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特表2024-537486マレイン酸無水物の水素化によりコハク酸無水物を製造するための製造方法および製造システム
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  • 特表-マレイン酸無水物の水素化によりコハク酸無水物を製造するための製造方法および製造システム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-10
(54)【発明の名称】マレイン酸無水物の水素化によりコハク酸無水物を製造するための製造方法および製造システム
(51)【国際特許分類】
   C07D 307/36 20060101AFI20241003BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20241003BHJP
【FI】
C07D307/36
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024525299
(86)(22)【出願日】2022-10-25
(85)【翻訳文提出日】2024-06-18
(86)【国際出願番号】 CN2022127300
(87)【国際公開番号】W WO2023072047
(87)【国際公開日】2023-05-04
(31)【優先権主張番号】202111260918.6
(32)【優先日】2021-10-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503191287
【氏名又は名称】中国石油化工股▲ふん▼有限公司
(71)【出願人】
【識別番号】522173712
【氏名又は名称】中石化(大連)石油化工研究院有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】喬凱
(72)【発明者】
【氏名】楊秀娜
(72)【発明者】
【氏名】周峰
(72)【発明者】
【氏名】李瀾鵬
(72)【発明者】
【氏名】阮宗琳
【テーマコード(参考)】
4H039
【Fターム(参考)】
4H039CA10
4H039CB10
(57)【要約】
マレイン酸無水物の水素化によるコハク酸無水物の製造方法を開示する。この製造方法は、次の工程を有する。工程(1):マレイン酸無水物溶液と水素とを混合して、液相中に水素が分散している第1液体原料流を得る工程。工程(2):第1液体原料流を、第1水素化反応条件にて、第1反応ユニットに配置されている第1マレイン酸無水物水素化触媒の固定床層を下部から上部へと流通させることにより第1水素化反応させて、コハク酸無水物を含んでいる第1反応流出液を得る工程。工程(3):第1反応ユニットから流出した第1反応流出液と追加水素とを混合して、液相中に水素が分散している第2液体原料流を得る工程。工程(4):第2液体原料流を、第2水素化反応条件にて、第2反応ユニットに配置されている第2マレイン酸無水物水素化触媒の固定床層を下部から上部へと流通させることにより第2水素化反応させて、コハク酸無水物を含んでいる第2反応流出液を得る工程。この製造方法によれば、マレイン酸無水物の水素化において、放熱が集中して局所的なホットスポットが生じやすいという問題を効果的に解決できる。また、マレイン酸無水物の水素化において、高い転化率および選択性を維持できる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マレイン酸無水物の水素化によりコハク酸無水物を製造するための製造方法であって、下記工程を有する方法:
工程(1):マレイン酸無水物溶液と水素とを混合して、液相中に水素が分散している第1液体原料流を得る工程であって、
上記水素の体積流量(Nm/h)の、マレイン酸無水物溶液の体積流量(m/h)に対する比率は、(5:1)~(50:1)(好ましくは(10:1)~(30:1))である工程;
工程(2):上記第1液体原料流を、第1水素化反応条件にて、第1反応ユニットに配置されている第1マレイン酸無水物水素化触媒の固定床層を下部から上部へと流通させることにより第1水素化反応させて、コハク酸無水物を含んでいる第1反応流出液を得る工程であって、
上記第1水素化反応条件には、下記が含まれる工程:
反応温度:40~200℃(好ましくは50~150℃)
反応圧力:0.5~10.0MPa(好ましくは1~5.0MPa)
液空間速度:5.0~20.0h-1(好ましくは6.0~15.0h-1);
工程(3):上記第1反応ユニットから流出した第1反応流出液と追加水素とを混合して、液相中に水素が分散している第2液体原料流を得る工程であって、
上記追加水素の体積流量(Nm/h)の、上記工程(1)において使用した上記マレイン酸無水物溶液の体積流量(m/h)に対する比率は、(1:1)~(20:1)(好ましくは(5:1)~(15:1))である工程;
工程(4):上記第2液体原料流を、第2水素化反応条件にて、第2反応ユニットに配置されている第2マレイン酸無水物水素化触媒の固定床層を下部から上部へと流通させることにより第2水素化反応させて、コハク酸無水物を含んでいる第2反応流出液を得る工程であって、
上記第2水素化反応条件には、下記が含まれる工程:
反応温度:40~150℃(好ましくは50~80℃)
反応圧力:0.5~10.0MPa(好ましくは1~5.0MPa)
液空間速度:0.1~4.0h-1(好ましくは0.5~2.5h-1)。
【請求項2】
上記第1反応ユニットは、1個以上の上向流型固定床反応器を備えており、
上記上向流型固定床反応器の内部は、上記第1マレイン酸無水物水素化触媒の固定床層の1個以上が配置されており、
上記上向流型固定床反応器の各々の高さ:直径比率は、それぞれ独立に、3~20(好ましくは4~15)である、
請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
上記第2反応ユニットは、1個以上の上向流型固定床反応器を備えており、
上記上向流型固定床反応器の内部には、上記第2マレイン酸無水物水素化触媒の固定床層の1個以上が配置されており、
上記第2反応ユニットに備えられている上記上向流型固定床反応器の各々の高さ:直径比率は、上記第1反応ユニットに備えられている上記上向流型固定床反応器の高さ:直径比率よりも小さく、その値は0.1~2.5(好ましくは0.5~2.0)である、
請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
上記第1マレイン酸無水物水素化触媒および上記第2マレイン酸無水物水素化触媒は、それぞれ独立に、担持されたニッケル系触媒であり、
上記ニッケル系触媒の担体は、SiO、Al、SiO-Al、TiO、活性炭素、モレキュラーシーブ、またはこれらの組合せから選択され、
好ましくは、上記担持されたニッケル系触媒は、触媒の重量を基準として、
Ni含有量(酸化ニッケルとして計算する)が、5~40%であり、
担体含有量が、60~95%である、
請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
上記工程(1)で使用する上記マレイン酸無水物溶液において、上記マレイン酸無水物の含有量は、0.03~0.3g/mL(好ましくは0.05~0.2g/mL)であり、
好ましくは、上記マレイン酸無水物溶液に用いられる溶媒は、ベンゼン、トルエン、キシレン、アセトン、テトラヒドロフラン、γ-ブチロラクトン、メチルアセトン、シクロヘキサノン、酢酸エチル、コハク酸ジエチル、エチレングリコールモノメチルエーテル、またはこれらの組合せから選択される、
請求項1~4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
上記工程(2)において、上記第1水素化反応におけるマレイン酸無水物の転化率を、50~95%(好ましくは55~85%)に制御する、
請求項1~5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
下記工程のうちいずれかをさらに有する、請求項1~6のいずれか1項に記載の製造方法:
工程(5):上記第2反応ユニットから流出した上記第2反応流出液を分画して、コハク酸無水物生成物を得る工程;
工程(5’):下記(i)~(iii)を有する工程:
(i)上記第2反応ユニットから流出した上記第2反応流出液を気液分離して、コハク酸無水物を含んでいる液流を得る工程
(ii)得られた上記液流の一部を分画して、コハク酸無水物生成物を得る工程
(iii)得られた上記液流の残部を工程(2)および/または工程(4)に還流して、さらに反応させる工程。
【請求項8】
上記工程(5’)において上記工程(2)に還流される上記液流の質量流量の、上記工程(1)で使用するマレイン酸無水物溶液の質量流量に対する比率は、(1:20)~(9:10)(好ましくは(1:5)~(3:5))であり、
上記工程(5’)において上記工程(4)に還流される上記液流の質量流量の、上記工程(1)で使用するマレイン酸無水物溶液の質量流量に対する比率は、(0:1)~(4:5)(好ましくは(0:1)~(3:10))であり、
好ましくは、上記工程(2)に還流される上記液流の質量流量は、上記工程(4)に還流される上記液流の質量流量よりも大きい、
請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
マレイン酸無水物の水素化によりコハク酸無水物を製造するための製造システムであって、
第1気液混合器、第1反応ユニット、第2気液混合器、第2反応ユニットおよび分画装置をこの順に配列して備えており、
上記第1気液混合器および上記第2気液混合器には、いずれも、液体流入口、気体流入口および液相混合物流出口が設けられており、
上記第1反応ユニットおよび上記第2反応ユニットは、それぞれ独立に、直列および/または並列に連結されている1個以上の上向流型固定床反応器を備えており、
上記上向流型固定床反応器の内部には、マレイン酸無水物水素化触媒の固定床層の1個以上が配置されており、
上記上向流型固定床反応器の各々には、水素化原料流入口および水素化生成物流出口が設けられており、
上記分画装置には、コハク酸無水物生成物流入口およびコハク酸無水物生成物流出口が設けられており;
上記第1気液混合器の上記液体流入口は、マレイン酸無水物溶液源と連結されており、
上記気体流入口は、水素源と連結されており、
上記液相混合物流出口は、上記第1反応ユニットに備えられている上記上向流型固定床反応器の上記水素化原料流入口と連結されており、
上記第1反応ユニットに備えられている上記上向流型固定床反応器の上記水素化生成物流出口は、上記第2気液混合器の上記液体流入口と連結されており、
上記第2気液混合器の上記気体流入口は、上記水素源と連結されており、
上記液相混合物流出口は、上記第2反応ユニットに備えられている上記上向流型固定床反応器の上記水素化原料流入口と連結されており、
上記第2反応ユニットに備えられている上記上向流型固定床反応器の上記水素化生成物流出口は、上記分画装置の流入口と連結されており;
上記第1反応ユニットに備えられている上記上向流型固定床反応器の各々の高さ:直径比率は、それぞれ独立に、3~20(好ましくは4~15)であり;
上記第2反応ユニットに備えられている上記上向流型固定床反応器の各々の高さ:直径比率は、上記第1反応ユニットに備えられている上記上向流型固定床反応器の高さ:直径比率より小さく、その値は0.1~2.5(好ましくは0.5~2.0)である、
製造システム。
【請求項10】
流入口、気体流出口および液体流出口を有する気液分離器がさらに備えられており、
上記第2反応ユニットに備えられている上記上向流型固定床反応器の上記水素化生成物流出口は、上記気液分離器の上記流入口と連結されており、
上記気液分離器の上記液体流出口は、上記分画装置の上記流入口と連結されており、
上記気液分離器の上記液体流出口はまた、上記第1気液混合器および/または上記第2気液混合器の上記液体流入口とも連結されている、
請求項9に記載の製造システム。
【請求項11】
上記第1気液混合器および第2気液混合器は、それぞれ独立に、スタティックミキサー、エゼクタミキサー、機械的剪断ミキサー、インピンジメントミキサー、マイクロチャネルミキサー、またはこれらの組合せから選択される、
請求項9または10に記載の製造システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、コハク酸無水物の生成の技術分野に関する。とりわけ、本出願は、マレイン酸無水物の水素化によりコハク酸無水物を製造するための製造方法および製造システムに関する。
【背景技術】
【0002】
現時点において主要なコハク酸無水物の製造方法の例としては、コハク酸を脱水する方法、生物学的に発酵させる方法、およびマレイン酸無水物を触媒で水素化する方法が挙げられる。これらの中でも、マレイン酸無水物(無水マレイン酸)を触媒で水素化する方法は、転化率および収率が最も高く、それゆえ大規模な工業化に最も適したコハク酸無水物の製造方法である。しかし、マレイン酸無水物を水素化してコハク酸無水物を得る反応は、強い発熱反応である(ΔH=128kJ/mol)。従来のトリクルベッドによる水素化を利用していては、反応熱を適時に排熱できない。その結果、反応工程における温度が制御不能となったり、触媒床層に局所的なホットスポットが生じたり、激しい副反応が生じたりする。このため、反応工程における安全性、転化率および選択性を制御できない。
【0003】
CN103570650Aは、マレイン酸無水物の水素化により、コハク酸無水物および副生物であるコハク酸を連続的に製造するための製造方法を開示している。この方法では、2段階の水素化反応器を利用する。第1段階の水素化反応器は固定床反応器であり、水素および反応液体は下部から流入して上部から流出する。第2段階の水素化反応器はトリクルベッド反応器で、水素および反応液体は上部から流入して下部から流出する。また、外部循環を利用して反応熱を排熱している。これは、反応器全体の平均稼働温度を制御し、反応器内の温度バランスを取ることを目的とするものである。この製造方法では、第1段階の反応器における水素および反応液体は、一緒になって上方向に流れる。マレイン酸無水物の水素化反応に伴い大量の放熱があるという特徴のため、従来技術では、物質を均一に混合・分布させることができず、均一に反応させることもできなかった。そのため、局所的なホットスポットの問題が生じていた。第2段階の反応器においては、トリクルベッド反応器の中を一緒になって下方向に流れる。この流れ方は、反応熱を適時に排熱しにくく、やはり局所的なホットスポットの問題が生じていた。
【0004】
CN105801536Bは、液相中におけるマレイン酸無水物の選択的水素化によるコハク酸無水物の製造方法を提供している。この製造方法においては、液相水素化反応によってコハク酸無水物を製造する。液相水素化反応は、2個の反応器(第1段階の反応器および第2段階の反応器)を連続して利用する、2段階の低温・低圧反応である。マレイン酸無水物、溶媒および水素を第1段階の反応器に供給して、触媒により部分的かつ選択的に水素化させる。反応後には、残留するマレイン酸無水物、生成したコハク酸無水物の混合材料溶液および溶媒を、第2段階の反応器に供給して、触媒により完全かつ選択的に水素化させる。第2段階の反応器の生成物を気液分離および精留して、コハク酸無水物生成物を得る。この製造方法においては、水素および反応液体の液相水素化法が2段階の反応器で利用されている。マレイン酸無水物の水素化反応に伴い大量の放熱があるという特徴に起因して、難点が2つ存在する。第一には、反応の初期段階における放熱の集中および局所的なホットスポットという問題の解決が困難である。第二には、反応の後期段階において、材料の逆混合および不均一な分布に起因する、水素化の過剰および選択性の低下という問題の回避が困難である。
【発明の概要】
【0005】
先行技術の短所を解消すべく、本出願は、マレイン酸無水物の水素化によりコハク酸無水物を製造するための製造方法および製造システムを提供する。これらによれば、マレイン酸無水物の水素化において、放熱が集中して局所的なホットスポットが生じやすいという問題を効果的に解決できる。また、マレイン酸無水物の水素化において比較的高い転化率および選択性を維持できる。
【0006】
上記の目的を達するために、本出願は、一態様において、マレイン酸無水物の水素化によるコハク酸無水物の製造方法を提供する。この製造方法は、下記の工程を有する。
・工程(1):マレイン酸無水物溶液と水素とを混合して、液相中に水素が分散している第1液体原料流を得る工程。水素の体積流量(Nm/h)の、マレイン酸無水物溶液の体積流量(m/h)に対する比率は、(5:1)~(50:1)である。
・工程(2):第1液体原料流を、第1水素化反応条件にて、第1反応ユニットに配置されている第1マレイン酸無水物水素化触媒の固定床層を下部から上部へと流通させることにより、第1水素化反応させる工程。これにより、コハク酸無水物を含んでいる第1反応流出液を得る。第1水素化反応条件とは、反応温度:40~200℃であり、反応圧力:0.5~10.0MPaであり、液空間速度:5.0~20.0h-1である。
・工程(3):第1反応ユニットから流出した第1反応流出液と追加水素とを混合して、液相中に水素が分散している第2液体原料流を得る工程。追加水素の体積流量(Nm/h)の、工程(1)で使用するマレイン酸無水物溶液の体積流量(m/h)に対する比率は、(1:1)~(20:1)である。
・工程(4):第2液体原料流を、第2水素化反応条件にて、第2反応ユニットに配置されている第2マレイン酸無水物水素化触媒の固定床層を下部から上部へと流通させることにより、第2水素化反応させる工程。これにより、コハク酸無水物を含んでいる第2反応流出液を得る。第2水素化反応条件とは、反応温度:40~150℃、反応圧力:0.5~10.0MPa、液空間速度:0.1~4.0h-1である。
【0007】
好ましくは、第1反応ユニットは、1個以上の上向流型固定床反応器を備えている。上向流型固定床反応器の内部には、第1マレイン酸無水物水素化触媒の固定床層の1個以上が配置されている。上向流型固定床反応器の各々の高さ:直径比率は、独立に、3~20である。また好ましくは、第2反応ユニットは、1個以上の上向流型固定床反応器を備えている。上向流型固定床反応器の内部には、第2マレイン酸無水物水素化触媒の固定床層の1個以上が配置されている。第2反応ユニットに備えられている上向流型固定床反応器の各々の高さ:直径比率は、第1反応ユニットに備えられている上向流型固定床反応器の高さ:直径比率よりも小さい。その値は、0.1~2.5である。
【0008】
他の態様において、本出願は、マレイン酸無水物の水素化によりコハク酸無水物を製造するための製造システムを提供する。この製造システムは、第1気液混合器、第1反応ユニット、第2気液混合器、第2反応ユニットおよび分画装置を備えており、これらはこの順に配列されている。第1気液混合器および第2気液混合器は、いずれも、液体流入口、気体流入口および液相混合物流出口が設けられている。第1反応ユニットおよび第2反応ユニットは、それぞれ独立に、直列および/または並列に連結されている1個以上の上向流型固定床反応器を備えている。上向流型固定床反応器の内部には、マレイン酸無水物水素化触媒の固定床層の1個以上が配置されている。上向流型固定床反応器の各々には、水素化原料流入口および水素化生成物流出口が設けられている。分画装置には、コハク酸無水物生成物流入口およびコハク酸無水物生成物流出口が設けられている。
【0009】
第1気液混合器の液体流入口は、マレイン酸無水物溶液源と連結されている。気体流入口は、水素源と連結されている。液相混合物流出口は、第1反応ユニットに備えられている上向流型固定床反応器の水素化原料流入口と連結されている。第1反応ユニットに備えられている上向流型固定床反応器の水素化生成物流出口は、第2気液混合器の液体流入口と連結されている。第2気液混合器の気体流入口は、水素源と連結されている。液相混合物流出口は、第2反応ユニットに備えられている上向流型固定床反応器の水素化原料流入口と連結されている。第2反応ユニットに備えられている上向流型固定床反応器の水素化生成物流出口は、分画装置の流入口と連結されている。
【0010】
第1反応ユニットに備えられている上向流型固定床反応器の各々の高さ:直径比率は、それぞれ独立に、3~15である。第2反応ユニットに備えられている上向流型固定床反応器の各々の高さ:直径比率は、第1反応ユニットに備えられている上向流型固定床反応器の高さ:直径比率よりも小さく、その値は0.1~2.5である。
【0011】
マレイン酸無水物の水素化によりコハク酸無水物を製造するための製造方法および製造システムには、次のような特徴点がある。
【0012】
(1)
上向する液相の水素化反応工程を2段階とすることにより、マレイン酸無水物の水素化反応工程が2段階に分割されている。また、それぞれの段階の反応工程に応じて異なる製造パラメータを適用している。これにより、全体の反応熱を効果的に制御するという目的を達し、全体の反応効率も最適化する。
【0013】
(2)
第1段階の水素化反応は、高空間速度条件下で行う急速な水素化反応である。第1段階の反応においては、マレイン酸無水物の初期濃度が高く、反応速度も急速であるので、局所的なホットスポットが生成しやすい。そこで、第1段階の反応を、高空間速度条件下にて上向流で行う。これによって、マレイン酸無水物の滞留時間を減少させ、副反応および局所的なホットスポットを最大限に低減する。それだけでなく、このような反応様式により、触媒を僅かに膨張した状態に保つことにより、触媒のコーキングをも効果的に防止する。
【0014】
好適な実施形態においては、第1段階の水素化反応を、高さ:直径比率が大きい上向流型固定床反応器において行う。これにより、反応器内の流速が速くなり、流れが乱れて、拡散により熱が伝達するようになる。また、反応器内の流れがプラグ流に近くなり、軸方向の逆混合が軽減され、副反応が減少する。
【0015】
第1段階を急速な水素化反応とすることにより、物質移動が効率的になるとともに、反応転化率を好適な反応転化率が好適な程度となる。このことは、拡散による熱の伝達にとってさらに好ましく、反応の初期段階における放熱の集中および局所的なホットスポットの生成という課題を、より効果的に解決する。
【0016】
(3)
第2段階の水素化反応は、低空間速度条件下で行う穏やかな液相水素化反応である。第2段階の反応においては、マレイン酸無水物の濃度が低く、反応速度も緩やかである。特に、残留するマレイン酸無水物が少量しか存在しないときには、これを完全に転化させることは難しい。そのため、転化率を高めるためには、滞留時間を比較的長くする必要がある。そこで、第2段階の反応を、上向流で行う。これによって、物質移動反応効率が向上する。それだけでなく、このような反応様式により、触媒を僅かに膨張した状態とすることにより、局所的なホットスポットの問題を防ぎ、触媒のコーキングを効果的に防止する。
【0017】
好適な実施形態においては、第2段階の水素化反応を行う上向流型固定床反応器の高さ:直径比率は、第1段階で使用する上向流型固定床反応器の高さ:直径比率よりも小さい。これにより、第2段階の反応器内の流速が比較的遅くなり、流れに目立つ乱れが生ず、触媒床が安定し、短絡や泡立ちなどの流れに伴う問題が生じにくくなる。このようにして、反応効率および転化能を効果的に確保している。
【0018】
第2段階の穏やかな水素化反応工程と第1段階の急速な水素化反応工程とを組合せて稼働することにより、理想的な転化率を達成し、副反応の発生を効果的に制御する。
【0019】
(4)
第1段階の急速な水素化反応工程および第2段階の穏やかな水素化反応工程は、いずれも、安定な全液相水素化反応である。反応器内の液相は連続相であり、気相は分散相である。また、反応器の流入口から流出口までが、安定な全液相水素化反応状態にある。そのため、触媒床層の脈動が低減され、触媒粒子の激しい摩耗が防止され、物質移動効率が向上する。
【0020】
本出願のさらなる特徴および利点は、下記の詳細な説明にて説明する。
【0021】
図面は、本願明細書の一部を構成するものであり、本出願をよりよく理解するための一助となるが、限定として解釈してはならない。下記の図面および詳細な説明を組合せて、本出願を理解してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本出願に係るマレイン酸無水物の水素化によりコハク酸無水物を製造するための製造システムの好適な実施形態の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、具体的な実施形態および添付の図面を参照しながら、本出願をより詳細に説明する。ただし、本明細書に記載の具体的な実施形態は、説明および例示のみを目的としており、いかなる様式においても本発明を限定するものではない。
【0024】
本出願に関連して記載されている特定の数値(数値範囲の端点を含む)は、その数値自体には限定されない。そうではなく、数値自体近傍の全ての値を含むと理解せねばならない。例えば、数値自体から±5%の値が含まれる。また、本明細書に記載の任意の数値範囲に関連して、範囲の端点同士、範囲の端点と範囲内の特定の値、範囲内の任意の2つの特定の値を任意に組合せて、1つ以上の新たな数値範囲とすることができる。この新たな数値範囲もまた、本出願において具体的に開示されているものと解さねばならない。
【0025】
別途記載のない限り、本明細書において使用する用語の意味は、当業者により通常に理解されるものと同じ意味である。本明細書における用語の定義が本技術分野における通常の理解とはと異なる場合は、本明細書における定義の方が優先される。
【0026】
本出願に関連して、明示的に記載されているものおよび記載されていない任意のものは、本技術分野において周知のものそのものであると理解される。また、本明細書に記載の任意の実施形態を、本明細書に記載の他の実施形態の1つ以上と自由に組合せることができる。その組合せが不合理であることが当業者にとって明らかでない限りは、組合せにより導かれる技術的解決手段および技術思想も、本出願の出願当初の開示の一部である。決して、明細書に開示されていない新規事項の追加と見做してはならない。
【0027】
本明細書に記載の特許文献および非特許文献(教科書、雑誌論文などであるが、これらには限定されない)は、参照によりその全体が組込まれる。
【0028】
上述した第1態様において、本出願は、マレイン酸無水物の水素化によるコハク酸無水物の製造方法を提供する。この製造方法は、下記の工程を有する。
・工程(1):マレイン酸無水物溶液と水素とを混合して、液相中に水素が分散している第1液体原料流を得る工程。水素の体積流量(Nm/h)の、マレイン酸無水物溶液の体積流量(m/h)に対する比率は、(5:1)~(50:1)であり、好ましくは(10:1)~(30:1)である。
・工程(2):第1液体原料流を、第1水素化反応条件にて、第1反応ユニットに配置されている第1マレイン酸無水物水素化触媒の固定床層を下部から上部へと流通させることにより、第1水素化反応させる工程。これにより、コハク酸無水物を含んでいる第1反応流出液を得る。第1水素化反応条件において、反応温度は、40~200℃であり、好ましくは50~150℃である。反応圧力は、0.5~10.0MPaであり、好ましくは1~5.0MPaである。液空間速度は、5.0~20.0h-1であり、好ましくは6.0~15.0h-1である。
・工程(3):第1反応ユニットから流出した第1反応流出液と追加水素とを混合して、液相中に水素が分散している第2液体原料流を得る工程。追加水素の体積流量(Nm/h)の、工程(1)で使用するマレイン酸無水物溶液の体積流量(m/h)に対する比率は、(1:1)~(20:1)であり、好ましくは(5:1)~(15:1)である。
・工程(4):第2液体原料流を、第2水素化反応条件にて、第2反応ユニットに配置されている第2マレイン酸無水物水素化触媒の固定床層を下部から上部へと流通させることにより、第2水素化反応させる工程。これにより、コハク酸無水物を含んでいる第2反応流出液を得る。第2水素化反応条件において、反応温度は、40~150℃であり、好ましくは50~80℃である。反応圧力は、0.5~10.0MPaであり、好ましくは1~5.0MPaである。液空間速度は、0.1~4.0h-1であり、好ましくは0.5~2.5h-1である。
【0029】
本出願の製造方法において、第1液体原料流および第2液体原料流は、いずれも、水素を液相中に均一に混合・分散させて得られる流れ(マレイン酸無水物溶液および/またはマレイン酸無水物の水素化生成物)である。液相は連続相であり、水素は分散相である。流れの物理的状態は、液相に類似している。
【0030】
本出願の製造方法において、工程(2)における第1水素化反応と、工程(4)における第2水素化反応とは、いずれも、安定な全液相水素化反応である。「全液相水素化」とは、トリクルベッドによる水素化反応との比較で、反応器内の液相が連続相であり、気相が分散相であることを意味する。トリクルベッドにおいては、気相が連続相であり、液相が分散相である。本出願においては、反応器の流入口から流出口までが安定全液相水素化反応を形成している。そのため、水素の全部またはほとんど全部は、液相中に溶解・分散している。その結果、物質移動反応効率が高まり、触媒床層の脈動が低減され、触媒粒子の激しい摩耗が防止される。
【0031】
本出願の製造方法においては、ミキサーによって、第1液体原料流および第2液体原料流を形成してもよい(すなわち、液相中に水素を均一に分散させてもよい)。混合器は、スタティックミキサー、エゼクタミキサー、機械的剪断ミキサー、インピンジメントミキサー、マイクロチャネルミキサー、またはこれらの組合せから選択されうる。
【0032】
好適な実施形態において、工程(1)で使用するマレイン酸無水物溶液のマレイン酸無水物含有量は、0.03~0.3g/mLであり、好ましくは0.05~0.2g/mLである。さらに好ましくは、マレイン酸無水物溶液で使用する溶媒は、ベンゼン、トルエン、キシレン、アセトン、テトラヒドロフラン、γ-ブチロラクトン、メチルアセトン、シクロヘキサノン、酢酸エチル、コハク酸ジエチル、エチレングリコールモノメチルエーテル、またはこれらの組合せから選択される。
【0033】
本出願の製造方法において使用する水素は、純度90体積%超の水素であってよく、好ましくは純度99.9体積%超の水素である。
【0034】
好適な実施形態において、第1反応ユニットは、1個以上(例えば1~5個)の上向流型固定床反応器を備えている。上向流型固定床反応器の内部には、第1マレイン酸無水物水素化触媒の固定床層の1個以上(例えば1~5個)が配置されている。上向流型固定床反応器の各々の高さ:直径比率は、それぞれ独立に、3~15であり、好ましくは4~10である。例えば、第1反応ユニットは1個の反応器を備えており、反応器には1~4個の触媒床層が設けられている。
【0035】
この好適な実施形態において、工程(1)における第1水素化反応は、空間速度が比較的高く、反応器の高さ:直径比率が比較的大きい条件下で行われる、急速な水素化反応である。マレイン酸無水物の初期濃度が高く、反応の初期段階における反応速度が速いため、局所的なホットスポットが生成しやすい。高空間速度条件下において上向流で反応させることにより、マレイン酸無水物の滞留時間を減少させ、副反応および局所的なホットスポットを最大限に低減する。それだけでなく、このような反応様式により、触媒を僅かに膨張した状態に保つことにより、触媒のコーキングをも効果的に防止する。また、高さ:直径比率が大きい反応器によれば、反応器内の流速が速くなり、流れが乱れて、拡散により熱が伝達するようになる。加えて、反応器内の流れがプラグ流に近くなり、軸方向の逆混合が軽減され、副反応が減少する。工程(1)を急速な水素化反応とすることにより、物質移動が効率的になるとともに、反応転化率が好適な程度となる。このことは、拡散による熱の伝達にとってさらに好ましく、反応の初期段階における放熱の集中および局所的なホットスポットの生成という課題を、より効果的に解決する。
【0036】
好適な実施形態において、第2反応ユニットは、1個以上(例えば1~5個)の上向流型固定床反応器を備えている。上向流型固定床反応器の内部には、第2マレイン酸無水物水素化触媒の固定床層の1個以上(例えば1~5個)が配置されている。第2反応ユニットに備えられている上向流型固定床反応器の各々の高さ:直径比率は、第1反応ユニットに備えられている上向流型固定床反応器の高さ:直径比率よりも小さい。その値は、0.1~2.5であり、好ましくは0.5~2.0である。例えば、第2反応ユニットは1個の反応器を備えており、反応器には1~4個の触媒床層が設けられている。
【0037】
この好適な実施形態において、工程(4)における第2水素化反応は、空間速度が比較的低く、第1反応ユニットに備えられている上向流型固定床反応器よりも反応器の高さ:直径比率が小さい条件下で行われる、穏やかな液相水素化反応である(すなわち、好適には、第2反応ユニットに備えられている上向流型固定床反応器の高さ:直径比率は、第1反応ユニットに備えられている上向流型固定床反応器の高さ:直径比率よりも小さい)。空間速度が低いのは、主として、マレイン酸無水物の水素化反応の反応後期においては、マレイン酸無水物濃度が低く、反応速度が遅いためである。特に、転化率を高くするためには、滞留時間を比較的長くしなければならない。これは、少量のマレイン酸無水物残渣を完全に転化させるのが難しいためである。上向流で反応させることにより、物質移動反応効率が向上する。それだけでなく、このような反応様式により、触媒を僅かに膨張した状態とすることにより、滞留時間が長引くことに起因する、局所的なホットスポットの問題を防ぎ、触媒のコーキングを効果的に防止する。また、第2反応ユニットに備えられている上向流型固定床反応器に流入する流れにおいては、残留するマレイン酸無水物の濃度が低く、高さ:直径比率が小さい反応器内での流速が遅く、目立つ乱れも生じない。そのため、触媒床が安定し、短絡や泡立ちなどの流れに伴う問題が生じにくくなる。このようにして、反応効率および転化能を効果的に確保している。工程(4)における穏やかな水素化反応工程と、工程(2)における急速な水素化反応工程とを組合せて稼働することにより、理想的な転化率を達成し、副反応の発生を効果的に制御する。このようにして、生成物の選択性を向上させる。
【0038】
本出願において、第1マレイン酸無水物水素化触媒および第2マレイン酸無水物水素化触媒は、それぞれ独立に、マレイン酸無水物の水素化反応において使用される、水素化能を有している触媒である。好ましくは、触媒は、担持されたニッケル系触媒である。この触媒において、触媒の担体は、SiO、Al、SiO-Al、TiO、活性炭素、モレキュラーシーブ、またはこれらの組合せから選択される。触媒の形状は、球状、線状、クローバー型、表面に凹凸のある球状であってよい。好ましくは、球状または表面に凹凸のある球状である。好ましくは、担持されたニッケル系触媒において、触媒の重量を基準すると、ニッケルの含有量(酸化ニッケルとして計算する)は5~40%であり、担体の含有量は60~95%である。
【0039】
好適な実施形態において、工程(2)の第1水素化反応におけるマレイン酸無水物の転化率は、50~95%に制御されており、好ましくは55~85%に制御されている。
【0040】
本出願の製造方法においては、必要に応じて、隣接する反応器の間で排熱操作をしてもよい。排熱操作は、熱交換器、空冷器、水冷器などのうち1種類以上によって行いうる。一般的に、排熱操作は、次の反応器の流入口の温度に応じて制御する。
【0041】
特定の好適な実施形態において、本出願の製造方法は、下記の工程をさらに有する。
・工程(5):第2反応ユニットから流出した第2反応流出液を分画して、コハク酸無水物生成物を得る工程。
【0042】
他の好適な実施形態において、本出願の製造方法は、下記の工程をさらに有する。
・工程(5’):第2反応ユニットから流出した第2反応流出液を気液分離してコハク酸無水物を含んでいる液流を得る工程。得られた液流の一部を分画して、コハク酸無水物生成物を得る工程。得られた液流の残部を工程(2)および/または工程(4)に還流して、さらに反応させる工程。
【0043】
さらに好適な実施形態では、工程(5’)において、工程(2)に還流される液流の質量流量の、工程(1)で使用するマレイン酸無水物溶液の質量流量に対する比率は、(1:20)~(9:10)であり、好ましくは(1:5)~(3:5)である。工程(5’)において、工程(4)に還流される液流の質量流量の、工程(1)で使用するマレイン酸無水物溶液の質量流量に対する比率は、(0:1)~(4:5)であり、好ましくは(0:1)~(3:10)である。さらに好ましくは、工程(2)に還流される流れの量は、工程(4)に還流される流れの量よりも多い。
【0044】
第2態様において、本出願は、マレイン酸無水物の水素化によりコハク酸無水物を製造するための製造システムを提供する。この製造システムは、第1気液混合器、第1反応ユニット、第2気液混合器、第2反応ユニットおよび分画装置を備えており、これらはこの順に配列されている。第1気液混合器および第2気液混合器には、いずれも、液体流入口、気体流入口および液相混合物流出口が設けられている。第1反応ユニットおよび第2反応ユニットは、それぞれ独立に、直列および/または並列に連結されている1個以上の上向流型固定床反応器を備えている。上向流型固定床反応器の内部には、マレイン酸無水物水素化触媒の固定床層の1個以上が配置されている。上向流型固定床反応器の各々には、水素化原料流入口および水素化生成物流出口が設けられている。分画装置には、コハク酸無水物生成物流入口およびコハク酸無水物生成物流出口が設けられている。
【0045】
第1気液混合器の液体流入口は、マレイン酸無水物溶液源と連結されている。気体流入口は、水素源と連結されている。液相混合物流出口は、第1反応ユニットに備えられている上向流型固定床反応器の水素化原料流入口と連結されている。第1反応ユニットに備えられている上向流型固定床反応器の水素化生成物流出口は、第2気液混合器の液体流入口と連結されている。第2気液混合器の気体流入口は、水素源と連結されている。液相混合物流出口は、第2反応ユニットに備えられている上向流型固定床反応器の水素化原料流入口と連結されている。第2反応ユニットに備えられている上向流型固定床反応器の水素化生成物流出口は、分画装置の流入口と連結されている。
【0046】
第1反応ユニットに備えられている上向流型固定床反応器の各々の高さ:直径比率は、それぞれ独立に、3~20であり、好ましくは4~15である。
【0047】
第2反応ユニットに備えられている上向流型固定床反応器の各々の高さ:直径比率は、第1反応ユニットに備えられている上向流型固定床反応器の高さ:直径比率よりも小さい。その値は、0.1~2.5であり、好ましくは0.5~2.0である。
【0048】
好適な実施形態において、製造システムは、気液分離器をさらに備えている。気液分離器には、流入口、気体流出口および液体流出口が設けられている。第2反応ユニットに備えられている上向流型固定床反応器の水素化生成物流出口は、気液分離器の流入口と連結されている。気液分離器の液体流出口は、分画装置の流入口と連結されている。気液分離器の液体流出口は、第1気液混合器および/または第2気液混合器の液体流入口とも連結されている。
【0049】
好適な実施形態において、第1気液混合器および第2気液混合器は、それぞれ独立に、スタティックミキサー、エゼクタミキサー、機械的剪断ミキサー、インピンジメントミキサー、マイクロチャネルミキサー、またはこれらの組合せから選択される。
【0050】
以下では、本出願に係るマレイン酸無水物の水素化によりコハク酸無水物を製造するための製造方法および製造システムの好適な実施形態を、添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【0051】
図1に示すように、好適な実施形態において、本出願に係るマレイン酸無水物の水素化によりコハク酸無水物を製造するための製造システムは、第1気液混合器4、第1反応ユニット、第2気液混合器11、第2反応ユニットおよび分画装置(図では省略)を備えており、これらはこの順に配列されている。第1気液混合器4および第2気液混合器11には、いずれも、液体流入口、気体流入口および液相混合物流出口が設けられている。第1反応ユニットは、第1上向流型固定床反応器6を備えている。第1上向流型固定床反応器6の内部には、触媒床層7が配置されている。第2反応ユニットは、上向流型固定床反応器13を備えている。上向流型固定床反応器13の内部には、触媒床層14が配置されている。第1上向流型固定床反応器および第2上向流型固定床反応器には、いずれも、水素化原料流入口および水素化生成物流出口が設けられている。分画装置には、コハク酸無水物生成物流入口およびコハク酸無水物生成物流出口が設けられている。第1気液混合器4の液体流入口は、マレイン酸無水物溶液源と連結されている。気体流入口は、水素源と連結されている。液相混合物流出口は、上向流型固定床反応器6の水素化原料流入口と連結されている。上向流型固定床反応器6の水素化生成物流出口は、排熱器9を通じて、第2気液混合器11の液体流入口と連結されている。第2気液混合器の気体流入口は、水素源と連結されている。液相混合物流出口は、上向流型固定床反応器13の水素化原料流入口と連結されている。上向流型固定床反応器13の水素化生成物流出口は、排熱器16を通じて、気液分離器18の流入口と連結されている。気液分離器18の液体流出口は、分画装置の流入口と連結されている。
【0052】
図1に示すように、本出願に係るマレイン酸無水物の水素化によるコハク酸無水物の製造方法の好適な実施形態においては、マレイン酸無水物溶液源から来たマレイン酸無水物溶液1と、水素源から来た水素2と、還流された流れ22とを、第1気液混合器4によって均一に混合して、第1液体原料流5を得る。第1液体原料流5は、上向流型固定床反応器6の下部に送られて、触媒床層7を下部から上部へと流通し、これにより第1水素化反応を行う。上向流型固定床反応器6の反応流出液8は、排熱器9へと送られて、排熱されられる。排熱の後には、反応流出液と、水素源から来た追加水素10および第2気液混合器11から来た還流された流れ23とを均一に混合して、第2液体原料流12を得る。第2液体原料流12は、上向流型固定床反応器13の下部に送られて、触媒床層14を下部から上部へと流通し、これにより第2水素化反応を行う。上向流型固定床反応器13の反応流出液15は、排熱器16へと送られて、排熱させられる。排熱後の流れ17は、気液分離器18に送られる。気液分離の後に得られた気体流19は、製造システムの系外に引き出される。分離された液体流20は、2つの部分に分かれる。一方の流れ24は、分画装置に送られ、さらに分離される。他方の流れは、循環ポンプ21により加圧される。他方の流れのうち一部は、還流された流れ22として、第1気液混合器4に導入される。他方の流れのうち残部は、還流された流れ23として第2気液混合器に導入される。
【0053】
特定の好適な実施形態において、本出願は、下記の実施形態を提供する。
<1>
マレイン酸無水物の水素化によるコハク酸無水物の製造方法であって、下記の工程を有することを特徴とする製造方法:
第1混合液体原料流を上向流型固定床反応器Iの下部へ送り、当該上向流型固定床反応器Iに配置されている水素化触媒床層を下部から上部へと流通させることにより、急速に液相水素化反応させる工程;
上記急速な水素化反応の産物を上記上向流型固定床反応器Iの上部から取出す工程;
排熱の後、上記急速な水素化反応の産物と追加水素とを均一に混合して、第2混合液体原料流とする工程;
第2混合液体原料流を上向流型固定床反応器IIに送り、当該上向流型固定床反応器IIに配置されている水素化触媒床層を下部から上部へと流通させることにより、穏やかに液相水素化反応させる工程;
上記反応器IIの上部から、上記穏やかな水素化反応の産物を取出す工程;
排熱の後、気相を分離する工程;
上記穏やかな水素化反応の産物の一部を、上向流型固定床反応器Iおよび/または上向流型固定床反応器IIへと還流する工程;
上記穏やかな水素化反応の産物の残部を分画する工程。
<2>
上記第1混合液体原料流および上記第2混合液体原料流は、いずれも、水素が均一に混合および分散されている液相であり、
上記液相は、連続相であり、
上記水素は、分散相である、
ことを特徴とする、<1>に記載の製造方法。
<3>
上記第1混合液体原料流および上記第2混合液体原料流は、混合器による混合によって形成され、
上記混合器は、スタティックミキサー、エゼクタミキサー、機械的剪断ミキサー、インピンジメントミキサーおよびマイクロチャネルミキサーのうち1つ以上である、
ことを特徴とする、<1>に記載の製造方法。
<4>
上記急速な水素化反応および上記穏やかな水素化反応は、いずれも、安定な全液相水素化であり、
上記反応器内の液相は、連続相であり、
上記気相は、分散相である、
ことを特徴とする、<1>に記載の製造方法。
<5>
上記マレイン酸無水物溶液に含まれているマレイン酸無水物の含有量は、0.03~0.3g/mLであり、好ましくは0.05~0.20g/mLであり、
上記マレイン酸無水物溶液に使用されている溶媒は、ベンゼン、トルエン、キシレン、アセトン、テトラヒドロフラン、γ-ブチロラクトン、メチルアセトン、シクロヘキサノン、酢酸エチル、コハク酸ジエチルまたはエチレングリコールモノメチルエーテルのうち1種類以上である、
ことを特徴とする、<1>に記載の製造方法。
<6>
使用する上記水素の純度は、90体積%超であり、好ましくは99.9体積%超である、
ことを特徴とする、<1>に記載の製造方法。
<7>
上記急速な液相水素化反応の条件は、下記の通りであることを特徴とする、<1>に記載の製造方法:
反応温度:40~200℃(好ましくは50~150℃);
反応圧力:0.5~10.0MPa(好ましくは1~5.0MPa);
液空間速度3~20.0h-1(好ましくは5.0~15.0h-1);
上記反応器内における、水素の体積流量(Nm/h)のマレイン酸無水物溶液の体積流量(m/h)に対する比率:(5:1)~(50:1)(好ましくは(10:1)~(30:1));
上記上向流型固定床反応器Iの高さ:直径比率:一般的には1~15(好ましくは4~10)。
<8>
上記上向流型固定床反応器Iには、1個の触媒床層が設けられており、
上記触媒は、マレイン酸無水物の水素化反応で通常に使用する、水素化能を有する触媒であり、
好ましくは、上記触媒は、担持されたニッケル系触媒であり、
上記ニッケル系触媒の担体は、SiO、Al、SiO-Al、TiO、活性炭またはモレキュラーシーブのうち1種類以上である、
ことを特徴とする、<1>に記載の製造方法。
<9>
上記穏やかな液相水素化反応の条件は、下記の通りであることを特徴とする、<1>に記載の製造方法:
反応温度:40~150℃(好ましくは50~80℃);
反応圧力:0.5~10.0MPa(好ましくは1~5.0MPa);
液空間速度:0.1~5.0h-1(好ましくは0.5~2.5h-1);
上記反応器内における水素の体積流量(Nm/h)の、上記上向流型固定床反応器I内におけるマレイン酸無水物溶液の体積流量(m/h)に対する比率:(1:1)~(20:1)(好ましくは(5:1)~(15:1))。
<10>
上記上向流型固定床反応器IIには、2~4個の触媒床層が設けられており、
上記触媒は、マレイン酸無水物の水素化反応で通常に使用する、水素化能を有する触媒であり、
好ましくは、上記触媒は、担持されたニッケル系触媒であり、
上記ニッケル系触媒の担体は、SiO、Al、SiO-Al、TiO、活性炭またはモレキュラーシーブのうち1種類以上である、
ことを特徴とする、<1>に記載の製造方法。
<11>
上記急速な液相水素化反応におけるマレイン酸無水物の転化率は、50~95%であり、好ましくは55~85%である、
ことを特徴とする、<1>に記載の製造方法。
<12>
上記上向流型固定床反応器Iに還流される上記水素化反応の産物は、上記上向流型固定床反応器Iに供給される還流ではない流れの5~90重量%であり、好ましくは20~60重量%であり、
上記上向流型固定床反応器IIに還流される上記水素化反応の産物は、上記上向流型固定床反応器Iに供給される還流ではない流れの0~80重量%であり、好ましくは0~30重量%であり、
上記上向流型固定床反応器Iに還流される流れの量は、上記上向流型固定床反応器IIに還流される流れの量よりも多い、
ことを特徴とする、<1>に記載の製造方法。
【実施例
【0054】
下記の実施例により、本出願をさらに説明する。ただし、これらの実施例は、本出願を限定するものではない。
【0055】
下記の実施例および比較例において使用するマレイン酸無水物原料およびγ-ブチロラクトン溶媒は、市販品であった。これらの具体的な特性を下記表1、2に示す。
【表1】

【表2】
【0056】
下記の実施例および比較例で使用するマレイン酸無水物水素化触媒は、自家製の担持されたニッケル系触媒であった。その調製方法は下記の通りである。
【0057】
一定量の硝酸ニッケルを計量し、水に溶解させて、硝酸ニッケル溶液を調製した。一定量の球状アルミナ担体を計量し、硝酸ニッケル溶液に一定時間含浸させた。次に、120℃にて9時間乾燥させ、6時間焼成した。230℃にて72時間、生成物を水素で還元して触媒を得た。触媒の具体的な特性を表3に示す。
【表3】
【0058】
〔実施例1〕
本出願の製造方法に従って、2個の上向流型固定床反応器を備えている反応系で実験を行った。
【0059】
マレイン酸無水物原料をγ-ブチロラクトン溶媒に溶解させて、均一に混合し、マレイン酸無水物溶液を得た。溶液の温度が反応器の流入口温度に達するまで温度調節した後、水素と混合して液相混合物を得た。第1反応器の下部から液相混合物を供給して、触媒床層を下部から上部へと流通させることにより水素化反応させた。第1反応器から流出した流出液を温度調節した後、追加水素と混合して液相混合物を得た。第2反応器の下部から液相混合物を供給して、触媒床層を下部から上部へと流通させることにより水素化反応させた。第2反応器から流出した流出液を、気液分離器により気液分離した。分離した液流の一部を、第1反応器および第2反応器の流入口に還流させた。分離した液流の残部は、分画装置に供給した。具体的な稼働条件を表4に示し、反応結果を表5に示す。
【0060】
〔実施例2~4〕
実施例1と同様に実験を行った。ただし、稼働条件は表4に記載の通りに変更した。反応結果を表5に示す。
【0061】
〔比較例1〕
従来の下向流型トリクルベッド反応器を2個使用して実験を行った。
【0062】
マレイン酸無水物原料をγ-ブチロラクトン溶媒に溶解させて、均一に混合し、マレイン酸無水物溶液を得た。溶液の温度が反応器の流入口温度に達するまで温度調節し、水素と混合した。第1反応器の上部から混合物を供給して、触媒床層を上部から下部へと流通させることにより水素化反応させた。第1反応器から流出した水素化生成物を温度調節した後、追加水素と混合して混合物を得た。第2反応器の上部から混合物を供給して、触媒床層を上部から下部へと流通させることにより、連続的に水素化反応させた。第2反応器から流出した流出液を、気液分離器により気液分離した。分離した液流の一部を、第1反応器および第2反応器の流入口に還流させた。分離した液流の残部は、分画装置に供給した。具体的な稼働条件を表4に示し、反応結果を表6に示す。
【0063】
〔比較例2〕
従来の上向流型固定床反応器を2個使用して実験を行った。
【0064】
マレイン酸無水物原料をγ-ブチロラクトン溶媒に溶解させて、均一に混合し、マレイン酸無水物溶液を得た。溶液の温度が反応器の流入口温度に達するまで温度調節した後、水素と混合して混合物を得た。第1反応器の下部から混合物を供給して、触媒床層を下部から上部へと流通させることにより水素化反応させた。第1反応器から流出した水素化生成物を温度調節した後、追加水素と混合して混合物を得た。第2反応器の下部から混合物を供給して、触媒床層を下部から上部へと流通させることにより水素化反応させた。第2反応器から流出した流出液を、気液分離器により気液分離した。分離した液流の一部を、第1反応器および第2反応器の流入口に還流させた。分離した液流の残部は、分画装置に供給した。具体的な稼働条件を表4に示し、反応結果を表6に示す。
【0065】
〔比較例3〕
従来の上向流型固定床反応器に従来の下向流型トリクルベッド反応器を連結したものを使用して実験を行った。
【0066】
マレイン酸無水物原料をγ-ブチロラクトン溶媒に溶解させて、均一に混合し、マレイン酸無水物溶液を得た。溶液の温度が反応器の流入口温度に達するまで温度調節し、水素と混合した。第1反応器の下部から混合物を供給して、触媒床層を下部から上部へと流通させることにより水素化反応させた。第1反応器から流出した水素化生成物を温度調節した後、追加水素と混合して混合物を得た。第2反応器の上部から混合物を供給して、触媒床層を上部から下部へと流通させることにより水素化反応させた。第2反応器から流出した流出液を、気液分離器により気液分離した。分離した液流の一部を、第1反応器および第2反応器の流入口に還流させた。分離した液流の残部は、分画装置に供給した。具体的な稼働条件を表4に示し、反応結果を表6に示す。
【0067】
〔比較例4〕
従来の上向流型固定床反応器を使用して実験を行った。
【0068】
マレイン酸無水物原料をγ-ブチロラクトン溶媒に溶解させて、均一に混合し、マレイン酸無水物溶液を得た。溶液の温度が反応器の流入口温度に達するまで温度調節した後、水素と混合して混合物を得た。第1反応器の下部から混合物を供給して、触媒床層を下部から上部へと流通させることにより水素化反応させた。第1反応器から流出した水素化生成物を温度調節した後、追加水素と混合して混合物を得た。第2反応器の下部から混合物を供給して、触媒床層を下部から上部へと流通させることにより水素化反応させた。第2反応器から流出した流出液を、気液分離器により気液分離した。分離した液流の一部を、第1反応器および第2反応器の流入口に還流させた。分離した液流の残部は、分画装置に供給した。具体的な稼働条件を表4に示し、反応結果を表6に示す。
【0069】
【表4】
【0070】
表4から分かるように、実施例1~4の第1反応器および第2反応器の内部における気泡径は、50~900μmと小さかった。このことから、液相が連続相であり、気相が分散相であると分かる。それゆえ、反応器内の反応は、全液相反応であった。対照的に、比較例1~4の第1反応器および第2反応器の内部においては、気相が連続相であり液相が分散相であった。これは、気液比率が高い(80:1より大きい)ためである。そのため、反応器内に見られたのは、もはや気泡ではなく気相であった。
【0071】
【表5】
【0072】
表5、6に示す結果から分かるように、実施例1~4において、径方向の温度差は、第1反応器および第2反応器のいずれにおいても0.5℃未満であった。これとは対照的に、比較例1~4において、径方向の温度差は、第1反応器においては5℃超であり、第2反応器においては2℃超であった。本出願の製造方法は、上向流水素化反応器を2段階に連結するものである。そして、第1段階の反応器では空間速度が速く高さ:直径比率が大きい条件下で急速な水素化反応を行い、第2段階の反応器では空間速度が低く高さ:直径比率が小さい条件下で穏やかな水素化反応を行う。実験結果から分かるように、本出願の製造方法によれば、マレイン酸無水物濃度が高く反応速度が速いことに起因して、反応の初期段階において反応器内で放熱が集中し局所的なホットスポットが生じやすいと言う問題を解決できる。また、平均合計転化率が約98.0%および約99.9%の時点における平均合計選択性は、実施例1~4の方が比較例1~4よりも大きかった。この結果は、本出願の製造方法によれば、より効果的に副反応を制御しつつも、反応の後期段階において高い転化率を確保できることを表している。それゆえ、本出願の製造方法は、生成物の選択性が高い一方で、転化率も高い。
【0073】
比較例1~4と比較すると、実施例1~4は、水素-液体比率が小さい条件下においても、優れた効果を奏している。このことは、本出願の製造方法では、水素の利用率が高く、水素による制御が正確であることを表している。さらに、実施例1~3と比較すると、実施例4の水素-液体比率は、本出願において定義される範囲内ではあるが、比較的高い。しかしそれでも、水素化効果は優れている。このことは、本出願の製造方法では水素の利用率が高く、既存の水素化プロセスの重要な役割をより具現化できていることを表している。これとは対照的に、比較例1~4では、水素-液体比率を高くしても、反応による物質移動の駆動力は低いままであり、水素の供給量は化学的な水素の消費量よりも遥かに大きく、水素の利用率が低くなっている。水素化効果は水素供給量と直接関係することがなく、水素による制御は正確でなく、水素化も効率的ではない。実施例2と比較例4とを比較すると分かるように、本出願の製造方法は、穏やかな反応条件(低圧、低温、低い水素-液体比率など)においても技術的効果を奏する。そのため、反応系全体における物質およびエネルギーの消費が抑えられ、触媒の稼働サイクルを延長できる点においても有益である。
【0074】
以上、好適な実施形態を参照しながら本出願を詳細に説明してきた。しかし、本出願は、これらの実施形態に限定されるものではない。下記の本出願の発明思想に対して、種々の単純な変更を加えてもよい。このような単純な変更も、本出願の範囲に含まれる。
【0075】
上記の実施形態に記載した特定の技術的特徴を、任意の適切な様式で、矛盾することなく組合せてもよい。不要な重複記載を避けるため、本出願では、種々の可能な組合せの記載を省略している。しかし、このような組合せも、本出願の範囲に含まれねばならない。
【0076】
本出願の種々の実施形態は、その組合せが本出願の趣旨を逸脱しない限りは、自由に組合せてよい。このように組合せた実施形態も、本出願の開示に含まれていると解さねばならない。

図1
【手続補正書】
【提出日】2024-06-27
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マレイン酸無水物の水素化によりコハク酸無水物を製造するための製造方法であって、下記工程を有する方法:
工程(1):マレイン酸無水物溶液と水素とを混合して、液相中に水素が分散している第1液体原料流を得る工程であって、
上記水素の体積流量(Nm/h)の、マレイン酸無水物溶液の体積流量(m/h)に対する比率は、(5:1)~(50:1)(好ましくは(10:1)~(30:1))である工程;
工程(2):上記第1液体原料流を、第1水素化反応条件にて、第1反応ユニットに配置されている第1マレイン酸無水物水素化触媒の固定床層を下部から上部へと流通させることにより第1水素化反応させて、コハク酸無水物を含んでいる第1反応流出液を得る工程であって、
上記第1水素化反応条件には、下記が含まれる工程:
反応温度:40~200℃(好ましくは50~150℃)
反応圧力:0.5~10.0MPa(好ましくは1~5.0MPa)
液空間速度:5.0~20.0h-1(好ましくは6.0~15.0h-1);
工程(3):上記第1反応ユニットから流出した第1反応流出液と追加水素とを混合して、液相中に水素が分散している第2液体原料流を得る工程であって、
上記追加水素の体積流量(Nm/h)の、上記工程(1)において使用した上記マレイン酸無水物溶液の体積流量(m/h)に対する比率は、(1:1)~(20:1)(好ましくは(5:1)~(15:1))である工程;
工程(4):上記第2液体原料流を、第2水素化反応条件にて、第2反応ユニットに配置されている第2マレイン酸無水物水素化触媒の固定床層を下部から上部へと流通させることにより第2水素化反応させて、コハク酸無水物を含んでいる第2反応流出液を得る工程であって、
上記第2水素化反応条件には、下記が含まれる工程:
反応温度:40~150℃(好ましくは50~80℃)
反応圧力:0.5~10.0MPa(好ましくは1~5.0MPa)
液空間速度:0.1~4.0h-1(好ましくは0.5~2.5h-1)。
【請求項2】
上記第1反応ユニットは、1個以上の上向流型固定床反応器を備えており、
上記上向流型固定床反応器の内部は、上記第1マレイン酸無水物水素化触媒の固定床層の1個以上が配置されており、
上記上向流型固定床反応器の各々の高さ:直径比率は、それぞれ独立に、3~20(好ましくは4~15)である、
請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
上記第2反応ユニットは、1個以上の上向流型固定床反応器を備えており、
上記上向流型固定床反応器の内部には、上記第2マレイン酸無水物水素化触媒の固定床層の1個以上が配置されており、
上記第2反応ユニットに備えられている上記上向流型固定床反応器の各々の高さ:直径比率は、上記第1反応ユニットに備えられている上記上向流型固定床反応器の高さ:直径比率よりも小さく、その値は0.1~2.5(好ましくは0.5~2.0)である、
請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
上記第1マレイン酸無水物水素化触媒および上記第2マレイン酸無水物水素化触媒は、それぞれ独立に、担持されたニッケル系触媒であり、
上記ニッケル系触媒の担体は、SiO、Al、SiO-Al、TiO、活性炭素、モレキュラーシーブ、またはこれらの組合せから選択され、
好ましくは、上記担持されたニッケル系触媒は、触媒の重量を基準として、
Ni含有量(酸化ニッケルとして計算する)が、5~40%であり、
担体含有量が、60~95%である、
請求項に記載の製造方法。
【請求項5】
上記工程(1)で使用する上記マレイン酸無水物溶液において、上記マレイン酸無水物の含有量は、0.03~0.3g/mL(好ましくは0.05~0.2g/mL)であり、
好ましくは、上記マレイン酸無水物溶液に用いられる溶媒は、ベンゼン、トルエン、キシレン、アセトン、テトラヒドロフラン、γ-ブチロラクトン、メチルアセトン、シクロヘキサノン、酢酸エチル、コハク酸ジエチル、エチレングリコールモノメチルエーテル、またはこれらの組合せから選択される、
請求項に記載の製造方法。
【請求項6】
上記工程(2)において、上記第1水素化反応におけるマレイン酸無水物の転化率を、50~95%(好ましくは55~85%)に制御する、
請求項に記載の製造方法。
【請求項7】
下記工程のうちいずれかをさらに有する、請求項に記載の製造方法:
工程(5):上記第2反応ユニットから流出した上記第2反応流出液を分画して、コハク酸無水物生成物を得る工程;
工程(5’):下記(i)~(iii)を有する工程:
(i)上記第2反応ユニットから流出した上記第2反応流出液を気液分離して、コハク酸無水物を含んでいる液流を得る工程
(ii)得られた上記液流の一部を分画して、コハク酸無水物生成物を得る工程
(iii)得られた上記液流の残部を工程(2)および/または工程(4)に還流して、さらに反応させる工程。
【請求項8】
上記工程(5’)において上記工程(2)に還流される上記液流の質量流量の、上記工程(1)で使用するマレイン酸無水物溶液の質量流量に対する比率は、(1:20)~(9:10)(好ましくは(1:5)~(3:5))であり、
上記工程(5’)において上記工程(4)に還流される上記液流の質量流量の、上記工程(1)で使用するマレイン酸無水物溶液の質量流量に対する比率は、(0:1)~(4:5)(好ましくは(0:1)~(3:10))であり、
好ましくは、上記工程(2)に還流される上記液流の質量流量は、上記工程(4)に還流される上記液流の質量流量よりも大きい、
請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
マレイン酸無水物の水素化によりコハク酸無水物を製造するための製造システムであって、
第1気液混合器、第1反応ユニット、第2気液混合器、第2反応ユニットおよび分画装置をこの順に配列して備えており、
上記第1気液混合器および上記第2気液混合器には、いずれも、液体流入口、気体流入口および液相混合物流出口が設けられており、
上記第1反応ユニットおよび上記第2反応ユニットは、それぞれ独立に、直列および/または並列に連結されている1個以上の上向流型固定床反応器を備えており、
上記上向流型固定床反応器の内部には、マレイン酸無水物水素化触媒の固定床層の1個以上が配置されており、
上記上向流型固定床反応器の各々には、水素化原料流入口および水素化生成物流出口が設けられており、
上記分画装置には、コハク酸無水物生成物流入口およびコハク酸無水物生成物流出口が設けられており;
上記第1気液混合器の上記液体流入口は、マレイン酸無水物溶液源と連結されており、
上記気体流入口は、水素源と連結されており、
上記液相混合物流出口は、上記第1反応ユニットに備えられている上記上向流型固定床反応器の上記水素化原料流入口と連結されており、
上記第1反応ユニットに備えられている上記上向流型固定床反応器の上記水素化生成物流出口は、上記第2気液混合器の上記液体流入口と連結されており、
上記第2気液混合器の上記気体流入口は、上記水素源と連結されており、
上記液相混合物流出口は、上記第2反応ユニットに備えられている上記上向流型固定床反応器の上記水素化原料流入口と連結されており、
上記第2反応ユニットに備えられている上記上向流型固定床反応器の上記水素化生成物流出口は、上記分画装置の流入口と連結されており;
上記第1反応ユニットに備えられている上記上向流型固定床反応器の各々の高さ:直径比率は、それぞれ独立に、3~20(好ましくは4~15)であり;
上記第2反応ユニットに備えられている上記上向流型固定床反応器の各々の高さ:直径比率は、上記第1反応ユニットに備えられている上記上向流型固定床反応器の高さ:直径比率より小さく、その値は0.1~2.5(好ましくは0.5~2.0)である、
製造システム。
【請求項10】
流入口、気体流出口および液体流出口を有する気液分離器がさらに備えられており、
上記第2反応ユニットに備えられている上記上向流型固定床反応器の上記水素化生成物流出口は、上記気液分離器の上記流入口と連結されており、
上記気液分離器の上記液体流出口は、上記分画装置の上記流入口と連結されており、
上記気液分離器の上記液体流出口はまた、上記第1気液混合器および/または上記第2気液混合器の上記液体流入口とも連結されている、
請求項9に記載の製造システム。
【請求項11】
上記第1気液混合器および第2気液混合器は、それぞれ独立に、スタティックミキサー、エゼクタミキサー、機械的剪断ミキサー、インピンジメントミキサー、マイクロチャネルミキサー、またはこれらの組合せから選択される、
請求項に記載の製造システム。
【国際調査報告】