IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ センター フォー エクセレンス イン モレキュラー セル サイエンス,チャイニーズ アカデミー オブ サイエンシーズの特許一覧

特表2024-537357呼吸器合胞体ウイルスを中和する全ヒト抗体の設計および使用
<>
  • 特表-呼吸器合胞体ウイルスを中和する全ヒト抗体の設計および使用 図1
  • 特表-呼吸器合胞体ウイルスを中和する全ヒト抗体の設計および使用 図2
  • 特表-呼吸器合胞体ウイルスを中和する全ヒト抗体の設計および使用 図3
  • 特表-呼吸器合胞体ウイルスを中和する全ヒト抗体の設計および使用 図4
  • 特表-呼吸器合胞体ウイルスを中和する全ヒト抗体の設計および使用 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-10
(54)【発明の名称】呼吸器合胞体ウイルスを中和する全ヒト抗体の設計および使用
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/08 20060101AFI20241003BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20241003BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20241003BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20241003BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20241003BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20241003BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20241003BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20241003BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20241003BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20241003BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20241003BHJP
   A61K 38/19 20060101ALI20241003BHJP
   G01N 33/569 20060101ALI20241003BHJP
   G01N 33/531 20060101ALI20241003BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALN20241003BHJP
【FI】
C07K16/08
C12N15/13 ZNA
C12N15/63 Z
C12N5/10
C12P21/08
C07K19/00
C12N15/62 Z
A61K47/68
A61P31/12
A61K35/17
A61K39/395 N
A61K38/19
G01N33/569 L
G01N33/531 A
C12N5/0783
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024522267
(86)(22)【出願日】2022-10-08
(85)【翻訳文提出日】2024-06-12
(86)【国際出願番号】 CN2022123876
(87)【国際公開番号】W WO2023061264
(87)【国際公開日】2023-04-20
(31)【優先権主張番号】202111189228.6
(32)【優先日】2021-10-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520308488
【氏名又は名称】センター フォー エクセレンス イン モレキュラー セル サイエンス,チャイニーズ アカデミー オブ サイエンシーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110003971
【氏名又は名称】弁理士法人葛和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】スン,ビン
(72)【発明者】
【氏名】イー,チュエンヤン
(72)【発明者】
【氏名】リン,ヂーヤン
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C076
4C084
4C085
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG27
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA01
4B065AA94X
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA44
4C076AA11
4C076BB01
4C076BB11
4C076BB13
4C076BB21
4C076EE59
4C084AA01
4C084AA02
4C084BA41
4C084DA01
4C084MA17
4C084MA52
4C084MA56
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZB331
4C084ZB332
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB11
4C085CC23
4C085EE01
4C085GG01
4C085GG02
4C085GG06
4C085GG08
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB65
4C087MA17
4C087MA52
4C087MA56
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZB33
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045BA72
4H045DA76
4H045EA20
4H045EA50
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は呼吸器合胞体ウイルスを中和する全ヒト抗体の設計および使用を提供する。具体的に、本発明では、コンピュータ支援設計および部位特異的突然変異技術によって呼吸器合胞体ウイルス融合タンパク質の全ヒトモノクローナル抗体4F1に対して胚胎系遺伝子の復帰突然変異および親和力の向上を行った。本発明の改造された抗体は、比較的に低い体細胞突然変異部位を有し、高親和力を有し、有効にRSV感染を予防し、同時に有効にRSV感染後の拡散を抑制することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
特異的抗呼吸器合胞体ウイルス融合タンパク質の抗体であって、重鎖および軽鎖を含み、
ここで、前記重鎖の可変領域は配列番号15で示される配列に相応し、以下のアミノ酸突然変異を有し:
(Z1) n個の以下の群から選ばれる復帰型突然変異で、ここで、nは3、4、5、6、7、8または9である:
1番目のE→Q
6番目のQ→E
13番目のR→Q
62番目のE→D
65番目のR→K
69番目のS→T
76番目のT→K
88番目のP→A
119番目のR→T;
(Z2) 中和増強型FR突然変異
75番目のS→R;
(Z3)Z1とZ2の組み合わせ;
および、前記軽鎖の可変領域は配列番号16で示される配列に相応し、以下のアミノ酸突然変異を有する:
(Y1) m個の以下の群から選ばれる復帰型突然変異で、ここで、mは3、4、5、6または7である:
12番目のS→P
24番目のK→R
47番目のK→Q
65番目のA→D
79番目のE→K
109番目のV→L
110番目のD→E;
(Y2) 中和増強型CDR突然変異
30番目のL→R;
(Y3)Y1とY2の組み合わせ;
ことを特徴とする抗体。
【請求項2】
前記抗体は特異的に呼吸器合胞体ウイルスの融合前Fタンパク質に結合することを特徴とする請求項1に記載の抗体。
【請求項3】
前記重鎖は以下の群から選ばれることを特徴とする請求項1に記載の抗体:
a) アミノ酸配列が配列番号1、2で示される重鎖可変領域;ならびに
b) 配列番号1、または2で示されるアミノ酸配列が、3つのCDR領域の配列が残ったまま、FR領域が少なくとも1個(たとえば1-5個、好ましくは1-3個、最も好ましくは1または2個)のアミノ酸残基の置換、欠失、修飾および/または付加を経てなる、呼吸器合胞体ウイルス融合タンパク質(好ましくは融合前Fタンパク質)の結合親和力が残った誘導配列で示される重鎖可変領域。
【請求項4】
前記軽鎖可変領域は以下の群から選ばれることを特徴とする請求項1に記載の抗体:
c) アミノ酸配列が配列番号4または5で示される軽鎖可変領域;ならびに
d) 配列番号4または5で示されるアミノ酸配列が、3つのCDR領域の配列が残ったまま、FR領域が少なくとも1個(たとえば1-4個、好ましくは1-3個、最も好ましくは1または2個)のアミノ酸残基の置換、欠失、修飾および/または付加を経てなる、呼吸器合胞体ウイルス融合タンパク質(好ましくは融合前Fタンパク質)の結合親和力が残った誘導配列で示される重鎖可変領域。
【請求項5】
前記重鎖可変領域は配列番号1または2で示されるアミノ酸配列を有することを特徴とする請求項1に記載の抗体。
【請求項6】
前記軽鎖可変領域は配列番号4または5で示されるアミノ酸配列を有することを特徴とする請求項1に記載の抗体。
【請求項7】
前記抗体は配列が配列番号2で示される重鎖可変領域および配列が配列番号4で示される軽鎖可変領域を有することを特徴とする請求項1に記載の抗体。
【請求項8】
組み換えタンパク質であって、
(i) 請求項1に記載の抗体;ならびに
(ii)任意の発現および/または精製を補助するタグ配列
を有するタンパク質。
【請求項9】
CAR構築物であって、前記のCAR構築物の抗原結合領域のscFv断片は特異的にRSV融合タンパク質(好ましくは融合前Fタンパク質)に結合する結合領域で、かつ前記scFvは請求項1に記載の重鎖可変領域および軽鎖可変領域を有するCAR構築物。
【請求項10】
外来の請求項7に記載のCAR構築物を発現する組み換え免疫細胞。
【請求項11】
抗体薬物複合体であって、
(a) 請求項1に記載の的抗体、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる、抗体部分;および
(b) 検出可能なマーカー、薬物、毒素、サイトカイン、放射性核種、酵素、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる、前記抗体部分と複合する複合部分
を含有する抗体薬物複合体。
【請求項12】
薬物組成物であって、
(i) 請求項1に記載の抗体、請求項6に記載の組み換えタンパク質、請求項8に記載の免疫細胞、請求項9に記載の抗体薬物複合体、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる、活性成分;および
(ii) 薬学的に許容される担体
を含有する薬物組成物。
【請求項13】
以下の群から選ばれるポリペプチドをコードのするポリヌクレオチド:
(1) 請求項1~7のいずれかに記載の抗体;
(2) 請求項8に記載の組み換えタンパク質;および
(3) 請求項9に記載のCAR構築物。
【請求項14】
サンプルにおける呼吸器合胞体ウイルスを検出する方法であって、以下の工程を含む方法:
(1) サンプルを請求項1~7のいずれかに記載の抗体と接触させる工程、および
(2) 抗原-抗体複合体が形成したか検出し、ここで、複合体が形成したというのはサンプルに呼吸器合胞体ウイルスが存在することを意味する。
【請求項15】
呼吸器合胞体ウイルス感染を治療する方法であって、必要な対象に本発明の請求項1-7のいずれかに記載の抗体、または前記抗体の抗体-薬物複合体、または前記抗体を発現するCAR-T細胞、またはこれらの組み合わせを施用する工程を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物医薬の分野に関する。具体的に、本発明は、呼吸器合胞体ウイルスを中和する全ヒト抗体の設計および使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒト呼吸器合胞体ウイルス(Respiratory syncytial virus、RSV)は、児童の下部呼吸器感染を引き起こす要因である。RSV感染によって1か月から1歳の児童が重度な細気管支炎や肺炎に罹患することによる死亡の比率が6.7%で、そして2歳前にほとんどの児童に感染する。年寄りの層では、呼吸器合胞体ウイルスは季節性A型インフルエンザウイルスに相当する疾患の負担を与える。RSVは人類の健康を大いに脅かすが、臨床の許可が得られたRSVワクチンおよび有効な抗ウイルス薬がまだ欠けている。
【0003】
RSV Fタンパク質は融合前の状態(pre-F、pre-fusion F)から融合後の状態(post-F、post-fusion F)への構造変化により、ウイルスのエンベロープ膜と宿主の細胞膜の融合過程を仲介し、その構造の融合前の状態から融合の状態への変化過程でもある。RSV侵入における重要な作用および高度の保存性のため、RSV Fタンパク質は中和抗体の標的およびワクチン開発の主要な抗原である。大量の研究により、Fタンパク質の高活性中和抗体の認識部位は主にpre-fusion Fタンパク質に位置し、pre-fusion Fに基づいて設計された組み換えタンパク質は免疫原性および保護効果が顕著にpost-fusion Fタンパク質に基づいて設計されたワクチンよりも良いことが実証された。
【0004】
過去の数十年では、ワクチン開発、抗ウイルス化合物(リバビリン)、アンチセンス薬物、RNA干渉技術および抗体製品、たとえば、免疫グロブリンや静脈注射モノクローナル抗体を含む、RSV感染を予防および治療するいくつかの方法が研究されてきた。パリビズマブ(Palivizumab)は、ハイリスク児童におけるRSV予防への使用が許可された唯一のものである。しかしながら、中国では、RSVのワクチンまたは市販品による治療はまだない。RSV感染の治療への使用が許可されたのはリバビリンのみであるが、重度な副作用がある。パリビズマブはFタンパク質の保存的な領域を標的とし、作用の範囲が広いが、一回の投与に必要なパリビズマブの投与量が15mg/kg(体重)で、一年に受動免疫5回で、投与量が高い、複数回の投与が必要、高価といった欠点があり、そしてパリビズマブはヒト化抗体で、一部のネズミ由来の配列がまだ残っており、ある程度の免疫原性が存在する可能性がり、安全性においてある程度異論がある。免疫学および分子生物学の発展につれ、遺伝子工学による抗体が迅速に発展し、キメラ抗体、ヒト化抗体および全ヒト抗体の生産技術が進み、HAMA反応を最低限にし、ひいてはなくすこと、特に、全ヒト抗体は抗体薬物の将来の発展方向になっている。抗体に基づく療法で考慮される要素は抗体が幅広い抗ウイルス作用があるか、好適な物理・化学的性質および合理的で実行可能な投与量で保護を仲介できるように、抗体が十分に有効であるかといったことである。
そのため、本分野では、抗RSVウイルス感染の新規な薬物の候補の開発が必要である。
【発明の概要】
【0005】
本発明の目的は、抗RSVウイルス感染の新規な薬物の候補を提供することである。具体的に、本発明は、呼吸器合胞体ウイルスを中和する全ヒト抗体の設計、ならびにRSV関連疾患の予防と治療、およびRSV感染の診断における最適化された4F1抗体の使用を公開する。
【0006】
本発明の第一の側面では、特異的抗呼吸器合胞体ウイルス融合タンパク質の抗体であって、重鎖および軽鎖を含み、
中では、前記重鎖の可変領域は配列番号15で示される配列に相応し、以下のアミノ酸突然変異を有し:
(Z1) n個の以下の群から選ばれる復帰型突然変異で、ここで、nは3、4、5、6、7、8または9である:
1番目のE→Q
6番目のQ→E
13番目のR→Q
62番目のE→D
65番目のR→K
69番目のS→T
76番目のT→K
88番目のP→A
119番目のR→T;
(Z2) 中和増強型FR突然変異
75番目のS→R;
(Z3)Z1とZ2の組み合わせ;
そして、前記軽鎖の可変領域は配列番号16で示される配列に相応し、以下のアミノ酸突然変異を有する:
(Y1) m個の以下の群から選ばれる復帰型突然変異で、ここで、mは3、4、5、6または7である:
12番目のS→P
24番目のK→R
47番目のK→Q
65番目のA→D
79番目のE→K
109番目のV→L
110番目のD→E;
(Y2) 中和増強型CDR突然変異
30番目のL→R;
(Y3)Y1とY2の組み合わせ;
抗体を提供する。
【0007】
もう一つの好適な例において、前記の重鎖可変領域は配列番号15に相応し、4-10個の前記のアミノ酸突然変異が存在する。
もう一つの好適な例において、前記の軽鎖可変領域は配列番号16に相応し、4-8個の前記のアミノ酸突然変異が存在する。
もう一つの好適な例において、前記の抗体は特異的に呼吸器合胞体ウイルスの融合前Fタンパク質に結合する。
【0008】
もう一つの好適な例において、前記重鎖可変領域は配列番号15に相応する突然変異がE1Q、Q6E、R13Q、E62D、R65K、S69T、S75R、T76K、P88A、R119T、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる。
【0009】
もう一つの好適な例において、前記重鎖可変領域は以下の群から選ばれる:
a)アミノ酸配列が配列番号1、2で示される重鎖可変領域;あるいは
b)配列番号1、または2で示されるアミノ酸配列が、3つのCDR領域の配列が残ったまま、FR領域が少なくとも1個(たとえば1-5個、好ましくは1-3個、最も好ましくは1または2個)のアミノ酸残基の置換、欠失、修飾および/または付加を経てなる、呼吸器合胞体ウイルス融合タンパク質(好ましくは融合前Fタンパク質)の結合親和力が残った誘導配列で示される重鎖可変領域。
【0010】
もう一つの好適な例において、前記軽鎖可変領域は配列番号16に相応する突然変異がS12P、K24R、L30R、K47Q、A65D、E79K、V109L、D110E、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる。
【0011】
もう一つの好適な例において、前記軽鎖可変領域は以下の群から選ばれる:
c)アミノ酸配列が配列番号4または5で示される軽鎖可変領域;あるいは
d)配列番号4または5で示されるアミノ酸配列が、3つのCDR領域の配列が残ったまま、FR領域が少なくとも1個(たとえば1-4個、好ましくは1-3個、最も好ましくは1または2個)のアミノ酸残基の置換、欠失、修飾および/または付加を経てなる、呼吸器合胞体ウイルス融合タンパク質(好ましくは融合前Fタンパク質)の結合親和力が残った誘導配列で示される重鎖可変領域。
もう一つの好適な例において、前記重鎖可変領域は配列番号1または2で示されるアミノ酸配列を有する。
もう一つの好適な例において、前記重鎖可変領域は配列番号2で示されるアミノ酸配列を有する。
【0012】
もう一つの好適な例において、前記の抗体の重鎖は、さらに、重鎖定常領域を含む。
もう一つの好適な例において、前記の重鎖定常領域はヒト由来のものである。
もう一つの好適な例において、前記軽鎖可変領域は配列番号4または5で示されるアミノ酸配列を有する。
もう一つの好適な例において、前記軽鎖可変領域は配列番号4で示されるアミノ酸配列を有する。
もう一つの好適な例において、前記の抗体の軽鎖は、さらに、軽鎖定常領域を含む。
もう一つの好適な例において、前記の軽鎖定常領域はヒト由来のものである。
もう一つの好適な例において、前記抗体はヒト化抗体から選ばれる。
もう一つの好適な例において、前記の抗体は二本鎖抗体、または一本鎖抗体である。
もう一つの好適な例において、前記の抗体はモノクローナル抗体、またはポリクローナル抗体である。
もう一つの好適な例において、前記の抗体は部分的にまたは全部ヒト化したモノクローナル抗体である。
もう一つの好適な例において、前記の抗体は、薬物複合体の形態である。
【0013】
もう一つの好適な例において、前記抗体は配列が配列番号1または2で示される重鎖可変領域を有し、そして配列が配列番号4または5で示される軽鎖可変領域を有する。
もう一つの好適な例において、前記抗体は配列が配列番号2で示される重鎖可変領域および配列が配列番号4で示される軽鎖可変領域を有する。
【0014】
本発明の第二の側面では、組み換えタンパク質であって、
(i)本発明の第一の側面に記載の抗体、ならびに
(ii)任意の発現および/または精製を補助するタグ配列
を有する組み換えタンパク質を提供する。
もう一つの好適な例において、前記のタグ配列は6Hisタグ、GGGS配列、FLAGタグを含む。
もう一つの好適な例において、前記の組み換えタンパク質(またはポリペプチド)は融合タンパク質を含む。
もう一つの好適な例において、前記の組み換えタンパク質は、単量体、二量体、または多量体である。
もう一つの好適な例において、前記の組み換えタンパク質は特異的に呼吸器合胞体ウイルス融合タンパク質、好ましくは融合前Fタンパク質に結合する。
もう一つの好適な例において、前記の組み換えタンパク質は融合タンパク質である。
【0015】
もう一つの好適な例において、前記の融合タンパク質は単特異性抗体(すなわち、抗RSV融合タンパク質の単特異性抗体)、二重特異性抗体、または多重特異性抗体(たとえば、三重特異性抗体)である。
【0016】
もう一つの好適な例において、前記の二重特異性抗体または多重特異性抗体は、抗RSV融合タンパク質以外、特異的に別の標的抗原(たとえば、ほかのウイルス抗原、たとえば、呼吸器合胞体ウイルスのほかの抗原またはほかのウイルスの抗原)に結合する。
【0017】
本発明の第三の側面では、CAR構築物であって、前記のCAR構築物の抗原結合領域のscFv断片は特異的にRSV融合タンパク質(好ましくは融合前Fタンパク質)に結合する結合領域で、かつ前記scFvは本発明の第一の側面に記載の重鎖可変領域および軽鎖可変領域を有するCAR構築物を提供する。
本発明の第四の側面では、組み換えの免疫細胞であって、外来の本発明の第三の側面に記載のCAR構築物を発現する免疫細胞を提供する。
もう一つの好適な例において、前記の免疫細胞は、NK細胞、T細胞からなる群から選ばれる。
もう一つの好適な例において、前記の免疫細胞はヒトまたはヒト以外の哺乳動物(たとえばマウス)由来のものである。
【0018】
本発明の第五の側面では、抗体薬物複合体であって、
(a)本発明の第一の側面に記載の的抗体、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる、抗体部分;ならびに
(b) 検出可能なマーカー、薬物、毒素、サイトカイン、放射性核種、酵素、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる、前記抗体部分と複合する複合部分を含有する抗体薬物複合体を提供する。
【0019】
もう一つの好適な例において、前記複合体は、蛍光または発光マーカー、放射性マーカー、MRI(磁気共鳴画像)またはCT(コンピュータX線断層撮影技術)造影剤、または検出可能な生成物を生成させる酵素、放射性核種、生物毒素、サイトカイン(たとえばIL-2など)、抗体、抗体Fc断片、抗体scFv断片、金ナノ粒子/ナノロッド、ウイルス粒子、リポソーム、磁性ナノ粒子、プロドラッグ活性化酵素(たとえば、DT-ジアホラーゼ(DTD)またはビフェニルヒドロラーゼ様蛋白質(BPHL))、化学治療剤(たとえば、シスプラチン)または任意の様態のナノ粒子などから選ばれる。
もう一つの好適な例において、前記の抗体部分と前記の複合部分は化学結合またはリンカーを介して複合している。
【0020】
本発明の第六の側面では、活性成分の使用であって、前記活性成分は、本発明の第一の側面に記載の抗体、本発明の第二の側面に記載の組み換えタンパク質、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれ、前記活性成分は薬剤、試薬、検出プレートまたはキットの製造に用いられる使用を提供する。
もう一つの好適な例において、前記試薬、検出プレートまたはキットは呼吸器合胞体ウイルスの検出に用いられる。
もう一つの好適な例において、前記薬剤は呼吸器合胞体ウイルス感染の治療または予防に用いられる。
もう一つの好適な例において、前記の試薬は、チップ、抗体で被覆された免疫マイクロスフェアを含む。
【0021】
本発明の第七の側面では、薬物組成物であって、
(i) 本発明第一の側面に記載の抗体、本発明第二の側面に記載の組み換えタンパク質、本発明の第四の側面に記載の免疫細胞、本発明の第五の側面に記載の抗体薬物複合体、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる、活性成分;ならびに
(ii) 薬学的に許容される担体を含有する薬物組成物を提供する。
もう一つの好適な例において、前記の薬物組成物は液体製剤である。
もう一つの好適な例において、前記の薬物組成物は注射剤である。
もう一つの好適な例において、前記の薬物組成物は呼吸器合胞体ウイルス感染の予防および/または治療に用いられる。
【0022】
本発明の第八の側面では、以下の群から選ばれるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを提供する:
(1)本発明の第一の側面に記載の抗体;あるいは
(2) 本発明の第二の側面に記載の組み換えタンパク質;
(3) 本発明の第三の側面に記載のCAR構築物。
もう一つの好適な例において、前記のポリヌクレオチドは配列番号8または9ならびに/あるいは配列番号11または12で示される配列を含有する。
もう一つの好適な例において、前記のポリヌクレオチドは配列番号9および/または配列番号11で示される配列を含有する。
【0023】
本発明の第九の側面では、本発明の第八の側面に記載のポリヌクレオチドを含有するベクターを提供する。
もう一つの好適な例において、前記のベクターは、細菌プラスミド、ファージ、酵母プラスミド、植物細胞ウイルス、哺乳動物細胞ウイルス、たとえばアデノウイルス、レトロウイルス、またはほかのベクターを含む。
【0024】
本発明の第十の側面では、工学化された宿主細胞であって、本発明第九の側面に記載のベクターを含むか、あるいはゲノムに本発明第八の側面に記載のポリヌクレオチドが組み込まれた宿主細胞を提供する。
本発明の第十一の側面では、サンプルにおける呼吸器合胞体ウイルスを検出する方法であって、以下の工程を含む方法を提供する:
(1) サンプルを本発明の第一の側面に記載の抗体と接触させる;
(2) 抗原-抗体複合体が形成したか検出し、ここで、複合体が形成したというのはサンプルに呼吸器合胞体ウイルスが存在することを意味する。
もう一つの好適な例において、前記検出は非治療的かつ非診断的な目的である。
【0025】
本発明の第十二の側面では、サンプルにおける呼吸器合胞体ウイルス融合タンパク質を検出する方法であって、以下の工程を含む方法を提供する:
(1) サンプルを本発明の第一の側面に記載の抗体と接触させる;
(2) 抗原-抗体複合体が形成したか検出し、ここで、複合体が形成したというのはサンプルにに呼吸器合胞体ウイルス融合タンパク質が存在することを意味する。
【0026】
もう一つの好適な例において、前記呼吸器合胞体ウイルス融合タンパク質は呼吸器合胞体ウイルス融合前Fタンパク質である。
もう一つの好適な例において、前記検出は非治療的かつ非診断的な目的である。
【0027】
本発明の第十三の側面では、下地シート(支持プレート)と、本発明の第一の側面に記載の抗体または本発明の第五の側面に記載の免疫複合体を含有する測定バーとを含む検出プレートを提供する。
本発明の第十四の側面では、キットであって、
(1) 本発明の第一の側面に記載の抗体を含有する第一容器、および/または
(2) 本発明の第一の側面に記載の抗体に対する二次抗体を含有する第二容器を含むか、
あるいは、本発明の第十三の側面に記載の検出プレートを含有する
キットを提供する。
本発明の第十五の側面では、組み換えポリペプチドの製造方法であって、以下の工程を含む方法を提供する:
(a) 発現に適切な条件において、本発明の第十の側面に記載の宿主細胞を培養する;
(b) 培養物から、本発明の第一の側面に記載の抗体または本発明の第二の側面に記載の組み換えタンパク質である、組み換えポリペプチドを単離する。
【0028】
本発明の第十六の側面では、呼吸器合胞体ウイルス感染を治療する方法であって、必要な対象に本発明の第一の側面に記載の抗体、前記抗体の抗体-薬物複合体、または前記抗体を発現するCAR-T細胞、またはこれらの組み合わせを施用する工程を含む方法を提供する。
【0029】
もちろん、本発明の範囲内において、本発明の上記の各技術特徴および下記(たとえば実施例)の具体的に記述された各技術特徴は互いに組合せ、新しい、または好適な技術方案を構成できることが理解される。紙数に限りがあるため、ここで逐一説明しない。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図面の説明
以下の図面は本発明の具体的な実施方案を説明するためのもので、請求の範囲で決められる本発明の範囲を限定するものではない。
図1図1はコンピュータ支援設計によって最適化して4F1抗体の結合活性および中和活性を向上させることを示す。(A) 4F1およびA2/pre-Fタンパク質の分子ドッキングシミュレーションの構造である。青色は4F1重鎖を、浅青色は4F1軽鎖を、緑色はpre-Fを、バラ色は重鎖の三つの可変領域CDRH1、CDRH2およびCDRH3を、オレンジ色は軽鎖の三つの可変領域CDRL1、CDRL2およびCDRL3を表す。preFタンパク質の構造はPDB:4JHW由来のものである。(B) 構造分析に基づいて4F1抗体の体細胞突然変異部位を生殖細胞系列(germline)に相応するアミノ酸に戻した。(C) ELISAによって構造最適化に基づいた4F1突然変異体のRSV/A/A2およびRSV/B/B9320 pre-Fタンパク質に対する結合活性を検証した。(D) 異なる4F1突然変異体のRSV/A/A2に対する中和能力である。RSVウイルスを異なる濃度の抗体と1hインキュベートした後、トリプシンで消化されたHEp2細胞に入れ、24時間培養さいた後、上清を捨て、80%アセトンで細胞を30 min固定し、ELISAによって抗FおよびGの抗体でウイルスの力価を検出し、IC50を計算した。(E) 統計分析による異なる4F1突然変異体のpre-Fタンパク質に対する結合およびRSV/A/A2に対する中和活性の比較である。EC50は最大反応の50%が生じる抗体濃度である。結合倍数の変化の計算は以下の通りである:4F1突然変異体のEC50/4F1野生型のEC50。
【0031】
図2図2は最適化後の4F1抗体と4F1野生型および胚胎系抗体の配列の比較を示す。「・」はアミノ酸が同様であることを表す。灰色のハッチングは重・軽鎖の三つのCDR領域を表す。
図3図3は最適化後の4F1En1抗体がより高い親和力および中和活性を有することを示す。(A) 異なる抗体のRSV/A/A2 pre-Fタンパク質に対する親和力である。(B) 異なる抗体のRSV/B/B9320 pre-Fタンパク質に対する親和力である。ForteBio OctetR RED96相互作用解析装置によって親和力の検出を行った。AHCセンサーを使用し、以下のプログラムで行った:baseline 120s-loading Ab 300s-baseline 600s-association 1200s-disassociation 900s-regenaration 5s- baseline 5s-regenaration 5s-baseline 5s-regenaration 5s-baseline 5s。loadingの抗体濃度は5ug/mlで、pre-F抗原濃度は以下の六つを設けた:50nM-25nM-12.5nM-6.25nM-3.125nM-1.5625 nM。Kd値を計算した。(C) 異なる抗体のRSV-A2ウイルス株に対する中和能力である。(D) 4F1En1と第一世代のパリビズマブ(Palivizumab、PVZ)および第二世代のMEDI8897 RSV中和抗体の親和力および中和活性の比較分析である。
【0032】
図4図4はハイコンテントスクリーニングシステムによる4F1En1のRSV感染と拡散に対する抑制能力の検証を示す。(A)RSVウイルスを中和する能力である。系列希釈された抗体を500 pfu RSV/A2と1時間インキュベートし、そしてHEp-2細胞に添加した。3日後、ウイルスに感染した細胞をビオチン化抗FおよびGモノクローナル抗体で染色し、そしてFITCで標識されたストレプトアビジンでウイルス感染に対する抑制作用を検出した。Operaハイコンテントスクリーニングシステムで撮影した。(B)抗体のRSV拡散に対する抑制機能の検証である。系列希釈された抗体を予めRSV/A2に24時間感染させたHEp-2細胞に添加し、そして3日目に上記のようにウイルス感染に対する抑制を測定した。AおよびBについて、画像は2倍の拡大倍率で撮影された。(C)10倍拡大の場合、中和および拡散抑制の100%保護効果である。左の図では、抗体を入れていない場合、大きい合胞体が形成した;中央の図では、試験において感染細胞がなかった;右の図では、拡散抑制試験における単一の感染細胞である。比較のためにDAPIで細胞核を染色した。(D-E)10倍拡大を基準に、統計分析によって抗体の中和および拡散抑制効果を数値化した。PVZおよびMEDI8897を対照とした。これらのデータは少なくとも二つの独立した実験を表す。
【0033】
図5図5は4F1 En1およびパリビズマブ(PVZ)のマウスRSVに対する予防作用の比較を示す。(A)マウスの予防性投与の概略図である。6-8週齢のBALB/cマウス(n=4-6)に経鼻(i.n.)による5×105 p.f.u.RSV a/A2感染の24時間前に15mg/kgおよび1.5mg/kgの4F1抗体およびPVZまたは対照として希釈剤を注射した。(B)4日目(d.p.i.)にマウスを安楽死させ、ウイルスRNAの抽出のために鼻甲介および肺を分離して均質化した。β-アクチンおよびHRSV NPの特異的プライマーでサンプルに対してqPCRを行った。対応のないStudent t検定でP値を計算した。*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001、***P<0.0001、NS、有意でない。(C)マウス肺切片の4 dpiにおけるヘマトキシリン・エオジン染色である。画像は2倍の拡大倍率(頂部スケールバー、500μm)および20倍の拡大倍率(底部スケールバー、50μm)である。
【0034】
具体的な実施形態
本発明者は幅広く深く研究し、新たな呼吸器合胞体ウイルスを中和する全ヒト抗体の設計および使用を開発した。本発明者は、大量のスクリーニングにより、そして部位特異的突然変異技術を合わせ、呼吸器合胞体ウイルス融合タンパク質の全ヒトモノクローナル抗体4F1に対して胚胎系遺伝子の復帰突然変異および親和力の向上を行うことで、性能が顕著に改良された新規な抗体を得た。改造された新規な抗体は、アミノ酸配列が比較的に低い体細胞突然変異部位を有し、同時にRSVの異なるサブタイプに対するFタンパク質親和力定数がピコモルのレベルに達し、そして臨床における二つの抗体よりも良い。体内外の実験により、本発明の抗体は有効にRSV感染を予防し、同時に有効にRSV感染後の拡散を抑制することができることが実証された。これに基づき、本発明を完成させた。
【0035】
用語
以下、本発明がより理解しやすくなるように、具体的に、一部の技術および科学用語を定義する。本明細書で別途に明確に定義しない限り、本明細書で用いられるすべてのほかの技術および科学用語はいずれも本発明が属する分野の普通の技術者が通常理解する意味と同様である。本発明を説明する前、方法および条件は変更することができるため、本発明は記載される具体的な方法および実験条件に限定されないと理解される。また、本明細書で用いられる用語は具体的な実施形態の説明だけを目的とし、かつその意図は限定性のものではなく、本発明の範囲は添付の請求の範囲だけに限定されると理解される。
【0036】
別途に定義しない限り、本明細書で用いられるすべての技術と科学の用語はいずれも本発明が属する分野の当業者が通常理解する意味と同様である。本明細書で用いられるように、具体的に例示される数値で使用される場合、用語「約」とは当該値が例示される数値から1%以内で変わってもよい。たとえば、本明細書で用いられるように、「約100」という表示は99と101およびその間の全部の値(たとえば、99.1、99.2、99.3、99.4など)を含む。
本発明で使用されるアミノ酸の3文字の略号および1文字の略号はJ. Biol. Chem, 243, p3558(1968)に記載の通りである。
【0037】
本明細書で用いられるように、用語「治療」とは患者に本発明の呼吸器合胞体ウイルス融合タンパク質(好ましくは融合前Fタンパク質)に対する抗体およびその組成物の任意の一つを含む内用または外用の治療剤を投与することで、前記患者は一つまたは複数の疾患症状を有し、既知の前記治療剤はこれらの症状に治療作用を有する。通常、有効に一つまたは複数の疾患症状を緩和する治療剤の量(治療有効量)で患者に投与する。
【0038】
本明細書で用いられるように、用語「任意」または「任意に」はその後に記載されるイベントや状況はありうるが、必須ではない。たとえば、「任意に1~3個の抗体の重鎖可変領域を含む」とは、特定の配列の抗体の重鎖可変領域が存在してもよいが、必ずしも存在しなくてもよく、1個、2個または3個でもよい。
【0039】
本発明に記載の「配列同一性」は適切な置換、挿入または欠失などの突然変異がある場合、アラインメントおよび比較の時、2つの核酸または2つのアミノ酸配列の間の同一性の程度を表す。本発明に記載の配列とそれに同一性を有する配列の間の配列同一性は少なくとも85%、90%または95%、好ましくは少なくとも95%でもよい。非限定的な実施例は85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、100%を含む。
【0040】
呼吸器合胞体ウイルス(RSV)
RSVはパラミクソウイルス科、肺炎ウイルス属に属し、15222個のヌクレオチドからなるマイナス鎖RNAウイルスである。RSVはエンベロープウイルスで、ゲノムが融合タンパク質F、吸着タンパク質G、小型疏水性タンパク質SH、マトリックスタンパク質M、核タンパク質N、リンタンパク質P、大型ポリメラーゼタンパク質L、小型マトリックスタンパク質M2および非構造タンパク質NS1とNS2を含む、計11種のタンパク質をコードし、中では、融合タンパク質F、吸着タンパク質Gおよび小型疎水性タンパク質SHはウイルスの表面に位置する。RSVは2種の主な表面糖タンパク質、GおよびFを有する。Gタンパク質はウイルスの当該細胞の表面への結合を仲介し、同時にケモカインCX3Cの作用を模擬し、その受容体と相互作用し、RSV感染後の炎症反応を増強させる。Rタンパク質はウイルスと細胞膜の融合を仲介し、そして感染した細胞の膜と周囲の細胞の合胞体への融合を促進する。血清学では、RSVに2種の異なる抗原グループまたはサブタイプ、すなわち、AとBが存在し、主にGタンパク質の違いによって区別する。RSVタンパク質の大半は2種のサブグループ間で高度に保存的で、中では、融合タンパク質Fは91%のアミノ酸の類似性を示し、Gタンパク質はAとBの間で53%の相同性しかない。Fタンパク質は高度に保存的で、それから誘導される中和抗体は同時にAとBの二つのサブタイプのウイルス感染を抑制することができ、抗RSVモノクローナル抗体薬物およびワクチンの研究開発のいずれにおいても重要な意義がある。Fタンパク質はI型膜貫通タンパク質に属し、まず、前駆体タンパク質F0が合成される。F0は小胞体において三量体化して二つの保存的な部位が細胞のフーリンプロテアーゼによって処理され、F1、F2およびPep27ポリペプチドが生成し、最後にジスルフィド結合で連結したF1とF2の二つの断片になり、F2-F1ヘテロ二量体が三量体になって成熟Fタンパク質に組み立てられる。F1サブユニットはヘプタペプチド重複領域A(HRA)、機能領域I/II、ヘプタペプチド重複領域B(HRB)、膜貫通タンパク質(TM)、細胞内領域(CP)を含み、F2サブユニットはヘプタペプチド重複領域C(HRC)からなる。F1疎水性N末端(137-155)は融合の仲介において重要な作用を果たす。Fタンパク質が仲介する膜融合過程はその構造の融合前の状態から融合の状態への変化過程でもある。それは準安定状態の融合前の配座になっている。Gタンパク質が標的の細胞膜における受容体に結合すると、融合前Fタンパク質(pre-fusion Fタンパク質)の構造変化が触発され、安定した融合後の様態(post-fusion)になる。そのRSV侵入における重要な作用および高度の保存性のため、RSV Fタンパク質は中和抗体の標的およびワクチン開発の主要な抗原である。大量の研究により、Fタンパク質に対する中和抗体の認識部位は主にpre-fusion Fタンパク質に位置し、pre-fusion Fに基づいて設計された組み換えタンパク質は免疫原性および保護効果が顕著に融合後Fタンパク質(post-fusion Fタンパク質)に基づいて設計されたワクチンよりも良いことが実証された。
【0041】
本明細書で用いられるように、用語「融合前Fタンパク質」、「pre-fusion Fタンパク質」、「preFタンパク質」は入れ替えて使用することができ、いずれも呼吸器合胞体ウイルスの融合タンパク質Fの融合前の様態を指す。
【0042】
さらに治療効果がより良く、物理・化学的性質がより優れた斬新なRSV抗体薬物を得るために、部位特異的突然変異技術およびコンピュータ支援設計を利用して1株の抗RSV Fタンパク質の広域中和抗体4F1に対して改造および最適化を行った。最適化された新たな抗体は、広域中和抗体の治療および応用により優れた選択を提供すると同時に、本プロジェクトの実施を通じてその認識のエピトープおよびウイルスの機序に対してより明晰な理解が得られ、さらに薬物の設計に新たな標的を提供する。
【0043】
抗体
本明細書で用いられるように、用語「抗体」または「免疫グロブリン」は同様な構造特徴を持つ、約150000ダルトンのヘテロテトラマーの糖タンパク質で、2つの同じ軽鎖(L)と2つの同じ重鎖(H)からなるものである。各軽鎖は、重鎖に1つの共有ジスルフィド結合によって結合しているが、重鎖間のジスルフィド結合の数は、免疫グロブリンのアイソタイプによるものである。各重鎖および軽鎖も、それぞれ一定の間隔の鎖内ジスルフィド結合を有する。各重鎖は、1つの末端に可変領域(VH)を有し、その先に多数の定常領域を有する。各軽鎖は、一方の末端に可変領域(VL)を有し、他方の末端に定常領域を有する。軽鎖の定常領域は重鎖の一つ目の定常領域と、軽鎖の可変領域は重鎖の可変領域と対向している。特殊なアミノ酸残基が軽鎖と重鎖の可変領域の間に界面を形成している。
【0044】
本明細書で用いられるように、用語の「可変」とは、抗体において可変領域のある部分が配列で異なっており、これによって各特定の抗体のその特定の抗原に対する結合および特異性が構成されることを指す。しかし、可変性は、均一に抗体の可変領域全体に分布しているわけではない。軽鎖と重鎖の可変領域における相補性決定領域(CDR)または超可変領域と呼ばれる3つの断片に集中している。可変領域において、比較的に保存的な部分は、フレームワーク領域(FR)FRと呼ばれる。天然の重鎖および軽鎖の可変領域に、それぞれ、基本的にβシート構造となっており、連結ループを形成する3つのCDRで連結され、場合によって部分βシート構造となる4つのFR領域が含まれる。各鎖におけるCDRは、FR領域で密接し、かつ他方の鎖のCDRと一緒に抗体の抗原結合部位(Kabatら、NIH Publ. No. 91-3242, 卷I,647-669頁(1991)を参照する)を形成している。定常領域は、抗体と抗原との結合には直接関与しないが、たとえば抗体の抗体依存細胞毒性に参与するなどの異なるエフェクター機能を示す。
【0045】
脊椎動物の抗体(免疫グロブリン)の「軽鎖」は、その定常領域のアミノ酸配列に基づき、明らかに異なる二種類(とと呼ばれる)のいずれかに分類することができる。免疫グロブリンは、重鎖の定常領域のアミノ酸配列に基づき、異なるクラスに分類することができる。免疫グロブリンには、主として5つのクラス、すなわち、IgA、IgD、IgE、IgGおよびIgMがあり、そのうちのいくつかは、さらに、サブクラス(アイソタイプ)、たとえば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgAおよびIgA2に分類することができる。異なるクラスの免疫グロブリンの重鎖の定常領域に応じて、それぞれα、δ、ε、γ、およびμと呼ばれる。各クラスの免疫グロブリンのサブユニット構造および三次元構造は本分野の技術者熟知である。
【0046】
本明細書で用いられるように、用語「モノクローナル抗体」とは、一類のほぼ均一なコロニーから得られた抗体で、すなわち、少数のあり得る自然発生の突然変異以外、このコロニーに含まれる単独の抗体が同様である。モノクローナル抗体は、高度特異的に単一の抗原部位に対するものである。そして、通常のポリクローナル抗体製剤(通常は異なる抗原決定基に対する異なる抗体である)と違い、各モノクローナル抗体は、抗原における単一の抗原決定基にたいするものである。それらの特異性以外、モノクローナル抗体の利点は、ハイブリドーマの培養によって合成されるので、他の免疫グロブリンに汚染される恐れがないことにある。修飾語の「モノクローナル」は、抗体の特性を表し、ほぼ均一な抗体コロニーから得られることで、何らかの特殊な方法で抗体を生産する必要があると理解されるべきではない。
【0047】
また、本発明は、前記の抗呼吸器合胞体ウイルス融合タンパク質(好ましくはpre-fusion Fタンパク質)モノクローナル抗体に相応するアミノ酸配列を有するモノクローナル抗体、前記の抗呼吸器合胞体ウイルス融合タンパク質(好ましくはpre-fusion Fタンパク質)モノクローナル抗体の可変領域鎖を有するモノクローナル抗体、およびこれらの鎖を有するほかのタンパク質またはタンパク質複合体と融合発現産物を含む。具体的に、本発明は、超可変領域(相補性決定領域、CDR)が本発明の軽鎖および重鎖の超可変領域と同様で、あるいは少なくとも90%、好ましくは95%の相同性を持つものであれば、この超可変領域を含有する軽鎖および重鎖を有する任意のタンパク質またはタンパク質複合体と融合発現産物(すなわち免疫複合体と融合発現産物)を含む。
【0048】
本分野の技術者に知られるように、免疫複合体と融合発現産物は、薬物、毒素、サイトカイン(cytokine)、放射性核種、酵素または他の診断・治療分子と前記の抗呼吸器合胞体ウイルス融合タンパク質モノクローナル抗体またはその断片と結合してなる複合体を含む。さらに、本発明は、前記の抗呼吸器合胞体ウイルス融合タンパク質モノクローナル抗体またはその断片と結合した細胞表面マーカーあるいは抗原を含む。
【0049】
用語「抗体の抗原結合断片」(または「抗体断片」と略す)とは抗体の特異的に抗原に結合する能力を維持する一つまたは複数の断片である。全長抗体の断片で抗体の抗原結合機能を実現できることが示されている。用語「抗体の抗原結合断片」に含まれる結合断片の実例は(i)VL、VH、CLおよびCH1ドメインからなる1価の断片である、Fab断片;(ii)ヒンジ領域におけるジスルフィド架橋で連結した2つのFab断片を含む2価の断片であるF(ab’)断片;(iii)VHおよびCH1ドメインからなるFd断片;(iv)抗体の一方のアームのVHおよびVLドメインからなるFv断片を含む。Fv抗体は抗体の重鎖可変領域、軽鎖可変領域を含有するが、定常領域がなく、かつすべての抗原結合部位を有する最小の抗体断片である。一般的に、Fv抗体はさらにVHとVLドメインの間のポリペプチドリンカーを含み、かつ抗原結合に必要な構造を形成することができる。
本発明は、完全のモノクローナル抗体だけではなく、免疫活性を有する抗体断片、たとえばFabまたは(Fab’)断片、抗体の重鎖、抗体の軽鎖も含む。
【0050】
用語「エピトープ」または「抗原決定基」とは抗原における免疫グロブリンまたは抗体が特異的に結合する部位である。エピトープは、通常、独特な配座で、少なくとも3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14または15個の連続または非連続のアミノ酸を含む。
【0051】
用語「特異的な結合」、「選択的な結合」、「選択的に結合する」および「特異的に結合する」とは抗体の予め決定された抗原におけるエピトープに対する結合である。通常、抗体は約10-7M未満、たとえば約10-8M、10-9Mまたは10-10M未満あるいはそれよりも低い親和力(KD)で結合する。
本明細書で用いられるように、用語「抗原決定基」とは抗原における不連続の、本発明の抗体または抗原結合断片によって認識される立体空間部位である。
【0052】
本発明は、完全の抗体だけではなく、免疫活性を有する抗体の断片または抗体とほかの配列からなる融合タンパク質も含む。そのため、本発明は、さらに、前記抗体の断片、誘導体および類似体を含む。
【0053】
本発明において、抗体は当業者に熟知の技術によって製造されるマウス抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体または全ヒト抗体を含む。組み換え抗体、たとえばキメラモノクローナル抗体およびヒト化モノクローナル抗体は、ヒトの部分および非ヒトの部分を含み、本分野で熟知されるDNA組み換え技術によって製造することができる。本発明において、用語「ネズミ由来抗体」は本分野の知識および技能によって製造さされた呼吸器合胞体ウイルス融合タンパク質に対するモノクローナル抗体である。用語「キメラ抗体(chimeric antibody)」は、マウス由来抗体の可変領域とヒト抗体の定常領域を融合させてなる抗体で、マウス由来抗体による免疫応答反応を減少することができる。用語「ヒト化抗体(humanized antibody)」とは、CDR移植抗体(CDR-grafted antibody)とも呼ばれ、マウスのCDR配列をヒトの抗体可変領域のフレームワーク、すなわち、異なる種類のヒト種抗体骨格配列に移植してなる抗体である。ヒト化抗体はキメラ抗体が大量のマウスタンパク質成分を持つことで、異種性反応が誘導されることを克服することができる。このような骨格配列は、系列の抗体の遺伝子配列を含む公共DNAデータベースまたは公開された参照文献から得ることができる。免疫原性の低下およびそれによる活性の低下を防止するには、前記のヒト抗体の可変領域のフレームワーク配列に最低限の逆向突然変異または復帰突然変異をさせることによって活性を維持することができる。
本発明において、抗体は、単特異性、二重特異性、三重特異性、またはそれ以上の多重特異性でもよい。
本明細書で用いられるように、用語「重鎖可変領域」と「VH」は入れ替えて使用することができる。
【0054】
本明細書で用いられるように、用語「可変領域」と「相補性決定領域(complementarity determining region、CDR)」は入れ替えて使用することができる。
【0055】
用語「CDR」とは抗体の可変ドメイン内における主に抗原の結合を促進する6つの超可変領域の1つである。前記6つのCDRの最も用いられる定義の一つはKabat E.Aら,(1991)Sequences of proteins of immunological interest. NIH Publication91-3242)によって提供される。
本発明の一つの好適な実施形態において、前記抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号1、2または3で示されるものである。
もう一つの好適な例において、前記重鎖可変領域は配列番号2で示されるアミノ酸配列を有する。
もう一つの好適な例において、前記重鎖可変領域の核酸コード配列は配列番号9で示される。
【0056】
本発明の一つの好適な実施形態において、前記抗体の重鎖は上記重鎖可変領域および重鎖定常領域を含み、前記重鎖定常領域はネズミ由来またはヒト由来のものでもよい。
本明細書で用いられるように、用語「軽鎖可変領域」と「V」は入れ替えて使用することができる。
本発明の一つの好適な実施形態において、前記抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号4、5、6または7で示されるものである。
もう一つの好適な例において、前記軽鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号4で示される。
もう一つの好適な例において、前記軽鎖可変領域の核酸コード配列は配列番号11で示される。
【0057】
本発明の一つの好適な実施形態において、前記抗体の軽鎖は上記軽鎖可変領域および軽鎖定常領域を含み、前記軽鎖定常領域はネズミ由来またはヒト由来のものでもよい。
【0058】
本発明の抗体の機能は当該抗体の軽鎖と重鎖の可変領域の遺伝子の特異的遺伝子配列によって決定される。本発明の抗体は低免疫原性を有し、高親和力でRSV A型とB型ウイルスのpre-fusion Fタンパク質に結合することができ、呼吸器合胞体ウイルスの感染しやすい細胞への侵襲を阻止することが可能である。当該抗体の可変領域の遺伝子または相補性決定領域(CDR)の遺伝子を利用し、原核と真核細胞を使用する任意の発現系において異なる様態の遺伝子工学による抗体を改造および生産することができる。
【0059】
本発明において、用語「本発明の抗体」、「本発明のタンパク質」、または「本発明のポリペプチド」は入れ替えて使用することができ、いずれも特異的に呼吸器合胞体ウイルス融合タンパク質(好ましくはpre-fusion Fタンパク質)に結合する抗体、たとえば重鎖可変領域(たとえば配列番号9で示されるヌクレオチド配列によってコードされるアミノ酸配列)および/または軽鎖可変領域(たとえば配列番号11で示されるヌクレオチド配列によってコードされるアミノ酸配列)を有するタンパク質またはポリペプチドをいう。これらは、開始のメチオニンを含有してもよく、含有しなくてもよい。
【0060】
もう一つの好適な例において、前記の抗体は抗呼吸器合胞体ウイルス融合タンパク質(好ましくはpre-fusion Fタンパク質)の全ヒトモノクローナル抗体で、その重鎖定常領域および/または軽鎖定常領域がヒト化の重鎖定常領域または軽鎖定常領域でもよい。より好ましくは、前記ヒト化の重鎖定常領域または軽鎖定常領域はヒトIgG1、IgG2などの重鎖定常領域または軽鎖定常領域である。
【0061】
一般的に、抗体の抗原結合特性は、重鎖および軽鎖の可変領域に位置する3つの特定の領域によって特徴付けられ、可変領域(CDR)と呼ばれ、4つのフレームワーク領域(FR)に分かれ、4つのFRのアミノ酸配列が比較的に保存され、直接結合反応に関与しない。これらのCDRは環状構造を形成し、その中のFRで形成されるβシートによって空間構造上で近づき、重鎖におけるCDRおよび相応の軽鎖におけるCDRが抗体の抗原結合部位を構成する。同類の抗体のアミノ酸配列の比較によってどのアミノ酸がFRあるいはCDR領域を構成するか確認することができる。
【0062】
本発明の抗体の重鎖および/または軽鎖の可変領域は、その少なくとも一部が抗原結合に関与するため、特に注目されている。そのため、CDR含有モノクローナル抗体の軽鎖および重鎖の可変領域鎖を有する分子は、そのCDRはここで同定されるCDRと90%以上(好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上)の相同性を持つものであれば、本発明に含まれる。
【0063】
本発明は、完全のモノクローナル抗体だけではなく、免疫活性を有する抗体の断片または抗体とほかの配列からなる融合タンパク質も含む。そのため、本発明は、さらに、前記抗体の断片、誘導体および類似体を含む。たとえば、本発明の抗体に基づくFc断片の改造、抗体の半減期を延ばすためのCH2領域への三つの突然変異部位M252Y /S254T /T256Eの導入が挙げられる。
【0064】
本明細書で用いられるように、用語「断片」、「誘導体」および「類似体」とは、基本的に本発明の抗体と同じ生物学的機能または活性を維持するポリペプチドをいう。本発明のポリペプチドの断片、誘導体や類似体は、(i)1個または複数個の保存的または非保存的なアミノ酸残基(好ましくは保存的なアミノ酸残基)が置換されたポリペプチドでもよく、このような置換されたアミノ酸残基が遺伝コードでコードされてもされていなくてもよく、あるいは(ii)1個または複数個のアミノ酸残基に置換基があるポリペプチドでもよく、あるいは(iii)成熟のポリペプチドと別の化合物(たとえば、ポリエチレングリコールのようなポリペプチドの半減期を延ばす化合物)と融合したポリペプチドでもよく、あるいは(iv)付加のアミノ酸配列がこのポリペプチドに融合したポリペプチド(たとえばリーダー配列または分泌配列またはこのポリペプチドを精製するための配列またはタンパク質前駆体配列、あるいは6Hisタグと形成した融合タンパク質)でもよい。本明細書の開示に基づき、これらの断片、誘導体および類似体は当業者に公知の範囲に入っている。
【0065】
本発明の抗体とは、抗呼吸器合胞体ウイルス融合タンパク質(好ましくはpre-fusion Fタンパク質)結合活性を有する、上記CDR領域を含むポリペプチドをいう。当該用語は、さらに、本発明の抗体と同じ機能を有する、上記CDR領域を含むポリペプチドの変異の様態を含む。これらの突然変異の様態は、1個または複数個(通常は1~50個、好ましくは1~30個、より好ましくは1~20個、最も好ましくは1~10個)のアミノ酸の欠失、挿入および/または置換、ならびにC末端および/またはN末端への1個または複数個(通常は20個以内、好ましくは10個以内、より好ましくは5個以内)のアミノ酸の付加を含むが、これらに限定されない。たとえば、本分野において、機能が近い、または類似のアミノ酸で置換する場合、通常、蛋白質の機能を変えることがない。また、C末端および/またはN末端への一つまたは複数のアミノ酸の付加も、通常、蛋白質の機能を変えることはない。この用語は、さらに、本発明の抗体の活性断片と活性誘導体を含む。
【0066】
当該ポリペプチドの変異の様態は、相同配列、保存的変異体、対立遺伝子変異体、天然突然変異体、誘導突然変異体、高いまたは低い厳格さの条件において本発明の抗体のコードDNAと交雑が可能なDNAがコードするタンパク質、および抗本発明の抗体の抗血清で得られるポリペプチドまたはタンパク質を含む。
【0067】
本発明は、さらに、ほかのポリペプチド、たとえばヒト抗体またはその断片の融合タンパク質を含む。ほとんど全長のポリペプチドのほか、本発明は、さらに、本発明の抗体の断片を含む。通常、当該断片は本発明の抗体の少なくとも約50個の連続のアミノ酸、好ましくは少なくとも約60個の連続のアミノ酸、より好ましくは少なくとも約80個の連続のアミノ酸、最も好ましくは少なくとも約100個の連続のアミノ酸を有する。
【0068】
本発明において、「本発明の抗体の保存的変異体」とは、本発明の抗体のアミノ酸配列と比較すると、10個以下、好ましくは8個以下、より好ましくは5個以下、最も好ましくは3個以下のアミノ酸が類似または近い性質を持つアミノ酸で置換されてなるポリペプチドをいう。これらの保存的突然変異のポリペプチドは、表Aのようにアミノ酸の置換を行って生成することが好ましい。
【0069】
【化1】
【0070】
さらに、本発明は、上記抗体またはその断片またはその融合タンパク質をコードするポリヌクレオチド分子を提供する。本発明のポリヌクレオチドは、DNA形態でもRNA形態でもよい。DNA形態は、cDNA、ゲノムDNAまたは人工合成のDNAを含む。DNAは、一本鎖でも二本鎖でもよい。DNAは、コード鎖でも非コード鎖でもよい。成熟ポリペプチドをコードするコード領域の配列は、配列番号4または8で示されるコード領域の配列と同様でもよく、あるいは縮重変異体でもよい。本明細書で用いられるように、本発明において、「縮重変異体」とは本発明のポリペプチドと同様のアミノ酸配列を有するものをコードするが、配列番号8、9、10、11、12、13または14で示されるコード領域の配列と違う核酸配列をいう。
【0071】
本発明の成熟ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、成熟ポリペプチドだけをコードするコード配列、成熟ポリペプチドのコード配列および様々な付加コード配列、成熟ポリペプチドのコード配列(および任意の付加コード配列)および非コード配列を含む。
【0072】
用語「ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド」は、このポリペプチドをコードするポリヌクレオチドでもよく、さらに付加のコードおよび/または非コード配列を含むポリヌクレオチドでもよい。
【0073】
本発明は、さらに、上記の配列とハイブリダイズし、かつ2つの配列の間に少なくとも50%、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%の相同性を有するポリヌクレオチドに関する。本発明は、特に、厳格な条件で本発明に係るポリヌクレオチドとハイブリダイズできるポリヌクレオチドに関する。本発明において、「厳格な条件」とは、(1)低いイオン強度および高い温度、例えば0.2×SSC、0.1%SDS、60℃でのハイブリダイズおよび溶離、あるいは(2)ハイブリダイズ時変性剤、たとえば42℃で50%(v/v)ホルムアミド、0.1%ウシ胎児血清/0.1% Ficollなどを入れること、あるいは(3)2つの配列の間の相同性が少なくとも90%以上、好ましくは95%以上の時だけハイブリダイズすることである。そして、ハイブリダイズできるポリヌクレオチドがコードするポリペプチドは、配列番号1、2、3、4、5、6および/または7で示される成熟ポリペプチドと同じ生物学的機能および活性を有する。
【0074】
本発明の抗体のヌクレオチド全長配列あるいはその断片は、通常、PCR増幅法、組換え法または人工合成の方法で得られる。適用できる方法として、特に断片の長さが短い場合、人工合成の方法で関連配列を合成する。通常、まず多数の小さい断片を合成し、そして連接させることにより、配列の長い断片を得ることができる。また、重鎖のコード配列を発現タグ(たとえば6His)一体に融合させ、融合タンパク質を形成してもよい。
【0075】
関連の配列を獲得すれば、組み換え法で大量に関連配列を獲得することができる。この場合、通常、その配列をベクターにクローンした後、細胞に導入し、さらに通常の方法で増殖させた宿主細胞から関連配列を単離して得る。本発明に係る生物分子(核酸、タンパク質など)は単離の形態で存在する生物分子を含む。
【0076】
現在、本発明のタンパク質(またはその断片、あるいはその誘導体)をコードするDNA配列は全部化学合成で獲得することがすでに可能である。さらに、このDNA配列を本分野で周知の各種の既知のDNA分子(あるいはベクターなど)や細胞に導入してもよい。また、化学合成で本発明のタンパク質配列に変異を導入することもできる。
【0077】
さらに、本発明は、上記の適当なDNA配列および適当なプロモーターあるいは制御配列を含むベクターに関する。これらのベクターは、タンパク質を発現するように、適当な宿主細胞の形質転換に用いることができる。
【0078】
宿主細胞は、原核細胞、たとえば細菌細胞、あるいは、低等真核細胞、たとえば酵母細胞、あるいは、高等真核細胞、たとえば哺乳動物細胞でもよい。代表例として、大腸菌、ストレプトマイセス属、ネズミチフス菌のような細菌細胞、酵母のような真菌細胞、ミバエS2若しくはSf9のような昆虫細胞、CHO、COS7、293細胞のような動物細胞などがある。
【0079】
DNA組み換えによる宿主細胞の形質転換は当業者に熟知の通常の技術で行ってもよい。宿主が原核細胞、たとえば大腸菌である場合、DNAを吸収できるコンピテントセルは指数成長期後収集でき、CaCl法で処理し、用いられる工程は本分野では周知のものである。もう一つの方法は、MgClを使用する。必要により、形質転換はエレクトロポレーションの方法でもよい。宿主が真核生物の場合、リン酸カルシウム沈殿法、マイクロインジェクション、エレクトロポレーションのような通常の機械方法、リポフェクションなどのDNAトランスフェクションの方法が用いられる。
【0080】
得られる形質転換体は通常の方法で培養し、本発明の遺伝子がコードするポリペプチドを発現することができる。用いられる宿主細胞によって、培養に用いられる培地は通常の培地を選んでもよい。宿主細胞の成長に適する条件で培養する。宿主細胞が適当の細胞密度に成長したら、適切な方法(たとえば温度転換もしくは化学誘導)で選んだプロモーターを誘導し、さらに細胞を培養する。
【0081】
上記の方法における組み換えポリペプチドは細胞内または細胞膜で発現し、あるいは細胞外に分泌することができる。必要であれば、その物理・化学的特性およびほかの特性を利用して各種の単離方法で組み換えタンパク質を単離・精製することができる。これらの方法は、本分野の技術者に熟知である。これらの方法の例として、通用の再生処理、タンパク質沈殿剤による処理(塩析法)、遠心、浸透圧ショック、超音波処理、超遠心、分子篩クロマトグラフィー(ゲルろ過)、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)およびほかの各種の液体クロマトグラフィー技術、ならびにこれらの方法の組合せを含むが、これらに限定されない。
【0082】
本発明の抗体は単独に使用してもよく、検出可能なマーカー(診断目的)、治療剤、PK(タンパク質キナーゼ)修飾部分またはこれらの任意の組み合わせと結合またはカップリングしてもよい。
【0083】
診断の目的に使用される検出可能なマーカーは、蛍光または発光マーカー、放射性マーカー、MRI(磁気共鳴画像)またはCT(コンピュータX線断層撮影技術)造影剤、または検出可能な生成物を生成させる酵素を含むが、これらに限定されない。
【0084】
カップリングすることができる治療剤は、インスリン、IL-2、インターフェロン、カルシトニン、GHRHペプチド、腸管ペプチド類似体、アルブミン、抗体断片、サイトカインやホルモンを含むが、これらに限定されない。
【0085】
また、本発明の抗体と結合またはカップリングすることができる治療剤は、1.放射性核種、2.生物毒素、3.サイトカイン、たとえばIL-2など、4.金ナノ粒子/ナノロッド、5.ウイルス粒子、6.リポソーム、7.磁性ナノ粒子、8.プロドラッグ活性化酵素、10.化学治療剤(たとえば、シスプラチン)または任意の様態のナノ粒子などを含むが、これらに限定されない。
【0086】
さらに、本発明は組成物を提供する。好適な例において、前記の組成物は薬物組成物で、上記の抗体またはその活性断片あるいはその融合タンパク質と、薬学的に許容される担体とを含有する。通常、これらの物質を無毒で不活性で薬学的に許容される水系担体で配合し、pH値は配合される物質の性質および治療しようとする疾患にもよるが、pH値は通常5~8程度、好ましくは6~8程度である。配合された薬物組成物は通常の経路で投与することができ、経口投与、気道、腫瘍内、腹膜内、静脈内、あるいは局部投与が含まれるが、これらに限定されない。
【0087】
本発明の薬物組成物はそのまま呼吸器合胞体ウイルス融合タンパク質(好ましくはpre-fusion Fタンパク質)の分子との結合に使用することができるため、薬物の半減期の延長、またほかの治療剤の併用に有用である。
【0088】
本発明の薬物組成物は、安全有効量(たとえば0.001~99wt%、好ましくは0.01~90wt%、より好ましくは0.1~80wt%)の本発明の上記のモノクローナル抗体(またはその複合体)と薬学的に許容される担体または賦形剤とを含む。このような担体は、食塩水、緩衝液、ブドウ糖、水、グリセリン、エタノール、およびこれらの組み合せを含むが、これらに限定されない。薬物の製剤は投与形態に相応する。本発明の薬物組成物は、注射剤としてもよく、たとえば生理食塩水またはブドウ糖およびほかの助剤を含有する水溶液で通常の方法によって製造することができる。薬物組成物は、注射剤、溶液の場合、無菌条件で製造する。活性成分の投与量は治療有効量、たとえば毎日約1μg/kg体重~約10mg/kg体重である。また、本発明のポリペプチドはほかの治療剤と併用することが出来る。
【0089】
薬物組成物の使用時、安全有効量の免疫複合体を哺乳動物に施用するが、その安全有効量は、通常、少なくとも約10μg/kg体重で、かつ多くの場合、約50mg/kg体重未満で、好ましくは当該投与量が約10μg/kg体重~約1mg/kg体重である。勿論、具体的な投与量は、さらに投与の様態、患者の健康状況などの要素を考えるべきで、すべて熟練の医者の技能範囲以内である。
【0090】
検出用途およびキット
本発明の抗体は検出に有用で、たとえば検体を検出することによって診断情報を提供することができる。
本発明において、使用される検体(サンプル)は細胞、組織検体および生検標本を含む。本発明で用いられる用語「生検」は当業者に既知のすべての種類の生検を含む。そのため、本発明で使用される生検は、たとえば内視鏡方法あるいは器官の穿刺または針刺しによって調製された組織検体を含む。
本発明で使用される検体は固定または保存された細胞または組織検体を含む。
【0091】
また、本発明は、本発明の抗体(またはその断片)を含有するキットを提供するが、本発明の一つの好適な例において、前記のキットはさらに容器、使用説明書、緩衝液などを含む。好適な例において、本発明の抗体は検出プレートに固定されてもよい。
【0092】
本発明の主な利点は以下の通りである。
本発明は呼吸器合胞体ウイルスを中和する全ヒト抗体の設計および使用を提供する。以下の利点がある。
1)本発明の抗体は、アミノ酸配列が比較的に低い体細胞突然変異部位を有し、低免疫原性を有する。
2)本発明の抗体は、RSVの異なるサブタイプに対するFタンパク質親和力定数がピコモルのレベルに達し、かつ臨床における二つの抗体よりも良い。
3)本発明の抗体は、体内外の実験において有効にRSV感染を予防し、同時に有効にRSV感染後の拡散を抑制することができた。
【0093】
4)本発明の最適化された新たな抗体の研究で、その認識のエピトープおよびウイルスの機序に対してより明晰な理解が得られ、さらに薬物の設計に新たな標的を提供する。
【0094】
以下、具体的な実施例によって、さらに本発明を説明する。これらの実施例は本発明を説明するために用いられるものだけで、本発明の範囲の制限にはならないと理解されるものである。下記実施例で具体的な条件が示されていない実験方法は、通常、たとえばSambrookら、「モレキュラー・クローニング:研究室マニュアル」(ニューヨーク、コールド・スプリング・ハーバー研究所出版社、1989) に記載の条件などの通常の条件に、あるいは、メーカーのお薦めの条件に従う。特に説明しない限り、百分率および部は重量百分率および重量部である。
【0095】
実施例1 ホモロジーモデリングおよび分子ドッキング技術による4F1およびRSV pre-Fの相互作用のモデルの構築
1.1 ホモロジーモデリングおよび分子ドッキング技術による4F1およびRSV pre-Fの相互作用のモデルの構築
コンピュータ支援設計によって前にヒトの末梢血PBMCから分離された1株の広域中和抗体4F1抗体に対して最適化および改造を行った。まず、Prime docking(Schro¨dinger,Inc.)における抗体モデリングモジュールで4F1抗体に対してホモロジーモデリングを行った。要約すると、重鎖および軽鎖の配列をプログラムに入力し、そして抗体構造データベースを検索することによってフレームの鋳型(FRH/FRL領域)を識別し、配列と配列類似度が最も高い抗体構造を決定して鋳型とした。本実施例において、4F1の可変領域の配列をヒト由来抗体胚胎系遺伝子データベースで照合し、相同性の高いIGHV3/ IGKV2配列を設計の鋳型とし、抗体のCDR領域を鋳型につなぎ、さらに抗体構造のモデルを構築した。RosettaDockで4F1のホモロジーモデリングの構造をpre-Fの構造(4JHW)にドッキングした。抗体および抗原の点突然変異の結果およびドッキング採点の結果から複合体の構造を決定した。
結果:PyMOL分子イメージシステム(バージョン2.0,Schrodinger,LLC)で構造図を生成した(図1A)。
【0096】
1.2 抗体の最適化設計
4F1とpre-F複合体のドッキング構造モデルに示された抗体構造に関連する重要なアミノ酸およびpre-Fとの相互作用の重要な部位から、フレームワーク領域に復帰突然変異部位を設計し、4F1の抗原と結合する部位に特異的に抗体の親和力を増強させる突然変異部位を導入した。
【0097】
免疫原性は常に治療性抗体の注目の要点である。高い体細胞突然変異頻度が抗体の免疫原性のリスクを増やすことを報告した研究がすでにある。そのため、体細胞突然変異部位を推定生殖細胞系列(inferred germline、iGL)の配列に戻すと、抗体の免疫原性が低下する可能性がある。構造分析から、4F1抗体に存在しうる免疫原性を低下させるために、重鎖のフレーム領域の配列における9個の体細胞突然変異部位および軽鎖における7個の体細胞突然変異部位を同時に相応する胚胎系の配列に戻した(図1B)。よって、4F1胚胎系復帰が得られた。
【0098】
高親和力は、通常、抗ウイルス抗体の品質評価の重要な指標の一つである。さらに4F1抗体の親和力を向上させるために、本プロジェクトでは、シュレディンガー(Schrodinger)によって抗体に対してい親和力の最適化を行い、それぞれ4F1胚胎系復帰の重鎖と軽鎖の位置に5個の突然変異部位(VH-S75R、VH-V102S、VL-L30R、VL-S32Q、VL-S72Q)の突然変異を導入し、それぞれ4F1En1、4F1En2、4F1En3、4F1En4および4F1En5と名付けた。
結果:配列アライメントの結果は図2に、アミノ酸およびヌクレオチドの配列は表1に示す。
【0099】
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【0100】
実施例2 抗体の発現と精製
CHO細胞に一過性形質移入し、全ヒト抗体の発現を行った。形質移入の1日前(-1日目)に、ExpiCHO-STM細胞を分けて接種し、最終の密度が3×10-4×10個生細胞/mLで、細胞を一晩生長させた。翌日(0日目)に、生細胞の密度および生存率の百分率を測定した。細胞密度が約7×10-10×10個生細胞/mLに、生存率が95-99%にならないと、形質移入が続けられない。細胞を最終の密度が6×10個生細胞/mLになるように希釈した。予め冷却された試薬(4℃)でExpiFectamineTMCHO/プラスミドDNA複合体を調製した。室温でExpiFectamineTMCHO/プラスミドDNA複合体を1-5分インキュベートした後、溶液をゆっくりCHO細胞培養瓶に移し、添加の過程において軽く培養瓶を振とうしていた。細胞をオービタルシェーカーにおいて(37℃インキュベーターの8%CO2含有湿潤空气の条件において)培養した。7-11日培養し、細胞が半分死亡すると、上清を回収し、抗体の精製を開始した。
【0101】
プロテインGアガロース4FFフィラー(GEから購入)で抗体を精製した。まず、収集されたCHO細胞懸濁液を4000rpm、4℃で30min遠心し、収集した上清をさらに0.45μmフィルターでろ過し、精製に供した。重力型遠心カラムを取り、プロテインGアガロース4FFフィラーを入れ、3倍カラム体積の20%エタノールでフィラーを安定化させ、さらに5倍カラム体積の結合緩衝液でカラムを平衡化させた後、サンプルを仕込み、さらに10倍カラム体積の結合緩衝液でカラムを平衡化させ、最後に3倍カラム体積の溶離緩衝液でカラムを溶離させ、溶離した抗体溶液に中和緩衝液を入れて溶離したサンプルのpHを7.5程度にした。抗体溶液を5L 1XPBSで3回透析すると、抗体を濃縮して-80℃で保存した。
【0102】
実施例3 ELISA法による抗体の抗原結合活性の検出
ELISAによって発現された抗体がRSV A2およびB9320 pre-fusion Fタンパク質を認識するか検出した。A2 Fタンパク質の配列はUniProtKB/Swiss-Prot: P03420.1を参照し、B9320の配列はUniProtKB/Swiss-Prot: Q6V2E7を参照し、RSV pre-fusion Fタンパク質の設計はJason S. McLellan. Science 2013で使用されたストラテジーに基づいて設計し、RSV post-fusion Fタンパク質の設計はDavide Corti. Nature 2013で使用されたストラテジーに基づいて設計し、上海Generay社で全遺伝子の合成が行われ、invitrogen pcDNA3.1の発現ベクターに構築した。哺乳動物細胞CHO発現系で発現させたが、Invitrogen ExpiCHO-STM Expression Systemマニュアルを参照する。パリビズマブ(Palivizumab、SYNAGISR)を陽性対照抗体とし、アボット社から購入された。Fタンパク質でELISAプレートを、5μg/mL、100μL/ウェルで、4℃で一晩コーティングした。翌日にPBSTでプレートを3回洗浄した。2%BSAで、200μL/ウェルで、37℃で2hブロッキングした。再びPBSTでプレートを3回洗浄した。サンプルを、100μL/ウェルで、37℃で2h仕込んだ。PBSTでプレートを3回洗浄した。ヤギ抗ヒトIgG(Fc特異的)-ペルオキシダーゼ抗体を、1:2000で希釈し、100μL/ウェルで、37℃で1hインキュベートした。PBSTでプレートを3回洗浄した。基質TMBを100μL/ウェルで入れて呈色させ、色が浅い場合、37℃で光を避けて15min反応させてもよい。2M HSOを50μL/ウェルで入れて反応を停止させた。OD450を測定し、そしてデータ処理を行った。
【0103】
結果:4F1と比べ、復帰突然変異した4F1(胚胎系復帰)は、4F1野生型と同様の結合および中和活性を維持した。4F1En1(VH-S75R)は4F1WTと比べ、より高い結合活性を有する(図1C)。
【0104】
実施例4 バイオレイヤー干渉技術による抗体の親和力定数の検出
4F1En1抗体と既存の臨床を許可または評価された抗体の親和力および中和活性の比較を研究するために、ForteBio OctetR RED96相互作用解析装置によって4F1En1抗体の2種の異なるサブタイプのRSV pre-Fタンパク質との親和力を分析した。パリビズマブおよびMEDI8897を対照とした。本試験では、異なる様態の抗体とRSV/A/A2およびRSV/B/B9320ウイルス株由来のpre-Fタンパク質の結合定数(KD値で表す)を検出した。本実験では、ForteBio OctetR RED96相互作用解析装置によって分析を行った。本実験では、Kinetics buffer(KB:1× PBS、0.01%BSA)を実験過程における緩衝液とした。まず、AHCセンサーをKB含有黒色96ウェルプレートにおいて少なくとも10分浸漬させた。KBで5μg/mlのモノクローナル抗体を調製して抗ヒトIgG Fc(AHC)コーティング生物センサーの表面において5分捕獲させた。KBにおいてベースラインの工程を行った後、センサーをKBで希釈された組み換えDS-Cav1を含有するウェルにおいて600s浸漬させた(結合期)。その後、センサーをKBにおいて浸漬させ、所定の時間(分離段階)として1200s持続した。最後にソフトで結果を分析した。1:1結合グローバルフィッティング動態学モデルで平均Kon、KoffおよびKD値を計算し、R値は≧0.95である。
【0105】
結果:最適化後の4F1En1抗体は既存の抗体よりもRSV A型とB型 pre-Fに高い親和力を有する。4F1WTと比べ、4F1En1はA2-preFにより高い結合定数を、そしてB9320-pre-Fにより遅い解離定数を有する。また、PVZおよびMEDI8897と比べ、4F1En1はA2-preFとの親和力が少なくとも10倍高く、B9320/preFとの結合親和力が少なくとも100倍高かった。4F1 EnのRSV/A/A2菌株を中和する効果が4F1-WTよりも3倍向上した。また、4F1はRSV/A2に対するIC50値がパリビズマブよるも62倍低く、MEDI8897に近かった(図3A-D)。
【0106】
実施例5 ウイルスのマイクロ中和実験
5.1 ウイルスのTCID50の測定
TCID50実験によってRSVマイクロ中和実験における希釈ウイルス液の力価を確認した。200μlの希釈ウイルス液を96ウェル細胞プレートのB2-D2ウェルに入れ、ほかのウェルに100 μlの細胞培養液を入れた。B2-D2ウェルから100 μlのウェル液を吸い取ってB3-D3ウェルに入れ、均一に混合した後、2倍勾配で希釈し、ウイルスは計18の濃度に希釈し、重複ウェルを3つとした。その後、テストプレートを37℃、5%COインキュベーターで2時間インキュベートした。HEp2細胞を25,000個細胞/ウェルの密度でテストプレートに接種して37℃、5%COインキュベーターで5日培養した。
【0107】
5日培養した後、上清を捨て、80%アセトンでテストプレートにおける細胞を固定した。ELISAによって細胞内におけるウイルス含有量を検出した。元データをウイルスのTCID50の計算に使用した(Karber法)。計算式は以下の通りである。
TCID50/ウェル=Antilog10[(陽性ウェル数/3)-0.5}×0.3]/2
陽性ウェルの判定基準:テストウェルの読み値>(培養液対照の平均値+3×培養液対照のSD値)
QC基準:希釈ウイルス液の力価は50-2000 TCID50/ウェルである。
【0108】
5.2 ウイルスのマイクロ中和実験
テストウイルス株A2およびB9320(ATCCから購入)をそれぞれ細胞培養液で4000TCID50/mlに希釈した。倍で希釈された抗体および200TCID50/ウェルのウイルスを等体積比で96ウェル細胞培養プレートに入れ、均一に混合した後、37℃、5%COインキュベーターで2時間インキュベートした。その後、HEp2細胞を25,000個細胞/ウェルの密度でテストプレートに接種して37℃、5%COインキュベーターで5日培養した。抗体はいずれも9つの濃度でテストし、3倍勾配希釈し、重複ウェルを3つとし、開始テスト濃度が4000ng/mlである。
【0109】
5日培養した後、上清を捨て、80%アセトンでテストプレートにおける細胞を固定した。ELISAによって細胞内におけるウイルス含有量を検出した。元データを抗体の異なる濃度における中和活性の計算に使用した。計算式は以下の通りである。
活性百分率(%)=(テストウェルの読み値-ウイルス対照の平均値)/(細胞対照の平均値-ウイルス対照の平均値)×100
EC50値はPrismソフトで計算し、中和活性曲線フィッティング方法はシグモイド型用量-反応(可変傾き)である。
結果:体外マイクロ中和試験の結果から、4F1En1(VH-S75R)は4F1WTと比べ、より高い中和活性を有することが実証された(図1D-E)。
【0110】
実施例6 ハイコンテント細胞イメージング技術による中和抗体のRSV感染と拡散に対する抑制機能の検出
HEp-2細胞を10000個/ウェルで96ウェルの黒色培養プレートに敷き、そして37度のインキュベーターで一晩培養した。4F1の最適化抗体のウイルスを中和する能力を検証するために、系列釈された抗体を500 pfu RSV/A2と1時間インキュベートし、そしてHep-2細胞に添加した。抗体がRSVの細胞感染後のウイルスの拡散に対する抑制作用を検証するために、まず、RSVウイルスをHEp-2に接種し、24時間感染させた後、上清を吸い取って捨て、連続希釈された抗体を感染HEp-2に入れた。ウイルス感染の3日後、パラホルムアルデヒドにおいて15分固定し、3%ウシ血清アルブミン(BSA)含有PBSにおいて30分ブロッキングした。ビオチン化抗RSV-Fおよび抗RSV-Gモノクローナル抗体を3%BSAのPBSで1μg/mLに希釈し、RSV感染の検出に供し、室温で2hインキュベートした。FITCがカップリングされたストレプトアビジンを0.5%BSAのPBSで1:500で希釈し、そしてDAPI(1:1000)と二次抗体で共にインキュベートして細胞核を、室温で1時間染色した。未結合の抗体を除去するために、0.05%ツイン-20含有PBSで3回5分洗浄した。PerkinElmer Opera PhenixTM ハイコンテントスクリーニングシステムによって96ウェルプレートに対して撮影およびデータ統計を行った。2倍または10倍の対物レンズで2つの蛍光チャネルにおいて細胞を撮影した。10倍の対物レンズで10の異なる領域をイメージングした。どのくらいの細胞がRSV感染に陽性を示したか確認するために、RSV陽性細胞数を細胞核の合計数で割り、さらに100をかけ、RSV感染細胞の百分率を得た。
【0111】
結果:本プロジェクトでは、さらに4F1En1の細胞間ウイルス拡散を遮断する能力をテストした。本試験において、感染の1時間前(感染の抑制)または感染の24時間後(拡散の抑制)に連続希釈された4F1-En、パリビズマブおよびMEDI887を添加した。感染の72h後にハイコンテント解析によってIC50値を計算した。図4に示すように、4F1En1はウイルス感染のみならず、HEp-2細胞がRSV/A2に感染させて24時間後でもウイルスの拡散を抑制することができた。4F1En1は合胞体形成の大きさを制限することもできた(図4C)。4F1のウイル感染および拡散の抑制能力はMEDI8897に相当し、効果が顕著にパリビズマブよりも高かった(図4D-E)。上記のように、これらの結果から、4F1 Enはウイルスの感染と拡散および合胞体の形成を抑制することができることが示された。
【0112】
実施例7 ウイルスチャレンジ試験
本実験例において、本発明の抗体4F1およびパリビズマブのマウスのRSV感染を予防する能力を検出した。方法は以下の通りである。
6-8週齢のメスのBalB/cマウスを予めバイオセーフティレベル2の動物実験部屋に置いた。day0では、マウスにそれぞれ15mg/kgおよび1.5 mg/kgの4F1抗体、パリビズマブおよびPBSを腹腔内注射した。24h後、ペントバルビタールトンナトリウムでマウスを麻酔して鼻腔から5×10 PFU/50μl/マウスのRSV A2ウイルスを攻撃させた。4日後、動物を殺処分して肺および鼻甲介を採取した。各マウスから左肺を取って4%パラホルムアルデヒドで固定し、パラフィンで包埋して通常のヘマトキシリン-エオジン(HE)染色を行い、デジタル切片スキャンシステムによって肺部の病理的損傷および炎症性細胞浸潤の様子を観察した。各マウスから右の肺組織および鼻甲介を取って組織を均質化し、EZ-press RNA Purification Kitで全RNA抽出を行った後、cDNAに逆転写し、リアルタイム定量RT-PCRの方法によってRSVのゲノムを相対的定量を行い、RSVのNPタンパク質をコードする遺伝子配列をアライメントし、保存的な断片を選んでプライマーを設計し、マウスのβ-アクチンを内部参照遺伝子とした(表2を参照する)。Toyobo KOD SYBRRqPCR Mixのマニュアルを参照する。
【0113】
【表2】
【0114】
結果:リアルタイム定量RT-PCRの結果は図5Bに示すように、4F1は肺および鼻甲介におけるHRSVウイルスの低下において明らかにパリビズマブよりも有効である。そして、1.5 mg/kg体重と低い濃度で有効である。肺組織の病理学の結果から、4F1は単核球の肺間質および肺胞間隙への浸潤を防止することができ、効果がパリビズマブよりも良いことが示された(図5C)。これらのデータから、4F1En1は体内において高度に有効な保護作用を示し、潜在的にRSV感染を予防する薬物の候補として有望であることがわかる。
【0115】
各文献がそれぞれ単独に引用されるように、本発明に係るすべての文献は本出願で参考として引用する。また、本発明の上記の内容を読み終わった後、当業者が本発明を各種の変動や修正をすることができるが、それらの等価の形態のものは本発明の請求の範囲に含まれることが理解されるはずである。
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
2024537357000001.xml
【手続補正書】
【提出日】2024-06-12
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
特異的抗呼吸器合胞体ウイルス融合タンパク質の抗体であって、重鎖および軽鎖を含み、
ここで、前記重鎖の可変領域は配列番号15で示される配列に相応し、以下のアミノ酸突然変異を有し:
(Z1) n個の以下の群から選ばれる復帰型突然変異で、ここで、nは3、4、5、6、7、8または9である:
1番目のE→Q
6番目のQ→E
13番目のR→Q
62番目のE→D
65番目のR→K
69番目のS→T
76番目のT→K
88番目のP→A
119番目のR→T;
(Z2) 中和増強型FR突然変異
75番目のS→R;または
(Z3)Z1とZ2の組み合わせ;
および、前記軽鎖の可変領域は配列番号16で示される配列に相応し、以下のアミノ酸突然変異を有する:
(Y1) m個の以下の群から選ばれる復帰型突然変異で、ここで、mは3、4、5、6または7である:
12番目のS→P
24番目のK→R
47番目のK→Q
65番目のA→D
79番目のE→K
109番目のV→L
110番目のD→E;
(Y2) 中和増強型CDR突然変異
30番目のL→R;または
(Y3)Y1とY2の組み合わせ;
ことを特徴とする抗体。
【請求項2】
前記抗体は特異的に呼吸器合胞体ウイルスの融合前Fタンパク質に結合することを特徴とする請求項1に記載の抗体。
【請求項3】
前記重鎖は以下の群から選ばれることを特徴とする請求項1に記載の抗体:
a) アミノ酸配列が配列番号1、2で示される重鎖可変領域;ならびに
b) 配列番号1、または2で示されるアミノ酸配列が、3つのCDR領域の配列が残ったまま、FR領域が1~5個好ましくは13個、最も好ましくは1または2個)のアミノ酸残基の置換、欠失、修飾および/または付加を経てなる、呼吸器合胞体ウイルス融合タンパク質(好ましくは融合前Fタンパク質)の結合親和力が残った誘導配列で示される重鎖可変領域。
【請求項4】
前記軽鎖可変領域は以下の群から選ばれることを特徴とする請求項1に記載の抗体:
c) アミノ酸配列が配列番号4または5で示される軽鎖可変領域;ならびに
d) 配列番号4または5で示されるアミノ酸配列が、3つのCDR領域の配列が残ったまま、FR領域が1~4個好ましくは13個、最も好ましくは1または2個)のアミノ酸残基の置換、欠失、修飾および/または付加を経てなる、呼吸器合胞体ウイルス融合タンパク質(好ましくは融合前Fタンパク質)の結合親和力が残った誘導配列で示される鎖可変領域。
【請求項5】
前記重鎖可変領域は配列番号1または2で示されるアミノ酸配列を有することを特徴とする請求項1に記載の抗体。
【請求項6】
前記軽鎖可変領域は配列番号4または5で示されるアミノ酸配列を有することを特徴とする請求項1に記載の抗体。
【請求項7】
前記抗体は配列が配列番号2で示される重鎖可変領域および配列が配列番号4で示される軽鎖可変領域を有することを特徴とする請求項1に記載の抗体。
【請求項8】
組み換えタンパク質であって、
(i) 請求項1に記載の抗体;ならびに
(ii) 任意の発現および/または精製を補助するタグ配列
を有するタンパク質。
【請求項9】
CAR構築物であって、前記のCAR構築物の抗原結合領域のscFv断片は特異的にRSV融合タンパク質(好ましくは融合前Fタンパク質)に結合する結合領域で、かつ前記scFvは請求項1に記載の重鎖可変領域および軽鎖可変領域を有するCAR構築物。
【請求項10】
外来の請求項に記載のCAR構築物を発現する組み換え免疫細胞。
【請求項11】
抗体薬物複合体であって、
(a) 請求項1に記載の抗である、抗体部分;および
(b) 検出可能なマーカー、薬物、毒素、サイトカイン、放射性核種、酵素、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる、前記抗体部分と複合する複合部分
を含有する抗体薬物複合体。
【請求項12】
薬物組成物であって、
(i) 請求項1に記載の抗体、請求項に記載の組み換えタンパク質、請求項10に記載の免疫細胞、請求項11に記載の抗体薬物複合体、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる、活性成分;および
(ii) 薬学的に許容される担体
を含有する薬物組成物。
【請求項13】
以下の群から選ばれるポリペプチドをコードのするポリヌクレオチド:
(1) 請求項1~7のいずれかに記載の抗体;
(2) 請求項8に記載の組み換えタンパク質;および
(3) 請求項9に記載のCAR構築物。
【請求項14】
サンプルにおける呼吸器合胞体ウイルスを検出する方法であって、以下の工程を含む方法:
(1) サンプルを請求項1~7のいずれか一項に記載の抗体と接触させる工程、および
(2) 抗原-抗体複合体が形成したか検出し、ここで、複合体が形成したというのはサンプルに呼吸器合胞体ウイルスが存在することを意味する。
【請求項15】
呼吸器合胞体ウイルス感染を治療することにおける使用のための、請求項17のいずれか一項に記載の抗体、または前記抗体の抗体-薬物複合体、または前記抗体を発現するCAR-T細胞、またはこれらの組み合わせ。
【国際調査報告】