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特表2024-537527眼鏡レンズ及び眼鏡レンズを製造する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-10
(54)【発明の名称】眼鏡レンズ及び眼鏡レンズを製造する方法
(51)【国際特許分類】
   G02C 7/10 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
G02C7/10
【審査請求】有
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2024526740
(86)(22)【出願日】2022-11-02
(85)【翻訳文提出日】2024-05-17
(86)【国際出願番号】 EP2022080477
(87)【国際公開番号】W WO2023078882
(87)【国際公開日】2023-05-11
(31)【優先権主張番号】21206970.2
(32)【優先日】2021-11-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507062222
【氏名又は名称】カール ツァイス ヴィジョン インターナショナル ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100230514
【弁理士】
【氏名又は名称】泉 卓也
(72)【発明者】
【氏名】クリスチャン ヴォルフ
(72)【発明者】
【氏名】マーク エレンリーダー
【テーマコード(参考)】
2H006
【Fターム(参考)】
2H006BE02
(57)【要約】
本発明は、負のフォトクロミック性を示す組成物(2)と、正のフォトクロミック性を示す組成物(8)とを含む眼鏡レンズ(1)を提供する。更に、本発明は、眼鏡レンズ(1)を製造する方法(200)であって、(S1):眼鏡レンズ基板(6)を提供するステップと、(S2):負のフォトクロミック性を示す組成物(2)を眼鏡レンズ基板(6)の表面(7)上に配置するステップと、(S3):正のフォトクロミック性を示す組成物(8)を眼鏡レンズ基板(6)の表面(7)上に配置し、且つ/又は正のフォトクロミック性を示す組成物(8)を眼鏡レンズ基板(6)に組み込むステップとを含む方法(200)を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼鏡レンズ(1)において、負のフォトクロミック性を示す組成物(2)と、正のフォトクロミック性を示す組成物(8)とを含むことを特徴とする眼鏡レンズ(1)。
【請求項2】
前記正のフォトクロミック性を示す前記組成物(8)は、少なくとも1つの正のフォトクロミック物質(5)を含むことを特徴とする、請求項1に記載の眼鏡レンズ(1)。
【請求項3】
前記負のフォトクロミック性を示す前記組成物(2)及び前記正のフォトクロミック性を示す前記組成物(8)は、眼鏡レンズ基板(6)の表面(7)上に互いに横方向に隣接して配置されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の眼鏡レンズ(1)。
【請求項4】
前記負のフォトクロミック性を示す前記組成物(2)は、少なくとも1つの指示染料物質(11)を有する感光性マトリックス(4)を含むことを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の眼鏡レンズ(1)。
【請求項5】
負のフォトクロミック性を示す組成物(2)を含む眼鏡レンズ(1)において、前記負のフォトクロミック性を示す前記組成物(2)は、少なくとも1つの指示染料物質(11)を有する感光性マトリックス(4)を含むことを特徴とする眼鏡レンズ(1)。
【請求項6】
前記負のフォトクロミック性を示す前記組成物(2)は、少なくとも1つの負のフォトクロミック物質(3)を含むことを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の眼鏡レンズ(1)。
【請求項7】
眼鏡レンズ基板(6)を含むことと、前記負のフォトクロミック性を示す前記組成物(2)は、前記眼鏡レンズ基板(6)の表面(7)上に配置されることとを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の眼鏡レンズ(1)。
【請求項8】
前記負のフォトクロミック性を示す前記組成物(2)は、前記眼鏡レンズ基板(6)の前面(7a)上に配置されることを特徴とする、請求項7に記載の眼鏡レンズ(1)。
【請求項9】
眼鏡レンズ基板(6)を含むことと、前記負のフォトクロミック性を示す前記組成物(2)は、前記眼鏡レンズ基板(6)に組み込まれることとを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載の眼鏡レンズ(1)。
【請求項10】
染料物質(9)を含むことを特徴とする、請求項1~9のいずれか一項に記載の眼鏡レンズ(1)。
【請求項11】
前記負のフォトクロミック性を示す前記組成物(2)は、アゾベンゼン、スピロピラン誘導体、ジヒドロピレン、ステンハウス塩、イミダゾリルラジカル錯体及びシアニン染料からなる群から選択される少なくとも1つであることを特徴とする、請求項1~10のいずれか一項に記載の眼鏡レンズ(1)。
【請求項12】
眼鏡レンズ(1)を製造する方法(200)において、
- S1:眼鏡レンズ基板(6)を提供するステップと、
- S2:負のフォトクロミック性を示す組成物(2)を前記眼鏡レンズ基板(6)の表面(7)上に配置し、且つ/又は負のフォトクロミック性を示す組成物(2)を前記眼鏡レンズ基板(6)に組み込むステップと、
- S3:正のフォトクロミック性を示す組成物(8)を前記眼鏡レンズ基板(6)の表面(7)上に配置し、且つ/又は正のフォトクロミック性を示す組成物(8)を前記眼鏡レンズ基板(6)に組み込むステップと
を含むことを特徴とする方法(200)。
【請求項13】
前記負のフォトクロミック性を示す前記組成物(2)及び前記正のフォトクロミック性を示す前記組成物(8)は、前記眼鏡レンズ基板(6)の前記表面(7)上に互いに横方向に隣接して配置されることを特徴とする、請求項12に記載の方法(200)。
【請求項14】
前記負のフォトクロミック性を示す前記組成物(2)は、少なくとも1つの指示染料物質(11)を有する感光性マトリックス(4)を含む、請求項12又は13に記載の方法(200)。
【請求項15】
眼鏡レンズ(1)を製造する方法(200)において、
- S1:眼鏡レンズ基板(6)を提供するステップと、
- S2:負のフォトクロミック性を示す組成物(2)を前記眼鏡レンズ基板(6)の表面(7)上に配置し、且つ/又は負のフォトクロミック性を示す組成物(2)を前記眼鏡レンズ基板(6)に組み込むステップと
を含み、前記負のフォトクロミック性を示す前記組成物(2)は、少なくとも1つの指示染料物質(11)を有する感光性マトリックス(4)を含むことを特徴とする方法(200)。
【請求項16】
前記負のフォトクロミック性を示す前記組成物(2)及び/又は前記正のフォトクロミック性を示す前記組成物(6)は、前記眼鏡レンズ基板(6)の前記表面(7)上に印刷されることを特徴とする、請求項12~15のいずれか一項に記載の方法(200)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼鏡レンズ及び眼鏡レンズを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
眼鏡レンズ製造者により、入射光の特定の波長範囲を濾過し、したがって物体及びレンズ着用者の周囲の知覚された明度及び色を修正する機能を含むいくつかの製品が提供されている。これらの機能は、従来の染料、フォトクロミック染料、反射防止膜又はそれらの組合せのいずれも満足な結果、例えば着用者のためにUV(紫外線)に曝されると暗くなるフォトクロミックレンズを提供するように構成される。例示的製品は、従来のように染色されたレンズ、フォトクロミックレンズ及び前面がフォトクロミック膜であり、裏側が染色されているレンズである。
【0003】
物体の観察者の色の印象は、3つの主な要因、即ち光スペクトル、物体の吸収、透過及び/又は反射スペクトル並びに観察者個人の光受容細胞の感度によって影響を受ける。観察者個人の光受容細胞の感度は、色の印象の形成に生物学的入力を提供する波長及び角度に依存した誘因の可能性を示す。
【0004】
眼鏡レンズの着用者に対して、眼鏡レンズの光学特徴は、更に影響を及ぼす要因であり、即ち、着用者によって観察された物体の反射スペクトルは、眼鏡レンズの透過スペクトルによって濾過される。
【0005】
眼鏡レンズの光学濾過特徴は、例えば、従来の染料を有する眼鏡レンズに永久的であるか、又は例えばフォトクロミック組成物を有する眼鏡レンズに非永久であるかのいずれかであり得る。
【0006】
眼鏡レンズ業界では、フォトクロミック組成物は、UV放射に曝されると暗くなる組成物と見なされている。より具体的には、光学濾過のためにこれらの化合物を利用する眼鏡レンズの視感透過率は、UV放射に曝されると低減する。
【0007】
以下で正フォトクロミック組成物と呼ばれる、UV放射に曝されると暗くなるフォトクロミック組成物の他に、いわゆる負フォトクロミック組成物が公知である。正フォトクロミック組成物によって修正された光学濾過スペクトルは、UVに曝されると、低減した視感透過率を示すのに対して、負フォトクロミック組成物によって修正された光学濾過スペクトルは、UV又はVIS(可視)放射に曝されると、増加した視感透過率も示し得る。
【0008】
正及び負フォトクロミック組成物の両方に対するフォトクロミック効果は、以下の機構の1つに基づき得る。第1に、分子レベルでは、UV放射は、有機フォトクロミック組成物の骨格内で化学結合の可逆的切断を誘発するのに十分な高エネルギーからなる。典型的には、正反応は、既存のパイ電子システムの大きさを変え、その結果、VIS(可視)領域内でフォトクロミック分子の吸収帯の形成又は移行を誘発する。平衡過程の逆反応は、熱的に誘発されることが多い。有機骨格に基づいたフォトクロミック効果を示す典型的な例は、スピロピラン、スピロオキサジン、ジアリールエテン、アゾベンゼン及びキノンである。
【0009】
フォトクロミック組成物の光学濾過スペクトルを変えるための第2の経路は、共形変化のために必要なエネルギーが光の可視領域内で吸収される、例えばシアニジン染料のE-Z異性化によって示される(NEMOTO,K.et.al.Negative photochromism of a blue cyanine dye,Chem.Commun.,2020,56,15205-15207を参照されたい)。
【0010】
フォトクロミック効果をもたらす他の機構も可能であり得る。例えば、無機フォトクロミック組成物並びに例えば酸化銀及び酸化セリウムドープアルミノケイ酸リチウムに基づいて利用可能な製品がある。特定の物質及び組成物を名付けたフォトクロミック材料に関して且つフォトクロミック効果のための関連機構について記載する概要は、TIAN,H.,ZHANG,J.(Ed),Photochromic Materials:Preparation,Properties and Applications,2016,Wiley-VCH Verlag GmbH&Co.KGaA,DOI:10.1002/9783527683734、特にchapter 1:NAKATANI,K.et al.,Introduction:Organic Photochromic Moleculesによって提供されている。
【0011】
負フォトクロミック効果を示す物質は、限定されないが、アゾベンゼン、スピロベンゾピランを含むスピロピラン派生物、ジメチルジヒドロピレンなどのジヒドロピレン、ステンハウス塩、1,1’-ビナフチル架橋型イミダゾール二量体などのイミダゾールラジカル錯体及びブルーシアニン染料(BCy)などのシアニン染料を含む。
【0012】
負フォトクロミック組成物の化学基及び明らかな例は、例えば、ジヒドロピレン(リングの開/閉によって生じた「照明」効果(即ち着色状態への変換))、1,1’-ビナフチル架橋型フェノキシル-イミダゾリルラジカル錯体(ラジカル錯体を形成することによって生じた「照明」効果)及びブルーシアニン染料(BCy;E-Z異性化によって生じた「照明」効果)である。
【0013】
負フォトクロミック物質及び組成物の特定の例は、とりわけYAMAGUCHI,T.et al.Fast Negative Photochromism of 1,1’-Binaphthyl-Bridged Phenoxyl-Imidazolyl Radical Complex,J.Am.Chem.Soc.2016 138(3),906-913、NEMOTO,K.et.al.Negative photochromism of a blue cyanine dye,Chem.Commun.,2020,56,15205-15207、FUNASAKO,Y.et al.Synthesis,Photochromic Properties,and Crystal Structures of Salts Containing a Pyridinium-Fused Spiropyran:Positive and Negative Photochromism in the Solution and Solid State,J.Phys.Chem.B2020,124,33,7251-7257、SARKAR,R.et al.Electronic Excited States and UV-Vis Absorption Spectra of the Dihydropyrene/Cyclophanediene Photochromic Couple:a Theoretical Investigation,J.Phys.Chem.A 2020,124,8,1567-1579に開示されている。
【0014】
含溶媒又は埋込マトリックスが脱/活性化時に特徴の同時変化を受けない、単一分子の負フォトクロミズムに加えて、巨視的効果も脱/プロトン化性染料物質(指示染料物質)をマトリックスに埋め込むことによって達成され、マトリックスは、UV及び/又はVIS光のそれぞれに応答して反応する。
【0015】
例えば、プロトンを放出する感光性マトリックス(準安定状態の光酸を通るpH変化)は、着色した指示染料物質のプロトン化を促進し得、そのプロトン形は、あまり着色されないか又は全く着色されない。光誘発によるプロトンの放出及び染料のpHに依存した吸光度スペクトルへのそれらの影響の例は、ALGHAZWAT,O.et al.Red-light responsive metastable-state photoacid,Dyes and Pigments 171,107719に示されている。
【0016】
概して、眼鏡レンズに使用された正フォトクロミック組成物は、UV範囲で発光すると、眼鏡レンズの暗化を着用者が知覚することができる(L色スペースのL値)。この暗化は、知覚した色の望ましくない変化に関連し得る(L色スペースのa及びb値)。
【0017】
その結果、同じ物体の着用者の色の印象及び知覚したコントラストは、眼鏡レンズのUV濾出条件に依存して変わり得る。
【0018】
その上、正フォトクロミック組成物を有する眼鏡レンズは、視感透過率の変化に起因して知覚した明度を変えることなく、異なるUV濾出条件下で着用者の色の印象を変えることができない。従来の染料物質を含む眼鏡レンズは、環境によって異なるUV濾出条件に応答してそれらの光学濾過スペクトルのいかなる変化、例えば知覚した明度も色の変化もできない。
【0019】
更にコントラスト感度の量的説明は、BARTEN,P.Formula for the contrast sensitivity of the human eye,Proc.SPIE 5294 Image Quality and System Performance,18 December 2003;doi:10.1117/12.537476によって従来技術が報告されており、ここでは、ヒトの視力のコントラスト感度の異なる影響因子が示されている(記載された刊行物の図4を参照されたい)。影の対は、眼のコントラスト感度にノイズの影響を与え得る。BARTEN,P.は、物体のコントラストがLS/L率の関数であることを示し、ここで、LSは、周囲輝度であり、Lは、物体の輝度である。したがって、暗い物体は、過度に明るい場面で見ることが困難である。
【0020】
加えて、LINGELBACH,B.らは、コントラスト感度(知覚)も、スペクトルの異なる部分に向かう眼の様々な感度に依存することを示している。即ち、拡散されたブルーライトは、視覚系によって多くの「ノイズ」を生成し、これにより重要な物体を背景から区別することがより難しくなる(LINGELBACH,B.et al.Journal of ASTM International,January 2005,Vol.2,No.1:DOI:10.1520/JAI11972)。
【0021】
LINGELBACH,B.らによれば、従来のコントラストを高める眼鏡レンズの対は、背景におけるスペクトルの「ノイズ部」を除去しようとし、重要な物体の異なるスペクトルをできる限り触れずに残し、それによりコントラストを高める。従来の眼鏡レンズについて、これは、特定の既定の照明、例えばスキー眼鏡のための明るい光の下で最良に機能することが明らかである。しかし、従来技術によるこれらのコントラストを高める眼鏡レンズは、周囲スペクトル及び/又は明度の全体のレベルの変化などの様々な条件下で十分なコントラストを改善することができない。
【0022】
米国特許出願公開第2013/102775A1号明細書は、負フォトクロミズムを実証するビイミダゾール化合物から形成されたフォトクロミック材料を開示している。用途の特定の例には、光学スイッチ、印刷材料、記録材料及びホログラフィック材料が含まれる。
【0023】
米国特許出願公開第2019/382654A1号明細書は、眼鏡及びカラーコンタクトレンズなどの用途に使用することができる、負フォトクロミズムを示す材料を開示している。
【0024】
米国特許出願公開第2012/183810A1号明細書は、従来のフォトクロミック材料に比べてより迅速に着色形から透明形に移行することができるフォトクロミック材料を開示している。そのような材料は、矯正レンズなどの眼用要素に使用され得る。
【0025】
米国特許出願公開第2020/201079A1号明細書は、第1の接着層、第1の遮断層、正フォトクロミズムを示すフォトクロミック層、第2の遮断層及び第2の接着層を含む、積層フィルムを含有する光学レンズを開示している。
【0026】
特開2010 270163A号公報は、フォトクロミック材料及びフォトクロミック積層体を開示している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0027】
記載された従来技術に関して、本発明の目的は、その光学濾過スペクトルが、眼鏡レンズを通して着用者に観察された物体の視覚的印象を更に向上して修正することができる眼鏡レンズを提供することである。例えば、L色空間におけるLによって説明することができる着用者の視覚的印象の明度を大きく変えることなく、眼鏡レンズを通して観察された物体の着用者が知覚した色を達成することができる眼鏡レンズを提供することが望ましいであろう。
【0028】
更に、その光学濾過特徴が、周囲光源スペクトル及び/又は明度の全体のレベルの変化などの様々な条件下でコントラストを向上することができる眼鏡レンズを提供することが望ましいであろう。
【0029】
本発明の更なる目的は、眼鏡レンズを通して着用者によって観察された物体の視覚的印象を更に向上して修正することができる眼鏡レンズを製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0030】
第1の目的は、請求項1又は請求項5に記載の眼鏡レンズによって達成される。更なる目的は、請求項12又は請求項15に記載の眼鏡レンズを製造する方法によって達成される。
【0031】
本明細書を通して、以下の定義が適用される。
【0032】
用語「吸収」は、媒体が電磁放射、例えば光及び/又はUV放射からそれを通過するエネルギーを抽出し、それによりその強度を弱くする工程を指す。吸収したエネルギーは、媒体を加熱させ得る。
【0033】
用語「コントラスト感度」は、視野における輝度の差を知覚する能力を指す。これは、50%の検出確率によって画定された修正閾値を有する正弦波輝度パターンの修正閾値の逆数と定義することができる。コントラスト感度関数は、コントラスト感度を空間周波数に関連付ける。
【0034】
用語「D65光源」は、特定のスペクトルパワー分布を有する可視光源である、標準光源を指す。これは、異なる照明下で記録された画像又は色を比べるための基準を提供する。「D」光源は、自然な日光を表すように構築された光源である。D65光源の色温度、即ち光源の色と比較可能な色の光を放射する理想的な黒色体ラジエターの温度は、約6500Kである。D65光源は、ISO 11664-2:2007,Colorimetry-Part2:CIE standard illuminants)及びDIN 5033-7:2014-10、特にSection5.1に記載されたような国際照明委員会(CIE)(International Commission on Illumination)によって定義されている。
【0035】
用語「染料物質」は、眼鏡レンズを特定の色彩で永久に表すか、又は眼鏡レンズの色彩を永久に変えるために使用される着色物質を指す。用語「指示染料物質」は、少なくとも2つの状態、例えばプロトン化及び脱プロトン化状態を示す染料物質を指し、少なくとも2つの状態は、電磁スペクトルの可視部、即ち380nm~780nmにおける異なる吸収スペクトルを示す。例えば、プロトン化及び脱プロトン化は、それぞれpH値の変化によって誘発され得る。
【0036】
用語「L色空間」は、CIELAB色空間とも呼ばれ、3つの値、即ち知覚明度に対してL*、ヒトの視力の4つの独自の色、即ち赤、緑、青及び黄に対してa並びにbとして色を表す色空間を示す。パラメータL、a及びbの計算方法は、DIN EN ISO/CIE 11664-4:2019,Colourimetry-Part4:CIE 1976LColour spaceに明示されている。
【0037】
用語「互いに横方向に隣接」は、2つの組成物が同じ平面において例えば1つの被覆内で互いに接触して又は接触しないで配置される配置を指す。例えば、2つの組成物は、ピクセルの形態でピクセルが接触して又は接触しないで並んで配置され得る。
【0038】
用語「光」は、単独で使用される場合、ヒトの視覚を直接呼び起すことができる電磁放射(可視光)、即ち380nm~780nmの波長を有する電磁放射を指す。
【0039】
用語「視感透過率」τvは、DIN EN ISO 8980-3:2014-03,section3.4に定義されているように、入射光束にレンズによって透過された光束の割合を指す。
【数1】

式中、τ(λ)は、眼鏡レンズのスペクトル透過であり、V(λ)は、日光に対するスペクトル視感度関数であり(DIN EN ISO/CIE 11664-1:2020-03を参照されたい)、SD65(λ)は、CIE標準光源D65の放射のスペクトル分布である。
【0040】
換言すると、視感透過率は、媒体を通過し、ヒトの眼によって知覚することができるD65光源などの基準光から放射された電磁放射の量の尺度である。
【0041】
用語「組成物」は、化学物質又は異なる化学物質の混合物を指す。
【0042】
用語「負フォトクロミック特徴を示す組成物」は、負フォトクロミック物質のように挙動する組成物を指す。負フォトクロミック特徴を示す組成物は、UV及び/又はVIS範囲で発光されたとき、より低い視感透過率の状態からより高い視感透過率の状態に巨視的に変化する。これを生じることができるのは、組成物が実際に負フォトクロミック物質を含むか若しくはそれからなるか、又は組成物が、負フォトクロミズムを示す少なくとも1つの指示染料物質を有する感光性マトリックスを含むためである。
【0043】
用語「正フォトクロミック特徴を示す組成物」は、正フォトクロミック物質のように挙動する組成物を指す。正フォトクロミック特徴を示す組成物は、UV及び/又はVIS範囲で発光されたとき、より高い視感透過率の状態からより低い視感透過率の状態に巨視的に変化する。これを生じることができるのは、組成物が実際に正フォトクロミック物質を含むか若しくはそれからなるか、又は組成物が、正フォトクロミズムを示す少なくとも1つの指示染料物質を有する感光性マトリックスを含むためである。
【0044】
用語「感光性マトリックス」は、指示染料物質を組み込む、例えば埋め込むために使用され、UV及び/又はVIS範囲の光の放射に応答して反応する化学組成物を指す。応答は、例えば、準安定状態の光酸を通してpH変化に起因して例えばプロトンの放出であり得る。応答は、正若しくは負のフォトクロミズムの巨視的提示をもたらす指示染料物質のプロトン形と脱プロトン形との間のそれぞれの平衡又は負及び/若しくは正フォトクロミック物質の活性状態と非活性状態との間の平衡に影響を及ぼすために利用することができる。
【0045】
用語「フォトクロミズム」は、UV放射及び/又はVIS放射の吸収によって誘発された、例えば異性体の2つの形態又は状態間のそれぞれの化学種、例えば分子の可逆的変形を指す。2つの形態は、電磁スペクトルの可視部、即ち380nm~780nmの異なる吸収スペクトルを本質的に示し得るか、又はそれらは、別の化学種を2つの形態若しくは状態間でそれぞれを変形させ得、これらの2つの形態又は状態は、電磁スペクトルの可視部に異なる吸収スペクトルを示す。
【0046】
2つの状態又は形態は、それぞれ活性状態又は形態(UV及び/若しくはVIS範囲で発光後)並びに非活性状態又は形態(UV及び/若しくはVIS範囲で発光前)と呼ばれる。非活性状態又は形態を活性状態又は形態に変形する工程は、活性化と呼ばれ、活性状態又は形態を非活性状態又は形態に変形する工程は、脱活性化と呼ばれる。
【0047】
この変形を誘発するためのUV及び/又はVIS放射の必要な波長は、反結合軌道に電子を飛ばすことができるために必要なエネルギーに依存する。したがって、波長は、分子に特有である。吸収スペクトルと共に、視感透過率は、それに応じて影響を受ける。両方の状態でフォトクロミック物質を有する眼鏡レンズのための視感透過率は、DIN EN ISO 8980-3:2014-03,Section7.5に記載されたような標準手順によって決定することができる。UV及び/又はVIS照射後の視感透過率に対するその熱力学的安定状態における視感透過率の割合は、フォトクロミック応答と呼ばれる(DIN EN ISO 8980-3:2014-03,Section6.4.1を参照されたい)。こうしてフォトクロミック組成物(フォトクロミック材料)は、その上に落ちる光学放射の照度及び波長に依存して、その視感透過率を可逆的に変える組成物であり(DIN EN ISO 13666:2019-12,Section3.3.5を参照されたい)、フォトクロミック眼鏡レンズは、曝される光学放射の照度及び波長に依存して、その視感透過率を可逆的に変える眼鏡レンズである(DIN EN ISO 13666:2019-12,Section3.5.11を参照されたい)。
【0048】
「正フォトクロミズム」は、組成物の活性状態が、非活性状態より低い視感透過率を示すことを意味し、活性化は、UV及び/又はVIS範囲の発光を介して起きる。したがって、フォトクロミック応答は、正である。これに関連して、用語「より高い」及び「より低い」は、互いに2つの状態の視感透過率を比較するためのみに使用される相対概念であり、視感透過率についての絶対提言は、許容されないことに留意されたい。
【0049】
「負フォトクロミズム」は、組成物の活性状態が、非活性状態より高い視感透過率を示すことを意味し、活性化は、UV及び/又はVIS範囲における発光を介して起き、したがって、フォトクロミック応答は、負である。これは、熱的に安定する着色形(非活性状態)が、光を照射すると準安定性の無色形(活性状態)に異性化し、発生された無色形は、最初の着色形に熱的に戻るフォトクロミック反応である。
【0050】
用語「負フォトクロミック物質」は、その化学構造に起因して負フォトクロミズムを本質的に示す化学物質を指す。その分子構造は、例えば、UV及び/又はVIS範囲の発光によって活性化されると、より低い視感透過率の状態からより高い視感透過率の状態に変わる。より低い視感透過率の状態は、熱力学的安定形に対応する。
【0051】
用語「正フォトクロミック物質」は、その化学構造に起因して正フォトクロミズムを本質的に示す化学物質を指す。その分子構造は、例えば、UV及び/又はVIS範囲の発光によって活性化されると、より高い視感透過率の状態からより低い視感透過率の状態に変わる。より高い視感透過率の状態は、熱力学的安定形に対応する。
【0052】
用語「印刷」又は「印刷する」は、それぞれインクジェット印刷などの印刷技術を使用することにより、材料を表面に塗布する工程を指す。用語「インクジェット印刷」は、インクの小滴の離散蒸着によって表面にパターンを生成する非接触方法を指す。インクジェット印刷のための共通手順は、いずれも当業者に周知の連続インクジェット法及びドロップオンデマンド法を含む。
【0053】
用語「半完成レンズブランク」は、眼鏡レンズを作成するための1つの光学的に完成した表面を有する光学材料片を指す(DIN EN ISO 13666:2019-12,Section3.8.1)。用語「完成レンズブランク」は、眼鏡レンズを作成するためのものであるが、被覆、研磨、他の手順の前の2つの光学的に完成した表面(前面及び後面)を有する光学材料片を指す。
【0054】
用語「眼鏡レンズ」は、眼球の正面に着用するが眼球と接触しない眼用レンズを指し(DIN EN ISO 13666:2019-12,Section3.5.2)、この場合、眼用レンズは、眼の測定、矯正及び/若しくは保護のため又はその外観を変えるために使用することを意図したレンズである(DIN EN ISO 13666:2019-12,Section3.5.1)。ここで、眼鏡レンズは、限定されないが、DIN EN ISO 13666:2019-12のSection3.5.3~3.5.13に定義されたような、矯正レンズ、保護レンズ、偏光レンズ、バランスレンズ、マッチングレンズなどを含む。更にDIN EN ISO 13666:2019-12のSection3.6によれば、眼鏡レンズは、限定されないが、湾曲形レンズ、プラノレンズ、球面レンズ、円柱レンズ、球面円柱レンズ、トーリックレンズ、非球面レンズ、非トーリックレンズなどを含む様々なレンズ形状を有することができる。用語「眼鏡レンズ」は、DIN EN ISO 13666:2019-12のSection3.8.8によるアンカット完成レンズ、即ち縁取り加工前の完成レンズ及びDIN EN ISO 13666:2019-12のSection3.8.9による縁取り加工したレンズ、即ち最終サイズ及び形状に縁取り加工した完成レンズを含み、用語完成レンズは、その両側が、DIN EN ISO 13666:2019-12のSection3.8.7によるそれらの最終光学構造を有するレンズを指す。
【0055】
用語「眼鏡レンズ基板」は、眼鏡レンズの製造工程中に使用される光学材料片を指し、完成眼鏡レンズの一部を形成する。眼鏡レンズ基板は、完成眼鏡レンズの一部になる前に、被覆、洗浄、研磨、その他などのいくつかの手順を受け得る。換言すると、眼鏡レンズは、眼鏡レンズ基板及び少なくとも負フォトクロミック特徴を示す材料を含むか、又は眼鏡レンズ基板及び少なくとも負フォトクロミック特徴を示す材料から構成される。眼鏡レンズ基板及び負フォトクロミック特徴を示す材料とは別に、眼鏡レンズは、反射防止膜などの膜を含み得る。
【0056】
用語「スペクトル」は、電磁放射の波長に依存して、通常電磁放射を吸収した、透過した、他の百分率として量を示す光学スペクトル、例えば吸収スペクトル、透過スペクトルなどを指す。
【0057】
用語「物質」は、単一化学物質、即ち一定の化学組成物及び特有の特徴を有する物質の形態を指す。
【0058】
用語「表面」は、環境と直接接触する三次元の眼鏡レンズ基板のあらゆる層を指す。表面は、その境界と見なすことができる。眼鏡レンズ基板の表面は、その前面、即ち前側、側面、即ち縁部及び後面、即ち後側を含む。眼鏡レンズの概念では、表現「後面」は、眼鏡フレームに固定して装着されたとき、着用者の眼の方に面する眼鏡レンズの表面に使用される(DIN EN ISO 13666:2019-12,Section3.8.14)。眼鏡レンズ基板の概念では、表現「後面」は、眼鏡レンズ基板を含む眼鏡レンズの後面に最終的になる表面に使用される。眼鏡レンズの概念では、用語「前面」は、眼鏡フレームに固定して装着されたとき、着用者の眼に背を向ける眼鏡レンズの表面に使用される。眼鏡レンズ基板の概念では、用語「前面」は、眼鏡レンズ基板を含む眼鏡レンズの前面に最終的になる表面に使用される。
【0059】
用語「透過」は、電磁放射、例えば光及び/又はUV放射が媒体を通過する工程を指す。透過の程度は、DIN EN ISO 8980-3:2014-03,Section3.4に定義されたような視感透過率、即ち入射光束に対するレンズによって透過された光束の割合によって説明することができる。換言すると、視感透過率は、媒体を通過する電磁放射の量の尺度である。
【0060】
用語「紫外線放射」又は略して「UV放射」は、UV-A、UV-B及びUV-C放射を含み、100nm~380nmの波長を有する電磁放射を指す(DIN EN ISO 13666:2019-12のSection3.1.3)。
【0061】
用語「VIS」は、可視電磁放射、即ち380nm~780nmの波長を有する電磁放射を指す(ISO 20473:2007-04のSection2)。
【0062】
用語「着用者」は、眼鏡レンズを着用している、即ち眼鏡レンズが着用時位置に着用されている間、眼鏡レンズを通して物体を観察している個人を指す。
【0063】
「着用時位置」は、着用中に眼及び顔に関する眼鏡レンズの配向を含む位置である(DIN EN ISO 13666:2019-12,Section3.2.36)。着用時位置は、着用時前傾角、着用時そり角及び頂点間距離によって決定される。着用時前傾角は、水平方向と、主要方向を含有する垂直面におけるフレームの上部リム及び下部リムの溝の頂点を通過する基準線に垂直な方向間の垂直角度であり(DIN EN ISO 13666:2019-12,Section3.2.37)、この場合、主要方向は、裸眼視力で真っ直ぐ前を見たときに習慣的な頭及び身体の姿勢で測定された無限距離における物体に、通常水平に取った視線の方向であり(DIN EN ISO 13666:2019-12,Section3.2.25)、視線は、物体空間における注視点(即ち固定点)から眼の入射瞳の中心まで、続いて画像空間における射出瞳の中心から固定網膜点(概して小窩)までの光線路である(DIN EN ISO 13666:2019-12,Section3.2.24)。着用時前傾角の典型的な値は、-20~+30度の範囲内である。着用時そり角は、主要方向と、主要方向を含有する水平面におけるフレームの鼻側リム及び耳側リムの溝の頂点を通過する基準線に垂直な方向との間の水平角度である(DIN EN ISO 13666:2019-12,Section3.2.38)。着用時そり角の典型的な値は、-5~+30度の範囲内である。頂点間距離は、眼鏡レンズの後面と、主要位置における眼と共に測定した角膜の頂点との間の水平距離であり(DIN EN ISO 13666:2019-12,Section3.2.40)、この場合、主要位置は、主要方向を見たときの眼の位置である(DIN EN ISO 13666:2019-12,Section3.2.26)。頂点間距離の典型的な値は、5mm~30mmの範囲内である。着用時位置は、特定の個人に対して決定された個人の着用時位置又は着用者の画定された群に対して決定された包括的な着用時位置であり得る。
【0064】
冠詞「1つの(a)」、「1つの(an)」及び「その」は、本明細書及び添付の特許請求の範囲に使用される場合、1つの指示対象に限定されると明らかに明示されない限り、複数の指示対象を含む。
【0065】
用語「及び/又は」は、本明細書で使用される場合、一連の2つ以上の要素に使用されるとき、一覧の要素のいずれも単独で使用され得るか又は一覧の要素の2つ以上を組み合わせて使用され得ることを意味する。例えば、UV及び/又はVIS範囲の発光を記載するとき、発光は、可視光のみ、UV放射のみ又は可視光とUV放射の組合せで行われ得る。
【0066】
第1の態様では、本発明は、眼鏡レンズを提供する。眼鏡レンズは、負フォトクロミック特徴を示す組成物及び正フォトクロミック特徴を示す組成物を含む。
【0067】
負フォトクロミック特徴を示す組成物は、例えば、眼鏡レンズの眼鏡レンズ基板の1つ若しくは複数の表面上に存在し得、及び/又はこれは、眼鏡レンズ基板内に組み込まれ得る。
【0068】
負フォトクロミック特徴を示す組成物は、染料物質及び/又は正フォトクロミック組成物のみを含む従来の眼鏡レンズと比べたとき、UV及び/又はVIS範囲の放射条件で異なる発光下で色ずれ、色安定性、コントラスト順応、その他などの獲得可能な視覚効果を広げることができる。そのため、本眼鏡レンズは、着用者の個人の必要性にその吸収スペクトルをよりよくカスタマイズすることができる。
【0069】
具体的には、負フォトクロミック特徴を示す組成物は、UV及び/又はVIS範囲で発光すると、明度を変えることなく又はほとんど変えることなく、色ずれさせることができ得る。明度は、例えば、L色空間のLパラメータを観察することによって検出することができる。換言すると、L色空間のa及びbパラメータは、Lパラメータを変えることなく又はほとんど変えることなく、異なるUV放射条件下で変えることができる。
【0070】
例えば、事務所などの内部空間では、負フォトクロミック特徴、即ち眼鏡レンズは、黄色がかって見え得ることを示す組成物を使用して、ブルーライトを吸収する眼鏡レンズを有することが望ましい場合がある。しかし、光条件が、UV放射を含む屋外の日光の条件に起因して変わり、例えば眼鏡レンズを着用している着用者が事務所を出て、事務所の建物の外に行く場合、UV放射に曝されることに起因して眼鏡レンズの吸収スペクトルに変化が生じ、ブルーライトの吸収がより低くなり、即ち、眼鏡レンズは、黄色がかっているのではなく、無色に見える。
【0071】
負フォトクロミック特徴を示す組成物及び正フォトクロミック特徴を示す組成物は、例えば、小滴のように例えば並んで配置され得るか、又は例えば層ごと若しくはピクセル構造ごとに積層されるように積層され得る。
【0072】
負フォトクロミック特徴を示す組成物と、正フォトクロミック特徴を示す組成物とを組み合わせることにより、染料物質及び/又は正フォトクロミック組成物のみを含む従来の眼鏡レンズと比べたとき、更に多くの異なる視覚効果を得ることができる。
【0073】
その上、負フォトクロミック特徴を示す組成物及び正フォトクロミック特徴を示す組成物を含む眼鏡レンズは、それに応じて光学濾過特徴を調節することにより、周囲発光スペクトル及び/又は明度の全体のレベルの変化などの様々な条件下で動的なコントラスト吸収ができ得る。換言すると、眼鏡レンズ内に含まれた負フォトクロミック特徴を示す組成物及び正フォトクロミック特徴を示す組成物は、コントラストの向上のために使用することができる。
【0074】
例えば、眼鏡レンズの色は、太陽が低いとより赤みがかり、太陽が高いと白みがかる/青みがかる発光のスペクトルで変わることができる一方、略一定の視感透過率を維持する。これは、眼鏡レンズが、より多種の周囲の光条件下でそのコントラストを高める特徴を維持することができる。
【0075】
同時に、照度が変化する一方、例えば運転中に例えば太陽の元から日陰に動く観察者に対してそのスペクトルを維持する場合、コントラストを向上させることが等しく可能である。そのような状況では、負フォトクロミック特徴を示す組成物及び正フォトクロミック特徴を示す組成物を含む眼鏡レンズは、その色調を維持しながら、その透過を調節することができる。眼鏡レンズは、したがって、従来のコントラストを高める眼鏡レンズに比べて、はるかに幅広い設定の光条件下で機能する利点を有する。
【0076】
例えば、負フォトクロミック特徴を示す組成物は、少なくとも1つの正フォトクロミック物質を含み得る。換言すると、正フォトクロミック特徴を示す組成物は、1つ又は複数の正フォトクロミック物質を含むか又はそれからなり得る。正フォトクロミック物質による正フォトクロミック特徴の実現により、最も単純な場合、唯一の物質、即ち1つの正フォトクロミック物質が必要であるため、単純な現実的な実装の利点を有する。
【0077】
例えば、少なくとも1つの正フォトクロミック物質は、TIAN,H.,ZHANG,J.(Ed)、Photochromic Materials:Preparation,Properties and Applications,2016,Wiley-VCH Verlag GmbH&Co.KGaA,DOI:10.1002/9783527683734に開示されたような物質であり得る。換言すると、1つ又は複数の記載された物質は、正フォトクロミック特徴を示す組成物として使用することができる。
【0078】
本眼鏡レンズの特定の発展形態では、負フォトクロミック特徴を示す組成物及び正フォトクロミック特徴を示す組成物は、互いに横方向に隣接して、例えば並んで眼鏡レンズ面の表面、例えば前面及び/又は後面上、具体的には上述の理由で少なくとも前面上に配置され得る。
【0079】
横方向に隣接した配置を得るために、負フォトクロミック特徴を示す組成物及び正フォトクロミック特徴を示す組成物は、例えば、インクジェット印刷法を使用することにより、表面上にピクセル単位で被覆され得る。例えば、被覆は、負フォトクロミック特徴を示す組成物及び正フォトクロミック特徴を示す組成物のピクセルを交互に含み得る。ピクセルは、互いに接触して又は分離して配置され得る。
【0080】
例えば、負フォトクロミック物質及び正フォトクロミック物質は、互いに横方向に隣接して眼鏡レンズ物質の表面上に配置され得る。
【0081】
記載の横方向隣接配置には、色及び/又は明度性に影響を及ぼし得る負のフォトクロミック性を示す組成物及び正のフォトクロミック性を示す組成物の相互作用を低減又は回避することができるという利点がある。これにより、可能なフィルタスペクトル変更に関して自由度を高めることができる。その上、横並び配置には、全体スペクトルが単に加算であるため、結果として生成される全体スペクトルの計算及びシミュレーションがより容易であるという利点がある。本発明の眼鏡レンズの更なる具体的な発展形態では、負のフォトクロミック性を示す組成物は、少なくとも1つの指示染料物質を有する感光性マトリックス、即ちフィルタスペクトルが、巨視的に負のフォトクロミズムを観測することができるようにUV及び/又はVIS範囲内の照明によって誘導されるマトリックス変化の影響を受ける物質を含み得るか又はその感光性マトリックス、即ちその物質からなり得る。指示染料物質は、感光性マトリックスに組み込まれ得る。
【0082】
負のフォトクロミック効果を得るために少なくとも1つの指示染料物質を有する感光性マトリックスを使用することの主な利点は、眼鏡レンズ及びその製造の特定のニーズに鑑みてマトリックスの性質を調整できることである。即ち、マトリックスの性質は、例えば、眼鏡レンズ基板の表面に良好に付着することができるように調整し得る。更に、マトリックスは、洗浄、研磨、スピニング、更なるコーティング等の製造プロセスに関連するダメージに対する耐性をよりよくするように変更し得る。
【0083】
第2の態様では、本発明は、更なる眼鏡レンズを提供する。眼鏡レンズは、負のフォトクロミック性を示す組成物を含む。負のフォトクロミック性を示す組成物は、少なくとも1つの指示染料物質、即ちフィルタスペクトルが、巨視的に負のフォトクロミズムを観測することができるようにUV及び/又はVIS範囲内の照明によって誘導されるマトリックス変化の影響を受ける物質を有する感光性マトリックスを含む。指示染料物質は、感光性マトリックスに組み込まれ得る。
【0084】
負のフォトクロミック効果を得るために少なくとも1つの指示染料物質を有する感光性マトリックスを使用することの主な利点は、眼鏡レンズ及びその製造の特定のニーズに鑑みてマトリックスの性質を調整できることである。即ち、マトリックスの性質は、例えば、眼鏡レンズ基板の表面に良好に付着することができるように調整し得る。更に、マトリックスは、洗浄、研磨、スピニング、更なるコーティング等の製造プロセスに関連するダメージに対する耐性をよりよくするように変更し得る。
【0085】
負のフォトクロミック性を示す組成物は、染料物質及び/又は正のフォトクロミック組成物のみを含む従来の眼鏡レンズと比較して、UV及び/又はVIS範囲内の異なる照明条件下で色シフト、色安定化、コントラスト適応等の取得可能な視覚効果を拡大できるようにする。したがって、本眼鏡レンズでは、眼鏡レンズの吸収スペクトルを装用者の個々のニーズに向けてよりよくカスタマイズすることができる。
【0086】
具体的には、負のフォトクロミック性を示す組成物は、UV及び/又はVIS範囲の照明時に明度を変化させずに又は略変化させずに色シフトを可能にし得る。明度は、例えば、L色空間のLパラメータを観測することによって検出することができる。換言すれば、L色空間のaパラメータ及びbパラメータは、Lパラメータを変えることなく又は略変えることなく、異なるUV放射条件下で変更することができる。
【0087】
例えば、オフィス等の内部空間では、負のフォトクロミック性を示す組成物を使用して、眼鏡レンズがブルーライトを吸収すること、即ち眼鏡レンズが黄色がかって見え得ることが望ましい場合がある。しかしながら、光状況がUV放射線を含む屋外の日光状況に起因して変わる場合、例えば眼鏡レンズを装用した装用者がオフィスから出て、オフィスビル外に出ていく場合、UV放射線への露出に起因して眼鏡レンズの吸収スペクトルは変化することになり、ブルーライトの吸収低下に繋がり、即ち、眼鏡レンズは、黄色がかるのではなく、無色に見える。
【0088】
本発明の第1又は第2の態様による眼鏡レンズの特定の発展形態では、負のフォトクロミック性を示す組成物は、少なくとも1つの負のフォトクロミック物質を含み得る。
【0089】
換言すれば、負のフォトクロミック性を示す組成物は、1つ又は複数の負のフォトクロミック物質を含み得るか又はそれからなり得る。負のフォトクロミック物質による負のフォトクロミック性の実現には、最も単純な場合、1つのみの物質、即ち1つの負のフォトクロミック物質のみでよいため、実施が簡単で実用的であるという利点がある。
【0090】
例えば、少なくとも1つの負のフォトクロミック物質は、負のフォトクロミック物質及び組成物についての具体例に関して背景セクションで挙げられた引用文献に開示されているような物質であり得る。
【0091】
換言すれば、言及された物質の1つ又は複数は、負のフォトクロミック性を示す組成物として使用することができる。
【0092】
本発明の第1又は第2の態様による眼鏡レンズの更なる特定の発展形態では、眼鏡レンズは、眼鏡レンズ基板を含み得、負のフォトクロミック性を示す組成物は、眼鏡レンズ基板の表面上に配置され得る。
【0093】
例えば、負のフォトクロミック性を示す組成物は、眼鏡レンズ基板の1つ又は複数の表面、例えばその前面及び/又は後面のコーティングとして存在し得る。特に、負のフォトクロミック性を示す組成物は、少なくとも、眼鏡レンズ基板の前面上に配置することができる。これにより、UV及び/又はVIS範囲内の照明によって誘導される効果を、UV放射線が眼鏡レンズ基板を透過しないようにするUV吸収剤を含む眼鏡レンズ基板が含む場合でも生じさせることができる。
【0094】
負のフォトクロミック性を示す組成物は、眼鏡レンズ基板の表面に直接コーティングされ得、即ち、眼鏡レンズ基板の材料と直接接触して配置され得るか又は眼鏡レンズ基板の材料と、負のフォトクロミック性を示す組成物を含むか又はそれからなるコーティングとの間に1つ又は複数の他のコーティングが存在し得る。いずれの場合にも、眼鏡レンズ基板から見た場合、上に反射防止コーティング、ハードコート等の負のフォトクロミック性を示す組成物を含むか又はそれからなる1つ又は複数の追加のコーティングが配置され得る。
【0095】
負のフォトクロミック性を示す組成物を眼鏡レンズ基板の表面に直接接触して配置することは、コーティングの付着及び耐久性を向上させ得る。
【0096】
負のフォトクロミック性を示す組成物を眼鏡レンズ基板の表面上に配置することには、例えば、既知のコーティング手順を使用することができるため、実施が簡単で実用的であるという利点がある。更に、これにより、眼鏡レンズ基板の光学的構造を事前に実現することが可能になり、即ち負のフォトクロミック性を示す組成物でのコーティングに半完成レンズブランク又は完成レンズブランクを使用することができる。したがって、いくつかの同一の半完成レンズブランク又は完成レンズブランクを同時に生産し、後の段階において、例えば負のフォトクロミック性を示す異なる組成物で別様にコーティングすることができる。
【0097】
眼鏡レンズ基板の表面に負のフォトクロミック性を示す組成物を配置することに代えて又は加えて、負のフォトクロミック性を示す組成物は、眼鏡レンズ基板に組み込まれ得る。
【0098】
そのような組み込みは、例えば、拡散プロセスによって得ることができる。例えば、負のフォトクロミック性を示す組成物を含む浴中に眼鏡レンズ基板を浸漬し得、それにより負のフォトクロミック物質を示す組成物を基板材料中に拡散させることができる。
【0099】
コーティングと比較して、基板への組み込みは、機械的安定性に関して有利であり得る。
【0100】
本発明の第1又は第2の態様による眼鏡レンズの更なる特定の発展形態では、眼鏡レンズは、染料物質を含み得る。例えば、染料物質は、1つの状態のみを示す非プロトン化可能な染料物質であり得、UV及び/又はVIS範囲の照明時に吸収スペクトルを変えることが可能ではない。
【0101】
例えば、眼鏡レンズは、負のフォトクロミック性を示す組成物と、染料物質とを含み得るが、正のフォトクロミック性を示す組成物を含まないか、又は眼鏡レンズは、負のフォトクロミック性を示す組成物と、染料物質と、正のフォトクロミック性を示す組成物とを含み得る。
【0102】
適した染料物質は、例えば、Dianix Yellow AM-42、Serilene Scarlet G-LS、Dianix Turquoise S-BG、Terasil Blue 3 RL-01、Teratop Blue GLF、Dorospers Red KKR、Teratop Pink 3G、Dianix Orange S-G及びCRX粉末染料、例えば蛍光イエロー5944、レモンイエロー8043、ゴールドイエロー3441、オレンジ5945、オレンジ3439、スカーレット3443、レッド8153、ピンク3442、フクシャ8168、パープル3735、モーブ3449、オーベルジーヌ8169、ブルー3437、ナイト3438、ブルー5770、スカイ8170、アニスグリーン6755、グリーン3450、グリーン3467、ダークグリーン8171、オークル8172、ブラウンピンク3466、オリーブブラウン3446、スモーク3447、ブラウン6785、ニュートラルグレー3444、アイアングレー8173、グレーブルー3445、グレーグリーン5661、ブラック5894である。
【0103】
眼鏡レンズが染料物質を更に含む場合、染料物質及び/又は正のフォトクロミック組成物のみを含む従来の眼鏡レンズと比較して、更に多くの異なる視覚効果を得ることができる。
【0104】
第3の態様では、本発明は、眼鏡レンズを製造する方法を提供する。方法は、以下の方法ステップを含む:眼鏡レンズ基板を提供するステップ;負のフォトクロミック性を示す組成物を眼鏡レンズ基板の表面上に配置し、且つ/又は負のフォトクロミック性を示す組成物を眼鏡レンズ基板に組み込むステップ;及び正のフォトクロミック性を示す組成物を眼鏡レンズ基板の表面上に配置及び/又は正のフォトクロミック性を示す組成物を眼鏡レンズ基板に組み込むステップ。
【0105】
負のフォトクロミック性を示す組成物及び/又は正のフォトクロミック性を示す組成物を眼鏡レンズ基板の表面上に配置することは、スピンコーティング、ディップコーティング、スプレーコーティング、インクジェット印刷等のコーティング手順によって達成され得る。眼鏡レンズ基板への組み込みは、例えば、負のフォトクロミック性を示す組成物及び/又は正のフォトクロミック性を示す組成物の物理的な取り込みに繋がり得る拡散プロセス、例えば吸収又は眼鏡レンズ基板の材料への化学結合によって適宜達成され得る。
【0106】
例示的には、上述したような本発明の第1の態様による眼鏡レンズ、即ち負のフォトクロミック性を示す組成物及び正のフォトクロミック性を示す組成物を含む眼鏡レンズを製造するために本製造方法を使用することができる。したがって、具体例及び正のフォトクロミック性を示す組成物及び/又は染料物質との組合せを含む、負のフォトクロミック性を示す組成物の説明は、本製造方法にも等しく該当する。したがって、眼鏡レンズを参照して上述した利点は、製造方法に関連する。
【0107】
例えば、負のフォトクロミック性を示す組成物及び正のフォトクロミック性を示す組成物は、眼鏡レンズ基板の表面に互いに横方向に隣接して配置することができる。負のフォトクロミック性を示す組成物及び正のフォトクロミック性を示す組成物は、例えば、液滴として横並びに配置され得るか又は例えば層ごとに重ねられた構造として積層され得る。
【0108】
本発明の第3の態様による方法の特定の発展形態では、負のフォトクロミック性を示す組成物は、少なくとも1つの指示染料物質を有する感光性マトリックスを含み得る。
【0109】
第4の態様では、本発明は、眼鏡レンズを製造する更なる方法を提供する。方法は、以下の方法ステップを含む:眼鏡レンズ基板を提供するステップ及び負のフォトクロミック性を示す組成物を眼鏡レンズ基板の表面上に配置し、且つ/又は負のフォトクロミック性を示す組成物を眼鏡レンズ基板に組み込むステップ。負のフォトクロミック性を示す組成物は、少なくとも1つの指示染料物質を有する感光性マトリックスを含む。
【0110】
負のフォトクロミック性を示す組成物を眼鏡レンズ基板の表面上に配置することは、スピンコーティング、ディップコーティング、スプレーコーティング、インクジェット印刷等のコーティング手順によって達成され得る。眼鏡レンズ基板への組み込みは、例えば、拡散プロセス、例えば負のフォトクロミック性を示す組成物の物理的な取り込みに繋がり得る拡散プロセス、例えば吸収又は眼鏡レンズ基板の材料への化学結合によって適宜達成され得る。
【0111】
例示的には、上述したような本発明の第2の態様による眼鏡レンズ、即ち少なくとも1つの指示染料物質を有する感光性マトリックスを含む、負のフォトクロミック性を示す組成物を含む眼鏡レンズを製造するために本製造方法を使用することができる。したがって、具体例及び正のフォトクロミック性を示す組成物及び/又は染料物質との組合せを含む、負のフォトクロミック性を示す組成物の説明は、本製造方法にも等しく該当する。したがって、眼鏡レンズを参照して上述した利点は、製造方法に関連する。
【0112】
本発明の第3又は第4の態様による方法の特定の発展形態では、例えばインクジェット印刷プロセスを使用して、負のフォトクロミック性を示す組成物及び/又は正のフォトクロミック性を示す組成物眼鏡レンズ基板の表面に印刷することができる。負のフォトクロミック性を示す組成物又は正のフォトクロミック性を示す組成物を含むインク滴の典型的な容量は、それぞれ3~50ピコリットル等の数ピコリットルであり得る。
【0113】
負のフォトクロミック性を示す組成物及び正のフォトクロミック性を示す組成物の一方又は両方は、純粋に溶液、分散液等として使用することができる。
【0114】
本発明の更なる特徴、性質及び利点は、添付図面と併せた実施形態の以下の説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0115】
図1】眼鏡レンズを有する眼鏡の例示的な一実施形態を正面図で示す。
図2a】特許請求の範囲の表現に包含されないが、本発明を理解する上で有用であると見なされる例示的な眼鏡レンズを側面図で示す。
図2b】眼鏡レンズの例示的な実施形態を側面図で示す。
図2c】眼鏡レンズの例示的な実施形態を側面図で示す。
図2d】眼鏡レンズの例示的な実施形態を側面図で示す。
図2e】眼鏡レンズの例示的な実施形態を側面図で示す。
図3】活性状態及び非活性状態での現行の技術水準によるクリア眼鏡レンズ(サンプルA)及びフォトクロミック眼鏡レンズ(サンプルB)のUV-VIS吸収スペクトルを示す。
図4】活性状態及び非活性状態での本発明の一実施形態によるフォトクロミック眼鏡レンズ(サンプルC)のUV-VIS吸収スペクトルを示す。
図5】活性状態及び非活性状態での本発明の更なる実施形態によるフォトクロミック眼鏡レンズ(サンプルD)のUV-VIS吸収スペクトルを示す。
図6】活性状態及び非活性状態での本発明の更なる実施形態によるフォトクロミック眼鏡レンズ(サンプルE)のUV-VIS吸収スペクトルを示す。
図7】活性状態及び非活性状態での本発明の更なる実施形態によるフォトクロミック眼鏡レンズ(サンプルF)のUV-VIS吸収スペクトルを示す。
図8】眼鏡レンズB~Fの色変化と明度変化との間の関係を示す。
図9】眼鏡レンズを製造する方法の例示的な一実施形態を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0116】
本眼鏡レンズの例示的な実施形態について図1図9に関して説明する。例示的な実施形態の眼鏡レンズ1は、それぞれ負のフォトクロミック性を示す組成物2を含む。
【0117】
図1は、装用者の右眼のために1枚、左眼のために1枚、2枚の単一視眼鏡レンズ1を有する眼鏡100を示す。2枚の眼鏡レンズ1は、眼鏡フレーム101に取り付けられ、眼鏡フレーム101のブリッジ102で隔てられる。眼鏡レンズ1は、装用者のニーズに従ってゼロ、プラス又はマイナスのレンズであり得る。
【0118】
図2a~図2eは、図1に示されるように眼鏡100に組み込まれ得る眼鏡レンズ1の異なる実施形態を示す。
【0119】
図2aによる第1の実施形態(特許請求の範囲の趣旨に包含されない)では、眼鏡レンズ1は、例えば、例えばポリマー材料で作られた眼鏡レンズ基板6を含む。眼鏡レンズ基板6は、眼鏡レンズ1が装用者の眼の前方に装用されているときの装用者の眼10の位置に応じて定義される前面7a及び後面7bを有する。しかしながら、別記されない限り、前面7aの表面変更は、後面7bの変更に変えることができ、逆も同様である。
【0120】
眼鏡レンズ基板6の前面7aにおいて、負のフォトクロミック性を示す組成物2は、例えば、別個の液滴の形態又は連続層の形態で配置される。負のフォトクロミック性は負のフォトクロミック物質3によって得られ、即ち、負のフォトクロミック性を示す組成物2及び負のフォトクロミック物質3は、同一である。負のフォトクロミック性を示す組成物2は、前面7aの全体を覆い得るか又はその一部のみを覆い得る。
【0121】
更に、1つ又は複数の追加のコーティング(図示せず)、例えば反射防止コーティング及び/又はハードコートを塗布することも可能である。そのような追加のコーティングは、表面7a、7bと負のフォトクロミック性を示す組成物2との間又は負のフォトクロミック性を示す組成物2の上に配置することができる。
【0122】
図2bは、眼鏡レンズ1の別の実施形態を示す。図2aに関して説明した実施形態とは対照的に、負のフォトクロミック性を示す組成物2は、負のフォトクロミック物質3を含まず、代わりに指示染料物質11を有する感光性マトリックス4を含む。
【0123】
図2cは、眼鏡レンズ1の別の実施形態を示す。正のフォトクロミック性を示す組成物8は、前面7aに更に配置される。正のフォトクロミック性を示す組成物8は、正のフォトクロミック物質5からなる。
【0124】
負のフォトクロミック性を示す組成物2及び正のフォトクロミック性を示す組成物8は、負のフォトクロミック性を示す組成物2及び正のフォトクロミック性を示す組成物8の液滴を同じ平面において交互に堆積させることにより、例えばインクジェット印刷により、眼鏡レンズ基板6の表面7に互いに歩行方向に隣接して配置される。したがって、負のフォトクロミック性を示す組成物2及び正のフォトクロミック性を示す組成物8の性質の両方を使用して、互いに影響を及ぼすことなく、眼鏡レンズ1の光学特性を変更することができる。
【0125】
図2dは、眼鏡レンズ1の別の実施形態を示す。ここで、図2aに関して説明した実施形態と比べて、正のフォトクロミック性を示す組成物8は、前面7aに更に配置される。正のフォトクロミック性を示す組成物8は、正のフォトクロミック物質5からなる。
【0126】
負のフォトクロミック性を示す組成物2及び正のフォトクロミック性を示す組成物8は、眼鏡レンズ基板6の表面7上に積層として配置される。図2dでは、負のフォトクロミック性を示す組成物2を含む層は、前面7aに直接配置される一方、正のフォトクロミック性を示す組成物8は、負のフォトクロミック性を示す組成物2を含む層の上の層として配置される。しかしながら、順序は変更可能であり、即ち、正のフォトクロミック性を示す組成物8を含む層が、前面7aに直接配置され得る一方、負のフォトクロミック性を示す組成物2は、正のフォトクロミック性を示す組成物8を含む層の上の層として配置され得る。層として堆積により、従来のコーティング手順を採用することが可能になり、したがって実施が容易である。
【0127】
図2eは、眼鏡レンズ1の別の実施形態を示す。図2aに関して説明した実施形態とは対照的に、眼鏡レンズ基板6は、眼鏡レンズ1の永久的な色合いに繋がる染料物質9を含む。図2eに示されるように染料物質9を含む眼鏡レンズ基板6が、同じように図2b及び図2cに関して説明した実施形態と組合せ得ることに留意されたい。
【0128】
本眼鏡レンズ1によって取得可能な光学効果について、図3図8を参照して以下で説明し、図3は、現行技術水準による従来の眼鏡レンズ1の光学特性を示し、図4図8は、例えば、例えば図2a~図2eに示されるように、本眼鏡レンズ1の光学特性を示す。図4図8におけるUV-VISスペクトルは、nm単位の波長への割合単位での透過率の依存性、即ちD65光源を用いて照明したとき、眼鏡レンズを通して装用者によって知覚される明度及び観測される対象物の色に影響を及ぼす可視範囲での透過率を示す。
【0129】
図3は、比較のために、いかなるコーティングもないクリアな眼鏡レンズ(サンプルA)のUV-VIS吸収スペクトル(「A状態1」と記されたスペクトル)を示す。「UVエッジ」、即ち概ね400nmにおける透過率の急な低下は、眼鏡レンズ基板に含まれるUV吸収剤によるものである。UV-VIS範囲での照明では、スペクトルの変化は生じない。
【0130】
更に、図3は、現行技術水準による眼鏡レンズ、即ちグレーのZeiss PhotoFusionの眼鏡レンズ(サンプルB)、即ち正のフォトクロミック効果を示すコーティングを有する眼鏡レンズの、2つの異なる活性状態(状態1及び状態2)における、即ちUV-VIS範囲の照明の時間を増大したUV-VIS吸収スペクトルを示す。「B状態1」と記されたスペクトルは、わずかに暗くした状態における、即ちUV-VIS範囲の照明から短時間後のUV-VIS吸収スペクトルに対応する。「B状態2」と記されたスペクトルは、より暗くなった状態における、即ちUV-VIS範囲の照明から長時間後のUV-VIS吸収スペクトルに対応する。概ね400nmにおける「UVエッジ」は、コーティングのフォトクロミック組成物のUV吸収と、眼鏡レンズ物質に含まれるUV吸収剤とによるものである。図3から結論付けることができるように、UV露出は吸収ピークの同時増大に繋がり、即ち、吸収は、可視スペクトル範囲の略全体を通して強化され、それに対応した光透過率の低下に繋がる。
【0131】
表1は、サンプルBのL色空間の対応するL値並びにパラメータ「x」、「y」及び「LTM」と略された光透過率の全体像を与える。パラメータ「L」は、知覚される明度に対応し、パラメータ「a」は、青黄軸に対応し、パラメータ「b」は、赤緑軸に対応する。パラメータ「x」及び「y」は、CIE1931色空間の色度座標である。
【0132】
【表1】
【0133】
Zeiss PhotoFusion眼鏡レンズ(既に部分的に活性化されている)を活性化すると、光透過率は73.59%から31.03%に低下する。VIS範囲(コーティングは異なるフォトクロミック物質の混合物を含む)における吸収帯域の最大は、概ね580nm及び465nmである。フォトクロミック物質が活性化すると、透過率はVIS範囲全体で低下する。Lパラメータ値は88.73から62.53に低下する(知覚される光度)。aパラメータ値は-1.11から-0.06に変化し、これは、赤に向かう色のごくわずかなシフトに対応する。bパラメータ値は-0.11から-7.96に変化し、これは、黄色から青に向かう色の明らかに知覚可能なシフトに対応する。
【0134】
図4は、本発明の第1の実施形態による眼鏡レンズ1、即ち負のフォトクロミック性を示す組成物2を含むコーティングを有する眼鏡レンズ1(サンプルC)のシミュレートされたUV-VIS吸収スペクトルを示す。ここで、負のフォトクロミック性を示す組成物2は、以下の化学式(1)を有する1,1’-ビナフチル架橋型フェノキシル-イミダゾリルラジカル錯体である。
【化1】
【0135】
サンプルCの透過スペクトルは、YAMAGUCHI,T.et al.Fast Negative Photochromism of 1,1’-Binaphthyl-Bridged Phenoxyl-Imidazolyl Radical Complex,J.Am.Chem.Soc.2016 138(3),906-913の図2aの左及び中央を使用することによって導出された。開示されるスペクトルは、2mmのコーティングなしクリア眼鏡レンズ(サンプルA)のUV-VISフィルタスペクトルで乗じて、サンプルCの透過スペクトルを取得した。
【0136】
「C状態1」と記されたスペクトルは、非活性状態、即ちUV-VIS範囲の照明による活性化なしでのUV-VIS吸収スペクトルに対応する。負のフォトクロミズムに起因して、この非活性状態は「暗」又は「黄色がかった」状態に対応する。
【0137】
「C状態2」と記されたスペクトルは、活性状態、即ちUV-VIS範囲の照明後のUV-VIS吸収スペクトルに対応する。負のフォトクロミズムに起因して、この活性状態は「無色」状態に対応する。概ね400nmにおける「UVエッジ」は、恐らくはコーティングのUV吸収及びレンズに含まれるUV吸収剤によって生じる。
【0138】
表2は、サンプルCのL色空間の対応するL値並びにパラメータ「x」、「y」及び光透過率「LTM」の全体像を与える。
【0139】
【表2】
【0140】
サンプルCの活性状態では、光透過率は89.87%である。非活性状態では、光透過率は86.25%にごくわずか低下する。この理由は、概ね460nmに吸収最大を有する顕著な吸収帯域の存在である。これはちょうど、人間が青として知覚するスペクトルが始まる部分である。これは、aパラメータ値が活性状態での-0.29(青黄軸上で略無色)から非活性状態での-18.32(極端な黄色)に変化する理由である。
【0141】
図5は、本発明の更なる実施形態による眼鏡レンズ1、即ち負のフォトクロミック性を示す組成物2を含むコーティングを有する眼鏡レンズ1(サンプルD)のシミュレートされたUV-VIS吸収スペクトルを示す。ここで、負のフォトクロミック性を示す組成物2は、以下の化学式(2)を有するブルーシアニン染料である。
【化2】
【0142】
サンプルDの透過スペクトルは、NEMOTO,K.et al.Negative photochromism of a blue cyanine dye,Chem.Commun.,2020,56,15205-15207における図2bから導出した。開示されるスペクトルは300nmに縮小され、2mmのコーティングされていないクリア眼鏡レンズ(サンプルA)のUV-VISフィルタスペクトルで乗じて、サンプルDの透過スペクトルを取得した。
【0143】
「D状態1」と記されたスペクトルは、非活性状態、即ちUV-VIS範囲の照明による活性化なしでのUV-VIS吸収スペクトルに対応する。負のフォトクロミズムに起因して、この非活性状態は「暗」又は「黄色がかった」状態に対応する。
【0144】
「D状態2」と記されたスペクトルは、活性状態、即ちUV-VIS範囲の照明後のUV-VIS吸収スペクトルに対応する。負のフォトクロミズムに起因して、この活性状態は「明るい」又は「無色」状態に対応する。概ね400nmにおける「UVエッジ」は、恐らくはコーティングのUV吸収及びレンズに含まれるUV吸収剤によって生じる。
【0145】
表3は、サンプルDのL色空間の対応するL値並びにパラメータ「x」、「y」及び光透過率「LTM」の全体像を与える。
【0146】
【表3】
【0147】
非活性状態(状態1)では、580nmから660nmまで広い吸収最大が存在する。より明確に画定される吸収帯域が480nmにある。活性状態(状態2)では、1つの吸収帯域が480nmから概ね500nmにシフトする。同時に、第2の吸収帯域が580nmから660nmの範囲で低下する。
【0148】
非活性状態から活性状態への遷移中、以下が生じる:光透過率は13.76%から29.09%に増加し、Lパラメータ値も43.93から60.84に増加する。aパラメータ値は-24.86から6.79に増加し、これは、緑から赤へのカラーシフトに対応する。bパラメータ値は-33.57から-19.66に変化し、これは青から黄へのカラーシフトに対応する。
【0149】
図6は、本発明の更なる実施形態による眼鏡レンズ1(サンプルE)のシミュレートされたUV-VIS吸収スペクトルを示す。眼鏡レンズ1(サンプルE)は、眼鏡レンズ基板6の前面7aに互いに横方向に隣接して配置される負のフォトクロミック性を示す組成物2(コーティングI)及び正のフォトクロミック性を示す組成物8(コーティングII)を含むいくつかのコーティングを有する。
【0150】
透過スペクトルは、線形結合によって計算した。
透過スペクトル=(コーティングI共有面積コーティングIを有する眼鏡レンズの透過スペクトル)+コーティングII共有面積コーティングIIを有する眼鏡レンズの透過スペクトル)
【0151】
サンプルEのUV-VIS吸収スペクトルのシミュレーションでは、コーティングI及びIIの各々で面積共有率50%を使用した。コーティングIを有する眼鏡レンズ1の透過スペクトルは、YAMAGUCHI,T.et al.Fast Negative Photochromism of 1,1’-Binaphthyl-Bridged Phenoxyl-Imidazolyl Radical Complex,J.Am.Chem.Soc.2016 138(3),906-913の図2aの左及び中央を使用して導出された。開示されるスペクトルは、2mmのコーティングなしクリア眼鏡レンズ(サンプルA)のUV-VISフィルタスペクトルで乗じて、コーティングIを有する眼鏡レンズIの透過スペクトルを取得した。
【0152】
コーティングIIを有する眼鏡レンズの透過スペクトルは、サンプルB、即ちグレーのZeiss PhotoFusion眼鏡レンズのスペクトルである。
【0153】
「E状態1」と記されたスペクトルは、略非活性状態、即ちUV-VIS範囲の照明による活性化なしでのUV-VIS吸収スペクトルに対応する。「E状態2」と記されたスペクトルは、活性状態、即ちUV-VIS範囲の照明後のUV-VIS吸収スペクトルに対応する。
【0154】
表4は、サンプルEのL色空間の対応するL値並びにパラメータ「x」、「y」及び光透過率「LTM」の全体像を与える。
【0155】
【表4】
【0156】
活性化されると、光透過率は79.92%から60.45%に低下する。くわえて、Lパラメータ値は91.65から82.08に増加する。眼鏡レンズ1は、a及びbパラメータ値に関する極端な変化を示す:aは-10.01から-0.20に増加し(赤に向かうシフト)、bは26.64から-1.82に低下する(青に向かうシフト)。これは、サンプルEの光透過率が、活性化されたとき、通常のフォトクロミックレンズのように挙動することを意味する。したがって、光透過率は、活性化すると低下する。しかしながら、透過率はある波長範囲、即ち380nm~470nmで増加し、別の波長範囲、即ち470nm~780nmで低下するため、カラーシフトがはるかに大きい。
【0157】
図7は、本発明の更なる実施形態による眼鏡レンズ1(サンプルF)のシミュレートされたUV-VIS吸収スペクトルを示す。眼鏡レンズ1(サンプルF)は、眼鏡レンズ基板6の前面7aに互いに横方向に隣接して配置される負のフォトクロミック性を示す組成物2(コーティングI)及び正のフォトクロミック性を示す組成物8(コーティングII)を含むいくつかのコーティングを有する。
【0158】
透過スペクトルは、線形結合によって計算した。
透過スペクトル=(コーティングI共有面積コーティングIを有する眼鏡レンズの透過スペクトル)+コーティングII共有面積コーティングIIを有する眼鏡レンズの透過スペクトル)
【0159】
サンプルEのUV-VIS吸収スペクトルのシミュレーションでは、コーティングI及びIIの各々で面積共有率50%を使用した。コーティングIを有する眼鏡レンズ1の透過スペクトルは、NEMOTO,K.et al.Negative photochromism of a blue cyanine dye,Chem.Commun.,2020,56,15205-15207の図2bから導出された。開示されるスペクトルは、2mmのコーティングなしクリア眼鏡レンズ(サンプルA)のUV-VISフィルタスペクトルで乗じて、コーティングIを有する眼鏡レンズIの透過スペクトルを取得した。
【0160】
コーティングIIを有する眼鏡レンズの透過スペクトルは、サンプルB、即ちグレーのZeiss PhotoFusion眼鏡レンズのスペクトルである。
【0161】
「F状態1」と記されたスペクトルは、略非活性状態、即ちUV-VIS範囲の照明による活性化なしでのUV-VIS吸収スペクトルに対応する。「F状態2」と記されたスペクトルは、活性状態、即ちUV-VIS範囲の照明後のUV-VIS吸収スペクトルに対応する。
【0162】
表5は、サンプルFのL色空間の対応するL値並びにパラメータ「x」、「y」及び光透過率「LTM」の全体像を与える。
【0163】
【表5】
【0164】
活性化されると、光透過率は低下する。Lパラメータ値も低下する。aパラメータ値は増加し(赤に向かうシフト)、bパラメータ値は低下する(青に向かうシフト)。サンプルEとは対照的に、ここでは、両状態で逆に挙動する帯域(即ち、一方が成長し、他方が縮小する)は、存在しない。
【0165】
サンプルD~Fは、示唆された眼鏡レンズ1が、眼鏡レンズ1を通して装用者によって観測される対象物の視覚的印象の多種多様な変更を提供する。例えば、カラーシフト及び光度は、負のフォトクロミック性を示す組成物2を適用することにより、装用者の特定のニーズ又は眼鏡レンズ1の特定の用途に合わせることができる。サンプルE及びFでのような正のフォトクロミック性を示す組成物8の追加の適用により、更なる変更が可能である。そのような組成物の割合を変え及び/又はいくつかの負又は正のフォトクロミック性を示す組成物2、8を適用することにより、更なる視覚効果を得ることができる。
【0166】
図8は、サンプルB~Fの眼鏡レンズの色変化と光度変化との関係を示す。x軸は、人間の眼が受け取る2つのスペクトル間の定量的色差を特定するための公式に基づく2つの異なるスペクトル間の色距離であるdeCMC2:1の値を示す(より詳細な情報については、2021年9月9日付けでダウンロードされたhttp://www.brucelindbloom.com/index.html?Eqn_DeltaE_CMC.htmlを参照されたい)。y軸は、各サンプルの活性状態と非活性状態との間の光度差(Lパラメータ値)であるdLの値を示す。
【0167】
現行技術水準を表すサンプルBでは、光度は、極端に変化し、カラーシフトが比較的小さい。他方、サンプルCは、光度がほとんど変わらないが、カラーシフト(無色から黄)が非常に大きい。サンプルDは、明化及び中程度のカラーシフトを示す。サンプルEは、大きいカラーシフト及び小さい光度変化を示す。
【0168】
図9は、眼鏡レンズ1、例えば図2a~図2eを参照して説明された眼鏡レンズ1の1つを製造する方法200の例示的な実施形態のフローチャートを示す。
【0169】
第1の方法ステップS1では、眼鏡レンズ基板6が提供される。眼鏡レンズ基板6は、ポリマーレンズ材料を含み、例えば、レンズ材料は、屈折率1.50、1.60又は1.67を有するポリ(アリルジグリコールカーボネート)又はポリ(チオウレタン)である。方法200は、眼鏡レンズ基板6の表面7a、7b上にいかなる特定のコーティング又は材料も必要としない。しかしながら、表面7a、7bは、次の方法ステップに先立ち、一般的なクリーニング方法でクリーニングされ得る。
【0170】
必要に応じて、眼鏡レンズ基板6は、染料物質9を含み得、染料物質9は、従来の着色プロセスにより、例えば着色浴中に眼鏡レンズ基板6を浸漬させることにより、ポリマーレンズ材料に組み込むことができる。
【0171】
方法ステップS2及びS3では、負のフォトクロミック性を示す組成物2及び正のフォトクロミック性を示す組成物8は、それぞれ眼鏡レンズ基板6の表面7、例えば前面7aに配置される。負のフォトクロミック性を示す組成物2は負のフォトクロミック物質3を含み、正のフォトクロミック性を示す組成物8は正のフォトクロミック物質5を含む。物質3、6は両方とも、インクジェット印刷によって前面7aに印刷され、即ち両物質3、6の液滴又は両物質3、6の溶液若しくは分散液の液滴が互いに横方向に隣接して前面7aに堆積する。したがって、両物質3、6を含む層が形成される。
【0172】
必要に応じて、負のフォトクロミック物質3及び正のフォトクロミック物質5を含む層の上に反射防止コーティング及び/又はハードコート等の追加の層を配置することができる。
【0173】
インクジェット印刷の代替として、負のフォトクロミック性を示す組成物2及び正のフォトクロミック性を示す組成物8は、図2dに示されるように、前面7a上の個々の積層として配置され得る。
【0174】
本発明の好ましい特徴は、以下である。
【0175】
1.眼鏡レンズであって、負のフォトクロミック性を示す組成物と、正のフォトクロミック性を示す組成物とを含む眼鏡レンズ。
【0176】
2.負のフォトクロミック性を示す組成物は、少なくとも1つの負のフォトクロミック物質を含む、節1に記載の眼鏡レンズ。
【0177】
3.負のフォトクロミック性を示す組成物は、少なくとも1つの指示染料物質を有する感光性マトリックスを含む、節1又は2に記載の眼鏡レンズ。
【0178】
4.眼鏡レンズは、眼鏡レンズ物質を含む、節1~3のいずれか1つに記載の眼鏡レンズ。
【0179】
5.負のフォトクロミック性を示す組成物は、眼鏡レンズ基板の表面上に配置される、節4に記載の眼鏡レンズ。
【0180】
6.負のフォトクロミック性を示す組成物は、眼鏡レンズ基板の表面に直接接触して配置される、節5に記載の眼鏡レンズ。
【0181】
7.表面は、眼鏡レンズ基板の少なくとも前面である、節5又は6に記載の眼鏡レンズ。
【0182】
8.負のフォトクロミック性を示す組成物は、眼鏡レンズ基板に組み込まれる、節4~7のいずれか1つに記載の眼鏡レンズ。
【0183】
9.正のフォトクロミック性を示す組成物は、少なくとも1つの正のフォトクロミック物質を含む、節1~8のいずれか1つに記載の眼鏡レンズ。
【0184】
10.正のフォトクロミック性を示す組成物は、眼鏡レンズ基板の表面上に配置される、節4~9のいずれか1つに記載の眼鏡レンズ。
【0185】
11.負のフォトクロミック性を示す組成物及び正のフォトクロミック性を示す組成物は、眼鏡レンズ基板の表面上に配置される、節10に記載の眼鏡レンズ。
【0186】
12.負のフォトクロミック性を示す組成物及び正のフォトクロミック性を示す組成物は、眼鏡レンズ基板の表面上に互いに横方向に隣接して配置される、節11に記載の眼鏡レンズ。
【0187】
13.負のフォトクロミック性を示す組成物及び正のフォトクロミック性を示す組成物は、眼鏡レンズ基板の表面に直接接触して配置される、節11又は12に記載の眼鏡レンズ。
【0188】
14.表面は、眼鏡レンズ基板の少なくとも前面である、節10~13のいずれか一項に記載の眼鏡レンズ。
【0189】
15.負のフォトクロミック性を示す組成物及び正のフォトクロミック性を示す組成物は、積層構造で配置される、節1~11及び14のいずれか一項に記載の眼鏡レンズ。
【0190】
16.正のフォトクロミック性を示す組成物は、眼鏡レンズ基板に組み込まれる、節1~15のいずれか1つに記載の眼鏡レンズ。
【0191】
17.眼鏡レンズは、染料物質を含む、節1~16のいずれか1つに記載の眼鏡レンズ。
【0192】
18.染料物質は、非プロトン化可能物質である、節17に記載の眼鏡レンズ。
【0193】
19.負のフォトクロミック性を示す組成物は、アゾベンゼン、スピロピラン誘導体、ジヒドロピレン、ステンハウス塩、イミダゾリルラジカル錯体及びシアニン染料からなる群から選択される少なくとも1つであり、特にジヒドロピレン、1,1’-ビナフチル架橋型フェノキシル-イミダゾリルラジカル錯体及びブルーシアニン染料から選択される少なくとも1つである、節1~18のいずれか1つに記載の眼鏡レンズ。
【0194】
20.動的コントラスト適合のための、節1~19のいずれか1つに記載の眼鏡レンズの使用。
【0195】
21.眼鏡レンズを製造する方法であって、
- 眼鏡レンズ基板を提供するステップと、
- 負のフォトクロミック性を示す組成物を眼鏡レンズ基板の表面上に配置し、且つ/又は負のフォトクロミック性を示す組成物を眼鏡レンズ基板に組み込むステップと、
- 正のフォトクロミック性を示す組成物を眼鏡レンズ基板の表面上に配置及び/又は正のフォトクロミック性を示す組成物を眼鏡レンズ基板に組み込むステップと
を含む方法。
【0196】
22.負のフォトクロミック性を示す組成物は、眼鏡レンズ基板の表面上に配置される、節21に記載の方法。
【0197】
23.負のフォトクロミック性を示す組成物は、眼鏡レンズ基板の表面に直接接触して配置される、節22に記載の方法。
【0198】
24.表面は、眼鏡レンズ基板の前面である、節22又は23に記載の方法。
【0199】
25.正のフォトクロミック性を示す組成物は、眼鏡レンズ基板の表面上に配置される、節21~24のいずれか1つに記載の方法。
【0200】
26.負のフォトクロミック性を示す組成物及び正のフォトクロミック性を示す組成物は、眼鏡レンズ基板の表面上に配置される、節25に記載の方法。
【0201】
27.負のフォトクロミック性を示す組成物及び正のフォトクロミック性を示す組成物は、眼鏡レンズ基板の表面に互いに横方向に隣接して配置される、節26に記載の方法。
【0202】
28.負のフォトクロミック性を示す組成物及び正のフォトクロミック性を示す組成物は、眼鏡レンズ基板の表面に直接接触して配置される、節26又は27に記載の方法。
【0203】
29.負のフォトクロミック性を示す組成物及び/又は正のフォトクロミック性を示す組成物は、眼鏡レンズ基板の表面に印刷される、節21~28のいずれか1つに記載の方法。
【0204】
30.負のフォトクロミック性を示す組成物及び/又は正のフォトクロミック性を示す組成物は、インクジェット印刷プロセスによって印刷される、節29に記載の方法。
【0205】
31.- 負のフォトクロミック性を示す組成物及び/又は正のフォトクロミック性を示す組成物を眼鏡レンズ基板に組み込むステップを含む、節21~30のいずれか1つに記載の方法。
【0206】
32.拡散プロセスは、組み込みステップに使用される、節31に記載の方法。
【0207】
33.眼鏡レンズ基板は、負のフォトクロミック性を示す組成物及び/又は正のフォトクロミック性を示す組成物を含む浴中に浸漬され、負のフォトクロミック性を示す組成物及び/又は正のフォトクロミック性を示す組成物を拡散させる、節32に記載の方法。
【0208】
34.- 染料物質を眼鏡レンズ基板に組み込むステップを含む、節21~33のいずれか1つに記載の方法。
【0209】
35.負のフォトクロミック性を示す組成物は、少なくとも1つの指示染料物質を有する感光性マトリックスを含む、節21~34のいずれか1つに記載の方法。
【0210】
36.眼鏡レンズであって、負のフォトクロミック性を示す組成物を含み、負のフォトクロミック性を示す組成物は、少なくとも1つの指示染料物質を有する感光性マトリックスを含む、眼鏡レンズ。
【0211】
37.負のフォトクロミック性を示す組成物は、少なくとも1つの負のフォトクロミック物質を含む、節36に記載の眼鏡レンズ。
【0212】
38.眼鏡レンズは、眼鏡レンズ基板を含む、節36又は節37に記載の眼鏡レンズ。
【0213】
39.負のフォトクロミック性を示す組成物は、眼鏡レンズ基板の表面上に配置される、節38に記載の眼鏡レンズ。
【0214】
40.負のフォトクロミック性を示す組成物は、眼鏡レンズ基板の表面に直接接触して配置される、節39に記載の眼鏡レンズ。
【0215】
41.表面は、眼鏡レンズ基板の少なくとも前面である、節39又は40に記載の眼鏡レンズ。
【0216】
42.負のフォトクロミック性を示す組成物は、眼鏡レンズ基板に組み込まれる、節38~41のいずれか1つに記載の眼鏡レンズ。
【0217】
43.眼鏡レンズは、正のフォトクロミック性を示す組成物を含む、節36~42のいずれか1つに記載の眼鏡レンズ。
【0218】
44.正のフォトクロミック性を示す組成物は、少なくとも1つの正のフォトクロミック物質を含む、節43に記載の眼鏡レンズ。
【0219】
45.正のフォトクロミック性を示す組成物は、眼鏡レンズ基板の表面上に配置される、節43又は44に記載の眼鏡レンズ。
【0220】
46.負のフォトクロミック性を示す組成物及び正のフォトクロミック性を示す組成物は、眼鏡レンズ基板の表面上に配置される、節45に記載の眼鏡レンズ。
【0221】
47.負のフォトクロミック性を示す組成物及び正のフォトクロミック性を示す組成物は、眼鏡レンズ基板の表面上に互いに横方向に隣接して配置される、節46に記載の眼鏡レンズ。
【0222】
48.負のフォトクロミック性を示す組成物及び正のフォトクロミック性を示す組成物は、眼鏡レンズ基板の表面に直接接触して配置される、節46又は47に記載の眼鏡レンズ。
【0223】
49.表面は、眼鏡レンズ基板の少なくとも前面である、節45~48のいずれか1つに記載の眼鏡レンズ。
【0224】
50.負のフォトクロミック性を示す組成物及び正のフォトクロミック性を示す組成物は、積層構造で配置される、節43、44、45、46及び49のいずれか1つに記載の眼鏡レンズ。
【0225】
51.正のフォトクロミック性を示す組成物は、眼鏡レンズ基板に組み込まれる、節43~50のいずれか1つに記載の眼鏡レンズ。
【0226】
52.眼鏡レンズは、染料物質を含む、節36~51のいずれか1つに記載の眼鏡レンズ。
【0227】
53.染料物質は、非プロトン化可能物質である、節52に記載の眼鏡レンズ。
【0228】
54.負のフォトクロミック性を示す組成物は、アゾベンゼン、スピロピラン誘導体、ジヒドロピレン、ステンハウス塩、イミダゾリルラジカル錯体及びシアニン染料からなる群から選択される少なくとも1つであり、特にジヒドロピレン、1,1’-ビナフチル架橋型フェノキシル-イミダゾリルラジカル錯体及びブルーシアニン染料から選択される少なくとも1つである、節36~53のいずれか1つに記載の眼鏡レンズ。
【0229】
55.動的コントラスト適合のための、節36~54のいずれか1つに記載の眼鏡レンズ。
【0230】
56.眼鏡レンズを製造する方法であって、
- 眼鏡レンズ基板を提供するステップと、
- 負のフォトクロミック性を示す組成物を眼鏡レンズ基板の表面上に配置し、且つ/又は負のフォトクロミック性を示す組成物を眼鏡レンズ基板に組み込むステップと
を含み、負のフォトクロミック性を示す組成物は、少なくとも1つの指示染料物質を有する感光性マトリックスを含む、方法。
【0231】
57.負のフォトクロミック性を示す組成物は、眼鏡レンズ基板の表面上に配置される、節56に記載の方法。
【0232】
58.負のフォトクロミック性を示す組成物は、眼鏡レンズ基板の表面に直接接触して配置される、節57に記載の方法。
【0233】
59.表面は、眼鏡レンズ基板の前面である、節57又は58に記載の方法。
【0234】
60.正のフォトクロミック性を示す組成物を眼鏡レンズ基板の表面上に配置し、且つ/又は正のフォトクロミック性を示す組成物を眼鏡レンズ基板に組み込むことを含む、節56~59のいずれか1つに記載の方法。
【0235】
61.正のフォトクロミック性を示す組成物は、眼鏡レンズ基板の表面上に配置される、節60に記載の方法。
【0236】
62.負のフォトクロミック性を示す組成物及び正のフォトクロミック性を示す組成物は、眼鏡レンズ基板の表面上に配置される、節61に記載の方法。
【0237】
63.負のフォトクロミック性を示す組成物及び正のフォトクロミック性を示す組成物は、眼鏡レンズ基板の表面上に互いに横方向に隣接して配置される、節62に記載の方法。
【0238】
64.負のフォトクロミック性を示す組成物及び正のフォトクロミック性を示す組成物は、眼鏡レンズ基板の表面に直接接触して配置される、節62又は63に記載の方法。
【0239】
65.負のフォトクロミック性を示す組成物及び/又は正のフォトクロミック性を示す組成物は、眼鏡レンズ基板の表面に印刷される、節56~64のいずれか1つに記載の方法。
【0240】
66.負のフォトクロミック性を示す組成物及び/又は正のフォトクロミック性を示す組成物は、インクジェット印刷プロセスによって印刷される、節65に記載の方法。
【0241】
67.負のフォトクロミック性を示す組成物及び/又は正のフォトクロミック性を示す組成物を眼鏡レンズ基板に組み込むステップを含む、節56~66のいずれか1つに記載の方法。
【0242】
68.拡散プロセスは、組み込みステップに使用される、節67に記載の方法。
【0243】
69.眼鏡レンズ基板は、負のフォトクロミック性を示す組成物及び/又は正のフォトクロミック性を示す組成物を含む浴中に浸漬され、負のフォトクロミック性を示す組成物及び/又は正のフォトクロミック性を示す組成物を拡散させる、節68に記載の方法。
【0244】
70.染料物質を眼鏡レンズ基板に組み込むステップを含む、節56~69のいずれか1つに記載の方法。
【符号の説明】
【0245】
1 眼鏡レンズ
2 負のフォトクロミック性を示す組成物
3 負のフォトクロミック物質
4 感光性マトリックス
5 正のフォトクロミック物質
6 眼鏡レンズ基板
7 表面
7a 前面
7b 後面
8 正のフォトクロミック性を示す組成物
9 染料物質
10 装用者の眼
11 指示染料物質
100 眼鏡
101 眼鏡フレーム
102 ブリッジ
200 方法
S1 眼鏡レンズ基板を提供すること
S2 負のフォトクロミック性を示す組成物を眼鏡レンズ基板の表面上に配置すること
S3 正のフォトクロミック性を示す組成物を眼鏡レンズ基板の表面上に配置すること
図1
図2a
図2b
図2c
図2d
図2e
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【手続補正書】
【提出日】2023-07-05
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼鏡レンズ(1)において、負のフォトクロミック性を示す組成物(2)と、正のフォトクロミック性を示す組成物(8)とを含むことを特徴とする眼鏡レンズ(1)。
【請求項2】
前記正のフォトクロミック性を示す前記組成物(8)は、少なくとも1つの正のフォトクロミック物質(5)を含むことを特徴とする、請求項1に記載の眼鏡レンズ(1)。
【請求項3】
前記負のフォトクロミック性を示す前記組成物(2)及び前記正のフォトクロミック性を示す前記組成物(8)は、眼鏡レンズ基板(6)の表面(7)上に互いに横方向に隣接して配置されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の眼鏡レンズ(1)。
【請求項4】
前記負のフォトクロミック性を示す前記組成物(2)は、少なくとも1つの指示染料物質(11)を有する感光性マトリックス(4)を含むことを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の眼鏡レンズ(1)。
【請求項5】
負のフォトクロミック性を示す組成物(2)を含む眼鏡レンズ(1)において、前記負のフォトクロミック性を示す前記組成物(2)は、感光性マトリックス(4)であって、その中に組み込まれた少なくとも1つの指示染料物質(11)を有する感光性マトリックス(4)を含み、前記指示染料物質は、電磁スペクトルの可視部において異なる吸収スペクトルを示すプロトン化及び脱プロトン化状態を示し、前記感光性マトリックスは、UV及び/又はVIS範囲の放射線での照射に反応してプロトンを放出し、前記放出されたプロトンは、前記指示染料物質の前記プロトン化状態と前記脱プロトン化状態との間の平衡に影響を及ぼし、負のフォトクロミズムを示すことに繋がることを特徴とする眼鏡レンズ(1)。
【請求項6】
前記負のフォトクロミック性を示す前記組成物(2)は、少なくとも1つの負のフォトクロミック物質(3)を含むことを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の眼鏡レンズ(1)。
【請求項7】
眼鏡レンズ基板(6)を含むことと、前記負のフォトクロミック性を示す前記組成物(2)は、前記眼鏡レンズ基板(6)の表面(7)上に配置されることとを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の眼鏡レンズ(1)。
【請求項8】
前記負のフォトクロミック性を示す前記組成物(2)は、前記眼鏡レンズ基板(6)の前面(7a)上に配置されることを特徴とする、請求項7に記載の眼鏡レンズ(1)。
【請求項9】
眼鏡レンズ基板(6)を含むことと、前記負のフォトクロミック性を示す前記組成物(2)は、前記眼鏡レンズ基板(6)に組み込まれることとを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載の眼鏡レンズ(1)。
【請求項10】
染料物質(9)を含むことを特徴とする、請求項1~9のいずれか一項に記載の眼鏡レンズ(1)。
【請求項11】
前記負のフォトクロミック性を示す前記組成物(2)は、アゾベンゼン、スピロピラン誘導体、ジヒドロピレン、ステンハウス塩、イミダゾリルラジカル錯体及びシアニン染料からなる群から選択される少なくとも1つであることを特徴とする、請求項1~10のいずれか一項に記載の眼鏡レンズ(1)。
【請求項12】
眼鏡レンズ(1)を製造する方法(200)において、
- S1:眼鏡レンズ基板(6)を提供するステップと、
- S2:負のフォトクロミック性を示す組成物(2)を前記眼鏡レンズ基板(6)の表面(7)上に配置し、且つ/又は負のフォトクロミック性を示す組成物(2)を前記眼鏡レンズ基板(6)に組み込むステップと、
- S3:正のフォトクロミック性を示す組成物(8)を前記眼鏡レンズ基板(6)の表面(7)上に配置し、且つ/又は正のフォトクロミック性を示す組成物(8)を前記眼鏡レンズ基板(6)に組み込むステップと
を含むことを特徴とする方法(200)。
【請求項13】
前記負のフォトクロミック性を示す前記組成物(2)及び前記正のフォトクロミック性を示す前記組成物(8)は、前記眼鏡レンズ基板(6)の前記表面(7)上に互いに横方向に隣接して配置されることを特徴とする、請求項12に記載の方法(200)。
【請求項14】
前記負のフォトクロミック性を示す前記組成物(2)は、少なくとも1つの指示染料物質(11)を有する感光性マトリックス(4)を含む、請求項12又は13に記載の方法(200)。
【請求項15】
眼鏡レンズ(1)を製造する方法(200)において、
- S1:眼鏡レンズ基板(6)を提供するステップと、
- S2:負のフォトクロミック性を示す組成物(2)を前記眼鏡レンズ基板(6)の表面(7)上に配置し、且つ/又は負のフォトクロミック性を示す組成物(2)を前記眼鏡レンズ基板(6)に組み込むステップと
を含み、前記負のフォトクロミック性を示す前記組成物(2)は、感光性マトリックス(4)であって、その中に組み込まれた少なくとも1つの指示染料物質(11)を有する感光性マトリックス(4)を含み、前記指示染料物質は、電磁スペクトルの可視部において異なる吸収スペクトルを示すプロトン化及び脱プロトン化状態を示し、前記感光性マトリックスは、UV及び/又はVIS範囲の放射線での照射に反応してプロトンを放出し、前記放出されたプロトンは、前記指示染料物質の前記プロトン化状態と前記脱プロトン化状態との間の平衡に影響を及ぼし、負のフォトクロミズムを示すことに繋がることを特徴とする方法(200)。
【請求項16】
前記負のフォトクロミック性を示す前記組成物(2)及び/又は前記正のフォトクロミック性を示す前記組成物(6)は、前記眼鏡レンズ基板(6)の前記表面(7)上に印刷されることを特徴とする、請求項12~15のいずれか一項に記載の方法(200)。
【手続補正書】
【提出日】2024-05-17
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼鏡レンズ(1)において、負のフォトクロミック性を示す組成物(2)と、正のフォトクロミック性を示す組成物(8)とを含むことを特徴とする眼鏡レンズ(1)。
【請求項2】
前記正のフォトクロミック性を示す前記組成物(8)は、少なくとも1つの正のフォトクロミック物質(5)を含むことを特徴とする、請求項1に記載の眼鏡レンズ(1)。
【請求項3】
前記負のフォトクロミック性を示す前記組成物(2)及び前記正のフォトクロミック性を示す前記組成物(8)は、眼鏡レンズ基板(6)の表面(7)上に互いに横方向に隣接して配置されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の眼鏡レンズ(1)。
【請求項4】
前記負のフォトクロミック性を示す前記組成物(2)は、少なくとも1つの指示染料物質(11)を有する感光性マトリックス(4)を含むことを特徴とする、請求項1又は2のいずれか一項に記載の眼鏡レンズ(1)。
【請求項5】
負のフォトクロミック性を示す組成物(2)を含む眼鏡レンズ(1)において、前記負のフォトクロミック性を示す前記組成物(2)は、感光性マトリックス(4)であって、その中に組み込まれた少なくとも1つの指示染料物質(11)を有する感光性マトリックス(4)を含み、前記指示染料物質は、電磁スペクトルの可視部において異なる吸収スペクトルを示すプロトン化及び脱プロトン化状態を示し、前記感光性マトリックスは、UV及び/又はVIS範囲の放射線での照射に反応してプロトンを放出し、前記放出されたプロトンは、前記指示染料物質の前記プロトン化状態と前記脱プロトン化状態との間の平衡に影響を及ぼし、負のフォトクロミズムを示すことに繋がることを特徴とする眼鏡レンズ(1)。
【請求項6】
前記負のフォトクロミック性を示す前記組成物(2)は、少なくとも1つの負のフォトクロミック物質(3)を含むことを特徴とする、請求項1、2、5のいずれか一項に記載の眼鏡レンズ(1)。
【請求項7】
眼鏡レンズ基板(6)を含むことと、前記負のフォトクロミック性を示す前記組成物(2)は、前記眼鏡レンズ基板(6)の表面(7)上に配置されることとを特徴とする、請求項1、2、5のいずれか一項に記載の眼鏡レンズ(1)。
【請求項8】
前記負のフォトクロミック性を示す前記組成物(2)は、前記眼鏡レンズ基板(6)の前面(7a)上に配置されることを特徴とする、請求項7に記載の眼鏡レンズ(1)。
【請求項9】
眼鏡レンズ基板(6)を含むことと、前記負のフォトクロミック性を示す前記組成物(2)は、前記眼鏡レンズ基板(6)に組み込まれることとを特徴とする、請求項1、2、5のいずれか一項に記載の眼鏡レンズ(1)。
【請求項10】
染料物質(9)を含むことを特徴とする、請求項1、2、5のいずれか一項に記載の眼鏡レンズ(1)。
【請求項11】
前記負のフォトクロミック性を示す前記組成物(2)は、アゾベンゼン、スピロピラン誘導体、ジヒドロピレン、ステンハウス塩、イミダゾリルラジカル錯体及びシアニン染料からなる群から選択される少なくとも1つであることを特徴とする、請求項1、2、5のいずれか一項に記載の眼鏡レンズ(1)。
【請求項12】
眼鏡レンズ(1)を製造する方法(200)において、
- S1:眼鏡レンズ基板(6)を提供するステップと、
- S2:負のフォトクロミック性を示す組成物(2)を前記眼鏡レンズ基板(6)の表面(7)上に配置し、且つ/又は負のフォトクロミック性を示す組成物(2)を前記眼鏡レンズ基板(6)に組み込むステップと、
- S3:正のフォトクロミック性を示す組成物(8)を前記眼鏡レンズ基板(6)の表面(7)上に配置し、且つ/又は正のフォトクロミック性を示す組成物(8)を前記眼鏡レンズ基板(6)に組み込むステップと
を含むことを特徴とする方法(200)。
【請求項13】
前記負のフォトクロミック性を示す前記組成物(2)及び前記正のフォトクロミック性を示す前記組成物(8)は、前記眼鏡レンズ基板(6)の前記表面(7)上に互いに横方向に隣接して配置されることを特徴とする、請求項12に記載の方法(200)。
【請求項14】
前記負のフォトクロミック性を示す前記組成物(2)は、少なくとも1つの指示染料物質(11)を有する感光性マトリックス(4)を含む、請求項12又は13に記載の方法(200)。
【請求項15】
眼鏡レンズ(1)を製造する方法(200)において、
- S1:眼鏡レンズ基板(6)を提供するステップと、
- S2:負のフォトクロミック性を示す組成物(2)を前記眼鏡レンズ基板(6)の表面(7)上に配置し、且つ/又は負のフォトクロミック性を示す組成物(2)を前記眼鏡レンズ基板(6)に組み込むステップと
を含み、前記負のフォトクロミック性を示す前記組成物(2)は、感光性マトリックス(4)であって、その中に組み込まれた少なくとも1つの指示染料物質(11)を有する感光性マトリックス(4)を含み、前記指示染料物質は、電磁スペクトルの可視部において異なる吸収スペクトルを示すプロトン化及び脱プロトン化状態を示し、前記感光性マトリックスは、UV及び/又はVIS範囲の放射線での照射に反応してプロトンを放出し、前記放出されたプロトンは、前記指示染料物質の前記プロトン化状態と前記脱プロトン化状態との間の平衡に影響を及ぼし、負のフォトクロミズムを示すことに繋がることを特徴とする方法(200)。
【請求項16】
前記負のフォトクロミック性を示す前記組成物(2)及び/又は前記正のフォトクロミック性を示す前記組成物(6)は、前記眼鏡レンズ基板(6)の前記表面(7)上に印刷されることを特徴とする、請求項12、13、15のいずれか一項に記載の方法(200)。
【国際調査報告】