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特表2024-537406廃棄物資源を用いた廃プラスチックの熱分解方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-10
(54)【発明の名称】廃棄物資源を用いた廃プラスチックの熱分解方法
(51)【国際特許分類】
   C10G 1/10 20060101AFI20241003BHJP
   C08J 11/12 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C10G1/10 ZAB
C08J11/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024522577
(86)(22)【出願日】2022-10-19
(85)【翻訳文提出日】2024-04-15
(86)【国際出願番号】 KR2022015964
(87)【国際公開番号】W WO2023068810
(87)【国際公開日】2023-04-27
(31)【優先権主張番号】10-2021-0140289
(32)【優先日】2021-10-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】308007044
【氏名又は名称】エスケー イノベーション カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SK INNOVATION CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】26, Jong-ro, Jongno-gu, Seoul 110-728 Republic of Korea
(71)【出願人】
【識別番号】515215276
【氏名又は名称】エスケー ジオ セントリック カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】ジョ サンファン
(72)【発明者】
【氏名】カン スキル
(72)【発明者】
【氏名】イ ホウォン
(72)【発明者】
【氏名】ジュン ジェフム
【テーマコード(参考)】
4F401
4H129
【Fターム(参考)】
4F401AA09
4F401AA10
4F401AA11
4F401AA13
4F401AA22
4F401AB10
4F401BA02
4F401BB09
4F401CA70
4F401DA05
4F401DA11
4F401EA11
4F401EA90
4H129AA01
4H129BA04
4H129BB03
4H129BC10
4H129NA01
4H129NA46
(57)【要約】
本発明は、廃プラスチックおよびスラグ組成物を熱分解反応器に投入して熱分解油を製造する熱分解工程を含み、前記スラグ組成物は、総重量に対して、カルシウム酸化物30~60重量%と、鉄酸化物5~30重量%と、ケイ素酸化物、アルミニウム酸化物、およびマグネシウム酸化物から選択される少なくとも1つ0.5~30重量%と、を含む、廃プラスチック熱分解油の製造方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃プラスチックおよびスラグ組成物を熱分解反応器に投入して熱分解油を製造する熱分解工程を含み、
前記スラグ組成物は、総重量に対して、カルシウム酸化物30~60重量%と、鉄酸化物5~30重量%と、ケイ素酸化物、アルミニウム酸化物、およびマグネシウム酸化物から選択される少なくとも1つ0.5~30重量%と、を含む、廃プラスチック熱分解油の製造方法。
【請求項2】
前記スラグ組成物は、下記式1および式2を満たす、請求項1に記載の廃プラスチック熱分解油の製造方法。
[式1]
1<鉄酸化物(重量%)/ケイ素酸化物(重量%)<3
[式2]
3<鉄酸化物(重量%)/マグネシウム酸化物(重量%)<5
【請求項3】
前記スラグ組成物は、総重量に対して、アルミニウム酸化物を5重量%以下含む、請求項1に記載の廃プラスチック熱分解油の製造方法。
【請求項4】
前記スラグ組成物は、総重量に対して、ケイ素酸化物を20重量%以下含む、請求項1に記載の廃プラスチック熱分解油の製造方法。
【請求項5】
前記熱分解工程は、非酸化性雰囲気下で400~600℃の温度で行われる、請求項1に記載の廃プラスチック熱分解油の製造方法。
【請求項6】
前記廃プラスチックは、総重量に対して、PVC(polyvinyl chloride)を3重量%以上含む生活系廃プラスチックである、請求項1に記載の廃プラスチック熱分解油の製造方法。
【請求項7】
前記スラグ組成物は、0.5~10m/gのBET比表面積を有する、請求項1に記載の廃プラスチック熱分解油の製造方法。
【請求項8】
前記スラグ組成物は、5~200μmの粒子サイズを有する、請求項1に記載の廃プラスチック熱分解油の製造方法。
【請求項9】
前記スラグ組成物は、100~500Mpaの圧縮強度を有する、請求項1に記載の廃プラスチック熱分解油の製造方法。
【請求項10】
前記スラグ組成物は、1.5~5g/cmの密度を有する、請求項1に記載の廃プラスチック熱分解油の製造方法。
【請求項11】
前記熱分解油は、総重量に対して、塩素を100ppm未満含む、請求項1に記載の廃プラスチック熱分解油の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃棄物資源を用いた廃プラスチックの熱分解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
廃プラスチック熱分解油などの廃棄物のクラッキング(Cracking)、熱分解(Pyrolysis)反応により生成されたオイル(廃油)中には廃棄物に起因する多量の不純物が含まれているため、それを燃料として活用する場合、SOx、NOxなどの大気汚染物質を排出する恐れがあり、特にCl成分は、高温処理過程で装置の腐食を引き起こす恐れがあるHClに転化されて排出されるという問題がある。
【0003】
従来、精製(Refinery)技術を活用した水素化処理(Hydrotreating:HDT)工程によりClをHClに転化して除去していたが、廃プラスチック熱分解油などの廃油が高含量のClを含むため、HDT工程で形成される過剰のHClの発生により装置の腐食や反応異常、製品の性状悪化の問題が報告されており、前処理していない廃油をHDT工程に導入することは難しい。
【0004】
また、CaOまたは廃FCC触媒(E-cat)などの吸着剤によりCl、Nなどを低減する技術は、不純物含量が非常に低い原料油が求められるため、非常に多い含量(精製対象オイルの2~50倍レベル)の吸着剤を用いなければならないという問題がある。また、Cl、Nなどが吸着した物質は吸着能力を失うため、不活性化された吸着剤を持続的に取り替えなければならないという問題がある。
そこで、廃油を精製(Refinery)工程に導入可能なレベルの不純物(Cl)含量に低減する廃油の処理技術が必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、廃プラスチックの熱分解技術分野で一般的に用いられるCaOやE-catの代わりに、廃棄物資源である鉄鋼スラグを使用した熱分解時の不純物(Cl)低減技術を提供することを目的とする。
【0006】
一方、鉄鋼スラグのうち、高炉スラグの場合、70%程度が付加価値の高いセメント原料としてリサイクルされているが、製鋼スラグの場合、全量が盛土用または道路用骨材などの単純埋立されているのが現状である。製鋼スラグは、化学組成が高炉スラグとは大きく異なり、セメントへの応用が不可能であり、製鋼スラグに含まれた高い遊離石灰(Free-CaO)によりコンクリート骨材としての使用が制限されている。そこで、本発明は、製鋼スラグ中の未反応遊離石灰および金属化合物を活用して廃プラスチックの熱分解時に不純物を除去しようとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態は、廃プラスチックおよびスラグ組成物を熱分解反応器に投入して熱分解油を製造する熱分解工程を含み、前記スラグ組成物は、総重量に対して、カルシウム酸化物30~60重量%と、鉄酸化物5~30重量%と、ケイ素酸化物、アルミニウム酸化物、およびマグネシウム酸化物から選択される少なくとも1つ0.5~30重量%と、を含む、廃プラスチック熱分解油の製造方法を提供する。
【0008】
一実施形態において、前記スラグ組成物は、下記式1および式2を満たしてもよい。
【0009】
[式1]
1<鉄酸化物(重量%)/ケイ素酸化物(重量%)<3
【0010】
[式2]
3<鉄酸化物(重量%)/マグネシウム酸化物(重量%)<5
【0011】
一実施形態において、前記スラグ組成物は、総重量に対して、アルミニウム酸化物を5重量%以下含んでもよい。
一実施形態において、前記スラグ組成物は、総重量に対して、ケイ素酸化物を20重量%以下含んでもよい。
【0012】
前記熱分解工程は、非酸化性雰囲気下で400~600℃の温度で行われてもよい。
前記廃プラスチックは、総重量に対して、PVC(polyvinyl chloride)を3重量%以上含む生活系廃プラスチックであってもよい。
【0013】
前記スラグ組成物は、0.5~10m/gのBET比表面積を有してもよい。
前記スラグ組成物は、5~200μmの粒子サイズを有してもよい。
【0014】
前記スラグ組成物は、100~500Mpaの圧縮強度を有してもよい。
前記スラグ組成物は、1.5~5g/cmの密度を有してもよい。
前記熱分解油は、総重量に対して、塩素を100ppm未満含んでもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、廃プラスチック原料物質を熱分解した後、別の後処理工程を行うことなく、精製(Refinery)工程に適用可能なレベルに低い不純物含量を有する熱分解油を製造することができる。
【0016】
また、鉄鋼スラグ中の未反応遊離石灰(Free CaO)および金属化合物を活用して廃プラスチックの熱分解工程で不純物を除去することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
特に定義しない限り、本明細書で用いられる全ての用語(技術的および科学的用語を含む)は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者に共通に理解できる意味として用いられてもよい。明細書の全体にわたって、ある部分がある構成要素を「含む」とする際、これは、特に反対の記載がない限り、他の構成要素を除くのではなく、他の構成要素をさらに含んでもよいことを意味する。また、単数形は、文言で特に言及しない限り、複数形も含む。
【0018】
本明細書において、「A~B」とは、特に定義しない限り、「A以上B以下」を意味する。
また、「Aおよび/またはB」とは、特に定義しない限り、AおよびBからなる群から選択される少なくとも1つを意味する。
【0019】
本発明の一実施形態は、廃プラスチック熱分解油の製造方法を提供する。前述した方法は、廃プラスチックおよびスラグ組成物を熱分解反応器に投入して熱分解油を製造する熱分解工程を含む。そこで、本発明は、廃プラスチック原料物質を熱分解した後、別の後処理工程を行うことなく、非常に高いレベルに熱分解油中の塩素除去が可能である。
【0020】
前記熱分解工程は、廃プラスチックを反応器に投入し加熱して熱分解ガス相、オイルおよびワックスを含む熱分解液相、および熱分解チャーを含む固相を生成することができ、具体的に、非酸化性雰囲気下で400~600℃の温度で行われてもよい。
【0021】
前記非酸化性雰囲気は、廃プラスチックが酸化(燃焼)しない雰囲気であり、例えば、酸素濃度が1体積%以下に調整された雰囲気、窒素、水蒸気、二酸化炭素、およびアルゴンなどの不活性ガス雰囲気または負圧雰囲気であってもよい。
【0022】
前記熱分解温度が400℃以上である場合には、塩素含有プラスチックの融着を防止することができ、熱分解温度が600℃以下である場合には、廃プラスチック中の塩素がCaClなどの形態でスラグ組成物に残留することができるので好ましい。
【0023】
前記廃プラスチックは、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ塩化ビニル(PVC)、およびポリスチレン(PS)からなる群から選択された少なくとも1つを含んでもよい。前記廃プラスチックは、有機塩素(organic Cl)および無機塩素(Inorganic Cl)を含んでもよい。廃プラスチック熱分解油などの廃プラスチックのクラッキング(Cracking)、熱分解(Pyrolysis)反応により生成された廃油中には、廃プラスチックに起因する多量の不純物が含まれる。そこで、廃油の活用時、大気汚染物質を排出する恐れがあり、特に有機塩素および無機塩素成分などは、高温処理過程でHClに転化されて排出されるという問題があるため、廃油を前処理して前記塩素成分の不純物を除去する必要がある。
【0024】
前記廃プラスチックは、生活系廃プラスチック廃棄物と産業系廃プラスチック廃棄物に区分することができる。生活系廃プラスチック廃棄物は、PE、PP以外のPVC、PS、PET、PBTなどが混合されたプラスチックであり、本発明ではPE、PPとともにPVCを3重量%以上含む混合廃プラスチック廃棄物を意味し得る。廃プラスチックの塩素含量は、例えば、1,000ppm以上、3,000ppm以上、または5,000~15,000ppmであってもよい。
【0025】
前記スラグ組成物は、総重量に対して、カルシウム酸化物30~60重量%と、鉄酸化物5~30重量%と、ケイ素酸化物、アルミニウム酸化物、およびマグネシウム酸化物から選択される少なくとも1つ0.5~30重量%と、を含む。
【0026】
前記スラグ組成物は、製鋼所で銑鉄(iron)と鋼(steel)を製造する際に産出される副産物である鉄鋼スラグであってもよく、前記鉄鋼スラグは、高炉スラグおよび製鋼スラグを含んでもよく、前記鉄鋼スラグは、製鋼スラグであることが好ましい。高炉スラグは、コンクリート用混和剤、高炉スラグセメント用などとして広く活用されている。製鋼スラグは、高炉で生産された溶融銑鉄で粗鋼を製造する転炉工程の副産物である転炉スラグと、電気炉でスクラップ(scrap)を溶かして粗鋼を製造する際の副産物である電気炉スラグと、を含んでもよい。製鋼スラグは、化学組成が高炉スラグとは大きく異なり、セメントへの応用が不可能であり、製鋼スラグに含まれた高い遊離石灰によりコンクリート骨材としての使用が制限されている。未反応遊離石灰(Free CaO)は、環境汚染源であり、かつ、スラグの用途を制限する化合物であるが、本発明は、製鋼スラグ中の未反応遊離石灰(Free CaO)および金属化合物を活用して廃プラスチックの熱分解工程で原料物質に含まれた不純物を除去することができる。
【0027】
前記スラグ組成物は、具体的に、カルシウム酸化物40~60重量%、35~55重量%、または40~50重量%、鉄酸化物5~30重量%、10~25重量%、または15~20重量%、ケイ素酸化物5~20重量%、7~18重量%、または10~15重量%、アルミニウム酸化物0~10重量%、0~5重量%、または0.5~3重量%、および/またはマグネシウム酸化物0~15重量%、1~10重量%、または2~8重量%を含んでもよい。製鋼スラグは、製鉄工程の副産物であり、各成分の含有量の変化は、操業条件に応じて±5%変動し得る。前記スラグ組成物の化学組成範囲を満たす場合、廃プラスチック中の塩素と前記金属酸化物が反応して様々な金属塩化物(FeCl、CaCl、MgCl、SiClなど)を形成することができ、これにより、熱分解反応の高温条件でもCaClなどが再び塩素に解離する問題を改善することができる。これに対し、従来のCaO、または廃FCC触媒を単独で用いる場合には、CaClなどの1種の塩素反応生成物が形成されるため、塩素解離反応が進行しやすく、分解された多量のHClは、熱分解油にトラップ(trap)されるか、または再反応により有機塩素(organic Cl)を生成し得る。
【0028】
一実施形態において、前記スラグ組成物は、下記式1および式2を満たしてもよい。
【0029】
[式1]
1<鉄酸化物(重量%)/ケイ素酸化物(重量%)<3
【0030】
[式2]
3<鉄酸化物(重量%)/マグネシウム酸化物(重量%)<5
【0031】
前記式1および式2中、鉄酸化物(重量%)、ケイ素酸化物(重量%)、およびマグネシウム酸化物(重量%)は、スラグ組成物の総重量に対して、鉄酸化物、ケイ素酸化物、およびマグネシウム酸化物が占める重量%をそれぞれ意味する。
【0032】
スラグ組成物が前記式1および式2を満たす場合、塩素と反応して金属塩化物が形成される効果が著しく向上し、生成された廃プラスチック熱分解油中の塩素を最小化することができる。具体的に、前記式1は、1<鉄酸化物(重量%)/ケイ素酸化物(重量%)<2.7であってもよく、前記式2は、3.3<鉄酸化物(重量%)/マグネシウム酸化物(重量%)<4.7であってもよい。より具体的に、前記式1は、1.5<酸化物(重量%)/ケイ素酸化物(重量%)<2.5であってもよく、前記式2は、3.5<酸化物(重量%)/ケイ素酸化物(重量%)<4.5であってもよい。
【0033】
一実施形態において、前記スラグ組成物は、総重量に対して、アルミニウム酸化物を5重量%以下含んでもよい。アルミニウム酸化物を具体的には4重量%以下含んでもよく、より具体的には3重量%以下含んでもよい。上記範囲を満たす場合、塩素除去効果がさらに向上することができる。
【0034】
一実施形態において、前記スラグ組成物は、総重量に対して、ケイ素酸化物を20重量%以下含んでもよい。ケイ素酸化物を具体的には18重量%以下含んでもよく、より具体的には15重量%以下含んでもよい。上記範囲を満たす場合、塩素除去効果がさらに向上することができる。
【0035】
前記スラグ組成物は、5~200μmの粒子サイズを有してもよく、具体的には30~150μm、または60~80μmの粒子サイズを有してもよい。
【0036】
前記スラグ組成物は、0.5~10m/gのBET比表面積を有してもよく、具体的には1~8m/g、または3~5m/gのBET比表面積を有してもよい。熱分解反応器にCaO粒子を添加して廃プラスチックを熱分解する場合、反応器内で酸化カルシウム(CaO)が塩化水素と反応してCaClを生成し、生成されたCaClが溶融して脱流動化(de-fluidization)を引き起こすという問題がある。このようなスラギング(Slagging)現象により工程運転が停止されるなど、工程効率が大幅に低下するという問題がある。本発明のスラグ組成物は、カルシウム酸化物だけでなく、鉄酸化物、ケイ素酸化物、アルミニウム酸化物、および/またはマグネシウム酸化物を含むため、CaClの発生量がCaO粒子に比べて少なく、相対的に高いBET比表面積を有するCaO、Spent FCC E-catに比べて塩素除去効果に優れるだけでなく、塩素を除去する際に発生する副生成物が溶融せず、スラグ組成物の気孔に融着するため、スラギング現象および脱流動化現象を抑制することができる。これは、熱分解油の塩素などの不純物の除去には、BET比表面積や粒子サイズのような物理的特性よりも化学的特性が優勢に影響するものと分析される。特に高いBET比表面積の廃FCC触媒(Spent FCC E-cat)を用いるのに比べて、本発明のスラグの場合、Cl低減能力にさらに優れると分析され、このような結果は、本発明のスラリー組成物の場合、化学反応による不純物の除去効果に非常に優れるため、物理的特性の劣勢を克服できることを意味する。
【0037】
前記スラグ組成物は、100~500Mpaの圧縮強度を有してもよく、具体的には200~400Mpa、または250~350Mpaの圧縮強度を有してもよい。また、前記スラグ組成物は、1.5~5g/cmの密度を有してもよく、2~4g/cm、または2.5~3.5g/cmの密度を有してもよい。製鋼スラグは、高炉スラグに比べて鉄含有量が高く、密度値が大きい。そこで、物理的耐久性が向上するため、相対的に高いBET比表面積を有していても、熱分解反応器内の高温高圧条件でスラグ組成物粒子の形態を維持することができる。したがって、熱分解ガスまたは熱分解油に伴わないため、反応後に除去しやすく、吸着剤または中和剤の用途として用いる場合に再生および取り替え周期を増やすことができるため、工程簡素化の面で好ましい。
【0038】
一方、前記スラグ組成物の粒子サイズは、D50を意味し、前記D50は、レーザ散乱法による粒度分布測定において、小さい粒径から累積体積が50%になったときの粒子直径を意味する。ここで、D50は、製造された炭素質材料に対して、KS A ISO 13320-1規格に準じて試料を採取し、Malvern社製のMastersizer3000を用いて粒度分布を測定することができる。具体的に、エタノールを溶媒とし、必要に応じて超音波分散機を用いて分散させた後に体積密度を測定することができる。
【0039】
一方、前記スラグ組成物のBET比表面積は、当該技術分野で通常適用されるガス吸着法(BET)により測定することができ、試料にArを吸着させて試料表面の比表面積を分析することができるが、本発明はこれに限定されない。
【0040】
一方、前記圧縮強度は、通常適用されるスラグ試料を作製し、圧縮により試料が破壊されるまでの最大応力で測定することができるが、本発明はこれに限定されない。
【0041】
前記熱分解反応器は、オートクレーブ反応器(Autoclave reactor)、バッチ反応器(batch stirred reactor)、流動層反応器(Fluidised-bed reactor)、および固定層反応器(Packed-bed reactor)などで行われてもよく、具体的に、撹拌と昇温の制御が可能な全ての反応器に適用してもよく、本発明は、バッチ反応器(Batch reactor)で行われてもよい。
【0042】
一方、前記熱分解工程は、熱分解ガス相と熱分解液相をガスとして回収する熱分解ガス回収工程、および熱分解固相(固形分)を微粒物と粗粒物に分離する分離工程をさらに含んでもよい。
【0043】
前記ガス回収工程では、熱分解工程で生成された気相のうち、メタン(CH)、エタン(C)、プロパン(C)のような低沸点炭化水素化合物を含む熱分解ガスを回収する。前記熱分解ガスは、一般的に、水素、一酸化炭素、低分子量の炭化水素化合物などの可燃性物質を含む。炭化水素化合物の例としては、メタン、エタン、エチレン、プロパン、プロペン、ブタン、ブテンなどが挙げられる。このような熱分解ガスは、可燃性物質を含むため、燃料として用いることができる。
【0044】
前記分離工程では、熱分解工程で生成された固相のうち、固形分、例えば、炭化物と中和剤および/または銅化合物を微粒物と粗粒物に分離する。具体的に、塩素含有プラスチックの平均粒子直径よりも小さく、また、中和剤および銅化合物の平均粒子直径よりも大きい篩を用いて分級することで、熱分解反応により生成された固形分を微粒物と粗粒物に分離することができる。前記分離工程では、固形分を、塩素含有中和剤および銅化合物を相対的に多く含む微粒物と、炭化物を相対的に多く含む粗粒物に分離することが好ましい。前記微粒物と炭化物は、必要に応じて再処理されてもよく、熱分解工程で再使用、燃料として使用、または廃棄されてもよく、本発明はこれに限定されない。
【0045】
前記熱分解工程により製造された熱分解油は、総重量に対して、総塩素500ppm未満、300ppm以下、200ppm以下、または100ppm以下であってもよく、有機塩素200ppm未満、100ppm以下、または90ppm以下であってもよい。
【0046】
本発明の一実施形態に係る廃プラスチック熱分解油の製造方法において、前記熱分解工程の前に、廃プラスチックの前処理ステップをさらに含んでもよく、また、前記前処理ステップは、廃プラスチックをスクリュー反応器に投入して常温で粉砕する工程をさらに含んでもよい。
【0047】
前記廃プラスチックの粉砕は、当該技術分野で公知の粉砕工程を適用してもよく、例えば、廃プラスチックを前処理反応器に投入し、約300℃まで加熱してペレット状の炭化水素流前駆体を製造してもよいが、本発明はこれに限定されない。一例として、前記粉砕工程は、前記廃プラスチックと中和剤を混合して反応器に投入してもよい。廃プラスチックと前記中和剤としてカルシウム酸化物などを混合して常温で粉砕すると、機械化学反応が起こり、炭化水素とCaOHClを生成することができ、これにより、廃プラスチック原料中の塩素をCaOHClに安定的に固定するという効果がある。
【0048】
前記前処理工程は、次いで、前記粉砕された廃プラスチックを前処理反応器に投入して加熱することを特徴とし、固体廃プラスチック原料物質を物理化学的に処理して塩素を一部除去し、炭化水素流前駆体(熱分解工程の原料物質)を製造してもよい。前記炭化水素流前駆体とは、廃プラスチック溶融物を意味し、前記廃プラスチック溶融物とは、粉砕もしくは未粉砕の固体廃プラスチックの全部または一部が液体廃プラスチック(溶融物)として生成されたものを意味し得る。
【0049】
前記加熱は、200~320℃の温度および常圧の条件で行われてもよい。具体的に、250~320℃または280~300℃の温度で行われることが好ましい。一般的に、廃プラスチックの前処理温度は、少なくとも250℃であるが、上記の脱塩素後の炭化水素では、より低い温度200℃でも容易に前処理を行い、水素やメタンガスを発生させることができる。したがって、本発明により、前処理工程で有害ガスを発生させることなく、水素やメタンなどの可燃性ガスを生成することができる。
【0050】
前記前処理反応器は、押出機(Extruder)、オートクレーブ反応器(Autoclave reactor)、バッチ反応器(batch reactor)などであってもよく、一例としてオーガー反応器(auger reactor)を用いてもよいが、本発明はこれに限定されない。
【0051】
以下、本発明の好ましい実施例および比較例を記載する。ただし、下記の実施例は本発明の好ましい一実施例にすぎず、本発明が下記の実施例に限定されるものではない。
【0052】
実施例
(実施例1)
生活系廃ビニル4トンおよびスラグ(Slag)10重量%をバッチ(Batch)熱分解反応器に投入し、500℃まで熱分解を行った。製造された熱分解ガスをガス分離器、冷却器を経て、油水分離器により熱分解油と水に分離した。分離された熱分解油は、沈降槽、遠心分離機などの固/液分離、液/液分離を経て貯蔵タンクに捕集した。
【0053】
この際、スラグ組成物としては、粒子サイズ(D50)70μm、BET比表面積4m/gであり、下記表1の化学組成を有する製鋼スラグを使用した。
用いられた生活系廃プラスチックは、PP、PE、PVC、ナイロンなどの混合生活系廃プラスチックである。生活系廃プラスチック中の総Cl含量は11000ppmであった。
【0054】
【表1】
【0055】
(表1中、T-Feとは、製鉄所の焼結工場で操業中に発生するFe、Feを主成分とする全ての鉄(鉄酸化物)を意味する。)
【0056】
(実施例2~実施例4)
前記実施例1において、D50およびBET比表面積が異なる製鋼スラグを使用したスラグを用いたことを除いては、実施例1と同様の方法で熱分解油を製造した。実施例2では、製鋼スラグ組成物として、粒子サイズ(D50)82μm、BET比表面積4.8m/g、実施例3では、製鋼スラグ組成物として、粒子サイズ(D50)71μm、BET比表面積3.7m/g、実施例4では、製鋼スラグ組成物として、粒子サイズ(D50)93μm、BET比表面積7.6m/gであるものを用い、化学組成は、下記表2のとおりである。
【0057】
【表2】
【0058】
(表2中、T-Feとは、製鉄所の焼結工場で操業中に発生するFe、Feを主成分とする全ての鉄(鉄酸化物)を意味する。)
【0059】
評価例1:熱分解油中の不純物低減結果の解釈
(比較例1)
スラグ組成物を用いていないことを除いては、実施例1と同様に行って熱分解油を回収した。
【0060】
(比較例2)
スラグ組成物の代わりにCaO粒子を用いたことを除いては、実施例1と同様に行って熱分解油を回収した。
この際、CaO粒子は、粒子サイズ(D50)48.3μm、BET比表面積5.9m/gであった。
【0061】
(比較例3)
スラグ組成物の代わりに廃FCC触媒を用いたことを除いては、実施例1と同様に行って熱分解油を回収した。
この際、廃FCC触媒は、粒子サイズ(D50)73.6μm、BET比表面積151m/gであった。
【0062】
(比較例4)
製鋼スラグの代わりに高炉スラグ(上記表1参照)を用いたことを除いては、実施例1と同様に行って熱分解油を回収した。
【0063】
(評価方法)
実施例1~3および比較例1~3で製造された廃プラスチック熱分解油中の不純物Clに対する分析のためにICP、TNS、EA-O、XRF分析を行った。その結果を下記表3にまとめた。
【0064】
【表3】
【0065】
上記表3を参照すると、スラグ組成物を熱分解添加剤として用いた実施例1の場合、Cl低減性能がE-cat(廃FCC触媒)に比べて非常に優れ、一般的に用いられるCaOよりも優れたレベルであることが確認された。
【0066】
また、実施例1と比較例4の結果を比較すると、鉄鋼スラグのうち、本発明のスラグ組成物の化学組成を満たす製鋼スラグを用いる場合、そうでない高炉スラグに比べてCl低減効果にさらに優れることを確認した。
【0067】
また、上記表3とともに下記表4を参照すると、実施例3のように製鋼スラグの化学組成が式1および式2の両方を満たす場合、前記式1または式2の一方のみを満たす実施例1または実施例2に比べて塩素低減性能に著しく優れることを確認することができ、製鋼スラグの化学組成が実施例4のような場合に塩素低減性能に最も優れることを確認することができる。
【0068】
【表4】
【0069】
(上記表4中、式1は、1<鉄酸化物(重量%)/ケイ素酸化物(重量%)<3であり、式2は、3<鉄酸化物(重量%)/マグネシウム酸化物(重量%)<5である。)
【0070】
以上、本発明の実施例について説明したが、本発明は、上記の実施例に限定されるものではなく、互いに異なる様々な形態で製造されてもよく、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者であれば、本発明の技術的思想や必須の特徴を変更せずに他の具体的な形態で実施可能であることを理解することができる。したがって、以上で記述された実施例は、全ての面で例示的なものであって、限定的なものではないことを理解しなければならない。
【手続補正書】
【提出日】2024-04-23
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0032
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0032】
スラグ組成物が前記式1および式2を満たす場合、塩素と反応して金属塩化物が形成される効果が著しく向上し、生成された廃プラスチック熱分解油中の塩素を最小化することができる。具体的に、前記式1は、1<鉄酸化物(重量%)/ケイ素酸化物(重量%)<2.7であってもよく、前記式2は、3.3<鉄酸化物(重量%)/マグネシウム酸化物(重量%)<4.7であってもよい。より具体的に、前記式1は、1.5<酸化物(重量%)/ケイ素酸化物(重量%)<2.5であってもよく、前記式2は、3.5<酸化物(重量%)/マグネシウム酸化物(重量%)<4.5であってもよい。
【国際調査報告】