(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-10
(54)【発明の名称】ナノファイバー膜による強化複合材料の製造プロセス、および該プロセス用のナノファイバー膜
(51)【国際特許分類】
B29C 70/34 20060101AFI20241003BHJP
B01D 69/10 20060101ALI20241003BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20241003BHJP
B01D 71/06 20060101ALI20241003BHJP
B01D 71/02 20060101ALI20241003BHJP
B01D 39/16 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
B29C70/34
B01D69/10
B01D69/12
B01D71/06
B01D71/02
B01D39/16 C
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024522437
(86)(22)【出願日】2022-10-07
(85)【翻訳文提出日】2024-05-27
(86)【国際出願番号】 IB2022059585
(87)【国際公開番号】W WO2023062491
(87)【国際公開日】2023-04-20
(31)【優先権主張番号】102021000026366
(32)【優先日】2021-10-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】593197248
【氏名又は名称】サーティ・エッセ・ピ・ア
【氏名又は名称原語表記】SAATI S.p.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100119079
【氏名又は名称】伊藤 佐保子
(72)【発明者】
【氏名】パオロ カノニコ
(72)【発明者】
【氏名】カルミネ ルチニャーノ
(72)【発明者】
【氏名】マルコ マウリ
【テーマコード(参考)】
4D006
4D019
4F205
【Fターム(参考)】
4D006GA44
4D006MA09
4D006MC05
4D006MC29
4D006MC48
4D006MC54
4D006MC58
4D006MC62
4D006NA10
4D006NA45
4D006NA74
4D019AA01
4D019BA13
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4F205AA36
4F205AD05
4F205AD08
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4F205AG03
4F205HA06
4F205HA14
4F205HA33
4F205HA37
4F205HB01
4F205HB11
4F205HF05
4F205HK05
(57)【要約】
以下のステップを含む複合材料、および該複合強化材料を製造するためのプロセスを開示し、該プロセスは、複数の強化ファイバー層を配列するステップと、該層に樹脂ベースマトリックスを含浸させるステップと、該強化ファイバー層間にポリマーナノファイバー中間層を配置して、圧力および/または熱を加えることにより該強化ファイバー層を積層させる積層ステップと、を備え、該ポリマーナノファイバー中間層は、該積層ステップの前に、バッキング基材に付着するポリマーナノファイバー膜を載置することによって該層の間に交互配置し、該ポリマーナノファイバー膜は、ニードルレス技術でバッキング基材上へ直接電界紡糸することで得られるものであり、また、該積層ステップの前に沈降防止特性を付与し、該ポリマーナノファイバー膜が該樹脂ベースマトリックス内に早期沈降するのを防止する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の強化ファイバー層を配列するステップと、
前記複数の強化ファイバー層に樹脂ベースマトリックスを含浸させるステップと、
前記強化ファイバー層の間にポリマーナノファイバー中間層を配置して、圧力および/または熱を加えることにより前記複数の強化ファイバー層を積層させる積層ステップと、
を備える、複合強化材料の製造方法であって、
前記ポリマーナノファイバー中間層は、強化ファイバーの第2の層の載置および前記積層ステップの前に、バッキング基材に付着するポリマーナノファイバー膜を強化ファイバーの第1の層上に載置することによって前記強化ファイバー層の間に交互配置し、
前記ポリマーナノファイバー膜は、ニードルレス技術でバッキング基材上へ直接電界紡糸することで得られるものとし、また、
前記積層ステップの前に沈降防止特性を付与し、前記ポリマーナノファイバー膜が前記樹脂ベースマトリックス内に早期沈降するのを防止する、
ことを特徴とする、製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法において、前記ポリマーナノファイバー膜は、PA6および酢酸ならびにギ酸を含む溶媒との溶液から得られる、製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の製造方法において、前記溶液は、約12重量%の量でPA6を含む、製造方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の製造方法において、前記樹脂ベースマトリックスは架橋性熱硬化性樹脂である、製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の製造方法において、前記複合強化材料は、カーボン製である強化ファイバーの層を含む、製造方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の製造方法において、前記ポリマーナノファイバー膜を形成するための前記バッキング基材上に付着させるナノファイバーの量は、1~15g/m
2である、製造方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の製造方法において、前記ポリマーナノファイバー膜を構成するナノファイバーのサイズは約100~150nmである、製造方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の製造方法において、前記バッキング基材は、両面シリコーン被覆したペーパーウェブ製である剥離容易性のバッキング基材であり、前記剥離容易性のバッキング基材は、前記強化ファイバーの第2の層の載置および前記積層ステップの前に除去される、製造方法。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の製造方法において、前記沈降防止特性は、前記載置ステップの前に、前記ポリマーナノファイバー膜を撥油性の表面処理または前記樹脂ベースマトリックスと親和性の低い材料による処理を行うことからなる、製造方法。
【請求項10】
樹脂-マトリックス複合材料内で強化ファイバー層間の中間層として機能するポリマー膜であって、ニードルレス技術により、剥離容易性の表面を有する連続バッキング基材に堆積した膜として紡いだ電界紡糸ナノファイバーを含むことを特徴とする、ポリマー膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノファイバー膜を有する複合材料の製造プロセス、および該プロセス用のナノファイバー膜に関する。
【背景技術】
【0002】
複合材料は通常、強化成分からなる材料であって、該材料は一般的にランダムな形状または織物状の高強度ファイバー、および樹脂などのマトリックス成分からなり、該マトリックスは強化成分を保持し、外部環境から強化成分を保護する。
【0003】
複合材料は、使用するマトリックスに応じて、熱可塑性または熱硬化性の性質を有することができる。強化成分は、長いフィラメント束、ロービング、トウ、チョップドファイバー、不織布、織布、マット、テープ、微小球体やナノ球体などの様々な形態とすることができるが、最も一般的に使用されるファイバーの種類は、カーボン・グラファイトファイバー、アラミドファイバー、ガラスファイバーである。
【0004】
構造的ピースの組み立てでは、一般的に複合材を積層させ、いくつかの薄い層(積層時にプリプレグまたは樹脂を含浸)を付着させ、圧力と熱を加えて硬化または架橋させる。
【0005】
複合材料で発生する最も重大な問題のひとつは層間剥離であり、積層複合材料の、ある層と別の層との間で伝播する破断の進展過程である。
【0006】
近年、上記の問題は大幅に軽減できることが知られており、一定の量のマイクロファイバー、すなわち主な強化ファイバーの直径よりもはるかに小さい直径のファイバーを、積層複合材料の特定の層と別の層との間に配置することで、該マイクロファイバーが樹脂マトリックスおよび強化ファイバーマットの間で填隙材および結合材として作用し、層を効果的に固定する。
【0007】
また、一般に、ノズルからの電界紡糸で得られるナノファイバーを使用することも、すでに提案されている。
【0008】
特許文献1(US 6265333)には、例えば、プリプレグ複合材料の製造プロセスが記載されており、そこでは、電界紡糸で得られるポリマー性のマイクロファイバーやナノファイバーの内包も想定されている。
【0009】
基礎研究に関して、同様の技術を扱った科学論文もいくつか存在する。例えば、非特許文献1(T. Brugo a, R. Palazzetti, “The effect of thickness of Nylon 6,6 nanofibrous mat on Modes I-II fracture mechanics of UD and woven composite laminates” published in Composite Structures 154 (2016), pp.172-178)は、ナイロン6,6ナノファイバーを交絡させたカーボンファイバーとエポキシ樹脂複合材料に関する実験的特性評価について述べている。
【0010】
しかしながら、これらの先行技術文献は、ナノファイバーによる層間剥離の問題を軽減するための採用可能性のある技術に関しては一般的な情報を提供しているが、産業環境で直面するこれらの理論的および実験的概念を実用的に軽減する目的には対処していない。
【0011】
特に、電界紡糸技術は、複合材料の靭性を向上させるためのナノファイバーを得るのにほぼ理想的であることが指摘されてきた一方で、工業生産環境に必要不可欠な、再現性、速度、および織物プリプレグ(prepreg fabrics)に悪影響を与えない、という、複合材料にナノファイバーを導入するための要件を満たす方法はまだ見出されていない。
【0012】
ナノファイバー膜の取り扱いに関するさらなる情報は、特許文献2(US2011/259518)に開示されている。複合材料の分野におけるナノファイバー膜の他の例は、特許文献3~6(US2016/010249, GB2568105, CN112810259 and US2015/086743)に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許第6,265,333号明細書
【特許文献2】米国公開特許公報第2011/259518号明細書
【特許文献3】米国公開特許公報第2016/010249号明細書
【特許文献4】英国特許第2568105号明細書
【特許文献5】中国特許第112810259号明細書
【特許文献6】米国公開特許公報第2015/086743号明細書
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】T. Brugo a, R. Palazzetti, “The effect of thickness of Nylon 6,6 nanofibrous mat on Modes I-II fracture mechanics of UD and woven composite laminates” published in Composite Structures 154 (2016), pp.172-178
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、したがって、複合材料の製造プロセスであって、ポリマーナノファイバーを導入することが容易、および比較的安価であり、層間剥離に対する製品の強靭性を向上させる、該製造プロセスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の目的は、特許請求した範囲に本質的な用語で開示されているような方法と膜によって達成される。
【0017】
具体的および有益な特徴は従属する特許請求の範囲の請求項に開示されている。
【0018】
特に、本発明の第1の態様によれば、複合強化材料の製造方法を開示し、この方法は以下のステップ、すなわち、
複数の強化ファイバー層を配列するステップと、
前記複数の強化ファイバー層に樹脂ベースマトリックスを含浸させるステップと、
前記強化ファイバー層の間にポリマーナノファイバー中間層を配置して、圧力および/または熱を加えることにより前記複数の強化ファイバー層を積層させる積層ステップと、
を備え、
ここで、
前記ポリマーナノファイバー中間層は、強化ファイバーの第2の層の載置および前記積層ステップの前に、バッキング基材に付着するポリマーナノファイバー膜を強化ファイバーの第1の層上に載置することによって前記強化ファイバー層の間に交互配置し、
前記ポリマーナノファイバー膜は、ニードルレス技術でバッキング基材上へ直接電界紡糸することで得られるものとし、また
前記積層ステップの前に沈降防止特性を付与し、前記ポリマーナノファイバー膜が前記樹脂ベースマトリックス内に早期沈降するのを防止する。
【0019】
好ましくは、該ポリマー膜は、PA6および酢酸ならびにギ酸を含む溶媒との溶液から得たものとする。この溶液は、約12重量%の量でPA6を含むことができる。
【0020】
好ましい実施形態によれば、樹脂ベースマトリックスは、架橋性熱硬化性樹脂である。さらに、複合強化材料は、カーボン製である強化ファイバーの層を含む。
【0021】
別の態様によれば、該ポリマー膜を形成するためのバッキング基材上に付着させるナノファイバーの量は、1~15g/m2である。
【0022】
好ましくは、ポリマー膜を構成するナノファイバーのサイズは約100~150nmである。
【0023】
別の好ましい態様によれば、バッキング基材は、両面シリコーン被覆したペーパーウェブ(bisiliconised paper web)製である剥離容易性のバッキング基材であり、該剥離容易性のバッキング基材は、強化ファイバーの第2の層の載置および強化ファイバー層の積層ステップの前に除去される。
【0024】
別の関連する態様では、沈降防止特性は、該載置ステップの前に、ポリマーナノファイバー膜を撥油性の表面処理または樹脂ベースマトリックスと親和性の低い材料による処理を行うことからなる。
【0025】
本発明のさらなる態様によれば、樹脂-マトリックス複合材料内で強化ファイバーの層の中間層として機能するポリマー膜を提供し、この膜は、ニードルレス技術により、剥離容易性を有する連続バッキング基材に堆積した膜として紡いだ電界紡糸ナノファイバーを含む。
【図面の簡単な説明】
【0026】
本発明におけるプロセスおよび膜のさらなる特徴および利点は、いずれも、以下の好ましい実施形態の詳細な説明、純粋に非限定的な例および添付図面の図示によって、より明らかになる。
【
図1】本発明による代表的な膜製造プラントの概略図である。
【
図2A】本発明による膜の異なる倍率でのSEM図である。
【
図2B】本発明による膜の異なる倍率でのSEM図である。
【
図2C】本発明による膜の異なる倍率でのSEM図である。
【
図2D】本発明による膜の異なる倍率でのSEM図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
複合材料は、それ自体は既知の方法で調製し、例えばカーボンファイバーなどの強化ファイバーの織物層を織成し、これを適切な樹脂マトリックス、例えばエポキシ樹脂などの架橋性熱硬化性樹脂に含浸させることで調製する。樹脂の含浸は、複合材料の製造中に行ってもよいし、貯蔵段階の前の段階で行ってもよく、これにより織物プリプレグが得られる。
【0028】
補強ファイバーベースの構成要素(以下、マットと称する)は、例えばカットファイバーの不織布など、別の方法で構成することもできる。
【0029】
出発複合材料は、強化ファイバーのみからなるものであっても、プリプレグであっても、好ましくは連続マットロールの形態である。
【0030】
複合材料製品の調製では、2層以上の強化ファイバーマットを互いに積層させ、樹脂ベースマトリックスを介在させる、または埋め込む。
【0031】
複合材料の2つの層を積層させる前に、ナノファイバーをベースとする中間構成要素を該2つの層間に介在させ、好ましくは、中間構成要素を第1の層上に積層し、次いで他の層をこの第1の層に被着する。
【0032】
本発明によれば、中間構成要素は、ポリマーを電界紡糸することで得られるナノファイバー膜からなり、特に該ポリマー膜は、以下に示す方法論に従って、連続電界紡糸で得ることができる。このようにして、実際に、連続的で均質な膜を得ることができ、剥離容易性の基材上に堆積させることで、後述するように、産業上の組込みプロセスを効果的にする。
【0033】
ナノファイバーポリマー膜の製造のために、最初に適切なポリマー溶液を調製する。電解すべきポリマーと溶媒の組み合わせの選択は、所望のポリマーによって異なり、好ましい実施形態によれば、複合材料の本用途に特に有効であることが証明されている製品の組み合わせは、ポリアミド6(PA6)-例えばBasf社製の商品名Ultramid B24N 03-を、酢酸およびギ酸の混合物-例えばCarlo Erba Reagents社で販売されている製品-に溶解したものである。別のポリマーと溶媒の組み合わせは、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)があり、ジメチルアセトアミドまたはジメチルホルムアミドに溶解したものであるが、特定の特性を有するほかのテクニカルポリマーを添加することができ、例えば、ポリイミド、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリカポラクトンなどがあるが、これらに限定されない。
【0034】
実行可能な溶液プロセスは、調製すべき成分の正確な用量を、適切な温度調節がなされた容器(thermoregulated container)、例えば温度調節した受容器(thermoregulated vessel)に投入することを伴う。ポリマー溶液の調製に使用する正確な量の溶媒を容器に導入し、これに粒状または粉末状のポリマーを計量添加する。好ましくは、この装置は、製造業者から納入された原料ドラムから使用する溶剤を直接回収し、内部攪拌機によって連続攪拌下に保つことができるものである。ポリマーの溶媒への可溶化を促進するために、内容物をミキサーで撹拌し、その中で穏やかな加熱プロセスを経て可溶化を促進することもできる。
【0035】
本明細書に開示した好ましい実施形態の場合、12重量%のPA6溶液を使用することが適切である。例えば、1000gの材料に対して以下の割合を使用する。
120g PA6(12重量%)
587g 氷酢酸(58.7重量%)
293g ギ酸(29.3重量%)
【0036】
酢酸とギ酸の比率は2:1で、溶液の一般的な濃度を変化させても一定に保つ。例えば、PA6全体の濃度を上げると、2つの酸は比例して減少することになるが、該比率は変化させない。
【0037】
可溶化が完了し(透明な溶液)、材料が室温で恒温化すると、該溶液は電界紡糸の前に特性評価できる状態となる。
【0038】
具体的には、3つの異なる特性評価を実施することが有利であり、これら特性評価は長期にわたって安定性および再現性のある電界紡糸プロセスを得るために重要である。
1)溶液の粘度(h)の評価であって、回転粘度計を使用する。一般に、ポリマー溶液の粘度は50~10000mPa・sである。好ましくは、溶液の濃度に応じて、約120~約900mPa・sの範囲の粘度値を有する溶液を使用することを想定する。
2)ポリマー溶液の濃度の評価であって、濃度データが直接得られる熱平衡、またはオーブン乾燥を使用する。一般に、ポリマー溶液の濃度の値は、ポリマーのタイプおよび溶媒系に応じて、溶液の0.5~30重量%の範囲である。好ましくは、8~25重量%の濃度の溶液を使用することを想定する。
3)電気伝導度(e)の評価であって、浸漬プローブ付き電気伝導度計を使用する。導電率は1~5000mS/cmである必要がある。
【0039】
産業上で最適化した生産のためには、生産バッチあたり15~30kgの量の溶液を使用することが有利であることが判明しており、これは生産したポリマー溶液の経年劣化現象を避けるためであり、ポリマーを溶媒に可溶化する方法でもある。
【0040】
このようにして得たポリマー溶液は、本発明に従って異なる種類の剥離容易性の基材上でのナノファイバー膜を調製に使用し、これはニードルレス電界紡糸技術による連続的電界紡糸プロセスによってなされる。
【0041】
ニードルレス電界紡糸は、特許文献1(US 6265333)で開示されているニードル装置と比較して、工業レベルでの高い生産性(単位m2/h)を保証し、産業上で効果的な材料を得ることを保証する。
【0042】
本技術による膜は、一方では、他のマイクロファイバー製造技術(スパンレースやメルトブロー)に匹敵する寸法均一性の特徴を持つのに対し、他方では、(材料のナノ寸法による)はるかに大きな表面積による利点、および同様に低重量(1g/m2まで)ならびに最小厚さでも製造プロセスで取り扱い加工する可能性による利点を得ることができる。これらの特性は、複合材料に課される、軽さや全体的な厚みといった市場要件に悪影響を与えないために極めて重要である。
【0043】
ナノファイバー層の形成に適したバッキング基材には、4つの異なるマクロタイプがあり、すなわち、キャリブレーテドメッシュを有するモノフィラメント織物(monofilament fabrics with calibrated mesh)、様々なタイプならびに重量の不織布、様々な重量の片面/両面シリコーン被覆したペーパー、および様々な厚さと表面仕上げのポリマーフィルム(例えばHDPE、LDPEなどに基づく)がある。複合材料分野への応用で特に重要なのは、材料選択であり、電界紡糸するポリマー溶液である。これは製品の特性を変えることなく、担体としての機能だけを持つ必要がある。この種の用途に最適な選択は、電界紡糸する材料と接触する側が反対側よりも剥離性が高い両面シリコーンペーパーである。この方法によって、適切な内部張力(巻き戻しの問題を避ける)を持つロールを得ることができる。シリコーンペーパーを選択することにより、コーティングライン上でのカップリング段階において、材料を完全に平坦に保つのに十分な引っ張り応力を加えることができ、その結果、使用する樹脂へのナノファイバー膜の完全な付着を保証することができ、その後、膜の破壊や欠陥を引き起こすことなく基材を取り除くことができる。
【0044】
基材の剥離性は、膜の完全な剥離を可能にするために正確に調整する必要があるが、特に航空宇宙分野など、裁断段階での洗浄が必須条件となる分野では、その後のシートとして裁断する段階でもペーパーが残って複合材を保護することを十分保証できる必要がある。
【0045】
ニードルレス電界紡糸技術は、純粋に物理的な原理に基づいており、化学結合レベルでの材料の変形を意味するものではなく、変形は溶液内、電界紡糸前の段階、またはその後の表面処理(例えばプラズマ処理)で起こる。
【0046】
図1に示すように、ニードルレス電界紡糸装置は、ニードル、および、静的または回転式の金属コレクタがないことに基づいているが、典型的には、一定の距離をおいて一方が他方の上方に配置された1対のスチールワイヤを含み、これらはそれぞれシステムのアノードおよびカソードとして機能する。これらのワイヤの対の個数は、パイロットプラントでは最小1対から、現在販売されている産業用プラントでは最大8対まで、数量が異なる場合がある。
【0047】
電界紡糸プロセス中に、双方の導電ワイヤに0kVより高い最小値から120kVの最大値までの範囲にわたる電圧差で電流を交差させる。この電位差は紡糸プロセスに必要なものである。ポリマー溶液の特性に基づき、カソードワイヤ上に堆積した層からポリマー溶液を冷間「押し出し」するのは電界である。引き寄せられながらアノードワイヤに向かって進むポリマー溶液は、飛んでいる最中、乱流運動を受けて薄くなり、乾燥し、その都度、コレクタとして機能する使用した基材に衝突し、一定の距離を飛翔する。したがって、アノードおよびカソードとして働く1対の導電性ワイヤの間には、電界を遮る仮想平面があり、それに沿って基材が延びている。
【0048】
下側のワイヤ(カソード)と基材との間の距離は、製造ラインの作業距離であり、アノードとカソードとの間の距離よりも常に短い。
【0049】
ポリマー溶液をカソードとして作用するワイヤ上に堆積させるために、システムに堆積キャリッジを設ける。堆積キャリッジは、カソードワイヤが貫通する貫通ハウジングを有する。各ハウジングの内部には、カソードワイヤが配置されるキャリブレーテド送出オリフィス(0.5mm~0.9mm)を有するスチールアレンジメントが配置され、様々な金属部品間の接触を防いでいる。該送出オリフィスは、ポリマー溶液送給ダクトシステムの一部としてキャリッジ上に配置されている。該ポリマー溶液は、(溶媒の蒸発を避けるために)雰囲気を制御した特別な容器に入れ、生産ラインの制御パネルで制御する1台または複数のポンプによって、設定した流量で送出オリフィスに運ばれる。こうしてポリマー溶液は、送出オリフィスの開口サイズに応じた薄膜として、生産ラインに応じた最小50cmから最大200cmの延長線上でトロリーがスライドする間に、カソードワイヤ上に堆積する。
【0050】
ポリマー溶液は、キャリッジの前後のスライド方向に関係なく連続的に分注される。
【0051】
基材は、キャリッジが移動する距離と同一オーダーの横方向の広がりを有する。基材はトロリーのスライド方向に直交する方向に、一定のスライド速度で移動する。
【0052】
特定の基材の場合、アノードとして機能する上部ワイヤを導電性マットに置き換えることができ、基材を移動させると同時に回転させることで、ロール・トゥ・ロールプロセス(roll-to-roll process)を保証することができる。
【0053】
電界紡糸ゾーン全体は、「電界紡糸槽」として制御された雰囲気に位置し、特に相対湿度と温度が制御されている。
【0054】
この電界紡糸プロセスで得られる膜の最終的な特性に影響を与える、最も重要な特性は以下の通り、すなわち、
- ポリマー溶液の濃度
- ポリマー溶液の粘度
- ポリマー溶液の電気伝導度
- 電極間距離(上下)
- 印加電界
- 電界紡糸槽内の相対湿度
- 堆積用トロリーの移動速度
- トロリーに取り付けるスチール製オリフィスの直径
- ポリマー溶液を堆積させるスチールワイヤの直径
- システムポンプの繰り返し
- 基材の移動速度
- 基材の種類
- 基材への印加電圧
- 槽内の空気循環(入口から出口の流れ)
である。
【0055】
形成の際、ナノファイバーは導電性ワイヤと集積板との間を飛翔し、基材上にランダムに堆積して三次元構造を形成し、その重量と厚さは基材の変位速度に依存し、したがって、ファイバーの堆積本数に依存する。三次元構造を有するこのような材料の重量は、特定の用途(例えば空気ろ過)の材料の表面機能化として使用される場合、0.1g/m2ほどであり、「自立型」、すなわち支持体を必要とせずに取り扱うことができる材料として定義される材料として使用する場合、最大15g/m2まで徐々に重くなる。本発明によれば、基材上に堆積するナノファイバーの量は、複合材料における補強中間層としての特定の用途のため、好ましくは、3~10g/m2であり、形成するナノファイバーの直径に依存する。
【0056】
実験試験の結果、複合材料に含まれるナノファイバーの量は3g/m2程度で十分であり、ナノファイバーを含まない複合材料に比べて、性能が約40%、大幅に向上することが示された。ファイバー径が約100~150nmにおいて重量が約7~8g/m2が達成された場合、複合材料の耐破壊性は約94%向上する。同時に、複合材料の積層プロセス中における上限重量、例えば8~9g/m2の膜であっても、使用する複合樹脂の重量に関しては全く無関係であることに留意すべきであり、これは上記の具体的な量は、樹脂が一般的にファイバー織物に添加する誤差閾値以下であるためである。
【0057】
最良の性能を得るためには、いくつかの膜と特性を規定することが重要である。特に、最大限の性能を得るためには、以下のこと、すなわち、
- 膜厚に対する樹脂使用量の最適化
- ナノファイバーの直径および膜多孔性の孔径に応じた樹脂量の最適化
が必要である。
【0058】
PA6ナノファイバーは200℃を超える融解温度、例えば220℃を有する場合があり、ポリイミドナノファイバーは300℃を超える融解温度を有する場合がある。このため、得られる膜は、高温により自動車業界で従来使用されてきた強靭化添加材を使用できない航空宇宙分野で用いる高温複合材料に膜を挿入するのに適したものとなる。
【0059】
本発明により得られたナノファイバー膜では、ナノファイバーの作用は主に樹脂と隣のファイバー層、例えばカーボンファイバーとの界面で起こることが判明した。材料の極めて大きな表面積および固有の多孔性(異なる倍率の
図2A~2DのSEM写真で見ることができるように、自由面積の約80%)、およびナノファイバー膜の強い親油性により、その後の適切な圧力下の高温積層プロセスで硬化または架橋工程が完了すると、該膜は流動性樹脂に完全に取り込まれ、その内部に固定化されることが保証できる。ナノファイバーの挿入から得られる利点は、複合材料中の異なる層の界面、すなわち、複合材料層間で一般的に層間剥離が発生する、材料の最も脆弱な位置で行われる以下の破壊強度試験で明らかになる。
【0060】
ナノファイバーを充填した複合材料は、カーボンファイバーの様々な層間の界面に樹脂からなるマトリックスだけでなく、ナノメートル径の非常に長いファイバーを担持しており、ニードルレス電界紡糸中にナノファイバーがランダムに、しかし一貫して均質に堆積するため、樹脂自体の中に均質に分布する。破壊試験(例えば国際規格D5528-13で実施)では、樹脂内部にナノファイバーが存在するため、標準的な複合材料で起こるような破断が複合材料内での均一な伝播が起こらなくなる。この効果は、破断ラインが樹脂に組み込まれたナノファイバーの層を通過するたびにバリアに遭遇するためと考えられる。硬化または架橋した樹脂とナノファイバーとの相互結合が良好であればあるほど、破断ラインの経路は複雑になり、破断の進行中に散逸するエネルギーが大きくなるため、破断の進行が遅くなる。この非均質な破断伝播は、材料強度の大幅な向上につながる。
【0061】
電界紡糸したポリマー膜が形成され、休止するようにされるバッキング基材または担体は、容易に巻き取ることができ、したがって使用前に保管することができる。特に、両面シリコーン被覆したペーパー基材に電界紡糸で積層した膜は、予備含浸した材料とのカップリングおよびその後の処理(例えば切断)が完了した際の材料の剥離を容易にし、膜自体の破損を起こさず、最終顧客による最終処理にも問題を生じない。両面シリコーンペーパーを使用すると、膜がどちらの面に堆積しているかがわかりやすいので、含浸済み複合材料マット(茶色の両面シリコーンペーパー-白い膜層)とのカップリング時にどちらの面を使用するかすぐにわかる。
【0062】
ナノファイバーを複合材料製品に組み込む産業用手順の間、強化ファイバーマットを樹脂マトリックスに含浸すると、ポリマー膜が複合材料マットに面するようにバッキング基材層(特に両面シリコーンペーパー)を広げて敷くことが可能である。複合材料マット上の樹脂マトリックスに対するポリマー膜の付着力は、膜とバッキング基材層との間の剥離力よりもわずかに高く、その後のバッキング基材層の連続的な除去によって、膜が複合材料上に完全に広がった状態になるため、膜のナノ構造体に破断が生じたり、複合材料のマトリックス(この段階ではまだ粘度が低い)中の強化ファイバーが分解したりすることがない。
【0063】
支持層を除去すると、ポリマー膜を備える第1の層の上に複合材料の次の層を積層することができ、第1の層は、積層圧力および場合によっては積層熱(樹脂をより流動的にする)により、層の間に密接に組み込まれる。
【0064】
複合材料の強靭化特性を最適化するために、本発明によれば、ナノファイバー膜層がプリプレグ内に沈降せず、積層する他のプリプレグ層との界面で樹脂材料(プリプレグ複合マットを被覆する樹脂薄膜)の表面に残るように保証することが重要である。この潜在的に致命的な状況は、中間ナノファイバー層の使用から生じる利点の減少につながる可能性があるため、避けるべきである。
【0065】
上記の目的のために、本発明の製造方法では、樹脂マトリックス内へのナノファイバー膜の早期沈降を防止する沈降防止特性を有利に提供できる。この目的のために、以下の多くの異なる沈降防止策を考慮することができる。すなわち、
・選択肢として、ナノファイバー層の最終的な厚みの最適化を伴うことができ、厚みを大きくすることで、沈降現象を発生させない、または最小限にのみ発生することができ、このことが性能の損失を最小限に抑えることを可能にする。
・関連する実施形態は、ナノファイバー材料膜の層に撥油性の表面処理を施すことであり、この解決策は、樹脂がナノファイバーを濡らす、および取り込む能力を低下させることで、該現象が経時的に起こるのを防ぐことができる。
・他の実施形態では、より撥油性の高いテクノポリマー、すなわち表面エネルギーが30mN/mより低いもの、または材料の化学的性質によりナノファイバー膜の製造に樹脂との親和性が低いものを使用することで、該現象の発生を防ぐことができる。
・最後に、別の実現可能な選択肢として、ナノファイバー膜層に取り付けた薄い均質な基材でできた中間層を使用する方法があり、例えば表面エネルギーの低いポリマー(<30mN/m)からなるウェットレイドまたはメルトブローン基材がある。マイクロファイバー材料薄層は、ナノファイバー膜の機械的支持体として機能することができ、ナノファイバー膜が樹脂に沈降するのを防ぐ。さらに、基材の種類を適切に選択すれば、最終的な複合材にさらなる強化を得ることができ、プリプレグまたは複合材の後続の処理ステップで除去するバッキング基材を提供する必要性を回避することができる。
【0066】
工業的にますます効率的な新材料の開発を視野に入れ、膜表面の反応性を改善するように設計された処理を採用することも想定される。例えば、表面の親水性を高めることを目的とした処理、またはプラズマ処理などがあり、表面粗さを高めると同時に、表面にフリーラジカルあるいは反応性化学種を生成させることができ、これによりナノ材料と樹脂の付着性をさらに向上させ、性能の向上にさらなる影響を与えることができる。
【0067】
上記の説明から理解できるとおり、本発明による方法は、冒頭で述べた目的を完全に達成することができる。
【0068】
電界紡糸およびそれに続くポリマーナノファイバー膜の剥離容易性のバッキング基材上への堆積により、効率的な産業プロセスを実施することができる。バッキング基材は、例えば剥離紙で作られている場合には、被着中に剥がすことができ、または、例えばマイクロファイバー材料で作られている場合には、複合材料中に残すことができる。ポリマーナノファイバー膜の製造においては、利用可能な多数の調整パラメーターにより、複合材料内に存在する成分の性質とサイズに応じて膜の一貫性と反応性を自由に調整することができる。
【0069】
本発明は、記載および図示された特定の実施形態によって限定されるとみなされるものではなく、以下の特許請求の範囲によって排他的に定義される本発明自体の保護範囲から逸脱することなく、当業者の手の届く範囲内で、異なる変形がすべて可能であると解する。
【国際調査報告】