(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-10
(54)【発明の名称】可動の弁装置を備えた燃料電池用の水分離装置
(51)【国際特許分類】
H01M 8/04 20160101AFI20241003BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20241003BHJP
【FI】
H01M8/04 N
H01M8/10 101
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024522289
(86)(22)【出願日】2022-10-11
(85)【翻訳文提出日】2024-05-15
(86)【国際出願番号】 EP2022078263
(87)【国際公開番号】W WO2023062013
(87)【国際公開日】2023-04-20
(31)【優先権主張番号】102021211698.1
(32)【優先日】2021-10-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519031896
【氏名又は名称】ヴィテスコ テクノロジーズ ゲー・エム・ベー・ハー
【氏名又は名称原語表記】Vitesco Technologies GmbH
【住所又は居所原語表記】Siemensstrasse 12,93055 Regensburg,Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】フロリアン ブラウン
(72)【発明者】
【氏名】マティアス ブリーク
(72)【発明者】
【氏名】ヘンリー マイスガイアー
【テーマコード(参考)】
5H126
5H127
【Fターム(参考)】
5H126BB06
5H127AA06
5H127AB04
5H127AC05
5H127AC07
5H127AC09
5H127BA02
5H127BA22
5H127BA33
5H127BA59
5H127BB02
5H127BB18
5H127DC87
5H127EE19
5H127EE23
(57)【要約】
燃料電池(3)用の水分離装置(400)であって、燃料電池(3)から導出された水を含むガス混合物から水を分離する分離装置(430,530)と、分離装置(430,530)により分離された水(600)を回収するための回収容積(441)を備えた容器(440,540)と、回収容積(441)に接続された可動の弁装置(4510)を備えた凍結防止装置(4500)と、を備えており、凍結防止装置(4500)は、回収容積(441)内の水(600)が凍結すると、弁装置(4510)が回収容積(441)を拡大させながら凍結位置の方向に移動し、かつ回収容積(441)内で凍結した水(600)が融解すると、弁装置(4510)は回収容積(441)を縮小させながら融解位置の方向に移動するように形成されている、水分離装置(400)を提案する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池(3)用の水分離装置(400)であって、
前記燃料電池(3)から導出された水を含むガス混合物から水を分離する分離装置(430)と、
前記分離装置(430)により分離された水を回収するための回収容積(441)を備えた容器(440)と、
前記回収容積(441)に接続された摺動可能な弁装置(4510)を備えた凍結防止装置(4500)と、
を備えており、
前記凍結防止装置(4500)は、前記回収容積(441)内の水(600)が凍結すると、前記弁装置(4510)が前記回収容積(441)を拡大させながら凍結位置の方向に移動し、かつ前記回収容積(441)内で凍結した水(600)が融解すると、前記弁装置(4510)は前記回収容積(441)を縮小させながら融解位置の方向に移動するように形成されている、水分離装置(400)。
【請求項2】
当該水分離装置(400)内で分離された液状の水を、前記弁装置(4510)を介して放出するための放出通路(4600)を有している、請求項1記載の水分離装置(400)。
【請求項3】
前記放出通路(4600)は、前記容器(440)の隔壁(442)内に形成されており、前記弁装置(4510)と流体接続されている、請求項2記載の水分離装置(400)。
【請求項4】
前記凍結防止装置(4500)は、前記融解位置の方向に向けられた戻し力を前記弁装置(4510)に加える戻し装置(4520)を有しており、前記弁装置(4510)が前記凍結位置の方向に移動すると、前記戻し力は強まり、前記弁装置(4510)が前記融解位置の方向に移動すると、前記戻し力は弱まる、請求項1から3までのいずれか1項記載の水分離装置(400)。
【請求項5】
前記戻し装置(4520)は、前記弁装置(4510)に力を伝達するように接続された機械的なばね、エラストマーまたはガススプリングを有している、請求項4記載の水分離装置(400)。
【請求項6】
前記容器(440)は、隔壁(442)内に開口(445)を有しており、前記弁装置(4510)は、前記開口(445)内に摺動可能に配置されており、前記戻し装置(4520)は、前記弁装置(4510)の、前記回収容積(441)とは反対の側に配置されている、請求項1から5までのいずれか1項記載の水分離装置(400)。
【請求項7】
燃料電池装置(2)であって、
陽極装置(4)と陰極装置(5)とを有する燃料電池(3)であって、前記陽極装置(4)は、該陽極装置(4)から水を含むガス混合物を導出する陽極出口(41)を有しており、前記陰極装置(5)は、該陰極装置(5)から水を含むガス混合物を導出する陰極出口(51)を有している、燃料電池(3)と、
前記陽極出口(41)および/または前記陰極出口(51)に接続された、請求項1から6までのいずれか1項記載の少なくとも1つの水分離装置(400)と、
を備える、燃料電池装置(2)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可動の弁装置を備えた凍結防止装置を有する、燃料電池用の水分離装置に関する。本発明はさらに、このような水分離装置を有する、自動車用の燃料電池装置に関する。
【背景技術】
【0002】
乗用車および商用車の電化の枠内で、燃料電池も電気エネルギ源として使用されている。燃料電池は、燃料と酸化剤との間の化学反応に基づき電気エネルギを得るガルバニ電池のことである。自動車分野では、燃料として好適には水素が使用される。酸化剤としては、空気中の酸素が用いられる。燃料電池は、半透膜によって互いに隔離された2つの電極(陽極および陰極)を含む。両方の反応相手、すなわち燃料と酸化剤とが、電極に連続的に供給される。この場合、膜は、反応に際して放出されるイオン種、例えばプロトンに対してのみ透過性を有する。酸化剤と燃料との間の反応に際して電気エネルギが放出され、この電気エネルギが自動車の電動モータの運転に用いられる。燃料として水素が用いられ、かつ酸化剤として酸素が用いられる場合、陰極側には水が反応生成物として生じる。燃料電池の運転の過程において、(空気の主成分としての)窒素と水とが、陰極から膜を介して陽極にも徐々に拡散する。このことは望ましくない。それというのも、窒素と水とが水素供給通路を遮断し、陽極内の水素の均一な分布を低下させ、これにより、燃料電池の効率がネガティブに損なわれるからである。陽極および陰極における水の濃縮を回避するためには、水を電極から取り除かねばならない。このことは、吹出しにより行われることが多い。電極を離れる水含有ガス混合物(エアロゾル)は、出口側で水分離器に供給され、水分離器内で、残留ガスから水が分離される。この場合、分離された水は、回収容器に捕集され、弁を介して時々排出される。水の氷点を下回る燃料電池の運転時には、回収容器および弁の領域に氷が形成されることがある。これにより生じる極めて高い押圧力に基づき、水分離器、回収容器および弁が損傷または破壊される恐れがある。氷が形成されるリスクは、燃料電池の運転停止状態において特に大きくなる。氷の形成を回避するために、関係するコンポーネントを電気的に、または伝熱流体を用いて加熱することができる。しかしながら、このために必要な技術的なインフラストラクチャは手間がかかり、高コストであり、かつ故障しやすい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の課題は、水の氷点を下回る温度においても、低コストおよび小さな技術的な手間と同時に、改良された運転確実性の点で優れている、燃料電池用の水分離装置ならびに燃料電池装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
この課題は、独立請求項の対象によって解決される。本発明の有利な構成は、従属請求項に記載されている。
【0005】
請求項1記載の燃料電池用の水分離装置は、燃料電池から導出された水を含むガス混合物から水を分離する分離装置を有している。水分離装置にはさらに、分離装置により分離された水を回収または捕集するための回収容積を備えた容器が付属している。水分離装置にはさらに、回収容積から水を放出するための、可動のまたは摺動可能な弁装置を備えた凍結防止装置が付属しており、弁装置は回収容積に、圧力を伝達するように接続されており、凍結防止装置は、回収容積内の水が凍結すると、弁装置が回収容積を拡大させながら凍結位置の方向に移動し、かつ回収容積内で凍結した水が融解すると、弁装置は回収容積を縮小させながら融解位置の方向に戻るように形成されている。
【0006】
氷は、水よりも約8~10%だけ大きな比体積を有している。容器内に集められた水が凍結して氷を形成すると、氷の膨張または十分な容積補償が不可能な場合には、極めて高い押圧力が生じる。本発明の根底を成す思想は、回収容積において可変の容積補償を可能にする凍結防止装置を設けることにある。換言すると、凍結防止装置は、回収容積内で水が凍結した場合には、回収容積の必要に応じた拡大を可能にすると共に、回収容積内で氷が液化した場合には、回収容積の相応の縮小を可能にする。弁装置は、互いに反対の側に位置する2つの表面側を有している。弁装置は、一方の表面側では回収容積に押圧力を伝達するように接続されており、かつ充填レベルに応じて、回収容積内に集められた水または氷に押圧力を伝達するように接続されている。他方の表面側では、弁装置は周辺環境(大気圧、周囲空気)に力を伝達するように接続されている。代替的に、弁装置は他方の表面側において、回収容積側の力とは反対向きの力を他方の表面側に加える戻し装置に接続されていてもよい(請求項2参照)。弁装置は、摺動区間に沿って可動にまたは摺動可能に支持されている。弁装置はこの摺動区間に沿って、互いに反対の側に位置する表面側においてそれぞれ弁装置に作用する力が平衡になる位置を占める。回収容積内に水が存在している場合、弁装置は融解位置にある。回収容積内の水が凍結すると、その結果、弁装置に対する押圧力が片側で高まることになる。この場合には、弁装置が摺動区間に沿って凍結位置の方向に移動すると、凍結位置では再び力の平衡状態が生じることになる。回収容積内の氷が融解すると、その結果、氷の体積の減少に基づき(例えば弁装置と融解する氷との間の空間における退去作用に基づき)、回収容積の側の弁装置に対する押圧力が片側で低下することになる。この場合には、弁装置が摺動区間に沿って、再び力の平衡状態が生じるまで融解位置の方向に移動する。凍結防止装置は、氷の形成に基づく水分離装置の損傷を回避するために、回収容積の拡大が十分に大きくなるように寸法設定されている。例えば凍結防止装置を、氷形成時に回収容積を少なくとも8%だけ拡張または拡大させることができるように形成または寸法設定することができる。これにより、回収容積内に氷が形成された場合の水分離装置の損傷を確実に回避することができる。これにより、水分離装置の運転確実性が、氷点を下回る温度でも保証されている。コストおよび故障しやすさは低い。電気的な加熱または流体に基づく加熱を省くことができ、このことは、水分離装置のコスト、技術的な手間および故障しやすさを大幅に低下させる。凍結防止装置の一部として弁装置を用いることにより、この弁装置に二重の機能が与えられ、これにより、コスト、部品の数、および構造上の手間が小さく抑えられる。
【0007】
1つの構成では、水分離装置は、水分離装置内で分離された液状の水を、弁装置を介して放出するための放出通路を有している。例えば、一実施形態では、放出通路は、容器の隔壁内に形成されており、弁装置と流体接続されている。したがって、水の放出は特に簡単であり、かつ/または、水分離装置は特に頑丈かつ/または廉価であってよい。
【0008】
水分離装置の1つの構成では、凍結防止装置は、弁装置に力を伝達するように接続され、融解位置の方向に向けられた戻し力を弁装置に加える戻し装置を有しており、この場合、弁装置が凍結位置の方向に移動すると、戻し力は強まり、弁装置が融解位置の方向に移動すると、戻し力は弱まる。
【0009】
戻し装置は、融解位置への弁装置の戻り動作を保証する。さらに、戻し装置を相応に選択することにより、戻し力を調整することが可能である。
【0010】
この場合、戻し装置は、1つの構成では弁装置に力を伝達するように接続された(例えば金属またはプラスチックから成る)機械的なばね、エラストマー(例えばゴム)またはガススプリングを有していてよい。
【0011】
これらは、戻し装置の極めて効率的で、確実かつ廉価な構成形式であり、幾何学形状および使用材料の相応の選択により、相応の材料選択および寸法設定による戻し力の適合を可能にする。
【0012】
水分離装置の1つの構成では、容器は、隔壁に中空室を有しており、この場合、弁装置は、中空室内に摺動可能に配置されており、戻し装置は、弁装置の、回収容積とは反対の側に配置されている。
【0013】
本開示の別の態様に基づき説明する燃料電池装置は、
陽極装置と陰極装置とを有する燃料電池であって、陽極装置は、陽極装置から水を含むガス混合物を導出する陽極出口を有しており、陰極装置は、陰極装置から水を含むガス混合物を導出する陰極出口を有している、燃料電池と、
陽極出口および/または陰極出口に接続された、請求項1から4までのいずれか1項記載の少なくとも1つの水分離装置と、
を有している。
【0014】
この燃料電池装置の利点に関しては、水分離装置の、同様に燃料電池装置にも当てはまる構成を参照されたい。
【0015】
以下に、本発明を実施例に基づき添付の図面を参照してより詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図2】燃料電池および付属する水分離装置の概略図である。
【
図3】凍結防止装置の基本的な構成および基本的な機能形式を示す概略図である。
【
図4】凍結防止装置の基本的な構成および基本的な機能形式を示す概略図である。
【
図5】凍結防止装置の様々な実施例を示す概略図である。
【
図6】凍結防止装置の様々な実施例を示す概略図である。
【
図7】凍結防止装置の様々な実施例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1には、燃料電池装置2の一実施例を備えた自動車1が概略的に示されている。燃料電池装置2の核心部は、ガルバニ電池として機能する本来の燃料電池3である。燃料電池3は、電解質装置6(イオン導体)によって互いに隔離された陽極装置4と陰極装置5とを有している。電解質装置6は、例えば高分子電解質膜として形成されていてよく、この高分子電解質膜は、プロトンに対してのみ透過性を有するが、電子に対しては透過性を有さない。代替的に、特定のセラミックまたは他の固体電解質が使用されてもよい。陽極装置4および陰極装置5は、電極板または双極板(図示せず)を有しており、電極板または双極板は、好適には金属または炭素から製造されており、例えば白金またはパラジウム等の触媒でコーティングされている。
【0018】
燃料電池装置2にはさらに、陽極装置4に燃料を供給するために陽極装置4の入口8に連結された燃料供給装置7が含まれる。燃料供給装置7は燃料タンク9を有しており、燃料タンク9内には燃料が貯蔵されている。本実施例では燃料として、液状またはガス状の形態で、極めて高い圧力(例えば350bar~700bar)下で燃料タンク9内に貯蔵されている水素が用いられる。燃料タンク9は、供給導管10を介して陽極装置4の入口8に接続されている。燃料タンク9の下流側(矢印)において供給導管10内には、遮断弁11と減圧器12とが相前後して配置されている。減圧器12は、ガス圧力を約10bar~30barに低下させる。供給導管10内のさらに下流には、電気作動式の調量弁13が設けられており、調量弁13により、陽極装置4内への水素の的確な調量が可能である。この場合、調量弁13の制御は、燃料電池装置2に対応して配置された制御装置14により行われ、制御装置14は、調量弁13に電気的に接続されている。調量弁13と陽極装置4との間には、さらに圧力センサ15が配置されており、圧力センサ15は、制御装置14に接続されて、制御装置14に、陽極装置4の入口8における水素圧力値を供給する。陽極装置4内の圧力は、燃料電池3の運転時に0.8bar~4barの範囲内で変動する。
【0019】
燃料電池装置2にはさらに、陰極装置5に酸化剤を供給するために陰極装置5に連結された酸化剤供給装置16が含まれる。本実施例では、空気中の酸素が酸化剤として用いられ、酸化剤供給装置16を介して陰極装置5に供給される。陰極装置5内の酸素圧力が十分に高いことを保証するために、酸化剤供給装置16は別の圧力センサ17を有しており、別の圧力センサ17は制御装置14に、陰極装置5の入口18における酸素圧力または空気圧力を供給する。
【0020】
陽極装置4の側の水素は、陰極装置5の側の空気中の酸素と反応して水を形成し、このとき陽極装置4と陰極装置5との間に直流電流が生じる。この直流は、自動車1の電気駆動モータ(図示せず)の運転に使用することができる。
【0021】
時間の経過と共に、窒素および水の一部が陰極装置5から高分子電解質膜6を通り、陽極装置4に向かって拡散する。ただし、これらの2つの物質の拡散は望ましくない。それというのも、これらの物質は水素用の供給通路を遮断し、さらに膜面全体にわたる水素の均一な分布を妨げるからである。
【0022】
燃料電池の有効性および効率を維持するために、各反応生成物は、陽極装置4および陰極装置5から導出される。
【0023】
このために、陽極装置4は、反応生成物を陽極装置4から取り除く、すなわち導出することができる陽極出口41を有している。陽極装置4の側の反応生成物は、実質的に、主成分として水蒸気、窒素および水素から成るガス混合物である。
【0024】
陰極装置5は、反応生成物を陰極装置5から取り除く、すなわち導出することができる陰極出口51を有している。陰極装置5の側の反応生成物は、一般に、主成分として水蒸気、窒素および酸素から成るガス混合物である。
【0025】
図1に、
図2に関連して認められるように、燃料電池装置2の本実施例は、陽極装置4に対応して配置された第1の水分離装置400を有している。第1の水分離装置400は、陽極出口41に流体接続された第1のガス入口401を有している。第1の水分離装置400は、陽極出口41から漏出する水を含むガス混合物から水を分離するように形成されている。分離された液状の水が少なくとも一時的に第1の水分離装置400内に残留するのに対して、分離されたガス成分は、分離過程の直後に第1の水分離装置400から第1のガス出口402を介して流出する。分離されたガス成分は、次いで選択的に、内部にファン21が配置された再循環経路20を介して陽極装置4の入口へ戻されるか、または制御可能な第1のガス弁410を介して周辺環境に放出される。第1の水分離装置400内で分離された液状の水は、第1の水分離装置400に対応して配置された制御可能な第1の弁装置4510と第1の放出通路4600とを介して、時々放出されることができる。
【0026】
本実施例では、燃料電池装置2は、陰極装置5に対応して配置された第2の水分離装置500を有している。第2の水分離装置500は、陰極出口51に流体接続された第2のガス入口501を有している。第2の水分離装置500は、陰極出口51から漏出する水を含むガス混合物から水を分離するように形成されている。分離された液状の水が少なくとも一時的に第2の水分離装置500内に残留するのに対して、分離されたガス成分は、分離過程の直後に第2の水分離装置500から第2のガス出口502を介して周辺環境へ流出する。第2の水分離装置500内で分離された液状の水は、第2の水分離装置500に対応して配置された制御可能な第2の弁装置5510と第2の放出通路5600とを介して、時々放出されることができる。
【0027】
代替的に、陽極装置4または陰極装置5に対応して配置された1つの水分離装置のみが設けられていてもよい。
【0028】
図2に概略的に示すように、第1の水分離装置400は、陽極装置4から導出された水を含むガス混合物から水を分離する第1の分離装置430と、分離された水を回収する第1の容器440と、第1の凍結防止装置4500とを有している。
【0029】
さらに、
図2に概略的に示すように、第2の水分離装置500も同様に、陰極装置5から導出された水を含むガス混合物から水を分離する第2の分離装置530と、分離された水を回収する第2の容器540と、第2の凍結防止装置5500とを有している。
【0030】
第1の分離装置430および第2の分離装置530は、例えばサイクロン分離器として形成されていてよい。第1の容器440または第2の容器540は、第1の水分離装置400もしくは第2の水分離装置500と一体に形成されていてもよいし、または別個のコンポーネントとして形成されていてもよい。
【0031】
図3~
図7には、第1の凍結防止装置4500および第1の水分離装置400の一部の実施例が概略的に示されている。以下では、第1の凍結防止装置4500のみの構成および機能形式を説明する。ただし、説明の内容は全て、同じ構成の第2の凍結防止装置5500にも同様に転用され得る。第1の凍結防止装置4500の基本的な作用形式および基本的な構成を、
図3および
図4に基づき説明する。次に、
図5~
図7に基づき、具体的な構造の実施例を説明するが、この場合、基本的な作用形式および基本的な構成は、これらの実施例にも当てはまる。
【0032】
最初に
図3および
図4を参照する。第1の水分離装置400の第1の容器440は、隔壁442により仕切られた第1の回収容積441を有している。
図3には、第1の水分離装置400が、既に第1の回収容積441内に水600が回収された状態で示されている。
【0033】
第1の容器440の隔壁442内には、中空室443が形成されている。このために、隔壁442内に開口445が形成されており、開口445は、第1の凍結防止装置4500によって周辺環境に対して液密または気密に閉鎖されている。第1の凍結防止装置4500は、第1の容器440の隔壁442にねじ締結、接着結合、または溶接結合によって取り付けられていてよい。
【0034】
第1の凍結防止装置4500には、
図3および
図4に単に概略的に示す第1の弁装置4510が付属している。第1の弁装置4510は、中空室443内または開口445内に配置されており、そこで摺動区間(双方向矢印)に沿って摺動するように、もしくは可動に、もしくは滑動するように支持されている。第1の弁装置4510は、一方の表面側において、回収容積441内の水に、押圧力を伝達するように接続されている。本実施例では、この表面側は、水600と直接接触している。反対側に位置する表面側において、第1の弁装置4510は、第1の凍結防止装置4500の戻し装置4520に押圧力を伝達するように接続されている。この接続は、戻し装置4520に対応して配置された1つまたは複数の接続部材4521を介して行われる。第1の弁装置4510を介して、水600を回収容積441から、第1の容器440の隔壁442内に形成されかつ弁装置4510に流体接続された第1の放出通路4600を介して放出することができる。
【0035】
図3では、回収容積441内の水600は、液体の形態で存在している。第1の弁装置4510は、摺動区間に沿って融解位置に位置している。融解位置では、第1の弁装置4510は、摺動区間の方向において安定した力の平衡状態にある。互いに反対の側に位置する表面側に作用する力は、それぞれ相殺されている。
【0036】
水の氷点を下回る周囲温度では、特に燃料電池3が比較的長時間運転されないと、回収容積441内の水600の凍結が生じ得る。氷は、液状の水よりも約9%大きな比体積を有している。第1の回収容積441内の水600が凍結すると、第1の弁装置4510の、第1の回収容積441に面した表面側において、押圧力の増大が生じる。この一時的な押圧力の非平衡状態は、第1の弁装置4510が融解位置(
図3)から摺動区間に沿って回収容積441を拡大しながら凍結位置(
図4)へ摺動または移動することにつながる。
【0037】
図4では、回収容積441内の水は完全に凍結して、氷700を形成している。第1の弁装置4510は、摺動区間(双方向矢印)に沿って凍結位置に位置している。凍結位置では、第1の弁装置4510は、摺動区間の方向において再び安定した力の平衡状態にある。互いに反対の側に位置する表面側に対する押圧力は、相殺されている。水の凍結による体積膨張は終了している。これに相応して、
図4に示す回収容積441は、
図3に示した回収容積よりも大きくなっている。
【0038】
戻し装置4520は、接続部材4521を介して弁装置4510に押圧力を伝達するように接続されており、弁装置4510に、融解位置の方向に向けられた戻し力を加えるように形成されている。
【0039】
戻し装置4520は、弁装置4510が融解位置から凍結位置へ移動するほど、戻し力が漸進するように形成されていてよい。つまり、融解位置から凍結位置の方向への弁装置4510の移動は、回収容積441を拡大させながら、かつ戻し力を増大させながら行われる。
【0040】
回収容積441内の氷700が融解すると、生じた水600は、氷700よりも小さな容積を占める。弁装置4510の、回収容積441に面した表面側に対する押圧力は減少し、戻し装置4520によって弁装置4510に加えられる戻し力よりも小さくなる。この力の非平衡状態に基づき、弁装置4510は融解位置(
図3)の方向に、再び力の平衡状態が生じるまで移動する。つまり、凍結位置から融解位置の方向への弁装置4510の移動は、回収容積441を縮小させながら、かつ戻し力を弱めながら行われる。
【0041】
第1の凍結防止装置4500は、第1の回収容積441を必要に応じて、内部に含まれる水の凝集状態に応じて適合させることを可能にする。第1の回収容積441内に含まれる水が凍結した場合、第1の凍結防止装置4500は、第1の回収容積441を拡大させ、これにより、生じた氷は、そのより大きな比体積に相応して十分に膨張することができ、第1の水分離装置400または第1の容器440の損傷につながる恐れのある極度に大きな押圧力が生じることはない。第1の凍結防止装置4500は、水の凍結時に生じる自然な体積の膨張が第1の回収容積441の拡大によって相殺され、これにより、極度に高い押圧力および第1の水分離装置400の損傷が回避されるように形成されている。よって、凍結防止装置4500は、水が凍結した場合に約9%~16%だけ、回収容積441の拡大を可能にする。つまり、弁装置4510が凍結位置にある場合、回収容積は例えば約9%~16%だけ、弁装置4510が融解位置にある場合よりも大きくなっている。
【0042】
次に、
図5~
図7に基づき、凍結防止装置4500の有利な実施例および弁装置4510をより詳細に説明する。この場合、引き続き有効な
図3および
図4に関する説明内容を超える構造の態様および作用形式のみを説明する。
【0043】
図5~
図7には、弁装置4510の可能な実施形態がより詳細に示されている。弁装置4510は、弁部分4511でもって、隔壁444内に形成された開口445内に突入しており、かつ制御部分4512でもって外側に向かって隔壁444を越えて突出している。弁部分4511の外径には、中空室443を外部に対して液密にシールする複数のシール4513が設けられており、この場合、弁装置4510の摺動性は引き続き保証され続ける。弁部分4511と制御部分4512との間の移行部に、弁装置4510は仕切り板4514を有しており、仕切り板4514は半径方向(弁装置4510の摺動方向に対して横方向)において外側に向かって延在している。弁装置4510は、その制御部分4512と仕切り板4514とでもって容器440の外側に留まっており、融解位置では仕切り板4514でもって隔壁444に当接する。
【0044】
弁部分4511には、流れ通路Sを備えた弁板4515が配置されており、この場合、弁板4515の、回収容積441とは反対の側の流れ通路Sの縁部に、弁座が形成されている。弁部分4511にはさらに、可動の弁体4516が配置されている。この弁体4516は、弁装置4510の閉鎖状態では液密式に弁座4515に当接する。弁装置4510の開放状態では、弁体4516が弁座4515から持ち上がって流れ通路Sを開放し、これにより、水が回収容積441から流れ通路Sを通流することができるようになっている。開放状態では、流れ通路Sは放出通路4600に流体接続されており、放出通路4600は、
図5~
図7では一部が弁装置4510の半径方向外縁部に接して延びかつ一部は容器440の隔壁444内に延びているため、水を、流れ通路Sと放出通路4600とを介して容器440から導出することができる。
【0045】
弁装置4510は、電磁弁として形成されている。制御部分4512内には電磁アクチュエータが設けられており、電磁アクチュエータは、弁体4516に結合された可動子4517と、可動子4517を取り囲むコイル巻線4519aと、磁極片4518とを有している。コイル巻線4519aには、弁装置4510を開閉するために電流供給部4519bを介して電流/電圧を供給することができる。弁装置4510は、その板状部分4510aにおいて、容器壁444に取り付けられた2つのボルト4523に滑り支持されている。
【0046】
図5~
図7に示す実施例では、戻し装置4520は、容器壁444に取り付けられた2つ以上のボルト4523と、ボルト4523の軸部に被せられた接続部材4521としての2つの機械的なばねと、を有している。機械的なばね4521は、金属またはプラスチックから成るコイルばねまたは皿ばねとして形成されていてよい。弁装置4510は、その仕切り板4514でもって、2つ以上のボルト4523に滑り支持されている。このために、仕切り板4514は、ボルト4523の軸部が貫通した複数の貫通孔を備えている。機械的なばね4521は、その一方の端部においてボルト4523の頭部に支持されており、かつ反対側の端部において弁体4510の仕切り板4514に支持されている。これにより、弁装置4510は弾性的にかつ力を伝達するように戻し装置4520に接続されており、この場合、凍結位置の方向に弁装置4510が移動すると、戻し力は強まり(機械的なばねが圧縮され、これにより緊縮する)、反対の移動方向では弱まる(機械的なばねが弛緩する)。ボルト4523の頭部は、機械的なストッパとして働き、弁装置4510の移動行程を制限する。
【0047】
図5では、回収容積441内の水は、液体の形態で存在している。弁装置4510は、融解位置にある。機械的なばね4521は弛緩しているか、または極僅かにのみ圧縮されている。回収容積内の水600が凍結すると、体積の膨張に基づき回収容積441を拡大させつつ、弁装置4510が凍結位置の方向に摺動する。弁装置4510は、機械的なばね4521を圧縮しながらボルト4523の頭部の方向に滑動する。
図6では、回収容積441内の水600は完全に凍結している。弁装置4510は、凍結位置にある。機械的なばね4521は強力に圧縮されており、弁装置4510を融解位置へと押し退ける戻し力を生ぜしめる。回収容積441内の水が体積を縮小させながら再び融解すると直ちに、機械的なばね4521が弁装置4510を融解位置へと押し戻す。
【0048】
図7に示す実施例は、
図5および
図6に示した実施例と、やはりばねとして働く2つのスリーブ状のエラストマーが接続部材4521として設けられている点においてのみ相違している。その他の機能形式は、
図5および
図6に示した実施例と同様である。
【手続補正書】
【提出日】2024-05-15
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池(3)用の水分離装置(400)であって、
前記燃料電池(3)から導出された水を含むガス混合物から水を分離する分離装置(430)と、
前記分離装置(430)により分離された水を回収するための回収容積(441)を備えた容器(440)と、
前記回収容積(441)に接続された摺動可能な弁装置(4510)を備えた凍結防止装置(4500)と、
を備えており、
前記凍結防止装置(4500)は、前記回収容積(441)内の水(600)が凍結すると、前記弁装置(4510)が前記回収容積(441)を拡大させながら凍結位置の方向に移動し、かつ前記回収容積(441)内で凍結した水(600)が融解すると、前記弁装置(4510)は前記回収容積(441)を縮小させながら融解位置の方向に移動するように形成されている、水分離装置(400)。
【請求項2】
当該水分離装置(400)内で分離された液状の水を、前記弁装置(4510)を介して放出するための放出通路(4600)を有している、請求項1記載の水分離装置(400)。
【請求項3】
前記放出通路(4600)は、前記容器(440)の隔壁(442)内に形成されており、前記弁装置(4510)と流体接続されている、請求項2記載の水分離装置(400)。
【請求項4】
前記凍結防止装置(4500)は、前記融解位置の方向に向けられた戻し力を前記弁装置(4510)に加える戻し装置(4520)を有しており、前記弁装置(4510)が前記凍結位置の方向に移動すると、前記戻し力は強まり、前記弁装置(4510)が前記融解位置の方向に移動すると、前記戻し力は弱まる、請求項1から3までのいずれか1項記載の水分離装置(400)。
【請求項5】
前記戻し装置(4520)は、前記弁装置(4510)に力を伝達するように接続された機械的なばね、エラストマーまたはガススプリングを有している、請求項4記載の水分離装置(400)。
【請求項6】
前記容器(440)は、隔壁(442)内に開口(445)を有しており、前記弁装置(4510)は、前記開口(445)内に摺動可能に配置されており、前記戻し装置(4520)は、前記弁装置(4510)の、前記回収容積(441)とは反対の側に配置されている、請求項
1記載の水分離装置(400)。
【請求項7】
燃料電池装置(2)であって、
陽極装置(4)と陰極装置(5)とを有する燃料電池(3)であって、前記陽極装置(4)は、該陽極装置(4)から水を含むガス混合物を導出する陽極出口(41)を有しており、前記陰極装置(5)は、該陰極装置(5)から水を含むガス混合物を導出する陰極出口(51)を有している、燃料電池(3)と、
前記陽極出口(41)および/または前記陰極出口(51)に接続された、請求項
1記載の少なくとも1つの水分離装置(400)と、
を備える、燃料電池装置(2)。
【国際調査報告】