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特表2024-537511呼気から呼吸器系感染を判定するための装置及び方法
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  • 特表-呼気から呼吸器系感染を判定するための装置及び方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-10
(54)【発明の名称】呼気から呼吸器系感染を判定するための装置及び方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/08 20060101AFI20241003BHJP
   A61B 5/145 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
A61B5/08
A61B5/145
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024525947
(86)(22)【出願日】2022-11-02
(85)【翻訳文提出日】2024-06-27
(86)【国際出願番号】 EP2022080598
(87)【国際公開番号】W WO2023078961
(87)【国際公開日】2023-05-11
(31)【優先権主張番号】2151347-8
(32)【優先日】2021-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520006481
【氏名又は名称】ペクサ アーベー
【氏名又は名称原語表記】PEXA AB
(74)【代理人】
【識別番号】110002848
【氏名又は名称】弁理士法人NIP&SBPJ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ホーイェル、スバンテ
【テーマコード(参考)】
4C038
【Fターム(参考)】
4C038KK01
4C038SS08
4C038SU01
4C038SX01
4C038SX02
(57)【要約】
被験者の呼吸器系感染を検出するための診断装置及び診断方法は、被験者の気道からの呼気に含まれる粒子に関するデータを取得する粒子検出部と、粒子検出部から取得したデータと被験者関連特性とに基づいて、呼吸器系感染を判定する処理部と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の呼吸器系感染を検出するための診断装置であって、
前記被験者の気道からの呼気に含まれる粒子に関するデータを取得する、粒子検出部と、
前記粒子検出部から取得した前記データと被験者関連特性とに基づいて、前記呼吸器系感染を判定する、処理部と、を備えることを特徴とする、診断装置。
【請求項2】
前記粒子検出部は、光学系の粒子計数器又は粒子寸法測定器等の粒子計数器又は粒子寸法測定器であることを特徴とする、請求項1に記載の診断装置。
【請求項3】
前記データは、粒子の数、質量、寸法、質量分布、及び寸法分布の何れかであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の診断装置。
【請求項4】
前記粒子は、前記被験者の呼吸器系から採取した浮遊粒子であることを特徴とする、請求項1から3の何れかに記載の診断装置。
【請求項5】
前記データは、前記呼吸器系感染に関するパターンであることを特徴とする、請求項1から4の何れかに記載の診断装置。
【請求項6】
前記被験者関連特性は、呼気の容量、息を吐く回数、前記呼気の流速、前記呼気の相対的湿度、前記呼気の温度、及び/又は酸素飽和度を含む、前記被験者の呼吸器系に関する情報であることを特徴とする、請求項1から5の何れかに記載の診断装置。
【請求項7】
前記被験者の呼吸器系に関する情報は、体重、身長、性別、年齢、医療記録、喫煙者/非喫煙者、又は心拍数特性を含む、前記被験者の身体状態及び/又は健康状態に関する情報であることを特徴とする、請求項6に記載の診断装置。
【請求項8】
前記呼吸器系感染は、健康な被験者の参照データベースを比較することによって判定されることを特徴とする、請求項1から7の何れかに記載の診断装置。
【請求項9】
前記呼吸器系感染は、呼吸器系感染症に罹患した被験者の参照データベースを比較することによって判定されることを特徴とする、請求項1から8の何れかに記載の診断装置。
【請求項10】
前記データと前記参照データベースとが比較される前に、前記データは、前記被験者関連特性を用いてフィルタリングされることを特徴とする、請求項8又は9に記載の診断装置。
【請求項11】
前記処理部は、前記呼吸器系感染を定性的又は定量的に判定することを特徴とする、請求項1から10の何れかに記載の診断装置。
【請求項12】
前記判定は、粒子の所定の数等の粒子の予め規定された数、又は計数された粒子の所定の総質量に基づいて行われることを特徴とする、請求項1から11の何れかに記載の診断装置。
【請求項13】
前記データは、所定のスクリーニングプロセス中に収集されることを特徴とする、請求項1から11の何れかに記載の診断装置。
【請求項14】
前記所定のスクリーニングプロセスは、息を吐く所定の回数、所定の吸入及び呼気ルーチン、並びに純粋な空気の吸入後の呼気のうちの少なくとも一つを含むことを特徴とする、請求項13に記載の診断装置。
【請求項15】
前記粒子が過度に大きい及び/又は小さい場合の影響を低減するために、閾値が用いられることを特徴とする、請求項1から14の何れかに記載の診断装置。
【請求項16】
被験者の呼吸器系感染を検出するために、コンピュータにより実現される方法であって、
前記被験者の気道からの呼気に含まれる粒子に関する粒子データを、粒子検出部から受信するステップと、
前記粒子検出部から取得した前記粒子データと被験者関連特性とに基づいて、前記呼吸器系感染を判定するステップと、を備えることを特徴とする、方法。
【請求項17】
コンピュータプログラムであって、前記プログラムがコンピュータによって実行されるときに請求項16に記載の方法をコンピュータに実行させる命令を含むことを特徴とする、コンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、呼気から呼吸器系感染を検出する分野に関する。より詳細には、本発明は、呼気から粒子を収集することにより、該粒子の質量及び/又は寸法の変動に基づいて呼吸器系感染を検出することに関する。
【背景技術】
【0002】
気管支肺胞洗浄(BAL)や生検等の侵襲的な診断を減らすために、呼気中の粒子を再生することが研究されている。
【0003】
これらの研究において、人工呼吸器につながれた被験者を継続して診断・監視するために、呼気からの粒子が使用され得ることが見出された。これにより、構造的損傷が防止され得る。これは、例えば、国際公開第2013/117747パンフレット及び「Mechanically ventilated patients exhibit decreased particle flow in exhaled breath as compared to normal breathing patients」(Broberg,Ellenら、 ERJ、Open、Res、2020; 6: 00198-2019)に記載されている。また、BALの代わりに機械を用いて被験者を呼吸させるための更なる研究が発表されている。この研究は、例えば、「Increased particle flow rate from airways precedes clinical signs of ARDS in a porcine model of LPS-induced acute lung injury」(Stenlo,Martinら、 Am J Physiol Lung Cell Mol Physiol 318: L510-L517, 2020)及び「Monitoring lung injury with particle flow rate in LPS-and COVID-19-induced ARDS」(Stenlo, Martinら、 Physiological Reports. 2021;9:e14802)に記載されている。
【0004】
「Particle flow rate from the airways as fingerprint diagnostics in mechanical ventilation in the intensive care unit: a randomised controlled study」(Hallgren,Filipら、ERJ Open Res 2021;7:00961-2020)によると、呼吸モードが異なれば、粒子のパターンが独特なものとなり、この独特な粒子パターンは、異なる呼吸モードの明確な特徴(指紋)となることが記載されている。
【0005】
粒子を用いて機能する肺は、肺移植及び肺癌手術との関連においても研究されている。この研究は、論文「Monitoring lung transplantation and lung cancer surgery using particles in exhaled air Preclinical and clinical implementation」( Ellen, Brobergら、 Doctoral Dissertation Series 2019:113; ISBN 978-91-7619-842-1)に記載されている。
【0006】
他の研究対象としては喘息が挙げられており、「Assessing small airways dysfunction in asthma, asthma remission and healthy controls using particles in exhaled air」(ERJ Open Res 2019;5:00202-2019)に記載されている。
【0007】
呼吸器系感染の検出において、呼気は未だ用いられていない。
【0008】
病院の環境において、被験者が呼吸器系感染症に罹患しているか否かを検出する迅速かつ信頼性の高い方法が必要とされている。特に非侵襲的方法は、試料を実験室に送らずに済むことが利点となる。
【0009】
さらなる利点として、非侵襲的方法は、今日用いられている侵襲的方法と比較して費用対効果が改善されることが挙げられる。
【発明の概要】
【0010】
従って、本発明の実施形態は、好ましくは、被験者の呼吸器系感染の検出のための装置、システム、及び方法を提供することによって、上記の技術分野における1件以上の欠陥、欠点又は問題を単独で、又は任意の組合せで緩和、軽減又は排除しようとするものである。
【0011】
本開示の第1の態様は、被験者の呼吸器系感染を検出するための診断装置に関する。前記装置は、前記被験者の気道からの呼気に含まれる粒子に関するデータを取得する、粒子検出部を備えてもよい。前記装置は、前記粒子検出部から取得した前記データと被験者関連特性とに基づいて、前記呼吸器系感染を判定する、処理部を備えてもよい。
【0012】
前記装置の一例において、前記粒子検出部は、光学系の粒子計数器又は粒子寸法測定器等の粒子計数器又は粒子寸法測定器でもよい。
【0013】
前記装置の一例において、前記データは、粒子の数、質量、寸法、質量分布、及び寸法分布の何れかであってもよい。
【0014】
前記装置の一例において、前記粒子は、前記被験者の呼吸器系から採取した浮遊粒子であってもよい。
【0015】
前記装置の一例において、前記データは、前記呼吸器系感染に関するパターンであってもよい。
【0016】
前記装置の一例において、前記被験者関連特性は、前記被験者の呼吸器系に関する情報であってもよい。前記特性には、呼気の容量、息を吐く回数、前記呼気の流速、前記呼気中の相対的湿度、前記呼気の温度、及び/又は酸素飽和度が含まれてもよい。
【0017】
前記装置の一例において、前記被験者の呼吸器系に関する情報は、前記被験者の身体状態及び/又は健康状態に関する情報であってもよい。前記情報は、体重、身長、性別、年齢、医療記録、喫煙者/非喫煙者、及び/又は心拍数特性を含んでもよい。
【0018】
前記装置の一例において、前記呼吸器系感染は、健康な被験者の参照データベースを比較することによって判定されてもよい。前記呼吸器系感染は、前記被験者関連特性が削除されて測定された前記データと、健康な被験者の参照データベースとを比較することによって判定されてもよい。
【0019】
前記装置の一例において、前記呼吸器系感染は、呼吸器系感染症に罹患した被験者の参照データベースを比較することによって判定されてもよい。前記呼吸器系感染は、前記被験者関連特性が削除されて測定された前記データと、呼吸器系感染症に罹患した被験者の参照データベースとを比較することによって判定されてもよい。
【0020】
前記装置の一例において、前記データと前記参照データベースとが比較される前に、前記データは、前記被験者関連特性を用いてフィルタリングされてもよい。
【0021】
前記装置の一例において、前記処理部は、前記呼吸器系感染を定性的又は定量的に判定してもよい。
【0022】
前記装置の一例において、前記判定は、粒子の所定の数等の粒子の予め規定された数、又は計数された粒子の所定の総質量に基づいて行われてもよい。
【0023】
前記装置の一例において、前記データは、所定のスクリーニングプロセス中に収集されてもよい。
【0024】
前記装置の一例において、前記所定のスクリーニングプロセスは、息を吐く所定の回数、所定の吸入及び呼気ルーチン、並びに純粋な空気の吸入後の呼気のうちの少なくとも一つを含んでもよい。
【0025】
前記装置の一例において、前記粒子が過度に大きい及び/又は小さい場合の影響を低減するために、閾値が用いられてもよい。
【0026】
本開示の他の態様は、被験者の呼吸器系感染を検出するための方法に関する。前記方法は、前記被験者の気道からの呼気に含まれる粒子に関する粒子データを、粒子検出部から受信するステップを備えてもよい。前記方法は、前記粒子検出部から取得した前記粒子データと被験者関連特性とに基づいて、前記呼吸器系感染を判定するステップを備えてもよい。
【0027】
本明細書で用いられる用語「備える/含む」は、記載された特徴、整数、ステップ、又は成分の存在を明示するものと理解されるが、一つ以上の他の特徴、整数、ステップ、成分、若しくはそれらの群の存在又は付加を排除するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0028】
本発明の実施形態が実現し得るこれらの態様及び他の態様並びに特徴及び効果は、以降の記載により明らかになり解明されるが、その際に以下の添付図面が参照される。
図1図1は、呼吸器系感染を検出するための装置の一例を示す概略図である。
図2図2は、呼吸器系感染の検出のため方法の一例を示す、概略的なフローチャートである。
図3A図3A及び図3Bは、呼吸器系感染症に罹患している集団及び健康な集団から測定されたデータの例である。
図3B図3A及び図3Bは、呼吸器系感染症に罹患している集団及び健康な集団から測定されたデータの例である。
図4A図4A及び図4Bは、呼吸器系感染症に罹患している集団及び健康な集団から測定されたデータの例である。
図4B図4A及び図4Bは、呼吸器系感染症に罹患している集団及び健康な集団から測定されたデータの例である。
図5図5は、呼吸器系感染症に罹患している被験者の粒子径と健康な被験者の粒子径との差異の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、添付の図面を参照しながら、本開示の具体的な実施例について説明する。但し、本開示は、多くの異なる形態で具体化されることが可能であり、本明細書に記載された実施例に限定されるものと解釈されるべきではない。むしろ、これらの実施例が提供されることにより、本開示は詳細に亘って完全であり、本開示の範囲が当業者に十分に提示される。添付の図面に例示された実施例の詳細な説明において用いられる用語は、本開示を限定することを意図しない。図面において、同様の参照番号は同様の要素を示す。
【0030】
以下の説明は本開示の実施例を対象としており、本実施例は、気道及び/又は肺等の呼吸器系の感染を検出及び/又は診断するための装置、システム、及び方法に適用され得る。被験者は、ヒトなどの哺乳動物であり得る。被験者は患者でもよい。検出及び/又は診断は、被験者の呼気中の粒子を数値化することにより行われる。例えば、呼吸器系感染は、気道又は肺等の呼吸器系の正常状態からの逸脱を検出することによって、検出及び/又は診断され得る。
【0031】
呼吸器系感染症は、上気道感染、下気道感染、咳、流感、Covid-19、肺炎、インフルエンザ、結核、炎症、内皮機能不全、敗血症、敗血症性ショック等、呼吸器系に影響を及ぼす様々な種類のウイルス及び/又は細菌を原因とする疾患であり得る。
【0032】
ここでの粒子は、浮遊粒子等の不揮発性粒子であってもよい。浮遊粒子は、前記患者の気道から採取してよい。粒子は、肺の遠位部の上皮表面を覆う気道粘液又は気道ライニング液(RTLF)の表面から生成されると考えられている。
【0033】
被験者の呼吸器系の一部である、例えば、気道及び/又は肺等が感染すると、呼吸器系内のサーファクタント及びムチンの組成及び構造に影響を及ぼし得る。これらの変化により、呼吸中の液滴生成及び液滴寸法が変化し得る。
【0034】
これらの変化により、呼気中の粒子の組成が影響を受け得る。健康な被験者の呼気中の粒子と比較すると、感染した被験者の呼気中の粒子には、寸法分布、質量分布及び/又は数量といった粒子組成に変化がみられ得る。
【0035】
サーファクタント及びムチンの組成及び構造に変化を引き起こし得る他の原因として、被験者の状態の生理学的変化が挙げられる。
【0036】
本発明者らはその研究において、呼吸器系から採取された粒子、特に気道及び肺で生成された粒子の分布が、感染を検出及び/又は診断するための(指紋のような)マーカとして用いられ得ることを見出した。
【0037】
図1は、被験者11の呼吸器系感染を検出する診断装置1の概略図である。この装置は、被験者11が息を吐き出し得る粒子検出部10を備える。
【0038】
息は、導管に接続されたマウスピース内に吐き出されてもよい。導管は、更に、粒子検出部10に接続されてもよい。
【0039】
被験者が息を吐き出したとき、粒子検出部10は粒子を即時に数値化してもよい。
【0040】
粒子検出部10は、例えば、粒子の寸法又は質量に応じて粒子を分類することにより、粒子の分布を求めてもよい。
【0041】
粒子分布において、粒子分布プロフィールは、特定の質量若しくは寸法(又は質量範囲若しくは寸法範囲)の粒子が、呼気中にいくつ存在するかを示す尺度でもよい。
【0042】
粒子検出部10は、例えば、Grimm1.108光学粒子計数器(ドイツ連邦共和国、アインリング、Grimm Aerosol Technik社製)等の粒子計数器であってもよい。当該量子計数器は、0.3マイクロメーター以上及び20マイクロメーター以下の寸法間隔で粒子を計数しかつ寸法毎に分類し得る。しかし、Grimm1.107及び1.109等の他の光学粒子計数器を用いてもよい。
【0043】
TSI等の他のメーカの寸法分類器だけでなく、飛行時間測定装置も粒子検出部10として用いてもよい。
【0044】
他の選択肢としては、非光学静電コンダクタンス、凝縮粒子計数器、水晶振動子マイクロバランス(quartz crystal microbalance: QCM)、表面プラズモン共鳴(surface plasmon resonance: SPR)、又は表面弾性波(surface acoustic wave: SAW)等が挙げられてもよい。
【0045】
粒子検出部10は、測定された粒子の個数分布を求めてもよいし、測定された個数分布から算出される質量分布を求めてもよい。例えば、粒子検出部10において、粒子を含むガスが小さく明確に確定され光に強く照射された空間を通過することにより、一度に一つの粒子のみに光が照射される。光に照射された粒子は散乱光のパルスを生じ、その強度が測定される。散乱光の強度は粒子の大きさに依存するので、気流中の粒子を計数し、寸法毎に分類し得る。
【0046】
また、粒子検出部10の測定原理として、飛行時間が活用されてもよい。ここでは、あるレーザ光線から他のレーザ光線への粒子の伝播時間を測定する。粒子がある光線から他の光線へと移動するのに要する時間は、粒子の質量及び/又は寸法に依存する。したがって、当該粒子の質量及び/又は寸法を測定し、特徴付けることができる。
【0047】
装置1は、更に、処理部12を備えてもよい。処理部は、粒子検出部10から取得したデータに基づいて、呼吸器系感染を判定するように構成されている。判定には、当該判定を向上させるために、患者に関する特性の使用が含まれてもよい。
【0048】
処理部10又はデータ処理装置には、1台以上の汎用又は専用のコンピュータ装置上で実行される専用のソフトウェア(又はファームウェア)が実装されてもよい。この文脈において、このようなコンピュータ装置の各「要素」又は「手段」は、方法ステップの概念として均等なものを指し、要素又は手段と特定のハードウェア又はソフトウェアルーチンとは、常に1対1で対応しているとは限らないことを理解されたい。一つのハードウェアが異なる手段/要素を含むことがある。例えば、処理部は、ある命令を実行するときには、ある一つの要素/手段として機能するが、他の命令を実行するときには、他の一つの要素/手段として機能する。また、ある一つの要素/手段はある一つの命令で実現されてもよいが、複数の命令で実現される場合もある。このようなソフトウェアにより制御されるコンピュータ装置は、1台以上の処理部、例えば、中央処理装置(Central Processing Unit:CPU)、デジタル信号プロセッサ(Digital Signal Processor:DSP)、特定用途向け集積回路(Application-Specific Integrated Circuit:ASIC)、個別のアナログ並びに/若しくはデジタル構成要素、又はフィールドプログラマブルゲートアレイ(Field Programmable Gate Array)等の他の何らかのプログラム可能な論理装置を備えてもよい。データ処理部10は、更に、システムメモリと、当該システムメモリを含む様々なシステムコンポーネントを当該処理部に結合するシステムバスと、を備えてもよい。システムバスは、メモリバス又はメモリコントローラと、周辺バスと、様々なバスアーキテクチャのいずれかを用いるローカルバスと、を含む、数種類のバス構造のいずれでもよい。システムメモリは、読み出し専用メモリ(Read-only Memory:ROM)、ランダムアクセスメモリ(Random Access Memory:RAM)、及びフラッシュメモリ等の揮発性メモリ並びに/又は不揮発性メモリの形態のコンピュータ記憶媒体を含んでもよい。専用ソフトウェアは、システムメモリに、若しくは、着脱可能又は内蔵式で揮発性又は不揮発性のコンピュータ記憶媒体に格納されてもよい。当該コンピュータ記憶媒体はコンピュータ装置に内蔵されるか又は外付け可能な、磁気媒体、光媒体、フラッシュメモリカード、デジタルテープ、固体RAM、及び固体ROM等である。データ処理部10は、シリアルインタフェース、パラレルインタフェース、USBインタフェース、無線インタフェース、ネットワークアダプタ等の一台以上の通信インタフェースと、A/D変換器等の一台以上のデータ取得装置と、を含んでもよい。
【0049】
専用ソフトウェアは、記録媒体及び読み出し専用メモリを含む任意の適切なコンピュータ可読媒体により、制御部又はデータ処理装置に提供されてよい。
【0050】
粒子検出部10により取得されたデータの特徴に基づいて感染を判定する方法は様々である。感染は、定性的又は定量的に判定されてもよい。すなわち、患者が感染症に罹患していると判定されるか、又は、患者がどのような種類の感染症に罹患しているのかが判定される。これらの判定は、データを分析することによって判定してもよい。粒子検出部10から受信されるデータは、粒子の数、質量、寸法、質量分布及び/又は寸法分布のいずれかであってもよい。
【0051】
寸法分布及び/又は質量分布、特定の範囲内の粒子数、並びに/若しくは呼気中の粒子の総質量及び当該粒子の分布を分析することにより、特定の範囲内の粒子数及び/又は当該粒子の総質量が、患者の場合は健康な人と比較して異なる可能性がある。この場合、呼吸器系感染が示唆され得る。
【0052】
感染は、呼気中の粒子の特徴を分析することによって判定してもよい。例えば、感染により、粒子の質量分布及び/又は寸法分布が変化し得る。感染患者における分布の特徴は、健康な人の分布の特徴と比較して、より大きな粒子又はより重い粒子へと変化する傾向がある。これは、粒子の分布、特定の範囲内の粒子数、又は収集された粒子の総質量を分析することによって、感染が定性的に判定され得ることを意味する。これは、呼気中における所定の数の粒子の総質量、又は特定の範囲内の粒子の数を判定することによって行なわれてもよい。したがって、健康な被験者と比較して粒子の総質量が大きい場合は、感染が示唆され得る。更に、及び/又は代替的に、健康な被験者と比較してより多数の粒子が特定の寸法範囲内に存在する場合もまた、感染が示唆され得る。
【0053】
感染によっては、粒子がより小さく及び/又は軽くなることがある。呼気の寸法分布及び/又は質量分布を分析することにより、健康な人の呼気と比較してより多くの粒子が小さく又は軽くなるように分布が変化する場合は、被験者が呼吸器系感染症に罹患していることが示唆され得る。同様に、呼気中の粒子の総質量を観察することによって、総質量が健康な被験者と比較して小さい場合は、呼吸器系感染が示唆され得る。更に、及び/又は代替的に、健康な被験者と比較して特定の寸法範囲内に存在する粒子の数がより少ない場合もまた、感染が示唆され得る。
【0054】
更に、呼吸器系感染によっては、粒子の質量分布及び/又は寸法分布が、より軽い/より小さい粒子及びより大きい/より重い粒子の両方に変化し得る。したがって、分布を分析し、その分布が健康な人のそれと異なる場合は、呼吸器系感染が示唆され得る。
【0055】
更に、感染の判定は、粒子の所定の数等、粒子の予め規定された数に基づいて行ってもよい。或いは、及び/又は更に、当該判定は、計数された粒子の所定の総質量に基づいて行ってもよい。
【0056】
呼吸器系感染の種類が異なると、呼気中の粒子の特性に与える影響が異なり得る。例えば、呼吸器系感染の種類が異なると、呼気中の粒子の寸法分布及び/又は質量分布が異なり得る。呼気中の粒子の寸法分布及び/又は質量分布の特徴を分析することにより、呼吸器系感染を定量的に判定し得る。すなわち、呼吸器系感染の存在を判定するだけでなく、呼吸器系感染の種類も判定し得る。寸法分布及び/又は質量分布の特徴は、呼吸器系感染に関するパターンでもよい。このパターンは、呼吸器系感染の(指紋のような)固有の特徴として機能してもよい。
【0057】
患者の呼気の寸法分布及び/又は質量分布の特徴及び/又はパターンを、健康な被験者の参照データベースと比較することによって、当該患者が呼吸器系感染症に罹患していると判定してもよい。
【0058】
患者の呼気の寸法分布及び/又は質量分布の特徴及び/又はパターンを、呼吸器系感染症に罹患している被験者の参照データベースと比較することによって、当該患者が罹患している呼吸器系感染症の種類等を判定してもよい。
【0059】
呼気中の粒子の寸法分布及び/又は質量分布の特性、並びに特定の範囲内の粒子の総重量又は総数は、被験者それぞれの特性であるが故に被験者間で異なり得ることが見出されている。これらそれぞれの特性は、被験者の気道に関する情報を含んでもよい。被験者の気道に関する情報には、呼気の容量、息を吐く回数、呼気の流速、呼気の相対的湿度、呼気の温度、及び/又は酸素飽和度が含まれてもよい。これらの大部分は、呼気中の粒子の寸法分布及び/又は質量分布と、特定の範囲における当該粒子の全重量及び/又は粒子数とを求める際に、測定及び使用され得るデータであってもよい。したがって、装置は、被験者それぞれの特性を測定するための装置を更に備えてもよい。
【0060】
このような特性を考慮することにより、質量分布及び/又は寸法分布から各被験者間の差異を取り除くことができ、これにより、呼吸器系感染の判定を改善し得る。これにより、特に、寸法分布及び/又は質量分布を用いる場合に、被験者が罹患している疑いのある呼吸器系感染症の種類を判定する精度が向上し得る。
【0061】
被験者それぞれの特性による差異を取り除く方法の一つとして、当該それぞれの特性に基づいてデータを正規化することが挙げられる。他の方法として、それぞれの特性に基づいてデータをフィルタリングすることが挙げられる。例えば、呼気データは、それぞれの特性が類似している被験者の呼気データと比較される。
【0062】
被験者の呼吸器系感染を判定する方法の一部として、被験者それぞれの特性を最初に判定してもよい。
【0063】
更に、及び/又は代替的に、被験者の呼吸器系に関する情報は、当該被験者の身体状態及び/又は健康状態に関する情報であってもよい。この情報は、体重、身長、性別、年齢、医療記録、喫煙者/非喫煙者、及び/又は心拍数特性を含んでもよい。寸法分布及び/又は質量分布に変動を及ぼし得る情報は、呼吸器系感染に関連のない情報でもよい。
【0064】
前述のように、この情報は、データを正規化して又はデータをフィルタリングして、呼吸器系感染によって引き起こされる変動に関連しない寸法分布及び/又は質量分布の変動を取り除くことによって、感染の検出を向上させるために用いられ得る。
【0065】
呼吸器系感染の検出を更に向上させるために、呼気からのデータの収集は、所定のスクリーニングプロセス中に行われてもよい。所定のスクリーニングプロセスは、データの標準化に有用であり、収集された分布のうち呼吸器系感染に起因しない分布の変動を抑え得る。収集されたデータのうち空気感染に起因しないデータの変動が少ないことにより、当該収集されたデータを参照データベース内のデータと比較する際の改善がみられ得る。
【0066】
装置は、所定のスクリーニングプロセスをどのように実行するかを使用者に促すための、画面等の手段を備えてもよい。これには、文字又は所定のスクリーニングプロセス中に実行されるステップを視覚化する図の何れかが表示されればよい。
【0067】
装置が実行する、選択対象となる所定のスクリーニングプロセスは、それぞれ異なっていてもよい。
【0068】
所定のスクリーニングプロセスは、息を吐く所定の回数、所定の吸入及び呼気ルーチン、並びに純粋な空気の吸入後の呼気のうちの少なくとも一つを含んでもよい。
【0069】
呼吸器系感染を検出するための装置は、スクリーニングプロセスを実行するための手段も含み得る。例えば、装置は、呼気が通過するのと同じマウスピースに導入された純粋な空気を含んでもよい。
【0070】
データはまた、所定の期間及び/又は所定の回数において被験者に息を吐き出させることによって収集されてもよい。
【0071】
更に、及び/又は代替的に、収集されたデータは、粒子についての閾値を用いることによって標準化されてもよい。例えば、閾値は、呼吸器系感染を検出するために用いられる予測される範囲内にない寸法及び/又は質量を有する粒子の影響を低減するために用いられてもよい。閾値は、過度に大きい及び/又は小さいと考えられる粒子に関するデータの削除に用いられてもよい。例えば、閾値は、健康な被験者と感染した被験者とを比較する場合に、大きな変動を示すことが知られている特定の寸法範囲の粒子のみを収集するために用いられてもよい。被験者において、ある範囲の粒子の総質量を、既知であり健康な同じ群に属する被験者の総質量と比較して、当該被験者が感染しているか否かを判定してもよい。更に、及び/又は代替的に、被験者における特定の範囲内の粒子数と、既知であり健康な同じ群に属する被験者における同じ特定の範囲内の粒子数とを比較して、当該被験者が感染しているか否かを判定してもよい。
【0072】
更に、例えば、閾値は、呼気中の粒子の総質量を用いて呼吸器系感染を検出する場合に有益であり得る。全質量に対して所定の数の粒子を収集する場合、過度に大きい又は小さい粒子(外れ値)は、正の負又は負の正を提供し得るデータに影響を及ぼし得る。
【0073】
この装置は、呼気中の粒子の変動を分析することによって、呼吸器系感染の進行を、例えば連続的に、観察するために用いてもよい。この装置は、被験者の病状が悪化しているか、又は被験者の健康が向上しているか、を判定するために用いてもよい。この装置は、被験者に対する投薬の影響を確認するために用いられてもよい。
【0074】
図2は、被験者の呼吸器系感染を検出するための方法の一例を示す、概略的なフローチャート2である。この方法は、コンピュータで実現されてもよい。コンピュータで実現する方法は、コンピュータソフトウェアとして実現されてもよい。当該コンピュータソフトウェアは、コンピュータ又はプロセッサ上で実行され、方法ステップを実現するためのコードを有する。ソフトウェアは、上述の装置のコンピュータの一部であってもよく、又はクラウド内などの外部装置上で実行されていてもよい。検出装置は、既知のプロトコルを介して当該外部装置と通信を行ってもよい。
【0075】
方法2は、粒子検出部から粒子データを受信するステップ100を備えてもよい。或いは、方法2は、粒子検出部を用いて粒子データを取得するステップを備えてもよい。粒子データは、被験者の気道からの呼気に含まれる粒子に関する。
【0076】
この方法は、次に、被験者関連特性を入力するステップ110を備えてもよい。被験者関連特性は、検出装置の処理部に接続された入力装置を用いて入力されてもよい。入力装置は、キーボード又はタッチスクリーンであってもよい。更に、及び/又は代替的に、被験者関連特性は、測定手段/測定装置を用いて測定することで入力されてもよい。当該測定手段/測定装置は、測定器並びに呼気の速度及び/又は容量を測定するスパイロメーター等を含む装置に接続される。これらの特性の一部は、呼気中の粒子のデータの収集と同時に測定されてもよい。
【0077】
方法2は、粒子検出部から受信された又は粒子検出部によって取得した粒子データと、被験者関連特性と、に基づいて呼吸器系感染を判定するステップ120を更に備えてもよい。
【0078】
図3Aは、肺炎に罹患している被験者の粒子を測定したデータ3を示す。データ3は、9名の肺炎患者における呼気中の粒子数の相対的な分布を示している。図3Bは、健康な被験者の粒子を測定したデータ4を示す。データ4は、6名の健康な被験者における呼気中の粒子数の相対的な分布を示している。
【0079】
これらのデータから、健康な被験者と感染した被験者との間で分布に変化があることは明らかである。感染した被験者における分布は、肺炎に固有の特徴として見ることができ、上記の方法のいずれかを用いて被験者が肺炎に罹患していることを判定するために用いられ得る。
【0080】
図4A及び4Bは、Covid-19に罹患している被験者6及び健康な被験者5から採取した粒子を測定したデータである。これらのデータは、Covid-19と診断された被験者10名及び健康な被験者100名を対象に測定された、粒子の数(中央値)の寸法分布を示している。X軸上の各数値は、ビンを表す。各ビンには粒子の範囲が割り当てられている。ここでも、これらのデータから、健康な被験者と感染した被験者との間で分布に変化があることは明らかである。感染した被験者における分布は、Covid-19に固有の特徴として見ることができ、上記の方法のいずれかを用いて被験者がCovid-19に罹患していることを判定するために用いられてもよい。
【0081】
図5は、Covid-19に罹患している被験者20と健康な被験者21とにおける、<.41-0.55muaの範囲の呼気中の粒子の比率を示す。ここでも、健康な被験者と感染した被験者との間に顕著な変化が検出される。この差は、被験者が感染しているか否かを判定するために用いられてもよい。
【0082】
本発明の実施形態は、フローチャート及び/又はブロック図を参照して本明細書に記載される。図示されたブロック図の一部又は全部は、コンピュータプログラムの命令によって実現され得ることが理解されるであろう。これらのコンピュータプログラムの命令が、汎用コンピュータ、専用コンピュータ、又は他のプログラム可能なデータ処理装置のプロセッサに提供されることにより、装置を実現する。コンピュータ又は他のプログラム可能なデータ処理装置のプロセッサを介して実行される当該命令は、フローチャート及び/又はブロック図のブロックで指定された機能/動作を実現するための手段を実現する。
【0083】
図に示された機能/動作は、動作図に示された順序で実現されなくともよいことを理解されたい。例えば、連続して示された二つのブロックは、実際には、実質的に同時に実行されてもよい。或いは、当該二つのブロックは、関係する機能/動作に応じて逆の順序で実行されることがあってもよい。図面のなかには、通信の主方向を示すために通信経路上に矢印を含むものもあるが、通信は、図示された矢印とは反対方向に行われてもよいことを理解されたい。
【0084】
上述された本発明は、詳細な実施形態を参照して記載されている。しかし、上記以外の実施形態も本発明の範囲内で同様に実現され得る。ハードウェア又はソフトウェアによって方法を実行する、上記とは異なる方法ステップが、本発明の範囲内で提供されてもよい。本発明の各種特徴及びステップは、記載された以外の他の組み合わせで組み合わせられてもよい。本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される。
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5
【国際調査報告】