインに存在する本発明の任意の態様では、システインは、CDRにおいて、HLAクラスI分子と結合したTable 2(表2)又はTable 3(表3)に示されるペプチドに存在するシステインとのジスルフィド結合の形成を可能にする位置に存在する。
【0030】
CDRがTCRα鎖可変ドメインに存在する本発明の任意の態様では、システインは、CDRにおいて、HLAクラスII分子と結合したTable 1(表1)又はTable 4(表4)に示されるペプチドに存在するシステインとのジスルフィド結合の形成を可能にする位置に存在する。
【0031】
CDRがTCRβ鎖可変ドメインに存在する本発明の任意の態様では、システインは、CDRにおいて、HLAクラスII分子と結合したTable 1(表1)又はTable 4(表4)に示されるペプチドに存在するシステインとのジスルフィド結合の形成を可能にする位置に存在する。
【0032】
本発明の任意の態様では、ペプチドは、HLA-A、HLA-B、HLA-C又はHLA-Eから選択されるHLAクラスI分子と結合し得る。
【0033】
本発明の任意の態様では、ペプチドは、HLA-A*02:01、HLA-B*07:02、HLA-B*44:05、HLA-A*02:01、HLA-B*35:01、HLA-A*01:01、HLA-B*35:08、HLA-B*37:01、HLA-B*08:01、HLA-A*11:01、HLA-B*27:05、HLA-A*24:02、HLA-B*51:01、及びHLA-E*01:03から選択されるHLAクラスI分子と結合し得る。
【0034】
本発明の任意の態様では、ペプチドは、HLA-DR、HLA-DP、又はHLA-DQから選択されるHLAクラスII分子と結合し得る。
【0035】
本発明の任意の態様では、ペプチドは、HLA-DQA1*0508_HLA-DQB1*0201、HLA-DQA1*0501_HLA-DQB1*0201、HLA-DQA1*0301_HLA-DQB1*0302、HLA-DRA*0101_HLA-DBR1*0101、HLA-DRA*0101_HLA-DRB3*0301、HLA-DRA*0101_HLA-DBR5*0101、HLA-DRA*0101_HLA-DBR1*0401、HLA-DPA1*0103_HLA-DPB1*2602、HLA-DQA1*0501_HLA-DQB1*0302、HLA-DRA*0101_HLA-DRB1*1101、HLA-DRA*0101_HLA-DRB1*1502、HLA-DRA*0101_HLA-DRB1*0101、HLA-DQA1*0301_HLA-DQB1*0305、HLA-DQA1*0201_HLA-DQB1*0201から選択されるHLAクラスII分子と結合し得る。
【0036】
本発明の任意の態様では、HLA分子と結合したペプチドにおけるシステインとジスルフィド結合を形成することができるシステインは、CDRにおいて、3、4、5、6、7、8、9又は10位に存在し、番号付けは、CDRのN末端におけるアミノ酸に対するものである(すなわち、CDRのN末端におけるアミノ酸が1位である)。
【0037】
CDRがTCRα鎖可変ドメインに存在する本発明の任意の態様では、システインは、CDRにおいて、3、4、5、6、7、8、9又は10位に存在し、番号付けは、CDRのN末端におけるアミノ酸に対するものである(すなわち、CDRのN末端におけるアミノ酸が1位である)。好ましくは、システインは、HLAクラスI分子と結合したペプチドに存在するシステイン、より好ましくはP4、P5又はP6位に存在するシステインとのジスルフィド結合の形成を可能にする。
【0038】
CDRがTCRβ鎖可変ドメインに存在する本発明の任意の態様では、システインは、CDRにおいて、3、4、5、6、7、8、9又は10位に存在し、番号付けは、CDRのN末端におけるアミノ酸に対するものである(すなわち、CDRのN末端におけるアミノ酸が1位である)。好ましくは、システインは、HLAクラスII分子と結合したペプチドに存在するシステイン、より好ましくはP4、P5、P6、P7、P8又はP9位に存在するシステインとのジスルフィド結合の形成を可能にする。
【0039】
CDRがTCRα鎖可変ドメインに存在する本発明の任意の態様では、システインは、CDRにおいて、5、6、7、8又は11位に存在し、番号付けは、CDRのN末端におけるアミノ酸に対するものである(すなわち、CDRのN末端におけるアミノ酸が1位である)。好ましくは、システインは、HLAクラスII分子と結合したペプチドに存在するシステイン、より好ましくはP1、P2又はP5位に存在するシステインとのジスルフィド結合の形成を可能にする。
【0040】
CDRがTCRβ鎖可変ドメインに存在する本発明の任意の態様では、システインは、CDRにおいて、5、6、7、8又は9位に存在し、番号付けは、CDRのN末端におけるアミノ酸に対するものである(すなわち、CDRのN末端におけるアミノ酸が1位である)。好ましくは、システインは、HLAクラスII分子と結合したペプチドに存在するシステイン、より好ましくはP4、P5、P6、P7又はP8位に存在するシステインとのジスルフィド結合の形成を可能にする。
【0041】
本発明の任意の態様では、HLA分子と結合したペプチドは、本明細書において言及される位置のいずれか1つに天然に存在するか又は導入されたシステインを含有し得る。
【0042】
別の態様では、本発明は、本発明の任意の態様の結合タンパク質を含むキメラ又は融合タンパク質を提供する。
【0043】
別の態様では、本発明は、本発明の任意の態様の結合タンパク質又はキメラ若しくは融合タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含むか、それから本質的になるか、又はそれからなる核酸を提供する。
【0044】
別の態様では、本発明は、本発明の任意の態様の核酸、或いは本発明の任意の態様の結合タンパク質又はキメラ若しくは融合タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含むベクターを提供する。典型的には、ベクターは、細胞中でのヌクレオチド配列の発現を可能にし、その結果、上記細胞の表面における結合タンパク質の提示をもたらす。ベクターは、レトロウイルスベクター、好ましくはレンチウイルスベクターであり得る。典型的には、ベクターは、T細胞、好ましくはヘルパーT細胞、例えばCD4+T細胞中でのヌクレオチド配列の発現を可能にする。CD4+T細胞は、調節性T細胞(Treg)、好ましくはCD4+CD25high T細胞であり得る。或いは、T細胞は、CD8+T細胞であってもよい。
【0045】
一実施形態では、ベクターは、プロモーターに作動可能に連結した本発明の核酸を含む。
【0046】
単一ポリペプチド鎖結合タンパク質を対象とする本発明の実施形態では、発現構築物は、そのポリペプチド鎖をコードする核酸と連結したプロモーターを含み得る。
【0047】
結合タンパク質を形成する複数のポリペプチド鎖を対象とする本発明の実施形態では、ベクターは、例えばプロモーターに作動可能に連結したVαを含むポリペプチドをコードする核酸、及び例えばプロモーターに作動可能に連結したVβを含むポリペプチドをコードする核酸を含む。
【0048】
別の例では、発現構築物は、例えば、5'から3'の順に以下の作動可能に連結した成分:
(i)プロモーター、
(ii)第1のポリペプチドをコードする核酸、
(iii)内部リボソーム進入部位、好ましくは、ピコルナウイルスに由来する2Aペプチド切断モチーフ、及び
(iv)第2のポリペプチドをコードする核酸
を含むバイシストロニック発現構築物であり、ここで、第1のポリペプチドはVαを含み第2のポリペプチドはVβを含むか、又はその逆である。好ましくは、ベクターは、Vαをコードするヌクレオチド配列の翻訳の前に、Vβをコードするヌクレオチド配列の翻訳を可能にする。
【0049】
別の実施形態では、本発明はまた、別個のベクターであって、そのうちの1つがVαを含む第1のポリペプチドをコードし、別のものがVβを含む第2のポリペプチドをコードする、ベクターを企図する。例えば、本発明はまた、
(i)プロモーターに作動可能に連結したVαを含むポリペプチドをコードする核酸を含む第1の発現構築物、及び
(ii)プロモーターに作動可能に連結したVβを含むポリペプチドをコードする核酸を含む第2の発現構築物
を含む組成物を提供する。
【0050】
別の態様では、本発明は、本明細書に記載されるベクター又は核酸を含む細胞を提供する。好ましくは、細胞は、単離されているか、実質的に精製されているか、又は組換えである。一例では、細胞は、本発明のベクター、又は
(i)プロモーターに作動可能に連結したVαを含むポリペプチドをコードする核酸を含む第1の発現構築物、及び
(ii)プロモーターに作動可能に連結したVβを含むポリペプチドをコードする核酸を含む第2の発現構築物
を含み、ここで、第1及び第2のポリペプチドは、会合して、本発明の結合タンパク質を形成する。好ましくは、細胞は、T細胞、より好ましくはヘルパーT細胞、例えばCD4+T細胞である。CD4+T細胞は、調節性T細胞(Treg)、好ましくはCD4+CD25high T細胞であり得る。
【0051】
別の態様では、本発明は、本発明の結合タンパク質を表面に発現する細胞を提供する。好ましくは、細胞は、T細胞、より好ましくはCD4+T細胞である。CD4+T細胞は、調節性T細胞(Treg)、好ましくはCD4+CD25high T細胞であり得る。
【0052】
別の態様では、本発明は、自己免疫疾患の処置における使用のための調節性T細胞の集団を調製する方法であって、
- 調節性T細胞の集団を提供する工程、
- 本発明の核酸又はベクターを調節性T細胞の集団に導入する工程、
- 調節性T細胞の表面における結合タンパク質、キメラ又は融合タンパク質の発現を可能にする条件を提供する工程
を含み、それによって自己免疫疾患の処置における使用のための調節性T細胞の集団を調製する方法を提供する。自己免疫疾患は、本明細書に記載されるいずれか1つであり得る。
【0053】
別の態様では、本発明は、移植拒絶反応の処置又は防止における使用のための調節性T細胞の集団を調製する方法であって、
- 調節性T細胞の集団を提供する工程、
- 本発明の核酸又はベクターを調節性T細胞の集団に導入する工程、
- 調節性T細胞の表面における結合タンパク質、キメラ又は融合タンパク質の発現を可能にする条件を提供する工程
を含み、それによって移植拒絶反応の処置又は防止における使用のための調節性T細胞の集団を調製する方法を提供する。
【0054】
別の態様では、本発明は、癌又は感染症の処置における使用のための細胞傷害性T細胞の集団を調製する方法であって、
- 細胞傷害性T細胞の集団を提供する工程、
- 本発明の核酸又はベクターを細胞傷害性T細胞の集団に導入する工程、
- 細胞傷害性T細胞の表面における結合タンパク質、キメラ又は融合タンパク質の発現を可能にする条件を提供する工程
を含み、それによって癌又は感染症の処置における使用のための細胞傷害性T細胞の集団を調製する方法を提供する。癌又は感染症は、本明細書に記載されるいずれかであり得る。
【0055】
別の態様では、本発明は、調節性T細胞の少なくとも1つの特性を呈するT細胞のex vivo集団を調製するための方法であって、
- 調節性T細胞の少なくとも1つの特性を呈するT細胞の集団を提供する工程、
- 本発明の核酸又はベクターをT細胞の集団に導入する工程であって、核酸又はベクターが、本発明の結合タンパク質、キメラ又は融合タンパク質をコードする、工程、及び
- T細胞の表面における結合タンパク質、キメラ又は融合タンパク質の発現を可能にする条件を提供する工程
を含み、それによって調節性T細胞の少なくとも1つの特性を呈するT細胞のex vivo集団を調製する方法に関する。好ましくは、調節性T細胞の少なくとも1つの特性を呈するT細胞は、自己免疫疾患を有する対象からの生体試料に由来する。
【0056】
本発明の方法又は使用において使用される、調節性T細胞の少なくとも1つの特性を呈するT細胞は、自己免疫疾患と診断された対象又は健康な対象から選択され得る。T細胞は、組織適合ドナーから単離されてもよい。
【0057】
代替的な実施形態では、本発明は、調節性T細胞の少なくとも1つの特性を呈するT細胞のex vivo集団を調製する方法であって、
- 従来のT細胞の少なくとも1つの特性を呈するT細胞の集団を提供する工程であって、任意選択で、T細胞の集団がT細胞の混合集団である、工程、
- 本発明の核酸又はベクターをT細胞の集団に導入する工程であって、核酸又はベクターが、本発明の結合タンパク質、キメラ又は融合タンパク質をコードする、工程、
- T細胞の表面における結合タンパク質、キメラ又は融合タンパク質の発現を可能にする条件を提供する工程、及び
- T細胞の集団の調節性T細胞への変換を可能にする条件を提供する工程
を含み、それによって調節性T細胞の少なくとも1つの特性を呈するT細胞のex vivo集団を調製する方法を提供する。好ましくは、従来のT細胞又はT細胞の混合集団の少なくとも1つの特性を呈するT細胞は、自己免疫疾患を有する対象からの生体試料に由来する。或いは、T細胞は、組織適合ドナーに由来してもよい。
【0058】
別の態様では、本発明は、細胞傷害性T細胞の少なくとも1つの特性を呈するT細胞のex vivo集団を調製するための方法であって、
- 細胞傷害性T細胞の少なくとも1つの特性を呈するT細胞の集団を提供する工程、
- 本発明の核酸又はベクターをT細胞の集団に導入する工程であって、核酸又はベクターが、本発明の結合タンパク質、キメラ又は融合タンパク質をコードする、工程、及び
- T細胞の表面における結合タンパク質、キメラ又は融合タンパク質の発現を可能にする条件を提供する工程
を含み、それによって細胞傷害性T細胞の少なくとも1つの特性を呈するT細胞のex vivo集団を調製する方法に関する。好ましくは、細胞傷害性T細胞の少なくとも1つの特性を呈するT細胞は、癌又は感染症を有する対象からの生体試料に由来する。
【0059】
本発明の方法又は使用において使用される、細胞傷害性T細胞の少なくとも1つの特性を呈するT細胞は、癌若しくは感染症と診断された対象又は健康な対象から選択され得る。T細胞は、組織適合ドナーから単離されてもよい。
【0060】
代替的な実施形態では、本発明は、細胞傷害性T細胞の少なくとも1つの特性を呈するT細胞のex vivo集団を調製する方法であって、
- 従来のT細胞の少なくとも1つの特性を呈するT細胞の集団を提供する工程であって、任意選択で、T細胞の集団がT細胞の混合集団である、工程、
- 本発明の核酸又はベクターをT細胞の集団に導入する工程であって、核酸又はベクターが、本発明の結合タンパク質、キメラ又は融合タンパク質をコードする、工程、
- T細胞の表面における結合タンパク質、キメラ又は融合タンパク質の発現を可能にする条件を提供する工程、及び
- T細胞の集団の細胞傷害性T細胞への変換を可能にする条件を提供する工程
を含み、それによって細胞傷害性T細胞の少なくとも1つの特性を呈するT細胞のex vivo集団を調製する方法を提供する。好ましくは、従来のT細胞又はT細胞の混合集団の少なくとも1つの特性を呈するT細胞は、癌又は感染症を有する対象からの生体試料に由来する。或いは、T細胞は、組織適合ドナーに由来してもよい。
【0061】
別の態様では、本発明はまた、調節性T細胞の組成物であって、20%超の細胞が本発明の結合タンパク質、キメラ又は融合タンパク質を発現する、組成物に関する。好ましくは、組成物は、本発明の結合タンパク質、キメラ又は融合タンパク質を発現する30%、40%、50%、60%、70%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98又は99%超の細胞を含む。
【0062】
別の態様では、本発明はまた、細胞傷害性T細胞の組成物であって、20%超の細胞が本発明の結合タンパク質、キメラ又は融合タンパク質を発現する、組成物に関する。好ましくは、組成物は、本発明の結合タンパク質、キメラ又は融合タンパク質を発現する30%、40%、50%、60%、70%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98又は99%超の細胞を含む。
【0063】
任意の態様又は実施形態では、従来のT細胞又はT細胞の混合集団の調節性T細胞への変換を可能にするための条件は、従来のT細胞若しくはT細胞の混合集団を1つ若しくは複数の薬剤と接触させること、又は従来のT細胞の調節性T細胞への変換に好適な1つ若しくは複数の因子の発現を増加させることを含み得る。1つ又は複数の薬剤又は因子は、TGF-β、Foxp3又はそれらの発現を増加させるための薬剤を含み得る。
【0064】
別の態様では、本発明は、対象における自己免疫疾患を処置又は防止する方法であって、対象に、本発明の結合タンパク質、キメラ若しくは融合タンパク質、核酸、細胞、又は組成物を投与する工程を含み、それによって対象における自己免疫疾患を処置又は防止する方法を提供する。
【0065】
別の態様では、本発明は、対象における移植拒絶反応を処置又は防止する方法であって、対象に、本発明の結合タンパク質、キメラ若しくは融合タンパク質、核酸、細胞、又は組成物を投与する工程を含み、それによって対象における移植拒絶反応を処置又は防止する方法を提供する。
【0066】
別の態様では、本発明は、対象における癌又は感染症を処置又は防止する方法であって、対象に、本発明の結合タンパク質、キメラ若しくは融合タンパク質、核酸、細胞、又は組成物を投与する工程を含み、それによって対象における癌又は感染症を処置又は防止する方法を提供する。
【0067】
別の態様では、本発明は、対象における自己免疫疾患を処置又は防止するための医薬の製造における、本発明の結合タンパク質、キメラ若しくは融合タンパク質、核酸、細胞又は組成物の使用を提供する。
【0068】
別の態様では、本発明は、対象における移植拒絶反応を処置又は防止するための医薬の製造における、本発明の結合タンパク質、キメラ若しくは融合タンパク質、核酸、細胞又は組成物の使用を提供する。
【0069】
別の態様では、本発明は、対象における癌又は感染症を処置又は防止するための医薬の製造における、本発明の結合タンパク質、キメラ若しくは融合タンパク質、核酸、細胞又は組成物の使用を提供する。
【0070】
別の態様では、本発明は、対象における癌又は感染症を処置又は防止することにおける使用のための、本発明の結合タンパク質、キメラ若しくは融合タンパク質、ペプチド、細胞、核酸又は組成物を提供する。
【0071】
別の態様では、本発明は、対象における自己免疫疾患を処置又は防止することにおける使用のための、本発明の結合タンパク質、キメラ若しくは融合タンパク質、ペプチド、細胞、核酸又は組成物を提供する。
【0072】
別の態様では、本発明は、対象における移植拒絶反応を処置又は防止することにおける使用のための、本発明の結合タンパク質、キメラ若しくは融合タンパク質、ペプチド、細胞、核酸又は組成物を提供する。
【0073】
別の態様では、本発明は、結合タンパク質のCDR3における残基位置であって、その残基位置にシステインが存在する場合に、ペプチド/MHCに存在するシステインとジスルフィド結合を形成することができる、残基位置を同定するための方法であって、
・CDR3とペプチドにおけるシステイン残基との間で密接に接触している1つ又は複数の残基について、TCR-ペプチド/MHC界面、又は抗体若しくはその抗原結合断片/MHC界面を解析する工程、
・ペプチドにおけるシステイン残基と密接に接触していると同定されたCDR3における残基を変異させる工程、
・CDR3に導入されたシステインにおける硫黄原子とペプチド中のシステインにおける硫黄原子との間の原子間距離が0.01~3Å(オングストローム)の間であり、2セットのS-S-Cβ原子(一般的にS-S原子を有する)を通る平面間の二面角が-87°又は+97°のいずれかから30°未満である場合にジスルフィド結合が形成される可能性が高いことを決定する工程
を含み、それによって、結合タンパク質のCDR3における残基位置であって、その残基位置にシステインが存在する場合に、CDR3の構造再構成もペプチドの構造再構成も伴わずにペプチド/MHCに存在するシステインとジスルフィド結合を形成することができる、残基位置を同定する方法を提供する。
【0074】
この態様では、結合タンパク質は、本明細書に記載される任意の結合タンパク質であり得る。
【0075】
この態様では、TCR-ペプチド/MHC界面、又は抗体若しくはその抗原結合断片/MHC界面は、任意の公知の手段、例えばX線結晶構造解析又はNMRによって決定されても、in silicoにおける相互作用のモデルから決定されてもよい。
【0076】
この態様では、システインと密接に接触していると同定されたCDR3における残基を変異させる工程は、in silicoで実施されてもよい。
【0077】
この態様では、方法は、CDR3とペプチドとの間のジスルフィド結合の形成を確認する工程を更に含み、これは、
・CDR3をコードする、好ましくはCDR3を含む結合タンパク質をコードする核酸を提供する工程、
・結合タンパク質のCDR3における残基位置であって、その残基位置にシステインが存在する場合に、ペプチド/MHCに存在するシステインとジスルフィド結合を形成することができる、残基位置にシステインを導入する工程、
・導入されたシステインを有するCDR3を含む結合タンパク質を作製する工程、
・結合タンパク質及びペプチド/MHCを、ジスルフィド結合形成を可能にする条件で提供する工程、
・ジスルフィド結合の形成を決定する工程
を更に含む。
【0078】
この態様では、導入されたシステインを有するCDR3を含む結合タンパク質を作製する工程は、本明細書に記載される方法を含む、当技術分野で公知の任意の方法によって行うことができる。
【0079】
別の態様では、本発明は、本明細書に記載される本発明の結合タンパク質、又はキメラ若しくは融合タンパク質を作製する方法であって、本明細書に記載される本発明の核酸又はベクターを含む細胞を、本明細書に記載される本発明の結合タンパク質、又はキメラ若しくは融合タンパク質の発現を可能にする条件下で培養する工程を含む方法を提供する。
【0080】
別の態様では、本発明は、本明細書に記載される本発明の結合タンパク質、又はキメラ若しくは融合タンパク質を作製する方法であって、
・CDR3をコードする、好ましくはCDR3を含む結合タンパク質、キメラ又は融合タンパク質をコードする核酸を提供する工程、
・結合タンパク質、キメラ又は融合タンパク質のCDR3における残基位置であって、その残基位置にシステインが存在する場合に、ペプチド/MHCに存在するシステインとジスルフィド結合を形成することができる、残基位置にシステインを導入する工程、
・導入されたシステインを有するCDR3を含む結合タンパク質、キメラ又は融合タンパク質を作製する工程
を含む方法を提供する。
【0081】
この態様では、導入されたシステインを有するCDR3を含む結合タンパク質、キメラ又は融合タンパク質を作製する工程は、本明細書に記載される方法を含む、当技術分野で公知の任意の方法によって行うことができる。更に、方法は、結合タンパク質を精製又は単離する工程を更に含んでもよい。
【0082】
別の態様では、本発明は、HLAと結合した標的ペプチド(pHLA)に対する解離の速度が、変異していないTCRと比較して低下している変異型TCRを同定する方法であって、
- α鎖CDR3配列及び/又はβ鎖CDR3配列にシステイン残基を導入する変異を有する複数のTCRを作製する工程、
- 前記複数の変異型TCRのメンバーと標的pHLAとの相互作用を決定する工程、並びに
- 標的pHLAに対する解離の速度が、変異していないTCRと比較して低下している1つ又は複数のメンバーを選択する工程
を含む方法を提供する。
【0083】
別の態様では、本発明は、HLAと結合した標的ペプチド(pHLA)に対する解離の速度が、変異していないTCRと比較して低下している変異型TCRを同定する方法であって、
- α鎖CDR3配列及び/又はβ鎖CDR3配列にシステイン残基を導入する変異を有する複数のTCRを作製する工程、
- 前記複数の変異型TCRのメンバーと標的pHLAとの相互作用を決定する工程、並びに
- 標的pHLAに対する解離の速度が、変異していないTCRと比較して低下している1つ又は複数のメンバーを選択する工程であって、解離の速度の低下がジスルフィド結合の形成に起因する、工程、
- 任意選択で、導入されたシステイン残基と標的pHLAにおけるシステインとの間のジスルフィド結合の形成を確認する工程
を含む方法を提供する。
【0084】
一実施形態では、解離の速度の低下は、少なくとも5、10又は20分の1である。
【0085】
一実施形態では、TCR(変異しているか又は変異していない)とpHLAとの間の解離速度は、細胞ベースの四量体解離アッセイ及び/又は表面プラズモン共鳴アッセイによって決定される。
【0086】
一実施形態では、ペプチドは低存在量ペプチドである。別の実施形態では、システイン残基の導入前のTCRは、所与のpHLAに対して1mM、100μM、10μM、1μM、又は100nM以上の親和性を有する。システインを導入することは、この範囲全体にわたって、低親和性相互作用を増強するか又は高親和性相互作用を増強するのに望ましい場合がある。
【0087】
本明細書において使用される場合、文脈上別段のことが必要とされる場合を除き、「含む(comprise)」という用語並びにその用語の活用形、例えば「含むこと(comprising)」、「含む(comprises)」及び「含まれる(comprised)」は、更なる追加要素、成分、整数又は工程を排除することを意図していない。
【0088】
本発明の更なる態様及び前述の段落に記載されている態様の更なる実施形態は、例として且つ添付の図面を参照して示される以下の説明から明らかになるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0089】
図1】TCR及びペプチド抗原配列。(A)6218、6218αC及び6218βC TCRの詳細。(B)図面において使用されるペプチド抗原の名称及び配列。これらのペプチド抗原は、マウスMHCクラスIタンパク質H2-Dbに結合する。
図2】X線結晶構造解析を使用したジスルフィド結合形成の確認。(A)ピンク色の6218 TCR-PA/H2-Db複合体、金色の6218 TCR-PA4C/H2-Db、及び紫色の6218αC TCR-PA4C/H2-Dbを有する3つのTCR-pMHC構造の重合せ。(B)淡青色のペプチドを有するPA4C/H2-Db構造を追加した、TCR-ペプチド界面の拡大図。(C)パネル(A)において位置合せされた3つの複合体からのTCRの各可変ドメインの質量中心(球)(同じ色分け)を伴う、白色模式図におけるH2-Db抗原結合クレフトの上面図。(D)TCR及びペプチドをピンク色、H2-Dbを白色で示す、PA/H2-Dbと複合体を形成した6218 TCRの構造。(E)H2-Db(白色)によって提示されたPA4Cペプチド(金色)と複合体を形成した6218 TCR(金色)の構造。(F)界面において形成されたジスルフィド結合を示す、PA4C/H2-Db(ペプチドは青色、MHCは白色)と複合体を形成した6218αC TCR(青色)の構造。(G)(D)及び(F)と同じ配向の6218 TCR-PA/H2-Db(ピンク色)及び6218αC TCR-PA4C/H2-Db(青色)複合体の重合せ。
図3】ジスルフィド結合形成はペプチド抗原に対するT細胞感受性を増加させる。CD8αβと6218 TCR又は6218αC TCRのいずれかとを発現する5KC T細胞株と、段階的濃度のPA4Cペプチドを有するDC2.4細胞株との16時間の共培養後の上清IL-2濃度。対照培養は、5KC細胞と50μM PA4Cペプチド(Tのみ)、5KC細胞とペプチドを有しないDC2.4細胞(T+DC)、及び5KC細胞とプレート結合抗CD3(α-CD3)を含んだ。記号は条件1つ当たり2つのウェルの平均を示し、エラーバーは条件1つ当たり2つのウェルの範囲を示す。データは3回の別個の実験を代表するものである。
図4】固定化されたTCRと可溶型ペプチド/MHCとの間のジスルフィド結合に関するアッセイ。(A)漸増濃度において逐次注入されたPA4C/H2-Dbに曝露された、固定化された6218(黒色)又は6218αC(赤色)TCRの表面プラズモン共鳴(SPR)センサーグラム。(B)還元剤による持続的な結合の抑制。PA4C/H2-Db単量体を還元剤(DTT)中で一晩インキュベートした後、(A)と同様にSPR解析を行った。(C)経時的に進行するジスルフィド結合形成。固定化された6218αC TCRを、初めに陰性(関連のないpMHC)及び陽性(PA/H2-Db)対照pMHC単量体(示していない)の1分間の注入に曝露した後に、1、5又は20分間のPA4C/H2-Dbの注入に曝露し、続いて緩衝液の注入に曝露した。(D)短寿命6218αC TCR-PA4C/H2-Db複合体の短い半減期。pMHC単量体注入から緩衝液注入への移行にわたる12秒間のSPRデータ。-0.5秒~0秒の間の一部のデータ点はy軸の限界の外側にある。センサーグラムは、測定可能な解離の発生が時間=0.1秒で起こるように位置合せされる。エラーバーは、6218 TCR-PA/H2-Dbについては2回の実験、6218 TCR-PA4C/H2-Dbについては3回の実験(2回はDTTを用いず、1回はDTTを用いた)、及び6218αC TCR-PA4C/H2-Dbについては1回の実験(DTTを用いた)の範囲を示す。
図5】CDR3における曝露されたシステインは胸腺において閾値を超えたTCRシグナル伝達及びT細胞耐性誘導を促進する。(A)Cys含有CDR3を伴う胸腺細胞の発達の変更。Rag1-/-マウス(7匹の雌及び6匹の雄;37~134日齢)からプールされた骨髄(BM)細胞に、GFPと6218、6218αC又は6218βC TCRとをコードするレトロウイルスを形質導入し、次いでこの細胞を、雄B6マウス由来のT細胞枯渇野生型BM細胞と1:1で混合した後、照射Rag1-/-マウス(6218については3匹の雌及び1匹の雄;6218αCについては4匹の雌、並びに6218βCについては5匹の雄)に注射した。結果として得られたTCRレトロジェニックマウスを、BM移入の5週間後に、90~171日齢において解析した。プロットは、GFP/CCR7(上段)及びGFP/TCRβ(下段)を解析する生胸腺細胞の蛍光活性化細胞選別(FACS)表現型を、CD4/CD8β(3段目)及びPD-1/NK1.1(4段目)について解析したGFP+TCRβ+胸腺細胞に関するゲートと共に示す。(B) 脾臓由来のリンパ球の表現型を、GFP+TCRβ+サブセットに関するゲートを用いてGFP/TCRβについて解析し(上段)、GFP+TCRβ+サブセットをCD8α/CD8β表現型について解析した(下段)。(C)小腸由来のCD45+細胞の表現型を、GFP+TCRγδ-サブセットに関するゲートを用いてGFP/TCRγδについて解析し(上段)、GFP+TCRγδ-サブセットをCD8α/CD8β表現型について解析した(下段)。グラフは、ゲーティングされた事象の百分率、又はゲーティングされた事象の百分率に臓器ごとの細胞の総数を掛けることによって求めたマウス1匹当たりのゲーティングされた事象の絶対数(#)を示す。グラフ中の各記号は1匹のマウスを表し、円の記号は6218、正方形の記号は6218αC、三角形の記号は6218βCを表す。統計解析は、テューキーの多重比較検定を伴う一元配置分散分析を使用した。
図6】CDR3における曝露されたシステインは胸腺において発達するT細胞の存在量及び分布に影響を及ぼす。6218又は6218αC TCRを発現するTCRレトロジェニックマウス由来の胸腺の免疫蛍光組織学。胸腺切片をGFPに対して染色し、髄質部分をサイトケラチン-14(K14)に対する染色によって同定した。破線は、皮質(C)と髄質(M)との境界を画定する。スケールバー:200μm。TCRレトロジェニックマウスを、骨髄移入の5週間後に、99~138日齢において解析した(6128についてはn=4;6218αCについてはn=4)。グラフによる概要(下)は、皮質及び髄質部分におけるGFP+細胞密度(切片1つ当たり(上)又は1mm2当たり(下)のGFP+細胞の数)を示す。グラフ中の各記号は1匹のマウスを表す。統計解析は、対応のない両側スチューデントのt検定を使用した。
図7】システイン残基は、細胞ベースの四量体染色アッセイにおいて、TCRの密接に関連するpMHC四量体への結合の確率に影響を及ぼさない。(A)PA4CペプチドのP7での置換は、pMHC四量体によるTCR結合を減少させる。プロットは、抗TCRβ及び示されたペプチド(上)と複合体を形成したH2-Db四量体を用いて染色した6218又は6218αC TCRを発現するTCRトランスフェクタントのFACS表現型を示す。プロット上の数字は、6218 TCR-PA/H2-Db試料に対して正規化した、TCRβMFIで割った四量体平均蛍光強度(MFI)を示す。(B)示されたTCR-ペプチド/H2-Dbの組合せ(右)に関して、記号は、(A)と同様に算出された平均四量体結合を、表面プラズモン共鳴(SPR)によって決定されたKeqの関数として示し、点線は同じpMHCからの測定値を結ぶ。エラーバーは、2~3回の実験からの3~6つの試料の範囲(y軸)又は1つの組合せ当たり合計で4つの試料を用いた2回の実験の平均の標準誤差(x軸)を示す。
図8】ペプチドのP7での置換は、システイン残基の存在にかかわらず、TCRのpMHC単量体への結合の確率に影響を及ぼす。各グラフにアノテーションされた、徐々に増加する濃度の可溶型pMHC単量体に曝露された、固定化された6218 TCR(黒色)又は6218αC TCR(赤色)のSPRセンサーグラム。左側のパネルのセンサーグラムは、PAペプチド及びP4-Cysを有しないそのバリアントを示し、右側のセンサーグラムは、PA4Cペプチド及びそのバリアントに関するものである。一番下のパネルは、上のセンサーグラムに由来するKD値の表である。ピンク色の矢印は、注入後のpMHC保持のレベルを示し、ジスルフィド結合形成を示す。
図9】ジスルフィド結合形成はTCRのペプチド/MHCからの解離を防止する。(A)経時的に進行するジスルフィド結合形成。SPRセンサーグラムは、緩衝液の注入前に、20分間注入したPA4C(赤色)、PA4C7K(青色)、若しくはPA4C7A(灰色)、又は50分間注入したPA4C7L(黒色)と複合体を形成したH2-Db単量体(100μM)による6218αC TCRへの結合を示す。(B)ジスルフィド結合形成は四量体解離を阻害する。図7と同様にpMHC四量体を用いて染色した6218又は6218αCを発現するTCRトランスフェクタントを洗浄し、25μg/mL抗H2-Db/Kbを含有する緩衝液に再懸濁して、四量体再結合を10分間、30分間又は60分間防止した後、FACS解析を行った。グラフは、四量体+細胞頻度を、時間=0分における抗H2-Db/Kbを有しない対応する試料に対する百分率として示す。記号は、2回の実験から集計された、条件1つ当たり4つの試料の平均を示し、エラーバーは、2回の実験から集計された、条件1つ当たり4つの試料の範囲を示す。
図10】ジスルフィド結合形成は、非共有結合抗原認識と比較して、ペプチド抗原に対するT細胞感受性の増加及びペプチド抗原の識別の低下をもたらす。(A)CD8αβと6218 TCR又は6218αC TCRのいずれかとを発現する5KC T細胞と、段階的濃度の示されたペプチド(各グラフの左上に示される)を有するDC2.4細胞との共培養後の上清IL-2濃度。対照培養は、5KC細胞と50μMペプチド(Tのみ)、5KC細胞とペプチドを有しないDC2.4細胞(T+DC)、及び5KC細胞とプレート結合抗CD3(α-CD3)を含んだ。記号は1回の実験からの条件1つ当たり2つのウェルの平均を示し、エラーバーは1回の実験からの条件1つ当たり2つのウェルの範囲を示し、少なくとも2回の実験を代表するものである。ヒル勾配(h)値を、非線形回帰を使用して決定した。プラトーに達しなかった曲線に関して、報告されたEC50値は、EC50の最小推定値を示す。データは、図3と同様に示し、2回の別個の実験を代表するものである。(B)各TCR/ペプチドの組合せに関して、グラフは、少なくとも2回の実験において解析したペプチド1つ当たり合計で少なくとも4つの希釈系列から決定された、EC50(左)又は時間(右)の値に対してプロットした相対的四量体結合(x軸)を示す。エラーバーはEC50及び時間の95%信頼区間を示し、点線は同じpMHCからの測定値を結ぶ。
図11】TCR-ペプチド/MHCI複合体における操作可能なジスルフィド結合の分布。パネルは、TCRα鎖(x軸より上)又はTCRβ鎖(x軸より下)に関与する別々の高信頼性操作可能TCR-ペプチド結合の総数を示すTable 3(表3)に示されるTCR-ペプチド/MHCI複合体の解析結果を要約し、各グラフは、ペプチドにおける所与の位置を表す(グラフの上に表す)。
図12】TCR-ペプチド/MHCII複合体における操作可能なジスルフィド結合の分布。パネルは、TCRα鎖(x軸より上)又はTCRβ鎖(x軸より下)に関与する別々の高信頼性操作可能TCR-ペプチド結合の総数を示すTable 4(表4)に示されるTCR-ペプチド/MHCII複合体の解析結果を要約し、各グラフは、ペプチドにおける所与の位置を表す(グラフの上に表す)。
図13】システイン連結T細胞の運命の偏りにおけるZap70及びMHCの役割。(A)TCRシグナル伝達の減弱は、T細胞運命に対するCys含有CDR3の効果を妨げる。Zap70mrd/mrtマウス(11匹の雌及び9匹の雄;33~60日齢)からプールされた骨髄(BM)細胞に、GFPと6218、6218αC又は6218βC TCRとをコードするレトロウイルスを形質導入し、次いでこの細胞を照射雄Zap70mrd/mrtマウスに注射した。TCRレトロジェニックマウス由来の脾臓細胞を、GFP+TCRβ+細胞に関するゲートを用いてGFP/TCRβ表現型について解析した。グラフは、GFP+TCRβ+脾臓細胞の絶対数を示し、各記号は1匹のマウスを表す:6218(円の記号)、6218αC(正方形の記号)、6218βC(三角形の記号)。(B)ポリクローナルT細胞サブセットにおけるCys含有CDR3の発現差異は、pMHCリガンドに応答する強力なTCRシグナル伝達を必要とする。選別された事前選択胸腺細胞、小腸CD8ααIEL、脾臓CD4+T-conv及び脾臓CD8+T-conv集団をTCR配列決定によって解析した。グラフは、中央のCDR3アミノ酸から2位以内にCysを有する固有のTCRα(○)又はTCRβ(×)配列の百分率(システイン指数)を示し、グラフ上の各記号は1匹のマウス由来の試料を表す:左側のパネル、野生型(n=11;6匹の雌及び5匹の雄、45~133日齢);中央のパネル、Zap70mrd/mrtマウス(n=3;37~74日齢);右側のパネル、B2m-/-H2-A-/-マウス(n=1匹の雌及び4匹の雄、98~140日齢)。左側のパネルにおけるp値は、シダックの多重比較検定を伴う二元配置分散分析を使用して決定した。
図14】TCR-pMHC結合のCysの文脈依存効果。マウスCD3と、GFPと、6218、6218αC又は6218βC TCRとを発現するTCRトランスフェクタントを、抗TCRβ及び示されたPA又はPA4Cペプチド(左側)を提示するH2-Dbの四量体と共にインキュベートした。FACSプロットは、生GFP+TCRβ+細胞における四量体染色対TCRβ発現を示す。データは、6218 TCR又は6218αC TCRを発現する細胞については6回の実験、及び6218βC TCRを発現する細胞については1回の実験を代表するものである。
図15】α3/DR15-APC四量体に関する染色によって実証される、α3/DR15抗原に結合するCD4+T細胞ハイブリドーマの生成。FACSプロットは、ハイブリドーマ細胞における四量体染色対CD4+発現を示す。
図16】TCR曝露位置にシステイン置換を有するα3ペプチドのバリアントに対する反応性を同定するためのLS1ハイブリドーマを使用したT細胞活性化アッセイ。 (A)ヒストグラムは、各ヒストグラムの上の名称のペプチド(50μg/mL)の非存在下又は存在下で、ナイーブDR15トランスジェニックFcgr2b-/-マウス由来のCellTrace Violet(CTV)標識脾臓細胞と共に16時間インキュベートしたLS1ハイブリドーマ細胞におけるフルオレセインシグナルを示す。(B)FACSドットプロットは、各ヒストグラムの上の名称のペプチド(50μg/mL)の非存在下又は存在下で、ナイーブDR15トランスジェニックFcgr2b-/-マウス由来のCTV標識骨髄由来樹状細胞と共に16時間インキュベートしたLS1ハイブリドーマ細胞におけるフルオレセイン(x軸)対側方散乱(y軸)を示す。
図17】LS1 T細胞ハイブリドーマによって発現されたTCRα及びTCRβ鎖の可変(TRAV/TRBV)及び結合(TRAJ/TRBJ)遺伝子セグメントとCDR3アミノ酸配列との詳細。
【発明を実施するための形態】
【0090】
本明細書に開示及び定義される発明は、言及されるか又は本文若しくは図面から明白な個々の特徴の2つ以上の全ての代替的な組合せに及ぶことが理解されるだろう。これらの異なる組合せの全ては、本発明の様々な代替的な態様を構成する。
【0091】
本発明の更なる態様及び前述の段落に記載されている態様の更なる実施形態は、例として且つ添付の図面を参照して示される以下の説明から明らかになるだろう。
【0092】
次に、本発明のある特定の実施形態について詳細に述べる。本発明は実施形態と共に記載されるが、その意図は本発明をこれらの実施形態に限定することではないことが理解されるだろう。むしろ、本発明は、特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲内に含まれ得る全ての代替形態、修正形態、及び均等物を包含することが意図されている。
【0093】
T細胞活性化は、抗原提示細胞(APC)の表面の主要組織適合遺伝子複合体(MHC)分子によって提示されたペプチド抗原のT細胞抗原受容体(TCR)同時認識に依存する。本発明者(ら)は、TCR-ペプチドジスルフィド結合がTCRとそのペプチド/MHCリガンドとの間の相互作用を安定化することを見出した。本発明者らは、このことを、細胞結合型TCRと可溶型TCRとの両方を用いて示した。TCRがpMHCに結合する確率が高いが、ジスルフィド結合を形成する能力によって区別される2つの相互作用を考慮すると、ジスルフィド結合形成を可能にする相互作用は、ジスルフィド結合形成を可能にしない相互作用よりも低い濃度のペプチドにおいて、T細胞活性化を促進することができる。更に、TCRがpMHCに結合する確率が低いが、ジスルフィド結合を形成する能力によって区別される2つの相互作用を考慮すると、ジスルフィド結合形成を可能にする相互作用は、T細胞活性化を促進することができるが、ジスルフィド結合を可能にしない相互作用は、T細胞活性化を促進することができない。
【0094】
TCR遺伝子療法は、所望のTCRを発現するように遺伝子操作されているT細胞を患者に提供する。したがって、天然に発現するペプチドとジスルフィド結合を形成する遺伝子操作されたTCRの使用は、癌のための従来のT細胞のTCR遺伝子療法(TCR-T細胞療法)(1)及び自己免疫疾患のための調節性T細胞のTCR遺伝子療法(TCR Treg療法)(2)を増強する。この理由は、TCRとペプチド/MHCとの間の相互作用の寿命がもはやTCR遺伝子療法を制限する因子ではなくなるからである。更に、より低い存在量のペプチドという新規分野が、TCR遺伝子療法にとって利用可能な標的となり得る。
【0095】
TCR-ペプチドジスルフィド結合の重要な利点は、TCR-ペプチド/MHC相互作用の長い半減期である。このことは、TCR遺伝子療法の主要な課題を克服する、すなわち、TCR/ペプチド-MHC認識単位の、T細胞活性化を誘発するのに十分な持続性を達成する。重要な結果は、低い発現レベルを有するジスルフィド可能ペプチドによってジスルフィド可能T細胞が活性化され得るというものであり、これはT細胞認識に対するペプチドの新規分野を切り開くものである。
【0096】
システイン操作TCRは、TCR-T細胞療法によってこれまで標的とすることができなかった抗原、例えば、低発現又はMHCによるT細胞への低提示を有する抗原、非古典的MHC(例えばHLA-E、HLA-F)によって提示されるペプチドのT細胞認識を可能にし得る。
【0097】
TCR遺伝子療法は、所望のαβTCRを発現するように遺伝子操作されている自己T細胞を患者に提供する。TCR遺伝子療法は、癌を処置するために使用され得る。調節性T細胞のTCR遺伝子療法は、自己免疫疾患のための処置としての可能性を有する。ジスルフィド可能TCRを使用するTCR遺伝子療法は、他の場合ではT細胞を刺激することができない低存在量のペプチドによるT細胞刺激を可能にし得ると想定される。
【0098】
全般
本明細書全体にわたって、別段の記述が具体的になく、文脈上別段の必要もない限り、単数の工程、組成物、工程群、又は組成物群への言及は、1つ及び複数の(すなわち1つ又は複数の)そのような工程、組成物、工程群、又は組成物群を包含すると理解されるものとする。したがって、本明細書において使用される場合、単数形の「1つの(a)」、「1つの(an)」及び「その(the)」は、文脈上別段の指示が明確にない限り、複数形の態様を含み、逆もまた同様である。例えば、「1つの(a)」への言及は、単数及び2つ以上を含み、「1つの(an)」への言及は、単数及び2つ以上を含み、「その(the)」への言及は、単数及び2つ以上を含む、等である。
【0099】
当業者は、本発明が、具体的に記載されるもの以外の変形形態及び修正形態が可能であることを理解するだろう。本発明には全てのそのような変形形態及び修正形態が含まれることが理解されるべきである。本発明はまた、本明細書において個々に又はまとめて言及又は示される工程、特徴、組成物、及び化合物の全て、並びに前記工程又は特徴の任意の2つ以上のあらゆる組合せを含む。
【0100】
当業者は、本発明の実施において使用され得る、本明細書に記載されるものと類似しているか又は同等の多くの方法及び材料を認識するだろう。本発明は、記載される方法及び材料に決して限定されない。
【0101】
本明細書において言及される特許及び刊行物の全ては、それらの全体が参照により組み込まれる。
【0102】
本発明は、例示のみを目的とすることが意図されている、本明細書に記載される具体例によって範囲が限定されるべきではない。機能的に等価な生成物、組成物、及び方法は、明確に本発明の範囲内である。
【0103】
本明細書における本発明の任意の例又は実施形態は、別段の記述が具体的にない限り、本発明の任意の他の例又は実施形態に準用されると理解されるものとする。
【0104】
別段の定義が具体的にない限り、本明細書において使用される全ての技術用語及び科学用語は、当技術分野(例えば、細胞培養学、分子遺伝子学、免疫学、免疫組織化学、タンパク質化学、及び生化学)における当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有すると理解されるものとする。
【0105】
別段の指示がない限り、本開示において利用される組換えタンパク質、細胞培養、及び免疫学的技法は、当業者に周知の標準的な手順である。そのような技法は、J. Perbal、A Practical Guide to Molecular Cloning、John Wiley and Sons (1984)、J. Sambrookら、Molecular Cloning: A Laboratory Manual、Cold Spring Harbour Laboratory Press (1989)、T.A. Brown(編)、Essential Molecular Biology: A Practical Approach、第1巻及び第2巻、IRL Press (1991)、D.M. Glover及びB.D. Hames(編)、DNA Cloning: A Practical Approach、第1~4巻、IRL Press(1995及び1996)、並びにF.M. Ausubelら(編)、Current Protocols in Molecular Biology、Greene Pub. Associates and Wiley-Interscience (1988、現在までの全ての改訂版を含む)、Ed Harlow及びDavid Lane(編)、Antibodies: A Laboratory Manual、Cold Spring Harbour Laboratory、(1988)、並びにJ.E. Coliganら(編)、Current Protocols in Immunology、John Wiley & Sons (現在までの全ての改訂版を含む)等の出典における文献全体にわたって記載及び説明されている。
【0106】
本明細書における可変領域及びその一部、T細胞受容体及びその断片の記載及び定義は、Kabat Sequences of Proteins of Immunological Interest、National Institutes of Health、Bethesda、Md.、1987及び1991、Borkら、J Mol. Biol. 242、309~320、1994、Chothia及びLesk J. Mol Biol. 196:901~917、1987、Chothiaら、Nature 342、877~883、1989、並びに/又はAl-Lazikaniら、J Mol Biol 273、927~948、1997における議論によって更に明確になり得る。
【0107】
「及び/又は」という用語、例えば、「X及び/又はY」は、「X及びY」又は「X又はY」のいずれかを意味すると理解されるものとし、両方の意味又はいずれかの意味に対する明示的な支持を提供すると理解されるものとする。
【0108】
本明細書において使用される場合、「に由来する」という用語は、指定された完全体が特定の供給源から、必ずしも直接というわけではないが、取得され得ることを示すと理解されるものとする。
【0109】
本明細書における、例えば残基の範囲への言及は、包括的であると理解されるだろう。例えば、「アミノ酸1~15を含む領域」への言及は、包括的に、すなわち、領域が、指定された配列において1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14及び15と番号付けられるアミノ酸の配列を含むと理解されるだろう。
【0110】
「から本質的になる」という用語は、特許請求の範囲を、指定された材料若しくは工程、又は特許請求される発明の基本的な特徴に実質的に影響を及ぼさない材料若しくは工程に限定する。例えば、タンパク質ドメイン、領域、若しくはモジュール(例えば、結合ドメイン、ヒンジ領域、リンカーモジュール)又はタンパク質(1つ又は複数のドメイン、領域、又はモジュールを有し得る)は、ドメイン、領域、モジュール、又はタンパク質のアミノ酸配列が、伸長、欠失、変異、又はそれらの組合せであって、合わせて、ドメイン、領域、モジュール、又はタンパク質の長さの最大20%(例えば、最大15%、10%、8%、6%、5%、4%、3%、2%又は1%)に寄与し、ドメイン、領域、モジュール、又はタンパク質の活性(例えば、結合タンパク質の標的結合親和性)に実質的に影響を及ぼさない(すなわち、活性を、50%を超えて、例えば40%、30%、25%、20%、15%、10%、5%、又は1%を超えて低下させない)、伸長、欠失、変異、又はそれらの組合せを含む場合、特定のアミノ酸配列(例えば、アミノ若しくはカルボキシ末端又はドメイン間におけるアミノ酸)「から本質的になる」。
【0111】
本明細書において使用される場合、「核酸」又は「核酸分子」とは、デオキシリボ核酸(DNA)、リボ核酸(RNA)、オリゴヌクレオチド、例えばポリメラーゼ連鎖反応(PCR)又はin vitro翻訳によって生成された断片、及びライゲーション、切断作用、エンドヌクレアーゼ作用、又はエキソヌクレアーゼ作用のいずれかによって生成された断片のいずれかを指す。ある特定の実施形態では、本開示の核酸は、PCRによって作製される。核酸は、天然に存在するヌクレオチドである単量体(例えばデオキシリボヌクレオチド及びリボヌクレオチド)、天然に存在するヌクレオチドのアナログ(例えば、天然に存在するヌクレオチドのa-鏡像異性体型)、又はその両方の組合せから構成されてもよい。改変されたヌクレオチドは、糖部分、又はピリミジン若しくはプリン塩基部分の改変又は置換えを有し得る。核酸単量体は、ホスホジエステル結合又はそのような連結のアナログによって連結することができる。ホスホジエステル連結のアナログとしては、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、ホスホロセレノエート、ホスホロジセレノエート、ホスホロアニロチオエート、ホスホロアニリデート、ホスホロアミデート等が挙げられる。核酸分子は一本鎖であっても二本鎖であってもよい。
【0112】
「単離された」という用語は、物質がその元の環境(例えば、それが天然に存在する場合は天然環境)から除去されていることを意味する。例えば、生きている動物に存在する天然に存在する核酸又はポリペプチドは単離されていないが、自然系における共存物質の一部又は全部から分離された同じ核酸又はポリペプチドは単離されている。そのような核酸はベクターの一部であり得る、及び/又はそのような核酸若しくはポリペプチドは組成物(例えば、細胞溶解物)の一部であり得、そのようなベクター又は組成物がその核酸又はポリペプチドの天然環境の一部ではないという点で、依然として単離されている。「遺伝子」という用語は、ポリペプチド鎖を産生することに関与するDNAのセグメントを意味し、それには、コード領域である「リーダー及びトレーラー」の前後にある領域、並びに個々のコードセグメント(エクソン)の間の介在配列(イントロン)が含まれる。
【0113】
本明細書において使用される場合、「組換え」という用語は、ヒトの介入によって遺伝子操作された、すなわち、外因性若しくは異種核酸分子の導入によって改変された細胞、微生物、核酸分子、若しくはベクターを指すか、又は内因性核酸分子若しくは遺伝子の発現が制御されるか、調節解除されるか、若しくは恒常的となるように変更された細胞若しくは微生物を指す。ヒトによって生成された遺伝子変更としては、例えば、1種若しくは複数種のタンパク質若しくは酵素をコードする核酸分子(発現制御エレメント、例えばプロモーターを含み得る)を導入する改変、又は他の核酸分子の付加、欠失、置換、又は他の機能的な、細胞の遺伝物質の破壊若しくはそれへの付加を挙げることができる。例示的な改変としては、参照又は親分子由来の異種又は同種ポリペプチドのコード領域又はその機能的断片における改変が挙げられる。
【0114】
「保存的置換」は、当技術分野において、あるアミノ酸の、類似した特性を有する別のアミノ酸への置換として認識される。例示的な保存的置換は当技術分野で周知である(例えば、WO97/09433、10ページ;Lehninger、Biochemistry、第2版;Worth Publishers, Inc. NY、NY、71~77ページ、1975;Lewin、Genes IV、Oxford University Press、NY and Cell Press、Cambridge、MA、8ページ、1990を参照されたい)。
【0115】
結合タンパク質
「結合タンパク質」とは、本明細書において使用される場合、標的(例えば、タンパク質、ペプチド又はその断片、ペプチド-MHC複合体)と特異的に及び非共有結合により会合、統合、又は化合する能力を有するタンパク質性分子又はその部分(例えば、ペプチド、オリゴペプチド、ポリペプチド、タンパク質)を指す。結合タンパク質は、精製されていても、実質的に精製されていても、合成であっても、組換えであってもよい。例示的な結合タンパク質としては、一本鎖免疫グロブリン可変領域(例えば、scTCR、scFv)が挙げられる。
【0116】
ある特定の実施形態では、本発明の結合タンパク質のいずれも、それぞれ、T細胞受容体(TCR)、キメラ抗原受容体、又はTCRの抗原結合断片であり、これらはいずれも、キメラ、ヒト化、又はヒトのものであり得る。任意の実施形態では、結合タンパク質は、キメラ又は融合タンパク質であり得る。更なる実施形態では、TCRの抗原結合断片は、一本鎖TCR(scTCR)又はキメラ抗原受容体(CAR)を含む。ある特定の実施形態では、結合タンパク質はTCRである。
【0117】
「T細胞受容体」(TCR)とは、MHC受容体と結合した抗原ペプチドに特異的に結合することができる免疫グロブリンスーパーファミリーメンバー(可変結合ドメイン、定常ドメイン、膜貫通領域、及び短い細胞質尾部を有する;例えば、Janewayら、Immunobiology: The Immune System in Health and Disease、第3版、Current Biology Publications、4ページ:33、1997を参照されたい)を指す。TCRは、細胞の表面に、又は可溶型で見出される可能性があり、一般に、α(アルファ)及びβ(ベータ)鎖(それぞれTCRα及びTCRβとしても公知)、又はγ及びδ鎖(それぞれTCRγ及びTCRδとしても公知)を有するヘテロ二量体で構成される。免疫グロブリンと同様に、TCR鎖(例えば、α鎖、β鎖)の細胞外部分は、2つの免疫グロブリンドメイン、すなわち、N末端における可変ドメイン(例えば、α鎖可変ドメイン又はVα、β鎖可変ドメイン又はVβ;典型的には、Kabatら、「Sequences of Proteins of Immunological Interest」、US Dept. Health and Human Services、Public Health Service National Institutes of Health、1991、第5版のKabat番号付けに基づくアミノ酸1~116)と、細胞膜に隣接する1つの定常ドメイン(例えば、α鎖定常ドメイン又はCα、典型的にはKabatに基づくアミノ酸117~259、β鎖定常ドメイン又はCβ、典型的にはKabatに基づくアミノ酸117~295)とを含有する。また、免疫グロブリンと同様に、可変ドメインは、フレームワーク領域(FR)によって分離されている相補性決定領域(CDR)を含有する(例えば、Joresら、Proc. Nat'l. Acad. Sci. U.S.A. 57:9138、1990;Chothiaら、EMBO J. 7:3745、1988を参照されたい;Lefrancら、Dev. Comp. Immunol. 27:55、2003もまた参照されたい)。ある特定の実施形態では、TCRは、T細胞(又はTリンパ球)の表面に見出され、CD3複合体と会合する。本開示において使用されるTCRの供給源は、様々な動物種、例えば、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、又は他の哺乳動物であり得る。本明細書において言及されるTCRは、細胞結合型TCR又は可溶型TCRであり得る。細胞結合型TCR又は可溶型TCRは、キメラ又は融合タンパク質の一部であり得る。
【0118】
MHCIに関して、ポケットA~FはYoungら、FASEB J (1995): 9、26~36において定義されている。MHCIIに関して、MHCIIにおけるポケット1~9は、それらが含有するペプチドの残基に因んで命名されている。例えば、Rammenseeら、Curr Opin Immunol (1995): 7: 85~96を参照されたい。
【0119】
組換え作製された可溶型TCR(キメラ又は融合タンパク質の一部である場合もある)を単離及び精製するのに有用な方法としては、例として、組換え可溶型TCRを培養培地に分泌する好適な宿主細胞/ベクター系由来の上清を取得し、次いで市販のフィルターを使用して培地を濃縮することを挙げることができる。濃縮後、濃縮物は、単一の好適な精製マトリックス又は一連の好適なマトリックス、例えば親和性マトリックス又はイオン交換樹脂に適用され得る。1つ又は複数の逆相HPLC工程が、組換えポリペプチドを更に精製するために用いられてもよい。これらの精製方法は、免疫原をその天然環境から単離する場合にも用いられ得る。本明細書に記載される1種又は複数種の単離/組換え可溶型TCRの大規模作製のための方法としては、適切な培養条件を維持するためにモニタリング及び制御されるバッチ細胞培養が挙げられる。可溶型TCRの精製は、本明細書に記載され、当技術分野で公知の方法に従って実施してもよい。
【0120】
本明細書に記載される結合タンパク質又はドメインは、T細胞結合、活性化、又は誘導の決定を含み、抗原特異的であるT細胞応答の決定も含む、T細胞活性をアッセイするための、当技術分野で受け入れられている多数の方法論のいずれかに従って機能的に特徴付けることができる。例としては、T細胞増殖、T細胞サイトカイン放出、抗原特異的T細胞刺激、MHC拘束性T細胞刺激、CTL活性(例えば、予め負荷された標的細胞からのCr放出を検出することによる)、T細胞表現型マーカー発現の変化、及びT細胞機能の他の指標の決定が挙げられる。これらの及び類似のアッセイを実施するための手順は、例えば、Lefkovits (Immunology Methods Manual: The Comprehensive Sourcebook of Techniques、1998)に見出され得る。Current Protocols in Immunology; Weir、Handbook of Experimental Immunology、Blackwell Scientific、Boston、MA (1986);Mishell及びShigii(編) Selected Methods in Cellular Immunology、Freeman Publishing、San Francisco、CA (1979);Green及びReed、Science 281:1309 (1998)、並びにそこに引用される参考文献もまた参照されたい。
【0121】
本明細書において使用される場合、MHC及びHLAは交換可能に使用され、HLAの全ての例は、MHCと置換することができる。マウスMHCはH2とも呼ばれる。
【0122】
任意の態様又は実施形態では、システインは、既存の残基の変異又は改変によってCDR(例えば結合タンパク質、又はキメラ若しくは融合タンパク質の可変ドメインの)に導入されている。換言すれば、特定の位置における本来備わっているアミノ酸はシステインでなくてもよいが、その本来備わっているアミノ酸は、システイン残基に変異されるか、又は任意の手段において、その残基がHLA分子と結合したペプチドに存在するシステインとジスルフィド結合を形成することを可能にするように改変されている。例示的な方法は本明細書に、例えば、結合タンパク質、又はキメラ若しくは融合タンパク質の可変ドメインをコードする、関連する位置におけるヌクレオチド配列を、システイン残基をコードするように変異させることを記載する実施例に記載される。システインが例えば変異又は改変によって導入された場合、そのシステインは、本来備わっていないシステインと称される場合があり、導入されたシステインを含有する任意の結合タンパク質、キメラ又は融合タンパク質は、本来備わっていないシステインを含む結合タンパク質、キメラ又は融合タンパク質と称される場合がある。
【0123】
タンパク質ジスルフィド結合とは、2つのシステイン残基におけるチオール基(-SH)の硫黄原子間の共有結合による連結である。ジスルフィド(S-S結合、ジスルフィド架橋、又は架橋とも呼ばれる)は、2つのチオールの酸化により形成され、したがって、2つのシステイン及びそれらのそれぞれのペプチド主鎖を共有ジスルフィド結合によって連結する。
【0124】
結合タンパク質は、任意のアミノ酸配列、例えば、本明細書に、例えば実施例及び図17に記載されるように、Vα及び/又はVβの任意のCDR1、CDR2又はCDR3アミノ酸配列を含み得る。好ましくは、結合タンパク質は、既存の残基の変異又は改変によってCDRに導入されたシステイン残基を含有する。
【0125】
養子細胞療法/操作された細胞
本発明は、養子細胞療法のための細胞を調製する方法、対象における本明細書に記載される疾患又は状態を、その細胞を用いて処置又は防止する方法、及び上記細胞それ自体を提供する。
【0126】
ある特定の実施形態では、本発明の結合タンパク質、又はキメラ若しくは融合タンパク質をコードする核酸分子は、養子移入療法における使用のための宿主細胞(例えば、CD8+T細胞、Treg細胞)にトランスフェクト/形質導入するために使用される。
【0127】
代替的な実施形態では、本発明の1つ又は複数のペプチドは、T細胞の集団を活性化及び/又は増加させて、ペプチドに対して特異性を有するT細胞(例えば、CD8+T細胞、Treg細胞)を生成するために使用される。
【0128】
TCR配列決定の進展は、(例えば、Robinsら、Blood 114:4099、2009;Robinsら、Sci. Translat. Med. 2:47ra64、2010;Robinsら、(9月10日) J. 1mm. Meth.印刷前の電子版、2011;Warrenら、Genome Res. 2 1:790、2011)に記載されており、本開示による実施形態を実施する過程において用いられ得る。同様に、T細胞に所望の核酸をトランスフェクト/形質導入するための方法は、(例えば、米国特許出願公開第2004/0087025号)に記載されており、所望の抗原特異性のT細胞を使用する養子移入手順を有し(例えば、Schmittら、Hum. Gen. 20:1240、2009;Dossettら、Mol. Ther. 77:742、2009;Tillら、Blood 772:2261、2008;Wangら、Hum. Gene Ther. 75:712、2007;Kuballら、Blood 709:2331、2007;US2011/0243972;US2011/0189141;enら、Ann. Rev. Immunol. 25:243、2007)、それゆえ、これらの方法論の本開示の実施形態への適合は、本発明の結合タンパク質を対象とするものを含む本明細書における教示に基づいて企図される。
【0129】
T細胞は、T細胞受容体又はキメラ抗原受容体(CAR)を発現するように遺伝子操作された腫瘍浸潤リンパ球、末梢血リンパ球、混合リンパ球腫瘍細胞培養(MLTC)を用いて富化されたか又は自己抗原提示細胞及び腫瘍由来ペプチドを使用してクローニングされたγδT細胞からなる群から選択され得る。リンパ球は、組織適合ドナー又は対象から単離され得る。
【0130】
CD8+T細胞は、T細胞表面マーカーに基づいてT細胞を識別及び分別し、本発明の組成物及び方法における使用のためのCD8+T細胞の単離された集団を取得するために使用することができる慣例的な細胞選別技法を使用して取得することができる。例えば、血液及び/又は末梢血リンパ球を含む生体試料が個体から取得され、CD8+T細胞が上記試料から、市販のデバイス及び試薬を使用して単離され、それによってCD8+T細胞の単離された集団を取得することができる。
【0131】
ヒトCD8+T細胞型及び/又は集団は、表現型細胞表面マーカーCD62L、CCR7、CD27、CD28及びCD45RA又はCD45ROを使用して同定することができる。本明細書において使用される場合、CD8+T細胞型及び/又は集団は、細胞表面マーカーの発現について以下の特徴又はパターンを有する:ナイーブT細胞は、CD45RA+、CD27+、CD28+、CD62L+及びCCR7+として特徴付けられ、CD45RO+セントラルメモリーT細胞は、CD45RA-、CD27+、CD28+、CD62L+及びCCR7+であり、CD45RO+エフェクターメモリーT細胞は、これらの5つのマーカーの発現の欠如によって定義され(CD45RA-、CD27-、CD28-、CD62L-及びCCR7-)、最終分化エフェクターメモリーCD45RA+T細胞は、CD45RA+、CCR7-、CD27-、CD28-、CD62L-として特徴付けられる。最終分化エフェクターメモリー細胞は、CD57、KLRG1、CX3CR1等のマーカーを更に上方調節し、高レベルのグランザイムA及びB、パーフォリン並びにIFNγを産生する能力によって特徴付けられる強力な細胞傷害特性を呈する。したがって、T細胞の様々な集団が、これらのマーカーの発現又は発現の欠如に基づいて他の細胞から及び/又は互いに分離され得る。
【0132】
異なるCD8+T細胞型は、例えば、IFN-γの分泌;IL-2の分泌;グランザイムBの産生;FasLの発現及びCD107の発現を含む特定の機能もまた呈し得る。しかしながら、細胞表面マーカーの発現パターンが本明細書に記載される特定の各CD8+T細胞型及び/又は集団の特徴を示すと考えられる一方で、各細胞型及び/又は集団の機能的属性は、細胞が受けた刺激の量に応じて変動し得る。
【0133】
細胞傷害性又は調節性T(Treg)細胞を含む細胞の集団は、細胞傷害性又はTreg細胞が存在する任意の供給源、例えば末梢血、胸腺、リンパ節、脾臓、及び骨髄に由来し得る。
【0134】
Treg細胞を含む細胞の集団はまた、T細胞の混合集団又は従来のT細胞の集団に由来してもよい。本明細書に記載されるように、混合集団又は従来のT細胞は、T細胞の抗原特異性を高めるために、所望のペプチド/MHCリガンドと接触させてもよい。或いは、混合集団又は従来のT細胞は、本発明の結合タンパク質をコードする核酸を形質導入されてもよい。次いで、T細胞は、Treg細胞の生成のための、当業者に公知の標準的な技法を使用してTreg細胞に変換されてもよい。ある特定の実施形態では、T細胞の混合集団又は従来のT細胞は、TGF-ベータ及びFoxp3の発現の増加を可能にする条件において培養される。このことは、細胞を、抗CD3/抗CD28抗体、CDK8/19の阻害、高用量のIL-2、TGF-ベータ、及びラパマイシンと培養することを含む。更なる実施形態では、変換されたか又は高められたTreg細胞の集団は安定化される(例えば、細胞をビタミンC又はTregを安定化させるための他の薬剤と接触させることによって)。
【0135】
輸注のために使用されるTreg細胞(又は実際には、Tregを生成するために使用されるTconv又はT細胞の混合集団)は、好ましくはHLA適合の同種異系ドナーから、又は自己タンパク質に対する異常な、望まれない、若しくは他の場合では不適切な免疫応答に関連する状態と診断された対象から単離することができる。
【0136】
T細胞はまた、人工多能性細胞(iPSC)又は胚性幹細胞、好ましくは胚性幹細胞株の分化から生成されてもよい。当業者は、iPSCを含む幹細胞からTreg細胞を生成するための標準的な技法に精通しているだろう。これらの技法の例は、Hagueら、(2012) J. Immunol.、189: 2338~36、及びHagueら、(2019) JCI Insight、4: pii 126471)に記載されている。
【0137】
更に、T細胞の混合集団の文脈では、当業者は、CD4+CD25+T細胞(Treg細胞)であるT細胞の亜集団を単離するための標準的な技法に精通しているだろう。例えば、CD4+CD25+T細胞(Treg細胞)は、陰性及び陽性免疫選択並びに細胞選別によって対象由来の生体試料から取得することができる。
【0138】
本発明のいかなる方法においても、核酸又はベクターの存在下で培養されたTreg細胞は、細胞が取得された同じ対象に移入することができる。換言すれば、本発明の方法において使用される細胞は、自己細胞であることができる、すなわち、医学的状態が処置又は防止される対象から取得することができる。或いは、細胞は、別の対象に同種異系移入することができる。好ましくは、細胞は、対象における医学的状態を処置又は防止する方法において、対象に対して自己である。
【0139】
本明細書において使用される場合、「ex vivo」又は「ex vivo療法」という用語は、細胞を、患者又は好適な代替供給源、例えば好適な同種異系ドナーから取得し、改変し、その結果、改変された細胞を使用して、改変された細胞によって生じる治療上の利益によって改善し得る疾患を処置することができる療法を指す。処置は、改変された細胞の患者への投与又は再導入を含む。ex vivo療法の利益は、患者を処置由来の望ましくない付随効果に曝露することなく、患者に処置の利益を提供できることである。
【0140】
「投与された」という用語は、治療有効用量の、それぞれの細胞を含む上述の組成物の個体への投与を意味する。「治療有効量」とは、それを投与する目的の効果を生じる用量を意味する。正確な用量は、処置の目的に依存し得、当業者によって公知の技法を使用して確かめられ得る。当技術分野で公知且つ上に記載したように、全身送達か局所送達かの調整、年齢、体重、全身の健康状態、性別、食事、投与時間、薬物相互作用、及び状態の重症度が必要になる場合があり、これらは当業者による慣例的な実験によって確かめられ得る。
【0141】
細胞の「富化された」又は「精製された」集団とは、特定の細胞の、他の細胞に対する比の増加、例えば、対象の身体に見出されるような細胞と比較した、又は本発明のペプチド、核酸、若しくはベクターへの曝露前の比と比較した増加である。一部の実施形態では、細胞の富化又は精製された集団において、特定の細胞は、総細胞集団の少なくとも20%、30%、40%、50%、60%、70%、75%、80%、90%、95%又は99%を構成する。細胞の集団は、1つ又は複数の細胞表面マーカー及び/又は特性によって定義され得る。
【0142】
本発明の結合タンパク質、又はキメラ若しくは融合タンパク質を発現するTreg細胞は、例えば、注射、輸注、堆積、埋込、経口摂取、若しくは局所投与、又はそれらの任意の組合せを含む任意の方法によって対象に投与することができる。注射は、例えば、静脈内、筋肉内、皮内、皮下、又は腹腔内、好ましくは静脈内注射であり得る。単回又は複数回用量が、状態、その重症度、及び対象の総合的な健康状態に応じて所与の期間にわたって投与可能であり、これは、当業者によって、過度の実験を行わずに決定することができる。注射は、複数の部位において行うことができる。
【0143】
Treg細胞の投与は、単独で、又は他の治療剤と組み合わせて行うことができる。各用量としては、約10×103個のCD8+T細胞、20×103個の細胞、50×103個の細胞、100×103個の細胞、200×103個の細胞、500×103個の細胞、1×106個の細胞、2×106個の細胞、20×106個の細胞、50×106個の細胞、100×106個の細胞、200×106、500×106、1×109個の細胞、2×109個の細胞、5×109個の細胞、10×109個の細胞等を挙げることができる。投与頻度は、例えば、1週間に1回、1週間に2回、2週間ごとに1回、3週間ごとに1回、4週間ごとに1回、1か月に1回、2か月ごとに1回、3か月ごとに1回、4か月ごとに1回、5か月ごとに1回、6か月ごとに1回等であり得る。投与が行われる合計日数は、1日、2日、又は3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、若しくは20日等であり得る。任意の所与の投与は同じ日の2回以上の注射を伴い得ることが理解される。投与に関して、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%の投与されるTreg細胞は、Treg細胞の少なくとも1つの特性を呈する。
【0144】
ペプチド
本明細書に記載されるように、本発明の結合タンパク質、キメラ又は融合タンパク質は、MHC分子、好ましくはHLA分子と結合しているペプチドに結合し得る。上記ペプチドは内因性であっても外因性であっても、すなわち自己であっても非自己であってもよい。上記ペプチドとしては、システイン残基が存在するか、又は本発明の結合タンパク質におけるシステインとのジスルフィド結合の形成を可能にする指定された位置にシステインが導入された場合の、本明細書において言及される任意のペプチドが挙げられる。
【0145】
低存在量ペプチドとは、ペプチド/MHC複合体に特異的に結合するT細胞の数又は分化状態に、検出可能なほどに影響を及ぼすことができないペプチドである。上記ペプチドは内因性であっても外因性であってもよい。内因性ペプチドは、腫瘍抗原を含む本明細書に記載されるいずれであってもよい。T細胞集団は、低存在量ペプチドに「気づかない」と記載される場合がある。マウスの胸腺において、認識された低存在量ペプチドは、0.003%~0.015%のEpCAM+上皮細胞及び0.0003%~0.001%の樹状細胞に発現することが見出された。
【0146】
MHCクラスI及びIIタンパク質は、獲得免疫系において重要である。両方のクラスのタンパク質は、表面上のペプチドをT細胞による認識のために提示するというタスクを共有する。MHCクラスIペプチド複合体は、有核細胞上において提示され、細胞傷害性CD8+T細胞によって認識される。対照的に、MHCクラスIIペプチド複合体は、樹状細胞、マクロファージ、又はB細胞等のプロフェッショナル抗原提示細胞の表面上に存在し、CD4+T細胞を活性化させるように作用し、エフェクター機能の調整及び調節をもたらす。
【0147】
主要組織適合遺伝子複合体クラスI及びクラスIIは、全体的に類似したフォールディングを共有する。結合プラットフォームは、MHCクラスIの場合は単一のα重鎖(HC)、及びMHCクラスIIの場合は2本の鎖(α鎖及びβ鎖)を起源とする2つのドメインから構成される。2つのドメインは、土台としての屈曲したβシートと、ペプチド鎖を間に収容可能なほど十分に離れた上部の2つのαヘリックスとを有する。2つの膜近位免疫グロブリン(Ig)ドメインは、ペプチド結合単位を支持する。1つのIgドメインがMHCクラスIIの各鎖に存在する一方で、MHCクラスIの第2のIg型ドメインは、不変軽鎖ベータ-2ミクログロブリン(β2m)とHCとの非共有結合による会合によって提供される。膜貫通ヘリックスは、MHCクラスIのHC及びMHCクラスIIの両方の鎖を膜に固定する。
【0148】
2つのヘリックスの間の溝は、(i)MHC分子の側鎖とペプチドの骨格との間の1組の保存された水素結合の形成、及び(ii)ペプチド側鎖による画定されたポケット(MHCクラスIにおけるアンカー残基P2又はP5/6及びPΩ、並びにMHCクラスIIにおけるP1、P4、P6、及びP9)の占有に基づいてペプチドを収容する。個々のペプチド側鎖とMHCとの相互作用の種類は、結合溝の幾何形状、電荷分布、及び疎水性に依存する。
【0149】
HLAクラスI分子の非限定的な例としては、HLA-C*07:01、HLA-A*2402、HLA-A*2、HLA-A*24、HLA-A*02:01、HLA-B*07:02、HLA-B*44:05、HLA-B*35:01、HLA-A*01:01、HLA-B*37:01、HLA-B*08:01、HLA-A*11:01、HLA-B*08:01、HLA-B*27:05、HLA-B*35:08、HLA-A*24:02、HLA-B*51:01、及びHLA-E*01:03が挙げられる。
【0150】
HLAクラスII分子の非限定的な例としては、HLA-DQA1*0508_HLA-DQB1*0201、HLA-DQA1*0501_HLA-DQB1*0201、HLA-DQA1*0301_HLA-DQB1*0302、HLA-DRA*0101_HLA-DBR1*0101、HLA-DRA*0101_HLA-DRB3*0301、HLA-DRA*0101_HLA-DBR5*0101、HLA-DRA*0101_HLA-DBR1*0401、HLA-DPA1*0103_HLA-DPB1*2602、HLA-DQA1*0501_HLA-DQB1*0302、HLA-DRA*0101_HLA-DRB1*1101、HLA-DRA*0101_HLA-DRB1*1502、HLA-DRA*0101_HLA-DRB1*0101、HLA-DQA1*0301_HLA-DQB1*0305、HLA-DQA1*0201_HLA-DQB1*0201が挙げられる。
【0151】
「ペプチド」への言及には、ペプチド、ポリペプチド、若しくはタンパク質、又はそれらの一部への言及が含まれる。ペプチドは、グリコシル化されていてもグリコシル化されていなくてもよい、及び/或いはアミノ酸、脂質、炭水化物、又は他のペプチド、ポリペプチド若しくはタンパク質等の、タンパク質と融合、連結、結合、又は他の場合では会合している広範な他の分子を含有してもよい。以降、「ペプチド」への言及には、一連のアミノ酸を含むペプチド、及びアミノ酸、脂質、炭水化物、又は他のペプチド、ポリペプチド、若しくはタンパク質等の他の分子と会合しているペプチドが含まれる。
【0152】
「誘導体」には、融合タンパク質を含む、天然、合成、又は組換え供給源由来の断片、一部、部分、及びバリアントが含まれる。一部又は断片としては、例えば、対象とするペプチドの活性領域が挙げられる。誘導体は、アミノ酸の挿入、欠失、又は置換に由来し得る。アミノ酸挿入誘導体には、アミノ及び/又はカルボキシル末端融合体、並びに単一又は複数のアミノ酸の配列内挿入断片が含まれる。挿入アミノ酸配列バリアントは、1つ又は複数のアミノ酸残基がタンパク質における所定の部位に導入されているものであるが、結果として得られる産物の好適なスクリーニングを伴うランダム挿入もまた可能である。欠失バリアントは、1つ又は複数のアミノ酸の、配列からの除去によって特徴付けられる。
【0153】
置換アミノ酸バリアントは、配列における少なくとも1つの残基が除去され、その場所に異なる残基が挿入されているものである。置換アミノ酸バリアントの一例は、保存的アミノ酸置換である。保存的アミノ酸置換としては、典型的には、以下の群内での置換が挙げられる:グリシン及びアラニン;バリン、イソロイシン及びロイシン;アスパラギン酸及びグルタミン酸;アスパラギン及びグルタミン;セリン及びトレオニン;リジン及びアルギニン;並びにフェニルアラニン及びチロシン。アミノ酸配列への付加には、他のペプチド、ポリペプチド又はタンパク質との融合が含まれる。一実施形態では、システイン残基は、本明細書において例示されるように、セリンと置換される。
【0154】
対象とするペプチドの化学的及び機能的等価物は、これらの分子の機能活性のいずれか1つ又は複数を呈する分子として理解されるべきであり、これは、化学的に合成されるか又は天然物スクリーニング等のスクリーニングプロセスを介して同定されるような任意の供給源に由来し得る。
【0155】
本明細書において企図される類似体には、これらに限定されないが、側鎖に対する改変、ペプチド、ポリペプチド又はタンパク質合成中の非天然アミノ酸及び/又はその誘導体の取込み、並びに架橋剤、及びタンパク質性分子又はその類似体に立体構造上の制約を課す他の方法の使用が含まれる。
【0156】
本発明によって企図される側鎖改変の例としては、アルデヒドとの反応とそれに続くNaBH4を用いた還元とによる還元アルキル化;メチルアセチミデートを用いたアミジン化;無水酢酸を用いたアシル化;シアネートを用いたアミノ基のカルバモイル化;2,4,6-トリニトロベンゼンスルホン酸(TNBS)を用いたアミノ基のトリニトロベンジル化;無水コハク酸及びテトラヒドロ無水フタル酸を用いたアミノ基のアシル化;並びにピリドキサール-5-ホスフェートを用いたリジンのピリドキシル化とそれに続くNaBH4を用いた還元等によるアミノ基の改変が挙げられる。
【0157】
アルギニン残基のグアニジン基は、2,3-ブタンジオン、フェニルグリオキサール、及びグリオキサール等の試薬を用いた複素環縮合生成物の形成によって改変され得る。カルボキシル基は、O-アシルイソ尿素形成を介したカルボジイミド活性化とそれに続く、例えば対応するアミドへのその後の誘導体化とによって改変され得る。スルフヒドリル基は、ヨード酢酸又はヨードアセトアミドを用いたカルボキシメチル化;システイン酸への過ギ酸酸化;他のチオール化合物との混合ジスルフィドの形成;マレイミド、無水マレイン酸又は他の置換マレイミドとの反応;4-クロロメルクリベンゾエート、4-クロロメルクリフェニルスルホン酸、塩化フェニル水銀、2-クロロメルクリ-4-ニトロフェノール及び他の水銀製剤を使用した水銀誘導体の形成;アルカリ性pHのシアネートを用いたカルバモイル化等の方法によって改変され得る。トリプトファン残基は、例えば、N-ブロモスクシンイミドを用いた酸化、又は2-ヒドロキシ-5-ニトロベンジルブロミド若しくはハロゲン化スルフェニルを用いたインドール環のアルキル化によって改変され得る。他方、チロシン残基は、3-ニトロチロシン誘導体を形成するテトラニトロメタンを用いたニトロ化によって変更され得る。
【0158】
ヒスチジン残基のイミダゾール環の改変は、ヨード酢酸誘導体を用いたアルキル化又はジエチルピロカーボネートを用いたN-カルボエトキシル化によって遂行され得る。
【0159】
タンパク質合成中の非天然アミノ酸及び誘導体の取込みの例としては、これらに限定されないが、ノルロイシン、4-アミノ酪酸、4-アミノ-3-ヒドロキシ-5-フェニルペンタン酸、6-アミノヘキサン酸、t-ブチルグリシン、ノルバリン、フェニルグリシン、オルニチン、サルコシン、4-アミノ-3-ヒドロキシ-6-メチルヘプタン酸、2-チエニルアラニン、及び/又はアミノ酸のD-異性体の使用が挙げられる。
【0160】
架橋剤は、例えば、n=1~n=6の(CH2)nスペーサー基を有する二機能性イミドエステル、グルタルアルデヒド、N-ヒドロキシスクシンイミドエステル等のホモ二機能性架橋剤、及びN-ヒドロキシスクシンイミド等のアミノ反応性部分と別の基に特異的な反応性部分とを通例含有するヘテロ二機能性試薬を使用して3D立体構造を安定化するために使用することができる。
【0161】
様々な目的のために、例えば、溶解度を高めるため、治療若しくは防止上の有効性を増強するため、安定性を増強するため、又はタンパク質分解に対する抵抗性を高めるために、本発明によるペプチドの構造を改変することが可能である。免疫原性を改変するためにアミノ酸置換、欠失、又は付加等によってアミノ酸配列が変更された、改変されたペプチドが作製され得る。同様に、同じ結果を得るために複数の成分が本発明のペプチドに付加され得る。
【0162】
例えば、ペプチドは、T細胞アネルギーを誘導する能力を呈するように改変され得る。この場合、T細胞受容体に対する決定的な結合残基は、公知の技法(例えば、各残基の置換、及びT細胞反応性の存在又は非存在の決定)を使用して決定することができる。一例では、T細胞受容体と相互作用するために不可欠であることが示されている残基は、必須アミノ酸を別の、好ましくはその存在がT細胞の反応性又はT細胞の働きを変更することが示されている類似したアミノ酸残基で置き換えること(保存的置換)によって改変され得る。加えて、T細胞受容体相互作用に必須ではないアミノ酸残基が、別のアミノ酸と置き換えられることによって改変されてもよく、上記別のアミノ酸の取込みは、その後、T細胞の反応性又はT細胞の働きを変更し得るが、例えば、関連するMHCタンパク質への結合を排除しない。
【0163】
例示的な保存的置換は、以下に詳述され、次のものを含む:
【0164】
【化1】
【0165】
そのような改変は、本明細書に定義される対象とするペプチドの「変異体」の範囲に入る分子の作製をもたらし得る。「変異体」は、変異していないペプチド対応物によって呈されるものとは異なる1つ又は複数の構造的特徴又は機能活性を呈するペプチドへの言及として理解されるべきである。
【0166】
本発明のペプチドはまた、天然アレル変異に起因する1つ又は複数の多型を取り込むように改変されてもよく、本発明の範囲に入る改変されたペプチドを作製するために、D-アミノ酸、非天然アミノ酸、又はアミノ酸類似体がペプチドにおいて代わりに使用されてもよい。ペプチドはまた、公知の技法によるポリエチレングリコール(PEG)とのコンジュゲーションによって改変されてもよい。レポーター基もまた、精製を促進し、本発明によるペプチドの溶解度を潜在的に高めるために付加されてもよい。特異的エンドプロテアーゼ切断部位の挿入、官能基の付加、又は疎水性残基の疎水性がより低い残基への置換え、及び本発明のペプチドをコードするDNAの部位特異的変異導入を含む他の周知の種類の改変もまた、多様な目的に有用となり得る改変を導入するために使用してもよい。上で言及された本発明によるペプチドに対する様々な改変は、例として言及されているに過ぎず、実行することができる広範囲の改変を示すことを単に意図したものである。
【0167】
核酸及びベクター
別の態様では、本発明は、本発明の結合タンパク質、又はキメラ若しくは融合タンパク質、及びペプチド、或いはそれらの誘導体、相同体、又は類似体をコードするか或いはそれをコードする配列に相補的な1つ或いは複数の核酸分子を含む核酸分子組成物を提供する。本発明の核酸分子は、本発明の結合タンパク質、キメラ若しくは融合タンパク質、又はペプチドを作製するために使用され得るか、或いは本明細書に記載される疾患又は状態を処置する細胞療法のために使用され得る。
【0168】
「構築物」という用語は、組換え核酸分子を含有する任意のポリヌクレオチドを指す。構築物は、ベクター(例えば、細菌ベクター、ウイルスベクター)に存在しても、ゲノムに組み込まれてもよい。「ベクター」とは、別の核酸分子を輸送することができる核酸分子である。ベクターは、例えば、プラスミド、コスミド、ウイルス、RNAベクター、又は染色体核酸分子、非染色体核酸分子、半合成核酸分子、若しくは合成核酸分子を含み得る直鎖状若しくは環状DNA若しくはRNA分子であり得る。例示的なベクターは、自律的複製が可能なもの(エピソームベクター)、又はそれらが連結している核酸分子の発現が可能なもの(発現ベクター)である。
【0169】
ウイルスベクターとしては、レトロウイルス、アデノウイルス、パルボウイルス(例えば、アデノ随伴ウイルス)、コロナウイルス、マイナス鎖RNAウイルス、例えばオルトミクソウイルス(例えば、インフルエンザウイルス)、ラブドウイルス(例えば、狂犬病及び水疱性口内炎ウイルス)、パラミクソウイルス(例えば、麻疹及びセンダイ)、プラス鎖RNAウイルス、例えばピコルナウイルス及びアルファウイルス、並びに二本鎖DNAウイルス、例えばアデノウイルス、ヘルペスウイルス(例えば、単純ヘルペスウイルス1及び2型、エプスタイン-バーウイルス、サイトメガロウイルス)、及びポックスウイルス(例えば、ワクシニア、鶏痘及びカナリアポックス)が挙げられる。他のウイルスとしては、例えば、ノーウォークウイルス、トガウイルス、フラビウイルス、レオウイルス、パポバウイルス、ヘパドナウイルス、及び肝炎ウイルスが挙げられる。レトロウイルスの例としては、トリ白血病・肉腫、哺乳動物C型、B型ウイルス、D型ウイルス、HTLV-BLV群、レンチウイルス、スプーマウイルスが挙げられる(Coffin, J. M.、Retroviridae: The viruses and their replication、In Fundamental Virology、第3版、B. N. Fieldsら編、Lippincott-Raven Publishers、Philadelphia、1996)。
【0170】
「レンチウイルスベクター」とは、本明細書において使用される場合、組込み型であっても非組込み型であってもよく、比較的大きなパッケージング能力を有し、広範な種々の細胞型に形質導入することができる、遺伝子送達のためのHIVベースのレンチウイルスベクターを意味する。レンチウイルスベクターは、通例、3つ(パッケージング、エンベロープ、及びトランスファー)以上のプラスミドの産生細胞への一過性トランスフェクションの結果として生成される。HIVと同様に、レンチウイルスベクターは、ウイルス表面糖タンパク質と細胞表面の受容体との相互作用を介して標的細胞に侵入する。侵入すると、ウイルスRNAは、ウイルス逆転写酵素複合体によって媒介される逆転写を受ける。逆転写の産物は二本鎖直鎖状ウイルスDNAであり、これは、感染細胞のDNAへのウイルスの組込みのための基質である。
【0171】
「作動可能に連結された」という用語は、一方の機能が他方の影響を受けるような、単一の核酸断片上の2つ以上の核酸分子の会合を指す。例えば、プロモーターは、コード配列の発現に影響を及ぼすことができる(すなわち、コード配列がプロモーターの転写制御下にある)場合、そのコード配列に対して作動可能に連結している。「連結していない」とは、会合した遺伝子エレメントが互いに密接に会合しておらず、一方の機能が他方の影響を受けないことを意味する。
【0172】
本明細書において使用される場合、「発現ベクター」とは、好適な宿主において核酸分子の発現をもたらすことができる好適な制御配列と作動可能に連結している核酸分子を含有するDNA構築物を指す。そのような制御配列としては、転写をもたらすプロモーター、そのような転写を制御する任意選択のオペレーター配列、好適なmRNAリボソーム結合部位をコードする配列、並びに転写及び翻訳の終結を制御する配列が挙げられる。ベクターは、プラスミド、ファージ粒子、ウイルス、又は単に潜在的なゲノム挿入断片であり得る。好適な宿主に形質転換されると、ベクターは、宿主ゲノムから独立して複製及び機能し得るか、又は一部の場合では、自らをゲノムに組み込み得る。本明細書では、「プラスミド」、「発現プラスミド」、「ウイルス」及び「ベクター」は、多くの場合、交換可能に使用される。
【0173】
「発現」という用語は、本明細書において使用される場合、ポリペプチドが遺伝子等の核酸分子のコード配列に基づいて産生されるプロセスを指す。このプロセスには、転写、転写後制御、転写後修飾、翻訳、翻訳後制御、翻訳後修飾、又はそれらの任意の組合せが含まれ得る。
【0174】
核酸分子を細胞に挿入するという文脈における「導入された」という用語は、「トランスフェクション」、又は「形質転換」又は「形質導入」を意味し、核酸分子の真核又は原核細胞への取込みへの言及を含み、ここで、核酸分子は、細胞のゲノム(例えば、染色体、プラスミド、プラスチド、又はミトコンドリアDNA)に取り込まれ得るか、自律的レプリコンに変換され得るか又は一過性に発現され得る(例えば、トランスフェクトされたmRNA)。
【0175】
本明細書において使用される場合、「異種」又は「外因性」核酸分子、構築物又は配列とは、宿主細胞に本来備わっているものではないが、宿主細胞由来の核酸分子又は核酸分子の部分と同種であり得る核酸分子又は核酸分子の部分を指す。異種又は外因性核酸分子、構築物又は配列の供給源は、種々の属又は種であり得る。ある特定の実施形態では、異種又は外因性核酸分子は、例えばコンジュゲーション、形質転換、トランスフェクション、電気穿孔等によって宿主細胞又は宿主ゲノムに付加され(すなわち、内因性でも本来備わっているものでもない)、ここで、付加された分子は、宿主ゲノムに組み込まれても染色体外遺伝物質として(例えば、プラスミド又は他の形態の自己複製ベクターとして)存在してもよく、複数のコピーに存在してもよい。加えて、「異種」とは、宿主細胞が同種タンパク質又は活性をコードする場合であっても、宿主細胞に導入された外因性核酸分子によってコードされている、本来備わっていない酵素、タンパク質又は他の活性を指す。
【0176】
本明細書に記載されるように、1種よりも多い異種又は外因性核酸分子は、別個の核酸分子として、複数の個々に制御された遺伝子として、ポリシストロニック核酸分子として、融合タンパク質をコードする単一の核酸分子として、又はそれらの任意の組合せとして宿主細胞に導入することができる。例えば、本明細書に開示されるように、宿主細胞は、WT-1抗原ペプチドに特異的な所望のTCR(例えば、TCRα及びTCR-β)をコードする2種以上の異種又は外因性核酸分子を発現するように改変することができる。2種以上の外因性核酸分子が宿主細胞に導入される場合、2種以上の外因性核酸分子は、単一の部位若しくは複数の部位、又はそれらの任意の組合せにおいて宿主染色体に組み込まれる別個のベクター上の単一の核酸分子(例えば、単一のベクター上の)として導入できることが理解される。言及される異種核酸分子又はタンパク質活性の数は、宿主細胞に導入された別個の核酸分子の数ではなく、コード核酸分子の数又はタンパク質活性の数を指す。
【0177】
本明細書において使用される場合、「内因性」又は「本来備わっている」という用語は、宿主細胞に通常存在する遺伝子、タンパク質、又は活性を指す。更に、変異、過剰発現、シャッフル、重複、又は他の方法で親遺伝子、タンパク質若しくは活性と比較して変更されている、遺伝子、タンパク質又は活性は、依然としてその特定の宿主細胞に内因性又は本来備わっていると考えられる。例えば、第1の遺伝子由来の内因性制御配列(例えば、プロモーター、翻訳抑制配列(translational attenuation sequence))は、第2の本来備わっている遺伝子又は核酸分子の発現を変更又は調節するために使用することができ、ここで、第2の本来備わっている遺伝子又は核酸分子の発現又は調節は、親細胞における正常な発現又は調節と異なっている。
【0178】
「同種」又は「ホモログ」という用語は、宿主細胞、種又は株に見出されるか又は由来する分子又は活性を指す。例えば、異種又は外因性核酸分子は、本来備わっている宿主細胞遺伝子と同種であり得、任意選択で、変更された発現レベル、異なる配列、変更された活性、又はそれらの任意の組合せを有し得る。
【0179】
「配列同一性」とは、本明細書において使用される場合、配列をアラインメントし、最大の配列同一性パーセントを達成するために必要に応じてギャップを導入した後の、ある配列における、別の参照ポリペプチド配列におけるアミノ酸残基と同一であるアミノ酸残基の百分率を指し、保存的置換は配列同一性の一部としては考えない。配列同一性百分率の値は、Altschulら、(1997)「Gapped BLAST and PSI-BLAST: a new generation of protein database search programs」、Nucleic Acids Res. 25:3389~3402によって定義されているNCBI BLAST2.0ソフトウェアを使用して、パラメータを初期値に設定して得ることができる。
【0180】
本明細書において使用される場合、「宿主」という用語は、目的のポリペプチド(例えば、高又は増強親和性抗WT-1 TCR)を作製するために、異種又は外因性核酸分子を用いる遺伝子改変の標的となる細胞(例えば、Treg細胞)又は微生物を指す。ある特定の実施形態では、宿主細胞は、任意選択で、異種又は外因性タンパク質の生合成に関連するか又は関連しない所望の特性(例えば、検出可能なマーカーの包含;内因性TCRの欠失、変更又は短縮;共刺激因子発現の増加)を付与する他の遺伝子改変を既に有していても、それを含むように改変されていてもよい。一部の実施形態では、宿主細胞は、宿主細胞における免疫シグナル伝達を調節するタンパク質又は融合タンパク質を発現して、例えば、改変された細胞の、生存及び/又は増加の点での利点を促進するように遺伝子改変されている(例えば、それらの全体が参照によって本明細書に組み込まれるWO2016/141357の免疫調節融合タンパク質を参照されたい)。
【0181】
核酸分子は、原核細胞(例えば、大腸菌(E. coli))又は真核細胞(例えば、酵母細胞、真菌細胞、昆虫細胞、哺乳動物細胞又は植物細胞)における発現が可能な発現ベクターにライゲーションされてもよい。核酸分子は、例えばシグナルペプチド等の別の実体をコードする核酸分子とライゲーション若しくは融合、又は他の場合では会合されてもよい。核酸分子はまた、3'末端部分若しくは5'末端部分のいずれか、又は3'末端部分と5'末端部分との両方で核酸分子と融合、連結、又は他の場合では会合している追加のヌクレオチド配列情報を含んでもよい。核酸分子はまた、発現ベクター等のベクターの一部であってもよい。後者の実施形態は、本発明の結合タンパク質又はペプチドの組換え形態の作製を容易にする。
【0182】
そのような核酸は、適切なベクターへの挿入及び好適な細胞株へのトランスフェクションによる本発明の結合タンパク質若しくはペプチド又はそれらを含むタンパク質の組換え作製に有用であり得る。そのような発現ベクター及び宿主細胞株もまた本発明の態様を形成する。
【0183】
ペプチドを組換え技法によって作製する場合、本発明による結合タンパク質、キメラ若しくは融合タンパク質、又はペプチドをコードする配列を有する核酸、或いは核酸配列の機能的等価物を用いて形質転換された宿主細胞は、当該の特定の細胞に好適な培地において培養される。次いで、結合タンパク質、キメラ若しくは融合タンパク質、又はペプチドは、当技術分野で周知の技法、例えば、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、限外濾過、電気泳動、又は結合タンパク質若しくはペプチドに特異的な抗体を用いる免疫精製を使用して、細胞培養培地、宿主細胞、又はその両方から精製することができる。
【0184】
本発明の結合タンパク質又はペプチドをコードする核酸は、大腸菌等の細菌細胞、昆虫細胞、酵母又は哺乳動物細胞、例えばチャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)において発現され得る。好適な発現ベクター、プロモーター、エンハンサー及び他の発現制御エレメントは、Sambruckら(1989)において言及されている。他の好適な発現ベクター、プロモーター、エンハンサー及び他の発現エレメントは、当業者に周知である。酵母において好適な発現ベクターの例としては、Yep Sec 1(Balderiら、1987、Embo J.、6:229~234);pMFa(Kurjan及びHerskowitz.、1982、Cell.、30:933~943);JRY88(Schultzら、1987、Gene.、54:113~123)及びpYES2(Invitrogen社、San Diego、CA)が挙げられる。バキュロウイルス及び哺乳動物発現系のこれらのベクターは自由に利用可能である。例えば、バキュロウイルス系は、昆虫細胞における発現用が市販されており(ParMingen社、San Diego、CA)、pMsgベクターは、哺乳動物細胞における発現用が市販されている(Pharmacia社、Piscataway、NJ)。
【0185】
大腸菌における発現に関して、好適な発現ベクターとしては、とりわけ、pTrc(Amannら、1998、Gene.、69:301~315)pGex(Amrad社、Melbourne、Australia);pMal(N.E. Biolabs社、Beverley、MA);pRit5(Pharmacia社、Piscataway、NJ);pEt-11d(Novagen社、Maddison、WI)(Jameelら、1990、J. Virol.、64:3963~3966)及びpSem(Knappら、1990、Bio Techniques.、8:280~281)が挙げられる。例えば、pTRC及びpEt-11dの使用は、非融合タンパク質の発現をもたらし得る。pMal、pRit5、pSem及びpGexの使用は、マルトースE結合タンパク質(pMal)、プロテインA(pRit5)、短縮型ガラクトシダーゼ(PSEM)、又はグルタチオンS-トランスフェラーゼ(pGex)と融合したタンパク質又はペプチドの発現をもたらし得る。結合タンパク質又はペプチドが融合タンパク質として発現される場合、キャリアタンパク質と当該ペプチドとの間の融合接合部に酵素切断部位を導入することが特に有利である。その場合、本発明の結合タンパク質又はペプチドは、酵素部位における酵素的切断と、タンパク質及びペプチドの精製のための従来の技法を使用した生化学的精製とを介して融合タンパク質から回収することができる。種々のベクターはまた、恒常的若しくは誘導性発現又は温度誘導を可能にする種々のプロモーター領域を有する。加えて、組換え発現タンパク質を分解する能力が変更された種々の大腸菌宿主において組換えペプチドを発現させることが適切である場合がある。或いは、大腸菌によって優先的に利用されるコドンを使用するように核酸配列を変更することが、そのような核酸変更が発現されるタンパク質のアミノ酸配列に影響を及ぼさないと考えられる場合、有利であり得る。
【0186】
宿主細胞は、従来の技法、例えば、リン酸カルシウム若しくは塩化カルシウム共沈殿、DEAE-デキストラン媒介トランスフェクション、又は電気穿孔を使用して、本発明の核酸を発現するように形質転換させることができる。宿主細胞を形質転換するのに好適な方法は、Sambruckら(1989)、及び他の実験教科書に見出され得る。本発明の核酸配列はまた、標準的な技法を使用して化学的に合成されてもよい。
【0187】
本発明によるペプチドの組換え作製に加えて、核酸は、実験又は精製目的のプローブとして利用することができる。
【0188】
処置される状態
ここで、本明細書に開示される本発明の結合タンパク質、キメラ又は融合タンパク質、ペプチド、細胞、核酸、ベクター及び組成物の同定及び合成は、自己免疫疾患、癌及び感染症に関する使用のための広範な予防的及び治療的処置プロトコルの開発を容易にする。また、それにおける使用のための試薬の開発も容易にする。したがって、本発明は、患者の治療的及び/又は予防的処置におけるペプチド又はその機能的誘導体、相同体若しくは類似体の使用にまで拡大されると理解されるべきである。そのような処置の方法としては、以下のものが挙げられるがこれらに限定されない:
感染症及び癌としては、Table 2(表2)、Table 3(表3)及びTable 4(表4)において言及されるいずれかが挙げられる。
自己免疫疾患としては、Table 1(表1)、Table 3(表3)及びTable 4(表4)において言及されるいずれかが挙げられる。
移植拒絶反応及び移植の拒絶に関連する状態。
【0189】
本発明の結合タンパク質、キメラ又は融合タンパク質、ペプチド、細胞、核酸、ベクター及び組成物を用いる対象への投与は、癌又は感染症を処置又は防止する手段である。これは、例えば、TCR/ペプチド-MHCクラスIジスルフィド結合を導入して、CD8 T細胞の細胞傷害活性を高め、それによって抗腫瘍(癌に関する)又は抗病原体(感染症に関する)応答を増強することによって達成され得る。理論に拘束されるものではないが、CD8 T細胞と抗原提示細胞(任意の有核細胞)との間のジスルフィド結合の導入は、MHCクラスIの文脈では、感染(感染症に関する)したか又は形質転換(癌に関する)された標的細胞に対するより大きな細胞傷害性又は死滅をもたらすことができる。或いは、CD8 T細胞と抗原提示細胞(任意の有核細胞)との間のジスルフィド結合の導入は、MHCクラスIの文脈では、炎症誘発性応答をもたらす、より大きなサイトカイン/ケモカイン産生をもたらすことができる。
【0190】
本発明によって処置又は防止することができる潜在的な癌の非限定的な例としては、黒色腫、肺癌、腎臓癌、前立腺癌、乳癌、結腸直腸癌、及び線維肉腫が挙げられる。好ましくは、骨癌、膵臓癌、皮膚癌、頭頸部の癌、皮膚又は眼内悪性黒色腫、子宮癌、卵巣癌、直腸癌、肛門領域の癌、胃癌、精巣癌、子宮癌、卵管の癌腫、子宮内膜の癌腫、子宮頸部の癌腫、膣の癌腫、外陰部の癌腫、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫、食道の癌、小腸の癌、内分泌系の癌、甲状腺の癌、副甲状腺の癌、副腎の癌、軟部組織の肉腫、尿道の癌、陰茎の癌、慢性又は急性白血病、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、急性リンパ芽球性白血病、慢性リンパ性白血病、小児の固形腫瘍、リンパ球性リンパ腫、膀胱の癌、腎臓又は尿管の癌、腎盂の癌腫、中枢神経系(CNS)の腫瘍、原発性CNSリンパ腫、腫瘍血管新生、脊髄軸腫瘍、脳幹神経膠腫、下垂体腺腫、カポジ肉腫、類表皮癌、扁平上皮癌、T細胞リンパ腫、アスベストによって誘導されるものを含む環境誘導癌、及び前記癌の組合せ。
【0191】
TCR/ペプチド-MHCクラスIジスルフィド結合を導入して、CD8 T細胞の細胞傷害活性を高めることによって、これは、感染症を処置又は防止するために使用することができる。本発明によって処置又は防止することができる潜在的な感染症の非限定的な例としては、エプスタイン-バーウイルス、インフルエンザ、デングウイルス、HIV、C型肝炎ウイルス、及びサイトメガロウイルスが挙げられる。
【0192】
本発明の結合タンパク質、キメラ又は融合タンパク質、ペプチド、細胞、核酸、ベクター及び組成物を用いる対象への投与は、自己免疫疾患を処置又は防止する手段である。これは、例えば、TCR/ペプチド-MHCクラスIIジスルフィド結合を導入して、Treg細胞の調節活性を高め、それによって自己免疫応答を阻害又は抑制することによって達成され得る。本発明によって処置又は防止することができる潜在的な自己免疫疾患の非限定的な例としては、セリアック病、ニッケル過敏症、多発性硬化症、ベリリウム過敏症、及び糖尿病が挙げられる。
【0193】
本発明の結合タンパク質、キメラ又は融合タンパク質、ペプチド、細胞、核酸、ベクター及び組成物を用いる対象への投与は、移植拒絶反応を処置又は防止する手段である。これは、例えば、TCR/ペプチド-MHCクラスIIジスルフィド結合を導入して、Treg細胞の調節活性を高め、それによって移植を対象とする免疫応答を阻害又は抑制することによって達成され得る。処置としては、組織移植片拒絶反応に関連する炎症の処置が挙げられる。「移植組織拒絶反応」又は「移植片拒絶反応」とは、HLA抗原、血液型抗原等を含むがこれらに限定されない移植片に対する、宿主によって開始される任意の免疫応答を意味する。移植拒絶反応及び移植片対宿主病は、超急性(液性)、急性(T細胞媒介性)、若しくは慢性(未知の病因)、又はそれらの組合せであり得る。したがって、本発明は、超急性、急性、及び/若しくは慢性拒絶反応並びに/又は肝臓、腎臓、膵臓、膵島細胞、小腸、肺、心臓、角膜、皮膚を含むがこれらに限定されない任意の組織の拒絶反応に関連する症状の抑制並びに/又は軽快のために使用される。移植片組織は、任意のドナーから取得することができ、任意のレシピエント宿主に、又は身体のある部分から別の部分に移植することができる。
【0194】
「治療有効量」という語句は、概して、(i)特定の疾患、状態、若しくは障害を処置するか、(ii)特定の疾患、状態、若しくは障害の1つ若しくは複数の症状を減弱、軽快、若しくは取り除くか、又は(iii)本明細書に記載される特定の疾患、状態、若しくは障害の1つ若しくは複数の症状の発生を遅延させる、本発明の結合タンパク質又はペプチドを発現する細胞の量を指す。
【0195】
本明細書において使用される場合、「防止すること」又は「防止」は、疾患又は障害を獲得する(すなわち、疾患に曝露されるか又は罹りやすくなっている場合があるが、その疾患の症状をまだ経験しても示してもいない個体において、発症していない疾患の臨床症状のうちの少なくとも1つを引き起こす)リスクの可能性(又はそれに対する感受性)の少なくとも低下を指すことが意図される。そのような患者を同定するための生物学的及び生理学的パラメータは、本明細書において提供され、また、医師によって周知されている。
【0196】
特に好ましい実施形態では、本発明の方法は、本明細書に記載される疾患又は状態の再発又は症状を防止するため、又はその重症度を低下させるため、又はその進行を阻害若しくは最小限にするためのものである。したがって、本発明の方法は、処置及び予防としての有用性を有する。
【0197】
対象の「処置」又は「処置すること」という用語には、疾患若しくは状態、疾患若しくは状態の症状、又は疾患若しくは状態のリスク(若しくはそれに対する感受性)を遅延させるか、遅らせるか、安定化するか、治療するか、治癒するか、軽減するか、緩和するか、変更するか、治すか、悪化を抑制するか、軽快させるか、改善するか、又はそれらに影響を及ぼす目的が含まれる。「処置すること」という用語は、任意の客観的又は主観的パラメータ、例えば、緩解;寛解;悪化の速度の減少;状態の重症度の低減;症状の安定化、減少、若しくは状態を個体がより耐えられるものにすること;変性若しくは衰退の速度を遅らせること;変性の最終点をより衰弱性でないものにすること;又は対象の身体的若しくは精神的健康を改善することを含む、本明細書に記載される感染症、癌又は自己免疫疾患及び関連する状態の処置又は軽快の成功の任意の指標を指す。
【0198】
本明細書に記載される方法は、感染症、癌又は自己免疫疾患のための既存の標準治療処置/療法と組み合わせて使用することができるということもまた理解されるだろう。
【0199】
「対象」とは、本明細書では、好ましくはヒト対象である。本発明はヒトにおける適用を見出しているが、本発明はまた、獣医学目的にも有用である。本発明は、ウシ、ヒツジ、ウマ及び家禽等の飼育又は家畜動物;ネコ及びイヌ等の伴侶動物;並びに動物園の動物に有用である。「対象」及び「個体」という用語は、本発明による処置を必要とする個体との関連において交換可能であることが理解されるだろう。
【0200】
組成物
医薬組成物の形態における本発明の結合タンパク質、キメラ若しくは融合タンパク質、ペプチド、細胞、核酸、ベクター又は組成物(本明細書では「薬剤」と称される)の投与は、任意の簡便な手段によって実施され得る。医薬組成物の薬剤は、特定の場合に依存する量において投与された場合に治療活性を呈することが企図される。その変動は、例えば、選択されるヒト又は動物及び薬剤に依存する。広範囲の用量が適用可能であり得る。患者を考慮すると、例えば、1用量当たり約0.01μg~約1mgの薬剤が投与され得る。投与計画は、最適な治療反応を実現するように調整され得る。例えば、いくつかの分割用量が毎日、毎週、毎月、又は他の好適な時間間隔において投与されても、用量が、状況の緊急性によって示される場合には比例的に減少されてもよい。別の例では、前記組成物は、最初に耐性を誘導するために投与され、次いで、必要に応じて、耐性を維持するために組成物のブースター投与が投与される。これらのブースターは、例えば毎月投与されてもよく、患者の生涯を含む任意の期間投与されてもよい。
【0201】
薬剤は、簡便な方式で、例えば経口、静脈内(水溶性の場合)、腹腔内、筋肉内、皮下、皮内(伝統的な針又は他の経皮送達デバイスの使用を伴うか又は伴わない)、経皮、鼻腔内、舌下若しくは坐剤経路、又は埋込(例えば徐放性分子を使用)によって投与することができる。好ましくは、前記組成物は皮内投与される。薬剤は、薬学的に許容される非毒性の塩、例えば酸付加塩、又は例えば亜鉛、鉄等との金属錯体(本出願の目的においては塩と考えられる)の形態において投与され得る。そのような酸付加塩の例は、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、リン酸塩、マレイン酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、安息香酸塩、コハク酸塩、リンゴ酸塩、アスコルビン酸塩、酒石酸塩等である。有効成分が錠剤形態において投与される場合、錠剤は、トラガカント、トウモロコシデンプン又はゼラチン等の結合剤;アルギン酸等の崩壊剤;及びステアリン酸マグネシウム等の滑沢剤を含有し得る。投与のためのペプチドの文脈では、前記ペプチドを含む組成物は、リポソームの形態であり得るか又はナノ粒子にコンジュゲートされ得る。当業者は、ペプチドを、それを必要とする対象への投与のために製剤化するための標準的な技法について精通しているだろう。
【0202】
注射使用に好適な医薬品形態としては、滅菌水性溶液(水溶性の場合)若しくは分散体、及び滅菌注射溶液若しくは分散体の即時調製のための滅菌粉末が挙げられるか、又はクリーム剤の形態若しくは局所適用に好適な他の形態であってもよい。それは、製造及び保管の条件下で安定でなければならず、細菌及び真菌等の微生物の汚染作用に対して保存されなければならない。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール及び液体ポリエチレングリコール等)、それらの好適な混合物、及び植物油を含有する溶媒又は分散媒であり得る。適度な流動性は、例えば、レシチン等のコーティング剤の使用によって、分散体の場合には必要とされる粒径の維持によって、及びスーパーファクタント(superfactant)の使用によって維持することができる。微生物の作用の防止は、様々な抗菌及び抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサール等によってもたらされ得る。浸透圧調整剤は、調製物をヒト血漿と等張に保ち、したがって組織損傷を回避するのに有用である。一般的に使用される浸透圧剤としては、デキストロース、トレハロース、グリセリン及びマンニトールが挙げられる。グリセロール及び塩化ナトリウムは他の選択肢であるが、その使用はより一般的ではない。多くの場合、等張剤、例えば、糖又は塩化ナトリウムを含むことが好ましいと考えられる。注射用組成物の吸収の延長は、吸収を遅延させる薬剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンを組成物に使用することによってもたらされ得る。
【0203】
滅菌注射溶液は、必要とされる量の活性化合物を、必要とされる、上に列挙した様々な他の成分を含有する適切な溶媒に組み入れ、続いて濾過滅菌することによって調製される。一般に、分散体は、様々な滅菌された有効成分を、基本的な分散媒と上に列挙されたものからの必要とされる他の成分とを含有する滅菌ビヒクルに組み入れることによって調製される。滅菌注射溶液の調製のための滅菌粉末の場合、好ましい調製方法は、有効成分と、先に滅菌濾過したその溶液からの任意の追加の所望の成分との粉末が得られる真空乾燥及び凍結乾燥技法である。
【0204】
有効成分が好適に保護される場合、有効成分は、例えば不活性希釈剤又は同化可能な食用担体と共に経口投与されても、硬又は軟シェルゼラチンカプセルに封入されても、錠剤に圧縮されても、食事の食物と直接混合してもよい。経口治療投与の場合、活性化合物は、賦形剤と混合され、摂取可能な錠剤、バッカル錠、トローチ剤、カプセル剤、エリキシル剤、懸濁剤、シロップ剤、カシェ剤等の形態において使用され得る。そのような組成物及び調製物は、少なくとも1質量%の活性化合物を含有すべきである。当然、組成物及び調製物の百分率は変動してもよく、簡便に構成単位の質量の約5~約80%の間であり得る。そのような治療上有用な組成物における活性化合物の量は、好適な投薬量が得られるような量である。本発明による好ましい組成物又は調製物は、経口投薬単位形態が約0.1μg~1000μgの間の活性化合物を含有するように調製される。
【0205】
錠剤、トローチ剤、丸剤、カプセル剤等はまた、以下に列挙される成分:結合剤、例えばゴム、アラビアゴム、トウモロコシデンプン又はゼラチン;賦形剤、例えばリン酸二カルシウム;崩壊剤、例えばトウモロコシデンプン、ジャガイモデンプン、アルギン酸等;滑沢剤、例えばステアリン酸マグネシウム;及び甘味剤、例えばスクロース、ラクトース若しくはサッカリン(添加されてもよい)又は香味剤、例えばペパーミント、ウィンターグリーン油、若しくはサクランボ香料を含有し得る。投薬単位形態がカプセル剤である場合、それは、上記種類の材料に加えて液体担体を含有し得る。様々な他の材料は、コーティング剤として、又は他の場合では投薬単位の物理的形態を改変するために存在し得る。例えば、錠剤、丸剤、又はカプセル剤は、シェラック、糖又はその両方を用いてコーティングされ得る。シロップ剤又はエリキシル剤は、活性化合物、甘味剤としてのスクロース、保存剤としてのメチル及びプロピルパラベン、色素並びにサクランボ又はオレンジフレーバー等の香料を含有し得る。当然、任意の投薬単位形態を調製する場合に使用される任意の材料は、用いられる量において薬学的に純粋且つ実質的に非毒性であるべきである。加えて、活性化合物は、持続放出調製物及び製剤に組み入れられてもよい。
【0206】
医薬組成物はまた、ベクターが調節剤をコードする核酸分子を保有する場合、標的細胞をトランスフェクトすることができるベクター等の遺伝分子を含み得る。ベクターは、例えばウイルスベクターであり得る。
【0207】
投与経路としては、これらに限定されないが、呼吸器(例えば、エアロゾル剤による鼻腔内又は経口)、気管内、上咽頭、静脈内、腹腔内、皮下、頭蓋内、皮内、経皮、筋肉内、眼球内、髄腔内、脳内、鼻腔内、輸注、経口、直腸、IV点滴パッチ、埋込及び舌下が挙げられる。好ましくは、前記投与経路は、静脈内、皮下、皮内、経皮又は鼻腔内、より好ましくは静脈内である。
【0208】
本発明の更なる別の態様は、本発明の任意の方法において使用される場合の、上に定義された組成物に関する。
【実施例
【0209】
本明細書に記載される観察以前に、細胞間ジスルフィド結合は、免疫学においても、本発明者らの知る限りでは生物学においても、記載されていなかった。細胞間環境が異なる細胞の表面に発現したタンパク質間のジスルフィド結合形成に役立ち得るか否かは不明確であった。T細胞と抗原提示細胞(APC)との間の免疫シナプスがT細胞のTCRとAPCのペプチド-MHCリガンドとの間のジスルフィド結合形成に役立ち得るか否かは不明確であった。そのようなジスルフィド結合形成がTCR又はペプチドの構造再構成を必要とし得るか否かは不明確であった。
【0210】
TCR-pMHC相互作用の親和性及び/又は寿命の、超生理学的範囲までの増加に関する結果は、不可解な結果をもたらした。ペプチド-MHCリガンドに対する超生理学的親和性及び寿命を有する一部の操作されたTCRは、最適以下のT細胞活性化を誘発した。それらの知見を説明するために、TCR-pMHC複合体は限られた時間のみシグナル伝達することが可能であり、抗原感受性は、「連続的結合」として記載される、pMHCと繰り返し結合解除及び再結合する中親和性TCRによって最適化されることが仮定された。ジスルフィド結合形成は、TCRとpMHCとの間の「連続的結合」を防止することが予期され得るため、T細胞活性化と両立しない場合がある。
【0211】
T細胞活性化におけるTCRとpMHCとの間の「連続的結合」のための要件と矛盾することなく、予め形成されたTCR-pMHC複合体の人工的架橋はT細胞活性化を消失させることが見出された。
【0212】
健康なヒト及びマウスの成熟T細胞において、アミノ酸システインは、相補性決定領域3(CDR3)と呼ばれるTCRα又はTCRβペプチド結合部位にまれにしか存在しない。本発明者(ら)は、そのようなT細胞は、抗原提示細胞との長期相互作用の結果として、胸腺での発達の間に選択的に排除されているという仮説を立てた。これらの長寿命相互作用は、TCR CDR3におけるシステインがMHC分子によって提示された自己ペプチドにおけるシステインとジスルフィド結合を形成することの直接的な結果である。全てのデータはこの仮説と矛盾しない。
【0213】
(実施例1)
TCRとペプチドとの間のジスルフィド結合形成を予測する方法
TCR-ペプチド/MHC又はTCR-ペプチド/HLA構造をProtein Data Bank(www.rcsb.org)からダウンロードし、Cootソフトウェアを用いて解析した。TCR-ペプチド界面を、TCR CDR3ループとペプチドとの間の密接な接触について解析した。TCRとペプチドとの間の非常に近接している残基対をin silicoにおいてCysに変異させた。β炭素原子の位置を変えることなく、各Cys残基の回転異性体(配向)を編集して、硫黄(S)原子を互いに向かい合わせにした。
・硫黄(S)原子間の原子間距離が4オングストローム(Å)以上であったか、又はS原子が互いに衝突していたCys-Cys対は、ジスルフィド結合を形成する可能性が低いと分類した。これらの残基は、Table 3(表3)及びTable 4(表4)において、太字ではないテキストとして示す;
・硫黄(S)原子間の原子間距離が3Å超且つ4Å以下(ジスルフィド結合がTCR及び/又はペプチドにおける隣接残基のある程度の移動により形成され得ることを示す)であったCys-Cys対は、「低信頼性」と分類した。これらの残基は、Table 3(表3)及びTable 4(表4)において、太字且つ下線付きのテキストとして示す;
・硫黄(S)原子間の原子間距離が0.01~3.0ÅであったCys-Cys対は、「高信頼性」でジスルフィド結合を形成する可能性が高いと分類した。これらの残基は、Table 3(表3)及びTable 4(表4)において、太字(下線なし)のテキストとして示す。
【0214】
加えて、S原子間の角度が重要である。S-S結合に関する2個のβ炭素原子によって形成される最適な角度は90°又は-90°付近であるべきである。観察された角度がこれらの最適値から30°超離れていた場合、ジスルフィド結合は、構造再構成を伴わずに形成される可能性が低い。これらの残基は、Table 3(表3)及びTable 4(表4)において、太字ではないテキストとして表した。
【0215】
ペプチド残基は、(i)MHCクレフトに埋もれていたか又は(ii)プロリンであった場合は、in silicoにおいてCysに変異させなかった。CDR3残基は、置換されるべき残基がPro又はGlyであった場合、「高信頼性」でジスルフィド結合を形成する可能性が高いとは考えられなかった。
【0216】
これらの解析の結果を、MHCクラスIについてはTable 3(表3)、及びMHCクラスIIについてはTable 4(表4)に示す。システインで置き換えられた場合に、MHC/HLAと結合したペプチドにおける対応又は対合するシステインとジスルフィド結合を形成する可能性が高いと考えられる、TCRα又はTCRβのCDR3における残基の位置の概要を、MHCI/HLAIについては図11、及びMHCII/HLAIIについては図12に示す。
【0217】
(実施例2)
自己免疫疾患におけるTCR-Treg療法のための自己ペプチド/MHCクラスII標的の同定
自己免疫疾患における自己抗原及び高リスクMHCクラスIIアレルのリストをまとめた。以下の例では、I型糖尿病、多発性硬化症(MS)及び関節リウマチにおける自己抗原を、Ross KA. PLoS One 2014; 9: e101093及びPianta Aら、J Clin Invest 2017; 127: 2946~56から得た。自己抗原タンパク質配列を取得した(https://asia.ensembl.org/Homo_sapiens)。
【0218】
自己抗原タンパク質配列に由来する、可能な15マーペプチドのそれぞれを、関連する高リスクMHCクラスIIアレルに対する結合親和性について、NetMHCIIpan(https://services.healthtech.dtu.dk/service.php?NetMHCIIpan-3.2)を使用して評価した。
【0219】
以下の表は、
a. TCR曝露される可能性のある位置(P-1、P2、P3、P5、P7又はP8)(ここで、「P-1」は、P1位に対して1つN末端側である位置を意味する)にCysを有し、
b. MHCIIに対する予測された結合親和性が、NetMHCIIpanによって評価した200,000のランダムペプチドの90%よりも大きい
ペプチドを示す。
【0220】
【表1】
【0221】
(実施例3)
癌におけるTCR-T細胞療法のための自己ペプチド/MHCクラスI標的の同定
CTLによって標的とされる、システインを含有する天然に存在する癌関連ペプチドを、TANTIGEN 2.0: Tumor T-cell Antigen Database(http://projects.met-hilab.org/tadb/)を使用して検索した。「共有腫瘍特異的抗原」として分類され、HLAクラスI分子によって提示される148のペプチド抗原のうち6つのペプチドが、(i)4、5、6、7又は8位にシステインを有する、及び(ii)CTLクローンの抗原性標的として立証されているという基準を満たすことが見出された。これらのペプチドは、以下の表に見出される。
【0222】
【表2】
【0223】
これらのペプチドに特異的なTCRは、CTLのTCRとヒト癌細胞に発現したペプチド-HLA複合体との間のジスルフィド結合を形成することによってCTL活性のブーストを可能にするシステインを導入するように操作することができる。
【0224】
(実施例4)
モデルTCR-ペプチドジスルフィド結合を形成するために使用されるTCR及びペプチド配列
材料及び方法
マウス6218 TCRは、H2-Dbによって提示されるインフルエンザポリメラーゼ酸性(PA)ペプチド(SSLENFRAYV)に結合する(Day E. B.ら、Proc Natl Acad Sci U S A、2011; doi: 10.1073/pnas.1106851108)。TCR-pMHC構造(Day E. B.ら、Proc Natl Acad Sci U S A、2011)に基づいて、本発明者らは、CDR3αの中央の位置(先端)にSerの代わりにCysを有する6218 TCRのバリアント(6218αC)は4位にシステインを有するPAペプチドのバリアント(PA4C)とジスルフィド結合を形成し得ると予測した。本発明者らはまた、CDR3βの先端にGlyの代わりにCysを有する6218 TCRのバリアント(6218βC)と、7位のArgがLys(K)、Ala(A)又はLeu(L)と置換されたPA及びPA4Cペプチドのバリアントとを用いて実験を実施した(図1)。
【0225】
(実施例5)
X線結晶構造解析を使用したジスルフィド結合形成の確認。
材料及び方法
TCR及びペプチド/MHC(pMHC)分子を合成するために、6218 TCRのマウス可変ドメイン(Day E. B.ら、Proc Natl Acad Sci U S A、2011)とヒト定常ドメインとをコードする、細菌発現について最適化されたDNA断片をpET30発現ベクター(Genscript社)にクローニングした。加えて、Ser110αをCys110αと置き換えた6218αC TCRを同様にクローニングした。6218 TCRα、6218 TCRβ、及び6218αC TCRα鎖をBL21大腸菌細胞において封入体として別個に発現させた。機能的な可溶型TCRを、等量のα及びβ鎖を記載されているように3日間リフォールディングし(Day E. B.ら、Proc Natl Acad Sci U S A、2011)、続いて10mMトリス-HCl pH8.0に透析することによって作製した。リフォールディングしたTCRをアニオン交換及びサイズ排除クロマトグラフィーによって精製した。BirA-基質ペプチドと融合したヒトβ2m及びH2-Db重鎖(残基1~274)をBL21大腸菌細胞において別個に発現させ、封入体として抽出した。これらの封入体(30mgのH2-Db及び10mgのβ2m)を、4mgのPAペプチド(SSLENFRAYV)又はバリアントペプチド(Genscript社)のいずれかと3時間リフォールディングした。フォールディングしたpMHC複合体をアニオン交換及びサイズ排除クロマトグラフィーによって精製した。
【0226】
X線結晶構造解析を実施するために、結晶スクリーニングを、シッティングドロップ蒸気拡散法によって、20℃、1:1のタンパク質:リザーバードロップ比、10mMトリス-HCl pH8、150mM NaCl中3mg/mLの濃度において設定した。6218-PA/H2-Db、6218-PA4C/H2-Db及び6218αC-PA4C/H2-Db複合体の結晶を、20%(w/v)PEG3350、0.2M NaF、0.05Mギ酸Na及び3%(w/v)1,5-ジアミノペンタン二塩酸塩中で成長させた。PA4Cと複合体を形成したH2-Dbの結晶を、20%(w/v)PEG2000、0.1M KSCN及び2%(w/v)2-メチル-2,4-ペンタンジオール中3mg/mLで成長させた。全ての結晶を、PEG3350濃度を30%(w/v)に増加させた母液溶液を含有する凍結保護剤溶液に浸漬し、次いで液体窒素中で瞬間凍結した。データは、ANSTO、Australiaの一部門であるAustralian Synchrotronにおいて、MX2ビームラインのAS GUIを使用して収集した(Aragao D.ら、J Synchrotron Radiat、2018; doi: 10.1107/S1600577518003120)。データを、XDS(BUILT=20161205)(Kabsch W、Acta Crystallogr D Biol Crystallogr、2010; doi: 10.1107/S0907444909047337)を使用して処理した。データを、CCP4 suite(バージョン7.0.077)からのPointless and Aimlessプログラム(Evans P.R.、Acta Crystallogr D Biol Crystallogr、2011; doi: 10.1107/S090744491003982X)を使用してスケーリング及び還元した。構造を、PDB ID:3PQYに由来するペプチドを有しないH2-Dbのモデルを用いるCCP4 suite(1994)(バージョン7.0.077)からのPHASERプログラム(バージョン2.8.3)(McCoy A. J.、J Appl Crystallogr 2007; doi: 10.1107/S0021889807021206)を使用した分子置換によって決定した。手動モデル構築を、COOT(バージョン0.8.9.2)(Emsley P、Acta Crystallogr D Biol Crystallogr、2010; doi: 10.1107/S0907444910007493)と、それに続くBUSTER(バージョン2.10.3)(Smart O. S.ら、Acta Crystallogr D Biol Crystallogr、2012; doi: 10.1107/S0907444911056058)による改良とを使用して行った。分子の全てのグラフィック表示は、PyMOLを使用して作成した。
【0227】
結果
6218 TCR-PA/H2-Db、6218 TCR-PA4C/H2-Db及び6218αC TCR-PA4C/H2-Db複合体のオーバーレイは、類似した結合様式を明らかにした(図2A図2C図2G)。本発明者らは、6218αC TCRの遊離CysとPA4CペプチドにおけるP4-Cysとの間のジスルフィド結合を観察した(図2F)。ジスルフィド結合は、ペプチド、CDR3、又はTCR鎖の結合トポロジーのいずれの構造再構成も必要とせずに形成される(図2A図2G)。ジスルフィド結合におけるP4-Cys回転異性体(図2F)は、非結合PA4C/H2-Db構造(図2B)及び6218 TCR-PA4C/H2-Db複合体(図2E)において観察されたP4-Cys回転異性体と異なっており、これは、一部の6218αC TCRが、ジスルフィド結合形成が生じるまで溶液中のPA4C/H2-Db単量体を結合及び放出する理由に関する潜在的な説明を与える(下記を参照されたい)。
【0228】
(実施例6)
ジスルフィド結合形成はペプチド抗原に対するT細胞感受性を増加させる。
材料及び方法
内因性TCRβ鎖を欠く5KC-73.8.20(5KC)細胞(White J.ら、J Exp Med、1993; doi: 10.1084/jem.177.1.119)をCD4の喪失について選別して、CD4-CD8-細胞株を樹立し、10%ウシ胎児血清(Gibco、Amarillo、TX、カタログ番号10437028)、2mM L-グルタミン(Gibco、カタログ番号25030149)、1mMピルビン酸ナトリウム(Gibco、カタログ番号11360070)、100μM非必須アミノ酸(Gibco、カタログ番号11140050)、5mM HEPES緩衝液(Gibco、カタログ番号15630080)、55μM 2-メルカプトエタノール(Gibco、カタログ番号21985023)、100単位/mLペニシリン及び100μg/mLストレプトマイシン(Gibco、カタログ番号15140122)(cDMEM)を補充したダルベッコ改変イーグル培地に維持した。5KC細胞に形質導入を行い、pMIGIIレトロウイルスベクターにコードされたマウスCD8αβと6218 TCR又は6218αC TCRのいずれかとを発現させ、CDαβ及びTCRβの同等な発現について選別した。5×104個の形質導入された5KC細胞を、段階的濃度のペプチド又は抗CD3(プレートと一晩予め結合させた10μg/mL)の非存在下又は存在下において、105個のDC2.4マウス樹状細胞(Shen Z.ら、The Journal of Immunology 158、2723~2730(1997))と共に16時間インキュベートした。上清を回収し、BD OptEIAマウスIL-2酵素連結免疫吸着アッセイ(ELISA)キットを使用してIL-2濃度についてアッセイした。EC50及びヒル勾配(h)値を、GraphPad Prismにおいて非線形回帰(4パラメータ用量反応曲線)を使用して決定した。
【0229】
結果
ペプチド抗原に対するT細胞感受性の増加は、6218αC TCRを形質導入した細胞において観察された。6218αC TCRを発現する細胞において最大半量応答(EC50)を誘導するためには1nMのPA4Cが必要であったが、6218 TCR細胞において同様の応答を誘導するためには49nMが必要であった。用量反応曲線もまた、6218αC TCRを発現する細胞についてより大きいh値によって実証されるように、より急勾配であった(図3)。
【0230】
(実施例7)
精製されたTCRとペプチド/MHCタンパク質との間のジスルフィド結合に関するアッセイ。
材料及び方法
表面プラズモン共鳴(SPR)アッセイを実施するために、各可溶型TCRを、アミンカップリングを介してCM5センサーチップに固定化した。6218αC TCRはジスルフィド結合ホモ二量体を形成し、これは、1mM DTTの10μL/分での10分間の注入を使用してTCR二量体化を解除しない限り、PA/H2-DbにもPA4C/H2-Dbにも結合しなかった。次いで、DTT処理フローセルを泳動用緩衝液において3時間平衡化して、安定なベースラインを達成した。PA/H2-Db又はPA4C/H2-Dbを、3分の1の希釈率を使用した漸増濃度(1.5μM、4.4μM、13.3μM、40μM及び120μM)の一連の1分間の注入において、TCR上に流した。PA4C/H2-Db及び6218αC TCRに関する解離の誘導を実証するために、PA4C/H2-Dbの試料を、2mM DTTを用いて4℃で一晩処理した後、DTTが存在しない泳動用緩衝液に希釈した。より長いpMHC注入時間を伴うアッセイでは、陰性対照pMHC(インフルエンザウイルスNP265~274/HLA-A*03)及び陽性対照pMHC(PA/H2-Db)の1分間の逐次注入が、5又は20分間のPA4C/H2-Db単量体注入に先行し、これらのアッセイでは、全てのpMHC単量体の濃度は100μMであった。1分超のpMHC注入時間を伴うアッセイに関して、センサーチップ間の固定化された6218αC TCRの量の差を説明するために、本発明者らは、式KD=[6218αC]×[PA/H2-Db]/[6218αC-PA/H2-Db]を使用して応答単位(RU)を正規化した。KD=64.1μM及び[PA/H2-Db]=100μMのとき、「正規化RU」値=1(100%の推定6218αC TCR占有率に対応)は、PA/H2-Db陽性対照を6218αC TCR上に流した場合の平衡時に検出されたRUの1.641倍として設定された。実験をBIAcore T100装置において、10mMトリス-HCl、pH8、150mM NaCl、非特異的結合を回避するための0.1%ウシ血清アルブミンを含有する0.005%界面活性剤P20を用いて25℃で行った。データをBIAevaluation 3.0を使用してエクスポートし、データ点を、Prismバージョン9(GraphPad Software社、La Jolla California USA)を使用して解析した。
【0231】
結果
PA4C/H2-Dbは、会合相の間に6218 TCR及び6218αC TCRに同様に結合したが、pMHCとTCRとの解離に影響を及ぼした。6218αC TCRのセンサーグラムは、PA4C/H2-Dbの注入後、ベースラインに戻らず、6218αC TCRをPA4C/H2-Dbに短時間曝露することで、6218αC TCR-PA4C/H2-Db複合体の別々の短寿命及び長寿命亜集団が生じたことを示唆した(図4A)。ジスルフィド結合形成を阻害する還元剤ジチオトレイトール(DTT)の添加は、PA4C/H2-Db注入が終了した後に6218αC TCRセンサーグラムをベースラインに戻し、6218αC TCR-PA4C/H2-Db複合体の長寿命亜集団がジスルフィド結合形成に依存していたことを実証した(図4B)。注入の時間を1分から5分又は20分に増加させることは、PA4C/H2-Db注入が終了した後に持続する結合の割合を増加させた(図4C)。長寿命6218αC TCR-PA4C/H2-Db複合体は1時間持続し(図4A)、短寿命6218αC TCR-PA4C/H2-Db複合体の半減期は1秒未満であった(図4D)。長寿命複合体は数分の時間尺度で蓄積したが、短寿命6218αC TCR-PA4C/H2-Db複合体は数秒以内に入れ替わったため、6218αC TCRとPA4C/H2-Dbとの間の大半の会合はジスルフィド結合形成をもたらさなかった。これらのデータは、共有結合により結合した6218αC TCR-PA4C/H2-Db複合体の持続をジスルフィド結合形成が可能にするまで6218αC TCRとPA4C/H2-Dbとの間に可逆的相互作用が生じることと矛盾しない。
【0232】
(実施例8)
CDR3における曝露されたシステインは胸腺において閾値を超えたTCRシグナル伝達及びT細胞耐性誘導を促進する。
材料及び方法
「切断可能」なP2Aペプチドによって分離された6218 TCRα及びTCRβ遺伝子をコードするDNAを合成した(Genscript Biotech社、Piscataway、NJ)。Cysをコードするコドンを、PCR変異誘発を使用してCDR3α(Ser110αをCys110αと置き換える)又はCDR3β(Gly109βをCys109βと置き換える)配列に導入した。DNA構築物を、GFPを内部リボソーム進入部位の制御下でコードするpMSCV-IRES-GFP II(pMIGII)ベクターにクローニングした(Holst J.ら、Nat Protoc、2006; doi: 10.1038/nprot.2006.61)。Rag1-/-BM細胞に、記載されているように、in vitroにおいてレトロウイルスによる形質導入を行った(Holst J.ら、Nat Protoc、2006)。マウスCD3ε MicroBead Kit(Miltenyi社、Bergisch Gladbach、Germany、カタログ番号130-094-973)及びautoMACS装置(Miltenyi社)を使用して、C57BL/6(B6)マウス由来のBM細胞からT細胞を枯渇させた。レトロウイルスに曝露されたRag1-/-BM細胞とT細胞枯渇B6 BM細胞とを1:1で混合した後、Rag1-/-レシピエント当たり2×106個超の細胞のi.v.注射を行った。レシピエントは、その日のそれよりも前にX線を照射されていた(4時間の間隔を空けて5Gyの2回線量を付与)。TCRレトロジェニックマウスをBM移入の37日後に解析した。
【0233】
TCRレトロジェニックマウスの解析のために、胸腺、脾臓又は小腸試料の単一細胞懸濁液を調製した。CCR7+細胞を検出するために、単一細胞胸腺細胞懸濁液を、フィコエリスリン(PE)コンジュゲート抗CCR7(BioLegend社、San Diego、CA、カタログ番号120105)を含有する予め加温したFACS緩衝液(2%v/v熱不活性化ウシ血清及び0.01%m/vアジ化ナトリウムを含有するPBS)において37℃で60分間インキュベートした。他の場合、又は加えて、細胞を、各種抗マウス抗体:Brilliant Violet 510抗TCRβ(BioLegend社、カタログ番号109233)、Alexa Fluor 700抗CD4(BioLegend社、カタログ番号100430)、APC/Fire抗CD8α(BioLegend社、カタログ番号100766)、PE/Cy7抗CD8β.2(BioLegend社、カタログ番号140416)、VioBlue抗CD45(Miltenyi社、カタログ番号130-102-430)の組合せ及びヨウ化プロピジウム溶液(BioLegend社、カタログ番号421301)を含有するFACS緩衝液において4℃で30分間インキュベートした。次いで、試料をFACS緩衝液中で洗浄し、LSRFortessa X-20フローサイトメーター(Becton Dickinson社、Franklin Lakes、NJ)を使用して解析した。データを、FlowJoソフトウェア(FlowJo LLC社、Ashland、Oregon)を使用して解析した。
【0234】
結果
GFP+胸腺細胞頻度は、例えば未熟CCR7-発達段階において、6218αC及び6218βC群において有意により低かった(図5A)。6218 TCRは、CCR7の高発現によって特徴付けられるナイーブT細胞の効率的な胸腺分化を誘導したが、6218αC及び6218βC TCRはそうではなかった(図5A)。脾臓では、従来のCD8+T細胞に特徴的なCD8αβを発現するGFP+TCRβ+細胞の数は、6218群において最も多かった(図5B)。しかしながら、腸内CD8αα上皮内リンパ球(IEL)集団は、6218αC及び6218βC群においてより大きかった(図5C)。胸腺細胞欠失及びCD8ααIEL分化の誘導は、6218αC及び6218βC TCRが6218 TCRよりも強力なTCRシグナル伝達を誘導したことを示す。
【0235】
(実施例9)
CDR3における曝露されたシステインは胸腺において発達するT細胞の存在量及び分布に影響を及ぼす。
材料及び方法
TCRレトロジェニックマウス由来の胸腺試料を、50%エタノール/5%酢酸/45%水に10分間浸した後、10%中性緩衝ホルマリンに一晩移した。次いで、固定した試料を、Peloris II Tissue Processor(Leica社、Wetzlar、Germany)を使用して段階的エタノール及びキシレンの4時間サイクルに曝露した後、Paraplastワックス(P3558、Sigma-Aldrich社、St.Louis、MO)に包埋し、RM2235ミクロトーム(Leica社)を使用してスーパーフロストプラススライド上に厚さ4μmで切片を作製した。一次抗体のニワトリ抗GFP(ab13970、Abcam社、Cambridge、UK)及びウサギ抗サイトケラチン14(K14)(ab197893、Abcam社)を200分の1の希釈率で使用し、二次抗体のヤギ抗ニワトリIgY A647(ab150175、Abcam社)及びロバ抗ウサギIgG A488(711-545-152、Jackson ImmunoResearch社、West Grove、PA)を500分の1の希釈率で使用した。染色を、Autostainer Link 48(Dako社、Glostrup、Denmark)を使用して、それぞれの間に洗浄緩衝液(K8007、Agilent社、Santa Clara、CA)中での1又は2回の5分間のインキュベーションが挟まれる以下のインキュベーションにより実施した:標的賦活化溶液S1699(Agilent社)と98℃で30分、タンパク質ブロックX0909(Agilent社)と室温(RT)で60分、一次抗体とRTで60分、二次抗体とRTで60分、DAPIとRTで15分。イメージングを、0.75NAを有するUPLS APO 20倍レンズを備えるOlympus VS120バーチャルスライド顕微鏡において実施し、Olympus XM10デジタルカメラを用いて捕捉した。DAPI/FITC/CY5フィルターセットを、全ての切片について同じ曝露設定において使用した。GFP+細胞密度を、皮質をK14-領域として定義し、髄質をK14+領域として定義して、Fiji(J. Schindelin J.ら、Nat Methods、2012; doi: 10.1038/nmeth.2019)を使用して決定した。画像を、cellSens Dimensionバージョン4.1ソフトウェア(オリンパス株式会社、東京、日本)を使用して生成した。
【0236】
結果
6218 TCRを発現するGFP+胸腺細胞は胸腺の皮質及び髄質に存在し、ナイーブT細胞分化の間の皮質から髄質への予期される遊走を反映した(図6)。比較として、6218αCを発現するより少ないGFP+胸腺細胞が胸腺切片の皮質及び髄質領域において検出され、これは発達の中止、変更又は停止と矛盾しなかった(図6)。
【0237】
(実施例10)
ペプチドのP7での置換は、システイン残基にかかわらず、TCRのpMHC四量体への結合の確率に影響を及ぼす。
材料及び方法
TCRトランスフェクタントを作製するために、cDMEMに維持した293T(ヒト胎児腎臓細胞株)細胞を、FuGENE 6トランスフェクション試薬(Promega社、カタログ番号E2691)及びGFPをコードする2種のpMIG IIプラスミドと混合した。一方のプラスミドは、2Aペプチドによって分離されたマウスCD3γ、CD3δ、CD3ε及びCD3ζをコードするDNA配列を含有した。別のプラスミドは、2AペプチドをコードするDNAによって分離された6218又は6218αC TCRのTCRα及びTCRβ鎖をコードするDNA配列を含有した。トランスフェクションの48時間後、TCRトランスフェクタントをPEコンジュゲートpMHC四量体と共にRTで1時間インキュベートした。細胞を洗浄し、APC抗TCRβ(BioLegend社、カタログ番号109212)及びLIVE/DEAD Fixable Aqua DEAD CELL Stain(Thermofisher社、Waltham、MA、カタログ番号L34957)と共に30分間インキュベートし、次いで洗浄した後、フローサイトメトリー解析を行った。pMHC四量体を作製するために、上に記載したペプチドバリアントを用いて調製したpMHC分子を、D-ビオチン(Astral Scientific社、Sydney、Australia、カタログ番号BIOBB0078)の添加と共にBirAビオチンリガーゼを使用してビオチン化し、PE-ストレプトアビジン(BioLegend社、カタログ番号405204)を4:1のモル比で添加することによって四量体化した。BirAビオチンリガーゼをコードするDNAを、Hisタグを有するpcDNA3.1発現ベクター(Genscript Biotech社)にクローニングし、タンパク質をBL21大腸菌細胞において発現させ、次いでNi-NTAアガロースビーズ(Machery-Nagel社、Dueren、Germany、カタログ番号745400.100)を使用して精製した。
【0238】
結果
細胞ベースのpMHC四量体結合アッセイにおいて、PA4CペプチドにおけるP7置換は、検出可能な結合の非存在を含む結合レベルの段階的変化をもたらしたが、段階的変化の各段階において、本発明者らは6218及び6218αC TCRについて同様の結果を得た(図7)。
【0239】
(実施例11)
ペプチドのP7での置換は、システイン残基にかかわらず、精製されたTCRとpMHCタンパク質との間の結合の確率に影響を及ぼす。
材料及び方法
SPRアッセイを、漸増pMHC濃度(120μMの最大濃度、又はPA4C7L/H2-Db及びPA7L/H2-Dbの場合は240μMの最大濃度)による一連の1分間の注入を使用して、上に記載したように実施した。
【0240】
結果
SPR結果は、各P7置換が6218 TCRと6218αC TCRとの両方への結合を減少させたことを明らかにした(図8)。
【0241】
(実施例12)
ジスルフィド結合形成はTCRのペプチド/MHCからの解離を防止する。
材料及び方法
固定化されたTCRを、SPRアッセイのために上に記載したように調製した。本発明者らは、陰性対照pMHC(インフルエンザウイルスNP265~274/HLA-A*03)及び陽性対照pMHC(PA/H2-Db)の1分間の逐次注入の後に、20又は50分間の試験pMHC単量体[PA4C/H2-Db、PA4C7K/H2-Db、PA4C7A/H2-Db、又はPA4C7L/H2-Db]注入を実施し、続いて緩衝液の注入を実施した。全てのpMHC単量体の濃度は100μMであった。SPRデータを上に記載したように解析し、「正規化RU」として示した。四量体解離アッセイのために、TCRトランスフェクタントを、5μg/mL pMHC四量体を用いてRTで1時間染色し、次いで洗浄し、25μg/mL抗H2-Db/Kb(BD Biosciences社、クローン28-8-6、カタログ番号553575)と共に10、30、又は60分間インキュベートして、四量体再結合を防止し、次いで洗浄し、抗TCRβ-APC及びLIVE/DEAD Stainを用いて染色した後、フローサイトメトリーによる解析を行った。グラフは、四量体+細胞頻度を、抗H2-Db/Kbを有しない対応する試料(時間=0分)に対する百分率として示す。記号は、2回の実験から集計された、条件1つ当たり4つの試料の平均を示し、エラーバーは、2回の実験から集計された、条件1つ当たり4つの試料の範囲を示す。
【0242】
結果
SPR注入時間の延長は、全てのP4-Cys含有pMHC単量体と6218αC TCRとの間の持続的な相互作用を明らかにした(図9A)。更に、P4-Cys含有pMHC四量体は、6218αC TCRを発現する細胞から解離しなかった(図9B)。したがって、P7置換はSPR及び四量体アッセイにおいてTCRのpMHCへの結合の確率を低下させたが(図7及び図8)、持続的な相互作用は、全てのP4-Cys含有pMHC分子と6218αC TCRとの間において依然として生じ、これはジスルフィド結合形成と矛盾しなかった(図9)。
【0243】
(実施例13)
ジスルフィド結合形成はペプチド抗原に対するT細胞感受性とペプチド抗原の識別との間のトレードオフを明らかにする。
材料及び方法
5KC T細胞及びDC2.4マウス樹状細胞を使用するT細胞刺激アッセイを、PA4C、PA4C7K、PA4C7A、PA、PA7K及びPA4C7Lペプチドを使用して上に記載したように実施した。
【0244】
結果
6218 TCRを発現する細胞は、P7置換を有するいかなるペプチドによっても活性化しなかったが、6218αC TCRを発現する細胞は、P4-Cysを有する全てのペプチドによって活性化した(図10A)。したがって、共有結合抗原認識と比較して低い、非共有結合抗原認識におけるT細胞感受性(図3)は、ペプチド抗原の優れた識別と結び付けられる(図10A)。しかしながら、P4-Cys含有ペプチドのEC50及び用量反応曲線の勾配(h)は、四量体及びSPRアッセイにおいて、それらの6218αC TCRに結合する確率の階層に対応していたため(図7及び図8)、あるレベルのペプチド識別は共有結合抗原認識において保持されていた。
【0245】
したがって、Cys残基をモデルTCR-pMHC組合せに導入し、ペプチドのP7で更なる置換を行うことによって、本発明者らは、TCRとpMHCとの間の観察された結合が、四量体及びSPRアッセイにおいて生理学的抗ウイルス範囲から検出限界未満まで変動する相互作用を調査した。Cys残基はTCRとpMHCとの間の持続的な結合を可能にし、これは、共有結合により結合したTCR-pMHC複合体の解離を防止したジスルフィド結合の形成と矛盾しなかった。しかしながら、結合の段階的変化の各段階において、Cys残基は、細胞ベースの四量体アッセイにおける蛍光に対しても、SPRアッセイにおけるKD値に対してもほとんど影響を与えなかった(図10B)。
【0246】
TCRのpMHCへの結合の同等の確率に基づいて、共培養アッセイにおける約1nMのPA4Cペプチドは、6218 TCR又は6218αC TCRを発現する細胞において同等の速度のTCR-pMHC複合体形成を誘導すると予期され得る。約1nMのPA4Cペプチドの、6218 TCRを発現する細胞ではなく、6218αC TCRを発現する細胞を活性化する能力は、おそらくはTCR-pMHC複合体形成速度の差に起因するものではなく、TCRシグナル伝達カスケードを活性化させるほど十分に長く持続する、共有結合により結合した6218αC TCR-PA4C/H2-Db複合体によって説明され得る。しかしながら、6218αC TCRを発現する細胞は、活性化するために2nM超のPA4C7A又はPA4C7Lペプチドを必要とした。このことは、6218αC TCRに結合する確率が、PA4C7A/H2-Db及びPA4C7L/H2-Dbにおいて、PA4C/H2-Dbと比較して低いことに起因する。低pMHC密度において、TCR-pMHC相互作用の寿命は、非共有結合抗原認識の間の制限要因であり、TCRのpMHCへの結合の確率は、共有結合抗原認識の間の制限要因である。
【0247】
(実施例14)
システイン連結T細胞の運命の偏りにおけるZap70及びMHCの役割。
TCRシグナル伝達タンパク質Zap70の機能が減弱したマウスでは、通常であれば欠失する胸腺細胞がCD4+又はCD8αβ+T-conv細胞への異常な発達を起こす。この知見を説明するために、強力なTCRシグナル伝達を誘導するはずのTCR-pMHC相互作用は、変異型Zap70を介した減弱したシグナル伝達のために弱いTCRシグナル伝達のみを誘導すると考えられる。Cys含有CDR3が、通常、in vivoにおいて強力なTCRシグナル伝達を誘発するか否かを試験するために、本発明者らは、Cys含有CDR3を有する胸腺細胞がZap70mrd/mrtマウスにおいてT-conv細胞への異常な発達を起こす証拠を探した。本発明者らは、6218、6218αC又は6218βC TCRを形質導入したZap70mrd/mrtBM細胞を保有するTCRレトロジェニックマウスを解析した。脾臓におけるGFP+TCRβ+細胞の数は、これらのTCRがZap70mrd/mrt細胞において発現された場合、比較的少なかったが、同等であった(図13A)。これらのデータは、Cys含有CDR3が、通常、in vivoにおいて強力なTCRシグナル伝達を誘発するという仮説を支持する。
【0248】
上記のTCRレトロジェニック実験はCDR3におけるCysがT細胞の運命を偏らせるという機能的証拠を提供するが、それらの実験はモノクローナルT細胞集団に限定されていた。それらの知見を一般化するために、本発明者らは、TCR-pMHCシグナル伝達における遺伝子欠陥を有するマウスにおけるものを含む、ポリクローナルT細胞集団のTCRレパートリーを配列決定した。
【0249】
材料及び方法
全胸腺又は脾臓懸濁液を、臓器を選別緩衝液(2%v/v熱不活性化ウシ胎児血清及び2mM EDTAを含有するPBS)中で押して70μmシーブに通すことによって調製した。小腸は、洗浄培地(WM、2.5%v/v熱不活性化ウシ血清及び10mM HEPESを含有するDMEM)を用いて湿潤状態を保ちながら、初めに長軸方向に、次いで約0.5cm長の小片に切断し、約15mLの氷冷WMを含有する50mLチューブに入れた。腸内容物を、5秒間のボルテックス、次いで、腸内組織を保持するための濾過器を使用することによる上清の除去、及び15mL WMへの再懸濁のサイクルによって、上清が透明になるまで除去した。
【0250】
次いで、組織片を、解離緩衝液(5%v/v熱不活性化ウシ血清と2mM EDTAとを含有するカルシウム及びマグネシウム不含PBS)において、穏やかに回転させながら37℃で15分間インキュベートした。15秒間のボルテックスの後、組織片を、濾過器を使用して除去し、廃棄し、上清を70μmシーブに通し、遠心分離によってペレット化し、5mLの40%Percollに再懸濁し、15mLチューブ中の5mL 80%Percoll上に重層した。
【0251】
900g、20℃での20分間の遠心分離の後、界面における材料を回収し、10mLの選別緩衝液を含有する新鮮15mLチューブに移し、ペレット化し、FACS解析のために蛍光コンジュゲート抗体と共にインキュベートした。
【0252】
胸腺細胞のCCR7染色のために、懸濁液を、フィコエリスリン(PE)コンジュゲート抗CCR7(BioLegend社、San Diego、CA、カタログ番号120105)を含有する1mLの予め加温した選別緩衝液において37℃で60分間インキュベートした。他の細胞表面マーカーの染色のために、各胸腺又は脾臓試料を、蛍光コンジュゲート抗体を含有する1mLの選別緩衝液において4℃で30分間インキュベートし、各小腸試料を、蛍光コンジュゲート抗体を含有する0.5mLの選別緩衝液において4℃で30分間インキュベートした。
【0253】
洗浄後、細胞を40μmシーブに通した後、Influx Cell Sorter装置(Becton Dickinson社、Franklin Lakes、New Jersey)を使用して、T細胞サブセット(典型的には試料1つ当たり5×104個の細胞)を、RNeasy Mini Kit(Qiagen社、Hilden、Germany、カタログ番号74106)からの350μLのBuffer RLTを含有する1.5mLエッペンドルフチューブに選別した。次いで、試料をドライアイスに押し当てることによって凍結させ、RNA単離まで-80℃で保管した。
【0254】
RNAを、RNeasy Mini kitを使用して22μLの溶出容量で単離し、そこから12μLを使用して、QuantiTect Reverse Transcription Kit(Qiagen社、カタログ番号205311)を用いてcDNAを合成した。反応当たり5μLのcDNAを使用して、TCRβ転写物を、Q5(登録商標)High-Fidelity PCR Kit(New England BioLabs社、Ipswich、MA、カタログ番号E0555L)、及び19のTrbv特異的順方向プライマーと単一のTrbc特異的逆方向プライマーとのミックスを使用してPCR増幅し、TCRα転写物を、23又は24のTrav特異的順方向プライマーと単一のTrac特異的逆方向プライマーとのミックス(GeneWorks社、Adelaide、Australiaから購入した)を使用してPCR増幅した。順方向及び逆方向プライマーは、Nextera XT DNA Library Preparation Kit(Illumina社、San Diego、CA、カタログ番号FC-131-1096)を使用する第2のPCRにおいて試料特異的インデックス及びP5/P7配列決定アダプターの付加を可能にする別々の5'オーバーハングアダプター配列を有した。第2のPCRの前に、AMPure XP磁気ビーズ(Beckman Coulter社、Brea、CA、カタログ番号A63881)を使用して、100bp超の増幅産物を富化した。第1のPCRのための条件は、98℃で5分間、98℃で10秒間、60℃で30秒間及び72℃で30秒間の20サイクル、それに続く72℃で2分間であった。第2のPCRのための条件は、72℃で3分間、98℃で30秒間、98℃で10秒間、63℃で30秒間及び72℃で30秒間の20サイクル、それに続く72℃で1分間であった。
【0255】
QIAxcelキャピラリー電気泳動装置(Qiagen社)を使用して増幅産物濃度を決定した後、最大270の試料からの等モル量の増幅産物を単一のチューブにプールし、AMPure XP磁気ビーズを使用して濃縮し、次いで300~500bpの増幅産物をゲル精製した後、6塩基の短いリード1とそれに続く145塩基のリード2とを用いるNextSeq装置(Illumina社)において配列決定した。
【0256】
配列を、分子識別子群に基づくエラー修正(molecular identifier groups-based error correction、MIGEC)ソフトウェア(バージョン1.2.6)を使用して、マウスTCR遺伝子に対してアラインメントした。その後の解析を、RStudioソフトウェア(バージョン2022.02.3、ビルド492)を使用して実施した。アウトオブフレームであったか又は終止コドンを含有したCDR3を有する配列を除外した。クローンを、Trav又はTrbv遺伝子とCDR3ヌクレオチド配列との固有の組合せとして定義した。各クローンを、そのリード数にかかわらず、試料1つにつき1回のみ計数した。
【0257】
CDR3長を、保存されたN末端Cys及びC末端Trp又はPheをCDR3から除外するCDR3-IMGT定義を使用して決定した。n個のアミノ酸のCDR3配列に関して、(n/2+1)を超えない最大の位置におけるアミノ酸を中央のCDR3位置(先端)として定義した。各試料のシステイン指数は、CDR3先端から2位以内にCysを有するクローンの百分率に等しい。任意の所与の試料において1又は2回のみ検出された配列は、システイン指数算出から除外した。CDR3先端から2位以内にCysを有するクローン型を有しなかった試料の場合、システイン指数は、試料におけるクローンの数の逆数として定義し、百分率として表した。Trbv1配列は、8アミノ酸長未満のCDR3配列の先端から2位以内であるCDR3の2位に、生殖細胞系列にコードされたCysを有し得るため、本発明者らは、8アミノ酸未満のCDR3長を有するTrbv1配列を除外した。
【0258】
結果
野生型マウスでは(左側のパネル、図13B)、Cys含有CDR3は、事前選択胸腺細胞と比較して、CD8ααIELにおいては富化し、CD4+及びCD8+T-conv細胞においては枯渇した。しかしながら、Zap70mrd/mrtマウスにおける事前選択胸腺細胞及び成熟T細胞サブセットは、同等の頻度のCys含有CDR3を有し(中央のパネル、図13B)、Zap70mrd/mrtマウスにおいて、Cys含有CDR3を有するポリクローナル胸腺細胞がT-conv細胞への異常な発達を起こすことを示した。Cys含有CDR3の効果がpMHCリガンドに依存するか否かを試験するために、本発明者らは、MHCタンパク質の細胞表面発現を欠くB2m-/-H2-Aa-/-マウスのTCRレパートリーを配列決定した。本発明者らは、B2m-/-H2-Aa-/-マウス由来の事前選択胸腺細胞と成熟T細胞とにおいて同等の頻度のCys含有CDR3を見出した(右側のパネル、図13B)。まとめると、これらの結果は、成熟TCRレパートリーにおけるCysの発現差異は、胸腺においてpMHCリガンドに応答して強力なTCRシグナル伝達を誘導するCys含有CDR3の直接的な結果であることを実証する。
【0259】
(実施例15)
TCR-pMHC結合に対するCysの文脈依存効果。
材料及び方法
上に記載したように調製した、CD3と6218、6218αC又は6218βC TCRとを発現する293T TCRトランスフェクタントを、PA又はPA4Cを負荷したH2-Dbの四量体と共にインキュベートし、FACSによって解析した。
【0260】
結果
PA/H2-Db及びPA4C/H2-Db四量体は、6218又は6218αC TCRを発現する細胞には結合したが、6218βC TCRを発現する細胞には結合しなかった(図14)。6218βC TCRへの結合の非存在は、GlyからCysへの置換がより大きな側鎖を導入し、これにより、CDR3βループの立体構造が変更され、その主鎖とペプチドのP7におけるArgとの間の密接な相互作用が妨げられたためである可能性が高いと予期された。TCR-pMHC界面に対するこれらのCys置換の効果を評価するために、本発明者らは、X線結晶構造解析を適用した(実施例5、図2を参照されたい)。
【0261】
(実施例16)
グッドパスチャーの疾患のIV型コラーゲンのα3鎖(α3)とジスルフィド結合を形成するように操作されたTCR
おそらく、最も良好に理解されているヒト自己免疫疾患は、MHCクラスII(MHCII)アレルであるHLA-DRB1*15:01(DR15)に関連するグッドパスチャーの疾患である。DR15+ヒト及びマウスは、腎臓及び肺における基底膜の成分であるIV型コラーゲンのα3鎖(α3)に対する炎症誘発性T細胞及びB細胞応答に起因してグッドパスチャー病を発症する。しかしながら、MHCIIアレルであるHLA-DRB1*01:01(DR1)の共発現は、グッドパスチャー病を防止するα3/DR1特異的T-reg細胞の形成を誘導する。
【0262】
注目すべきことに、DR15及びDR1は、同じペプチドをCD4+T細胞に提示することによって、それぞれこの疾患に対する感受性及び抵抗性を付与する。しかしながら、それらのペプチドアンカー残基は位置が1つずれており、その結果、TCRは、ペプチドがDR15によって提示される場合とDR1によって提示される場合とでは、ペプチドの異なるアミノ酸を「見ている」ことになる(Ooi, J.D.ら、Dominant protection from HLA-linked autoimmunity by antigen-specific regulatory T cells. Nature. 545、243~247(2017). doi: 10.1038/nature22329)。
【0263】
α3/DR15抗原に結合するCD4+T細胞ハイブリドーマの生成
グッドパスチャー病の病因を研究するために、本発明者らはα3/DR15抗原に結合するCD4+T細胞ハイブリドーマを生成した。
【0264】
T細胞ハイブリドーマを生成するために、2匹の80日齢の雌DR15トランスジェニックFcgr2b-/-マウスをそれぞれ、100μLの総容量の完全フロイントアジュバントに乳化した100μgのα3ペプチド(KKDWVSLWKGFSFKK;配列番号211)を用いて皮下免疫化し、次いで、7及び14日後に、100μLの総容量の不完全フロイントアジュバントに乳化した100μgのα3ペプチドを用いて再び免疫化した(合計で3回の免疫化)。N及びC末端におけるリジン残基は、α3ペプチドを水性溶液により可溶性にする。
【0265】
マウスを、1回目の免疫化の34日後に屠殺し、CD4+メモリーT細胞を、EasySep Mouse Memory CD4+T Cell Isolation Kit(StemCell Technologies社、カタログ番号19767)を使用して、プールされた脾臓及びリンパ節細胞から単離した。2×105個のCD4+メモリーT細胞を、30U/mLヒトIL-2(Genscript社、カタログ番号Z00368-1)の存在下で、2×105個のDynabeads Mouse T-Activator CD3/CD28 for T-Cell Expansion and Activation(ThermoFisher Scientific社、カタログ番号11453D)を有する24ウェルプレートの単一のウェルにおいて500μLの培養培地中で培養した。
【0266】
48時間の培養後、2.2×105個のCD4+T細胞を107個のBWZ.36細胞(Sanderson及びShastri、Int Immunol. 1994年3月;6(3):369~76)と融合し、次いで、融合後2日目に2×HAT Supplement(ThermoFisher Scientific社、カタログ番号21060017)を含有する100μLのハイブリドーマ培地の添加を伴うWhiteらのプロトコルに従って(Whiteら、Methods Mol Biol. 2000;134:185~93)、細胞アリコートを、96ウェルプレート中のウェル1つ当たり100μLのハイブリドーマ培地(cDMEM+400μg/mLハイグロマイシン(NFAT-lacZ導入遺伝子を維持するため))中で培養した。
【0267】
融合後10日目に、各96ウェルプレート中の全てのウェルからの半分の容量をプールし、α3ペプチドを負荷したAPCコンジュゲートHLA-DR15四量体(α3/DR15-APC、NIH Tetramer Core Facility、Emory University、Altanta)と共にインキュベートし、上昇した頻度(0.2%)のα3/DR15-APC+細胞を有する1つのプレートを同定した。
【0268】
融合後14日目に、目的のプレート(10日目に同定した)の96のウェルの全てからプールされた細胞をα3/DR15-APC四量体と共にインキュベートし、420個のα3/DR15-APC+細胞を、Influx Cell Sorter装置(Becton Dickinson社、Franklin Lakes、New Jersey)を使用して、96ウェルプレートの単一のウェルにおいて、1×HAT Supplementを含有する100μLのハイブリドーマ培地にFACS選別した。
【0269】
融合後27日目に、同じプロトコルを使用して、750個のα3/DR15-APC+細胞を、1×HT Supplement(ThermoFisher Scientific社、カタログ番号41065012)を含有する100μLのハイブリドーマ培地に選別した。
【0270】
融合後40日目に、同じプロトコルを使用して、個々のα3/DR15-APC+細胞を、96ウェルプレートの別個のウェルにおいて、200μLのハイブリドーマ培地に選別した。
【0271】
融合後50日目に、増加したクローンFACS解析は、98%超の細胞がα3/DR15-APC+且つCD4+であったことを実証した(図15)。
【0272】
TCR曝露位置にシステイン置換を有するα3ペプチドのバリアントに対する反応性を同定するためのT細胞ハイブリドーマ活性化アッセイ
LS1と表されるこのハイブリドーマは、BWZ.36細胞(Sanderson及びShastri、Int Immunol. 1994年3月;6(3):369~76)に由来する誘導性NFAT-lacZβ-ガラクトシダーゼ導入遺伝子を有する。ペプチド依存性TCR結合は、活性化細胞においてNFATプロモーターからの転写及びlacZβ-ガラクトシダーゼ(lacZ)の翻訳を誘導し、ここで、lacZはその基質であるフルオロデオキシグルコース(FDG)をフルオレセインに変換する。DR15+抗原提示細胞を提供するために、ナイーブDR15トランスジェニックFcgr2b-/-マウス由来の脾臓細胞を、CellTrace Violet(CTV、ThermoFisher Scientific社、カタログ番号C34557)を用いて標識した。CTV+DR15+抗原提示細胞を、様々なペプチドのうちの1種(50μg/mL)の非存在下又は存在下で、200μLのcDMEM中でLS1細胞と共に培養した。16時間後、細胞に、浸透圧によりFDGを負荷し(Nolanら、Proc Natl Acad Sci U S A. 1988年4月;85(8):2603~7)、FACSによって解析した。フルオレセインは、α3ペプチドと共に培養したCTV-(LS1)細胞においては検出可能であったが、α3ペプチドを伴わずに培養した同様の細胞においては検出可能ではなかった(図16)。
【0273】
本発明者らは、LS1-α3/DR15複合体に関するジスルフィド結合を操作する予定であるため、LS1 TCRがTCR曝露位置にシステイン置換を有するα3ペプチドのバリアントに反応するか否かを試験した(Ooi, J. D.ら、Nature. 545、243~247(2017))(図16)。LS1細胞は、位置(P)2のセリンに対するシステイン置換を有するバリアントペプチド(α3_S2C;KKDWVCLWKGFSFKK;配列番号212)又はP8のセリンに対するシステイン置換を有するバリアントペプチド(α3_S8C;KKDWVSLWKGFCFKK;配列番号213)によって活性化した。LS1細胞は、P-1のトリプトファンに対するシステイン置換を有するα3ペプチドのバリアント(α3_W-1C;KKDCVSLWKGFSFKK;配列番号214)によっても、P5のリジンに対するシステイン置換を有するα3ペプチドのバリアント(α3_K5C;KKDWVSLWCGFSFKK;配列番号215)によっても活性化せず、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)由来の陰性対照ペプチド(KKENPVVHFFKNIVTPKK;配列番号216)によっても活性化しなかった。したがって、LS1細胞によって発現されたTCRは、α3/DR15、及びα3/DR15に密接に関連する全てではないが一部のリガンドによるT細胞活性化を促進する。換言すれば、これらのデータは、LS1 TCRが、これまでに特徴付けられた多くの抗微生物又は自己免疫TCR-pMHC相互作用と同様に、実証可能なほど特異的にα3/DR15に結合することを示唆する。
【0274】
システイン置換の残基候補を同定するためのLS1細胞によって発現されたTCRα及びTCRβ鎖の配列決定
LS1ハイブリドーマによって発現されたTCR鎖を配列決定するために、LS1細胞から単離したRNAを、Template Switching RT Enzyme Mix(New England BioLabs社、カタログ番号M0466L)を使用して逆転写した。逆転写プライマーは、TCRαについてはCGTCTGAACTGGGGTAGGTG(配列番号217)であり、TCRβについてはCTGAAAGCCCATGGAACTGC(配列番号218)であった。鋳型スイッチDNA-RNAオリゴヌクレオチドプライマーは、GAATTCACCTATCAACGCAGAGTACATXXX(ここで、Xはリボグアノシン(rG)を表す、配列番号219)であった。cDNAを、TCRαに対する順方向プライマーAATTGAATTCACCTATCAACGCAGAG(配列番号220)及び逆方向プライマーAATTCTCGAGAAGTCGGTGAACAGGCAGAG(配列番号221)、又はTCRβに対する逆方向プライマーAATTCTCGAGTGGACCTCCTTGCCATTCAC(配列番号222)を用いるPCRにおいて鋳型として使用した。PCR産物を、EcoRI及びXhoIを用いて消化し、次いでpMSCV-IRES-mCherry FPプラスミド(Addgene、カタログ番号52114)にライゲーションし、これを使用して、10-βコンピテント大腸菌(New England BioLabs社、カタログ番号C3019H)を形質転換した。その後の大腸菌培養物から単離及び精製されたMiniprep DNAを、プライマーCCTCACATTGCCAAAAGACG(配列番号223)を使用するサンガー配列決定に供した。
【0275】
配列を、IMGT/V-Quest(https://www.imgt.org/IMGT_vquest/input)を使用して、マウスTCRヌクレオチド配列に対してアラインメントした。LS1 T細胞ハイブリドーマによって発現されたTCRα及びTCRβ鎖(LS1 TCR)の可変(TRAV/TRBV)及び結合(TRAJ/TRBJ)遺伝子セグメントとCDR3アミノ酸配列との詳細を図17に示す。
【0276】
α3_W-1CペプチドがLS1細胞を活性化できないことは、LS1 TCRがα3ペプチドのP-1におけるトリプトファンと接触することを示唆する。LS1 TCRは、α3/DR15リガンドに対して中心で結合するのではなく、代わりにα3ペプチドの更にN末端部分の方で結合すると考えられる。MBP/DR15に特異的であり、多発性硬化症を有する患者から得られるOb.1A12 TCR(Wucherpfennigら、J Exp Med. 1994年1月1日;179(1):279~90. doi: 10.1084/jem.179.1.279)は、ペプチドのN末端部分の方向にシフトしている非従来的な結合トポロジーを有する(Hahnら、Unconventional topology of self peptide-major histocompatibility complex binding by a human autoimmune T cell receptor. Nat Immunol. 6、490~496(2005)。doi: 10.1038/ni1187)。Ob.1A12 TCRの中心は、他のTCR-pMHC複合体において観察されることが多いペプチドのP5ではなく、ペプチドのP2上に位置する(Hahnら、2005)。
【0277】
Ob.1A12 TCRは、CDR3β(14aa)よりも短いCDR3α(12aa)を有する。興味深いことに、本発明者らは、LS1においても、CDR3α(10aa)がCDR3β(13aa)よりも短いことを見出した。この非対称性が、Ob.1A12-MBP/DR15複合体において観察されるような(Hahnら、2005)α3/DR15リガンドに対する傾いた結合トポロジー、すなわちDR15βヘリックスへとLS1 TCRを向かわせている可能性がある。LS1 TCRは、P2にセリン又はシステインのいずれかを有する形態のα3ペプチドに反応する。α3_S2Cバリアントは、CDR3α又はCDR3βのいずれかにシステイン置換を有するLS1 TCRのバリアントとのS-S結合形成を可能にする良好な候補であると考えられ得る。
【0278】
LS1-α3/DR15複合体に関するジスルフィド結合の操作
本発明者らは、CDR3αについては
【0279】
【化2】
【0280】
CDR3βについては
【0281】
【化3】
【0282】
の、太字のイタリックで示されるCDR3位置のそれぞれにシステイン置換を有する、LS1 TCRの10のバリアントを作製する(図17)。本発明者らは、LS1又は上に記載したその10のバリアントのうちの1つを発現するT細胞株を作製し、これらのT細胞株の、α3、α3W-1C、α3S2C、α3K5C、α3S8C、又は3位にロイシンの代わりにシステインを有するバリアント(α3L3C、KKDWVSCWKGFSFKK、配列番号226)と共にインキュベートしたDR15+抗原提示細胞に対する反応性を試験する。ジスルフィド結合形成は、in vitroにおいてより低い濃度のペプチド抗原に応答したT細胞活性化によって実証されているように、ペプチド抗原に対するT細胞感受性を増加させることが予期される。
【0283】
ジスルフィド結合形成を確認するために、マウスCD3と一緒になった目的の各TCRを293T細胞にトランスフェクトして、細胞表面TCR発現を達成する。本発明者らは、目的のペプチド(例えば、α3W-1C、α3S2C、α3K5C、α3S8C、α3L3C)を含有するDR15四量体を取得する。本発明者らは、四量体解離アッセイ(本明細書に記載されている)を使用して、各TCR/ペプチドの組合せを、抗MHCII抗体であるクローンL243の存在下でスクリーニングする(Lampson及びLevy、J Immunol. 1980年7月;125(1):293~9)。四量体解離の欠如は、TCRとペプチドとの間のジスルフィド結合の証拠を提供し得る。
【0284】
操作されたLS1-α3/DR15複合体を使用したin vitro及びin vivoにおけるCD4+T細胞活性化に対する共有結合抗原認識の効果の検討
LS1-α3/DR15複合体に関するジスルフィド結合を操作することは、in vitro及びin vivoにおけるCD4+T細胞活性化に対する共有結合抗原認識の効果の検討を可能にし得る。例えば、T-reg機能は、本明細書に記載されるものと同様の方法を使用して、in vitroにおいて評価することができる。in vivo実験を可能にするために、α3ペプチドをコードするDR15トランスジェニックFcgr2b-/-マウス生殖細胞系列DNAは、CRISPR-Cas9遺伝子編集を使用して所望の位置にシステインを導入するように改変することができる。この手法は、α3タンパク質及びペプチドが、ヒト及びヒト化マウスモデルにおける自己免疫疾患に対する保護及び感受性に重要な様式で発現され、T細胞に提示されるという利益を有する。そのような手法は、標的抗原とジスルフィド結合を形成するように操作されたTCR-Treg細胞が自己免疫疾患の処置における優れた有効性をもたらすか否かを試験するための新規モデルを提供し得る。
【0285】
本明細書に開示及び定義される発明は、言及されるか又は本文若しくは図面から明白な個々の特徴の2つ以上の全ての代替的な組合せに及ぶことが理解されるだろう。これらの異なる組合せの全ては、本発明の様々な代替的な態様を構成する。
【0286】
明確化のために及び疑いを避けるために、本明細書において使用される場合、文脈上別段のことが必要とされる場合を除き、「含む(comprise)」という用語並びにその用語の活用形、例えば「含むこと(comprising)」、「含む(comprises)」及び「含まれる(comprised)」は、更なる追加要素、成分、整数又は工程を排除することを意図していない。
【0287】
【表3A】
【0288】
【表3B】
【0289】
【表3C】
【0290】
【表3D】
【0291】
【表3E】
【0292】
【表3F】
【0293】
【表3G】
【0294】
【表4A】
【0295】
【表4B】
【0296】
【表4C】
【0297】
【表4D】
図1A
図1B
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図5AB
図5C
図6
図7A
図7B
図8
図9A
図9B
図10-1】
図10-2】
図11
図12
図13A
図13B
図14
図15
図16A
図16B
図17
【配列表】
2024537353000001.xml
【国際調査報告】