(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-10
(54)【発明の名称】回転機器のための円錐状シールアセンブリおよびシールアセンブリを含む回転機器
(51)【国際特許分類】
F04D 29/12 20060101AFI20241003BHJP
F04D 1/08 20060101ALI20241003BHJP
F04D 19/02 20060101ALI20241003BHJP
F16J 15/34 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
F04D29/12 Z
F04D1/08 Z
F04D19/02
F16J15/34 C
F16J15/34 F
F16J15/34 K
F16J15/34 H
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024522598
(86)(22)【出願日】2022-11-01
(85)【翻訳文提出日】2024-04-16
(86)【国際出願番号】 EP2022025490
(87)【国際公開番号】W WO2023088579
(87)【国際公開日】2023-05-25
(31)【優先権主張番号】102021000028247
(32)【優先日】2021-11-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517029381
【氏名又は名称】ヌオーヴォ・ピニォーネ・テクノロジー・ソチエタ・レスポンサビリタ・リミタータ
【氏名又は名称原語表記】Nuovo Pignone Tecnologie S.R.L.
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】弁理士法人坂本国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】ガンベリ,フランチェスコ
(72)【発明者】
【氏名】ベルガミーニ,ロレンツォ
(72)【発明者】
【氏名】リッゾ,エマヌエーレ
(72)【発明者】
【氏名】マシ,ガイド
【テーマコード(参考)】
3H130
3J041
【Fターム(参考)】
3H130AA12
3H130AB27
3H130AB42
3H130AB52
3H130AB69
3H130AC30
3H130BA53F
3H130DC03X
3H130DC14X
3H130DC20X
3H130EA06F
3H130EA07F
3H130EA08F
3H130EB04F
3H130EC08F
3H130ED04F
3J041AA02
3J041BA04
3J041BC02
3J041BD06
3J041DA05
(57)【要約】
【解決手段】 シャフトシールアセンブリ(1)は、回転機器の回転シャフト(5)に駆動結合されるように適合された回転シール部材(31)と、回転機器の固定ハウジングに結合されるように適合され、回転シール部材(31)の周りに延在する固定多孔質シール部材(41)と、を含む。シャフトシールアセンブリは、加圧シールガスを固定多孔質シール部材(41)に連通させるように適合された少なくとも1つのシールガス入口ポート(55)をさらに含む。回転シール部材(31)は円錐状外側シール表面(35)を有し、固定多孔質シール部材(41)は円錐状内側シール表面(43)を有する。円錐状内側シール表面(43)は円錐状外側シール表面(35)に面している。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転機器の高圧領域と低圧領域とを密封分離するように構成されたシャフトシールアセンブリであって、
前記回転機器の回転シャフトに駆動結合されて共回転するように構成された回転シール部材と、
前記回転機器の固定ハウジングに結合されるように適合され、前記回転シール部材の周りに延在する固定多孔質シール部材と、
加圧シールガスを前記固定多孔質シール部材に連通させるように適合された少なくとも1つのシールガス入口ポートと、を含み、
前記回転シール部材は円錐状外側シール表面を有し、前記固定多孔質シール部材は円錐状内側シール表面を有し、前記円錐状内側シール表面は、前記円錐状外側シール表面に対向する、シャフトシールアセンブリ。
【請求項2】
前記円錐状外側シール表面は、前記高圧領域に面するように適合された第1の端部と、前記低圧領域に面するように適合された第2の端部と、を有し、前記第1の端部は前記第2の端部よりも大きい直径を有し、前記円錐状内側シール表面は、前記高圧領域に面するように適合された第1の端部と、前記低圧領域に面するように適合された第2の端部と、をそれぞれ有し、前記第1の端部は前記第2の端部よりも大きい直径を有する、請求項1に記載のシャフトシールアセンブリ。
【請求項3】
前記円錐状外側シール表面は、前記高圧領域に面するように適合された第1の端部と、前記低圧領域に面するように適合された第2の端部と、を有し、前記第1の端部は前記第2の端部よりも小さい直径を有し、前記円錐状内側シール表面は、前記高圧領域に面するように適合された第1の端部と、前記低圧領域に面するように適合された第2の端部と、をそれぞれ有し、前記第1の端部は前記第2の端部よりも小さい直径を有する、請求項1に記載のシャフトシールアセンブリ。
【請求項4】
前記少なくとも1つのシールガス入口ポートは、前記円錐状内側シール表面の前記第1の端部の近くに位置する、請求項2または3に記載のシャフトシールアセンブリ。
【請求項5】
前記円錐状内側シール表面を前記円錐状外側シール表面に向かって軸方向に押すように適合された弾性部材をさらに含む、請求項1~4のいずれか一項または複数に記載のシャフトシールアセンブリ。
【請求項6】
使用時に、前記加圧シールガスは、前記固定多孔質シール部材の前記弾性部材の軸方向推力を平衡させるように、前記円錐状内側シール表面と前記円錐状外側シール表面との間で前記固定多孔質シール部材を通って流れ、前記円錐状内側シール表面と前記円錐状外側シール表面との間に間隙を形成する、請求項5に記載のシャフトシールアセンブリ。
【請求項7】
使用時に、前記間隙内のシールガス圧力が、前記第1の端部から前記第2の端部に向かって減少する、請求項6に記載のシャフトシールアセンブリ。
【請求項8】
前記固定多孔質シール部材は、リングケーシング内に収容され、その中で軸方向に移動可能である、請求項1~7のいずれか一項または複数に記載のシャフトシールアセンブリ。
【請求項9】
前記固定多孔質シール部材は、前記リングケーシングで半径方向に移動可能である、請求項8に記載のシャフトシールアセンブリ。
【請求項10】
前記固定多孔質シール部材は、前記リングケーシングに保持された環状ハウジングに堅固に拘束される、請求項8または9に記載のシャフトシールアセンブリ。
【請求項11】
前記環状ハウジングは、前記リングケーシング内で軸方向および半径方向に移動するように、軸方向および半径方向クリアランスを有して前記リングケーシング内に保持される、請求項10に記載のシャフトシールアセンブリ。
【請求項12】
前記環状ハウジングは、中間環状構成要素に対して半径方向クリアランスを有して前記中間環状構成要素に装着され、前記中間環状構成要素は、軸方向クリアランスを有して前記リングケーシングに保持される、請求項10に記載のシャフトシールアセンブリ。
【請求項13】
バランスガスケットが、前記リングケーシングと前記環状ハウジングとの間に配置されている、請求項10または11に記載のシャフトシールアセンブリ。
【請求項14】
バランスガスケットが、前記中間環状構成要素と前記リングケーシングとの間、および前記環状ハウジングと前記中間環状構成要素との間に配置されている、請求項12に記載のシャフトシールアセンブリ。
【請求項15】
前記固定多孔質シール部材は、前記円錐状内側シール表面と同軸の外側円筒状表面を有する、請求項1~14のいずれか一項または複数に記載のシャフトシールアセンブリ。
【請求項16】
前記円錐状外側表面は、回転シャフトに角度を付けて結合されるように適合されたシャフトスリーブと一体である、請求項1~15のいずれか一項または複数に記載のシャフトシールアセンブリ。
【請求項17】
前記円錐状内側シール表面の周りに円周方向に、好ましくは一定の角度ピッチを伴って配置された複数のシールガス入口ポートを含む、請求項1~16のいずれか一項または複数に記載のシャフトシールアセンブリ。
【請求項18】
機械的接触を受ける少なくともいくつかの表面上に硬化処理を含む、請求項1~17のいずれか一項または複数に記載のシャフトシールアセンブリ。
【請求項19】
前記シャフトシールアセンブリの2つの構成要素間に非弾性特徴部をさらに含む、請求項1~18のいずれか一項または複数に記載のシャフトシールアセンブリ。
【請求項20】
固定ケーシングと、前記ケーシング内で回転するように支持されたシャフトと、を含む回転機器であって、高圧領域と低圧領域との間に配置された、請求項1~19のいずれか一項または複数に記載のシャフトシールアセンブリを含む、回転機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書で開示されるのは、限定はしないがターボ機械などの回転機器用のシールアセンブリである。
【背景技術】
【0002】
限定はしないが、遠心圧縮機および軸流圧縮機などのターボ機械は、軸受または環境に向かう流体漏れを防止または制限するために回転シールを必要とする。
【0003】
この目的のために、様々なシャフトシールデバイスが開発されており、その中には、ラビリンスシール、オイル充填シール、機械的接触シール、およびドライガスシールがある。
【0004】
ドライガスシールは、固定リングと、シャフトと一体的に回転するように適合された回転リングと、を含む。典型的には回転機器を通って流れる同じプロセスガスであるドライシールガスが、ガス漏れに対するバリアを提供するためにシールに注入される。ドライシールガスの大部分は、内側のラビリンスシールを横切って流れて機械内に戻り、ドライシールガスの小部分は、ドライガスシールから一次または二次ベントとして流れ、回収されるかあるいはフレアされる。
【0005】
優れたシール特性を提供する一方で、ドライガスシールは、例えば、回転機器が休止している間にもシールガスを提供する必要があるなどの欠点がないわけではない。さらに、排出されたシールガスの流速は比較的高く、これは、排出されたシールガスが回収されない場合、深刻な環境影響または貴重なガス成分の損失をもたらす可能性がある。
【0006】
回転シール部材と協働する固定多孔質シール部材を使用して、これらの欠点を克服する試みがなされてきた。加圧シールガスが多孔質シール部材に供給され、固定多孔質シール部材と回転シール部材との間の界面に向かって多孔質シール部材を横切って移動する。多孔質シール部材を使用するこれらのシールアセンブリは、いくつかの欠点を有する。特に、漏れの流路の長さが短いため、漏れ率が比較的高くなる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、先行技術のシールアセンブリの欠点および制限のうちの少なくともいくつかを克服または軽減する、多孔質シール部材を使用するシールアセンブリを提供することが望ましい。
【0008】
圧縮機または別のターボ機械などの回転機器の高圧領域と低圧領域とを密封分離するように構成されたシャフトシールアセンブリが開示される。本明細書で使用される場合、回転機器という用語は、外側ケーシングと、ケーシング内で回転するように支持されたシャフトと、を有する任意の機械を包含し得る。シャフトシールアセンブリは、回転シャフトと共に回転するように回転シャフトに駆動結合されるように適合された回転シール部材と、回転機器の固定ハウジングに結合されるように適合され、回転シール部材の周りに延在する固定多孔質シール部材と、を含む。シャフトシールアセンブリはさらに、固定多孔質シール部材に加圧シールガスを送達するように適合された少なくとも1つのシールガス入口ポートを含む。回転シール部材は、円錐状外側シール表面(すなわち、凸状の円錐状シール表面)を有し、固定多孔質シール部材は、円錐状内側シール表面(すなわち、凹状の円錐状シール表面)を有する。円錐状内側シール表面は円錐状外側シール表面に面している。
【0009】
本明細書に開示される現時点で好ましい実施形態では、上述の円錐状外側シール表面および円錐状内側シール表面の各々は、シャフトシールアセンブリが回転機器に装着されたときに、高圧領域に面するように適合されたそれぞれの第1の端部と、低圧領域に面するように適合された第2の端部と、を有する。第1の端部の各々は、対応する第2の端部よりも大きい直径を有する。
【0010】
シールアセンブリのさらなる特徴および実施形態は、以下に説明され、添付の特許請求の範囲に記載される。
【0011】
さらなる態様によれば、本明細書で開示されるのは、高圧領域と低圧領域が互いに密封分離される、例えばターボ機械などの回転機器である。上記で概説された少なくとも1つ以上のシャフトシールアセンブリは、高圧領域と低圧領域との間で回転シャフトに沿って配置され得る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
ここで、添付図面を簡単に参照する。
【
図1】
図1は、本開示によるシャフトシールアセンブリを備えたターボ機械の概略構成図である。
【
図2】
図2は、一実施形態における本開示によるシャフトシールアセンブリの断面図である。
【
図3】
図3は、さらなる実施形態における本開示によるシャフトシールアセンブリの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下の説明は、具体的にはターボ機械に関し、より具体的には、軸流圧縮機または遠心圧縮機などの動圧縮機およびポンプに関する。しかしながら、本開示の新規な特徴は、高圧側または高圧領域と低圧側または低圧領域とが互いに密封分離されるタービン、エキスパンダ、および他の回転機械などの他の種類の回転機器において効率的なシャフトシールを提供するために有利に使用され得ることを理解されたい。
【0014】
ターボ機械の回転シャフトに沿って効率的なシールを提供するために、回転機器で使用するための新しいシールアセンブリは、固定円錐状表面、すなわち非回転円錐状表面と協働する回転円錐状表面を有する。固定円錐状表面は、回転円錐状表面を取り囲む。固定円錐表面は、加圧シールガスが流れることができる多孔質体に形成される。固定円錐状表面と回転円錐状表面との間の間隙または空間は、加圧シールガスと固定円錐状表面に加えられる弾性軸方向力との組合せ作用下で形成される。
【0015】
「軸力」とは、固定円錐状表面および回転円錐状表面の幾何学的軸の方向に向けられた力であると理解される。軸は、シールアセンブリが装着されるシャフトの回転軸と実質的に一致する。
【0016】
弾性軸方向力は、固定円錐状表面を回転円錐状表面に対してターボ機械の回転シャフトの回転軸の方向に押すように配向される。これにより、最小限のシールガス流量で高圧領域と低圧領域とを効率的に分離することができる。
【0017】
ここで図面を参照すると、
図1は、ケーシング3と、ケーシング3内で回転するように支持された回転シャフト5と、を含むターボ機械1、例えば遠心圧縮機を概略的に示す。インペラ7は、回転シャフト5の回転軸線A-Aを中心として回転シャフト5と共に回転する。プロセスガスは、入口ライン10に流体結合された吸引側9を通って圧縮機1に流れる。加圧されたプロセスガスは、圧縮機1によって送出側11で送出され、出口ライン12内を流れる。
【0018】
回転シャフト5は、13および15で概略的に示される軸受によって支持される。プロセスガスが回転シャフト5に沿って軸受13および15を通って環境に向かって漏れるのを防止するために、シールアセンブリ17および19が、回転シャフト5に沿って軸受13および15の内側に配置される。図示されていないさらなる実施形態では、追加のシールアセンブリが、ケーシング3内の隣接する圧縮機段の間に配置され得る。
【0019】
図2は、本開示のシールアセンブリ17の一実施形態を示す。シールアセンブリ19は、シールアセンブリ17と実質的に同様に構成することができる。
【0020】
一般的に言えば、シールアセンブリ17は、高圧領域HPと低圧領域LPとの間、例えば、最上流圧縮機段と軸受13との間、または最下流圧縮機段と軸受15との間に配置される。
【0021】
各実施形態では、シールアセンブリ17は、回転シャフト5と共に回転するように、かつ回転シャフト5に沿った回転シール部材31の軸方向変位を回避するように、回転シャフト5に拘束された、すなわち接続された回転シール部材31を含む。ここで、「回転シャフトに拘束される」とは、回転シール部材31がシャフト5と一体に回転することを意味する。回転シール部材31の回転シャフト5への接続、すなわち固定は、任意の適切な方法、例えば、溶接、滑り嵌め、摩擦嵌め、接着剤などによって得ることができる。他の実施形態では、回転シール部材31の回転シャフト5への接続は、ねじ、ピン、クランプ、キー、タブ、スプライン付きプロファイルなどによっても得ることができる。非限定的な例として、
図2において、回転シャフト5と回転シール部材31との間の機械的接続は、ねじ33によって概略的に表されている。
【0022】
回転シール部材31は、回転シャフト5のための円筒状の貫通孔を有するシャフトスリーブと、円錐状外側表面35、すなわち円錐状雄表面と、を含む。円錐状外側表面35は、シャフト5と同軸であり、すなわち、その軸は、回転シャフト5および圧縮機ロータの回転軸線A-Aと一致する。円錐状外側表面35は、回転シール部材31の内側円筒状表面36を取り囲む。0リング37のような1つ以上の固定シール部材が、内側円筒状表面36と回転シャフト5との間に位置付けられてもよい。
【0023】
回転シール部材31の円錐状外側表面35は、高圧領域HPに面する第1の端部から低圧領域LPに面する第2の端部まで延在する。円錐状外側表面35は、可変直径を有する円形断面を有する。高圧領域HPに面する第1の端部は、第2の端部よりも大きい直径を有し、すなわち、円錐状外側表面35の理想的な頂点は、高圧領域HPの反対側に位置する。他の現時点であまり好ましくない実施形態では、高圧領域および低圧領域に対する円錐状外側表面35の位置が逆にされてもよく、すなわち、円錐状外側表面35の大径端部は低圧領域に面することができ、円錐状外側表面35の小径端部は高圧領域に面することができる。
【0024】
シールアセンブリ17は、回転シール部材31と実質的に同軸である固定多孔質シール部材41をさらに含む。本明細書で理解されるように、「実質的に同軸」とは、固定多孔質シール部材41と回転シール部材31が、許容可能な機械的公差内で同軸であることを意味する。これらは、特定の用途に応じて変化し得る。一般的に言えば、回転シール部材31および固定多孔質シール部材41の円錐状表面の幾何学的軸の相互位置は、偏心と相互傾斜の両方に関して厳密な同軸状態から逸脱する可能性がある。2つの軸の偏心率は、互いに対向する円錐状表面の最大直径の0%~5%の範囲内であってもよい。平行度誤差、すなわち角度オフセットは、例えば、0°~5°、好ましくは0°~2°以下であってもよい。
【0025】
本明細書で使用される「固定」という用語は、固定多孔質シール部材41が回転軸線A-Aの周りで回転シャフト5と共に回転していないことを意味する。しかしながら、固定多孔質シール部材41は、固定位置の周りで振動または揺動してもよい。例えば、固定多孔質シール部材41は、機械的公差に起因して、0°~2°以下の範囲内で制限された角度変位を行うことができる。
【0026】
さらに、固定多孔質シール部材41は、軸方向、すなわち回転シャフト5の回転軸線A-Aに平行な方向に限定された変位を行うことができる。軸方向変位は、ターボ機械の熱膨張によって引き起こされる可能性がある。変位は、例えば0~20mmの範囲に及び得るが、一般にターボ機械の軸の長さに依存する。
【0027】
さらに、後でより詳細に説明するように、固定多孔質シール部材41は、回転シール部材31に対して回転シャフト5の回転軸線A-Aの方向にわずかに移動して、固定多孔質シール部材41の円錐状内側表面と回転シール部材31の円錐状外側表面35との間に間隙を形成し、回転シャフト5が回転しているときにそれらの間の相互接触を防止するように適合される。対向する円錐状表面間のこの相互変位は、1マイクロメートル~1000マイクロメートル以下の範囲、例えば1マイクロメートル~500マイクロメートル以下、好ましくは300マイクロメートル未満、さらにより好ましくは200マイクロメートル未満であってもよい。
【0028】
固定多孔質シール部材41は、例えば焼結材料で作られた多孔質材料の本体を含むことができる。各実施形態では、焼結材料は、炭素、グラファイト、アルミナ、炭化タングステンなどから選択することができる。他の実施形態では、多孔質材料の本体は、適切な多孔質構造を伴う付加製造によって製造することができる。
【0029】
図2の実施形態では、固定多孔質シール部材41は、全体が多孔質材料で形成されているが、図示されていない他の実施形態では、例えば、固定多孔質シール部材41が付加製造によって製造される場合、固定多孔質シール部材41は、多孔質領域および非多孔質領域を含むことができる。
【0030】
本明細書および添付の特許請求の範囲において、固定多孔質シール部材41に関する「多孔質」という用語は、シール内に注入されるシールガスが圧力差の下で固定シール部材41を通って移動することを意味する。
【0031】
図2の実施形態では、固定多孔質シール部材41は、円錐状雌表面43、すなわち円錐状内側表面43を含む。円錐状内側表面43は、回転シール部材31の円錐状外側表面35を取り囲み、すなわち、回転シール部材31の周りに延在し、上で定義された意味で回転シール部材31と実質的に同軸である。使用時には、以下に説明するように、円錐状内側表面43と円錐状外側表面35との間に間隙45が形成される。
【0032】
固定多孔質シール部材41の円錐状内側表面43は、高圧領域HPに面する第1の端部から低圧領域LPに面する第2の端部まで延在する。円錐状内側表面43は、可変直径を有する円形断面を有し、第1の端部は、第2の端部よりも大きい直径を有し、すなわち、円錐状内側表面43の理想的な頂点は、高圧領域HPの反対側に位置する。他の現時点であまり好ましくない実施形態では、円錐状内側表面43の大径端部は低圧領域に面し、円錐状内側表面43の小径端部は高圧領域に面する。
【0033】
図2の実施形態では、固定多孔質シール部材41は、固定多孔質シール部材41および回転シール部材31を取り囲む環状ハウジング47内に収容される。固定多孔質シール部材41は、環状ハウジング47と密封接触する外部表面を有する。
図2の実施形態では、固定多孔質シール部材41の外部表面は、円錐状内側表面43と同軸の主円筒状外側表面49と、2つの端部平面状表面51、53と、を含む。主円筒状外側表面49および端部平面状表面51、53は、環状ハウジング47の内側表面と密封接触している。このようにして、固定多孔質シール部材41に送達される加圧シールガスは、側部表面49、51、53を通って漏れることが防止される。
【0034】
環状ハウジング47は、少なくとも1つのシールガス入口ポート55を含む。好ましい実施形態では、複数のシールガス入口ポート55が、回転シャフト5の回転軸線A-Aの周りに環状に分配される。好ましい実施形態では、シールガス入口ポート55は、回転軸線A-Aの周りに一定の角度ピッチで分布している。シールガス入口ポート55は、高圧側に面する固定多孔質シール部材41の端部に隣接してあるいはその近くに、かつ低圧側に面する円錐状内側表面43の端部の反対側に配置される。
【0035】
図示の実施形態では、固定多孔質シール部材41は、軸方向に、すなわち円錐状表面35、43の幾何学的軸線の方向に弾性的に付勢されており、円錐状内側表面43が円錐状外側表面35に押し付けられるようになっている。
【0036】
いくつかの実施形態では、弾性部材が、固定多孔質シール部材41を回転シール部材31に押し付ける。各実施形態では、弾性部材は、圧縮ばねなどの1つまたは複数の弾性要素を含むことができる。
図2において、弾性部材は、軸A-Aの周りに配置された複数の圧縮ばね57を含む。
図2の実施形態では、ばね57は、環状ハウジング47と、その中に環状ハウジング47が配置されるリングケーシング59と、の間に配置される。リングケーシング59は、圧縮機1のケーシング5内に不動的に装着され得る。
【0037】
図2に示すように、環状ハウジング47の軸方向長さ(axial extension)は、環状ハウジング47が摺動可能に収容されるリングケーシング59内に形成された内側シート61の軸方向長さよりも短い。このようにして、環状ハウジング47とリングケーシング49との間に十分な軸方向クリアランスが存在し、環状ハウジング47が軸方向に、すなわち回転シャフト5の回転軸線A-Aの方向に移動することが可能となる。非動作状態では、加圧シールガスがシールアセンブリ17に送達されないとき、ばね57は固定多孔質シール部材41を回転シール部材31に当接する休止位置に押す。静止位置では、円錐状内側表面43は円錐状外側表面35に接触する。
【0038】
リングケーシング59の半径方向寸法は、62に示すように、環状ハウジング47とリングケーシング59との間に半径方向クリアランスが得られるような寸法である。
【0039】
バランスガスケット63、65が、環状ハウジング47とリングケーシング59との間に配置される。ガスケット63、65は、リングケーシング59のシート61の内側で環状ハウジング47のある程度の軸方向および半径方向の変位を可能にする。
【0040】
リングケーシング59内の少なくとも1つのアパーチャ67は、加圧シールガスの供給源に直接的にあるいは間接的に流体結合され、加圧シールガスをシールガス入口ポート55に向けて送出するように適合される。加圧シールガスの供給源は、高圧領域HP内の圧力よりも高い圧力の十分に清浄なガスの任意の供給源とすることができる。いくつかの実施形態では、加圧シールガスは、圧縮機1の送出側から分流され、例えば
図1に概略的に示すように、前処理ユニット71で適切に前処理されたプロセスガスとすることができる。他の実施形態では、専用のシールガス供給源、例えば窒素供給源をこの目的のために予見することができる。
【0041】
使用時には、加圧シールガスが、リングケーシング59のアパーチャ67を通って送出され、シールガス入口ポート55に強制的に流入させられる。固定多孔質シール部材41の多孔質構造により、加圧シールガスはそこを通って移動し、円錐状内側表面43から漏れる。シールガスの圧力は、弾性部材57(ばね57)の弾性力に対抗する軸方向成分を有する静圧揚力を発生させる。該静圧揚力は、固定多孔質シール部材41を回転シール部材31に対して回転軸線A-Aの方向に変位させるのに十分である。軸方向変位により、円錐状内側表面43と円錐状外側表面35との間に間隙45が形成される。円錐状間隙45の寸法は、加圧シールガスによって生成される静水力と、弾性部材57によって加えられる軸方向推力と、軸方向に変位可能な固定多孔質シール部材41に作用し、高圧領域HPと低圧領域LPとの間の差圧から生じる力と、の間のバランスによって決定される。
【0042】
リングケーシング59の軸方向クリアランスは、軸方向ハウジング47が弾性部材57の弾性スラストに抗して軸方向に移動することを可能にする。ガスケット63および65は、リングケーシング59と環状ハウジング47との間のガス漏れを防止し、したがって、固定多孔質シール部材41は、固定多孔質シール部材41の多孔質構造を通って移動する加圧シールガスによって生成される静圧スラストによって、回転シール部材31上で「浮く」ことができる。
【0043】
固定多孔質シール部材41の多孔質構造は、シールガス入口ポート55から円錐状内側表面43に向かって多孔質構造を通って移動する加圧シールガスの圧力を徐々に低下させる。
図2は、固定多孔質シール部材41の多孔質構造内のシールガスの圧力変化を表す等圧線を示す。圧力は、円錐状内側表面43および円錐状外側表面35の第1の端部(高圧領域HPに面する)から第2の端部(低圧領域LPに面する)に向かって減少する。間隙45を抜けたシールガスは、一部が高圧領域HP、すなわち圧縮機1の内部に漏れ、シールガスの残りは低圧側に向かって流れる。低圧領域に向かって抜けるシールガスを収集し、減圧されたシールガスが環境に向かって分散するのを防止するために、ベント(図示せず)が設けられ得る。いくつかの実施形態では、シールアセンブリ17とアウトボード軸受13との間にさらなるシールが位置付けられてもよく、また、シールガスが軸受13に接触するのを防止するために、シールアセンブリ17とアウトボード軸受13との間に分離ガスが送達されてもよい。
【0044】
圧縮機1の休止中、シールアセンブリ17、19を通る加圧シールガスは必要とされず、これにより、現在の技術のドライガスシールによって逆に必要とされるような連続的なシールガス送達の必要性が回避される。これは、円錐状内側表面43および円錐状外側表面35の傾斜による2つの嵌合部材31および41間の接触圧力の増倍効果によって達成される。
【0045】
環状ハウジング47の周りの軸方向および半径方向クリアランスは、固定多孔質シール部材41を形成する多孔質材料の摩耗を補償する。さらに、軸方向および半径方向クリアランスは、例えば熱膨張による回転シャフト5の半径方向および軸方向の変位によって引き起こされる得るシールアセンブリの軸方向および半径方向の変位を可能にする。
【0046】
図2の実施形態では、環状ハウジング47およびその中に収容された固定多孔質シール部材41の軸方向および半径方向の変位は、ガスケット63、65が変形する能力によって可能になる。しかし、固定多孔質シール部材41のより大きな半径方向および軸方向の変位が必要であるかあるいは望ましい場合、半径方向および軸方向の移動を可能にするように適合された別個のガスケットが使用されてもよい。より大きな半径方向および軸方向の変位を可能にし得るシールアセンブリの実施形態が
図3に示されている。同じ参照番号は、
図2の部品に対応する部品を示す。これらの部品については、改めて詳細に説明しない。
【0047】
図3の実施形態では、固定多孔質シール部材41は、
図2と同様の方法で環状ハウジング47内に堅固に拘束される。
図2の実施形態とは異なり、
図3では、中間環状構成要素75がリングケーシング59と環状ハウジング47との間に設けられ、固定多孔質シール部材41はその中に収容されている。環状ハウジング47は、半径方向クリアランスを有して中間環状構成要素75に配置される。環状バランスガスケット77、79は、環状ハウジング47と中間環状構成要素75との間の間隙を密封し、中間環状構成要素75の内側での環状ハウジング47の半径方向の変位を可能にして、回転シャフト5の半径方向移動を補償する。
【0048】
中間環状構成要素75は、軸方向クリアランス、すなわち、固定多孔質シール部材41、環状ハウジング47、および中間環状構成要素75を含むユニットが回転シャフト5の回転軸線A-Aの方向に変位することを可能にする空間を伴って、リングケーシング59によって形成されたシート61内に収容される。環状バランスガスケット81、83は、中間環状構成要素75とリングケーシング59との間の軸方向変位を可能にして、それらの間の間隙を密封する。したがって、固定多孔質シール部材41は、アパーチャ67Aおよび67Bを通してシールアセンブリに注入された加圧シールガスによって生成される静圧スラストによって回転シール部材31から持ち上がることができ、ガスは、固定多孔質シール部材41の多孔質構造を通って移動する。
【0049】
リングケーシング59および中間環状構成要素75のアパーチャ67Aおよび67Bは、加圧シールガスをシールガス入口ポート55に供給する。上述したように、シールガスは、圧縮機1の送出側から分流された加圧プロセスガスとすることができる。代替的にあるいは追加的に、加圧シールガスの別個の供給源が予見され得る。
【0050】
固定多孔質シール部材41の多孔質構造を通って移動するシールガスは、固定多孔質シール部材41および回転シール部材31をシャフト5の回転軸線A-Aの方向に互いに対して変位させるのに十分な静圧スラストを発生させ、それによって間隙45を形成する。上述した
図2の実施形態と同様に、固定多孔質シール部材41を回転シール部材31から持ち上げるのに必要な推力の値は、シールアセンブリにわたる差圧と、弾性部材57(例えば、スピング(spings)57)によって加えられる全付勢力とに依存する。
【0051】
ガスケット77、79および81、83の別個のセットを設けることによって、回転シール部材31に対する固定多孔質シール部材41のより大きな軸方向および半径方向の変位が可能である。
【0052】
上述したシールアセンブリの表面の一部または全部に硬化コーティングを施して、機械的に接触する表面の摩耗を低減することができる。いくつかの実施形態では、回転シール部材31の円錐状外側表面35および/または固定多孔質シール部材41の円錐状内側表面43に硬化を施すことができる。これに加えて、あるいはこれに代えて、相互に摺動接触するシールアセンブリの部材のいくつかの表面または表面部分は、
図3の符号87および89が付されたエリアなどにおいて硬化されてもよい。いくつかの実施形態では、30HRC超、好ましくは70HRC超の、またはそれより高い硬度を想定することができる。所望の硬度値を達成するように適合された任意の既知の硬化技術を使用することができる。例えば、適切な硬化技術としては、窒化、タングステン/炭化クロムコーティングなどが挙げられる。
【0053】
いくつかの実施形態では、例えば圧縮機1の回転によって誘発される振動によって半径方向に相互変位を行うことができる非弾性特徴部が、隣接する構成要素間に位置付けられ得る。例えば、非弾性コーティング91などの非弾性特徴が、環状ハウジング47の外側表面と中間環状構成要素75との間に配置され得る。非弾性特徴部91は、回転シャフト5の回転中に生じる振動を減衰させ、したがって、騒音および摩耗を低減するように適合される。
【0054】
本明細書に開示されるシステム、デバイス、および方法の構造、機能、および使用の原理の全体的な理解を提供するために、特定の例示的な実施形態を記載してきた。これらの実施形態の1つ以上の例が、添付の図面に例示されている。当業者は、本明細書に明確に記載され、添付の図面に例示されるシステム、デバイス、および方法が、非限定的な例示的な実施形態であること、並びに本発明の範囲が特許請求の範囲によってのみ定義されることを理解するであろう。例示的な一実施形態に関連して記載または例示される特徴は、他の実施形態の特徴と組み合わされ得る。このような修正例および変形例は、本発明の範囲内に含まれることが意図される。
【国際調査報告】