(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-10
(54)【発明の名称】燃料電池システム
(51)【国際特許分類】
H01M 8/0606 20160101AFI20241003BHJP
H01M 8/04701 20160101ALI20241003BHJP
H01M 8/04007 20160101ALI20241003BHJP
H01M 8/04111 20160101ALI20241003BHJP
H01M 8/04 20160101ALI20241003BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20241003BHJP
【FI】
H01M8/0606
H01M8/04701
H01M8/04007
H01M8/04111
H01M8/04 J
H01M8/10 101
【審査請求】有
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2024525292
(86)(22)【出願日】2022-10-04
(85)【翻訳文提出日】2024-05-29
(86)【国際出願番号】 EP2022077523
(87)【国際公開番号】W WO2023072532
(87)【国際公開日】2023-05-04
(32)【優先日】2021-10-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591005785
【氏名又は名称】ロールス・ロイス・ピーエルシー
【氏名又は名称原語表記】ROLLS-ROYCE PUBLIC LIMITED COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100172041
【氏名又は名称】小畑 統照
(72)【発明者】
【氏名】パーマー,クロエ
(72)【発明者】
【氏名】タッコーニ,ヤコポ
【テーマコード(参考)】
5H126
5H127
【Fターム(参考)】
5H126BB06
5H127AA06
5H127AB04
5H127BA02
5H127BA28
5H127BA33
5H127BA46
5H127BA48
5H127BA58
5H127BB07
5H127BB12
5H127BB34
5H127BB35
5H127BB37
5H127CC07
5H127CC10
5H127DC79
(57)【要約】
燃料電池システム200が、燃料予熱器227と冷却材/空気熱交換器253を含む冷却回路250を備える冷却装置を有する燃料電池スタック202とを備え、燃料予熱器は、燃料予熱器の入力に供給された液体水素流を加熱して気体水素流を供給するように構成される。上記システムは、気体水素を燃料電池スタックの燃料入力212まで搬送するように構成された搬送手段をさらに備え、搬送手段および冷却回路は、冷却材/空気熱交換器内の冷却材流体が燃料電池システムの運転中に搬送手段内の気体水素と熱接触するように構成される。予熱器は、燃料電池スタックに最終的に入る気体水素の温度が、スタックの動作条件に関係なく、気体水素がスタック内で効率的に反応することを可能にするのに十分であることを確実にする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料予熱器(227、357、427、557、657)、燃料電池スタック(202、302、402、502、602)、および前記燃料電池スタックを冷却するように構成された冷却回路(250、350、450、550、650)を備える燃料電池システム(200、300、400、500、600)であって、前記燃料予熱器が、前記燃料予熱器の入力に供給された液体水素流を加熱して前記燃料予熱器の出力で気体水素流を供給するように構成され、前記燃料電池システムが、前記予熱器の前記出力からの気体水素を前記燃料電池スタックの燃料入力(212、312、412、512、612)まで搬送するように構成された搬送手段(228、328、428、528、628)をさらに備え、前記搬送手段および前記冷却回路は、前記冷却回路内の冷却材流体が前記燃料電池システムの運転中に前記搬送手段内の気体水素と熱接触するように構成される、燃料電池システム(200、300、400、500、600)。
【請求項2】
前記冷却回路が冷却材/空気熱交換器(253、453)を備え、前記搬送手段および前記冷却材/空気熱交換器は、前記冷却材/空気熱交換器内の冷却材流体が前記燃料電池システムの運転中に前記搬送手段(228、428)内の気体水素と熱接触するように構成される、請求項1に記載の燃料電池システム(200、400)。
【請求項3】
前記冷却回路がランキンサイクルを実施し、前記冷却回路内の気体冷却材を凝縮するように構成された凝縮器(351、551、651)を含み、前記凝縮器および前記搬送手段(328、528、628)は、前記凝縮器内の冷却材流体が前記燃料電池システムの運転中に前記搬送手段内の気体水素と熱接触するように構成される、請求項1に記載の燃料電池システム(300、500、600)。
【請求項4】
前記予熱器(327、557、657)が前記冷却回路内の冷却材流体を加熱するようにさらに構成される、請求項3に記載の燃料電池システム。
【請求項5】
前記予熱器(227、327、557)が、前記予熱器の前記入力に供給された前記液体水素流の一部を燃焼させ、熱を発生させて前記液体水素流の残りを、気化させるか、または気化させ及び加熱するように構成される、請求項1から4の何れか1項に記載の燃料電池システム(200、300、500)。
【請求項6】
前記予熱器(427、657)が、前記燃料電池スタック(402、602)から出力された水素の少なくとも一部を燃焼させ、熱を発生させて前記予熱器の前記入力に供給された前記液体水素流を、気化させるか、または気化させ及び加熱するように構成される、請求項1から4のいずれか1項に記載の燃料電池システム(400、600)。
【請求項7】
ターボチャージャ(217、317、417、517、617)をさらに備え、前記ターボチャージャが、前記燃料電池システムの運転中にタービン(222、322、422、522、622)によって駆動されるように構成された圧縮機(224、324、424、524、624)を備え、前記圧縮機が、前記燃料電池スタック(202、302、402、502、602)の入力(208、308、408、508、608)に圧縮空気を供給するように構成され、前記燃料電池システムは、前記予熱器によって生成された燃焼生成物が前記タービンに供給されるように構成される、請求項1から6の何れか1項に記載の燃料電池システム(200、300、400、500、600)。
【請求項8】
請求項1から7の何れか1項に記載の燃料電池システム(200)と、前記燃料電池システムから電力を受け取り、前記電力を使用して推進推力を与えるように構成された電気推進機(790)と、を備える推進システム(700)。
【請求項9】
請求項8に記載の推進システムを備える航空機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
水素を燃料として使用する燃料電池システムは、燃料電池システムが使用時に二酸化炭素を生成しないので、航空を含む輸送用途での使用に注目されている。水素を気体の状態で使用する前に水素を液体の状態で貯蔵することは、液体水素の体積エネルギー密度(約8.5MJ/L)が気体水素の体積エネルギー密度(3×107Pa(300バール)の圧力で約2.7MJ/L)に比べて大きいために、特に注目されている。液体水素を気化させることに加えて、液体水素を使用する燃料電池システムもまた、液体水素を燃料電池システムの燃料電池スタックに入力する前に、得られる気体水素の温度を調整するよう要求される。気体水素を燃料電池スタックに入力する前に、スタックに関連する冷却ループ内の冷却材流体との熱交換により気体水素を加熱し、それによりスタックから廃熱を利用することが知られている(例えば、公開された韓国特許出願第20130070161号)。しかしながら、燃料電池スタックのいくつかのタイプは比較的低い動作温度を有する。例えば、ポリマー電解質(プロトン交換)膜(PEM)スタックは、通常、約90℃未満の動作温度を有する。そのような場合、特に起動時にまたはスタックが低出力電力で動作しているときに、気体水素の必要な加熱度をもたらすようにスタックから出力される廃熱が不十分なことがある。スタックに入る気体水素の温度に対してある程度の制御を行うことが望ましいこともある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本発明の第1の態様は、燃料予熱器、燃料電池スタック、および燃料電池スタックを冷却するように構成された冷却回路を備える燃料電池システムであって、燃料予熱器が、燃料予熱器の入力に供給された液体水素流を加熱して燃料予熱器の出力で気体水素流を供給するように構成され、燃料電池システムが、燃料予熱器の出力から気体水素を燃料スタックの燃料入力まで搬送するように構成された搬送手段をさらに備え、搬送手段および冷却回路は、冷却回路内の冷却材流体が燃料電池システムの運転中に搬送手段内の気体水素と熱接触するように構成される、燃料電池システムを提供する。本発明の燃料電池システムの運転中、冷却材流体中の熱が予熱器から燃料電池スタックまで行く途中で気体水素中に入り、したがって、燃料電池スタックを冷却するのにも、気体水素を加熱して燃料電池への入力に適した温度にするのにも役立つ。予熱器によって出力される気体水素の温度は、気体水素が燃料電池スタックに入るときに(冷却回路内の冷却材流体との熱交換の後で)気体水素の温度が、スタック内の効率的な反応を可能にするくらい十分高くなるようになされ得る。
【0004】
冷却回路は冷却材/空気熱交換器を備えることができ、搬送手段および冷却材/空気熱交換器は、冷却材/空気熱交換器内の冷却材流体が燃料電池システムの運転中に搬送手段内の気体水素と熱接触するように構成される。
【0005】
あるいは、冷却回路はランキンサイクルを実施し、冷却回路は冷却回路内の気体冷却材を凝縮するように構成された凝縮器を含み、凝縮器および搬送手段は、凝縮器内の冷却材が燃料電池システムの運転中に搬送手段内の気体水素と熱接触するように構成される。凝縮器のサイズおよび重量は、ランキンサイクルを実施する冷却回路が凝縮器を備える場合に比べて減少し、凝縮器からの熱はすべて周囲の空気で失われる。予熱器は冷却回路内の冷却材流体を加熱するように構成されていて、熱がランキンサイクルによって機械的仕事に変換される効率を高めることができる。
【0006】
予熱器は、予熱器の入力に供給された液体水素流の一部を燃焼させ、熱を発生させて液体水素流の残りを、気化させるか、または気化させ及び加熱するように構成され得る。あるいは、予熱器は、燃料電池スタックから出力された水素の少なくとも一部を燃焼させ、熱を発生させて予熱器の入力に供給された液体水素流を、気化させるか、または気化させ及び加熱するように構成され得る。
【0007】
燃料電池システムはターボチャージャを備えることができ、ターボチャージャは、燃料電池システムの運転中にタービンによって駆動されるようにかつ燃料電池スタックの入力に圧縮空気を供給するように構成された圧縮機を備え、燃料電池システムは、予熱器によって生成された燃焼生成物がタービンに供給されるように構成される。
【0008】
本発明の第2の態様は、本発明の第1の態様による燃料電池システムと、燃料電池システムから電力を受け取り、電力を使用して推進推力を与えるように構成された電気推進機と、を備える推進システムを提供する。
【0009】
本発明の第3の態様は、本発明の第2の態様による推進システムを備える航空機を提供する。
本発明の実施形態は、以下で、ほんの例として添付の図面を参照して記述される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】先行技術の燃料電池システムを示す図である。
【
図2】本発明の第1の燃料電池システム例を示す図である。
【
図3】本発明の第2の燃料電池システム例を示す図である。
【
図4】
図3のシステムに含まれる冷却装置によって実行されるランキンサイクルの動作を示す図である。
【
図5】本発明の第3の燃料電池システム例を示す図である。
【
図6】本発明の第4の燃料電池システム例を示す図である。
【
図7】本発明の第5の燃料電池システム例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、先行技術の燃料電池システム100を概略的に示す。燃料電池システム100は、カソード側104およびアノード側106を有するポリマー電解質(プロトン交換)膜(PEM)燃料電池スタック102と、PEM燃料電池スタック102、クーラント/空気熱交換器153、および冷却回路150のまわりに冷却材流体をくみ上げるように構成されたポンプ154を含む冷却回路150と、を備える。燃料電池システム100の運転中、空気および燃料がそれぞれ、PEM燃料電池スタック102のカソード側104の入力108およびアノード側106の入力112に供給される。空気および水蒸気を含むカソード排気がPEM燃料電池スタック102のカソード出力110から出力され、未反応の水素はアノード出力114から出力される。直流出力電力が電気出力120に生成される。PEM燃料電池スタック102は、冷却材入力116および冷却材出力118を有する。PEM燃料電池スタック100からの廃熱は、冷却材回路150内の冷却材流体(例えば水)によって除去され、冷却材/空気熱交換器153に回される。PEM燃料電池スタック102の比較的低い動作温度(約90℃未満)のために、熱交換器153はかなりの重量およびサイズを有し、システム100を備える航空機の外部に取り付けられると航空用途でかなりの抗力を示す。
【0012】
図2を参照すると、本発明の第1の燃料電池システム例200は、プロトン交換(ポリマー電解質)膜(PEM)燃料電池スタック202と、タービン222によって駆動され、場合により電動機246によっても駆動されるように構成された圧縮機224を含むターボチャージャ217と、加湿器226と、燃料予熱器227(例えば触媒バーナ)と、熱交換器262と、を備える。燃料電池システム200は、冷却回路250のまわりに冷却材流体(この場合は水)をくみ上げるように構成されたポンプ254、純水器255、スプリッタ252、および冷却材/空気熱交換器253を含む冷却回路250をさらに備える。PEM燃料電池スタック202は、入力208および出力210を有するカソード側204と入力212および出力214を有するアノード側206とを有する。PEM燃料電池スタック202は、冷却材入力216および冷却材出力218を有する。冷却分岐部260がPEM燃料電池スタック202と並列に構成され、熱交換器262を含む。
【0013】
燃料電池システム200の運転中、空気が空気取入口213に入り、空気フィルタ215を通ってターボチャージャ217の圧縮機224に移る。圧縮機224から出力された圧縮空気は熱交換器258を通過し、それにより圧縮空気を冷却し、加湿器226を通過し、PEM燃料電池スタック202のカソード側204の入力208に供給される。空気および水蒸気を含むカソード排気が出力210でカソード側204から出る、すなわち、カソード排気中の水蒸気が加湿器226によって回収され、残存カソード排気はターボチャージャ217のタービン222に送出される。燃料貯蔵所(図示せず)からの液体水素流(LH2)燃料が、燃料入力280でシステム200に入力され、燃料予熱器227に移る。空気が空気入力282を経由して予熱器227に入力される。液体水素流の一部が予熱器227内で燃焼されて熱を生成し、熱は液体水素流の残りを気体水素(GH2)に変換し、GH2は、エジェクタ230を経由してPEM燃料電池スタック202のアノード側206の入力212に供給される。予熱器227から出力された気体水素は、冷却材/空気熱交換器253を通る経路上の搬送手段228によってエジェクタ230まで搬送され、その結果、搬送手段228内の気体水素は熱交換器253内の冷却材流体と熱接触する。したがって、熱は、熱交換器253内の冷却材流体から変換手段228内の気体水素へ移って、予熱器227からエジェクタ230へ移る。熱交換器253は、熱交換器253内の冷却材流体の一部の冷却が、燃料電池システム200の運転中に予熱器227からの気体水素(すなわち、搬送手段328内の気体水素)によって与えられるため、
図1の燃料電池システム100の熱交換器153よりも小さくかつ軽い。予熱器227からの燃焼生成物(CP)が、ターボチャージャ217のタービン222に供給される。水素が出力210でPEM燃料電池スタック102のアノード側206から出て、エジェクタ230によって水トラップ232を経由して入力212へ還流される。水トラップ232は出力219を有し、アノード206内の水素がPEM燃料電池スタック202から出力219によってパージされ得る。
【0014】
直流電力が、PEM燃料電池スタック202の電気出力220で、DC/DCコンバータ241およびインバータ242を経由して低電圧母線244に供給される。低電圧母線244は電動機246に電力を供給する。電力は、例えばDC/DCコンバータ241の電気出力248を経由して、電気推進機(図示せず)に供給され得る。
【0015】
予熱器227は、最小限の追加熱が冷却回路250内の冷却材流体から気体水素中へ移った場合でも、システム200の起動中の場合であり得るときでも、またはスタック202の出力電力が低いときでも、搬送手段228に入る気体水素の温度が燃料電池スタック202内で十分な反応速度を達成するのに十分であるように構成される。
【0016】
図3は、本発明の第2の燃料電池システム例300を示し、システム300はPEM燃料電池スタック302を備える。システム300は、
図2の燃料電池システム200と類似している。システム300の各部分には、
図2における対応部分に表示した参照符号から100だけ異なる参照符号で表示されている。燃料電池システム300は冷却回路350を備え、冷却回路350は、PEM燃料電池302、加熱器357、発電機359を駆動するように構成されたタービン358、凝縮器351、純水器355、および冷却回路350のまわりに冷却材流体(この場合は水)をくみ上げるように構成されたポンプ354を備える。冷却分岐部360がPEM燃料電池スタック202と並列に配置され、熱交換器362、364を含む。冷却材水が液体の状態で冷却材入力316においてPEM燃料電池スタック302に入り、冷却分岐部360からの水と共に加熱器357に入力される冷却材出力318において蒸気、または蒸気と水を生成するために、PEM燃料電池スタック302からの廃熱によって全部または一部が気化させられる。加熱器357は、加熱器に入力された水を気化させ、蒸気をタービン358に供給する。蒸気はタービン358を駆動し、凝縮器351内で凝縮される。したがって、冷却回路350は、PEM燃料電池スタック302からの廃熱をランキンサイクルで有効仕事に変換する。
【0017】
燃料電池システム300の運転中、空気流および液体水素流(LH2)燃料がそれぞれ、空気入力382および燃料入力380で予熱器327(例えば触媒バーナ)に入力される。液体水素燃料流の一部が予熱器327によって燃焼させられて残存流を気体水素(GH2)に変換し、GH2は、搬送手段328により、搬送手段328内の気体水素が凝縮器351内の冷却材流体と熱接触する経路上の熱交換器364およびエジェクタ330を経由してアノード306の入力312に変換される。凝縮器351のサイズおよび重量は、燃料電池システム300が例えば航空用途により適しているように、
図1の燃料電池システム100の熱交換器153のものに比べて減少する。予熱器351からの燃焼生成物(CP)は冷却回路350内の加熱器357に移されて、PEM燃料電池スタック302とタービン358との間の冷却回路350内で蒸気、または蒸気と水の加熱を行うことにより、追加の仕事がタービン358により、加熱器357がない場合に可能であるよりも大きい熱力学的効率で抽出されることが可能になる。燃焼生成物はその後、ターボチャージャ317のタービン322を経由して燃料電池システム300から排出される。
【0018】
燃料電池システム300は、低電圧DC/DCコンバータ343、高電圧DC/DCコンバータ345、および低電圧母線344をさらに備える。
【0019】
図4は、
図3の燃料電池システム300の冷却回路350内の冷却材水の温度T対エントロピーSのプロット10を示す。冷却回路350は、ランキンサイクルを実行して、PEM燃料電池スタック302からの廃熱をタービン358によって抽出される有効仕事に変換する。冷却回路350内の冷却材流体入力316にある位置および冷却回路350内の加熱器357の直前にある位置には、それぞれ
図3および
図4に1および2と表示されており、タービン158の直前にある位置およびタービン158の直後にある位置には、それぞれ3および4と表示されている。タービン358によって抽出された仕事は、プロット10で囲まれた領域で表わされ、プロット10は、タービン358を横切る冷却材流体(蒸気)の温度TおよびエントロピーSの変化を表す部分10aを有する。加熱器357がない場合、プロット10は、タービン358を横切る冷却材流体(蒸気)の温度TおよびエントロピーSの変化を表す部分10bを有する。したがって、
図4の領域5は、冷却ループ350内に加熱器357が存在するためにタービン358によって抽出される追加の仕事量をループ350の1サイクルで表す。冷却材流体の液相/気相分離線は、
図4に12で示されている。定圧線は14で示されている。
【0020】
正味仕事w
netがランキンサイクルで抽出される熱力学的効率η
thは、
【数1】
である、ただし、Q
inは、PEM燃料電池スタック102によって冷却材流体に入力された熱に加熱器357によって冷却材流体に入力された熱を足したものであり、Q
outは、凝縮器351から出力された熱である。正味仕事w
netは、タービン358によって抽出された仕事とポンプ354によって行われた仕事との差である。h
iが位置iにおけるエンタルピーであり、i=1、2、3または4である場合、熱力学的効率η
thは、
【数2】
で与えられる。
【0021】
したがって、仕事がタービン358によって抽出される熱力学的効率は、位置3(タービン358の直前)における冷却材流体のエンタルピーh3が、加熱器357がない場合のh3よりも大きいので、加熱器357の存在によって高められ(抽出される絶対仕事量の増大に加えて)、したがって値h3-h2は加熱器357によって増大される。
【0022】
図5は、本発明の第3の燃料電池システム例400を示す。システム400は、
図2の燃料電池システム200と類似している。システム400の各部分には、
図2における対応部分に表示した参照符号から200だけ異なる参照符号で表示されている。燃料電池システム400は、冷却材/空気熱交換器453を含む冷却回路450を備える。燃料電池システム400の運転中、液体水素流(LH2)燃料が予熱器またはバーナ427(例えば触媒バーナ)に入力され、予熱器またはバーナ427は、PEM燃料電池スタック402のカソード側404から出力された空気を使用してPEM燃料電池スタック402のアノード側406から出力された気体水素を燃焼させる。バーナ427によって生成された熱は液体水素流を気体水素流に変換し、気体水素流は、搬送手段428により、その中の気体水素が冷却回路450内に含まれる冷却材/空気熱交換器453内の冷却材流体と熱接触する経路を経由してアノード406の入力412に供給される。(液体水素を気化させることに加えて、バーナへの入力は得られる気体水素を有意に加熱することができる)。気体水素は熱交換器453内で冷却材流体を冷却するので、熱交換器453は、
図1の燃料電池システム100の熱交換器153に比べて小さくかつ軽くすることができる。バーナ426から出力された燃焼生成物(CP)は、ターボチャージャ417のタービン422に供給される。水素がアノード側406から連続的にパージされると、PEM燃料電池スタック402の定常運転が可能になる。燃料電池システム400は、低電圧DC/DCコンバータ443、高電圧DC/DCコンバータ445、および低電圧母線444をさらに備える。
【0023】
図6は、本発明の第4の燃料電池システム例500を示す。システム500は、
図3の燃料電池システム300と類似している。システム500の各部分には、
図3における対応部分に表示した参照符号から200だけ異なる参照符号で表示されている。燃料電池システム500の運転中、液体水素流(LH2)燃料が加熱器557に入力され、加熱器557内で流れの一部が燃焼させられて冷却回路550内の蒸気および/または液体水を加熱し、それにより、加熱器557が存在しない場合に比べてタービン558によって抽出される有効仕事量および抽出の熱力学的効率を高める。加熱器557に入力された液体水素流の残りは同時に加熱されて気体水素流を生成し、気体水素流は、搬送手段528により、凝縮器551と、搬送手段528内の加熱器557からの気体水素が凝縮器551内の冷却材と熱接触する経路上のエジェクタ512と、を経由してPEM燃料電池スタック502のアノード側506に入力される。これにより、凝縮器551内の冷却材流体が加熱器557から出力された気体水素流によって冷却されるため、凝縮器551のサイズおよび重量を先行技術のランキン構成内の凝縮器に比べて減少させることが可能になる。加熱器557からの燃焼生成物は、ターボチャージャ517のタービン522に供給される。燃料電池システム500は、低電圧DC/DCコンバータ543、高電圧DC/DCコンバータ545、および低電圧母線544をさらに備える。加熱器557は、システムの燃料入力580で入力された液体水素を気化させる(場合により、得られる気体水素も加熱する)ための予熱器としても、冷却回路550内の冷却材流体を加熱するための手段としても機能を果たす。燃料電池スタック502の動作状態に応じて、スタック502の冷却材出力518でスタック502から出る冷却材流体は、液体の状態もしくは気体の状態(すなわち蒸気)であってもよく、または液体水と蒸気の両方を組み合わせたものであってもよい。
【0024】
図7は、
図6の燃料電池システム500と類似している、本発明の第5の燃料電子システム例600を示す。燃料電池システム600の各部分には、
図6における対応部分に表示した参照符号から100だけ異なる参照符号で表示されている。燃料電池システム600の運転中、PEM燃料電池スタック602のカソード側604からの排気がスタック出力610で出力され、加湿器626に移り、加湿器626は水蒸気を除去し、次いで加熱器657に入力される。気体水素燃料がスタック入力612に供給される。未反応の気体水素燃料はスタック出力614で出力され、水トラップ632を経由して加熱器657に入力される。PEM燃料電池スタック602から出力された空気および気体水素燃料は加熱器657(触媒バーナでもよい)内で燃焼させられて、冷却回路650内の冷却材流体を加熱し、さらに燃料入力680からの液体水素(LH2)を気体水素に変換し、気体水素は、搬送手段628内の気体水素が凝縮器651内の冷却材流体と熱接触するように、搬送手段628を経由してPEM燃料電池スタック602のアノード側606にあるスタック入力612に移る。燃料入力680で入力された液体窒素を気化させることに加えて、得られる気体水素もまた加熱され得る。気体水素は凝縮器651内の冷却材流体を冷却するので、凝縮器651のサイズおよび重量を先行技術のシステム内の凝縮器のサイズおよび重量よりも小さくするとともに、
図1の燃料電池システム100内の冷却材/空気熱交換器153よりも小さくすることが可能になる。搬送手段628内の気体水素は、この気体水素がPEM燃料電池スタック602に入力される前に凝縮器651からの熱によって加熱される。燃焼生成物(CP)がターボチャージャ617のタービン622に供給される。
【0025】
冷却回路650内の冷却材流体は水である。冷却回路650は、水が加熱器657と凝縮器651との間で蒸気の状態となり、凝縮器651とPEM燃料電池スタック602の冷却材入力616との間で液体の状態となるように構成される。冷却材入力616でPEM燃料電池スタック602に入る液体水がスタック602からの廃熱によって加熱され、全部または一部が蒸気に変換される。冷却材出力618で出力される残存液体水があれば、この液体水は冷却分岐部660からの水と共に加熱器657によって蒸気に変換される。加熱器657から出た蒸気は、冷却回路650内に含まれるタービン658に送出される。
【0026】
図8は、
図2の燃料電池システム200および電気推進機790を備える本発明の推進システム例700を示す。電気推進機790は、インバータ792とプロペラまたはファン796を駆動するように構成された電動機794とを備える。推進システム700の運転中、燃料電池システム200の電気出力248で生成された電力が、電気推進機790のインバータ792に供給される。本発明の他の推進システム例では、燃料電池システム200は、
図3、
図5、
図6および
図7の燃料電池システム300、400、500、600のうちの1つで置き換えられる。推進システム700は航空機内に含まれ得る。
【0027】
燃料電池システム200、300、400、500、600のそれぞれの予熱器227、327、427、557、657のいずれによっても、水素がその予熱器内で燃焼させられる速度が調整されることが可能になり、したがって予熱器から離れる気体水素の温度が調整されることが可能になる。
【0028】
本特許出願は、2021年10月28日に出願された英国特許出願第2115488.5号に基づいてその優先権の利益を主張し、その出願内容全体は、参照により本明細書に組み込まれる。
【手続補正書】
【提出日】2024-05-29
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料予熱器(357、557、657)、燃料電池スタック(302、502、602)、および前記燃料電池スタックを冷却するように構成された冷却回路(350、550、650)を備える燃料電池システム(200、300、400、500、600)であって、前記燃料予熱器が、前記燃料予熱器の入力に供給された液体水素流を加熱して前記燃料予熱器の出力で気体水素流を供給するように構成され、前記燃料電池システムが、前記予熱器の前記出力からの気体水素を前記燃料電池スタックの燃料入力(312、512、612)まで搬送するように構成された搬送手段(328、528、628)をさらに備え、前記搬送手段および前記冷却回路は、前記冷却回路内の冷却材流体が前記燃料電池システムの運転中に前記搬送手段内の気体水素と熱接触するように構成され、
(a)前記冷却回路が、ランキンサイクルを実施し、前記冷却回路内の気体冷却材を凝縮するように構成された凝縮器(351、551、651)を含み、
(b)前記凝縮器および前記搬送手段(328、528、628)は、前記凝縮器内の冷却材流体が前記燃料電池システムの運転中に前記搬送手段内の気体水素と熱接触するように構成され、
(c)前記予熱器(327、557、657)が前記冷却回路内の冷却材流体を加熱するように構成される、
燃料電池システム(300、500、600)。
【請求項2】
前記予熱器(327、557)が、前記予熱器の前記入力に供給された前記液体水素流の一部を燃焼させ、熱を発生させて前記液体水素流の残りを、気化させるか、または気化させ及び加熱するように構成される、請求項1に記載の燃料電池システム(300、500)。
【請求項3】
前記予熱器(657)が、前記燃料電池スタック(602)から出力された水素の少なくとも一部を燃焼させ、熱を発生させて前記予熱器の前記入力に供給された前記液体水素流を、気化させるか、または気化させ及び加熱するように構成される、請求項1に記載の燃料電池システム(600)。
【請求項4】
ターボチャージャ(317、517、617)をさらに備え、前記ターボチャージャが、前記燃料電池システムの運転中にタービン(322、522、622)によって駆動されるように構成された圧縮機(324、524、624)を備え、前記圧縮機が、前記燃料電池スタック(302、502、602)の入力(308、508、608)に圧縮空気を供給するように構成され、前記燃料電池システムは、前記予熱器によって生成された燃焼生成物が前記タービンに供給されるように構成される、請求項2に記載の燃料電池システム(300、500、600)。
【請求項5】
請求項1から4の何れか1項に記載の燃料電池システム(300)と、前記燃料電池システムから電力を受け取り、前記電力を使用して推進推力を与えるように構成された電気推進機(790)と、を備える推進システム(700)。
【請求項6】
請求項5に記載の推進システムを備える航空機。
【国際調査報告】