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  • 特表-フルオロエラストマー組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-10
(54)【発明の名称】フルオロエラストマー組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/16 20060101AFI20241003BHJP
   C08K 5/3432 20060101ALI20241003BHJP
   C08K 5/3462 20060101ALI20241003BHJP
   C08L 27/12 20060101ALI20241003BHJP
   C08K 5/42 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C08L27/16
C08K5/3432
C08K5/3462
C08L27/12
C08K5/42
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024522423
(86)(22)【出願日】2022-10-06
(85)【翻訳文提出日】2024-06-11
(86)【国際出願番号】 EP2022077792
(87)【国際公開番号】W WO2023061841
(87)【国際公開日】2023-04-20
(31)【優先権主張番号】21202584.5
(32)【優先日】2021-10-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513092877
【氏名又は名称】ソルベイ スペシャルティ ポリマーズ イタリー エス.ピー.エー.
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ボスソロ, ステファノ
(72)【発明者】
【氏名】モンタルベッティ, アンドレア
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BD121
4J002BD141
4J002BD151
4J002BD161
4J002DA036
4J002DE069
4J002DE078
4J002DE089
4J002DE108
4J002DE158
4J002EU047
4J002EU087
4J002EU137
4J002EU147
4J002EV236
4J002FD016
4J002GG01
(57)【要約】
本発明は、フルオロエラストマー硬化性組成物、それを硬化させる方法及びそれから得られる硬化物品に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フルオロエラストマー組成物[組成物(C)]であって、
- フッ化ビニリデン(VDF)及びVDFと異なる少なくとも1種の更なる(パー)フッ素化モノマーから誘導される繰り返し単位を含む少なくとも1種のフッ化ビニリデン系フルオロエラストマー[フルオロエラストマー(A)]と、
- フルオロエラストマー(A)の100phrを基準として0.30~2.50phrの少なくとも1種の有機芳香族酸[酸(OA)]であって、少なくとも1つの芳香族環と、前記芳香族環にシグマ結合又は連結基を介して連結されている少なくとも1つの酸基とを含む化合物であるが、但し、前記酸基が-COOHである場合、前記芳香族環は、前記酸基に対してパラ位又はメタ位に-OH基を含まないことを条件とする、少なくとも1種の有機芳香族酸[酸(OA)]と、
- 少なくとも1種のピリジニウム塩[塩(P)]であって、式(P1)~(P-12):
【化1】
【化2】
(式中、
- J及びJ’のそれぞれは、互いに等しいか又は異なり、独立して出現ごとに、C-R又はNであり、Rは、H又はC~C12炭化水素基であり、
- Eは、N又は式C-R°の基であり、
- Zは、1~12個の炭素原子を含む二価の炭化水素基であり、
- Wは、結合であるか、又は1~12個の炭素原子を含む二価の炭化水素基(好ましくは1~6個の炭素原子を含む二価の脂肪族基)及び1~12個の炭素原子を含む二価のフルオロカーボン基(好ましくは1~6個の炭素原子を含む二価のパーフルオロ脂肪族基)からなる群から選択される架橋基であり、
- 式(P-11)及び(P-12)における記号:
【化3】
で略記された基は、環において、1つ以上の更なる窒素原子、任意選択的に四級化窒素原子を含み得るピリジニウム型芳香族環に縮合された芳香族単核又は多核環を示し、
- R 、R 、R 、R 、R 、R 、R 、R 、R 、R10 、R11 、R12 、R13 、R14 、R15 、R16 、R17 、R18 、R19 、R20 、R21 、R22 、R23 、R24 、R25 、R26 、R27 、R28 H、29 、R30 、R31 、R32 、R33 、R34 、R35 、R36 及びR°のそれぞれは、互いに等しいか又は異なり、独立して出現ごとに、-H又は式:
【化4】
(式中、R及びRは、互いに等しいか又は異なり、独立して、H又は炭化水素C~C基である)
の基[基(α-H)]であり、
- Yは、互いに等しいか又は異なり、独立して、酸素又はN、O、S及びハロゲンから選択される1つ以上のヘテロ原子を含み得る、とりわけ脂肪族基若しくは芳香族基であり得るC~C12炭化水素基であり、
- A(m-)は、m価のアニオンであり、
但し、
(i)塩(P)が式(P-1)のものである場合、R 、R 及びR°の少なくとも2つは、基(α-H)であり、
(ii)塩(P)が式(P-2)のものである場合、R 及びR は、基(α-H)であり、
(iii)塩(P)が式(P-3)のものである場合、R 、R 、R 及びR の少なくとも2つは、基(α-H)であり、
(iv)塩(P)が式(P-4)のものである場合、R 、R10 、R11 、R12 及びR°の少なくとも2つは、基(α-H)であり、
(v)塩(P)が式(P-5)のものである場合、R13 、R14 及びR°の少なくとも2つは、基(α-H)であり、
(vi)塩(P)が式(P-6)のものである場合、R15 、R16 、R17 及びR°の少なくとも2つは、基(α-H)であり、
(vii)塩(P)が式(P-7)のものである場合、R18 、R19 、R20 、R21 及びR°の少なくとも2つは、基(α-H)であり、
(viii)塩(P)が式(P-8)のものである場合、R22 、R23 、R24 及びR°の少なくとも2つは、基(α-H)であり、
(ix)塩(P)が式(P-9)のものである場合、R25 、R26 、R27 及びR28 の少なくとも2つは、基(α-H)であり、
(x)塩(P)が式(P-10)のものである場合、R29 、R30 、R31 、R32 及びR28 の少なくとも2つは、基(α-H)であり、
(xi)塩(P)が式(P-11)のものである場合、R33 、R34 及びR28 の少なくとも2つは、基(α-H)であり、
(xii)塩(P)が式(P-12)のものである場合、R35 、R36 及びR°の少なくとも2つは、基(α-H)であることを条件とする)
のいずれかに従う少なくとも1種のピリジニウム塩[塩(P)]と
を含むフルオロエラストマー組成物[組成物(C)]。
【請求項2】
フルオロエラストマー(A)は、前記フルオロエラストマーの全繰り返し単位に対して少なくとも15モル%、好ましくは少なくとも20モル%、より好ましくは少なくとも35モル%の、VDFから誘導される繰り返し単位及び/又は前記フルオロエラストマーの全繰り返し単位に対して最大で5モル%、好ましくは最大で80モル%、より好ましくは最大で78モル%の、VDFから誘導される繰り返し単位を含む、請求項1に記載の組成物(C)。
【請求項3】
VDFと異なる前記少なくとも1種の(パー)フッ素化モノマーは、
(a)テトラフルオロエチレン(TFE)及びヘキサフルオロプロピレン(HFP)などのC~Cパーフルオロオレフィン、
(b)フッ化ビニル(VF)、トリフルオロエチレン(TrFE)、式CH=CH-R(式中、Rは、C~Cパーフルオロアルキル基である)のパーフルオロアルキルエチレンなど、VDFと異なる水素含有C~Cオレフィン、
(c)クロロトリフルオロエチレン(CTFE)などのC~Cクロロ、及び/又はブロモ、及び/又はヨード-フルオロオレフィン、
(d)式CF=CFOR(式中、Rは、C~C(パー)フルオロアルキル基、例えばCF、C、Cである)の(パー)フルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)、
(e)式CF=CFOX(式中、Xは、カテナリー酸素原子を含むC~C12((パー)フルオロ)-オキシアルキル、例えばパーフルオロ-2-プロポキシプロピル基である)の(パー)フルオロ-オキシ-アルキルビニルエーテル、
(f)式:
【化5】
(式中、Rf3、Rf4、Rf5、Rf6のそれぞれは、互いに等しいか又は異なり、独立して、フッ素原子、任意選択的に1つ以上の酸素原子を含むC~Cフルオロ又はパー(ハロ)フルオロアルキル、例えば-CF、-C、-C、-OCF、-OCFCFOCFである)
を有する(パー)フルオロジオキソール、
(g)式:
CFX=CXOCFOR’’
(式中、R’’は、直鎖又は分枝鎖のC~C(パー)フルオロアルキル、C~C環状(パー)フルオロアルキル及び1~3個のカテナリー酸素原子を含む直鎖又は分枝鎖のC~C(パー)フルオロオキシアルキルの中から選択され、及びX=F、Hであり、好ましくは、Xは、Fであり、及びR’’は、-CFCF(MOVE1)、-CFCFOCF(MOVE2)又は-CF(MOVE3)である)
を有する(パー)フルオロ-メトキシ-ビニルエーテル(以下ではMOVE)
を含む、好ましくはこれらからなる群において選択される、請求項1又は2に記載の組成物(C)。
【請求項4】
VDFと異なる前記少なくとも1種の(パー)フッ素化モノマーは、HFPである、請求項3に記載の組成物(C)。
【請求項5】
フルオロエラストマー(A)は、
- フッ素を含まない1種以上のモノマーから誘導される繰り返し単位、
- 一般式:
【化6】
(式中、R、R、R、R、R及びRは、互いに等しいか又は異なり、H、ハロゲン又は1つ以上の酸素基を場合により含むC~Cの任意選択的にハロゲン化された基であり、Zは、酸素原子を任意選択的に含有する直鎖若しくは分枝鎖のC~C18の任意選択的にハロゲン化されたアルキレン若しくはシクロアルキレン基又は(パー)フルオロポリオキシアルキレン基である)
を有する少なくとも1種のビス-オレフィン[ビス-オレフィン(OF))から誘導される繰り返し単位、
- VDF及びHFPと異なる少なくとも1種の(パー)フッ素化モノマーから誘導される繰り返し単位
の1つ以上を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物(C)。
【請求項6】
フルオロエラストマー(A)は、以下のモノマー組成(モル%単位):
(i)フッ化ビニリデン(VDF)35~85%、ヘキサフルオロプロペン(HFP)10~45%、テトラフルオロエチレン(TFE)0~30%、パーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)0~15%、ビス-オレフィン(OF)0~5%、
(ii)フッ化ビニリデン(VDF)50~80%、パーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)5~50%、テトラフルオロエチレン(TFE)0~20%、ビス-オレフィン(OF)0~5%、
(iii)フッ化ビニリデン(VDF)20~30%、C~C非フッ素化オレフィン(Ol)10~30%、ヘキサフルオロプロペン(HFP)及び/又はパーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)18~27%、テトラフルオロエチレン(TFE)10~30%、ビス-オレフィン(OF)0~5%、
(iv)テトラフルオロエチレン(TFE)45~65%、C~C非フッ素化オレフィン(Ol)20~55%、フッ化ビニリデン0.1~30%、ビス-オレフィン(OF)0~5%、
(v)テトラフルオロエチレン(TFE)33~75%、パーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)15~45%、フッ化ビニリデン(VDF)5~30%、ヘキサフルオロプロペンHFP 0~30%、ビス-オレフィン(OF)0~5%、
(vi)フッ化ビニリデン(VDF)35~85%、フルオロビニルエーテル(MOVE)5~40%、パーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)0~30%、テトラフルオロエチレン(TFE)0~40%、ヘキサフルオロプロペン(HFP)0~30%、ビス-オレフィン(OF)0~5%
を有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物(C)。
【請求項7】
前記少なくとも1種の酸(OA)は、
- 少なくとも1つの芳香族環及び前記芳香族環にシグマ結合を介して連結されている少なくとも1つの酸基、及び/又は
- 前記酸基に対してパラ位にある1つの電子供与性基
を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物(C)。
【請求項8】
前記酸基は、-COOH又は-SOH、より好ましくは-SOHから選択される、請求項7に記載の組成物(C)。
【請求項9】
前記電子供与性基は、好ましくは、-CH及び-CHCHから選択されるC1~C5アルキル基である、請求項7又は8に記載の組成物(C)。
【請求項10】
前記少なくとも1種の酸(OA)は、少なくとも1つの芳香族環と、前記芳香族環にシグマ結合を介して連結されている少なくとも1つの酸-SOH基と、前記酸基に対してパラ位にある、-CH及び-CHCHから選択される1つの電子供与性基とを含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物(C)。
【請求項11】
前記少なくとも1種の酸(OA)は、p-トルエンスルホン酸である、請求項1~10のいずれか一項に記載の組成物(C)。
【請求項12】
前記少なくとも1種の酸(OA)は、フルオロエラストマー(A)の100phrを基準として0.30~2.10phrの量である、請求項1~11のいずれか一項に記載の組成物(C)。
【請求項13】
式(P-1)~(P-12)における前記アニオンAは、アリールスルホネート及びハライド(ヨージド、ブロミド、クロリド)からなる群から選択される、請求項1~12のいずれか一項に記載の組成物(C)。
【請求項14】
- 好ましくは有機塩基、無機塩基又は少なくとも1種の有機塩基と少なくとも1種の無機塩基との混合物を含む群において選択される少なくとも1種の塩基性化合物[塩基(B)]、及び/又は
- 好ましくは極性非プロトン性有機溶媒及びイオン液体を含む群において選択される1種以上の有機溶媒[溶媒(S)]、
- 好ましくは強化充填材、増粘剤、顔料、酸化防止剤、安定剤を含む群において選択される1種以上の従来の添加剤
を更に含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の組成物(C)。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか一項に記載の組成物(C)の使用を含む、成形物品を製造する方法。
【請求項16】
請求項1~14のいずれか一項に記載の組成物(C)から得られる硬化物品。
【請求項17】
パイプ、継手、Oリング、ホースから選択される、請求項16に記載の硬化物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2021年10月14日に出願された欧州特許出願公開第21202584.5号からの優先権を主張し、その全内容は、あらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、フルオロエラストマー硬化性組成物、それを硬化させる方法及びそれから得られる硬化物品に関する。
【背景技術】
【0003】
加硫処理したフルオロエラストマーは、耐熱性、耐化学薬品性、耐候性などのいくつかの望ましい特性のため、様々な用途において、特にオイルシール、ガスケット、シャフトシール、Oリングなどのシーリング品の製造のために使用されてきた。
【0004】
それにもかかわらず、「重合したままの」フルオロエラストマーは、最終部品で示されるべき必要なシーリング及び機械的特性を確保するために硬化/架橋プロセス(いわゆる「加硫」)を受ける必要がある。
【0005】
期待される性能を発揮することができる三次元硬化構造を確実に形成するために、いくつかの技術が開発されてきた。その基礎となる化学は、一般的に、フルオロエラストマーポリマー鎖間を連結するための架橋剤を必要とする。使用される架橋剤の性質及び反応性は、架橋系のカテゴリー化を可能にする。最も広く使用される系は、鎖中の酸性水素原子の置換による、塩基性化合物及びオニウム促進剤の存在下での「イオン」化学によって反応するポリヒドロキシ芳香族化合物(典型的にはビスフェノール類)に基づくか、鎖中の不安定な基(典型的にはヨウ素原子又は臭素原子)の置換による、過酸化物の存在下でのラジカル化学によって反応するポリ不飽和化合物に基づくかのいずれかである。
【0006】
フルオロエラストマーの全体性能は、フルオロエラストマー自体の性質、分子構造及び組成に依存するであろうことが認められるが、それにもかかわらず、架橋の化学がそれに大きい影響を及ぼす可能性があることは、真実である。そのため、当技術分野では、代替化学に基づいて、優れた架橋能力、したがって硬化部品のシール性能を実現し、その結果、上述したものよりも安全且つ安価であり、従来技術のイオン又は過酸化物による架橋系の欠点を回避することができる代替の改良された架橋系が継続的に追求されている。
【0007】
特に、国際公開第2016/180660号パンフレット(Solvay Specialty Polymers Italy S.p.A.名義で2016年11月17日に公開)は、少なくとも1種のフルオロエラストマー(A)と、少なくとも1種の塩基(B)と、反応性水素を有する四級化窒素原子に対してオルト位又はパラ位に少なくとも2つの基を有する少なくとも1種のピリジニウム型塩(P)とを含むフルオロエラストマー組成物を開示している。この特許出願は、特にp-トルエンスルホネートで塩の形態にされた芳香族環四級化窒素原子を含むいくつかのピリジニウム型塩を開示している。
【0008】
より最近では、上記ピリジウム塩(P)は、ビスフェノール硬化のためのフルオロエラストマー組成物の成分として且つ高歩留まりであり、モールドを実質的に汚さず、膨れ及びバリを大幅に低減させながら、優れた成型及び脱型性能を付与するのに有用なものとして、国際公開第2020/188125号パンフレット(Solvay Specialty Polymers Italy S.p.A.名義で2020年9月24日に公開)に開示されている。
【発明の概要】
【0009】
本出願人は、上記の特許出願で開示された、反応性水素を有する四級化窒素原子に対してオルト位又はパラ位に少なくとも2つの基を有する少なくとも1種のピリジニウム型塩(P)を含む(パー)フルオロエラストマー組成物の硬化性能が射出成形による硬化物品の製造に最適でないことに注目した。
【0010】
いかなる理論にも拘束されるものではないが、本出願人は、特に上で引用した国際公開第2016/180660号パンフレットに開示されたエラストマー組成物が射出成形プロセスの開始時に速すぎるトルク増加を示し、これが最適な硬化プロセスにとって望ましくないことに注目した。
【0011】
そのため、少なくとも1種のピリジニウム型塩を含む(パー)フルオロエラストマー組成物を使用する際、引用したプロセスを改善するという技術的課題に直面して、本出願人は、驚くべきことに、選択された量の有機芳香族酸を含む組成物が射出成形プロセスの開始時におけるトルクの増加を制御すること、より正確には遅くすることを可能にし、その結果、硬化プロセスを改善し、優れた機械的特性を有する硬化したエラストマー組成物を提供することを見出した。
【0012】
したがって、第1の実施形態では、本発明は、フルオロエラストマー組成物[組成物(C)]であって、
- フッ化ビニリデン(VDF)及びVDFと異なる少なくとも1種の更なる(パー)フッ素化モノマーから誘導される繰り返し単位を含む少なくとも1種のフッ化ビニリデン系フルオロエラストマー[フルオロエラストマー(A)]と、
- フルオロエラストマー(A)の100phrを基準として0.30~2.5phrの少なくとも1種の有機芳香族酸[酸(OA)]であって、少なくとも1つの芳香族環と、前記芳香族環にシグマ結合又は連結基を介して連結されている少なくとも1つの酸基とを含む化合物であるが、但し、酸基が-COOHである場合、芳香族環は、前記酸基に対してパラ位又はメタ位に-OH基を含まないことを条件とする、少なくとも1種の有機芳香族酸[酸(OA)]と、
- 少なくとも1種のピリジニウム塩[塩(P)]であって、式(P1)~(P-12):
【化1】
【化2】
(式中、
- J及びJ’のそれぞれは、互いに等しいか又は異なり、独立して出現ごとに、C-R又はNであり、Rは、H又はC~C12炭化水素基であり、
- Eは、N又は式C-R°の基であり、
- Zは、1~12個の炭素原子を含む二価の炭化水素基であり、
- Wは、結合であるか、又は1~12個の炭素原子を含む二価の炭化水素基(好ましくは1~6個の炭素原子を含む二価の脂肪族基)及び1~12個の炭素原子を含む二価のフルオロカーボン基(好ましくは1~6個の炭素原子を含む二価のパーフルオロ脂肪族基)からなる群から選択される架橋基であり、
- 式(P-11)及び(P-12)における記号:
【化3】
で略記された基は、環において、1つ以上の更なる窒素原子、任意選択的に四級化窒素原子を含み得るピリジニウム型芳香族環に縮合された芳香族単核又は多核環を示し、
- R 、R 、R 、R 、R 、R 、R 、R 、R 、R10 、R11 、R12 、R13 、R14 、R15 、R16 、R17 、R18 、R19 、R20 、R21 、R22 、R23 、R24 、R25 、R26 、R27 、R28 H、29 、R30 、R31 、R32 、R33 、R34 、R35 、R36 及びR°のそれぞれは、互いに等しいか又は異なり、独立して出現ごとに、-H又は式:
【化4】
(式中、R及びRは、互いに等しいか又は異なり、独立して、H又は炭化水素C~C基である)
の基[基(α-H)]であり、
- Yは、互いに等しいか又は異なり、独立して、酸素又はN、O、S及びハロゲンから選択される1つ以上のヘテロ原子を含み得る、とりわけ脂肪族基若しくは芳香族基であり得るC~C12炭化水素基であり、
- A(m-)は、m価のアニオンであり、
但し、
(i)塩(P)が式(P-1)のものである場合、R 、R 及びR°の少なくとも2つは、基(α-H)であり、
(ii)塩(P)が式(P-2)のものである場合、R 及びR は、基(α-H)であり、
(iii)塩(P)が式(P-3)のものである場合、R 、R 、R 及びR の少なくとも2つは、基(α-H)であり、
(iv)塩(P)が式(P-4)のものである場合、R 、R10 、R11 、R12 及びR°の少なくとも2つは、基(α-H)であり、
(v)塩(P)が式(P-5)のものである場合、R13 、R14 及びR°の少なくとも2つは、基(α-H)であり、
(vi)塩(P)が式(P-6)のものである場合、R15 、R16 、R17 及びR°の少なくとも2つは、基(α-H)であり、
(vii)塩(P)が式(P-7)のものである場合、R18 、R19 、R20 、R21 及びR°の少なくとも2つは、基(α-H)であり、
(viii)塩(P)が式(P-8)のものである場合、R22 、R23 、R24 及びR°の少なくとも2つは、基(α-H)であり、
(ix)塩(P)が式(P-9)のものである場合、R25 、R26 、R27 及びR28 の少なくとも2つは、基(α-H)であり、
(x)塩(P)が式(P-10)のものである場合、R29 、R30 、R31 、R32 及びR28 の少なくとも2つは、基(α-H)であり、
(xi)塩(P)が式(P-11)のものである場合、R33 、R34 及びR28 の少なくとも2つは、基(α-H)であり、
(xii)塩(P)が式(P-12)のものである場合、R35 、R36 及びR°の少なくとも2つは、基(α-H)であることを条件とする)
のいずれかに従う少なくとも1種のピリジニウム塩[塩(P)]と
を含むフルオロエラストマー組成物[組成物(C)]に関する。
【0013】
第2の実施形態では、本発明は、上述した組成物(C)の使用を含む、成形物品を製造する方法に関する。
【0014】
第3の実施形態では、本発明は、上述した組成物(C)から得られる硬化物品にも関する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】ムービングダイレオメーター(MDR)によって特性評価した、比較例1C(*)並びに本発明による実施例4及び5の、170℃における硬化挙動を表すチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の目的のために、用語「フルオロエラストマー」[フルオロエラストマー(A)]は、真のエラストマーを得るためのベース構成成分としての機能を果たすフルオロポリマー樹脂を示すことを意図し、前述のフルオロポリマー樹脂は、10重量%超、好ましくは30重量%超の、少なくとも1つのフッ素原子を含む少なくとも1種のエチレン性不飽和モノマー(以下では(パー)フッ素化モノマー)から誘導される繰り返し単位と、任意選択的に、フッ素原子を含まない少なくとも1種のエチレン性不飽和モノマー(以下では水素化モノマー)から誘導される繰り返し単位とを含む。
【0017】
真のエラストマーは、ASTM、Special Technical Bulletin、第184規格により、室温でそれらの固有長さの2倍に伸長することができ、それらを5分間張力下に保持した後解放すると、同時にそれらの初期長さの10%以内に戻る材料として定義されている。
【0018】
本発明の第1の目的は、フルオロエラストマー組成物[組成物(C)]であって、
- フッ化ビニリデン(VDF)及びVDFと異なる少なくとも1種の更なる(パー)フッ素化モノマーから誘導される繰り返し単位を含む少なくとも1種のフッ化ビニリデン系フルオロエラストマー[フルオロエラストマー(A)]と、
- フルオロエラストマー(A)の100phrを基準として0.30~2.50phrの少なくとも1種の有機芳香族酸[酸(OA)]であって、少なくとも1つの芳香族環と、前記芳香族環にシグマ結合又は連結基を介して連結されている少なくとも1つの酸基とを含む化合物であるが、但し、酸基が-COOHである場合、芳香族環は、前記酸基に対してパラ位又はメタ位に-OH基を含まないことを条件とする、少なくとも1種の有機芳香族酸[酸(OA)]と、
- 上で詳述した式(P1)~(P-12)のいずれかに従う少なくとも1種のピリジニウム塩[塩(P)]と
を含むフルオロエラストマー組成物[組成物(C)]である。
【0019】
組成物は、いかなるポリヒドロキシ芳香族化合物架橋剤も含まなくてよい。組成物は、典型的には、ビスフェノール架橋剤を含まなくてよい。
【0020】
フルオロエラストマー(A)は、通常、非晶質生成物、即ち低い結晶化度(20体積%未満の結晶相)及び室温未満のガラス転移温度(T)を有する生成物である。ほとんどの場合、フルオロエラストマー(A)は、有利には、10℃未満、好ましくは5℃未満、より好ましくは0℃未満、更により好ましくは-5℃未満のTを有する。
【0021】
フルオロエラストマー(A)は、典型的には、フルオロエラストマーの全繰り返し単位に対して少なくとも15モル%、好ましくは少なくとも20モル%、より好ましくは少なくとも35モル%の、VDFから誘導される繰り返し単位を含む。
【0022】
フルオロエラストマー(A)は、典型的には、フルオロエラストマーの全繰り返し単位に対して最大で85モル%、好ましくは最大で80モル%、より好ましくは最大で78モル%の、VDFから誘導される繰り返し単位を含む。
【0023】
VDFと異なる好適な(パー)フッ素化モノマーの非限定的な例は、とりわけ、
(a)テトラフルオロエチレン(TFE)及びヘキサフルオロプロピレン(HFP)などのC~Cパーフルオロオレフィン、
(b)フッ化ビニル(VF)、トリフルオロエチレン(TrFE)、式CH=CH-R(式中、Rは、C~Cパーフルオロアルキル基である)のパーフルオロアルキルエチレンなど、VDFと異なる水素含有C~Cオレフィン、
(c)クロロトリフルオロエチレン(CTFE)などのC~Cクロロ、及び/又はブロモ、及び/又はヨード-フルオロオレフィン、
(d)式CF=CFOR(式中、Rは、C~C(パー)フルオロアルキル基、例えばCF、C、Cである)の(パー)フルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)、
(e)式CF=CFOX(式中、Xは、カテナリー酸素原子を含むC~C12((パー)フルオロ)-オキシアルキル、例えばパーフルオロ-2-プロポキシプロピル基である)の(パー)フルオロ-オキシ-アルキルビニルエーテル、
(f)式:
【化5】
(式中、Rf3、Rf4、Rf5、Rf6のそれぞれは、互いに等しいか又は異なり、独立して、フッ素原子、任意選択的に1つ以上の酸素原子を含むC~Cフルオロ又はパー(ハロ)フルオロアルキル、例えば-CF、-C、-C、-OCF、-OCFCFOCFである)
を有する(パー)フルオロジオキソール、
(g)式:
CFX=CXOCFOR’’
(式中、R’’は、直鎖又は分枝鎖のC~C(パー)フルオロアルキル、C~C環状(パー)フルオロアルキル及び1~3個のカテナリー酸素原子を含む直鎖又は分枝鎖のC~C(パー)フルオロオキシアルキルの中から選択され、及びX=F、Hであり、好ましくは、Xは、Fであり、及びR’’は、-CFCF(MOVE1)、-CFCFOCF(MOVE2)又は-CF(MOVE3)である)
を有する(パー)フルオロ-メトキシ-ビニルエーテル(以下ではMOVE)
である。
【0024】
一般に、フルオロエラストマー(A)は、VDFから誘導される繰り返し単位と、HFPから誘導される繰り返し単位とを含むであろう。
【0025】
フルオロエラストマー(A)は、任意選択的に、フッ素を含まない1種以上のモノマー(以下では水素化モノマー)から誘導される繰り返し単位を更に含み得る。水素化モノマーの例は、とりわけ、C~C非フッ素化オレフィン(Ol)、特にエチレン、プロピレン、1-ブテンなどのC~C非フッ素化α-オレフィン(Ol)、ジエンモノマー、スチレンモノマー、C~C非フッ素化α-オレフィン(Ol)であり、より具体的には、エチレン及びプロピレンは、塩基への増加した耐性を達成するために選択されるであろう。
【0026】
任意選択的に、フルオロエラストマー(A)は、一般式:
【化6】
(式中、R、R、R、R、R及びRは、互いに等しいか又は異なり、H、ハロゲン又は場合により1つ以上の酸素基を含むC~Cの任意選択的にハロゲン化された基であり、Zは、酸素原子を任意選択的に含む、直鎖若しくは分枝鎖のC~C18の任意選択的にハロゲン化されたアルキレン若しくはシクロアルキレン基又は例えば欧州特許出願公開第661304A号明細書(AUSIMONT SPA)1995年7月5日に記載されているような(パー)フルオロポリオキシアルキレン基である)
を有する少なくとも1種のビス-オレフィン[ビス-オレフィン(OF)]から誘導される繰り返し単位を含み得る。
【0027】
ビス-オレフィン(OF)は、式(OF-1)、(OF-2)及び(OF-3):
(OF-1)
【化7】
(式中、jは、2~10、好ましくは4~8の整数であり、R1、R2、R3、R4は、互いに等しいか又は異なり、H、F又はC1~5アルキル又は(パー)フルオロアルキル基である)、
(OF-2)
【化8】
(式中、Aのそれぞれは、互いに及び出現ごとに等しいか又は異なり、F、Cl及びHから独立して選択され、Bのそれぞれは、互いに及び出現ごとに等しいか又は異なり、F、Cl、H及びORから独立して選択され、Rは、部分的に、実質的に又は完全にフッ素化又は塩素化され得る分岐鎖又は直鎖アルキル基であり、Eは、エーテル結合が挿入され得る、任意選択的にフッ素化された、2~10個の炭素原子を有する二価基であり、好ましくは、Eは、mが3~5の整数である-(CF-基であり、(OF-2)型の好ましいビス-オレフィンは、FC=CF-O-(CF-O-CF=CFである)、
(OF-3)
【化9】
(式中、E、A及びBは、上で定義されたものと同じ意味を有し、R5、R6、R7は、互いに等しいか又は異なり、H、F又はC1~5アルキル又は(パー)フルオロアルキル基である)
に従うものからなる群から好ましくは選択される。
【0028】
本発明の組成物に適切なフルオロエラストマー(A)は、VDF及びHFPから誘導される繰り返し単位に加えて、
- 上に詳述された少なくとも1種のビス-オレフィン[ビス-オレフィン(OF)]から誘導される繰り返し単位、
- VDF及びHFPと異なる少なくとも1種の(パー)フッ素化モノマーから誘導される繰り返し単位、及び
- 少なくとも1種の水素化モノマーから誘導される繰り返し単位
の1つ以上を含み得る。
【0029】
本発明の目的に適するフルオロエラストマー(A)の具体的なモノマー組成物の中でも、以下のモノマー組成(モル%単位):
(i)フッ化ビニリデン(VDF)35~85%、ヘキサフルオロプロペン(HFP)10~45%、テトラフルオロエチレン(TFE)0~30%、パーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)0~15%、ビス-オレフィン(OF)0~5%、
(ii)フッ化ビニリデン(VDF)50~80%、パーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)5~50%、テトラフルオロエチレン(TFE)0~20%、ビス-オレフィン(OF)0~5%、
(iii)フッ化ビニリデン(VDF)20~30%、C~C非フッ素化オレフィン(Ol)10~30%、ヘキサフルオロプロペン(HFP)及び/又はパーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)18~27%、テトラフルオロエチレン(TFE)10~30%、ビス-オレフィン(OF)0~5%、
(iv)テトラフルオロエチレン(TFE)45~65%、C~C非フッ素化オレフィン(Ol)20~55%、フッ化ビニリデン0.1~30%、ビス-オレフィン(OF)0~5%、
(v)テトラフルオロエチレン(TFE)33~75%、パーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)15~45%、フッ化ビニリデン(VDF)5~30%、ヘキサフルオロプロペンHFP 0~30%、ビス-オレフィン(OF)0~5%、
(vi)フッ化ビニリデン(VDF)35~85%、フルオロビニルエーテル(MOVE)5~40%、パーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)0~30%、テトラフルオロエチレン(TFE)0~40%、ヘキサフルオロプロペン(HFP)0~30%、ビス-オレフィン(OF)0~5%
を有するフルオロエラストマーを挙げることができる。
【0030】
有機芳香族酸[酸(OA)]は、少なくとも1つの芳香族環と、前記芳香族環にシグマ結合又は連結基を介して連結されている少なくとも1つの酸基とを含む化合物であるが、但し、酸基が-COOHである場合、芳香族環は、前記酸基に対してパラ位又はメタ位に-OH基を含まないことを条件とする。
【0031】
好ましくは、前記酸基は、シグマ結合を介して前記芳香族環に連結される。
【0032】
好ましくは、前記酸基は、-COOH又は-SOHから選択される。より好ましくは、前記酸基は、-SOHである。
【0033】
したがって、特定の実施形態では、本発明は、
- 少なくとも1種のフルオロエラストマー(A)と、
- フルオロエラストマー(A)の100phrを基準として0.30~2.50phrの少なくとも1種の有機芳香族酸[酸(OA)]であって、少なくとも1つの芳香族環と、前記芳香族環にシグマ結合又は連結基を介して連結されている少なくとも1つの酸-SOH基とを含む化合物である有機芳香族酸[酸(OA)]と、
- 上で詳述した少なくとも1種の塩(P)と
を含むフルオロエラストマー組成物である。
【0034】
好ましくは、有機芳香族酸[酸(OA)]は、前記酸基に対してパラ位に1つの電子供与性基(電子放出性基とも呼ばれる)を含む。
【0035】
より好ましくは、前記電子供与性基は、C1~C5アルキル、例えば-CH、-CHCH及び-OHから選択され、最も好ましくは、電子供与性基は、C1~C5アルキル、好ましくは-CH及び-CHCHから選択される。
【0036】
更に好ましくは、前記酸(OA)は、p-トルエンスルホン酸から選択される。
【0037】
有利には、組成物(C)は、フルオロエラストマー(A)の100重量部当たり0.30~2.20重量部(phr)、更にフルオロエラストマー(A)の100phr当たり0.30~2.10phr、更にフルオロエラストマー(A)の100phr当たり0.30~2.00phrの量の酸(OA)を含む。
【0038】
フルオロエラストマー(A)の100phr当たり0.30~1.00phr、好ましくは0.30~0.80phrの量のp-トルエンスルホン酸で良好な結果が得られた。
【0039】
式(P-1)の好ましい塩(P)は、式(P-1-a)~(P-1-e):
【化10】
(式中、
- R及びRは、上に定義された意味を有し、好ましくは、R及びRは、Hであり、
- Yは、上に定義された意味を有し、好ましくは、Yは、メチルであり、
- R及びRのそれぞれは、互いに等しいか又は異なり、H又はC~C12炭化水素基であり、
- A及びmは、上に定義された意味を有する)
に従うものである。
【0040】
より好ましくは、式(P-1)の塩(P)は、式(P-1-g)~(P-1-p):
【化11】
(式中、A及びmは、上に定義された意味を有する)
のいずれかを有するものである。
【0041】
式(P-2)の好ましい塩(P)は、式(P-2-a):
【化12】
(式中、
- R及びRは、上に定義された意味を有し、好ましくは、R及びRは、Hであり、
- Yは、上に定義された意味を有し、好ましくは、Yは、メチルであり、
- R及びRのそれぞれは、互いに等しいか又は異なり、H又はC~C12炭化水素基であり、
- A及びmは、上に定義された意味を有する)
に従うものである。
【0042】
より好ましくは、式(P-2)の塩(P)は、式(P-2-b):
【化13】
(式中、A及びmは、上に定義された意味を有する)
を有するものである。
【0043】
式(P-3)の好ましい塩(P)は、式(P-3-a):
【化14】
(式中、
- R及びRは、上に定義された意味を有し、好ましくは、R及びRは、Hであり、
- Yは、上に定義された意味を有し、好ましくは、Yは、メチルであり、
- A及びmは、上に定義された意味を有する)
に従うものである。
【0044】
より好ましくは、式(P-3)の塩(P)は、式(P-3-b):
【化15】
(式中、A及びmは、上に定義された意味を有する)
を有するものである。
【0045】
式(P-4)の好ましい塩(P)は、式(P-4-a):
【化16】
(式中、
- R及びRは、上に定義された意味を有し、好ましくは、R及びRは、Hであり、
- wは、1~12、好ましくは1~6の整数であり、最も好ましくは3に等しく、
- A及びmは、上に定義された意味を有する)
に従うものである。
【0046】
より好ましくは、式(P-4)の塩(P)は、式(P-4-b)又は(P-4-c):
【化17】
(式中、A及びmは、上に定義された意味を有し、w=3である)
を有するものである。
【0047】
式(P-5)の好ましい塩(P)は、式(P-5-a):
【化18】
(式中、
- R及びRは、上に定義された意味を有し、好ましくは、R及びRは、Hであり、
- Yは、上に定義された意味を有し、好ましくは、Yは、メチルであり、
- A及びmは、上に定義された意味を有する)
に従うものである。
【0048】
より好ましくは、式(P-5)の塩(P)は、式(P-5-b)又は(P-5-c):
【化19】
(式中、A及びmは、上に定義された意味を有する)
を有するものである。
【0049】
式(P-11)の好ましい塩(P)は、式(P-11-a):
【化20】
(式中、
- R及びRは、上に定義された意味を有し、好ましくは、R及びRは、Hであり、
- Yは、上に定義された意味を有し、好ましくは、Yは、メチルであり、
- A及びmは、上に定義された意味を有する)
に従うものである。
【0050】
より好ましくは、式(P-11)の塩(P)は、式(P-11-b):
【化21】
(式中、A及びmは、上に定義された意味を有する)
を有するものである。
【0051】
式(P-12)の好ましい塩(P)は、式(P-12-a):
【化22】
(式中、
- R及びRは、上に定義された意味を有し、好ましくは、R及びRは、Hであり、
- Yは、上に定義された意味を有し、好ましくは、Yは、メチルであり、
- A及びmは、上に定義された意味を有する)
に従うものである。
【0052】
より好ましくは、式(P-12)の塩(P)は、式(P-12-b):
【化23】
(式中、A及びmは、上に定義された意味を有する)
を有するものである。
【0053】
式(P-1)~(P-12)におけるアニオンAの選択は、特に決定的に重要であるわけではないが、それにもかかわらず、アリールスルホネート、特にトシレート(p-トルエンスルホネート)、フッ素を含まないアルキルスルホネート、例えばメシレート(メタンスルホネート)及びフッ素含有(とりわけパーフッ素化)アルキルスルホネート、例えばトリフレート(トリフルオロメタンスルホネート)など、C~C(フルオロ)アルキル鎖を有する(フルオロアルキルスルホネート、ハライド(ヨージド、ブロミド、クロリド)からなる群から選択されるアニオンが、合成上の観点からそれらの即座の入手可能性のために特に好ましいことが理解される。
【0054】
まとめて、本発明の組成物に特に有用であることが分かった例示的な化合物は、以下に列挙された式(Ex-1)~(Ex-9)を有するものである。
【化24】
【0055】
本発明の組成物は、通常、フルオロエラストマー(A)の100phr当たり少なくとも0.1、好ましくは少なくとも0.5、より好ましくは少なくとも1phrの量の塩(P)を含む。
【0056】
本発明の組成物は、通常、フルオロエラストマー(A)の100phr当たり最大で20、好ましくは最大で15、より好ましくは最大で10phrの量の塩(P)を含む。
【0057】
任意選択的には、本発明の組成物(C)は、少なくとも1種の塩基性化合物[塩基(B)]を含む。
【0058】
本発明の組成物(C)における使用に適した塩基(B)は、特に限定されない。
【0059】
塩基(B)は、有機塩基、無機塩基又は少なくとも1種の有機塩基と少なくとも1種の無機塩基との混合物から選択され得る。
【0060】
無機塩基[塩基(IB)]の中でも、とりわけ、
(i)二価の金属酸化物、特にアルカリ土類金属の酸化物又はZn、Mg、Pb、Caの酸化物、具体的にはMgO、PbO及びZnOなど、
(ii)金属の水酸化物、特に一価及び二価の金属の水酸化物、具体的にはアルカリ及びアルカリ土類金属の水酸化物、特にCa(OH)、Sr(OH)及びBa(OH)からなる群から選択される水酸化物、
(iii)3よりも高いpKを有する弱酸の金属塩、特に炭酸塩、安息香酸塩、シュウ酸塩及び亜リン酸塩からなる群から選択される弱酸の金属塩、特に炭酸、安息香酸、シュウ酸及び亜リン酸のNa塩、K塩、Ca塩、Sr塩、Ba塩
を挙げることができる。
【0061】
無機塩基の中でも、Ca(OH)が特に有効であることが見出された。
【0062】
有機塩基[塩基(OB)]の中でも、とりわけ、
(j)一般式(B1m)又は(B1d)に従う非芳香族アミン又はアミド:
bm-[C(O)]-NR (B1m)
N-[C(O)]t’-Rdm-[C(O)]t’’-NR (B1d)
(式中、
- t、t’及びt’’のそれぞれは、互いに及び出現ごとに等しいか又は異なり、ゼロ又は1であり、
- Rのそれぞれは、独立して、H又はC~C12炭化水素基であり、
- Rbmは、1~30個の炭素原子を有する一価の炭化水素非芳香族基であり、
- Rbmは、1~30個の炭素原子を有する二価の炭化水素非芳香族基である)、及び
(jj)一般式(B2m)又は(B2d)に従う脂環式2級又は3級アミン:
【化25】
(式中、
- Cyは、少なくとも4個の炭素原子を含み、任意選択的に1つ以上のエチレン性不飽和二重結合を含み、任意選択的に1つ以上のカテナリー窒素原子を含む二価の脂肪族基であって、それに結合されている窒素原子と環を形成する二価の脂肪族基を表し、
- Cy’は、少なくとも5個の炭素原子を含み、任意選択的に1つ以上のエチレン性不飽和二重結合を含み、任意選択的に1つ以上のカテナリー窒素原子を含む三価の脂肪族基であって、それに結合されている窒素原子と環を形成する三価の脂肪族基を表す)、
(jjj)一般式(B3)に従う芳香族アミン又はアミド:
Ar-{[C(O)]-NR (B3)
(式中、
- tは、互いに及び出現ごとに等しいか又は異なり、ゼロ又は1であり、
- wは、1~4の整数であり、
- Rのそれぞれは、独立して、H又はC~C12炭化水素基であり、
- Arは、S及びOからなる群から選択される1つ以上のカテナリーヘテロ原子を場合により含む単核又は多核芳香族基である)、
(jv)ヘテロ芳香族環に含まれる少なくとも1つの窒素原子を含むヘテロ芳香族アミン、特にピリジン誘導体、好ましくはトリメチルピリジン異性体、
(v)式(B4)又は(B5)のグアニジン誘導体:
【化26】
(式中、
- R、R、R、R、R、R、R及びRのそれぞれは、互いに等しいか又は異なり、独立して、H又はC~C12炭化水素基である)
のグアニジン誘導体並びに前記グアニジン(B4)及び(B5)の対応する塩、特に対応するN-四級化ハロゲン化水素塩(好ましくは塩酸塩)、
(vj)金属アルコキシレート、好ましくは脂肪族アルコールのアルコキシレート、より好ましくはカリウムtertブチレート、ナトリウムエトキシド及びナトリウムメトキシド
を挙げることができる。
【0063】
式(B1m)及び(B1d)の塩基の中でも、
- Rbmが、場合により1つ以上のエチレン性不飽和二重結合を含む、6~30個の炭素原子を有する一価の脂肪族直鎖基であり、
- Rdmが、場合により1つ以上のエチレン性不飽和二重結合を含む、6~30個の炭素原子を有する二価の脂肪族直鎖基である
ものが特に好ましい。
【0064】
一般式(B3)に従う前記非芳香族アミン又はアミドの中でも、
- 式CH(CH17-NHのオクタデシルアミン、
- 式HN-C(O)-(CH11-CH=CH-(CHCHのエルカアミド、
- 式HN-C(O)-(CH-CH=CH-(CHCHのオレアミド、
- 式HN-(CH-NHのヘキサメチレンジアミン、
- N,N-ジメチルオクチルアミン、
- N,N-ジメチルドデシルアミン、
- トリオクチルアミン、
- トリヘキシルアミン
を特に挙げることができる。
【0065】
一般式(B2m)又は(B2d)に従う前記脂環式二級又は三級アミンの中でも、以下の式:
【化27】
の1,8-ジアザビシクロウンデカ-7-エン(DBU)を挙げることができる。
【0066】
式(B-4)の前述のグアニジン誘導体の例示的実施形態は、とりわけ、グアニジン塩酸塩及びジ-o-トリルグアニジンである。
【0067】
塩基(B)の量は、使用される塩基(B)の性質及び塩基性を考慮に入れて当業者によって調整されるであろう。
【0068】
それにもかかわらず、組成物(C)は、一般に、フルオロエラストマー(A)の100重量部当たり0.2~20、好ましくは6~16重量部の前述の塩基(B)(有機及び/又は無機、上で詳述)を含むことが理解される。
【0069】
特定の好ましい実施形態によれば、組成物(C)は、少なくとも1種の有機塩基と少なくとも1種の無機塩基とを含む。
【0070】
これらの状況では、組成物(C)は、通常、0.1~10重量部、好ましくは6~16重量部の前記無機塩基を含み、且つ/又は通常0.1~10重量部、好ましくは6~16重量部の前記有機塩基を含み、これらの重量部は、フルオロエラストマー(A)の100重量部に対して言及される。
【0071】
組成物(C)は、1種以上の有機溶媒[溶媒(S)]を更に含み得る。
【0072】
前記有機溶媒は、好ましくは、使用される塩(P)が1g/lを超える、より好ましくは10g/lを超える溶解度を室温で有するものから選択される。
【0073】
使用することができる溶媒(S)の非限定的な例は、とりわけ、
- スルホラン、4,4’-ジクロロジフェニルスルホンからなる群から好ましくは選択される、極性の非プロトン性有機溶媒、
- 式PY1,4-TfNのメチルピロリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニルイミド)及び式BMIm-TfNの1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニルイミド):
【化28】
からなる群から好ましくは選択されるイオン液体
である。
【0074】
強化充填材(例えば、カーボンブラック)、増粘剤、顔料、酸化防止剤、安定剤などの他の従来の添加剤も組成物(C)に添加することができる。
【0075】
本発明は、成形物品を製造するために、上述した組成物(C)を使用する方法にも関する。
【0076】
組成物(C)は、例えば、成形(射出成形、押出し成形)、カレンダー加工又は押出しにより、所望の成形物品に加工され得、これは、有利には、それ自体の加工中及び/又は後続工程(後処理又は後硬化)において、相対的に柔らかく弱いフルオロエラストマー(A)を、非粘着性の、強固な、不溶性の耐化学薬品性及び耐熱性を有する硬化したフルオロエラストマー製の完成品に有利に変換させる加硫(硬化)を受ける。
【0077】
最後に、本発明は、上で詳述した組成物(C)から得られる硬化物品に関する。
【0078】
硬化物品は、とりわけ、パイプ、継手、Oリング、ホースなどであり得る。
【0079】
ここで、本発明を以下の実施例に関連して説明するが、その目的は、単に例示的なものであるにすぎず、本発明の範囲を限定することを意図しない。
【実施例
【0080】
材料
Solvay Specialty Polymers Italy S.p.A.からTECNOFLON(登録商標)90HSという商品名で販売されているVDF-HFPコポリマー(以下ではFKM-1)をベースフルオロエラストマーとして使用した。
【0081】
MAGLITE(登録商標)DE高表面積、高活性酸化マグネシウム(以下ではMgO)は、Merckから入手した。
【0082】
RHENOFIT(登録商標)CF(GE 1890)水酸化カルシウム(以下ではCa(OH)2)は、Rhein Chemieから入手した。
【0083】
強化充填材、Carbon black N990MT(以下ではNT990)は、Cancarbから入手した。
【0084】
グアニジン、p-トルエンスルホン酸及び4-ヒドロキシ安息香酸は、Merck Sigma Aldrichから入手した。
【0085】
方法
硬化挙動の特性評価
硬化挙動は、170℃又は180℃でのムービングダイレオメーター(MDR)により、以下の特性を決定することによって特性評価した。
=最小トルク(lb×in)
=最大トルク(lb×in)
ΔM=M-M(lb×in)
ts2=粘度がMよりも2単位増加する時間
【0086】
プラーク及びOリング(サイズクラス=214)を加圧金型中で硬化させ、次いで以下の条件において空気循環オーブン中で後処理した。
- 成形=170℃で90分
- 後硬化=230℃で(8+16時間)
【0087】
ムーニースコーチ時間は、Alpha Technologies Mooney MV200を使用して、ASTM D1646に従って135℃で決定した。
【0088】
機械的特性
引張特性は、23℃でASTM D412C規格に従い、プラークから打ち抜いた試験片について決定した。
T.S.=MPa単位での引張強さ
M50=50%の伸びにおけるMPa単位での引張強さ
M100=100%の伸びにおけるMPa単位での引張強さ
E.B.=%単位での破断伸び
【0089】
ショア(Shore)A硬度(3”)(HDS)は、ASTM D 2240法に従って積み重ねられた3片のプラークについて決定した。
【0090】
圧縮永久歪み(C-SET)は、70時間200℃でASTM D395、方法Bに従い、Oリング試験片規格AS568A(タイプ214)に関して又は6mmのボタン(タイプ2)に関して決定した。
【0091】
調製実施例A - 1,2,4,6-テトラメチル-ピリジニウムp-トルエンスルホネート[国際公開第2016/180660号パンフレットの調製実施例1と同じ]
温度計と、コンデンサーと、撹拌手段とを備えた三口丸底フラスコに、CHCl(85ml)及びメチル-p-トルエンスルホネート(25.50g)を入れた。次いで、2,4,6トリメチルピリジン(16.59g)を室温で滴下した。反応を50℃で撹拌し、22時間後にそれを完了させた。液相を真空下での蒸発によって除去し、白色粉末を得て、これを撹拌下でジエチルエーテル(50ml)に分散させた。液相を濾別し、39.13gの純粋な生成物を93%の収率で白色粉末として回収した(融点161℃、1%の重量減少:266℃)。
H NMR(溶媒DO、TMS基準):+7.70ppm(d;2H;オルト-H;p-トルエンスルホネート);+7.55(s;2H;メタ-H;1,2,4,6-テトラメチル-ピリジニウム);+7.39(d;H;メタ-H;p-トルエンスルホネート);+4.0(s;3H;NCH;1,2,4,6-テトラメチル-ピリジニウム);+2.74(s;6H;オルト-CH3;1,2,4,6-テトラメチル-ピリジニウム);2.53(s;3H;パラ-CH;1,2,4,6-テトラメチル-ピリジニウム);+2.44ppm(s;3H;パラ-CH;p-トルエンスルホネート)。
【0092】
調製実施例B - 混錬手順
上記調製実施例Aの塩(P)を、以下の表1に記載の量(phr)で他の成分と混ぜ合わせて硬化性コンパウンドを調製するためにロール間で混錬した。
【0093】
【表1】
【0094】
上記組成物の機械的特性、粘度及びスコーチの結果を以下の表2にまとめる。
【0095】
【表2】
【0096】
表2のデータ(実施例3対実施例5C)は、スコーチ時間を増加させるためにより多量のp-ヒドロキシ安息香酸が必要であるが、得られる組成物のC-SETが悪影響を受けることを示している。
【0097】
さらなる比較のために、上記調製実施例Aの塩(P)と脂肪族酸とを含む2つの組成物を調製した。
【0098】
成分をロール間で混錬し、以下の表3に記載の量(phr)で他の成分と配合して硬化性コンパウンドを調製した。
【0099】
【表3】
【0100】
表3の結果から、ステアリン酸の使用が組成物のMSスコーチ時間にプラスの影響を与えないことが示された。
図1
【国際調査報告】