(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-10
(54)【発明の名称】タンパク質を単離するための構成及び方法
(51)【国際特許分類】
C07K 1/16 20060101AFI20241003BHJP
C07K 1/18 20060101ALI20241003BHJP
C07K 1/20 20060101ALI20241003BHJP
C07K 1/22 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C07K1/16
C07K1/18
C07K1/20
C07K1/22
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024525382
(86)(22)【出願日】2021-12-22
(85)【翻訳文提出日】2024-06-10
(86)【国際出願番号】 US2021065024
(87)【国際公開番号】W WO2023075812
(87)【国際公開日】2023-05-04
(32)【優先日】2021-10-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518276450
【氏名又は名称】プラズマ テクノロジーズ エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】PLASMA TECHNOLOGIES, LLC
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】ズルロ、ユージーン
(72)【発明者】
【氏名】カーティン、デニス
(72)【発明者】
【氏名】ラトケ、クラウス ピーター
(72)【発明者】
【氏名】ドーフマン、ライアン
(72)【発明者】
【氏名】ウェリハン、マシュー
【テーマコード(参考)】
4H045
【Fターム(参考)】
4H045AA20
4H045AA40
4H045EA20
4H045GA21
4H045GA23
4H045GA26
(57)【要約】
目的タンパク質をフロースルー中に保持する、連続的な複数のクロマトグラフィー分離を使用して、目的タンパク質を複雑な溶液から単離するシステム及び方法を記載する。使用されるクロマトグラフィー媒体の少なくとも1つは、夾雑物と目的タンパクの両方に相互作用できるように選択されるが、この媒体の容量は、目的タンパクが置換されフロースルー中に残るように選択される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶液からタンパク質を単離する方法であって、
前記タンパク質及び夾雑物を含む溶液を取得する工程と、
前記溶液を、前記タンパク質及び前記夾雑物と結合するように選択されたクロマトグラフィー媒体に添加する工程と、
前記クロマトグラフィー媒体から、前記タンパク質を含みかつ前記溶液中に存在する前記夾雑物の含有量の10%未満を含むフロースルーを収集する工程と
を含み、
前記クロマトグラフィー媒体の容量は、前記クロマトグラフィー媒体を通過中に損失する前記タンパク質の量が、前記タンパク質の含有量の10%未満となるように選択される、
方法。
【請求項2】
前記溶液が、前記方法の適用に先行する単離ステップの産物である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記クロマトグラフィー媒体に添加する前に、前記溶液のイオン強度又はpHを調整する工程を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記クロマトグラフィー媒体が、イオン交換媒体、アフィニティ媒体、疎水性相互作用媒体、及びミックスモード媒体から成る群から選択される、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記クロマトグラフィー媒体が、第1の親和性で夾雑物と、第2の親和性で前記タンパク質と結合し、前記第1の親和性が前記第2の親和性よりも大きい、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記クロマトグラフィー媒体の容量が、前記溶液の第2の夾雑物の含有量によるブレークスルーを50%未満だけ超過するように選択される工程を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記第2のクロマトグラフィー媒体の容量が、前記溶液の第2の夾雑物の含有量によるブレークスルーを25%未満だけ超過するように選択される工程を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記第2のクロマトグラフィー媒体の容量が、前記溶液の第2の夾雑物の含有量によるブレークスルーを10%未満だけ超過するように選択される工程を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記クロマトグラフィー媒体が、フィルターとして構成される、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
タンパク質及び夾雑物を含む溶液からタンパク質を単離するシステムであって、前記タンパク質及び前記夾雑物と結合するように選択されたクロマトグラフィー媒体を含む分離モジュールを含んでおり、前記分離モジュールは、前記タンパク質を含み、かつ、前記溶液中に存在する前記夾雑物の含有量の10%超を含まない、フロースルーを提供するように構成されており、前記分離モジュールは、前記分画モジュールを通過中に損失する前記タンパク質の量が、前記溶液中の前記タンパク質の含有量の10%未満となるような、前記クロマトグラフィー媒体の容量を提供するように選択された量の、前記クロマトグラフィー媒体を含む、システム。
【請求項11】
前記溶液が、前記溶液の前記システムへの適用に先行する、単離ステップの産物である、請求項10に記載のシステム。
【請求項12】
前記クロマトグラフィー媒体が、イオン交換媒体、アフィニティ媒体、疎水性相互作用媒体、及びミックスモード媒体から成る群から選択される、請求項10又は11に記載のシステム。
【請求項13】
前記クロマトグラフィー媒体が、第1の親和性で前記夾雑物と、第2の親和性で前記タンパク質と結合し、前記第1の親和性が前記第2の親和性よりも大きい、請求項10~12のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項14】
前記クロマトグラフィー媒体の容量が、前記溶液の前記夾雑物の含有量によるブレークスルーを50%未満だけ超過するように選択される、請求項10~13のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項15】
前記クロマトグラフィー媒体の容量が、前記溶液の前記夾雑物の含有量によるブレークスルーを25%未満だけ超過するように選択される、請求項10~13のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項16】
前記クロマトグラフィー媒体の容量が、前記溶液の前記夾雑物の含有量によるブレークスルーを10%未満だけ超過するように選択される、請求項10~13のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項17】
前記クロマトグラフィー媒体の少なくとも1つが、フィルターとして構成されている、請求項10~16のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項18】
溶液からタンパク質を単離する方法であって、
前記タンパク質、第1の夾雑物、及び第2の夾雑物を含む溶液を取得する工程と、
前記溶液を、前記第1の夾雑物と結合する第1のクロマトグラフィー媒体に添加することで、前記タンパク質及び前記第2の夾雑物を含む第1のフロースルーを生成する工程と、
前記第1のフロースルーを、前記第2の夾雑物と結合し、かつ前記タンパク質と結合するように選択された第2のクロマトグラフィー媒体に添加する工程と、
前記タンパク質、及び前記第1のフロースルー中の前記第2の夾雑物の含有量の10%未満を含む第2のフロースルーを、前記第2のクロマトグラフィー媒体から収集する工程と
を含み、
前記第2のクロマトグラフィー媒体の容量は、前記第2のクロマトグラフィー媒体を通過中に損失する前記タンパク質の量が、前記第1のフロースルー中の前記タンパク質の含有量の3%未満となるように選択される、
方法。
【請求項19】
前記溶液が、前記方法の適用に先行する単離ステップの産物である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記第1のクロマトグラフィー媒体が、イオン交換媒体、アフィニティ媒体、疎水性相互作用媒体、及びミックスモード媒体から成る群から選択される、請求項18又は19に記載の方法。
【請求項21】
前記第2のクロマトグラフィー媒体が、イオン交換媒体、アフィニティ媒体、疎水性相互作用媒体、及びミックスモード媒体から成る群から選択される、請求項18~20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記タンパク質の損失が、前記溶液中の前記タンパク質の含有量の30%未満である、請求項18~21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
前記第2のクロマトグラフィー媒体が、第1の親和性で前記第2の夾雑物と、第2の親和性で前記タンパク質と結合し、前記第1の親和性が前記第2の親和性よりも大きい、請求項18~22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
前記第2のクロマトグラフィー媒体の容量が、前記溶液の前記第2の夾雑物の含有量によるブレークスルーを50%未満だけ超過するように選択される工程を含む、請求項18~23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
前記第2のクロマトグラフィー媒体の容量が、前記溶液の前記第2の夾雑物の含有量によるブレークスルーを25%未満だけ超過するように選択される工程を含む、請求項18~23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
前記第2のクロマトグラフィー媒体の容量が、前記溶液の前記第2の夾雑物の含有量によるブレークスルーを10%未満だけ超過するように選択される工程を含む、請求項18~23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
前記第2のクロマトグラフィー媒体が、粒子又はビーズとして構成される、請求項18~26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
前記第1のクロマトグラフィー媒体及び前記第2のクロマトグラフィー媒体の少なくとも一方が、フィルターとして構成される、請求項18~26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
前記第1のクロマトグラフィー媒体及び前記第2のクロマトグラフィー媒体が、それぞれ第1の電荷及び第2の電荷を有するイオン交換媒体であり、前記第1の電荷と前記第2の電荷が反対の極性を有する、請求項18~28のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
溶液からタンパク質を単離するシステムであって、
前記溶液から第1の夾雑物を取り除くように選択された第1のクロマトグラフィー媒体を含む第1の分離モジュールであって、前記第1の分離モジュールは、第1のフロースルーを含む第1の出力を提供するように構成されており、前記第1のフロースルーは、前記タンパク質及び第2の夾雑物を含んでいる、第1の分離モジュールと、
前記タンパク質及び前記第2の夾雑物と結合するように選択された第2のクロマトグラフィー媒体を含む第2の分離モジュールであって、前記第2の分離モジュールは、前記第1の出力を受け取り、前記タンパク質を含む第2の出力を提供するように構成されており、前記第2の分離モジュールは、前記第2の分画モジュールを通過中に損失する前記タンパク質の量が、前記溶液中の前記タンパク質の含有量の3%未満となるような、前記第2のクロマトグラフィー媒体の容量を提供するように選択された量の第2のクロマトグラフィー媒体を含む、第2の分離モジュールと、
を含む、システム。
【請求項31】
前記溶液が、前記方法の適用に先行する単離ステップの産物である、請求項30に記載のシステム。
【請求項32】
前記第1のクロマトグラフィー媒体が、イオン交換媒体、アフィニティ媒体、疎水性相互作用媒体、及びミックスモード媒体から成る群から選択される、請求項30又は31に記載のシステム。
【請求項33】
前記第2のクロマトグラフィー媒体が、イオン交換媒体、アフィニティ媒体、疎水性相互作用媒体、及びミックスモード媒体から成る群から選択される、請求項30~32のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項34】
前記タンパク質の損失量が、前記溶液中の前記タンパク質の含有量の30%未満である、請求項30~33のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項35】
前記第2のクロマトグラフィー媒体が、第1の親和性で前記第2の夾雑物と、第2の親和性で前記タンパク質と結合し、前記第1の親和性が前記第2の親和性よりも大きい、請求項30~34のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項36】
前記第2のクロマトグラフィー媒体の容量が、前記溶液の前記第2の夾雑物の含有量によるブレークスルーを50%未満だけ超過するように選択される、請求項30~35のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項37】
前記第2のクロマトグラフィー媒体の容量が、前記溶液の前記第2の夾雑物の含有量によるブレークスルーを25%未満だけ超過するように選択される、請求項30~35のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項38】
前記第2のクロマトグラフィー媒体の容量が、前記溶液の前記第2の夾雑物の含有量によるブレークスルーを10%未満だけ超過するように選択される、請求項30~35のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項39】
前記第2のクロマトグラフィー媒体が、粒子又はビーズとして構成されている、請求項30~38のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項40】
前記第1のクロマトグラフィー媒体及び前記第2のクロマトグラフィー媒体の少なくとも一方が、フィルターとして構成されている、請求項30~39のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項41】
前記第1のクロマトグラフィー媒体及び前記第2のクロマトグラフィー媒体が、それぞれ第1の電荷及び第2の電荷を有するイオン交換媒体であり、前記第1の電荷と前記第2の電荷が反対の極性を有する、請求項30~40のいずれか1項に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野は不均一系タンパク質溶液からのタンパク質の単離である。
【背景技術】
【0002】
背景技術の説明は本発明を理解するのに有用であり得る情報を含む。本願明細書で提供されるいかなる情報も、先行技術であること若しくは現在特許請求されている発明に関連することを自認するものではなく、具体的若しくは黙示的に参照されるいかなる刊行物も先行技術であるということを自認するものではない。
【0003】
高純度でタンパク質を単離するためには、一般に、多段階の精製ステップの使用が必要であり、そのうちの少なくとも1つはクロマトグラフィーステップである。クロマトグラフィーはポジティブ選択モード(目的タンパク質はクロマトグラフィー媒体に結合し、洗浄ステップに続いて、後に、クロマトグラフィー媒体から溶出される)、又はネガティブ選択モード(目的タンパク質がフロースルー画分中に出現する)のどちらかで実施され得る。
【0004】
ポジティブ選択モードを利用するクロマトグラフィーは、一般に、高純度(例えば、純度80重量%を超える)のタンパク質を提供するために使用される。例えば、アフィニティクロマトグラフィー媒体は、夾雑物を含むサンプルから目的タンパク質をアフィニティ媒体に結合させるために、通常、使用される。夾雑物を取り除くための洗浄ステップに続いて、目的タンパク質はそれから、例えば、低pHのバッファーを添加することによって、このアフィニティ媒体から高純度で溶出バッファー中に溶出される。残念なことに、そのような溶出は一般に不完全であり、使用される溶出バッファーは、単離されるタンパク質の変性をもたらす可能性がある。
【0005】
高純度でタンパク質を単離するための方法では、通常、多段階のクロマトグラフィーステップを利用する。例えば、免疫グロブリンG(IgG)の通常の単離プロセスでは、陰イオン交換クロマトグラフィー媒体がネガティブ選択モードで使用され、IgGはそのフロースルー中に出現し、いくつかの夾雑物はこの陰イオン交換媒体に結合する。陰イオン交換媒体は、ポジティブ選択モードで使用される陽イオン交換クロマトグラフィー媒体と接続して使用され、この媒体はIgGと結合し、残存する夾雑物をそのフロースルー中に通過させる。洗浄ステップに続いて、この結合したIgGは、高いイオン強度を有するバッファーを使用することによって、高純度で溶出される。しかしながら、この溶出ステップは一般に不完全である。
【0006】
治療用タンパク質製剤のために、そのような従来の精製戦略を使用する時、夾雑物濃度が低く比較的純度の高い溶液(その夾雑物がfMレベルでさえ有害な副作用を引き起こすために、それでもなお取り除かれる必要があるもの)に適用した場合、標的タンパク質の損失は特に重大である。例えば、低濃度の凝固タンパク質、又は宿主細胞由来タンパク質は、深刻な有害事象となる可能性があるため、取り除かれる必要があることが多い。
【0007】
残念なことに、クロマトグラフィー媒体への結合と、その後の媒体からの溶出は、必然的に、媒体に結合したタンパク質の顕著な(例えば、最大10%まで、又はそれを超える)損失につながる。加えて、ポジティブ選択モードを利用するプロセスは、小規模では有用である一方で、(クロマトグラフィー媒体の費用面及び物質的制限面の両方の観点から)応用性、プロセスの複雑さ、所要時間の長さ、及び原料の制限のために、大規模のタンパク質の単離プロセス(8000L、又はそれを超える原料処理を伴い得る)には不適切である。
【0008】
したがって、高収率かつ高純度でタンパク質を単離するための、迅速的、効率的、及びスケール拡張可能な方法が依然として必要とされている。
【発明の概要】
【0009】
本発明の主題は、目的タンパク質をフロースルー中に保持するクロマトグラフィー分離操作を1つ又は複数用いることによって、タンパク質を複雑な溶液から単離するシステム及び方法を提供する。使用されるクロマトグラフィー媒体の少なくとも1つは、夾雑物と目的タンパク質の両方と相互作用できるように選択される。しかしながら、この媒体の容量は、目的タンパク質が置換され、フロースルー中に残存するように選択される。
【0010】
本発明概念の一つの実施形態は、目的タンパク質、第1の夾雑物、及び第2の夾雑物を含む溶液を取得し、その溶液を第1の夾雑物と結合する第1のクロマトグラフィー媒体(例えば、イオン交換媒体、アフィニティ媒体、疎水性相互作用媒体、又はミックスモード媒体)に添加することによって、タンパク質を溶液から単離するための方法である。これによって、目的タンパク質と第2の夾雑物とを含む第1のフロースルーが生成され、このフロースルーは、第2の夾雑物と結合し、かつ目的タンパク質と結合するように選択された第2のクロマトグラフィー媒体(例えば、イオン交換媒体、アフィニティ媒体、疎水性相互作用媒体、又はミックスモード媒体)に添加される。目的タンパク質は、この第2のクロマトグラフィーステップからの第2のフロースルー中に認められる。好ましい一つの実施形態では、前記第1のクロマトグラフィー媒体、及び第2のクロマトグラフィー媒体は、反対の電荷を有するイオン交換媒体である。前記第2のクロマトグラフィー媒体の容量は、この第2のクロマトグラフィーステップで損失するタンパク質の量が、前記第1のフロースルー中に存在する目的タンパク質の10% 3%未満となるように選択される。目的タンパク質を含む溶液は、先行する分離ステップの産物であってもよい。そのような方法における、目的タンパク質の損失は、出発溶液中のその目的タンパク質の含有量の30%未満であり得る。好ましい一つの実施形態では、第2のクロマトグラフィー媒体は、目的タンパク質と結合する時よりも高い親和性で前記第2の夾雑物と結合する。
【0011】
第2のクロマトグラフィー媒体の容量の最適化は、夾雑物のブレークスルーを観察することで実施できる。例えば、前記第2のクロマトグラフィー媒体の容量は、溶液の第2の夾雑物のブレークスルーを認めるのに必要な量を、10%~50%未満だけ超えるように選択され得る。全体的に、使用される前記第2のクロマトグラフィー媒体の容量は、目的タンパク質が結合し、その後溶出されるという従来手順と比較して、大幅に減少する。
【0012】
本発明概念の別の実施形態は、溶液(例えば、前段の分離ステップの産物)からタンパク質を単離するためのシステムであって、このシステムは、第1の夾雑物を溶液から取り除くために選択された第1のクロマトグラフィー媒体(例えば、イオン交換媒体、アフィニティ媒体、疎水性相互作用媒体、又はミックスモード媒体)を含有する第1の分離モジュールを含んでおり、この第1の分離モジュールは第1のフロースルーを運ぶ第1の出力を有する。この第1のフロースルーは、前記タンパク質及び少なくとも第2の夾雑物を含む。そのようなシステムは、第2のクロマトグラフィー媒体(例えば、イオン交換媒体、アフィニティ媒体、疎水性相互作用媒体、又はミックスモード媒体)を含有する第2の分離モジュールもまた含む。好ましい実施形態において、前記第1のクロマトグラフィー媒体及び第2のクロマトグラフィー媒体は、反対の電荷を有するイオン交換媒体である。この第2のクロマトグラフィー媒体は、前記タンパク質及び第2の夾雑物と結合するように選択される。第2の分離モジュールは、前記タンパク質を含むフロースルーを運ぶ第2の出力を有する。第2の分離モジュールは、第2の分離モジュール通過中に溶液中の前記タンパク質の含有量(例えば、30%未満、25%未満、20%未満、15%未満、10%未満、5%未満、3%未満又は1%未満)が損失するように選択された量の前記第2のクロマトグラフィー媒体を含む。いくつかの実施例では、第2のクロマトグラフィー媒体はフィルターである。
【0013】
本発明の主題の様々な目的、特徴、態様、及び利点は、好ましい実施形態についての以下の詳細な説明からより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明概念の例示的方法を概略的に示す。
【
図2】
図2は、本発明概念の別の例示的方法を概略的に示す。
【
図3】
図3は、血液製剤からの免疫グロブリンG(IgG)の単離に適用したときの、本発明概念の例示的方法を概略的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明者らは、目的タンパク質を高収率(例えば、出発原料のタンパク質の含有量の60%を超える)かつ高純度(例えば、70重量%、75重量%、80重量%、85重量%、90重量%、95重量%、98重量%、99重量%、又はそれを超える)で単離可能な、簡素かつスケール拡張可能な方法を開発した。これらの方法は、目的タンパク質を、目的タンパク質と類似のクロマトグラフィー挙動(例えば、同じクロマトグラフィー媒体に結合する)を有する1つ又は複数の夾雑物を含む溶液から単離する際に特に有用である。
【0016】
本発明概念の方法は、単離すべきタンパク質(つまり、目的タンパク質)と、この目的タンパク質とともに溶液中に存在する1つ又は複数の夾雑物の両方に親和性を有するクロマトグラフィー媒体を利用する。クロマトグラフィー媒体は、目的タンパク質に対するよりも、1つ又は複数の夾雑物に対してより高い親和性を有する(つまり、より強く相互作用する)ように選択され得る。使用されるクロマトグラフィーの容量は、目的タンパク質を含む溶液の夾雑物含有量をもとに計算され、1つ又は複数の夾雑物のブレークスルーが、精製される溶液の夾雑物含有量の有意な程度(例えば、0.01%、0.1%、0.25%、0.5%、1%、2%、5%又は10%を超える)まで生じないように選択される。そのようなクロマトグラフィー媒体の容量は、クロマトグラフィー媒体の性質、使用する媒体の総量、溶液組成、溶液pH、流速などに依存し、容易に決定されること及び/又は実験的に最適化されることを理解されたい。総じて、必要とされるクロマトグラフィー媒体の容量は、先行技術の方法と比べて比較的小さく、官能化された(例えば、荷電した)フィルターによって提供することができるという利点がある。
【0017】
実際に、本発明者らは、使用されたバッファー条件下で目的タンパク質を捕捉する能力を有するクロマトグラフィー媒体を使用したにもかかわらず、本発明概念の方法の適用によって、このクロマトグラフィー媒体に添加された目的タンパク質の総量の70%、75%、80%、85%、90%、95%、97%、又は99%を超える量を、フロースルー画分中に回収できることを見出した。理論に縛られることを望むのではないが、本発明者らは、クロマトグラフィー媒体と夾雑物の相互作用が、目的タンパク質を効果的に移動させると考えている。これによって、類似の電荷を有する、又は、互いから分離することを難しくするような他の特徴を有する夾雑物からでも、目的タンパク質を、非常に効果的に回収できる。回収された目的タンパク質の純度は80重量%、85重量%、90重量%、95重量%、98重量%、99重量%、又はそれ以上であり得る。
【0018】
本発明概念の方法の例を
図1に概略的に示す。示されているように、目的タンパク質及び1つ又は複数の夾雑物を含む溶液を低容量のクロマトグラフィー媒体へ添加する。バッファー条件(例えば、イオン強度、pH、温度など)はこの添加操作前に調整してもよい。バッファー条件は、例えば、1種あるいは複数種の塩類の添加若しくは除去、又は酸若しくは塩基の添加などの任意の適切な手段によって調整され得る。適切な媒体は、限定はされないが、イオン交換媒体(例えば、DEAE媒体、Q媒体、S媒体、又はCM媒体)、疎水性相互作用媒体(例えば、プロピル媒体、ブチル媒体、又はフェニル媒体)、アフィニティ媒体、又はミックスモード媒体を含む。上記のように、クロマトグラフィー媒体の機能性は、目的タンパク質及び1つ又は複数の夾雑物の両方と相互作用するように選択されるが、この媒体の容量は、夾雑物のブレークスルーが生じる容量と一致するように、又は、それを僅かに(例えば、1%、5%、10%、25%、50%、100%、150%、又は200%だけ)超えるように選択される。目的タンパク質は、次いで、高収率かつ高純度(上述したように)で、フロースルー画分中に収集される。
【0019】
そのような手法は、大容量(例えば、2L、10L、50L、250L、1000L、2500L、5000L、8000Lを超える)でのタンパク質含有溶液の処理を大幅に簡素化し得るが、それは、上記の目的タンパク質の収集では、別個の溶出ステップのセットを必要とせず、この方法は、最小量のクロマトグラフィー媒体を利用するからである、ということを理解されたい。
【0020】
本発明概念のいくつかの実施形態は、2つの異なるクロマトグラフィー媒体を利用し得る。これらの1つは、目的タンパク質とは相互作用せず、存在する夾雑種の一部に結合するように選択される。第2のクロマトグラフィー媒体は第1のクロマトグラフィー媒体とは異なっており、目的タンパク質と結合できる条件下で選択され使用される。本発明者らは、驚くべきことに、そのような第2のクロマトグラフィー媒体が、ネガティブ選択モード(つまり、目的タンパク質が媒体からフロースルー中に回収される)に採用でき、その結果、簡素で、効率的で、高度にスケール拡張可能な方法を提供できることを見出した。
【0021】
本発明概念の方法では、第2のクロマトグラフィー媒体の容量(クロマトグラフィー媒体及びクロマトグラフィー用バッファーの化学的性質と、使用量との両方に依存する)は、第1のクロマトグラフィー媒体から得られるフロースルー中に残存している夾雑物への結合能をもとに選択される。この容量は、例えば、ブレークスルー試験を用いることによって決定され、この試験では、夾雑物を、それがフロースルー中に現れるようになるまで(既定のバッファー組成及び流速の条件下で)、第2のクロマトグラフィー媒体に添加する。所望の規模で含有される夾雑物に結合するのに十分な、第2のクロマトグラフィー媒体の量は、その後、第1のクロマトグラフィー媒体及び第2のクロマトグラフィー媒体の両方を使用する組み合わせプロセスで利用することができる。いくつかの実施形態では、この第2のクロマトグラフィー媒体の容量を少し超える量(例えば、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%又は100%超)が使用される。
【0022】
注目すべきことに、第2のクロマトグラフィー媒体の容量は、目的タンパク質を結合させその後溶出させる、従来の単離法で使用されるよりも顕著に少ない(例えば、10%未満、5%未満、2.5%未満、1%未満、0.5%未満、0.25%未満、0.1%未満)。このことは、いくつかの実施形態で、適切なペンダント基を有する官能化された(例えば、荷電した)フィルターを、ビーズ又は粒子をベースとした従来のクロマトグラフィー媒体の代わりに使用できるようにする。これは、粒子除去ステップとクロマトグラフィーステップを組み合わせることを可能にするという利点がある。
【0023】
本発明者らは、標的タンパク質と結合する能力を有しているにもかかわらず、本発明概念の方法では、通常、第2のクロマトグラフィー媒体からのフロースルー中に、高い収率で(60%、70%、75%、80%、85%、90%、又は95%超)目的タンパク質が回収されることを見出した。理論に縛られることを望むのではないが、本発明者らは、賢明に最小化された量の媒体容量を利用する第2のクロマトグラフィーステップを利用することで、目的タンパク質は、第1のフロースルー中に存在する夾雑物によって、この媒体から移動することになると考えている。このことが溶出ステップの必要性を排除し、増大した収率をもたらす。加えて、連続したクロマトグラフィーステップからの連続したフロースルー画分中への目的タンパク質の収集は、単離プロセスと、ベンチスケール(約2Lまでの出発原料)から工場スケール(8000L又はそれを超える出発原料)への移行を、大幅に簡素化する。
【0024】
本開示技術は、プロセススケールで、高純度かつ高収率での、複雑な溶液からのタンパク質の迅速な提供を含む、多くの有益な技術的効果をもたらすということが理解されよう。
【0025】
本発明者らの方法では、タンパク質をクロマトグラフィー媒体に結合させず、続いて苛酷な条件を用いて、そのクロマトグラフィー媒体から溶出させないので、より天然なタンパク質を生産する。これは有利なことに、収率を向上させ、変性機会を減少させると同時に、また、単離プロセスを簡素化し、処理時間を大幅に減少させる。このように、本方法は、タンパク質安定性が向上し、in vivo半減期が延長し、注入速度がより迅速で、患者耐性が改善し、及びタンパク質治療薬の免疫原性が低減しているという点において、クロマトグラフィー媒体への結合とそのクロマトグラフィー媒体からの溶出を伴う現行のタンパク質単離プロセスとは区別され、異なっている(そしてさらにより費用効果的である)。
【0026】
第1のクロマトグラフィー媒体、及び第2のクロマトグラフィー媒体は、相補的な結合特徴を有するように選択され得る。例えば、第1のクロマトグラフィー媒体と第2のクロマトグラフィー媒体は、使用される分離条件下において反対の電荷を有するイオン交換媒体であってもよい(例えば、陰イオン交換の後に陽イオン交換、陽イオン交換の後に陰イオン交換)。以下で提示する例ではイオン交換媒体の使用を引用したが、本発明者らは、相補的な結合特徴を有する任意のクロマトグラフィー媒体はいずれも、本発明概念の方法において対になり得ると考えている。適切なクロマトグラフィー媒体として、限定はされないが、イオン交換媒体(例えば、DEAEクロマトグラフィー媒体、Qクロマトグラフィー媒体、CMクロマトグラフィー媒体、及び/又はSクロマトグラフィー媒体)、疎水性相互作用クロマトグラフィー媒体、アフィニティクロマトグラフィー媒体、及びミックスモードクロマトグラフィー媒体が挙げられる。例えば、いくつかの実施形態では、第1のクロマトグラフィー媒体及び第2のクロマトグラフィー媒体は、分離条件下において、反対の電荷を有するイオン交換媒体であってもよい。あるいは、いくつかの実施形態では、イオン交換クロマトグラフィー媒体、又はミックスモードクロマトグラフィー媒体が(クロマトグラフィーステップ間のイオン強度を適切に調節して)、疎水性相互作用クロマトグラフィー媒体と対にされてもよい。さらに他の実施形態において、アフィニティクロマトグラフィー媒体を第1のクロマトグラフィー媒体として、イオン交換媒体、疎水性相互作用媒体、又はミックスモードクロマトグラフィー媒体を第2のクロマトグラフィー媒体として、使用することもできる。
【0027】
本発明概念の好ましい実施形態は、(比較的安価で、広くさまざまな形態で利用可能な)陰イオン交換クロマトグラフィー及び陽イオン交換クロマトグラフィーの両方を利用でき、そこでのバッファー条件及びカラムの結合容量は、各クロマトグラフィーステップのフロースルー画分中に、標的タンパク質(例えば、IgG)が得られるように選択され、最適化される。この目的のために、最初のイオン交換ステップ(例えば、陰イオン交換、陽イオン交換)は、目的タンパク質にそれほど結合しないような、高容量のイオン交換媒体を使用して実施され得る。
【0028】
例えば、IgG単離において、大容量/高容量の陰イオン交換ステップが実施されると、IgGを含むフロースルー画分(いくつかの夾雑物も伴う)が得られ、出発原料中に存在する夾雑タンパク質の一部を含む結合画分が保持される。このフロースルー画分は、その後、(いくつかの実施形態では、イオン強度/導電率、及び又はpHを調整するための、塩の含有量及び/又はpHの調整に続いて)小容量又は低容量の陽イオン交換媒体に添加される。
【0029】
この小容量又は低容量の陽イオン交換媒体のサイズは、陰イオン交換媒体のフロースルー中に認められる夾雑タンパク質のブレークスルーのための量若しくは容量に近似、又はわずかに(例えば、1%、2%、5%、10%、20%、30%、40%、50%だけ)大きくなるように選択される(バッファー条件を考慮すること)。理論に縛られることを望むのではないが、本発明者らはこれによって、夾雑タンパク質が、陽イオン交換媒体に結合し得るIgGを置換できるようになると考えている。陽イオン交換媒体の量/容量、及び/又はバッファー条件を、注意深く選択することによって、効率的な混入タンパク質の除去と、それと同時に、IgGの高い収率も又提供される。
【0030】
本発明概念の方法の一例を以下
図2に示す。この文脈において、出発原料は血清、血漿、脱クリオ血漿、クリオプレシピテートが再溶解されている脱クリオ血漿、又はそのような原料に適用される沈殿ステップから生じた画分(例えば、上清、又は再溶解沈殿物)であり得ることを理解されたい。血液タンパク質が目的対象であるが、適切な出発原料は、目的タンパク質を含む任意の溶液(例えば、細胞培養物、又は哺乳類由来、細菌由来、真菌由来、昆虫由来、植物系組織由来若しくは組織培養物由来の細胞の上清若しくは溶解物、溶媒和した封入体、動物の卵内容物、乳、尿、又はその他の体液など)であってよい。示されるように、出発原料は、夾雑物の一部に結合し、かつ目的タンパク質には結合しないように選択された高容量の第1のクロマトグラフィー媒体に添加される。この第1のクロマトグラフィーステップのフロースルーは、低容量で提供される第2の異なるクロマトグラフィー媒体へ(いくつかの例では、バッファー組成及び/又はpHを調整した後に)向かう。この第2のクロマトグラフィー媒体は、第1のフロースルー中に残存する夾雑物と同様に、目的タンパク質とも潜在的に結合する可能性があるが、この媒体の容量は、利用可能な結合部位が夾雑物で占有されるように選択されている。このような条件下では、標的タンパク質は、第2のクロマトグラフィーステップからのフロースルー中に、高収率で回収される(例えば、第1のフロースルー中に存在する標的タンパク質の30%未満、25%未満、20%未満、15%未満、10%未満、5%未満、2.5%未満、又は1%未満しか損失しない)。
【0031】
本発明概念の方法は、例えば血液及び血液製剤からの、治療用タンパク質の単離に特に適している。血液製剤の例として、血清、血漿、クリオプレシピテート、脱クリオ血漿、及びクリオプレシピテートが再溶解されている脱クリオ血漿が挙げられる。同様に、本発明概念の方法は、(例えば、有機溶媒、無機塩、有機酸塩、及び/又は親水性ポリマーを用いる)沈殿、クロマトグラフィー、限外濾過、及び/又は透析濾過を含む、血液製剤からタンパク質を単離するための従来プロセス由来の産物から、治療用タンパク質を単離することに適している。
【0032】
本発明概念の方法は、治療用タンパク質の非血液原料にも適用されうる。これらには、細胞培養物、又は哺乳類由来、細菌由来、真菌由来、昆虫由来、植物系組織由来若しくは組織培養物由来の細胞の上清若しくは溶解物、溶媒和した封入体、動物の卵内容物、乳、尿、又はその他の体液など、無細胞タンパク質合成の産物、及びタンパク質結合プロセスの産物などが含まれる。
【0033】
本発明概念の方法が適用され得る治療用タンパク質として、限定はされないが、アルブミン、α1アンチトリプシン、免疫グロブリン(例えば、IgG、IgM、IgA、IgY)、凝血因子(例えば、第VIII因子、フォン・ヴィレブランド因子)、及び宿主細胞タンパク質(HSP)が挙げられる。
【0034】
本発明者らは、本発明概念の方法は血漿からのIgGの単離に特に有用であることを見出したが、IgGを含む他の溶液(例えば、細胞培養培地、細胞溶解物、他の体液など)への適用も考えられる。この応用の文脈内において、血漿は、採取したての血漿、冷蔵血漿、凍結血漿、脱クリオ血漿、及びクリオプレシピテートが再溶解された脱クリオ血漿を含むとみなされる。例えば、そのような血漿は、商業用の収集センターからプールされた原料として得ることが可能である。
【0035】
血漿からのIgG単離のための、本発明概念の方法の一例を
図3に示す。本発明者らは、脱クリオ血漿(CPP)からタンパク質溶液を生成するために、2段階の塩沈殿ステップ(つまり、第1の塩沈殿では約11%の塩濃度、第2の塩沈殿では約26%の塩濃度)を使用した。このタンパク質溶液は、続くクロマトグラフィーステップのための出発原料として機能し、この溶液は、最大のIgG収率を含み、望まないタンパク質の濃度を最小にした。示されるように、第1の沈殿ステップによって、IgGを豊富に含む上清が生成され、第2の沈殿ステップによって、IgGを豊富に含む沈殿物又はペーストが生成される。このIgGを豊富に含む沈殿物は、イオン交換ステップの前に(例えば、水に)溶解される。下記のように、好ましい実施形態では、バッファー交換ステップ(例えば、透析、透析濾過、限外濾過と、それに続く希釈、サイズ排除クロマトグラフィーなど)は、イオン交換ステップの前には実施されない。
【0036】
図3に示すように、例としてIgGを用いた本発明概念における標的タンパク質の単離プロセスは、陰イオン交換媒体(例えば、DEAEクロマトグラフィー媒体、又はQクロマトグラフィー媒体)を使用して実施され得る、第1のイオン交換ステップを提供する。いくつかの実施形態では、広範囲のpH条件(例えば、pH1~14、pH2~13、pH3~12、pH4~11)にわたって正電荷を維持するような、強陰イオン交換媒体が使用され得る。クロマトグラフィー媒体(例えば、この例で引用されているような陰イオン交換媒体)は、任意の適切な形態で、及び/又は任意の適切な支持体(例えば、アガロース、架橋アガロース、セルロース、ポリアクリルアミド、ポリスチレン、ガラス、又はそれらの組み合わせ)上で、及び任意の適切な構成(例えば、多孔質ビーズ、非多孔質ビーズ、繊維、ウール、フィルターなど)で提供可能である。
【0037】
図3に示すように、本発明概念のIgGプロセスにおいて、IgGは陰イオン交換媒体からのフロースルー(つまり、非結合)画分中に回収される。この第1のフロースルー画分は、その後、小容量又は低容量の陽イオン交換媒体(例えば、カルボキシラート基又はスルホナート基を含む媒体)に添加されるが、このサイズ/容量は、夾雑物(例えば、第XI因子、活性化された第XI因子、第XII因子、活性化された第XII因子)は保持され、一方で、IgG(これも通常、陽イオン交換媒体に結合する)はフロースルー画分(つまり、第2のフロースルー画分)中へ通り抜けるように選択される。通常、陽イオン交換媒体の容量又はサイズは、第1のフロースルー画分中に存在する夾雑物のための容量に、又はそれを僅かに(例えば、1%、2%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、50%、75%、又は100%だけ)超えるように選択される。理論に縛られることを望むのではないが、本発明者らは、陽イオン交換媒体がそのように選択されると、結合タンパク質(例えば、IgG)が夾雑タンパク質によって置換され、第2のフロースルー画分中に放出され、それによって収率を増加させると考えている。好ましい実施形態において、陽イオン交換ステップでのIgGの損失は、出発原料のIgG含有量の約30%未満、25%未満、15%未満、10%未満、7.5%未満、5%未満、4%未満、3%未満、2%未満、又は1%未満である。
【0038】
そのような第2のクロマトグラフィー媒体(例えば、この例における陽イオン交換媒体)は、任意の適切な支持体(例えば、アガロース、架橋アガロース、セルロース、ポリアクリルアミド、ポリスチレン、ガラス、又はこれらの組み合わせ)上で、及び任意の適切な構成(例えば、多孔質ビーズ、非多孔質ビーズ、繊維、ウール、フィルターなど)で、提供され得る。本発明者らは、利用される陽イオン交換媒体の容量は、非常に小さくてよく、好ましい実施形態においては、側鎖に陽イオン交換基を有するフィルターで提供され得ることを見出した。このことは、精製ステップと清澄ステップとを有利に組み合わせる。
【0039】
本発明概念のいくつかの実施形態では、第1のフロースルー画分のバッファー組成及び/又はpHは、夾雑物に対する容量及び選択性を最適化するために、第2のクロマトグラフィー媒体(例えば、この例の陽イオン交換媒体)に添加する前に、変更され得る。例えば、バッファー条件は、第2のクロマトグラフィー媒体に対する夾雑物の親和性が、第2のクロマトグラフィー媒体に対する標的タンパク質の親和性よりも高くなるように、選択又は調整され得る。本発明概念の、タンパク質(IgG)単離法の好ましい実施形態において、第1のフロースルー画分のイオン強度又は導電率を向上させて所望の範囲内に入るようにするために、塩類を添加してもよい。あるいは、第1のフロースルーは、第2のクロマトグラフィー媒体に添加する前に、希釈するか、又はバッファー交換(例えば、透析、透析濾過など)に供され得る。
【0040】
いくつかの実施形態では、第2のフロースルー画分は、追加の処理ステップに供され得る。そのような追加の処理ステップとして、0.02μm孔径の膜を使用する濾過のような、ウイルス除去のためのナノ濾過が挙げられる。本発明者らは、このことが、収率損失を最小限にしながら、残存するウイルス粒子を効果的に保持することを見出した。
【0041】
いくつかの実施形態では、精製されたタンパク質溶液は、安定性を付与するような薬理学的に相性の良いバッファー中で、有用な濃度を有する薬物製品を提供するために、濃縮及び透析濾過によって、使用のために調製され得る。IgGについては、そのようなステップによって、最小の損失で、適切な製剤バッファー(例えば、0.2Mグリシン、pH4.2~pH6.5)中に、約5%IgG(w/v)濃度のIgGを提供できる。濃度は、既知の方法を使用して、増大又はそうでなければ調整され得る。
【0042】
本発明概念のIgG単離プロセスでの、通常のIgG収率の結果を表1に示す。
【0043】
【0044】
表1に示した原料から得られた結果(つまり、44.94mg/mL IgG)を表2に示す。
【0045】
【0046】
著しく低い濃度の第XI因子混入に加えて、本発明者らは、本発明概念の方法が、驚くほど低い濃度のIgA混入を提供することを見出した。
IgGに適用される本発明概念の方法は、たった48時間で、出発血漿から約72~78%収率のIgGを常に生成するような、頑強かつ商業的にスケール拡張可能な方法を提供することが判明した。こうして得られる産物は、100%の機能性をもつ、純度99%を超えるIgG製剤である。
【0047】
本発明概念の方法によって生み出される、例えば、第1のクロマトグラフィーステップからの結合画分、及び/又は第2のクロマトグラフィーステップからの結合画分のような、様々な中間産物ストリームから、追加のタンパク質が回収され得るということを理解されたい。そのような中間産物は、任意の適切な方法(例えば、追加の沈殿ステップ、アフィニティクロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、及び/又はミックスモードクロマトグラフィー)によって処理され、出発原料からの、追加の非IgGタンパク質の単離を容易にする可能性がある。
【0048】
本明細書における本発明概念から逸脱することなく、既に説明した変更以外にもさらに多くの変更が可能であることは当業者には明らかである。したがって、本発明の主題は、添付の特許請求の範囲の趣旨を除いて制限されるべきでない。さらに、本明細書及び特許請求の範囲の両方を解釈する際に、全ての用語は、文脈と矛盾を生じない範囲で、可能な限り最も広い方法で解釈されるべきである。特に、「含む(comprise)」及び「含んでいる(comprising)」という用語は、非排他的な方法で、要素、構成要素、又はステップを指すものとして解釈されるべきであり、このことは、参照された要素、構成要素、又はステップが、明示的に参照されていない他の要素、構成要素、又はステップとともに存在し、利用され、又は組み合わされる可能性があることを示している。本明細書、特許請求の範囲が、A、B、C....及びNからなる群から選択されるもののうちの少なくとも1つに言及している場合、その文脈は、A+N又はB+Nなどではなく、その群からの1つの要素のみを必要とすると解釈されるものとする。
【手続補正書】
【提出日】2024-06-10
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶液からタンパク質を単離する方法であって、
前記タンパク質及び夾雑物を含む溶液を取得する工程と、
前記溶液を、前記タンパク質及び前記夾雑物と結合するように選択されたクロマトグラフィー媒体に添加する工程と、
前記クロマトグラフィー媒体から、前記タンパク質を含みかつ前記溶液中に存在する前記夾雑物の含有量の10%未満を含むフロースルーを収集する工程と
を含み、
前記クロマトグラフィー媒体の容量は、前記クロマトグラフィー媒体を通過中に損失する前記タンパク質の量が、前記タンパク質の含有量の10%未満となるように選択される、
方法。
【請求項2】
前記溶液が、前記方法の適用に先行する単離ステップの産物である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記クロマトグラフィー媒体に添加する前に、前記溶液のイオン強度又はpHを調整する工程を含む、請求項
1に記載の方法。
【請求項4】
前記クロマトグラフィー媒体が、イオン交換媒体、アフィニティ媒体、疎水性相互作用媒体、及びミックスモード媒体から成る群から選択される、請求項
1に記載の方法。
【請求項5】
前記クロマトグラフィー媒体が、第1の親和性で夾雑物と、第2の親和性で前記タンパク質と結合し、前記第1の親和性が前記第2の親和性よりも大きい、請求項
1に記載の方法。
【請求項6】
前記クロマトグラフィー媒体の容量が、前記溶液の第2の夾雑物の含有量によるブレークスルーを50%未満だけ超過するように選択される工程を含む、請求項
1に記載の方法。
【請求項7】
前記第2のクロマトグラフィー媒体の容量が、前記溶液の第2の夾雑物の含有量によるブレークスルーを25%未満だけ超過するように選択される工程を含む、請求項
1に記載の方法。
【請求項8】
前記第2のクロマトグラフィー媒体の容量が、前記溶液の第2の夾雑物の含有量によるブレークスルーを10%未満だけ超過するように選択される工程を含む、請求項
1に記載の方法。
【請求項9】
前記クロマトグラフィー媒体が、フィルターとして構成される、請求項
1に記載の方法。
【請求項10】
タンパク質及び夾雑物を含む溶液からタンパク質を単離するシステムであって、前記タンパク質及び前記夾雑物と結合するように選択されたクロマトグラフィー媒体を含む分離モジュールを含んでおり、前記分離モジュールは、前記タンパク質を含み、かつ、前記溶液中に存在する前記夾雑物の含有量の10%超を含まない、フロースルーを提供するように構成されており、前記分離モジュールは、前記分画モジュールを通過中に損失する前記タンパク質の量が、前記溶液中の前記タンパク質の含有量の10%未満となるような、前記クロマトグラフィー媒体の容量を提供するように選択された量の、前記クロマトグラフィー媒体を含む、システム。
【請求項11】
前記溶液が、前記溶液の前記システムへの適用に先行する、単離ステップの産物である、請求項10に記載のシステム。
【請求項12】
前記クロマトグラフィー媒体が、イオン交換媒体、アフィニティ媒体、疎水性相互作用媒体、及びミックスモード媒体から成る群から選択される、請求項1
0に記載のシステム。
【請求項13】
前記クロマトグラフィー媒体が、第1の親和性で前記夾雑物と、第2の親和性で前記タンパク質と結合し、前記第1の親和性が前記第2の親和性よりも大きい、請求項1
0に記載のシステム。
【請求項14】
前記クロマトグラフィー媒体の容量が、前記溶液の前記夾雑物の含有量によるブレークスルーを50%未満だけ超過するように選択される、請求項1
0に記載のシステム。
【請求項15】
前記クロマトグラフィー媒体の容量が、前記溶液の前記夾雑物の含有量によるブレークスルーを25%未満だけ超過するように選択される、請求項1
0に記載のシステム。
【請求項16】
前記クロマトグラフィー媒体の容量が、前記溶液の前記夾雑物の含有量によるブレークスルーを10%未満だけ超過するように選択される、請求項1
0に記載のシステム。
【請求項17】
前記クロマトグラフィー媒体の少なくとも1つが、フィルターとして構成されている、請求項1
0に記載のシステム。
【請求項18】
溶液からタンパク質を単離する方法であって、
前記タンパク質、第1の夾雑物、及び第2の夾雑物を含む溶液を取得する工程と、
前記溶液を、前記第1の夾雑物と結合する第1のクロマトグラフィー媒体に添加することで、前記タンパク質及び前記第2の夾雑物を含む第1のフロースルーを生成する工程と、
前記第1のフロースルーを、前記第2の夾雑物と結合し、かつ前記タンパク質と結合するように選択された第2のクロマトグラフィー媒体に添加する工程と、
前記タンパク質、及び前記第1のフロースルー中の前記第2の夾雑物の含有量の10%未満を含む第2のフロースルーを、前記第2のクロマトグラフィー媒体から収集する工程と
を含み、
前記第2のクロマトグラフィー媒体の容量は、前記第2のクロマトグラフィー媒体を通過中に損失する前記タンパク質の量が、前記第1のフロースルー中の前記タンパク質の含有量の3%未満となるように選択される、
方法。
【請求項19】
溶液からタンパク質を単離するシステムであって、
前記溶液から第1の夾雑物を取り除くように選択された第1のクロマトグラフィー媒体を含む第1の分離モジュールであって、前記第1の分離モジュールは、第1のフロースルーを含む第1の出力を提供するように構成されており、前記第1のフロースルーは、前記タンパク質及び第2の夾雑物を含んでいる、第1の分離モジュールと、
前記タンパク質及び前記第2の夾雑物と結合するように選択された第2のクロマトグラフィー媒体を含む第2の分離モジュールであって、前記第2の分離モジュールは、前記第1の出力を受け取り、前記タンパク質を含む第2の出力を提供するように構成されており、前記第2の分離モジュールは、前記第2の分画モジュールを通過中に損失する前記タンパク質の量が、前記溶液中の前記タンパク質の含有量の3%未満となるような、前記第2のクロマトグラフィー媒体の容量を提供するように選択された量の第2のクロマトグラフィー媒体を含む、第2の分離モジュールと、
を含む、システム。
【国際調査報告】